ネタバレネタバレアンドネタバレ
元スレ
苗木「じょうずな絶望とのつきあいかた」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377533328/
江ノ島「いい加減あいつをどうにかしてどうかさせちゃわないとなー」
戦刃「……あいつって?」
江ノ島「苗木だよ苗木ィ!」ズギャーン
戦刃「な……苗木君は笑顔が素敵で誰にでも優しくてかわいいだけのごく普通の男の子だから盾子ちゃんが気にするような相手じゃないよ!」
江ノ島「ハイハイお姉ちゃんが絶望の魔の手からだーい好きな人を守りたいって気持ちはよく解ったよ」
戦刃「……」
江ノ島「でも実際問題あいつの【超高校級の幸運】はアタシのジャマになりそうなんだよね」
戦刃「盾子ちゃんの……ジャマ?でも他の期にも超高校級の幸運はいるけど……」
江ノ島「そうやって矛先ずらしてでも苗木を救おうとする姿勢は好印象かもねーお姉ちゃん」
戦刃「そんな……」
江ノ島「なわけねーだろ!あのお人好しが他を犠牲に生き残るなんてこと望むかバーカ!」ズギャーン
戦刃「……」
江ノ島「というかさ、他の超高校級の幸運なんて雑魚なんだよ雑魚。苗木だから問題なわけ」
戦刃「苗木君だから……?」
江ノ島「あいつによって運用される超高校級の幸運がジャマなんだよ。超高校級の幸運を持った苗木という存在がジャマって言った方が正しいのかな。つまり苗木が目障り。ハイ終わり」
戦刃「苗木君はそこまで特別なの?」
江ノ島「いやぜーんぜん。でもあいつの人格と才能がおっそろしく噛み合うことがあるんだよね。そしたら絶望的にウザいことになる」
江ノ島「才能ってのは人格によって運用されるわけだけどさ。幸運って才能は人格に染まり易いはずなんだ。だって幸運って人それぞれ違うし」
戦刃「苗木君の人格……」
江ノ島「あいつの幸運はさ、あいつ自身の前向きさを受けて【希望につながる幸運】なんだよ」
戦刃「苗木君の幸運が……希望を?」
江ノ島「そ。アタシの大嫌いで大好きな希望にね。あいつ自身は『人よりほんの少しだけ前向きなのが取り得』とか言っちゃってるけどあんなんポジティブなんてレベルじゃないっつーの病気だよ病気!あの病的な前向きさに染まった幸運は間違いなく希望を手繰り寄せてくれちゃうわけ。緻密に築き上げられた美しく芸術的な絶望をひっくり返してくれちゃうわけ!」
戦刃「じゅ、盾子ちゃん……なんでそんなに詳しく苗木君の幸運とかが解るのかな……?」
江ノ島「軽度の絶望的嫌がらせを120通り程企画し彼の幸運の性質を分析させて頂きました」クイッ
戦刃「ひゃ、ひゃくにじゅう……!?」
江ノ島「私の計算によると半数以上は死の絶望を堪能すべき内容でした」
戦刃「全然軽度じゃないよ……!?」
江ノ島「にも関わらずね。彼は絶望するどころか幸運と諦めの悪さで巻き込まれた事件を端から解決してきたんだよ。ついでに希望をバラ撒きつつ……ね」ゴゴゴゴゴ
戦刃「……不運なのか幸運なのか解らないよ……」
江ノ島「アタシという絶望に狙われることは不運でもなんでもなくただの必然さ。希望の匂いのあるところ全てに這い寄る影が絶望なのだからね。しかし問題なのは彼が私が用意した絶望を全て乗り越えることが出来ているという点なんだよね……。これを幸運と呼ばずして何と呼ぶのかな」
戦刃「超高校級の……幸運……」
江ノ島「しかもぉー、いちいち希望を見せつけてくれちゃうからぁー、わたしもぅ心がポッキリ折れそうになっちゃったんだぁー。希望に絶望しちゃうってやつ?」キャピルン
戦刃「私の知らないうちに盾子ちゃんがピンチに……!?」
江ノ島「でもねぇー気づいちゃったんだぁ。わたしぃ苗木クンの希望に絶望してぇー……」
江ノ島「その絶望が……かっ、カイカンになってきちゃったんだよねぇ……」ダラダラ
戦刃「……」
戦刃「……え……?」
江ノ島「つまりさぁ、苗木に接近して絶望を与え続ければ、カワイイ苗木クンの絶望顔も見られてなおかつその絶望をぶっ飛ばされ私も絶望できるという永久機関が完成する!しかも希望という途轍もなく胸くそ悪いものがくれる絶望は飽きることもない!ってことに気づいちゃいました!今!」
戦刃「今!?……ていうか苗木君がジャマだって話じゃなかった……?だったよね……!?」
江ノ島「そんなものはもうどうでもよいのじゃ。私様は常に未来に絶望しておるのだからな」ドドン
戦刃「……過去現在未来全てに絶望してるんじゃ……」
江ノ島「では参ろうか、絶望的希望、希望的絶望の旅路へと」ハッハッハ……
戦刃「ま、待って盾子ちゃん……」
江ノ島「あ!」
戦刃「え……!?」ビク
江ノ島「……キャラを使い切れてませんでした……。絶望的です……。」ジメジメ
戦刃「……」
江ノ島「それじゃ改めてレッツゴー!うぷぷぷぷぷぅー!」ウププ
戦刃「かわいい……」
○●
昼休み
江ノ島「苗木はどこだー!」
戦刃「……盾子ちゃん、あれ」
西園寺「だいたいあんたんとこのせいで……!」
九頭龍「あの件とうちの組とは関係ねーって何度言ったら解んだコラァ!」
不二咲「うぅ……喧嘩はもうやめようよぉ」
苗木「そうだよ……最後に生き残れたのもみんなで力を合わせたからじゃないか!」
江ノ島「やーん絶望的サイズカルテットぉ!かわいすぎりゅううう!!セットでテイクアウトしたい!」
西園寺「げっ!一人SM女とその奴隷!」
江ノ島「……ショックです……私がこんなにも残念な奴隷を召し抱えるサディスト兼マゾヒストと認識されていたなんて……」ジメジメ
戦刃「……西園寺さん私は奴隷じゃないよお姉ちゃんだよ」キリッ
九頭龍「希望ヶ峰危険人物トップ2が何しにきやがった!」
戦刃「……ねえ盾子ちゃん、知らぬ間に私達公開指名手配犯になってるんだけど……。さっきの黒幕っぽいお話はなんだったのかな」
江ノ島「さぁ?何のこと?ま、どうでもいいけどさ、激レアかつ激カワな組み合わせだよねー期も違うし。一体どうしたのかなー」
戦刃(白々しいよ……盾子ちゃん……!)
不二咲「それが色々あって……」
江ノ島「色々ぉー?わたしぃ、その話すーっごい気になるなぁ!苗木君、教えてくれる?」キャピルン
西園寺「ウザ」イラッ
戦刃「盾子ちゃん知ってるんじゃ……もごっ!?」江ノ島「うおぉぉぉぉい苗木ィィ!!もったいぶってねーでとっとと話せよ、なァ!?」ズギャーン
苗木「え、ええと、事の発端は……ボクが霧切さんと連続殺人事件に巻き込まれた孤島から帰ってきた翌日だったかな。ボクと西園寺さんと不二咲クンは希望ヶ峰の【超高校級の才能】を狙う犯罪組織に誘拐されちゃったんだ」
戦刃「……盾子ちゃんどういうことかな……苗木君がサラッとクローズドサークルの生還者になってるよ……?しかもノンストップで誘拐されてる……!」
江ノ島「やー災難だったねー」
苗木「もう慣れっこだから……。霧切さん曰わく死神が常に僕の背後でタップダンスしてるらしいし」ハハ
九頭龍「あいつの【死神の足音】が聞こえるっつーのマジだったんだな……」
西園寺「まったく苗木おにぃに関わると命がいくつあっても足りなそうだよー」
江ノ島「更なるステップアップを誓うよ。タップダンスだけにね」ウププ
戦刃(苗木君……死神目の前にいるよ……)
苗木「それで、ボクらを誘拐した犯罪組織なんだけど……どうも九頭龍組ともめてる海外マフィアと繋がりがあったみたいでね。九頭龍クンが助けに来てくれたんだ」
九頭龍「ヘッ、苗木には暮威慈畏大亜紋土とのゴタゴタを納めんのに世話になったからよ。組としてもこの件は見過ごせねえし、特別サービスってやつだ」
西園寺「社会のゴミが何をかっこつけてんだか。あんたが希望ヶ峰の生徒だからこっちにとばっちりが来たのかもしれないのにさぁ」
九頭龍「ったくよォ……テメーだけは助けたことを激しく後悔してるぜオレは」
西園寺「エラそーに言ってるけどさ。わたし達が放り込まれた部屋から脱出できたのは手錠ブッちぎった苗木おにぃのおかげだし、建物自体から脱出できたのは不二咲おにぃがシステム系統を狂わせたりわたしが見回りの股ぐら踏み潰したりしたおかげなんだよ?」
戦刃「苗木君は手錠を引きちぎったの……!?」
苗木「いやボクの手錠だけ鎖の一部分がかなり傷んでてさ。がんばったら意外と簡単に切れたんだ」
不二咲「銃弾が当たったような痕があったね……」
江ノ島「呆れるほど往生際の悪い幸運だなー」
西園寺「とにかく、わたし達が助かったのは別にあんたのおかげじゃないんだよ解ったかクソチビ!」
九頭龍「テメーにチビとか言われたくねえよ!」
苗木「西園寺さん……それは違うよ」
西園寺「何?苗木おにぃ。こいつがクソチビなのは純然たる事実でしょ」
苗木「いや背のことじゃなくてさ。……確かにボクらが生還できたのはボクら自身の努力のおかげでもあったけど、見回りが少なかったのは九頭龍組の襲撃のおかげだし、出た後に襲われたボクらを助けてくれたのは九頭龍クンだったじゃないか」
苗木「ボクらが助かったのはボクらみんなが希望に向かって力を合わせたからだよ!」
江ノ島「……」ダラダラ
戦刃(ヨダレ垂らしてる……)
西園寺「……まったくもー苗木おにぃは相変わらずクサいんだから」
苗木「ゴ、ゴメン」
九頭龍「けどこいつの言う希望ってヤツには妙に納得させられちまうんだよな……」
不二咲「そうだね。なんというか……僕も弱いだけじゃないんだって希望が持てるよ」
戦刃(そっか……)
江ノ島「フ……フフ……」ダラダラ
戦刃(盾子ちゃんは【これ】に絶望したいんだ……)
苗木「……あ、ありがとう」
西園寺「あれれー照れてるの?苗木おにぃ照れちゃってるのー?」クスクス
苗木「え、ええと……とにかく、こんな感じのことがあって、さっき不二咲さんと話してたら丁度九頭龍クンと西園寺さんがケンカしてるのを見かけて……」
江ノ島「今に至る、と。いやーありがとうごちそうさま」
苗木「ご、ごちそうさま?」
江ノ島「じゃ、こいつ頂いてくから」
苗木「……え?」
江ノ島「それではチビッコの諸君プラスお姉ちゃん!さよーならー!」
ボンッ
モクモク……
戦刃「スモークグレネード!?」
不二咲「けほけほっ」
西園寺「苗木おにぃはわたしの奴隷なのにーっ!」
九頭龍「つーか普通に去れや!迷惑過ぎんだろ!」
○●
江ノ島「二人っきり……だね?」
苗木「江ノ島さんに連れ去られたから
なんだけどなー……」
江ノ島「ねえ……どうしよっか?どうしたい?……そっ、そんな!苗木君ったら……でも、いいよ?苗木君だったら」
苗木「……何も言ってないけど……」
江ノ島「うん……一緒に堕ちよう?このままドロドロに……」ギュッ
苗木「う、わああ!ちょっと何すんの!?」
江ノ島「さあ行こう……?甘美なる絶望の楽園へ!」ギュゥゥ
苗木「何それ、ちょ、近い!近いよ!この人目がおかしい!」
戦刃「盾子ちゃん!ダメ!」
苗木「戦刃さん!」
江ノ島「ちぇっ。やーっぱあんな玩具じゃ撒けなかったか」
戦刃「盾子ちゃん……やめて」
江ノ島「何でかなー?お姉ちゃん如きに青少年の健全な交遊を邪魔する権利はない筈なのになー」
苗木「ものすごく不健全っぽいこと口走ってた気がするんだけど……」
戦刃「なんでもするから……」
江ノ島「ん?なんでもって?」
戦刃「せっ……」
江ノ島「せ?」
戦刃「……切腹する……」
江ノ島「……いや、されても……。というかそれ別の人のお家芸だから」
戦刃「じゃあどうすれば……」
江ノ島「お姉ちゃんがどっか行ってくれたらやめるよ」
戦刃「……わかった!ありがとう盾子ちゃん!」シュバッ タタタタタ……
江ノ島「……続き、しよっか」ギュ
苗木「戦刃さん!少しは疑おう!?信じるために疑おう!?」
江ノ島「真っ暗闇に溶けちゃおーよ……一緒にさ」
苗木「ま、待ってよ!江ノ島さんは何がしたいの!?こんな急に……ボクなんかに抱きついて」
江ノ島「何ってアタシに言わせるのー……?苗木って意外に」
苗木「冗談はやめてよ!……どうしたんだよ一体っ!」
江ノ島「……」パッ
苗木「……江ノ島さん……!」
江ノ島「あーあ。苗木はアタシを受け入れてくれないんだ?」
苗木「江ノ島さん……?」
江ノ島「絶望を受け入れてくれないんだ?」
苗木「絶望……?」
江ノ島「これだから、希望は。希望ってヤツは愛だの絆だのを語る癖して絶望を受け入れることは決してない」
苗木「……どういうこと?キミは一体……何なの?」
江ノ島「私は絶望だよ。“超高校級の絶望”だってば」
苗木「超高校級の……絶望……?確かにいつも絶望絶望言ってるけどキミは“超高校級のギャル”でしょ?」
江ノ島「そんなちっぽけな才能なんてアタシという存在の髪の毛一本程度を示してるに過ぎないんだよね。アタシは生まれた時から全てに絶望していて絶望が全てだった超高校級の絶望なの。自分の絶望、他人の絶望、アタシにとってそれが全て」
苗木「全然、訳が解らないよ……」
江ノ島「入学してから苗木の身に起きている“不運”……アレ実は苗木の絶望を見るためにアタシが仕組んだことだったりして」
苗木「……え?」
江ノ島「あ、別に証拠とかはないよ?今の今までバラすつもりなかったし。証拠残すほどマヌケじゃないし」
苗木「急に、何を……大体何が目的でそんなこと」
江ノ島「だーかーらー、絶望だってば」
苗木「……ほんとにそれだけのために……?キミが色んな事件を仕組んだって言うの?」
江ノ島「それだけって心外だなー。アタシにとっては全てなんですけど?あと、アタシは事件を仕組んだ訳じゃないよ?アンタが関わった事件の数々は起こるべくして起こったものなんだから。アタシはただ……絶望の匂いのするところにアンタを放り込んだだけ。アンタを“関わらせただけ”なんだよねー」
苗木「そんな、こと……!そんなことできるはずがないよ!それじゃあキミはっ……事件が起こるのを予知できるみたいじゃないか!」
江ノ島「“できるみたい”じゃなくてできるんだってそれくらい」
苗木「ッ!?大体、なんでボクなの!?なんでボクなんかを……」
江ノ島「苗木が好きだから」
苗木「……は……?」
江ノ島「苗木の前向きさが苗木の凡庸さが苗木の瞳が苗木の童顔が苗木の髪が苗木の格好が苗木の行動が苗木の言弾が苗木の幸運が苗木の……希望が」
江ノ島「全部大好きで大っ嫌いで希望と絶望の溝が深く深くアタシ右と左に真っ二つに割れちゃいそうなくらいもうたまらないの!苗木の絶望を希望してるの!苗木の希望に絶望したいの!」
苗木「……え、江ノ島さんは……ボクのこと好きだから……絶望させたい、ってこと……!?」
江ノ島「よかったー。さすが渾身の告白。アタシの愛は伝わったみたいだね。で、お返事は?」
江ノ島「こっちがせっかく大胆な告白してんだからさー、そっちにも意気込みを訊きたくなんじゃん?絶望的な感情の吐露をお聞かせ願いたいなー」
苗木「……ボクは」
苗木「ボクはやっぱり……わからないよ。絶望が全てなんて……でも」
江ノ島「でも?」
苗木「……側にいることはできるよ。こんな奴にうろちょろされても迷惑かもしれないけど」
江ノ島「は?何それストーカー宣言?まさかアタシのこと可哀想だとか思っちゃってんの?」
苗木「それは違うよ。……キミが絶望そのものだとしても、目を背けて生きてくことなんてできないから。……ついでにいつかキミも希望を希望として希望してくれないかな、って希望をボクは持ってたりして……だからボクは、江ノ島さんの側にいようと思う」
江ノ島「なにそれ意味わかんない」
苗木「はは、ボクも言っててよくわかんなくなってきたよ」
江ノ島「……あーやだやだ。やっぱりアンタは気持ち悪いわ。ヘドが出そう」
苗木「そっか……」
江ノ島「でも、絶望的」
苗木「え?」
江ノ島「そこまで言ったからには……絶望(アタシ)に、付き合ってくれるんだよね?」
苗木「……もちろん。でもボクは絶望を絶望のままほっとくことはできないよ?」
江ノ島「わーってるわよ。そうじゃなきゃ面白くないじゃない」
江ノ島「じゃ、よろしく希望クン」
苗木「うん、よろしく……絶望さん」
江ノ島「じゃ、さっそく行こっか!絶望新婚旅行~!」
苗木「……え?いやちょっと新婚旅行って……え!?」
江ノ島「いやーまさか苗木君がわたしのプロポーズを受けてくれるとは思いませんでしたー。もぅ超カンゲキです!」キャピルン
苗木「プロポーズ!?」
江ノ島「うぷぷ……ぼーいーすーれーこーだー!」ウププ
ポチッ
『……ボクは、江ノ島さんの側にいようと思う……付き合ってくれるんだよね?……もちろん……』
苗木「わああああ!?」
江ノ島「あーシビレたなー。シビレちゃったなー。苗木きゅんのセリフ……希望がビンビンだったなー」ダラダラ
苗木「え、江ノ島さん……!?」
江ノ島「というわけで末永くヨロシクね!【アタシの】絶望的希望君!」
苗木「そ、それは違うよっ!!」
CASE1 閉廷
江ノ島「ねーどこいこっかー?新婚旅行!」
苗木「結婚どころか付き合ってもいないよ……」
江ノ島「……」カチッ
『……ボクは江ノ島さんの側に』
苗木「わかったよ!わかったからっ……!!」
霧切「……」ギロ
舞園「……」ギラ
戦刃「……盾子ちゃん……苗木君……」ブツブツ
苗木「……教室で流すのやめてっ!!お願いだから!!」バッ
江ノ島「やーん!【苗木君が襲ってくる】ー!【ケダモノ】ー!いくら【そういう関係】だからって同意がなきゃDVだよー!」
苗木「何もかも違うよ!!」
石丸「君達っ!イチャつくのは止めたまえ!不純だぞ!」
江ノ島(あ、やっぱり出てきた)
苗木「い、石丸クン!これには深いワケが……」
江ノ島「ねーよ!バァーカ!」ズギャーン
江ノ島「大体ー。ふじゅんふじゅんって言ってたらぁー、世の中に子ども生まれなくなっちゃうよー?」キャピルン
江ノ島「……この世の終わりです……ディストピアです……」ジメジメ
江ノ島「そんな失楽園的絶望もアタシとしては望むところだけどね……」ゴゴゴゴゴ
江ノ島「よくぞ申した……!そなたを私様直属の絶望大使に任命しようではないか……!」ドドン
江ノ島「それとも絶望博士がいいかな?絶望大佐がいいかな?うぷぷぷぷぷ」カッチョイー
江ノ島「今ならガラガラヘビかイカかオオカミどれに改造されるか選べます非常にお得です」クイッ
石丸「なっ……!はぁ……?」
苗木(七変化でまくし立てられるとわけわかんなくなるよな……)
江ノ島「で、どうすんの?絶望怪人になる気がないんだったらとっとと消えて欲しいんだけど」
苗木「そんな話だっけ……?」
石丸「ぬっ、ぐっ……し、しかし……無言の圧力というか、耐え難いオーラというものがあってだな……!」チラ
霧切 舞園「……」 怨
苗木「ひいっ……!」
江ノ島「すごいすごい!絶望的に凶々しいオーラ!」
霧切「苗木君……」
舞園「新婚旅行ってどういうことですかぁ……?」
苗木「え、江ノ島さんが勝手に言ってるんだよ!結婚どころか江ノ島さんとは付き合ってないんだから……」
『……付き合ってくれるんだよね?……もちろん……』
苗木「江ノ島さんっ!?」
霧切「……」ギリッ
舞園「……」ハァー……
苗木「こ、これはそういう会話じゃなくて……というか」
苗木「教室で騒いだことは謝るよ、ごめん。けどなんでそんなに怒ってんのかな……?」
江ノ島「絶望的だなコイツ……」ボソッ
舞園「怒ってる?やだなぁ苗木君。私は全然普通ですよ」
霧切「生まれてこの方怒りなんて感情に身を任せたことはないわ」
苗木(う、ウソだ……)
霧切「ただほんの少しお話を伺いたいだけよ」
苗木(事情聴取モードじゃないか……!)
霧切「今日の昼休みあなた達二人は何をしてたのかしら?」
苗木「え?」
霧切「答えなさい」
苗木「えっと、ボクは不二咲さん九頭龍クン西園寺さんとお昼ご飯を食べた後……」
舞園「かわいい組み合わせですね」
苗木「……。その後は江ノ島さんといたよ」
江ノ島「……私は残念なむくろ姉さんとご飯を食べました……」ジメジメ
戦刃「……」ビクッ
江ノ島「その後は苗木クンと一緒だよっ♪」キャピルン
霧切「なぜか二人とも過程を飛ばしているけれど……江ノ島さん、あなたは発煙弾を使い苗木君を連れ去ったらしいわね」
霧切「そこまでして苗木君を誘拐して一体何をしたのかしらね!」ビシッ
苗木「あの発煙弾は江ノ島さんの気紛れだと思うけどな……ものすごくハタ迷惑だけど」
苗木「とにかくボクらは別に何も……」
霧切「どうなの江ノ島さん?」
苗木「ええー……」
江ノ島「……ここまで追い詰められちゃあしょうがないなー……」
苗木「え?」
江ノ島「そーう!この度苗木とアタシはお付き合いすることになりましたー!」
苗木「江ノ島さん!?」
江ノ島「苗木!しばらく秘密にしときたいって言ってたのにごめんね!」
苗木「ち、違うよ!ほんとにボクと江ノ島さんは……」
霧切「……アノシマデカワシタカイワハ……」ブツブツ
舞園「……ステージバクハジケンデタスケテクレタトキノエガオハ……」ブツブツ
苗木(誰もボクの言うことに耳を傾けてくれない……!)
苗木(本当のことを話そうにも、あの江ノ島さんとのやりとりは話さない方が良さそうだし……)
江ノ島(とか思ってんだろーなー。甘いなー苗木は。ペロペロしたくなるほど甘いなー)
十神「いい加減認めてこの乱痴気騒ぎに収拾をつけろ苗木」スッ
苗木「十神クン……!なんでキミが!」
十神「真偽はともかくお前がうろたえる様は存外に愉快だからな」ニイッ
苗木(くっ!なんていい性格をしているんだ!)
苗木(……それにしても石丸クンはともかく、霧切さんと舞園さんがこんなに他人の異性交遊に厳しく口出ししてくるタイプだったなんて……!一体どうすれば……)
江ノ島「……というわけで!アタシ達これからデートへ行って参りまーす!」
苗木「え?」
霧切「……!」
舞園「行かせませんよ」ユラッ
江ノ島「ほーら!逃げるよ苗木!」ガシッ
苗木「こ、ここで誤解を解かないと、大変だよ!」
江ノ島「あれを説き伏せるコトダマがあんの?」
舞園 霧切「……」ズズズズズ……
苗木(……)
不二咲の証言
戦刃の証言
ボイスレコーダー
苗木「クソッ!不利なコトダマしかないっ!」ダッ
江ノ島「バイバーイ!愛の逃避行~!」ダッ
霧切「待ちなさい」ダッ
舞園「逃がしません」ダッ
……
桑田「……なあ」
山田「……皆までお言いめされるな、桑田礼恩殿」
「苗木爆発しろ」
CASE2 閉廷
江ノ島「ねえ……」
苗木「何?江ノ島さん」
江ノ島「なんでついてくんのかなー?ストーカー?」
苗木「ストーカーじゃないよ。ボクらつき合ってるんでしょ?」ニコニコ
江ノ島(うわあ……完全に根に持ってるよ前の騒ぎのこと)
苗木「……ってのは冗談で、もちろん約束を守るためだよ」
江ノ島「えー……なんだっけ約束って」
苗木「またそんなこと言って……。とにかくボクは側でキミを見張らせてもらうから」
江ノ島「んもうしょうがないなー苗木は!そんなに盾子ちゃんが好きなら腕組んで歩こうか!」グイッ
苗木「ちょ、ちょっと江ノ島さん!」
江ノ島「当ててんのよ!」ギュウ
苗木「まだ何も言ってないけど!?」
江ノ島「苗木が何言うかくらいお見通しだから!ほれほれどうよ?世の男どもが焦がれる超高校級のギャルのおっぱいはー!」ギュウウウ
苗木「やめてってば!……あ、あれ?」
江ノ島「……ん?あ、不二咲と左右田センパイじゃん。最近よく二人でいるの見るよねーデキてんのかな?」
苗木「それは違うと思うよ……。でもほんと何してんだろうね」
江ノ島「そんなんさあ……アイツらの才能考えりゃ大体予想つくでしょ」
苗木「不二咲さんは【超高校級のプログラマー】で左右田クンは【超高校級のメカニック】だから……そうか!何かのマシンを共同開発してるのかもね」
左右田「マジでアイツどこ行ったんだよ……。もう少しなのに約束の時間すっぽかしやがって」
不二咲「うーん……彼がいないと進行できないよねやっぱり……あ!江ノ島さんに苗木君」
苗木「やあ。二人とも」
江ノ島「やっほー!誰かお探しみたいだねー?」
左右田「うっせー!オメーらには関係ねー!とっとと失せろ!」
苗木「な、なんでいきなり怒ってるの左右田クン」
左右田「聞いたぞ!オメーら付き合ってるんだってな!」
江ノ島「やっぱり嫉妬かー……絶望的にちっちぇー人間だなー」
苗木(もう広まってる……)
左右田「黙ってろ!いいか!?オレらはな。崇高な目的のための集いなんだよ!オメーらバカップルに付き合ってるヒマはねーんだ!」
苗木「崇高な目的って……やっぱりすごいマシンとか作ってるの?」
不二咲「ええと……」
左右田「企業秘密だ!極秘ミッションなんだよ」
江ノ島「ずいぶんとケチくさいなー」
苗木「秘密なら無理に訊こうとは思わないけど……誰か探してるんだったらボクも手伝おうか?」
左右田「いらねーよ!オメーらはイチャイチャしてろ!永久にイチャイチャしてろ!オレの目の届かないところで!」
江ノ島「もちろん左右田センパイに言われなくてもイチャイチャさせてもらうけどさー。お探しの人って……松田くんでしょ?」
不二咲「!」
左右田「な、なんで解んだよ?」
江ノ島「いやーなるほどねー。そりゃ面白い企画だよねぇー。ヒトの領分を越えかねないすんばらしー大発明ってわけだ」
左右田「……そ、そうだ!オメー松田と付き合ってるんじゃなかったのかよ!二股かよ!?」
江ノ島「松田くんは幼なじみだしダーリンだけどー……ほら松田くんってアタシのこと愛しまくってんじゃん?アタシを絶望させてくれないからなー。その点苗木の希望はヘドが出そうなくらいオイシイから参っちゃうよねぇ」
左右田「オイ、苗木。オレはコイツの言ってることがさっぱりわかんねーぞ」
苗木「さ、さあ……?ボクにもさっぱりだよ」
左右田「つまりオメーはアバズレってことだな!」
江ノ島「見事に思考を放棄したねー。ま、そういうことでいいよ。複雑怪奇な女の子の感情はモテないモブ男くんには解らないだろうし」
苗木(キミの感情の複雑怪奇さは一般的な女の子のそれとはレベルが違う気がするけどなぁ……)
左右田「あああぁぁぁ!行くぞ不二咲!オレ達には使命がある!こんなとこで時間をムダにできねーんだ!」チクショウ……!
不二咲(うわあ泣いてる……)
不二咲「う、うん……またね二人とも」
苗木「うん、じゃあ、その、がんばってね」
江ノ島「左右田センパイ、あの王女様絶望的に脈ナシだけどがんばってねー」ウププ
左右田「うがああああぁぁぁ!」ダッ
不二咲「ま、待って左右田君!」タタタ……
江ノ島「……さて、作品のありか調べてぶっ壊そうか」
苗木「ダメだからね」
江ノ島「解ってるって。ちゃんと完成を待ってからぶっ壊すから大丈夫」
苗木「ダメだからね!」
○●
希望ヶ峰校外周辺
苗木「ねえ、江ノ島さん。どこ行く気なの?」
江ノ島「うーん、どこ行こっか?せっかくの初デートだし、アミューズメントなお城でも行く?ほら、回るベッドのアトラクションがある」
苗木「うん、よく解らないけどやめとこうそこは」
江ノ島「わがままだなー。というかただの監視者ならアタシの行く場所に口出しできないはずだけど?」
苗木「キミが滅茶苦茶やるのをほっとかないって言ったでしょ。それより付き合ってるなんて広めて……たとえほんとは付き合ってなくても松田くんに悪いよ。誤解を解く気はないの?」
江ノ島「だーから左右田センパイに言った通りだって。もう諦めなよ。アンタとアタシは付き合ってんの。それとも苗木はアタシと恋人なんてイヤ……?」
苗木(うっ……!だ、ダメだ!この不安げな視線も意図的にやってるのかもしれない)
苗木「ボクは江ノ島さんのことよく知らないし……だからこそこういうことしてるんじゃないか」
江ノ島「品定めさせろってワケね」
苗木「そ、そんな偉そうな立場にいるつもりはないけど」
江ノ島「じゃ、とりあえずはこのままでいっか。どっちにしろさ、付き合ってるってことにしとけばアタシの監視もしやすいじゃん?」
苗木「そりゃそうかもしれないけど……」
江ノ島「ハイ決まり!いぇーい!ちゃーんと見張ってないと見失っちゃうぞ!」ダッ
苗木「え!?ちょっと江ノ島さん急に逃げないでよ!ああもう!」ダッ
江ノ島「ほらほら捕まえてみろー!」タタタタタ
苗木「江ノ島さん……!あんな靴なのに速い……!」タタタタタ
江ノ島「……おろ?」ピタッ
苗木「あだっ!」ドン ドサッ
江ノ島「ありゃ、大丈夫?」ウププ
苗木「……急に止まんないでよ……どうしたの」
苗木(江ノ島さんぶつかっても直立不動で微動だにしなかったな……ボクって一体……)ズーン
江ノ島「あーいや、またしても知り合い。ほらあそこの公園」
苗木「あ、あれは……!」
大神「……どうした。もう終わりか?」ゴオオオオ
日向「ま……まだだ……!まだ俺はやれるぞ!」ボロッ
大神「よくぞ言った。やはりお主には見込みがある」
日向「うおおおおお!!」バッ
大神「ふんッ!」ドゴッ
日向「ぐおぅ!」ドサッ
江ノ島「あっ、逝った」
苗木「ま、まずいよ!目がぐるんってなってたよ!……大神さん!!」
大神「む、苗木と江ノ島か」
苗木「こんなとこで何を……いやそれより日向クンが!」
大神「日向のことなら心配いらぬ。こやつは見た目より頑丈だ。そのうち目覚める」
苗木「大丈夫なように見えない一撃だったけど……。なんでこんな決闘みたいな真似をしてたの?」
大神「決闘……?我は日向に頼まれ稽古をつけていただけだが」
江ノ島「虐殺じゃなくて?」
大神「そろそろ起こさねば……」スッ
苗木「あれ、大神さんどこへ……?」
大神「……」
苗木(バケツ持ってきた!まさか……!)
苗木「お、大神さん!?」
大神「日向、そろそろ目を醒ませ」
バシャッ
日向「ん……」
江ノ島「ひゃー、ボクシングジムかっての」
苗木「日向クン!」
日向「……苗木?そっちは……?」
江ノ島「超高校級のギャル江ノ島盾子ちゃんでーす!」
日向「ええと、俺は……」
江ノ島「あ、いいよ知ってるから。日向創でしょ?予備学科暴動事件の時に同じ予備学科より本科と仲良くしてたから殺されかけたところを苗木に助けられた」
日向「なんでそこまで知って……痛っ!」
苗木「大丈夫!?……何でこんな無茶な稽古を……」
日向「そうだ!大神待たせて悪い……続きを……!」ヨロ
苗木「無理だよ!大神さんも止めてよ!」
大神「む、しかし……」
日向「大神に俺が頼んだんだ。気を失ったら水ぶっかけてでも起こして再開してくれってな」
江ノ島「うへえ……意外と熱血キャラ?」
日向「俺は時間を無駄にするわけにはいかないんだ……!」
苗木「ど、どうして……」
日向「明日は……」
苗木「……明日?」
日向「明日は、西園寺の日本舞踊の稽古だ」
苗木「え?」
日向「明後日は腐川の文学指導……草稿千枚の課題が終わってない!」
苗木「ええと……」
日向「その後にも予定が詰まってる!次大神と予定が合うのは十日は先だ!一回をダラダラやるわけにはいかないんだよ!」
江ノ島「なるほどなるほど。凡夫なりに涙ぐましい努力してるわけだ」
江ノ島「でもそんなん無駄だよ。無駄な努力だよ。才能ってのは生まれ持つもんじゃん。いくらがんばってもアンタが超高校級の才能を得られるわけじゃないんだからさ」
日向「そうかもしれない。でもどうでもいいんだよそんなことは」
江ノ島「は?」
日向「俺はただ多くの超高校級の才能から学びたいものがあるだけで超高校級の才能が欲しいわけじゃない」
江ノ島「そうやって半端なスキルを寄せ集めて希望になろうっての?」
日向「俺は未来に向かって全力で進むだけだ!希望とか絶望とかは関係ない!」
江ノ島「希望でも絶望でもない……何よそれ……何なのよおおぉぉぉぉ!!」
苗木「……あの、もういいかな?江ノ島さん」
江ノ島「うん、なんかスッキリした」
苗木「日向クンの志は解ったけどさ。あんまり無茶苦茶に稽古を受けるのはダメだよ。教えてくれる人にも失礼じゃないかな」
日向「うっ……確かに。悪い大神。武道や他の皆の稽古を軽んじてるわけじゃないんだ」
大神「解っている。日向の稽古に対する真摯さは我に伝わっている。だが苗木の言う通り無理は禁物だな。お主はただの弟子ではなく友人なのだから」
日向「……ああ!」
江ノ島「ねーもう行こ飽きた」クイクイ
苗木「……まあ、稽古のジャマになりそうだしね。……じゃあがんばってね!」
大神「……さらばだ」
日向「じゃあな!今度お前たちも色々教えてくれよ!」
○●
江ノ島「教えるったって何を教えりゃいいのかねー?ギャルメイク?」
苗木「江ノ島さんはともかく、ボクには教えられることなんてないよね……」
江ノ島「なーにしょんぼりしてんの!苗木は絶望経験豊富なんだから色々語ることはあるじゃん!」
苗木「誰のせいで経験豊富になったとと思ってんのさ……。少なくとも幸運については語ることなんてないよ。ツイてないしボク」
江ノ島「それギャグで言ってんの?」
苗木「……なんかうろうろしてるうちに暗くなってきちゃったね」
江ノ島「うーん……」キョロキョロ
苗木「どうかした?」
江ノ島「いやなーんでも」
苗木「……帰ろっか」
江ノ島「え?【お城に泊まる】んでしょ?」
苗木「……それは違うよ……」
○●
戦刃「……」
戦刃「…………」
戦刃「……見失っちゃった……」
CASE3 閉廷
93 : ◆N7YbsBIT3ELs - 2013/08/27 21:56:02.14 HhSq5A3do 69/626次回のCASE4はむくろ姉さんがどこほっつき歩いてたのかをおまけのつもりで書いたものなんで苗ノ島じゃないです。
戦刃「……」コソコソ
江ノ島「……」
苗木「……」
戦刃「……」コソコソ
江ノ島「ねえ……」
苗木「何?江ノ島さん?」
江ノ島「なんでついてくんのかなー?ストーカー?」
戦刃「……っ!」ビクッ
戦刃(わ、私のことじゃないよね……?)
戦刃(……もうちょっと距離を離そう……)コソコソ
苗木「ストーカーじゃないよ。ボクら付き合ってるんでしょ?」
戦刃「……!!」
戦刃(やっぱり付き合ってるの……!?)ザッ
ドンッ ドシャッ
罪木「ひゃああ!」
戦刃「……あ……!ご、ごめんなさい……」
罪木「ひぅう……とんでもないです私こそごめんなさいぃぃ……!私がぼさっとしてたのがいけないんですぅ!」
戦刃「私がよそ見してたから……」
戦刃(あ、あれ……盾子ちゃん達いない……)
罪木「ううう……いえ……最終的に全面的に圧倒的に私が悪いんですぅ……どうか許してくださぁい……」ヨロ
戦刃「足……」
罪木「え……?」
戦刃「ケガしてる……」
戦刃「……」ヒョイ
罪木「え?え!?あのぅ……なぜ、お、おおお姫様だっこを……?」
戦刃「保健室に運んで手当てする……私のせいでしたケガだから……」
罪木「えええ!?だ、大丈夫です!こう見えても私、超高校級の保健委員だなんて呼ばれてたりして……自分でも手当てくらいなら可能でして、あの、その、こんなケガもしょっちゅうですし!」
戦刃「でも痛そう……」
罪木「へ?」
戦刃「ケガしてる人を見捨てなくてもいい……ここは戦場じゃないから……」
罪木「は、はわわわわわ……」ズキューン
罪木「うええええぇぇぇぇん!!」ビエー
戦刃「!!……ご、ごめんなさい……何か悪いことしちゃった……んだよね……?私、盾子ちゃんみたいに頭が良くないから……」
罪木「そっ、そんな!違うんです!私こんな、心配されて、やさしくされて、こんなの初めてで、感動して……ごめんなさいぃぃぃ!」ビエエエエン
戦刃(良かった……悪いことしたわけじゃないんだ……)ホッ
戦刃「……このまま運んでくね」
罪木「あ、あの、お気持ちは嬉しいんですが、すごくすごく嬉しいんですが、ほんとに運んで頂かなくても……。わ、私みたいな鈍重なブタを運ぶのは大変でしょうし……!」
戦刃「あなたはヒトに見えるけど……ブタだったの……?その場合私はどう対応すれば……」
罪木「ち、違いますぅ!ごめんなさい忘れてくださぁい!……え、ええとつまり、重くないんですか……?ずっと私を抱えたままお話ししてますけど……」カァァァ
戦刃「ミニガンに比べれば全然……」
罪木「はぅぅ……!ありがとうございますぅ……!」
罪木(ミニガンってきっとちっちゃい銃ですよね)エヘヘ
戦刃「とにかく、運んでく……。いいよね……?」
罪木「ひゃ、ひゃいぃ!ふつつか者ですがよろしくお願いしますぅ!」
○●
保健室
罪木「運んで頂いた上に手当てまでして頂けるなんて感激ですぅ……」グス
罪木「しかもとってもお上手で……」
戦刃「私は超高校級の軍人だから……応急手当てくらいはできるよ」
罪木「はわぁ……そうだったんですか」
戦刃「……えと、じゃあ、お大事に……」スッ
罪木「ま、待ってくださいぃ!」
戦刃「どうしたの……?」ビクッ
罪木「あ、あのその、お、お名前をお尋ねしてもよろしいでしょうか!?あ、人に名前を訊く時は自分からですよね私ったら愚鈍ですみませぇん!……わ、私は罪木蜜柑といいます……」
戦刃「……私は戦刃むくろ」
罪木「戦刃さん……」ポーッ
罪木「……はっ!?すみませぇん!勝手にお名前を口にして!『戦刃さん』とお呼びしてよろしいでしょうか?」
戦刃「大丈夫……」
罪木「ありがとうございますぅ!……それで、あのぅ……」
戦刃「……何?」
罪木「お、お、おおお、お友達に、なって頂けないでしょうか……?」
戦刃(……おともだち……?)
戦刃「お友達……!?」
罪木「は、はい……!」
戦刃「……」
罪木「や、やっぱり嫌ですよね、こんなグズと友達になんて」グス
戦刃「そんなこと……ない」
罪木「ひぇ?」
戦刃「わ、私みたいな3Zでいいなら……友達になる……よ……?」
罪木「あ、あああありがとうございますぅ!!さんぜっとって意味は解りませんが、その、よろしくお願いしますぅ!」ビエエエエン
戦刃「……泣かないで」ヨシヨシ
罪木「うえええええん!ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
○●
戦刃(思いがけず友達ができたけど盾子ちゃん達見失っちゃった……)
戦刃「罪木さん……」
戦刃「……」フフッ
パシャッ
戦刃「!?」バッ
小泉「あはは、いきなりごめんね?むくろちゃん今すっごい良い笑顔だったから思わず」
戦刃「小泉さん……」
戦刃(油断してた……銃撃だったら死んでた……!)
小泉「アタシのこと覚えててくれたんだ?」
戦刃「写真を撮ってくれるけど、その度に私がうまく笑えなくて注意されるから……」
小泉「口うるさいせいで覚えられたわけね……」アハハ……
戦刃「ごめんなさい……」
小泉「アタシの方こそごめん。写真のこととなるとどうしてもね……」ウーン
小泉「それにしても……うん、いい笑顔だよ。ほら!」スッ
戦刃「これ……私?」
小泉「もちろん!ねえねえ、なんかいいことがあったの?」
戦刃「友達……」
小泉「友達?」
戦刃「……」
小泉「あ、あれ?ちょっとどうしたの?急に下向いて……」
戦刃「……小泉さんとは……友達になれないと思って……」
小泉「ええっ!?そんな……どうして……?」
戦刃「小泉さんのお母さんって、戦場カメラマンだよね?」
小泉「あ、知ってるんだ?」
戦刃「私は、超高校級の軍人だから……」
小泉「……」
戦刃「小泉さんのお母さんはきっと戦争の悲惨さとかを伝える、すごく立派な人なんだと思う……」
戦刃「でも私は……小さい頃からミリタリーが好きでフェンリルに入って、大勢の人を殺したような人間だから……」
小泉「……だから?」
戦刃「小泉さんは……【私みたいな人間は嫌い】でしょ……?」
小泉「その推理はピンボケだよっ!」
戦刃「え……!?」
小泉「こんなやさしい笑顔ができる子を嫌うわけないじゃん!」
戦刃「そ、それだけ……?」
小泉「それだけでいいのっ!」
戦刃「でも……」
小泉「お母さんは戦場の真実を追い求めてるけど……」
小泉「だからって超高校級の軍人さんを嫌う理由にはならないよ」
戦刃「小泉さんは私がどんなことしてきたか知らないから……」
小泉「昔のむくろちゃんがどんな思いでどんな戦いをしてたかは解らないけど」
小泉「今のこの写真の中のむくろちゃんは、ほら。こんなに柔らかく微笑んでるじゃん。それが全て」
小泉「だからほら笑って。そんでさ、友達になってよ!」
戦刃「……小泉さん……!」パァッ
パシャッ!
小泉「そう!その調子っ!」
○●
小泉「なるほどねー。蜜柑ちゃんと友達になれたことが嬉しかったんだね」
戦刃「うん……」カァァァ
小泉「すごいなぁ、それも蜜柑ちゃんの方から友達になってほしいって言うなんて……」
小泉「アタシの場合、蜜柑ちゃんに話しかけると、ひたすらものすごい勢いで謝られて取り付く縞がないのに」
戦刃「気持ちは解る……かも。私も人と話すの得意じゃないから……」
小泉「それにしても、むくろちゃんでも人とぶつかっちゃうことあるんだね。サッとかわせそうなのに」
戦刃「よそ見してたから……」
小泉「ダメだよちゃんと周り見て歩かなきゃ!一体何を見てたの?」
戦刃「それは……!!そうだった……!小泉さん、盾子ちゃんと苗木君知らないかな……?」
小泉「盾子ちゃんと苗木……?それならむくろちゃんと会うちょっと前に学園の外に出てくの見たよ。方向的に公園の方かなぁ?遠目だったけど二人とも、えーと、個性的だから目に入ったんだよね」
戦刃「ありがとう小泉さん……!」
小泉「……ね、あの二人が付き合ってるのってほんとなの?」
戦刃「……それは……解らない。ごめんね」
小泉「ううん、アタシはただ好奇心で訊いただけだから。……それにしても盾子ちゃんってよく解らないのよね」
戦刃「えっ……?」
小泉「これでも超高校級の写真家だからさ、写真に納められた人の顔から色々読み取ろうとしてるんだけど……」
小泉「盾子ちゃんの笑顔からは何も読み取れないのよ」
小泉「いや表面的にはすごく自然でいい笑顔に見えるんだけどなぜかしっくり来ないんだよね……。なんでだろ……?」ウーン
戦刃「……」
戦刃「……わ、私もう行かなきゃ……」アセアセ
小泉「あ、ごめん!またいい写真、撮らせてよね!」
戦刃「う、うん……!がんばる……。あ、そうだ、ええっと……」
小泉「どうしたの?」
戦刃「もし、小泉さんがお母さんみたいに戦場とか、危ない場所に踏み込むことになったら……私があなたを守るね」ニコ
小泉「ふぁ……!……今のところ、そういう予定はないけど……あ、ありがと」ポー
戦刃「それじゃ……」タッ
小泉「う、うん、またね!」
……
小泉「……あの笑顔は反則でしょ……」ドキドキ
○●
希望ヶ峰学園校外周辺>公園
戦刃「……い……いた……!」ゼェゼェ
戦刃「あれ……?大神さんと……日向君……?」
戦刃(二人の訓練に盾子ちゃん達が居合わせた、ってことかな……)
戦刃(……もうちょっと近づかないと……)コソコソ
ソニア「や、やめなさい無礼者っ!」
戦刃「……!?」ピク
○●
希望ヶ峰学園校外>路地裏
ガラの悪い男1「いーじゃん、ちょーっと一緒に遊ぼうって誘ってるだけじゃん」グイグイ
ガラの悪い男2「そーそ、ちょっとちょっと」ヘラヘラ
ソニア「結構です!やめてくださいっ!」
ガラの悪い男1「ツレないなぁ……」
戦刃「……その人を離して……!」ババーン
ガラの悪い男1「あ?なんだコイツ」
ガラの悪い男2「お友達?」
ソニア「ち、違います!彼女はわたくしと関係ありません!」
戦刃「彼女嫌がってるからその……離れないと痛い思いさせちゃう……と思う」
ガラの悪い男1「なんだこのアマ何言ってんだ?」
ガラの悪い男2「そっかそっか君も仲間に入れて欲しいんだね!」
ガラの悪い男1「おいおい」
ガラの悪い男2「仲間外れはカワイソーだろ?」
ガラの悪い男1「ま、とりあえず大人しくなってもらおーぜ」スタスタ
ガラの悪い男2「うっはキチク」ヘラヘラ
戦刃(武装なし……強いのかなこの人達)
ガラの悪い男1「おら!」ヒュッ
戦刃「……」パシッ
ガラの悪い男1「あ?離せオイコラ!」
戦刃「……」グググ
ガラの悪い男1「ってえええ!離せええええ!」ブン
戦刃「……」グイッ
ガラの悪い男1「あ?」
ドグシャアッ
ガラの悪い男1「ぶべっ」
戦刃(どうしよう……受け身取れるようにやったのに顔面からいっちゃった……大丈夫かなこの人……)
ガラの悪い男2「てっめぇぇぇぇ!」バッ
戦刃「見えすぎ……」ヒュッ
バキャッ
ガラの悪い男2「うぎゃあ!」ドシャア ガクッ
戦刃「……大丈夫?」
ソニア「は、はい!」パァァ
ソニア「わたくしはソニア・ネヴァーマインドと申します!この度は助太刀ありがとうございます!」キラキラ
戦刃「私は、戦刃むくろ……超高校級の軍人」
ソニア「まあ!やはり希望ヶ峰の方でしたか!しかも軍人さんとは……あの素晴らしい近接格闘もガッテンです!」
ソニア「実はわたくしも希望ヶ峰の生徒でして、超高校級の王女などと呼ばれてます」
戦刃「王女様……!?」
ソニア「はい!」
戦刃(確かにすごく王女様っぽい……)ジーッ
戦刃「……でも、王女様なのに護衛はいなかったの?」
ソニア「あ、それは、ええと……」
ソニアの付き人「……ソニア様!ここにおられましたか!勝手にいなくなられては……!これは一体……!?」
ソニア「この戦刃さんがわたくしがチーマーにカラまれているところを助けて下さったのです!」
戦刃(チーマーだったのかなあの人達……)
ソニアの付き人「なんと……!お二人共お怪我は?」
戦刃「……二人とも大丈夫……です」
ソニアの付き人「……その様ですね。この度はソニア様をお助け頂きありがとうございました戦刃様」
戦刃「……た、大したことしてないから」
ソニア「是非お礼をさせてください!この後ご予定は?」
戦刃「……予定……はっ!?」
戦刃「ごめん、なさい……急いでるんだった……」
ソニア「そうでしたか……。ではお礼はまた今度ですね」
戦刃「お礼なんていいよ……」
ソニア「いえ、あんな華麗に素敵に助けて頂いた以上、戦刃さんの希望を叶えなくては気が済みません!わたくしにできることならなんなりとお申し付けを!」
ソニアの付き人「そ、ソニア様!」
戦刃「じゃあ……友達になって」
ソニア「お友達、ですか?」キョトン
戦刃「やっぱりダメかな……?」
○●
戦刃「……」ハァハァゼェゼェ
戦刃「……」キョロキョロ
戦刃(大神さんと日向君に訊いた方面を探したけど見つからない……)
戦刃「……」
戦刃「…………」
戦刃「……見失っちゃった……」
○●
ソニア「狂嵐の神喰らう魔狼のような方でした……!」キラキラ
ソニアの付き人(……最近ソニア様の言動がおかしい……)
ソニア「あんな方とお友達になれるなんて今日はイケイケですね!」
ソニアの付き人「……ソニア様」
ソニア「なんですか?」
ソニアの付き人「ソニア様は、護身術をお勉強なさっているはずですが?」
ソニア「……それは……戦刃さんがあまりにもかっこよかったので……」
CASE4 閉廷
「うぷぷぷぷぷ、さあ……」
「絶望的に悶えてもらおっかなぁーん!」
○●
苗木「やっと週末かぁ」
苗木(江ノ島さんに振り回されっぱなしでこの一週間は長く感じたなぁ)
苗木「といっても……むしろ休日の方が油断できないよな。でもプライベートにまで踏み込むのもなぁ」ウーン
苗木「とりあえず食堂で朝ご飯食べよっと」ガチャ
ガバッ
苗木(だ、誰かに組み付かれた!?)
苗木「む、むぐっ!!」バタバタ
苗木(なんかかがされっ……!意識が……)
苗木「む……ぐ……」ガクッ
○●
苗木「う……」
苗木「どこだ……ここ……知らない」
苗木(……和室?)
江ノ島「おっはよーう苗木ー!」ガバッ
苗木「え、江ノ島さん!?ちょっと離れっ……!」グググ
江ノ島「なーに、もー!そんなに拒絶されたら寂しいなー」
苗木「すぐ抱きつくのやめてよ……。あれ?そのかっこ……浴衣?」
江ノ島「じゃーん!どうどう?絶望的にカワイイっしょー?」
苗木「う、うん……」
苗木(ミスマッチな感じがするけどそれが逆に……ものすごい破壊力だ……!)
苗木「じゃなくて!」
江ノ島「ん?」
苗木(和室に浴衣……)
苗木「ここってまさか……!」
江ノ島「温泉宿だけど?」
苗木「何してんの!?変な薬かがせたの江ノ島さんでしょ!」
江ノ島「ピンポーン!大正解!苗木クンを昏睡させたクロは江ノ島盾子ちゃんなのでしたー!」
苗木「無茶苦茶だよ!ていうかどうやってボクをここまで運んだの!?怪しまれなかったの!?」
江ノ島「あれに入れて」スッ
苗木(……旅行鞄……!)ガーン
江ノ島「……大変です……苗木クンが自分のちんまりとした体躯に絶望してしまいました……」ジメジメ
江ノ島「元気出せよオイ!オレらの温泉旅行はまだ始まったばかりだろォーが!!」ズギャーン
江ノ島「因みに受付は腹話術で突破しました」クイッ
苗木「なんでわざわざこんなことしたのさ……普通に誘ってくれれば……」
江ノ島「普通に二人っきりで温泉宿の同室に泊まろうって誘ったってノッてくんないじゃーん?もしかしてノッてくれた?」
苗木「う……。そういえばなんで温泉宿なの?」
江ノ島「そりゃあ……」スル
苗木「ちょっ!何浴衣はだけさせてんの!?」
江ノ島「温泉宿といったら秘密の愛の巣でしょ?しっぽりいこうよしっぽり」ジリジリ
苗木「ぼ、ボク帰るよ……!」
江ノ島「あれ?あれあれあれあれあれ?アタシから逃げるの?絶望から目を逸らすの?」
苗木「……!」
苗木(ああ約束した以上、江ノ島さんから目を離すわけにはいかない……!けどここに留まれば絶望的な誘惑が……!)
江ノ島(さあ言ってやったよー殺し文句。あの約束がある限りアンタは蜘蛛の巣にかかった羽虫みたいに絶望(アタシ)から逃れられないんだよ。……ま、アタシも希望(アンタ)に縛られることになるんだけどね)
苗木「……解ったよ付き合うよ……」
江ノ島「さっすが苗木!誠という名に恥じぬ誠実っぷりー!」
苗木「でも、絶対に、何もしないから!」
江ノ島「何もせずにいられるかなー?この盾子ちゃんをま、え、に、し、て♪」スル
苗木(諦めちゃダメだ。負けるなボク)
江ノ島「ま、とりあえずさー!お風呂入ろっか!」
苗木「……お風呂?」
江ノ島「トーゼンっしょここ温泉宿なんだから……」ガラッ
江ノ島「じゃじゃーん!部屋の混浴露天風呂ー!男女のイケナイ温泉旅行には必須だよねー!あ、こっからお風呂見えるけど脱衣所はこっちね」
苗木「ま、まさか……!」
江ノ島「こりゃもう一緒に入るしかない!」
苗木「じょ、冗談じゃないよ!入浴まで見張る気はないって!そんなに入りたいなら江ノ島さんだけ入りなよ!」
江ノ島「わたしコワい映画見ちゃってぇー、一人でお風呂入れないよぉ。苗木クンおねがーい一緒に入って!」キャピルン
苗木「絶対ウソでしょ!小学生じゃないんだから!」
江ノ島「苗木って男のロマンが足りないんじゃなーい?じゃあもう解った!ぱふぱふしてあげるから、ね?」
苗木「ね、じゃないよ!余計ダメだよ!」
江ノ島「四の五の言わず私様の湯浴みに付き合うのじゃ。……仕方がない、【そこまで望むなら】私様の身体で身体を洗ってやろうではないか……!」ドドン
苗木「そんなこと望んでないよ!色々アウトだよ!」
江ノ島「アレもダメ、コレもダメってさー。苗木クンってもしかして不能なの?萎えた木なの?」ウププ
苗木「最低な言いがかりだよ!」
江ノ島「しょーがないなーもー!苗木の貞操観念の強さには恐れ入ったよ!じゃあさ、お互いタオル巻いて入る!触らない!これならいいっしょ!」
苗木「え……いや、でも」
江ノ島「いいよね?」
苗木「う……解ったよ……絶対外すのナシだからね」カァァァ
江ノ島「おーけーおーけー!よしけってーい!」
江ノ島(うぷぷ、チョロい)
江ノ島「んじゃ、先入っててよねー」
苗木「は、はあ……」
江ノ島「ほら、こういうお風呂イベントは女の子が来るのをドキドキハァハァしながら待つのが醍醐味ってもんっしょ!あ、それとも脱がし合いっこする?」
苗木「わ、解ったよ先入ってる!……約束、守ってよ?」
江ノ島「はいはーい!」
○●
露天風呂
ちゃぷ……
苗木「ふう……気持ちいいなぁ……」
苗木「……」
苗木「何でこんなことしてんだろボク……」ボー
ガラガラッ
苗木「!!」
江ノ島「待たせちゃったかな……?」スッ
苗木「あ……!いや……全然」フイッ
苗木(さっ……殺人的ぃっ……!!)カァァァァァ
苗木(凄まじい曲線美っ……!髪下ろしてバスタオル巻いた姿……!江ノ島さん普段から露出の多い格好だけどこの状況頭がおかしくなりそうだ……!!)ドキドキドキドキ
江ノ島「体流すからもうちょっと待ってねー♪」
江ノ島(うぷぷぷ楽勝……)
ザーッ
苗木(見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ……)
苗木(ううっ……シャワーの音が永遠のように感じる……!)
キュッ……
苗木(止まった……!)
江ノ島「お待たせー!」チャプ
苗木「う、うん……。!!?」
江ノ島「ん?どうかした?」
苗木(髪、結ってる……!!う、うなじぃぃ!!それに顔もほんのり上気して……!!これほんとに超高校級のギャルのスッピン!?普段より更に綺麗に見えるんだけど!!)ポカーン
江ノ島「おーい、もしもーし?」
苗木「……はっ!」
江ノ島「おいおいもしかしてのぼせちゃったー?」
苗木「そ、そうみたい……だから、そろそろ出ようかな」ハハハ
江ノ島「だーめ!じゃあさ、こうしようよ」
苗木「え?」
江ノ島「先にお風呂から出るかダウンした方が負け。苗木が勝ったらお風呂上がってすぐ一緒に帰ってあげる。この宿に泊まることなく」
苗木「だ、ダウンって……。ボクが負けたら?」
江ノ島「一緒のお布団で寝てもらいます!」
苗木「!!」
苗木(こ、これは間違いなく悪魔の誘惑だ……!しかも状況はかなり不利……ボクのが長く湯に浸かってる上に江ノ島さんの猛烈な色気が……でも、この禁欲温泉旅行を続けてたらおかしくなりそうだし……)
苗木「……」
江ノ島「さあさあどうする!?」
苗木「……ボクが勝ったらほんとに帰るからね」
苗木(不利な状況は男子のハンデと思うしかない!)
江ノ島「よぉーし!いざ勝負ー!」
○●
苗木「江ノ島さん……」
江ノ島「んー?」
苗木「近く、ないかな……?」
江ノ島「バスタオル取らないのとお触りナシがルールでしょー?別に問題ないじゃん?」
苗木「くっ……!」
苗木(ダメだ!こんなことで屈しちゃ!これは絶望との戦いだ!希望を失っちゃダメだ!)キッ
江ノ島「……?」トロン
苗木「……!!」
苗木「……」
苗木(……希望ってなんだろう……そもそも欲に負けることが絶望なのかな……欲望と希望って何も違わないんじゃないかな……?希望って彼女の唇とかバスタオルの下にあるんじゃ……?)グルグルグルグル
苗木「……!」ブンブン
江ノ島(あ、首振った。まるで犬っころだなー)
苗木「負けないからね……!」
江ノ島「え、あーうんはいはい」
江ノ島(うわー全く負ける気しないわー)
苗木「……」
苗木(それにしても、近い……近すぎる!)
江ノ島「ふんふんふーん♪ふんふんふ、ふふふふ、ふふふー、ふふーん♪」
苗木(江ノ島さんから沸き立つ気にあてられてきた……!下手な麻薬とかより中毒性があるんじゃ……)クラクラ
苗木(しっかりしろ!ダウンしても負けなんだ……!ここは両刃の剣だけど話をして意識を保とう)
苗木「江ノ島さんは、さ……」
江ノ島「何?」
苗木「ボクなんかに監視みたいなことされてイヤじゃないの?」
江ノ島「なーに言ってんの。イヤだったらあんな告白しないってば」
苗木「でも、ボクなんかどこがいいのか……」
江ノ島「あのさー、マジに告白の内容忘れちゃった?渾身の告白を忘れられるとか絶望的!」
苗木「いや、覚えてるよ……忘れるわけない」
苗木(一言一句……)
(江ノ島「苗木の前向きさが苗木の凡庸さが苗木の瞳が苗木の童顔が苗木の髪が苗木の格好が苗木の行動が苗木の言弾が苗木の幸運が苗木の……希望が」)
江ノ島「全部大好きで大っ嫌いで希望と絶望の溝が深く深くアタシ右と左に真っ二つに割れちゃいそうなくらいもうたまらないの!苗木の絶望を希望してるの!苗木の希望に絶望したいの!」
苗木「なっ……!!」
江ノ島「思い出したー?」フフーン
苗木(江ノ島さんは……絶望を希望してて、希望に絶望する……)
苗木「……ボクの答えは覚えてる?」
江ノ島「キミが絶望そのものだとしても、目を背けて生きてくことなんてできないから。ついでにいつかキミも希望を希望として希望してくれないかな、って希望をボクは持ってたりして、だからボクは江ノ島さんの側にいようと思う」
江ノ島「でしょ?無駄な希望だよねー」ケラケラ
苗木「ボクは諦めないからね」
江ノ島「わーかってるって」
苗木「……ボクは絶望が絶望のままでも……絶望も希望も抱えて前に……」
苗木(前、に……) チャプン……
苗木「……」ブクブクブクブク……
江ノ島「……勝ちぃー♪」
○●
苗木「う……あ……」パチ
江ノ島「おはよう苗木クン。もう夜だけど」パタパタ
苗木「江ノ島さん……そっか、ボクのぼせて……」
江ノ島「そ!負けー!」ズビシー
苗木「うっ……」
苗木(ってことは江ノ島さんと同衾!?まずすぎる……!!)ゾッ
苗木「……ずっと扇いでくれてたの?」
江ノ島「苗木の昇天しかけた顔は意外と飽きなくてさー。水も飲ませてあげたんだよ?」
苗木「あ、ありがとう……」
江ノ島「口移しで」
苗木「なんてことしてんの!?」
江ノ島「だって容器からじゃ飲ませにくいんだもーん」
苗木「そんなわけが……」
江ノ島「浴衣も着せてあげたし!」
苗木「そういえば……!」
苗木(女の子に着替えさせて貰ったのかボク……タオル……脱がされて……!)ズーン
江ノ島「ねえそろそろご飯来るけど食べれる?」
苗木「……」
苗木「大丈夫だけど……」
江ノ島「口移しする?」
苗木「しないでいいよ!」
○●
苗木(う、すごい豪華……お金いくらなんだろ怖いな)
江ノ島「いっただっきまーす!」
苗木「……いただきます」
苗木「そういえば、今の仲居さんもそうだけど誰にも何にも言われないね」
江ノ島「なんも後暗いことないじゃん」パクパク
苗木「あるでしょ!どう見ても未成年の男女が二人同じ部屋に泊まるってまずすぎるよ!」
江ノ島「あー……だって苗木は苗ノ島誠ってことになってるし」
苗木「……え?」
江ノ島「アタシは苗ノ島盾子でーす!」
苗木「えと……つまり」
江ノ島「苗木はアタシの弟」
苗木(やっぱり……)
江ノ島「なーに落ち込んでんの!こんな素敵なお姉ちゃんがいるんだぞー!残念じゃないぞー!呼んでみ?お姉ちゃんってさー!」
苗木「やだよ!」
江ノ島「ほら、お姉ちゃんが食べさせてあげる!あーん!」
苗木「やめてよもう……」
江ノ島「いいからいいから!あーん!」
苗木「あ、あーん、むぐ」
江ノ島「いいこいいこー!」ナデナデ
苗木(ううう……恥ずかしい……)カァァァ
苗木「!!」
苗木「げほっ!!かはっ!!えっ、江ノ島さんっ……!!」
江ノ島「ひゃひゃひゃひゃひゃ!ワサビ爆弾大成功!」
苗木「こんな酷い姉いないよっ!!」
江ノ島「苗木は姉というものを知らないからなー……世の中には残念な姉がいるんだよねー」
苗木「戦刃さんは……いい人だよ」
江ノ島「……誰もむくろ姉さんのことだなんて言ってませんが……」ジメジメ
苗木「……」
江ノ島「もースネないでよカワイイなー!」ナデナデ
苗木「頭なでんのやめてよ!」カァ
江ノ島「ほら、お姉ちゃんにも食べさせて!あーん!」
苗木「……」
江ノ島「あーん!」ズイッ
苗木「解ったから!やるから顔に迫ってこないで!」
苗木「……はい、あーん……」
江ノ島「あーん……むぐむぐ」
苗木「はぁ……」
○●
江ノ島「じゃあお腹もいっぱいになったしお風呂行こっか!」
苗木「ま、また!?」
江ノ島「今度は大浴場の方ね!」
苗木(な、なんだ……それなら江ノ島さんも一緒に入ろうとか言い出せないな)
苗木「じゃあ、先入ってて。ボクトイレ行ってから行くから」
江ノ島「あいあいさー!」ピュー
○●
大浴場男湯
苗木(よし、ちゃんと男湯女湯分かれてた)
苗木(あんまり人いないな……)キョロキョロ
ガッ!!
苗木「ぐっ!!」
苗木(誰だ!?首根っこ掴まれた!!岩陰に引きずり込まれる!!)
苗木「むぐ……!」
バシャシャ
江ノ島「やっぱりアタシでしたー!」
苗木「ぷはっ!何やってんの!」
江ノ島「しーっ!」
苗木「……こ、ここ男湯だよ?」
江ノ島「知ってるけど?」
苗木「なんでいんの!!」
江ノ島「女湯から柵越えて来ちゃった!」キャッ
苗木(逆ならまだしも女湯の方から男湯へ来る人間がかつていただろうか……)
江ノ島「そりゃいたんじゃない?」
苗木「読心したの!?」
江ノ島「絶望ですから」
苗木「訳わかんないよ!」
江ノ島「それじゃ、またお姉ちゃんと一緒に入ろうねー!」
苗木「それ、まだ続けるの……?」
苗木(やっぱりまずいなぁ……さっきと同じようにタオル巻いてるけどさっきと同じように……まずい。というかボクもまだタオル巻いてて良かった……)
江ノ島「ん?何?アタシの裸が見たい?しょーがないなー苗木クンは」スッ
苗木「そんなこと言ってないよほんとにタオル取ろうとしないで!」
江ノ島「はいはい、さっきと同じルールね」
苗木「……ボクもう上がるよ」
江ノ島「えー!せっかくアタシが男女の隔たりを越えてきたのに!もうちょっと浸かろうよー!どっぷりとさー!」
苗木「……さっきみたいな勝負はしないからね」
○●
部屋
江ノ島「いやーさっぱりしたね!」
苗木「温泉浸かってるのに冷や汗が止まらなかったよ……」
江ノ島「お?布団敷いてあんじゃーん!」ニヤッ
苗木「ふ、二つ敷いてあるよね」
江ノ島「一つはいらねェーなァ!」ズギャーン
苗木「ほんとに一つの布団で寝るの……!?」
江ノ島「苗木クンは約束、守ってくれるよね……?」キャピルン
苗木「解ってるよ……」
苗木(覚悟を、決めよう……!)
○●
苗木「……」モゾモゾ
江ノ島「苗木ー?」
苗木「……何?江ノ島さん」
江ノ島「なんでそっち向いてんのー?」
苗木「いや、だって……」
江ノ島「アタシのこと見てくれると思ったんだけどなー。苗木は絶望に目を向けてくれると、思ったんだけどなー」
苗木「……」
苗木「……っ」クルッ モゾモゾ
江ノ島「やっぱり苗木は見てくれた」
苗木「……!!」
苗木(江ノ島さんの顔が真ん前に……!)
江ノ島「苗木ー!」ムギュ
苗木「う、むぐっ、江ノ島さん、まずいって!」
江ノ島「絶望的に愛してるよん苗木!」
江ノ島「朝までに絞殺しちゃうかも!」
苗木「そんなこと、させないよ……!」
苗木「江ノ島さんに、ボクを殺させたりしない……!」
江ノ島「うんうんそれでこそ苗木だよねー」
江ノ島「ねえ、絶望に抱かれて眠る気分ってどんな感じ?」
苗木「え?」
江ノ島「自分を殺すかもっていう奴と同じ布団で眠るんだよ?」
苗木「……」
苗木「……普通だよ」
苗木「普通に暖かいし……柔らかい。だからその、困っちゃうよ」
江ノ島「ぷ」
江ノ島「ぷひゃひゃひゃひゃひゃ!そっかそっか!じゃあ殺すのはやめといて一晩中困らせちゃおーっと!」モゾモゾ
苗木「ちょ、やめ!やめて!」モゾモゾ
モゾモゾ……
○●
苗木(結局あの夜は布団の中で抵抗し続けて一睡もできなかった……)
苗木(今も温泉旅行の負荷が後遺症となって残ってる……)
苗木「……」ボー
桑田「お、お前休日中に魂どっかやったのか?」
苗木「大丈夫だよ……大丈夫」フラ
葉隠「どう見ても大丈夫じゃねーべ……」
江ノ島「おっはよー苗木ー!楽しかったねー!お、ん、せ、ん、りょ、こ、う!」
桑田「苗木……!!ついにいくとこまでいっちまったのかよ!?」
江ノ島「【一緒にお風呂入った】しー!【同じ布団で熱い一夜を過ごした】もんねー?」
苗木「それはちが……うぐぅぅっ……!」
葉隠「どうしたんだべ苗木っち!?いつもみたいに論破するべ!」
苗木「ぐぅっ……ぐぐぐぐっ……ぐうぅっ」ドサッ
葉隠「苗木っちーーー!!!」
戦刃「……盾子ちゃん、なんで私を誘ってくれないの?」
江ノ島「えー兄弟姉妹で旅行とかキモいじゃん」
CASE5 閉廷
苗木(江ノ島さんどこ行ったのかなー。戦刃さんまで電話に出ないし……)キョロキョロ
苗木(振り回されるのも大変だけど目を離すのも怖いんだよなー。今までこんなことなかったし)ハァ
??「……どうしたの?」
苗木「!?」
苗木(知らない女子だ……)
??「……迷子?」
苗木「いや、えっと、人を探してるんだ」
??「……そっか」
苗木「……うん」
??「……」
苗木「……」
??「……じゃあ、手伝おっか?」
苗木「え?悪いよ!」
??「……大丈夫、まかせて。ここのマップは頭に入ってるから」
苗木(マップ?)
苗木「えーと、じゃあお願いしようかな?キミは……?」
七海「……私は七海千秋。超高校級のゲーマー、だよ」
苗木「ボクは苗木誠。抽選で選ばれただけだけど、一応、超高校級の幸運ってことになってる。……よろしく」
七海「……」
七海「……うん、よろしく」
苗木(なんだかのんびりした子だな)ハハ
七海「なんて人を探してるの?」
苗木「江ノ島さん……江ノ島盾子っていってクマの髪飾りでツインテールにした……」
七海「うん、あの人だね。わかった」
苗木「……江ノ島さんのこと知ってるんだ?そっか、彼女超高校級のギャルだしね」
七海「この学園の生徒のことならみんな知ってるよ?」
苗木「え?」
七海「……実は苗木くんのことも知ってたんだ」
苗木「そう……なんだ?七海さんって、編入生?今まで見かけなかったけど……」
七海「……うん、77期のクラスに編入したばっか」
苗木「編入したばっかで学園の生徒について知ってるなんてすごいね……」
苗木(あれ?それになんで77期のクラスなんだろ)
七海「……」
七海「……そうかな?」
苗木「う、うん」
七海「……そうなんだ」
苗木「えと……じゃあ手分けして……」
七海「待った。……その前に電話番号訊いてもいい?」
苗木「そうだったね!連絡できないと……」ピッ
七海「……」ピッ
苗木「それじゃ、行こっか。ボクはあっちを探すね」
七海「……じゃあ、私はあっち」
苗木「よろしく頼むよ」
七海「……うん。しゅっぱーつ」
○●
苗木「大和田クン」
大和田「苗木か。どうしたよ」
苗木「江ノ島さんを探しててさ」
大和田「オイオイついに逃げられたか?」
苗木「そういうわけじゃないと思うんだけど……」
大和田「解んねーぞ。あの女恐ろしく気まぐれだからな」
苗木「確かにね……。それで、江ノ島さん見なかった?」
大和田「ん?ああ。知らねーなあ」
苗木「そっか……」
大和田「わざわざ足使って聞き込みしなくても色んなやつに電話しまくって訊きゃいいじゃねえか」
苗木「そうだけどそこまでするとなんか大事みたいだからさ」
大和田「大事だろ女に逃げられるなんてよ」ハハハ
苗木「……もう!大和田クン!」
大和田「わりぃわりぃ!オレはお前らのこと応援してるぜ。そうだ、今度集会にツラ出せよ。うちの奴らが会いたがってたぜ」
苗木「う、うん……考えとく。じゃあ」
大和田「おう」
○●
花村「江ノ島さん?あーいいよね。まさに禁断の果実だよねぇ……どこがとは言わないけどさぁ!」
花村「あのワガママボディーをなすがままなんて羨ましいよ苗木くん!」
苗木「いや、ええと」
花村「江ノ島さんの影に隠れがちだけど戦刃さんもなかなかだよね。あのしなやかな筋肉をなぞるように舐め回したいよね!」
苗木「えーと……その、江ノ島さんなんだけどね、どこかで見なかった?」
花村「うーん、知らないなぁ……ところで苗木くんってカワイイ顔してるね……?」
苗木(逃げよう)
○●
苗木「はぁ……」
舞園「どうしたんですか?」イキキル
苗木「!?」ビクッ
苗木「や、やあ舞園さん」
苗木(どうしよう……舞園さんにも訊いてみようかな)
舞園「うーん……ごめんなさい。放課後江ノ島さんは見てません」
苗木「な……!」
舞園「エスパーですから!」
苗木「なんか、嬉しそうだね……」
苗木(……ボクって思ってること顔に出やすいのかな)
舞園「苗木君」
苗木「は、はい!」
舞園「この間は取り乱してごめんなさい」ペコ
苗木「え?い、いや良いんだよ。ボクと江ノ島さんが騒いでたのが悪いんだし。ちょっと怖かったけど」
舞園「勘違いなんです」
苗木「え?」
舞園「私、あの事件で苗木君が助けてくれた時、私を励ます為に笑った苗木君の顔が忘れられなくて」
舞園「勘違いしちゃったんです。この笑顔は私だけのものなんだって」
苗木「え、えっと……」
舞園「……ほら行ってください!江ノ島さん探さないと」
苗木「え?う、うん……じゃあ、またね」タッ
舞園「はい!また」
……
舞園「……でも、いつかほんとに私だけのものにしてみせます。江ノ島さん、私諦めませんよ!」
○●
霧切「いい度胸ね苗木君」ニューワールドオーダー
苗木「あはは……」
苗木(やっぱり霧切さんに尋ねたのは失敗だったかな?)
苗木「それで、見てないかな江ノ島さん?」
霧切「……」フゥ
霧切「彼女なら生物学棟の近くで見かけたわ」
苗木「え……ほんと!?ありがとう霧切さん!それじゃ行って……」
霧切「待って」
苗木「え?」
霧切「話があるわ」
苗木「……やっぱり、江ノ島さんと騒ぐのが気に障ってた?」
霧切「真剣な話よ」
苗木「……何?」
霧切「あなたは江ノ島盾子に近付き過ぎている。彼女に関わるのはやめなさい」
苗木「え……?」
霧切「故あって私は江ノ島盾子について調査したの」
霧切「江ノ島盾子は生まれながらに絶望を希望する超高校級の絶望、非常に危険な存在よ。深く関われば、あなたが絶望に堕ちることになるかもしれない」
苗木「……」
霧切「……混乱も質問もない。やはりあなた彼女の本質を知っているのね」
苗木「うん……知ってる」
霧切「知っててつき合っているというの?」
苗木「……実はそれはちょっと違うんだ」
苗木「ボクは江ノ島さんとつき合ってるわけじゃなくて、側で彼女という絶望に目を向けるっていう約束をしたんだよ。奇妙かもしれないけど、そういうことになったんだ」
霧切「……絶望の目付役とは命知らずなことね。ある意味恋人という立場より危険よ。絶望を直視し続けるなんて」
霧切「それにあなたには向いていない。江ノ島盾子が超高校級の絶望ならあなたは超高校級の希望といっていい存在……相容れることはないわ」
苗木「それは違うよ」
霧切「……え?」
苗木「強い希望じゃなきゃ絶望を受け入れられないと思うんだ」
苗木「自分のこと超高校級の希望だなんて大それた風には思っていないけど、前向きさだけは自信があるからさ」
苗木「珍しく、ボクじゃなきゃダメだ、って言える気がするんだ」
苗木「だから行かなきゃ、絶望は意外と寂しがりやだからさ」ニコ
霧切「……っ!」
霧切「本当にあなたは……全く、全くもうっ……!」
苗木「……霧切さん?」
霧切「……行って」
苗木「え?」
霧切「絶望は寂しがりやなんでしょ?早く、行って」
苗木「……うん、それじゃ」タッ
霧切「ええ……」
……
霧切(絶望の目付役、ね)
霧切(本来は私の役目……だと思っていたけれど。私では力不足だったのかもしれない)
霧切(……なら、私がすべきことは……)
○●
「……確かにね」
「苗木の幸運に気付いて執着してなかなかったら、この学園を、この世界をメチャメチャにしてただろうね」
「あなたもぶっ殺してたんじゃない?」
「……ねえオセロのコツって知ってる?白黒ひっくり返す」
「……そりゃアタシにとっちゃそんなもん無関係に楽勝よ。でも一般的にはコツってやつがあんのよ」
「……できるだけ取らないことだよ」
「正確に言うと前半に取りすぎないこと。前半自分色で染め過ぎると後で自分が置ける場所がなくなって負けんの」
「きっとそんなこと知らないオセロ初心者みたいにさ、世界中絶望に染め上げて……」
「苗木の希望にひっくり返されてただろうね」
「ま、そんな刺激的なIFの世界に思いを馳せるより、この絶望的にぬるーい世界を楽しもっかー」
「……苗木が絶望をくれる今の状況はなかなかに心地いいよ。ヘドロに浸かってるみたいにさ」
「……希望として希望のまま、絶望を絶望のまま直視しようなんて普通真似できなくない?あなたはアタシを救おうだなんてトンチンカンなことしようとしたしね」
「……いーんだって。むしろアタシが電話に出ないもんだから学園中を探してると思うと愛おしくて愛おしくて殺意が湧いちゃうよ」
「……簡単にはやれないよ。苗木の超高校級の幸運は特別だからね。お寝坊さんだけど」
「……アタシの予想だと、つまり絶対来るけど会ってく?あっ、元彼みたいな立場で辛いか!」
「……ま、確かに恋人でも友達でも家族でもないしね。じゃあ会う?」
「……あっひゃひゃ!眩しいときたか!解らないでもないけどさー!」
「……ところで完成したんでしょアレ。勿体ぶらず見せてよ。今のあなたの希望なんでしょ?ぶっ壊したいなー」
「……は?来てる?こっちに?」
○●
ピリリリリリ
苗木(七海さんからだ!)
苗木「もしもし?七海さん?」
江ノ島『やっほー!』
苗木「江ノ島さん!?」
江ノ島『第一回盾子ちゃんを探せ!の勝者は七海千秋さんでしたー!いぇーい!』パフパフ
七海『……もしもし?この通り江ノ島さん見つけたよ。生物学棟入口にいるから』
苗木「ありがとう!」
七海『それと……』
苗木「え?」
七海『私の勝ち』ドヤ!
苗木「……うん」
七海『じゃ、待ってるね』プツッ
○●
苗木「江ノ島さん!」
江ノ島「うわぁんにゃえぎー!会いたかったよー!」ガバッ
苗木「会いたかったんなら電話に出てよ!」サッ
江ノ島「もう苗木ったら電話出なかったくらいで大げさー!愛が重いー!もしかして束縛系だったりする?」
苗木「……ボクに約束守らせてよ」
江ノ島「しょーがないじゃーん。アタシだってプライベートな用事があったりなかったりなかったりあったりするんだからさー」
苗木「急にいなくなったら何するか解んないじゃないか……。それで何かあったら絶望の目付役としては失格だよ」
江ノ島「絶望の目付役?そんなしょっぱい名前があったの?」
苗木「……とにかくさ、その、ちょっとだけ心配もしたんだから……勝手にいなくなんないでよね」
江ノ島「な、苗木のツンデレ……!ああ気持ち悪い!その優しさ気持ち悪くてきもちいよぉぉぉ!」ダラダラ
七海「……感動の再会ってやつかな?」ヒョコ
苗木「……七海さん、手伝ってくれてありがとう」
七海「……うん、どういたしまして」
江ノ島「出会ってから速攻でTEL聞いちゃうなんて苗木やるねー!」バシバシ
苗木「キミのおかげだよ……!」
不二咲「千秋ちゃーん!」タタタ
江ノ島「来た来た」ウププ
苗木「不二咲さん?どうしてここへ」
不二咲「苗木君と江ノ島さんも一緒だったんだね」
七海「……お父さん」
苗木「え?今なんて」
不二咲「もう、勝手にどっか行っちゃダメだよぉ!」
七海「……ごめんなさい、お父さん」
苗木「お父、さん……!?」
不二咲「僕らには居場所が解るけど追っかけるの大変だったんだから……」
苗木「ちょ、ちょっといいかな?不二咲さんがその……七海さんのお父さんみたいな感じに聞こえたんだけど」
七海「……」
七海「……そうだよ?」
苗木「えええええ!?」
江ノ島「衝撃!勢いで産ませたはいいが自分と同年代!!」
不二咲「ち、違うよぉ!……千秋ちゃんは、僕と左右田君と松田君で共同開発した“限りなく人間に近いアンドロイド”なんだ」
苗木「アンド、ロイド……?七海さんが……?」チラ
七海「……zzz」スピー
苗木「全くそうは見えないよ……ていうかアンドロイドって寝るの……?」
不二咲「定期的なスリープは必要なんだけど……人工知能の性格のせいか居眠りが多いんだよねぇ、この子」アハハ……
江ノ島「アンドロイドは電気椅子の悪夢を見るか実験していい?」
苗木「絶対させないからね。……説明されてもまだ信じられないよ。人間としか思えない……」
不二咲「僕のプログラムと設計技術に左右田君の機械工学技術、更に松田君の人工神経知見を合わせて本当に限りなく人間に近い存在になったんだ」
江ノ島「まあ松田くんならこれくらいチョロいだろーね」
苗木「そういえば、77期のクラスに編入したって言ってたけど……」
不二咲「千秋ちゃんのプログラムデータは外部から干渉出来ないようになってるから心配するのは物理的な破損だけでいい。だから左右田君のいるクラスに編入してもらったんだ。人格は僕の作ったアルターエゴだから僕のことをお父さんって呼ぶけど」
不二咲「超高校級のゲーマーにしたのはその才能が再現し易かったのと人工知能の性格に適合したからだね」
苗木「超高校級の才能まで持たせるなんて……!やっぱり超高校級が三人も集まるとすごいことになるんだね」
江ノ島「男三人寄り集まってシコシコシコシコ女の子のお人形作ってたなんて気持ち悪」
苗木「え、江ノ島さん!」
江ノ島「ま、どうせ左右田センパイが男じゃ創作意欲が湧かねーとか言ったんでしょー?」
不二咲「な、なんで解ったのぉ?」
江ノ島「図星かよ……マジ絶望的だなあのモブ男」
不二咲「うぅ、えっとぉ、とにかく、これから千秋ちゃん、生徒として希望ヶ峰で過ごすから仲良くしてあげてね」
苗木「もちろんだよ」
江ノ島「インベーダーゲームやろっかなー?パックマンやろっかなー?それともテトリスかなー?どうしよう苗木?」
苗木(珍しく普通なこと言ってるけどなぜか不穏な気配がする……)
苗木「ぜ、全部やればいいんじゃない?」
江ノ島「そーだね!うぷぷぷぷ」
不二咲「そろそろ千秋ちゃん連れてくね。……ほら、起きて千秋ちゃん、行くよ」トントン
七海「……うん」ネミー
不二咲「よし、行こっか」
七海「……お父さん」
不二咲「何?千秋ちゃん?」
七海「……手、つないでもいい?」
不二咲「……ふふっ、いいよ。はい」ギュ
七海「……」ギュ
不二咲「それじゃまたね二人とも」
七海「バイバーイ」フリフリ
……
苗木「……見た目はちぐはぐな組み合わせだけど、ほんとの親子みたいだったね」
江ノ島「ん?んんんー?まさか苗木……【子ども作りたくなっちゃった】!?しょーがないなそれじゃこれから一発」
苗木「それは違うよっ!!……あれ?そういえば戦刃さんは?一緒じゃないの?」
江ノ島「あー、お姉ちゃんならケータイ落としたとか言って探し回ってるよ?ほんと残念だよねー」
苗木「そうだったの?だから電話出なかったんだ……。手伝ってあげないと!」
江ノ島「その必要はない」
苗木「……え?」
江ノ島「うぷぷぷぷぷ……」スッ
苗木「……早く返してあげなよ」
○●
戦刃「……ない……」
CASE6 閉廷
江ノ島「なっえぎー!」
苗木「……今日はどこ連れ回す気?」
江ノ島「やーだ苗木ったら倦怠期?せーっかくいいもの作ったのに!」
苗木(嫌な予感しかしない……)
江ノ島「見たい?見たい?見たい見たい見たい?」
苗木「えーっと……」
江ノ島「しょうがないなーっ!こっちだよほら行くよ!さっさと行くよ!ガンガン行くよ!イッちゃうよぉぉぉ!?」グイグイ
苗木「ちょ、解ったから引っ張んないで!」ヨロッ
○●
江ノ島「とーちゃーく!」
苗木「ここって……教室じゃないか」
江ノ島「そ。空き教室!」ガラッ
苗木「これは……!」
江ノ島「じゃーん!すごいっしょー?」
苗木(教室いっぱいを使った……)
苗木「……スゴロク?」
江ノ島「ピンポーン!正解者には絶望ガールからキッスのプレゼントー!んぅー……」ズイッ
苗木「ちょ、やめ……!大丈夫なの?空き教室勝手にこんなんしちゃって」グググ
江ノ島「誰も何もしてない教室をどうしようと誰も何も言わないって!」
苗木「そういう問題じゃないでしょ!」
苗木「……それにしてもよくこんな大きなスゴロク作ったね」
江ノ島「がんばったっしょー?罵倒してぶっ壊して!」
苗木「……そんなことしないけど。でもどうすんのこれ?」
江ノ島「やるんだよ決まってんじゃーん!」
苗木「だよね……」
苗木「でもこのスゴロク、マスに何も書いてないよ?」
江ノ島「それめくれるようになってんだよねー。そのマスで何が起こるかはどっちかが止まるまで解んないってわけよー!」
苗木「なるほど……」
苗木(ただ『1マス進む』とか『一回休み』とかじゃないんだろうな……)
苗木(うん。このスゴロクは……ヤバい)
苗木(ボクの全経験が告げている。このスゴロクをやってはいけないと)
苗木「……悪いけど他の人を誘ってやってくれないかな。ボクこういうのはちょっと……」
江ノ島「えー他の人じゃ意味ないんですけどー!これアタシと苗木のためだけのスゴロクなんだから!」
苗木「怖すぎるよ!」
江ノ島「ねえまさかほんとに逃げ出したりしないよね?アタシは一応絶望としてアンタに勝負を挑んでるんだけど」
苗木「勝負……」
江ノ島「そ、希望と絶望の勝負。証明してみせてよ。苗木の希望はアタシが作ったスゴロクなんかに負けないってさ」
苗木「……解ったよ。約束があるしね」
江ノ島「うぷぷぷ決まりだね」
苗木「でもマスに無茶な指示が書いてあったら……」
江ノ島「その点は心配いらないって!大丈夫大丈夫!じゃ、はいこれ!」スッ
苗木「……なにこのぬいぐるみ?ウサギ?」
江ノ島「モノミだよ!ぶさいくっしょー?アタシはこのモノクマ!」ジャン!
江ノ島「一応このぬいぐるみがコマってわけ」
苗木「ああ、そういうこと。でもコマ使うならこんな大きなスゴロク作ることないんじゃ……」
江ノ島「解ってないなー苗木クンは。こういうのは気分が大事なの!大袈裟にやってこそだよ!」
苗木「そ、そう……」
江ノ島「……はいサイコロ!苗木から振っていいよ!」スッ
苗木「ボクから?ってサイコロもデカっ!」
江ノ島「何が出るかな?何が出るかな?」
苗木「……いくよ」ハァ
苗木(鬼が出るか、蛇が出るか……)
苗木「……」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「6!」
苗木「よし!」
苗木(ツイてる!早くゴールして終わらせられるかもしれない!)
江ノ島「じゃそこのマスのシートめくってめくって!」
苗木「うん……」ペリリ
『相手のおでこにキス。パスするなら3マス戻る』
苗木「……」
苗木「……は?」
江ノ島「やったー!ほらほらちゅーしてちゅー!」サッ
苗木「し、しないよ!パス!」
苗木(はぁ……結局3マス進んだだけか)ポトッ
江ノ島「ちょいとちょいと!何もうモノミ置いてんの?そこもめくんなきゃ!」
苗木「え?」ペリリ
『相手に10秒ハグ。パスするならふりだしに戻る』
苗木「……」
苗木「えええええ!?」
江ノ島「ほら苗木ー!アタシの胸に飛び込んでおいで!」
苗木「ねえ、江ノ島さん」
江ノ島「ん?どしたー?」
苗木「このスゴロクのマスって全部こんなんなの?」
江ノ島「色んなアクションあるから安心してよ。あ、もっとどぎついのが良かった?」
苗木「……」
江ノ島「で、ハグは?ほらおいでおいで!」バッチコーイ
苗木(さっきのキスはともかくハグはハグで恥ずかしい……!でも進まないことには終わらないし……)
苗木(やる……しかない)トボトボ
苗木「……」
苗木「っ」ギュ……
江ノ島「きゃはー!真っ赤なお顔で目つむって背伸びして抱きついてくる苗木きゅんかわいすぎりゅう!たまんない!」ギュウ
苗木「うぎゅう!」
江ノ島「ほらほら苗木の方がハグするんだよ?もっと強く抱き締めて!」
苗木「う……ううっ」ギュ
江ノ島「ひゃあん最っ高だよ苗木ぃーん!」ギュ
苗木「……も、もう10秒経ったよ!」バッ
江ノ島「ありゃ残念」
苗木(うう……一回目なのにもう死ぬほど恥ずかしい)
苗木「なんなのこのスゴロク!ひどいよ!」
江ノ島「えーどこがひどいのよ。ちゃんとプレイヤーに配慮して拒否権も用意してあんじゃん」
苗木「う……」
江ノ島「じゃアタシの番ね!」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「6!」
苗木「え?6って……」
苗木(さっきボクが止まった……)
『相手のおでこにキス。パスするなら3マス戻る』
苗木(き、キス!!)
江ノ島「うーん、オープン済みのとこってのはちょっとシラケるけど、ま、しょうがないか。ほら前髪上げて」
苗木「え、えと……そうだ!江ノ島さんはパスしても戻んなくていいよ!」
江ノ島「何言っちゃってんの?ルールは絶対だよ」
苗木「うっ……アクションを受ける側に拒否権は……?」
江ノ島「考慮しておりません」クイッ
苗木「穴だらけのプレイヤー配慮だ!」
江ノ島「いいからさっさと前髪上げろよ!なァ!!」ズギャーン
苗木「うう……」スッ
苗木(解ってはいたけどやっぱりルールにかこつけて色々するのが目的みたいだ……)
江ノ島「……」ジリジリ
苗木(江ノ島さんの顔が近づいてくる……!目つぶろう)ギュッ
江ノ島「……んっ」チュッ……
苗木「っ!!」
江ノ島「……っぷぅ……」
苗木「……」
江ノ島「……終わったんだけどいつまで固まってんの?あ、もしかしてアンコール?」
苗木「ち、違うよっ!」
江ノ島「なーんだ。ほら次は苗木だよ」
苗木「うん……」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「2!」
苗木(モノクマの一つ後ろか……)ペリリ
『相手の頭を10秒なでる。パスするならふりだしに戻る』
苗木(パスした時のペナルティがキツいけど、まだやりやすい内容だ……こういうのもあるんだよかった)
江ノ島「パスする?」
苗木「いや、やるよ!」
江ノ島「やったー!なでなでしてー♪」スッ
苗木(……恥ずかしいことは恥ずかしいな……やっぱり)カァ
苗木「……」ナデナデ
苗木(江ノ島さんの髪……柔らかいな……)
江ノ島「んふふーなかなかうまいじゃーん」
苗木「頭なでるのにうまいとかあるのかな……」ナデナデ
江ノ島「きもちわるくてきもちいー」
苗木「……ほんと面倒な個性だよ……そろそろ10秒経ったよね」
江ノ島「よっしじゃあアタシのターンってわけだ」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「3!」
江ノ島「さてさて何が出るでっしょーう、か!」ペリリ
『ポッキーゲーム。負けた方が5マス戻る。引き分けの場合移動なし』
江ノ島「いーじゃんいーじゃん!パーティーゲームの定番だね!二人きりだけど!」
苗木「こんなんまであんの!?」
苗木(ていうかボクの場合負けたらふりだしじゃないか!)
江ノ島「いはひょうふ!」スッ
苗木「いつの間にかくわえてる!?」
江ノ島「ほははへひほほっひふはへへ」ツンツン
苗木「……」パク
江ノ島「よーひ、ほん!」
江ノ島「……」ポリポリポリポリポリ
苗木「!!」
苗木(は、速っ!)
苗木「っ!!」
江ノ島「はい!苗木ふりだしー!」
苗木「勝ちとか負けとか考えてなかったでしょ明らかに!!もう少しでキスしてたよ!!」
江ノ島「勢いで押す作戦に決まってんじゃーん!負けたんだから戻ってねー!」
苗木「ひどすぎる……」トボトボ
○●
苗木(進んでは戻ってを繰り返してるから結局なかなか進まない……)
苗木(江ノ島さんはもうすぐゴールしそうだな……)
苗木(江ノ島さんがゴールすればこのスゴロクは終わる、けど……)
苗木(その場合絶望の勝ちってことになるのかな)
苗木「……」
江ノ島「んじゃ行くよー!」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「4!」
江ノ島「何が出るかなーっと!」ペリリ
『相手と10秒手を恋人繋ぎ。パスする場合10マス戻る』
苗木(よかった。こっちとしてもあんまりきつくないマスだ……)
江ノ島「パス」
苗木「えっ」
江ノ島「……」ペリリ
『相手の耳に甘噛み。パスする場合5マス戻る』
苗木(ま、まずい……!)
江ノ島「パス」
苗木「!?」
江ノ島「よっと」ペリリ
『相手を10秒お姫様だっこ。パスする場合は7マス戻る』
江ノ島「この辺でいいかなー」
苗木「えっ?」
江ノ島「ご機嫌麗しゅー!苗木姫!」ヒョイ
苗木「うわっ」
江ノ島「……」ニイッ
苗木「!?」
江ノ島「カワイイなー……ずっとこうして眺めてたいなー……」
苗木「え、江ノ島さん……!」
江ノ島「……」
江ノ島「まあでも10秒ってルールだしね」パッ
苗木「うわあぁっ!!」ドサッ
苗木「っつ……いきなり落とすなんてひどいよ江ノ島さん」
江ノ島「うぷぷ」グルグルグルグル
苗木「!」
苗木「……」
苗木(……やっとボクはこのスゴロクの絶望的な事実に気がついた)
苗木(自由にできるパスの選択とその場合後退するというペナルティ、それはボクを進ませないためだけにあるのではなく)
苗木(江ノ島さんが好きな時に戻るためにある)
苗木(つまり……)
苗木(江ノ島さんはこのスゴロクをゴールする気がない)
苗木(このスゴロクはボクがゴールしないと終わらない……!)
江ノ島「気づいたみたいだね。いいよその表情きゅんきゅんきちゃうよ」
苗木「江ノ島さん……やっぱりキミはゴールするつもりがないんだね……」
江ノ島「言ったでしょ?希望と絶望の勝負だってさー。絶望にゴールなんてないんだよ。うぷぷ……永遠に続くスゴロクなんて楽しそう……」
苗木「っ……!」
江ノ島「やめたい?逃げてもいいよ?」
苗木「え……?」
江ノ島「ま、その場合失望するだけだけど」
苗木(失望……希望でも絶望でもなく、失望)
江ノ島「どうする?」
苗木「……江ノ島さんはさ」
江ノ島「ん?」
苗木「ボクがやめるって言うと思ってるの?約束を忘れて……絶望(キミ)に負けを認めて」
江ノ島「……」
江ノ島「えへ♪全然」
苗木「……全くもう」
苗木「じゃ、続けるよ」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「3」
苗木「……」ペリリ
『相手の頬にキス。パスするなら3マス戻る』
江ノ島「やる?やらない?」
苗木「……やるよ」
苗木(前に、進むしかない!)
江ノ島「いやったー!苗木クンがその気になってくれたみたいで盾子ちゃんは非常に嬉しいです!」
江ノ島「じゃ、ここにさっそくお願いしまーす!」プニプニ
苗木「っ……」カァ
苗木(覚悟は決まった、けど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいっ……!)
江ノ島「ほら早くー」
苗木「……」
苗木「……っ!」チュ
江ノ島「はぁん!」ビクン
苗木「ちょっ、変な声出さないでよ!」バッ
江ノ島「だってぇー!苗木の方からキスしてくれるなんて最っ高にゾクゾクしちゃうって!も、もう、自分が抑えられるか……!!」ダラダラ
苗木「……」
苗木(覚悟、し直す必要があるかもしれない……)
○●
苗木「……」ボー
苗木(江ノ島さんがキスのマスばっか狙ってる……。今日だけでどんだけキスされたんだボク……)
苗木(でも、もう少し……もう少しでゴールだ……!)
江ノ島「あー苗木にこんなにいっぱい希望に満ちた愛情表現をして貰えるなんて……!絶望で身がねじ切れちゃいそう!」
苗木「いいから、次、江ノ島さん……」
江ノ島「おっけー!苗木の愛に応えなくっちゃね!」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「1!」
苗木「まだ開いてないマスだね」
江ノ島「さー何が出るかな!」ペリリ
『ゴールまで相手と手を恋人繋ぎ。パスするなら4マス戻る。他のマスの指示に従うのに必要な時以外で手が離れた場合双方4マス戻る』
苗木「何これなんか前のマスがパワーアップしてるんだけど!?」
江ノ島「いやーやっぱクライマックスでパワーアップってお約束じゃん?」
苗木「こんな非常識なスゴロクでお約束なんていらないよ……」
江ノ島「まあまあ!手繋いでるだけじゃん!はいっ!」ギュ
苗木「うん……」
苗木(すべすべしてて柔らかい……)カァァ
江ノ島「あったかいなぁ……気色の悪い希望が伝わってくるみたい……!」ダラダラ
苗木「っ……つ、次はボクの番だね」
苗木(時々握る手に力を加えてくるのが……!これは直接的な内容よりもキツいかもしれない……!)
江ノ島「うぷぷどーぞ?」
苗木「行くよ!」ポイッ
苗木(あと少しでゴール……!)
コロコロコロコロ
江ノ島「3!」
苗木(何が来ようと……乗り越えてみせる!)ペリリ
『ゴールまで相手を「お姉ちゃん/お兄ちゃん」と呼ぶ。パスするなら10マス戻る』
苗木「……そこまでお姉ちゃんって呼ばれたかったんだ【江ノ島さん】……」
江ノ島「お・ね・え・ちゃ・ん!!」
苗木「お……お姉ちゃん……」カァ
江ノ島「あー!あー!あー!もーたまんないぃっ!!お持ち帰りしちゃうよマジでっ!お姉ちゃんと一緒に帰ろうねー!」ブンブン
苗木「ちょ、腕振り回さないで、お姉ちゃん……」
○●
江ノ島「はい、苗木の番」
苗木「……」
苗木(やっと……ここまできた。あと4マスだ。4以上の目が出れば終わりだ)
苗木「いけっ!」ポイッ
コロコロコロコロ
江ノ島「5」
苗木「よし、やった!!」
江ノ島「ちぇー、これで終わりかー!でもいっぱい楽しませてもらったし、まあまあ満足かな」
苗木「それじゃ……」
江ノ島「ほら、ゴールのマスめくって!」
苗木「え……?ゴールにも何か書いてあんの?」ゾ
江ノ島「もっちろんよー!ほら早く早く!」
苗木「……」ゴク
苗木(まさか……)
苗木「……」ペリリ
苗木「……!」
苗木(ゴールのマスに大きく書かれていたのは……)
『苗木だいすき これからも絶望をよろしく』
苗木「……」ポカーン
江ノ島「えっへっへー!実はこれがやりたかっただけだったりして!きゃっ恥ずかし!」
江ノ島「今日はなかなか楽しかったよん苗木ー!んじゃ、まったあっしたー!」ガララッ タッタッタ……
苗木「……」
苗木(不意打ちだった)
苗木(ボクはてっきり無茶な要求と共に『パスするならふりだしに戻る』と添えてあるような、そんな罠があるんじゃないかと思っていた)
苗木「……」
苗木「……」
苗木「……もしかして」
苗木「……これボク一人で片づけるの?」
○●
苗木(はぁ……やっと終わったよ……)トボトボ
朝日奈(あ!あの後ろ姿……)
タッタッタ
朝日奈「苗木!こんなとこで何してんの?」
苗木「朝日奈さん?」クルッ
朝日奈「!!」
バチンッ
苗木「!!??」ヒリヒリ
朝日奈「ごめん、思わず……」
苗木「あ、朝日奈さん……ボクなんか悪いことしたかな……」ヒリヒリ
朝日奈「……鏡、見てくれば?」
CASE7 閉廷
戦刃「……」チャッ
バンッ
バンバン
バンバンバンバンバン……
……
……
『NEW RECORD!!』
戦刃(……よし)
戦刃「6(む)9(く)6(ろ)……と」バン バン バン バン
七海「……あなただったんだ」
戦刃「!?」バッ カチャッ
七海「……」
戦刃「……」
七海「私に向けてるそれ、ライトガンだから弾は出ない……と思うよ?」
戦刃「あっ……」ガチャン
七海「……」
戦刃「……」
七海「……ここにあるガンシューだけね。なかなかハイスコアが取れなかったんだ」
戦刃「……え?」
七海「いっつも上にいる『696』って人がすごすぎて」
七海「やっと新記録出してもやっぱり『696』さんにすぐ塗り替えられちゃって……誰なんだろ?……って思ってたんだ」
戦刃「……!」
戦刃「……もしかして……あなたは『773』さん?」
七海「……うん。『773(ななみ)』。ほんとは七海千秋っていうんだ」
戦刃「……私は戦刃むくろ……よろしく」
七海「……」
七海「うん、よろしく」
戦刃「……私もあなたに負けないようにがんばってた」
七海「……そっか」
戦刃「……」
七海「……」
戦刃「……」
七海「……プレイ」
戦刃「えっ……」
七海「見てもいいかな?」
○●
戦刃「七海さんは……」 バン バン
七海「……何?」
戦刃「希望ヶ峰の生徒なの……?」バンバン
七海「……そうだよ?私は超高校級のゲーマー……ってことになってる。戦刃さんも希望ヶ峰の生徒だよね」
戦刃「……うん。超高校級の軍人」バンッ
七海「本物の軍人さんかー。難易度高いなぁ。……いつもここに通ってるの?」
戦刃「盾子ちゃんが……私の妹が、『ついてくるな』って言う日は暇だから……これで時間潰してる」 バンバンッ
戦刃「今日も……空き教室で何かするみたいだったから手伝うって言ったけど、いいって」バンバンッ
七海「……盾子ちゃんって、江ノ島ささん?」
戦刃「盾子ちゃんを知ってるの……?」
七海「……うん。苗木くんが江ノ島さん探してた時、それ手伝ったんだ」
戦刃(……いつのことだろ……)
七海「かわいい妹さんだね」
戦刃「……うん!自慢の妹!」
戦刃「私なんかと違ってすごくかわいい。姉妹なのに全然似てなくて……」
七海「……そうかな?声とか顔立ちとか、結構似てるとこあると思うけど」
戦刃「えっ……」
七海「戦刃さん」
デデーン
『GAME OVER』
戦刃「あっ……」
七海「ごめんね、教えようと思ったんだけど」
戦刃「ううん……」
七海「……次はさ」
戦刃「……?」
七海「2人プレイしようよ」
○●
七海「やっぱりすごいね。スコア適わないや」
戦刃「そんなこと……七海さんもすごいよ」
戦刃(初めて2人プレイした……)
七海「パターンは頭に入ってるんだけどなー」ウーン
「イヤッフゥゥゥゥゥ!!イエェェェェス!!」
戦刃「!?」ビクッ
七海「……音ゲーコーナーの方からだね。ちょっと見に行ってみよっか」
戦刃「うん……」
○●
ザワザワ
澪田「イヤッハァァァァァ!!」ジャカジャカジャカジャカ
戦刃「あの人……ゲーム画面を背にしてギターのゲームしてる……!」
七海「……やっぱり澪田さんか」
戦刃「知り合いなの……?」
七海「クラスメートなんだ」
戦刃「あの人も希望ヶ峰……」
澪田「フゥーッ!」ジャーン
……
ザワザワ パチパチパチ
澪田「センキューっす!」ビシー
七海「澪田さーん」
澪田「千秋ちゃんじゃないっすかー!奇遇っすね!……おやおや?そちらはどなた?」
七海「戦刃むくろさん。今日知り合ったんだけど……同じ希望ヶ峰学園の生徒で超高校級の軍人さん」
戦刃「……よろしく」
澪田「その大人しそうな雰囲気で軍人……いいっすねー……千秋ちゃんを凌ぐ萌えキャラの匂いがプンプンするっすよ……?」フッフッフ
戦刃「……」クンクン
澪田「澪田唯吹の澪に、澪田唯吹の田に、澪田唯吹の唯に、澪田唯吹の吹で……澪田唯吹でーす!」
澪田「よろしくお願いするっすー!!」ガシッ ブンブン
戦刃「う、うん……よろしく」
七海「……澪田さん、音ゲーやるんだね」
澪田「超高校級の軽音楽部っすから!ま、本物の楽器触んのとはまた違うんすけど……。別腹ってやつっすね!」
七海「……」
七海「……でもこのゲーセンでやってるとこ初めて見たよ?」
澪田「いやーそれが……あの通りやり始めるとキマりまくっちゃうんで……出禁になんないように行くゲーセン変えてるんすよねー」
七海「そうなんだ……」
戦刃「よく解らないけど大変なんだね……」
澪田「見ないで!その憐れみの視線の純粋さが痛いっす!ダブルで!」
澪田「しかし千秋ちゃんはゲーマーさんっすけど軍人さんのむくろちゃんもゲーセン来るんっすね」
七海「……戦刃さんね、ガンシューすっごいうまいんだよ」
戦刃「……そんな、たいしたことない」カァ
澪田「あー、なるほど!是非お手並み拝見したいっすね!」
戦刃「いいけど……」
澪田「やっふー!そんじゃ唯吹も秘技、二挺拳銃(トゥーハンド)を披露しちゃうっすよ!」
七海「それじゃ、れっつごー」
○●
澪田「……」
澪田「二挺拳銃(トゥーハンド)の免許はむくろちゃんに皆伝っすね……」
澪田「もう唯吹の教えることは何もないっす!思う存分一人二人プレイを楽しむがいいっす!!」
戦刃「あ、ありがとう……?」
七海「……すごいけど、二人プレイは二人でやった方が楽しいよ」
戦刃「……うん」
澪田「早くも免許ポイ捨てっすか!?もちろん一人の時にやるんすよう!」
戦刃「でもこれだと簡単過ぎじゃない……?」
澪田「いやーそう思うのはむくろちゃんだからじゃないっすかね……?あれー?自信なくなってきちゃったなー……」
澪田「こうなったら仕方ない……音ゲーの方のダブルプレイで名誉挽回っす!」ビシー
七海「……待った。その前に対戦しようよ」
澪田「よかろう、受けて立つっす!フフフ、ハンデは目隠しでいいっすか」
七海「むぅ……いらないよそんなの」
戦刃「……二人ともがんばって」
澪田「……聞いたっすか千秋ちゃん?唯吹には負けられない理由ができたっすよ!?手加減してもらえるとか思わないでほしいっす!」ムッキー!
七海「……それはこっちも同じだよ?」
澪田「では……むくろちゃんとのプリクラツーショット権を賭けていざ勝負っす!」
戦刃「えっ」
七海「いいよ?」
戦刃「えっ……!?」
○●
澪田「いやー……ここまでやるとは思わなかったっすよ。流石千秋ちゃんっす」
七海「……」
七海「あと少しだったんだけどなぁ……やっぱりすごいね澪田さん」
澪田「宣言通り一切手加減しなかったっすからね!120パーセント唯吹っす!」エッヘン
戦刃「……大人気ないよ」
澪田「想像以上に冷たい一声!!」タハー
澪田「むくろちゃんががんばってって言ってくれたんじゃないすかー!」
澪田「それにぶっちゃけ超高校級のゲーマーさんに手加減とかできないっすよう!」
戦刃「……確かに私も七海さん相手じゃガンシューティングで手加減できない」
澪田「じゃないすかー!?千秋ちゃんはマジにすごいゲーマーっすよ……」
七海「……」
七海「あーあ……プリクラ撮りたかったな」
澪田「なーに言ってんすか。プリクラなら三人で撮るっすよ?」
七海「……私入ってもいいの?負けたのに」
澪田「あれはその場のノリっすよー!唯吹は別にギャンブラーじゃないんすから」
澪田「みーんなで撮るっす!友情の証に!」
戦刃「友情……」
澪田「ゲーセンでこんだけ一緒に遊べばもうお友達っすよ!」
七海「……」
七海「……そうだね」フフッ
戦刃「……」パァッ
澪田「ほらほら早く行くっすよ!センターは唯吹っす!」グイグイ
七海「わっ」
戦刃「ま、待って」
○●
澪田「いやー!今日はソロかと思ったら思わぬお友達に出逢えて超楽しかったっす!」
戦刃「……うん」
七海「私も」
澪田「そんじゃー!この後ご飯……はだめっすかねやっぱ」ハハ
戦刃「……?」
日向「あ!おい!澪田!」タッタッタ
澪田「およ?」
戦刃「日向君……?」
七海「……」
日向「戦刃も一緒だったのか。……っと、君は?」ドキ
七海「……七海千秋。超高校級のゲーマー……ってことになってる。よろしく」
日向「……俺は日向創。よろしく。希望ヶ峰の予備学科なんだけど……おい澪田」
澪田「まったくどうしちゃったんすか創ちゃん?そんなにぷりぷりしちゃって」
日向「お前俺に会ってもまだ思い出さないのか!?今日はお前が音楽教えてくれる約束だったろ!?」
澪田「あ、あれー……?そうだったっすかね……?」
日向「そうだったんだよ!さっきまでずっと待ち合わせ場所にいたんだぞ!なんで電話出ないんだよ!ちょっと心配になっただろ!」
澪田「そりゃあさっきまでゲーセンにいたっすから……」アハハ…
日向「ゲーセン!?」
澪田「……こ、この埋め合わせはいつかするっすー!」ピュー
日向「あ!おい待て今からでも……ったく!戦刃!また今度よろしくな。それと七海……ゲーマーだったよな?」
七海「うん」
日向「……今度ゲームについて教えてくれ。じゃあ!」タタタタ……
七海「……」
七海「……なんか、変わった人だね」
戦刃「……悪い人ではないよ」
七海「……」
七海「……うん、そんな気がする」
○●
江ノ島「うぷぷ……感度良好」
江ノ島(やーっぱり苗木のやつモノミとモノクマ捨てられずに持ち帰ってるよ。カメラと盗聴器入ってるとも知らずに……)
江ノ島「……爆弾でも入れとけばよかったかなー」
ガチャ
戦刃「盾子ちゃん……」
江ノ島「ちょっと、勝手に入ってくんなっつったでしょーが!」
戦刃「ご、ごめんなさい……話があって」
江ノ島「何よ?アタシ忙しいんだけど?」ジト
戦刃「……わ、私達の似てるところについて話し合ってみない……?」
江ノ島「……次そんな薄ら寒い台詞吐いたら口縫い合わすから」
CASE8 閉廷
江ノ島「……女子会?」
舞園「はい!狭いかもしれませんがクラスの女子で私の部屋に集まってやろうと思うんです!」
江ノ島(アホらしめんどくさ)
舞園「他の方はみんな来ますし江ノ島さんも来てくださいね」ニコ
江ノ島「他の方……?」ジロ
戦刃「……!」ビクッ
舞園「霧切さんと腐川さんを説得するのは大変だったんですよ?」フフ
江ノ島「マジでその二人もくんの?なーんかぐっちゃぐちゃしてんなぁオイ」
江ノ島「よかろう……!私様も出向いてやろうではないか……!」ドドン
舞園「ほんとですか!?よかったー!それじゃ七時に私の部屋に来てくださいね!」
江ノ島「りょーかーい」
○●
江ノ島「というわけで!今夜は寂しい思いさせちゃうけどごめんね!」
苗木「……毎晩一人だよ。誤解されるようなこと言うのやめてもらえるかな」
江ノ島「……本当に一人かな?」
苗木「怖いこと言わないでよ!」
江ノ島「執念、というか怨念っていうのかな……人間の強烈な思いの残滓が物や場所にこびり付いてることがあるんだよね……。殺人現場の血痕みたいにさ……」ゴゴゴゴゴ
苗木「ちょっと、ほんとに怖いからやめて!ボクの部屋は訳あり物件じゃないから!」
江ノ島「ま!誰が見てるか解らないから日々恥ずかしくない生活を送らないとねー!」
苗木「え……そういう話なの?」
○●
江ノ島「こんばんはーっ!」ガチャ
戦刃「盾子ちゃん……!」
舞園「江ノ島さん遅いですよ?でもこれで揃いましたね!」
江ノ島「うっひゃあせっま」
大神「済まぬ……」
朝日奈「ちょっと、なんでさくらちゃんが謝るの?」
江ノ島「いやデカいからでしょ」
セレス「体躯の大きさの問題がなくとも一部屋に八人は流石に窮屈ですわね……」
江ノ島「じゃあ一人減らそっか!お姉ちゃん、バイバイ!」
戦刃「……」スクッ
舞園「戦刃さん本当に帰ろうとしないでください!」
江ノ島「んー……あ!狭いのになんか足りないと思ったら不二咲がいないのか!」
舞園「まあ……不二咲さんは一応男子ですから……」
江ノ島「ほとんどが不二咲の性別=ちーたんって認識に落ち着いてるけどねー」
舞園「……とにかく、狭いのはどうにもなりませんしもうお菓子食べちゃいましょう!ほらいっぱいありますよ!」
朝日奈「あー!このちっちゃいドーナツのお菓子好きなんだよねー!」
霧切「これだけの山のようなお菓子……一人で用意したの?」
江ノ島「ファンがくれたやつだったりして……」ウププ
舞園「違いますよ!……実はグループのメンバーで女子会をやろうということになって、みんなで前もってお菓子だけ買ったんですけど」
舞園「肝心の当日予定が合わなくなっちゃいまして……」
セレス「つまりは余り物……ということですわね」
舞園「……はい……」
腐川「あ、あたし達は残飯処理に呼ばれたわけね……」
朝日奈「ちょ、余り物でもなんでもいいじゃん!」
大神「……うむ。舞園に感謝して頂くとしよう」
戦刃「……おいしそう」ジーッ
江ノ島「ってかさー、この量……八人で丁度いいと思うんだけどアンタのグループどんだけ食うのよ?マジでアイドル?」
舞園「その日だけは体重を気にせず食べようと……」アハハ……
朝日奈「もういいからさ!早く食べよーよ!これ以上のおあずけは耐えられないよ!」
セレス「そうですわね」
セレス「一晩でこれを消費するのは骨が折れそうですし、さっさと食べ始めてしまいましょうか」
江ノ島「うォーし!頂きィ!」ズギャーン
舞園「どうぞ頂いちゃってください!」
江ノ島「……」モニョモニョ
江ノ島「あ、これおいしぃー!はい、セレスちゃんあーん!」キャピルン
セレス「……なぜわたくしに?」
江ノ島「いいからいいからー!」ズッ
セレス「むぐっ!?」
セレス「……」モニョモニョ
セレス「……」
セレス「まっじィ!!何食わせんだこのアマッ!!」
江ノ島「あれー?おかしいなー?おいしかったんだけどなー?」ニヤニヤ
霧切「……どんな味が?」
セレス「そうですわね……まさしく」
セレス「ゲロ、ですわね」
朝日奈「何食べたの!?」
江ノ島「……サワーペーパーヨーグルト味」ウププ
セレス「こんなにもクソまずい駄菓子が存在するとは知りませんでしたわ……江ノ島さん、覚えておいてくださいね」
江ノ島「……そんな……私はおいしいと思ったから食べさせたのに……絶望的な見解の相違です……」ジメジメ
戦刃「……盾子ちゃんかわいそう」
セレス「……戦刃さん、あなたはもう少し妹さんを疑うことを覚えなければいつか痛い目を見ますわよ。命を落とすレベルで」
江ノ島「他の方もじゃんじゃん食べてください。このままでは女子会参加者の摂取カロリーに偏りが出ることが予測されます」クイッ
腐川「と、というか今日ぐらいキャラ変えんのやめなさいよ……!余計人が増えたように感じるじゃない……!!」グギギ
○●
江ノ島「で!」
舞園「で?」
江ノ島「せーっかく女子会なのにバクバクバクバクお菓子食べるだけじゃつまんないんですけどー!」
朝日奈「えーそう?」
江ノ島「トーク!!圧倒的にトークが足りないって!このまま内容のない話ばっかじゃ女子会の意味ないじゃーん!」
舞園「まあ確かに……」
セレス「このままではお菓子品評会ですわね」
江ノ島「というわけで!最近の面白エピソードいってみよー!」
江ノ島「ハイ!朝日奈さん!」ウププ
朝日奈「え!?わ、私?」
朝日奈「面白エピソード……急に言われてもなー……」ウーン
舞園「最近起きた変わった出来事でもいいですよ?」
朝日奈「……あ……!」カァァ
セレス「……何かあったようですわね」
朝日奈「いや、あったといえばあったけど……なかったといえばなかったというか……」チラ
江ノ島「ん?」
朝日奈「この場で言ってもいいのかな……」
霧切「……珍しく歯切れが悪いわね」
腐川「さ、さっさと言いなさいよ……!このままじゃ気持ち悪いじゃない……!」
朝日奈「じゃあ、その前に江ノ島ちゃんに訊きたいことがあんだけど」
江ノ島「なになに?なんでも訊いてよ!」
朝日奈「江ノ島ちゃんは……苗木とその、付き合ってるんだよね?」
舞園「……!」
霧切「……」
戦刃「……」ソワソワ
江ノ島「もち!前大々的に発表したじゃーん!」
舞園「……苗木君に関係のあることなんですか?」
朝日奈「う、うん」
セレス「……あら、いきなり面白くなって参りましたわね」
江ノ島「いい加減とっとと話せよオイ!」ズギャーン
朝日奈「……あーもう、言うよ?」
朝日奈「この前普段あんまり行かない区画に用があって行ったんだけど……そこで苗木の後ろ姿を見かけたから声かけたの」
江ノ島(あーハイハイなるほど)
朝日奈「そしたら振り返った苗木の顔……キスマークだらけだったんだよ!」
舞園「!?」
霧切「……」フゥ
戦刃「……」カァ
朝日奈「私もうびっくりしちゃって、思わずビンタしちゃったんだけどさ」
江ノ島(うぷぷぷぷぷ、苗木のやつひっぱたかれたのかよぉぉぉ!)プククククク
舞園「み、見間違いじゃないでしょうか?苗木君がそんな……ねぇ?」ハハ
朝日奈「見間違いじゃないよ!はっきり口紅の跡が付いてたもん!いくつも!」
舞園「……」クラッ
朝日奈「気付いてないみたいだったから鏡見てくればって教えたし……」
江ノ島「う……ぷぷっ」プクク
セレス「どうも苗木君と朝日奈さんの仲がギクシャクしていると思ったらそんなことが」
朝日奈「そりゃ気まずいじゃん……」
大神「しかし、その接吻の跡を付けたのが江ノ島ならば何も問題ないのではないか?」
大神「二人は付き合っているのだからな。……節度は別問題としてだが」
腐川「ど、どうなのよ……?」
江ノ島「いやそんなんアタシに決まってんじゃん」
朝日奈「やっぱりそうだったんだ!……びっくりしたとはいえ悪いことしちゃったな」
霧切「気に病むことはないわ」
セレス「ええ。キスマークだらけの顔でほっつき歩いてる苗木君に落ち度がありますわ」
セレス「……しかし想像以上に燃え上がってるようですわね」
江ノ島「もっちろんよー!苗木とアタシは同じコインの表と裏みたいに絶対切り離せない関係なんだから!」
霧切「……」
江ノ島「あぁ……あの日は最高だったなぁ……聞きたい?詳しく聞きたい?」
セレス「……遠慮しておきますわ。舞園さんが帰ってこれなさそうなので」
舞園「……」ボー
江ノ島「はいじゃあ次お姉ちゃん!」
戦刃「わ、私……?」
江ノ島「面白い話お願いねむくろちゃん!」キャピルン
戦刃「む、無理……」
江ノ島「つっかえないなーお姉ちゃんは!」
セレス「別に面白くなくても最近あった出来事でよろしいですわ」
戦刃「最近あったこと……それなら」
朝日奈「うんうん」
戦刃「最近部屋に差出人不明の……」
朝日奈「まさか、手紙……!?」
戦刃「包帯とか絆創膏が届く」
江ノ島「は?」
戦刃「……私は怪我とかしないしどうしようかと」
霧切「……何らかのメッセージかしら?」
セレス「……怖いですわね」
朝日奈「……怪我させてやるぞ!……ってこと?」
戦刃「そうなの……?」
腐川「も、もしくは何かの呪いとか……!あ、あんた誰かに恨まれてるのよ!」
戦刃「そんな……!それは困る……」
江ノ島「だーれがホラー仕立てにしろっつったよ!まあお姉ちゃんに期待なんかしてなかったけど」
戦刃「ごめんなさい……」
江ノ島「もう次行くよ次!はい腐川さーん!」ビシ
腐川「あ、あたし!?は、話すようなことなんてないわよ……!」
江ノ島「なんにもないってことはないでしょ生きてりゃさー!」
腐川「あ、あたしはこういうノリが一番嫌いなのよ……!」グギギ
江ノ島「なんかあんでしょ十神と!」
腐川「びゃ、白夜様と……?そういえばこの前……」
朝日奈「嫌な予感しかしないなぁ……」
腐川「白夜様があたしの落としたハンカチを踏んでくれたわぁ……!」
大神「……予感的中か」
腐川「あたしの(ハンカチの)純潔が白夜様によって踏みにじられる……!ああもう失禁しそうだったわ……!」ハァハァ
江ノ島「はい次はセレスちゃん!どーぞ♪」キャピルン
腐川「話振っておいて適当に流すんじゃないわよ……!」グギギ
セレス「わたくしですか……そうですわね。最近面白い方を見つけましたわ」
江ノ島「おー!いーじゃん!男?」
セレス「男性ですわ」
朝日奈「へー!」
セレス「……わたくしを唯一ギャンブルで負かす人物ですわ」
霧切「セレスさんをギャンブルで……?」
セレス「ええ」
腐川「何者なのよそいつ……まさか白夜様じゃないでしょうね……!」
セレス「……“超高校級の幸運”……」
舞園「それって……!」
江ノ島「あ、復活した」
セレス「もちろん苗木君ではありませんわ。苗木君の幸運は寝てばかりでギャンブル向きではないようですから」
セレス「名前は狛枝凪斗」
江ノ島「狛枝……聞いたことあるよーなないよーな……」ウーン
セレス「……狛枝君の幸運には山か谷しかないようで」
セレス「どんなギャンブルをしても結果はボロ勝ちかボロ負け」
霧切「……かなりピーキーな幸運ね」
セレス「わたくしの当面の目標は好調の彼に勝つことです。超高校級のギャンブラーである以上、ギャンブルにおいて常勝でなくてはなりません」
戦刃「……どんな人?」
セレス「聡明で朗らかですが恐ろしく自己評価が低い人物ですわ」
舞園「謙虚でいいじゃないですか」
セレス「彼は謙遜でなく本気で自身のことをどうしようもないゴミクズであると思っているようです」
朝日奈「え、ええー……」
江ノ島「ふーん……で、セレスはその狛枝って人が気になってるってわけだ!」
セレス「……興味深い、とだけ言っておきましょうか」
セレス「顔立ちは綺麗で背も高いのでわたくしのナイトとしては及第点ですが……彼からは時折、退廃的で危険な気配がしますし」
江ノ島「へーなるほどなるほど……うぷぷ。んじゃ次は大神」
大神「む、我か。……そうだな、最近想い人から文が届いた」カァ
舞園「あら!」
朝日奈「うわー!うわー!」
江ノ島「きたよきたよダークホースきちゃったよ!」
大神「……これだ」スッ
セレス「持ち歩いているのですか」
朝日奈「……見てもいいの?」
大神「構わぬ」
江ノ島「そんじゃはいけーん!」バッ
江ノ島「えーとなになに……?……鍛え上げ……?決着を……?拳を交えよう……」
「……」
江ノ島「果たし状だこれ!!?」
大神「誰も恋文とは言っておらぬであろう」
江ノ島「あ、そっかぁ!やーだぁー!さくらちゃんったらおっちゃめー!」キャピルン
江ノ島「そんな遊び心いらねェーんだよ!!」ズギャーン
大神「……済まぬ」シュン
江ノ島「次行くぞ次ィ!……舞園ォ!」
舞園「この前苗木君とお買い物に行きました!」
江ノ島「あっそ。はい次はー……」
舞園「ちょっと江ノ島さん!いいんですか!?あなたの彼氏さんとお買い物行ったんですよ私!」
舞園「気にならないんですか!とられちゃいますよ?宣戦布告ですよ!?」
江ノ島「買い物とか……どこへなりと行けばいーじゃん……」
江ノ島「どーでもいーよ苗木はどうせアタシから逃れられないしアタシもきっともう苗木から逃れられないんだからさ」
舞園「それってどういう……」ゾゾ
江ノ島「はい次は霧切さん!」
霧切「……私?」
江ノ島「いっつも尋問する側だからね!今日はみんなで好きなだけ話を訊いちゃおうよー!」
霧切「……何か、趣旨が変わっていないかしら?」
セレス「では、先程の趣旨に即して最近の出来事をお聞きしましょうか」
霧切「……面白いエピソードなんてないわよ」
霧切「最近あったことなんて城のある島に閉じ込められて殺人事件に巻き込まれたことくらいね」
江ノ島「何それちょー楽しそう!」
セレス「なかなか出来る体験ではありませんわね」
戦刃「……」
戦刃「それって……苗木君と巻き込まれた……?」
霧切「知っているの?」
戦刃「あ……えと、苗木君が前言ってたから……それから帰ってすぐに誘拐されたって」
戦刃(……苗木君が巻き込まれたのは盾子ちゃんのせいなんだけど)
霧切「彼は本当に死神に好かれているようね……」
霧切「……探偵たちが次々殺される……絶望的な状況だったけれど、運良く生き残ることができたわ」
江ノ島「うぷぷ……」
セレス「霧切さん以外にも探偵が?しかも殺されたのですか?」
霧切「ええ。探偵という存在そのものへの挑戦ともいえるような事件だったわ」
江ノ島「……もうさー!殺すとか殺さないとか女子高生が集まってする話じゃないって!」
腐川「自分が面白そうって乗っかったくせに……!」
霧切「だから言ったじゃない、面白いエピソードなんてないって」
江ノ島「もっとさー!あんでしょ?ないの?具体的に言うと異性とのイベントがさ!」
霧切「異性……」
霧切「そういえば、最近日向君が助手を引き受けてくれて助かってるわ。探偵について教授するという約束の傍らだけど」
江ノ島「日向って……日向創?」
霧切「ええ」
江ノ島「そういえばアタシもなんか言われてたなー」
舞園「日向君なら、私歌唱法とかダンスのステップとか教えてますよ?」
朝日奈「私も水泳教えてるよ!泳法とかトレーニング法とか!」
大神「我もだ。日向に稽古をつけている」
江ノ島「あ、それこの前見たなー。一方的な虐殺にしか見えなかったやつだ」
セレス「わたくしもテキサスホールデムのプレイングを叩き込んで差し上げましたわ」
腐川「あ、あたしも小説の表現やら文章構成やら教えてるわ……」
朝日奈「腐川ちゃんも教えてあげてんの?」
腐川「しょ、しょうがないでしょ……しつっこく頼んできたんだから……」
戦刃「……私も、射撃とかCQCとか」
江ノ島「アンタもかよ!?」
戦刃「た、頼まれたから……」
江ノ島「え?何?全員日向創になんか教えてんの?」
江ノ島「いやーすごい節操のなさだね。これはハーレム建設が目的かな?」
舞園「そんな感じじゃないですよ?」
朝日奈「うんうん。なんかずっと必死というか一生懸命だもん」
セレス「男性からも超高校級の技術を教わってるようですしね」
霧切「言わば“超高校級の弟子”ね」
江ノ島「予備学科なのに超高校級ってわけ解んないなー」
舞園「予備学科でもセンスはすごいですよ彼。課題もやり込んで来てくれますし」
セレス「いつ休んでるんでしょうかね。そのうちぶっ倒れるのではないでしょうか」
江ノ島「……で!」
霧切「……で?」
江ノ島「その日向クンとはなんかあったの?」
霧切「いいえ」
江ノ島「なんっもねェーのかよォ!」ズギャーン
朝日奈「色んな人から教わってるから忙しいみたいだしトレーニング以外で一緒に過ごすことないもんね」
江ノ島「だーっ!もーっ!」
江ノ島「ここにいる面々は女子力が足りないよ足りなさ過ぎだよ!そんなんじゃこっちとしても面白みに欠けるよ!」
霧切「……面白み?」
江ノ島「よし!今度みんなで旅行に行こう!クラスの野郎どもも一緒に!」
舞園「……クラス旅行ですか。いいですね!」
腐川「あ、あたしはいやよ……!白夜様がそんな馬鹿騒ぎに来るわけないもの……白夜様以外の猿共と旅行なんてまっぴらだわ……!」
江ノ島「そこはがんばって連れ出さなきゃー!そこをクリアすればほら、愛しの十神とランデブーよ?」
腐川「びゃ、白夜様と……ランデブー……!?」
セレス「……わたくし近頃思っているのですが、腐川さんは潜在的にはポジティブなのでは?」
江ノ島「とにかく!男女で旅行!これは必須イベントだよねー!旅行の浮ついたテンションで一日一緒にいれば男なんて隙だらけよ!」
江ノ島「ほら、こんな感じに!」スッ
戦刃「……!!」
舞園「こ、これは……!?」
霧切「苗木君の寝顔…!?」
江ノ島「ふふーん!どーよ超カワイイっしょー?」
セレス「男子が騒いでたことは本当だったようですわね。江ノ島さんと苗木君が温泉旅行に行ったという」
朝日奈「温泉旅行!?二人一緒に!?」
大神「……思い切ったことをするものだ」
腐川「ふ、不潔よ!」
江ノ島「温泉なんだからちゃんとお風呂入ってるってば」
腐川「そういうことじゃないわよ……!あたしへの当てつけ……!?」グギ
舞園「え……江ノ島さん……」
朝日奈「あ、舞園ちゃんがヤバい」
江ノ島「ん?どしたどしたー?」ウププ
舞園「その画像ください!!」
朝日奈「舞園ちゃんがヤバい!」
舞園「ていうか、ありますよねもっと色々……!洗いざらい出してください!」
セレス「わたくしも頂きたいですわ。色々と使えそうなので」
江ノ島「うぷぷぷぷ、しょーがないなー」
戦刃「盾子ちゃん、私も……」
江ノ島「この画像三人用なんだよねー!色んな意味で残念でした!」
戦刃「……そうだったんだ……」ショボン
霧切「そんなわけないでしょう。ちゃんと平等に配布すべきよ」
大神「いや、それはそれでどうなのだ霧切よ……」
○●
苗木「ねえ江ノ島さん……」
江ノ島「何ー?」
苗木「なんか、今朝から女子の視線に危険なものを感じるんだけど、気のせいかな……?」
江ノ島「さあ?気のせいじゃない?」
苗木「江ノ島さん……」
江ノ島「何ー?」
苗木「さっき偶然舞園さんのケータイの画面が見えてさ……」
江ノ島「うん」
苗木「なぜかタオル一枚で寝てるボクの写真が待ち受けだったんだけど心当たりないかな……?」
江ノ島「さあ?気のせいじゃない?」
CASE9 閉廷
「うぷぷぷぷぷ」
「松田くんったらこーんな研究してたなんてねー!」
「ま、失敗作みたいだけど、だーいじょうぶ!アタシが面白おかしくしてあげるよー!」
「どうなるか楽しみだなーっ!」
○●
戦刃「盾子ちゃんおはよ……」
江ノ島「おはよーお姉ちゃん!いやー今日もかわいいね!」ニコッ
戦刃「……」
戦刃「……!?」
江ノ島「天気もいいし!希望の朝ってやつだねー!」
戦刃「!?じゅ、盾子ちゃん……」
江ノ島「何ー?」
戦刃「な、何かあった……?それとも私何か悪いことした……?」
江ノ島「へ?お姉ちゃんこそどうしたのよ訳解んないこと言っちゃってさー」キョトン
戦刃「私のこと、かわいいって言ったり……き、希望の朝とか……」
江ノ島「トーゼンっしょー!アタシがこよなく愛するものはお姉ちゃんと希望だからね!」
戦刃「……」ゾ
江ノ島「ちょっと、リアクションがないと恥ずかしいよ……!」カァ
戦刃「ご、ごめんなさい……」
江ノ島「もう、早く食堂行こーよ!朝ご飯朝ご飯!」
○●
食堂
江ノ島「うーん」キョロキョロ
戦刃「どうしたの……?」
江ノ島「あ、いや苗木がいないなって思ってさー」
戦刃「……そういえば」
江ノ島「……ごめん!アタシ苗木の部屋行ってくるね!お姉ちゃん食べてていいよ!」タッ
戦刃「え……?」
○●
江ノ島「苗木ー!苗木ー!」ドンドンドンドン
ガチャ……
江ノ島「あ、やっと出た!」
苗木「……なんなの江ノ島さん?」
苗木「休日だってのに朝から不快な顔を見せつけて絶望を提供してくれるなんて……気を利かせてくれなくてもいいのに」
江ノ島「もう……またそんなこと言ってー!アタシは、ほら、苗木を見張んなきゃいけないからさー!」
苗木「キミは絶望的にバカだね。部屋から出てこない人間なんて見張る必要ないじゃないか」
江ノ島「え、だって……」
苗木「ま、その救いようのないバカさ加減もまた希望か。まったくヘドが出るね」
江ノ島「う、うう……バカバカって言わないでよ!とにかくさっさと出てきなってー!」
苗木「解ったよ。諦めるよ」
苗木「諦めの良さがボクの取り柄だからさ」
苗木「じゃちょっと待っててよ」
江ノ島「うん!」
戦刃(……な、何あれ……どうなってるの……!?)コソコソ
戦刃(盾子ちゃんだけじゃなく苗木君もおかしいよ……!)
○●
江ノ島「……」
江ノ島「…………」
江ノ島「……遅いよ!何やってんの苗木ー!」ドンドン
ガチャ
苗木「江ノ島さんまだいたんだ?」
江ノ島「いたよ!苗木が出てくんの待ってたよ!」
苗木「いや気が変わってさ。今日は一日いかに何もしないで時間を殺せるか挑戦してみようと思ったんだ」
江ノ島「何よその無意味な試み!?アタシを放置して勝手な挑戦しないでくんない!?」
苗木「ギャンギャンギャンギャンわめかないでよ。ほらエサならあげるから」ポイッ
江ノ島「わーいホネだー!っておかしいでしょ!アタシは犬じゃないっての!ていうかなんでそんなもん持ってんの!?」
苗木「うわ、絶望的なノリツッコミ……」
江ノ島「……及第点っしょ……」カァァ
江ノ島「……とにかくさっさと出てきてよー!アタシがアンタの絶望にとことん付き合ってやるんだから!」
苗木「キミ話聞いてた?ボクは今日何もしないことに忙しいんだよ」
江ノ島「ほんとにやる気なの!?というかさっき諦めるとか言ってたのに!」
苗木「諦めたのはキミの頭の悪さをだよ」
江ノ島「またバカにする!」ウルッ
苗木「あれ?泣くの?」
江ノ島「な、泣かない!泣かないし、諦めない!」ゴシ
苗木「じゃ、キミが諦めるのを諦めて、行こっか」
苗木「……首輪つける?」
江ノ島「犬じゃないってば!」
○●
食堂
江ノ島「お待たせお姉ちゃん!」
戦刃「……全然、待ってない……」アセアセ
苗木「……そうだね、さっきまでボクらを見てたもんね」
戦刃「!?」
苗木「バレバレだよ。戦刃さんそれでも軍人?まあ、超高校級の才能なんてこんなもんか」
戦刃「な、苗木君……?」
苗木「何?残念な軍人さん」
戦刃「ざ、残念……」ガーン
○●
江ノ島「ちょっとお姉ちゃん虐めないでよね!」
苗木「キミさ、いい加減学習したら?ボクを連れ回すってことはこういうことなんだよ」
江ノ島「何かっこつけてんのよ!苗木が口に気をつければ済む話じゃん!」
苗木「言葉や行動に気を払ってもさ。ボクは結局絶望を希望してるからボクの幸運が他人の絶望をもたらすんだよ」
苗木「自分自身の絶望は運んでこないところがまた絶望的だよね」
江ノ島「……苗木がどんだけ絶望的でもアタシがなんとかする。そのためにアタシがいるんだから!」
苗木「そうなの?」
江ノ島「そうなの!」
苗木「ふーん、まあがんばってよ。キミの気色悪い希望はボクに絶望をくれるからさ」
江ノ島「ぐぬぬ」
○●
桑田「なあ山田」
山田「なんですかな?」
桑田「なんか今日変じゃね?あの二人」クイッ
山田「まあ確かに……」
山田「今更二人仲良く一緒におられることに違和感はないですがねー……なーんか様子がおかしいような」
桑田「おし、ちっと探りいれてみようぜ」
山田「えー僕としては嫌な予感がするんであんまり関わり合いになりたくないんですが……」
桑田「うっせ!行くぞブーデー!」
山田「仕方がありませんな……」
桑田「うーっす。どーなんだよお前らその……最近は」
山田(不自然極まりない入りですな)
江ノ島「最近?絶好調だけど?むしろ生まれた時から希望に満ち溢れてるけど!」
苗木「よくそんな頭のネジが緩いのをアピールするような台詞が吐けるね」
江ノ島「う、うっさいなー!」
桑田「おい、山田、やっぱこいつら変だぞ」ヒソヒソ
山田「……ですな。なんだか二人とも気持ち悪いですぞ……」ヒソヒソ
桑田「もう少し話してみるか」ヒソヒソ
桑田「……俺は二人がどーなのか訊いたんだけどな。もしかして上手くいってねーとか?」ハハ
江ノ島「二人……?あ、あーそりゃあ、えーと普通よ普通!」
苗木「こんな売女と……むぐ」江ノ島「とにかくっ!普通だってば!」
山田「なんか売女とか聞こえましたが……」ヒソヒソ
桑田「オイオイ苗木が言わなそうな台詞ナンバーワンだろ何があったんだ」ヒソヒソ
山田「普通に考えると江ノ島盾子殿が何かしたんでしょうが……」ヒソヒソ
山田「彼女の方も何やらおかしいですからな……」ヒソヒソ
江ノ島「ねー、さっきからヒソヒソヒソヒソ何話してんのー?」ム
山田「な、なんでもありませんぞ!」
桑田「お、おー!なんでもねーって!」
江ノ島「怪しいなーっ?」ムム
桑田(お前に言われたくねーよ!)
苗木「江ノ島さん……ほんと空気読めないよね察してあげなよ」
江ノ島「えっ!?」
苗木「ほら、そこの二人は【そういう関係】なんだよ」
山田「そ、そういう関係とはもしや……?」
桑田「……は?ふざけんじゃねーって!何を察してくれちゃってんだよ!」
苗木「人種差別するつもりはないけどボク自身はそういう趣味ないし遠くから応援させてもらえないかな?」スス
桑田「アホか!何マジに後ずさりしてんだ殺すぞムカつくんだよ!!」
江ノ島「え、えーと、どゆこと?」
山田「なぜか無垢な方がいたーッ!?ほんとになぜなんでしょうかね!?」
苗木「ボクもう行くよ。その、ストレートには言えないけど、あまり同じ空気を吸いたくないっていうか……」
桑田「ストレート過ぎるだろっ!170キロは出てるっつーの!」
山田「僕は二次元にしか興味ありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった」
苗木「じゃ」タッ
江ノ島「あ、待ってよー!よくわかんないけど、がんばってね二人とも!」タッ
桑田「がんばらねーよ!何もがんばることねーから!」
山田「がんぼ」桑田「うっせーアホ!!」ゴン
山田「あだだ……」ポロッ
桑田「お……丁度いいもんが……」ヒョイ
山田「ぼ、僕のぶー子ちゃんカメラ!やめてくだされ一体何しでかすおつもりで!?」
桑田「おらあっ!」ブンッ ヒュッ
山田「ぎえええええ!!」ガビーン
江ノ島「苗木ケータイ落ちたよ!そこ!」
苗木「解ってるよ気づかないはずないでしょ」スッ
ガラッ
十神「何を扉の前で膝をついている苗木。邪魔だぞ」
ヒュン
ゴシャアッ
十神「……」ドサッ
桑田「あ」
腐川「びゃ、白夜様ぁぁぁぁ!!」
山田「ぶー子ちゃあああん!」
霧切「……」
○●
霧切『戦刃さんに頼まれた通り尾行しているけれど……やっぱりおかしいわねあの二人』
戦刃「……うん、何があったのかな……」
霧切『とても演技とは思えないし、それをする意味もない……考えられるのはなんらかの超高校級の技術ね』
戦刃「超高校級の技術……」
霧切『心当たりがあるわ。私は尾行を続行するから戦刃さんはそちらをあたってくれる?』
戦刃「心当たりって……?」
霧切『超高校級の神経学者よ』
○●
苗木「いや、いいものが見れたね。ツイてたよ」
江ノ島「どこがよ!桑田とか近々十神に訴えられそうでしたけど!?」
苗木「自業自得じゃないか」
江ノ島「そうかもしれないけど……」
苗木「大体ボクは何もしてないよ」
江ノ島「でも、苗木は」
苗木「そうだね。ボクは困ったことに何もしなくても望み通りになる“絶望的幸運”だから」
苗木「これはボクの望んだことなのかもしれないね」
苗木「運だけでなんでも上手くいくなんてほんと絶望的な人生だよ」
江ノ島「それは違うよ!」
苗木「ん?」
江ノ島「苗木の人生には、アタシっていう希望がいるじゃんっ!」フフン
苗木「……」
苗木「そうだったね。それがまた絶望的だね」
江ノ島「どういう意味よそれーっ!」
苗木「いや、キミの希望のきちんとした評価だよ」
苗木「キミの希望は、ボクにとって最悪だ。だからこそ最高に絶望できる」
江ノ島「……天の邪鬼。素直に希望を希望すればいいのに」
苗木「それが出来てたら幸福になれただろうね。幸運じゃなくてさ」
江ノ島「そういう風にアタシがしてあげるよ!アタシにはそういう未来だって見出せるはず!」
苗木「キミの“希望的観測”か」
江ノ島「アタシは人とか物のいいところを見つけるのが超得意だからねー!」
苗木「ボクのような絶望に希望を見出すって?」
江ノ島「楽勝だってー!ほら、苗木がどんなに絶望的な絶望でもいいところはあるよ!」
江ノ島「髪のはね方がカワイイとこでしょ!あと背がちっちゃくてカワイイとこでしょ!あとあと童顔でカワイイとこでしょ!あとあとあと……」
苗木「もういいよ」
江ノ島「アタシのこと好きでいてくれるところ!」
苗木「……」
苗木「希望ってやつは傲岸だねまったく」
江ノ島「……でもほんとでしょ?」
苗木「……絶望的なことにね」
○●
セレス「……あら、お二人ともまた仲がよろしいようで」
江ノ島「あ、セレス!どこ行くの?」
セレス「娯楽室へ向かうところです」
江ノ島「もしかして例の彼?」
セレス「……狛枝君のことなら今日は約束していませんが、やはりあそこが落ち着くので」
江ノ島「よし、アタシ達も行こう!」
苗木「なんでそうなるかな」
江ノ島「苗木をぎゃふんと言わせてやる!」
苗木「あのさ、他のことならともかくギャンブルでボクに勝てると思ってるの?」
セレス「あら、今日の苗木君は随分と自信家のようですわね」
苗木「自信というより確信だよ。ボクから見たら他人のツキなんて砂粒みたいなものだし」
セレス「……言いますわね。では、わたくしも手合わせ願いましょうか」
○●
娯楽室
苗木「もうやめようよ。つまんないって」
セレス「……ここまで負け込むのはツイてる時の狛枝君以来ですわね」
セレス(……やはりおかしいですわね。性格も……才能の性質まで変わっているとは)
セレス「苗木君、一体何があったのですか?」
苗木「何もないけど?ただ絶望的にツイてるだけだよ」
苗木「超高校級のギャンブラーであるキミ以上にさ」
セレス「くっ……」
苗木「やっぱり超高校級の才能なんてクソの役にも立たないんだよ」
江ノ島「そんなことないよ!アタシだって何回か勝てそうだったもんねー!」
苗木「何度勝てそうなことがあっても全部結果は同じだよ」
江ノ島「いや!あれはマジに勝てそうだった!あれをああしてもう一ひねりすれば勝てるね!」
苗木「……」
江ノ島「んじゃ次何やろっかー!なーんか楽しくなってきちゃったよー!」
セレス「江ノ島さん……」
苗木「……じゃあ、次からは罰ゲームを設けよっか」
江ノ島「え?それ、やだ」
○●
生物学棟
戦刃「……」
戦刃(松田君、ここにいるかな……)
七海「戦刃さん」
戦刃「!」ビクッ
戦刃「七海さん……?どうしてこんなところに」
七海「……人に会いに来てね。戦刃さんは?」
戦刃「私も人に会いに……」
七海「……」
七海「……もしかして、江ノ島さんに何かあった?」
戦刃「え、なんでそれを……?」
七海「私が会った人、超高校級の神経学者なんだ」
戦刃「!……松田君に会ってたの!?」
七海「……うん。彼は私にとって大切な人の一人だから」
戦刃「え……?」
七海「それでね、松田くんが言ってたんだ。研究データの一部が盗まれた形跡がある、堂々とこんなことするのは江ノ島さんしかいない、って」
戦刃「その……盗まれた研究データって……?」
七海「……」
七海「……人格修正の研究、だよ」
戦刃「人格修正……!?」
七海「……うん」
七海「……詳しいことを話す前に、何が起きたのか聞いてもいいかな?」
戦刃「……」コク
戦刃「それが……」
○●
苗木「さ、行くよ江ノ島さん」
江ノ島「……」
苗木「返事は?」
江ノ島「……う、うん」
苗木「違うでしょ?」
江ノ島「……うう……わん!」
セレス「申し訳ありません江ノ島さん。わたくしでは苗木君を止められませんでしたわ」
苗木「いやセレスさん江ノ島さんを生け贄にしたよね?ドベになって罰ゲーム喰らわないように」
江ノ島「ええ!?ひどいよセレス!」
苗木「江ノ島さん」
江ノ島「わ、わん」ジワッ
苗木「犬として鳴いてほしいのであって人間みたいに泣けなんて言ってないよ?」
江ノ島「泣いてなんかないって!」ゴシ
苗木「いいからさ、なんで人語話してるのかな」
江ノ島「やっぱりやだよおかしいよこんな罰ゲーム!」
苗木「あれ?江ノ島さん約束破るの?」
江ノ島「うぅ……わん」
苗木「それでいいんだよ。じゃあ散歩にでも行こうか」
江ノ島「……わん」
セレス「ごきげんよう」
セレス(わたくしらしくないやり方でしたがこれで女子会の時の件は忘れてあげましょう)
○●
舞園「あら、苗木君江ノ島さん!」
苗木「舞園さんか。ほら江ノ島さん」
江ノ島「……」
舞園「?」
苗木「どうしたの?ほら挨拶しないと」
江ノ島「……わ、わん」ボソッ
舞園「えっ」
苗木「ほら舞園さんよく聞こえなかったみたいだよ?」
江ノ島「わんっ!」ウルウル
舞園「……あの、苗木君……これはその、どういう……?」
苗木「江ノ島さんはボクの犬なんだよ」
舞園「い、犬……?」
苗木「ほら行くよ」スタスタ
江ノ島「……わん……」トボトボ
舞園「苗木君……ああいうのが……」
○●
江ノ島「もう十分でしょっ!?」
苗木「何勝手に喋ってんのかな」
江ノ島「もう終わりでいいじゃん!今日ずっとやるなんて言ってないしっ!」
苗木「すぐやめるとも言ってないんだけど……しょうがないな」
苗木「いいよ、話して。もっとも話す言語が人語になったところで頭は犬と変わらないけどさ」
江ノ島「失礼過ぎるよ!」
苗木「犬に?」
江ノ島「アタシにっ!!」
江ノ島「犬よりは頭いいよアタシ!」
苗木「言ってて悲しくならないの?」
江ノ島「悲しいよ滅茶苦茶ーっ!」ウルッ
苗木「また泣くの?勘弁してよこのくらいで」
江ノ島「泣いてないってば!」ゴシゴシ
江ノ島「泣いてないし負けないから!」
苗木「はいはい」
江ノ島「……お腹すいた。食堂いこ?」
苗木「まだ昼には早いけど?やっぱり犬以下なんじゃないの」
江ノ島「苗木のせいで疲れたのようっさいなーっ!」
○●
七海「……なるほど」
戦刃「それで、盾子ちゃんが盗んだ松田君の研究の詳細は……?」
七海「……それはね、さっき言った通り人格を修正する修正する装置なんだけど」
七海「これは、人格の修正対象となる人物の他にもう一人必要なんだ」
戦刃「もう一人……?」
七海「うん。修正の指針を決定づけるために人格データを参考にする人物が……つまりモデルが必要なの」
七海「装置はモデルの人の人格データを参考にして対象の人格を書き換えるんだ」
七海「簡単に言うと、人格修正を受けた人はモデルの人と類似した人格になるってことだね」
戦刃「そんなことができるんだ……」
七海「江ノ島さんは装置のモデルが必要、ってとこに着目して……」
七海「装置が一対になった、相互に人格を参考にして相互に人格修正を行うものを作ったんじゃないかな?」
戦刃「ええと、それってつまり……」
七海「キャラクターの交換装置、だね」
○●
江ノ島「よし!ご飯も食べたしデート行こデート!」
苗木「なんでそうなるのかな?」
江ノ島「ほらアタシ達一応付き合ってるってことになってるし!」
江ノ島「希望ってさ、きっとデートにあるよ!苗木には希望を味わってもらわないとねー!」
苗木「絶望的に短絡的だね」
苗木「一応訊くけどどこ行くつもり?」
江ノ島「公園!」
苗木「今時公園デートって……キミほんとに超高校級のギャル?」
江ノ島「だ、だって……じゃあどこ行くのよ?……え、映画館とか遊園地とか……まだ早いじゃん」
苗木「どういう基準なのかな?」
江ノ島「もーっ!とにかく行くよ!」
苗木「いやだよ」
江ノ島「いやだって言ったって連れてくから!」
苗木「そういうのはデートって言わないよ。連行って言うんだよ」
江ノ島「じゃあ連行する!」
苗木「そんなものに希望も何もないよ」
江ノ島「もー!じゃあ同意してよー!何が不満なのよー!」
苗木「何が嬉しくてキミなんかと公園なんかに行かなきゃいけないの?」
江ノ島「なんかなんかって……なんか失礼だよ!」
苗木「公園に?」
江ノ島「アタシにもっ!!」
江ノ島「とにかく行くまでうるさくつきまとうからね!」
苗木「解ったよ……諦めるよ」
○●
戦刃「……だから盾子ちゃんが希望を抱いてて、苗木君が絶望に……」
七海「……完全な性格交換じゃないけどね。話を聞く限りだと記憶も都合の良いように修正されてるみたいだし」
戦刃「それで……どうすれば元に戻るの……?」
七海「……」
七海「寝て起きた頃には元に戻る……と思うよ?」
戦刃「そ、そうなの……?」
七海「……脳とかをいじるんじゃなくて、催眠術に近い仕組みだからね」
七海「元々この装置はどうがんばっても修正が一日と維持できない上に、二度目以降の修正が効かないからお蔵入りになった……らしいよ?」
戦刃「……よかった」ホッ
七海「……だから、教えに行かなきゃね」
戦刃「えっ……?」
七海「霧切さんが尾行してるんだったら、居場所は解るね」
戦刃「待って、七海さん……教えるって……?」
七海「だって、このままじゃ今の江ノ島さん達は何も知らないまま消えちゃうんだよ?」
戦刃「消え……る……?」
七海「元に戻るって、そういうことだよ」
戦刃「そっか……そうだよね……でも、そんなこと、知らない方が……」
七海「何の覚悟もできないまま消えるなんて、ダメだよ」
七海「向き合うことで、できることもきっとあるのに」
戦刃「……そうだね……」
七海「……私から言う?」
戦刃「ううん……私が言う」
戦刃「お姉ちゃんだから」
○●
公園
江ノ島「えへへー!手繋いで歩くのっていいよね苗木ー!希望に溢れてるよねー!」ギュ
苗木「ボクはこの手首切り落としたいけどね」
江ノ島「またまたそんなこと言っちゃってー!」
苗木「……ねえ、もう座ろうよ。いつまでグルグルグルグル公園歩いてるのさ」
江ノ島「じゃあベンチに座ろっかー!定番だね!」
……
苗木「あのさ」
江ノ島「んふふー何?」
苗木「近い。不快」
江ノ島「ひどいっ!デートなんだからいいじゃん!距離置いたら逆に変だよ!」
苗木「連行でしょ?」
江ノ島「デートだよ!同意したじゃん!」
苗木「諦めただけだよ」
江ノ島「一緒じゃん!」
苗木「違うよ。諦めて行くデートなんてないでしょ」
苗木「ボクは諦めて連行されたんだよ」
江ノ島「なんでそんなっ……」ウルッ
苗木「また泣くの?キミ一日に何回泣くの?」
江ノ島「泣いてないっ!一回も泣いてないっ!」ゴシゴシ
江ノ島「……」
江ノ島「……」ポスッ
苗木「なんで寄っかかってくるのかな」
江ノ島「……こうすれば、アタシの希望が伝わると思って」
苗木「キミの希望って?」
江ノ島「……ずっとこうしてたい」
苗木「はた迷惑な希望だね」
戦刃「盾子ちゃん……苗木君……」
七海「……」
江ノ島「お姉ちゃん……と七海?」
苗木「……」
○●
江ノ島「……お」
江ノ島「お、お姉ちゃん……何の冗談……?」
戦刃「……本当のことなの」
江ノ島「な、苗木っ!」
苗木「本当だろうね」
江ノ島「!?」
苗木「これで今までの他の人とのやりとりでの違和感の説明がつくからさ」
苗木「本当だろうね」
江ノ島「……っ!」ダッ
戦刃「……盾子ちゃん!」
苗木「……やれやれだよ」ス
七海「……行くの?」
苗木「絶望した彼女の顔を見逃すわけには行かないからね」
七海「……それだけ?」
苗木「何を希望してるのかな?……いいよ、もう少し話そうか」
苗木「……彼女はボクのような絶望には希望が寄り添わなきゃダメだと思っているようだけど」
苗木「希望にも絶望が必要なんだ」
七海「……」
七海「よくわかんないよ?」
苗木「うん、それがボクにもよくわかんなくって」
○●
苗木「……手間をかけさせてくれるね。江ノ島さんのくせに」
江ノ島「……苗木」
江ノ島「……わっけわかんないよね」
江ノ島「本当のアタシは絶望マニアで苗木は希望を信じるお人好しなんだってさ」
苗木「虫酸の走る話だね」
江ノ島「アタシ達の記憶はすり替えられて修正されたものなんだってさ……」ジワッ
江ノ島「もう少ししたら、全部元に戻って……」ポロッ……
江ノ島「戻るってっ!アタシ達どーなんのよっ!」ポロポロ
江ノ島「全部なくなっちゃうの!?苗木とアタシ……!アタシ達がっ……ニセモノだからっ……」ポロポロ
苗木「……すばらしく絶望的だよね。今こそさ」
苗木「全てを諦めようよ。全部投げ出して、涙に沈んで」
江ノ島「……」グス
江ノ島「……っ」ゴシゴシ
苗木「おや」
江ノ島「泣かないし諦めない」
苗木「へえ、大した立ち直りの早さだね」
江ノ島「……」
江ノ島「……どんだけ絶望的でもアタシは苗木のこと好きだから……!この気持ちは絶対なくしてやんないもん!」
苗木「逆に元気づけちゃったかな。……まあそれでこそボクの大嫌いで大好きな希望だよ」
江ノ島「……苗木……」
苗木「何?」
江ノ島「アタシのこと好き?」
苗木「愛してるよ。絶望的に」
江ノ島「なら……」スッ
チュッ……
江ノ島「えへへ。どーよ希望のキッスは」
苗木「……最高だよ。吐き気を催すくらい」
○●
苗木「うう……なんだこれ朝から頭痛い……」
苗木(江ノ島さんがまたなんかしたみたいだけどなんにも覚えてない……)
江ノ島「おっはよー!苗木っ!」
苗木「お、おはよう江ノ島さん」
江ノ島「さーて今日は何しよっかー?何する?」
苗木「たまには大人しくしてようよ……」
江ノ島「無理無理!苗木とやりたいことまだまだたーっくさんあんだからさー!」
苗木「振り回されるこっちの身にもなって……よ……?」
江ノ島「ん?どしたの?」
苗木「え、江ノ島さん……」
苗木「なんで泣いてるの……?」
江ノ島「は?」ツーッ
江ノ島「……」
江ノ島「泣いてなんか、ないって」ゴシ
CASE10 閉廷
続き
苗木「じょうずな絶望とのつきあいかた」【後編】