最初、何が起こってるのか分からなかったんです。
なんでこんなことしてるんだろう、とか、皆はなんで何も言わないんだろう、とか。
でもね、その空間で長い時を過ごしていくうちに、私、気づいたんです。
ああ、これはわざとこんなことをしてるんだって。
空気を読むって、こういうことなんだって。
わかってしまったんです。
だから私は、何も言わずに自然に過ごすことにしたんです。
いくらマミさんがパンツをかぶっていようと、そっとしておこうって。
そう思ったんです。
元スレ
まどか「マミさんの家でお茶会するんだって!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329034127/
その日はマミさんの家でお茶会を開くことになっていました。
だから、ほむらちゃんと、さやかちゃんと、途中で合流した杏子ちゃんと、4人でマミさんの家に向かったんです。
他愛もない会話を繰り返しながら、無事に辿り着いて私はマミさんの家のチャイムを鳴らしました。
数秒と経たずに、マミさんの「はーい」っていう可愛らしい声と、
パタパタとスリッパが廊下を打つ音が聞こえてきました。
だから私たちは、
「楽しみだねー」
なんて笑いながら、扉が開くのを待ってたんです。
そして、ガチャリという音と共に、とうとうその扉が開かれたのです。
「待ってたわよ~」
そうして出迎えてくれたマミさんの頭には、明らかにパンツが被られていました。
明らかにパンツです。
淡いピンクのシルク素材で、真ん中にちょこんとリボンのついた、大人っぽくも可愛らしさを兼ね備えた、マミさんらしいパンツでした。
それが太陽に照らされて、マミさんの頭の上でサンサンと輝いていたのです。
私たちは戸惑いました。とっても驚きました。
マミさん、なんでパンツ被ってるの?って、頭の中で何度も反芻しました。
でも、私ってそんなに主張の強いタイプじゃないから、とりあえず待ってみたんです。
誰か何か言うかな、って、そんな軽い気持ちで。
杏子ちゃんは、何も気にしていない様子でした。
さやかちゃんは、何やらプルプルと震えていました。
ほむらちゃんは、真顔でした。
私は一人、わけも分からずオドオドしていました。
だって、そうだよね?
マミさんのパンツに、誰も何も言わないんだもん。
「マミさん、頭にパンツついてますよ?」
「あらやだっ!私ったらドジなんだからっ!」
「あははは」
みたいな会話の一つや二つ、あってもよかったはずなのに、誰も、何も言わなかったんです。
案の定、その場には数秒の沈黙が流れました。
とても気まずかったです。
なんだろうこれ、って感じでした。
なんなんだろうこれって感じのまま、私は居間に通されました。
なんだか分からないまま、ふわふわした気持ちで座っていました。
この間も、ほむらちゃんは真顔でした。
数分すると、私の気持ちと同じ様に、とてもふわふわしたケーキが出てきました。
それはとてもおいしかったです。
パンツのことなんて忘れてしまうくらいに。
でも、食後に出されたホットミルクを飲んで、「ふぅ」と一息ついた時、
ふっとマミさんの方を見上げると、明らかにパンツが変わっていました。
今度は黒色で、レースのついたとびきりセクシーな下着でした。
マミさんの髪色とマッチして、まるで阪神タイガースのような風合いでした。
多分、ケーキを準備している間にこっそり被り直したのでしょう。
なんなの、と思いました。
なんなのこの人、なにしてんの、って思いました。
杏子ちゃんは満足そうな顔でお腹をさすりながら寝転んでいました。
さやかちゃんは耳まで真っ赤にして、顔を俯かせながらぷるぷると震えていました。
ほむらちゃんは真顔でした。
私も今度こそ真顔でした。
マミさんも真顔でした。
なんなの、って思いました。
ようやく一段落ついた頃でしょうか。
マミさんが、
「ふぅ~、なんだか頭が暑いわね」
と、誰にいうこともなく呟きました。
私の横でさやかちゃんが「ぶほっ!」と何かを吹き出しました。
なんでこんなこと言うんだろう。もしかして、気づいて欲しいのかな。
頭にパンツ被ってること、誰かに気づいて欲しいのかなって思いました。
でも、さっきも言ったとおり私はそんなに積極的に発言するタイプではないので、とりあえずそっとしておきました。
すると、寝転んだままの杏子ちゃんが、
「暖房の風向き自動にすればいいじゃねえか」
と言いました。
そうじゃないよ、と思いました。
杏子ちゃん寝てるから見えないと思うけど、あの人パンツ被ってるからだよ。
暖房とか、全然関係ないんだよ。
って、そう思いました。
でも、マミさんは「そうね」と呟き、無言で立ち上がり風向自動のボタンを押したのです。
ここで私の中にある疑問が浮かんできました。
もしかして、マミさん自身パンツを被っていることに気付いてないのでは……?
と、そう考えたのです。
しかし、その考察は次のマミさんの言葉により、一瞬にして砕け散りました。
マミさんは、
「最近ゴムが緩くなってきたのよね」
と言いながら、パンツのゴムを引っ張って、自分の額にぺちんっ!としだしたのです。
しかも思いの外痛かったのか、少し涙目になりながらその部分を手で軽くさすっていました。
その時に、私は気づいたのです。
ああ、これはわざとこんなことをしてるんだって。
空気を読むって、こういうことだったんだって。
それからというものの、私は真顔のほむらちゃんと楽しいトークを繰り広げました。
心の隅々まで楽しみました。
なので、マミさんのパンツが透けパンツ、ティーバック、紐パンツと徐々にセクシーになっていることにも
一切気がつきませんでした。
今思えば、かわいそうなことをしたな、と思います。
数時間が経った頃でしょうか。
杏子ちゃんは日の当たる窓辺で居眠りを。
さやかちゃんはその辺にあった雑誌を読んでゲラゲラと笑っていました。
ほむらちゃんはいませんでした。
なんかお腹が痛いとか適当なことを言って帰りました。
多分帰りたかったんだと思います。
なんとなくわかります。なんとなく。
マミさんはぺちんっ!とした後から、一切その場を動いていませんでした。
なので、ずっと正座です。
足が痺れないのかな、っと思ったので、「マミさん」と声をかけると、
なんだかすごく嬉しそうな顔をしていました。
でも、
「足が痺れるなら姿勢崩してもいいんですよ?」
って言ったら、今度はすごくしょんぼりしていました。
「そこじゃないのに……」とか呟いていました。
何がなんだかわかりませんでした。
さらに数時間が経った頃でしょうか。
あたりはだんだんと暗くなってきて、帰ろうか、という雰囲気が漂い始めました。
さやかちゃんは寝ている杏子ちゃんを揺り起こし、私はさやかちゃんの読んでいた雑誌を片しました。
その時、さやかちゃんがすごく爽やかな顔をして、
「ありがとね」
と言ってくれたので、ほんの少しだけドキッとしました。
なんだか私まで爽やかな、透き通るような気分になりました。
そんな私の気分とは裏腹に、マミさんのパンツはブルーでした。
深海のような味のある、吸い込まれてしまいそうで魅力的なブルー。
夕陽がそれを照らし、とても神秘的でした。
私は数秒間ぽーっと見惚れてしまいましたが、さやかちゃんの、
「まどか!ほら、帰るよ!」
という声で、ハッと我に帰りました。
「ご、ごめんね!」
と言った後、パタパタと玄関に続く廊下を走ります。
先にブーツを履いていた杏子ちゃんが、爪先をトントンとしながら、
「邪魔したな、また来るよ」
と笑顔で言っていました。
「マミさん!今日は本当にありがとうございました!」
続けて、さやかちゃんがそう言います。
なので私も、
「本当にありがとうございました。今日は楽しかったです」
と言いました。
なにやらマミさんが懇願するような目で私を見ていましたが、私はあえて触れませんでした。
くるりと振り返って、玄関のドアに手をかけたその時でした。
「なんでなのよ!!!」
マミさんの、悲痛な叫び声が聞こえてきました。
驚いて私とさやかちゃんがマミさんの方を見ます。
すると、マミさんは地面にぺたんと座り込み、今にも泣きそうな顔で俯いていました。
なんでなのよ、なんでなのよ、と、何度も呟きながら。
「なんで誰も、私のパンツに触れてくれないのよ……」
絞り出すような声でした。
私の胸が、ギュッと締め付けられました。
ああ、ごめんなさい。やっぱりマミさん、触れて欲しかったんですね。
と、これまでの自分の振る舞いに後悔しました。
横にいるさやかちゃんが、戸惑いながら
「あ、あの……」
と、声をかけます。
しかし、マミさんの返事はなく、聞こえてくるのは嗚咽ばかりです。
本当に悪いことをしたと、ただただ反省しました。
マミさんはパンツに触れて欲しかったのです。
なんで被ってるの?という一言を、ただ待ち続けていたのです。
それなのに、私は……。
その時、マミさんの方を見向きもしなかった杏子ちゃんが、ぽつりと呟いたのです。
私たちに、その頼もしい背中を向けたままで。
「そんなことしなくたって……マミは特別なやつさ」
「その一言が、私の全てを救った」と、後にマミさんは語ります。
私はここにいていいんだって。私の居場所はここなんだって。
そう思ったそうです。
私は深く感動しました。
さやかちゃんはなんだか呆気にとられていたけど、
扉を開け、夕陽に向かってカツカツと歩く杏子ちゃんの後姿を見ると、
自然と微笑んでいました。
私は素直に、「かっこいい……」と思いました。
そしてきっと、ほむらちゃんがこの場にいたら、変わらず真顔なんだろうなって思いました。
そう思うと、なんだか楽しくなってきて、私は笑いました。
すると、それにつられて、さやかちゃんも笑いました。
さっきまで顔をくしゃくしゃにして泣いていた、マミさんも笑いました。
一通り笑った後、ふと外を見ると、「おーい、行くぞ」と言いながら手招きする杏子ちゃんが見えたので、
私は今度こそ「おじゃましました」とマミさんに力強く言って、
その家を後にしました。
これがその日の物語の一部始終です。
私はこの経験によって、マミさんのパンツって、すごいセクシーなんだなってことを学ぶことができました。
ありがとうございました。
終わり