少女「クリスマスで浮かれる?、いや違うね。クリスマスを口実に男女の仲を深め合うのさ」
男「おい」
少女「普段なら遊びにいくにもいちいち予定を聞かなければならない、しかしクリスマスとなれば言わば暗黙の了解だ。バレンタインもそうだね」
男「もしもし?」
少女「仲むつまじい男女がお互い約束の予定を空ける一方で、はぶれてしまった者は何を思うんだろうね」
男「おーい」
少女「今の君がそうだとは思わないか?」
男「ここ俺のアパートなんだけど、誰?」
元スレ
少女「人間はいつだってそうだ、君もそう思うだろう?」男「誰だよ」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1324732489/
少女「女性にとっては、隣にいる男性こそがサンタクロース同然なんだ、高価なプレゼントもくれるしね」
男「お嬢ちゃん?早く家に帰りなよ」
少女「残念だがね、家はここからじゃ遠いんだ」
少女「さ、クリスマスの話を続けようか」
男「警察に電話してもいい?」
少女「あまりオススメできないな」
少女「それはそうと、君は何故家にいるんだい?」
男「悪いかよ」
少女「見初めた女性がいないのか。やれやれ、君も売れ残ったサンタクロースか」
男「やかましい、とりあえず本気で帰ってくれ」
少女「人間はね、ないものばかり求めるんだ」
少女「そしていざ手に入ったら、元の自分を邪険に扱うんだ」
男「聞いてる?」
少女「聞いているとも、フライドチキンを買ってきているんだ」
少女「さぁ食べなよ、それとも私を食べるって?」
男「言ってない言ってない」
少女「はっは、冗談だよ。なに、こんな量のチキンは私の腹には入りきらない」
男「いらないってば」
少女「手伝ってくれないか?」
男「なんだよ、その『この聞き方ならいいだろう?』みたいな面しやがって」
少女「ご名答」
男「ったく…仕方ないな」ムシャ
少女「君は、人間とは何か、を知っているかい?」
男「そりゃ、歩いたり、言葉を話したり…」
少女「歩くチンパンジーもいるし、鴉も言葉を持っているさ」
少女「自分の貪る餌を前にして、『いただきます』が言えるかどうかだよ。いただきます」ムシャ
男「お前、なんか嫌い」
少女「はぁ、小さい体に油モノはキツいな」
男「ほとんど俺に食わせてたクセに」
少女「体格差を考えれば妥当なものだよ、そもそも君のために買ってきたものだ」
男「え?なんで俺に?」
少女「ウソに決まってるじゃないか。それにしてもクリスマスのTV特番は面白いね」
男「チャンネル変えるな、俺まだドラマ見てたのに」
男「で、家はどこ?送ってあげるからさ」
少女「君の甲斐性でおいそれと簡単に海を渡れるとは思えないけどね」
男「海?」
少女「私の家はフィンランドさ。これは本当だよ」
男「でも日本人じゃん。髪も黒いし」
少女「ふーー…」
男「なんだその人を見下したような目は」
少女「これだから、サンタクロースというのは割にあわないんだ」
男「はい?」
少女「そうだ、当分世話になるし風呂を借りようか」
男「当分世話しないし、風呂も勝手に入るなよ」
少女「…覗くなよ?」ガチャ、バタン
男「なんだそのニヤけ面!!あ、鍵閉めやがったこいつ!」
少女「別に鍵を破って入ってもいいんだよ?」ヌギヌギ
男「借り物件の鍵なんか誰が破るか!」
少女「はぁ、いい湯だった。冬の風呂は格別だな」
男「追い焚き四回もしやがって…」
少女「私は熱い湯が好きなんだ。生まれが生まれだからね」
男「いい加減帰ってくれ」
少女「なぁに、もうすぐ仕事でここを出るさ」
男「仕事?」
少女「まぁ仕事が終わればここに戻るがね」
男「おい、こら」
男「なんの仕事だよ」
少女「なに、ただの奉仕活動さ」
男「なんだ?クリスマスのカップルにゴムでも配るってか?」
少女「君はこんな幼気な子供に何を言っているんだい?」
男「耳年増すぎるんだよ。あとそのニヤニヤやめろ」
少女「君が今一番欲しいもの、残念ながら私には用意できそうにないな」
男「いいよ別に」
少女「心苦しいよ、職業が職業だけにね」
男「そろそろ風呂でも入ろうか」
少女「そうか、ではその間に私も仕事に行くとするかね」
男「お前、また帰ってくるんだよな」
少女「そのつもりだが」
男「夜道は危ないから、気をつけて歩けよ」
少女「おや、てっきり『戻ってくるな』と言うかと思ったよ」
少女「もう小さい子どもたちは寝ているだろうね。それじゃ、行ってくるよ」
深夜3時
男「…Zzz…」
バフッ
男「んぶっ!?」
少女「ただいま、と言っておこうか」
男「お、お前!?」
少女「なに、仕事は例年通り平常に終わったよ」
男「そっか…俺は寝る」モゾモゾ
少女「一夜限りの愛の巣で、互いを求め合う男女の様は美しいものだ。愛情と性欲が綺麗に混ざり合うんだ」
男「お前はなにを言っている」
少女「逆に、性欲を愛情と勘違いする人間もいるがね。そういう人間はえてして心閉ざしやすく、病みやすい人間だ」
男「寝かせて」
少女「いいかい?そういう人間は、自分を安売りするうちに、本当の自分の値打ちすらも割引されてしまうんだ」
男「耳元で喋るな!」
少女「それにくらべて、子どもたちはなんと純粋か」
少女「男女は、互いの体の味を知ることで、大人になると言うが」
男「寝かせて…」
少女「それはウソだね。逆に子どもに戻るんだ」
男「もういいじゃん」
少女「人は誰かと深く接し、心を許した途端に自らの安売りをやめる。」
少女「不思議と、安売りを辞めたあとの方が、安売りをしていた時より自分に手を伸ばしてくれる人間はいるんだ」
少女「何故だと思う?」
男「寝かせて」
少女「それはね、自分の品質を自分で保証しているからだよ」モゾモゾ
男「布団に入ってくんな!」
男「お前、ジャージとマフラーだけじゃん。寒くなかったのか?」
少女「寒いさ、だからその体で暖めてと言っているのさ」
男「は…はい?」
少女「はは、冗談だよ。僕が自分を簡単に開け放つわけないじゃないか」
少女「おっと、また僕と言ってしまった。なかなか治らないものだな」
男「あんまり野郎を舐めると、痛い目に合うんだぞ」
少女「私だって、舐める相手は選ぶさ」
男「何を、俺だってな」
少女「そうかい?」ギュッ
男「いっ!?」
少女「はは、抱きついただけで足に力が入りまくってるじゃないか」
少女「それにしても、いつからサンタクロースはあんな赤い服を着せられてるんだ。あれじゃ見つかりやすくなっちゃうんだが」
少女「私はね、君」
男「なんだよ…あぁ、もう4時だ…寝たい」
少女「君は決して安くない人間だと思うけどね」
男「何言い出すんだよ」
少女「恐らく、自分を安売りする者は十分な愛情をうけたことがないんだろう」
少女「自分が満たされたことがないから、他人を満たす喜びを知らない」
少女「だから一人になるんだ。ならざるを得なかったんじゃない、自分で選んだんだ」
男「俺がそうだってか?」
少女「なんで?」
男「話の流れから、俺のことをひとりぼっち呼ばわりして」
少女「はは、君には私がいるじゃないか」
少女「ひとりぼっちでも結構、結構だけど」
少女「ひとりぼっちな自分を自分で責めて傷つくくらいなら、袖ふれあうも多生の縁、ということにしたらいいじゃないか」
少女「君が話しかけたからと言って、相手が不快に思うわけないじゃないか」
少女「人間は関係を広げようと躍起になる生き物だ、皆がそう思う中で、君は踏み出してないだけだ」
男「…Zzz…」
少女「む」
少女「まぁいい、私も寝よう」
男「よかった…大学の講義はもうないから、休み放題だ」
男「あれ?アイツは?」
少女「呼んだかい?」
男「…布団から出ろ」
少女「今頃は街のカップルも、こうして布団で抱き合いながら目覚めるんだろうね」
男「…やめろ、その話は」
少女「いいじゃないか、真似事でいいから楽しもう」
男「や、やめ、…やめなさい!」
少女「そうだ、朝食を振る舞ってあげよう。何が食べたい?」
男「いいよ、俺が作る。晩飯ご馳走になったしな」
少女「ふー…」
男「え、何?なんかマズいことしたかな?」
少女「いいや、君を見てると面白くてね」
男「なんだそりゃ」
少女「私は君が好きだよ」
男「へぇそうですか」
少女「からかいじゃないさ、体を許したっていい」
男「自分を安売りするなって言ったのはお前じゃねーか」
少女「あぁ、その決して安くない体を君にあげると言っているんだ」
男「はぁ」
少女「…やめた。君には積極性がかくも足りないとはね」
少女「君は多分、行為の時にずっと寝そべって女性に働かせるタイプだ」
男「そもそも童貞だ」
少女「だと思った」
少女「クリスマス…か」
男「なんだよ今更、25日でもクリスマスはクリスマスだ」
少女「そうだ、二人で街中のカップルを見物に行こう」
男「はぁ!?やだよ」
少女「二人で行けば怖くない、私たちも男女じゃないか」
男「でも付き合ってないじゃん!」
少女「なに、今から付き合えばいいんだよ」チュッ
男「んっ!?」
少女「よし、これで私たちはカップルだ。さぁ行こう」
少女「見ろ、このカップルの群れを」
男「あー死にてー」
少女「なに、私たちもカップルじゃないか」
男「でもさ、俺、カップルで、デートとかどうしたらいいかわかんないんだよね」
少女「手を握ったり、相手の喜ぶことをするんだ」
少女「適度ながら互いに気をつかいあう、という点ではセックスもデートも変わらないね」
少女「君は一人で家でゲームしたり、オナニーが好きだろう?」
男「やめろ、ここ外だぞ」
少女「おっと」
男「…」スタスタ
少女「そうだな、まずは女の子が行きたいのは服屋と…」トコトコ
男「…とりあえず、あそこのクレープ屋行こう」
少女「え、あ、あぁ。どうしてだい?」
男「行きたいって顔に書いてあるからだ」
少女「!」
男「ちょっと買ってくる」
男「買ってきたぞ」
男「気をつかう、てのはこれでいいのか?はいクレープ」
少女「あぁ、すまないね」
少女「そうだな、大合格と言ったところだ」アムアム
男「さっきの驚いた顔、撮ればよかった」
少女「すまない、他人に何かをしてもらう、というのはあまり経験がないから」
少女「君は女性の前でも緊張せずにいられるんだね」
男「え?」
少女「よくいるんだ。男友達の間だと、面白くて人気があっても、女の子が相手になると、途端に平坦なトークしかできなくなる人間が」
男「あぁ」
少女「対処法は簡単だと言うのに。女向けの趣味をかじるだけ、話題の共有さえできれば簡単なのに」
少女「そこまで女性に媚びを売るのは間違いだって?」
男「いや、俺は別に…」
少女「なに、自分のフィールドを広げるきっかけじゃないか」
男「はは、…はは…」
男「そうだ、夜になるとイルミネーションがあるんだ」
少女「ほほう、それは興味深いね」
男「行くか?」
少女「行かない、と言って欲しいのかい?」
男「行くか」
少女「えいっ」ギュッ
男「わっ」
少女「カップルというのは、女性が男性の腕に抱きつくものなんだろう?」
男「あ、あぁ…」
少女「さっさと歩く!」
男「はいはい」
夜
男「おわー、綺麗だな」
少女「カップルもたくさんだな」
男「俺たちはカップルなんだろ?もうビビらん」
少女「やれやれだ、人間、欲しがるのは飽きないくせに、得る喜びにはすぐ慣れてしまうものだ」
男「行こうか」ギュッ
少女「おや?ず、随分とサマになってきたじゃないか」
少女「しかし人が多いね。私もこんな人ごみに入るのはなれてはいないよ」
男「俺だってそうだ。しかもカップルだらけじゃねーか」
少女「おや、私たちもその『だらけ』の中に入っているというのに」
男「それはだな、なんつーか、申し訳程度の…」
少女「売れないラーメン屋より、美味しい即席ラーメンの方が私は好きだがね」
少女「人はなんでそう、プロセスにこだわるのかねぇ。やれやれだよ」
男「口の減らない奴だこと」
少女「ほら、手」
男「ん?」
少女「私がカップルの群れにもまれ、離れ離れになってもいいのかい?」
男「あ、あぁ」
少女「手を繋ぐだけでいいのに、腕まで提供するのかい?腕に抱きつけと?」
男「あ、いや、それはだな」
少女「ふー…」
男「だからニヤニヤすんな」
少女「ここは一つ、ノってやろうじゃないか」ギュッ
男「ここがメインのイルミネーションらしい」
少女「わ、いい雰囲気じゃないか」
男「そうだなー、カメラ持ってこればよかった」
少女「いやはや、たかが電球でここまで綺麗になるとはね」
男「まったくだ」
少女「これだから、日本での仕事はやめられないよ。ここの国民はクリスマスを単なるお祭りと思っているからね、肩の力も抜ける」
少女「それはそうと、明日は月曜日だからね、ホテルも商売あがったりさ」
男「だからさぁ、そういうトークはだな」
少女「おや、何故ダメなんだい?」
少女「なに、セックスはただのコミュニケーションだ。節度をわきまえればね、貞操観念なんてあってないようなものだ」
少女「事実、君は未経験だから、それに触れるのが怖いだけだろ?」
男「なっ…!俺は、別に…」
少女「確かに、いちいち肉体で気を使い合う、挙動不審なカップルが多いのは事実だがね」
男「はぁ」
少女「私たちはそんなツールに頼らずともラブラブさ」
男「だからニヤニヤを」
男「ただいまー…」ガチャ
少女「はっは、家には誰もいないだろう?」
男「うるせ、癖なんだよ」
少女「はぁ、そういえば去年の君はイヴの夜、ディスプレイの前でふてくされてたろう?」
男「忘れたよ、そんなこと」
少女「私は何故だか覚えているんだ。去年の君を窓越しにチラと目に入れてね」
男「覗き魔かよ…しかも窓越しって」
少女「はっは、ある種私の仕事は法に触れるからね。それでも皆は法を犯して欲しいと私に頼む。世知辛いよ」
男「紅茶でも飲むか?」
少女「あんまり熱いのは飲めないんだ、すまない」
男「砂糖は?」
少女「とびきり甘く、ミルクは多めにね」
少女「そうか、もうあっと言う間に正月なのか」
少女「年の移り変わりは早いね。人間は絶えずイベントを好む」
男「正月は帰れよ」
少女「ん?」
男「え?」
少女「寂しいじゃないか」
男「ニヤニヤするな」
少女「寂しいじゃないか、君が」
男「俺がかよ」
少女「私も当分仕事は休みさ、暇で仕方ないよ」
男「そういえば、その年で仕事なのか?」
少女「年など関係ないさ、少々イメージギャップはあるだろうけどね」
男「なんの仕事?」
少女「言わなかったかな?奉仕活動だよ」
男「俺にこんなに懐くのも奉仕の一つか?」
少女「ハッキリ言って、そうだね」
男「なんだ、入らないから出てけ」
少女「ふー…」
男「だからニヤニヤやめろ」
少女「私を置いておいて、後悔はするだろう。しかし別れ際の切なさはそれに勝る」
少女「人間は強い苦味に敏感なんだ、嫌いなくせにね」
少女「聞こう、入らないから出てけ…とは?」
男「そんなの奉仕のうちに入らないんだ」
少女「おや、私としたことが、飛んだ失態だ」
男「だから…」
少女「ふむ、私のエゴや個人的な感情ならいいのかな?」
男「はい?」
少女「残念ながらエゴもないし、個人的な感情もそれほど深く持っていない」
男「だったら…」
少女「言ってあげよう、恋人とは奉仕活動の応酬なんだよ」
少女「相手の奉仕に不満を早く持った方が、決別を持ちかける」
男「…」
少女「僕…いいや、私の奉仕は不満かい?」
男「…あぁ、そんなボランティアで付き合ってもらっても嬉しくない」
少女「ふー…」
男「なんだよ」
少女「可愛いねぇ、君は」
男「な、何言ってんだよいきなり」
少女「なんならボランティアで最後までやってあげるよ?先にシャワーを浴びてこようか?」
男「うるさい、やめろ!」
少女「いいじゃないか、私から進んで行うんだ。好意の上でのボランティアだよ。シャワー借りるね」
男「やめろってば!」グイッ
少女「…」
男「…」
少女「…こうやって止めるほど、君は純粋で、堅物で、そして優しいんだ。さ、紅茶のおかわりをくれるかい?」
少女「正月は実家に帰るのかい?」
男「考え中」
少女「考え中?」
男「両親と、もう何年も喧嘩してるからな」
少女「おや、それは大変だね」
男「お前はどうせ、『両親は大事だ』とか言うんだろ?」
少女「うん、言うね」
男「ほら」
少女「自分をかつて無条件で好きになってくれた人たちだよ、そりゃ大事にするさ」
少女「君は劣等感と、どう闘っているんだい?」
男「なんだ藪から棒に」
少女「劣等感ほど愚かなものはない。劣等感があるマイナス要素を忌むより、劣等感自体を持つことを忌むべきだ」
男「ん?」
少女「他人から攻撃されて、何故さらに自分で自分をまた攻撃するんだ?意味がないじゃないか」
少女「そういうときは絆創膏を貼るものさ。他人に貼ってもらうのも悪くない。でも自分で、が一番だね」
男「はぁ…」
少女「子どもは可愛い、そうは思わないかい?」
男「思う」
少女「そうだろう?ショタコン気味の私も、この時期の仕事では精が出るよ」
少女「君にとっては私が子どもに見えるだろう?」
男「耳年増な子どもだな」
少女「いいんだ、私は気に入っている」
男「クリスマスも、もう終わったな」
少女「終わってみれば、存外あっけないものだ」
少女「それでいて、少し名残惜しいんだね」
男「あ…友達がブログに彼女とのイチャイチャ話書いてる…くそ…」
少女「彼はこれからもサンタクロースで居続けるんだろうね」
男「くそっ」
少女「恋人はサンタクロース、とはよく言ったものさ」
少女「私は君のこと、好きだがね」
男「そりゃどうも。でも、こんな俺のどこを好きなんだよ」
少女「自分を好かないところかな」
男「…はぁ」
少女「自分を好きになれないと他人から好かれるわけないじゃないか」
少女「私は別だがね」
男「ありがとさん」
少女「だから、君が自分を好きになる前に、私が君を好きになってやるんだ」
少女「明日くらいまではクリスマスムードがあるだろう」
男「そうなのか」
少女「どうだい?ここで、今すぐ思い出を作るかい?」
男「またそうやってエロに持ち込む」
少女「いいじゃないか、何が悪い」
男「俺の都合がわるい」
少女「そうか、ならば仕方ないな」
少女「人間は基本的にマゾだ」
男「なんだなんだ」
少女「心霊写真がいい例だね。怖いくせに見るんだ。ストレスを欲しがってるんだよ」
男「はぁ」
少女「私もマゾ、君もマゾだ」
少女「では誰がSなんだろうね?神かな?」
少女「でも人々は自ら、神を否定したんだ。Sの存在を否定し、SMプレイもご破算さ」
男「…」
少女「不満がたまるわけだ」
少女「…」ギュッ
男「な、なんだよ」
少女「ただ、こうしていたくなったんだ、たった今、急にね」
少女「そうだ、つまみの一つでも作ってあげよう」
男「つまみって…」
少女「なに、私もなにぶんスルメイカが好きでね」
男「聞いてねーよ」
少女「言うな、とも言われてないからね」
少女「はい、できあがり」
男「おお、意外に本格的」
少女「はい、あーん」
男「あー…て、なんだそりゃ」
少女「…ダメかい?」
男「別にいいけど」
男「お前がそんなに言うなら、別にいいしな。そ、それにほら…いや、だからニヤニヤやめろって」
少女「君はいつだってそうなんだ」
男「なんだよ」
少女「優柔不断で無関心。嫉妬深いし、すぐにパソコン依存だ」
男「わるいかよ」
少女「別にいいさ、ひとりでも生きていけるしね」
少女「それでも、未練がある者こそ、本物だ」
男「なんの話だよ」
少女「そろそろ眠くなってきたな」
男「そうか」
少女「一緒に寝てもいいよ?」
男「馬鹿言うな」
少女「ふー…」
男「だからなんだよ、そのため息」
少女「いいや、本当に面白いな、君は」
少女「人はね、温もりを知ったとたん、急に強気になるんだ」
少女「温もりなんて、風が吹けば消えるのに」
少女「君はまだ知らないから閑散とした個室にいる」
少女「私にとって、君はなんなんだい?」
男「とりあえず俺の布団から出てけって思ってる」
少女「…君に聞くのは、お門違いか」
少女「私にとって君はなんなんだろうね」
男「しるかよ…寝かせろ」
少女「たんなる顧客かな?」
男「しらんってば」
少女「はは、なんだろうね」
男「…Zzz…」
少女「…なんなんだろうね」ギュ
男「朝か…」
男「お、昨夜は結局、ちゃんと自分の布団で寝たんだな」
少女「君のいびきがうるさいからさ」
男「やかまし」
少女「はっは、君は本当に人間らしい人間だな。悪い意味で」
男「お前の言動って本当に読めない」
少女「思いつきで話しているだけさ」
男「嘘付け」
少女「朝はパジャマが乱れて際どい格好になりがちだな」
男「絶対わざとだろ」
少女「おや、証拠でもあるのかい?」
男「そのニヤけ面だ」
少女「そうかい、それより私は今日かぎりでここを出ることにしたんだ」
男「へぇー」
男「…えっ?」
男「お、おいおいなんでだよ」
少女「それにはコバルトブルーの海より深い事情があるのさ」
男「な、なんだよ…それ!」
少女「私は世界中の子どもたちのための存在さ。心の深淵まで、誰か一人一色に染まるわけにはいかないんだ」
少女「私にとっての、君はこうだったわけだ」
男「ん…んん!?お前の話はわかり辛いけど、いつにも増して分かり辛い!」
少女「はっは、わかられてしまっては困るからね」
少女「最後にいいことを教えてあげよう」
男「な、なんだよ」
少女「誰にも嫌われない人間というのは、誰にも好かれないものさ」
少女「誰にも嫌われないように気を使う人間は、その実、誰にも好かれないことを自分で選んでいるんだ」
男「はぁ?」
少女「発想の転換だ。誰かに嫌われようとしてみるといい。嘲笑への恐怖でも、羨望への願望でもなく、対等な嫌悪をね」
少女「愛じゃなくても人は成長できるんだ。愛に拘るから成長できないんだ」
男「お、おい、どこ行くんだよ」
少女「この国ではもう私はシーズンオフさ。時差の関係では、イヴがある国もまだあるだろう」
少女「さよなら」
男「………」
男「…ま、いいか。もともと出て行ってもらうつもりだったし」
男「…」
男「アイツの料理、美味かったなー…」
男「…」
男「…」
男「…あのバカ!」ガチャ…バタンッ
少女「人の別れ…か」
少女「デート後の別れの切なさというのは、こんな感じなのかもしれないな」
少女「私はどうやら、他人の気持ちには敏感でも自分の気持ちに鈍感すぎたようだ」
少女「次の国に行けば、子どもたちの寝顔が、この気持ちも忘れさせてくれるだろう」
少女「…何故だろうね、会いたいんだ。君に」
男「耳年増だし、理屈っぽくて、話も難しい」
男「しかも性格も悪いから、一緒にいると正直疲れるんだ」
男「疲れるけど、楽しい」
男「会話で鬼ごっこをやってる気分なんだ、子どもみたいに夢中になって」
男「…次はお前が鬼だぞ」
少女「…」
少女「さよならと言ったはずだけれど」
男「俺は言ってないよ」
少女「別れとは突然来るものさ」
男「お前の格言は聞き飽きた!」
少女「…格言とは随分だね。恐縮するよ」
男「お前は奉仕してばっかりだ」
少女「…私に職務放棄しろというのかい?」
男「それはないな」
少女「…」
男「お前が全世界の子どもたちの為の存在であったとして」
男「お前が耳年増である必要はあるか?理屈っぽいところは?皮肉屋なところは?」
少女「…」
男「お前は俺に、その個性なりの奉仕をしてくれたわけだ」
少女「……」
男「ありがとう」ギュッ
少女「!」
男「お前の奉仕に比べたら全然足りないけど」
男「全世界の子どもたちに送る愛と、一人のニート寸前の野郎の愛は月とスッポンだけど」
男「ないよりマシだろ?」
少女「…腕ごと抱きしめないでくれよ」
少女「…涙が、拭えないじゃないか」
少女「そうか、人間関係というのは、ただの交換なんだね…」
男「自分の持ってるものと、相手の持ってるものの交換なんだ」
少女「…あぁ…多くを持つ人は、多くを貰うだけ、という話なんだね」
男「お前はただ、相手にあげるだけだもんな。そのうちなくなるぞ」
少女「でも、今、たくさんもらっている最中さ。もっと欲しいんだ。もっと貰っていい?」
男「もちろんだ」
その後
少女「サンタクロースがサーフボードで来るなんて、誰が決めたんだい?」
少女「日本ではサンタクロースなんて、女性に専用の一人がいるものさ」
少女「プレゼントは何が欲しい?」
少女「これだね。ちゃんと寝るんだぞ」
少女「はは、ありがとうだなんて、照れくさいな。君からプレゼントの代わりに貰ったコレ、仕事が終わったら彼にも返しに行かないとね」
少女「それで、彼からもう一度貰って、もう一度返すのさ。オフシーズンの一番の楽しみなんだ」
終わり