1 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:39:34.00 lDHYICvi0 1/307

女子アナ「今週の芸能ニュースはこちら!」

ジャン

女子アナ「天才バイオリニスト『恭クン』痛恨の演奏ミス!」

まどか「あ、上条君のニュースだ」

女子アナ「今年でデビュー十周年を迎えるバイオリニストの恭クンこと上条恭介君、
     初の十万人規模のコンサートで、海外ということもあって緊張してしまったのか、
     うーん残念ながらミスをしてしまいました!」

まどか「上条君、すっかり有名になっちゃったなぁ…」

女子アナ「恭クンはデビュー前に、事故で左手が全く動かなくなったことがあるそうです
     そして10年前の今頃、あのスーパーセルを被災した見滝原に住んでいたんですって!
     子供の時から波乱万丈な人生を送って来たんですねー」

まどか「……」

元スレ
QB「シャワーでも浴びておいで」さやか「な、何…?」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1316435974/

2 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:40:25.46 lDHYICvi0 2/307

女子アナ「はい、そこで今日の特集です!」

ジャン

女子アナ「『絶対に契約してはいけない』――その人気のヒミツ!」

まどか「『契約』……」

女子アナ「こちらは、過去に見滝原市で暮らしていた女性が書いた作品なんですね
     内容はなんと、現実に起きたスーパーセル被害をモチーフにした
     ファンタジーアドベンチャーとなっていて、ちょっと一瞬『え?』ってなりますけど、
     これが今中学生くらいの女の子達の間で密かに話題になっているんです!」

まどか「……やだな。チャンネル変えよう…」

女子アナ「今回は特別に、『絶対に契約してはいけない』作者の
     『穂村あけみ』さんにスタジオにお越し頂きました!」

まどか「……え? 『ほむら』……ちゃん?」

ゲスト「穂村です。よろしく」

まどか「あぁー! ほむらちゃんだ!!」

3 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:40:44.44 lDHYICvi0 3/307

女子アナ「よろしくお願いしまーす! さて、早速なんですけれども、穂村さん
     この本にはどんなことが書かれているんですか?」

ゲスト「10年前に見滝原を襲ったスーパーセルの背景にある、真実の記録です」

女子アナ「はい! そうなんです! この小説はファンタジーということではありますが、
     実在する地域を舞台としてノンフィクション風に書かれているんですねー!」

まどか「ほむらちゃん…ずっと会ってなかったけど元気にしてたのかな…
    まさかテレビで見るなんてビックリしたなぁ
    『穂村あけみ』っていう名前で作家やってるんだ…」

女子アナ「――見所について語ってください!」

5 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:41:13.06 lDHYICvi0 4/307

ゲスト「――インキュベーターは私に戦いを挑んだ
    私はいくつかの偶然に恵まれ、これに勝つことができた。凄惨な犠牲と引き換えに…
    彼の一番のミスは、『家畜』呼ばわりしていた『魔法少女』を自ら救ってしまったこと
    あの災害の日、彼女がいなければこの世界はなくなっていたわ」

女子アナ「ありがとうございます! 穂村あけみさんはとっても素敵な方ですねー
     私も今聞いててこの世界観に思わず入り込んでしまいそうになりました!」

まどか「…ほむらちゃん、綺麗になったなぁ…」

女子アナ「ここで穂村さん宛てに届いたファンレターの1つをご紹介するんですけど、ええ
     …はい。こちらです!」

パラ

6 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:41:37.27 lDHYICvi0 5/307

女子アナ「『こんにちは、穂村あけみ様。私は中学1年生の女です
     友達に勧められて『絶対に契約してはいけない』を読んでみたら
     すごくリアルでどんどん引き込まれてしまいました』
     と、ここからなんですね」

まどか「…?」

女子アナ「『本を読み終わってから、私の所にキュゥべえが来ました
     本当にびっくりしました。本に書かれていることが現実になったのです
     友達に言っても誰も信じてくれず、困っています。家族には言っていません
     穂村さんもキュゥべえに会ったことがあるのですか?』」

まどか「……」

女子アナ「と、こういったですね、『私も同じ体験をしている』という内容のお便りが
     沢山届いているそうなんですよ!
     それくらい、こう、のめり込んでしまうほど感情移入させてくれる作品なんですねー」

まどか(ほむらちゃん……中学校の時のこと、本に書いたんだ…
    もう誰もキュゥべえに騙されないように…
    本当は小説なんかじゃないんだ…きっとほむらちゃんは、
    見たこと聞いたことをそのまま伝えようとしてるんだ…)

7 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:41:57.29 lDHYICvi0 6/307

女子アナ「では穂村さんからファンの皆様に一言お願いします!」

ゲスト「インキュベーターとは何があっても絶対に契約してはいけない
    『あの子』のような目に遭いたくなければ」

まどか(『あの子』って…ひょっとして…)

まどかは吐き気がした

女子アナ「ありがとうございましたー!
     ちなみにですね、舞台は10年前の見滝原市ということで、
     作中には恭クンがモデルになったキャラクターも登場するんですよ
     女の子だけじゃなく、老若男女問わず、一度は読んでみたい一冊ですね!」




13 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:47:09.73 lDHYICvi0 7/307

――――――――――
――夜。バーの中

カランカラン

杏子「よっ」

ほむら「早かったわね」

杏子「そう毎回遅刻すると思うなよ」

ほむら「サングラス、はずしたら?」

杏子「…? ああ、本当だ。なんか体の一部になっちまってるな…」

カチャ

ほむら「目は治らないの?」

杏子「駄目だね。あたしの魔力でも完全には治せない
   あれ以来、こいつがないと昼の太陽程度の光でもまぶしくてしょうがねーわ」

ほむら「…そう」

杏子「何か飲むかい?」

ほむら「ええ。いただくわ」

14 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:47:47.52 lDHYICvi0 8/307

杏子「マスター、いつもの2つ」

店主「はいはい」

杏子「…上手く行ってるみたいだねぇ」

ほむら「そのようね。あなたのおかげよ」

杏子「…好きでやってるんじゃないんだがな…」

ほむら「…ごめんなさい」

杏子「…ま、本当に嫌になったら足洗うさ。せっかく『不死身のお杏』なんて通り名もらってんだ
   利用できるだけ利用してやろうじゃん」

ほむら「私がヤクザと繋がっているなんて知れたら、メディアから締め出されるわね」

杏子「あたしはヤクザじゃねーよ」

ほむら「確かに形の上では。でも一般人はどう思うかしら」

15 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:48:10.56 lDHYICvi0 9/307

杏子「ったく。誰の為に働いてると思ってんだ」

ほむら「ええ、感謝してるわ」

杏子「当たり前だ」

ほむら(…銃は持って来た?)

杏子(ああ。車ん中だ)

ほむら(ありがとう)

杏子「あーあ。あの奇怪な『イレギュラー』がこんなに頼りなくなっちまうなんてな」

ほむら「面目ないわね…時を止められなくなった今、私もできることをやっていくしかない」

杏子「…ま、『あいつ』の二の舞踏む奴がこれ以上いても腹が立つだけだしな」

ほむら「…やめて」

杏子「…悪い」





17 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:50:49.67 lDHYICvi0 10/307

―――――――――
――ドイツ某所。ホテル一室

恭介がひざまずいて仁美の足の甲にキスしている

上条「……」

仁美「…来て」

隣に腰掛ける恭介

仁美「…また、あの時の夢を見たのね…」

上条「……ああ」

仁美「お医者様は何て…?」

上条「『トラウマ』だ…。『じっくり治療して行けばよくなる』って…
   あれからもう10年も経つのに…」

仁美「…お薬の量は減ったわ」

上条「見損なったろう…?」

仁美「…ううん」

18 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:51:14.80 lDHYICvi0 11/307

上条「仁美とこうしている間さえ、僕はさやかのことが忘れられずにいるんだよ…?
   もうあの頃の僕じゃないはずなのに…。きっと、僕は狂ってしまったんだ…」

仁美「…あなたは変わらないわ。さやかさんのことは忘れないであげて
   さやかさんがいたから、今の恭介さんがいる…そして今の私達があるの…」

上条「…何度自分の腕を切り落とそうとしたことか」

仁美「恭介さん」

上条「この前だって、何万という観客の前で大恥を晒した…
   さやかのことを考えていたんだ…。さやかが見えてしまうんだ…」

恭介の左手を握る仁美

仁美「当然よ…。さやかさんはここにいるじゃない。あなたの一番近くに」

上条「…死んだんだよ」

仁美「……」

上条「…ねぇ、仁美。君は人殺しの妻になる…それでいいのか…?」

仁美「…あなたは悪くない」

19 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:51:42.42 lDHYICvi0 12/307

上条「全て僕のせいじゃないか…! 僕があんなことを言ったから、さやかは…!」

仁美「…さやかさんの想いはそれだけ強かったということ――」

上条「そうだよ! …ああ。さやかが僕に内緒でやったことだ!」

仁美「……」

上条「仁美は僕の為に死ねるか…!?」

仁美「…やめて。そんなことをしても愛の証明にはならないわ」

上条「…さやかはやってのけた」

仁美「思い出して…? 確かにさやかさんはあなたの為に亡くなったかもしれない…
   けれどその前に、あなたの為に『生きた』じゃない
   あんなに一生懸命。恭介さんはそれが気に食わなかったとでも言うの?」

上条「……さやかは僕を恨んでる」

仁美「そんなことないわ」

上条「僕を呪ったんだ…魔法の力で…! それで夢に出て、僕を懲らしめようとしてるんだ…!」

仁美「ねぇ、もうやめて」

上条「傷つけてしまったから…!」

20 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:52:08.38 lDHYICvi0 13/307

強く目を閉じて震える恭介

仁美「さやかさんは幸せだったはずよ…」

上条「あれから後悔ばかりだ…。僕は…さやかに何一つしてあげられなかった…」

仁美「そんな…」

上条「ただの一度も言えなかったんだ…! 『好きだ』って…!
   『愛してる』って言えなかった…!」

仁美「……」

上条「さやかは、そんな僕が赦せないんだ…。僕が悪い……!
   わかってる! 君と結婚する資格なんて、僕にあるはずがないんだ!」

仁美「…あなたを責めているのは、あなただけよ」

上条「確かにそうかもしれない…。ああ、僕は自分を一生恨み続けるだろう…」

仁美「…時は戻せないもの。前に進むしかないわ」

上条「もう…駄目なんだ。耐えられない…僕はあの時、死ぬべきだったんだ…!」

仁美「…!」

仁美が恭介のローブの襟を掴んでベッドに押し倒した

21 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:52:39.28 lDHYICvi0 14/307

仁美「なぜわかってあげないの…? なぜわかってくれないの…?」

上条「……」

仁美「あなたが生きていることに、私がどんなに感謝しているか…
   さやかさんがどんな思いで去っていったか…」

上条「……」

仁美「…もう子供じゃないの。そんなに自分が赦せないなら、死ぬまで償い続けましょう…?」

上条「……」

仁美「自分を傷つけることが罪滅ぼしになるとは限らないわ…
   さやかさんはそんなこと…きっと望んでないもの…」

上条「…」

仁美「沢山の人にあなたのバイオリンを聞かせてあげて…?
   あなたがどんなに塞ぎ込んでいる時も私は背を向けたりしないから…
   あなたの苦しみは私が一緒に背負うから…」

上条「この辛さが君にわかるのか?」

仁美「…大切なお友達だったのよ」

22 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:52:59.80 lDHYICvi0 15/307

上条「…!」

仁美「…辛いのは、恭介さんだけじゃない…」

上条「……ごめん」

仁美「ううん」

上条「…もし、本当にさやかが僕を赦してくれたのなら…」

仁美「…ええ」

上条「君を、さやかからの贈り物と考えよう…」

仁美「愛しています」

上条「…ありがとう」

仁美はローブを脱いだ





29 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:57:27.56 lDHYICvi0 16/307

――――――――――
――10年前

QB(見つけた…あれが鹿目まどかだ…)
まどかの部屋を窓辺から見つめる

ほむら「夜遅くにご苦労ね。インキュベーター」
キュゥべえの死角から現れるほむら

QB「!?」

ほむら「あなたの思い通りにはさせない」
スチャ

QB「(銃…!?)ちょっと待って…!」

ダン

反射的に避けるキュゥべえ
まどかの家から少し遠ざかる

QB「初めから僕が見えている…君はまさか、魔法少女…?」

ほむら「…」
チャ

QB「待って、撃たないで…!」

30 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:57:53.62 lDHYICvi0 17/307

ほむら(あのインキュベーターが怯えている?)

QB「君はどうして僕を殺そうとしているんだ…?」

ほむら「邪魔だからよ」

QB「君に恨みを買う覚えはない…」

ほむら「そうね。今の時点ではそうかもしれないわ。あなたにとっては」

QB「な、何もしないよ…これからも! だから、撃たないで…!」

ほむら「(命乞い…?)代わりはいくらでもいるはずでしょう?」

QB「君は…僕のことを知っているの?」

ほむら「ええ。憎んでるわ」

QB「…!!」

ほむら「…私の計画の邪魔さえしなければ、それでいい」

QB「計画って…?」

ほむら「鹿目まどかの契約を阻止すること」

QB(そんな…鹿目まどかを手放したら、僕は…これからどれだけの少女を騙せばいい…?)

32 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:58:17.16 lDHYICvi0 18/307

ほむら「なぜ震えているの?」

QB「っ…! それは…怖いからだよ」

ほむら「…『怖い?』」

QB「う、うん…」

ほむら(インキュベーターに感情は存在しないはず)
スチャ

QB「ひっ…!」

ほむら(本当に怖がっている…?)

QB(あ、足が動かない…)

ほむらは銃を下ろした
ほむら「何を企んでいるの?」

QB「僕は…僕は、弱まっていく宇宙を延命する為に、エネルギーを集めている…」

ほむら「それだけ?」

QB「うん…」

ほむら(不気味なくらい素直ね)

33 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 21:58:42.93 lDHYICvi0 19/307

ほむら「そう。それなら、鹿目まどかにこだわる必要はないわね」

QB(それは…そうは行かない…)

ほむら「もう二度と、あの子に関わらないこと。臆病なあなたなら、
    私の警告を無視したらどうなるか想像できるでしょう」

QB「…」
ゆっくりと頷く

ほむら「とっとと消えなさい」





39 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:05:08.07 lDHYICvi0 20/307

――――――――――

まどか「でね、ラブレターでなく直に告白できるようでなきゃ駄目だって」

QB(やっぱりそうだ…見間違いじゃない。あの子が持っている素質は本物だ
   でも見たところ普通の中学生なのに、一体どんな因果を背負っているんだ?)

さやか「相変わらずまどかのママはかっこいいなー。美人だしバリキャリだし」

QB(…それが何であっても、鹿目まどか1人の犠牲で
   エネルギーの回収ノルマが達成にかなり近づくんだ。この機会を逃す手はない…!)

仁美「そんな風に、きっぱり割り切れたらいいんだけど…」

さやか「羨ましい悩みだねぇ」

まどか「いいなぁ。私も1通ぐらいもらってみたいなぁ、ラブレター」

さやか「ほう、まどかも仁美みたいなモテモテの美少女に変身したいと?」

QB(あんな些末な願望を…。他の子と何が違うっていうんだ)





40 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:05:32.01 lDHYICvi0 21/307

―――――――――――――
その日の夕方

――CD屋

QB(助けて)

まどか「ん?」

QB(助けて、まどか)

まどか「え…え?」

QB(僕を…助けて…!)

声のする方へ向かうまどか



まどか「誰? 誰なの?」

QB(助けて)


――改装中のビルへ

まどか「…どこにいるの? あなたは、誰?」

41 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:05:58.87 lDHYICvi0 22/307

QB(助けて…!)

キュゥべえが天井板を抜いて落ちて来る

まどか「!?」

QB「はぁ…はぁ…」

まどか「あなたなの?」

QB「…助けて」

同じ場所からほむらが飛び降りて来た

まどか「! ほむらちゃん…!」

ほむら「そいつから離れて」

まどか「だって…この子、怪我してる」

QB「うぅ…」

まどか「だ、駄目だよ。ひどいことしないで!」

ほむら「あなたには関係ない」

まどか「だってこの子、私を呼んでた! 聞こえたんだもん、『助けて』って!」

43 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:06:20.72 lDHYICvi0 23/307

ほむら「…そう」

ほむら(弱者を装ってまどかに取り入るつもりね)

ブシュー
ほむらの死角から白い粉が撒き散らされた

ほむら「うっ…!(消火器…?)」

さやか「まどか、こっち!」
さやかが消火器を吹き付けている

まどか「さやかちゃん!」

QB(ん…? マミの気配だ…近くまで来てるのか…?
   運がいい…マミなら安心だ…。早く、助けてもらわないと…
   うぅ…駄目だ、意識がはっきりしない…! 気を失う――)





――数分後

QB「うっ…ん…?」

まどか達に加えてマミがいる
ほむらの気配はない

44 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:06:42.12 lDHYICvi0 24/307

QB(傷が治ってる…よかった。気付いてくれたんだ)

QB「ありがとうマミ…助かったよ」

マミ「お礼はこの子達に。私は通りかかっただけだから」

QB「…どうもありがとう。僕はキュゥべえ」

まどか「あなたが私を呼んだの?」

QB「うん…そうだよ。鹿目まどか」

まどか「えっ? どうして私の名前知ってるの?」

QB「…僕は、君にお願いがあって来たんだ」

まどか「お、お願い?」

QB「うん…」

まどか「…?」

マミ「どうしたの、キュゥべえ?」

QB「…あの子は?」

マミ「あなたをいじめていた子なら、私が追い払っておいたわ」

45 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:07:02.14 lDHYICvi0 25/307

QB(よかった…)

QB「鹿目まどか…。僕と契約してほしい」





――その後、マミの家

まどか「わあ、綺麗」

マミ「これがソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が契約によって生み出す宝石よ
   魔力の源であり、魔法少女であることの証でもあるの」

さやか「契約って?」

QB「願い事が何でも1つ叶う代わりに、魔法少女になる…そういう、取り交わしだ」

まどか「願い事って…」

QB「それは何だって構わない。絶世の美女になるとか、億万長者だとか…内容は好きにしていい
   それと引き換えに出来上がるのがソウルジェム
   この石を持った子は魔法少女となって、魔女と戦う使命を課される…命懸けでね」

まどか「…魔女?」

47 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:07:27.86 lDHYICvi0 26/307

さやか「魔女って何なの? 魔法少女とは違うの?」

QB(…同じだよ。大人と子供だって、結局は同じ人間なんだから…)

マミ「キュゥべえ?」

QB(…僕は、まどかにちゃんと説明できるんだろうか
   いや、駄目だ…最初は秘密にしないと契約なんてしてくれる訳ない…)

マミ「大丈夫? まだ、どこか痛いの?」

QB「ああ…うん。ちょっと、ね」

まどか「た、大変! マミさん、もう一度手当てを…!」

マミ「ええ、やってみるわ」

マミがキュゥべえの体に手をかざす

QB(この病気はマミの魔法でも決して治らない
   むしろ、こんなことをされたら余計に苦しくなるだけなのに…)

マミ「どうかしら」

QB「…ありがとう。すっかりよくなったよ!」

まどか「よかったぁ」
安心して笑顔になるまどか

48 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:07:48.72 lDHYICvi0 27/307

キュゥべえはさりげなく目を逸らした

QB(嫌だな…すごく素直な子だ…僕が君にどんな残酷なことをしに来たかも知らずに、
   僕をあんなに心配して、僕の為にこんなに嬉しそうに笑って…)

まどか「えへへ」

QB(もう、やめてくれ…)

まどか「…どうかしたの?」

QB「…」グスン

マミ「え…?」

まどか「あれ…」

QB「…」クスン

マミ「キュゥべえ? 泣いているの?」

QB(どうしよう、止まらない…)

マミ「なぜ泣いているの?」

QB(笑わないと…)

49 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:08:11.85 lDHYICvi0 28/307

QB「あはは。いやね、このケーキがあまりにも美味しくて」

3人「…」

笑い出すまどかとさやか

マミ「涙が出るほど美味しかったの? そう、それはよかったわね」

QB「うん、あはは」

QB(どうして僕なんだろう…できることなら逃げ出したい)





54 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:17:12.18 lDHYICvi0 29/307

――――――――――――
――ある日のパトロールの帰り道

マミ「鹿目さん、何か願い事は見つかった?」

まどか「うーん…」

マミ「まぁ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら」

まどか「マミさんは、どんな願い事をしたんですか?」

マミ「……」

立ち止まるマミ

まどか「いや、どうしても聞きたいって訳じゃなくて…」

マミ「私の場合は、考えている余裕さえなかったってだけ」

QB(あの時は手っ取り早くて好都合だとしか思わなかった…
   結果的にマミは僕に感謝してるけど…。僕は君に謝らないといけない…)

さやか「…ねぇマミさん。願い事って、自分の為の事柄でなきゃ、駄目なのかな」

マミ「え?」

さやか「例えば…例えばの話なんだけどさ…
    あたしなんかよりよほど困ってる人がいて、その人の為に願い事をするのは…」

55 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:17:38.14 lDHYICvi0 30/307

まどか「それって上条君のこと?」

さやか「た、例え話だって言ってるじゃんか!」

QB「悪いけど…君には頼んでないよ、美樹さやか」

さやか「な…何よ、どういうことよ、それ」

QB「僕は初めに会った時から『まどかに』魔法少女になって欲しいってお願いしてるんだ
   ごめんね、君は魔法少女にしてあげられない」

さやか「ちょっと、なんでよ!」

QB(魂を犠牲にするのはまどかだけでいい…君が生み出せるエネルギーには、
   君を不幸にしてまで手に入れるほどの価値なんてないんだよ…)

まどか「そうだよ、キュゥべえ…私だけ願い事を叶えてもらうのは
    ちょっとずるいっていうか…さやかちゃんに悪いよ…」

QB「困ったな…」

さやか「ねぇ、どーーしても、あたしは魔法少女になれないの?」

QB「…一応素質はあると思うけど」

さやか「だったらなんでまどかだけなのさ! あたしだって契約してくれたっていいじゃんか!」

56 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:18:08.21 lDHYICvi0 31/307

まどか「さやかちゃん、落ち着いて…」

さやか「え? あ、あはは」

QB「そんなに…危険な戦いに明け暮れる『魔法少女』になりたい?」

さやか「えっ…いや、あたしは魔法少女になるっていうより、何ていうかその、
    叶えたい願いがある、っていうか…なんだけど…」

QB「それなら尚更よくないよ。まして、その願いがもし本当に他人の為のものなら」

さやか「…」

まどか「…」

マミ「キュゥべえ? あなた最近変よ」

QB「え?」

マミ「疲れてるの? いつものあなたは、そんなに冷たい言い方をする子じゃないわ」

QB「別に…僕は当たり前のことを言っているだけだよ」

マミ「そう? 私の後輩をあんまり脅かさないでね」

QB「…わかった」

57 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:18:30.62 lDHYICvi0 32/307

――その後、まどかの部屋

まどか「うーん…」
衣装のアイディアを描いたノートを眺めながら

QB「何を考え込んでるんだい?」

まどか「うん…私って昔から得意なこととか、人に自慢できるような才能とか、何もなくて
    誰かの役に立ったこともないし…
    だから、マミさんみたいにかっこよくて素敵な人になれたら嬉しいなぁって」

QB「…そう」

まどか「でも、マミさんも危ないことだから慎重に考えろって言ってたし
    それにキュゥべえも、さやかちゃんにあんな風だったし…
    私なんかが魔法少女になっていいのかな…」

QB「…じゃあ、1つヒントをあげる。具体的な助言はルール違反だけど」

まどか「うん」

QB「君は恐ろしいほどの潜在能力を秘めている。君が契約によって生み出す魔力の強大さは
   僕にも想像がつかない…
   これほどの資質を持つ子には今まで会ったことがないよ」

まどか「何言ってるのよもう…嘘でしょ」

58 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:18:50.32 lDHYICvi0 33/307

QB「いや、本当だよ。君が僕と契約すれば、マミよりずっと強い魔法少女になるだろう」

まどか「なーんかイメージ湧かないなぁ」

QB「…そうだね。僕も常々不思議に思うよ」

まどか「あはは」

QB(契約すれば間違いなく世界最強の魔法少女…そして地球史上最悪の魔女になる
   こんな平凡な子がどうして…?)

まどか「そうだ、キュゥべえは願い事とかないの?」

QB「え…?」

まどか「ちょっと、参考程度に…なんとなく聞いてみたいなって」

QB「願い事ねぇ…」

まどか「…」

QB「…うん。僕の願い事は、ちょっと複雑すぎるかな」

まどか「どんな…?」

QB「病気なんだ」


59 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:19:12.11 lDHYICvi0 34/307

まどか「えっ…」

QB「治したい気持ちはあるんだけど、治ると同時に、
   僕にとって大きなものを1つ失うことになる。それは死ぬのと同じくらい怖いことで…
   だから、言い方を変えると『死にたい。けど死ぬのは嫌』――そういう、願い」

まどか「…ごめんね、変なこと聞いちゃったみたいで」

QB「気にしなくていいよ。僕は願い事を聞かれることなんて普通ないから、
   こういう話をするのもたまには面白いじゃないか。ありがとう、まどか」

まどか「…うん。ねぇ、キュゥべえ」

QB「何だい」

まどか「また、今度でもいいかな…決めるの。私、やっぱりまだ
    自分でも何をお願いすればいいのかよくわかんなくて…」

QB「…ああ」

まどか「ありがとう。それじゃあ、明日も早いから、もう寝るね」

QB「わかった。おやすみ」

まどか「おやすみ」
眠りに就くまどか

60 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:19:30.58 lDHYICvi0 35/307

QB「…」

QB(やっぱり馬鹿だな、僕って奴は)
まどかの寝顔を見下ろす

QB(結局は自分の傷口を広げることになるだけなのに…
   人類が同じ過ちを繰り返す理由だってわかってるくせに…

   問題を先延ばしにしても無意味だ。これから海に突き落とす子に
   くだらない希望を与えてはいけない。お互い選択の余地だってない

   だったらせめて…この子の悲鳴を聞かないように、
   断末魔の表情を見ないように、目を閉じたまま手を下そう…)

まどかの寝息が聞こえる

QB(今夜は、眠れない)





63 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:27:04.27 lDHYICvi0 36/307

―――――――――
――翌日、放課後
見滝原の病院の前

まどか「あれ?」
まどかが病院の外壁を見つめる

さやか「ん、どうしたの?」

まどか「あそこ…何か」

QB(…あれは)

QB「グリーフシードだ…孵化しかかってる!」

まどか「嘘、なんでこんな所に!?」

QB「よりによって病院で…! すぐに逃げないと2人とも結界に飲み込まれる!」

さやか「またあの迷路が…?」

QB「結界を見たことがあるのかい…?」

さやか「あ、うん。キュゥべえが気絶してる時に迷い込んじゃったんだ」

QB(あの場所に魔女がいたんだ…それでマミが近くに来ていたのか)


64 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:27:34.36 lDHYICvi0 37/307

さやか「まどか、マミさんの携帯聞いてる?」

まどか「ううん…」

さやか「まずったな…。まどか、先行ってマミさんを呼んで来て
    あたしはこいつを見張ってる」

まどか「そんな!」

QB「無茶だよ! 君1人で残るなんて、眠っているライオンの檻に入っていくようなものだ!」

さやか「あの迷路が出来上がったら、こいつの居所もわからなくなっちゃうんでしょ?
    放っておけないよ、こんな場所で!」

QB(…マミが間に合わなかった時のことを考えたら
   中に行かせるのはまどかの方がいい…
   いや、でもいざとなった時にまどかが魔女に怯えて契約できず
   そのまま殺されてしまったりしたら、それこそ最悪中の最悪だ…!)

QB「まどか、先に行ってくれ。さやかには僕がついてる
   マミならここまで来れば、テレパシーで僕の位置がわかる
   ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば
   最短距離で結界を抜けられるようにマミを誘導できるから」

さやか「ありがとう…キュゥべえ」

まどか「私、すぐにマミさんを連れて来るから!」
まどかは鞄を置いて走り出した

65 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:27:58.29 lDHYICvi0 38/307

結界が出来上がる


――魔女結界内部

QB「…怖いかい、さやか」

さやか「そりゃまぁ、当然でしょ…」

QB「ごめんね。偉そうなこと言っといて、実際に魔女と戦えるような力もなくて」

さやか「いいのいいの、そんなこと。むしろ、もしマミさんが間に合わなかったら
    あたしは戦うつもりだよ」

QB「…」

さやか「昨日あんたに説教されて、あれからじっくり考えたんだ
    たった一度の願い事を、自分以外の人の為に使っちゃっていいのかどうか」

QB「好きな人かい…?」

さやか「いや…別に、好きだからとか、そういうつもりじゃなくて」

QB「仮にその人の為に願い事を叶えて魔法少女になったとしても
   君の恋が実るとは限らない
   後になって『やっぱりやめたい』って言っても、もう元には戻れないんだよ」

66 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:28:21.57 lDHYICvi0 39/307

さやか「…平気だよ。あたし、決めたんだから…
    『絶対に後悔しない』って。だから、例えどんなことがあったって――」

QB「『後悔しない』と決めた、だから『後悔せずに済む』――その根拠は何だい?」

さやか「…! それは…それは、あたしが決めたことだから」

QB(諦めるつもりは少しもないみたいだね…
   まだわからないけど、さやかはこう見えて意外と繊細な気がする…

   今はこんなに明るくて元気だけど、魔法少女になったら
   自分の苦しみを自分の中で消化できずに、すぐに魔女になってしまうだろう
   『魔女』…そうだ。今のうちに本当のことを教えれば引き下がるかもしれない)

QB「実はね、さやか。魔法少女は――(待て…僕は何を考えているんだ!?)」

さやか「え?」

QB(駄目だ、さやかがまどかに黙っててくれるとは思えない
   今まどかに知られたら、計画そのものが台無しだ)

さやか「キュゥべえ、今何て言おうとしたの?」

QB「魔法少女は…大変だよ」

さやか「そんなのわかってる…あたしだって半端な気持ちでここにいないから」

67 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:28:46.08 lDHYICvi0 40/307

QB「さやか、魔女との戦いは文字通り命懸けだ
   いつも死と隣り合わせで、怪我もいっぱいするだろうし…
   それでいて、学校のみんなや家族に理解してもらうのはものすごく難しい」

さやか「…」

QB「だから、君が魔法少女になるのは、どうしようもなくなった時の、最後の手段だ」

さやか「それでも――」

QB「…」

さやか「マミさんだって、毎日戦ってるじゃん。あんなにかっこよく、魔女をやっつけてるじゃん…」
声が震え出す

QB「マミは元々素質があったし、それにベテランなんだよ
   誰でもすぐにあんな風になれると思ったら大間違いだ」

さやか「じゃあ、まどかは!?」
目に涙が滲んでいる

QB「…」

さやか「あんたはまどかに契約させようとしてるじゃん…
    あたしのことまるで眼中にないみたいにさ!
    あたしとまどかの一体何がそんなに違うって言うのよ!」

68 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:29:06.30 lDHYICvi0 41/307

QB「さやか…誤解しないで欲しいんだ」

さやか「…」
言いたいことを我慢するさやか

QB「原因はわからないけど、まどかには特殊な才能がある
   急に言われてもピンと来ないかもしれないけど、
   あれほどの素質を持ってる子はどこを探しても他にいないんだよ
   まどかが魔法少女になったら、あのマミだって到底足元にも及ばないほどだ」

さやか「まどかが…?」

QB「そうだよ」

さやか「…結局、あんたは人の夢を叶える為に来た訳じゃないんだね」

QB「うん…ごめんね」

さやか「…」

QB(契約によって叶えられる夢や希望は、君達が支払う代償と釣り合わない…
   もう、泣かないで。悲しませたくてこんなことをやってるんじゃないんだ…)

さやか「…わかった。ごめん、キュゥべえ。あたしが馬鹿だったね
    頼まれてもいないのに、1人で勝手に悩んで、勝手に決めてさ…」

涙を袖で拭きながら

69 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:29:28.73 lDHYICvi0 42/307

QB「そ、そんな、とんでもない…君が安易な気持ちで
   魔法少女になろうとした訳じゃないことぐらい、わかってるつもりだ…
   それに、動機は他にあるとはいえ、戦う決意をしてくれたこと、
   僕は嬉しかったし、大いに敬意を表する…」

さやか「でも――」

QB「…何だい」

さやか「いざという時は、契約させて。あたし自身の身を守る為にも」

QB「…ああ。わかってる」




しばらく後――

グリーフシードが動き出す

QB「まずい、孵化が始まる」

さやか「う、うわあ…」

QB「大丈夫、マミはすぐそこまで来てる。今テレパシーで呼ぶから!」

70 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:29:51.77 lDHYICvi0 43/307

QB(マミ、グリーフシードが動き始めた。孵化が始まる。急いで!)

マミ(オーケー、わかったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ)

QB(どうしたんだろう…なんだかやけに嬉しそうだ)

ズドンズドン
そう遠くない位置から激しい銃声が届く

扉を破って、マミとまどかが駆けつけた

マミ「お待たせ」

さやか「ふぅ、間に合った…」

QB「気をつけて。出て来るよ」

お菓子の箱から魔女が現れた

マミ「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」

ズドドドドドド

マミの容赦ない連射に魔女が見る見る弱っていく

さやか「やった!」

71 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:30:11.42 lDHYICvi0 44/307

マミが魔法の糸で魔女を捕縛した
大砲を召還

マミ「ティロ・フィナーレ!」

ドン

QB(さすがだ…)

砲弾は魔女に命中した
しかし魔女は滅びず、その体内から肥大化した本体が現れた

マミ「あ…」

大きな魔女がマミの頭に食らいつく

QB(何だって…!)

まどか「…!」

さやか「…!」

ガブ…

マミの変身が解けた

QB「マ…マミ!!」

72 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:30:31.77 lDHYICvi0 45/307

マミの死体を貪り食う魔女

QB「嘘だ…マミが食べられた…! 嘘だ…!!」

まどか「…!!」

さやか「マ、マミさん…!」

魔女が顔を上げる

QB(まずい、2人が怯えてる…今すぐどっちかだけでも契約しないと
   まどかが殺される…! まどかだけはまずい!)

QB「ど、どっちでも構わない。契約だ…今すぐ僕と契約を!」

まどか達は声を失っている

QB「しっかりして! 今あいつを倒せるのは君達しかいないんだよ! 早く!」

さやか「…わかった…マミさんの仇は、あたしが取る…!」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「よ…くも、マミさんを!!」

QB「ありがとう…さあ、願い事を…!」

73 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:30:52.84 lDHYICvi0 46/307

ほむら「その必要はないわ」
ほむらが駆けつける

QB「!!」

ほむら「こいつを仕留めるのは、私」

QB(暁美ほむら…! マミが殺されるのを近くで待っていたのか…!)

ほむらは魔女の攻撃をことごとくかわすと、
口に大量の爆弾を放り込んだ

魔女は内部から破壊されて消滅した
胃の中のマミが灰になって落ちる

ほむら「…命拾いしたわね、あなた達」

まどか さやか「…!」

ほむら「目に焼き付けておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」

結界が消えた

QB(マミ…)

泣いているまどか達を尻目に、ほむらがグリーフシードを拾い上げる

さやか「…返してよ」

75 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:31:10.42 lDHYICvi0 47/307

ほむら「…?」

さやか「返せよ。それは…それは、マミさんのものだ!」

QB「マミ…」グスン

ほむら(泣いている…?)

ほむら「…」

QB「うっ…うっ…マミが…マミが死んだ…!」

さやか「返せって言ってるだろ! 返せよ、マミさんに!」

ほむら(インキュベーターが『泣く』なんて…)

さやか「返せったら!!」

ようやくさやかを見るほむら
ほむら「…そうよ。これは魔法少女の為のもの。あなた達には、触る資格などない」

さやか「くっ…」

QB(マミ…君なら勝てるはずの相手だったじゃないか
   どうして死んだんだ…どうして今日に限って油断していたんだ…
   ああ、こんなことになるなら、あの時さやかを魔法少女にすればよかった…!
   僕のせいだ…僕がマミを死なせてしまったんだ…!)

76 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:31:37.63 lDHYICvi0 48/307

ほむら(どうなっているの…? 私がこの時間軸に来てからたったこれだけの期間で
    インキュベーターがあんな演技を覚えたとでもいうの…?)
去っていくほむら

QB(僕らはマミを見殺しにした暁美ほむらに助けられて、亡骸に寄り添うことさえできない…)

さやか「うっ…うっ…マミさん…」

まどか「…」

QB(……。そうだ…一度魔法少女になったら、後は『死ぬ』か『魔女』か、だ…
   忘れるな、これは当然の結果なんだ…。立ち上がらないと…
   僕が次にやるべきことは、マミの後任を探すことだ…
   まずは近くの魔法少女を召還しよう…それがいい)

QB「さやか…マミのことは、残念だった
   でも、これでわかったろう…戦死って、惨いものなんだ」

さやか「…うっ…うっ」
さやかは頭を抱えるように泣きじゃくっている

QB(もう見たくないよ…こんなの…!
   幸せが待ってると信じて、嬉しそうに笑いながら夢を叶えて…
   でもその先にあるのはいつもこんな悲惨な結果だ…残酷すぎる)

まどかが放心状態で泣き続けている

80 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:37:46.72 lDHYICvi0 49/307

――――――――――
――数日後、さやかの部屋

さやか「…何しに来たの」

QB「マミのこと以外で何か悩んでるようだったから、気になってね」

さやか「…はぁ」

QB「…君が上条恭介と会ってる所、見てたんだ」

さやか「覗きか…」

QB「いや…」

さやか「はぁ…まー見られて減るもんでもないけどさー…」

QB「君が前に言ってた願いって、やっぱり恭介のことかい?」

さやか「…うん。まぁねー…」

QB「彼のことは、気の毒に思う……」

さやか「…どうして、恭介なんだろう」

QB「仕方ないよ。悔しいけど、世の中は理不尽なことだらけだ」

さやか「…どうして…マミさんだったんだろう」

81 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:38:07.07 lDHYICvi0 50/307

QB「…」

さやか「あたしさ、あの時のこと、今でも忘れられないんだよね」
なじるような目でキュゥべえを見るさやか

QB「あれは…確かに僕の責任だ。結界に入った時点で、いや…君の決意を知った時点で
   君の願いを聞いていれば、マミを死なせずに済んだかもしれない…」

さやか「…」

QB(お願いだ、そんな目で見ないでくれ…君を危険にさらしたくなかっただけなんだ
   あのマミがやられるなんて思わなかったんだ。マミに任せればいいと思ったんだ…)

さやか「…ごめん。あんたに当たるつもりはなかったのに」

QB「ううん。悪いのは僕だから…」

さやか「恭介のこと、怒らせちゃったんだ…少しでも励ましたくて、
    恭介に元気になってほしくて、いつも帰りにCD屋寄って…」

QB「うん…」

さやか「…迷惑だって言われちゃった。馬鹿だよね、あたしって…
    いっつも人の気持ちも知らないで、出しゃばって、困らせて…」

QB「さやかは、人に優しすぎる…」

82 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:38:28.81 lDHYICvi0 51/307

さやか「…そんなんじゃないよ。あたし本当は自分のことしか考えてない
    誰かに褒められたかったり、ただかっこつけたいだけだったり…
    相手の為だと思って頑張っても、やっぱどっかで見返りを求めてる…
    あたしって、嫌な子だ…」

QB「…さやか」

さやか「…?」

QB「誰かが辛い思いをしてるからって、君が楽しく生きることに負い目を感じる必要はないんだよ」

さやか「…何よ、それ」

QB「誰だって幸せになりたいものじゃないかな…その為に誰かを守ろうとしたり、
   励まそうとするのは、ずるいことでも何でもないと思う…」

さやか「…」

QB(…僕は最低だ。これからさやかの親友であるまどかを魔女にしようとしてるくせに
   宇宙の為とはいえ、沢山の少女を騙して、絶望の底に投げ落として来たくせに…)

さやか「あのさ。もう1回だけ、確認していいかな…」
涙声で

QB「いいよ…」

さやか「自分が幸せになる為に頑張ることって、間違ってないんだよね…?」

83 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:38:49.06 lDHYICvi0 52/307

QB「…ああ。きっと」

さやか「あたし…魔法少女になるよ」

QB「!」

さやか「恭介の手を治すことにあたしの願いを使う…
    それから、マミさんの代わりに戦って、みんなを守る…!」

QB「さやか、それは…」

さやか「あんた今言ったよね、キュゥべえ…? それでいいって…」

QB「魔法少女になったら、君はきっと不幸になってしまう」

さやか「黙って見てるほうがよっぽど不幸だよ! マミさんが殺されて、恭介が荒んでいって…
    今、誰も魔女を倒さなかったら、今度殺されるのはまどかや仁美かもしれない…!
    恭介の手が治らなかったら、あたしはあいつのバイオリンを一生聴けない!
    そんなの…絶対やだ」

QB「…その決断が、誰かを傷つけることになってもいいの?」

さやか「誰も傷つけないよ…絶対に。あたしは誰のことも死なせない
    友達も家族も、誰一人悲しませたりなんかしない」

QB(君は幼すぎる…。マミがどんなに無理していたかわからないのかい?
   まして、君は多分マミ以上に苦しむことになる…それでソウルジェムはすぐに濁って…)

84 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:39:09.96 lDHYICvi0 53/307

さやか「……」

QB(…言えない)

QB「…わかったよ。君の言葉を信じる…」

さやか「じゃあ…いいの?」

QB「…」コクリ

泣きながら笑うさやか

QB(この顔だ…見てられないんだ。あまりにも無邪気で、無知で…)
キュゥべえは目を閉じた

QB「さあ…願い事を言ってごらん」

さやか「あたしは…、動かなくなった恭介の手を、元通りに治したい…
    今までみたいに、立派にバイオリンを弾きこなす恭介に戻って欲しい!」

QB「…わかった。君の祈りは遂げられる…
   見て。ソウルジェムが生まれるよ。しっかり手に取って
   それが君の運命だ。君の祈りの結晶。魔法少女の証だ」

さやかはソウルジェムを両手で包んだ

85 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:39:30.11 lDHYICvi0 54/307

QB(どうして僕は、自分の首を絞めてばかりいるんだろう
   さやかと契約なんてしたら、回収効率そのものだって悪くなるに違いないのに…
   いや、むしろ好機と取るべきなんだろうか?
   まどかは壊れていくさやかを救う為に進んで契約しに来るかもしれない――)

さやかが倒れ込む

QB(何にしても急いだほうがいい…1ヶ月? いや、念の為2週間としよう
   2週間でまどかと契約するんだ。さやかが魔女になってからでは、
   まどかは魔法少女になることを本格的に拒否し出すだろう…
   これは僕の責任だ。苦しまなきゃ…苦労して、目的を果たさなきゃ…!
   その為には、さやかを死なせてはいけない。絶対に――!)

QB「さやか…早速だけど、僕からでよければ戦い方を簡単に教える…
   動けるようになったら、ついておいで」


89 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:44:48.48 lDHYICvi0 55/307

―――――――――――
夜道を歩いていくさやか達

QB(厄介なことになったな…まどかの件も悠長にはやってられないけど、
   当分はさやかから目を離すほうが危険だ)

さやか「ねぇキュゥべえ。キュゥべえは、マミさんや他の魔法少女にも
    こういうことやってたの?」

QB「何のことだい?」

さやか「ほら、戦い方を教えるとかって…新人教育みたいな」

QB「…君が初めてだよ」

さやか「じゃあ、どうしてあたしだけ急に?」

QB「特殊な状況なんだ。詳しいことは言えないけど、君に死なれたらすごく困るんだよ」

さやか「え…」

QB「僕自身には戦う力はないけど、何としても君を守らないと…」

さやか「ちょ、まさかあんた、あたしのことが…!」

QB「…君は犬や猫に本気で恋をしたことがあるのかい?」

さやか「じょ、冗談だってば! やだなーもう」

90 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:45:09.32 lDHYICvi0 56/307

QB「あはは」

さやか「…キュゥべえが普通に笑ってるとこ、なんか久しぶりに見た気がするなー」

QB「…? まだ出会ってからそんなに経ってないじゃないか」

さやか「いや、何ていうか…あんたっていつも何か考えてるみたいで
    笑うのも無理に笑ってるっていうか、そういう感じじゃん?」

QB「そんなことはないよ」

さやか「うっそだー。何か隠してるんでしょ。悩み事かー?」

QB(自分は隠し事が下手なのに、こういう所は鋭いんだなぁ…)

QB「悩みの1つや2つ、誰にでもあるじゃないか。さやかだってそうだろう?」

さやか「まぁねー。でも、1人で抱え込むといいことないぞ
    困ったことがあるなら、言ってくれればこのさやかちゃんが一肌脱いじゃうからね!」

QB「呆れて物が言えないよ、全く…まずは君自身の問題を解決したらどうだい」

さやか「大丈夫だって。きっと全部上手く行くって、あたし信じてるから
    1つはあんたのおかげだけどさ」

QB「…僕に感謝しているのなら、それだけはやめてほしいな」

91 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 22:45:31.24 lDHYICvi0 57/307

さやか「え? どうしてよ?」

QB「君を魔法少女にしたからだ。何度も言うように、これは恨まれても仕方のないことだ…」

さやか「またそんなこと言ってる。その性格どうにかならないもんかねぇ
    そんなんじゃ女の子にモテないぞ」

QB「はいはい」

さやか「そういえばさ、キュゥべえ。あんたには願い事とかあるの?」

QB「…無いことはないね」

さやか「へぇ。それは是非とも聞いてみたいものですなぁ」

QB「まどかにも同じことを聞かれたよ。なぜそんなに気になるんだい?」

さやか「キュゥべえは他人の願いを叶えて回ってる訳でしょ?
    それで、あんた自身はどうなのかなーって…いつも悩んでばっかだし」

QB「何ていうのかな…」

さやか「やっぱり、好きな人のこととか?」

QB「はぁ。君と一緒にしないでくれよ」

さやか「あはは、その言い方はひどいなー」

96 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:01:13.76 lDHYICvi0 58/307

QB「ごめんごめん。…そうだね、好きというのとは違うけど
   ずっと頭の片隅に残ってて、僕を悩まし続けてる子なら、いるよ」

さやか「わーお! 誰誰?」

QB「さやかの知らない子さ」

さやか「その子も、魔法少女? って、んな訳ないか
    あんたにとって人間は動物と一緒なんだもんねー」

QB「…魔法少女だったよ」

さやか「え…」

QB「今思えば、性格はさやかに似てたんじゃないかな。君みたいにお喋りではなかったけど」

さやか「あ…っと…ひょっとして、その子…死んじゃった、とか…」

QB「…いや? 生きてるよ」

さやか「…えっと、その、なんか…ごめん」

QB「全く。さっきの君の言葉をそっくりそのまま返さないといけないね
   その性格はどうにかならないのかい?」

さやか「うっ…もう、こいつめ」

QB「僕に気を遣う必要はないよ。そのうち、嫌でも自分のことで精一杯になるだろうから」

97 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:02:15.18 lDHYICvi0 59/307

さやか「…わかりましたよーだ。あ、そうだ。それで、戦い方っていうのは?」

QB「うん。ソウルジェムの反応はどうだい?」

さやか「えっと…うん。さっきから近くに魔女がいることは確かなんだけど…」

QB「いきなり手ごわい魔女は避けたいところだ。もちろんグリーフシードも欲しいけど、
   まずは1人でいる使い魔を相手にしたいね」

さやか「あ、こっちだ…うん、反応が強くなった」

QB「…魔女と戦う気かい?」

さやか「当たり前だよ。あたしが魔法少女になったのはその為でもあるんだし
    それに、あんたが守ってくれるんでしょ?」

QB「そうは言ったけど、実際に身を守るのは君自身だ。行くなら、しっかり気を引き締めて」

さやか「わかってる」


――廃工場の前

さやか「ここだ…間違いないよ」

QB「うん…ねぇ、さやか。聞こえる? 人の声がする」

さやか「本当だ…中に誰かいる。しかもいっぱい…」

99 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:02:54.38 lDHYICvi0 60/307

QB「魔女に憑かれてる可能性が高いね。助けるなら今しかないよ」

さやか「よーし…」

さやかは一度呼吸を整えてから変身した

QB「君には魔力が備わっている。身体能力は常人とは比べ物にならないはず
   ただ、飛び道具がないのが欠点だ。邪魔な使い魔はその剣で斬り捨てて、
   一直線に奇襲をかけよう。魔女の懐に入ったら、もう撤退はできない。倒すだけだ」

さやか「やってみる…」

QB「頑張って」

結界に入っていく――


――魔女結界

QB「あ! 見て、あれ!」

さやか「?」

まどかが使い魔に囲まれている

さやか「まどか!!」

QB「さやか、お願いだ! まどかを助けて!!」

101 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:03:31.88 lDHYICvi0 61/307

さやか「言われなくてもわかってるよ!」
使い魔に斬りかかるさやか

まどか「さやかちゃん…!?」

ハコの魔女が新たに使い魔を多数召還

さやかは敵を数体斬り捨てると、すぐさま魔女の後ろに回り込んで打ち飛ばした

さやか「これでトドメだあああ!!」
魔女を叩き斬る

ハコの魔女が血しぶきを上げて消滅
結界が消えていく

QB(やっぱりさやかは典型的な突進型だ。小回りの効くタイプの魔女とは相性がいい
   だけどそのくせ、力押しには滅法弱いだろう…
   グリーフシードを自力で集めるには一工夫要る。どうしようか…)

まどか「…」

さやか「いやーごめんごめん、危機一髪ってとこだったね」

まどか「さやかちゃん…その格好…」

さやか「ん? あぁー! まぁ何て言うか、その…一応、前から決めてたことだし…?」

まどか「……」

102 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:04:02.51 lDHYICvi0 62/307

さやか「だ、大丈夫だって! 初めてにしちゃあ上手くやったでしょ? あたし」

まどか「でも…」

近くで誰かの足音がした

まどか さやか「!?」

崩壊した倉庫の壁の向こうにほむらが立っている

QB「!!」

ほむら「…あなたは」

さやか「…フン、遅かったじゃない、転校生!」

さやかの後ろに隠れるキュゥべえ

ほむら(あいつの表情…)

QB(どうしよう…僕を見てる。よりによってまどかと一緒にいる時に来るなんて…)

ほむら(やっぱり、今までのインキュベーターとは何かが違うわ
    やっていることは今までと変わらないけれど、本質的な所に別の何かを隠している
    調べたほうがよさそうね。この時間軸で何が起きているのか)

さやか「…あんた、キュゥべえに何の恨みがあんのさ!」

104 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:04:41.23 lDHYICvi0 63/307

ほむら「…」

まどか「や、やめて…さやかちゃん。駄目だよ…喧嘩になっちゃうよ」

さやか「ごめん、まどかは黙ってて」

まどか「……」

さやか「何よ、転校生。あたしにグリーフシードを取られたのが気に食わない訳?
    そんなに欲しけりゃあげるわよ」

ほむら「…」

さやか(駄目だ…本当ムカつく…! マミさんを見殺しにしたこいつだけは
    どうしても許せない…! 今何か言われたら、殺しちゃうかもしれない…!)

ほむら「いいえ。魔法少女になってしまった以上、あなたにも必要なもの。奪い取ったりしない」

さやか「くっ…だったら何しに来たのさ! 何が言いたいの!?」

ほむら(あなたは何を言っても信じてくれなかった
    真実を伝えようとしても聞く耳を持ってくれなかった)

さやか「黙ってジロジロ見てないで何とか言えよ!!」

ほむら(そして魔女になった…まどかの前で)

105 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:05:16.65 lDHYICvi0 64/307

まどか「さやかちゃん!」
さやかにしがみつくまどか

さやか「ちょっと、何するのよまどか」

まどか「もうやめようよ…駄目だよ…喧嘩しないで…」

ほむら(もう、私も何て言えばいいのかわからない…どうするのが最善なのかわからないのよ
    やっぱりあなたはこの時間軸でもまどかを苦しめるの?)

さやか「だって、まどか…! こいつは、こいつはあたし達の敵なんだよ…!?」

ほむら「…!」

ほむら(私が何をしても、あなたの運命が変わらないのなら…
    いっそ、まどかの目の届かない所へ連れ去って、私の手で…)

まどか「敵なんかじゃないよ!」

さやか「どうしてそう言えるのさ!!」

まどか「ほむらちゃんは魔法少女でしょう…? それに同じクラスの友達だよ…?」

ほむら(まどか…)

まどか「ねぇほむらちゃん…そうだよね…?
    ちゃんと話し合えば、私達仲良くできるよね…?」

107 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:05:38.88 lDHYICvi0 65/307

さやか「信用できるもんか! こんな奴!!」

まどか「さやかちゃん!!」

ほむら(さやかの前では何を言っても無駄ね)

ほむら「今私の口から言えるのは…鹿目まどか、あなたは魔法少女になるべきではないということ」

まどか「ほむら…ちゃん…」

さやか「くっ…あんたに言われなくたって、まどかはあたしが戦わせない!
    用が済んだらどこかへ行って。もうあんたの顔見たくないから」

ほむらが視線をキュゥべえに移す

QB「!」

ほむら「……」

QB(彼女は僕がどうしてもまどかと契約しなければいけないことを見抜いてるのか…?
   『インキュベーター』の肉体が沢山あることを知ってくれてるのが唯一の救いだ
   そのおかげで殺されずに済んでいる節がある…)

108 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:06:09.78 lDHYICvi0 66/307

ほむら(問題はこいつをどうこうすることじゃないわ
    ワルプルギスの夜を倒すまで、まどかを思い留まらせておくことが一番重要…
    その為にはこいつの裏をかかなきゃいけない
    全く新しいインキュベーターだとしたら、どんな話術を使うのか探りたいわね)

QB(彼女の目をごまかすのは僕には難しいだろう…
   ただ、まどかの契約を止めようとするのには、必ず目的があるはずだ
   その内情に沿う形でなら、妥協してくれる道があるかもしれない…)

ほむら(監視する? いえ…それはこいつにとって想定の範囲内
    少なくとも、ここで会ったことで警戒し出すはず…多分ボロは出さないわ
    それなら逆に、臆病な性質を信じて利用する? 待って…それこそ罠かもしれない)

110 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:06:36.67 lDHYICvi0 67/307

QB(だけど、これは果たして命を懸けるに値する取引だろうか…)

ほむら(とは言っても、タイムリミットは1週間と少し…
    考えてる余裕はないわね。もう、やるしかない)

QB(制限時間は2週間…ここで引き下がったら勝ち目はなくなる
   これも僕が殺して来た少女達の報いなんだろうか。もう、やるしかない…)

ほむら「キュゥべえ――」

QB「暁美ほむ――」

同時に切り出す2人

ほむら「…?」

QB「…!」

ほむら「…何かしら?」

QB「そ…その」

ほむら「…」

117 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:13:30.82 lDHYICvi0 68/307

QB(でも、どう言えばいい…何が彼女の逆鱗に触れるんだ…?
   そして、ほむらは何を言おうとしたんだ…?)

ほむら(何か企んでるわね。真っ向勝負では勝ち目がないことは自覚しているようだけれど)

QB(ダイレクトにまどかの話を出すのはまずい…わからないけど、危険な気がする
   まずは外堀から埋めていくんだ…反撃の予兆が見えたら、その時は一旦撤退する…)

QB「君は、美樹さやかについてどう思う…?」

さやか「キュゥべえ…?」

ほむら(さやか…? 意外な切り口ね)

ほむら「質問の意図がわからないわ」

QB「嫌いなのかい…?」

ほむら(多分、これは本題ではない。当たり障りのない部分を突いて
    さりげなく情報を引き出そうとしている…)

118 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:14:15.32 lDHYICvi0 69/307

ほむら「馬鹿な真似さえしなければどうでもいい。そうでないなら、それなりの手を打つだけ」

QB(あくまで一切の情報を与えないつもりか…ほむらはどうやって僕のことを知ったんだ?)

ほむら「話はそれだけ?」

QB「…君からも聞こう。さっき何か言いかけたろう?」

ほむら(複雑な話になるかもしれないわね。真相を知っているのは私とこいつだけ
    いずれにしても、まどか達の見ている前では何もできない)

ほむら「あなたと2人きりになりたい」

QB「…!」

まどか「ほむらちゃん、それって…」

さやか「ふざけんな! キュゥべえをどうするつもりよ!」

ほむらがさやかの視界から消えた

さやか「…!?」

ほむら「話をするだけよ」
さやかの背後で、片手にキュゥべえをぶら下げている

QB「な…!!」

121 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:21:21.82 lDHYICvi0 70/307

ほむら「大丈夫。こいつの安全は保証するわ。助け出そうなどとは考えないことね」

キュゥべえを肩に乗せて飛び立つ

まどか「ほむらちゃん!」

さやか「待ちなさいよ! ああ、くそ…!」



――キュゥべえは人気のない廃屋へ連れて行かれた
埃っぽい床の上に座らされる

QB(ここは…? …しまった、まずいぞ…弱みにつけ込む気だ…!)
   ほむらは僕が怯えていることを知って――)

ほむら「いくつか聞きたいことがあるわ」
恐ろしく冷たい目つきでキュゥべえを見下ろす

QB「な…な、何…?」

QB(どうしよう…どうしよう! 拷問される…! 彼女は僕を憎んでると言っていた…
   何を聞かれるんだろう…。駄目だ…、怖い…! 怖い…!!)
涙目になるキュゥべえ

ほむら「あなたにも答えやすいように、まずは簡単な質問から行くわ
    あなたは、まだ鹿目まどかと契約するつもりなの?」

122 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:21:45.59 lDHYICvi0 71/307

QB「…!!」

QB(一番嫌な質問だ…。『はい』と言えば邪魔者として始末される…
   『いいえ』と言えばさっき一緒にいたことについて釈明を求められる…!
   『魔女を探していたら偶然出会った』と言って、それを素直に信じてくれるのか…!?)

ほむら「…」

QB「そ…」

QB(……! 喋れない…!)

ほむら「…」

QB「あ…」

ダーン
ほむらが前触れもなく発砲した

キュゥべえの足元に弾痕がうがたれ、煙が上がった

QB「…!!」

ほむら「本当は傷つけたりしたくないのだけれど」

キュゥべえはほむらを見上げたまま声にならない声で泣いた

124 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:22:05.81 lDHYICvi0 72/307

ほむら「忠告を無視したわね」

QB「ひ……」

ほむら「わかっていたはずよ。痛い目に遭うって。それくらいの覚悟はあったのよね
    私は前もってあなたに頼んだわ。まどかのことを諦めるように」

QB「ご……」

ほむら「それでもあなたはしつこくまどかに近づいた。それなら、もう――」

QB「ゆ……!」

ほむら「…?」

QB「ゆ…赦して……!」

ほむら(…何なの。一体何だというの、こいつ…)

キュゥべえは震えながら泣きじゃくっている

ほむら「…」

ほむら(…いけない。どうしたの…? こいつに同情しようとでもしたの?)

ほむら「何を怖がっているの? インキュベーター
    あなたは殺されても何も問題ないはずでしょう?」

125 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:22:34.68 lDHYICvi0 73/307

大きく首を振るキュゥべえ

QB「た、確かに…か、代わり…は、沢山…ある…けど、僕は…死にたくない…!」
泣き声が荒くなる

ほむら「『死にたくない』? そういうあなたはどれだけの魂を奪って来たの?
    そんなあなたに生き続ける資格などあると思う?」

キュゥべえは倒れるようにうなだれた
QB「……ない…」

ほむら「…!」

QB「ないよ…わかってる…本当は……み、みん、な…こんな怖い、思いをして…
   それでも…た、戦ってた、んだって…みんな…」

ほむら「…」

QB「僕のせい、だ…僕が、殺したんだ…! うぅ…!」
涙が床の埃と混ざる

ほむら(苦しそうな声…。さっきまでのは単なる『恐怖』から来る涙だった――)

QB「うわあああん――!」

ほむら(なのに、いつの間にか目の前の私のこと自体も忘れて、こんなに取り乱して…)
泣き叫ぶキュゥべえに尋問をためらう

128 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:22:58.96 lDHYICvi0 74/307

パラ…

ほむら「…?」

天井から細長い糸が何本か落ちるのが見えた

ほむら(蜘蛛の巣かしら…それにしては長すぎる…?)

ピシッ
それは床からも伸びて来た

ほむら(魔女――!)

続々と多量の糸が出現
あっという間にほむらの手足に強く絡みつく

カチャッ

持っていた拳銃が落ちた

ほむら(しまった…!!)

QB「!?」

景色が変わる

129 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:23:22.97 lDHYICvi0 75/307

――魔女結界

縫いぐるみの姿をした使い魔が一面に涌いて出る

ほむら(拘束されたままでは手の打ちようがない…!)

QB(これは…魔女…!? どうしてこんな所に魔女が…!)

ほむら(…まさか、こいつが呼び出したの…?)

QB(僕は…助かったのか…? ほむらが動けないのなら、僕にとっては逃げ出すチャンス…)

ほむら(…いえ、そんなことができるとも思えない。きっと偶然だわ
    今は勘ぐっている場合じゃない…!)

かろうじて、盾の中から口で拳銃を引き出し、左手に投げ移した
体を縛る糸の束に向けて発砲する

ドンドンドンドン

太い糸束の1つ、その中でもわずかな一部分だけが切れた

ほむら(くっ…! ただの銃弾では、水や砂のような『固体』としての性質の小さいものには
    効き目が薄い…『糸』でも大量にある場合、同じことが言える…!)

糸がほむらの体を締め付ける

ほむら「うぅ…!」

130 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:23:46.98 lDHYICvi0 76/307

QB(このままほむらが負けたら、僕は魔女と2人っきりだ…
   だけど、この魔女は僕には攻撃して来なかった
   それに使い魔達もただ輪を描いて歩いてばかり…
   きっと魔女を和ませる役目を与えられているものだ)

ほむら(手榴弾なら解けるでしょうけれど…
    この状態では私自身も爆発に巻き込まれてしまう…)

QB(ほむらが倒されてから、結界の中でさやかが助けに来るのを待つんだ…!)
ほむらに背を向けて走り出す

ほむら(あいつが逃げる…!)

QB(――待てよ…)
すぐに立ち止まった

QB(さやかをテレパシーでここへ案内したとして…
   さやかは勝てるのか…? この『糸の魔女』に…)

空中に沢山の糸が集まって固まる
それはやがて人の形になり、魔女が現れた
顔全体に包帯を巻いている

QB(糸に対しては銃器より剣のほうが有効だろう…
   だけど、さやか自身がほむらのように捕まってしまったら…?)

魔女が泣き叫ぶような声を上げてほむらに近付いていく

131 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:24:14.73 lDHYICvi0 77/307

ほむら(…冷静にならないと。何もしなければ『ここで死ぬ』…)
盾から手榴弾を取り出す

ほむら(…大丈夫、根元から切ればこっちのもの…
    縛られていても充分遠くへ投げられるわ…怪我で済む程度には…!)

QB(でも、ほむらなら…彼女なら、あの糸さえ解けば、きっと魔女を倒せる…!)
ほむらの方へ向き直り、猛然と走る

ほむら「え…?」

QB(糸口が掴めればいいけど…!)

キュゥべえはほむらの右腕に絡まった糸に噛み付いた
糸はびくともしない

代わりに、魔女本体がようやくキュゥべえに反応した

QB(この魔女、目が見えないんだ…糸は武器であると同時にセンサーでもあったんだ…!)

ほむらを縛っていた糸の一部が、キュゥべえを追い始めた
すかさず逃げるキュゥべえ

QB(やっぱり僕の力では歯が立たない…)

ほむら(今ので糸は少し減ったけれど――)
腕を力一杯引き寄せるほむら

138 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:36:55.70 lDHYICvi0 78/307

ほむら(駄目だわ、まだ私の力ではとても解けない…
    それにしても、あいつはどういうつもりなのかしら…)

追いついた糸束がキュゥべえの胴体に巻き付く
しかし、体が柔らかいおかげで即座に抜け出すことができた

QB(魔女は自分の結界というものをどの程度理解しているんだろう――)

キュゥべえは結界の中にあった巨大な机をよじ登った

糸が机の脚に巻き付いた
それから少し迷って、這い登るようにキュゥべえに迫っていく

QB(離れた位置からは見えたんだ…机の上に色んなものが置いてあるのが)

まもなく頂上にたどり着く

そこには裁縫用具が散らかっていた

QB(これを、ここから何とかして運び出す…!)

魔女の糸束がキュゥべえの尻尾の付け根を締め上げた

QB「…!」

引きずられながら耳の羽を巨大なハサミに引っ掛けるキュゥべえ

QB「重い…!!」

139 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:37:21.56 lDHYICvi0 79/307

ハサミを道連れに机から転落する

尚もキュゥべえを放さずにいた糸束の上に、ハサミが開いたまま重なった

ドンッ

床に突き刺さり、糸を断ち切る

魔女は悲鳴を上げ、ほむらを手放してキュゥべえを壁に叩き付けた

QB「あうっ!」
キュゥべえが壁際に散乱していたクッションの山の中に落ちていく


ほむら(助かったわ――)

カチッ――
糸から解放され、時を止める

手榴弾を投げつけ、魔女の頭上に飛び上がり、ガソリンを振り撒いた

――時が動き出す

糸でできた魔女の体にガソリンが染み込む
手榴弾が本体に当たり、直後、爆発した

スタッ
ほむら「……」

143 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:44:01.04 lDHYICvi0 80/307

結界が消える


QB「……」
キュゥべえが目を閉じたままうずくまっている

ほむら(…まさかこいつに助けられるなんて)

QB「うぅ…」
うっすらと目を開ける

QB(結界がなくなってる…)

ほむら「…」

QB「…!」

QB(暁美ほむら…!)

ほむら(一度逃げようとしたのに、引き返して私を助けた…
    騙そうとしているのなら、そんな回り道はしないはず…)

ほむら「…ひとまず、お礼を言わないといけないわね」

QB「お…お礼…?」

ほむら「ええ。助けてくれたお礼よ」

144 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:44:40.34 lDHYICvi0 81/307

QB「さっきのはただ…君が死んでしまったら、僕も助からないと思ったからであって…」

ほむら「私があなたを殺すかもしれないとは思わなかったの?」

QB「結界が閉じたら、誰かが助けに来るまで出られない…
   さやかを呼ぼうとも思ったけど、彼女はさっき契約したばかりで
   今回みたいな複雑な魔女と会わせるのは不安だったから…」

ほむら(やっぱり今までの奴とは違う…『感情がある』としか思えない)

ほむら「あなたの名前は?」

QB「…? 僕の名前は、キュゥべえ…(知ってるはずじゃ…)」

ほむら「それはあなた個人の名前? それとも同じ生き物と共有している名前?」

QB「……」

ほむら「…」

QB「一個体としては、番号で呼ぶことは可能だけど…」

ほむら「…あなたは正直者のようね」

QB「……」

ほむらは変身を解いた
ほむら「さっきは泣かしたりしてごめんなさい」

145 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:45:06.23 lDHYICvi0 82/307

QB「…泣き虫なんだ…」

ほむら「…あなたには、感情があるの?」

QB「……」

ほむら(何を考えているの…?)

QB「感情は、誰にでもあるんだよね…」

ほむら「…そうよ。私達人間は感情の生き物。物事を感じ取る媒体」

QB「人間は何の為に生きてるのかなぁ…」

ほむら「…少なくとも、あなた達に利用される為ではないはずよ」

QB「…本当はね、もう魔法少女とは関わりたくないんだ」

ほむら「…?」

QB「少女達の悲しい顔、見たくないんだよ…」

ほむら「……」

QB「君の言った通り、僕には感情がある…この個体だけ特別に…
   これまで僕が見て来た世界では、感情というもの自体が、症例の少ない病気でしかなかった
   僕自身もそう思ってる…。感情は病気だ。いつも苦しくて、苦しくて、本当に嫌になる…」

146 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:45:35.25 lDHYICvi0 83/307

ほむら「魔法少女は、その苦しみが限界を超える時、魔女として生まれ変わる」

QB「…!」

ほむら「そんな残酷な運命を人に植え付けて回っているのがあなた」

QB「…知ってたんだ…」

ほむら「ええ」

QB「…憎まれて当然だ」

ほむら「わかってもらえたならいいわ。鹿目まどかには、もう構わないで」
歩き出すほむら

QB「…暁美ほむら」

ほむら「まだ何か?」

QB「…悔しいけど…それは約束できない」

ほむら「何ですって…」

QB「ほむら…君はなぜ、そこまでまどかを契約させたくないんだい…?」

ほむら「…あなたには関係のないことよ」

QB「僕は部外者じゃない…当事者だ」

150 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:57:29.97 lDHYICvi0 84/307

ほむら「借りは作ってしまったけれど、どうしても譲らないつもりなら…
    私は、あなたを敵と見なす」

QB「グリーフシードが目当てだと思ってた…
   君は単にまどかの素質に気が付いてて、強すぎるライバルが現れるのを
   恐れているだけだと思ってた…」

ほむら「…」

QB「だけど、根拠はないけど、本当は違うんじゃないかって、思い始めた…」

ほむら「興味本位で立ち入った質問をするべきじゃないわ」

QB「僕の目的を果たす為にも知っておきたいんだ…きっと君の協力が必要になるから…」

ほむら「論外ね」

QB「……」

ほむら「まどかを魔法少女にすることがあなたの目的なら、それを食い止めることが私の目的
    条件も何もない。協力も妥協もしない。絶対に」

QB「…わかった」

ほむら「本音を言わせてもらうと、少し残念だわ…
    命の恩人であるあなたと、これからも敵同士であり続けなければならないこと」

152 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:58:38.49 lDHYICvi0 85/307

QB「…1つだけ、頼んでもいいかな。さやかのことなんだけど…」

ほむら「……?」

QB「さっきも言ったように、さやかは未熟だ。それに、魔法少女には向いてない気がする…
   できる限りでいいから、彼女を守ってあげてくれないかな…」

ほむら「…こうなってしまった以上、美樹さやかの運命は既に決定付けられたも同然
    契約したのはあなたよ。もう私には、彼女をどうすることもできない」

QB「…言い訳はしないよ」

ほむら「ええ。聞いてあげるつもりもないわ」

ほむらは立ち去った
今度は引き止めなかった

QB「……」

153 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:58:59.38 lDHYICvi0 86/307

QB(情報を整理しよう…。彼女は妙に事情に詳しかった
   一通り調べるだけではあんな風にはなれないだろう…
   何かを一方的に感知する能力があるんだろうか…テレパシーを傍受するような…
   あるいは未来予知のようなもの…?

   いや、それならさっきの魔女の攻撃も事前に予知してかわせたはず――
   だけど無いとも言い切れないな…魔力の消耗を抑える為に
   普段は能力を封印しているとしたら…)

ふと、連れ去られる前のことを思い出す

QB(そうだ…ほむらはあの時、瞬間移動のような技を使った…
   あれがほむらの能力なのか…? 『神出鬼没にどこにでも現れる能力』…?
   そうしていつもどこかから僕を見ているのか…?)


154 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/19(月) 23:59:25.20 lDHYICvi0 87/307

―――――――――――
――翌日、展望台

杏子「遅かったじゃん。せっかく来たんだから出迎えぐらいしろっつーの」

QB「ごめんね。ゆうべはちょっと忙しくて」

QB(まさか君が来るとは…)

杏子「ふーん」
ワッフルを食べながら双眼鏡を覗いている

杏子「で、1つ聞きたいんだけどさー。あの子は一体何なんだよ?」

QB「…青い髪の子かい?」

杏子「マミの奴がくたばったって聞いたからわざわざ出向いてやったのに、
   なんで既に他の魔法少女がいるんだよ」

QB「あの子とは契約するつもりはなかったんだけど…泣き落としされちゃって」

杏子「しかし、こんな絶好の縄張り、あんなぽっと出のひよっこに
   あっさり明け渡しちまうってのは気に入らないなー」

QB「…どうする気だい?」

杏子「決まってんじゃん。要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょ? その子」

156 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:02:53.60 Z1bJNAI/0 88/307

QB「本気かい?」

杏子「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんな奴。それとも何?
   文句あるってんだ? あんた」

QB「…それだけは勘弁してくれないかな…」

杏子「ああ?」

QB「実は訳あって、彼女に死なれると非常に困るんだ…
   無理を承知でお願いすると、君にはむしろ、さやかを守ってほしいんだ…」

杏子「……」

QB「駄目、だよね…」

杏子「バーッカじゃないの? そんなことしてあたしに何の得があるってのさ」

QB(どうしよう…杏子と本気でぶつかったら、さやかに勝ち目はない…
   マミがいない今、杏子を止められる人がいるとしたら、まどかか…)

杏子「…? 何難しい顔してんのさ」

QB(…暁美ほむら…)

QB「…全て君の思い通りに行くとは限らない。この町にはもう1人魔法少女がいる…」

157 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:03:14.31 Z1bJNAI/0 89/307

QB(昨日はああ言っていたけど、意外と情に厚い所があるように見えた…
   さやかが危なくなったら、僕に借りを返しに来るかもしれない…)

杏子「へぇ。何者なの? そいつ」

QB「僕にもよくわからない…」

杏子「はぁ? どーいうことさ。そいつだってあんたと契約して魔法少女になったんでしょ?」

QB「そう考えるしかないのは確かだけど…不思議なことに、僕にはその記憶がないんだ」

杏子「……」

QB「あの子は極めつけのイレギュラーだ…どういう行動に出るか、僕にも予想ができない」

杏子「フン、上等じゃない。退屈すぎても何だしさ。ちっとは面白みもないとねぇ」
ワッフルの最後の一口を口に放り込み、歩き出す

QB「…13日だけでいい」

杏子「…?」

QB「13日の間だけ、待ってほしい…守ってくれとは言わない
   ただ、手を出さないであげてほしい…」

杏子「…あんた、キュゥべえだよね」

QB「え…?」

158 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:03:40.56 Z1bJNAI/0 90/307

杏子「なんか、性格変わりすぎじゃない? ちょっと見ない間にさー」

QB「そうかな…」

杏子「そのさやかって奴に惚れてんじゃねーの?」

QB「それは違う…」

杏子「13日後に何がある訳?」

QB「悪いけど、今は言えない…だけど、その後は君の好きなようにしていい…
   もう、口出しはしない」

杏子「……」

QB「……」

杏子「あんたもそんな顔するんだなー」

QB「…?」

杏子「まぁ、そこまで言うなら考えてやってもいいけど。あたしも鬼じゃねーし」

QB「本当かい?」

杏子「ああ。ただし、もし向こうから喧嘩吹っかけて来たら、そん時は知らねーよ」

159 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:04:08.50 Z1bJNAI/0 91/307

QB「それなら大丈夫だ。僕からも釘を刺しておく」

杏子「あたしは例の『イレギュラー』って奴と遊んでるとするか。別にいいでしょ?」

QB「…構わない。けど、気をつけて」

杏子は後ろ向きに手を振って歩いていった

QB(よかった…)





―――――――――
その後

さやかがまどかとキュゥべえを連れてパトロールをしている

さやか「――あたし馬鹿だから、1人だと無茶なデタラメやらかし兼ねないし、
    まどかもいるんだって肝に銘じてれば、それだけ慎重になれると思う」

QB「…そっか。うん、考えがあってのことならいいんだ」

160 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:04:38.16 Z1bJNAI/0 92/307

QB(まどかがさやかに付き添うことは、チャンスにもピンチにもなり得る…
   マミがやられた時、まどかは完全に震え上がってしまった

   まして親友であるさやかがああなったら、きっと僕の声なんて聞こえないだろう…
   チャンスが来るとしたら、それはほんの一瞬だ…
   だから躊躇するな…! さやかを想うまどかの気持ちを、『利用』することを…!)

QB「…ところでさやか、君に1つ言っておきたいことがある」

さやか「え? 何?」

QB「この町に、君達の知らない魔法少女が来た。ベテランだけど、マミと違って好戦的な子だ」

さやか「ん…」

QB「というか、ちょっと事情があって、グリーフシードを集めることに必死なんだ
   それで、ライバルである君の存在をあまり快く思ってくれていない…」

さやか「それってつまり…」

QB「ああ…ここに来た時、君をやっつける気でいた」

さやか「…!」

まどか「え…!?」

162 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:05:01.11 Z1bJNAI/0 93/307

QB「だけど安心してくれ。さっき彼女と会って、君に手を出さないようにお願いしておいた
   君から仕掛けない限り、特に問題ないだろう」

さやか「ほっ…」

QB「そんな訳だから、くれぐれも噛み付いたりしないでくれよ」

さやか「なーんだ、脅かさないでよ。大丈夫大丈夫、あたしがそんなことする訳ないでしょう?」

QB「ははは。わかってはいるけど、君にもちゃんと言っておくって約束したからね」

まどか「よかった…」

さやかのソウルジェムが反応する

さやか「ここだ…」


――景色が変わった

QB「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔のものだろう」

さやか「楽に越したことないよね。こちとらまだ初心者なんだし」

QB「なんだか君は本当に頼りないな。油断は禁物だよ」

さやか「わかってる」

163 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:05:24.09 Z1bJNAI/0 94/307

ポコッ

後方から飛んで来た小さなボールが地面で跳ねた

さやか「!?」

無数のボールを引き連れた使い魔がラジコン飛行機に跨って頭上を通り過ぎた

まどか「来てるよ!」

さやか「任せて」

――変身

さやかが数本の剣を召還し、次々と使い魔に投げつける

キンッ キンッ

唐突に現れた魔法少女が空中の剣を叩き落した

さやか「!?」

QB(杏子…)

使い魔が逃げていく

杏子「ちょっとちょっと、何やってんのさ。あんた達」

164 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:05:44.47 Z1bJNAI/0 95/307

まどか「逃がしちゃう!」

使い魔を追いかけるさやか

杏子がさやかの喉元に槍を突きつけた

さやか「…!」

QB「杏子!」

杏子「見てわかんないの? あれ魔女じゃなくて使い魔だよ
   グリーフシードを持ってる訳ないじゃん」

さやか「だって、あれほっといたら、誰かが殺されるのよ!?」

杏子はたいやきを食べ始めた

杏子「だからさ…4~5人ばかり食って魔女になるまで待てっての
   そうすりゃあちゃんとグリーフシードを孕むんだからさ
   あんた、卵を産む前の鶏絞めてどうすんのさ?」

さやか「魔女に襲われる人達を…あんたは、見殺しにするって言うの!?」

QB「よすんだ、さやか! 彼女が例の魔法少女だ。落ち着いて、ここは引き下がるんだ!」

さやか「! …あんたなのね、あたしを狙ってたってのは…」


165 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:06:05.02 Z1bJNAI/0 96/307

杏子「…キュゥべえ。どういうことさ? ちょっと話が違うんじゃねーの?」

QB「さ、さやか…お願いだから手向かわないで…!」

杏子「キュゥべえは何て言ったのかな? あたしと会ったらどうしろって言われた?」
さやかに詰め寄る杏子

さやか「うっ…」

杏子「ま、身の程わきまえろってこった。遊んでほしくなったらいつでもかかっておいで」

杏子が背を向ける

QB(ふぅ…。全く肝が冷えるよ…)

さやか(…あの転校生といい、こいつといい…魔法少女ってこういうもんなの?
    グリーフシードの為に平気で人を見殺しにするような奴らなの…!?
    許せない…こういう奴のせいで、マミさんは…!!)

さやか「だあああああああああ!!」

さやかが杏子に後ろから斬りかかる

QB「なっ…!!」

まどか「!?」

167 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:06:27.12 Z1bJNAI/0 97/307

杏子は後ろ向きのまま槍で受け止めた

さやか「くっ…!」

杏子「はーあ。あんたさ、ひょっとして…」
たいやきの最後の一口を食べて中途半端に振り返る

杏子「…馬鹿?」

さやか「…あんたみたいな奴がいるから、マミさんは!」

QB「さやか! もういい、帰ろう! 不意打ちなんてどうかしてるよ!」

杏子がまどかとキュゥべえの前にバリケードを張った

杏子「うぜぇ…超うぜぇ! せっかくアドバイスしてやったっつーのに
   あんたは人としての礼儀もわかんねーのか?」

さやか「黙れ!!」

杏子「キュゥべえには悪いけどさー。やっちゃっていい? この子
   よっぽど殴られたいみたいだし、あたしも我慢の限界なんだわ」

QB「まずい…!」

さやか「うああああああ!!」

先に仕掛けたのはさやかだった

181 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:39:55.84 Z1bJNAI/0 98/307

杏子は造作もなく打ち返し、本格的に攻撃を始める

キン キン バチッ

防ぐのがやっとのさやか

杏子「チャラチャラ踊ってんじゃねーよウスノロ!」

さやか「くっ…負けるもんか!!」

まどか「どうして…。ねぇ、どうして? 魔女じゃないのに…
    どうして味方同士で戦わなきゃならないの…?」

QB「……」

まどか「お願い、キュゥべえ…止めさせて…! こんなのってないよ…!」

QB(どうしてこうなるんだ…杏子は戦う気なんてなかったのに…
   こっちから絡んだりしないって約束したじゃないか…!)

QB「…さやか! いい加減にしてくれ! 杏子に謝るんだ!」

キン キン ドゴッ

さやか「うっ…! …あんたはどっちの味方なのさ! キュゥべえ!!
    こんな最低な奴に頭下げろっていうの!?」

182 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:40:17.33 Z1bJNAI/0 99/307

杏子「口が減らないね。しょうがないから二度と喋れないようにしてやるよ!」

さやか「!!」

バキッ

QB(さやかの回復力は抜群だ…。だけど、杏子の攻撃力はそれを凌駕している…
   お互いここまで熱くなってしまった以上、どっちかが倒れるまでやめてくれないだろう…
   下手をすると、さやかは魔力が尽きて――!)

QB「まどか…」

まどか「何…?」

QB「これまでだ…。もう、君がやらなきゃ、さやかは殺されてしまう…」

まどか「……!」

QB「僕を赦してくれとは言わない…僕のせいなのに、僕には2人を止めることはできない…!」

まどか「……」
涙目になるまどか

QBは強く目を閉じた

QB「だから――!」

出かかった言葉が喉に詰まる

184 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:40:41.60 Z1bJNAI/0 100/307

QB(…!? ――なぜ言い出せない…! 絶好のチャンスが来てるじゃないか…!
   まどかがかわいそうか? そう思わない為に深入りは避けて来ただろう
   卑怯? それが何だ…気にしてる場合か…! まどかは最高のエネルギーだ
   それ以外の何だというんだ! 契約する…これで全て終わる…! これで楽になれる…!)

QB「け…」

バキッ ドカッ

QB「契約してくれ…! まどか、君が今ここで魔法少女になって、2人の仲裁に入るんだ…!
   彼女達を止められるのは、強い魔法少女だけだ…!」

まどか(…そうだ…。私が契約すれば…!)

杏子がさやかの足を薙ぎ払う

さやか「うわ!」

ドサッ

杏子「終わりだよ」

杏子が渾身の攻撃に入った

まどか(さやかちゃん…!)

まどか「私…!」

185 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:41:00.63 Z1bJNAI/0 101/307

ほむら「それには及ばないわ」
ほむらがどこからともなく現れる

まどか「…!?」

QB「ほむら…!」

ドゴーン

杏子の一撃でコンクリートの地面が砕けた

杏子(消えた…!?)

さやか「……?」

まどか「ほむら…ちゃん…」

杏子「…! な、何しやがったテメェ!!」

ほむらに槍を向ける杏子。そこにほむらはいない

杏子「!?」

ほむら「……」

ほむらが背後から杏子を見つめている

186 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:41:18.69 Z1bJNAI/0 102/307

杏子「!!」

向き直って警戒する杏子

杏子「そうか…あんたが噂の『イレギュラー』って奴か
   探してたんだよね。退屈しのぎの相手にさ。それにしても、妙な技を使いやがる…」

さやか「くっ…邪魔するな!」

ほむらはさやかの後ろに出現し、首に手刀を入れた

さやか「ッ……!」

バタ

杏子がバリケードを解く

まどか「さやかちゃん!」

倒れたさやかに駆け寄るまどか

QB「…大丈夫、気絶しているだけだ」

杏子「…何なんだあんた? 一体誰の味方だ」

ほむら「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵
    あなたはどっちなの? 佐倉杏子」

188 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:41:38.98 Z1bJNAI/0 103/307

杏子「な…! …どこかで会ったか?」

ほむら「さぁ。どうかしら」

杏子(こいつ…タダモンじゃなさそうだ。今んとこ、全てが未知数…
   手品の種なんてのは蓋を開けてみりゃあくだらないもんだけど…
   何もわからないまま突っ込んで行ったら一杯食わされるかもしれない…)

QB(杏子のことまで知っている…!? 杏子はこの町に来たばかりなのに…
   一体いつ、どうやって調べたっていうんだ…?
   こんなこと、特殊能力を複数持ってでもいない限り、できるはずない…!)

睨み合う杏子とほむら

杏子「……」

ほむら「…」

杏子「…手札がまるで見えないとあっちゃねぇ。今日のところは降りさせてもらうよ」

ほむら「賢明ね」

杏子はビルの上に飛び去った

ほむら「…」

QB「…ありがとう…ほむら」

189 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:42:00.71 Z1bJNAI/0 104/307

ほむら「お礼を言われる覚えはないわ。頼みを聞き入れた訳でもない
    まどかと契約する口実を、あなたに与えたくなかっただけ」

QB「……」

ほむら「鹿目まどか。一体何度忠告させるの? どこまであなたは愚かなの?」

まどか「! ……」

ほむら「あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もう散々言って聞かせたわよね」

まどか「…私は」

ほむら「愚か者の相手なら、私は手段を選ばない」

まどか「…!」

QB「…まどかを怖がらせないであげて」

ほむら「脅しのつもりはないわ。あなたには、それが伝わったはずよ。キュゥべえ」

去っていくほむら

まどか「ほむらちゃん…どうして…」


190 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:42:19.98 Z1bJNAI/0 105/307

――――――――――――
――夜。さやかの部屋

ソウルジェムを浄化するさやか

QB「これでまたしばらくは大丈夫だ」

さやか「うわぁ…真っ黒」
グリーフシードを眺めながら

QB「もう危険だね。これ以上の穢れを吸ったら、魔女が孵化するかもしれない」

さやか「え…!?」

QB「大丈夫。貸して」

受け取ったグリーフシードを体に取り込むキュゥべえ

QB「キュップイ…これでもう安全だ」

さやか「食べちゃったの?」

QB「あはは、ちょっと違うかな…。それより、また次にソウルジェムを浄化する為には
   早く新しいグリーフシードを手に入れないと」

さやか「これを綺麗にしておくのって、そんなにも大切なことなの?」

QB「…うん…すごくね…。あ、ほら。佐倉杏子は強かっただろう?」

191 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:42:36.03 Z1bJNAI/0 106/307

さやか「…」

QB「余力が沢山ある分、魔力を出し惜しみせずに攻めることができる。それが杏子の強みだ」

さやか「だからって…グリーフシードの為に他の人を犠牲にするなんて…」

QB「杏子にも、彼女なりの事情がある。君は初対面であんな風になってしまったけど
   あの子を悪く思わないでほしい…」

さやか「事情ねぇ…ううん。あいつに何があったか知らないけど
    他人を食い物にしていい理由なんてある訳ない!」

QB(あの子は、普通の生き方はできなかったんだよ…
   他にもやりようはいくらでもあったに違いないけど、
   僕にもさやかにも、杏子を非難する資格はないと思う…)

QB「いずれにしろ、魔法少女とグリーフシードは切っても切れない関係にある
   君がこれを集められない限り、杏子と戦っても勝ち目はないだろう」

さやか「はぁ…なんだかなー…
    …マミさんだって、充分なグリーフシードを持ってた訳じゃないんでしょう?
    でも、ちゃんと戦えてたよね。やっぱあれ? 才能の違いとかあるの…?」

QB「そうだね。それだけじゃなく、君は能力の特性上、普通に戦っているだけで
   他の子達より多くの魔力を消耗する傾向がある
   君の傷は放っておいてもすぐに治るだろう? それが原因の1つとなってしまっている」

さやか「うぅ…。ずるーい! 不公平だー!」

192 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 00:42:55.10 Z1bJNAI/0 107/307

QB「こればっかりは仕方ないよ。何にでも個人差はある。杏子は素質がある上にベテランだし…
   逆に、まどかは契約した時点で杏子くらいでは太刀打ちできない魔法少女になるだろう」

さやか「前にも言ってたね…。あのまどかがねぇ…」

QB(何度もチャンスはあったのに、僕はまだこんなことをやっている…
   後回しにしたって何の意味もないのに…
   …そうだ。さやかに後押ししてもらおう…僕1人では、荷が重い…)

QB「そこでなんだけど…こういうのはどうかな
   君が単独でグリーフシードを集めるのは難しいし、杏子やほむらといった難敵もいる
   それでも、まどかの協力があれば、どんな戦いもずいぶん楽になるはずだ
   だから、僕と契約してくれるように、君から頼んでみてもらえないかな…」

さやか「ううん、駄目! …これは、あたしの戦いなんだ。あの子を巻き込む訳にはいかない…」

QB(…甘かったか…。逃げてばかりじゃ駄目なんだよなぁ…)

QB「…そっか。ごめんね。汚い仕事押し付けようとして…」

さやか「え? 何よそれ」

QB「……。大した意味はないよ。まどかと契約したいのはやまやまだけど、
   魔法少女の苦悩を沢山見て来たから、自分で頼むのは気が進まなくて」

さやか「へぇー」

200 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:01:17.21 Z1bJNAI/0 108/307

さやかが急にキュゥべえを抱き上げる

QB「うわ!」

さやか「やっぱあんたっていい子だよねー! ちっちゃい体して憎いなーこのこのー!」

QB「……」

QB(…どうして…?こんな風に誤解されるのが嫌で…
   友達と思われるのが嫌で、仲良くならないように気をつけてたのに…
   君には冷たいことだって沢山言ったじゃないか…なのにどうして…?)

QB「……」グスン

さやか「って、あれ…? あぁ、ご、ごめん、痛かった!?」

QB(…いいさ。笑うよ)

QB「ひどいよー! さやかは限度ってものがわかってないんだから!」

さやか「あはは、ごめんって」

QB「あはは」

QB(もう取り返しはつかない…。これはせめてもの罪滅ぼしだ…)



202 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:05:47.01 Z1bJNAI/0 109/307

―――――――――
――2日後

さやかがキュゥべえを連れて恭介の家に向かっている

QB「本当について行っていいのかい」

さやか「ただちょっと話しに行くだけだから。それに、今更コソコソすることないでしょ
    あたしとキュゥべえの仲なんだし」

QB「…そっか」

恭介の家の前

さやかがインターホンに手を伸ばしたところで
バイオリンの音が聞こえ出す

さやか「あ…」

QB「……」

聞き入るさやか

QB(恭介が弾いているんだろうか。さやかには、音だけで誰の演奏かわかるのかな…)

さやかがキュゥべえに笑いかける

203 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:09:07.23 Z1bJNAI/0 110/307

QB「……」
曖昧に笑い返した

さやか「…帰ろっか」

QB「え? いいのかい? 会わなくて」

さやか「うん…恭介のバイオリン聴けただけで、あたしは満足だよ
    今は邪魔しないでおきたいから…」

QB「わかった」

さやかが振り返る

杏子「…」

杏子が見ていた

さやか「…!」

杏子「会いもしないで帰るのかい? 今日一日追いかけ回したくせに」

QB「杏子…どうしてここに?」

杏子「ちょっとそいつの面倒見てやろうと思ってさ。使い魔なんか探したりして
   魔法少女っつーものが何なのか、まだ全然わかってないみたいだからねぇ」

QB「…さやかなら、大丈夫だ…!」

205 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:12:15.16 Z1bJNAI/0 111/307

杏子「なんであんたまでそんな怖い顔してんのさ? 別に取って食いやしねーよ」

さやか「何を言いに来たのよ」

杏子「キュゥべえから聞いたよ? この家の坊やなんだろ。あんたが契約した理由って」

さやか「…!」

QB「杏子! からかったりさせる為に教えたんじゃない!」

杏子「わかってるわかってる。あたしはただ先輩としてお説教しに来たんだ」

さやか「……」

杏子「全く。たった一度の奇跡のチャンスをくっだらねーことに使い潰しやがって」

さやか「く…! お前なんかに何がわかる!」

杏子「わかってねーのはそっちだ、馬鹿。魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを
   叶える為のもんなんだよ。他人の為に使ったところでロクなことにゃあならないのさ
   …巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」

さやか「…!!」

QB(何を…! …いや、落ち着け。杏子はさやかが憎くてこんなことを言ってるんじゃない…
   そう、落ち着け…ここで僕が冷静でいないでどうするんだ…)

杏子「惚れた男をモノにするなら、もっと冴えた手があるじゃない。せっかく手に入れた魔法でさ」

206 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:15:32.29 Z1bJNAI/0 112/307

さやか「…何?」

杏子「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな
   あんた無しでは何もできない体にしてやるんだよ
   そうすれば坊やは今度こそあんたのモンだ。身も心もぜーんぶね」

さやか「…くっ…!」

杏子「気が引けるってんならあたしが代わりに引き受けてもいいんだよ?
   同じ魔法少女のよしみだ。お安い御用さ」

さやか「…赦さない」

QB「杏子!!」

杏子「?」

QB「言いすぎだ! 撤回してくれ!」

杏子「……」

さやか「キュゥべえ…」

QB「君が本当に言いたいことは、僕にはわかる…
   だけど、さやかに対してそんな皮肉はないだろ! ひどすぎるよ!」

杏子「…はぁ?」

207 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:19:01.62 Z1bJNAI/0 113/307

QB「…! さやか、怒らないでくれ…。杏子は本気じゃない。本当は君の為を思って――」

杏子「あのさぁ」

QB「…?」

杏子「しょーじき、ムカつくんだわ。こいつ
   甘ったれて生きて来ましたってのがモロに伝わって来るんだよね
   言っとくけどあたしは本気だよ? 何だったら今すぐにでも――」

さやか「殺してやる…」

QB「さ…さやか…!」

さやか「お前なんか、いなくなっちゃえばいいんだ!!」

杏子「…ほーう。言っちゃったね。いい度胸じゃん。あんだけやられてもまだわからないなんて、
   あんたよほど物分りが悪いんだねぇ」

QB「さやか、いけない。怒っちゃ駄目だ…!」

さやか「望むところよ…今度こそ終わらせてやる…!」

QB(駄目だ、聞いてない…! さやかはいつもこうだ…カッとなると周りが見えなくなる…
   杏子もどうしてそこまでさやかに突っかかるんだ…!)

杏子「場所変えようか。ここじゃ人目につきすぎる」

209 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:22:02.09 Z1bJNAI/0 114/307

―――――――――
――まどかの部屋

QB(まどか――)

まどか「ん?」

QB(まどか!)

まどか「え?」

窓辺からキュゥべえが覗いている

QB(急いでくれ…さやかが杏子と決闘しようとしてる)

まどか「ええ!」

QB(何度も申し訳ないけど、僕には止められないんだ…。ついて来て)


211 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:25:15.02 Z1bJNAI/0 115/307

――歩道橋の上

杏子「ここなら遠慮はいらないよね。いっちょ派手に行こうじゃん」

チョコプレッツェルをくわえたまま変身する杏子

さやか「…」
さやかがソウルジェムを掲げる

まどか「待って! さやかちゃん!」
まどか達が駆け付ける

さやか「まどか!? 邪魔しないで、そもそもまどかは関係ないんだから」

まどか「駄目だよこんなの、絶対おかしいよ…!」

杏子「フン、ウザい奴にはウザい仲間がいるもんだねぇ」

ほむら「――じゃああなたの仲間はどうなのかしら」

杏子の背後にほむらが現れる

杏子「!」

ほむら「話が違うわ。美樹さやかには手を出すなと言ったはずよ」

杏子「あたしはその気はなかったんだけど、あいつがやたら刃向かって来るから…」

213 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:29:18.83 Z1bJNAI/0 116/307

ほむら「それなら私がおとなしくさせるわ。手出ししないで」

杏子「…フン。じゃあこいつを食い終わるまで待ってやる」
くわえたプレッツェルを指差す

ほむら「充分よ」

QB(ほむらと杏子がグル…!?)

さやか「ナメるんじゃないわよ!」

まどか「…さやかちゃん、ごめん!」

まどかがソウルジェムを奪って橋から投げ捨てた

ポトッ

下を通りかかったトラックの幌に乗って運び去られていく

QB「あ!!」

ほむら「!」

ほむらが消えた

さやか「…! まどか、あんた何てこと…!」

214 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:31:08.12 Z1bJNAI/0 117/307

まどか「だって、こうしないと――」

さやかがぐったりとまどかにもたれかかった

まどか「え…? さやかちゃん…?」

QB(まずい…いや、まずいどころじゃない…! 大変なことになってしまった…!
   まどかがソウルジェムの秘密を知る…! 終わりだ…何もかも…!)

まどか「どうしたの…? ねぇ、さやかちゃん? 大丈夫?」

杏子「…?」

杏子が駆け寄ってさやかの脈を取る

まどか「や、やめて!」

杏子「…!? …どういうことだおい…! こいつ、『死んでる』じゃねーかよ…!!」

まどか「!?」

QB(嘘だ…嘘だよね…。こんなことになるなんて…。最悪だ……
   嘘だろう…? 待ってくれ…これは、現実なのか…? 夢だろう…!?)

まどか「さやかちゃん…? ねぇ、さやかちゃん…! 起きて…? ねぇ…!
    ねぇ、ちょっと…どうしたの? ねぇ…! 嫌だよこんなの! さやかちゃん!」

221 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:43:29.32 Z1bJNAI/0 118/307

杏子「何がどうなってやがんだ…?」

QB「……」

杏子「おい!」

QB「う…うぅ…」

杏子「なぁ、何なんだよこれ! テメェ何か知ってんだろ!? 答えろよ!!」

杏子がキュゥべえを掴み上げる

QB「うっ…!」

QB(どうしよう…どうしたらいい…? 何て言えば納得してもらえるんだ…?)

QB「これは…」

QB(『納得』…? 何を考えているんだ…ふざけている場合じゃないだろう…!
   今やるべきことは、一刻も早く――)

杏子「おいったら!!」

QB「…ソウル…ジェムを…」

杏子「あ!?」

QB「ソウルジェムを取り戻さないと…!」

223 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:46:59.22 Z1bJNAI/0 119/307

杏子「何言ってんのか聞こえねーよ!」

QB「は、早く!! さやかのソウルジェムを取り戻さないと!
   行方がわからなくなってしまう!!」

杏子「質問に答えろ! さやかはどうなっちまったんだよ!」

QB(会話にならない…!)

QB「手を放して!」

杏子「ごまかすんじゃねぇ!」

QB「今すぐ放せ!!」

投げつけるように乱暴に解放する杏子

QB「あぐっ!」

潰れたままトラックの去った方に目を凝らす

QB(まだ見えるはずだ…僕の目になら。人間だったら双眼鏡が必要になってしまう…
   トラックのナンバーを見るんだ…所有者に連絡して、行き先を調べるんだ…!
   絶対に…絶対に壊さないように沢山お願いして…! 無事に取り返すんだ…!!)

トラックはとっくにカーブを曲がって見えなくなっていた

QB(そんな…!)

227 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:51:02.35 Z1bJNAI/0 120/307

ジャキ

QB「!?」

杏子がキュゥべえの顔に槍を突きつけている

杏子「何してんだこら…!」

QB「…!」

QB(どうして……!)

QB「杏子…」

杏子「…」

QB「君達魔法少女は…ソウルジェムで肉体を操っている…」

杏子「…!?」

QB「魔力の届く範囲は…多く見ても100メートル程度だ…」

まどか「何言ってるのよキュゥべえ! 助けてよ! さやかちゃんを死なせないで!」

QB「…まどか…」

QB(落ち着け…。まだ手遅れって決まった訳じゃないんだ…そうだよね…?)

231 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:56:16.58 Z1bJNAI/0 121/307

QB「まどか…さやかは、死んでない…」

まどか「え…?」

QB(だけど、トラックはどこへ行ったんだ…? 手がかりも何もないのに、
   見つけ出せるのか…!? いや、トラックが見つかったとして、
   肝心のソウルジェムが道に転がってしまっていたら…!?)

QB「えっと…」

杏子「どういうことだよ!」

QB「それは…その…少し違うんだ…」

QB(! ほむらは…!?)

QB「ぐ、具体的に…説明する…」

杏子「…」

QB「魔法少女は、生身じゃないんだ…。魔女と戦う為に、肉体が傷ついて壊れても、
   死なないように…魂を取り出して、ソウルジェムに変える…。それが、『契約』…」

杏子「な…!」

まどか「…!」

232 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:59:20.76 Z1bJNAI/0 122/307

QB「ソウルジェムは…文字通り、魔法少女の魂…命そのものだ…
   だから、なくしたり砕かれたりすると…体は抜け殻になってしまう…」

杏子「…ふざけんじゃねぇ!! それじゃああたし達、ゾンビにされたようなもんじゃねーか!」

QB「…こ、これが、魔法少女が『強い』理由の1つなんだ…
   魂が、肉体と別の場所にあるから…致命傷を負っても、
   魔力で治すことさえできれば、今まで通り…戦える…」

まどか「…ひどいよ…こんなの、あんまりだよ…!」

さやかの体にすがって泣きじゃくるまどか

QB(もう駄目だ…こんなに泣いてる…。まどかはもう、諦めるしかなくなってしまった…
   僕のやって来たことは、『間違い』だった…。全て水の泡だ…
   こんな結末の為に、無関係だったさやかまで…)

死んださやかの目を見る

QB(さやか――!)

ピト

ほむら「……」

戻って来たほむらが、ソウルジェムをさやかの手に乗せた

QB(ほむら…?)

233 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 01:59:52.70 Z1bJNAI/0 123/307

さやか「…はっ」

息を吹き返す

まどか「!」

杏子「!?」

起き上がって周りを見るさやか

さやか「…何?」

キュゥべえは飛びつくようにさやかの服にしがみついた

さやか「えっ?」

QB「……」
体が震えている

さやか「キュゥべえ? ちょっと、どうしたの?」

QB「……」

234 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:00:13.95 Z1bJNAI/0 124/307

さやか「…あれ…泣いてる?」

QB(僕は…さやかに何を言いたいんだろう。謝りたいのか…?)

まどか「キュゥべえ…」

杏子「な…」

QB「……」

さやか「ど、どうしたのよ? っていうか、あたし、今何してた…?」





235 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:00:41.35 Z1bJNAI/0 125/307

―――――――――――
――さやかの部屋

ガチャ

部屋に入って机の上にソウルジェムを転がすさやか

さやか「…騙してたのね、あたし達を」

QB「……」

さやか「なんで教えてくれなかったのよ」

QB「……」

さやか「…答えてよ」

QB「…ごめん」

机に突っ伏して泣き出すさやか

QB「…本当にごめん…。あの話を先にしなかったのは、こっちの勝手な都合だよ…」

さやか「……」

QB「…さやか」

さやか「…話しかけないで」

238 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:03:11.40 Z1bJNAI/0 126/307

QB「…僕は、君を魔法少女にしてしまった。恨まれるのは、覚悟の上だった…」

さやか「……」

QB「…初めからわかってたのに…。それでも、君と契約してしまった…」

さやか「…」

QB「…ごめんね」

音を立てないように去っていくキュゥべえ

さやか(『ごめん』? 謝って済むことじゃないでしょ…!
    キュゥべえはどうしてあたし達をこんな目に遭わせるの? なんでこんな体にしたの?
    あんたのこと信じてたのに…!)

顔を伏せたまま拳を握る

(QB『魔法少女になったら、君はきっと不幸になってしまう』)

さやか「……」

さやか(…そっか。こういう意味だったんだ。最低だよね
    そうやって前もってごまかしておけば『嘘は言ってない』って逃げられるもんね
    あんたは騙されたあたし達が悪いって思ってるの?)

さやか「……」

243 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:06:09.10 Z1bJNAI/0 127/307

さやか(……馬鹿じゃないの、あたし。何考えてるんだろ…。最低なのはあたしのほうだ…
    キュゥべえはずっと、契約したがるあたしを引き止めてたじゃんか…
    やめたほうがいいって何回も言われたのに、それでも無理に頼んだの、あたしじゃん…

    いつも何か考え込んでたのも、無理して笑ってたのも、
    それって…全部あたしが原因だったんじゃん…

    毎回あたしが馬鹿やる度に、キュゥべえは、あたしの代わりに悩んでたんだ…
    時々キツいことも言うけど、あいつはあたしみたいに八つ当たりしたことないし…
    なんでキュゥべえの気持ち、少しも考えなかったんだろ、あたし…)

机から少し顔を離す

さやか(キュゥべえに謝らないと…)

さやか「ごめん、キュゥべえ…。ちょっと、言いすぎた…」

返事はない

さやか「本当、ごめんって…」
振り向くさやか

キュゥべえはいない

さやか「……」

さやか(出てっちゃった…。…ひどいこと、したな…)

246 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:09:07.46 Z1bJNAI/0 128/307

―――――――――
――翌日の夜。ホテル一室

QB(悪い夢だったんだ――)

キュゥべえが窓から杏子を覗いている

QB(魔法少女と友達になるなんて、悲しいだけ…。全部、夢だったんだ
   みんなと一緒に過ごした目的は、幸せになることなんかじゃない…
   僕1人の感情なんか、どうでもいい…。宇宙全体の問題なんだ
   …いや、そもそも僕が、あの子達の笑顔を見たいと思うこと自体、おこがましい)

QB「杏子」

QB(僕は間違ってたんだ。僕は病気だ)

杏子「ん? …キュゥべえ…!」

ガラッ

杏子「何しに来たんだよ」

QB「伝え忘れたことがあってね」

杏子「何さ」

QB「まず、無意味なのはわかってるけど、きちんと謝らせてほしい…」

247 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:12:01.66 Z1bJNAI/0 129/307

杏子「…」

QB「黙っててごめん…あの頃の僕は、人の気持ちを全く理解できなくて…
   それで、やっとわかるようになっても、昨日の事故が起こるまで、ずっと言いづらくて…」

杏子「…フン。かしこまって何言い出すかと思えば、そんなことか
   そのことなら、あたしはもう割り切ることにしたから別にいいよ
   この体のおかげで好き勝手できてるんだしねー」

QB「それから、さやかのことなんだけど…」

杏子「…さやかなら、さっき会ったよ。お前に謝りたがってた」

QB「…」

杏子「お前にひどいことしちまったって。…そう言ってた」

QB「…さやかは、優しすぎる。僕があの子をどれだけ傷つけたか――」

杏子「あー、それについても話したんだけどさー。あいつは意外と前向きだよ
   まぁ、あたしとは正反対の方向にだけどな…」

QB「…そう。…本題に入るよ。簡単なことだけど」

杏子「ああ」

QB「あと、10日だったよね」

249 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:14:14.00 Z1bJNAI/0 130/307

杏子「…?」

QB「この間話したろう? 『13日間だけ見逃してくれ』って」

杏子「あぁ…あれのことか」

QB「あの話は無しだ」

杏子「ああ? 無しって何だよ。どういうことさ?」

QB「もう、さやかは君の好きにしていい。それだけ伝えに来た」

QB(まどかはもう…契約してくれないよ。魔法少女の本当の姿を見てしまったから
   危険な戦いだとか、魔法少女同士の抗争だとか、そんなレベルじゃないんだ…
   さやかの犠牲によって、まどかは救われてしまった…
   …そして僕は、数え切れないくらいの少女達に、まどかの肩代わりをさせなきゃならない)

杏子「おいおい、一体何なんだよ…。あ、ひょっとして…」

QB「?」

杏子「あれってワルプルギスに関係することか?」

QB「…『ワルプルギスの夜』…?」

杏子「ほむらの奴から聞いたんだけど、もうすぐあれがこの町に来るって…
   なんだ、お前知らなかったのか?」

251 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:17:29.25 Z1bJNAI/0 131/307

QB「そんな…信じられない。第一、なぜほむらにそんなことがわかるんだい?」

杏子「さぁね。あいつもそれは教えてくれなかった
   まぁそんなこんなで、1人では倒せるかわからねーから協力してくれって言われたんだ」

QB「それで仲間になっていたのか…」

QB(また謎が深まったな…情報が本当だとしたら、やっぱり予知能力を持っているんだろうか
   『瞬間移動』と『未来予知』…2つの特殊能力を併せ持つ魔法少女…?
   待てよ…1つの力を2つの目的に応用しているということは考えられないだろうか

   未来のことがわかって、尚且つゼロ時間で違う位置へ移動できる…
   …『ゼロ時間』? …時間を数値に置き換えると、未来はプラス、過去はマイナス…

   『ゼロ』はその中間…ほんの1秒も先でない、現在…この『瞬間』…『瞬間移動』…!
   もし時間を止めることができたら、それは可能になる…!

   そして、もし時間を進めたり戻したりできたら、擬似的に未来を知ることができる…
   …『時を操る能力』か…!?)


QB「杏子…、ワルプルギスの夜が具体的にいつ現れるか聞いているかい?」

杏子「聞いた時は『1週間後』って言ってた。あたしがさやかと戦った次の日にな」

QB「あと4日しかない…!?」

252 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:20:25.18 Z1bJNAI/0 132/307

杏子「なーに、慌てることねーよ。もし本当にワルプルギスが来たとしても、
   あたしとあいつで2人がかりなら何とか倒せるだろうしさ」

QB「そうだといいけど…」

QB(――どうして?)

杏子「さやかの奴が出しゃばんなきゃいいけどなー。あいつがいたらむしろ足手まといだ」

QB(ワルプルギスの夜が現れたら、この町は滅茶苦茶だ…
   だからって、なぜ、僕がそのことを気にする――?)

QB「……」

QB(杏子とほむらが共闘しても勝てるかどうか、ギリギリの相手だろう…?
   それなら、2人が負けたら、『どうなる』?)

杏子「…まだ気にしてんのか?」

QB「…いや」

QB(誰かが代わりにこの町を守らなければ、大惨事は免れないということになる…
   …あったじゃないか。否が応でも僕と契約せざるを得なくなるシナリオが…)

QB「…さやかのことなら、別に…」

255 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:24:06.80 Z1bJNAI/0 133/307

QB(そうだ…この話をまどかに知らせるんだ…まどかならワルプルギスの夜を倒せる…!
   これを利用すれば…いや、『するしかない』
   3人でワルプルギスの夜と戦うように言って…)

杏子「…ちょっとー? もしもーし。何ぼーっとしてんだ?」

QB「…そんなことないよ」

QB(違う…! 駄目だ、それでは『まどかはいざという時の最後の切り札』で終わる…
   手始めに2人だけで戦って、もし本当に勝った場合、まどかの出番は来ない…
   そしてチャンスは永遠になくなってしまう…!)

杏子「…やっぱ、お前変わったよ」

QB(わずか4日だ…4日以内に、何らかの方法でほむらか杏子、どっちかを排除するんだ…!)

QB「…変わってないよ」

杏子「いや、だって前と全然違うもん。なんか妙に哀愁漂ってるし」

QB「…僕は今までのままだよ。杏子」

QB(そうだよ…僕は人間を家畜程度にしか思っていない、
   感情の無い、単なる『インキュベーター』だ…!)



256 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:27:06.83 Z1bJNAI/0 134/307

―――――――――
――ワルプルギスの夜出現まで、あと3日

鉄塔の上から魔法少女達の動向を見張るキュゥべえ

QB(ソウルジェムを盗み出すのが一番手っ取り早いと思ったが…
   杏子はあれからずいぶん注意深くなったし、ほむらに至っては近づくこともできない…
   となると、ワルプルギスの夜が来る前に危険な魔女を見つけて
   杏子に討伐を依頼してみるのが妥当か…)

QB「……」

QB(とても現実的ではないな…。いっそ、戦いの隙を突いて
   僕の手でソウルジェムを砕いてしまうべきだろうか…いや、そんなの無理に決まってる…)

浮かない顔で歩いていくさやかを見つけた

QB(あれは…。制服を着ているということは、今日は学校に行ったのかな…
   それにしてもひどく落ち込んでるな…杏子が言ってたことと食い違う
   学校で何かあったんだろうか…)

QB「……」

QB(さやか…)

無意識に目を閉じるキュゥべえ

259 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:30:14.71 Z1bJNAI/0 135/307

QB(…。ゆうべ、杏子は言った。『さやかは足手まといになる』って
   …そうだ。さやかをワルプルギスの夜との戦いに駆り出すんだ…
   そうすれば、杏子はさやかに足を引っ張られて死ぬ…)

涙が滲んだ

QB(…さっきから僕は何を考えてるんだ。そんな簡単に行く訳ないじゃないか
   こんな薄っぺらな能書きを垂れ流すなんて、自分で聞いてて恥ずかしい
   感情のせいで思考能力は人間並だ…)

さやかが家に入っていく

QB(辛い思いばかりだ…。問題を起こしては解決することさえ躊躇して
   毎日泣いて悩んで苦しんで、大量のジレンマを抱えては結果に関わらず後悔して…
   もう…僕はいっそ死んだほうがいい…。新しい個体を呼ぶべきなんだ…
   病気の個体ではとても役目を果たせない…)

ほむら「……」
キュゥべえを後ろから密かに見つめている

QB(だけど、怖いよ…君達のことを何とも思わなくなるのが…!
   こんなに悩んだことさえ何だったのか理解できなくなってしまうのが…!
   だから死ぬ前に、1つだけ贅沢を言いたい…!)

QB「赦してくれ…」

261 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:33:07.02 Z1bJNAI/0 136/307

QB(どんな顔で謝ればいい…? 僕は責任を取れない。君はどんなに傷ついてる…?
   僕が死んだら君はまた自分を責める? でも、そんなのは違う…
   ただ一言でいいから、『もう怒ってないよ』って、君の口から言ってくれ…!
   さやか…。会いたいよ)

QB「…」グスン

ほむら「…やっぱり泣き虫ね」

QB「!?」

ほむらが歩み寄る

QB「…見てたのか」

ほむら「ええ」

QB「……」

ほむら「何を考えていたの?」

QB「…わからない。色んなことを同時に考えてた。…多すぎて自分でもわからないんだ」

ほむら「…そう」

QB「…暁美ほむら」

ほむら「?」

266 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:44:21.64 Z1bJNAI/0 137/307

QB「…人間は、みんなこうなのかい…?」

ほむら「何の話?」

QB「みんな、いつもこんなに苦しみながら生きてるのかい…?」

ほむら「それはどうかしらね」

QB「…」

ほむら「罪人が苦しむのは当然のことよ」

QB「…それなら、僕も被害者だ。やりたくてやってる訳じゃないのに…」

ほむら「口を慎むことね。理由はどうあれ、あなたはどれだけ償っても
    償いすぎるということはないわ」

QB「お願いがある…」

ほむら「そう」

QB「僕を、殺して…」

ほむら「……」

QB「僕が憎いだろ…?」

267 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:47:02.41 Z1bJNAI/0 138/307

ほむら「…それはしない。あなたはこれからもずっと苦しみ続けるべき」

QB「…なら、ここから飛び降りる」

ほむら「それも私がさせない」

QB「どうして?」

ほむら「あなたが死ねば、元通りの計算高いインキュベーターが現れて、まどかに契約を迫る」

QB「…今の僕が、まどかと契約できないとでも思っているのかい?」

ほむら「ええ。その通りよ」

QB「…それはとんだ勘違いだ」

ほむら「…」

QB「僕はまどかと契約する為に、君や杏子を殺すつもりでいるよ…」

ほむら「私はともかく、なぜ佐倉杏子まで?」

QB「杏子から聞いたんだ…。3日後にワルプルギスの夜が来るって…」

ほむら「…」

QB「君達がいなくなれば、あの巨大魔女を倒せるのはまどかだけになる…
   そこで、まどかの正義感に付け入って、半強制的に契約させる…」

269 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:50:10.06 Z1bJNAI/0 139/307

ほむら「立派な策略ね」

QB「…君のこと、ようやくわかって来たよ」

ほむら「?」

QB「君はこの時間軸の人間じゃない…。未来の世界で僕と契約して、
   時間操作の魔術を得たんだ…そうだろう…? 過去の世界に何をしに来たんだ?」

ほむら「それはもう教えたはず。ついでに言うと、過去に戻ったのは
    一度や二度じゃないわ。…繰り返した数だけ、まどかが死ぬところを見て来た」

QB「…」

ほむら「あなただけが悩んでいると思った?」

QB「…君はなぜ、そこまでまどかに…?」

ほむら「…そうね。どうしてかしら」

QB「…」

ほむら「…鹿目まどかは、私の唯一の友達だった。最期はワルプルギスの夜に
    たった1人で立ち向かって、無残に死んでいった…」

QB「…!」

270 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 02:54:46.33 Z1bJNAI/0 140/307

ほむら「私は、あの子の運命を変えたくて、あなたと契約した。それが始まり…
    なのに歴史を繰り返すうちに歯車の狂いはどんどん大きくなって
    気がつくと、いつの間にかまどかを救うことそのものが
    全ての目的になっていて…今は自分でも何をやってるのかわからなくなる時がある」

QB「…そっか」

ほむら「皮肉なものね。手に入れようとするほど、欲しかったものは遠ざかっていく」

QB「…僕と君は、似たもの同士なのかもしれないね。僕もちょうど、そんな状況だ…」

ほむら「ワルプルギスの夜は2人で倒すわ。あなたの計画は終わり」

QB「…さやかはね、手が焼ける子なんだ」

ほむら「美樹さやか…?」

QB「あの子は本当に言うことを聞かない…」

落ちていく涙が風に流されてちらついた

ほむら「…」

QB「いつも…僕を悩ますんだ」

ほむら「…そうね」

272 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:00:21.01 Z1bJNAI/0 141/307

キュゥべえが泣き顔のまま振り向いた
QB「さやかはどうなるの…? 君のいた未来では、さやかは元気だった…?」

ほむら「…はっきり言って、あの子は魔法少女としては欠点が多すぎる
    あなたと契約した時間軸のほとんどで、ワルプルギスの夜が来るより先に魔女になった」

QB「そんな…」

ほむら「あなたにも予想できていたはずよ。なぜ契約などしてしまったの?」

QB「…断れなかったんだ…」

ほむら「…」

QB「あんな目で駄々をこねられたら『駄目だ』なんて言えないよ…!
   僕はさやかの為に鬼になれなかった…!

   さやかはマミが死んだことを自分のせいにしてて、
   不自由なく暮らしてることにも負い目を感じてて…
   僕は、そんなさやかの希望を叶えてあげたかった…!」

ほむら「…滑稽ね。さやかも、あなたも」

QB「…僕はもう、後戻りできない…。本来の目的だった『まどかとの契約』が、
   今は僕に残された最後の希望だ…だけど、だけどやっぱり、どうしても、
   振り払い切れないんだ、このどうしようもない恐怖と後悔が…!」

273 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:04:05.64 Z1bJNAI/0 142/307

ほむら「…」

QB「さやかが、さやかが死んじゃう…!」
キュゥべえが足元へ近づいて、ほむらを見上げる

QB「さやかを助けて…! あの子は何も関係ない…
   死なせないで…! 魔女にならないように、支えてあげて…!!」

ほむら「…どこまで虫のいいことを言うつもり?」

QB「…!」

ほむら「あなたがやろうとしているのは、私の大切な人を終わらせることなのよ…
    それをやめないつもりでいて、どうして私に頼ろうなどと思えるの?」

QB「だ…だけど…」

ほむら「美樹さやかはどうにもならない。あなたが一番よく理解しているはずよ」

QB「……」

ほむら「思惑通りには行かないわ。まどかだけは、守り抜いてみせる」

ほむらが去っていく

QB「うぅ…」

QB(もう嫌だ…)

275 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:08:02.58 Z1bJNAI/0 143/307

――――――――――
――さやかの家の前

1人で出かけるさやかをまどかが待ち受けていた

まどか「ついてっていいかな――さやかちゃんに、一人ぼっちになってほしくないの…だから」

さやか「…あんた、なんでそんなに優しいかな…あたしにはそんな価値なんてないのに」

まどか「そんな…」

さやかが俯いたまま泣いている

さやか「あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった。あの時仁美を助けなければって…
    ほんの一瞬だけ思っちゃった…。正義の味方失格だよ…マミさんに顔向けできない…!」

まどかは黙ってさやかを抱き締めた

さやか「仁美に恭介を取られちゃうよ…! でもあたし何もできない!
    だってあたし、もう死んでるんだもん! 『ゾンビ』だもん!!
    こんな体で『抱き締めて』なんて言えない…『キスして』なんて言えないよ…!」

QB「……」

QBが少し距離を置いて見つめている

まどか「あ…キュゥべえ…」

278 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:11:11.72 Z1bJNAI/0 144/307

さやか「っ!」

2人がキュゥべえを見る

QB「…」

さやか「……」

さやか(なんでなんだろ…謝りたかったのに…嫌な言葉しか浮かんで来ない…)

QB(全然立ち直ってないじゃないか…。杏子には気を遣っていただけだったんだ…)

まどか「キュゥべえ…」

QB「…?」

まどかが走って近づく

まどか「さやかちゃんを、さやかちゃんの体を元に戻してあげて…?」

QB「…」

まどか「ねぇ、お願い…こんなの、ひどいよ…ひどすぎるよ…。さやかちゃん、かわいそうだよ…
    さやかちゃんはただ、好きな人の怪我を治してあげたかっただけなのに…」

QB「それができたら…」

まどか「…?」

280 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:14:06.72 Z1bJNAI/0 145/307

QB「できるとしたらどんなに気楽だったか…!」

まどか「キュゥべえはどうしてこんなことをするの…? どうして騙したりしたの…?」

まどかを無視してさやかに近づいていく

まどか「…」

さやかは目のやり場に困って顔を逸らした

QB「さやか」

さやか「…何よ」

QB「…慰めに来た…」

さやか「ふざけないでよ…」

QB「…!」

さやか「あたしをこんな体にしといて、今更『元気出せ』って…?」

QB「そんな風に考えないで…」

さやか「じゃあどう割り切れって言うのよ! どんな風に考えれば元に戻れる訳!?」

QB「さやか」

281 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:17:10.12 Z1bJNAI/0 146/307

さやか「あんたのせいだ! あんたがあたしをこんな目に…!」

QB「…」

さやか(違うよ…違う…! 言ってることと考えてること、全然噛み合ってない…!)

QB「…実は僕、元は感情のない生き物だったんだ…」

さやか「え…?」

QB「だけど今、こうして君と一緒に色々考えながら、悩みながら、泣いている…」

さやか「…」

QB「ある魔法少女が、契約の願いによって僕に感情を与えたんだ…」

さやか「…そう…なんだ」

QB「はっきり言うと、こんなに苦しい思いをするのは、その子のせいだって思ってる…
   だってそれまで、泣きたくなったことなんてなかったもん…!」

さやか「…」

QB「僕には、どうすれば君が立ち直れるのかわからない
   君から離れて、考えた…一生懸命考えたんだ。だけど、やっぱりわからなかったよ…」

さやか「…うん」

283 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:20:04.35 Z1bJNAI/0 147/307

キュゥべえは強く目を閉じた
体が震える

QB「僕を傷つけていいよ…。僕が君を傷つけたように、それと同じくらい痛めつけて…!」

さやか「!」

QB「遠慮はいらない…死んだって構わない…! 君の気が少しでも晴れるなら…!」

さやか「…」

QB「…」

QB(覚悟はできてる…)

さやか「…くっ…!」

さやかがキュゥべえを乱暴に拾い上げ、地面に投げつけようと振りかぶった

まどか「さやかちゃん!」

さやかの手が止まった

QB「うぅ…」

さやか「…できない」

さやかは脱力して膝をついた

284 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:23:06.59 Z1bJNAI/0 148/307

歯を食いしばってキュゥべえを抱き締める

さやか「ごめん……!」

QB「さやか…!?」

さやか「あんたの言うこと、素直に聞いとけばよかった…!
    嫌がってるのに、あたしが無理矢理契約させたんだ…こんなの自業自得じゃん…!」

QB(何を言ってるんだ…!?)

さやか「あたし、自分が魔法少女になれば何もかも上手く行くって思ってたのに…
    現実はそうじゃなくて…。キュゥべえの言葉、軽く考えてたってわかった…」

QB「…」

さやか「きっと、あたしは本当のことを知っててもお構いなしに契約してた…
    それでも、今回みたいに理由つけてキュゥべえを責めたと思う…
    本当は謝りたかった…だって悪いのはあたしだもん…!」

まどか「さやかちゃん…」

まどかがしゃがみ込んでさやかの肩に手を置いた

さやか「あたしもうわかんないんだよ…。自分がどうしたいのか…どうしたかったのか…」

QB「…」

286 : ◆o1ehmgejyk - 2011/09/20(火) 03:26:08.97 Z1bJNAI/0 149/307

さやか「キュゥべえには、どうしたらいいかわかるんでしょ…?
    あんた頭いいから…。教えてよ…もうワガママ言ったりしないから…」

QB「……」
さやか「…」

QB「…世話の焼ける子だ…本当に…」

さやか「…?」

QB「部屋に戻ろう…?」

キュゥべえを抱いたまま立ち上がるさやか

さやか「…うん」

まどか「私…」

QB「まどか…すまないけど、2人だけにしてくれ…」

まどか「あ…うん。ごめんね…じゃあね、さやかちゃん。またね…?」

さやか「え…帰っちゃうの?」

QB「君には少し、時間が必要なんだ…。まどかには帰ってもらおう…?
   まどかはいつだって君を気にかけてくれているよ。明日、また会える…」

さやか「…わかった」



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QB「シャワーでも浴びておいで」さやか「な、何…?」【後編】


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