おっさん「前に来た時とはずいぶん様変わりしちまって、どうも知らん街みたいだなぁ」
おっさん「大体もっとドーンと分かり易い建物なんか建ってたらすぐに分かるってのに」
おっさん「しょうもない街だな……あークソ暑い、苛々するわ! こうなったら裸で歩いてやろうか……んあ?」
幼女「……」 ジーッ
おっさん「ちゃうねん」
幼女「……」 ジーッ
おっさん「本当に違うんやって。ちょっと言ってみただけなんやって。本当に裸で歩いたりしたらお巡りさんに捕まっちゃうだろ?」
幼女「おじさん、道に迷ってるの?」
おっさん「んん? おう、迷ってるなぁ。もう人生の迷子やなぁ、なんてなぁ! ははは!」
幼女「……?」
おっさん「すまんね、おじさん滑ったわ。なあ嬢ちゃん、交番まで案内してくれんか?」
幼女「いいよー!」 トテトテ
元スレ
おっさん「道が分からんなぁ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1406142075/
おっさん「じょ、嬢ちゃん、あんま急がんでくれるか?」
幼女「え、なんで?」
おっさん「おっちゃんこの通り、メタボなんよ。メタボリックな。最近は不健康な人をそう言うんやろ? おじさん結構新聞とか読むからメタボに詳しいのよ」
幼女「んー、知らな―い」
おっさん「メタボが通じんのか。じゃあー、ほれ、おじさん狸さんなんよ」 ポンッ ポンッ
幼女「たぬきさん?」
おっさん「ほれほれ、おっちゃんの腹がぽんぽこ鳴ってるやろ?」 ポンポンッ
幼女「私もするー!」
おっさん「嬢ちゃんのお腹じゃ鳴らないやろ」
幼女「えいっ」 パチンッ
おっさん「おうふっ」
幼女「んー、鳴らないねー」
おっさん「うん、おじさん予想外やったわ。最近の子供は容赦ないなぁ」
おっさん「そういや嬢ちゃん、今いくつや?」
幼女「んー、これくらい!」 パッ
おっさん「ほー、5才かー。そら人生楽しいだろうなぁ」
幼女「んー、よくわかんない」
おっさん「わからない内は楽しいってことだよ」
幼女「おじさんは楽しくないの?」
おっさん「もうよく分からないなぁ」
幼女「じゃあ楽しいんだね!」
おっさん「……」
幼女「だってさっきおじさん、楽しいのが分からないのは楽しいんだって言ってたよ?」
おっさん「は、はは、そうかそうか。そうだ、おじさんは今きっと楽しいんだなぁ」
幼女「……変なの」
おっさん「おじさんは変なおじさんだからなぁ」
幼女「あーついー」
おっさん「んん、喉が渇いたなぁ」
幼女「あついー」
おっさん「……じょ、嬢ちゃん、アイス食べたくないか? おじさんが奢ったるわ」
幼女「アイス?」
おっさん「おう! こんだけ暑いと冷たいもん欲しくなるやろ? 案内してもらってるお礼にな、奢ったるわ!」
幼女「んー、いらなーい」
おっさん「え……」
幼女「あのねー、ママが知らない人から食べ物もらっちゃダメだって言ってたの」
おっさん「そ、そっか。ご、ごめんな、おじさん変なこと言っちゃって」
幼女「ううん、ごめんね」
おっさん「そ、それじゃあおじさんとあんまり一緒にいてもママに怒られるだろ? 後はおじさん一人で探すから、嬢ちゃんはもう……」
幼女「大丈夫だよー。困ってる人には親切にしなさいってママ言ってたもん」
おっさん「それは……良いお母さんやなぁ」
おっさん「……おじさんのママは、あんまり良いママやなかったなぁ」
幼女「……?」
おっさん「ああ、違うなぁ。うん、良い母親じゃなかったけど、俺も良い息子じゃなかったわ」
幼女「メタボだから?」
おっさん「バカ、昔はメタボじゃなかったわ! って、もうメタボ覚えたんやな。賢いなぁキミ」
幼女「それほどでもないけどね」
おっさん「おお、おまけになんや格好良いなぁ!」
幼女「えへへ」
おっさん「それにしてもずいぶん遠い交番やなぁ。あとどれくらい掛かるん?」
幼女「んーと、わかんない!」
おっさん「えぇ?」
幼女「えとね、飛行機乗ってね、ディズニーランド行った時にね、お母さんお財布落としちゃったの! それでね、交番のおじさんが飴くれたの!」
おっさん「……うん、その交番は行けんわ」
おっさん「はぁ、これで振り出しか」 ガクッ
幼女「おじさん、元気出して」
おっさん「おう、すまんなぁ。でもなぁ、おじさんもうどこ行けばいいのか分からんのよ」
幼女「疲れちゃったの? お家に帰れば?」
おっさん「お家かぁ。おじさんのお家は、どこなんやろなぁ」 ピラッ
幼女「……これおじさん?」
おっさん「子供の頃のな。イケメンやろ?」
幼女「フツー」
おっさん「はは、厳しいなぁ。……おじさんなぁ、この写真の後ろに写ってる家に行きたかったんよ。この辺りのはずなんやけど、1回しか来た事なくて場所が分からんのよ」
幼女「知ってるよ?」
おっさん「そうかぁ、でもおじさんもう飛行機乗る金もないのよ」
幼女「ううん、すぐそこだよ? 付いて来て」 トテトテ
おっさん「え? ほ、本当に? ちょ、ちょっと待ってって!」
おっさん「な、なぁ、本当に知ってるのか?」
幼女「うん!」 トテトテ
おっさん「本当の本当に?」
幼女「本当の本当だよ」 トテトテ
おっさん「本当の本当の本当に?」
幼女「本当の本当の本当に」 トテトテ
おっさん「……あ、ああ、ちょ、ちょいストップ! そこの公園、公園で休も! な? な?」
幼女「どうして?」
おっさん「い、いいから! な? な?」
幼女「んー、でも」
おっさん「一生のお願いやから!」
幼女「次ないよ?」
おっさん「もちのろんや!」
おっさん「ふぅ」
幼女「ん」 キィ キィ
おっさん「押そうか?」
幼女「いい」
おっさん「そっか」
幼女「んしょ、んっ」 キィ キィ
おっさん「……おじさんのワガママに付き合わせてごめんな」
幼女「いいよ、おじさん困ってるし」 キィ キィ
おっさん「いや、違うよ。おじさんは困ってるんじゃなくて、怖がってるんだよ」
幼女「メタボなのに?」
おっさん「はは、メタボなのにね、おじさんは臆病なんだよ」
おっさん「つまんないだろうけど、おじさんの話聞いてくれるかな」
幼女「ん」 キィ キィ
おっさん「おじさんさ、なんか変だったろ? 会った時から変な感じだったろ?」
幼女「んー」
おっさん「正直ね、今もどう君と話せばいいか、よく分かんないんだよ。最後に子供と話したのなんて十五年も前の話だからさ」
おっさん「おじさんにはパパがいなくて、ママは良いママじゃなくて、後は小さい妹がいただけでさ」
おっさん「なんかさ、もう世の中が大嫌いになっちゃってさ」
おっさん「特に偉そうにああだこうだ言う奴が大嫌いだった」
おっさん「嫌な物全部を壊してやりたいって、たくさん周りに迷惑掛けて生きてたよ」
おっさん「でもさぁ、薄々気付いてたんだよね。そんな事してもどうにもならないってさ」
おっさん「だからいつも虚しくて、苛々して仕方がなかったんだよ」
おっさん「言い訳じゃないけど、弱い者いじめだけはして来なかったつもりだよ」
おっさん「人をいじめる奴を逆にいじめてやったりもしたよ」
おっさん「結局、同じ事をしてただけなんだけどね。本当、馬鹿だよねぇ」
おっさん「どうしようもない馬鹿で、馬鹿でどうしようもなくて、いつも怒ってて」
おっさん「……だからさ、別に、守りたかったとかじゃないんだよ」
おっさん「虐待ってほどの話でもなくて、でも親が子供を殴るっつーのが、どうにも許せなくて」
おっさん「だから一発殴って、殴られる気持ちってのを教えてやりたかっただけでさ」
おっさん「後は刃物持ち出して来て揉み合い、向こうの運が悪かったって話」
おっさん「……俺も素直に言やぁ良かったんだよなぁ、事故だったって」
おっさん「くだらない意地のおかげで、あっという間におっさんってわけ」
おっさん「最初は誰も知らない所で静かに暮らそうとか思ってたんだけどね、すぐに怖くなった」
おっさん「今じゃあわよくば一緒に暮らそうなんて事まで考えてる。受け入れて欲しいなんて思ってる。……ダメだなぁ、歳を取るってのは」
おっさん「と、つまんねえ話して悪いな」
幼女「あのね、人のために怒るのは良いことだよ?」
おっさん「え?」
幼女「自分のためよりも、誰かのために怒れる人になりなさいって、ママ言ってたもん」
おっさん「そっか。……嬢ちゃんはきっと、ママみたいな良い女になるよ」
幼女「良い女?」
おっさん「人を大切にできる人って事だよ。……さてと、それじゃあ行こうか」
幼女「うん!」
幼女「おじさん、もう少しだよ」
おっさん「……ああ、思い出してきたよ。爺さんと一緒にさ、釣竿担いで川まで行ったんだ」
おっさん「それでさ、一緒にいた妹が転んで泣いて、俺がおぶってやってさぁ」
おっさん「もう来んなって……俺から言って……今更だって分かってるけどさ、でも……やっぱ、会いてぇや……」
幼女「おじさん?」
おっさん「お、おう、悪いな。ブツブツ一人で喋って、気持ち悪いよな」
幼女「着いたよ?」
おっさん「え?」
おっさん「あ、ああ……ここだ、ここだ! うあ、ああ……っ」
幼女「行かないの?」
おっさん「ま、まだ心の準備が」
幼女「んー、じゃあ私先に行くね」 トテトテ ガチャッ
幼女「ママ―、ただいまー!」
おっさん「え……」
母「こら、どこで遊んでたの! お昼には帰って来なさいって言ったでしょ!」
幼女「あ」
母「あ、じゃないでしょ、あ、じゃ! もう!」
幼女「えへへ、ごめんなさーい」
母「……それで、何してたの?」
幼女「えっとね、おじさんが迷子でね、困ってたの!」
母「あら」
幼女「私ね、ちゃんとおじさんに道教えてあげたよ!」
母「それならよし! ほら、はやく手を洗ってきなさい」
幼女「はーい」
母「さてと、それじゃあオムライスを温め直して……」
幼女「あ! あのね!」
母「んー?」
幼女「おじさんね、うちに用事あるんだって!」
母「え?」
幼女「家の前にいるよ?」
母「え……えええ?」
母「……」 チラッ ガチャッ
母「……」 ソワソワッ
母「もう、そんな人いないじゃない!」
幼女「えー? さっきはいたんだよー? 本当だよ!」
母「……ねえ、そのおじさんはどんな人だったの?」
幼女「えとね、メタボでね、それとね、うちの写真! 写真持ってたよ!」
母「写真?」
幼女「おじさんが子供でね、お家が後ろにあって……あ、女の子もいたよ? んとね、私みたいな子」
母「え……ちょ、ちょっと待って! それって、もしかしてこの写真!?」 スッ
幼女「あ、これ! どうしてママが持ってるの?」
母「……っ」
おっさん(……あれから何年も経ってるわけだし、子供がいてもおかしくないわな) トボトボ
おっさん(うん。あんな良い子の身内に、俺みたいな犯罪者がいちゃあダメだ) トボトボ
おっさん(だから、うん、これでいいんだ) トボトボ
おっさん「でもやっぱり、寂しいもんは寂しいわ」
母「……お兄ちゃん!」
おっさん「うわっ!? ……お、おう、お前か。偶然だな」
母「偶然だな、じゃないでしょ!? なんで何も言わずに行っちゃうの!?」
おっさん「な、何の事だよ?」
母「子供じゃないんだからそんな言い訳しないでよ! この写真持ってるの、私とお兄ちゃん以外にいるわけないでしょ!」 ピラッ
おっさん「うん……まあ……」
母「……」
おっさん「ま……まあ、ちょっと顔を見に来ただけだからさ。良かったよ、こうして会えて、そんじゃ、俺帰るわ」 スタスタ
母「そっちじゃない」
おっさん「……?」
母「お兄ちゃんが帰るのはそっちじゃない!」
おっさん「え?」
母「お兄ちゃんの家はあっち! 私達の家! 家族なんだから当たり前でしょ!?」
おっさん「……」
母「いい? またお兄ちゃんが勝手にいなくなったりしたら、私泣くから」
おっさん「……ママを泣かせたりしたら、嬢ちゃんに怒られるな」
母「なら、絶対にいなくなったりしないでよ」 ギュッ
おっさん「……ああ」
母「まったくもう! 会えなくなったらどうしようかって思ったんだから!」
おっさん「悪かったよ。それに俺なりに一応考えてだなぁ」
幼女「ママ―!」 トテトテ
母「幼女! そんなに走ったら転ぶわよ!」
幼女「あうっ」 ドタンッ
おっさん「あ」
幼女「あうっ、うぅっ、ああぁ……」
母「だから言ったのに! ほら、自分で立ちなさい!」
幼女「やぁ!」
おっさん「いいよ、ほら。背中乗りなよ」 スッ
幼女「ん」 ガシッ
母「お兄ちゃんっ」
おっさん「いいだろ、無理に歩いて酷くしたら大変だしさ」
母「……もう、あんまり甘やかさないでよね」
幼女「おじさん」
おっさん「ん?」
幼女「ママのオムライス、とっても美味しいんだよ?」
おっさん「そっか」
幼女「だからね、一緒に食べよ?」
おっさん「ママがいいって言ったらね」
母「ダメなんて言うわけないでしょ、もう」
幼女「……ハンバーグも美味しいんだよ」
おっさん「へえ」
幼女「……だからね、たくさん遊びに来て、いっぱい一緒にご飯食べよ?」 モジッ
おっさん「ははは、うん、そうだな。いっぱい一緒にご飯を食べような」 ニコニコ
幼女「うん!」
46 : 以下、\... - 2014/07/24 05:27:36.12 Vbe9SImm0.net 22/22おわり
ベタベタな話をやりたかったので、そうなってりゃいいです。寝ます