剣士「冒険物語!」シリーズ 最終章 後編
関連
剣士「冒険学校…!」【第一章・前編】
剣士「冒険学校…!」【第一章・後編】
剣士「冒険学校…!」【第二章・前編】
剣士「冒険学校…!」【第二章・後編】
剣士「冒険物語…!」【第三章】
剣士「冒険物語…!」【最終章・前編1】
剣士「冒険物語…!」【最終章・前編2】
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【これまでのあらすじ】
北西冒険学校に入学した剣士と武道家は、
魔道士、乙女格闘家、僧侶、魔術賢者、大戦士などの仲間と出会い、成長していった。
やがて卒業を迎えた剣士たちは、夢であった冒険者となり世界へと飛び出す。
それから数年。
名実とともに冒険者として実力を磨いた剣士、魔道士、武道家、乙女格闘家の4人。
何もかも順調にいくはずだった。……だが。
剣士が放った一言『学生時代に修学旅行で訪れたエルフ族の村へ行きたい』。
この言葉で世界を統治する"中央軍本部"へ足を運んだ4人。
そこで学生時代以来の武装先生と再び出会い、エルフ族の村の現状を調査してくれるという。
剣士は喜んでそれを承諾したが、その夜、彼らに大地震が襲いかかった。
震源地は東方エルフ族、太陽の祭壇の町。
それは学生時代に話を聞いた、地震後にエルフ族の村の住民全員が消失した
"エルフ族消失事件"そのままであった。
武装中将はこれを重く見て大戦士を再び軍へ呼び戻し、小隊とともに祭壇町へ送り込む。
しかし……。
大戦士を含めた小隊は行方不明となってしまう。
そこで剣士は大戦士のため、エルフ族のため、仲間とともに祭壇町へ行くことを決意し、
剣士たち4人は大戦士を追い、祭壇町へ突入する。
だが、そこで出会ったのは無残な軍の遺体と、強大な魔族…"竜族"の存在であった。
その竜族の前に剣士たちは敗北し、魔道士は祭壇町へ残され、他の3人も行方不明となる。
それからしばらくして、かの冒険学校の後輩である「戦士」と「剣豪」は、
西方にある星降町にて謎の霧の中に存在する、"魔力の塔"を発見する。
そこで出会ったのは、命果てる寸前の大戦士と、行方不明になっていた「魔道士」であった。
更に戦士と剣豪は魔族とも対峙し、勝利。その魔族より、
「魔族たちは魔界より人間界へ侵攻し、謎の霧は魔族が動く為に必要なもの」
「塔の存在は"霧がなくても動けるようになる"」ものだと聞かされる。
話を聞いたのち、魔道士の救出に成功したものの…大戦士を目の前で失ってしまう。
その後、塔の存在とその完成を阻止をすることを
中央軍本部にいる武装中将へ伝えたのだが、その全ては遅かった。
情報を伝えた翌日、魔族の「魔力の塔」は完成し、魔族たちは自由に動けるようになってしまったのだ。
そして、中央軍と冒険者、一般市民の全てを巻き込むような戦い…
『大陸戦争』
へと発展していった。
その最中、中央軍を担っていた元帥・大将・大佐・中佐が亡き者となり、
全てが敗北してしまうと思われたその時。
身勝手なあまり、果ての支部へ飛ばされていた「剣聖少将」が帰還する。
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【現在の情勢・情報】
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■中央軍
意識不明重体の中将、行く不明の中佐以外の幹部が死亡。
現在、剣聖少将が引き継いで指揮をとっている。
■魔族軍
東方・西方大陸の一部より出現し、謎が多い。
魔族軍にはトップであるアリオク以下、
デュラハン、バンシィ、バハムート、バジリスクが魔族軍を率いている形となっている模様。
●市民たち
西方星降町、東方祭壇町から一定距離以内の市民は南方大陸へ避難中。
エルフ族も同様に、南方大陸へと避難を進めている。
●冒険者たち
一部冒険者たちの一部は義勇軍を結成し、魔族と対抗中。
▲大陸戦争の侵攻と防衛
・東方西方魔族侵攻迎撃戦(総力戦):人間側の勝利
・エルフ族輸送作戦:進行中
・東方西方市民避難作戦:上記と同様に進行中
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…
……
………
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――――【 2時間後 中央軍本部 会議室 】
剣聖少将「…げぇっぷ」
中尉「ち、ちょっと少将殿…」
剣聖少将「あん?」
中尉「か、会議中に…」
剣聖少将「一丁前にしたって、戦況が動くわけじゃねーんだから仕方ねーべ」
中尉「そ、それはそうなんですが…」
剣聖少将「それに他のお偉いさんたちが行動をしなかったから、こんなことになってんだろーけどな」
中尉「……そう、ですが」
剣聖少将「で、何だっけ?アリオクっつったか…それが相手側のリーダーなんだろ?」
中尉「はい。武装中将殿が、残した言葉らしいです」
剣聖少将「…強いの?」
中尉「そ、それはそうだと思います。今の左官たち以上は、その実力で上り詰めた方々ですし…」
剣聖少将「…いや、左官以上が弱いんじゃねーの?」
中尉「そ、そんなことは……」
剣聖少将「のらりくらり過ごしてるからこんなことになってんだよ」
剣聖少将「俺みたくよぉ…、魔獣でも何でもいいから、戦闘に常に従事してないと平和ボケしちまうもんなんだぜ」
中尉「…」
剣聖少将「そんな立場で偉そうに、あーしろこーしろ。だったらテメーが先に動けってな?」ハハハ
中尉「…しかし、彼らの指揮がなければ我々は動けなかったですので……」
剣聖少将「あぁ。ま、そうか…」
中尉「はい…」
剣聖少将「…」
剣聖少将「なんか、勿体ねーやつも死んだみたいだしな」フゥ
中尉「勿体ない方…ですか?」
剣聖少将「大戦士だよ。あいつ、普通に軍にいたら今頃は俺と同じ立場になってただろうな」
中尉「…自分は実際に見たことがないもので」
剣聖少将「あいつさ、俺と一緒で実践主義でな。それに強かったぜ…。ああいう奴が、軍を引っ張るべきだったんだ」
中尉「…お知り合いなんですね」
剣聖少将「まぁな。同期っちゃ同期だ」
剣聖少将「…」
剣聖少将「くそ…。本当なら、アイツがここにいてよ…。俺ら二人で思い切り暴れられたかもしれねーのに……」
中尉「…」
剣聖少将「…それに、俺の息子もお世話になったみてーだし」
中尉「へぇ、そうなんですか?」
剣聖少将「んむ」
中尉「…色々と繋がりがあるんですね」
剣聖少将「まぁそれはいい。それより、まだ剣士のやつこねぇのかよ…。おせぇっ!」
中尉「剣士さん…。今は冒険者で、黄金世代の卵って呼ばれてるんですよね」
剣聖少将「あ~…噂じゃそうらしいな」
中尉「…父である貴方へ憧れ、軍への道は入らなかったのでしょうか?」
剣聖少将「まともに家にいたことねーし、どっちかっつーと兄貴のほうがそれっぽかったからな」
中尉「そうなんですか?」
剣聖少将「俺の兄貴は、生粋の冒険家でな」
剣聖少将「帰って来くる度に、息子へ会いに来て、その楽しさを伝えてたんだよな」
剣聖少将「それもあって、冒険者への道を目指したんだろうが…」
剣聖少将「ま、そういう理由の他に、俺に似て自由主義で…軍なんて場所は嫌だったんだろ」
中尉「…自由主義の割に、剣聖少将殿は軍に?」
剣聖少将「俺は、若い頃からコレがいたからだ」ピンッ
中尉「…女性ですか」
剣聖少将「おうよ。好きな女にゃ、不自由な暮らしさせたくなかったしな」
中尉「剣聖少将殿は相当な実力があると思いますが、若い頃より鍛錬を?」
剣聖少将「うちは元々、割と有名な冒険家が出てた家系だったってこともあるが」
剣聖少将「俺は若い頃からケンカばっかしてたし、なんつーか…自然にそうなっちまった」
剣聖少将「息子の場合は、冒険家に憧れててずっとそういうマネをしてたから、強くなったってだけだろ…多分な」
中尉「へぇ…」
剣聖少将「まぁ無駄話もいいが、アイツ本当におっせぇな!」
剣聖少将「他の支部から迎えを向かわせたとしても、そろそろ来てもいいようなー……」
…ガチャッ!!
剣聖少将「お…?」
…ザッ
剣士「…」
剣聖少将「…来たか」
剣士「……!」
剣聖少将「…どうした。久々に会ったのに、その顔は」
剣士「親父…なのか……?」
剣聖少将「顔も忘れちまったか?」
剣士「…」
剣聖少将「…」
剣士「…どれだけ久しぶりだと思ってるんだ」
剣聖少将「9年ぶり」
剣士「…っ」
剣聖少将「…」
剣士「…色々と言いたいことはある。だが…今はそんな場合じゃないのも分かってる」
剣聖少将「ほう?」
剣士「話は聞いた…武装のオッサンがやられたとか、みんな死んだとか……」
剣士「何がどうなってる!?」
剣士「そ、それに…親父が軍の人間だったなんて聞いてねぇよ!!」
剣聖少将「そりゃ言った事ねーし」ハハハ
剣士「たまに姿を見せたと思えば、すぐにどこかへ出かけていくし…!」
剣士「軍の人間が俺のところへきて、親父のことを話すから何事かと思えば…!」
剣聖少将「くははっ、びっくりしたろ?」
剣士「…俺に一体なんの用だ!くそっ、いきなりすぎて何がなんだかわかんねぇよ…!」
剣聖少将「…じゃあ、もっとびっくりすること教えてやろうか、うん?」
剣士「あんだよ!」
剣聖少将「母さんがな、村を襲った魔族にやられて……残念だ…」
剣士「…は?」
剣聖少将「避難を進めていた最中だった。だが、間に合わなかったんだ……」
剣士「う、ウソ…だろ?」
剣聖少将「ウソだ」
剣士「…」
剣士「…」
剣士「…」チャキッ
中尉「!?」
少尉「!?」
准尉「!?」
剣士「…殺す」
剣聖少将「うはははっ!お前に殺されるような俺じゃねーっつーの!!」
剣士「こ、この…!」
剣聖少将「くくく…」
剣士「はぁ…。相変わらずだな……ペースが乱れる……」
剣聖少将「はぁっはっはっは!久しぶりだな…剣士。元気そうで何よりだ」
剣士「…親父こそな」
………
…
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――――【 数十分後 】
剣士「…オッサンは意識不明、大魔術中佐は行方不明か」
剣聖少将「こんなところで会議ばっかしてっから、襲撃も許すし殺されちまうんだっつーのな」
剣士「…」
剣聖少将「気がつきゃ、漁夫の利だ。俺が元帥の立場だぜ?すげーだろ」
剣士「…俺は未だに親父が軍人だったなんて信じられねぇよ」
剣士「アンタはいつも自由で…。それで久々に親父の話を聞いたと思えば、こんな形で……」
剣士「未だに…混乱してるっつーの……」
剣聖少将「ちっと自由に暴れすぎて、遠方の支部側に飛ばされちまってたしなぁ……」
剣聖少将「しかも前線で、抜け出すに抜け出せない場所だった」
剣聖少将「だから、兄貴に様子見を頼んでたんだ」
剣士「…」
剣聖少将「たまにしか家に顔が出せないのは悪かった」
剣聖少将「だが今のお前なら、その時の俺の現場が浮かぶはず。そして、俺の気持ちが分かるはずだ」
剣士「まぁ、分かるけど…よ…」
剣聖少将「…」ニカッ
剣士「…って、それは別にいい。何で俺を呼んだんだ」
剣聖少将「これから、新たな体制での軍の発足だ。手伝え」
剣士「断る」
剣聖少将「断るのを断る」
剣士「おい」
剣聖少将「…なぜ手伝わない。人の為の仕事だぞ?」
剣士「俺には俺の立場がある。冒険者同士で、軍には頼らないやり方でやらせてもらう」
剣聖少将「…俺に似て、自由主義な奴だなお前も」
剣士「うっせーな…」
剣聖少将「俺はお前の実力は聞いてるし、認めてるんだぜ?」
剣士「認めてようが、認めてまいが、関係ない」
剣聖少将「…つまりそれは、将官たちも倒れ、ガタガタの軍を見捨てるっつーことか?」
剣士「軍には軍のやり方が。俺は軍人じゃない」
剣聖少将「なるほど、正論だ。だが、その正論は"人の為にあること"をやめるっつーことだな?」
剣士「…どうしてそうなる」
剣聖少将「正直言って、軍の内部はボロボロ。どうしようもねぇ」
剣聖少将「こんな俺だが、それでもこの少将っつー立場で、お前に頭下げてんだぞ」
剣聖少将「…その意味が分からないか?」
剣士「…どういう意味だ」
剣聖少将「あのなぁ…。つまり、もう人間側はダメだっつーことだよ」
剣聖少将「人間は、中央軍は!魔族に勝てる要素がねえんだよ!」ククク
剣士「…おい!」
剣聖少将「そして、お前ら冒険者が粋がって戦ったところで、ゾウにかみつく蟻だ。何にもならん」
剣聖少将「…確かに戦いにおいては、冒険者はその辺のやつよりは上かもしれん」
剣聖少将「だが、所詮素人は素人。規律はねえし、自由主義」
剣聖少将「お前らみたいなのが集まったところで、結束もねぇ以上、いつ崩れるかもしれぬパズルと一緒だ」
剣士「…っ!」
剣聖少将「…だから、お前はそっち側じゃない」
剣聖少将「…」
剣聖少将「いや、お前にはお前にやって欲しい事があるのさ。その…黄金の名を使ってな」
剣士「…黄金の名?」
剣聖少将「まぁ…お前は冒険者たちから見れば、黄金剣士か英雄ってところだろ?」
剣士「俺が英雄だって?」
剣聖少将「冒険者の中に突然生まれた、黄金の卵と呼べたパーティとそのリーダー…」
剣聖少将「実力もさることながら、その名をもらったのは若き冒険者たちの先駆けとなり、そいつらから見れば英雄だ」
剣士「…だとしたら、それがどうしたんだ」
剣聖少将「お前を憧れる、お前みたいな冒険者は、軍へ協力しようと思うか?」
剣士「…しないだろうな」
剣聖少将「だが、軍へ所属せず、冒険者としても名を馳せた男が"俺について来い"と言ったなら…?」
剣士「…するかもしれん」
剣聖少将「そうだな、例えば…大戦士のような男だ」
剣士「…そりゃ、するだろうな」
剣聖少将「おいおい、ここまで言ってまだわからんのか」
剣士「あぁ?」
剣聖少将「だからな、つまり。俺ら軍がバックアップする。正式に、大戦士の立場を引き継げ」
剣士「…は?」
剣聖少将「それだけでいい」
剣士「ど、どういう意味だよ。具体的に教えろって」
剣聖少将「今の世代は、お前に憧れを持つ者が多い。お前が指揮をとれば、きっと他の奴はついてくるだろう」
剣士「…!」
剣聖少将「だが、そいつらを立ち上げるには、お前の足らねぇ脳で行動してもどうにもならん」
剣士「おい」
剣聖少将「だからそこで、俺には従え。軍が、直々にお前を黄金の復活と銘打ってやる」
剣士「だ、だが…」
剣聖少将「前の幹部はアホみてぇに"一般市民を巻き込まない"、"冒険者の力も借りない"」
剣聖少将「その姿勢を、限界まで貫いていた。」
剣聖少将「だがな…。この戦争、冒険者の力や一般市民の力を借りねば……確実に負けるぞ」
剣士「何っ…!」
剣聖少将「どんだけお前や、一般市民が軍を信用してるかはしらねぇ。だが、俺は知ってる」
剣聖少将「…今の軍は、終わっているんだよ」
剣士「…っ」
剣聖少将「中将らへんは、そのことに気付いたかもしれないが…遅すぎたんじゃねえの」フワァ…
剣士「…」
剣聖少将「まぁなんだ…」
剣聖少将「何百人、何千人、何万人。今の軍がいたって勝てるわけがねえよ」
剣聖少将「ほんの一握りだが、この戦いに…既に見切りをつけた軍人も少なくねぇし」
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中央軍人「何が…勝利だ……」
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剣聖少将「…もしかしたら、この戦いに意味がないんじゃないかと…」
剣聖少将「前線に近いやつほど、そのことを知っているし、そう思ってるはずだ」
剣士「…だからといって、俺が冒険者と立ち上がらせることが意味あるっつーのかよ」
剣聖少将「起爆剤だ」
剣士「…起爆剤?」
剣聖少将「腐っても軍人っつーことさ」
剣士「あぁ?」
剣聖少将「そうだなぁ……准尉!教えてやれ」
准尉「えっ!じ、自分ですか?」
剣聖少将「…お前だ」
准尉「…」
准尉「…はいっ」
剣士「…」
准尉「で、では。えっと…剣士さん」
剣士「ん?」
准尉「もし貴方たち冒険者が立ち上がれば、自分たちは恥ずべきことなんです」
剣士「恥ずべきこと?」
准尉「軍人は人の為であるべきですが、それを冒険者に遅れをとるわけにはいきません…」
准尉「ですので、冒険者たちがより戦争へ立ち上がれば、我々の士気もあがるんです」
剣士「あぁ…」
剣聖少将「…准尉、正解。ま、そういうこった。だからお前には、世界の為に立ち上がって欲しいわけよ」
剣士「…なるほどな」
剣聖少将「俺がやれりゃ俺がやるんだけどな」
剣聖少将「だが、冒険者という肩書きは俺は持ってないし、軍のトップでもある以上…離れられん」
剣士「…」
剣聖少将「それに、お前ほどの実力を持つものも今はもう…いないだろう」
剣聖少将「だから…やって欲しいんだ。頼めないか」
剣士「…」
剣士「…はぁ」
剣聖少将「…おっ」
剣士「軍には振り回されてばっかしだぜ……」
剣聖少将「…」ニカッ
剣士「ちっ…。分かった、分かったよ」
剣聖少将「おうよ!」
剣士「だがな。それをやるっつーなら、こっちもお願いがある」
剣聖少将「金ならやらんぞ」
剣士「ちげぇよ!っつーか、金くらい寄越せよ!」
剣聖少将「…たかり怖えぇ~」
剣士「…やっぱやめるわ」
剣聖少将「あっ、ウソウソ!何、なんだ!」
剣士「…」
剣士「…ったく。お願いっつーのは…時間が欲しいんだ」
剣聖少将「却下」
剣士「おい」
剣聖少将「今は、暇な時間なんてないんだ。それは分かってるだろう」
剣士「そ、それはそうなんだが…。冒険者を立ち上がらせることに、必要な時間なんだよ」
剣聖少将「…んだよ。言ってみろ」
剣士「…俺のパーティメンバー、全員が戻ってくることが必須だと思うんだ」
剣聖少将「お前のパーティっつーと…、えー…魔道士、武道家、乙女格闘家だったか」
剣士「知ってるのか!?」
剣聖少将「名前だけはな。つーか腐ってもお前らは有名人だったし、名前だけでも知ってるやつは多いだろ」
剣士「…なら、意味はわかるだろ。俺が一人でやるより、全員が揃ったほうが…いいと思うんだ」
剣士「だけど、魔道士はともかく…武道家と乙女格闘家の居場所はつかめていない」
剣士「その2人をもう1度呼び戻すために…時間が必要なんだ」
剣聖少将「何日だ」
剣士「…1週間」
剣聖少将「却下」
剣士「おいコラ」
剣聖少将「……3日だ」
剣士「!」
剣聖少将「今の時間はえーと…中尉。何時だ」
中尉「はっ!16時です!」
剣聖少将「…72時間後までは待つ。それまでに戻ってくるなら許可してやる」
剣士「…無茶言いやがる」
剣聖少将「お前は俺に"やってやる"と言った。その言葉を言った以上、従ってもらう」
剣士「…ちっ」
剣聖少将「できるのか。できないのか。その言葉だけ言え」
剣士「やれば…いいんだろ。いや、やるしかないんだろ…」
剣聖少将「…それしかないな」
剣士「くそっ…。72時間後に!ここへ4人で!戻ってくる…!戻ってくるからな!」
剣聖少将「…」ニカッ
剣士「くっそ…!振り回されっぱなしは、性に合わねぇんだけどな……」
剣聖少将「まぁそう言うな。お前が捜索する間、俺はちっとばかしくっそ面倒くせぇ準備があるのよ」
剣士「…準備?」
剣聖少将「確かに時間勝負だが、出撃には色々と準備が必要なんだよ」
剣聖少将「それをやりすぎたり、慎重になりすぎたりしたから前の幹部連は敗北したわけなんだが…」
剣聖少将「だからいらないもんは取っ払いつつ、3日でほぼ全軍出撃状態まで持って行けるようにはする」
中尉「ぜ、全軍出撃状態!?」ガタッ!
剣聖少将「なんだ中尉…おかしいか?」
中尉「な、何十万といる兵力ですが、それをまとめ、それを出撃する申請も出し…」
中尉「大隊申請許可証、出撃申請書、資金利用の許可、国民への情報開示書、各支部への派遣書…」
中尉「と、とても3日で終わる代物では!」
剣聖少将「…それは全部、俺がイエスといえばいけるもんだろ?」
中尉「で、ですが!」
剣聖少将「…ま、剣士。こんな感じの準備を3日で終わらせねーといかん。俺も大変なんだよ」ハァ
剣士「…そ、そうみたいだな」
剣聖少将「おう。それじゃお前は、その黄金パーテをここへ集えるよう…行ってこい!」
剣士「…おう」
剣士(あいつらと再び武器を握るのが、まさかこんな形になるなんてな…)
………
……
…
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――――【 そして 中央都市 宿 】
…コトッ
戦士「お茶、どうぞ」
魔道士「ありがとう」ニコッ
戦士「…へへ」
魔道士「そういえば、剣豪は?」
戦士「あいつは、武器の新調するために武器屋に行くと」
魔道士「なるほどね~」
戦士「…」
…グビッ
魔道士「…今日もいい天気だね。剣士はこの中で、まだ戦ってるのかな」
戦士「どうでしょうか。今は少し落ち着いている様子ですし、少し休めてるんじゃないですか?」
魔道士「そうだといいな…。剣士、すぐに無茶しちゃうから」
戦士「…」
…チラッ
戦士「…」ジー
戦士「…」ジー
魔道士「…どうしたの?」チラッ
戦士「あっ、あぁぁ!い、いや!」
…バチャッ!!
戦士「あ、あち~っっ!!」
魔道士「あっ!だ、大丈夫!?」
戦士「は、はは…大丈夫ですっ」
魔道士「ほら…ダメじゃないの。布巾あるから…」
…ソッ
戦士「…っ」
魔道士「…」
魔道士「…よしっ。これで大丈夫、染みにはならないね♪」
戦士「…」
魔道士「…?」
戦士「…魔道士さんは、何故、剣士さんを好きになったんですか?」
魔道士「えっ!き、急にどうしたの?」
戦士「…少し、気になって」
魔道士「な、何で好きになったって…。う、う~ん……」
魔道士「…」
魔道士「…剣士の猛烈な勢いもあったけど、ずっと一緒にいるうちに自然と…かな」
戦士「…そう、ですか」
戦士「…っ」
戦士「じゃ、じゃあ魔道士さん、お聞きしたいことがあるのですが…いいでしょうか」
魔道士「うん。どうしたの?」
戦士「もし、もしもですよ。もし…俺が剣士さんの立場が逆だったら……」
戦士「魔道士さんは、俺へ…振り向いてくれましたか…?」
魔道士「逆だったら……」
戦士「…へ、変な質問でごめんなさい!」
魔道士「ううん。そっか、立場が逆だったら…か」
戦士「は、はいっ」
魔道士「戦士と剣士が逆だったら…うん……」
戦士「…」
魔道士「そうなってい……」
…ガチャッ!!!
剣士「…よ、ようっ!ひ、久しぶり!」
魔道士「…えっ?」
戦士「…えっ!」
剣士「よ、よう……」
魔道士「け、剣士…!?ど、どうして……!」
戦士「…剣士さん、どうしてここに!」
剣士「あんな別れ方して、1週間もしないうちに形でまた会うなんてよ…」
剣士「ち、ちょっと戻ってくる事情が出来ちまって…な…?」
剣士「は…はは……」
魔道士「…」
魔道士「…っ」
剣士「な、なんか…すまん……」
魔道士「でも、またすぐにどっかに行っちゃうんでしょ…?」
剣士「い、いや……」
魔道士「…え?」
剣士「…本当に混乱させて悪いと思ってる」
剣士「だけど、今日ここへ来たのは…お前とまた、パーティを組むため。一緒にいるためなんだ」
魔道士「…えっ!?」
剣士「…い、いや!お前が嫌なら別に……」
魔道士「い…今の言葉、本当…なの……?」ブルッ
剣士「…あぁ」
魔道士「…っ」グスッ
剣士「…っ」
…スクッ
トコトコ……
戦士「…ご、ごゆっくり」
ガチャッ…バタンッ!!
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 戦士と剣豪の部屋 】
…ガチャッ
剣豪「ふぅ、いい買い物したぜ」
剣豪「…って、あれ?」
戦士「」
剣豪「…戦士?」
剣豪「どうしたよ、魔道士先輩の部屋にいたんじゃねえのか」
戦士「…うるっせぇぇ!!」
剣豪「おい、うるせぇってなんだ!」
戦士「くっそ!くっそ~!!分かってるけどさぁ~!!」
戦士「分かってるんだけどさぁ……!」
剣豪「…」
剣豪「…何がなんだか」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 魔道士の部屋 】
剣士「…っていうわけだ。お前や武道家たちでまた、戦いに赴きたいんだ」
魔道士「そっか。また、みんなで戦う時が…来たんだね」
剣士「…すまなかった。俺のワガママで振り回してしまってる」
魔道士「ううん。いいよ」クスッ
剣士「…なぜ笑う」
魔道士「いつも、そんなもんだったでしょ」
剣士「んーむ…」
魔道士「でも、嬉しい。えへへ…」
剣士「こうしてまた、お前の顔を近くで見れたこと…触れられること…今、凄い幸せだ」
魔道士「…うん」
剣士「だけど、すぐにでも武道家たちを探しにいかないといけないんだよな…」
魔道士「…うん」
剣士「少しでも、短い時間の中でも、こうして触れ合っていたいと思う…」
魔道士「…うん」
剣士「…」
剣士「…そういえば、さっきの話。ドア越しで聞いちまった」
魔道士「さっき?」
剣士「ほ、ほら…何だその。俺と戦士の立場が逆だったらとか…その…」
魔道士「あぁっ!」
剣士「そ、それって…どうなんだ…?」
魔道士「聞きたいの?」
剣士「べ、別にそ…そんなことじゃねえけど?そんなことじゃねえけど、ちょっとほら、な?」
魔道士「…剣士と戦士の立場が逆になっていたら、ね」
剣士「…う、うむ」
魔道士「…」クスッ
魔道士「もしそうなっていても、私はきっと変わらず剣士に惹かれてたと思う。好きになってたと思う」
剣士「!」
魔道士「きっと、そうだと思う。…ううん、絶対そうだよ」
剣士「…」
魔道士「…」ニコッ
剣士「魔道士……」
魔道士「…」
剣士「…」
魔道士「…」
…ギュウッ
剣士「少しくらいの休みは、神様も許してくれるよな……」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 2時間後 戦士と剣豪の部屋 】
戦士「」ゴロゴロ
剣豪「…いつまでスネてんだよ!オメーは!」
戦士「分かってたんだよ~…。分かってたんだよ~……」
ゴロゴロゴロ…
戦士「あーーー…」
ゴロゴロゴロ…
戦士「うーーー……」
ゴロゴロゴロ…
剣豪「…」イラッ
剣豪「…いい加減、うるっせぇぇ!」
…ゲシッ!!ドシャアッ!!
戦士「のああっ!!」
剣豪「あのな、恋だとか何だとかは別にいいが、それをこっちまで見せるんじゃねーよ!」
剣豪「第一、魔道士先輩はお前じゃなくて剣士がいるんだっつーの!」
…ムクッ
戦士「…分かってるよ」
剣豪「だったらグダグダしてねーで、ピシっとしてろ!武器でも磨いてやがれ!」
戦士「ぬぐぐ…」
…コンコン
剣豪「あ?…どうぞ」
…ガチャッ
剣士「…よ」ビシッ
魔道士「こ、こんにちわ~…」コソッ
剣豪「剣士…さんと、魔道士先輩」
戦士「い、いらっしゃいませー!魔道士さぁん!」
…ゴツンッ!!
戦士「」
剣士「…ちょっと、お前らにちょっとしたお願いがあってな」
剣豪「お願い?」
戦士「な、何でしょうか」ズキズキ
剣士「武道家と乙女格闘家を探すのを手伝ってほしいんだ。期限は明後日の16時」
剣士「急なことで悪いんだが、頼めないか」
剣豪「…意味ありげだな。どういうことだろうか」
剣士「世界の冒険者のため、この戦争に勝つため。それで察して欲しい」
剣豪「…なるほど。別に構わないが、そんな短い時間じゃ探す場所も探せないのでは…」
剣士「それは、これを使っていい」
ゴソゴソ…ペラッ
剣豪「…これは?」
剣士「中央軍本部、少将の直筆のサインだ。支部にある転送装置を、自由に使えるようにしている」ペラッ
剣士「ただ、知ってると思うが、東方祭壇町を含むその周囲と、その他一部は停止しているけどな」
剣士(…出てくる時に渡されたが、親父のやつも妙に準備のいいことしやがって)
戦士「…少将の直筆のサインってことは、剣士さんが中央軍に協力を?」
剣士「まぁ、そうなるか。時間もないし、早急に探してほしいんだ」
戦士「了解です。見つかっても見つからなくても、待ち合わせを決めたほうがいいのでは…」
剣士「…その期限1時間前の3日後の15時。中央軍本部前に集合で…どうだ」
戦士「…わかりました」
剣豪「了解した」
剣士「じゃあ、俺たちもすぐに出かける。また3日後に」
戦士「はいっ」
剣豪「了解っ」
ガチャッ……バタンッ……
戦士「…」
剣豪「…」
戦士「…」
剣豪「……残念っ!」ポンッ
戦士「お前が俺の傷口広げてるんじゃねぇかっ!!!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
―――それから、武道家と乙女格闘家の捜索にあたった4人。
それぞれが支部の転移装置を利用しながら点々と捜索を続けたものの、
一向に武道家たちの手がかりを得ることは出来ず、時間だけが過ぎていった。
そして2日目の昼―――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 南方大陸 砂漠港 支部 】
ギュッ…ギュウウンッ!!バシュウッ!!!
支部軍人「…ん?」
…スタッ
剣士「…よいしょっと。砂漠港なんざ久々だな」
魔道士「うん。みんなで最後に来た場所もここだったよね」
支部軍人「…転移装置から一般人?おい、お前らどうしてー…」
剣士「ん…」
剣士「あぁ、ほい」
…ペラッ
支部軍人「む?」
剣士「中央軍本部、少将のサイン。俺ら、自由に移動していいことになってんの」
支部軍人「…何?」
剣士「…極秘任務ってやつだな」
支部軍人「…」ペラッ
支部軍人「…っ!」
支部軍人「これは本物の…!し、失礼いたしました!」ビシッ!
剣士「うい」
魔道士「…やっぱり毎回聞かれちゃうよね」
剣士「親父のサインがなかったら、相当な時間かかってただろうな…」
魔道士「うん…」
剣士「さてと…。んじゃ、探しにいきますかっ」
魔道士「うんっ!」
カツカツカツ…
ガチャッ、バタンッ…
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港 】
…ジリジリ
剣士「あ…っつ……」
魔道士「…久々だね、ここ」
剣士「あ~…そうか。そこの服屋で、また服買わないとな……」
魔道士「うん…」
フラフラ…
剣士「つ~かさ…」チラッ
ザワザワ…ワイワイ……!!!
子供たち「今日も暑いなぁ…」
大人たち「こらこら、走っちゃだめだぞ~!」
軍人たち「…」ビシッ!
エルフたち「…こんなことに…なるなんて……」ブルブル
ワイワイ…!
剣士「…何このカオス」
魔道士「すっごい人多いし、エルフ族もいるし……」
剣士「そういやオッサンが、前線付近の村やエルフ族を全部、南方大陸へ移動したって言ってたなー…」
魔道士「だからだね。これはこれで問題起きそうだけど、大丈夫なのかなぁ…」
剣士「まぁ軍も普段より多くいるし、大丈夫だろ……」
軍人「…」ジロジロ
魔道士「…」
魔道士「…って、剣士!そうだ!」
剣士「あん?」
魔道士「もしかして、西方海岸村のエルフ族もいるんじゃない?」
剣士「!」
魔道士「もしそうなら、鍛冶長さんとか幼エルフもいるんじゃ…!」
剣士「あ…!」
魔道士「もしかしたら…だけどね」
剣士「ち、ちょっと探してみようぜ!」
魔道士「で、でも期限まであと1日しかないし…」
剣士「…そこの軍人さんに聞くだけだって!」
タタタタッ……
剣士「おーい!軍人さん!」
軍人「むっ?何用ですかな」
剣士「ここに避難民が結構来てると思うんだが、西海岸村のエルフ族も来てるのか?」
軍人「…詳細については、お答え致しかねます」
剣士「何でよ」
軍人「混乱している状況ですので、何かきっかけで問題が起こらないとも言い切れません」
剣士「そ、そうか。立派だな…」
軍人「いえ」
剣士「…じゃあ、これならどうだ」
…ペラッ
軍人「これは…」
軍人「…」
軍人「…ほ、本部の少将殿の直筆サイン!?」
剣士「これでも、俺らは本部幹部からの勅命で動いてるんだがな」
魔道士「…それ、いいの?」ボソボソ
剣士「少しくらい、使わせてもらう」ボソボソ
軍人「そ、そうでありましたか。大変失礼を…!」ビシッ!
剣士「そういうのはいいから、どうなの?」
軍人「はっ!一部を除き、西海岸村のエルフ族は既に避難を終えています」
剣士「一部を除き?」
軍人「一部というのは、彼らの中に、最後に避難をすると志願した方々がおられたからです」
軍人「その村を率いる住民の方々も含まれ、重要輸送作戦とし…」
軍人「恐らく、本日中に着けるよう、コチラへ向かって船が動いているかと」
剣士「…っつーことは、鍛冶長とかのこと…かね」
軍人「確か、そのように呼ばれておりました」
剣士「本当か!今日着くのかよ!いつ着くんだ!?」
軍人「予定では、もうそろそろ…」
剣士「…おっ!じゃあ、既にいる西海岸村の住民はどこにいるんだ?」
軍人「本日、その方々を迎えるということで、この港の船着き場に集まっておられます」
剣士「…本当かよ!」
軍人「かなりの人数はいますが、お探しの方がいるならお手伝いを…」
剣士「いや、いい!俺らで探すよ!」
軍人「了解致しました」
軍人「あっ…。で、ですが……」
剣士「何?」
軍人「その前にまず、暑さにやられてしまうので服を変えたほうがいいかと…」
剣士「…」
魔道士「…」
ジリジリ……
剣士「あつい……」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港 船着き場 】
…ザザァン……ザバァンッ…
ミャア…ミャア…
ワイワイ…ガヤガヤ…
剣士「…さて、服も着替えた事だし。あとは探すだけだなっ」
魔道士「ここも凄い人が多いね。どこにいるんだろ」
剣士「…あれから数年だし、幼エルフも大きくなってるだろうな」
魔道士「子供の成長って早いっていうしね。見つけられるかなぁ」
剣士「えーと…」キョロキョロ
剣士「……ん?」ピクッ
エルフたち「…まだかな、鍛冶長たち」
エルフたち「そろそろだろ。落ち着けって」ハハハ
ワイワイ…
剣士「…知らない若いエルフが鍛冶長の名前を」
魔道士「当時、子供だったエルフもいっぱいいるから……」
剣士「うーん…」
ウロウロ…
???「…鍛冶長まだかな♪」
???「…」
???「あ、あれっ……?」ハッ
ワイワイ…!!
剣士「くっそ、さすがに人もエルフ族も多すぎるぞ!」
魔道士「う~ん、やっぱり手伝ってもらったほうが…」
タタッ…タタタタタッ…
剣士「だけど、個人的な用事を軍にお願いするのはなぁ…」
魔道士「もう私利私欲でサイン使っちゃったけど…言うセリフ?」
剣士「そ、それはー…」
タタタッ…!!
???「やっぱりだぁぁ!!それぇっ~♪」
…バッ!!ギュウッ!!
剣士「…うん?」
魔道士「…え?」
???「やっぱりこの匂い…剣士さんだ♪」
剣士「…どなた?」
魔道士「…だ、誰…この女の子…」プルプル
剣士「お、落ち着け!俺も知らないから!!」
???「…わかりませんか?」
剣士「い、いや…わからねぇよ!」
魔道士「誰なのかな…」プルプル
???「…もう!」
???「本当に…分からないんですか?二度も助けてくれたのにっ!」
剣士「え…」
魔道士「え…?」
少女エルフ(幼エルフ)「…」ニコッ
剣士「幼…エルフ…?」
少女エルフ「はいっ!もう幼くなんかないですけど…」ブスー
剣士「う、うそぉ!?」
少女エルフ「ウソじゃないですよ!」
剣士「ウッソだ!!おま、そんな成長し…えぇっ!?」
少女エルフ「驚きすぎです!」
魔道士「…本当に幼エルフちゃんなの!?」
少女エルフ「魔道士さんですよね!そうですよ♪」
魔道士「…待って。あれから5年くらいなのに…」
少女エルフ「?」
魔道士「せ、成長しすぎだし、まだ15歳にもなってないんだよね……ウソでしょ…」
フラフラ…ドシャアッ
少女エルフ「ど、どうしたんですか!」
剣士「はは…。ま、まぁ放っておいてやってくれ…」
少女エルフ「は、はい…」
剣士「それよか…本当に久々だな!会えて嬉しいぜ」ニカッ
少女エルフ「…はいっ。私もとっても嬉しいです!」
剣士「はは」
少女エルフ「…えいっ♪」
…ギュウ~ッ!!
剣士「お、おいおい」
少女エルフ「えへへ…。またいつか会いに来てくれると思ってました」
剣士「…もっと、落ち着いた時に会えればよかったな」
少女エルフ「いえ、こうして会えただけで…凄く、嬉しいです……」ニコッ
剣士「ふ…」
少女エルフ「…もうすぐ、鍛冶長さんたちの船も到着する予定です♪」
剣士「そ、そうだ。鍛冶長はまだ来てないんだったな」
少女エルフ「最後まで残って、西方側のエルフ族の避難が終わったら来る…と」
少女エルフ「それぞれの村や町の、長老さんや兵士たちが残ってて、もうそろそろ……」
…ボォォォッ!!!
少女エルフ「!」
剣士「!」
魔道士「!」
剣士「…あの地平線に見える、汽笛のあげた船か…もしかして」
少女エルフ「…多分、そうじゃないでしょうか!」
魔道士「鍛冶長があの船に…」
剣士「久々だな…。と、あの時の職人エルフも一緒なのか?」
少女エルフ「はい、そうだと思います」
剣士「…」
剣士「あー…」
剣士「…参ったな、どんな顔して会えばいいのか……」
少女エルフ「…どうかしたんですか?」
剣士「いや、その……。ちょっと謝ることが……」
剣士(…造ってもらった大剣の魔石が取れちまった、壊れちまったなんて言えるかよ)
少女エルフ「…」
少女エルフ「…えへへ、それじゃあ私が一緒に謝ってあげます!」
剣士「ぬ…」
少女エルフ「それなら、会えますよね!」
剣士「ま、まぁ……」
少女エルフ「えへへっ♪」
剣士「…はは、ありがとな」
魔道士「…」
魔道士「……ロリコン」ボソッ
剣士「は、ははは!さぁて、鍛冶長はまだかなぁ~!!」
魔道士「…」
少女エルフ「う~ん…。なんか少し、遅いですね」
剣士「帆船で、結構風もあるし…もっとスピードあがっても良さそうなんだが……」
剣士「…」
剣士「…むっ、なんだ?」ピクッ
魔道士「え?」
少女エルフ「…ど、どうしたんですか?」
剣士「おい…。なんか船の動き、おかしくないか」
魔道士「と、遠すぎて見えないよ。何が変なの?」
剣士「いや、おかしいぞ!」
魔道士「だから、何が…」
剣士「う、海からのツタみてーなのが這出て、絡まれてるように…見えるんだが……」
魔道士「え…」
少女エルフ「えっ!?」
剣士「…ちょっと待て、小舟か何かはないか!いや、支部に一回行くぞ!」ダッ!
魔道士「あっ、ちょ、ちょっと!」
少女エルフ「あ、待って下さい剣士さんっ!!」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港 支部 】
…ガチャッ!!
剣士「…失礼!」
魔道士「し、失礼します」
少女エルフ「こんなとこ、初めて入った…」ヒョコッ
剣士「…っと」
ガヤガヤ…!
支部軍人たち「おーい!アイツどこ行った!早く準備させろっ!」
支部軍人たち「武器は入れたのか!?船の許可はまだかっ!」
支部軍人たち「分かってるっつーの!」
…ザワザワ!
剣士「…ビンゴ。何かあったな」
魔道士「何が…」
剣士「…おい、誰か!何が起きているか教えてくれ!本部少将の勅命を受けている者だ!!」
…ザワザワ!!
支部軍人A「…本部の少将殿だと?そういやさっき、そんなこと言って転移装置使ってた奴いたな」
支部軍人B「ははは!お前たちのようなガキがか!」
支部軍人C「お、おいバカ!お前さっきまで外にいたから知らないだろうが、あの人は本当に…!」
…バンッ!!!!
剣士「…少将のサインだ。これで…いいか」
支部軍人たち「…はい」
魔道士「…剣士に権力を持たせたらいけない気がした」
剣士「何が起きてるか教えてくれ。あのエルフ族たちが乗ってる船で何か起きてるんだろ!」
支部軍人「…あれが見えるのか!?双眼鏡が必要な距離だぞ…」
剣士「特別目がいいんだよ!だから何が起きてる!」
支部軍人「…魔族があの船を襲ってるんだよ!今すぐ支援部隊の出撃の準備をしてるんだ!」
剣士「…なにっ!」
エルフ少女「えっ…」
魔道士「…ほ、本当ですか!?」
支部軍人「本当だっつーの!いいからジャマだ!」
支部軍人「…いいか、準備したらすぐに出航だぞ!」
支部軍人たち「はっ!」ビシッ!!
剣士「…」
剣士「…おい、アンタ」
支部軍人「だから何だよ!忙しいって言ってる…!」
剣士「その船…。俺も乗せて…もらおうか」
支部軍人「……へ?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港沖 海上 】
…ザバァンッ!!ザバァッ!!
支部軍人A「…あんた、少将殿の部下とはいえ冒険者だろ?」
支部軍人B「我々に任せて貰って良かったんだぞ?」
剣士「ま、いいじゃねーか。その辺の冒険者と一緒にするなって」
支部軍人A「確かにその身体、その辺の奴とは違うようだが……」
剣士「これでも死線は何度もくぐってるんだよ」
支部軍人A「…本当か?」
ザバァンッ…サアアッ……
剣士(魔道士と少女エルフは念のため陸に置いてきたが…大丈夫だろう)
剣士(…それより、鍛冶長の乗った船……無事なのか)
支部軍人A「…」
支部軍人A「…ずいぶんと、神妙な顔をするんだな」
剣士「ん?」
支部軍人A「さっきまで騒いでたと思えば、今度は真剣な顔。あの船に何かあるのか?」
剣士「まぁ…ちょっと知り合いが乗ってるかもしれないんだ」
支部軍人A「…エルフ族だぞ?」
剣士「…これさ」
クルクルクル…ズドンッ!!!
支部軍人A「で、でっけぇ剣だよな。よくそんな簡単に振り回せる…」
剣士「これは、あの船に乗ったエルフ族にもらったものなんだよ」
支部軍人A「何!?エルフ族にか!?」
剣士「…そして、大戦士兄の魂でもあるんだ」
支部軍人A「だ、大戦士って……あの大戦士殿か?」
剣士「…」
支部軍人A「お前、一体何者……」
…ブォォオッ!!!!
剣士「!」
支部軍人A「なんだ!?」
支部軍人B「前方に巨大な影!それと、エルフ族の乗った船は見えた…が……!!」
支部軍人A「ん…」
支部軍人A「……なっ!?」
剣士「…何だ、あれ」
ウネ…ウネウネ……バキッ…メキメキメキッ!!!
剣士「なんだあの…でけぇ吸盤…タコか何かの触手みてぇだぞ!?」
剣士「つーか、鍛冶長が乗ってる船を…!!」
バキバキィッ!!メキッ……!!
支部軍人A「全員、武器を構えろ!あの船に、巨大な魔族が張り付いているぞ!」
支部軍人たち「はっ!」チャキッ
触手『…』
グググッ……ブォンッ!!バキャアンッ!!!
剣士「おいおい!!あのクソ触手…!それ以上やめろコラァ!船が壊れちまうだろうがよっ!!」
支部軍人A「魔法を使える者は、あの触手へ向かって放て!」
支部軍人A「武器を構えたものは、あちらの船へ近づいたら攻撃を行うよう、準備しろ!」
ババババッ…!!
触手『…』
ウネウネ…グルグルッ!!バキバキバキィッ……!!
剣士「…だ、ダメだ!そんなんじゃ間に合わない!向こうの船が持たないぞ!」
支部軍人A「…分かってるが、どうしようもない!この距離では!」
剣士「…俺がやる」チャキンッ
支部軍人A「…は?」
剣士「…」
グググッ……ビキビキッ……!!
支部軍人A「お、おい…。何する気……」
剣士「…っしゃあっ!!」
ダァンッッ!!バキャッ!ビュッ…!ヒュオオオッ……!!
支部軍人A「なっ!!木板とはいえ床を踏み抜い…!」
支部軍人B「な、なんだあの飛翔力!?」
ヒュウウウウウッ!!!!
剣士「…らぁぁぁあああっ!!」
支部軍人A「こ、この距離を強化魔法もなしに…!」
剣士「これ以上…鍛冶長の乗った船を壊すんじゃねえぇぇっ!!!」
触手『!』
ビュオッ…ズバァンッ!!バスバスッ…ズバァァンッ!!!
触手『…ッ!!』
グラッ…ボトボトッ……ザバァンッ!……
剣士「…うしっ!!」
ズザザザァ…キキィ……
剣士「…どうだ!」ビシッ!!
…ザワザワ!
支部軍人A「…あのサイズの触手を切り裂いて……」
支部軍人B「向こう側の船へ着地するとは…」
支部軍人たち「一体何者……」
剣士「…っと、船はまだ沈まないみたいだな…。大丈夫か、みんな!」クルッ
ガヤガヤ…!!
エルフ族「た、助けてくれたのか…?」
護衛軍人「も、もうダメかと思った……」
避難市民「あ、ありがとう…ありがとう…」ブルッ
剣士「…無事なようで、よかった」
???「…」
???「…おい、お前!」
剣士「あん?」クルッ
職人エルフ「…あの時の、人間のガキか!」
剣士「…げっ!」
職人エルフ「…覚えてるか、俺のこと」
剣士(や、やっぱり乗ってたのか…!)
職人エルフ「なんだその"やっぱり乗ってたのか"っていう顔はよ…あぁ?」
剣士「い、いや!」
…ポンポン
職人エルフ「ん?」
エルフ族の男「…おい、お前の知り合いなのか?」
職人エルフ「…まァな」
エルフ族の男「じゃあ、お前がいたから、俺らを助けに…?」
職人エルフ「…何?」
エルフ族の男「…そうじゃないのか?」
職人エルフ「…」
職人エルフ「…剣士っつったっけお前。お前…俺がいたから助けに来たのか?」
剣士「えっ」
剣士「…」
剣士「い、いや。エルフ族だろうが何だろうが、こんな状況だったら…助けにくるっつーの」
職人エルフ「…本当か?」
剣士「…本当だ」
職人エルフ「…」
剣士「…」
職人エルフ「ふっ…。そうか……」
剣士(…)
剣士(俺、この人…苦手だわ)
職人エルフ「…」
剣士「……そ、そうだ。鍛冶長はどうした?」
職人エルフ「あ?」
剣士「鍛冶長だよ!この船に乗ってるってことも聞いてるんだが!」
職人エルフ「……おい、親父。お呼びだ」
剣士「…」
…ヨロッ
鍛冶長「…」
剣士「…ジイちゃん!」
鍛冶長「久しぶりじゃの…」
剣士「お…おう!」
…ヨロヨロ
鍛冶長「むおっ……」
…ガシッ
職人エルフ「…歳なんだから無理すんなよ」
鍛冶長「すまんな…」
剣士「ジイちゃん、歳…とったんじゃねーか?」
鍛冶長「何を言うか!ふはは…!また、顔を見れて嬉しいぞ…小僧…」ニカッ
剣士「おい…。もう俺は小僧って呼ばれる歳じゃねーぞ!」
鍛冶長「何…、ワシから見たらみんな子供じゃよ!うはははっ!」
剣士(はは…変わってねぇなぁ…)
…ザワザワ!!
剣士「ん?」
護衛軍人「…け、剣士さんでしたっけ!剣士さん、向こう側見てください!」
剣士「向こう側って……」
護衛軍人「支部軍人たちが乗っている船が!」
剣士「…!」ハッ
触手『…』
ウネッ…グォォォォオッ!!!
支部軍人A「…うあああっ!」
支部軍人B「うっそだろ……!」
支部軍人たち「うわあああっ!!」
バキャアアンッ!!!!
バキバキッ…メキメキメキッ!!!
ズッ…ズズズゥン………ザバァンッ……!!
剣士「なっ!」
護衛軍人「あぁっ!!」
エルフ族たち「…軍の船が!」
職人エルフ「お、おいおい…沈んじまったぞ!」
鍛冶長「な、なんということ……!」
避難市民たち「な、なんで……!」
剣士「…っ!」
剣士「まだ触手のやつ、動けたのか…!」
護衛軍人「…海に軍人たちが放り出されています!」
剣士「この船に救出に使える小舟はあるのか!?」
護衛軍人「確か、裏側に!」
剣士「…くそっ!」ダッ
護衛軍人「…いや、ち…ちょっと待って下さい剣士さん……」
剣士「なんだよ!」
護衛軍人「も、もう…遅いです……」
剣士「何っ!?」
護衛軍人「触手の…本体らしきものが……」
剣士「…!!」
ザバァンッ……!!
ォォォ……ォォ………
クラーケン『…』
…ォォォ………ォォ…
剣士「なっ…何じゃありゃ…。イカかタコの化け物かよ!?あんな魔族まで…っ!」
触手『…』
…ギュルンッ!!ガシイッ!!
支部軍人たち「う…うあああっ!離せぇぇ!」
支部軍人たち「いやだ…死にたくない!死にたくないぃ!!」
グググッ…
支部軍人たち「あ゛っ…!」
…バチュッ!!…ボトボトッ……ザボザボォンッ……
剣士「…っ!!」
エルフ族たち「う、うわああああっ!!」
避難市民たち「ぐ、軍人さんがぁぁぁっ!!」
護衛軍人「な、なんてことだ……」ブルッ
クラーケン『…』
クラーケン『…』ギロッ
剣士「!」
護衛軍人「こ、こっちを見た…」
エルフ族たち「もう…だめだ……」
避難市民たち「死ぬ……」
職人エルフ「はは…笑えてくるな……」
鍛冶長「…」
触手『…』
グググッ…ブォンッ!!!!
護衛軍人「…っ!」
エルフ族たち「うわあああっ!」
職人エルフ「…っ」
鍛冶長「…」
剣士「……大丈夫だって。お前らは幸運だよ」
護衛軍人「へ?」
エルフ族たち「な、なんてっ!?」
避難市民たち「幸運だって…?」
剣士「…俺が、この船に来ていたってことさ!」
…ググッ…グググッ!!
護衛軍人「!」
剣士「…ふんぬっ!!」
ブォッ!!!…ザシュザシュウッ!!!
触手『…ッ!』
…ボチャボチャッ…ザバァンッ……
クラーケン『…!』
剣士「…どうだ、イカタコの化けモンが!」
護衛軍人「お、おぉ……!また、一撃で触手を…!」
エルフ族たち「うおおっ!」
職人エルフ「…やるじゃねえか」
鍛冶長「その実力は本物のようじゃな……」
剣士「何本でも来いよ…。俺が全部切り落としてやる!」
クラーケン『…ッ』
クラーケン『…』
…ザバァンッ、ザバンッ、ザバァンッ……
触手たち『…』
ウネウネ…グニッ…ウネウネ……
剣士「…へぇ、隠していた触手か」
剣士「1、2、3、4……、10本程度っつーとこか。それがお前の全てか?」
クラーケン『…』ギロッ
剣士「…そうみたいだな」
クラーケン『…』
剣士「…いいぜ、来いよ」クイッ
触手たち『…』
ググッ…グググググッ………!!
剣士「…」スゥゥ
剣士「いっ…せー…の……」
…グググッ…!!
触手たち『…』
ビュッ…ブォンッ!!!ビュオオオオオオオッ!!!!
剣士「…せいやぁぁっ!!」
ブォッ…バシュウウウッ!!!ビュオッッ!!!
エルフ族「!」
護衛軍人「う、うおおっ!」
職人エルフ「け、剣気が…目に見えて……!」
鍛冶長「おぉ……!」
ズバァンッ…ズバズバズバズバァンッ!!!!!
ブシュッ…ズブシュッ!!…ブシャアッ……!
クラーケン『…ッ!!』
触手たち『…』
…ドシャアッ…ボチャボチャボチャッ……
剣士「…全部、落としたな」トントン
…ザボザボザボ…ザボォンッ………!!!
クラーケン『…!』
ワッ…ワァァァッ!!
護衛軍人「す、凄い!剣士さん、凄いですよ剣士さん!!」
エルフ族たち「す、全ての触手を…」
職人エルフ「やるじゃねえか…」
鍛冶長「小僧……!」
剣士「あとは本体、お前だけだ。やるなら…かかってこいよ」
クラーケン『…』クワッ!!
剣士「ふっ、潔し!いくぞ……!」
ググッ…ビキッ!
剣士「…あ?」
ビキビキ…ビキッ……パキャアンッ……!!
カラァン……
剣士「なっ!?」
護衛軍人「!」
エルフ族たち「た…大剣が折れた!?」
職人エルフ「何っ!?」
鍛冶長「!」
剣士「なっ…なんで……!」
職人エルフ「な…何をしたんだ!」
剣士「わ、わかんねぇよ!と、突然ヒビが入って…」
職人エルフ「…み、見せてみろ!」
…バッ!
職人エルフ「…っ!」
職人エルフ「…お前、俺の武器を折るくらいまで…一体何を……」
剣士「…武器が折れたらあのイカタコを倒せねぇぞ!」
職人エルフ「ちっ…俺の武器を貸してやる。お前の腕なら、これでも充分だろう!」スッ
剣士「軽剣か……」チャキッ
職人エルフ「…不満かよ!」
剣士「いや…全然っ!」チャキンッ
クラーケン『…ッ』
…グッ…グオォォォォッ!!!
護衛軍人「つ、突っ込んできました!」
剣士「…そんな心配すんなって」
グググッ…タァンッ!!
護衛軍人「ひ、飛翔!さっきよりも高い…!」
剣士「この剣じゃ、威力も足りねぇ…。なら、高さで威力の1つも上がるだろってな!!」
クルクル……ビュオォォォオッ!!!
剣士「ぬうううああああっ!!!」
クラーケン『…ッ!!』
ヒュオオオッ!!ズバズバァンッ!!!
ドシュッ…!!!ズドォンッ!!!
剣士「…」
クラーケン『…』
剣士「…ま、そうだな」
…シャキンッ
クラーケン『…ッ』
グラッ……ザバァァァン……!!!
剣士「…軍人さん方、守れなくてすまなかった……」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港 】
…ワァァァッ!!!
エルフ族たち「よ、よかった…家族に生きて会えた……!」
エルフ族たち「お爺ちゃん…無事で…」グスッ
エルフ族たち「あの方のおかげで…!」
少女エルフ「剣士さん、本当にありがとうございました……」
剣士「礼はいいさ。当然のことだ」
魔道士「剣士、無事でよかった……」
剣士「無事なんか喜べるかよ…。俺の失態で、支部の人間の何人かが…犠牲になっちまった……」
魔道士「け、剣士は悪くないよ!」
剣士「…亡くなった人たちは、戦いの場においての覚悟がなかった目だった」
剣士「その場の雰囲気に浮かれ、興奮して、気が付けば死の寸前…」
剣士「そこでようやく状況に気付き、嘆き、死んでいった。くそっ……!」
魔道士「…っ」
少女エルフ「…そんな犠牲の中でも、多くの人が助かったんです」
少女エルフ「剣士さんがいなければ、全員やられていました。だから…気を落とさないでください」
剣士「あぁ…分かってるよ。死というものは、嫌というほど見せられたからな…」
少女エルフ「…」
ザッザッザッ…
職人エルフ「…おい」
剣士「あん?」
職人エルフ「お前の大剣…見てやったぞ」スッ
剣士「あ、あぁ…」
職人エルフ「お前、本当にこの大剣、どんな使い方をしたんだ…」
職人エルフ「芯を固める魔石が欠け、刃はこぼれ、滑り止めの柄は思い切り削られている」
職人エルフ「…これでは途中から砕けるのは当然だ。金属疲労が並大抵じゃない」
剣士「す、すまん……」
職人エルフ「エルフ族の魂を、よくもこんな……」
剣士「…っ」
剣士「す…すまない…。本当に悪く思っている……」バッ!
職人エルフ「な、なんだよ。お前らしくないな…」
剣士「い、いや……」
少女エルフ「…」
タタタッ…ベシッ!!
職人エルフ「い、いてっ!」
…ベシベシッ!!
少女エルフ「また剣士のこといじめてる!ダメだよ!!」
職人エルフ「ち、違う!違う違う!」
少女エルフ「違わない!みんな救ってもらったのに、なんでそんな事言うの!」
職人エルフ「ちげーっつーの!話は最後まで聞け!」
少女エルフ「なに!」
剣士「…?」
職人エルフ「…俺はこれでも鍛冶師だぞ。この大剣が、どんな風に使われたのかくらい…見てわかる」
職人エルフ「これを、お前はどれだけの命を守るのに使ってきたんだ?」
職人エルフ「武器の声がな、聞こえるんだよ」
職人エルフ「…だから、本当にそんな事は思っちゃいない」
職人エルフ「本当は、俺の武器を良く使ってくれて…、その……お礼は言う」
職人エルフ「さっきの魂をこんな…ってのはちょっとした悪口だったが…。す、すまんな……」
剣士「…っ!」
魔道士「…剣士、だってさ。よかったね♪」
剣士「あぁ……っ」
職人エルフ「な、何だ…そんなに気にしてたのか?」
剣士「え、エルフ族の魂の話は痛いほど聞いてたし……」
剣士「何より、それをこんな風にしたのは俺だったから…。」
剣士「その武器を折っちまうとか、壊すなんて…取り返しのつかないことを…と……」
職人エルフ「…」
少女エルフ「剣士さん…」
剣士「…そう言ってくれるなら、本当に救われた気がする」
剣士「その武器はもう…使えないよな。そんな形で悪いが…溶かせばまた使えるんだろ?」
剣士「あとは…あんたが他のモノに使えるようにしてくれ…」
職人エルフ「そのことなんだがー…」
鍛冶長「…待て」
剣士「……ジイちゃん?」
ヨロッ…ヨロヨロ…
鍛冶長「…小僧、その言いぐさ…。お前はあの時に大戦士に言われた"平和の礎"を…投げ捨てるのか…?」
剣士「はぁっ!?そ、それは捨てようとなんか思っちゃいない!」
鍛冶長「…なら、その武器をもう1度、俺に造ってくれとでも言うべきなんじゃないか……?」
剣士「そ、それは……」
鍛冶長「…」
剣士「お、俺の武器は折れた。だけど、魔道士や他の2人が貰った武器はまだ…生きているはず」
剣士「そして、みんなは仲間だ。俺の武器が折れたとしても…」
剣士「その仲間の武器がまだある限り、俺はあんたたちエルフ族やこの戦いの礎となる覚悟はある!」
剣士「…俺は、約束は守る!礎となる覚悟は、あるから!!」
剣士「そ、それに…。その武器は魂。その魂を、もう1度造ってくれなんて…気軽に言えないだろ……」
鍛冶長「…」
鍛冶長「…よう吠えるのは、当時となんら変わっちゃいないんじゃな。安心したぞ」ククク
剣士「む…」
鍛冶長「…おい」
職人エルフ「…へいへい。分かってるっつーの」
ゴソゴソ…
剣士「…?」
職人エルフ「…親父の最後の作品だ。お前のような奴に渡されりゃ…。まぁいいか……」
ゴソゴソ…ドスンッ!!!パァァッ……!!
剣士「!?」
魔道士「うっわ…!」
少女エルフ「すごーい!」
剣士「な、何だよこれっ!漂うオーラが半端じゃ…!」
パァァァッ…!!
鍛冶長「うわっはっはっは!ワシが鍛冶師として最期に造り上げた武器…大剣じゃ!」
剣士「…っ!」
鍛冶長「ワシは、人との繋がりを、人との未来を考えていたことを言ったのを覚えているか?」
剣士「あ、あぁ……」
鍛冶長「…何となしに、最期に造り上げるべくものを考えていた時だった」
鍛冶長「そこに浮かんだのは…お前がワシらを信じ、架け橋になると言った言葉……」
鍛冶長「気付が、自然と手が動き……この大剣が出来ていた」
剣士「…」
鍛冶長「…そしていつか、願わくばワシが死んだあとでもいつかお前の手に…とな」
剣士「お、俺の手に…?」
鍛冶長「…生きているうちにこうして渡せて、ワシは幸せもんじゃな!」
剣士「い…いいのか…。俺が貰っても……」
鍛冶長「…遠慮するな。お前の血を、お前の力を…この大剣は更なるものとしてくれるはずじゃ」
剣士「…」ゴクッ
職人エルフ「素直に受け取っておけ。親父の銘の最期の作品がまさか人間へ渡すことになるとは……」
職人エルフ「しかも、生意気なガキだったとは…思いもしなかったがよ!」
剣士「…」
剣士「…」
剣士「…」
……スチャッ
剣士「…っ!!」
パァァァッ!!ドクンッ、ドクンッ……
剣士「あっ…」スゥゥ…
鍛冶長「…エルフ族の血は、魔族の血であった。」
鍛冶長「魔族には魔族の武器が、きっとその力となってくれるはず……」
剣士「全身から力が……!」ドクンドクン!
鍛冶長「…受け取ってくれて、ありがとう。これでワシも…安心して逝ける……」
剣士「お、おいそんなこと…」
鍛冶長「ふはは、じゃがな…この老いぼれ!せめてこの戦いの行く末くらいは…見守る覚悟じゃ。安心しとけ!」
剣士「はは…」
魔道士「…良かったね、剣士」ニコッ
剣士「…おう!」
少女エルフ「…それで、剣士さんたちはこれからどうするの?」
剣士「…まだ探すべき人がいるんだ。すぐにでも別の場所へ行かねーとな」
少女エルフ「探してる人?」
剣士「武道家と、乙女格闘家さ。覚えてるだろ?」
少女エルフ「…え、あの二人を探してるの?ど、どうして?」
剣士「いや、その…。あいつら、ちょっとワケあってパーティを抜けててな…」
少女エルフ「う、ううん。そうじゃなくて」
剣士「ん?」
少女エルフ「武道家さんと、乙女格闘家さんがいるから…ココへ来たと思ってました」
剣士「…」
魔道士「…」
剣士「…」
魔道士「…」
剣士&魔道士「…えっ?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 砂漠港付近の村 】
剣士「…ここが、西海岸村の住民が避難してる村か」
魔道士「あの時の村の風景と…だいぶ変わっちゃったね」
少女エルフ「ですが、みんな一緒にいれるので…それだけで充分です♪」
剣士「…ま、みんな一緒にいれる幸せもあるか」
少女エルフ「はい♪」
少女エルフ「…えっと、あそこです!あの小屋が、武道家さんたちがいる場所です」
…ヒュオオオッ……
剣士「お…おぉ。あそこに…」
魔道士「武道家と乙女格闘家が……」
少女エルフ「はいっ。では私は、ちょっと家のお手伝いがあるので…失礼します」ペコッ
剣士「おう、ありがとな」
魔道士「またね~」
タッタッタッタッ……
剣士「…にしても、たった2か月もない別れだったが、少し緊張するな」ゴホンッ
魔道士「うん…」
剣士「だけど、あいつらも俺らが突然来て驚くだろうな…ははっ」
魔道士「あははっ、そうだね」
剣士「じゃあ…」
魔道士「行こうっ」
ザッザッザッザッ……
剣士(…そういえば、何であいつはこのエルフ族の村に?)
魔道士(考えたら、何で二人はこの村にいたんだろう…)
ザッザッザッ…ピタッ
剣士「…」
剣士「…」
剣士「……よしっ」
ソッ……
コンコンッ…
剣士「…」
魔道士「…」
???「はーい!」
タタタタッ…ガチャガチャッ
剣士「…」
魔道士「…」
…ガチャッ…ギィィ……
剣士「…」
魔道士「…」
…スッ
乙女格闘家「どちら様でしょうかー……」
剣士「…あっ」
魔道士「あっ…!」
乙女格闘家「…」
乙女格闘家「…えっ?」
魔道士「乙女…格闘家……?」
剣士「だよな…」
乙女格闘家「け、剣士…?っていうか、ま…魔道士…ちゃんっ!?」
魔道士「…うんっ」
乙女格闘家「ゆ…幽霊じゃな…い……?」
魔道士「…うんっ。生きてるよ!」
乙女格闘家「…!」
魔道士「…久しぶりだね、乙女格闘家♪」
乙女格闘家「…っ!!」
クルッ、ガチャッ!!バタンッ!!
剣士「うおい!?」
魔道士「えっ、ちょっ!何でドア閉めて…!」
乙女格闘家「…あ、会えないよ……!」
魔道士「えっ!?」
乙女格闘家「私…、魔道士ちゃんに会えないよ……!」
魔道士「どうして…!?」
乙女格闘家「魔道士ちゃんが行方不明になって、私…酷いこと…言ったの……」
魔道士「…」
乙女格闘家「武道家がそんな目に合わなくて、良かったねって…!!」
魔道士「…」
乙女格闘家「…そんなんだから、私…」
魔道士「…乙女格闘家」
乙女格闘家「…」
魔道士「…どんな言葉だろうと、私は気にしないよ」
魔道士「今は、こうして会えたことを…少しでもうれしく思ってくれるなら…それでいい」
乙女格闘家「…っ」
魔道士「…乙女格闘家は、私に会えて…嬉しくないの?私は…凄く嬉しいよ」
乙女格闘家「嬉しくないわけなんかない!」
魔道士「うん…。だから、大丈夫だよ」
乙女格闘家「…っ」
魔道士「…開けるね」
ガチャッ…ギィィ……
魔道士「…乙女格闘家」ニコッ
乙女格闘家「魔道士…ちゃん……」グスッ
魔道士「…えいっ♪」
ソッ…ギュウッ
魔道士「えへへ…。いつもと逆だね、これじゃ」
乙女格闘家「う…うぅ……」
魔道士「会えて…嬉しい」
乙女格闘家「私も嬉しいよぉ……」ポロポロ
…ギュウウッ……
剣士「…」
剣士「感動の再会に俺も嬉しいんだが…武道家はいるか?」
乙女格闘家「あ、うん……」
剣士「…部屋の奥かどこかか。入っても?」
乙女格闘家「い、いいけど…」
剣士「…?」
乙女格闘家「…驚かないでね」
剣士「驚く?」
乙女格闘家「…うん」コクン
剣士「…何があった」
乙女格闘家「…」
剣士「…何があったんだ!」
乙女格闘家「一番奥の部屋に…いるから……」
剣士「…っ!」ダッ!
タタタタタッ……!
魔道士「ぶ、武道家…何かあったの?」
乙女格闘家「祭壇町から戻ってきて、武道家が病気だったってことが分かったの」
乙女格闘家「…自分で話をしてくれたんだけどね」
魔道士「び、病気…?武道家が!?」
乙女格闘家「うん。その病が、魔力枯渇症といって…不治の病なんだって」
魔道士「魔力枯渇症って…!」
乙女格闘家「そ、それでね…」
魔道士「う、うん…」
乙女格闘家「その話を聞いた時は、まだ武道家は凄く元気でね」
乙女格闘家「私たちがバラバラになったあと、二人で行方不明になった剣士を探す計画をたててたんだ」
魔道士「…うん」
乙女格闘家「だけど、それからすぐだった…」
魔道士「どう…したの?」
乙女格闘家「武道家が……!」ブルッ
魔道士「…っ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
トコトコトコッ……ピタッ
剣士「…この部屋だな、武道家がいるのは」
剣士「…」
剣士「ったく、どうしたっつーんだよ…」
…コンコンッ
剣士「…」
…コンコンッ
剣士「…返事もしねぇ」
剣士「ったくよ…おい!入るぞ、剣士だ!!」
ガチャッ…ギィィ……
剣士「…」
剣士「…」
剣士「は……」
武道家「……」ダランッ
剣士「武道…家……?」
武道家「あ……」
剣士「武道家……?」
武道家「けん……し……?」ヨロッ
剣士「ぶ、武道家…だよ…な……?」
武道家「…」ニコッ
剣士「…っ!」ダッ!!
ダダダダッ…バッ!!
剣士「お…お前……!」
武道家「ひさ…しぶり…だな…。どれくらい……ぶりだ…?」
剣士「な、何で…こんな……」
武道家「は…はは……」
剣士「笑いごとじゃねえだろうが!!何してんだよ、お前!!」
武道家「……あ、あれから……すぐに…倒れてな…」
武道家「ど、どうやら…俺の身体は……限界だった…らしいんだ……」
剣士「…っざ、ざけんな!!ふざけんなよコラァ!!」
武道家「…」
剣士「そ、そんな弱々しくなって…!ど、どうすんだよお前……!」
武道家「…からだがなぁ…だんだんと…よわってくんだよ……」
剣士「んなの、見て分かるっつーの!おま…!ど、どうして……!」
武道家「うっ…おえっ……!」ゲホッ!!
剣士「!」
武道家「はぁっ…はぁ……」
剣士「…っ」
武道家「ひさびさで…わるいん…だが……」
武道家「…すこ…しばかり…ね…かせて…くれ……」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 居 間 】
乙女格闘家「はい、コーヒー」
…コトンッ
剣士「…っ」
魔道士「…」
乙女格闘家「…」
剣士「…乙女格闘家」
乙女格闘家「…」
剣士「…武道家がどうしてああなったか教えてくれ」
乙女格闘家「…うん。武道家と私は、剣士が消えたあとに二人の捜索の作戦を改めてたてたんだ」
乙女格闘家「だけど、その直後ね…武道家が血を吐いて、また倒れたの…」
乙女格闘家「それで治療院に戻って…。検査をし直したんだけど…そしたら……」
剣士「…」
乙女格闘家「もう、武道家の身体は……限界だって…!」
剣士「…ウソだろ」
乙女格闘家「本当は、生きてるのも不思議なくらいで…」
剣士「…っ!」
魔道士「そ、そんな……!」
乙女格闘家「いつ…どうなってもおかしく…ないって……!」
魔道士「…ぶ、武道家が……」
乙女格闘家「うぅっ……ひぐっ…」ポロポロ
魔道士「…っ」
剣士「…ぬかよ」
乙女格闘家「…え?」
剣士「武道家が、そんなことで死ぬかよ!」
剣士「武道家は…死なねえよ!!俺らの仲間だぞ!!」
乙女格闘家「剣士っ……」
剣士「乙女格闘家…お前だって、武道家だって諦めてないはずだ!」
剣士「そうじゃないと、お前らがここにいる理由がない。本当は治療院にいるべきだろう!」
剣士「何か、武道家のための理由があるんだろ…!」
乙女格闘家「…!」
乙女格闘家「う、うん…。じ、実は…その……」
剣士「…何だ?」
乙女格闘家「武道家の魔力枯渇症は、魔力の維持を何とかできれば…延命もできるって聞いて…」
剣士「…」
乙女格闘家「南方大陸なら、戦争に巻き込まれることもなく、エルフ族の技術なら、何とかなるかもと思って…」
剣士「…なるほどな。確かにエルフ族の道具なら、何かあるかもしれん…」
乙女格闘家「そしたら、少女エルフちゃんとか、武道家のことを知ってるエルフ族がいてね…」
乙女格闘家「普段、寝れないほど苦しんでた武道家も、少し落ち着ける魔力の道具も貸してもらったんだ…」
剣士「…」
魔道士「…」
乙女格闘家「でも、こんなことしてても…武道家の病は止められないのは分かってる」
乙女格闘家「これからはもう、待つしかないのかな……」ブルッ
剣士「…」
剣士「…」スクッ
魔道士「…剣士?」
トコトコトコ…カチャッ、バタンッ
魔道士「ど、どこに…」
乙女格闘家「…?」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ガチャッ
剣士「…」
剣士「…」
剣士「…」スゥゥ
剣士「…」ピタッ
剣士「…武道家ぁぁっ!!!」
武道家「っ!?」ビクッ!!
ダダダダッ…グイッ!!
武道家「ご、ごほっ……!な、なん…だ……」
剣士「…しっかりしろ、武道家!」
武道家「けん…し…」
剣士「いいか、良く聞け!お前はそうやって寝てる暇もねーんだよ!」
武道家「な、なに…が……」
剣士「この世界を守れるのは、俺らにかかってるかもしれねーんだぞ!」
剣士「黄金の卵と呼ばれた俺らが、英雄として産まれる時が来たんだ!!」
武道家「えい…ゆう……?」
剣士「あぁ!俺らが冒険者たちを引っ張って、この戦いに勝つんだよ!」
剣士「そして、俺らは世界を救った英雄になるんだ!!」
武道家「は…はは……」
剣士「…真面目な話、軍も俺らに合わせて動いてくれることを決定している」
武道家「お、おまえが…ぐんに……てつだいを…?」
剣士「…」ニヤッ
武道家「…はは…おまえらしくも…ない…」
剣士「…軍のトップに、直々に俺の腕を使い、大戦士のあとを継げと言われた」
剣士「だが、俺一人じゃ無理だ」
剣士「やっぱり、背中で守ってくれる仲間が必要なんだ!」
武道家「…っ!」
剣士「その背中を預けられるのは、お前しかいない」
武道家「け……けん……し…!」
剣士「…お前じゃなきゃダメだ。だから、俺はお前を待つぞ」
武道家「…ッ!」
剣士「…俺は先に行ってる。だから、お前は俺を追ってこい!」
武道家「…っ」
剣士「これ以上の言葉はない。待ってるぞ…武道家っ」
武道家「…」
クルッ……トコトコトコ…ピタッ
剣士「…」
剣士「"またな"」
ガチャッ……バタンッ
武道家「…っ」
武道家「……っ!」ギリッ
武道家「わ……わか…ってる……」
武道家「おれは…かならず……おいつく…」
武道家「そうさ…おいつく……!」
武道家「待っていろ…剣士っ…!!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 小屋の外 】
剣士「…じゃ、俺らは中央へ戻る」
乙女格闘家「…ごめんね。力になれなくて」
剣士「仕方のないことだ」
乙女格闘家「何かあったら、必ず伝えに行くから…」
剣士「あぁ、頼んだ」
魔道士「乙女格闘家…」
乙女格闘家「魔道士ちゃん…」
…ギュッ
魔道士「…っ」
乙女格闘家「…っ」
剣士「…じゃあな」
乙女格闘家「うん…」
ザッザッザッザッ……
………
……
…
乙女格闘家「…」
乙女格闘家「……武道家のごはん、作らないと…」クルッ
タタタタタッ……
???「お、乙女格闘家さーんっ!」
乙女格闘家「…?」
少女エルフ「はぁ、はぁ……!」
乙女格闘家「あ、少女エルフちゃん。どうしたの?」
少女エルフ「剣士さんたち、戻りましたよね」キョロキョロ
乙女格闘家「うん。挨拶するなら、あっち側に…」
少女エルフ「あ、いいえ!そうじゃないんです。きっと知ったら、あまり良くないかなって」
乙女格闘家「…え?」
少女エルフ「実はその、紹介したい方が」
…ザッ
職人エルフ「…お初にお目にかかる」
乙女格闘家「ど、どなた…?」
少女エルフ「…武道家さんたちの役に立ってくれる方だと思います!」
乙女格闘家「ど、どういうこと?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 寝 室 】
職人エルフ「…想像以上に弱っているな。久しぶりだ、武道家。覚えているか?」
少女エルフ「武道家さん…」
武道家「はは…。きょうは…きゃくがおおいな……」
職人エルフ「…話は聞いたが、まさかお前が魔力枯渇症になるとはな」
武道家「へっ…ほっとけ……」
職人エルフ「…」
職人エルフ「…あのバカ、外まで大声で聞こえちまったんだけどな」
職人エルフ「お前ともう1度、戦いたいんだってな」
武道家「は、ははっ……。きこえてた……のか」
職人エルフ「…罪滅ぼしじゃねえが、俺はあいつの心をえぐる一言をいっちまった」
職人エルフ「その謝罪の意味を込めて、お前に話がある」
武道家「なん…だ……?」
職人エルフ「…お前次第といったところだ」
武道家「だ、だから…なんだ……」
職人エルフ「…これも絶対と言えるわけではないが、効果はあるはずだ」
…スッ…
ギラッ…!
武道家「それ…は……」
職人エルフ「お前の未来の選択肢を、もう少しだけ広げてくれるかもしれんモノだ」
武道家「みらいの…せんたくし……?」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから、剣士と魔道士は中央都市にて一泊。
期日となる3日目の15時、中央軍本部前にて戦士らと合流。
武道家の病について伝えると、戦士と剣豪は落胆の色をかくせなかった。
無論、剣士たちも武道家のことが頭に残り、
その落ち込みようは、戦士と剣豪の比ではなかった。
だが、剣士と魔道士にはそんな時間もなく…。
迫る時間に、本部の会議室へと足を運び――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央軍本部 会議室 】
…ガチャッ
剣士「…待たせた」
魔道士「失礼します」ペコッ
剣聖少将「…時間まであと10分。ずいぶんと遅い到着だったな」
剣聖少将「その様子だと、無理だったか」
剣士「…っ」
魔道士(この人が、剣聖少将。剣士のお父さん……!)
剣聖少将「それと、その隣のが魔道士か……」ギロッ
魔道士「は、はいっ!」
魔道士(凄い威圧感……。本当に強い人なんだ……)
剣聖少将「…」
剣聖少将「……可愛いな」ボソッ
魔道士「い、いえっ!」
魔道士「…」
魔道士「……はい?」
剣聖少将「俺の奥さんには敵わないが、充分可愛らしい娘だな」
剣聖少将「剣士のどこに惚れたかは知らんが、乗り換えるなら早くした方がいいぞ……」
剣士「おい」
魔道士「あ…あはは…」
魔道士(やっぱり…。なんか、剣士のお父さんだ……)
剣聖少将「それとは別に、ドアの外にいる二人は誰だ?」
剣士「えっ」ドキッ
剣聖少将「そこの二人もオーラが違うな。お前の友達か誰かか?」
剣士「…戦士と剣豪だ。隠して連れてきたつもりだったんだが…」
剣聖少将「そんな実力をさせて、隠すもクソもあるか」
剣士「…そんなハッキリと感じるもんなのか」
剣聖少将「まぁな」
剣士「…」
剣聖少将「…っと、残り8分。残りの二人は…そのドア越しの二人なのか?」
剣聖少将「確かに実力はそれなりのようだが…それでいいのか」
剣士「い、いや…。それは……」
剣聖少将「残り時間以内に決めろよ。俺らのほうは、既に出撃準備は出来ている」
剣士「出撃準備って…」
剣聖少将「第一陣から、攻撃隊を向わせる。玉砕覚悟のバカ共で構成した大隊だ」
剣士「…本気なのか」
剣聖少将「犠牲なくして勝利をつかもうなど、愚の骨頂」
剣士「…」
剣聖少将「…」
魔道士「…」
剣聖少将「…残り、7分」
剣士「ま、待ってくれ…」
剣士「決心が…つかないんだ……」
剣聖少将「…ここまできて決心がつかない?何言ってんだお前」
剣士「た、確かに冒険者たちを引っ張る気持ちはある。だが、パーティとして…足りないんだよ」
剣聖少将「武道家たちのことか」
剣士「やっぱり、俺のパーティはあいつらがいてこそなんだ…」
剣士「僧侶もいるが、あいつにはあいつの別の道がある」
剣士「…たとえ僧侶を入れたところで、一人も足りないんだけどな……」
剣聖少将「気持ちは分かるが、それは…」
剣士「…分かってるっつーの!分かってる!」
剣聖少将「…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 会議室の外 】
…ボソボソ
戦士「俺らのこと、バレてるし」
剣豪「あれが剣士の親父かよ…」
戦士「…最悪、俺らがこの戦争の中心となるかもしれないんだろ」
剣豪「剣士曰く、俺らにそこまでのことはさせたくないらしいが…」
戦士「くそっ…。武道家さんたちが、あんなことになっていなければ……」ギリッ
剣豪「折角、剣士が戻ってきたっつーのにな……」
戦士「…今、何時だ?」
剣豪「んとな…」スッ
剣豪「時間の5分前だ……」
戦士「…俺らが、剣士さんのパーティに入るしかないっつーことか」
剣豪「俺らで…冒険者たちを引っ張れるのか…?」
戦士「…」
剣豪「…」
戦士「…やるしかないんだろう」
剣豪「そりゃ、分かってるけどよ…」
カツ…カツ…カツ……
剣豪「…俺は、正直やりたいと思う心はある。お前は?」
戦士「正直な奴だ。俺だって、こんな経験…冒険者としてしてみたいさ」
カツ…カツ…
剣豪「だけどな…」
戦士「分かってる…」
カツ…
剣豪「やっぱり、剣士さんのパーティは…」
戦士「…あの人たちじゃないと…」
???「…そうだよな。やっぱり、俺らじゃないとダメだよな」ボソッ
剣豪「…ん?」
戦士「…へ?」
???「…よう、お前ら。久しぶりだな」ニカッ
???「やっほー♪」
剣豪「…な、何っ!!」
戦士「えぇぇっ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 会議室 本部 】
…カチンッ!
ボォーン…ボォーン……
剣聖少将「…時間だ」
剣士「…っ」
魔道士「…剣士」
剣聖少将「さぁ、これ以上は1秒も待てないぞ」
剣聖少将「…聞かせろ、どうするのか!」
剣士「わ…分かった…。分かったよ…。俺は……!」
…ガチャッ、ギィィ……
???「あぁ~ん…?おいおい、何…そんな哀しそうな声で叫んでんだよ」
???「剣士らしくないよ!」
剣士「…あぁ?」クルッ
魔道士「…えっ?」クルッ
???「…あれから大体24時間。随分と待たせたが……追いつかせてもらったぜ?」
???「遅れてごめんね、魔道士ちゃん!」
魔道士「え……」
剣士「……はっ!?」
武道家「…剣士っ!お前の背中で戦えるのは、俺しかいないんだろう?はーっはっはっは!」
乙女格闘家「ふふっ、私だって頑張るからね」
剣士「ぶ、武道家ぁッ!?お前、どうして……!」
武道家「…」ニヤッ
剣士「お前…!び、病気は……っ!?」
剣聖少将「…そこまで。4人全員が集まったな!」
剣士「い、いやちょっと待ってくれ!武道家は昨日まで…!」
剣聖少将「無駄な話はあとでしろ。今は俺の話からよく聞け。」
剣聖少将「今から、お前らには俺に従い、その冒険者たちを率いる地位として戦ってもらう!」
武道家「剣士の親父さんですね…。久しぶりです」
武道家「…この身体、この世界のために、剣士のために。何なりと!」
剣聖少将「いい心がけだ」
剣士「な、なんで…武道家が……」
武道家「…あとで話をしてやるよ。それより今はそっちだろ?」クイッ
剣聖少将「…そうだな。武道家の言う通りだ、こっちに集中しろ」
剣士「い、いや…!そりゃ分かってるけど、だけど……」
剣聖少将「…と、全員集まったところ悪いが、具体的な内容は明日の朝8時に説明する」
剣聖少将「作戦自体も、明日の朝にならないとちょっと整わないんだ」
剣士「…は?」
剣聖少将「話はそれだけだ。一度、お前らは宿に戻れ」シッシッ
剣士「い、いやちょっと待てよ。期日は今日までだっつってたのに…」
剣聖少将「…期日と決行は別だ」
剣士「…」
剣聖少将「明日以降に、もう1度話をする。明日は朝7時30分までにココへ来い」
武道家「了解です!」
乙女格闘家「わっかりました~!」
剣士「な、何だってんだよ、一体……!」
武道家「ま…あとで説明してやるよ」ニカッ
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 中央都市 宿のテラス 】
…カランッ
剣士「く…くく…」
武道家「ははは!」
剣士「また、こうしてここでウィスキーを交わすとは思わなかったぜ」
武道家「…俺もさ。やっぱ、お前とこうするのが一番落ち着くぜ」
剣士「…飲めよ」
…トクトクッ
武道家「…おうっ」
…グビッ!
武道家「…ぷはぁっ!」
剣士「…」
剣士「それで、聞かせてくれ。なぜお前が…ここへ来れたのか」
武道家「…もちろんだ。」
武道家「お前らが帰ったあと、実は職人エルフがうちへ来てな……」
……
…
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
職人エルフ「お前の未来の選択肢を、もう少しだけ広げてくれる道具だ」
武道家「みらいの…せんたくし……?」
職人エルフ「これは、砕け散った俺らの同胞の魔力を集めたもの」
職人エルフ「俗にいう、魔力霧。それを集め、結晶石としたものだ」
武道家「そ、それ…が……?」
職人エルフ「これをお前の血に打ち、魔力へ溶かし、お前にエルフ族の血と魔力を渡す」
職人エルフ「そうすれば、お前の身体は一時的に劇的な回復を見せるはず」
武道家「…っ!」
職人エルフ「だが、問題もある」
武道家「なん…だ……」
職人エルフ「これはまるでドーピングそのもの。一度打ち込めば、確かに効力はとてつもないだろう」
職人エルフ「しかし、膨大な魔力に包まれた身体は、その反動もとてつもないものとなる…」
武道家「…」
職人エルフ「…お前は、一度既に東方祭壇町で霧に触れていたと聞いている」
職人エルフ「こちら側に戻ってきた時に、その反動で壮絶な痛みと吐血で倒れているんだろ?」
職人エルフ「そして、この結晶石は祭壇町の霧と同じ効果を得るということ」
職人エルフ「つまり…。この効果が切れた時……そういうことだ」
武道家「…」
職人エルフ「そして、見る限り…いや。お前自身、わかってるはず」
職人エルフ「お前の身体はもう…次の反動に耐える事は……」
武道家「さ、ささいな…ことさ……」
職人エルフ「…」
武道家「あいつが…。まって…くれてると……いった……」
武道家「おれは…それにこたえる……だけ……」
職人エルフ「…やるんだな」
武道家「きく…ことか……?」
職人エルフ「…そう言うと思っていた」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
…
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣士「…っ」
剣士「…本当なんだよな。昨日までのお前が、そんな美味そうに酒を飲めるんだから」
武道家「…残念ながらな。俺の今の身体には、エルフ族の魔力が宿ってるよ」パァァッ
剣士「あのエルフが、俺らに協力するなんてな」
武道家「…お前が色々してきたからな。あのエルフも心変わりしたんじゃねーの?」
剣士「んー…」
武道家「…そうだ。話は変わるが、本当かどうか教えてほしいことがあるんだ」
剣士「…何だ?」
武道家「大戦士さんて、亡くなったのか……?」
剣士「…」
武道家「…」
剣士「俺は直接見たわけじゃないが、大戦士兄は…剣豪と戦士の前で散ってった……とかな」
武道家「…っ!」
剣士「…大戦士兄は、一応、俺の前にも最期に姿を見せてくれた」
武道家「…」
剣士「だから、今回のことまで上手く運んだわけだ」
武道家「…俺の場所には来なかったのか」
剣士「いや行ったと思うぞ?」
武道家「何?」
剣士「お前、病気でぶっ倒れてたし…」
武道家「あ、あぁ…」
剣士「それに戦士たちの話だと、武道家のことも言ってたっつってたし」
武道家「俺のことも!」
剣士「…やっぱり、お前も大戦士兄にとっちゃ、弟子のひとりだったんだろ」
武道家「そうか…」
剣士「…」
剣士「なぁ…武道家」
武道家「…なんだ?」
剣士「大戦士兄の話をしてて改めて思う。…本当に、戦いの道でいいのか」
剣士「いつ、どこで、どんなことになるかなんて……。せめてもの、時間を……」
武道家「そんなこと言うなら、俺の動けるエネルギーを全て使い切るまで、殴るぞ」
剣士「おい」
武道家「あのなぁ、お前が待ってくれるっつったんだろうがよ」
武道家「お前の背中で戦えるのは俺だけだろうし、俺の背中で戦えるのもお前だけだろうが」
剣士「…ふっ」
武道家「まぁ、俺がどうこうしてるうちに…お前は随分と強くなっちまったみたいだがな」フンッ
剣士「そうか?」
武道家「…エルフ族の魔力を得たせいか、なんか…見えるんだ」
剣士「見える…?」
武道家「お前の身体から、物凄いパワーを感じる」
剣士「…」ニヤッ
武道家「だけどな、他の人にとっちゃ怒られるような事も俺の身体に起きてんだよなぁ」
剣士「…なんだ?」
武道家「…お前が強くなった分、俺もお前と同じくらい強くなってると思う」
武道家「エルフ族の血と魔力が、俺の身体を底上げしてるのが分かるんだ」
剣士「…何もせず、経験値が溜まっちまったってのかよ!」
武道家「羨ましい?」ニカッ
剣士「く、くっそ!俺だってだいぶ命削った戦い方してたんだけどよぉ!」
武道家「うはは!羨ましがれ、バーカ!」
剣士「うるっせぇ、バーカ!」
武道家「バカはおめーだ、バーカ!!」
剣士「あぁん!?バーカ!」
武道家「…くっ」
剣士「ぷっ…」
武道家「はーっはっはっは!」
剣士「うわっはっはっはっは!」
…ヌッ
剣聖少将「うあーっはっはっは!」
武道家「…はぁっ!?」ビクッ
剣士「うおっ!?」
剣聖少将「…あ、バレた」
剣士「な、何してんだよ親父!」
剣聖少将「バカ共の声が聞こえたからな!」
剣士「親父も充分バカだろうが!っつーか、どっからきやがった!」
剣聖少将「一番下から飛んできただけだが?」
剣士「…ひ、飛翔か。ここ何階だと思ってやがる!」
剣士「自分の実力をそんな、ストーカー紛いなことに使うんじゃねーよ!」
剣聖少将「ストーカーとかいうんじゃねぇ!」
剣士「つーか、アンタにゃまだ中央軍本部でやることとかあるだろうが!」
剣聖少将「だって息苦しいし、抜けてきた」
剣士「おい仮元帥」
剣聖少将「…まぁそういうな。明日からは作戦の決行なんだからな。今日は休みだ」
剣士「…そういや、何で明日からにしたんだ?期日は今日までだったのによ…」
剣聖少将「…もともと4日は余裕を持たせるつもりだった」
剣聖少将「こうして、3日目の夜はのんびりできる時間があればなと思って、3日にしたんだよ」
剣聖少将「作戦決行の前日くらいは、のんびりしたほうがいいだろ?」
剣聖少将「集まって、すぐに行動開始!よりは余裕をもって行動したほうが結果につながるんだ」
剣士「…それじゃ、前の幹部連と変わらなくねえか」
剣聖少将「あいつらの余裕と、俺の休みは違う。それに、既に動いている部隊はある」
剣士「…じゃあ、ますます本部から離れたらダメだろうが!」
剣聖少将「少しの間だけだ。俺にもグラスを寄越せ」
剣士「…へいへい」
…スッ
剣聖少将「…武道家。ついでやる」スッ
武道家「は、はいっ」スッ
トクトクトクッ……
剣聖少将「…剣士」スッ
剣士「…」スッ
トクトクトクッ……
剣聖少将「…剣士、グラスの半分まで俺に酒を」
剣士「…半分かよ」スッ
トクトクッ…
剣聖少将「…もう半分は、武道家がついでくれ」
武道家「…はいっ」スッ
トクトクッ…
剣聖少将「…よし」
剣士「んだよ、乾杯でもすんの?」
剣聖少将「明日以降は、誰が死んでもおかしくない戦いになる」
剣聖少将「酒を飲みかわし、これからの武運を祈り合う」
剣聖少将「…お前ら二人に、酒をついでもらって最期の酒とすれば本望だ」ニヤッ
剣士「…」
武道家「…」
剣聖少将「…乾杯をしよう」
剣士「…わかった」
武道家「はいっ…」
剣聖少将「んじゃ…えっとな。勝利の為に……!」スッ
三人「乾杯っ!!」
ガチィンッ……!!
剣士「…」
剣士「…適当すぎんだろ」
剣聖少将「…うるせっ!」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 朝 】
…ガチャッ
剣士「…来たぜ」
剣聖少将「…来たか」
武道家「おはようございます」
乙女格闘家「おはようございます!」
魔道士「おはようございます」ペコッ
剣聖少将「…さて、何から話をすればいいか」
剣聖少将「とりあえず、そこに並んで立ってくれるか」
4人「…」スタッ
剣聖少将「改めて、説明する。この戦争を勝ちぬくためには、軍だけの力では決して勝てるものではなくなった」
剣聖少将「そこで、お前たちは…冒険者の黄金時代の卵と呼ばれた4人」
剣聖少将「その名を借りて、やって欲しいことがある」
4人「…」
剣聖少将「お前たちは、軍ではなく…いち個人の冒険者パーティとして他の冒険者を率いて…」
剣聖少将「この戦争への勝利の礎の一つとなって欲しい」
剣聖少将「無論、甘い事は言わん。礎というのは…その身を犠牲にすることも込めている」
4人「…」
剣聖少将「…軍は俺が率いる」
剣聖少将「亡き者となった者たちへ、志半ばで倒れた者たちの意思も継いで、俺は戦う」
剣聖少将「だからお前たちは、大戦士の意思を継いでほしい」
剣聖少将「冒険者たちの糧となれ。光となれ。力となれ!」
剣聖少将「…お前たちが、世界を救う英雄と呼ばれるその時まで、その命…貸してほしい」
剣士「…何かしこまってんだか、クソ親父が」
武道家「ふっ…」
魔道士「…はいっ!」
乙女格闘家「私たちでよければ…!」
剣聖少将「では…具体的な作戦を伝える」
4人「…」
剣聖少将「実は既に、中尉や少尉、准尉らに頼み…あることを進行している」
剣士「あること?」
剣聖少将「中央都市および、ほぼ全ての一般依頼受付所に加え、公共情報として…」
剣聖少将「剣士たちのパーティが復活したことを公開させた」
剣士「…は?」
剣聖少将「黄金の卵、堂々の復活~!!ってな!」ハハハ
剣士「…い、いやいやいや!何してんだよ!」
剣聖少将「黄金の卵のリーダー剣士が、魔族へ立ち向かうぜ!集え!反撃の狼煙だ!とかよ!」
剣士「…立ち向かうぜ!じゃねえよ!」
剣聖少将「既に、この情報は世界全体へ駆け巡ってるはずだぞ」
剣士「か、駆け巡ってるって……!」
…
……
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 教会 】
…ペラッ
神官「…みんな、戻って来たんだね……!」
神官「良かった…!剣士くん!武道家くん!魔道士さん!乙女格闘家さんっ!」
子供「…知ってる人ー?」
神官「ほらこの間、君がキレイな石をくれたおにいちゃんだよ!」
子供「あの時のお兄ちゃん!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 北方大陸 雪降町支部 】
…スッ
魔術賢者「魔道士…乙女格闘家…無事だったんだね……」
魔術賢者「は…反撃の狼煙だって……みんならしいな……」クスッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 北西冒険学校 】
…ペラッ
冒険先生「あの時のメンバーが、立派になって…」
冒険先生「今度は世界の問題児か……?」
後輩たち「…この学校の卒業をした大先輩ですよね!すっげー!!」
冒険先生「あ、あまり目標に出来る先輩たちではないのだがな…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 西方大陸 前線臨時支部 】
星降兵「…ほう、大戦士の魂を継ぐ者…か」
星降兵「剣士と武道家、魔道士に乙女格闘家……黄金の卵か」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 南方大陸 砂漠港 】
支部軍人「あの時、この支部で暴れていた男か…!」
盗賊団長「…おい、こんな状況なんだから俺を牢屋から出してもよくないか。剣士に協力するぞ?」
支部軍人「…うそこけ」
少女エルフ「えへへ…みんな、またパーティ出来てよかったね!」
職人エルフ「その代償は、どうなるか分からんがな…」
鍛冶長「うはは!ワシらの心配など、きっと彼らには無用じゃて」
少女エルフ「…みんな、頑張って…!」ギュッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 世界各地の冒険者たち 】
冒険者たち「…おいおい、あのパーティ…また復活したのか!」
冒険者たち「し、しかも魔族に喧嘩うるってよ!」
冒険者たち「なんだよそれ、面白そうじゃねえか…!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 世界各地の市民たち 】
市民たち「な、なんだよ黄金のパーティって…」
市民たち「でも世界で出してる情報らしいぞ…!」
市民たち「相当強いらしいし、なんとかしてくれるんじゃ…」
市民たち「や、やってくれるのか…!?」
………
……
…
…
……
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして 中央軍本部 】
剣士「…まじかよ」
剣聖少将「…"表舞台に出なかった場所"もお前らは冒険してきただろう」
剣聖少将「もちろん、その場所へも全て伝わってると思うぞ?」
剣士「…っ」
剣聖少将「無論、魔族にも入らないわけはないな……」
剣士「!」
剣聖少将「あとは、お前に任せる」
剣聖少将「ここまですれば、必ずお前にたちの後ろへ着いてくる面子が大勢出てくるはず」
剣聖少将「…そして、冒険者らしく自由に戦え」
剣聖少将「目標は魔族の撃破。それだけは命令とし、あとは…自由にしろ」
剣士「…」
剣聖少将「…頼んだぞ」
剣士「…わかったよ」
剣聖少将「…うむ。では、作戦の開始を宣言する!」
剣聖少将「今度は、人間側があいつらを攻撃させてもらう番だっ!!」
剣士「あぁ…その通りだな!」
剣士「さぁ、みんな…準備はいいか!」
武道家「くく、この言葉を言うのも、聞くのも久々なんじゃないか?リーダー」
魔道士「あ、なっつかしぃ♪リーダー!」
乙女格闘家「…その強くなったっていう実力、見せてよねリーダー!」
剣士「く…くくっ…!はーっはっはっは!」
剣士「やっぱり、このやり取り…落ち着くぜ!」
剣士「さぁ!俺らが世界を救ってやるか!!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 とある場所 】
オォォ…ォォォォ………
バンシィ『…冒険者タちも含メた、新タな作戦をたテたらしイな……!』
デュラハン『人間側も本気ということか。面白い…』
バハムート『我らも動く時ということか…?』
バジリスク『いいぜ、楽しくなってきた……』
アリオク『どこまで足掻けるか…楽しみなことだ……』
デュラハン『…』
デュラハン『…ところで、主よ』
アリオク『何だ』
デュラハン『少し前…軍の本部とやらの上位メンバーをつぶしたと聞いたが……』
デュラハン『主だけで、全てを決することは出来たのではないか…?』
アリオク『…それも考えたのだがな』
アリオク『人間側には、いつでも堕とせるという、俺らの実力を見せておきたかったのよ……』
デュラハン『…嫌いではない、その考え』ニタッ
アリオク『くく…!』
バンシィ『そウいえバ…。その時、さらっテ来たトいう人間がイたと聞いタのだガ…?』
アリオク『大魔術中佐という…女か』
バンシィ『…ソう言う名だっタな』
アリオク『あいつは、面白い事をさせてもらっている。くく…』
バンシィ『面白イこと?』
アリオク『…俺の子を産んで貰うんだ』クク
バンシィ『…なニっ!?』
バジリスク『おいおい…それは聞き捨てならねェな。人間に、アンタの血をくれてやるのか?』
アリオク『人間と魔族の混血…興味はないか?どうやら、人間は俺の子を産めるようなのだ』
バジリスク『…どちらの血が濃くなるかは知らねェが、あまり良い事ではなさそうに思うぜ?』
アリオク『くはは!面白いことは、何でもやってみるものだ…!』
アリオク『…それにあの人間の女、それに興味を持ったようでな」
アリオク『協力的ならば、尚更よ……」
バハムート『…物好きなことだ。貴方は魔界の王ともいうべき存在』
バハムート『その強大な魔力の血を引き、超越した魔術師が生まれてくる可能性もゼロではないというのに』
アリオク『その時はその時だ…!』
バハムート『やれやれ……』
アリオク『まぁ、今はどうということもない』
アリオク『今はその、人間共がどのようにして我々に攻撃を仕掛けてくるのか……』
アリオク『楽しむとしよう……』
…………
………
…
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
"黄金の卵パーティ、堂々の復活!"
"そして、全ての魔族へ宣戦布告する!"
"有志たちよ立ち上がれ!魔族との大喧嘩だ―――!"
その情報が世界へ伝わりきる頃、中央軍の作戦は始まった。
中央軍大隊が、東方祭壇町の魔族領地とされた場所へ奪回戦を仕掛け、
同時に西方星降村を含む、こちらも魔族領地とされた場所の奪回戦を開始。
東西魔族領地奪回戦…。
これが剣聖少将の初の指揮のもと、初の人間側の攻撃に転じた戦いとなった。
そして、剣士たちは――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 東方祭壇町 防衛線付近の平野 】
…ガキィンッ!!バシュッ!!!
冒険傭兵「…ぐっ!!」
オーク兵『ぐはは!人間共め、我らに攻撃を仕掛けてくるとはな!』ググッ
冒険傭兵「お…俺らの知ったことじゃねえ!」ググッ
オーク兵『中央軍とやらが、攻撃に転じたようだがー…無駄なこと!!』
冒険傭兵「無駄かどうかなんか…分かるものかぁぁっ!!」
…ブォンッ!!グシャッ!!
オーク兵『…っ!』
ドシャアッ…
冒険傭兵(く…くそっ。確かに剣士の言った通り、中央軍の援軍は町や村へ派遣された)
冒険傭兵(だが、攻撃にも転じたせいで落ち着いていた魔族が再び発起しやがった……!)
冒険傭兵(これで本当に正解なのか…。俺らはもうボロボロなんだぞ……)
…ズズッ
スライム『…』
スライム『…ッ!』クワッ!!
冒険傭兵「し、しまっ……!」
…ズバズバァンッ!!ボォンッ!!!
ズザザザァ…ドゴォンッ!!
冒険傭兵「…お」
…ザッ
剣士「…危ないところだったじゃないの、冒険傭兵」ニカッ
冒険傭兵「…剣士っ!?」
魔道士「こんにちわ♪」
武道家「おー、これが剣士が戦ってた平野か」キョロキョロ
乙女格闘家「ここが前線…」
冒険傭兵「…うおっ!?」ビクッ
剣士「どうした?」
冒険傭兵「こ、この3人てもしかして…」
剣士「…前に話しただろ。俺のパーティさ」
冒険傭兵「ってことは、黄金の卵か!」
剣士「そーいうこと」ニヤッ
冒険傭兵「う、噂にゃ聞いてたが…本当に全員そろったんだな!」
剣士「そうさ。俺らは、魔族へ喧嘩を売る。中央軍とは別に、自由に暴れてやるのさ」
冒険傭兵「それ、面白そうだよな……」
剣士「くははっ。それでな、ちょっと…」
…コソッ
ゴブリン兵『うはハ!…好機を得タりッ!死ねェッ!!』ブォンッ!!
武道家「…おっと、話合いの邪魔すんな」
…ガシッ!!
ゴブリン兵『なっ…お、俺ノ剣を素手で受けトめタ……!?』
武道家「お前ら如きじゃ相手にならねーんだ、一回お取引願うぜ!』グググッ
ゴブリン兵『…ヒッ!』
武道家『掌底波ぁぁっ!!』
ゴバッ…!!!
ゴブリン兵『ひギゅっ……』
ズッ…ズザザザァ!!ドゴォンッボゴォォンッ!!!
ゴブリン兵たち『ヌアアアッ!』
オーク兵たち『ガァァッ!?』
ズズッ…モクモク……
剣士「…あらら、全部吹き飛ばしちゃった」
武道家「ちょーっとやりすぎたかな?」
冒険傭兵「す…すげぇ……!」
武道家「…っ」ズキン!
武道家「は、はは……!どうだ!」
冒険傭兵「…す、すげぇよアンタら!」
冒険傭兵「本気で魔族に、あんたたちで暴れるつもりなのか!?」
剣士「…だからそう言ってるだろ。俺らには、俺らしか出来ない事がある」
冒険傭兵「はは…かっけぇよお前…。とてもあの村で、村娘と寝ようとしていた奴とは思えな……」
剣士「…ふんぬっ!!」
…バキィッ!!!
冒険傭兵「ぬがぁっ!!」
ズザザザァ…!!
剣士「あ、すまぬー。つい後ろに敵がー」
…ムクッ
冒険傭兵「殺す気かコラァ!!」
剣士「はっはっは!ま、それより話を戻すぞ」
冒険傭兵「あん?」
剣士「この付近の町や村は、ほとんど避難も開始し、軍の息がかかっているから安心していいだろう」
冒険傭兵「まぁ…」
剣士「だから、冒険者の力を借りたいんだ」
冒険傭兵「…ん?」
剣士「…俺ら4人だけじゃ、さすがに挑むのも厳しい。この戦い、他の冒険者たちの力も欲しいっつーことさ」
冒険傭兵「つまり、俺らも守りだけじゃなく攻めに転じろ…ってか?」
剣士「…お前だから言うが、ぶっちゃけた話、俺らが立ち上がって冒険者たちも攻めに転じさせる作戦なんだよ」
剣士「俺らが魔族にケンカを売れば、お前みたいな奴らも一丸となって戦うんじゃないか…ってな」
冒険傭兵「…なるほどな。確かにそうかもしれん」
剣士「最初、全員を俺のパーティ……いや、本格的な義勇軍として集わせようとも考えた」
剣士「だけどな、冒険者なんて自由主義だし…指揮をとろうとしても集まるのすら難しいだろ?」
剣士「だったら、俺らがケンカを売って、冒険者や戦闘意識のある人間の先駆けとなればいいと思ってな!」
冒険傭兵「確かに、それがあの"黄金の卵"のメンバーがケンカを売ったとなりゃ、俺らも燃えるっつーか…」
剣士「…俺らは、このまま冒険者がいる場所を走り回り、冒険者たちの士気をあげる」
剣士「これからどうするかは、お前ら次第だ」
冒険傭兵「…それは分かった。確かに士気も上がるだろう」
冒険傭兵「だが、どうやって攻撃をする?現状、どこにどんな風に攻撃を行えばいいか、全然情報もないんだぞ」
冒険傭兵「それに、あいつらに奇襲っつーか…そういう行為がどうすればなるのか……」
剣士「…逆になればいいだけだけじゃねえか?」
冒険傭兵「はぁ?」
剣士「今までは、村を守る為、ただ魔族の攻撃を待っていた。それを、相手の拠点へ攻めればいい」
冒険傭兵「…ふむ」
剣士「そうすりゃ、あいつらにとっては人間側からの"奇襲"の行為になる」
剣士「あいつらも軍人か冒険者、市民かどうかは理解してる。それが軍人以外も攻撃されちゃ、びっくりするだろ?」
冒険傭兵「確かに…」
剣士「…俺らは、すぐに別の場所へ行き、俺らが戦っている姿を見せる」
剣士「黄金のパーティの名もバンバン使わせてもらう」
剣士「それで、この魔族との戦争の…平和の礎になる。お前らにも礎の一人となってもらう!…ってな!」
冒険傭兵「…んだよそれ」
冒険傭兵「俺みてぇな、ただの冒険者でも…平和の礎になれるってか」
剣士「…黄金の卵はな、本当は俺らだけじゃない」
剣士「この世界を彩る、全ての冒険者に、この現状で戦ってくれている、全ての人々へ捧ぐ名前なんだと思ってる」
冒険傭兵「…俺も、黄金の卵だっつーのかよ」
剣士「…そう思ってる」
冒険傭兵「…」
剣士「…」
冒険傭兵「く…くくっ」
剣士「あん?」
冒険傭兵「お前、よくこの状況でそんな恥ずかしいこと…はっはっは!」
剣士「あぁ?」
冒険傭兵「後ろ…見てみな」
剣士「なんだ…」クルッ
ワッ…ワァァァッ!!!
前線の冒険者たち「…今、俺らも黄金の卵っつったのか!?」
前線の冒険者たち「本物の人たちに、俺らのことも褒めてもらったんだな!」
前線の冒険者たち「憧れのパーティにそう言われちゃ、やるしかないだろ!」
前線の冒険者たち「くっくっく、俺の時代が来たっつーことか!」
剣士「な、なんだこいつらっ!?」ビクッ
武道家「なんぞっ!」
魔道士「いつの間に周りに人が!?」
乙女格闘家「ど、どうなってるの!?」
冒険傭兵「はっはっは!気付いてなかったのかよ!」
冒険傭兵「お前が一言話す度に、ここにいたやつら…集まって来てたんだぜ」
剣士「…今、気付いた」
冒険傭兵「はぁはっはっは!なるほどな、俺らも黄金の卵……か」
剣士「……あぁ。」
冒険傭兵「…時代を代表するであろうパーティに、そう言われちゃ動かないワケにはいかねぇなあ!」
…ワァァアッ!!!
前線の冒険者たち「そうだな!」
前線の冒険者たち「お前らみたく、純金じゃなく金メッキかもしれねぇぞ!?いいのか!?」
前線の冒険者たち「…俺らだってやれるっつーところ、見せてやるしかないだろ!」
剣士「お…」
武道家「…俺らって、こんな尊敬される存在だったの?」
魔道士「少なくとも、あの情報を出したせいで余計有名になったのは確かだと思う…」
乙女格闘家「…恥ずかしい」
冒険傭兵「…剣士!」
剣士「あん?」
冒険傭兵「…お前は別の場所でも、その志を伝え、士気を高めるんだろ!」
冒険傭兵「俺らはもう大丈夫だ。お前の意思、充分に伝わった」
冒険傭兵「…任せてくれ!」
剣士「…わかった」ニカッ
冒険傭兵「さぁ…世界にお前らの実力を見せてやれよ!」
剣士「おうよっ!」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
……それから1週間。
世界は黄金パーティの復活により冒険者たちは士気を大きく高めた。
そして、剣聖少将のもとに攻撃に転じた人間側は、魔族を圧倒する勢いで戦った。
…『東方西方奪回戦』…
序盤、冒険者の立ち上がりもあってすべてが有利に進んでいたのだが、
ついにあの魔族たちが動き出す……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 中央軍本部 】
…ガチャッ!!
中尉「剣聖少将殿、ご報告いたします!」
剣聖少将「…どうした」
中尉「現在、東方西方奪回戦にて戦闘は継続中!」
中尉「その他、大隊を含む中央軍各隊は魔族と有利に戦いを進めております…」
中尉「で、ですが……!」
剣聖少将「…ですが?」
中尉「西方前線にて先ほど、デュラハンと思われる魔族を確認!」
剣聖少将「…来たか」
…ガチャッ!!
少尉「ご報告いたします!」
剣聖少将「お前もどうした」
少尉「東方前線にて、竜族と思われる巨大なトカゲのような魔族を確認したと報告が!」
剣聖少将「…何体だ?」
少尉「現在の報告では、1体のみです!」
剣聖少将「…1体か」
少尉「い、いかがいたしましょうか!」
剣聖少将「…大丈夫だ、案ずるな。ある程度の戦力準備は整っている」
剣聖少将「中尉、少尉!各該当の魔族が出現した地区へ、準備させていた大隊を派遣!」
剣聖少将「前線に既に戦っている隊を交替させ、休息を取らせろ!」
中尉「はっ!」ビシッ!
少尉「はっ!」ビシッ!
ガチャッ…バタンッ……
剣聖少将(いよいよ、向こう側の四天王もお出ましってわけか)
剣聖少将(…言っちゃわりぃが、軍の四天王は話にならないほど弱いわけで)
剣聖少将(…)
剣聖少将(こうすると実力主義で…アイツらが四天王になるんだろうな)
剣聖少将(んーむ…)
剣聖少将(それにしても、魔族側のアイツらは"闇"にしか生きられないとか言ってたな)
剣聖少将(どこまで信憑性もあるかは知らないが、西方側も陽は落ちているはず)
剣聖少将(まさか、あいつらは陽に弱い…?)
剣聖少将(…)
剣聖少将(そういえば、竜族も霧に覆われた中にしか確認されていない……)
剣聖少将(一定以上の強さを持つ者が今まで出れなかったのは、霧の中にしか生きられなかったから…)
剣聖少将(今、今日という時まで塔の魔力が世界に浸透しなかったから?)
剣聖少将(ふむ……)
剣聖少将(…)
剣聖少将(…あっ!)
剣聖少将(……ま、まさかっ!)ハッ
剣聖少将(…わからん)フム
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 西方側 前線 】
ゴォォ…パチパチッ……
剣士「な…なんじゃこりゃ……」
武道家「ひでぇ…!」
魔道士「よ、夜なのに一面焼けて…炎でまるで昼間みたいに…」
乙女格闘家「軍人さんたち、みんな倒れてるよ…」
剣士「前線で援護でも回ろうと来てみれば…」
剣士「一体何があったっつーんだ…。生きてる奴はいないのか!?」
…モゾッ
剣士「!」
軍人「う…」
剣士「…おい!大丈夫か!」ダッ
ダダダダッ…バッ!
剣士「…しっかりしろ!」
軍人「ど、どなたでしょうか…」
剣士「…そんなことどうでもいい!おい、回復薬!」
魔道士「う、うんっ!」
ゴソゴソ…
軍人「いえ…。自分はもう……だめです…」
剣士「何言ってんだ、諦めんな!」
軍人「…痛みも…感じない……」ゴホッ
剣士「痛みも感じない?お前、それほどの傷……って!」
ドクッ…ドクッ……!
魔道士「…ッ!!」
武道家「な、なんだその傷っ…!」
乙女格闘家「こ、腰から下が……!」
剣士「な…何があった!?なんだこの傷は…!」
軍人「あ、あいつが……き……っ」
軍人「うっ…!」グリンッ
…ガクッ
剣士「…く、くそっ!」
武道家「…それは斬り傷か何かか?」
剣士「い、いや…。斬撃なら真横か一直線に切れるはず…」
剣士「どっちかっつーと…槍のような…」
…ズドォンッ!!
剣士「!?」
魔道士「何っ!?」
武道家「なんだ!」
乙女格闘家「何の音!」
ドォンッ…ドォンッ……
剣士「…この音は」
魔道士「な、何か…」
武道家「近づいているのか…?」
乙女格闘家「向こうから、何か……!」
剣士「…」
剣士「……み、見えた…が…!こいつは…!」
ドォンドォンドォンッ……ズザザザァ……!
???『……』コォォ
ォォォ……ォォ………!!
剣士「…っ!」
魔道士「な…」
武道家「…なんだよコイツ!」
乙女格闘家「み、見た事ない…魔族……!」
デュラハン『…我輩はデュラハン。貴様らは…冒険者の一行か何かか』
剣士「首無しの…騎士…か」
魔道士「も、もうどんなのが現れても驚かないね…」
武道家「はは…強そうじゃねえか」
乙女格闘家「…っ」
デュラハン『…』
ォォォ…ォォ……
剣士「こいつ…似ている……」ゾワッ!
デュラハン『ほう、我輩に似ている者が?』
剣士「…お前、竜族の何かなのか。その…実力は分かるぞ……」
デュラハン『ほう!バジリスクとバハムートを知っているのか』
剣士「あいつら…そういう名前なのか…!」
デュラハン『…我らが魔族軍を率いる、4体のマスターのうちの一体よ』
剣士「…!」
デュラハン『ふむ…。貴様らも相当なやり手と見える。落ち着いているな…』
剣士「こういう場面は…既に体験していてね」
魔道士「…」
武道家「…」
乙女格闘家「…」
デュラハン『貴様ら全員、実力があるな。面白い……』チャキッ
剣士「…やはり、やるか」チャキッ
魔道士「…」スッ
武道家「…」スチャッ
乙女格闘家「…」スチャッ
…サァァッ……
デュラハン『くく、いいぞ…。かかってくるがいい……!』
剣士「…行くぞっ!」
ダッ……!
デュラハン『…』
デュラハン『…』ピクッ
デュラハン『むっ…待て…!』バッ
剣士「どうした、臆したか!」
デュラハン『違う…この音……』
剣士「…音だ?」
ァァ……ァァァァ………!!!
剣士「…何か、聞こえる」
武道家「音…?」
乙女格闘家「お、音っていうか…声っぽいよーな……」
魔道士「…あっ!」ハッ
魔道士「け、剣士!みんな!後ろ見てっ!」
剣士「あぁ?」クルッ
…アァァァァッ!!!!
大隊長『…目標、デュラハンを確認!全員、武器を構え!!』
大隊軍人たち「了解!!」
ババババッ!!パァァッ!!
剣士「なっ…なんだぁ!?」
魔道士「もしかして、剣士のお父さんが準備させたのかも…?」
武道家「なるほど、次から次への行動が早いわけだ…。撤退も作戦のうちだったんだな…」
乙女格闘家「あ、あんな人数を用意するほどの相手なんだ……」
デュラハン『…あのような者達が群がった所で、我輩をどうにか出来るわけではないのだがな』
デュラハン『いたしかたない……』クルッ
剣士「…おい、逃げるのか!」
デュラハン『…興がそがれただけよ。貴様らとは、邪魔の入らぬ戦いを望む』
デュラハン『…』
デュラハン『…ふっ…くく…』
剣士「何を笑う!」
デュラハン『あの者…槍士大将と言ったか。同じように別れ、再戦を望んでいた』
デュラハン『だが、あの者には我輩と再戦する技量はなかったようだ』
デュラハン『くはは…!』
デュラハン『貴様らはどうか…。我輩と再び一戦交えるというのなら、この先の塔で待とう!』
剣士「…何っ!」
デュラハン『…さらばだ!』
剣士「ま、待て!その前に、聞かせてくれ!」
デュラハン『…何だ』
剣士「お前と竜族…。どちらが強い?」
デュラハン『…』
デュラハン『吾輩……』
剣士「!」
デュラハン『…と言いたいところだが、あやつらは更に強いだろう』
剣士「…っ!」
デュラハン『…なるほど。バジリスクとバハムートに何か思いがあるか』
デュラハン『あやつらは強いぞ…。我輩に勝てぬようでは、到底追いつくことなど出来ぬ!』
剣士「…お前を倒せば、いいんだな」
デュラハン『ふはははっ!楽しみにしておくぞ!』クルッ
ドォンッ…ドォンドォンドォンッ………
…………
………
…
剣士「…っ」
魔道士「剣士…」
剣士「…面白いじゃねぇかよ…。倒してやるよ……」
武道家「…この先にある塔ってことは、その魔力の塔ってやつか」
剣士「いいぜ、待ってくれてるなら…挑むだけだ」
武道家「…そうだな」
ガヤガヤ……!!
剣士「ん…」
ザワザワ…
軍人たち「…あれは冒険者か?」
軍人たち「なぜこんなところに……」
軍人たち「あいつの周り…!仲間が大勢倒れている…。ど、どうなってるんだ…?」
軍人たち「まさか、あそこにいる冒険者どもは…魔族…!?」
剣士「…」
武道家「…何か、あまりよろしくない感じだな」
魔道士「まぁ…こんな状況じゃね…」
乙女格闘家「話、聞いてくれるかなぁ…」
…チャキッ
大隊長「おい、その恰好…冒険者だな」
剣士「そういうアンタは、軍人…大隊長ってところか?」
大隊長「よもや、この惨劇…貴様も加担したのではないだろうな」
大隊長「それとも何か、貴様は魔族の仲間か」
武道家「お、おい!ちょっと待ってくれ!」
乙女格闘家「私たちは……!」
魔道士「ま、待って二人とも……」スッ
剣士「…」
大隊長「…黙っていては分からないぞ?」
大隊長「この場所は並大抵の実力では近づくことすら困難な戦いの最前線」
大隊長「ココへ立つ冒険者など、魔族かも分からぬ。素性が分からねば斬ることになるぞ」
剣士「…」
大隊長「…」
剣士「…」
大隊長「…」
剣士「…」
大隊長「…敵と見なす。我々はデュラハンを討伐せねばならない指示があるのでな」チャキッ
剣士「…お前らにゃ無理だ」
大隊長「何?」
剣士「…戻って親父に伝えろ。西のデュラハンは俺らがぶっ倒して来るってな!」
…ダッ!
大隊長「…おいっ!待て!!」
魔道士「す、すみません。彼、剣聖少将の息子なんです」ダッ!
武道家「それと、俺らはただの冒険者じゃないからな!」ダッ
乙女格闘家「えへへっ!黄金の卵ってのは私たちのことだからっ!」ダッ
ダダダダダッ……
………
……
大隊長「…」
大隊長「…剣聖少将殿の息子…!?」
大隊長「そ、それに黄金の卵だと…」
副隊長「だ、大隊長。確かに、話は聞いております」
大隊長「それは知っているが……」
副隊長「い、いかがいたしましょうか」
大隊長「…一度、剣聖少将殿に報告しよう」
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央軍本部 】
大隊長「…というわけで、一部を除き準備していた隊は帰還を…」
剣聖少将「…」
大隊長「…」
剣聖少将「…」ブルッ
大隊長(怒ってらっしゃる!?)
大隊長「…も、申し訳ございません!勝手な判断で…!」
剣聖少将「ぶ…」
剣聖少将「ぶわーっはっはっはっはっ!」
大隊長「…は」
剣聖少将「あ、あのバカ…!軍の支援もなしに前線にあのパーティで突っ込んだのか!」ハハハ!
剣聖少将「俺の息子ながら、本当にバカだと思うぜ!」
大隊長「は、はぁ……」
剣聖少将「ま、話によるとデュラハンってやつは妙な奴っつってたし…」
剣聖少将「本当に戦いを望むなら、サシでやってくれるかもしれん」
大隊長「…いいんですか?」
大隊長「今の塔の前、星降町は魔族の巣窟となっています」
大隊長「あの周辺は休まる場所もないですし、たった4人では…」
剣聖少将「…今のあいつらを甘くみるな」
大隊長「は…」
剣聖少将「よっぽどな覚悟と、地獄を見たんだろうな…」
大隊長「どういうことでしょうか」
剣聖少将「…どうしようもねぇバカだが、一級品のバカってことさ」
大隊長「はぁ…?」
剣聖少将(ったく…仕方ねぇやつだ)
剣聖少将(ま、お前がそう望むなら、それでいい)
剣聖少将(だが…。お前がそう言った以上、その結果…出せよ)
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 星 降 町 】
剣士「どけコラァ!!」
…ズバズバァンッ!!!ドゴォンッ!!
ゴブリン兵『…ッ!』
オーク兵『な…っ』
武道家「…どうした?」
乙女格闘家「やっちゃうよ!」
魔道士「今度は、足手まといになんかならない…!」パァァッ
ゴブリン兵『グッ…!まサか4人如きで…!』
オーク兵『応援を呼べ!こいつら、予想以上に強いぞ!』
剣士「…別に全滅もさせることもできるが、今の俺は塔に用事があるんだ!」
オーク兵『塔だと…?今更、破壊したところでどうにもならんぞ!』
剣士「…違う。デュラハンってやつに用事があるんだよ!」
オーク兵『で、デュラハン様!?』
剣士「へぇ、デュラハン様…か」
剣士「あいつが言ってた、魔族を率いるマスターの地位ってのはあながち嘘じゃねえんだな」
オーク兵『…ココを通すわけにはいかぬ!』シャキンッ
剣士「…いいぜ。死にたければかかってこい!」チャキッ
オーク兵『ぬおおぉっ……!』ダッ
???『まぁ…待てや……』
…ガシッ!!
オーク兵『ぬぐっ!?』
剣士「!」
魔道士「!」
武道家「何だっ!」
乙女格闘家「うわっ…でっか……」
オーク兵『あ…!お、オーガ様!』
オーガ『さっきからうるせぇぞ…。なんだぁお前ら……』
剣士「で、でけぇっ…!」
ゴォォォ……ォォ……
オーガ『人間が、こんな場所までなぁ……』
剣士「…何言ってやがる。お前らが俺らの世界へ来たんだろうが!」
オーガ『あぁ…知らん知らん』
剣士「この…!」
オーガ『…あんまりお前らに暴れられると、ちぃと面倒なんでな』グググッ
剣士「!」
オーガ『…死んでおけっ!!』グワッ!!
ゴッ…ゴォォォォォッ!!!
武道家「…素手で真空波を生んだのか!」
魔道士「剣士!」
乙女格闘家「ど、どうするのっ!?」
剣士「まぁ…大丈夫だろ」
…グググッ
剣士「おらぁっ!」ブォンッ!!!
ゴッ…ゴォォォォッ!!!…ドゴォンッ!!!…
グラグラ……
オーガ『…!』
剣士「…何だ、この程度で相殺かよ」
オーク兵『お、オーガ様の攻撃を…』
オーガ『ちぃとばっかし…やれるやつみたいだな……』
剣士「…この町を守ってる親方さんは、オメーなんだな?」
オーガ『…』
剣士「…なら、お前を斬れば他の奴も大人しくなるか。相手にすらならねーだろうが」
…チャキッ
オーガ『…』イラッ
オーガ『…やってみろォ!下等な人間がァッ!!!』
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーガ『つ…強すぎ…る……』
ズッ…ズドォォンッ……
剣士「…言っただろ。相手になんかなんねーんだよ」
武道家「ふっ…」
魔道士「す、すごい…」
乙女格闘家「剣士…。見ない間に、また強くなってる…」
剣士「…大人しく、ここを通せ!切り刻まれたい奴は、前に出ろ!」
…ザワッ……
オーク兵『…っ』
ゴブリン兵『お、俺タちじゃ…勝テねェよ……』
剣士「じゃ、通るぞ。行こうぜ、みんな」クルッ
魔道士「うんっ」
武道家「おうっ」
乙女格闘家「剣士、やるー!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 西方 魔力の塔 】
ォォォ…オォォォ……ォォ…
剣士「ここが魔力の塔ってやつ……」
魔道士「夜で周りが暗かったし、塔からの明かりが見えてて良かったね」
魔道士「…」ブルッ
剣士「…」
武道家「山の中じゃ、すげぇ目立ってたしな」
乙女格闘家「…ここに、さっきのデュラハンってやつがいるんだ」
剣士「…」
…ザッ!!
門番魔族『…』
剣士「…やはり、簡単には通さないか」チャキッ
門番魔族『…貴様、剣士カ』
剣士「…俺の名を?」
門番魔族『…ソウカ。コノ塔ノ頂上デ、デュラハン様ガ待ッテイル…』スッ
剣士「!」
門番魔族『…通レ』
剣士「…そんな簡単に通していいのかよ」
門番魔族『デュラハン様ノ命令ダ』
武道家「…おいおい、随分と物分かりがいい魔族さんだな」
剣士「罠か…?」
魔道士「でも、どっちみち、上らないといけないんでしょ…?」
乙女格闘家「どうするの…?」
門番魔族『…俺ハ通セト言ワレテイルダケダ。敵対スルツモリハナイ』
剣士「…」
剣士「…おい」
門番魔族『…何ダ』
剣士「お前は、人を殺したことはあるか。この戦争に、参加したのか?」
門番魔族『ア?ソレハ当然ダロウ。人間ドモナゾ、タヤスイモノ……』
ブンッ!!…ザシュウッ!!!バスッ!!
門番魔族『ア゛……?』
ズルッ…ドシャアッ……
剣士「…なら、死んでおけ」
武道家「…」
魔道士「…」
乙女格闘家「…」
剣士「…町では少し我慢してたが、やっぱりココにいる奴だけは許せねぇんだよ…」
武道家「…あ」ハッ
武道家「そうか。ここは、あの大戦士さんの……」
剣士「…そう。ちっとばかし我慢してたが、やっぱ無理だ」ギリッ
武道家「…」
剣士「それに、魔道士も閉じ込められていた場所…。何があっても許したくねぇ」
武道家「あぁ…」
魔道士「…」ブルッ
剣士「…魔道士」
ソッ…ギュウッ
魔道士「!」
剣士「…今度は守る」
魔道士「け、剣士……」
剣士「…約束する」
魔道士「…うん」
剣士(…怯えさせてゴメンな…。また、嫌な思いをさせるようで……)
魔道士「…うん。本当は怖かったの。ここへ戻るのは…ちょっと嫌だった」
剣士「!」
魔道士「でえへへ…でもね。こうしてくれたら、震えも止まっちゃった」
剣士「ふっ…」
乙女格闘家「…」
乙女格闘家「…武道家、私も震えが」ガタガタガタ
武道家「地震かな?」
乙女格闘家「…」
…ゲシッ!!ゲシッ!!
武道家「あだっ!あだだだっ!お前、病人になんてことを!」
剣士「…はは」
魔道士「…」クスッ
武道家「…ったく。そんじゃまぁ…上りますか」コキコキッ
剣士「たっけぇなぁ…」
ォォォ…ォォ……!!
魔道士「…中には、魔族が沢山いるのかな」
剣士「…まぁ、襲ってきたら俺が全部倒してやるけどな!」
武道家「何を言う、俺が全部倒してやるぜ」
剣士「…無理すんじゃねーぞ」
武道家「無理なんかしてねーよ。なんなら、ここでお前を吹き飛ばすのも容易いぜ…?」
剣士「はっはっは、病み上がり武術で俺を倒せるとでも」
武道家「あぁ?てめぇなんざ、その武術以下で倒せるっつーの」
剣士「…」
武道家「…」
剣士「…あぁん!?」
武道家「…おぉっ!?」
武道家「病み上がりにバカにされりゃ意味ねーな、バーカ!」
剣士「おめーがバカだろうが、バカ野郎が!」
ギャーギャー!!!
魔道士「…はぁ」
乙女格闘家「あはは、二人らしいね」
魔道士「…まぁ、ちょっとこれを見れて安心したけどね」
乙女格闘家「うんっ」
魔道士「でもね…」スゥゥ
魔道士「…いい加減にしなさい!二人とも!!」
剣士「ひえっ!」
武道家「は、はいっ!」
魔道士「…うん、素直でよろしい!」
剣士「…全く武道家のせいでよ!んじゃ、さっさと行くぞ!遅れんなよ!」
武道家「分かってるっつーの!うるせぇぞ、お前こそ!」
魔道士「はいはい。行くよ!」
乙女格闘家「しゅっぱーつ!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 塔の内部 】
魔族兵たち『…』ジロッ
魔族兵たち『…』ヒソヒソ
魔像兵たち『…』ボソボソ
カツ…カツ…カツ……
剣士「…」
魔道士「な…なんか…嫌な感じ」
武道家「不思議な感じだな…。今まで戦ってただけに、こんな傍観されてると…」
乙女格闘家「怖い…」
剣士「…気味が悪い」
剣士「意気揚々と戦うつもりで飛び込んだのに、襲いかかってこねーのかよ」
剣士「門番の言ってた、デュラハンが俺らを待ってると言ったのは本当みてぇだな…」
魔道士「…あのデュラハンって魔族、他のとなんか違うよね」
剣士「強いのはヒシヒシと感じるが、自分の道を貫き通してる感じだ」
魔道士「槍士大将との再戦も望んでたのに出来なかったって、少し悔やんでたよ」
剣士「中には、ちょっとマシなやつがいるっつーことか……」
…ナデッ…サワサワッ
魔道士「…きゃああっ!?」
剣士「!?」
魔族兵『うへっ…。クソ人間共が、デュラハン様の命令じゃなければヤっちまってるのによ』
剣士「…てめぇ」
魔族兵『へっへっへ!』
剣士「…殺すぞ」
魔族兵『なーにが殺すだ、ガキが!命令さえなけりゃ、お前らなんか一瞬であの世だっての!』
剣士「…」
魔族兵『…何かの間違いだろ、デュラハン様がこんな奴らを招待してるなんてよ!』
魔族兵『人間の女ってのも、悪くないんだぜ…。どうだ?置いて行けよ!』
剣士「…」
武道家「…」
魔道士「…っ」
乙女格闘家「…」
魔族兵『聞こえてないのか?聞こえてないふりなのか?』
魔族兵『それともビビっちゃって漏らしちゃったかな…?くくく…!』
剣士「…」チャキッ
魔族兵『…お?やるのか?そんな勇気もねーくせに、はっはっは!』
…ヒュッ!
バスバスッ!!!
魔族兵『…へ?』
…ドシャアッ……
剣士「…俺らは、お前らを殺すなとはそのデュラハン様には言われてないんだぜ」
武道家「ま、そうだな」ハハハ
…ザワッ!!!
魔族兵たち『てめぇ……っ!』チャキッ
魔族兵たち『ヨクも同胞ヲ…!』シャキンッ
魔族兵たち『だ、ダケド待て!デュラハン様の命令ガ…!』バッ
剣士「おぉ怖い。俺らと戦う気か?」
剣士「"そんな勇気もねーくせに、はっはっは!"」
剣士「……なんてな」ニヤッ
魔族兵たち『…ッ』ブチッ
魔族兵たち『……殺すっ!!!』ババババッ!!
魔道士「…そうなると思ってた!」パァァッ
武道家「はっはっは、面白いことしやがる!」スチャッ
乙女格闘家「…まぁ、分かってた!」バッ!
剣士「…最初から素通りする気なんざなかったっつーの」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数十分後 最上階 】
…バゴォンッ!!パラパラッ…
魔族兵『ガアアッ!』
ズザザァ……!!ビュオッ…ザシュッ…!
魔族兵『ア゛グッ…!」
ドシャアッ……
カツ…カツ…カツ…スチャッ!
剣士「…」
武道家「…」
魔道士「…」
乙女格闘家「…」
『…ほう。ココまで来れたか』ボソッ
剣士「待たせたな…デュラハン!」バッ!!
デュラハン『…吾輩の部下達を、こうも簡単にな』
ォォォ……ッ!!
武道家「くっ…!」
乙女格闘家「や、やっぱり凄い威圧感……!」
魔道士「…っ」
剣士「…約束通り、ここまできてやったぜ」
剣士「軍の人間もココへは来ない。これで邪魔は入らないはずだ」
デュラハン『…嬉しいぞ』
剣士「あん?」
デュラハン『…人間界で実力の有る者と万全にて対峙できること。戦いを出来ることが嬉しく思う』
剣士「…なんだかな、変な気分だ」
デュラハン『…どうした』
剣士「竜族にしろ、アンタにしろ、どうも上の魔族ってやつは話し方もマナーもあるようだ」
デュラハン『…ふむ』
剣士「アンタらは、人間界を侵攻して何をしようとしてるんだ」
剣士「…俺らの仲間も、軍人も、市民も、今回のことで大きな傷を負った」
剣士「それは魔族たちも一緒のはず。そこまでのメリットはないはずだ」
デュラハン『…吾輩は、主に着いてきただけよ」
デュラハン『貴様は、上の者に着いてこいと言われたら嫌だというのか』
剣士「ふむ、なるほど。確かに一理ある」
剣士「…だが、それはちょっと俺には共感できん」チャキッ
デュラハン『…』
剣士「残念ながら、俺は上の者もいなけりゃ下の者もいない、自由な人間なんだよっ!!」
…ブォンッ!!!
デュラハン『…嫌いではない!』バッ!!
…ガキィインッ!!!
剣士「…ふんぬっ!」グググッ!
デュラハン『…ぬぐっ!』グググッ!
…ババッ!クルクルクル…ズザザァ…
剣士「…一旦、距離を置かせてもらう!」
デュラハン『後退…早い!』
剣士「先ずは、馬からやらせてもらうか!」ググッ
デュラハン『コシュタバワー!』
コシュタバワー『…ッ!』
…ドォンッ…ドォンドォンドォンッ!!!
剣士「いっ!?早っ!」
コシュタバワー『…ッ』
タァンッ……!グワッ!!ヒュオオオオオッ!!
剣士「おい、馬の圧し掛かり攻撃なんて有りかー…!」
魔道士「…剣士っ!」
剣士「…大丈夫さ」
剣士「うぉらあああっ!!!」
ビュッ…ブォォォンッ!!!
デュラハン『!』
コシュタバワー『!』
ガキッ…バキャアンッ!!!
コシュタバワー『…ッ!!』ビキビキッ
デュラハン『…なっ!コシュタバワー毎、吾輩をふきとば…』
…ズドォンッ!!パラパラ……
剣士「…どうだ!」
武道家「……あいつ、あのでっけぇ馬を鎧騎士ごと壁に叩きつけやがった」
乙女格闘家「馬鹿力もここまでくると…」
剣士「…聞こえてるんだよ、コラァ!」
剣士「…」
剣士「…!」ハッ
モクモク……
…ムクッ
デュラハン『…』
デュラハン『…やるではないか。コシュタバワーから落とされたのは久々だ』
剣士「…無傷か」
デュラハン『吾輩の鎧は、貴様程度の攻撃では傷一つ付かぬ』
剣士「くそっ…厄介なもん着込みやがって」
デュラハン『では…こちらから行くぞ!はぁっ!』
…グオッ!!!
剣士「や、槍が伸び…!」
…ザシュウッ!!
ズザザザァ…ドシャアッ!
魔道士「け、剣士ぃっ!」
武道家「は、早すぎて槍の攻撃が見えなかった!」
乙女格闘家「あんなの有り!?」
…ムクッ
剣士「く、くそっ…!ぎりぎりで防げた!危ねぇ…っ!」
デュラハン『…』
剣士「その真っ黒な槍…伸びるのかよ…!」
デュラハン『…我輩の影の槍は、変幻自在。その身体を自在に貫こうぞ』
剣士「…面白い。いいぜ、もっかいやってみろ」クイッ
デュラハン『…そう来なくては!はぁっ!』
…グォッッ!!!
剣士「…」
剣士「…見える!」バッ!
…ガシィッ!!
デュラハン『…槍を掴まえただと!』
剣士「武器を掴まえれば…」
デュラハン『ふ…』
…ギュウゥゥンッ!!
剣士「げっ!!」
デュラハン『…少し、考えが足りなかったな』
剣士「やっべ……!引き寄せられ……!」
ギュウウウウンッ…!!!
デュラハン『…踏みつけられるがいいッ!!』
グオッ…ズドォンッ!!!!
剣士「…ッ!!」ビキビキッ
武道家「ひ、引き戻した槍についた剣士を、踏みつけやがった!」
魔道士「…っ!!」
乙女格闘家「い、今…頭をつぶし……!」
デュラハン『…終わりか。頭を潰せば、貴様ら人間は生きていられまい』
デュラハン『…』
デュラハン『…むっ』ピクッ
剣士「あ…!あぶねぇ……!」
シュウウッ……
デュラハン『…寸前で、我が踏みつけを避けていたか』
剣士「…魚じゃねーんだぞ俺は!釣りみてぇなことしやがって……!」
デュラハン『…吾輩の下に転んだ状態で、剣も振えないようだが…どうする?』
剣士「…」
デュラハン『…次は避けられぬ!』ググッ…!!
剣士「…小火炎魔法っ!!」パァッ
…ボォンッ!!
デュラハン『むおっ!』
魔道士「…剣士!」
武道家「あの野郎…。かなり戦い慣れしてやがる…」
乙女格闘家「どんな修羅場くぐって来たんだろうね…」
タンタンッ…ズザザァ……!
剣士「へへっ、これで振出しだな」
デュラハン『…初期位置に戻ったところで、吾輩の槍には勝てぬ』スチャッ
剣士「…ちょい待ち!」
デュラハン『…何だ』
剣士「…この塔は、どれだけで壊れる?」
デュラハン『…黒魔石によって造られた塔だ。そう簡単に崩れはせぬ』
剣士「…なるほど。確かに、あの馬やアンタが踏みつけても軽くヒビが入っただけだったからな」
デュラハン『それがどうした』
剣士「…だが、壊れるかもしれねーぞ」
デュラハン『…ほう』
剣士「…」
剣士「…」スゥゥゥ
剣士「…っしゃああぁぁっ!!」
剣士「いっー…!」グググッ!
デュラハン『気合溜めか…!良かろう!来い!』
剣士「せーっ……!!」グググッ
デュラハン『…』スゥゥ
剣士「のぉぉぉ……!」ググググッ!
デュラハン『…ふんっ!!!』
…グォッ!!!グォォォォオッ!!!
剣士「せぇぇいっ!!!!」
…ゴッ!!!ゴォォォォオッ!!!
……ズッ、ズドオオォォォォオオオンッ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 塔の外 】
…ドゴォォォンッ!!!
パラパラ…!!
魔族兵たち『…と、塔の上部が崩れた!?』
魔族兵たち『で、デュラハン様の場所だなんだ!?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グラグラグラッ……!!モクモク…
魔道士「ごほっ…!け、剣士は…!」
武道家「げほっ、げほげほっ!あのバカ…本当に塔ごと壊しやがった…!」
乙女格闘家「ど、どうなったの…!」
モクモクモク……サァァッ…
魔道士「…」
魔道士「あっ……!」
剣士「…」
デュラハン『…』
剣士「…」
デュラハン『…』
剣士「…これで、どうだ」
デュラハン『…』
ビキッ…ビキビキビキッ……パキャアンッ…!!
デュラハン『我輩の槍と鎧を……』
剣士「…その鎧は相当な代物だったみたいだが、次の一撃は受け止められないだろう」
デュラハン『…』
剣士「…どうする」
デュラハン『…』
デュラハン『この槍と鎧は、己が力を具現化したもの』
デュラハン『…鎧を砕かれ、槍を失った時点で、どう戦おうというのか』
剣士「…」
デュラハン『…己の負けを認めよう』
剣士「…」
デュラハン『…この命、自由にするがいい』バッ
剣士「…いいのか?」
デュラハン『二言は無い』
武道家「け、剣士の勝ち…なのか」
魔道士「やった…の?」
乙女格闘家「た、多分…」
デュラハン『…吾輩に負けという言葉をこれ以上言わせたいのか?若き冒険者たちよ』
武道家「お…!」
乙女格闘家「や、やったぁぁ!!」
魔道士「剣士…さすが!」
剣士「…っしゃあ!!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣士「…早々と命は取らない」
デュラハン『…』
剣士「お前には、色々と教えてほしいことがあるからな」
デュラハン『…敗北者に拒否する権限等はない。知っていることを教えよう』
剣士「…」
剣士「…アンタの主って呼ぶ奴は何者なんだ」
デュラハン『…我輩たちの棲む、魔界を統一する絶対王だ』
剣士「…強いのか」
デュラハン『…強い』
剣士「ま、そりゃそうか。強くなったら、アンタみたいなのは従わないもんな」
デュラハン『…』
剣士「…ちょっとそれと気になったことがある」
デュラハン『申してみよ』
剣士「お前さ、首ないじゃん。殺せって言ったけど、首なかったら殺せねーだろ…。心臓とかあんの?」
デュラハン『…ふむ、そのことも知りはしなかったのか』
剣士「…こっちとしては、情報はそこまで持ってないんだ」
デュラハン『…魔族には、2つの種類がある』
剣士「2つの種類?」
デュラハン『オークやゴブリンなど、貴様ら人間と同じく、その数と性を受け種族として繁栄するもの』
デュラハン『我輩のような、その個体でその種族とするものだ』
剣士「…個体で種族って、お前一体しかいないってことか」
デュラハン『そうだな。それでお前たちの言う、命を削る行為は…基本的に他種族にしか通じない』
デュラハン『我輩のような個体種族は特別でな、正確に"命を奪う"ということは出来ないのだ』
剣士「は!?…ってことは、死なないのか!?」
デュラハン「…死ぬのではない。消滅する」
剣士「…一緒じゃねえかよ!」
デュラハン『違う。そうだな…。簡単にいえば…封印のようなもの』
剣士「ふ、封印だと?」
デュラハン『我輩を含め、その個体魔族は、転生術というものを持っている』
剣士「…」
デュラハン『いくら身体が崩れようとも、魔力を有する限り、いつかこの身体は戻るのだ』
剣士「…何だよそれ。じゃあ、幾ら倒しても意味ないっつーのか」
デュラハン『だが、崩れ去った身体を戻すには膨大な時間を要する』
デュラハン『故に封印のようなものということだ』
デュラハン『…何かのきっかけで戻ることもあるかもしれぬが』
剣士「…おい!それじゃココでお前らを倒したところで…」
デュラハン『…意味のないことかもしれぬ』
剣士「…っ!」
デュラハン『…』
武道家「…じ、じゃあ…俺からも一つ聞きたい。その個体種族は…お前の他にどれだけいるんだ?」
デュラハン『…個体種族は吾輩、バンシィ、他には数体ほどいるな』
武道家「…ってことは、竜族もか」
デュラハン『いや、あやつらは違う。種族として、ゴブリンたちと同様の繁栄種族だ』
武道家「…」
武道家「…はっ!?」
剣士「…は?」
魔道士「えっ…!?」
乙女格闘家「り、竜族が繁栄種族っ!?」
デュラハン『あぁ。首を落とせば死ぬし、心臓もある』
デュラハン『だが、あの皮膚は硬く、その実力も魔界では主に次いで強くー……』
剣士「ま…待ってくれ。あんなのが、ゴブリンやオークのように…沢山いるのか!?」
デュラハン『…いるぞ』
剣士「う、ウソだろ?」
デュラハン『我輩はこのような状況で、嘘は言わぬ』
剣士「り、竜族が…。な、なんだよそれ……」
デュラハン『…』
剣士「か、勝てるわけねぇじゃねえか……。に、人間が……!!」
デュラハン『…なるほど。そういう意味なら、少し違う』
剣士「…何?」
デュラハン『あいつらはな……』
ビュオッ……ドシュッ!!!
デュラハン『…がっ!?』ビクッ!
剣士「!」
魔道士「!」
武道家「!」
乙女格闘家「!」
デュラハン『がはっ…!こ、これ…は……』ブルッ
ドクッ…ドクッ……
剣士「お、おい…何か刺さって……!」
…ザッ…ヒュウウッ……
武道家「…待て、剣士!お前の壊した壁から、だれか入って来てるみたいだぞ!」
剣士「何っ!?」バッ
???『冒険家諸君。個体種族を倒すには、何通りかあるのだがー…』
???『そのうちの1つ、こちら側での最も簡単な方法は…』
???『彼らの身体に、この黒魔石の1つも刺せば、魔力を奪い取り、その身体は消滅する』
???『…黒魔石で出来た傷から、その個体の魔力は吸収され、封印されるのだ』
???『封印が解除されるのは、普通、君たちの寿命ではよっぽどの限りがないと有り得ない。安心するといい」
剣士「…だ、誰だ!」
デュラハン『…あ、主っ!!』
剣士「ッ!?」
カツ…カツ…カツ……
アリオク『…私の名前は、アリオク』
アリオク『恥ずかしながら、そこの役立たずの主ってやつだ』ニコッ
剣士「…ッ!!」ゾクゾクッ!!
魔道士「あ…!」フラッ
武道家「なっ…!」ビリビリッ!
乙女格闘家「…っ!」フラフラ
デュラハン『…あ、主……!』
ドクンドクン……ポタッ、ポタッ…
アリオク『…その恰好、辛いだろう』
デュラハン『…!』
アリオク『…今、楽にしてやろう』
ビュッ…ズバズバズバァンッ……!!
ボトボトッ…!ドシャアッ…!
剣士「…なっ!」
魔道士「…っ」
武道家「デュラハンを簡単に…!」
乙女格闘家「…!」
アリオク『ご苦労だったな、デュラハン。しばしの休みをとるといい』
アリオク『…』
アリオク『…さて』ギロッ
剣士「!」
アリオク『…まさか、デュラハンを討ったのが…ただの冒険者だったとは』
アリオク『その実力、評価に値しよう』
剣士「…あ、ありがとよ」
アリオク『…』
剣士「…」
アリオク『…くくっ。さっきまでの話の中で、面白いことを一つ教えよう』
剣士「な、なんだ」
アリオク『…私は、個体種族だが…個体種族ではない』
剣士「…?」
アリオク『つまり、頭を落とせば死ぬし…心臓と呼ばれる部分もある』
剣士「!」
アリオク『…私を1度殺せば、他の個体種族のように復帰することはなくなる』
アリオク『それに、私を倒せばこの戦争…終えるのも容易になろう』
剣士「…そんな情報を、いいのかよ」
アリオク『いいさ。この世界で、俺に敵う人間は…いない』ニヤッ
剣士「…べらべらとしゃべるんだな」
アリオク『強い者は嫌いじゃないのでね』
剣士「…っ!」
アリオク『…軍のトップを落としたつもりだったが、まだその根本は残っていたようだ』
アリオク『だが、そちらのほうが私としても面白い』
アリオク『…はははっ』クルッ
剣士「…ど、どこへ行く!」
アリオク『…私にはやるべきことがまだあるのでね』
剣士「…俺らを見逃すって言いたいのか」
アリオク『君では、私の足元にも及ばない』
剣士「…こ、この野郎…!やってみなければ!」バッ!
魔道士「ま、待って!」
…ガシッ!
剣士「!」
魔道士「ダメ…。剣士、ダメ……!」ギュウッ!
剣士「…っ!」
アリオク『…ほう』
アリオク『俺の前で、力に圧倒されずに動ける女は…二人目だ』
剣士「…!」
アリオク『…』
アリオク『…気に入った』ニタリ
剣士「!」
アリオク『その女、私の血を受け継ぐのに値する!』バッ!
…グイッ!
魔道士「っ!?」
アリオク『人間との混血の子…試すには一人でも多いほうがいい…!』
アリオク『それも、お前のような女…強き女なら猶更な…!』
魔道士「…っ!」ゾクッ
剣士「ま、魔道士っ!」
武道家「お、おいそれって!」
乙女格闘家「…魔道士ちゃんっ!」
アリオク『…くく!』
剣士「ま、待てっ!!」
アリオク『…お前程度では、どうにもならん。諦めておけ』
魔道士「い…嫌ぁぁっ!!剣士っ!!」
剣士「…ッ!!」
ドクンッ…
ドクン…ドクン……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔道士「いけない、さっきの奴らが…!じゃあ、行くよ…」
魔道士「全員、衝撃に備えるようにくいしばってね!」パァァッ!!
剣士「…」
剣士「待て、よく考えたらお前、魔法を使うって…ゲートに触れないようにどうやって魔法を……」
魔道士「…」ニコッ
魔道士「極…火炎……」パァァァ!!
剣士「おい!!待てって!!」
武道家「ま、魔道士…?」
乙女格闘家「ち、ちょっと待って魔道士ちゃん!!」
魔道士(剣士……ごめんね……)
魔道士「魔法っっっ!!」
剣士「ま…魔道士ぃぃっ!」バッ!
ピカッ………!!
ズッ…ズドォォォォォォオンッ!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドクン…ドクン……!!
ドクンッ…!!
剣士(俺は…魔道士を…二度と目の前で失うことは…しないと決めた…)
剣士(そうだ…)
ドクン…ドクン……!
剣士(絶対に…。魔道士を…もう……!)
ドクンッ…!!
剣士(離さないっ!!!)
魔道士「剣士ぃぃっ!!」
剣士「…やらせるかよぉぉぉっ!!」ゴッ!!
アリオク『!』
パァァァアッ!!!!
剣士「ぬうううああああああっ!!」
パァァァァッ……!!!
武道家「け、剣士の大剣が光って…!!」
乙女格闘家「…な、何が!?」
アリオク『ぬぐっ…!?そ、その光…!その武器…!まさか!』
剣士「ああぁぁぁああ………っ!!!」スゥゥ
アリオク『魔族の血を打ち込んだ……!』
剣士「極……っっ!!!」
アリオク『…ッ!!』
剣士「………斬っっ!!!!」
………ヒュッ……!!!
アリオク『…ッ!!!』
………カッ……!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 魔力の塔の外 】
…ピカッ…!!!
バゴオオオォォォオオオンッ…!!
魔族兵A『こ、今度はなんだ!』
魔族兵B『また最上階のほうで…って!!」
魔族兵C『よ、避けろ!!!上から何か…!!』
グラッ…ズズッ………
ヒュオオオオオオッ…オォォォォオオオッ……!!
…ズドォォォォオオンッ!!!!!!!
パラパラ…
魔族兵A『な…何が……!』ハッ
魔族兵B『…って、あの方はまさか!?』
剣士「…ああああぁぁッ!!」ググッ!!
アリオク『…が、がはっ!』ブシャッ
剣士「…全ての元凶が、消え去りやがれぇぇっ!」
アリオク『わ、私をこんな…!!』ギリギリッ!
剣士「…情報を伝えたのは間違いだったな!その首…!」ググッ!!
剣士「これで…終わりだぁぁぁあっ!!!」
アリオク『!!』
…バスバスッ!!!ズバァンッ!!!!
ヒュオッ…ドシャアッ……!!ゴロゴロッ……
魔族兵A『あぁっ!!』
…ゴロンッ
剣士「…消え失せろっ!!」
剣士「はぁ…はぁっ……!」クラッ
ヒュオオオ…!!スタスタッ!
武道家「け、剣士!」
乙女格闘家「剣士!」
剣士「お、おう…。魔道士は……」
武道家「…無事だ。気絶してるが、傷はない」
魔道士「…」
剣士「よ…良かった……」フラッ
…ドサッ
武道家「剣士っ!」
剣士「だ、大丈夫だ…。ぜぇ…ぜぇっ……!」
武道家「…アリオクは!」
剣士「そ、そこに首が転がってる……!どうだぁぁあっ!!」
武道家「…!」
武道家「アリオクを倒したってことは…、これで…終わりなのか?」
剣士「!」
武道家「…こいつが魔族を率いてたということは…、それで終わりなんじゃ…ないのか」
剣士「…そうか!じゃあ、この戦争はもしかしてー…」
…終わりだと思うか、クソ人間共…
剣士「!?」
武道家「何っ!」クルッ
乙女格闘家「あ、アリオクの首が…!」
…ゴロンッ…フワッ…
アリオク『…"俺"の身体を、よくもまぁ…!』
剣士「く、首を刎ねて終わりじゃないのかよ!」
アリオク『そりゃあ…本体を刎ねればの話だろうがっ……!』
剣士「!」
アリオク『…俺の幻影とはいえ、よくも…やってくれた……!』
ゴ…ゴゴゴゴ……!!
剣士「げ、幻影!?まさか!」
アリオク『ク…クク…。許さんぞ貴様ら……!』
剣士「だ、大戦士兄が使ってた…エルフ族の魔法のやつか!」
アリオク『…遊んでやろうと思っていたが…』
アリオク『それとその大剣…。武器は厄介な代物…!』
アリオク『許さぬ…。絶対にな……!』
剣士「…っ!」チャキッ
武道家「くっ…!」スチャッ
乙女格闘家「…ッ」スチャッ
アリオク『遊ぶ時間は…終わりだ……!』
パァァッ…バシュウッ…!!!
剣士「…消えた!」
武道家「…本体に戻ったっつーことか」
剣士「あぁ…」
武道家「…まだ、終わってないのか…くそっ!!」
剣士「…っ」
…モゾッ
魔道士「あれ…私……」
剣士「!」
魔道士「あ…」
剣士「ま、魔道士っ!」ガバッ!
魔道士「けん…し…」
剣士「…良かった…。本当に良かった…」
魔道士「また…迷惑かけちゃった…ね…」
剣士「…そんなことない!大丈夫だ…気にするんじゃない…!」
…ギュウッ
魔道士「…っ」
剣士「…今度は、お前を守れて良かった…!」
魔道士「ごめんね…」
剣士「…いいんだ。いいんだ!」ギュウウッ
魔道士「…」グスッ
武道家「良かった…」
乙女格闘家「魔道士ちゃん……っ」
武道家「それにしてもアリオク……か」
剣士「…っ」ギリッ
乙女格闘家「…これから、どうするの?」
剣士「ん…」
乙女格闘家「一応、西側の魔力の塔の中心は撃破したってことになるんだよね?」
剣士「まぁ…」
乙女格闘家「それじゃ、次に私たちはどうすればいいんだろ?」
剣士「あー…」
武道家「西側の敵側の主力をぶっ殺したし、ある程度ここの戦場は落ち着くぜ?」
剣士「…次はどこにいくか」
武道家「南方は落ち着いてるし、北方側にゃそんな被害も効かない。どうする?」
剣士「このまま、西方側の魔族を殲滅するのに加わってもいいとは思う…」
剣士「……だけど正直、今回の事で向いたい場所が出来た」
武道家「どこだ?」
剣士「…祭壇町ッ」
武道家「!」
乙女格闘家「!」
魔道士「!」
剣士「…そこには、竜族がいるはずだ。あいつらを…この手で葬る…!」
武道家「…出来るのか」
剣士「今までの俺とは違う。もちろん…お前らもな」
武道家「…」
乙女格闘家「…」
魔道士「…」
剣士「東方側も、竜族を倒せば戦況は落ち着くし…奪回戦が楽になるはず」
剣士「俺の力で出来るならば、そうしよう…」
武道家「…」
武道家「…ま、俺らもお前が言うなら、着いていくに決まってるわな」
剣士「…何も言わないぞ」
武道家「当たり前だろうが」
乙女格闘家「…リベンジってやつだね」
剣士「…おうよ」
魔道士「…っ」
魔道士「で、でも剣士…!私、また…足を引っ張ったら……っ」
剣士「…」
…グイッ!!
魔道士「んっ…!」
剣士「…」
魔道士「…っ」
…
剣士「はっ…。だから、そう言うな…仲間だろ。俺の女だろ?大丈夫だって」ニカッ
魔道士「剣士…」
剣士「…な?」
魔道士「うん……」
乙女格闘家「…」
乙女格闘家「…」
乙女格闘家「武道家、私も足をひっ……」
…グイッ
乙女格闘家「!」
武道家「…」
…
武道家「…あーうるせぇうるせぇ!これでいいんだろ!」
乙女格闘家「…うにゃ」
武道家「…人前であんまりこういうことは俺は好きじゃねーんだけどな」ハァ
剣士「…うわぁ、見たか魔道士。人前でハシタナイ!」
武道家「…お前らもやってただろうが!」
剣士「さぁ、知らないなぁ」
武道家「この…!」
剣士「おっ、やるか!?」
魔道士「…」
魔道士「…二人とも」ニコッ
剣士「…申し訳ございませんでした」
武道家「すみませんでした」
乙女格闘家「えへへ…。いつもの光景、見れて安心♪」
魔道士「もうっ…」
剣士「…すまんて」
武道家「んじゃあ、まぁとりあえず…近場の西方支部にでも寄って休憩させてもらうか?」
剣士「そうだな。さすがの俺らもちょっと疲れた」ハァ
魔道士「…うん」
武道家「んじゃ、行くかぁ」
乙女格闘家「だね~」
…ギラッ
剣士(…ん?)
ザッザッザッ…スッ
剣士(んじゃこりゃ…)
剣士(……黒魔石の破片?)
剣士(…)チラッ
剣士(あぁ…。一部が砕けて一緒に落ちてきたのか……)
剣士(……ま、いくつかもっといて損はなさそうだ)スッ
武道家「…おーい、何してるんだ剣士。行くんだろ!」
剣士「分かってる!」
剣士(さて…と……)
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 とある場所 】
アリオク『…くそったれがッ!!』ドンッ!
バンシィ『……どウした、主。荒レてイるナ…?』
アリオク『力のほとんどが出せない幻影とはいえ…!あ、あの…クソ人間共…!俺の首をッ!』
バンシィ『主ガそこマでヤられる相手カ?』
アリオク『あの男…!人間一人としては相手にならんが、あの……武器だ』
アリオク『あれは魔族が造り上げた武器…!あれだけは厄介なもの…!』
アリオク『本来、人間に使いこなせるはずのない武器を、あそこまで順応させているとは……!」
バンシィ『魔族の武器ダと?…裏切りガいルってイうのか』
アリオク『違う…。あれは恐らく、俺らが取り逃がしたエルフ族の生き残りが造ったものだ…』ギリッ
バンシィ『なルほどナ…』
アリオク『……バンシィ!』
バンシィ『なンだ?』
アリオク『…もう、遊ばせておくことはない!』
アリオク『貴様の部下を用いて、エルフ族や人間が逃げた先…南方大陸へ向かえ!』
バンシィ『…わかっタ』ニヤッ
アリオク『それと…バハムート!!』
…ザッ
バハムート『…お呼びでしょうか』
アリオク『バジリスクは、既に東方へ向かわせていたな!』
アリオク『ならば貴様は、中央都市へ向かい、人間共の中心となっている場所で暴れつくせ!』
バハムート『…了解した』
アリオク『…それとあの冒険者共は…最期に俺が始末してやる……』
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
続き
剣士「冒険物語…!」【最終章・後編2】