カランカラン
男「いらっしゃい」
男「って、なんだ、客じゃねえのか」
女「お客ですよー」
男「暇つぶしに来ただけだろ」
女「実はそうですよー」
男「帰れよ、忙しいんだよ」
女「お客さん、いないじゃん、超暇そうじゃん」
男「くっ……」
元スレ
女「今日はどんな事件があったの?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1404029298/
女「今日はどんな事件があったの?」
男「今日は大した事件はなかったよ」
女「昨日は?」
男「迷子の犬を探してたよ」
女「一昨日は?」
男「……浮気調査をしてたよ」
女「……暇そうだね」
男「うるさいな」
女「なんか面白い事件の話、してよ」
男「お前な、事件を面白がるなよ」
女「いいじゃん、退屈なんだもん」
男「帰って勉強してろよ」
女「今日がってより、もう、人生が退屈なの」
男「うら若き乙女の台詞としては年季入ってんな」
女「ほら、私が楽しめる話、ないの?」
男「しゃあねえなあ……ちょっと前の事件だが……」
女「やった!」
5 : 以下、名... - 2014/06/29 17:17:09 KQrcnbho 4/555ウミガメのスープのSS形式バージョンです。
一応出題編と解答編に分けて投下します。
適当に楽しんでください。
知ってる人はニヤニヤ(゜∀゜)しててください。
【出題編:A刑事の失言】
男「とある有名なマジシャンが殺された事件、知ってるだろ」
女「ああ、そういえば新聞で見たわね」
男「死ぬ直前、あの男に近寄った女がいたんだ」
女「ほうほう」
男「それがちょうどショーの日でな、出口で待ち伏せてたらしい」
女「その女が犯人?」
男「まあ待て。それでな、マジシャンに近寄ってこう言うんだ」
男「『素晴らしいマジックでしたね、感動しました!』と」
男「そして、『あなた、A刑事を知ってますよね?』とな」
女「変な人だね」
男「しかしマジシャンはそんな刑事のことは知らない」
男「『知らない』と主張するが、その女は『いや、知ってるはずだ』と引かない」
女「やっぱり変な人だね」
男「その様子を見てた目撃者がいるんだが、マジシャンは本当に知らないようだったらしい」
女「その女の言いがかりってことだね」
女「でもなんでそんな変なこと聞くんだろう?」
男「そこがミソだな」
男「結局そのマジシャンは、女を振り切って家へ帰ろうとするんだが、帰宅途中公園で殺されるんだ」
女「災難だねえ」
男「人通りも少ない道でな、道具やなんやらはショーホールに置いて、ほぼ手ぶらで帰宅してたらしい」
女「付き人もなしに?」
男「そういう身軽な男だったそうだ」
女「それで、どういうことだったの?」
男「それは、お前が考えてみな」
女「ええ!?」
男「おれが話すだけじゃつまらないだろ、ちょっと考えてみろよ」
女「うーん、ヒント!」
男「早すぎるな、欲しがるのが」
男「ま、質問には答えてやるよ」
女「んー、やっぱり殺したのはその女の人なの?」
男「ああ、それは正解」
女「個人的な恨みがあったの?」
男「……ないな、マジシャンはとばっちりで殺された」
女「ひどいわね」
男「世の中、そんな事件だらけさ」
女「A刑事は実在するの?」
男「ああ」
女「女の人と知り合いなの?」
男「ああ」
女「マジシャンとは?」
男「マジシャンとA刑事は面識がなかった」
女「……女の人は、どうやってA刑事と知り合ったの?」
男「……予想してみな」
女「……女の人はもともと何かの事件の犯人だった?」
男「違う」
女「被害者だった?」
男「……少し違う」
女「隣人」
男「違う」
女「事件で知り合った?」
男「ああ、そういうことだな」
女「事件に巻き込まれた?」
男「少し違う」
女「近くで事件があった」
男「ちょっと近い」
女「事情聴取されたことがある?」
男「そうそう」
女「隣人が死んだ!」
男「少し違う」
女「隣人が誘拐犯だった!」
男「違う」
女「隣人が詐欺師だった!」
男「隣人から離れようか」
女「隣人じゃない近くって、どこよ」
男「隣人よりもっと近くの人間を探してみろよ」
女「え? 家族?」
男「正解」
女「家族がなにかの事件に巻き込まれたの?」
男「巻き込まれた、というほど大げさな事件ではないな」
女「誰か死んだ?」
男「そう、近づいてきた」
女「……息子が……」
男「違う」
女「女は何歳くらいなの?」
男「30代」
女「旦那は?」
男「いるよ」
女「じゃあ、旦那が死んだ?」
男「正解」
女「その時にA刑事と知り合った?」
男「正解」
女「え、女は旦那も殺してた?」
男「NO」
女「旦那は誰かに殺された?」
男「NO」
女「何死?」
男「さあ、それが重要だ」
女「事故死?」
男「違う」
女「自殺?」
男「お、正解」
女「えーっと、まとめると、女の旦那が自殺して?」
女「その時にA刑事に事情聴取されて?」
女「マジシャンに『A刑事を知ってるか』と問い詰めて殺した?」
男「そう」
女「なんのこっちゃ」
男「まだ、大事なところが抜けてるな」
女「どこ?」
男「つまり、マジシャンを殺した動機」
女「マジシャンであることが重要?」
男「そう、ただし、『女にとっては』だがな」
女「マジシャンはとばっちりで殺されたって言ってたよね?」
男「ああ」
女「マジシャンという職業だったから殺された?」
男「そうだ」
女「旦那は、売れないマジシャンだった」
女「だから仕事を苦に自殺して、女は売れているマジシャンを憎んだ」
男「それは違う」
男「自殺した男はただのサラリーマンで、マジックやマジシャンを恨んで自殺したわけじゃなかった」
女「ちょっと違う切り口が必要かしらね……」
男「……」
女「旦那はマジシャンを恨んではいなかった、でも女はマジシャンを恨んでた」
男「ああ」
女「……女は旦那を愛してた? それとも夫婦仲は冷めていた?」
男「愛してたよ、盲目的に」
女「それなのに旦那さんは自殺をしたの?」
男「……そうだ」
女「自殺であることには疑いがないの?」
女「例えば、自殺に見せかけて殺された、という可能性」
男「警察も、もちろんその可能性を追求したさ」
男「しかし最終的には自殺と断定されている」
女「妻が殺したということはあり得ない?」
男「今回の件に関して、それはあり得ないな」
女「どうやって死んでいたか、それは重要?」
男「ああ、重要だ」
女「首つり?」
男「いや、違う」
女「服毒?」
男「いや」
男「これに関しては、言ってもいいかな。拳銃自殺だった」
女「拳銃かあ」
男「頭に当てて、引き金を引いていた」
女「硝煙反応は?」
男「難しい言葉を知ってるな」
男「しっかり被害者の右手から検出されている」
女「でも、それだけじゃあ自殺に見せかけていたのかもしれないよね?」
男「まだ、決定的な状況証拠があるんだ」
女「?」
男「ヒント、『死体』ではなく『部屋』の状況」
女「あ、密室だったの?」
男「その通り」
女「鍵がかかってた?」
男「そう、その部屋は男の書斎で、中から鍵がかかってた」
男「合鍵は部屋の中にあった」
女「小説でよくあるやつだ」
女「その密室は崩せないのね?」
男「ああ、誰もその部屋に侵入することはできない状況だった」
女「じゃあ、やっぱり自殺なのね」
男「そう、警察は『自殺』と断定して、捜査は終わっている」
女「じゃあ……」
女「……ん? 警察『は』って言った?」
男「ああ」
女「じゃあ誰か、納得していない人がいるということ?」
男「そういうことだ」
女「それはつまり……『女』ね」
男「正解」
女「愛している旦那が自殺したなんて、確かに信じたくない話よね」
男「ああ」
女「事故、あるいは誰かに殺されたんだと考えたくなる」
男「そういうことだ」
男「しかし今回の場合、事故の可能性はほとんどあり得ない」
女「……わかっちゃったかも、女がマジシャンを殺した理由」
男「……そうか」
女「最後にもう一つだけ、質問してもいい?」
男「ああ」
女「その殺されたマジシャンって、瞬間移動のマジックが得意だった?」
男「……鋭いな、正解だ」
26 : 以下、名... - 2014/06/29 23:07:06 KQrcnbho 24/555解答編は明日に
もちろん予想を書き込んでもらっても結構です
31 : 以下、名... - 2014/06/30 20:55:38 5onBJS.U 25/555みなさん素晴らしい
解答編行きます
【解答編:A刑事の失言】
女「女の人は考えちゃったわけよね、旦那が自殺するわけがないって」
女「きっと旦那を殺した犯人がいるはずだって」
男「ああ」
女「だけど刑事は取り合ってくれなかった」
男「ああ」
女「これは間違いなく自殺ですよ、と」
女「誰も書斎に入り込めた人はいなかったんだと」
男「……」
女「あの部屋に入れる人間がいるとしたら、それは瞬間移動ができるマジシャンくらいのもんですよ、と」
女「それを聞いた女は、真犯人はマジシャンだと考えてしまった」
女「そして、A刑事が接触していないであろうマジシャンを探し、復讐のつもりで殺してしまった、と」
男「素晴らしい、その通りだ」
女「もしかしたら、そのマジシャンの他にもたくさんターゲットを決めていたかもしれないわね」
男「まるで見てきたかのようだな」
女「悲しい事件ね」
男「ああ」
女「そのマジシャンが万一A刑事を知っていたら、死なずに済んだかな」
男「さあな」
女「A刑事にすでに事情聴取を受けているなら、見逃された容疑者ということ」
女「A刑事を知らないということは、まだ警察にマークされていない人物」
女「もしかして、旦那の死んだ場所とマジシャンの死んだ場所って……」
男「かなり、離れていたようだな」
女「マジシャンの瞬間移動なんてものを、本当に信じてしまっていたのね」
男「彼女にとってそれほど、旦那の自殺は耐え難く、正常でいられないほどの衝撃だったのだろうな」
男「やるじゃないか、あれだけの情報から真実を推測するとは」
女「ヒントが上手だったのよ」
男「お前、やっぱり高校卒業したら、ここで働かないか?」
女「……」
男「ああ、いや、うそうそ」
男「しっかり大学行って、堅実にいい企業目指した方が……」
女「言われなくても、最初からそのつもりだし」
男「え?」
女「こんなさびれた探偵事務所、私が助手やったげないとすぐ潰れちゃうよ」
男「……」
女「有名探偵社にしてあげるから、待っててよね」
男「……しかし……確かにありがたいが……」
女「もう、ごちゃごちゃ言わないの」
女「また時間ができたら寄るからさ、事件の話、教えてね」
男「あ、ああ」
女「じゃ! また来るから!」
男「……ん、またな」
39 : 以下、名... - 2014/06/30 21:40:01 5onBJS.U 31/555こんな感じで
ウミガメのスープスレ、ウミガメサイト、友人の出してくれた問題、推理小説などから出していきます
書き溜めを進めつつ、また明日に投下します
41 : 以下、名... - 2014/06/30 21:52:19 gzOvgWQI 32/555乙 拳銃はどこで仕入れたの?
42 : 以下、名... - 2014/06/30 22:01:07 5onBJS.U 33/555>>41
ミスリードのつもりではなく、実はこの事件の舞台は日本ではありません
この事務所も海外ということに……と思いましたが、その辺はまあ、どちらでも
43 : 以下、名... - 2014/06/30 22:19:36 gzOvgWQI 34/555>>42 すっかり日本だと思い込んでたよ サンクス
日本でも海外でも好物だからへーきへーき
【出題編:砂漠の死者】
カランカラン
女「や、久しぶり」
男「おう、いらっしゃい」
女「試験終わった~」
男「あそう」
男「お疲れさん」
女「息抜きに、事件の話を教えて!」
男「試験終わったら事件か。殺伐とした生活だな」
女「兄ちゃんに言われたくないね」
男「はは、兄ちゃんなんて久しぶりに言われたな」
女「でもそれが、一番呼びやすいっていうか」
男「助手になるつもりが本当にあるなら、『先生』あるいは『所長』と呼ぶこと」
女「ええ~」
男「なあなあの助手を雇うわけにはいかないからな、バイトじゃねえんだから」
女「むぅ……わかったよ、所長」
男「よろしい」
女「今日はどんな話?」
男「海外の話だが、ちょっと奇妙な死人の話だ」
女「ほうほう」
男「場所はある広い砂漠」
男「男が死んでいたのを、現地の人間が見つけたそうだ」
女「水不足かしら」
男「手にマッチを一本握っていたそうだ」
女「マッチねえ」
男「男から数百m離れたところに、大きなカバンが落ちていたそうだ」
女「ふうむ」
男「さて、この男が死んだ状況は一体どんなものだったか」
女「それをまた考えたらいいのね?」
男「ああ」
女「餓死じゃなくって、えっと、渇いて死ぬことを何て言うんだろう」
男「水がなくて死んだわけじゃない」
女「えーと、じゃあ、他殺? 自殺? それとも事故死?」
男「限りなく他殺に近いかな」
女「奥歯に物が挟まったような言い方ね」
男「微妙なんだ、状況が」
女「絞殺」
男「違う」
女「刺殺?」
男「違う」
女「えっと、血は出てた?」
男「いや、出ていない」
女「餓死でもないのよね?」
男「ああ、違う」
女「んー、わかんないなあ」
女「手に持っていたマッチは、なにかに火をつけるために使った?」
男「いや」
女「夜中に、明かりのために使った?」
男「いや」
女「まだ新品だった?」
男「そう、まだ本来の用途では使われていない」
女「本来の用途?」
男「そう」
女「本来の用途以外には使ったということ?」
男「……その通り」
女「んー、なんかぼんやりとしてるなあ」
男「砂漠で死ぬ、という事件は色々と例があるだろうが、この死に方は珍しいだろうな」
女「ほぼ他殺、なんだよね?」
男「ああ」
女「殺人者は砂漠にいたの?」
男「いや、男が発見された時はもういなかった」
女「男の周りに足跡は?」
男「いい質問だな」
男「男の周りに足跡はなかった」
男「さらに言えば、動物の足跡も、ジープの車輪の後も」
女「じゃあ犯人はどうやって逃げたの?」
男「厳密には、犯人は、『逃げた』わけではない」
女「でもいなかったのよね?」
男「ああ」
女「足跡もつけずにいなくなるということは……」
男「ということは?」
女「砂の中へ!」
男「違う」
女「時空の狭間へ!」
男「違う! ファンタジーじゃないから!」
女「あれ? その男の足跡は?」
男「……なかった」
女「!?」
男「もちろん、砂嵐がかき消したわけではなかった」
女「!?」
男「じゃあ、一体男はどこからやってきて死んだのか」
女「……」
女「空?」
男「正解」
女「落ちてきたのね? ということは、死因は墜落死ということ?」
男「ああ、正解だ」
男「男は高いところから落ち、その衝撃で死んでいた」
女「……近くに開かなかったパラシュートがあった?」
男「いや、なかった」
女「落ちていたカバンがパラシュートだった?」
男「それも違う」
女「……」
女「男はパイロットだった」
男「NO」
女「飛行機から脱出した乗客? あるいはハイジャックを失敗して逃げたテロリスト?」
男「どちらも違う」
女「えっと、落ちたのは飛行機から?」
男「それも違う」
女「え、じゃあ空からって……他にどうやって……」
男「空を飛んでいるのは、飛行機だけじゃないだろ?」
女「大鷲に掴まれて飛んでた!」
男「んなわけねえだろ」
男「お前は鋭いときもあるけど、ダメなときは想像力が広がらないな」
女「むむむ、悔しいな」
男「まあ確かに、突飛な発想も大事だけどな」
女「んー、宇宙からってことはないよね?」
男「ああ、大気圏内からだ」
女「じゃあ……パラグライダー、飛行船、熱気球……」
男「それだ、気球正解」
女「やた!」
女「気球から突き落とされて死んだ!」
男「うむ、正解」
女「あれ? それって普通に間違いなく他殺なんじゃ?」
男「ああ、それだけだと、間違いなく他殺だな」
男「しかしまだ謎が残っている」
女「?」
男「握りしめたマッチ」
女「ああ、そうか」
女「明かりの為でなく、火をつけるわけでもなく……」
男「そうそう」
女「しかも未使用」
男「うむ」
女「このマッチと落ちていたカバンは関係ある?」
男「んんー難しい質問だな」
女「じゃあ、カバンも気球から落とされたということでOK?」
男「ああ」
女「マッチも気球にあったものということでOK?」
男「ああ」
女「気球には男と、犯人しか乗っていなかった?」
男「いや、全部で4人の旅だったそうだ」
女「その男が死ぬことは、旅の前から決まっていた?」
男「いや、計画殺人ではない」
女「予定外の殺人?」
男「ああ」
女「残りの3人ともが犯人?」
男「んーまあ、そう言えるだろうな」
女「カバンと男、落ちたのはどちらが先?」
男「カバンだ」
女「そのカバンにとても大事なものが入っていて、男はそれを取ろうとして落ちた?」
男「いや、違う」
女「カバンを落としたのは、3人のうちの誰か?」
男「……」
女「?」
男「4人全員の、総意だった」
女「!?」
女「みんなでそのカバンを落としたの?」
男「ああ」
女「なんらかの取引があって、そのために沙漠に落とした?」
女「その取引がうまくいかず、男が殺された?」
男「いや、取引なんかなかった」
男「その4人は純粋に、気球での旅を楽しんでいただけだ」
女「ううむ……」
女「カバンの中に、大事なものは入っていなかったの?」
男「大事なものって?」
女「例えば、お金、食料、水」
男「入っていたよ」
女「なのに、砂漠の真ん中でそれを捨てたの?」
男「ああ」
男「乗っていた4人にとって、それらよりも大事なものがあったんだ」
女「それらよりも大事なもの……か」
女「そのマッチは、死の宣告、ということだったのかしら?」
男「そうだな」
男「ほんの少しのことで、死ぬのは別の男になっていたかもしれない」
女「無念だったでしょうね」
男「ああ」
女「こういう事件、なんて言うんだったか思い出したわ」
男「ん?」
女「カルネアデスの板」
男「ああ、そういう言い方があったな」
64 : 以下、名... - 2014/07/01 22:26:00 43.7WzT. 54/555という感じで
明日、解答編です
69 : 以下、名... - 2014/07/02 20:40:15 4NmPFFyo 55/555みなさん素晴らしい推理
解答編貼っていきます
【解答編:砂漠の死者】
女「砂漠の真ん中で気球にエンジントラブルが起こってしまったんじゃない?」
男「そうだ、その通り」
女「このままだと、気球は墜落してしまう」
女「砂漠の真ん中に落ちてしまったら、もう助からないだろう」
男「砂漠を越えられるような装備は用意していなかっただろうからな」
女「だから、少しでも重量を減らそうとして、大事なカバンを落としたのね」
男「そうだ、軽くすれば飛べるかもしれない、と考えてのことだったろう」
女「でも、それでも高度は下がり続けた」
男「ああ」
女「このままだと、4人とも死ぬ」
男「ああ」
女「苦渋の決断の末、4人はくじ引きをすることにした」
女「カバンの次は人間を落とすことにした」
女「死のルーレットね」
男「ああ、極限状態だったろう」
女「気球が落ちたら死ぬ」
女「くじを引いても死ぬ」
男「怖い話だぜ」
女「そして、アタリの『頭の残っているマッチ』を引いてしまった不運な男は、突き落とされてしまった」
男「他の3人の命を救うために、な」
女「だから微妙な他殺だと言ったのね」
男「そういうことさ」
女「確かに、くじに参加しているのだから、生き延びた可能性もあるものね」
女「誰もが被害者にも加害者にもなりえた事件なのね」
男「すべては運だったのだろうな」
女「気球の男たちは見つかっているの?」
男「ああ、刑がどうなるかまだ分からんとさ」
女「緊急避難が適用されるといいけれど」
男「しかしな、この話だって推測+生き残りの証言している話だ」
男「真実がどうだったのかは闇の中」
女「どういうこと?」
男「くじに不正があった可能性、それから……」
男「くじなんか、本当は行われなかった可能性もあるぞ」
女「怖っ」
74 : 以下、名... - 2014/07/02 21:08:13 4NmPFFyo 60/555解答編短っ
それでは、また明日
75 : 以下、名... - 2014/07/02 21:08:57 i8OE6mO6 61/555乙
次も楽しみです
76 : 以下、名... - 2014/07/03 19:13:23 GLz2CNq. 62/555乙!
今回はちょっと簡単だった?
【出題編:図書館司書の憂鬱】
男「コーヒー淹れてくれい」
女「ちょっと所長、私まだ正規の助手ではないんですけど」
男「旨いコーヒーを淹れるのも仕事のうちだぜ? 今のうちから慣れておかにゃあ」
女「はいはい……私、勉強しに来たんだけどなあ」
男「じゃあ自宅でやれよ」
女「集中できないのよ、うるさくて」コポコポ
女「貧乏探偵事務所にしては、いい豆置いてますね」
男「依頼人も金持ちばかりとは限らないからな」
女「え、これ報酬ですか?」
男「いいだろ?」
女「ほんとによくやってけますね、ここ」
男「優秀な助手が入ったから、仕事が二倍受け入れられるな」
女「ちょっと、まだ見習いですけど」
男「それにしては敬語が様になってきたじゃないか」
女「う」
男「さて、最近の軽い事件の話でもしようか?」
女「聞きたい! です!」
男「まあ、被害は大したものじゃない」
男「警察も関与してない程度の事件だけどな」
女「ほうほう」
男「ある図書館の事件だ」
女「図書館?」
男「お前も、勉強するなら図書館を使えばいいのにな」
女「まあ、こちらの方がメリットも大きいので」
男「コーヒーがあるし?」
女「事件の話も息抜きに聞けるし」
男「そこの司書さんから依頼されたんだ」
男「図書館の本に悪戯をするやつがいるから助けてほしいってな」
女「ほほう」
女「ちなみに美人ですかね?」
男「まあ、眼鏡の似合う知的な美人だ」
女「そっかー」
男「そこは事件には特に関係ないが」
女「むぅ」
男「本のな、最初の方のページが破り取られていたんだと」
女「へえ」
男「まあ簡単に言えば器物損壊罪なんだが、片っ端から、というわけでもないらしい」
女「何冊くらいやられたの?」
男「調べた範囲では10冊前後だったかな」
女「ひどいね、そんなことするやつがいるんだ」
男「しかし他のページは無傷だし、表紙にも特に問題はない」
女「最初の数ページだけ破り取られていたのね?」
男「ああ、それ以外にはなにもされていない」
女「それらの本に共通点はなかったの?」
男「それを言っちまうと、もう答えにすぐ辿り着きそうだな」
女「じゃあそこに重要なヒントがあるのね?」
男「ああ」
女「その本は、もとにきちんと戻されていたの?」
男「ああ、本棚にきちんと仕舞われていた」
女「借りた人間がイコール犯人、というわけではなさそうね?」
男「ああ、借りた人間ではなかったよ」
男「ページを破った人間は、な」
女「他にもキーになる人間がいるの?」
男「ああ」
女「……ページを破った人間は、悪意を持ってそれをやった?」
男「いいや、本を愛する人間の仕業だ」
女「本を傷つける意図ではなかったのね?」
男「そうだ」
女「本を破ったのに、それは本を愛するが故の行為だった、のね」
男「ああ、そういうことも、あるんだよ」
女「破る、破る、破る……」
男「……」
女「例えばそれは、一目見てすぐに破られたと分かるような状態だった?」
女「それとも、注意深く見ないと分からないような?」
男「後者だ」
男「現に、司書のもとに『破れてますよ』と言ってきた利用者は少なかった」
女「なるほど……」
男「数冊は、丁寧に破ってあった」
男「力任せにビリッとやったのではなく、ゆっくり破り取ったという感じだな」
女「他のは?」
男「定規でも当てたようにきれいに切ってあった」
男「おそらくカッターナイフだろう」
女「カッターでページを切り取る……か」
女「そのページ自体に価値があったんじゃない?」
女「例えば作家の直筆サインがしてあって、どうしても欲しくなってそのページだけ持って行った、とか」
男「ふむ」
女「はじめは破ってたけど、なんかもったいなくなって、ちゃんと切り取ることにしたとか」
男「なるほどな」
女「違う?」
男「そういうこともあるだろうけど、この場合は違ったな」
男「それに、図書館にそんな有名なサイン入りの本があるとは思えない」
女「そっか」
男「最初は破っていた、途中からきちんとカッターで切った」
男「その流れは間違いない」
女「最初は一冊だけのつもりで、衝動的にやってしまった」
男「まあ、そんな感じだな」
女「でもそれが二冊三冊と続けてやることになったので、きちんと切り取ることにした」
男「ああ」
女「それってやっぱり、本のことを考えての行為って感じはするわねえ」
女「そのページを破ることで、誰かが得をすることはあったの?」
男「……得と言うと……ないかなあ」
女「じゃあ、そのページが破られないことで、誰かが損をする?」
男「お、正解」
女「ページを破ったのは、その誰かが損をすることを避けるためだった?」
男「うんうん、いいね近づいてきた」
女「そういう構図なら、本を愛する誰かの仕業っていうのは納得できるわね」
男「ああ、誰かが損をしないために、苦肉の策でやったことなんだ」
女「本の最初の方のページというと……」
女「タイトル、作者名、目次、それから……」
男「それから?」
女「地図とか引用した詩なんかも入ってるわね」
女「あと挿絵なんかも」
男「そうだな、しかしもっとも重要なのはそれらではなく……」
女「登場人物一覧、か」
男「ご名答」
90 : 以下、名... - 2014/07/03 22:44:38 D58BjEvI 76/555もしかしたら序盤でもうわかっちゃった人がいるかもしれませんね
解答編、また明日です
97 : 以下、名... - 2014/07/04 21:25:54 bm1TZZ0w 77/555みなさんさすがですね
解答編、貼っていきます
【解答編:図書館司書の憂鬱】
女「ページが破り去られていた本、それはつまり、推理小説だった」
女「借りたうちの誰かはわからないけど、読み終わったあと悪質な悪戯をしたのね」
男「そう、推理小説ファンとしては最も避けたいことだ」
女「つまり、ネタバレ」
女「登場人物一覧に、落書きをしてあったわけだ」
女「『こいつが犯人!』なんてね」
男「読む前からそんなものを見てしまったら、どんな名作も駄作と化すよ」
女「それは私もわかる」
女「それを見つけてしまった犯人は、次の読者が悲しまないようにそのページを破り去った」
男「そうだ」
女「その悪戯書きはマジックだったのかもね」
女「他のページも破ったりしてるわけだし。裏写りしてたのかしら」
男「まあな。それにカッターで切ろうと思ったら、つい次のページまで切ってしまうこともあるだろう」
女「犯人は誰だったの?」
男「図書館バイトの青年さ」
男「推理小説を好む文学青年だそうだ」
女「警察沙汰には?」
男「もちろんならなかった」
男「司書さんも、真相がわかってホッとしてたようだよ」
女「落書きをした方の犯人は……」
男「残念ながら、見つかっていない」
女「そちらの方が、よっぽど悪人ね」
男「軽い悪戯のつもりだったのかもしれないが……やはり気分はよくないな」
女「所長がその謎を解いたの?」
男「解いたというほど偉そうなことはしていないな」
男「ただ周りの状況を聞いていくうちに、悪意ある犯行とは思えなくてね」
女「で?」
男「青年に話を聞いて、ちょっとカマをかけたら素直に吐いてくれたよ」
男「ひどいことをする人がいるもんです、とか」
男「次の利用者や司書さんの悲しむ顔を見たくなかったけど、ついカッとなって、とか」
女「まあ、本好きなら、まして推理小説好きなら、許せない悪戯だもんね」
女「そういえば所長も、推理小説好きだもんね」
男「人並みにな」
女「でも最近、本棚にハードボイルド探偵ものが増えてません?」
男「んん」ゲフンゲフン
女「昔からそうやって、いろんな話を聞き出すの、上手だったもんね」
男「そうか?」
女「私も昔、いっぱい話、聞いてもらってたし」
男「そうだったかな」
女「で、無事事件解決して、その司書さんとはなにかロマンスが?」
男「んなもんねえよ、相手は既婚者だ」
女「うふふ、そっか、それはいかん」
男「なんで嬉しそうなんだよ」
103 : 以下、名... - 2014/07/04 21:58:49 bm1TZZ0w 83/555という話でした
次の話は……たぶん明日に……
104 : 以下、名... - 2014/07/04 22:24:50 KSIA1bgU 84/555乙でした
次も期待してます!
【出題編:トランプと二つの死体】
女「最近、暑いですねえ」
男「ああ」
女「冷凍庫とかにアイスない?」
男「ないな」
女「新しいクーラーを購入する予定は?」
男「ないな」
女「うー」
男「修理屋が都合つかなくてな、来週まで我慢してくれだとさ」
女「なにか面白いことはないですか?」
男「トランプならあるぞ」
女「トランプ!? なんて子ども騙しなっ!」
男「いやいや、これで馬鹿にできないもんだぞ?」
男「お、そうだ、ちょっと古いがトランプにまつわる事件を思い出した」
女「お、いいですねえ、そういうのを待ってたんですよ」
男「ある男が、窓を覗き込んだ」
女「ふむ?」
男「窓の中には、散乱したトランプ、そして二人の死体があった」
男「便宜的に片方をA、もう片方をBとしようか」
女「ふむふむ」
男「Aは手に拳銃を持って死んでいた」
男「Bは苦悶の表情で死んでいた」
女「おおう」
男「さて、どういう状況で二人は死んだのだろうか」
女「んーなんだか複雑そうな事件」
女「とりあえずAが拳銃持ってて、Bが苦しそうに死んでたのなら、Bは撃たれて死んだってことよね?」
男「NO」
女「え!? 違うの?」
男「残念ながら」
女「じゃあ……毒で死んでた?」
男「それも違う」
女「……」
男「だいぶ細部をぼかしているから、状況整理した方がいいと思うぜ」
女「なんでそんなぼかすんですかー」
男「その方がお前、面白いだろ?」
女「まあそりゃ、そうですけど……」
女「じゃあ、えっと、男は窓を覗く前から、二人が死んでいることを知っていた?」
男「NO」
女「予測はできた?」
男「まあ、予測はできたな」
女「それって家の窓ですよね?」
男「NO」
女「ん? 家じゃない?」
男「場所が重要だな」
女「他に窓っていうと……車?」
男「違う」
女「学校?」
男「違う」
女「ビル?」
男「違う」
女「それは建物についている窓?」
男「違う」
女「じゃあ……乗り物?」
男「そうだ」
女「乗り物の窓から覗いたら死人が二人、しかもそれは予測できたこと……」
女「……電車」
男「違う」
女「タクシー?」
男「違う」
女「ヘリコプター?」
男「違う」
女「……」
男「窓のある乗り物、他に?」
女「……あ、船!」
男「正解」
女「船で死んでたのね?」
男「とても重要な点だな」
女「それからトランプ……拳銃……」
男「死因がわかれば、トランプの意味も見えてくるかもな」
女「死因が大事なのかあ」
男「Bは拳銃で死んだのでもなく、毒で死んだのでもない」
女「しかし苦悶の表情で、と」
男「うむ」
女「あれ? Bが拳銃で死んだのでないとしたら……?」
男「ん?」
女「Aは拳銃で死んだ?」
男「お、正解」
女「じゃあ、つまり、自分で引き金を引いて死んだってこと?」
男「ああ」
女「Aは自殺……か」
女「Bは自殺?」
男「違う」
女「Aに殺された?」
男「それも違う」
女「事故死? 他殺? 自殺? あ、それとも病死?」
男「その中で言うと……事故死だろうな」
女「船の中で事故死……かあ」
男「そして、苦悶の表情となると……」
女「水死? 溺死ね?」
男「ああ、そうだ」
女「Aは拳銃自殺、Bは溺死」
女「部屋の中にはトランプが散乱……」
女「あ、そうか、その船って沈んでたのね?」
男「そうだな」
女「じゃあそれを見つけた人ってのはダイバーかなにか?」
男「ああ」
女「だからそれを予測できたかもって言ったのね」
男「さて、あとはトランプの意味だ」
女「それよねえ」
女「そのトランプを使って、二人はなにか勝負をしていた?」
男「ああ」
女「なにかを賭けていた?」
男「ああ」
男「その賭けに勝ったのは、どちらか」
女「勝ったのは……Aね」
男「その通り」
女「もしかして、トランプばっかりしていたから悲劇が起きたのかしら?」
男「そうかもしれないな」
女「死を目の前にすると、人って恐ろしいことを考えるものね」
男「合理的で人間らしいともいえるんじゃないかな」
女「最後に一つだけ、聞かせて」
男「ああ」
女「拳銃には、もう弾は一発も残っていなかったのよね?」
男「ああ」
120 : 以下、名... - 2014/07/05 22:08:44 pHGDU6P. 99/555という感じです
解答編は明後日です、すみません
128 : 以下、名... - 2014/07/07 20:10:22 k1cK1sD6 100/555ちょっとヒント出しすぎたんでしょうか
解答のハードルが上がる上がる
皆さん大正解です
【解答編:トランプと二つの死体】
女「ギャンブルが好きで好きでたまらない男が二人、船に乗っていた」
女「カジノのあるような、豪華客船だったのかしら?」
男「ああ、そうだ」
男「二人は揃ってカジノですっからかんになり、部屋で寂しく飲んでいたんだ」
女「そこでトランプを始めた?」
男「そう、金のなくなった二人は、あらゆるものを賭けて憂さを晴らしていた」
女「例えば?」
男「故郷の恋人、臓器、家族、将来買う土地の何%を譲る、とかなんとか」
女「愚かねえ」
女「でも、どうしてそんなことがわかるの?」
男「部屋の中に誓約書みたいなものがあったんだ」
男「まあ、酔っ払いが作ったものだから、法的価値はなかったが」
女「ふふ、変な話ね」
女「そうこうしているうちに事故が起こり、船が転覆」
女「逃げ出せない状況になってしまった」
男「その部屋を下にしてゆっくり転覆したんだ」
男「少し傾いた時点で気づいて、早く脱出すれば助かるかもしれなかったものを……」
女「不幸ね」
男「でも、自己責任とも言えるかな」
女「部屋に浸水してきて、このままでは二人とも溺死してしまうだろう」
女「万一船から逃れられても、サメのエサになるのがオチ」
男「溺死もサメのエサも、勘弁したいところだな」
女「苦しんで死ぬのは嫌だ、それなら拳銃で頭を一発の方がマシだ、と考えた」
女「どうせ死ぬなら、苦しみは一瞬の方がいいもんね」
男「追い込まれた末の人間の思考だな」
女「だけど船にあった拳銃には、弾は一発のみ」
女「だから最期に賭けたのね、拳銃で死ぬ権利を」
男「そういうことだ」
女「賭けトランプに勝ったAは、拳銃で自殺」
女「賭けに負けたBは、苦しんで溺死、か」
男「どのみち死ぬのなら、やはりBの方が不幸だったのだろうな」
女「その考え方は、理解できるわ」
女「Aは賭けに負け続けた人生の最期に、一発逆転勝利、ってとこかしらね」
男「どちらも地獄だが、針の山よりは血の池の方がマシ、ってなくらいのもんだろう」
男「逆転ってほどのものでもないな」
女「あーあ、そんな話を聞いちゃったら、トランプで遊びにくくなっちゃう」
男「まあ、稀なケースだろうけどな」
女「命を賭けてる人がいるんだもんなあ」
男「案外、賭博の世界で珍しくないかもしれないぜ?」
女「私も命の駆け引きの機会があれば、そんな思考に辿り着くこともあるのかしら」
男「そんな機会は一生来なくていいだろ」
女「あ、じゃあ所長、ちょっと私たちも賭けトランプをやりましょうか」
男「お? この流れでか?」
女「大したものは賭けませんって」
女「トランプに負けた方は……」
男「負けた方は?」
女「アイスを買いに行く!」
男「よし、その勝負乗った!」
135 : 以下、名... - 2014/07/07 20:53:06 k1cK1sD6 107/555明日の事件はちょっと長いです
もうちょっと謎を残せるように調整してみます
136 : 以下、名... - 2014/07/07 20:57:13 0AcL3Xk6 108/555乙
次も楽しみにしてます!
138 : 以下、名... - 2014/07/07 22:44:04 z91cA5JI 109/555乙
この二人の関係も気になるところ
【出題編:今日は特別な日】
女「所長がお薦めする本、なにか読んでいいですか?」
男「ああ、その棚に並んでいるの、どれでも好きなの持って行っていいよ」
女「やっぱり推理小説が好きですか?」
男「ああ、そうだな」
女「仕事に役立つから?」
男「それもあるが、まあ、小説に出てくるようなトリックやらは現実的ではないな」
女「そうなんですか?」
男「5W1Hってわかるか?」
女「英語の文法でやったやつ、かな?」
男「ああ、それが推理小説にも出てくるんだ」
女「へえ」
男「まずHは、Howだな」
男「つまり、どうやって」
女「誰かが殺されたとして、その方法がわからない場合ね?」
男「そうだ」
男「不可解な死に方をした場合に多い分類かな」
男「次に、Who」
女「誰が、つまり犯人捜しね?」
男「ああ、これは結構多い分類だな」
女「誰にでも犯行は可能だった、とか?」
男「そうだ」
女「現実の事件はほとんどこれになるのでは?」
男「はは、そうかもしれないな」
男「それから、Where」
女「どこで?」
男「犯行が行われた場所が不明、という場合だな」
男「死体が発見された場所は犯行現場ではないと明確な場合だ」
女「はあ、なるほど」
男「例は少ないが」
女「でしょうねえ、面白みには欠けそうですもんね」
男「そしてWhen」
女「いつ?」
男「アリバイものがメインかな」
男「死体発見が遅れ、死亡推定時刻に幅がある」
男「それを絞ろうと情報を集めていく」
男「目撃証言でそれが狭まるが、もっとも怪しい容疑者にアリバイがある、みたいな感じだな」
女「本当に死んだのはいつか? って謎ね」
男「で、What」
女「?」
男「なにが」
男「つまりなにが起こったか皆目わからない事件だな」
女「意味不明、ってこと?」
男「事件の痕跡はあるが、死体はない」
男「なにやら不思議な現象があるが、それがなんなのかわからない」
女「日常系の謎も含まれそうですね」
女「最後はWhy?」
男「そう、なぜ、だ」
女「つまり動機ね?」
男「これも現実の世界に多そうなものだな」
女「犯行はほぼその人にしかできない、でもなぜそんなことをしたのかわからない」
男「そうだ」
女「同じ人間とはいえ、その動機には理解できないものも、たまにありますよね」
男「『誰でもよかった』なんていう、動機がない事件もあるしな」
男「動機に鍵がある事件、聞きたいか?」
女「聞きたい! です!」
男「これはおれも少し噛んだんだが、そのままずばり、『なぜ?』と問いたくなるような事件だった」
女「うずうず」
男「とある刑務所に、死刑執行を待つ身の男がいた」
男「男は最期の日、要望したステーキとワイン、それにケーキを胃に入れ、刑場へ赴いた」
男「死刑執行は絞首刑だ」
男「首に縄をかけ目隠しをされ、刑務官がボタンを押すと床が開いて落ちる」
女「刑務官?」
男「死刑執行をする3人だ」
男「特定の一人が死刑を行う、ということにならないよう、3人が同時にボタンを押すんだ」
女「へえ」
男「3つのボタンのうち、床が開くボタンはひとつだけ」
男「つまり、3人のうち誰が死刑執行のボタンを押したかわからなくするためだな」
女「どうしてそんなことを?」
男「自分の手が、死刑囚であれ人を殺すんだ」
男「3人のうち誰かが、ということにすれば、精神的な負担も薄れるだろう」
女「ううむ、なるほど」
男「しかし、だ」
男「その処刑が行われる直前、つまり首に縄をかけ死を待つという瞬間」
男「突然その男が苦しみだし、泡を吹いて死んでしまう」
女「は!?」
男「職員が駆け寄るが、すでに手遅れ」
男「男は死刑になる寸前に、毒物で殺されてしまったんだ」
女「なんで!?」
男「まさにそれが、謎だった」
女「だって、ほっておいても死刑で死ぬんでしょう?」
女「犯人が誰か知らないけど、わざわざ危険を冒して、死ぬ予定の人間を殺すなんて」
男「不可解な事件だったよ」
女「……意味が分からないわ」
男「しかし曲がりなりにも、理由がつけられるのさ」
女「それは推測の理由づけ?」
男「いや、もう犯人も動機もわかっているんだ」
女「……いるんだ」
男「どういう意味だ?」
女「いや、自殺かなあとも思ったからさ」
女「絞首刑より、毒で死ぬ方が楽って考えたのかもしれないじゃない」
男「ああ、しかし結果的に苦しい死に方をしているしなあ」
女「犯人は、よっぽどその死刑囚が憎かったのかしら」
男「いや、違う」
男「犯人は死刑囚に特別の思いを抱いてはいなかった」
女「じゃあ、快楽殺人?」
女「殺せるのなら、誰でもよかった」
女「だけど、どうせ死ぬんだからと、死刑囚を選んだ」
男「それも違う」
男「犯人の殺人の欲求の為に選ばれたわけでもなかった」
女「ううむ、わからん」
男「犯行が可能だったのは、刑場に勤めていた職員たちだけだ」
男「公開されてはいなかったから、一般人や犯人が起こした事件の被害者も入り込めない」
女「じゃあ、その職員の中に犯人がいるのね?」
男「まあ……そうだな」
男「しかし、そうだな……『なぜ』以外の部分は言ってしまってもいいんだが」
女「んんー、じゃあ、ヒント多めでお願いします」
男「へいへい」
女「その毒は、誰かが死刑囚には知られないように盛ったのよね?」
男「そうだ」
女「となると、もっとも怪しいのは刑の直前に食べたというステーキやらワインやら、ね」
男「その通り」
女「その中に、毒物か、もしくはカプセルなんかを入れた」
男「ああ、死刑囚の胃の中から、わずかながら毒物とカプセルの溶け残りが発見されている」
女「毒って飲んじゃったらすぐ死ぬんじゃないの?」
女「刑場へ行く途中に倒れることもあったかも」
男「ああ、タイミングを計ったのか偶然かはわからんが……」
男「使われていたのは、遅効性の毒だ」
男「トリカブトにフグの毒を調合して作ったらしい」
女「それって普通の人でも手に入れられるもの?」
男「まあ、専門家でないと難しい、というほどのものでもないかな」
女「遅効性だと、どういうことになるわけ?」
男「幅はあるが、それは大体30分から1時間半くらいで効いてくる」
女「ああ、そんなに遅いんだ」
男「犯人に、それほど確固たる狙いはなかった」
男「とにかく、死刑が行われる前に死なせたかったんだ」
女「最期の食事をしてから、刑が執行されるまでは少し時間があるんだ?」
男「ああ」
女「その間に毒が効かなかったら、意味がなくなっちゃった?」
男「そうだ」
女「じゃあ犯人は、ハラハラしていたかもね?」
女「刑が執行されそうになっているのに、まだ死なないものだから」
男「ああ、焦っていただろうな」
女「刑務官が3人いて、あとはどんな人が刑場にいたの?」
男「神父、所長、執行の合図を送る者、検察官などだ」
女「そのうちに犯人がいるのね?」
男「いや、この中にはいなかった」
女「え!?」
男「このうちの誰もが疑われたが、犯行は可能であっても、動機を持つものが見つからなかった」
女「ううむ」
女「料理に毒が盛れるのは、さっきの人たち以外にもいたってこと?」
男「ああ、もっとよく考えてみると、それらの人物が浮かんでくる」
女「えっと……」
女「あ、シェフね?」
女「最期の料理を作ってあげた人がいるはずだから、その人なら毒が盛れるわ!」
男「そうだ」
男「しかし、この男もまた無実だった」
女「あら」
男「食事をとったのは刑場ではなく拘置所」
男「そちらにキッチンもあったし、最期の食事をとる部屋もあった」
女「そちらで毒を盛ったのね?」
男「ああ」
女「じゃあ、他の死刑囚とか?」
女「死刑に恐れるヒマを与えず、毒でコロッと殺してあげようと思ったとか」
男「いや、それも違う」
男「そもそも、他の死刑囚が毒を盛れるなんて、いくらなんでもセキュリティが甘いだろう」
女「そりゃそうか」
男「しかし死刑囚でなければ、誰でも割と簡単に入り込むことができた」
男「ここを刑務所と考えず、もっと考えてみな」
男「この探偵事務所のあるビルだって、おれとお前以外も案外出入りしているもんだろ?」
女「えっと、えっと、ゴミ業者とか?」
男「はいはい、それから?」
女「なんかの勧誘とか、ビラ配りの人とか、宅配便とか……」
男「いるね、そういう人も」
男「ただそういう人間は、あまり中までは入ってこれないだろ?」
女「えっと、それから……」
男「ほら、この事務所がいつもきれいなのはなぜだ?」
男「片付け掃除のできないおれの事務所が、いつもゴミだらけにならない理由は?」
女「あ! 清掃員の人ね!?」
男「そう、清掃員の女が、今回の犯人だった」
女「え? え? 一番動機なんて見つからなさそうだけど……」
男「犯人に特別な思い入れもない、誰でもいいから殺したかったわけでもない」
女「なのに……」
男「しかし、この日、この死刑囚を死刑執行の前に殺すことに意味があったんだ」
女「うええ、ほんとに『なぜ!?』って感じ」
女「その毒殺は、女にとって意味のあるものだったのよね?」
男「ああ」
女「じゃあ、他の誰かにとっても、意味のあることだった?」
男「ああ、その通りだ」
女「女は、その誰かのことを思って、毒殺を決行した」
男「ああ」
男「しかし悲しいことに、その『誰か』はその意味を知らなかった」
女「はい?」
男「そして女も、そのことに気づいていた」
女「誰かのためを思ってやったのに、それが伝わらなかったことをわかっていたってこと?」
女「あああ、言ってて意味わかんなくなってきた」
男「女にとって、過去の罪滅ぼしでもあったんだろうな」
女「むう」
男「他に質問は?」
女「じゃあ、『女』とその『誰か』は面識があったの?」
男「まあ、清掃員だからな」
男「顔は毎日合わせていただろう」
女「その『誰か』は『女』にとって特別な存在?」
男「ああ」
女「じゃあ、『誰か』にとって『女』は……」
男「特別な存在ではなかった」
女「ううむ、そんな片思いのような……」
女「あ、その清掃員の女の人は何歳くらいなの?」
男「60と少しかな」
女「ありゃ、当てが外れたな」
男「恋心ではない、な」
女「その『誰か』というのは、死刑執行の刑務官のうちの一人ということであってる?」
男「ああ、その通りだ」
女「なんとなく、薄ぼんやりとだけど輪郭は見えたの」
女「だけどな、動機として弱いのよね」
男「この死刑が行われる予定だった日、刑務官の男にとっては特別な日だったんだ」
女「……うん」
男「ただ、その事実を男は知らず、清掃員の女だけが知っていた」
女「……そっか」
女「……そういうことか」
166 : 以下、名... - 2014/07/08 23:59:04 0buvTjBM 136/555ちょっと謎残し目です
解答編、明後日になります
のんびり考えてみてください
171 : 以下、名... - 2014/07/10 21:13:25 fk3Gtmhg 137/555元ネタが推理小説なので、知ってる人も多いかなと心配したんですが、
ニヤニヤが意外と少なくて良かったです
解答編投下します
【解答編:今日は特別な日】
女「刑務官の精神的負担を減らすため、3人同時にボタンを押すって話があったでしょう?」
男「ああ」
女「だけど、3人いても、やっぱり精神的には辛いものがあるわよね?」
男「そうだな」
男「実際に話を聞いてみても、誠実で繊細な印象を受けたよ」
男「『極悪人を地獄へ落としてやるつもりでボタンを押してます』なんてやつは一人もいなかった」
女「だから、その負担を軽くしてやろうと女は思ったと思うの」
女「だから、その刑務官の恋人かなあと思ったわけ」
女「でも60代でしょう? 刑務官が何歳くらいなのかはわからないけど、母親の年齢よねえ」
男「ああ」
女「でも母親にしては、『特別な存在ではない』ってのが引っ掛かってね」
男「……」
女「つまり、こういうことよね」
女「清掃員の女は、刑務官の母親だけれど、刑務官はその事実を知らない」
男「ご名答」
男「刑務官の一人、仮にAとしておくが、Aは孤児だったんだ」
男「児童養護施設に置き去りにされた赤ん坊だった」
女「……」
男「そのまま施設で育ち、刑務官となった」
男「本当の母親のことは知らず、母親も接触しようとしなかった」
女「同じところで働いていたのは偶然だったの?」
男「いや、女の方が、追いかけてきたようだな」
女「捨てた息子の姿を見守るために?」
男「罪悪感でいっぱいだったろうが、捨てたあともずっと気にはしていたらしい」
男「刑務所で働くようになったことを知った母親は、清掃員として近づいたんだ」
女「だから『誰か』は『女』にとって特別な存在で、『誰か』にとって『女』は特別ではないって言ったのね」
男「刑務官は最後までわかっていなかったよ」
男「女が母親として自分の為に殺人を犯したことを」
女「でもね、いくら息子の精神的負担を減らすためとはいえ、ちょっとリスクが大きすぎると思ったのよ」
男「そうだな」
女「刑務官は職務としてやっているのに、自分が肩代わりしたら、犯罪になるんだもんね」
男「そう、本来なら天秤にかけられるべき問題じゃないんだ」
男「しかし、この日は刑務官にとって特別な日だった」
女「でも、この日が特別な日ってこと、刑務官は知らなかったのよね」
男「そうだ」
男「男の誕生日は、児童養護施設に拾われた日が登録されていた」
男「男自身、その日を誕生日だと思っていたんだ」
女「でも本当は違ったのね」
女「清掃員の女だけが、男の本当の誕生日を知っていた」
男「そう、そしてそれが、死刑執行の日だったんだ」
女「自分が不幸にさせてしまった息子が、祝われるべき本当の誕生日に死刑を行おうとしている」
女「それはとてつもない不幸だと、女は嘆いたのね」
男「だからせめてもの罪滅ぼしに、生まれた日くらいは、穏やかに過ごしてほしい」
男「そう思って犯行を行ったんだそうだ」
女「刑務官の男にとっては、寝耳に水の事件だったでしょうね」
男「女の自己満足のエゴが、少し顔を出してしまったとも思えるな」
女「なにもしなければ平和だったかも?」
男「そう、罪滅ぼしというのはたいてい自己満足に行われるものだろ?」
女「まあ、そうかも」
女「刑務官の父親は出てこないの?」
男「父親はいないんだ、の一点張りだ」
男「当然刑務官自身も父親についてはなにも知らない」
女「いないって……そんなわけないでしょうに」
男「これは想像だがな。父親について誰にも絶対に知られたくないんだと思う」
女「どうして?」
男「これは、本当に、おれの勝手な想像なんだが……」
女「言ってください」
男「この日死んだ死刑囚の男の罪状の一つにな、婦女暴行があるんだ」
女「……っ」
男「女は自分の息子に、『父親殺し』をさせたくないと考えたんじゃないか、と思ってな」
女「……」
女「なぜ、世界はこんなにも不平等なんでしょうね」
男「一度均等にならしてくれる神が現れてくれないだろうか」
女「あら、所長は神を信じるんですか?」
男「いいや、信じてないね」
女「どうして?」
男「神がいれば、人間が人間を殺すような世の中を良しとはしないと思うからだ」
女「なるほど」
女「私の考えとは違いますね」
男「どういうことだ?」
女「世界は不平等、だから起こる悲劇もあるけど、すべてが均等でもつまらないと思います」
男「そうか?」
女「みな同じ考え、同じ服、同じ程度の裕福さに、同じ程度の知能」
男「ううむ」
女「人はそれぞれ違うから、面白いんですよ」
男「まあ、それも一理あるかな」
女「自分とは違う人だから、好きになるんですよ」
男「ほう、お前も人並みに恋するんだな」
女「なに言ってるんですか、相手は所長ですよ?」
男「は? おれ?」
女「まったく鈍いんだから」
男「……え?」
女「ハードボイルドな探偵を目指すなら、こんなことで狼狽えてちゃだめですよ」
男「……え? なんで? なんで?」
女「ま、そんなところも好きなんですけど、ね」
男「……なんで?」
182 : 以下、名... - 2014/07/10 22:09:15 fk3Gtmhg 148/555という事件でした
次はいつになるか……ちょっとお待ちください
女から探偵への出題です
189 : 以下、名... - 2014/07/13 21:07:14 OcIswttY 149/555今日は軽めの喫茶店ミステリです
どうぞ
【出題編:砂糖パーティー】
カランカラン
女「こんちわー」
男「おう」
女「今日はなにか事件がありましたか?」
男「特にねえなあ」
女「うふふ、じゃあ、私が今日遭遇した事件の話、してもいいですか?」
男「お、おう」
女「たまにはそういうのも、いいでしょ?」
男「そうだな、目新しくて」
女「今日、学校帰りに友だちと喫茶店に寄ったんです」
女「ちょっと落ち着いた感じの、普通の喫茶店」
男「ほお」
女「そこで友だちとお喋りしてたんですけど、奥の席の客のことが気になったんです」
男「どんな客だ?」
女「女の子4人で、なんかみんな、うつむいてるの」
男「へえ、誰かが失恋でもしたのかね」
女「でもね、あんまり誰も口を開かないの」
男「でもそれくらい、たいして珍しくもないだろ?」
女「でもね、誰も口を開かないけど、時々動きがあるの」
女「4人ともが、すっと砂糖壺から砂糖をコーヒーに入れるの」
女「それを、何回も何回も繰り返しているだけの客」
男「……甘党なのか?」
女「ね、変な客でしょう?」
男「ううん、なんだろう、なんか気になる客ではあるな」
女「でしょでしょ!」
男「で、その謎は自分で解けたのか?」
女「自分なりの解答は得ましたよ?」
男「それはちゃんと納得できるような解答だろうな?」
女「ええ、それは任せてください」
男「ふん、じゃあちょっと考えてみようか」
女「どんとこい!」
男「他に客は?」
女「いましたよ? でも今回、他の客は関係ありませんね」
男「ふむ」
男「4人ともがコーヒーを注文していたのか?」
女「あ、えっと、私たちより先に来ていたので具体的な内容は不明です」
女「でも4人とも、コーヒーか紅茶を頼んでいたと思いますよ」
男「で、砂糖をたびたび入れる、と」
女「ええ」
男「飲んでいたのか?」
女「たまに、ちょっとずつ飲んでいたようですね」
男「スプーンは?」
女「はい?」
男「つまり、混ぜていたか?」
女「いえ、混ぜていません」
男「ほう……」
女「いい質問でしたね」
女「砂糖をたびたびカップに入れるくせに、スプーンで混ぜていない」
男「つまり、甘党ではない」
男「砂糖を摂取することが目的ではない、と」
女「ええ、そうです」
男「それ以外に目的がある、と」
女「ええ」
男「その4人は高校生?」
女「私と近い学年だと思います」
男「制服だったのか?」
女「あら所長、女子高生の制服に興味があるんですか?」
男「おいおい、茶化すなよ」
女「えっと、私服でした」
男「4人とも?」
女「4人とも」
男「学校帰りではない?」
女「ええ、おそらく」
女「一旦家に帰ったのか、それとも私服の学校なのかもしれませんが」
男「ああ、私服の学校なんていうのもあるのか」
女「しかし制服よりは、私服であるほうがこの場合都合がいいと思いました」
男「都合? それは誰にとっての?」
女「この4人にとっての都合です」
男「ふうむ」
男「砂糖壺はどのテーブルにも設置されているのか?」
男「それとも注文に合わせて持ってくるタイプか?」
女「前者です」
女「どのテーブルにも砂糖壺が常設されていました」
男「中身は粉砂糖か? 角砂糖か?」
女「粉です」
女「これ重要です」
男「む?」
女「角砂糖では、きっと今回のようなことは起こらなかったでしょうね」
男「へえ」
男「その4人組の客は、砂糖壺から砂糖を出してはカップに入れ、混ぜずに飲んでいる」
女「ええ」
男「定期的にってことは、結構な量の砂糖が減っているはずだ」
女「ええ、おそらく」
男「しかし、砂糖壺から砂糖を『減らす』ことが目的ではないんだろうな?」
女「ええ、それは違います」
男「その砂糖というのは、いつも壺にたくさん入っているのか?」
女「ええ、マスターはずいぶん几帳面な人のようで、いつ行っても砂糖壺は満タンになっています」
男「なるほどな……」
女「なにかピンときました?」
男「ん、おぼろげながら、だがな」
男「ちなみにその喫茶店は、バイトは雇っているのか?」
女「バイトですか? ええ、一人二人、雇っているようですよ」
男「マスターは割と厳しい感じの人?」
女「ええ、今日も新人っぽいバイトの子を叱り飛ばしていましたよ」
男「その4人の客のうち、様子がおかしい子はいなかったか」
男「例えば挙動不審だとか、ずっと無理に顔を伏せている、とか」
男「あるいは無理な化粧をしていたり、フードをかぶっていたり、ウイッグをかぶっているとか」
女「……ええ、そういう子が、一人いました」
男「となると、発案者はその子だろうな」
男「他の3人は、それに付き合わされた感じだ」
女「ええ、そうだと思います」
男「その砂糖パーティーは、まあ一種の嫌がらせだろうな」
女「……ええ、正解です」
男「マスターに忠告は?」
女「……しておきました」
男「まあ妥当に考えて、塩だとは思うんだが、万が一『他の粉』だとちょっと危険だしな」
女「……すごいです、ほとんどご自分で結論を出してしまって」
男「ま、本業だしな」
203 : 以下、名... - 2014/07/13 22:44:53 OcIswttY 163/555解答編は、また明日に ノシ
【解答編:砂糖パーティー】
女「どこでわかりました?」
男「まあ、一番怪しいのはカップを混ぜてないってことだ」
男「砂糖を摂取するんではなく砂糖壺から減らすということが必要だったんだ」
男「砂糖壺はいつもいっぱい入っていたというから、仕方がなかったんだろうな」
女「ええ」
男「その客のうちの一人は、おそらくその喫茶店を恨んでいる」
男「それは言い過ぎとしても、まあ少なくとも嫌がらせをしたいと考える程度には嫌っている」
女「はい」
男「となれば、その子の正体は、『以前バイトをしていてクビになった子』だろうな」
女「はい、私もそう考えました」
男「実家が近くで喫茶店をやっているとかいう線もあったが、まあマスターが厳しい感じならこちらが有力だろう」
女「ええ」
男「だから不必要に会話をすることもなく、変装も必要だったわけだ」
男「で、喫茶店に嫌がらせをするにしても、砂糖をたくさん減らすくらいでは、たいしてダメージがない」
女「ええ」
男「だから、砂糖を減らして、代わりの物を入れていたんだろう」
男「例えば、塩とか」
女「……はい」
男「次の客が塩をコーヒーに入れてトラブルになることを狙ったんだろうな」
男「その喫茶店の評判を落としてやるつもりで」
女「ええ」
男「これが怪しい黒ずくめの男たちなら、麻薬取引を考えたんだが」
男「女子高生に怪しい粉を手に入れる術はあまりなさそうだしな」
女「わかりませんよ? イマドキ」
女「女子高生でも、可能性はゼロではないでしょう」
男「まあな」
男「厳しく当たられてバイトを辞めたその少女は、せめてもの腹いせに、砂糖パーティーを開いた、と」
女「巻き込まれた3人の友人も気の毒ですね」
男「最近の若い者は根性が足りねえな」
女「警察で上下関係のしがらみから逃げ出した所長が言いますかね」
男「おま、そんな言い方するなよ」
女「でも確かに、やり方が陰湿ですよね」
男「自分さえよければいい、スカッとすればいい、という考え方なんだろうな」
女「残念ですよね」
男「お前がそういうタイプじゃなくてよかったと思うよ」
女「見くびってもらっちゃ困ります」
男「でもイマドキの若者であることは確かだろう?」
女「そんなに歳は離れてないじゃないですか」
男「そうかな」
女「十分恋愛対象圏内でしょう?」
男「……返答に困るようなことを言うんじゃないよ」
女「うふふ」
女「さて、コーヒーでも淹れましょうか」
男「あ、ああ、頼む」
女「お砂糖は?」
男「なしで」
女「ミルクも?」
男「それはありで」
女「ハードボイルドならブラックじゃないんですか?」
男「おいおい」
男「ハードボイルドが格好いいと思うことは確かだが、おれにそれが似合うとは思ってないぞ」
女「はあ」
男「そもそもハードボイルドの語源は『かたゆで卵』だが、おれは半熟が好きだし」
女「……は、はあ」
男「昼行燈だがいざとなると鋭い、みたいなタイプがいいな、おれとしては」
女「なるほど」コト
男「ありがとう」グビッ
男「あっち!」ビシャア
女「うーむ、格好悪い……」
女「確かにハードボイルドには程遠いですね」
216 : 以下、名... - 2014/07/14 22:24:55 PPS5.LFU 171/555という感じでした
北村薫氏や米澤穂信氏のような日常系ミステリは大好きです
218 : 以下、名... - 2014/07/14 22:29:14 Smtyvsoc 172/555乙
いいスレだ
男はハーフボイルドなのか
219 : 以下、名... - 2014/07/14 22:33:41 PPS5.LFU 173/555>>218
それいいですね
ハーフボイルド探偵
【出題編:息子を紹介する男】
男「そういえば、おれの知りあいに変な奴がいるんだ」
女「はあ」
男「いつも初対面の人間と会った時には自己紹介をするんだが、決まって息子のことも紹介するんだ」
女「ふむ?」
男「これにはある意図があるらしいんだが、わかるか?」
女「え、ちょっと情報が少ないんじゃ……」
男「そこをうまく埋めていけるかは、お前の腕次第だ」
女「むむう」
女「その息子さんは、本当に血がつながった実の息子?」
男「ああ、それは間違いない」
女「息子の方が有名人? なんか、子役とか、そういうので」
男「いいや、普通のどこにでもいる子だ」
女「その子は何歳くらいなの?」
男「ええと、もうすぐ4歳になるんじゃなかったのかな」
女「え、意外と小さいんですね」
男「そうか」
女「んーと、じゃあ、所長もその息子さんを紹介されたんですか?」
男「ああ、一応な」
男「そのおかげで、おれはあいつに頭が上がらないんだ」
女「へえ?」
男「頭が上がらないというか、いや、悪いことができないというか……」
女「なんだか歯切れが悪いですね」
男「まあ、そんな感じだ」
女「それは息子さんだから意味のあることですか?」
男「いいや、意図としては、奥さんでもペットでも構わないはずだ」
女「それはずっと続けているんですか?」
男「ああ、息子さんが生まれてからずっと続けているらしい」
女「じゃあやっぱり、息子さんだから意味があるのでは?」
男「いや、息子が生まれたから、いい機会だから始めてみよう、みたいな感じだ」
女「始める?」
男「その『紹介』をさ」
女「じゃあ……何かの売り込み?」
男「いや」
女「息子を有名人にしたいとかじゃないんですか?」
男「そういう意図ではないんだ」
女「え、ちょっと待ってください。生まれてからってことは、ずっと赤ちゃんを連れて回ってるんですか?」
男「お、いい質問だ」
男「そいつは、息子を実際に連れて紹介していたわけではない」
女「ほほう、じゃあ息子の情報だけ?」
男「でもない」
女「となると……写真かなにかで見せる?」
男「そう、正解だ」
女「写真を見せて紹介するわけですね」
女「『これ、うちの息子なんですよ、可愛いでしょう』みたいに」
男「ああ、そういうことだ」
女「そこにどんな意図が……」
女「その『紹介』は、男にとって利益のあることだった?」
女「それともなんらかのデメリットを打ち消すための物だった?」
男「どちらかというと、前者かな」
男「しかしもっと正確に言うと、これは『転ばぬ先の杖』とも言えるんだ」
女「むむ」
男「もう少しヒントが欲しい?」
女「んん、お願いします」
男「男の職業が重要、かな」
女「職業ですか」
男「男がこの職業に就いているからこそ、メリットがある、というか」
女「芸能関係?」
男「NO」
女「プロダクション社長とかを想像したんですが」
男「違うんだなあ」
女「政治関係?」
男「NO」
女「マジシャン?」
男「NO」
女「教育関係!」
男「違う」
女「猟師? 漁師?」
男「違うなあ」
女「ううん、あ、医療関係!」
男「それも違う」
女「えーっと、えーっと、消防士!」
男「NO」
女「ギャンブラー!」
男「NO」
女「普通のサラリーマン……ってことは」
男「ないな」
女「探偵!」
男「違う、しかし一番近いかもな」
女「あ、じゃあ警察!」
男「ほい、正解」
女「あ! わかった!」
女「写真の息子っていうのは行方不明の男の子とか?」
男「うーん、違う」
女「事件に関わっている子?」
男「でもない」
女「えーっと、その写真の子は事件に巻き込まれては?」
男「いない、普通に家で安全に暮らしているよ」
女「むむう」
男「奥さんやペットでもいいって言っただろ」
女「あ、そっか」
男「じゃあちょっと実演してみようか」
女「はあ」
男「この名刺を写真だと仮定すると、だな」
男「あ、これ私の息子なんですよ~」スッ
女「はあ」
男「ほらほら、可愛いでしょう?」ヒラヒラ
女「……はあ」
男「今のは、自己紹介に意味がなかった例ね」
女「へ?」
男「ほい次」
男「これ私の息子なんですよ~可愛いでしょう?」スッ
男「ほれ、受け取って」
女「え?」ヒョイ
男「どうです? 可愛いでしょう? 自慢の息子なんですよう」
女「はあ」シゲシゲ
男「はっはっは、いやあ親馬鹿でねえ、失礼しました」ヒョイ
女「?」
男「今のは、自己紹介に意味があった例だ」
女「……」
男「さ、わかったか?」
女「えっと、初対面の人にやるんですよね?」
男「ああ」
女「二度目の人には写真を見せる意味は、ない、ですよね?」
男「ああ」
女「で、所長も、これをやられたわけですよね?」
男「……ああ」
女「確かに、悪いことできなくなりますねえ」ニヤニヤ
男「……くっ」
236 : 以下、名... - 2014/07/19 13:44:00 kGjLmO0g 187/555ぶっちゃけ解答は一言で事足ります
解答編、明日の夜に
【解答編:息子を紹介する男】
女「その男の人は警察関係」
女「もっと予想すると、鑑識関係の人?」
男「うん、その通り」
女「写真を相手に持たせて、それから返してもらう」
女「見せるだけなら携帯電話でも可能なのに、わざわざ写真にしたのは指紋を採るため、ですね」
男「ああ、正解だ」
女「初対面の人の指紋をこっそり採っておいて、もし事件が起これば照合する、と」
男「ああ」
女「サンプルが多ければ多いほど、特定しやすくなりますもんね」
男「……ああ」
女「所長も指紋のサンプル、採られてるんですねえ」
男「はは、抜け目のないやつだったよ」
女「でもそれって、違法な捜査とかにはならないんですか?」
男「わからん」
男「まあ、こっそりやっていたから正式な捜査方法ではないだろうな」
女「私も知らないうちに指紋を採られたりして……」
男「初対面で写真を見せてくる人間には注意した方がいいぞ」
女「肝に銘じておきます」
【おまけ:庭師の秘密】
男「今のとは関係ない話なんだが、指紋で思い出した話がある」
女「はい? なんですか?」
男「ある豪邸に仕えていた庭師が、主人を縛って金庫の開け方を聞き出し、中身を奪って逃走した事件があったんだ」
女「はあ」
男「しかもその際に一家全員を殺害している」
女「うげ」
男「金庫のある部屋の前には監視カメラがあったんだが、中に入ったのはその庭師だけだったんだ」
男「なのに、金庫内には庭師の指紋とは別に、他の指紋も発見されたんだ」
女「家族の誰のでもないんですか?」
男「ああ」
女「もっと昔に付いた金庫業者の指紋とか?」
男「家族を殺した際に手に付いた血の痕が金庫内にもあったんだが、そのさらに上に指紋が付いていたんだ」
男「つまり、この時に付いた指紋だとしか考えられない」
女「むむ」
男「誰も他に金庫に入っていないのに、指紋が二人分あるんだ」
女「具体的には、どんな指の指紋ですか?」
男「血の付いた両手の指紋は、全部の指が揃っていた」
男「もう一人分の指紋は、不確定だが、指三本分だ」
女「両手プラス指三本か……」
男「確かに、手の指だそうだ」
女「なるほど」
男「わかったか?」ニヤニヤ
女「あり得ないことを除いていけば、最後に残ったものが真実、ですね」
男「ああ」
女「つまり、この指の指紋も、正真正銘庭師の物だった」
男「はは、正解」
女「極々稀にそういう人もいるそうですね」
男「便利か不便かは不明だがなあ」
女「隠して生きていたんでしょうか」
男「それを考えると不便そうだな」
女「私は二本で十分事足りていますけどね」
男「携帯を見ながら本を開き、コーヒーが飲めるぞ」
女「あ、それは便利かも」
249 : 以下、名... - 2014/07/20 20:59:18 Y4yqd69I 195/555というお話でした
次はたぶん明日に ノシ
250 : 以下、名... - 2014/07/21 00:10:59 241l7fGA 196/555乙
次も楽しみなのだぜ
今回は正解だった
251 : 以下、名... - 2014/07/21 16:53:36 f8APnsvs 197/555おつおつ
ネタのストックがあとどれくらいあるか気になるぜ
【出題編:背筋に冷たい水を】
カランカラン
男「お、来たな」
女「お邪魔しまーす」
男「お前、彼氏はいないのか」
ゲシッ
女「デリカシーに欠ける物言いですね、訴えますよ」
男「じゃあ今までに……」
ゲシッ
女「過去の男について詮索する所長は嫌いですね、訴えますよ」
男「そ、そこまでか」
女「なんなんですか、一体」
男「怒って……」
女「怒ってません!!」
男「いや、その、最近の事件の動機がさ、恋愛のもつれというかねじれみたいなモンだったから」
女「参考になるかと思って、ですか?」
男「ああ」
女「私にはうまく答えられないかもしれませんけど、面白い事件の話なら、聞きたいです」
男「ある男が浴室で殺されていた」
男「死因は絞殺、のどにロープ状のもので絞められた跡が残っていた」
男「そして、裸で冷水のシャワーを浴びせられていた」
女「ふむ」
男「約束の時間になっても彼氏が来ないものだから、その男の彼女が様子を見に来て、死体を発見した、と」
女「ふむふむ」
男「このシャワーの謎が、おれにはよくわからないものだから、お前に聞きたいな、と思ってな」
女「ふむ?」
女「事件の話は以上ですか?」
男「もっと言おうか?」
女「いえ、じゃあ、自分で解き明かします」
女「男の服はどこに?」
男「部屋に置いてあったようだ」
女「自分で脱いだのでしょうか?」
男「いいや、脱がされたものだ」
女「持ち去られた服やアクセサリーなんかは?」
男「ないな、財布はなくなっていたようだが」
男「ちなみに脱いであった衣服は、パジャマだった」
女「パジャマ……」
女「その事件、季節はいつなんですか?」
男「真冬だ」
女「死亡推定時刻は?」
男「12時から15時頃だ」
男「ちなみに、女が死体を発見したのは16時ごろだったかな」
女「パジャマでそんな時間まで過ごしていたんですか?」
男「グータラだったのかな」
男「コタツの電源が入っていたようだ」
女「でも彼女との約束があったんですよね?」
男「ああ」
女「その約束の時刻っていうのは?」
男「13時だ」
女「彼女の方は、3時間も根気強く待ったんですか?」
男「いや、もともと彼氏を待つ間、女友達と遊んでいる予定だったんだ」
女「じゃあ、おかしいなとは思いつつもその人たちと遊んでたんだ」
男「ああ」
女「で、やっぱりおかしいと思って家に行ってみると、死んでた、と」
男「そうだ」
女「連絡は取っていなかったんですか?」
男「いくら電話をかけても出ないから、おかしいなとは思っていた、と女は言ってる」
女「それ、犯人はまだ捕まってないんですか?」
男「いや、捕まってはいるんだが、その、動機がどうも微妙でなあ」
女「ふうむ」
男「犯人、知りたいか?」
女「え、ええ」
男「どちらを?」
女「はい?」
男「この事件、被害者に関わっている『犯人』と呼べる人物が二人いるんだ」
女「……共犯ですか?」
男「いや、まったくの別々の人間だ」
女「そんなのが、二人同時にいるんですか?」
女「あ、もしかして彼女以外に二股をかけていて、どちらからも殺された、とか?」
男「いや、他に女の影はなかったようだ」
女「実は彼女が殺していたけど、それを知らずにアリバイ証明を手伝わされた女友達、とか?」
男「いや、この女友達は関係なかった」
女「ということは彼女が殺したのは合っているんですか?」
男「いや、彼女の方が関わっているのは事実だが、殺したのは別の人間だ」
女「んん?」
男「彼女が部屋に言った時点で、すでに被害者は死んでいた。それは事実のようだ」
女「だけど、この彼女も、事件に関わっている、と?」
男「ああ」
男「男を殺したのは、押し込み強盗だ」
女「昼間っからですか!?」
男「目立たない場所にある小さなアパートだったからな」
男「そこに侵入したやつが、起きだしてきた男と揉み合いになって殺してしまったんだ」
女「はあ、ついてない人ですね」
男「それで慌てて飛び出したわけだ、財布だけは取っていったようだが」
女「押し込み強盗という割に、やり方がずさんですね」
男「パニックになったんだろうな」
女「で、シャワーを浴びせて、自分の痕跡でも消そうとしたんですかね」
男「いや、違う」
女「犯人の体毛とか汗とかがついたのでは?」
男「違う、そもそもシャワーを浴びせたのは、強盗じゃないんだ」
女「は?」
女「じゃ、彼女が冷たいシャワーを浴びせたんですか?」
男「そうだ」
女「死体を発見した後で!?」
男「そうだ」
女「痕跡を消すとかではなく?」
男「ああ、別の意図があったんだ」
女「えええ、なにそれ、わかんない」
男「男は実際には15時に死んでいる」
男「これは強盗の証言からも明らかだ」
女「はあ」
男「しかし、最初女は『そんなはずはない』と主張していた」
男「いったいなにが都合悪いのか、よくわからないのだが……」
女「その彼女の方はすべて自供しているんですか?」
男「ああ、一応な」
女「で、死体にシャワーを浴びせるっていうのは、なにか痕跡を消すためではない、でしたよね?」
男「ああ」
女「じゃあ、死亡推定時刻をずらしたかった?」
男「……ああ、わかるのか?」
女「少し、わかりました」
女「もしかして、強盗が勢い余って殺してしまった被害者は、その時コタツでパジャマで寝ていた?」
男「ああ、そう供述している」
女「15時の段階で」
男「ああ」
女「体調が悪かったか、ただずっと寝ていたのかは……」
男「わからんが、一部証言によると、前日は夜遅くまで友人と飲んでいたらしい」
女「……なるほど」
男「わかったのか?」
女「理解したくはありませんけど、少し、その女の人の気持ちはわかりますね」
男「……おれには……わからんな……」
女「男の人は、そうかもしれませんね」
265 : 以下、名... - 2014/07/21 22:27:15 Moc6ylfY 211/555また明日、解答編です ノシ
【解答編:背筋に冷たい水を】
女「女の人は、彼氏を待つ間、女友達と遊んでいたと言いましたよね?」
男「ああ」
女「そこには、多少なりともの優越感があったと思うんです」
女「『彼氏が迎えに来たら失礼するから♪』なんて具合に」
男「……ああ」
女「なのに彼氏はいつまでたっても迎えに来ない、連絡しても応答しない」
女「そうなると、女友達は、彼女のことをどんな目で見るでしょうか」
男「……彼氏にすっぽかされた可愛そうな女、か」
女「ええ、それは彼女にとってとてもつらいことだと思います」
女「そして心配と怒りの感情を持ったまま、彼氏の家に行ってみる」
女「するとまだ温かい彼氏の死体」
女「コタツで、パジャマで」
男「……ああ」
女「こいつは私との約束にちゃんと来るつもりなんてなかったんだ」
女「電話も無視して、コタツでグータラ寝てたんだ」
女「私が友達に憐みの目を向けられている間にも、お気楽に」
男「……ふうむ」
女「いいや、そんなことはないはずだ」
女「こいつは私との約束に間に合うように出かけるはずだったのに、強盗に殺されたから来れなかったんだ」
女「そういう思いで、服を脱がせて、シャワーを浴びさせた」
男「……そんな知識があったのだろうか」
女「少なくとも、彼女との約束に出る前にシャワーを浴びているところを殺されたように見せたかったんでしょうね」
女「それが幸運にも、死亡推定時刻を約束前にまで広げる結果となった、と」
男「不幸中の幸いか」
女「素直に約束に間に合うように起きていれば、殺されることはなかったのに」
男「どのみち不幸ではあるな」
女「男女が逆なら、こんな事件は起こらなかったでしょうね」
男「……男には理解しがたい動機さ」
女「……私だって、100%理解できる動機ではありませんよ」
男「しかし君の推理は、女の自供とほぼ同じだったぞ」
女「ふふん、私の推理力をなめてもらっちゃ困ります」
男「優秀な助手になれそうだな」
女「すでに半分助手のつもりですけどね」
女「所長も女に恨まれて冷水を浴びせられるような真似はしないでくださいね」
男「おい! おれはそんなだらしないことはしないぞ!」
女「どうですかね、平気で約束をすっぽかしたりしそうですけど」
男「馬鹿、そんなことねえってば」
女「じゃあ所長、今度の連休、どこか連れてってください」
男「は?」
女「映画なんていいですねえ、おしゃれなカフェとかも行ってみたいですねえ」
男「……え?」
女「はい、約束ですからね!? すっぽかしちゃだめですからね?」
男「……そんな風に言わなくたって、ちゃんと付き合ってやるって」
女「ふふふ♪」
275 : 以下、名... - 2014/07/22 20:15:20 t4LwaXfE 217/555次の事件は、週末あたりかと
ではまた ノシ
276 : 以下、名... - 2014/07/22 21:24:09 gb2iNxWI 218/555乙
楽しみ待ってるよー
277 : 以下、名... - 2014/07/22 21:24:30 fKIgF2Jk 219/555当たってた。やっぱ女怖い。
次も楽しみにしてます
【出題編:寝る前に電気を消して】
カランカラン
男「……おう」
女「……」
男「どした? こんな時間に」
女「……」
男「とりあえず、そこ座んな」
女「……」トスッ
男「新しいタオルどこだったっけなあ」ゴソゴソ
女「……」ゴシゴシ
男「傘忘れたんか」
女「……うん」ゴシゴシ
男「……親と喧嘩でもしたか」
女「……うん」ゴシゴシ
女「ごめんなさい、こんな遅い時間に」
男「いいけど、ちょっと心配だな」
女「ごめんなさい」
男「親御さんに連絡入れてもいいか?」
女「……うん」シュン
女「ここに一晩泊まりたいんですけど」
男「……いいけど、ベッドはねえぞ」
女「ソファで十分ですから」
男「……飯は?」
女「食べました」
男「じゃあ、毛布持ってきてやるよ」
女「……はい」
女「所長、こんな遅くまで仕事してるんですね」
男「今追いかけてる事件が難航してるせいでな」
女「私も、お手伝いできることがあれば……」
男「ヤクザ絡みだ、お前には危険すぎる」
女「……所長、そんな事件に首突っ込んで、死んじゃダメですからね」
男「当たり前だろ、危険と思ったらおれはすぐにシッポ巻いて逃げるぞ」
女「……ふふふ」
男「ほれ、毛布」バサッ
男「おれも寝るから、電気消してくれ」
女「え? あれ? 所長もいてくれるんですか?」
男「お前一人にすると危ないだろ」
女「所長と一緒だと危ない、とも言えますね」
男「馬鹿」
女「襲ってくれてもいいんですよ?」
男「馬鹿」
女「……消しますね」カチッ
男「ん」
女「普通こういうとき、電気消すのは男の人の方ですよね」
男「なんの話をしているんだ」
女「私は『恥ずかしいから電気消してね』って言う方ですよね」
男「だからなんの話をしているんだ」
女「……冗談です」
男「……電気にまつわる昔話を思い出した」
男「寝るまでのヒマつぶしにどうだ?」
女「……いつも通りの所長で、ちょっと嬉しいです」
男「昔々、一人で暮らしている男がいた」
男「その日の仕事を終え、疲れていた男は机でうとうとしてしまった」
女「ほう」
男「はっと目が覚め、ベッドで寝ようと起き上がる」
男「トイレに行って用を足し、電気を消して、今度はベッドできちんと眠りについた」
女「ふむふむ」
男「朝目が覚めて、窓の外を見た男はその光景に愕然とした」
男「自分のしでかしたことの重大さに怖くなり、そこを逃げ出してしまった」
女「?」
男「さて、どういう状況だろうか」
女「それって昔の話なんですか?」
男「まあ、現代では起こらないような事件だろうな」
女「その事件の犯人は別にいますか?」
男「この男の他に、という意味なら、いないな」
男「そもそも事件とは言ったが、厳密には事故、かな」
女「事故……ですか」
女「では、その男が起こしてしまった事故であって、故意ではないんですね?」
男「ああ、そうだ」
女「その男は仕事で重大なミスをした」
男「ああ」
女「しかしそれには気づいていなかった」
男「ああ」
男「しかし、朝窓の外を見た時点で、自分のミスに気付いたんだ」
女「仕事の内容が重要ですね?」
男「そうだな」
女「それから、窓の外がどんな状態だったかも?」
男「重要だな」
女「そのミスっていうのは、『仕事のし忘れ』ですか?」
女「それとも『余計なことをしてしまった』のですか?」
男「ううん、難しい質問だな」
女「どちらとも言える?」
男「あえて言うなら、『余計なことをしたために普段の仕事をしていない』状況になった、かな」
女「ううん」
男「ちなみに、おれはこの仕事をしている奴には会ったことがない」
女「珍しい仕事ですか?」
男「そうだな、割と珍しい仕事だろうな」
女「窓の外っていうのは、景色ですか? それとも目と鼻の先?」
男「ベランダほど近くはないが、遠い遠い景色というほどでもない」
女「誰かが死んでいた?」
男「ああ、死者もいた」
女「も?」
男「けが人もいた、ということだ」
女「ああ、なるほど」
女「たくさんの被害があった?」
男「ああ」
女「その仕事を放り出して逃げ出すほどの?」
男「逃げ出すほどの大惨事だ」
女「その人たちは、男のせいで死んだりけがしたりしたわけですね?」
男「ああ」
女「男がうたた寝をしてしまったことも影響している?」
男「だろうな」
男「普通にしていれば、あんなミスは起こさなかっただろう」
女「……うたた寝の後に、男は致命的なミスをしたわけですね?」
男「そうだ」
女「……」
男「わかったのか?」
女「あと一つだけ」
女「その男の仕事場というのは、海辺にありましたか?」
男「正解だ」
女「ふふふ、クイズみたいな事件でしたね」
男「今なら、起こりえないような事件だろ?」
女「そうですね、きっと」
291 : 以下、名... - 2014/07/26 22:12:32 yjoTnH6k 233/555さてさて、男の仕事はなんでしょうか
というわけでまた明日です ノシ
【解答編:寝る前に電気を消して】
女「男が窓の外を見ると、衝突して打ち揚げられている船があったんですね」
男「ああ、それも大量に」
女「トイレの後に消してしまった電気というのは、トイレのではなかった」
男「そう、寝ぼけてか間違えてか、『仕事』の電気も消してしまったんだな」
女「そのせいで船が目印を見失い、岸にぶつかってしまった、と」
男「音で起きなかったのかね」
女「男の仕事は、つまり、『灯台守』ですね?」
男「そういうことだ」
女「今もいるんですかね?」
男「多くは機械が自動で仕事をしてるだろうよ」
女「確かに、私もそんな職業の人とは会ったことありませんね」
男「ゼロってことはないだろうけどな」
女「悲しい事故ですね」
男「間抜けな事故とも言えるぞ」
女「船の人からしたら冗談じゃありませんけどね」
男「灯台は船乗りの大事な道しるべだからなあ」
女「ふう、すっきりしたので、安心して寝れそうです」
男「だからちょっと簡単な事件にしたんだ」
女「所長、いびきかかないで下さいよ?」
男「おれは大丈夫だよ」
女「おれ『は』ってどういうことですか?」
男「いびきかく女はちょっとね……」
女「むむう、可愛い寝息しかたてませんからっ!」
男「それはそれで困る」
女「うふふ」
男「……」
女「……」
男「ケンカの原因はなんだったんだ?」
女「……」
男「言いたくないなら、いいんだが」
女「進路のことで、ちょっと」
男「……そうか」
女「はい」
男「じゃあなおさら、ここに来ていることは良くないんじゃないか?」
女「……へへ」
男「大学にちゃんと通って、世間を知って、それから助手をするのも悪くないと思うぞ?」
女「……ええ」
男「大学に通いながら、今と同じように遊びに来てもいいし」
女「……ええ」
男「大学には若くて元気な男もたくさんいるし」
女「また、そういうこと言う」
男「冗談だよ」
女「悲しいからそういう冗談はなしで」
男「へいへい」
女「短大にします」
男「……いいのか?」
女「4年も学費払ってもらうのは悪いし」
女「2年のうちにたくさん資格とか取って、探偵に役立つ技術を……」
男「例えば?」
女「栄養士の資格とか」
男「探偵に必要あるか?」
女「この探偵事務所に必要かと」
男「……なるほど」
女「ちゃんと食べてないでしょう?」
男「助かるよ」
女「うふふ」
女「ちょっと話したらすっきりしました」
男「そりゃあよかった」
女「明日、それ言って、仲直りします」
男「そうしな」
女「面白い事件のこと、また教えてくださいね」
男「受験勉強に差しさわりのない範囲で、な」
女「……もちろん」
男「なんだ、その間は」
女「なんでもありません」
男「……ほれ、もう寝るぞ」
女「……はあい」
女「おやすみなさい」
男「……ん」
303 : 以下、名... - 2014/07/27 23:27:53 Cf3JQXLg 241/555気づけば次が10編目ですね
どこまでいけることやら ノシ
【出題編:壁に穴あり】
女「所長、この部屋って殺風景ですよね」
男「探偵事務所がきらびやかだったら気持ち悪いだろう?」
女「いや、きらびやかにする必要はありませんけどね、なんか飾りましょうよ」
男「絵とか? 壺とか?」
女「壺って……」
男「花とか?」
女「んー、なんか、探偵っぽいもので」
男「探偵っぽいものなんてあるか?」
女「聖書の中に銃を隠すとか」
男「テレビの見すぎだ」
女「壁に絵とか、いいかもしれませんね」
男「小さめで地味なやつなら、まあ」
女「なにか探してきましょうか?」
男「……知りあいに美術鑑定士がいるから、そいつに頼んでみようかな」
女「センスのいいやつ、頼みますよ」
男「金がかかるなあ」
女「安物でいいですから、ちょっと飾りましょうよ」
男「絵か……美術館の事件があったな、そういえば」
女「お、ということは、怪盗ですね?」
男「近いような違うような」
女「どんな事件ですか?」
男「知り合いの刑事が、いてな」
女「はあ」
男「××って国出身の刑事なんだが、その国の名前、知ってるか?」
女「初めて聞きました」
男「まあ、小国だしな」
男「昔一緒に働いていた同僚で、日本語も得意だったんだが、その国に帰ることになったんだよ」
女「はあ」
男「そのタイミングで、研修をしてほしいと頼まれてな」
男「一か月ほどその国に行ってたんだ」
男「他には日本語をしゃべれるやつがいないから、ほとんどその刑事から通訳してもらってたんだが」
女「実際にその国で起こった事件ですか?」
男「ああ、おれの目の前で起こった事件だ」
女「ほうほう」
男「ある郊外の美術館に、侵入者があったらしい」
男「夜中に不審な車が出てくるのを目撃した警備員が通報し、中を確認したんだ」
女「警報とかは鳴らないんですか?」
男「セキュリティについては、少々甘い美術館だった」
男「まあ、それほど最先端技術は使われていない国だからな」
女「ははあ」
男「それで警察が中を調べてみると、一つの部屋の壁に『穴』が見つかった」
女「穴?」
男「直径が約10センチ、深さは約60センチ」
女「なるほど、『壁に穴あり』ですね」
男「は?」
女「障子に目はありましたか?」
男「障子なんてものがある国じゃないよ」
女「冗談です」
女「直径ってことは、円形ですか?」
男「ああ、円柱型の穴だ」
男「その穴の付近には水が流れており、壁際を濡らしていた」
女「その穴は美術館の外まで貫いていましたか?」
男「いや、壁の途中までしか開いていない」
男「さて、侵入者がこの穴を開けたのはなぜだろうか」
女「……」
女「その穴は、部屋の内側に開いていたんですよね?」
男「ああ」
女「侵入の為の穴ではない、ということですよね?」
男「そうだ」
男「別の経路から侵入したのち、この部屋に入り、穴を開けている」
女「美術品をその中に隠すため?」
男「違う」
女「あ、爆弾でも仕掛けようと思ったんじゃないですか?」
女「でも時間が足りなくて、穴を開けただけで逃げてしまった」
男「違う」
男「爆弾を仕掛けるなら柱の近くにするだろうが、この穴は壁の真ん中あたりにあった」
女「ううむ」
女「その部屋の美術品に、盗まれているものは?」
男「なかった。美術館の唯一の被害が、この穴だったんだ」
女「その『水』ってのは重要ですか?」
男「うーん、重要ではないかな」
女「穴から出てきた水ですか?」
男「いや、違う」
女「穴を開けたのはドリルかなにかの機械ですか?」
男「そうだ」
女「あ、じゃあ、ドリルの刃を冷やす冷却水かなにかですか?」
男「そう、その通り」
男「トイレからホースで水を引いてきて、その水がこぼれていたんだ」
女「じゃあ結構大がかりですね?」
男「犯人は複数犯だった」
女「証拠品は残ってない?」
男「ああ、きれいに片づけて帰っている」
女「えーと、犯人たちの目的は達成されていないんですか?」
男「いや、達成されているんだ」
女「でも、穴は途中までしか開いてないんですよね?」
男「ああ」
女「穴の外側の方の壁に異常は?」
男「特になかった」
女「壁自体、厚さはどれくらいですか?」
男「1メートルといったところかな」
女「そのうち60センチくらい掘って、目的は達成された?」
男「ああ」
女「その穴を開けること自体が目的だったんですか?」
男「……少し違う」
女「その場所であることが重要?」
男「この建物、という意味なら正解だ」
男「この壁でなくても良かった。例えば隣の壁でも」
女「侵入でもない、脱出でもない」
男「ああ」
女「あ、がれきはどこに?」
男「犯人が持ち去っている」
女「ひとかけらも残さず?」
男「ああ、現場にはコンクリート片はほとんど残されていない」
女「あの、ドリルって詳しくないんですけど、大きな音が出ますよね」
女「飛び散ったがれきと機械を片付けて出るのも、急がないと大変ですよね」
女「やっぱり作業中に中断して逃げてったって印象を受けるんですけど……」
男「一つ、この作業には、君が想像するような大きな音は出ていない」
女「え?」
男「二つ、機械はともかく、がれきを片付けるのにそれほど時間は取られない」
女「え?」
男「コンクリートを粉々にするタイプのドリルだと、大きな音がする」
男「がれきの撤去も大変だ」
女「はあ」
男「しかし、ここで使われたタイプのドリルはそうではない」
男「つまり、粉々にするのではなく、そのまま取り出せるタイプの物だった」
女「はい?」
男「つまり、円柱形のコンクリートが作れるんだ」
女「……それを抱えて逃げればいいだけ、と」
男「ああ」
女「え? でも貫通してなかったんですよね?」
女「奥でつながっているのでは?」
男「くさびを入れて叩けば、案外簡単にぽきっと折れるそうだ」
女「はあ」
男「このタイプの物は、音も小さめだそうだ」
女「はあ、じゃあ、一気にさっきの疑問は解決ですね」
男「ああ」
女「作業途中で逃げだしたのではなく、目的を果たして逃げた、と」
男「そう言っているじゃないか」
女「いえ、ちょっと納得できた、ということです」
女「穴を開けるのが目的ではない」
女「ということは、このコンクリートの円柱を持ち出すことが重要だった?」
男「そうだ」
女「そのコンクリートの中に、高価な宝石でも埋まっていたのですか?」
男「いや、違う」
女「ただのコンクリート?」
男「ああ」
女「そのコンクリートに価値がある?」
男「む」
男「価値とはなんだ?」
女「えっと、金銭的な価値」
男「それはない」
女「芸術的な価値?」
男「それもない」
女「でもなんらかの価値はあるわけですか?」
男「わざわざ侵入して持ち帰っているくらいだからな」
男「犯人たちにとって必要だったんだ」
女「そのコンクリートを持って帰ることで、誰かが金を得る?」
男「いいや」
女「誰かが出世する?」
男「いいや」
女「それ自体を欲しがっている人がいる?」
男「それも難しい質問だな」
男「コンクリート自体ではなく、このコンクリートの中の情報が重要なんだ」
女「情報……ですか……」
男「それを欲しがっているやつがいたんだ」
女「もしかしてその美術館というのは、最近できたものですか?」
男「ちょっと違う」
女「少し前までは、違う施設だったのを、作り変えた?」
男「そう、正解だ」
女「それは国の施設だった?」
男「ああ、どんどん近づいているな」
女「ある事実を隠そうとして、大急ぎで美術館に作り変えたものだった?」
男「ああ、そうだ」
女「犯人は隣国のスパイ? あるいは国家転覆を企むものですね?」
男「そう、おそらく後者が正解だろう」
女「犯人を知らないのですか?」
男「すぐにその国にいられなくなったからな」
女「どうして?」
男「クーデターが起こったからさ」
女「……同じ事件が日本でも起こったら、大問題になりますね」
男「ああ、この国で起こったとしたら、確かにそうだろうな」
323 : 以下、名... - 2014/07/30 22:52:45 L2A7OWP6 260/555さてさて、コンクリートを持ち去った理由はなんでしょか
また明日です ノシ
【解答編:壁に穴あり】
女「その美術館は、もともと軍の施設だったんですね」
女「それも、極秘の核実験施設」
男「ああ」
女「それをどこからか嗅ぎ付けたグループが、核保有の証拠を掴もうとして侵入した」
男「そうだ、あんな小国がこっそり核開発をしていたと知られたら、問題になる」
女「だから隠そうとして、美術館にしてしまった」
女「でも作り変えても意味はなく、犯人グループは美術館に侵入」
女「そして、証拠としてコンクリートの塊を持ち去った」
女「放射線の反応は、コンクリートに残りますもんね」
男「ああ、それを持ち去って調べれば、証拠が出ると考えたんだろう」
女「事実、その証拠が出たんですね」
男「ああ、それでクーデターが起こった」
女「怪盗かと思えば、とんでもない国家的事件じゃないですか」
男「ああ、その場に居合わせたのは運がいいのか悪いのか」
女「悪いに決まってますよ」
男「やっぱり、核兵器など持たない国がいいな」
女「そうですね」
男「こんな話を知っているか?」
女「なんですか?」
男「宇宙人が地球にやってきてこう言うんだ」
男「この星は兵器を多く持ちすぎている」
男「それを使って宇宙を侵略しようと企んでいるんだろう」
男「危険なので、その前に滅ぼすことにした、と」
女「はあ」
男「地球人は答える」
男「この兵器は国同士争い、牽制しあうために持っているのであって、宇宙侵略なんて考えていません」
男「宇宙人は一言、そんな話が信じられるか」
男「そして滅ぼされる地球、でしたとさ」
女「ブラックな話ですねえ」
男「客観的に見れば、確かにそうかもな、と」
女「明らかに量が多いですもんね」
男「さて、平和な絵でも飾ることにしようか」
女「例えばどんな絵ですか?」
男「白鳥、あるいはハトが羽ばたいている」
女「ありがちですね」
男「地球に羽が生えている、とか」
女「学生の課題レベルですよ、それ」
男「夕日が沈む海辺……」
女「あ、それはロマンチックでいいかもですね」
男「じゃ、それで」
女「都合よくそんな絵が見つかるんですか?」
男「また今度来た時をお楽しみに」
335 : 以下、名... - 2014/07/31 21:12:03 U0zRCLbo 266/555みなさんさすがです
眉唾ですが、コンクリートは1000年経っても放射線を発し続けるとか言いますもんね
ではまた ノシ
続き
女「今日はどんな事件があったの?」【後編】