1 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:13:09.64 PKpYg4wBo 1/42

古泉「――というわけで今日は二回目なんですよ」

キョン「何がというわけで、だ。またループしてるのか……?」

古泉「いえ、今回はループではなく単純なやり直しといえるでしょう」

キョン「それはどこまで本当のことなんだ……?」

古泉「どこまでも、といわれましてもすべて本当のことですよ」

キョン「容易には信じられんな」

古泉「まさか僕が嘘を吐いているとでも? 嘘を吐く理由もメリットも僕にはありませんよ」

キョン「それはよくわかっているつもりだ。それにしたって……」

古泉「正直我々でさえ困惑しているのですから、あなたの心中は察するに余りあるというところです」

キョン「相変わらず無茶苦茶なやつだなあいつは……」

元スレ
ハルヒ「キョン、愛してるわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400757189/

2 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:15:46.25 PKpYg4wBo 2/42

古泉「我々は元来、涼宮さんを特別視して監視していたつもりですが、改めて畏怖の念を抱かざるをえませんね」

キョン「で、このことを誰が知っているんだ?」

古泉「先ほどもお伝えしました通り、我々SOS団の団員のみです」

キョン「ハルヒは?」

古泉「憶えていないようです。潜在的な記憶には残っているとは思いますが、一般的にいえば記憶にない状態です」

キョン「なんでお前や朝比奈さんや長門だけ知ってるんだ?」

古泉「それはもちろん、涼宮さんがそう望んだからですよ」

3 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:17:30.60 PKpYg4wBo 3/42

キョン「……なんのために?」

古泉「さあ、それはご自身でお確かめになったらいかがでしょうか?」

キョン「こんなときにふざけるな。さっさと理由を教えろ」

古泉「これは失礼。正直に申し上げますと、僕らも正確なことはわからないんですよ」

古泉「我々のような涼宮さんに興味を持つ者たちへの牽制ではないかというように考えております」

キョン「もう少しわかりやすく話してくれないか……。長門はなんていってるんだ」

古泉「僕の考えとほぼ同じでした。潜在的な他者への牽制の意図が読み取れる、と」

キョン「おい、それで説明したつもりなのか?」

古泉「要するにですね、涼宮さんは暗に自分のものに手を出すなと警告をしてきたわけですよ」

4 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:19:04.76 PKpYg4wBo 4/42

キョン「一体誰に向けてだ?」

古泉「涼宮さん以外のすべてのものに向けてですよ」

キョン「どうしてそう抽象的な言い回しをするんだ」

古泉「どう説明するのが一番いいんでしょうか……」

   「どうやら涼宮さんは我々や長門さんや朝比奈さんのような者たちの存在をなんとなしに感じているようです」

キョン「お前、そういうことはないって前にいってなかったか?」

古泉「ええ。意識的なものではなく、無意識下でのことですので明確に我々の存在が知られているわけではありません」

   「自分の周りに不思議な存在がいるような気がする、という程度のものです」

   「ただ、涼宮さんの中の常識はそれを否定しますから、表面上はいつもと変わりはありません」

   「しかし、今回の出来事は涼宮さんの中で非常に大きな衝撃を受けることでした」

5 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:20:35.81 PKpYg4wBo 5/42

古泉「あまりに急でショッキングな出来事に、涼宮さんは自身の日常を脅かす誰かからの攻撃ではないか、と無意識で思ったんでしょう」

   「若い頃に陰謀論なんてものに心惹かれるのは世の常でしょう? 涼宮さんも同じことです」

キョン「お前も同じ年齢だろうが」

古泉「ふふ、まあいいじゃないですか。続けますよ」

古泉「今回の件で涼宮さんは大いなる第三者の存在とその意思を疑ったわけです」

   「私の世界を脅かす何かがいる、と」

   「涼宮さんはそれの見えない存在に向かって、最も効果的に自分の力を示したんですよ」

   「僕と朝比奈さんと長門さんの記憶だけを残して、世界を改変したことでね」

   「これは観察者である我々にとっては大いなる脅威ですよ」

6 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:22:08.07 PKpYg4wBo 6/42

キョン「今までだって似たようなことをやっただろうが。あの夏休みを忘れたのか?」

古泉「あれは涼宮さんの逡巡が招いたもので、明確な意思は介在していなかったと考えるのが妥当です」

キョン「一万回以上も繰り返したのに明確な意思がないとは思えんが……」

古泉「長門さんには気の毒でしたが、そうであったからこそ我々は安心していられたんです」

   「しかし、今回の場合は涼宮さんの明確な意思を感じ取ることができます」

キョン「ちょっと待ってくれ。お前はさっき無意識だといったじゃないか。それにハルヒの超人的パワーはいつも無意識だろう?」

古泉「そこですよ。今までの涼宮さんは無意識下での神のごとき振る舞いを見せていたに過ぎないんです」

   「そのため、我々もある程度余裕を持ってある種高みの見物ができていたといえるんですが……」

   「今回のように無意識であるにも関わらず、結果的に明確な意図を実現できるのであれば観測どころではありません」

7 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:23:25.10 PKpYg4wBo 7/42

古泉「……我々のような者たちは涼宮さんを監視しつつ、ある程度思い通りに事を運びたいと思っています」

   「自分たちの思い描く状況と異なる結果になりそうな場合には、危険を冒してでも涼宮さんに干渉していくことも考えられますし、今の僕がまさにその存在です」

   「もちろん涼宮さんをある程度コントロールできるものと見越した判断の下で、ということですが……」

   「不完全な神であるならば、手のひらで躍らせることができるとタカをくくっていたんです」

   「ところが涼宮さんは自分自身の望みを現実に反映させることができるとわかってしまった」

   「この事実に本人が気付いていようがいまいが、関係ありません。我々は結果しか得られないんですから」

   「そうであるならば、涼宮さんのコントロールなんてとんでもない。我々は神に頭を垂れるしかありません」

キョン「お前はいつからこんなに説明が下手くそになったんだ?」

8 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:24:36.23 PKpYg4wBo 8/42

古泉「これでも順序立てて話しているつもりなんですが……」

   「つまり、今後涼宮さんにとって都合の悪いことはすべていいように変更される可能性があるということです」

   「今まではこうだったらいいのに、という程度で現実には変化は起きていませんでした」

   「涼宮さんの中にある常識がリミッターになっていたためです」

   「しかし、今回は現実として変化が起きました。その上、我々だけ改変前の記憶も残されました」

   「涼宮さんが心底願ったことは、どんなに非現実的であろうと実現できてしまうことがはっきりと証明されたんです」

   「これは映画撮影のときのような悪乗りと呼ぶべき戯れとはまったくの別物です」

   「なんといっても過去を大きく改変した挙句、すべてなかったことにしたんですから」

9 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:26:19.40 PKpYg4wBo 9/42

キョン「お前本当に古泉なのか? 結局何が理由なのかの説明になっていない」

古泉「僕もまだ混乱しているのかもしれませんね。それだけ大変なことが起きたといっていいでしょう」

キョン「俺にはお前が大きな衝撃を受けたようにはとても見えないがな」

古泉「それは残念です。おや、どこへ行くんですか?」

キョン「長門のところだ。今のお前より長門のほうがいくらかまともな説明をしてくれるんじゃないかと思ってな」

古泉(長門さんはどういう説明をするんでしょうか……。気になるところですね)

10 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:28:06.19 PKpYg4wBo 10/42

キョン「長門、古泉からある程度話は聞いたんだが、お前からも説明をしてくれないか?」

長門「……何を?」

キョン「ハルヒがやったことについてだ」

長門「涼宮ハルヒは私と朝比奈みくると古泉一樹の記憶を残したまま、世界を改変した」

キョン「それは古泉に聞いた。ハルヒはなんでそうしたのかを知りたいんだ」

長門「涼宮ハルヒは無意識レベルで自分自身以外のすべてに警告を発した」

   「私の所有物に手を出すな、と」

   「存在する有象無象から概念的には運命とカテゴライズされるものにも向けて一様に発せられた」

   「その警告の証人が私と朝比奈みくると古泉一樹」

11 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:30:03.38 PKpYg4wBo 11/42

キョン「なんでお前らだけなんだ?」

長門「涼宮ハルヒは私たちの特異性に無意識的に気付いている。私たちだけで充分だと判断された」

キョン「その結果、お前の親玉たちはどうなってるんだ?」

長門「今まで以上に、より観測に力を入れることになった。情報の傍観者になる」

キョン「もう少しわかりやすくいってくれないか?」

長門「今回涼宮ハルヒが改変した過去は一切の変更が出来なくなった。情報統合思念体にも不可能」

   「改変された43時間31分24秒22の時間情報は不可侵な存在」

   「おそらく涼宮ハルヒ自身ですら改竄が出来ないと思われる」

キョン「自分で変えたのにもういじれないってことか?」

12 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:31:56.76 PKpYg4wBo 12/42

長門「変更前に起きた事実は感知できる時間軸のすべてから消失した」

   「例外として私と朝比奈みくると古泉一樹の記憶の中にだけ残された」

キョン「その理由が警告だからか?」

長門「そう」

キョン「事の発端は一体なんだったんだ?」

長門「涼宮ハルヒの精神的ストレスによるもの」

キョン「いまいちよくわからんが迷惑をかけたことは確かだな。いつもすまんな長門」

長門「わたしは何もしていない。あなたを救ったのは涼宮ハルヒ」

キョン「……?」

キョン(朝比奈さんにも話を訊いてみるか)

13 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:33:41.02 PKpYg4wBo 13/42

* * *

古泉「どのように説明をしたんですか?」

長門「訊かれたことに答えただけ」

古泉「ということはあのことは説明しなかったんですか?」

長門「訊かれていない」

古泉「あれは我々に対する宣戦布告ですからね」

長門「私と朝比奈みくるに対してのもの」

古泉「僕は入ってないんでしょうか?」

長門「ない」

古泉「ふっ、それは残念ですねぇ」

* * *

14 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:35:33.03 PKpYg4wBo 14/42

キョン「朝比奈さん、今回の件でちょっと訊きたいことがあるんですが……」

みくる「……キョンくん、無事でよかったです……」

キョン「……?」

みくる「あ、それで一体なんでしょうか……?」

キョン「結局のところ何があったんでしょうか?」

みくる「……涼宮さんが過去情報を変更し、そこを変更不可能なように固定した上で時間を戻しました」

キョン「朝比奈さんのとこはそれによって何か問題が起きてはいないんですか」

みくる「特に何もいわれてないけど……。ただ、非常にめずらしいことだから大騒ぎしてるみたい」

キョン「めずらしいことなんですか? 俺にはいつものことにしか思えないんですが」

15 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:37:42.06 PKpYg4wBo 15/42

みくる「あんまり詳しい話はできないけど、簡単にいうと過去が変わったのにどこにも歪みが起きてないの」

    「通常すでに起きた事象を変更するとそれが例えごく小さなことであっても時間軸に歪みが起きるの」

    「修正テープを使って間違った文字を直すようなイメージをしてくれるとわかりやすいかなあ」

    「遠めにはわからないけど、どんなに綺麗に貼っても下の紙と色は違うし、段差もできちゃうし、下に間違った文字は残ったままでしょう?」

    「涼宮さんが今回やったことは、間違って書かれた文字を構成しているインクを原子レベルで分解して、再構成して書き直したっていう感じなの」

キョン「なんとなくイメージできました」

みくる「それだからまったく歪みもなければ、変更前の事実もすべて綺麗に消えてなくなったの」

    「私たちだけ記憶が残ってるからわかるけど他の人には一切がなかったことになってるの」

キョン「朝比奈さんはその理由はなんだと思ってるんですか?」

16 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:39:18.15 PKpYg4wBo 16/42

みくる「……長門さんと古泉くんと同じ意見です」

キョン「ハルヒを観察してる存在への警告ですか?」

みくる「……うん」

キョン「本当にそうなんですか?」

みくる「え……?」

キョン「明確な理由があるわけじゃないんですが、若干腑に落ちないところがあるんですよ」

    「長門も警告だっていってたんで、それはそうなのかもしれませんが……」

    「もう少し理由があるような気もするんですが」

    「何が理由で警告を発するようなことをしたんですか? 俺はそこが知りたいんです」

みくる「すっ、涼宮さんに訊いてみたほうがいいかもしれませんよ」

キョン「ハルヒに? あいつも何も憶えていないんでしょう?」

みくる「……でも、憶えていることもあると思いますよ」

キョン「はあ」

17 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:40:38.65 PKpYg4wBo 17/42

* * *

みくる「……何だか悔しいですよね。ひた隠しにしていたものを無理矢理刺激されたような気持ちです」

    「特に意識していたつもりはありませんが、あそこまで見せつけられると……」

長門「……」

みくる「長門さんはどう思ってあれを聞いてたんですか?」

長門「私は……」

* * *

18 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:42:33.03 PKpYg4wBo 18/42

ハルヒ「キョン、あんたどこいってたのよ? 随分と久しぶりね」

キョン「何いってんだ毎日顔合わせてるだろ」

ハルヒ「それもそうね……。何で久しぶりなんていったのかしら」

キョン「若年性健忘症ってやつか?」

ハルヒ「あんた団長に向かって随分と失礼な口を利くじゃない」

キョン「なあ、自分の所有物が他人に取られそうだとわかった場合、お前ならどうする?」

ハルヒ「何の話よ? まあまずは名前書くなり唾付けるのが常套手段よね」

キョン「そういうのが通じない相手だったら?」

ハルヒ「相手は誰なのよ? 異世界人なの?」

キョン「そうかもしれないな。で、どうする?」

19 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:44:45.54 PKpYg4wBo 19/42

ハルヒ「そしたら相手に対しての警告よね。それでもダメなら正々堂々と宣戦布告してやるわ」

キョン「流石、勇猛だな。相手がわからなくても攻めに出るか」

ハルヒ「当たり前じゃない。攻撃が最大の防御なのよ!」

キョン「それでもし負けるようなことがあったらどうするんだ?」

ハルヒ「私が負けるわけないじゃない。もしそんなことがあったら強制的に最初からやり直しよ」

キョン「最近お前が負けるようなことがあったか? もしくは何か盗られたりしそうになったことはあるか?」

ハルヒ「……あんたいつもにまして変よ。熱でもあるんじゃないの? 保健室行って熱測ってきなさいよ」

キョン「そうするよ」

ハルヒ「……気持ち悪いわね」

20 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:47:04.11 PKpYg4wBo 20/42

キョン「というわけで、ハルヒには流石に訊けなかった」

古泉「そこでまた僕の出番ですか」

キョン「隠してることを洗いざらい話せ」

古泉「んっふ」

キョン「その気持ち悪い笑いをやめろ。今日がやり直しだということはわかった」

    「だが単なる警告を発するためだけにハルヒが世界を変えるには理由が弱すぎる」

古泉「相変わらず涼宮さんのことを随分と買っていますね」

キョン「黙れ。さっさと理由を吐け」

古泉「仕方ありませんね。今さら驚いたりはしないでしょうがきちんとお話ししましょう」

   「一度目の今日、あなたは事故で亡くなってるんですよ」

キョン「……は?」

21 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:50:32.84 PKpYg4wBo 21/42

古泉「朝の登校時間のことでした。信号待ちをしていたあなたの右側から暴走した車が突っ込み、ほぼ即死状態でした」

   「あなた以外にも車と接触した人はいましたが、亡くなったのはあなただけでした」

   「我々がいつも通りに学校に着いた時点であなたはすでに帰らぬ人となっていました」

   「我々も長門さんも朝比奈さんもあなたの事故を予期できませんでした。理由は現在調査中です」

   「混乱する我々をよそに、その日のうちにお通夜が執り行われまして、恐ろしいほど淡々と物事が進みました」

   「残念なことに我々には過去を恣意的に変更する力も権限もありませんでした」

   「ただ、涼宮さんがそう望むのであれば、すぐにでもあなたの事故はなかったことになるはずでした」

   「しかし、そうはならなかった。それどころか、涼宮さんの持つ力が認識できないほど低下していました」

22 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:52:30.75 PKpYg4wBo 22/42

古泉「あなたの死が相当ショックだったんでしょう。その日は学校も早退してしまいましたし、お通夜にも姿を見せませんでした」

   「涼宮さんが姿を現したのは次の日のお葬式のときでした。生徒代表としてお別れの言葉を述べにきたんです」

   「若干目が腫れていたように思えましたが、いつもの涼宮さんでした」

キョン「……」

古泉「……どうかなさいましたか? 具合でも悪いんですか?」

キョン「……自分が死んだと聞かされて元気なやつがどこにいる?」

古泉「それもそうですね。ただ、あなたは生きていますよ」

キョン「今の俺は何か手を加えられていたりはしないのか?」

古泉「涼宮さんがそんなことをすると思っておいでですか?」

キョン「……いや、続けてくれ」

23 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:55:21.26 PKpYg4wBo 23/42

古泉「沈んだ会場にあって、涼宮さんはひときわ凛々しく、逞しく見えました。心の底から強い人だと感服しました」

   「柔和な表情のあなたの遺影を睨みつけるような視線を向けたまま、涼宮さんはあなたに話しかけ始めました」

   「……涼宮さんは本当に強い女性です。目に大粒の涙を溜めながらも、一切動揺したそぶりを見せませんでした」

   「重力に負けた涙が零れ落ちるだけで、震える声も完全に押し殺していました」

   「誰もが涼宮さんの雰囲気に飲まれていましたが、途中から多くの人が泣いていました」

   「涼宮さんの言葉から彼女の思いが痛いほど伝わってきましたからね」

   「思えばあの場にいた人の中で涼宮さんが一番気丈に振舞っていたといっても過言ではありませんでした」

   「涼宮さんは健気なまでに、あなたが知っている涼宮ハルヒでありつづけたんです」

キョン「……」

24 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:57:55.56 PKpYg4wBo 24/42

古泉「涼宮さんは最後に、と区切ってから涙声であなたに呼びかけてからその場で泣き崩れました」

   「まるで太陽が西から昇るかのような驚愕の光景でしたよ」

キョン「……悪趣味だなお前」

古泉「誰もが同じ思いだったのだと思います。涼宮さんの嗚咽以外は何も聞こませんでしたから」

   「その場の全員が涼宮さんはそういった痴態とも呼ぶべき姿を人に見せるはずはないと思っていたんです」

   (まあそれ以上に涼宮さんの最後の言葉に驚いてもいたんですが……)

   「膝を折り、子供のようにしゃくりあげる涼宮さんを誰もが眺めているだけでした」

25 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 20:59:16.85 PKpYg4wBo 25/42

古泉「驚きの中で、誰もが涼宮さんに目を奪われ、美しいという思いを抱いていたと思います」

   「こんなことをいうとまたあなたに怒られてしまいそうですけどね」 

   「時間にしてはほんの数十秒ほどだったと思いますが、永遠のように感じられました」

   「時の止まった人たちの中から長門さんが涼宮さんに駆け寄り、肩を抱えて連れていきました」

   「……あの長門さんが駆け寄ったんですよ。あれは慈愛に溢れた女神のようでした」

   「涼宮さんが去ると静寂が支配していた世界を溶かすかのように、咳払いと鼻を啜る音で溢れました」

キョン「……そうか。で、あいつは何ていったんだ?」

古泉「といいますと?」

キョン「最後に何かいってから崩れ落ちたんだろ?」

古泉「意図的に説明しなかったんですが、お気づきになりましたか」

キョン「当たり前だろう。ちゃんと教えろ」

26 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:01:30.24 PKpYg4wBo 26/42

古泉「涼宮さんが語った部分に関しては、僕からはお伝えできません」

キョン「理由は?」

古泉「涼宮さんの名誉のために、です」

キョン「名誉?」

古泉「プライドや矜持という言葉と言い換えてもいいかもしれません。とにかく僕からはお伝えできません」

キョン「ああそうかい」

古泉「……続けますよ。お葬式も無事終了しても涼宮さんの力は不安定な状態でした」

   「力が全くないようでいて、恐ろしいほどの力を秘めているかのような計測不能な状況でした」

   「悲しみに暮れる涼宮さんの経過観察を続けていたところ、夜中の3時過ぎに非常に大きな情報爆発が起きました」

27 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:03:38.16 PKpYg4wBo 27/42

古泉「すべてが一瞬で改変され、瞬きをした瞬間に時間が戻っていたような刹那の早業でした」

   「その上、その事態を認識していたのは僕と長門さんと朝比奈さんだけでした」

   「すぐに機関へ報告しましたが、とんでもない嘘吐きだと酷い扱いを受けましたよ」

キョン「どうやって連中を信じさせたんだ? 記憶の改竄を証明する方法がないだろう」

古泉「簡単なことです。嘘を吐く理由がないことと、長門さん、朝比奈さんのところも同じ状況だったからです」

   「対立とまではいいませんが、立場が異なる集団が一様に同じことを経験しているわけですから」

   「自然と客観性は高くなりますよね」

28 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:06:27.73 PKpYg4wBo 28/42

キョン「そういえば事故を起こしたドライバーはどうなったんだ?」

古泉「全く別の地域で免許も車も持っていない状況に変化しています。流石に存在自体を消すことは躊躇われたようです」

キョン「おそろしいやつだな……」

古泉「流石、我らが団長様ですよ」

   「今は情報の精査中で我々は非常に忙しくなっています。どうかこれ以上の問題を起こさないようにしてください」

   「我々が新しく創り変えられてしまう可能性もありますからね」

キョン「……ハルヒがそんなことをすると思うか?」

古泉「いえ、でもご機嫌を損ねないようにするのはとてもいいことです。今日は団活に出られませんのできちんとフォローをお願いしますよ」

   「おそらく以前にも増して平和な時間が過ぎていくことでしょう。今回の涼宮さんの行動はそれを強固にしました」

   「このような状況で涼宮さんにちょっかいを出そうとする勢力が現れるとは考えられません」

   「もしいたとしても一瞬で存在すべてを消されてしまうことでしょう」

29 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:10:06.68 PKpYg4wBo 29/42

古泉「今の涼宮さんはそれほど恐ろしい力を保持していますし、誰しもがそれを知っています」

   「あとはあなたが従順な態度をとっていただければ磐石といったところですよ」

キョン「だからその気持ち悪い笑い顔をやめろ」

古泉「今回のあなたの事故に関して、僕たちも責任を感じているのですよ」

キョン「……」

古泉「何がしかの理由でまったく予期できなかったとはいえ、あなたを死なせてしまった」

   「しかも単なる事故で。例え予期できていなくても防ぐことができた可能性が高いレベルです」

   「僕は機関に所属しているということとは別に、古泉一樹個人としてあなたにお詫びをしておきたかった」

   「申し訳ありませんでした」

キョン「……気にするな。いつも助けてもらってるのはこっちのほうだ。それに今は無事に生きてる」

30 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:14:00.01 PKpYg4wBo 30/42

キョン「おい長門。一回目の今日俺が死んだってのは本当なのか?」

長門「本当。誰も予期できなかったイレギュラーな事」

キョン「長門にいわれると本当だったんだと実感するな」

長門「……今回の件では私はまったく役に立たなかった」

キョン「気にするな。その分ハルヒのお守りが大変だっただろう」

長門「……」

キョン「まあそれは別にいいんだ。すまんがハルヒが俺の葬式でいった言葉を教えてくれ」

長門「言語として表現をするのは簡単。でもオススメはしない」

キョン「ハルヒの名誉のためか」

31 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:16:11.14 PKpYg4wBo 31/42

長門「涼宮ハルヒはあなたに聞かれることを想定していない」

キョン「それを聞いたあとに記憶を消すことはできないのか?」

長門「可能、オススメはしない」

キョン「どこかに影響が出るのか?」

長門「……特に」

キョン「ならそうしてくれ」

長門「……」

キョン「どうした?」

長門「……あなたの感覚に直接イメージを展開する。終了後に自動的に記憶を消去する」

キョン「便利なもんだな……」

33 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:18:30.94 PKpYg4wBo 32/42

(お、ハルヒだ……)

ハルヒ『――キョン、私はあんたが嫌いよ』

   『あんたの屁理屈が嫌い。聞き分けのなさが嫌い。すぐ言い訳するし、あんたの大人ぶった態度が嫌い』

   『絶対服従であるべき団長の私の言うことに素直に応じたことなんてないじゃない』

   『……今回もそう。なんであんたはいつもそうなの? 私を困らせてそんなに楽しいの?』

   『文句を言う相手がいなくなってこんなにも喪失感に塗れるとは思わなかったわ』

   『みくるちゃんは規定事項じゃないって泣き続けてるし、有希はさらに物静かになったわ』

   『情けない話でしょうけどね、あんたがいなくなってからどうも落ち着かないのよ』

   『みんなあんたのせいよ。どこまでみんなに迷惑かけるのよ!』

34 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:20:48.52 PKpYg4wBo 33/42

(俺本当に死んだのか。しかしハルヒよ、本当に泣いてるんだな……)

   『――私はやっぱりあんたが嫌いよ』

   『思えば私を好奇の目で見なかったのあんただけだったわ』

   『くだらない日常を積み重ねていくことに飽き飽きして、私は何かを始めたかった』

   『それに乗ったのがあんた。どうしてたった三年くらいも最後まできちんと付き合いきれないのよ』

   『私は有希とみくるちゃんと古泉くん、そしてあんたとくだらないことで笑いながら大人になると思ってたわ』

   『あんたといると、なんの根拠もないけど、いつだって確信めいたことが私にはあったわ』

   『何でもできるような、くだらなかった世界を明るくできる力を手に入れたようなね』

   『きっとあんたにはわからなかったことでしょうけどね』

   『帰ってこなくていいっていえばへそ曲がりのあんたはひょっこり帰ってきたりするのかしら?』

35 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:22:44.56 PKpYg4wBo 34/42

ハルヒ『我ながら愚かだと思いながらも、くだらない考えで頭がいっぱいになるわ」

    『恥ずかしながら私もついに精神病にかかったのかもしれないと思ったわ』

    『私が思い描いたこれからの人生で起こるであろう出来事のすべてにあんたがいたわ』

    『晴れの日も雨の日も、楽しいときもつまんないときも、いつだってそう』

    『一生飲まないと決めたお酒を何時の日かあんたと笑いながら飲む日が来ると思ってたわ』

    『……それなのに何で勝手にいなくなるのよ。またな、っていって帰っていったじゃない!』

(……すまん)

ハルヒ『最後に、ひとつだけいっておきたいことがあるわ』

    『きちんと伝えてからお別れしないとすっきりしないものね』

(お、ここだな)

36 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:24:55.35 PKpYg4wBo 35/42

ハルヒ『――キョン、愛してるわ』

    『今までも、これからもずっとよ』

    『私はあんたのことを絶対に忘れない』

    『今さらこんなことをいっても無駄なのはわかってるけど……』

    『もしも……もしも戻ってくるなんてことがあるならば、もう誰にも手を出させないから』

    『例えそれが世界中を敵に回すようなことだったとしてもよ』

    『……だから……早く帰ってきなさいよ。アホキョン……』

(……声にならない声をあげて泣き崩れるハルヒは確かに美しいとしか形容しがたいように思えた)

(確かにこれは見ないほうがよかっ――)

37 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:27:39.01 PKpYg4wBo 36/42

キョン「うう……」

長門「終わった」

キョン「何だかすごいものを見ちまった気持ちだぜ。あれはなんなんだ……?」

長門「涼宮ハルヒの宣戦布告」

キョン「宣戦布告?」

長門「涼宮ハルヒはあなたという存在を自分のものだと全世界に向けて発信した」

   「万が一、あなたに手を出すものがあれば容赦はしないというもの」

   「この世に存在するすべてのものがそれを一瞬にして理解した」

   「ヒトが想像する神という概念ですら涼宮ハルヒの意向を理解して即座に首肯させられた」

38 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:31:14.04 PKpYg4wBo 37/42

長門「私、朝比奈みくる、古泉一樹に記憶を残したのは、保険ともいえる」

   「情報統合思念体も何かをしたりはしないだろうが、念のためというところ」

   「我々三人は涼宮ハルヒの大いなる力の証人になっている」

キョン「古泉もそんなようなことをいってたな……」

    「おい、ちょっと待て。俺の記憶が消えてないじゃないか」

長門「……あなたに聞いておいてほしいことがある」

   「涼宮ハルヒの発言は私と朝比奈みくるへ最も強く向けられている」

   「私の好きな男に手を出すな、という類の感情」

キョン「……」

39 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:33:02.86 PKpYg4wBo 38/42

長門「それ以降、おそらく私の中にごくわずかなエラーがある。感情に関するエラー」

  「嫉妬、と分類されるものだと思う」

  「私は涼宮ハルヒの宣戦布告を聞いて、少なからず嫉妬したと思われる」

  「理由は不明。でもそれをあなたに知っておいて欲しいと思った。だから伝えた」

キョン「……そうか、わかった」

長門「……記憶の消去を開始する」

キョン「どうした? 普段だったら否応なく消してるだろ?」

長門「……正しい選択なのかどうか自信がない」

キョン「ハルヒの名誉のためだろう? 俺のせいで長門が怒られるのもみたくない。やってくれ」

長門「……」

40 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:35:52.19 PKpYg4wBo 39/42

ハルヒ「あ、キョン。あんたちゃんと熱測ってきたの?」

キョン「……え?」

ハルヒ「え、じゃないわよ。どうだったのよ?」

キョン「あ、ああ。熱はなかった。俺がおかしいのはいつものことだ」

ハルヒ「何かあんた変だったから今日は団活なしにしたから。さっさと帰るわよ!」

キョン「朝比奈さんとかはどうした?」

ハルヒ「今日は有希もみくるちゃんも古泉くんも用事があるんだって」

キョン「そうか、それなら帰りに喫茶店でも寄らないか?」

ハルヒ「体調は平気なの? まあ、あんたの奢りならいいわよ」

キョン「……あんまりたくさん頼むなよ」

41 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:39:15.07 PKpYg4wBo 40/42

ハルヒ「そういえば最近交通事故が増えてるみたいだから気をつけなさいよ」

    「あんたみたいにぼーっとしてると信号待ちで車が突っ込んできても避けられないわよ」

キョン「車が突っ込んでくるのにどうやって避けろっていうんだ……」

ハルヒ「日ごろの行いが良ければ神様みたいなやつがなんとかしてくれるわよ」

キョン「神様だって万能じゃないだろうからそんなすぐに対応はできないだろ」

ハルヒ「それなら真面目に生きてれば生き返らせてもらえるかもね。もしくは事故自体なかったことにしてくれるかも」

    「でもあんたは普段素行が悪いから無理かもしれないわね」

キョン「相変わらず突飛な発想だなお前は」

42 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:41:22.38 PKpYg4wBo 41/42

ハルヒ「ただ、見たこともない神様に祈るくらいなら間違いなく私を拝んだほうが効果があるわよ」

    「私は車が突っ込んできたら『危ない!』とはいってあげられるもの」

キョン「生き返らせてはくれないのか。随分と安い神様だな」

ハルヒ「遠くで手をこまねいているよりよっぽどいいわよ」

キョン「……そういやハルヒ、話は変わるが宇宙人ていると思うか?」

ハルヒ「そりゃいるに決まってるでしょ。一体どうして私の周りに現れないのかしらねえ」

キョン「実は長門がそうなんだ」

ハルヒ「あんたまだそんな馬鹿なこといってるの? 有希が宇宙人で私は全知全能の神様なわけ?」

キョン「お前には信じられないかもしれないけどな」

ハルヒ「あんな無口でかわいい顔した宇宙人がいるわけないでしょ、このアホキョン!」

    「大体、私が神様ならとっくの昔にあんたをもっと賢く従順に創り直してるわよ」

43 : ◆DefgSpEO2U - 2014/05/22 21:42:46.65 PKpYg4wBo 42/42

キョン「……ハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「ありがとうな、助かったよ」

ハルヒ「……は?」

キョン「理由はわからんが、最近お前に救われたことがあるような気がしてな。礼をいわねばならんと思ったんだ」

ハルヒ「……やっぱり熱あるんじゃないの?」

キョン「そんなものはない。さ、行くぞ」

ハルヒ「あんた今日いくら持ってるの? パフェ食べるわよパフェ!」



おわり

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