ハルヒ「キョン、ちょっと来て」
キョン「ん?なんだいきなり」
ハルヒ「いいから、早く来なさいよ」
キョン「…いいけどよ別に」
ハルヒ「…」
キョン「…」
キョン「…黙ってちゃわからんのだが」
ハルヒ「あんた、何か隠してるわよね?」
元スレ
佐々木「一人の女性として、僕を見てほしい」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1262705248/
キョン「いや…そういう後ろめたいことは何もないはずだ」
ハルヒ「はぁ?あんたねぇ、団長に嘘つくとはどういうことよ!」
キョン「痛い!そして苦しいから首を締めるのだけはやめてくれ!」
ハルヒ「うるさい!あたしに嘘なんかつく首は一回折れた方が身のためよ!」
キョン「折ろうとするな!や、力を入れるなマジで」
ハルヒ「ギブ?」
キョン「ギブ!」
キョン「げほっ…マジで苦しかった」
ハルヒ「あんたに罪の意識がないから罰を与えてあげたんじゃない!」
ハルヒ「むしろ感謝してほしいくらいだわ」
キョン「うわ、なんか痕になってないか?首が異常にヒリヒリするんだが」
ハルヒ「え?本当?」
キョン「まぁそれはいいんだ…で、なんで俺はお前に首を締められねばならなかったのか」
ハルヒ「え、あ、うん」
ハルヒ「えーと…」
キョン「…」
ハルヒ「そう!あんたがあたしに嘘ついたから!」
キョン「仮に俺が嘘を言ったとしても、それが首に痕を残すほどの罪だとは思えないんだが」
ハルヒ「そこはどうでもいいのよ!あ、でも本当に痕になってる」
キョン「マジでか」
ハルヒ「ひどいようなら後で治療でもしてあげるわよ」
キョン「ああ、助かる…って何かおかしくないか」
ハルヒ「何よ!あたしの治療を受けたくないって言うの!?」
キョン「違う、そういう意味じゃ…話が一々脱線しすぎだ」
ハルヒ「あんたが話全部に難癖つけてくるからじゃないの…」
キョン「…もうそういうことでいい」
ハルヒ「で?早く話しなさいよ」
キョン「何をだ」
ハルヒ「隠してること」
キョン「だから、お前に話す必要のある隠しごとなど1つもない」
ハルヒ「…いい度胸ね」
キョン「ちょっと待て落ち着け、また理不尽な暴力を被るのはごめんだ」
ハルヒ「団長に隠しごとをしている時点で立派な犯罪よ!罰を受けなさい罰を!」
キョン「待てって!ちょ、首に手を伸ばすんじゃない!」
キョン(くそ、なんだってんだ)
キョン(確かにこいつは普段から意味不明で理不尽な行動ばかりしているが、今回は一体何なんだ)
キョン(ぐっ…とりあえずこの場はなんとか抑えて…)
キョン「わかった!話す!話すから!」
ハルヒ「ん?やっと話す気になった?」
キョン「ああ、これ以上はさすがに生命の危機を感じるしな」
ハルヒ「…わかればいいのよ、わかれば」
キョン(とりあえず、当面の身の安全は確保できた)
キョン(確保できた、が)
キョン(さて、なにを話したら許されるんだろうか…)
ハルヒ「さぁ、とっとと吐いちゃいなさい」
キョン「待ってくれ、今自分の中で文章を練っているところだ」
キョン(隠し事、と言うからには、ハルヒが知らない俺のことを話さなければならんわけだ)
キョン(ハルヒが知らない…)
ハルヒ「ちょっと!まだ?」
キョン(ええい、ここはもう適当に)
キョン「この前、佐々木と会ったよ」
ハルヒ「え?」
キョン「先週の休日、例の探索の後偶然帰り道で出くわしてな」
キョン「時間もそんなに遅くなかったし、立ち話もあれだったから近くの喫茶店に」
ハルヒ「ちょ、ちょっと待って」
キョン「何だよ、お前が話せって言ったんだろうが」
キョン(くそ…やはり適当に最近の話をしただけじゃダメか…?)
ハルヒ「…いや、うん、ゴメン、続けて」
キョン「あ、ああ」
キョン(よかった、問題無いみたいだな)
キョン「で、喫茶店でぽつぽつと最近の話をして、それで終わりだ」
ハルヒ「そ、それだけ?」
キョン「それだけだ、確かに団の活動の直後に他人とまた喫茶店に入ったのは詫びるが」
ハルヒ「そんなことどうでもいいから、喫茶店で何を話したか細かく説明しなさい!」
キョン「どうでもいいって…お前、俺が隠し事をしてたのに怒ってたんじゃ」
ハルヒ「うっさいわね!しつこい男はうじむし以下なのよ!」
キョン(意味がわからん)
ハルヒ「で!話って何を話したの!?」
キョン「いや、だからだな」
みくる「えっと…遅れて申し訳、じゃなくてその、お邪魔…だったでしょうか?」
古泉「どうやら、そのようです、朝比奈さん、僕達は少し退散を…」
キョン「邪魔だなんてそんな朝比奈さん、出て行かないで、っておい古泉!助けろ!」
ハルヒ「な!話もろくにしないで逃げる気?ますます怪しいわね」
キョン「怪しいって何が…おい!古泉行くなって!おい!」
キョン「ちょ、だから首はやめろ、こら」
長門「…」
キョン「なんだったんだ、今日は…」
キョン(普段からおかしなやつだが、今日のは異様にしつこかったな…)
キョン(何とか必死に逃げ出すことには成功したが、正直やばかった)
キョン(全く…)
キョン(…)
キョン「佐々木と何を話したか、か」
キョン(…そういや、何を話したっけかな)
キョン(凄いくだらないことしか話さなかった記憶しかないが)
佐々木『やぁ、キョンじゃないか、久しぶり、会うのは春先以来かな』
佐々木『…あのごたごたで、キミも少々応えただろうから、しょうがないかもしれないけれど』
佐々木『全く連絡もない、というのもさすがに…』
佐々木『え?ああそうだね、今日は僕ももう予定はないし…』
佐々木『なら、あそこの喫茶店でいいだろう』
佐々木『あれからかい?僕は…何もなかった、と言えば嘘になるが』
佐々木『どうでもいいことさ、今は語らう必要もない』
佐々木『それよりも、神だなんだのお話のせいで肝心のことがほとんどできなかったことの方向が問題だ
佐々木『え?決まっているじゃないか』
佐々木『キョン、キミとの他愛もない世間話、さ』
キョン(…そうだ、それで本当にくだらない話だけして終わったんだった)
キョン(学校のこと、家のこと、友達のこと、勉強のこと…)
キョン(そんな、深意なんてとてもない話だ)
キョン(あとは…携帯のアドレスを交換したくらいか)
キョン(そういや、まだ1通もメールしてないな)
キョン(…後で送ってみるか、薄情と思われるのも嫌だしな)
キョン「ただいまー」
キョン妹「キョンくんおかえりー」
佐々木(ふぅ…最近になって、なぜだかいきなり忙しくなってきたな)
佐々木(勉強の難易度の向上しかり、学校の行事しかりだ)
佐々木(…キョンとも、またあれっきり連絡はないし)
佐々木「…はぁ」
佐々木(気分転換に、お風呂でも入ってこよう)
佐々木(さっぱりした…が、それで今の忙しさが消えるわけでもなく)
佐々木「はぁぁ…」
佐々木(…気分転換したかったのに、なぜ僕は逆に落ち込んでいるのか…)
佐々木(何か1つ、簡単な趣味でも見つけようかな…)
佐々木「っと、メール、誰から…だ…」
佐々木(…キョン?)
佐々木「…」
佐々木「くっくっくっ」
佐々木(キミは本当に、こういうタイミングだけはいいんだな)
佐々木「しかし内容が、『今メールしても大丈夫か?』の一文だけとは」
佐々木「いや、こういった短く簡素な文章は男子ならば当然か?」
佐々木「だがキョンが絵文字をちりばめたメールを打つ、というのも想像しづらいな」
佐々木「…」
佐々木「くっくっくっ、とりあえず返信、と」
キョン「ふぁぁ、ねむ…」
キョン「ん、メールか」
佐々木『メールありがとう、まさかキョンの方から連絡をくれるとは思ってなかったよ』
キョン「…なんだろう、少し傷ついたぞ」
佐々木『何か重要な話だったかな?だとしたら、返信が若干遅れてすまなかった』
キョン「…しかしまぁ、絵文字の1つもない、佐々木らしいメール…ってのはさすがに失礼か」
キョン(返信、と)
佐々木「お、中々早いな」
キョン『別に用っていう用があってメールしたわけではないんだ』
キョン『なんというか、今メールしなかったらまた長く連絡とらないままになると思ってな』
佐々木「…これはこれは」
佐々木(どう解釈すべきだ?僕はキョンには自ら連絡はしないと思っているのか)
佐々木(…それとも、僕と連絡をとることはキョンにとって先々どうでもよくなることなのか)
佐々木(…返信)
キョン「ちょっと間隔が空いたな、忙しかったのか」
佐々木『まるで僕達が疎遠な知り合いであるかのようなことを言うね?』
佐々木『それとも、僕らはそれなりに親しいと思っていたのは僕の一人よがりだったのかな』
キョン「え?何か凄い怒ってるな佐々木のやつ…」
キョン(そんなつもりは毛頭なかったんだが…メールってのは、気持ちを伝えるのが難しいな)
キョン(弁解の、返信っと)
佐々木「…これまた早い」
キョン『そういった意味ではないんだ、不愉快な気持ちにさせてすまなかった』
キョン『単純に俺がずぼらで、お前は結構忙しいって話をしてただろ?それでだ』
佐々木(そういえば、最近忙しいという愚痴を話したような気も…)
キョン『佐々木とは親しいと思ってるし、叶うならこれからも付き合いを続けたい』
キョン『信じてくれ』
佐々木「…」
佐々木(これはまた…嬉しいことを言ってくれるじゃないか…)
佐々木(ぶっきらぼうな文面だが、彼らしいといえば彼らしい)
佐々木「…信じてくれ、か」
佐々木「…」
佐々木(しまった、表情が弛緩して元に戻らない)
佐々木(なんとか、この感情を抑えて…)
佐々木(返信を)
キョン「ん?今度はやたら早いな」
佐々木『そうだね、ありがとう』
キョン「…」
キョン「え?終わり?」
キョン(弁解が必死過ぎて引いちまったのか?)
キョン(しかし佐々木に限ってそんな…)
キョン(…)
キョン(な、なんて返信すればいいんだこれ…)
キョン(…やばい、返信できない)
キョン(くそっ、こういうときの自分の頭の回転の遅さにいらつく)
キョン(って、いらついてどうする、考えろ、考えるんだ)
キョン「…よし、当たり障りがない、簡潔な返しで…」
キョン(返信、だ)
キョン(…)
キョン(…メールを送ってから後悔するのは、初めてかもしれないな)
佐々木「少し間があったか」
キョン『ああ、どういたしまして』
佐々木(…)
佐々木「え?これだけ?」
佐々木(確かに、ありがとうとメールを送ったのは僕だが、これは…)
佐々木(と、とりあえず返信はしなけれ…ば…)
佐々木「…話をつなげようがないな、これは」
佐々木(困った)
佐々木(ぐ…時間だけが無駄に過ぎていく…)
佐々木(このままだとキョンにどう思われるか…しかし文章が全く浮かんでこない)
佐々木(くそ、これではなんのために勉学に励み、頭を良くしようとしているのかわからないじゃないか…)
佐々木(いやいや、落ち着け、落ち着こう、僕)
佐々木(…仕方ない、誰かに相談に…)
佐々木「…」
佐々木「あ、もしもし橘さん?私だけど」
キョン「…遅い、な」
キョン(そりゃあれだけのメールじゃ返信も難しいよな…)
キョン(どうする…もう1回送り直す、ってのもさすがにくどいか…)
キョン(…また怒らせちまった可能性もあるしな、もう今日は返信来ないかも…)
キョン「…」
キョン「こんな適当だから、ハルヒにも怒られんのかなぁ」
佐々木「橘さん、今大丈夫?…ええ、確かに緊急事態と言っていい状況かも」
佐々木「うん、あ、別にそんな物騒なことじゃなくてね」
佐々木「…えっと、メール、なんだけど」
佐々木「え?うん、その携帯のメール」
佐々木「その…返信に困ったときはどうしたらいいの?」
佐々木「えっと…向こうからのメールが『どういたしまして』の一言で終わっちゃってて…」
佐々木「…できればすぐ返信したいの、ねぅ、どうしたら…え?相手?」
佐々木「あ、相手なんてそんな誰でも…うう…」
佐々木「キ、キョンなんだけど…」
佐々木「え?簡単に解決できる?本当!?」
佐々木「うん…うん、あ、ちょっと待って、メモするから」
佐々木「…それで大丈夫なのね」
佐々木「ありがとう、助かったわ!それじゃ急ぐから、またね」
佐々木「…え、と…これで…よし」
佐々木(よし、返信!)
佐々木「…ふぅ」
佐々木(橘さんの言う通りなら、これでいいはずだ…)
キョン「と、来た!」
キョン(よかった…もう返信来ないかと…って、安心しすぎだろ、俺)
キョン(さて、メールの内容は)
佐々木『今から会えないかい?キョンに会いたくてしょうがないんだ』
キョン(…)
キョン「ん?」
キョン「い、今からって…そんな、いや、俺は構わないが」
キョン(なんだ?この脈絡のなさは)
キョン(なぜその流れでそうなるんだ)
キョン(…)
キョン「…やっぱり、まだ怒ってるのか」
キョン(しかも直接会ってまでなんて、相当だな…)
キョン「ここは、素直に従っておいた方がいいか…」
キョン(…返信)
キョン(今日はもう、とことん怒られてやろう)
佐々木「お、よかった、返信だ」
キョン『今からか?会うのは大丈夫だが…どこら辺でだ?』
佐々木「…今から会う?」
佐々木「いやいやキョン、キミはいきなり何を…」
佐々木「…」
佐々木「ん?」
佐々木「…もしもし、橘さん?」
佐々木「ええ、返信の方はうまくいったみたい、改めてありがとう」
佐々木「それでね、なぜだかキョンと今から会うみたいな話になってるんだけど…」
佐々木「…」
佐々木「橘さん?もしかしなくてもこれは」
佐々木「…」
佐々木「あなたとも、いつか近い内に話しておく必要があるわね」
佐々木「全く…はめられたというか…自分がバカ過ぎたというか…」
佐々木(何にしても、とにかく返信だけはしないと)
佐々木(…これでいきなり『やっぱりさっきのはなし』っていうのは…)
佐々木(ダメだ、まるで僕が無責任な発言を繰り返しているみたいで)
佐々木(…)
佐々木(え?なら会うしかないってこと?)
佐々木(あ、いや、でもこんな時間に、そんな)
佐々木(でもキョンは、会ってもいいって…)
佐々木(じゃなくて!いや確かに嬉しいけれど!そうではなくて!)
佐々木(い、いろいろと準備というものが)
佐々木(ど、どうするべきか、もうお風呂入ってしまったし…)
佐々木(ん?それは逆に好都合だったか…いやいやいやいや)
佐々木「お、落ち着こう、とにかく落ち着け僕」
佐々木(まずはメールだけ返して…)
佐々木(そうだ、確かキョンと僕の家の間に新しく小さい公園ができたはずだ)
佐々木(そこに30分後集合…うむ、我ながら合理的じゃないか)
佐々木(返信、と)
佐々木(…)
佐々木(ああ、もう後戻りできない)
キョン「30分後、か」
キョン(完全に怒られるよなぁ、今も返信遅かったし)
キョン(珍しくメールなんかするからこんなことに…)
キョン「腹、くくるしかないか」
キョン「…はぁ」
橘『いきなり女性に、しかも佐々木さんほどの人に2人で会おうと言われて、意識しない殿方などいません』
橘『というわけで、頑張ってくださいね』
橘『もちろん、覗きに行ったりなんて絶対にしないので安心を』
佐々木「…はぁぁ」
佐々木「意識、か」
佐々木(そんなこと、考えたこともなかったけれど)
佐々木(彼は、何と言うか、会ったときから特別だったというか)
佐々木(そう改めて言われると、また変な話に…)
佐々木(変な…話に…)
佐々木(…)
佐々木(僕は、僕自身は彼のことをどう思っているのか)
佐々木(それは、彼と離れた1年間でようやく気付いたことだ)
佐々木(そして再会してから今までいろいろあったけれど、その気持ちの確信も持てた)
佐々木(…僕は)
佐々木「これから彼に会って、どうしたらいいのかな」
キョン「…少し、早く来ちまったかな」
キョン(集合時間に遅刻しなくなったのは、悔しいがハルヒのおかげだな)
キョン「はぁ…」
キョン(本当に、駄目な日はとことん駄目だな)
キョン(まだ首痛いし…)
佐々木「すまない、待たせたかな」
キョン「っ!いや、俺もたった今来たところだ」
佐々木「そうか、ならよかった」
キョン「ああ…」
佐々木「…」
キョン「…」
キョン(なんだこの空気…)
佐々木(か、顔がまともに見れない…)
佐々木(完全に自分の意思ではないとはいえ、僕から誘った形なのに…)
佐々木(くぅ…は、話せない、口が動かな)
キョン「その、なんだ」
佐々木「え?」
キョン「すまない!悪かった!佐々木の気持ちも汲み取れなくて!」
佐々木「え?」
キョン(謝るときは先手必勝…ってどこかのテレビでやっていた記憶があるんだが…)
佐々木(え?キョン?キミは何を謝って…)
佐々木(お、落ち着こう、ここで慌てたら先ほどの二の舞だ)
佐々木(冷静に、思考を巡らせていこう)
佐々木「…とりあえず、顔を上げてくれないか、話しづらい」
キョン(この感触は…セーフかそれとも…)
佐々木(まとめよう、キョンは『僕の気持ちを汲み取れず』謝った)
佐々木(…ここでいう『僕の気持ち』とは、まさしく今僕が思っていることを指すのだろう)
佐々木(今僕が…思って…)
佐々木(…え)
佐々木(それは、つまり僕の彼への…いや、まだだ、ここまででは推測でしかない)
佐々木(彼…キョン、キョンから実際に話を)
キョン「すまなかった、あまり慣れないことはするもんじゃないな」
佐々木(あの首筋の、赤い痕はなんだ?)
佐々木「キョ、キョン、すまない、話の途中に不躾で、いきなりで悪いんだが」
キョン「ん?なんだ、お前が謝ることなんて1つも」
佐々木「そ、その首の…痕、は…ど、どうしたんだい?」
佐々木(しまっ…ついそのまま質問して…)
キョン「あ、ああこれは、ハルヒにやられてな」
佐々木「ハ…って…涼宮さん、の…こと、だよね?」
キョン「ん?ああそうだ、その涼宮ハルヒだ」
佐々木(な…なんというか…これは…予想だにしなかった…)
佐々木(…いや、予想自体はできたじゃないか、こんなの)
佐々木(こんなの…キョンと涼宮さんの普段の距離を考えたら)
佐々木「…くっくっく」
佐々木(なぜだろう、今、逆に最高に頭が冴えているよ)
キョン「なんだよ、そんなにおかしいか?これ」
佐々木「くっくっく…いや、むしろ君達においては自然なものなのではないか?」
キョン「自然って…そんな風に見えちまうか、やっぱり」
佐々木「…何を、今更」
佐々木(そう、今更、だったんだ)
佐々木(僕がこの気持ちに気付いてから、今日に至るこの瞬間まで…)
佐々木「もう、遅いんだね」
キョン「遅いって、何がだ」
佐々木「ああいや、こちらの話だから、気にしないでくれ」
佐々木(こんな惨めな想いを、知られたいはずがない)
佐々木(…なんだろうな、この絶望とも似つかないこの感情は)
キョン「あー…それで、その、もう大丈夫か?」
佐々木「大、丈夫?」
佐々木「ああ、そうだな、大丈夫かそうでないかと言われたら、大丈夫だ」
キョン「そうか、よかった…どうも俺はこういうのが苦手でな」
キョン「今時じゃできて当たり前のことができないってのは、恥ずかしいことだとは思っているんだが」
佐々木「っ…そう、だね、日々精進を重ねようとすることは大切だから」
佐々木(くっくっく、段々自分で自分の言っていることがわからなくなってきた)
佐々木(もう…キョンの近くにいたくない)
キョン「便利な分慣れるまでが大変だよなぁ、携帯ってやつは」
佐々木「…携帯?なんだい、いきなり」
キョン「え?だってそのことで怒ってたんだろ?」
キョン「直に会って話さないと伝わらないことって絶対あるよな…別に言い訳というわけじゃないが」
キョン「どうもこう、メールだけで自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちを汲み取ったりするのは苦手だ」
佐々木「へ…メー、ル?」
佐々木「…」
佐々木「じゃ、じゃあキミが言っていた僕の気持ちっていうのは」
キョン「メールのことだ…って、それ以外に何かあったか?今の話で」
佐々木「な…だけど…え」
キョン「ん?俺今おかしなこと言ったか?」
佐々木(ちょ、ちょっと待…)
佐々木(僕の考えと、キョンの考えは異なっ、ていた?)
佐々木(い、いやしかし)
佐々木「じ、じゃあその首の痕は?涼宮さんにやられたって」
キョン「ああ、ハルヒに思いっ切り首を締められてな」
キョン「加減を知らないんだ、あいつは」
佐々木「…」
キョン「…」
佐々木(なんて…なんという…)
キョン「…?」
佐々木「…くっくっくっく」
佐々木(恥ずかしい…誤解をしていたんだ、僕…は)
キョン「お、おい、佐々木大丈夫か?」
佐々木「…今は、もうダメかもしれないな」
キョン「ダメって…」
キョン(な、なんだ…?何が原因だ?推理しろ、俺)
佐々木(くっくっく…穴があったら入りたいとは、このことか)
佐々木(…ということは、だ)
佐々木(キョンは、よくわからないが、メールでの自らの過ちについて謝りに来た)
佐々木(それはわかった…わかったのだが)
佐々木「…キョン?」
キョン「な、なんだ?」
佐々木「キミは、僕にこんな時間にこんな場所に、しかも2人きりで呼び出されて」
佐々木「何か、特別に感じたものはあったかい?」
キョン「特別?…佐々木、凄い怒ってるんだろうなぁ、としか」
佐々木「…」
佐々木「はぁ」
佐々木「キョン、ちょっと聞いてほしいのだが」
キョン「え?あ、ああ」
佐々木「僕はね、実はここに来て怒りという感情は全く持っていなかったんだよ」
キョン「…何?」
佐々木「だが、今は自信を持って言える」
佐々木「僕は今…かなり怒っている」
佐々木「自分に、そしてキミに」
キョン「…んん?」
キョン(あ、謝り足りてなかったってことか?)
佐々木(本当、嫌になるね、キョン、キミみたいな唐変木が)
佐々木(…そんなキミを、好きになってしまっている自分が)
キョン「いやその…本当にすまなかった」
佐々木「…」
キョン「許してくれ!この通りだ!」
佐々木「…そのまま」
佐々木「そのまま、少しの間顔を上げずに聞いていてほしい」
キョン「はい…」
佐々木「…キミは」
佐々木「キミはもっと、考えを改めるべきだ」
キョン(そんな根本的な話なのか…)
佐々木「全く…そんな心構えでは、涼宮さんも苦労しているのだろうな」
キョン(…そこまで言われるか)
佐々木「…はぁ」
佐々木「本当、罪な男だよ、キョン」
キョン「え?」
佐々木「顔は上げない!」
キョン「はい」
佐々木(ああ…本当に腹が立ってきた)
佐々木「キミは、メールなどに限らず、周りの気持ちをもっと感じ取る努力をすべきだ」
佐々木「それで幸せになる人が、何人いることやら…」
キョン「…申し訳ないです」
佐々木「まぁ…あまり僕一人が言い過ぎてしまうのもあれだからこれ以上はなしだ」
佐々木「ふぅ…ただ、ね、キョン、これだけは」
佐々木「これだけは…知っていてほしい」
佐々木「…」
佐々木「キミは僕を、いやキミに限らず多くの人は僕を数奇な目で見ているかもしれないが」
佐々木「キョンには、キョンにだけはそう見てもらいたくない」
佐々木「一人の女性として、僕を見てほしい」
佐々木「…それだけだ」
キョン「…は?」
佐々木「顔!」
キョン「ま…まだダメなのか?」
佐々木「ぼ、僕がここを離れてからだ!」
キョン「…なぜ」
佐々木「なぜでも」
キョン「…」
キョン(佐々木を女性として、って…)
キョン(佐々木は女性に決まってるだろう、なんだってそんなこと…?)
佐々木「そ、それじゃあ僕はこれで帰るとするよ」
佐々木「話も終わったしね」
佐々木「涼宮さんにもよろしく…じゃあまた」
キョン「え?っておい!佐々木!」
キョン「…行っちまった、しかも多分全速力で」
キョン(許された、ってことでいいんだよな、一応)
キョン(…結局、何が悪かったっていうんだか)
佐々木「っ~!」
佐々木(ぼ、僕キョンになんて言った…?)
佐々木(…女性として、見てほしい)
佐々木(う、うわああああああ!)
キョン「と、いうわけで、ハルヒ」
キョン「佐々木がよろしく伝えてほしい、とのことだ」
ハルヒ「…へ、へぇ」
ハルヒ「先週の探索の後の密会に留まらず、また夜の密会、ってわけ?」
キョン「は?密会って、話したんだから密会じゃないって首はやめろ首は!苦し…」
ハルヒ「うっさいバカキョン!手をどかしなさい!」
キョン「無茶言うな!こいつが俺の最後の砦なんだ!あ、こらやめ」
古泉「…やれやれ、ですね」
朝比奈「だ、大丈夫でしょうか?」
長門「…」
橘「佐々木さんも、結構大胆になりましたよね」
佐々木「…やめてよ、まだ思い出したら恥ずかしくて、顔から火が出そうなんだから」
橘「とりあえず、次のチャンスは文化祭ですね、より一層頑張ってください!」
佐々木「もう…恥ずかしくてムリかも…」
橘「な!何を弱気な」
佐々木「はぁ…」
佐々木(…それでも、キョン)
佐々木(キミの気持ちが少しでも動いていてくれたなら)
佐々木(それだけで、僕は嬉しい)
キョン「痛い痛い!やめろ!爪はやめろって!」
おわり
さすがのキョンもここまでポンコツじゃないだろww