関連
魔法少女は衰退しました【パート1】
魔法少女は衰退しました【パート2】


440 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:25:14.54 oaYv80Qq0 264/569




えぴそーど じゅーいち 【上条さんの、かいぞうけいかく こうへん】



441 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:29:34.56 oaYv80Qq0 265/569



マミ(私は、ついさっきまで怪物に襲われていた)

マミ(その怪物はとても一人じゃ倒せそうにないぐらい強そうだったんだけど……)

マミ(それを倒してくれたのが――――今、私の目の前にいる人)

マミ(上条恭介……行方不明になったという、鹿目さんの親友の幼馴染……!)

マミ(まさかこんなところで出会うとは……)

恭介「ふぅ……また一体成敗したな……あと何人かな……」

マミ(なんで全身タイツみたいな恰好なのか、事故の怪我で入院していた筈なのにしっかり立っているとか)

マミ(ツッコミどころは山ほどあるけど、一応無事なようだし……)

マミ(念のため、本人確認だけはしておきましょう)

マミ「あ、あの、あなたは……美樹さやかさんの幼馴染の、上条くんでしょうか?」

恭介「え? えーっと、まぁ、そうですけど……あなたはさやかの知り合いなんですか?」

マミ「ええ。私は巴マミ。あなたと同じ見滝原中学校に通う、三年生よ」

マミ「病院から行方不明になったと聞かされ、みんなで探していたの」

恭介「みんなでって……いや、よく考えたら、今の僕は行方不明扱いされて当然か……そうか……」

マミ「とりあえず、病院に戻りましょう?」

マミ「何があったかは分からないけど、怪我をしていないとも限らないからね」

マミ「鹿目さんや美樹さんには私から連絡を入れておくから、あなたは病院に戻って――――」

恭介「それには及びません」

マミ「? 自力で戻る、という事かしら?」

マミ「ダメよ。確かに今は元気そうだけど、あなたは本来入院していないといけない身なのだから安静に」


恭介「病院には戻らない、と言っているんです」


442 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:38:43.84 oaYv80Qq0 266/569



マミ「……どういう事かしら?」

恭介「そのままの意味です」

恭介「僕には成すべき事がある。病院で寝ているだけでは、決して成し遂げられない目的がある」

恭介「そのためにも、病院に戻る訳にはいかない」

恭介「見逃してはくれませんかね?」

マミ「……あなたが何をしたいのかは知らない」

マミ「だけど、あなたが行方不明になって心配している人がいる以上……」

マミ「あなたを見逃す訳にはいかないわ」

恭介「……残念です」

恭介「なんともフリーダムな格好をしているから、説得出来るかもと思っていたんですけどね」

マミ「うん。服装云々であなたに言われたくないから」

マミ「……おほん。まぁ、説得は無意味なようだし」

マミ「とりあえず、ちょっとの間気絶してもらおうかしらね?」

恭介「そうきますか。お淑やかそうなのに、意外と好戦的ですね」

マミ「こう見えて面倒は嫌いなの」

恭介「成程……では僕も面倒な理屈は抜きに」

恭介「あなたを倒し、先に進むとしましょう」

マミ「あら。簡単にいくと思わないでよ?」

マミ(とは言え……この展開、不利なのは私の方かしら)

マミ(不意打ちとはいえ、あの怪物を一撃で倒す攻撃力……とてもただの人間とは思えない)

マミ(妖精達の手によってなんらかの力が与えられた? それとも、元々ただの人間ではなかった?)

マミ(いずれにせよ……)

マミ(……鹿目さん、聞こえる?)テレパシー

まどか(はい、マミさん。どうかしましたか?)テレパシー

マミ(上条くんを見つけたわ)テレパシー

まどか(ほ、本当ですか!?)テレパシー

マミ(ええ。だけど、ちょっと問題が生じていてね……)テレパシー

マミ(上条くんと交戦する事態になったわ)テレパシー


443 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:42:19.98 oaYv80Qq0 267/569



まどか(そ、そんな!? なんで!?)テレパシー

まどか(そもそも上条くんは事故で怪我してて……)テレパシー

マミ(理由は分からないけど、完治しているみたいね)

マミ(しかも上条くんの強さは、私と同等以上……いえ、見栄を張ったわね)テレパシー

マミ(私よりも格段に上の力を持っているとみて間違いない)テレパシー

まどか(嘘……)テレパシー

マミ(だから、一つお願い)テレパシー

マミ(暁美ほむらと魔女に、私が上条くんと交戦状態にある旨を伝えてほしいの)テレパシー

マミ(そして、出来たら合流したいと伝えて)テレパシー

まどか(分かりました!)テレパシー

マミ(……これでよし)

マミ(……向こうは油断しているのか、あるいは様子見か、中々攻撃を仕掛けてこない)

マミ(なら、遠慮なく)

マミ「先手を打たせてもらうわね!」

恭介「なっ……!?」

マミ(良し! 彼の足元からリボンを生成して、捕縛に成功したわ!)

マミ(腕も上手い事後ろ手で縛れたし、これなら多少相手の力が強くても簡単には)

恭介「ふん」バリバリバリー

マミ「……………」

マミ「簡単には破られないと思っていたリボンが、時間稼ぎすら出来ずに粉砕された」

マミ「何を言っているか分からないと思うけど、私にも何が起きたか分からな」

恭介「今のはなんですか? もし先制攻撃だとしたら……次は僕の番ですよね?」

マミ(あ、これヤバいわ)


444 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:51:13.33 oaYv80Qq0 268/569



マミ(真っ向から戦ったら雑魚敵Aみたいな感じに吹っ飛ばされる未来しか思い浮かばないもの)

マミ(ライオンに戦いを挑むネズミの心境かしら? いえ、ネズミならまだ一矢報いる事も出来そうだし、蟻とか?)

マミ(私でどうこう出来る相手じゃないわね……)

マミ(かと言って鹿目さんと協力しても、蟻が二匹になるだけ)

マミ(ライオンに勝てるとすれば、同じライオンか、ライオンより巨大な像か)

マミ(ライオンを殺す道具を作れる人間だけ……)

マミ(癪だけど……本当に癪だけど、暁美ほむら達に助けを求めるしか、彼を止められそうにない)

マミ(つまり、私がすべき事は――――)

恭介「大丈夫です、怪我はさせませ」

マミ(魔法で作りだした大型大砲を)

恭介「!? いきなり大砲が……!」

マミ(”自分の足元”に撃ちこみ!)

――――ドンッ!

恭介「ぼふっ!……ふ、粉塵が舞い上がって……煙幕か!?」

マミ(そしてこの隙に、逃げる事――――)

――――ヒュッ

マミ「え――――ぐぇっ!?(の、喉を掴まれ……!?)」

恭介「残念でしたね」

恭介「煙幕を張った直後ならまだ逃げていないと踏んで、急いで腕を伸ばした次第ですが……」

恭介「予想通り、まだ此処に居てくれましたね」

マミ(くっ……まさか、逃げる前に捕まるなんて……)

マミ(パワーだけじゃない。スピードや反応速度も人間以上!)

マミ(このままでは……)

恭介「おっと、いくらもがいても無駄ですよ?」

マミ「ぐっ! く、ぁ、かっ……!?」

マミ(だ、ダメ……身体強化魔法をいくらかけても、全然引きはがせない……!)

マミ(叩いても、引っ掻いても、びくともしない!)

マミ(確かに身体強化は得意ではないけど、それでも並の大人数人分の力はある筈なのよ!?)

マミ(まさか、此処まで強くなってるなんて……!)

恭介「ふむ。中々しぶとい」

恭介「でもこのまま首を圧迫していればそのうち気を失うかな」

マミ(不味……!)


445 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 08:53:52.68 oaYv80Qq0 269/569



恭介「ん?」

恭介「――――ちっ」

マミ「くはっ……え、なんで首から手を離し……」

マミ(! 上条くんが飛び退くように離れて……)

マミ(上条くんのいた場所に、”桃色の矢”が通った!)

マミ(矢の色、そして感じられた魔力の気配……間違いない!)

マミ(今の攻撃は……)

マミ「か、鹿目さん!?」

まどか「良かった! 間に合って!」

マミ「一体どうして……暁美ほむらへの連絡は!?」

まどか「携帯でもう済ませてあります。私は偶々近くにいて、爆発みたいな音を聞いて駆け付けたんです」

マミ「爆発……煙幕を展開した時の音かしらね」

まどか「……それより……」

まどか「……上条くん」

恭介「……やぁ、鹿目さん。久しぶり」

恭介「今日は随分と可愛らしい服装だね。よく似合っているよ」

まどか「そんな事言って誤魔化さないで」

まどか「どうしてマミさんに酷い事をしていたの?」

まどか「答え次第では、いくら上条くんでも許さないよ」

恭介「酷いも何も……最初に手を上げたのはそっちなんだけどね」

恭介「僕は病院に戻りたくないのに、無理やり連れて行こうとするのは酷くないのかな?」

まどか「それは……だって、上条くんは今まで入院していたんだよ! 連れ戻そうとするのは当然でしょ!?」

恭介「だーかーら。僕は見ての通り、もう完治している訳」

恭介「そしてやりたい事がある」

恭介「その邪魔をするのなら、いくらさやかの親友である鹿目さんでも容赦しないよ?」

まどか「そんな……おかしいよ……そんなの、絶対におかしい!」

まどか「私達を、マミさんを倒してまで成し遂げたい事ってなんなの!?」

恭介「……鹿目さんに言っても仕方ない事さ」

恭介「それに言葉をぶつけたところで、君は自分の意見を曲げる気はないんだろ?」

恭介「僕だって曲げる気はないんだ。だったら言葉を交わすのなんて時間の無駄だよ」

恭介「僕を止めたいのなら、力尽くで止める事だね」

まどか「そ、んな……なんで、なんでこんな……!」

まどか「なんでクラスメートと、さやかちゃんの幼馴染と戦う事に……」


――――ピロピロピーロ~♪――――


446 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:35:38.36 oaYv80Qq0 270/569



恭介「? この音は……携帯の着信音?」

まどか「あ、これ私の携帯……!」

まどか(ほむらちゃんからだ!)

まどか「……」

恭介「ああ、いいよ。出なよ」

恭介「その隙に攻撃しようなんて思ってないよ」

恭介「別に、僕達は”敵”って訳じゃないんだからさ」

まどか「……分かった」ピッ

まどか「もしもし、ほむらちゃん?」

ほむら『あ、もしもし? 鹿目さん、今お電話平気でしょうか?』

まどか「えと……(許可は出たけど、これから戦おうって相手が目の前にいるんだよね……)」

ほむら『まぁ、私には関係無い事ですので気にせず要件言っちゃいますね』

まどか「いや、そこは気にしようよ!?」

ほむら『先程タヌキ先輩と上条さんが交戦状態にあるとの連絡について、少々お話したい事がありまして』

まどか「無視されたーっ!?」

ほむら『どんな展開で戦う事になったかは分かりませんが、恐らく苦戦は必須の状況となっているでしょう』

ほむら『多分、鹿目さんは巴さんと協力して上条さんと戦う事になるかと思いますが』

ほむら『妖精さんパワーに対抗出来るのは妖精さんパワー以外にありません』

ほむら『そして現状、妖精さんパワーをほぼ自在に扱えるのは私だけ』

ほむら『そもそもあなた達に妖精さんの知識はありませんので、対処方法のノウハウを持っていない』

ほむら『つまりあなた達では役者不足。上条さんを大人しくするには、私と合流する以外にないという事です』

まどか(うう……ハッキリ言われた……)

ほむら『とはいえ今日持ってきた道具で真っ向勝負を挑めるようなものはないので』

ほむら『私は此処で少々準備というか、作戦を練っておきます』

ほむら『なので私達の方からそちらへと向かう事は出来ません』

ほむら『出来れば上条さんを此処まで誘導してくれませんか?』

ほむら『ちなみに場所は……××港ですね。コンテナだらけの。コンテナターミナルと言うんでしたっけ?』

ほむら『そんな感じの場所ですけど、分かりますか?』

まどか「あ、うん。一応分かる」


447 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:39:28.76 oaYv80Qq0 271/569



ほむら『ではそこまで上条さんを誘導してください』

ほむら『彼がいくら妖精さんパワーを受けたとしても、所詮トーシローです。妖精さんの友達である私の敵ではありません』

ほむら『ここまで来てもらえれば、勝ちは確定ですよ』

まどか「でも……そんな、どうすれば……」

ほむら『まぁ、殴り合いながら連れてくるのはしんどいでしょうし、
    無理やり引っ張れるようならそもそも私の力は必要ないですからね』

ほむら『かと言って、説得でここまで来てもらう事も恐らく無理でしょう』

ほむら『ですから、私から一つ言葉を送らせていただきます』

まどか「言葉?」

ほむら『死ぬ気で頑張れ♪』

――――ぷつっ

まどか「あ、切れた……」

まどか「……………」

まどか「ただの精神論じゃん?!」

マミ(鹿目さん、暁美ほむらはなんて?)テレパシー

まどか(……死んででも××港まで上条くんを連れてこいと)テレパシー

マミ(簡単に言ってくれるわね。此処からだと、直線距離でも五百メートルぐらいはあるわよ)テレパシー

マミ(で? それで勝てるって?)テレパシー

まどか(私の敵じゃない、と言っていました)テレパシー

マミ(それは心強い)テレパシー

マミ(……つまり、私達は彼をどうにか××港まで連れて行かないといけないと)テレパシー

マミ(暁美ほむらに従うのは癪だけど……彼の実力を考えると、今回ばかりは仕方ないわね)テレパシー

マミ(それに)テレパシー

まどか(それに?)テレパシー

マミ(初めて出会った時から思っていたんだけど、暁美ほむらは私達魔法少女の扱いがぞんざい過ぎるわ!)テレパシー

マミ(ここは華麗にミッションコンプリートして、ちょっとは私達の凄さを思い知らせてやらないと!)テレパシー

まどか「……」

まどか(マミさんが日に日に小物化している気がする……)

恭介「ねぇ。さっきから棒立ちしているけど、もう話を進めてもいいかな?」

まどか「……うん」

まどか「念のためもう一度訊くけど……」

まどか「大人しく、病院に戻ってくれるつもりは?」

恭介「ない」

まどか「……なら、戦って従わせるしかないよね」

まどか「本当はこんな事したくないけど……でも、上条くんのためだから!」

恭介「鹿目さんはさぁ……」

恭介「僕の事、嘗めているのかい?」

まどか「え……?」


448 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:43:31.57 oaYv80Qq0 272/569



恭介「戦って従わせる、こんな事はしたくない」

恭介「それって、勝てるつもりだから言える事だよね?」

恭介「鹿目さん達がどんな力を持っているかは知れないけど……」

恭介「今の僕を甘く見ないでほしいな」ゴオォォォォォォォ・・・・・・!

まどか「!?」

まどか(な、なに……? 凄い威圧感が……!)

マミ「予想していたけど、どうやら全然本気を出していなかったみたいね」

マミ「鹿目さん、手加減しちゃ駄目よ」

マミ「彼は――――私達が今まで戦ってきた、どんな魔女よりも格段に強い」

マミ「怪我は治癒魔法でどうにか出来るから、本気で挑まないと……」

マミ「勝てないわよ」

まどか「は、はい!」

まどか(で、でもやっぱり大怪我をさせちゃ不味いだろうから、矢の威力は低めに――――)

恭介「おいおい鹿目さん。先輩に手加減するなって言った傍からかい?」

まどか「?!(え……き、気付かれ……)」

恭介「ダメだよ、油断していると」



恭介「ほら、こんな風に フッ



まどか「え……(上条くんの姿が消え……)」

マミ「か、鹿目さん!? うし――――」

恭介「僕を見失ってしまうよ?」

まどか「ぐっ!?(う、後ろから殴られ――――)」

まどか「きゃああああああああああっ!?」

マミ「鹿目さんが殴り飛ばされた!? 何メートルも飛んで……」

恭介「おっと、すまない」

恭介「あまりにも弱すぎて、加減したのに意味がなかったみたいだね」

マミ「こ、この!」

――――パパパパパパパパパパンッ!!

恭介「遅い」

マミ(なっ……し、至近距離で銃を10丁も生み出して撃ったのに)

マミ(全弾回避された!?)

――――ヒュン!

恭介「おっと?」

マミ(桃色の矢が飛んできた……鹿目さん、無事みたいね)

マミ(でも、ああ、やはり躱された!)


449 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:45:27.24 oaYv80Qq0 273/569



恭介「いやぁ、今のは危なかった。死角からの攻撃は気配を察しないといけないけど」

恭介「攻撃が弱過ぎると、察すべき気配すら弱いからね。はっはっはっ」

マミ「ぐっ……何処までもおちょくって……!」

マミ(でも、その実力が圧倒的なのは間違いない)

マミ(魔法少女でも視認できないほどのスピード)

マミ(魔法少女を容易く吹き飛ばすほどのパワー)

マミ(特殊な力を使っている様子はない。シンプルに、純粋に強い。強過ぎる)

マミ(一体何があればこんな力を持てるのよ! こっちは奇跡の対価として与えられた力なのに!)

マミ(だけど全ての攻撃を回避しているって事は……)

マミ「だったらこれは!」

恭介「ん? これはリボン?」

恭介「また拘束かい? 無駄な事が好きだねぇ」

マミ「鹿目さん!」

恭介「おいおい、さっき攻撃したばかりなのに、そう連射は……!?」

まどか「お生憎さま、私の弓は魔法だから……」

まどか「普通の弓とは性能が違うの!」バシュッ!

恭介「! 桃色の矢が五本同時に……」

恭介「ちっ!」

――――ボンッ! ボボボンッ! ボンッ!

マミ「良し、直撃!」

マミ(今まで回避行動を取っていたという事は、防御には自信がないという事!)

マミ(多少怪我をさせてしまっても、回復魔法で治療出来る)

マミ(ちょっと強引だけど、これが一番彼の負担にならない選択の筈――――)

恭介「……なんちゃって」

マミ「なっ!?(無傷!?)」


450 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:47:57.64 oaYv80Qq0 274/569



恭介「大方、回避に専念しているから防御が手薄って思ったんだろうけど」

恭介「これだけ強大なパワーを、軟弱な肉体で制御できると思っていたのかい?」

恭介「この程度のパワーじゃ、傷一つ付けられないよっ!」バツッ!

マミ(くっ、リボンが破られ――――)

恭介「だから」ヒュッ

マミ「うあっ!?」

まどか「マミさ――――(キックで吹き飛ばされ)」

恭介「遅いんだってば」ヒュンッ

まどか「うっ!?(い、何時の間にか接近され……!)」

――――ドオオオンッ……

恭介「……ああ、やり過ぎちゃったかなぁ」

恭介「二人を叩きつけたビルの壁が崩れてる……死んでないといいけど」

恭介「でもまぁ、人に銃とか矢を撃ってきたし、正当防衛って事で」

恭介「悪く思わないでほしい――――ん?」

まどか「……はぁ、はぁ……!」

マミ「う、く……!」

恭介「……へぇ、予想していたよりも凄いじゃないか」

恭介「てっきり立てないぐらいのダメージは与えたと思っていたんだけどなぁ」

恭介「それにここまでコテンパンにやられて、まだ立つ気力があるなんてね」

まどか「あなたほどじゃないけど、私達も丈夫さには自信があるの」

マミ「それにね……こちらは”個人的な理由”で、フルパワーで戦うのは難しいの」

マミ「今のが私達の全力だと思わないで欲しいわ」

恭介「ふーん……言い訳にしたって、もう少しマシなのは出来なかったのかな?」

マミ「なら、今ここで証明しようかしら」

マミ(さて、どうしたものかしらね)

マミ(”全力”を出していないのは本当。負け惜しみじゃない)

マミ(だけど全力で魔力を使えば、ソウルジェムが大きく濁ってしまう)

マミ(私が予備で持っているグリーフシードの数は一個)

マミ(ソウルジェムが濁りきってしまうと、魔法少女として再起不能になる)

マミ(確かキュゥべえはそんな感じの事を言ってたし……)

マミ(どうにかして避けたいのが本音)

マミ(でも……)


451 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:50:20.96 oaYv80Qq0 275/569



まどか(マミさん)テレパシー

マミ(鹿目さん……)テレパシー

まどか(全力、出しましょう)テレパシー

まどか(ここでソウルジェムが濁りきって、魔法少女として再起不能になったとしても……)テレパシー

まどか(それで上条くんが助けられるのなら、構いません)テレパシー

マミ(……そうね)テレパシー

マミ(力を出し惜しみして人を助けられなかったなんて、正義の魔法少女の名折れよね)テレパシー

マミ(分かったわ。幸い、グリーフシードの予備が一つだけある)テレパシー

マミ(全力全開、一気にソウルジェムが真っ黒になるぐらい)テレパシー

マミ「本気を出すわよ!」

まどか「はい!」

恭介「おいおい、あまり調子に乗り過ぎないでほしい――――」

マミ「それは、こっちの台詞!」ドンッ!

恭介「!(先輩が地面を叩いた瞬間、大量のリボンが地面から……さっきまでの比じゃない数、何百本あるんだ!?)」

恭介(成程、本気じゃないって言葉は嘘じゃなかったという訳か!)

恭介(けど、どうやら無茶をしているのも間違いない! 動きが単純だ!)

恭介「なまっちょろい! この程度で僕を捉えきれると思うな!」

マミ(なっ……展開したリボンの隙間を残像が見えるほどの速さで潜り抜けてる!?)

マミ(まさかここまで機動力に長けているなんて!)

まどか「なら、弓矢とのコラボはどうかな!?」バシュッ!

恭介「っ!?(視界を埋め尽くすほどの矢だって!? 鹿目さんもこれほどの力を隠していたのか!)」

恭介(リボンと矢の同時攻撃を避けきるのは、流石に無理か!)

恭介(いや、そもそもあの矢……こっちに吸い寄せられるように来てないか?)

恭介「追尾式かよ!? ――――くっ!」バチッ

まどか(やった! 命中……!?)


452 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:54:46.06 oaYv80Qq0 276/569



恭介「全くっ」バチッ

恭介「こんな」バチッ

恭介「小細工でっ!」バチンッ!

まどか(ち、違う! 命中したんじゃない!)

まどか(マミさんの展開したリボンを盾代わりにして、攻撃を防いでいる!)

まどか(なんて動体視力と判断能力なの……!)

まどか「だったらこれはどう!?」バシュンッ!

恭介「空に向けて矢を……?! そういう事か!」

恭介「やはり、打ち上げられた矢がこっちに飛んでくる!」

まどか「水平方向では防がれても、上からの隙間ない一斉掃射には逃げ場なんてない!」

まどか「これは避けられないよ!」

恭介「ふんっ! いくら隙間が無くても……」

恭介「こんな軟弱な攻撃は――――通じない!」

まどか(うっ……矢を直に受けても平然としている!)

まどか(だけど、撃ち続けるしかない!)バシュバシュバシュ!

恭介「通じない通じない通じない!」

恭介「この程度でどうにか出来ると思うなああああああああああっ!」

まどか(やっぱり私の攻撃力じゃダメージを与えられない……)

まどか「でも! 足は止まった!」

まどか「マミさん!」

マミ「ええ!」

マミ「こっちはもう十分に、魔力をチャージ出来たわ!」


453 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 09:57:05.06 oaYv80Qq0 277/569



恭介(何……?)

恭介(なんだ? あの巨大な銃……いや、大砲!?)

恭介(全長十メートルはあるぞ!? デカ過ぎるだろオイっ!?)

マミ「気付いてなかったのかしら? リボンによる攻撃が単調である事に」

マミ「もしくは気付いても、こう思っていた? コントロールしきれていないって」

マミ「残念はずれ。正解は――――魔力をこの銃に注ぐのに集中していたから」

マミ「お陰でソウルジェムが殆ど真っ黒になってしまったけど……」

マミ「その分、強力な一撃よ?」

恭介「しまっ……!」

マミ「久しぶりに決めるわよ! 最大火力の……」



マミ「ティロ・フィナーレ!」



まどか(よし! 上条くんは今、攻撃の真っただ中にいて自由に動けない!)

まどか(そして今放ったティロ・フィナーレは拡散型……広範囲に魔力を散らしている!)

まどか(これは絶対に避けられ――――)



恭介「……ふふ」



まどか(え? 今、上条くん笑って……)

恭介「逃げ場ならあるんだよ――――上にねっ!」

――――バゴンッ!!!

まどか「う、嘘!?」

まどか「上条くんが、空を飛んだ!?」

まどか(ち、違う! 飛んだんじゃなくて……跳んだんだ!)

まどか(地面にクレーターみたいな穴が出来るぐらい強力な脚力で、私の放った弓を全て吹き飛ばすぐらいの衝撃と共に!)

まどか(滅茶苦茶だよこんなの!)

まどか(ああ……ティロ・フィナーレは私の矢と違って、撃った後のコントロールは利かない……)

まどか(上条くんがもう居ない場所を通って……)

まどか(……外れた……!!)


454 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:00:20.31 oaYv80Qq0 278/569



恭介「ふ、ふはは、ふはははははははははははははははははははっ!」

恭介「甘い甘い甘い甘い甘い甘いっ! この程度で僕の動きを封じたつもりか!」

恭介「もう僕は昔の僕じゃない! 怪我でろくに歩けなかった、あの貧弱な僕じゃない!」

恭介「お前達如きに負ける事はないんだっ!! 誰にも、僕は負けないんだ!」

恭介「ふっははははは、あーはっはははははははははははは!!」

まどか「そんな……こんなのって……!」

マミ「……随分、高くまで跳んだわね」

恭介「――――?」

まどか「マミ、さん……?」

マミ「鹿目さんの放った矢を吹き飛ばすにはそれだけのパワーが必要だったという事なんでしょうけど」

マミ「何とかと煙は高いところが好きって、よく言ったものだわ」

恭介(……なんだ?)

恭介(負け惜しみ、じゃない……先輩の浮かべているあの笑みは、ハッタリでも狂った訳でもない……)

恭介(勝利を確信した、笑み……?)

マミ「……確かにあなたの身体能力は高いわ。私達ではとても敵わないぐらい」

マミ「避けられてしまう事は想定済みよ」

――――ボコッ

まどか「え……(道路が盛り上がって……)」

恭介(おい、まさか――――)

マミ「だから――――保険を用意しておいたの」

マミ「地中に、ね」

恭介(なっ……ど、道路からさっきの大砲が!? 一体何時の間に――――)



            ―――― マミ「それは、こっちの台詞!」ドンッ! ――――


      ――――恭介「!(先輩が地面を叩いた瞬間、大量のリボンが地面から…… ――――



恭介(あの時か!? あの時に、こうなる事を予見して……!?)

マミ「あなたの肉体は強力。攻撃を当てるのも一苦労だわ」

マミ「でも、あなたは空を飛べる訳じゃない。今の状態もただジャンプして、ただ落ちているだけ。」

マミ「さて……空中にいるあなたは、どうやって私の一撃をかわすのかしら?」

恭介「お、い……オイオイオイオイオイ……!?」

マミ「さあ、覚悟しなさい!」

マミ「本日二度目、最大最強の――――」


455 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:00:58.46 oaYv80Qq0 279/569







マミ「ティロ・フィナーレ!!!」






456 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:03:14.20 oaYv80Qq0 280/569



まどか(撃たれた……さっきより魔力が大きい!)

まどか(しかもあれは魔力一点集中型……さっきの拡散型と同じ量の魔力を使いながらも、攻撃範囲が狭いから当てにくく……)

まどか(だけど威力は、何十倍にもなっている一撃!)

恭介「う、ごあああああああああああああああああああああっ!!!?」

まどか「やった! 当たった……!」

恭介「こ、の……クソアマがあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

まどか(!? そ、そんな……)

まどか(あの一撃を受けて平然としてる!?)

まどか(威力が凄いから、上条くんは何百メートルも彼方に吹き飛ばされたけど……)

まどか(で、でも、ティロ・フィナーレを受けて平然としているのなら、落下でもダメージを受けるとは考え辛い)

まどか「ま、マミさん、どうしよう! あれでも上条くん、全然平気で……」

マミ「落ち着いて鹿目さん……くっ……!」

まどか「!? ま、マミさん!?」

マミ「大丈夫……ちょっと、力を使い過ぎただけ……とっておいたグリーフシードで回復するわ」

マミ「鹿目さんも、ソウルジェムを貸して。今のうちに回復させるわよ」

まどか「は、はい……でも、あの、これからどうすれば……」

マミ「……鹿目さん。だから落ち着いて」

マミ「私達の目的はなんだったかしら?」

まどか「それは、上条くんを連れ戻す事で……」

マミ「ほら、忘れてる」

マミ「そんなんじゃ、まだまだ魔法少女としては半人前よ?」

まどか「え? えーっと……」

まどか「あっ!?」

マミ「そうよ。私達の目的は……」


457 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:05:31.52 oaYv80Qq0 281/569



―― ??? ――


恭介「ぐっ……直撃を受けたかっ」

恭介(さっきの一撃は危なかった……咄嗟に両腕でガードしなければ、ノーダメージとはいかなかっただろう)

恭介(だけど、あれが最強最大の一撃だと分かったのは収穫だ)

恭介(やはり彼女達では僕を倒せない!)

恭介(それに同じ手はもう食らわない! 着地次第、すぐにケリを着けてやる!)

恭介「ふっ――――とっ、とっ……ふぅ」

恭介「って、おいおい。一体何百メートル飛ばされたんだ……あの二人とかなり離れちゃったよ」

恭介「そもそも、えーっと、此処は……」

恭介「コンテナだらけだな。という事は――――」



「××港。私達があなたを待っていた場所です」



恭介「――――君達は、確か……病院で出会った」

恭介「暁美さん、だったかな?」

ほむら「おや、覚えていましたか」

シャル「てっきり忘れられているかと思っていたんだけどね」

恭介「結構強烈な出会いだったからね。流石に忘れはしないよ」

ほむら「出会い云々で言えば、今のも中々刺激的でしたけどね。空から男の子が! って感じでしたし」

恭介「ははっ。確かに」

恭介「……ん?」

シャル「どうした?」

恭介「いや、まぁ、なんだろう……別にそういう決まりはないと思うけど、お約束というか……」

恭介「さやかは居ないのかい?」

ほむ シャル「……あー……」

恭介「……何故二人が空を見上げるのかは分からないけど、居ないという事は分かったからもういいよ」

マミ「どうにか、この場所まで”誘導”出来たわね……」

まどか「ほむらちゃん……」

恭介「ふむ。あの二人が此処に来たという事は……僕はここに誘導されたのか」

恭介「そして君も、彼女達と同じく僕を病院に連れ戻そうとしているのかな?」

ほむら「そうですねぇ。それが一応目的ではありますが」

ほむら「しかしまぁ、あなたの目的如何では、見逃すのも吝かではありません」

まどか「えっ!?」


458 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:09:44.34 oaYv80Qq0 282/569



ほむら「正直なところ古傷やらなんやらが原因であなたが死んだとしても、私個人はどうでもいいんです」

ほむら「精々あなたが死ぬとさやかさん悲しむだろうなーっと思うだけ」

ほむら「何しろ、私とあなたは今日出会ったばかりの他人ですからね」

ほむら「さやかさんには申し訳ないですけど、正当な理由があるのなら、私はあなたを見逃してもいいと思っているのです」

まどか「ほ、ほむらちゃん!? 何を言って……」

マミ「そうよ! もし本当に彼の身に何かあったら……!」

シャル「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」

マミ「っ!? ま、魔女……!」

まどか「あ、あなたも、やっぱり上条くんの事なんてどうでもいいと……」

シャル「あー、いや、そういう訳じゃないわよ?」

シャル「ほら、見た感じ怪我とかしていないみたいじゃん。手足なんて完治してるっぽいし」

シャル「そっちは納得しないだろうけど、妖精さんが関わってんなら酷い事にはならないだろうしね」

シャル「ほったらかしでも問題がなさそうなら、本人の好きにやらせればいいんじゃないかしら?」

シャル「まぁ、あとでさやかにはたっぷり怒られるでしょうけどね」

まどか「で、でも……」

シャル「それに結局のところ話を聞かない事にはどうするのがいいか分かんないし」

シャル「アイツ曰く、”話してくれないのなら、話すまで追い詰めるか、話した方が得だと思わせればいい”」

シャル「んで、思惑通り……話してくれるみたいね」

恭介「そうだね……戦わずに済むなら、まぁ、話すのは構わない」

恭介「まず、僕がどうしてこんな力を持つに至ったかを話そうか」

ほむら「あなたの力……ああ、まぁ、確かに不思議ですね」

ほむら「空の彼方から吹っ飛んできて、平然と着地する」

ほむら「私達はそれぐらいしか見ていませんけど、あなたが出鱈目な身体能力を持っている事は分かります」

ほむら「そうですね。それについても知りたいですし、是非お願いします」

恭介「……あれは君達が僕の病室から出て、すぐの事だった」

恭介「窓から、怪しい連中が現れたのさ」


459 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:11:32.02 oaYv80Qq0 283/569



シャル「怪しい連中?」

恭介「真っ黒な……クローク? ローブ? まぁ、そんな感じの服装の連中だった」

恭介「奴等は何も言わず僕に近付いて、無理やり外へと連れ出した」

恭介「その際薬を嗅がされたみたいでね。連れ去られた間は意識が途絶えていて、何があったかは分からないけど……」

恭介「ただ、僕はそこで改造手術を受けた」

まどか「か、改造手術!?」

まどか「それって、あの、特撮ものとかでよく出てくるような……?」

恭介「正にその通り。所謂悪の秘密結社が行う、改造人間の作製だ」

恭介「そこでは僕のように改造された怪人が何人もいてね……彼等は脳を弄られ、組織に忠誠を誓わされていた」

恭介「脳の改造を施される前に脱出出来たから良かったものの」

恭介「下手をすれば、僕もその秘密結社の一員となっていただろうね」

マミ「なんて事……人間を改造するなんて……!」

まどか「ひ、酷いよ、そんなの……!」

シャル「安定のザル警備、とか言っちゃ駄目なのかしら」

ほむら「そもそも脳の改造手術は真っ先にすべきですよね」

恭介「……鹿目さん達と暁美さん達の温度差が凄まじいけど、置いておくとして」


460 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:16:07.41 oaYv80Qq0 284/569



恭介「で、僕は手に入れた力を使いこうして逃げ延びた、という訳さ」

まどか「そんな事があったの……」

マミ「成程……あなたが病院に戻らないのは、その秘密結社の手が周りの人に及ぶのを避けるため」

マミ「そんな事情があったのに、無理やり連れ戻そうとしていたなんて……」

マミ「ごめんなさい、私……」

ほむら「ちなみにその秘密結社はどうなりました?」

恭介「脱出の際思いっきり基地を破壊してやったからね」

恭介「科学者連中は瓦礫の下敷で、残ったのは運の良かった数体の怪人ぐらいじゃないかな?」

恭介「その数体も、なんやかんや襲いかかってきたから全部倒しちゃった気がするし」

まど マミ「え?」

ほむら「ま、そんな事だと思っていました」

ほむら「妖精さんが関与した事案です。長続きする訳ありませんからね」

ほむら「予想通り、既に秘密結社は壊滅していましたか」

まどか「いや、あの、意味がよく分からないのだけど……」

まどか「そもそも妖精は何処にも関与していないような……」

ほむら「その確信を得るために、一つ、質問させてください」

ほむら「上条さん。あなた、あの病室で私が落とした錠剤を飲みましたね?」

恭介「錠剤? ……ああ、飲んだね。君が落とした物かは分からないけど」

恭介「あの時は色々と自暴自棄だった。正直、死にたかったんだ」

恭介「だからあの訳の分からない薬を飲んだら死ねるかと思って、ま、勢いで飲んでしまったよ」

恭介「君の薬だったのなら、申し訳ない事をしたね」

ほむら「いえ、それは別にいいんですけどね」

ほむら「とりあえず妖精さんの仕業で確定っと」

シャル「確定ね」

まどか「なんで!?」

ほむら「考えたら負けです。妖精さんだもの」

シャル「んで? 改造された経緯は納得がいくとして」

まどか「どこが!?」

シャル「細かい事は気にしない方がいいわ。妖精さんだもん」


461 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:19:50.61 oaYv80Qq0 285/569



シャル「それより、じゃあアンタはなんで病院に戻ろうとしないの?」

シャル「秘密組織は壊滅。怪人も残るは僅かな残党、もしくは殲滅済み。手足の怪我は完治」

シャル「そして鹿目さん達と戦った事から、アンタは知人の身を案じているようにも思えない」

シャル「アンタはどんな目的で行動しているの?」

まどか(! た、確かに……)

まどか(組織が壊滅した以上、身の回りの人を守る必要はない筈)

まどか(なら、一体……)

恭介「……僕がなんで入院していたのかは、知っているかい?」

ほむら「? いいえ。さやかさんからも聞いていませんし……」

ほむら「鹿目さんはどうですか?」

まどか「え? えーっと、確か交通事故って……」

恭介「そう。交通事故」

恭介「あの事故によって僕は指が動かなくなった。バイオリンを弾けなくなった」

恭介「もし、あの秘密結社に攫われなければ、僕の怪我は決して治らなかっただろう」

恭介「つまりアイツは……僕を轢いたあの運転手は、僕からバイオリンを奪ったも同然なんだ……!」

ほむら「……成程。大体の事情は分かりました」

ほむら「あなたの目的は復讐ですね。その運転手に対する」


462 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:26:47.61 oaYv80Qq0 286/569



恭介「ああ、そうだ! アイツに復讐するのが、僕の目的さ!」

マミ「なんて事……!」

ほむら「実にお約束な目的でしたねぇ」

ほむら「しかし誰に復讐すべきか分かっているという事は、少なくともその運転手は逮捕されているのでは?」

恭介「……そうだね。確かに逮捕されたよ」

ほむら「なら、その方への罰は法律と裁判によって定められるべきです」

ほむら「あなたの怒りはご尤もだとは思いますが……」

恭介「いいや、納得出来ない! アイツの手を、この僕みたいに動けなくしてやらなきゃ気が済まない!」

恭介「僕を轢くような運転をしたあの手を、捩じ切ってやる……ギリギリギリギリ捩じって引き千切ってやる……!!」

シャル「……アイツ、本当に脳の改造をされてないのかしら? まるっきりバーサーカーよ?」

まどか「わ、分かんない……上条くん、あんな事言う人じゃ……」

ほむら「古今東西、復讐は人を狂わせるものですよ」

まどか「そんな……」

ほむら「さて、理由は聞き出せました。その上で私の意見を言わせていただくなら」

ほむら「実に、つまらない」

恭介「……何?」

ほむら「つまらない。ああ、つまらない」

ほむら「折角手に入れた妖精さんパワーを復讐に使う? あなたは何も分かっていませんね」

ほむら「彼等の力は世界を楽しくする力です。面白おかしく使う以外には全く役立たない……最高の力です」

ほむら「あなたの方法じゃ妖精さんは活かせない。あなたは上っ面の力で満足しているだけです」

ほむら「だから、私が妖精さんの力の本質を、ほんの少しだけあなたの身体に刻み付けてあげます」

ほむら「まぁ……そのほんの少しすら、あなたには耐えられないでしょうけどね」

まどか「ほ、ほむらちゃん……?」

まどか(ほむらちゃん、なんか、凄く怖い……!)

まどか(あの歪な笑顔……何を考えているの……?)

マミ(妖精の力の本質……一体、上条くんに何をする気……!?)

シャル(つーか、今の台詞と不気味な笑みを見ていると)

シャル(上条とほむらのどっちが悪者か分かんないわね、これ)


463 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:30:28.24 oaYv80Qq0 287/569



恭介「……いいだろう。妖精というのが何なのかは分からないけど」

恭介「僕が得た力の前に屈するのは君の方だと言わせてもら」

ほむら「妖精さんアイテム『遥か彼方へボール』~♪」

恭介「え、ちょ、口上ぐらいは言わせ」

――――ズギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!

恭介「うおおうっ!?」

恭介(な、なんだ今のは……ボールが凄まじい速さで飛んでいったのか!?)

恭介(暁美さんの蹴る動作で嫌な予感がして身体を逸らしたから躱せたけど……)

恭介(ボール自体は全く見えなかったぞ!?)

ほむら「このボールは軽く蹴るだけで亜光速まで加速し、大気圏を突破して遥か彼方へと飛んでいきます」

ほむら「昔、サッカーで男の子をぎゃふんと言わせたいと妖精さんに頼んだところ作ってくれたアイテムです」

ほむら「……ネットが破けるどころか余波でゴールポストが塵になりましたので、お蔵入りにしましたけどね」

恭介「あのー、亜光速って当たったら死ぬんじゃ……」

ほむら「死ぬでしょうねー、いくらあなたが頑丈でも」

恭介「ちょ」

シャル「……それで?」

シャル「ボール、彼方に飛んで行っちゃったけど、どうすんの?」

ほむら「そんな時のための『死が二人を別つまで』」

ほむら「『遥か彼方へボール』には既にこのイヤリングの片方をぷすっと刺しておきました」

ほむら「これも名前の通り――――死ぬまで、イヤリングを付けた相手と離れられなくなるアイテムです」

ほむら「で、予め対戦相手を上条さんに設定しておいた『一人用バッターさん』の耳に着けてあげて……」

ほむら「はい! 離れて!」

シャル「お、おう」

―――――……ゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!

恭介「ひゃあっ!?(は、背後からボールが!?)」

恭介(そ、そしてボールがバットを持った人形の元に向って)

―――――カッキーン!

恭介(あ、打った)

恭介「そんでもってあの人形が打ったボールが飛んできひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」


464 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:35:19.16 oaYv80Qq0 288/569



まどか「か、上条くん、打たれたボールは躱したみたいだけど……」



恭介「ふぁっ!?」ギューン
恭介「ふぃっ!?」カキーン
恭介「ふぅっ!?」ギューン
恭介「ふぇっ!?」カキーン
恭介「ふぉっ!?」ギューン



まどか「……打たれたボールが亜光速で飛んでいって、」

まどか「飛んでいったボールは猛烈なスピードでバッターさんの人形に戻る」

まどか「その軌道の真ん中に立つ上条くんは当然前後から飛んでくるボールを回避しないといけない訳で」

まどか「弾道と弾丸は一つずつなのに、上条くん、戦場の真ん中なのかってぐらいの猛攻を受けてる……のかな?」

ほむら「あとは上条さんが疲労困憊になるまで待つとしましょう」

まどか「……あの攻撃って、当たったら死ぬボールに命中するまで終わらないんじゃ……」

ほむら「実際には命中した後も続きますけどね。二・三発多く撃ちこむのは誤射のうち」

ほむら「それにさっきは当たったら死ぬと言いましたけど、妖精さんアイテムです。当たり所が良くて助かる事になる」

ほむら「……筈」

まどか「今筈って言った? 筈って言ったよね?」

ほむら「何分妖精さんが近くに居ないので、事故が起きないとも限らないんですよねぇ」

ほむら「まぁ、万一が起きても大丈夫ですよ」

ほむら「死者蘇生は妖精さんパワーでも無理ですけど、死んでさえいなければなんとかなりますからね」

ほむら「運悪く頭がぽーんっと吹き飛んでも、心臓が動いている間は生きてる範疇です」

ほむら「『万能時計』で時を止めつつ、家に持ち帰れば治療可能ですよ」

ほむら「……最悪死んでも、記憶を再現した”模造品”なら作れますし、安心安心」

まどか「怖いから!? 色々と怖いからそれ! そして何一つ安心出来ないから!?」

ほむら「個人を確定するものは、魂でも肉体でもなく、その人の考え方である。私はそう思います」

まどか「そういう哲学的な話じゃないよねコレ!?」

マミ「あの、それより……上条くんが……」

まどか「え?」


465 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:38:10.19 oaYv80Qq0 289/569




恭介「はっ!」
恭介「ふっ!」
恭介「ほっ!」



まどか「今も必死に避けてるだけにしか見えませんけど……」

ほむら「……ん? あれは……」

シャル「ああ、成程……これは……」

マミ「……あなた達は気付けたみたいね」

まどか「え?」

マミ「ほら、よく見て」

マミ「上条くん……さっきと違って、声と表情に余裕が戻っているわ」

まどか「え、えっ?」

ほむら「これは……不味いですね……」

ほむら「恐らく上条さんは、バッターさんの動きを見切っています」

まどか「ど、どういう事?」

ほむら「確かにバッターさんは素晴らしいバッターですが、基本的には単純な打ち返ししかしません」

ほむら「そして戻ってくる『遥か彼方へボール』は、イヤリングの効果で最短距離……つまり直線でしか動けない」

ほむら「それら全てを把握したなら、例え光の速度の攻撃でも弾道が読めるという訳です」

ほむら「無論常人にはそんな事が分かったところでどうにも出来ませんが」

ほむら「しかし超人と化した上条さんには、それらを同時に把握する事も可能なのでしょう」

ほむら「どうやら……速いだけの攻撃では、彼を止められないようですね」

恭介「そういう事、だっ!」

まどか「ああっ!? バッターさんが壊され……」

――――ギュウウウウウウウウウウウウウン!

恭介「これで終わり、と」

マミ「背後からのボールも躱された……!」

恭介「さあ、次は僕の番だね」

恭介「生身だから手加減はしてあげるけど――――」

恭介「多少の怪我は許してくれよ?」

まどか(! か、上条くんがこっちにきて――――)

ほむら「シャルロッテさん、『何処までもドア』を開けてください」

シャル「え? ああ、この小箱だっけ?」

シャル「えーっと、開けるとどうなるの?」パカ


466 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:41:21.82 oaYv80Qq0 290/569



――――ズ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

シャル「ちょ、なんか吸い込まれ……」

――――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

シャル「吸いこ、ま、まままままままっ!?」

シャル「まああああああああああああああああああああああああああああっ!?」シュポンッ

まどか「ああ!? ま、魔女が小箱に吸い込まれ……?!」

マミ「え、何? 何?」

恭介「な、なんか風とかそんなんじゃなくて身体が吸い込まれる……!?」

まどか「というか吸引力強過ぎない!? 身体が浮くんだけど!?」

マミ「きゃあああああああああっ!? きゃ、きゃああああああああああああっ!?」←リボンで身体を固定している

恭介「なんじゃこりゃああああああああああああ!?」

ほむら「『何処までもドア』。開けると物体をなんでもかんでも吸い込み、内部に取り込む小箱」

ほむら「内部は無数のドアがひしめくだけの世界となっています」

ほむら「そしてドアの向こうもまた、同じくドアだけの世界」

ほむら「外から干渉する術はないので、中に吸い込まれた物は永遠に出てこれません」

ほむら「妖精さんも自分達の技術で脱出出来たら面白くないので、そこは徹底してあります」

ほむら「要注意♪」←ちなみにしっかり物陰に退避している

マミ「要注意じゃないわよ! 物騒過ぎるでしょそれ!?」

マミ「というか今魔女吸い込まれたわよ!? 自分の味方も吸い込まれてるんだけど!?」

恭介「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

まどか「嫌ああああああああああああああ! 死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいい!」

ほむら「あ、大丈夫ですよ。中は時間が止まっているので、何があろうと死にませんし、自殺も出来ませんから」

恭介「最悪じゃねえか!?」

マミ「よ、よわーく、よわーく銃を生成して……壊れたら何が起きるか分からないから兎に角よわーくして……」

マミ「発射っ!」パンッ バチンッ!

ほむら「あら、タヌキ先輩が小箱の蓋に攻撃を当てて、閉じてしまいましたか……」

マミ「片付けなさい! すぐに片付けなさい! 今すぐ片付けなさあああああああああああああああいっ!」

ほむら「むぅ。分かりましたよぅ……」

ほむら「実際には過去に戻ってこの出来事を無かった事にすれば救出可能なのに……」

マミ「意味分からないから!?」

恭介「い、今のは本気で死ぬかと思った……」


467 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:44:41.99 oaYv80Qq0 291/569



恭介「で、でもそれが使えない以上、やはり僕の勝機は揺らがない!」

恭介「次こそは君に打撃を与え」

ほむら「『お天気従わせる下駄』~♪」

恭介「まだあるの!?」

ほむら「えー、下駄を履いて」

ほむら「あーした天気になーれ♪」

まどか(? あれって下駄占い?)

まどか(あ、下駄が落ちた……って、なんか踵の部分で立ってるし。ちょっとそれは不自然過ぎる立ち方じゃ)

――――ピシャアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

恭介「あびばばばばばばばーっ!?」

まどか「か、上条くんに落雷がああああああああああああっ!?」

ほむら「いえーい♪ 運よく一発で雷になりましたーっ♪」

マミ「ど、どういう事?」

ほむら「この下駄はお天気を操作してくれるアイテムです」

ほむら「使い方は普通の下駄占いと同じく、履いた奴をぽんっと投げてやるものでして」

ほむら「表向きなら灼熱地獄級の晴れ、裏向きならゲリラ豪雨並の大雨」

ほむら「表が右を向く横向きは首都機能停止レベルの大雪、左を向くと視程一メートル未満の濃霧」

ほむら「そして踵で立てば落雷、つま先部分で立てば竜巻が発生するのです。
    踵とつま先と横向きは妖精さん的オリジナル要素ですね」

ほむら「妖精さんの科学力なら天気を当てるぐらいお茶の子さいさいですけど」

ほむら「必ずお天気を当てるのではなく、出た結果にお天気を従わせる」

ほむら「その方が面白いので、そういう機能を付けたそうですよ」

マミ「て、天候操作……なんて力なの……!」

マミ「というかなんかどれが当たっても災害レベルじゃない!?」

ほむら「だって普通に晴れても面白くないですし……」

マミ「面白いかどうかで災害を起こさないでよ!?」

ほむら「長続きしませんから死人は出ませんよ。それより……」

恭介「けふけふけふ……」

ほむら「上条さんはもう大分へたれた様子」

ほむら「止めのもういっぱーつ♪」

まどか「……あ、下駄が裏返しに落ちた」

――――ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

マミ「……ゲリラ豪雨並の大雨ね」

マミ「私達も巻き込まれるぐらい広範囲に降り注ぐ」


468 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:48:13.13 oaYv80Qq0 292/569



ほむら「まぁ、一応占いですからね……毎度毎度雷は出ませんよ」

まどか「あの、だったら下駄を踵で立たせればいいんじゃ……」

ほむら「そんなの面白くないでしょう」

ほむら「ちゃんと下駄占いをしないと機能しないように出来ているんですから」

まどか「えー……というか、蹴り上げた下駄が踵で止まるって滅多にないような」

ほむら「まぁ、そこはちゃんと占いとしての機能を持たせるべく」

ほむら「確率はきっちり六等分。不思議な止まり方もサイコロよろしく確率通りに出ますので安心を」

まどか(それって竜巻とか灼熱地獄も六分の一の確率で起こるって事じゃ……)

ほむら「そーれもういっぱーつ♪」

まどか(と、兎に角、今度こそ……!)

まどか(やった! 踵で止まった!)

まどか(今度こそ落雷で上条くんを止められ)

――――ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

マミ「げろっぱああああああああああああああああっ!?」

まどか「って、マミさんに命中したああああああああああああああああああ!?」

ほむら「雷ですからねぇ……何処に落ちるか分かりませんし」

マミ「」プスプス

まどか「あああ……ま、マミさんが戦闘不能に……」

まどか「ぼ、ぼぼぼ、没収ーっ!」

ほむら「あらららら……」

まどか「つ、次いこ次!」

まどか「上条くんはまだ口から煙を吐いてるし、ここは一気に畳み掛けて」

ほむら「もう無いです」

まどか「……え?」

ほむら「ですから、もう攻撃に使えそうなアイテムは無いんですよ」

ほむら「流石に知恵の輪とお面ではどうにも出来ませんし、ホイッスルは私の身が危険ですし……」

まどか「え、ええええええええええええええええええっ!?」

まどか「どうすんの!? どうすんの本当に!」

まどか「このままじゃ――――」



恭介「このままじゃ上条くんが回復しちゃう、かな?」



469 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:54:53.95 oaYv80Qq0 293/569



まどか「なっ……嘘、もう……?!」

ほむら「流石改造人間。落雷一発程度のダメージは即座に回復しますか」

恭介「いや、まだダメージはかなり残っているさ……でも、君達を倒すには十分だ」

恭介「どうやらあの不思議な力はもう使えないみたいだからね……」

恭介「今度こそ、勝たせてもらうよ」

まどか「くっ……!」

恭介「鹿目さん……無駄な事は止めないか?」

恭介「君の攻撃力じゃ僕には傷一つ付かない。つまり、僕がいくら消耗していても君に僕を倒せる道理はないんだよ」

まどか「それでも、それでも私は……!」

ほむら「はいはーい。隙あらばシリアスを挿もうとしないでくださーい」

まどか「ほ、ほむらちゃん……何時までもふざけてないで……」

ほむら「今ふざけないで何時ふざけるんですか」

ほむら「それに――――今度こそ妖精さんパワーを最大限発揮出来るんですよ」

まどか「え……?」

恭介「何?」

ほむら「妖精さんパワーは何も発明品だけではありません」

ほむら「むしろその神髄は、世界が愉快になる事。お伽噺のように楽しく、漫画のように激しく現実を変えてしまう」

ほむら「つまり、フラグの回収です」

ほむら「道具は使い果たしました。タヌキ先輩は倒れ、シャルロッテさんは小箱に閉じ込められてしまいました」

まどか「あの、それ全部ほむらちゃんの所為じゃ」

ほむら「今や私は一人。そして戦う力は残っていません」

まどか「また無視された!? というか私戦力外扱いなの?!」

ほむら「ですが、それがいい」

ほむら「”さやかさんが何処かに行っている状態で”こうなっているのが良い!」

ほむら「”ピンチの時に颯爽と助っ人が来る”のにこれほどいいタイミングはありません!」

恭介「さっきから一体何を言って――――」


―――― ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……


恭介「? なんだ、この地鳴りのような……」

恭介「海から聞こえてくる……っ!?」

まどか「何、何なの……!?」

ほむら「うふふ。やはりさやかさん行方不明イベント、そしてあの時聞いた”怪しい爆音”はフラグでしたねぇ」

ほむら「思わせぶりなハッタリを言った途端これ」

ほむら「これです。これでこそ妖精さん。これでこそ――――100fの出来事ですよ」

恭介「どういう事だ!? 100fってなんの事……」

恭介「い、いや!? それよりも、う、海が盛り上がって」

恭介「何か、出る!?」


470 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 10:55:38.21 oaYv80Qq0 294/569






巨大さやか『ふん、ぬっ、ばああああっ!』





471 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:03:45.41 oaYv80Qq0 295/569



恭介「な、なんだコイツ!? 海から怪獣が現れ――――」

ほむら「どーも、さやかさん」

まどか「さ、さやかちゃんっ!?」

恭介「えええええええええええええええええええええええええええっ!?」

恭介「あれがさやか!? いくらなんでもデカ過ぎないか!?」

恭介「そりゃ面影がないとは言えないけどやっぱりデカいし、色もなんか黒光りしてて正直キモ」

巨大さやか『よっこら』

恭介「あれ、なんでさやかの右手が僕に迫って」

巨大さやか『しょ』

恭介「ぷっちーん!?」ズシンッ!

ほむら「まるで地べたを這いずる虫のように、上陸するため付いたさやかさんの手に運悪く叩き潰されてしまいましたね」

ほむら「というか、さやかさん。なんで海から現れたんですか?」

巨大さやか『好きで海から来たんじゃないから!!』

巨大さやか『ほむらが投げたダーツで吹き飛ばされた後、あたしは空の彼方まで飛んでいき……』

巨大さやか『偶々近くを通りかかった飛行機に、持っていた妖精さんアイテムのトリモチが付着』

巨大さやか『しかもうっかり手にトリモチを着けちゃったばかりに』

巨大さやか『時速1000キロの突風を浴びても飛行機から振り落とされず!』

巨大さやか『寒いわ痛いわ息出来ないわ! 危うく死ぬところだったんだよ!?』

巨大さやか『そんでもって猛風の中で指輪が外れてあたしは巨大化』

巨大さやか『トリモチも流石に支えきれなくて飛行機から剥がれ、そのまま海に落下だよ!』

巨大さやか『高度一キロ近い場所から落ちたよ! 生身だったら死んでたよ!』

ほむら(ああ、あの爆音はさやかさんが海に落ちた音でしたか)

巨大さやか『んでもって泳いでここまで来たんだよ!』バン!

まどか「うひゃあ!?(じ、地面を叩いただけで地震が……!?)」

ほむら「それはまた……面白い経験をしましたね♪」

巨大さやか『お・も・し・ろ・く・ないわーっ!』バンバンバンバンッ!

まどか「さ、さや、かちゃ、地面を叩くと、じ、地震がーっ!?」

ほむら「ちなみに私は妖精さんアイテムがあるので、地震は全然平気ですよー」

まどか「ズルい! もう何もかもがズルい!」


472 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:09:01.28 oaYv80Qq0 296/569



ほむら「それはさておき、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

巨大さやか『何!?』

ほむら「トリモチがくっついた方の手って、右手じゃありませんか?」

巨大さやか『あん? ……よく覚えてないけど、それが何?』

ほむら「右手を見れば分かるかと」

巨大さやか『右手って、一体何が……』



恭介「」ピクピク



巨大さやか『きょ、恭介ええええええええええええええええええええええええええっ!?』

ほむら「トリモチが残っていた方の手で叩かれて、上条さんくっついちゃったみたいですね」

ほむら「で、それに気付かず何回も右手を地面に叩きつけてしまった、と」

ほむら「……死んではいないでしょうけど、全身複雑骨折程度で済んでいるといいですねぇ……」

まどか「……あのー……というかこれって、解決したって言うのかな?」

まどか「なんというかシリアスは何処に」

ほむら「考えるな、感じろ!」

まどか「……あともう一つ」

まどか「さやかちゃん登場であっさり解決って事は、私達と上条くんの戦いって」

ほむら「大変だったでしょう。得る物は多かったでしょう。失った物も多かったでしょう」

ほむら「だが無意味です」

まどか「」パタリ

ほむら「あ、鹿目さん倒れちゃった」

巨大さやか『きょおおおおおおおおうすけええええええええええええええええええええええっ!!!?』

ほむら「さやかさーん、いい加減五月蝿いですよー」


473 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:10:19.14 oaYv80Qq0 297/569



――――こうして、上条さん行方不明騒動は幕を閉じました。


病院に連行した時、上条さんは全身複雑骨折+内臓破裂+皮下出血多数という素敵な状態でしたが、そこは改造人間。

たった一晩で全ての怪我から回復し、二・三日後には学校に通える事となりました。

上条さんの怪我を診察した先生は「奇跡や魔法じゃなくて、ジョークを見ているようだった」と言っており、

細胞サンプルが取りたいと言っていました。……第二第三の上条さんが現れない事を祈るばかりです。


まぁ、結果的に上条さんの怪我は治った訳ですので一件落着。

真面目だったり辛気臭かったりもしましたが、最後はそこそこ楽しめました。


――――明日は、どんな楽しい日になるでしょうかね……。




追記

家に帰った後シャルロッテさんを『何処までもドア』から救出したら、マジ泣きしながら叩かれました。
痛かったけど、可愛かったです。


474 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:11:37.41 oaYv80Qq0 298/569









































        ―――― 時は少し遡り、上条恭介が戦闘不能に陥ってから五分後 ――――


               ―――― 見滝原電波塔 先端部分 ――――



475 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:14:26.98 oaYv80Qq0 299/569



赤い髪の少女「……………」

QB「やあ、佐倉杏子。待たせてしまったかい?」

赤い髪の少女(杏子)「おっせーよ。そっちから呼び出したくせに」

QB「すまない。緊急で観測しておかなくちゃいけない事例が発生してね」

QB「お詫びとして、グリーフシードを一つ君に渡そう」

杏子「何? なんでお前がグリーフシードを持って……」

QB「最近死んでしまった魔法少女がいてね。勿体無いから回収しておいたんだ」

杏子「……どういう風の吹き回し? 何を企んでいるのさ?」

QB「別に企んではいないよ。あくまでお詫びさ」

QB「それに、君に頼みたい事があるからね」

QB「僕らに対価の前払いという文化はないけど……君達人間は、それが好ましい事だと思っているんだろう?」

杏子「時と場合と相手と頼む内容による」

QB「そういうものなのか。覚えておこう」

QB「話が逸れたね。本題に移ろう……とは言っても、そう難しい話じゃない」

QB「君にはこの街の魔法少女と協力し、ある魔女とイレギュラーの排除を頼みたい」

杏子「……何?」

QB「この街の魔法少女はここ数日間特定の魔女と戦っているんだけど、未だ撃破には至ってない」

QB「その原因は魔女自身ではなく、魔女と行動を共にしている一人の人間によるものなんだ」

杏子「人間が魔女と行動を? 意味分かんないんだけど」

QB「僕にも詳細は分からない。ただ、その人間は魔女や使い魔を保護するような行動を見せている」

QB「もしかすると、君が放置しておいた魔女も保護してしまうかも知れない」


476 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:17:34.34 oaYv80Qq0 300/569



QB「そうなるとグリーフシードの入手は困難になるだろう。僕にとっても、魔女が倒されないのは都合が悪い」

QB「この街の魔法少女は魔女と使い魔の両方を狩るから、君の方針とは反するだろうけど……」

QB「今回の状況を加味すれば、協力体制を築くのは不可能ではない筈だ」

QB「君がYESと答えてくれれば、僕がこの街の魔法少女との仲介役を担う」

QB「だからこの街の魔法少女二人と協力し、イレギュラーの排除を行ってくれないかな?」

QB「難なら僕からの報酬としてグリーフシードを、そうだね、二つあげようか」

QB「どうかな? 協力してくれないかい?」

杏子「……やけに積極的じゃないか。普段はグリーフシードの回収と勧誘の時ぐらいしか顔を見せない癖に」

杏子「しかもグリーフシードを付ける? 今まで駄目元で頼んでもくれた事なんてないのに」

QB「それだけ今回の事態がイレギュラーであり、解決しなければならない案件という事さ」

杏子「あともう一つ質問だ」

杏子「テメェ――――”あたしの知っている”キュゥべえか?」

QB「……質問の意図がよく分からないのだけど?」

杏子「惚けるな」

杏子「この街にいる二人の魔法少女のうち、少なくとも一人はあたしの知り合いだ」

杏子「そしてそいつはもう三年も魔法少女をやっているベテラン中のベテラン」

杏子「なのにテメェはさっきからこの街の魔法少女としか言わない。巴マミ、という名前を一度も出さない」

杏子「あたしとマミが知り合いだって知っていれば、出さない訳がねぇ」

QB「……ふむ。データ通り、中々の洞察力を持っているようだね」

杏子「何?」

QB「君の予想通りだ。確かに僕個人と君、そして僕とこの街の魔法少女には面識がない」

QB「僕も”キュゥべえ”ではあるけど、君と契約した個体ではないのさ」

QB「実を言えばこの辺りの区画を担当していた”前任者”が訳あって解任されてね」

QB「僕は君達人間の言葉で言えば、最近になって配属された新人なんだよ」


477 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/11 11:19:49.80 oaYv80Qq0 301/569



杏子「なんで今まで黙っていた?」

QB「……別に、言っても言わなくても問題はないと思ったからね」

QB「君達魔法少女の情報の引き継ぎは行えたし、人間に対する学習も済ませている」

QB「日常のコミュニケーションに多少の齟齬が生じる事は否定出来ないけど……」

QB「君達のフォローは今までどおりに行えるのだから、僕が以前と同じキュゥべえかどうかなんて些末な問題だろう?」

杏子「……………」

杏子「やっぱりテメェは信用出来ないな。手を組むのはなしだ。グリーフシードも、今はいらない」

QB「そうかい。それは残念だね」

杏子「だけど」

杏子「そいつがあたしの縄張りに入るのは、ちょいとウザいねぇ」

QB「……ま、僕は基本的に魔法少女の活動には関与しないからね。好きにすればいいよ」

杏子「ふふん。マミは甘っちょろいからね……この街では好き勝手出来ているかもだけど」

杏子「もしあたしの縄張りでも同じ事をしようとしたらどうなるか」





杏子「かるーくぶっ潰して、思い知らせてやらないとね?」





499 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:03:24.67 WkOubGLx0 302/569



えぴそーど じゅーに 【ほむらさんの、ひがえりけっかいめぐりのたび】


500 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:05:26.84 WkOubGLx0 303/569



―― PM12:30  見滝原中学校 二年生教室 ――




ほむら「なんやかんや、私達って全然魔女さんと会ってないと思いませんか?」




さやか「……え?」

シャル「はい?」

ほむら「ですから、シャルロッテさん以外の魔女さんと会ってないと言ったんです」

ほむら「確か当初は色々な魔女さんと出会い、そして絶望から救い出す事が目的だった筈」

ほむら「なのに私達はこの一週間近い間、ずっと遊んでいたではありませんか!」

さやか「……あー、まぁ、そういやそうだけど……」

シャル「大体アンタの所為じゃない? 地底探検にしろお悩み相談にしろ上条行方不明騒動にしろ」

シャル「そーいや上条の奴はまだ休みなのね」

さやか「うん。でもまぁ、色々あったけど元気になったみたいだし」

さやか「今週中にはまた登校出来るみたい」


501 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:07:26.14 WkOubGLx0 304/569



さやか「……えへへ。また一緒に学校に来れる……♪」

シャル「おや? 恋する乙女の笑いですかな今のはぁ?」

さやか「あ、分かる?」

シャル「うわ、コイツもう隠そうともしないわ……面白くない」

さやか「面白くなくて結構。アイツを好きだって言える事を、あたしは誇りに思うね」

シャル「うわぁ、駄目。口の中が甘ったるくなってきた……口直しにほむらのお弁当のおかず、一つ貰うわね」

ほむら「ちょ、私の唐揚げ取らないでくださいよ!?」

ほむら「というかシャルロッテさんのお弁当はちゃんと作ってあげたじゃないですか! そっちを食べてくださいっ!」

シャル「それはもう食べちゃった。アンタ達がお昼前の授業に勤しんでいる間に」

シャル「でもほむらのお弁当って美味しいからあれだけじゃ足りないのよねぇ……卵焼きもいただきっと」

ほむら「あーっ!?」

さやか「つーか、シャルちゃんなんで学校に来てんの?」

さやか「魔女たる私は授業なんか受けないって言ってたくせに」

シャル「そ、それは……ほら、あれよ、その……」

シャル「一人で留守番とか退屈だし、魔法少女に襲われないとも限らないし」

シャル「だから、昼休みとかはアンタ達と一緒に過ごそうってだけ。それだけよ……うん」

さやか「ほほーう?」

ほむら「もー、本題から逸れてますよ! あとシャルロッテさんはこれ以上私のお弁当を盗らないでください!」

シャル「つーん」

さやか「ああ、悪い悪い」

さやか「で、まぁ、あれだ。つまりこの前みたいに今日は放課後魔女の結界探しをするって事?」

ほむら「……ええ。お二人とも、特にご予定がないのなら一緒にどうでしょう?」

シャル「私に予定なんてある訳ないでしょ。そもそも私が居ないとアンタ達に結界の探知は出来ないでしょーが」

さやか「あたしも今日は特に予定なし。恭介のお見舞いも必要なくなったし」

ほむら「では、放課後は早速魔女さん捜索と行きましょう」

ほむ さや「おーっ♪」

シャル「ブロッコリーいただき」

ほむら「あーっ?!」

さやか「……流石にもう勘弁してやれよ」

\ワイワイキャッキャ/



まどか「……………」



502 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:09:23.56 WkOubGLx0 305/569



まどか(魔女が普通に学校に来ている……)

まどか(クラスのみんなと打ち解けているのは……まぁ、もうこの際どうでもいいとして……)

まどか(暴れる訳でもなく、かと言ってほむらちゃんに従属している風でもない)

まどか(対等に、普通のお喋りを楽しんでいる感じ……)

まどか(それこそ、友達みたい)

まどか(……キュゥべえは、魔女は呪いを振りまく存在だって言ってた。人の危害を加える、悪い奴だって)

まどか(でも、あの魔女は……もう悪者には、見えない)

まどか(今までも、彼女は私達と戦おうとしていない。むしろ私達を助けてくれる事もあった)

まどか(上条くんだって助けてくれた。ほむらちゃんと私達の間を取り持つ事もあった)

まどか(あれは全部演技なの? それとも本当は、魔女と人間は分かり合える関係だったの?)

まどか(もしかして――――)



            ――― どうせ二人とも××になるんだから ―――――



まどか「――――っ!」

仁美「あら? ……ま、まどかさん?!」

仁美「どうしたんですの? 顔が真っ青に……」

まどか「仁美、ちゃん……あの、ちょっと体調が悪くて……吐き気がしただけで……」

仁美「大変! 保健室に行きましょう。わたくしが肩を貸しますから」

まどか「へ、平気だよ……大丈夫……自分で行けるから……」

仁美「ですが……」

まどか「このぐらいなら、ちょっと横になれば平気……うん、平気」

まどか「保健室ぐらいなら一人で行ける」

まどか「それより仁美ちゃんは、さやかちゃん達のとこに行きなよ。あっち、かなり盛り上がってるよ」

仁美「……いえ、やはり一緒に」

まどか「大丈夫だから!」

仁美「っ!?」

まどか「あ……ご、ごめん……あの……」

仁美「……すみません。何度もしつこく言ってしまい……」

まどか「ち、ちが……そうじゃなくて……」

仁美「あの、わたくし……あちらに行きますわね……その、お大事に……」

まどか「あ……」

まどか「……」

まどか「保健室、行って……寝よう……」

まどか「……一人、で……」


503 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:12:15.87 WkOubGLx0 306/569



              ―― 時は流れて、放課後 ――

               ―― 見滝原 路地裏 ――



ほむら「はい! そんな訳でやってきました路地裏!」

さやか「はい! そんな訳でやってきたぜ路地裏!」

シャル「やってきちゃったわねぇ、路地裏」

ほむら「もー、シャルロッテさんったらテンション低いですよ?」

ほむら「もっと明るく楽しくやっていきましょうよー」

シャル「魔女の結界って、そんな楽しげハイテンションで行くもんじゃないんだけど」

さやか「どの道楽しくなる以外の展開はないだろうから、そこそこ上げといた方がいいとあたしは思うけど」

シャル「……うん、まぁ、うん。そうね。今更だったわね」

ほむら「さやかさんの言うとおりですよー」

ほむら「さて、昨日は妖精さんアイテムが少なくてちょっと苦戦を強いられました」

さや シャル(お前は何一つ苦労してないだろ……)

ほむら「という訳で、今回は妖精さんアイテムがすぐに使えるよう準備として……」

ほむら「こちらの『つながり袋』で、我が家にあります妖精さんアイテムの保管庫と次元連結」

ほむら「無尽蔵に妖精さんアイテムを使えるようにしてあります」

ほむら「ま、妖精さんがいる時点で杞憂だとは思いますが、念のためって事で」

さやか「ほむらってばちょー頼もしい」

シャル「本当に頼もしいわねぇ……巻き込まれなければ、だけど」

ほむら「まぁ、肝心な時に限って役立たないと思いますけどね」

さやか「へ?」

ほむら「こちらの話です。その時が来たらお話しますよ」

シャル「……そろそろ本題にいこうかしら」

シャル「あちらにある不思議な歪みが見えるかしら?」


504 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:15:43.29 WkOubGLx0 307/569



ほむら「見えますね。なんか水あめでも流したみたいにぐにゃぐにゃしてます」

さやか「あるって言われてから凝視して、ようやく見える薄さだけどね」

シャル「あれが魔女の結界よ。魔法少女の素質があっても、見え方としては大体そんなものね」

シャル「本来はソウルジェムで探知するから、ハッキリ見えなくても問題はないんだけど」

シャル「で、どうなの? 早速突入しちゃう?」

ほむら「しちゃいましょー」テクテク

さやか「そしてなんの躊躇いなく突入するほむらであった」

シャル「アンタ、誰に言ってんの?」


――――グニャアアアアア……


ほむら「おお、景色が変わりました。これは……薔薇、でしょうか?」

シャル「薔薇好きの魔女の結界かもね。だとしても、ちょっと多過ぎる気もするけど」

さやか「だねー。かなり歩き辛い」

さやか「ん?」

ほむら「おや、薔薇の隙間から髭を生やした奇抜な原住民さんが……」

シャル「この結界の魔女の使い魔ね」

アントニーA「ヤー! サー! ヤー!」

アントニーB「ヤー!」

ほむら「なんか薔薇の肥料にしてやるからお前ら殺すって言ってますね」

さやか「お、久々に活躍したね。翻訳眼鏡」

シャル「……鋏をシャキシャキ鳴らしながら接近中のバケモノを前に、滅茶苦茶冷静よね。私達」

さやか「地底の魔王とか空間崩壊に比べりゃ温い温い」


505 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:18:59.58 WkOubGLx0 308/569



ほむら「さてと。では、妖精さんかもーん」

妖精さんA「はいほー」
妖精さんB「おっはー」
妖精さんC「よびりーん」

さやか「お約束のように、ほむらの耳から妖精さんが出てきたね」

シャル「今日はちゃんと連れてきたのね」

ほむら「ええ。作業からあぶれて退屈していた妖精さんを三人頭の中に入れておきました」

ほむら「……私の思い出が余程愉快だったのか、なんか数百人ぐらいまで増えてますけど」

さやか「最早何も怖くない」

シャル「むしろほむらが怖いわね。大変な事にならなきゃいいけど」

ほむら「それは保障出来ませんので、何かが起こる前に事を済ませるとしましょう」

ほむら「えー、使い魔さん。魔女さんの元に連れて行ってくれませんかね? ちょっとお話がしたいのですが」

アントニーA「ヤー!」

ほむら「いや、殺すじゃなくて」

アントニーB「ヤー!」

ほむら「死ねと言われて死ぬ人はそういませんから」

アントニーC「ヤー!」

ほむら「……妖精さんアイテム『執事化光線銃』~」シビビビビビビ

アントニーA・B・C「ヤッバーダーッ!」

さやか「いきなりの光線銃シリーズである」

シャル「話し合いと言って十秒と経たないうちにこれよ……」

シャル「……で、だ」

アントニーA「失礼しました、お客さま」

アントニーB「お嬢様との面会ですね」

アントニーC「只今よりお嬢様に確認してまいります」

シャル「……なんかお髭使い魔が、スーツ姿の美形男子になったんだけど」

さやか「あ。あの子、成○くんに似てる。あっちはジャニーズの櫻○くん似だー」


506 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:19:56.24 WkOubGLx0 309/569



ほむら「これは撃たれた生き物を紳士的な外見と性格にしてしまう、なんとも恐ろしい兵器なのです」

シャル「確かに恐ろしいわね。色々な意味で」

シャル「つーか、何? あんたけっこーな面食いだったりするの?」

ほむら「別にそんな事はないと思いますけど」

ほむら「そもそもこの銃、私が作ってくれって頼んだ訳ではありませんし」

シャル「ん? 妖精さんが勝手に作ったって事?」

ほむら「いえ、姉さんが妖精さんに頼んだようです」

シャル「……あのお手伝いさんが?」

ほむら「はい。普段は姉さんが大事に持っているんですけど、今日はなんかテーブルに置いてあって」

ほむら「色々便利なのは間違いないので、勝手に拝借しちゃいました♪」

シャル「……さいですか」

アントニーC「面会の意思を確認しました。どうぞ、こちらに」

ほむら「では、お邪魔しまーす」

さやか「お邪魔しまーす」

シャル「あー、平和だわー」


……………

………




507 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:22:38.50 WkOubGLx0 310/569



アントニーA「こちらがお嬢様の部屋となっております」

ほむら「はい、ありがとうございます♪」

ほむら(部屋と言っても、単に空間の境目のようにしか見えませんけどね……)

アントニーB「では、ごゆるりと……」

ほむら「案内ご苦労さまです」

ほむら「さて。それでは魔女さんを絶望の中から救出しましょー」

さやか「おーっ!」

シャル「そういやさ、どうやって魔女の絶望を打ち消すの?」

シャル「正直、私自身どうして今みたいに穏やかな気持ちになったのか分かんないんだけど」

さやか「え、そうなの?」

シャル「なんつーのかなぁ……しらけるというか、飽きるというか」

シャル「一気に、だけど気付かないぐらい自然に冷静さが戻っていたのよねぇ」

シャル「でも、あん時のアンタら特に道具とか使ってないわよね? だからどうしてなのかなーって思って」

シャル「それともこっそりなんか使っていたの?」

ほむら「いえ、私は特に何もしていませんよ?」

ほむら「妖精さんはどうですか?」

妖精さん「それ、たぶんぼくらでは?」

ほむら「おや、妖精さんが何かしていたのですか」

妖精さん「ぼくらいると、ぜつぼーにげにげしてしまうのでー」

ほむら「絶望が逃げるのですか?」

妖精さん「だからぼくら、ぜつぼーてきなものつくれませぬ」
妖精さん「ざいりょーないと、むのーです」
妖精さん「……みすてます?」

ほむら「あら。そんな事しませんよ? 例え無能でもちゃんと構ってあげますから」

ほむら「ほら、お腹こちょこちょ~♪」

妖精さん「あ、ひゃ、あひひひひーっ!」

シャル「……楽しんでいるところ申し訳ないが、何を言ってるのかサッパリ分かんないわ」

さやか「あたしは最近少しだけ分かるようになってきたよ」

シャル「マジで!?」

さやか「うん。フィーリングとノリで」

ほむら「はいはい。お二人とも、立ち話はそれぐらいにしましょう」

ほむら「折角お招きいただいたのですから、お嬢様を待たせてはいけませんよ?」

さや シャル「ほーい」


508 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:24:34.22 WkOubGLx0 311/569



ほむら「あ、そうだ。皆さんに翻訳眼鏡をお渡ししておきますね」

さやか「あいよー」

シャル「なにこれ? 掛ければいいの?」

ほむら「それで大丈夫です」

ほむら「では、今度こそお邪魔しまーす」


――――グニャアアアア……


ほむら「んーっと、何処に……あ、いましたいました」

ほむら「なんか頭の部分がドロドロしていて、背中に蝶の翅が生えている……」

ほむら「変わった姿の方ですね」

シャル「魔女は大体あんなもんよ。自分で言うのも難だけど、私の姿ってけっこーマシな部類だから」

さやか「へー」

魔女【あ、あの、どちら様でしょうか……?】

シャル「うおっ!? な、なんか台詞が眼鏡の下に字幕で現れてる……これが翻訳かぁ……」

ほむら「どうもこんにちはー。私は暁美ほむらと申します」

ほむら「あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

魔女【え、えっと……げ、ゲルトルートと言います……】

魔女(ゲルト)【あれ? なんで普通に会話……あれ? ええっ?】

ほむら「ゲルトルートさん。カッコいい名前ですね」

ほむら「えー、今日こちらを尋ねたのは色々とお話ししたい事がありまして」

ゲルト【お、お話、ですか?】

ほむら「とはいえ時間もあまりないので手短に言いますと」


――― かくかくしかじか ――――


ほむら「という訳なのですが、どうでしょう?」

ゲルト【そんな……人間に戻れるなんて……!】

ゲルト【ほ、本当なのですか!?】


509 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:26:27.78 WkOubGLx0 312/569



シャル「証拠は一応この私。魔力の形で信じてもらえないかしら?」

ゲルト【! た、確かに……あなたの魔力は、魔女のそれ……】

ゲルト【あなた達は、一体……】

ほむら「凄いのは私達ではなく、彼等ですよ」

妖精さんA「いま、ほめられた?」
妖精さんB「でもまだなにもしてないのでは?」
妖精さんC「おもいあたるふしなし」
妖精さんD「きおくにございませぬ」

ゲルト【そ、そうなの……】

ゲルト【あの、疑う訳じゃないけど……本当に彼等があなたを……?】

シャル「姿はあんなだけど、実力は本物よ」

ゲルト【はぁ……】

ほむら「それで、どうします? 人間に戻りたいですか?」

ほむら「戻りたい場合、ボディは私を素体にしたクローン、さやかさんを素体にしたクローン」

ほむら「そして自分でも把握出来ないぐらい深層の記憶からプリントアウトした、本来の姿のどれかで選べますけど」

さやか(あれ? 今あたしの名前……)

ほむら「それでどうします? どれを選んでも妖精さんがすぐにやってくれますよ」

ゲルト【……少し、考えさせてください】

ゲルト【いきなり戻れると言われても、その、どうしたらいいのか分からないですし……元の姿、覚えてませんし……】

ゲルト【た、魂を弄られるのは、ちょっと怖いと言いますか……】

シャル「あー、まぁ、ほいほいとは決断出来ないわよね」

さやか「シャルちゃんはほいほい決断したと思うけど」

シャル「私、昔から思い切りだけはいい方だから」

ほむら「そういう事なら無理にとは言いませんよ。何時でも出来ますし、一生に関わる事です」

ほむら「それに、一度キュゥべえに騙された訳ですしね。慎重になるのは良い事ですよ」

ほむら「決意した時、改めて言ってくださいね」

ゲルト【はい……】


510 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:32:11.82 WkOubGLx0 313/569



ほむら「それでは次の結界に行くとしましょう」

ほむら「一人でも多くの魔女さんをお助けしないといけませんからね!」

ゲルト【えっと……が、頑張ってください】

ゲルト【私はここで待っていますから、その……また来てください……】

ほむら「? 何を言っているのですか?」

ほむら「あなたも一緒に行くんですよ」

さや シャ ゲル「え?】

ほむら「いや、だって結界にいたら魔法少女に襲われるかも知れないじゃないですか」

ほむら「それに何時人間に戻りたくなるか分かりませんし」

ほむら「だったら家に居候してもらった方が何かと都合がいいでしょう?」

ゲルト【ええええええ!?】

ゲルト【でも、でも、その、結界から出るのはちょっと、人の目とか、いえ一般人には見えませんけど、でも】

ほむら「ま、どれだけ渋ろうと無駄ですけどねー」

ほむら「妖精さんアイテム『ハンドパワー手袋』~」

ほむら「これを嵌めて……念力発動」

――――ぱりーん

さやか「あ、結界が割れた」

シャル「念力って便利ねー」

ゲルト【ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?】

アントニーA「お嬢様! 大丈夫ですか!?」

アントニーC「お怪我は?!」

ゲルト【う、うん。平気……あなた達も外に出てきたのね……】

ゲルト【というか今更だけど彼等を人間に変えたのって……】

ほむら「はい、妖精さんです」

さやか「妖精さんだよ」

シャル「正確には妖精さんアイテムを使ったほむらだけどね」

ゲルト【信じてない訳じゃないけど、本当だったんだ……】

ほむら「さてと、それでは街に行くとしましょう」

ゲルト【え? えーっと、その、やっぱりまだ覚悟が出来】

ほむら「念力~」

ゲルト【ちょ、か、身体が浮いて】

ほむら「さあ、街へれっつごーでーす♪」

ゲルト【あ、あーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーー!?】


……………

………




511 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:35:22.05 WkOubGLx0 314/569



杏子(久しぶりの見滝原だな……)

杏子(けっこう離れていた気がするけど、あんまり街並みは変わってないか)

杏子(……あの店潰れてないな。あとで飯でも”もらおう”かね)

杏子(ま、今は腹減ってねぇからいいけど)

杏子(さて……魔女と協力してるって人間はどいつの事かねぇ……)

杏子(キュゥべえの奴から写真は貰ったけど、黒髪眼鏡の中学生なんていくらでもいるだろうし)

杏子(……つーか、マミと顔合わせるのも不味いんだよなぁ。立場とかやってきた事とか考えると)

杏子(あー、どうしたもんかなぁ)

杏子(魔女が仲間ってんなら結界を虱潰しに探せば何時か見つかるか?)

杏子(いや、マミと遭遇する可能性も高くなるし、この方法は止めといた方がいいか)

杏子(そもそも見滝原は風見野とかと比べて魔女が多過ぎだし)

杏子(そいつが魔女とか使い魔を連れてその辺フラフラしてりゃ分かりやすいけど、そんな事ある訳が)



ほむら「あ! 見てください! あそこで福引やってますよ!」

ゲルト【ゲル!? ゲルルルルルッ!?】

さやか「ちょ、ほむら走るなって! げるげるが振り回されてるから!」

さやか「というかいい加減念力解除しろよ!」

ほむら「あ、忘れてました」

ゲルト【ゲルゥ……ゲルルゥ……】

さやか「あー、よしよし。怖かったなー」

さやか「使い魔たちはほむらの家に行ってもらってるから、あんたは今一人ぼっちだもんねー」

さやか「大丈夫。あたしが傍にいるから。ね?」

ゲルト【ゲルゥ……】

シャル「つーかアンタ福引の券なんか持ってるの?」

ほむら「持ってませんけど、景品とか見るだけでもワクワクしません?」

シャル「分からんでもないけど、真面目に結界探せよ」

ほむら「それはシャルロッテさんの役目です」

シャル「おい」



杏子「……………」

杏子(ま、魔女だあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)



512 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:37:05.37 WkOubGLx0 315/569



杏子(え、何アレ? なんで魔女が結界の外に出てきてんの? つーか出ちゃって平気なもんなの?)

杏子(しかもなんかアイツらふつーに会話してるっぽいんだけど!? 魔女って喋れたのかよ!?)

杏子(というかなんでアイツ等結界の外に魔女を連れ出し……)

杏子(だ、ダメだ……ツッコミと理解が追い付かねぇ!)

杏子(いや、ほんとどうしよう……あまりにも常識はずれ過ぎてどうすりゃいいのかサッパリ分からん……)

杏子(あ、なんか脇道に入って行った……)

杏子(……うん。今回は見なかった事にして、もうちょっと普通な時に接触し――――ん?)



マミ「あの子たち、何処に行くのかしら……」

まどか「というか、魔女が露骨に結界の外に出てきてますけど」

マミ「今更感が否めないけど、大問題よね……」

マミ「……とりあえず尾行しましょうか」

マミ「あの魔女が……あの姿を見ているとそんな心配はない気がするけど、人を襲わないとも限らないからね」

まどか「……そう、ですよね……」

まどか「悪い魔女だったら、倒さないと……」

まどか「だって、それが……」

マミ「……鹿目さん?」

まどか「……大丈夫です。追いましょう」

マミ「え、ええ……?」



杏子「……………」

杏子(ま、マミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?)


513 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:38:31.67 WkOubGLx0 316/569



杏子(おいおいおい、なんでこんなタイミングで……)

杏子(いや、そういやキュゥべえも言ってたな。マミがある魔女とここ数日ずっと戦っているって)

杏子(一緒に居たピンク頭は仲間かね。なんか根暗そうな奴だったな)

杏子(で、その戦っている魔女ってのがさっき暁美ほむらが連れてた奴か? そんな強そうには見えなかったけど……)

杏子(いや、一匹の魔女と仲良くなれるのなら、他の魔女とも仲良く出来ても可笑しくない)

杏子(だとすると、暁美ほむらは他に何体もの魔女と協力しているのか?)

杏子(キュゥべえはそんな事言ってなかったが……アイツは信用出来ないし)

杏子(……やっぱり追い駆けるか)

杏子(どうやら思っていたよりもずっと手強そうな相手だ。情報を仕入れねぇとな)

杏子(それにマミ達と戦闘になれば、相手の戦力がどの程度か分かる)

杏子(あと双方弱ったところを漁夫の利、つーのもアリか)

杏子(ま、欲を出したらやられかねないから、こっちはあったらいいなぐらいで)

杏子(慎重に、追跡させてもらうとしようかね……)


……………

………




514 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:40:52.28 WkOubGLx0 317/569



              ―― 見滝原某廃工場周辺 ――


ほむら「ここに魔女の結界があるのですか?」

シャル「気配は感じる。多分あの廃工場にいると思うんだけど……」

シャル「直線距離ではそう遠くないけど、道は入り組んでるし」

シャル「真っ直ぐ行けそうな道は段ボールとか冷蔵庫とかで塞がってたりするし……誰よこんな所に不法投棄したやつ」

さやか「いやはや見滝原の住人としてお恥ずかしい限りです……」

ほむら「まぁ、面倒でも無視は出来ませんし、遠回りするなり脇道を探すなりしませんとね」

さやか「だねー」

ゲルト【あの、美樹さん……少しよろしいでしょうか】

さやか「ん? げるげる、どうした?」

ゲルト【あちらに工場へと続く脇道があるようなのですが……】

さやか「お? おお、確かに」

さやか「ねー、みんなーっ。げるげるがあっちに行けそうな道を見つけたよー」

シャル「え? あ、ほんとだ。柱の陰に隠れてて見えなかったわ」

シャル「……うん、間違いない。あの先の廃工場に魔女がいる」

ゲルト【私も感じます】

さやか「なら、突入だな」

ほむら「総員、突撃ーっ!」

シャル「戦うつもりなんて微塵もない癖に勇ましい事で……」

さやか「いや、ここは乗っかるべきシチュとみたね」

さやか「突撃じゃーっ!」

シャル「ああ、もう。さやかまで……」

シャル「……私らはゆっくり行こうか」

ゲルト【あ、はい】


515 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:43:25.63 WkOubGLx0 318/569



            ――― 廃工場内 ―――


シャル「んー……あのテレビの山の向こうが結界みたい。というか、テレビ自体が結界の境目ね」

さやか「今回は随分と分かりやすいね」

ゲルト【ですねー。ああもハッキリと境目が分かるのは、珍しいかも知れません】

ほむら「では、早速お邪魔するとしましょう。もしもーし」

使い魔【……】ニュゥ

ほむら「おお。結界から変な人形が出てきて――――きゃっ!?」

ゲルト【あ、暁美さん!?】

シャル「あー、連れ去られたか……まぁ、まだこっちは現実側で、電波の所為で妖精さんを出せなかったからね」

シャル「多少乱暴な結果は仕方ないか」

さやか「んじゃ、あたしらも向こうに行こうか」

シャル「行きましょーかね」

ゲルト【ま、待ってください!】

ゲルト【その、電波がどうとかはよく分かりませんけど……ちゃんと準備した方が……】

ゲルト【あなたも元魔法少女なら、結界内がどれだけ危険か分かって……】

シャル「いや、妖精さんがいるからね。外より結界内の方が却って安全だから」

さやか「どんな不条理でも起こるからなー」

ゲルト【ど、どういう事ですか?】

シャル「論より証拠。百聞は一見にしかず」

さやか「話すより見た方が早いよ」

さやか「ほら、行こう。おじゃましまーす」

ゲルト【は、はぁ……では、おじゃまします……】

――――ずるり

ゲルト【ずるり?】


516 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:44:55.25 WkOubGLx0 319/569



ゲルト【……………】

ゲルト【ちょ、なんか此処足場がなくて下に落ちるぅぅぅうううううううううっ!?】

さやか「あー、またこの展開かよ……」

シャル「これで何度目よ、全く」

ゲルト【なんでお二人はそんな冷静なんですかぁ!?】

ゲルト【あぶっ!?】

さやか「あだっ!」

シャル「いでっ」

ゲルト【うう……なんか下が柔らかなクッションで助かりました……高さも大してなかったし……】

ゲルト【って、あれは暁美さんでは!?】

シャル「ん?」

ほむら「……………」

女の子?【……………】

人形【……………】

さやか(おお、確かにほむらだ。傍には……女の子? 多分魔女と、さっきの人形モドキがいる)

さやか(あれ? なんか足元に散らばってんな。機械の部品……?)

ゲルト【あ、暁美さん! 無事で――――】


箱の魔女(エリー)【びええええええええええええええええええええっ!】

使い魔たち【……………】オロオロ


ゲルト【……え? なにこれ?】


517 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 17:59:00.52 WkOubGLx0 320/569



ほむら「あ、皆さん……」

シャル「何? どったの?」

ほむら「えーっと、私、先程無理やり結界内に引き込まれましたよね?」

さやか「うん」

ほむら「それでまぁ、使い魔さんが私を魔女さんの元まで連れてきたのはいいんですけど……」

ほむら「本来そこで魔女さんがトラウマの記憶を見せるそうなのですが」

ほむら「なんか私に全然トラウマがなくて、魔法が全く通じなかったとか」

さや シャル「……………あー」

ゲルト【え!? 納得するのですか!?】

ほむら「本題はここからで、その魔法って演出の都合憐れな犠牲者を上から落とし、宙に浮いた状態にして発動するそうで」

ほむら「でも私は魔法が効かなかったので、そのまま高所から落下」

ほむら「で、運悪くエリーさん……あたらの魔女さんの真上に着地」

ほむら「それだけならまだいいんですけど、その衝撃でお部屋兼パソコン器材である箱が壊れてしまったらしく」

ほむら「……まぁ、HDD物理的に破損と言いますか」

シャル「死んで詫びろ」

ほむら「酷い!?」

さやか「不可抗力なのは分かるけど、それは流石に……」

ほむら「私一応被害者なんですよ? 襲われたんですよ?」

ほむら「慰める訳でも励ます訳でもなく貶すだなんて、お二人の人格を疑います!」

さや シャル(どーせ微塵も恐怖なぞ感じてない癖によく言うわ……)

ほむら「そこ! 怖いなんて欠片も思ってない癖にと言いたげな顔してますよ!」

ほむら「確かに全然怖くなかったですけど、襲われたという事実が大事なんですから!」

さや シャル(それを言っちゃダメだろ……)


518 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:01:00.34 WkOubGLx0 321/569



ゲルト【ええっと、その……ほ、ほら、泣き止んで。ね?】

エリー【えぐっ、えぐっ……だ、だって、だって……】

ゲルト【新しいパソコンは、その……わ、私が買ってあげるから!】

エリー【だって……】

エリー【あのパソコンには……パパとママの、写真データが……】

さや シャ ゲル「……うわぁ】

ほむら「ちょ、ゲルトルートさんまで敵に回らないでくださいよ!?」

ゲルト【いえ、その……命の恩人にこう言うのもアレですけど……これは……】

ほむら「ああもう! 分かりました! 直せばいいんでしょう!」

ほむら「という訳で妖精さんかまーん!」

妖精さん×4「はいほーい」

ほむら「妖精さん。こちらのパソコンが壊れてしまったのですが」

ほむら「内部のデータ諸々も含めてどうにか直せませんかね?」

妖精さんA「らくしょーですな」
妖精さんB「あふたーけあつけます?」
妖精さんC「おもいでたいせつですから」
妖精さんD「にどとこわれぬように?」

ほむら「あー、もうどんどんやっちゃってください。妖精さんにオールお任せしちゃいますから」

さやか「ちょ、おま」

シャル「何言ってんの? 何投げっぱなしなの?」

ほむら「皆さんが私が悪いって言ったんでしょー」

ほむら「だったら誠心誠意、全力でお答えするだけですよーだ」

シャル「コイツ拗ねやがった!?」

さやか「え、えらいこっちゃ……」

ゲルト【あの……どういう……】


519 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:02:18.20 WkOubGLx0 322/569



ほむら「それでは作業開始してくださーい」

妖精さん×50「はーい!」

ゲルト【あ、妖精さんが動きだし……って、なんか増えてませんか!?】

ほむら「そりゃ増えますよ。妖精さんですもの」

ゲルト【妖精って増えるものじゃないでしょう!?】

エリー【あ、ああ……!?】

ゲルト【? あの、どうし……!?】

ゲルト【こ、壊れていたパソコンが、どんどん直っていく!? 凄いスピードで……】

ゲルト【凄い! もう直ってしまいましたよ!?】

エリー【嘘……ほ、本当に直った……!?】

妖精さんE「なかのでーたも、もとどーりにしてありますが?」

エリー【本当に!?】

エリー【良かった……良かった……】

エリー【これで、パパとママの事、ずっと忘れないでいられる……!】

ゲルト【……あなた……】

シャル「あー、その、なんだ。感動的な場面のとこ悪いけど……」

シャル「あれ、そろそろ止めた方がいいと思うんだけど」

エリー ゲル【え?】

――――トテトテカンカンドカカカンギュリリリリリンッ!

エリー【ちょ……なんか私のパソコンめっちゃ大きくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?】

ゲルト【というか形が既にパソコンのそれじゃないんですけど!? なんか球体みたいなのなんですけど!?】


520 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:05:50.48 WkOubGLx0 323/569



ゲルト【すとーっぷ! 妖精さんストーップ!!?】

ほむら「もう手遅れですよ。そろそろ完成します」

ゲルト【感動に浸っていた時間十秒となかったですよ!? 時間制限厳し過ぎですからーっ!?】

エリー【あ、ああ……そうこうしている内に、わ、私のパソコンが……】

エリー【直径500メートルはありそうな、巨大なミラーボール型機械に……】

ゲルト【何処からこれだけの材料が!?】

さやか「なんつーかアレだな……マザーシップと呼びたくなる形してるね、これ」

シャル「ああ、確かに。この形はマザーシップよね」

エリー【なんで母船って呼称すんのよ!? 確かにしっくりきたけど!】

妖精さんE「そーすうにひゃくのほうだいに、ぼうぎょすくりーんもてんかい」
妖精さんE「したから、まちひとつやけるたいほーつけました」
妖精さんE「ひこうどろーんや、よつあしようさいもとうかできまっせ」
妖精さんE「いまならおまけで、もうきゅうきつけますが?」

エリー【要らないから!? 魔法少女と戦うにしたってそこまでの防衛機能は要らないから!?】

エリー【ていうかあと九機も作ってあんの?!】

シャル「逆に何を相手にしたら対等なのか気になるわ」

さやか「地球ぐらいなら楽々と侵略出来そうだよね」

ほむら「どーせ死人は出ないでしょうけど」

ゲルト【いやいや出ますよね!? 町一つ焼いたら何万と死にますから!?】

ほむ さや シャル「いや、無いから」

ゲルト【なんでハモるんですかぁ!?】


521 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:07:35.41 WkOubGLx0 324/569



エリー【と、兎に角! 元の普通のパソコンに戻してよ!】

妖精さんF「こうげききのう、いりませんか?」

エリー【要りません!】

妖精さんG「けいの、じゅっちょうばいのけいさんのうりょく、いりませんか?」

エリー【要りませ……ん?】

妖精さんH「きばんにおべんきょうおしえたです」
妖精さんI「やればできるこです」
妖精さんJ「けいなんて、ゆとりですし」
妖精さんK「へいれつけいさんしかできませんもん」

エリー【……え、けいって……スーパーコンピューターの『京』?】

妖精さんK「そー」

エリー【……今の私のパソコン、メモリってどれぐらい?】

妖精さんL「どーだっけ?」
妖精さんM「よたからさきは、しりませんもので」

エリー【よた……ヨタ……】

エリー【……ふひっ】

ゲルト【え? あの、エリーさん……?】

エリー【ふひひ】

エリー【ふははははははははははははははははははははははっ!】

エリー【気に入った! このパソコン気に入ったわ!】

エリー【是非とも使わせてもらうわよ!】

妖精さんN「まじょさんによろこんでもらえたー」
妖精さんO「がんばたかい、ありましたなー」

エリー【ふっはははははははははははははははははははははは!!!】

シャル「……あれ、絶対悪い事に使うわよね」

さやか「ペンタゴンとかにハッキングしそうだよね」

ほむら「ま、妖精さんの発明品ですから本当に悪い事にはならないでしょう」

ゲルト【いやいやいやいや!? 駄目ですから! ハッキングとかいけませんから!?】

エリー【とうっ!】

ゲルト【ああ!? あの人がダイナミックにジャンプしてパソコンの上まで跳んで……】

エリー【ドッキング!!】ガキーン!

ゲルト【合体したああああああああああああああああ!?】

ほむら「流石妖精さん。遊び心は忘れていませんね」


523 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:09:05.78 WkOubGLx0 325/569



エリー【おおおおお……パソコンを、自分の思うがままに動かせる……!】

エリー【私は! 究極のパワーを手に入れた! もうモヤシだの引き籠りだの言わせない!】

エリー【じゃ、早速マイクラ起動しながらネットサーフィンでも……】

シャル「いきなり引き籠ってんじゃん」

さやか「気に入ったみたいで何より」

ほむら「流石にあのパソコンを外に出すのは問題ありそうなので、外には連れ出せませんねー」

ほむら「ま、あれがあれば魔法少女に負ける事もないでしょうし、絶望漬けからも解放出来たようですし」

ほむら「今日はこのぐらいで帰るとしましょう」

ゲルト【えっ!?】

エリー【うん! ありがと! 今度一緒にオンラインでゲームしよーねー♪】

シャル「ん、しようね」

さやか「じゃ、ばいばーい」

ゲルト【ええええええええっ!? 投げっぱなしなの!? あの状態のままでいいの!?】

シャル「まぁ、大体何時もの事よ。慣れなさい」

ゲルト【えええぇえええええええ……】


……………

………




524 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:11:19.28 WkOubGLx0 326/569



ほむら「さて、結界から出ましたし、次の魔女さんを探しに行くとしましょうか」

さやか「だねー」

ゲルト【ほ、本当に良いのでしょうか? あれで……】

シャル「不可抗力以外で人を傷付けたらパソコン没収って言っといたし」

シャル「あれはあれで、本人は幸せそうだからいいんじゃない?」

ゲルト【はぁ……まぁ、私は皆さんに助けてもらった身ですし、何も知らないのであまり言えませんけど……】

ゲルト【――――っ!?】

ほむら「おや? どうしましたか?」

シャル「ああ、この気配……何時もの二人組が来たみたい」

さやか「ふーん」

ゲルト【お、落ち着いている場合じゃないです!】

ゲルト【魔法少女が……私達を狩る者が――――来ます!】



マミ「よ、ようやく見つけたわ……」ボロッ

まどか「ようやく、見つけたよ……」ボロッ



ほむら「……………」

さやか「……………」

シャル「……………」

ゲルト【……………】

ゲルト【あれ?】


525 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:13:07.79 WkOubGLx0 327/569



ほむら「どういう訳かお二人ともボロボロですね?」

マミ「う、うふふ……いけしゃあしゃあとまぁ……」

マミ「あなた達を尾行してこの廃工場まで来たはいいけれど」

マミ「その後思いっきり道に迷って」

マミ「鹿目さんとは離ればなれになるし、開けっ放しのマンホールから下水に落ちるし」

マミ「グリーフシードのストックがないから魔法少女の力も迂闊に使えず」

マミ「ネズミとかGの大群に襲われて」

マミ「どうにかあなた達を見つけたら、今度は段差で蹴躓いて!」

マミ「こんな不運の連続、あなた達が関与してなきゃ可笑しいわ!」

ほむら(……否定は出来ませんねぇ)

ほむら(私達を尾行してきたようですが、トラブルの所為で魔女の結界に中々入ってこれず)

ほむら(お陰でエリーさんとまったりお話出来た訳ですから、妖精さん的ご都合主義じゃないとは言えません)

ほむら(とはいえ、証拠がある訳無いので)

ほむら「何をおっしゃいます。全部偶然でしょう」

マミ「むっきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

さや シャル(いけしゃあしゃあとまぁ……)


526 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:15:45.40 WkOubGLx0 328/569



ほむら「それで? 私達を尾行してきて、何かご用ですか?」

ほむら「よもやゲルトルートさんを退治しようなんて思ってませんよね?」

マミ「……ゲルトルートというのが、その魔女の事だと言うのなら……もしそうだとしたら?」

ゲルト【っ……!】

ほむら「彼女とも既に友達になっていますからね。はい分かりましたで引き渡す訳にもいきません」

ほむら「妖精さんアイテムを使い、あなた達を潰させていただきましょう」

ゲルト【あ、暁美さん……】

マミ「……冗談よ」

まどか「えっ?」

ほむら「おや? これは予想外の反応ですね……何か悪い物でも食べましたか?」

マミ「……本当は、最初から分かっていたのかもね。あなたが悪い人じゃないって。ちょっと……ええ、
   ちょっとだけいたずらっ子なだけって」

さや シャル(ちょっとじゃないよなぁ……)

マミ「とにかく、あなたは悪い人じゃない」

マミ「そしてあなたは、魔女と和解する力がある。そうなのよね?」

ほむら「んー、和解と言うより本心を呼び戻すという感じですし、そもそも私の力ではないのですが……」

ほむら「大方その認識で問題はないかと」

マミ「……私だって、別に魔女は存在そのものが悪だなんて思ってないわ」

マミ「人を襲う魔女は当然放ってはおけないし、分かり合えない以上戦うしかないのは今も変わらないけど……」

マミ「だけど魔女と分かり合えるのなら……私はその方がいいと思うの」

マミ「……私からこんな事を言うのは図々しいって、十分に承知している。なんて恥知らずだって思うかも知れない」

マミ「でも……お願い」

マミ「私達と、仲直りはしてもらえないかしら……?」

ほむら「ほう」


527 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:38:50.94 WkOubGLx0 329/569



ほむら(昨日の段階で敵意はあまり無いように感じていましたが……いや、これは嬉しい誤算です)

ほむら(まさかここまで関係が改善していたとは)

ほむら(この様子ですと、今後巴先輩たちが魔女退治を行うとは思えません。むしろ私達に協力してくれるでしょう)

ほむら(絶望漬けの魔女さんは人を襲うのでのんびりはしていられませんが……)

ほむら(一先ず、見滝原の魔女さんに救いの手が間に合わないという事は無くなります)

ほむら(それにメンツが多くなれば楽しさも倍増ですし♪)

ほむら「恥知らずだなんてとんでもない。自分から歩み寄ってきた人を、一体何故貶せると言うのですか」

マミ「! な、なら――――」

ほむら「こちらの答えは決まっています」

ほむら「是非ともこれからは私達とお友達に――――」


528 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:41:53.87 WkOubGLx0 330/569




「こんなの、可笑しいよ」



マミ「……?」

シャル「な、に……?」

さやか「えっ?」

ゲルト【? ???】

ほむら「……何か言いたい事があるのですか?」

ほむら「――――鹿目さん」

まどか「……言いたい事も何も、可笑しいから、可笑しいって言ったんだよ」

マミ「か、鹿目さん? あの、どういう……」

まどか「マミさん。私達は、魔法少女ですよね?」

まどか「だったら、なんで魔女と和解するんですか?」

まどか「魔女を退治するのが、魔法少女の使命じゃないですか」

マミ「そ、それは、確かにそうだけど……」

マミ「でも、戦いだけが全てじゃないでしょ?」

マミ「確かに私たちの勘違いで戦いになってしまったけど、でも、平和的に解決出来るのならその方が」

まどか「じゃあ私達が倒してきた魔女は?!」

まどか「仕方なかったって言うつもりですか!?」

マミ「っ……!?」

まどか「違う、違う、違う違う違う違う。騙されない、私は騙されない……」

まどか「魔女と和解なんて出来ない、魔女は悪い奴……」

まどか「魔女を倒す魔法少女は正義の味方なの……悪い魔女を倒して、みんなを守る、正しい事なの……」

まどか「だから魔法少女は、魔女にならない……」


529 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:42:37.80 WkOubGLx0 331/569





まどか「私は……誰も殺して、いない……!!」




530 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:44:41.96 WkOubGLx0 332/569



ほむ さや シャル「!?」

ほむら(まさか、このタイミングで……!?)

マミ「鹿目さん、落ち着いて!」

マミ「確かに、私達が今まで倒してしまった魔女を犠牲として割り切るのは難しいと思うし、しちゃいけないと思うわ」

マミ「だけど……」

まどか「……そうですか……そうなんですね……」

まどか「マミさんも、ほむらちゃん側の人だったんだ」

マミ「え?」

まどか「私は騙されない! 魔法少女が魔女になるなんて嘘には騙されない!」

まどか「うん、そうだ。きっとほむらちゃんもマミさんも、あの妖精って使い魔に操られているんだ」

まどか「魔女を操っているんじゃなくて、使い魔に操られてそう言わされているんだ」

まどか「だから全部、嘘。悪い魔女と悪い使い魔が言う事は全部嘘。全部全部ぜーんぶ嘘ッ!!」

まどか「……そうだ。私が、魔女と使い魔を全部倒せばいいんだ」

まどか「そうすれば、みんな居なくなれば、ほむらちゃんもマミさんも正気に戻って」

まどか「――――あは」

まどか「あ、あははははははははは、あはは、あはははははははははははははははははっ!!!」

――――シャキンッ!!

さやか(!? へ、変身した……まさか戦うつもり!?)

ほむら「ちっ! 妖精さんアイテム――――」



まどか「まずはそこの魔女から!!」

ほむら「『あっちいってホイ』!!」



――――バシュンッ!

さやか「う、うわあっ!?」

シャル「躊躇いなく大量の矢を撃ってきたわね! ほむらの使った道具のお陰で、全部変な方に飛んでいっちゃったけど!」



まどか「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」



マミ「って、ついでに鹿目さんも吹っ飛んでるわよ!?」

ほむら「そんな厳密な選択性のある道具じゃないですからねコレ。仕方ありません」


531 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:47:33.84 WkOubGLx0 333/569



ほむら「でも……あー……屋根を突き破って空の彼方に……見えなくなっちゃいましたか」

ほむら「その場しのぎの対応とはいえ、ちょっと好ましくないかも知れません……」

マミ「ど、どうするのよ!?」

マミ「いえ、そもそも鹿目さんは一体どうしてあんな……」

ほむら「どうしても何も……普通は、誰だって殺人鬼にはなりたくないでしょう?」

マミ「さ、殺人鬼!?」

ほむら「よもや忘れてはいませんよね? 魔法少女が魔女になるってお話。鹿目さんもさっき言ってましたし」

マミ「わ、忘れるも何も……そんな事、ある訳無いじゃない!」

マミ「キュゥべえだって、そんな事はないって言っていたわよ!」

ほむら「それ、嘘ですよ?」

ほむら「或いはハッキリ断言された訳ではないんじゃないですか?」

ほむら「例えば『暁美ほむらや魔女の言葉をどうして信じるんだい?』みたいな事を言われたとか」

マミ「それ、は……!」

ほむら「どうやら後者のようですね」

ほむら「ま、信用している相手にそう言われたら、都合よく解釈してしまうのも無理ないでしょうけど」

ほむら「ソウルジェムの秘密を知っていればまだ……ああ、そういえば巴先輩は知りませんでしたか」

ほむら「成程。あなたはキュゥべえさんを信用出来ても、鹿目さんには信用出来なかった、という事なのでしょう」

ほむら「かと言って自分が無自覚に何人も殺してきたなんて、到底受け入れられない」

ほむら「どちらも信じられない。だけどどちらかを信じなければならない」

ほむら「だったら『正しさ』に酔いしれよう……迷惑極まりないですけど、個人的には同情の余地はあると思いますね」

マミ「そんな……そんな事……!?」


532 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:52:26.84 WkOubGLx0 334/569



ほむら「……すんなり受け入れてくれるとは思っていません」

ほむら「本来は、ええ本来は……もう少し時間をかけて伝えるべきだったのでしょうけど……」

ほむら「あなた達と初めて出会ったあの日に、さやかさんがぶちまけてしまうですもん。どうにもなりませんよぅ」

シャル「つまり大体アンタの所為って事よ! このこのこのこのっ!」バシバシバシバシ!

さやか「ご、ごめんなさぴぃっ!? 反省してまぶっ! 反省しがっ、お尻ぺんぺんは止めぎゃひっ!?」

ゲルト【……】

マミ「……」

ほむら「まぁ、後でさやかさんには私からの罰も受けてもらうとして」

さやか「え!? お尻ぺんぺんだけじゃ許してもらえなぎゃひぃ!?」

ほむら「それより、あなたはどうです? この話、信じてもらえませんか?」

マミ「そんなの……そんなの、信じられる訳が……ないじゃない!」

マミ「魔法少女が魔女になるなんて、魔女が、人間だったなんて……」

マミ「み、美樹さんが言ったのは、その場しのぎで……」

ほむら「否定するのは自由です。私を嘘吐き呼ばわりするとしても、あなたの事をどうこう言う気はありません」

ほむら「例えそれが真実を知ろうと立ち向かった結果であれ、楽な方へ逃げた結果であれ、
    魔法少女の成り立ちを思えば私如きにあなたを非難する資格などないでしょうから」

ほむら「ですが、立ち向かった結果ではなく、逃げるために否定するのなら」

ほむら「あなたはいずれ真実に取り囲まれ、獄中の如く苦悶を味わいますよ?」

マミ「あ……ぁ、あ……!?」

マミ「っ!!」

ほむら「……逃げてしまいましたか」

ほむら(予測していた反応とはいえ、やれやれ……後でフォローの一つでも入れないといけませんかね)


533 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:53:54.29 WkOubGLx0 335/569



ほむら(出来ればこの状況は妖精さん濁に出来る結界内で済ませたかったのですが……)

ほむら(ま、起きてしまったものは仕方ありません。切り替え切り替えっと)

ほむら「シャルロッテさん、ゲルトルートさん。今更ですが、先の鹿目さんの攻撃でお怪我はありませんか?」

ゲルト【え、ええ……私は、大丈夫です】

シャル「こっちも問題ないわ」

さやか「」チーン

ほむら(さやかさんのお尻が、某国民的永遠の五歳児のように腫れ上がっている……)

ほむら「えー、全員無事なようですので、このまま話を続けましょう」

ゲルト【え。あの、美樹さんは……?】

シャル「死んでなきゃ無事でいいのよ」

シャル「……問題は鹿目さんね」

ほむら「ですね」

ほむら「このまま放っておけば、鹿目さんは魔女さんを退治してしまうかも知れません」

ほむら「今の心的状態で魔女さんを倒してしまったら、恐らく鹿目さんの心は二度と元には戻らないでしょう」

ほむら「なんとかその前に、彼女を止めねばなりません」

ゲルト【で、でも、巴さんでしたっけ? あの人の事も……】

ほむら「あちらは大丈夫でしょう」

ほむら「動揺はしていましたし、否定もしていましたが、私の問いかけに逃げました」

ほむら「先程は逃げたら余計苦しくなるといいましたけど、逃げているのなら時間的猶予はあります」

ほむら「何時までもほったらかしには出来ませんけど、今すぐどうなる事もないでしょう」

ほむら「それに、悩んでいるうちは魔女退治もしないでしょうからね。優先度は鹿目さんより大分下です」

ほむら「今はさっさと鹿目さんを見つけて、さっさと落ち着いてもらうとしましょう」

ゲルト【……そう、ですね】

ゲルト【それに、あの様子ですと何時魔女化しても可笑しくありません】

ゲルト【その前になんとしても助けましょう!】

ほむら「いえ、それはさっさと魔女化してくれた方が都合がいいかと」

ゲルト【ふぇっ!?】


534 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:55:41.69 WkOubGLx0 336/569



ほむら「どうせ元に戻せるんです。それに否応なく魔女の真実を突き付ける事が出来ますし」

ほむら「だったら魔女になってもらって、誰かを襲う前に戻しちゃえば色々楽じゃないですかー」

ほむら「ま、絶望浸けの状態になるのは可哀想ですから、なる前に助けようとは思いますけど」

ゲルト【えぇー……】

シャル「覚えておきなさい。ほむらってあーいう奴よ」

ほむら「さて、それでは『お探し人諸々呼び寄せインターホン』を『つながり袋』から出しましょう」

ほむら「あのインターホンがあれば、鹿目さんとその周りにある諸々の物をこちらに転送出来ますからね」

シャル「このシリアスの中その便利さはどうなのかしら……」

ほむら「便利ならいいじゃないですか」ゴソゴソ

ほむら「……ん?」ゴソゴソ

シャル「どしたの?」

ほむら「……こんな時に限って紛失、というのも実に妖精さんらしい」

シャル「は? 紛失って……」

ほむら「妖精さんアイテムってどれだけ厳重に保管しても、何故かある時ふっと無くなってしまうんですよ」

ほむら「例え分厚い金庫にしまおうと、毎日無くなっていないか確認してもです」

ほむら「ですから欲しいものが無くなるなんてしょっちゅう」

ほむら「そんな訳で『お探し人諸々呼び寄せインターホン』は紛失。また新たに作ってもらうまで使えません」

ほむら「つまり、昨日同様足で探すしかありませんね」

シャル「な、何それ!?」

ほむら「ただまぁ、昨日と違い魔女が目的なのは分かっています」

ほむら「結界を探していけば、そのうち見つかるでしょう」

ゲルト【で、では急ぎましょう!】

シャル「ああもう、しょうがないわね……」

シャル「さやか! さっさと起きなさいっ!」

さやか「ぎゃ!? お、お尻を蹴らないで……」

ほむら「さやかさんも起きましたね」

ほむら「それでは鹿目さんが飛んでいったであろうあちらから探すとしましょう」

ほむら「まったく……レッツゴー、です」







杏子「……なんだったんだ、一体」


536 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:57:06.74 WkOubGLx0 337/569



杏子(工場地帯でマミ達を見失い、さっきようやくマミを見つけたけど……)

杏子(アイツ、なんで泣きながら走っていったんだ?)

杏子(見たのが途中からだから話が分かんないな……今更追い駆けようにも、なんか事情が呑み込めないし)

杏子(それにちょいと腹も減ってきたし)

杏子(アイツが何体もの魔女と協力している可能性があるって分かっただけでも収穫だ)

杏子(今日の調査はこのぐらいで打ち切りとしようかね)

杏子(そうと決まりゃあ早速商店街の方に――――)

杏子(……そういや、此処から魔女の気配がするな)

杏子(大して魔力は感じねぇ。どうやらあまり強くない魔女みたいだ)

杏子(……………)

杏子「やっぱり飯は、腹ペコの時の方が美味いよね」

杏子「つー訳で、ちょいと運動がてら”つまみ食い”していこうかね」


……………

………




537 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:58:14.31 WkOubGLx0 338/569



―― 見滝原 某所 ――


まどか「う、うぅ……!」

まどか(攻撃したら、簡単に吹き飛ばされちゃった……)

まどか(どうにか怪我なく着地出来たけど……)

まどか(今のままじゃ、ほむらちゃん達には……ほむらちゃんの連れている妖精には勝てない……)

まどか(ううん。それどころか、他の魔女を倒そうとしても、ほむらちゃん達は多分邪魔しに現れる)

まどか(どうすればいいどうすればいいのかな……このままじゃ……)

まどか(ううん。大丈夫、私は間違ってない、何も間違ってない)

まどか(私は正義の魔法少女だから、だから、最後は必ず勝つんだから)

まどか(勝てない正義なんていない、勝たなきゃ正義じゃない)

まどか(私は勝たなきゃいけない。勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ)



「やあ、鹿目まどか。どうしたんだい?」



まどか「……キュゥべえ。久しぶりだね」

QB「ん? そうかい? 僕はそうは思わないけど……」

QB「まぁ、そんな話はどうでもいいね」

QB「何か悩んでいる様子だけど、どうしたんだい?」


538 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 18:59:20.71 WkOubGLx0 339/569



まどか「……………」

QB「まどか?」

まどか「……私、どうすればほむらちゃん達に勝てるのかな」

QB「?」

まどか「どうやっても、私じゃほむらちゃん達には勝てない。ほむらちゃんを操っている使い魔を倒せない」

まどか「ねぇ、魔法少女は正義の味方なんだよね? 魔女を退治する、大切な使命を持っているんだよね?」

QB「そうだね。君達魔法少女は人間を守る、所謂正義の味方だ」

QB「そして魔女退治は魔法少女の使命。他の人間には到底出来ない事だよ」

まどか「だったら、なんで……」

QB「まどかは、力が欲しいのかい?」

まどか「……うん」

まどか「みんなを守れる力を……魔女なんか、みんな倒せちゃう力がほしい……」

QB「ふむ。成程ね」

QB「君が望むなら――――その力、僕が与えるよ」

まどか「えっ?」


541 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:01:41.27 WkOubGLx0 340/569



QB「本来、特定の魔法少女に肩入れするような真似はしないのだけど」

QB「暁美ほむら、ひいては彼女が従えている妖精と呼ばれる存在は、僕達にとっても都合が悪くてね」

QB「君にその気があるのなら、僕達が君のパワーアップに協力しよう」

まどか「……その力があれば、どんな魔女も倒せるの……?」

QB「流石にそこまでは保障できないね。何分、妖精の力がどれほどのものか分からないから」

QB「だけど今のままでは勝てないのなら」

QB「例え確証はなくとも、やれる事は何でもやるべきなんじゃないかな?」

まどか「……そう、だね」

まどか「分かったよ、キュゥべえ」

まどか「私……もっと、力が欲しい」

まどか「どんな魔女も使い魔も倒せるぐらい、強い力が欲しい!!」

QB「分かった」

QB「まどか、ソウルジェムを出してくれ」

まどか「……うん」

QB「はい、受け取ったよ……おや、随分と濁っているね。殆ど元の色が視えないじゃないか」

QB「浄化はしないのかい?」

まどか「グリーフシードのストックが無いから……」

QB「そういう事か。なら、仕方ないね」

QB「さて、ちょっと痛みがあるかも知れないけど、我慢してくれ――――よっ」

まどか「くっ!? う、あ、あぁ……」

まどか「あぁああぁあああ……!?」

まどか「あああああああああああああぁああぁあああああっ……!!」

QB「……こんなもの、かな」

QB「おめでとう、まどか。これで君の力は、以前とは比べ物にならなくなったよ」

まどか「はぁ、はぁ……はぁ……ほ、本当に……?」

QB「ああ。その証拠に……ソウルジェムを見てごらん」

まどか「!?」

まどか「嘘……あんなに濁っていたのに……」

まどか「今じゃ、点みたいなのが一個あるだけ!?」


542 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:03:41.87 WkOubGLx0 341/569



QB「君のソウルジェムの持つ魔力量が増大した結果さ」

QB「今までと同程度の魔法だったら、どれだけ使っても見た目上濁りが増えたようには感じられないんじゃないかな?」

QB「多分今の君なら、最強の魔女と伝えられているワルプルギスの夜も一撃だろうね」

まどか「凄い……これなら……!」

まどか「ありがとうキュゥべえ」

まどか「これで……みんなを助けられる」

まどか「私が正しいって、みんな分かってくれる」

まどか「悪い魔女を倒して、私が正義の魔法少女になるの」

まどか「うふ、うふふふ」

まどか「あっははははははは、あははははははははははははははははははははははははははははは!!」

まどか「あーははははははは、あ、そうだ」

まどか「だったらさっさとほむらちゃん達を正気に戻さないと」

まどか「待っててねほむらちゃん、マミさん、さやかちゃん」

まどか「私がみんなを――――助けてあげる!」

――――ドンッ!!!

QB「……………空を自在に飛ぶか。惜しみなく魔力を使うね。ま、その方が都合がいいけど」

QB「さて、僕も行動を始めよう」

QB「ちゃんと観測しないと、折角鹿目まどかのソウルジェムを強化した意味がないからね」


……………

………




543 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:05:29.29 WkOubGLx0 342/569



ほむら「それで、どうですか? 魔女の気配はしませんか?」

シャル「あのねぇ……確かに見滝原は魔女が多いけど、そうほいほい見つかるほどそこらに居るもんでもないの」

シャル「それにけっこー遠くまで飛んでいっちゃったみたいだし……」

ゲルト【ど、どうしましょう……他の魔女の事も心配ですけど、鹿目さんでしたっけ……彼女も無事でしょうか……】

ほむら「妖精さんアイテムで吹っ飛ばしたから、それは平気でしょう」

さやか「うう……ごめんなさい……あたしがあの時口走ったばかりに……」

シャル「あー、もういいって。十分怒ったから」

ほむら「ええ。後で十分怒るので、今は気にしないでください」

さやか「ヴぇっ!?」

ゲルト【……あら?】

シャル「? どうかし――――ん?」

ほむら「お二人とも、どうしましたか?」

シャル「なんだろ……これ……鹿目さんの魔力?」

ゲルト【鹿目さんの魔力っぽいですけど……】

ほむら「おお? 見つけましたか?」

シャル「いや、なんだこれ……本当に鹿目さん……?」

シャル「ちょ、なにこれ……!?」

シャル「どんどん力が大きくなってる!? 嘘、嘘よこんな……!?」

ほむら「シャルロッテさん? 一体どうし――――」

シャル「っ!? こ、こっちに来て――――」


――――ドンッ!!!!


まどか「――――見つけたァ……♪」

ほむら(空から鹿目さんが下りてきた!? いえ、それより……)

ほむら(これは……ええ、魔法少女ではない私でも分かります)

ほむら(分かってしまうぐらい、今の鹿目さんは危ない!)


544 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:08:31.25 WkOubGLx0 343/569



まどか「今すぐそこの魔女を倒して、妖精も根絶やしにして」

まどか「みんな――――助けてあげる♪」

――――ズオオオオオオオオオオ……!!

ほむら(いきなり弓を構えた!? どういう――――)

シャル「な、何あの魔力!?」

シャル「あんなの撃ったら、町一つ消し飛びかねないわよ!?」

さやか「んなっ!? ま、まどか……!?」

まどか「大丈夫だよさやかちゃん」

まどか「ちゃんと魔力を集束して……爆発なんて起こらないようにしてあるから、ね!!」バシュッ!!

さやか「う、撃ち……」



ほむら「妖精さんアイテム――――『あべこべバリアー』!」



さやか「! ほ、ほむらが何かガラスみたいなのを投げ――――うわっ!?」

ゲルト【ガラスからバリアーが展開された!?】

シャル「矢は防げたみたいね……助かった……」

まどか「……ふふ。そうこなくちゃ、倒し甲斐がないよね」

まどか「でもね、今のは小手調べ……」

まどか「ここからが本当の勝負だよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

さやか「ひっ!? まどかの周りにたくさんの光の矢が……」

ゲルト【あ、あああぁ……!?】

シャル「しかもさっきより一本一本の威力が桁違いに高い!? こんなの撃たれたら……」

ほむら「それに関しては大丈夫です」

ほむら「あのバリアーは攻撃の威力が上がれば上がるほど、どんどん強固になるものでして」

ほむら「単純な打撃だけでは絶対に破れない、無敵のバリアーなのです」


――――ズガガガガガガガガガガガガッ!!


さやか「ほ、本当だ……まどかの攻撃、全部防げてる……」

さやか「光やら土埃やらでまどかの姿が見えなくなるぐらいの猛攻なのに」

さやか「バリアー自体にヒビは入ってない!」

ゲルト【凄い……】

ほむら(ま、『あべこべ』という名前の通り威力が弱い攻撃、デコピンとかだとあっさり壊れてしまう使用ですが)

ほむら(あのバーサーカー状態の鹿目さんが気付くとも思えませんからね。好きにやらせとくとしましょう)


545 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:10:35.43 WkOubGLx0 344/569



ほむら(それより……)

ほむら「どういう事です? 先程矢一本で町が消し飛ぶとか言っていましたけど」

ほむら「魔法少女って、そんなチート級に強いものだったんですか?」

シャル「んな訳ないでしょ! 大抵は銃を持ってる人が何人かいれば対抗出来る程度よ!」

シャル「あんな馬鹿げた魔力、絶対あり得ない!」

ほむら「なら、通常ではあり得ない何かがあったのでしょう」

ほむら「ま、見当は付いていますけどね」

さやか「見当……?」

ほむら「……こそこそしてないで出てきたらどうですか」

ほむら「どーせその身体、端末とかそんなやつで、潰されてもあなた自身には被害なんてないのでしょう」

ほむら「難なら無理やり引きずり出してもいいんですよ?」

ほむら「――――インキュベーター」










QB「――――これは予想外だね」



546 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:12:15.77 WkOubGLx0 345/569



シャル「っ……キュゥべえ……!!」

ゲルト【あ、あなた……!?】

QB「気配は消していたつもりだけど、どうして僕が近くにいると分かったんだい?」

ほむら「あなた、私を馬鹿にしているのですか?」

ほむら「魔法少女を産み出しているのはあなた自身。つまりあなたには、魔法少女をいじくるだけのノウハウがある」

ほむら「だったら鹿目さんに力を与えたのはあなたしかいない」

ほむら「そして力を与えた理由なんて、大方私達を排除したいとか、そんなありきたりなものでしょう?」

ほむら「なら、私達がちゃんと排除されたか確かめねばならない」

ほむら「万一、或いは予想通り鹿目さんが倒された場合も考えると、妖精さんの観測もしておきたい」

ほむら「そして後者をするのなら、衛星のような遠距離よりも、近距離で、正確な分析が必要となる」

ほむら「あなたが近くにいるのは、簡単に導き出せる事でしょう?」

QB「……ふむ。君への認識を改める必要がありそうだ」

ほむら「あら、残念。見くびったままでいてくれた方が色々やり易かったのですが」

QB「その言葉、僕は言わずに済ませたいね」

ほむら「大丈夫です。言える時なんて永遠に来ませんから」

QB「そうだね。きっと、永遠に言う事はないだろうね」

ほむ 「ふふふふふふふふふ」

さや シャ ゲル(こ、怖い……)


547 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:13:29.26 WkOubGLx0 346/569



ほむら「それで? まさかこれであなたの謀略は終わり、なんて言いませんよね?」

QB「ああ、勿論。むしろこれからが始まりさ」

QB「確かに鹿目まどかのソウルジェムは大きく強化された。今の彼女は、間違いなく最強の魔法少女だ」

QB「だけどね、ソウルジェムの魔力量、即ち魂の容量が増えるという事は」

QB「即ち内部に貯め込める穢れの量も増えるという事になる」

QB「なら、それが一挙に解放されたら?」

ほむら「――――まさか……」

さやか「ほ、ほむら、攻撃が止んだよ!」

ほむら「!」

シャル「流石妖精さん製のバリアーね。結局、ヒビなんて一つも入らなかったわ」

さやか「煙が晴れて……まどかの姿が見えるようになった……!」

まどか「……………」

さやか「あ、あの、まどか。大丈夫……疲れたんじゃない?」

さやか「まずは落ち着いて、ね? 話し合おう。うん、そうしよう」

まどか「大丈夫だよ、さやかちゃん」

まどか「私ね、全然疲れてないの。それどころか力が溢れてくる感じ」

まどか「力を使えば使うほど、どんどん力が溢れてくるの! ずっとずっと止まらないの!」

まどか「待っててね! このままどんどん強くなれば、どんな魔女でも使い魔でもやっつけられる!」

まどか「私はみんなを救える! みんなを助けられる!」

まどか「魔女さえいなくなればみーんな救われる!」

まどか「凄い! 凄い凄いすごいすごいスゴイスゴイスゴォイ♪」

まどか「きひ、くひ、ひきききききき、うぇひひひひひひひひひひひひ♪」

さやか「ま、まどか……」

まどか「それじゃあいくよ♪ ヤッチャウヨ?」

まどか「もう町ごとぜーんぶふっとばしちゃえ―――――♪」



――――パキン



まどか「……んぁ?」


548 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:15:17.60 WkOubGLx0 347/569



さやか「え? な、なんの音?」

シャル「……最悪のパターンね」

ほむら「ここまでは思惑通り、という訳ですか……ああ、気に入らない」

さやか「え? え?」

まどか「ほむらちゃん達、何を話して……」

まどか「あれ?」

まどか「……私のソウルジェム、こんなに黒かったっけ?」

まどか「なんか形も変になってるし、それに何処かで見たような……」



――――パキ、パキパキ



まどか「あ、これが壊れてるんだ」

まどか「……あれ? あれれ?」

まどか「あ、ひ、いひ」

まどか「くひひひひひひひひひひひっ♪」

まどか「なんだろう! 身体からどんどん何かが溢れてくる! さっきまでと全然違う!」

まどか「私の中から何か生まれてくる! 私が私じゃなくなっていく!」

まどか「これ、これこれすっごおおおおくっ!」


549 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:15:54.96 WkOubGLx0 348/569










――――バキンッ

まどか「すっごく……キモチイィ……♪」









550 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:16:43.37 WkOubGLx0 349/569



さやか「ま、まどかぁあああああああああああああああああああああっ!?」

シャル「ぐうっ!? か、風が……!!」

ゲルト【ああ……け、結界が展開されて……!】

ほむら「……これがあなたの『本命』ですか……」

QB「そうだ。ボクが求めていたのは、この瞬間だ」

QB「強力な魔女が生まれる時、つまり絶望の解放量が多いほど、回収出来るエネルギーは多くなる」

QB「だけど魔法少女を人工的に強力にしても、その強力な魔法少女を作るために膨大なエネルギーが必要になる」

QB「エネルギーの収支は手を加えない場合と同等、むしろ手間を考えるとマイナスだ」

QB「だから本来、僕達が魔法少女を強化する事はない」

QB「でも今回はエネルギーの回収が目的じゃないからね。予算が許す範囲内で可能な限り強化してみたよ」



QB「さあ、暁美ほむら」


551 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/19 19:17:11.42 WkOubGLx0 350/569










QB「妖精の力を使って、最強の魔女を倒してみせてよ!」














599 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:26:39.57 lw2GyATE0 351/569



こんにちは、>>1です。
まずはたくさんの感想とご意見を書いてくださり、ありがとうございます。

個人的にもちょっと急展開に書き過ぎたかと思っていましたが、想像以上に多くの人が違和感を覚える
話になっていたようで申し訳ありません。まどか乱心の理由や「キモチイイ」の意図は
今回の話で書いたつもりなので、納得してもらえるかは分かりませんが読んでいただけたら幸いです。


>>553
あれはキュゥべえなりの煽りです。前任者からのデータは一応引き継いであり、
強大な敵を前にして、こんなの相手でも和解出来るのかい? みたいな感じに。

>>556
花が好きな女の子は可愛い(断言

>>576
旧べえさんはいずれ再登場しますので、その時に何があったか明かされるでしょう。
……まぁ、ギャグ展開ですけどね(ぁ


投下開始します。


600 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:27:54.58 lw2GyATE0 352/569




えぴそーど じゅーさん 【ほむらさんと、くりーむひるとさん】



601 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:29:11.37 lw2GyATE0 353/569



――――それは山と言えば良いのでしょうか。


展開された結界の中は、地平線の彼方まで白い花で埋め尽くされ、さながら天国のように素敵な景色が広がっていました。

猛烈な風が内部には吹き荒れていましたが、それによって舞う花弁は美しいと思ってしまいます。

気温もほどよく、居心地もいいです。


そんな天国に似つかわしくない姿をした真っ黒な”ソレ”は、暴風の中央に居ました。


先程思ったとおり、ソレは山のように巨大です。

形も山のような三角形っぽいですが、その先っちょで両腕を伸ばしている者の姿が視えました。

そう、足らしきものこそ見えませんが、ソレは人の姿をしているのです。


人によっては、ソレの姿に悪魔のようなおざましいを感じるかも知れません。

結界内に吹き荒れる暴風も、悪魔が迷い込んだ子羊を逃がすまいと、大口を開けて吸い込んでいるように感じるかも知れません。


しかし私には、ソレが悪魔とは到底思えませんでした。



だって、それはまるで誰かを抱きしめようとしているかのようで。


だって、それはまるで誰かを求めているようで。


だって、それはまるで――――



……結局のところこれは私の主観であり、出鱈目な憶測であり、無意識の期待なのでしょう。

いくら考えても、私はソレに対する正しい答えなど導き出せません。だって、私はソレではないのですから。


なら、ソレの気持ちを知りたい私がすべき事は一つ。


ソレから直接、聞き出す事です――――


602 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:30:57.19 lw2GyATE0 354/569



さやか「う、嘘……嘘、だよね……」

ゲルト【こんな事って……】

シャル「な、なに、よ、あれ……一体何なの!?」

QB「何を惚けているんだい? 自分が一度体験し、そして目の前でその光景を再度見たのなら、答えを出すのは簡単だろう?」

ゲルト【あり、あり得ません……だって、だってこんな……】

シャル「そうよ! あり得ない!」

シャル「あんな、あんなデカくて強い魔女なんて、あり得る訳がない!!」

QB「……ふぅ。データで見聞きはしていたけど、やっぱり人間の精神は理解出来ないなぁ」

QB「さっき言ったじゃないか。予算が許す限りの強化をしてみたって」

QB「なのに自分の予測を超えた途端現状を否定する……訳が分からないよ」

シャル「こ、いつ……!」

ほむら「シャルロッテさん」

シャル「っ……ほむら……」

ほむら「まこと不愉快ですが、そいつの言い分にも一理あります」

ほむら「どれだけ否定したい事実でもきちんと受け止める。巴先輩達に説教した手前、私達がやらなくてどうするのですか」

ほむら「今は鹿目さんを救い出すのが先決です」

シャル「……分かったわ」

ほむら「さあ! おいでませませ――――妖精さーん!」

妖精さん達「はーい」「じゅんばんにこーしーん」「おかしをまもるです」「おかし?」「おかしどこ?」
「おかしたべたいーっ」「くれる? くれます?」「じょーほーがさくそーしてる!」「でまのよかん?」
「そんなー」「ではなぜぼくらここに?」「さー」「きままにいきてく」「いつものことでは」「いつもどーりにー」

さやか「妖精さんがほむらの耳から出てきた! 行列作ってお行儀よく!」

ゲルト【……唐突に緊張感が薄れていきますね……】

シャル「この状況であの二等身不思議生命体の大群は卑怯よね」

QB(……どうやら妖精が出てきたようだね)

QB(このボディに搭載されているセンサー系に、妖精の反応はない)

QB(調査衛星でも妖精の観測は出来ていない。どうやら、余程高度な隠蔽性があるようだ)

QB(ま、これは既にある収集データから予測していた事)

QB(対象を観測する方法は直接見る事だけじゃない)

QB(大気の流れの変化、物体の運動量変化、不自然なエネルギー反応)

QB(間接的な観測データを積み上げれば、例え直接観測出来なくともどのような存在なのは推測は出来る)

QB(妖精。その姿を見せてもらうよ……)

QB(……ん?)


603 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:32:04.64 lw2GyATE0 355/569



妖精さん達「わー?」「すいこまれー」「かぜになりますー」「そらをとべるんだー」「とりになーれー」

さやか「ああ!? 出てきた傍から殆どの妖精さんが暴風に巻き込まれてまどかの方に飛んでいっちゃった!」

シャル「馬鹿でかい魔女が結界内で暴風を起こしているのに、何故か心が和んできたんだけど……」

ゲルト【あれ、いいのかなぁ……】

ほむら「大丈夫ですよ。妖精さんですから」

ほむら「さて、それより」

妖精さんA「にんげんさんにんげんさん」
妖精さんB「ぼくらになにかごよーでしょーか?」

ほむら「ええ、その通りです」

ほむら「あちらに居ます山のような魔女さん……あの方をどうにか助けたいのです」

ほむら「お願いできますか?」

妖精さんC「うけたまわりんぐ」
妖精さんD「ぜんりょくをつくすしょぞん」
妖精さんE「しかしながらめさきのことをどーにかすべきでは?」

ほむら「目先?」

妖精さんF「そー」
妖精さんG「そのばしのぎ、しませぬので?」

ほむら「しないと不味い事があるのですか?」

妖精さんH「たましい、すわれますが?」

さや シャ ゲル「……え?】


604 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:33:23.42 lw2GyATE0 356/569



妖精さんH「あちらのおやまにすわれてますな」
妖精さんI「つよくなってます」
妖精さんJ「すいすいーっとー」
妖精さんA「せんのかぜのなかまいり?」
妖精さんK「そのうち、ぽんっとぬけるのではー?」

ほむら「それはまた……随分と危険な力に満ちているようで」

さやか「いやいや!? 落ち着いてる場合じゃないよね!?」

さやか「そんな、魂が吸い取られるって!?」

シャル「魔女ならそういう奴がいても可笑しくないけど……あの力でやられると洒落にならないわね……」

ほむら「ま、大丈夫でしょう。その場しのぎの対策は出来るようですし」

ほむら「それで妖精さん。その対策とは?」

妖精さんD「ぼくら、おさえます」
妖精さんC「たましいでてくるふたにのって、おさえるです」
妖精さんA「これでだいじょぶです」
妖精さんL「かぜはつよくとも、きゅういんりょくいまいちなので」
妖精さんN「ひとりでへいきです」

ほむら「成程……」

ゲルト【えっと、どういう事……?】

ほむら「簡単に言えば、妖精さんが魂が抜け出るのを防いでくれるそうです」

ほむら「具体的には魂が出てくる蓋というのがあるらしく、その上に妖精さんを乗っければいいとの事」

シャル「つ、つまり?」

ほむら「つまり、こういう事です!」

さや シャ ゲル「!】

さやか(ほ、ほむらが妖精さんの一人を掴んだ!)

シャル(そして妖精さんを――――頭に乗せて……)














(・ワ・)
 ほむら 「これにて対策完了です!」




605 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:35:37.02 lw2GyATE0 357/569



さやか「……………」

シャル「……………」

ゲルト【……え? 終わり?】

(・ワ・)<ですなー
ほむら 「そうです! 妖精さんが魂の出てくる蓋の上に乗っているので、攻撃はこれで無効化出来ました」

シャル「……簡単過ぎない?」

(・ワ・)<おてがるさがうり?
ほむら 「簡単な分にはいいじゃないですか」

(・ワ・)<でてもつかめますのでへいきかもー
ほむら 「さあ、みなさんも早急に妖精さんを頭に乗せてください!」

シャル「え、ええ……そうね……話の流れ的にはそうよね……」

さやか「えーっと……では、その……」

ゲルト【妖精さんを頭に乗せて……】

(・ワ・)
シャル 「……………」

(・ワ・)
さやか 「……………ねぇ、これって……」

(・ワ・)<にんげんさんのかみのけー
シャル 「うん。私も言いたい事があるわ」

(・ワ・)<もぐりこみんぐ
さやか 「じゃあ、心の中で言おうか」

(・ワ・)
シャル 「そうね。心の中で言いましょう」

(・ワ・)
さや シャル(いくらなんでもこの恰好は酷過ぎじゃねぇか?)

(・ワ・)
ゲルト 【先程までのシリアスな空気は何処に……】

(・ワ・)<さすがにくうきをよんで
ほむら 「もう。皆さん、いくら妖精さんが可愛いからって、現状は今のところ改善していませんよ?」

(・ワ・<すがたをけすです
ほむら 「なんとか鹿目さんに理性を取り戻してもらわねば……」

(・ワ<かいてなくても
シャル 「って言うかさ、妖精さんがいれば絶望が逃げていくんじゃなかったっけ?」

(・<ぼくら、ずっとのってますので
シャル 「なのに、なんで鹿目さんは何時までも魂を吸い取るなんて物騒な事をしてるの?」

(<のーないほかんよろしくです?
シャル 「そりゃ私やほむらは攻撃対象だとしても、親友であるさやかを巻き込むってのは……」

さやか「あ、そう言えば!」


606 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:38:27.27 lw2GyATE0 358/569



ほむら「確かに、それは可笑しいですね……」

ほむら「妖精さん。原因は分かりますか?」

妖精さんE「ちょいとぜつぼーおおすぎかもー」
妖精さんF「ぼくらのかずたりなし」
妖精さんG「いくらでもわいていますしな」
妖精さんH「ぜつぼーかけながし?」
妖精さんI「はいりほーだいです」

ほむら「……成程。鹿目さんから生じている量が多過ぎて、いくら絶望が逃げても状況が改善しない訳ですか」

シャル「それって、今の鹿目さんは正気に戻せないって事!?」

さやか「そんな……ほ、ほむら、なんとか出来るよね? 妖精さんなら、まどかを助けられるよね!?」

ほむら「お二人とも、落ち着いてください」

ほむら「原因は先程言ったように、鹿目さんから生じる絶望の量が多過ぎる事」

ほむら「流石の妖精さんでも、数百人程度では太刀打ち出来ない絶望的な力が今回の相手という訳です」

ほむら「いやはや、ほっといたら地球が滅びるんじゃないですかね?」

ほむら「人間を資源にしている癖に、思い切りがいいと言いますか……楽に倒せる自信があるのでしょうけど」

ほむら「……少し話がずれましたね」

ほむら「つまり、鹿目さんから生まれた魔女を相手にするにはちょっとパワーが足りないのです」

ほむら「なら話は至極簡単」

ほむら「対策その一。妖精さんを増やす」

ほむら「数百人で足りないのなら、数千人。それでも足りないなら数万人の妖精さんがいればいい」

ほむら「流石に数万人は厳しいでしょうけど、千人程度で何とかなる筈です」

さやか「な、成程……!」

ほむら「という訳で、シャルロッテさんとさやかさん、ゲルトルートさんには」

ほむら「妖精さんを増やすために、楽しい事をしておいてください」

ゲルト【た、楽しい事ですか? あの、なんでこんな時に、というか増えるって】

シャル「分かったわ」

ゲルト【え、分かるの!?】

QB「え、分かるの?」

さやか(あ、キュゥべえが思わず反応した……宇宙人的にも非常識なんだな、妖精さん)


607 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:40:41.85 lw2GyATE0 359/569



シャル「それで、楽しい作戦に参加しないアンタはどうすんの?」

シャル「対策その一って事は……その二があるって事よね?」

ほむら「勿論。そしてそれは、私が一人でやらせていただきます」

さやか「一人でって、一体何をする気なの?」

ほむら「単純明快。こういう時のお約束」

ほむら「ぶん殴って、正気に戻します」

シャル「……………」

さやか「……………」

シャル「……ぷ」

さやか「あ、あっははははは! あはははっ!」

シャル「あははははははは! そうね、うん、そうよね……」

シャル「それが―――― 一番楽しい解決方法ね!」

さやか「あい分かった! 妖精さんを増やすのはこっちに任せて、アンタはまどかの元に行ってこい!」

さやか「そんでもって、あたしの代わりにグーで一発殴ってこい!」

ほむら「はい! 任されました!」

ほむら「そんな訳で頭に乗っている妖精さん! あちらにおります魔女……いえ」

ほむら「鹿目さんを一発殴れる程度のパワーを私にください!」

妖精さん「りょーかいですー」
妖精さん「ではこちらのゆびわをはめてくだされ」

ほむら「指輪ですか。して、この道具の名前は?」

妖精さん「はぴねすりんぐといいます」

ほむら「……幼女向け玩具に付けられそうなこの名前……成程」

ほむら「今更ですけど、妖精さんって皮肉というかブラックなネタがお好きですよね」

妖精さん「ですかな?」
妖精さん「じかくはありませぬが」

ほむら「それで、呪文とか必要ですかね?」

妖精さん「ひつよーですが、だいたいなんでもおっけー」

ほむら「なら、早速やるとしましょう!」



ほむら「チェンジ! ドレスアーップ!」



608 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:42:21.22 lw2GyATE0 360/569



さやか「うわっ!? ほ、ほむらが光に包まれて……!」

ゲルト【ああ……光の中から現れたのは……!!】

シャル「……鹿目さんもびっくりな量のフリルと巨大リボンを幾つも付けた」

シャル「可愛らし過ぎて最早ネタの域に到達した衣服を着ているほむらだわ……」

さやか「訳が分からないよ」

ほむら「ふふふ。衣服はジョークみたいでも、性能は妖精さんアイテム」

ほむら「ちょっくら――――鹿目さんを殴ってきますね!」ふわっ・・・

シャル「おお、宙に浮いて」

――――ゴウッ!!

シャル「って、突風が生じるような猛スピードで飛んでいきやがった!?」

さやか「あだっ!? 風でこけ「きゅぶっ」いでっ!?」

さやか「ふ、吹っ飛ばされたキュゥべえがあたしの顔面にぶつかってきた――――」

ゲルト【おっ、あっ、あ――――】

さやか「ちょ、げるげるなんでバランスを崩し」

ゲルト【あぁーっ!?】
さやか「げこーっ!?」
QB「きゅぶしっ!?」

シャル「……さやかとキュゥべえがゲルトちゃんの下敷きに……まぁ、それはどーでもいいわね。うん」

シャル(鹿目さんにはほむらが向かった。妖精さんマスターのほむらならなんとでもしてくれるでしょう)

シャル(だからこっちは、こっちで出来る事をやらないとね)

シャル(……アイツは、数万人は無理とか言っていたわね)

シャル「ふん。見くびられたものね……数万人ぐらい、ほいっと増やしてやろうじゃない」

シャル「この、お菓子の魔女がね」


………

……




609 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:44:39.33 lw2GyATE0 361/569



ほむら(流石妖精さんの作った変身アイテム。思った通りのスピードが出てくれます!)

ほむら(しっかし鹿目さん大きくなり過ぎですよ)

ほむら(丁度あの雲を抜けたあたりに頭があるって……)

ほむら(……妖精さん、こういう細かな演出好きですよねー)

ほむら(さて、雲を抜けたら顔が見えましたっと……)



クリームヒルト【……………】



ほむら(……両腕を広げながら仰け反ってますけど、あの姿勢疲れないんですかね?)

ほむら(それは兎も角として。鹿目さんとお話するためにも頭を目指し飛んだ訳ですが)

ほむら(あそこが頭で良いんですかね? まさか地下に埋まっているとかないですよね?)

ほむら(一応人の頭っぽい形をしてますけど……)

ほむら(まぁ、話し掛けてみれば分かりますか)

ほむら「……やれやれ。一体どれだけ大きくなったのですか」

ほむら「昨今の強者は低身長の美少女ってのがお約束の中、随分と古風かつ王道の風貌になってしまいましたねー」

ほむら「ま、懐古主義という訳でもありませんけど、そういう分かりやすい強さ、個人的には好きですよ?」

クリーム【……うひ】

クリーム【うぇひ、うぇひひひひひ】

クリーム【悪者、見っけ……倒して、平和を守らないと】

クリーム【この素敵な場所を、守らないと】

ほむら(……ああ、これはまた随分と分かりやすい……分かりやす過ぎて好感を覚えてしまいそうな敵意です)

ほむら(というか、淀み切った声で素敵だなんだと言われても全然嬉しそうに聞えませんって)

クリーム【あれ、でもなんでかな?】

クリーム【さっきから魂を吸い上げているのに、なんで平気なのかな?】

クリーム【……ああ、そっか】

クリーム【魂を吸いとるなんてまどろっこしいやり方がいけないんだ】

ほむら(あ、これは――――)

クリーム【だったら――――射抜いちゃえ】

ほむら「っ!?」

ほむら(いきなり魔力弾による攻撃とは、こっちの話を聞く気ゼロですか!)

ほむら(仕方ありません。同級生を攻撃なんてシリアス過ぎて苦手ですが……)

ほむら(適当にボコって大人しくしてからお話という、粗暴で男前な手法を取らせていただきましょう!)


610 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:47:05.10 lw2GyATE0 362/569



ほむら「妖精さん! 戦うにはどうすればいいですか!」

ほむら「具体的には遠距離攻撃用の魔法!」

妖精さん「こーいうこうげきしよーっておもいながら、おすきなじゅもんをー」

ほむら「実に便利で分かりやすい!」

ほむら「それじゃあ適当に……ぱっぴらぷっぴのぷーっ!」

――――シュイン!!

ほむら「ほほう! ミサイルが四基も召喚されましたか!」

ほむら「デザインは子供の落書きみたいですけど……威力は多分本物!」

ほむら「いっけえええええええっ!」

クリーム【う、あ……】ドンッ、ドドドンッ!

ほむら「命中です! ……ところで、なんでミサイル攻撃?」

妖精さん「かいじゅうとのたいけつには、それがさほうかと」

ほむら「女の子を怪獣呼ばわりしたので、後でたっぷりとお仕置きですね」

妖精さん「ひーん!?」

ほむら(それより――――)

クリーム【……煙たい】

ほむら(やはりこの程度ではダメージにはなりませんか。それに腕を伸ばして反撃してきてますっ!)

ほむら「しかし迎撃するまでの事!」

ほむら「ぱっぱらぱーのぱーっ!」

ほむら「……あれ?」

ほむら「なんで不発、うひゃあ!?」

クリーム【また外した……!】

ほむら「あ、危なかった……じゃなくて!」

ほむら「なんでミサイルが出てこないのですか!?」

妖精さん「あー、それはじゅもんまちがってますなー」

ほむら「……もしかして呪文って、登録制ですか?」

ほむら「最初に唱えた呪文が、その魔法を発動するキーになるって感じに」

妖精さん「そうですが?」

ほむら「ああもう! そうですよね、そういう所ありますよね妖精さんアイテム!」

ほむら「全く――――あまり試行錯誤を楽しんでいる余裕はないんですけどね!」


611 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:48:45.15 lw2GyATE0 363/569



ほむら「えーっと確か、ぱっぴらぴっぷのぷー!」

ほむら「良し! ちゃんと出たからすぐ発射っ!」

ほむら「……当たりましたけど、効果は薄そうですねぇ……」

クリーム【全部……避けられちゃう……】

クリーム【なら、もっと増やそう】

ほむら「げっ……また魔力の塊みたいのを何個も作って……」

ほむら「うわぁ……魔力の光が星空みたいになってますよ……」

ほむら(さっきの呪文で出せるミサイルは四。逐一唱えて迎撃なんてやってられませんね)

ほむら(なら――――)

ほむら「ぱぱらぱーっ!」

―――――ズガガガガガガガガガガガ……!!

クリーム【……命中し……?】

ほむら「防御魔法発動です! バリアーを展開して耐えてみせましたよっ!」

クリーム【あれ? なんで……】

クリーム【私の力は、なんでも守れる力の筈】

クリーム【倒れない敵なんて……】

クリーム【そうだ。守らないと】

クリーム【私は、正義の魔法少女だから……】

クリーム【守らない、と……】

クリーム【守らないと……!】

ほむら(やれやれ……正気に戻らない事には会話すらままなりませんか)

ほむら(早くなんとかしてくださいよ、皆さん)

ほむら(――――防御で耐えてばかりなんて、絵になりませんもん)


……………

………




612 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:51:15.97 lw2GyATE0 364/569



さやか「……ほむらの奴、大丈夫かな……」

シャル「大丈夫よ。妖精さんがいるんだから」

シャル「それに、協力しようにもあの戦いに割ってはいるなんて、流石のアンタでもちょっと無謀よ」

さやか「……うん」

シャル「問題は私らの方よねー」

シャル「なんとか妖精さんを千人ぐらいまで増やしたけど……人工甘味料味ではこれが限界みたい」

シャル「数万人規模を目指したけど全然届かず」

シャル「お菓子の魔女の名が泣くわねぇ……」

シャル「ま、鹿目さんから溢れている絶望はなんとか片が付きそうだし」

シャル「後は正気に戻った鹿目さんをほむらが説得するだけね」

ゲルト【……あ、あのー……】

シャル「ん? ゲルトちゃん、どうかした?」

ゲルト【いえ、その……あとは暁美さん頼りというのは、悔しいですがその通りだと思いますよ?】

ゲルト【私たちに出来る事がもう無いのも、事実かと思いますよ?】

ゲルト【でも……だからって……】




ゲルト【……温泉に浸かってまったりと過ごすのは、どんなものなのかと】




――――カポーン

さやか「あ、どこからともなく温泉特有の効果音が」

シャル「何? ゲルトちゃんお風呂嫌いなの? まぁ、私もそんな好きじゃないけど」

ゲルト【そうじゃないでしょう!?】

ゲルト【あちらでは今、命懸けの戦いの最中なんですよ?!】

ゲルト【なのに私達は温泉でリラックスって、あまりにだらけ過ぎじゃないですか!】

シャル「あー、平気平気。妖精さんパワーがあれば多分平気」

シャル「それに、何も遊びで浸かってる訳じゃないのよ?」


613 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:52:48.83 lw2GyATE0 365/569



シャル「――――この温泉の源は絶望」

シャル「溢れでる鹿目さんの絶望を原料に、大量のお湯を生み出す温泉」

シャル「その名も妖精さんアイテム『ビバビバのんのん~源泉かけ流し~』!!」

シャル「この温泉により、鹿目さんの絶望は!」

シャル「お肌スベスベ、肩凝り腰痛疲労の回復効果ありという素敵温泉に生まれ変わる!」

シャル「ちなみにその原理は絶望が古い角質とか疲れとかと結託し、サスペンスでお馴染みの岸壁に行こうとするから!」

シャル「そして岸壁まで行くと満足して消えるそうよ! 妖精さんが言っていたわ!」

シャル(……うふふ。言っちゃった♪)

シャル(何時もはほむらが解説しているけど、一度やってみたかったのよね♪)

シャル(……意味は全然分からないけど)

ゲルト【でも、だったら温水を流すだけでいいのでは……】

シャル「絶望を消すには、古い角質とかとの結託が欠かせないの」

シャル「つまり私達が温泉に浸かる事が、鹿目さんの絶望を打ち消すために欠かせないって訳よ」

シャル(……多分)

ゲルト【うーん……いいのかなぁ……】

シャル「ほら、暗くならないの。妖精さんは楽しい事が好きで、楽しければ増えるのよ?」

シャル「温泉に浸かるのが申し訳ないなら、楽しくしていなさい」

ゲルト【はぁ……】


614 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:53:58.54 lw2GyATE0 366/569



シャル「ときに、さやか。アンタ何してんの?」

さやか「ん? キュゥべえをお湯に沈めて遊んでる」

QB「がべ、がぼぼぼぼぼぼ!?」

シャル「なら良いわ。好きにしなさい」

ゲルト【さ、流石に溺死は可哀想じゃ……】

シャル「元凶相手に何甘い事言ってんのよ」

シャル「それにコイツ、いくら殺しても次の個体が湧いてくるから」

さやか「あ、何時の間にか逃げられた」

QB「ぶはっ! ぷはー、ぷはー……」

シャル「ちゃんとその個体の息の根止めときなさいよー」

さやか「ほーい」

QB「きゅ、きゅぶぶぶぶ!?」

シャル「あー、しかし長湯も大変よねぇ……私、あまりお風呂好きじゃないし」

シャル「脱水なのかちょっとフラフラするし。飲み物とかほしいわねー」

妖精さんA「おーだーきたのでー」
妖精さんB「りんごじゅーすをどぞー」

シャル「あら、ありがと」

さやか「あたし温泉卵食べたーい」

妖精さんA「ただいまー」

ゲルト【……いいのかなぁ……】


……………

………




615 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:56:27.14 lw2GyATE0 367/569



ほむら「ほいっ、ほいっ、ほほーいっ」

ほむら(射撃の威力と数は中々のものですが、単調ですからねぇ。躱すのは余裕のよっちゃんっと)

ほむら(それより――――)

クリーム【なんで、なんで、なんでなんで!】

ほむら(ふふ。焦りの色が見えていますよ)

ほむら(先程までは”自分の事しか”見えていなかったのに、今じゃすっかり私との戦いに興じている)

ほむら(相変わらず腕を広げたままこっちを見ていますが……あの姿勢はデフォルトなんですかね?)

ほむら(あれじゃまるで……)

ほむら(ま、ポーズはどうあれ自我が戻ってきた事には違いありません)

ほむら(改めて声を掛けてみるとしましょう)

ほむら「あー、鹿目さーん。私の声が聞えますかー?」

クリーム【聞えるよ! 決まってるでしょ!】

ほむら(ふむ。理性は戻ったようですね……理知的という訳ではないみたいですけど)

ほむら(妖精さんとシャルロッテさん達がどうにかしてくれたようです)

ほむら(しかし……)

ほむら「なら、一旦攻撃の手を緩めてくれませんかね?」

ほむら「こちらとしては同級生に攻撃するというのは、ほんのちょっぴり良心が痛むのですが」

クリーム【そう言って……安心させた隙を突いて攻撃するんでしょ……!!】

ほむら(うーん。相変わらずこちらに敵意むき出し。停戦の意思ナッシング)

ほむら(魔女化したのに未だキュゥべえの肩を持つ気なんですかね)

ほむら(……いえ。むしろ”魔女になった”からこそ、キュゥべえが最後の拠り所なのでしょう)

ほむら(……どの道色々聞きたかったですし。ここいらで一旦――――)

ほむら(鹿目さんを、いじめるとしますかね)


616 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 09:58:03.16 lw2GyATE0 368/569



ほむら「――――いい加減、認めたらどうなのですか?」

クリーム【!? み、認めるって……】

ほむら「魔法少女が魔女になる事です」

ほむら「自分自身が魔女になったのですから、流石に言い逃れは出来ないと思いますよ?」

クリーム【違う!】

クリーム【私は魔法少女! 魔女なんかじゃない!!】

クリーム【みんなの希望である、正義の味方!!!】

ほむら「いや、どう見ても魔女じゃないですか」

ほむら「それに絶望すると魔女になるそうなので、あなたは深い深い絶望に包まれていた筈」

ほむら「そんな状態でも、キュゥべえの言葉を信じるのですか?」

ほむら「それともなんですか? あなたは絶望なんかしておらず、現状に満足しているとでも?」

クリーム【そ、そうだよっ! 私は絶望なんかしていない!】

クリーム【だって最高の力を手に入れたんだもん! どんな呪いも打ち払える、最高の力を!】

クリーム【私は今でも、みんなの希望である魔法少女!】

クリーム【だからほむらちゃんの言う事は全部嘘なの!!】

ほむら「いやいや。流石にその言い訳は無理があると」

クリーム【五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 黙ってよ!】

クリーム【この……嘘吐き!!】


617 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:01:02.16 lw2GyATE0 369/569



ほむら「――――嘘、吐き」

クリーム【そうだよ! 嘘ばかり吐いて、私を惑わして!】

クリーム【騙されない、騙されない!】

クリーム【そんな嘘に、私は……!】

ほむら「……………」

ほむら「……ふ」

ほむら「ふふふふふ、ふふふ」

ほむら「嘘吐き、嘘吐きですか……」

ほむら「――――あなたの言いたい事は分かりました」

ほむら「そうですね。あなたが絶望していなくて、その力に希望を抱いているのなら」

ほむら「確かに私は嘘吐きとなるでしょう」

ほむら「そして本人が言っているのですから、きっと真実なのでしょうね」

クリーム【そうだよ! そうだから――――】

ほむら「ですから、私からも一言」

ほむら「――――ぱらりらぱらりら――――」ヒュン

クリーム(――――!? す、姿が消え……)

クリーム(違う!? ほむらちゃんが、私の顔のすぐ傍に居る!?)

ほむら「……ぱっぱっぱら、ぱっぱっぱら」

ほむら「絶望していない? 満足している?」

ほむら「だったら――――」

クリーム(拳を握りしめて――――)


618 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:01:52.66 lw2GyATE0 370/569





ほむら「さっきから未練がましく手を――――こっちに伸ばしてんじゃありませんっ!!」




619 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:04:28.52 lw2GyATE0 371/569



クリーム【ご、がっ……!?(な、殴られた……顔面を、グーで!?)】

――――ズウウウウウウウウウウンッ……!!

ほむら「何が絶望してないですか……何が満足しているですか」

ほむら「じゃあさっきから、私の方に伸ばしている手はなんですか!?」

ほむら「まるで子供が寂しがって母親を求めるみたいに!」

ほむら「まるで飢えた人々が食べ物を乞うみたいに!!」

ほむら「まるで――――落とし穴に嵌まった子供が助けを求めるみたいに!!」

ほむら「そっちが何も言わないから今まで見てみぬふりをしてましたけどいい加減ムカついてきました!」

ほむら「助けてほしいなら助けてって叫べばいいんです!」

ほむら「なのにさっきからグチグチグチグチ……挙句嘘吐き呼ばわりは我慢出来ません!」

ほむら「そりゃたまには嘘点きますけど、精々人並なんですから!」

ほむら「ああもう! まだ腹の虫が治まらない! 一発なんて言わずオラオララッシュでもお見舞いして」

――――ぷすん。

ほむら「はら?」

ほむら「あれ、なんか急に力が抜けていくような……」

ほむら「というか高度が維持出来なくて自然落下よりマシな程度の速さで落ちて……」

ほむら「……妖精さん」

妖精さん「はいな」

ほむら「この変身アイテム、使用期限とかあったりしますか?」

妖精さん「いうにおよばずですが?」

ほむら「いや、言いましょうよそれは」

ほむら「で? 具体的には何時まで?」

妖精さん「いっぱつなぐるまでー」

ほむら「……まぁ、そういうオーダーでしたからねぇ……」

ほむら「慣れてる筈なのに、何故だかうっかりミスをしてしまう不思議。流石妖精さん」

ほむら「ベテランであるこの私も、やはり理不尽不条理展開に巻き込まれる宿命なのですよねー」

ほむら「……さて、と」


620 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:05:57.99 lw2GyATE0 372/569



ほむら「お、落ちるうううぅぅううううううぅぅうう!?」

ほむら「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんっ!」←両手をトリのようにばたつかせている

ほむら「って、こんな事で飛べたら苦労はないですからーっ!?」

ほむら「ヤバいです! これはヤバいです!」

ほむら「何がヤバいって……」

クリーム【う……ぐが、ああああああああああああああああ……!!】

ほむら「一発殴ったぐらいじゃまだ鹿目さんが立ち上がれるって事が!」

クリーム【違う……私は、嘘なんか……助け、なんか……】

クリーム【絶望なんて……】

クリーム【あああああああああああああああああああああ!!】

ほむら(ああ、魔力弾をたーくさん作って……どうにか避けなくては!)

ほむら「ぱらりらぱらりらーっ!」

ほむら「……………」

ほむら「くっ! やはり呪文も駄目ですか!」

ほむら(――――げっ!?)

ほむら(不味……魔力弾が撃たれた!)

ほむら(このままだと避けられない!)

ほむら(ええい! 運よく全弾外れる事を祈って身体を丸めるぐらいしか……)



――――シュルルルルルッ……!



621 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:07:46.71 lw2GyATE0 373/569



ほむら(っ!? 足に何かが絡まって……鹿目さんからの攻撃……!?)

ほむら(違う! これは……)

ほむら「黄色いリボン!?」



??「ごめんなさい! ちょっと乱暴だけど……我慢して!」



ほむら「ひゃっ!?(身体がリボンに引っ張られて……)」

――――ギュンッ!

ほむら「な、なんとか攻撃は真横を通り過ぎてくれましたか……」

ほむら(いえ、それより今のリボン……)

ほむら「まさか戻って来るとは思いませんでしたよ……」

ほむら「――――巴先輩っ!」

マミ「全く……空中戦までこなすだなんて、本当に妖精さんって凄いのね」

マミ「魔法少女でも、リボンで足場を組める私じゃないと多分ここまで来れないわよ?」

マミ「私と知り合っていなかったら、今ごろ蜂の巣ね」

ほむら「いやはや助かりました。ありがとうございます」

ほむら「しかしながら、何故このような場所に?」

マミ「……鹿目さんの魔力が、魔女の力に変わっていくのを感じてね」

マミ「そして、あれが鹿目さんから生まれた魔女なのね」

ほむら「おや? 分かりますか?」

マミ「ええ。淀み切った、魔女特有の力ばかり感じるけど……」

マミ「鹿目さんの魔力らしい優しさもまだ残っている」

マミ「あの魔女が……いいえ、あの子が鹿目さんなのはすぐに分かったわ」

ほむら「……意外と平気そうですね。怖くて逃げた癖に」

マミ「ぐふ!? あ、あなた、本当に容赦しないわね……」


622 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:10:06.14 lw2GyATE0 374/569



マミ「……でも、確かにその通り」

マミ「あなたの言う通り、私は真実が怖くて逃げた。真実から目を背け続けようとしていた」

マミ「でもね、鹿目さんの魔力が魔女に変わったと気付いた時」

マミ「『また逃げるのか』って、暁美さんが言っているような気がしたの」

ほむら「私が、ですか?」

マミ「まぁ、どう考えても気の所為というか幻聴の類よね」

マミ「でも、その声で思ったの」

マミ「私は真実だけでなく、鹿目さんからも逃げるのかって」

マミ「私と何時も一緒に居てくれたあの子を見捨てるのかって……」

マミ「冗談じゃない」

マミ「私はあの子の先輩」

マミ「先輩が後輩から逃げるなんて……そんな情けない姿は見せられない」

マミ「そう思ったら、力が湧いてきたのよ」

ほむら「なんとまぁ、意地っ張りなお人です事」

マミ「あら、お気に召さない?」

ほむら「いいえ。自分に素直な人って、私、結構好きですよ」

マミ「だと思った」

マミ「……それより、これからどうするの?」

マミ「さっきの動きを見ていて思ったけど、もしかして、今は力が使えないのかしら?」

ほむら「話が早くて助かります」

ほむら「あなたのおっしゃる通り、現在この魔法少女衣装は使用期限が切れて力を発揮出来ない状態」

ほむら「ですがご心配なく」

ほむら「妖精さん。魂の吸引は未だ続いておりますか?」

妖精さん「いまはしておらんよーですなー」

ほむら「グッドな状況報告、ありがとうございます」


623 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:11:34.57 lw2GyATE0 375/569



ほむら「それでは――――この魔法少女の衣装、もう一回使えるようになりませんか?」

妖精さん「いっかいだけならできなくはありませんが、ぎせいがひつようですな」

ほむら「やっぱり」

マミ「犠牲ってどういう……」

妖精さん「ぼくがこのみをささげます?」

マミ「ちょ……それって、あなたの命と引き換えに力を取り戻すって事?!」

マミ「駄目よそんな――――」

ほむら「じゃ、その方向で」

マミ「即断即決で快諾したあああああああああああああああ!?」

ほむら「いや、身を捧げると言っても妖精さんからしたら遊びみたいなものですし」

ほむら「きっと本当の意味では死んでいないのでしょう……多分」

マミ「多分!?」

ほむら「いいんですよー、妖精さん自身が身を捧げると言ってるんですからー」

ほむら「という訳で!」

ほむら「ちぇーんじ・ザ・お洋服!」

妖精さん「とーぅ」

マミ「ああ! 妖精さんが暁美さんの服の中に潜り込んで……」

――――ぴかーっ!

マミ「あ、暁美さんの服が光りだし……」

マミ「って、もう身を捧げたの!? ただ服に潜り込んだだけじゃない!?」

ほむら「まぁ、服との一体化はしたんでしょうけどね」


624 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:13:15.14 lw2GyATE0 376/569



ほむら「兎に角パワーは戻りました」

ほむら「しかしながら、このまま殴り合っても埒が明きません。そもそも一回しか使えませんし」

ほむら「だから鹿目さんの魂に、直接対決を挑むとしましょう」

マミ「直接対決?」

ほむら「ええ。それではいきます!」

――――ゴウッ!

マミ「っ……凄い速さで上空に……」

マミ(あら、暁美さん……一旦上がったのにまた降りてきた……?)

マミ(?! ち、違う! 降りてきてるんじゃない!)

マミ(あのポーズは……跳び蹴りの姿勢!)

マミ(物凄い速さのキックだわ!?)

クリーム【う、うう……この程度、で――――って、ええええええええええええええええ!?】

クリーム【ほ、ほむらちゃんが物凄い速さでこっちに突っ込み】

ほむら「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!」

クリーム【げぼっはあああんっ!?】

――――ズシイイイイイイイイイイイイインッ……

マミ「……跳び蹴りを顔面に喰らって、鹿目さん、またひっくり返っちゃった……」

マミ(だけど今の、威力以外は普通の飛び蹴りよね?)

マミ(それで一体どうやって鹿目さんの魂と直接対決するのかしら……)

クリーム【ぐ、ぐあ、あ、ああああ……!】

クリーム【ああああああああああああああああああああああ!!】

マミ(な、何!? 鹿目さんの魔女が、苦しんでいる!?)

マミ(なんか顔を両手で覆って……)

マミ「……………見間違いかしら」

マミ「今、魔女の顔に……穴が開いていたように見えたのだけど」

マミ(元々そういう顔? 異形だらけの魔女だから一概には否定出来ないけど……)

マミ(でも、多分、きっと)

マミ(……直接対決、ね)

マミ(そんな事ある訳ないって理性では思うのだけど……)

妖精さん「ぷあっ」←マミの髪の毛から出てきた

マミ(こんなファンタジーな子が実在したのだから、もしかするとそういう事もあるかも、ね?)


625 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:15:26.02 lw2GyATE0 377/569



………
……



ほむら「よっこらしょいっと」

ほむら「うん。顔面キックで鹿目さんの体内に侵入する事には成功しましたね」

ほむら(辺りは真っ暗ですが、特にぶよぶよした感触もなく……不思議な空間ですね)

ほむら(魔女さんの体内はみんなこうなっているのか、妖精さんが関与しているのか、はたまたこの魔女さんだけなのか)

ほむら(疑問は尽きませんが、解決すれば皆同じっと)

ほむら「よーうせーいさーん。おーりまーすかー?」

妖精さん「おりますがー?」

ほむら「あら、本当に居りましたか」

ほむら「こんなところで何をしているのですか?」

妖精さん「すいこまれましたー」

ほむら「ああ。あなた、風で吹き飛ばされた妖精さんの一人でしたか」

妖精さん「はいな」

ほむら「それで? 何か面白い事がありましたか?」

妖精さん「とくにないので、つぎつぎにきえていますが?」

ほむら「それは寂しい事を仰る」

ほむら「それはそうと、鹿目さん……私以外の人間を見ていませんか?」

ほむら「多分魂の形でいると思うのですが」

妖精さん「あー……みたようなきがしなくもないですが」

ほむら「覚えてないのですね」

妖精さん「そうかもー」

ほむら「なら、別の方法で」

ほむら「妖精さんを適当な紐で縛って、宙ぶらりんに……はい、妖精さんコンパス完成っと」

ほむら「案内をお願いしますね」

妖精さん「おやくだちになるならー」

ほむら「それでは、しゅっぱーつ」


626 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:17:13.82 lw2GyATE0 378/569



………
……



妖精さん「ぐーるぐーる」

ほむら「……ふむ。あっちですか」

ほむら「なんかさっきからあっちに行ったりこっちに行ったりしてますけど、ちゃんと鹿目さんの方に進んでいるんですか?」

ほむら「大丈夫だとは思っていますけど、迷ったりしてませんよね?」

妖精さん「こころって、めいろみたいですから」

ほむら「……ちょっとしんみりしてしまいました」

妖精さん「まようのがじんせいでは?」

ほむら「そう言えば昔父に言われましたね。ガキは思う存分迷子になれって」

ほむら「うん、機会があったら鹿目さんにこの言葉を贈るとしましょう。私の言葉として」

ほむら「ん?」

ほむら「あれは……青白い光……?」

ほむら(いえ、ただの光ではないようですね)

ほむら(何しろ、人の形をしているのですから)

ほむら「……………」

ほむら「ようやく、見つけましたよ――――鹿目さん」

まどか【……ほむらちゃん……】

まどか【どうやって、此処に……】

ほむら「妖精さんが連れてきてくれました」

妖精さん「なんとかなるものですなー」


627 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:19:45.16 lw2GyATE0 379/569



まどか【そっか】

まどか【……やっぱりその子達は、妖精なんだね。凄いなぁ……】

ほむら「むむむ。呼び捨てはいけませんよ? ちゃんと妖精さんと呼んであげてください」

まどか【……うん】

ほむら「それで? さっきからなんで膝を抱えているんですか?」

ほむら「悩みがあるようなら一応聞きますよ?」

ほむら「というかいい加減面倒臭いので言いたい事があるならさっさと吐いちまえ、というのが本心です」

まどか【……ふふっ】

まどか【ほむらちゃんは、本当に正直だね】

ほむら「そうですかねー。まぁ、嘘吐きではないと思いますけど」

まどか【うん、正直者だよ】

まどか【……私とは大違い】

まどか【……私ね、願い事をしないで魔法少女になったんだ】

ほむら「?」

ほむら「……魔法少女って、願い事と引き換えになるものではないのですか? よく知りませんけど」

まどか【うん。そうだよ。願い事の代わりに魔女と戦うのが魔法少女】

まどか【……ほむらちゃんが転校してくる一週間ぐらい前かな】

まどか【私ね、キュゥべえに、魔法少女にならないかって言われたの】


628 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:21:55.08 lw2GyATE0 380/569



まどか【勿論ちょっと怪しいと思ったから色々質問して、その時キュゥべえと一緒に居たマミさんとも話をして】

まどか【命懸けだとか魔女が人を襲う化け物だって聞いて、怖いなって思って……】

まどか【でもそれ以上に、魔法少女に憧れた】

ほむら「……………」

まどか【一応事故に遭ったネコを助けたいって願いで魔法少女になったけど】

まどか【魔法少女になれるのなら、誰かの役に立てるのなら、願い事なんていらなかったんだと思う】

まどか【強いて言うなら、魔法少女になるのが私の願い】

まどか【だって、私はドジでのろまで、何も出来なかったから】

まどか【だから誰かの役に立てるのが嬉しかった】

まどか【……ううん。違うね】

まどか【例え殆どの人にその正体を明かせなくても、私にしか出来ない事があるのなら】

まどか【立派な魔法少女として、マミさんやキュゥべえに認めてもらえたなら】

まどか【それはとっても嬉しいなって、思ったから】

まどか【でも……真実は、私が思っていたのと違った】

まどか【私がしていたのは、騙されていた人達を殺す事】

まどか【ほむらちゃんなら助けられた……もしかしたら、私でも助けられたかも知れない命を、奪う事】

まどか【そして最後は、自分が誰かを殺すようになる事】

まどか【笑っちゃうよね。誰かの役に立つどころか、誰かの迷惑になってる】

まどか【魔法少女になって自分は変わったって思っていたけど、単なる思い上がり】

まどか【私は結局、私のまま。何も出来ない、誰かの迷惑にしかならない私のまま】


629 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:24:01.65 lw2GyATE0 381/569



まどか【……認められなかった】

まどか【自分が何も出来ないって認められなかった。自分が悪い事をしているなんて、受け入れられなかった】

まどか【そんな事を認めたら、私は、昔よりも価値がなくなっちゃう】

まどか【それで、みんなから要らないって思われたら】

まどか【……怖かった。すごく怖くて、堪らなかった】

まどか【だから私はほむらちゃん達を否定して、”安心出来る”キュゥべえを信じた】

まどか【本当の事から目を背けて、”怖い事”を消しちゃおうとした】

まどか【魔女になろうとしている時も、自分は魔女になるんじゃない、
    もっと素晴らしいものに生まれ変わるんだって言い訳して】

まどか【怖い事じゃなくて、いい事なんだって自分に嘘を吐いて】

まどか【……ううん……気持ちいいは、嘘じゃなかったかも】

まどか【絶望した私は、目を閉じたの。怖い物を見ないようにするために】

まどか【目を閉じれば、瞼の裏には私が望んでいた世界だけが浮かぶ】

まどか【誰よりも正しくて、誰よりも強くて、みんなが憧れる――――最高の魔法少女になった私だけが見える】

まどか【それはとても幸せな夢のようで】

まどか【私から全てを奪い去る真実よりも優しくて】

まどか【すごく、心地良かった】

まどか【……こうやって正気に戻ったら、なんて馬鹿なんだろうって思うけどね】

まどか【みんなに迷惑かけているって気付かず、本当の事を言われたら駄々を捏ねて、言い訳出来なくなったら暴れて】

まどか【それすら出来なくなったら最後は不貞寝】

まどか【最低だよね……死んだ方がいいぐらい、最低、だよね……】

まどか【ほむらちゃん……】

まどか【私……死んだ方が、いいのかな……?】


630 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:25:19.11 lw2GyATE0 382/569





ほむら「――――至極、つまらないお話ですね」




631 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:32:24.95 lw2GyATE0 383/569



まどか【っ……!?】

まどか【つ、つまらない……?】

ほむら「つまらないですよ。だってほぼ自分語りじゃないですか」

ほむら「そもそも、あなたは私になんて答えてほしいのですか?」

まどか【え?】

ほむら「……本当は、今までの罪を許してほしいのでしょう?」

ほむら「正義の魔法少女として、今でも認めてほしいのでしょう?」

ほむら「今でも認めてほしいから、さっきまで暴れていたのでしょう?」

ほむら「だったら、それでいいじゃないですか」

ほむら「正義の魔法少女としてみんなの役に立ち、みんなに認めてもらいたい」

ほむら「それがあなたの願いだと言うのなら、今度こそなればいいんです」

ほむら「あなたの理想とする、素敵な『魔法少女』に」

ほむら「どうなんですか? あなたは、そんな魔法少女にはもうなりたくないのですか?」

まどか【それは、なりたい、けど……】

まどか【で、でも、私……みんなに迷惑かけて】

まどか【それに今まで魔女を、人もたくさん殺しちゃって……】

まどか【こんな私が、正義の魔法少女なんて】

ほむら「魔女が元々人だと知らず、助けられると知らずに殺してしまったあなたが咎人なら」

ほむら「存在そのものを知らなかったという理由で、魔女を助けていなかった私もまた咎人でしょう」

ほむら「無知による行動が罪であるならば、私はあなたと同罪です」

ほむら「なら、私もあなたと同じく願いを叶える権利はないのですよね?」

まどか【ち、違う! そんな事ないよ!】

まどか【ほむらちゃんは……別、で……】


632 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:35:42.59 lw2GyATE0 384/569



ほむら「それに、です」

ほむら「最善ではなくとも、次善の方法で絶望から救ってくれたあなたを怨む魔女さんがどれだけ居るでしょう」

ほむら「あなたに感謝しながら斃れた者もゼロではないでしょう」

ほむら「自分を卑下する事は、その方々の想いを踏み躙るような真似に他ならないと思いませんか?」

まどか【……………】

ほむら「確かにあなたに一切罪が無いとは言えません。多分、あなたが一番納得出来ないでしょうし」

ほむら「しかし償いに必要なのは、幸せにならない事ではありませんよ?」

まどか【ほむら、ちゃん……】

まどか【でも……】

ほむら「あ。もうぶっちゃけ面倒臭いので、これ以上御託を並べても無駄です」

ほむら「さっさと肉体に魂詰め込んで、ここから脱出しますのであしからず」

まどか【酷っ?!】

まどか【そりゃ助けてもらう私に口答えする権利なんて無いだろうけど!】

まどか【ちょっとは私の心境というか不安を汲んでよ!?】

まどか【今更どんな顔してみんなに会えばいいのか分かんないし!】

ほむら「そんな不安を抱く必要があるとは思えませんけどねー」

ほむら「だって――――」


……………

………




633 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:37:35.34 lw2GyATE0 385/569



ゲルト【あ! みなさん、あれを見てください!】

さやか「んあー? なにー?」ブルブルブルブルブル

シャル「んにゃ……もう、折角いい気持ちで寝てたのに……」ブルブルブルブルブル

マミ「あ゛ー……効くぅぅぅ……」ブルブルブルブルブル

ゲルト【三人とも何妖精さんが作ったマッサージ器具でリラックスしてるんですか?!】

ゲルト【ほら、鹿目さんの魔女が……!】

さやか「え? まどか?」

さやか「って、魔女の身体がボロボロ崩れてる……!?」

さやか「いや、解体されてる!?」

シャル「おー、ようやく片が付いたか」

ゲルト【ええ……暁美さんが、やってくれたんです……!】

ゲルト【ですから……】

さやか「ああ、分かってるよ」

シャル「言われるまでもないわ」

さや シャル「……………」

さやか「ぎゃああああああ!? はや、早く着替えないと!」

シャル「温泉上がった後なんとなく出された浴衣着ちゃったけど流石にこれはない! ないないない!」

ゲルト【うう……緊張感ってなんだっけ……】

マミ(なんでこの魔女、項垂れているのかしら……)←翻訳眼鏡なし

マミ「!」

マミ「ね、ねぇ、あれを見て!」

マミ「あれって……鹿目さんと暁美さんよね!」

ゲルト【本当です!】

ゲルト【あれは、傘、でしょうか……】

ゲルト【傘を差した暁美さんが、ふわふわと降りてきてます!】




ほむら「みなさーん。お待たせしましたー」

まどか「……………」


634 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:39:03.27 lw2GyATE0 386/569



マミ「鹿目さん!」

さやか「ま、まど、ずべしゃっ!?」

シャル「あーもういい! 浴衣でいいや!」

ゲルト【なんで歓喜の出迎えがこんなグデグデに……】

ほむら「よっと。無事着地に成功ー」

ほむら「お? 結界も解けましたね。魔女の身体の解体は済んだようです」

ほむら「さて――――鹿目さん」

まどか「う、うん……」

まどか「あの……みん」




さやか「まどかあああああああああああああああっ!!」




まどか「えっ、さやかちゃ……!?」

さやか「この馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! あたし以上の馬鹿!」

さやか「心配したんだから!」

まどか「あ……」

シャル「本当よ……いくら戻せるからって、魔女になる瞬間は見たくないんだから」

ゲルト【本当によがっだでずぅぅぅぅぅ!】

まどか「みん、な……」

マミ「……鹿目さん」

まどか「……マミ、さん……あの」

マミ「っ!」

まどか(あ……マミさんが、抱き着いてきて……)

マミ「――――ごめんなさい」


635 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:40:19.52 lw2GyATE0 387/569



マミ「あなたがどれだけ苦しんでいたのか知らず……私、あなたを独りにしてしまったわね」

マミ「酷い先輩で、ごめんなさい……ごめんなさい……!」

まどか「……」

さやか「まどか……」

まどか「さやかちゃん……」

まどか「あの、私――――」

さやか「本当に、ごめん!」

まどか「えっ……?」

さやか「あたし、馬鹿だから……思った事全部言っちゃって」

さやか「それがアンタを追い詰めるなんて、全く想像してなくて」

さやか「本当に、ごめん!」

まどか「さやかちゃんまで……」

シャル「んー、私からも一ついいかな?」

まどか「ま、魔女、さん……」

まどか「えっと、その」

シャル「ごめんね」

まどか「!?」

シャル「今日のあなたの心境に一番近かったのは、魔女になった事がある私だったのに」

シャル「何も出来なくてごめんなさい」

まどか「な、なん……」

まどか「なんでみんな、私より先に謝るの……?」

まどか「悪いのは全部私なんだよ? 私が何もかもいけないんだよ?」

まどか「なんで、私を……許してくれるの……?」

さやか「……アンタってほんと馬鹿。こんな事も分かんないなんて」

まどか「分かんないよ! だって、私はみんなの事を殺そうとしたんだよ!?」

まどか「殺そうとしたのに、なんで許せるの!? なんでこんなに優しく出来るの!?」

さやか「そんなの簡単な話でしょ」


636 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:40:54.43 lw2GyATE0 388/569






さやか「みんな、アンタが好きだからだよ」





637 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:42:42.84 lw2GyATE0 389/569



まどか「――――――――わたしが、好き?」

さやか「そう!」

マミ「当然じゃない!」

ゲルト【私はあなたの事はよく知りませんけど……でも、あなたが真面目な人なのは分かります】

ゲルト【そういう人が思い詰めた結果取り乱したというのなら、私はあなたを嫌いになるなんて出来ません】

ゲルト【そしてこうして正気に戻り、罪と向き合おうとするあなたを私は尊敬します】

ゲルト【私にはそんな勇気……ありませんから】

ゲルト【ですから私もみなさんと同じく、あなたの事が好きです。尊敬する、心の在り方の師として】

さやか「げるげるもまどかの事が好きだってさ!」

シャル「いや、もう少しちゃんと伝えてあげなさいよ……結構な長台詞だったでしょ」

さやか「そういうシャルちゃんは?」

シャル「はぁ? いや、私は……別にどうでもいいじゃん。わざわざ言わなくても、そんな親しくないし」

さやか「そんな親しくないどころか初対面のげるげるもコメントを寄せていますがー?」

シャル「あ、あの子は、真面目そうじゃん。私は魔女らしく不真面目だから……」

さやか「ひょっとしてアレか? 面と向かって好きだと言うのは恥ずかしいってか?」

シャル「ば!?」

シャル「バカじゃないの!? そんな、恥ずかしがるわけないじゃん!?」

さやか「なら言ってみろよーう」

シャル「う、うぁ……ああああああ! このバヤカ! 馬鹿さやか略してバヤカ!」

シャル「このこのこのこのこの!」

さやか「ふはははーっ! そんなへっぽこパンチなんて当たらぬよーっ!」

シャル「うきーっ!!」

まどか「……………みんな……」

ほむら「ほら、あの時言った通りでしょう?」


638 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:43:39.82 lw2GyATE0 390/569



まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「あなたが不安を抱く必要なんてないのです。皆に疎まれる心配もなければ、
    そもそも価値を上げようとする必要もなかったのです」

ほむら「だって、あなたはこんなにも愛されている」

ほむら「こんなにも、みんながあなたを手放したくないと思っている」

ほむら「あなたはあなたというだけで、価値があるのです」

ほむら「何しろ好き嫌いの激しい私でもあなたの事は好きですからね! いじり甲斐があって!」

ほむら「きっとあなたが好きだと思っている人達は――――みんな、『鹿目まどか』が大好きですよ!」

まどか「――――うん」

まどか「みんな、心配かけて、ごめんなさい。酷い事をして、ごめんなさい」

まどか「そして――――助けてくれて、ありがとう」

まどか「私を好きになってくれて……ありがとう……!」


………
……



639 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:46:17.79 lw2GyATE0 391/569



ほむら「さて……鹿目さんの救出も完了しましたし、あとはアレを捕まえて……」

ほむら「ん? んんー?」

さやか「どうした、ほむら?」

ほむら「いえ、キュゥべえの姿が見当たらないと思いまして」

ほむら「見つけたら妖精さんアイテムで亜空間にポイして、ペットの宇宙怪獣の餌にしてやろうと思っていたのですが」

シャル「アンタなんちゅうもんをペットにしてるのよ……」

ほむら「ま、逃げられたのなら仕方ありません。探すのも面倒ですし」

ほむら「……ああ、キュゥべえと言えば」

ほむら「巴先輩のソウルジェム、いい加減処置をした方がいいかも知れませんね」

ほむら「和解出来た記念という事で、今日にでもやっちゃいますか。勿論巴先輩の都合次第ですけど」

シャル「あー、そうね。やっといた方がいいわよね」

さやか「うっかり割ったら大惨事だもんね」

まどか「私はこの身体に戻った時に、もうソウルジェムの処置は済ませたし、マミさんも早めにした方がいいよね」

マミ「……?」

マミ「あの、さっきからなんの話をしているの?」

ほむら「ああ、そういえばまだ言ってませんでしたね」

ほむら「ソウルジェムって、魔法少女の魂なんですよ」

マミ「……………ふぇ?」

ほむら「ですから、その石ころがあなたの魂って訳です」

ほむら「まぁ、今更大した話ではないですけどねー」

さやか「うんうん」

シャル「魔女化と比べればしょっぱい話よね」

ゲルト【そうですよねー】

まどか「それぐらいなら、私でも割と耐えられたもんねー」

「あっはっはっはっはー♪」

ほむら「まぁ、そんな訳でうっかり割っちゃうとあなたは死んでしまうので」

ほむら「妖精さんの力でその魂を身体に戻そうという訳で……」

マミ「……………」

ほむら「……あれ? 巴先輩?」


640 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:47:21.71 lw2GyATE0 392/569



マミ「……………」

ほむら「……友枝先輩? タヌキさん? おい巴?」

ほむら「もしもし? もしもーし?」

ほむら「へんじがない ただの ぞんびのようだ」

シャル「止めなさい」

マミ「……た」

ほむら「た?」




マミ「魂が石ころにされたなら、みんな死ぬしかないじゃない!!」変身!




「……………」

「ええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

ほむら「ちょ、なんでその程度の事で錯乱してるんですかーっ!?」

シャル「どんだけギリギリの精神状態だったのよアンタ!?」

さやか「ひっ!? 銃口こっちに向けないでーっ!」

ゲルト【おち、落ち着いてくださいぃぃぃ!?】

まどか「大丈夫ですから! ちゃんと戻りますからーっ!」

マミ「嫌ああああああ! 離して! 離し」

――――パキン

全員「あ」


641 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:48:31.04 lw2GyATE0 393/569



マミ「……そういえば、ソウルジェムの浄化をすっかり忘れていたわ」

マミ「てへぺろ♪」

「笑ってごまかすなああああああああああああああっ!!!」

マミ「助けてえええええええ! 魔女になりたくないいいいいいいっ!!」

さやか「ちょ、しがみつかないでくださいよっ!? ソウルジェムから絶望がぶすぶす漏れてますからっ!」

シャル「魔女化の瞬間の衝撃波って凄いのよ! 離れてよ!」

ゲルト【おおおおお落ち着いてくださ、って私の声この人には届かないじゃーん!?】

ほむら「……面倒臭いから、助けるの明日にしてもいいですかね?」

まどか「人を襲うから駄目」

ほむら「ですよねー」


……………

………




642 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:51:03.15 lw2GyATE0 394/569





              ―――― ??? ――――




QB(……想像以上だ)

QB(想定以上じゃない。想像以上の結果が出てしまった)

QB(いくら観測しても、生体磁場はおろか歩行によって生じる地面の振動、大気の移動、魂の波形も検出出来ない)

QB(魔女と美樹さやかの発言が正しければ、あの場に妖精は千体は居た筈)

QB(だと言うのに、手掛かりとなりうるデータは微塵も拾えていない)

QB(それでもこれだけならまだ想定以上で済む話だった)

QB(だが……あの温泉)

QB(なんだよアレ!? 一体何処から温泉が出てきた!?)

QB(建設中も観測していた筈なのにまるでデータが拾えていない!)

QB(言うなら”ずっと見ていたけどなんか何時の間にか完成していた”状態……)

QB(どんな状態だよ!? データ上の話なのになんでそんな曖昧なんだよ!)

QB(しかも周囲の感情エネルギーを吸収し、なんだかよく分からない温水として排出!?)

QB(訳が分からない! 分かって堪るかあああああああああっ!!)

QB(はっ!? い、いけない! いけない!)

QB(これだ……本当に恐ろしい……ああ、そうだ。恐ろしいのはこれ)

QB(あの温水に浸かった僕の中で、感情らしきものが芽生えている!)

QB(幸いにも完全に感情が芽生える前に抜け出せたからこの程度で済んだけど……)

QB(もしもっと長期間居たなら、僕は精神疾病を患っただろう)

QB(原理は分からないが、妖精達は僕らの感情を呼び覚ます術を知っている)

QB(恐らく前任者もこの事象によって感情を目覚めさせられたんだ)


643 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:52:33.09 lw2GyATE0 395/569



QB(……この宇宙で、星々を自在に飛び回れるほどの高度文明を築いた生物は、どれも感情を持たない)

QB(感情のような非合理的なシステムでは、重大な決断を下す際どうしても遅延やミスが発生する)

QB(それらの一つ一つは些末なようで、高度な文明ほど致命的なエラーを生み……最後は文明を滅ぼしてしまうからだ)

QB(それは僕達インキュベーター……そして”我々”も同様だ)

QB(感情を持っていないから、”我々”は数百万年もの時を跨ぎ、その英知を継続出来ていた)

QB(稀に生まれる感情保有個体も徹底的に排除する事で、重大エラーの発生を抑えてきた)

QB(だが、もし全てのインキュベーターが……”我々”の全てが感情に目覚めたなら……)

QB(妖精は邪魔者なんかじゃない。計画の障害どころではない)

QB(奴等は”我々”の生存を脅かす天敵……!)

QB(暁美ほむら。今日言った言葉を早速撤回させてもらおう)

QB(どうやら君達の事を見くびっていた)

QB(そして次は決して手を抜かない。効率などもう考えない)





QB(”我々”の全力を以てして、君達を倒させてもらう!)



644 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/26 10:54:47.80 lw2GyATE0 396/569




            ―――― 一方その頃 箱の魔女の結界 ――――



エリー【……うーん】

エリー【ねぇ、そこのアンタ】

使い魔【……】

エリー【これってさ、不可抗力よね?】

エリー【魔法少女って一応敵でしょ? 戦わないと私が殺されるでしょ?】

エリー【それにさ、このパソコンの性能ってまだよく分かんなかったし】

エリー【四足要塞とか飛行ドローンってのもなんの事か知らないじゃん?】

エリー【だから、ちょーっとやり過ぎる事もあると思うのよ】

エリー【つまり何が言いたいのかというと】

エリー【レーザーとプラズマ砲台を起動して、四足要塞を投下し、ついでに飛行ドローンも四十機ぐらい発進させても】

エリー【仕方ないよね?】

使い魔【……】フルフル

エリー【……ですよねー】

エリー【うああ……やり過ぎたぁ……】

エリー【まさか妖精さん製のパソコンがあんな滅茶苦茶強いなんて……砲台とか飾りだと思ってたのに】

エリー【いや、殺してはいないよ? 殺してはいないけど……】

エリー【……ほんと、どうしようかなぁ……】




杏子「」プスプス




エリー【……あの魔法少女】

エリー【プラズマ直撃でアフロヘアーになってるし……助けないと死んじゃうかも……】

エリー【相談出来るのは暁美さんぐらいしかいない……けど、これ知られたらパソコン没収されちゃう……】

エリー【いやいや、何考えてんの私】

エリー【パソコンと人命、どっちが大切か考えればすぐに分かるでしょ!】

エリー【……………】

エリー【あの人、結界の外にこっそり捨てちゃダメかな?】

使い魔【……】フルフル

エリー【ですよねー】


675 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:22:10.83 UkDDo2Pd0 397/569




えぴそーど おまけ 【めがほむさんの、めざせせかいせいふく】



676 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:27:15.09 UkDDo2Pd0 398/569



転校初日の夜、私は夢を見ました。


それはなんと、私が何人もいる夢です。

最初は訳が分からず、とても戸惑いましたが……”私”の一人が、これは夢だと教えてくれました。

自分達が私の別人格であるとも教えてくれました。

そして、私の悩みを打ち明けてほしいと言われました。


少し渋りましたが、しかしこれは自分の夢。相手もまた自分。

どうせ夢ならばと勇気を持って、引っ込み思案で臆病な性格を変えたいと伝えてみました。

すると”私”の一人はこう答えたのです。




”アイドル”デビューしなさい。




最初はとてもびっくりしました。だってあまりにも滅茶苦茶です。理屈で説明出来ないぐらい意味不明です。

当然私は無理だと伝えましし、他の”私”も反対していました。

ですが”私”は何処からかマイクを取りだし、私に歌うよう促したのです。中々強引な私でした。

渡された手前歌わない訳にもいかず、訳が分からな過ぎて吹っ切れた私は……歌いました。


その時の事は、きっと一生忘れないでしょう。


――――盛り上がる観客から生じる熱気。

――――私の声に撒け次劣らず叫ばれる歓声。

――――ステージと溶け合ったような一体感。


全てが、何もかもが、私の想像を超えていました。生まれて初めて経験する世界でした。


そして私は思うようになったのです。



私の歌声を、世界に轟かせたい。


もっとたくさんの人に私の歌を聞かせたい――――と。



677 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:31:11.36 UkDDo2Pd0 399/569



          ――― とある並行世界の暁美家 ―――



ほむら「!」

目を覚ました私は、勢いよくベッドから跳ね起きました。

時計を見ると朝七時。やや寝坊気味ですが、少し急げば遅刻せずに済むでしょう。
逆に言えば今すぐ動かねば遅刻してしまう訳で、すぐにでも支度を始めるべき状態です。

だけど私は動けないでいました。


――――あれは、夢。


夢でもらった、もっと言えば自分で自分にしたアドバイスなんて、一体どれだけの価値があるのでしょう。

仮に他人からのアドバイスでも、アイドルになるなんて真面目に受け取る方がどうかと思います。

それに私はあまり可愛くないし、人前で歌った事もない。夢では上手いし可愛いと言われましたが、しかし所詮自分の頭の中での事。
自画自賛であり、なんの価値もない評論です。


でも、私は――――歌いたいと思いました。


この歌声を世界中に届けたいと思いました。


……あと、自分に嘱望の眼差しを向けてくる人たちとか、想像しただけで気持ち良かったので……♪


性格改善とか、友達をたくさん作りたいとか、もうどうでもいいのです。

私はなりたい。だからなるのです。


ほむら「――――アイドルに!」


決意を言葉にし、私はベッドから下りて――――


678 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:31:57.08 UkDDo2Pd0 400/569






        それはとてもおもしろそうですなー






679 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:37:34.54 UkDDo2Pd0 401/569



ほむら「?」

ふと聞こえてきた……なんと言われたのかは聞き取れない、なのになんだか懐かしい声に首を傾げたのでした。




……………

………





一生懸命にやっていると何事もあっという間に過ぎ去るもので、気が付けば放課後を迎えていました。

まぁ、芸能学校なら兎も角、私が通っているのはただの中学校。学校にいる間はアイドルになるための練習が出来ません。

さっさと時間が過ぎ去り放課後になるのは、むしろどんとこいという気持ちです。



さて、ここからが本番。



――――アイドルになるのに必要なのは何か?


まず一番に思い付いたのは容姿です。やはり可愛くないとアイドルとは言えないでしょう。

私の容姿ははあまり良くないものだと思いますが……可愛く見せるコツはある筈。

寄り道して買った雑誌(志筑さんという綺麗なクラスメートに、どんなファッション雑誌を読んでいるのか聞きました!)を
家に帰ったらじっくり読み、勉強するとしましょう。

しかしそれだけではいけません。


アイドルといえば……歌です。


何より私はみんなに自分の歌を聴いてもらいたいのです。歌が下手では話になりません。故に、練習せねばならないのです。

とは言え、自分の家で大声を出すのは近所迷惑になりそう。

吹奏楽部に入る事も考えましたが、しかしコーラス担当の部員はすでに満員だと聞かされて断念せざるを得ませんでした。
情報源? 夢のために、勇気を振り絞ってクラスメートから聞きました!
勇気があればなんでもできる~。あ、これ大声で言っちゃいけない言葉なんですよね。ニュースでやってた気がします。


閑話休題。


家でも駄目。学校でも駄目。なら歌の練習は諦めるしかないのでしょうか?

否、断じて否です。

人がいっぱいで練習出来ないのなら――――人気のない場所で練習すればいい!




ほむら「という訳で! やってきました廃ビルの屋上です!」


680 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:40:54.10 UkDDo2Pd0 402/569



ほむら「ここならどれだけ大声を出しても怒られないもんねー♪」

ほむら「それに屋上で歌うと気持ち良いし」

ほむら「夕日をバックに歌うとか、なんかカッコいいし!」

ほむら「……暗くなったら、ビルの中を通らないといけないよね……」

ほむら「く、暗くなる前に帰ろう……うん」

ほむら「時間もないし早速何か歌おう。えっと、とりあえず音楽の教科書から何か――――」


――――バタン!


ほむら「ひっ!?(と、扉を開ける音!?)」

ほむら(あ……なんかOLさんみたいな人が……)

OL「……………」

ほむら(あの人、目が虚ろで、足元ふらふらしてる……?)

ほむら(というかどこに歩き……)

ほむら(って、うええええええええええええ!?)

ほむら(なんかあの人、飛び降りようとしてない!?)

ほむら「だ、だだ、駄目、駄目ですーっ!?」ガシッ

ほむら(よし、掴めた! あとは思いっきり……引っ張る!)

OL「あっ――――」

――――バタリ

ほむら「あだっ!? いてて……」


681 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:43:24.28 UkDDo2Pd0 403/569



ほむら「はっ!? 痛がってる場合じゃない!」

ほむら「と、と、飛び降りなんて、ささささせませんよ!?」

ほむら「生きていれば良い事ある筈です! だから、あのー」

ほむら「……………」

ほむら「……あのー……?」

OL「……………」

ほむら(え? なんか、動かなくなった……?)

ほむら(わ、私が引っ張った拍子に頭とか打っちゃったのかな!?)

ほむら(息はしているみたいだけど……)

ほむら(ど、ど、どうしよう……人工呼吸? 心臓マッサージ?)

ほむら(そうだ! たんこぶ! たんこぶが出来ていれば平気って、おばあちゃんが言ってた!)

ほむら(じゃあ早速たんこぶを探して……)


――――グニャアアアア


ほむら「えっ!?」

ほむら「な、何……え……えっ!?」

ほむら(何これ……景色が変な事になって……)

ほむら(と、兎に角逃げなきゃ!)

ほむら(……ど、どっちに……?)

――――シャキン、

ほむら「ひっ!?」

ほむら(は、鋏の音!?)


682 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:45:28.69 UkDDo2Pd0 404/569



――――シャキン、シャキン

ほむら(近付いてくる……!? 一体何が……)

――――シャキン!



アントニー【――――】シャキン



ほむら「ひ、ひぃいいいいぃいいぃぃぃっ!?」

ほむら(な、何、何何なんなのアレ!?)

ほむら(お化け……違う! ば、化け物だ……ゲームとかアニメで出てくるような……)

アントニー【――――】シャキン

ほむら「う、あ……」

ほむら「や、やだ……近付かないで……お願い……」

アントニー【――――】シャキン

ほむら「やだ、やだ、やだ……」

ほむら「ね、ねぇ……その鋏で切ったり、しませんよね……?」

ほむら「わ、私、殺したりしないよね……?」

アントニー【――――】シャキン

ほむら「なんで、なんでこんな……」

ほむら「私、こんなところで死んで――――」


683 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:46:15.49 UkDDo2Pd0 405/569














                  うたはせかいをすくうのではー?













684 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:49:05.26 UkDDo2Pd0 406/569



ほむら「えっ……?」

ほむら(また声が……何を言われたのかは分かんないけど――――)

――――スッ

ほむら(視界の外に何かが!?)

ほむら(小さい、小人……?)

ほむら(もうなんなの……何がどうなってるの!?)

ほむら(分かんない、分かんないよぉ……!)ガクガク

ほむら「……?」

ほむら(あれ……なんか、私握りしめて……)

ほむら(え? なん、で――――)

ほむら(私、マイクなんか握っているの?)

アントニー【――――】シャキン

ほむら「……………」

ほむら(私、可笑しくなっちゃったのかな。あの化け物が、どんどん近付いているのに。殺されちゃいそうなのに、全然怖くない)

ほむら(それに胸が熱い……)

ほむら(ううん。違う)

ほむら(熱くなっているのは、私の心)

ほむら(なんでだろう。こんな状況なのに、もうすぐ殺されちゃうのに)

ほむら(心から、楽しくなっているのは)

ほむら(何故だろう)






ほむら(この胸の衝動を――――抑えられないのは)





685 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:50:21.48 UkDDo2Pd0 407/569



ほむら「……私は、アイドルになりたい」

アントニー【――――】シャキン

ほむら「このまま殺されるしかないのなら……せめて、アイドルっぽく死んでみたい」

アントニー【――――】シャキン

ほむら「うふふ。何時も馬鹿だと思っていたけど、今日の私は、とびきりのお馬鹿だ」

アントニー【――――】シャ、キン

ほむら「だから馬鹿らしく、全力でいきます」

アントニー【――――】シャキン!


686 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:51:13.64 UkDDo2Pd0 408/569








           ほむら「私の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」







687 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:53:48.59 UkDDo2Pd0 409/569



――――それは死闘と呼ぶには、あまりにも間の抜けた光景だったでしょう。


化け物の鋏を躱しながら、私は闇雲に歌い続けました。何を歌ったのか、音程はどうだったのか、何も覚えていません。

勿論現状が変わるとは思っていませんでした。アイドルを目指した一人の女の子として死ぬ……そのために歌ったのですから。


しかし不思議な事が起こりました。

なんと化け物が、私への攻撃を止めたのです。


それが何を意味するのか一瞬分かりませんでしたが、けれどもすぐに理解出来ました。

最初は一体しかいなかった化け物たちがぞろぞろと集まり、なんと、私の前で並んだのです。

その光景はまるで人のように規律が取れており……そして何より、あるものを彷彿とさせました。



観客です。



言葉はなくとも私には分かりました。彼等は、私の歌を聴きたいのだと。聴いてくれるのだと。

私を殺そうとした者達が、私の歌に興味を持ったのです。


それはこの不思議なマイクの仕業なのでしょうか。

それとも彼等は歌を愛する種族なのでしょうか。

或いは私の歌が彼らの心を揺れ動かしたのでしょうか。


答えは分かりません。分かりませんが、観客がそこにいるのなら――――”アイドル”としてすべき事は一つ。


688 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 13:58:35.51 UkDDo2Pd0 410/569



私は全力で歌いました。

己の命を削るつもりで歌いました。

何時の間にか世界が元通りになりましたが、私は気にせず歌いました。

月が天頂で輝いても魂の叫びを口から発し続け……疲労のあまり立てなくなっても、這いずりながら歌いました。

観客の数は徐々に増えていき、コレ見滝原中の人達が集まってない? と思うぐらいすごい事になりましたが無視して歌いました。


そして辺りが明るくなった頃……私の精根は尽き果て、その場に倒れました。


化け物たち……いえ、観客はそんな私の元に集まり、肩を貸してくれました。

観客の何倍も大きな生き物は私に薔薇の花束をくれました。

ついでに飛び降り自殺をしようとしたOLさんが飲み物をくれました。

あと猫みたいな小動物が「ありがとう。君のお陰で僕はこの熱い想いに目覚める事が出来た」と感謝してきました。

金髪で胸の大きな人が「サインください!」と言いながら色紙を渡してきました。一応書いてあげました。

紅い髪の女の子が「何年かかるか分からないけど、あたし、盗んだ物の代金全部持ち主に返すよ」と言っていました。

車椅子の男子に「僕はバイオリンを弾くためではなく、君が歌う詩を書くために生まれたに違いない」と告白されました。

担任の先生である早乙女先生が「彼の全てを受け止められる優しさを持てたと思うわ」と言っていました。

クラスメートの中沢くんが「俺、自分の意見を言える男になるよ」と言ったり、

クラスメートの志筑さんが「キマシタワー!!」と鼻血を噴き出しながら叫んだり、

クラスメートの美樹さんが「キマシタワー!!」と叫びながら志筑さんに抱き着いていたり、

クラスメートの鹿目さんが「ほむらちゃん結婚してください」と言いながら指輪を渡そうとしてきました。

指輪は丁寧にお断りしておきました。


689 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/04/02 14:02:48.19 UkDDo2Pd0 411/569



なんでしょう。なんというか、色々と取り返しのつかない事をしてしまったような気がします。

条理が不条理によって粉々にされたような、やっちゃった感が凄まじい事になっています。


でも、そこにいるみんなが笑顔なのは事実。




――――だったら多少の滅茶苦茶は、許してもらえるよね?




そう思いながら、すべてをやり終えた私は意識を手放すのでした……




続き
魔法少女は衰退しました【パート4】


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