関連
魔法少女は衰退しました【パート1】


274 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:02:03.93 b7xIIdTL0 148/569



えぴそーど はち 【ほむらさん達の、おなやみそうだんしつ】


275 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:02:54.91 b7xIIdTL0 149/569



時は前回から遡る事―――― 一分ぐらい前。


―AM10:47 暁美ほむら自宅前―


さやか(さてさて。休日を迎えました今日この頃)

さやか(ほむらからお茶会に誘われたので、ほいほいやってきたさやかちゃんです)

さやか「ふふふ。ほむらとシャルちゃん、驚くかなぁ?」

さやか「見滝原七大スイーツの一つ『ボン・スィート』のチョコレートケーキ!」

さやか「二人の吃驚する姿を見たいがために、二ヶ月分のお小遣いを奮発して買っちゃったのだーっ!」

さやか「っと、何時ものテンションで両腕広げちゃったけど、あまり大袈裟に動いちゃ駄目だな」

さやか(だって、あたしが『人間サイズ』でいられるのって……昨日ほむらが渡してくれた指輪のお陰だし)

さやか(うっかり指輪を落としたり壊したりしたら、住宅地のど真ん中に100メートル級の巨人が出現)

さやか(自衛隊とかの攻撃目標になりそうです。そんな展開ごめんなのです)

さやか(故に今日からあたしは淑女になるのだぁ~……ならざるを得ないと言うべきか)

さやか(さて、そんなこんなでほむらの家の前まで来ました)

さやか(……親元を離れて一人暮らしと聞いていたから、てっきりアパートとかで暮らしているかと思っていたけど)

さやか(見事な一軒家でした。下手をするとあたしの家よりでかいかも)

さやか(これはほむらの家がお金持ちと考えるべきか、或いは妖精さんパワーの仕業なのか)

さやか(……妖精さんパワーだな。十中八九)

さやか「ま、どんな家に住もうとほむらの勝手っとね」

さやか「そんな訳でインターホンをぽちっとな」

――――ピンポーン

ほむら『はーい……あ、さやかさん。お待ちしていましたー。今扉を開けますのでちょっと待っててください』

さやか「あいあーい(カメラ付きのインターホンか……いや、妖精さんアイテムか? 判断に困る)」

ほむら「こんにちはー。早かったですね」

さやか「お菓子買ってたんだけど、思っていたよりスムーズにいけてね。ちょっと早く来過ぎちゃったかな?」

ほむら「そんな……そんな気を遣わなくても良かったのに」

さやか「いやいや。流石にごちになるだけってのはね」

ほむら「ふふ……ありがとうございます」

ほむら「さ。立ち話も難ですから中へ」

さやか「じゃ、お邪魔しまーす」

ほむら「あ、そうだ。さやかさんの性格上やりそうなので伝えておきますけど……」

ほむら「うちの中を勝手に散策しない方が、身の為ですよ?」

さやか「……あ、うん。成程、そういう事ね」

ほむら「そういう事です」

――――バタンッ


276 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:05:21.01 b7xIIdTL0 150/569



さやか「おー、結構普通の家だねー」

さやか「ほむらの家だからもっと不思議ワールドが展開しているかと思ったけどなー」

ほむら「それはそうですよ。妖精さんが改造しただけで、見た目は変わらないんですから」

さやか「いや、やっぱ普通じゃないわ。うん」

ほむら「むぅ……まぁ、普通じゃないですけど」

さやか「ああ、自覚はあるんだ」

ほむら「さやかさんは私をなんだと思ってるんですか……」

さやか「天然腹黒のーてんき女」

ほむら「……昔、友人に同じ事を言われた事があります」

さやか「昔からなのかよ」

\イツカフクシュウシテヤルカラナァー!!/

さやか「? ……なんか、聞こえた?」

ほむら「え? そうですか? ……気のせいじゃないですか?」

さやか「んー。多分そだね」

ほむら「では、そろそろ行きますよ」

ほむら「私から離れないでくださいね」

さやか「心得てるさ」

さやか「で、興味本位で聞くけど、万一この家をうろちょろしたらどうなるの?」

ほむら「遭難します」

さやか「……はい?」

ほむら「妖精さんによってこの家は改造されていまして」

ほむら「特定の行動を取らないと、扉の向こうが大平原とか大海原になってしまうんです」

ほむら「しかもうっかり中に入っちゃうと、扉が消えてなくなるのですぐには出られないんですよー」

ほむら「ちなみに玄関は外から入る場合、妖精さんが作ってくれたこの鍵を使うか、三回ノックし、
    開けゴマと言った後に自分で扉を開けないと大草原に繋がります」

さやか「自分で開けたら呪文の意味ないじゃん……つーか、なんでそんな事になってんだよ」

ほむら「泥棒対策をしてくださいと妖精さんに頼んだのですが……ちょっと目を離した隙にこんな事になっていまして」

さやか「あー、まぁ、うん。妖精さんなら仕方ないね」

ほむら「で、どうせなら徹底的にやっちゃおうと私が唆したり囃し立てたりしました」

さやか「お前の所為じゃねぇか!」

ほむら「何時もの事ですよー」

さやか「まかり間違ってもそれはアンタの台詞じゃない」


277 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:06:54.81 b7xIIdTL0 151/569



ほむら「ま、そんな事情から、一部私にも何処に繋がって何が起きるか分からない部屋があります」

ほむら「死にはしませんけど、気を付けてください」

さやか「たく……とりあえず、りょーかい」

さやか「念のために聞くけど迷い込んだ場合は?」

ほむら「迷い込んだ部屋の中で、一時間ほど身動き一つ取らないでください」

ほむら「猛獣に襲われる事もあるかも知れませんが、全部妖精さん開発の人工生命体ですから食べられはしません」

ほむら「兎も角動かなければ、一時間で自動的に外へと放り出されます。これが一番確実な脱出方法です」

ほむら「まぁ、歩き回って色々なアクションを起こしていれば、家の何処かに出られるかも知れませんが」

さやか「……なんで一時間じっとしていると外に出られる事に?」

ほむら「そこは私からのオーダーでして」

ほむら「へとへとになるまで歩き続け、故郷を思い返して泣き喚き、知らぬが故に死の恐怖に震え」

ほむら「最後は気絶なり飢餓なり渇きなりで身動きが取れなくなってから、お帰りいただく仕様です♪」

さやか「えげつねー」

ほむら「ああ、あと迷い込んだ空間と外部では時間の流れが異なりますから、私が救助に向かう事はあり得ませんからね」

ほむら「妖精さん曰く、用意された空間には『時間が存在しない』そうなので、内部で何十年暮らそうと外では一秒すら経っていないので」

さやか「……ほぼホラーだな」


278 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:08:55.22 b7xIIdTL0 152/569



――AM10:50 ほむら宅――


ほむら「ここの戸は『ふっとんがふっとんだー』等のダジャレを言った後に開けると中に入れます」

ほむら「そしてようやくリビングです」

さやか「……リビングに入るまでに三分かかったんだけど」

ほむら「本来はこの鍵を使って通るので、そんなに時間はかからないんですけどねー。ま、説明回って事で」

ほむら「どうです? 我が家のセキュリティは万全でしょう?」

さやか「お前は一体何と戦ってるんだという感想しかないんだけど」

ほむら「なんでしょう……運命、とか?」

さやか(何故か冗談に聞こえない不思議)

さやか(……見た目普通のリビングだけど、迂闊に触らないようにしとこう。うん)

さやか(ま、シャルちゃんがソファに寄り掛かりながらふつーに雑誌読んでるから、そう警戒しなくても良さそうだけど)

さやか「やあやあシャルちゃん。うぃーっす」

シャル「うぃーっす。早かったわね」

さやか「シャルちゃんとほむらへのお土産がスムーズに買えたからね。ほれ」

ほむら「あ。ありがとうございます……ん? この包装は……何処かで見た覚えが……」

シャル「くんくん……こ、この匂いはまさか!?」

シャル「見滝原七大スイーツの一つ『ボン・スィート』のケーキ!?」

さやか「匂いで分かるって犬かよ……」

妖精さんA「けーき?」
妖精さんB「けーきのにおい、するです」
妖精さんC「なにはともあれおかしたべたし」

さやか「そして妖精さんが当然のように湧くという」

ほむら「もう慣れた光景でしょう?」

ほむら「そんな訳で、リビングは妖精さんエリアとなっています。電波は完全遮断。携帯は使えませんのでご注意を」

さやか「了解~」


279 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:10:56.51 b7xIIdTL0 153/569



妖精さんA「けーきっ。けーき!」
妖精さんB「…………」←嬉しさで失神している
妖精さんC「ピ――――――――――――!!」

ほむら「さて、妖精さんが本能タイムになってますので、さっさと切り分けるとしましょう」

ほむら「ジュースも持ってきますから、ちょっと待ってくださいね」

シャル「あ、ジュースならもう私が出しておいた」

ほむら「あら、すみません。手伝えなくて」

シャル「何今更畏まってんのよ。私ら……同居人なんだからさ」

さやか(ああ、あの言いよどみ方)

さやか(少なくともシャルちゃんの中では同居人以上の関係になりつつあるのですね)

さやか(だけど指摘したら顔を真っ赤にして怒るに決まっているので、生暖かい眼差しを送るさやかちゃんでした)

シャル「……なんかさやかが癪に障る目線を向けてんだけど殺していい?」

さやか「段階飛ばし過ぎだから?! せめてぶっていいと聞こうよ!?」

シャル「ぶっていい?」

さやか「いい訳あるかっ!」

ほむら「ほらー、二人ともお静かにー」

ほむら「ケーキを切り分けてきますから、しばしの間、妖精さんが暴走しないように見張っててくださーい」

シャル「あいあーい」

さやか「もー……つーか妖精さんが暴走しないようにって、ほむらが戻るまでの一分二分で暴走すんのかね?」

妖精さんA「あんなすばらしいけーきもらえるとは」
妖精さんB「ぼくらしあわせすぎ?」
妖精さんC「なにかおれいせねば」
妖精さんD「おれいといえば?」
妖精さんE「きんぎんざいほー?」
妖精さんF「こうみゃくつくります?」
妖精さんG「せきゆもよろこばれるかと」
妖精さんH「わいてわいて!」

さや シャル「……………」

さや シャル(あ、ヤバい。これ爆発寸前じゃん)

シャル「さやか! 止めるわよ!」

さやか「おうっ!」

さや シャル(止め方知らないけどね!!)


280 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:13:38.59 b7xIIdTL0 154/569



……………

………




シャル「ん~♪ やっぱりボン・スィートのケーキは格別ねっ!」

ほむら「こんなに美味しいケーキは初めてです!」

さやか「はっはっはっ。喜んでくれたようで何より」

妖精さんA「」←失神している
妖精さんB「」←失神している
妖精さんC「」←失神している

さやか「……あれも一応喜んでくれたのかな?」

ほむら「とても喜んでいますよ。私が作ったお菓子では、あんなに喜んではくれませんもの」

さやか「ん? ほむらってお菓子作れるの?」

ほむら「妖精さんと知り合って長いですからね。ケーキぐらいならなんとか作れますよ」

ほむら「まぁ、最近はシャルロッテさんにお株を奪われてしまいましたが」

シャル「んー。そうかもだけど、私のお菓子って人工物っぽい味だし」

シャル「ほむらのケーキは手作りって感じで、味わい深さが私とは段違い。凄く美味しいわよ?」

さやか「へー。そりゃ何時か食べてみたいね」

ほむら「ふふっ。ご要望があれば、何時でもお作りしますよ♪」

ワイワイキャッキャ

ほむら「……さて、お茶会もいい感じに盛り上がってきたところで本題と移りましょう」

さやか「本題?」

シャル「何それ。聞いてないんだけど」

ほむら「言ってませんからね」

ほむら「その名もズバリ、『キュゥべえさんの目的を推理しよう』大会~♪」

シャル「……アイツの、目的?」

ほむら「ま、表題こそふざけていますけど内容は真面目に」

ほむら「全ての魔女さんを助け出すには、まずはその供給を絶たねばなりません」

ほむら「即ちキュゥべえさんが何故魔女さんを、ひいては魔法少女を作りだすのか」

ほむら「その目的を知り、どのように邪魔すればいいのかを考えねばならない訳です」

さやか「なるへそ」

シャル「つーてもねぇ……私ですらアイツの事全然知らないんだけど」


281 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:16:23.96 b7xIIdTL0 155/569



ほむら「あ、やっぱりそうなんですか?」

シャル「今になって思えば、吃驚するほどアイツは自身の情報を話さなかった」

シャル「聞けば答えたかも知れないけど、真実を知れば知るほど自分の事で手一杯になる」

シャル「最後らへんはもう、アイツの事なんて頭から抜け落ちていたわ。元凶なのに、ね」

ほむら「むむむ……シャルさんから新たな情報は期待出来ませんか」

ほむら「しかしそうなると推理に発展出来るだけの情報がない事に……」

さやか「いきなり計画が頓挫してどうする」

ほむら「では企画を変更」

ほむら「『キュゥべえさんの企みを暴こう』大会~♪」

さやか「いやいや、推理が出来ないのに暴くも何も……」

さやか「……いや、暴くのなら出来るのか?」

シャル「出来るんじゃない? 妖精さんがいるし」

ほむら「出来るんですね~」

ほむら「それでは本日の妖精さんアイテム、『なんでも大百科』です!」

さやか「某青狸に通じるものがあるアイテムだな」

ほむら「むっ。今のは聞き捨てなりません」

ほむら「妖精さんアイテムは実用性より面白さ重視! 効用も大事だけど使って楽しいのが一番!」

ほむら「あんな便利なだけ、実用一辺倒な道具しか出さない奴と妖精さんを一緒にしないでください!」

さやか(あ、そこ気にすんだ……)

シャル(ぶっちゃけ青狸が実用的なんじゃなくて、妖精さんアイテムがジョークの塊って話なんじゃ……ま、いいけど)


282 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:19:03.95 b7xIIdTL0 156/569



シャル「それで? その辞典にはどれぐらい詳しくアイツについて載ってんの?」

ほむら「えっと、キュゥべえさんキュゥべえさん……あ、この項目ですね」

ほむら「『キュゥべえ。正式名称インキュベーター』」

ほむら「『インキュベーターとは、地球から約1億光年離れた位置にある惑星で発生した知的生命体の役職名である』」

ほむら「『彼等の社会体制は階級制であり、インキュベーターは地球で』」

さやか「ちょ、ちょっと待って!?」

ほむら「はい、なんでしょうか?」

さやか「いや、あの……色々とツッコミどころが……」

シャル「そうね……正直、私も理解が追い付かないけど」

シャル「つまり何? アイツは宇宙人だったの?」

ほむら「そのようですね」

シャル「なんて事……そりゃ、魔法の国の妖精なんて思わなかったけど、まさか宇宙人だなんて……」

さやか「つーかそれって信じていいの? どうやって書き込んだ訳?」

ほむら「これを貰った時に妖精さんから聞いた話だと、なんでも『ものごと』と『できごと』の方から書き込んでくれるそうです」

さや シャル「……はい?」

ほむら「ですから、『ものごと』と『できごと』の方から書き込んでくれるんです」

さやか「ものごと、できごとって……何?」

ほむら「さあ? ものごとはものごとで、できごとはできごとなんじゃないですか?」

ほむら「兎も角、ご本人……ご本事? ま、それら自身が書き込むんですから、間違いはないでしょう」

さやか「今更だけど、妖精さんテクノロジーは説明を聞いても理解出来なさすぎる」

シャル「そもそも本当にテクノロジーの範疇なのかも疑わしい理論よね。今更だけど」

ほむら「今更な話を続けても時間の無駄です。なのでそろそろ本題に戻りましょう」

ほむら「尤も社会体系とかは読んでも仕方ないので要点だけを」


283 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:26:07.26 b7xIIdTL0 157/569



ほむら「『インキュベーターの役目はエネルギーの回収である』」

ほむら「『彼等の文明はエネルギーを大量消費しており、このままでは宇宙の寿命を削る事に気付いていた』」

ほむら「『しかし自らの文明規模を、テクノロジー水準を衰退させたくもない』」

ほむら「『彼等はエントロピーに縛られない、新たなエネルギーを求めていた』」

ほむら「『その中で生み出されたのが感情をエネルギーに変えるテクノロジーだったが、
     彼等自身は利用出来るような感情を持ち合わせていなかった』」

ほむら「『そこで彼等は今から凡そ十三万年前に発見した地球人に目を付けた』」

ほむら「『人間が持つ感情、中でも希望から絶望に転じる際のエネルギーはエントロピーを覆すほどに膨大なものであったのである』」

ほむら「……なるほど。魔法少女とは、要はエネルギーを生み出すための生贄という訳ですか」

さやか「つ、つまり何? アイツ等、自分達の燃料にするためにシャルちゃんやまどかを魔法少女にしたって言うの!?」

さやか「自分たちが楽な暮らしを手放したくないから!? そんな理由で、人間を殺していたの……!?」

シャル「分かりやすい悪役で良かったわ。変に葛藤なんかせず、真っ直ぐアイツを怨める」

ほむら「ええ……これ以上は読む必要もないでしょう」

ほむら「彼等は私達人類にとって敵です。人様の星に許可なく侵入した挙句、私達を燃料にするような奴等に遠慮なんてしません」

ほむら「私は――――インキュベーターをこの星から追い出したい」

ほむら「もちろん簡単には帰ってくれないでしょうけど……なら、徹底抗戦するまでです」

シャル「ふん。そうこなくちゃ面白くないわ」

さやか「で、でも、宇宙人なんだよね? 十三万年も前から、その、宇宙を自由に行き来するような科学力を持ってんだよね?」

さやか「妖精さんの力は凄いけど……そんなの相手にして本当に勝てるの?」

ほむら「問題ありません」

ほむら「辞書を見る限り、インキュベーターはエントロピーをどうにかこうにか凌駕しただけの模様」

ほむら「しかも昔から魔法少女を産み出していたようであり、それはつまり、彼らの技術がそこで停滞している事を意味します」

ほむら「恐らく、彼らの技術力ではエントロピーを凌駕するだけでやっとだったのでしょう」

ほむら「電気代節約したいなーって私が呟いたという理由だけで、
    我が家のテレビに輪ゴムを用いた第一種永久機関を搭載した妖精さんの敵ではありません」

シャル「テレビに何とんでもないもの搭載してんのよ……」

さやか「永久機関って輪ゴムで作れるんだ……」

さやか「つーか、無から有が作れるなら輪ゴムとかにこだわらなくても……」

ほむら「妖精さん曰く、無から有を創り出しても面白味が足りないそうで」

さやか「……うん。何も言うまい」


284 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:28:51.54 b7xIIdTL0 158/569



ほむら「それに、いざとなったらこの辞書で葬りましょう」

さやか「この辞書でって、どういう事?」

ほむら「この辞書のページを破くとですね、そのページに掛かれている『できごと』が――――過去まで遡り、無かった事になります」

ほむら「まぁ、破壊には目標を実際に破壊するのと同量のエネルギーが必要ですけど、
    妖精さんアイテム『ばらばらアンテナ』を使えば余裕ですよ」

さやか「……………すごくとんでもない話の予感がしますが、どういう事か解説おねげーします」

ほむら「では遠慮なく」

ほむら「恐らく妖精さん的な哲学により、辞書と現実がリンクしていた方が面白いと思ったのでしょう」

ほむら「尤も、そのための破壊には現実と同程度のエネルギーが必要でないとジョークになりません」

ほむら「そして同量のエネルギーを用いて破壊したなら、それは『できごと』自体を破壊するのと同じであるべきです」

ほむら「だったら辞書のページを破壊したら……過去に遡り、それらによって起こされた『できごと』を無かった事にする方が面白い」

ほむら「大方こんな理由でそんな機能が付けられたと思います。ま、私の推測ですけどね」

シャル「さ、流石にそれは……」

さやか「あたしの脳では理解出来ないので三行で説明をば」

ほむら「妖精さんのジョークで、
    宇宙の歴史を改変。
    おもろー」

さやか「よし、妖精さんならインキュベーターなんかけっちょんけちょんだな」

シャル「あ、ああ、うん。そうね。そうでしょうね」

さや シャル「妖精さんなら仕方ないね!」

ほむら「二人共妖精さんに随分と慣れてきましたねー」

さやか「諦めた、と言い直した方が多分適切だよ」

シャル「優れ過ぎた科学はジョークと見分けが付かないと、今になって思い知らされたわ」

ほむら「むしろジョークにしか見えないと思いますけどね」


285 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:31:20.22 b7xIIdTL0 159/569



ほむら「尤も、これは最後の一手です」

ほむら「何分過去まで遡って無かった事にしますからね……人類にどんな影響が出るか分かったものじゃありません」

ほむら「或いは魔法少女の仕組みだけ破壊するのもありかも知れませんが、そうなったら代替案が使われた歴史に改編されるだけでしょう」

ほむら「それに、十三万年って歴史から考えると……」

さやか「考えると?」

ほむら「……ま、これは半ば妄想みたいなものですので置いておいて」

ほむら「いくら侵略者とはいえ根絶やしにするのは、個人的に嫌なんですよねー」

ほむら「もっと穏便に、かつ大胆――――そして面白おかしく解決しなければ」

さやか「あー、まぁ、邪魔だから全て殺すってんじゃ、私らを燃料にしているインキュベーターと大差ないか」

シャル「私としては根絶やしがいいけど、ま、ほむらに任せるわ」

ほむら「ええ、任せてください」

ほむら「丁度この辞書を読んでいて一つの策が思いつきましたからね」

さやか「ほほう?」

ほむら「インキュベーターの勢力はかなり広範囲で、故郷の銀河にある惑星の四割には何かしらの施設があるそうです」

ほむら「しかしそれは主に地球型惑星や衛星で、木星のようなガス惑星には建設されていないとか」

ほむら「それが彼らの技術的、或いはコスト的な限界なのでしょう」

ほむら「だから――――」

さやか「だから?」

ほむら「……此処から先は完成してからのお楽しみです♪」

さやか「ちぇー」

シャル「……………」

ほむら「ま、今夜あたり妖精さんにお願いしてみるつもりです」

ほむら「懸案は片付きましたから、あとはお茶会を楽しむとしましょう」

さやか「そーすっか」

シャル「……そーね」


286 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:34:01.17 b7xIIdTL0 160/569



……………

………




――PM7:11 暁美家リビング――


さやか「えー、ほむらとシャルちゃんとのお茶会を満喫しまくったさやかちゃんです」

さやか「現在午後七時過ぎ」

さやか「はい。満喫し過ぎました。思いっきり門限過ぎたの気付きませんでした」

さやか「うちは門限に厳しいので、帰りが遅くなる旨を伝えずに帰るとものすっごく怒られます」

さやか「いや、これはもう今日帰るとお尻百叩きの刑が待っていまして」

シャル「くどい。三行で説明なさい」

さやか「言い訳しないとあたしのケツがヤヴァイ。
    だから今日は泊めてください」ドゲザー

ほむら「二行で終わりましたね」

シャル「やっすい土下座ねぇ」

シャル「で、どうしますか家主さん?」

ほむら「正直さやかさんがご両親に叱られようと私にはどーでもいいです」

さやか「酷っ!? 事実だけど心にぐさりとくる酷さだよ今の!」

ほむら「しかしまぁ、『ボン・スィート』のケーキを頂きましたし」

ほむら「明日も学校は休みですからね」

さやか「な、なら……」

ほむら「ゆとり教育に感謝してくださいね? 明日も休みじゃなかったら流石にお断りしてましたよ」

さやか「ほむら様ァ――――!!」

シャル「やれやれ……」

ほむら「うーん。だけどそうなるとお料理の方が少し大変ですね。二人分の料理を作るのもまだ慣れてないのに三人分は……」

さやか「あ、あたし手伝うよ! ほむら様のお手伝いするよ!」

ほむら「いえ、足手まといになりそうですから遠慮しておきます」

さやか「酷い! 何度あたしの心を抉れば気が済むんだアンタは!?」

シャル「大体何時もの事じゃない」

シャル「でもまぁ、足手まといって事に関してはその通りでしょうよ」

さやか「シャルちゃんまであたしを貶しますか……」

シャル「いや、アンタが料理下手そうとかそういう問題じゃなくて」

シャル「ほむらがめっちゃ料理上手いから、私らみたいな素人だと手を出す隙がないのよ」

さやか「……え? そういうレベルの話? 飲茶的な?」

シャル「飲茶的な」

ほむら「自慢じゃないですけど、ま、そんな感じになりますよ」


287 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:35:39.93 b7xIIdTL0 161/569



ほむら「ですから今回は特別なお手伝いさんを呼ぶとしましょう」

さやか「特別なお手伝いさん?」

シャル「そんなの居るの? 私も初耳なんだけど」

ほむら「はい。この壁にある蓋を開けるとですね……呼び鈴が出てきます」

さやか(何故壁に呼び鈴を仕込んである……)

ほむら「そんでもってポチっとな」

――――げーとおーぷん

――――げーとおーぷん

さやか「あ、妖精さんの声で放送が掛かった」

シャル「警報なのに警戒心薄れるわね」

シャル「っと、なんか床が自動的に開いたわね……如何にもロボが出てきそうな感じに」

さやか「ドライアイスでも置いてんのか、無駄に白い湯気が出てきてるし」

さやか(ん……開いた床から誰か出てきた……)

さやか(歳は、二十歳ぐらい? 私らより年上なのは間違いないか)

さやか(メイド服を着ているから給仕さんなのかな?)

さやか(胸は大きいし、腰の括れはすごいし……何よりすっごい美人)

さやか(……で、だ)

さやか「こちらの方はどちら様で?」

ほむら「妖精さん製自立行動型ペーパークラフト『お手伝いお姉さん』です」

さやか「うん。知っていたけど、早速ツッコミを入れさせてもらおう」

さやか「ペーパークラフトってどういう事よ!?」

ほむら「文字通りの意味です」

ほむら「こちらのお手伝いお姉さんは紙で出来ております。ちなみに動力は輪ゴムです」

シャル「輪ゴムって凄いわね」

さやか「で、でもどう見ても紙には……」

ほむら「なら、触ってみるとよいでしょう」

さやか「え、い、良いの?」

お手伝いお姉さん(以下お姉さん)「はい。お嬢様の許可は出ましたので、どうぞ」

さやか(普通に喋った……益々ペーパークラフトには思えない)

さやか(でも……まぁ、妖精さんだしなぁ)


288 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:38:34.31 b7xIIdTL0 162/569



シャル「紙と輪ゴムでロボットって、世界中の科学者が発狂しかねないわ」

ほむら「正確にはロボットではなく人工生命体ですけどね」

さや シャル「……え?」

ほむら「ですから人工生命体です」

ほむら「息をしていますし、眠りにもつきます」

ほむら「なので、一人の人間として扱ってあげてくださいね?」

さやか「お、おう」

シャル「ぶっとんでるー」

ほむら「ああ、そう言えば姉さんにはまだお二人を紹介していませんでしたね」

ほむら「あちらの私と同じ姿をしている方はシャルロッテさん。訳あって、今は同居人として暮らしています」

ほむら「そして余りがさやかさん。訳あって、渋々ですがうちに泊めてあげる事となりました」

さやか「なぁ、迷惑だったのか? あたしが泊まるのそんなに嫌だったのか?」

お姉さん「了解。お二人の事は記憶しました。それで、今回はどのようなご用件でお呼びに?」

ほむら「えっとですね、ちょっとお手伝いをしてほしいと思いまして」

ほむら「私は今から料理を作りますから、テーブルの方の片付けをお願いできますか?」

お姉さん「了解しました」

さやか「おお、早速仕事を始め――――って、早!? 残像見える早さで片付けしてる!?」

ほむら「さ、私もちゃっちゃと料理を作るとしましょう」

さやか(ほむらも支度を始めた……台所の方に行ったね。リビングからキッチンが視えるから、どう動くのか全部見えるや)

さやか(って、うおっ?! な、なんか物凄い早さで冷蔵庫から食材を取り出して……)

さやか(凄い! びっくりするほど手際よく食材を洗ってる!?)

お姉さん「テーブルの片付けは終わりました。次の指示を」

ほむら「あ、では次は食器の方を用意してくれますか?」

ほむら「今日はクリームシチューを作りますので、それ用の食器でお願いしますね」

お姉さん「了解しました」


289 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:42:03.03 b7xIIdTL0 163/569



さやか(お手伝いさんに指示を出してる間も手は止まらない……あ、もう洗い終わったみたい)

さやか(食材を切り始めた……って、これも速いなぁ)

さやか(まるでテレビに出てくる有名な料理人みたいだよ。そりゃ、あたしら素人じゃ足手まといだわな)

さやか「……ほむらー。今話しかけても大丈夫ー?」

ほむら「ええ、大丈夫ですよ」

さやか「いやぁ、随分と料理が上手いようで……さやかちゃんは感心しましたよ」

さやか「しかし同時に、どうしてそんなに上手いのかと不思議に思う訳ですが?」

ほむら「調理はサバイバルの基本ですからね。慣れました」

ほむら「他にも裁縫とか、食べられる野草とキノコの鑑定。それから簡単な工作技術」

ほむら「妖精さんのトラブルに何度も巻き込まれると、そーいう技術とか知識が格段にスキルアップするんですよ」

さやか「……逆に、そんな体験を何度もしといて何故体力がないんだ」

ほむら「昔は少しはあったんです。最近は病院生活が長くて、ちょっと体力が落ちちゃっただけでして」

さやか「ちょっとかぁ?」

ほむら「ちょっとです。昔は百メートルを完走するだけの体力はあったんですから」

さやか「元々皆無だったんじゃん」

ほむら「それに死にはしませんからねー……楽しめればそれでOKってやつで」

ほむら「サバイバル技術も、より楽しむためのものです。体力がなくても問題ありませんよ」

さやか「そーいうもんなのかねぇ……」

ほむら「あ、話は逸れますけど、シャルロッテさんにもうすぐご飯ですからお菓子は食べないようにと伝えてくださいね」

シャル「ギクッ!?」

さやか「……ご飯前に、よく苺クレープなんて食えるね」



290 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:54:51.66 b7xIIdTL0 164/569



……………

………




さや シャル「ごちそーさまでしたー」

ほむら「おそまつさまでしたー」

さやか「いやあ、想像以上に美味かったよ。こりゃ、うちのシチューじゃもう満足できないね!」

ほむら「そんなに褒めてもデザートは出ませんよ」

さやか「お世辞じゃないってばー」

シャル「フフン」

さやか(何故アンタが自慢げなんだ、というツッコミは野暮かな?)

ほむら「ふふっ。では、素直に受け取るとしましょう」

お姉さん「洗い物はやっておきますね」

さやか「あ、すみません。お願いしま」

ほむら「ちょ、姉さん何を言ってるのですか!?」

ほむら「姉さんは紙なんだから濡れたら破れちゃうでしょ!?」

お姉さん「いえ、前にも言いましたが防水性には優れていますし、仮に破れても修復は容易で……」

ほむら「洗い物は私がしますから、姉さんはもう部屋に戻っていてください!」

お姉さん「ああ、お嬢様ご無体な……」

お姉さん「私としては働くのが生き甲斐な訳でして……」

ほむら「なら今度買い物に行く時についてきてもらうので、姉さんはその時まで休んでいてください!」

お姉さん「むぅー……」

さやか「……なんか、ほむらの様子変じゃない?」

シャル「確かに、ちょっと妙ね」

シャル「なんか焦ってるような……ん?」

シャル「ふと思ったけど……ほむらって、お手伝いさんを『姉さん』って呼ぶのね」

ほむら「……………え?」

シャル「いや、だから姉さんって……」

さやか(あ、なんかほむらの顔が真っ赤になってる……目も見開いて……)

さやか(……ははーん。さやかちゃんも気付いちゃいましたよ)



291 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:56:34.44 b7xIIdTL0 165/569



さやか「あれか。幼い頃から家族みたいに接してきたから実の姉みたいに想ってるとか、そういうパターンか?」

ほむら「ぶぁ!?」

ほむら「ば、ばばばば馬鹿な事を言わないでください!? 私が、そんな、」

お姉さん「確かに私はお嬢様が幼少期の頃から一緒に過ごしています」

お姉さん「ここ数日呼ばれなかったので寂しかったのですが……成程成程」

お姉さん「同居人の方に恥ずかしい姿を見られたくなかったと」

お姉さん「ほら、何時もみたいに胸に飛び込んですりすりしても良いんですよ?」ニヤニヤ

ほむら「姉さんも何言ってんの馬鹿ァ―――――!?」

さやか(おおう、こんなに取り乱すほむらは初めてだ)

さやか(そんでもってお手伝いさん、すっごい生き生きとした笑みを浮かべてるわぁ)

シャル(成程。ありゃロボじゃなくて人工生命体だわ)

さや シャル「いやぁ、いいものを見せてもらった」ニヤニヤ

ほむら「」ブチッ

ほむら「……妖精さんアイテム、『記憶ホームランバット』……」

さやか「え、ほむらが何処からともなく金属バットを取りだし」

ほむら「脳髄と一緒に飛んでけえええええええええええええっ!!」

さやか「ぎゃわらば!?」ブシャー

シャル「ぶふぅーっ!? ほむらが金属バットでさやかの頭を殴って……」

シャル「なんかさやかの頭から出てきちゃいけないグロテスクな物体が出てきてるけど!?」

ほむら「演出です!」

ほむら「記憶が吹っ飛ぶついでに中身的なやつも一緒に吹っ飛ぶだけです! 三分で治ります!」

ほむら「そしてシャルロッテさんもです!」

シャル「あ、お願い待」ブシャー


292 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 19:58:13.16 b7xIIdTL0 166/569



――数分後――


さやか「……シャルちゃん。一つ訊いていい?」

シャル「ええ、いいわ」

さやか「あたし達って今お風呂場で湯船に浸かっている訳だけど、何時お風呂に来たか覚えてる?」

シャル「奇遇ね。私も同じ事を訊こうと思っていたの」

さやか「それからさ、なんか頭がぼーっとして……なんかこう、大切なものを無くした気がすんだよね」

シャル「私も今、そんな気持ちよ。しかも物理的に無くした気がすんのよね」

さやか「……なんだろうね」

シャル「忘れるって事は大した事じゃないか、忘れた方がいいって事よ」

さやか「……そだね」

さやか「ああ、それからもう一つ訊いていい?」

シャル「どうぞ」



さやか「この家のお風呂どんだけ広いんじゃあああああああーっ!」



\ヒロインジャーッ!/


\ヒロインジャー/


\ヒロイ…/



シャル「おお、見事な反響音」

さやか「声が三回も反響して聞こえてくるって広過ぎでしょ……」

さやか「目測だけど、外から見たこの家のサイズよりでかく見えるんだけど?」

シャル「なんかほむらから聞いた話だと、実際のサイズはふつーのお風呂場程度らしいわよ」

シャル「ただ妖精さんが描いた『騙し絵』で、こんなに広く感じるのだとか」

さやか「なんでも妖精さんと言えば許される風潮はどうかと思う」

ほむら「もー、さやかさん。お風呂は静かに入ってください」

さやか「ああ、ほむら……居たのか」

ほむら「居ましたよ。シャルロッテさんがいるのですから、当たり前でしょう?」


293 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:01:13.28 b7xIIdTL0 167/569



ほむら「それより、お風呂は身体と心の洗濯なんです。静かに、落ち着いた気持ちで行うべき習慣ですよ」

さやか「でもさ、女三人裸の付き合いしている時点で静かにしろというのも無理な話で……」

さやか「……」ジー

ほむら「……なんですか? 人の身体をじろじろと……」

さやか「……ほむらってさ、よく見ると美少女だよね」

ほむら「ぶっ!? ちょ、何を言って……!?」

さやか「いや、髪を下ろして、眼鏡を外したその佇まい……スレンダーでくすみ一つない身体……」

さやか「さやかちゃんの『嫁センサー』が、まどか以上の反応を示しているのだ!」

シャル「なによその心底どーでもいいセンサー」

さやか「惜しむらくは胸部が少々乏し過ぎる点だが案ずる事はない……まどかはあたしが育てた」

ほむら「意味が分かりませんから!? 両手をわきわきしながら近付かないでください!」

ほむら「はっ!? まさか、さ、さやかさんってそっち系の人なんですか!?」

ほむら「いけませんいけません! いえ、そういう恋愛がダメという訳ではなく、あわわわわわ……」

シャル(お、顔を真っ赤にしてる。そういう話題苦手なのね)

シャル(しかしこれは相手の加虐心を煽るだけになりそうで)

さやか「あたし割とどっちもいける口だと思うんだよねー」

ほむ シャル「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

さやか「……いや、冗談だから。ほむらは兎も角シャルちゃんまで逃げないでよ」

シャル「い、いや、冗談に聞こえなくて」

さやか「え? もしかしてあたし本当にそういう扱いだったの?」

ほむら「はー……怖かったです」

さやか「いや、だからあたしの扱いって」

シャル「なんかどっと疲れたわね。身体洗って、さっさと上がりましょ」

さやか「あの、あたしちゃんと好きな男子が居て」

ほむら「あ、また髪洗わないつもりでしょう!? ちゃんと手入れしないと髪が痛みますよ?」

シャル「別にいいじゃん……誰にモテたいとも思わんし」

ほむら「駄目です。女の子は綺麗で可愛くあるべきです」

ほむら「ほら、洗ってあげますからこっちにきてくださいっ」

シャル「あー、もう……お風呂なんてお湯でざぶーっと洗えばいいじゃん……石鹸使うと環境汚染になるよー?」

ほむら「美容は地球よりも大切なんです!」

――――ワイワイキャッキャ


さやか「……あれー?」


294 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:02:31.89 b7xIIdTL0 168/569



……………
………



シャル「あー、いい湯だった」

ほむら「うちでの生活にはもうすっかり慣れたようですね」

シャル「まーねー」

さやか「何故か風呂上がりの後、二人の着替えが終わるまで目隠しされた。解せぬ」

ほむら「いえ、ジョークをやるなら徹底的にが私のモットーですので」

さやか「そんなモットー捨てちまえ」

シャル「私はまだ信じてないよ」

さやか「信じてないの!?」

シャル「ジョークよ、ジョーク」

さやか「笑えねぇー……」

ほむら「さてと。お風呂もあがりましたし、あとは寝るだけですかねー」

さやか「え? もう寝るの? まだ九時前だよ?」

ほむら「夜更かしは美容の天敵です。それにたっぷり寝た上での早起きは気分がいいですよ?」

さやか「そーいうもんかねー?」

ほむら「そーいうものです」

ほむら「それに、どーせ布団に入ってもすぐには寝ないでしょう?」

さやか「うん。そのつもり」

シャル「はい、それじゃあ布団敷くから二人とも手伝ってー」

さやか「あいよー」

ほむら「あ、そうだ……」


295 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:03:38.86 b7xIIdTL0 169/569



ほむら「すみません。私はこれから妖精さんに一つお願いをしようと思うので、ちょっとこれから自室に行こうと思います」

ほむら「少々時間はかかると思いますが、布団を敷くのはその後からでも……」

シャル「お願い? って、あれか。対インキュベーター対策のやつ?」

ほむら「ええ。規模が規模だけに、妖精さんにちゃんと説明しないといけないと思いますので」

シャル「あいよ了解」

シャル「布団の方は私らでやっとくから、ゆっくり話し合うといいわ」

さやか「うん。あたし達で済ませちゃうよ」

ほむら「え、でも……」

シャル「布団の場所ぐらいもう覚えたわよ。さやかに手伝わせればすぐに終わるわ」

シャル「それに私らじゃ魔法少女には何もしてやれないんだからさ、こーいう事ぐらいは任せてよ」

ほむら「ぁ……」

ほむら「……………分かりました。お布団の方は、お二人に任せますね」

シャル「任された。それじゃ、行こうか」

さやか「いえっさー」

ほむら(お二人は寝室へと向かいましたね……)

ほむら(私も、自室に行くとしましょう)


296 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:05:05.83 b7xIIdTL0 170/569



――PM8:55 ほむら自室――


ほむら「――――という訳なんですけど、作れますか?」

妖精さんA「やってみましょう」
妖精さんB「しかしおおきいですからなー」
妖精さんC「ながびくのはかくじつかと?」

ほむら「どれぐらい掛かりそうですか?」

妖精さんB「どれぐらい?」
妖精さんA「じかんなどいしきしませなんだなー」
妖精さんC「ざっとひとつきでは?」
妖精さんA「ながすぎ?」
妖精さんB「こーきちぢめるろぼをつくるべき?」
妖精さんD「ぼくら、とちゅうでわすれるかも?」

ほむら「あら、不安になるような事言っちゃう悪い子は、お腹くすぐりの刑ですよー」

妖精さんD「きゃっ、きゃは! きゃはははっ!」
妖精さんD「はひー……いっそころしてー……」

ほむら「殺しませんよ。大体死なないでしょ、あなた達」

ほむら「ま、忘れてしまう事は想定しています。定期的に思い出させるのと、モチベーション維持のためのお菓子を差し入れますよ」

妖精さん達「おかしーっ!」ぽぽぽぽーんっ

ほむら「わぁ。一気に三十人ぐらい増えましたね……相変わらず現糖な人達です」

妖精さんE「しろいこなのぱわーでげんきひゃくばい」

ほむら「それ、偽りの元気ですよ?」

妖精さんE「いつわれるものがあるだけましでは?」

ほむら「それもそうですね」

ほむら「……うん。大丈夫。これだけ妖精さんがいれば、酷い事にはならない」

ほむら「……私が何をしても」


297 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:08:16.82 b7xIIdTL0 171/569



妖精さんA「おなやみですか?」

ほむら「……そうですね。ちょっと、自分の行動に悩んでいます」

ほむら「あなた達に今お願いした発明を――――本当に作ってもらっていいのか」

ほむら「今までは、まぁ、これからもですけど、私は自分の思うがままに生きてきたつもりです」

ほむら「妖精さんの超パワーも躊躇わずに使いました。その方が楽しくなりますからね」

ほむら「でも今回の頼み事は今までと規模が違う」

ほむら「全ての魔女を救う事は、世界の全てを巻き込む事です。私の周りだけを面白おかしくするのとは違います」

ほむら「私が頼んだ事で何かが起きるかも知れない。どうしようもなく、救えない事が起きるかも知れない」

ほむら「そして、インキュベーターはもしかすると、私達の……」

ほむら「……これは私の想像です。確証のない、妄想です」

ほむら「だけど本当だったら、私は人類にとって最悪の事をしでかすかも知れない」

ほむら「その最悪の責任を負う事が……怖いんです」

ほむら「妖精さんがいるのに、一体何を怖がっているんだって感じですけどね」

妖精さんA「ぼくらになにかできます?」

ほむら「うーん。こういう気持ちは誰かに吐露しちゃうと覚悟が決まるものですけど……あなた達は相談役は向いてませんからね」

ほむら「明日さやかさんかシャルロッテさん、あと……姉さんに相談してみますよ」

妖精さんA「さよかー」

ほむら「さて、と。それじゃあ私はそろそろ寝ますね」

ほむら「おやすみなさい、妖精さん」

妖精さんA「いってらっしゃいです?」

ほむら「夢に旅立つという点ではその通りですけどねー……ん?」

ほむら「……………」

ほむら「ま、いいか。ちょっと大冒険したい気分ですし」

ほむら「じゃ、いってきます」


298 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:10:31.63 b7xIIdTL0 172/569



……………

………




ほむら「ん、んんーっ……ふぁぁ……よく寝ましたぁ……」

ほむら「昨日は楽しかったですねぇ……さやかさんが始めた枕投げ♪ まぁ、私は真っ先に陥落しましたけど」

ほむら「さて、あまり布団の中でモゴモゴしていられません。そろそろ起きて朝ご飯の支度を――――」

ほむら「……あら?」

ほむら「布団を掛けてない……服装もパジャマから私服になってます……髪は下ろしたままですけど」

ほむら(周囲が白一色の……空間でしょうか? 壁があるかも分からない事になっていますね)

ほむら(地面はあるので浮遊感がないのは良いのですが……ふむ)

ほむら(どう考えてもこれは妖精さんの仕業ですね。寝る前にフラグは立っていましたし、OK出しましたけど)

ほむら「っと、さやかさんとシャルロッテさんも居るじゃないですか。まだ寝ているようですが」

ほむら「とりあえず起こすとしましょう」

ほむら「さやかさーん、朝ですよー」ユサユサ

さやか「ん、んん……もう食べられない……」

ほむら「ならさやかさんの朝ご飯は抜きです」

さやか「そ、それは困るぅ!」

さやか「……おや?」

ほむら「おはようございます、さやかさん」

さやか「あ、ああ、ほむら。おはよう」

さやか「……おや?」

ほむら「私の家にお泊り。妖精さん。何時もの事。OK?」

さやか「お、OK」


299 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:12:01.26 b7xIIdTL0 173/569



ほむら「物分りのいい人は好きです。ではシャルロッテさんも」

ほむら「シャルロッテさーん。起きてくださーい」

シャル「んっ……やだ……ままぁ……」

さやか「……とても素敵な言葉を聞いてしまった」

ほむら「ほら、早く起きないとホットケーキを焼いてあげませんよ?」

シャル「……じゃあ……おきる……」

シャル「……………」

ほむら「おはようございます」

シャル「……おはよう」

さやか「お、おは」

シャル「死ねえええええええええええええええええっ!!」

さやか「有無を言わさぬ猛スピードでの顔面パンチは厳しぶごっぱぁ!?」

ほむら「おお。ストレートで決まりましたね」

シャル「ああもう! さやかが泊まってるんだった! 忘れてたわ!」

シャル「って、なんか周りがすんごい事になってない!?」

ほむら「妖精さん。OK?」

シャル「お、おけ」

さやか「……………」ピクピク

ほむら「さやかさん、また寝ちゃいましたね」

シャル「そのまま寝かしとけっ!」


――少女起床中……――


さやか「うう……まだ顔がひりひりする……」

シャル「自業自得よ」

さやか「いや、あたし何もしてないと思うのですけど?」

ほむら「何時ものコントはそれぐらいにしときましょう」

さやか「いや、何時もので流さないでくださいよ? というか今後もあたしこんな役回りなの?」

ほむら「こんな不可思議空間は間違いなく妖精さんの仕業でしょう」

さやか「なーがさーれたー……しくしく」

ほむら「問題は彼等がどんな意図でこのような空間を用意したか、です」

ほむら「大方昨晩の私が原因でしょうけど……」

シャル「アンタが元凶かい」


300 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:14:23.02 b7xIIdTL0 174/569



ほむら「しかしそうだとすると腑に落ちない点が一つ」

シャル「腑に落ちない?」

ほむら「面白さがないんです。この空間には」

さや シャル「……………あー」

さや シャル(なんとなく納得出来てしまった……)

ほむら「こういう場合、何かしらの仕掛けとかが用意されている筈なんですけどね……」

シャル「仕掛け人に直接聞いた方が早くない?」

ほむら「妖精さんにですか? 確かに呼べば出てくると思いますけど」

ほむら「こういうのは自力である程度探索してから聞いた方が面白いですので、お手上げになってからで」

さやか「相変わらずの面白さ重視だな」

シャル「でも方針に反対はしないのよね?」

さやか「巻き込まれた以上楽しむしかないって知ってるからねー……」

ほむら「とりあえず……あっちに進んでみるとしましょう。特に理由はないですけど」

シャル「立ち止まっていても仕方ないものね」

さやか「……いや、その必要はないんじゃないかな?」

ほむら「と、言いますと?」

さやか「今から向かおうとした先から誰か来てる」

シャル「え? ……あら、本当。誰かこっちに来てるわね」

シャル「黒くて髪の長い……女の人かしら」

ほむら「……いえ、女の人というよりアレは……」


301 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/02/10 20:15:57.13 b7xIIdTL0 175/569



――――それは見覚えのある人でした。

―――― 一歩進む度にたなびく美しい黒髪は、貴族の令嬢のような雰囲気を醸し出しています。

――――華奢な身体つきは突けば倒れてしまいそうで、しかし鋭い眼差しは力強さで溢れていました。

――――服装はどこかの学校の制服として使われていそうなものです。盾は……ファッションでしょうか。

――――だけどその手にある宝石が彼女の『魂』なのだとしたら――――彼女の服は制服などではないのでしょう。

――――いえ、そんな事よりも気になる事が一点。

――――表情の違い、髪型の違い、服装の違い、『種族』の違い……違いは色々あれど、見間違う訳がありません。



――――だって、やってきたのは



さや シャル「ほ、ほむら……?」



――――私だったのですから。


318 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:08:37.58 UlO49LMz0 176/569



えぴそーど きゅー 【ほむらさんだらけの、おなやみそうだんしつ】


319 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:10:43.58 UlO49LMz0 177/569



――――繰り返す。

――――何度でも繰り返す。

――――私はあの子を救う。

――――そのためなら、何度でも過去へと戻り、何度でも絶望に抗ってやる。

――――そのためなら、例え他の全てを犠牲にしても構わない。

――――今度こそ、あの子を絶望から――――



320 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:14:19.96 UlO49LMz0 178/569



原作ループ済みほむら(以下原ほむ)「――――っ!」

原ほむ(戻った……始まりの時間に)

原ほむ(またあの子を救えなかった……だけど後悔している暇はない)

原ほむ(早く起きて、あの子を助けるために行動をしないと――――)

原ほむ「っ!?」

原ほむ(ど、どういう事……!?)

原ほむ(此処、私が入院していた病院じゃない!)

原ほむ(真っ白で何もない……いえ、地面はあるみたいだけど、それ以外何もないように見える……)

原ほむ(部屋、というよりも、空間かしら……)

原ほむ(魔女の結界……ではないみたいね。ソウルジェムが反応しない)

原ほむ(これは一体どういう事?)

原ほむ(時間遡行になんらかの問題が生じた? それとも何者かに閉じ込められた時間軸?)

原ほむ(今までもイレギュラーが発生する時間軸は幾つもあったけど、今回はとびきりの事態ね……)

原ほむ(兎に角、立ち止まっていても仕方ないわ)

原ほむ(他に誰かいないか調べるとしましょう)

原ほむ(念のため魔法少女に変身して……)変身っ

原ほむ(……こういう時、地味な格好で助かるわ)

原ほむ(まどかや巴マミのような格好だと、運良く誰かと遭遇しても警戒されないとも限らないし)

原ほむ(……盾だけは如何ともし難いけど、これぐらいは仕方ないわね)

原ほむ「一応此処で目覚めたっていう目印を付けておこうかしら。何もない空間だし」

原ほむ「盾から適当な小物を取り出して……盾にしまっておいた物は一緒にループ出来て助かったわ」

原ほむ「……よし。これで万一迷った挙句此処に戻ってきても、すぐに気付ける」

原ほむ「それじゃ、探索よ」


……………

………




321 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:19:49.74 UlO49LMz0 179/569



原ほむ(何処まで歩いても、延々と白い空間だけが続く……)

原ほむ(かれこれ、五分ぐらい歩いたかしら)

原ほむ(やはり、部屋というより空間ね。こんなにも広い、単色の部屋があるとは思えないし)

原ほむ(だとしても、まぁ、おかしい事に変わりはないけど)

原ほむ(……魔女の反応がないから結界ではないと思うのだけど、果たして本当にそうなのかしら)

原ほむ(ソウルジェムに反応しない魔女……聞いた事はないけど、居ないとも聞いていない)

原ほむ(仮に魔女の結界じゃないとしたら、ここは一体なんだと言うのかしら)

原ほむ(そろそろ何かヒントになるような物を見つけたいのだけど……)

原ほむ(ん? 人影が……三つあるわね)

原ほむ(とりあえず、近付いてみるとしましょう)

原ほむ(話が聞ければよし。襲われたら、敵って事で始末すればいい)

原ほむ(そうね。敵だったら多分この空間に私を閉じ込めた張本人でしょうし、そっちの方が面倒がなくていいかもね)

原ほむ(……ん?)

原ほむ(何かしら、なんか見覚えのあるような……)

原ほむ(ああ、一人は美樹さやかみたいね。面倒な奴に遭遇してしまったわ)

原ほむ(それから残り二人は……)






原ほむ(……わたし?)



322 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:23:09.40 UlO49LMz0 180/569



――――前回のあらすじ。見知らぬ空間で出会ったのは私でした。終わり。


ほむら「……まぁ、なんと言いましょうか」

さやか「えっと、ほむらが二人……三人?」

シャル「いや、私は頭数に入れんでいいでしょ。形が似ているだけなんだから」

現れたほむら(原ほむ)「……あなた達は、何者かしら?」

ほむら(区別のため、当SSのほむらさんは以下妖精ほむら、略して妖ほむ)「あ、これはこれは……私は暁美ほむらと申します」

妖ほむ「そういうあなたも暁美ほむらでは?」

原ほむ「……ええ、そうよ」ファサー

さやか「おお、髪の毛かき上げた……なんかクールな感じでカッコいいほむらだなぁ」

妖ほむ「ま、負けるかぁーっ!」ファサー

さやか「なんで張り合ってんだお前は」

原ほむ「……ひょっとしなくても、そこにいるもう一人も暁美ほむらなのよね」

シャル「え? あ、私は違うよ?」

原ほむ「え?」

シャル「私はシャルロッテ。この見た目は、まぁ、色々事情があってね」

シャル「んで、アンタ多分魔法少女みたいだから言っちゃうけど、私は魔女なんだわ。元だけど」

原ほむ(なっ……魔女ですって!?)

原ほむ(ソウルジェムが反応しないからって油断した!)

原ほむ「くっ!」

さやか「うおっ。盾から銃を取り出して構えたよコイツ」

シャル「魔法少女としては正しい対応ね」

さや シャル(まぁ、妖精さんからもらった弾避けのお守りがあるので銃なんか効かないけどー)

妖ほむ「このこのこのこのーっ!」ファササササー

さやか「……アンタは何時までそれをやるんだ」

妖ほむ「いえ、なんか上手く靡かなくて……」

妖ほむ「結構難しいです、これ」

さやか「……」

さやか「あたしも真似してみる」ファサ


323 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:26:53.48 UlO49LMz0 181/569



さやか「あれ? なんか違う?」

妖ほむ「もっとこう、一旦貯めてから勢いをつけてやると似た感じにはなりますよ」

さやか「どれ……」ファサー

さやか「んー、似た感じにはなったけどなんか違う」

妖ほむ「ええ。なんか違うんです。いい感じにふぁさーってならないんです」

妖ほむ「これは、かなり練習しないと成しえない技ですね」

さやか「ああ、そうだね。相当練習したに違いない!」

原ほむ(……な、なんか急に恥ずかしくなってきた……///)

シャル「そこの二人。遊んでないで真面目に取り合いなさいよ」

シャル「一応私、銃を突き付けられてんだから」

妖ほ さや「えー……」

シャル「なんとまぁ、やる気のない返事」

妖ほむ「騒乱の原因はシャルロッテさんじゃないですか。自分で片してくださいよぅ」

さやか「下手に関わるとまた怒られそうなので放置」

シャル「薄情者共めー」

原ほむ(な、なんなのこれは……)

原ほむ(魔女と仲良くしている……美樹さやかが、私と打ち解けている……?)

原ほむ(というか、銃を突きつけられて何故平然として……いや、そもそも……)

原ほむ「……あなた達、やけに冷静ね?」

原ほむ「もしかして事情を知っているの?」

原ほむ(或いは、)

妖ほむ「知っているもなにも、私が騒動の原因ですからね」

原ほむ(彼女達がこのイレギュラーの原因――――)

原ほむ「……………あれ?」



324 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:30:02.78 UlO49LMz0 182/569



妖ほむ「ふむ、事情を呑み込めていないあたり、過去の私という可能性は薄いですね」

妖ほむ「大方この方は並行世界の、魔法少女になってしまった私という感じじゃないでしょうか」

シャル「いや、もしかすると記憶を失った未来のほむらという可能性も」

さやか「じゃあ、あたしは何者かが作ったほむらのクローンって説を一つ」

シャル「ちょっとちょっとー、それだと私とキャラ被るじゃない」

妖ほむ「シャルロッテさんは入れ物がクローンってだけですけどね」

原ほむ「ちょ、ちょっと待って!」

原ほむ「あの、出来ればちゃんとした説明を……」

妖ほむ「そーですねー。答え合わせもしたいですし」

妖ほむ「適当な壁とか……あ、地面があるか」

妖ほむ「よっうせいさーん。おっりまっすかー?」コンコン

妖精さん「およばれー?」

原ほむ「!?(床がぱかりと開いて中からなんか出てきた!? 小人……いえ、使い魔?!)」

妖ほむ「こんにちは、妖精さん」

原ほむ「よ、妖精さん?」

原ほむ「あの、どういう事かしら……コイツは、使い魔じゃないの?」

妖ほむ「妖精さんは妖精さんです。友枝先輩と同じネタ振らないでくださいよ」

原ほむ「そ、そう……(友枝先輩って誰?)」

妖ほむ「さてさて。妖精さん。ご質問してよろしいですか?」

妖精さん「かもしれませんなー」

妖ほむ「それでは早速。此処は一体どんな空間ですか?」

妖精さん「ここ、かさなってます」

妖ほむ「重なっている?」

妖精さん「おとなりのにんげんさんよびますです」
妖精さん「ひとりここにいるとみんなくるです」
妖精さん「ふえるです」
妖精さん「ごそうだんするがよろしい?」

原ほむ「……意味が分からないけど」

妖ほむ「成程。つまり並行世界にいる私をこの世界に呼び込んだという訳ですねー」

さや シャル「あー、ほむらが正解かー」

原ほむ「ちょっ……今の説明でなんで分かるのよ!?」

原ほむ「というか並行世界の私を呼び込むって……」

妖ほむ「妖精さんの超絶科学力ならお茶の子さいさいですよ」

さやか「なんら驚きもしないな」

シャル「今更よね」

原ほむ「……ああもう。いいわ、可能って事で話を進めるから」


325 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:33:11.82 UlO49LMz0 183/569



原ほむ「なら、その目的は一体何? 並行世界の私を集めて……彼等は何を企んでいるの?」

妖ほむ「どうやら、私が悩んでいたのでその相談相手を集めてくれたようです」

原ほむ「……は?」

妖ほむ「ですから私の相談相手を集めてくれたんです。まぁ、結局私自身な訳ですけど」

原ほむ「いや、ちょ……え?」

さやか「何? ほむら、悩みがあったの?」

ほむら「ええ。明日……今日でしょうか? まぁ、お二人に話してみようと思っていたのですが、
    妖精さんがお膳立てしてくれたようで」

シャル「お膳立てもなにもねぇ……自分を集めても仕方ないでしょうに」

妖精さん「さんにんよればもんじゅのちえではー?」

さやか「いや、同じ人間が集まっても烏合の衆でしょ」

シャル「或いは船頭多くして船山に登る、かしら」

原ほむ「ま、待ちなさい!」

原ほむ「その程度の理由で彼等はこんな、並行世界を跨ぐような真似をやったというの!?」

妖ほむ「妖精さんですからねー」

妖ほむ「ケーキをたくさん食べたいって理由で時間を何度も巻き戻した事もありましたから、
    それと比べれば大したものではありませんよ」

原ほむ「時間遡行をそんな理由で……」

原ほむ「み、美樹さやかと魔女はどうなの!? 今の説明で納得出来るの!?」

さやか「あれ? あたし名乗ったっけ?」

シャル「並行世界のほむらみたいだし、並行世界のアンタと面識あんじゃない?」

原ほむ「……そんなところよ。それで、どうなの?」

さやか「いや、さっきから何度も言ってるけど、正直今更なんだよね」

さやか「妖精さんなら何をしても不思議じゃないし、何が出来ても可笑しくないし」

シャル「むしろ出来ない事を知りたいぐらいね」


326 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:37:28.22 UlO49LMz0 184/569



原ほむ「……滅茶苦茶過ぎる……インキュベーターとどっこいどっこいね」

妖ほむ「エントロピー一つろくに覆せないようなへっぽこ宇宙人とどっこいな訳ないじゃないですかー」

原ほむ「っ……あなた、インキュベーターの事を知っているの!?」

妖ほむ「ええ。辞書に載っていたので」

原ほむ「じ、辞書? いえ、そんな事はどうでもいいわ」

原ほむ「一つ聞かせて。あなたの世界では……鹿目まどかは、魔法少女になっているの?」

妖ほむ「鹿目さんですか? ええ、なっていますよ」

原ほむ「……そう」

原ほむ(並行世界……私とは関係ない世界のまどかとはいえ、救えないと聞かされるのは……辛いわね)

さやか(おや、平行世界のほむらの表情が曇った……並行世界のまどかに何かあったのか?)

さやか(って、魔法少女って事は、そういう事かー……)

さやか(妖精さんがいなけりゃ、滅茶苦茶悲痛な話だもんなー)

さやか(……むしろ、悲痛な話だと今まであまり自覚させない妖精さんパワーが特別なのか)

妖ほむ「……ああ、魔法少女が魔女になるから鹿目さんがご心配なんですか?」

原ほむ「それも知っていたのね。インキュベーターの事を知っていたから当然でしょうけど」

妖ほむ「でしたらご安心を。こちらの鹿目さんに関しては妖精さんパワーで人間に戻せますからね」

原ほむ「!?」

原ほむ「ちょっと、どういう事!? 人間に……」

原ほむ(そんなのあり得ない……)

原ほむ(い、いえ! もし今目の前にいる私モドキが魔女から人間に戻った存在だとしたら……)

妖ほむ「その話はまた後ほど」

妖ほむ「とりあえず今は、この辺りの状況を調べるとしましょう」

原ほむ「後ほどじゃない!」

原ほむ(もし魔法少女を人間に戻す方法があるのなら、まどかを確実に救い出せる!)

原ほむ(いえ、それどころか、魔法少女になったまどかと一緒ならワルプルギスの夜をも容易く越えられる!)

原ほむ(私の勝利が確定したも同然になる!)

原ほむ(なんとしても聞かせてもらう……いいえ)

原ほむ「今教えないのなら、力尽くで聞かせてもらうわ!」

妖ほむ「わっ……銃を向けないでくださいよ……」

妖ほむ(妖精さんのお守りがあるので飛び道具は効きませんけど)

さやか(本来ならガクガク震えるような場面なのにまるで物怖じしないあたしらである)

シャル(しっかしまぁ、随分と必死ねぇ。鹿目さんがそんなに大事なのかしら?)

妖ほ さや シャル(……私達が何度か彼女を酷い目に遭わせている事は秘密にしておこう)


327 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:41:01.51 UlO49LMz0 185/569



妖ほむ「まぁまぁ、落ち着いてください」

妖ほむ「教えてもいいですけど、ちょっとした裏技みたいなものなので、あなたには使えないと思いますよ?」

原ほむ「それは私が判断するわ」

妖ほむ「時間の無駄なのにー」

原ほむ「……」カチン

妖ほむ「ああ、もう。分かりました。教えます。教えますから銃のセーフティは解除しないでください」

妖ほむ「簡単に言いますと、こちらに居ります妖精さんの力を借ります」

妖ほむ「妖精さんの超絶科学力によって、魔女さんから魂を抽出。ついでにほいほいっと空っぽな肉体を用意」

妖ほむ「そしてニューボディに魂を放り込めば、人間に戻れるって寸法です」

原ほむ「……………はぁ?」

妖ほむ「言っときますけど、これ以上の説明を求められても私には答えられません」

妖ほむ「妖精さんならお茶の子さいさいでも、私達人間には到底理解の及ばない超絶テクノロジーの産物なんです」

妖ほむ「妖精さんを知らないあなたに、私の方法は意味を成しませんよ」

原ほむ(……確かに、彼女の言う通りか)

原ほむ(よく考えれば、彼女は最初から妖精の力によって魔女から人間に戻すと言っていた)

原ほむ(彼女を追及しても、その方法を正しく理解出来るとは限らない)

原ほむ(仮に妖精を拉致したとしても、協力してくれるとは限らないし、研究施設も存在しないこちらでは無意味か)

原ほむ(くっ……やはり、そう簡単にまどかは救えない……)

妖ほむ「ふぅ。気が済んだようで何より」

妖ほむ「まぁ、そんな落ち込まないでくださいよ。笑顔でいないと、幸せが逃げちゃいますよ?」

原ほむ「慰めはいらないわ……そうよ。もう誰にも頼らないって決めたのだから……」

妖ほむ(あ、この私、お一人様をすっごく拗らせた感じがします)

妖ほむ(こういう人は何を言っても聞いてくれないんですよねぇ……”自分”の事ながらちょっと面倒臭い)

妖ほむ(文字通り自分の事と思って、戒めとしときましょう。うん)

さやか「あー、言いたい事は済んだかー?」

原ほむ「……ええ。もういいわ」

妖ほむ「ふー……やれやれです」

妖ほむ「さて、一段落ついたところでこれからどうしたものでしょうか」

原ほむ「どうしたもこうしたもないわ。出口を探すだけ」

原ほむ「何時までもこんな場所に居る訳には――――」



妖精さん「でぐち、ないです?」

原ほむ「え?」


328 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:44:42.01 UlO49LMz0 186/569



妖ほむ「出口、無いんですか?」

妖精さん「ありませんなー」
妖精さん「そーてーしておりませんもので」

さやか「出口を想定しない部屋ってなんだよ」

妖精さん「……おきにいりのへやとか」

シャル「いや、お気に入りでも出口は必要でしょ……」

妖精さん「ぼくら、かべぬけとくいですし?」

妖ほむ「あー、確かによく抜けてますよね」

さや シャル(よく抜けるんだ……)

原ほむ「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

原ほむ「出口がないなら、どうやって私は元の世界に帰ればいいのよ!?」

妖ほむ(あ、並行世界の私が妖精さんを捕まえた……結構すばしっこいのに、流石魔法少女ですね)

妖精さん「あー、つかまた」

原ほむ「今すぐこの世界から出しなさい。でないと……」

原ほむ「このまま握り潰すわよ」

妖精さん「ぼく、つぶされます?」

原ほむ「言っておくけど、冗談じゃないわよ」ギリギリ

妖精さん「あー……しぼられますー……」

シャル「な、何してるの!?」

原ほむ「言った通りよ。今すぐこの世界から出さないのなら、コイツに用はない」

原ほむ「握り潰しても、私は困らないわ」

さやか「ちょっ!? ほ、ほむら、妖精さんが……!」

妖ほむ「あー、あれぐらいなら平気ですよ」

原ほむ「その余裕は、私が並行世界の自分だから彼等に手を下さないという甘い考えから生まれるのかしら?」

原ほむ「だったら間違いよ。私は、目的のためなら命を奪う事も躊躇わない」

原ほむ「仲間の妖精が見ているのなら、すぐに私を元の世界に戻しなさい。そうすればこの子は解放してあげる」

原ほむ「だけどそうしないのならこの子を握り潰し、他の妖精も一人ずつ――――」

原ほむ「……………」

原ほむ(手からほんの数秒目を離したら、何時の間にか妖精が消えていた……)

原ほむ(手の中に残っているのは一本の……枯草? みたいなものだけ……)

原ほむ(え? どういう事?)


329 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:48:55.57 UlO49LMz0 187/569



妖ほむ「私もあれはよくやりますもん。ぺっちゃんこにしちゃえばかさ張らないので、持ち運びに便利なんですよー」

さやか「かさ張るって理由だけで潰すんかい!? というか潰して平気なのかよ! そしてあんな簡単に潰れるのかよ!」

シャル「つーか常日頃持ち運んでるの? そのままだとかさ張るほどの数の妖精さんを」

妖ほむ「ざっと一万人ぐらいですかね、持ち歩いている数としては」

さや シャル「お前は神にでもなるつもりか!」

妖ほむ「なろうと思えばなれるんですけどねー、割とお手軽に」

原ほむ(え? 神様ってお手軽になれるものなの? そしてさっきから何言ってんの?)

妖ほむ「そんな事よりも、折角見つけた妖精さんが干物です」

妖ほむ「水をかければ元に戻りますけど、生憎この場に水はないですし」

さやか「水で戻るってクマムシ並の生命力なのか、妖精さんは」

妖ほむ「ま、この空間の建設理由は分かりましたし、脱出方法の見当は付きました。多分すぐに帰れますよ」

原ほむ「だ、脱出出来るの!?」

妖ほ さや シャル「……………」ジー

原ほむ(うっ……なんというか、三人から『え? アンタがそれ訊いちゃうの?』と言いたげな視線を感じる……)

原ほむ(た、確かに、よく考えると妖精をいきなり握り潰そうとするのは何と言うかアレな感じがする)

原ほむ(というか、そもそも妖精に出してもらうのが一番の早道で、その妖精を見失う結果を作ったのも私で)

原ほむ(要するに、全ての元凶が素知らぬ顔で仲間に入ろうとしている訳で)

原ほむ(……あ、これちゃんと謝らないとシカトされるわ。十七回目のループで体感したもの)

原ほむ「わ、悪かったわよ……その、いきなり脅そうとして……」

原ほむ「出られないと聞かされて、焦って、その……(ああ、上手く謝れない……というか謝れたら
    十七回目のループを失敗してないし!)」

さやか「ああ、そんなに謝らないでよ。あたしだってアンタの立場なら同じ事をしたかも知れないしさ」

原ほむ(!? 美樹さやかに、許してもらえた……?)

シャル「私も同意見ね。私らはちょっと毒され過ぎて気付けなかったけど、知らない人からしたらホラー体験そのものだしコレ」

シャル「取り乱すのも当然よ」

原ほむ(魔女にも、許してもらえた……)

シャル「ほむらはどう?」

妖ほむ「あー、まぁ、いいんじゃないですか?」

原ほむ「なんかあなただけすっごく雑な許し方してない!?」

さやか「お前もう少し真面目に受け取ってやろうよ。あのほむら、多分すっごい頑張って謝ってるぞ?」

妖ほむ「いやぁ、私ってコミュニケーション不足なもので、そういう人の感情の機微とかに疎いですから」

さやか「それ、自分で言っちゃいけない事だろ」



330 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:52:02.83 UlO49LMz0 188/569



妖ほむ「さて、そんな事よりも本題です」

妖ほむ「妖精さんはこの空間を、悩んでいる私のために用意したと言っていました」

妖ほむ「ですから悩み事を皆さんに相談すれば、この空間から出られるものと思われます」

原ほむ「……いや、意味が分からな」

さや シャル「なるほどー」

原ほむ(……考えるだけ無駄なのかしら)

妖ほむ「それでは始めるとしましょう」

妖ほむ「お悩み相談室の開催です♪」



……………

………





原ほむ(そんな訳で始まってしまったお悩み相談室)

原ほむ(並行世界の私が始めると言った途端、何処からともなくテーブルと椅子が落ちてきて、今、私達は席についている状態)

原ほむ(……なんだか分からないけど、向こうのペースに乗せられていると考えるべきね)

原ほむ(悪意は感じないけど、並行世界をつなげるほどの力を持っている相手)

原ほむ(油断はしないように――――)

妖ほむ「はふぅー……紅茶、美味しいです♪」

シャル「ほんとねー」

さやか「ケーキうまー」

原ほむ(……向こうにはもっとこう、緊張感というものは無いのかしら)

妖ほむ「さてさて、気持ちも落ち着いたところで、お悩み相談を始めるとしましょう」

シャル「つーてもねぇ……誰から始めるの?」

妖ほむ「じゃあ、言い出しっぺのシャルロッテさんから」

シャル「いや、言い出しっぺって……まぁ、いいけど」

シャル「丁度悩みというか、皆に訊きたい事があったし」

原ほむ(魔女の悩み……精神的な弱点を聞いておくのは、戦略を練る上で役立つかもしれない)

原ほむ(聞いておいて損はないわね……)

シャル「あのね……」

シャル「みんな、体型維持ってどうやってるの?」

原ほむ「……は?」


331 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:54:52.32 UlO49LMz0 189/569



シャル「いや、私ってお菓子を魔法で生み出せるでしょ?」

シャル「お陰で食べたい時何時でもお菓子を出せちゃうんだけど……」

シャル「今の私は少なくともボディは人間。肉体的には魔女じゃない訳で」

シャル「という事は……このままの食生活を続けたら太るって事よ!?」

シャル「これは一大事よ! いくら魔女でも女は女よ!? デブは嫌よ!」

シャル「という訳で体型維持方法を教えてくださいー」

さやか「あー、まぁ、気持ちは分かるが」

さやか「でもその前に、食事前の間食を止めるように努力しろよ……流石に晩ご飯前のクレープはどうかと思うよ」

シャル「一度転がり落ちると這い上がるのは大変なの」

さやか「格言っぽく言ってるけど、つまり止められない止まらないって事かい」

シャル「ふんっ。さやかには最初から期待してないわよ。維持しているようには見えないし」

さやか「え」

シャル「本命はほむらよ、ほむら!」

妖ほむ「私ですか?」

さやか「……維持しているように、見えない?」

シャル「そのスレンダーな身体付き、何か秘策があると見たわ」

シャル「この三日間の同居生活じゃ分からなかったけど、何か秘密があるのよね?」

さやか「あたし、太ってるのか……?」

妖ほむ「期待するのは勝手ですけど、私、特に何もしていませんよ」

妖ほむ「元々食は細い方ですし……何より、いくら食べても太らない体質なんです」

妖ほむ「むしろ健康上もう少し体脂肪を付けた方が良いぐらいなんですが」

シャル「……つまり?」

妖ほむ「私が痩せているのは努力の賜物ではなく、単なる体質です」

シャル「こ・ん・ち・く・しょーっ!」

妖ほむ「はい、それでは少しずつでも一日に食べるお菓子の量を減らしていくとしましょう」

妖ほむ「とりあえず、明日から朝ご飯はホットケーキではなく和食ですね」


332 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 16:58:00.53 UlO49LMz0 190/569



妖ほむ「これにてシャルロッテさんのお悩みは解決です」

シャル「してないだろ! てきとーに付けんなーっ!」

妖ほむ「……ところで」

さやか「」チーン
原ほむ「」チーン

妖ほむ「そこのお二人は、何故真っ白に燃え尽きているのですか?」

さやか「あたしはデブじゃないあたしはデブじゃないあたしはデブじゃない……」

妖ほむ「……意味が分かりません」

妖ほむ「えっと、それでもう一人の私はどうしたんですか?」

原ほむ「……なんでも、ないわ」

原ほむ(魔女の弱点を探るどころか、むしろ元々普通の女の子だという事実を改めて突き付けられて意気消沈……なんて言えないわ)

妖ほむ「そうですか。では、早速次の悩み相談といきましょう」

妖ほむ「はい、それでは次はさやかさんの番ですよー」

さやか「はっ!? あたしは一体何を――――」

妖ほむ「もう、次は自分の番って聞いて意気込むのはいいですけど、我を忘れるほど考え込んでどうするんですか」

さやか「あ、あれ? そういう話だったっけ?」

妖ほむ「そーいう話でしたよー」

原ほむ(息のように嘘を吐くわね……美樹さやかは嘘や隠し事が嫌いな筈なのに、どうして仲良くなれたのかしら?)

さやか「そ、そうか……いや、でもあたし悩みなんてないしなぁ……」

シャル「……本当に無いの?」

さやか「……何故ニヤニヤしながら訊いてくるのか不思議だけど、ないよ」

シャル「ふーん」

さやか「なんだよ。何か言いたい事でもあるのかよ」

シャル「いや、別にぃ。ただ――――」

シャル「好きな男の事を相談しなくていいのかなぁって」

さやか「え? な、え? うええええええええええええっ!?」


333 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:00:47.65 UlO49LMz0 191/569



さやか「な、なな、なんでシャルちゃんがそんな」

シャル「昨日一緒にお風呂に入った時言ってたじゃない」

さやか「ちゃんと聞いてたのかよ!?」

シャル「それで? 誰なの? ん?」

さやか「だ、誰とかなんとかいう、あれはその、疑惑が出てきたから反論として言っただけで!」

さやか「べ、別に恭介の事が好きとかそんなのはないし!」

シャル「へぇ、恭介って言うんだ?」

さやか「おぅふッ!?」

シャル「しかも呼び捨てする間柄って事は、クラスメートとかじゃないわね。幼馴染かしら?」

さやか「お、おんどりゃあ……! 言わせておけば……」

妖ほむ「さやかさん!」

さやか「うわ!? な、何……?」

妖ほむ「そ、そんな、す、す、好きな男の子なんて……」

妖ほむ「不潔です! 不純異性交遊は駄目なんです! 破廉恥ですぅ!」

さやか「……流石にその反応は潔癖過ぎるだろー」

シャル「いや、これは逆に興味津々過ぎてR-18レベルまで妄想していると見たわ」

さやか「……今度、あたしの持ってる少女漫画でも貸してやるか」

シャル「ああ、いいかもね。少女漫画」

シャル「最近のは過激って聞くからねぇ……昔のなんて知らないけど」

妖ほむ「ああもう! この相談は終わりです! 駄目絶対です!」

シャル「恋は麻薬ってか」

さやか「座布団没収するぞ」

妖ほむ「終わりですったら終わりですーっ!」

シャル「ま、聞きたい事は聞けたから異議なーし」

さやか「……終わるなら、まぁ、異議なしで」

妖ほむ「あああああもう……嘆かわしい、嘆かわしいです……!」


334 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:03:37.42 UlO49LMz0 192/569



妖ほむ「はい、次は魔法少女の私!」

原ほむ「え? 私?」

妖ほむ「そうです!」

妖ほむ「……すみません。ちょっと冷静になりますので……ふー……」

妖ほむ「すみませんでした。本題に戻りましょう」

さやか「相変わらず切り替え早いなー」

妖ほむ「いいじゃないですか。何時までもウジウジしているよりかは」

妖ほむ「それで、どうですか? 悩みありませんか?」

原ほむ「……………悪いけど、私はあなた達に相談するつもりなんてないわ」

妖ほむ(ふむ。する気はない、と……悩みがあると認めているようなものですねぇ)

妖ほむ(ま、そこが逆鱗なのは容易に想像が付くので、少し遠くからつつくとしましょう)

妖ほむ「えー? なんでですか?」

妖ほむ「思い悩むと視野が狭くなりがちです。第三者の意見を取り入れると、案外すんなりと解決するかも知れませんよ?」

原ほむ「あなたには分からないでしょうね。妖精という、超常の存在の力を借りられるのだから」

原ほむ「でもね、私に頼れるものは何もない」

原ほむ「誰かに期待なんてするだけ無駄。奇跡を期待するのも無駄」

原ほむ「相談なんかしても何も変わらない」

原ほむ「だから私は、もう誰にも頼らない――――」


335 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:04:08.93 UlO49LMz0 193/569




???「きゃああああああああああああああ」



336 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:05:58.14 UlO49LMz0 194/569



原ほむ「っ!?(悲鳴!? 一体何処から……)」

原ほむ(……なんか上から聞こえたような気がし)

???「あああああああああああああああああああっ!?」

原ほむ「って、上から誰かが落ちてきてぶしゃっ!?」

――――ドンガラガッシャーン

さやか「ほ、ほむらァ――――!?」

妖ほむ「あらあら。並行世界の私の上に誰か落ちてきましたね」

シャル「だ、大丈夫……?」

原ほむ「わ、私は大丈夫……ソウルジェムが砕けてなければ……」

原ほむ「それより、一体誰が落ちてきて……」

眼鏡を掛けた三つ編みほむら(以下めがほむ)「うきゅ~~~~……」←目を回している

妖ほむ「……………三人目、来ましたね」

さやか「三人目、来たな」

シャル「三人目、来たわね」

原ほむ「三人目、来ちゃったわね」

原ほむ(恐らく彼女もまた何処かの並行世界から連れて来られた私)

原ほむ(私服姿で、眼鏡を掛けている)

原ほむ(雰囲気的には向こうの、並行世界の私と近いけど……)

原ほむ(いえ、むしろ……昔の私と近いような気がする)

原ほむ「……それで、どうするの?」

妖ほむ「来てしまったものは仕方ありません。巻き込むとしましょう」

シャル「ああ、やっぱり巻き込むのね……」

原ほむ(巻き込むって、そういう使い方の言葉だったかしら……)


337 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:08:37.64 UlO49LMz0 195/569



めがほむ「う、うーん……此処は……?」

めがほむ「ひっ!? な、なんで……なんで私がたくさん……!?」

原ほむ「……落ち着いて。今から説明してあげ」

妖ほむ「これは夢ですよー」

原ほ さや シャル「え?」

めがほむ「あ、そっか。夢ですかー」

めがほむ「そーですよねー。私がたくさんいるなんて、夢じゃなかったら変ですよねー」

妖ほむ「そーそー。でも夢は夢でも、これはあなたの潜在意識ですから、私達からの忠言は覚えておくようにしてくださいねー」

めがほむ「成程! 自分の知らない自分ってやつですね! 入院中に読んだ本に書いてありました! 確か……ぺ、ペンタゴン?」

妖ほむ「ペルソナですかねー。文字数どころか意味すら合ってませんけど」

めがほむ「ああ、それです! 多分それです!」

ほむほむ「あっはっはっはっはー♪」

さやか「……そっこーで打ち解けたな」

シャル「ごり押しで人間関係って深まるものなのね。勉強になったわ」

原ほむ(馬鹿でドジで間抜けなのは知っていたけどあっさり陥落し過ぎよ過去の私ィ――――!!)

妖ほむ「ああ、そうそう。それでですねー、これは夢な訳ですけど、実はお悩み相談をやっておりまして」

妖ほむ「何か悩みとかありませんか?」

めがほむ「悩みですか? ……私の別人格なのに、私の悩みが分からないのでしょうか?」

妖ほむ「そこはほら……別人格ですから。あなたとは別人ですもん」

めがほむ「なるほどー」

めがほむ「えっと、では相談したいのですけど……」

めがほむ「私……心臓病で入院してて……入院生活が長かったから、運動も勉強もダメダメで……」

めがほむ「それに、引っ込み思案で臆病で、なにをやっても駄目で……」

めがほむ「今日は転校初日だったのに、自己紹介も上手く出来なくて……」

めがほむ「こんな自分を変えたいのですけど……ど、どうすればいいのでしょうか?」


338 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:11:29.22 UlO49LMz0 196/569



妖ほむ「ふむ、自分を変えたいと」

妖ほむ「性格を変えるには、何か衝撃的な体験が一番手っ取り早いでしょう」

原ほむ(衝撃的、ね……確かにそうね)

原ほむ(私も、魔女化の真実を知り、過去に戻って自分を助けてとまどかに言われてから、こんな性格になった)

原ほむ(美樹さやかも、まどかも、巴マミも……残酷な体験をしなければ現実を受け入れてくれない。
    私が何を言っても信じてくれない)

原ほむ(人が変わるには、残酷な事実以外に方法はないのよ――――)

妖ほむ「じゃあ、アイドルデビューしましょう」

原ほ さや シャル「はい?」

原ほむ「あの、あなたは一体何を言っているの?」

妖ほむ「何って、衝撃的な体験をする方法?」

原ほむ「あたかも私当然の事言ってますよ、みたいな感じの態度で断言された!?」

さやか「そりゃ衝撃的だろうよ、アイドルデビューは」

シャル「無責任極まりない解答ねぇ……」

めがほむ「あ、あの……いくら別人格からのアドバイスでも、アイドルというのは……」

めがほむ「それに、あの、私そんなに可愛くないですし……」

妖ほむ「何を言っているんですか! あなたは私なんですよ!? 可愛いに決まっています!」

原ほむ(超ストレートに自画自賛しやがったわコイツ!)

めがほむ「でも、でも、私、人見知りが激しくて、アイドルって、たくさんの人の前で歌ったり、すると思うし……」

妖ほむ「じゃあ此処で慣れましょう」

妖ほむ「はい、マイクです」

めがほむ「え、あ、ども……え?」

妖ほむ「こんな事もあろうかと用意しておいたカラオケ機器の数々!」

原ほむ(どんな事があると思って用意していたのよ!?)


339 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:13:31.53 UlO49LMz0 197/569



妖ほむ「そんでもって、ギャラリーかもーん!」

妖精さん×30「よばれた?」「ばればれかも」「あつまってはみたけれど」「なにかはじまる?」「にんげんさんのだしものはさいこうねー」「みせてもらえるなんて」「なにかおれいひつよう?」「だまってみるのがれいぎかと?」「かもくにてっするべきでは?」「ぼっくすひつようかも」「からおけおっけー」「おけおっけー」

原ほむ「ひっ!?(どっかから湧いてきた!?)」

めがほむ「あの、こちらの方々は?」

妖ほむ「あなたが描いた観客のイメージです」

妖精さんA「そーなの?」
妖精さんB「そーいうやくまわりか」
妖精さんC「はいやくはだいじ」
妖精さんD「ぼくら、あどりぶへたですし」
妖精さんE「ではぼくらききにてっします」
妖精さんF「おきかせくだされー」

めがほむ「なるほどー」

原ほむ(なんでさっきから無抵抗に納得してんのよ私ぃぃぃぃぃぃ!)

さやか「なんでさっきからあのほむら、逐一悔しそうなんだ?」

シャル「私が知る訳ないでしょ」

めがほむ「では私、歌います! 選曲は……」

妖ほむ「鋼のレジスタンスとか未来への咆哮、それからGONG辺りを聴きたいですねー」

さやか「何故JAMプロ推しなんだ」

シャル「いい曲だけどね。うん」

原ほむ(え? 今の選曲って有名なの?)

めがほむ「では、未来への咆哮で!」

原ほむ(え? あの私も知ってるの?)

めがほむ「それでは、う、歌います!」


340 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:14:35.11 UlO49LMz0 198/569



~~~♪

めがほむ「たーちあがーれ、けーだかくまえ、さーだめを受けたせーんしよーっ!」

めがほむ「せーんの覚悟身に纏い! 君よ! 雄々しく、はーばーたーけー!」

さや シャル(まさかの圧倒的な声量と完璧な音程で圧倒される私達であった)

原ほむ(……………)

原ほむ(はっ!? 歌に魅了され、唖然としてしまった!)

原ほむ(……こ、今度、CD買いに行こう)

~~~♪


341 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:17:15.00 UlO49LMz0 199/569



めがほむ「とーきを越えその名前を! 胸に、刻もう! Just Forever~!!」

めがほむ「……ふぅ……」

妖ほ さや シャル「わーっ!」パチパチパチパチ

妖精さん×1500「わー!」パチパチパチパチ

原ほむ(……い、何時の間にか、妖精の数がとんでもない事に……一体何処から湧いたの!?)

妖ほむ「はい、コンサートは終わりです」

妖ほむ「妖精さん達はてきとーに散ってくださいねー」

妖精さん×1500「はーい」

妖ほむ「……とりあえず、これで今すぐ童話災害には襲われない、筈っと」

めがほむ「ああ……気持ちいい……!」

めがほむ「人の前で歌うのって、こんなに気持ちいいんですね……!」

妖ほむ「それは何より」

妖ほむ「だけど、満員のドームで歌う気持ち良さは、こんなものじゃないと思いますよ?」

妖ほむ「全国ツアーとかやって、何万人のファンがあなたを応援してくれるんですよ」

めがほむ「……!」ゾクゾク

めがほむ「満員の、ドーム……全国百万人のファン……私に向けられる歓声……」

めがほむ「なんて……素敵……!!」

さやか「……なぁ。あれ、なんか目覚める方向間違ってないか?」

さやか「なんか世界を滅ぼそうとしている悪役のような、不気味で光悦とした笑み浮かべてんだけど」

シャル「まぁ、そういう需要がない事もないし、社交的になったという意味では性格が改善してるし」

シャル「ぶっちゃけめんどくなってきたので、ノータッチで」

さやか「シャルロッテさんったら物臭ですわー」

原ほむ(見ていて色々複雑な気持ちになったのは私だけなのかしら……私だけよね、多分)

妖ほむ「さて、こちらの私のお悩みも解決ですね」


342 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:18:53.86 UlO49LMz0 200/569



妖ほむ「取りは全ての元凶である私として……」

妖ほむ「またしても残るはあなただけですよ――――並行世界の私」

原ほむ「……何度も言わせないで」

原ほむ「私の悩みは、誰かに言って解決するようなものじゃない。誰かに言って変わるものじゃない」

原ほむ「誰かに頼っても無駄。自分でなんとかするしかない」

原ほむ「何度やっても駄目だったのに、ぽっと出のあなたにどうにか出来るなんて……」

原ほむ「思い上がりもいいところだわ」

妖ほむ「……ふむ。成程」

妖ほむ「今ので大体分かりましたよ、あなたの悩み」

原ほむ「……ハッタリのつもり? なら、是非とも教えてほしいものね」

原ほむ(分かる訳がない……本当の事を話しても、誰も信じなかったのに)

妖ほむ「そうですねぇ……じゃあ、言わせてもらうとしましよう」

妖ほむ「並行世界の魔法少女が私達のいう魔法少女と同じかは分かりませんが……
    基本的なルールである、魔女化の真実があるので同じと仮定します」

妖ほむ「という事は、あなたは魔法少女の契約をキュゥべえさんと結んだ」

妖ほむ「即ち願いがあったという事になります」

妖ほむ「そして、その願いはまだ叶っていないのではないですか?」

妖ほむ「例えば……誰かを守りたいと願ったのに、未だに守れていない」



妖ほむ「『何度も時間を繰り返したのに、鹿目さんを守れていない』、とか」



343 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:21:55.29 UlO49LMz0 201/569



原ほむ「っ……!?」

妖ほむ「ふむ。どうやら当たったみたいですね」

さやか「え、ど、どういう事?」

シャル「時間を繰り返した……?」

妖ほむ「あの私が鹿目さんに対し、ただならぬ執着があるのは先の会話で皆さん分かっていたと思います」

妖ほむ「その時点で、彼女の願い事が鹿目さんの類なのは容易に想像出来ました」

妖ほむ「そして私に対し、あなたの世界での鹿目まどかは魔法少女になっていないか、とも尋ねてきました」

妖ほむ「あちらの世界でも、きっと鹿目さんは魔法少女になっていた。或いは、ある時契約してしまった」

妖ほむ「いえ、魔女化の真実を知っていた事、そして魔女を人間に戻せるという言葉への反応を吟味すれば……」

妖ほむ「鹿目さんが魔女になったところを見たのかも知れない」

原ほむ(な、なんで……!?)

妖ほむ「そんでもってさっきの、何度やっても発言が決定的です」

妖ほむ「つまり、目の前の私は何度もやっているんです。鹿目さんが魔女にならないようにする挑戦を」

妖ほむ「他にも時間遡行という珍しい言葉を使ったり、何もかも諦めた態度だったり、ヒントは山ほどありましたね」

妖ほむ「……むしろこれだけヒントがあって、寸分もこの可能性が頭を過ぎらないと言うのは……」

さやか「う、うっさいなぁ……いくらとんでも事態には慣れてきても、アンタほど経験は積んでないんだから」

シャル「なんだかんだ、私らもほむらと比べたら常識人って事ねー……良かった良かった」

めがほむ「???」←話についていけてない

妖ほむ「むー、なんですかその物言いは。人を非常識の塊か何かと思わないでくださいよ!」

さや シャル「塊どころか濃縮圧縮レベルだろ」

\ワイワイキャッキャ/






原ほむ「……なんでよ……」




344 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:24:03.83 UlO49LMz0 202/569



妖ほむ「……なんですか? 意見があるなら、ハッキリ言った方がいいと思いますよ? 勿論相談も受け付けます」

妖ほむ「ここにいる者の半分は自分なんですから、吐いてすっきりしちゃいましょうよ。ね?」

原ほむ「……なんでよ……」

原ほむ「なんでそこまで分かって、相談しろって言うのよ……!」

原ほむ「ええそうよ! 私は何度も時間を戻って、何度もまどかを助けようとした!」

原ほむ「だって私の願いは、まどかを守る事なのだから!」

原ほむ「だけど結果は何時も失敗!」

原ほむ「魔法少女の真実を話せば仲間割れが起きてみんな死ぬ!」

原ほむ「真実を隠せば誰も私を信じてくれず、協力してくれない!」

原ほむ「それでもなんとか仲間を加えても、ワルプルギスの夜が越えられない!」

原ほむ「そしてワルプルギスの夜が倒せないと……まどかが契約してしまう!」

原ほむ「どうしろって言うの! どうすればいいの!?」

原ほむ「どうすればまどかを……あの子を助けられるのよ……!!」

さやか「……ほむら、あの」

シャル「さやか……今は……」

さやか「……うん。”ほむら”に任せる」

妖ほむ「……それがあなたの悩みですか?」

原ほむ「……ええ、そうよ」

原ほむ「それが私の悩み……まどかを救うために、どうすれば――――」



妖ほむ「ああ、もう。面倒臭いですねぇ」



原ほむ「――――え?」

妖ほむ「面倒臭いと言ったんです。あなたの悩みというか願い事」

妖ほむ「ああ、そもそもの問題は、願いと悩みが一緒くたになっている点ですかね」

原ほむ「な、何を、言ってるの!?」

原ほむ「私の願いが面倒臭いですって!?」

妖ほむ「だって面倒ですもん」

妖ほむ「あなた、自分の願いの本質を見失ってますよ?」

妖ほむ「誰かを守りたいなんて――――そんな願い、ある訳ないじゃないですか」


345 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:26:51.66 UlO49LMz0 203/569



原ほむ「なっ……さっきから聞いていれば勝手な事ばかり……!」

原ほむ「私はまどかを守りたい! それが私の願いであり目的よ!」

妖ほむ「じゃあ聞きますけど、あなた、どうして鹿目さんを守りたいんですか?」

原ほむ「ど、どうして……?」

原ほむ「それは――――か、彼女が私の、一番の友達だったから……」

原ほむ「と、友達を守りたいと思うのは可笑しい事なの!?」

妖ほむ「可笑しくはないですよ。だからあなたは本質を見失っていると言っているんです」

妖ほむ「友達だから守りたいなんて、そんな上っ面の言葉なんかいりません」

妖ほむ「……そもそも、友達だから守りたいなんて建前でしょう?」

原ほむ「っ!? どういう意味……!」

妖ほむ「どういうも何も、本当は知っている癖に」



妖ほむ「あなたの本当の願いは――――人に認めてもらう事でしょう?」



原ほむ「――――?!」

妖ほむ「認めちゃいましょうよ。自分が劣等感の塊である事を」

原ほむ「ちが……!」

妖ほむ「何も違いませんよ」

妖ほむ「私はあなた。あなたは私。あなたの事はなんでも知っている」

妖ほむ「何も出来ない自分への劣等感で、何時も何時も卑屈になっていたでしょう?」

妖ほむ「そんな自分が嫌で嫌で堪らなかったでしょう?」

妖ほむ「だから力を手に入れて、それを誇りたいのでしょう?」

妖ほむ「鹿目さんから、尊敬や嘱望の眼差しを受けたいのでしょう?」

妖ほむ「魔法少女の鹿目さんより、上に立って見下ろしたいのでしょう?」

原ほむ「違う、違う違う違う!」

妖ほむ「何が違うのですか? 守ってやるなんて上から目線で言っときながら、何が違うのですか?」

妖ほむ「ああ、それともこれじゃまだまだ生温いとか?」

妖ほむ「鹿目さんだけじゃなくて、さやかさんとか巴先輩からも崇められたいと?」

妖ほむ「それともワルなんとかとやらを倒して、自分の名声を世に広めたいとか?」

妖ほむ「もしくは、さやかさんも鹿目さんも踏み台程度の認識で――――」

原ほむ「違う!」



346 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:29:55.47 UlO49LMz0 204/569



原ほむ「私は、私は尊敬とかそんなのはいらない!」

原ほむ「戦いだってしたくない! 誰も踏み台だなんて思ってない!」

原ほむ「私は、私はただ……」



原ほむ「私はまどかが、みんなが死んでほしくないだけなの!!」



妖ほむ「……ふー。やっと本音を言ってくれましたか」

原ほむ「えっ……?」

妖ほむ「ですから、それが本音ですよね?」

妖ほむ「誰かを守りたい。まぁ、立派なご意見だとは思いますけど」

妖ほむ「自分の願い事なのに他人が前面に出てくるなんて、そんなの願いじゃありません」

妖ほむ「勿論守りたいと思う事は結構です。人として大切な気持ちでしょう」

妖ほむ「ですが『何故』が抜け落ちていては、そんなのは耳触りのいい言葉でしかありません」

原ほむ「それ、は……」

妖ほむ「ほら、思い出して」

妖ほむ「あなたは何を願って魔法少女になったのか……ちゃんと思い出して」

原ほむ「……そうだ……私の願いは、まどかを守るじゃない……」

原ほむ「まどかを守れる私になりたい……」

原ほむ「まどかと『同じ場所』に居る事……生きて、一緒に居る事……それが願いだった……」

原ほむ「なのに、なのに私……!」

原ほむ「忘れてた……私が何を求めていたのか……忘れて……!」

妖ほむ「……何度も過去に戻る事が大変なのは分かります。周りにとってはゼロの時間も、
    あなたにとっては永遠の監獄だったでしょう」

妖ほむ「最初に決めた道しるべが分からなくなっても仕方ないと思います。迷ってしまうのも当然だと思います」

原ほむ「で、でも……私、忘れちゃってて……」

妖ほむ「誰だって物忘れの一つ二つはありますよ」

妖ほむ「大切なのは繰り返さない事。もう忘れない事」

妖ほむ「そして――――自分の想いに、正直になる事」

原ほむ「自分の、想いに……?」

妖ほむ「そうです」

妖ほむ「空っぽな人間に力はない。力を持つのは、何時だって信念を持つ人間です」

妖ほむ「だから自分のやりたい事をやりましょう」

妖ほむ「そうすれば……」

原ほむ「……?」


347 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:32:10.71 UlO49LMz0 205/569



原ほむ「……そうすれば、何?」

妖ほむ「……そうすれば、人は全力を出せる」

妖ほむ「全力を出せれば、人間は世界を変えられる!」

妖ほむ「だからあなたは自分のために――――自分の願いのために、堂々と他人を利用すればいいんです!」

妖ほむ「あなたは正しいのだから、迷わなくていいんです!」

妖ほむ「容赦なく、徹底的に、何処までも!」

妖ほむ「みんなを幸せにしちゃえばいいんですよ!」

原ほむ「……そう、ね……そうよね……」

原ほむ「まどかを契約させない……そんなの、私の願いじゃない」

原ほむ「まどかだけじゃない。巴さんも、さやかも、杏子も――――全員幸せにする」

原ほむ「ええ、そうよ。まどかだけ幸せにするなんて、そんな謙虚ではいられない」

原ほむ「何処までも、何処までも欲張ってやる……」

原ほむ「私の幸せのために、全員を幸せにしてやる!!」

原ほむ「それが私の、本当の願いよ!」

妖ほむ「ふふ……もう大丈夫ですね」

原ほむ「ええ」

原ほむ「もう運命になんて屈しない……ううん、今までは勝負すらしていなかった」

原ほむ「建前をかざして本当の願いを誤魔化していた。叶えられそうにない夢から逃げていた」

原ほむ「もう、私は逃げない」

原ほむ「逃げないから……全力で挑めるわ」

妖ほむ「それは何よりです♪」

さやか「どうやら終わったようだね」

原ほむ「ええ。お陰さまで」

シャル「表情も軟らかくなったね。そっちの方が可愛いよ」

原ほむ「ありがとう。褒められるのは、気分がいいわね」

めがほむ「えーっと……つまりどういう事ですか?」

原ほむ「うん。面倒臭いしあなたには無関係だから説明はなしで」

原ほむ「……さて、それじゃあいよいよ”トリ”の出番ね」

妖ほむ「とり? ……ああ、そうですね」


348 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:34:05.91 UlO49LMz0 206/569



原ほむ「あなたはどんな悩みをぶつけてくれるのかしら?」

さやか「あ、それちょっと楽しみだったんだよね」

シャル「普段弱みなんて見せないからねー。つーかメンタル面ではうちらの中じゃ最強っぽいし」

シャル「まぁ、だから平然と相談したい事があるとか言えたんだろうけど」

めがほむ「私の別人格の持つ悩み……自分でも知らない悩みが今明かされるのですね……!」

妖ほむ「あー……それなんですけど」

妖ほむ「さっきの説教しているうちに自己解決しました。はい」

原ほむ めが さや シャル「ええーっ!?」

妖ほむ「いや、そう露骨にガッカリしなくても……」

さやか「だってだってだって~」

原ほむ「私達だけ精神的弱点を見せるなんて不公平よ」

シャル「そーだそーだ」

めがほむ「そーだそーだ!」←周りに合わせているだけ

妖ほむ「ですから、解決したというだけで話さないとは言ってませんよ」

妖ほむ「そもそも私が相談という形で悩みを打ち明けないとこの空間からは出られそうにないですし」

妖ほむ「アドバイスがいらないというだけで、ちゃんと悩みはお伝えしますから――――」



???「うわあああああああああああああああああああああああ!?」



原ほむ「ちょ……また悲鳴!?」


349 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:36:13.45 UlO49LMz0 207/569



妖ほむ「四人目の私って……流石に追加が多過ぎますねぇ……」

シャル「そんな事より、誰か受け止めてあげなさいよ! 声、また上から聞こえてきているし!」

さやか「よーし、さやかちゃんが見事にキャッチして」

???「どべちっ!?」ビタンッ!

シャル「……見事にキャッチ失敗したわね」

さやか「……面目ないです」

めがほむ「そ、それより大丈夫なんですかその人!?」

妖ほむ「妖精さん空間ですから、致命的なダメージはないと思いますけど」

原ほむ「……みたいね。自力で起き上がって――――」


魔法少女姿のさやか(以下魔さや)「……………」


さやか「……あれ? あたし?」

シャル「……少なくとも、ほむらじゃないわね」

原ほむ「ちょ、ちょっと、どういう事!?」

原ほむ「この空間に集まるのは私だけじゃないの!?」

妖ほむ「あ、あれー? えーっと……」

妖ほむ「……………あ」

シャル「……何?」

妖ほむ「……思い返してみると、妖精さん、誰が集まるとは言ってませんでした」

妖ほむ「ただ、この空間に居ると並行世界の自分が集まると言っていただけです」

さやか「つ、つまりあれか? あのあたしは、並行世界のあたしって訳か?」

妖ほむ「そうなりますね」

妖ほむ「まぁ、並行世界のさやかさんですからね。事情を話せばツッコミ役としての役回りは出来るかと思いますし」

原ほむ「……残念だけど、そうはいかないと思うわ」

妖ほむ「と、言いますと?」

原ほむ「……」←並行世界のさやかを指さす

妖ほむ「?」


350 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:39:03.84 UlO49LMz0 208/569



魔さや「……ああ、分かった。そういう事か……」

魔さや「あたしをこんな場所に閉じ込めて始末するつもりだな、転校生……!」



妖ほむ「あら?」

さやか「なんかあのあたし……すっげー臨戦態勢じゃない?」

シャル「……並行世界のほむらさん。あなた、説明出来ますかしら?」

原ほむ「……正義の魔法少女さやか。誤解に誤解が積み重なって、私の陰謀で彼女の師匠である巴マミが死亡したという事に」

原ほむ「多分そんな感じの事があったのかなーっと。過去のループで何度かやっちゃったパターンね」

さやか「わーお」

シャル「見事なまでの修羅場ね」

魔さや「……よく見たら、転校生が四人も居る……それに、あたしの姿も……」

魔さや「成程ね。杏子ってやつの魔法で作った幻影か……やっぱりアンタ達グルだったんだね……!」

さやか「なんか猛烈な勢いで間違った推理を展開してんだけど。つか、きょーこって誰?」

シャル「なんとか誤解を解きなさいよ。アンタでしょ、アレ」

さやか「いやいやいやいや。無理無理無理無理」

さやか「だってあれ刃物持ってんだよ? 目とか逝っちゃってるじゃん」

さやか「あれだよ。友好的に接しようと伸ばした手を切り落とされちゃうパターンだよ」

シャル「いや、つーてもこの状況でまともに話が出来そうなのってアンタぐらいしかいないし」

原ほむ「同意見、と言いたいけど……あの状態になったさやかは、親友であるまどかの話も訊かないし……」

さやか「でしょ? 自分の事だもん。よく分かるもん」

シャル「それ、認めていて悲しくない?」

原ほむ「とにかく刺激しないようにしないと。声を掛けただけで敵認定されかねないわ」

妖ほむ「えー、私が全ての元凶ですから、聞きたい事があれば私にどーぞ」

原ほ さや シャル「何言ってんのアンタああああああああああああああっ!?」


351 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:42:29.90 UlO49LMz0 209/569



妖ほむ「いえ、だってなんか面倒で……」

妖ほむ「誰が悪い奴かハッキリさせるのが一番話がスムーズに進むかなーっと」

シャル「そりゃスムーズに進むでしょうよ! 最悪な形で!」

さやか「アンタは相変わらず自分のやりたいようにやるな!? 巻き込まれるこっちの身にもなれよ!」

原ほむ「そうよ! それに万一魔法少女である彼女に襲われたら……」

魔さや「そうか……アンタが元凶か……」

魔さや「だったらアンタを倒せばそれで終わりだ!」

原ほむ「ほらほらほらほらほらぁ!?」

妖ほむ「あー、まぁ、なんとかなるでしょう。多分」

原ほむ「なんとかって一体どうするつもりよ!? 戦いになって勝てる算段でもあるの!?」

原ほむ「もう一人の私も何か言いなさいよ!」

めがほむ「戦いなんてくだらない! 私の歌を聴けーっ!!」

原ほむ「違うでしょ!? あなたのキャラとして言うべき台詞はそれじゃないでしょ?!」

魔さや「隙ありだっ!」

原ほむ(! しまっ……さやかが突っ込んできて……!?)

魔さや「喰ら【ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!】?!」

原ほむ(な、何か巨大な物体が魔法少女のさやかに襲い掛かった!? さやかは辛うじてかわしたけど……)

原ほむ(い、いえ、これは……)

魔女シャルロッテ(以下魔女シャル)【ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!】

シャル「あ、私だアレ」

さやか「なっつかしー」

原ほむ(並行世界の魔女まで来たあああああああああああああ!?)


352 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 17:45:36.20 UlO49LMz0 210/569



魔さや「くっ……魔女を飼っていたのか……!」

原ほむ「いや、違います。誤解です」

魔さや「じゃあこの魔女はなんだ!? いや……」

魔さや「アンタの肩に乗っている使い魔は!」

原ほむ「え? 肩って……」

妖精さん「どもです?」

原ほむ「……なんで私の肩に乗っているのかしら」

妖精さん「かくれんぼしてて、ここまできましたので」

原ほむ「隠れてないわよ、あなた」

妖精さん「みつけてもらえないほうがさみしい」

原ほむ「ぐふっ……嫌な事思い出した……じゃなくて!」

原ほむ「ち、違うの! この子は使い魔じゃなくて……」

魔さや「使い魔じゃないなら一体なんなんだ!」

原ほむ「え、えっと……よ、よ……」

魔さや「よ?」

原ほむ「よ……妖精、さん……///」

魔さや「……………」

原ほむ「……………」

魔さや「そうやって誤魔化すつもりか! そうはいかないんだから!」

原ほむ「あああああああもう! 当然の反応なのにすっごいムカつくーっ!!」

魔さや「待ってろ! この魔女を倒したらすぐにでもアンタを」

赤髪碧眼の少女「ちょっと待ったーっ!」

魔さや「!?」

原ほむ「誰!?」

シャル「展開的に、魔法少女だった頃の私じゃない? 自分の元の姿とか全然覚えてないけど」

さやか「へー、普通に可愛いじゃん」

原ほむ「いやいやいや!? そんな和んでる場合じゃないから!?」

魔さや「ここで別の魔法少女……? さてはお前もほむらの仲間か!」

赤髪碧眼の少女(以下人シャル)「はぁ? いや、私はこの空間についての情報交換をしたくてアンタに接触しただけで」

人シャル「んで、ついでだから一緒に魔女を倒してグリーフシードのおこぼれをもらおうかなーっと」

魔さや「やっぱりグリーフシード目当ての、悪い魔法少女なんだな……」

人シャル「いやいや、グリーフシードが欲しいのはどんな魔法少女だって同じでしょ?」

魔さや「あたしはそんな魔法少女にならないって決めたんだっ!!」

人シャル「ちょ!? い、いきなり切りかかってきたーっ!?」

魔女シャル【ギャアアアス!】

人シャル「ああもう! 助けにきたのになんで襲われるのーっ!?」



355 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:09:36.15 UlO49LMz0 211/569



空手着姿のほむら(以下空手ほむ)「助太刀する!」

人シャル「え? え、ああ、ども……え? 誰?」

空手ほむ「詳しく語ると長くなるが、要約すると気が付けばこんな空間にいたのだ」

空手ほむ「そして争いの音が聞こえたので駆け寄った次第」

空手ほむ「ちなみにこちらは私の強敵<とも>達である」

空手さや「うすっ」

空手シャル「ちーっす」

人シャル「あれ? 私が居て……え?」

空手ほむ「此度の闘い、どうやらそなたにとって不本意と見た」

空手ほむ「それに先から話を聞いていれば……」

空手ほむ「自らの思い込みを振りかざし、相手の話を聞かぬ身勝手ぶり」

空手ほむ「協力して怪物を倒さねばならぬ時に、己が妄想に支配されるとは笑止千万!」

空手ほむ「さやか! 同じ顔の者が相手で辛かろうが……」

空手さや「問題ない。むしろ昂ぶっている」

空手さや「自分を相手に戦う……これ以上の鍛錬はなし!」

空手ほむ「その意気やよし!」

空手シャル「私は、ま、二人が戦うからねー。力添えでやんすよ」

人シャル「そ、そう……」

モヒカン頭のさやか(モヒさや)「ひゃっはー! じゃああたしはこっちの味方するぜー!」

魔さや「はあ!? あんた一体何なの!?」

モヒさや「あたしが誰かなんてどーでもいいだろーが!」

モヒさや「面白そうだから弱そうなテメェに協力すんだよ!」

魔さや「こ、この……!」

ホムリリィ【クルルルルルル】

オクタヴィア【コオオオオオオ】

魔女シャル【ギャス?】

ホムリリィ【クル、クルルルルル】

オクタヴィアA【コオオオオオ、コオオオオオオオオ!】

オクタヴィアB【オオオオオオ!】

オクタヴィアC【オオ、コオオオオオオオ!】

オクタヴィアD【コオオオオオオオオオオ!】

魔女シャル【ギィシャアアアアアアアアアアアア!】

魔女s【――――――!!】←声にならない叫び


356 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:11:26.96 UlO49LMz0 212/569



魔法さや「ま、魔女の大群!?」

モヒほむ「ひゃっはー!」

モヒシャル「汚物は消毒だー!!」

ウェディング服姿のほむら「きゃっ! ……こ、此処はどこ……?」

半透明なシャル『寂しい、寂しい、寂しい……』

セーラー服姿のシャル「こ、これは夢、悪い夢、悪い夢なのよ……!!」



さやか「……なんというか、あれだな」

シャル「……なんというか、あれね」

原ほむ「なんか、どんどんメンバー増えてない? それも加速度的に」

シャル「増えてるわねー、加速度的に」

さやか「つーかさ、黒い魔女は色彩的にほむらが魔女化した姿だとして」

さやか「あの青い怪物って多分あたしが魔女化した姿だよね? なんか多くね? 四体も居るんだけど」

シャル「あれじゃない? どの並行世界でも唆されるがままほいほい契約して、そっこーで魔女化してんじゃない?」

さやか「笑えないっす……割とマジで」

シャル「まぁ、ほむらが居なかったら魔法少女の真実なんて知り様がなかっただろうし、知ったところでどうにもならないしねー」

さやか「あたしって、ほんとラッキー」

原ほむ「……さて、と。現実逃避はこれぐらいにして」

原ほむ「これはどういう事かしら? 恐らく理由を知っているであろう――――私?」

妖ほむ「えー、このカオスっぷりは間違いなくアレですね」

妖ほむ「童話災害末期の様相です」

シャル「童話災害?」

妖ほむ「簡単に言うと妖精さんによって引き起こされた、諸々の非常識に対する呼称でして」

妖ほむ「災害クラスの大迷惑を被りつつも、童話みたいに誰一人犠牲者が出ない素敵な時間です」

さやか「素敵なのか? それ」

原ほむ「童話みたいに死者は出ないけど災害クラスの迷惑を被る、って言った方が正しいんじゃないかしら……」



357 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:12:51.59 UlO49LMz0 213/569



原ほむ「それで? 末期というからには、もうすぐこの茶番は終わるという事かしら?」

妖ほむ「終わりますねー……それも、皆さんが想像しているよりもあっさりと」

シャル「あっさり終わるならいいじゃない。グデグデよりかはマシよ」

妖ほむ「個人的にはグデグデの方がいいんですけどね……逃げる時間がある分」

――――ピシリッ

シャル「? なんか、音がしなかった?」

さやか「聞こえたね。ひび割れみたいな音だった」

原ほむ「私も聞いたけど、でも、なんの音かしら?」

――――ピシピシピシ

シャル「ほら、またよ。何処から鳴ってんのかしら」

さやか「上から聞こえなかった?」

原ほむ「上?」

原ほむ さや シャル「……………」

シャル「……私の目が可笑しいのかしら」

さやか「いやー、あたしにも見えてるよ。多分」

原ほむ「奇遇ね。私もよ」

原ほむ「ねぇ、私」

妖ほむ「はい」

原ほむ「……空に大きなひび割れが生じているように見えるのだけど、どういう事かしら?」

妖ほむ「困った時の妖精さーん」

妖精さん「はーい」

妖ほむ「空に大きなひび割れがありますが、どういう事でしょうか?」

妖精さん「てーいんおーばーでは?」

妖ほむ「定員?」


358 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:14:37.40 UlO49LMz0 214/569



妖精さん「このくうかん、はちにんようですゆえ」

妖ほむ「へー。八人までしか入らない空間なんですか」

妖ほむ「で、八人以上来たらどうなるのですか?」

妖精さん「こわれますが?」

妖ほむ「壊れるのですか?」

妖精さん「ばりーんとなりますなー」

妖ほむ「ばりーんと壊れるんですかー」

妖ほむ「じゃあ、あのひび割れは空間崩壊の予兆という訳ですね」

妖ほむ「……という事だそうです」

原ほむ「という事じゃないわよおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

さやか「空間崩壊って名前からしてヤバいじゃないか! 何そんなのほほんとしてんだよ!?」

妖ほむ「まぁ、妖精さんがいますから」

さやか「ああそうだな! 死にはしないな! 心休まるよこんちくしょう!」

シャル「つーか定員八人ならちゃんとセーブしてよ!? なんで八人以上空間に招いてんの!?」

妖精さん「ぼうそうは、ろまんですから」

シャル「浪漫は永遠に浪漫のまま胸に秘めてなさい!」

――――ビシ、ビシビシビシビシ!

さやか「――――あ。これあかん音だ。もう時間ない時の音だ」

シャル「あー、今回も駄目だったわ」

原ほむ「ちょ、急に達観してないで逃げなさいよ!? 何処に逃げればいいか分からないけど兎に角どっかに」

魔女シャル【ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!】

魔さや「喰らえっ!」

空手ほむ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

原ほむ「あなた達お願いだから暴れないで!? こんなボロボロ空間で暴れたら――――」

妖ほむ「手遅れみたいですね」

原ほむ「え」



――――バギャン!




359 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:15:31.36 UlO49LMz0 215/569




――――その音が聞えた瞬間、私達のいた空間の全てが一瞬で瓦解しました。

私達は時空の外側に放り出された訳ですが、まぁ、そこは妖精さんによる童話災害。
特に息苦しさもなく、眠るように意識が遠退きました。

そして――――



360 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:16:37.26 UlO49LMz0 216/569



目を覚ました時、私は自室の布団で寝ていました。

さやかさんとシャルロッテさんも、私の布団の中で一緒に寝ていました。

ほむら「……時間は……朝の六時……」

ほむら(……ま、今回の童話災害は軽い方でしたかね)

さやか「ん、んん……」

ほむら「あ、さやかさん。おはようございます」

さやか「……おはよう」

さやか「……一つ聞きたいんだけど……」

ほむら「夢みたいな現実です」

さやか「おーけー」

シャル「……」ムクリ

ほむら「おはようございます」

シャル「……おは」

シャル「……一つ聞いていいか?」

ほむら「今日から朝ご飯はホットケーキではなく、和食にしますね」

シャル「あいわかった」

ほむら「それでは皆さん起きましたし、朝食の準備と……あ、そうだ」

ほむら「そう言えば私の悩んでいた事をまだ話していませんでしたね」

さやか「あ? あー、そういやそうだったな」

シャル「なんか今更のような気がするのよね。もう解決しちゃったんでしょ?」

ほむら「そうですけど、ほら、こういうのって仲間に決意を聞いてもらうのがお約束じゃないですか」

ほむら「新章突入って事で、一つ聞いてくださいよー」

さやか「それ、自分で言うかねぇ……あたしは別にいいけど」

シャル「ま、聞くだけならタダだしね。私もいいわよ」

ほむら「それでは、言います――――」


361 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:18:27.23 UlO49LMz0 217/569



ほむら「インキュベーターの手は、それこそ世界を覆うほど、この世界の隅々まで伸びている事でしょう」


ほむら「そして遥か昔から、人類に干渉してきた事も分かっています」


ほむら「そんな彼等を地球から追放したらどうなるか? もしかしたら、とても酷い事が起きるのでは?」


ほむら「私は……その責任を負う事が、怖くて堪りませんでした。見知らぬ誰かに責められる事に怯えていました」


ほむら「ですが思い出しました」


ほむら「私は今まで、そしてこれからも! のんべんだらり! 自由気儘! 明るく楽しく生きていたい!」


ほむら「なのに傍でめそめそ泣いている人が居たら、心から笑えないじゃないですか!」


ほむら「誰かの迷惑なんてどーでもいい! 私は! 私の幸せのためだけに生きている!」


ほむら「世界が滅びたってかまいやしません! こんなつまらない世界、むしろぶっ壊してやります!」


ほむら「だから私は!」


ほむら「これから『本気』で地球を――――明るく楽しくしてやる!」


ほむら「全ての魔女を救い!」


ほむら「インキュベーターを、地球から追い出してやります!!」


362 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:19:52.49 UlO49LMz0 218/569



ほむら「――――ふぅ。すっきりしました」

ほむら「やっぱり自分の中で完結するより、誰かに聞かせる方が気分がいいです」

さやか「そりゃ何より」

シャル「少しはアンタの役に立てたのなら、ま、良かったわ」

ほむら「……別に非難されたい訳じゃないですけど、何か言わないんですか?」

ほむら「今言った事、正直邪悪そのものじゃないですか」

さやか「何を今更。大体何時ものアンタだったじゃん」

さやか「ぶっちゃけアンタ、普段から正義っつーよりも悪だし」

シャル「そーよねぇ。何時も自分勝手。何時も他人の迷惑なんて考えない。何時も自分の楽しさを優先」

シャル「だけど――――アンタは間違った事をしていない」

さやか「魔女を助けるのが間違っている訳ない。人をエネルギーとしか見てない奴を追い払うのが、いけない訳ないよ」

さやか「だから、迷うなっ!」

シャル「アンタはやりたいようにやりなさい」

シャル「そうすればきっと、”巻き込まれた奴”だって幸せになれるわよ」

ほむら「――――はいっ!」

ほむら「みんな、みんな幸せにしてみせます!」


ほむら「覚悟してくださいね! インキュベーター!」


―――――

―――




363 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:21:01.42 UlO49LMz0 219/569



――何時か何処かの並行世界――


「はっ!?」


目を覚ました時、私はベッドの中に居た。


辺りを見渡せば、目に入るのは見慣れた機器の数々。

そして真っ白な壁。

此処は――――私が入院している病院で、私の『時間』が始まる場所だ。


「ゆ、め?」


今でもハッキリと思い出せる、妖精と……無数の私による、滅茶苦茶な記憶。

あの光景は現実だったのか、それとも夢だったのか……終盤のしっちゃかめっちゃかぶりを考えると、後者のような気がしてくる。


いや、夢でも構わない。


私は大切な事を思い出した。


そうだ。まどかなんてどうでもいい。


全て私のため。


全て私の幸せのため。



――――みんなの笑顔が好きだから、その笑顔を見るために、みんなを幸せにしてやる――――


364 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:22:24.16 UlO49LMz0 220/569



とってもシンプルな目的。これ以上ない、私の本心。


だから、私はもう迷わない。


「……そう言えば、全員が幸せになれたらインキュベーターの面目丸潰れよね」


まどかを見事契約させずワルプルギスを倒したら、アイツはどんな反応をするのだろう。

誰一人魔女にならなかったら、アイツはどう思うのだろう。

負け惜しみを言うのか、それとも感情がないから何も思わないのか。

前者を想像したら……胸が急に弾みだした。これは一体?


……ああ、そうだ。この気持ちは、楽しい、楽しいだ。


こんなにも楽しい気持ちでループを始めるのは……始めて時間を戻った時以来かな。

そんなにも長い間、私は楽しさを忘れていたんだ。


楽しくない中で、私は一体どれだけ力を振り絞れたのだろう?


どれだけ本気になれたのだろう?


……忘れてしまう程度にしか、頑張らなかったみたい。これじゃ、願いが叶わなくても仕方ない。


さ、暗い話はここまで。


ここから先はハッピーエンドになるためのお話。


例え何度絶望が来ようと、私はそんな絶望を全て台無しに出来る魔法を持っている。何も恐れる必要はない


さあ。




「今度こそ、全員幸せにしてやる! 待ってなさいよ、みんな!」



365 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/02 18:25:38.83 UlO49LMz0 221/569



「……あら? 服になんかゴミが……?」


「これ……確か妖精を握っていたら、いつの間にか持っていた枯草よね……」


「あ……風で枯草が……」


「あらら……コップの水に入っちゃったわね……」


「っ!?」


「み、水に入った枯草が急に膨れ上がって……!?」


「一体これは――――」








「ぼく、さらわれたです?」






379 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 12:59:29.10 vlUOJUyW0 222/569



えぴそーど とー 【上条さんの、かいぞうけいかく ぜんぺん】


380 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:04:22.89 vlUOJUyW0 223/569



――――あたしとアイツが知り合って、さて、一体どれだけの月日が流れたんだろう。


自分でも思い出せないが、幼稚園の頃から遊んでいたような気がするので彼是十年の付き合いだろうか。

大人からしたら大した事無いかもだけど、中学生のあたし達からすれば、それはそれは長い年月。

あたしが、アイツの事ならなんでも知っていると思いあがらせるには十分な月日。



だけどあたしは今日、初めて知る。



今まで知らずにいた事の幸福を。


自分がどれだけ無力な存在なのかを。




そして――――アイツの絶望を。


381 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:09:04.90 vlUOJUyW0 224/569



――見滝原総合病院・玄関前――


さやか「今日も元気なさやかちゃんですよ~っと」

さやか「ほむらとシャルちゃんは今日学校をお休み」

さやか「まどかとは一方的にギクシャクされてるし、仁美は今日もお稽古」

さやか「今日は久々の一人ぼっち」

さやか「という訳で! 普段は多忙なさやかちゃんが、今日は恭介のお見舞いにきてやったぜ!」

さやか「平日でも学校が終わったら来てくれる、あたしみたいな幼馴染をもって恭介は幸せ者だねぇ♪」

さやか(……思えば、ほむらと出会ってからお見舞いに来てないんだよな……)

さやか(出会った初日は蛇の怪物と魔法少女に遭遇し)

さやか(翌日は魔女の結界探しをしていたら地底探検になって)

さやか(その翌日はほむらの家にお泊り&異空間で悩み相談)

さやか(その次の日は悩み相談の疲れもあったので、ほむらの家でまったりお茶会)

さやか(……体験してきた身なのに、自分でも何を言ってるのか分からんぐらいのカオスだなぁ)

さやか(たった五日間の出来事なのに、一生分の面白体験をしたような気がする)

さやか(……今日は、話したい事がたくさんあるな……)


382 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:09:43.66 vlUOJUyW0 225/569




――好きな男の事は相談しなくていいのかなぁって――



383 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:15:53.69 vlUOJUyW0 226/569



さやか「!」ボッ

さやか(う、うわーっ! うわわわわーっ! なんか急に顔が熱くなってきたーっ!?)

さやか(いや、そもそもなんで顔が熱くなってんだよあたし!? そして何故不意にシャルちゃんの言葉を思い出した?!)

さやか(別に恭介は幼馴染で、好きな男って訳じゃ……)

さやか(訳じゃ……)

さやか「……………」

さやか(つーかあたし、なんであの時好きな男がいるって言っちゃったんだ?)

さやか(……それじゃまるで、本当に恭介の事……)

さやか(……もしかして、あたし、恭介の事好きなのか?)

さやか(恭介の事が好きか嫌いかで言えば、勿論好きだ。幼馴染だし、仲は良いんだから、当たり前の事)

さやか(恥ずべき事じゃない。むしろ胸を張っていえる事実の筈)

さやか(だけど、それを誰かに言うのは……考えるだけでも凄く恥ずかしい)

さやか(そりゃ、まどかやほむら、シャルちゃんに面と向かって好きって言うのも恥ずかしいけど……)

さやか(恭介の事を好きって言うのは、それとは全然違う恥ずかしさだな……)

さやか(そういや昨日ほむらの家で読んだ漫画に書いてあったな。恋ってのは、他とは違う好きだって)

さやか(……あたしが恭介に対し感じている”好き”は、ほむら達とは違う?)

さやか(……違う気がする)

さやか(って、事は……)



さやか「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」



通行人「!?」

さやか「あ、すいません。ちょっと青春してただけっす。はい」


384 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:18:46.22 vlUOJUyW0 227/569



さやか(ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!)

さやか(もももももももももしかしなくてもあたし、恭介の事好きなのか!? 好きだったのか!? あい・らぶ・ゆーっ!?)

さやか(いやいやいや、そう結論付けるのはまだ早い! クールになれ!)

さやか(そうだ! 恋人同士になった時の事を想像してみよう! そしてそれで自分がどう思うか冷静に判断しよう!)

さやか(恋人同士でする事……)

さやか(キス、とか?)



さやか「うおおああああああああああああああああああああああああああ!!!」



通行人B「!?」

さやか「あ、ごめんなさい。リビドーを抑えきれず、はい」

さやか(やばばばばはば゛ばばばばばばばば゛あばばばばばばばばばばはば゛ばばば゛ばばば゛ばはば゛ばはば゛)

さやか(イイ! 凄くイイ!)

さやか(言葉には出来ない高揚感! 幸福感! 絶頂感!)

さやか(ただの妄想なのに、かつてないほど心がヒートアップしている!)

さやか(間違いない! 確信した!)

さやか(あたし……恭介が好きだ!!)

さやか(大好きだったんだ!!)

さやか(…………なんだろ。そしたら急にアイツがあたしの事どう思ってんのか気になってきた)

さやか(幼馴染? クラスメート?)

さやか(……可愛い女の子って、思ってくれたら嬉しいかな……)

さやか「――――!」ブンブンッ

さやか「こ、こんな事考えてる場合じゃないな! うん、今頃恭介が寂しがってるだろうし!」

さやか「つーか玄関前でにやにやしてたら、ただの不審人物じゃん!」

さやか「さっさと行こう!」

さやか(べ、別に、恭介の顔が一刻も早く見たいって訳じゃないんだからねっ!)


……………

………




385 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:31:25.69 vlUOJUyW0 228/569



――見滝原総合病院・入院患者棟――


さやか「さて、面会の許可も出たし……えーっと、恭介の病室は……」

さやか「っと、此処だ此処」

さやか(……そういや看護師さんに、恭介の事元気付けてほしいって頼まれたなぁ)

さやか(確かに、恭介が怪我してもう大分経つ。気が滅入るのも当然だよね)

さやか(いや、でもあの看護師さんの表情は、そんな軽い話っぽくなかったような……)

さやか「まぁ、考えてもよく分からないし、何時も通りに接するとしますかね」

さやか「……むしろ何時も通りに接する事が出来るか心配だったり」

さやか(う……なんか急に会うのが恥ずかしく思えて……)

さやか(か、髪とか変じゃないよね!? 表情強張ってないよね!?)

さやか(お弁当のカスが歯についていたり、服装がたらしなくなったりしてないよね!?)

さやか(ふおおおおおおっ! な、なんか急にあらゆる事が気になって……)

さやか(会えない! 会いたいのに会いたくない!)

さやか(こ、これが恋の悩みだと言うのかあああああああああああっ!)頭抱えて悶絶中



通りすがり看護師A「青春、かしらね。微笑ましいわね」

通りすがり看護師B「青春、しているわね。微笑ましいわ」

通りすがり看護師C「青春、しているのか。妬ましい」



さやか「……この恥ずかしさは、恋の恥ずかしさじゃないな。うん」


386 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:40:19.84 vlUOJUyW0 229/569



さやか「こほん……ま、まぁ、此処で立ち止まる訳にもいかないし」

さやか「の、ノックしてもしも~し……」コンコン

さやか「き、今日も元気なさやかちゃんがお見舞いにきたぞーっ!♪」バンッ

さやか(ヤバ……強くドアを開けすぎた……)

恭介「……ああ、さやかか」

さやか(よ、よかった……恭介は驚いた様子はないね……ほっ……)

さやか(えーっと、何時も通り。何時も通りのあたしを心掛けて……)

さやか「さ、さやかか、とは失礼だなー。お見舞いにきてやった者に対し無礼じゃぞー」

さやか「おや? それとも久しぶりのお見舞いで、今まで寂しかったのかい?」

恭介「……………」

さやか「さて、そんな寂しい恭介くんにお土産だぞ。今日のお見舞いCDはね……これ!」

恭介「……『亜麻色の髪の乙女』」

さやか「いやぁ、恭介へのCDを買っているうちに、あたしも大分クラシックとかに詳しくなってねー」

さやか「あたしってこんなのだからクラシックとか似合わないっしょ? だからみんなからけっこー意外に思われて」

さやか「そんで尊敬までされちゃったりでー」

さやか「いやぁ、恭介のお陰であたしの学生生活はバラ色に」

恭介「さやかは、さ」

さやか「ん?」


387 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:43:49.40 vlUOJUyW0 230/569



恭介「僕をいじめているのかい?」




さやか「……え?」

さやか(いじめているって……え?)

さやか(どういう事? あたし、何かしちゃった……? いや、でもCDを渡そうとしただけだし……)

さやか(お見舞いに来てやったぞって言い方が、ちょっと無神経過ぎた? 寂しかったかいっておちょくったのが不味かった?)

さやか(でもこれぐらい、何時もの事で……何時もなら、平気で……)

さやか「え……ど、どういう、事……?」

恭介「……さやかは、なんでCDを僕に渡すんだい? なんで、僕に音楽を聞かせるんだい?」

さやか「そ、それ、は……恭介が、音楽、好きだから……」

恭介「もう聞きたくなんかないんだよ!」

さやか「ひっ!?」

恭介「自分で弾けもしない曲なんて、聞きたくない!」

恭介「こんな手じゃ、もうバイオリンは引けないんだ!」

さやか「あ、諦めないでよ!」

さやか「ちゃんと治療を受けて、リハビリを続ければ……」

恭介「……諦めろって言われたんだ……」

さやか「あ、諦めろ……?」

恭介「病院の先生たちにだよ」

恭介「僕の手は、現代の医学じゃ治せないって」

恭介「だったらこんな手――――いらないじゃないかっ!」ガシャンッ!

さやか(し、CDプレイヤーに手を叩きつけて……!? ち、血が……!)

さやか「止めて! お願い、そんな事しないで!」

恭介「もう放っておいてくれよ! もうなんの希望も無いんだ!」ドンッ

さやか「きゃっ!?(つ、突き飛ばされた……)」

恭介「こんな手なんか、こんな手なんか!」ガシャン! ガシャン!

さやか「あ、ああ……手が、血塗れに……」

さやか「お願い、お願いだから……止めてぇ……!」

恭介「さやかには分からないだろうね! 僕の苦しみは!」

恭介「全てを失った絶望が!」

恭介「魔法や奇跡がない限り、僕の手は――――」



「さやかさん! どうかしましたか!?」



さやか「え……(この声って――――)」


388 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:50:13.38 vlUOJUyW0 231/569



……遡る事、数分前の見滝原病院……


ほむら「はぁ……ようやく終わりました」

シャル「お疲れー」

ほむら「すみません。待たせてしまいましたね……ただの付き添いでしたのに、こんなに待たせてしまって」

シャル「朝から夕方まで検査だもんねー。ま、する事なんて無いからいいんだけど」

シャル「つーか、学校休んでまで何をそんなに調べてんの?」

ほむら「……本当は土日のうちに行かなければならない検査だったですが、ついサボってしまい」

ほむら「命に係わるから、明日、つまり今日は学校休んででも絶対に来いって言われてしまったのです」

シャル「あー、そういや昨日の夜、電話があったわね。あれ、病院からだったのね」

ほむら「はい……そんな訳で今日、学校を休んでこの検査を受ける事になりました」

ほむら「別に一回ぐらいサボってもまず死なないのに……」

シャル「いや、流石に同意出来ないから。自業自得でしょ」

ほむら「ええ、まぁ……私が悪いとは思いますけど」

ほむら「でもこんなに束縛されるのはどうかと思います」

ほむら「検査自体は午前中に終わり、午後は結果が出るのを待っていただけなんですよ?」

ほむら「別に郵送で送ってくれてもいいのに……なんでわざわざ病院で結果を聞かないといけないのやら……」

シャル「万一異常があったら緊急入院させるためじゃない? よー知らんけど」

シャル「それで? もう家に帰れるの?」

ほむら「いえ、この後薬も貰わないといけないので、処方箋を受けとりに行かないと」

シャル「大変ねぇ」

ほむら「大変ですよ、ほんとに。サボりたくなる気持ちも分かるでしょう?」

シャル「いや、死にたくないからその気持ちは分からん」

ほむら「むぅー」


389 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:52:39.19 vlUOJUyW0 232/569



ほむら「……ん?」

シャル「? どうした?」

ほむら「いえ……今、さやかさんが居たような……」

シャル「さやか? 何処よ」

ほむら「あっ、居ました! ほら、あそこです!」

シャル「どれ……ああ、ほんとね。ありゃ、さやかだわ」

シャル「しかしなんで居るのかしら? 診察……じゃないわよね。入院患者の病棟に入っていったし」

ほむら「という事は、誰かのお見舞いでしょうね」

シャル「……ちょいと見に行くとしますかね」

ほむら「え? 見に行くって……誰のお見舞いをしているのか確かめる、という事ですか?」

ほむら「それはちょっと、流石に無神経過ぎません?」

シャル「別に、病室に顔出すって訳じゃないわよ」

シャル「入って行った病室を確認して、冷やかすだけ」

ほむら「冷やかす?」

シャル「花の中学生が、放課後病院にお見舞いなんてよっぽどよ」

シャル「入院相手は肉親か……そうじゃなかったら、好きな男に決まってるわ」

シャル「うしししし……鉢合わせたら、絶対アイツ顔を赤くするわよぉ」

ほむら「……無神経じゃなくて、悪趣味の方でしたか」

シャル「そりゃあ、魔女だもん。悪趣味に決まってるでしょ」

シャル「ほら、置いてくわよー」

ほむら「ああ、もう……私は人のプライベートを暴くような悪ふざけは好かないんですけどねぇ」

ほむら「かと言ってシャルロッテさんも無視出来ませんか……」

ほむら「待ってくださいよー」


……………

………




390 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 13:55:34.59 vlUOJUyW0 233/569



シャル「……見失ったわ」

ほむら「入院病棟、結構作りが複雑ですからね」

ほむら「まぁ、見失って良かったじゃないですか。万一さやかさんにバレたら、軽蔑されたと思いますよ?」

シャル「そんときゃ、ほむらの所為にするから大丈夫」

ほむら「信じてもらえると?」

シャル「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

シャル「ま、見失ったもんはしょうがない。諦めて帰るとするかね」

ほむら「そうすべきです……ん?」

シャル「どしたの? 今度は巴さんあたりでも見つけたのかしら?」

ほむら「いえ、そうではなくて……何か、物音が聞えませんでしたか?」

シャル「物音?」

――――カシャン

ほむら「あ、ほら。また聞こえてきましたよ!」

シャル「確かに……何か、割れるような音かしら」

シャル「病院で割れるような音……ねぇ……」

シャル「これはちょっと、無視出来ないか」

ほむら「ですね。様子を見に行くとしましょう」

ほむら「音が聞えたのはあっちですね……」

――――モウホウッテオイテクレヨ!
――――キャッ!

シャル「! ほむら!」

ほむら「ええ、今のはほぼ間違いなく揉めている時の声ですね」

ほむら(相手は男性と女性……それも、男性の声の方が荒々しく聞こえました)

ほむら(女性の声は悲鳴っぽかったですし……乱暴を受けているとしたら……)

ほむら(……これは、あまり悠長にはしていられませんね……)

ほむら「急ぎましょう! 声がしているのは……………」


??「こんな手なんか、こんな手なんか!」ガシャン! ガシャン!


ほむら「――――この部屋ですね」


391 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:01:26.71 vlUOJUyW0 234/569



ほむら(患者の名前は……上条恭介。男性ですね)

??「お願い、お願いだから……止めてぇ……!」

ほむら(そして見舞いに来ている人は女性――――)

ほむら「って、この声……」

シャル「さやか!?」

ほむら「ああもう! 中がどうなっているのか分かりませんけど……」

ほむら「さやかさんが居ると分かった以上のんびりはしていられません! 突入しますよ!」

シャル「当然!」

ほむら「さやかさん! どうかしましたか!?」バンッ!

さやか「えっ……」

さやか「ほ、ほむら!? それにシャルちゃん……どうして此処に……!?」

ほむら「ちょっと騒がしかったので、失礼ながら無断で部屋に入った次第です」

シャル「私はその付き添いね」

ほむら「それより……」

同年代ぐらいの男子(恭介)「う……な、なんだい……」

ほむら(ふむ。この人が上条さんですか)

ほむら(……この目付き、態度、部屋の荒れ方……ふむ)

ほむら(何があったかは大体見当が付きました。なら、聞くべき事は一つ)

ほむら「失礼ながらあなた……上条さん、ですよね?」

恭介「あ、ああ……なんだい?」

ほむら「これだけ聞かせてもらえれば一先ず部屋から出ますので、お答えください」

ほむら「まさかとは思いますけど、あなた……さやかさんに暴力とか振るってませんよね?」

恭介「っ! ど……どういう意味だい?」

ほむら「どういうも何も、そのままの意味です」

ほむら「先程悲鳴のような声が聞えたので、もしやと思って尋ねただけです」

ほむら「それで、どうなんですか? 暴力なんて振るってませんよね?」

恭介「そ、れは……」

さやか「きょ、恭介は暴力なんて振るってないよ!」

恭介「!? さやか……?」

ほむら(……あー……さやかさん。その言い方はハッキリと真実を物語ってますよ。上条さんも戸惑っていますし)

ほむら(まぁ、顔に殴られたような跡は見られず、着衣に大きな乱れもなし。そして現在上条さんの腕にしがみつくさやかさん)

ほむら(大方突き飛ばされた、或いは振り払われたといったところでしょうか)


392 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:08:19.26 vlUOJUyW0 235/569



ほむら「……分かりました。とりあえず、今はそういう話で良しとしましょう」

シャル「ちょ、ほむら……良いの? だってあれ……」

ほむら「『万一』さやかさんが被害者だったとして、本人が訴えない以上こちらに手だしする権限はありませんよ」

ほむら「手だししないであげる義理もありませんが、ま、それは追々」

ほむら「大方の事情は把握しましたし、あの態度からして『ちゃんとした』お答えをいただけるとも思えません」

シャル「で、でも……」

ほむら「それに今はそんな問答をするより、お医者様を呼ぶべきですよ」

ほむら「出血が酷いようですからね。傷口から細菌が入らないとも限りません」

ほむら「急いで治療しないと、取り返しのつかない事態になりかねな――――」

さやか「ほむら!」

ほむら「っ……ちょっと、さやかさん? あの、なんで私の腕を掴んで」

さやか「ちょっとこっちにきて!」

ほむら「え? あの、さやかさ――――え、どういう」

さやか「恭介!」

恭介「っ……な、なんだい……?」


さやか「恭介の手は絶対に治すから、だから、諦めないで!」


恭介「え……」

さやか「さ、ほむら! こっちに!」

ほむら「いや、こっちって病室の外で、あの、せめてナースコールを」

ほむら「え、えええええええええええ……!?」

シャル「……さやかにほむらが拉致られた……」

恭介「……」

シャル「……あ、あー、その、なんだ……」

シャル「と、とりあえず五分待って」

シャル「ちょっとさやかーっ!?」

――――バタン

恭介「……一体何だったんだ?」

恭介「僕の手を治す……諦めるな?」

恭介「現代の医学じゃ無理なんだぞ……精神論でどうにかなったら苦労は……」

恭介「……ん?」

恭介「なんだ? これ……?」


393 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:14:38.26 vlUOJUyW0 236/569



――上条恭介・病室前廊下――


シャル「もう、さやか! 何勝手にほむらを連れ去ってんのよ!」

さやか「ごめん……でも、あそこで話す事じゃないと思って……」

さやか「あの、それで、ほむら……」

ほむら「いえ、わざわざ話さなくとも大丈夫です。先の言葉で推測が確信に変わりました」

ほむら「上条さんは、事故か病気で手が動かなくなった」

ほむら「そして、医者に現代の医学では治せないとかなんとか言われ」

ほむら「その事に深く絶望し荒れていた、というところなんでしょう?」

さやか「う、うん……よく分かったね」

ほむら「私だって元々は心臓病で入院していた身です。上条さんと似たような境遇の方は相応に見てきたつもりです」

ほむら「上条さんが特別荒れているとも思いませんね。あれぐらいなら普通ですよ」

シャル「でも女に手を上げるのはどうなのかしらね」

さやか「だ、だから恭介はそんな事してなくて……」

シャル「いや、アンタの態度は振るわれたって言ってるも同然だから」

シャル「別に警察に突き出すって訳じゃないんだから、認めちゃいなさいよ」

さやか「だから……」

ほむら「まぁまぁ。今はそんな話をしている場合ではありません」

ほむら「彼、そのままにしていたら最悪自殺しますよ」


394 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:24:16.25 vlUOJUyW0 237/569



さやか「じっ……!? 嘘、そんなの!?」

ほむら「先程言った通り、病院暮らしが長いと上条さんのような境遇の方とは少なからず付き合いがあったりするもので」

ほむら「妖精さんが活動出来ない、この辛く厳しい現実では、それなりの頻度で”そういう”方が出てしまうのです」

ほむら「人間って、思っている以上にあっさりと自分の命を捨てちゃうものですよ?」

さやか「そんな……」

ほむら「あくまで最悪ですが、起こり得る最悪ですからね」

ほむら「さやかさんの知り合いが死ぬのは目覚めが悪くなりそうですし、何かしらの手を打たねばならないでしょう」

シャル「何かしらの手? って、事は……」

さやか「も、もしかして!?」

ほむら「妖精さんに上条さんの手を治してほしい」

ほむら「大方、そんな感じの事をさやかさんは言おうとしていたのではありませんか?」

ほむら「さやかさんからのお願いとなれば断れませんね」

さやか「ほむら……!」

ほむら「今は諸事情で人員が足りませんが、まぁ、一晩あれば手ぐらいは治せるでしょう」

ほむら「ただし、治療は上条さんにちゃんと説明してからですよ」

さやか「え? きょ、恭介に?」

ほむら「治療とはいえ、面白さ重視の妖精さんが普通に治してくれるとも思えません」

ほむら「私も一応監修しますが、妖精さんの治療は素早いですし、些細な事で方向がずれるなんて何時もの事です」

ほむら「正直、手を治してくれと伝えたのに超合金ロボットが出来ても不思議はありません」

ほむら「いくら人助けとはいえ、これを本人の了承なしにやってしまう訳にもいきません」

ほむら「上条さんにはそのリスクを把握し、覚悟を持って承諾してもらう」

ほむら「医者の真似事をやる以上、これが出来なければ私は力を貸せませんよ?」


395 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:25:35.32 vlUOJUyW0 238/569



さやか「そ、それでいい! それでいい!」

さやか「ありがとう……ありがとう……!!」

ほむら「お礼を言うのは上条さんを説得してからにしてください」

ほむら「……ああ、そうだ。私は今から薬を飲まないといけないので、少し席を外します」

ほむら「今のうちに説得するといいですよ?」

さやか「うん、そうする」

さやか「……本当に、ありがとう」

ほむら「ですから、お礼は後でいいと」ガサゴソ

ほむら「……あれ?」

シャル「? どうした?」

ほむら「いや、あの……え? あれ?」ガサゴソガサゴソ

ほむら「ちょ、なんでこんな時に!?」ゴソゴソゴソゴソ

ほむら「……ヤバいです……」

シャル「何が?」




ほむら「妖精さんを詰めておいた薬のカプセルを、紛失しました……」




396 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:28:19.29 vlUOJUyW0 239/569



さやか「妖精さんを詰めたカプセル?」

シャル「随分とけったいなものを持ってるわね、アンタ」

さや シャル「……………」

さや シャル「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

ほむら「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいマジでヤバいです……」

ほむら「ど、どど、どうしましょう……?」

シャル「ど、どうするって、どうしたらいいのよ!?」

さやか「お、落ち着こう!」

さやか「その、カプセルに妖精さんを詰めただけだろ!? 妖精さんは電波に弱いんだから、その辺に落としただけなら……」

ほむら「万一あのカプセルを誰かが飲んでしまうような事があれば、以前私が飲んだ時と同様の効果が表れます」

ほむら「カプセル一つで100f相当の事態が起きるでしょう」

ほむら「最悪、見滝原が地図から愉快に消え去る事に……」

シャル「都市が愉快に消え去るってどんな状況よ!?」

さやか「やっぱり駄目だこりゃ! えーらいこっちゃえーらいこっちゃ!」

白衣姿の老人「君達! 何を騒いでいるんだ!」

三人「ビクッ!?」

ほむら「す、すみませ……あ、先生……?」

医師「む? 君は、暁美くんではないか。近くにいるのは友人……かね?」

シャル「あ、その……は、はい。と、友達、です」

さやか「こ、こ、コイツは、よく、あの……」

医師「いや、それ以上は結構。今は深く話を聞いている場合ではない」

医師「君達、この部屋から何か物音を聞かなかったかね?」

医師「何やら物が壊れるような音がしたと、他の患者から知らせが入ったのだが」

さやか「物音……! そ、そうだ!」


397 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:30:15.94 vlUOJUyW0 240/569



さやか「先生! 恭介……この部屋の患者が暴れて、その、手に怪我を……」

医師「暴れた……そうか。危惧していた結果になってしまったか……」

医師「失礼する」

ほむら(先生、上条さんの病室に入っていきましたね……)

シャル「ほむら、今の人って知り合い?」

ほむら「ええ。私の心臓手術をしてくれた先生です」

ほむら「上条さんの手術も担当していましたか……」

ほむら「先生の技術で無理だったとなれば、やはり現代医学では治せない怪我なんでしょうね」

さやか「そ、それで、これからどうするんだ?」

シャル「自殺しそうな奴の説得から済ませとく?」

ほむら「うーん……上条さんは先生がしばらく見てくれると思いますし、私達は先に妖精さんカプセルの捜索を――――」

医師「あ、暁美君!」

ほむら「ひゃあっ?!」

ほむら「せ、先生!? 驚かさないでくださいよ! 自分で治した心臓を止める気ですか!」

医師「それはすまない。だが、一刻を争う時だ」

ほむら「一刻を争う?」




医師「上条くんが病室から失踪している。彼が病室から出た瞬間を見ていないか?」




398 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:34:21.08 vlUOJUyW0 241/569



ほむ さや シャル「!?」

医師「窓が開いていたのでもしやと思い下を覗いたが、幸い……ああ、幸い彼の姿はなかった」

医師「だが、だとすると彼がこの部屋から出るには、君達が陣取っていたこの扉から出るしかない」

医師「どうなんだ? 出た瞬間を見ていないか?」

ほむら「……いえ、見ていません」

医師「何? しかし暴れたところは……」

ほむら「確かに私達はこの病室の患者と会いました」

ほむら「ですが、外に出る瞬間は見ていません。私達があの病室から出た時、彼はベッドで寝ていました」

医師「……そうか。分かった」

医師「だとすると、一体どうやって……いや、それは見つけてからだな」

医師「とりあえず、彼を見つけたらすぐに教えてほしい」

医師「私は今から彼を探しに行く!」

シャル「……走って行ったわね」

ほむら「患者が行方不明なんです。必死にもなりますよ」

さやか「そ、それよりどういう事なの?!」

さやか「恭介は、恭介は何処に……?!」

ほむら「……」

シャル(ほむらの奴、病室に入っていった……?)

さやか「どうしたの? ほむら」

ほむら「……中身は空っぽ、だけど水滴塗れのコップ」

さやか「え?」

ほむら「荒々しく布団がめくれ、窓も全開……随分とはっちゃけたものですねぇ……」

ほむら「ま、100f相当の事態でこの程度の荒れ方ならまだマシですかね」

さやか「一体どういう事?」

シャル「……まさか」

ほむら「そのまさかですよ。自殺するよりかはマシだとは思いますが……」

ほむら「……仕方ありません。今回は私のミスが原因ですからね」

ほむら「ちょっと本腰を入れて事態の収拾に乗り出すとしましょう」


……………

………




399 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:37:33.05 vlUOJUyW0 242/569



――見滝原、その辺の路地裏――


さやか「……今は、午後六時丁度か」

さやか「恭介を探すって名目で夜の外出が認められたけど、それでもあたしは十時までには家に帰らないといけない」

さやか「それまでに、恭介を見つけられるかな……」

シャル「どうかな……目撃証言も特にないみたいだし」

ほむら「正直なところ、難しいと思います」

ほむら「私の推測が正しければ、上条さんは私が落としてしまった妖精さん入りカプセルを何故か服用」

ほむら「その結果100f相当の事態に直面してしまった」

ほむら「その事態によって外に連れ去られたのか、或いは自力で外に出たのか……」

ほむら「目的や理由は分かりませんが、街に出てしまったものと思われます」

ほむら「……問題は、何処まで行ってしまったか、です」

ほむら「『探し物アンテナ』で方角と距離は確かめましたが、あれは大き過ぎて家から動かせませんし、
    上条さんが動き回っていたらどうにもなりません」

ほむら「事実、アンテナが示した場所に私たちは今居る訳ですが、彼の姿は何処にもありません」

ほむら「さて、一体何処に行ってしまったのか……」

シャル「見滝原を動き回っているだけならまだマシなんだけどね。風見野とかに行かれると厄介だわ」

シャル「この町で巴さんとか鹿目さんと遭遇する分には、まだいいけど……」

シャル「万一風見野の魔法少女と鉢合わせて、交戦って事態になったら色々と面倒よ」

ほむら「確かに。見滝原からきた何者かに魔法少女が”襲われた”という風評が立つのは」

ほむら「私の目的的にも、あまり好ましくないですねぇ……面倒な事案は抱えたくないものです」

さやか「恭介はそんな事しない、って言いたいけど……」

さやか「何が起きてるか分からない以上、警戒しないと駄目か……」


400 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:42:18.06 vlUOJUyW0 243/569



さやか「つーかさ、恭介をここに呼び寄せる道具とかないの?」

ほむら「作ってもらう事は可能でしょう」

ほむら「ですが今、私の知り合いである妖精さんの殆どには、ある場所での作業に従事してもらっています」

ほむら「お菓子をあげれば増えますけど、そちらもモチベ維持のため、作業中の妖精さんに分配していまして」

ほむら「こちらに残っている数少ない妖精さんも、多くはカプセルや紙縒りで休眠状態」

ほむら「それらも”万一”を想定し温存しているのが現状でして……」

ほむら「残念ながら現在、新たな道具を作ってくれる人員はおりません」

ほむら「手持ちの妖精さんアイテムでどうにかする以外にないですね」

シャル「随分とカツカツねぇ……その作業ってやっぱりアレ? アンタが前言ってた策ってやつ?」

ほむら「ええ。詳細は……ま、秘密は何処から漏れるか分かりませんので、ここでは言えません」

ほむら「そうですねぇ。話せるのは、総勢五十万人の妖精さんを集結させても、完成に一月を要する大作という事ぐらいでしょうかね」

シャル「ごじゅ……!?」

さやか「い、一体どんなものを作って……」

ほむら「まぁ、実際には九割九分九厘の妖精さんが指示を忘れたり、脇道に逸れた作業をしたりで、実働五千人未満ですけどね」

さや シャル「ずこーっ!?」

さやか「い、いや、十分凄いけど……うん」

シャル「百人ぐらい引っこ抜いても平気じゃない? それ?」

ほむら「なんか、みんなで作業してみたーいとか言っていたので……現場の要望には出来るだけ応える方向です」

ほむら「それに魔法少女による魔女討伐は待ったなしです。少しでも早くその秘策を完成させねばなりませんので、
    たった一名でも人員は減らしたくないんですよ」

さやか「いや、でもさぁ……」


401 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:44:43.33 vlUOJUyW0 244/569



ほむら「それに、無策という訳ではありませんよ?」

ほむら「戦力が足りないのなら足せばいいのです」

ほむら「一応コネはありますし、言い包めるのも簡単でしょうからね」

ほむら「自称正義の味方ほど、利用しやすいものもありません」

シャル「自称正義の味方……って、アンタまさか!?」

ほむら「噂をすればなんとやら、ですね」



ほむら「こんばんは――――鹿目さん、巴先輩」



まどか「ほむらちゃん……」

マミ「……ようやく、名前を憶えてくれたようね」

さやか(まどかに、巴先輩……二人とも、私服か……魔法少女じゃないなら少しは安心、かな?)

ほむら「あ、巴先輩は以降タヌキ先輩と呼びますので」

マミ「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

まどか「ほむらちゃん!?」

シャル「いきなりの関係悪化である」

さやか「え? なんでそー呼ぶの?」

ほむら「昔はタヌキの事をマミと呼んでいたからですよ」

さやか「へー」

さやか「それで、タヌキ先輩とまどかを此処に呼んでどうすんの?」

マミ「ごっぱあっ!?」

まどか「さやかちゃんまで?!」


402 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:49:26.18 vlUOJUyW0 245/569



ほむら「無論協力してもらう腹積もりです」

マミ「げほっ、げほっ……きょ、協力……?」

マミ「ふん……地底探検で親密になれたつもりなのかしら?」

まどか(なんだろう。地底探検……数日前の出来事なのに、なんかものすごく久しい出来事に聞こえる……)

ほむら「まぁ、多少は仲良くなれたと思っています」

ほむら「現にあなた達は私の呼び出しに応え、しかも私服姿で来たじゃないですか」

ほむら「こちらを信用していないのなら此処に来ないか、魔法少女の姿で来ているでしょう?」

マミ「……好きに解釈なさい」

マミ「それで? 何を頼むつもりなの?」

ほむら「簡単に言えば人探しをお願いしたいのです」

マミ「人探し?」

ほむら「さやかさんの幼馴染が現在、行方不明になっています」

まどか「幼馴染って、上条くん!?」

まどか「そんな、どうして?!」

ほむら「行方不明になった理由は分かりません」

ほむら「しかし病院から姿を晦ましたのは事実です。疑うのでしたら、病院のナースさんに訊けばいいと思います」

ほむら「箝口令は出ているでしょうけど、人の口に戸は立てられませんからね。ボロボロ漏れてくると思いますよ?」

まどか「で、でも、上条くんは怪我をしていて……」

ほむら「まぁ、原因に心当たりはなくもないのですが……」

マミ「心当たり?」

ほむら「説明しない訳にもいかないので言っちゃいますけど」

ほむら「彼は今、私の友人である妖精さんの影響で行方不明になったと思われます」

マミ「!?」

まどか(妖精……地底から地上までを一瞬で移動させるほどの、すごい力を持った使い魔……)

まどか(あの子達の所為で、上条くんが……?!)


404 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:51:29.42 vlUOJUyW0 246/569



マミ「あなた、一体どんな目的で彼を攫ったの!?」

ほむら「攫ってはいませんよ。あくまで妖精さんパワーの影響です」

ほむら「簡単に言えば事故でして……本来自分が服用するために用意した薬をうっかり落としてしまったんですよ」

ほむら「それで一体何を思ったのか、彼は私の落とした薬を飲んでしまったようでして」

ほむら「本来は私の心臓が危ない時に飲んで、危機を避けるのが目的のものでしたが……よもやこうなるとは」

シャル(ああ、そういう理由で持参していたのね)

さやか(確かに下手なやつより効きそうだわ。妖精さん入りの薬って)

マミ「ふん。自分の失敗の穴埋めを他人に手伝わせるなんてね」

ほむら「真に最悪なのは失敗を隠す事。失敗を揉み消そうとする事。そうではありませんか?」

ほむら(ま、正確には”中途半端に”と頭に付きますけどね……情報操作万歳♪)

マミ「……いいわ。あの使い魔の被害者を放置するのは気が気じゃない」

マミ「今回は手を組みましょう」

マミ「鹿目さんも、異論はないわよね?」

まどか「は、はい! 上条くんを放ってはおけません!」

ほむら「物分りのいい方で助かりました」

ほむら「さて、それでは友好の印及び護身のために、あなた達にも妖精さんアイテムをお配りしましょう」

さや シャル「えっ!?」

まどか「妖精さんアイテム?」

ほむら「地底探検の際に使った、あの洗面台と同種の代物と思ってくれれば良いです」

ほむら「今はあまり品揃えがよくありませんけど、何かの役に……立ったらいいなーと」

マミ「……なんでそんな自信なさげなのよ」


405 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:54:03.54 vlUOJUyW0 247/569



ほむら「何分妖精さんのアイテムですからね……ちゃんと使っても役立つか怪しく、てきとーに使っても役立たず」

ほむら「悪用しようとしたら自分が破滅し、正義の心で使うと辺りに迷惑を振りまく……まぁ、そんな代物です」

マミ「全然ダメじゃない!?」

ほむら「でも妖精さんパワーが発動した事案には、同じく妖精さんパワーに頼るしかないと思いますよ?」

マミ「……………」

マミ(あの使い魔の力に頼るというのは癪。正義の魔法少女として、正しいとも思えない)

マミ(でも、もしあの使い魔が上条くんの傍に居たら、私達の力では勝てそうにないのも事実)

マミ(その道具とやらに罠がないとも限らないけど……)

マミ(妖精の力を思えば、多少のリスクは仕方ないわね)

マミ(それに道具自体を解体し、調べれば、使い魔に対する情報を得られるかも知れない)

マミ(……こんな時にキュゥべえが居てくれたら相談出来るのに……最近帰ってこないのよね……)

マミ(まぁ、時々居なくなる子だから、あまり心配していないけど)

マミ「……そうね。お言葉に甘えて、一つ借りようかしら」

まどか「あ、じゃあ私」

マミ(鹿目さん)テレパシー

まどか(えっ、あ、はい)テレパシー

マミ(あなたは道具を借りないようにして。”万一”の事を考えて、ね)テレパシー

まどか(……分かりました)テレパシー

まどか「……私は、遠慮しておくね。ちょっと怖い、から」

ほむら「そうですか? 伏線効果を狙っててきとーでもいいから借りておくべきだと思いますが……」

ほむら「まぁ、無理強いはしません」

ほむら「さやかさんとシャルロッテさんは?」

さやか「あー……じゃあ、まぁ、使わせてもらうか」

シャル「どーせ使っても使わなくてもねぇ……ま、持っていくとしましょう」


406 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 14:57:01.62 vlUOJUyW0 248/569



ほむら「それではそれでは~この『なんでもはいるバック』に入れておいた道具を取り出すとしましょう」

さやか「なんでもはいるバック?」

ほむら「いくらでも物が入る素敵なバックです。しかもいくら詰め込んでもバックの重さは変わりません」

まどか「それって四次元ポケット的な?(そうだとしたら、やっぱり凄い力……)」

シャル「いや、妖精さんアイテムがそんな単純な使用な訳ないわ」

ほむら「ええ……」

ほむら「実は詰め込んだ物の”質量”が……入れた人間の”重量”に移る使用でして……」

まど マミ「!?」

ほむら「このバックには四キロほどの物しか……入れられませんでした……」

ほむら「バックから取り出せば、体重は元に戻るのに……」

マミ「そ、それは仕方ない、わね……」

まどか「うん。それは仕方ない、よ……」

シャル(アイツ、この前はちょっと太りたいとか言ってたじゃない)

さやか(ぶっちゃけ体重変化とか気にするタマじゃないよね)

ほむら(ぶっちゃけ気にしてませんけどね。同情を誘ってみただけです。ぐふふ)

ほむら(そもそも増えるのはあくまで重量で、外見上の変化はないんですよね)

ほむら(多分入れた対象の重力やらなんやらを変化させて、質量はそのままで”重量”だけを増加させるのでしょう)

ほむら(減った分の重量は、どっかで帳尻合わせをした方が面白いとかいう理由で)

ほむら(無駄に高度なテクノロジーを無駄な方向に使う。実に妖精さんらしいアイテムです)

ほむら「ま、そんな事はさておくとして」

ほむら「妖精さんアイテムのお披露目でーす♪」


407 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:01:01.24 vlUOJUyW0 249/569



マミ「こ……これは……!」

まどか「……これは、一体?」

マミ「ガラクタにしか見えないけど……」

ほむら「パッと見効果が分からないと思うので、気になるものから説明しますよ?」

マミ「えっと、じゃあ……この時計は?」

ほむら「それは『万能時計』」

ほむら「スイッチを押せばこの宇宙の時を止める事が出来ます」

ほむら「更に時計の針を戻せば過去に、進ませれば未来へと移動可能」

ほむら「針の速度を遅くすれば時間をゆっくりに出来、加速させればその分加速します」

ほむら「設定を弄れば特定範囲内の時間だけを操作する事も可能。タイムパラドックスも自動で解消」

ほむら「この時計一つで世界の時はあなたの手中に収まるのです!」

マミ「なっ!?(時間操作!? とんでもないアイテムじゃない!)」

ほむら「ただし……」

まどか「た、ただし……?」

ほむら「使うにはギャグを言う必要があります」

まど マミ「……え?」

ほむら「時を止めるには凍えるほど寒いダジャレを」

ほむら「過去に戻るには昔流行った一発屋の芸を、未来へ行くには時事ネタでショートコントを」

ほむら「遅くするにはサイレント(無音)系のネタ、加速するにはモノマネをする必要があります」

ほむら「ギャグのパワーは時空を超える、と、妖精さんは言っていました。この時計はそのパワーを動力にしているそうです」

ほむら「ちなみにギャグの質は厳正に審査され、最高評価のSランクを取れば十秒の効果が」

マミ「いらない」

ほむら「ですよねー」


408 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:05:45.85 vlUOJUyW0 250/569



まどか「え、えっと……じゃあこのホイッスルは?」

ほむら「そちらは『集まれホイッスル』」

ほむら「一吹きすれば超広範囲……大体見滝原全域にいる犬猫鳥等々、諸々の動物を集めます」

ほむら「そして吹いた人間の虜にしてしまう効果を持つのです」

マミ(動物とはいえ精神操作……それも見滝原全域とは……凄まじいわね……)

ほむら「問題は好かれ過ぎて、動物なのにみんなヤンデレ化してしまう事で」

マミ「却下で」

ほむら「ですよねー」

マミ「もうちょっとまともなのは無いのかしら……ん?」

マミ「この剣とかまともそうね。武器として使えるかしら?」

ほむら「そちらは『呪い剣』と言いまして」

マミ「止めておくわ」

ほむら「賢明です。まぁ、呪いと言っても可愛いものですけどね」

マミ「じゃあこのお面」

ほむら「『気持ちダダ漏れお面』と言いまして」

マミ「このサッカーボールっぽいやつ」

ほむら「『遥か彼方へボール』」

マミ「この知恵の輪」

ほむら「『解けない知恵の輪』」

マミ「この小箱」

ほむら「『何処までもドア』」

マミ「この下駄」

ほむら「『お天気従わせる下駄』」

マミ「このお揃いデザインのイヤリング」

ほむら「『死が二人を別つまで』」

マミ「このバットを持った手乗り人形」

ほむら「『一人用バッターさん』」

マミ「このねばねばした物が先に着いている棒」

ほむら「『スーパートリモチMark2』」


……………

………




409 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:09:21.08 vlUOJUyW0 251/569



マミ「まともなの一つもないじゃない!」

ほむら「最初からそう言っていたと思いますけど?」

さやか「まぁ、あたしらは最初から期待はしていなかったけどな」

シャル「あの二人はまだそれほど慣れてないだろうからねぇ……」

まどか(なんでさやかちゃんと魔女は遠い目しているの?)

マミ「だとしても、もう少し実戦的なものは……あら?」

マミ「これは、銃弾かしら?」

ほむら「え? あら……それは入れた覚えがないのに……」

マミ「入れた覚えがない?」

ほむら「ええ。他の道具に輪をかけて使えない仕様なので、別のにした方がいいと思いますよ?」

マミ(……妙ね)

マミ(他の道具は勧めてきた癖に、これは使わないように勧める)

マミ(入れた覚えがない、つまり入れるつもりがなかったと言ってるし……)

マミ(もしかすると、何か重要な秘密が?)

マミ「……いえ、これにするわ」

ほむら「え? ですが……」

マミ「私は銃使いよ。弾丸なら使い勝手がいいわ」

ほむら「まぁ、そうまで言うなら構いませんけど……」

ほむら「それじゃ、次はさやかさんとシャルロッテさんがお選びください」

シャル「つーてもねぇ……じゃ、この『何処までもドア』を」

さやか「あたしはこの『スーパートリモチMark2』で」


410 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:15:21.23 vlUOJUyW0 252/569



ほむら「はい。では残りはバックに戻して……」

マミ「それじゃあ、そろそろ行こうかしら」

ほむら「いえ、その前に『探し物何処ダーツ』で上条さんがいるであろう方向を確認しましょう」

マミ「? ダーツの矢? そんなの、さっき紹介された中には無かったけど」

ほむら「これは今使おうと思っていたので、除外しておいたんです」

ほむら「で、これは投げると探し物のある方向へ自動的に進むダーツとなっています」

まどか「そんな便利なものがあるなら、すぐに上条くんの居場所が分かるんじゃないの?」

ほむら「便利ですけど、結構危ないんですよね……」

まどか「え?」

ほむら「ま、投げれば分かりますよ――――っと」

――――ヒュッ!

さやか「ん?(何か横切った?)」

――――ゴオオオオオオッ!

さやか「え、何これ衝撃波あああああああああああああああああああああ!?」

シャル「ああ!? さやかが空の彼方へと吹っ飛ばされた!?」

シャル「つーかさやかの後ろにあったビルに大穴が開いてるんだけど!?」

ほむら「どんな物の在り処でも正確に指し示すためには、目標が動く前にダーツが方向を示さなければなりません」

ほむら「一番簡単なのは超速度で飛行する事ですが、妖精さんはそれでは満足しなかったようで」

ほむら「なんでも投げた瞬間、時空を改変しながら飛行するように改造」

ほむら「理論上はワープどころか時間停止よりも”早く”探し物に到達する……という仕様らしいです」

ほむら「まぁ、ダーツの素材がただのプラスチックですので、五メートルほど進んだ辺りで自壊してしまいますけどね」

まどか「滅茶苦茶過ぎるよそれえええええええええ!?」

マミ「むしろなんで五メートルも進めるの!?」

ほむら「曰く、空間にちょっとの間だけ優しくしてもらうとか」

まど マミ「意味分かんない!?」

シャル「あー、優しくしてもらうのかー。流石妖精さん」

まどか「なんであなたはツッコミを放棄してるの!? こんなの絶対おかしいでしょ!?」


411 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:19:40.85 vlUOJUyW0 253/569



ほむら「とりあえず、方向は分かりました。あちらに上条さんが居るのは間違いありません」

ほむら「まぁ、移動しているでしょうから、結局手分けする事にはなると思いますが」

ほむら「ああ、そうそう。上条さんを見つけたら携帯で私に連絡をください」

ほむら「直に飲んでしまった以上、恐らく彼を取り巻く力は想像を絶するものとなっているでしょう」

ほむら「まぁ、その力がどんな方向かはさて置くとして……」

ほむら「妖精さんの力に敵うのは妖精さんだけです」

ほむら「つまり現状上条さんと対抗出来るのは妖精さんパワーをフルに借りられる私だけですので」

ほむら「タヌキ先輩と鹿目さんは意地なんか張らず、私に連絡してくださいね?」

マミ「だからタヌキって言うなーっ!」

シャル「つーか、さやかが空に飛んだきり落ちてこないんだけど……」

まどか「え? ちょ、えええええええっ!?」

まどか「さやかちゃん、何処まで飛んでいっちゃったの!?」

ほむら「あー、まぁ、平気じゃないですかね? 妖精さんアイテムで吹き飛ばされた訳ですし」

ほむら「いざとなったら巨大化出来ますから、なんとでもなるでしょう」

まどか「えええええええ……」

シャル「コイツ、絶対面倒だから無視したな……」

シャル「ああ、飛行機飛んでるし……明日のニュースで『フライングヒューマノイド現る!』とかやらなきゃいいけど」

ほむら「九割以上の人が信じないオカルト話なんてどーでもいいじゃないですか」

ほむら「それよりも上条さんの方が大切です」

まどか「あの、今はさやかちゃんの方が大切じゃ」

ほむら「さ、捜索開始です!」

まどか「無視しないでよぉーっ!?」


……………

………




412 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:27:33.52 vlUOJUyW0 254/569



ほむら「ふむ……ここまでのルートでは特に痕跡は見当たりませんでしたね」

マミ「ソウルジェムにも反応はないわね……」

ほむら「もー、だから妖精さんは使い魔なんかじゃなくて、妖精さんって言ってるじゃないですかー」

ほむら「というか自分の魂で索敵って……安全管理的に問題があるんじゃないですかね……」

マミ「? 魂?」

まどか「わああああっ!? わあああああああああああっ!!」

マミ「ど、どうしたの鹿目さん!?」

まどか「な、なな、なんでもないですよ!」

まどか「そ、それより、全然手がかりが見つからないね! どうしようか!」

シャル(……あー、巴先輩にまだソウルジェムの秘密を話してないのか)

シャル(今その話を追及されると色々面倒そうだし……合わせてやるとしましょう)

シャル「確かに、そろそろ手がかりの一つぐらいはほしいわね」

シャル「丁度分かれ道に出たし、手分けして探さない?」

ほむら「そうですね。いいと思います」

ほむら「そちらに何か意見はありますか?」

マミ「特にないわ」

まどか「わ、私も、特には……」

ほむら「では私達はあちら側を探しますので」

マミ「反対側は任せなさい」

まどか「で、では……」

シャル「……行ったわね」

シャル「ああ、そうだ。ほむらに一つ聞きたかったんだけど」

ほむら「私にですか?」

シャル「あの子たちさ、どう思う?」

ほむら「? どう、とは?」

シャル「あの子たちが私達に素直に協力してくれるかって事よ」


413 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:31:31.29 vlUOJUyW0 255/569



シャル「一時に比べれば問答無用で攻撃しない分、和解したと言えなくもないけど」

シャル「私は魔女であの子たちは魔法少女。殺し合う立場が変わった訳じゃないわ」

シャル「あの二人がこのまま素直にほむらの言う事を聞くとも思えないんだけど」

ほむら「まぁ、人間のやる事ですから断言は出来ませんけど……多分大丈夫でしょう」

ほむら「彼女達は生粋の善人。損得の有無に関わらず、常に正しくあろうとする人達です」

ほむら「それにお願いしたのは行方不明者の捜索ですし、何より目標はさやかさんの幼馴染ですからね」

ほむら「鹿目さんは真剣に、タヌキ先輩もそこそこ真面目にやってくれるでしょう」

シャル「……意外ね。寝首を掛かれても妖精さんパワーがあるから問題無い、とか言うと思っていたのに」

ほむら「意見のぶつかり合いとか戦闘とかありましたけど、私、結構あの人達の事信用しているんですよ?」

シャル「信用してんならいい加減巴先輩の事名前で呼んであげなさいよ」

ほむら「それは仲直りした時までとっておきたいです」

ほむら「っと、歩いていたらまた分かれ道ですね……」

シャル「どうする? また手分けする?」

ほむら「そうですねぇ、そうした方が――――」

――――ボーン……

ほむら「? 水音……」

シャル「というより、爆音?」

シャル「音は海辺の方から聞こえてきたわね……何かあったのかしら」

ほむら「……ここは用心して、一緒に行くとしましょう」

シャル「合点」


414 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:40:23.03 vlUOJUyW0 256/569



――――その頃――――


マミ「どう? 鹿目さん」

まどか「……駄目です。やっぱり、ソウルジェムに反応はありません」

マミ「そう……思い返せば、地底の時も魔女の反応は得られなかったから、反応がなくても当然か」

マミ「暁美ほむらが妖精は使い魔じゃないと言っていたのは、真実なのかもしれないわね」

マミ「……そうだとしたら、妖精の力で魔女と打ち解けたとでもいうのかしら」

マミ「いえ、そんな筈ない。どんな魔女でも呪いと絶望を振りまく存在には変わりない」

マミ「まして……」

まどか「マミさん……」

マミ「……ごめんなさい。今はこんな事考えている場合じゃないわね」

マミ「あなたの親友である美樹さんの幼馴染。彼をちゃんと保護しないと」

まどか「は、はい!」

まどか「あっ、分かれ道、ですね」

マミ「そうね。時間も惜しいし、分かれて探しましょう」

マミ「幸い鹿目さんが上条くんの写真を携帯で撮っていたから、容姿は分かるしね」

まどか「正確にはさやかちゃん経由なんですけどね」

マミ「それじゃあ、私はあっちを探すわね」

まどか「はい。では、見つけたらテレパシーで連絡しますね!」

マミ「……さて、と」

マミ(グリーフシードのストックは一つだけ。最近はあの魔女ばかり追い駆けていたから、魔女退治を全然していなかったのよね)

マミ(今後の事を考えると、このストックを使うのは可能な限り避けたい)

マミ(魔法を使っての捜索は却下。自分の脚で探さないと)

マミ(とは言え、手掛かりもないのに探すのは中々大変――――)

マミ「――――!」


415 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:43:01.89 vlUOJUyW0 257/569



マミ「……何者かしら。私の事を覗き見しているのは」

マミ「出てきなさい」

マミ(……建物の影から、出てきたわね)

マミ(数は一。全身を黒いロープで覆った、怪しい奴ね……)

マミ(まさか、アイツが上条くんを?)

マミ(暁美ほむらの言っていた妖精云々はあくまで推測。アイツが上条くん失踪に関わっていないとも限らない)

マミ(私を監視していた理由も気になるし、問い詰めないとね)

マミ「レディを尾行なんて、どういうつもりかしら?」

黒ロープ「……………」

マミ「口が利けないのかしら? それとも、私なんかと話す事はないと?」

マミ「あまり、嘗めないでほしいのだけど」変身!

黒ロープ「……」

マミ(変身するところを見ても身動ぎ一つしない……)

マミ(私が魔法少女だと知っている? もしくは、魔法少女という存在自体を知っている?)

マミ(いずれにせよ、只者ではないわね)

マミ「このマスケット銃が玩具と思ったら間違いよ?」

マミ「何なら、威嚇射撃でもして――――」

黒ロープ「――――!」

マミ「!?」

マミ(く、黒ロープがこっちに突撃……!)

マミ(速い!)


416 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:45:05.90 vlUOJUyW0 258/569



マミ「くっ!」シュッ!

黒ロープ「――――……」

黒ロープ「……」

マミ(不味いわね。さっきの攻撃、あまりにも速くて避けきれず、腕を少し切られた……)

マミ(少なくとも速さに関しては私より格段に上。そして人を簡単に切り裂けるだけの攻撃力もある)

マミ(リボンで拘束出来ればいいけど、あの素早さだと隙を突かないと捕縛は無理ね)

マミ(鹿目さんと別れなければ……いえ、二人になったからと言ってどうにか出来るものじゃない)

マミ(あの速さに追随出来る人が足止めしてくれない事にはどうにもならないわ)

マミ(……佐倉さんが居てくれたら……)

マミ(ううん、あの子とは決別したのよ。ここはなんとか自力でやらないと)

マミ(……そうだ)

マミ(暁美ほむらからもらった、あの弾丸を試してみましょう)

マミ(どんな効果があるかは分からないけど、物は試しってね)

マミ(魔法で作った銃に装填して……)

マミ「……先に攻撃してきたのはそっちだから、悪く思わないでね!」

マミ(アイツの足の周り目掛けて、全弾一気に撃つ!)パパパパパンッ


417 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:47:26.60 vlUOJUyW0 259/569



黒ロープ「――――!」

マミ(動いた! やっぱり避けられ――――)

マミ(!?)

マミ(じゅ、銃弾が黒ロープを追跡している!? 追尾弾だったの!?)

――――バスッ バスッ バスッ バスッ バスッ

黒ロープ「――――!?」

マミ(ああ、ついに命中した!)

マミ(だけど胴体に当たったわ……不味い、治療しないと致命傷かもしれない……)

黒ロープ「……! ……!!」

マミ(黒ロープが痙攣している……やっぱり、致命傷なの!?)

マミ(くっ! まさかあんな機能があったなんて――――兎に角今は治療を――――)

黒ロープ「」バキンッ

マミ「え? 何の音……」

黒ロープ「」バキ、ベキベキ

黒ロープだった者「」メキメキメキ、ピキ、ベキ、ボキッ、ゴキンッ

マミ「あ、あら? な、なんか、黒ロープの姿が変わって……」

黒ロープ→筋肉隆々の怪物「……フシュゥゥゥゥゥ……」

マミ「……何、これ?」

―――――――――――

シャル「ところでさ、巴さんが持っていった弾丸ってどんな道具なの?」

ほむら「あれは『人生ハードモード弾丸』と言いまして」

ほむら「撃ち込んだ敵の全パラメーターを二倍にするという」

ほむら「冒険に刺激が足りない、敵が弱すぎて話にならない」

ほむら「そんな方々の欲求不満に応える、平穏を愛する私には全く役に立たないアイテムです」

ほむら「タヌキ先輩は確か五発分持っていったので、万一全弾当てた場合敵の強化率は三十二倍となります」

ほむら「ちなみに弾丸は自動的に『敵』へと命中するので、自分に撃って強化という手法は出来ませんのであしからず」

シャル「……それは何が何でも説明してあげなきゃダメじゃなかったのかしら」

ほむら「どーせ死にはしませんから気にしない気にしない」

ほむら「精々後処理をする私達が面倒を背負うだけですよ」

シャル「……あの人、撃ってないといいわね」

ほむら「撃ってないといいですけど、妖精さんアイテムですからね。多分使っちゃってますよ?」

―――――――――――

怪物「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

マミ「きゃあああああああああああああああああ!?」

マミ(なんなのよアレ!? なんかすっごいパワーアップしてない?! 元の強さを知らないけど!)

マミ(え!? つまり何!? あの弾丸ってそういう類のやつなの?!)

マミ「最初に説明しなさいよーっ!?」


418 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:48:55.22 vlUOJUyW0 260/569



怪物「シャア!」

マミ「ひっ」

――――ビュウウウンッ!

マミ(と、突進された……?)

マミ(慌てて身を捩ったお陰かダメージはないけど……)

マミ(でも今の動き、全く見えなかった!)

マミ(パワーアップさせるにしても、もっとこう、徐々に強くしなさいよぉ!?)

怪物「? …………?」

マミ(幸いなのは怪物自身、自分のパワーアップについていけてない事ね……私の横を通り過ぎた事に気付いてない)

マミ(どうやら私一人では本格的にどうにも出来ないわね)

マミ(癪だけど、鹿目さんだけでなく魔女と暁美ほむらにも助力を願わないと……)

怪物「――――」

マミ「……まぁ、そんな時間をくれるとも思えないけどね」

マミ(なんとか翻弄して逃げないと……)

怪物「……」

マミ(来る――――)


419 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:49:37.83 vlUOJUyW0 261/569









「とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうっ!」







420 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:52:20.13 vlUOJUyW0 262/569



マミ「?!」

怪物「ギッ!?」バキッ!

マミ「なっ!?(空から誰か降ってきて、怪物に蹴りを食らわせた!?)」

マミ(蹴りを食らった怪物は……あ、なんか頭が変な方に曲がってる……死んだ、のかしら?)

マミ(助かったけど、あの人は一体……)

マミ(……全身タイツというか、戦隊ヒーローのスーツみたいな恰好は、ある意味一般人に見えないんだけど……)

??「君。もう大丈夫だよ」

マミ「は、はぁ……(あ、こっちを振り向いた。顔は剥き出しなのね)」

マミ(ふむ。どうやら男の人、それも私と同年代っぽいわね)

マミ(あら? なんか、見覚えがあるような……)

??「ん? 僕の顔に何か付いているかい?」

マミ「あ、いえ……そういう訳では……」

マミ「えっと、助かりました。ありがとうございます」

??「いやいや、気にしないで」

??「人助けは当然の事さ」

マミ(……悪い人、ではなさそうね)

マミ(だけど気になる……どうにも見覚えがある……)

マミ(名前を聞けば思い出せるかしら?)

マミ「……あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか……?」

??「僕かい? 僕の名前は」


421 : ◆HYvP9smHgsVn - 2014/03/04 15:52:55.17 vlUOJUyW0 263/569





恭介「上条恭介と言うんだ」






続き
魔法少女は衰退しました【パート3】


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