1 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:16:58 5nqM1RRQ 1/37


幼馴染「ねえー、男? 本当に登るつもり?」

「もちろんだ」

幼馴染「危ないよー? これ、一応高圧電線用のマジな鉄塔だよ?」

「みりゃわかるさ。見事な四角錐だよな」

幼馴染「もう… 落ちても知らないよ?」

「一応、落ちないような支度もすこしはしてきたぞ?」

幼馴染「ほう? どれどれ」ヒョイ

「腰につけるベルト…と、フック。2本」

幼馴染「それ、どうするの?」

「登りながら、交互に鉄柱にくっつけて、落下防止にね」

幼馴染「フックじゃ、揺すられたときに落ちちゃうんじゃないかなあ」

「んー、まあ そん時はそん時かな」

元スレ
男「あの鉄塔に登る」 幼馴染「やめとこうか」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1411831018/

2 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:17:36 5nqM1RRQ 2/37


「んじゃまあ。そろそろ…」

幼馴染「本気?」

「おう。俺は… この鉄塔に、登る」

幼馴染「やめとこうか」

「なんだよ、ノリ悪いなぁ」

幼馴染「そりゃそうでしょ。止めない人って居ないんじゃない?」

「おまえ、人なの?」

幼馴染「一応… ヒトなんじゃないかなぁ…分類するなら」

「でもお前、浮いてるじゃん」

幼馴染「死んじゃったからね」

「うん。 死んじゃったな、ずいぶんとあっさり」

3 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:18:12 5nqM1RRQ 3/37


幼馴染「まさかこうして 死んじゃった後も男と喋れるとは思わなかったよ?」

「お前のあの怪しい趣味のおかげだな」

幼馴染「怪しい趣味って…失礼だなぁ」

「だってよ。通夜の席で、おまえの部屋にいれさせてもらってさ」

「もう、何年ぶりになるかなあ、お前の部屋に入ったの」

幼馴染「んー… 中学1年のときに、こなかったっけ?」

「そうだっけ?」

幼馴染「うん。確か、本棚を新しく買ったときに…手伝いに来てくれたよ」

「ああ、そうだ。組み立て家具のやつな」

幼馴染「そうそう。お父さん、一人で組み立てたのはいいけど 一階でつくっちゃったから」

「2階の部屋まで運ばされたんだっけ」

幼馴染「うん。あの時は、ありがとね」

「死んでからいわれてもなあ」

4 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:18:45 5nqM1RRQ 4/37


幼馴染「ごめんねー? なんか、ちょっとあの頃、うまく素直になれなかったかも」

「あー、まあ 俺もそうだったわ」

幼馴染「ようやく、ちょっと普通にまた一緒にいられるようになったのにね」

「ほんとよ。これから夢のキャンパスライフだって来るはずだったのに」

幼馴染「男とおんなじ大学、いきたかったなー」

「合格もしてたんだけどなー」

幼馴染「…………ごめんね」

「まあ、いいよ。こうして 一緒にいるんだし」

幼馴染「でも、なんで私 こうして一緒にいるんだろう?」

「え? だから アレだよ。お前の部屋にあった大量の悪趣味な本」

幼馴染「……え? もしかして、男 アレためしたの?」

「あー。まあ、なんか。なんとなく」

5 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:19:17 5nqM1RRQ 5/37


幼馴染「ちなみにどれやったの?」

「んー… 笑わない?」

幼馴染「誓って」ピッ

「片っ端から。試したよ」

幼馴染「片っ端って…」

「交信、降霊、召喚、口寄せ、なんかよくわかんない、占いみたいなヤツとか」

幼馴染「暇だったの?」

「うん。そうかもしんない」

幼馴染「私が、居なくなっちゃったから?」

「うん」

幼馴染「……よかったね。こうやって 暇じゃなくなって」

「そうだな。あのままお前が現れてくれなかったら、そのうち黒魔術の本まで手が伸びてたかもな」

6 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:19:57 5nqM1RRQ 6/37


幼馴染「あの本、結構むずかしいよ?」

「絵だけみた。なんか、なんつーの? 魔方陣とかちょっとかっこよかった」

幼馴染「ばーか」

「やってねーんだし いいじゃん。さて…っと」

幼馴染「……ほんとに登るの?」

「うん。怖かったら、ついてこなくていいぞ」

幼馴染「怖いって… 私、空跳んでるから 怖いも何もないよ」

「そういやそうだな。幽霊だもんな、お前」

幼馴染「うん。じゃあ 見ててあげるから…気をつけて?」

「おう」


カツン、カツン… カツン。

7 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:20:33 5nqM1RRQ 7/37


「なんか… ジャングル、ジム、みたいだ…なっと」

幼馴染「こんなに危険なジャングルジムがあったらPTAは真っ青だね」

「赤と白。カラーリングは悪くない」

幼馴染「そういう問題じゃないと思うけど… あ、そこ。塗装さびてるよ、気をつけて」

「ん、見えてる」

幼馴染「男ってさ、意外とこう 運動神経いいよね」

「体育の成績はいつも上位だったぞ」

幼馴染「うん。私はぜんぜん駄目だった」

「知ってる」

幼馴染「……もうちょっと運動神経がよければ、まだ生きてたのかなぁ」

「どうだろうな。運動神経のいいお前のほうが想像つかない」

幼馴染「ひどーい」

「つーかさ」

幼馴染「ん?」

8 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:21:06 5nqM1RRQ 8/37


「なんで、待ち合わせの40分も前で あんなとこで待ってんだよ」

幼馴染「……なんか。早く起きちゃったし、早く支度すんだし…」

「俺だって、15分前にはついたんだぞ?」

幼馴染「うん。ちょうど、私を乗せた救急車がいなくなるところだったよね」

「見てたの?」

幼馴染「もう、意識とかなかったし。ほとんど、死んでたみたい」

「そっか。んじゃ もしあの時あと3分早ければ 救急車の出発に間に合ったのにーとか考えてたの、無駄だったのかな」

幼馴染「んー。どうだろう? 看取るくらいはできたかもよ?」

「あんまり、看取りたくもないなあ」

幼馴染「そだね。私も、あの時の ボロボロの体は見られたくなかったかな」

「通夜のときは、そんなにボロボロにも見えなかったけどな?」

幼馴染「死化粧とかいうんだって。 なんか、いっぱい綺麗にしてもらったよ」

「そっか。どうりで 美人だと思った」

幼馴染「ばーか」

9 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:21:42 5nqM1RRQ 9/37


「……どうせならさ」

幼馴染「なに?」

「どうせなら、1時間でも1日でも、遅れてきてくれたらよかったのに」

幼馴染「……なんで?」

「あんなふうに、あんなとこで、一人で俺のことを待って、一人で車にひかれて、勝手に一人で死んじゃうならさ」

「ずっと来なくてもいいから お前が来るの、待ってたかったかなって」

幼馴染「……ばーか」

「どうせ。俺は馬鹿だよ」

幼馴染「ほんとに、ばかだよね」

「お前はいっつもそればっかりだな。口癖なのかよ?」

幼馴染「うん。知ってるでしょ?」

「うん。よく、知ってるよ」

10 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:22:36 5nqM1RRQ 10/37


幼馴染「……もう、20mくらいは登ったかな」

「まだそんなもんか? 意外と、体力使うな、コレ」

幼馴染「あんまり。無理、しないでよね」

「いや てっぺんまで登る」

幼馴染「……高圧電線、あるよ?」

「承知の輔」

幼馴染「風とかも、きっとでてくるよ?」

「しょうがねえじゃん」

幼馴染「なにが?」

「この街でさ。一番高いところ、ここだったんだから」

幼馴染「…あー。そうかも。そっか、高いところにきたかったのかあ」

「うん。ここが一番高いだろ?」

11 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:23:07 5nqM1RRQ 11/37


幼馴染「でもほら、あそこの山の上の公園は?」

「城址公園?」

幼馴染「あそこもかなり、高台だよ」

「昔、よく一緒にいったよな」

幼馴染「…うん。はじめて、男にキスされた」

「ブハッ」

幼馴染「何よ、いまさら」

「ば、ばか。急に変なこというな、手が滑ったらどうすんだよ」

幼馴染「あ、ごめん。なんか…えっと、 口が滑った」

「上手いこといえてないからな、それ」

幼馴染「そっかなぁ」

「……あれ、いつだったっけなあ」

幼馴染「1年くらい前かな」

「まだ、そんなもんか」

12 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:23:46 5nqM1RRQ 12/37


幼馴染「うん。お互い、あかちゃんの頃から一緒にいるのにね」

「一緒にいすぎて。近づくことも、忘れてた」

幼馴染「うん。距離感が、あたりまえになりすぎて。もっと近づけるんだって、気づけなかった」

「ようやく気づいたのにな」

幼馴染「死んじゃったから…なんか、もっと遠くなっちゃったね」

「……まあ、いいよ」

幼馴染「ほんとは、エッチなこととかしたかったでしょ?」

「」

幼馴染「ふふ。ばーか」

「あ、あー… まあ、なんだ。別にそんなことばっか考えてねえよ」

幼馴染「ほんと?」

「うん。なんだろな。嬉しかったんだ」

13 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:24:18 5nqM1RRQ 13/37


幼馴染「嬉しい? 何が?」

「ずっとさ。幼馴染って関係で。それがなんかこう、恋人同士って風に代わって」

幼馴染「……」

「ずっと一緒にいたのに、なんか妙に気恥ずかしかったり、居心地悪くなったり」

幼馴染「……」

「手とかもさ。今までだったら、ぐいぐい引っ張っても 別になんとも思わなかったのに」

「意識したとたんに、真っ赤になって 握れなくなってるお前とか」

「なんか。そういうの、全部。すごく嬉かったんだ」

幼馴染「……」

「へへ。まあ、そういうのもさ。生きてるうちにいってやりたかったな」

幼馴染「もう、今じゃ遅いの?」

「どうだろうなぁ… でも、すごく言いたかったから。死んでからでも、言えたのはよかったかな」

幼馴染「そっか」

14 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:24:49 5nqM1RRQ 14/37


「はぁ… なんか、ちょっと疲れてきたなあ」

幼馴染「んー… 今、半分にとどくかどうかってとこかな」

「段々、足場が細かくなってきて 登りやすくはなってるんだけどなあ」

幼馴染「男、昨日から寝てないでしょう?」

「あれ、バレてる?」

幼馴染「あたりまえ」

「まあ、しょーがねーだろ。寝れるわけ、ない」

幼馴染「うん。ごめんね」

「謝るようなことでも、ないとおもうけどな」

幼馴染「うん。ごめんね」

「お前ってさー」

幼馴染「ん?」

「素直なのか、ひねくれてるのか ほんとにわかんないやつだよな」

幼馴染「なにそれ」

15 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:25:22 5nqM1RRQ 15/37


「すぐに、なんでも謝っちゃうし」

「すぐに、すねて人のことバカにするし」

「自分がいやなことでも、なんでも我慢して 強がるし」

「そのくせ、俺のこととかはやたら必死で、ゆずらねえし」

「……なんだかんだいって。俺のすること なんでも応援してくれるし」

幼馴染「……」

「俺さ」

幼馴染「ん… なに?」

「俺。 お前のこと 好きだったよ」

幼馴染「過去形―?」

「今でも好きだよ」

幼馴染「ふふ。ばーか 知ってる」

「…そっか。知ってたか。よかった」

16 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:25:52 5nqM1RRQ 16/37


幼馴染「あたりまえ。男のこと、なんでも知ってるよ、私」

「怖いな」

幼馴染「へへ」

「んじゃあさ、なんで俺が… この鉄塔に登ってるかは、わかる?」

幼馴染「わかんない」

「……はは。なんでも知ってるんじゃなかったのかよ?」

幼馴染「男のすることは、いっつもわかんないよ」

「それでも、俺のことわかってるつもりなんだ?」


幼馴染「うん。男が、そうしたくて」

幼馴染「男が、そうでもしないとやってられなくて」

幼馴染「男が。 いつだって一生懸命なのを よく知ってるから」

幼馴染「だから… 細かいことはわからなくても、ちゃんとわかってる」


「……うん。そうだったな。そう、前にも言ってくれたよな。ありがとうな、幼馴染」

幼馴染「……」

17 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:26:25 5nqM1RRQ 17/37


幼馴染「ようやく…八分目」

「そろそろ、電線が邪魔くせえな…」

幼馴染「ひっかかったら、本当に危ないよ、男」

「わかってる。せっかくここまであがったのに、こんなところで落ちられない」

幼馴染「気をつけて」

「ありがとな、幼馴染」


「……」


(ここを… こっちに、ひっかけて…)

「!」グッ

(ちっ…。フックが、ケーブルに…)

(待て、焦るな… 一度脚を下ろして、ゆっくり外してからもう一度…)

(……よし、これなら…)

「」ホッ

18 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:26:56 5nqM1RRQ 18/37


「はぁ…ゆってるそばから 危ない目にあった」

幼馴染「大丈夫?」

「うん」

幼馴染「そんなに無理して…」

「やめさせる?」

幼馴染「……やめさせられないの、よくわかってるから」

「そだな。俺、こんなことでやめるわけないよな」

幼馴染「うん」

「んじゃ… あとちょっと。てっぺんまで がんばりますか」

幼馴染「うん… もうちょっと。もうちょっと」

「はは。懐かしい」

幼馴染「え?」

19 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:27:29 5nqM1RRQ 19/37


「昔さ、お祭りのときに…お前、浴衣着てきてさ」

幼馴染「?」

「歩き回ってるうちに、足の親指のところにマメできて」

幼馴染「あー…」

「俺もまだ、チビだったし、抱っことかもしてやれなかったからな」

幼馴染「うん。でも、男が手を引いてくれたんだよね」

「そうそう。んでおまえさ、ずっと 涙こらえながら…『あとちょっと、あとちょっと』って」

幼馴染「うん。だって、そうでもしないと 泣いて座り込んじゃいそうだった」

「ごめんな。もうちょっと俺の身体が大きければ、抱っこして連れてったやれたのに」

幼馴染「あのころは、男も小さかったもんね」

「俺が背のびたの、高校からだしな」

幼馴染「うん。おっきくなったよね」

20 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:28:19 5nqM1RRQ 20/37


「……こんくらいデカくなってれば、抱っこもしてやれるな」

幼馴染「うん」

「一回くらい、抱っこしてやりたかったな」

幼馴染「……ばーか」

「また、それかよ」

幼馴染「仕方ないでしょ?」

「……うん」


カツン!!

ザァツ!!

「!」

21 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:29:11 5nqM1RRQ 21/37


幼馴染「……すごいね、やっぱさ。たかいよねー」

「あ、ああ。いきなり風吹いたから、ちょっとびっくりした」

幼馴染「てっぺんだからね。やっぱり、この鉄骨が少し無いだけで、風の当たり方が違うのかも」

「うん、俺も今 そう思ってた」

幼馴染「……高いね」

「うん。この街の全部…見れるな」

幼馴染「あそこ。私の事故現場だね」

「うん」

幼馴染「あそこが、城址公園…はじめてのキスした場所」

「うるせえよ」

22 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:29:41 5nqM1RRQ 22/37


幼馴染「それで、あそこが小学校」

「すぐ隣にあるのが、中学校」

幼馴染「高校は、あっち…」

「さすがに大学は見えないな」

幼馴染「ふふ。電車にするか、アパート借りるか悩む距離だよ?」

「そりゃそうだな」

幼馴染「うん…」

「でも、見えなくてよかった」

幼馴染「……」

「なんかさ。もしも大学が見えてたら…お前との あるはずだった未来のことまで、考えちゃいそうだもんな」

幼馴染「……」

23 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:30:11 5nqM1RRQ 23/37


「お前と過ごした時間が見える。それだけで、いいんだ」

幼馴染「……」

「なくなっちまった未来とか、ほしがらないよ 俺」

幼馴染「……」

「空、近いなあ」

幼馴染「うん。空、好きだよね 男」

「うん。でも、前よりもっと好きになったかも」

幼馴染「なんで?」

「お前が、あそこにいるのかなーって 思えそうだから」

幼馴染「……あー 天国、みたいな?」

「そうそう」

幼馴染「んじゃ 今ここにいる私は?」

「……なんだろうな?」

幼馴染「……なんなんだろうね」

24 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:30:57 5nqM1RRQ 24/37


「俺さ、あの日のデート、楽しみにしてたんだ」

幼馴染「……」

「15分前、待ち合わせ場所に着いた時にはもう、騒然としててさ」

「それでも、人ごみの中で必死にお前のことさがしてて」

「救急車が去ったあとも、お前のこと探したり、携帯ならしたり」

「お前の携帯、壊れてて 繋がらなくなってたし」

幼馴染「……」

「なんか、事故の詳細とか 噂してる人いっぱいいたような気もするけど、全然耳には入ってこなくて」

「あのまま、俺 あそこで二時間くらい お前のこと待ってた」

幼馴染「……」

「おばさんから携帯に連絡あって。迎えに来てくれて、病院いって」

「……でも、あんま覚えてねえや」

25 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:31:36 5nqM1RRQ 25/37


幼馴染「……」

「頭、真っ白で」

「通夜でも、みんなにいろいろ聞かれたけど、何もいえなくて」

「そんな俺をみかねたおばさんが、幼馴染の部屋にいれてくれて」

幼馴染「そこで、あの本?」

「そう」

幼馴染「ちょっと、おかしいんじゃない?」アハハ

「しょーがねーべ? 結構、ほんとに、壊れてたような気もする」

幼馴染「今も…壊れてるの?」

「どうかな…わかんねえ」

幼馴染「……」

26 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:32:29 5nqM1RRQ 26/37


「でも…こうやってさ」

「高い場所まで、きてみて。わかったことある」

幼馴染「……なに?」

「いま、こうやって話してるお前が…」


「もし、壊れきった俺の思考回路が生み出した、空想や妄想なのだとしても」

「ほんとに、何かしらの怪しげな術が成功して呼び出された、本物のおまえだとしても」

「やっぱり 俺はお前のことが好きでさ」

「こうやって、お前のこと思って、一生懸命になってるのが 一番、救われる」


幼馴染「…ばかだね、男」

「うん。馬鹿なんだ、俺」

27 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:33:02 5nqM1RRQ 27/37


幼馴染「…こんなことまでしないと、私のこと、ふんぎりつかないの?」

「どうだろう。こんなことしても、ふんぎりついたのか、よくわかんない」

幼馴染「これから、どうするの?」

「どうしようかな」


「このまま、この一番空に近い場所で、お前を見送ってやりたいようなきもする」

幼馴染「……」

「うん… もしもこれが、俺の空想なのだとしたらさ」

「高い場所まで登らせてやって、どっか…綺麗な場所で、幸せに暮らしてくれるんだって、そんな空想にしたいよ」

幼馴染「……」

「でも、もしもこれが 本当にお前の幽霊なのだとしたらさ」

「離れたくないな。ずっと、こうして 死んでてもいいから…お前のそばにいたいかもな」

幼馴染「……」

28 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:33:33 5nqM1RRQ 28/37


「たとえば、なんていうのかな。死後の世界?」

幼馴染「うん」

「そんなのがあるんだって、はっきりわかるのなら…今 俺、ここから飛び降りるわ」

幼馴染「そういうの、本当に躊躇なくいうよね、男って」

「うん、本気だからね」

幼馴染「いっつも、心配してたよ」

「うん。しってた。ごめんな」

幼馴染「うん…」

「……見送るべきなのかな。それとも、落ちるべきなのかな」

幼馴染「男は、どっちだといいの?」

「本当は 一緒にいたいから。お前は本物の幽霊で、ここから落ちて、一緒にいたいって思う」

幼馴染「……」

29 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:34:16 5nqM1RRQ 29/37


「でもさ。なんか、思っちゃうんだよな」

「きっと幼馴染は、そういう俺のこともよく知ってるからさ」

「きっと、そんなことさせないために、本物のおまえなら どんな魔法を使ったって、俺の前にはきっと出てこないんだろうなって」

幼馴染「……ばーか」

「うん…俺 馬鹿だな」


幼馴染「……もしもさ。これが空想だったら… どうなるのかな」

「あれじゃね? なんかこう、夢オチ的な」

幼馴染「夢オチって…」

「ここからオちて死んでさ、うわーーーってなったとことで、ベッドで目が覚める」

幼馴染「それで?」

30 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:34:46 5nqM1RRQ 30/37


「汗とかグッショリでさ。本当に鉄塔に登っててもおかしくないような疲労感とかあって」

「結局、よくわかんないまま。泣くんだ」

幼馴染「……泣いちゃうの?」

「泣いちゃうだろね」

幼馴染「ふふ。私のこと、思って?」

「うん。お前のこと思って、ずっとずっと 泣いちゃうんだと思う」

幼馴染「あんまり、男のヒトを泣かせるのはやだなあ」

「俺も、女に泣かされるのはちょっとやだなあ」

幼馴染「それでも泣いちゃう?」

「泣いちゃう」

幼馴染「そっか」

「ん」

31 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:35:27 5nqM1RRQ 31/37


幼馴染「…じゃあ、さ」

「?」


幼馴染「空想じゃなくて。もしも本当に、私が本物の私の幽霊だったら…どうなるかな?」

「っ」

幼馴染「……」

「…あ…」

幼馴染「どうなる、かな」

「……わかん、ない…」

幼馴染「本当に?」

「…あ でも だって」

32 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:36:50 5nqM1RRQ 32/37


幼馴染「きっと。わかってる」


「おさななじ…!」



トン



「!」

幼馴染「もう。いいよ、男。ありがとう…私だよ? わかってるよね?」


幼馴染「いつだって。男の為に、一番になると想うこと…戸惑わない。おんなじだよ、私も」


グラ… ヒューーーーーーン…

「! おさな…!」

33 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:37:24 5nqM1RRQ 33/37


幼馴染「ばいばい。最後まで、想ってくれて…私は嬉しいよ。それも、知ってるでしょ?」

「…!」


ヒューン…


遠くなる。
赤と白の鉄塔。

うすぼんやりした、幼馴染の顔。
いつも俺のことを心配そうに見ながら、強がった笑顔。

高い高い鉄塔か落ちる間
俺はその幼馴染の顔が ゆっくりとかすれていくのを 見ていた

地面に着くかどうか、というその瞬間…
天使のように上から幼馴染がおちてきて。


そっと、俺を抱えて…キスを、した。

34 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:37:56 5nqM1RRQ 34/37



ガバッ!

「!!!」


「………」ハァ…ハァ…

「…あ…」

「え? はは、嘘だろ? やっぱり夢オチ?」


「……ってわけでも、ないのか…なあ」キョロ…


鉄塔

「…登るには、本当に登ったのかな」



「どっかで、意識おかしくして おちたのか」

「それとも、ここまできて そのまま倒れちゃって、幸せな夢でも見てたのか」

「っ!」ズキン

35 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:39:57 5nqM1RRQ 35/37


「あ… いってぇ。なんだ? 背中…」

「え? あれ、打ってる…? なんだ? もしかして、ほんとにおちた?」

「……なわけないか。さすがにアソコからおちたら死ぬわな…」


「っ」

「あ… でも、そっか。俺、幼馴染に抱えられて、キスされて…」

「いや、いやいや… んなことねーだろ…」ハハ


「……え? でも… あれ? どっちだ…?」

「…やべ。本当に、わかんねえや… 夢オチなら夢オチのほうが、ラクだったかもなあ」



「…やっぱ、あいつ ひどいなあ」

36 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:40:58 5nqM1RRQ 36/37


「これじゃあさ。一生懸命やった気もするから もうこれ以上、お前の幽霊を追えないし」

「空想だったような気もするから、きちんと別れのキスまでして、見送れたような気もするし」

「………それに」


「お前に。もう、来なくていいって 言われちゃったのが、すげえ実感できちゃうじゃん」


「……」

「実感… できちゃたじゃねえかよ…」


「……」

37 : ◆ToMnIXXmPQ - 2014/09/28 00:41:30 5nqM1RRQ 37/37


「やっぱりさ。お前は 俺のことをよくわかってるよな」

「俺も お前のいいそうなことは、ほとんどわかってるけどさ」


「やっぱり。お前にはかなわねえよ」


「一生。ずっと。最後まで」

「お前のこと、忘れないから」


「どうか。俺に、お前のことを 喜ばせておいてくれよな」




『……ばーか』


―――――――――――――――――――――――

おわり

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