お昼休み
純「ねえ、唯先輩のどこがいいの?」
憂「え? どこって……全部、かな」
純「具体的には?」
憂「まずあの天使みたいな顔だよね。幻想的で、思い出すたび胸がほわゎぁってなるの」
憂「あの肉つきのいい体! 将来絶対良いお母さんになれるし」
憂「ひたむきで、前向きで、明るくて、何より綺麗で」
憂「――私の憧れなんだよ」
元スレ
純「ねぇ、手繋がない?」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1284179835/
純「……ふーん」
憂「あれ? どうしたの? 純ちゃん」
純「あ、いや、何でも」
純(憧れ、かぁ……)
純(私も憂に、そう思われたいな……)
梓「何の話してるの?」
純「あ、梓。購買で何買って来たの?」
梓「チョコロールパンと、イチゴジャムパン」
純「チョコの方、一口分けてー」
梓「えぇー、やだよー」
純「ぶーぶー、けちー」
梓「はいはい、一口だけね……。それで、何の話してたの?」
憂「純ちゃんが、お姉ちゃんのどこがいいかって聞いてきたんだよ」
梓「憂は何て答えたの?」
憂「全部」
梓「憂らしいわ……」
憂「純ちゃんったら、変な質問してくるからびっくりしたよー」
純「い、いいでしょ、別に」
梓「あれ? もしかして、唯先輩に嫉妬してるの?」
純「え?」
梓「憂に慕われてる唯先輩が、うらやましいなーって、思ってるんじゃないの?」
純「ま、まさか!」
純「そんなわけないじゃん!」
梓「だよねー」
憂「……なんか、遠まわしに嫌味を言われた気がするよ」
梓「気のせい、気のせい」
梓「そういえばさ、唯先輩以外に好きになった人っているの?」
憂「私? 私は……うーん、お姉ちゃんしかいないなぁ」
梓「もう、ぞっこんなんだねー」
憂「えへへ」
純「でもさ、何でそんなに唯先輩が好きなの?」
憂「うーんと、やっぱ、生まれてから今の今までずーっと一緒だったからかな」
純「ずっと、一緒かぁ」
純(いいなぁ。憂と一緒にいられるなんて)
純(憂のお姉ちゃんに産まれたかったなぁ)
純(もしかしたら……)
純(……私も憂と、一緒にいたら、憂は振り向いてくれるかな)
純(……実践してみよう)
放課後!
純「憂ー、一緒に帰ろー」
憂「うん、いいよ。でも部活は?」
純「たまにはサボってもいいかなーって」
憂「えー、出た方がいいんじゃない?」
純「でもなー、たまには息抜きみたいな日も欲しいわけですよ、私は」
憂「ふぅん。まあいいや。一緒に帰るよ」
純「ありがと、憂」
街中!
純「あー、やっと学校終わったー」
憂「うん。疲れたね」
純「まぁ、テストはこの前終わったばっかだから、多少は楽なんだろうけど」
憂「あ、テストといえばさ、化学Ⅱ何点だった?」
純「化学Ⅱ? 50点そこら」
憂「え? 平均点以下じゃない?」
純「私の答案用紙は大体が平均以下だよ。憂は何点?」
憂「うーん、83点」
純「へぇ! すごいじゃん!」
憂「えへへ」
純「憂って理系の大学を志望してたっけ?」
憂「私? 私はN女だよー。お姉ちゃんが理系学科いくから、理系になろうとしてるんだ」
純「へぇー。お姉ちゃんラブなんだね」
憂「うん。お姉ちゃんのためなら、命を落としても惜しくないんだ」
純「それは、ちょっとどうかと思うけど……」
純(でも、いいな……)
純(憂にこんなに思われて、唯先輩が羨ましい)
純(憂とは中学のころから一緒だったのに……)
純(私のことなんか、一度も見てくれない……)
純(憂らしいって言えば、それまでなんだけどね)
憂「? 純ちゃん、どうしたの? だまりこくっちゃって」
純「うぅん! なんでもない。あ――そうだ、何か食べてかない?」
憂「え? 寄り道?」
純「うん。あ、あそこの喫茶店なんかどうかな」
憂「『ラ・クールパレット』……変わった店名」
純「ま、店名は置いといてさ、何か食べようよ。いや、軽くお茶するくらいでいいしさ」
憂「うん。たまにはいいかも」
純「よし、じゃあ決まりだね。行こう!」
ラ・クールパレット店内
純「あの窓側の席に座らない?」
憂「うん。そうしよっか」
二人は席に向かう。窓からは街路樹をはじめ、バス停やコンビ二やビルが見えた。
店員「ご注文はお決まりでしょうか」
純「何にするー?」
憂「うーんと、私はレモンティーで」
純「じゃ、私もそれで」
店員「かしこまりました」
純「ねえ、憂」
憂「んー?」
純「唯先輩と私、どっちが好き?」
憂「もちろん、お姉ちゃんだよ!」
純「………………」
純「ま、そうだよね」
憂「あ、純ちゃんも好きだよ。でもね、お姉ちゃんは特別って言うか……」
憂「恋人になって欲しいなって思える人なの」
純「そっか」
純(…………どうやったら)
純(どうやったら、憂は私のことを見てくれるかな)
憂「ねぇ、純ちゃんは好きな人いるの?」
純「え? 私は――いるよ」
憂「へぇ? どんな人?」
憂のその問いに、若干戸惑った。
純(憂だよ)
純(とは言えないなぁ)
純「とーっても優しくてね。綺麗で、ぎゅーって抱きしめたくなるの」
憂「ふぅん」
純「結構昔から、知り合いなんだけどね」
憂「ずっと、気づいてもらえないんだ?」
純「うん」
純「鈍感なんだよね」
憂が大変だね、と言うと同時。
店員「お待たせしました」
二人の前に、レモンティーが置かれた。
純「久々に紅茶なんて飲むなぁ」
憂「家とかであまり飲まないの?」
純「うん。私はコーラとかの方が好きだし」
憂「え? じゃあコーラ頼めばよかったんじゃ?」
純「やだよー。憂が紅茶なのに、私がコーラって、なんか子供っぽさがにじみでるじゃん」
憂「そうかな?」
純「そうだよ」
憂は紅茶を飲む。
憂「美味しい。私、レモンティーが一番好きなんだ」
純「どして?」
憂「甘酸っぱさっていうの? それが体に染み渡るんだよね」
純「ふーん」
純は試しに飲んでみる。
すこし熱い。
純「うーん、よくわからないや」
憂「残念。でも、何回か飲んでるとわかるようになるよ」
純「じゃあ、今度から積極的に飲んでみよっと」
憂「なんか、他人と好きなものを共有できるってうれしいな」
純「え? そう?」
憂「うん」
純「そういうものかぁ」
純はふと、窓から外を眺める。12月の街の景色はどこかあわただしく見える。
純「もう、冬だね」
憂「うん。早いよね、来年は三年生だよ」
純「また、一緒のクラスになれるかな?」
憂「うん。きっと」
純「梓とも、一緒になりたいなー。同じ班で、修学旅行行くの」
憂「いいね! それ」
純「でしょ。あ、でもなー、受験生になっちゃうのか」
憂「……それに、お姉ちゃんも大学行っちゃうしなぁ」
純「唯先輩って、大学行ったら一人暮らしするの?」
憂「うん。本人はそう言ってるよ」
純「寂しい?」
憂「……すこし」
純「じゃあさ、唯先輩がいない間、私が憂の家に泊まりこんであげようか?」
憂「え、いいの?」
純「いいよ。憂のためだもの」
憂「ありがとう、うれしいよ」
純「それに、私もね」
憂「え、何?」
純「私も、憂のためなら命を投げ出したってかまわないんだ」
憂「――へ?」
純「なんでもない。忘れて」
憂「う、うん」
純「そろそろ、出よっか」
憂「え、うん。そうしよう」
純は領収書を手に取る。
純「じゃ、私がおごるよ」
憂「え? いいの?」
純「いいって。気にしないで」
それに、と純は続ける。
純「私が誘ったんだし」
憂「……ありがと、純ちゃん」
純はレモンティーを飲み干した。
甘酸っぱさを感じた。
街中!
憂「今何時?」
純「うーんと、5時かな」
憂「あ、お姉ちゃんのご飯作らないと」
純「そっかー、じゃあ、明日また学校でー」
憂「うん。ばいばい」
純「ばいばいー」
やがて憂の後姿が、群衆にまぎれて見えなくなる。
純(私も帰ろうかな)
純(あーあ、もう少し遊びたかったな)
純(…………いいなぁ、唯先輩。憂にあんなに、惚れられて)
純(私もいつか、あんなふうに……)
純の頬を撫でる木枯らしは、いやに冷たかった。
翌日、朝
学校
純「お早う、梓」
梓「お早うー純」
純「憂は?」
梓「まだ来てないみたい」
純「そっか」
梓「昨日憂と一緒に帰ったんだって?」
純「うん。憂から聞いたの?」
梓「そう。夜、憂からメール来たんだ」
梓「楽しかったって書いてたよ」
純「そっか」
純の顔が綻ぶ。
梓「ラブラブですなぁ」
冷やかすように、梓が茶々を入れる。
純「ま、まだそんなんじゃないし!」
梓「まだってことは、いつかは付き合いたいって思ってるのね」
純「うぐ」
梓「図星か」
純「ま、まぁね。憂とは中学校のころから一緒だったんだし」
純「……仲良くなって、それ以上の感情を抱くのも、当然だと思うけど」
梓「ふーん」
純「それに、あんな可愛い子に恋しないほうがおかしいわ」
梓「じゃあ、私はかなり異端ね」
純「え? 好きじゃないの?」
梓「もちろん。友達としか感じられないし」
純(私も、憂からは友達としか感じられてないんだろうな……)
純(…………はぁ)
憂「おはよー」
純「あ、憂。お早う」
梓「おはよう」
憂「うん。あ、梓ちゃん、昨日の宿題やってきた?」
梓「え、やってきたよ。憂やってないの?」
憂「ないの。だから写させて」
梓「いいけど……珍しいね、憂が忘れるなんて」
憂「忘れたって言うか……お姉ちゃんと一緒に映画見てたんだ」
梓「へぇ。なんていう映画?」
憂「ターミネーター」
純「あ、それ知ってる。かっこいいよね!」
憂「うーん、お姉ちゃんは好きだったみたいだけど、私はあまり……」
純「えー、そっかー」
憂「ごめんね」
純「いいよ別に。個人の感覚だし」
梓(趣味、完全に一致してないなぁ)
梓(なのに何で、ずっと仲良かったんだろ)
憂「梓ちゃん? あのー、宿題……」
梓「あ、ごめんごめん。待ってて」
梓はカバンから、宿題を取出す。
梓「はい、これ」
憂「ありがと、梓ちゃん」
梓「へへへ、いやー」
お昼休み
憂「私、トイレに行ってくるね」
純「いってらー」
憂は教室を出て行く。
梓「ねぇ、純」
純「なに?」
梓「何で憂と仲良くなったの?」
純「え? うーん……自然と、いつも一緒にいるようになったんだよなぁ」
梓「自然に?」
純「うん。最初は当たり前だけど、そんなに仲良くなかったんだ」
梓「へえ」
梓「何か意外だなぁ。憂と純って、ずっと仲よさそうだったから」
純「そう? それでね中一の文化祭でさ、一緒の係りになったんだよね」
梓「うん」
純「そのときに会話するようになってさ、それ以来仲良くなって……って感じ」
梓「ロマンティックな出会い、みたいのはなかったんだ?」
純「うん、そういうのは漫画だけだよ」
梓「かもね」
憂「ただいまー」
憂「何の話してたの?」
梓「憂とじゅnモガモガ 純「何でもないよ、さ、お昼ご飯食べよ」 梓「モガーモガー!」
憂「う、うん……何か聞いちゃいけないこと話してたんだね」
純「う、まぁそんなところ」
梓「モガー!」
純「あ、ごめんごめん」
梓「ぷふっ。いきなり口押さえないでよー」
純「無意識のうちに手が動いたのよ」
梓「もう」
純「いいから食べよ。お昼休み終わっちゃうよ」
放課後
純「一緒に帰らない? 憂」
憂「ごめん。お姉ちゃん、部活ないみたいでさ。早く帰らないと」
純「そっかー、残念」
憂「じゃあね」
純「うん」
純(じゃあ、梓と一緒に帰ろうかな)
梓「純、残念だったね」
純「へ?」
梓「一緒に帰りたかったんでしょ、憂と」
純「まぁ、ね」
梓「私が憂の代わりになってあげようか?」
純「うん、そうして。一人で帰るの、寂しいしね」
梓「正直だね、純は」
純「そ、そうかな?」
梓「うん。――すこし、羨ましい」
純「え?」
梓「私さ、誰に対しても素直になれないから。そうやって真っ直ぐな純を見てると、なんだか嫉妬しちゃうんだよね」
純「褒め言葉?」
梓「のつもりだよ」
純「ありがとう、とだけ言っておくよ」
梓「ま、いいや。帰ろう」
純「うん」
梓と純は学校を出た。
街中
梓「もうすぐ、クリスマスだね」
純「うん。もう一年終わっちゃうよ」
梓「中学生になったころからさ。年々、時間が経つのが早くなってる気がするよ」
純「わかる。御婆ちゃんになったころには、もっと早くなるんだろうね。一年なんて、あっという間に過ぎてさ」
梓「かもね」
純「ねえ、梓はどこの大学行くの?」
梓「音大のつもり」
純「へえ」
梓「純は?」
純「私は――N女かな」
梓「へえ。意外」
純「え? 何で?」
梓「純は、まだ未定とかいいそうだったから」
純「昨日までは未定だったんだけどね」
梓「今日決まったの?」
純「そんなところ」
梓「何でN女?」
純(憂と一緒がいいから!)
純(なんて言えないなぁ)
純「秘密」
梓「えー、教えてよー」
純「今度ね」
梓「うう、気になる」
純「まぁまぁ。あ、そうだ、あのゲーセンよってかない?」
梓「ゲーセンかぁ。あまり行ったことないなぁ」
純「もったいないなー。人生損するよ」
梓「楽しいの? ゲーセン」
純「結構」
梓「ふぅん。じゃあ、行ってみようかなぁ」
二人はゲーセンへ向かった。
三時間後
梓「お金使いすぎた……」
純「私も。もうすっからかんだよ、財布」
梓「でも、まぁ楽しかったからいいかな」
純「でしょ?」
純の手には、人形が二体。
梓「何千円もかけて、ゲットしたやつがその人形二体だけだと、何か損した気にならない?」
純「梓は一体じゃん」
梓「私のはキティだから、何か格が違うと思わない?」
純「どっちも同じようなものだと思うよ」
梓「そうかなぁ」
純「うん」
梓「でもさ、その人形どうするの? 純の家に人形が飾ってあるの、想像できないんだけど」
純「うーん。そうだね……」
梓「それ、なんて人形なの?」
純「『おちょなんたん』って人形だよ」
梓「おちょなんたん?」
純「名前は可愛いね」
梓「まあね」
純「でもなー。確かに、私の部屋楽器だらけで人形なんて置いてないからなー」
梓「あ、じゃあさ、憂にあげれば?」
純「あ、それいいかも!」
梓「でしょ!」
純(憂、喜んでくれるかな……)
純(何か、人形渡すだけなのに、今からどきどきしてる)
純は人形を、強く握った。
翌日
学校
純「憂、いる? この人形」
憂「いいの? うわー、可愛い」
純「うん、あげるよ」
憂「えへ、ありがとう。純ちゃん」
憂は笑みを見せる。
純「二つあるからさ、唯先輩にでも上げてよ」
憂「うん。そうするよ」
純(よかった、受け取ってもらえて)
梓「おはー、純」
純「お早う、梓」
梓「お、憂。人形もらったんだ」
憂「え? うん」
梓「その人形ね、純が憂のために、ゲーセンで何千円もはたいてとったんだよ」
純「な、何言ってるの! 梓」
と、梓は純の耳元に口を寄せた。
梓「いいじゃん、こういった方が憂も喜ぶよ」ヒソヒソ
純「そ、そうかもしれないけど」
憂「本当なの?」
純「う、うん。昨日の帰り、暇だったからゲーセン寄ってね」
嘘をついた。
憂「ふぅん、何だか悪いなぁ」
純「き、気にしないでよ。私の、えーと、あ、気まぐれだしさ」
憂「気まぐれ?」
梓(アドリブ下手だなぁ)
純「それに、憂にプレゼントしようと思ったんだよ。ほら、早めのクリスマスプレゼント? ってやつ」
憂「へぇ。じゃあ、私も今度なんかプレゼントするね」
純「え? 本当?」
憂「うん。もらいっぱなしじゃ悪いからね」
純「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
純(プレゼントかぁ、なんだろう)
梓「よかったねー、純」
純「ま、まぁね」
今から、プレゼントがどんなものか、気になっていた。
****************************************
翌日
純(憂のプレゼントかぁ)
翌々日
純(プレゼント……キスとかかな)
純(きっと、クリスマスプレゼントとして渡してくるんだろうなぁ)
翌々翌日
純(まだかなぁ、クリスマスプレゼント……)
翌々翌々日
純(クリスマスイヴと終業式って同じだからなぁ。そのときもらえるんだろうなぁ)
翌々翌々翌日
純(その日まで、もう少しだなぁ)
純(楽しみすぎて、今からわくわくしてるし)
そして――クリスマス・イヴ当日。
****************************************
12月24日 ……終業式当日
憂「明日から冬休みだねー」
純「うん。心置きなく羽を伸ばせる」
梓「でもさ、クリスマスイヴに学校って、ひどくない?」
純「ま、いいじゃん。正月に学校とかよりはましだよ」
梓「それはそうだけど……」
憂「クリスマスに、こうやって皆で顔を合わせられるんだよ! 何かうれしくない?」
梓「まぁ、確かにね」
純(プレゼント、いつくれるのかな?)
純「ねぇ、憂。クリスマスって何か用事あるの?」
憂「え? 今年はお姉ちゃん達、紬さんの家でクリスマスパーティするからね」
憂「私は特にないよ」
梓「私もそこに行くんだー」
純「ああ、軽音部だからね」
梓「そう!」
純(いいなぁ、軽音部)
憂「そうだ、純ちゃん」
純「何?」
憂「今日、私の家に来ない?」
純「え?」
憂「私一人っての、ちょっと寂しいからさ」
憂「あ、もしかして、用事あった?」
純「う、うぅん! ないない!」
憂「じゃあ、一緒にクリスマスパーティしない?」
純「私でいいの?」
憂「うん」
憂「大歓迎だよ」
純「……ありがと、行かせてもらうよ」
憂「じゃあ、今日の6:00からね」
純「了解。それまでに憂の家行けばいいのね」
憂「うん」
純「OK」
純(よし! 二人だけでクリスマスを迎えるなんて、ロマンティック!)
純(私、最高に幸せ!)
純は小さく、ガッツポーズをした。
同日 PM 5:30
純「こんばんわー」
憂「あ、純ちゃん。早いね」
純「えへへ。楽しみでね」
憂「ま、いいや。入ってー」
純「うん。お邪魔しまーす」
純は憂のあとを追って、リビングに入る。
純「綺麗だね、部屋」
憂「そうかな?」
純「そうだよ。うちよりずっと綺麗」
憂「毎日掃除してるから、かな」
純「へー、だからか……」
純「あ、美味しそうな匂い」
憂「ケーキやいてるんだ」
純「え! 作れるんだ!」
憂「うん。作れるよ。三人分だから、ちょっと大きいけどね」
純「大きくてもいいよ。憂の作ったものなら、何でも食べれちゃう」
憂「そう言ってもらえるとうれしいよ」
数十分後
憂「お待たせー」
そう言いながら憂が運んできたのは、すこし小さめのホールケーキだった。
純「お、美味しそう!」
憂「ちょっと手間取っちゃった」
純「ううん。充分だよ」
純「食べていい?」
憂「うん。どうぞ」
純「いただきまーす!」
憂「あ、ごめん。切り分けるね」
純「あ、うん」
憂はナイフを持ってきて、ケーキを切り分ける。切り取ったそれを、皿に乗せていく。
憂「はい、どうぞ」
皿に乗せられたホールケーキの半分が、純の前に出される。
純「では改めて、いただきまーす」
憂「召し上がれ」
パクパク 純「んー! 甘くて美味しい!」 パクパク
憂「そう? ありがとう」
純「すごいねー、憂って。こんなのも作れちゃうんだから」
憂「お姉ちゃんのために作ってたら、得意になったんだ」
純「ふぅん」ムグムグ
純(いいなぁ、こんな美味しいもの食べられるなんて)
純(唯先輩、超羨ましいよ)
憂「じゃ、私も食べよ」
モグモグ モグモグ
憂「うーん、ちょっと砂糖入れすぎちゃったかな」
純「えー? このくらいが丁度いいよ」
憂「そうかな?」
純「うん。そうだよ」
純「私もこんな風に、料理うまくなりたいなー」
憂「料理、作ってあげたいんだ?」
純「うん」
憂「やっぱ、その……いつか言ってた、好きな人に?」
純「……うん」
憂「頑張ってね、応援してるよ」
純「ありがと」
純はすこし、悲しくなった。
純「そうだ! この前憂、レモンティー好きって言ってたでしょ?」
憂「うん」
純「紅茶、うまく淹れれるように頑張ったんだ。飲んでみて欲しいな」
憂「え! 飲ませて!」
純「うん、淹れてくるね。あ、ケーキ美味しかったよ」
憂「あ、うん。ありがとう」
純「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ」
純はキッチンに向かう。
数分して、純がレモンティーの入ったカップを二つ、持ってきた。
憂「香りがいいねー」
純「えへへ」
憂「飲んでみていい?」
純「もちろん! あ、熱いから気をつけてね」
憂「私、猫舌じゃないから平気なんだ」
こくこく、とレモンティーを飲む。
憂「美味しい。すごいね、たった数日で、ここまで美味しく淹れられるなんて」
純「頑張ったんだ」
憂「純ちゃん、絶対いいお嫁さんになれるよ」
純「紅茶と関係がないと思うけど」
純は照れを隠すように鼻を掻いた。
純「そう言われると、何かうれしいな」
憂「あ、そうだ。今日渡せるように頑張って作ったんだ」
憂はそういいながら、自室へ向かった。
純(作った……つまり、手作り!)
純(手作りって、なんだろ……何でもいいけど、楽しみだなぁ)
憂がやってくる。
憂「はい。クリスマスプレゼント」
純「――マフラー?」
憂「うん」
純「あれ? これ長くない?」
憂「二人用のマフラーなんだ」
憂「好きな人と一緒に使って欲しいなって」
純「……そっか」
純「ねぇ、これ首に巻いて、二人で外散歩しない?」
憂「え? でも……」
純「初めては憂とがいいな」
憂「うーん、わかったよ」
憂「……私でよければ」
純「よかった。断られたらどうしようかと」
憂「そんなこと、しないよ」
純「あ、そうそう、言い忘れてた」
憂「? 何?」
純「プレゼントありがとう、憂」
憂「…………えへへ」
憂は嬉しそうに笑った。
それを見て純も笑った。
外
夜空は星空、そして半月が浮かんでいた。
やわらかな光を身に浴びて、同じマフラーを共有した二人は外を歩く。
純「綺麗だね、空」
空気はきん、と冷えている。けれど憂といるから、気にならなかった。
憂「うん。綺麗」
純「今年も終わっちゃうね」
憂「すこし寂しいなー」
純「うん。私も」
憂「ねぇ、この前聞きそびれたんだけどさ」
純「ん?」
憂「純ちゃん、大学どこ行くの?」
純「私は――」
憂「うん」
純「私は……N女だよ」
憂「私と一緒かぁ」
純「うん。お互い頑張ろうね」
憂「でも、何でN女?」
純「それは」
一瞬、言葉に詰まった。
純「……憂と一緒がいいからだよ」
憂「え?」
もう後には退けない。言ってしまえ。
純「憂とずっと、一緒にいたいんだ。私」
憂「……そ、それは、告白みたいな?」
純「告白とかじゃなくてね。私は単に、憂と一緒にいたいんだ」
憂「そう、なんだ」
純「うん。…………もちろん、親友としてね」
純(それでいい。まだ、親友のままでいい)
純(とにかく、憂と一緒にいよう。まだ、恋人にならなくてもかまわない)
純(恋人になりたいけど、今は、親友でいい)
純(まだ、時間はあるんだし)
純(いつか、必ず、私に振り向かせてやるんだから!)
そのために――――…………
純「ねぇ、手繋がない?」
ちょっとばかし深呼吸して、純は言った。
言っただけなのに、とても心臓がばくばくと鼓動する。
純(思ったより、恥ずかしいなぁ。手繋ごうって言うの)
憂「え?」
純「いや、ちょっと寒くなってきたじゃん」
純(うまい理由言えて良かった……)
憂「ああ、確かに……」
純「ね?」
純は憂の手を握る。
冬の寒さすら忘れてしまいそうなほど、暖かい。
憂「純ちゃん、すこし手冷たいね」
純「え? そう?」
憂「手の冷たい人は心が暖かいんだって。お姉ちゃんが言ってた」
純「ふぅん」
憂「純ちゃんが優しいのは、心が暖かいからかな」
純「……だったらいいな」
憂と二人。
繋いでいる手の暖かさを感じながら、純は空を仰ぎ見る。
純「あ……流れ星」
憂「え? どこ?」
純「もう消えちゃったよ」
憂「えー。でも、この時期に流れ星って、何だか珍しいね」
純「そうかな?」
憂「うん。流れ星って、夏のイメージなんだよね」
純「ふぅん」
憂「今何時かわかる?」
純「ごめん、わかんないや」
憂「そっか」
純は空を見つめ続ける。
すると、また流れ星を見つけた。
純(ずっと憂と一緒に入れますように、憂といっしょn……あぅ、消えちゃった)
憂「どうしたの? 純ちゃん?」
純「あ、ううん。ちょっと流れ星にお願いしてたの」
憂「なんてお願い?」
純「それは――――」
純「憂と一緒にいられますようにって」
憂「……大丈夫だよ」
純「え?」
憂「私たちは、ずっと一緒にいられるよ」
純「何で?」
憂「もう、親友でしょ?」
純「――うん」
純(もう、親友かぁ)
純(私にしたら、『まだ』親友なんだよなぁ)
純(いつか絶対、私に惚れさせてやる!)
純はまた、空に目を向けた。
憂の手を、すこし強く握った。
終わり
番外編 お正月
神社
梓「あけましておめでとう、純」
純「梓。久しぶり」
梓「うん。久しぶり」
純「誰と来たの?」
梓「一人。純は?」
純「私も一人」
梓「じゃあ、一緒におみくじとか引かない?」
純「うん。いいよ」
梓と純はおみくじ売り場へと向かった。
おみくじ売り場
梓「やったぁ! 私大吉!」
純「私も。ていうか、こういうところって、みんな大吉しかないんじゃないの?」
梓「まさか。私は去年、平だったよ」
純「ふーん」
純(平なんてあるのかな?)
梓「私は……恋愛成就だって」
純「あ、私は学業」
梓「へえ! 受験生になるんだから幸先がいいね」
純「まぁ、確かに」
梓「あ、絵馬あるね。書いてこうか」
純「うん」
絵馬売り場
梓「純ー、なんて書くの?」
純「うーん、なんて書こうかな……」
梓「あ、憂と一緒に……的なこと書いたら?」
純「えー、憂に見られたら恥ずかしいよ」
梓「じゃあ、大学現役合格、とか?」
純「うーん、来年でいいよなー、そういうの」
純「梓は何て書いたの?」
梓「軽音部に新入生が来ますように、だよ」
純「ああ、梓はそうだもんね」
純「じゃあ、私は――――」
純は絵馬に文字を書く。
梓「何て書いたの?」
純「何だと思う?」
梓「ジャズ研のこと?」
純「ううん」
梓「えー。じゃあ何?」
純「えっと、それはね――」
純「『三年生になっても、憂や梓と一緒のクラスになれますように』、だよ」
終わり
おしまい。