朝倉「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見…」
キョン「それでいいのか?」
朝倉「……? ええ、いいのよ。何か問題がある?」
キョン「俺を殺して、ハルヒの反応を見て、それでお前は面白くなるのか?」
朝倉「少なくとも今よりは面白くなるでしょう。言ったでしょう。
何の変化もないものを観察し続けるのはつまらないのよ」
キョン「『観察し続けるだけ』なのは変わらないよな」
朝倉「……何が言いたいの」
キョン「朝倉。俺と付き合え」
元スレ
キョンが朝倉涼子と付き合い始めたようです
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1230783204/
朝倉「……………はぁ?」
キョン「聞こえなかったか? 俺と付き合え」
朝倉「意味が分からないわ。何? この場面で告白?
いくら生き残りたいからって錯乱しすぎじゃないかしら。
第一あなたあたしのアプローチへの反応悪かったじゃない。残念だけど…」
キョン「お前、クラスで騒いでたり友達と話してても面白くないんだろ」
朝倉「……当たり前でしょ。そもそもここにいること自体、涼宮ハルヒを観察するために潜入してるだけだもの。
あんなのくだらなすぎてやってられないわ」
キョン「それで、その観察っていう目的も大して面白くもないと」
朝倉「だからあなたを殺すんじゃない。少しは面白くなるわ」
キョン「少しは、な」
朝倉「……………ああもう何が言いたいのよ!
分かってるわよ涼宮ハルヒがおかしくなってどんな影響が出たところであたしはそんなに面白くないわよ!!
あたしはずっと見てるだけなんだから!!!」
キョン「だろ?」
朝倉「だ、か、ら!! あなたは何が言いたいのよ!!!」
キョン「うお!? なんかむかついたからって殺そうとするな! 俺の言いたいことが聞けないぞ!」
朝倉「うるさいのよ! 言いたいことがあるならはっきりさっさと言いなさいよ!!」
キョン「分かった。分かったからナイフを振り回すのはやめろ」
朝倉「……………」
キョン「……だからさ、観察以外に面白いこと見つければいいんじゃないのか、って話だよ」
朝倉「……面白いこと、ですって?」
キョン「どうせお前、人間のやることなんてくだらないとか馬鹿らしいとか思って、
そういう『他のこと』に興味ないんだろ。人間の振りするのに必要なだけやる、って感じで」
朝倉「そうよ。本当にくだらないんだもの。一体何が面白いのか分からないわ」
キョン「それはお前が演技のためだって割り切ってるからじゃないのか?」
朝倉「さあ。あんなくだらないものに、興味なんて持てないわ」
キョン「興味を持てるものがあったら、面白そうだと思わないか?」
朝倉「……ないわね。全部つまらない。興味を持てるものなんかないわ」
キョン「お前は地球の全部を見でもしたのか。
全ての人間を知ってるのか。全ての遊びを知ってるのか。全ての経験をしたのか」
朝倉「……………」
キョン「してないだろ」
朝倉「……それで、あたしに『他の面白いことを見つけろ』って?
嫌よ。興味ないもの。面倒だわ」
キョン「つまらないのは嫌なんじゃないのか」
朝倉「……………」
キョン「嫌なんだろ」
朝倉「………だからってあなたと付き合う理由にはならないわね」
キョン「お前、自分が宇宙人……その、なんとかインターフェイスだって知ってる人間と話したりしたことあるのか」
朝倉「……長門さん………は違うわねぇ…………反応冷たいし………」
キョン「だからさ、俺が
ドゴォォォン!!!!!!!!
げふぅ!!!!!
長門「一つ一つのプログラムが甘い。天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。
だからあたしに気づかれる。侵入を許す…………彼はどこ」
朝倉「あなたの踏んでる瓦礫の下」
キョン「ぐ………痛かった………」
長門「申し訳ない」
キョン「いや、ケガはないからいいって」
長門「そう………」
長門「……朝倉涼子。あなたはわたしのバックアップのはず。独断専行は許可されていない。
………彼に何をするつもりだったの」
朝倉「……そう、ねぇ……」
長門「………独断専行、敵性とみなす」
キョン「長門、ちょっと待ってくれ」
長門「……?」
キョン「朝倉。それでお前の答えはどうなんだ」
朝倉「……長門さんも出て来ちゃったし、面倒になってきたわね。
勝てないとは思わないけど……」
長門「……………」
朝倉「……いいわ。乗ってあげる。どうせ面白くならないと思うけど」
キョン「そうか」
朝倉「でも、条件があるわ」
キョン「なんだ?」
朝倉「付き合うっていうなら隠さないで堂々とね。
涼宮ハルヒの反応を見て情報を観測する、あたしの仕事にも付き合ってよ」
キョン「わかった」
朝倉「じゃあ、ええと、こういうときはなんて言うのかしら…………そうね。
……『あたしなんかで良かったら』。………ふふふ」
長門「状況が把握できない。説明を求める」
朝の教室。
朝倉「キョンくんおはようっ!」
教室(ざわっ・・・・)
谷口「なっ…!? 朝倉さんがキョンの腕に豊かな母性を押し当てただと……!?」
国木田「腕に抱きついたって表現にしときなよ」
キョン「ああ。お前そうしてると本当にさわやかな普通の女子高生だな」
朝倉「もうっなによそれ。可愛い彼女がせっかくちゃんと恋人らしく振る舞ってあげたのにそんな反応?」
教室(ざわっ………!!)
谷口「な、な、なっ……!?」
国木田「へぇ」
キョン「恋人らしくはいいがな。昨日までの朝倉涼子のキャラと誤差が出てるだろ。
楚々とした優等生は演技でしたー、って言ってるようなもんだ」
朝倉「いいじゃない。あなたと付き合うっていう時点で誤差出まくりよ。
もう……あなたのせいでおかしくなったのよ……?」
教室(ガタン!ガシャ!ゴトト!)
谷口「ががががっがsがが!! くそ!!! キョンの野郎一体朝倉さんに何しやがったあ!?」
国木田「あれ、教室から出てく男子が何人か……トイレ?」
キョン「ええい離せ朝倉。教科書が出せん」
朝倉「もう……付き合えって言っておきながらなによその反応。
あなたも恋人らしく振る舞いなさいよ」
キョン「付き合うってことは本来の性格を変えるってことじゃないだろ。
俺はそういうことする性格じゃない。
………分かってるか? 恋人になるっていうのは『恋人の演技をする』ってことじゃないぞ」
朝倉「あら……そうね。ずっと演技し続けてたから変な癖ついちゃったかも」
キョン「そういうわけだ。離せ」
朝倉「いやよ」
キョン「なんでだ」
朝倉「あたしこういうことする性格だもの」
キョン「………人の嫌がることを楽しむな」
谷口「なんかひそひそいちゃつきやがって! ちくしょうキョンうらやましいじゃねえか!!」
国木田「でもキョンって変な子好きだからなぁ……朝倉さんも実は普通じゃないのかな」
ガラッ
国木田「あ。」
谷口「お。」
教室『あ・・・』
ハルヒ「………え、何よ」
朝倉「おはよう涼宮さん」
キョン「よう」
ハルヒ「…………………………………………………え?」
放課後。文芸部。
キョン「よう長門………ん? お前もいたか古泉。なんか今日は早いな」
古泉「どうも。……そうですね、実はあなたにお聞きしたいことがあったのですが……」
朝倉「こんにちわ長門さん! ふふふ」
キョン「そろそろ腕を離せ。歩きづらい」
古泉「聞くまでもなかったようです」
長門「…………………」
朝倉「ふふふ……その様子だと結構大きな反応があったみたいね、小泉くん」
キョン「反応? ………ああ、ハルヒか」
古泉「大変でしたよ。朝から巨大な閉鎖空間がいくつも発生しまして、我々は右往左往です。
結局今日の授業は一つも受けられませんでした。
閉鎖空間への対処に追われてこの事態の原因を探ることもできなかったので、
あなたや長門さんに話を聞こうと思って任務の合間を見てここに来たのですが……」
キョンと指を絡ませようとして振り払われている朝倉に目をやる。
古泉「今、原因そのものはわかりましたよ」
キョン「こいつか」
古泉「というよりあなたですよ。………話を聞かせてもらえますか。一体何がどうなっているんです」
キョン「何がどうなってと言われてもな。見ての通りだ」
朝倉「うふふ」
古泉「……確かに見て分かりますが、そうではありません。
どういう経緯でそうなったのかを教えていただきたいんです。
……我々が把握しているあなたの性向からみて、この状況は正直突拍子もないとしか言えません」
キョン「お前らがどんな風に人の性格を把握してるのかは知らんが、俺が何をどうするかは俺の勝手じゃないのか」
古泉「もちろんあなたの行動はあなたの自由です。我々はただ、何があってそうなったのかを知りたいんです。
我々の情報が、予測が、何に起因して破綻したのか。
我々はそれを知る必要があるんです」
キョン「お前のうさんくさい組織だか機関だかのことなんざ俺は興味ないね」
古泉「困りましたね。我々を信用してもらえないのは仕方ないかもしれませんが……」
長門「古泉一樹」
古泉「え、はい?」
長門「あなたの機関の予測が外れたのは、彼女が原因」
古泉「朝倉さん……ですか」
長門「朝倉涼子は本来わたしのバックアップ。わたしの許可なく涼宮ハルヒの周囲に干渉するのは禁じられている。
それが暴走し彼になんらかの干渉を行ったことで、現在の状況が発生した」
古泉「暴走、ですか」
長門「そう。わたしたちの役割を逸脱した、暴走行為」
朝倉「あら、あたしはあたしの主の意思に従っただけよ。情報統合思念体の意思だわ」
長門「仮にあなたの主があなたに命令したとしても、あなたにそれを実行する権限はない」
朝倉「そうかしら。それにあたしが暴走したのが原因だっていうなら、
あたしを監督しておかなきゃいけないあなたの不手際じゃないの?」
長門「その理屈は論点がずれている」
古泉「……彼女たちは仲が悪いんでしょうか」
キョン「まあ、見ての通りじゃないか?」
古泉「まあ、彼女たちのことは今は置いておきましょう。
とりあえずあなたと彼女のことについて……」
ガチャ
ハルヒ「……」
朝倉「あ、」
ガチャ
朝倉「いっちゃった」
ピリリ ピリリ
キョン「仕事みたいだぞ」
古泉「……また後で、話を聞かせていただけるとありがたいです。では」
朝比奈「すいませんっ!ちょっと先生のお手伝いしてたら遅くなって………!
…………あれ?キョン君と長門さんだけですか………あれ、あ、お客さんですか?」
朝倉「お邪魔してます、朝比奈先輩」
朝比奈「どうも……あれ、えっと……(誰だっけ)?あ、今お茶入れますね」
朝倉「あ、いいですよそんな」
朝比奈「いえ、みんなの分淹れますから大丈夫ですよ」
朝倉「あら、じゃあお言葉に甘えて……」
朝倉(この人事態把握してないのね)
長門(……………)
朝比奈「えっと……涼宮さんと古泉くんは今日はいないんですか?
あ、もしかしてこちらの……えっと」
朝倉「朝倉涼子ですっ! よろしくお願いします! ふふっ」
朝比奈「あっ、こちらこそよろしくお願いします!
…朝倉さんの関係でお出かけですか? えっと、依頼とか」
朝倉「いえ、朝比奈さん。あたしはお客とかじゃないです」
朝比奈「はい?そうなんですか?」
朝倉「キョン君の彼女です」
朝比奈「はい?…………………はい!?」
文芸部室から出て。
朝倉「うふふふふ。みんな忙しそうね。小泉くんは戻ってこないし朝比奈さんはわたわたしながら出て行っちゃうし。
涼宮さんは何してるんだろ」
キョン「お前にとりあえずSOS団にでも入ってもらおうかと思ったんだが、無理っぽいな」
朝倉「あははっ、さすがにそれは無理でしょう」
キョン「やっぱりか」
朝倉「なに? あたしに教えてくれる面白いことって、SOS団のことだったの?
ちょっと幻滅かな?」
キョン「面白ければ拾いもの、ぐらいの気持ちだったさ。面白いもの探しはこれからだ」
朝倉「ふぅん。じゃあこれからどうするの?」
キョン「明日とあさってが休みだろ。とりあえず遊ぶ。いいな?」
翌日。
朝倉「キョン君お待たせ。待った?」
キョン「いや」
朝倉「くすくすくす……」
キョン「なんだ」
朝倉「ふふ……まさにデートだなぁって」
キョン「事実デートだしな」
朝倉「あ、認めてくれるんだ」
キョン「じゃ、行くぞ」
朝倉「あっ、ちょっと待ってよっ。もう、意外と強引なんだから……」
動物園。
朝倉「デートの定番ね」
キョン「来たことあるか?」
朝倉「小学校のときに……って普通の人間は言うんだろうけど、あたしはないわね」
朝倉「あら、動物園ってさすがね」
キョン「なんだ?」
朝倉「ほら、こんなにサルがいっぱい」
キョン「どこだ」
朝倉「いるじゃない、こんなにうじゃうじゃ」
キョン「それはホモサピエンスだ」
キョン「これがサルだぞ」
朝倉「あんまり変わらないわ」
キョン「おいおい、じゃあこのサルの群れの中に潜入してもそう言えるか」
朝倉「うーん、やっぱりそんなに変わらないと思うわ」
キョン「お前もサルと同じ言葉をしゃべるわけだが」
朝倉「ごめんそれ無理」
朝倉「ゾウってなんでこんなに鼻長いのかしら」
キョン「知らん。お前そういうの知らないのか?長門はそういう進化とか生物とかなんでも知ってそうだが」
朝倉「長門さんと一緒にしないでよ。あの子がなんでも知ってるのはあの子がそういう子だからよ。
あたしは涼宮さんを観察するうえで必要な程度の知識しかないわ」
キョン「お前らにも個性があるんだな」
朝倉「あたしたちっていうかあたしたちの創造主の意思ね。
あたしたちは主に似るから。
キリンってなんでこんなに首長いのかしら」
キョン「知らん」
朝倉「キョン君のスケベー」
「キョンクンノスケベー」
朝倉「キョン君の変態ー」
「キョンクンノヘンタイー」
朝倉「キョン君の色ボケー」
「キョンクンノイロボケー」
キョン「お前は何がしたいんだ」
オウム「キョンクンノイロボケー スケベー ヘンタイー トウヘンボクー」
キョン「絞めるぞトリ公」
朝倉「あはははっ」
キョン「知ってるか?ワニは口を開く力が弱いから、口を押さえるとなにもできなくなるらしい」
朝倉「へえ、やってみて」
キョン「だが断る」
朝倉「なんでよ。それが本当ならワニなんて怖くないじゃない」
キョン「それ以前に近付くのが怖いだろ」
朝倉「じゃあその知識役に立たないじゃない」
キョン「こんなもんが役に立つ人生は送りたくないね」
水族館。
朝倉「このガラス割ったらどうなるのかしら」
キョン「やめろ」
朝倉「思うんだけど」
キョン「なんだ?」
朝倉「動物なんて見て何が楽しいのかしら。
特に水槽の中の生き物なんて絵と一緒よね。
触れないしこっちの動きに反応しないし」
キョン「さあな。絵が綺麗だとか感じるのと一緒で、
生きてる動物を見て楽しいって感じるとかじゃないか」
朝倉「分からないわ」
キョン「俺もわからん」
朝倉「じゃあなんで連れてきたのよっ」
キョン「お前が何が楽しいかなんて分からないしな。
とりあえずデートの定番を押さえてみた」
朝倉「まずは形からって?」
キョン「ああ。
じゃあ次いくか」
朝倉「……それで、次はここ?」
キョン「ああ」
美術館。
朝倉「てっきり次は遊園地だと思ってたわ」
キョン「さっき絵の話題が出たからな」
朝倉「面白さが分からないって言ったと思うんだけど」
キョン「まあ一応な」
キョン「正直何がどう違うか分からない」
朝倉「あなたエスコート下手よね」
ゲーセン。
朝倉「……ふぅ」
キョン「ワンコインノーミスクリアだと……!?」
朝倉「あたしたちの情報処理能力はデジタルのゲームと相性がいいもの。
といっても、あたしは今制限受けてるから長門さんほどじゃないけど」
キョン「制限?」
朝倉「あの『現場の判断』を長門さんが情報統合思念体に報告したから、
独断専行って怒られちゃった。
情報制御にも制限掛けられちゃったし、
今のあたしは人よりちょっと情報処理能力と身体能力が高いくらいなのよ」
朝倉「ほらほら、そんなのはどうでもいいじゃない。
デートといったらあれでしょ」
キョン「……UFOキャッチャーはあまり得意じゃないんだがな」
朝倉「頑張ることに意味があるのよ。
ほらほら、あたしあの青タヌキがほしいなー」
キョン「あれは猫らしいぞ」
キョン「よっ……っと」
ウィーン…グッ スルッ ボトッ
朝倉「あーん残念」
キョン「もう一回……」
ウィーン… スカッ
朝倉「全然だめじゃないのっ」
キョン「ちくしょっ!」
ウィーン… スカッ
ウィーン…グッ ズルッ
ウィーン…グッ スルッ ボトッ
ウィーン…グッ…… スルッ ボトッ
朝倉「もうちょっとっ」
キョン「くそ、取れないな」
ウィーン… グイッ…
朝倉「でも少しずつ運べる距離は伸びてるわ。
次の次あたりで取れそう……あら」
グイーン………
朝倉「あっ、もうちゃんと運べて……」
ズッ…
朝倉「ああちょっとずれてる落ちそうよ!
ちょっとちゃんと掴みなさいよ落ちるわよ!」
キョン「いや俺にはもうどうしようも」
ウィー……ン
朝倉「あとちょっとあとちょっとああ落ちるぅ」
ズッ…
朝倉「あっ!」
ボトッ ガシャン!
朝倉「取れた!取れたわキョン君!」
キョン「よし!」
青タヌキを抱きしめる朝倉。
朝倉「ふふ。ふふふ」
キョン「なんだ、それ好きなのか。青タヌキ」
朝倉「ううん、全然。これが何かも知らないわ」
キョン「っておい」
朝倉「ふふ。まあいいじゃない。せっかくとってもらったし、全然興味ないけど大切にするわ」
キョン「……意外だな」
朝倉「え? 何が?」
キョン「人にもらったものとか関係無しにいらないものは躊躇わずゴミ扱いするイメージがあったんだが」
朝倉「ちょっと。人をどういう目で見てるのよ。
……まあ、確かにそうだけど」
キョン「やっぱりか。
じゃあなんで大切にするんだ」
朝倉「……ほら、恋人になったんだし、
そういう雰囲気?みたいなものも大切にしないとかなーって
演技の一環?みたいな」
キョン「嘘だろ。眉毛が動いてる」
朝倉「えっ!?」
キョン「嘘だがな」
朝倉「ちょ…っもう!!」
キョン「しかしその慌てようだと、やっぱり嘘だったんだろ?
第一俺は演技をするなと言ったはずだぞ」
朝倉「う………不覚だわ」
キョン「で? 実際の理由はなんなんだ?
お前が人にもらったものを大切にするなんて、真夏に雪が降るぐらいの異常事態な気がするが」
朝倉「もう、うるさいわね。いいじゃないのそんなの。
ほら、もう遅い時間よ。子供は帰って寝る寝る」
キョン「三歳児のお前が言うな……ってちょっと待て、人の話をだな」
朝倉「うるさいって言ってるの。あたしは帰るから。じゃあね」
キョン「ったく。わかった送ってく」
朝倉「いいわよ。一人で帰れるし、それに」
キョン「ん?」
朝倉「送り狼怖いし」
キョン「お前な」
朝倉「あははっ! こわーい!」
キョン「ったく………明日も大丈夫か?」
朝倉「ええ、遊んであげる。暇つぶしぐらいにはなるからね」
キョン「そんなレベルか」
朝倉「そんなものよ。……じゃあね、おやすみなさい」
キョン「ああ、また明日な」
朝倉「うん、また明日」
帰り道。
朝倉「なっさけないわねほんと。こういうときは無理にでもついて来て
据え膳食わぬは~って勢いでいくものじゃないのかしら」
朝倉「それにしても遊んだわね。こんなに色々やった休日なんて初めてね」
朝倉「うん。いろいろやっただけで面白かったか、っていうとよく分からないけど。
……思い返してみると、別に面白くないわね」
朝倉「………面白くないのよね。
本当、面白くない」
朝倉「つまんない。くだらないことばっかで、全然つまんない」
朝倉「なんていうか、どうでもいいのよね。あたしとは全然関係ないものしかなくて」
朝倉「………本当、つまんない」
朝倉「………………」
青タヌキを、抱きしめる。
朝倉「………『それでいいのか』、ね………」
朝倉「…………全然よくないわよ」
朝倉「面白くない。つまんない。どうでもいい」
朝倉「……ずっとこんなのばっかりで、いいわけないじゃない」
朝倉「………………」
(お前が人にもらったものを大切にするなんて、真夏に雪が降るぐらいの異常事態な気がするが)
朝倉「うるさい」
朝倉「………………」
朝倉「………それはそうよ。異常事態だもの。あたしはそんなことするキャラじゃないわ」
朝倉「……でも。ううん、だから」
朝倉「あたしがそういう、これまでのあたしじゃないことをしたら。
演技とかじゃなくて、そう、『新しいこと』をしたら」
朝倉「………もしかしたら……」
『ふふふ……いい傾向ですね』
『しかも、二日目でこれほどとは、やはり彼にはある種の他人に干渉する性質があるようです』
『ふふふふ………これからが楽しみです』
翌日。
キョン「さむ……」
キョン「………昨日より遅いな」
キョン「……まあ、約束の時間まではまだあるわけだが……」
朝倉「おはよう、キョン君」
キョン「お、来たか。よう……って」
朝倉「うん……ついてきちゃった」
長門「…………」
時間は少し遡る。
朝倉の住むマンション。
朝倉「さてと。時間は大丈夫よね。忘れ物はないし……うわ、寒い。
もう夏も近いのに……。上着上着。あ、でもお昼には暑くなるかな……
うーん、身体まで普通の人間に近付くと不便ねぇ」
長門「朝倉涼子」
朝倉「あら、長門さん。いきなり背後から声を掛けないでよ。びっくりするじゃない」
長門「あなたはその程度で動揺するような精神構造ではないはず」
朝倉「褒められてるのかけなされてるのか分からないわね」
朝倉「それで、何? あたしはこれから彼とデートなんだけど」
長門「あなたに聞きたいことがある」
朝倉「何かしら。彼とどこまでいったか?ええそんな!そんなの涼子恥ずかしくて言えない!」
長門「彼についてのこと」
朝倉「全力で無視しないでよ寂しいじゃないの」
長門「彼は、どこかおかしい様子はなかった?」
朝倉「どこまでも無視する気ね………まあいいけど。
キョン君がおかしい? うん、かなり変よね。
涼宮ハルヒに関わってることもそうだし、あたしにいきなり告白したりするし、
相当な変人なのは間違いないわ」
長門「そうではない。彼が以前と比べて奇妙な点や、差異のある様子がないかということ」
朝倉「以前と比べて、ねえ。
さあ。あたし彼のことよく知らないし。
どっちかっていうとあなたのほうが『以前の彼』に詳しいぐらいじゃない?」
長門「………わたしも詳しくは把握していない」
朝倉「どうしたのよ、情報統合思念体になにかあったの?
必要ならあたしにアクセス権限戻してほしいんだけど」
長門「そうではない」
長門「…………わたしも彼に会う」
朝倉「え?」
そして現在。
朝倉「……って感じで」
キョン「聞いても状況が掴めん」
朝倉「うふふ。この子もキョン君と遊びたかったのよ。
でも素直じゃないから何か理由を付けたいけど、
いい理由が思い浮かばなくてこんな感じになっちゃったの」
キョン「……そうなのか」
長門「…………違う」
朝倉「間が長いわよ? 長門さん」
長門「違う」
朝倉「うふふ」
長門「わたしは」
ハルヒ「あーーーーーー!!!!!!」
ハルヒ「ちょっとキョン朝倉さんだけじゃなくて有希まではべらせるなんていい身分じゃない
二股!?二股なの!?サイテーねあんた!!」
キョン「違うわ」
朝比奈「おはようございます、キョン君。長門さんに……朝倉さんも」
キョン「って、朝比奈さんも? こんな朝っぱらからハルヒと何してるんですか」
ハルヒ「私たちは買い物よ。みくるちゃんがお茶の葉っぱ買うのに付き合ってほしいって誘ってくれたの。
で?あんたは何?朝倉さんに飽き足らず有希まで連れ出して。
あんたが誰と付き合うかなんて、その、あんたの、勝手だけど!
有希まで巻き込んだら承知しないわ!!」
キョン「だから違うって……」
長門「…………」
ハルヒ「 (ぎゃあぎゃあ!) 」
キョン「 (ぎゃあ) 」
朝倉「うふふ」
朝比奈「うーん……せっかく涼宮さんにキョンくんのことから離れてもらおうと思って、
お買い物に誘ったのに………」
長門「……………」
朝比奈「? …えっと、長門さん。どうかしましたか?」
長門「………本屋の陰」
朝比奈「え?……あ、古泉君!」
古泉「(おや、見つかってしまいましたか) どうも、おはようございます」
古泉「奇遇ですね、こんなところでお会いするなんて。
おや、お二人だけではなく涼宮さんに彼もいますね。
もしかして僕の知らないところで召集でもありましたか」
朝比奈「違うんですよ、涼宮さんと私は一緒にお買い物してたんですけど、
さっきたまたまキョンくんたちと会って」
古泉「ほう、偶然全員が揃うとは、SOS団は何か見えない力でつながっているのかもしれないですね」
朝比奈「ふふ、そうですね。きっとそうです」
長門「……………」
ハルヒ「……まったく。ほどほどにしなさいよ」
キョン「やれやれ」
朝倉(いっぱい叫んだらすっきりしたみたいね、涼宮さん)
ハルヒ「じゃあ私たちは行くから……あれ? 古泉君」
古泉「どうも、奇遇ですね。僕はちょっと散歩をしていたのですが」
朝倉(誰も聞いてないわよ)
ハルヒ「そうなの? なんていうか、さすがはSOS団ね。自然とみんな集まるなんて」
朝倉「すごいね。なにか運命みたいな、絆みたいなものがあるみたい」
ハルヒ「そ、そうね……」
朝倉「あ、ごめんね。お邪魔だったかな」
ハルヒ「ううん、そんなこと……」
キョン「なんだ古泉。監視でもしてたのか」
古泉「いえいえ、そんなことは」
キョン「自覚してないなら教えてやるが、お前のその白々しさが俺は信用ならん」
古泉「おや、なるほどこれは失礼を」
朝比奈「約束もしてないのにみんな揃うなんて、不思議ですね。素敵です」
長門「……………………」
結局。
ハルヒ「じゃあね。男なんだからしっかりエスコートしなさいよ。
朝倉さん、気をつけてね。エッチなことしようとしたらぶん殴っていいから」
朝倉「ええ、もちろん」
キョン「お前らな」
朝比奈「じゃあ、また明日、学校で」
古泉「ではみなさん、ごゆっくり」
キョン「……なんだったんだ。いきなり全員揃うとは」
朝倉「運命ってやつかもね」
キョン「冗談じゃない」
朝倉「まあ、現実的な話をすると、涼宮さんの力の可能性が一番高いけど……あら?」
キョン「全然現実的な話じゃないな……どうした?」
朝倉「長門さんどこにいったか知ってる?」
キョン「ん? ……あれ、いつの間にかいないな。帰ったのか」
朝倉「もう、せっかく来たのに、照れ屋なんだから」
キョン「そうなのか……?」
長門「……………」
長門「……………」
長門「……………」
長門「……………どういうつもり」
『うふふふ………』
長門「答えて」
朝倉「ね、怖い?」
キョン「この状況で平気な奴は頭がおかしいと思うね」
朝倉「遠回しね。素直に怖いって言いなさいよ」
キョン「なあ朝倉」
朝倉「なあに?」
キョン「ここにはお前がいろんな経験をするためにきたんであってな。
俺がこれをやる必要は」
朝倉「えいっ」 トン
キョン「――――――!!!」
朝倉「バーンジーーーーーーーーー!」
キョン「――――――――
キョン「つぎは おまえの ばんだ」
朝倉「お、怒ってる? やだなあ、ただのお茶目じゃない。
それにほら、やる準備して飛び降りないっておかしいじゃない。
あたしはただ文字通り背中を押してあげただけで」
キョン「じゅんび かんりょう」
朝倉「な、なんでカタコトなの?そんなに怖かったの?
え、え、ちょっと待」
キョン「おりゃ」 トン
朝倉「………―――――!」
キョン「聞こえんなあ」
朝倉「やっぱりね、そういうのじゃないの。
ほら今のあたしってほとんど人間と同じじゃない。
万が一ロープが切れたりしたら死んじゃうの。
ううん別にね活動停止はいいの。それはなんともないんだけど。
落ちたらさ、ね? ぐちゃっ、だよ。ぐちゃっ!
嫌じゃない。汚いし醜いし情けないわ。
活動停止するにしてもそれはちょっと御免こうむりたいの。
あなたたちの生存本能から来る『スリル』とは違うのあたしにはそういうのないの。
だけどそんな情けない終わり方嫌なの。だからさっきのは本当に」
キョン「悪かった。悪かったって」
次。
朝倉「いや」
キョン「いやって、あのな」
朝倉「嫌よ。絶対いや」
キョン「だがせっかくここまで来たわけだしな」
朝倉「なんであれのあとでもっと高い所に行こうとか思うの?
さっきのは崖だったけど今度は空よ?
洒落にならないわ。落ちたらどうするのよ」
キョン「プロが一緒にやってくれる、というかプロが飛ぶのに一緒についてくだけだぞ。
それにバンジージャンプと違ってハングライダーは落下じゃなくて下降だ」
朝倉「言い方変えただけよ」
キョン「それに落ちた後の結果はバンジーもハングライダーも変わらん」
朝倉「嫌なこと言わないで!
あなたさっきあんなに怖がってたのになんでそんなにやる気なの!?」
キョン「………なんでだろうな。なんていうか………うん(なんか楽しい)」
そして。
一日が終わる。
朝倉「……今日は散々だったわ」
キョン「お前が高所恐怖症とは意外だった」
朝倉「誰のせいよ! 昨日まで全然そんなことなかったわよ!!」
キョン「まあ力が戻ったら全然問題じゃなくなるんだろ。
今のうちしか味わえないなら存分に味わっておいていいんじゃないか」
朝倉「あんなもの味わいたくないわ……」
朝倉「……じゃ、あたしはこっちだから」
キョン「送…」
朝倉「いいわよ。じゃあ、明日学校でね」
キョン「そうか。ああ、明日な」
帰り道。
朝倉「……今日は本当に嫌な日だったわ」
朝倉「なによもう。あんなのじゃなくってもっと他にもいろいろあるでしょう。
だいたいなんであいつはあんなに楽しそうだったのよもう……」
朝倉「…………………」
朝倉「………まあ、つまらなくはなかったけど……」
朝倉「…………………」
朝倉「………よく分かんないわね」
長門「朝倉涼子」
朝倉「きゃっ!?」
長門「…………」
朝倉「ちょ、ちょっと、脅かさないでよ。
今度は本当にびっくりしたじゃない」
長門「……………」
朝倉「………なに?」
長門「………やはり、変化が見られる」ボソッ
朝倉「え?」
長門「朝倉涼子。話しておくことがある」
朝倉「………? なに? 朝も同じようなこと言ってたわね」
長門「今朝のことと、同様のもの。
……正確には、今朝の疑問の解答」
朝倉「えーっと、彼が変、って話だっけ? それの解答?」
長門「そう」
朝倉「彼がどうかしたの?」
長門「彼の感情、行動指針は、第三者によって干渉されている」
朝倉「……どういうこと? 彼の意思が誰かに操られているってこと?」
長門「そう。彼は今、彼本来の行動基準とは違う基準で動いている……動かされている」
朝倉「なによそれ。誰が、何のために、なにをさせてるっていうの?
彼がやってることなんて……」
朝倉「…………………」
朝倉「…………ねえ。その干渉って、いつからあったの?」
長門「三日前。あなたが彼に接触する、直前から」
朝倉「……彼は、どういうふうに行動指針を変えられているの?」
長門「………彼に与えられた暗示命令は……」
長門「―――― 『朝倉涼子のことを考えろ』 」
学校までの上り坂。
キョン(……さて、今日はなにするか)
キョン(あいつの怖いものは昨日わかったわけだが。怖いものが分かっても面白さにはつながらんな)
キョン(あいつを楽しませるためには何をするべきか)
谷口「お、今日は早いじゃねえかキョン。どんな気の迷いだ?」
キョン「その言葉そのままお前に返す。なんで早めに出てもお前と肩を並べるはめになるのか」
キョン(あいつはぬいぐるみが好き……ってわけでもないしな。
そういえば結局、なんであれを大切にするのか聞いてないな)
谷口「おいおいひどいな。俺達は運命の赤い糸で」
キョン「キモいわ黙れ」
キョン(とりあえずそれ聞くか)
教室。
キョン「よう」
朝倉「、おはよう」
キョン「…? どうかしたか」
朝倉「ううん」
キョン「……なんか大人しいな。大丈夫か? 熱でも……出るもんなのか?」
朝倉「なんでもないわ。それより、ちょっと来てほしいんだけど」
キョン「今からか? もうすぐ予鈴が……」
朝倉「おねがい」
キョン「あ…ああ」
部室棟。
キョン「お、おい。どこに行くんだ。いったい……」
朝倉「ねえ、キョンくん」
立ち止まる。
朝倉「どうしてキョンくんは、あたしに『付き合え』って言ったの?」
振り向かない。
キョン「は……? いや、まああの状況では生き残りを図った、ってのも確実にあるが、
なんていうかこう、その、まあ、なんだ、お前のことが……」
朝倉「ねえ、キョンくん」
キョン「あ、ああ」
朝倉「あたし、情報制御能力、返してもらったんだ」
キョン「そうなのか?」
朝倉「まだ制限はあるけど、あたしは優秀だから、大丈夫」
キョン「……朝倉?」
朝倉「あなたに掛けられてる暗示を解くくらいなら、大丈夫」
キョン「は? ……暗示?」
朝倉「そう。キョンくんには暗示が掛かられてる。あたしを気にしろっていう、暗示が」
キョン「はあ? なんだそれ。そんなの……」
朝倉「あるのよ。でも大丈夫、すぐに解いてあげるから」
キョン「……なんだそれ」
朝倉「うん、これであなたは元に戻るわ。
不自然にあたしを気にすることもなくなる……」
キョン「いや、ちょっとまて、朝く…」
朝倉「すぐに終わるわ」
朝倉の指が、キョンの頬を触る。
その瞬間。
キョン「―――――――!!!」
『あの、ちょっと待っていただけますか』
『はい? ええと、なんですか?』
『ちょっと、お願いしたいことがあるのですけれど』
『お願い…ですか?』
『はい。ちょっと、妹のことを頼みたいんです』
『妹……? えっと、すみません、あなたは……?』
『あら、申し遅れました。私は――― 喜緑江美里と、申します』
キョン「―――――――――!!!」
いきなり、思い出した。
呼び出された教室に向かう途中で、知らない上級生らしき女生徒に呼び止められ、
『すぐに済みますので』と見つめられてから、
………自分が自分らしくない行動をしてきたことに気付く。
キョン「……………………」
朝倉「…………目は、覚めた?」
キョン「………ああ」
朝倉「よかった。やっぱり変だものね、あたしを口説くキョンくんなんて。
変には思ってたけど、よく知ってるわけじゃないから確かな疑問にはならなかった。
長門さんもそんな感じだったみたい。あたしよりもっと違和感を覚えてたみたいだけど」
キョン「確かに、俺らしくないな」
朝倉「そうそう。もうそんなことないわよね。
やっぱりキョンくんは涼宮さんと仲良くしてなきゃよね。
あ、でも、涼宮さんはあたしとキョンくんのこと恋人だと思ってるのよね。
って、そう思わせたのはあたしか。あははっ!キョンくん、頑張って誤解解かないと」
キョン「…………………」
朝倉「あ、大丈夫よ。もう殺そうとしたりしないから。
このまま観察し続けるのも悪くない気もしてきたし。
だから遠慮なく涼宮さんと仲良くやって?」
キョン「……朝倉。俺は」
朝倉「用件はこれだけ。じゃあ、戻ろうか。ごめんね、こんなところまで。
なんとなく歩いてたらここまで来ちゃった。
いやあ、われながらなにやってんだか」
キョン「朝倉」
朝倉「ほら、とっくに予鈴鳴ってるよ。
それどころか、もう授業始まってそう。早く戻らなきゃ。
ふふっ、それじゃあ急いで戻……」
キョン「 朝 倉 ! ! 」
朝倉「…………なあに、どうしたの。いきなり大声出して」
キョン「朝倉。確かに俺はよく分からんうちに変なことされてたらしい。
それで俺らしくないことやってきたのは確かだ。
だが、目が覚めたからって終わりにしなきゃいかんわけじゃないだろう」
朝倉「……何言ってるの。無理矢理やらされてたんだから、もういいのよ。
もう、暗示は解いたんだから」
キョン「いや、だからな、確かに無理矢理ではあっただろうが、でも俺はお前と恋人みたいにやってたわけで」
朝倉「うん、もう終わったから、もういいの」
キョン「いやだから…」
朝倉「 も う い い の ! ! !」
朝倉「何よもう終わったんだからそれでいいでしょうもういいのよ!
無理なんかしなくていいし演技も変な優しさもいらない!!!
あたしは最初からあなたの恋人でもなんでもないんだから―――!!!!」
キョン「朝倉…!!」
走り出した朝倉を追おうとするが。
「大丈夫ですよ。あの子は感情というものに慣れていないので、
あふれてくるものをどうすればいいか分かっていないだけですから。
少しすれば、落ち着くはずです」
キョン「……お前……っ!」
喜緑「どうも、妹―――みたいなもの、ですけど―――がお世話になりました。
それと、先日は失礼いたしました。勝手に記憶を眠らさせたりなどして。
ですが、どうしても記憶は消しておく必要がありましたので」
キョン「そんなことはどうでもいい!!
お前、どういうつもりだ……!!
なんでこんなことをした……!!!」
喜緑「申し訳ありません。
勝手にあなたの心を操らせていただいたこと、
どう言おうと申し開きはできませんが……」
キョン「それもどうでもいい!!!
なんであいつを泣かせるような真似をしたんだって言ってるんだ!!」
喜緑「ふふ。やはりあなたを選んで正解でしたね」
キョン「何笑ってる。何がおかしいんだ」
喜緑「あなたが、自分のことよりもあの子のことに重きを置いているのが、嬉しいのですよ」
キョン「………お前、本当に何考えてるんだ。
いや、そもそもお前は誰なんだ」
喜緑「あら、すみません。名前しかお教えしてなかったですね。
私は朝倉さんや長門さんと同じ、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
情報統合思念体の端末。あなたたちからすれば、宇宙人ですね」
キョン「朝倉や長門の仲間、同類か。なら尚更だ。なんでこんなことをした」
喜緑「あの子を消させないためです」
キョン「……朝倉を、消させないため?」
喜緑「はい」
キョン「意味が分からない」
喜緑「いいえ。分かるはずですよ、あなたならば。
そう、彼女に殺されかけた、あなたならば」
キョン「………………」
喜緑「もし、私があなたの心に干渉せず、
あなたがあなたのままで彼女と接触していたら、どうなっていたと思いますか?」
キョン「……俺が殺されてたか?」
喜緑「その可能性は低いですね。彼女の性格と、あなたの性格を考えると、
あなたが殺されるまでにある程度の時間があったはず。
その間に優秀な長門さんがあなたを救出に向かう。
朝倉さんの性能では長門さんには敵わないですから、
敵性として朝倉さんは処分されていたでしょう」
キョン「それをさせないために、俺を使ったのか」
喜緑「あなたが彼女について真摯な態度で臨めば、あの子は混乱します。
それほど極端な殺傷行為は行わないはず。
明確な敵対状態ではないそこに長門さんが来ても、
あなたがとりなせば彼女は処分まではされないはず」
キョン「………」
喜緑「もちろん彼女があなたへの攻撃をやめることが条件ですが、
あなたはきっとあの子をなびかせることができると踏んで、
こうして干渉を行わせていただきました」
腹立たしいほどに正確な推測。
長門の演算能力を人間の心理にまで応用した結果か。
だが。
キョン「確かに朝倉は助かったが……こうなることは予想できなかったのか」
朝倉を泣かせる結果になると。
喜緑「分かってましたよ」
キョン「お前!!!」
喜緑「涙は、止めてあげたらいい」
キョン「………あ?」
喜緑「悲しみは、埋めてあげたらいい。
怒りは、静めてあげたらいい。
彼女に必要なものならば。あなたが、与えてあげたらいいでしょう」
キョン「……………」
喜緑「感情なんてものは、簡単に変えられます。
同じように感情で応えたり、ものや身体を使ってもいいでしょう。
消えてなくなったら、どうしようもないけれど。
こころの痛みなんて、どうとでもなります」
キョン「………………」
喜緑「……事情説明は、終わりです。
行ってあげて下さい」
キョン「……ああ」
喜緑「あらためて、言わせてもらいますね。
ごめんなさい。あなたのこころを弄んで」
キョン「いや。
むしろ、感謝してる」
喜緑「そうですか。
……どういたしまして」
キョン「じゃあ、行ってくる」
喜緑「あの子のこと。よろしくお願いします」
キョン「任せろ」
走り去っていく男の背中。
喜緑「……やっぱりいいですわね、こういうの」
長門「………………」
喜緑「あら、どうしました? 長門さん」
長門「あなたはなぜ、朝倉涼子を助けたの」
喜緑「あなたには、まだ分からないかもしれませんね。
あなたの任務は、観察と報告ですから」
長門「………?」
喜緑「私はあなたたちのような、若い端末を管理・補助する役割です」
長門「……それが理由?」
喜緑「いいえ。暴走する端末の処理も職務ですから、今回のような手引きは職務外ですね」
長門「じゃあ、何」
喜緑「ふふ。ずっとその子を見ていると、なんだか変な気持ちになってくるんですよ」
長門「変な……?」
喜緑「親が子を見るような気持ち、でしょうか。どちらかというと姉妹でしょうね。
私はきっと、あなたたちがまだ持っていない種類の感情を持っています」
喜緑「ですから、ずっと見てきたその子が馬鹿なことをして、消されるなんてことになってるのを見ると。
とても伝えにくいんですけど、なんていいましょう、嫌なんですよ」
長門「…………」
喜緑「特にあの子やあなたみたいな子は、見てるだけで心配になってしまうから、
つい手を貸してしまうの」
長門「……………よく分からない」
喜緑「でしょうね。ええ。いずれ分かります」
喜緑「さて。あの子のことは彼に任せましょう。私は元の仕事に……」
長門「……もうひとつ。理解できないことがある」
喜緑「あら、なんですか?」
長門「あなたの能力なら、朝倉涼子を傷付けずに彼と親しくさせることも可能だったはず。
なぜ、私に自分の存在を気付かせるようなことをしたの。
私に気付かせず、朝倉涼子の知らないうちに彼の暗示を解いて、彼に先程の話をしてもよかったはず」
喜緑「ああ、昨日あなたと彼を話させないようにしたことね。
あなたが彼の暗示をといてしまうのを止めるという目的もあったのだけど。
一番の目的は、ですね」
喜緑「女の子の涙に、男の子は弱いんですよ。………うふふっ」
キョン「朝倉っ!」
朝倉「!!」
校舎の裏。
壁に背を預けて、うずくまって。
朝倉涼子は泣いていた。
キョン「……………やっと見つけた」
朝倉「な、なによ。もういいって言ったでしょう。
ほら、今授業中よ、なにさぼってるの」
キョン「………………」
朝倉「ほっといてよ。どうでもいいでしょ。あたしなんて」
キョン「………………」
朝倉「どっか、いってよ。本当、もう、放って、おいて……」
キョン「………そんなぼろぼろ泣いてるやつ、放っておけるか、馬鹿」
朝倉「う、うるさいわねっ、と、止まらないんだからしかたないでしょ。
なに、よこれ。意味わかんない。ほんっと、なんっなのよ、これ」
キョン「……………」
朝倉「ほっとけば止まるかな、って思って、ほっといても。全然止まらないし。
じゃあ、止め、ようか、とか思っても全然、無理だし。
なによこれ。壊れたの?あたし、もう、こわれ、ちゃったの?」
キョン「……………」
朝倉「どうすんのよ。どうすればいいの、これ。なによ、これ。
なんなのよ、これ……!」
キョン「朝倉」
朝倉「こ、来ないでよっ!どうでもいいでしょ、あたしは、」
キョン「朝倉」
朝倉「あた、しは。もう、べつに。あんたの……」
キョン「朝倉」
朝倉「恋、人、でも、なんでも………」
キョン「………朝倉」
抱きしめる。
朝倉「……………ない、のに………」
キョン「朝倉」
朝倉「…………………」
キョン「…………………」
朝倉「…………………」
キョン「…………………」
朝倉「……………なんなのよ、もう……」
朝倉「あんたなんて、ただ、操られただけでしょ」
キョン「………………」
朝倉「ただ、あたしを見るように操られてから、あたしを見ただけ」
キョン「………………」
朝倉「もう、暗示はないんだから、もう……見ないんでしょう」
キョン「………………」
朝倉「変な同情とか、義務感とか、そういうの、いらないから」
キョン「………………」
朝倉「あんたの好きに、すればいいのに」
キョン「………………」
朝倉「………………何か、言いなさいよ」
キョン「…………………」
朝倉「……何、よ。言いたいことがあるなら…」
キョン「自慢じゃないんだがな」
朝倉「え……?」
キョン「俺は、いまいち口下手なんだ。だから」
唇を、奪う。
朝倉「――――――!!!!?」
キョン「……言葉は、いるか?」
朝倉「なっ、なっ、なっ………!」
キョン「これ以上、いるか」
朝倉「、な、ちょ、ああ、も、」
キョン「……………もう一回するか?」
朝倉「だっ……から!!! なんで、あたしに……!!」
キョン「それでいいのか?」
朝倉「……え」
キョン「お前は、それでいいのか」
朝倉「…………なにが、よ」
キョン「お前は。
お前は、どうしたいんだ」
朝倉「……あたし、あたしは…………」
キョン「俺は、答えたぞ」
朝倉「…………あたし、は…………」
キョン「……………………」
朝倉「……………………………」
無言で、見上げる。
朝倉「……………………………」
いくらか、ためらった後。
唇を触れさせる。
朝倉「…………………こうしたいわよ」
キョン「…………よし、よく頑張った」
朝倉「……っ!! 馬鹿にしないでよ! 頭撫でないで!!」
キョン「そんなに涙をぼろぼろと流されるとなんとなく慰めたくなるだろ」
朝倉「止まんないのよほっとけ馬鹿!!!」
キョン「やれやれ」
朝倉「手のかかる子供だなあみたいな反応するんじゃないわよ!!」
キョン「よしよし。何歳だー?」
朝倉「もーーーーー!!!!!!」
そんな感じで。
ハルヒ「キョンー、お隣からパソコン持ってきてー」
キョン「お前が行け。どうせまた実力行使でもってこいって話だろ」
ハルヒ「あんたの彼女の分なんだからあんたがなんとかするに決まってるでしょ」
キョン「ほう、団長なのに団員の世話を放棄するということか」
ハルヒ「違うわね。団長の特権を特別にキョンに譲ってやってるのよ」
キョン「ものは言いようだな」
ハルヒ「まったくね」
ガチャ
朝倉「ハルヒさん。お隣からもらってきたわ」
ハルヒ「おっ、さすがね涼子ちゃん。どっかのうすらとんかちにはもったいない出来た子だわ。
言う前に仕事をこなすなんて素晴らしいわ。って意外とパワフルね。片手で持ってくるなんて」
キョン「……なあ朝倉。そのPCって部長が使ってた最新式のやつじゃないか。
ハルヒが奪ってから新しく仕入れなおしてた」
朝倉「ええ。一番いいのがほしいって言ったら、気前よくいただけたわ」
キョン「………可哀想に部長」
朝倉「いいじゃないの。その代わりあたしと長門さんで高次元のOS組んであげたから、
多少旧式でも並の性能じゃないパソコンになるわ」
長門「その代わりに寿命は短くなる」
朝倉「使い捨てればいいのよ。そういうものでしょ」
朝倉「さて、設定だけど……わかんない。キョンくん助けて?」
キョン「嘘つけ」
朝倉「助けて?」
キョン「抱きつく振りして首絞めるな」
朝倉「助けて?」
キョン「ぐっ………わか、わか、った、から」
朝倉「ほらここどうすればいいのかな」
キョン「分かってるだろ……確かこうだ」
朝倉「そうそう。それじゃあ次」
キョン「こうだな」
朝倉「正解っ」
キョン「答え合わせするな」
朝倉「ほら、いいから次、次」
キョン「抱きつくな、暑苦しい」
朝倉「嫌がるともっとするわよ」
キョン「よし、是非抱きつけ」
朝倉「わかったわ」
キョン「……………まあ、分かってたけどな」
朝倉「ほら、次」
キョン「はいはい……………やれやれ」
朝倉「うふふふふ…………」
~ fin ~
んふっ まったくです