クラスメイト「くすくすくす」
ほむら「……」
元スレ
ほむら「机の上にホームベースが置かれていた……」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1320802145/
お昼休み
ほむら「お弁当……」
ほむら「いただきます……」
男子生徒1「ピッチャー振りかぶって投げました!」
男子生徒2「カッキーン!」
男子生徒3「すとらいーく!」
ほむら(食事中は埃が散るからそういうことは止めて欲しいわ……)
ほむら(雑巾とほうきで野球ごっこなんて子供っぽいんだから……)
男子生徒3「さあ2ストライクのこの状況。はたしてこのまま三振がとられてしまうのか!」
男子生徒2「うおりゃー!」
男子生徒1「おっと大きい! 大きい!」
ぼとっ
ほむら「あ……」
ほむら(お弁当に雑巾が……)
ほむら(せっかく早起きして作ったのに……)
ほむら「……」
男子生徒2「いえーい! スライディングキーック!」
ほむら「きゃっ!?」
男子生徒3「セーフ! ランニングホームラン!」
男子生徒2「おっしゃあー!」
ほむら(服に足跡が……)
クラスメイト「くすくすくす」
ほむら「……」
男子生徒2「あ? なんだよその目は」
ほむら「あ、謝って……」
男子生徒1「はぁ!?」
ほむら「……」ビクッ
男子生徒1「なんでランナーがホームベース踏んだだけで謝んなきゃならないわけ?」
ほむら「う……」
女子生徒1「言えてるー」ヒソヒソ
女子生徒2「だいたいアイツいっつもお高くとまっててムカつくのよねー」
女子生徒3「いい気味だわ」
ほむら「……」
さやか「ちょっとアンタら! いい加減にしなよ!」
男子生徒2「あぁ? んだよブス!」
さやか「転校生に謝りなさいよ! 今のはどこからどう見たってアンタらが悪いでしょうが!」
ほむら「美樹さやか……」
男子生徒1「ちっ、うっせーな」
男子生徒3「醒めた醒めた。外でバスケやろうぜ」
男子生徒2「マジこういうKYムカつくわー」
さやか「大丈夫、転校生?」
ほむら「ええ……。その、ありが……」
女子生徒1「まーた美樹さやかが出しゃばってる」ヒソヒソ
女子生徒2「あいつマジ空気読めないよね」
女子生徒3「内申の点数稼ぎ? 必死すぎて超ウケるー」
女子生徒2「嫌われてんの気付いてないのかな」
まどか(さやかちゃん……)
ほむら「あ……」
ほむら(私のせいで美樹さやかが……)
ほむら「どうしてあんなことをしたの」
さやか「へ?」
ほむら「別に貴女の助けなんていらなかったわ。恩着せがましいのよ」
さやか「ちょっと何それ……」
ほむら「もうこんなお節介しないでちょうだい」
さやか「何それぇー!? あったまきた!」
ほむら「分かったらさっさとどこかへ行ってちょうだい」
ほむら(ごめんなさい美樹さやか……、ごめんなさい……)
女子生徒1「うわー。何あの態度」ヒソヒソ
女子生徒2「美樹さやかもウザいけど、あれはもっとヤバいね」
女子生徒3「てかさ。あいつ言うほど美人じゃなくない?」
女子生徒1「あ、分かるー。むしろ輪郭ブス、みたいな」
女子生徒2「あー、あれあれ! ホームベース顔!」
女子生徒3「きゃははマジ受けるー」
ほむら「……」
ほむら(早く学校終わらないかな……)
ほむら(ようやく授業が終わった……)
ほむら(早く帰りましょう……)
すたすたすた
ほむら「……?」
ほむら(下駄箱に便箋が入ってる……)
ほむら(何かしらこれ……)
ほむら(ふむふむ)
ほむら(一見たときから好きでした)
ほむら(よろしければ今日の放課後4時半、体育館裏にきてください)
ほむら(これ、ラブレター?)
ほむら「……」
ほむら(なるべく早く帰りたいけれど……)
ほむら(無視するのは可哀想よね……)
ほむら(一応行くだけ行ってみようかしら)
体育館裏
ほむら「……」
ほむら「誰も来ない……」
「ちょっ、見てみて! アイツ本当に待ってる!」
「うわぁー。だっせー」
「写メ撮ろ、写メ!」
ほむら「もう少しだけ待ってみようかな……」
ほむら「きっと勇気を出して書いてくれたんだろうし……」
ほむら「あと少しだけ……」
ほむら(けっきょく誰もこなかった……)
ほむら(イタズラだったのね……)
ほむら「はあっ……」
ほむら(気晴らしに古本屋さんにでも寄っていこうかしら)
ほむら(久しぶりに百合姉妹でも読もうかな)
ほむら(やっぱり百合姉妹は粗削りな魅力があるわね……)
ほむら(ほむほむ……)
女子生徒3(……ん? あれ暁美ほむら?)
女子生徒3(うわっ! あいつ何読んでんの気持ち悪!?)
女子生徒3(百合って確かあれだよね。レズもの)
女子生徒3(ドン引きー)
ほむホーム
ほむら「ただいま……。誰もいないけれど」
ほむら「はあっ……」
ほむら「どうしてこうなったのかしら……」
ほむら「でも私頑張るわね、まどか……」
――――
翌日・教室
ほむら「何これ……」
キモい
死ね
レズ
ブスの癖に調子のるな
また入院すればいいのに
ほむら(机にこんなに落書きが……)
ほむら(……)
ほむら(とりあえず雑巾で消しましょう……)
クラスメイト「くすくすくす」
ほむら(濡らした雑巾でこすっても全然消えない)
ほむら(油性ペンで描かれていたのね……)
まどか「あっ、あの……、ほむら、ちゃん……」
ほむら「!!」
まどか「これ、お掃除用の洗剤……。これつけてこすると少しは消えやすくなるかも……」
ほむら「まどか」
まどか「……」ビクッ
ほむら(怯えてる……。そっか、昨日美樹さやかにあんな態度をとったから)
ほむら「……余計なお世話よ」
まどか「あ、う、うん。そうだよね……。ごめんね」
ほむら(まどかまでいじめに巻き込むわけにはいかない……)
ほむら(次の授業は体育)
ほむら(早く着替えましょう……)
女子生徒2「ねえねえ、暁美さーん!」
ほむら「何かしら……」
女子生徒2「暁美さんってあっち系の趣味があるって本当?」
ほむら「あっち系?」
女子生徒1「レズだってこと」
ほむら「……そんなこと、どうだっていいでしょう」
女子生徒3「いやいやよくないでしょ」
女子生徒2「そうそう。そういうのと一緒の部屋で着替えるのとか、正直気持ち悪いし」
ほむら「じゃあ別にそんな趣味はないわ……」
女子生徒1「またまたぁー」
女子生徒2「誰か着替え中の女子は、と……。あ、鹿目さーん!」
まどか「え? わ、わたし?」
女子生徒2「うんうん。ちょっとこっち向いてくれる?」
まどか「えっ……。でもわたし、今ちょうど上脱いだところで……」
女子生徒2「すぐすむから!」
まどか「……」クルッ
女子生徒2「ほら暁美さん。レズじゃないってんなら、今の鹿目さんを見ても何も感じないんだよね?」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「っ!?」
ほむら(今のまどかは、上にブラしかつけていない……)
ほむら(ううぅ……)
女子生徒1「うわっ! マジで顔赤くなってるし!」
ほむら「こっ、これは、その……」
女子生徒3「てかこいつ今絶対濡れてるよね」
女子生徒2「どれどれ」サワサワ
ほむら「やっ、やだ! 止めて!」
女子生徒2「うわ、キモ! マジでびしょびしょ!」
女子生徒3「ちょっ、手近づけんなって! キモい汁がつく!」
女子生徒1「早く手洗ってきた方がいいんじゃない? そのままだと腐りそう」
女子生徒3「ぎゃはは、ありえる!」
ほむら「……」
女子トイレ・個室
ほむら「ぐすっ、ひっく、ぐす……」
ほむら(まどかに私の気持ち悪い部分を知られた……)
女子生徒4「ねえねえ、さっきのどう思う?」
女子生徒5「さっきのって?」
女子生徒4「暁美さん」
ほむら「……」ビクッ
女子生徒5「あー……。まあ、うん。正直引くよね……」
女子生徒4「だよねー。一緒の部屋で着替えるのとかはちょっと無理」
ほむら「……」
ほむら(もうこのまま体育サボろうかな……)
『せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ』
ほむら(……ううん、駄目)
ほむら(私は名前負けしないぐらいカッコよくなるんだもん……)
ほむら(だから逃げては駄目……)
体育の授業後
ほむら(ボール、全然回してもらえなかったな……)
ほむら(またトイレの個室で着替えよう……)
ほむら(……あら?)
ほむら(え? あれっ?)
ほむら(制服が無い……)
男教師「はい、それでは授業を開始します」
男教師「っと、なんだ暁美? 制服はどうした?」
ほむら「……失くしました」
男教師「失くしたぁ?」
ほむら「はい……」
女生徒1「ぶはっwwwwwwwwww」
男教師「何をどうすれば制服を失くせるんだ?」
ほむら「それは……」
男教師「まったくよく分からない奴だな」
ほむら「すみません……」
クラスメイト「くすくすくす」
男生徒4「なあなあ」ヒソヒソ
男生徒5「ん?」
男生徒4「あれ、見てみろよ」
男生徒5「あれ……?」
ほむら「……」
男生徒5「うおぉ! 汗で体操服が透けてる!」
ほむら(えっ……?)
男子生徒6「なになに? お前ら何話してんの」コソコソ
男子生徒4「あれあれ。ブラ紐透けてんの」
男子生徒6「おお、マジだ! やっべー!」
ほむら(やだ……、やだ……、やだ……)
ほむら(気持ち悪い……)
ほむら(私の席は一番前……、ほとんど全員から見える場所)
ほむら(やだよ、まどか……)
男子生徒7(やべー。ポケットに手つっこんで勃ってるの誤魔化さねぇと)
男子生徒8(おさまれ! 授業終了までにおさまれ!)
ほむら(気持ち悪い……、気持ち悪い……)
中沢「……ん? もしかして暁美さん、体調悪い?」
ほむら「え……」
中沢「先生ー。暁美さんが体調不良みたいです」
男教師「お? 本当だな、顔色が悪い」
男生徒4(中沢てめぇえええええええ!!!)
男教師「それじゃ保健委員!」
まどか「あ……。わたしです」
男教師「暁美を保健室に連れてってやってくれ」
女生徒1「鹿目さーん。襲われないようにね」
女生徒2「きゃはははは」
まどか「……」
ほむら「……」
まどか「じゃっ、じゃあ、行こうか……」
ほむら「ええ……」
廊下
ほむら「……」
まどか「あのね、ほむらちゃん……」
ほむら「……」
まどか「わたし、さっきのこと気にしてないから!」
ほむら「……」ズキッ
ほむら(気にしてないってことは、つまり、全然脈なしだということよね……)
ほむら(分かってる)
ほむら(まどかなりに精一杯の優しさをこの言葉に込めてくれたんだってことは、分かってる)
ほむら(でも……)
まどか「だからね……。あんまり、気にしすぎないでね」
ほむら「気にするも何も、私は初めからあんなこと歯牙にもかけていないわ」
まどか「そっか。それならよかった」
ほむら(まどか……)
保健室
まどか「失礼します」
ほむら「誰もいないようね」
まどか「そうだね。勝手にベッドだけ借りちゃおうか」
ほむら「まどか。もう付き添いは必要ないから、教室に帰りなさい」
まどか「ううん。もう少しだけここにいるよ」
ほむら「……私は、貴女の身体を見て、よこしまな気持ちになるような人間なのよ」
まどか「そっ、それでも……」
ほむら「……」
まどか「こんなに泣きそうなほむらちゃんを放っておけないよ……」
ほむら「まど、か……。まどかぁ……」ギュッ
まどか「いやっ」ビクッ
ほむら「……」
まどか「あっ……」
まどか「ち、違うの! 今のは、えっと、反射的に身体が……」
ほむら「ごめんなさい……」
まどか「全然嫌じゃないんだよ! ビックリしちゃっただけで!」
ほむら「ごめんなさい……」
まどか「そんな! 謝るのは私の方だよ!」
ほむら「ごめんなさい……」
まどか「ほむらちゃん……」
まどか「それじゃあわたし、戻るね……」
ほむら「ええ」
まどか「あんまり思いつめないでね……?」
ほむら「うっ、うあぁぁ……」
ほむら(何やってるのよ私は……)
ほむら(まどかを、守れる自分に、なる筈が……)
ほむら(こんなの全然……、全然違う……)
教室
男生徒4「なあなあ中沢」
中沢「ん?」
男生徒5「なんで暁美のこと助けたんだよ」
中沢「別になんとなく」
男生徒4「アイツがクラス中からどういう目で見られてるかは知ってんだろ?」
男生徒5「そうそう。あんなことしてお前まで目つけられたらどうすんだよ」
中沢「目つけられるとかなんとかさ、別にそんなのどっちでもよくない?」
男生徒4「うおお。男だなお前!」
男生徒5「そうかお前、そこまで暁美のことを」
中沢「ちょっと待てよ! お前ら盛大に勘違いしてるだろ!? 別に俺は……」
女子生徒3(……何よ)
女子生徒3(何よ何よ何よ! なんで暁美なんかが中沢君に好かれてるのよ!?)
女子生徒3(許さない……!)
保健室
ほむら(たくさん泣いたら少し気持ちが落ち着いてきたわ)
ほむら(でも教室に戻る気にはとてもなれないわ……)
ほむら(行方不明の制服でも探そうかしら)
ほむら(どうせもう綺麗な状態ではないんでしょうね)
ほむら(焼却炉とか、トイレとか、きっとそんなところかな……)
女子トイレ
ほむら(あった、私の制服)
ほむら(でも……)
ほむら(ひどいよ……、血まみれじゃない……)
ほむら(汚物缶の中に突っ込まれているなんて……)
ほむら(こんなになってちゃんと汚れは落ちるのかしら……)
水道場
じゃああああー
ほむら「……」
ほむら(やっと汚れが落ちてきた……)
ほむら(水、冷たいな……)
中沢「手伝おうか?」
ほむら「えっ……?」
ほむら(えっと、確か隣の席の人、だったかしら?)
中沢「あっ、悪い! 男に制服洗われるのなんて嫌だよな? 気利かなくてごめん」
ほむら「いえ……。ありがとう。それじゃあ、スカートの方をお願いできるかしら」
中沢「ああ!」
女子生徒3(……)イライラ
中沢「暁美さんさ」
ほむら「……」
中沢「その……、嫌がらせ、受けてるよな」
ほむら「……ええ」
中沢「気にすんな、なんて無茶な話かもしれないけどさ」
じゃあああああ
中沢「周りにちゃんと暁美さんの味方もいるってことだけは覚えておいてほしいんだ」
ほむら「……」
中沢「よし、と。こんなもんかな」
ほむら「あ、あの……」
中沢「ん?」
ほむら「……ありが、とう」
中沢「どういたしまして」
ほむら(私にも味方がいる、か)
ほむら(そうよね……)
ほむら(頑張らなくちゃ)
ほむら(まどかを救うためだったら何だってしてみせるって、そう決めたんだもの)
女子生徒3「あっけみさーん!」
ほむら「……。何かしら」
女子生徒1「ちょっと大事な用事があるのよ」
ほむら「用事?」
女子生徒2「そ、そ。すぐ終わるからちょっと付き合ってくれないかな」
ほむら「……」
理科室
ほむら「こんなところでいったい何を……」
女子生徒1「よし。鍵はかったよ」
ほむら「えっ?」
女子生徒2「カーテンもオッケー!」
ほむら「ほっ、本当に何をするつもりなの……?」
女子生徒3「あったあった。試験管!」
ほむら「えっ? えっ?」
女子生徒1「はーい。ちょっとじっとしててねー」ガバッ
ほむら(羽交い締めにされた!?)
女子生徒3「レズはレズらしく大人しくしてりゃよかったんだよ」
ほむら「貴女達、まさか……」
女子生徒2「私足おさえとくから」
女子生徒3「じゃ、私が試験管挿入係ってことで」
ほむら(なっ、何よそれ……!?)
ほむら(今までのこともそうだったけれど、いよいよ冗談ではすまないわよ……)
ほむら(こうなったら……、魔法少女としての力を使って……)
『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい』
『彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい』
ほむら「……」
ほむら(私のこの力は、まどかを救う為に手に入れたもの……)
ほむら(自分の為に手に入れた力じゃ、ない)
ほむら(こんなことの為に魔法少女としての能力を使ったら……)
ほむら(きっと私は見境を失くしてしまう……)
ほむら(だから私は……。一人間としての力だけで、この場を切り抜ける)
ほむら(魔法は使わない。使う必要なんて無い)
ほむら(魔女との戦いに比べればこんな状況なんでもない!)
女子生徒3「よーし。後はこのまま……」
ほむら「放して!」
女子生徒1「このっ、暴れるなって!」
ほむら「放しなさい!」
女子生徒2「何コイツ!? 急に暴れ出した!?」
ほむら「放せえっ!!!」
女子生徒1「……!」ビクッ
ほむら「はあっ、はあ、はあ……」
女子生徒1「なっ、なんかコイツやばくない……?」ヒソヒソ
女子生徒2「うん……」ヒソヒソ
ほむら「今すぐ手を放しなさい。そうすれば先生には―――」
べしっ!!
ほむら(え? あ……、れ?)
ほむら(な、何よ私……)
女子生徒3「根暗の癖に調子にのってんじゃねーよ」
ほむら(一発頬にビンタされただけじゃない……)
女子生徒3「ほら。もう一度おさえつけて」
女子生徒1「オッケー」
ほむら(なんでこんなことで、へこたれちゃうのよ……)
ほむら(なんで……)
女子生徒3「ね、暁美さん」
ほむら「……」
女子生徒3「もう暴れちゃ嫌だからね」
ほむら(……怖い)
ほむら(怖いよまどかぁ……)ガタガタガタ
女子生徒3「はい。パンツ没収ー」
ほむら「やぁ……」
女子生徒2「きゃははっ! 何コイツ毛生えてないのー?」
ほむら「やぁぁ……」
女子生徒1「ま、いかにも発育悪そうだしねー」
ほむら「……」カアアアアッ
女子生徒2「何顔赤くしてんの? 気持ち悪っ」
女子生徒1「あー、もしかしてあれ? レズな上にMとか?」
女子生徒3「うわ、ちょっと見てこれ。マジで湿ってる」
ほむら「……」
女子生徒2「あ、そうだ。せっかくだし写真撮らない?」
ほむら「やだぁぁ……」
女子生徒1「あー、私の携帯あれよ。最新機種」
女子生徒3「おお。いいねいいね!」
女子生徒2「よかったね、暁美さん。一生に一度の記念すべき瞬間を綺麗な写真におさめられて」
ほむら「……」
女子生徒1「ちょい待ってね、今カメラ起動するから」
ほむら「……け、て……」
女子生徒3「ん?」
ほむら「助けてまどかぁ……」
女子生徒2「まどかって、鹿目さん……? なんでここで鹿目さんの名前が……」
がたがたがた
中沢「あれ? 鍵しまってんのか?」
男子生徒4「マジで!? じゃあ職員室行って鍵取ってこなきゃならないのかよ、二度手間じゃん……」
中沢「理科教師も荷物運び頼むんならそこらへんしっかりしといてほしいよな」
男子生徒4「んじゃダッシュで鍵取ってくるわ!」
女子生徒3「やっ、やばっ!」
女子生徒1「ちょっとどうすんの!?」
女子生徒2「どうするもこうするも……」
ほむら「た、助け、て……!」
中沢「ん……? 中に誰かいるのか?」
女子生徒3「チッ……」
中沢(ひょっとして今の声、暁美さんか……?)
中沢「おい! 誰かいるんだろ!? 大丈夫か!?」
女子生徒3「……おい、暁美」
ほむら「……」
女子生徒3「私達のことは絶対に誰にも言うんじゃないぞ。分かった?」
ほむら「……」
女子生徒3「もし中沢に余計なことを言ったら……」
女子生徒3「ぱりーん」ボソッ
ほむら「……」ビクッ
女子生徒3「試験管、お前の中で粉々にくだいてやるから」
女子生徒2「おーこわ」
女子生徒1「ここと繋がってる理科準備室あるじゃん。あそこから逃げよう」
女子生徒2「あー、そうだね。確かにあっちの扉から廊下に出ればバレずに脱出できそう」
女子生徒3「んじゃそういうことだから、ばいばい暁美さーん」
ほむら「あ、うう……」
女子生徒3「また明日、学校で」
男子生徒4「中沢ー。鍵を……」
中沢「貸してくれ!」
男子生徒4「うおっ!? ちょっとおい中沢、血相変えてどうしたんだ!?」
中沢「勘違いでなければ、たぶん中に……」
がらがらがら
中沢「暁美さん!」
ほむら「う、うぅぅ……うぅぅぅー……」
中沢「大丈夫か暁美さん!」
ほむら「まどかぁ……、まどかぁぁ……」
中沢(可哀想に……、何があったのかは知らないけど、震えながら泣いてる……)
中沢(ん……? あそこに転がってるの、ひょっとして下着か!?)
中沢(マジでいったい何があったんだよ!?)
ほむら「あ、あの、えっと……」
中沢「あ……。ごっ、ごごっ、ごめん! 見てない見てないパンツなんて全然見てないから!」
男子生徒4「おーい。墓穴掘ってんぞ」
中沢「あ」
ほむら「……くすっ」
中沢「あ、あはは……、何やってんだろうな、俺……」
ほむら「助けてくれてありがとう……、中川君」
中沢(……ま。名前の正解不正解なんて、今はそんなこと、どっちでもいいか)
ほむら「もうこっちを見て大丈夫よ……、履き終えたわ」
中沢「あ、ああ」
男子生徒4「よし中沢。後は頑張れよ」ボソボソ
中沢「だっ、だから、俺はそんなんじゃ!」
男子生徒4「はいはい。んじゃなー!」
中沢「あっ、ちくしょ! 逃げやがって!」
ほむら「ほむ……?」
中沢「あ、いや。気にしないいで、こっちの話だから」
ほむら「ごめんなさい。見苦しいところを見せてしまったわね」
中沢「いいんだ。それよりいったい何があったんだ?」
ほむら「……ごめんなさい」
中沢「そっか……。そうだよな、言いたくないこともある、よな……」
中沢(でもかといって、このまま放っておくことなんてできるわけない)
中沢「ま、なんだ。とりあえず帰ろうか」
ほむら「そうね……」
帰り道
中沢「でさ、上条のやつったら―――」
ほむら(私、昔と変わらず弱いままだった……)
ほむら(このままじゃまどかを守れないよ……)
中沢「……暁美さん?」
ほむら「あっ……。ごめんなさい、少し考え事を」
中沢「あはは、そっか。まあどうでもいい話だから全然気にしないでいいよ」
ほむら「……」
中沢(ちっくしょー、情けないな俺……)
中沢(元気づけるどころか気を遣わせてどうするんだよ……)
ほむら「中野君……」
中沢「ん?」
ほむら「中野君は好きな人、いる?」
中沢「ごっほごほごほっ!!」
ほむら「大丈夫!?」
中沢「わっ、悪い……、ちょっと驚いてむせただけ!」
中沢「……で、好きな人がいるか、だっけ」
ほむら「ええ」
中沢「そうだな……。いるっちゃいる、のかもな」
中沢「俺、生まれてこの方ずっと事なかれ主義だったんだよ」
ほむら「……」
中沢「平穏無事な生活さえ送れればそれでいいかなって。何事にも特にこだわらず、適当にやってきた」
ほむら「そうなんだ……」
中沢「でも、なんでかな。その子のことになると……、なーんか、カーッとなっちゃうんだよな」
ほむら(まるで私にとってのまどかみたい……)
ほむら「じゃあ、もしその好きな子にとても大きな危険が迫っていたら、中野君ならどうする?」
中沢「そりゃ助けるさ」
ほむら「自分1人の力でどうにもならないようなことだったら……?」
中沢「……それでも、助ける。助けてみせる」
ほむら「……」
中沢「普段適当な俺だからこそさ」
ほむら「……」
中沢「どっちでもよくないと思ったことには、本気でいたいんだ」
ほむら「中野君は強いのね」
中沢「へっ? あ、あはは……、んなことないって!」
ほむら「……私ね、好きな子がいるんだ」
中沢「好きな……、“子”?」
ほむら「ごめんなさい……、そんなこと言われても、気持ち悪いし困ってしまうわよね」
中沢「いやいや! そこはほら、えーっと、どっちでもいい部分だ!」
ほむら「……本当にそう思う?」
中沢「ああ」
ほむら「変じゃ、ないかな……。私が女の子を好きになるなんて……」
中沢(ここで暁美さんの気持ちを否定すれば……)
中沢(ひょっとすると、気持ちを俺の方に動かすチャンスがやってくるかも……)
中沢「……」
中沢「暁美さんが、心からそう感じたならさ」
ほむら「……」
中沢「変なんかじゃない。全然まったく、変なんかじゃない」
ほむら「……ふぇぇ。うっ、うくっ、うあぁぁ……」
中沢(馬鹿だな、俺。大馬鹿だ)
中沢(ああでもちくしょう! こうするしかないだろ!)
ほむら「いいんだね……。私、まどかのことを好きでいて、いいんだね……」
中沢「ああもう当たり前じゃん! そういう気持ちを否定する権利のある奴なんて世界のどこにもいないって!」
中沢(ははっ……。ほんっと、何やってんだろうな俺……)
ほむら「何度も情けないところを見せてしまって本当にごめんなさい」
中沢「いいよ。俺の方こそ、本音をぶちまけてもらえて……、嬉しかった、かな」
ほむら「あっ……。中沢君、飲み物は何が好き?」
中沢「ん? そうだな。大体何でもいけるけど、強いていえば炭酸系が」
ほむら「じゃあちょっと待っててね」トットット
中沢「へ……?」
ほむら「三ツ矢でいいかしら……。150円、と」
中沢「あ! いいっていいってそんなの!」
ごとん
ほむら「残念。もう買ってしまったわ。はいコレ」
中沢「……じゃ、ありがとう」
中沢「あ。俺の家、こっちだ」
ほむら「そうなの。私はあっちだから、ここでお別れね」
中沢「みたいだな」
ほむら「今日は本当にありがとう。凄く嬉しかった」
中沢「こっちこそ、ジュースありがとな」
ほむら「それじゃあさよなら、中沢君」
中沢「おう。また明日学校で!」
中沢(……ん?)
中沢(中沢君?)
中沢(うおおおおおおっ! いつの間にか名前を覚えてもらってた!?)
――――
翌朝・ほむホーム
ぴんぽーん
ほむら(あら、こんな早くにドアベルが。 誰かしら)
がちゃ
さやか「よ、よっす! 転校生!」
ほむら「美樹、さやか……? どうしてここに?」
さやか「よかったら一緒に学校行かない?」
さやか(正直、直接ここへ来たきっかけは恭介に頼まれたからだけど……)
さやか(あたし自身気にはなっていたしね……)
さやか(でもどうして恭介が転校生のクラス内での境遇を知っていたのやら)
さやか(お見舞いの時に転校生の存在自体は話して聞かせたけど、直接の面識はない筈なのにさ)
『あー、上条。悪いけど、お前から美樹さんにお願いしてくんないかな』
『うん、そう。ちょっと今孤立気味みたいでさ……、俺も色々手は尽くす気でいるんだけど』
『あはは。違う違うそんなんじゃない!』
『ただまあ……、なんだか放っておけないんだよ』
ほむら「私は1人で行くから迎えなんて必要ないわ」
さやか「いいからいいから!」
ほむら「駄目よ! 私と一緒に登校しているところが見られたら、貴女まで……」
さやか「へえ。それがアンタの本音ってわけ」
ほむら「あっ……」
さやか「なんだ。ほむらっていい奴なんじゃん」
ほむら「そんなこと、ない……。私は……」
さやか「でもそんなの余計なお世話!」
さやか「なにせこのさやかちゃん、打たれ強さにはちょっと定評があるんだよね!」
ほむら「……」
さやか「それにクラスの奴らだってほっときゃすぐに飽きるって。だから一緒に行こうよ。ね?」
ほむら「……ありがとうさやか」
まどか「でね、パパったら……」
仁美「まあ」
ほむら「あ……」
さやか「大丈夫。ちゃんと2人には電話で話してあるから」
ほむら「……」
さやか「おっはよ、まどか! 仁美!」
仁美「おはようございますさやかさん。それに、暁美さんも」
まどか「えへへ、おはよう2人とも」
ほむら「……うん。おはよう」
ほむら(たった1日で嘘みたいに全てが変わった)
ほむら(クラスのムードメーカーの美樹さやかと、男女問わず人望のある志筑仁美)
ほむら(この2人が私を取り囲んでいるからか……、嫌がらせはぱったり止んだ)
まどか「……」
ほむら(まどかとの間には、時折ぎこちなさも感じるけれど……)
ほむら(全部がいい方向に変わってるように思えた)
ほむら(だけど―――)
女子生徒3「……何あれ。ムカつく」
昼休み
さやか「はあっ。食べた食べた」
仁美「満腹ですわ」
まどか「わたしもう動けないよー」
さやか「おっ。じゃああたしは動けないまどかをデザートにいただこうかな!」
まどか「ええっ!? 満腹じゃなかったの!?」
さやか「デザートは別腹なのだー」
ほむら(ふふっ。本当にこの2人は仲がいいわね)
ほむら(さて、そろそろ始業時間だし私は自分の席に戻ろうかしら)
ほむら(ううっ。……その前にトイレに、と)
まどか「あっ。ほむらちゃん、どこ行くの?」
ほむら「お手洗いに」
まどか「わっ、わたしも……」
ほむら「……」
まどか「……ううん。やっぱりなんでもない」
ほむら(まどか……)
ほむら(ふうっ。すっきりした……)
ほむら(あら……?)
女子生徒3「……」
ほむら「……何の用かしら」
女子生徒3「鹿目まどかさん」ボソツ
ほむら「!?」
女子生徒3「好きなんだよね。昨日、危ない時に名前を呼んでいたものね」
ほむら「あっ……」
女子生徒3「私の友達の彼氏ね、ちょっと怖いお仲間とつるんでる人なんだ」
ほむら「……」
女子生徒3「で、その怖いお仲間さんはね。ああいう大人しそうな子が好きなんだってさ」
ほむら「……」
女子生徒3「ま、あんたの方から周りの人間を突き放してくれれば、そんなことする必要も……」
ほむら「……許さない」グイッ
女子生徒3「えっ?」
ほむら「まどかに手を出したら絶対に許さない」ギリギリ
女子生徒3「あっ……苦、し……」
女子生徒3(何、こいつ……、こんなに力強いの……?)
女子生徒3(首絞められて……息、できな……)
まどか「ほむらちゃん……? 何、してるの……?」
ほむら「まど、か……?」
女子生徒3「げっほぉ! げほっ、げほっ……、はあっ、はあ、はあ……」
まどか「大丈夫!?」
女子生徒3「あっ、暁美さっ、あっ……」
女子生徒3「うっ、あっ、あうぅ……」
女子生徒3「こ、腰抜けて、力はいらない……」
まどか「大丈夫。大丈夫だよ」
女子生徒3「私……、私……、う、うあぁ……」
まどか「どうしてこんなことしたの、ほむらちゃん……?」
ほむら「……」
ほむら(こんな行動をまどかのせいにしたら、この子はきっと気に病むに違いない……)
ほむら(それに……)
ほむら(こんなに重い気持ち、まどかの負担になるに決まってる)
ほむら(気持ち悪いに、決まってる……)
まどか「何か、事情があるんだよね……?」
ほむら「……貴女には関係のない話よ。鹿目まどか」
まどか「……」
ほむら「それから、貴女」
女子生徒3「ひっ!?」
ほむら「私と貴女はこれで仲直り。そういうことでいいかしら」
女子生徒3「う、うあぁ……」コクコク
ほむら「そう。それじゃあ私はこれで」
ほむら「……」
さやか「あれ、ほむら1人?」
ほむら「ええ」
仁美「少し遅いと、まどかさんが様子を見に行きましたのに……」
さやか「もしかしてすれ違った?」
ほむら「いいえ。まどかはきっと、腰が抜けて立てないあの子の世話を見ているんだと思うわ」
さやか「へ?」
ほむら「さて、と。それじゃあ失礼するわね」
さやか「いやいや! まだ5、6限あるって!」
ほむら「体調不良ということにしておいてちょうだい」
ほむら(大体ただでさえ困難なことに挑もうとしているのに、その上学校に通うなんて、無理な話だったのよ)
ほむら(クラスで浮いている私がまどかに近付いたから、結果的にまどかに危険が及びかけた)
ほむら(こうなったら嗅げながらまどかを守ること、そしてワルプルギスの夜を倒すことだけに集中しましょう)
ほむら(どうせワルプルギスの夜を倒したらまどかとはお別れなんだもの……)
ほむら(私には人間関係なんて、必要無いのよ……)
ほむら(せいぜい共闘できる相手さえいれば、それでもう……)
ほむら(どうして私ってこうも駄目なんだろう……)
ほむら(きっともっと上手いやり方はある筈なの……)
ほむら(でも、私馬鹿だから、失敗してばっかで……)
「暁美さん!」
ほむら「え……?」
中沢「はあっ、はあ、はあ……、よかった、追いつけた……」
ほむら「どうしてここに……?」
中沢「……早退した」
ほむら「早退? どうしてそんな……」
中沢「それはこっちの台詞。教室中大騒ぎだったぞ? 何があったんだよ」
ほむら「貴女には関係のない話よ」
中沢「それは、そうかも、しれないけど……」
ほむら「……」
中沢「ごめん、出しゃばりすぎた」
ほむら「いえ。私の方こそ、せっかく心配してくれたのにごめんなさい」
ほむら「……脅されたの」
中沢「脅された?」
ほむら「ええ。周りの人間をつき放せ。さもないとまどかを無事ではすませない」
ほむら「要約するとこんな内容だったわ」
中沢「ウチのクラスの女子の1人がが放心気味で泣いてた。あれと関係あるのか?」
ほむら「ええ……。その子から脅しを受けたのよ」
中沢「そっか」
中沢(良かれと思ってやったことが、結果的にややこしいトラブルを引き起こしたのか……)
ほむら「かっとなった私は、つい相手に手を出してしまった。停学ものね」
中沢「情状酌量の余地は十二分にある」
ほむら「だといいわね」
中沢「……明日は、また学校にきてくれるよな?」
ほむら「いいえ。明日も明後日も明々後日も。私はもうずっと学校を休むわ」
中沢「そんな……」
中沢「確かに、しばらくはごたごたするだろうけどさ」
中沢「きちんと学校に通ってけば絶対いつかは落ち着くって!」
中沢「俺もできる限りサポートはするからさ……」
ほむら「今回のことはきっかけに過ぎないわ」
中沢「へっ?」
ほむら「私には果たすべき義務がある」
中沢「……」
ほむら「今日のことは、その義務と学校生活を両立できないと、そう気づくきかっけに過ぎなかったのよ」
中沢「ごめん、俺には暁美さんが何を言いたいんだかよく分からない……」
ほむら「私ね、人間じゃないんだよ」
中沢「はぁ!?」
ほむら(ここなら、人気もないし……)
ほむら「見ていて、中沢君。これが私の秘密」
中沢「!?」
中沢(とっ、突然服が消えっ!? なんだこれ!?)
中沢(ととと、とりあえず目をつぶろう! うん!)
ほむら「変身、完了」
ほむら「どう中沢君……、って」
中沢「見てないからな! 見てないからな!」
ほむら「それじゃあ困るのだけれど……」
ほむら「今からするのは荒唐無稽な話」
ほむら「この世界では……、そうね、私以外誰も知らない話」
ほむら「信じてくれても、そうじゃなくてもいい。だけど全て事実よ」
中沢「ああ……」
ほむら「まずは手始め。私ね、魔法少女なんだ。どう? これは馬鹿な嘘だと思う?」
中沢「……普通なら信じないけど、あの変身を見せられた後だとな」
ほむら「そう。それじゃあ、私は少しだけ未来の世界からきたんだよって話は、信じられる?」
中沢「それは、魔法の力で……?」
ほむら「ええ」
中沢「そっか。まあ暁美さんがそう言うなら、そうなんだろうな。信じるよ」
ほむら「ありがとう。ではその2つの前提を頭に置いた上で話を聞いてちょうだい」
中沢「ああ」
――――
ほむら「……とまあ、こんなところよ」
中沢「つまり暁美さんは何度も何度も時間をやり直している、と」
ほむら「ええ」
中沢「たった一人、鹿目さんを救うために……」
ほむら「……そうよ」
中沢「そのこと、この世界の鹿目さんは?」
ほむら「知らないわ。それに端から知らせるつもりもない」
中沢「そう、だな……。暁美さんの話の通りなら、その話を知った鹿目さんはきっと……」
中沢「暁美さんのために契約しちゃうだろうからな」
ほむら「そうなのよ……。まどかはいい子なんだけど、いい子過ぎるのが玉に瑕よね」
中沢「……」
ほむら「やっぱり信じられない?」
中沢「いや、信じるよ。信じるけど、急に色々なことを知りすぎてこんがらがってる」
ほむら「それが当然の反応ね」
中沢「少しだけ落ち着いて考えさせてくれないか」
ほむら「分かったわ」
中沢(なんなんだこれ……)
中沢(魔法? 魔女? 宇宙人?)
中沢(現実離れし過ぎてて、訳が分からないのに……)
中沢(なんだよこの話の生々しさは……)
中沢(なんだよこの悲惨さは……)
中沢「……冷静に自問自答した結果」
ほむら「……」
中沢「正直、頭の中の理性的な部分はこの話を疑っている」
ほむら「そう……」
中沢「ああでも違うんだ! 信じられないってわけじゃない!」
中沢「というより、信じたいんだよ。暁美さんが真剣に語ってくれた話を疑いたくないんだ!」
ほむら「だから信じる、と?」
中沢「ああ!」
ほむら「理性より感情を優先するの?」
中沢「そうだよ!」
ほむら「……ふふっ。そっか」
中沢「……」
ほむら「それじゃあ、信じてくれてありがとう」
中沢「こちらこそ、こんな大事な話をしてくれてありがとな」
中沢「その、ワルプルギスの夜ってのはさ……」
ほむら「……?」
中沢「そんなに強いのか?」
ほむら「強いわ。でも安心して。刺し違えてでも倒してみせるから」
中沢「刺し違えてって、それじゃ暁美さんは!?」
ほむら「元より無傷でワルプルギスの夜に勝とうなんて無理な話なのよ」
中沢「……」
中沢(なんだよそれ……)
中沢(なんで暁美さんが犠牲にならなくちゃいけないんだよ!?)
中沢(だって暁美さんは、元々は普通の女の子で)
中沢(ただ大切な人を守りたいと思って、それだけなのに)
中沢(でも、俺には止められない……)
中沢(さっきの話の通りなら、男の俺には、この件に関して何の力もないから)
中沢(けっきょく事情を知ったところで……、蚊帳の外なんだよな……)
中沢(ちくしょう……)
中沢(俺に出来ることって何なんだろうな……)
中沢(そして俺は、何がしたいんだろうな……)
中沢(……)
中沢「生きて、欲しいもんだよな」
ほむら「えっ?」
中沢「好きな人には、生きていて欲しいもんだよな」
ほむら「ええ……。私はまどかに、何としても平穏な暮らしを送って欲しい」
中沢(そして同じように、俺は暁美さんに生きていて欲しい)
中沢(ああもう難題だな!)
中沢(どうすりゃ暁美さんに生きていてもらえる!?)
中沢(どうすれば力のない俺が状況に影響を与えられる!?)
中沢(……あ。そうだ)
中沢「1つだけいいかな」
ほむら「何かしら」
中沢「上手くワルプルギスの夜を倒せたとしても、それで全てが終わりじゃないよな」
ほむら「というと?」
中沢「だってソイツを倒しても、QBとやらは変わらず鹿目さんのことを狙い続けるだろう?」
ほむら「それは……、それかもしれないけど」
中沢「だろ? だったらさ、暁美さんは―――」
ほむら「その点に関しては、さっき話した佐倉杏子に頼むつもりよ」
中沢「暁美さんはそれで安心できるのか?」
ほむら「……」
中沢「暁美さんは生き残らなきゃいけないんだよ」
中沢「鹿目さんの為にも、暁美さん自身の幸せの為にも、生き残らなくちゃならないんだよ」
ほむら「……そんなの無理よ」
ほむら「中沢君はワルプルギスの夜の強さを知らないからそんなことが言えるんだわ」
中沢「ああ、知らないよ。でもさ……」
中沢「刺し違えて倒すのと、辛勝するのって、そこまで難しさに差があるものかな?」
ほむら「……」
中沢「生きたいって気持ちがあれば、そのぐらいの差、きっと埋められると思うんだ」
ほむら「……そうね」
中沢「!!」
ほむら「そうだったら、いいわね……」
ほむら「私、本当は生きたい……」
中沢「うん」
ほむら「まどかと一緒に生き続けたい……」
中沢「だったら生きるんだよ。生きてくれよ!」
ほむら「私……、私ね……。馬鹿みたいに思われるかもしれないけど……」
ほむら「まどかとあけましておめでとうが……、してみたいんだ……」
ほむら「それからね、まどかと満開の桜を見てみたい……」
ほむら「じりじりと焦げそうなお日様の下、まどかと海に行ってみたい……」
ほむら「肌寒くなってきた空気に身を縮めながら、まどかと紅葉の下を歩いてみたい……」
ほむら「しんしんと降る雪の中、メリークリスマスって、まどかとお祝いをしてみたい……」
ほむら「1ヶ月の檻の外を……まどかと過ごしたいの……」
――――
中沢(けっきょく精神論しか言えなかったな)
中沢(もしかしたら暁美さんを中途半端に迷わせてしまって、かえって悪いことをしたんじゃ……)
中沢(いやいや! 違う!)
中沢(死ぬことを前提にした計画なんて、やっぱり絶対に間違ってるんだ!)
中沢(とにかく俺は、俺に出来ることから始めよう……)
中沢(囚われのお姫様を救い出し、別のお姫様の元へ、なんてな)
中沢(はははっ、我ながら損な役回りだよ……)
中沢(でも暁美さんが幸せになれるんなら、俺が得しようが損しようが、どっちでもいい)
中沢(まずは美樹さんが契約してしまわないよう、上条のフォローに回るか)
中沢(少しでも上条を前向きにしてやって、結果的に美樹さんが追い詰められないようにするんだ)
――――
ほむら(どうして私、中沢君にあんなことを話してしまったのかしらね……)
ほむら(信じてもらえる公算は低かったし、よしんば信じてもらえたとしても……)
ほむら(そうしたら今度は彼に重い荷物を背負わせることになるのは、目に見えていたのに)
ほむら「……」
ほむら(でも、話してよかった、かな)
ほむら(今度こそ最後まで諦めずに頑張りましょう)
翌朝・ほむホーム
ぴんぽーん
ほむら「……」
さやか「よっ、転校生」
ほむら「美樹さやか……、どうして?」
さやか「昨日と同じ理由」
ほむら「そういうことじゃなくて……」
さやか「どうして同級生の首を絞めたような人間の家を、わざわざ訪ねるのかって?」
ほむら「ええ」
さやか「そりゃ、あたしもその話を聞いた時は戸惑ったし、その行為自体は肯定できるもんじゃないけどさ……」
さやか「あんたが首を絞めたあの生徒、嫌がらせの主犯格だったもん」
さやか「何か事情があったんでしょ。それぐらい分かるよ」
ほむら「……」
さやか「それは仁美だってそうだし、まどかも……」
さやか「というか、むしろまどかがそのことにいち早く気がついたんだけどさ」
ほむら「まどかが?」
さやか「そ。何か事情があったんじゃないかって、そればっかり」
ほむら「そう……」
ほむら「……少しだけ猶予をちょうだい」
さやか「猶予?」
ほむら「ええ。あと数日だけ。それが過ぎれば必ずまた学校に顔を出すから」
さやか「その様子だと何かわけあり……?」
ほむら「そうよ」
さやか「そっか」
ほむら「……」
さやか「うーん、そうですなー。品行方正を地でいくさやかちゃん的には、そういうのよくないと思うのですが」
ほむら「……」
さやか「ま、本人がそう言うならしゃーないか」
ほむら「……」
さやか「その代わり、それが済んだら必ず学校に顔を出すこと! 分かった?」
ほむら「品行……方正……?」
さやか「つっこむの遅っ!!」
――――
ワルプルギスの夜、前日
ほむら「では第9回作戦会議」
マミ「わーわー!」
杏子「よっし! えーとまず最初の議題! 今日のお菓子はなんでしょう!」
ほむら「アルフォートとポテロングとわさビーフとコアラのマーチよ」
杏子「おっ。いいじゃんいいじゃん!」
マミ「もうっ。佐倉さんったら緊張感が無いんだから……」モグモグ
ほむら「口でそう言いながらも貴女が一番先にお菓子を開封しているようだけれど」
杏子「ちくしょっ! 先を越されたか!」
ほむら(でも本当に、ここまでのびのびとした空気でワルプルギスの夜を迎えることはなかった……)
ほむら(きっとここにいる3人ともが生き残るつもりでいるからなんでしょうね)
ほむら「きっと今回こそは……」
マミ「生きて勝つ、でしょう」モグモグ
杏子「その決意表明、耳タコだよな」モグモグ
ほむら「悪い?」モグモグ
杏子「いや全然。いいんじゃないの、戦いなんてそういうシンプルな気構えで」モグモグ
マミ「そうね。作戦自体はきちんと練る必要があるけれど、気持ちはそのぐらい強気でいいと思うわ」モグモグ
ほむら「ほむ……」モグモグ
ほむら「では作戦を確認するわよ」モグモグ
杏子「ああ」モグモグ
ほむら「まずこの地図の×印の地点を、便宜上それぞれA地点、B地点、C地点と呼ぶ」モグモグ
マミ「ワルプルギスの夜が出現する可能性が約20%のB地点周辺を、私が」モグモグ
杏子「同じく20%、かつ、高層ビルの多いC地点をあたしが」モグモグ
ほむら「そして60%近い確率でワルプルギスの夜が現れるA地点を私が受け持つ」モグモグ
マミ「そこまでは大丈夫かしら、佐倉さん」モグモグ
杏子「余裕余裕」モグモグ
ほむら「では次に出現位置に応じた各自の動き方を―――」モグモグ
ほむら「……とまあ、こんなところかしら」
マミ「そうね。今の限りでできる万策は尽くしたわ」
杏子「後は本番で頑張るしかないな」
ほむら「ええ」
マミ「思いの外スムーズに済んだわね。これからどうする?」
ほむら「……ああ。実は少し用事があるの」
杏子「ん? 例の協力者とやらに会うのか?」
ほむら「ええ、そうよ。今から少し出るけど、私の部屋は自由に使ってくれて構わないから、」
――――
中沢「……」
ほむら「お待たせ、中沢君」
中沢「いやいや! 忙しい時に 無理を言ってごめんな!」
ほむら「無理だなんて……。中沢君には、感謝してもしきれないくらいなのに」
中沢「・……あー、そうそう。上条と美樹さんも、一段落ついたみたいだぞ」
ほむら「そう……。よかったわ」
中沢「質問をしてもいいかな」
ほむら「何かしら」
中沢「暁美さん、今でもワルプルギスの夜を刺し違えてでも倒したいと思ってる?」
ほむら「……いいえ。必ず生きて倒してみせるわ」
中沢「そっか。それを聞いて安心したよ」
ほむら「まどかと一緒に未来を見ること。それが今の私の願いだもの」
中沢「じゃっ、じゃあさ……」
ほむら「うん?」
中沢「暁美さんが見る未来には……、俺の姿も……」
中沢(ああああっ! 何言ってんだ俺!)
中沢(今日暁美さんを呼んだのは、こんなことを言うためじゃ―――)
ほむら「そうね……。きっとそこには中沢君もいてくれると思うわ」
中沢「……お」
ほむら「お?」
中沢「うおっしゃああああああああああ!!」
ほむら「ちょっと、中沢君!?」
中沢「あっ……、悪い。ちょっと頭に血が上って」
ほむら「ふふっ。おかしな中沢君」
中沢(分かってる、分かってるんだ。俺は鹿目さんにはかなわないって)
中沢(でもさ……)
ほむら「この戦いが終わっても、またこうやって一緒にお話ししましょうね」
中沢「ああ、約束だ」
ほむら「うん。約束」
中沢(やっぱり嬉しいんだよな。暁美さんと話せると)
――――
ワルプルギスの夜・当日
ほむら(思えば今回の世界は、いつもと違うことだらけだった)
ほむら(虐められたり、酷い目にもあったけど……)
ほむら(素敵なこともたくさんあった)
ほむら(美樹さやかとかわした、学校に行くって約束)
ほむら(中沢君とかわした、一緒におしゃべりしようねって約束)
ほむら(どちらも破ってはいけない大切な約束)
ほむら(嘘つきにならないためにも……、そして何より、まどかと私自身の為にも)
ほむら「勝ってみせなきゃね」
マミ【暁美さん。そろそろね】
ほむら【ええ、巴マミ。】
杏子【足引っ張んじゃねーぞ】
ほむら【ふふっ、大丈夫よ杏子。まどかの為に戦う時の私は無敵なんだから】
マミ【さ、気を引き締めるわよ】
5
4
3
2
1
ほむら「きた……! マミの近くだわ!」
マミ【こちらマミ。まずは距離をとりつつ、時間を稼ぐわ】
ほむら【ええ。すぐに私と杏子が駆け付けるから、それまでどうか持ち堪えて】
マミ【私がうっかりワルプルギスの夜を倒してしまう前に、早くきてね】
杏子【はっ! そりゃ急がないとな!】
――――
避難所
中沢「今頃暁美さん達は戦っている頃かな……」
中沢(あーっ! 何もできない自分がもどかしい!)
中沢(勝ってくれよ、暁美さん)
――――
杏子「はあっ、はあ……」
マミ「流石に手ごわいわね」
ほむら「でも手ごたえはあるわ」
杏子「だな!」
マミ「とか言ってる間にまた使い魔が湧いてきたわ」
ほむら「マミ、散らしてくれるかしら」
マミ「もちろん! ティロ・フィナーレ!」
ほむら(道ができた。ここで杏子の手をとって、時間を止めて……)
杏子「よっしゃ走るか!」
ほむら「ええ! 一度にワルプルギスの夜の喉元までいきましょう!」
ワルプルギスの夜「……」
ほむら「最大の一撃を叩きこみましょう」
杏子「ああ! いっけええぇー!!」
ほむら「ついでに私も爆弾投下!」
杏子「よしほむら、きっついのを叩きこんだぜ!」
ほむら「それじゃあ時間停止を解除するわよ」
ワルプルギスの夜「あはは……、あは、あは……?」
杏子「よっし、通った!」
ほむら(いけるわ! 私の攻撃に比べ、魔力の通った杏子の攻撃は効きがいい!)
ワルプルギスの夜「あは……、あは……」
ほむら(ワルプルギスの夜も徐々に弱って―――)
くるん
ほむら「!?」
杏子「ちょっと待ておい、どういうことだよこれは……」
ほむら「な、何よこれ……、こんなの、知らない……」
ほむら(ワルプルギスの夜が正位置になった!?)
――――
避難所
ぐらぐらぐら
中沢「うおおっ!? なんだ地震か!?」
ほむら【……君、……沢君】
中沢(ん? この声、暁美さんのテレパスか?)
ほむら【ごめ……、約束、守……そう】
中沢「えっ……?」
中沢(なんだ今の声?)
中沢(さっきの揺れといい、何かが起きているのか……?)
中沢(……)
中沢(……)
中沢(行こう)
中沢(くそっ……)
中沢(勢いで飛び出してきたけど、一体どうすれば……)
中沢(……ん? 爆発音!?)
中沢(あっちだな! よし!)
中沢(無事でいてくれよ暁美さん!)
中沢「はあっ、はあ、はあ……」
中沢「いた! 暁美さん!」
ほむら(くっ……。向きが変わった途端、強さがケタ違いに!)
ほむら(マミも杏子も連絡がとれない……)
ほむら(気絶しているか、あるいは……)
ほむら(あ……)
ほむら(砂時計の砂が、降り切った……)
ほむら(もう時間停止は使えない……!)
中沢「一方的じゃんか……」
ほむら「くっ!」
中沢「俺には魔女は見えないよ。見えないけど、さ……」
中沢「何度も何度も吹き飛ばされて、傷だらけになっていく暁美さんの姿は、見えるから……」
中沢「くっそぉ! なんだよこれ! なんだよこれ!?」
中沢「エネルギーだ!? 宇宙の平和だ!?」
中沢「それはこんな風に魔法少女を、暁美さんを、傷つけないと得られないようなもんなのかよ!!」
中沢「宇宙の秩序ってのはそこまでして守る価値があるもんなのかよ!?」
ほむら「あぐっ!」
ほむら(あ、足が……、瓦礫の破片に潰され……)
中沢「答えろよインキュベーター!!」
QB「呼んだかい」
中沢「……お前がインキュベーターか?」
QB「驚いたな。試しに君に声をかけたのは事実だが、まさかそれが本当に届くなんて」
中沢「お前が全ての元凶なのか!?」
QB「ふむ。ターゲットを第二次性徴期の少女に絞ったのは間違いだったのかな。
どうも人間の感情の閾値には個人差があるようだし、今度からはもっと視野を広げても―――」
中沢「答えろよ!」
QB「……ん? ああ、そうだよ。僕が魔法少女システムをこの星に広げた」
QB「僕のことは暁美ほむらから聞いたのかな」
中沢「そんなことはどうだっていい! 俺と契約しろ!」
QB「ああ、先に言っておくけど君の力では暁美ほむらを救うことは無理だよ」
中沢「そんなこと、やってみなきゃ分からないだろ……」
QB「分かるさ。現行の魔法少女システムは、第二次性徴期の少女の精神構造を基準にチューニングがなされている」
QB「だから中沢。君が契約を結んでも、本来の対象である少女ほど効率の良いエネルギー運用はできない」
QB「もっともシステムに改良を加えれば、その時はもしかしたら」
中沢「理屈はどうだっていいんだよ!!」
QB「……まあ、厳密にいえば手はないこともない」
中沢「本当か!?」
QB「ああ。ただし君は、間違いなく死ぬことになるよ」
ほむら「……? ワルプルギスの夜の動きが、止まった……?」
『もともとワルプルギスの夜は、一体の魔女だった。普通より少し強いだけのね』
『しかしその強さが、次第に周りの魔女を引き寄せるようになり』
『増していく強さが強さを呼び、ワルプルギスの夜は加速度的に力を付け始めた』
『つまりだ。ワルプルギスの夜は、個にして群という歪な存在なんだよ』
『時に歯車に挟まった、たった一つの石ころが、巨大な機械の動作不良を引き起こす』
『ワルプルギスの夜に同じようなことが起こりえないと、誰に断言できよう』
杏子【ほ、むら……】
ほむら【杏子!? 無事だったの!?】
杏子【もうふらふら、だけど、なんとかな……。それより、どうしたんだ敵さんは?】
マミ【2人とも、無事、みたい、ね……】
ほむら【マミ! よかった、貴女も生きていたのね……】
ワルプルギスの夜「……」
『つまり……、俺がその、石ころになれば』
『その通りだよ中沢。もしかしたら、ワルプルギスの夜にバグを引き起こせるかもしれない』
(まあ、君程度の力では、そんな可能性は億に1つもないだろうけどね)
杏子【ははは……。とても無事とはいえない状態だけど、な……】
ほむら【だけど今なら……】
マミ【ええ。動きの止まったワルプルギスの夜になら、もしかしたら……】
マミ【さあタイミングを合わせていくわよ!】
杏子【合図は任せた、ほむら!】
ほむら【ええっ!】
ワルプルギスの夜「……」
『さあ中沢! 君の願いを言ってくれ!』
『俺の願いは―――』
3人「いっけえええええええええええ!!!!」
ワルプルギスの夜「……!!?」
『どっちつかずで、何の取り柄もない俺だけどさ……』
『好きな子を幸せにしてあげたいんだ』
『これだけは、譲れない』
ほむら「たっ、倒した……?」
杏子「はは、は……。やった! やったぁああああー!!」
マミ「一時はどうなるかと思ったけれど、何とかなったわね!」
ほむら「ありがとう……! 2人とも本当にありがとう……!」
杏子「あーほら、泣くなよもうっ……」
マミ「そういう佐倉さんだってぇ……」
ほむら「そういうマミも……」
杏子「あはは……、泣いたり笑ったり、大忙しだな……」
QB「いやはや、驚いたよ」
ほむら「インキュベーター……」
QB「まさかあの出来損ないの魔女もどきが、本当にワルプルギスの夜を壊してしまうなんてね」
ほむら「……? 出来損ないの、魔女もどき?」
QB「ああ、そうさ。元は中沢だった存在のことだよ」
ほむら「どういう、こと、なの……?」
QB「ワルプルギスの夜に動作不良が起きたことには、君達も勘付いていたよね?」
マミ「ええ」
QB「あれはだね。中沢が魔女化……、いや、男だからこの言い方は正しくないかな」
QB「……とにかく、そのような変化を遂げた存在が、ワルプルギスの夜に組み込まれたことが原因なんだ」
杏子「どういうことだよ、オイ!」
QB「つまり君たちは中沢という一人の少年を犠牲にして勝利を得たのさ」
ほむら「嘘……、嘘よ、中沢君が……」
杏子「おっ、おい、ほむら!?」
マミ(まずいわね……。精神の摩耗した状態で、こんな酷い知らせを受けたら……)
「ありがとな、インキュベーター」
QB「っ!? その声は……。いや、そんな筈は……」
「お前があまりに外道すぎたおかげで、こうして出てこれた」
ほむら「あっ、ああっ……!!」
中沢「心配かけてごめん、暁美さん」
ほむら「中沢君!」
中沢「俺が原因で暁美さんを不幸にするわけにはいかないからな」
中沢「きっと奇跡がそう判断したんだろうけど……」
中沢「でもまあ理由なんて、そんなのどっちでもいい」
QB「ありえない……、君の願いは、人を蘇生できるほど強いものではなかったはず……」
中沢「その通りだよ。だから多分、ずっとはいられない」
QB「……そうか。なるほど」
QB「一時的に魂の残留思念を魔力で人型に定着化させているというわけだね」
QB「それなら納得はいく」
杏子「へ?」
マミ「つまり、この中沢君は、幽霊みたいなものってこと……?」
QB「というよりは、残り香に近いかな。だから恐らくすぐに消えてなくなる」
ほむら「そんなっ……」
中沢「泣かないで、暁美さん」
ほむら「でも、でも……」
中沢「俺、今凄く満ち足りた気持ちなんだよ」
ほむら「嘘よ……、だって貴方は……」
中沢「本当だって。暁美さんの為になれて、凄く嬉しいんだよ」
ほむら「……どうしてそんなに、強くて優しいの?」
中沢「それは暁美さんが強い理由と同じじゃないかな……」
ほむら「……?」
中沢「いや、なんでも!! とにかく……、俺は、後悔してないから」
ほむら「うん……」
ほむら「ねえ、中沢君」
中沢「……」
ほむら「もしも、もしもね」
「はじめの私を助けてくれたのがあなただったら、もしかしたらね……」
中沢「……あっ。鹿目さんだ」
ほむら「えっ!?」
中沢「ほら、あっちから駆け寄ってきてる!」
ほむら「あ……」
中沢「行ってきなよ」
ほむら「でも……」
中沢「いいから。俺は全部伝えた。もう本当に満足だから」
ほむら「……ありがとう。中沢君」
――――
だんだんと意識が遠のいていく
それでも不思議と満ち足りた気持ちだった
「お疲れさん」
「お疲れ様、中沢君」
暁美さんの共闘者2人のねぎらいの言葉に、軽い会釈を返す
「まどか……」
「よかった……、ほむらちゃんが無事で、よかった……」
遠くの方に、涙を流しながら手を取り合う、2人の少女の姿が見えた
その内の片方は、俺が恋した女の子だった
「この先、暁美さんの隣にいられるのは、俺じゃない、けど……」
「暁美さんが幸せなら、そんなの……」
どっちだっていい
その8文字を口にし終えるや否や、俺の意識は、空へと溶けはじめた
久しく明けることのなかった日が、登っていく
それはワルプルギスの夜の明けを告げる印だった
おわり