第一話 「お前は今日死ぬ!」
第二話 「セックスしないと死ぬ!?」
第三話 「褒められないと死ぬ!」
第四話 「約束破ると死ぬ!」
第五話 「優しくしないと死ぬ!」
第六話 「大切にしないと死ぬ!」
ーー私の名前は天童世死見。ダメ人間の勇者を救うべくやって来た、イケメンでナイスガ~イの天使であるっ!
女僧侶「あっ、ほらっ! 勇者さん! 今、あそこで魚が跳ねましたよ!?」
勇者「……魚っすか」
ーー彼は天界から与えられた10個の命題をクリアしないと死んでしまうのであるっ!
女僧侶「あの……勇者さん……? 大丈夫ですか……?」
勇者「ヤバイかも……船って……揺れるねぇ……? 気持ち悪いねぇ……?」
ーーまぁ正直、すぐ死んじまうと思ったけどよぉ? こいつは底力見せてよぉ? ここまで6つの命題をクリアしたってワケだ!
女僧侶「あの……勇者さん……」アセアセ
勇者「ダメ……吐いちゃう……」
女僧侶「!」
ーー最初にクリアした命題は「引き篭もりをやめなければ即・死亡!」
勇者「……オエェェェェッ」
女僧侶「き、きゃあっ……!」
ーーそして次にクリアした命題は……
勇者「……ゲボオォォォォッ」
女僧侶「勇者さんっ……! 吐くなら、海に吐いて下さいっ……! 海にっ……!」アセアセ
勇者「あっ……う、うん……オエエェェェェッ……」
天童「おめぇはよぉ!? 人が話してる間、ゲボゲボうるせぇんだよっ!?」
勇者「あっ……ごめん……俺の事は気にしないで……ウップ……」
天童「うおっ……! こっち向くんじゃねぇよっ! 吐くなら海に吐けっ! 海によぉっ!」
ーーーーー
天童「よしっ! ついに魔王城のある大陸に到着したなっ!」
女僧侶「魔王城がある危険な大陸だっていうのに、私達と同じように、船で大陸渡ってくる冒険者さん達が、結構いるもんなんですねぇ?」キョロキョロ
天童「まっ、それだけ危険な大陸なんだかよぉ? 一山当てるつもりの連中が多いんだろうね?」
女僧侶「ふふ、私達も負けてられませんね……」クスクス
天童「まぁ、俺達もよぉ、先越されねぇように、とっととこんな船からおさらばして、街に行って酒でも飲みましょうっ!」
女僧侶「あっ……お酒はダメですよ……? 私達、お金もう少ないんですから……」
天童「まぁまぁ! 勇者君が活躍してくれるからさぁ? なっ、勇者……んっ……?」
勇者「……」グッタリ
天童「……おい、勇者?」
勇者「……」
天童「おいっ! 聞いてんのかおいっ!」
勇者「……俺、もう今日駄目だ」
天童「おめぇ、何言ってんだよっ! 他の冒険者は皆、街に向かってるぞ? こんな所で出遅れてどうすんだよ!」
勇者「あっ、天童……大声出さないで……まだ、船酔いで気持ち悪いからさ……?」
天童「何、言ってやがるこのダメ人間がっ! ほれっ、とっとと起きろっ!」グイグイ
勇者「バカっ……! 動かす……ウエエェェェェッ……」
天童「うおっ……! 汚ぇなぁっ……! 何やってんだ、おめぇっ!」
勇者「ごめ……ウエエェェェェッ……」
女僧侶「まぁまぁ、天童さん……勇者さんの酔いが醒めるまで、しばらく待ちましょう」
一時間後ーー
「よ~しっ、ストップっ! じゃあ、積荷降ろすぞ~? 準備いいか~?
「う~っす!」「う~っす!」
天童「……おい、勇者? 他の冒険者は皆、行っちまったぞ?」
勇者「ごめん……でも、だいぶマシになってきたから……」
「ちょっと~! 気をつけて扱ってよ~! その物資、高価なヤツなんだから!」
「う~っす!」「う~っす!」
女僧侶「……あれは、こっちの大陸への支援物資か何かでしょうかね?」
天童「う~ん……そうじゃないかな? やっぱり、こっちの大陸は物資が不足してるからねぇ?」
男武道家「全く……何で皆、僕ばかりに支援要請するんだ……東の街の次は大陸の街ってか……こっちは慈善事業じゃないんだよ……」ブツブツ
天童「あれ……? あの人って……?」
勇者「……ん?」
女僧侶「……お二人はあの方とお知り合いなのですか?」
天童「あぁ、東の街復興の時に、ちょっとね……おぉ~いっ! 男武道家さぁ~んっ!」
男武道家「んっ……? あっ! 天童さんに、勇者君じゃないかぁ!」
勇者「あの、以前は……お世話になりました……」
男武道家「あぁ、気にしないでよ! それよりさ……? あの時の支援物資の食糧良かったでしょ?」
勇者「はい、街の皆さん、凄く喜んでましたよ!」
男武道家「なぁ~んたって、僕のこだわりは凄いからねぇ? 実はね、あれから凄くいい食糧手に入れたんだ? ねぇねぇ、その話聞きたい聞きたい?」ウキウキ
勇者「あっ……! いやっ、それは……またの機会に……」
男武道家「え~っ!? つれないなぁ、君~! そんな事、言わずに聞いてよ~?」ウキウキ
勇者(やべぇ……おいっ、天童っ! 話題変えろっ!)
天童「あの~? 男武道家さんは、どうしてこちらの大陸へ……?」
男武道家「……あぁ、それね? なぁ~んか、こっちの大陸にさぁ? 物資が足りてないから、支援して来いって」
天童「じゃあ、今、船から降ろしてる積荷……アレ、全部男武道家さんの物で……?」
男武道家「信じられる? アレ、個人の物だよ? 何で、僕がさぁ? 個人でこんなに荷物運ばないといけないんだよ!?」
天童「まぁ、でも、ほら? 男武道家さんお金持ちだから……」
男武道家「だったら、社長がやればいいでしょ! 社長がっ! 僕は課長なんだよ!? なんで、課長の僕がさぁ!?」
天童「……武闘家さん、転職考えた方がいいんじゃないですかね?」
男武道家「うん……これ、終わったらさ? 武道家協会抜けて、遊び人にでもなるよ」
男武道家「まぁ、でもちょうど良かったや! ねぇねぇ、君達あの荷物運ぶの手伝ってよ?」
勇者「……えっ?」
天童「……えっ?」
男武道家「あっ! 勿論、ただとは言わないよ!? ちゃんと時給も出すからさ?」
勇者「あっ、お金出してくれるんですか?」
天童「それなら、手伝いますばいっ!」
男武道家「そうだなぁ~? 一時間、一人2Gでどうかな?」
勇者「……えっ?」
天童「……安いぞ」
男武道家「あれっ? どうしたの、その顔? ほらほら、給料出てるんだから、とっとと働いてよ! 時給引いちゃうよ?」
勇者(2Gって……薬草も買えやしねぇぞ……)
天童(武道家協会が腐ってんのは、こいつが原因じゃないだろうなぁ……?)
女僧侶「まぁまぁ、お二人共……お金の問題じゃないじゃないですか」
勇者「……ん?」
女僧侶「男武道家さんは、こっちの大陸に支援物資を運ぼうとしているんですから、私達も協力しましょうよ」
男武道家「おっ? 君、いい事言うねぇ?」
女僧侶「この物資で、困ってる人達が救われるんだから、私達も是非協力するべきですよ」
勇者「まぁ……そうだね……」
女僧侶「じゃあ、私達も手伝いますね? 男武道家さん?」
男武道家「いやぁ~、君、女の子なのに、頑張るねぇ? でもさぁ……?」
女僧侶「?」
男武道家「今……『お金の問題じゃない』って、言ったよね……?」
女僧侶「えっ……? はい……」
男武道家「そうだよね……そうだよね……こういうのはお金の問題じゃないよねぇ……」
女僧侶「は、はぁ……」
男武道家「よしっ! じゃあ、君は無給だっ!」
女僧侶「……えっ!?」
男武道家「何、驚いてるのさ? だって君、さっき『お金の問題じゃない』って言ったよね? 言っただろ? 言ったはずだよ?」
女僧侶「あっ……いやっ……」アセアセ
男武道家「だから、無給で頑張ってね? じゃあ、よろしくね?」
女僧侶「……」
天童「……」
勇者「……カァ~、俺より金に意地汚ぇ奴が現れやがったっ! たまらぁ~ん、もう、たまらぁ~んっ!」
天童「……そんな事、思ってねぇよっ! それに、俺は別に金に意地汚くねぇよっ!」アセアセ
ーーーーー
天童「しかし……荷物の量、多いなぁ……」
勇者「これ全部、支援物資なんでしょ? あの人、いい人なのか悪い人なのか、よくわかんないよね……」ポロッ
天童「……おい、勇者? 何か落ちたぞ、そこ」
勇者「あれ、なんだろう……封筒みたいだけど……あっ……!」
天童「おっ! 封筒って事は来やがったな!」
勇者「……なんで、命題がさ? こんな支援物資の中に紛れてんだよ?」
天童「……そういうのは神様に聞いてくれよ。まっ、早速見てみようぜ?」
勇者「も~う……え~っと……今回の命題は……っと……」ガサゴソ
勇者
X月X日 午後1時までに
他人の決断に任せないと即・死亡!
天童「ふ~む……『他人の決断に任せないと即・死亡!』か……」
勇者「えっ……?」
天童「今、午前11時だから明日の1時まで、後26時間……だな……?」
勇者「いやいやっ! 長いよっ! 今回、長いよっ!」
天童「まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇなっ!」
勇者「も~う……」
天童「とにかくよぉ? 後26時間……他人の決断に任せるんだな!」
勇者「なぁ、天童……ちょっと、それよくわかんないんだけど、どういう事?」
天童「……ん?」
天童「……おめぇはよぉ? こんな簡単な事もわかんねぇのかよ?」
勇者「いやいや、違うよ、違う違う! だから、今回の命題は後26時間、決断を女僧侶ちゃんやお前に任せればいいって事だよね?」
天童「そうだよ、わかってんじゃねぇか」
勇者「……でもさぁ? それっておかしくない?」
天童「……あぁ? 何がおかしいんだよ?」
勇者「……だって、命題っていうのは、ダメ人間の俺を成長させる為に来てるんでしょ?」
天童「そうだよ。おめぇは命題をクリアしながら、真人間に近づいていくんだよ」
勇者「でもさぁ? 他人に決断を任せる……ってのは、ちょっと違うんじゃないの? 自分で決断しろってのなら、ともかくさぁ?」
天童「……ん? そういや、そうだな」
勇者「なっ? 何か、今回は命題、おかしくねぇか?」
天童「う~ん……いや、でも『他人の決断に任せないと即・死亡』って、ちゃ~んと書いてあるしなぁ……?」マジマジ
勇者「これ、今回は一回休み……って、事でいいのかな?」
天童「いや……そういう事じゃねぇだろ……? なぁ~んか、意味があると思うんだよ……」
勇者「う~ん……そういう事なのかなぁ……」
天童「まぁよぉ? 安易に決断するなって事じゃねぇのか? とにかくよぉ、後26時間……気をつけろよ!」
勇者「う~ん……わかった……」
天童「じゃあ、とりあえず、荷物運んじまうか!」
勇者「そうだね。あんまり考えてもしょうがないしね……」
天童「じゃあ、僕はこっちの軽い荷物運ぶから、勇者君はそっちの思い荷物、よろしくね!」
勇者「……はぁ? 何、言ってんだお前!?」
天童「勇者君こそ、何言ってるんだよ! これは僕の決断だよ!? ホラ、僕に任せないとさぁ?」
勇者「おめぇはよぉ? そうやって、すぐ楽しようとしやがるなぁ? いいから、おめぇもこっちの重い荷物運べっ!」
天童「あっ……! おめぇ、俺の決断に任せねぇと死ぬぞ!? 死んじまうんだぞ!?」
勇者「うるせっ! そう何度も騙せれてたまるかよっ! いいから、そっちの荷物よこせっ!」グイグイ
天童「ダメだって、こっちの荷物運んだら、おめぇ死ぬぞ!? 死んじまうぞ!?」グイグイ
男武道家「ちょ、ちょっとっ……! 君達、何してるのっ!?」アセアセ
勇者「……ん?」
天童「……ん?」
男武道家「そんな危険物で遊んじゃ、危ないでしょ!? 何、考えてるの!?」アセアセ
勇者「……えっ? これ、何入ってるんですか?」
男武道家「それには、爆薬が入ってるんだよ!? 下手に落っことしたら、爆発するよっ!?」
天童「えっ……? これ、爆弾……?
男武道家「もうっ! 慎重に扱ってもらわないと困るよっ! 時給減らすからね、もうっ!」
勇者「な、なんで……こんな危険な物……持ち運んでいるんですかね……?」アセアセ
男武道家「魔物のいる洞窟を破壊するのに、使うんだってさ! とにかく、天童さんはそれを慎重に運んで……勇者君は、残り全部の荷物、運んじゃってっ!」
勇者「!」
天童「!」
天童「勇者君、変わって……? 僕、そっちの重い荷物、全部持つからさぁ……?」アセアセ
勇者「ダメ……男武道家さんの決断だから……俺、こっちの重い荷物運ばなきゃ……」アセアセ
天童「……」
勇者「……」
天童「なぁ、勇者……頼むよ……変わってくれよ……俺、こんな危険な物、運びたくねぇよ……」
勇者「ダメだって……俺が運んだら……それこそ、死んじまうんだからさぁ……?」
天童「……」
勇者「……」
天童「お、おい……勇者……? この命題……思った以上にやべぇぞ……?」
勇者「う、うん……もう、自分で決断とかしない……」
ーーーーー
女僧侶「あの……勇者さん……? 天童さん、どうしてあんなに離れて歩いてるんですかね……?」テクテク
勇者「あぁ……聞かない方がいいよ……?」テクテク
女僧侶「?」
勇者「まぁ、街までもう少しだからさ……? 頑張って、支援物資運ぼうよ?」
女僧侶「……勇者さんの荷物、重そうですね? 私も手伝いましょうか?」
勇者「あっ、本当? だったらさぁ……手伝ってもらえ……」
男武道家「あ~、こらこら! 女僧侶ちゃん、余計な事を言わないの!」
女僧侶「……えっ?」
勇者「……んっ?」
男武道家「勇者君はさぁ? 女僧侶ちゃんと違って、給料出てるんだから、その分働いてもらわないと困るよっ!」
勇者「給料って……さっき、時給減らされて、たった1Gでしょうが……」
男武道家「1Gでも立派なお金です。 ほら、お金出てるんだから、文句言わないのっ!」
勇者「なんで、そんなにお金にシビアなんですか……ちょっとぐらい、手伝ってもらってもいいじゃないですか……」
男武道家「ダ~メっ! お金を貰ってる人はその分、働かないといけないの! これが僕の決断ですっ!」
勇者「!」
女僧侶「勇者さん……男武道家さんは、ああ言ってますが……やっぱり、私手伝いますよ?」
勇者「えっ……!?」
女僧侶「荷物貸して下さい。 私も半分持ちます」ニコッ
勇者「あっ……! いやっ……! あのっ……! そのっ……!」
女僧侶「どうしたんですか?」
勇者「あっ……いやっ……! 大丈夫だよ、大丈夫っ! ここは男武道家さんの決断に任せよう!」
女僧侶「そんなに重そうなのに……どうしてですか……?」
勇者「いやぁ……やっぱり、お金貰ってるんだから、ちゃんと働かないとさ! ねっ?」アセアセ
女僧侶「……たった1Gなのに?」
「あ~っ! ちくしょうっ! こんな街に来たのは、失敗だったぜ!」
女僧侶「……ん?」
勇者「……ん?」
「ふざけんじゃねぇよっ! あの糞野郎っ! 足元見やがってっ!」
「こんな所で一山当てようとした俺達が失敗だったぜ!」
「とっとと船で、あっちの大陸へ戻ろうぜっ!」
ゾロゾロ……
勇者「どうしたんだろ……? 冒険者達が、船の方に戻ってるけど……?」
女僧侶「街で何かあったんですかねぇ?」
男武道家「君達、何してるの~? そんなにもたもたしてたら、また時給引いちゃうよぉ~!」
勇者「別に、減らされてもいいけどね……1Gだし……」
女僧侶「すいませ~んっ! 今、行きますっ!」
街ーーー
男武道家「12時半……って、ところだね……ようやく、街ついたか」
女僧侶「もうお昼ですね……昼食でもとりませんか?」
勇者「あっ、いいねぇ? 俺、船酔いで全部出しちゃったからさぁ……? お腹ペコペコなんだよ……」
男武道家「う~ん……じゃあ、お昼ご飯は商談が終わってからにしようか?」
女僧侶「……えっ?」
勇者「いやっ……皆、お腹空いてますから、先にご飯にしません?」アセアセ
男武道家「あっ……君、バイトの分際で、僕の決断に逆らうの? 時給引いちゃうよ?」
勇者「!」
男武道家「あれっ……? 君、急に黙りこんで、どうしたの?」
勇者「あっ……いやっ……先に商談でいいです……はい……」
男武道家「あれ? 急にしおらしくなったねぇ、君?」
勇者「いや、やっぱり……支援物資をこの街の方達に届けませんとね……」
男武道家「じゃあ……どうしようかな……? 商談の方に天童さん、貸してくれるかな? あの人も、腕いいからさぁ?」
勇者「……僕達はどうしたらいいですか?」
男武道家「君達は道具屋とか武器屋を回ってさぁ? レアな物がないかチェックしておいてくれない?」
勇者「男武道家さんって、アイテムコレクターですもんね」
男武道家「それが終わったらさぁ? 皆でご飯食べに行こうよ?」
勇者「……一時間ぐらいかかるんですかねぇ?」
男武道家「まぁ、商談で纏まったお金も入ると思うしさぁ? 奢ってあげるから、一時間ぐらい我慢してよ?」
勇者「えっ!?」
男武道家「……何だよ、そんなに驚いた顔をして?」
勇者「武道家さんが奢ってくれるんですか?」
男武道家「君は人を守銭奴みたいに言うんだね? 君は失礼な人だ」
ーーーーー
女僧侶「天童さんと男武道家さん、商談の方に行きましたね。上手くいくといいですね」
勇者「……あいつ、爆弾持ったままだけど、大丈夫かねぇ?」
女僧侶「……爆弾?」
勇者「いやっ……まぁ、あんまり気にしない方がいいよ……」
女僧侶「?」
勇者「まっ、俺達も道具屋とか回って、商談が終わるのを待とうか!」
女僧侶「そうですね。薬草や回復薬の補充もしませんとね」
道具屋ーー
道具屋の主人「……いらっしゃい」
勇者「あら、品揃えが豊富ですね」
女僧侶「そうですね。薬草に、回復薬……魔力回復薬なんかまであります」
主人「薬草は……500G……」
勇者「……えっ?」
主人「回復薬は……1000G……」
女僧侶「……えっ?」
主人「魔力回復薬は……1500G……」
勇者「!」
女僧侶「!」
主人「……どうした?」
勇者「い、いやっ……あのっ……」アセアセ
女僧侶「これ……ちょっと、高くありませんか……? 薬草って、5Gぐらいじゃないんですかね……?」
主人「お前ら、向こうの大陸から来た冒険者だろ? なぁ?」
勇者「あっ……はい……」
女僧侶「その通りです……」
主人「あのなぁ? 向こうの大陸と、こっちの大陸じゃ相場が違うのは当たり前じゃねぇかっ!? なんで、あっちの大陸の人間は文句ばかり言うんだよ!?」
勇者「いやぁ……でも、ですねぇ……? 100倍って……やりすぎじゃないですかねぇ……?」
主人「それはお前らがよぉ、平和な大陸で、平々凡々と暮らしてるから、そう思うだけだろが!」
女僧侶「……えっ?」
主人「こっちの大陸見てみろよ! 魔王城が近くにあるせいでよぉ? 魔物が溢れて、薬草一つ採るのにどんだけ苦労してると思ってるんだよっ!?」
女僧侶「そんなに……こちらの大陸は荒れているんですね……」
主人「さっきも、おめぇと同じ事言って、他の冒険者は帰っちまったよ! どうすんだよ!? 俺、家族養えねぇよっ!」
女僧侶「……」
主人「まぁよぉ……? おめぇらは人が良さそうだから、まけてやってもいいかね……?」
女僧侶「えっ、 本当ですか!?」
主人「そうだな……2割引き……って、ところでどうだ?」
女僧侶「えっ、2割引きって事は……100Gもまけていただけるんですかっ!?」
勇者「……いやいや」
主人「そうだよ、得だろ!? すっげぇ、お得だろ!? だからよぉ、俺と家族の為にも、何か買って行ってくれねぇかな?」
女僧侶「そういう事なら……買いましょうかねぇ……?」
勇者「いやいや……女僧侶ちゃん……よく考えなよ……?」
主人「……」
女僧侶「……えっ?」
勇者「……これさぁ? 2割引きした所で400Gだよ? 元値の何倍の値段だと思ってるの?」
主人「うるせぇなっ! おめぇは人の好意に余計な事言うんじゃねぇよっ!」
勇者「いや……でも、ですねぇ……?」アセアセ
主人「買おうとしてるのはこの姉ちゃんだろうがっ! おめぇは余計な茶々入れるんじゃねぇよっ!」
勇者「そうは言ってもですねぇ……」
主人「俺はおめぇと商談なんてしてねぇよっ! 俺はこの姉ちゃんと商談してんだよ!」
勇者「いやっ……でも、僕仲間ですから……」アセアセ
主人「うるせぇよっ! おめぇみたいな相場のわからねぇ奴は黙ってろよっ! おめぇは黙ってこの姉ちゃんの決断に乗っておけってのっ!」
勇者「!」
主人「ったく、これだから相場のわからねぇガキの相手は嫌なんだよ……で、どうする? 姉ちゃん、買ってくれるかな……?」
女僧侶「う~ん……そうですねぇ……」
主人「なぁ~、 頼むよ~? 頼むよ、姉ちゃん~?」
女僧侶「?」
主人「姉ちゃんにさぁ? 何か買ってもらわねぇとさぁ? 俺の家族、皆首くくる事になっちまうんだよぉ~」シクシク
女僧侶「そ、そんなっ……!」アセアセ
主人「他の冒険者達が、何も買わずに帰ったせいでよぉ……? 今日は大赤字なんだよ……なぁ、頼むよぉ~?」
女僧侶「で、でも……私達、そんなにお金持ってませんし……」
主人「あるだけでいいかよぉ~? 何でもいいからよぉ~? とにかく、何か買ってくれよぉ~?」
女僧侶「勇者さん……? この方、困ってるみたいですが、どうしましょう……?」アセアセ
勇者「……」
女僧侶「……勇者さん?」
勇者「……女僧侶ちゃんの決断に任せるよ」
女僧侶「……えっ?」
勇者「値段は確かに高いけどさぁ……? この人も困ってるみたいだし……女僧侶ちゃんの決断に任せる……」
女僧侶「え~? じゃあ、どうしましょうか……?」
勇者(……買うなよっ! 絶対にっ! 買うなよっ!)
主人「なぁ? 頼むよ、姉ちゃん~?」シクシク
女僧侶「そ、それじゃあ……」
勇者「……」
主人「……」
女僧侶「薬草を一つ、いただきます」ニコッ
勇者(何で、買うんだよっ! 俺『買うなよっ! 絶対に買うなよっ!』って言ったじゃんっ!)
主人「へいっ! 薬草一つで400Gだっ!」
女僧侶「ふふ、家族の皆さんよろしくお願いしますね?」
勇者(この薬草一つで、何個薬草が買えるんだよっ! 返品しなさいっ! 絶対に返品しなさいっ!)
主人「あぁっ! また買い物してくれよっ!」
女僧侶「そうですね。 また、纏まったお金が入ったら、こちらに来たいと思います」ニコッ
勇者(あ~っ! 言いたいっ! 凄くいいたいっ! その決断は間違ってるって、凄く言いたいっ!)
女僧侶「それじゃあ、勇者さん? そろそろ、男武道家さん達と合流しましょうか?」
勇者「……」
女僧侶「お腹も減りましたし、ね……?」
勇者「……そうだね」
女僧侶「あ、あれっ……? もしかして……勇者さん、怒ってます……?」アセアセ
勇者「……えっ?」
女僧侶「あの……私が高い薬草買ってしまった事……怒ってます?」
勇者「……」
女僧侶「だって……あの人、家族を養っていらっしゃるのに……困っていたみたいでしたから……つい……」
勇者「……『つい』って」
女僧侶「確かに……薬草は高かったですが……」
勇者「……」
女僧侶「それで、あの方と家族が救われる事を考えてら、安い買い物だと思うんですよね……?」アセアセ
勇者「……えっ?」
女僧侶「……私達だけが、お金を沢山蓄えて幸せになってもしょうがないじゃないですか?」
勇者「……」
女僧侶「私は……幸せは全ての方に平等に与えられる物だと思うんですよね……」
勇者「一応、高い事はわかってたんだね……? それで、そういう理由で買ったって、ワケか……」
女僧侶「でもっ……! 勇者さんが納得できないのであれば、返品してきますが、どうしましょうか……?」
勇者「……」
女僧侶「勇者さん……怒ってますよねぇ……?」アセアセ
勇者「……いや、怒ってないよ」
女僧侶「……えっ?」
勇者「俺はさぁ? 目先の損得しか考えてなかったけど、女僧侶ちゃんはそういう事も考えてたんだね?」
女僧侶「……」
勇者「そういう考えで出した決断だったら、いいんじゃない? 俺にはそういう考え方はできなかったからさ?」
女僧侶「勇者さん……ありがとうございます……」
勇者「……今回の命題の意味って、こういう事なのかな?」
女僧侶「……命題?」
勇者「あっ……! いやっ……! なんでもないナンデモナイ……! それよりさ、早く男武道家さんと合流して、ご飯食べに行こうか!」アセアセ
ーーーーー
男武道家「……勇者君、遅かったねぇ? 待ちくたびれたよ」イライラ
勇者「あっ、ごめんなさい……って、何でまだ荷物がここにあるんですか? 商談はどうしたんですか……?」
天童「商談……決裂……って、ヤツだ……」
勇者「うおっ! おめぇも何で、まだ爆弾持ってるんだよ!? そんな、危ねえ物、早く売っちまえよっ!」
男武道家「……2Gだって。その爆弾の買取価格」
勇者「……えっ?」
男武道家「こっちの武器は各3G……こっちの食糧は各1Gだって……買取価格……」
勇者「はぁ!?」
男武道家「全部売っても、1000Gにもならないよ……こいつら、弱者って事を利用して、舐めてるよね?」
勇者「これだけの支援物資あるのにですか!?」
天童「おいっ、勇者っ! 俺の商才が通じねぇんだよっ! 何を言っても『物価が違う』の一点張りだっ!」
男武道家「……こんな街に支援物資を渡す価値なんてないよ。僕も船に乗って、あっちの大陸に帰る」
勇者「いやいやっ……! 男武道家さん、ちょっと待って下さいよっ!」アセアセ
男武道家「何だよ、勇者君? 止めても無駄だよ? 僕はボランティアでやってるわけじゃないんだから……」
勇者「いやいや、そうじゃなくてですね……」
男武道家「……何? どうしたの?」
勇者「あの……飯、奢ってもらうって約束……どうなりました……?」
男武道家「あれは、商談で纏まったお金が入ったらって、言ったでしょ!?」
勇者「いや~、あの……実は僕達、お金がないんですよ……」アセアセ
天童「おい、勇者? まだ、500Gぐらいは残ってただろ?」
勇者「ごめん天童……使っちゃった……」
天童「はぁ!? おめぇ、500Gも何に使ったんだよ!?」
勇者「……薬草」
天童「おめぇ、何個薬草買ったんだ!? そんなに、薬草買ってどうすんだよ! おめぇは虫か! 主食は草かっ!」
勇者「あはは……数は聞かない方がいいと思うよ……? お前、多分暴れる事になるから……」
天童「……お前、何か騙されたりしてねぇだろな!?」
勇者「う~ん……でも、命題だったからさぁ……?」
天童「……何か、決断を任せる場面があったのか?」
勇者「……うん」
天童「……」
勇者「と、いうワケで男武道家さん……ご飯だけでもご馳走してくれませんかねぇ……?」
男武道家「……」
勇者「僕達、お金なくて困ってるんですよ……ねっ……?」
男武道家「……」
勇者「ねっ、お願いしますよ? ここまで支援物資を運ぶの手伝ったじゃないですか?」
男武道家「もう……しょうがないなぁ……」
勇者「ありがとうございますっ……!」
男武道家「その変わり……この物資、持って帰るから、船まで運んで積み込むの手伝ってね?」
勇者「……えっ?」
男武道家「何だよ、君? ただで奢ってもらえるとでも思ってるの? ダメだよ、これが条件!」
勇者「うぅ……わかりました……」
男武道家「じゃあ、皆で酒場にでも行って、食事にしようか? あまり、高い物は頼んじゃダメだよ? 一人、一品のみね!」
勇者「……」
酒場ーーー
酒場の主人「……いらっしゃい」
天童「生、頼みたいけどなぁ……まぁ、我慢すっかっ! おい、皆は何注文するんだ?」
勇者「え~っと……じゃあ、俺はA定食で……」
女僧侶「私も、同じものにします」
男武道家「じゃあ、僕はB定食にしようかな? 天童さんはどうします?」
天童「酢豚か……堅焼きそばだなぁ……」
勇者「……おめぇは、昼から酢豚を食うのか? 堅焼きそばを食うのか?」
天童「もう、昼って時間でもねぇだろが? 決めたっ! 俺は堅焼きそばねっ!」
主人「A定食二人前と、B定食と、堅焼きそばだな? すぐ、作るよ」
主人「ちなみに……うちは前金制だ……」
勇者「あっ、そうなんですか? じゃあ、男武道家さん……お願いします……」
男武道家「もう……後で、しっかり働いてもらうからね? それで……いくらなの?」
主人「……27'000Gだ」
勇者「……えっ?」
男武道家「はぁ!?」
主人「……何、驚いてんだよ? 早く、27'000G払いやがれ」
勇者「ちょっと……! 高くないですかねぇ!?」
男武道家「おい、お前? 舐めてんだろ? なぁ、僕達を舐めてるんだろ!?」
主人「A定食は、6'000G……B定食は、5'000G……堅焼きそばは……10'000Gだ……」
勇者「おいっ、 天童っ! おめぇ、何高いもん、頼んでんだコラっ!」
天童「いやっ、待てっ! 勇者、待てっ!」
勇者「おめぇもB定食にしろっ! おめぇの頼んだ、堅焼きそばは倍の値段してんじゃねぇかよっ!」
天童「待てっ! 勇者っ! とりあえず、落ち着けっ!」
勇者「……あぁ?」
天童「堅焼きそばの値段はよぉ? 確かに高ぇけど、他のメニューの値段、よく見てみろよ、おいっ!」
勇者「……ん?」
天童「A定食が6'000G……B定食が5'000Gだぞ? 俺だけじゃなくて、おめぇらも、おかしいもん注文してんだよっ!」
勇者「そ、そうだっ……問題点は堅焼きそばの値段じゃないよな……」アセアセ
男武道家「なぁ……? お前、舐めてんだろ?」
主人「……何がだよ?」
男武道家「この料金でさぁ、四人家族が何ヶ月食べていけると思ってるんだよ?」
主人「……それは、お前らがいた平和な大陸での話だろ?」
男武道家「……はぁ?」
主人「こっちの大陸はなぁ? お前らのいた大陸とは違って、物資が不足してんだよ。物価が上がるのは当然じゃねぇか?」
男武道家「需要と供給のバランスってわかるかな? あっ、わからないから、こんな方外な値段ふっかけてるんだよね? 君、頭悪そうだし」
主人「……文句ばっかり言うんだったら、とっとと帰りやがれっ!」
男武道家「ああっ! そのつもりだよっ! こんな店にいられるかっ! この野郎っ!」ガタッ
男武道家「勇者君っ! 帰るよっ!」
勇者「えっ……? いや、ご飯は……?」アセアセ
男武道家「こんなバカみたいな料金のお店で食べれるワケないでしょ! ほらっ、荷物持って、とっとと出るよ!」
勇者「いやっ……でも、ですねぇ……?」
男武道家「……君ねぇ? 人のお金だからと言って、無茶苦茶言うんじゃないよ! 誰がお金払うと思ってるんだよ! 誰が!」
勇者「でも、物価が違うんだったら……しょうがないんじゃないんですかね……?」アセアセ
男武道家「勇者君っ! 君は毒されているっ! この街に毒されているぞっ!?」
勇者「……えっ?」
男武道家「天童さんと、女僧侶ちゃんはどう思うの? まさか、勇者君みたいにバカな事、言い出したりしないよねぇ?」
女僧侶「私は……」
男武道家「……」
女僧侶「やはり、代金を支払うのは男武道家さんですし……男武道家さん一人に、負担させるのは気が重いです……」
男武道家「ほら、よかったっ! 女僧侶ちゃんはまともだった! じゃあ、天童さんは?」
天童「俺はよぉ?」
男武道家「……」
天童「まぁ、確かに腹は減ってるけどよぉ? 27'000Gも使うんだったら、やっぱり腹いっぱい食いたいね」
男武道家「ほらっ!? 皆、ここでは食べないって決断じゃない!? 勇者君だけだよ? そんな事言ってるの!」
勇者「……」
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「?」
天童「ここは……『皆の決断』に従おうぜ?」
勇者「……えっ?」
天童「こっちの大陸はよぉ……? 何か事情があるのかもしれねぇけどさぁ?」
勇者「……うん」
天童「……やっぱり、高ぇよ」
勇者「……」
天童「多数決で決まった事じゃねぇか? おめぇ一人でゴネて、男武道家さんに迷惑かけちゃいけねぇよ?」
勇者「俺は……ゴネてたわけじゃないよ……」アセアセ
天童「まぁ、話はゆっくり、後でするとして……とりあえず、店から出ようぜ? なっ?」
勇者「うん……」
ーーーーー
勇者「……」テクテク
天童「……おい」テクテク
勇者「……」
天童「おいっ! 勇者ァっ! 聞いてんのかっ!?」
勇者「!」ビクッ
天童「何、チンタラ歩いてんだよ!? 船着場まで、もう少しだぞ!?」
勇者「あっ……ごめん……」
天童「……」
勇者「……おめぇ、爆弾持ってんだから、もうちょっと離れて歩けよ? 危ねぇよ」
天童「……」
勇者「……はぁ」
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「……ん?」
天童「おめぇ、何でさぁ? さっきの酒場でゴネてたんだよ?」
勇者「えっ……? いや、ゴネてたつもりはないけどさぁ……」アセアセ
天童「おめぇよぉ? 今回の命題は『他人の決断に任せないと即・死亡』だろ?」
勇者「うん……」
天童「男武道家さんは、あの店では食わないって決断したじゃねぇか? だったら、それに従えばいいじゃねぇか?」
勇者「……」
天童「俺は慌ててフォローしたけどよぉ? おめぇ、余計な事言うと、死ぬんだぞ? わかってんのか!?」
勇者「わかってるよ……わかってるけど、さぁ……?」
天童「……」
勇者「なぁ、天童……今回の命題って……どういう事なんだろ……?」
天童「……あぁ?」
勇者「これ……楽な命題だと思ってたけど……難しいよ……」
天童「……」
勇者「俺の考えがさぁ? ことごとく、死んでいくんだよっ!? 命題のせいでさぁ!?」
天童「……」
勇者「本当に薬草は買ってよかったのかな……? 酒場の人だってさぁ? 何か理由があったのかもしれないじゃん!?」
天童「……」
勇者「だけど、そういう事を考える前に、決断が出ちゃうんだよ!」
天童「……」
勇者「自分で決断するんだったらともかくさぁ……? こうやって、流されてるだけって……なんか、やりにくいよ、俺……」
天童「……まぁ、ちっとは成長してるみたいだね?」
勇者「……えっ?」
天童「おめぇ、命題に真剣に取り組むようになったじゃねぇか? なぁ?」
勇者「……うん」
天童「でもよぉ? 今までの命題やってきたらわかるだろ?」
勇者「……えっ?」
天童「意味のねぇ事なんて、ねぇんだよ……無意味だと思う事にも……ちゃんと意味があったりするんだよ」
勇者「……う、うん」
天童「俺も、神様が何を考えてるのかは、わかんねぇけどよぉ? やっぱり、今回の命題にもちゃんと意味があると思うんだよ」
勇者「……」
天童「おめぇはよぉ!? 一人で背負い込みすぎなんだよ! 女僧侶ちゃんも、男武道家さんも、そんな簡単に間違った決断をする人間か!?」
勇者「いや、女僧侶ちゃんは……そうじゃない……男武道家さんは……まだ、ちょっとよくわかんないけど……」
天童「不安なのはわかるけどよ? もうちょっと、周りの事を信用してみようぜ?」
勇者「う、うん……」
男武道家「おいおいっ! ふざけんなよっ! どういう事だよっ!?」
勇者「……ん?」
天童「あれっ……? 男武道家さん、どうしたのかね?」
男武道家「船が出港しただって!? ふざけんじゃないよっ! 僕達、どうすればいいんだよっ!?」
「次に定期便来るのは……三日後です……それまではこちらの大陸でお待ちになって下さい……」
男武道家「ふざけんじゃないよっ! あんな、街になんか、一秒たりともいたくないよっ!」
「そ、そうは言われましても……」
男武道家「ちくしょうっ! なんで、こんな街に俺は来ちまったんだっ! くそぉっ! 俺はとばされたのかっ!」
勇者「あの~? 男武道家さん……?」
男武道家「終わった……船が……行ってしまった……」ガックリ
勇者「いやいや……そんなに落胆しないでもいいでしょう……?」
男武道家「ふざけるなぁっ! 落胆もするよっ! 落胆もっ!」
勇者「!」ビクッ
男武道家「こんな、魔物が溢れる大陸に一人だぞ!? どうしろって言うんだよっ!」
勇者「いやいや……まぁまぁ……」
男武道家「それに、敵は魔物だけではないんだぞっ! 街には銭ゲバの亡者が溢れかえってるときたもんだっ!」
勇者「銭ゲバって……まぁ、男武道家さんも似たようなもんじゃないですか……」アセアセ
男武道家「この大陸に人間はいないのかっ! まともな人間はっ! 僕は次の出港までの三日間、どうすればいいんだっ!」
勇者「まぁ、でも……あの街で、大人しく三日間、待てばいいんじゃないですかね?」
男武道家「勇者君、勇者君……その考えは正しい……非常に正しい……」
勇者「……でしょ?」
男武道家「ただし、それは『普通の街』の話だ……」
勇者「……えっ?」
男武道家「あそこの連中、見ただろ? 銭ゲバの集まりだよ? きっと、宿屋だって法外な料金、ふんだくられるに決まってるよっ!」
勇者「いやぁ~、流石に、それはないでしょ……」アセアセ
男武道家「いやっ……僕の予想では、一泊8'000Gぐらいだね? だって、あいつら金の亡者だもんっ!」
勇者「いやいや……流石にそれは……」
天童「おい、勇者……おい、勇者……」ヒソヒソ
勇者「……ん?」
天童「俺も……男武道家さんと同じ考えな気がするぜ……」
勇者「……えっ? 何で?」
天童「そりゃ、天使の勘ってヤツだよ」
勇者「……天使の勘は、人間の勘と比べてどうなの? 当たるもんなの?」
天童「そりゃ、あんまり変わんねぇよ……」
勇者「だったら、わざわざ天使の勘とか言うなってのっ! このダメ天使っ!」
天童「だから、ダメ天使って言うなよ、おめぇ!……でもよぉ? あの街、なぁ~んかきな臭いと思わねぇか?」
勇者「えっ……? 何が……?」
天童「だってよぉ? あれだけ、物価が高いんだぜ?」
勇者「それは……この大陸が危険で、物資が取れないからでしょ?」
天童「物資が足りなくて……物価が上がる、と……」
勇者「うん」
天童「じゃあ、その結果、どうなるよ?」
勇者「……えっ?」
天童「物価が上がったら……どうなるよ……? 今日、起きた事を言ってみろよ?」
勇者「今日起きた事って……何だよ……?」
天童「……」
勇者「……」
天童「……冒険者が大陸捨てて、帰るんだよ」
勇者「!」
天童「冒険者が帰ったら、どうなるよ?」
勇者「え~っと……魔物が……増えるっ……!」
天童「そうだっ! 一度、整理するぞ?」
勇者「う、うん……」
天童「物資がなくて……物価が上がる……物価が上がって……冒険者は帰る……」
勇者「冒険者が帰って……魔物が増える……魔物が増えて……物価がとれなくなる……」
天童「……なっ?」
勇者「な、なんか……見事な負のスパイラルだねぇ……?」アセアセ
天童「……なぁ、勇者? いくら、なんでもこりゃ、出来過ぎじゃねぇか?」
勇者「えっ……?」
天童「ただの負のスパイラルだったらよぉ……まだ、いいかもしれねぇけどよぉ?」
勇者「……」
天童「誰か、黒幕みたいなヤツがいるとしたら……こいつは、厄介な問題だぜ?」
勇者「……」
天童「それと、勇者……もう一つ、問題がある……」
勇者「……問題?」
天童「今、午後4時だろ……?」
勇者「うん。タイムリミットまで、後21時間だね?」
天童「それもあるけどよぉ? 今晩の話だよ、今晩の話」
勇者「……えっ?」
天童「今夜、宿はどうすんだ? まさか、こんな危険な大陸で野宿ってワケじゃねぇだろな?」
勇者「あっ……! ど、どうしようっ……! もし、宿屋が高かったら……!」アセアセ
天童「男武道家さんは、支援物資売っぱらってなんとかなるかもしんねぇけどよ? 俺達はそうもいかねぇぞ?」
勇者「ど、どうしよう……とりあえず、皆で……」
天童「バカっ! おめぇは決断するんじゃねぇよっ! 死にてぇのかバカっ!」
勇者「!」
勇者「あの……男武道家さん……?」
男武道家「……ん?」
勇者「これから、どうします? 船が来るまでの三日間……」
男武道家「う~ん……どうしようかな? 困ったなぁ?」
勇者「宿屋とか……それに……食糧とか……」
男武道家「……」
勇者「で、でも……やっぱり、街に行くしかないのかなぁ~?」アセアセ
男武道家「……」
勇者「あっ、コレ、『決断』じゃなくて『提案』ですからね!? でも、街に行くしかないんじゃないですかねぇ……」アセアセ
男武道家「……気は進まないけど、そうしかないね?」
勇者「それでですねぇ……? 男武道家さん? 一つご相談があるんですが……」
男武道家「……相談?」
勇者「いやっ……あのですねぇ……僕達、お金がですねぇ……ないんですよ……」アセアセ
男武道家「うん、聞いた。 ソレ、さっき聞いたよ」
勇者「もし……よろしければ……今夜の宿の方の面倒を見ていただけると……ありがたいんですが……」アセアセ
男武道家「ふふふ、君……面白い事、言うねぇ?」
勇者「あっ……これも『提案』ですから『決断』するのは男武道家さんが……」
男武道家「ふざけんじゃないよっ!」
勇者「!」ビクッ
男武道家「あの街の物価の高さをみただろ!? 君達の面倒を見てる余裕なんてないよっ!」
勇者「いやっ……そこをなんとか……」
男武道家「あのね? 君は現状を理解していないようだから言っておくけどねぇ?」
勇者「……は、はい」
男武道家「いくら、僕が君達よりお金持ってるからって、あの街の物価の高さじゃ、僕だって手も足も出ないんだよ」
勇者「……支援物資売ったりするのはなしですかね?」アセアセ
男武道家「たった、1000Gで何が出来る! あの街では堅焼きそばも食えやしないんだぞっ!?」
勇者「そ、そうですよねぇ……? どうしよう……今晩、どうしようかな……」
勇者「あっ! そういや、俺魔法使えたんだ!」
女僧侶「……魔法?」
勇者「いや、ワープして街に戻る魔法があるんだよ! それ使えば、あっちの大陸に戻れるんじゃね?」
男武道家「……」ピクッ
女僧侶「でも……私達はこっちの大陸に救う為に来たんですよ? わざわざ、今更戻るなんて……」
勇者「……あっ、決断されちゃった。まぁ、女僧侶ちゃんの言ってる通りだけどさぁ?」
男武道家(何……彼らは、街に戻る魔法が使えるだと……?)
天童「まぁ、女僧侶ちゃんの言う通りだな。わざわざ、船に乗って来たってのに、戻る事はねぇよ」
勇者「そうだよね……戻ったとしても、やっぱりいつかはこっちの大陸にこなくちゃいけないもんね……」
男武道家(これはっ……! 街に帰る、大チャンスっ……!)
男武道家「コホン……あ~、勇者君……勇者……」
勇者「……ん? どうしたんですか?」
男武道家「君、そんな魔法使えるんだ!? うわぁ、凄いなぁ!」
勇者「いや、でも使わないって決断になりましたよ? 僕達はこっちの大陸に用があるんだし……死にたくないし……」
男武道家「う~ん……でも、今晩の宿屋はどうするつもりなんだい?」
勇者「えっ……? それは……」
男武道家「うんうん……」
勇者「いや……結論は出てませんけど……」
男武道家「あっ、じゃあさ? その魔法で帰るしか方法はないんじゃないの?」ニコニコ
勇者「何で、そんなに嬉しそうなんですよ……僕達は帰りませんって……」
男武道家(……チッ)
勇者「?」
男武道家「じゃあさっ! こうしようっ! 僕が君達の宿の面倒みてあげるっ!」
勇者「えっ!?」
天童「えぇっ!?」
男武道家「何だよ、君達……何を驚く事があるのよ……?」
勇者「ドケチの男武道家さんが!?
」
天童「銭ゲバの男武道家さんが!?」
男武道家「……君達は本当に失礼。本当にっ!」
勇者「あ、あはは……」
天童「すんましぇ~ん」
男武道家「でもさぁ? 法外な値段ふっかけられたら、宿屋には泊まらないよ?」
勇者「えっ?」
男武道家「もし、法外な値段をふっかけられて、三日間滞在できなさそうなら、その勇者君の魔法使おうよ?」
勇者「……えっ?」
男武道家「それで……皆で大陸に帰る……これでいいじゃない?」
勇者「う~ん……」
男武道家「まぁさ? 宿屋が安かったら、問題はないんだからさ? いい条件じゃない?」
勇者「う~ん……現状では、この決断がベストなのかな……?」
男武道家「そうだよっ! この決断がベストだよっ! ねっ、だから、早く宿屋で料金聞いて、とっととこんな大陸からおさらばしようっ!」
勇者「……えっ?」
男武道家「あっ、違う違うっ! 宿屋が安いといいよねっ! さっ、ほら、勇者君荷物運ぶの手伝ってよ」
勇者「あっ……はい……」
宿屋ーーー
宿屋の主人「一人、一泊16'000Gだ。オラ、とっとと金払え」
男武道家「あらっ! こりゃ、高いっ! 困ったなぁ~、僕には手も足も出ないや」ニコニコ
勇者「……なんで、そんなに嬉しそうなんですよ? あの、もうちょっと、安くなりませんかねぇ?」
主人「文句があるなら、とっとと帰りな」
男武道家「はいっ! 帰りますっ! 僕達、帰りますっ! さぁさぁ、勇者君? とっとと、こんな街から帰ろうよ」
勇者「あの……ちょっと、いいですか……?」
主人「……あぁ?」
男武道家「……あれ? 勇者君、どうしたの?」
勇者「こんなに、料金が高いと……冒険者はいなくなってしまうと思うんですよ……」
主人「……」
勇者「冒険者いなくなったら……魔物も増えて……」
主人「……」
勇者「魔物が増えると……物資も、とれなくなって……」
主人「……」
勇者「物資が取れなくなるから……こうやって、物資も上がって……負のスパイラルだと思うんですよねぇ?」
主人「……」
勇者「一つ、変えるだけで……凄く物事がスムーズになって……いい流れが来ると思うんですけど……」
主人「うるせぇっ! 何だ、てめぇはっ! 一々うるせぇよっ!」
勇者「!」ビクッ
主人「金が払えねぇなら、とっとと帰れよっ!」
勇者「……何か、事情があったりするんですかね?」
主人「あぁ? 事情? なんだそりゃっ!?」
勇者「……病気の家族の方がいるとか」
主人「いねぇよ、そんなもんっ! 何、言ってるんだてめぇ!」
勇者「……じゃあ、どうしてこんなに高い料金なんですかね?」
主人「こっちの大陸は、こういう相場なんだよ! おめぇらは何も知らねぇんだな!」
勇者「……でも」
主人「うるせぇっ! 文句があるなら、とっとと帰りやがれっ! てめぇらみたいな客、こっちから願い下げだバカ野郎っ!」
男武道家「あっ、そうですね。じゃあ、僕達帰ります。 ほらっ、勇者君、帰ろ帰ろ」ニコニコ
勇者「……」
ーーーーー
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「……」
天童「だから、何でおめぇは俺の言う事聞かずに、ゴネるんだよぉ?」
勇者「……」
天童「おめぇ、死んじまうんだぞ? 今回はおめぇに決定権はねぇんだよ?」
勇者「そう……俺に、決定権はない……」
天童「わかってんならよぉ……」
勇者「……だから、天童?」
天童「……ん?」
勇者「お前に判断してもらいたいんだ……それと、女僧侶ちゃんにも……」
女僧侶「……えっ?」
勇者「宿屋の人と、俺の会話を見て……どう、思った……?」
天童「……あぁ?」
女僧侶「どういう……事ですか……?」
勇者「二人の素直な感想が聞きたいんだ……」
天童「……何、言ってんだお前?」
女僧侶「あの……私は……」アセアセ
勇者「うん、女僧侶ちゃんも……聞かせて……?」
女僧侶「あの……上手くはいえないんですけど……」
勇者「うん……」
女僧侶「……この街に、何かが起こってるような気がします」
勇者「……」
女僧侶「やっぱり、勇者さんの言う通り、物価の高さで、冒険者が減って、また物価が上がって……」
勇者「うん……」
女僧侶「上手くは言えませんが……二人が話しているのを見ていると、何かおかしな物を感じました」
勇者「……うん」
女僧侶「私は今、この街から去るのは反対です。この街には何かが起こってるような気がします」
勇者「……天童は?」
天童「まぁ、俺もよぉ?」
勇者「……」
天童「この街には、きな臭い何かがあるような気がするね!」
勇者「うん」
天童「病気の家族もいねぇなら、どうしてあんなに金が必要なんだよ?」
勇者「……うん」
天童「宿屋なんて、せいぜい布団貸すぐらいだろ? あんなに料金取る意味がわかんねぇよ!」
勇者「……そうだね」
天童「いくらなんでも、この街の連中はおかしいっ! 物価が上がるったって、限度ってもんがあるぜ」
勇者「……うん」
天童「俺も……この街から去るのには反対だね。 何かが起きてるような気がするよ」
勇者「……やっぱり、二人もそう思う?」
天童「……あぁ?」
女僧侶「……勇者さんも、そう思うんですか?」
勇者「やっぱり……俺、一人だけだったら、思いすごしかもしれないからさぁ? 二人の意見も聞いてみたかったんだ」
天童「なるほどねぇ……命題を上手い事利用したじゃねぇか……」
女僧侶「だから……あんな風に主人さんに色々言ってたんですね……」
勇者「俺も……この街から去るべきじゃないと思う」
天童「……これは、おめぇの決断じゃなくて、皆の決断だから、決定だなっ!」
女僧侶「はいっ! そうですねっ!」
男武道家「いやいや……ちょっと待ってよ、勇者君~?」アセアセ
勇者「……ん?」
男武道家「僕、言ったよねぇ? 宿屋の料金が高かったら、勇者君の魔法で帰るって!」
勇者「いや、でも……この街は……」
男武道家「『でも』じゃないよっ! 僕の意思は!? 君達がこの街に残るんだったら、僕どうやって帰ればいいんだよ!?」
勇者「う~ん……それは……」アセアセ
天童「……男武道家さん」
女僧侶「男武道家さん……」ニコニコ
男武道家「……ん?」
天童「こりゃ、あんたも腹くくらんといかんばいね?」
男武道家「えっ……?」
女僧侶「私達に、協力していたただけますか?」ニコニコ
男武道家「えっ……なぁ~んで、僕が……君達に協力する義理なんてないよ……」アセアセ
天童「カァ~! なぁ~に、言っとばいっ! 人をあんなはした金でこき使っておいて! 今度はあんたに、働いてもらわなきゃいかんばいっ!」
男武道家「いやいやいやいや……! お金、払ったんだからいいでしょ! 払ったんだからっ!」
女僧侶「私は無給でしたので……では、その分という事で……」ニコニコ
男武道家「あれはさぁ……? 違うでしょ? 女僧侶ちゃん、自分から『無給で働きたいっ!』なんて言い出したじゃん?」
天童「……あれっ? 女僧侶ちゃんそうだったっけ?」
男武道家「ねっ、ねっ? そうだよね? 女僧侶ちゃん、そう言ったよね?」
女僧侶「ふふ、存じ上げませんわ」
男武道家「!」
勇者(うわぁ……天童はともかく、女僧侶ちゃんって、あんなのだったっけ? やっぱり、無給の事怒ってたのかな?)
ーーーーー
天童「ハイ~、いいですかァ~? 皆さん、よく聞いて下さいィ~?」
勇者「おっ……久しぶりの金八ネタだな……」
天童「今からァ~? 我々四人でぇ~、このおかしな街を調査しまぁ~すぅ」
女僧侶「はい」
天童「文句のあるバカちんはいませんかァ~? そんな子はァ~、先生のハンガーヌンチャクでぇ~、お仕置きしますから注意して下さいィ~」
男武道家「くそっ……僕はまだ納得してないぞ……僕はまだ……」ブツブツ
天童「はい、そこォ~! 文句を言わない、バカちんがァ~!」
勇者「でもよ、天童? 調査って、何すんだ?」
天童「まぁ、情報収集が基本だね」
勇者「情報収集って……何、すんの……?」
天童「例えばよぉ? 物価が上がるにしても、いきなりドーンって値上るわけじゃねぇだろ?」
勇者「あぁ……確かに……いきなり100倍ぐらいに値上ったりしたら、大変だもんね?」
天童「だから、そこをよぉ? どういったタイミングで値上っていったか……冒険者達の反応はどうだったか……」
勇者「うん」
天童「そういう事を調べてみようぜ?」
勇者「……こんな物価の高い街に人はいるのかなぁ? あの人達だけじゃないの?」
天童「まぁ、やってみねぇとわかんねぇだろ! 今、午後5時だから……まぁ、日が堕ちる前になんとかしようぜ!」
勇者「そうだね。 今夜の宿の事も考えないといけないしね」
PM7:00
ーータイムリミットまで後、18時間
勇者「なぁ、天童? 街人誰もいねぇじゃねぇか?」
天童「う~ん……一人ぐらいいてもいいんじゃねぇかなぁ……?」
勇者「でもよぉ? ここ、一食5'000Gもするんだぜ? こんな街に住めるかねぇ?」
天童「やっぱり、皆大陸渡っちまったのかねぇ?」
勇者「俺はそんな気がするよ……? だって、こんな街じゃ住めねぇじゃん……」
天童「って事は……この街にいるのは、街長さんと……道具屋の主人と……酒場の主人と……宿屋の主人だけか……」
ポツ……ポツ……
勇者「……ん?」
天童「あっ、雨かっ! くそっ、宿も決まってねぇのに、ついてねぇなっ!」
勇者「……なぁ、天童?」
天童「ん、どうした? 何か閃いたのか?」
勇者「いやいや、そうじゃないけど……」
天童「じゃあ、どうしたんだよ?」
勇者「いや、お前の持ってる爆弾さぁ……?」
天童「……ん? これがどうした?」
勇者「それ、濡らして大丈夫なの? 使い物にならなくなるんじゃねぇの?」
天童「……」
勇者「……」
天童「……あっ!」
勇者「『あっ!』じゃねぇよ、バカっ! 男武道家さん、うるせぇぞっ!?」
ザー……ザー……
勇者「おいおいっ……! 本降りになって来たぞっ……!」
天童「こりゃ、何処かで雨宿りできる場所探さねぇといけねぇなオイっ!」
勇者「どうする? 宿屋にでも行く?」
天童「バカっ! あそこ、いくらすると思ってるんだ! そんな金ねぇよっ!」
勇者「じゃあ……ど、どうしよう……」アセアセ
天童「とにかく一度、女僧侶ちゃんと男武道家さんと合流しようっ! 勇者っ! 戻るぞっ!」
勇者「う、うん……」
ーーーーー
女僧侶「あっ! 勇者さんっ、天童さんっ!」
勇者「あっ、女僧侶ちゃん……酷い雨だねぇ?」
天童「水も滴るいい男……なんて、言ってる場合じゃねぇな、コレ」
女僧侶「あの……? 街の方って、誰かいました……?」
勇者「いやっ……こっちは誰も……」
天童「女僧侶ちゃんの方は……?」
女僧侶「あの……私の方も見つからなくて……」
勇者「あ~、やっぱり……」
天童「やっぱり、あんな物価の高い街じゃ暮らせねぇからねぇ……」
女僧侶「あの……それで、私……道具屋の方へ、行ってみたんですよ?」
勇者「……道具屋?」
天童「……なんでまた?」
女僧侶「ほらっ! 家族の方がいるって言ってたじゃないですか!」
勇者「あ~、そういや、言ってたねぇ?」
女僧侶「それで、家族の方にお話を聞こうと思ったんですが……」
勇者「どうだった? 何か、情報はあった?」
女僧侶「いえ……それが、いなかったんですよ……」
勇者「……えっ?」
女僧侶「家族の方が何処にも……いなかったんです……」
勇者「……」
女僧侶「あの人、家族の為って言ってたのに……どうしてでしょう……?」
勇者「これは、ますます怪しくなってきたね……?」
女僧侶「……えぇ」
天童「おいっ! 推理もいいけどよぉ? 雨、どうするよ! 雨をよぉ!?」
「あ~! や~っぱり、爆弾濡れちゃってるや! どうするの!? もう使い物にならないよソレっ!」
天童「……おっ、男武道家さんも戻ってきたか」
男武道家「もうっ! 君達は本当に使い物にならないなっ!」
勇者「あっ……すいません……」アセアセ
男武道家「それで? 何か情報は掴んだの? どうせ、何も仕入れてないんでしょ?」
勇者「あっ……うっ……」
男武道家「ほらっ! あんな物価の高い街に人がいるわけないじゃんっ! 本当にバカだな、君達は!」
勇者「男武道家さんは……何か情報仕入れてきたんですか……?」
男武道家「あぁ、僕は君達と違って、頭がいいからね! 情報ぐらい仕入れてきたよ!」
勇者「えっ……? 何処でですか?」
男武道家「船着場だよ、船着場! こういうのは、ああいった街より、少し離れた場所の方がいいの」
勇者「あ~、なるほど……じゃあ、聞かせてもらっていいですかね……?」
男武道家「それよりさぁ!? 爆弾どうすんのよ! 爆弾っ! それ、使い物にならないじゃないかっ!」
勇者「あっ……すいませんっ……」アセアセ
男武道家「それに、この雨っ! 何処か、雨宿りできる場所見つけてよ! 君、リーダーなんでしょ?」
勇者「え、えぇっ……?」
男武道家「ほらほらっ! 早く雨宿りできる場所言ってよ、勇者君っ!」
勇者「え~っと……じゃあ、宿屋とかどうですかね……?」
男武道家「あんな、高い料金の場所!? 君がお金払うの!? それだったらいいよ!」
勇者「うぅ……どうしよう……困ったな……」
男武道家「爆弾ダメにしたんだから、それぐらいは考えなよっ! ほらっ、何処でこの雨凌ぐのっ!?」
勇者「え~っと……う~んっと……ど、どうしよう……?」
男武道家「……思いつくまで、耳元で嫌味言い続けてやる」
勇者「……ん?」
男武道家「爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「や、やめて下さいよっ……! 耳元で爆弾爆弾って……色んな意味でおっかないですよ……」アセアセ
男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「も~う……」
女僧侶「あっ!」
勇者「ん……? どうしたの、女僧侶ちゃん?」
女僧侶「勇者さん? その爆弾を使うはずだった洞窟とかどうですか?」
勇者「あっ……!」
女僧侶「ほら、洞窟ならこの雨も凌げそうですし……」
勇者「いいね、うん。よしっ! 女僧侶ちゃん、その決断採用!」
男武道家「でもさぁ? 洞窟って、魔物とかいるんじゃないの?」
勇者「でも……ここで、ずぶ濡れのままよりかはいいでしょ? 風邪ひきますよ?」
男武道家「……そうだね。勇者君達はバカだから、ひかないけど、僕はひいちゃうしね」
勇者「も~う……そんなに嫌味言わなくてもいいでしょ……」
男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「2Gぐらい、後で払いますから……ほら、洞窟行きましょう……」
PM8:00
ーータイムリミットまで後、17時間
天童「よしっ、洞窟到着だなっ! まぁ、これで雨風は凌そうじゃねぇか!」
勇者「そうだね。今日は、ここに泊まる? ここだったら、雨も凌そうだし」
天童「でもよぉ? この洞窟には魔物がいるんだろ? それをなんとかしねぇとよぉ……?」
勇者「あっ、そっか……魔物もいるのか……」
「きゃぁっ!」
天童「……ん?」
勇者「……人の声!?」
娘「あのっ……! 冒険者の方ですかっ……! 助けて下さいっ!」
天童「おうおう、姉ちゃん! こんな洞窟でどうしたんだ?」
勇者「何かあったんですか?」
娘「あのっ……魔物に襲われてっ……!」アセアセ
天童「何ィ!? やっぱり、魔物がいるのか!?」
勇者「それで……魔物は何処に……?」
娘「私の……私の後ろにっ……きゃあっ……!」
ザクッ
天童「……えっ?」
勇者「……えっ?」
娘「……ググッ」バタッ
天童「お、おいっ……! 勇者ァ! おめぇが、もたもたしてるせいでやられちまったぞ、あの姉ちゃん!?」アセアセ
勇者「えっ……? 俺のせい……? いや、でも今のはさぁ……?」アセアセ
娘「あれっ……? 冒険者の方ですか? こんな場所に、珍しいですね?」
天童「……ん?」
勇者「あ、あれっ……?」
娘「どうしたんですか? そんなに驚いた顔をして?」
天童「あ、あんたっ……! さっき、斬られてやられたんじゃ……」
勇者「な、なんで、そんなにピンピンしてるんですか!?」
娘「……あぁ、それはですね。 その倒れてる奴、よく見て下さいよ?」
天童「……ん?」
勇者「……ん?」
魔物「ガ、ガガッ……!」ピクピク
勇者「あれっ……? やられてたのはこの女の人だったのに、いつの間にか魔物になってるっ!?」
天童「手品か!? あんたに、手品師か!?」
娘「いやいや……手品師じゃありません……」
勇者「じゃあ、何で……」
天童「鳩を出せっ! 口からトランプを出せっ! バニーちゃんに変身してみて下さい、お願いしますっ!」
娘「……」
勇者「……おまぇは、ちっと黙ってろよ」
天童「あっ、すんましぇ~ん……」
娘「え~っと……いいですか? この魔物は人間に変身する能力を持っているんですよ」
娘「ある日、この魔物が四匹、私達の街にやってきました」
勇者「……四匹?」
娘「この魔物は人に変身する能力を使い、街人になりすまして、我々の街を乗っ取ろうとしています」
勇者「!」
娘「……私の父も、この魔物に殺されてしまいました」
勇者「……えっ? じゃあ、君?」
娘「……私の父は道具屋を経営していました」
勇者「!」
娘「私と母は街を追い出され……この洞窟へと追いやられてしまいました」
勇者「……」
娘「まぁ、彼らにとっての誤算は、私達の力が予想以上に強かった事ですね」
勇者「……えっ?」
娘「おそらく、彼らはこの洞窟で、私達があっさりと、力尽きると思ったのでしょう」
勇者「……」
娘「こうやって、私達が魔物を倒して、街へこれ以上侵略される事を防いでいます」
勇者「……なるほど」
娘「……しかし」
勇者「……ん?」
娘「それそろ、後発部隊の届かない彼らも苛立ってくる頃でしょう……何か、仕掛けてくるような気がします……」
勇者「……あっ!」
娘「あなた達は街から来たのですか? 今、街はどうなっているんですか!?」
勇者「あ~、いやぁ~、それは……」アセアセ
男武道家「はっきり言おうか? 状況は最悪だよ?」
娘「……えっ?」
勇者「ちょ、ちょっと……! 男武道家さんっ……!」アセアセ
男武道家「いいじゃないか、勇者君? どうせ、言わなくちゃいけないし」
娘「……」
勇者「いや、でも……」
男武道家「まずね、君達……君達は爆弾で殺されようとしてたよ? 魔物が何か仕掛けてくるって予想……正解」
娘「!」
勇者「ちょっと……! 男武道家さんっ……!」
男武道家「まっ、間一髪だったね? でも、こんな所で戦ってないで、街の魔物を始末した方がよかったんじゃない?」
娘「街の魔物は……この洞窟の魔物と違い……強い力を持っているので……私達では手の出しようがないのです……」
男武道家「……ふ~ん」
娘「でもっ……! 冒険者の方が倒してくれればっ……!」
男武道家「……どうなるの?」
娘「街に平和が戻って……この洞窟へも援軍が来て……また、いつものような生活に……」
男武道家「まっ、お父さんはもういないけどね?」
娘「!」
勇者「ちょ、ちょっとっ……! 男武道家さんっ……!」
男武道家「いいじゃない? 彼女には現実を教えてあげないとさ? ねぇ、この洞窟へいつまで立っても援軍が来ないって、おかしいと思わない?」
娘「……えっ?」
男武道家「街へ行った四匹の魔物は、街長……酒場の主人……宿屋の主人……そして、君のお父さん、道具屋の主人に、なりすましてるんだね?」
娘「……はい」
男武道家「それだけ、重要な役職を全て乗っ取られたのなら、もう壊滅だよ、君の街は」
娘「!」
男武道家「僕が船着場で聞いた情報によると、ある日突然、全ての物価が100倍に上がったらしい。 魔物に成り代わった時だろうね」
娘「そ、そんなっ……」
男武道家「店の主人だけならともかく、街長まで抑えられてるんじゃ、しょうがないよね? 街人や、冒険者は泣く泣く大陸を渡ったらしいよ」
娘「……」
男武道家「援軍が来ない時点でおかしいと思わなかった? こんな場所にいるより、お父さんの敵討ちに行った方がいいんじゃないの?」
娘「しかし……ここの魔物は繁殖能力が高く……この洞窟を放置したとすれば……」
天童「まぁ、状況は確かに不味いけどよぉ? 全ての謎がこうやって解けたのは一つの光明じゃねぇか! なぁ?」
勇者「……ん?」
天童「今からよぉ? 街に戻って魔物をぶっ倒せば、あの街に救えるんだろ?」
勇者「そうだね」
天童「まぁ、今回はこの決断で決定だなっ!」
女僧侶「天童さん……? 先にこの洞窟の安全を確保した方がいいんじゃないですか?」
勇者「……ん?」
女僧侶「この洞窟の魔物が力をつけたら、また大きな問題になりまあえんかね? 私は今のうちに、この洞窟を制圧するべきだと思います」
勇者「……えっ? えぇっ?」
女僧侶「この洞窟を制圧するなら、戦力もあり、万全の体制の今ですよ」
男武道家「……僕はもう、勇者君の魔法で帰りたいんだけど?」
勇者「えっ……? えっ……?」
男武道家「わざわざ、僕達首突っ込む話じゃないでしょ? お金ももらえないんだし」
勇者「い、いやぁ……」
男武道家「勇者君、もう帰ろうよ~? それで爆弾の事はチャラにしてあげるからさぁ~?」
勇者「う、うわぁ……皆、バラバラの決断だよ……? ど、どうしよう……?」アセアセ
女僧侶「私は……勇者さんの決断に任せます……」
男武道家「僕も! 魔法を使えるのは、勇者君なんだし、勇者の『帰る』の一言待ちだよ?」
勇者「え~っと……え~っと……ど、どうしよ……」アセアセ
勇者「え~っと……」
女僧侶「……」
男武道家「……」
勇者「えっ……これ、俺の決断待ち……?」アセアセ
女僧侶「……はい」
勇者「え~、でも……」
男武道家「……」
勇者「でも、俺……決断したら、死んじゃうし……な、なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ
天童「……なぁ? 勇者?」
勇者「……ん?」
天童「皆……お前に任せるって言ってんだ」
勇者「……えっ?」
天童「それぞれが、意見を出し合って、お前に希望を言ってるんだ」
勇者「う、うん……」
天童「お前は、皆の意見を尊重する決断を出すんだ……皆もその決断を待ってるんだ……」
勇者「……えっ?」
女僧侶「……」
男武道家「……」
天童「……これは、お前一人の意見じゃねぇ。皆の決断だ」
勇者「う、うん……」
天童「おめぇはよぉ、何もねぇ所からよぉ? 意見を出すんじゃねぇだろ? 皆で力を合わせて、一つの意見を出すんだよ!」
勇者「……」
天童「さぁ、勇者っ……! 命題になんてビビってねぇで、決断してみろやっ!」
勇者「じゃ、じゃあ……」
女僧侶「……」
男武道家「……」
勇者「まずは、この洞窟を制圧しようっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「街の魔物はその後……って事かな……?」
勇者「そうです。この洞窟の制圧後の皆の状態を見て、そのまま街に行くか……ここで一旦休むか、決めましょう」
女僧侶「わかりました」
男武道家「ここなら、雨風凌そうだし……ね……?」
勇者「それで……全てが終わったら、男武道家さんを僕の魔法で向こうの大陸へと送り届けます」
女僧侶「ですって? よろしいですか、男武道家さん?」
男武道家「あれ? 冗談で言ったつもりだったのに、本気で考えてくれてたんだ?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「……えっ?」
男武道家「いいよいいよ、どうせなら、僕も最後までやるよっ! 僕だけ仲間外れなんて、さみしいじゃないか! 君達っ!」
天童「よしっ! じゃあ、洞窟制圧大作戦! 始めましょうかっ!」
勇者「よしっ! じゃあ、皆離れちゃいけないよ!」
娘「待って下さいっ……!」アセアセ
天童「……ん?」
勇者「どうしたの……?」
娘「この洞窟では、固まって行動していけませんっ! 個人行動して下さいっ!」
天童「……なんで、また?」
勇者「……何か、理由でもあるの?」
娘「魔物は変身能力を持っているんです! 同士討ちの危険性がありますっ!」
天童「あ~、なるほどね……」
勇者「個人行動かぁ……これはキツそうだなぁ……」
天童「まぁ、愚痴っても、しょうがねぇだろ! それに、これも他人決断だっ!」
勇者「……そうだね。じゃあ、行こうか?」
AM2:00
ーータイムリミットまで後、11時間
女僧侶「はぁ……はぁ……やっぱり、個人行動となると……疲れますね……?」
男武道家「あ~! 僕、もう動けないっ! ねぇねぇ、女僧侶ちゃんは何匹倒したの?」
女僧侶「私は8匹です」
男武道家「なんだよ!? 僕の半分じゃないか! 僕、16匹も倒したんだよ?」
女僧侶「えっ……! 男武道家さん、そんなに倒したんですか!?」
男武道家「まぁ、女僧侶ちゃんは戦闘向きじゃないからね。 8匹でも十分だよ。十分」
女僧侶「ありがとうございます」
男武道家「それで……? 勇者君は何匹倒したの? 女僧侶ちゃんより少なかったら、承知しないよ、僕?」
勇者「えっ……? 俺……? 俺は……ちょっと……わかりません……」
男武道家「なんだよ、勇者君っ! 君がそんなのでどうすんのよ!? このパーティー、纏めてるんでしょ?」
勇者「あっ……いや、そうじゃなくて……」アセアセ
男武道家「……ん?」
勇者「いや……25ぐらいまでは数えてたんですけどね……? そこから先はもう覚えてなくて……」
男武道家「……あら? 君、そんなに倒したの?」
勇者「いやぁ……ありがとうございます……」
男武道家「くそっ……ちょっと、面白くないな。僕が一番だと思ったのに……じゃあ、天童さんは?」
天童「俺はよぉ? 世・死・見の、43匹だよ。まっ、俺が一番活躍したな」
男武道家「世死見だったら、443匹じゃない……足りないよ? 後、400匹倒してきなさい」
勇者「……おめぇ、本当にそんなに倒したのか?」
天童「いやぁ~、個人行動だったからよぉ~? 俺の活躍を皆に見せれないのが残念だったぜ!」
男武道家「本当はそんなに倒してないでしょ? 本当の事、言いなさい。 怒らないから、絶対に怒らないから」
勇者「おめぇ……もしかして、女僧侶ちゃん以下って事はねぇだろなぁ?」
天童「バ、バカ~ンっ! ちゃんと、43匹倒したよぉ? 何でそんなに疑うんだよ!? 君達は失礼だなぁ~」アセアセ
男武道家「……なぁ~んか、天童さん怪しいね?」
勇者「……ねっ?」
天童(く、くそっ……言えないっ……! 俺が7匹で最下位だなんて、言えないっ……!)アセアセ
天童「まぁ、でもよぉ? これで、この洞窟は制圧したな!」
勇者「そうだね」
天童「後は、街にいる四匹の親玉だけだな……」
勇者「う、うん……」
天童「……で、勇者? どうするんだ?」
勇者「……えっ?」
天童「今から、ぶっ倒しに行くのか……? それとも、一度、休むのか……」
勇者「……」
天童「おめぇの決断待ちだよ? どうすんだ? 確認しておくけど、一人で決めるんじゃねぇぞ?」
勇者「う、うん……」
勇者「……女僧侶ちゃんはどう?」
女僧侶「……えっ?」
勇者「今から、強い魔物と戦えるだけの力はまだ残ってる?」
女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さん……!」アセアセ
勇者「どうしたの?」
女僧侶「あの……私、個人行動は始めてで……その……魔力も使い果たしてしまって……」
勇者「……うん」
女僧侶「今、街に向かっても……皆さんに迷惑をかけるだけのような気がするんですよ……」アセアセ
勇者「……うん」
女僧侶「出来る事なら……少し、魔力回復の為の時間を頂きたいです……」
勇者「わかった。……男武道家さんは?」
男武道家「まぁ、僕は今から行ってもいいんだけどね……勇者君と、天童さんは強いみたいだし」
勇者「いやぁ……天童の事は信用しちゃいけませんよ……?」
男武道家「まっ、僕としては一度休みたいかな? わざわざ、こんな雨の中行きたくないし」
勇者「……そういう理由なんですか?」
男武道家「あっ! 君、何か勘違いしてるな!? あのねぇ、武道家ってのは、己の肉体が武器なの? 君達みたいに、武器に頼ってないの?」
勇者「はぁ……」
男武道家「僕はねぇ? 君達より、ずっと頑張ってるし、ずっと疲れてるんだよ? そこの所の気持ちを汲み取って欲しいなぁ、僕は!」
勇者「じゃあ、武道家さんも一度、休憩を挟みたいと……」
男武道家「まっ、そういう事だね」
勇者「それじゃあ……皆の体力の事も考えて……今日は、この洞窟で休んで行きましょうか?」
女僧侶「ありがとうございます」
男武道家「まっ、それが賢明な判断だね?」
勇者「皆が休んでる間、誰かが見張り番をしないといけないんですが……その順番は……」
天童「ねぇねぇ、勇者君? 勇者君?」
勇者「……ん? どうしたの、天童?」
天童「ねぇ、僕の意見は? どうして僕の意見は聞いてくれないの? 勇者君、死んじゃうよ?」
勇者「いやいや、皆、休みたいって言ってるじゃん? どうせ、おめぇも同じ意見だろ?」
天童「わかっててもよぉ!? 聞いてくれてもいいじゃねぇか!? 俺、疎外感、感じてるぜ? 寂しいよ、勇者君っ!」ギャーギャー
勇者「わかったよ、わかったよ、うるせぇなぁ……じゃあ、天童はどう思うの?」
天童「勇者君……僕の意見はこうだ……」キリッ
勇者「……あぁ?」
天童「先ず、この洞窟での戦闘で皆、疲れている……だから、今日は一度休もう……」
勇者「……言ったよ。それ、言ったって」
天童「この洞窟なら、雨風も凌げるからね。 そして、それなら皆が休んでいる間の見張り番を決めるべきだと思う」
勇者「……決めようとしてたよ。それも、今から決めようとしてた」
天童「順番は……そうだな……勇者君、男武道家さん、女僧侶ちゃん……そして、最後に私……この順でどうかな?」
勇者「おめぇが最後なのは、ちょっと気に食わねぇけどな? でもまぁ、それでいいんじゃね?」
天童「そして、皆の体力が回復したら、街へ向かうのだが……その前に、一つやる事があると思わないかね?」
勇者「……はぁ? なんだよ?」
天童「食糧の確保だよ? 食糧の確保だよ、勇者君?」
勇者「……あっ?」
天童「皆、今日は何も食ってねぇぜ? こんな状態で魔物と戦って、勝てるのか?」
勇者「う、うん……じゃあ、今から探しに行く……?」
天童「こんな、体力も使って、雨も降ってて、暗闇の中か?」
勇者「あっ……そうか……」
天童「とにかく、今は大人しく、この洞窟で我慢した方がいいと思うんだよ? 食糧は明日の朝でもいいんじゃねぇか?」
勇者「……そうだね」
天童「……とまぁ! これが私の意見だ! どうだい? 参考になったかね? 勇者君?」
勇者「……なんかさぁ? 上手い事、美味しい所だけ取られたような気がするのは気のせいかな?」
天童「バカ~ンっ! おめぇはよぉ? 他人の決断に任せねぇといけねぇから、俺がこうやって、ベストな意見を出してやってんじゃねぇか!」
勇者「……本当かねぇ?」
勇者「じゃあ……まぁ、天童の意見を参考にして……」
女僧侶「はい」
勇者「今日はこの洞窟で、皆で休む事にしよう」
男武道家「勇者君、テント貸してね?」
勇者「見張り番は……俺、男武道家さん、女僧侶ちゃん、天童の順で……一人、一時間ずつ」
天童「よっしゃっ!」
勇者「二巡ぐらいしたら、皆の体力も回復するかな? そしたら、次は食糧の確保に行こう」
女僧侶「……この大陸に食糧はあるんですかね?」
勇者「それは……やってみないとわからない……とにかく、今は体力の回復をしよう!」
男武道家「街の魔物と戦うのは昼ぐらいになりそうだね?」
勇者「そうですね……皆さん、明日はどうぞ、よろしくお願いしますっ!」ペコッ
天童「おめぇはよぉ? 何、他人行儀になってやがるんだ? それに、日付跨いでんだから、明日じゃなくて、今日の話だバ~カっ!」
勇者「あはは……やっぱり、慣れない事はするもんじゃないね……? まぁ、最初の見張りは俺だから、皆は休んでよ?」
AM6:00
ーータイムリミットまで後、7時間
勇者「……Zzz」
天童「……おい、勇者? 交代だ」
勇者「……ん、あれ? もう、三時間経って、二巡目回ってきたんだ?」
天童「……体調はどうだ? 回復したか?」
勇者「う~ん……やっぱり、中途半端に起こされるのと……ここ、寝心地悪いからさぁ……?」
天童「……」
勇者「やっぱり、全快……って、ワケにはいかないね? もう少し、休みたい……」
天童「女僧侶ちゃんも、交代の時同じ事、言ってたよ……まだ、魔力が回復してねぇみたいだ……」
勇者「……そうなんだ」
天童「……あぁ」
勇者「……あれ、天童? 今、何時だ?」
天童「今は、6時だな……それがどうした?」
勇者「うわっ! もう、6時か! 朝じゃんっ!」
天童「……」
勇者「うわぁ……洞窟の中は暗くてよくわかんないけど、もう日が昇ってるんだよね?」
天童「……まっ、そうだね?」
勇者「なぁ、天童? これ、休憩はもうやめた方がいいかな? もう、行動した方がいいんじゃねぇか?」
天童「……あぁ?」
勇者「だってさぁ? もう、朝だよ? 二巡目待ってたらさぁ……? 10時になっちゃうじゃん?」アセアセ
天童「……」
勇者「なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ
天童「……まっ、おめぇの決断次第だね?」
勇者「……えっ?」
天童「このまま、二巡目待つか……今から、行動するかは……おめぇの決断に、皆乗っかってくれるだろうね」
勇者「でもさぁ……? 俺、決断したら、死んじゃうんだよ……?」
天童「おめぇは、命題来てから、何度も決断したじゃねぇか?」
勇者「!」
天童「でもよぉ? まだ、おめぇ死んでねぇよな? 何でか、わかるか?」
勇者「えっ……それは……わかんない……」アセアセ
天童「それはよぉ? おめぇが、皆の期待に答えてるからだよ!?」
勇者「……期待?」
天童「おめぇはよぉ? 一人で決断してるように見えて、そうじゃねぇんだよ! 皆の意思を汲み取ってるんだよ!」
勇者「……」
天童「皆はおめぇなら、きっとうまく纏めてくれると思ってるから、おめぇに色々な意見をぶつけるんだよ!」
勇者「う、うん……」
天童「他人の決断に乗っかるってのは、流されるって事じゃねぇんだよ! こういう事なんだよ!」
勇者「う、うんっ……!」
天童「勇者ァ! ここが大きなポイントだぞっ!」
勇者「……えっ?」
天童「もう、6時で朝だけどよぉ? 皆は二巡目を待ちたいか……それとも、今から行動したいか……どっちだと思うんだ!?」
勇者「……えっ?」
天童「言葉は届かないけどよぉ……? 皆はどっちを望んでいると思うんだ!?」
勇者「……」
天童「今からおめぇは、その『見えない他人の決断』に乗っからねぇといけねぇんだっ!」
勇者「!」
天童「ここを、間違えたら……おめぇ、死んじまうぞっ! さぁ、どっちだ!? おめぇが選ぶんだっ! 勇者ァ!」
勇者「う、うぅ……」
天童「自分の感情を捨てろっ! 冷静になって、周りの意思を尊重するんだっ! 他人の決断に任せるってのは、そういう事だっ……!」
勇者「……」
AM10:00
ーータイムリミットまで後、3時間
天童「朝だ、朝だよ~っとっ! ほれっ、皆、起きた起きたっ!」
女僧侶「うぅ、天童さん……おはようございます……」
天童「はいっ! おはようっ! 今日も一日、元気に頑張りましょうっ!」
男武道家「……」ボーッ
天童「はいっ、男武道家さんもおはようございますっ! どうしました? 朝は元気良く、挨拶をせねばいかんばいっ!」
男武道家「……僕は、低血圧なんだよ。ちょっと、天童さんうるさいよ?」
天童「はいっ! 勇者君もおはようっ! 勇者君、よく眠れたかい?」
勇者「う~ん……微妙……」
天童「さて、皆さん? 体調の方はどうですか? 体力は回復しましたか?」
女僧侶「う~ん……やっぱり……昨日疲れが抜けてないんですかねぇ……?」
男武道家「……あっ、女僧侶ちゃんも? 僕も、筋肉痛でさ……? もう、歳なのかな? 嫌だな……」
勇者「えっ……? 二人共、まだ回復しきってないんですか……?」アセアセ
女僧侶「全快とは、言えませんけど……八割型は回復しましたね」
男武道家「……まっ、僕もそんな感じだね。勇者君は?」
勇者「そうですね……俺も全快とは言い辛いですが……でも、大丈夫ですっ!」
男武道家「……今、何時?」
勇者「え~っと……今は、10時ですね……?」
男武道家「うわぁ……殆ど、丸一日、何も食べてないのか……」
勇者「そ、そうですね……」
男武道家「じゃあ、とりあえず、皆で食糧調達でも始めようか?」
勇者「……ん?」
男武道家「あれっ……? 勇者君、どうしたの?」
勇者「あの……男武道家さんって、そんな建設的な意見、出してくれる人でしたっけ……?」
男武道家「あのね? 君は失礼っ! 本当に、失礼っ!」
男武道家「今日は街の魔物を倒しに行くんだろ? 昨日、君言ってたんじゃないの!?」
勇者「は、はい……」アセアセ
男武道家「それなのに、こ~んなお腹ペコペコの状態じゃ勝てるもんも勝てないよっ!」
勇者「そ、そうですね……」
男武道家「こういうのを、諺で何て言うか知ってる? ハイッ、天童さんっ!」
天童「腹が減っては戦は出来ぬっ!」
男武道家「そうっ! その通りっ! 僕は勝てる為を少しでも、上げる為に提案してるんだよ!」
天童「まっ、『武士は食わねど高楊枝』……なぁ~んて、諺もあるけどね?」
男武道家「天童さんは余計な事を言わないっ!」
男武道家「それで、どうする? 勇者君? やっぱり、食糧調達は必要でしょ?」
勇者「そうですね」
男武道家「でも、あまり時間を掛けすぎるのもよくないだろ? 皆で、手分けして、ちゃちゃっと探そうよ?」
勇者「そうですね……じゃあ、一時間ぐらいにしましょうか……?」
男武道家「……一時間後に、またここで合流だね?」
勇者「はい」
女僧侶「あまり、無理のある行動は控えましょう。私達はこの後、街の魔物と戦わなくてはいけませんから」
勇者「そうだね。じゃあ、皆! 無理しないように、一時間、食糧調達をしようっ!」
AM11:00
ーータイムリミットまで後、2時間
天童「よっしゃっ! どうだっ! 木の実採って来たぜおいっ!」
女僧侶「私は、山菜を採ってきました」
男武道家「君達、頑張るねぇ? 肉体派だねぇ? 僕はそんなに無理はしないよ」
天童「あんた、武道家だから、肉体派でしょう?」
女僧侶「男武道家さんは……何をとってきたんですか?」
男武道家「僕はねぇ、一時間釣りをしてたよ。 いやぁ、休憩も出来るし、楽な仕事だったよ」
天童「……しまったっ! その手があったかっ!」
女僧侶「……何か、釣れましたか?」
男武道家「人数分はちゃんと釣ってきたよ? ほら、魚四匹?」
天童「あらっ? こりゃ、結構でかいね!?」
女僧侶「勇者さんは、何を採ってきたんですか?」
勇者「……あ、あのっ」アセアセ
女僧侶「?」
勇者「ご、ごめんっ……! 俺、何もとってこれなかった……」
女僧侶「……そうですか」
勇者「あのっ……! 皆、頑張ったのに……俺だけ……」
女僧侶「……」
勇者「……本当にごめんっ!」
男武道家「まぁ……物資が少ない大陸だから、君みたいな、頭の悪い子にはしょうがないよね?」
勇者「す、すいません……」
男武道家「まぁ、料理当番したら、許してあげるよっ! ほらっ、さっさと、皆がとってきた食材、料理しなさいっ!」
勇者「は、はい……」
女僧侶「……」
男武道家「……ねぇねぇ、女僧侶ちゃん、女僧侶ちゃん?」
女僧侶「……どうしたんですか?」
男武道家「勇者君ってさぁ……? 不器用だよね?」
女僧侶「……どういう事ですか?」
男武道家「あれ? 気づいてないの?」
女僧侶「……えっ?」
男武道家「勇者君さぁ? 個人行動してる、僕達の様子、ちょくちょく見にきてたでしょ?」
女僧侶「……えっ?」
男武道家「僕達がさぁ? 食糧調達してる間に、魔物に襲われたら危ないじゃない?」
女僧侶「は、はい……」
男武道家「だから、皆の所を見回ってたんだと、思うんだけど……女僧侶ちゃんは気づかなかった?」
女僧侶「あ、あの……私、山菜採るのに夢中で……男武道家さんは、知ってたんですか?」
男武道家「まぁ、僕はずっと、休憩しながら、釣りしてたからね? そんなに、必死にやってないもん。そりゃ、気づくよ」
女僧侶「……」
男武道家「そういや、途中で魔物に襲われた時の事なんて、すっかり忘れてたよ。 いやぁ、なかなか、やる子だね、彼?」
女僧侶「はい! 勇者さんは変わりましたからっ!」
勇者「お~いっ! 魚、焼けたよ~っ!」
天童「これ、食ったら、街へ向かうんだな?」モグモグ
勇者「そうだね……なんか……長い一日だったよ……」
娘「……」
天童「おい、まだ終わってねぇんだぞ? 気ィ、抜いてんじゃねぇよ」
勇者「あっ……ごめんごめん……」
娘「……」グゥー
天童「……ん?」
勇者「……あれ?」
娘「あっ……! いや、なんでもありませんっ……! ごめんなさいっ……!」
天童「……」
勇者「……」
娘「……」グゥー
男武道家「うるせぇっ! 女っ! さっきから、グーグー腹鳴らしやがってよぉっ!」
娘「あっ……ご、ごめんなさいっ……」アセアセ
男武道家「ほらっ! 僕の半分あげるからさぁ! その、うるさい腹をなんとかしなよっ!」
娘「……えっ?」
男武道家「いいか? その代わり、君達は僕の事を英雄として讃えるんだ? 食糧を奢って、街を救った英雄としてね?」
女僧侶「男武道家さん? それ、順番逆じゃありませんかね? ……あっ、私のも半分どうぞ? 家族の方に差し上げて下さい」ニコニコ
娘「!」
天童「だったら、俺もよぉ! 半分やるよ! 半分っ!」
勇者「あっ……じゃあ、俺も……半分……」
天童「バ~カっ! この流れだったら、おめぇは全部やる流れだろ! おめぇは空気読めねぇなぁっ!」
勇者「そ、それは……勘弁してくれよ……俺だって、腹減ってるんだから……」
娘「……」ボロボロ
勇者「……ん?」
娘「ありがとう……ございますっ……ありがとうございますっ……!」ボロボロ
勇者「……困った時はお互い様だよ」
娘「どうか……どうか……父の敵を討って……そして、街に平和を取り戻して下さいっ……!」ボロボロ
勇者「……」
娘「お願い……しますっ……!」
勇者「……うん。約束するよ」
PM0:00
ーータイムリミットまで後、1時間
街長「……どうした?」
勇者「……」
街長「金に困ったのか? その支援物資、買い取ってもらいたいんじゃな?」
女僧侶「……」
街長「まぁ、相場は日々変わるからな……それ、全部で500Gって所でどうだ?」
男武道家「……」
街長「なんじゃ、その顔は? 気に食わんなら、とっとと帰るがいい」
天童「……臭ぇ芝居は、もうやめにしようぜ? なぁっ! もうバレてんだよ! おっさんっ!」
勇者「おめぇが決めんのかよっ! 俺に言わせろよっ!」
街長「……な、なんの事だっ!」
勇者「もう、わかってるんですよ……この街を、乗っ取ろうとしてる事をね……」
街長「な、何を言っておるのか……」アセアセ
勇者「洞窟にいる、道具屋の娘さんから、全てを聞きましたよ……」
街長「クッ……あのガキ……まだ、生きてやがったのかっ……!」
勇者「あなたを倒して……この街に平和を取り戻します……!」
街長「ええいっ! バレたのでは仕方ないっ! こんな醜い姿をしている必要も、あるまいなっ!」ボワンッ
勇者「!」
魔物「お前達っ! 集まれっ! こいつらを始末するぞっ!」
魔物「よぉ、姉ちゃん? 買い物ありがとな?」
女僧侶「……くっ!」
魔物「なぁ~んで、宿屋泊まってくれなかったんだよぉ? 寂しいじゃねぇか?」
男武道家「……バカにしてんじゃないよ?」
魔物「おめぇ、堅焼きそば頼んだ奴だよな? 昼から、堅焼きそばって……おめぇ、センスねぇんじゃねぇか?」
天童「なんでだよっ! 堅焼きそば、美味いじゃねぇかよっ!」
魔物「これで……四対四だな……」
勇者「……くっ!」
魔物「いくぞっ! お前達っ! こいつらさえ始末すれば、以前変わりなく、この街は我々のものだっ!」
ーーーーー
魔物「オラオラっ! どうしたっ! そんもんか? おいっ!」ガスガス
女僧侶「……ぐっ! うっ!」
魔物「おめぇ、あまり戦闘向きじゃねぇみてぇだな? オラオラっ! どうしたっ!」ガスガス
女僧侶「……くっ! 勇者さんっ!」
魔物「……あぁ?」
勇者「おらぁっ!」ガスッ
魔物「ぐっ……! てめぇ……! 割り込んでくるんじゃねぇよっ!」
勇者「……よそ見はあまり、よくないですよ?」
魔物「……あぁ?」
男武道家「せいっ!」ガスッ
魔物「……ぐっ! くそっ! こっちにもいやがったかっ!」
天童「後ろにもいるばいっ!」
魔物「……何ィ!?」
天童「そ~れっ! どっこいしょ~っ!」ガスッ
魔物「……ガッ!」
女僧侶「皆さんっ……! ありがとうございますっ……!」
魔物「くっそぉ……こいつらちょこまか、ちょこまかしやがって……」
魔物長「なぁ~にをやっとるっ! 元、道具屋っ! お前はちょっと下がれっ!」
魔物「長……申し訳ありません……こいつら、予想以上のコンビネーションで……」
魔物長「……だったら、そのコンビネーションを防げばいい話ではないか」
勇者「……んっ?」
魔物「……なるほど」
魔物長「奴らの連携攻撃を使えないように撹乱させてやればいい……」
勇者「……お前ら、何する気だ?」
魔物「ふふ……こうするんだよっ……!」
魔物長「はぁっ! 変化の術っ!」ボワンッ
勇者「!」
偽勇者「よしっ、皆っ! この姿で戦うよっ!」
勇者「……なっ!」
偽僧侶「はいっ! これで、あの方達は、先程の連係攻撃は使えませんねっ!」
女僧侶「私達の……姿にっ……!」
偽天童「よっしゃっ! この姿で、あいつらを始末するばいっ!」
天童「おいおい……口調もそっくりで、見分けがつかねぇぞ、こりゃ……」
偽武道家「乱戦に持ち込んだら、奴らに見分ける術はないからねっ! 突っ込むよっ!」
男武道家「う、うわっ……! 来たよっ……! どうするのっ! どうするの勇者君!?」
偽僧侶「……たぁっ!」バキッ
勇者「ぐっ……! くそっ……こいつは偽者かっ……?」
偽僧侶「あ、あれっ……? もしかして、本物の勇者さんですか……?」アセアセ
勇者「あ、あれっ……? もしかして、本物の女僧侶ちゃん……?」
偽僧侶「ご、ごめんなさい勇者さんっ……! 私、偽者と間違えてっ……!」アセアセ
勇者「あぁ、次からは気をつけてね……? 偽者の勇者はあっちだから……」
女僧侶「はいっ! わかりましたっ! 偽者は貴方ですね? えいっ! えいっ!」ガスッ
勇者「ぐあっ……! お、おめぇ……偽者だろ!? 騙しやがったな!」
偽僧侶「ふふ」
天童「おいっ! 勇者っ! おめぇ、何やってんだよぉっ!」
勇者「違うよ……どれが本物で、どれが偽者かわかんないんだよ……」アセアセ
天童「言い訳してんじゃねぇよっ! このダメ人間っ!」バキッ
勇者「あっ!? おめぇも偽者だな! この野郎っ!」
天童「待てっ! 俺は本物だよっ……! 俺は本物っ!」
勇者「くそぉ……このやろっ……!」バキッ
天童「いてぇな、この野郎っ! おめぇ、天使にそんな事したら、罰当たるからなっ!」
勇者「あれっ……? 反撃してこないな……? こいつは、本物かな……?」アセアセ
女僧侶「勇者さんっ! 私はこの自分の偽者の相手をしますっ!」
偽僧侶「……失礼なっ! 偽者は貴方でしょうっ!」
勇者「……ん?」
男武道家「だったら、僕はこいつと戦うよっ! 僕になりすますなんて、ムカつく奴だねっ!」
偽武道家「ムカついてるのはこっちの方だよっ! 君が偽者の癖に、よくそんな事が言えるねぇ!?」
勇者「……そうかっ!」
天童「勇者ァっ! 下手に味方に手を出しちまったらよぉ! 大変な事になるから、こいつは俺に任せて、おめぇは自分の偽者と戦いやがれっ!」
偽天童「 偽者の癖に、恰好いい事言うじゃねぇかっ! やっぱり俺だねっ! カァ~! 恰好よかぁ~!」
勇者「わかったっ……! 皆の決断に従うよ! 皆、頑張ってねっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「おうっ!」
天童「任せときんしゃいっ!」
偽勇者「各自が、自分の偽者と戦うってワケだね……なかなかいい作戦じゃない……」
勇者「これでお前達の錯乱戦法は通じないぞっ……!」
偽勇者「だけど、連携攻撃も使えないよね……?」
勇者「……」
偽勇者「ほら? 戦ってる皆を見てみなよ? どっちが優勢なんだろうね? 君の仲間はピンチなんじゃないのかな?」ニヤニヤ
勇者「皆、そんな簡単に負けるような仲間じゃないさっ! 俺は仲間を信じるっ!」
偽勇者「……ふ~ん」ニヤニヤ
PM0:40
ーータイムリミットまで後、20分
偽僧侶「たぁっ! はぁっ!」ガシッ
女僧侶「……くっ!」
偽僧侶「はぁっ! たぁっ!」
女僧侶「くっ……! 回復魔法っ……!」ピカーッ
偽僧侶「どうしました? 先程から、回復魔法ばかりじゃないですか?」
女僧侶「くっ……! もう……魔力が……」
偽僧侶「あなたは戦闘向きではないようですね……そうやって、回復するので精一杯じゃないですか……」
女僧侶「はぁ……はぁ……」
偽僧侶「魔力の尽きたあなたなど……もう、恐れる事などありません……」
女僧侶「くっ……! やはり、完全には回復出来てはなかったようですね……」
偽僧侶「さぁっ! これで、とどめですっ! いきますよっ!」
女僧侶「!」
偽僧侶「はぁっ!」ガシッ
女僧侶「!」
偽僧侶「……まず、一人!」
女僧侶「……」
偽僧侶「さて……長は押されているようですので……私は、長のサポートをしましょうか……」
女僧侶「……勇者さんは、優勢なんですね? よかったです」
偽僧侶「……貴方、何故、生きているのです? 魔力は尽きたはずでしょう?」
女僧侶「……高い、買い物でした」
偽僧侶「?」
女僧侶「あなたから、売って頂いた薬草のおかげですよ……なんとか、回復が間に合いました……」
偽僧侶「売るんじゃありませんでしたね……あんな物……」
女僧侶「はぁっ……はぁっ……」
偽僧侶「しかし、もう魔力の残っていないその身体で何が出来るんですっ! 寿命が少し伸びただけにすぎませんっ!」
女僧侶「……くっ!」
偽僧侶「さぁっ! これでとどめですっ! いきますよっ!」
女僧侶「!」
男武道家「……ぐっ!」
偽武道家「いいねぇ、いいねぇっ! この身体っ! 武道家っていいじゃないかっ!」
男武道家「……くそっ!」
偽武道家「ほらほら! 回し蹴りだよっ!」バキッ
男武道家「……ぐっ!」
男武道家「次は、ローキックっ! ほらほらっ!」バキッ
男武道家「ぐっ……! くそっ……!」
偽武道家「いやぁ~! 武道家って面白いねぇ! ほら、次はハイキックだよ~!」
男武道家「……くっ! やばいっ! 防がないとっ!」
偽武道家「なぁ~んちゃって……ハイキック……か~ら~の?」
男武道家「……んっ?」
偽武道家「……フェイントでミドルキック! ほらほら、ボディががら空きだよ?」バキッ
男武道家「ガッ……!」
偽武道家「いや~、いいねぇ! 武道家って色んな技があって、面白いねぇ! とどめはどの技がいい? リクエストぐらいは聞いてあげるよ?」
男武道家「く、くそっ……こいつ……やるじゃないか……!」
偽天童「おめぇの身体はよぉ? なぁ~んにも特技がねぇんだな! なんだ、この身体っ!」
天童「……君に、天使である私の身体は使いこなせないよ」
偽天童「……あぁ?」
天童「天使である私の身体は……君みたいな愚かな魔物には使えない……と、言っているんだ」
偽天童「……」
天童「……」
偽天童「……うるせぇよ! おめぇはよぉ!」バキッ
天童「痛っ……! 殴る事はねぇでしょ、あんた……!」アセアセ
偽天童「うるせっ! この身体、何も使えねぇんだから、こうするしかねぇじゃねぇかっ!」ガスガス
天童「痛い痛いっ……! ちょっとタイムっ……! ねぇねぇ! タイムタイムっ!」
偽天童「うるせぇよっ! 昔の二枚目っ! これでとどめばいっ! オラッ!」
天童「昔ってなんだよ! 昔って! ……って、やべぇっ!」
勇者「はっ! やぁっ! たぁっ!」
偽勇者「……くっ! このままじゃ、全滅しちゃうよっ!」
勇者「たぁっ! てやっ!」
偽勇者「あっ! それとも、全滅するのは君達の方かな?」
勇者「……何?」
偽勇者「ほら、見てみなよ? 今、勝ってるのは……僕の仲間か……君の仲間か……どっちだと思う?」
勇者「……」
偽勇者「もし……君の仲間がやられたら……ふふ、四対一だね?」
勇者「皆……勝ってるはずだ……俺は皆の決断を信じるっ……!」
偽勇者「……本当にそうかな? 皆、君に助けを求めてるんじゃないかな?」
勇者「くっ……ど、どっちなんだっ……!」
偽勇者「……隙ありっ!」バキッ
勇者「……ぐあっ!」
女僧侶「勇者さんっ……!」
男武道家「勇者君っ……!」
天童「くそっ……! 勇者ァっ!」
偽勇者「……今、助けを求めてるのは、君の仲間か、僕の仲間か、どっちなんだろうね?」ニヤニヤ
勇者「……」
偽勇者「助けに行く? でも、ひょっとしたら、自分の手で……仲間を殺しちゃうかもしれないね……?」
勇者「くっ……! どうしたらいいんだっ……!」
偽勇者「決断するのは君だ……仲間を助けに行くのか……ここで僕と戦うのか……リスクのある決断だね?」
勇者(多分……命題があるから……俺が助けると決断したら、皆を殺してしまう事になるだろう……)
偽勇者「さぁ、どうするんだい? 本物の勇者君?」
勇者(だから……きっと、皆は勝っているハズだっ……! きっとそうだっ!)
偽勇者「戦闘中に……あまり考えるのはよくないんじゃない……?」
勇者(だけど……! 本当にそうなのか? 皆は本当は助けを求めてるんじゃないのか!?)
偽勇者「バカがっ! 隙だらけだぞっ! 今のお前はっ! おらぁっ!」
勇者(個人で戦うという決断を尊称しつつ……! 皆を助ける方法っ……! 何か……何かあるはずだ、きっとっ!)
偽僧侶「これで……! とどめですっ……!」
女僧侶「!」
勇者「えっと……ええっと……ヤクルト? ……スクーター……ああっ! 違う違うっ……」
偽武道家「これでとどめだっ!」
男武道家「!」
勇者「クルトン……? スク水幼女……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ……!」
偽天童「これでとどめばいっ!」
天童「やべぇっ! 勇者ァっ!」
偽勇者「隙だらけだぞっ! これでお前も終わりだぁっ!」
勇者「『スクルト』?」ピカーッ
偽僧侶「はぁっ!」
偽武道家「たあっ!」
偽天童「どっこいしょっ!」
偽勇者「おらぁっ!」
スカッ
偽僧侶「……何?」
男武道家「避けた……だと……?」
偽天童「あいつらには、体力は残ってなかったってのによぉ!? なんで、避けれるんだよぉ!?」
偽勇者「……小僧、貴様何をした?」
女僧侶「こ、これは……?」
男武道家「何だ……? 身体から、力が溢れてくる感じだ……」
天童「おい、勇者ァ! おめぇ、何かしたのか!?」
勇者「皆、俺にはどれが本物でどれが偽者か区別がつかないっ!」
女僧侶「……」
勇者「だけど、この魔法で皆の力が上がったはずだっ!」
男武道家「……」
勇者「最初の決断通りに、皆は自分の姿の魔物と戦ってくれっ!」
天童「……」
勇者「苦しいけど、後少しなんだっ! 頑張ろうっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「よしっ! これならいけそうだっ!」
天童「勇者ァ! 今、12時55分だから、後5分だっ! おめぇも踏ん張れよっ!」
女僧侶「これならっ……! いけそうですっ……! たぁっ!」
偽僧侶「な、何ですか……!? さっきより、速いっ……! ぐっ……!」
女僧侶「はぁっ! やあっ!」
偽僧侶「ぐっ……! くっ……!」
男武道家「よしっ! 本物の回し蹴りってのが何かをわからしてやるよっ! たあっ!」
偽武道家「……ぐっ!」
天童「これが天使の底力ばいっ! 覚悟するがいいよっ! おらぁっ!」
偽天童「痛ぇっ! おめぇの力じゃなくてよぉ? それはあのガキの力だろうがっ! 偉そうにしてんじゃねぇよっ!」
勇者「これで……形勢逆転だな……?」
偽勇者「……ふふふ」
勇者「……何がおかしい?」
偽勇者「参ったよ……参った……降参だ……」
勇者「……」
偽勇者「いくら欲しい? 5000Gか? 10000Gか?」
勇者「……何?」
偽勇者「共に我々と、この街を支配しようではないかっ! その力と我々の変身能力があれば、容易い事ではないかっ!」
勇者「……」
偽勇者「私の決断に乗るんだ、勇者よっ! 力とは支配する為にある物だっ!」
勇者「……その決断には乗れません」
偽勇者「何故だ? 今さら、こんな壊滅した街を救って何になるというのだっ!」
勇者「……道具屋の娘さんの、心を救う事出来ます」
偽勇者「……何?」
勇者「僕が乗る決断は……彼女の言った……父の敵を討ち……この街を救という決断ですっ……!」
偽勇者「愚かなっ……! そんなちんけな物の為にっ……!」
勇者「僕の仲間もきっと、同じ事を思っていてくれているはずですっ! たああぁっ!」
偽勇者「!」
ザクッ
ーーーーー
天童「よっしゃっ! 1時ジャストだなっ!」
女僧侶「皆さん、偽者じゃありませんよね?」
男武道家「魔物の死体が、ひー、ふー、みー、よー……うんっ! 大丈夫みたいだね?」
勇者「皆、大丈夫だった?」
天童「おうっ! 俺はピンピンしてるよ! まっ、俺の実力は凄ぇからね!」
女僧侶「私も、勇者さんの魔法に助けられました。ありがとうございます」
男武道家「勇者君、あんな魔法使えるんだね? でも、できればもっと早く使ってほしかったなぁ……まぁ、おかげで助かったけど」
天童「……勇者?」
勇者「……ん?」
天童「おめぇ、皆が心の底で『助けてほしい』って思ってたの……感じたんだな?」
勇者「下手に動いて……皆に攻撃しちゃうのは、皆望んでなかったと思うからさぁ……?」
天童「だから、ああいった形で、個人で戦う決断と、助けてほしいって決断を両立させたってわけか……」
勇者「う、うん……」
天童「おめぇ、今回はよぉ! やるじゃねぇか! おめぇも成長してきてるねぇ!」
勇者「そ、そうかな……」
天童「まっ、そもそも、おめぇみてぇなダメ人間がこのパーティーを纏めてるのが、そもそもの問題だったわけだけどね!」
勇者「おめぇは、褒めるか貶すか、どっちかにしろよっ!」
天童「『リーダーシップ』……クリア、だな……」メモメモ
翌日ーーー
娘「皆さん、本当にありがとうございましたっ……!」ペコッ
勇者「お母さんと二人で、この街の復興をするんだよね? 大丈夫?」
娘「不安もありますが……やはり、私の生まれ育った街ですし……」
勇者「……うん」
娘「ここには、父との思いでもありますから……必ず、復興させてみせますっ!」
勇者「うん……頑張ってね?」
男武道家「勇者君、大丈夫だよっ! 僕手伝うから、僕もっ!」
勇者「……えっ? 男武道家さんが? うわ、何か心配だ」
男武道家「あのね、君は失礼っ! 本当に失礼っ!」
勇者「だって、男武道家さん、ドケチじゃないですか……」
男武道家「いいかい、勇者君? 僕の計画を教えてあげる」
勇者「……ん?」
男武道家「明日から、この街は全ての品を95%OFFで販売するんだっ!」
勇者「えっ……! ドケチの男武道家さんが!? そんなにまけて大丈夫なんですか?」
男武道家「ふふふ……勇者君、そこがね……この話のキモなんだよ……」
勇者「?」
男武道家「いいかい? この街は、全ての品が100倍の価格売られてただろ? それを95%OFFにしたら、どうなると思う?」
勇者「え~っと……どうなるんですか……?」
男武道家「元値より、ちょっとだけ高い価格で販売できるワケだよ! 良心的な価格の範疇でね!」
勇者「……うわ」
男武道家「こんな美味しい話が転がってる街なんてないよっ! いや~、支援物資沢山持って来てよかったなぁ~!」
勇者「……あんた、やっぱり銭ゲバだな」
男武道家「まぁ、それで冒険者はこっちの大陸にも渡ってくるようになると思うからさぁ?」
勇者「そうですね」
男武道家「やっぱり、この街を抑えられてたのは痛いよ。 なんとか復興させて、冒険者をこっちの大陸に連れてこなきゃ」
勇者「そうですね。男武道家さん、頑張って下さいっ!」
男武道家「君達も頑張りなよ? これから……魔王城の方に旅立つんだろ?」
勇者「はいっ!」
男武道家「あっ……そうだそうだ……勇者君に餞別あげるよ、餞別……」ガサゴソ
勇者「……餞別?」
男武道家「ほら? この剣あげる! 勇者の剣、もうボロボロじゃん?」
勇者「えっ……? こんな物、頂けるんですか!?」
男武道家「物はいいけどねぇ……安値の剣だからねぇ……まぁ、『けるべろ』の事もあるし、持っていってよ?」
勇者「な~んか、怪しいなぁ……これ、呪われたり、してないですよね?」
男武道家「あのね、 勇者君? これは先行投資だよ、先行投資!」
勇者「?」
男武道家「君がその剣を使って、魔王を倒すとするじゃん?」
勇者「……はぁ」
男武道家「すると、どうなる!? その剣の価値は、魔王討伐モデルとして、何十倍にもなるではないかっ!」
勇者「……うわぁ」
男武道家「なんで、そんなに嫌な顔するんだよ……それ、物はいいんだからね!? 価値が低いだけで!」
勇者「……あんた、そんな事言って、この剣ばら撒きまくってんだろ?」
男武道家「あはは、まぁまぁ……とにかく、美味しい話があったら、すぐ連絡してよ? 僕もすぐかけつけるからさ?」
勇者「はいはい……」
男武道家「そうだな……魔王を後、一撃で倒せるっ……! そんな状況になったら、絶対連絡してね? 約束だよ、約束?」
勇者「……あんたは最後まで、銭ゲバなんだな」
男武道家「うるさい、これが僕の生き方だ! 文句あっか!?」
ーーーーー
天童「おっ? いい剣、持ってんじゃねぇか? どうしたんだ?」
勇者「あぁ、男武道家さんに貰ったんだ」
天童「へぇ~、あのドケチな男武道家さんがねぇ……こりゃ、明日は雪だな!」
勇者「いや、雪は降らないよ……しっかり、下心があったから……」
天童「……で、これから、どうすんだ?」
勇者「まぁ、魔王城に向かうしかないでしょ? ここまで来たんだしさ」
天童「そうだな、早い所、平和な世界にしないとなっ!」
勇者「……ちょっと、信じられないなぁ」
天童「……ん? 何がだよ?」
勇者「いや、自分がさ……? こうやって、世界を変えてるなんて……」
天童「……」
勇者「お前が来る前……ずっと引き篭もってた時の俺だったら、考えられなかったよ、こんな事……」
天童「……まっ、それだけ、おめぇが成長したって事じゃねぇか?」
勇者「はは、俺ももう一人前かな?」
天童「バ、バカ~ンっ! バッバッバカ~ン! 後、命題は3つもあるんだよ!? それクリアしねぇと、おめぇは一人前じゃねぇよ!」
勇者「ははは、じゃあ後3つ……頑張らないとね?」
天童「……ん?」
勇者「よしっ! じゃあ、そろそろ出発しようか! 天童、女僧侶ちゃんっ! 行くよっ!」
天童「お、おうっ……!」
天童「あいつ、文句も言わなくなったなぁ……うん、明日は雪だ。絶対に雪だ」
第七話 「決断したら死ぬ!」
ーー完