1 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:43:49.94 mGn+Uq+do 1/52




注意!!



このssは悪魔のリドルの二次創作です。

独自設定、キャラクターの崩壊、

特に独自解釈が多分に含まれております。

原作の雰囲気を重視される方はご注意ください。

後半に軽いエロ描写があるので苦手な方は戻りましょう。

ややシリアスを含みます。

兎鳰です。







元スレ
兎角「走り鳰と一緒に仕事をするようになって」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404474229/

2 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:44:53.87 mGn+Uq+do 2/52


*鳰のワゴン車 車内



兎角「ここか」

「はいっス、明かりついてますし、声も聞こえましたし、ターゲットたちは在宅のようっスね」

兎角「さっさと終わらせるぞ」

「はいっスー、じゃあおさらいするっスよ?一軒家、ターゲットは2人。ともに元暴力団構成員の腕利きらしいっス」

「ターゲット2人は凶暴すぎて暴力団から追放されたんスが、その際に大暴れ。暴力団員を数名殺傷した、と」

「それでまあ、この2人をやっつけて、さらには暴力団が始末したように見せかけてほしい、とのことっスね」

兎角「このバッジを現場に落としておく、ということか」

「はいー、メンツが重要なんでしょうね~、あとはミョウジョウがうまくやってくれるそうっス」

兎角「それじゃあ、手はずどおりに」

「ええ、閃光弾投げいれて突入、兎角さんがターゲットを無力化、無力化したターゲットをウチが撃っていくっス」

兎角「いくぞ」

「はいっス」

黒組が終わって、3年が経った。

黒組で生き残った一ノ瀬は報酬として普通の暮らしを望み、自由を手に入れた。わたしは一ノ瀬と一緒に暮らしている。

それで何故、今こんなことをしているのかというと……

生活の為だ。マンションの家賃、光熱費、食費、その他もろもろ。

わたしは黒組の報酬でアズマの里にも17学園にも帰らずに暮らすことを選んだが……

結局のところ、ミョウジョウグループから斡旋された暗殺の仕事をするしかなかった。

…暗殺以外に、出来ることもなかったし。

だが、ミョウジョウの決まりとかで、2人1組でなければ仕事が請けられないようになっていた。相方が必要だった。

それがよりによって、こいつだとは……

「♪~~はい、一人目終わりっス~」

走り鳰と一緒に仕事をするようになって、3年になる。




3 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:45:26.60 mGn+Uq+do 3/52


*鳰のワゴン車 車内


慣れというものは恐ろしいものだった。

走りの瘴気のような雰囲気も、わたしと同じ嫌な匂いも、時折みせる歪んだ笑顔も、この3年のうちに慣れてしまっていた。

所詮わたしも、走りと大差ない人間だったからかもしれない。

「ふぅー、おつかれーっス、ミョウジョウに報告いれときました」

兎角「ああ、おつかれ」

「そうそう、兎角さん、前回の分の報酬っス」

兎角「ああ、確かに」

「いやー、今日は思ったより早く済みましたねー」

兎角「22時か……」

「このあと、予定あります?兎角さん」

兎角「いや」

「じゃあ、ウチと遊びに行きません?」

兎角「はあ……?なんでだ」

「そりゃもう!兎角さんと親睦を深めたいと思いまして」

兎角「ウソつけ」

「あははー、ウソっス、言ってみただけでー」

兎角「…………2時間くらいなら、いいけど」

「えっ、この流れでOKするんですか」

兎角「この時間に帰ると、怪しまれる」

「あー、なるほど。まあウチもヒマですし、このままドライブでもしますかねー」




4 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:46:47.73 mGn+Uq+do 4/52


*鳰のワゴン車 車内



「さすがにもう晴ちゃんには言ってあるんスよね?この仕事してるって」

兎角「……いや」

「うわっはー、マジっスかぁー、もう3年っスよ?」

兎角「うるさいぞ」

「いまだに言ってない兎角さんもっスが、気づかない晴ちゃんも鈍いっスねぇ~」

兎角「……おい」

「やぁだぁ、怖いっス~♪」

「ちなみに、晴ちゃんには何の仕事してるって言ってあるんスか?興味あるっス」

兎角「……」

「?」

兎角「……事務……」

「えっ」

兎角「事務のアルバイト、って言ってある」

「あははははははは!!と、兎角さんが、デスクワークっスか!」

兎角「……」

「ウチらこっちの世界じゃちょっとしたモンなんスよ?その兎角さんが、あははは」

「うわっとお!ナイフ、ナイフしまってほしいっスよぉ!運転中ですし!」

兎角「……適当なのが思いつかなかっただけだ……接客業だと店に来たいって言うし……」

「あー、言いそうっスねぇ」

兎角「……わたしたち、有名なのか?」

「いやいや~、そりゃもう!西の葛葉と東のアズマが組んでるわけですから!」

兎角「そうか……」

「そういえば、晴ちゃん大学受かったんでしたっけ?元気っスか?」

兎角「受かったみたいだし、元気だ。最近は化粧が楽しいとか」

「へぇ~、兎角さんはしなかったんスか?受験」

兎角「わたしが行っても仕方ないだろ、おまえは?」

「ウチの頭じゃ、無理っス~」

兎角「そういえば黒組のとき、生物のテスト実質最下位だったな」

「うっ、よく覚えてますね~、忘れてたっス!過去は振り返らない主義なんで!」

兎角「そうか」

「おおっと、楽しい時間はあっという間ですねぇ、もういい時間っスよ」

兎角「わたしは楽しくない」

「またまた~♪」




6 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:49:38.28 mGn+Uq+do 5/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



「ふぃーーーー、結構ハデになっちゃいましたね、ハイ兎角さん、タオル」

兎角「ああ、悪い」フキフキ

「ふぅ……」フキフキ

兎角「最近、ハードだな」

「ウチらにまわってくる仕事って基本、暗殺すること自体が困難なターゲットっスからね」

「どっかの組織で問題起こした厄介者とかー、用済みになった暗殺者とか」

「今日みたいに取っ組み合いになることも多いですしねー、相手が犯罪者ばっかりなんでそこだけは気が楽っスが」

兎角「そうだな…………この服はもうダメだな」

「汚れたのはそこのゴミ袋で、着替えはトランクに入ってますんで、ご自由にどうぞっス」

兎角「ああ、助かる。シャツとタオル代は」

「ウチのほうで報酬から差し引いておくっス」

兎角「頼む」

「いやー、こういう消耗品が自腹ってのがツラいところっスね」

兎角「そうだな」

「それに、報酬自体も絶対ピンハネされてるっスよぉぉぉぉ、安すぎっス」

兎角「だろうな、相場はわからないが暗殺にしては報酬が安すぎる」

「そのかわりある程度の安全は保証されてるっスけどね」

兎角「ミョウジョウグループの後ろ盾、か」

「指紋とかの物証残したりしなければ基本、オッケーっスからね」

兎角「このワゴン車も支給品なんだろ?」

「そうっス、偽造免許証とセットで」

「まー、この稼業でコンスタントに仕事もらえてるって時点で、文句はないっスけどねー」

兎角「わたしも生活費が払えれば問題ない」

「え、でもさすがに毎月貯金できるくらいには渡してますよ?お金、使わないっスか?兎角さん」




7 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:50:41.79 mGn+Uq+do 6/52


兎角「使わないな」

「まあウチもっスけど」

兎角「何に使うんだろうな……普通は」

「美味しいもの食べたりー、家を買ったりー、嗜好品を買ったりー、自分に投資したりー、とかじゃないっスか?」

兎角「どれもピンとこないな」

「あはは、ウチもっスけど。極論、布団とプチメロがあれば生きていけるっス」

兎角「そうだな」

「あははー、でも兎角さんは晴ちゃんもっスよね?このこの~」

兎角「……?」

「いやそんな不思議そうな顔されても。3年も一緒に住んでるんですし、恋人っつか事実婚みたいなもんじゃないっスか」

兎角「は……?誰がだ……?」

「えっ」

兎角「??」

「えええ!?兎角さんと晴ちゃんって、恋人同士っスよね!?」

兎角「違うけど」

「はああああ!?」

兎角「なんなんだ」

「それはこっちのセリフっスよ!?」

兎角「一ノ瀬のことはずっと守っていくつもりだけど」

「うはぁー、よくわかんないっスねぇ」

兎角「わたしにはおまえのほうがよっぽどわからないけどな、なんでわたしとコンビなんて組んだんだ」

「黒組のときもウチは最初っから手を組もうって言ってたじゃないっスかぁ」

「働き蜂同士、仲良くしましょうよぉぉ」

兎角「わたしは違う」

「そうでしたー!」

「着替えも終わりましたし、帰りますか。車出しますっス~」




8 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:53:15.71 mGn+Uq+do 7/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



兎角「そういえばずっと思ってたんだけど」

「えーー、ウチに愛の告白っスか?困るっス~、兎角さんはタイプじゃないっスよ~」クネクネ

兎角「おまえ、仕事のときはいつも銃を使ってるけど、葛葉の呪術は使わないのか?」

「スルーっスか…………」

「いや、見ず知らずの相手を即片付けるには、術より銃で撃ったほうが早いだけっス」

兎角「そうなのか」

「あんま詳しく言えないっスけど、強力な呪いほどかける条件が厳しくなっていくんで~」

兎角「わたしの姿に化けるのも下準備が必要なんだったな、そういえば」

「厳密には化けるんじゃないっスけど、そうっス」

「もともと葛葉は権力者を操ったり、とかそういう裏での暗躍が主だったみたいですし」

「つーか!アズマが戦闘に特化しすぎなんスよ!」

「特に兎角さんのおばあさん、地上最強目指してる感ありますし」

兎角「ああ……確かに……」

「そうそう、最強と言えば、英さん」

兎角「…………」

「兎角さんはノックアウトされてましたね~」ズイッ

兎角「……うるさいぞ、顔も近い」

「兎角さんのおばあさんが知ったらさぞ悔しがるでしょうね~」ニヤニヤ

兎角「……あいつ、あの高さから落ちて生きてるんだって?」

「ええ、そうなんスよ……」

兎角「……」

「……」

「生きてるどころか最近、自分の強さを証明するってだけの理由で、どこかのマフィアを単身で潰したとか」

兎角「……」

「……」

兎角「もし次があったら、今度は負けないけどな」

「へぇ、どうやって倒すんスか?」

兎角「……」

「ノープランかい!」

兎角「負けない自信はあるんだが、倒す方法が思いつかない」

「もうターミネーターみたく、溶鉱炉に突き落とすしかないんじゃないっスかね」

兎角「ふふ、そうかもな」

「あははー、あっ、もうこんな時間っス」

兎角「今日はもうターゲットは帰ってこないな」

「ぐあー、じゃあ明日もまた張り込みっスねぇ、帰りましょう」

兎角「ああ」




9 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:55:12.41 mGn+Uq+do 8/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



「ヒマっスねー…………」

兎角「……」

「このぶんだと、今日はターゲットは帰ってこないっぽいっスねぇ」

兎角「……そうだ、おまえこの問題わかるか?」パカ

「なんスか?『世界は□□に満ちている』?」

「ヒントは?」

兎角「ない」

「ん~~~…………『呪い』?」

兎角「!!」

「え、どうかしました?」

兎角「不正解だ。でも、わたしと同じ答えだ」

「そうなんスかー」

兎角「自分からは絶対出ない、他人の言葉が正解、だそうだ」

「意味わかんねーっス~」

兎角「わたしも意味はよくわかってないけどな」

「ウチと兎角さんは同類なんで、ウチらじゃ永遠に正解できないっスね~」

兎角「……そうだな」

「食べ物の好みは違いますけどね!」

兎角「それは同感だ」

「そういえばカレーと言っても色々種類がありますけどー、兎角さんは何カレーが一番好きなんスか?」

兎角「カレー全部」

「……全部」

兎角「全部」コクリ

「あ、ああ~~……話変わりますけどぉ、えーーーーーと……」

「……今日のところは、帰りますか~」

兎角「そうだな」




10 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 20:59:25.58 mGn+Uq+do 9/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



兎角「おまえってさ、仕事以外はいつもなにしてるんだ?」

「おおっと!?お休みのときはなにしてるんですか?っていう軽い人格調査っスね!お見合いかーい!」

兎角「ああ」

「いや、ああって!あまりに雑すぎっスよ!?」

兎角「……」

「んーー、別に、何もしてないっスね。タブレットで情報収集は毎日しますけど」

兎角「それは仕事に含まれるんじゃないか」

「そうっスねぇ、仕事っスね」

兎角「学校は行ってないのか?」

「ウチの学力だと行っても授業内容がまるでわからないというか……」

兎角「ああ」

「いや、ああって!」

「一応、ミョウジョウの大学の生徒って扱いにはなってるっスけど。ちなみに部屋は黒組のとき使ってた7号室に住んでるっスよ~」

兎角「そうなのか」

「寮のあの一角は黒組専用みたいっス、次に開催されるまで使われないみたいなんで」

兎角「そうか、それで、仕事以外の時間はなにもしてないのか?」

「なんか今日の兎角さんは鳰ちゃんに興味津々ですね?あれっスか?やっとウチの魅力に気づきました?」

兎角「……」

「無言でナイフはやめてほしいっス~」

兎角「言いたくないなら、いいけど」

「いやいや、言いたくないんじゃなくて、言うことがないんスよ。基礎トレしたり、道具の手入れしたり、テレビ見たり、とかで」

兎角「そうか」

「仕事の時間、夜じゃないスか?夜型の生活リズム崩さないように時間つぶしてるって感じっスよ。何もしてないと眠くなるんで」

兎角「そうか、わたしもだいたい同じだ」

「晴ちゃんと一緒に住んでるんだったら、家でトレーニングとか出来ないんじゃないっスか?」

兎角「ああ…出来ない」

「というか、ウチらの仕事って、多くても週に2日くらいじゃないっスか。暗殺の仕事ないとき、兎角さん何してるんですか?」

兎角「……」

「……」

兎角「……事務の仕事に行ったフリをしている……」

「…………」




11 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 21:03:54.55 mGn+Uq+do 10/52


兎角「一ノ瀬には夕方から深夜のシフトで週に5日勤務、と言ってあるから、週に3、4日は、喫茶店か、トレーニングか、見つからないところを散歩、とか」

「『そうか、わたしもだいたい同じだ』、じゃないっスよ!全然ウチと同じじゃないっスから!」

兎角「残りの1、2日はだいたい同じだ」

「リストラされたの家族に言い出せない人じゃないんスから!」

兎角「……」

「んー……じゃあ、ウチの部屋、来ます?」

兎角「黒組の寮のか?」

「はいっス、仕事行ってるはずの時間帯はウチの部屋ですごしていればいいんじゃないっスか。暗殺の依頼来たときもウチと直で詳しく話せますし」

兎角「……考えておく」

「はいっスー、あ、でもひとつだけ注意点が」

兎角「なんだ?」

「生徒として寮に出入りできる時間帯は限られてるんで、基本用務員のフリして出入りしないと」

兎角「おまえもフリしてるじゃないか」

「いやー、あはっ、あ、あれターゲットっスよ、兎角さん!」

兎角「ああ、行くぞ」




14 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 21:09:12.74 mGn+Uq+do 11/52


*別の日 とあるマンション 204号室



兎角「それじゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい、兎角さん!お仕事がんばってね!」

兎角「ああ」

一ノ瀬がいつものようにわたしを笑顔で見送った。

日曜日。午後4時。仕事なんてない。今日もどこかで10時間ほど潰さないと。

日曜の夕方はどこに行っても混んでいる。人の多い場所は苦手だ。

とりあえず線路沿いに歩いて時間を潰すことにした。

はしゃぐ子供を連れた夫婦とすれ違った。談笑するカップルとすれ違った。

……なにをやってるんだ、わたしは。

店のガラスに映った自分は、部屋を出入りするためのスーツを着て、ビジネスバッグを抱えていた。

わたしはこんなまともな人間じゃない。金のために人を殺している、暗殺者だ。

でも、そんな人間は一ノ瀬と同じひなたの世界にはいられない。

演じ続けないといけない。これからも、ずっと。

普通の仕事、普通の服装、普通の表情を。

平和な休日の景色なのになんだか、作り物みたいでまるで実感がなかった。わたしの住む世界じゃない気がした。

……あいつの話が聞きたい。

思いもよらない考えが頭をかすめて、自分で驚いた。

でも、あいつと一緒に仕事をするようになってもう4年になるけど、

あいつといるときだけは、自分を偽る必要がない。

わたしと同じく、黒組のころからほとんど変わらないあいつと話しているときが一番落ち着いた時間だった。

携帯を取り出し、ほとんど登録されていない電話帳からあいつの名前を選ぶ。

……走りのくだらない話が聞きたかった。




15 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/04 21:15:01.50 mGn+Uq+do 12/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「おっ、来たっスね、兎角さん…ってそのカッコ!!」

兎角「邪魔する」

「ほ、ホントにOLみたいなカッコしてるんスね!!あっははははははははは!!」

兎角「うるさいぞ」

「あははは!!いやー、いいもの見れたんで、これからはいつでも来ていいっスよ」

兎角「……ああ」

「あくまでウチはこの7号室を使わせてもらえてるだけなんでー、学校の施設…大浴場なんかは使えないっスよ」

兎角「いさせてもらえるだけで助かるよ、ありがとう」

「え、あ、あ」

兎角「??」

「い、いやーっ、兎角さんからありがとうって言葉が聞けるなんて!生きてると不思議なこともあるんですね~」

兎角「……ついでじゃないけど、色々ありがとう、走り」

「え?え?」

兎角「走りがいなかったらこの仕事出来てなかったし、仕事の請負や下調べや報告も全部走りがやってくれてるだろ?ありがとう」

「ぁ……ぃゃ……その……はい、っス……」

兎角「いつも感謝してる、それだけ」

「……はい……」

兎角「……?どうかしたか?」

「な、なんでもないっス!お礼とか言われるの、慣れてないんで!そんだけっス!」

「あ、あ~っ!そういえばウチとしたことが、プチメロを切らしてました!購買行ってくるっス!!!」

兎角「ああ、わかった」

「……」




41 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:01:08.75 4NXgz1CXo 13/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「ファッション?兎角さん、そんな単語知ってたんスね」

兎角「一ノ瀬がよく話題にあげるんだ。そういうの、わかるか?」

「んー、全然わかんねっス。ウチ、露出ムリですし」

兎角「……そうか、そうだったな。悪かった」

「いやいや、いいっス、ウチと兎角さんの仲じゃないっスか~」

兎角「ああ、ありがとう」

「え!?そ、そこはうるさい、とか無言でナイフを出すところっスよ!?」

兎角「パートナーだろう、わたしたちは」

「!!あはっ、そうっスね」

兎角「それで、一ノ瀬から化粧水、という液体をもらったんだが用途が不明で」ゴソ

「いや、ウチも持ってないですしわかんねーっスねー……ググりましょう」ピッピッ

兎角「……どうだ?」

「『化粧水(けしょうすい)とは、皮膚を保湿し、整え、滑らかにする機能を持つ透明液状を呈した化粧品である』とのことっス」

兎角「……?」

「おそらく、とりあえず顔に塗っとけばいいことありますよって感じのものかと思われるっス」

兎角「そうだったのか」

「絶望的っスね~、兎角さんは」

兎角「おまえも知らなかっただろ」

「あはは、そうっスけどぉ、鳰ちゃんはいつでもすべすべ卵肌だから必要ないだけっス~♪」

兎角「はぁ……」

「んー……」

兎角「……」

「……いや~、実際、全然興味もてないんスよね~、ファッションに限らず、なんでも」

兎角「……」

「人を殺すこととかー、人の呪いかたとかー、そんくらいですし、今まで人に教わったことって。それを特に疑問に思わなかったですし」

「そんなウチを拾ってくれた理事長には感謝してもしきれないっスけど」

「でも最近は」

「………………兎角さんと話してるときが一番楽しいっスよ」

兎角「そうだな、わたしもおまえと話してるときが一番、落ち着く」

「っ……!い、いやだなあ、冗談っスよぉぉぉぉ!マジに返さないでください!」

兎角「うるさいぞ」

「一転して厳しい!冷たいっスねぇ、パートナーじゃないっスか!」

兎角「うるさいパートナーだな」

「あははは!」

兎角「ふふ」




42 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:06:04.90 4NXgz1CXo 14/52


*別の日 暗殺現場



兎角「ふぅ、なんで爆弾魔というやつは、ぬいぐるみに爆弾を仕込みたがるんだ」

「一種のギャップ萌えなんじゃないスかねー」

兎角「まったく……」

「あはは、それじゃ早く出ましょう、この部屋なんか臭いですし」

兎角「そうだな、本人が死んだら作動する爆弾があるかもしれない」

「うぇっ、早く車に戻りましょう」





「ドアあけるっスー」ピピ

兎角「ふぅ」ガチャ

「あ、爆弾で思い出したんスけど」ガチャ

兎角「なんだ」

「元黒組の人たち、だいたいは元気にやってるみたいっスよ。行方不明も若干いますけど」

兎角「そうなのか」

「寒河江春紀さん、覚えてます?」

兎角「さがえ……?」

「あの、えーっと、いつもポッキー食べてた人」

兎角「ああ、あの、ワイヤーの」

「あ、それっス、それ。結構凄腕で有名みたいっスよ、ここ2年くらいで」

「一時期はカタギの仕事やってたみたいですけど、戻ってきたみたいっス」

兎角「あいつはなかなか強かった」

「他にもー、神長さんとか、首藤さんとかも、活躍中だそうっス」

兎角「かみなが……」

「あれっス、爆弾使いで、メガネの」

兎角「あいつか……でもあいつ、弱かったぞ」

「強いか弱いかの感想しかないんかい!戦闘民族っスか!?」

「神長さんは首藤さんとコンビを組んで独立したらしいっス」

兎角「そういう情報って、どこで仕入れてるんだ?」

「タブレットで情報収集してるんですよー、情報を制するものは世界を制す、っスから」

兎角「なるほど」

「たとえば、知ってます?メロンパンはメレンゲパンが訛ったものなんスよ!あと、日本で一番高価なメロンパンは値段がなんと…」

兎角「その情報はいらない」

「ひどいっス!」





44 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:16:04.85 4NXgz1CXo 15/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「……邪魔、する……」

「いらっしゃいーって暗っ!?なんスか兎角さん!親でも死んだんスか!?ってウチらの親、もとから死んでたっスー!!」

兎角「なんでもない」

「スルーは基本っスね……それで、どうしました?」

兎角「なんでもないから」

「ウチと兎角さんの仲じゃないですかー!話だけでも聞くっスよ?」

兎角「……」

「……もうパートナーになって5年ですし、なんでもなくないことくらいわかりますよ?」

兎角「……大学の友達の話や、大学のサークルの話や、バイト先の花屋の話……」

兎角「一ノ瀬は、わたしの知らないことばかり話してる」

「……いいことなんじゃないっスか?晴ちゃんは普通の生活を送ろうとしてるんスから」

兎角「ああ……」

「大学で新しい友達できて、サークル入って、バイトして、って順風満帆じゃないっスか」

兎角「そうなんだけど」

「兎角さんが晴ちゃんのこと、ちゃんと守りきれたってことじゃないっスか」

兎角「そう……だな……」

「仕方ないっスよ~、そういうものっス」

兎角「一ノ瀬は新しいことを次々はじめていって。わたしは黒組の頃から何も変わらない。違いがどんどん広がっていく」

「……」

兎角「一ノ瀬が何を喋ってるのかわからないことが増えて、話題も少なくなっていって」

兎角「一ノ瀬のこと、ずっと守っていこうと思ってた。でも」

兎角「もう守る必要、ないんだな、きっと」

「……」

兎角「う……うぅ……」ボロボロ

「……プチメロ、食べます?食べかけっスけど」

兎角「っく、う、ああ…もらうよ、走り」

「……」

兎角「甘いな」

「カレーパンじゃないっスからね」




45 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:22:09.83 4NXgz1CXo 16/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



「いやー、仕事の日に台風とはツイてないっスねぇ!!!!!」

兎角「すごく嬉しそうに見えるな」

「そんなことないっスけど、台風はテンション上がりますよねぇ!!!!!」

兎角「上がらない」

「ええっ!?」

兎角「わたしはこの車が動かなくなったりしたら」

「これはもう兎角さんには、改めて台風の魅力を是非知ってもらいたいと!!!!!」

兎角「聞けよ……それで、なにがいいんだ、こんなの」

「まず初級編は台風観賞っス!台風、襲来!交通機関大打撃!一般人ずぶ濡れ!その様子を窓から観賞する自分!」

兎角「……」

「中級編はギリギリ帰宅っス!これはいかにして台風が直撃する寸前に……」

兎角「だいたいわかった」

「わかってもらえましたか!!!!!」

兎角「理解できないことがわかった」

「えーーーーーーーーっ!!!!!」

兎角「……ふふ」

「もー、なにが面白いんスかー!」

兎角「……昔から全然変わらないな、わたしたち」

「あ、あーーー、そうっスね、もう20歳なんスけどね」

兎角「……走り、あれ、ターゲットじゃないか?」

「あ、そうっス。この天気なんで帰ってこないかと思ったっス」

兎角「それじゃ、いくぞ」

「ええ。いつもどおりに」

兎角「頼りにしてる」

「っ、はいっス!」




46 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:29:36.83 4NXgz1CXo 17/52


*別の日 ミョウジョウ学園正門前 昼間



「うわっとっ」

「鳰!?鳰だよね、ひさしぶり!」

「ひさしぶりっスね晴、鳰っス!」

「鳰、全然変わらないね!でもなんでまだミョウジョウ学園の制服着てるの!?」

「あはっ、内緒っス♪いやー、晴は大人っぽくなりましたねー」

「そんなことないよぉ」

「こう、ウチはよくわかんないっスけど、ヘアスタイルとかメイクとか、ファッション誌のモデルみたいっス」

「はは、そんなことないからー、鳰は今なにしてるの?大学?就職?」

「やー、まあ仕事っス、晴はどうしたんスか?こんなとこで」

「えーっと、あのね、鳰。急に変なこと聞くけど」

「なんスかなんスかー?」

「兎角さんのことなんだけど、もしかしてここに来てたり」

「あー、東サンっスか?懐かしい名前っスねぇ~」

「……しないかなって」

「なんで?」

「その……たまたま、ここの近くを兎角さんが歩いてたのを見かけたことがあって……」

「いや~、ウチには判んねっスね~」

「そうなんだ、てっきり私」

「さてっと、じゃあウチは帰るっス、仕事あるんで~」

「あっ、うん!仕事あるのにごめんね、今度遊ぼうね、鳰!」

「それは楽しみっス!」

「……」

「ぐぁ~……なんスかあれは……天使っスか……」

「勝てる気しないっス……」




47 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:32:31.96 4NXgz1CXo 18/52


*同日 ミョウジョウ学園金星寮7号室 夕方



兎角「邪魔するぞ」

「ういっス~、いらっしゃい~」

兎角「……?」

「どうかしたっスか?」

兎角「なにかあったのか?なんとなく、匂いが」

「なんにもないっスよ?もー、またウチが臭いって話っスかー!?」

兎角「いや、走りに何もないなら別にいいんだ。悪かったな」

「……あ、いえ、ウチも、なんか、ごめんっス……」

兎角「ふふ、購買のカレーパンが半額だったから全部買ってきた」ドンッ

「そんなドヤ顔で言うことじゃないっしょ!」

兎角「走りも食べてみろ」

「はぁ、まぁ、いただきますっス」

兎角「おいしいだろ?」モグモグ

「いや、まだ食べてないっスから!」

兎角「」モグモグ

「」モグモグ

「まぁ、おいしいっスよ」

兎角「ほうはろう」モグモグ

「食べながら話さなくても。ホント好きっスねー、あはは」




49 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:40:57.63 4NXgz1CXo 19/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



「っあーーー、ひどい悪臭でしたね!ホント!」

兎角「ああ、見つかりにくいとはいえ、下水道はもう通りたくないな」

「ウチは今まで暗殺者って3K労働だと思ってたっスけど、臭いも入れて4Kっスね!」

兎角「走り、消臭スプレーないか?」

「あるっスよぉぉぉ、鳰ちゃんワゴンはあらゆる物が積んであるっスから!」

「はい、におちゃんだけに、におい消しっス!」

兎角「うるさい」プシュー

「強力なんで、腐った海の臭いもこれで安心っスから」

兎角「……」プシュー

「……」ジトー

兎角「……」プシュー

「……」ジトー

兎角「……わかったよ、あのときは悪かった」

「いやー、ほぼ初対面で、あの台詞はひどいっスね~」

兎角「黒組のときは一ノ瀬を守ることしか考えてなかったし」

「腐った海発言は守護者宣言の前っス!」

兎角「……」

「まあいいっス、同属嫌悪だったってことで」

「ウチは普通に負けちゃいましたしね、兎角さんに」

「けっこう自信あったんスけどねー、兎角さん格下相手に妙に苦戦してたときありましたしー」

兎角「うるさいな」

「あはははっ、腐った海呼ばわりのおかえしっス、これでチャラで」

兎角「!走り、ドブネズミが足元に」

「ひっ!?ちょ、ナイフ投げるのストップ、ストップっス!ここで殺したら血でウチの車が!」

兎角「あ……悪い」ヒュン

「ああああああ!!ウチのマットがあああああ!!」




50 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:47:06.20 4NXgz1CXo 20/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「悪いな、遅くに押しかけて」

「いやいや大丈夫っスよー、緊急避難させてほしい、ってなんかあったんスか?」

兎角「一ノ瀬の大学の友人たちが、家に来るから一緒に遊ぼうって言われて」

「うん?なんでそれで避難してくるんスか」

兎角「面倒だからだ」

「はあ」

兎角「前にも同じことがあったんだが、雰囲気悪くしてしまって」

「ああ~、その場面は容易に想像つくから説明しなくていいっス」

兎角「なにを話してるのかもわからなかった」

「あはっ、それでもまた誘ってくれるなんて、晴ちゃんマジ天使っスね」

兎角「……ああ」

「兎角さんにも普通の友人を、っていう思いやりだと思うっスよ」

兎角「……それでも、わたしには……」

「じゃあ、ウチは情報収集してるんで、自由にくつろいでください~」

兎角「ああ……すまない、走り」

「いえいえ~♪」ピッピッ

兎角「……」

「……」ピッピッ

兎角「なあ」

「なんスかー?」ピッピッ

兎角「普通の話って、何を話せばいいのか、わかるか?」

「んー、場に合わせて適切なリアクションをすればいいんじゃないっスかねぇ」ピッピッ

「なんか、こう、タイミングよく」

兎角「むずかしいな」

「ってウチは兎角さんとだけは本音でしか喋ったことないっスよぉぉぉぉ?」

兎角「ウソつけ」

「あっははー、ウソっスけど!」

「…………ウソっスけど」ボソリ

兎角「……?どうした?」

「なんでもないっスよ?それより兎角さんはほんと、コミュ障っスねぇ~」

兎角「こみゅしょう……?」

「ああ、いえ、ちょっと言い過ぎたっス」

兎角「そうなのか?すまないな、わからなくて」

「……ちょっ、なんかウチが最低な人間って空気になってるじゃないっスか!やめてくださいよ!」

兎角「すまない」

「うが~~~!!!」




51 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 21:54:45.51 4NXgz1CXo 21/52


*別の日 鳰のワゴン車 車内



「おつかれーっス」バタン

兎角「おつかれ」バタン

「いやー、今日の兎角さんは特に人間離れしてましたね!」

兎角「そうか?」

「いやいや、銃弾避けてたじゃないっスか!?」

兎角「ちょっと違うけど」

「あれはどうやってんスか?」

兎角「銃を撃たれる前に銃口の向きと角度と相手の動きから着弾点を割り出して、そこから身体をずらすだけだ」

「……うわー……ガンカタじゃねーっスか……言うのは簡単っスけどやらないっスよ~」

兎角「子供の頃からやらされてた」

「相手、完全にパニックでしたよ。あんなゴリラみたいな大男が」

兎角「そうだな」

「本当、近接戦闘では勝てる気しねーっスねぇ、兎角さんには」

兎角「わたしは2人までしか避けられないが祖母は4人まで避けられる」

「おばあさん勘弁してくださいよ!!」

兎角「……ターゲット、最期は呪ってやる、とかずいぶん吠えてたな」

「はは、あんなやりかたじゃ呪えねーっス~」

兎角「そうか」

「そうっス~、たまたま呪える場合もありますが、そんなんウチがすぐ解除しますし。それじゃ帰りますか」

兎角「そうだな」




53 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:03:35.01 4NXgz1CXo 22/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「あいてますよー」

兎角「……家出してきた」

「いらっしゃいーって、ウチらももう20歳過ぎてますし、家出とは言わないんじゃ……」

兎角「一ノ瀬ともずっと話し合ってたんだ。一旦別々に暮らそう、って」

兎角「価値観や話題のズレがどんどん大きくなっていて、一緒にいると、傷つけてしまいそうで」

「……そうっスか。まあ、晴ちゃんも来年には社会人になることですしね」

兎角「一ノ瀬にはひなたの匂いのする人生が待ってる。わたしみたいな人殺しが一緒にいるべきじゃない」

兎角「走り。頼みが」

「いいっスよー」

兎角「まだ言ってないぞ」

「? 泊まるんじゃないんスか?」

兎角「……あ、ああ、頼む。でも、なんでわかったんだ?」

「この話の流れで、他になにがあるんスか~、いいっスよ、好きなだけ泊まっても」

兎角「すまない、迷惑かけるな、走り」

「いいえ~」

兎角「……」

「……」ピッピッ

兎角「……鳰」

「えっ」

兎角「鳰って呼ぶ」

「な、ななな、何故!?」

兎角「だめなら今までどおりにするけど」

「ぜ、ぜぜぜぜぜ全然いいっスよ!?うれしいっス!いや違くて、どうしたんスか!?」

兎角「長い付き合いだしな」

「え、えええーーっとぉ、そういえば!悪い知らせなんスけどぉ、使ってないほうのベッドは全然掃除してないんで、めっちゃ汚れてるっス!」

兎角「別にそうは見えないけど」

「いやいやいやいや!!あと、ダニ!ダニだらけでもあるんス!だから、えとぉ、悪いんスけど、ウチのベッドで二人で寝るしか、その」

兎角「そうなのか、じゃあ悪いけど、ベッド半分使わせてもらう」

「いえいえいえいえ!!狭くて恐縮っス!!あー、掃除しとけばよかったっス~♪」




54 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:06:46.82 4NXgz1CXo 23/52


*同日 ミョウジョウ学園金星寮7号室 鳰のベッド



「」

兎角「……おやすみ」

「」

兎角「……なんで布団の中なのに、気をつけの姿勢で硬直してるんだ」

「し、してないっス」

兎角「目も見開いてる」

「う、ウチは目を開けたまま寝る派なのでこれが日常っスから!」

兎角「ウソつけ」

「」

兎角「……やっぱり、一緒に寝ないほうがいい」

「え」

兎角「おまえがわたしを嫌っててもしかたな」

「だーーーーーっ!!」

兎角「な、なんだ突然起き上がって」

「嫌ってなんかねーーーっス!逆っス!なんでそうなるっスか!?」

「そりゃあ最初は理事長の命令とはいえ、なんでウチを刺したやつと組まなきゃいけないんだって思ってましたけど!」

「わざとキツい仕事ふって嫌がらせしても完璧にこなしちゃいますし!」

「そのうち、一緒に仕事したり、一緒に話したりしてるうちに、その……!」

「いつも感謝してる、とか、パートナーだろ、とか、ポンコツのくせに嬉しいことばっかり言って!」

「でもそのくせ、黒組の頃からウチのことバカにして!意味わかんないっス!なんなんスか!」

「だいたい、初めて会ったときから……!!」

兎角「鳰」

「なんスか!?」

兎角「……逆なのか?」

「」


56 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:10:09.68 4NXgz1CXo 24/52


兎角「……?」

「あ、いや、その、それは」

兎角「……不愉快な気持ちにさせてたのは謝る。すまなかった」

「あ……」

兎角「多分、鳰に自分と近い部分を感じたんだと思う。初めて会ったときから」

「はい……」

兎角「……だからわたしは昔、おまえのことが大嫌いだった」

「っ、はい……」

兎角「一緒に仕事をはじめたころ、おまえがわたしに嫌がらせしてたことも薄々知ってる」

兎角「でも、ここ2年くらいは、おまえといるときが一番楽しいし、最近はひとりになると、おまえのことばかり考えてる」

兎角「なんでか、ずっと考えてたんだけど、答えはこれしか思いつかなかった」

兎角「今は、その、わたしは」

兎角「わたしは、おまえが、好きになってしまったみたいだ。大好きだ」

「……!!」

兎角「それだけ。だから、一緒に寝ないほうがいい。気持ち悪いだろ」

兎角「やっぱりわたしは隣りのベッドで」

「気持ち悪くないっス」


57 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:13:01.28 4NXgz1CXo 25/52


鳰がわたしの手を掴んでいた。

「いつのまにか、ウチも、兎角さんのこと好きになってました。だから、気持ち悪くないっス」

女同士で?とか、昔は敵同士だったのに?とか、そういえばわたしをバカにしたことを色々言ってたな、とか、そういう考えは頭をかすめたけど。

鳰がわたしを好きだと言ってくれたことが嬉しくてどうでもよくなってしまっていた。

そして鳰を抱きしめた瞬間にそれらの考えは完全に消えてしまった。

もっと触りたい。それだけしか考えられなかった。

鳰もわたしの体を抱きしめていて、抱き合えていることが嬉しかった。

向かい合って目と目が合って、しばらくして、鳰が目を閉じた。

わたしは吸い込まれるように、鳰の唇に唇をくっつけた。やり方がわからないので動きがぎこちなかった。

「兎角ー」

兎角「なんだ?」

「あは、やっと呼び捨てできたっス」

その日は鳰と手を繋いで眠った。



*翌日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「……ベッドが減ってる」

「え、えーと、なんかもー、汚れがあまりにひどかったんで、捨てるしかなかったっス」

兎角「そうなのか」

「だ、だから、申し訳ないんスけど、しばらくは昨日みたく い、一緒に、寝る、しか」ゴニョゴニョ

兎角「ああ、それは構わない」

「」ニィッ

兎角「その笑顔久しぶりだな」




59 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:19:38.08 4NXgz1CXo 26/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「鳰、頼みがある」

「なんスか?」

兎角「そろそろ自分の部屋を借りようと思ったんだけど、わたしの稼ぎでは無理だ、だから……」

「え、でも一人暮らしできるくらいには渡してますけど」

兎角「……一ノ瀬の生活費を払いながら一人暮らしするのは無理だ」

「まさか、兎角さん、今まで全額?」

兎角「ああ、わたしが無理矢理払ってた」

「そんでこれからも、っスか?」

兎角「……ああ」

「思いっきり働き蜂じゃないっスか」

兎角「……出世払いで貸してるだけだ。一ノ瀬が働き始めるまでだけ」

「へぇーーーー、晴ちゃんはいい子なんで本当にお金を返しにくると思いますけど、兎角さんそのとき受け取ります?」

兎角「…………」

「まあいいっス、それで頼みってなんスか?」

兎角「……ここに住ませてくれないか?」

「あ……」

兎角「頼む」

「あ、あはは、いいっスよ」

兎角「ちゃんと生活費は入れるから」

「はいっス……兎角さん」

兎角「ん?」

「一緒にいましょうよ。ウチら、ずっと」

兎角「いいのか?」

「あははは、仕事のときも集合したりピックアップしたりしなくてすみますし~」

「トレーニングもバリエーションが豊かになりますし、掃除とかも分担できますし~」

「えーと、あとは同じ腐った海の愉快な仲間同士ですし。それに……」

兎角「それに?」

「…………いえ、今まで言ったことはほとんど言い訳っス。あの……その……えっと」

兎角「うん」

「……本音は、ウチが勝手に兎角さんと一緒にいたいと思ってるだけ、っス」

兎角「……ありがとう、鳰」

「あ、あははは……なんかもー、調子狂うっスねぇ、どうも」




60 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:25:23.39 4NXgz1CXo 27/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「わたしの私物を全部持ってきた」

「なるほどー、それにしてもずいぶん少ないっスね、ボストンバッグに収まるとは」

兎角「衣類くらいしかないからな」

「使ってない引き出しあるんで、適当に使ってくださいー」

兎角「ああ、悪いな」ガサゴソ

「え、ええっ!?と、兎角さん、バッグから見えているその服はなんスか!?」

兎角「……?私服だけど?」

「ちょっと失礼……まさかとは思いますが、この龍の刺繍付きのスカジャンは?」

兎角「だから、わたしの私服だ」

「……………………なるほど」

兎角「変なやつだな」

「……仕事のときはこちらが支給した黒服を着ていたから発覚がここまで遅れたんスね……」

兎角「どうした、独り言か?」

「兎角さん……兎角さん……」

兎角「どうした?なんで2回呼んだ?」

「これらの服は、誰が買ったものっスか?」

兎角「わたしだけど」

「それでは、これらの服を選んだ基準を、教えてもらっていいっスか?」

兎角「服屋で適当に良さそうなものを選んだ。どうしたんだ、本当に」

「………………」

兎角「鳰?」

「……わかりました」




61 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:30:51.96 4NXgz1CXo 28/52


*後日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「ただいまっスー!」

兎角「おかえり」

「はいっ、兎角さん、プレゼントっス!」

兎角「どうした、急に」

「上下揃えて買ってあります!着てみてくださいっス!」

兎角「服、か?」

「兎角さんの印象に合わせたクールめ、かつカジュアルな服っス!一年通して着れるはずっス!」

兎角「ちょっと着てくる」





兎角「着てみた。似合うか?」

「似合います、似合います!それじゃあ、今度から兎角さんの服は全部ウチが選びますよ!!!」

兎角「いや、悪いだろ。服くらい自分で選ぶ」

「ウチのためだと思って!お願いします!」

兎角「じ、じゃあ、頼む。代金は払うから」

「うっしゃーーーー!!!」

兎角「……?一体どうしたんだ……?」

兎角「そういえば前に、ファッション興味ないって言ってなかったか?」

「そんな事言ってる場合じゃなくなったんスよ!」ガシッ

兎角「そ、そうなのか、肩、離してくれ」




62 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:36:07.91 4NXgz1CXo 29/52


*後日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「ただいま」ガチャ

「おかえりっスー」

兎角「この前服を選んでもらっただろ?そのお礼に、鳰の服を買ってきた」

「えっ、ホントっスか!?ありがとうございます!」

兎角「さっそく開けてみてくれ」

「はいっス!」ガサゴソ

「うわっ!!!……い、いえ、うわあ~~~お」

兎角「鳰、メロンパン好きだろ?」

「すごいっスね、ロンTの前面にメロンパンがでかでかと」

兎角「すごいだろ」

「……両肩にもそれぞれメロンパンがプリントしてあるっス……」

兎角「多いほうがいいと思って」

「あ、え、その、えーーーっと、う、嬉しいっス~!」

「兎角さんがウチのために服を選んでくれた気持ち、すごい嬉しいっス!」

兎角「ああ、どういたしまして」

「部屋着に使わせてもらうっス、えと、汚しちゃうとアレですし」

兎角「ああ」




63 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:41:27.52 4NXgz1CXo 30/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「兎角さん、今日と明日は仕事ないみたいっス」ピッ

兎角「そうか」

「それじゃ、えっと、どうしましょうか」

兎角「少し早いが一緒に寝よう」

「は、はい……っス、ストレートっスね、もう」

兎角「そうかな」

「あはは……あー」

兎角「どうかしたか?」

「いえ、兎角、ずいぶん丸くなったなぁと」

兎角「そうか?それに丸くなったのはおまえもだろ」

「兎角、一緒に組んだ当初の頃はひどかったっス」

兎角「おまえのほうがひどかった」

「いやいや、兎角のほうがひどいっスよー」



*コンビ結成直後 暗殺現場



「ちょっと兎角さーん、こんなに飛び散らせて、打ち合わせと違うじゃねーっスか!」

兎角「必要ない、そういうの」

「掃除の追加料金取られますし、なにより勝手に動かれるとこっちも危ないんスけどー?」

兎角「知らないな」

「」イラッ

「あーーーー、なんか痛いっス、具体的には誰かに刺された右胸の古傷が急に痛いっスーーー!」

兎角「黙れ」

「誰かに刺された膝裏の古傷も激しく痛いっスぅぅぅぅぅ!」

兎角「帰る」

「あー、一生後遺症に苦しむんスねー、誰かのせいでー!」

兎角「チッ」




64 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:46:25.05 4NXgz1CXo 31/52


*現在 ミョウジョウ学園金星寮7号室



「……お互い様っスね」

兎角「……すまなかったな」

「いえいえ、ウチのほうこそ」

兎角「傷が痛くなることって、あるか?」

「ないっス、ないっス」

兎角「イライラしすぎだったな、わたしは」

「ウチは子供でした、10代ですしね」

兎角「わたしも子供だった」

「今はどうなんスかねぇ、あまり変わってないような気が」

兎角「わからない」

わたしは鳰の手に自分の手を添えて、鳰の顔を覗き込む。

鳰は少し潤んだ瞳でわたしを見つめ返していた。

わたしは鳰にキスした。初めてキスしてから今まで鳰と何十回も繰り返した動作だった。もうぎこちない動きではなかった。

わたしは鳰に、もっと触りたくなった。

「ん……」

兎角「……鳰、傷、見せて」

「あ、あの、ウチ、体のタトゥー、見せたくないっていうか……」

兎角「見せて」

「で、出た~、兎角さんの見せてみろが……」

兎角「いいから」

「は、はいっス……」

「ど、どうっスか……?」

兎角「綺麗」

「ウソっス」

兎角「鳰の身体、綺麗だ」

「……ウチばっかり裸なの、不公平っス!兎角も」

兎角「そうだな、わたしも脱ぐよ」


67 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:48:39.83 4NXgz1CXo 32/52


「……うわぁお、すごい綺麗っス、スレンダー美人とはこのことっスね」

兎角「そんなことないから」

「そんなことあるっス」

兎角「それなら鳰の身体、すごく女らしくて綺麗だ」

「そ、そんなことないっス」

兎角「そんなことある」

「あははっ、なんスかこのやりとり」

兎角「……もっと鳰に、触りたい」

「……ぁ、ちょっと怖いっスね、こういう経験ないっていうか」

兎角「……わたしだってない」

「でも、いいっスよ。ウチも兎角に触りたいっス」

兎角「……胸、大きいな」

「あ、はいっス」

兎角「……なんか、イライラした」

「ええっ!」

兎角「冗談だ」

「冗談に聞こえなかったっス!」

兎角「……それにしても大きい」

「ええ、まあ、それはもういいじゃないっスか」


69 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:51:19.55 4NXgz1CXo 33/52


兎角「この傷痕……」

「あ、はい……」

兎角「すまなかったな」

「いいっスよ、昔の話ですから、んっ」

わたしが傷痕を指でなぞると、鳰が声をあげた。

鳰の反応がみたくて、傷痕を撫でたり、さすったりした。

「くすぐったいっスよ」

鳰が笑いながら言った。余裕のあるその表情がわたしは少し不満だった。

兎角「そうか」

わたしは鳰のあわてた顔が見たくて、傷痕に舌を這わせた。

「えっ、ちょっ!」

兎角「どうした?」

「な、舐めなくていいっスから」

兎角「なんで?」

「なんでじゃねーっス……ん、んぅ……」

鳰の今まで見たことのない気持ちよさそうな表情を見てなにも考えられなくなったわたしは、

鳰の頭を撫でたり、キスしたり、身体を触ったり、舐めたりした。

最初はぎこちなかったけど、少しずつ勝手がわかっていった。

鳰のほうからもわたしにキスしたり身体を触ったりしてくれた。

鳰と舌が絡み合うたびに漏れる鳰の吐息が心地よかった。

わたしと鳰は長い時間、お互いが気持ち良くなるように愛撫しあった。

部屋にはわたしと鳰の荒い呼吸が響いていた。




70 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/05 22:56:59.59 4NXgz1CXo 34/52


*



「……」

兎角「……」

「し、しちゃいましたねぇ」

兎角「そうだな」

「あはは、なんでしょうこの湧き上がる感覚は……あったかいっス」

兎角「わたしもだ。こんな気持ちはじめてだ」

「こういう趣味はないと思ってたんスけど」

兎角「それはわたしだってそうだ」

「あはははー……これからも、よろしくっス、兎角」

兎角「ああ、こちらこそ、鳰」

鳰の髪を撫でて、身体をくっつけて眠った。鳰のことが可愛くて仕方なかった。

*
*
*

それから、普段は鳰の部屋で2人でぼんやりとしたり、キスしたり、それぞれの仕事道具を手入れしたり。

トレーニングをしたり、またキスしたり、一緒にテレビを眺めながらくだらない話をしたりしていた。

ミョウジョウの学園祭を2人で回ったり、黒組のときみたいにプール施設を貸し切って遊んだりもした。

会話がない時間のほうが圧倒的に多かったが、不思議と気まずさはなかった。

暗殺の仕事が入ると、車の中でやっぱりくだらない話をしながら2人でこなし、

帰ると鳰と一緒にシャワーを浴びた後、抱き合って眠った。

……たまに、お互いを気持ち良くしたりもした。



わたしと鳰はしばらく、そういう風に暮らしていた。

鳰と一緒に仕事をするようになって7年になろうとしていた。




81 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 20:53:59.89 KoIAwSE9o 35/52


*別の日 暗殺現場



兎角「はぁ……はぁ……なんだったんだ……こいつは……」

「ボロボロの腕を見るに、クスリっスね。それで感覚麻痺してたんでしょうね、ちょっと人間離れしすぎでした」

兎角「気持ち悪い……くそっ」

「殺すことが大好きなので殺し屋になったみたいっス。趣味と実益を兼ねて」

兎角「ふん」

「最初はうまくいってたみたいなんスけど、そのうち身内も手当たりしだいに殺し始めた、と」

兎角「なるほど」

「この部屋見ればわかりますが、本気でイカレてたみたいなんで。むしろウチらは正義っスよ、害虫駆除と同じ」

兎角「わたしたちも同業、だけどな」

「まあ、そうっスけど、こいつみたいにアレを……」

兎角「鳰、ここは空気が悪い。帰ろう」

「はいっス」



*鳰のワゴン車 車内



「おつかれっス」バタン

兎角「おつかれ」バタン

「……」

兎角「……」

「今までのターゲットで一番壊れてた人ランキング、トップ獲得っスね、さっきの」

兎角「ああ」

「まあ、さすがに気が滅入りますよねー、ああいうのと同業とか」

兎角「……ああ」

「……」

兎角「どちらかと言えばさっきのアレは快楽殺人者なんだろうけど」

「ええ」

兎角「……でもわたしたちも大差ないんだろうな、一般人から見たら」

「そうっスねぇ、お金もらって人を殺してることに変わりはないっスね」

兎角「……」

「今まで考えないようにしてましたけど、嫌な仕事ですよね……」

兎角「ああ……」




82 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 20:59:18.19 KoIAwSE9o 36/52


*同日 ミョウジョウ学園金星寮7号室 深夜



「もしものお話なんスけど」

兎角「なんだ?」

「暗殺者を、もしもっスよ?辞めたとしたら何の仕事します?」

兎角「辞められないだろ」

「辞めたら、っス」

兎角「……なんでもするさ。真っ当なことを」

「暗殺以外のこと、できます?」

兎角「昔はできるわけないって思ってたけど、今は……」

「今は?」

兎角「鳰が一緒だから、なんでも出来そうな気がする」

「!!っったく、なんスか!タラシですか!」

兎角「……鳰は、どうしたい?」

「……ウチは理事長に拾ってもらった恩があります」

兎角「……」

「すごく感謝してるし、尊敬してます。母親がいたらこんななのか、なんて勝手に思ってます」

「ウチは生まれてからずっと最悪でしたから、そこから助けてくれた理事長に一生尽くしていこうと本気で思ってました」

「でも20歳になったときに理事長に言われました。ずっと手を引かれて歩いていたい?って」

兎角「……」

「すごいショックで、ウチのこと、もういらないんですかって聞いちゃったんスけど」

「鳰さんのことはとても大事だけど、そろそろ自分の人生を考えてごらんなさい、と」

兎角「……すごい人だな」

「すごい人なんスよ。理事長は」

「ウチは、あの人のためもあるんスけど、自分の生きたいように生きようと思ってます」

「こどもは親に、ひとりでも元気にやれますってことをみせなきゃいけないっスよね」

兎角「……そうだな」


83 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:03:07.74 KoIAwSE9o 37/52


「……まあそうは言っても、それから2年くらいきっかけつかめなくてダラダラしちゃってたんスけど」

「兎角」

兎角「……なんだ?」

「辞めましょうか、この仕事」

兎角「辞められないだろ」

「それでも、っス。兎角がどうしたいか、正直な気持ち聞かせてもらえますか?」

兎角「……辞めたいさ、辞めておまえと平和に暮らしたい」

「わかりました。方法はウチが考えます。だから、兎角、決めてくださいっス」

兎角「なにをだ……?」

「気持ちっス」

「やりかたは、全部ウチが考えます。でも、兎角の気持ちだけはウチは決められません」

兎角「………………わかった」

「明日以降に、答え聞かせてほしいっス。ゆっくり考えてください」

兎角「ああ、わかった」



*次の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



兎角「決めた」

兎角「辞めよう、鳰」

「……少なくとも、このあたりには二度と帰ってこられないっスよ」

兎角「わかってる」

「知り合いとも、連絡とれなくなります」

兎角「わかってる」

兎角「鳰、こんな仕事辞めて、一緒に暮らそう」

「はい……はいっス!」

「そうと決まれば!」

「さっそくプランを考えますよぉぉぉぉ!」ピッピッ

兎角「わたしも手伝うよ」

「兎角さんみたいな脳筋にはムリっス!」ピッピッピッ

兎角「脳筋……」

「まあまあ、いつもどおり考えるのはウチに任せてください!」

兎角「手伝えることあったらいつでも言ってくれ」

「はいっス!」




84 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:08:30.99 KoIAwSE9o 38/52


*別の日 ミョウジョウ学園 駐車場



「えっほ、えっほ」

兎角「重いしデカいな……なにが入ってるんだ……」

「さあ~、絶対開けるなってことっスからねぇ、考えないほうが。あ、兎角さん、今ドア開けますんで」ピピッ

兎角「わたしが中に入るからそのまま押してくれ」

「はいっス~」

兎角「よし、ストップ。オッケーだ」

「はい、ありがとうっス」

兎角「金庫か?これ」

「わかんねっス~、ただ車に積んどけってだけで」

兎角「そうか、まあいいけど」

「君子危うきに近寄らずっスね!」

「席行きましょう、飲み物ありますよ」

兎角「ああ」

「はい、スポーツドリンクっス」

兎角「ありがとう」ゴクゴク

「ぷはぁ~~、重労働のあとのドリンクはうめーっスぅぅぅ!」

兎角「ふぅ、そうだな」

兎角「……昨日の仕事は久しぶりに難しかったな」

「そうっスね~、元暗殺者の始末でしたからね」

兎角「……なんで消されることになったんだ?ターゲットは」

「……勝手に辞めたみたいっスね。もうこんな仕事したくない、って」

兎角「そう、か……」

「なーに暗い顔しちゃってんスか~!ウチらとは全然関係ないっしょ!!」

兎角「そう、だな」

「大丈夫。うまくやりますよ、ウチらは」ボソ

兎角「ああ、そうだな」

「はい、部屋戻りましょう」




85 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:14:29.42 KoIAwSE9o 39/52


*別の日 ミョウジョウ学園金星寮7号室



暗殺者を辞めると決めてから3ヶ月ほどが経っていた。

その日は暗殺の仕事もなく、わたしたちは鳰の部屋のソファに腰掛けてすごしていた。

「……」

兎角「どうした?さっきから時計ばかり見てるな」

「兎角」

兎角「……どうした?」

いつも鳰がわたしを呼び捨てにするときはキスしたり抱き合ってるときだけだったので、わたしは少し驚いた。

「全部、ウチが呪術で操ったことだって言ったらどうします?」

兎角「……は?」

「兎角がウチに好意をもつように、ウチが葛葉の術を使ったら、って考えたことないっスか?」

兎角「ないな」

「そういう術、実際ありますよ?」

兎角「使ったのか?それ」

「使ってないっスけど」

兎角「じゃあ問題ないだろ。わたしはわたしの鳰への気持ちを信じるだけだ」

「あ、あはは、ホント、兎角は脳筋っスねぇ」

兎角「脳筋……」

「信じてくれて、ありがとうっス」

兎角「礼を言われることじゃない」

「できればこれからもウチのこと、信じてほしいっス」

兎角「当たり前だろ」

わたしは鳰の手を握った。鳰も同じくらいの強さでわたしの手を握り返していた。

……キスしたいな。

わたしは鳰の顔を覗き込んで少し顔を近づけてみた。

よし、抵抗してる雰囲気はない。

そのまま、わたしは鳰の柔らかい、数え切れないくらいキスしあった唇に、

そっと、くちづけを

しようとしたときに、

轟音がして、部屋のドアが、吹き飛んでいた。




86 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:21:04.44 KoIAwSE9o 40/52


??「おお、きれいに吹き飛んだのぅ」

??「よっ、ひさしぶり……っと、取り込み中かい?」

咄嗟にわたしと鳰はテーブルを倒してその陰に滑り込んだ。相手はどうやら、2人だ。

兎角「……おまえたち」

??「覚えてないか?黒組のときは世話になったな」

兎角「寒河江……!首藤!」

春紀「7年ぶり、か?兎角サン」

「ひさしぶりじゃのぅ」

テーブルの陰からわたしは状況を確認する。

寒河江は昔と同じ手甲。首藤はハンドガンを構えている。対するわたしはナイフ3本だけ、鳰は丸腰のはずだ。

やつらは何故、わざわざドアを爆弾で吹き飛ばした?不意を突くでもなく、ただ姿を見せた?

寒河江はともかく首藤は爆弾使いだったはずだ。姿を見せる必要がない。

なんらかの罠なのか?無意味に見えることや不確定要素が多すぎる。

……それにしても、何故こいつらが、ここに?

春紀「悪いな。兎角サン、走り。あんたら目障りなんだってさ。腕が立ちすぎるのも考え物だよな」

兎角「……そういうことか」

春紀「兎角サン、今はきっとあたしのほうが強いぜ、試してみるか?」

兎角「……!」

「……首藤さん、全く変わらないっスねぇ」

「それはおぬしらも、じゃろ」

「そーっスかねぇ!」

いつのまにか鳰が閃光弾を持っていた。テーブルの上に置いてあったものだろう。

鳰が右手で閃光弾を投げる合図のサインを作った。わたしは瞼を閉じ、腕を目に押し付ける。

春紀「!!」

目を開けると寒河江と首藤に光が直撃し、動きが止まっていた。わたしと鳰はテーブルを蹴り飛ばして飛び出す。

テーブルは視界を閉ざされた寒河江たちの足元を直撃した。ほんの少しだけ時間が稼げるだろう。

同時にわたしは首藤にナイフを投げ、ハンドガンを床に叩き落とす。

2人をかわし、鳰が一直線に部屋の入り口まで走りながら叫んだ。

「兎角さん、逃げるっスよ!」

兎角「くっ……だが2対2なら!」

「いえ!首藤さんがいるってことは、その相方がいるはずなんですよ!」

鳰が言い終わらないうちに、銃声が響いた。


87 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:28:26.84 KoIAwSE9o 41/52


兎角「鳰!!!!」

一瞬、頭が真っ白になる。

「あ、あぶねーっス……」

鳰はその場に物凄い速さでしゃがんでいた。怪我はないようだ。心底ホッとした。

??「外したか……」

ドアのあった場所のすぐ近くにそいつはいた。廊下に飛び出してきた者を撃つ作戦だったのだろう。

兎角「……神長ぁ!」

鳰の腕を掴んで起こし、わたしはそのまま神長との距離を詰める。

すぐに寒河江と首藤が追ってくるはずだ。挟み撃ちにされてしまう。時間をかけられない。

わたしは神長の足を払い、投げ飛ばした。

香子「東!おまえに借りを……くっ!?」

「こーこちゃん!?」

「ウチの車!車に逃げましょう!一旦撤退して、それからっス!」

兎角「ああ!!」

廊下を全速力で走り、エレベーターに向かう。

「エレベーターはダメっス!」

わたしの後ろで鳰が叫んだ。

「神長さんたちがいるってことは、既に爆弾が仕掛けてあるはずっス!兎角さん、非常階段!そのまままっすぐ、廊下の奥っス!!」

兎角「くっ、ああ!!」

叫んだ瞬間、後頭部がなにかチリチリしたような気がして、わたしは大きく横に跳んだ。

今までわたしの頭があった場所を、銀色に光るものがかすめていった。

後ろを振り返ると、寒河江が首をかしげているのが見えた。寒河江がワイヤーを飛ばしたのか。

「なっ!は、春紀さん、進化してますねぇ」


88 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:34:29.43 KoIAwSE9o 42/52


その間も、銃声が絶え間なく聞こえていた。床や壁に弾が当たる。

恐らく神長と首藤だろう。狙い撃つより数撃ってどこかに当てる、という撃ち方だ。

なんにしても遮蔽物のない一本道を走っているときに背後から銃で撃たれているのは生きた心地がしない。

非常階段はエレベーターの先だ。全速力で走り、扉にナイフを投げてぶつけた。

ナイフが命中し地面に落ちた。衝撃を感知して爆発するタイプのものは仕掛けられてないようだ。

申し訳程度の爆弾対策だが、今出来ることはこれくらいだ。

祈りながら非常階段のドアを蹴り開ける。爆発はしなかった。

そのまま鳰と回り階段を落ちるような早さで駆け降りる。

非常階段には爆弾を仕掛けなかったのか?嫌な匂いもしない。これなら逃げ切れるかもしれない。

1階までたどり着き、扉を開ける。急がなければ。

あとは鳰の車が停めてある、駐車場まで走るだけだ。

寒河江たちが非常階段を駆け降りている音が聞こえた。

エレベーターを使わないということは、やはり爆弾が仕掛けてあったんだろう。

走る。走る。この差なら逃げ切れる。鳰と、わたしと、並んで鳰の車まで走った。

車まであと少し。ようやく寒河江たちが寮から飛び出してきた。わたしたちとは30mは離れている。

逃げ切った。




――順調すぎる。

――爆弾使いが2人いて、準備する時間も十分にあったのに、仕掛けたのはエレベーターだけか?

――なんでわたしたちは無傷でここまでこれたんだ?もしかして、誘い込まれたんじゃないか?

嫌な考えが頭をよぎり、同時に嫌な匂いがした。

鳰の車までいくらも距離がない。嫌な匂いはますます強くなっていた。あの車は危険だ。

わたしは鳰の車から少し離れようとした。寒河江たちとこれだけ距離が離れているのだから、

このまま走って敷地の外へ出たほうがいい、と鳰に言おうとしたとき。

「兎角!!!!」

鳰が大声をあげた。鳰がこんな大声をだすのをわたしははじめて見た。

走りながら鳰の車を指差し、わたしを見ていた。すがるような、やはりはじめて見る目つきだった。

ついてきてほしい、という意味なのだと直感した。わたしは迷わず、嫌な匂いを生まれて初めて無視した。

わたしは鳰の車のドアを開ける。そして。

「兎角!これ!!」

車が爆発した。




89 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:38:18.93 KoIAwSE9o 43/52


*ミョウジョウ学園 駐車場



春紀「完了しました。ターゲット2人とも、爆死……はい、はい、了解です。それでは」ピッ

春紀「ふぅ~、おつかれ」

「おつかれさま、うまくいったの」

香子「おつかれ」

春紀「いや、爆発のタイミングちょっと早くね?……神長」

香子「……ああ、10秒ほど早かったかもしれない」

「まあまあ、この前は1分遅れだったのだから大したものじゃよ、こーこちゃん」ポンポン

香子「ふふ」ドヤァ

春紀「そこは甘やかしちゃダメなところなんじゃないか……間に合ったかな、あいつら」




90 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:44:05.86 KoIAwSE9o 44/52


*後日



「いやー、やっと着きましたねー!」

兎角「……」

「もー、機嫌なおしてくださいよー、兎角さんに計画言っても、絶対演技とか出来ないじゃないっスか~」

兎角「まったく……」

「でも、信じてくれて嬉しかったっス」

兎角「……当たり前だろ」

わたしと鳰はとある空港のロビーにいた。

鳰は飛行機のなかで、あの襲撃事件に至るまでの経緯をわたしに説明した。




ずっと前から、ミョウジョウグループのなかでアズマと葛葉であるわたしたちペアの力を危険視する人間はいたこと。

今までは理事長がわたしたちの……主に鳰の安全性を保証し、かばっていてくれていたこと。

だが、わたしたちは長い年月活躍しすぎ、さらに報酬を何かに使うわけでもなかったため、はたから見れば不気味でしかなかったこと。

そしてついに、わたしと鳰を危険視する人間が多くなりすぎ、理事長1人ではわたしたちをかばえなくなったこと。

ミョウジョウグループ直々に、わたしたちの次に活躍している寒河江たちに暗殺依頼がいったこと。

だが、ここまでのことを日頃の情報収集から、すべて鳰は予測していたらしい。

そこで鳰は先回りして寒河江たちと接触し、事前に細かく打ち合わせをし、狂言の爆殺事件を計画した。

寮内はカメラ撮影されているため、襲撃の緊迫感を出すためと寒河江の本気のわたしと戦いたいという要望でわたしには教えないことにしたそうだ。

そして車に仕掛けられた爆弾でわたしと鳰は爆死した、ということになっていた。

実際は事前に車のなかに用意しておいた特製の耐爆庫に二人で入って爆発をなんとかやりすごし、

すぐに耐爆庫を寒河江に回収してもらい、空港まで送り届けてもらった。

わたしが鳰を信じないで敷地の外に飛び出していれば、別の暗殺者たちが待ち構えていたらしい。

駐車場もカメラで撮影されていたため、わたしたちが死んだという物証にもなった。

最初から寒河江たちはわたしと鳰を逃がすよう動いていた。

……もっとも、相当な金額を要求されたようだが。


91 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:48:07.53 KoIAwSE9o 45/52


「それにしても~!絶対神長さんっスよ、車の爆弾組んだの!予定より30秒も早く爆発して!」

「ギリッギリっス、耐爆庫に入った瞬間ドカンでしたから!あのポンコツメガネ……」

兎角「まあ、それはもういいんじゃないか」

「映画みたいなタイミングでしたね~ホント」

わたしと鳰はもう暗殺者じゃない。

これからは首藤の手配してくれた偽の戸籍で生きていく。

わたしと、鳰で。

「……どうやら見逃してくれたみたいっス、理事長は」

兎角「見逃す……?」

「いやいやー、死体を確認してないのに暗殺完了、はないっしょー、しかもウチらは、アズマと葛葉っスよ?」

「……これだけやりましたんでウチらをどうか見逃してください、っていうことっスよ、あの狂言は」

兎角「そう、だったのか」

「理事長がどこかの誰かの死体を使って、ウチらの死体を偽装してくれたんだと思います」

兎角「そう、だったのか……」

「そうでなきゃ今頃、春紀さんたちと一緒に殺られてるっスよ」

「もう一生呪術は使わないし暗殺もしません、って誓約書も事前に渡してました。ウチのタブレットと貯金と一緒に」

「最後に会ったとき理事長、笑ってました、ウチのこと、娘みたいに思ってる、って、言ってくれて」

震えている鳰の肩に手を乗せながら、わたしは飛行機に乗る前、空港で寒河江と話したことを思い出した。




92 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 21:53:41.77 KoIAwSE9o 46/52


*
*
*



春紀「そんじゃな。まあ、兎角サン、鳰には感謝しときなよ」

兎角「してるけど、なんでだ」

春紀「兎角サンがせめて一般人を殺さなくてすむように、ドブ掃除……難度の割に報酬の安すぎる、犯罪者殺しだけを請け負ってたんだってさ」

「ちょっ、いいっス、言わなくていいっスから」

春紀「でも、最初は兎角サンへの嫌がらせだったんだっけ?」

「春紀さ~ん!!もう勘弁してほしいっス!」

春紀「あたしは鳰のこと嫌いだけど、そういうところは嫌いじゃないしさ、だから手伝ったんだ」

「その割にはワイヤーとか銃とか、当たってもおかしくない感じだったんスけどー」

春紀「はは、やっぱりみんな黒組で兎角サンにやられてる面子だったから、つい本気出しちゃってさ」

「ついじゃねーっスよ!?」

春紀「……正直、この先のあんたら、苦労すると思うけどな」

兎角「……」

春紀「足を洗って平和に暮らすなんて、よく聞く言葉だけど、叶えたやついないよ」

「ウチらが元祖になりますよ!」

春紀「それに、殺しすぎたんじゃないか?100や200じゃきかないだろ、数」

兎角「……ああ、全部わかってるつもりだ」

春紀「ははっ、のこのこ暗殺者に出戻りのあたしが言えたことじゃなかったな。ごめんごめん」

春紀「ところで兎角サン、今度は本気で戦おうぜ。昔のようにはいかないからな」

「ノリがもはやストリートファイターっスね……」

兎角「ああ、いつでも相手になる」

「うわッ、アッサリ了承するし!あははは」

兎角「鳰も久しぶりに模擬戦でもするか?」

「いやー、そうしたいのはやまやまなんスが、膝に矢を受けてしまって…」

兎角「ウソつけ」

「あはっ、ウソっスけど♪」

春紀「……」

兎角「どうした、寒河江」

春紀「いや、あんたらそんなふうに笑えるんだな、びっくりした。特に兎角サンが微笑むとは」

兎角「知らないな」

春紀「ははは、いや、あんたらのこと、正直半信半疑だったんだけどさ。今のでわかったよ」


93 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 22:01:15.19 KoIAwSE9o 47/52


「神長さんと首藤さんにもよろしく伝えといてくださいっス、特に神長さんに!」

春紀「ああ……あいつは組織抜けたあたりまでは凄かったんだけど、首藤と組んでからすっかり甘やかされてるみたいでさ」

春紀「骨抜きなんだ。ん、悪い、電話だ」ブブブ

春紀「はい、ああ、うん、もう終わったよ、あとは事後処理して帰るだけ、うん、うん、なるべく早く帰るよ」

春紀「え?えー、その……今日はちょっと間が悪いというか、わか、わかったよ、言う、言うから、愛してるよ、じゃな」ピッ

「」ニヤニヤ

春紀「……何も聞くな」

「伊介さんっスねぇぇぇぇ?」ズイッ

春紀「聞くなって言ってんだろ!?あと顔近けーよ!」

「バトルなら伊介さんとすればいいじゃないっスか」

春紀「するわけねーだろ、恵介さんに殺されるだろうが」




??「兎角さん!!!」

兎角「!?」

春紀「ははっ、やっときたか」

兎角「寒河江……!」

「はあ、はあ、春紀さんに全部聞いたよ!鳰と遠くへ引っ越すんでしょ!?」

兎角「……一ノ瀬、わたしは……」

「兎角さん、晴はずっと前から知ってたよ、兎角さんの本当の仕事。靴の裏によく血の痕がついてたから」

兎角「っ……」

「今まで本当にありがとう。兎角さんがいてくれたから今、晴は笑っていられるんだよ」

兎角「一ノ瀬……」

「でももう大丈夫、晴は大人で、ちゃんと働いてお金も稼げるようになったから」

「今まで守ってくれてありがとう、兎角さん」

兎角「ああ……ありがとう、一ノ瀬」

「鳰、ちゃんと兎角さんに野菜食べさせてね。放っておくと本当にカレーしか食べないんだから」

「大丈夫っス!責任もってウチが食べさせますよ!野菜カレーにしますし!」

「ダメダメ、野菜だけよけちゃうから。ミキサーにかけて混ぜないと」

「えっ、そうなんスか、じゃあそうするっス」

春紀「あはは、兎角サンうちの一番下の弟みたいだな」

兎角「く……」




94 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 22:06:58.65 KoIAwSE9o 48/52


*
*
*



「あはっ、せっまいところですが、住むところは用意してあるんで、あとは仕事っスね」

兎角「求人で調べてある。一つ目のは明日面接受けられるそうだ」

ふたりで一緒に暮らすために必要なことなら、なんでも出来る自信がある。

……わたしが明日面接を受けるのはただのスーパーのアルバイトだけど。

「ウチは兎角さんの服を選んでるうちにそういうの楽しくなってきたんで、アパレルの仕事を始めようと思うっス」

兎角「そうなのか」

「実はもう、採用されてるっス、人手がとにかく足りないそうで」

兎角「そうなのか、おめでとう。わたしも頑張らないとな」

「いえいえ~♪」

鳰がおどけてステップを踏んだ。わたしが鳰の手を取ると、鳰はうれしそうに微笑んだ。

そのままわたしは鳰の手を握る。鳰はわたしの顔を見ながら、同じくらいの強さで握り返した。

「にひ、これからも昔から変わらない者同士、よろしくっス!」

兎角「ああ、そうだな」

わたしたちはお互いに嘘をついた。

鳰は自分からは絶対言わないだろうけど、わたしに隠れてファッションの勉強をしていたことをわたしは知っていた。

最初はわたしの服を選ぶためだと思っていたが、それだけではなくこの状況を見越していたんだろう。

黒組の頃の鳰は、絶対そんなことしなかっただろう。

わたしも鳰には絶対言わないけど、暗殺者を辞めると決めた後、何回かコンビニでアルバイトをしていた。

少しでも普通の仕事をやってみよう、と思ったからだ。

思っていたより仕事は大変だったけど、出来なくはないと思った。

黒組の頃のわたしには絶対出来なかったことだ。

多分、鳰はわたしがアルバイトしていたこともお見通しで、わたしと同じように知ってて黙っているんだろう。

でも、お互いこっそり努力しているのに、昔からなにも変わらないなと2人で笑いあうのもいいかもしれないと思った。




95 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 22:13:17.13 KoIAwSE9o 49/52


兎角「そういえば、大分かかったんじゃないか?寒河江たちへの報酬が」

「春紀さん達への報酬とか、ミョウジョウへのお詫び金とか諸々込みで二億円でした。一括で払ったんで、今後の支払いとか、そういう心配はないっス」

兎角「よく払えたな」

「貯金がちょうど二億円だったんで、鳰ちゃんだけに!」

兎角「は、はあ!?なんでそんなに持ってたんだ!?」

「え?前に、今までの暗殺報酬からピンハネされてるって言ったじゃないっスか」

兎角「おまえが抜いてたのか!いつからだ!」

「やぁだぁ、怖いっス~♪」

逃げようとした鳰の手を繋いで握った。鳰も同じくらいの強さで握り返していた。

鳰が笑う。わたしもつられて笑った。夕陽が冗談みたいな赤さであたりを染めていた。



わたしたちの未来は、決して明るくない。

一ノ瀬と理事長が赦してくれたからようやくわたしたちはここに立っているけど。

アズマや葛葉やミョウジョウグループから追っ手が来るかもしれない。

今まで殺してきた連中の関係者が復讐に来るかもしれない。

普通の仕事や生活がわたしたちには出来ないかもしれない。

そもそも人殺しのわたしたちが幸せになるなんて赦されないのかもしれない。

それでも。

兎角「大好きだ、鳰」

「ウチもっス、兎角」

わたしは、照れて逃げるフリをする鳰を抱き寄せて、その赤くなった顔にキスをして。

「それじゃ、行きましょうか」

兎角「ああ、そうだな」

それから、わたしたちは、手を繋いだまま歩きはじめた。

鳰と一緒に仕事をするようになってから、ちょうど8年になろうとしていた。






おしまい




99 : ◆CRgbhGx9gA - 2014/07/06 22:22:30.52 KoIAwSE9o 50/52


今まで読んでくれた方、書き込んでくれた方本当にありがとうございました。



兎鳰増えろー


101 : VIPに... - 2014/07/06 22:24:15.75 cnQYtaLz0 51/52

乙。珍しい兎鳰とても楽しませてもらいました

107 : VIPに... - 2014/07/07 01:08:33.57 rCnFfG06O 52/52

兎晴の展開もなんだか十分にあり得そうな未来で、胸が痛かったっスけど違和感なく兎鳰に移入できたのもよかったっス


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