広「でも、実際に隣町の小学生が見たって……」
ぬ~べ~「どうせ、背の大きい女の人を見て勘違いでもしたんだろ?
第一、その噂が本当ならなんでその小学生は生きてるんだよ」
郷子「あ……それもそうよね」
広「ちぇー、俺達で捕まえて退治してやろうと思ったのになー」
美樹「あーあ、つまんないの」
ぬ~べ~「全くお前達は……ほら、もう下校時間だ。早く帰りなさい」
全員「はーい」
ぬ~べ~「……」
元スレ
ぬ~べ~「八尺様なんて単なる噂だ。ほら、帰った帰った」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1345006672/
ぬ~べ~「ほら、もう出てきていいぞ」
八尺様「すみません……」ぽぽぽ
ぬ~べ~「変な噂が立っているみたいだな」
八尺様「先祖が生贄などを求めていましたから仕方ないです……」ぽぽぽ
ぬ~べ~「君はしていないんだろう?なら謝ることじゃない」
八尺様「そういっていただけると……ありがとうございます」ぽぽぽ
ぬ~べ~「で、さっきの話しに出てた隣街の子に心当たりは?」
八尺様「私可愛い男の子とか好きで……」ぽぽぽ
ぬ~べ~「……ほどほどにな」
「あーあ、結局ただの噂かー」
郷子「まあ居ないのならそれでいいじゃない」
美樹「あらぁん?郷子もしかして怖かったのぉ?」
郷子「な……そんなわけないじゃない!」
美樹「どーかしらねー」ケラケラ
ナニヲー ヤメロッテ ワイワイワヤワヤ
まこと「……」
克也「ん?どうしたまこと、元気ないな」
まこと「! そ、そんなことないのだ!ちょっと怖かっただけなのだ!」
広「まことは怖がりだからなぁ」
美樹「怖がりさんが多いからねー」
郷子「だから私は……!」
まこと「ははは、はは……じゃ、じゃあぼくはここで分かれるのだ!また明日なのだ!」
克也「おお、気をつけて帰れよ」
郷子「またねー」
美樹「転ばないでよねー」
まこと「……」
ポ……ポポポ……ポポ……
ぬ~べ~「それじゃあ君の一族はつい最近まで封印に近い形で閉じ込められていたのか」
八尺様「はい……一族といってももう私ぐらいしかいないでしょうけど」ぽぽぽ
ぬ~べ~「……なにかあったのか?」
八尺様「私達一族はもともと、その土地の守り神に近い位置にいました」ぽぽぽ
八尺様「ですが、古い先祖が何人か違う土地に行って生贄を求めたそうです」ぽぽぽ
八尺様「そんなことをしたから結界を張られるにいたったわけですが……」ぽぽぽ
八尺様「違う土地に行った先祖達は、すぐに亡くなってしまったそうなんです」ぽぽぽ
ぬ~べ~「……土地から離れられない、ということか」
八尺様「皮肉なものです。その土地の守り神を気取っていながら、その実その土地に守られていたなんて」ぽぽぽ
ぬ~べ~「しかし君は現に……」
八尺様「……あなたに、鵺野先生にお願いがあって訪ねてきました」ぽぽぽ
まこと「!」
ポポポ……ポポ……ポポポポ……
まこと「また……なのだ……」
ポポ……ポ……
まこと「怖くないのだ……なにもいないのだ……ただの……」
八尺様「姉を、正気を失った化け物を、倒してください」ぽぽぽ
まこと「ただの、噂なのだ……!」
ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ
ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ
克也「うーん……」
広「どうした克也、便秘か?」
克也「いや、まことのことなんだけど……」
郷子「まことがどうかしたの?」
克也「あいつ、自分から『怖かった』なんて言うか?」
美樹「そういえば変ね。いつもなら無駄に強がるのに」
広「言われてみれば……何かあったのかな?」
克也「なにかあるなら話して欲しいんだよな……」
美樹「んま、友達思い」
郷子「茶化さない。じゃあ本人に聞いてみましょうよ。力になれるかもしれないし」
広「だな。じゃあまことの家に……なんだありゃ?」
克也「走る……電柱?」
郷子「! アレまことじゃない!?」
広「なんだって!?」
ぬ~べ~「姉を倒して、か」
ぬ~べ~(どんな気持ちだっただろうな……)
ぬ~べ~「しかし持たせた護符もないよりまし程度の物だ」
ぬ~べ~「出来れば早めに、彼女が隠れている今のうちに正気に戻せるのなら……」
Prr Prr
ぬ~べ~「電話か……ん?公衆電話?」
ぬ~べ~「はい、こちら……」
郷子『ぬ~べ~!?大変なの!まことが走る電柱みたいな影に!!』
ぬ~べ~「走る電柱?一体何を……まさか!」
ぬ~べ~「郷子、そいつはどこに向かったか解るか!」
郷子『多分廃工場の方だと思う……今広達が追ってるわ!』
ぬ~べ~「なに!くそっ俺もすぐに向かう!絶対に手を出すなよ!」ガチャンッ
廃工場
広「たしかにここへ入ったはずなんだけど……」
克也「暗くてよく見えねぇな……」
美樹「あ!あそこ!」
まこと「」
広「まことー!!」
ポ……
克也「くそ、瓦礫が邪魔だな……待ってろ、すぐそっちに行くからな!」
ポ……ポ……
美樹「……ねぇ、なんか変じゃない?」
ポポ……ポ……
広「変?変って何がだよ」
ポポポ……ポポ……
克也「あれ、なにか聞こえ……」
ポポポ……ポポ……ポポポポ
美樹「この工場、なんでこんなに暗いの……?」
ポポ……ポ……
克也「う……上だぁ!!」
ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ
美樹「ダイダラボッチ……ちがう、それより小さい……」
広「小さくねぇよ!なんなんだこいつは!」
???「コワケリャ……ムリセン……ドウシ……ニキテモ……」ポポポポ
克也「なんだ?こいつなに言って……」
コンッ
コンッ コンッ コンッ
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコココココココココココココココココココッ
美樹「なに!?なにか叩いてる!!」
広「何もしてこないなら今のうちにまことを……!」ダッ
???「エエ……オゥイ……ウシタ……」ポポポポ
美樹「広!上!!」
広「上?うわぁ!!」バッ
ガシャーンッ
克也「鉄骨が……」
???「コワケリャ……ムリセン……ムリセン……ムリセン……ムリセン……」ポポポポ
ガシャ……ガシャ……ガシャ……
美樹「あわわわわ……」
克也「建物が軋んでる!」
広「お前ら逃げろ!まことは俺が……ッ!」
克也「馬鹿!ただ突っ込んでもなんにもなんねーよ!」
広「じゃあどうしろって言うんだよ!」
???「ムリセン……ムリセン……ムリセン……ムリセン……」ポポポポ
ガシャ……ガシャ……ガシャ……ガシャ
???「コッチニキテエエゾ」
ガシャンッ
3人「うわああああああ!」
広「……?」
克也「あれ……俺たち、生きてる……?」
美樹「あ、ああ……!」
美樹「ぬ~べ~!!」
ぬ~べ~「よくがんばったなお前達」
郷子「みんな無事!?」
広「ぬ~べ~!!郷子!!」
ぬ~べ~「ぐ……早くここから離れろ……この結界も長くは……!!」
ギギギギッ
克也「やばい!早く外に!」
ガシャァンッ
ぬ~べ~「怪我はないか?」
広「俺たちは大丈夫。それよりまことが!」
???「カワイイ……コッチ……」ポポポポ
ぬ~べ~「この妖気……禍々しく変質しているがやはりか……」
克也「先生、コイツはいったい……」
ぬ~べ~「暴走した八尺様だ」
広「八尺様!?けどそれはただの噂だって……」
ぬ~べ~「面白半分で手を出していい相手じゃないからな……仮にも土地神に近い存在だ」
ぬ~べ~「それにしてもこれほどとは……しかし俺の生徒に手は出させん!!」
ぬ~べ~(出来ればどうにかして正気に戻してやりたいが……)
ぬ~べ~「手がかりがなくてはどうしようもない、か。しかたない」スッ
ぬ~べ~「悪いがこの鬼の手で弱らせる!」コウフクグンマーッ
ハチシャクサマ「コワレ……スケテ……」ポポポポ
ガシャッ
郷子「ぬ~べ~!うえ!」
ぬ~べ~「念動力か!厄介な!」バッ
ガシャンッ
広「だめだ!ぬ~べ~!」
ハチシャクサマ「イキ……ニエ……」ポポポポ
ガッ
ぬ~べ~「うおっ!解けん……ッ!」グググッ
ハチシャクサマ「……ポ……ポポ……」ジィ
ぬ~べ~「なんだ……ちか、らが……」
ぬ~べ~(生命力を……吸われているのか……!)
ハチシャクサマ「ポポポ……ポポ……ッ!」ガンッ
ぬ~べ~「なん、だ……? 石?」
広「うぉぉ!ぬ~べ~をはなせぇ!」ヒュッ
克也「ぬ~べ~!まけるな!」ヒュンッ
郷子「ぬ~べ~頑張って!」
美樹「鵺野組舐めんなー!」
ぬ~べ~「お前達……」
ハチシャクサマ「ポポ……ポポポポ」ガシャ……ガシャ……
ぬ~べ~「いかん!逃げろ!」
ハチシャクサマ「イナ……チニ……」ポポポポ
ガシャ……ガシャ……
美樹「これは……やばいんじゃない?」
広「くそ、ぬ~べ~を離せ!」ヒュッ
ハチシャクサマ「ウシタ……コイ……」ポポポポポ
ガシャ……ガシャ……ガシャンッ
ぬ~べ~「やめろおぉぉぉ!!」
ぽ……ぽぽぽ……ぽぽ……ぽぽぽぽ
ハチシャクサマ「……」ポポポポ
郷子「ッ……止まった?」
ぽぽぽ……ぽ……ぽぽ……
美樹「なに……?アイツまた何かしてるの……?」
克也「……違う、あいつじゃない……」
ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
広「近づいて……」
八尺様「もうやめてよ、姉さん」ぽぽぽ
広「!!」
美樹「増えた……」ペタリ
克也「いや、なんだか様子がおかしいぞ」
ハチシャクサマ「アネ……ヒガ……シイ……」ポポポ
ぬ~べ~「! 力が……」スルリッ
八尺様「すみません、鵺野先生……生徒の皆さんを巻き込んでしまったようで」
ぬ~べ~「いや……しかしこれは……」
八尺様「姉は今私の力で止めています。今のうちに……」ぽぽぽ
ぬ~べ~「これほどの力がありながら、どうして俺に……!」
八尺様「お気づきのとおりです……私の体は、もう持ちません……」ぽぽぽ
ぬ~べ~「なんだって!何故こんな無茶を!」
八尺様「あの土地の結界が解けた時点で、外からもよくないものが入り込んだみたいで……」ぽぽぽ
八尺様「私達、もう帰る場所がないんです」ぽぽぽ
ぬ~べ~「しかし……それなら俺が……」
八尺様「……ありがとうございます。でも、いいんですどのみち私も終わりが近いみたいですから」ぽぽぽ
ぬ~べ~「終わり……?」
八尺様「姉さんが理性を失ったのは、生贄が無い状態で外にいすぎたからなんです」ぽぽぽ
八尺様「外で生贄を取ればすぐに死に、とらなければ徐々に狂い始める……」ぽぽポ
八尺様「それが私達一族の末路なんです」ぽポぽ
ぬ~べ~「そんな……いや、他に方法がきっと!!」
ハチシャクサマ「リセ……カン……ナオ……」ポポ ポ
八尺様「もう……限界です……鵺野先生……」ぽポポ
八尺様「私が私であるうちに、殺してください」ポぽポ
ぬ~べ~「……」
ぬ~べ~「すまない……」
八尺様「貴方が好きでするわけじゃないんです。謝る必要はありませんよ」ポポポ
ぬ~べ~「―――」
広「……やったのか?}
克也「まこと!」ダッ
美樹「まこと!まことってば!」
まこと「ん……んん……あれ、みんな、おはようなのだ……」
郷子「……ばか!」
まこと「あれ、ぼくは確か……」
広「喜ぶのはあとだあと。さっさとこの潰れそうな廃工場から出ようぜ。なあぬ~べ~」
ぬ~べ~「……ああ、そうだな。はやく出よう」
アアーツカレター ヤレヤレダゼー わいわいわやわや
まこと「? ポケットの中に何か入ってるのだ……」
まこと「ざらざらした石の……欠片?」
広「おーい、まことー置いてくぞー」
まこと「あ、待って欲しいのだ!」ポイッ
この世には、目には見えない闇の住人達がいる……
しかし彼らは一体どこから現れどこに消えるのだろうか……
「ねぇ、やめようよー」
「大丈夫だって、まだこんなに日も高いのに」
「でも雰囲気あるなー怖い話と化したら面白そう」
「怖い話ならお前得意じゃん、なんか無いの?」
「いきなり振られても……じゃあ、そうだ」
「八尺様ってしってる?」
もしかすると、我々の流す『噂』が作り出すものも、あるかもしれない……
ぽぽぽ……ぽぽぽぽ……
END
351 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:39:53.98 +JxQBB3K0 23/31908 :1/9: sage 2008/08/26(火) 09:45:56 ID:VFtYjtRn0
親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか冬休みなんかにはよく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。
春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで
行った。まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。そうしたら、
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」
と変な音が聞こえてきた。機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じがした。それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。生垣の上に置いてあったわけじゃない。帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで来ると、一人女性が見えた。まあ、帽子はその女性が被っていたわけだ。
女性は白っぽいワンピースを着ていた。
でも生垣の高さは二メートルくらいある。その生垣から頭を出せるってどれだ
け背の高い女なんだ…
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。
352 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:40:26.78 +JxQBB3K0 24/31909 :2/9: sage 2008/08/26(火) 09:46:59 ID:VFtYjtRn0
そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思わなかった。
その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。
「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」
と言っても「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、
「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」
と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。いや、本当にぴたりと止った。
その後、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」
と、じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にある電話まで行き、どこかに電話をかけだした。引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは心なしか震えているように見えた。
じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。
――何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。
と必死に考えたが、何も思い当たらない。あの女だって、自分から見に行ったわけじゃなく、あちらから現れたわけだし。
そして、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」
と言い残し、軽トラックでどこかに出かけて行った。
353 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:41:05.23 +JxQBB3K0 25/31910 :3/9: sage 2008/08/26(火) 09:48:03 ID:VFtYjtRn0
ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、
「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何にも心配しなくていいから」
と震えた声で言った。
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してくれた。
この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしている。名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼぼぼ」と男のような声で変な笑い方をする。
人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと見え方が違うが、女性で異常に背が高いことと頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村、今で言う「大字」にあたる区分)に地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは十五年ほど前。
これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、八尺様がよそへ移動できる道というのは理由は分からないが限られていて、その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と何らかの協定があったらしい。例えば水利権を優先するとか。
八尺様の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な協定を結べれば良しと思ったのだろうか。
355 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:41:37.05 +JxQBB3K0 26/31911 :4/9: sage 2008/08/26(火) 09:49:15 ID:VFtYjtRn0
そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。
「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレのドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。
しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。これで用を済ませろってことか・・・
「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。俺もばあさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。七時になったらお前か
ら出ろ。家には連絡しておく」
と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様
の前でお願いしなさい」とKさんにも言われた。
356 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:42:07.38 +JxQBB3K0 27/31912 :5/9: sage 2008/08/26(火) 09:50:22 ID:VFtYjtRn0
テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛れない。
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気が全くおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。
そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、何だか忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。
(この頃は携帯を持ってなかった)
なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く
音が聞こえた。小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、必死に風のせいだ、と思い込もうとした。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。
そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」
思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。
「どうした、こっちに来てもええぞ」
じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に鳥肌が立った。
ふと、隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。
358 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:42:42.39 +JxQBB3K0 28/31913 :6/9: sage 2008/08/26(火) 09:51:23 ID:VFtYjtRn0
一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください」と必死にお祈りをはじめた。
そのとき、
「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」
あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。
とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしのテレビがいつの間にか朝のニュースをやっていた。画面隅に表示される時間は確か七時十三分となっていた。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか気を失ってしまったかしたらしい。
盛り塩はさらに黒く変色していた。
念のため、自分の時計を見たところはぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。
下に降りると、親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。そして、庭に何人
かの男たちがいた。
359 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:43:14.06 +JxQBB3K0 29/31914 :7/9: sage 2008/08/26(火) 09:52:24 ID:VFtYjtRn0
ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。
「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下を向いていろ。俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」
右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。
そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車という車列で走り出した。車列はかなりゆっくりとしたスピードで進んだ。おそらく二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。
間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。
「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」
またあの声が聞こえてきた。
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ、下を向いていたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。
目に入ったのは白っぽいワンピース。それが車に合わせ移動していた。
あの大股で付いてきているのか。
頭はウインドウの外にあって見えない。しかし、車内を覗き込もうとしたのか、頭を下げる仕草を始めた。
無意識に「ヒッ」と声を出す。
「見るな」と隣が声を荒げる。
慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。
360 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:43:47.80 +JxQBB3K0 30/31915 :8/9: sage 2008/08/26(火) 09:53:50 ID:VFtYjtRn0
コツ、コツ、コツ
ガラスを叩く音が始まる。
周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。
やがて、声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが「うまく抜けた」と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも「よかったなあ」と安堵の声を出した。
やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが「お札を見せてみろ」と近寄ってきた。
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。
Kさんは「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持っていなさい」と新しいお札をくれた。
その後は親父と二人で自宅へ戻った。
バイクは後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。
親父も八尺様のことは知っていたようで、子供の頃、友達のひとりが魅入られて命を落としたということを話してくれた。
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。
バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは極々薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟(伯父)は一晩でこちらに来られなかったため、血縁は薄くてもすぐに集まる人に来てもらったようだ。
362 : 以下、名... - 2012/08/15(水) 17:45:24.80 +JxQBB3K0 31/31916 :9/9: sage 2008/08/26(火) 09:54:54 ID:VFtYjtRn0
それでも流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、また夜より昼のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。
道中、最悪ならじいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。
そして、先に書いたようなことを説明され、もうあそこには行かないようにと念を押された。
家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、あの夜に声をかけたかと聞いたが、そんなことはしていないと断言された。
――やっぱりあれは…
と思ったら、改めて背筋が寒くなった。
八尺様の被害には成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということだ。まだ子供や若年の人間が極度の不安な状態にあるとき、身内の声であのようなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。
それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日談ができてしまった。
「八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまった。それもお前の家に通じる道のものがな」
と、ばあちゃんから電話があった。
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえなかった。じいちゃんも起き上がれなくなってからは絶対来させるなと言っていたという)
今となっては迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。
「ぽぽぽ…」という、あの声が聞こえてきたらと思うと…
本編はともかく最後のはよくできた話だったよ。
こわいよー! やべよーむっちゃ怖いトイレ行けない半泣き状態誰かついてきてくれ