勇者「俺が勇者になった理由は女の子にモテるためだ。文句あんのか」【前編】
勇者「俺が勇者になった理由は女の子にモテるためだ。文句あんのか」【後編】
城下町 教会
神父「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け……」
神父「その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
医者「誓います」
村娘「誓います」
神父「では、誓いの口付けを」
姫「おぉー! きたぁ! キスだ! キス!」
村娘「……」
医者「……」
シスター「し、静かにしてください」
姫「おっと。すまん」
兵士長「違うだろ?」
姫「あぅ……。すみません」
兵士長「そうそう。あいつの教育はなっちゃいねえなぁ。ま、本業じゃねえし仕方ねえけどよ」
姫「これが結婚式かぁー。いいなっ。私もしたいぞ!」
元スレ
姫「私が姫になった理由は勇者のことが好きだからだ!文句あるのか!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401353000/
農夫「幸せになるんだぞー!!」
医者「ありがとうございます」
「末永くお幸せにー!!」
村娘「はぁーい」
村長「うぅ……孫の結婚を生きているうちに見られるとは……うぅぅ……」
村娘「お、おじいちゃん、泣かないで。村を出て行くわけじゃないんだし」
シスター「やっぱり憧れますね……」
兵士長「嬢ちゃんなら引く手数多だろ。すぐにできるさ」
シスター「だといいんですけど……。職業柄、中々男性とお付き合いする機会がなくて……」
兵士長「ハハッ。その初心さ、たまらんねぇ。俺があと20歳若ければ、口説いてるところだ」
シスター「や、やめてください」
医者「それにしてもこんな立派な教会で式を挙げられるとは思いませんでした。本当に感謝しています」
兵士長「気にすることぁない。あんただってこの国の英雄みたいなもんだしよ」
医者「そんな。私なんて勇者様に比べれば……。そういえば、勇者様はご出席されていないようですが……」
姫「あいつならデートだ。今日はこれないって言ってた」
村娘「デート? ついに特定の女性が?」
兵士長「いや相手は男だ」
医者「え!?」
シスター「勘違いしないでください!! ほら、あの傭兵のかたですよ。任務らしくて」
医者「あ、あぁ。なるほど。驚きました」
姫「でも、あいつデートって言ってたぞ? 違うのか?」
兵士長「違うんじゃねぇの?」
姫「そっか」
医者「そうですか。この挙式も勇者様のご提案ということだったので、是非とも来て頂きたかったのですが」
兵士長「ま、あのバカにとっては幸運だったかもなぁ」
村娘「どういうことですか?」
兵士長「なんでもない。それよりも花嫁さん。そのブーケはどうすんだ? いつまでも持ってるつもりか?」
村娘「あ、そうだ。投げないと」
姫「ガルルルル……」
村娘「え? な、なに? ほ、欲しいの?」
姫「あいっ!」
村娘「うーん。でも、勇者様の妹さんに渡したほうが年齢的にもあっているような……」
姫「くーれっ! くーれっ!」
村娘「うーん……」
シスター「あ、遠慮なく投げてください。きっと誰もひめ……いえ、この子には敵いませんから」
村娘「それなら……。――そーれっ」
姫「ガァァウ!!!」パシッ
村娘「す、すごい……」
姫「とったー! とったー! やったー!」
兵士長「おーぅ。すげえなぁ」
姫「ん? これ、本物の花じゃないんだな」
村娘「造花なの。しばらくは飾っておけるからいいかなって」
姫「そっか! なるほどな! 私の結婚するときはこれ投げるぞ。で、お前に渡してやるからな」
シスター「あ、ありがとう……。私のほうが後なんだ……」
姫「これで結婚できるぞ! わーいっ」
医者「……彼女、元気そうで良かったです」
兵士長「初潮はまだみたいだけどな。でも、身長は少し伸びた」
医者「なら、心配はありませんね。それにしても……」
姫「ブーケは冠にするとすごい効果出たりするんだろ?」
シスター「そういう使い方はないですよ」
姫「恋愛マニュアルにはそう書いてたぞ」
シスター「いい加減、それは信じないほうが……」
医者「見違えましたね。身嗜みを整えるだけであんなにも可憐になるとは」
兵士長「だろぉ? すんげー美人になるはずだ」
医者「あの、彼女は今どこで生活をしているのですか?」
兵士長「ん? あ、あぁ。孤児院みたいなところで元気に生活してるよ。で、俺や馬鹿野郎がたまに面倒見てる」
医者「なるほど。大変ですね。まだ王座も空席のままですし国自体が不安定な状態でしょう?」
兵士長「国王代理は大臣らが必死にやってるから問題ねえよ」
医者「ですが、噂は耳にしていますよ。なんでも前国王陛下には隠し子がいたとか。その子が次の陛下になられるのでは?」
兵士長「ノーコメントだ」
医者「すみません。このようなことを一平民が聞いてはいけませんよね」
兵士長「それより魔法の馬車が待ってるぞ。はやくいってやれよ」
医者「そうします」
村娘「あなたー。はやくー」
医者「今行く! みなさん、本当にありがとうございました!!」
村娘「このご恩は決して忘れません!!」
兵士長「忘れていいぞ。毎度結婚記念日に恩返しされたら号泣する奴もいるからな」
シスター「お幸せにー」
姫「ブーケありがとうございます! 後生大事にしますわ!!」
村娘「うん!!」
医者「このお礼は後日必ず!」
兵士長「おーぅ」
村娘「勇者様にもよろしくお伝えください!!」
シスター「わかりましたー!」
兵士長「伝えた日は自棄酒だな。また付き合ってやるかぁ」
姫「わーいっ。わーいっ。結婚だっ、結婚だー」
兵士長「姫様。帰りますよ」
姫「あい!」
兵士長「違うでしょう」
姫「あい! あぅ、はいっ!」
兵士長「そうそう、それそれ。んじゃ、またな」
シスター「はい。兄さんが帰ってきたらまた顔を出すように言ってください。最近、お墓参りにもあまり来ていないみたいで」
兵士長「色々忙しいからな。任務もあれば姫様のお世話もあるし」
姫「ブーケ、ブーケ」
シスター「……そうですか。元気ならいいんですけど」
兵士長「ナンパにいけねーって嘆いている間は大丈夫だ。心配しなくても死にはしねーよ」
シスター「はい。私もそう思います」
兵士長「ま、こっちも考えがないわけじゃないけどな」
シスター「考えですか?」
姫「おーい。帰らないのかー?」
広場
兵士長「城に戻ったあとは、いつものように自習でもしておいてくださいよ」
姫「わかってるぅ……。お?」
「わーい!!」
「まてまてー」
姫「……」
兵士長「きいてんのか?」
姫「あ、すまん。なんだって?」
兵士長「……悪いが、姫にはもう少し窮屈な生活をしてもらうぞ?」
姫「分かってる。魔女が母親じゃ、女王になれないもんな」
兵士長「裁判の片がつくまでは待っていてくれ」
姫「別にいいって言ってるだろ。私にはゆーしゃがいるしな!」
兵士長「大事なパパだもんな」
姫「そうだ! パパだ! でも、あいつ最近パパって呼ぶなってうるさいんだ。嫌なのか?」
兵士長「嫌なんじゃねえの? よくわかんねえけど」
城内 姫の自室
姫「ねむいなぁ……」
姫「でも、サボったら怒られるしなぁ……」
兵士『姫様! 勇者殿が戻られました!』
姫「なに!? よし!! 呼べぃ!!」
勇者「もう来てるよ。バァーカ」ガチャ
姫「わぁぁー」テテテッ
勇者「よぉ。姫様」
姫「おかえりっ!」ギュッ
兵士「では、勇者殿。後ほど」
勇者「任務の報告は相棒に任せてるんで、よろしくっす」
兵士「はっ!」
姫「今日も勉強おしえてくれるんだろ?」
勇者「おいおい。その口の利き方はなんだぁ?」
姫「えーと……。本日もお勉強いたしますでしょう? おしえてくださいな!」
勇者「今日は歴史だったか……」
姫「なぁーなぁー。任務はどんなだったんだ? 姫にも報告義務があるんだろ? おしえろ」
勇者「誰から聞いたんだよ。まぁ、いいけど。北にある村が盗賊だかなんだかの被害にあってるから助けてくれっていわれて行ったんだ」
姫「大変だったか?」
勇者「相手の人数も結構いたからなぁ。骨は折れたけど、ボッコボコにしてやった」
姫「さすがだな!」
勇者「だろ?」
姫「かっこいいぞ!」
勇者「もっと言って」
姫「サイコーだぞ、ゆうしゃ! お前は世界一かっこいいぞ!!」
勇者「アーッハッハッハッハッハ!!! そうだろう! そうだろう!! なんせ俺はこの国、いや、世界を一度救った勇者だからなぁー!!! フフハハハハ!!!!」
姫「そんなお前がすきー」ギュゥゥ
勇者「……虚しい」
姫「えへへー」スリスリ
勇者「死ぬ思いをしてもこんなガキにしか褒めて貰えないなんて……!! おらぁ! さっさとこの空欄うめろやぁ、姫さまぁ!!」
謁見の間
戦士「――報告は以上よぉん」
兵士長「こんなに被害が出てたのか。村人の陳情がなけれりゃあ、村も終わってたな」
戦士「さっきも言ったけど、死者はかなり出ちゃってたもの。あの村はこれからが大変かもねぇ」
兵士長「それはこの国もだけどな」
戦士「治安の悪化は避けられないわよぉ。気にしちゃ、ダーメっ」
兵士長「そうも言ってられねえよ。盗賊による被害はこの村だけじゃねえんだ」
戦士「えぇー。まだあるのぉ? あたし、こまっちゃうぅ。もっとお給料だしてぇん」
兵士長「傭兵なんだから、働けば出してやるよ。んなことより、そろそろ正規の兵になってくれねえか? 給料とか面倒なんだぜ?」
戦士「いいの。あたしは自由を愛する女だから」
兵士長「立派な男にしかみえねえがな」
戦士「プンプン! 心は乙女なの!」
兵士長「はいはい。おつかれさん。今回の報酬はあとで出してやるから」
戦士「うふふ。ありがと。さーて、勇者様にあいにいこーっと」
兵士長「あいつはまだ姫様とお勉強中だ。邪魔はしてやんなよ」
姫の自室
勇者「で、この計算はぁー」
姫「あぅ……あぅ……おぅ……」ウトウト
勇者「おい」グイッ
姫「おぅう!? なんですの!?」
勇者「寝るな」
姫「あい」
勇者「てめーの為なんだぞ。わかってんのかぁ?」
姫「分かってますぅ」
勇者「この時間がなけりゃあ、俺はもっと休めるし、ナンパにだっていけるんだ。その貴重な時間を割いて、お前の勉強に付き合ってんだ! わかる!?」
姫「わかるっ!」
勇者「よし、この問題の答えは!?」
姫「わからんっ!!」
勇者「だぁー!! もう寝る!! こっちは連日の任務で疲れてんだ!!」
姫「わかった! 一緒に寝ましょう!!」
通路
兵士長「すっ……ぱぁー……」
兵士「巡回終了しました。異常はありません」
兵士長「ごくろうさん。勇者様はどうした?」
兵士「さぁ、まだ姫様の部屋からは出てきていませんが」
兵士長「そうかい。あんがとよ」
兵士長(いつまで勉強会やってんだか。こっちだって話したいこともあるのによぉ)
兵士長「いってみっか……」
兵士長(まさかとは思うが……。流石にあの姫に手を出すことはないと思うが……)
兵士長「おーい。いるかぁー?」コンコン
兵士長「……反応ねえなぁ」
兵士長「はいるぞー」ガチャ
勇者「すかー……すかー……」
姫「すぅ……すぅ……」ギュッ
兵士長(……明日にするか。おつかれさん)
翌日 中庭
姫「このブーケさえあれば結婚できるんだ。すごいだろ?」
勇者「へぇー。すごいなぁー」
姫「な?」
勇者「そうだな」
兵士長「よーぅ。勇者様、デート中すまねえなぁ」
勇者「やめてくださいよ。デートじゃなくてお守りです」
姫「デートだろ」
兵士長「照れるなよ。昨日は一晩一緒のベッドで寝てたくせに」
姫「えへへ……。やってしまいましたわ」
勇者「冗談はいいっすよ。なんすか?」
姫「冗談か?」
兵士長「ああ。また被害報告があった。最近、この国は荒れてるみたいだな」
勇者「魔女と王が国を支配しようとしていたってことは衝撃すぎるっすからね。国民が不安になるのも無理ないっす」
姫「むぅ……」
兵士長「それと盗賊の増加が関係しているかはわかんねえけどな」
勇者「それしかないっすよぉ。それ以外に何があるんすかぁー」
兵士長「姫の前でそういうことは言うなよ。あと、城の外ではな」
勇者「はいはい。わかってまぁーす」
兵士長「ああ、あと裁判の件だが」
勇者「そろそろ終わってもいいんじゃないっすか?」
兵士長「そう簡単にいくかよ。だが、まぁ、結果は分かりきってるがな」
勇者「……なぁ?」
姫「いい」
勇者「気持ちは分かるけど、一応親なんだから、顔ぐらいは見ておいたほうがよくないか?」
姫「いいって言ってるだろ。しつこい男は嫌われるぞ。恋愛マニュアルにかいてた」
勇者「ま、お前がそういうならいいけど」
兵士長「ところで、また出張頼めるか?」
勇者「盗賊退治っすかぁ? もう勘弁してくださいよぉ。一個小隊動かせばいいじゃないっすか」
兵士長「動かしても間に合わねえから勇者のお前にいってんだろ。頼むよ、勇者様」
勇者「ちぃーっす」
兵士長「わりぃな」
勇者「こんだけがんばってんだから、可愛い女の子の1人や2人、寄って来てもいいと思うんすけどぉ?」
姫「……」グイッグイッ
勇者「なんだよ?」
姫「ここ。ここ」
勇者「あー、はいはい。そうだな。可愛いなー、お前は」
姫「もっと言って」
勇者「やなこった」
姫「ガァァウ!!!」ガブッ
勇者「鬱陶しいなぁ」
兵士長「わぁーったよ。今日一日は休みにしてやる」
勇者「マジっすか!? 先輩だけは俺を裏切らないっすぅー」
兵士長「当たり前よ。いつだって俺はお前の味方だからなぁ」
勇者「せんぱぁい。俺、一生先輩についていくっすからぁ!! やっほー!! 久々のナンパだぁー!!! イッヤフゥゥゥ!!!」
城下町
姫「どこいく!?」
勇者「早速、騙された……。先輩め……。結局、俺にガキのお守りを押し付けやがってぇぇぇ……!!!」
姫「なぁーなぁー」
勇者「なぁーにが、姫にも町を見せてやれーだ。んなもん、窓から見てればいいだろーがよぉ」
姫「なぁー。どこに行くんだぁー?」
勇者「俺はナンパに行きたい」
姫「どうぞ」
勇者「ぶっころすぞぉ?」
女性「ランララーン」
勇者「あぁ。ちょー美人がいるぅ……」
姫「ナンパしないのか?」
勇者「お前はしな――」
女性「チョット、いいデスか?」
勇者「え? 逆ナン!? ――はい。勿論っ」キリリッ
姫「むぅー」
女性「アノ城へ、行きタイのですが、この道デあってますカ?」
勇者「よければご案内しますよ」
女性「ワオ。ホントデスか? それは――」
姫「ガルルル……」
女性「どうやら、私はオジャマみたいデスね」
勇者「あ、いや……」
女性「バーイ」
勇者「あぁぁ……!! まってぇぇぇ……!!」
姫「ベーッ」
勇者「この!! 折角の美人がいっちまっただろぉ!?」
姫「なんだぁ? 私はナンパしないのに、あんな美人をナンパするとか恥ずかしくないのか!?」
勇者「恥ずかしくないね!」
姫「ほら、早くどっかつれてけ!」
勇者「はぁ……。ほら、こっちこい。迷子になっても探してやらねーからな。しっかりついてこいよ」
広場
勇者「あーあ。この町も捨てたもんじゃないのになぁ。あんな美人がいるぐらいなんだからよぉ」
姫「……」
「今日は何してあそぶ?」
「うーんとね……」
姫「……」
勇者「それもこれもお前みたいなのが腰巾着みたいにくっついてるから……。って、おい」
姫「あ、すまん。なんだ?」
勇者「なんだよ。あのガキを見てたのか。初恋ですかぁ?」
姫「違う。それに初恋はもうとっくに始まってる」
勇者「へぇー。そうかそうか」
姫「なにしてるんだ。女の子を退屈にさせるとダメだって書いてたぞ」
勇者「お前は恋愛マニュアルからの受け売りばっかりだな」
姫「お前もだろ」
勇者「……そうだけどよ。あぁーあ。久しぶりに墓参りにでもいくかぁ」
墓地
勇者「親父。久しぶりだな。今頃はとっくにあの世でハーレム作ってんだろ? 作るコツ教えてから死んでくれよ」
姫「どうも。お義父様。不束者ですががんばりますわ」
勇者「なに言ってんだ」ペシッ
姫「いてっ」
シスター「兄さん!」
勇者「お。元気だったか?」
シスター「うん。最近、会えなかったから心配してたんだよ?」
勇者「忙しくてナンパにもいけないんだよ。どう思う?」
シスター「ナンパはしなくてもいいと思うけど……」
姫「こんにちはっ」
シスター「どうも、姫様。あっ……」
勇者「いいよ。誰もいないし」
シスター「う、うん。それより兄さん、今姫様を叩いたでしょ? ダメじゃない」
勇者「いいんだよ。俺がこいつになにしよーが。噛み付かれるだけだし」
姫「ガァァァウ」ガブッ
勇者「こうしてる限り、誰も姫様だなんて気づかないだろうしな」
シスター「そ、そうかもしれないけど……」
勇者「あ、ちょっと。頼みたいことがあるんだけどさ」
シスター「なに? 何でも言ってね」
勇者「新人のシスターとか入ってこないの? きたら一報くれ」
シスター「兄さん!」
勇者「いいだろぉ。たのむってぇ。また今度、遠征なんだぜぇ? なぁ?」
シスター「また? 兄さん、体のほうは大丈夫なの?」
勇者「いやぁ、もうボロボロさぁ。このままだとヤバいな。死ぬかもしれない。筋肉痛で」
シスター「マッサージならしてあげられるけど」
姫「私がする」
シスター「あ、そうですね。そのほうがいいですよ」
勇者「おらぁ! でしゃばんなぁ!!」
姫「ここか? ここがいいのか?」モミモミ
勇者「もういい。くすぐったいだけだ」
姫「あぅ」
シスター「相変わらず仲が良いみたいで安心した」
勇者「こんなガキと仲良くなっても仕方ないけどなぁ」
姫「私は仲良くできて嬉しいぞ」
シスター「よかったね、兄さん」
勇者「お前が……妹じゃなければ……よかったのに……」
シスター「ご、ごめんなさい」
姫「私は妹じゃないぞ」
勇者「おう。そうだな」
シスター「あはは……」
勇者「あぁ、そうだ。もう一つ頼みたいことがあるんだけどさ」
シスター「なに? 私、友達は少ないから紹介とかはできないよ?」
勇者「違う。って、友達少ないのか? そうか……元気だせよ?」
シスター「同情しないで。それで、頼みたいことって?」
教会
神父「なるほど……。そのようなことを……」
勇者「まぁ、できなきゃできないでいいんですけど」
神父「しかし、勇者様。いいのですか? 姫様はまだ国民には知られてはいけないはず。そんなことをされては……」
勇者「機嫌取りも俺の仕事なんすよ」
神父「そうですか。勇者様がそこまで仰るのでしたら私も協力いたします」
勇者「どうも。すんません」
姫「なんの話してるんだ?」
シスター「えっと。姫様のこと、兄さんはとても気にしているみたいですよ」
姫「そんなの当然だ。相思相愛だからな」
シスター「そうですね。羨ましいです」
姫「ブーケはちゃんとお前に渡してやるから、安心しろ」
シスター「そのときが楽しみです」
勇者「おーい、かえるぞ」
姫「あいっ」
城内 通路
姫「割と楽しかったぞ。また誘ってくださいな」
勇者「はいはい。さっさと部屋に行け」
姫「あいっ」テテテッ
勇者「……」
戦士「ゆ、う、しゃ、さ、まぁぁん」
勇者「おぉぅ!? なんすか!?」
戦士「次、あたしとデートしてくれるのぉん?」
勇者「誰がそんな話をしたんすか!?」
戦士「いけずぅ。貴方のために命がけで働いてるんだからぁ、ご褒美があってもいいでしょ?」
勇者「それなりの金は渡してるはずっす!!」
戦士「肉体のケアもほしーのぉーん!!」
勇者「こっちは今から色々とあるんすよ!! さよなら!!」
戦士「まってぇーん!! 今日こそはあたしの初めてうけとってぇん!!」
勇者「気持ち悪いこというなぁー!!」
夜 中庭
姫「おーい」
狼「ガウっ」タタタッ
姫「ほら、ごはんだぞ。食べろ」
狼「ガウッ!」
姫「みんな、元気にしてるかな?」
狼「クゥーン……」
姫「してるよな。あいつら、私なんかより強いもんな」
狼「ガウッ」
兵士長「……姫様」
姫「なんだ?」
兵士長「何度も言ってますが夜は出歩かないようにお願いします。そいつにも俺が責任もってエサやってるんで」
姫「すまん。でも……その……」
兵士長「なんですか?」
姫「なんでもない。部屋に戻る。おやすみなさいませ!」
狼「グルルルル……!!!」
兵士長「怒るなよ。これも仕事なんだから」
狼「……」タタタッ
兵士長「すっ……ぱぁー……。全然、俺には懐いてくれねえなぁ」
勇者「先輩。準備できたっす。明朝には出発するんで」
兵士長「そうか。悪いな」
勇者「いえ。それが勇者っすから。もう結婚とか諦めましたし」
兵士長「諦めんなよ。……お前が出してくれた計画書。こっちでやっとくから」
勇者「多分、バレることはないとおもうんすけどね」
兵士長「やっぱり、姫の町見学はお前に任せてよかったぜ」
勇者「どーせ、先輩も似たようなこと考えてたくせに」
兵士長「そういうなって。お前が考えたってのが大事なんだ。これから姫様の機嫌は斜めになっちまうからな」
勇者「俺が任務のためにここを離れるからっすか? もうそろそろ我侭は言わないようにシメたほうがいいっすね」
兵士長「ちげーよ。姫様の教育係が決まったんだ。いつまでもお前に全てを任せられないからな」
勇者「マジっすかぁ!? やったぁぁぁ!!! これで俺も自由だぁぁぁぁ!!!!」
兵士長「だからな……」
勇者「ナンパ! ナンパ!! これで可愛い嫁さんもゲットできる!! ウッホホーイ!!」
兵士長「話を聞け」
勇者「先輩!! 俺のためにそこまで気を遣ってもらっちゃって!! あざーすっ!」
兵士長「腹立つな……。まぁ、そういうわけだから。お前は何も心配するな」
勇者「いやぁー。そうすっよね。俺、働きすぎっすもんね。まぁ、当然かぁー。あははは」
兵士長「それじゃ」
勇者「先輩」
兵士長「な、なんだよ?」
勇者「姫様の教育係ってどんな人なんですか?」
兵士長「……おめーには関係ねえだろ?」
勇者「はぁ? 俺の後釜っすよ? どこの馬の骨とも分からない奴にまかせられないっすけどぉ?」
兵士長「やっぱり、気になるか?」
勇者「なるっす」
兵士長「……これが顔写真だ」ペラッ
勇者「こ、これはぁ……!!!」
兵士長「とんでもない美人だろ? 若いのに色んな国で先生をしているらしくてな。隣国では王子の教育係でもあったそうなんだよ」
勇者「今日町で見かけた……超絶美人さん……!!!」
兵士長「言葉は拙いがまぁ通じないほどじゃないし、教養もどこぞの馬鹿とは比べ物にならねえ」
勇者「年上かぁ。うんうん。でも、そんなの関係ない!」
兵士長「俺の話きいてるかぁ?」
勇者「先輩。俺、分かっちゃったっす。この人と結ばれる運命にあるんするよ」
兵士長「まーった始まった……」
勇者「明日の出発は少し遅れますんで」
兵士長「おいおい。何言ってんだよ。困ってる人がお前の到着を待ってんだぞ?」
勇者「この先生に挨拶してからでもいいじゃないっすかぁ!! どうせ朝にくるんでしょう!?」
兵士長「ま、まぁ……そうだけどよぉ……」
勇者「よっしゃぁぁ!!! 共通の生徒を持ち、芽生える愛。異国の彼女も俺の魅力にうっとりっすね」
勇者「明日は何きよーかなぁー」
兵士長「ああいうところは糞親父によく似てやがるなぁ……」
姫の自室
姫「……」ペラッ
姫「年上にはパパよりもチューのほうがいいみたいだけど……」
姫「……流石にそれは恥ずかしいな」
勇者『おーい。起きてるかぁ』
姫「あい」
勇者「何してんだ、早く寝ろよ」
姫「これ、読んでた」
勇者「いい加減、返してくれないか? それがないと俺が困るんだけど」
姫「やだっ。まだ読んでる」
勇者「まぁ、いいけど。それより、お前には話しておきたいことがあるんだけどよ」
姫「なんだ? 結婚の日取りか?」
勇者「明日から俺が任務で出かけるのは知ってるな?」
姫「私も連れて行ってくれるのか?」
勇者「こういうことは度々あるから、俺はお前の勉強を満足に見てやれないだろ? だから、お前には専属の教育係がつくことになった。よかったな」
姫「そうか。わかった」
勇者「……あれ? いいのか?」
姫「なんだ? よくないのか?」
勇者「いや、ごねるかなって思ったんだけどな」
姫「私はそんなに子どもじゃないぞ。何せ、姫だからな」
勇者「おう。良いじゃないか。ようやく姫様らしくなってきたんだな」
姫「当然だ」
勇者「んじゃ、また明日な」
姫「あ、おい」
勇者「どうした?」
姫「ちゃんと帰ってこいよ」
勇者「帰ってくるに……きまってんだろぉ……にゅふふふふ……」
姫「どうした? キモいぞ」
勇者「うるせぇ。ガキにこの崇高なデスティニーは理解できねえよ。おやすみ」
姫「あい。おやすみ」
中庭
姫「……」キョロキョロ
姫「おーい」
狼「ガウッ」タタタッ
姫「しーっ。静かに」
狼「クゥーン」
姫「聞いてくれ。今日はな――」
兵士長「またか……」
勇者「先輩。なにしてんすか?」
兵士長「仕事だよ。お前こそさっさと寝ろよ。起きれなくなっちまうぞ?」
勇者「子どもじゃないんすから」
兵士長「何か用か?」
勇者「いやぁ、星がきれいっすよね」
兵士長「……野郎と見たって感動はしねえなぁ」
勇者「まぁまぁ、そう言わなくでくださいよ。偶にはいいじゃないっすかぁ」
翌日 城門
門兵「……む?」
教師「ハーイ。通してモラいマスね」
門兵「話は伺っています。どうぞ」
教師「ドモドモ」
門兵(美人だな……)
教師「ウフフ、ナニか?」
門兵「い、いえ!! 申し訳ありません!!」
教師「ソウですか?」
勇者「オー!! オマーチシテオリマシタデース!!!」
教師「あら、アナタは……」
勇者「さぁさぁ、こちらへどうぞ、マドモアゼル」
教師「アリガトウ。優しいンデスね」
勇者「貴方のような美しい人には優しくしろと父親から厳しく言われているんですよ」
教師「素敵なパパさんデスね。だから、アナタのような紳士が生まれタノデスね、きっと」
城内 通路
勇者「なるほど。あの国でも教育係をしていたのですか」
教師「ハイ。色々アリマシテ、辞めたのデスが」
勇者「王子に求婚されたとか?」
教師「そういうスキャンダルに関わるような話はダメデスよっ」
勇者「これは失礼」
勇者(うは!! かわいい!! 年上とはおもえん!!)
教師「ところでプリンセスは?」
勇者「あんな奴、どうでもいいじゃないですか。それよりも今度俺と食事とかどうですか?」
教師「アラ、どんなところへ連れてイッテくれるノデスか?」
勇者(乗ってきた!? よーし……ここはマニュアル通りに……)
勇者「夜け――」
教師「夜景が素敵なスウィートルームデスか?」
勇者「え?」
教師「それではダメデスね。ゴメンなさいっ」
姫(あいつ、もう行ったのか……。一言ぐらいあってもいいのに……)
勇者「待ってくださいよぉ!!」
姫「お! わぁぁぁー」テテテッ
勇者「だったら、ほら、美味しい――」
教師「美味しいコーヒーが飲めるお店でお喋りデスか? それもイヤです」
勇者「な……」
姫「おい!」
勇者「おう。おはよう」
姫「おはよう。誰だ、こいつ」
勇者「誰って、お前の教育係だよ」
姫「こいつが?」
教師「ハーイ。プリンセス。ヨロシクお願いシマス」
姫「……」
教師「アノぉ。ワタシの顔に何かツイテますカ?」
姫「よろしくな。あぅ……。よろしくお願いしますわ」
謁見の間
兵士長「挨拶は済んでるみたいですが、改めて……」
教師「本日からプリンセスの教育係を務める者デス。ヨロシクオネガイします」
勇者「ヨロシクー!!」
兵士長「てめぇはさっさと出発しろっつーの」
勇者「するっすよ!! でも、ちょっとぐらいいいじゃないっすかぁ!!」
兵士長「おまえなぁ」
勇者「あの、俺が任務から戻ってきたら雰囲気の――」
教師「雰囲気のいいBARで一杯デスか。イヤ、です」
勇者「ほぉぉぉ……!!」
兵士長「なにやってんだよ、てめえは」
姫「……」
教師「プリンセス。コレから暫くノ間デスが、仲良くシテくださいネ」
姫「いいですけど、勇者様のことをあまりイジメないように。怒りますわよっ」
教師「オーケー。気をツケマスっ。ウフフ」
勇者「よ、よし!! お姉様、だったら、その星――」
教師「星を見ながらお話したって、ワタシは落とせマセンよっ」
勇者「がっ……」
教師「ワタシ、チェリー坊やはオコトワリしてマスので。ゴメンねっ」
勇者「……」
兵士長(トドメだな)
勇者「うわぁぁぁぁ!!!!」
姫「おぉ! 久々っ」
勇者「隊長!! わたくし、任務に殉じてきます!!」
兵士長「いい心がけだな。よろしく頼むぞ」
勇者「うわぁぁぁぁ!!!!」ダダダダッ
教師「アラ。ちょっと強く言い過ぎたデスか?」
兵士長「いやぁ。アイツにはあれぐらいでいいですよ、先生」
『ふざけんなぁー!! 異国の女なんてクソばっかりだー!!! 体臭がくせーんだよぉ!!!!』
兵士長「おー。負け犬が吠えてらぁ」
教師「それはそうと光栄デス。ワタシにこんな仕事をアタエテくれるなんて」
兵士長「先生の噂は予てから聞いてたんでね。来てくれて嬉しい限りだ」
教師「一応、引退していたツモリなんですケドね。事情が事情ダケにお受けするコトにシマシタ。姫様を1日でも早く立派なクイーンにしなければ大変デスし」
兵士長「ありがてぇ話だ。それでは、先生。姫様のことは何卒内密に」
教師「気になっていたコトデスが。何故、存在を隠すのデスか?」
兵士長「まぁ、色々あるんだよ。政治ってやつだ」
教師「ソウデスカ。分かりました。詮索はシマせん」
兵士長「助かる。姫様、先生の言うことはよく聞くようにな」
姫「あい」
兵士長「こーら」
姫「はい!」
兵士長「先生、言葉遣いのほうもお願いしてもいいかい?」
教師「ハイ。勿論デス」
姫「……」
教師「デハ、行きましょうカ。プリンセス?」
姫の自室
教師「ココがプリンセスのお部屋デスかー。素晴らしいデスねー。可愛いデハありませんカ」
姫「どうも、ありがとうございますわ」
教師「プリンセス? ええと……ありがとうございます、でイイデスよ」
姫「あ、ありがとうございます」
教師「ハイ。ヨクデキマシター」ナデナデ
姫「やめろ!」バッ
教師「アラ? 撫でられるのはお嫌いデシたか?」
姫「馴れ馴れしいぞ、お前。私は姫だぞ。失敬だ」
教師「色々と教育のし甲斐がありそうデスね」
姫「ガルルルル……」
教師「そんなに警戒シナイでクダサイ」
姫「お前、変な奴だ」
教師「言葉がちょっと変なのは許してクダサイね」
姫「お前、大丈夫か? 先生できるのか?」
教師「できますヨ。これでも実績はアリマスから」
姫「ホントか……?」
教師「アラ……。これは」ペラッ
姫「あー!? 触るな!! それは私の教科書なんだー!!」
教師「プリンセス、これはオススメできまセン。即、ポイしてください」
姫「なんだと!?」
教師「これ、テキトーなことしか書いてないデスから」
姫「嘘なのか!?」
教師「ウソというか、ソウデスねー……。これを実践シテモ、成功する確率はトッテモ低いデスね」
姫「そうなのか!?」
教師「……よければ、ワタシが教えてあげても、イイデスよ?」
姫「な、なにをだ……?」
教師「女の武器ってヤツデスよ……」
姫「おぉぉ……」
教師「ウフフフ……。プリンセス、手取り足取り、オトコの落とし方ヲ、教えてアゲマスよ……コッチにオイデ……」
中庭
兵士長「エサだぞー。……ここに置いとくからなぁ」
兵士長「ちぃーっとも近づいてきやしねえ」
兵士長「狼のエサやりなんて、俺の仕事じゃねえよなぁ」
兵士長「すっ……ぱぁー……。今頃、アイツはどうしてるかな……」
戦士「んもぉ。勇者様、どこぉー?」
兵士長「アイツならもう行っちまったぞ」
戦士「えー!? なんでぇー!? あたしに一言もないのぉ」
兵士長「この前の任務で何かしたんじゃねえのか?」
戦士「何もしてないわよ。ちょっと寝込みを襲おうとしただけよぉん」
兵士長「可哀相に」
戦士「お姫様はどうしてるの?」
兵士長「今はお勉強中だ。それより暇ならちょっと付き合ってくれ」
戦士「……いいけど。体を許すつもりないから」
兵士長「こっちから願い下げだ」
夕方 通路
兵士「見たか、姫様の教育係」
門兵「見たよ。すげー美人だった」
兵士「魔女もかなりなもんだったけど、あの先生も負けちゃいねえな」
門兵「ああ。早速勇者殿がアタックしてたけど、玉砕したみたいだぜ。今朝、叫んでるのみたって」
兵士「勇者殿はもう少し落ち着かないとなぁ」
門兵「そうだよなぁ」
姫「わぁぁぁー!!!」テテテッ
兵士「な、なんだ!?」
門兵「姫様!? どうしたのですか!?」
姫「あぅ……あぅ……」
教師「プリンセス。ダメですヨ。逃げたら、オシエラレません」
姫「どっかいけー!! お前、嫌いだー!!!」
兵士「あ、あの、姫様になにをされたのですか?」
教師「ナニって言われても……。プリンセスがオトコの落とし方ヲ知りたがってイタノデ……色々と、ネ?」
姫「ひっ」ビクッ
兵士「な……!?」
門兵「お、お前!! 姫様になんてことを教えている!!」
教師「キスの方法トカなんですケドも」
姫「そんなの誰も頼んでないだろ!!」
兵士長「なーんの騒ぎだ」
兵士「隊長!! そ、それが……」
姫「お前からもなんとかいってくれ!! こいつ、おかしい!! 嫌い!!」
兵士長「先生。頼んどいてなんだけど、あまり変なことされるとこっちも考えなきゃいけないんだぜ?」
教師「それはゴメンなさい。ちょっとからかったダケですヨ」
兵士長「そうか?」
姫「あれがちょっとなのか? ふざけるな」
兵士長「姫様が完全に怯えちゃってるなぁ。頼むよ、先生。折角、アンタを探してきたんだから」
教師「ハーイ。ガンバリマース」
兵士長(本当に大丈夫か……?)
夜 中庭
姫「酷いだろ? 危うく初めてを奪われるところだったんだ」
狼「クゥーン」
姫「何かあったら、助けてくれ」ナデナデ
狼「ガウッ!!」
教師「……」
兵士長「よう。先生。夜の散歩は控えてください」
教師「……ゴメンなさい。星が綺麗ダッタので」
兵士長「拘束されても文句はいえねえぞ」
教師「分かってマス。前の仕事場もそんな感じデシたのデ」
兵士長「なら、いいけどよ」
教師「おやすみナサイ。オジサマ」
兵士長「おーぅ。お疲れ様、先生」
兵士長「……さてと」
兵士長「姫様ー。早く寝てくださいよぉー」
姫「もうちょっとだけいいだろ?」
狼「グルルル……」
兵士長「はい、どうどう。姫、ここ最近毎晩のようにこうしてるな。そろそろ噂の一つも流れるぜ?」
姫「噂って?」
兵士長「姫様は狼と話せるんじゃないかとかよ」
姫「それぐらいなら構わん!」
兵士長「……魔女なんじゃないか、とかもな」
姫「……」
兵士長「城の連中全員が姫様だと認めてるわけじゃねえ。それは分かるよな? あれだけのことをした女の娘だ。信用されてなくて当たり前なんだ」
姫「分かってる。でも、平気だぞ」
兵士長「ほう?」
姫「私には勇者様がついてるからなっ」
兵士長「ハハッ。それもそうだな。でも、その勇者様は今はいねえ。大人しくしているべきだ」
姫「そうだな。そうする。おやすみっ」
兵士長「おやすみなさい、姫様。――早く戻ってきてやれよ、勇者様。姫様が待ってるぞ」
辺境の村
勇者「――賊は倒しました。安心してください」
「おぉ……勇者さまぁ……」
「ありがとうございます……」
「勇者さまがこの村を救ってくださったぞ」
「神様じゃ、勇者様はこの村の神様じゃ……」
勇者「では、俺はこれで――」
「お待ちになってください、勇者さまぁ」
「そうです。もう少しゆっくりしていってください」
勇者「いや、こんなご年配の熟女しかない村に用は……」
「お礼をたーっぷりさせてくださいなぁ」
勇者「で、ですから……」
「そうじゃ、それがええ。勇者様にはもっとお礼をしなければ」
「ささ、こっちにきてくだせぇ」
勇者(はやくかえりてぇぇぇぇ!!!! 誰かたすけてくれぇぇぇぇ!!!! こんな潤いのない場所、いやだぁぁぁぁ!!!!)
城内 姫の自室
姫「ガルルル……!!」
教師「もういつにナッタらワタシのことを信じてクレるんデスカ? あの日ノことはミズに流してクダサイ」
姫「流すかどうか判断するのは私だ」
教師「そんな意地悪ナことイワナイで、プリンセスっ」
姫「いいからお前は少し離れた位置から勉強を教えろ」
教師「ハイハイ。ワカリマシタ」
姫「勇者様が戻ってきたら怒ってもらいますわよ!」
教師「……」
兵士『姫様!! ご勉学のところ申し訳ありません!! 隊長が至急来て欲しいと言っています!!』
姫「望むところだ。今すぐ行くっ」
教師「プリンセス。勉強はどうするノデスか?」
姫「中止だ。中止」
教師「仕方アリマセンね。でも、ワタシも同伴サセテくださいね」
姫「なんでだ?」
謁見の間
兵士長「すっぱぁー……。お、来ましたか」
姫「ここは禁煙だぞ。用件はなんだ?」
教師「ノンノン。プリンセス?」
姫「……用件はなんでございましょう?」
兵士長「姫様。実はこういう催しを勇者殿が考えてくれまして」
姫「んー? 教会でお遊戯会?」
兵士長「庶民の子どもと触れ合うのも、次期女王陛下としては有益なことではないと」
姫「あいつがこんなことを考えてくれてたのか? ホントに?」
兵士長「どうして疑うんですか? 勇者殿は姫様のことを第一に考えておられるのですよ」
姫「……まぁ、そうだろうな。私はあいつの嫁だし」
教師「プリンセスの存在はシークレットのハズでは?」
兵士長「勿論、姫様であることは秘密にした上だ。町の子どもはただ教会で遊ぶだけ。そこに見知らぬ女の子が混ざるだけの話さ。問題あるかい、先生?」
教師「アリマセンね。寧ろ、それはプリンセスにとってもプラスになるハズです」
姫「そうかぁ……。やっぱりあいつはいい奴だな」
兵士長「てことは、姫様も賛成ってことでよろしいですね?」
姫「大賛成だ。というか、あいつが考えてくれたんだろ? やらないわけには行かない。男からのプレゼントは素直に喜べ、だからな」
兵士長「そらぁ、よかった。それじゃ第一回目は3日後にあるんで、そのつもりで」
姫「わかりましたわ」
教師「第一回? ということは二回目も三回目も考えているワケデスね?」
兵士長「一応な」
姫「それは凄いな!」
兵士長「ただ、続けるかどうかは第一回目次第だな。姫様が楽しくなければ意味がないですし」
姫「安心しろ。責任をもってたのしんでやる」
兵士長「心強いお言葉、感謝しますよ」
姫「この日のための服とかいるな」
教師「ウフフフ。それはワタシのオシゴト、デスネー?」
姫「な……!?」
教師「プリティーでキュートでエロティックなプリンセスにしてアゲますね? ウフフフフ……」
兵士長「エロティックは余計だぜ、先生?」
夜 中庭
姫(よーし。今日も報告を……)
「隊長。私は反対です」
「そういうなって。我らが勇者様のご提案なんだぜ?」
姫(なんだ……?)
兵士「もう少し様子を見るべきです。本当にあの魔女の娘が安全なのかどうかを見極めてからでも遅くはないはず」
兵士長「俺ぁ、何も問題ねえと思ってるけど?」
兵士「これは私個人だけではなく、複数名が感じていることです」
兵士長「わぁーってるよ」
兵士「それに万が一、あの魔女の娘だと分かれば本当に国が終わってしまう。ただでさえ、最近は治安が悪化の一途を辿っているというのに」
兵士長「だから俺たちや勇者自らが一つ一つ解決していってんだろ」
兵士「わかっていますが……」
兵士長「ほら、巡回の時間だろ。行け」
兵士「はっ」
姫「……」
翌日 城内 中庭
兵士「お! 勇者殿!!」
勇者「うぃーっす……」
兵士「予定よりも1日ほど戻られるのが遅かったですね」
勇者「色々あったんすよぉ。若さを吸われた気がするっすぅ」
兵士「はぁ……。今回も大変苦労されたのですね」
教師「アラ、勇者サマ。今、戻ってキタのデスか?」
勇者「おっ!! いや、貴方はもう俺の中では過去の女……。さよなら、マダム」
教師「今日の夜、一緒に食事でもどうデスカ?」
勇者「喜んで」キリッ
教師「嬉しいデス。ウフフフ」
勇者「では、いい店を予約しておきましょう」
教師「ええ、エスコートをお願いシマスね」
勇者「了解」
勇者(キター!! やっぱり俺の魅力は初日じゃ伝わらないんだな!!! 会えない期間こそ本物の愛を育むというものだ!!! フハーハハハハ!!!!)
通路
勇者「さーて、どの店にするか。知ってはいるけど行ったことのない店が多いんだよな」
姫「わぁぁー」テテテッ
勇者「よう。元気だったか?」
姫「あい。お前は?」
勇者「疲れたね。あー。とっても疲れた。賊に襲われているからって行ったものの、やっぱ田舎の村だ。若い女がいやしねえ」
姫「私ぐらい若い女はそうはいないからな」
勇者「お前は若すぎ。もう生気を奪われそうなご老体ばっかりでさぁ、気が滅入った滅入った」
姫「私が元気を分けてやってもいいぞ」ギュッ
勇者「でも、世の中はそこまで腐っていなかった。神は遂に俺に祝福の鐘を鳴らしてくれたようだ」
姫「結婚か?」
勇者「それはまだ早い。でも、そうなるかもな」
姫「おぉぉ!! だな! あのブーケ、使おうな!」
勇者「いいのか? なら遠慮なく使わせてもらうぜ。ナハハハハハ」
姫「もちろんですわー」
勇者「お前にしては景気のいい答えだな」ナデナデ
姫「えへへ」
兵士長「おーおー。戻って早々あっまい香り漂わしやがって。見てるこっちが恥ずかしくなる」
勇者「先輩。うーっす」
姫「うーっす」
兵士長「姫様。これから教会に行くんですから、そういう言葉遣いは控えてくださいよ」
姫「ふふーん。大丈夫ですわ。外面ぐらいはなんとかなりますわ」
兵士長「不安でしかたねえよ」
勇者「今日なんすか?」
兵士長「おう。お前も来るか?」
勇者「そうだなぁ……」
姫「お前は来なくていいぞ」
勇者「あぁん? なんだとぉ?」
姫「行きたくないって顔してる。そんな顔で来て欲しくないな」
勇者「言うじゃねえか。けーっ。頼まれたっていってやるかよぉ。誰がガキのお遊びに付き合うかってんだ」
姫「私はこれから着替えなきゃいけないんだ。またなっ」
勇者「さっさと行ってこい、腐れビッチが」
姫「ふんふふーん」
勇者「なんだよ。ちょっと見ない間に傲慢女みてーになってないっすか?」
兵士長「女は傲慢ぐらいが丁度いいんだよ。男を振舞わせない女になんの魅力があるんだ?」
勇者「先輩も嫁さんに振り回されてるっすか?」
兵士長「俺は結婚したときから尻に敷かれっぱなしだよ」
勇者「情けないっすねぇ」
兵士長「てめぇも気をつけねえといつかはそうなる。油断すんなよ」
勇者「まぁ、でも、あのお尻に敷かれるのは悪くないっすけどねぇ……ドゥフフフフ……」
兵士長「俺の嫁でおかしな想像はするなっつの」
勇者「ざーんねん。先輩の嫁さんじゃないっす。先生っすよ。先生」
兵士長「……なに? なんか約束でも取り付けたのか?」
勇者「今晩、デートに誘われちゃって。いやぁー。やっぱり、顔がよくて勇者っすからね、俺。いい女は黙ってないっすわ」
兵士長「ふぅーん……。あの先生がね……」
勇者「それじゃ、俺はこれから店とホテルの予約しなきゃいけないんで!!」
兵士長「ちょいまち」
勇者「んもー!? なんすかぁー!?」
兵士長「これに目を通しておけ」
勇者「……いやっす!」
兵士長「仕方ねえだろ。似たような陳情が大量に届いてるんだ。お前にも働いてもらわなきゃ手がまわりきらねえんだよ」
勇者「でもぉ……俺、今帰ってきたばっかりっすよ? しかも地獄だったんすから……」
兵士長「もう暫くは我慢してくれよ」
勇者「次はどこっすか……?」
兵士長「国境付近の町だな」
勇者「はぁー!? どこまで行かせる気っすかぁ!?」
兵士長「国境付近はいいぞー? いい女も出入りしてるからな」
勇者「……先生みたいな?」
兵士長「行くか?」
勇者「行くっ」
中庭
勇者(また同じだな。これも要するに盗賊だが夜盗に襲われているから助けてくださいってことだし……)
勇者(魔女の一件で治安が不安定になってるからってもいっても流石に多すぎる。俺のナンパの邪魔すんじゃねえよ、畜生共め)
狼「ガウッ」
勇者「うぃーっす。どうした、狼畜生。腹でも減ったかぁ?」
狼「ガウッ!!」
勇者「ほら。腐ったパンでも食ってろ」ポイッ
狼「ガウッ!!」パクッ
勇者「随分、犬っぽくなってきたな。野生の欠片もねえじゃん」
狼「……」タタタッ
勇者「腹壊して、死ね」
姫「おい。変なものを食べさせるなよ」
勇者「んー? あれ食って死ぬようなら俺がパン屋に文句言ってくる。――姫様はもう行かれるのですか?」
姫「はい。行ってきますわ」
勇者「お気をつけて。お土産よろしくおねがいしまぁーっす」
教会
兵士「では、姫様。私は外で待っていますので」
姫「う、うむ。くるしゅうないぞ」
兵士「はっ」
姫(少し、キンチョーするな)
姫「――えーい、ままよ!」バンッ!!
シスター「あ、姫様」
神父「どうも。姫様」
姫「……お前たちだけですか?」
シスター「はい。まだ誰も来ていないので」
神父「さ、こちらに座ってお待ちください」
姫「分かった」
シスター「まだ時間までは少しありますから」
姫「そうですわね。では、またせてもらいますわ」
シスター「何か飲み物でも如何ですか?」
神父「これはこちらに置いておきましょうか」
シスター「ええ。そうですね」
姫「……」
神父「あとは……」
シスター「手を拭くものも必要ですね。持ってきます」
姫「なぁ?」
神父「どうされましたか?」
姫「……いや、なんでもない」
神父「よくありませんよ?」
姫「え?」
神父「吐き出そうとする言葉は自分にとっては毒と同じ。それを飲み込もうとすることは体によくありません」
姫「そうなのか……」
神父「言ってみてください。私で力になれることがあればなんでもいたします」
姫「うー……。ホントに来るのか? このまま私一人ってことはないか?」
神父「心配はいりません。必ず来られますよ」
シスター「神父様、来ましたよ」
神父「ほら、噂をすればですね」
姫「おぉぉ……?」
少年「こんちわー!!」
母親「ほら、ご挨拶して」
少女「こんにちは」
シスター「はい。こんにちは。今日は来てくれてありがとうございます」
母親「いえ。神父様にはいつもお世話になっていますから」
姫「き、きたか……!!」
神父「みなさん。ようこそ。ご足労いただき感謝していますよ」
姫「……」
少年「あれ、見たことない子がいる」
姫「おっ」ビクッ
少女「だぁれ?」
姫「わ、私は……その……村はずれにすんでいる、ものですわ……」
少年「へー。こんなところまでわざわざ来たのか?」
姫「文句でもございまして?」
少年「そんなこと言ってないけど」
少女「よろしくね」
姫「よ、よろしく……ですわ……」
少女「あはは。変な喋り方ー」
姫「変か? 先生が変だから仕方ないんですわ。すまんですわ」
少女「あははは。おもしろいね」
母親「神父様、あの女の子は?」
神父「実は孤児なんです……」
母親「なるほど」
シスター「では、まずはお菓子でもどーぞ。あとから来る人もいるはずだから全部取らないようにしてください」
少年「やっりぃ。これが目当てだったんだよ」
少女「はい、どうぞ」
姫「あ、ありがとうございますわ」
夕方 城門
勇者「まっててねーん。せんせいさぁ~ん!!」
兵士長「……よぉ」
勇者「あ、先輩。うぃーっす」
兵士長「今からデェトか?」
勇者「うっす。ちょっと、キマりすぎてません、このタキシード」キリッ
兵士長「蝶ネクタイが曲がってんぞ」
勇者「うっそ!? マジっすかぁ!? どれどれ?」
兵士長「そろそろ姫様が帰ってくる頃だが、待っててやんねえのか?」
勇者「今日は先輩に任せるっすよ。それじゃ」
兵士長「ふぅー……。あんなに女を見る目がねえ男も珍しいなぁ」
兵士「隊長!! ただいま戻りました!!」
兵士長「おう。ご苦労さん」
姫「……」
兵士長「姫様もおかえりなさい。どうでしたか?」
通路
兵士長「姫様? 何かあったんですか?」
姫「……」
兵士長「(おい、どうしたんだよ?)」
兵士「(分かりません。教会から出てきたらあの調子で)」
兵士長「姫様、何かお気に触るようなことでもあったんですか?」
兵士「それはないはず――
姫「……あった」
兵士「え!?」
兵士長「そらぁ、大変だぁ。どこのクソガキですか? 処刑してきますよ」
兵士「た、隊長!! 冗談でもそのような発言はしないでください!!」
兵士長「ハッハッハッハ」
姫「――遊ぶ時間、短いぞ!!!」
兵士長「へぇ?」
姫「もっと増やせ!!! やっとかくれんぼのコツを掴んだところで終わりなんて嫌だ!! 次はもっと長くしろ!! できればでいいけどな!!」
兵士「姫様……」
姫「ダメか!?」
兵士長「ハッハッハッハ。一考しときます」
姫「頼むぞ!」
兵士長「仰せのままに」
兵士「ふぅ……。びっくりした」
姫「で、あいつはどうした? 部屋で寝てるのか?」
兵士長「いやぁ、遊びにいってますよ」
姫「そうか。なら、私は部屋に戻るか」
兵士長「ゆっくり休んでください」
姫「あいっ」
兵士「楽しそうでしたね」
兵士長「やっぱり同年代と話してるほうが楽しいだろ」
兵士「言えていますね。では、自分は通常任務に戻ります」
兵士長「助かったぜ。また頼むかもしれねえけど、そのときはよろしくな」
レストラン
勇者『ふっ。君の美しさに完敗。乾杯じゃなくて負けるほうの完敗ですよ?』
教師『ウフフフ。面白い人デスね』
勇者『貴方を楽しませるために、俺は生まれてきたのですから』
教師『ヤダ……』
勇者『……好きだ。結婚してくれ』ギュッ
教師『ダイテっ!!』
勇者「――完璧だな。これで落ちない女はいないと恋愛マニュアルにも書いていた。いけるぞ……」
教師「ハーイ。オマタセしましたか?」
勇者「いえ。今来たところですから。それに貴方のことなら何時間でも、いえ何日でも待ちますよ」
教師「教科書通りに喋ってたのしいデスか?」
勇者「え?」
教師「乾杯するときに、君の美しさに完敗。乾杯じゃなくて負けるほうの完敗ですよ?なんて言いまセンヨね?」
勇者「ま、まさかぁ!! そんなセンスのないこと言うわけないじゃないですかぁ!! やだなぁー」
教師「それはヨカッタです。では、乾杯シマショウか。勇者サマ」
勇者「あぁ……。か、乾杯」
教師「ハイ。乾杯デス」
勇者「……」
教師「ふぅー。美味しいデスねー?」
勇者「そ、そうですね……」
勇者(何故だ……!! 何故、こっちの手札が全て筒抜けなんだ!? まさか、心が読める人なのか……!?)
教師「お肉だーい好きデース! はむっ! デリシャスぅ!」
勇者(ま、めちゃくちゃ美人だし、可愛いし、どうでもいいけどなぁ。このあとが大事なんだ。ホテルの部屋にいって……)
教師「勇者サマ?」
勇者「は、はい。なんでしょう?」
教師「……教え子のことで訊きたいことがあるのデスけど」
勇者「はぁ……?」
教師「あの子、何者なんデス?」
勇者「何者って、もう何日も一緒にいるんですからわかるでしょう?」
教師「城の中庭で狼と話しているのは知っていますケド、それ以外のことがさっぱりなんデス。教えてクダサイ。ね?」
勇者「……教えてもいいですけど、その代わり条件があります」
教師「ナンデスカ?」
勇者「このあとホテルに行きませんか?」
教師「それだけでイイのデスか?」
勇者「それだけって!? 分かっているんですか!? うら若き男と女がダブルベッドのある一室に入る!! そしてやることと言えば……!!!」
教師「ワタシも大人デス。わかって、い、ま、すデス」
勇者「ま、マジっすかぁ?」
教師「ハイ。モチロン」
勇者「――で、どんなことを知りたいんですか?」キリッ
教師「出生から話してくれると嬉しいデス」
勇者「そりゃ、愛し合った男女が生命の誕生に関わる作業を行ったからでしょう」
教師「ソウデスね。では、その男女トハ?」
勇者「それは……」
教師「ここで言いにくいのなら、ホテルでお話しても、イイデスよ?」
勇者「――わかりました。行きましょうか」キリリッ
ホテル スウィートルーム
教師「素敵な部屋デスねー」
勇者「夜景が綺麗でしょう?」
教師「ウフフフ。そうですね」
勇者「でも――」
教師「ワタシのほうが何倍も綺麗デスか? それはどうも」
勇者「うぐ……」
教師「では、聞かせてクダサイ。プリンセスのことを」
勇者「いや、その前に……」
教師「お風呂は話をきいてから――」
勇者「いや。そんなのどうでもいいですよ」
教師「ハイ?」
勇者「……」ガバッ
教師「な、なにを……!? お、犯すつもり!?」
勇者「姫のこと調べてなにするつもりだ、アンタ?」
教師「な……」
勇者「俺は一度魔女に騙された男だ。もう同じ轍は踏まないって心に誓ってる。童貞の経験値なめんなよ?」
教師「フフフ。素直に教えてくれたら、幾らでも抱かせてあげるのに」
勇者「先に抱かせろ」
教師「モテない男はすぐにがっつくから嫌いなのよ」
勇者「んだとぉ? やっぱり俺のことを利用しようとしてたのか?」
教師「そうよ」
勇者「はっきり言うんだな……。1%だけ期待してた俺がバカみたい……」
教師「プリンセスのことを聞きたかったの」
勇者「だから、それはなんでだ」
教師「秘密を知りたくなる性分なの。その秘密が大きければ大きいほど、私は好き」
勇者「国を揺るがすような秘密とか?」
教師「そうそう。大好物」
勇者「教育係クビになりたいのか?」
教師「あら、私をクビにするの? もしかしたら、ワタシと結婚できるカモしれないのにデスか?」スリスリ
勇者「騙されないっていってんだろ!! 俺はそれで痛い目にあってんだ!!」
教師「酷い女も居たのね。ワタシは違いますヨ」
勇者「今、言っただろう。俺を利用しようとしたってなぁ!!」
教師「勇者サマ。もう少し考えて見てクダサイ。何故、ワタシがこんな秘密を簡単に喋ったノカ」
勇者「え? なんで?」
教師「貴方と本気デ結婚したい、カ、ラ、デスっ」
勇者「……真面目に?」
教師「真面目に」
勇者「でも、チェリー坊やはお断りとか言ってたじゃないか」
教師「勇者サマは別デス。出会ったときはこんなにステキな人だとは思わなかっただけデス。ごめんなさい」
勇者「ま、まぁ、他人の良さは一見するだけじゃ分からないですからね」
教師「ソウデショウ? ワタシのこと、信じてくれマスか?」ギュッ
勇者「んほぉ。胸が……あたって……ますけどぉ……?」
教師「わざと、デスっ」ギュゥゥ
勇者「そ、そんな、はしたない……でも……しかし……あなたの好意を無碍にするわけにもいかないというか……その……ええ……いいですね」
教師「では、プリンセスの秘密をコッソリ教えてクダサイ」
勇者「待ってくれ」
教師「まだナニカ?」
勇者「約束してほしいことがあります」
教師「約束、デスか? 結婚だけじゃ満足できないんデスか?」
勇者「結婚したらぁ……そのぉ……あのぉ……ごはんとか作ってほしいんですけどぉ……」モジモジ
教師「イイですよ。毎朝、毎晩つくりマスっ」
勇者「そ、それとぉ……えっとぉ……毎朝、行ってきますのキスもいいっすかぁ……?」
教師「ハイ。ヨロこんデ」
勇者「あとぉ……そのぉ……あのぉ、夜の営み的なのも……毎日……とかぁ……ダメっすか?」
教師「ハイハイ。ワカリマシタ」
勇者「おぉ! そ、それとですねぇ……えっとぉ……」
教師「チッ」
勇者「あ、何か聞こえたような」
教師「いえ、何でもないデスよ。イイカラさっさと話してくだサイ」
城内 中庭
姫「今日、友達ができたんだ。初めての友達だ。お菓子とか分け合ったんだ。あとな、かくれんぼもしたんだ!」
狼「ガウッ」
姫「たのしかったぞー。お前も今度一緒に――」
狼「ガルルル……!!!」
姫「どうした? 嫌か?」
兵士長「姫様。こいつを教会に連れていくことはできませんよ」
姫「お前、いつの間に!?」
兵士長「流石に犬っていうには無理がありますからね」
姫「そんなのは……わかってる……。言ってみただけだろ」
兵士長「なら、いいんですけどね」
姫「部屋に戻ればいいんだろ。おやすみ」
兵士長「おやすみなさい。姫様」
狼「グルルルル……!!!」
兵士長「わりぃな。上手くいきかけてんだ。失敗したくはねえんだよ。姫様のためにもな」
ホテル スウィートルーム
勇者「それから子どもは4人欲しいな。女男男女、みたいな感じで」
教師「……」ウトウト
勇者「庭付きの家に犬とか飼うのもいいですよね」
教師(この男……どうしてモテないのか……わかった……)
勇者「庭を駆ける大型犬を眺めならば寄りそう夫婦なんてのもいいですよねぇ」
教師「うっ……うぅ……」
勇者「猫も欲しいですよね」
教師(メ……モ……を……)
勇者「俺、貴方と結婚したら勇者はやめて警備兵に志願します。それなら泊り込みの警備が週に何回かあるぐらいですし、一緒にいる時間も得られますからね」
教師「……」
勇者「あ、あとコーヒーはブラックしか飲まないんで、よろしくお願いします」
教師「すぅ……すぅ……」
勇者「寝てる……。グェッヘッヘッヘ……。男の前で寝るなんてなんて無防備な。これはもう俺に体を許しているってことでいいですね? いいっすよねぇ?」
教師「うぅーん……すぅ……すぅ……」
酒場
兵士長「おかわり」
バニー「はぁーい。マスター、生追加でーす」
兵士長「ふぃー……」
バニー「今日はお1人なんですね」
兵士長「いや、まぁ、待ち合わせみたいなもんだ」
バニー「どういうことですか?」
兵士長「時間的にそろそろ来ると思うんだけどなぁ」
バニー「あ、来ましたよ」
兵士長「ん? おぉ。きたかぁ」
勇者「……なんでいるんすか?」
兵士長「いや、お前も来るかなって思ってよ。何飲む?」
勇者「……」
兵士長「奢りだ。飲め」
勇者「ビールだぁ!! ビールもってこーい!!」
兵士長「すっ……ぱぁー……。そうか。先生が先に寝ちまったのか」
勇者「でも、今回はフラれてないっすからね。ただ先生が先に寝ちゃっただけっすから。問題なしっす」
兵士長「だったら、なんで今日ここに来たんだよ? 成功ならそのまま先生と寝とけばよかっただろ」
勇者「いいじゃないっすか」
兵士長「ハハッ。あれか? 寝ている女性の傍では眠れないってか? そうだなぁ、気になって寝てられないよなぁ」
勇者「……紳士的な自分が憎い」
兵士長「お前らしいな。それはそうと二日後、行ってくれるか?」
勇者「早くないっすか?」
兵士長「被害が広がる一方なんだよ。できる限り迅速に対応しておきたいしな」
勇者「国民のためっすか? へんっ。クソ食らえってんだ。何が嬉しくて幸せな家庭をもってるやつや恋人のいるやつを守らなきゃいけないんすかねぇ」
兵士長「いいのか? 先生の命も危うくなるし、国境近くの美人だって悪い奴に攫われて売られちまうかもしれねえ」
勇者「それは困るっすね。尽力するっす」
兵士長「あと、姫様のことだけど、大成功だ。とても嬉しそうにしてたぜ」
勇者「ふぅーん。それは良かったっすね」
兵士長「まったくだ」
城下町
兵士長「今日と明日はゆっくり休めよ」
勇者「うぃーっす。ゴチでーす」
兵士長「おーぅ」
勇者「……先輩!!」
兵士長「どしたぁ?」
勇者「あの先生には、気をつけてください」
兵士長「なんかあるのか?」
勇者「姫のこと調べてるみたいっすから」
兵士長「……それ喋っていいのか? お前、先生にフラれるんじゃねえのか?」
勇者「先輩に言わないわけにはいかないっすから」
兵士長「分かった。一応、俺たちだけの秘密にしとく」
勇者「穏便に!! 穏便にお願いします!! あの人、俺にぞっこんなんすよ!! マジで!!!」
兵士長「了解、了解」
勇者「おねがいしまっす!!! ホント!! あんな美人、もう出会えないかもしれないんで!!! 優しくしてあげて!!!」
翌日 城内 通路
教師(昨日は不覚だったわ……。まさか、先に寝てしまうなんて……。それもこれもあの男が無駄話を数時間もするから……)
教師(朝起きればいなかったし、もし私のことを誰かに喋られていたら、次の作戦を実行するしかないわね。まぁ、あの様子なら誰に伝えるようなことはなさそうだけど)
兵士長「先生。おはようございます」
教師「ハイ。オハヨウございます、オジサマ」
兵士長「今日も姫様のことよろしくお願いしますね」
教師「任せてクダサイ」
兵士長「それじゃ」
教師「ハーイ」
教師「……」
勇者「せんせぇーい!!」
教師「アラ、勇者サマ。昨晩はどうしたのデスか?」
勇者「先に寝てしまった――」
教師「女性には手を出してはいけない。まぁ、当たり前のことデスけどね。それでは、急ぎマスから」
勇者「あ、はい。いや、ちょっと待ってください!!」
姫「あいつ、いないな。今日は暇のはずだけど……」
勇者「結婚の話ですよ!!」
姫「お!? 結婚!? ――わぁぁー」テテテッ
勇者「してくれるんすよね!?」
教師「しますヨ。モチロン、デス」
勇者「よかったぁ」
教師「デスから、あの話は……いずれ……」
勇者「モチロン」
姫「……」
勇者「おぉ。姫様、元気か?」
姫「結婚、そいつとするのか?」
勇者「そうなんだよ。祝ってくれ」
教師「もう勇者サマったら気が早いんデスからぁ」
姫「そうか……。嬉しそうだな」
勇者「まぁね」
姫「……」
勇者「それじゃ、俺は色々忙しいんで」
教師「そうデスか。では、また」
勇者「はい。またデートしましょうねー」
教師「行きましょうカ、プリンセス?」
姫「……」
教師「プリンセス?」
勇者「なんだよ? 俺の顔になんかついてる?」
姫「私、好きな人がいる」
勇者「え? マジ?」
教師「ホントデスかー?」
姫「この前、教会で一緒に遊んだ男だ。どうだ。焦るだろ?」
勇者「ふぅーん。おめでとう」
姫「ふんっ!!!」ドガッ!!!!
勇者「いてぇー!!! なにすんだぁ!!! いつもみたいに噛みつけよなぁ!!!」
姫の自室
教師「えーと、500年代にはぁ……」
姫「はぁ……」
教師「プリンセス、聞いてマスか?」
姫「お前、いつまでここにいるつもりだ。早く出て行け」
教師「どうしてそんなに怒ってらっしゃるのデスかぁ?」
姫「うるさい!! さっさと続けろ!!!」
教師「オーケー。オーケー」
姫「ガルルルル……!!!」
教師(本格的に嫌われちゃったわね……。別に好かれようとも思ってないけど)
姫「くそっ……。ああいえば、惚れている男は嫉妬するんじゃないのか……」
教師「……プリンセスぅ? もしかして、さっきのは勇者サマの気を引こうとしたのデスか?」
姫「文句あるのか?」
教師「ナルホドー。プリンセスは勇者サマのこと、一人の男性としてみていたわけですか。だから、あんな使えない恋愛マニュアルを熟読されていたと」
姫「なんだ!? 私があいつのこと好きなのが気に入らないのか!? おーし、こい!! 全面対決だ!! 嫁と姑のバトルだぁー!!」
教師「誰が姑ですか?」グニーッ
姫「おふぁえふぁー!!」
教師(あんなバカな男を利用するよりは、こっちのガキを使ったほうがいいかもしれないわね)
姫「やるかぁ!! 私だって強いんだぞ!! がおー」
教師「プリンセス、ではこうしませんか?」
姫「あぁん?」
教師「勇者サマを落とす魔法を教えてあげます」
姫「いや! あいつは私に惚れてるぞ!! 間違いなくな!! でも、今以上に私に惚れるのか?」
教師「はい。勿論です。でも、教えるかわりに……」
姫「かわりに……?」
教師「貴方のパパとママを教えてください」
姫「なんでだ?」
教師「ウフフフ。別に悪いことをしようなんて一つも考えてませんから、安心してください。それに私が知りたがっていることは勇者サマも知っていることですから。ね?」
姫「でも、言いたくない……」
教師「まぁまぁ。それを言ってくれるだけで勇者サマは姫様から離れたくなーいってことになりますよ?」
中庭
勇者「おーい。でてこーい」
狼「ガウッ!!」
勇者「ほらよ」
狼「ガウッ」パクッ
勇者(先生かぁ……。どうにも見てると魔女のこと思い出すなぁ……。やっぱり俺、騙されてるよなぁ……)
勇者「でも、結婚できる可能性があるなら……騙されていてもいいや……」
戦士「みーつけた」
勇者「げっ……!?」
戦士「んもう、全然あたしとデートしてくれないじゃない。ひどいわぁ」
勇者「俺はまた遠征があるんす。準備に追われてるんで、また今度!!」
戦士「また今度ばっかりじゃない!! もうしんぼうたまらん!!!」
勇者「やめてくれー!!」
戦士「おうじょうせいやぁ!!」
勇者「きゃぁぁ!! 誰か助けてぇぇぇ!!!」
資料室
兵士長「これか」
兵士「はい。しかし、隊長。あの教育係のことは既に調べ上げていますが?」
兵士長「んなことぁ、俺が1番わかってる。おかしな奴を姫様につけるわけにはいかないからな」
兵士「では、何故今更……」
兵士長「まぁまぁ、いいから。お前は立哨でもしてろ」
兵士「は、はい。申し訳ありませんでした」
兵士長「……」ゴソゴソ
兵士「隊長。資料室は禁煙です」
兵士長「すまんな。……さてと」
兵士長(先生のことはよぉーく調べたはずだった。生まれ、家族、経歴、人柄……。全てをクリアにしたからこそ、雇ったわけだしな)
兵士長(だが、考えてみれば一つだけ調べてなかったことがあった。調べる必要がなかったといってもいいが)
兵士長(どうして隣国で王族の教育係をしていながら、辞めちまったのか)
兵士長(資料には任期満了のためとあるが、優秀なら普通は再契約の交渉をするだろうし、名誉ある職から降りる理由なんて中々ないはずだ。わけぇしな)
兵士長(何か問題があったのか、それとも隣国で教育係をやる意味がなくなったか。いずれにしても訊いておくべきか、元の雇い主に勤務態度のほどを……)
夜 中庭
姫「どうしたらいいと思う?」
狼「クゥーン……」
姫「どうしたらいいんだろうな。あいつは私に惚れてるのは間違いないけど、ナンパとか行くからなぁ。もっと私に惚れさせたほうがいいのは分かるけど……」
勇者「なんの話だ?」
姫「……お前には関係ない」
狼「ガウッ!」ペロペロ
勇者「くっせぇ舌で舐めるんじゃねえよ。しっしっ」
狼「ガウー」
姫「何か用か?」
勇者「また遠征だ。今度はかなり遠い場所まで行ってくるから、戻ってくるのはいつになるかわからない」
姫「ふぅーん。そうか。大変だな」
勇者「そうなんだよ。大変なんだよ。お前がしっかりした女王になればもう少しマシになるはずなんだけどなぁ」
姫「鞭で叩いてやろうか?」
勇者「お前じゃ似合わねえよ。……って、それ恋愛マニュアルの後ろに書いてあるやつだろ。姫様がやるには10年、いや15年は早いな」
姫「でも、あれ嘘ばっかりらしいな」
勇者「どこ情報だよ?」
姫「あの変人が言ってたぞ。あれに書いてあることを実践しても成功はしないって」
勇者「そうかぁ。あの先生はあの秘伝の書を読んだことがあったのか。だから俺の戦略、戦術もお見通しだったんだな。失敗したぜ」
勇者「本なんだし他に見ている人がいてもおかしくないよなぁ。こりゃ、新しいのを買うか。まぁ、あれも3年前に買ったやつだけど」
姫「なんだ古い方法なのか。だったら上手くいかなくて当然だな。おい、新しいの買ってこい」
勇者「なんだとぉ? なんでてめぇが必要なんだよ。ああ、そうか。この前のお遊戯会でステキな王子様を見つけたとか言ってたな。そのためか?」
姫「まぁ、そんなところだ」
勇者「わかった、わかった。お前の分も買ってきてやるよ。任せろ」
姫「頼むぞ。よし、そろそろ寝るか」
勇者「そうか。もっと話していかないのか?」
姫「うん。もういい。おやすみなさい、勇者様」
勇者「おう、姫様も夜更かしはしないように。ナイスバディな女王になれませんよ」
姫「……がんばれよ」
勇者「当然よ。今回の俺は一味違うぜ? 何せ婚約者がいるからなっ。フフフハハハハハ」
姫「……」
勇者「なんだよ? はやくいけ」
姫「その婚約者って……」
勇者「先生のことに決まってるだろ? 他に誰がいるよ」
姫「むぅ……!! バーカッ!! アホーっ!! まーぬーけー!!」
勇者「な!?」
姫「お前なんて途中でこけて頭打って苦しめ!!」
勇者「てめぇ!? なんだそのいいぐさぁ!!!」
姫「わぁぁー」テテテッ
勇者「あんにゃろぉ……」
狼「グルルル……!!」
勇者「あ? なに唸ってんだ、狼畜生め」
狼「ガァァァァウ!!!!!」
勇者「あ!? おまえが噛み付いたらマズい!!」
狼「ガァァウ!!!」ガブッ!!!!
翌朝 城門
門兵「勇者殿。その傷は……?」
勇者「名誉の負傷です」
門兵「そ、そうですか。道中、お気をつけて」
勇者「うぃーっす」
兵士長「待ってくれ!!」
勇者「先輩。どうしたっすか?」
兵士長「これ、持っていってくれねえか?」
勇者「ラブレターっすか?」
兵士長「似たようなもんだ。国境になら隣国の兵士も立ってるだろうしな」
勇者「まさか、国境まで行けっていうんすか!?」
兵士長「頼む。大事なことだからよ」
勇者「……」
兵士長「怖い顔すんな。また奢ってやっから」
勇者「約束っすよ!! では、行ってきます!!!」
姫「あいつ、行ったのか?」
兵士長「ええ。今し方」
姫「そうか……」
兵士長「そうだ、姫様。例のお遊戯会ですけど、第二回、第三回は決定しましたから」
姫「ホントかぁ!?」
兵士長「第二回の予定は四日後。第三回はまだ未定ですけど、まぁ近いうちにはやるでしょう」
姫「そうか! ありがとな!」
兵士長「ハハッ、もったないお言葉です」
姫「たのしみだ!」
兵士長「ま、お勉強のほうはしっかりやってもらいますけどね」
姫「分かってる!!」
教師「プリンセス、ここにいたのデスか。探しましたよ」
姫「……別に私は逃げない。今から行く」
教師「オーケー。ハジメましょうネ」
兵士長「……」
通路
戦士「あーん。また勇者様、一人で任務に行っちゃうなんて……。あたし、どうして避けられてるのかしらぁ? こんなに愛してるのに」
兵士長「愛し方が間違ってるからじゃねえか?」
戦士「なによ! この方法しか知らないんだから、仕方ないでしょ!」
兵士長「お前はもう少し女がどんな生き物なのか学んだほうがいいかもな」
戦士「十分、女なんですけどぉー?」
兵士長「ほらよ。丁度いい仕事がある」
戦士「なにこれ?」
兵士長「声を出さずに読め」
戦士「……なんであたしに?」
兵士長「傭兵は自由に動ける。何時どこに居ても怪しまれない。だからだ」
戦士「まぁ、いいけど。何かあるわけ?」
兵士長「それを調べるのが、お前さんの仕事だ」
戦士「りょーかい。仕事ならやるわ。しっかりとね」
兵士長「報酬は弾んでやるから安心しな」
姫の自室
姫「とけたー」
教師「採点シマスねー」
姫「ど、どうだ?」
教師「んー。ザンネン」
姫「なに!? どこを間違えた!?」
教師「パーフェクト、100点デス」
姫「紛らわしいことするな!!」
教師「ウフフフ。テストの点数はいいデスけど、もう一つの答えはどうでしょうか?」
姫「親のことは言わないぞ」
教師「どうしてですかぁ? ここに勇者サマを落とす100の方法がアリますよー。欲しくないんデスかー?」
姫「うっ……。だ、だって、あいつは私のことが好きなんだ。そんなものに頼らなくてもいい!!」
教師「プリンセス、それは違いマスね。勇者サマは私との結婚を望んでいる状態デスよ?」
姫「ぐっ……。そ、それは、気の迷いとかいうやつで……」
教師「勇者サマがプリンセスを好きなんじゃなくて、プリンセスが勇者サマのことを好きなだけ、デス」
姫「違うっていってるだろー!!」
教師「プリンセスだって気が付いているのでしょう?」
姫「何がだ!?」
教師「ただの片思いであることは」
姫「そ、れは……」
教師「だって、恋愛マニュアルを熟読されているのですから、それぐらいはワカリマスよね?」
姫「あいつは私のことを好きっていってくれたことがある!!!」
教師「ウフフフフ。愛情と好意は似て非なるもの。それも恋愛マニュアルには書いていたハズデスけどね」
姫「これは嘘しか書いてないんだろ!?」
教師「相手を落とすテクニックはそうですね。まず成功はしない。けれど、その他に関しては信じてもいいデスよ」
姫「なにぃ……」
教師「さぁ、プリンセス。貴方は自分の体でワタシのテクがどんなものか既に経験したのデスから、どれだけ使えるかも分かるでしょう?」
姫「……」
教師「この機を逃せば、勇者サマは貴方の傍から去ってしまいますよ?」
姫「あいつが……いなくなるのは……いやだ……」
国境付近 町
勇者「あぁー……やっと、ついたぁ……」
勇者(今回の任務が終わったら、一週間ぐらいは休みもらうぞ!! で、先生とイチャイチャでウフフなことをしてやるんだ!! 体と心がふやけるまでなぁ!!!)
勇者「にょほほほ。想像しただけで、元気になってきた。さぁー!! 行くぞぉ、おらぁ!!」
勇者「……あ、すみません」
衛兵「はい? なんでしょうか?」
勇者「俺、こういう者なんですけど」
衛兵「勇者様!? まさかこの町を救いにきてくれたのですか?」
勇者「助けてほしいって手紙送ってきたでしょう」
衛兵「は、はぁ……。確かにどこからか来た賊が暴れ、略奪や誘拐、果ては殺人まで繰り返していまして……」
勇者(ここも他の村と同じだな。どこの賊だよ。広域で活動でもしてんのか)
衛兵「数も多く、厄介なために我々だけではどうすることもできず、助けを求めた次第です」
勇者「わかりました。詳しい話はどこかでゆっくりと聞きます」
衛兵「あ、いえ、その賊はもう居ません。隣国の騎士団が討伐してくれまして」
勇者「隣国の騎士団?」
駐在所
兵長「勇者殿! このような僻地にまで足を運んでいただき申し訳ありません!!」
勇者「で?」ホジホジ
兵長「は、はっ! 三日前になります。いつものように賊が町を荒らしに来たのですが――」
勇者「そんなことはどうでもいいんで。騎士団のことだけ教えてもらえません?」
兵長「はっ!!」
「(勇者様、態度悪くないか? 鼻ほじってるぞ……)」
「(ここまで三日かけて着てくれたのに、もう解決してるなんて知ったからじゃないか? きっと我々を救おうと駆けつけてくれたんだよ)」
勇者(この町で活躍できねーと美女にカッコイイアピールできねえじゃねえか。マジ糞だな、その騎士団。ぶっつぶしてやろうか)ホジホジ
兵長「偶々、騎士団一行は国境付近まで遠征中だったらしく、賊の噂はそのときに耳にしたと聞きました」
勇者「それで、お世話焼きにこっちまできたんすか? 侵略行為じゃないっすかねぇー?」
兵長「いや、しかし、勇者殿。騎士団は賊を討伐してすぐに戻っていきましたから」
勇者「どこに?」
兵長「無論、自国へです。無断で騎士隊が国境を越えるのは問題もありましょうが、あの人たちは善意で助けてくれたのですから、ここは大目に……」
勇者「マジゆるせんな。ちょっと行って注意してきますよ。丁度、用事もあったし」
国境の砦
勇者「ここかぁ……」
警備兵「何者だ!!」
勇者「こういう者だ」ペラッ
警備兵「こ、これは失礼しました!! 勇者殿!!!」
勇者「隣国の騎士団を通したって本当の話ですか?」
警備兵「はい。近くの町でのこともありまして……」
勇者「そんなこと簡単に許してどうするんですか? 武装した一団ですよ? 戦争の引き金にもなる、外交問題っすよ?」
警備兵「わかってはいましたが……。しかし、あの一件があってからは本国のことを信用はできないという民の声も無視はできず……」
勇者「……」
警備兵「実際、勇者殿がここへ来るまでにも多くの人命が失われています」
勇者「だからって……」
警備兵「結果論ではありますが、隣国の騎士団の活躍により町は救われました。今回の責任は砦の者たちで取ります」
警備兵「ですので、騎士団の方たちを不問にはできないでしょうか?」
勇者「そうだな……。できない! 通してもらうぞ!! そいつらに文句いってやるんだ!!!」
警備兵「な!? 勇者殿!! おやめください!! ここはいくら勇者殿でも通せません!!!」グイッ
勇者「押し通る!! どけぇ!!!」
警備兵「おい!! 勇者殿をとめろー!!!」
「おやめください!! 勇者どのー!!」
勇者「ええい!! 俺の出鼻を挫いた奴らに思い知らせてやるんだ!!! 俺の活躍の場を奪いやがってぇぇぇ!!!!」
警備兵「おさえろー!!」
「わぁぁぁ!!!」
勇者「どけこらぁ!!! 勇者様に楯突くんじゃねええ!! 俺に触っていいのは俺の嫁だけだぁぁ!!!」
警備兵「落ち着いてください!!」
勇者「騎士団はまだ近くにいるんだろ!? いないのか!?」
警備兵「二日ほど前にこの砦は超えられましたから、もう今頃は城へ戻っている途中ではないかと」
勇者「……んじゃ、向こう側にいる兵とは会えますか?」
警備兵「な、何をされるおつもりで?」
勇者「この手紙を渡すだけです。検閲してもらってもいいですから」
警備兵「わかりました。少し待っていてください」
砦内
憲兵「……なるほど」
勇者「届けてくれますか?」
憲兵「はい。責任をもって届けます」
勇者「ありがとうございます。ところで騎士団はもう戻ったんですか?」
憲兵「いえ。まだ遠征中ですので、近くにはいると思いますけど」
勇者「そうなんですか? それは都合がいい」
憲兵「はい?」
勇者「是非、会いたいんですよ。その騎士団にお礼をしたいですし」
憲兵「それは団長も喜ばれると思います。ですが、今からこちらへ戻ってくるように伝えるとして、恐らくは1日か2日程度は待ってもらうことに……」
勇者「何日でも待ちますよ」
憲兵「ほ、本当ですか?」
勇者「これでも勇者なんて。気が長いです」
憲兵「了解。それではお待ちください。必ず勇者様のことを伝えます」
勇者「お願いしますよ? 本当に」
城下町 教会
姫「……」
少女「どうしたの?」
姫「え? な、なにがだ?」
少年「今日、元気ないじゃん。なんかあったのか?」
姫「あ、うん。えっと……なんていうか……会いたいやつがいるんだけど、中々会えなくてな……」
少女「もしかして好きな人?」
姫「あ、う、うん……」
少女「どんな人なのー?」
姫「うーん……。いつもはかっこ悪いんだ。でも、すごくかっこいいんだ、あいつ。いつも大変なのに私のことは見ててくれるし……」
少女「すごーい。大人みたーい」
姫「そ、そうか? えへへ……」
少年「この町にいないのか、そいつ?」
姫「今はな。仕事してるから」
少女「えぇ!? 好きな人って大人の人なの!? すごいすごーい!」
少年「でも、年上との恋はすぐに終わるって聞いたことあるぞ?」
姫「え?」
少女「そんなことないよ。愛し合っていればどんなことでも乗り越えられるって」
姫「そうだよな」
少年「そんなの幻想だって。お母さんも似たような経験があるって言ってたし」
姫「そ、そうなのか……」
少女「そんなことないってー!! 私のパパとママは子どものときから好き同士だったんだからー!!」
姫「おぉ!! そうか!!」
少年「そんなの珍しいんだぞー? 知らないのかよ」
姫「えぇ……そうなのか……」
少女「そんなことないー!!」
少年「あるんだって!!」
姫「そんなことよりかくれんぼしませんこと!?」
シスター「最近の子どもって、すごいですね……。私、あんな会話したことないです……」
神父(姫様も実に楽しんでいるご様子。過去は変えられませんがこのまま真っ直ぐに成長してほしいものです」
夜 城内 通路
姫「……」キョロキョロ
教師「ハーイ。プリンセス?」
姫「うわぁ!? な、なんだ、お前か……」
教師「今日もウルフとお話デスか?」
姫「うるさい。これは私の日課なんだ。邪魔しないでくれ」
教師「実はワタシなりに推理してみました。……プリンセスのママとパパは、まだ生きていますよね?」
姫「それがなんだ?」
教師「貴方がプリンセスということは、親のどちらかは王族のはず」
姫「……」
教師「前国王陛下と妃の間には子どもは出来なかったとされているから、貴方は妃の子どもではない」
姫「うるさい」
教師「では、誰が貴方を生んだのか。考えられるのは一つだけ。――魔女ですね?」
姫「違う!!! あいつは私の母親じゃない!!!」
教師(ウフフフ。どうやら間違いないわね。あとは証拠さえあれば……)
姫「お前、なんのつもりだ!!」
教師「ゴメンナサイ。ちょっとした好奇心デスよ。違うなら違うでイイデスから」
姫「……違うぞ」
教師「ワカリマシタ。それでは、オヤスミナサイ」
姫「くっ……!!」タタタッ
教師「ウフフフ。さてと――」
戦士「何か嬉しいことでもあったのぉん?」
教師「……いえ、別に。何もありませんけど?」
戦士「あたし、これでも女が何を考えているかぐらいはわかるわよ?」
教師「どういうことでしょうか?」
戦士「しらばっくれちゃって。知ってるのよ。ずっと姫様のことを調べているのはね」
教師「教え子のことを知ろうとするのがいけないことデスか?」
戦士「あんまり調子に乗ってると、火傷するわよ」
教師「何故ですか?」
戦士「それがあたしの仕事だからよ。クソアマ」
教師「なら、クビにするように進言しなさい」
戦士「この状況でそんなことしたら、あんたの推理が正しいって認めちゃうことになるでしょ。そんなの嫌よ」
教師「へぇ。だったらこのまま私が探りを入れてもいいわけですね?」
戦士「あたしに監視されてるのがわかってもやるの? おもしろいじゃない」
教師「それぐらいの秘密がプリンセスにはあるのでしょう。調べ甲斐があるわ」
戦士「あんた何者? ただの先生じゃないんでしょ?」
教師「知りたいなら監視を続けなさい。いずれ分かるときが来るでしょうけど」
戦士「それはいつよ?」
教師「さぁ……。明日か明後日か……。もしかすると一生分からないかもしれないわね」
戦士「一つだけ言っとくわよ?」
教師「はい」
戦士「勇者様が命がけで守った姫様に指一本でも触れてみなさい。あたし、本気であんたのこと殺しにかかるから」
教師「アハハハ。そんなことしたらここで働けなくなりますよ?」
戦士「あんたが死ぬなら本望よ」
教師「……気をつけます。では、さようなら」
中庭
狼「クゥーン」
姫「うぅっ……くっ……」
兵士長「姫様」
姫「うっ……。な、なんだ? 今、部屋に戻るつもりだったんだ」
兵士長「そうしてください」
姫「いつもすまん。おやすみ」
兵士長「姫」
姫「なんだ?」
兵士長「何も心配はいらねえよ。お前のことは俺たちが守ってやるから」
姫「……ありがとう」
兵士長「それが仕事だからな」
姫「助かる」
兵士長「なーに、いいってことよ。早く寝な」
姫「あいっ」
狼「……」
兵士長「んだよ? やるかぁ?」
狼「……」タタタッ
兵士長「いい加減、愛想よくしてくれねえかなぁ、あいつ。俺ぁエサだってやってんだぜぇ?」
戦士「おっつー」
兵士長「おう。どうだった?」
戦士「あの女、結構気が強いわね。あたしの言葉も冷めた顔で受け流してたもの」
兵士長「やっぱり只者じゃねえか」
戦士「いいの? 追い出したほうが早いわよ。それに貴方が殺せっていうなら、あたしが殺してもいいし」
兵士長「馬鹿野郎が穏便にって言ってるからな。それはできねえよ」
戦士「んもう! 勇者様ってば、あんな女狐のどこがいいのかしら!! ぷんぷん!!」
兵士長「それにだ、お前さんに言われてもやるってことは先生も命かけてるってことだろ?」
戦士「まぁ、そうなるわね」
兵士長「命をかけるにはそれなりの理由がある。殺すならその理由を吐かせてからだ」
戦士「あらあら。男ってホントバカばっかりね。嫌になっちゃうわ。勇者様は別だけどぉ。うふっ」
姫の自室
姫「……」
姫(あいつ、今も誰かと戦ってるんだよな……)
姫(いつも文句ばっかり言ってるけど、戦ってるんだよな)
姫(私も戦わないとな)
姫「よし!!」
姫「私は強い!! 並の兵士ぐらいだったらボッコボコにできる!!」
姫「友達だってできた!! 守ってくれるやつもちゃんと傍にいる!!」
姫「そして勇者様だっているんだ!! 私は弱くないぞ!! めちゃくちゃ強いぞ!!」
姫「どんな奴にだって負けない!!」
姫「たとえ相手が……相手が……」
姫「……」
姫「寝るか」
姫「負けないんだ……」
姫「私には……あいつが……いるから……」
国境の砦
勇者「ぶぁっくしゅん!!! うぅー。なんか寒いなぁ」
警備兵「勇者殿。あのお訊ねしたいことが」
勇者「なんすかぁ? 俺の武勇伝なら昨日いっぱい話したでしょう?」
警備兵「え、ええ。女性との接し方についてはとても参考になりました」
勇者「まぁ、恋愛マスターの俺に落とせない女はいないっすけど。ハーッハッハッハッハ」
警備兵「噂程度なのですが、その姫様がいるとか……」
勇者「あん?」
警備兵「あぁ、あの、一般市民の間で以前から話題になっているのですが、知りませんでしたか?」
勇者「まぁ、知ってるっすよ。どっかの田舎でも話してる人いましたし」
警備兵「実のところはどうなのですか?」
勇者「息がくせーんだよ。顔近づけてくるな」
警備兵「えぇ……。歯は毎日3回磨いてます」
勇者「じゃあ、存在が臭い」
憲兵「勇者様!! 騎士団の団長が到着しました!!」
勇者「結構早かったですね」
憲兵「団長も貴方に会ってみたかったと言っています」
勇者「なんで?」
憲兵「魔女の一件での活躍、隣国にまで届いていますから」
勇者「え? そうなのですか?」
憲兵「はい。無論、民が話す程度のことしか知りませんが」
勇者「もしかして、俺って世界的な有名人だったりする?」
憲兵「或いはそうかもしれませんね」
勇者「参ったなぁ。俺の子猫ちゃんは世界中にいるのかよ。ハーレムじゃん」
憲兵「お! 団長殿!! こちらです!!」
勇者(来たかぁ。さぁて、俺の出番を奪った団長様に一言文句を言ってや――)
騎士「貴方が勇者様ですか?」
勇者「お……おま……、いえ、あの、貴方が……騎士団の団長さん?」
騎士「はい。その通りです。私、勇者様にお会いできてとても感激しています」
勇者(こんな美人が騎士団の団長!? マジぃ!? うっひょー!!! 実際にいるのかよぉ!!! 女の騎士ってぇー!!!)
騎士「あの、なにか私の顔についていますか?」
勇者「あ、ああ。失礼しました。貴方の美貌に時を奪われてしまったようです」
騎士「は、はぁ。どうも」
勇者「こんなにお美しい人が騎士団を束ねているなんて、驚きましたよ」
騎士「いえ、私なんてまだまだです。団長を任されたのも運がよかったからですし」
勇者「何を謙遜することがありますか。明眸皓歯な貴方は万人を虜にすること間違いなしです」
騎士「え、えーと」
勇者「その証拠に、ほら、俺は君の虜さ」ギュッ
騎士「か、顔が近いです……」
勇者「素敵だ。今度、一緒に食事でもどうです?」
騎士「え、でも、私は……あの……」
勇者「異国交流もこのご時世必要でしょう。あぁ、そうだ、これから俺は城へ戻るのですが、よければご招待しますよ」
騎士「あ、その……」
勇者(押しに弱い子と見た!! 恋愛マニュアル70ページに書いていたことを実行するまで!! 押しに弱い子は遠慮するな!!!)
騎士「ゆ、勇者様……息が……かかってます……」
憲兵「勇者様!! 団長殿が困惑されています!! 離れてください!!」
勇者「これは失礼。貴方の魅力に体ごと惹かれてしまったようです。申し訳ない」
騎士「いえ、こちらこそすみません」
勇者「こんなところで立ち話もあれですし、近くの町でゆっくりディナーでもどうでしょうか」
騎士「い、いえ、そこまですることは……」
勇者「うん、そうだ! そうしよう! さぁ、行きましょう!!」グイッ
騎士「ちょ……」
憲兵「勇者様!! やめてください!!」
勇者「うるせぇ!! 人の恋路を邪魔する奴は剣の錆にするぞ!!」
勇者「っと、大丈夫ですから。俺は貴方と一夜をともにしたいだけですので」
騎士「えぇぇ?」
勇者「絶対に損はさせませんよ」
勇者(よっしゃー!! 俺のファンだし、絶対にいける!! 先生はキープにしておいて、俺の本命はこの娘だぁー!!!)
騎士「は……離してください!!!」ブンッ!!!
勇者「え――」
医務室
勇者「……は!?」
騎士「あ、勇者様。あの、ご気分は……?」
勇者「ここは……? それに俺は確か……」
騎士「医務室です。私が勇者様を剣の鞘で殴りつけてしまって……」
勇者「いやぁ。なるほど。俺もそう思っていたところなんですよ。気が合いますね」
騎士「そ、そうですか?」
勇者「そうですよ。ああ、看病してくれたお礼に食事でもどうですか? 奢りますよ」
騎士「あの、大変ありがたいお話なんですけど、それには応じられません」
勇者「何故!? 何故!? 何故ですかぁ!? こんなにも俺は君に惹かれているのに!?」
騎士「他国の兵が理由もなく国境を越えることはできません」
勇者「貴方は我が国を助けるために越境してきた。問題はない」
騎士「それは仕方なくです。やむを得ない事情があったからで……」
勇者「俺と食事をするのはやむを得ない事情ではないというのですか!?」
騎士「あ、当たり前です!!」
勇者「よし。こうしましょう。貴方は亡命した。これで解決だ」
騎士「意味がわかりません!! 私は自国の騎士であることに誇りを持っています!! 国を、陛下を裏切るようなことはできません!!」
勇者「あぁ!! なんて悲しいことだぁ!!! 二人はこんなにも愛し合っているのに!!」
騎士「な、なんであの、そんな話に……」オロオロ
勇者「いいじゃないか!! 一緒に暮らそう!! 子どもは4人産んでね!!」
騎士「一緒にも暮らせませんし、産めもしませんからぁ!!」
勇者「大丈夫。仕事も夜も俺に任せて。ね?」
騎士「いえ……あの……その……だから……あの……」
勇者「不安に思うこともあるでしょう。俺に全てを委ねてくれたらそれで――」
騎士「うぅ……ぐすっ……」
勇者(やべ……泣く……?)
騎士「わたし……のいう……ことをきいてくだぁぁい……」
勇者「あ、すみません。全部、冗談。冗談ですから。はい」
騎士「うぅ……ぅぅ……」
勇者「あの、ホント、すみません。真面目に生きます。すみません。本当にすみません」
騎士「ぐすっ……うぅ……」
勇者「もう君を食事やベッドに誘ったりしませんからー。ほらー。俺は紳士ですからー」
騎士「……」
勇者「アハハハハ。ほーら、段々楽しくなってきたー」
騎士「……はい」
勇者「よかった。ええと。で、何の話ですか?」
騎士「あの……。勇者様が我が国へ送った手紙……というよりは依頼状ですが……」
勇者「見たのですか?」
騎士「はい。申し訳ありません」
勇者「いえいえ、構わないですよ」
騎士「教育係のことですが……。あの女は危険です。即刻、国外退去を命じたほうが賢明かと」
勇者「何故ですか?」
騎士「あの女は、魔女ですから」
勇者「魔女……」
騎士「はい。我々の国を潰そうとしたのです。内部から」
勇者「……本当ですか?」
騎士「嘘をつく理由がありません」
勇者「……」
騎士「我が騎士団はあの女の行方を追っていました。身柄を引き渡してくれるとありがたいのですが」
勇者「うーん……それはちょっと……」
騎士「何故ですか。国を滅ぼそうとした魔女ですよ。その恐ろしさは勇者様も分かっているはずです」
勇者「あぁ、まぁ、戦いましたけども」
騎士「お願いします」
勇者「でも、その、俺、先生……貴方たちのいう魔女と……その……色々ありまして……」
騎士「勇者様!! しっかりしてください!! 貴方は騙されているだけです!!!」
勇者「……」
騎士「奴は魔女なのです!!」
勇者「なら、君が俺の花嫁になってくれるかい?」
騎士「な、何故そんなことになるのですか!?」
勇者「こっちは必死なんだよぉ!!! いくら命かけても全然モテないんだ!!! あぁー!!」
騎士「そ、そんなことを私に言われても……」
勇者「いーやぁ!! 俺の婚約者を奪うっていうなら、君が代わりに俺の婚約者になってください!!」
騎士「無理です!!」
勇者「無理じゃない!!」
騎士「ひぃ……」
勇者「それはそうと先生……魔女はどうやって貴方たちの国を潰そうとしたのですか? 俺のところみたく幻覚剤とか使って?」
騎士「いえ。国王陛下の嫡男、つまり王子の教育係であったことは知っていますか?」
勇者「それは聞いてますけど。まさか、王子を篭絡させて将来国を裏から操ろうって企みですか」
騎士「違います。あの女は王子の秘密を探り、世界中に公開しようとしたのです」
勇者「な……」
勇者(まさか、姫のことを探っていたのも……)
勇者「それは何が目的なんですか?」
騎士「分かりません。ですが恐らくは金でしょう」
勇者「強請りですか」
騎士「王子のことを知られることはなかったのですが、逃げられてしまいました。あの女はきっと世界中で同じことをしていたはず。だから、危険な魔女なのです」
勇者「しかし、その秘密は国が終わってしまうぐらいのものなのですか?」
騎士「勇者様。それは訊かないでください。貴方の国にも知られてはいけないことはあるでしょう」
勇者「まぁ、そうですけど」
騎士「勇者様。魔女の身柄を引き渡してください」
勇者「……わかりました」
騎士「おぉ!」
勇者「その代わり、条件がある」
騎士「え? しかし、勇者様の国にもメリットしかないはず」
勇者「俺の国はね。でも、俺にはデメリットしかない」
騎士「は、はぁ!? どういうことですか!?」
勇者「だって、俺の嫁候補が消えるんですよ?」
騎士「国のためならそれぐらいの犠牲は……!!」
勇者「貴方が嫁候補になってくれるなら、引き渡します」
騎士「そんなぁ……」
勇者「これが外交交渉。政治ってやつですよ」キリッ
騎士「……」
勇者「でも、何も絶対に嫁になれとはいいません。まずは候補ですから」
騎士「候補、ですか?」
勇者「俺の理想はイチャイチャラブラブウフフフな毎日を可愛い嫁と過ごすことですからね」
騎士「つまり、お友達からでいいのですか?」
勇者「はぁい。当然じゃないですか。俺たちは出会ったばかり、お互いのことを知ってからでないと結婚なんてできないでしょう」
騎士「でも……」
勇者「付き合ってみれば互いを好きになることもあるはず。わかりますね?」
騎士「……」
勇者「付き合ってみて俺のことを好きになれないというなら、それでいいです。別れましょう。でも、俺のことを好きになったなら」
騎士「結婚……ですか」
勇者「はい」
騎士「しかし……私は……」
勇者「お願いします。たったそれだけのことで貴方の国に真の平和が訪れるんですよ?」
騎士「……わかりました。その条件を呑みます」
勇者「ありがとうございます」
勇者(うらぁよっしゃぁぁぁい!!!!!)
騎士「では、このことを陛下に伝えて――」
勇者「お待ちになってください。貴方の目で今いる教育係が魔女なのか確かめることも必要でしょう?」
騎士「確かに……。人違いの可能性もありますね」
勇者「ですから、ぶひひひ、城へ案内しますよ」
騎士「よろしいのですか? 武装した兵を簡単に自国に招き入れるなんて」
勇者「貴方なら問題ありませんよ。ウェルカムです」
騎士「寛大なお心遣いに感謝します。では、一度騎士団の者にこのことを伝えてきます」
勇者「はい。俺は馬車の準備をしておきますね」
騎士「それはありがたい。よろしくお願いします」
勇者「貴方のためならダイヤモンドもかき集めてきますよ」
騎士「嬉しい限りです。では、後ほど」
勇者「はい!!」
勇者(来たな……。俺のファンなんだし、デートを重ねればそのままハネムーン確定じゃん。俺にも遅すぎた春がやってきたぜい。アヒョヒョヒョヒョ)
国境の砦 門前
騎士『勇者様。お待たせしました』
勇者『待ってませんよ。さ、馬車の中へ』
騎士『はい。割と広いですね』
勇者『この広さなら、いろんなことができますよ?』
騎士『え? あ、あの……あんっ……やめて……』
勇者『その蕩けた顔は続けてと言っているようにしか見えませんね』
騎士『あぁ……ゆ、しゃ……さ、まぁ……』
勇者『祭りじゃぁぁぁ!!!! げひゃひゃひゃひゃ!!!!』
勇者「……シミュレート完了」
騎士「勇者様。お待たせしました」
勇者「祭りじゃぁぁ!!!」
騎士「ひっ」ビクッ
勇者「あ、いえ。なんでもありません。どうぞ中へ」
騎士「は、はい。よ、よろしくお願いします……」
【 後編 】
へ続きます。