番外個体「だ、大体テスタメントなんて一級のブラックな代物どうやって手に入れたのさ?」
一方通行「黒いシロモンなんざ俺にとっちゃ珍しいもんでもねェだろ」
一方通行「芳川が、もしまたラストオーダーがウイルスとかにやられたことがあった時のために、すぐに処置できるようにって、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が改良したのをくれたンだよ」
番外個体「明らかに今は使用用途が違うように見えるんだけど」
一方通行「さァて、どォだろうな」ピトッ
番外個体「へ?電極シール的なのなくても──ふにゃぁぁっ!?」ビクビクゥ
一方通行「だから改良版だっていってンだろ?電極シール使わなくても、俺の体で触れれば信号を送れるようになってンだよ。この機能は、万が一このテスタメントを盗られた時に俺以外の奴には使えないっていう保険的な意味もあるンだがなァ」
番外個体「く……ふぅ……」
一方通行「オイオイ、まだ始まったばかりだぞ」ピトッ
番外個体「ふぐぅっ……!?首筋触られてるはずなのに……乳首がビクビクするっ……!」ビクン
一方通行「直接脳に干渉してるからなァ、触った場所は関係ねェ」
番外個体「──っ!いだだだだっ!ち、乳首とれるからぁっ!そんなグリグリしないでってぇ!」ガクガク
一方通行「そう感じてるだけだから安心しろォ」スッ
番外個体「……っふぅ……ふぅ……」
一方通行「っともう一度だァ」ピトッ
番外個体「ふぁぁぁああっ!?っぅぅ!両方は無理だってぇぇ!」ビクビクビク
一方通行「少し難しい演算にも挑戦してみっかァ」
番外個体「へっ!?ちょっと、“舐めてる”……!?」ビクン
一方通行「おォ、成功したみたいだなァ。“舐められてないのに舐められてる”感覚はどォだァ?視覚と触覚の矛盾で頭が混乱しちまってるかァ?人間の脳ってのは二感覚の矛盾で相当混乱するらしいからなァ」
番外個体「頭っ……、頭おかしくなるからぁぁっ!」ガクガク
一方通行「……オイオイ、まだ一度も下に“触れてない”のに、なンで濡れちゃってンだァ?」
部屋着であるホットパンツの股下の部分には、既に番外個体の愛液でシミができていた。
番外個体「ふぅ……ふぅ……」ガクガク
一方通行「なンですかァその物欲しそうな目はァ?」スッ
番外個体「……!?……な、なんで止め……」
一方通行「なンでじゃねェだろが。人にモノ頼むってこともできないのかァ、ワーストちゃんよォ」
番外個体「……!……じゃ、じゃあいいし別に……。これで終わりでもいいけどお?……まあ第一位の下半身が納得してるようには見えないけど……?ぎゃは☆もしかして遅漏にでもなっちゃったぁ?」ニヤァ
一方通行「入れてもいねえンだからイくわけねェだろォが、この早漏が」グイッ
番外個体「ああああっ!」ガクン
一方通行「おうおう、盛大に吹きやがって。こりゃあもう脱がせてやンないとダメだなァ」
番外個体「……ちょっと、じ、自分で脱げるから……」ハアハア
一方通行「なンだ、脱がされんのが恥ずかしいのかァ?なら好都合だな」カチャカチャ グイッ
番外個体「っ……」
一方通行「……なンもない日からこンな下着付けてンのか変態が」
番外個体「くっ……!」
一方通行「そんなに盛ってンなら、発散してやンなきゃなァ!」
番外個体「っ、ふにゃぁぁぁぁぁ!?」ビクン
突然の挿入感が番外個体を襲う。とはいえ、実際に何かが挿れられているわけではないので、快楽で溢れる愛液を止めるものがなく、じゅぷじゅぷと割れ目から溢れ出てくる。
番外個体「も、もう限界だからっ……!」ガクガク
一方通行「そォか、じゃァピストン速度を上げンぞ」
番外個体「ぐっ……!」ビクビク
番外個体「早漏の……第一位はさあ……、直接挿れたらすぐ終わっちゃうから、んっ……、こんなのに、頼ってるってわけぇ?」ニヤニヤ
一方通行「はァい、更に奥いきますよォ」
番外個体「────かっ……!?……そ、こ、子宮の中っ……!」ビクビクビクゥ
一方通行「子宮口を押し広げて出し入れする感じで、っとォ」
番外個体「ふぁぁぁぁっ!?」ビクビク
一方通行「あァ?ヨダレたらしてアヘってんじゃねェぞコラ。さっきの威勢はどォした」
番外個体「ひぐぅっ!も、もう無理だからっ!ホントに無理ぃ!」ガクガク
一方通行「それじゃァラストスパートといきますかァ」
番外個体「────あ……?」
文字通り、脳を電流が駆け巡ったかのようだった。
番外個体「──ぅ」
初めは何が起きたかわからなかったが、徐々に感覚が鮮明になっていく。
番外個体「──ぅ、ぁあ」
その感覚はまるで、そう──“拳大の何かが膣を抜けその先の子宮口をブチ破った”かのような感覚。
番外個体「────あがああああぁぁぁぁぁっ!?」ガクガクガクッ
一方通行「オイオイどォした、愉快な顔しやがってよォ。こっち見えてますかァ?」ケラケラ
番外個体「んぐぅぅぅっ!」ビクンッ
一方通行「中でねじってやるか」
番外個体「かはっ──!?──それ、い、イグからぁ……っ!」ビクビク
番外個体「も、駄目……、……っ!ふにゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」ビクンビクン
“栓”の無い膣から際限なく潮が吹き出す。それはベッドの大部分を濡らし、体内の水分不足が心配されるほどだ。
一方通行「ハイ、罰ゲーム終了ォ」
番外個体「……」ビクンビクン
一方通行「聞こえちゃいねェと思うが……、お前が目覚め次第黄泉川ンとこ戻るぞ。それまで休め」
番外個体「……まだ」
一方通行「あ?意識あンのか」
番外個体「……まだ第一位は挿れてないじゃん」
一方通行「……俺は十ゥ分楽しんだが」
番外個体「……ちゃんと体で気持ちよくなってくれないと納得できない。……ミサカだけ一方的に気持ちいいなんて……」
一方通行「だから満足したって言ってンだろォが」
番外個体「……じゃあ、次は罰ゲームじゃなくて、普通にやろうね……」カクン
番外個体「……すぅすぅ」
一方通行「……いつもこォいう素直な会話ができるなら楽でいいンだがな」
* * *
打ち止め・芳川「「あなたが言うの!?」」
黄泉川「……は?二人とも急にどうしたじゃん?」
芳川「あ、いや、何か感じるものがあって……」
打ち止め「……?なんだったんだろう」
黄泉川「……?」
* * *
──牛丼チェーン『好きや』店内
黒子「あら、浜面さん」
浜面「ん、黒子ちゃんに佐天ちゃんに初春ちゃん、あと小さいほうの御坂ちゃん」
御坂「誰が小さいほうだゴラァァッ!」
浜面「どわっ!?落ち着け美琴ちゃん!いや、最初に会ったのがワーストだからどうしても、な?」
初春「相変わらずですねえ」
佐天「デリカシーとか、見た目通りゼロですからね」
浜面「最近の中学生は胸に刺さることをオブラートに包まず全力投球してくるんだな」
黒子「殿方は、調子に乗る前に徹底的に叩きのめしたほうが良いと習いましたので」
浜面「最近の学校教育はどうなってんだ」
初春「浜面さんはお一人で食事すか?」
浜面「ん、まあな」
美琴「……寂しいわね」
黒子「ご友人はいらっしゃらないのですの?」
佐天「あの~、えっと……、頑張ってくださいね」ニコッ
浜面「何なんだよォォォその反応は!?ちげえし!そんなんじゃねえし!友達ぐらいいるわコラァ!」
半蔵「ん?浜面じゃん」
浜面「あ、半蔵。お前も昼飯?」
半蔵「まあな」
黒子「あら、ご友人ですの?」
浜面「まあな!ホラ見たかこの野郎!ちゃんといるじゃねえかよ!」ドヤヤーン
黒子「え、ええ、まあ……」
美琴(……必死ね)
初春(必死ですね)
佐天(なんか余計かわいそうに見えてきた)
半蔵「で、そっちの娘達は知り合いか?」
浜面「ああ、この間(略)ってことがあってな」
半蔵「なるほどな。お前がアイテム以外の女子とつるんでるなんて錯覚かと思ったら、別にそういう感じではないのな」
浜面「ちょっとまてどういう意味──」
半蔵「俺は半蔵、服部半蔵だ。よろしくな」
佐天「は、はあ、よろしくお願いします」
初春(なんだか忍者みたいな名前ですね)
佐天(私も思った)
美琴「……それで?アンタも“闇”の一人なのかしら?」
半蔵「ん、なんでそう思う?」
美琴「体中に武器を隠し持ってるでしょ?さっきから私の能力が敏感に反応してて……」
半蔵「……このコ何者?」
浜面「超電磁砲──学園都市第三位の“レールガン”なんだってよ」
半蔵「レ、レベル5か!?……はあ~、なるほどな。すげえなそりゃ」
半蔵「ああ、そうだ。そんな警戒すんなって。俺は闇って言うほど深みには浸かってないからさ」
美琴「……」
初春「まあまあ、御坂さん、浜面さんのお友達なら大丈夫なんじゃないですか?」
黒子「ですわね。負けず劣らずのアホヅラをしておりますし」
佐天「ですねー」
半蔵「あれ、なんで俺初対面なのにこんなに言われてんの」
浜面「……慣れろ」
半蔵「……アイテムはリーダーは言うまでもなく、あのちっこい娘もドSだし、滝壺ちゃんも隠れSだし。そして今はこんな毒舌中学生たちに絡まれてるし……。お前ってドM?」
浜面「ちげーよぉぉぉぉぉっ!」
半蔵の携帯『ユーガッタメール』
半蔵「ん、メンバーからだな」カチカチ
半蔵「……なん、だと……?」
浜面「どうした」
半蔵「うちのグループを抜けた連中が能力者といざこざを起こしたらしい」
浜面「……先に手を出したのは?」
半蔵「スキルアウト側みたいだな」
浜面「はぁ……馬鹿が……」
黒子「その話、詳しく聞かせていただけます?」
半蔵「え?いや、でもよ……」
浜面「そいつらなら大丈夫だ」
半蔵「……そういうことなら、分かった。とは言ってもさっきの電話じゃあんまり詳しく聞けなかったんだがな。帰宅途中の能力者三、四人相手に十人ぐらいで喧嘩ふっかけたみたいだな。まあ、その能力者ってのが皆レベル3以上の連中だったみたいでよ、返り討ちにされたみたいだが」
黒子「……わたくしが聞いた話と違いますわね。昨日風紀委員(ジャッジメント)に入ってきた事件の情報だと、無能力者二、三人に能力者六人が病院に搬送されたって話でしたけど」
半蔵「いや、俺の今の話はさっき起きたことみたいなんだが……」
美琴「じゃあ別の事件ってこと……?二日も連続して?」
初春「なんだか物騒ですね」
浜面「……」
佐天「さっきの黒子さんの話ですけど、無能力者二、三人相手に能力者が六人も病院送りって、ちょっと異常じゃありません?」
半蔵「……さっき言い忘れてたんだが、返り討ちにされたスキルアウトは強化篭手(パワードアーム)をつけていたらしい」
佐天「強化篭手(パワードアーム)?」
初春「簡単に言えば強化装甲(パワードスーツ)の腕だけバージョンですね。主に工場とかで重いものを持ち出すのに使われたりします」
佐天「それって一学生に買えるものなの?」
初春「そうですね~、型によりますが、新品の車を買うようなものですね」
佐天「く、車っ!?」
黒子「成るほど、昨日の犯行グループもそういったものを使っていたとすれば能力者相手に勝ったのも納得できますわね。でも──」
美琴「どうやってそんなものを手に入れたのか、ね……」
浜面(やっぱりここ最近の事件は裏があるみたいだな……)
浜面「……ここ最近物騒だからお前らも気をつけろよ」
黒子「わたくしたちに手を出してくるなんて相当の物好きに違いありませんわ」
浜面「ははっ、違いねえな。じゃあ俺たちは先に失礼するわ」
半蔵「ごちそーさん。──おねーさん、会計頼む!」
黒子「殿方は食事を済ませるのが早いですわねえ。あまり健康にはよろしくないですわ」
初春「『好きや』で食事している時点であんまり健康にはよくないんですけどね……」
美琴「まあね」
黒子「そういう意味じゃありませんの~」
* * *
半蔵「……浜面」
浜面「分かってる、放っておける規模じゃないみたいだな。俺は俺で連絡を取る奴らがいるから、スキルアウトはお前に任せる」
半蔵「分かった。何か進展があったら連絡してくれ」
浜面「ああ、じゃあな」
浜面は半蔵と分かれると、電波の通じやすい通りに出てスマホの電話帳を開いた。
浜面(……さてと、まずは大将に……。それから、あんまり掛けたくないんだけどなぁ……)
* * *
番外個体「なになに、誰からの電話だったの?もしかしてセフr──もがもが」
一方通行「あ~?ちげェよ、馬面だよ馬面」
番外個体「な~んだ」
打ち止め「セフってなに?セフって」
一方通行「ガキは知らなくていいコトでェす」
打ち止め「ぶ~、また内緒ごとなの、ってミサカはミサカは不満を口にしてみる!」
番外個体「簡単に言えばミサカと一位の関係みたいなものだよ☆」
打ち止め「そうなの?」
一方通行「言ってる意味が分かりませェん」
番外個体「それで?どういう内容の電話だったの?」
一方通行「あァ……」
。O ○ モヤシ説明中 ○ O 。
番外個体「……なるほど、この間ミサカたちを襲った連中のバックと同じ奴らが絡んでいる可能性が高いと」
一方通行「あァ、チンピラが粋がってるだけなら放っておこうかと思ったが、全体としての規模からそういう訳にもいきそォにはねェからな」
番外個体「ということは……」ニヤッ
一方通行「あァ……、久々だなァ、こういうのも」ニヤァ……
数日後
『──本日未明、第十一学区の資材搬入庫で小規模の爆発があったとアンチスキルに通報がありました。幸い怪我人がなかったものの、一部搬入口が使用できない状況になり、学園外との物流に若干の支障が出ると思われます。また、ほぼ同刻に第五学区においてスキルアウトと思われる少年四人が、能力によるものと思われる重軽傷を負っているのを近くの大学院に通う学生が発見し──』
打ち止め「なんだが最近物騒だね~」
一方通行「……まァな。オマエも出歩くときは俺や末っ子や黄泉川と一緒にしろ」
芳川「あれ、私は?」
一方通行「NEETは頼りないンだよ」
芳川「酷いわね」
打ち止め「ん~、分かった。外出するときは気をつけるね。……それよりまたヨミカワは朝早くからいないんだね」
番外個体「ここ最近事件続きで忙しいんでしょ?上位個体サンみたいなお子様と違って大変なんだろーねー」ケラケラ
一方通行「オマエも養って貰ってる時点でまだガキだろうが」
番外個体「いや、それは一位も同じじゃん」
一方通行「俺は学園都市からの膨大な援助金が出てる。ちゃんとした所得者なンだよ」
番外個体「え~、働いてるとは言わないじゃんそれ~」
一方通行「才能を有すること自体が労働に等しいものになるンだなこれが」
番外個体「ちょっと世の中の99%の凡人に殴られて来い」
打ち止め「はあ……、ヨミカワ忙しそうだし、週末のテーマパークは無理かな……」
一方通行「あァ?そンなに行きてェなら俺が連れてってやるよ」
打ち止め「本当は家族みんなでお出掛けしたかったなぁ……」ショボーン
番外個体「──だそうですが?」
一方通行「チッ、それでェ?」
番外個体「前言ってたじゃん。ミサカ達でこの一連の騒動解決しちゃえばいいじゃん。そうすればヨミカワも忙しくなくなるでしょ」
* * *
──第七学区──
一方通行「……とは言っても、手引きしてる野郎の目的が全く見えねェ以上、やれることが限られるな」
番外個体「スキルアウトに出回ってる、キャパシティダウンやら車のパーツやら強化篭手やらの出所を入念に探るしかないだろうね~」
一方通行「あァ、その辺りはもう浜面達にも探らせてる。他に出来ることが無い以上俺たちも足を使って探すしか──」
番外個体「一位の能力でデータバンクに侵入して取引データとか洗えないの?」
一方通行「アレは能力の本来の使い方じゃねェから演算がクソみたいに面倒くせェンだよ。つーかテメエのオリジナルが専門だろォが。アイツに頼んでおけばいいだろうが」
番外個体「あ~確かに。あとで電話しとこっと」
一方通行「……」
一方通行「……止まれ」
番外個体「ふえ?」
──ガキィンッ!
二人のすぐ目の前にコンクリートブロックが三つ落下してきた。
番外個体「コンクリートブロック?何処から……」
一方通行と番外個体の目線の先には登校中と思われる男子高校生三人の姿がうつった。
一方通行「この距離……素の力じゃ無理だな。能力か」
番外個体「肉体強化系か念動力系かだね」
男子高生A「おい止めろって!スキルアウトって決まったわけじゃないだろ!」
男子高生B「こんな時間にこの辺りを私服で出歩いてんのなんてスキルアウトぐらいだろうが!やられる前に先手うたねえと!」
男子高生C「大学生とか一般人だったらどうすんだよ!」
男子高生B「し、知るか!」
男子高生A「知るかってお前な!」
一方通行「ハイハイ、勝手に襲ってきて勝手にそっちだけで喧嘩してンじゃねェよ」
男子高生B「ひっ!」キュイーン
男子高生の一人が足元のコンクリートブロックを拾い上げて一方通行に投げつけた。ブロックは普通の力で投げたときには出ないであろう速さで二人に迫った。
が、
一方通行「あァ……?」ガキィン!
男子高生B「む、無傷!?」
男子高生A「ていうか普通に能力者だったじゃねえか!謝れよ!」
男子高生B「すすす、スイマセン!スキルアウトと勘違いしてて!」
一方通行「それは俺がスキルアウトだったら当たっても問題なかったってことか?」
男子高生B「い、いやそれは……」
男子高生C「お、俺たちの仲間がこの間スキルアウトの奴らにぼこられて、それでちょっと神経過敏になっているというか……」
一方通行「自己防衛目的か、復讐の為かしらねェがな、ンなことやっても逆に復讐されるってことが分からねェのか?」
男子高生A「でも、一件や二件じゃないんです!学園都市全体で見れば最近のスキルアウトによる能力者の被害件数は……!」
一方通行「その逆もまた然り、だがなァ」
男子高生A「ッ……!」
一方通行「……チッ、こんな所で油売ってるほうがスキルアウトの連中との遭遇確率があがンじゃねのか?さっさと学校行きやがれ」
男子高校生ABC「「「は、はいっ!スイマセンでした!!」」」ダッ
番外個体「意外だね~、一二発痛めつけたから解放すると思ったのに」
一方通行「ンな無駄な運動はしたくねェ」
番外個体「はいはいモヤシモヤシ。っと、そうだ、おねーたまに電話しよっと」ピッピッ
一方通行「こっちにも聞こえるようにしろ」
番外個体「はいはい」ピッピッ
Prrrrrrrr……──ガチャ
美琴『はいはいもしもし』
番外個体「可愛い可愛い末っ子だよおねーたま☆」
美琴『はいはい。で、こんな時間にどうしたの』
番外個体「もっとリアクションくれたっていいじゃん。あ~、ちょっと調べてもらいたいことがあって」
美琴『……もしかしてこの間の話のこと?』
番外個体「話が早くて助かるぅ~」
美琴『実あのとき結構きになって、ちょっと調べてみたんだよね』
番外個体「おお、それでそれで?」
美琴『明らかに不自然な物流、お金の動きがあるのは確かね。“外”が絡んでいるみたいだけど』
番外個体「学園都市の外が……?またなんでだろうね?」
美琴『それは分からないけど、外から莫大な援助金が色々な施設に送られてるわね。おそらく施設のほとんどは実在しないダミーなんだろうけど。とは言ってもその流れも今朝途切れたみたいだけど』
一方通行「今朝……、第十一学区の爆発か」
美琴『うわっ、あんたも聞いてたの』
一方通行「ひでェリアクションだな」
美琴『あ、ごめんごめん。……そうね、私もおそらくアレが原因だと思うわ。今後も引き続き調べてみる』
一方通行「あァ、頼む」
美琴『……それでね、一つ気になったことがあったんだけど』
一方通行「なンだ?」
美琴『データバンクをあさっている時に時々出てきた研究所名、なんか見たことあるなって思ったら、量産型能力者(レディオノイズ)計画のことを調べているときに見かけた研究所名だったわ』
一方通行「な、ンだと……!?」
番外個体「ここで絡んでくる、か……」
美琴『私も見つけたときは、頭真っ白になって、それから隈なく情報を探し回ったんだけど、違和感があるのね』
一方通行「違和感……?」
美琴『うん、これだけ研究所の名前が出てくるのに、妹達(シスターズ)に関するワードが一つも出てこないの』
番外個体「ミサカ達の研究施設だったところが資金集めをしていたのに、ミサカたちとは全く関係がなさそうってこと?」
美琴『断定は出来ないけどね。ごめんね、結局分からないことばっかりで。あ、さっきから黒子が呼んでるからもう学校行くね。電話切るわよ』
番外個体「あ、いやいや、こっちも調べることに大方見当付けられたし。じゃあね~☆」プツンッ ツーッツーッ……
一方通行「これは芳川にも仕事が出来たなァ。あとは──」
上条「──あれ、アクセラレータとワーストさん?」
佐天「あ、ほんとだ」
初春「おはようございまーす」
一方通行「……ジャストタイミングだなァ、オイ」
番外個体「あれ、キミたち同じ学校なの?」
上条「いや、学区は同じだけど学校は違う。大体俺は高校だけど、この二人は中学生だし」
初春「たまたまそこで一緒になったんです」
佐天「そんなことよりもお二人さんのほうがこんな時間にどうしたんですか?もしかして朝帰りとか」
初春「あ、朝帰りっ……!?」カァァァ
一方通行「ちげェよ、ただの調べ物だ。それより三下、浜面から連絡はいってるな」
上条「あ、ああ」
一方通行「ここ最近の騒動、、立て続けに起きているということは偶然じゃねェ。これは俺の勘だが、こいつはこれから更に拡大する。俺達は事態が悪化する前に大本をぶっ潰す。お前はお前でやれることを探せ」
上条「待てよ俺も──」
一方通行「今回の相手は能力者や“魔術師”とかいう連中の仕業じゃない可能性が高い。テメエじゃ役不足どころか足手纏いなンだよ」
上条「ッ……」
一方通行「……オイ三下ァ、適材適所って言葉知ってるか?一連の騒動、既にスキルアウトだけの問題じゃなくねェ、能力者連中も動き出している。そこでテメエの出来ることは何だ?」
上条「……」
一方通行「今までだってそうだったンだろうが。テメエは目にうつった連中を救ってきただけだ。“結果として一万人救おうが、一都市救おうが、世界を救おうが、テメエの本領はそこなンだよ”。テメエの中のヒーローってのは事件の最渦中でスポットライトを浴びなきゃ満足できねェモンなのかよ」
アクセラレータの言葉に当麻は目を見開き、そしてハッと我に返って笑った
上条「……ははは、上条サンがまさかアクセラレータに説教されることになるとは」
一方通行「ククッ、テメエには散々説教食らったからなァ。たまには仕返しさせてもらうぜェ」
一方通行「おいそこの二人もだ。テメエらが標的にならないとは限らねェ。用心することで回避できることも多いはずだ」
初春「は、はいっ!」
佐天「気をつけるようにします!」
上条「わざわざありがとなアクセラレータ。俺達はもう学校だから行くよ」
初春「では失礼します」
番外個体「ぷぷぷぷ……似合わないセリフお疲れにゃ~ん☆」
一方通行「うるせェ。それより話してる間にメールが来てたな」ゴソゴソ ピッ
番外個体「だれだれ?」
一方通行「浜面、だな」
そしてアクセラレータの表情がスマホの画面を見て固まる。
番外個体「どうしたの?」
一方通行「……」
______________
From:浜面仕上
To :accelerate@gakuen.ne.jp
Sub :件名なし
______________
マジヤバイんだけど
コレマジヤバイよ
どれくらいヤバイかっていうと
マジヤバイ
______________
番外 通行「「……」」
ピロリン♪
番外個体「あれ、また来たみたいだね」
______________
From:浜面仕上
To :accelerate@gakuen.ne.jp
Sub :件名なし
______________
あまり余裕がないから簡単に説
明する
半蔵の所に来ている際に襲撃を
受けた
どうやらうちのグループを離反
した連中のようだ
詳しくはまた後で話す
______________
番外個体「余裕がないなら一通目いらないでしょ」
一方通行「……確かアイツのアジトここから近いよな」
番外個体「え、うん、確か第七学区内だったよね」
一方通行「行くぞ」
番外個体「え、何で!?助っ人にでも行くの?」
一方通行「ンなわけねェだろ。今までの奴らはもうアンチスキルの所だが、今回は直接聞けそうだからなァ」
* * *
──第一○学区、路地裏──
麦野「なんだァこいつらは?私たちを“アイテム”って分かってて挑んできたのか?……いや、それにしちゃあ……」
絹旗「超あっけないですね。おそらく何も知らず挑んできたのかと」
滝壺「でも一応それなりの武装をしているから“裏”との関わりはあるはず」
麦野「ああ?こんな雑魚共におもちゃ与えて得する奴がいるのかよ。浜面に与えたほうがまだいい仕事するだろ」
絹旗「まあたしかに目的は超不明ですね」
──ピロリン♪
麦野「メール?……浜面から二件か」
絹旗「全員に送ったみたいですね。私のところにも来てます。なんか面倒なことになってるみたいですね」
滝壺「はまづら、ピンチ。助けに行こう」
麦野「あ~?相手もスキルアウトなんだろ?わざわざ必要ねえだろ」
滝壺「でもこの人たちみたいに武装してたら危ないよ?」
麦野「……チッ。あぁぁ、わかったわかった、行くぞお前ら」
滝壺「ありがと、むぎの──」
──キィィィィィィィィィィィィン
絹旗「ッ!何ですかこの音!?」
滝壺「能力で、特定できない……!能力じゃない……!と言うより──」
麦野「演算自体を妨害してんなこれは。キャパシティダウンとかいうやつだろうな」
スキルアウトD「正解だぜ能力者さんよぉ!」
スキルアウトE「へへっ、ラッキーだな。全員上玉じゃねえか」
スキルアウトF「じゃあ俺は茶髪のちっこいのもらうぜ」
スキルアウトG「やっぱお前ロリコンだろ。俺はジャージの娘にするわ」
スキルアウトE「おいおい、一人につき一人じゃ足りねえだろ」
スキルアウトD「いや大丈夫だろ。俺はそこのおねーさんの胸使うからよ」
スキルアウトE「うっは、そりゃいいな」
絹旗「超ゲスいですね……!」
スキルアウトE「ははっ!何とでも言え!」
スキルアウトG「それでは三名様ごあんな~い!」
麦野「……る……ぇ」
スキルアウトF「あぁ?なんだって?」
麦野「るせぇ……」
スキルアウトD「聞こえねえよコラァ!」
麦野「──そのハエみてぇにうるせぇ音を止めやがれゴラァァァァッ!!」キュィン ゴバァッ!
スキルアウト四人の頭上すれすれを麦野のビームが通過した。
スキルアウトF「……へ?」
スキルアウトG「な、何で能力を……?」
麦野「あ~?こんな小虫の羽音でレベル5の能力をとめられると思ったのか?」
スキルアウトE「レッ、レベル5!?」
麦野「さて、絹旗。片付けちゃって」
絹旗「りょーかいです。ほら、眠っちゃってください」ゴシャッ
スキルアウトE「ごふっ!?」
スキルアウトG「な、何でお前も!?」
麦野「あ~?何で私がわざわざビームを外してやったと思ってんだ?」
スキルアウトG「も、もしかして……」
スキルアウトたちが後ろを振り向くと、自分たちが乗ってきたバンが黒煙を上げてスクラップになっていた。
麦野「まあそういう訳だ」
絹旗「それじゃあ、おやすみですね」ゴオォッ
スキルアウト達「「ひぃっ!?」」
* * *
麦野「それじゃあ、浜面のとこ行くか」
絹旗「そうですね」
そう言って三人がその場を立ち去ろうとする時、脇の通路から数人のスキルアウトが出てきた。
???「待ってくれねえか」
麦野「ああ?まだ残ってたのか」キュィィィン
???「いや、待て待て違う!話を聞け!」
麦野「ああ何だよ!早く用件を言いな!こっちは急いでんだよ」
???「あ、ああ。あんたは“アイテム”の麦野静利でいいんだよな?」
麦野「てめえは先に名乗らずに相手の名前を聞くのか?」
???「っと、すまん」
蛇谷「俺は蛇谷次雄。スキルアウトグループ『ビッグスパイダー』のリーダーをやっているモンだ。あんたら“アイテム”に頼みがある」
麦野「あぁ?」
──第七学区──
浜面「くっそ!連中、強化装甲系だけだと思ったら、それなりの火気も持ってやがんな!こっちは何かねえのか!」
半蔵「一キロ先の三番倉庫跡に強化ゴム弾入りのグロックが十数丁ある!」
浜面「チッ!それじゃあ本末転倒じゃねえか!この状況を打破するために得物がほしいって言うのによ!」
溜まり場である倉庫に集まっていたときに正面玄関からスキルアウトの一団の襲撃を受けた浜面たちは、出入り口がほかにないため上の階への撤退を余儀なくされ、現在三階の最深部の部屋に鉄扉を硬く閉ざして篭城している。
味方スキルアウトA「浜面さん!半蔵さん!あいつら強化篭手(パワードアーム)で扉をこじ開けようとしてやがる!ここもあまり持ちません!」
半蔵「浜面、どうする」
浜面「……半蔵、こっち来い!」
半蔵「馬鹿野郎、窓の外には捕まるところもねえ。こんな所から飛び降りても怪我するだけ──」
浜面「こいつを向かいのビルの排気用パイプに引っ掛けてくれ!」
半蔵「作業用のワイヤー?……ああ、なるほどな、分かった」
浜面「時間がねえ!外すなよ!」
半蔵「俺を誰だと思ってんだ?── の末裔 服部半蔵だろうが!」ブンッ
半蔵の投げた錘つきのワイヤーは道一つ分離れた向かいのビルの二階部の排気用パイプに上手く絡まり、人がぶら下がっても落ちないようにしっかりと固定された。
味方スキルアウトB「もう扉が破られます!」
浜面「俺が先に行く!」
そう言って浜面がワイヤーを握って外に飛び出したと同時に、最後の鉄の扉が破られた。
スキルアウトH「手間かけさせやがって浜面ぁ!」
浜面「おい半蔵!他のやつらも早く来い!」
半蔵「浜面、つかまっておけよ」
浜面「おい!?半蔵!!」
スキルアウトI「半蔵も浜面もまとめて死ねやぁ!」ダッ
半蔵「……おい、ガードしてくれよ?」
スキルアウトI「あぁ!?」
半蔵が壁にあるレバーを引くと、ガコン、という音とともに浜面のつかまっているワイヤーが急速に緩み始めた。
浜面「うおぉぉぉぉっ!?」
そしてワイヤーのつながれた滑車がいやな金属音を立て回転し、ワイヤーのもう片方につながれている錘が真横に向かって飛んでいった。
スキルアウトI「なぁっ!?」
とっさに強化篭手でガードするも勢いを殺しきれず、後ろの数人を巻き込んで部屋の外に吹き飛ばされた。
半蔵「おい大丈夫か!」
浜面「痛てぇ……、が、まあ大丈夫だ」
半蔵「よし浜面、トラックだ!」
浜面「……!了解、三分で用意する!」
味方スキルアウトC「半蔵さん!俺達はどうすれば!?」
半蔵「とにかく三分生き延びろ」
スキルアウトH「半蔵ォォォッ!てめえよくもやってくれやがったな!」
額や腕などから流血したスキルアウトたちが再び部屋の中に進入してくる。
スキルアウトH「もう容赦しねえぞゴラァッ!」
半蔵「おいおい何だよ、今まで容赦してくれてたみたいじゃねえか」
スキルアウトH「るせぇっ!」ガチャッ
スキルアウトの一人がMP5を構える。学園都市としては完全に型遅れの『外』の火気である。
半蔵「火気がなかったら何もできねえとでも──思ったか?」ヒュンッ
スキルアウトH「んだこりゃぁ!?」
半蔵の投げたクナイがMP5の銃口に刺さった。このまま撃てば暴発をしてしまうため撃てない。
スキルアウトH「クソッ!」
味方スキルアウトB「すげえ!半蔵さんマジで忍者!」
味方スキルアウトD「いいからお前も応戦しろ!」
スキルアウトI「丸腰の雑魚どもに何が出来るんだよ、あぁ!?」
半蔵(浜面、まだか……!?)
浜面「──半蔵ォ!準備で来たぞ!」
半蔵「……!おいお前ら!窓から飛び降りろ!」
味方スキルアウトB「へ?窓って……」
半蔵「いいから早くしろ!」グイッ
味方スキルアウトB「うっ、うわああぁぁ!」ドサッ
思わずコンクリートに落下する衝撃を身構えたが、思ったような衝撃はやってなかった。それもそのはず、スキルアウトたちが落下したのはトラックの荷台に張られたシートの上だったのだ。
半蔵「ジャストだぜ浜面!よし、車を出せ!」
浜面「りょーかい!」ブゥン
スキルアウトH「オイ、行かせんな!」
スキルアウトI「撃て撃てっ!」
浜面「ハハッ!もうおせーよ!」
あっという間に浜面たちの乗ったトラックは視界の外へと消えて行ったのだった。
スキルアウトH「追うぞてめえら!」
スキルアウトI「……いや、これはチャンスだぞ」
スキルアウトH「あ?」
スキルアウトI「あいつらは今俺達から逃げることに専念している。つまり、“邪魔”をしに来る余裕がねえってことだ」
スキルアウトH「……クククッ、なるほどなぁ。その通りだ。これでおれたちの本当の目的に専念できるってわけだ」ニヤァ
* * *
浜面「よし、全員銃は持ったな」
半蔵「とりあえずトラックで路地を抜けるぞ。市街地の方がどうなっているか知りたい」
味方スキルアウトC「オッす!」
一方通行「なんだァ?便利なモンがあンじゃねェか。俺たちも乗せてくれねェか?」
味方スキルアウトB「!?誰だ!」チャッ
浜面「待て待て、敵じゃねえよ」
浜面「それで、なんでお前がここにいんだ?」
一方通行「あァ?メールよこしたのはテメェの方だろうが」
浜面「あ、ああそうだったな」
一方通行「まァ俺が来たのは情報収集のためだがな。敵はどンな奴らだった」
浜面「うちのグループを抜けた奴らってことだけで、どことパイプがあるのかとかは全然わからなかった」
浜面「ただ、奴ら強化篭手(パワードアーム)だけじゃねえ。火器まで大量に持っていやがった。やっぱりバックアップがあるのは確定だな」
一方通行「そォか……。分かった、とりあえず俺の言うとおりに走らせろ。そう簡単には見つからねェ車庫を知っている。そこでこの後のことを決める」
浜面「了解」
番外個体「そうだ、また何か情報が入ったかおねーたまに聞いてみる?」
一方通行「あァ、そうしろ」
半蔵「俺も他のメンバーに連絡取るか」
番外個体がスマホに耳を当ててからコール音が十数回流れるが美琴が電話を取る気配はない。
番外個体「あれ、おっかしいなあ。電話に出んわ」
一方通行「……」
番外個体「少しぐらい反応してよ」
一方通行「……向こうで何かあったのかもなァ」
番外個体「……それって──」
番外個体が何か言いかけたところで、その言葉は突如の爆音にかき消された。
味方スキルアウトB「何だぁ!?」
番外個体「爆発?近いね」
一方通行「ちょっと待ってろ」カチッ
一方通行は電極のスイッチを押すとトラックの荷台から飛び上がりビルの上に着地し、しばらくしてから再びトラックに追いつき乗り込んだ。
一方通行「能力者とスキルアウトがやり合ってるみてェだな。他の場所でも衝突しているのが見えた」
番外個体「何々?また戦争でも始まったの?」
一方通行「……あァ、そうかもな。もしかしたらそれが狙いなのかもしれねェ」
半蔵「どういう意味だ?」
一方通行「着いたら話す」
番外個体「あ、おねーたまからメール」
番外個体「ん?リンクだけ何個か張ってある。にゃるほどあとは自分で調べろってこと」
一方通行「それだけ向こうは切羽詰まってるって訳か。オイ、見せろ」
一方通行がメールに張りつけられたリンクをタッチすると白地に黒文字の飾り気のないページが開かれた。まさに情報を保存するためだけに作られた、人に見られることを必要としていないページだ。
そのページの中に出てくる単語にアクセラレータは眉間にしわを寄せた。
一方通行(どれもこれも見なれた研究室の名前だなァオイ。あのクソッタレな研究の時にお世話になったところばっかりじゃねェか。オリジナルの言っていた通りだな)
一方通行(ただそれだけじゃァ何の進展にもらなねェ。あのヤロウは俺たちに何を見せたかったンだ?いや、何も見つけられなかったから後は任せたってことか。確かにあの研究のことなら俺の方が詳しい。問題はあの研究がどう今回の事に絡んでくるかだ)
浜面「アクセラレータ、次はどっちだ?」
一方通行「次を右折、四つ目の車庫だ」
半蔵「鍵は?」
一方通行「空いてるはずだ。シャッターを上げて早くトラックを中に入れろ」
トラックを車庫の中に入れた後、車庫の奥に積んであったパイプ椅子を並べて全員腰掛けた。
一方通行「それじゃァ、今回の騒動について、俺の推測を話す」
一方通行「まず、首謀者の目的はわからねェ」
浜面「オイオイ」
一方通行「黙って聞いてろ早漏が。クソッタレの最終目的はわからねェが、“その目的に至るまでの手段”は予想がついた」
浜面「……?」
一方通行「テメエらちょっとネット開いてみろ。何が起こってる?」
一同は促されるままに携帯電話やスマートフォンでインターネットに接続する。
半蔵「能力者集団による学校襲撃、スキルアウトとの衝突、いやそれだけじゃねえ……」
浜面「どうなってやがる……!まるで学園都市全体で一斉に暴動が起きたみたいな……」
一方通行「一斉に、じゃねェよ。火種はすでに撒かれ続けていたはずだ」
半蔵「その火種がここ数日の事件か」
一方通行「そォだ。立て続けにあンな事が起これば人間ってのは不安定になる。あとは、ちょっとつつけばあちこちで連鎖爆発が起き始める」
浜面「いや待てよ、それならその“火種の火種”どうした。まさか偶然にも立て続けに事件が起きましたっていうんじゃねえだろうな」
番外個体「……なるほど、そういうことか」
浜面「どういうことだよ」
番外個体「火種の火種になりうるもの、それは浜面も何度も指摘していたことじゃん?そう、ミサカたちの頭を悩ませていた“学生が持つには高価すぎるツール”のこと」
番外個体「まず、スキルアウトと能力者の両方にそれぞれが使いやすいツールを提供する。高価で危険なおもちゃを手に入れたそいつらは当然それを使用する」
番外個体「初めのうちはそんな感じ。ミサカがキャパシティダウンを使われて襲われた時や、佐天たちが能力者グループに襲われた時はまだこの状態。でも、おもちゃの供給量が増えていけばいくほど一般人の被害者も増えていく。そしてついには小規模ながらも“襲撃”から“衝突”へと変わっていく」
浜面「……そしてその衝突が衝突を呼び、大きな対立が生まれた訳か」
一方通行「大きく分ければ能力者とスキルアウト、よくある対立だが今回はそれだけじゃねェ。オマエらみてェなスキルアウト同士の対立もあれば、全く関係のない一般生徒と能力者との対立までありやがる」
半蔵「となるとやっぱり目的が見えてこないな」
一方通行「だから言っただろうが。最終目的はわからねェ。だがな、さっきは手段と言ったが、その手段が一つの目的なンだよ。第一段階ってことだ」
浜面「……?」
一方通行「その一つの目的はつまり、今この学園都市の状態だ。この状態から一体何を得ようとしているのかは知らねェが、この騒乱こそが目的への一つの中継地点にして要だ」
一方通行「俺は何をすればいいのか分からず右往左往しているテメエらに一つ目的を与えてやる。少なくともこの学園都市で起きているイザコザを全部止めちまえば、顔も知らねェクソッタレの何も知らねェ目的をつぶせるってことだ。さァこれでやることは分かったか?」
浜面「はあ……、俺たちが欲しかったのは全体の解決方法じゃなくて目の前のことをどうするかってことなんだよ。結局今の俺たちには何の打開策にもならねえな。……だが、」
浜面「馬鹿は馬鹿らしく手当たりしだいに目に入ったものからシラミ潰しに全部ヤッちまえってことだろ?いいぜ、頭の悪い俺たちには丁度いい」
シャッターを開けて男たちがガレージに入ってくる。先ほど集合をかけた半蔵のメンバーたちだけではなく、何故か麦野を連れた蛇谷達までいる。
その数は、それだけで学校が一つ建てられる様な。
学園都市最大の無能力者集団が、ここに結集した。
番外個体「ややっ、むぎのんじゃん」
麦野「おーおー、末っ子か。久しぶりだな」
絹旗「ちっ、浜面は生き残っていましたか」
麦野「ちっ」
浜面「おい舌打ちが二回聞こえたぞ」
滝壺「よかった、はまづらが無事で」
浜面「ありがとうよ滝壺、俺の心配をしてくれる女神はアイテムでおまえただ一人だ」ウルウル
絹旗「……」イラッ
麦野「はまづらぁ、テメエ今晩覚悟しておけよ」
浜面「……」
浜面「で、蛇谷。なんでお前が?」
麦野(決定だ。今晩は骨抜きにしてやる)
蛇谷「お、おう。いや、今回の騒動で俺のところもだいぶ被害受けてんだ。お前らが動いてるって聞いたんでな」
浜面「それで助けに、か?いやいや、俺たちとそんなに仲良かったか?むしろ結構抗争した覚えが……」
蛇谷「浜面ァ!」
浜面「なんだよ」
蛇谷「ちょっとこっちこい」
浜面(なんだよ)
蛇谷(いいかよく聞け)
浜面(だからなんだよ)
蛇谷(俺たちビッグスパイダーにはかつて固法美偉という一輪の花が咲いていた……)シミジミ
浜面(はあ?)
蛇谷(しかし今ではこのビッグスパイダーも男の蒸し風呂だ)
蛇谷(だからお前にお願いがあるんだ)
浜面(……滝壺は渡さねえ)
蛇谷(安心しろ。俺の狙いは麦野さん一択だ。何とかして俺と二人で会ってくれるようにアポとってくれないか?)
浜面(まさかと思うが、お前、それを言うためにあいつらに接触して俺のところまで来たのか?)
蛇谷(俺にとっては大事なことだ)
浜面(……)
浜面(わかった。このゴタゴタが解決したら話を通してやるよ)
蛇谷(恩に着るっ!)ガシィ
浜面(こんなことで着られてもなあ……)
絹旗「何話してたんですか?」
浜面「いや、何でも」
一方通行「おい、そろそろイイか?」
浜面「あ、ああ」
一方通行「さっき言った通りお前らは街で争ってる連中を手当たり次第に鎮圧してこい。大体一グループ四、五人で行動しろ。浜面はアイテムに戻れ」
一方通行「半蔵と蛇谷はそれぞれのグループをまず小分けにしろ。その総指揮はいつも通りお前らがやれ。ただし、お前ら二人は定期的に連絡を取れ」
一方通行「お互いのメンバー同士はろくに顔も覚えてねェンだ。同士討ちなんて馬鹿な真似はしたくねェからな」
一同「「「オッス!!」」」」
半蔵(あ、あれ?みんないつも以上にいい返事)
蛇谷(き、気のせいだろ?俺のカリスマパワーに勝てるわけが……)
半蔵(だといいんだが……)
一方通行「テメエらはもう行け」
一同「「「オッス!!」」」
蛇谷「……」
半蔵「そ、それじゃあ班分けするぞお前ら。集まれ──」
半蔵と蛇谷は手際よくグループ分けをすると、それぞれ騒乱の市街地へと出発していった。
番外個体「それじゃあミサカたちも行く?」
一方通行「待て。あと少しオリジナルからの連絡を待つ」
番外個体「ぶー、ひまー」
一方通行「少しは待つことも覚えろォ……」イラァ
番外個体「待つのはつまんなーい。さっき送られてたリンク、自分で調べよっと」カチカチッ
番外個体「?♪」
番外個体「……」
番外個体「……ん?」
一方通行「どォした?」
番外個体「この名前……」
番外個体「木山、春生……?」
一方通行「木山春生?知り合いか?」
番外個体「いや、直接は知らないんだけどミサカネットワークで……」
番外個体は以前ミサカネットワークでシェアされたレベルアッパー事件について説明した。
一方通行「共感覚性を使った能力者の脳波の多重接続、そして幻想猛獣(AIMバースト)だと……?」
一方通行は幻想猛獣(AIMバースト)自体は知らないが、似たようなモノは知っている。
一方通行(ヒューズ=カザキリ ……、そして俺……)
一方通行(なぜそんな研究をしていた奴の名前が出てくる……。関係性がみえねェ……。ネットワーク、AIM拡散力場、暴走……)
一方通行「AIM拡散力場の暴走だと……?」
番外個体「え、なになに?なんか分かったの?」
一方通行「……あァ、段々見えてきたぜェ……」ニヤァ
番外個体「じゃあ黒幕の正体も?」
一方通行「それはまだ確証がねェ」
番外個体「だめじゃん」
一方通行「“事”が起これば自然と正体もわかってくるンだろうがなァ……」
番外個体「ただ待つだけってこと?事が大きくなるまで?」
一方通行「……」
一方通行「他になァンも思いつかねェから」
番外個体「え?」
番外個体「てかさ、さっき浜面達にイザコザ止めてこいみたいに言ってたけど、実際には大きくなって欲しいわけ?」
一方通行「あァ?別にそういう訳じゃねェ。ただ止める過程で一悶着あるだろ?それでいいんだよ」
* * *
──第七学区のとある高校
吹寄「何!?何が起きてるの!?」
土御門「襲撃……?」
上条「……!」
──柵川中学校
佐天「あわわわわっ」
初春「さ、佐天さん!しっかりして下さい!」
──常盤台中学
婚后「な、なんですの!?」
御坂「……はぁ」
食蜂「馬鹿ねぇ……」
* * *
アンチスキル無線『──学園都市全域で学生の暴動が起きている模様。第二〇学区東ブロック支部。こちらの人員だけでは足りない!応援求む!繰り返す──』ブツッ
一方通行「大分暴れてるよォだな」
番外個体「アンチスキルの無線?周波数とかどうやって……」
一方通行「黄泉川に聞いた」
番外個体「やっぱりあの人アンチスキルとしてどうなのかと思う」
一方通行「……暇か?
番外個体「まあね」
一方通行「行くか?」
番外個体「どこに?」
一方通行「オマエはさっきのブリーフィングはなンにも聞いてなかったのか?言ったろォが、今回の騒動、学校やグループ同士の復讐合戦みたいなもンだ」
一方通行「となれば戦場は決まって学校施設が多くなっている」
番外個体「なるほどなるほど」
一方通行「マジで聞いてなかったのかこの野郎」
一方通行「……まァ、いい。それでまずだ、この第七学区の柵川中学校に向かう」
番外個体「佐天達のいる?またなんでピンポイントにそこなの?──はっ、もしかして!やっぱり佐天狙い……」
一方通行「違げェよ。今、アンチスキルもジャッジメントも混乱していて組織として成り立ってねェ。ここは一人司令塔(ブレイン)が必要だ」
番外個体「司令塔(ブレイン)?初春のこと?」
一方通行「あァ、あいつは見た目とは裏腹にそういう能力には相当長けているみてェだ。今は授業時間で恐らく学校にいる」
一方通行「まずは囚われのお姫様を救出してジャッジメントの支部まで送りとどけんぞ」
番外個体「うぃ~、了解」
番外個体「あ、でもその前に」チラッ
一方通行「あ?」
番外個体「んっ」チュッ
一方通行「むぐっ」
番外個体「んっ、んぐっ」
番外個体「ぷはぁ。……ミサカ、この戦争が終わったら第一位と結婚するんだ」
一方通行「オイ、フラグ建てんな」
番外個体「フラグはクラッシュするものだよ☆」
一方通行「当然そォさせてもらうぜ。そンじゃあ」
番外個体「行きますか」
──柵川中学校Side──
アケミ「ど、どうなってんの!?」
マコちん「う、初春ぅ」
担任教師「み、皆さん、落ち着いてください!」
むーちゃん「落ち着いてって言われても……」
佐天「能力者、だよねあれ」
佐天がそっと窓から身を乗り出してみると、校庭の前に集まった襲撃者──それも能力者とみられる集団が、アンチスキルに所属する教員たちと戦っていた。
初春が手元で必死に小型PDAを捜査しているようだが、成果が上がらないようで首を横に振る。
初春「駄目です、支部とも本部とも連絡がとれません」
アケミ「どうすんのー!?」
初春「どうするもこうするも応援が来るのを待つしか──」
初春のその言葉を遮るように突如窓ガラスを割って能力者が教室に飛び込んできた。
むーちゃん「きゃぁっ!?」
初春「佐天さん!ガラスで怪我していませんか!?」
佐天「私は大丈夫……、それより三階なのにどうやって……」チラッ
飛翔系能力者「ははっ!ビビってんぜこいつらぁ」
肉体強化系能力者「あ??中学校かよここ。外れだぜオイ」
飛翔系能力者「いや、そこの黒髪ロングの子はなかなか……」
肉体強化系能力者「おっ、確かに」ニヤニヤ
佐天「……!野球部の人、バット借りるよ!」
佐天はロッカーから金属バットを取り出して能力者に振りかざした──が、
肉体強化系能力者「あぁ??」
佐天「弾かれた!?」
初春「佐天さん!気を付けてください!恐らくその人は肉体強化系能力者です!」
肉体強化系能力者「正解だぜ嬢ちゃん」ガシッ
佐天「かっ……!」
初春「佐天さん!」
アケミ「涙子!」
飛翔系能力者「ん?そこのお花畑……」
初春「な、なんですか!?いいから佐天さんを離してください!」
飛翔系能力者「確かジャッジメントだよな」
肉体強化系能力者「知り合いか?」グググ
佐天「うぐぐ……」ゲホッ
飛翔系能力者「前パクられた時になぁ。確かお前能力者だったよな」
初春「そ、それがどうしたっていうんですか!?」
飛翔系能力者「いや、お前さ、そいつらとつるんでて楽しいか?」
飛翔系能力者がざっと教室を見渡す。全員教室の隅に逃げたり固まっているだけで能力などを発動する素振りはない。
初春「どういう意味ですか?」
飛翔系能力者「いや、そのままの意味だよ。──“無能力者のカス共といて楽しいのか”って聞いてんだ」
初春「みんなはカスなんかじゃありません!撤回してください!」
飛翔系能力者「お~お~、美しい友情だこと。表面上はな」ククッ
飛翔系能力者「じゃあ聞くがよ、お前、テストの点数が悪かったときどう思う?」
初春「な、何ですか突然?」
飛翔系能力者「いいから答えろや」
初春「そ、それは、反省しますけど……」
飛翔系能力者「そうだろ?自分は駄目だったて思うだろ?」
飛翔系能力者「でもよ、それがお前にとって失敗した点数でも、“その得点が努力した結果の限界だってやつだっているんだぜ”?」
飛翔系能力者「能力についても同じだ。お前が無能力者の時、そりゃあ努力したんだろうな。このままじゃだめだ、ってよ?そんで今は念願の能力を手に入れたわけだ」
飛翔系能力者「無能力だった頃の“駄目な自分”から“出来る自分”になったんだ。おめでたいことじゃねえか、ええ?」
飛翔系能力者「──んで、今お前の周りにいる奴らは何だ?昔の“駄目な自分”と何が違う?」
初春「……!」
飛翔系能力者「同じだよ。あの頃さんざん嫌悪していた無能な自分と周りの奴らはよお!」
初春「ち、違います!」
飛翔系能力者「違わねえよ。なに、恥じることはねえよ。お前は努力して能力者になったんだ。無能な過去の自分、周りのカス共は切り捨てろ」
初春「違いますってば!!」
飛翔系能力者「いい加減認めろよお!お前はなあ!周りのカス共を過去の自分と重ね合わせて見下してたんだよ!はははっ!」
初春「違います!違いますってば……!違うんです……!ううっ……。ぐすっ」ポロポロ
佐天「いい加減にしてください!」
飛翔系能力者「……あ?」
佐天は胸倉を掴まれたまま飛翔系能力者の方を睨んだ。
佐天「初春はそんなこと考えたりしない!言ったりしない!あんた達みたいなやつと一緒にしないで!」
初春「佐天さん……」グスッ
飛翔系能力者「あ??なんかそいつウゼエな。無能力のカスのくせに。あ?、もうヤッちまっていいわそいつ」
肉体強化系能力者「ん、おう」
肉体強化系能力者「そんじゃあちょっと眠っててろや」ググッ
初春「佐天さん!」
アケミ「涙子!!」
肉体強化系能力者が片腕に力を込める。そして振りかぶって佐天の鳩尾に拳が──届くことはなかった。
肉体強化系能力者「がっ……!なっ、く、釘!?」
肉体強化系能力者の腕には釘が一本刺さっており、そこから血がどくどくと流れ出ていた。
肉体強化系能力者「俺の……、強化した腕に……、釘が刺さるだと……!?」ポタポタ
???「うぃー、間一髪だったかなぁ?」
佐天「あ……」
むーちゃん「だ、誰?」
初春「わ、ワーストさん……!?」
教室の入り口に立っているのは電気を帯びた釘を指に挟めた番外個体だった。
番外個体「大丈夫だった?」
初春「わ、私は大丈夫です!それよりも佐天さんを!」
肉体強化系能力者「ぐがああああ!痛てえええ!このクソアマァァァァ!」
番外個体「ほら、離してあげてよ」バシュッ
肉体強化系能力者「ぐああああっ!」ドサッ
初春「佐天さん!大丈夫でしたか!?」
佐天「ごほっごほっ……、うん大丈夫。ありがとう初春、みんな」
初春「良かったあ……」グスッ
飛翔系能力者「くそっ!なんだこいつ……!一旦撤退──」
一方通行「逃がさねえよ」
飛翔系能力者「へ……?」
飛翔系能力者が飛び出した外には白い悪魔が待ち構えていた。
アクセラレータは飛翔系能力者の頭を片手でつかむと、そのまま降下していった。
それから再び三階の窓枠に姿を現す。
番外個体「もしかして、殺した?」
一方通行「ンなわけねェだろ」
佐天「アクセラレータさんまで……!」
初春「助けに来て下さったんですか」
一方通行「まァ、そうだな。目的はオマエを連れて行くことだが」
初春「え、どういうことですか?」
一方通行「177支部とやらに戻ってお前がジャッジメントをまとめねェといつまでも組織が混乱したまンまになるだろォが」
初春「あ、そうですね、確かに」
アケミ「初春、涙子、この人たちは?」
初春「あ、えっと……」
クラスメイトや先生がアクセラレータと番外個体の方を見てざわざわとしている。
初春「えと、えーっと、と、友達です」
少し無理があった。突如教室に現れた二人は、初春の友人と言うにはあまりにも人相が悪かった。
一方通行「あー、何だ。そのよォ、怪しいもンじゃねェから安心しろ」
クラス一同(あ、怪しい……)
一方通行(あ~、めんどくせェな)
一方通行「オイ、そこの教員」
担任教師「な、何でしょうか」
一方通行「まだ校内には能力者どもが残ってる。俺達が片付けるけまで生徒を教室からださねェように他の教員に伝えろ。携帯電話ぐらい通じるだろ?」
担任教師「分かりました……。あの、あなた達は……?」
一方通行「なンでもねェよ。ただの通りすがりだ」
番外個体(ぷぷぷ……、またベターなセリフを)ニヤニヤ
一方通行「……ワースト、伏せろ」
番外個体「ん?」ヒョイ
水流操作系能力者「な、避けただと!?」
ワーストがしゃがむことで打ち出された水塊が一直線にアクセラレータの方へ飛んでいく。
当然その水塊は反射され、元の方向へ戻っていく。しかも更なる加速付きで。
水流操作系能力者「がふっ!?」ドサッ
番外個体「おー危ない」
一方通行「油断しすぎだ馬鹿が」
マコちん「す、すごい……」
むーちゃん「これが能力者同士の戦い……」
水流操作系能力者「ぐぐ……、糞がぁっ!」ドシュッ
一方通行「!」
佐天「おっとっと!」キィン
水流操作系能力者「なぁっ!?」
佐天に向けて放たれた水塊を佐天はバットで弾いて起動をそらした。
番外個体「まだ起きてたんかい」ビリッ
水流操作系能力者は番外個体の電撃で次こそ本当に意識を失った。
佐天「みんな!能力者だとか、そうじゃないとか関係ないんだってば!まず、私たちにできることをやろう!」
佐天「ほらほら、みんな立ち上がって、まずは机でバリケードとか作ろう」
男子生徒「……ああ」
女子生徒「そうね……」
佐天「それじゃあ一丁やりますか!」
一同「「おぉっ!!」」
番外個体「さっきまで胸ぐら掴まれてたのに元気だねー」
一方通行「アイツはあれでいいンだよ」
一方通行「そンじゃァお花畑、校内の奴ら片しながら支部に行くぞ」
初春「は、はいっ!」
佐天「アクセラレータさん、初春をよろしくお願いします!」
一方通行「ハッ、俺を誰だと思ってやがる」
番外個体「それじゃあ行こっか」
ドーン
ガッシャーン
バリバリバリッ
ギャー
バケモノー
アケミ「結局あの人達は何者なの?」
マコちん「さあ……?」
佐天「あはは……」
* * *
──風紀委員第177支部
初春「送っていただいてありがとうございます。後は私一人でなんとかなりますから」
番外個体「って言ってもさ、もしここが襲われたらどうすんの?」
初春「それは……」
先輩風紀委員A「それは大丈夫です」
一方通行「テメェらは……?」
先輩風紀委員B「初春と同じここのメンバーです。うちの後輩が世話になったみたいで」
先輩風紀委員A「ここは私たちが守るのでお二人はどうぞ行ってください。何かすることがあるのでしょう?」
一方通行「わりィな、そンじゃァ任せる」
先輩風紀委員B「ええ、お気をつけて」
一方通行「あァ、言い忘れるところだった。オイ、お花畑こいつをだな──」
そして、二人が支部を出た時それは起こった。
番外個体「ん?向こうの空が……」
一方通行「クカカッ、やっと来たか……!」
時間的には赤く染まり始めるはずの空が、青白く輝いていた。
この光は過去に何度か見たことがある。
一度は猟犬部隊(ハウンドドッグ)との戦いの夜に。
一度はロシアの白い雪原で。
一方通行「しっかし、あいつらと比べたら随分ときたねェ光じゃねェか。益々誰だかわかっちまうぜオイ」
──常盤台中学校Side──
婚后「スキルアウト集団の襲撃、ですの?」
美琴「最近ニュースになってるアレね」
黒子「全く、ここを天下の常盤台だとしっての狼藉ですの?馬鹿が多くて困りますわ」
美琴「なるべく周りに被害が出ないように片してしまいましょう」
湾内「御坂さん、生徒だけで行動するのは危険なのではありませんか
?それにわたくし争いというのはどうにも苦手ですし……」
美琴「大丈夫よ湾内さん。あんな奴ら相手じゃないわ。ああ、えっと、今のは相手がレベル0だからってことじやないわよ?ああいう目的もなくただ暴れたいだけのバカなんて大したことないってこと」
黒子「それではお姉様、行きますわよ」ガシッ
美琴「そうね」シュンッ
婚后「あ、お待ちになってくださいの!」パタパタ
湾内「あ、婚后さん」
泡浮「お待ちになってくださーい」パタパタ
* * *
美琴達が着いた時には既に校門前では数人の生徒や教師がスキルアウトに応戦していた。
常盤台生徒A「あら、御坂さんが来てくださったわ!」
常盤台生徒B「本当ですわあ。御坂さんが来てくださったならもう安心ですわね」
スキルアウトJ「げっ、御坂ってあのレールガンじゃね?」
スキルアウトK「マジかよやべえじゃん」
スキルアウトL「いや待てよ、よく見ろただのガキじゃねえか」
美琴「……」イラッ
スキルアウトJ「本当だ大した事なさそうだな」
スキルアウトK「所詮はガキだからな」
スキルアウトL「俺たちの相手じゃねえべ」
美琴「……」イライラッ
スキルアウトJ「つーかあんなガキじゃ勃たねえわ。マジハズレ」ビンビン
スキルアウトK「いや、俺的にはストライク」ギンギン
スキルアウトL「マジかよ趣味悪いなお前」ビュクッ
美琴「……」プッチン
美琴「アンタら……」ワナワナ
スキルアウトL「あ?」
美琴「いい加減にしろっ!!」ビリビリビリッ
スキルアウト三人「ありがとうございますっ!!」ビリビリビリッ
美琴「はあっ……!はあっ……!」
黒子「お疲れですの。全くこれだから殿方は……」
美琴「途中からまるで黒子を三人相手してるかのように錯覚したわ」
黒子「……」
婚后「はあっはあっ、……やっと追いつきましたわ」ゼーゼー
黒子「あら、遅かったですわね、婚后光子」チラッ
婚后「テ、テレポーターと一緒にしないでくださいます?」
湾内「やっと追いつけましたわぁ」
泡浮「それで、こちらの状態は?」
美琴「取り敢えず玄関前にいたのは片したけど……」
そう美琴が言ったところで、バンが玄関に突っ込んできた。そしてそれから間も無くスキルアウト達があっという間にあたりに溢れかえった。
美琴「……前言撤回。見ての通りよ」
婚后「全く、荒っぽい殿方ですこと」
スキルアウトM「クッソ舐めやがって!やっちまえ!」
スキルアウト達「「おぉぉっ!!」」
泡浮「これは、あの、どうしたらいいんでしょうか?」
美琴「どうするって、倒すしかないでしょ」
湾内「困りましたわ?。わたくし余り争い事は好きではないのですが……」
黒子「じゃあなんで出てきたんですの……」
湾内「それはあの、婚后さんを追いかけていましたら外に出てきてしまいましたの
この湾内絹保という少女は生まれてこの方ほとんど、いや、ついこの間までは喧嘩どころか怒ったこともなかったという非常に温厚な性格なのだ。
その湾内の初の怒りというのが大覇星祭の時に馬場芳郎に向けられたものだった。しかしその怒りの発端も“親友の婚后光子が傷つけられた”ためであり、それ程のことがなければ怒ることも、人に能力を向けることもまずない。
黒子「戦わないのでしたら後ろに下がっていた方がいいかと思いますわよ」
湾内「そうさせていただきますわ」
泡浮「婚后さんも下がりましょう」
婚后「……いえ、わたくしは前で御坂さん達の手助けをしますわ」
泡浮「そうですの……、わかりましたわ、無理はしないでくださいね」
婚后「心配には及びませんわ」
スルアウトN「おらぁ!無視して話してんじゃねえ!」
婚后「!」
黒子「あら、話している時ぐらいは待てませんの?あまりせっかちですといけませんわよ?」ヒュンッ
スキルアウトN「なっ、テレポーターだと!?」
黒子「ちょっとそこでじっとしててくださいな」ヒュヒュヒュン
スキルアウトN「なにっ!?」
黒子の放った鉄芯がスキルアウトの衣服と壁を括り付けて固定する。脱いで脱出しようにも鉄芯が多く打ち込まれているため腕や足を少し動かすことすらままならない。
黒子「さて、お次は誰ですの?」シュンッ
スキルアウトM「何だ、こんなモンどっから飛んできた!?」
婚后「まだまだいきますわよ!」
スキルアウトO「ぐあああっ!死ぬぅ!」バリバリバリッ
美琴「ちょっと、人聞き悪いわね!ちゃんと出力押さえてるわよ!」
スキルアウトP「おいっ、何だお前!味方だろ止めろ!」
スキルアウトQ「……」
スキルアウト「おい止めろ!うわああっ!」
食蜂「うふふ、助けに来たわよぉ御坂さん☆」
美琴「げぇっ、食蜂操祈っ!」
食蜂「素で落ち込むのでやめてほしいかな」
美琴「あ、うん、ごめん」
食蜂「まったく、助けに来てあげただけなのにぃ」プンプン
美琴「その様子なら大丈夫そうね。それで?規模はどれぐらいなのかしら」
食蜂「そうねぇ、私の操っている子たちからの情報だと学び舎の園の割と外にある校舎は侵入を許しちゃってるみたいねぇ」
美琴「はぁ……面倒ね」
食蜂「ここの面子なら余裕なんじゃないかしら?何なら“敵から味方を作ってもいい”ワケだしぃ」
美琴「油断していると足元すくわれるわよ?」
食蜂「学園都市第五位に限ってそんなことは無いんだゾ☆」
美琴「それならいいんだけど……」
* * *
スキルアウトR「全車配置につきました。いつでも作動できます」
???「……あのさぁ、聞いていい?」
スキルアウトR「なんでしょうか」
???「お前らがココを襲っている理由って、能力者への復讐なんじゃないの?俺っちも能力者だけどいいのかい?」
スキルアウトR「ああ、いえ。相手が女性だから意味があるんです」ニコッ
???「……くくっ、そりゃあ気が合うなぁ!」ニヤァ
???「よし、全部起動させちまっていいぜぇ!」
???→不良H(アンチスキルの混乱に乗じて拘留場を抜け出せたのに加えてこんな面白そうなことに参加できるとはなぁ)
不良H(願わくばあのツリ目の姉ちゃんにも復讐させてもらうぜぇ)ニヤニヤ
* * *
黒子「この分ならとっととカタが付きそうですわね」
美琴「それフラグよ」
スキルアウトR「それはフラグですよ?」
美琴「!……いつの間に……!」
スキルアウトR「ふふっ、それでは行きますよ!れっつぱーりぃ!」ピッ
ギィィィィィィィィィィィンッ
黒子「っ!?この音はっ!」
美琴「キャパシティダウン!?あいつらには聞いてたけど本当にこんなものが出回ってたってわけ!?」
スキルアウトR「さあ、反撃の時間です」ニコッ
黒子「くっ!」
美琴「アンタ達は一旦校舎の中に引きなさい!私はギリギリ能力が撃てるからキャパシティダウンを探して破壊するから!」
黒子「それならわたくしも……!」
美琴「駄目よ!今のアンタには能力は使えないし、撃てたとしても暴発してアンタが危険な目にあうだけよ」
スキルアウトR「話している暇はありませんよ?」ヒュッ
黒子「っぐ!」ゲホッ
美琴「黒子っ!」バチバチバチッ
スキルアウトR「当たりませんねえ」
美琴「くっ……!黒子、早く立ち上がって他のみんなを連れて避難して!」
スキルアウトS「行かせねえよ!」ザッ
黒子「囲まれました、の……!」
美琴「っ……!食蜂、アンタは今どれぐらい出来そうなの!?」
食蜂「あ、相手の思考を読むのが限界ねえ。操るのは無理そうだわぁ」
食蜂「……御坂さぁん」
美琴「何?何か打開策でも思いついた?」
食蜂「あの殿方、私たちにゲスいことしようとしているわあ」
美琴「んなことわかってるわ!」
スキルアウトR「ふっふっふ」ジリジリ
スキルアウトS「へっへっへ」ジリジリ
黒子「くっ……!」
ゴンッ
スキルアウトR「痛っ」
スキルアウトS「モップ?どこから……」
黒子達ににじり寄るスキルアウトRの頭に当たったのはプールの掃除に使うモップだった。
湾内「あ、あの……、やめてくださいっ……!学び舎の園から出て行っていただけませんか……?」
泡浮「湾内さん、戻って!」
スキルアウトR「……」クルッ
湾内「!」ビクッ
スキルアウトR「……」ザッザッ
湾内「な、なんでしょうか……?」ビクビク
スキルアウトR「謝れやコラァァァッ!!」ビリビリッ
湾内「ひぃぃっ!?」ビクゥッ
スキルアウトR「人様の頭にモップぶつけておいて出て行けだぁ!?順序っちゅーモンがあるだろうがコラァッ!!」
湾内「あ、あぅ……」ガクガク
スキルアウトR「あぁん!?聞こえんぞボケがぁ!はっきりモノ言えやぁ!」
湾内「あ……う、うぇ……」ガクガク
スキルアウトR「イライラすんなこいつぁ!」ピキピキ
美琴「いい加減に、しろ!」バチバチッ
スキルアウトR「んなフラッフラの能力で当たるかコラァ!」
美琴「くっ!」
スキルアウトRは落ちているモップを拾い上げるとそれを振りかぶった。
スキルアウトR「やられたらやり返す、十倍返しだコラァッ!」ブンッ
湾内「ひっ!」
泡浮「湾内さんっ!」
バンバンッ
乾いた発砲音の後に金属音が二回。薬莢がアスファルトを転がる。
湾内「……あ、あれっ?」
美琴「あ、アンタ……」
スキルアウトR「ぐ、ふっ……」ドサッ
スキルアウトRはモップから手を放し地面に崩れ落ちた。そしてその横にはには二発のゴム弾が。命に別条はないが、あばら骨は砕かれていた。
浜面「よっ、また会ったな」
美琴「何でここに……」
浜面「いや、第一位に言われてさ。……いや?学び舎の園なんて入るの初めてだぜ」
美琴「でしょうね」
スキルアウトS「てめえっ!」ブンッ
半蔵「そりゃっ」ゴンッ
スキルアウトS「ぶっ」ドサッ
黒子「半蔵さんも……」
半蔵「よっ」
浜面「他にもいるんだが、来る途中で混乱による渋滞につかまってな。少し遅れてくると思う」
黒子「そうですの……、たすかりますわ」
???「あれ、浜面じゃん?」
浜面「あ?ん?よ、黄泉川っ!?何でここにいんだよ!」
黄泉川「何ではこっちのセリフじゃん?まさか今回の騒動……」
浜面「んなわけあるかっ!そういうアンタは仕事か?」
黄泉川「格好見ればわかるじゃん。とは言ってもネットワークが混乱していて殆ど統率も取れていないからほぼ自主行動だけどな」
鉄装「一応学び舎の園に駆け付けたメンバー同士ではハンディレシーバーで連絡を取っていますけどね」
浜面「……一つ協力してくれないか?」
黄泉川「その様子だと何か知っているんじゃん?」
浜面「ああ、奴らは今キャパシティダウンっていう能力者の演算を邪魔する音波みたいなものを出す機械を使っている。大掛かりな装置だからおそらく車とかに積んであると思うんだが、そいつを見つけ次第破壊していってほしい」
食蜂「さっきのスキルアウトから少しだけ読み取れたんだけど、この学び舎の園の全域をカバーできるように複数設置しているみたいなのよお」
黄泉川「わかったじゃん。今仲間にも連絡する──」
不良H「させねーよっと」ギィン
浜面「!?誰だ!」
不良H「俺が誰かなんてどうだっていいことだろう?」
黄泉川「くっ!ハンディレシーバーが通じない……!」
鉄装「あ、あの子、この間拘留場に入れたことじゃないですか?」
黄泉川「あの電磁気使いか!能力で電波妨害ってことじゃん」
美琴「面倒そうなのが来たわねっ!」バリリリリッ
美琴の電撃に対して不良Hは右手の三本の指を差し出し、その中指の方向に電撃が逸れる。
美琴「電磁気使い……、面倒ね……!」
不良H「ん??あの時のツリ目の姉ちゃんとは違うのか?でも似てるなあ。でももっとグラマスだったような……」
美琴「決定!殺す!」バリリリリッ
不良H「当たらんってば」
美琴「くっ!」
浜面「おい、妙じゃねえか?」
黒子「ですわね……」
美琴「なにがよ」
黒子「今はキャパシティダウンの影響下なのにどうして能力を平然と使っていられるのでしょうか?お姉さまでさえちゃんと制御できていないのに……」
美琴「た、確かに」
半蔵「……恐らくあの耳につけている機械だ。あれからキャパシティダウンを打ち消す音波か何かが出ているんだろう」
不良H「大・正・解!でもどうする?わかったところでレベル0共に何ができるんだ?鉛玉ぶち込もうったって、俺っちの能力で……」ニヤニヤ
浜面「……」バンバン
不良H「ごふっ!?」
浜面「ごめん、これゴム弾なんだわ」
不良H「そ、そりゃないぜえ……」ドサッ
* * *
浜面「そんじゃあこいつらの拘束は任せるわ」
黄泉川「任されたじゃん。それでお前たちはキャパシティダウンの破壊に向かうんだな?」
浜面「ああ、仲間を待ちたいところだが早めに行動しちまった方がいいかもな」
不良H「……」
不良H「……」ピクッ
不良H「……まだ終わりじゃねえぞ」
浜面「こいつまだ意識が……」
不良H「まだ終わりじゃねえぞぉぉ!出て来いやテメエらぁ!」
不良Hの怒声とともにあちこちからスキルアウトや不良Hと同じく耳に機械を付けた男達が現れた。
美琴「まだこんなにっ!」
不良H「くかか……形勢逆転だなっ」ギィィィン
浜面「しまっ……!」
浜面が不良Hの耳から機械を取り外そうとした時にはすでに遅く、能力でレンガ舗装の道を突き破って出てきた水道管が辺りを水浸しにする。
そしてその隙に不良Hは拘束を解いて仲間の方へ脱出する。
不良H「さあ、数の暴力で圧倒しちゃうぜえ☆」
浜面「……何を言っているんだ」
不良H「ひょっ?」
浜面「俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ!」
不良H「な~に言ってるだ」
ズドォォォォンッ!!
爆発音とともに崩れ落ちるレンガの塀。その向こうには道を埋め尽くすバン車とトラック。そして荷台に仁王立ちで緑色の光の玉を出している茶髪の女。
浜面「数の暴力?まだ学び舎の園に何人お前らの仲間がいるか知らないが、数なら互角なんじゃないのか?」
不良H「ぐっ……!」
浜面「そんで──」
浜面「──質なら負けないぜ?」
麦野「は~ま~づ~らぁぁぁぁ、助けに来てやったぜぇぇぇぇ」ニヤァァァッ
浜面「敵より怖いっ」
半蔵「つーかその塀の修繕費どうすんだよ」
浜面「麦野全持ちに決まってんだろ……」
半蔵「はぁ……、派手な登場は脇役のやることじゃねえってのに。キャラじゃねえなあ」
絹旗「はぁ~、ここが噂の学び舎の園。超きれいなところですね」
滝壺「ぐーすかぴー」
婚后「な、何ですの貴方たちは!?」
麦野「あ~ん?助けに来てやったのに何はねえだろお嬢サマよぉ」ギロッ
婚后「た、助けに?」ビクビク
美琴「アンタら……」
麦野「レェェェルガァン、何こんなザコ共に苦戦してんだよ」
美琴「むっ、仕方がないじゃない。アンタだって聞こえてんでしょこの音」
麦野「あ~?キャパシティダウンだっけか?確かにこれはウゼエな」
不良H「お~い、俺っち無視して話し続けてんじゃないよ~?」
麦野「あん?誰だこの短小顔は」
不良H「た、短小……!?」
麦野「てめえがリーダーっぽいな。オイ、この音ウゼエから止めろ」
不良H「は、はあ?んなことするわけないっしょ」
不良H(さっきの爆発がこの巨乳の能力だとするとレベルは少なくとも4……。面倒な増援だなあ……)
不良I「ここは取りあえず引き上げようぜ」
不良H「……そうだな」
麦野「……あの後ろのバンか」
不良H(ああ~、もうばれちったか)
麦野「オラァ!!」キュイーン
不良H「……っ!」ギュイン
麦野「原子崩しを、曲げた?」
不良H「さっきの威力、キャパシティダウンの影響下にしては威力がでかいと思ったけど、まさかの原子崩し(メルトダウナー)ですかい……」
不良I「何、第四位だと?」
スキルアウトT「まじかよ……」
不良H「そうと分かればとっとと撤退だな!行くぞお前ら!」ダッ
麦野「チィッ」キュイン
不良H「うわわっち」ギュガッ
麦野「クソがっ!」
不良H「ふう危ない。電気攻撃と違って直線的で曲げにくいなぁ。さあ、おいとまさせてもらうよっ!」ダッ
先ほど壊した水道管の水しぶきを浴びながら不良たちは撤退していく。
慌てて浜面がグロックを構えて引き金を引く。
放たれたゴム弾は惜しくも直撃せず、不良Hの耳を掠める。それによって不良Hの耳からヘッドホンのような装置が外れ、崩れ落ちたレンガの道路の下の方へと転がり落ちていった。
不良H「くそっ!だが、まあいい!あれの替えはいくらでもある!」
麦野「おいレールガン!テメエの電撃はあのバンまで届かねえのか!」
美琴「今の威力じゃ無理よ!」
麦野「チッ、使えねえ!」
浜面「麦野、下がれ!」ダダダダダンッ
浜面がグロックを連射するが、ハンドガンの精度ではなかなか当たらない。
浜面「クソッ!」
このままでは逃げられてしまう、あきらめかけたその時、
湾内「えいっ!」
ついさっきまで地面にへたり込んでいた湾内が、いつの間にか瓦礫の奥底から見つけ出したヘッドホン状の装置を耳につけて、手を振るっていた。
その動きに合わせるように水道管から噴き出た水が踊り、不良、スキルアウトの一団に向かっていく。
不良H「おい!」
不良I「わかってる」グオッ
不良Iの手に合わせて水の鞭が地面に叩き落される。それは不良たちの足元に水溜りを作っただけでダメージにはならなかった。
不良I「残念だったな」
美琴「いえ、十分よ」バチバチバチッ
不良H「……!オイ!」
美琴「遅いわ!」バチチチチッ
放った美琴の電撃が水の鞭状に不良の足元に伸びた水溜りを伝っていく。
不良I「ぐああぁぁぁっ!!」バリバリバリッ
スキルアウトT「クソッ!」
麦野「どぉこ見てんだ?」ニヤァ
スキルアウトT「いつの間にっ……!」
麦野「たった今だよォっ!」ドンッ
スキルアウトT「ごふっ!?」ゴロゴロッ ドサッ
浜面(で、た、よ、麦野の超体力)
美琴(私も蹴られたとき軽くバウンドしたしね)
麦野「ん~こいつを付ければこのウゼエ音が消せんのか?てか、さっきの電撃でこの機械死んでねえだろうな」
麦野はスキルアウトTの耳から片耳ヘッドホンのような機械を取り上げ自分の耳に装着する。
不良H「しまっ──」
麦野「だからおせぇっての」キュウン キュガァッ
レベル5の力を取り戻した麦野のビームは不良Hの能力の介入ももろともせず一直線にバン車に届き、そして爆炎とともに文字通り消滅させた。
婚后「……」
湾内「……え」
泡浮「……えぇ?」
黒子「ですの……」
レベル5の威力というのは美琴のレールガンで何度も見てきた。のだが、単純に攻撃の威力に関して上である麦野の能力を目の当たりにして流石の常盤台の面々も言葉を失う。
麦野「あ゙~調子ワリィ」
その一言で、次こそその場にいた全員が戦慄した。
* * *
浜面「麦野があのバンをぶっ壊したからこの辺では能力を使えるはずだ」
食蜂「あら、本当ね」
黒子「しっかりと使えますわね」
浜面「ただしまだほかの場所ではキャパシティダウンの影響下の区域が多い。だからこれからはうちのスキルアウトと常盤台の能力者のセットで行動してくれ」
黒子「わたくしたちがこの山猿たちとですの?」
黒子は心底嫌そうに辺りを見回す。確かに周りにいる不良たちは普段山猿と呼んでいる上条当麻以上に山猿かもしれない。
美琴「ちょっと黒子」
黒子「はぁ、わかってますわ。今はそんなこと言ってる場合じゃありませんものね」
食蜂「でも他のキャパシティダウンとかいうのはどうやって見つけるのかしらぁ?私の能力で他の娘達を操って探すことはできるけど、“私はここで能力は使えるけど、あの娘達はその場ではキャパシティダウンの影響下にある”から危なくて行動させられないわぁ」
美琴「あら、アンタでもさすがに他人の心配はできるのね」
食蜂「さすがにひどいわぁ」シクシク
浜面「それは大丈夫だ」
そう言って浜面はハンディレシーバーを取り出した。
???『みなさん、聞こえてますか?』ザザッ
美琴「この声……!」
黒子「初春ですの!?どうして山猿の無線に?」
初春『先ほどアクセラレータさんに周波数の書いた紙を渡されたんです。私が学び舎の園に設置された監視カメラにクラックしてバンの位置を割り出しますので指示に従ってください』
浜面「というわけだ。お前ら話は聞いてたな?」
味方スキルアウトD「勿論だよ」
黒子「わかりましたわ」
半蔵「抜かりなくいくぞ」
湾内「が、頑張ります!」アセアセ
美琴「アハハ、湾内さんは無理しなくてもいいのよ?」
湾内「いえ、わたくしも皆さんのお役に立ちたいんです!」
婚后「御坂さん、先ほど活路を開いたのは湾内さんですし、戦力としても申し分ないと思いますわ」
美琴「……そうね。頑張りましょう湾内さん!」
湾内「は、はいっ!」パァッ
泡浮「わたくしも参加しますわ」
浜面「よし、それじゃあ──」
黄泉川「ちょっと待つじゃんよ。アンチスキルの立場としてこのまま黙って見過ごせると思っているのか?」
浜面「なっ、そんな場合じゃ……」
黄泉川「他のアンチスキルに間違えられたらどうするつもりじゃん?電波が復活しているのもこの周辺だけで、お前たちのことを伝える手段がない。だからこいつを付けて行くじゃんよ」
そう言って黄泉川が差し出したかごの中には大量の腕章があった。しかしそれはジャッジメントのものではなく、アンチスキルのものだった。
黄泉川「私服巡回中の時に使う腕章だ。今からお前たちスキルアウトはアンチスキルの研修生だ。学び舎の園に居座ってるバカどもを制圧する目的に限って戦闘を許可するじゃんよ」ニヤッ
浜面「……りょぉかい」ニヤッ
浜面「よし、それじゃあテメエら──」
滝壺「はまづらはまづら」ツンツン
浜面「ってなんだ滝壺?寝てたんじゃないのか?」
滝壺「なんか、へん」
浜面「変って何がだ?」
滝壺「AIM拡散力場の流れが、生まれてる」
浜面「……ワリィけど俺にはAIなんとかってのもよく分かってないんだが」
滝壺「流れが、一方向にあつまってる」
そう言って滝壺が振り返ったその先には
浜面「なんだ、あれ……」
美琴「あれは……!」
青白く光る何かが遥か先に見えた。
滝壺が浜面の袖をクイクイと引っ張った。
滝壺「あれ、ほうっておくとまずい」
美琴「……あそこには絶対あの馬鹿がいるはず……!」
浜面「まずいってどういうことだよ!?ってか何であそこに大将がいるってわかるんだ!?」
状況を飲み込めていない浜面だが、しかし、今自分はあそこに行くべきなのだろうということだけは理解できた。
確認の意味も込めて麦野の方を振り返ると、麦野は一々聞くなといった顔で、手で払うモーションをした。
浜面「わかった滝壺、行くぞ」
滝壺「うん」
美琴「ちょっと、私も連れて行きなさいよ!」
そうして三人は車に乗り込み、光の方へと向かっていった。
残るは、あと一人
さて、ここで常盤台中学校Sideは終わりです
本来なら次は、上条さん達の『第七学区のとある高校Side』の場面なんですが、さすがに一方成分が少なすぎるので……
ちょっとだけ挟みます。
時系列的には、柵川中学校Sideと常盤台中学校Sideが同時で、第七学区のとある高校Sideが少し遅れてます。
遅れの分の時間で一方達がしていたことがこの後書く部分です。
──第七学区の廃止された研究所
長い間放置され埃の積もった研究室に一人の男が座っている。
座っている、という表現が正しいのかはわからないが。
何故なら男は、車椅子のようなものに座っているようで、実は“下半身そのものが車椅子のような機械でできていた”。
下半身がないのは、ある時拳銃で腹部を撃ち抜かれ、神経が駄目になり切断する羽目になったからだ。
男は笑っていた。
己の研究が今まさに成功しようとしているのだ。
予算が下りず、同僚に出し抜かれ、己の立場を失いそうになり、起死回生を狙うもたかが一学生に阻まれてしまった。
???「だがっ!そんなことはもうないっ!今度こそ、今度こそ完璧だっ!」
???「木原幻生!貴様でも成し遂げられないことを!俺が成し遂げてみせるっ!」
一方通行「なァに一人で叫んでんだテメェは?」
???「なっ」
一方通行「相変わらず三下未満だなァ、天井クンよォ」
天井「……アクセラレータか。また邪魔をしに来たのか?」
一方通行「それ以外に何かあると思うのか?」
天井「……ククッ……クカカカッ……」
一方通行「ンだァ?急に笑い出しやがって気持ち悪ィ」
番外個体(お前が言うな、っと)
天井「止める?止めるだとぉ!?無理だ無理っ!!今回ばかりはお前にも無理だよアクセラレータッ!!」
天井「お前は、学園都市の200万のAIM拡散力場に一人で勝てるというのか?」
一方通行「名演説の途中だがちょっといいかァ?」
天井「……なんだ」
一方通行「オマエ、さっき木原幻生を超えるみたいなこと言ってたけどよォ……、テメエが参考にした木山春生の論文と報告書があるよなァ」
天井「な、んでその事を!?」
一方通行「知り合いにそりゃァハッキングの特異な女がいるンだよ。……ンでだ、その木山春生ってのは木原幻生の弟子だぜ?それで超えるとかなんとかよォ……」
一方通行「ば~~~っかじゃねェの!?」
天井「ぐっ!!」
一方通行「そンなンじゃァ、一生かかっても超せねェよォ!」
天井「く、糞がぁぁっ!こいつを見てからもそんな口が利けるかぁぁぁっ!!」
壁と天井を突き破って現れた球体。その頭上(?)には光る輪のようなものが浮いていた。
* * *
──第七学区のとある高校Side──
吹寄「上条!これはどういうことだ!またお前が何かやったのか!?」
上条「問題事があったらとりあえず俺疑うのやめてくれない!?」
上条(その可能性が高いんですけどね!!)
土御門「取りあえず分かっているのは、襲撃者は能力者の奴らだってことだ」
吹寄「なぜ能力者がうちの学校を襲っているんだ!誰か恨みをかうことでもやったのか!?この3馬鹿共が!」
青髪ピアス「なんでボクらで決定なん!?きっとカミやんの痴情のもつれが原因や!」
土御門「あり得るにゃー」
上条「なんでだよ!」
能力者の襲撃を受けた学校は騒然としていた。この学校に在籍する生徒のほぼ全員が無能力者であることに加えて、アンチスキルに勤務している教員がまとめて外の仕事で不在であることが生徒たちの不在を加速させた。
青髪ピアス「しっかし、わざわざこんな学校襲って何がしたいんやろなあ?」
恐らく理由などない。暴れたいから暴れる、そういう単純な思考に付け込んだのが今回の黒幕だ。制御する必要のない雑兵を大量に作り上げたのだ。
上条(敵の数や能力もちゃんとわかっていないから迂闊に動くべきじゃないか……)
校内放送『生徒の皆さん聞こえますか。現在大変危険な状況です。皆さんは速やかに体育館に集合し、教員の指示に従ってください』
上条「なっ!?」
土御門「馬鹿が!この状況で迂闊に教室から出させるな!それにこの放送は能力者どもに丸聞こえなんだぞ!体育館が危険になっただけだろうが!」
青髪ピアス「アンチスキルに所属している先生たちがいないあからなあ、判断力に欠けるのしか残っとらんのや!」
三人の心配をよそに生徒たちは次々と教室を飛び出していってしまう。
上条「おい待てよお前ら!」
青髪ピアス「だめや!みんな冷静やない!」
吹寄「どどど、どうするのだ上条!?」アセアセ
上条「ま、まずお前が落ち着け」
上条(しかしどうする!?もう俺たちが声をかけたところ止まる勢いじゃねえぞ!)
土御門「カミやんどうする!?こもままじゃあ……!」
上条「全員に話を聞かせるなんてもう一度全校放送を流すぐらいしか……!」
上条「……そうか!」
当麻は思い出したように携帯電話を取り出して、ある女性に電話をかけた。
上条(あんまりあの人には頼りたくないんけどな……、今は頼むから出てくれ……!)
???『──おや、上条当麻か?』
上条「雲川先輩、頼みがあるんだ!」
土御門(雲川芹亜か……!)
雲川芹亜『言わなくても要件は分かっているさ。全校放送をかけて欲しいのだろう?』
上条「あ、ああ!話が早くて助かる!」
雲川芹亜『ふふっ、こういう時は先輩を頼るの遠慮はいらんさ』
雲川芹亜『それよりも、このゴタゴタが済んだら一発付き合ってもらうぞ?』
上条「一発ってカラオケとかか?まあそれぐらいなら……」
雲川芹亜『ふふ……まあカラオケででも構わないさ。それじゃあな』プツッ
上条「カラオケ“で”でも?……時々変なこと言うけど、いい先輩であることには変わりないか」
青髪ピアス(カミやん……)
土御門(電話の内容は聞かなくてもわかるにゃー……。これでも分からないカミやんは何なんだ……)
校内放送『ん゙ん゙っ、あー、聞こえるか全校生徒の諸君。今体育館に行っても危険なだけだぞー?さっさと教室に戻りたまえ』
ザワザワ
ナニナニドウイウコト
ドウスリャイインダヨ!
上条「よ、よし!今なら!」
土御門「お前ら放送が聞こえなかったのか!すぐに教室に戻れ!」
生徒たちが慌てて教室に戻り始めたとき、廊下に轟音が響き渡り、窓ガラスが次々と割れていく。
クラスメイト女「きゃあああっ!?」
クラスメイト男「何だ!?」
青髪ピアス「な、何だか分からへんけどみんなすぐ教室に入るんや!」
上条「能力者か!?」
土御門「ああ、恐らくな」
発火系能力者「ん~?ここだっけか?例の奴がいるって噂の学校は」
念動力系能力者「あくまで噂よ?」
精神干渉系能力者「噂がウソだったら帰るのカ?」
発火系能力者「いやいや、せっかくだから暴れて帰ろうぜ?それにまだ噂がウソだって決まったわけじゃない」
吹寄「な、何だ貴様たちは!これは学校への不法侵入、異物破損に当たるぞ!即刻出て行け!」
発火系能力者「お、じゃあそこの巨乳の娘でいいや。あのさあ、俺たち噂でこの学校に学園都市第一位の能力者を倒した無能力者がいるって聞いたんだけどさ。誰の事だか知らない?」
上条「……!」
吹寄「が、学園都市第一位?」
発火系能力者「そうだ。その第一位を倒した奴がこの学校にいるっていうんだが知らんか?」
吹寄「この学校に……?」
発火系能力者「知ってるのに隠そうとすんだったら容赦はしねえぞ?」
精神干渉系能力者「イヤ、恐らくそいつは何も知らン」
念動力系能力者「あら?あなた、相手の考えを読むことなんて出来たかしら?」
精神干渉系能力者「イヤ、最近少しだけできるようになっタ」
念動力系能力者「あら、おめでとう」
発火系能力者「な~んだいねえのか。なんか萎えたな」
念動力系能力者「あら、帰るの?」
発火系能力者「だって萎えたし」
上条(帰ってくれそうか……?)
土御門(まだ油断はできない……)
念動力系能力者「あらそう。でも私はちょっと暴れてから帰りたいわ」
上条「……!」
発火系能力者「なんだ?あの巨乳の娘に嫉妬でもしたか?」
念動力系能力者「……」ピクッ
発火系能力者「ブッ、図星かよ!」ゲラゲラ
念動力系能力者「チッ!」イラァ
念動力系能力者「ちょっとあなた、こっち来てくれません?」グイッ
そう言って女の能力者が手を引き寄せるモーションを取ると、直接触れられていない吹寄の体が引きずられるようにして女能力者の方へと向かっていった。
上条「っ!待てっ!」ダッ
念動力系能力者「邪魔よっ!」ヒュンッ
もう片方の腕で女能力者は机を浮かせ、当麻の方へと投げつけた。
上条「っ!」
とっさに右手を構えるが、能力がかき消されるような様子はなく、初めの勢いのまま腕に激突し、腕をつっぱていたため肘関節から嫌
な音がした。
上条「がぁっ!?」ドサッ
土御門「駄目だカミやん!あいつの能力は、浮かせて投げるまでだ!飛んできた机にはもう能力が働いていない!」
発火系能力者「なんだよ~、お前が暴れんなら俺も暴れよっと」
精神干渉系能力者「俺の能力はそういうのには向かなイ」
土御門(どうする……!?流石に能力者三人相手に素手は危険だ。とは言ってもクラスメイトの前で魔術なんて論外だ)
念動力系能力者「さあてどうしてくれようかしらねこの牛チチは……。もごうかしら」イライラ
発火系能力者「ぶっは!もぐっておまっ!そんならその前に一旦貸してくれよ。俺らで回した後でもいいだろ?」
念動力系能力者「めんどくさいわね~」
発火系能力者「いいだろ別にぃ。ああそうだ、撤退前にこいつら全員焼いちまっていいだろ?」
クラスメイト達「「!?」」
念動力系能力者「焼くって……、さすがに殺しちゃだめよ?」
発火系能力者「分かってるって。ちょっと熱いだけだからよ」ニヤッ
土御門(……カミやん!今や!教室全体に炎なんて放たれたら流石にお前の右手でもカバーできん!発火点に右手をブチ込め!)
上条(ああ!)
上条「うおおおぉぉぉっ!」
発火系能力者「っ!?」
当麻は拳を握りしめ発火系能力者のもとへ一気に駆け寄り、その拳を振るう。
しかしその拳は相手へ届くことなく“横へと流れていく”。いや正確には“当麻の体ごと横に飛ばされた”のだ。
上条「がっ……はっ!?」
精神干渉系能力者「読めてましたカラ」
上条(なんで……俺の思考まで読めるん、だ……!?)
土御門(右手が効いていない!?……いや、俺の方の思考を読んだのか!!)
精神干渉系能力者「サテ、私まで丸焦げにされたくないので撤退させていただきマス」
発火系能力者「そんじゃあ、そろそろ……」
上条「っ!おおおおぉぉぉっ!!」
発火系能力者「チッ、しぶといな糞が!」
念動力系能力者「私に任せて」
立ち上がる当麻に一つ、二つと机が飛び交う。当麻はその一つ一つを、体をひねり、伏せ、飛び、多少はカスリはしながらも避けてい
く。
念動力系能力者「やるじゃない!」
上条(ビアージオの十字架(メノラー)に比べりゃ楽勝だぜ!)
念動力系能力者「じゃあこれならどうかしら?」
念動力系能力者「じゃあこれならどうかしら?」
そう言って右手をかざした先では“何か”がメキメキと音を立てる。
その何かとは、
上条「ま、さか……」
念動力系能力者「“壁ごと”なら避けられないでしょう?」メキメキバキッ
そうして、“能力によってもぎ取られた教室幅の壁がそのまま教室の幅に沿って上条達クラスメイトの方に迫る”。器用に襲撃者三人
と吹寄のスペースだけを空けて。
発火系能力者「ははっ!さっきまで殺すのは駄目とか言ってたやつの攻撃かよ!」
すでに能力によるものではなく、慣性の法則にしたがって進み、摩擦によって微々たる減速をしながら壁はクラスメイト達に迫る。器
用なもので、面白いぐらいまっすぐに、倒れることなく飛んでいた。
上条「く、くそぉぉぉっ!」
当麻が叫び、そして土御門のアロハシャツの内ポケットが光るまで一秒。
そして、教室を轟音と閃光が包むまでさらに一秒。
雲川芹亜「やれやれ、これは貸しだぞ土御門元春」
そして壁の砕けた瓦礫の上に、雲川芹亜が現れるまでには十秒も経過していた。
上条「雲川、先輩……?」
未だに謎の閃光と轟音で明瞭になっていない目で、その女を捉える。
雲川芹亜「まったく、私に貸しを作るとは土御門元春もまだまだだな」フッ
上条「土御門がなんだって──って、大丈夫か土御門!?」
ハッと後ろを振り返ると、そこには全身血まみれで倒れた土御門の姿があった。
クラスメイト達の視界も徐々に戻ってゆき、そしてその血だまりを見て悲鳴が飛び交う。
クラスメイト女「キャアアアッ!?」
青髪ピアス「な、なんやこれ!?カミやん、いったい何があったんや!?」
上条(これは魔術を使った代償だの傷だけど……、そんな説明をするわけにはいかないしどうする!?)
雲川芹亜「あ~これは、土御門がお前たちを庇ったんだ。ちなみに能力者どもは崩れた壁に巻き込まれて自爆したぞ?すぐに命に係わる状態じゃないとはいえ重症だ。誰か救急車を呼んでやれ」
* * *
上条「え、えっと雲川先輩……」
雲川芹亜「まったく、私のスタングレネードが無ければ今頃土御門のアレはクラスメイト全員に見られてしまうところだったぞ」
上条「……先輩はどこまで知っているんですか?」
雲川芹亜「さて、何のことやら。それよりもまず片づけなければならない事があるぞ」チラッ
吹寄「っ……」ビクッ
上条(吹寄だけには見られた、か……)
吹寄「か、上条……、さっきのは何なんだ?土御門は能力者だったのか?」
上条「……」
吹寄「こ、答えられないのか?」
上条「……あれは、能力じゃない」
吹寄「能力じゃない……?じゃあ一体……!?」
上条「それは──」
土御門「カミやん、あとは俺に任せてくれ」
上条「土御門!?お前、まだ動いたら駄目だろうが!」
土御門「俺は大丈夫だ。それよりも携帯電話がさっきから鳴ってるぜぃ?」
上条「っ!本当だ……」パカッ
土御門「今時ガラケーとは貧乏だにゃー」
上条「う、うるせいっ!今の時代はガラケーとスマホの二台持ちが主流なんだよ!」
土御門「で?そのスマホは?」
上条「あーもしもし?」
土御門「逃げたにゃー」
吹寄「逃げたな」
土御門「……」
吹寄「……」
土御門「……吹寄には後で説明する」
吹寄「わ、分かった……」
上条「浜面か?どうしたんだ?」
浜面『た、大将!急いで来てくれ!』
上条「急いでってどこに!?」
浜面『外に出ればわかる!』ブツッ
上条「あっ、おい!……切れちまった」
上条「外、だって?」
そうして当麻が外を見ると、ソレは目に映った。
上条「なっ!?あれは風斬か!?いや、それにしては……」
吹寄「か、上条!どこに行く!?」
上条(なんだって“天使”がこんな所に!?)
* * *
──第七学区の廃止された研究所
一方通行「クカカカッ、なんだその球体はよォ?俺が見たのはもっと人の形をしていたたぜェ?」
天井「黙れ。形などどうでもいい。今重要なのはこいつが私の制御下にあるということだ」
一方通行「なんだと……?」ピクッ
確かに目の前の球体は壁を突き破ってから微動だにしない。すぐ下にいる天井のことも気にかけていないような様子だ。
天井「木山春生の事後レポートによると、学園中のAIM拡散力場を一か所に凝縮することで莫大な力を有する生命体のようなモノが生じ、AIM拡散力場の集合体は己の制御を離れて自我を有するように見えた、とある」
天井「木山春生の研究はあくまで樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の代替品の製造だったようで、こいつはただの副産物。制御する術など考えるどころか、そもそものイレギュラーだ。あっけにとられて終わったに違いない」
そこで一呼吸おいて天井は「だが」と切り出す。
天井「あらかじめ起こる事象が分かっているならば恐れることなどない。イレギュラーを知っている科学者にできないことなどないのだよ。かかる時間がどうかは置いておいて、必ず真実に辿り着ける」
天井「どうだアクセラレータ。もう一度聞くぞ?お前は、学園都市の200万のAIM拡散力場に一人で勝てるというのか?」
一方通行「ハッ、本当にオマエ如きに制御ができているなら、ちったァビビったかもなァ」
天井「強がりはよせアクセラレータ」
一方通行「強がりかどうかはいずれ分かるさ。少なくとも今まで俺が見てきた“ソイツら”は人間一人に制御できるようなモンじゃなかったがなァ。精々暴走しないように祈っておくんだなァ」ニヤ
一方通行(まァ、天井クン製のポンコツであろうと普通にやったら勝てない相手だってのは分かってる)
番外個体(どうすんのさ)
一方通行(どォするもこォするも……)
アクセラレータは自分の首元の電極のスイッチにてを伸ばす。
一方通行「アレが動く前に片付けてやンよォ!見る限りまだ完成ではないみたいだからなァ!」ドォッ
アクセラレータが地面を蹴り、天井が瞬きをした時には既にアクセラレータは球体を自分の体で突き破っていた。
天使?『ギ#ィ2&”ッ?』グチャァ
天井「チッ、相変わらず規格外な奴め……!」
天井「だが、そんなものでこいつは壊れはせん!」
一方通行「ンなことは分かってる。壊れるまで壊すンだよ」
* * *
一方通行「ゼェ、ハァ……」
天井「ば、馬鹿な……!未完成とは言え、ここまで一方的に……!」
一方通行(クソッ、負ける気はしねェがその逆もだ。このままじゃァバッテリー切れに追い込まれちまう)
一方通行(俺もあの状態になれりゃァ世話ないンだが、なろうと思ってなれるもンでもねェ)
番外個体「むぅ~、ほとんど不死身じゃんかアイツ~。ミサカもいい加減疲れてきた~」
天井「ふ、ふふ、そうだ!こいつは不死身だ!こいつを止めるには学園都市200万の能力者を殺すことでもしなければならんなあ!」
一方通行「チッ、めんどくせェ。外の騒ぎも収めなきゃならねェッてのによォ」
天井「外の騒ぎねえ。彼らはいい仕事してくれているよ全く」
番外個体「ん?どゆこと?」
一方通行「説明が面倒クセェ。自分で考えろ」
番外個体「え~、ケチ~」
天井「別にいいだろう一方通行。私の偉大な研究成果を説明してやってくれたまえ」
一方通行「うぜェ……。が、まァいい。一回だけしか言わねェからよく聞け」
一方通行「散々言っている通り、ここ数日の事件は全部そこにいる三下が扇動したモンだ。学園都市中の能力者が一斉に能力を使う状況が欲しかったみてェだな」
番外個体「そうするとどうなるの?」
一方通行「AIM拡散力場はわかるな?」
番外個体「能力者が無意識のうちに出している微弱な力だっけ?」
一方通行「そォだ、黙っていいても出ているが、能力使用時にはその量が格段に増す。学園都市中を漂っているAIM拡散力場の濃度を増すことで、この化けモンを練り上げたってカラクリだな」
番外個体「AIM拡散力場だけであんなものが作れるわけ?」
一方通行「……前例もあンだよ」
番外個体「?」
一方通行「まァいい。とにかく、あの三下は学園都市中にキャパシティダウンとか、パワードスーツ系のおもちゃをばら撒くことでスキルアウト共を暴徒化、そンで、能力者との対立構造を作って争わせることで、AIM拡散力場を活性化させたってことだ」
番外個体「なるほどね~。……でもあのオッサン、一度研究に失敗した上、死亡扱いだったんでしょ?どこからそんな予算が出てきたんだろ」
美琴「──そんなの簡単よ、“外”と取引したってこと」
番外個体「あり?おねーたまじゃん」
さっきまで三人の姿しかなかった研究所のホールには、いつの間にか美琴の姿があった。
一方通行「第三位……、てめェ、どうしてここに……」
美琴「これだけ光ってれば誰でも気になるわよ。それに、詳しい位置はこの娘がね」
滝壺「ん、あくせられーた」
浜面「という訳だ」
一方通行「チッ、ぞろぞろと来やがって」
天井「ふむ?虫が数匹増えたみたいだが、まあいいだろう。それで?レールガン、俺の資金がどこから沸いてきたのか推理を聞こうじゃないか」
美琴「わたしのことを……、やっぱりあなたはあの計画の関係者なのね」
天井「今はそんな話をしていないのだが?」
美琴「……決定ね。事が済んだら殴らせてもらうわ」
美琴「それで、あいつの資金源のことだけど、ここ最近の不振な流通データとかをクラックしてみたから大筋はわかってたわ。要するに
学園都市では型遅れのガラクタを“外”に向けて売りさばいたのよ」
美琴「学園都市では研究が遅れたり、求められる研究ができないようなところは次々とつぶれていくわ。そうなった研究所は設備も何も
かも置いて空になることが多いわね。あいつはそんなものを売りさばいて金を造ったみたいね。こっちではガラクタでも“外”では最新
だもの、高くついたんでしょうね」
美琴「もちろんそういった事が起きないように学園都市の検閲は非常に厳しいわ。だからある程度稼いだところで、残りのガラクタを他
の証拠ごと倉庫と爆破したんでしょうね」
番外個体「ああ、あのニュースでやってた倉庫の爆破事件ってそのこと」
天井「……驚いたな、完璧だ」
天井「そこまで知られてると、生きて返すわけにはいかなくなるな」
浜面「いや、そもそも生きて返すつもりなんてねえだろ」
天井「くははっ……、まあな!」
天井の声と共に、再び天使らしき物体が動き始めた。
天使?『ギュ*@”ァァ。ァ+ッ!!!』
浜面「どわあぁっ!?俺の出る幕ないんじゃねこりゃ!?銃なんか効かねえだろ絶対!」
美琴「確かこいつみたいなやつと前に戦った時は、三角柱の核診たいのをぶっ壊したら倒せたわ!」
滝壺「ほんとだ、まんなかに力場の圧縮された部分がある……」
一方通行「そいつをぶっ壊してとっとと終わらせんぞクソがァッ!」ギュアッ
美琴「体のどの辺よ!?」
滝壺「……だめ、なんか絶えずぐにゃぐにゃ移動している」
一方通行「欠陥品だからこそか、メンドクセェ……」
美琴「それならっ……、これでどうかしら!?」バチチチチチッ
美琴の放った超強大な電撃は、巨大な天使のような物体を包み込む。
しかし、爆音と閃光の後見えたのは、表面が焦げ、肉の腐臭を漂わせながらも何食わぬ顔でいるソレだった。
美琴「やっぱり“点”の攻撃じゃないとダメージにならないってことね……」
一方通行「かと言って、見えねェ動く核には当たらねェ」ギュイン
天井「ふはははっ!どうしたどうした!レベル5が二人いてそのザマかっ!」
天使『───=====#”&ァァァァァッ!!!!』
浜面「な、なんかあの化けモン、さっきよりでかくなってねえか!?」
天井「く、くはは!お前たちのお仲間共が街で暴れてくれてるおかげで、AIM拡散力場の凝縮度が増しているようだな!それにここで戦っ
ているお前たちもなあ!」
美琴「ってことは、私たちが戦えば戦うほど強くなるってこと!?」
浜面「どうすんだよこんな化けモン!」
一方通行「……ッ!オイ、テメェら!ボサッとすんな!」
浜面・美琴「「っ!」」
天使のような物体の口(?)に光が徐々に集まったかと思うと、次の瞬間それが一気に放出された。
浜面「滝壺っ!」
美琴「ほらこっち!」
浜面と美琴はそれぞれ滝壺と番外個体を光の軌道からどうにか逸らす。
光の波動は四人の後ろの壁をやすやすと破壊し、その破片が頭上から降り注ぐ。
滝壺「っ……!」
浜面「滝壺っ!」
浜面が覆いかぶさるようにして滝壺をかばった直後、こぶし大のコンクリートの破片が浜面の後頭部を打った。
浜面「がっ!?」
滝壺「はまづらっ!」
一方通行「くそがッ!何しにきやがったンだテメェは!」
美琴「っ!次が来るっ!」
番外個体「このまま避け続けてたら、いつか持ちこたえられなくなるね……!早く核を破壊しないとさあ!」バチバチバチッ ギュィンッ
番外個体は指の間に挟んだ釘を磁力の力で飛ばした。釘は天使のような物体に突き刺さると、その肉片にボーリング検査のように穴を
開けた。
そこには、三角柱というには歪な何かがあった。
美琴「歪だけど、あれがおそらく核よ!」
番外個体「もう一発!」
天井「──チッ!させるかクソがぁっ!」ドンッ ドンッ
番外個体「……あ、……ぐふっ」ドサッ
天井のはなった弾丸のうち一発が番外個体の腹部に風穴を開けた。真っ白なアオザイに赤いシミが広がっていく。
美琴「ちょっと!しっかりしなさい!!」
美琴が番外個体に駆け寄ろうとするも、死角からの模造天使の横なぎの余波に二メートルも横に飛ばされ、肺の空気をすべて吐き出す
と同時に血を飲むことになった。
美琴「ごほっ!げほっ!」
一方通行「クソがァッ!」
一方通行が鬼の形相で天井に迫るも、天井は余裕の表情を崩さない。
天井「──アクセラレータ、“俺たちが死んだあの日”の続きといこうじゃないか」
天井がそういった瞬間、アクセラレータは平衡感覚を失い、地に伏したのだった。
* * *
この感覚には覚えがある。
演算補助が行われていない状態だ。
しかし、なぜ?
わずかに動く眼球をチョーカーバッテリーランプに向ける。
色は緑、正常に起動している。
では、なぜ、だ?
天井「シスターズ2万の万が一の暴走や反逆を防止するための総括個体、最終信号、か」
天井「よくできたシステムだ」
一方通行「ま、さか……て、め……」
天井「勘違いするな。お前の大事な大事な最終信号には何もしておらんよ」
天井「あの時私は、司令塔である最終信号にウィルスを打ち込むことでシステムを乗っ取ろうとした」
天井「まあ、お前のせいで失敗に終わったがな」
天井「もう一度同じことをやろうとも、どうせ対策が講じられているんだろう。大方あのカエル顔の医者によってな」
天井「司令塔が使えないならどうする?簡単な話だ、司令塔からその権利を剥奪すればいいのだよ」
天井「司令塔である最終信号がMNWが離脱する唯一の瞬間。それがカエル顔の医者の下でのメンテナンスだ。今日の14:30から、ついさっきからだな」
天井「司令塔がMNWから消えた瞬間にウィルスが起動するようにセットしてあったのだよ。そう、“セキュリティの甘い通常の個体にな”」
天井「内容はこうだ、『司令塔である最終信号がMNWから切断された場合、司令塔の権利を放棄したとみなし、以降その権利をネットワークから削除する』とな」
天井「メンテナンスが終わり、上位個体がネットワーク復帰したとしても、“司令塔という権利自体が消滅したネットワーク上ではいかなる命令も無効だ”。それが、お前への演算補助に関することであってもな」
天井「通常の個体のセキュリティを高めなかったのが敗因だな、アクセラレータ」
天井「もう言っていることも聞こえていないのか?それとも反応したくてもできないのか……。まあいい、どちらにせよお前は邪魔だ。とっとと消して、『木原』への復讐へと向かおうじゃないか」
天井が手を振り上げる。
模造天使が動く。
アクセラレータは動かない。
天井が手を振り下ろす。
模造天子が動く。
アクセラレータは動かない。
動かない。
天子がいつまでたっても動かない。
上条「──間一髪セーフ、か?」
三ヒーローと、三ヒロイン。
ここからは反撃の時間。
* * *
天井は目の前の光景を疑わざるを得なかった。
自分の最高傑作が、学園都市200万人の結晶が、たった一人の高校生が片手で制止しているのだ。
天井「な、何だ貴様……!どうやって、どうやってこいつを止めているっ!?」
上条「悪いけど俺の右手は特別製でな。能力も魔術も奇跡も、全部ぶち壊しちまうんだよ」
天井「な、何を言っている……!?」
上条(っても、この天使みたいなやつ、触っただけじゃ壊れないか……)
美琴「か、核よ!そいつは三角柱状の核を壊さないと倒せないわ!」
上条「美琴と……そいつはミサカワーストか!クソッ、あんまりもたもたしてる時間はねえみたいだな!」
上条(アクセラレータも浜面も倒れてやがる……。滝壺は戦力にならないはずだし、御坂はワーストの止血で手一杯だし。俺一人で片付けるしかないか……!)
上条「くそっ、核ってのはどこにある!そもそも学園都市中から絶えず力が供給されてる所為で、拳をぶち込んでもすぐに再生する!核ってやつにとどくかも分からないぞ!」
天井「くははっ!せっかくの増援も役立たずか!」
その場の全員が、打ちひしがれたその時、滝壺がふと顔を上げた。
滝壺「……とま、った?」
美琴「ど、どうしたの?」
滝壺「核の動きが、とまっている……」
美琴「核の位置が特定できるってこと!?」
滝壺「うん、ちょうど、まんなかあたり」
美琴(何で今になって急に……。……もしかしたら、あいつの右手が触れてることが関係しているのかしら?)
美琴「なににせよ場所が分かれば早いわ!」
美琴は番外個体の止血を終え、ポケットからゲームセンターのコインを取り出し、指ではじき、最大出力の電撃とともに射出した。
しかしレールガンは数十センチめり込んだところで止まってしまった。
美琴「なんで!?さっきはもっと柔らかかったはずよ!」
滝壺「かみじょうの右手で押さえられてからAIM拡散力場の濃度が増している……。さっきまで流動していたのをせき止めたからかもしれない」
美琴「そんな子といったって、止めておかないと核が狙えないじゃない!」
上条「ぐがが……、お、押さえてんのもかなりきつい……!はやく、核を壊してくれ!」
美琴「くっ……!」
浜面「──狙ってる場所は合ってんだろ!?なら核にぶちあたるまで掘り進めりゃいいんだろうが!」
滝壺「はまづら!?意識が戻ったの?」
浜面「まーな!ただまだ頭は痛むからとっととあいつを倒して病院行くぞ!」ジャキッ
浜面は肩に下げていた自動小銃を抜くと、美琴が模造天使の腹部に作った窪み目掛けて引き金を引いた。
浜面「おらあああああぁぁぁぁぁっ!!」ドパパパパッ
美琴「それもそうねっ!」ピィン バチバチチチッ
美琴と浜面の連携に、少しずつ穴は深くなっていった。ソレは悲鳴を上げるも、上条の右手に押さえ込まれ逃れることができないでいた。
天井「な、なにをやっているこのポンコツが!早く動いてそいつらをぶち壊さんか!!」
上条「さ、せ、ねえよおおぉっ!!」ググググッ
天使?『ピィギャァ</:`[ァァッ!!』
浜面「いけるっ!」ドパパパパッ
美琴「はぁぁぁぁっ!」ドギュゥゥン
そしてついに、核がその姿を現したその時だった。
天井「させねえよクソがぁぁぁぁっ!!!」ドンッドンッドンッ
上条「っ!」
天井が放った銃弾は、当麻の足を掠めるも、致命傷になるようなものではなかった。
しかし、バランスを崩したせいで、押さえつけていた右手が離れてしまった。
上条「しまっ──」
美琴「核がっ!」
模造天使の肉体は再生をはじめ、核は再び流動的に体内を移動しようとしていた。
浜面「クソッ!!」
美琴がポケットのコインを取り出そうと、浜面がマガジンを取替えにかかるが到底間に合わない。
しかし、一人、地に伏しながらも拳銃の引き金を引く姿があった。
一方通行「──終わりだ、クソ野郎」
* * *
──天井が上条に発砲する二分前──
一方通行(なにも、できねェ)
一方通行(クソが)
一方通行(いつもの“アレ”はどォした)
一方通行(駄目だ、頭がはたらかねェ)
一方通行(もう、寝るかメンドクセェ)
一方通行(あ?なンだアイツ)
一方通行(大怪我してンのにこっち来てんじゃねェよ。ジッとしてろ)
一方通行(なに額に手なんか当ててンだよ。熱なンかねェぞ)
番外個体「あなたの演算補助は、一万弱のシスターズの脳を並列に繋ぐことで成り立っている」
番外個体「そのシステムじゃ、ミサカ一人じゃどうにかなることじゃない」
番外個体「今のアナタに能力を取り戻すようなことはできない」
番外個体「でもね、指を、引き金を引くために動かさせることぐらいはできる」
番外個体「“今ミサカが持っている演算能力を全部あげるからさ”」
* * *
乾いた発砲音が、何かが砕ける音が、一度ずつ。
耳を覆わねば耐えられない断末魔が鳴り響き、それからは覚えていない。
* * *
──二週間後──
カエル顔の医者「やあ、やっと目覚めたかい」
一方通行「……何日経った」
カエル顔の医者「君は二週間寝ていたね」
一方通行「テメェにしては時間がかかったな」
カエル顔の医者「そう言わないでおくれ。あの娘達に入っていたウィルスのクリーンアップに時間がかかったんだ。万全の状態でないのに君をMNWに繋ぐ訳にはいかなかったんだよ」
一方通行「他のやつらは?」
カエル顔の医者「詳しくは聞いてないけど倒壊する研究所から君を助け出すときに多少なりとも怪我をしたみたいでね。二人は軽症だったから二日三日で退院させたよ。浜面君は後頭部を縫う手術をして、一週間ほど安静にしてもらったけど」
カエル顔の医者「……あの娘も、お腹の銃弾は取り出して縫合はしたよ」
一方通行「……縫合“は”した、か」
カエル顔の医者「ああ、一時的とはいえ、君に全ての演算能力を君に接続したため、彼女の脳はほとんどからの状態になってしまったんだね」
一方通行「……」
カエル顔の医者「とはいえ、植物人間になる前にあらかじめインストールされていたプロテクトが起動したようでね。どうやら最低限のデータを残すために“初期化”されたようだね」
一方通行「初期化、か。記憶が消えただけ、ってわけではなさそうだな」
カエル顔の医者「……そうだね。“人間”にこういう言い方をするのもなんだけど、分かりやすい言い方をすると“プロトタイプ”になったってことかな」
一方通行「初めて培養機から出た常態か」
カエル顔の医者「そうだね。脳内は赤ん坊そのものさ。だから今は学習装置(テスタメント)を使っているところだよ」
一方通行「だが、か……」
カエル顔の医者「……そう、彼女はそもそも20001人の仲間ではない。イレギュラーなウィルス的な要員として造られた子だ。“通常の子と同じプログラムを用いてもMNWに入る権限がない”んだね。あの子用のロシアの施設は既にないし、データも上が抹消したはず。あの子のためのMNWに介入するためのクラックプログラムの作り方はもう分からないんだよ」
一方通行「MNWに入れないことで何が起こる」
カエル顔の医者「生活するうえでは問題はないんだがね。もし、MNWに入ることができれば、常に彼女たちが保存し続けているバックアップデータから記憶を復元できるはずなんだ。それができないんだよ」
一方通行「……」
カエル顔の医者「彼女は、もう君を知らない。彼女はもう君の知っている彼女じゃないんだ」
一方通行「……」
一方通行「……いいじゃねェのか別に」
一方通行「記憶が有ろうと無かろうと、アイツはアイツだ。それに、これでやっと、あいつの望んだ普通の女のこってのになれんじゃねェのか?」
カエル顔の医者「それは君の本心かい?」
一方通行「本心、か……。ンなモンまだ整理のついていない今じゃァ分かンねェ……」
一方通行「ただ、最後の最後にアイツは言った」
番外個体『──恨むよ、アクセラレータ』
一方通行「アイツは結局俺を許してなンかいねェ。恨んで恨んで、最後まで恨んで、それで消えやがった」
一方通行「俺は一生恨まれる。俺はそれでいい。ただ、次はアイツはそんなことの為に生きてほしくねェんだ。俺は一生恨まれ、アイツは一生そんなことに縛られずに生きられる。俺はそれでいいと思ってる」
カエル顔の医者「……背負うことに決めたんだね」
一方通行「ンなことは、頭をぶち抜かれたときに決めてる」
カエル顔の医者「……ふむ。彼女は5031号室にいるよ」
一方通行「世話ンなったな」
カエル顔の医者「これが仕事だからね」
* * *
目の下のくまは相変わらずだ。
しかしその下に見える表情には、憎悪の念は見えない。
何も知らない、無垢な瞳。
何も考えていないのではないかと思ってしまうほどの微動だにしない表情。
毎日毎日、顔からにじみ出ていた憎悪はそこに無い。
しかしアクセラレータは救われない。常に“彼女”の顔が思い出される。
救われる権利も、そんな願望も無い。
しかし目の前の彼女は救われた。
これはハッピーエンドにも見える。
バッドエンドなのかもしれない。
番外個体「初めまして、アクセラレータでお間違えないですね。ミサカは個体番号なし、ミサカワーストです。アナタの家でお世話になっていると聞きましたが……」
一方通行「……俺の家じゃねェよ。怪我が治ったら、家主に挨拶にでも行くか?」
騒動での怪我人は多く、特に学生の入院者で病院はあふれていた。
死人が出なかったのだ何よりも幸いなことであった。
混乱していた市街も徐々に元に戻り始め、最後の一仕上げにアンチスキルの職員が慌しく走り回っていた。
そんな日常に戻りつつある家路を、数日後二人の男女が帰っていった。
END
この後、
【 後日談 】
に続きます。
しかも番外個体……
後日談が気になってヤバい。