【パート1】 の続きです。
243 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/29 23:53:13.43 YLQnCtqw0 214/874

――――――――――――――――――――――――――――――
Tips


ほむら「このリボン凄いのよ。魔力を注ぐと桃色の力になるの」

ほむら「魔力は人間の魂かグリーフシードから得ているわ」

ほむら「魔力容量が生まれつき多いから、より多くの魔力を保有できるの」

ほむら「リボンに貯めた魔力も考慮すると、アドバンテージは相当のものよ」



魔力→魔力容量UP、身体強化etc  →  穢れ発生  ←魂、グリーフシードで浄化


さやか「ほむらの実験場所を壊したよ。一人前の魔法少女だよ」

杏子「さやかとあすなろ市に行ったぞ。プレイアデス聖団に協力を仰いだ」

マミ「暁美さんが見滝原に被害を与えたら、次こそ止めないと、って美樹さん達と相談したの」

マミ「でも二人の意見は変わってしまったわ。プレイアデスと「同盟」を組むだけだったのに」

マミ「暁美さんとプレイアデスが組んだら拙いわ。いつの間にか見滝原に来ているの」



244 : VIPに... - 2013/08/30 00:45:04.86 YWo5QBEF0 215/874

1382367815-244

245 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:47:20.22 YWo5QBEF0 216/874

――――――――――――――――――
――――――――――――


■宇佐木里美の悲劇


ほむらの鎖骨にある宝石は既にヒビが入っていた。
人間から集めた魔力が漏れ出している。


「イヤ・・・死にたくない・・・だれか――」


「バイバイ」

「――ぁ」

「あはは、あっけなかったわ。のんきに外を歩いてるからそうなるのよ」



硝子を磨り潰すように、入念に石を処理した。



そのままうつ伏せに倒れたほむらに足を乗せ、一時の興奮を楽しむ。




「海香ちゃんの作戦もまあまあ上手くいったわね」

「うんうん。早くあすなろに戻りましょう」








246 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:47:59.05 YWo5QBEF0 217/874




〔暁美ほむらはたった今殺しちゃった。これで――〕




247 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:49:05.74 YWo5QBEF0 218/874



海香にテレパシーをしている最中、目を疑うような光景を視た。




里美の真横に暁美ほむらが居た。




そこにいるのが当然かのように、気配なく、至近距離に立っていた。

動揺のあまり、テレパシーが途切れる。


集中力無しに情報の送受信は困難――況して先ほど殺害した人物が立っていたとすれば、
驚きの程度は甚だしいと言わざるを得なかった。



「貴女が最初の生け贄」


「!!」






248 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:50:06.40 YWo5QBEF0 219/874



「初めまして」


「どうして・・・ソウルジェムが本体じゃない・・・」

「ソウルジェムは私達、魔法少女の本体よ?」


「壊したのに。どうして生きているの・・・」



ほむらは里美が踏みつけている死体を指差し、猫なで声で耳元に囁いた。



「私の付き人は十四体。残り十三体。13って死の数字よね。そういうこと」


「かずみちゃんと同じ? いやあああ! 死にたくない、死にたくないっ!」


里美は逃げようとしたが、今すぐこの場を離れようとしたが、体が動かなかった。
完全にイレギュラーな事態に、脳の処理が追いつかない。




249 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:51:16.43 YWo5QBEF0 220/874



「もう穢れ始めてる。私が今すぐ楽にしてあげるから」


里美の左胸にソウルジェムを接触させる。
突風で紅いリボンが大きく靡いている。


「ふぁ、ファンタズマ・ビス――」

「精神を落ち着かせないと魔法は発動しないわよ? あら似た色なのね、縁を感じるわ」

「止めて。私まだ逝きたくない・・・導かれたくない」

「穢れを移すだけよ。あの子を宿す練習でもあるけど」


穢れは既に移し終え、里美の魔力を吸い尽くす形になっていた。
魔力を吸い切るか、里美が絶望すればほむらの計画が始まる。


「あノ子って円カんノこトワ――?」




250 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 00:52:43.88 YWo5QBEF0 221/874



桃色の柱が上がった。里美のソウルジェムは既に濁りきっていた。


「ああ! 逢いたかったわ。本物のあの子にまた逢えた。私に姿を見せて・・・声を聞かせて・・・」


淡くて優しい桃色の中に入るほむら。全身に安堵は感じるが、
一向に『円環の理』が宿る気配は見られない。声も聞こえない。



呪を唱えたが、その身に変化は起きない。



「人の身に二つの魂は無理なのかしら?
魂は外にあるから、私の肉体に宿せば・・・と思ってたのだけれど。
外付けのハードウェアにあの子を拒絶する理由は無いはずよね」


桃色の中でほむらは独り言を続けた。


「付き人の方は上手く行ってるかしら。次は付き人にも浴びせないと。あれらは魂を持たない」


桃色から名残惜しそうに出て行った。紅いリボンは真紅に煌めいている。







252 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:08:34.36 YWo5QBEF0 222/874

■浅海サキの悲劇


サキは高台を陣取っていた。


どこか抜けている彼女は地の利を活かすことを忘れ、
いつでも敵の奇襲を受けかねない場所に仁王立ちし、腕を組んでいた。


周囲には誰もいない。たとえ、一般人が居たとしてもサキは気にしないだろう。





253 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:09:33.86 YWo5QBEF0 223/874



「記憶喪失・・・何も植えつけていない。クローンの器・・・ミチルより頑丈」

「ミチルの魂さえ手に入れば・・・暁美ほむら。奴さえ味方になってくれれば」

「ミチル――ミチルのためなら魔法少女システムの破戒も厭わない」


後ろに二体の影が近づく。サキは振り向かずにそのままの体勢だ。


「あの子の破戒は許さないわ。ええとプレイアデスのメンバーよね」


その内の一人が警戒心を示しながら問いかけた。
サキは待ちかねていたかのように後ろを向いて、ベレー帽を脱いでお辞儀をした。


「浅海サキ。暁美ほむらを仲間にしたい。どっちが本物だ?」


「「私よ」」

「どれでも良いよ。一つくれ」

「「何が目的でここに来たの?」」

「器に魂を宿したい。話は聞いているんだ。素体――と呼んでるらしいじゃないか」

「「そこまで知っているのね。でも誰の魂?」」




254 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:10:57.37 YWo5QBEF0 224/874



「和紗ミチル。魂を呼ぶ方法と、器に定着させる方法を教えて欲しい」


「「どちらも魔力が要るわ。ものすごく沢山の。だから私達はヒトを殺し続けている」」

「最近の行方不明者具合から察しは付いてたよ。どうしても魔力が足りないんだな」


「「そうね。貴女、話がわかるじゃない」」

「わからないよ。暁美ほむらは人間を殺して魔力を得ようとしている。魔獣狩りも結局は同じ。
数千の命とひとりの友人、どっちも重すぎてわからないよ、私には」



「迷っているうちはまだまだ未熟よ」

左手を差し出す一人のほむら。サキはミチルを想いながら手を重ねた。





255 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:12:35.92 YWo5QBEF0 225/874


そこに三人目が現れる。真紅いリボンが特徴――先の二人とは何かが違っていた。


「仕上げは私。貴女達二人には処理が難しいわ」

「「ふん。コイツは浅海サキ。プレイアデス聖団も私と同じ目的で――」」

「死んだ友人の魂を探し出して器に宿すことだ」

サキが間髪入れず説明をする。ほむらは全てを理解した。


「そう。浅海サキさん。私よりも難しいことに挑戦するのね」

「禁断の果実に難しいも何も無いだろう」

「あの子は、魔法少女の数だけここに現れる。
サキさんの友人はどうなのかしら。来れるの? ここに」





256 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:13:42.62 YWo5QBEF0 226/874



「それを探し続けている。だから知恵を貸して欲しいんだ」


ほむらはサキの発言を気にも留めず、
左手甲にある常磐色のソウルジェムに興味を向けた。


「あら、同じ位置なのね。縁を感じるわ」

「おい。人の話を」

「イヤよ。却下」


二つのソウルジェムが接触する。

生命力を吸い尽くされる勢い――全身が気だるくなり、頭が重くなってきた。



死期を悟ったサキはポケットから一対のピアスを取り出した。

右手のひらにそれを乗せ、ほむらの方を向いて口を開閉しているが、
ほむらは無視を決め込んでいる。


最期の頼みは聞き入れて貰えそうに無い。


サキは涙を流した。




257 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:14:40.69 YWo5QBEF0 227/874



「そろそろ限界? 案外早かったわね」

「・・・その罪ヲ身に心に刻みつづケろ」

「心に来るわね――」



桃色の柱が上がった。二度目の『円環の理』である。




「貴女達が味わいなさい。私は軽く浴びてから次のところに行くから。
グリーフシードを上手く使えば、結構長持ちするわよ。この現象」

真紅のリボンが他二人に命令する。
二人は口答えする事無く、柱の中へと入っていった。







258 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:16:22.68 YWo5QBEF0 228/874


■若葉みらいの悲劇


「・・・」



「最初から全力全壊でいくよっ」

「La Bestia」



無数のテディベアを召喚し、黒髪の少女を拘束した。
三十センチ大のBestia――獣は対象の腕や脚に向かって噛み付き、痛々しい裂傷を与え続けた。
普通の人間にとっては見物しているだけでパニックに陥るほどの惨状である。



しかし、相手は魔法少女――ソウルジェムを砕かれない限り無敵の存在である。
たとえ、テディベアに四肢を食べられたとしても死ぬことは無い。




259 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:18:19.14 YWo5QBEF0 229/874



「もういいかな」


既に脚は無く、失血によって全身が青ざめている。
傍目に見ると、生きているのか死んでいるのかわからない。

その少女は、死戦期呼吸を魔力で抑え、白い顔をあげた。


「プレイアデス聖団・・・」

「ソウルジェムが無いよ。どこに隠したの?」

「ノルマは達成してたから・・・ホンモノに渡した」

「?」




「私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど」




「よくわからない・・・けど死ね」


みらいは身の丈を凌駕するほどの巨大な刃を生成し、これ見よがしに振りかぶった。


「ありがとう」


車道がほむら色に染まった。


「変な奴」





260 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:19:42.64 YWo5QBEF0 230/874




「さてさて報告っと」



〔ボク、暁美ほむらを倒した! 大した事無かったかな〕

海香にテレパシーを送る。

〔そう、二人で倒したのね。お疲れ様〕

誰と? みらいはすぐに返事を送りかえす。

〔違うよ、ボク一人だよ。だって元々そういう作戦だっ――



少し離れたところに桃色の柱が上がっていた。
丁度サキがいる方角だ。ほむらを倒したというのに胸騒ぎが止まらない。


「誰か・・・導かれてるの?」


みらいは高台の方まで全速力で走った。




261 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:21:56.22 YWo5QBEF0 231/874

――――――――――――――――――
――――――――――――


みらいは一部始終を見てしまった。



桃色の中に三つの影。

一つの影がそそくさと出ていった。

暫くして二つの影が立ち去る。



最後に桃色の柱は消え去った。

「まさか・・・違うよね」

意を決して発生源だった場所まで向かった。








262 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:23:09.56 YWo5QBEF0 232/874

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――
□あすなろ市 海岸


海香「さあ? 記憶もゼロ、人格もゼロ。でもミチルみたいに明るくていい子になるわよ」

みらい「『かずみ』かあ、やっぱり姿はミチルなんだよね」

海香「複雑?」

みらい「そんなことないよ。サキはボクの魅力で勝ち取る、そして――」

綺麗に手入れが施されているテディベアを取り出した。

みらい「――かずみはボクの弟子にするんだ。その証拠にこれをあげるの」



里美「私はこの子をかずみちゃんに。やっと人になつくようになったの」

ネコと、腕にある引っかき傷を見せながら微笑む。

海香「私は執筆中の小説・・・を最初に読んでもらうわ」

カオル「なんだよ。みんなプレゼント用意してるのか。あたしは全日本のユニに――」

ニコ「私はアメリカ旅行――でプレイアデス星団を見る」

カオル「アメリカ!?」

ニコ「そしたら 私のこと全部話せるかも」



サキ「私はこのピアスを送ろうと思う。ミチルの願いを託すために」

サキ「そしてこのピアスにミチルではなく、かずみだけを見られるようになりたい」

サキ「その決意が出来たら、必ず渡すんだ」

――――――――――――
――――――



263 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:24:11.67 YWo5QBEF0 233/874






足元に、一対のピアスが転がっていた。







264 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 01:26:10.94 YWo5QBEF0 234/874



「サキが持ってたピアス?」

「サキ・・・サキ?」


『キミを見ていると、昔の自分を見ているようで嬉しくなる』


「嫌・・・嫌。ボクの最初の・・・人間のトモダチが」


『私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど』


「ボクは、踊らされてた」

「サキは・・・もう」


『似ているんだキミは』


「サキ」




「・・・サキ」



サキと同じ場所に、桃色の柱が上がった。




267 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:00:27.31 YWo5QBEF0 235/874

■牧カオルの悲劇


右太腿のホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいた。




奇跡や魔法ではどうにもならない――




     ――悪夢のような数分




事の発端はカオルの強襲である。



268 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:02:44.28 YWo5QBEF0 236/874




「長い黒髪、赤いリボン――」



「Capitano Potenza」


カピターノ・ポテンザ

前腕、下腿を、手足含めて硬質化させる魔法である。
魔導装甲やシュルツェンとは異なり、指の先まで自由に動かすことが出来る。


汎用性は高く、身体強化との相性が非常に良い。


トリッキーな使い手の多いプレイアデス聖団――
硬質部分の強度と重量を自由に変えるだけのシンプルな魔法と思う無かれ。


聖団随一の防御力と、純粋で直接的な“力”を前にして生き残るのは至難の技である。



269 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:03:33.42 YWo5QBEF0 237/874



冷血で強烈な一撃を浴びた者は、皆言葉を失い後悔の念を抱く。


――こいつには勝てない


歯向かった者には、残酷な現実と、冷酷な蹴りが襲い掛かる。
プレイアデスを取りまとめる二強の一人。


          “力の牧カオル”


牧カオルは格闘術を駆使する魔法少女であり、
リーチの短さという対魔法少女において致命的な欠点は、天性の運動能力によって補われた。






270 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:04:37.66 YWo5QBEF0 238/874



「――見つけたよ、死神さん」


塀の上を全力疾走し、街を徘徊するほむらへ飛び蹴りを喰らわせる。
カオルのスパイクは、勢いが収まるまで彼女の背中を抉り続けた。


鉄のように硬く、熱い衝突によって倒れるほむら。
焦げた肉のような匂いがカオルの鼻腔に入り込む。


「魔法・・・少女!」

「君が暁美だろ? 覚悟してよね」


背中に馬乗りになると、間断なく鋼の腕を叩きつける。
ほむらの背中は膨れ上がり、痛々しいうめき声だけを上げている。


硬化していない左手で服を剥ぎ取っていき、
青白い臀部にソウルジェムをみつける。




271 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:05:06.12 YWo5QBEF0 239/874



カオルはそれを粉砕する。手際よく奇襲を成功させたかのように思えた。

摩擦熱と殴打によって変色し、スパイクで蚯蚓腫れした死体から視線を上げると






272 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:05:34.42 YWo5QBEF0 240/874






暁美ほむらが居た






273 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:06:03.61 YWo5QBEF0 241/874




「貴女、相当の手練ね」

「二人目・・・ロッソ・ファンタズマじゃないな。何者だ?」

「私は暁美ほむら。さっきのは付き人、基本的に二人一組で行動しているわ」

「・・・ッち」



「最初から本気でいくわよ」

「来い!」






274 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:06:48.73 YWo5QBEF0 242/874



遠距離 対 近距離


ほむらは躊躇せず、ホルスター中央のソウルジェムを狙ってきた。
カオルからすれば愚の骨頂と言ってもいい戦術だ。


カオルは硬化、軽量化した四肢を駆使して矢を軽々避ける。


「ソウルジェムが狙いか、安直過ぎるよ」

「体そのものが武器。矢は当たりそうにない・・・わね」

「――勝てないよ? そんな考えじゃ」

「早っ――すぎる」


そのまま壁を蹴り、ほむらの方向へ飛び込む。





275 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:07:57.93 YWo5QBEF0 243/874



と見せかけ、反対側の壁まで跳躍する。


カオルは一撃離脱戦法を選んだ。

丁度ジグザグに接近し、矢の照準を困難にさせる目論見でもある。

プロサッカー選手を凌駕する俊敏さに、ほむらは立ち尽くすしかない。



ほむらとカオルの目が合う。カオルの息が、ほむらの頬にかかる。



目と鼻の先



間合いは完全に消えた。
相性、戦術、攻め手、全てにおいてカオルが勝っていた。


ほむらは咄嗟に、カオルの片腕を掴む。



276 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:09:45.88 YWo5QBEF0 244/874



「待ってたんだ。それ」


掴まれた腕を最大まで重量化させる。
ほむらは耐え切れなかった。カオルの腕が手から滑り落ちた。


腕は重力に従ってほむらの左足の甲と、その下の石畳を砕いた。
言葉通り、骨身に響く鈍痛がほむらを襲った。



「ぁああ゛あ゛あ゛」



カオルは妥協しない。油断しない性分だ。
そのまま慣性に従って、側面に蹴りを二発叩き込む。

脚の関節はカオルの攻撃に耐え切れず、ペキッっと音を上げた。



277 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:11:25.11 YWo5QBEF0 245/874


「まだまだ。後ろが御留守!!」


うずくまるほむらの脳天に、かかと落としを決める。
ほむらは既に動かなくなっていた。


「気絶したかな。かの暁美ほむらでも痛覚遮断は使わないんだね」


「Tocco Del Male」

ほむらの脇腹から紫色の宝石を吸い出した。
そのまま硬化した手で握りつぶした。


「早く帰ってかずみの作った牛角煮こまだれとんこつチャーハン――」




278 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:12:21.62 YWo5QBEF0 246/874



路地裏から少女が出てきた。
至極、機嫌が悪そうな様子である。


「よくも私の付き人達を潰してくれたわね」


冷静そうな、仏頂面。しかし声だけはヒステリックに上ずっている。


赤いリボンに黒い髪の魔法少女。


これも間違いなく、疑う余地もなく、紛れもなく暁美ほむらであった。




279 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:13:19.48 YWo5QBEF0 247/874



「三人目? 勘弁してくれよ、洒落にならないや」

肩で息をしながら手足を硬質、軽量化する。

「三人目じゃない。真打――本物の暁美ほむら、直々に相手をしてあげるわ」




「二度あることは――ってね!」

少し接近を試みると、弓が鼻先をかすめた。


「!!」


矢は用いず、弦も張っていない。弓だけで戦っている。
鉄パイプのように弓を扱うその姿は、今までの二体とは大きく異なっていた。


流石、動きが段違いだ――強敵はこうあるものなのかとカオルは舌を巻いた。




280 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:14:49.48 YWo5QBEF0 248/874



カオルは石畳を蹴り、ほむらの真上に跳んだ。


「これならどうだ! 避けられるものなら避けてみろ」


「馬鹿ね。私から遠ざかるほど、貴女は死に近づくのよ」


ほむらは矢を上に構えて、十数メートル上空の右腿を狙っている。



真下の魔法少女にカオルは呟く。




「馬鹿はお前だよ」





281 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:16:45.31 YWo5QBEF0 249/874



四肢に重さを生じさせ、急速に落下する。

矢が放たれた頃には、石片と土埃が舞っていた。
カオルは既に地表面に急降下し、隙だらけの鳩尾に二発攻撃を与えていた。



紫電一閃



脇腹に一撃をもらい、カオルは大きく飛ばされた。



ノーモーションからの返し技は痛恨だった。


カオルの外見には問題ないだろうが、
複数の内臓が破裂したような、重く、鈍い痛みが全身を駆け巡る。


硬質化していない部分の損傷は計り知れない。
自動回復にリソースを割きつつ、暁美ほむらという強敵を褒め称えた。


「今のは・・・弓か、見えなかった。思った以上に厄介だな」


「貴女こそ。全身凶器の相手は骨が折れる――文字通りね」




282 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:18:04.70 YWo5QBEF0 250/874



攻撃の余波によって壁は崩れていた。側面の足場がなくなった。地の利が奪われたのだ。
カオルは撤退の準備を始める。このままでは殺されてしまう、そんな直感が脳裏をよぎった。


露骨に、追い詰められているフリをして自然公園まで誘導する。



≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫

プレイアデス聖団全員にテレパシーを送り、脱兎の如く反対方向に走り出した。




283 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:19:57.82 YWo5QBEF0 251/874


ほむらは追いかけてきた。作戦は成功。
走りながら、疑問をぶつける。余計なことを考えさせないために。


「結局、さっきのはソウルジェムじゃなかったんだろう?」

「付き人は素体だから魂を持っていないっ」


塀を走り、信号機を踏み台にして、屋根と屋根の間を跳ぶ二つの姿があった。


「じゃあなんで砕いたら死ぬのかな・・・っと」


着地に失敗し、車のボンネットに足を取られるも、
すぐに体勢を立て直して自分のペースに持っていく。


「魔力の回収装置、同時に動力源でもある。
それが壊れたら、体内に遺された魔力で補う。数分も持たない」


「付き人とやらは命懸けで魔力を集めてたんだな」


「回収した魔力をリボンに注いで、円環の力として再び取り出し、吸収するためにも、ね。
そして、魔力を奪い取った後の素体は、あの子を宿す器になるっ」


「効率的だな! 反吐が出るよ」




284 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:24:19.64 YWo5QBEF0 252/874




罵倒しながら追いかけっこをする二人の頭上が紫色に輝いた。



走りながら、振り返って見上げるカオル。



空に魔法円が描かれている。



それは方形や円形が組み合わさった幾何学的模様で、
数学的で、合理的で、理性的なモノだった。



天上の青に浮かぶ、爛々とした紫。
それはほむらの頭上にあった。






285 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:25:27.04 YWo5QBEF0 253/874



「おいおい、市街地をぶっ壊す気かよ」


「ち・・・違う。私じゃない」


「でも暁美を中心にしてるじゃないか」



これまで経験したことの無い、皮膚に刺さるほどの鋭いエネルギーを感じ、
カオルは魔法円から大きく距離をとる。


「私をおいて逃げないで!」


「そんだけ大きな魔法円敷いといて何言ってるのさ」




286 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:27:03.44 YWo5QBEF0 254/874



「助けて――」



紫の線がほむらの体を貫通した。
その線はどんどん数を増していった。



ほむらは光の中に消えた。



魔法円が紫の柱になった、とカオルは認識した。


「ち・・・がう。あれは矢か? 全部矢なのか・・・」


円柱と思われたそれは、高密度に降り注ぐ、無数の矢だった。


一本一本が、豪雨のように降り注いだ。


特筆すべきはその音である。
ほとんど小雨のように、静かで、絹糸のように滑らかであった。


それらは魔法円から射出され、真下にあるもの全てを飲み込んだ。




287 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:39:56.35 YWo5QBEF0 255/874




「自滅・・・? どういうことだ」



消し炭と化した円形の領域に何かが立っていた。


「トッコ・デル・マーレ。邪悪の感触って所かしら。便利なワザね。
でも邪悪ってソウルジェムのことよね? ちょっとイヤだわ」


そういって左手のソウルジェムに、同じ形をしたソウルジェムを当てている。
それは、おびき出した方のほむらから掠め取ったジェムである。



「途中からだけど、全部見てたわ。貴女のワザのお陰で貴重な魔力を回収できた」


「お前は――誰だ?」




288 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:40:39.81 YWo5QBEF0 256/874




これも暁美ほむらの様に思われた。

しかし、カオルが接触した三人とは明らかに違っている。


剣呑な目つき、見下した目つき、殺意を顕にした目つき。
白と紫を基調とした魔法少女服に、二メートル超のロングボウ。
長く黒い髪の毛に、燃えあがるような真紅いリボンを纏っている。



「無駄に魔力を使ってしまったわ。次は気をつけないと」


「質問に答えろ。お前は・・・何者だ?」


「暁美ほむら。『円環の理』に焦がれる者」


ほむらは、付き人がかき集めた魔力をその身に取り込み終えると、
掠め取ったソウルジェムを無造作に砕いた。



289 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:41:48.76 YWo5QBEF0 257/874




沈黙が続く。



「何しに来た」

「あの素体は喋り過ぎた。口封じ」

「あれも付き人だったのか」

「ええ、そうよ。アレにあの子を宿す予定だった」

「何故だ?」

「あの子の力に耐えられる素体が見つからないから。
だから私の付き人で代用している。宿ってからミテクレを書き換えればいい」

「・・・狂ってるよ」

「見た目は大事よ?」


「どうして『円環の理』にこだわるの?」

「私のただひとりの友人だから。あの子にとって私は、最高の友達」




290 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:42:22.45 YWo5QBEF0 258/874


「えっ――と」

「話しすぎたから貴女も口封じ。トッコ・デル・マーレ」

呪文によってホルスターに輝く五角形のソウルジェム――とカオルの肉体が引き寄せられる。

「どういうことかしら」

「Tocco Del Male は対策済みさ。甘く見ないでくれ!」




291 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:43:09.70 YWo5QBEF0 259/874



一度大きく距離をとった。
トッコ・デル・マーレで引き寄せられたとき、キツい一撃をお見舞いするためだ。


上部に殺気を感じ、緊急回避をする。

自分の居た場所には数本の矢が突き立っていた。


「これはシャレにならないね・・・」


空から降ってくる矢の連撃を必死に避け、懐に入り込むカオル。

焦土と化した円形の中で、二つの影が重なり合った。




292 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:44:02.28 YWo5QBEF0 260/874


カオルのホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいる。


攻撃は当たるが、当てたときの反動が尋常ではない。


脚蹴りをしてみれば、鋼にヒビが入る。
顎に全身全霊の一撃を与えたと思えば、肩が脱臼する。



奇跡や魔法ではどうにもならない悪夢のような数分。




293 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:45:16.87 YWo5QBEF0 261/874




身体強化ここに極まれり



今度の暁美ほむらは桁違いの強さを誇っていた。


死神、冥界の王、死を司る魔法少女――二つ名を考えているうちに
カオルの浅黒く、健康的な太腿がベリベリと剥がされた。


言葉通り、剥がされたのである。


「私達相手に頑張ったほうよ?」

「四連戦・・・ちょっと無茶しすぎたな」

「潔く魔力の一部となりなさい。序でにあの子に遭わせてあげる」

「右足――サッカーはもう無理か」




294 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/08/30 20:46:06.08 YWo5QBEF0 262/874



〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕



かずみだけに聞こえるテレパシーを送った。



「ほむらちゃんが逢いたがってるって伝えておいてね」


〔最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕


「聞いてるの? 無視?」





「聞こえるさ。友人の声が――」





『円環の理』が発動した。



312 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:06:48.28 yXRTDOXo0 263/874

■神那ニコの悲劇


人通りの全く無い歩道橋の上、ニコはほむらと対峙していた。



「その姿、魔法少女ですか。遭いたくありませんでした」

「アンラッキーだね 君がアケミホムラだろ?」

「噂は聞いています。プレイアデス聖団のメンバーですね」

「我が名は 神那ニコ おまえを殺しに来た」


ふら付きながら後ろに下がるほむら。
どうやら魔力切れ寸前の状態らしい。


「勝負なら受けて立ちます・・・」

「ああ 無理しなくていいよ カミ様に救済させるようなヘマはしないから」






313 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:08:01.76 yXRTDOXo0 264/874



『円環の理』に導かれるべき存在ではないと見なした。
派手な戦闘をすれば、魔力切れを起こした殺人鬼が救済されてしまう可能性がある。


魔力を使い切る前にソウルジェムを砕く、神の御前にほむらを逝かせる気は無い。
ニコはこのように判断し、そして行動を起こした。


「Tocco Del Male」


ほむらの身には何も起きなかった。
ニコとしては予想外の事態である。仕方が無いので拘束行動に出る。


「Prodotto Secondario――」


「――おっと抵抗は無駄だ これ以上魔力を使ったらキちゃうよ?」



――――――――――――――――――
――――――――――――


314 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:10:05.35 yXRTDOXo0 265/874



足を縛られたほむら。
縛り上げた複製ニコは既に、全て消失している。


「気をつけよう ドッペルゲンガー 生き写し」

「命だけは助けて・・・」

「おまえ 数千人も殺しておいて何?」

「えっ、私は誰も殺してな――」


ほむらの着衣を掴み、上半分を剥いだ。無抵抗のまま目を背けている。
すすり泣く少女を片手で持ち上げ、白くて華奢な肉体を目でなぞっていった。


「私、何もしてない。どうしてこんなことをするの?」


おまえはこの街を喰らう怪物だからね、と反論したくなった。
そんなこと口にするまでもなく、お互いにわかりきっているはずなのに。




315 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:11:30.48 yXRTDOXo0 266/874



「魂を出してよ 砕くから」


胸、臍、脇、背中、首筋と見ていったがソウルジェムは見つからない。
ほむらは視姦されている間、一言も発していない。


「吐かないか 強情だね」


そういって、ダイヤ柄のタイツを破き始めた。
ほむらは目を瞑ったまま何の反応も示さない。


「Tocco Del Male」


ソウルジェムを掠め取る呪文。
服を剥いでも反応しないと言うことは、百メートル圏内の何処かに置いている可能性。
或いは体内に飲み込んでいるのかもしれない。


ニコは暫くの間、ほむらを付けていた。

ほむらは、誰かを探すかのように見渡しながら、
大通りからわき道、裏道から歩道橋までくまなく歩いている。

したがって、前者の可能性は自然と消える。




316 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:12:41.08 yXRTDOXo0 267/874



「うーん 教えてよ 裸はヤでしょ?」

「・・・・・・」


沈黙し続けるほむらを見てニコはもう一度「邪悪の感触」を唱えた。
ほむらの頬がキュっと収縮していた。


「見つけた あーんしてよ あーん」


首を横に振るほむら。
ニコは右手で額を掴み、もう一方で無理やり口を開けた。



「じゃ 痛いかもしれないけど 摘み取るよ」

「い゛ッッ!」

切り取ったソウルジェムをまじまじと眺める。
どこか人工的な違和感を覚え、その石を光に照らしたり、手で弾いたりした。




317 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:14:03.55 yXRTDOXo0 268/874



「潰しても無駄ですよ・・・。別の私が居ることは知ってますから」

「アケミホムラのは ソウルジェムじゃないね エネルギーをためる装置だ」

「何を言っているんですか?」


「ためたものを 注げるようになっているのか
目の前の女 おまえは アケミホムラじゃないね」

「私は暁美ほむら。それだってソウルジェムです。戯言もほどほどにしてくれますか」

「ははん じゃあ使い方教えてあげるよ こう使うのさ」


ニコは首の後ろにある水色のソウルジェムを取り、ほむらが隠していた宝石に近付けた。
すると宝石が段々と、徐々に昏い色になってきた。


「こんな感じ アケミホムラのソウルジェムは 充電式のグリーフシードみたいなもの」

「え? そ、それじゃあ私のソウルジェムは何処に?」



318 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:15:08.85 yXRTDOXo0 269/874



「おまえは ニセモノだ 人格も 記憶も 見た目も 全部ニセモノ」

「ニセモノ・・・魂は」

「ナイね だって魔力で動いてるもん」


「嘘よ、そんなの嘘よ゛」

しゃっくり上げて泣き始めるほむら。





「残念 その感情もニセモノ」

「!!」





とどめの一言をほむらに投げかけると、ニコは本物のほむらを探し始めた。


「報酬は珍妙な宝石一つ 気を取り直して次に行こうか」


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



319 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:16:32.19 yXRTDOXo0 270/874


□見滝原――大通り


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


カオルの広域テレパシーがプレイアデス聖団全体に発された。
無事、受信したニコは交差点の前で立ち止まる。



「公園はどっちだったかな」



「こっちだよ、神那ニコ」



「ああ助かるよ 通行人の方――」


ニコは目の前に居る人物を見て絶句する。





320 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:18:13.65 yXRTDOXo0 271/874



「初めまして、かな。さっきのやり取りは頂けないなあ。
自分がツクリモノだと気づいたときの絶望は計り知れないんだよね」


「まさか おまえ」


「冥土の土産に教えてやろう。我が名は聖カンナ――おまえの操り人形さ。
おまえは二度も過ちを犯した。だからここで死ぬ」


フードを被った少女が魔法少女に変身する。



321 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:19:27.74 yXRTDOXo0 272/874



肩の露出した分厚いレザーコートを纏い、その下には体に密着したズボンを履いている。
黒いミリタリーベレーからはクリーム色のツインテールが垂れている。


全身黒尽くめの容姿が、服の上に刺繍してある数個の緑と白の水玉を引き立たせていた。
カンナはどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。




「似合っているでしょ。この紋様はヒュアデス星団をかたどってるんだ。
ヒュアデス――プレイアデスの異母姉妹。因果だろう?」


「因果だ 幸せな人生を捨てて おまえは魔法少女になってしまったのか」


「ツクリモノの人生――の間違いだろ。おまえの作った設定に魅力は無い。
『IF』の私は、オリジナルのおまえが自滅する瞬間を、待ち望んでいるだけさ」


「恨んでいるのか・・・ アケミホムラに挑む前に 殺されて殉職かな」

「ノン。おまえは自滅する」




322 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:20:27.27 yXRTDOXo0 273/874



神那ニコの契約は 「IFの自分を造り出し、幸せな人生を送らせること」であった。
聖カンナは、とある出来事からニコの存在を知り、インキュベーターに仔細を聞いた。







       そして契約を取り結んだ




            コネクト 
           Connect







カンナは復讐を望んだ。対の破滅を望んだ。ホンモノになることを望んだ。
相手に気づかれずに接続する力を駆使し、見滝原の地までニコを追いかけてきた。



323 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:21:30.07 yXRTDOXo0 274/874



「暁美ほむらのジェムを使っただろう? あれには得体の知れない魔力が混じっている。
神那ニコのような普通の魔法少女にはきっと猛毒。そろそろオダブツさ」


「魔力で死ぬわけが無い 現に穢れが浄化された」


「ま、『円環の理』に導かれるべき存在じゃないよ、おまえ。
ニセモノを二度も悲しませたんだ。やっぱり殺そう。これはデス・ペナルティに値する」


『円環の理』は比較的規模の大きい現象である。
カンナは本来ニコの自滅を目に焼き付けるために、ここまで追ってきたのだが、
プレイアデス聖団のメンバーに知られては新規の計画に支障をきたす。


――――――――――――――――――
――――――――――――




324 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:22:47.12 yXRTDOXo0 275/874





「私の生き様に、おまえは何を見た」



「合成品に潰された人生、おまえは何を感じた」




ニコだった物から紫色の石を拾い上げ、自分の魔力を注ぐ。



「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」




325 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:24:15.00 yXRTDOXo0 276/874


□歩道橋


半裸で泣き崩れる少女が居た。
上着は無く、タイツは引き裂かれている。


「やあ、君のソウルジェムは取り返したよ。
さっきの魔法少女は私が適切に始末した」

「ひぐっ・・・えっぐ」

「泣かないでくれ」


「・・・」


「私もニセモノなんだ」

「え?」

「さっき君が戦ったのは黄緑だっただろう? 私は黒衣の魔法少女だ」

「は、はい。でもどうして私なんかを」

「新たな人類――HyadesとしてHumanに復讐しないか?」

「そんな・・・無理よ」

「ソウルジェムに十二分の魔力を注いだ。君なら創造主に叛逆出来る」




326 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:26:15.99 yXRTDOXo0 277/874


悲しみを堪えながら、返事をする同類を見て、カンナは優しく諭した。



「神は人間を創った。神はここにいるかい?」

「いない」

「人間は私達を造った。人間はここにいるかい?」

「・・・いる」

「なら消えてもらおう」

「私は――」



「まずは身の回りから。魔力を極限まで集めて暁美ほむらに挑むといい。
私は残りのプレイアデスに溶け込んで、内側から破壊する」

そう言ってほむらの服を修復し、肩を叩いた。


「私は聖カンナ。おまえは、暁美ほむら と名乗れ。オリジナルになれ」

「・・・魔力を集めてきます」




327 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/01 12:27:30.94 yXRTDOXo0 278/874



涙を拭って歩道橋を飛び降りるほむら。
活路を見出したその姿にカンナは最大の賛辞を送った。











「敵を欺くには まず味方から ってね」














338 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/04 18:34:48.26 eTjc/Hbi0 279/874

■かずみの悲劇


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


「みんな、頑張ってるけど――ううん。民間人を襲うワルい奴だから・・・仕方ないよね」

「プレイアデスのみんなは平和を取り戻すために、悪の魔法少女と戦っているんだもん」




339 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/04 18:36:59.07 eTjc/Hbi0 280/874


□自然公園


「あっ。ニコも来てたんだね、二人だけ?」
 ・ ・
「人は誰も来てないさ・・・。カオルはまだかな」

「言いだしっぺは最後にくるものなんだよ」

「そうなのか? それにしても残りは何をしているんだか」


カンナの上機嫌な声が周囲に響く。


「まだ来ないよ。あすなろと違って道に迷いやすいし」

「確かに入り組んでいる。典型的な開発途――」


〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕


「カオル!?」

「私には聞こえないぞ。テレパスかい」



〔わかった。逃げるから、一緒に!〕

〔もう無理だ。最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕

〔いつでも作って上げるから・・・そんな悲しいこと言わないで〕




340 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/04 18:37:31.17 eTjc/Hbi0 281/874




〔カオル? カオル・・・〕


「ニコ・・・カオルが返事しないの」

「そっか。死んだか」



「チャーハンのこと言ってた」

「それが遺言かい?」




「それだけじゃない。ホンモノに気をつけろって」

「すっごく――ココロに来るね」




346 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:09:09.62 xudtZGJ50 282/874

■暁美ほむらの悲劇


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

「あなたは、もう人じゃない! 暁美ほむらじゃない!」

「トチ狂ってるわね、御崎海香さん。私は暁――」



「あなたは魔女よ! 魔女! 『死者を囲い込むもの』ヴァルプルギスの夜よ!」



「私を侮辱しているの? 無性に腹が立つ」

「博覧強記な貴女はご存知のようね! それとも博覧狂気ってところかしら? 
貴女にお似合いの二つ名ですことよ」

「狂ってるって、別の子にも言われた。私としては普通の道理なのだけど。
死んだ子を生き返らせたいと思うのと同じで、私はあの子に逢いたいだけよ」

「死者蘇生でさえ禁断の果実。ましてや無から有を創るなんて神の御技よ」




347 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:10:52.96 xudtZGJ50 283/874



「『円環の理』は貴女も見たとおり存在する――貴女は認識から間違っているわ。
万が一、無だとしても私には関係ない。私は私のやり方であの子に逢ってみせる。
そのためには神にだってなってみせるわ」


「大きく出たわね。法則を実体化させようとする試みは面白いけど、それが出来ると思って?」




「私には時間の概念が無い。知識も魔法もある。魔力だけ、力だけが足りない」


「あなたは、道理も倫理も持たない。仲間もいない。力だって足りてないわ」




「言ってくれるわね。知識は全てを解決してくれるのよ」




348 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:13:31.95 xudtZGJ50 284/874


海香の所有する魔道書が色調を変えた。
前もって仕掛けておいたイクス・フィーレが、対象の性質、弱点を読み取った。


「Ics File――弱点分析完了。随分と時間がかかったわ」


「・・・時間稼ぎ」


「知識は全てを解決してくれる。私の好きな言葉よ。魔法少女の暴走も、また知識が解決してくれる。
ヴァルプルギスの夜、あなたの性質と弱点は・・・」

魔道書に刻まれた真実を見て、戸惑う海香。ほむらも海香につられて首をかしげている。





「弱点が・・・・・・わからない」

「あははは、何て無様な子。今まで見てきた中で一番の愚者だわ」

「英語が、読めない」


「「・・・」」


お互いに固まった。




349 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:15:50.74 xudtZGJ50 285/874



00001という数字を挟んで、五つの英単語。


頭文字をとって並べても特に意味は無さそうだ。
最後の英単語以外、海香は読み取れない。


読み取れた唯一の語もほむらとは全く関係が無いように思えた。


(るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めてよ。
最後の単語は連結・・・よね。どれも私の役に立ちそうに無い。
なんとしてでも生き残って、六つの光明を示さないと)


口をつぐんで思案する海香。
痺れを切らしたほむらは固有武器の魔道書を奪おうと動いた。


「ちょっと見せなさい。英語ならわかるから」

「謹んでお断りよ! それっバリア!」




350 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:16:47.13 xudtZGJ50 286/874


海香は本を内側に向けて、自分の周囲にシールドを展開した。
光の壁はバチバチと音を立ててほむらを威嚇している。


「これは、実に厄介ね」


気楽そうに言い放ち、弓に弦を張った。
海香はその場から動いていない。シールドに包まれて動けないようだ。



ほむらは若干の距離をとり、矢を射る。




ギィィィィイイン




金属が摩擦するような不快な音色が数刻続いた。


紫の矢はシールドを抉っているかのように見えたが、
ギリギリと軌道が反れて、海香の斜め後ろのビルに着弾した。



351 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:19:28.59 xudtZGJ50 287/874



「甘く見すぎじゃなくて? この分なら三時間は持つわよ」


シールドで声が反響しているが、三時間という単語は聞き取れた。
ほむらは腕を組んで、光の壁をじっくりと観察した。


「訂正、実に厄介ね・・・」


ほむらは攻めあぐねていた。
目的は邪魔者を消すこと、『円環の理』をここに呼び寄せること、素体にあの子を宿すこと。
このまま、海香の魔力切れまで待っても構わない状況ではあった。





「三時間もあれば十分ですよ。私がお手伝いします」


ほむらの後ろに、付き人が居た。
外見こそ区別は付かないが、弱弱しい口調が違いを引き立たせる。




352 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:21:41.89 xudtZGJ50 288/874


「貴女・・・私の遺志を継ぐもの――誰も殺せなかった出来損ない。
精神も貧弱。死に掛けていた割には元気そうね」

「巴さんから聞きました。美樹さんと戦ってたのは貴女でしたか――何日も探しましたよ」

「佐倉杏子も居たわ。貴女、記憶は戻っていないようね」

「徐々に戻って来ましたし、キュゥべえから幾つか情報を得ました。だから準備万端です」



ほむらは素体に道を譲った。
海香の前に立たせて、次のように述べた。


「私の遺志を継ぐもの――Vertebrate-00001に命ずる。
御崎海香を囲むシールドを破壊しなさい」




両手を強く握って、全身を震えさせ、素体は応答する。

「嫌です。最初の実験台、Vertebrate-00001は、
命を粗末にする貴女を殺してオリジナルになります」


「なっ!」


ほむらは素体の行動に魂消た。


記憶の殆どを移植した。どの素体も自分が本物であり、
自分以外は偽者――と全ての素体が思い込んでいた。


だからこそほむらは驚いた。真実を受け入れても尚、運命に抵抗する素体の可能性に。




353 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:31:01.71 xudtZGJ50 289/874



「魔力中毒を起こした臓器ごときが! 生みの親である私に勝てるわけ無い。
聞かなかったことにしてあげる。もう一度命令するわ――」


「嫌! 私は私のために生きる。歩道橋で私は生まれた」

「まだ記憶は戻ってないわね! 私の臓器で貴女が生まれたこと、忘れたの?」

「忘れるものですか、志筑さんにも手を出しておいて・・・」




暁美ほむらが最初に起動したコピーは、
自ら取り出した臓器を組み合わせて生み出したものである。


万が一肉体が失われたときに備えて造って置いた。
端的に言えば予備の体。ほむらは、これを第一の付き人とした。


残りの十三体は『円環の理』の力を克服したほむらの臓器から造ったものである。
これらにかんしては記憶の選択的移植に成功した個体達で、第二から第十四の付き人とした。




第一の付き人は、起動時までの記憶を全て移植したため
オーバーヒートを起こして、せん妄や解離性健忘に近い状態を起こしていた。
オリジナルのように人間を殺さないし、魔力の補充もロクにしない失敗作だった。


以後の付き人にかんしては、ほむらの思うとおりの動きを見せていた。
勿論、集めた魔力――殺害した人間や魔獣の数によって、思考や行動に大きな違いがあった。
二人行動を守らない者、魔力を別の付き人に与える者など、様々である。




354 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:32:34.68 xudtZGJ50 290/874



「貴女はとんでもない失敗作ね。地下深くに閉じ込めておくべきだったわ」

「それでも私は這い上がって見せる。Hyadesを知らしめてやる」

「ヒュアデス? 『円環の理』にその身を奪われる存在よ、余命幾許。好きにするといいわ」

「奪われるのはあなたです。全てを無かったことにして見せます」

「ふうん。五分と持てば僥倖と思いなさい」




355 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/06 07:33:49.53 xudtZGJ50 291/874



黒い屋上に揺れる二つの火。




「愚か者は散れ」

「邪魔者は消してあげます」





「「私には叶えたい願いがあるの」」







「たとえ自分を殺してでも?」

黒翼を収納し、ほむらが問う。




「たとえ自分を殺してでも」

弓を取り出し、コピーは答えた。




「そこまで言うなら仕方ないわね」

「そこまで疑うなら仕方ありません」




357 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 02:12:52.33 XbYmDMN40 292/874


沈黙する海香の前で、ほむらとコピーの戦闘が始まった。




ほむらは手始めに、コピーの胴体に矢を向けた。
コピーはエイムされている部位を的確に予想し、弓を地面に押し付け、しならせる。

棒高跳びの要領で、斜めに飛ぶことでビームを避けた。



ほむらは既に弓を構えなおしている。



コピーは詠唱によって生成した三本の矢をつくり上げた。
正攻法で勝てる相手ではない。一つ一つに仕掛けを組み入れてある。





ほむらの第二波と第三波を紙一重で回避し、一撃を放った。




「ウルズよ!」



コピーが手を振りかざすと、矢はひとりでに飛んでいった。



ほむらは黄金色の矢を、弓の先端で叩き落とそうとする。
ところが矢に触れた瞬間、黄金色が爆ぜた。


耳をつんざくような高音が周囲を襲った。


お互いに耳を塞ぎたくなるほどの異音が続く。




358 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 02:14:00.67 XbYmDMN40 293/874



意識を吸い上げられるような感覚に、お互いの攻撃の手が止む。
身体強化が劣っているコピーはほむらよりも素早く行動を再開する。



「まだ・・・まだッ! ソウイル!」



コピーは身体強化をさらに低倍率へ移行させた。
海香の陰に隠れて、二本目の矢を上空に投げようとする。




ほむらは髪の毛ほどの、細長い紫色の矢を無数に造り出して海香を指差した。


「ええい! 邪魔よ」




第四波




海香のシールドにアローが幾つも突き刺さる。


おぞましい異音に金属音が交じり合う。




359 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 02:14:45.49 XbYmDMN40 294/874


コピーの身にも数え切れないほどの矢が立った。
激痛に悶えながらも口を動かす。


「私の、勝ちです」


ほむらには聞こえないし、自分にも聞き取れない。
二本目――ソウイルの投擲に成功した。身をもって実感する。





上空に強い熱源が現れる。





その場に居たもの全ての視力を奪った。コピーの世界は真っ暗である。



ソウイル――太陽のように眩い光が、眼底の隅々まで行き渡り、
目を構成する三つの膜全てを焼き切った。



さらに光情報は視覚野を支配し、脳の処理を中止させた。




360 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 02:17:04.13 XbYmDMN40 295/874


三本目


赤く燃え滾る矢だった。
目が役に立たないので、追尾型の矢をほむらが居るであろう方向へ射る。



「カ・・・ノ」



ソウイルの効果によって喉が焼けてしまったが、力ある言葉を唱えた。


発声による位置情報の特定は防ぐことが出来た。
事前に視覚と聴覚を奪ったため、その心配はないとコピーは踏んでいる。


魔術は詠唱や意思、印によってその効果を増強させる。
コピーは威力ある一撃を望み、全てを託した。




矢を撃ち終え、即座に回復を行う。
ほむらと同様、コピーにとっても不得手な分野なのだが、
オリジナルのほむらよりも早く修復を終え、戦闘態勢に戻れる自信があった。



ほむらは魔法少女である。そして際限ない身体強化を行っている。
したがって、通常の魔法少女よりも強く、頑丈で、感覚が研ぎ澄まされていた。



コピーも同様に強化魔法をかけているが、純粋な魔力量はオリジナルの方が何倍も上である。
このため、オリジナルの五感は想像を絶するほど鋭いと分析し、上記の攻撃を選んだ。




361 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 02:19:00.06 XbYmDMN40 296/874



コピーが回復を終え、前方に歩み出る。


何もかも読みどおりだった。



「どうですか。この魔力、戦術、判断力」

「・・・・・・」



ほむらはまだ治癒魔法をかけ続けていた。
ただれた腕を後頭部にかざしている。


身体強化をすればするほどダメージが増す攻撃を、ほむらはまともに喰らっていたようだ。



362 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 14:01:28.87 XbYmDMN40 297/874


「全てオリジナルに劣ってる。なのに、私が勝ちました」

「・・・おかしい。素体にしては魔力が多すぎる」


かすれた声でほむらは反論する。
焼き切れた喉から空気が漏れ出していた。


「これは皆の怒りです。皆の想いです。
残りの素体――Hyadesの皆さんが、私に全ての魔力を注いでくれました」

「それは・・・本当なの」

「だからこうして戦うんです。戦えるんです!」


「――――ったわね・・・やってくれたわね!!」




363 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 14:03:28.54 XbYmDMN40 298/874



攻撃されたこと。


回収する予定の魔力を奪われたこと。


コピーと接触した素体全てが無駄に終わってしまったこと。


ほむらは激昂した。


ほむらは悔やんだ。


ほむらは嘆いた。


ほむらは――



黒い翼を広げ、大空に舞った。



364 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 14:09:15.51 XbYmDMN40 299/874



諸刃の剣であることはお互い承知だった。
コピーは羽ばたくだけの力を持たない。空からの攻撃とあらば、一方的な蹂躙に違いない。

しかし、双方が弓使い。遠距離ほどその特性は生かせるし、標的だって大きいほど有利である。
ほむらの飛行能力がずば抜けていたとしても、コピーの攻撃は避けられまい。



「絶対に赦さない」

桃色の魔法円を繰り出す。


「させません」

魔法円を視認したコピーは、間髪いれず七本の矢を放った。



「全然痛くないわよ」

「そんな!」



コピーの放った矢は全て当たった。にもかかわらず、ほむらは止まらない。
ほむらは魔法円を重ね始めた。



「痛覚を切ったのよ」

「そんなの、わかってます!」


コピーは十、二十と攻撃を重ねていく。


「早く左手に当てないと、貴女の存在が消えてしまうわよ」

「ソウルジェムが・・・砕けない!」


コピーは二十、三十と攻撃を重ねていく。


「美樹さやかと同じよ。ソウルジェムに防御魔法をかけたの」

「ひ、卑怯よ!」




365 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 23:48:13.46 XbYmDMN40 300/874


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



「待たせたわね。私の全身全霊」


魔法円をそのまま伸ばした巨大な円柱があった。


直径三メートル弱。長さは視認できない。


避けるという選択肢が失せるほどの、残酷な現実が天上に渦巻いていた。





「これは、まるで・・・」




まるで『円環の理』のようだった。





366 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 23:49:06.10 XbYmDMN40 301/874



「全ての魔力を注いだ。でもそれだけの価値があるのよ」


「全て・・・ですか」


コピーは防御壁作成に全力を注いだ。
アレを放った後の硬直時間に勝機があると信じて。



後ろで観戦していた海香は、シールドを四角錘状に変成していた。



「貴女の負けよ。言い残すことはある?」


「オリジナルになってやる。絶対に!」


「まだそんな下らない狂言を吐くのね!」




367 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 23:50:13.82 XbYmDMN40 302/874


―― む ち 

  に。■■■。

――   ン  想 を  て れ かな

こ  か  ら。

――  手  よ

何    い 。

―― っ   て

   な わ。

―― を澄  し   

  も    わ 

――  お    みて




「記憶は足りない。それでも――」



「この一撃に耐えられるかしら――Finitora Freccia!」



「間に合えっ」




『円環の理』を連想させる眩い柱が見滝原のビル群を薙いだ。



368 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/07 23:56:59.02 XbYmDMN40 303/874

――――――――――――――――――――――――――――――
ウルズ【ある程度の犠牲が必要な事があっても、代わりに新たなものを得られる「挑戦」のルーン】
逆位置【エネルギー不足、意志力の弱さ。脆弱さや優柔不断さは、自分の状況を悪くしかねない。弱気は禁物である】

カノ【燃え盛る炎を意味するルーン。純粋でダイナミックなエネルギーや情熱を意味する】
逆位置【情熱が冷める、別れ、希望を失う。状況を無理やり変化させようとするよりも、現状維持に努めたほうがよい】


369 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:37:06.08 twhxL/4l0 304/874



「02499から02511の素体、生存している付き人を探さないと。
裏切ったのは00001だけとは限らない」


ほむらのソウルジェムは限界に近づいている。


「感情に身を任せすぎた。このままでは付き人にさえ太刀打ち出来ない」



見滝原を一望する。


矢の軌道上にあった高層ビル群は暁色に染まり、ガラスは赤く茹で上がっている。
吹き荒む熱風は、空高く舞うほむらの体勢を崩しかねないほどであった。



「・・・・・・っ」

「どうしてこんなことになってしまったの」


ほむらは光明を求めて見滝原を彷徨う。




370 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:38:13.35 twhxL/4l0 305/874



抗ったコピーはここに潰えた。


カンナのHyades論に理想を抱いたコピーは、七箇所に散らばっている付き人
――姉妹を探し、魔力を一つのソウルジェムに集めていた。


『円環の理』の魔力に耐えられない肉体の一部を捨て、
別の個体から持ち出し、補強した上での敢然たる戦いだった。



371 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:38:45.28 twhxL/4l0 306/874



「全員、跳べ!」

「あっちのビルが崩れる!」

「みんな、早く」

「まずいわ! こっちよ」



「きゃっ」

「佐倉さんはこの人を!」

「ほいさ」



372 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:39:45.25 twhxL/4l0 307/874

■好い鳥


キュゥべえの「暁美ほむら同士が戦っている」という情報を受けて、近くのビルを陣取るマミ達。


にわかには信じがたい。
悲しそうなほむらと、哀しそうなほむらが対峙していたのだ。


その後ろにはさやかと杏子の良く知る魔法少女がシールドに包まれていた。

この三人と一匹は、隙を見て強襲を仕掛けるつもりだったが、
強烈な閃光を浴び、突入するタイミングを完全に逃していた。


メンバーが動けるようになった頃には、幕が降りていた。




愚者は消え、主役は飛び、観客は墓石に座り込んでいた。





373 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:41:28.64 twhxL/4l0 308/874


□ティロホーム


「皮肉なものね。注意深く行動したために多くを失ってしまった」


「あなた達プレイアデス聖団の生存者は三人。
辛かったと思うわ。でも、注意深く――と言うのなら、どうして私達に無断で行動したのよ」


回収したばかりの海香にキツくあたるマミ。


「あわよくば味方に加えるつもりだった。彼女の真意を見極めた結果、殺害を決定したの。
だけど、ヴァルプルギスの夜は想像以上の災厄だった」

「真意を見極めた? 真意はさやかとアタシが話したじゃないか」


海香の返答に杏子が突っ込みを入れる。
海香は溜息一つ、適当にはぐらかした。


「真意は真意。十四体の素体のことも知ったから尚更。
そもそもプレイアデスを呼んだのは貴女方ですことよ」


挑発的に海香は笑う。そうでもしないと心が折れてしまいそうだった。



「御崎さん達は、どこまで閉鎖的なの。だから私が暁美さんと組んでる、と思い違いするのよ」

「遠方から急に協力を求められたら疑うのが当然。裏切りほど恐ろしいものは無いわ」

「わかってるの? あんた達のせいで沢山の人が死んだんだ。一体どこから情報が漏れたのだか」


マミとさやかが次々に攻め立てる。

事実、情報はユウリから漏れている。
だが佐倉杏子がいる手前、海香はその名を出すことは許されない。





374 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:43:21.70 twhxL/4l0 309/874


「擦り付け合いはほどほどにしろ。さっさと次の手を考えるのが先決さ。
おい、海香。あの戦いを詳しく教えなよ。ほむらと対峙して生き残った唯一の生存者だろ?」


杏子がクラッカーを頬張りながら、どうでも良さそうに喋り散らす。
海香は、暁美ほむらと対峙して生き残った三人に敬意を払って全てを話した。



「あれはヴァルプルギスの夜。十四の死者を囲って魔力を集めていたわ。
具体的には、人間の魂をグリーフシードのように扱って、穢れを除き、魔力を貯蓄し、
親玉のソウルジェムに移動させていた。それが死者――付き人の仕事だと思う」


さやかは腑に落ちなかった。


「それって『円環の理』に必要なの? 戦いの痕跡を見る限り、十分魔力集まってたよねえ」


「あの『円環の理』を固定するのがヴァルプルギスの夜の仕事。
素体にも浴びせさせたと言ってたから、あの力を現世に止めるつもりで動いている。
邪魔者を屠るために魔力を集めていた線も考えて良いわ」


「美樹さん達のことかもしれないわね。あるいは対プレイアデス用に集めていたのかも」


マミの言葉が海香の胸に突き刺さる。
暗に非難されているが、聖団全員が殺されても文句は言えない。



375 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:44:17.04 twhxL/4l0 310/874


「幸いなことに、素体が結託して、同士討ち――と思えた。
シールド越しではっきりとは見えなかったのだけど。演技なら大したものだわ」


海香がつたなく話を反らしていると、さやかと杏子の顔色が変わった。


「あの桃色の柱を制御するのにも生半可な魔力じゃ足り無そう。素体か・・・杏子?」

「ああ、覚えているよ。『シカメ』がまた狙われるな。最後の犠牲者ばーてぶれーと2498だ。
親族もろとも、どっかに逃がさないとな」

「シカメさんの家に暁美さんが来るってことは、私達が先手を打てる好機ね」

「マミさん、どういうこと?」

「私達の決戦の地――ここで全てを終わらせるわよ」



376 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:45:09.65 twhxL/4l0 311/874



「政府の避難勧告に従っていれば楽に済みそうだけどね」

「さやかはヌけてるな。見滝原外部までアイツが追っていったら逆に不味いだろ」

「仮に見滝原に居るとして、私達が見つけられるものなのかしら」

「それが問題だ。シカメの全員がくたばってるかも知れない」


盛り上がっている三人。
キュゥべえは冷凍庫を開けて氷を漁っている、こいつは役に立たない。
意を決して海香は話に割り込むことにした。


「仲良く話しているところ悪いのだけど、ばーてぶれーと? それって・・・」


海香はほむらに用いたイクス・フィーレを確認するため、
ソウルジェムから白い魔道書を取り出し、分析したページを開く。


「弱点わっwhackるワックる!whackる神よ~」

「わっ! 何事?」

「プレイアデスの子って本当に変わってるわね」

「おお、大体こんなヤツらだった」



377 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:50:35.94 twhxL/4l0 312/874

――――――――――――
――――――

「ちょっと灰色の脳細胞が暴れてしまったわ」

落ち着き払って、こほんと咳をする海香。


「御崎さん・・・大丈夫?」

「私の魔法が、ヴァルプルギスの夜の性質と弱点を教えてくれてたのよ。
だから、伝えてあげます。その代わり、かずみとニコ、聖団の生き残りを保護してくれませんか」


三人は快諾した。戦力は多いに越したことはない。
そっぽを向いていたキュゥべえが関心を寄せる。


「それ、ボクにも見せて貰えないかい? 少し気になることがあってね」

「さあ存分にご覧あれ」



海香が魔道書を開いて呪を唱えると、
真っ白いページに複数のアルファベットと数字が現れた。



「るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めて、マミさん辞書」


何処かで聞き覚えのある音型に苦笑する海香。
英和辞典を持ってくるマミ。後ろの杏子は日伊辞典を片手に悪い顔をしている。


「で、どれが性質?」

「それがランダムなの、そもそも四つ以上でたのは初めてよ」

「このさやかちゃんで実験したらいいんじゃない?」

「お前の性質はボウヤに貢ぐこと、弱点はマミの特訓だろ」

お腹を抱えながら笑う杏子。さやかはキュゥべえを掴んで投げつけた。
キュゥべえは弧を描き、ソファにのめり込んだ。

「佐倉さん、それどういうこと?」

マミが辞書を片手にニコニコしている。

生命の危険を感じた。杏子は手を八の字に、上体を伏せて謝罪の意を伝えた。





378 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:52:42.56 twhxL/4l0 313/874

――――――――――――
――――――

イクス・フィーレはキュゥべえに解析させよう。
四人が初めて一つになった瞬間である。


「最初からそうしとけば良かったんだ」

「佐倉さんはどうしてイタリア語の辞書を持ってるのかしら?」

「関係ないだろ、キュゥべえの邪魔しちゃ悪いって」


キュゥべえがイクス・フィーレを読み解き、音読した。


「なるほど。中学生には難しいかもしれないね。最後以外」

「あたしには最後も読めなかったよ」

「・・・」

「00001はさっきの戦いで死んだ子、暁美ほむらの臓器らしいわ」


海香が思い出したように付け加える。
キュゥべえは仮説を立てて説明をし始めた。


「先頭の語は形容詞、これはおそらく暁美ほむらの性質だね。やわらかく輝く意さ」


「ふーん、さっぱりだな。マミ達は心当たりあるのか?」

杏子が神妙そうな顔で二人に言った。

「暁美さんは光ってるってこと? 多分弱点の方じゃないかしら」

「あの戦いの時は光ってたけどね。他の単語はさっぱりだよ」




379 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:54:11.65 twhxL/4l0 314/874


「キミ達じゃその程度だろうね。五番目については心当たりがある」

「随分と自信満々だねえ」


「仮説という上で聞いてくれ。『円環の理』、或いは志筑仁美のことを指しているね。
帰還することの無い土地――すなわち死を司る女神だ」


「仁美は関係ないでしょ」


さやかが声を荒げる。


「あれは魔法少女候補になったんだ。聞かれなかったから言わなかったけど。
だから、マミに提案をしたうえで監視、保護の対象としているんだ」

「嘘・・・」


驚きを隠せないマミとさやか。


契約における条件として、因果律だとか第二次性徴といった
様々な要因が関わっていることは承知の上だったが、最も重要なファクターは
「どうしても叶えたい願い」が出来ることである。


恵まれた地位、環境にある仁美が願いを持つとは、二人とも考えてすらいなかった。


「ほむらに隠匿の魔術をかけられた頃には、候補に挙がっている。
ボク達インキュベーターは最低限の干渉で彼女の生命を守りきった。
数日間の栄養補給に加えて、肉体を瘴気で覆って魔獣の目を欺いたり――寧ろ感謝して欲しいくらいだ」





380 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:55:45.20 twhxL/4l0 315/874


「で、どこにその、何とかって要素があるの?」


さやかは五番目の単語を指差し、キュゥべえを問い詰めた。


「修羅と化したほむらがそう罵っていたのさ」

「それだけ?」

「十分な根拠さ。何度もほむらと仁美は接触していたからね」

「それってあたしが変なこと聞いたから・・・?」

「さやかも薄々志筑仁美に期待していたようだし、こればっかりは否定しないよ。
お陰でICレコーダーから、暁美ほむらの貴重な発言を得る事ができた」

「知ってて黙ってたの?」

「優先順位は低かった。あの時は失踪者の件で精一杯だっただろう?」


さやかとキュゥべえは暫く、丁々発止の激論を繰り広げた。




そんなやり取りを、息を呑んで見守る海香と杏子の二人。

マミだけはノートに黒鉛を刻み込んでいた。



381 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/08 04:56:36.50 twhxL/4l0 316/874



マミが顔を上げた。


「終わったことはもういいでしょ。それより皆聞いて、ニコさん、かずみさんの保護が第二、
シカメさんの特定と避難が第三の課題ね」


「第一の目的はほむら征伐だな」


血気盛んに杏子が言い放った。
違うわ、とマミが否定する。



「全員が・・・・・・生き残ることよ」




384 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:25:13.55 tRFMX29X0 317/874


■エリドゥ


□美国邸宅前

巴マミと呉キリカが門の前で話をしている。
神那ニコとかずみの保護を依頼した――今も生きていれば、の話だが。


「はあ。それで織莉子を護れるなら容易い要求だ」

「念を押しておくけど、暁美さんと出会っても戦っては駄目よ」


「織莉子に尽くせれば私はどうなっても良いよ。
要はニコ、かずみ、まあ他所の連中をここに匿えばいいんだよね」


「そうよ。私の家だと見つかる可能性が高くなるから。
美国さんの護衛が増えるとでも思えばいいわ」


「私と織莉子の仲を邪魔する気かい?」

「・・・。使用人だと思えばいいわ」

「大いに結構! 給料は出さないよ」

「出すのは美国さんのお父様でしょう・・・」

「話は以上だろ? 伝えておくよ、バイバイ!」


話が終わるとすぐに家の中に消えるキリカ。
動かしにくい子だなとマミはつくづく思った。





385 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:27:27.75 tRFMX29X0 318/874


□美国邸宅


志筑仁美――暁美ほむらに軟禁されていたが、呉キリカの手によって救出されている。
今現在、キュゥべえとキリカの管理下にあった。


美国織莉子と志筑仁美は見滝原における最後の魔法少女候補だ。


この二名は暁美ほむらに対抗しうる有力なカードとして、
インキュベーターが大切に保護している。





ここは見滝原でも安全な場所のひとつ。政治家――美国久臣の自宅である。
織莉子の父親は対話戦略に長け、国内外から治安部隊を見滝原に派遣した張本人だ。


治安といっても得体の知れない殺戮者を外に出さないように、
徹底的な交通規制と流通制限を行うだけの平和的な武力部隊である。


取り合えず、複数の国から戦力を借り入れる外交手腕は持ち合わせていた。




386 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:29:45.44 tRFMX29X0 319/874



織莉子は手持ち無沙汰だった。
珍しく巴マミが訪ねてきたかと思えば、深刻な表情でキリカを呼び出した。



織莉子はほっぺを膨らませてマミに抵抗するも視線さえ向けてくれなかった。
きっと魔法少女絡みなのだろう、と知ることを諦めて、広間に引き返す。



志筑仁美が気だるそうに見つめてきた。
ソファの横には携帯端末が無造作においてある。




「志筑さん、お電話でしたか」



「はい、さやかさんにこっぴどく怒られてしまいました。
どうやら心配をかけてしまったようで」

気のいい声色が返ってきた。



「魔法少女のことですね、候補であることが漏れたの?」

「暁美さんとの関わりもキュゥべえさんが話してしまったそうな。
電話口の向こう側が別世界のようでした。ところでシカメさんという方はご存知ですか」


「シカメ。心当たりは無いですが、魔法少女絡みですか?」

「暁美さんと深い関わりがあるとか。いち早く避難させたいそうです」



387 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:30:31.31 tRFMX29X0 320/874


「暁美・・・ほむらさんね。志筑さん、いつか詳細を教えてくださいな。
皆さん口をつぐんでしまって、好奇心だけが空回りしているのですよ」


「全部解決したら、きっと。それか、打つ手が無くなったら知ることが出来るかもしれません」


「キュゥべえも悪い子ね。最後の切り札、聞こえは好いですけど、如何にも――」


「利用されるのはいい気がしませんが、頼みの綱であることは変わらないのですから。
それでは、人探しをしますので、お部屋と電源をお借りしますね」


「相変わらず礼儀正しい子。自分の家だと思ってゆるりとして好いのですよ。
愛しのキリカはお父様の部屋まで巡回済みですもの」








「シカメかあ――緑頭より早く見つけてあげよう。織莉子の負担は出来るだけ削がないとね」


聞き耳を立てていたキリカは何事も無かったかのように部屋へ戻っていった。



388 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:31:37.65 tRFMX29X0 321/874



■善きサマリア人


場所は見滝原。夕暮れの空に溶け込んで、赤いビル群が遠方に漂っていた。

無数の消防車が忙しなくカンナとかずみを横切っている。


「ニコ、あすなろに戻らないの?」

「散り散りになるのは良くない。巴マミという魔法少女を探すのが一番かな」

「巴マミ? 赤い髪の人だっけ」



389 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:32:49.91 tRFMX29X0 322/874


「黄髪の銃使いさ。・・・かずみ、具合悪くないか?」


かずみのピアスが暗い色になっている。
不思議に思ったカンナはかずみを気遣った。


「少し体が重たいだけ、大丈夫だよ」

「カオルのことは気に病んでも仕方がない。敵討ちだけを考えよう」


「ニコはどうしてそんなに強いの?」



「強くないよ、弱かった――とても脆かった。だから私が生まれたんだ」

「ニコ?」


「今はわからなくてもいい。でもね、真実を知ったときの絶望は計り知れないよ」

「うん。覚悟はしてる」





390 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:33:35.90 tRFMX29X0 323/874


カンナとかずみはすぐに見つかった。
美国邸の警備員が、門に寄りかかっている二人に声をかけたためだ。


「わあ! このケーキおいしいっ」

「上手くいったな」

「ん? 道に迷ってたんじゃ・・・」


くつろいでいる二人に織莉子が声をかける。


「初めまして。美国織莉子――巴マミさんの友人です」

「えっ? マミってニコが探してた・・・」

「無事で何よりです。さて何から話せばよいのでしょう」



391 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:34:29.73 tRFMX29X0 324/874


カンナは魔法少女に変身した。

「この姿は知っているだろう?」


指から細長いケーブルを出して、織莉子に接続した。
数刻後、もう一本を部屋の外に流した。


「ええ、魔法少女・・・。あすなろ市から来たと伺ってますが」

「なら話は早い。巴マミの家に行こう」

カンナは満足そうに頷き、変身を解いた。


「神那さん、待って。外はとても危険――」


「すぐ戻ってくる。かずみはココに居ていいよ」

「はーいっ。気をつけてね!」


そそくさと立ち去るカンナ。



392 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:35:45.29 tRFMX29X0 325/874



「地図・・・要らなかったのかしら」

「ニコはいつもあんな感じだよー」

「かずみさんもう一つ食べますか」

「頂きまーす。あっ」

「どうかされましたか」


「今日のニコは黒かったよ」

「はい?」


「服も、心も黒かった。別人に生まれ変わったみたい」

「どういうことでしょう」


「わたしに聞かれてもわかんないよ」

「かずみさんも魔法少女と伺ってますが」

「魔法は使えるよ? 契約の内容はね、えっと――」


話が終わってないのに追加のケーキを食べ始めるかずみ。
変わった子だなと織莉子はつくづく思った。



393 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/10 17:36:17.48 tRFMX29X0 326/874


「・・・」

「・・・」

「織莉子さん」

「なんでしょう」


「ケーキ、本当に・・・おいしい」

「か、かずみさん?」

「生きてるとこんなにも――」



さめざめと頬を濡らすかずみを前に、織莉子はかける言葉が見つからなかった。





396 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:19:10.39 D+gyuZ/K0 327/874


■受難者

□ティロホーム

美国織莉子から連絡を受けていたのだろう。
カンナがエレベーターから降りると、何者かに腕を引っ張られた。

無抵抗のまま巴マミの自宅まで連れ込まれる形になった。



「ニコ! 無事だったのね」



腕を掴んだまま、昂ぶった様子を見せている。声の主は御崎海香だ。
カンナにとって海香は感謝すべき対象、と同時に宿敵でもある。


カンナは口元に人差し指を立てる。
落ち着くように促した後、少し間をおいて述べた。


「とても苦しい戦いだった。ニコは無事じゃないだろうね」


カンナは肩をすくめながら、面倒くさそうに溜息を吐いた。


「かずみは・・・?」

「ああ、生きていないよ。無事だろうけどね」


今度もやれやれと肩をすくめる。




397 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:20:21.74 D+gyuZ/K0 328/874


「ちょっと! 何てことを言うの?」

「美国織莉子の家でケーキを食べているよ。最後の晩餐だ」

「巴さん? ちょっと二人にしてもらえるかしら!」


海香が怒る怒る。
カンナは湧き出る喜びを噛み締め、勝手気ままな生き物を嘲笑している。


「御崎さん。見てわかるけど、ワンルームなのよ。物置なら・・・」


「ちょっと下まで行ってきます!」

「海香の言うとおり、一度退場しよう。
外に出て風に当たってくるよ。今朝の戦いで少し興奮しすぎてね」



398 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:20:51.18 D+gyuZ/K0 329/874



「漢字はわかったけど、見滝原一体に散らばってて総当りじゃ何日かかるか・・・」

突然の来訪者に目もくれず、さやかと杏子は鹿目家の場所を探していた。



マミはイクス・フィーレの文言と格闘している。

「こっちもこっちで大変なのに・・・」



399 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:22:29.03 D+gyuZ/K0 330/874

□ティロエントランス


「あまりにも嬉しすぎて気が昂ぶっていた」

「ニコらしくないわね。暁美ほむらについて聞きたいことはある?」

「まずはかずみの件だ。プレイアデス聖団は何人生き残った?」

「ニコ含めて三人。私とニコとかずみ」

「マジ?」


それは海香とかずみ以外死に絶えたことを意味した。
海香と話している人物はカンナに置き換わっている。


「大マジよ。かずみの身が危険ね。二人の魔力じゃ支えきれない」

「グリーフシードは幾つ残ってるんだ」

「二十個。これは半分こしましょう」


海香は断腸の思いで数少ないキューブを取り出した。



400 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:24:38.95 D+gyuZ/K0 331/874


プレイアデス聖団の六人は、ミチルからかずみを造り出し、六人で魔力を供給している。
かずみ――13番目の死体をピアスで動かして、ありし日のミチルを投影していた。


かずみの左耳にあるピアスは、ミチルのソウルジェムそのものであり
六色が渦巻き状に交じり合った奇抜な鈴に形を変えていた。


残念ながら、暁美ほむらの付き人と同様、人造魔法少女を動かす手段は魔力のみ。



現在、かずみに魔力供給しているのは海香ただ一人である。
神那ニコは死に絶え、聖カンナは供給に加わる術を持たない。
かずみの持つピアスの色が暗くなった原因でもあった。


401 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:27:28.32 D+gyuZ/K0 332/874


「このままじゃ本当に最後の晩餐じゃないか・・・次。暁美ほむらの『ホンモノ』はどうなった?」

「まだ生きてるわよ。幸いなことにイクス・フィーレでの解析が出来た。
ただ、ワードが六つ。それだけ弱点があるってことだろうけど、その解釈が難しいの」


「敵は討てるってことか・・・燃えてきたよ」

「詳しくは巴さんという金髪の方に――」



「承知。ちょっと一人にさせてくれ」

カンナは俯いて地面に話しかけた。



「つらい気持ちはわかるけど、悲しむ余裕はそこまで無いわよ。
残された時間は短すぎる。ひとまず心の整理をしたら、すぐに戻ってきなさい」

きびすを返し、海香は足早に戻っていった。
その後姿に失意のオーラが滲み出ている。



402 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/15 07:32:37.96 D+gyuZ/K0 333/874


カンナは愉快でたまらない。
たくさんの鳩が一気に飛び立つような、言葉にし難い清々しさに身を委ねていた。



「かずみが魔力を使うほど御崎海香は死に近づく。
自業自得を体現した理想のシチュエーションじゃないか」


「しかし、はじめから七人で暁美ほむらを襲わなかったのは幸いだった。
アイツの立案した計画は結局かずみしか見ていない」


「一人欠けた程度なら、かずみの動力に問題はないからなあ!
プレイアデスが自滅していく姿はマーベラスだよ」


見滝原の地形、暁美ほむらと志筑仁美に関する三度のやり取りを考察する。
聖カンナはコネクトで吸い取った知識を丁寧に反芻した。



(志筑仁美に数日間の空白。ここで接続を切るんじゃなかった。
大方、暴漢にでも襲われたのだろうが・・・)




「後はどうやって暁美ほむらを始末するか――」




石段に座り、何度も何度も考えをめぐらせた。
無機質な石の冷たさを楽しみながら。




403 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 09:42:32.99 bPESZnga0 334/874

――――――――――――――――――――――――――――――
お知らせ
前スレの形式に準じていたのですが、以降(大体)台本形式に
「」の前に喋っている人物の名前を書きますね

極力、一場面に二人までと決めてたのですが回避できそうに無いですし、
次の場面は六人もいて、ト書きが冗長になりそうなのです
――――――――――――――――――――――――――――――

404 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:23:07.59 bPESZnga0 335/874

□ティロホーム

カンナは大体の状況を把握した。
イクス・フィーレの解読に、鹿目の住所特定と避難が急務らしい。


鹿目の家にほむらが訪れるだろうという推測。
反旗を翻した最初の素体――コピーとの戦いで、ほむらは多くの魔力を使ったそうだ。


カンナ
(暁美ほむらはどうも短絡的な性格らしい。魔力はチビチビと使うものだろうに)

マミ
「で、これが御崎さんのイクス・フィーレ」


マミがカンナにメモ用紙を見せる。



405 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:24:11.21 bPESZnga0 336/874


カンナ
「ほう、Vertebrate-00001か。きっと私が遭ったほむらだ」


歩道橋の上で出遭い、知らぬ間に散っていったHyadesの一員。
カンナはHyadesの死を悲しむつもりはない。


むしろ、ニコと自分の応酬にHyadesを重ねている。
自分がオリジナルに敗北した『IF』の時間軸を見ているような不思議な感覚を楽しんだ。


さやか
「会った? 詳しく聞かせて!」

カンナ
「何だ青いの。死に絶えたものに興味があるのか?」

さやか
「ほ、ほら。仲間割れする理由とか知りたいじゃない」

カンナ
「ははん」

カンナ
「生みの親に反抗するのはよくあることさ」



406 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:25:16.23 bPESZnga0 337/874




【Ereshkigal】



次の項に目を奪われた。図らずも、おおっと声が上がっていた。
カンナはすっと立ち上がる。

カンナ
「エレシュキガル――か、キュゥべえ居るんだろ?」

QB
「なんだい? カンナ」

カンナ
「・・・。危うく吹っ飛ばすところだった。
全くインキュベーターは――っと、鹿目の家にデコイランを置こう」

QB
「デコイラン、囮のことだね。でもどうしてだい?」



カンナ
「忌々しい暁美ほむらに一泡も二泡も吹かせてやる。
ツクリモノの気持ちを考えないクズは最高の演出で葬ってやるのさ」


マミ
「私としてはそこまでする必要が・・・」



話の腰を折るマミをにらみつけ、カンナは覚悟を決めた。
海香と杏子は調べ物に夢中だ。暴露大会は今のうちに済ませておこう。



407 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:26:47.23 bPESZnga0 338/874


カンナ
「私の性質はConnectだからね。これと、Vertebrate-00001は私が提供しよう。
多分それらが暁美ほむらの切り札になる」


黒い笑みを浮かべて天井を仰ぐ。


マミ
「でもコピーはもう生きてないわよ」


海香の目が届いていないことを確認してから、カンナはソウルジェムを照らした。


カンナ
「私は00001と呼ばれた暁美ほむらの宝石に触ったからな。こんなことも容易い」


テーブルの上に菱形の宝石が生まれた。

QB
「これはまさか暁美ほむらの・・・」

カンナ
「キュゥべえは賢いな。素体とやらにくっついてた魔力の回収装置さ」



408 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:28:37.43 bPESZnga0 339/874


マミ
「で、それをどうするのかしら」

カンナ
「デコイランを使って暁美ほむらに付着させる。
アイツの魔力を完全に削ぎ落とすんだよ、そして巴マミら三人で決着をつけたらどうだ」

QB
「ボクは異存ないよ。回収装置を改良すれば何とか実行に移せるね」

マミ
「神那さんと御崎さんはどうするの?」

カンナ
「私は、デコイランの失敗に備えて、鹿目家までの行く手を阻む。
かずみにも働いてもらおう。他の魔法少女は好きにしてくれ」

さやか
「神那さん、そのデコイランって何?」


さやかが突っかかってきた。
カンナは少し頭を捻ってからゆっくりと話し始める。

カンナ
「デコイランはデコイランさ。そして神那は再生成の使い手だ。
カンナが創った宝石を見ただろう? カンナにとって囮なぞ造作も無いこと」

さやか
「あんた、悪いけど信じられない」

カンナ
「私もだ。どこまでも自分勝手な生き物なんぞ滅びてしまえ」

カンナは菱形の宝石を取り上げる。乱暴にドアを開けるとそのまま姿を消した。




409 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:29:10.06 bPESZnga0 340/874



マミ
「美樹さん。あの魔法少女は味方だと思う? 敵だと思う?」

さやか
「武器――だと思う。ほむらを殺すための」

マミ
「・・・」

さやか
「マミさんはどっちだと思ったんですか」

マミ
「さあ。でも美樹さんはたまに鋭いわね」

さやか
「あはは、照れちゃいますよ」

マミ
(美樹さんも、神那さんも――同じ匂いがした)



410 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/16 11:37:02.06 bPESZnga0 341/874

――――――――――――――――――――――――――――――
Tips

かずみ「魔法が使えるよ。織莉子さんの家に居るよ」

海香「ニコとかずみ以外、暁美ほむらの手によって逝ったわ」


カンナ「イクス・フィーレの4/6は解読出来た。御崎海香はもう持たない」

カンナ「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」


ほむら「反逆者の始末、及び失った魔力を補充しているわ」

さやか「神那は信用出来ない」

マミ「美樹さんと佐倉さんも怪しい」

杏子「鹿目はどこに住んでるんだ?」

キリカ「シカメ? 何それ?」

仁美「美国さんのお屋敷で待機。契約対象ですわ」
――――――――――――――――――――――――――――――

412 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:04:25.24 QVqBrxCm0 342/874


■あなたがたは、十日の間苦しめられるであろう。


□暁美邸宅

暁美ほむらは自宅で静養していた。
なりふり構わず行動した結果、精神的にも、肉体的にも、相当なツケが回っていた。

ほむらの味方は、真紅いリボンと、魔力を提供してくれる魔獣と、餌の住民くらい。


自分と同じ志を持つはずの素体は創造主に牙を向けた。
暁美ほむらを支えていた拠り所はついに自壊する運びになった。


「魔法少女は裏切った。インキュベーターは日和見。
付き人は裏切った。志筑は・・・逃げた。私の周りは敵だらけね」


「でもあの子なら全部受け止めてくれる。私の全てを理解してくれる。
『鹿目』を探し出してこんな街から出て行きましょう」


「――いや、一人息子が行方不明だろうから、昔の知り合いを探し出すほうが・・・。
鹿目は引っ越しているかもしれないし、自害しているかもしれない」


(駅前には、掃いて捨てるほどの警察官や駐留部隊がひしめき合っている。
プレイアデス聖団の生き残りとマミが接触していることはインキュベーターから聞いた)


ほむらに憑りついた疑いの念は晴れない。




413 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:05:40.94 QVqBrxCm0 343/874



(キュゥべえは情報の断片のみを提供して、認識の齟齬を意図的に生み出しているのかも)


あらゆる状況がほむらの行動を制限している。
何も考えずに、のうのうと外出するわけにはいかなかった。



「美樹さやか、佐倉杏子は黒。神那ニコ、かずみ、御崎海香も黒。キュゥべえと巴マミはきっとグレー」

「あれらもきっと、鹿目の保護を企てている」



「どうすればいいの。どうするのが正しいの」



急に脂汗が出てきた。目眩もするのでソファに横たわった。
お守り代わりのグリーフシードを握り締めて。


「この場所は割れている。家が焼き尽くされるかもしれない」

「命が奪われるかもしれない。リボンが奪われるかもしれない――」




414 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:06:24.02 QVqBrxCm0 344/874





「もう一度逢いたいだけなのに。どうして・・・どうして?」



「・・・誰か助けて。誰でもいいから」







       ――助けて








415 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:06:58.10 QVqBrxCm0 345/874




ほむらは吐いた。何度も、である。

口を数回濯いで、苦しみを和らげようと試みる。
とどまるところを知らない嘔吐物と廃液。旧式の排水溝は悲鳴をあげていた。




416 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:08:16.97 QVqBrxCm0 346/874


■死に至るまで忠実であれ

□美国邸宅

志筑仁美は見つけてしまった。手がかりを。
恐ろしいほどに手際よく事が運んでしまった。

まるでDNAに刻み込まれたかのように、そのためだけに生まれてきたかのように。
以前の仁美では、全く持って思いつきもしない手段で、「鹿目」を探し当てた。

なあに、いざとなれば揉み消せば良いのです、と自分の指先を説得して後先考えずに
市の基幹サーバーにアクセスして情報を吸い取ったのだ。



417 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:10:03.16 QVqBrxCm0 347/874


キュゥべえを呼びつける。


仁美
「鹿目詢子さんと連絡が取れました。鹿目知久さん、詢子さん、この二人は健在です。
ですから今すぐ海外に、と話したのですが見滝原を離れるつもりは無いと――」

QB
「住所がわかったのなら、呉キリカを使って強奪する手段はあるよ」

仁美
「そんなのは駄目です。私が呉さんに抱えられたとき、死の匂いを感じましたわ」


無邪気な目で拒絶の意を示す。


QB
「普通は見滝原を離れたいと思うものだろう? 直近の死者はボク達でも把握し切れていないのに。
それとも、苛政は虎よりも猛し、という教えに忠実なのかい?」

仁美
「あの日から毎日、息子さんを探しているようなのです。
ご両親の気持ちもわかりますが、このままでは哀れな虎に襲われてしまいます」

QB
「死んだことを話せばいいだろう。避難先の件は美国久臣にも協力を仰ごう」

仁美
「避難に関しては志筑財閥が全ての責任を負います。こればかりは誰にも邪魔はさせません」


QB
「そこまで言うならまかせるけど、無理は禁物だ」




418 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:12:45.44 QVqBrxCm0 348/874



キュゥべえから重要なキーワードを引き出した。
仁美の口角はゆっくりと上がっていく。
間髪いれず、次のように述べた。自ら鍛えぬいた弁論術と悪運に感謝しながら。


仁美
「今、任せる――と言いましたね?」

QB
「気に障ったかな」

仁美
「では、準備をしますので。一度ここを離れます」

QB
「それは無茶だ! 安全の確保が出来ない」

仁美
「インキュベーターは私達人類と対等に付き合い、お互いに尊重するものだと仰っていました。
目の前の個体は私を尊重してくださらないのですか?」

QB
「それは志筑仁美を尊重した上での・・・」

仁美
「私に嘘を付き、積極的に騙そうとする気ですか? 
これはもう精神疾患と判断されてもおかしくないですわね」

QB
「・・・わかった。呉キリカを呼ぶからそこで待っててくれ」



419 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:57:25.42 QVqBrxCm0 349/874


仁美
「はじめからそうすれば良いのです」

QB
「全く、キミは本当に興味深いよ。
重要な候補者だからといってあらゆる情報を提供するのは良くなかった」


仁美はあごを軽く撫でて口を開いた。


仁美
「キュゥべえさんのお陰で、美国さんは可哀想なほど何も知らないのですよ?」

QB
「美国織莉子はキミと違う種類の人間だ。
漠然とした願いしか持たない織莉子と、目的のためなら手段を選ばない仁美。
良くも悪くもボク達の持つカードが増えたのは感謝しきれないけどね」

仁美
「そのカードを育てたのはあなた達インキュベーターではありませんか。
美国さんは自分が真っ白なカードであることに嘆いています」

QB
「同じ種類の切り札はキミ達人類にとっても喜ばしくないんじゃないかな。
さて、護衛の件だけど、少しばかり時間がかかるかもしれないね」



一つの空間に、二つの溜息が漏れていた。



420 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:58:41.07 QVqBrxCm0 350/874


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


キュゥべえは呉キリカを探した。
台所にはプレイアデス聖団が産み落としたおもちゃが一つ。


(かずみ・・・キミはまだだね)


念のため、第三応接室まで覗いてみるがやはりキリカは見つからない。
その代わり、美国織莉子が居た。


織莉子
「キュゥべえ? どうしたの」

QB
「織莉子。キリカを知らないかい?」

織莉子
「キュゥべえに頼まれたから、人を訪ねて――どういうこと? キュゥべえ」



421 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 19:59:31.34 QVqBrxCm0 351/874



織莉子は睨み付ける。キリカの優しい嘘に気づき、どうしようもなく苛立っていた。
キュゥべえのしっぽは力なく垂れている。


QB
「キリカの嘘だろう。元々キミ達を守るために置いているのだから」

織莉子
「テレパシーは使ったの?」

QB
「後でしておこう。少し、志筑仁美を借りていくよ」

織莉子
「理由を教えてもらえるかしら」

QB
「鹿目家の居場所が判明した。海外に避難させる腹積もりだろう」

織莉子
「街に残る人を放って置いて、そんなことが許されるのですか? 
確かに、暁美さんが絡んでると、志筑さんは言ってましたが」



QB
「今までの犠牲者は、ある種、鹿目詢子のような人間を探すためらしいからね」

織莉子
「鹿目詢子。その方は魔法少女なのですか?」

QB
「この先は話せない。暁美ほむらが捜し求める素――人物ではある。
暁美ほむらもまた、見滝原を脅かす存在だから、キミにとって敵対すべき存在だ。
くれぐれも賢く行動してくれ。呉キリカは簡単にやられるほど弱くないのは知っているだろう?」

織莉子
「釈然としませんが、私には待つほか無いのですね。
わかっていますとも。見滝原の安寧のためなら無知を貫きましょう」



422 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:01:53.60 QVqBrxCm0 352/874




キュゥべえは仁美の護衛として聖カンナを就けた。
ほむらが把握していないであろう魔法少女。凶悪な魔法の使い手ゆえに適当な人材であった。




「ほむらと聖カンナが出会ってしまう可能性は否定できない。
ただ、今の彼女はお疲れのようだ。聖カンナの行動を分析するには良いタイミングだと思う」


「知ってのとおり、リスクは大きい。切り札が失われる程度で済めばいい。
無知な聖カンナが暁美ほむらを知ってしまうことだけは避けるべきだ」




カンナの弱みを握っていることもまたキュゥべえにとってプラスに働いた。
志筑仁美という切り札を動かすほど、聖カンナもまた重要な人物である。



423 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:02:32.10 QVqBrxCm0 353/874



キリカとは連絡が付かない。織莉子には話していないが、既に何度もテレパシーを送っていた。
彼女の性格上、織莉子への奉仕を第一に考えている。キュゥべえは推論を立てた。


それは見滝原の騒動を鎮圧――暁美ほむらへの対立に自ずと繋がるはずだ。
とすればマミ達と合流しているはずで、すぐにティロホームに居た別個体から報告が飛んでくる。


何の報告も無い。


つまり、キリカは道中でほむらに接触してしまい、殺害されている可能性が高かった。



424 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:03:52.02 QVqBrxCm0 354/874


■テオトコス

□閑散とした街

見滝原から半数近くの人間が逃げ出した。もはや外出制限は機能していない。
残されたものは魔獣に魂を喰われるか、コピーキャット――模倣犯の餌になるのみ。


人々は神仏に祈りを捧げるようになった。
自衛のために出刃包丁やバットなど、比較的簡単に入手出来る武器を買い揃えようとしている。



425 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:06:00.81 QVqBrxCm0 355/874



派遣部隊や私服警官の一部にも行方不明者が出ていた。

連絡が途絶える間際、被害者は皆、口をそろえてこう言った。


「死神だ」


入電を受けた生き残りは死を身近に覚えた。
無線が入るたびに悪夢の「五文字」が耳を突き刺す。


次は自分が発する番かもしれない。


ヴァルプルギスの夜が終息した後も、耳に残る「五文字」は屈強な人間をも蝕んだそうだ。
生き残ったものは精神を病み、自殺するものもいたという。




426 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:07:00.47 QVqBrxCm0 356/874




二十二時過ぎ。カンナと仁美は死神の潜む街を闊歩している。


鹿目の家に向かっていた。





427 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:07:53.62 QVqBrxCm0 357/874


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

カンナは仁美の持つ情報量に驚いた。
インキュベーターが一枚噛んでいるのは明白。

魔法少女や直近の話題をふると、すぐに返答がある。
なによりも自分が聖カンナと知った上での自然な応対に恐怖を覚えた。


仁美
「ニコさんは暁美さんを恨んでいるのですね」

カンナ
「何度も言っただろう? 聖カンナでいい。
私を貶しているのか、私に媚びているのかわからないヤツだ」

仁美
「カンナさんの存在がばれてしまったら大変ですもの」

カンナ
「私は大変かもしれないが、おまえは別に変わるまい」

仁美
「いいえ、これは大事なことなのですよ」

カンナ
「底知れないやつ。何を企んでいるんだ」




428 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:08:54.47 QVqBrxCm0 358/874


仁美
「デコイラン」

カンナ
「私の名前だけでなく、それも知っているのか」


私の能力も知っているのかと問いたかった。
喉元まで出かけたセリフを寸でのところで飲み込む。


仁美
「キュゥべえさんが警告してくれました。キュゥべえさんは誰にも話してないので安心をば」

カンナ
「説明が省けた。実はその話をしようと思っていたのだ。
こうして二人きりになる機会がなかったら、きっと強制させていただろう」

仁美
「まあ、それは恐ろしい。魔法少女は強引な方が多いのですか?」

カンナ
「器用に生きることが出来ないだけだ。不器用揃いなのさ」



――――――――――――――――――
――――――――――――



429 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:09:40.47 QVqBrxCm0 359/874


仁美
「ここが鹿目さんの家ですね。では私一人で」

カンナ
「約束の時間は過ぎてる、急いでこい。私はここで待っているよ」

仁美
「帰りもよろしくお願いしますわ。美国さんのお屋敷ゆえ、もっと遠いかと思います」

カンナ
「ああ、わかっている」




大きく深呼吸をしてインターホンを押した。


430 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:10:36.48 QVqBrxCm0 360/874


□鹿目家

三十代前半と思わしき中肉中背の女性がリビングに座っていた。
無用心なことに、玄関の鍵は開いていた。


「何度も電話くれた子だよね。すまないね、手間かけさせちゃって」


仁美
「夜分に失礼します。鹿目詢子さんですよね」

詢子
「ああ、わたしだ」


目に覇気は無く、疲れ果てた様子で仁美を眺めている。
手元には褐色のアルコール飲料。


仁美
「知久さんは・・・」

詢子
「あれは朝から晩まで探してるから。二人揃ってないとまずかったか?」

仁美
「少し意外だなと。つい思ってしまっただけです」




431 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:13:12.49 QVqBrxCm0 361/874


アルコールを全て飲み干し、詢子は眉をひそめた。

詢子
「で、教えてくれるんだろ? タツヤを何処に隠した」

仁美
「隠した? 滅相も無いです」

詢子
「黙れ。わたしには何となくわかるんだよ」

仁美
「タ、タツヤ君は・・・とりあえずあなた達の安全を――」

詢子
「これでもバリキャリなんだ。あんたの何倍も情報通だろうよ。あ?」


酔いつぶれているのか、語気がどんどん荒くなっていく。

気圧されないように心がけた。仁美の声も自然と大きくなっている。


仁美
「話せません。でも、どうしても知りたいなら、全てが終わってからに・・・」



仁美の焦り具合を見て思い当たる節があったのだろう。
詢子は姿勢を整えると、ぐいと前に出て仁美の顔を見つめた。



詢子
「全てって何だ? あんた達は何をしているんだ?」

仁美
「見滝原が元に戻るまで話せません!」




432 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:14:08.59 QVqBrxCm0 362/874



詢子
「試して悪かった――いないんだろ。タツヤは殺されちまったんだろ?」


仁美
「!!」



433 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:15:16.67 QVqBrxCm0 363/874



息を呑む仁美。何もかも諦めた眼差しが仁美の脳裏に刻み込まれる。
詢子は氷を含み、奥歯で思いっきり砕いて話し始めた。



詢子
「ある日の夕方、女の子に出遭ったんだ。赤いリボンが特徴的な、とても綺麗な子でね。
少しタツヤが迷惑をかけてしまったから、声をかけたんだよ」


仁美
「どんな風に――」

詢子
「あなたもまどかを知ってるんですかって」

仁美
「まどか・・・?」

詢子
「タツヤがよく描いてた女の子さ。でも、リボンの子――死臭がしたんだ。
よくわからない不気味さがあったんだ。つい嫌な顔をみせてしまった」

仁美
「はぁ・・・。そんなことがあったのですね」



詢子
「わたし達が帰る間も、死臭は離れない。本当に死神みたいな子だった。
やっと死臭が消えたと思ったら、タツヤも居なくなってたのさ」

仁美
「それを私に話すのは何故・・・」

詢子
「リボンの子、見たことあるかい?」

仁美
「いいえ。そのような方は存じません」



434 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:16:00.60 QVqBrxCm0 364/874




暁美ほむらのことは話せなかった。
インキュベーターに固く口止めされている。

魔法少女である美樹さやかでさえ、
ほむらと仁美の接触はインキュベーター越しに聞き及んだだけだ。

まして、同じ候補者の美国織莉子は名前しか知らないといっても過言ではない。




435 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:19:30.09 QVqBrxCm0 365/874


詢子
「存じません、か。残念だ」

仁美
「お役に立てそうも――でも、今すぐここを離れて」



詢子
「目が泳いでいる。わたしを騙そうなんて二十年早いよ」

仁美
「嘘なんて――ついて」



仁美の手が震える。口の中はとっくに乾ききっていた。



詢子
「あんたの何倍も情報通だって言ったよな? 人の話聞いてたか?」

仁美
「それは言葉の綾でそう言ったのでは・・・」



436 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:20:10.11 QVqBrxCm0 366/874





「暁美ほむら」




「ひっ」





437 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:20:41.42 QVqBrxCm0 367/874



思わず声に出てしまった。草臥れきった鹿目詢子は消えていた。
疲労を見せながらも、フクロウの様に剣呑な目つきで獲物を睨んでいる。



詢子
「こんなわたしにも親友がいるんだ。中学からの知り合い。
名前は何だったかな――年は取りたくないね」



呆気にとられている仁美を詢子はまじまじと見つめた。
気の強い令嬢は黙ったまま思考停止している。



ああ、そうそう、と勝手に頷いて詢子は続けた。




438 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:22:09.08 QVqBrxCm0 368/874



詢子
「早乙女和子。うん、どこかの学校で英語を教えてたかな」

仁美
「・・・っ」


詢子
「中学二年の担――だった、ような」


仁美の返事は無い。
目を力いっぱい瞑って、何かに耐えている様子だった。


詢子
「・・・聞いたことある? あるよね、なあ? おい! 何故嘘をついた」



439 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:23:11.65 QVqBrxCm0 369/874


仁美
「い、言えません。お父様にも、織莉子さんにも言えないんです。
だから、一般人の貴女に言えるはずありません!」



詢子
「当事者も無理ってことか。とんでもないことに首突っ込んでたのかなあ」



がさがさと鞄を漁って一枚の写真を取り出した。
顔写真。これは――鹿目タツヤのものではない。


黒くて長い髪。鼻がすうっと通っていて、どこか幼さが見え隠れしている女性の姿。


仁美
「まさか、暁美さんを探してたのでは!」

詢子
「そのまさかさ。薄情だと思うなら、好きに思っていればいい。
敵討ちってもんでも無いけど、重要な手がかりになるからね」



440 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:24:29.00 QVqBrxCm0 370/874


仁美
「今すぐ――今すぐ逃げてください」

詢子
「嫌だね。わたしは探し続けるよ、たとえその身が滅びても」


仁美
「近々私は暁美さんに会うかも知れません。言伝なら承るので。これでも駄目ですか」

詢子
「こんなもんでわたしが動くとでも?」


仁美
「私が暁美さんを殺す、と言ったら海外に飛ばされて下さいますか」

詢子
「大法螺吹きだよ、あんた。そんな気全然無いくせに。
でも良いよ、乗った。仁美ちゃんの気概に免じて従ってあげよう」


仁美
「・・・実は、最初から私の提案を受け入れる気だった・・・なんてことは」

詢子
「まだまだ熟れてないね、仁美ちゃん。直接会ってから決めるつもりだった」

仁美
「そうでしたか」


詢子
「それと――ちょっとばかし、仁美ちゃんにも死臭が付いてるね。
ひとつ、アドバイスだ。自分が正しいと思ったことをしろ。
よくわからない理屈や一時の思考に邪魔されちゃ駄目だ」


仁美
「何が何やらさっぱり・・・。でも、はい。わかりました」



441 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/18 20:26:00.53 QVqBrxCm0 371/874


――――――――――――――――――
――――――――――――



仁美
「伝言はよろしいのですか」

詢子
「いいんだ。直接会う日が来るかもしれないからね」


小声で詢子に耳打ちする。早口で。

仁美
「・・・。暁美さんが生きていたら、何処までも鹿目さんを追いかけてきます。
何処へ逃げても無駄でしょう。逃がす場所は私とお父様しか知りません。
でも私がつい口を漏らしてしまうかもしれません。ゆめゆめ、お気をつけて」


詢子
「やっと本音が出たね。嬉しい限りだ」

仁美
「私は、あなたのような大人になりたかったですわ・・・」

詢子
「遺言か? そうだな、仁美ちゃんに一言だけ」

仁美
「なんなりと」


詢子
「こんな悲劇が二度と起こらないようにしてくれるかな。夫もわたしも疲れた」

仁美
「はい。約束は出来ませんが、努めます」

詢子
「それでいい。いつか、全部話してくれる日を楽しみにしてるよ」



444 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:11:13.02 4d1mOe+J0 372/874

■Ea


志筑仁美を待つ間、聖カンナはとりとめのない根拠を元に暗号を解き続けた。
暁美ほむらが使役した素体の動力である宝石のニセモノを握り締めて、
御崎海香が見出したアルファベットを脳内に描いた。


神那ニコの性質をその身に宿した聖カンナは幾つもの宝石を創り出す。

多種多様。

種種雑多。

脳内に浮かぶ宝石はアメーバのようにかたちを変え続けた。





音のない世界に、扉の開く音。

規則的な足音も追随した。


カンナ
「待ちくたびれたよ。結果はどうだったの」

仁美
「まずまずです。いえ、カンナさん――貴女は知っているでしょう?」

カンナ
「ニコ・・・は止めたのか。いいや、私はずっと目を閉じていたから知らないね」

仁美
「そうでしょうか。デコイランの話、私は詳しく聞いているのです。
プレイアデス聖団のある記述から囮の発想を得られたとか」

カンナ
「何か言いたげだが。お前、回りくどいよ」



445 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:16:41.27 4d1mOe+J0 373/874


仁美
「・・・。何故、私が囮――デコイランだと思ったのですか」

カンナ
「イクス・フィーレに書いてあったからに決まっている」

カンナ
「暁美ほむらを解析した結果、Ereshkigalという単語があった。ただそれだけだ」


仁美
「キュゥべえさんは貴女にエレシュキガルの事は話していない。
そこから、私は連想できない。つまり、カンナさんは私の記憶を盗み見ましたね?
私と暁美さんの、図書館での、二人きりの会話を盗み見ましたね?」



「ふむ」



カンナの声が闇夜に響く。


カンナ
「やるな、志筑仁美。鎌をかけたのだろうが、その洞察はなかなかのものだ」

仁美
「お褒めに預かり光栄ですわ」

カンナ
「私はConnectを用いることで、人間や魔法少女にアクセスすることが出来る。
誰にも気づかれずにな。多少魔力を喰うが、無意識に操る――洗脳も容易い」

仁美
「取引をしませんか」

カンナ
「言ってみろ」

仁美
「デコイランの心配は要りません、計画があればそれに則って動きましょう。
その代わり、これ以上私に接続しないで下さい。私は、私の意思で暁美さんの前に立つのですから」

カンナ
「――潰すときは正々堂々。約束を取り付けるまでも無い」

仁美
「良かった。ではニコさん。今後のことも踏まえながら、楽しく歓談をしましょう」

カンナ
「おまえは変わったヤツだな。人間は人間らしくしていればいいのに」

仁美
「もうすぐ午前様。皆に心配をかけてしまいますよ」

カンナ
「急ごうか。何事も早いほうがいい」


446 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:18:12.86 4d1mOe+J0 374/874


仁美
「そうでした。もう一つ頼みが」

カンナ
「何だ? 聞くだけ聞いてやる」

仁美
「鹿目さんの自宅の場所、皆さんに話すのは何日か後にします」

カンナ
「準備期間というやつか?」

仁美
「そうです。機が来るまで、さやかさん達には内緒にします。だからニコさんも内密に。
勿論、キュゥべえさんにも協力して貰います」

カンナ
「たかが人間にインキュベーターを説き伏せることが出来るのか?」


仁美
「出来ますよ。だって私は――最後の切り札なのですから」


カンナ
「そうか。やはり、お前が切り札だったのか」

仁美
「ええ。ニコさんも知っているはずじゃ」

カンナ
「なんとなく感づいていただけ。今、知った」



しばらく沈黙が続いた。
長い道のりの中、二人とも歩くことだけに集中していた。



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


447 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:20:23.39 4d1mOe+J0 375/874


カンナ
「誰にも会わず、難無く到着できた。喜ばしい限りだよ。
私は少しばかり雑務があるから、かずみには心配するなと伝えて欲しい」

仁美
「ありがとうございました。ニコさん」





目の前の女が視界から消えたのを確認して、カンナは穏やかな声で闇に話しかける。





カンナ
「ずっと付けていたな? インキュベーターよ」

QB
「鹿目詢子と鹿目知久の安否を確かめるためだ」

カンナ
「それだけじゃないだろう? 確かめさせてもらうよ・・・。
あの女に入れ知恵して、一体何をするつもりかな」

QB
「話すわけには行かないよ。ボク達インキュベーターの存在意義に関わるからね」




カンナ
「なら奪うまでだ! おおよそ数ヶ月分の出来事、読み込ませて貰おう!」



指先からケーブルを解き放って、小動物の額に接着させた。



カンナ
「私はね、正確な情報が欲しいんだヨ」

カンナ
「そうだ。鹿目の家は内密に。いいね?」


448 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:23:29.77 4d1mOe+J0 376/874

■IL DESTINO E SEGNATO


外で何が起きているか知らぬまま、仁美は無事に帰宅を遂げた。


織莉子とかずみはリビングで寝ていた。
多分、帰宅を待ってくれたのだろう。


どうしようもなく優しい方々なのですね、と二人に毛布をかけながら呟いた。



電気を消して、二階へ向かう。



「何も言わないで消えるのは良くないですわね」

「お手紙にしましょう」

「そうです。それがいいですわ」



449 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:24:34.65 4d1mOe+J0 377/874


「鹿目さんには悪いけれど、私はきっと生きて帰れないでしょう」

「私が全部話す日など来ません。でも、頼むことなら出来るはず」


美国家の書斎――美国織莉子に手紙を綴る。


「この前、言ってましたよね?」


――いつか詳細を話して欲しい


織莉子の無垢なお願いは叶えられそうにない。
だから二三お詫びをした。




胸の奥に収めた心の重みを誰かに告白したかった。
長い間閉ざしてきた本音をぶちまけたかった。


「美国さんは生き残って下さい。私に出来るのはそれだけ」


生き残って、何が起きたのかを鹿目夫妻に伝えて欲しい。




450 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:27:02.29 4d1mOe+J0 378/874



「きっと、美国さんは素敵な女性になるのでしょうね」




――羨ましいですわ。沢山ご学友が居て、自分の思いに実直。
私は今まで両親に縛られ続けて、自我というものがありませんでした。


その姿はさながら、舞台で踊らされる人形のごとく。
最後の最後くらい自分の意思で舞台を走り回りたいのです。


走って、飛んで、遊びたいのです。

自我を感じたいのです。

生を感じたいのです。



「だから私は暁美さんに逢います」

「自分の足跡を舞台に刻み込んでやります」




――たとえ、そこが血にまみれた舞台だとしても。



「鹿目さんにも頼まれてしまいましたから。こんな悲劇が二度と起きないように、と」



「もう後戻りは出来ませんね」


「本当に、これで良いのでしょうか・・・」



451 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:54:15.47 4d1mOe+J0 379/874

■生産

□ティロホーム


さやか
「マミさんが居ない。あれれ、また?」

杏子
「また魔獣狩りに出かけた。凄い執念だよ。いつ寝てるんだかわからないくらいだ」

さやか
「グリーフシードは・・・」

杏子
「玄関に四個だけ置いてあった。今が踏ん張りどころってこった」



マミとキュゥべえは魔獣狩りに向かっている。


最近の事象によって見滝原は瘴気に溢れきっている。
連日寝る間を惜しんで戦いに身を沈める必要があった。


暁美ほむらに出会わないように注意深く、
ゲリラ的に魔獣を退治するには巴マミの戦闘スタイルが一番理に適っているのだ。




美樹さやかと佐倉杏子はひたすら待機している。



御崎海香の体調を管理すること

暁美ほむらの行動を特定すること

鹿目家の場所を特定すること



三つの役割が与えられた。



452 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:56:21.60 4d1mOe+J0 380/874


さやか
「また昏くなってる」

海香
「ごめんなさいね。こんなことになって」


海香の穢れがとても早い。
かずみを動かすのに必要な魔力が吸われているのだが、海香は誰にも話していない。


最期の希望であるかずみを機能停止させるくらいなら、
自分が逝った方が良いと即決するほどの歪んだ友情を持っていた。



かずみは二度と造り直せない。



みらい、サキ、ニコ、カオル、海香、里美の持つ力が不可欠である。
暁美ほむらに頼ればミチルのような器は作れるかもしれない。
しかし、今の海香には交渉材料も、魔力も、時間も足りなかった。



海香
「パソコンを取ってください」

さやか
「あのねえ。病人は大人しく寝てたほうが良いって」

海香
「私にはやらなくてはいけないことがあるのですよ」

唸るように、さやかにパソコンを催促をした。
杏子は頭をかきながら、さやかに提言する。

杏子
「好きにさせとけよ、プレイアデスのかずみは向こうだし、ニコも戻ってこない。
海香にも思うところがあるんじゃないのか」



453 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:58:05.40 4d1mOe+J0 381/874


海香
「『ヴァルプルギスの夜』の小説を書くのです。
この御崎海香――限られた時間は誰にも邪魔させません」

さやか
「ヴァルプルギスってほむらのことでしょ? なんでそう呼んでるの?」

海香
「暁美ほむらを見てそう思ったからよ。無為に殺し続ける舞台装置のようだと。
この悲劇は絶望で終わらせない。小説の中くらいハッピーエンドになりたいじゃない」

さやか
「もう好きにしたら? まっ、出来上がったらあたしに一冊頂戴」

海香
「ベストセラー作家の御崎海香様に何たる言い分。
でもグリーフシードの件もあるし、出来上がるまでに生き残ってたら十冊は送ってあげるわ」

さやか
「癪に障るやつ・・・」

海香
「ふん。大筋はもう出来ているのよ。だってノンフィクションなのだから」

海香はさやかの膝をつねった。


杏子
「どこまで事実を書くんだ?」

海香
「そうね、プレイアデスは皆生きてて――あなた達も生かしてあげる」


海香は構想を話し始める。


454 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 10:59:38.76 4d1mOe+J0 382/874


海香
「星の神話を下地にしたわ」

――オーリーオーンがプレイアデスの七姉妹を追いかけ回すようになった。
これを憐れんだゼウスは彼女らを聖なるハトに――


海香
「オーリーオーンは弓使い、暁美ほむらみたいでしょ?」

さやか
「御崎さんはハトにでもなる気?」

海香
「美樹さやか。結構バカって言われない?」

さやか
「ぐぬぬ」

杏子
「その手の逸話は有名だ。検索すればすぐに出てくるだろ、こんな感じに」

さやか
「本当だ。でも、ゼウスに当たる人は居ないよね?」

アルテミスは、『死の中の生』と『生の中の死』の姿をとる月女神である。

という記述がさやかの目に入った。月の女神は弓の名手らしい。


海香
「そうね。ゼウスは居ない。だから私達は逃げられなかったし、殺された。まあ、続けるわ」


455 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 11:00:51.34 4d1mOe+J0 383/874


――七人の魔法少女が現れて、ヴァルプルギスの夜に挑む。
大本の話に、インキュベーターから得た情報を混ぜる。
見滝原で何が起きたのか、後世に残すためのシナリオだった。


杏子
「でもオーリーオーンはアルテミスに殺されるんだよな」

海香
「佐倉さんは少し勘違いよ。相思相愛だった二人の弓使いの色恋沙汰。
片方が気づかずに――殺めてしまった、というのが正しいわ」

さやか
「ふむふむ、さやかちゃんは全部わかったよ。
ほむらの大好きな『円環の理』は弓が得物なのかな」

海香
「・・・馬鹿? 無尽蔵の魔力を造るヴァルプルギスの夜に『円環の理』はやってこないわ」

さやか
「ひっどい! ちょっとボケただけなのに」

杏子
「かといってここに弓使いは居ない。あのVertebrateが唯一の頼みだったか」

海香
「これも所詮こじ付け。神話に頼らず、泥臭く、決着をつけるのよ」


さやか
「え? 無視?」



456 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 11:01:51.71 4d1mOe+J0 384/874


海香
「話が逸れたけど、概ねの流れは話したわ。
私が消えたらあなた達が編集に伝えなさい」

さやか
「んー。何だかんだで、みんな揃って悪の魔法少女を倒す話なんだね」

杏子
「倒せるかねえ。頼みのプレイアデスさんは残り三人だし」

海香
「――小説の中でしか生きられないのよ。あの子達は」



さやかは叫んでいた。

「杏子っ!」


杏子は直線に、ソファまで飛ばされた。
鈍い音と皮膚の痛みで気づく。魔力を込めた平手打ちを受けていたのだ。


杏子
「病人をなじるなんて・・・アタシらしくない。悪かった。完成すると良いな」

海香
「・・・ええ、絶対に」


さやかは目をまんまるに見開いて、自分の手を見つめている。
杏子を叩き飛ばしたことを後悔しているわけではない。


さやか
「――今、あたしは何をしたの? 何で手が痛いの?」

杏子
「はぁ? ついに呆けたか」

さやか
「わかんない。無意識になってた。気のせい?」

杏子
「あれ。一瞬殴られた気がしたけど」

さやか
「ちょっと眠くなってきた」

海香
「美樹さん――? 佐倉さん――?」



458 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 17:00:05.37 4d1mOe+J0 385/874


■死に至る病Ⅰ

□暁美邸宅


暁美ほむらは堪えていた。
数日前からやけに調子が悪い。体が重い。力が入らない。


だから、外出をするときは専ら魔力収集。
今のほむらは生き残るためだけに魔力を集めていた。



リボンを手に持ち、自分は孤独でないと言い聞かせる日々が続いた。
自分と全く同じ存在 Vertebrate に裏切られてから、ほむらの心は揺らいでいた。


同じ記憶、同じ思考回路なら、コピーは何故、『円環の理』を求めなかったのか。
何故、素体同士が結託して創造主の暁美ほむらに叛逆したのか。




ほむらは忙しなく指を動かして不安を取り除いている。


あの子にもう一度だけ逢いたい、という結論に至らないコピーが理解できなかった。
その結論に至った「自分」が狂っているのでは、間違っているのでは、とすら思ってしまう。


459 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 17:13:27.25 4d1mOe+J0 386/874



「初秋の断末魔が耳から離れない」


――多くの犠牲があったとしても、あの子が生まれるとすれば、それはとっても素敵なことなのよ。


――そのためには、“私”を閉じ込めてでも修羅になってみせるわ。


希望は潰えかけている。
閉じ込めたはずの罪悪感が静かに溢れ出てくる。


「あの子に逢えないで、多くの犠牲だけが残ったら・・・それは」

「それは――」


受け入れたくなかった。
ミネラルウォーターと一緒にその言葉を飲み込む。


洗面台で水と一緒に罪悪感を吐き出した後、二階に向かった。


「あった。はぁ・・・」


(誰の仕業なの? 皆目見当がつかない)



茶封筒をていねいに開けて、紙切れを取り出した。



最近届き始めた不可解な手紙も、ほむらを苦しめる一因だった。

場所は決まって二階の書斎。窓の隙間に差し込まれている。


「嫌がらせじゃないのよね」


四枚の手紙に目を通す。
各々、二つの名前が記されていた。だから残りは三通。



460 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 23:54:16.09 4d1mOe+J0 387/874



【初めまして、かな。さてお前は14の悲劇を造り出したと聞いている。
名は体を表すと言ってね。悲劇にも名前をつけてあげようと思う。
それが終わった日に、最高の演出をもって招待したい場所があるんだ。
忠告だ。あの女に気をつけろ。どうやらお前を気に入っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に聡い。
そうそう、名前だ。_ベンヌ__________フルバシュ__】


【ハトは死者の魂を現しているらしいぞ。鳥人は何の象徴なんだろうな。
そろそろ私の正体に気づいただろう。お前は私のためにヒトを殺し続けている。
私のためでなくても、結果として私のためになっているのは喜ばしい限りだ。
忠告だ。あの女を殺せ。どうやらお前を慕っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に賢い。
そうそう、名前だ。_シャラブドゥ________ ミキト____】


【ココロの調子はどうかな。すこぶる悪いと嬉しいのだが。
お前の求めるものはまだそこにある。しかし、あの女が何処かへ運び去ってしまう。
さあ、準備が整うまでおとなしく寝込んでいてくれ。私も忙しいんだ。
忠告だ。あの女が出す食べ物には手を出すな。お前を殺そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に手際がいい。
そうそう、名前だ。___ ティリド______ ベールリ ____】


【やっと出来たんだ。名付けてイーブルナッツ。
形はお前のと同じだ。小さいけどな。グリーフシードの逆みたいなものと思ってくれ。
これで一番最初のワード以外は解明されたわけだな。
忠告だ。あの女が出す飲み物には手を出すな。お前を冒そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に要領がいい。
そうそう、名前だ。____ムタブリク_____ラビス_____】





読んでるだけで頭がどうにかなりそうな文章だった。
手に持って、読み返すたびに目の奥に痛みが走る。



461 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 23:56:28.41 4d1mOe+J0 388/874



ほむら
(わけがわからないわ。筆跡は殺意が滲んでいるのに丁寧な忠告が書かれている)

ほむら
(グリーフシードかあ。まず、魔法少女関係を疑うべきだったのに。どうして気づかなかったのかしら)


ほむらはよろめきながら一階へ戻り、キュゥべえを呼びつけた。
キュゥべえとの頭脳戦は堪える。精神力が削られる。
だから、敵意がないことを端的に伝えたかった。


ほむら
「キュゥべえ、手を貸して欲しい」

QB
「珍しいね。キミから呼ぶなんて。障壁は外したのかい」

キュゥべえはまっすぐほむらの前に移動し、正面に座った。

QB
「相当堪えているね。まだ生きているのが不思議なくらいだ」

ほむら
「私には希望があるから。でも儚くて、弱弱しくて、今にも千切れてしまいそうなの」

QB
「ボク単体としては、ほむらに生きていてもらいたいものだけどね」


キュゥべえはグリーフシードを取り出してほむらのソウルジェムに近付けた。



462 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 23:57:17.69 4d1mOe+J0 389/874


ほむら
「? 嬉しいわ。でも――この恩は返せそうにないわよ」
QB
「いいんだ。暁美ほむら、せめてもの罪滅ぼし、という慣習だ」
QB
「時間を費やしすぎた。すまなかった」


突然降って沸いた言葉にほむらは悩んだ。
キュゥべえは何かやらかしたのかと問う前に、全てを察した彼から説明があった。


QB
「いいかい。よおく聞いておくれ。遠くない未来、キミの命が狙われる。
ボク達インキュベーターは議論を続けていたが、先日ついに意見が割れた。
だからボク達はほむらに味方しよう。その死を見届けてあげよう」

ほむら
「えっ? 唐突すぎてわからないわ。軽く説明してくれると嬉しいのだけれど」

QB
「人類にとって致命的な損害を与えうるものは排除する。
それが有史以前からの基本方針なのは知っているよね」


初めて「あの子」にあった日に聞いた文言だ。春先の長閑な雰囲気が一瞬蘇った。


QB
「そして、聖カンナがここに現れた。現れたならまだしも行動が大規模になっている。
聖カンナは人類全てを心の底から恨んでいて、滅ぼそうとしているんだ」



463 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 23:58:48.45 4d1mOe+J0 390/874


ほむら
「聖カンナ・・・。初めて聞く名前だけど、魔法少女よね」

QB
「うん。固有魔法のConnectが発動した瞬間、彼女の勝利が約束される。
契約した当初は大人しかったのに、ずいぶんと扱いに困る存在になった」

ほむら
「Connect?」

QB
「洗脳、記憶回収、身体操作、能力取得などの性質を持つ。最強と言っても過言じゃない。
厄介なことに、ほむらにConnectされると宇宙が終わる」


ほむら
「どうして宇宙が終わるのよ」

QB
「カンナがキミの知識を回収することで宇宙が終わるんだ」

ほむら
「・・・洗脳じゃなくて? 知識?」

QB
「洗脳は解ける可能性が残されている。身体操作もね。
能力の取得と記憶に関しては別物だ」

QB
「ほむらの記憶を見尽くしたら、キミ同様、『円環の理』に感化されるだろう。
聖カンナはあらゆる知識を吸収できる。ほむらを宿したカンナなら、全人類を滅ぼすのも朝飯前だ」

ほむら
「私だって人類の天敵みたいなものじゃない?
自分のために、壊して、壊して、壊しまくったんだから。
なのに見滝原は大丈夫。つまり、聖カンナが私の経験や知識を手に入れても人類は安泰よ」

QB
「その行動は『円環の理』を得るための手段だろう。聖カンナは人類の破滅が目的だ。
ヒトを殺すたびに穢れを浄化し、魔力を得る技術。使う人間が違えば、結果もまた変わっていくのさ」

ほむら
「なるほど。ヒトが消え去れば感情エネルギーの回収が出来ない。
だから宇宙が滅びると言ったのね」




464 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/28 23:59:51.16 4d1mOe+J0 391/874



QB
「そのとおり。だから早急に聖カンナを排除しなければいけない。
或いは、聖カンナに知識を与えない。この二点が人類存亡の鍵だ」


ほむら
(ややこしくなってきたわね)

ほむら
「Connectされる前に、誰かが私を排除する。これで円満解決じゃないの?」

QB
「ほむらを短期間で倒せる人材は限りなく少ない。聖カンナも同様にね。
二人とも強すぎるんだ。特に、聖カンナは対人に向いている魔法少女だし尚更難しい」

ほむら
「私でも聖カンナに勝てないと言うの?」

QB
「キミの存在がばれてしまった以上、勝率はどんどん下がっているね」

ほむら
「・・・。最初に言ってたわよね。意見が割れたって」

ほむら
「聖カンナを入念に潰すか、私を真っ先に潰すか。それとも共倒れを誘っているのかしら」

QB
「“彼ら”インキュベーターは、マミ達を信じている。
“ボク達”インキュベーターは、ほむらを信じている。この違いだよ」
QB
「マミ達なら聖カンナをとめられるはずだってね。でもボク達はそう思わなかった。
客観的に見ると、マミ達はまず全滅する。誰も生き残らない」



465 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:01:21.75 96TObXj70 392/874



ほむら
「・・・。私が聖カンナに会ったらどうすればいいの?」


QB
「全力で戦って欲しい。
Connectされないように、何十にも障壁を展開して欲しい」
QB
「ボクに言えるのはそれだけだ」

ほむら
「聖カンナに会ったら、どうなるかわからないと?」

QB
「まあね。勝てば御の字。Connectされる前にキミが死んでも御の字。
Connectされてしまったら、聖カンナは誰にも止められない」




ほむら
「何故・・・今日になるまで黙っていたの」

QB
「聖カンナを監視していた個体のリンクが切れたんだよ」

ほむら
「Connectされたってこと?」

QB
「そうだ。余波がボク達にまで及んでいないか確認するのに手間取った。
戦いの火蓋が落とされた瞬間でもあるね。重ねてお詫びするしかない」



ほむら
「ふう・・・少し休んでから続きを聞かせてもらうわ。今、魔力を節約しているのよ」



糸が切れたかのように、ひっそりと倒れた。

静かな寝息だけがそこにある。



QB
「やれやれ」



466 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:12:10.63 96TObXj70 393/874


QB
「マミ、さやか、杏子、海香、かずみ、織莉子、仁美」
QB
「新しいプレイアデスはとても脆い。末っ子の仁美は揺れているしね。
一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか。
カードが多い分、不確定要素が爆発的にうまれるというのに」


QB
「聖カンナも大概だけどね。殺すなら手っ取り早く済ませて欲しかった」
QB
「ほむらの価値が気づかれる前に」





QB
「まったく、わけがわからないよ」





QB
「おや、この手紙はなんだろう?」



キュゥべえは、ほむらの手にあった紙切れを取り上げた。



QB
「この吸着剤は――聖カンナの方が一手早かったか・・・」



467 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:16:10.24 96TObXj70 394/874

■死に至る病Ⅱ


目を覚ますと白い生き物が手紙の横に座っていた。


ほむら
(キュゥべえが居る・・・。そうだ、思い出した。聖カンナの処分よね)


インキュベーターが味方につくと言ったら、間違いなく味方なのだ。

この難所を乗り越えれば、『円環の理』に出逢うことをも公式に認められる。
支援だってしてくれるだろう。寝ぼけた頭でもわかる単純な理屈だ。


QB
「ほむら、聖カンナは動き出している。
彼女の目的は全人類の抹殺――なのかわからなくなってきた。
こればっかりは本人に聞いてみるしかなさそうだ」

ほむら
「五通目、来てたんでしょ」

QB
「ほむらも見るかい?」

ほむら
「勿論。何か腑に落ちないところがあるし」



【先日、掴み取った一匹のリンクが外されていた。実に残念だ。
私のコネクトが公に漏れたのは想定していたわけだがな。
七通目が届いた日。お前は『円環の理』を見るだろう。
忠告だ。あの女が出す家具には手を出すな。お前を潰そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に小聡明い。
そうそう、名前だ。_____イディブトゥ __ツィダヌ _____】



QB
「暁美ほむら。この手紙には触れないように。それと――」



468 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:19:10.05 96TObXj70 395/874


QB
「一人、円環の理に導いて欲しい子が居るんだ」

ほむら
「・・・わかったわ。実験をしてもいいのかしら?」


美樹さやか。佐倉杏子。或いはプレイアデス聖団の生き残りか。
前者の二名なら然るべき復讐を、と考える。


実験――かつての悲劇は今、蘇った。
記憶の中の自分に及ばないまでも、あの子に至る道しるべを作り出す手段を考えた。



QB
「任せるよ。魔力は足りてるのかい」

ほむら
「少なすぎる。でも仕方ないわ、まともに補給出来る状況ではないし、消耗も激しい」

QB
「そう思って三十個用意しておいたよ。きっと戦いになる。
時刻は午前四時以降。裏口に行けば見つかるだろう」

ほむら
「見つかる? それは怪文書のこと?」



頷くキュゥべえ。

なるほど封筒の送り主が来るらしい。


決めた。今、決めた。誰でも良いからこの鬱憤を晴らしたい。気だるさが癒えるなら何でもしよう。
しかし、アナログな伝達手段をとるなんて、世に疎い魔法少女なのだろうか。


QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ」
QB
「念のため、彼女に一つ質問をしてほしいことがある」


ほむら
「聞く余裕があれば、聞いてあげないでもないわ――」



469 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:20:49.42 96TObXj70 396/874


翌日


裏口近くの壁を背に、暇をもてあましていると見慣れぬ影が現れた。
障壁を敷いている以上、この場に入れる人間は限られる。


接続されないように、気をつけてはいた。気休め程度だが。
対魔装甲ではなく、リボンから抽出した『円環の理』の力。


それを全身に軽く纏わせて挨拶をする。


ほむら
「こんな朝早くに郵便? 趣味悪いわよ」


目の前の少女は漆黒の装いだった。
フードの中から見え隠れする黄金色の瞳に長い睫毛。


茶封筒を持って立っている。



少女はどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。



「遅いね。遅すぎるよ。私の行動はルーチンだ。
キミならもっと早く気づくと思ったんだけどなあ?」


ほむら
「私の知らない魔法少女。何用かしら」


「わかっているんだろう? 封筒を渡しに来たんだ。
ヒントだよ、ヒント。最高の演出でキミを迎えるんだよ、暁美ほむら」


これ見よがしと言わんばかりに、封筒をひらひらさせていた。


わかっている? ということはこの魔法少女は――




ほむら
「貴女の口から直接聞きたいことがあるのよ。何が目的? 聖カンナ」





470 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:21:43.27 96TObXj70 397/874


キリカ
「ハッ。勘違いしてるよ。呉キリカだ、呉キリカ。呉キリカと呼んでくれ」

ほむら
(・・・初めて聞く名前)

キリカ
「キミの言うカンナ様に頼まれてね、何日か前からお使いゴッコだよ」

ほむら
「聖カンナの使い魔? 付き人? それとも、立体映像なの?」

キリカ
「カンナの使い魔ではない、呉キリカだ。付き人ではない、呉キリカだ。
立体映像でもないよ、呉キリカだ。魔法少女の呉キリカ。呉キリカ」



ほむら
「壊れてるわね」



キリカ
「マぁ、些細だ。お使いがバレたからキミをコロさないといけない。そんな気がする。
だから大人しく私に切り刻まれるといいよ。暁美暁美暁美暁美暁美にしてアげよう」



471 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:23:51.24 96TObXj70 398/874




キリカが薄暗いソウルジェムをかざす。
腰にソレを装着し、無駄なく変身を終えた。
その佇まいに一分の隙も無く、手甲から伸びた鉤爪が得物――暗器といったか。




間違いない。コイツは牧カオルと同様、格闘スタイルの魔法少女。非常にやりづらい相手だ。
黄金色の左目に両手の黒い爪。眼帯で覆っている右目にも注意を払わなければいけない。



目は口以上にものを言う。
視野を減らしてでもなお、眼球を隠す手段を取った。それだけ対人戦を意識しているに違いない。




そして、インキュベーターが恐れた聖カンナの息がかかっているのだ。




近接主体と思わせて幻術を使う佐倉杏子のような魔法少女もいる。
実際に戦ってみるまでは敵の「特性」を汲み取ることは出来ないが。


ほむら
(魔力が充実してない身体とはいえ、弓を好き勝手に振り回したら、外壁が崩れかねない)

ほむら
(相性も良くないし、変身は控えましょう)




472 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:25:57.44 96TObXj70 399/874




196倍の身体強化のみで様子を見ることにした。
油断して両断されました、などという陳腐なエンドマークを迎えるわけには行かない。



指輪状態のソウルジェムであれば爪で引き裂かれる危険性も下がる。
魔力の消耗も少ない。最高の選択肢だ。


ほむら
(キュゥべえから聞いた「呪文」もある。それに――)



生体実験 In Vivo としての価値は十二分にある。
むき出しの殺意には、冷酷な現実をもって応えてあげるのが礼儀だろう。



ほむら
「牧カオルほどのお持て成しをするまでもない。
貴女のような、名前も知られてないぽっと出。生身で十分よ」


大仰に言い放った。


ほむら
「弱点は見せてあげない」



キリカ
「へえ、身体強化だけかイ?」

ほむらは首肯する。




キリカ
「私を甘く見すぎだよ。指一本触れられずに散ね」





473 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:26:48.00 96TObXj70 400/874



キリカは身体の向きを斜めにしたまま、ほむらに近づく。
脇を絞めて、中段の構えを維持しながら、じりじり間合いをつめてきた。



ほむらは自然体――と言えば聞こえは良いが、完全に棒立ちで対応する。



初対面の魔法少女を相手に、である。



素人同然。ベタ足で身体が開いていた。

普通の人間相手なら足払いですぐに甲乙付いてしまうのではないか。




ほむら
「どこからでもかかってきなさい。貴女は私に絶対勝てない」



ほむらが言い終わると同時に、キリカは唸り声を上げて襲い掛かってきた。








跳躍。そして――



474 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:28:00.01 96TObXj70 401/874






獰猛染みた黒金の一振





空手や合気道でよく見る基本形から、野生の獣のように本能を剥き出しにした一手は意外だった。
ほむらは慌てて体を捩って回避するも、キリカの両手から繰り出される爪の応酬は伊達ではない。


反撃する隙の無い怒涛の攻撃に、思わず一歩二歩と後ずさりしてしまう。




キリカ
「フッッッ!」

ほむら
(――――迅いっ)



ほむらからしてみれば、キリカの常軌を逸した高速の連撃は目で追うのがやっとで、
全力の回避をひたすら行うと同時に、適当な間合いを保つより無かった。


一方のキリカは澄ました顔で、執拗に、続けざまに、正面の空間を穿ち、切り裂いた。



華奢な体躯から生み出される純粋な圧力。純然たる暴力。
軌道を読んで必死に避けたとしても、余波の突風が吹き荒み、ほむらの姿勢は容易く崩れてしまう。




475 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:29:49.84 96TObXj70 402/874


ほむら
(特殊能力は・・・無さそう?)



ほんの僅かな隙を見定めるために、ほむらは防戦を貫いた。


呉キリカの手の内をよくよく考えなければならない。
付き人はもういないし、予備の器も用意していない。



キリカは淡々と殺人術を行使していた。



476 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:31:08.95 96TObXj70 403/874



ほむら
(このままじゃ埒が明かないわね・・・)


ほむらはそう思っていた。
しかし片方が朽ち果てるまで続くと思われた闘争は、キリカの一言で呆気なく終わる。



突然、両腕の牙はだらんと垂れ下がる。
二つの足音が息を潜め、場違いの突風も自ずと止んだ。




キリカ
「遅すぎ。期待外れだよ」




躊躇なく言った。


抑揚なく言った。



車道で潰れたハトを見てしまったときのような、汚らわしい物を見る目。
人間として最低限の哀れみすら持ち合わせない残酷な目つき。




477 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:32:25.73 96TObXj70 404/874


ほむら
「一撃も浴びせられない魔法少女が何を言ってるの?
悪いけれど、牧カオルという怪物には遠く及ばないわよ」


キリカ
「あー、暁美ほむら。もう死んでも良いんだよ。何でキミが立っているのか不思議なくらいだ」


ほら、自分の体を見てみろ、と言わんばかりにキリカは指を突き出した。


ほむら
「――――――――――!!」



脚。

膝。

太腿。

脇腹。

胸部。

両腕。



全身が真っ赤になっていた。正確には、制服が赤く染まっていたわけだが。
間違いない。数分前まで、ほむらの血管に流れていたはずの生命のシンボル。



ほむら
「嘘・・・でしょ」



まさかと思い、頬に手を触れると、どろっとした感触があった。
見なくてもわかる。こんなに生温かい脂汗があってたまるものか。



478 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:33:58.26 96TObXj70 405/874


キリカ
「なに? 全部避けたとでも思ってたのかい。これは傑作だ」


ほむら
「傷跡は・・・一つもないのに・・・」

キリカ
「落ちぶれたものだね。それがキミの回復力、身体強化のあるべき姿だよ」


なるほど。血が噴出した直後に、自然治癒したということか。
ただ、魔力を節約した割には妙な回復力だ。



キリカ
「さあ。変身しないと八つ裂きだ。キミの本気を見せてくれ」



このセリフに、ほむらは大きな違和感を覚えた。
トドメを刺す前にキリカが手を止めたことも相まって、尚更裏があるのではと思考が働いた。



479 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:35:02.57 96TObXj70 406/874



ほむら
「・・・。殺すならこのままの方が好都合でしょ? どうしても変身して欲しいなら別だけど」

キリカ
「――――ン。確かにそうだ。私はキミをコロしたいんだ」

ほむら
「変身しろと言われて、はいそうですかと従うのも愚かだけど」

キリカ
「一理あるよ。うん、その――アレ? なんで私はキミをコロしたいんだ」


キリカ
「違う違う。シカメの家を探してたんだから暁美ほむらを殺せ――?」



急に頭を抱えてしゃがみ込むキリカ。
ぶつぶつと何かを唱えているようだった。




480 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:37:07.41 96TObXj70 407/874


キリカ
「おっかしいなァ。封筒を渡すためにここにきたんだよ。
なのにシカメの家を探しに来たんだけど・・・。しかし、コ、殺す?」



キリカは耳を塞ぎ、長い鉤爪をわなわなと震わせた。
もはや言語として成り立っていないその独り言は、瞬く間に叫びへと変貌してゆく。


キリカ
「いや、何だこれは!」

キリカ
「私の知らない情報が・・・何故、私は鹿目詢子の棲家を知っている!!」





泡を吹いて倒れるのではと思うほどの狼狽振り。
キュゥべえに教えられた「呪文」を唱えるべきタイミングだと判断した。


ほむら
「呉キリカ。聞きたいことがあるの」

キリカ
「取り込み中だ!! 私は一切の質問を受け付けなILんだよッ!」




赤に染まった紫の少女は、闇に染まった黒い少女に問うた。
白い小動物に言われたとおりに。



――その魔法少女が、瘴気を散らし始めたら次のように聞いて欲しい。



ほむら
「貴女に愛する人はいるの?」

キリカ
「あたりまEじゃないかァア?」



481 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/09/29 00:38:55.78 96TObXj70 408/874



――もし、彼女が答えられなかったら・・・


ほむら
「・・・。愛する人は居るのね。名前は?」

キリカ
「居るけどね! 名前は教えられないなッ」


――手遅れだ。


ほむら
「私はどうでもいい。呉キリカ。貴女はその人の名前を思い出せるの?」

キリカ
「・・・かんな」



ほむら
「はぁ・・・。カンナねぇ、どうしましょう」


この返事は、一介の魔法少女の手に余る。
昨日、キュゥべえはコイツが質問に答えられない前提で話を振ってきたからだ。


ほむら
(そういえばカンナ様に頼まれた云々言ってたわね)



484 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:03:04.26 9MUCxqap0 409/874




ほむら
「・・・」



首根っこをとっ捕まえてキュゥべえの元に連れて行こうかと考えていた矢先。
興奮しきっていたキリカは苦しそうにして言葉を紡いだ。



キリカ
「・・・わかんない」


キリカ
「思い出せない」



キリカの紅潮した顔が真っ青になる過程を、ほむらは冷静に見つめていた。




485 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:03:56.61 9MUCxqap0 410/874


QB
「やっぱりね」

ほむら
「やっぱりって?」

QB
「呉キリカは行方不明だったんだ。てっきりキミに殺害された思ってたけど」

ほむら
「失礼ね。でも、変身してなかったら気づかないでヤッてたかも」


突然のらりくらりと現れたキュゥべえは仮説を立てる。
一部始終を見ていたようだ。



486 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:06:14.07 9MUCxqap0 411/874


QB
「目の前の存在に、聖カンナの魔力を感じるよ。
ファンタズマ・ビスビーリオと何かの複合・・・Connectは間違いなく使われている。
それじゃあ、荘厳に葬ってくれ。このカードは失敗に終わった」


ほむら
「呉キリカで何かしようとしてたの? 喰えないわね。でも話してくれてよかったわ」



キリカ
「おい・・・死神」

キリカ
「私の役割は愛すること。奉仕すること。早く殺し・・・」



QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ。さあ」

ほむら
「ええ。呉キリカも哀れね。愛する人の名前すら思い出せないなんて」



キリカの魔力を、ほむらが作成した宝石に移し変える。
吸収はしない。複数の洗脳魔法を介した魔力はまさに毒といっても過言ではないからだ。


念には念をいれて呉キリカを導く。


キリカ
「助かるよ。恩人。六日目。チャンスだ。鹿目の住居へ。」


淡く輝く桃色の中で、呉キリカは確かにそう呟いていた。




487 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:08:27.45 9MUCxqap0 412/874


QB
「キリカの言う事も気になるけど、まずは手紙だ」

ほむら
「導かれる最中で放っておくのも気が引ける・・・けど、急いで確認しましょう」

QB
「待って。触ると危険だ。ボクが読み上げよう」

ほむら
「手紙に何か仕掛けが? 昨日も触るなといっていたけど」

QB
「四枚目の記述にあるイーブルナッツらしきものが付着してるんだ。輝く粉が装飾してあるだろう?
誰構わず魔力を吸い取る対人兵器だよ。さあ、読んでいくよ――」



【かつての全ては明日、満たされるだろう。
暁美ほむらは全ての罠を避けて、私に挑むのだ。
七つの扉を開いたお前に感謝する。
残念だが、くぐるのは私だ。私が『本物』になる日は近い。
私がお前の全てを引き継ごう。
名前か? お前はもう一生知らなくていいよ。】




488 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:10:48.46 9MUCxqap0 413/874



桃色の光に照らされた文字列を反復して読み込む。


ほむら
「また随分とテイストが変わったわね。これは何を示しているの」

QB
「七つの扉? ちょっとわかりかねるね。
聖カンナは、ほむらの知識に執着しているようだけど」

ほむら
「それくらい馬鹿でもわかるわよ」

QB
「で、どうするんだい? 別に、逃げても良いんだ。
イーブルナッツが完成した今、聖カンナに対抗できる魔法少女は皆無だよ」


ほむら
「弱気ねキュゥべえ。殺される前に殺せばいい」

ほむら
「私はそうやって、生き延びてきたのよ」



QB
「・・・ふう。わかったよ。初めからキミに従うつもりだったし。
ところで聖カンナは鹿目の家に居ると思って良いのかな」

ほむら
「何処に居ようと関係ないわ。見つけたら殺す」

ほむら
「早めに向かえば、聖カンナを迎え撃てるかもしれない。
それに鹿目詢子だっけ? 素体の元は回収しておきたいわね」


ほむら
「準備してくる・・・。時間かかるわ」

QB
「わかったよ」



489 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 02:13:29.09 9MUCxqap0 414/874


QB
「さて――聖カンナ。ほむらは去ったよ」

キリカ
「?」

QB
「どうしてConnectしなかったのかい」

キリカ
「知らない」

キリカ
「知らない」

QB
「ほむらを殺すいい機会じゃないのかい」

キリカ
「知らなイ」

キリカ
「知らナイ」

QB
「ううん。聖カンナがわからない」

キリカ
「シ――」


QB
「呉キリカ? 美国織莉子、だよ・・・」

QB
「美国、織莉子・・・」



490 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 16:07:35.57 9MUCxqap0 415/874



消え去ってもなお名前を呼び続けるキュゥべえのもとに、別の個体が一匹現れた。


「『円環の理』が発動してたね。呉キリカか」

「そうだよ。どうだった?」

「駄目だった。キミもまた、Connectされていたようだ」


「『一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか』だね?」


「うん。キミの発言したヒュアデス――だ。属性を示すような用語だけど」

「口を衝いて出てきたからね。そうじゃないかと思ってた。
多分、裏切るとか、そういう意味合いなのだろう。さて、引き継いでもらえるかい?」


「必ず聖カンナをとめて見せるよ。安心して逝ってくれ」

「ほむらは任せたよ」


「勿論。ボク達インキュベーターが信頼出来る、唯一のカードだからね」

「良かった。それと――」


「なんだい?」

「シロマルって呼んでみてくれないか? ボクはもうキュゥべえじゃないし」



QB
「じゃあね。シロマル。後は任せてくれ」

シロマル
「まだしっくりこないなあ。呉キr――」




491 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 16:37:08.42 9MUCxqap0 416/874

□地下室


「これがイーブルナッツか。私の造った装置とよく似ている・・・」


中世で言うところの白魔法といった具合の浄化呪文を全身に施すと、頭がクリアに働き始めた。
と同時に、身体に付着していたと思われる粉がぽろぽろと剥がれ落ちる。


魔力を吸い尽くすコレが、ほむらの造った宝石より数段劣っている証拠だった。
このイーブルナッツと呼ばれるものは、術式の異なる魔法にはとことん脆いらしい。


悲嘆に暮れている精神状態で、こんな吸着剤を連日触っていたのだ。
ますます暗い気分になるというもの。


「なるほど悪意たっぷり。反吐が出そうになるわ、聖カンナ」



492 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 16:39:12.58 9MUCxqap0 417/874


身体に密着した服と格闘する。

血でべっとりと貼り付いていたので、なかなかの重労働だった。



「あぁ。よく考えたら、聖カンナの顔すらわからないのよね」



少し熱めに設定して湯浴み。

紅くなった肢体をスポンジで撫でる。


「イーブルナッツ・・・」

「一通目の手紙にも付着していたということは、初めから完成していたってことよね」


「何だか踊らされている気がする。
六通目の文体だけ今までと違う。普通、七通目に書くべき内容のはず」


リンスが切れてる。
明日買いに行きましょう。


「どうして手紙ごときで魔法少女を派遣してきたのかしら。
第一、聖カンナが直接来ていれば、それで済んだ」



493 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/02 16:42:14.27 9MUCxqap0 418/874


イーブルナッツを投げつけて、魔力を吸い取った隙にConnectで知識を得れば良い。
私なら一日とかからずにやってのけるわ、と思った。



「ん、ふぅ・・・」


ちょっと温いか。まあいいや。

好い匂い。


それにしても聖カンナのお披露目は余りにも不自然。
突然現れて、人類を脅かす存在になりました? 何の冗談だと一蹴したくなるわ。

さっさと来て、私の浄化技術を得て、人類を滅ぼせば良いのに。


実に回りくどい人間だ。
こんなときはよくよく考える必要がある。


真意は他に在る。あらゆる可能性を考慮しないと。



494 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:34:49.16 h+QPfhBH0 419/874



「原因は誰かの契約、或いは予言。他には浮かびそうも無いわね」



契約?


呉キリカ――。


あまり関係ないわね。
インキュベーターが頼っていた・・・。
私を殺すために訓練を重ねた節も見受けられたし。


聖カンナ――。


人類を恨んでいる。もしも私が聖カンナなら、契約するときに人類の絶滅を願うわ。
つまり、何かに接続した結果、好ましくない事実に気づいたということになるわね。



キュゥべえにConnectしたから?


多分Yes。


キュゥべえは議論を繰り返してきたらしいし、意見が割れた時期と重なる。
それで私の魔術を知って、知識を渇望した?


保留。




495 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:36:11.75 h+QPfhBH0 420/874



まだある。

予言じみた何か。


イクス・フィーレ

そう! イクス・フィーレだ!



何が書いてあったのかわからないが、辻褄は合う。
弱点を解析する魔法だと聞き及んでいたが、何がしかの行動に従わざるを得ない――とか。


御崎海香が関与していると見ていいのか。
いや、Connectの被害者かもしれない。馬鹿だし。




496 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:39:00.35 h+QPfhBH0 421/874



「あの怪文書は何だろう」


あの手紙はブラフと考えてもいいのかしら。
曲がりなりにも魔法少女からの手紙、というわけなんだし。


これは時間が解決するでしょう。それに、

「私の持つ魔法を、聖カンナは求めている。だったらそれまでやりたい放題」


殺されはしない。時間はある。




いいや、まだだ。まだ推察は足りない。



そうなるとプレイアデス聖団。私を襲ってきた理由がはっきりしそう。
美樹さやかと佐倉杏子が一枚噛んでいるものと思いこんでいたのだけれど。


皆、聖カンナが私の知識を欲していることを知っていた?


それは無いか。



でも結果として私の命が狙いだったのは同じ。
あの時は実験に夢中だったし、ある意味人類の危機。キュゥべえが私の排除を誘導してもおかしくない。




「終わったことは二の次でいいわ」



!!


真水のシャワーは冷たいぅ。




497 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:41:01.95 h+QPfhBH0 422/874



「もしも、よ。考えたくないけど」



タオルが湿ってる・・・。
陰干しだったものね。



「もしも――」







――私が既に操られているとしたら。




既にConnectされているとしたら。







最悪の可能性が残っている。



498 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:42:45.18 h+QPfhBH0 423/874



「あの子」の材料を回収している場合ではない。


キュゥべえはそれをも見越して行動しているとしたら。
だからマミ達を支持するインキュベーターが現れたのでは?



白の下着が無い。
黒は変身したときに浮き上がるのよね。



何れにせよ――


「私は、アイツを殺すしかない。洗脳されていたとしても解けるし」


「でも、聖カンナは何を企んでいる?」




499 : VIPに... - 2013/10/04 04:45:15.29 h+QPfhBH0 424/874




Connectしたなら行動に移っても良いはずよ。



もっと。考えないと。


あ。無駄か。



私の思考にConnectされているとしたら、答えが出ないように操作することも可能だろう。

駄目だ。不安になってきた。



自分の意思が自分のものでない?




「何もかも信じられなくなるわね」




結局、黒のアーマーブラに。
ショーツも対のものを選んだ。




機能性と動きやすさを重視した結果。
発汗に優れ、密着したタイプのものをと悩んだ末。




500 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:47:16.49 h+QPfhBH0 425/874



「長い一日になりそう」


袋に左手を突っ込んで穢れを浄化した。
先日からの体調不良はすっかり回復していた。


カモフラージュ用として学校指定の制服を着る。
別に図書館に篭るわけではない。



真紅いリボンを丁寧に巻く。


結ぶ。


撫でる。



――もう少しよ。もう少しで貴女に逢える。



「だから、邪魔者は殺しましょう?」


短い休息だった。
今日の私は冴えていると思った。



501 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:49:15.69 h+QPfhBH0 426/874

■死に至る病Ⅲ


外に出ると、キュゥべえは尻尾を振って答えてくれた。
清冽な空気の流れに包まれた、そんな早朝。


ほむら
「お待たせ」

QB
「長かったね。待ってたよ。鹿目の家に行くのだろう?」

ほむら
「勿論。不安要素は出来るだけ取り除きたい」

ほむら
「だから、質問。絶対に答えなさい?」

QB
「いいよ」


502 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:49:47.41 h+QPfhBH0 427/874


ほむら
「聖カンナの特徴、仲間について、貴方が知っていることを教えて欲しい」

QB
「端的に言えば漆黒の魔法少女だ。特徴は、黒いことかな」

ほむら
「他には?」

QB
「それだけだ。彼女の存在を知る魔法少女は居ないと思う」

QB
「存在を知っているとすれば、呉キリカの様にConnectされた魔法少女」

ほむら
「・・・使役させられてる人物、と」

QB
「今朝のとおりだね。だから仲間なんて居ない」

ほむら
「私そっくり!」

QB
「自虐はよしてくれ」



503 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:50:53.36 h+QPfhBH0 428/874


ほむら
「で、誰が操られているかわかる方法はある?」

QB
「宇佐木里美や御崎海香のような洗脳を並行して使っていればわかるさ。
Connect単体だと話は別だよ。気づく人はまずいない」


QB
「ボクが一昨日教えたように、弁論術で探るのが一番だ」

ほむら
「知らないことを知っていたり、思ってもない行動を始める・・・ってことね」


QB
「ただ、区別は難しいよ。見知った相手だからこそ、差異に気づくわけだし。
呉キリカはキミみたいに、執着していたものがあったから」

ほむら
「わかりやすくてチョロい奴だったわ」

QB
「・・・。ちなみにボクもConnectされていたから、さっき交換してきたんだ」


ほむら
「さらっと凄いこと言うわね」

QB
「聞いた事の無い言葉を発してたんだ。自分でも冷静に驚いてたよ」

ほむら
「ううん。Connectを簡単に確かめる手段って無いのかしら」


QB
「それならどうだろう。お互いに思いの丈を明らかにしようじゃないか。
心の奥底に秘めた思いをさらけだしたら、聖カンナへの牽制になる」

ほむら
「冴えてるわね。いいわ――」



504 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:53:07.37 h+QPfhBH0 429/874



ほむら
「もう一度だけ逢いたい」


ほむら
「私の唯一無二の行動理念よ」



QB
「ボク達の行動理念は、宇宙を救うこと。ただそれのみだ」


QB
「人類の繁栄は言うまでも無く包括されている」



505 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 04:55:30.02 h+QPfhBH0 430/874



ほむら
「最後に。聖カンナのことを、どうして私だけに話したの?
この街には大勢の魔法少女がいる。プレイアデス聖団の搾りカスもね。
協力して戦う――手段もあったわよね」

QB
「無理だ」

QB
「プレイアデスはほむらを目の敵にしている。
見滝原を蹂躙したほむらに、和解の道はない。ほむらだって誰も信用してないだろう?」


ほむら
「そうだった。殺しておいて仲良く、なんて度台無茶が過ぎたわ」

QB
「そして、Connect。悪夢の本質を知った人間は耐えられないよ。
ほむらも十分苦しんだんじゃないか?」

QB
「自分は既に接続されていて操り人形と化しているのでは、って感じにね」


ほむら
「確かに貴方の言うとおりだとは思うけど、知らないほど怖いものは無いわ」

QB
「知るほど怖いものは無いよ。真実を知ったときの絶望は計り知れない。
ひょっとしたら、ほむらは自殺するんじゃないかと思っていたくらいだ」


QB
「聖カンナは恐ろしいだろう? たとえ何もしてなくても、精神が削がれていく。
ただ知るだけで、プレッシャーを与える存在なんだ」


ほむら
「若干、迷いはしたけれど平気よ。「あの子」の器を壊されたときは本気で死のうと思ってたわ。
聖カンナくらいじゃ、精々思考をかき乱される程度に過ぎない」


QB
「執念深いね。それに思考をかき乱されたって、結構重症じゃないか」


ほむら
「ふん。何とでも言いなさい」



506 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 05:03:56.01 h+QPfhBH0 431/874



ほむら
「行きましょうか」

QB
「行こうか」



私は変身を済ませて、黒翼を展開する。
これで鹿目の近所まで楽々飛べるというものだ。



QB
「この魔術は?」

ほむら
「固有魔法。触れたら死ぬわよ」

QB
「目立つじゃないか」

ほむら
「いいのよ。まだ朝早いし」


ぎゅい。

キュゥべえから小気味良い音がした。


QB
「わわ、しっぽがちぎれる!」

ほむら
「そーれっ」


急上昇し、閑散とした見滝原の上空を眺めてゆく。
私が跋扈したかは知らないが、人通りは全くなかった。良い心がけである。



507 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 05:06:00.24 h+QPfhBH0 432/874



QB
「それにしても」

ほむら
「同じ意見よ。言うまでも無く」



とにもかくにも酷い有様だった。




中心部から南の方向へ、一直線の黒煙が長々と続いている。


メランコリーな気分に一瞬陥るが、別に思い入れのある街ではないし
どれだけ焼き尽くされようが知ったことではない。


蒸発していた河川は元通りになっているのだ。
街だって雑草のように、すぐ直る。そうでしょう?


この街は怠け者ね。


川沿いに自然公園を見つけ、急降下する。


あとは道なりに進んでいけば、住宅街に出るはず。
表札を一つ一つ見ていけば着くだろう。




508 : ◆bvqVN1tP96Fx - 2013/10/04 05:07:02.17 h+QPfhBH0 433/874



ほむら
「さっさと鹿目家を探しまいましょう」

QB
「今何時だっけ?」

ほむら
「午前五時過ぎ」

QB
「だよね・・・」



ほむら
「――で、この状況は何かしらね」


木陰からぞろぞろと、人間が這い出てくる。
待ち伏せされていたわけだ。




【 パート3 】 へ続きます。

記事をツイートする 記事をはてブする