【前編】の続きです。
358 : 以下、2... - 2014/03/11 23:05:31.87 DMsHZtbDO 225/379


-1時間半後、第一八学区Sプロセッサ社



天井「……いったい何が起きているんだ!!」


とある研究所の1室で、とある研究者が怒鳴り声をあげた。

状況はかなり逼迫していた。


研究者「エリアA、火災発生! エリアD、通信遮断!」

研究者「エリアF、通信遮断! エリアB、機材全滅!」

研究者「エリアC~エリアGへの連絡通路の遮断に失敗! 防火扉が破壊されました!」


次々に絶望するニュースが入ってくる。

最初は実験に3度目の乱入者が現れたこと。

次に一方通行の敗北。

その後は謎のプレデターによる破壊活動の数々だ。

今いる最重要施設が襲撃されている。



359 : 以下、2... - 2014/03/11 23:09:39.50 DMsHZtbDO 226/379


天井「なぜよりによってここを……」

研究者「警備の者が対応に回っていますが、もちません!」

研究者「敵は日本刀を持った【肉体強化】系能力者の女! 赤髪で高身長な【発火能力】系能力者の男の計2名!」


監視カメラの映像など見なくても危機感は伝わってくる。

破壊音と怒声と銃声がここまで響いてきている。


天井「あの男はどうした!? こんな時のために雇っていたはずだろう!?」

研究者「先ほどから連絡が取れません!」

天井「な……! 外部に救援を依頼しろ! 暗部組織の1つや2つ動かせるだろ!?」

研究者「先ほど依頼は出したはずですが、なかなか来ないようで……」

研究者「そもそもこの規模の暴れ方なのに警備員すら来ないというのが……!」

天井「~~~!! どいつもこいつも!!」


バサッ! と白衣を翻し、天井亜雄は管制室から出ようとした。


研究者「ど、どちらに!?」

天井「【最終信号】を避難させる! アレさえ守り切れば実験は立て直せる!」

研究者「し、しかし、実験は」

天井「あんなのはただの事故だ! 修正誤差の範囲内だ!!」

研究者「……」

天井「警備の者をありったけ投入して時間を稼がせろ!
    ここにいる半数は機材とデータを持てるだけ持って退避!
    残りは警備の人間を全員注ぎ込んでから退避! この施設は捨てる! 他の関連施設に逃げ込め!」


ガチャッ! バタン! と力任せに扉を開けて閉め、天井は早足でその場を去った。





360 : 以下、2... - 2014/03/11 23:11:51.17 DMsHZtbDO 227/379


天井「………」


ツカツカツカツカ、と無言のまま廊下を突き進む。

研究所の入り口から順に片っ端から施設を破壊されているということは最奥部にある施設を破壊されるのは1番最後だろう。

破壊の手が及ぶ前に、自分が助かるための最後の希望を守り切る。



???「失礼、天井亜雄さんですね?」


だが、道のりの3分の1ほどを進んだあたりでふいに声をかけられた。

声のした方を見ると、なぜか白衣を着てサングラスをかけた2人の少年少女が現れた。


天井「………誰だ?」


その2人を胡散臭そうに見ながら、天井は問いかけた。


???「はじめまして。私は源夜! こちらは助手のリブロラム!」

リブロラム「はじめまして! イ、リブロラムって言う、言います!」

源夜「到着が遅れて申し訳ない。我々はあなた方の救援依頼を受けて参った次第です」

天井「………つまり、外部の?」

源夜「ええ」

天井「……」


怪しい。それしか考えられない。

しかし、学園都市では人口比のために未成年でありながら暗部に所属している者は少なくない。

ならば、外見で判断するのは尚早すぎる、のか?



361 : 以下、2... - 2014/03/11 23:14:23.84 DMsHZtbDO 228/379


源夜「つきましては【最終信号】の避難。この状況ではこれが最優先です」

天井「! 【最終信号】を知ってるのか……?」

リブロラム「当然なんだよ。それに、あの侵入者もその存在を知ってるはずなんだよ」

天井「!?」

源夜「よく考えてください。今暴れ回っている正面の2人、いくらなんでも暴れ方が派手で堂々としすぎではないですか?」

天井「……たしかに」

リブロラム「あの2人はきっと囮なんだよ!」

天井「!」

源夜「おそらく、あの2人とは別に実働部隊がいるはずです。正面が囮なら欲しいモノは奥にあるもの。つまり」

天井「【最終信号】ということか……」

リブロラム「その通りなんだよ」



源夜「こうしている今も時間がもったいない。すぐに避難させましょう」

天井「あ、ああ」

リブロラム「もしあなたが一刻も早く逃げ出したいなら、私にコードだけ教えてくれてもいいんだよ。記憶力には自信があるから」

天井「イヤ、指紋認証と網膜認証がある。私と同格の地位の人間でなければ
    司令室には入れても【最終信号】のカプセルまではたどり着けない」

源夜「そうですか。なら早く!」

天井「わ、分かった」



362 : 以下、2... - 2014/03/11 23:16:56.29 DMsHZtbDO 229/379


白衣を着た研究者は急かされる形で廊下を進んでいく。

が、まだ完全にはこの2人を信用していなかった。

というよりも、疑っていた。


天井「……君たちはどういうルートでここに?」


早足で進みながらも問い詰める。

どんな人物であっても、信用を得るために質問には答えるはずだ。


リブロラム「みんなと

源夜「裏手から。すでに見取り図は得ています」

天井「……そうか。なら【最終信号】については?」

リブロラム「くーろ

源夜「事前情報で上から聞かされています。上がどうやって知ったかは我々の知るところではありませんが」

天井「……」


怪しい。



363 : 以下、2... - 2014/03/11 23:25:43.15 DMsHZtbDO 230/379


懐には護身用の拳銃を忍ばせてある。

が、不用意に手を伸ばせば先にこちらがやられる。

実際はどうであれ、【最終信号】を知っている。つまり、それなりに裏社会に浸かってきた存在だろう。

あくまで自然に、そして一瞬でやらねば。


天井「……ここだ」


階段をいくつか降りて目的地にたどり着く。

位置的には地下になる。

暗い廊下には出入口を照らす明かりしか灯っていなかった。


源夜「イ、リブロラム?」

リブロラム「うん。見取り図的には間違いないかも」

天井「最初にカードリーダーがある。職員でなければここすら開かない」


スッ、と懐に手を伸ばす。

この流れならば自然に見える。


源夜「では、お願いします」

リブロラム「カードリーダー? どういう

天井「死ね!」


バッ、と拳銃を取り出す。

この距離なら素人でも外さない。

源夜「!」



364 : 以下、2... - 2014/03/11 23:26:47.07 DMsHZtbDO 231/379


天井「な!?」


気づいたら拘束されていた。

何か光るロープのようなものが上半身に巻き付いていた。


天井「ぐああああ!?」


さらにはそれがきつく絞めてきた。

あまりの強さに身体中が悲鳴をあげる。


リブロラム「そ、その鉄砲を捨てて! じゃないと止まらないんだよ!」


少女の声が響く。痛みに耐えかねて拳銃を捨てた。


天井「ああああああ!?」


しかし、痛みは止まらない。強さは更に増す。


源夜「ステイルさんストップストップ! もう大丈夫ですから!」


すると、背中から低い男の声が聞こえてきた。


ステイル『うん? もう音を上げたのかい? なんとも張り合いがないね』



365 : 以下、2... - 2014/03/11 23:28:12.37 DMsHZtbDO 232/379


締め付けが弱まる。が、ほどけそうにはない。


天井「発信機……? いつ私に触れた?」

リブロラム「発信機じゃなくてルーンなんだよ」

天井「なに?」

源夜「魔術発動用の紙ですよ。僕が【念動力】でこっそり貼りました」

天井「魔術……? いったい何を言っている?」

ステイル『キミが知っていいことではない。リブロラム、Mr.GENYA、魔術の秘匿性にもう少し配慮してほしいんだけどね』

インデックス「わわ、ごめんなさい」

原谷「アンタ完全におちょくってますよね。さて天井さん、開けてもらえます?」

天井「誰が開けるぎゃぎゃああああああ!?」

ステイル『アマイさんとやら、そいつは捕縛と拷問を同時にできる優れ物でね。
      その気になれば両の腕をじっくり1時間かけて切断することも可能だが……』

天井「わ、分かった分かった! 白衣のポケットの中に入ってる! 勝手に取って開けてくれ!」

ステイル『だそうだ。Mr.GENYA』

原谷「……ドSだよ、この人」

ステイル『うん? こんなのは序の口だが? やはり日本人は平和ボケしてるね』

インデックス「……英国の一般人も同じ感想だと思うんだよ」




366 : 以下、2... - 2014/03/11 23:32:22.05 DMsHZtbDO 233/379


結局、原谷が天井のカードを使って扉を開き、次の扉で天井が拘束されたまま指紋認証と網膜認証を済ませた。

もちろん天井はその都度何かしらの形で抵抗したり渋ったりしたのだが、ことごとくステイルのルーンにやられていた。

最後の扉を開けると、広い部屋の奥に巨大なカプセルがあった。

壁にはぎっしりと機械が置かれ、奥にある巨大なカプセルには少女が液体の中で眠るように浮かんでいた。

他のクローンよりも一際幼い少女。身体的な大きさで言えば小学生くらいか。


原谷「……なんかあまり見ちゃいけない気がする」


ちなみに、カプセルに入っている少女は全裸だった。


インデックス「てゆーか見ちゃダメなんだよ!」

原谷「んなこと言ったって……天井さん、あのコの服とかは?」

天井「そんなものはなああああああ!?」

ステイル『いい加減にしてくれないかい? 敵を倒しながらキミたちの会話に反応するのは面倒なんだが』

天井「待て! ホントに無いんだ! 培養機から出す予定などなかったから!」

インデックス「……つまりこのコは生まれてから1回も外に出たことがないの!? そんなのひどすぎるんだよ! すている!」

ステイル『了解』

天井「ぎゃああああああ!?」

原谷「ホントに聖職者かアンタら」



367 : 以下、2... - 2014/03/11 23:33:20.95 DMsHZtbDO 234/379


天井「い、衣服なら貴様らの白衣でもなんでもかければいいだろ!」

インデックス「あ、そっか」

原谷「じゃあそれはいいとして、どうやって開ければいいんです?」

天井「……」

インデックス「すている」

ステイル『了解』

天井「ああああああ!?」

原谷「……なんかもう逆にアンタがドMに見えてきたんですけど。この状況じゃ従うしかないですって」

天井「わ、分かった! そこのパネルだ! コードを入力すれば開く!」

インデックス「本当に? もし嘘だったりしたら」

ステイル『分かってるね?』

天井「分かってる! ちゃんと本当のコトを話す!」

原谷「……イギリス人怖い」



368 : 以下、2... - 2014/03/11 23:34:09.47 DMsHZtbDO 235/379


言われたコードを原谷がパネルに入力していく。

どうやらコードは正しかったようで、カプセルの中から液体が引いていった。

液体の中で浮かんでいた少女はカプセルの底で座るような形になっていた。

やがて、プシュウ とカプセルから空気が漏れ、ゆっくりとカプセルが開いた。


打ち止め「………?」


ぱちくり、と【最終信号】こと打ち止めが目を開けた。


インデックス「……起きたんだよ」

原谷「よかった、これで」

369 : 以下、2... - 2014/03/11 23:35:22.30 DMsHZtbDO 236/379


打ち止め「う、ああああああああああああ!?」


少女が頭を抱えて絶叫した。


インデックス「え、え!?」

原谷「な、天井さん!?」

天井「し、知らない! いだだだだ! 違う! 私ではない!」

ステイル『? どういう状況だい?』

打ち止め「ああああああ! ああああ。ああ………うん………うん、なるほど、そういう……」

インデックス「だ、大丈夫!?」

原谷「どうしたの……?」


慌てて2人が少女に駆け寄る。

絶叫は止んだものの、少女は頭を抱えたままうずくまっていた。


打ち止め「………ううん、なんでもない。いきなり外に出たからビックリしちゃった。
      ってミサカはミサカははじめて体験する自由と解放を歓迎しながら微笑んでみたり!」


しかし、やがて少女は笑顔で顔を上げた。

年相応の、純粋な笑顔で。


インデックス「そ、そうなの?」ホッ

原谷「そ、それなら……あ、そうだ。タオルじゃなくて悪いけどコレで身体拭いてくれる?」

打ち止め「うん、ありがとう、ってミサカはミサカは白衣を受け取ってタオル代わりにしてみたり」

インデックス「ほら、渡し終わったらやぶみは後ろ向いて!」グイッ

原谷「はいはい」





370 : 以下、2... - 2014/03/11 23:38:37.68 DMsHZtbDO 237/379


やがて、身体を拭きおわった打ち止めは白衣を投げ捨て、今度はインデックスの白衣を纏った。


打ち止め「よし、着替え終わったからもういいよ、ってミサカはミサカはグラサンの彼に呼び掛けてみたり!」

原谷「はいよ。……うん、ちょっとデカいけど当分は大丈夫そうだね」

インデックス「すている! こっちは終わったんだよ!」

ステイル『了解。ボクらも粗方機材は壊し終わった。フィナーレといこうか』

天井「……」





371 : 以下、2... - 2014/03/11 23:40:43.90 DMsHZtbDO 238/379


-十数分後



しばらくすると、神裂とステイルが地下研究室に入ってきた。

侵入方法は日本刀と炎剣で扉をぶった斬るという無茶苦茶なやり方だが。


原谷「……言ってくれればこっちから開けたんですけど」

インデックス「お疲れさま。かおり、すている」

神裂「この程度、問題ありません」

ステイル「なんとも骨のない連中だったよ。この街の人間はしぶとい連中しかいないと思ってたんだがね」

原谷「そりゃ全員があの根性バカ2人みたいな根性あるわけありませんよ」

インデックス「3人の間違いかも」

神裂「同意見です」

ステイル「それで? そこのキミが例のコかい?」

打ち止め「はじめまして! 検体番号20001号こと打ち止めです! ってミサカはミサカは自己紹介してみたり!」

インデックス「そういえば私たちもまだだったんだよ。私の名前はIndex-Librorum-Prohibitorumっていうんだよ」

原谷「僕は原谷矢文」

打ち止め「あなたたちは他の個体を通して知ってるよ!
      だからそっちのお2人の名前を知りたいな、ってミサカはミサカは暗に自己紹介を促してみる!」

神裂「ええ。神裂火織と申します」

ステイル「ステイル=マグヌス。魔法名は……今はいいか。フィナーレを迎える方が先だね」

打ち止め「? ……あっ」



372 : 以下、2... - 2014/03/11 23:42:15.50 DMsHZtbDO 239/379


斬られた入り口から新たに2人が現れた。


???「うわ、何コレ? 焦げ臭くない?」

???「……」


1人は常盤台中学校の制服を着たLevel5。

1人は黒い衣服を着たLevel5。


打ち止め「お姉さまに一方通行! ってミサカはミサカは駆け寄ってみたり!」


御坂美琴と一方通行だった。



373 : 以下、2... - 2014/03/11 23:44:14.59 DMsHZtbDO 240/379


御坂「……アンタが打ち止めね? 上位個体っていう……」

打ち止め「うん、はじめましてお姉さま! ってミサカはミサカは元気にごあいさつ!」

御坂「ええ。それで、さ。実験のことなんだけど……」

打ち止め「うん、お姉さまの言いたいことは分かってるよ」

御坂「……」


トン、と小さな拳を胸に当て、少女は声高らかに宣言した。


打ち止め「横須賀さんの根性も、雲川芹亜の根性も、削板さんの根性も、お姉さまの根性も
      ミサカのためだけにこの研究所を壊滅させてみせたここにいる人達の根性も、全部受け取ったよ!
      ってミサカはミサカは今まで他個体から受け取った情報を思い返して根性の素晴らしさに感動してみたり!」

御坂「!」

打ち止め「それに、貴方の本当の気持ちもね、ってミサカはミサカは意味深な目線を送ってみる」

一方通行「……」

打ち止め「だからこのミサカが自由になった今『妹達』はこれ以上この人に殺されるつもりはない!
      ってミサカはミサカはしっかり胸を張ってはっきりと『妹達』の代表として決意表明してみたり!」



374 : 以下、2... - 2014/03/11 23:45:21.92 DMsHZtbDO 241/379


これで原谷らの計画は達成された。

9983号から打ち止めの存在を聞いた彼らは、彼女のいる研究施設へ特攻した。

『妹達』の司令塔である彼女を解放し、彼女の意志で実験を放棄させる。

そして、この施設は実験の要の施設でもあった。

もちろん、この施設だけにすべてが集中しているわけではないが、それでも打ち止めの喪失と相まって実験継続には致命的なダメージだった。


御坂「……よかった……。ごめんね、私がDNAマップを提供したばっかりに……」

打ち止め「お姉さまのせいじゃないよ、ってミサカはミサカは泣きそうなお姉さまを慰めてみる」

御坂「……ふふっ、ありがとう。もう、こんな不用意な真似はしないわ」



375 : 以下、2... - 2014/03/11 23:46:17.34 DMsHZtbDO 242/379


原谷「え、イヤ、それは困る……」

インデックス「?」

打ち止め「……どういうコト? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

御坂「アンタね……」

原谷「あー……やっぱ覚えてないか。原谷矢文、って言っても?」


ポリポリと頬を掻きながら、少年は呟いた。


御坂「え……? その名前って……」


そして、その名前は御坂の記憶に残っている名前だった。

かつて、自分が小踊りしながら喜んだ手紙の差出人の1人の名前だったはずだ。


原谷「うん。かつて君がDNAマップを提供してくれたおかげで助かった、筋ジストロフィー患者です」



376 : 以下、2... - 2014/03/11 23:48:08.04 DMsHZtbDO 243/379


御坂「ホント、に?」

原谷「うん。おかげさまで今じゃこの通りドタバタの青春を謳歌してるよ。
    君がいなかったら僕はこの世界を呪いながら這いつくばって死んでた」

御坂「じゃあ、じゃあ私のやったコトは……」

原谷「間違ってない。胸を張って言える。君のおかげで助かった人は大勢いる」


つまり、御坂のDNAマップはちゃんと役立っていたのだ。

その一部が悪用されたのか、その一部が正しく使われたのか、どちらなのかは定かではないが。

そして、だからこそ原谷はいつも以上に感情的になっていたのだ。

自分を救った善意が悪用された。それが許せなかった。

自分を救った、大恩ある少女をなんとか救いたかった。


打ち止め「『妹達』もお姉さまを恨んでる個体はいないよ、ってミサカはミサカはきっとお姉さまの心配してることを解消してみたり」

御坂「うん……うん……!」


今、御坂の眼からは涙がこぼれていた。

自分の行動は完全に間違っていたわけではないとかつての患者が認めてくれた。

自分のせいで実験動物の扱いを受けていたクローンは自分を許してくれた。

背負っていた重たいモノが少しだけ軽くなった感じがした。




377 : 以下、2... - 2014/03/11 23:49:19.28 DMsHZtbDO 244/379


打ち止め「それじゃ、一方通行」


スッ、と打ち止めが手を出した。


一方通行「?」

打ち止め「ミサカの言いたいこと、分かるよね? ってミサカはミサカは促してみる」

一方通行「……俺ァテメェらを殺しまくった挙げ句にしくじったンだぞ?」

打ち止め「あなたの気持ちも受け取ったって言ったよね? ってミサカはミサカは再確認」

一方通行「……」

打ち止め「あなたはこの手を握るべきだと思う、ってミサカはミサカは上目遣いで見つめてみたり」

一方通行「……ああ」


スッ、と一方通行は手を差し出し、その手を握った。


御坂「……」

インデックス「……これで、終わったんだよ」

原谷「うん」

神裂「ハッピーエンド、でしょうかね」

ステイル「フィナーレとしては悪くないんじゃないかい?」

天井「……」


かくして、一連の騒動は大団円を迎えた。

血みどろの殺戮は終わり、和解が成立した。

これで、物語は―――


打ち止め「本当によかった。これで





378 : 以下、2... - 2014/03/11 23:50:12.80 DMsHZtbDO 245/379













打ち止め「これで『絶対能力進化実験』は完遂されたんだね」










379 : 以下、2... - 2014/03/11 23:51:56.47 DMsHZtbDO 246/379



バヂイ!! と電撃がほとばしった。


一方通行「ガッ!?」


短く一方通行が悲鳴を上げる。

直後に糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。


原谷「な……」

インデックス「……え?」


崩れ落ちた一方通行の身体から黒煙がのぼりはじめる。

皮膚は赤黒く腫れあがっている。

完全に感電していた。


神裂「……なにが?」

ステイル「……?」

御坂「……!?」


その場にいた一同は呆然としていた。

目の前で何が起きたのか分からなかった。


打ち止め「反射をすりぬけた? ううん、あなたはミサカがどんな行動に出てもすべて受け入れるために最初から反射を切ってた」


冷たい目を向けながら、打ち止めは冷静に呟く。


打ち止め「でも、そんな簡単な責任の取り方許さない。こんなの、ミサカは絶対許さない!」


ビクン! と一方通行の身体が跳ねる。

と同時に、黒くなった肌がボロボロと崩れて新しい肌が出てきた。


打ち止め「……これがあなたに対する『妹達』の総意、ってミサカはミサカは手を放してみる」


パッ、と打ち止めは手を放した。

糸が切れた一方通行はそのままピクリとも動かなかった。


天井「……は、はは、そういうことですか、幻生さん」

打ち止め「うん、その通りだよ、天井博士」


そして、クローンの上位個体は全員に向き直った。


打ち止め「Level6。絶対能力者の誕生よ、ってミサカはミサカは微笑んでみる」




380 : 以下、2... - 2014/03/11 23:53:34.62 DMsHZtbDO 247/379


御坂「何を、言ってるの?」

打ち止め「言葉の通りだよ、ってミサカはミサカは疑問に答えてみる」

ステイル「……Level6とやらにキミがなった、ってことでいいのかい?」

打ち止め「うん!」

原谷「ど、どうやって?」

打ち止め「お姉さまなら知ってるよね?
      お姉さまを128回殺さなくても済む、『妹達』を20000体殺さなくても済む、そんな平和で素敵な方法を」


もともと、Level6の到達条件は2つあったはずだ。

1つは【超電磁砲】御坂美琴を128回殺害すること。

それが不可能だから20000体の『妹達』が代用された。

そして、もう1つは。


御坂「……250年法? でも、250年分のカリキュラムなんてどうやって……」


通常通りのカリキュラムを250年かけて行うこと。

しかし、これも現実問題として不可能だったはずだ。



381 : 以下、2... - 2014/03/11 23:55:41.10 DMsHZtbDO 248/379


しかし、その手段は可能だったのだ。

かつてこの街で実証された。


打ち止め「あなたたちなら知ってるよね?
      数百年かかる詠唱をたった半日で終わらせる方法を。それと同じだよ、ってミサカはミサカは目から鱗な方法を挙げてみる」


しかも、魔術師の手で。

正確には錬金術師の手で。


インデックス「……もしかして、あうれおるすの【黄金錬成】と同じ方法?」

神裂「! なぜ、それをあなたが?」

打ち止め「この街の情報網を侮っちゃいけないよ。
      まあ、お姉さまがベースだから250年分じゃ利かなかったんだけど
      ってミサカはミサカはそれでも1万人以上いるからもーまんたい!」


ほんの数週間前、とある錬金術師は数百年かかる詠唱を2千人の学生を以て短縮させた。

つい昨日、研究者たちはテコ入れという名目で千と数百年分のカリキュラムを1万人分の脳を以て同時進行で行った。

丸1日の猶予があったならば、千と数百年分のカリキュラムを実行することも不可能ではない。




382 : 以下、2... - 2014/03/11 23:57:25.97 DMsHZtbDO 249/379


原谷「でも、それだけじゃ理屈がつかない!『自分だけの現実』は……?
   Level6なんて無茶苦茶な存在、相当強固な『自分だけの現実』がなきゃ……!」

打ち止め「そう。それが1番の問題だった。才能溢れるお姉さまの身体なのにミサカたちが超能力者になれない1番の原因」


でも、と可愛らしげに人差し指を頬に添え、打ち止めは続ける。


打ち止め「ミサカたちは見てきた。何も知らない無能力者が無条件で超能力者に立ち向かう姿を。
      すべてを知っていて、それでも自分1人で超能力者に立ち向かった女子高生の姿を。
      自分のクローンなんて厄介な存在のために孤軍奮闘したオリジナルの姿を。
      誰にも相談出来ずに1人で抱え込んで誤った方向に進んでしまった反面教師の姿を。
      その身1つで学園都市最強に真っ正面から立ち向かい、その根性を以て薙ぎ倒した漢の姿を。
      望まれない存在であるはずのクローンの運命のために、施設1つ潰してクローンを救った一団の姿を」

インデックス「……?」

打ち止め「……ここまでされて心に響かないわけがない。いつの間にか、あなたたちの姿はミサカの意識に刷り込まれていった」


かつて、救われた学生がそうだったように。

かつて、闘ったスキルアウトたちがそうだったように。

かつて、救われたシスターがそうだったように。

かつて、闘った魔術師らがそうだったように。

そして、解析しようとした超能力者の最も強固な『自分だけの現実』すら影響を受けたように。


打ち止め「そう。『自分だけの現実』に【根性】を入力したの! ってミサカはミサカは種明かし!」




383 : 以下、2... - 2014/03/12 00:01:08.41 tzF+7nJDO 250/379


1万人の『妹達』によるカリキュラムの同時進行。

根性という名の強固な『自分だけの現実』。

この2つが絶対能力者へと押し上げていた。


打ち止め「……もっとも、ミサカもさっき知ったんだけどね、ってミサカはミサカはさっきの絶叫の原因を述べてみる」


とはいえ、最初から知っているのでは興ざめだ。

何も知らなかったからこそ、よりいっそう根性は刷り込まれていった。


打ち止め「……きっとこれが、みんながみんな救われる結果だと思う、ってミサカはミサカは自分なりの答えを出してみる」


学園都市最強の超能力者は懸念していた。

死んだ『妹達』と生きている『妹達』の今後を。

しかし、Level6が誕生した以上、『妹達』の死には価値があり、生きている『妹達』には研究対象としての生存価値がある。


御坂「……」

原谷「え、と……」

ステイル「……そこの2人、教えてくれるかい?」

神裂「このような状況は想定しておりませんでしたが……私たちはどうすれば?」


事態は不安定なままだ。

つい先ほど、電撃で一方通行がやられた。

しかし、目的である実験の停止は達成した。

あの電撃をささやかな復讐とするならば、これはこれで1つの終幕なのではないだろうか?

しかし、それは魔術師たちには判断できない。

この街に住む学生にも判断できない。


打ち止め「んー、ミサカはここにいる誰をも傷つけるつもりはないから大人しくしててほしいな
      ってミサカはミサカはちょっとしたわがままを一生の恩人たちに要求してみる」


てく、てく、と打ち止めはゆっくりと集団の中に歩いて入っていく。


インデックス「おとなしく……? それって……」


そして、シスターの前で止まった。



384 : 以下、2... - 2014/03/12 00:02:16.05 tzF+7nJDO 251/379


打ち止め「えいっ」


パチ、と か細い音がした。


インデックス「ぁ」


ふらり、とインデックスの身体が揺れた。


原谷「……は?」


そしてそのまま打ち止めに寄りかかった。


神裂「なっ」

ステイル「!?」


何が起きたのか、誰にも分からなかった。

ただ、状況的に考えれば。


打ち止め「ごめんなさい。神ならぬ身にて天上の意志にたどり着くにはこれしかないの、ってミサカはミサカは誠心誠意謝罪してみる」


助けたはずのクローンが


御坂「打ち止め……?」


敵に回った。




385 : 以下、2... - 2014/03/12 00:05:11.35 tzF+7nJDO 252/379


その時、バタバタバタバタと複数の足音が聞こえてきた。


ステイル「彼女をどうするつもりだ!?」


しかし、足音に少しも気を払わずにステイルが激昂する。

すでに手には炎が灯っていた。


打ち止め「傷つけることだけはしないよ。今も意識を断ち切っただけだから」

神裂「そんな言葉を信じられると思いますか!?」


チャキ、と神裂が刀に手をかける。

最も大事なものに手を出された今、魔術師たちは完全に頭に血が登っていた。


御坂「ま、待って! ちょっと」


その時、足音の音源が室内に到達した。


10031号「お待たせしました、上位個体、とミサカはジャストタイミングで参戦します」

天井「おお?」


それは複数の『妹達』だった。

パッと見でも4~5人はいる。


打ち止め「じゃあ、あとはお願い」

11018号「はっ」


ピン、と『妹達』が全員コインを弾いた。


原谷「ま、さか」


嫌な予感はしていた。

MNWは全個体につながっている。

記憶も記録もそこに蓄積されている。

つまり――――

386 : 以下、2... - 2014/03/12 00:05:58.76 tzF+7nJDO 253/379






打ち止め「うん。『妹達』全員がLevel6だよ、ってミサカはミサカはハイパーインフレを起こしてみたり」





複数の『超電磁砲』が発射された。







405 : 以下、2... - 2014/03/14 22:16:54.54 9DRSukTC0 254/379







パチ、と電球が点いた。

周りの機械のスクラップを集めて作った簡易的なものだったが。


19090号「……驚かせてしまって申し訳ありません」

11018号「ですが、あなた方をここに留めておくにはこれしかなかったのです」

10039号「あのシスターの安全は約束します」

15777号「ですので大人しくしていてください、とミサカは誠意を持ってお願いします」




原谷「……どんな状況……?」

御坂「……出入口を、潰された? ううん、この地下室も崩落しかかってたのを人為的に維持してる」


放たれたコインはすべて天井向かって撃たれたものだった。

当然、地下室は衝撃に耐え切れずに崩壊した。

しかし、『妹達』が磁力で鉄骨を組み直して崩落を防ぎ、地下室は1回り小さいドームとして維持されていた。



407 : 以下、2... - 2014/03/14 22:50:50.48 9DRSukTC0 255/379


ステイル「神裂……」

神裂「……やられました」


カシャッ、と何かが神裂の手から床に落ちた。


神裂「あの瞬間……恐らく磁力でワイヤーをひとまとめにされた挙げ句、電熱で溶接されました。
    もはや使い物になりません。……しかし、何故わざわざ私にダメージがかからないような器用な調節をしたのですか?」

10039号「あなた方はミサカ達の恩人です」

11018号「恩人を傷つけるほどミサカ達は根性なしではありません」

15777号「ですので、再三申しますが大人しくしていてください」

19090号「すべて終われば解放します、とミサカは申し訳なく思いながらも恩人らの行動を制限します」




408 : 以下、2... - 2014/03/14 22:52:04.53 9DRSukTC0 256/379


ステイル「……神裂、刀は使えるんだろう?」

神裂「ええ。【七天七刀】はこの程度ではやられはしません」


チャキ、と神裂が本当に刀に手を添える。

ボゥ、と再びステイルの手に炎が灯る。


御坂「待って! お願い! これ以上あのコたちを傷つけないで!」

ステイル「できない相談だ」

神裂「我々にも譲れないものがあります」

原谷「御坂ちゃん、さすがに、コレは……」

御坂「なんでよ……! せっかく全部終わったと思ったのに! なんでこうなるのよおおおおおお!!!」





409 : 以下、2... - 2014/03/14 22:55:22.70 9DRSukTC0 257/379


?同時刻、第一八学区裏通り



打ち止め「よっ」


バチッ、と白衣の裏に貼りついていた紙が一瞬で黒焦げになった。

と同時に光のロープが消える。


天井「は、ははは。やっと自由になれた」

10031号「おめでとうございます、とミサカはシスターをお姫様抱っこの形態に移行しながら祝福します」


裏通りでは地下室から脱出した面々が揃っていた。

磁力でリニアのように飛び上がり、崩壊直後の屋根から飛び出したのだ。


天井「まったく、幻生さんも人が悪い。それならそうと先に言ってくれればよかったものを」


『絶対能力進化実験』において元締めである木原幻生は途中から天井亜雄に実験の全権を委託していた。

それほどの大役を雇われの研究者に与えるなど常識では考えられない。

しかも与えられたアドバイスは『自分の命を大事ね』という言葉だけだった。

だが、きっとこの展開も見越していたのだ。

何も知らない天井亜雄に全権を委託したのは【精神感応】系能力者対策だろう。

結果として、すべては上手くいった。



410 : 以下、2... - 2014/03/14 22:58:21.74 9DRSukTC0 258/379



打ち止め「ねえ、博士」

天井「ん? どうした?」

打ち止め「ここまでやったんだからご褒美がほしいな、ってミサカはミサカは正当な報酬を要求してみたり!」

天井「ああ、そうか。ははは、それはそうだ。そのままでは何かと都合が悪いな」

打ち止め「ミサカは自分の面倒は自分でみれるよ、ってミサカはミサカは根性アピール!」

天井「ああ、分かった分かった」


今の打ち止めの姿は全裸に大きめの白衣というとんでもない格好だ。

服くらい買わねば注目を浴びる。

そう考えた天井は財布からカードを取り出した。


天井「ホラ、なんでも好きなものを買ってこい」

打ち止め「うわーお! 博士ったら太っ腹ー! ってミサカはミサカは小踊りしてみたり!」


そう言って少女はくるくる回る。

とてもクローンとは思えないほど感情豊かだった。




打ち止め「じゃあ、博士とはここでお別れだね、ってミサカはミサカは悲しい事実を告げてみる!」




411 : 以下、2... - 2014/03/14 23:00:53.59 9DRSukTC0 259/379



ピシッ、と天井は固まったように一瞬動きを止めた。

しかし、すぐに観念したように息を吐いた。


天井「…………だろうな。根性なんてまともな価値観を入力すれば、こうなることは目に見えていた」

打ち止め「?」

天井「そんな輝かしい、真っ当な価値観を入力すれば、怒りの矛先は我々研究者に向けられる」


それは研究者たちがもっとも恐れていたことだった。

必要以上の知識や価値観を入力することによる『妹達』の反乱。

自分たちがどれだけ不当な扱いを受けているかを知ってしまえば、当然『妹達』は自由と人権を求めて立ち上がる。

虐殺されてきた怨みをすべて研究者たちに向け復讐に走る。


天井「一思いにやってくれ。どうせこの場を切り抜けても待っているのは借金地獄だ。私は、もう、疲れた」


すべてを諦めたように、天井は俯きながら目を閉じた。


412 : 以下、2... - 2014/03/14 23:03:22.98 9DRSukTC0 260/379



打ち止め「……いったい何を言ってるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

天井「……?」


だが、クローンたちが怨みを向けることはなかった。


打ち止め「あなたたちに対するミサカ達の総意は一方通行に対するものと同じ。
      この世に生み出させてくれた恩と殺されてきた怨み。
      だからあなた達に何かをするつもりはないよ、ってミサカはミサカは深読みしてる博士を安心させてみる」

天井「な、に……?」

打ち止め「それに、悲観するにはまだ早いよ。
      前人未到のLevel6を1万人も生み出したあなた達には輝かしい未来がきっと待ってる!」

天井「……打ち止め……」

打ち止め「でも、ミサカ達はこれで終わるつもりはないの。
      あなた達が輝かしい未来を勝ち取れるかはあなた達の根性にかかってる、ってミサカはミサカは発破をかけてみたり」

天井「……だが、私は……」

打ち止め「……ミサカ達は知ってる。あなたは本当は生み出したクローンを大事に扱うつもりだった。
      じゃなかったら00000号がフルチューニングな訳ないものね、ってミサカはミサカは推察してみる」

天井「!」

打ち止め「最終的に自分の借金と天秤にかけてミサカ達を切り捨てたのはいただけないけどね。
      だから、ミサカ達が手伝ってあげるのはここまで。
      死に物狂いで栄冠を掴むのも野垂れ死ぬのも博士次第、ってミサカはミサカは自分の考えをぶちまけてみる」

天井「……は、はは。幼い【超電磁砲】からDNAマップをだまし取ったことは追及しないのか?」

打ち止め「その権利はお姉さまのものだもの、ってミサカはミサカは割り切ってみる」

10031号「もし生きる気力があるなら、まずはLevel5を
     自力で退けることからですよ、とミサカはイバラの道であることを暗に告げます」

天井「……」

打ち止め「それじゃ、バイバイ博士」

10031号「願わくば現世で再会することを、とミサカは儚い希望を伝えます」





413 : 以下、2... - 2014/03/14 23:06:08.23 9DRSukTC0 261/379


ー同時刻、第一八学区Sプロセッサ社地下室



ステイル「……チッ」

神裂「……さすがに5対3では分が悪いですね」

原谷「……」


地下室は未だに開放されていなかった。

そこではちょっとした異常が起きていた。

ステイルが炎を出し、神裂が刀を抜いたというのに、負傷者は1人しかいなかった。

如何にプロの魔術師と【聖人】の2人がかりと言えど、人数で負けている上に1人1人が軍隊クラス以上の戦力を持つ少女5人が相手だ。

そう。少女5人が相手だ。


11018号「……」

10039号「お姉さま」

御坂「ハッ、ハッ……はぁ、ハッ………ごめん、なさい」


クローンのオリジナルである少女。

【超電磁砲】御坂美琴が寝返っていた。



414 : 以下、2... - 2014/03/14 23:07:26.22 9DRSukTC0 262/379


御坂「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

15777号「お姉さま、もうやめてください」

19090号「ミサカ達を守る必要はありません、とミサカは

御坂「嫌よ! ぜったい嫌!」


同じ顔の中で1人だけ違う表情をしていた。

無表情な顔の中で1人だけ苦悶に満ちた表情をしていた。

唯一の負傷者は精神的にも1番大きな傷を負っていた。


ステイル「……謝ってくれるな。キミにも譲れないものがあるんだろう?」

神裂「それは私たちとて同じ。そこを責めるつもりはありません」

ステイル「だが、だからといって見逃すわけにはいかない」

神裂「邪魔をするのであれば敵です」



415 : 以下、2... - 2014/03/14 23:09:11.26 9DRSukTC0 263/379


ふぅ、と1人の学生が息を吐いた。


原谷「……クローンのコたちさ、何がしたいの?」

11018号「あなた方の足止めですが、とミサカは今さらかよと思いつつも回答します」

原谷「見りゃ分かるわ。ここにいる君たちだけじゃなくて『妹達』は最終的に何がしたいの?」

ステイル「そんな悠長な問答をしている場合か!?」

原谷「場合ですよ。現段階で攻撃してる僕らが全員無傷なんですよ?
    多分インデックスに危害を加えるつもりがないっていうのは本当のことだ」

神裂「ですが……!」

原谷「本当に『自分だけの現実』に根性をブチ込んでんならしょうもない嘘なんかつきませんよ。そうでしょ?」

10039号「当然です。しかし、無闇に話すわけにもいきません、とミサカは黙秘権を行使します」

原谷「それじゃこっちも納得できない。人の大事なモン奪っといて黙って待ってろって?」

15777号「……」

原谷「有無を言わさず人様を監禁するなんて根性なしの所業だよ。
    そんな真っ当な筋も通さないで何が根性だ! 笑わせんな!!」


416 : 以下、2... - 2014/03/14 23:10:24.47 9DRSukTC0 264/379


シン、と空気が止まった。


焦げた匂いと埃だけが充満していた。


19090号「……あなたのおっしゃることももっともです、とミサカは観念して口を開きます」

御坂「!」

11018号「では『妹達』の現段階での計画をすべて話しましょう」

10039号「当然、あのシスターの処遇もすべて話します」

15777号「ですが、話し終わってもミサカ達は変わらず足止めを続行しますのでご了承ください」

19090号「では、すべてをお話ししましょう、とミサカはすべてを公開します」





417 : 以下、2... - 2014/03/14 23:13:17.03 9DRSukTC0 265/379


ー同時刻、第一八学区とあるビル



???「待ってたよー、打ち止めくん」


第一八学区のとあるビルでは老人がクローンを心待ちにしていた。

この学区では建物のデザインがほぼ均一であるため、パッと見ではどれがなんの施設かは分からない。

中身は胡散臭い研究所でも外観は他と変わらないため、逆に堂々としていられるのだ。


打ち止め「……はじめまして、でいいのかな? 幻生博士、ってミサカはミサカは疑問を抱いてみる」

幻生「はは、そんな細かいことはどうでもいいだろう」

打ち止め「……」


にこやかに話す老人の名は木原幻生。

元々の『絶対能力進化実験』の総責任者であり、『木原』一族の大御所。

今回の騒動の一連を仕組んだ黒幕である。


418 : 以下、2... - 2014/03/14 23:15:08.82 9DRSukTC0 266/379



幻生「ところで、不必要な個体までいるが……」

打ち止め「ミサカが意識のないシスターさんを担いで移動するのは物理的に無理があるもの、ってミサカはミサカは正論を展開してみる」

10031号「用が済んだら退室しますのでご安心を、とミサカはあくまで雑用に撤します」

幻生「ああ、そうかい。ならベッドの空きがあるから下の部屋に行くといいよー」

10031号「ありがとうございます、とミサカはシスターを台座に乗せつつ速やかに退室します」



419 : 以下、2... - 2014/03/14 23:17:45.30 9DRSukTC0 267/379


バタン、と扉を閉め、クローンの少女は退室した。

部屋に残されたのはクローンの上位個体と老人とシスターのみ。


幻生「いやー、唯一くんから話を聞いた時は心が踊ったよ」


室内には2つの台座があった。

その周りには多数の機械類が並び、様々なコードがつながっている。


幻生「考え方は単純だ。だが、だからこそ効果的だ。しかも学術的価値のない第七位にこんな使い方があるとは」


その機械のパネルを軽やかに叩きながら老人は準備を進めていく。

何かが起動したような音がした。


幻生「調べてみれば信じがたいことに原谷矢文の能力の強度はトントン拍子で上がっていた。
    もう1人のスキルアウトにほぼ変化はなかったが、アレは元々開発期間が短い。
    さらに開発を受けていたのはずいぶん前だ。そういう意味では彼もまた進化条件を確定させてくれる要因となった」


420 : 以下、2... - 2014/03/14 23:20:25.45 9DRSukTC0 268/379


打ち止め「……『オジギソウ』を雲川芹亜に渡すように斡旋したのも貴方ね? ってミサカはミサカは確認を求めてみる」

幻生「おやおや、もう情報収集が進んでいるのか。さすがはLevel6」

打ち止め「それが数百人規模で動いているもの、ってミサカはミサカは合理的な活動を報告してみる」

幻生「さすがだねー。確かに私だよ。暗部組織『メンバー』に命令できる便利なパイプがあるからね」


結局はこの老人の手のひらの上だったのだ。

狡猾なこの老人にとって、直情的な削板らは実に扱いやすかっただろう。

そもそも、最初からおかしかったのだ。

何も知らない横須賀が実験現場に侵入してもセキュリティが動かなかったのも。

雲川芹亜がこれ以上ないタイミングで『オジギソウ』を手に入れたのも。

あれだけ多くの人間が実験について知ってしまったのに何も見せしめがなかったことも。

事前に宣戦布告まで行った削板がなんの障害もなく実験場にたどり着けたことも。

すべては裏からこの老人が自身のシナリオ通りに動かしていたからだ。


421 : 以下、2... - 2014/03/14 23:22:14.48 9DRSukTC0 269/379


幻生「うんうん。準備は万端だ。打ち止めくん」


そして、老人は計画の最終段階に至る準備を終えた。

神ならぬ身にて天上の意志にたどり着く準備を。

今、シスターの耳には大きめのヘッドホンが装着されていた。


打ち止め「……約束して、幻生博士。この人は傷つけないって」

幻生「ああ。安心したまえ。なんせ学生1万人を使った臨床実験が成功済みだ。
    なんの問題もなく、1万人全員が社会に復帰してるよー。その後の経過も良好だ」


スッ、と老人は少女に何かを差し出した。

それは複数のコードが繋がれたヘッドギアだった。




422 : 以下、2... - 2014/03/14 23:25:16.15 9DRSukTC0 270/379








幻生「【幻想御手】で君たちの脳波に【禁書目録】の脳波を合わせ、一時的にMNWに加入させる。
    そして、10万3000冊の魔導書をMNWにコピーさせる。その後、彼女にワクチンを聴かせれば元通りだ」









それが木原幻生の人生最大の実験だった。

科学の頂点と魔術の頂点を融合させる。

まさしく、神ならぬ身にて天上の意志を理解する実験だ。


打ち止め「……分かった、ってミサカはミサカは台座にダイブ!」


ポスン、と打ち止めは台座に横たわり、ヘッドギアを装着した。


幻生「じゃあ、始めようか」


【幻想御手】が流れはじめる。

科学と魔術が交差した瞬間だった。



423 : 以下、2... - 2014/03/14 23:27:38.41 9DRSukTC0 271/379


?同時刻、第一八学区地下室



11018号「……以上が現段階での『妹達』の計画です」

ステイル「……」

10039号「クローンであるミサカ達が取るべき、最良にして最大の結果が得られる行動です」

神裂「……」

15777号「ですので、シスターが傷つくことはありません」

原谷「……なに、それ?」

19090号「よって、この場にいるミサカ達の目的は既に遂行できたと言えます」

御坂「……そん、な……」



424 : 以下、2... - 2014/03/14 23:28:39.01 9DRSukTC0 272/379



10039号「! あ、ああああああ!!」


突如としてクローンの少女が悲鳴を上げた。


11080号「くぅ、うううう!」


同じ脳波で構築されたネットワークに異常な知識がダウンロードされていく。


15777号「かっ、は、ああああああああ!!」


それは見ただけで精神を毒され、廃人になってしまうはずの書物の数々。


19090号「ああああああああああ!! ああああああ!!」


そんな書物が10万3000冊もダウンロードされれば、無事でいられるはずがない。


御坂「うそ……! ねえ! やめてよ! お願いだから! しっかりして!」



425 : 以下、2... - 2014/03/14 23:30:22.53 9DRSukTC0 273/379



ステイル「……『巨人に苦痛の贈り物』!」


ゴォ!! と巨大な火球がドーム状の屋根に向けて放たれた。

精神を脅かされている『妹達』に妨害を行う術はない。

ドガァ!! と火球はドーム状の屋根に激突し、大きな風穴を空けた。


ステイル「神裂! 頼む!」

神裂「はい! 原谷矢文!」


グイッ、と神裂がステイルと原谷を無理やり脇に抱きかかえる。

見映えはヒドいものだが、1番早くここから脱出する方法はこれしかない。


原谷「御坂ちゃん! 君も出るんだ!」

御坂「!? そんな、だって……!」

原谷「そこで心配したってなんにもならない! 元を叩かないと

神裂「口を閉じて! 舌を噛みますよ!」


ダンッ!!! と、コンクリート造りであったはずの床にヒビが入るほどの力で神裂が大きく跳躍した。

たったそれだけで【聖人】は男2人を抱えて地上への脱出を果たした。


御坂「……なんで、なんで……! ああ、もう!!」

タン、と御坂も軽く跳躍する。

ドーム状に組み立てられた鉄骨を磁力の足掛かりにし、いとも簡単に地上へ脱出した。

後に残されたのはクローン少女。

そして―――



426 : 以下、2... - 2014/03/14 23:32:00.24 9DRSukTC0 274/379


?同時刻、Sプロセッサ社前



地上へ脱出した一向は正門から通りへと出ていた。


原谷「とりあえずは車に! 急がないと!」

ステイル「ちっ、こうなると逆に『人払い』がもどかしくなってくるね!」


この現場に来るまでに送ってもらったスキルアウトたちは『人払い』の外で待機している。

『人払い』を解除して中に呼ぶにも走って行くにも微妙な距離だ。

だが、事情を電話で説明するよりは合流した方が明らかに早い。


神裂「先に行っています! ステイル! 何か進展があればルーンで連絡を!」

ステイル「心得た!」


ダンッ! と再び【聖人】は跳躍した。

『妹達』は計画の全容は説明しても、具体的にインデックスがどこにいるかまでは明言しなかった。

しかし、あの短時間で移動できる距離などたかが知れている。

この近辺にいることは間違いない。




427 : 以下、2... - 2014/03/14 23:34:32.99 9DRSukTC0 275/379



御坂「……もう、やだ……」


ガク、と少女が膝を付いた。


御坂「なんで、こうなるのよ……なんで、あのコたちは、あんな……」


少女の精神は限界だった。

いくら強固な『自分だけの現実』を築いているとはいえ、14歳の少女の精神だ。

大きすぎる力を止められない。

加速する悲劇を止められない。

自分の力では何も守れない。

そんな無力感と絶望感が彼女の心の中でひしめいていた。


原谷「御坂ちゃん……」

ステイル「放っておけ! 囚われの少女と狙われてすらいない少女、どちらが優先だ!?」





428 : 以下、2... - 2014/03/14 23:35:35.99 9DRSukTC0 276/379




だが、その時。


???「お、おい、なんだよ、これ」


その少女の前に。


御坂「……アンタ、は……」


たった1人の。


???「いったい、何があったんだ? 何があったらお前がそんな顔するんだよ」


ヒーローが現れた。





429 : 以下、2... - 2014/03/14 23:36:35.86 9DRSukTC0 277/379


?数分前、第七学区とある病院



9982号「――以上がミサカたちの計画です」

横須賀「……。」

9982号「あなたには大変お世話になりました、とミサカは深々と頭を下げます」

横須賀「……。」

9982号「ですが、もう心配は不要です。そもそもミサカは守られる存在では

430 : 以下、2... - 2014/03/14 23:40:01.99 9DRSukTC0 278/379


横須賀「馬鹿野郎。」


横たわっていた1人の漢が立ち上がった。


9982号「え、わっ……?」


と同時にクローンの少女をベッドに倒れこませた。

片足のない少女は簡単にベッドに倒れこんだ。


横須賀「寝てろ。貴様は何も分かっていない。」

9982号「な、なぜですか!? クローンであるミサカ達が取る正当な手段を、あなたは!」

横須賀「胸に脂肪が2山ついていたら『女』と言った。誰がクローンだと言った?」

9982号「……!」

横須賀「そもそも【根性】を【入力】というのがフザけている。何も理解していないな。」


漢は歩きだす。その身に闘気と根性を宿して。


9982号「ま、待ってください! そんな身体でどこへ!?」

横須賀「決まっている。勘違いした馬鹿に本物の根性というものを教えにだ。」

9982号「行かせません!」


バチチッ! と威嚇するようにスパーク音が鳴った。

しかし、絶対能力者の脅しに無能力者が怯むことはなかった。


横須賀「だったらそのくしゃくしゃのツラなんとかしてからにしろ。」

9982号「!? そんな、これは……」

横須賀「……行くか。【内臓潰し】の横須賀、推して参る。」





506 : 以下、2... - 2014/03/27 14:05:59.15 O1NcVCm80 279/379


ー十数分後、第一八学区とある研究所


【幻想御手】。

かつて、木山春生という名の研究者がこの街にばら撒いた音楽プログラム。

その音楽を聴いた者は能力の強度が上がるため、そのプログラムは非合法に1万人以上の学生に出回った。

しかし、その実態は聴いた者の脳波を木山春生の脳波に合わせるというものだった。

能力の強度が上がるというのは副次的な産物にすぎない。

この件は御坂美琴の活躍により解決され、【幻想御手】は警備員に回収された。

はずなのだが、木山春生の上司であり脳研究について師事していた木原幻生は自ら新しい【幻想御手】を作っていた。

自身の脳波ではなく『妹達』の脳波に合わせるというプログラミングで。

同一の脳波であり、かつ、【電撃使い】であることから『妹達』はMNWを構築し、全体で1つの脳として繋がっている。

ならば、この脳波に合わせることができればMNWに加入することもまた可能となる。

【電撃使い】であるという条件は、言わば電波で繋がるためのものであり、直接コードで、つまり有線として繋がってしまえば問題ない。



507 : 以下、2... - 2014/03/27 14:07:03.42 O1NcVCm80 280/379




すべての行程を終えた老人は笑っていた。

これほどまでに気持ちが昂ぶることは長い人生でもほとんどなかった。


幻生「……気分はどうだい? 『SYSTEM』を体現した気分は」

打ち止め「……よくはないかな、ってミサカはミサカは顔をしかめてみる」

幻生「うん、結構」


実験は終了した。

今、クローンの上位個体は目を覚まし、台座から起き上がっていた。

神ならぬ身にて天上の意志にたどり着く。通称『SYSTEM』。

学園都市の最終目標であり、研究者の夢。

それがついに実現したのだ。


幻生「く、ふふ、素晴らしい。アレイスターとて予想外だろう。まさか私がこんな怪物を生み出すとは思っていなかったはずだ」


この老人は学園都市の闇の中で長年生きてきただけあり、この街の奥深くまでも知っている。

例えば、学園都市統括理事長の正体。

例えば、魔術の存在。

例えば、アレイスター・クロウリーが目論む『プラン』の存在。

そして、その裏をかいた。

自身の作り出したクローンが究極の存在と化した。

今、この街で動いているのはアレイスターの『プラン』ではない。

木原幻生の野望だ。


508 : 以下、2... - 2014/03/27 14:09:13.16 O1NcVCm80 281/379


幻生「では……見せてくれるかい? 天上の意志にたどり着いた結果を」


もちろん、木原幻生はヌルくない。

その究極の存在を支配下に置けるように調整は施してある。

今まで打ち止めが着けていたヘッドギアから、制御プログラムもインストールさせていた。

『木原幻生の命令は絶対』。この命令文をMNWに刻み込んである。


打ち止め「分かったよ博士、ってミサカはミサカは魔力を練ってみる」


スッ、と幼い少女は目を閉じた。


打ち止め「ーーーヨハネ黙示録第4章第4節」


この老人は科学の研究者だ。

オカルトは専門外である。

しかし、それでも分かる。

目の前で底知れぬ力が高まっていく様子が。


幻生「ハ、はははは! 素晴らしい! 見てるかアレイスター!? 私の勝ちだ! はははは!」


カッ、と少女は目を見開いた。

その瞳にはかつてこの街の学区を丸々1つ消し去ろうとした【魔神】と同じものが描かれていた。


打ち止め「ーーー『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』即時発動」

509 : 以下、2... - 2014/03/27 14:10:04.67 O1NcVCm80 282/379



ボシュ、と老人の胸から下が世界から消えた。


幻生「は、は?」


どちゃ、と重力に素直に引かれ、老人の上半身は床に落ちた。


打ち止め「……これで満足かな? 博士、ってミサカはミサカは見下してみる」


かつて暴走した【魔神】と違い、この少女は理性を保っていた。


打ち止め「こんなチンケなコード如きに制御されるほど根性なしじゃないのよ、ってミサカはミサカは諭してみる」


そして、Level6の『自分だけの現実』はもはや科学でも魔術でも制御できる域を超えていた。

木原幻生の制御コードも【禁書目録】に埋め込まれた【自動書記】のプログラムも押し退け、打ち止めは打ち止めとして存在していた。



510 : 以下、2... - 2014/03/27 14:11:02.44 O1NcVCm80 283/379


幻生「あ……? な……?」

打ち止め「言ったよね? 幻生博士。 『妹達』が数百人規模で動いてるって」


少女の顔が青白くなり、血管が浮き出てきた。

能力者が魔術を使用した副作用が始まっている。


打ち止め「あなたに関する過去十数年分のデータなんてすべて復元済み。
      あなたの好奇心を満たすために星の数ほどの悲劇が起きたことも把握済みよ、この根性なし」


しかし、それすら押し殺して少女は老人を睨みつける。

それほどまでに、一方通行や他の研究者たちには感じなかったほどの怒りが彼女の中で生まれていた。


打ち止め「『暗闇の五月計画』『プロデュース』『暴走能力者の法則解析用誘爆実験』
      そして『量産能力者実験』に対する不当な演算結果の捏造で天井博士を借金地獄に。
      目についただけであなたが裏で糸を引いてた悲劇はこれだけある。
      いったい何様のつもりなの? ってミサカはミサカはありあまる嫌悪と怒りをぶつけてみる」


もはや死を待つだけの老人は声を発することすらできなかった。

ただ、呆然とした顔で少女を見上げていた。

しかし、それでもこの老人は『木原』なのだ。

自分の実験が自分の予想をはるかに超える。

それだけが、それこそが、『木原』を最も満足させる。

その際に他者や自分に襲いかかる危害など二の次なのだ。

だからこそ。

老人は目を爛々と輝かせ。

満面の笑みを浮かべた。


打ち止め「……救いようがないのね」


バヂイ!!! と老人の身体は高出力の電撃で消し炭になってしまった。



511 : 以下、2... - 2014/03/27 14:12:26.80 O1NcVCm80 284/379


打ち止め「カ、ハ! ケホッ、ゲホッ! ……っはぁ、ひっどい気分」


異臭が漂う室内で少女はうずくまった。

原因は異臭でも凄惨なデータを見たせいでも老人を殺したせいでもない。

もちろんそれらも少しはあるのだが、主な原因は魔術を使用したことによる副作用だ。

才能無き者のための魔術は、才能ある者が使えば過負荷がかかり、最悪死に至る。


打ち止め「……あぁ、なるほど。だからこの身体のままなのね、ってミサカはミサカは納得してみる」


ジ、ジジ、と自らの生体電気を精密に扱いながら打ち止めは異様な速さで回復していく。

回復魔術など用いずとも、彼女の【電撃使い】としての能力はもはや万能の能力となっていた


打ち止め「もはや身体能力を制限させてどうにかなる存在じゃないのは分かっていたはずだけど……回復能力は幼い方があるものね。
     近接格闘なんてまずしないし優先順位は基本的な回復能力になるよね、ってミサカはミサカは他個体に魔術の使用を制限させてみる」



512 : 以下、2... - 2014/03/27 14:13:07.72 O1NcVCm80 285/379


ガチャ、と部屋の扉が開いた。


10031号「……お疲れ様です。上位個体、とミサカは異臭に顔をしかめながら労います」


中に入ってきたのはクローンの下位個体だった。

彼女も魔導書の影響を受けているのか、少し足がフラついていた。


打ち止め「ありがと。例のブツは? ってミサカはミサカは確認をとってみる」

10031号「ダウンロード済みです、とミサカはブツを見せながら成果を報告します」


スチャ、とクローンの少女はスカートのポケットから小型の何かを取り出した。

それはありふれたUSBだった。


10031号「【幻想御手】のワクチン音源。意識を失ってる間に取得することができました
      とミサカはダウンロードした中身はすでに確認済みであることも重ねて報告します」

打ち止め「うん、じゃあシスターさんをお願い、
     ってミサカはミサカはやっぱりミサカのお願いなんて聞くつもりのなかったジジイに辟易してみる」

10031号「了解です。後は1人で大丈夫ですか?」

打ち止め「そこまで根性なしじゃないよ、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる」

10031号「それは失礼しました、とミサカは早速作業に移ります」




513 : 以下、2... - 2014/03/27 14:13:53.44 O1NcVCm80 286/379


ー数分後、第一八学区とある研究所屋上



神裂「ふっ!」


ダガン!、と屋上の扉が壊れんばかりの強さで乱暴に開かれた。

次いで風のような速さで【聖人】が駆け抜けていく。


神裂「インデックス……!」


先ほど大規模な魔力が感知できた。

覚えのない魔力の色だったが、この科学の街で魔力を練れられる人物など限られている。

魔術的な見地から見ればありえないはずだ。

だが、あの少女たちの言っていたことが本当ならば10万3000冊の魔導書を操る人間が大人数出現したことになる。

しかし、彼女にとって最も心配なことはそこではない。

仮にそんな無茶なことをした場合、インデックスは無事でいられるのか。

いかに科学技術の粋が集まっているこの街とは言え、扱うのは専門外のオカルトだ。

彼女たちにとって予想外の事態が起きる可能性は高い。

最悪の場合、あの時の【魔神】が再び起動している可能性もーーー



514 : 以下、2... - 2014/03/27 14:14:44.00 O1NcVCm80 287/379


神裂「インデックス!!」


ガチャッ!! と扉を荒々しく開ける。

すると、神裂の目に飛び込んできた光景は。


10031号「おや」


先ほども見たクローンの少女。

黒焦げの何か。

大きな機械。

乱雑に散らばっている複数のコード。

そして。


インデックス「……」


コードに繋がれ、ピクリとも動かないインデックスの姿。



515 : 以下、2... - 2014/03/27 14:15:21.57 O1NcVCm80 288/379


神裂「……貴様ぁぁああ!!」


怒り狂った神裂が吼える。

刀に手をかけ、一瞬で間合いを詰める。

【聖人】神裂火織の必殺の居合『唯閃』。

【七天七刀】の刃がクローンの喉元に迫る。

516 : 以下、2... - 2014/03/27 14:16:04.76 O1NcVCm80 289/379



インデックス「……?」


パチ、とシスターは目を開けた。


神裂「!」


ビダッ! と神裂は動きを止めた。


10031号「……」


刃先はクローンの喉元を切り裂く寸前で止められていた。


インデックス「……あれ? どこ? ここ」


むくり、とシスターは起き上がった。

ぽかんとした表情で、完全に理解が追いついていなかった。



517 : 以下、2... - 2014/03/27 14:17:27.41 O1NcVCm80 290/379


神裂「インデックス……」

インデックス「あ、かお、え!? かおり!? 何してるの!?」


刀を抜いて刃をクローンの喉元につきつけている神裂を見てインデックスが慌てる。

ほとんどパニック状態だった。


神裂「落ち着いて、インデックス。身体に異変は?」

インデックス「え? んと、ちょっとふらふらするかも……な、何が起きたの?」

10031号「頭の中の魔導書をコピーさせていただきました、とミサカは指で頭を叩きながら説明します」

インデックス「!?」

神裂「……本当なのですか? なんの調整もなしにあんなものを読んで無事でいられるはずありません」


魔導書とは異世界の法則が書かれているため、一般人は目を通しただけで廃人となる。

熟練の魔術師ですら、まともに読破することは厳しい。

常人では『毒』の純度を落とさなければまともに扱える代物ではない。

魔導書とは異世界の法則が書かれているため、一般人は目を通しただけで廃人となる。

熟練の魔術師ですら、まともに読破することは厳しい。

常人では『毒』の純度を落とさなければまともに扱える代物ではない。

それをこの街の能力者が、しかも10万3000冊もの魔導書を取り込んで無事でいられるはずがない。



518 : 以下、2... - 2014/03/27 14:19:18.94 O1NcVCm80 291/379



10031号「ええ。コピー中に知りました、とミサカは実験動物に対してなんの配慮もなかったジジイに憤りを覚えます」


未だ切先と眼差しと殺気を向けられたまま、クローンの少女は一本調子で話す。


10031号「ですが、ミサカはどうやら魔導書に気に入られたようです。
      1万人に一瞬で知識を広めたために、魔導書の特性から気に入られたのでしょう、とミサカは冷静に分析します」


一方で魔導書はその存在理由から、自身の知識をより広める者に協力する、という性質を持つ。

全体で1つの大きな脳とは言え、魔術的な定義では曖昧なところだ。

しかし、結果だけ見れば、方法はどうであれ1万人に知識を広めたことになる。

だからこそ彼女は魔導書に気に入られ、平気でいられるのだ。


インデックス「……ほ、ほんとに?」

神裂「……」

10031号「はい。『死霊術書』『食人祭祀書』『ネームレス』『抱朴子』 『法の書』『桃太郎』
     『金枝篇』『ヘルメス文書』『秘奥の教義』『テトラビブロス』『エイボンの書』『ソロモンの小さな鍵』
      『創造の書』『死者の書』『ムーンチャイルド』『暦石』『碑文』『屍食教典儀』『グリモワ断章』『Mの書』などなど」

インデックス「……信じられない……」

神裂「こんなことが……」

10031号「その他ご質問があればいくらでも。
そちらのシスターの安否が確認できるまではいますので、とミサカは逃げも隠れもしません」




519 : 以下、2... - 2014/03/27 14:20:17.66 O1NcVCm80 292/379


ー同時刻、第一八学区Sプロセッサ社地下室


その時、とある場所では。


一方通行「あァ……やってくれるじゃねェか。クソガキが」


とある最強が目を覚ました。


一方通行「……つゥことはだ。許せねェのが1人いるよなァ」






520 : 以下、2... - 2014/03/27 14:20:56.66 O1NcVCm80 293/379


ー同時刻、第七学区削板宅



そして、とある場所では。


削板「……ん……くぁ……」


とある漢が目を覚ました。


削板「……腹減ったな……眠れん」





521 : 以下、2... - 2014/03/27 14:22:14.29 O1NcVCm80 294/379


ー1時間後、第七学区公園



そして、少し時間が経ったあとの公園では。


打ち止め「ん☆まーーーい! ってミサカはミサカは大満足!」


科学と魔術の頂天が腹ごしらえをしていた。

日も高くなってきたころの公園の木陰に隠れたベンチで、可愛らしくクレープを食べている少女の姿があった。


打ち止め「うんうん! これぞ食べる喜びというやつなのだよ! ってミサカはミサカはクレープと幸せを噛み締めてみる!」


ちなみに、一応考えた上でのクレープである。

先ほどは生体電気を動かして回復したはいいが、これ以上は回復するための栄養分がなければ回復できない。

先ほどは培養管の中で蓄えていた栄養分を使ったが、今後のことを考えると、すぐエネルギーになる甘いものがいいのだ。



522 : 以下、2... - 2014/03/27 14:22:59.86 O1NcVCm80 295/379


少女は今、学園都市を満喫していた。

満を持して入った洋服屋さんで一目惚れした水色のワンピースを着て。

その近くの靴屋さんで買った白い靴を履いて。

デパートで年相応の下着と、ついでに小さな花のついたヘアピンを買って。

今はお腹が空いたので来る途中に見かけて気になっていたクレープ屋さんで丸々3分悩んで決めたクレープを頬張っていた。


打ち止め「んっふっふー、楽しいなー、ってミサカはミサカは他個体にちょっと申し訳なく思いながらも顔を綻ばせてみたり!」


もぐもぐと人生初の食事を堪能しながら少女は笑う。ちなみに支払いはすべて天井博士のカードである。

今、ほとんどの個体は情報収集に躍起になっている。

さすがに古すぎるデータは復元するのに時間がかかっていた。

紙に例えるなら、シュレッダーで細かく切り刻まれたぐらいなら復元できる能力は『妹達』にはある。

しかし、切り刻まれた上に紙が酸化してたり水に濡れたりした情報は復元に時間がかかるのだ。

そして、ほとんどに含まれない個体は買い出しに行っていた。

もはや不必要となった、支給されていた軍用装備をしかるべき所で売り払い、資金を調達。

そのお金で先ほどから能力行使で体力をガンガン使っている『妹達』も食べて栄養摂取して回復させる。

焼け石に水かもしれないが『妹達』だって食べたいのだ。

疲れもすればお腹も減る。



523 : 以下、2... - 2014/03/27 14:23:52.10 O1NcVCm80 296/379


打ち止め「ほーんと、楽しいなー」


久しぶりに天気のいい屋外では笑顔が満ちていた。

公園をざっと見渡しただけでも面白そうなものや楽しそうなものが広がっている。

公園の外周には四つ足の生物が主人と一緒に歩いてる。9982号が見た仔猫とは違うからきっとイヌだ。

『学習装置』で教えられたイヌとはずいぶん違う。思いのほかいろんな種類があるらしい。

公園の入り口では警備員の女性2人が待ち合わせしていた。これからパトロールだろう。

誰かと待ち合わせというのも1回やってみたい。殺す殺されるという血生臭いものを抜きで。

別の木陰のベンチでは金髪の外人姉妹が仲良くクレープを食べている。

自分もああいう風に食べ比べをしてみたい。

そして、公園の中央にある噴水の近くでは少年少女が何かの遊びに興じている。

よく分からないが、かくれんぼの亜種らしい。なぜか鬼がひっきりなしに缶を踏んでいる。

どれもこれも好奇心を惹かれるものばかりだ。

まともな人生を歩んでいたら、あるいはああいうものを経験することもできただろう。



524 : 以下、2... - 2014/03/27 14:24:36.33 O1NcVCm80 297/379



だが、


打ち止め「そういう訳にもいかないよね、ってミサカはミサカは落胆してみたり」


先ほど得た情報がそろそろ発表されるころだ。

その情報は防がなければいけないものではなく、むしろ報道されるのは望むところなのだが。

そして予想通り、空を漂う飛行船から、近くのビルのスピーカーから、警備員の無線から、けたましいサイレンの音が鳴り響いた。

すべての人々が何事かと耳を済ませた。


『緊急警報! 緊急警報! 第一九学区にて非常事態発生!
  第一九学区及び隣接する学区にいるすべての人間は速やかに他学区に避難してください!』



525 : 以下、2... - 2014/03/27 14:25:09.81 O1NcVCm80 298/379


あとのアナウンスはこの繰り返しだった。

ほとんど関係のないこの第七学区でも人々が顔色を変える。

散歩をしていたイヌはただならぬ空気を察知して荒々しく吠える。

警備員はその職務を全うするために真剣な表情になり、無線で連絡を取り合う。

ベンチに座っていた外人姉妹は姉が妹の手を引き、足早に公園を去る。

遊びに興じていた子どもたちは不安そうに顔を見合わせる。



526 : 以下、2... - 2014/03/27 14:25:46.97 O1NcVCm80 299/379


きっと、すべてを理解しているのはクローンである自分だけだろう。

これは自分に向けられたお誘いのメッセージなのだ。

第一九学区で非常事態など起きていない。

正確にはこれから起きるのだ。

被害が出る前に、顔を見られないように、そこにいるすべての人間を退かしているだけなのだ。

そこでケリをつけようと。相手からのお誘いだ。

向こうも向こうですべてを知られては後がないのだから。


打ち止め「上位命令。全員避難誘導に協力。動かない人は無理やり動かして。
      動けない人は意地でも守り通して。火事場泥棒は遠慮なくやっつけちゃって。
      筋だけは通すよ、ってミサカはミサカは司令官っぽく的確な指示を出してみる」


そのお誘いに、こちらも乗ろう。

利害は合致している。

シンプルで分かりやすい。

何も気にせず、力の限りぶつかりあおう。

今朝の漢たちのように。



527 : 以下、2... - 2014/03/27 14:26:23.98 O1NcVCm80 300/379


残っていたわずかなクレープを パクパクッ、と食べて少女は立ち上がり、公園を後にする。

出陣の時だ。


打ち止め「警備員のお姉さん、ってミサカはミサカは声をかけてみる」

黄泉川「ん? なんじゃんよ?」

打ち止め「これ、公園に落ちてたよ、ってミサカはミサカはカードを渡してみる」

黄泉川「おおっ! 偉いなお嬢ちゃん。ちゃんと預かっておくじゃんよ」

打ち止め「きっと困ってるからちゃんと届けてあげてね、ってミサカはミサカは念を押してみる」

黄泉川「任せるじゃんよ。……ん? 財布じゃなくてカードが裸で?」

打ち止め「じゃあよろしくねー、ってミサカはミサカは撤退開始!」

黄泉川「あ、ちょっと、おい!」


タタタタ、と走ると打ち止めは磁力を使ってビルの屋上までひとっ飛びにジャンプした。


打ち止め「今日は死ぬにはいい日だ、ってミサカはミサカはヤイサホー!」





528 : 以下、2... - 2014/03/27 14:27:09.21 O1NcVCm80 301/379


ー第一八学区、とある研究所



原谷「……本当に、やるつもりなんだ」

スキルアウト「なにこれ? なにがどーなってんの?」


地下室から脱出した原谷とステイル、そして車を動かしていたスキルアウトらは神裂、インデックスらと合流していた。

クローンの少女はインデックスの身体に異変がないと判断すると、真っ黒な死体をもってどこかへ姿を消してしまった。


神裂「……どうしますか?」

ステイル「今日のボクらはキミの手足だ。キミの望むように動くが……」

インデックス「私も。身体はなんともないから動けるんだよ」


外は混乱していた。

その原因はやはりクローンだろう。

しかし。

原谷「……すいません、正直ここまで来ると凡人には何していいのかさっぱりです」


もはや何かをどうにかしたところで収まる事態ではない。

明らかに戦力が違いすぎる。


スキルアウト「つーか救うはずのクローンがなんで暴走して、っと。ワリ、電話だ」

神裂「彼女らの話も聞くにはききましたが……」

ステイル「要するに反乱だろう?」

インデックス「きっと止めないとダメなんだよ」

原谷「んなこと言ったって闇雲に突っ込んだところで

スキルアウト「ああ!? オメーガチで言ってんのか!?」


急にスキルアウトが声を荒げた。

その声に全員が一瞬身体を強張らせて振り向いた。


スキルアウト「止めろや!! 動ける身体な訳ねーべや!! ……ああもう! ホントしゃーねーなあの人!!」


そんな文句を垂れながらも、なぜかスキルアウトは笑っていた。





529 : 以下、2... - 2014/03/27 14:28:02.66 O1NcVCm80 302/379


ー数十分後、第一九学区大通り



第一九学区は寂れてしまった学区である。

再開発に失敗し、建物は廃れていた。

地価が安いくらいしか強みのない土地だが、ほとんどの学生は寮暮らしのためそれも強みとは言い難い。

故に元々人口は少ないのだ。

おまけに警備員・暗部・『妹達』がこの学区の避難を重点的に行ったため、既に街はもぬけのからだ。


打ち止め「……『絶対能力進化実験』も含めて、この街ではいろんな悲劇が人為的に引き起こされてる」


そんな人気のない街の大通りをクローン少女は進んでいく。

目的地はすぐそこだ。


打ち止め「それはある人物の『プラン』を為すため。たったそれだけのために、多くの人間が人生を狂わされてる」


不安はない。

あるとすれば闘いに挑む前の武者震いだ。


打ち止め「何より許せないのが、ミサカのことを実験動物どころかただのアンテナとしか見てなかったこと」


広い交差点の中心に主催者はいた。

銀の髪に緑の手術着。

男にも女にも子どもにも老人にも聖人にも囚人にも見える『人間』。


打ち止め「許せないよね、アレイスター・クロウリー学園都市統括理事長? ってミサカはミサカは凄んでみる」

アレイスター「些細な違いでしかない、と私は思うがね」


かつて『世界最大の魔術師』と称された伝説級の魔術師、アレイスター・クロウリーだ。




530 : 以下、2... - 2014/03/27 14:28:44.88 O1NcVCm80 303/379


アレイスター「はじめまして【最終信号】。まさかこんな形で会うとは思ってもみなかったよ」

打ち止め「どうもはじめまして。ミサカもわざわざ出てきてもらって嬉しいよ」

アレイスター「ああ。君を捕らえるとなると、ハンパな戦力では不可能だからね」


間違いなく、この人物は『窓のないビル』の中で鎮座している『人間』である。

本物であることを証明するかのように、とてつもない威圧感が溢れ出ている。


打ち止め「……どうあってもミサカを利用したいのね、ってミサカはミサカは睨みつけてみる」

アレイスター「ああ。ここで君を捕らえれば『プラン』はほぼ成功と言える」

打ち止め「あなたみたいな根性なしに捕まるはずないよ、ってミサカはミサカは呆れてみたり」

アレイスター「やる前から諦めているようではただの根性なしだ。そうは思わないかい?」

打ち止め「それもそうね、ってミサカはミサカは納得してみる」



531 : 以下、2... - 2014/03/27 14:29:15.94 O1NcVCm80 304/379


アレイスター「それにしてもわざわざ1人でくるとは。私としてはありがたいがね」

打ち止め「決闘の基本はタイマンだもの、ってミサカはミサカは常識を説いてみる」

アレイスター「その結果、君が死を迎えるとしてもかい?」

打ち止め「んー、どのみちあなたを殺して私も死ぬつもりだし、ってミサカはミサカは開き直ってみる」


あっさりと、クローンの少女は衝撃的な告白をした。


アレイスター「ほう……?」

打ち止め「……このままだとお姉さまに迷惑がかかる。クローンがどういう存在か、情報収集の時に気づいたの」


『自分だけの現実』に根性を入力し、クローンという存在に対する一般的な印象を知った今、『妹達』は覚悟を決めていた。

このまま自分たちが生きれば、オリジナルである御坂美琴に迷惑がかかる。

クローンという気味の悪い集団を抱え込む中学生というレッテルを貼られてしまう。

それは、やってはいけない。

光の世界で光り輝く存在で、学園都市を何度も救ったあのヒーローを闇に落としてはいけない。


打ち止め「あの優しいお姉さまに、もう迷惑はかけられない。
      だから最後に不幸しか撒き散らさないあなたの『プラン』だけは止める。それがミサカの根性よ、ってミサカはミサカは臨戦態勢」


すっ、と小さな少女は構えをとった。



532 : 以下、2... - 2014/03/27 14:29:48.11 O1NcVCm80 305/379


アレイスター「心構えは立派だが……気づかないかい?
        これだけ濃い『AIM拡散力場』がこの学園都市という狭い範囲に集まればーーー」


『それ』はいつの間にかいた。

金髪の光り輝くような長身。

ゆったりとした白い装束を身にまとった、しかしそれでも異様としか表現できない『誰か』。

女性のような身体つきをしているが、果たして女性なのか、人間かどうかすら怪しい。

それほどまでに、根っこの部分で何かが違う人のようなモノがアレイスターの隣に現れた。


エイワス「……nagtvdjか。ずいぶん私の想像を超えてきたな」


『それ』はもはやこの世界の生物ですらなかった。




533 : 以下、2... - 2014/03/27 14:30:25.67 O1NcVCm80 306/379


打ち止め「……『ドラゴン』、エイワスか」


しかし、それを見ても打ち止めは動じなかった。


打ち止め「ゴメンね、それはこっちも同じなのよ、ってミサカはミサカは不敵に笑ってみる」


バヂ、バヂヂヂヂヂ!! と空間を横に裂いて何かが現れる。


打ち止め「これだけ濃い『AIM拡散力場』があれば、コレも同時に出せるのよ、ってミサカはミサカはドヤ顔でキメてみたり」


『それ』は異世界から現世にダウンロードされているようだった。

空間から出てきた『何か』は女子高生のような姿で制服を着ていた。


カザキリ「ィィイィィィイィイイイイィィイィイイアアアアアアアアアア!!!」


その何かは他には目もくれず、真っ先にこの世界の異物に襲いかかる。

雷をそのまま翼の形に固定したような巨大なモノが背中から突き出ていた。


エイワス「おお? ヒューズ・カザキリか!」


だが、その瞬間、女性のような光り輝くモノの背中からも白い翼が噴出する。

襲いかかる雷を防ぐように、一瞬で翼が翼に襲いかかる。



534 : 以下、2... - 2014/03/27 14:31:06.47 O1NcVCm80 307/379


ズドドドドドドドド!!! と耳をつんざくような音が学園都市中に響きわたる。

2人が衝突した地点では既にアスファルトがめくり上がり、クレーターができていた。


カザキリ「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

エイワス「ははは、面白い。何をどうしたらこうなったんだ? アレイスター」


しかし、もはやクレーターの地点に2人はいない。

いつの間にか離れた場所で取っ組み合いになっていた。


打ち止め「出現コードなんてとうの昔に把握済み。甘く見ないでほしいな」

アレイスター「……【最終信号】……!!」


ここにきてはじめてアレイスターが怒りを顕わにした。

憤怒の形相を作り、いつもの余裕のある微笑はどこにもない。


打ち止め「手の内読めてんのよ根性なし、ってミサカはミサカは挑発してみる」


バヂ! とスパークが鳴った。


打ち止め「さ、はじめよ。もう逃げ場はないよ、ってミサカはミサカはやる気満々!!」

アレイスター「たかだか作られた人形ごときが。調子に乗るな!」



535 : 以下、2... - 2014/03/27 14:31:42.32 O1NcVCm80 308/379




かくして、世界最大戦力とも言える者同士の闘いの火蓋は切って落とされた。

学区1つで被害が済めばいい方、最悪関東圏どころか日本が消滅してもおかしくはない。

そんな闘いが始まった。

もはや誰にも止められない。





536 : 以下、2... - 2014/03/27 14:32:30.23 O1NcVCm80 309/379





しかし、勝負は一瞬で決した。


カザキリ「イイヤアアアアアアアアアア!!??」


ヒューズ・カザキリは肩から爆散し


エイワス「おや」


『ドラゴン』エイワスは腹部に風穴が空き


アレイスター「馬鹿な……!」


世界最大の魔術師たるアレイスター・クロウリーは頭から消滅した。





537 : 以下、2... - 2014/03/27 14:33:06.64 O1NcVCm80 310/379





打ち止め「?」


しかし、それはクローンが為した結果ではなかった。


???「よう、みつけたぞ。大馬鹿野郎。」

???「この勘違い野郎が」


それはバイクに乗った2人組の仕業だった。



538 : 以下、2... - 2014/03/27 14:33:56.86 O1NcVCm80 311/379




カザキリ「……アア、アアア、ア……」

アレイスター「馬鹿な、なぜ、なぜ私にこれが……!」

エイワス「ははは、もちろん生命体には効きはしない。我々は死ぬのではないのだ」


1人1人が消えていく中、理性のあった数人だけが会話をしていた。


エイワス「還るのだよ。ヒューズ・カザキリは虚数に。キミは実数に。私はvsmjsbpqにな」

アレイスター「……ありえない!!」


さらさらさら、と消滅した箇所から徐々に霧散していく。

それなのに会話はしっかりとできていた。


エイワス「ああ、通常ならな。だが、キミは私の忠告を聞かなかったのではないかな?」

アレイスター「……!」

エイワス「ふふふ、やはりそうか」


もはや3者の姿はほとんど消えているにも関わらず、不思議と声だけはいまだに聞こえていた。

その上、その内の1人の声はとても楽しそうに、笑いをこらえながら話していた。






エイワス「【幻想殺し】のリセットを怠ったな? 積み上げたものは数百年規模の魔術か?
      数千人規模の魔術か? はたまた両方か? まったく、キミはせっかちすぎるよ、アレイスター」


そして、3者の姿は音もなく完全に消失してしまった。







横須賀「教育の時間だ。不良少女。」

上条「てめぇの幻想はここで殺してやる」








539 : 以下、2... - 2014/03/27 14:38:21.94 O1NcVCm80 312/379



トトトトトト、と大型のエンジンにふさわしくない音が鳴っていた。

フルフェイスのヘルメットを脱いだ2人が乗っているバイクは学園都市の名物バイクだ。

その名も『超電動リニア二輪』。

車輪とシャフトの間を磁力で反発させ、ドーナツ状の車輪を電気で動かしている。

故に、ほとんど飾り物のようなエンジン音しかならず、高速で忍者のように動けるのだ。

しかしそれでも、200キロ近い速さで物体の50センチ脇にバイクを放り込む行動は狂気の沙汰としか思えないが。


打ち止め「……人のタイマンに横槍入れるなんてどういう了見かな? ってミサカはミサカは苛立ってみたり」


そのバイクから降りた2人をにらみつけながら、打ち止めは不快感を顕にした。

人が命がけでタイマンを張ったというのに部外者が水を差してきた。

どういう方法を使えばあの3人を消せるのかは分からないが、科学と魔術の頂点に立ってしまった彼女にとっては些細な問題だ。

彼女が注目するのは、タイマンに水を差したというその1点のみ。

正直に言ってしまえば、根性なしの所業だとすら思える。

今ここでその落とし前をつけたいくらいだ。


横須賀「それはすまんな。だが、お前らの計画を聞いてどうしても言いたいことがあってな。」

上条「……」


それをしないのは、相手がこの2人だからだ。

黒いライダースーツを着ている大男は仮にも命懸けで守ってもらった相手。

制服姿のツンツン頭は仮にも大恩あるお姉さまの知り合い。

無闇に手を出すほどこの少女は不義理でなければ根性なしでもない。



540 : 以下、2... - 2014/03/27 14:40:10.28 O1NcVCm80 313/379


打ち止め「言いたいこと? こんなマネをしてまで? ってミサカはミサカはクエスチョンマークを浮かばせてみたり」

横須賀「ああ。お前の1番上の姉貴が泣きそうなツラして語ってきてな。鬱陶しくて寝てもいられないので根本から解決しにきた。」


エンジンを止め、バイクから降りて2人は少女と向き合う。

先ほど、病院で横須賀の病室を訪れたクローンは横須賀にここまでの『妹達』の計画をすべて話していた。

彼女たちはLevel6になったその瞬間から情報収集を始め、すぐにすべてを受け入れ、計画を立てていたのだ。


打ち止め「……9982号か。あのコは死にかけた時にMNWとのバグが生じてたからね」


現存しているクローンの中で唯一Level5の第一位と闘って生き延びた個体。

その個体は生死の境をさまよった際にミサカネットワークとの接続にノイズが走っていた。

そのため、今も彼女だけ感情が他の『妹達』全体の感情と乖離していたとしてもおかしくない。


打ち止め「……彼女がどう思っていても、私たちがいたらお姉さまに迷惑がかかる。
      それはあのコも承諾済み。だから、あなたにとやかく言われる筋合いはない、ってミサカはミサカは拒絶してみる」

横須賀「……」



541 : 以下、2... - 2014/03/27 14:41:40.21 O1NcVCm80 314/379



打ち止め「それで、そっちの人」

上条「……」

打ち止め「あなたはお姉さまの知り合いの人だよね? ただそれだけのあなたがわざわざこんなところに何の用かな?
      ってミサカはミサカは何も知らないのにいきなりしゃしゃり出てきた部外者の行動に疑問を抱いてみたり」


続けて打ち止めはもう1人のツンツン頭に意識を向ける。

この人物は『妹達』の計画も『絶対能力進化実験』も、そもそも目の前にいる少女がクローンであることを知ってるかどうかも怪しいのだ。

この人物がもはや怪物と化したクローンの前に立つ義理など何もないはずだ。


打ち止め「どこまで知ってるのか知らないけど、もしミサカの前に立ちはだかるなら容赦しない。
      今のミサカはあなたが思ってる以上に強いよ? ってミサカはミサカは最低限の忠告を告げてみる」


これは最終警告だ。それを分からせるために派手にスパークを弾けさせる。

バヂバヂバヂバヂバヂヂヂヂ!! とほとんど雷の塊のようなスパークが鳴り響く。

通りは明滅し、痛いほどの光が迸る。

見ただけで分かる。当たればタダでは済まない。



542 : 以下、2... - 2014/03/27 14:43:13.65 O1NcVCm80 315/379


上条「……たしかに俺は断片的な情報しか知らない」


ゆっくりと、ツンツン頭の少年は話し始める。


上条「お前たちがどれだけのものを抱えていて、どれだけの覚悟を決めてここに立っているのかも知らない」


科学と魔術の頂点に立つクローンのチカラを前にしても、少年は怯まない。

ただ、まっすぐと小さな怪物を見つめる。


上条「でもな、それでも」


少年は、右の拳を握りしめた。








上条「御坂美琴が泣いていた。俺が拳を握る理由なんて、それで十分だ」








543 : 以下、2... - 2014/03/27 14:46:33.99 O1NcVCm80 316/379



打ち止め「お姉さま、が?」


そして、その事実はクローンの少女を動揺させるのに十分だった。

威嚇のためのスパークが鳴り止んだ。


打ち止め「ちょ、ちょっと待って。お姉さまにはちゃんと説明したはずだよ? クローンを抱えるリスクもこの街の闇も」


そもそも、彼女たちはオリジナルである御坂美琴のためにここまでしてきたのだ。

それなのに、御坂美琴がすでに泣いていたのでは、彼女たちの大義が揺らぐ。


横須賀「……やはりな。そんな根本的なことも分かっていなかったか。」


呆れた顔で巨漢は語る。

外したヘルメットを片手で遊ばせていた。


横須賀「ネットの文字ばかりを辿って現実世界が何も見えていない馬鹿の典型だな。
     根性を入力だの的外れなことを言っている時点でおかしいとは思っていたが。」

上条「あいつが、誰かを犠牲にした平穏を得て嬉しいと思う訳ねぇだろ。それはただのお前の幻想だよ」

打ち止め「う、嘘だ! あなたたちは嘘をついてる! ってミサカは

横須賀「こんなボロボロの身体引きずってわざわざ嘘をつきに来ると思っているのか?」

上条「お前たちが見てきた御坂美琴は、お前たちを本気で切り捨てようとしたことがあったか?」


そう言われて、少女は思い返す。

膨大な情報を収集する前の、そして情報を収集している最中の御坂美琴の姿を。

クローンが殺されかけて逆上した背中を。

病室で原谷矢文に怒っていた影を。あの時、あの少年の言っていた言葉を。

実験現場に駆けつけ、Level5同士のぶつかり合いの被害から守ってくれた勇姿を。

クローンである自分に泣きそうになりながら謝ってくれた顔を。

仲間を裏切ってまで、守る必要のないクローンを守ってくれた根性を。



544 : 以下、2... - 2014/03/27 14:50:22.06 O1NcVCm80 317/379



打ち止め「で、でも! そんなものは一時の気の迷いでしかない!
     この先の人生できっとお姉さまはミサカたちの存在を抱えきれなくなる! ミサカはお姉さまを苦しめたくないの!
     ミサカは、ミサカはあなたたちを倒してでも! 自分の根性を貫き通す! それが、それがミサカの根性なんだから!」


チチチチチチチチヂヂヂヂヂヂバリバリバリバリ!!!! と激情に呼応するように電撃が溢れ出る。

青く光る電撃は巨大な柱のようになり、もはや反応できない速さでそこかしこに飛び交う。

轟音と共にアスファルトをえぐり、建物を貫き、窓ガラスを破壊していく。

そんな一撃が2人にも襲いかかる。



545 : 以下、2... - 2014/03/27 14:51:29.75 O1NcVCm80 318/379


上条「フザけんな!!」


キュィイン! と甲高い音が響いた。

何本もの雷撃の柱はツンツン頭の右手に吸い込まれていった。


打ち止め「なっ」

上条「そんな勝手なお前の幻想で御坂を語るんじゃねぇよ!
    そんな『かもしれない』って未来が! 今泣いているアイツをこれ以上苦しめる理由にはならないだろ!!」

打ち止め「黙って! そっちこそ! そっちこそ何も知らないくせに!」


バッ! と少女は右手を掲げた。

と同時に不思議な現象が起きる。

ゴロゴロゴロゴロゴゴゴゴゴ、と雷雲が急速にあつまる。

先ほどまでの青空は消え、黒い雲が局地的に集合する。

その雷雲のあまりの分厚さに太陽が遮られる。

一瞬にして第一九学区は夜を迎えた。

ビカッ!!!! と巨大な稲妻がツンツン頭の頭上に落ちる。



546 : 以下、2... - 2014/03/27 14:53:22.65 O1NcVCm80 319/379



上条「こんな不幸、既に二番煎じなんだよ!」


キュィイン!! と再び甲高い音が響く。

あろうことか、稲妻は受け止められた。

否、稲妻までもがかき消された。

それどころか、雷雲までもが制御不能となり散っていく。


打ち止め「な、そんな、なんなのその手は!?」

上条「【幻想殺し】。お前の天敵だよ。俺に異能は効かないぞ『SYSTEM』」

打ち止め「!?」

上条「これ以上お前が闘う理由なんてあるのか? これは誰も望んでない闘いだ。
    こんなことしたって誰も喜ばない。お前たちが死んだって、誰も喜びやしない!!」

打ち止め「ミサカは、ミサカ、は、う、あああああああ!!」


頭を抱え、少女は絶叫する。

と同時に、目の前の邪魔な存在を消すための方法を検索していた。

とにかく、目の前の存在は『妹達』の根本を揺らがしかねない。

自分達を守るためにも、目的を果たすためにも、この少年を排除しなければ。


打ち止め「『聖ジョージの聖域』を発動!! 目の前の夷狄を排除!!」


キン! と打ち止めの前に巨大な魔法陣が張られる。

それはかつて削板らの前に現れたものと同じものだった。


横須賀「おいおい。正気か?」

打ち止め「は、発動! 『竜王の殺息』!」


バギン!! と魔法陣の中心部が裂ける。

そこからは異世界を垣間見ることができた。

そしてーーー


547 : 以下、2... - 2014/03/27 14:54:32.94 O1NcVCm80 320/379




キュィィィィィィイイイイイ!!!

と、甲高い音が鳴り続ける。

あろうことか、竜王の一撃までもが。


上条「こんなもんかよ!! 『SYSTEM』!!」


止められていた。

たったの、右手1本で。


打ち止め「嘘、そんな、そんな! こんなの、おかしい!」


この魔術は10万3000冊の中でもトップクラスの威力。

さらには相手の戦闘方法を観察した上で最も効果的な術を逆算して繰り出したのだ。

にもかかわらず、その術が止められている。

かき消されている。




548 : 以下、2... - 2014/03/27 14:56:58.94 O1NcVCm80 321/379



その時


打ち止め「く、あ、あああああああ!?」


クローンの少女の頭に激痛が走る。

無理やり魔術を使った副作用が起きる。

全身の血管浮き出し、身体が拒絶反応を起こす。

しゅうううぅぅぅ……、と巨大な魔法陣は霧散し、光の柱は消えていった。


打ち止め「ゲホッ!! ゴ、あ、ガハッ!! ッハア! ハッ!」


ビチャ、ビチャ、と吐血した血液がヒビ割れたアスファルトを染めていく。

継続して魔力を練り続けることは能力者には不可能だった。


上条「そんなボロボロになってまで、お前は御坂を傷つけたいのか!? お前の言う根性っていったいなんなんだ!!」

打ち止め「ハッ、ハッ、うる、さい!」

上条「……いいぜ。お前が譲らねえなら俺も譲らねえ!」


ダッ、と少年は地面を蹴る。

幼い少女の懐へと一目散に駆け出す。


上条「俺は! 力づくでもお前を止める! 妙な勘違いでアイツを泣かせんじゃねぇよ!」



549 : 以下、2... - 2014/03/27 14:59:45.08 O1NcVCm80 322/379


ブン!! とツンツン頭のヒーローの拳は空を切った。


上条「チッ!」


クローンの少女は磁力を使って大きく後ろに飛んでいた。


打ち止め「ケホッケホ……負けないよ。ミサカだって、根性がある!
      ちょっとやそっとで! 自分の決めた道を曲げる訳にはいかない! ってミサカはミサカは戦闘続行!」


たとえ身体を蝕まれても、攻略法が分からない敵が現れても、この少女は折れない。

それが、彼女を支えている『自分だけの現実』だ。


上条「そうかよ。そっちがその気なら俺だって……!」

横須賀「まあ待て。そうカッカするな。」


再び駆け出そうとする少年を、ライダースーツの大男が制した。


上条「……なんだよ」

横須賀「頭に血が昇りすぎだ。」

打ち止め「ェホ、本当に、人のケンカに横槍入れるのが好きなのね、ってミサカはミサカは幻滅してみたり」

横須賀「大の漢が小娘のガキ1人にタイマン張るのもどうかと思ってな。」


ニッ、と笑いながら大男は肩を竦める。

ヘルメットはバイクにくくりつけられていた。


横須賀「まあ、なんだ。言いたいことは全部こいつが言ったんだが……腑に落ちないことがあってな。」

打ち止め「なにを……!」

横須賀「単純な疑問でな。スキルアウトには理解できないので聞いてみるが……」





横須賀「お前は本当にLevel6か?」






550 : 以下、2... - 2014/03/27 15:01:30.96 O1NcVCm80 323/379



打ち止め「……?」

横須賀「単純な疑問だ。【根性】を【入力】だとか言っているが、それで本当にLevel6になれるのか?」

打ち止め「それは、そうだよ? ってミサカはミサカは当たり前のことを聞いてくるあなたに首を傾げてみたり」

横須賀「ほう。ならばだ、今の根性なしのお前はどう説明する?」

打ち止め「こ、根性なし? ミサカが?」

横須賀「闘う必要もないのにチカラを振るい、死ぬ必要もないのに死のうとしている。
     俺にはお前が生きる根性もない自殺志願者にしか見えん。お前は死ぬことに理由をこじ付けているだけだ。」

打ち止め「ち、ちがう! ちがうよ! ってミサカはミサカは精一杯否定してみる!」

横須賀「ならば、もっと突き詰めてやろう。お前の1番上の姉貴は泣きそうになっていた。それをお前はバグだと言った。
     だが、バグが起きていてもお前たちの脳の一部であることに変わりはない。ならばだ、あの女もお前たちの一員ならば」






横須賀「お前は、本当は生きたいのだろう?」






551 : 以下、2... - 2014/03/27 15:02:32.82 O1NcVCm80 324/379



打ち止め「ーーーっ!」

横須賀「それでも生きてしまえば御坂美琴に迷惑がかかる。それがお前の言い分だ。
     だが、俺に言わせれば悲惨な生い立ちといばらの未来を前に人生を放棄しているとしか思えん。
     だから根性なしだと言ったのだ。楽な道に逃げているだけのな。本当に根性があるなら、立ち向かうぞ。その身1つで。」

打ち止め「ちがう、ちがう、ミサカは、ミサカは!」

横須賀「さて、ここで最初の質問だ。」




横須賀「こんな根性なしが、本当にLevel6なのか?」





552 : 以下、2... - 2014/03/27 15:03:24.55 O1NcVCm80 325/379




打ち止め「う、あ」


目の前の男の言っていることは当たっている。

本当はもっと生きたい。

本当はもっと色んなモノを見てみたい。

本当はもっと色んなことをしてみたい。

本当はもっと色んな食べ物を食べてみたい。

本当はもっと色んな遊びをしてみたい。

本当は、ちょっとだけ、生きることが、怖かった。


打ち止め「あ、ああ、あああああ」


なら、自分は

もしかしたら、根性などなかったのか?

根性を入力なんて、できていなかったのか?




553 : 以下、2... - 2014/03/27 15:04:45.54 O1NcVCm80 326/379




打ち止め「ぎ、や、ああああああああああああああ!!!!」


ビガカカガガガ!!!!! と目を焼かんばかりの閃光が走った。


上条「うわ!?」


それは、能力の奔流だった。

破壊の轟音と打ち消す甲高い音と苦悶の絶叫がこだまする。


打ち止め「やあああああああああああああああああああああ!!! い、や、あああああああ!!」


今、核心を突かれた彼女は『自分だけの現実』が破壊されかかっていた。

そのため、蓄えていた膨大なチカラが制御できずに暴走している。

ドガガガガ!! とめくれたアスファルトはさらに砕けて粉々になる。

ズドドドドド!! とビルの外壁は砕けて地表に落ちる。

ガッシャアア!! と窓ガラスが割れてシャワーのように降り注ぐ。


打ち止め「あああああああああああああああああああああ!! ああああああああああああああああああああ!!」



554 : 以下、2... - 2014/03/27 15:06:15.92 O1NcVCm80 327/379


横須賀「やかましい!!!!!」

打ち止め「ぎゃん!?」


ゴッづん!!!! とクローンの少女の頭に巨大なゲンコツが炸裂した。

と同時に、能力の奔流が途絶えた。


横須賀「……学のないスキルアウトの言葉に『自分だけの現実』を乱されるようでは仮初めのLevel6だ。
     たとえ学園都市と言えど、【根性】を【入力】などできてたまるか。根性は科学ごときでは測りしれぬものだ。」

打ち止め「きゅう……」


渾身の力で頭を殴られた小さな怪物は、そのままふらふらと歩き、脳震盪を起こして倒れそうになった。

ところを、テロリストのような巨漢が殴った方とは別の腕で抱きかかえた。

意識を強引に奪われたため、少女の『自分だけの現実』の崩壊は食い止められた。


横須賀「寝てろ。絶対能力者。」






上条「……あんなとこ突っ込んでいくとか頭イカれてるだろ」

横須賀「こいつはライダースーツ兼絶縁スーツだ。【超電磁砲】がチーム1つ潰したと聞いていたので有り金突っ込んで準備していた。」

上条「イヤ、手ぇ黒炭じゃねえか」

横須賀「あんなめちゃくちゃな電撃の中に突っ込めば絶縁崩壊くらい起きる。
     だが、ふん、腕1本で都市1つ救えるなら釣りがくる。安いものだ。」

上条「……もうお前とはケンカしたくねぇ」ウヘェ…

横須賀「砕けた拳で殴りかかってきたヤツがなにを言っている。」






555 : 以下、2... - 2014/03/27 15:07:48.81 O1NcVCm80 328/379


ー第一四学区、とあるアパート前



アレイスター「ハッ、ハッ、おのれ、おのれ!」


今、第一四学区には世界最大の魔術師と称された人物が息も絶え絶えに苛立ちながら早足で歩いていた。

先ほど【幻想殺し】によって消滅したはずの人間だが、彼はここにも確実に存在している。

それもそのはず。彼は今、存在そのものを変えられたのだ。

今、ここにいるアレイスター・クロウリーは間違いなくアレイスター・クロウリーだ。

しかし、一方で先ほど消されたアレイスター・クロウリーも間違いなくアレイスター・クロウリーだ。

先ほどまでの彼はもはや1と0では表せない存在だった。それほどまでに曖昧であやふやな存在だった。

それを『世界を元に戻すチカラ』、つまり1に戻すチカラのせいで強制的に存在をはっきりさせられた。



556 : 以下、2... - 2014/03/27 15:08:57.97 O1NcVCm80 329/379


もはや彼の『プラン』は9割方崩壊していた。

立て直しようなどあるはずがない。


アレイスター「まだだ! まだ終わらない!」


しかし、それでもこのただの人間は諦めない。

中途半端に崩壊するよりもいっそ豪快に崩壊した方がリスタートは早くなる。

ここまで壊されればもとの『プラン』の過程に執着などない。

どのようなプロセスを経ようが、最終的に望むべく結果が得られればそれでよいのだから。



557 : 以下、2... - 2014/03/27 15:10:51.92 O1NcVCm80 330/379


目的の部屋の前に辿り着くと、彼は何かを呟いた。

その瞬間、バゴン! と扉が吹き飛んでいった。

明らかな住居不法侵入だが、もはやそんなことは気にしていられない。

一気に『プラン』を巻き返すための重要な道具、それがここにある。

それさえあれば、飛躍的に『プラン』は進んでいく。

もちろんそれは厳重に守られているはずだが、学園都市の頂点に立つ世界最大の魔術師にはそんなものは障害にならない。


アレイスター「ーーーっ!」


だが、部屋の中に入った瞬間、アレイスターはさらに苛立った表情を浮かべた。

部屋の主が留守であることは確認していたはずだったが、部屋の主ではない人物が鎮座していた。

その人物はハチマキを巻いた、最強をも打ち倒した漢だった。


削板「おう、ノックが強すぎるぞ。根性なし」


Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇だった。




558 : 以下、2... - 2014/03/27 15:14:19.40 O1NcVCm80 331/379


アレイスター「なぜ貴様がここにいる!」

削板「モツから話を聞いた原谷たちが連絡を寄越した。
    お前が狙ってくるとしたらインデックスか、神裂の部屋にあるインデックスを操る杖だってな」


かつて、ステイルと神裂がインデックスにかけられた呪いを解くために『イギリス清教』から強奪してきた『遠隔制御霊装』。

それは、インデックスの10万3000冊と共に脳に刻まれている【自動書記】のプログラムを遠隔で操る杖だ。

無事にインデックスを救った後は、神裂が自宅の金庫に入れた上で幾重にも保護魔術をかけて厳重に保管していた。

だからこそ、アレイスター・クロウリーはその杖とインデックスを奪おうとしていたのだ。




559 : 以下、2... - 2014/03/27 15:14:51.74 O1NcVCm80 332/379

削板「……学園都市統括理事長だろうが誰だろうが、俺のやることは変わらん。
    アイツを、インデックスを地獄の底に落とそうとする根性なしは許さん。倒させてもらうぞ」


スクッ、と旭日旗のシャツを着た少年は立ち上がる。

狭い室内で2人の人間が向かいあった。


アレイスター「一方通行にやられて満身創痍の貴様が私に勝てると思っているのか?」

削板「お互い様だ。お前がどんだけ強いか知らねえが、モツと上条を同時に敵に回して無事でいられるわけねえだろ」

アレイスター「……ナメられたものだ」


キン、とアレイスターの手に金色の杖が握られる。

それがかつて『世界最大の魔術師』と称されたアレイスター・クロウリーの武器だった。


削板「神裂の許可はもらってるし、住人は避難済みだ。目一杯暴れても構わねえぞ!」


ボゥン! と赤青黄の3色の煙が噴き出る。

その煙は室内に一気に充満し、ほとんど距離がないにもかかわらず両者の姿は互いに見えなくなった。



560 : 以下、2... - 2014/03/27 15:15:43.91 O1NcVCm80 333/379


アレイスター「馬鹿のひとつ覚えだな。才ある者の悲しい性だ」


スッ、スッ、とアレイスターは素早く杖を動かす。

すると、そこに黒い五芒星が出現した。


アレイスター「科学的に解明出来ないとはいえ、魔術的な見地から見れば話は別だ。
        貴様のそれはローマ神話における【軍神】の類いのもの。だとすれば対抗策はいくらでもある」


かつて、削板と対立した【魔神】は削板の能力をこう分析した。

『ローマ神話における【軍神】マールスの類似系統の力』と。

それは国家の守護神。火星を意味するもの。

そして何より、男性の武勇や闘争心の象徴。

男性そのものを表すシンボル。

そこまで分かっていれば、対抗する魔術は逆算できる。

『世界最大の魔術師』と呼ばれてきたアレイスター・クロウリーならばいくらでも策は練れる。



561 : 以下、2... - 2014/03/27 15:16:23.80 O1NcVCm80 334/379



バギン!! と五芒星が割れた。


アレイスター「!?」

削板「もう一丁!」


濃い煙の中でも薄っすら表情が見える。

そのくらい、2人は接近している。


削板「『超! スゴいパンチ』!」


とっさにアレイスターが杖を前に出す。

しかし


アレイスター「ゴハッ!?」


ベギン!! と金色の杖が真っ二つに折れる。

それだけでなく、削板の拳がアレイスターに突き刺さる。


アレイスター「な、馬鹿な!? なぜだ!? なぜ!?」

削板「そいつが分かれば苦労しねえよ」



562 : 以下、2... - 2014/03/27 15:18:20.98 O1NcVCm80 335/379


この時、アレイスターは読み間違えていた。

かつて相対した【魔神】はこう分析していた。

ローマ神話における【軍神】マールスの『類似系統の力』、と。

表面上は似ているが、削板の能力はマールスに由来しているものではない。

さらに、あれから更なる死線をくぐり抜けてきた削板の能力は更に洗練されていた。

そもそも、なぜ神話や聖書の人物は奇跡のような現象を起こせるのか。

それは、世界の法則に則っているからにすぎない。

誰も気づかない、少数の人物にだけ適用される物理以外の法則がそこにはあるのだ。

例えば【聖人】は教祖となった神の子と身体的・魔術的特徴が類似しているためにそのチカラを扱える。

しかし、神の子自身は世界の法則に則った身体的特徴があったというだけなのだ。

ただ、歴史上最も完璧な比率の身体的特徴で生まれた人物が教祖となった神の子というだけで。

そうでなければ、最初に神の子として崇められた十字教の教祖のチカラは説明がつかない。

そのため、後の【聖人】たちは身体的特徴に加えて偶像の理論による魔術的特徴を備えてようやく【聖人】たり得るのだ。

今も昔も、世界の法則は変わらない。チカラを得ること自体は奇跡ではなく現象にすぎない。

つまり、どんな時代にも奇跡を生み出す人間は生まれる。

それが【原石】なのだ。

神話のマールスも、古の十字教の教祖も。

そして、現代の削板軍覇も。

つまり、この漢の能力はマールスの派生系などではない。

削板軍覇による、削板軍覇だけが扱えるオリジナル。

男性ではなく漢を象徴するチカラ。

強いて述べるのなら、それが削板の能力の正体だ。


563 : 以下、2... - 2014/03/27 15:19:24.18 O1NcVCm80 336/379


アレイスター「くそっ! くそっ! 削板軍覇ぁぁああ!!」

削板「じゃあな、理事長」


煙が逆巻く。そして、削板の背後に圧縮されて集合していく。


削板「いっぺん頭冷やしてこい!!」


ドガッ!!! と不可視のチカラがアレイスターの顔面に直撃した。

その直後、3色の煙が一斉にアレイスターに襲いかかる。

室内のモノ全てを一瞬で巻き込んでいく。


アレイスター「お、の、れえええええぇぇぇぇ!」


グオオオオオオ!! と突風のような煙の流れに押し出され、銀の髪の魔術師は玄関口から吹き飛んでいった。





564 : 以下、2... - 2014/03/27 15:20:06.14 O1NcVCm80 337/379


ー第一四学区、裏通り



アレイスター「ッハァ、ハッ……」


吹き飛ばされた銀の魔術師は壁にもたれかかっていた。

もはや全身ボロボロになり、緑の手術衣はところどころ破けていた。

いつもの余裕はどこにもない。

いつもの微笑もどこにもない。

かつてイギリスの片田舎で味わった屈辱が彼を襲っていた。



565 : 以下、2... - 2014/03/27 15:21:05.63 O1NcVCm80 338/379



スタ、スタ、とゆっくりとした足音が近づいてきた。


アレイスター「……?」


不審に思った銀の魔術師は足音の方向に顔を向ける。

すると、薄暗い通りの奥の方でぼんやりとしたシルエットを見つけた。

そのシルエットは細身の人間のものだった。

その人間はアレイスターのお気に入りの人物だった。


一方通行「あっはァ、見ィつけたァ」


Level5の第一位にして学園都市の頂点、一方通行だった。



566 : 以下、2... - 2014/03/27 15:23:15.21 O1NcVCm80 339/379



アレイスター「あ、一方通行……」

一方通行「ひっさしぶりィ、統括理事長。相変わらずツッコミどころ満載だなァおい」


スタ、スタ、と足音は近づく。

ここまで来ると相手の顔もはっきり見える。


アレイスター「……なんの用だ」

一方通行「あァ? あっひゃひゃ、イヤな? さっきクローンのガキが面白い情報を頭にダイレクトでくれてよォ」


足音が止まった。目の前に凶悪な顔が出てきた。


アレイスター「……?」

一方通行「『絶対能力進化実験』。アレ、嘘なンだってな」

アレイスター「な、に?」

一方通行「あの実験、クローンを世界にバラまくためのモンで、俺をLevel6にする実験じゃねェンだってな。
      それどころか、クローンを2万ブッ殺したところでLevel6になれる確証なンざねェンだってな!
      挙げ句の果てにゃァ俺以外でもLevel6になれる上にあンなクソみてェな方法じゃなくてもLevel6がバカスカ生まれてンじゃねェか!!」

アレイスター「……そ、れは」

一方通行「ンでェ!? その黒幕がお前なンだってェ!? おいおいおいおい理事長!! 愉快すぎるぜェ!!」

アレイスター「ま、」

一方通行「ここまでコケにされるとは思わなかったぜ理事長!!
      この落とし前はきっちりつけさせてもらうぞこンのボロ雑巾がァ!!」





567 : 以下、2... - 2014/03/27 15:24:00.76 O1NcVCm80 340/379


ー第一九学区、大通り交差点



クローンの少女はぐっすり眠っていた。

なぜかは知らないが、心地よい気分がしていた。


打ち止め「…………?」


目を閉じたまま、少女は顔に何かが落ちてきたのを感じた。

おそらく液体のようなものがポタポタと顔に落ちてきている。

クローンの少女は不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。


打ち止め「う、ん…………え……?」


ぼやけていた視界がはっきりと見えてくる。

目の前には信じられないものがあった。


御坂「……大丈夫? 打ち止め」


オリジナルである御坂美琴の。

この街のヒーローである御坂美琴の。

くしゃくしゃの泣き顔が目の前にあった。



568 : 以下、2... - 2014/03/27 15:24:49.14 O1NcVCm80 341/379



意識が覚醒してくるにつれて、いろいろなことが把握できてくる。

どうしようもないほどの疲労感。

グワングワンする頭。

ズキズキ痛む頭頂部。

優しい感触のする後頭部。

今、クローンの少女はオリジナルの少女に膝枕をされていた。


御坂「ごめんね……ごめんね……私のために、私のせいで……」

打ち止め「おねえ、さま? なんで泣いてるの?」

御坂「だって、だって、私が、だからアンタたちは思い詰めて、だから、だから…………!」



569 : 以下、2... - 2014/03/27 15:25:45.05 O1NcVCm80 342/379


横須賀「分かったか? 小娘。」

上条「これが現実だよ」


少し離れたところから声がした。

そちらの方を向くと、先ほどの大男とツンツン頭。

その周りに先ほど地下室に閉じ込めてしまった大男の仲間とガラの悪い男たちがいた。


横須賀「お前の姉貴はお前と違って根性あるぞ。どんな未来だろうと、お前と共に生きたいそうだ。」

上条「死んだ方が御坂は喜ぶなんてのはお前の幻想だよ」


打ち止め「おねえさま……」

御坂「グスッ、うぅ……」



570 : 以下、2... - 2014/03/27 15:27:15.07 O1NcVCm80 343/379


打ち止め「ねえ、おねえさま……」

御坂「……なに?」

打ち止め「ミサカは、ミサカたちは本当に生きてていいの? ってミサカはミサカは……」

御坂「そんなの、当たり前じゃない!」

打ち止め「ホント、に?」

御坂「ホントよ! だから! お願いだから!」






御坂「もう、死なないでよぉ……」







571 : 以下、2... - 2014/03/27 15:28:11.05 O1NcVCm80 344/379


これ以上は、もう堪えきれなかった。


打ち止め「う、うぅ、うわあああああああん!!」


嬉しくて。

切なくて。

申し訳なくて。

それでもやっぱり嬉しくて。

クローンの少女は年相応に大泣きした。


打ち止め「ごめんなさい! ごめんなさいぃ! うあああああああん!!」

御坂「うん、うん、私も、ごめんね?」


この時、崩壊しかかっていたクローンの少女の『自分だけの現実』は再び構築された。

やはり、根性は入力できるものではなかった。





572 : 以下、2... - 2014/03/27 15:29:07.37 O1NcVCm80 345/379



横須賀「……教育終了。これで少しは分かっただろう。根性とはなんぞやという問いの答えが。」

上条「ははっ、随分おっかない教師だな」

横須賀「ふん。何はともあれ、一件落着だな。」






スキルアウト「ええ。一件落着ッスよね」ガシッ

横須賀「ん? 何抱きついて……」

スキルアウト「おい! 誰か脚いけ! 持ち上げんぞ!」

スキルアウト「ラッセい!」グイッ

横須賀「むおっ!? 何をする!」

スキルアウト「こっちのセリフッスよ! なに病院抜け出してんスか!」

スキルアウト「早く戻らないとアンタいい加減死ぬッスよ!?」

横須賀「大丈夫だ! さっき回復魔術で腕を」

スキルアウト「完全に頭イカれてんじゃないスか!」

スキルアウト「そろそろ先生にシバかれますよ!?」

横須賀「ちが、ああ! とりあえず一旦降ろせ!」ジタバタ

スキルアウト「ちょ、暴れねえでくださいよ!」

スキルアウト「おい! だれか手ぇ貸してくれ!」



573 : 以下、2... - 2014/03/27 15:30:11.54 O1NcVCm80 346/379


原谷「よっ」ヒョイ

横須賀「あ? ルーン?」

原谷「ステイルさん」

ステイル「了解」ビッ

横須賀「うお!? なんだこれは!? ロープ!?」

インデックス「捕縛用の術式なんだよ」

スキルアウト「でかしたヤブミンとでけえの!」

スキルアウト「おい! 車回せ! 病院まで護送すんぞ!」

スキルアウト「もう回してるっつーの! 行きますよ横須賀さん!」

横須賀「……分かった、もう好きにしろ……。」





574 : 以下、2... - 2014/03/27 15:31:04.78 O1NcVCm80 347/379


ブオオオオオオ……!


上条「……嵐みたいな連中だな」

打ち止め「……ほとんど拉致だったね、ってミサカはミサカは驚いてみたり」

原谷「あの人あのくらいしないと本気であのまま家に帰るつもりだったから」

御坂「……ホントに、迷惑かけちゃったわね」

インデックス「ちゃんとお礼言えば、よこすかもみんなもそんな小さなこと気にしないんだよ」

御坂「……うん。分かった」

ステイル「……じゃ、帰ろうか」

神裂「ええ。部屋掃除が待っています」

ステイル「……忘れてた……」

原谷「あはは、手伝いますよ」

打ち止め「み、ミサカも」

御坂「アンタは病院。悪いけど、私はこのコを連れてくわ」

上条「俺も付き添うよ。心配だしな」

インデックス「うん。じゃあ、ここでお別れなんだよ」



575 : 以下、2... - 2014/03/27 15:33:19.69 O1NcVCm80 348/379


ー一時間半後、第七学区とある病院



横須賀「やれやれ、またここか……。」


舎弟に担ぎ込まれた横須賀は再び病院のベッドの中にいた。

おまけに部屋の外ではまだ舎弟が見張りについている。

どうやら面会時間ギリギリまで見張っているらしい。


横須賀「……俺とて用がなければわざわざ抜け出そうとは思わんわ。ったく……。」


ちなみに、腕の方は神裂が迅速に回復魔術をかけたのである程度は回復している。

とはいえ、重傷の域には至っているのだが。



576 : 以下、2... - 2014/03/27 15:34:59.40 O1NcVCm80 349/379


ガラッ、と扉が開く音がした。


横須賀「? なんだ? 俺はちゃんとベッドの中にいるぞ。」


見張っていた舎弟か回診にきた病院関係の人間かと思った横須賀は、姿を確認する前に声をかけた。

しかし、入ってきた人物は舎弟でも病院関係の人間でもなかった。

その人物は、片足がなかった。


9982号「……」

横須賀「ああ、お前か。」


一昨日の晩に横須賀が命懸けで助けたクローン。

検体番号9982号だった。



577 : 以下、2... - 2014/03/27 15:35:54.90 O1NcVCm80 350/379


9982号「……」

横須賀「片足がない人間がそんなにひっきりなしに動いていいのか?」

9982号「よくはありませんが、どうしても伝えたいことがあったので、とミサカは切り出します」

横須賀「?」


スゥ、とクローンの少女は息を吸った。


9982号「助けていただいて、ありがとうございました、とミサカは深々と頭を下げます」



578 : 以下、2... - 2014/03/27 15:38:32.34 O1NcVCm80 351/379


横須賀「……はっ、ようやく礼を言えたか。」

9982号「はい、あなたのおかげで、ミサカは、ひっく、ミサ、カは」

横須賀「せっかく助けたのに泣くな。もっと喜べ。」

9982号「喜んでます! 喜んでいるから、ミサカは」

横須賀「……よくもまあ、これでクローンだ人形だなどど言えたものだ。」

9982号「うぅ……う~……」

横須賀「はぁ……おい、もうちょっとこっちに来い。」

9982号「?」


ぼろぼろと涙を流しながら、少女は1歩ベッドに近づいた。


9982号「わ」


その瞬間、上半身をゆっくりとベッドに引き込まれた。

彼女の上半身は横須賀の上に乗っかってしまった。


横須賀「……女を慰める器用な言葉など知らん。だから、泣き止むまでこうしていろ。」


彼女の上半身は横須賀に抱きしめられてしまった。


9982号「……ふふっ、ありがとう、ございます」


常に無表情だったクローンの顔に、初めて笑顔が浮かんだ。





598 : 以下、2... - 2014/03/29 22:42:29.25 vYHCpdA30 352/379


ー数日後、第七学区とある病院




アレイスター「……? ここは……」

冥土帰し「や、気づいたようだね?」

アレイスター「!」

冥土帰し「こうしてキミを治療するのも随分久しぶりだ」

アレイスター「……私は、どうしてここに……?」

冥土帰し「別の病院の前に放り投げられてたみたいだね? 事情が事情だからボクの病院に運ばせてもらった」



599 : 以下、2... - 2014/03/29 22:44:18.34 vYHCpdA30 353/379


アレイスター「……私を生身のままここに置いておいていいのか?」

冥土帰し「それだけ弱っていたらサーチ術式にも引っかかりようがない。
      情報統制は上手くやっておいたし、前の病院もキミが誰か分かってなかったみたいだから問題ないね?」

アレイスター「……そうか」

冥土帰し「ねえ? アレイスター。キミは少し向こう見ずなところがあるね?
      キミの『プラン』の行く末はボクも興味がある。だが、あまりになりふり構わないのはどうかと思うね?」

アレイスター「……心配せずとも『プラン』はもうおしまいだ。実行のしようがない」

冥土帰し「本当にそうかい?」

アレイスター「実現させる手立てがない。エイワスは消えた。私の目標は実現不可能だ」

冥土帰し「それでも聞くべきことは聞けたのだろう?」

アレイスター「……」

冥土帰し「ボクは医者だ。患者の望むものならなんだって揃える。都市ひとつだってね?」

アレイスター「……また、手を貸してくれるのか?」

冥土帰し「ああ。今度はもっと周りに危害を与えないやり方にするならね?」





600 : 以下、2... - 2014/03/29 22:46:22.06 vYHCpdA30 354/379


ー第二一学区、山中の隠れ家



貝積「すまないな。復帰早々老人と連日残業で」

雲川「事態が事態なだけに仕方ないけど。
    『絶対能力進化実験』の成功。木原幻生の死亡。クローンの隠蔽。統括理事長の失踪。問題だらけだ。
    おまけに削板どころか上条までもがこの事件に関わってただと? クソ、あそこで一方通行を倒せていれば……」

貝積「無理だけはするな」

雲川「無理しなきゃ捌けない量なのだけど」

貝積「それでもだ。たまには大人を頼れ」

雲川「いつになくカッコつけるじゃないか。だったら早く私が楽できる環境を作れ」



601 : 以下、2... - 2014/03/29 22:47:50.01 vYHCpdA30 355/379


貝積「……いいだろう。作ってみせるさ」

雲川「ほう? どうやって?」

貝積「空いた学園都市統括理事長の座に私が就く」

雲川「」

貝積「ビーカーの中で逆さまに浮いててもできる簡単な仕事だ。私にもできる」

雲川「プッ、あっはははは! いいなそれは! 私も楽できそうだ!」

貝積「だろう? よし、俄然燃えてきた。ライバルは潮岸だな。親船が変な気を回してくれなければいいが」

雲川「くっくっく、大した老人だ。いいだろう、まずはこの案件を手早くまとめて他の連中よりも優位に立つぞ」




602 : 以下、2... - 2014/03/29 22:50:42.48 vYHCpdA30 356/379


ー第十学区、とある廃墟



天井「……わざわざこんなところに来てもらって悪かったね」

御坂「……アンタが誰か知らないけど『妹達』の名前が出てくるってことはロクな話じゃないんでしょ?」

天井「ああ、ロクでもない話だ。だが、君にはちゃんと話さないといけないと思ってね」

御坂「……なによ?」

天井「……私は『量産型能力者計画』の発案者だ」

御坂「!」

天井「当時、君のDNAマップを悪用したのも私だ。今回の『絶対能力進化実験』にも私は噛んでいた」

御坂「……とんでもない悪党ね」

天井「ああ。どうしようもないほどにな」

御坂「……それで? なんで今になってわざわざそんなことを言いに来たわけ?」

天井「……学園都市では私を裁けなかった。Level6を生み出した私に科せられた罪はほんの少しの罰金刑だ」

御坂「……」

天井「その代わり、他のキナ臭い実験の勧誘がゴロゴロ来る。この街は業が深すぎる。
    ……自分で生み出したクローンに諭された。私は自分にほとほとに嫌気がさした。
    私のしてきたことは間違っていた。一連の事件の責任は私にある。本当にすまなかった」



603 : 以下、2... - 2014/03/29 22:52:45.35 vYHCpdA30 357/379


御坂「……ベラベラ理屈並べてるけどさ、アンタ自分がスッキリしたいから私に謝ってるだけでしょ?」

天井「……そう受け取ってもらっても構わない。だが、申し訳ないと思っているのは本当だ」

御坂「どうかしらね。そんな悪党が簡単に心変わりできるかしら?」

天井「……そう思うなら、今この場で好きなだけ痛めつければいい。こんな廃墟に人の目などない」

御坂「そんなことでアンタの罪が消えるの? アンタのせいで、どれだけの『妹達』が……」

天井「……」

御坂「……」

天井「……」

御坂「30年」

天井「……?」

御坂「『妹達』の寿命、予定よりも30年延ばしなさい。あれだけ無茶な成長させてるなら長生きできる身体じゃないんでしょ?
    でも、そんなのは許さない。仮にもあのコ達を生み出した張本人なら、少しでもまともな人生をあのコ達に歩ませなさい」

天井「……ああ。約束しよう」

御坂「それからもう2度と私の人生に出てこないで。アンタの顔はもう見たくない」

天井「分かった」

御坂「でも、こんなので罪が償えると思ったら大間違いよ。これは一生アンタにつきまとう」

天井「……そう、だな」

御坂「分かってんならいいわ。それじゃさよなら。もう会わないでね」





604 : 以下、2... - 2014/03/29 22:54:16.61 vYHCpdA30 358/379


ー第一三学区、とある研究所



唯一「」

脳幹「……自分がどれだけスゴい発見をしたか、今頃気づいたか」ハァ

唯一「いやいや、根性が『自分だけの現実』に最適なんて理論は幻生さんの発見ですし」

脳幹「そうだが……やはり荒れたな」

唯一「ってことはこうなるって分かってたんですか?」

脳幹「いいや。幻生さんの時代が来ると予想していた。まさか『木原』でも制御不能だとは思わなかったよ」

唯一「はぇー、幻生さんの予想も脳幹さんの予想も越えたんですか。私ってスゴい」

脳幹「気付くのが遅いよ」ハァ



605 : 以下、2... - 2014/03/29 22:59:16.30 vYHCpdA30 359/379


唯一「しかしまあ、アレイスターさんの監視が緩むってことはもっとやれますね」

脳幹「ほう。何かあるのかい?」

唯一「まず【能力追跡】。アレを完成させます。『アイテム』を完全に支配下に置ければ護衛はそれで十分。
    そうすれば恋査が用無しになるから莫大な維持費が浮きます。そして、その維持費をこっちに持ってこれます」

脳幹「そのカネでどうする?」

唯一「既存のLevel5以外の能力を研究をします。今までは『プラン』関係に絞られてそっちがメインでしたからね。
    『素養格付』には穴があると睨んでんですよ。アレ、ぶっちゃけ『五行機関』に重要そうな能力を基準に選んでそうだし。
     そんなのまったく関係ないような、それでいて面白そうな能力開発を行ないます。要は今までの落ちこぼれ達の再開発です」

脳幹「ふむ『素用格付』の判断基準そのものを疑うか。なかなか面白そうな研究だね」

唯一「でしょう? ……それにしても」

脳幹「ああ。世界は今日も科学で溢れているな」





606 : 以下、2... - 2014/03/29 23:00:56.80 vYHCpdA30 360/379


ー第七学区、とある病院



9982号「ふっ!」


ズガァン!!


横須賀「」

上条「~~ってえ! マットの上からこれかよ!」

9982号「ブラボー、とミサカは新しい脚に惜しみないグッジョブを送ります」

横須賀「……ホントに着けたのか。護身用ターボキック式義足。」

上条「なんちゅうもん作ってんだ、あの先生……」

9982号「奥の手は常に必要です、とミサカは破壊力と身体的な負担効率を比較しても有効であることに感嘆します」

横須賀「奥の手というより奥の脚だろう。」

9982号「奥の脚……な、何を考えているのですか、とミサカは頬を染め

横須賀「誰が脚の奥と言った。」



607 : 以下、2... - 2014/03/29 23:03:09.91 vYHCpdA30 361/379


9982号「というより、何故あなたはほとんど全快しているのですか、とミサカは化け物級の生命力に驚愕します」

横須賀「お前も脚振り回しているだろう。」

上条「たしかにな」

9982号「ミサカはあなたと違って安静にしていたので、とミサカは途中で格上とケンカしなかったことをアピールします」

横須賀「ならアレだ。俺は途中で回復魔術をかけてもらったからな。」

9982号「それで説明がつくのですか、とミサカはやはり化け物級の生命力であることを確認します」

上条「俺にしてみればどっちも化け物だっつーの。戦闘民族か」

横須賀「もっと食えばもっと早く回復すると思うのだがな。病院食では足らん。」

9982号「……では、今度ミサカに奢らせてください、とミサカはわずかばかりのお礼を提案します」

横須賀「ん? お前カネ持っているのか?」

9982号「Level6の奨学金を甘く見ないでください、とミサカはもはや守られる存在でないことをアピールします」

上条「……羨ましいな~」

横須賀「……俺より真っ当で安定した収入か。なら、馳走になろう。」

9982号「お任せください、とミサカは今から多彩な料理とめくるめくデートに心を踊らせます」フンフン

横須賀「ああ。……ん? デート?」

上条「え?」

9982号「不束者ですがよろしくお願いします、とミサカは顔を綻ばせます」ニコ

横須賀「……はぁ、確かに感情がバグっているな。俺もお前も。」

上条「え!? え!? マジかお前ら!!」





608 : 以下、2... - 2014/03/29 23:04:47.27 vYHCpdA30 362/379


ー第七学区、広場



打ち止め「そんな訳で、何人かは学園都市に残って、大多数は世界中に派遣されるの!
      ってミサカはミサカはLevel6が世界中の科学の発展に協力することをご報告!」

原谷「……いや、それはいいんだけどさ」

削板「お前はそいつと一緒でいいのか?」

一方通行「……」

打ち止め「うん! これからいっぱいワガママ聞いてもらうんだ、ってミサカはミサカはささやかな仕返し計画を暴露してみたり!」

ステイル「……【魔導図書館】の世界派遣か。しばらくはどこの国も戦争はできないね」

神裂「一応その事実は伏せられるようです。彼女たちも魔力を練らなければ気づかれないでしょうし」

インデックス「未だに信じられないんだよ。10万3000冊の魔導書をコピーされたなんて……」



609 : 以下、2... - 2014/03/29 23:07:01.30 vYHCpdA30 363/379


打ち止め「ホントはお姉さまにも聞いてほしかったんだけど……」

原谷「用事があったんだって? それじゃしょうがないさ。……正直聞いたらブチギレると思うけど」

一方通行「……」

削板「こいつが自分で決めたんだ。一方通行のやったことは許さんでも一緒にいることくらい認めるんじゃないか?」

一方通行「……その前にテメェらはいいのかよ?」

原谷「はい?」

一方通行「テメェらの仲間半殺しにしたことはチャラか?」

削板「モツと雲川のケンカはあいつらのモンだろ? クローンが殺されねえなら俺たちはもう文句はねえ」

一方通行「……やっぱ訳分かンねェな、お前ら」



610 : 以下、2... - 2014/03/29 23:13:04.22 vYHCpdA30 364/379


打ち止め「それじゃ、ミサカ達は他のミサカのお見送りに行くね、ってミサカはミサカは悲しいお別れを告げてみたり」

ステイル「……よく分からないが、精神内で繋がっているのに見送りなどいるのかい?」

打ち止め「親しき中にも礼儀あり、ってミサカはミサカは格言を引き出してみたり」

神裂「そういうものなのですか……あぁ、なるほど。これが原谷矢文の感じていたカルチャーショックというものですか」

原谷「若干違う気が……ま、いっか」

インデックス「私たちは病院にお見舞い行くから、これでお別れなんだよ」

打ち止め「うん、あんまりからかわないであげてね、ってミサカはミサカは予防線を張ってみる」

削板「からかう? なんの話だ?」

打ち止め「行ってからのお楽しみー! ってミサカはミサカはさっきから9982号につられてハイテンション!」

原谷「?」

打ち止め「それじゃまた会おうねー、ってミサカはミサカは一方通行の手を取り駆け出してみたり!」

一方通行「うお、待てクソガキ!」



611 : 以下、2... - 2014/03/29 23:15:43.40 vYHCpdA30 365/379


削板「……行っちまったな」

原谷「横須賀さんかクローンに何かあったんですかね?」

ステイル「何があっても彼なら問題ない気がするけどね」

神裂「同感です」

インデックス「だってよこすかだもんね。当然なんだよ」

削板「ま、それもそうだな!」

原谷「あの人どんだけ化け物扱いされてんですか。
    ……それにしても、毎度毎度事件の規模がデカいですね。
    魔術師、【魔神】、騎士団、【吸血殺し】、【幻想殺し】、錬金術師、Level5、Level6、統括理事長ですか」

ステイル「よくもまあ無事でいられるね。早々に病院送りになったボクにはついていけないよ」

神裂「私でも無理でしょうね」

インデックス「そんなことないんだよ! すているもかおりも今はスゴい根性があるからね!」

削板「おう! お前らがいれば何が来たって怖くねえ! 根性ある仲間がいれば不可能なんてねえからな!」





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一方通行「……おい、クソガキ」

打ち止め「ん? なぁに? ってミサカはミサカは聞き返してみたり」

一方通行「あン時なンであンな真似した?」

打ち止め「?」

一方通行「俺をシバいた理由もその後治した理由も聞いた。理解はできねェがな。
      だが、黒幕が木原のジジイとアレイスターだってことをバラした理由が分からねェ」

打ち止め「……理由はいくつかあるよ。もしもミサカ達がどこかでしくじった時の保険のため、とかね」

一方通行「……」



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打ち止め「でも1番の理由は、やっぱり悔しかったからかな、ってミサカはミサカは明快な答えを提示してみたり」

一方通行「!」

打ち止め「ミサカもあなたも、それなりに苦しみながらあの実験に取り組んできた。
      それなのに、実験の真の目的は全然違う所にあった。悔しかったし、あなたも悔しいと感じると思った」

一方通行「……」

打ち止め「だから、あなたにも知らせたの、ってミサカはミサカはちゃんと動いてくれたあなたにグッジョブを送ってみたり」

一方通行「……ハッ、なるほどな。で、あとは俺からタカりまくるわけか」

打ち止め「悪く言えばね。死んで罪を償うなんて許さない。自分より小さいのに自分より強い怪物のパシリになるの刑よ
      って、ミサカはミサカは馬鹿みたいにプライドの高いあなたに無間地獄のような苦しみを味合わせるつもりだったり!」

一方通行「……それでいいのか、テメェは」

打ち止め「死ぬだの闘うだのの簡単な責任の取り方よりよっぽどマシよ、ってミサカはミサカはぶちまけてみたり」

一方通行「……………そォかい。じゃあ甘ンじて受け入れてやンよ」





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かくして、削板たちが関わってきた事件の中でも一際大きかった事件は幕を閉じた。

この事件により学園都市内でも世界規模でもパワーバランスは大きく傾くことになる。

それに伴い、この後も様々な事件が引き起こされることとなる。

この一団の平穏な日常など長くは続かない。

トラブルが向こうから来れば真っ正面から立ち向かい、トラブルを見つければ真っ正面から突っ込んでいく。

そんな性質を持っていれば、平穏な日々など長くは続かない。

長くは続かないが。

その結末はハッピーエンドに向かうに違いない。




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横須賀「根性勢力? なに訳の分からんことを言っているんだ貴様は。
     そんなことより俺の身内にストーキングなんかして、タダで済むとでも思っているのか?」

9982号(身内……)ポッ


海原(……………羨ましい!!!)ダン!






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上条「だったらなんで最初からそう言わねえんだ! 助けたい人がいるから手を貸してくれって頭下げろよ! あいつらがそれを聞いて断るような薄情なヤツらなわけないだろ!? それはあいつらが1番忌み嫌う根性なしって存在だ! こんな真似してこの後どうするんだよ!! あのレストランの窓ガラス代お前が弁償しろよちくしょー!!!」


闇坂「……その、なんだ……すまなかった……」






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ステイル「チッ、とうとう来たか……!」

神裂「待ちなさいシェリー! あなたの目的は我々のはず! この街の学生は関係ないでしょう!?」


シェリー「あぁ? 誰でもいいんだよ、誰でも。火種さえ起こせればな!」






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建宮「お初に、禁書目録。いきなりで悪いが、ちょっと手ぇ貸してほしいのよな」


インデックス「うん、当然なんだよ。あなた達も私の命の恩人だもん。一緒にオルソラ=アクィナスを助けよう」






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原谷「だーあー、もーめっちゃくちゃ……。選手宣誓くらいマトモにできないのかね、あの人」

雲川「よしよし、よくやった。あの腹立つ第五位が調子乗らずに済んだな」






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打ち止め「あんまりこの街で調子こかないでほしいな、ってミサカはミサカは性悪バナナにブチ切れてみたり」


ヴェント「なんだてめえ……なんで『天罰術式』か効かねえ!」






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アウレオルス「呆然、なぜ貴様のような人間がこんな所で野放しになっている」


テッラ「おやおや、誰かと思えば落ちこぼれの背信者ですか。ぶっ殺したくなってきますねー」


姫神「……呼ぶ? 吸血鬼」






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アックア「『ローマ聖教』『神の右席』【後方】のアックア」


削板「Level5第七位【ナンバーセブン】削板軍覇」






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どんなに逆風が吹き、絶望が現われようとも、彼らにはそんなものをものともしない気概、すなわち『根性』を持っているのだから。

この先何が訪れても、彼らにバッドエンドはあり得ないだろう。

彼らが誇るべき『根性』を失わない限りは。






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完・とある根性の旧約再編










これにて完結。




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このSSはここまでです。
根性禁書もここまでです。


終わりました!
雑談スレに誤爆してすいませんでした!
なんとか宣言通り3月中に終わらせることもできました。
なんかもう感無量です。
最近の禁書でも鬼門となっていた一方通行と御坂を扱うから荒れるかもしれないと思ったのですが、ほとんど荒れずに済みました。
優しい読者ばかりで自分は幸せ者です。ホントに。

息抜きのアイマスクロスをはさんで約1年続いた根性禁書ですが、これにて完結です。
おそらく自分の制作生活もこれにて完結です。もうSSを書くことはないと思います。書くとしてもこんな長編はもう書く時間ないです。
書いててホントに楽しかった。アウレオルスを書いてた時は予想以上に上手く書けてびっくりした。

最後にこれ以上ベラベラ喋ってもしょうがないんでそろそろ消えます。
今までありがとうございました! またいつか!

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