佐天「第四……波動……か」【前編】
佐天「第四……波動……か」【後編】
佐天「ストリームディストーション!」
佐天「第四……波動……か」【第六幕】
佐天「第四……波動……か」【結標淡希編】
佐天「聞かせてくれよ……お前の絶命の叫びでな!」【前編】
佐天「聞かせてくれよ……お前の絶命の叫びでな!」【中編】
佐天「聞かせてくれよ……お前の絶命の叫びでな!」【後編】
佐天「第四波動のさらに上なんてあるんだ」【前編】
――――9月30日 柵川中学
担任「以上で連絡は終わりです。はい解散」
生徒「おつかれっしたー」
担任「あ、佐天は後で職員室にきなさい」
佐天「?はーい」
初春「何かしたんですか?」
佐天「うーん、心当たりは無いけどあるっちゃあるなぁ……」
初春「どういうことですか……」
佐天「ん、まぁ行ってみたらわかることでしょ。じゃ、ちょっと行ってくるね」
初春「はいはーい。私は風紀委員の仕事があるので」
佐天「えっ、そうなの?一緒に遊ぼうと思ってたんだけど……しょうがない、支部へ遊びにいこっかな」
初春「遊び場じゃないんですよう!」
佐天「あはは、固いこと言わないで―――ま、今日はちょっと別の用事があるからいいんだけどね」
初春「用事?」
佐天「最近誰かにご飯作ってあげること多くなってきたからねー。ちょっと本腰入れて料理の勉強でもしよっかなーって」
初春「あぁ……佐天さんの作るご飯美味しいですもんね。お茶も」
佐天「将来は喫茶店でも開いちゃおうか?なんちゃってー」
―――職員室
佐天「ちょっと失礼しますよっと。なんでしたか?」
担任「ああ、ここ最近忙しくて言うの忘れててね。はいこれ」
佐天「……。……?……なんですか、これ」
担任「ほら、佐天は二学期の最初の方休んでただろ?その間授業出てないせいで成績に影響出るからな。
各教科の先生に相談して、課題作ってもらったんだよ。とりあえずこれ出しとけば大丈夫だから」
佐天「えっと……ちなみに何日までに提出で?」
担任「まぁ期末テストまででいいだろ。最悪、テスト勉強の教材程度に使ってくれ」
佐天「はぁ……わざわざありがとうございます」
担任「頑張れよ。念願の能力者になったんだからしっかり勉強して――――っと、そうだ。この間の大覇星祭なんだがな」
佐天「っ」ギクッ
担任「……何故か上からお前の活躍について言及するなって圧力かかってるんだが、一体なにやらかした?
というか、なんなんだあの動きは……」ヒソヒソ
佐天「うっ!えっと……気合い?」
担任「……まあ、先生も無理に聞きだそうとはしないがな。なんかあったら相談に乗るくらいは出来るからな」ヒソヒソ
佐天「……はいっ、ありがとうございますっ」
担任「ん。それじゃ、しっかり勉強しとくこと。ちゃんと時間割の方も進めとけよー」
佐天「はーい、それじゃ失礼します」
―――帰り道
佐天「たはー、やっぱり大覇星祭やりすぎちゃったかなー」
佐天「ってそこじゃない。問題はそこじゃない」
佐天「上からの圧力ってどういうことだろ……上って、教育委員会?でもなんでそんな場所から……?」
佐天「……まさか、この間殺されかけたのも何か関係してるのかな」
佐天「そういえば御坂さんにこの能力のことはバレないようにしなさいって言われてたの忘れてた……」
佐天「えっと、今これを知ってるのは……上条さん、御坂さん、白井さん、土御門さん、一方通行さん……
それから前に襲撃してきたあの三人、ってことになるのかな?」
佐天「ん?でもその三人は第四波動のこと知らなかったみたいだし……うーん、なにがなんだか」
佐天「……」
佐天「こういう問題は一方通行さんに聞いてみるのがてっとり早いかも」
plllllllllpllllllllllll
一通『なンだ?』
佐天「えっとー。ちょっと相談したいことがあるんですけど、今いいですかね?」
一通『今ァちっと忙しいンだよ。あのクソガキがどっかいっちまった』
佐天「うぇっ。それって家出?」
一通『違ェよ。まァそォいうことだから見つけたら戻るよう言っといてくれ』
佐天「ん、わかりました」ピッ
佐天「……まぁいっか、今度で。さーて、と。それじゃ調理器具でも見に行きますかー」
――――。
佐天「とまあ来てみたものの、特に何を買おうと決めたわけじゃないし、さてさてさてん」
佐天「っんー、とりあえず適当に見てまわろっかな」
佐天「あ、そういえば裏漉しするアレ持ってなかったっけ……砥石も買ってないなぁ。そろそろ砥がないと。
麺棒かぁ……そろそろ寒くなるし、パイ生地とか挑戦してみるのもいいかも」フラフラ
どんっ
佐天「あたっ……ごめんなさいっ」
一通「あァ?……って、テメェ」
佐天「ありゃ、一方通行さん。奇遇ですね!」
一通「そォだな」
佐天「……随分上の空みたいですが、どうかしました?打ち止めちゃんに嫌われて寂しいんですか?」
一通「なァーンで俺があのクソガキに嫌われて寂しい思いなンざしなきゃならないンですかァ?つーか別に嫌われてねェよ」
佐天「否定するところが怪しいっていひゃいひゃ!」
一通「あンま舐めた口聞いてンじゃねェぞガキ。その様子だとクソガキとは会ってねェか」
佐天「打ち止めちゃんだったらあのアホ毛ですぐにわかりそうなんですけどね」
一通「(アホ……?)まァ腹ァ減ったら帰ってくるだろォけどよ」
佐天「そんな猫じゃないんだから……」
一通「人間も畜生も同じだろォが……っと」どんっ
イン「あうっ」
一通「ちっ、今日はよくぶつかる日d」
佐天「あれ?インデックスちゃんこんなとこでどうしたの?」
イン「あっ、るいこ!るいこるいこるいこーお腹へったんだよーとうまがご飯置いてってくれなかったんだよー」キュルキュル
一通「なンだテメェら知り合いかァ?」
佐天「まぁ知り合いです。主に週一くらいでご飯作りにいってます」
イン「るいこの作るご飯は美味しいんだよ!あぅ、思い出したら余計お腹すいてきたんだよ……」グー
佐天「んー、私も今は手持ちあんまりないしなぁ……」
一通「……」
―――――たまには人に優しくしてみるじゃん。
一通「……ハッ」
一通「付いてこい。メシくれェ食わしてやンよ」
イン「ほんとっ!?」ガバッ
佐天「なん……だと……」
佐天「あ、ありえない……あの一方通行さんが他人にご飯を奢ると……それも自分から……」ブツブツ
一通「何ブツクサ言ってやがンだ。テメェは来ねェのか」
佐天「えっ」
一通「一人食わせるのも二人食わせるのも同じだろォが。来るなら来い」
佐天「ゴチになります!」
イン「おおっ、太っ腹なんだよ!」
一通「……チッ」
―――――ファミレス
イン「がつがつがつがつがつがつ!!」ムシャー
一通「……オイ、シスターってのは普通もっとこう、節制とかそォいうのを大事にするもンじゃねェのか」ヒソヒソ
佐天「いやまぁ私に聞かれましても。修行中の身だからしょうがないって言ってました」ヒソヒソ
一通「完全言いワケじゃねェか。……そォいや俺に聞きてェことあるンだったか?」
佐天「んっ……そうなんですけど、あんまりインデックスちゃんの前じゃ話たくないですね」ヒソ
一通「安心しろ、どォ見ても今のコイツにゃ俺達の言葉は聞こえてねェだろ」ヒソ
イン「ねぇ白いひと!今のうちにもっと頼んでもいい?」
一通「おォ好きにしろ。店員さァーン!」
店員「はーい、少々お待ち下さーい!(呼び鈴ならせよもやし)」
イン「こっからここまで持ってきてほしいんだよ!」
店員「えっ」
一通「大丈夫だ、残さねェし金ならしっかり払うからよ」ピラピラ
店員「(ブラックカード……だと……!)は、はい!かしこまりましたー!」
佐天「わぁ、ブラックカードなんて初めて見ました」
一通「どォでもいいだろこンなもン」
一通「ンで?」
佐天「……あー、そのですね。かくかくしかじか」ヒソヒソ
一通「まるまるうまうま―――圧力、ねェ」
佐天「こんな風に言うと失礼なんですけど、ほら。一方通行さんって第一位だし、危ない実験もしてたじゃないですか。
それで、そういう学園都市の闇!みたいな部分を知ってるかなーっと思って聞いてみたんですけど……」ヒソヒソ
一通「ン……―――そォだな」
佐天「……あ、あれ?あの、気にさわりました?」
一通「……いや。なンでもねェ。すまねェな」
佐天「―――――!?すまない!?あ、一方通行さんがそんなこと言うなんてありえないたいいたい!」
一通「テメェはそォォォォおおおおおンなに人を怒らせてェンですかァ!?」ギュー
佐天「ふ、ふわぁっ!ほめんなはいっ!!」ジタバタ
一通「―――ハァ。圧力だったか?正直心当たりは大量にある」
佐天「うぇっ?」
一通「テメェの能力は『熱ベクトルの視覚化』で書庫登録されてンだろ?なのにあンなビックリ人間ショーみてェな動きすりゃ
そりゃ上の研究員共は騒ぐだろォな。原石か、それとも二重能力者か、ってなァ」
一通「ったくよォ……俺ァ前に言ったはずだがな?その能力を見せびらかすなってよォ。
祭りだなンだと騒いで調子に乗ったあげく地獄をたらいまわしにされるなンざ笑えねェ話だな」
佐天「う……ごめんなさい」しゅん
一通「誰に謝ってやがる。謝ってもしょうがねェだろォが。―――まァそれでも、まだ手ェ出してきてねェ以上、
様子見ってことかもしれねェな」
佐天「様子見……?」
一通「貴重な能力ほど慎重に扱うもンだろ。正体不明の能力程研究意欲を掻き立てられるモンはねェらしいが、
正体不明だからこそ手が出しにくいってことだなァ。ま、安心しな。いきなり攫われるよォなこたァねェだろォからよ」
佐天「そ、そうですか……よかったぁ」ホッ
一通「ったく……涙目になるくれェ不安になるンだったらもうちっと考えて能力使いやがれ」
佐天「だってぇ……準備とか、そういうの手伝えなかったぶんクラスの役に立ちたいとおもって……」グスッ
一通「それでクラスから消えりゃ笑えねェっつゥの―――クラス、ね」ぼそっ
佐天「?どうかしました?」
一通「なンでもねェ。ま、これからは人目につく場所でその能力を使うのは止めとけって話だな」
佐天「わかりました、気をつけます」
一通「(―――つっても、上の奴らが本気でこのガキを狙いに来た時はどォしようもねェな。
『研究のために強力しろ』っつわれりゃ断れねェからなァ)」
佐天「んー、心配ごとへったらパフェもおいしいなぁー」ウマー
一通「(―――はァ。面倒事が増えちまうかァ……?)」
――――。
イン「ごちそうさまなんだよ!」
一通「おゥ、よく食ったなシスター」
イン「お腹いっぱいかも!ありがとねしろい人!」
一通「気にすンな。テメェもくったか」
佐天「あい、ごちそうさまでした」
一通「ンじゃ行くか」
イン「そういえばるいこ、さっきあの人とお話してたけど何の話だったの?」
佐天「んー秘密」
イン「そう言われると気になるかも!」
佐天「だめーおしえないよー」
イン「むぅ。るいこはたまにいじわるになるよね!」ぷくー
佐天「あはは、ほっぺ膨らませてかわいー」ぷにぷに
イン「むぅぅー!」ぷくー
通行人「なんか久々にいいもん見たきがする!」
学生「くそぅ、あの白いもやし保護者かなんかか?あんな可愛い子二人もつれて死ねよくそっ!!」
――――――。
イン「む、とーまだ!とーまー!」
一通「あ、オイ!」
佐天「ん……大丈夫ですよ、インデックスちゃんの保護者が見つかったみたいです。
(そういえば上条さんと一方通行さんってお互い嫌い合ってるんだっけ……いろいろ黙っとこう)」
一通「手間かけさせやがって……その保護者にも文句でm」
打ち止め「あぁー!見つけた見つけたーってミサカはミサカは突撃してみたり!どーん!」
一通「うおっ!危ねェだろォがクソガキ!!」
打ち止め「とか言ってしっかり受け止めてくれるアナタの優しさにミサカはミサカは感激してみたり!
あれ?サテンも一緒だったんだね、ってミサカはミサカは逢引の可能性を疑ってみる!」
佐天「違う違う。たまたま会ってご飯奢ってもらっちゃった」
打ち止め「なん……だと……ってミサカはミサカは漫画の真似しながら驚いてみる!」
佐天「やっぱりそうなるよねぇ」
一通「クソガキ共俺をなンだと思ってやがる」
佐天「っと、そうだ、私晩御飯のおかず買っていかないと」
打ち止め「それならうちで食べていけばいいと思う!ってミサカはミサカは提案してみる!」
一通「テメェの家じゃねェだろ。養ってもらってる分在で提案してンじゃねェ」
打ち止め「それならアナタも同じかも、ってミサカはミサカは意見してみたり。
それにヨミカワなら喜んでくれるよ!『一方通行が友達連れてきたじゃん!』ってミサカはミサカはあんまり似てないモノまねをしてみたり」
佐天「んー、楽しそうだけど、やっぱり家主さんに許可取らないと駄目だからね。今回は遠慮しとこっかな」
打ち止め「んー残念!ってミサカはミサカはヨミカワの炊飯器料理を見せられなくて残念がってみたり」
佐天「(炊飯器料理……?)じゃあそういうことで。ばいばい打ち止めちゃん。さよなら一方通行さん」
打ち止め「ばいばーい!ってミサカは手をふってみたり!」
一通「せいぜい気ィつけて帰りな」
佐天「あはは、ありがとうございます。それじゃっ」
――――。
佐天「……っと、こんなもんでいっかな」
アリガトーゴザイマシター
佐天「げっ、雨降ってる……しかし!なんだかそんな予感がしたから折りたたみ傘を鞄の中へいれておいたのであった!」
佐天「片手で傘、片手に鞄と袋じゃちょっと厳しいけど、まぁしょうがないか」
――――ざわりと頬を撫でる感覚。
不自然な熱を感じ取る。
佐天「……ん。なんだろ、これ……(―――視覚化)」
佐天「雨でよくわかんなくなってるけど―――こんなとこで、なんでこんなにねじ曲がった熱の波が……?」
佐天「……行ってみよっかな」
⇒行く
⇒行かない
⇒行く
佐天「―――行ってみよう、かな」
佐天「用心して熱を―――よし、これで動ける」
―――――。
――――ンデ、―――ダ?
――――ヲ、カエソ――――
―――――ヌ?
佐天「声が聞こえ―――ってうぉわぁっ!?」
佐天「あっぶなぁ……!もう少しで車にひかれるところだった……って、今の車になんだか見覚えある人が乗ってた気がするけど……」
木原「っと、誰かいんのか?」
佐天「あ」
木原「……ンだよ一般人か。おい、さっさと殺れ」チョイ
佐天「へ?――――ッ!?!?!」バッ
ドンッ!
佐天「(な、ぁ―――銃……!?警備員……じゃない、あんな危なそうなのは絶対違う!!)」
佐天「(わけわかんないけど、ここはとにかく逃げるべし――――!)」
木原「……おい、何逃げられてんだテメェ」
猟犬「あ、いや、しかし今の跳躍力は能力者がッ」パァン
木原「言いワケなんぞ聞いてねぇんだよ……っと、あんまりに仕事できないんでつい撃っちまったじゃねぇか。おい」
猟犬「あ、ああ、手、手がぁぁ……!」
木原「うるせぇ呻くな。おい、猟犬1、猟犬2、猟犬3!こいつ一人じゃ女子供一人すら殺せねぇみたいだから一緒に行け」
猟犬123「了解」
木原「ったく、テメェのせいでクソみてぇな貴重な人員割くことになっただろ。あ?」
猟犬「す、すみません……」
木原「いいよ謝らなくて。これ終わったら死んでもらうわ。ぼさっと突っ立ってないでいってこい」
佐天「(―――はぁっ……ここまでくればいいかな)」
佐天「……夏休みの終わりに銃見ておいてよかった……咄嗟だったけど反応できた」
佐天「けど、なんなのあの集団。それにあの車……明らかに一方通行さんとインデックスちゃんが乗ってたよね。
なんであの二人?打ち止めちゃんはどうしたんだろ―――――」
バァンッ
佐天「ッ!」ビクッ
佐天「嘘っ……追いつかれた……」
猟犬1「このダボが!目標に完全に充てられる距離まで近づけっつっただろうが!!」
猟犬「すみません!!」
猟犬2「すみませんじゃないよー。こんな任務しくじったら私達全員死ねるよー」
猟犬3「お前新入りか?木原さんは言ったことはマジで実効するからな……俺達みたいな底辺、替えはいくらでもいるんだからな」
猟犬1「そういうこった!いいか、俺はお前が死んでも別にいいがお前の尻拭いで俺まで死ぬのはごめんだ!
絶対あの女を殺すぞ」
猟犬3「同意見だがお前も熱くなりすぎるなよ」
猟犬1「わかってるさ」
佐天「ビルを跳んでまで逃げてきたのに……これでまけないってことは、何かの能力者?」
猟犬2「……目標の奴移動しやがったみたいだなー」
猟犬1「追いかけっこする趣味なんざねぇんだがな」
佐天「―――何度か距離を離して隠れても絶対追い付いてくる。発信器……なわけないか、
そんなの取り付けられるような暇もなかったし」
佐天「そうなると他の要因―――能力者って線がややっぱり一番強いかな。なんにせよ、
やっつけないとダメってことね」
佐天「―――さて、どうしようかな」
⇒正面突破にきまってるじゃん
⇒策を練ろう
⇒策を練ろう
佐天「あんな危ない人達に正面から向かっていっても死ぬだけだし、隠れながら策を練ろう。
そりゃ第四波動は強いけどさ、発動より前に撃たれちゃおしまいだし。というか
あの重装備を超えて行動不能にまでするダメージはちょっと見込めないかなー」
佐天「そうなると、うーん……」
佐天「リドヴィアの時みたいに凍結させる?いや、あれはあっちが攻撃してこないから出来たって
だけで、時間かかりすぎるしダメかぁ」
佐天「いっそまたベクトル捜査して第四波動を集束させる?……いやいや、また頭請われちゃうのは
さすがに……」
佐天「……あれ?重火器相手だとどうしようも無い気がしてきた。あれ?これ詰んだ?」
左天「(相変わらず大変なことになってんじゃねえか)」
佐天「……そういう左天さんはいつもいいタイミングで起きてきますよね。狙ってるんですか?」
左天「(んなわけあるかよ。たまたまだ)」
佐天「はぁ。でもちょうどよかったです、ヘルプミー」
左天「(ああ、大体事情はわかってる―――無理じゃねぇか?)」
佐天「ちょっ……じゃあここで死ねって言うんですか!?この人でなし!」
左天「(んなこと言われてもよ。俺ならなんとかなるがお前じゃ無理だろ……いや、ちょっと待て)」
左天「(……あるにはあるか?)」
佐天「ほんとっ!?」
左天「(―――……。いや、無理か)」
佐天「……やっぱり打つ手無しですかね……」
左天「(……もう一度撃つか。第五波動)」
佐天「(……それしか方法ないんですかね)」
左天「(ねぇだろ。たぶんよ……上から撃ちこめば勝てるんじゃねぇか)」
佐天「飛び降りて、ってことですか……あの激痛の中受身がとれる気はしませんが……けど」
佐天「無傷で勝てると思っちゃダメなんでしょうね。―――しょうがない。お手伝いお願いしますね」
左天「(出来る限りはやってやるさ)」
―――――。
佐天「―――よし、後は、奴らがそこを通りそうになった瞬間一気に飛んで……つぅっ」
左天「(大丈夫か?)」
佐天「な、なんとか……ギリギリ、って感じです……」
左天「(俺が変換した時は痛みなんざなかったが)」
佐天「ん……やっぱり、自分の能力じゃないです、し……そこが、負担になってるんじゃないですかね。
――――――――――――、ん、そろそろ、か」
佐天「――――――よしっ!」だんっ
佐天「(よし、このまま上から射程距離まで―――え)」
佐天「(な、あ……なんでこんな所に人が!?)」
佐天「(まずっ……このままじゃ撃てない……というかあの人奴らに見つかってるじゃん!)」
佐天「――――――は?」
――――。
猟犬1「……あ?」
ヴェント「―――。」
猟犬3「(こいつ……いつ現れた?)」
猟犬「あ、っと、こういう場合って……」
猟犬2「面倒だし殺しとけば?」
猟犬1「そうだな」スッ
ヴェント「―――ひどいもんだ」
ヴェント「そんな不格好な格好で何ができるのやら。クズはクズらしく焼却炉で燃えてな」
猟犬1「」イラッ
猟犬1「お前がな――――――、あ?」ばたん
猟犬3「っ!貴様――――――が、ぁ?」ばたん
猟犬2「ちっ!――――――ぇ?」ばたん
猟犬「えっ、えっ……!?こ、この――――――!、ぅ」ばたん
――――――。
(……何だ今のは)
左天は佐天涙子の視覚を通して、今起きたことを分析する。
全身を黄色い布で覆った女が何かをした素振りは無かった。
ただ一言、二言と言葉を発し、追手の一人が銃を向けた瞬間にぐらつき倒れ、他の三人も釣られるようにして地面に付した。
(……何か見えない力ってのがあるのか?なぁおい、超能力にこういうのがあるのか?)
自分の持つ経験と知識では理解できないと判断する。そもそもここは異郷の地である。
ならば、その世界に住む人間に解を聞くのは当然であり一番の方法だった。
「(……精神感応系か、もしくは気体操作系じゃないですかね。精神に作用して昏倒させたか、
周囲のCo2濃度を操作して昏倒させたか―――)」
と、身体の持ち主は瞬時に推測する。
なるほど、と頷いた。確かにそれならば、特別な理由もなく相手を圧倒できる。
そういえば、あの神父に協力していた気体操作の能力者も、気圧を変化させ大人数を制圧していたことを思い出した。
「(まぁなんにせよ、助かったんですかね。……はぁー。よかったぁ。っと、お礼言ってこようかなー)」
軽い調子で佐天は女へ駆け寄っていく。
助かった?たしかにそうだ。だが少しおかしくは無いか。
なぜこんな誰もこないような路地裏へ一人でいる?
なぜあんな奇妙な格好でここにいる?
なぜ雨ざらしの中を歩いている?
なぜ自ら銃を持った人間へと近づいた?
いや、というよりも。
どうしてあの女は、あんな武器を持っている―――?
疑問に思った瞬間に。
女の手がぴくりと動いた。
(――――退け!)
「っ!」
決して声にはならない怒号。
だが佐天の頭にはよく響いたのか、彼女は咄嗟に後ろへ跳ぶ。
咄嗟だったため制御は利かず、一足で5mは後退する。
前方の女に得に変化はない。やはり何もせず、こちらを見据えたままで居る。
「(な、あの……なんだったんですか?)」
(いや―――それよりお前、あれが見えてなかったのか)
「(あれ……?うわ、なにあれ!武器?)」
女の手に持たれたものは鉄線を巻いた巨大なハンマーだった。
釘を打ち込む部分は鋭角となっており、あの重量であの鋭さを打ち込まれるとなると―――
(―――まぁ、完全に武器だろうな)
「(うわぁ……ぜんっぜん気付きませんでした)」
(油断しすぎだ馬鹿)」
「(うっ……すみません)」
しかし無理もない。
第五波動の準備により走っているらしい痛みと、自分を狙う物が倒れたことによる安堵。
さらに、「倒してくれた」という心理による安心感が、危険の象徴である武器を盲目させていたのかもしれない。
本来なら気を抜かずに現れた相手を観察するのが基本だが、子供にそこまでしろというのは酷な話だろう。
(とにかく気をつけろ。確かに追手を制圧したのはあの女だが、だからと言って味方ってわけでもねぇだろ。
「(……はいっ)」
女はやはり無表情で居たが、一息溜息をつくと口を開いた。
「―――そうやって後ろに跳んだってことは私の殺意に気づいたからだと思ったんだけどね。
そうなると少なからずとも私に敵意を抱くはずなんだけど……この都市には変わった奴が多いのか?」
「この都市……?……あ!そうだ、その格好どこかで見たと思ったら……!」
女が意味のわからないことを喋ったと思ったら、どうやら佐天は何か納得がいったというように声を上げる。
「その格好、この前学校の歴史で習ったっけ……確か、いつの時代だったかのフランスの服だ!」
くだらない。今そこを気にしている場合ではないだろう、とつっこんでやろうとしたが、
「――――、ぇ?」
ぐらり、と佐天の身体が横に揺れる。急激に意識が遠のいていくのが伝わってくる。
四肢の力は抜け、力なく水たまりへ放り出される中、女の声が聞こえてくる。
「何だ、ちゃんと効くじゃないか。しかし、私が都市の外から来たと知った瞬間に効いたとなると、
この嬢ちゃんもこっち側か?特に指示は出されてねぇけどよ、ついでだし殺しておくか」
ぱしゃぱしゃと水を踏んで近づいてくる音がする。
そうか、このままだと涙子は殺されるのか。
――――――今なら出来ないこともない。
――――――だが後でどうなるかはわからない。
――――――しかし死を待つのみならば動かない道理は無い。
――――――さて行こう。久しぶりの『お遊びだ』。
――――。
黄色い服で全身を包んだ女―――『20億の中の最終兵器』こと神の右席が一人、前方のヴェント。
彼女の持つ『天罰術式』は彼女に敵意・悪意を抱いた者を昏倒させることが出来る。
それはほんの少しでもヴェントの存在を認知した者へ向け放たれ、一度かかれば彼女が術を解くまで効果を発揮し続け目覚めることは無い。
しかし。
「……なんだと?」
ヴェントの口から疑問が漏れる。
彼女の眼前に立つ少女―――佐天涙子は、一度倒れたことで汚れてしまった服を気にする様子もなく、ふらりと立ちあがった。
ヴェントは思案する。
―――自分の『天罰術式』は今さっき完全に決まったはずだと。
―――そしてまだその術は解いていないし、何かをされた様子も無かったと。
「……ま、どうでもいいか。どうせ潰せば同じことだからな」
下らない疑問だった、と自嘲気味に口を歪める。
どうせ殺してしまうのだから立ちあがろうと何をしようと、全く関係のないことだ、と。
彼女は面倒くさそうに片手で上段へと武器を構え、立ちあがったまま動かない佐天の頭上へと一気に振り下ろした。
重力に任せた一撃は一直線に打ち下ろされる。
そこには何の工夫も無い。それは、眼前に武器を持った人間がいるのに動こうともしない相手には、それだけで十分だと判断しての一撃だったからだ。。
だからその一撃が地面を叩いた時、ヴェントには何が起きたか一瞬理解できなかった。
「―――なんだ、動けるじゃないか」
本来直撃するはずだった対象、つまり佐天涙子はその場から一足だけ後退していた。
紙一重の回避。それを見たヴェントは、死ぬのが少し遅くなっただけだったな、などとは考えずに。
「(どういうことだ―――いつ下がった?)」
佐天がどのタイミングで退いたのかを思い出そうとしていた。
いくら気を抜いた一撃であろうと、対象から目を離すような愚行はしない。
理由はわからないが、この人間は私の殺意に気づいて一気に距離を開けた人間だ。
そして、『天罰術式』から回帰した人間でもある。
そんな正体不明の敵なのだ。どれだけ無防備で突っ立っていようとも、最低限の警戒は外してはいないはずだった。
だからこそ、何故避けられたのかがわからない。いつ避けられたのかが理解できない。
「(……わかんねぇけどよ。わかんねぇからこそ、これ以上何かされる前に、確実に殺しておくか)」
ぐっ、とハンマーを構え、じゃらりと口から鎖で繋がれた十字架を吐きだす。
今度は重力に任せたような一撃ではなく、横から殴りこむ振りをした本命を打ち込む。
もし今のが驚異的な反射神経でかわしたのだとしたら、この本命は絶対に避けられない―――
「―――フン。なかなかどうして、他人の身体を動かすってのは難しいもんだな」
――――。
「ちょこ、まかと……!」
一撃目は紙一重で避けられた。
二撃目は余裕をもってかわされた。
三、四、五―――――そして二十。
牽制と本命を織り交ぜて放つ攻撃は、既に二十回。しかしその全ては空振りするだけであった。
「はッ、逃げて回るしか能が無いのか?そんな雑魚は虫のように潰れろ……!」
そして二十一度目の攻撃。だがそれも当然のように、大きく距離を開けられ避けられる。
「(……速過ぎる。なんだあの速さ―――しかも避ける度に反応が早くなってきてやがる……!)」
ただの少女に神の右席である自分の攻撃が当たらない。その事実に歯ぎしりをする。
しかしそれ以上に苛立つのは、最大の武器である『天罰術式』が全く効果を成していないということだった。
本来闘争に入れば少なからずの敵意は抱くはずである。そしてそのわずかな敵意に反応するその術が通用しないということは、明らかに異常であった。
確かに、先刻彼女が遭遇した木原数多のような例外は存在するものの、目の前のただの少女にそのような心があるはずがない。
「(いや―――私の攻撃を避け、天罰術式も効かないとなれば、『ただの』ってわけにはいかないか)」
ヴェントは距離をとった佐天涙子を見据えて認識を改める。
見据えて、そういえば、と考える。
この戦闘中、あの少女から攻撃を仕掛けてきたことがあっただろうか?と。
そしてヴェントは、1つの仮説へとたどり着く。
「―――なるほどね。アンタは、闘争じゃなく逃走してたわけか。
全く、『天罰術式』にこんな穴があったとはね……」
つまり、目の前の少女は自分へ敵意も悪意も持っていない。
ただ、襲いかかる脅威を振り払うように。
自然災害から逃げるように。
「そもそも私に意識すら向けてなかったってわけか?全く、本当にいらいらさせてくれる」
だが、それがわかれば話は簡単だ。
佐天には攻撃が当たらない。かわりに、佐天から攻撃は仕掛けてはこられない。
つまりいちいちやりあう必要もない―――ここで時間を無駄にして、本命を逃すのも馬鹿馬鹿しい。
どうせ最後にはこの都市の人間は全て屈服するのだから、どうでもいい相手に時間を割くのも馬鹿馬鹿しい。
そう至り、ヴェントは佐天を対象として認識することを止めた。くるりと、大通りへ方向を変え―――
「ま、せいぜい一生逃げ回って見てな。この都市が潰れるさまを―――」
捨て台詞を吐くが、それは最後まで続かなかった。
振り続ける雨のでなく。
一直線に伸びる炎が、その音をかき消した。
「……はっ。ヒトサマの身体じゃこの程度の威力が限界か。どうにも、本領発揮ってワケには行かねえようだが―――」
消える炎の中から、服の所々を焦がしたヴェントが現れる。
すっぽりと被ったフードの中から、驚愕と疑念、苛立ちが混じった視線が向けられる。
そしてそれらは全て敵意に塗り替えられ、『左天となった佐天涙子』を貫くが、それを意に介さず、
「―――ま、久々のお遊びだ。せいぜい付き合ってくれや」
軽い調子でそう言った。
「お遊び?小娘風情が、随分な口を利くじゃないか」
接近し、身体を大きく振りながら、ハンマーを斜めに振り下ろす。
振られた身体につられ、十字架は斜め下から上へと振り上げられる。
避けられた二十一の攻撃から左天の回避パターンを推測し、そこへ本命を叩きこむ。
しかし対象となる左天は予測に反した行動を――――牽制用のハンマーを左手で受け止め、空いた右手でヴェントの胸部を打撃した。
「―――ッかぁっ!?」
その一撃は見た目が少女の細腕からは予想されない程の強打。
不意打ちも同然に攻撃を食らった彼女は、たまらず呼吸を乱してしまう。
その様子を見ながら、左天は子供に教えるがごとく話かける。
「確かにお前の攻撃はわかりづれぇ。だがな、見た目でバレバレなんだよ。
なんだその舌から伸びた鎖と十字架は。戦闘中にンなうっとおしいモン普通はつけねぇだろうが。
あと身体の振りが不自然に大きすぎるんだよ。だから折角のその不可視の攻撃もバレちまう。
不自然な飾に不自然な動き。ンなもん見た瞬間馬鹿でも無ぇ限り関連性があると疑うに決まってるさ」
「か、げほっ……は、ぁっ……」
「だが最初はどんな攻撃かわからなかったからな……とりあえず大きく距離を開けさせてもらったぜ。
で、まあ見てたら距離は自由に設定できるみたいだな。ただ攻撃が繰り出されるその場はどうにも『嫌な感じ』がするから避けやすかったぜ。
ま、避けてたのはそれだけじゃなく、涙子の身体の調子を掴むためでもあったんだが、な。
―――フン、なるほど。俺の場合なら、第四波動を使うより打撃の方が効果的みてぇだな」
「くっ―――はぁ……はぁ……は……。……っは、随分と余裕じゃないか」
呼吸を整え武器を構える。
この絶好の機会にたたみこんで来なかったのは、余裕の表れか、それとも別の何かがあるのか。
「あ?いや、余裕も何も―――ガキとの遊びに緊張なんてするわけねぇだろ」
「……ッ!舐めたこと言ってくれるじゃない……!」
そこでヴェントは理解した。目の前の敵に、何故『天罰術式』が通じないかを。
つまり奴は、自分など見てはいなかったのだ―――と。
―――結局、左天はヴェントに対して敵意も悪意も抱いてはいなかった。といよりも、抱かないようにしていた。
佐天涙子が倒れた時、左天はその原因を考え、一つの答えに至る。
第一に、佐天が倒れる間際に思った、言葉にはならなかった台詞。確かに頭の中に響いていた―――〝お前は魔術師だ"と。
そして第二に、追手が倒れた理由。銃を向けた瞬間倒れていたこと。
この2点より、相手の能力は『自分に対してある特定の感情を抱いた相手を昏倒させる』ものだと推測した。
その特定の感情が何なのかはわからないが―――それならば、相手を意識しなければ問題ない、と思いついたのだ。
―――故に一撃目は何も考えず、強化した身体で反射的に避けた。
二撃目は、心を殺して理性で動く―――全てを考えて避けた。
攻撃という動作①に対しての動作②が回避だというように、ただただ機械的に避けていたのだ。
そして攻撃の節々に向けられた、まるで挑発するかのような台詞を理性のみで解釈し、そこから術の起動感情を割り出した。
―――その感情が何か付き止めさえすれば、後は簡単な話である。その感情を抱かないように自分を律すればいい。
戦場で感情的になるのは自殺行為だと、左天は経験の中から当然のように知っていた。
だからこそ、自分の心のコントロール程度、容易いものだった。
相手と遊んでやる。大人が小さな子供と戯れる時、時に敵意も悪意も抱かないように、自分もそうするだけだと。
それが、左天が『天罰術式』を破った方法だった。
――――。
「く、はっ……!」
「どうしたどうした?まだまだ3合目だぜ?」
結論から言えばヴェントは圧倒されていた。
神の右席たる術式『天罰術式』は通じない。それに加えて、場所がよくない。
開けた路地裏の広場。ここでは周囲の物をハンマーで殴り壊しぶつけることは出来ない。
いや、それだけならばコンクリートでも抉ればいいだけの話だが―――左天がそれをさせなかった。
何せ、左天は振られるハンマーの全てを振り切られる前に止めている。
それはハンマー自体を受け止めたり、振るう前に打撃を食らわしたりとあったが―――とにかく、牽制用のハンマーはあまり意味を成していなかった。
ならば不可視の攻撃はどうなのか。それもまた、見切られ効果は薄い。
風の魔術は熱吸収と熱放出による大気の乱れで効果は薄められ―――と。
そして決め手は速い移動と重い打撃。
簡単な話。
ヴェントの手札は、左天とは圧倒的に相性が悪かった。
左天「風に乗って跳んだり速く動いたり、ってのは驚いたが―――お前じゃ俺には勝てねえよ」
ヴェント「こ、の……」
左天「だから諦めてとっととお家にかえ――――、っ」
左天「(まずい……こんなとこで『エネルギー切れ』か?やべぇな……)」
左天「……しかたねぇ。ま、ここは見逃してやるから、家に帰るこった。じゃあな」ばっ
ヴェント「なっ……テメェ!」
左天「……フーッ。ちょいと時間かけすぎたか?やべぇ、第五波動用のエネルギーをこっちに廻して
なんとか動いてたが、そろそろそれも切れちまうか……」
左天「手首の金属が小さいまま、か。なるほどな、コイツは能力をどれだけ使用できるかの指標、ってわけか。
だから俺一人の意識じゃ第五波動用にエネルギー変換できねぇってわけだ」
左天「第四波動の出力が小さかったのもそういうことか……やれやれだな」
左天「―――さて、と。それじゃ涙子のヤツを起こしてやるとするか」
左天「昏倒させる術……おそらく魔術ってやつなんだろうが、どんな理屈でどんな原理だろうと、何か『よくわからないモノ』が
こっちに干渉してきてるってことになる。てことは、その『よくわからないもの』からコイツを守ってやればいいわけだな」
左天「これが肉体面に直接影響してくるようなモンだったがちと不味かったが、幸い『感情』なんて曖昧なモンが引き金になってる
みてたいだな。ならつまり、その感情がヤツへ向かわない―――感情が外へ漏れないようにすりゃいいわけか」
左天「―――ようやく俺が起きていられる条件もわかったことだ。なんとかなんだろ」
左天「さて、そんじゃ残ったちからで涙子を起こしてやるか――――、……、………………、―――」
佐天「―――、ん……うっ、と……なんだか頭がふらふらする……」
左天「(目が覚めたか?どこかおかしな場所はねえか?)」
佐天「っと、左天さん……おかしな場所って?」
左天「(どっか痛かったり動かなかったり、ってことだ)」
佐天「いや別に……頭がちょっとふらふらするだけでなんとも無いですけどってあれ?あの魔術師は!?というかここどこ!?」
左天「(そのことだが、な―――――)」
佐天「oh...」
佐天「え……え?左天さんが私の身体を?」
左天「(気乗りはしなかったがあのままだったら殺されてたんでな)」
佐天「……えっち」
左天「(あ?)」
佐天「ど、どうせ私の身体のいろんなとこ触ったんですよね!?知ってますもん!男の人って性別入れ替わると
自分の身体をいろいろ触るってことぐらい!えっち!左天さんのえっち!!」
左天「(……いや、あの魔術師と戦ってる最中にんなこと出来るわけねぇだろ。そもそもガキの身体に興味ねぇって何度言やぁ―――)」
佐天「ガキ……どうせ私はガキですよ……うぅ……」
左天「(……とにかく、話を進めるぞ。で、だ。アイツの術―――つまりお前を倒した術の正体だが、おそらく敵意だの悪意だの、っつう
攻撃しようとする感情が引き金になる)」
佐天「うげ……そんなのどうしようもないじゃないですか」
左天「(だろうな。だからよ、今お前の頭に働きかけて感情を外へ漏れないようにしてる)」
佐天「……はい?」
左天「(理屈なんざ求めんなよ。俺だって出来るとは思っちゃいなかったさ。けど、ま。俺だって2カ月間何も
してなかったわけじゃあないんだぜ?)」
左天「(つっても、正直かなり辛いな。今はお前があの魔術師に対して強い感情を抱いちゃいないからこうして話してられるが、
いざ対峙した時はどうなるかわからん。だから今からは少し潜る―――会話は出来ねぇと思え)」
佐天「ん……よくわからないことが多いですけど、わかりました」
左天「(そうか。で?今からお前はどうするつもりだ?)」
佐天「……そうです、ね」
⇒車に乗っていた一方通行さんが心配だ。
⇒魔術師が学園都市に乗り込んだ!大覇星祭の時みたいに止めてやる!
⇒怖いねぇ。怖いから私は寝る!
⇒車に乗っていた一方通行さんが心配だ。
佐天「……そういえば一方通行さんとインデックスちゃんが心配になってきた」
左天「(誰だそりゃ)」
佐天「たぶん、私と同じ追手に追われてそうな人達です。一方通行さんが反射使えるって言っても、インデックスちゃんが一緒だと
戦いにくいだろうし、とりあえずインデックスちゃんだけでも引き取らないと」
左天「(そうかい……ならそうしな。俺は沈む)」
佐天「はい、ありがとうございます……っと、電話電話」
pllllllllplllllllllllll
一方『なンだ?こちとら今忙しいンだよ』
佐天「それって追われてるってことですか?」
一方『……チッ、あのシスターがテメェを見たとか言ってやがったがマジだったかよ……無事か』
佐天「なんとか無事です!そういう一方通行さんは大丈夫ですか」
一方『俺がやられるワケがねェだろ……オイ、今動けるか』
佐天「大丈夫ですよー」
一方『今からシスターをいつもの病院へ向かわせる。コイツを迎えにきてやってくンねェか』
佐天「了解です!やっぱりインデックスちゃんが一緒だと戦えませんか」
一方『―――まァな』
佐天「……?とにかく、今から向かいますね」
一方『……悪ィな』
佐天「えっ……ちょ、やめてくださいよ。一方通行さんがそんな言葉、まるで死亡フラグじゃないですか」
一方『ぶっ殺すぞ』
佐天「あー、それですよそれ。やっぱり安心しますね」
一方『……ハァ。ま、いいわ。じゃァな』ピッ
佐天「さってと。それじゃインデックスちゃん迎えに行きますか―――あれ?」
佐天「そういえば、打ち止めちゃんはどうしたんだろ?……ま、それはインデックスちゃんに聞いたらいっかな」
佐天「―――ん、よし。よっ……と」だんっ
佐天「(?なんだろ、身体が軽い―――いつもより調子がいい?)」
佐天「(―――でもこれで予定より早くつけるかな)」
――――病院
こんこん
医者「どうぞ」
佐天「先生っ!インデックスちゃんいますか!?」がちゃっ
医者「いきなりだね?どうかしたのかい?」
佐天「っと、まだ着いてない、か……いえ、たぶんもうそのうちシスターちゃんが来ると思うんですけど」
tellllllllllllltellllllllllllll
医者「ん、なんだい?」
受付『あ、あの、先生。受付でよくわからないこと言ってる方がいて……』
医者「よくわからないこと?」
受付『ええ、修道服を着たちっちゃい子なんですけど、電極がどうのって』
医者「ああ、その子なら僕のところへ通しなさい」
受付『え?あ、はい』
医者「どうやら来たみたいだね?で?何があったんだい?」
佐天「えっと……実は私もよくわからないんですよ。私もここでインデックスちゃんを引き取るように言われただけなんで」
――――。
こんこん
イン「失礼するんだよー……あれ?るいこだー」
佐天「やっほ」
医者「それで?何か用かい?」
イン「えっと、『代理演算用チョーカーのバッテリー』ってのを欲しいんだよ!」
医者「バッテリー……?そんなものは無いんだけどね?」
イン「えっ」
医者「えっ?」
イン「でも白い人はこう言えばわかるって言ってたんだよ!」
医者「……なるほどね?」
イン「何がなるほどかわからないんだよ!はやくはやく!」
医者「まぁまぁ」
イン「まぁまぁじゃないんだよ!」
佐天「……。ねぇインデックスちゃん、その白い人ってどんな感じだった?」
イン「どんな感じ?鼻血のあとがあったり所々青あざになってたかも。私が一緒に病院行こうって言ったけど、
今は忙しいから無理だって。そのかわりにバッテリー取ってこい、って言われたんだよ。だからはやくはやく!」
佐天「怪我……?」
佐天「(一方通行さんが怪我?不意打ち―――だとしても、相手が私の追手と同じだとしたら青あざとかで済んでるはずがない。
もし電極のバッテリが切れていたとしたら殺され無いにしても、能力の使えない一方通行さんがあの集団の不意をついて、
なんて出来るとも思えないし……)」
佐天「(――――まさか、上条さんみたいなイレギュラー?能力使用時の一方通行さんを打倒するような、そんな何かが?)」
佐天「(……わかんないけど、だとしたら一方通行さんが危ない……)」
佐天「インデックスちゃん、その白い人、何処へ行くとか言ってなかった?」
イン「……あ、そういえば全然言ってなかったかも……」
佐天「(当たり前か……電話して聞いても教えてくれるとは思えないし。何せあの一方通行さんだもん、どうせ
強がるに決まってるもんね)」
佐天「(―――そうだ)」
佐天「携帯のGPSサービス……!これなら―――よし、居場所特定出来た!」
佐天「今も移動中―――けど、この距離ならなんとか……!」
ミサカ「御待ちなさい、とミサカは襟首をひっぱります」
佐天「ぐぇっ。っとと、何するのさ妹さん!」
ミサカ「事情は大方察しました。あのモヤシが悪戦苦闘しているようですね、とミサカは盗み聞きした内容から事態を推測します」
佐天「そうだよ
佐天「そうだよ!だから早く行かないと……!」
ミサカ「確かに、あのモヤシが死ねば上位個体は悲しむ―――というより、あれ?これ上位個体も相当不味い状況になっているようですね、と
ミサカは今さっきMNWから受け取った情報を口にします」
佐天「上位個体―――打ち止めちゃんが?」
ミサカ「はい、どうやら上条当麻と行動を共にし、正体不明の敵と交戦中のようです、とミサカは
MNWを通して現場を視ます」
佐天「正体不明の敵……もしかしてそれって、黄色い服を着たハンマーを持った人?」
ミサカ「いぐざくとりぃ。とミサカは何故わかったのかがわかりません」
佐天「く……!あっちもこっちもてんやわんや、ってわけね……!」
⇒あの魔術師になら耐性あるみたいだし、上条さんと打ち止めちゃんの所へ!
⇒能力使えない一方通行さんとかモヤシじゃん!早く駆けつけないと!
佐天「(魔術師相手なら上条さんの十八番だろうし……ここはやっぱり一方通行さんの所へ行こう)」
佐天「よし、それじゃ早く―――ぐえっ」
ミサカ「だから待てと言っている、とミサカは襟首を捕まえます」
佐天「なんでさ!早く行かないと!」
ミサカ「……貴女は友人を危険な場所へ向かわせますか?とミサカは尋ねます」
佐天「……!」
ミサカ「まぁそういうことですから、ここでおとなしくしていてください。あのモヤシが涙子をここへ
誘導したのはそういうことでしょうから、とミサカは推測します」
佐天「……。」
佐天「―――ごめん、妹さん。それでも、私は何もしないわけにはいかないから」だっ
ミサカ「なっ、待ちなさい……ってここ7階ですよ何窓から飛び降りようとしてるんですかってミサカはダッシュで近づいて―――」
佐天「そりゃっ!」ばっ
佐天「よし!やっぱり身体が軽い!―――――っとぉ、着地成功!」
佐天「場所は―――こっちね」
ミサカ「―――ただの跳躍で隣の建物まで跳ぶとは、とミサカは涙子の能力に驚嘆します」
医者「ふぅ、血の気が多いというかなんというか……全く、困ったもんだね?っと」
tellllllllllltellllllllllllll...............
「(―――止まった。場所は……工場?)」
―――雨の中、水を蹴って低く跳ぶ。
その跳躍は自信を削っての力。いかに身体強化と言えど基盤の強化には至らない。
一足毎に筋肉と骨を疲弊させていく。
「(急げ―――もっと疾く……!)」
―――しかしそんなことは考えない。
後の事など承知の上だ。だが、今はとにかく、何よりも早く、一方通行の元へ向かうことを考える。
「(……そもそも私はあの場には居られなかったしね。追手がどういう仕組みで私を追跡してたかわからないけれど、
私があそこにいたら新手の追手が来るかもしれなかったし。あんな危ない奴らを病院に上げるわけにはいかない)」
「(―――後悔は無い。そうだ、私はあの時ステイルさんに言ったじゃん。
こっち側へ来ることに後悔は無いって。誰かを守るってことはそういうことなんだ。
後悔は無い。大丈夫、例え殺されかけたって、全然後悔なんてしていないから―――)」
―――それが本心だったかはわからない。
あの時は明確な殺意なんて知らなかったから。
なら今は?―――後悔なんて無い。 [後悔なんて意味は無い]
今は先へ進もう。 [道は断たれた]
早く行って、一方通行さんを―――
―――――。
佐天「―――っはぁっ……はっ……よし、着いた……!」
―――辺りを見回す。特に不振な部分は無い。追手の気配も無い。
佐天「この中、か……っと、ここまで来たら電話しても大丈夫か。追い返されることは無いだろうし」
viiiiiiiiiiiviiiiiiiiiiiii
一方『……なンだ』
佐天「単刀直入に言うと助けに来ました」
一方『あァ?何言って―――オイ、待て。なンでテメェがそこにいる』
佐天「あれ?見えてるんですか?」
一方『早くどっか行きやがれ!あァ、そういやその辺に警備員の詰め所あったろ。そこで匿ってもらえ』
佐天「やだなぁ一方通行さん、私がそんなこと聞くためにここへ来たわけないじゃないですか」
一方『遊びじゃねェンだよクソガキが!!こちとら打ち止めの命が……ァ』
佐天「……打ち止めちゃんの?それを聞いたらますます引き下がれませんて。それに」
佐天「―――それに、遊びじゃないってことくらいわかってますよ。これでも殺されかけた身です」
佐天「どうやってあいつらが私の居場所を着き止めてるか知りませんけど、どれだけ逃げて隠れてしても追いついてきました。
だったら何処へ居ても同じですよ。殺されるのを待ってるくらいなら、戦って勝ったほうがマシです」
一方『……死ンでも文句言うンじゃねェぞ』
佐天「!勿論ですよ!」
一方『チッ……』
――――。
佐天「どうも……うわ、なんですかその銃」
一方「奴らのモンだ。こんなザマだからな、ねェよりゃマシだろ」
佐天「てことは、やっぱりバッテリ切れちゃったんですか?」
一方「切れちゃいねェよ。だがま、あと5~8分ってトコだな。ヤツラが最終じゃねェンだ。雑魚に無駄遣いは出来ねェ」
佐天「だからその銃、ってことですか……殺すんですか?」
一方「……さァな」
佐天「……そうです、か」
一方「――――」
佐天「――――、……、そ、そうだ!あいつらの事知ってたら教えてほしいんですけど……」
一方「ン、あァ……奴らはかくかくじかじか」
佐天「まるまるうまうま。猟犬部隊……暗部、ですか。嗅覚センサー……なるほど、だからいくら逃げても無駄だったってわけですか」
一方「だが奴らがいくら人殺しの集団っつっても、その特性上穴がある。そこを突いてやりゃ勝てる。俺一人だろうとな」
佐天「またまたそんな強がっちゃって!本当は私が来て嬉しかったんですよね?」
一方「ぶっ殺すぞ!!」カッ
佐天「ごめんなさいっ!!」びくぅっ
一方「クソガキが……フザケテル場面じゃねェンだよ……」
佐天「うぅ……だからってそんな本気で起こること無いじゃないですか……」
一方「(……まァ)」
一方「(コイツが来て少しはマシになったってのは事実だがな……)」
一方「(ッたく。折角あのシスターを追い払えたってのによ―――だが、ま)」
一方「(守るモンが増えるってのも、悪いモンじゃねェな――――――)」
佐天「――――来ました」
一方「よし―――じゃァま、いきますか」
以下ダイジェストでお送りします。
猟犬部隊が乗り込んできました。
↓
電源いじって停電させました。
↓
猟犬部隊「やべぇ!真っ暗で何も視えねぇ!怖い!!」
↓
一方通行がスパナとか投げたり変な音出したりして脅かしました。
↓
猟犬部隊「何これ何これ!そ、そうだ、相手はあの最強の能力者なんだ……ひっ、俺達何されるんだよ!怖い!」
↓
猟犬部隊の一人がびびりすぎて誤射しました。
↓
皆ビビってどっか走ってった。
↓
敵分散 ←今ここ!
一方「よし、後は手分けして始末すンぞ」
佐天「了解っ。けどまさかこんなに上手くいくとは……」
一方「奴らは「さっさと殺す」ことしか考えてねェ集団だ。こういう恐怖心を煽るような攻撃にゃ慣れてねェンだよ」
佐天「そりゃ闇の中から学園都市第一位が何時襲ってくるか解らないってなったら誰だってびびりますよ」
一方「元、だがな」
――――一方通行サイド
一方「―――ハッ、案外あっけなかったなァ」
ナンシー「あ、あぁぁ……足……私の足がぁ……!!」
一方「そォ泣くなっての。散弾銃でふっ飛ばしてやっただけだろォが。
止血してさっさと病院行きゃァ死にゃしねェだろォよ。ま、一生車椅子生活だろォがなァ!!」
ナンシー「お、あ、あぁぁあ……」
一方「ひっでェツラしやがって。折角に美人が台無しですよ、っと。
安心しな、そんな身体でも好きな奴はいるだろォぜ。一部の人間には大人気ー、ってなァ」
ナンシー「――――」
一方「ア?……気絶しやがったか。このザマなら放っておいても大丈夫だろォな」
一方「さて、次行きますかァ」
ヴェーラ「ちくしょうっ……誰とも連絡取れない……つかえない奴ら……!!」ブツブツ
どんっ こけっ
ヴェーラ「痛っ……あぁもうっ!!暗くて何も見えないし!こんなとこに何置いてんのよ!!」ドガッ
ヴェーラ「……?え、何いまの感触」
ナンシー「」
ヴェーラ「―――ひ、あああああああっ!?」
ヴェーラ「あ、あああ、ナンシー!あ、足、足が……!!!」
ヴェーラ「……!ま、まだ生きてる……早く病院に―――」
ぱぁん
ヴェーラ「……え、……え?」
ヴェーラ「え?なんで?私の腕……腕―――あ、うで、あ、う、ああああああ!?」
ヴェーラ「待ってよぉぉぉ何で私の腕ないのおおおお!こ、こんなの、こんなの電話つかえないよよおあああああ」
一方「何だァ?暗部のクソ組織のブンザイで随分とまァ仲間想いじゃねェかよ。ちと驚いちまった」
ヴェーラ「ひぃっ!!!!」
一方「安心しなァ戦えねェやつに用はねェよ。止血でもなんでもしてさっさと病院行きやがれ」
一方「これで二人―――あっちはどうなってンだか」
――――佐天サイド
ケインズ「くそっ……何で暗視ゴーグルが標準装備の中に入ってないんだ……」ブツブツ
佐天「(居た……視覚化、開始)」
佐天「(よし、十分視える――――そっと近付いても、今の奴らなら小さな物音でも反応してくる)」
佐天「(だから―――――一足で近づく!)」とんっ
佐天「あてみっ」どすっ
ケインズ「うっ」どさっ
佐天「……はぁーっ。よし、一人目クリア、っと。身ぐるみはがして……紐で縛っておこう。よし、これでオッケー」
佐天「さ、次次ー」
ロッド「ちっ……めんどくせぇ……」
ロッド「だが、ま。背中を壁に預けながら進みゃあなんとでもなるだろ……」
佐天「(む……あれじゃ当て身は使えないか)」
佐天「(正面突破は危険すぎるし―――けど、他に手は思いつかないし)」
佐天「(――――よし)」
ひゅっ
ロッド「!(なんだこの女―――!)」ばっ
佐天「このっ!」がしっ
ロッド「な―――(銃を掴まれた……?!)」
佐天「せいっ!!」がっしぼっか
ロッド「ぅがっ……(顎に……!く、そ……)」ばたん
佐天「……よし、成功!さ、さっさと身ぐるみはいで……よし、おっけい!」
佐天「けど案外上手くいくもんだねー。一方通行さんの説明からだと、こういう咄嗟の状況に弱いってことだったけど、
本当にそうだったみたい。うん、よかったよかった」
佐天「さて、と。あっちはどうなってるかなぁ」
viiiiiiiiiiviiiiiiiiiiii
一方「オウ」
佐天『どもー。とりあえず二人しとめましたー』
一方「こっちもだ。確か5人で来てたな」
佐天『ええ。ってことはあと一人ですね……けど、おかしいんですよ。
能力使ってこっちのフロア全部視てるんですけど、特におかしな流れが見当たらないんです』
一方「まさか逃げたかァ?いや、ンな馬鹿なことあr」
佐天『逃げたっ?!だとしたら援軍とか呼ばれると面倒ですね、ちょっとみてきます!』
一方「ア?いや、オイまt」ブツッ
一方「……あのクソガキ。人の話くれェ聞きやがれ」
佐天「ん……車には戻ってないみたい?」
佐天「だとすると―――あ、見つけた、ってあそこって警備員の詰め所?なんでそんなとこに暗部の人間が……?」
佐天「とにかく、変なことされる前に行かないと―――っと」だっ
猟犬「は、はは、ははは……!これでヤツは手出しできねぇ……!」
佐天「なんでさ?」
猟犬「ひっ!……な、なんだよ中学生か―――」
佐天「なんでそっち側にいると手出しできないの?一方通行さんならそんなの飛び越えていくに決まってるのに」
猟犬「なっ、テメェアイツの仲間か……!!!……け、けどな!このフェンスのこっち側は警備員の敷地だ!
へへ、警備員に保護してもらえりゃ安全だぜ……!」
佐天「は……?」
猟犬「くかか……!そう、そうだよ!俺は能力も何もないただの市民だ!第一位に殺されそうになってるから保護してもらうんだ!
ははは!ザマァみやがれ!テメェらはもう手出しできねぇぞ!はははは!」
佐天「――――は、はは」
佐天「何それ―――え、何それ笑えない」たんっ
猟犬「え?」
佐天「―――よ、っと」とんっ
猟犬「ひぃっ!?」
佐天「暴れないでよ―――ね、っと!!」がしっ だんっ
猟犬「ぐぇっ!な、あ、フェンスの外側……?」
猟犬「――――!い、嫌だ!死にたくない!まだ死にたくねぇんだ!!おい警備員共!こもってないで出てこいよ!!
早く俺をほごしやが―――」
佐天「うる―――さいっ!!」ぶんっ
猟犬「ひぎゃぁっ!(な――飛んで――――投げられたのか?あそこから?落ち―――)」
猟犬「げはぁっ、がはっ!ひ、あ、あああ……」
佐天「―――死にたくないって感情はわかる。
第一位を前にして逃げ出したくなる気持ちだってわかる」
佐天「けど!それはアンタが警備員に助けを求める理由になんかなりはしないっ!!
アンタ達は私を!一方通行さんを!殺そうとしてきたのに
自分が死にそうになった殺されたくないだなんて勝手なこと言うな!!殺されたくないなら殺しにくるんじゃない……!!」ファッ!
佐天「アンタみたいな下衆は許さない!アンタ達みたいな他人の命を何とも思ってない奴なんて……!!!」
佐天「消えろ……!第四波―――」
一方「落ち着け馬鹿」がっ
佐天「あいたっ」
一方「ソレをやっちまったらお前も同じだろォが」
佐天「……あ」
一方「お前はこっちに来るンじゃねェよ―――まだ引き返せる場所にいるンだからな」
佐天「……はいっ」
一方「ン、わかりゃいい」わしわし
佐天「あんっ。あ、雨でびたびたなんですからそんな風に撫でないでくださいよぅ」テレテレ
一方「気にすンな」わしわし
佐天「私が気にするんですっ!!……あ、気絶してる」
猟犬「」
一方「メンタル面弱ェなコイツら」
佐天「というか心折れてる所に一方通行さんが現れたら気絶くらいしますって」
――――。
一方「嗅覚センサーも無効化した―――次行くか」
佐天「次というと?」
一方「病院だ。今頃襲撃されてンだろォな」
佐天「……え?」
一方「コイツラの仲間があそこで治療を受けてる。あのシスターの匂いも覚えられてるしな。十中八九狙われンだろォよ。
複製共が居るが時間の問題だろォな」
佐天「な、なら早く行かないと!」
一方「あァ。だが、行くのは俺一人だ」
佐天「いや、ここまで来たら私も行きますよ!」
一方「病院だとのンびりやってる暇ァねェだろ。能力使って正面突破だ。一分で決めてやる。
だからテメェが居ても邪魔なだけだ。……代わりに、だ」
一方「テメェはあのクソガキ探して来い」
佐天「……わかりました、確かにそっちの方が良さそうです」
一方「……頼んだぞ」ボソッ
佐天「ん?何か言いました?」
一方「なンでもねェ!さっさと行きやがれ!」
――――。
佐天「っ、っと」だんっ
佐天「(打ち止めちゃんの居場所は―――妹さんに聞けばわかるかな?けど、一方通行さんの話だと今頃病院はてんやわんやかもしれないし……)」
佐天「(―――しかたない、よね)」
pllllllpllllllll
佐天「ミサカちゃん、今大丈夫?」
ミサカ『ええ、大丈夫ですよ、とミサカは涙子の方から電話をかけてきたことについて内心嬉しく思いついニヤけてしまいます』
佐天「んっとね、MNWから打ち止めちゃんの居場所を叩きだして欲しいんだ。出来る?」
ミサカ『……ええ、それは出来るは出来ますが、しかし……』
佐天「……うん、知ってる。ミサカちゃんが普段MNWに繋いでないことも、MNWに繋げるのが怖いことも」
佐天「でもね、それでも―――今は、ミサカちゃんにしか頼めないんだ」
ミサカ『ミサカに、しか―――ふ、ふふ、そうですか。あの10032でなく、涙子はミサカを頼ってきてくれたのですね、とミサカはあまりの嬉しさに
口角の歪みが抑えきれません。ふふふふふふふふふ』
佐天「あ、あの?ミサカちゃん?」
ミサカ『ええ、わかりました。今すぐ居場所を特定しましょう、とミサカはMNWへ回線をひらきます―――っと、緊急信号が入ってますね。
上位個体のものですか……わかりました、上位個体は第七学区の○○の路地裏にいます、とミサカは伝えます』
佐天「○○の路地裏ね!ありがとうっミサカちゃんっ!!」ピッ
佐天「あそこか―――こっからだと、あと五分くらいかな」
佐天「……」
佐天「あの時、一方通行さん、確かに『頼んだぞ』って……」
佐天「……えへへ。不謹慎だけど誰かに『頼んだぞ』って言われると嬉しいなぁー!もう!」
佐天「じゃなかった!あの一方通行さんがそんなこと言ってくるくらいだもん、かなり切羽詰まってるってことだよね!急ごう!」だんっ
その頃の上条さん。
上条「うおー!あぶねぇー!打ち止め早く逃げろ!携帯なんて拾ってんじゃねー!」
ヴェント「私と戦ってる最中に心配してあげるなんてやっさしぃー!でもひっどいわねぇ、こんな暗い中子供を一人で
走らせるなんて」
上条「うっせぇぞ!テメェが関係ねぇやつまで狙うからだろうが!!」
ヴェント「黙れ!科学の街の人間なんてどぉなろうと関係ねぇーんだよぉぉおおお!!」ブゥン
上条「とあーっ!?」ガシャァン
佐天「この辺りのはずなんだけど……路地裏って言っても結構広いし」
佐天「おーい打ち止めちゃーん!ラースートーオーダーちゃーんっ!!」
チャーン
チャーン
チャー……
佐天「……駄目かぁ。雨降ってるから熱の流れもよく読めないし」
佐天「くそぅ、どうしたら…………っ?」
佐天「車の音……こんな路地裏に?」
佐天「――――――まさか」
猟犬2「先輩、この辺りっすか」
猟犬1「おう。さっさと捕まえるぞ」
猟犬2「了解っす。けど二人組なんて珍しいっすね」
猟犬1「ガキ捕まえるのに人数いらねぇだろ。さっさとしようぜ、木原さんに殺されるわ」
猟犬2「うい。でも、俺先輩と二人っきりだなんて……」
猟犬1「……馬鹿野郎。そういうのは帰ってからだ。な?」
佐天「oh...」
佐天「血も涙も無い猟犬部隊だと思ったら同性愛者だったってオチはさすがに……」
佐天「いや、引くまえになんとかしないと。相手は二人、かぁ。正面からってのはまず無理だよね」
佐天「かと言って分散するとは思わないし……うーん、こっちの匂いは消えてるし、頭上から一気に第四波動で攻めて、
それから当て身とかで攻略するべきかな?」
佐天「それとも、分かれるのに希望をかけてみるか……一対一ならなんとかなるから、そっちの方が安全かも?」
佐天「どうしよっかなぁ」
⇒第四波動で攻めるぜ!
⇒分散するまで待つぜ!
佐天「(分散するまで待とう。相手は打ち止めちゃん一人を狙ってるし、たぶん別行動した方が効率良いって踏むだろうし)」
佐天「(となると……視力強化もあるし、もう少し距離を開けてよう)」パシャッ
ばんっ
佐天「……え?―――ぐっ」だんっ
猟犬1「っと、何だあそこにいたガキか。オイオイ、アイツらまだ始末しきれて無かったのか?」
猟犬2「嗅覚センサーきかないっす。どっかで落としたんすかね?てか逃げられましたよ?」
猟犬1「問題ねぇだろ。完全に腹に当たってたしな。無理に動きゃ失血死だ」
猟犬2「はぁ。それにしてもよく気づきましたね。さすが先輩っす」
猟犬1「これでも耳はいいんでな。あと経験の差だな。あっちからやたら敵意みたいなもんが出てきてたから気づけたってわけだ」
猟犬2「さすがっすねぇ」
佐天「ぅ、がぁ―――、……!」
佐天「(撃たれた―――!く、不味っ……血が……!)」
佐天「(どうす、る……どう―――そう、だ。前に読んだ漫画で、確か……!)」
大佐『焼いて塞いだ……!2、3度気絶しかけたがな……!!』
佐天「(ってあったっけ……く、気絶ってどんなに痛いのさ……!けど……)」
佐天「(ここで迷っててもしょうが、ない……!)」
佐天「――――集中……!」
佐天「(第四波動じゃ範囲が大きすぎる……それに、私の身体は熱耐性があるから、ちょっとの炎じゃ火傷なんてしない……)」
佐天「(だから、身体に直接熱を取り込んでベクトル操作し、内部から焼く―――これでいこう)」
佐天「(ベクトル操作―――できるかどうかわかんないけど、自分の身体の中なら、まだなんとか―――)」
佐天「―――よし……熱吸収―――く、ぅ……っ」
佐天「(熱い―――……けど、今度はこの熱を……撃たれた所へ、操作――――っ!!!!!)」
佐天「く、ぁ、ぁあああぁぁあぁぁっ……!!!づ、ぐぅ、あ―――、はぁっ……ぁぁっ!!」
佐天「(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い集中集中集中集中集中集中――――!!!!)」
佐天「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
…………
…………。
佐天「……はぁっ……はぁっ……は――――」
佐天「(きず、は―――痛っ……)」サスサス
佐天「……よし、血は、止まってる……」
佐天「これで、まずは大丈夫―――そっか、散弾だから、弾が予想より広く飛んでたんだ……」
佐天「てことは―――うん、見た感じ、2,3発程度、ってとこかな……」
佐天「……ははっ。また、お腹に傷ついちゃった……しかも今度は、火傷の痕、か……」
佐天「やだなぁ……もう。銭湯とか、行けないじゃん……水着も―――あ、スク水とか着たら、いいかな……なんちゃって」
佐天「……よし、冗談言うくらいの、元気はある―――よし、大丈夫」
佐天「ふぅ……よし、行こう。まだ、動ける」ふらっ
佐天「――――っ!!!つ、ぁ……痛……けど……」
佐天「痛いくらいなら……我慢すれば―――……!!」
佐天「―――身体、強化。……随分時間、食っちゃった。はやく、打ち止めちゃんを……!」
――――。
佐天「……はっ」
佐天「はは……」
佐天「何これ……」
佐天「なんで……なんで」
佐天「これって……だって、これって……」
佐天「打ち止めちゃんが着てた、服の―――」
―――その後。
猟犬部隊が車を止めていた、つまり私が撃たれた場所に行ったけれど、車はなかった。
それどころか、銃弾、血液まで綺麗に掃除されて、まるで何事も無かったかのように、何時もの路地裏があっただけだった。
佐天「―――間に、合わなかった……?」
佐天「嘘、嘘だ……だって、私、一方通行さんに『頼ンだぞ』って」
佐天「あの一方通行さんに、頼られたのに……。……!」
佐天「そう、そうだ……ミサカちゃんに連絡すれば……!」
pllllllllplllllllllllll
ミサカ『あいよー、っとミサカは軽い口調で答えマフ』
佐天「打ち止めちゃん今どこにいるっ!?」
ミサカ『……い、いきなり大きな声を出されると辛いんですが、とミサカは耳がきーんって……』
佐天「お願い、早く……!じゃないと、じゃないと!」
ミサカ『わかりましたから落ち着いてください、とミサカはMNWへ再接続します―――っと、ん、特定完了しました。
絶対座標で×××××ですね、とミサカは最近自分の逆探知能力って凄いんじゃね?と思いながら結果を報告します』
佐天「あ、ありがと!×××××だね!」
ミサカ『はい……あの、大丈夫ですか?今にも死にそうな声をしていますが、とミサカはとても心配します』
佐天「―――大丈夫。ありがと」ピッ
佐天「絶対座標×××××―――待ってて打ち止めちゃん、今すぐ……―――ぁ?」ぐらっ ばしゃっ
佐天「あ―――く、ぅ……?(身体、が―――動かな―――)」
佐天「こ、れ―――は、(知ってる……これ、一方通行さんと戦った時にもなってたような―――)」
佐天「(でも、ちゃんと熱は残ってるのに……なんで……!)」
左天「(―――そりゃあアレだ。お前の頭が危険信号出してんのさ)」
佐天「(左天、さん……危険信号、って)」
フラグメント
左天「(お前の身体強化ってのはつまり、第四波動使用時に脳のリミッターが外れることの副産物だろ。
普段脳が身体にかけてるリミッターまで外し、身体能力を最大限に活用できる―――ってのが今のところの見立てだが、
さすがの脳も、死にかけの身体は動かせないってことだ)」
佐天「(な、何言って……?私なら、こうやって、元気に―――)」
左天「(ああ、まだ死なねぇだろうな。だがお前は今日一日で能力を使いすぎた。
俺が身体を使ったってのもあるんだろうが―――消費が激しすぎたんだよ。それにその傷だ。
リミッターの外れた脳でさえ、危険信号を出し、身体の動きを止めたってわけだ)」
佐天「(そ、んな……じゃ、じゃああの時みたいに左天さんが補助してください……そうしたら、もっと動けるから……!)」
左天「(それは出来ねぇ相談だ)」
佐天「(なっ―――)」
佐天「(何で、ですか……!)」
左天「(確かに俺が補助にまわれば動くだろうな。だがそうすると、10分も経たないうちに全身の筋肉と血管が千切れて、
関節と骨は砕けるだろうな)」
佐天「(……!そ、それがどうしたって……私は、打ち止めちゃんの所へ行かないと……一方通行さんに頼まれたから……だから行かないと……!)」
左天「(それから―――俺が、お前をそんな目に会わせたくねぇんだよ)」
佐天「(……っ。けど、10分以内で決めれば―――全力で行けば……!)」
左天「(そんなこと無理だろ―――自分でもわかってることを口にすんな)」
佐天「(う……でも、でも!頼むって言われたんです!だから、私は行かなきゃいけないんですよぅ……!)」
左天「(わかってくれ涙子―――俺だって、お前は心配なんだよ)」
佐天「(―――っ。……左天さん?左天さんっ?!なんで、やだ、返事してよぅ左天さんっ……!!)」
―――。
一方通行「(何処だあのクソガキ―――おそらく絶対能力進化計画時の、証拠隠蔽ルートをたどってやがるはず……)」
一方通行「(だとするとこの辺りで―――)―――オイ、何してンだ」
佐天「―――……一方、通行さん」
一方通行「……撃たれたのか」
佐天「いいんです……これは、もう大丈夫なんです……それより、そんなことより」
佐天「打ち止めちゃんが……連れて、かれて―――」
一方通行「――――――――――――――――ッ」
viiiiiiiiiviiiiiiiiiiiiiiii
一方 佐天「」ビクッ
一方「……っ」ピッ
木原『よぉ、一方通行ァァァァアアアアア!!』
一方「……木ィィィ原クゥゥゥゥゥウウウウン!!!オイオイ、なンでテメェが俺に電話かけてきてンですかァ!?
ラブコールなンざ気味悪ィから止めとけェ!」
木原『ハッ、テメェにラブコールするくれぇならこのガキにおはようのキスでもしとくぜ。
しっかしスゲェな学習装置ってのはよ!頭ン中に直接ウイルスブチ込めるなんざぶっ飛んでやがるぜ!?
ヒャハハハ、このガキ全身ガクガクしてよぉ!動画でテメェにみせてやりてぇわ!』
一方「ハッ、ガキのンなとこ見て興奮するなンざテメェ変態だったのかァ!?きっもちわりィ!!」
木原『テメェに言われたかねェよ』
一方「俺はそンな趣味じゃねェ」
木原『ハッ、本当かァ?どうせならここにいる『そういう趣味』のやつに今からハメてもらってもいいんだぜ?』
一方「出来るもンなら勝手にどォぞォ。どうせテメェ、つかいっぱしりだろ」
木原『……あ?』
一方「そもそも打ち止めを捕えるだけなら足を千切るだなンだと方法はあった。にも関わらずテメェは無傷で回収することに拘った。
てことはァ……アラアラァ?もしかして木原クゥゥンともあろうものが上からのパシリですかァ?」
木原『オーケーオーケー、テメェにはこのクソガキの子宮でも送ってやる』
一方「やってみな、テメェにそういう趣味と度胸があンならな」
木原『殺すぞ』ブツッ
一方「……なるほど、なァ」
一方「あンだけ挑発しても何もしてねェってことは……オイオイ、マジでつかいっぱしりかよ……
しかし猟犬部隊みたいな暗部の上ってことは……なンだ?おい、待て、嘘だろ……?」ブツブツ
佐天「あ、あの、一方通行さん……」
一方「――――なンだ。俺ァ、今ブチ切れそうなンだよ」
佐天「打ち止めちゃんの居場所ですけど―――絶対座標×××××、です」
一方「……なンだと?」
佐天「妹達の一人から、MNWを使って管理者打ち止めちゃんを探知してもらいました―――99.9%、確実です」
一方「……そォか」くるっ
佐天「あ……待って……待って!」
佐天「私も、一緒に行きます……!」ふらぁっ
一方「……あァ?」
一方「……ンな立ってるだけで精一杯のヤツが来ても邪魔だ」
佐天「打ち止めちゃんが攫われたのは、私のせいです……私が、もっと気をつけてればこんなことには……!」
一方「―――イヤ、それは違ェよ。打ち止めが攫われたのは、俺のせいだ。俺が、守れなかった」
佐天「違う……!だって、一方通行さんは、病院へ行って皆を助けてた……!
私、は……一方通行さんから頼まれたのに……守れなくて……」
佐天「折角、『頼む』って言われたのに……!頼りにされたのに……!」
佐天「やだ……嫌だよぅ……もう、もう役立たずなんて言われたくないよぅ……!
私だって、もう無能力者なんかじゃないんだからぁ……!!」フラフラ
一方「―――そォか。テメェは……」
一方「……もういいンだ。休ンでろ。後はきっちり終わらしてくる」バシャッ
佐天「ぁ――――やだ!置いてかないで!私も行くから!頑張るからぁ!だから、だから……!」ボロボロ
一方「―――打ち止めの場所、ありがとよ」だんっ
佐天「あ―――あ、う、うわあああああああああああんっ!!!!」
――――そこで私は意識を失った。
傷の痛みか、疲労のせいか。
けれど、後に「0930事件」と呼ばれるこの出来事について、私が関わったことはここまで――――
――――0930事件編 終
――――。
―――やだ……嫌だよぅ……もう、もう役立たずなんて言われたくないよぅ……!
一方「……」
―――やだ!置いてかないで!私も行くから!頑張るからぁ!だから、だから……!
一方「……駄目なンだよ」
一方「無理だ―――そンな、曲がった想いじゃ何も救えねェ」
一方「だが説教する権利なンて、生憎俺は持ち合わせてねェンだ」
一方「―――すまねェな」
木原「おーおーすげーなアレ。ったく、アレイスターの野郎、科学者のクセに科学を否定するようなことしやがって。
痺れちまうよなァ……お前もそうだろ?一方通行」
一方「随分と余裕じゃねェか木ィィィ原くゥゥゥゥゥン?残りはテメェ一人だけだぜ?」
木原「学ばねェガキだ。テメェじゃ俺に勝てねぇよ」
一方「何言ってンだァ?野良犬一匹殺せねェヤツが学園都市最強努めてるわけねェだろ。頭イカレちゃったンですかァ?」
木原「ごたくはいいぜ。来るなら来な。暇つぶし程度に相手してやっからよ」
一方「抜かせェ!!」
一方「(使用時間は残り3分―――十分すぎるくれェに十分だ。一分で片づけて打ち止めを治してやる―――!)―――がぁっ!?」バキッ
木原「今テメェが考えてたことを当ててやろうか?俺を即効殺して後ろのガキを助ける、そんなとこだろ?」
一方「ぐ……ッらァッ!!」
木原「当たんね。―――よ、っと」ヒュッ
一方「っはがぁっ……!」
木原「本当に学ばねぇ。こンなンが学園都市第一位ってンだからこの街も終わりかもなぁ」ブンッ
一方「ご、ふ……!く、クソ、がぁ……!」
木原「やっぱり当たんね」ヒョイッ
一方「く―――(何でだ……何でこうも簡単に避けられる……!)」
木原「――『なんでこんなに簡単に避けられるんだ?』ってか?まだ解らねえか。俺はテメェを作ってやった人間だろうが。
テメェの演算式、自分だけの現実、攻撃パターン、思考回路、何もかもお見通しだガキが!」ブンッ
一方「ぐぁっ……ぐ、だとしても俺が別の行動とりゃあ話は別だろォが!!」
木原「取れるわけねェよ。お前、行動心理学の本読んだことあるか?どの科学者も決まって『自由意志』は無ぇって言いやがる。
自由に選択しているつもりが、その実周囲の環境によって操作されてるってモンだが―――つまりお前はそういうことだよ」ヒュヒュンッ
一方「ぎ、っ……つ、はぁっ……!」
木原「俺が開発してやったアタマだ。周囲の状況を読み取って最も最適なルートを見つけ反射的にその選択肢に従う―――そうだろ?
だからテメェの行動はバレバレだ。わかったか間抜け」ゴッ
一方「ぶっ、……クソ、ったれがァ……!」
木原「反射の起動をズラしてるようだが関係ねぇよ、んなことお見通しだアホ。いつからそんな小細工しかできなくなったのやら。
ええ?一方通行よぉ!」ガガガガガッ
一方「く、はぁぁっ……!!づ……く、ぁ……」
木原「ヒャハハハハ!足が笑ってるぜぇ?ブルってんのか?ハハハハハ!!」
一方「(まじィ……打たれなれてねェから足にきてやがる……)」
一方「(ベクトル操作で殺そうにも……あの野郎、打ち止めを後ろにして戦ってやがる……!)」
一方「(駄目だ、でかい攻撃は打ち止めを巻き込んじまう……クソッタレが!!)」
木原「……ふーっ……あぁ、久々にいい運動したなぁ。よし、もうお前いいわ」
一方「ハッ……何言ってやがる……こちとらまだバッテリが二分も残ってンだよ……!」
木原「ああ、だからそれ、もういいから」ヒュンッ パキン
一方「……ぁ?」
木原「第三位の複製の電子回路を利用した演算補助装置。んなたいそうなもんをそこまで小型にしたんだ。
ある程度の衝撃加えりゃどっか故障するに決まってんだろうが」
一方「テ……メェ……!!!」
一方「(不味ィ……演算が―――能力が、使えねェ……!)」
木原「っと、そうだったな。補助が無くとも歩き喋るくらいは出来たんだったか?」ドガッ
一方「ごはァッ!」
木原「~~~っはぁ!いいなァおい、やっぱり生身は最高だなぁ!!ええ?一方通行よぉ!!」ガッ ガッ
一方「ぐ、ふ、ごふっ!」
木原「あ、やっべぇ!すっげぇ愉しくなってきたわ!そりゃそうか、何時もあんな生意気な姿見せられてたからなぁ!!
くぁー、いつかこうやって思いっきり蹴り飛ばしたかったんだよなァハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」ドゴォッ
一方「―――っ!!!」ビクンッ
木原「……っと、オイ、死んじまったか?」
一方「……は、が……ぁ」
木原「お、生きてやがった。よしよし、んじゃまぁお前はそこでこのガキが廃人になる様見とけ。テメェが一度殺したくらいじゃ足りねぇからな。
これくらいしねぇと割に合わねぇわ」
一方「(く、そ……どうすりゃ、いい……どうすりゃ、アイツに勝てる……!)」
一方「(今の俺じゃ駄目だ……俺の考えは全部読まれちまう……!)」
一方「(――――……)」
一方「(……なンだ……そうか、そォだよ……簡単な話じゃねェか……)」
一方「(今の俺じゃァ駄目だ……過去から続いてきてる、現在の俺じゃァ勝てねェンだ……なら)」
一方「(それなら―――――――)」
打ち止め「あ、ああ、ああ、あっ、あっあっ、あああぁぁっあああぁああああああ」ガクガク
木原「ははは、さっすが作り物だな。機械みてぇだわ―――」
木原「―――っと、なんだ、まだ起き上がる元気あったんだな。こっちきて見て見ろよ―――えぇ?一方通行」
一方通行「―――――――――――――」
木原「(―――?何だ?動きがおかし―――)ぷぁっ!?」バキィッ
一方「―――よォやく当てたぜ、キハラクン?」
木原「(何だ……何だ?決して早くは無かった……いや、それどころか無茶苦茶遅かったはずだ……)」
木原「……テメェ、何しやがった」
一方「たダこぶしをニギっただけダゼキハラクン?」ひゅっ
木原「チッ―――(……大丈夫だ!さっきはいつの間にか殴られてたが、ちゃんと見りゃ避けられないわけがねぇ!
ただつっかかってくるだけのガキだ!問題ねぇ、ここで後ろから背中を打ってやりゃぁ……)」
一方「―――つぅーかまぁーえたぁーーーーーーーきぃはらくぅん?」がしっ べりっ
木原「―――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!!?」ベリベリベリ
一方「うげぇ、きたねェ。イラネ」ポイッ
木原「(あ、たまが……)―――このガキがァ!!!!」ブウン
一方「つぁっ」バキッ
木原「このクソが!クソをクソ程浴びて死ね!!!」ガガガガガッ
一方「うゥン……?」ガクンッ
木原「っ!?(ここで倒れ―――くそっ、いきなり足崩しやがって!)」
一方「なんちゃってェ!」がしっ
木原「ぐぉっ!?(足に、飛びついて……?!なんだ、コイツ―――動きが読めねぇ……!)」
木原「(く、バランスが……倒れ―――)」ガァンッ
木原「――――ッ!!!あ、ああああああああああああ!!!!」
木原「(机の角がめくられた頭に当たるだついてねぇ!!くそ!くそ!くそ!!!!)」
木原「クソヤロォォォがぁぁぁああああああああああああああ!!!!」
一方「なンでそンなに起こってるの木原クン?――――ってなァ!!!ヒャハハハハ!!!わかンねェだろ!?
楽しいなァオイ、能力使わねェ戦いってなァこンなに楽しかったンだなァ!!!!!!!!!」
木原「何しやがったァアアアアアアアアアアアアアア!!」
一方「なァァァンにもしてねェのさ!!!ただちょいと自分だけの現実をいじったりはしたがなァ!!!
長年かけて開発してきたモンをぶっ壊すのは手間だったが生まれ変わったみてェでいい気分だぜェ!!!!!!!」
一方「テメェが知ってるデータは全部過去の俺のもンだ―――現在の俺にゃァ通用しねェよ」
木原「能力も使えねェカスがいっちょまえの口聞いてンじゃねェぞォォォアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
一方「そんなヤツにハゲにされたのはどこのドイツですかァァァあああ?カキクカカカコカカカキクケケコカコカカカカ!!!」
木原「(殺す!何があってもコイツは殺す!だがただ殺すだけじゃ駄目だ!!もっと、絶望的な―――)」
木原「……ハ、いいこと思いついたぜ」
一方「あン?いいからさっさと死ね」
木原「これなーんだ?正解はワクチンソフトでした――――そこのガキのなァ!!!」バキンッ
一方「―――――ッ!?」
木原「ヒャハハハハハハ!!これで確実にそこのガキは助からねェ!!あと五分もすりゃ脳がイカれてお陀仏だなぁ!!!
能力の使えねェお前じゃもうどうにもできねェよ!!!」
一方「―――テメェェェええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
木原「―――さらに駄目押しの一撃、ってやつを喰らいな」ひょいっ
一方「な――――(手榴弾――――)」
ドォォォンッ!
木原「……勝った」
木原「ハ―――ハハ、ははははは!!!ザマァ見やがれ!!こンなもんだ!俺達ゃこんなもんだ!!
誰かを救うだ?甘いこと抜かしてんじゃねえよ!!自分さえも救えねえクソッタレのくせによぉ!!」
一方「―――――nなktどうでもいi」
木原「―――あ?」
一方「おrあbふぁいえう;ふぁ;s:、あlうぇいんf;:……s「」あ@:ぺwkふぁawe
;kぅにb――――な;おえわ::あくぉjfんcだ:!!!!」
木原「あ―――」
木原「は―――は、はは」
木原「オイ―――その後ろの、なんなんだよ」
一方「―――あll殺::p@jk」
ひゅんっ
インデックス「a-----------------」
打ち止め「あ、あっ、あああああああ……あ……――――すぅ……すぅ……」
インデックス「―――ふぅ、なんとかなったみたい。そっちは大丈夫?白い人」
一方「おォ……なンとか、まァ」
インデックス「ひどい怪我……私に魔術が使えたらすぐに治せるのに……すぐにお医者さん呼んでくるから待っててね!!」
一方「頼ンだぜェ……げほっ」
一方「ハァ……何やったかわかンねェが、どォやら打ち止めは助かったみてェだな……ったく、世話かけさせやがって」
一方「―――それにしても、さっきの力……」
一方「なンだったンだ……わかンねェな。頭が沸騰しそうになってて詳しく覚えちゃいねェ」
一方「組み直した弊害かァ……?―――だが、この状態で使えたってことは、だ」
一方「アレを使いこなせりゃ―――ハッ、いいねいいね最高だね―――楽しくなってきやがった」
暗部「楽しくなってきたところすみません」
一方「あ?ンだテメェ」
暗部「どうも、自己紹介は省きますが簡単に言うと暗部の人間です」
一方「そォかい。で?何のようだとっとと失せろ」
暗部「いえいえそういうわけにも行きません。こういうお金の話はしっかりしておかないといけませんから」
一方「金ェ?」
暗部「今回の件で猟犬部隊が壊滅状態ですからね。壊滅させた貴方にその金額を支払っていただかないと。
あんなクソの寄せ集めでも、一応資源ですから」
一方「ハッ、何馬鹿なこと言ってやがる。テメェらが勝手につっかかってきただろ。正当防衛だクソッタレ」
暗部「それを言われてしまえばお終いなんですが――――はぁ、困りましたね。
もっと怒り狂って周囲のものを破壊してくれれば、その賠償金も上乗せ出来たんですけど」
一方「残念だったなァ、テメェらの思い通りに行かなくてよ」
暗部「全くです。ということで、いきなりなんですが暗部に入ってくれませんか?」
一方「唐突すぎンだろ……」
暗部「猟犬部隊が壊滅してしまってちょっと人手が足りないんですよね。
学園都市第一位のあなたに暗部に入ってもらえれば心強いんですが」
一方「くっだらねェ。他ァ当たれ」
暗部「そうですか。それではそうしましょう」
一方「なンだ、随分物解りいいじゃねェか」
暗部「えぇ、使えそうな素材は何人か見つくろってますから―――例えば、貴方の知り合いの中学生とか」
一方「―――ァ?」
暗部「柵川中学1年生、佐天涙子―――書庫の情報によると能力はたいしたこと無いように見えますが、
『大覇星祭での活躍』と『この事件での侵入者との一件』を見るとなかなか面白そうですね」
一方「ォィ―――待てよ」
暗部「随分とイレギュラーな存在ですが……そのイレギュラーさを解明すれば、大きな戦力になるかもしれません。
まずは適当に検査と言って研究所に――――」
一方「待てッツってんだろォが!!!!」
一方「あのガキはたまたまこっちに巻き込まれただけのガキだろォが!!闇の世界とは関係ねェ一般人だ!!」
暗部「それが何ですか?学生である以上学園都市の研究に協力する―――何も問題無いじゃないですか」
一方「何が研究だ!!あンな場所、ただの地獄じゃねェか!!!テメェらイカれてやがる!!
何がしたいってンだ!!こんなガキどもまで巻き込みやがって……!!」
暗部「うーん、何と言われましても。今回の侵入者の件でもそうですが、ここいらが正念場なんですよね。
ここで踏ん張らないと学園都市は潰れ、世界のバランスも崩れてしまいますから―――っと、あなたにはまだ早い話ですが」
暗部「それにいいじゃないですか。どうせ貴方には関係ありませんよ、あの中学生がどうなっても」
一方「―――――ッ!」
暗部「確かに貴方が強力してくれるのなら佐天涙子は必要ありません。貴方一人で十分ですからね。
けど、貴方は強力を拒みましたから―――ああ、別に攻めてるわけじゃありませんよ?貴方のせいで佐天涙子が
こちら側の世界へきてしまう、だとかそんなことはとてもとても」
暗部「誰しも光の当たる温かい世界で生きたいものですから。いいじゃないですか、それで。たった一人の犠牲で幸せが手に入るんですよ?」
一方「―――テメェら……最初っから、脅しにかけるつもりだったのか……!」
暗部「脅しとは失礼な。ただのお話です。こういう場合もあります、というお話」
暗部「さて―――最後にもう一度聞きますね。
――――――――――――――――――暗部に入る気はありませんか?」
一方「―――クソッタレが」
―――10月1日 5:59
「ん―――」
目を覚ますといつもの病室にいた。
窓の外をみる―――うっすらと紺色の空が広がっている。
ここは西側の部屋だから、今は朝方なんだろうな、とか考えてみた。
「……いつもの、か。そんな考えが出るほど入院なんてしたくなかったけどなぁ」
起き上がろうとするが身体が動かない―――感覚がない。
「全身麻酔……かな。始めてだなぁこんなの」
どうやっても動けないので、諦めて枕に深く頭をうずめる、昨日のことを思い出す。
――――雨の中。魔術師と出会ったこと。
――――猟犬部隊とかいうのに殺されかけたこと。
――――何も出来ない自分が悔しかったこと。
――――雨の中走り去る一方通行さんの背中が、とても遠く感じたこと。
「……どう、なったんだろ」
この身体では確認なんて出来ない。
諦めて、私は意識を深いところまですとんと落とした。
―――――木原くん編 終