垣根(……)パチッ
垣根「……お?」キョロキョロ
垣根(んだぁ?この空間……)
―――
垣根(何もねえ。真っ白だ)
垣根(もしかして死後の世界……ってやつか?)
垣根(はは、まさかな)チラッ
垣根「それにしても何もねぇ」
垣根「真っ白だ」
垣根「……」
元スレ
垣根「殺れると思ったか?俺を、垣根帝督を、未元物質を……!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1274535231/
垣根「やっぱ俺の相手はてめえじゃなきゃ駄目だな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276004566/
土御門「ご主人様」
垣根「!?」
土御門「?」
垣根「えっ」
土御門「?」
垣根「えっ!?……えっ!?」
垣根「……」ゴシゴシ
垣根「……!」バッ
土御門「?」ニコニコ
垣根「……」ゴシゴシ
垣根「……!」バッ
土御門「?」ニコニコ
垣根「……」
土御門「?」ニコニコ
垣根「それにしても何もねぇ」
垣根「真っ白だ」
土御門「?」ニコニコ
垣根「……」
垣根「その格好はなんだ……ですか?」
土御門「俺はご主人様のメイドぜよ?」
垣根「ああー…………なるほど?」
土御門「それにしても変なご主人様だぜい」クスクス
垣根「ごめん」
土御門「え?」
垣根「ごめんやっぱむりおええええええええええ!」
土御門「だっ、大丈夫かにゃ!?」ササッ
垣根「……」チラッ
垣根「ちかよんなうええええええええっ!!」
土御門「どうしようかにゃー……」オロオロ
垣根「……」チラッ
垣根「きもちわりぃいいいいいいっ!」ゲロゲロ
土御門「折角新しい子を紹介しようかと思ったのに……」
垣根「……」
垣根「新しい子……?」
土御門「ああ、とても可愛い子だぜぃ」
垣根(新人……?)
垣根(よくわからんが俺は「ご主人様」らしい)
垣根(そしてこいつは俺に雇われているメイド)
垣根(……)
垣根(もうちょっとマシなの雇えやボケ!)ガス
垣根(……ロングヘアーの綺麗なねーちゃんとかよぉ!)ガスガス
垣根(ていうか女ならどんなのでもこいつよりはいいだろおおおがああああ!)ガスッガスッ
垣根(バカあああああああ!俺のバカあああああああ!)ガスガスガスガス
土御門「おーい、どうしたんだにゃー?」
垣根「もうちょっと待ってくれ、もう少しで飛べそうな気がする」メキャッ
垣根「あと……少しで……」
ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス
垣根「って止めろやあああああ!」ドバドバ
垣根「……」
垣根(それにしても新人か……)
垣根(もし女ならばこいつの破壊力が中和されるかもしれん……)ゲロゲロ
垣根(男の場合は……)
垣根(死のう)ゲロゲロ
垣根「大丈夫だ……。紹介してくれ」ゲフッゲフッ
土御門「オッケー。それじゃ」
土御門「ほら、隠れてないで百合子も挨拶するにゃー」
垣根「百合……子?」
垣根(やっと普通っぽい名前が出てきたっつーのに……)グフッゴフ
垣根(肌に纏わりつくようなこの嫌な感覚はなんだ……!)ゴボッ
垣根(しかしこのデスメイドを乗り越えた俺に隙はなかった)
垣根(ちょっとやそっとじゃもう驚かねえぞ!)ゲロゲロ
垣根(来やがれ、百合子とやら!)ハアハア
一方「ごしゅじンさまァ」キラキラリン
垣根「ぐぎゃあああああああっ!!」オロロロロビチャビチャ
―――
垣根「……うああああああああっ!」ガバッ
冥土帰し「やあ、お目覚めかい?」
垣根「……」
垣根(ゆ……夢、か)
垣根(良かった、マジで良かった……!)ハァ
垣根(……ハア)
垣根(ベッド、白い部屋、カエル……いや、医者)
垣根(ここは……病院?)
垣根「……なあ」
冥土帰し「ん?」
垣根「俺はどれくらい寝てたんだ?」
垣根「何故俺は生きている?」
冥土帰し「……ふむ」
冥土帰し(意識もしっかりしているし、障害もなさそうだ)
冥土帰し「それじゃ、ゆっくりと話していこうか」
…………
冥土帰し「大体こんなところだね」
垣根「成る程」
垣根(思っていたより時間は経ってないのか)
垣根(それでも順位の変動、スクールやアイテムの解散……色々あったみてーだが)
垣根(死んだ扱いになってんだな、俺)フゥ
垣根(一方通行に負けたから第一候補にはもうなれねえだろうし)
垣根(やることがなくなっちまった)
冥土帰し「……」
冥土帰し「ま、急ぐ必要もないさ」
冥土帰し「今の君を縛るものはないし、ゆっくり探して行けば良いと思うよ」
冥土帰し「やりたいこともそのうち見つかるだろう」
垣根「……」
冥土帰し「他の患者さんのことを言うのは本当は駄目なんだけど」
冥土帰し「君と同じくらいに入院してきた子もね、同じ顔をしてたんだ」
垣根「することがない……ってか?」
冥土帰し「そうそう」
冥土帰し「この広い学園都市、やりたいことなんてすぐに見つかるさ」
冥土帰し「ましてや君は超能力者なんだし、ね?出来ることは星の数ほどあるさ」
垣根「……」
冥土帰し「ああ、そうだ」
冥土帰し「もう大丈夫そうだしいつでも退院していいよ。服はそこにあるから」
垣根「ああ」
冥土帰し「それじゃ、お大事にね」ガチャ
バタン
垣根「……そうか」
垣根「俺、生きてんだな」
垣根「一方通行の中二攻撃を受けた時はどうなるかと思ったが……」
垣根「なんか知らんがこうして復活したんだ」
垣根「人助けなんて柄じゃねえが……」
垣根「ちったぁ心入れ替えて頑張ってみますか」
垣根帝督のとある一日
―――
垣根「良いことをしようと街へ繰り出したはいいが」
垣根「善行ってどうすんだ?」
垣根「……」ポクポクポク
垣根「……」チーン
垣根「やべえ、わかんね」
垣根「もうちょいあのカエルに話聞いとくべきだったか」
垣根「元気よく退院しちまった以上戻るのもなんか格好わりぃし……」
垣根「ブツブツ」
アノヒトドウシタノカナ
ナンカチョウツブヤイテマスヨ
ホラ、ヘンシツシャハホウッテオイテイクワヨ
垣根「誰が変質者だ、犯すぞこのアマ共が!」
滝壺「あっ」
絹旗「垣根帝督……!」
麦野「アンタ……生きてたのね」
垣根(えーと)
垣根「って、ああ。お前らか
麦野「今まで何処にいたのよ」
垣根「ああ?病院だよ」
麦野「……」
麦野「ふーん」
垣根「聞いといてなんだよその反応」
麦野「なんでもないわよ、ただ聞いただけだから」
垣根「ああそう」
垣根「ところでお前らはなんで麦野の後ろに隠れてんだ?」
滝壺「……」
絹旗「超当然です、元々超敵同士なんですから」
絹旗「忘れたとは超言わせませんよ」ジッ
垣根(そういやこいつらアイテムにもいろいろ迷惑掛けちまったよな)
垣根(取り敢えず謝っておくか)
垣根「ああ……なんつーかあん時は済まなかったな」
絹旗「っ!?……あ、え、はい……!」ビクッ
麦野「気にしてないわよ、あの時はお互い様ってことで」
垣根「そいつは良かった」
クイクイ
滝壺「むぎの、この人ちょっと変。おかしい」
絹旗「たたっ……たたたたーた、滝壺!?」
麦野「そういうのはズバッと言うのはいくらこいつにとはいえ良くないわよ?」
垣根「心配するな、自覚はある」フッ
絹旗「……」
麦野「……」
滝壺「……」
絹旗(自覚は超あるんですね)
滝壺(別人みたい)
垣根「そういやアイテム解散したって聞いたけどよ、お前ら何してんだ?」
麦野「何って」
麦野「皆普通に学生してるわよ」
滝壺「花も恥じらう女子高生」
絹旗「私は超中学生ですけど」
垣根「お前は?」
麦野「だから学生だって」
垣根「いやだからお前は?」
麦野「学生っつってんだろ」
垣根「学生っつーのは後ろの嬢ちゃん達だろ?」
垣根「お前は?OL?」
麦野「私も学生だっつーの」!?
垣根「おっと」
垣根「待て、落ち着け」
垣根「冷静になれよ、なぁ第四位」
麦野「てめぇがふざけたこと抜かすからだろうが!それと私は今第三位だ!」
垣根「分かった分かった。じゃあこうしよう」
麦野(分かってねーだろコイツ)
垣根「例えば仮にもし本当にお前が高校生だったと仮定する」
麦野「もしとか本当にとか、喧嘩売ってんのかてめぇ……!」
垣根「うるさいだまれ!」
垣根「そこの二人、こいつの制服姿を想像してみろ。ブレザーでもセーラーでもいい」
垣根「因みに俺はブレザー派だ」キリッ
垣根「ブレザーが大好きだ!」
垣根「とまあ俺の嗜好は置いておいて」
垣根「お前らああああ!」
絹旗「!」ビクッ
滝壺「……」ビクッ
垣根「どうだ、脳裏に浮かぶのは本当に高校生か!?」
絹旗「……」
滝壺「……」
垣根「いや違う!」
垣根「断じて違う!」
垣根「明らかに!明らかに無理をしたコスプレにしか見えぐふぉ」ガッシャアアアアアン
麦野「はー……はー……」
絹旗「はぁ、超やっちまいましたね、麦野が一番気にしてることを」
滝壺「本当のことでも、言っていいことと悪いことがあるんだよ」
麦野「……おい」
麦野「アンタらも粛清すんぞ?」ギロッ
絹旗「超ごめんなさい」
滝壺「めんご」
垣根「よっ……と」フルフル
麦野「てめーまだ生きてやがっ……」
垣根「っと、悪い。少し用事があんだ」フルフル
垣根「じゃ、またな」ペコリ
絹旗「え」
麦野「待ちやがれてめぇ!」
ファッサファッサ
麦野「くそっ」
滝壺「……」
絹旗「……」
麦野「……」
滝壺「……」
絹旗「ちょっ、超何ですかアレ!?ぷうぅぅっ!あの垣根帝督が、超垣根帝督が!」
絹旗「超頭下げてましたよ!」
麦野「……」
麦野「何か変な物でも食べたのかしらアイツ」
滝壺「喉、乾いた」
―――
垣根「があああああっ!!」ブンブン
垣根「人が心入れ換えて爽やか好青年になったっつーのに、あの女ども変なもの見るような目で見やがってよぉおっ!」
垣根「……いかんいかん」
垣根「これでよかったんだよな……!」ハァハァ
垣根「しかしよぉ」
垣根「ストレスでハゲんじゃねえか、俺」
垣根「ちくしょう」
垣根「……心なしか胃が痛ぇ」キリキリ
マチナサイヨォォ!
フコウダァァァ!
垣根「……お?」
垣根「なんかやってんな」
垣根(鬼ごっこ……じゃねえよな)
ヤメロビリビリ!
ビリビリジャネエッツテンデショウガァアアアア!
垣根「追いかけられてんのは男か」
垣根「追いかけてんのは女。……ってアイツは超電磁砲じゃねえか」
垣根(俺が順位から消えて麦野が第三位ってことはアイツが今第二位か?)
垣根「……」
垣根「なんか良くわからねーが……」
垣根「一丁人助けといくか」ファサッ
御坂「待てって言ってんでしょうがぁぁああ!!」バチバチ
上条「俺は今からタイムセールに行かなくちゃいけないって言ってるだろうがぁぁあああ!!」
御坂「三分で済むから!止まりなさいよぉぉおおっ!」
上条「嫌だ嫌です嫌なんですよおおおおおっ!」
御坂「くうぅ!コイツ……!」
御坂「人の気も知らないで……」
御坂「……もう知らない!あったれぇえええ!!」ドシュン
上条「え」
上条「う、うわああああ!」
ドッカーン
御坂「や、やった!?」
垣根「それを言ったら負けフラグだぜ」ファサ
御坂「!?」
上条「アレ?無傷?」
御坂「なんで……?」
御坂「あ、あんなチンピラみたいな奴に……」
御坂「あたしの超電磁砲を、いとも簡単に止められた?」
御坂「……何者よ、アンタ」
垣根「安心しろ、モブキャラだ」
御坂「嘘」
垣根「マジ」
御坂「嘘」
垣根「とみせかけて?」
御坂「嘘よ」
垣根「つれねぇな」
御坂「メインヒロインの必殺技を止められるモブキャラなんていないわよ!」
上条(メインヒロインだったのか……)
垣根「え?メインなんだって?」
御坂「メ・イ・ン・ヒ・ロ・イ・ン!」
垣根「……」チラッ
上条「……」チラッ
垣根「違くね?」
上条「てっきりインデックスかと」
御坂「何これ、いじめ?」
上条「いじめられてるのは俺だけどな」ハァ
御坂「なんでよ」
上条「なんでって無能力者にバンバン能力使う奴があるか」
御坂「そ、それは……あ、あんたが……」アセアセ
御坂「……」チラッ
垣根「……あん?」
御坂「そう!アンタは何者なのよ!」
御坂「超電磁砲を止めるなんてただ者じゃないわ!」
御坂「あやしい!」
上条(話逸らしやがった!)
垣根「怪しくない」
御坂「あやしい」
垣根「うるせえ」
御坂「あやしい」
垣根「……とにかくだ」
垣根「俺に常識は通用しねぇ」キリッ
垣根「間違えた、俺の未元物質に常識は通用しねぇ」キリリッ
御坂(未元物質?ってことはこのあやしいのが元第二位……!?)
御坂(死んだって聞いてたけど……)
上条「助けてくれたのか……?」
上条(それにしてもビリビリの超電磁砲をいとも簡単に……こいつも超能力者なのか?)
垣根「おい」
上条「は、はいっ」
垣根「早く行けよ。タイムセールってのがあんだろ?」
上条「あ、はい」
垣根「しかし……タイムセールってなんだ?」
御坂「おーい」
垣根「時間の特売?……いや、時間を売るだなんて非科学的だな」
垣根「でもファンタジーって夢があるよな」
垣根「その設定を詳しく教えてくれ。気になって夜しか眠れそうにない」クルッ
上条「タ……」
垣根「た?」
上条「タイムセールを知らないなんて、超能力者なんか嫌いだーっ!」ダダダダダ
御坂「あっ、ちょっと!待ちなさいよ!」ダッ
垣根「な、なんでだ」
垣根「訳わかんねぇ」ガックリ
垣根「ショックだ、超ショックだ」
垣根「もう夜も眠れねぇよ」オイオイ
垣根「だが超電磁砲、お前は通さねぇ」
ガッ
御坂「えっ、足ばら」
御坂「ふぎゅ」ベシャ
垣根(助けたはずなのに感謝どころか嫌われてしまった)
垣根(何故だ)
垣根(ハハ、悪人は何をしても所詮は悪人ってか?)
垣根(……いや、結論にはまだ早い。今日1日続けてみてからだな)
垣根(つってももう日が沈みかけてるんだが)
垣根(取り敢えずこの鬱憤は)
垣根「お前で晴らせて貰うことにするぜ!えーとお前今第何位!?」ガバッ
御坂「今は二位よ、元第二位……」
御坂「散々人を無視した挙げ句に転けさせて……あたしと勝負ですって?」ムクリ
垣根「いや待て。こいつを泣かすのは容易い」
御坂「やってやろうじゃない……元第二位!」ビリビリ
垣根「ならばさっきのツンツン頭を追い掛けてタイムセールとやらの設定を見に行くほうがいいんじゃないか」
御坂「くらえぇぇええ」キィン
垣根「よし!それならばツンツン頭を追おう!」ファサ
垣根「じゃあな第二位!今度ジュース買ってやるから!」バサバサ
ピンッ
御坂「えっ、あ……ちょ」
ドーン
キャアアアアアアテロリストオオオオオオオオ
ハヤクツウホウシロ!
アオピ、キズハアサイニャー!
ボクハモウダメヤ……
御坂「……」
御坂「逃げよう、うん」
―――
上条「あの」スタスタ
垣根「なんだ」スタスタ
上条「何故についてこられるのでせうか?」スタスタ
垣根「なに、気にするな。知的好奇心が疼いただけだ」スタスタ
上条(俺が気にするんだって)
垣根「知らないままなんて気持ち悪いだろ?おちおち昼寝も出来やしねえ」
上条「……さいですか」
…………
上条「着きましたよっと」
垣根「スーパーじゃねえか、どういうことだ!?」
上条(なんだよ何が気に入らないんだよ)
上条「どういうことも何もここでタイムセールをやるんですよ」
垣根「何ぃ!?」
垣根(ここで時を売るというのか!?ファンタジーすぎんだろ!!)
垣根(嘘だと分かっていても、こういうのはロマンがあっていいな)
上条「……?」
上条(そんなに驚くことなのか?やっぱり庶民と高レベルは違うんだな……)
ウィーン
上条「よし、まだ人が少ないな」
垣根(数に限りがあるのか。ま、当然だな)
垣根(しかし買うのはいいが、どうやってそれを購入者に入れるんだ?)
垣根(尻からってのは夢がねーな……)
垣根「何処から注入するんだ」
上条「えっ」
垣根「何処から注入するんだって聞いてんだよ」
上条(何を!?)
上条「え、えっと。口?から?かな、あはは」
垣根(こいつは何を言っているんだ)
垣根「果たしてそれは食えるものなのか」
上条「何がですか。ほら、これですよ」
垣根「惣、菜……?」
垣根(見た目は普通、値段も安すぎる)
垣根(成る程、口から注入と言ったのは頷けるが……)
垣根(普通の設定すぎる、おかしい)
垣根(もっとこう、壮大な夢っつーか希望みたいなもんが……)
垣根(何か、何かあるはずだ)
垣根(良く考えろ垣根帝督!)
垣根(…………まさか!)
垣根(これはカモフラージュ!)
垣根(確かに時を売るだなんて設定、痛すぎて公には出来ないよな)
垣根(しかし……98円?そんなバカな)ハッ
垣根(……)
垣根(ハハハ)ニヤニヤ
上条(わ、笑っている?)
垣根(……成る程、98万円か。ファンタジー!!)
垣根(商品の製造日から消費期限までの日数または×週の時を得られるということだな!)
垣根(自分で何言ってんのかイマイチよくわかんねーけど!)
垣根(そういうことにしておこうぜ!)
垣根(つまりこいつが持っているポテトサラダは三日!もしくは三週間伸びるということだ!そうだな)チラッ
上条「……?」
垣根(来い!来いよ!)
垣根(うなずけ!うなずけ!)
上条「……」
上条(これを買うのかってことか?)コクッ
垣根(ちょ、マジで!?すげぇ!)
垣根(本気で言ってんのか!?)
垣根(……)
垣根(やはり!なるほどこれは良い発見をした!)ポン
チーン
「ありがとうございましたー」
上条「いやー、いっぱい買えた」
垣根「おい」
上条「本当、助けて頂いてありがとうございました。それでは」ペコッ
垣根「おい」
上条「ま、まだ何か……?」
上条(なんなんだよこの人はああああああああああああうぜええええええ!)
垣根「12日または三ヶ月分の時を購入してたった2000円とはどういうことだ」
垣根「安くね?」
上条「はい?」
垣根「いやさ、俺も良くわかんねぇ、良くわかんねぇんだけど」
垣根「つまりどういうことだって聞いてんだよこの野郎……!」ワナワナ
上条「は、はいい?」
上条(うわあ、意味わからんけどなんかすげぇ怒ってる……!)
上条「あ、えーと……それは」アセアセ
垣根「……」
垣根「あー、こーいう事はねえと思うんだがな」
垣根「もし、もしだぞ」
垣根「もしお前が仮に……」
垣根「普通に惣菜買っただけだとかぬかしたら殺す」
垣根(あ、やべっ)
垣根「殺さねぇけど」
上条「え」ビクッ
垣根「んなことはねーよな?」
垣根「お前はタイムのセールにやってきたんだよな?」
垣根「時間を買いに来たんだよな?」ズイッ
垣根「そうだよな?」
垣根「そうだと言え!」
垣根「早く!」
垣根「嘘でもいいから!」
上条(なんだこの人頭おかしい)
上条(時間を買うとか何言ってんだ!?)
上条「え、ええ!そうなんですよ!こうやってちまちまと寿命を伸ばしてるんですよ!」
垣根(本気で言っているのか!?)
垣根「……」
垣根「やはりそうか」フッ
垣根「しかしそんなに小刻みに増やす理由はなんだ?一辺に買っちまったほうが早いんじゃ……」
垣根(待て。もしかしたら買わないんじゃなく買えないんじゃないか?)
垣根(もしかしてこいつ寿命がすげえ短くて……でも金が無くて買えねえ、みたいな)
垣根(ならば先程の店員はそれを知っててこっそり値引きしてくれたという設定か)
垣根(なんという漢……!いや、女だったような気がするけど)
垣根(……まださっきの惣菜コーナーには人はいねえな)チラッ
垣根(よし)
垣根「少し待ってろ」ウイーン
上条「えっ、あ……はい」
上条(逃げてえええ!)
…………
アリガトウゴザイマシター
ウイーン
垣根「おら、持って行きな」ガサッ
上条「は、はいぃ?ど、どうして俺に……!?」
垣根「何も言うな」
垣根「分かってる、分かってるから」ズイ
上条「ありがとうございます。助かります……!」ペコペコ
上条(肝心なところで噛み合ってないけどこれは嬉しい!やったぜインデックス!)
垣根「あのさ」
上条「……はい?」
垣根「人生ってやつはロクでもねえもんだけどさ、まだまだ捨てたもんじゃねえからよ」キリッ
垣根「頑張りな」グッ
上条「は、はい!」グッ
上条(人生ってとこしか聞いてなかった……まあいいか)
垣根「では俺は行く、またな!」バッサバッサ
上条「さようならー!」
上条(ちょっと変だけど、いい人っぽいな)
上条(変だけど)
―――
垣根「腹減ってきたな」
垣根「そこのファミレスにでも入るか」チラ
垣根「この時間は客がいっぱいいやがるな……」ベタッ
垣根「店員も忙しそうだ」ジー
ナンデスノ?アノトノガタ
ファミレスノマドニハリツイテマスネ…
オカネナイノカナー
御坂妹「……」明らかに嫌そうな視線
垣根「フッ、目が合ってしまったな。今入って来るな、そう訴えているつもりか」
垣根「まあなんだ」
垣根「お前の気持ちは分かる」
垣根「分かるぞ」
垣根「ああ、よく分かる」
垣根「だがな」
垣根「俺に常識は通用しねえ」ウイーン
御坂妹「っしゃいませぇ、とミサカは独りでアイコンタクトを無視して独りでファミレスに入ってきた独りのお客様になげやりに言います」
御坂妹「お独り様でしょうか?とミサカは明らかに独りのお客様にお独りかとの確認をします」
垣根「独り独りうるせえんだよ、俺が寂しい奴みたいじゃねえか。早く席に案内しやがれ」
御坂妹「只今店内大変込み合っておりまして、相席でよろしければご案内させて頂きますが。とミサカは独りのお客様に言いながらぶっちゃけ帰ってほしいなと思います」
垣根「ああ、相席で構わねぇ……ってそこの卓空いてんじゃねえか」
御坂妹「申し訳ありませんが只今あなたのようなお独り様の寂しいお客様に四名席を使わせるほど余裕がありません。とミサカは席に案内します」
垣根「なら仕方ねえな……おい、ここか?」チラッ
御坂妹「はい、こちらのお客様には了解を取ってあります。とミサカはお冷やとおしぼりを置きながらめんどくさそうに説明します、それでは」ペコリ
一方「……」
垣根「……」
一方「おかしいなァ、ここはメルヘン野郎入店禁止じゃありませンでしたっけェ」
垣根「おかしいな、ここはロリコン入店禁止じゃありませんでしたっけか」
一方「……」
垣根「……」ヨッコイショ
一方「……」
打ち止め「……」ジッ
垣根「どうした?」
打ち止め「わーい!イケメンが来た!ってミサカはミサカは素直な気持ちを口にしてみる!」キャッキャッ
垣根「ありがとよ、素直な子供は嫌いじゃないぜ」
一方「こいつと喋ンなクソガキ。脳内お花畑になンぞ」
垣根「お嬢ちゃん、あんまりこいつとくっついてるとそのうち食われちまうぞ」
打ち止め「二人は知り合いなの?ってミサカはミサカは貴方とイケメンの関係を尋ねてみる」
垣根「敵だな」グイグイ
一方「敵だなァ、ってかてめェ。隣に座っただけでもアレなのに詰めてくンじゃねェよ気持ち悪ィ」
垣根「ああ?じゃあお嬢ちゃんの横に座ってもいいのか?」
一方「それは許さねェ、絶対に許さねェ」
垣根「なら固ぇこと言うんじゃねえ、狭いんだよボケ」グイグイグイ
一方「はァァァ?何言ってやがるンですかァ?てめェの方が3cmほど広いじゃねェかァ!」グイグイグイグイ
垣根「うるせーしこまけーんだよ、もやしは端で小さくなってやがれ」
御坂妹「しゃーす、ご注文お伺い致します。とミサカは想定外の忙しさで疲弊しきっているにも関わらず、明るい口調でメルヘンなお客様にお伺いをたてます」
垣根「おい、聞いてやがったんならもっと早く来いや」
垣根「客が偉いとは言わねぇがよ、金貰ってる以上まともに働けっつーの」
御坂妹「……」
垣根「……」
御坂妹「お冷やのお代わりをお持ち致しますね。そのまま暫くお待ち下さいませ。とミサカはメルヘン野郎から逃げます」スタコラサッサ
垣根「ちょっ、おい待て俺お冷やに口を付けてすらいねーだろうが」
一方「ぷふゥっ」
垣根「ロリコン、笑ってんじゃねーよ。気持ちわりーんだよ」
一方「うるせーンだよメルヘン、お冷や貰えて良かったなァ?」
打ち止め「そういえば貴方のお名前は?ってミサカはミサカは思い出したように尋ねてみる」
垣根「かき「一方通行」
打ち止め「貴方じゃないよ。ってミサカはミサカはイケメンのお兄さんをじっと見つめてみる」
垣根「か「一方通行」
垣根「……」
一方「……」
垣根「何妨害してんだよこのクソもやし」
一方「はいィ?何言ってやがンですかァ?」
垣根「明らかに俺の名前にカブせてきてんだろうが!」
一方「テメェの名前なんざカブせる価値もねェっつーの」
垣根「うるせぇよアクセロリータ」
一方「そういうのやめてくれませン?超差別っぽいンですけどォ」
垣根「垣根てい「一方通行」
垣根「今カブせた!カブせただろ!バッチリ聞こえたぞ!」
一方「してませンー、頭に続き耳までオカシくなりやがったンですかァ?」
垣根「……」スゥ
垣根「垣根帝「一方通行」垣「一方通行」垣ね「一方通行」垣根て「一方通行」か「一方通行」「一方通行」「一方通行」かき「一方通行」「一方通行」「一方通行」く」
垣根「……」ハァハァ
一方「……」ゼエゼエ
垣根「名乗らせろや!」バンバン
一方「えェーなンですかァー!この人怖い」
一方「店員さァーン!!このメルヘン野郎摘まみ出してェー!!」
御坂妹「店内ではお静かにお願いします。とミサカはお前が一番うるせーんだよと注意致します」
一方「あっ、ごめンなさい」
垣根「……」
一方「……」
一方「……テメェのせいで怒られたじゃねェか」
垣根「てめえで勝手に怒られた挙句人のせいか?」
垣根「どこまで腐ってんだよ」
一方「俺は腐ってねェよ。脳が腐ってる垣根くゥン」
垣根「ああ?てめえは頭全滅だろうが」
一方「はァ?そういうテメェは両手両足が腐ってンだろォが」
垣根「おい、お前よく見たら全身腐ってんぞ」
一方「あれェ?テメェ臭ェぞ、全身腐ってるンじゃないですかァ?」
垣根「うわ、お前も十二分に臭えよ」
一方「いいや、俺の方が若干いい匂いするわァ」
垣根「いやいや、俺の方が圧倒的にいい匂いだろうが」
一方「……」
垣根「……」
垣根「ははははははははははは!」
一方「ひゃひゃひゃひゃひゃァ!」
垣根「てめえマジで殴んぞ」
一方「はっ、逆にブン殴ってやンよ」
垣根「もやしのへなちょこパンチなんざ痛くも痒くもねえっつうの」
一方「舐めンじゃねェぞ。俺パンチングマシンで100とか余裕だし」
打ち止め「……」
垣根「はぁ?150位出せねぇと話になんねーよ」
一方「ああ、自己ベストは160」
垣根「俺は200なんですけど」
一方「間違えた、210だァ」
垣根「因みにベストは220な」
一方「俺の方がパンチの速度早いけどなァ」
垣根「は?俺の拳は音速を普通に越えるっつーの」
一方「俺は光速だァ」
垣根「ハッ、如何に早くてもなぁ。俺の拳は力とか速さとかそういうのだけじゃねえんだよ」
一方「抜かしやがれェ、他に何があるって言うンですかァ?」
垣根「心……いや、魂だ」
打ち止め「……」
一方「あァ?ンなもン三つくらいあるし」
垣根「少なっ、俺百個くらい持ってんだけど」
一方「じゃあ俺は二百個」
垣根「じゃあってなんだよ、てめえさっきから俺にあわせて見栄張ってんじゃねーよ」
一方「……」
垣根「……」
垣根「恥ずかしい奴だなオイ」ゴクゴク
一方「う、うっせンだよォ!テメェなンざなァ、俺の黄金の右、鋼の鉄拳から繰り出す左ストレートで一発だっつーの!」ガタン
垣根「テンパってんじゃねーよ、座れ」
一方「……」ギシッ
打ち止め「貴方達仲がいいんだね。ってミサカはミサカはちょっと嬉しかったり」
垣根「冗談はよしてくれよ」
一方「良い訳ねェじゃねェか」
垣根「別に仲良くねえよな?」
一方「ああ、仲良くねェなァ」ギシッ
垣根「敵だからな」ゴクゴク
一方「敵だもンなァ」
打ち止め「……」
打ち止め「ぐすっ、ぐすっ」
一方「!?」
垣根「あーあ、泣ーかした」
一方「テメェ、他人事のようなフリしてンじゃねェぞ」
一方「オラクソガキィ、なンで泣いてンだよ」
打ち止め「ううっ、貴方にも友達がいたんだって……ひっく……思ったのに、嬉しかったのに……ぐすっ……やっぱり貴方はぼっちだったんだね……。ってミサカは、ミサカはぁ……」
一方「」
垣根「ははっ」ゴクゴク
一方「何可哀想なものを見る目をしてやがるンですかァ!」
一方「っとォ、今はそれよりも」
一方「コイツがダチだろうとなかろうと、俺にダチがいようがいまいが関係ねェ」
一方「俺にはお前がいりゃいいンだよォ」ニコォ……
垣根「うわ」
打ち止め「……」
打ち止め「ちょっと嬉しかったけど笑顔が怖い!キモい!ってミサカはミサカはびえええええええ!!」
一方「」
垣根「……」
垣根「さて、帰るか」ガタン
一方「おいテメェ待ちやがれェ!逃げンな!」ガシッ
垣根「放せぃ!」ブン
打ち止め「びえええええええ!!」
アリガトウゴザイマシター
―――
垣根「くそがあああああああああああ!!」
垣根「お冷やしか頼んでねえっつうの!」
垣根「ていうか頼んでもねえっつうの!」
垣根「……」
垣根「でも微妙に腹が膨れたような気が」グゥー
垣根「しねぇ」ハァ
垣根「全てはあのロリコンのせいだ」
垣根「取り敢えずコンビニにでも行くか」スタスタ
ナア、ネーチャンドコイクノー
オレラトアソボウゼー
垣根「あん?」
垣根「……ナンパか?」
垣根「助けてみるか」スタスタ
スキルアウトA「今仕事帰り?俺らと遊ぼうよ、どうせ暇でしょ?」
スキルアウトB「Aに言われるとすごいムカつくだろうけど勘弁な」
「私、一応学生なんだけど」
スキルアウトC「あっ、そうなんだー。ゴメンねー、大人っぽく見えたからさ」ニコニコ
スキルアウトD「それだけ君が魅力的だってことだよ」キラッ
「ええ、知ってるわ」
スキルアウトA「知っててもそこは一応否定しとこうぜ?」
スキルアウトB「Aに言われたくねーだろうよ」
スキルアウトC「お姉さんの行きたいところでいいよ」ニコニコ
スキルアウトD「君が望むなら何処までも。僕たちはお供しますよ」キラ
「気持ち悪……」
スキルアウトA「言ってくれるじゃねえか」
スキルアウトB「まあ事実Aはキモいけどな」
スキルアウトC「申し訳ないけどお姉さんに拒否権はないんだ。本当にゴメンよ」
スキルアウトD「おお……神よ!何故こんな形で僕と彼女を引き合わせたのか……!」
「……うるせえ」
垣根「ヤバいなんか……なんか入れない」
垣根「えーと」
垣根(このまま帰るか!?)
垣根(いや待て垣根帝督……!お前は生まれ変わったんじゃないのか!)
垣根(良いことするんだろ!?人の為に動くんだろ!?)
垣根(だったら進みやがれ垣根帝督ぅううっ!!)ファサ
スキルアウトA「お?生意気に楯突くつもりか?」
スキルアウトB「Aが言うな、どっちが生意気だっつーの」
スキルアウトC「残念だよ、お姉さん」
スキルアウトD「神よ……このような結果になってしまったことを恨みます!」
「ブッ殺すぞ……」
垣根「待ちやがれぇええっ!」ファサファサ
「!?」
「……はあっ!?」
スキルアウトA「なんだありゃっ!」
スキルアウトB「未確認飛行物体だな。未確認という点ではA、お前と同じだぜ。顔的な意味で」
スキルアウトC「何々?敵さん?悲しいなぁ……」
スキルアウトD「僕と彼女を邪魔するのかい?しかし、僕はあの日誓ったんだ。決して彼女を離しはしないと!」
垣根「濃すぎなんだよてめぇらぁああああっ!!」
………
垣根「雑魚が」
「……で、どういう風の吹き回しかしら?」
垣根「あ?助けて貰ったらまず礼だろうが」クルッ
麦野「はぁ?助けて貰う必要なんてなかったわよ」
垣根「なっ!?ゴリ……」
麦野「誰がゴリラよ、ホストもどき」ギリギリ
垣根「おまえ……しか、いねーだろうが……」ギブギブ
パッ
麦野「次言ったら殺すわよ」
垣根「はっ、やってみな……」ハァハァ
麦野「で、改めて聞くけど。なんで助けようと思ったの?」
垣根「……」
垣根「さあな、気まぐれだ」
麦野「ふーん」
麦野「……まあいいわ。助けて貰ったのは事実だしね」
麦野「どうもありがとう」
麦野「少し変わったんじゃない?あんた」
垣根「……お前も変わったんじゃねえか?」
麦野「そうかしら?どういうふうに?」
垣根「なんつーか……柔らかくなった」
麦野「へー、そう?」
垣根「ま、いいんじゃねーか?元はいいしな」
麦野「……」
麦野「明日は槍でも降るのかしら」
垣根「……串刺しになって死んじまえ」ボソ
麦野「てめえ今なんつったおい」
垣根(誰か見てやがるな、三……いや四人)
麦野「……どうしたの?」
垣根(一旦こいつと離れるべきだな)
垣根「なんでもねえ」
垣根「なんか疲れたから帰って寝るわ」
麦野「……そ。また機会があったら会いましょ」
麦野「じゃあね」ヒラヒラ
垣根「ああ」
―――
スタスタ
垣根(気配は減っていない。標的は麦野じゃなかったようだな)
垣根(今すぐにでもブッ飛ばしてえが……ここじゃ目立ち過ぎるか)
垣根(廃ビルの方まで行くとしよう)
垣根「にしても腹減った……」
垣根「お腹と背中がー」
垣根「くっつくぞ!」
垣根「……ハァ」
スタスタ
―――
麦野「ついて来ない、か」
麦野(標的は垣根の方だったみたいね)
麦野(ま、殺されることもないでしょ)
麦野(順位から外れたっていってもアイツは未元物質だもんね)
麦野「……」
麦野「……さっき借りを作ったばっかりだったわね」
麦野(……)イライラ
麦野「……」コツコツ
麦野「ああああーもう!!」ドガッ
ナ、ナンダ!?
アノトシゴロノジョセイハオコリッポインダヨ!
ヒゴロストレスガタマッテイルンデショウネ…
麦野「行くわよ、行けばいいんでしょ!」
麦野「これでチャラにしてやるわ!」カツカツ
オンナッテコエー
ナンデコッチヲチラミスルノカナ!?
OLモタイヘンナンデスネー
―――
学園都市某所。とある区画。
かつてはそこそこに繁栄していたが、開発工事の凍結により現在はほとんど人の住んでいない区画。
都心とは真逆と言っていい程に寂れており、ここに足を踏み入れると世界から隔絶されてしまったかのような錯覚すらしてしまうほど。
その中を一人足早に歩く。
背後の四つの気配は消えないまま、付かず離れずの距離を保ち尚も着いて来ている。
人気のない場所にくれば姿を現すかと思っていたが、そうでもないようだ。
果たして何が目的なのか。ハッキリしない追跡者の行動に垣根帝督は溜息を零す。
そんなことをしている間に視界が拓け、パッと見ただけでは数え切れない程のビルが現れた。
発展の表と裏。
寂しさを感じさせる裏の景色をただ歩いていく。
その中央にある廃ビルへと足を踏み入れると、ついて来ていた気配が幾つか消えた。
このビルの両隣にはこれに寄り添うようにして建つ二つのビルがある。
右隣のビルに入ったか。
左右で二対二で挟み撃ちにするつもりなのだろう。
残りは前を通り過ぎて行ったようだ。
静まり返る屋内の階段を登る。
一歩を踏み出す度に、カンカンと音が響く。
いつ頃から使われていないのだろう、所々は錆び、所々は朽ち、埃が積もりゴミが散乱している。
それらにまるでこの都市の闇を見ているかのような気分にさせられる。
「きったねぇな」
その光景に、都市の闇に、同じく闇である自分に
一言だけ吐き捨てるように言い、屋上へと向かう。
…………
立て付けの悪い扉をこじ開け、屋上に出て僅か数秒。
風を感じる間もなく。
空気の流れが変わった、そんな気がした。
ここに留まっていれば死ぬ、そう直感して左方へと飛ぶ。
直後、大きな音が静寂を裂く。
「良い度胸してんなあ……おい」
屋上へ上がってから実に十数秒
突然壁から「生えた」三本の鉄骨。
身体からは僅か十数cm。
咄嗟に身体をずらしていなければ……等とは考える必要も暇もなく。
すぐさま態勢を低くし、周りへと視線を向ける。
鉄骨の刺さっている方向、角度から敵の位置を予測。
右のビルか。
地を蹴り、くそったれな第一位にメルヘンなどと言われた翼を広げ
飛翔――――
「感知させる間もなく攻撃をすれば……」
「殺れると思ったか?俺を、垣根帝督を、未元物質を……!」
舞い上がり、屋上の遥か上空から見下ろす。
先程居たビル同様、煤けたビル。
高さは僅かにこちらのビルより低く、屋上には鉄骨の山。
発射地点はここか。
その影に、一つの人影を発見。
身体を傾け、急降下。
「甘ぇ……甘えよてめえらぁぁああああっ!」
視界に捉えた、鉄骨を操作し攻撃態勢へと入っていた敵。
空力使いか?
……ああ、それはもうどうでもいいか。
その側にある山積みの鉄骨を烈風で薙ぎ倒す。
面白さすら感じさせる程に転がっていく鉄と鉄が奏でる、ここからでもうるさいくらいに鳴り響く音。
能力使用を中断し、咄嗟に回避に移るその男。
相討ち覚悟で飛ばしていたとしても俺には触れることすら叶わない。
賢明な判断だ。
だが、
――遅い。
そいつの懐へと潜り込み、翼による斬撃。
衣服が避け、肉が避け、コンクリートに鮮やかな赤を散らす。
痛みに呻く暇すら与えずに、すかさず通信機と思わしき機器を奪い取り、蹴り飛ばす。
……この程度で死にゃしねーだろう。
『こちら01!状況を報告しろ!』
耳に当てたそれから聞こえる慌てた声。
反響している。室内と判断。
成る程、01はこちらの状況がすぐには確認出来ない場所にいやがる訳か。
『こちら03、確認に向かう!』
続いて01よりも少し若い男の声。こちらに来てくれるようだ。
02と03がこっちにいるっつーことは01、04は反対側、だな。
ここに来る方法だが、飛行出来るのであれば最初から全て見渡せる場所にいるだろうし、空間移動にしては遅すぎる。
つーことは階段から。
そう思い、扉の前で待ち構えたところでカンカンと階段を上がる音が耳に入る。
全く以て馬鹿としか言いようがない。
「タ!ターゲ「遅ぇ」
律儀に扉を開けて突入してきた03と呼ばれた男を烈風にて出迎え、死なない程度に切り刻み、吹き飛ばし、お引き取り願う。
分かったことは
敵に探索系及び空間移動能力者はいないということ。
戦い方が素人同然。統率も取れていない。恐らくこいつらはスキルアウト。
この程度で俺に勝とうなんざ百年早い。
『03!03!応答しろ!』
これは01の声。
03とやらの通信機は切り刻んでやった為にもう機能していない。
チカチカと明滅するその僅かな光を最後に踵を返して反対側のビルへ向かうべく、最初にいた廃ビル側のフェンスの向こう側に降り立つ。
吹き付ける風が少し寒く感じる。
明日からはもう少し厚着するとしよう。
こいつら相手では身体が暖まる前にケリがついてしまいそうだ。
そんなことを考えながら左手に持っていた通信機を口元へ。
「今から潰しに行くからよろしくな」
それだけ言うと、通信機を眼下に広がる暗闇の中へと投げ捨てて空中へと身体を投げ出して垂直落下。
翼を広げて姿勢制御。
右からぐるりと旋回し、反対側のビルへと向かう。
…くそ、寒い。
それにしても何故命を狙われたのか。
スキルアウトとは然程絡んでねぇし、喧嘩を売られるような覚えも無い。
誰かに依頼されたとみる方が正しいだろう、クライアントは俺が生きているということを知っている人物だということだろうか。
……何にせよ表沙汰に出来るような仕事じゃねえことは明白。
「ったく、人気者は辛いねー。……くそが」
裏手に回り急上昇、本日最大の溜め息の後に舌打ちを一つ。
悪態を吐いてビルを見下ろす。
適当に見たが屋上、入り口に敵影無し。
もう既に逃げる算段を立てているのだろうか。
ならば中層辺りか。
……俺があいつらならどうする。
相手は超能力者。
遥か雲の上の存在。
まともに戦って勝てる相手ではない。
だからこその不意討ち。
しかし仕留め損ない、仲間を失い位置も大体は把握されてしまった。
どうする?
考えるまでもなく答えは一つ。
俺がとる行動も一つ。
潰す。
それだけだ。
「1日の〆がこれかよ」
今更ながら呟く。
最悪な気分である。
新鮮な空気を吸い込む。
張り詰めた空気。ったく、少し前までとは大違いだ。
さて、周囲には居住者もいない。
周りへの被害を気にする必要も無く。
多少、音が鳴っても騒音にもならないだろう。
それに生憎だが俺にかくれんぼをする趣味はない。
翼で月の光を回折、変換。降下。
その光の束でビルの中層を薙ぎ払う。
綺麗に切断された箇所から滑り落ちる上層部。
周囲を埋め尽くすのは砂煙と轟音と、地響き。
何とも心地よい音か。
何人もの人が、幾つもの機械が、月日をかけて建築した建造物も。
垣根帝督の前では玩具、否。それ以下であった。
…………
上空より、辺りを埋め尽くす瓦礫の山と残った下層部を眺め、奴らが出てくるのを待つ。
形を留めているのはそこだけではあるが、上、中層部にいたとしても能力者ならば死にはしないだろう。
「さて」
入り口から逃げようとしている人影を発見、見逃がす理由はない。
姿勢制御、発進。
その人物の数m先に降り立つ。
「こ……この、化け物が……!」
「そいつはどうも」
こいつが01。恐らくは最後の一人、足を震わせ立ち竦みながら精一杯の悪態を吐くその人物を見据え
垣根帝督は笑う。
「さて……お前らの所属、その詳細と目的を教えて貰おうか」
六枚の羽を生やした眼前に立つ男が冷笑を浮かべながら問い掛けてくる。
男は答えない。
顔には笑みが浮かんでいる。
そこに先程まであれほど滲ませていた恐怖はもう見当たらない。
垣根は直感した。
この顔は死を覚悟したものではない。
「ははっ……!」
勝利を確信した顔だ。
「死ね!メルヘン野郎!」
ありったけの悪意を込めて吐き出された言葉。
メルヘン、か。
第二位という言葉じゃ無かったのはどういう訳か。
俺が第二位であったことを知らない?
……たまたまか?
そんな思考を急いで打ち切り、そいつの視線を辿る――
その先は俺の入った廃ビルの三階の窓、そこに微かに見えた鈍く光るもの。
銃口。
そんなモノで俺を殺ろうなどとは。
「垣根ーっ!!」
突然聞こえた声に不意を突かれ、思考が塗り潰される。
俺の聞き間違いでなければ先刻別れた彼女。
何故アイツがここに。
そう考えるが早いか、辺りに響き渡る、
死を告げる、音。
…………
垣根「危なっ!お前危なっ!あのタイミングで話し掛けてくるとか何考えてんだ!」
垣根「バッカじゃねーの?バーカバーカ!」
麦野「うっせーよ!てめえが気付いてねえと思ったんだよ!」
垣根(ちょっとシリアス展開っぽくなって俺KAKKEEEEってなってたのに……)
垣根(やべ、ちょっと泣きそう)
垣根「つーかよ、テメェあの銃持ってた奴殺したろ?殺したろ?」グスン
麦野「ああ?今更何言ってんの?」
麦野(つーかなんでちょっと泣いてんのコイツ?)
麦野「殺しはいけませんーなんて奴じゃねーだろ、未元物質様は」
垣根「……はっ」
垣根「俺は変わったんだっつーの、もう殺しは止めたんだよ」
麦野「……は?」
麦野「ビル破壊したくせに」ボソ
垣根「うっせえ、建物破壊したらなんか……なんかこう格好良いだろうが!」
麦野「あの中に人がいたかもしれないわよ?」
垣根「……」
垣根「あ」
麦野「あ、じゃねーわよ」
麦野「殺したくないなんて言うのは別に構わないけどね」ハァ
麦野「今まで通り能力使ってたら確実に死人が出るわよ」
麦野「アンタの能力がとんでもないことは自分が一番知ってるでしょ?」
垣根「……」
垣根「仕方ねぇな、お前がそこまで言うならこれからセーブしてやんよ」ハアーア
麦野「ちょっ、なんで私が殺すなってお願いしたみたいになってんのよ!」
垣根「俺の能力パネェからなあ、それに第よ……三位の頼みだしな」チラッチラッ
麦野「うぜぇ……」
垣根「……」
垣根「ああ、それより」
麦野「……なによ?」
垣根「これからはこっちで俺に関わるんじゃねーぞ」
麦野「……」
麦野「言われなくてもあんたみたいな奴とは関わらないわよ」
垣根「そうしろ」
麦野「……帰るわ」
麦野「それじゃあね、バーカ」コツコツ
垣根「……」
垣根(敵の正体がわからねー以上誰かと一緒にいるのは危険だしな)
垣根(……んだよ)
垣根(不殺不殺って……何がしてーんだ)
垣根(大した理由もねえくせに)
垣根(結局変われてねーんじゃねえのか、俺は)チッ
垣根(取り敢えず気持ちを入れ換えてはみたものの……)
垣根(……どうなんだろうな)
垣根「さて、俺も帰――」
01「」ピクピク
垣根(普通なら縛り上げて拷問して情報を吐かせるところだが……)
垣根(善人・垣根帝督はそんな非人道的な行いはしねえ)
垣根(多分)
垣根(こいつらがまた向かって来るってんなら)
垣根「その都度ブッ倒すまでの話だ」ファサ
垣根帝督のとある一日 その1 完
垣根「そういや俺飯食ってねーよ!」
132 : VIPにかわりましてGEPPER... - 2010/05/23 23:51:46.60 jI2EQlUo 97/569これで一段落、シリアスになってるのかどうかもわからん
色々おかしなところは見逃してくれ
【 その2 】 へ続く