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≪あらすじ≫
アレッと思ってギアいじったっけロー入っちゃってもうウィリーさ
元スレ
女騎士「貴様は私にとって大変迷惑な存在なのだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389631243/
女王「元より、私はこの北西と覇道を往く事など望んではおりません。
エリンと本島の人々による、ささやかな共栄ができれば……それ以上は求めません」
モルドレッド「その結果……どうだね。円卓の腐敗や議会によるアンチ連合の扇動は今もなお収まる事がない」
ディナダン「中世期を思わせるほどに儀典局が政治面でのさばり、産業の機械化によって大衆の格差も広がる一方」
女王「……」
ディナダン「国教会と儀典局には、二世紀ほど黙って頂きたく思うのです。彼らの存在は、大陸平定の障害。それ以外の何物でもない」
モルドレッド「本音言わせてもらえば、あんたの首でも差し出して脅しかけてやりたいくらいなんだが……
叩き斬っても死なないんじゃあ埒があかない。このまま人質になっていただこうか」
女王「……ふ」
ディナダン「……陛下」
女王『あーあ……やっぱり……ダメだったかあ……私、こういうの向いてないんだよお……』
モルドレッド「何を……!?」
女王『大きなことをするわけでもないのに、どっかでみんな言う事聞かなくなっちゃうしさあ……』
ディナダン「(古語……? しかし、こんな言語は耳にした事がない……)」
女王「……はい。はい、わかりました。あくまで、エリンの事を公開し……我々王室と儀典局の所業を教皇領に報告する……と」
ディナダン「腹の内はお決まりでしょうか」
女王「はい……覚悟はできました。もう一度リトライしようと思います。イチから、エリンを守る為の騎士を作り直しましょう……」
モルドレッド「イチから……リトライだと?」
ディナダン「抜剣なさい、モルドレッド卿……お早く」
女王「必ずどこかしらでほころびが産まれる……千年王国なんて、夢のまた夢か……彼が望んだアヴァロン……準備、なかなか終わんないなあ」
ディナダン「モルドレッド卿!! 奴にキャリバーンを使わせてはなりませんッ、援護を!」
モルドレッド「何する気だ……アバズレッ、貴様ぁ!!」
女王「キャリバーンA解放、天威キャップマークⅡからⅦまで範囲開錠……」
モルドレッド「おかれた立場が分かっているのか!? 貴様、僕らがどれだけの人質を握っていると思ってる!!」
女王「……ごきげんよう、ゴグマゴグのハバクク……久しぶり、何世紀ぶりかな……ちょっとだけ、表に出してあげるね」
トリスタン「な、な、な、な、何じゃあ、ありゃあ……」
ユーウェイン「で、でぇっかい人……巨人族、あんなおっきいのがいるの!?」
トリスタン「ど、ど、ど、どぉすんだ、どぉすんだよォ……陛下はモル公とババアと一緒だろうし……ラーンスロット卿はエリンだし……」
パラメデス「狼狽えている場合かッ、馬鹿者が!! あれが連合王国にもたらすのは災厄くらいなもの、やる事は一つだろうに!」
ベティヴィエール「ふぁぁぁカミサマぁぁぁ、もう経費で競馬にも行きませんし賭けボクシングもしませんから許してぇぇ」
パラメデス「竜騎兵団を招集しろ! 現地民の避難誘導を行う、着いて来い!」
ディナダン「ゴグマゴグ……建国譚に登場する巨人の名……!」
モルドレッド「何なんだ、コイツは……! ただの魔物ではない、こいつは……!!」
女王「天使でも、ましてや魔物でもありません。彼は、善悪二元の概念より以前から地に存在していた国作の神……」
モルドレッド「このデカブツを呼び出すのが、キャリバーンの天威だって言うのか……?」
ディナダン「キャリバーンの天威は生滅の理への干渉……しかし、これは……」
女王「……ごめんね、寒いよね……凍えちゃうよね……でもね、少しだけ……少しだけ我慢してね」
ディナダン「(生に繋ぎとめたまま、神話の巨人を自らの管理下に置いていたとでも言うのか……
なんとおぞましく面妖な風貌……既に皮も筋も腐敗し、骨の組織は爛れ……それらを凍結させて繋ぎとめている……)」
モルドレッド「ち、血迷ったかッ!! こんな魔物を呼び出して……どういうつもりだッ!! 答えろッ!!」
女王「ですから、リトライの為の準備です……エリンの為には……ジャバウォッキーを守るには必要な事……」
ディナダン「……!」
女王「どうして……見なくてもいいものを見ようとするんです……聞こうとしなくてもいいものを聞こうとするんです……
どうして、身の程に合わない者を欲しがるんです……せっかく丈に合った役割を準備してあげたのに……足りないなら、言ってくれればいいのに」
モルドレッド「まともにお話しする気もないわけか……!」
ディナダン「大衆の命には、何の関心も持っていないと? 我々だけを断罪すればいい話、何をそんな」
女王「……」
女王「メンドくせぇーから口答えしねえ奴以外処理して……サラ地にして焼き直しするって言ってるんですよ」
モルドレッド「クソタレがッ……! 本当にいかれてるッ!!」
女王「まだそんな事……もう、もう嫌……耐えられない、ああ、もう今回もダメだなんて」
ディナダン「(このプレッシャー……! 正教会の大天使と同格だとでも言うのか)」
モルドレッド「サラ地だと……どう思考が飛躍すれば、そんな薬中患者のような結論が出る! どれだけの被害が……」
女王「被害をいくら受けたとしても……なにも毒を撒くわけでもない、いったん全部処理するだけ……きっと、みんな仲良く復興するでしょう」
ディナダン「復興……?」
モルドレッド「バカを言う……!! 西帝の惨状を見て、まだそんな事を!!」
女王「それでも……時間をかければ、街の一つや二つできるでしょう? あれだけお金が行き来してたんだから……
私達の時なんて、為替制度もろくにできてなかったんだよ? 国境またいだら即餓死まったなし……今なんてずっといい世の中なのよ」
モルドレッド「死ねっ……貴様のような奴は……貴様は死ぬべき人間だッ!! ここで……僕が……!!」
女王「……粘菌のコロニーと一般中流家庭のつつましいけれども幸せな生活。どっちが大事だと思う?」
ディナダン「粘……菌……?」
女王「シャーレの中で蠢く粘菌と、自分の身内の平安……粘菌にはずっと繁殖の手助けをしてあげてきたのに、すこし入れ知恵してあげたらこの仕打ち?
研究の役にも立たないで……家庭内にたちの悪い病気を持ってくるの? そんなのってないわよね、ひどいわよね……恩知らずよね……」
モルドレッド「……」
女王「でも、粘菌じゃしょうがないよね……私達の……ジャバウォッキー一人ひとりの重さなんて、理解できないものね……
期待しすぎちゃって、ごめんね。私が、責任を持って皆殺しにしてあげるから……次は、もっとお利口な粘菌に助けてもらうから……」
モルドレッド「野郎……!」
女王「おとぎの国の住人に、自由意思なんてないでしょう? おとぎの国のお客様に刃向っちゃ、おとぎの国じゃなくなっちゃうでしょう。
ジャバウォッキーはね……依然として、あなた達粘菌とは違う……向こうから来るお客さんなんだから」
ディナダン「(よもや……ここまで価値観が異なるか……! これが生滅の剣のマスター……絶対的な王の力……
アヴァロンが誇る……五柱の勇者……『彼』こそが、キャリバーンとワイズマンを継ぐ勇者……!)」
モルドレッド「忘れたかッ……こちらにはジョワユーズがある!! これがどういう事か……」
女王「ジョワユーズ……粘菌なりにがんばったんだね、偉いね……偉いけど、お仕事のベクトル間違っちゃってるね……粘菌だもんね……」
ディナダン「……」
モルドレッド「いちいち癇に障る女だ、聖滅の剣のチカラ、貴様も知り及んでいるだろうに」
女王「ええ、存じております……あなた達より、色々な事を存じております。原罪の蛇……ガリアのジョワユーズ……
その天威が欲する五柱の勇者の座は、シャドウ。人間の善性や自律心によって抑圧された感情、その願いに基づいて育まれし血統」
ディナダン「シャドウの座……やはりあの、アジ=ダハーカが……」
女王「自分勝手で独善的……利己心と虚栄心で塗り固められた哀れな自己を持つシャドウ……
ジョワユーズを手にするまでになるとは思っていませんでしたが……その矛先、私にだけ向くとは限らないのではなくって?」
モルドレッド「何……」
女王「シャドウという神性の産んだトリックスターに……単なる粘菌の口先三寸の交渉で首輪を嵌められたと思っているのですか?
どこまでも……どこまでも思い上がった粘菌ですこと、おおよそアジ=ダハーカと私、そして儀典局の共倒れを狙ったのでしょうが……」
ディナダン「(アジ=ダハーカの裏切り……もちろん想定はしている、だからこそヴォーパル鋼の供給を餌に交渉を行った、
だからこそ……エクスキャリバーを魔王軍……勇者の側に託したのだ。私のものと、あの裏切り者の所有していた二本を!)」
女王「全ては時間の経過が解決してくれます……どんなに国土が荒れようと、どんなに命が失われようと……
どんなに仲が悪くなろうと、時間は全てを洗い流します……そう、現世に限りはない。生滅を司る私にもまた、限りなどありません」
女騎士「……何だコレ」
息子「おいも」
娘「ふかしたおじゃがいもです」
女騎士「見ればわかる、コレはどういうアレだ、何だ」
ポニテ「は、おやつにございます」
女騎士「口パッサパサになるな……おェ、まずい。味うすいぞ」
ポニテ「艦内食に飽きられたそうで、エリン本島の集落で色々食物を探したのですが……」
息子「おいもくらいしか売ってなかったね」
娘「わたし、じゃがいも好きよ。アンチョビつけて食べるの」
女騎士「酒!! 肉!! ぶどう!! りんご!! あとメロン食べたい!!」
エルフ騎兵「騎士様のおねだりが始まったぞ!!」
エルフ近衛兵「ちくわしか持ってねぇ!」
女騎士「やーだー帰る帰る帰るう、大陸に帰るう!! あーきーたー!!」
エルフ三男「やーだー帰る帰る帰るう、おうち帰るう!! あーきーたー!!」
エルフ騎兵「どんぐりのワガママが始まったぞ!」
エルフ近衛兵「石ぶつけてやれ!」
騎士ほ「では、私が向かいますわ……あなた方はそこで指示あるまで待機」
ダークエルフ騎兵「お気を付けて……!」
騎士ほ「……」
雷帝「こんにちは」
騎士ほ「……ごきげんよう、閣下。本日はなにゆえ、我が北西の領海……いえ、領空へ?」
雷帝「いえね、帝国の英雄である彼女……エルフを率いて、なにやら北西に向かったとの事。ちょっぴり気になった次第でして。
ああ、空母は領海ギリギリに停泊してるんで。まだ領『空』侵犯だけですよ」
騎士ほ「それで……連合に似合わぬ竜騎兵などを引き連れて……?」
雷帝「おや、おやおやおや……目を付けてくれましたか? 我々のかわいいかわいい翼竜ちゃん達を」
騎士ほ「見た事も無い、黒のウロコを持つ翼竜……それに、その鎧は……」
雷帝「すべて自前……と言えばウソになりますかな? あなた方と同じで」
騎士ほ「フクク……違いない」
雷帝「漆黒のフォルムが美しいでしょう。このイルべガン種、本国から離れた南方地域の山岳に生息する竜でして。
気性は、北西のワイバーンと比較すればイエネコと獅子。非常に獰猛で、調教のマニュアルが完成するまで7人が犠牲になりました」
騎士ほ「まあ、こわい……」
雷帝「……して、あなた。円卓の小間使いをしている一人だと聞いておりますが……今、円卓で何が起こっているか、御存知ですか」
騎士ほ「反女王派によるクーデター……数日前より話題になっておりますわね。幸運にも、私は出張という事になっている筈ですが」
雷帝「ふふ……では、女王の乱心については存じてないと」
騎士ほ「乱心?」
雷帝「ええ、乱心。キャリバーンを有せしジャバウォッキーの女王……神のチカラを以て配下を蹂躙せしめている、だとか」
騎士ほ「……」
雷帝「氷の巨人、キャメロットに降臨す……東帝での天災に続く、不信心者への天罰とでも言ったところでしょうか」
騎士ほ「まさか、本当にそんな事を考えていると?」
雷帝「とんでもない。この世界に神などいるわけがない、魔術なども同様、ペテンや神経症の延長以外の何物でもない」
騎士ほ「……」
雷帝「で、す、が……聖剣に勇者……それらの威光を目の当たりにしては、人外の存在が行う秘術も……信じざるを得ない」
騎士ほ「というと?」
雷帝「信じて、受け入れた上で……ねじ伏せる必要がある。旧き神に、今を生きる資格などありません」
騎士ほ「……」
雷帝「正直、私も本国の厭戦派の尻ごみにはうんざりしておりましてね……
あんなエセ女王を、経済大国である北西のトップに置いておいていいのかと思うのですよ、もったいない」
騎士ほ「我らが陛下を旧き神とは、甘く見られたものですわ」
雷帝「おや、あなたの神とはアジ=ダハーカの事では?」
騎士ほ「……フクク、よく調べられてらっしゃるようで」
雷帝「仮にも情報庁の長でございますゆえ。北西儀典局の黒さにも、きな臭さを感じていた次第でございます」
騎士ほ「儀典局……」
雷帝「あなた方は、何らかの方法で儀典局……王室の隠蔽していた何かを発見したのでしょう?
だから、アジ=ダハーカはなんの縁もない北西の諸島へ遥々足を運んだ……」
騎士ほ「何か、とは……何でしょう……」
雷帝「たとえば……女王を教皇領の指定する背信者に仕立て上げる事もできるような証拠……だとか」
騎士ほ「見当がつきませんわね……我々を買いかぶり過ぎではなくて?」
雷帝「いえいえ。デモ隊のクズどもを踏みつけにし、北西や共和国のマークを掻い潜り……皇女殿下をかっさらったあなた方に、不可能はありますまい」
騎士ほ「……」
雷帝「そこで、そんな憂国の烈士たる皆様に提案でございます。
ああ、そう構えないで……確かに私は東方の所属ですが、ここで事を荒げる気は毛頭ありません。
私、武闘派でもなければあなた方のように頭が回るわけでもない、本当に肩書きだけの若輩者ですので」
騎士ほ「フクク……謙遜も過ぎると気分が悪いですわね……」
雷帝「そういじめんでくださいまし。居た堪れなくって泣いてしまいます」
騎士ほ「……それで、提案とは」
雷帝「は。共に手を取り合い……北西の女王を打倒いたしましょう」
騎士ほ「……!?」
雷帝「あのように自国の民を踏みにじるような行い……もはや、奴は女王とは言えますまい。
今こそ、北西を独裁、そして歪な階級社会から解放するのです。それができるのは、国際的にフリーなあなた方だけなのです」
騎士ほ「何を期待しているのかわかりませんが……我々は一国の軍隊を自由に動かしているわけではありません……
そもそも、最終的な活動の目標はそちらも知っての通り……正統なる帝国の復興であって、本来矛先を向けるべきはあなた方連合……」
雷帝「魔王軍に対する抗議活動を我々が代行すると言っても、振り向いてはくれませんか?」
騎士ほ「……」
雷帝「実を言うとですね……最近あの魔物ども、何を勘違いしているのか……自分達をいっぱしの国際勢力だと思っているようなのです。
けがらわしい!! 便所のカマドウマごときがつけあがって……帝国領の被災地域で発生している犯罪、これはほとんど魔物……
失礼、魔族による犯行が大部分を占めている事が判明しています。こちらの軍とも諍いを多々引き起こしているようでして」
騎士ほ「魔族に与するから……そんな事になるのですわ……」
雷帝「そう! 私も悟りました、あんなゴミどもと関わる事自体、文化人としてありえない事なのだと。
法則と断言してもいいでしょう、魔物どもに与するとろくな結果をもたらさない! 本国の人間はともかく、こちらに出て思い知らされましたよ」
騎士ほ「それで、鬱憤が溜まっている……そうでなくとも、魔王軍を切る合理的な理由がある……と?」
雷帝「察しが早くて助かります」
騎士ほ「……」
騎士ほ「6年前より魔王軍は、どちらかといえば西寄りの思想でこれまで主張をしてきましたが……」
雷帝「少々お灸を据えて、教育し直してやらねばならない時が来たのだといえましょう。
我々が西欧へ進出する為には、従来までは帝国、加えて共和国が最大の障害となっていました。しかし、現在は違う」
騎士ほ「共和国、そして南方の小国群程度ならば、揺さぶりをかける程度で開城する……」
雷帝「周囲の大国に依存している国家ならば、あなた方アルヴライヒの経済力で抱き込めましょう
共和国への決め手はやはり北西を落とす事……魔王軍など、その後にどうとでもなる」
騎士ほ「……」
雷帝「実現不可能な計画でもないでしょう? 先ほど、あなた方は自らの事を少数の革命集団だと謙遜していましたが」
騎士ほ「フクク……世界にとって正しい事を啓蒙する、平和を愛する一団ですわ」
雷帝「……あるんでしょう? 聖剣。持ってらっしゃるんでしょう?」
騎士ほ「そちらこそ。持ってないとは言わせませんわ?」
雷帝「ははは、これは鋭い!」
騎士ほ「こちらの重役が……在ろう事か、あなた方の飼い犬に手を噛まれかけまして。せっかく手に入れた聖剣を手放してしまったとか」
雷帝「……その聖剣とは……こちらの事では?」
騎士ほ「……」
雷帝「聖剣バルムンク、これに相違ありますまい」
騎士ほ「手の内をそんなに軽々明かすなんて……本気で北西を落とすつもりですの?」
雷帝「ええ、もちろん。私はいつでも本気で生きています。邪魔するものは蹴落として、踏みつけて、掻き消えるまで踏みにじるのが信条です」
女騎士「連合のチビ……だと?」
騎士ほ「は。我々との一時的な共同戦線を提案してきまして」
エルフ三男「予想通り、バルムンクは東方側に回収されていましたか。ふむ……」
女騎士「あの真っ白パンツぺったんチビ、なかなか度胸があるんだな。トチ狂った北西相手にケンカ売るってのか。
しかも、本国の支援が決定してないっていのに……下手すりゃ共和国もかち切れんぜ」
騎士ほ「仮に作戦行動をともに行うとして、表の思想的に武装中立を主とするエルフが周囲の火消しを行うであろう事まで想定しているのでしょう。
共和国内にはメリフェラも存在します、アルヴライヒの抱き込みも今回の目的のうちの一つだと考えられます」
エルフ三男「別に、利用するのもされるのも構いませんがね……得になる方に着くだけです」
女騎士「……まあ、考えてやらんでもないがな。何かまだ条件があるんだろう。言ってみろ」
騎士ほ「お察しの通り……合同作戦に際しての条件として、ある人物の出向が挙げられています」
女騎士「ある人物?」
エルフ三男「……」
騎士ほ「お姉様の……実のお姉様ですわ」
エルフ三男「なっ……!!」
女騎士「なんだクソ安いじゃん、やっちゃえやっちゃえ」
エルフ三男「あ……う……」
女騎士「何だ、どうした素人童貞。何テンパってる」
エルフ三男「それは……その……」
女騎士「だーいじょうぶだっての、心配すんじゃねーよ。いくらマワされようが孕まされようが大丈夫だって。
あの無敵の畜生腹だ、あんだけぽこじゃか産んでも後遺症も病気もなし、安心しろや」
エルフ三男「は、はあ……」
女騎士「それに、いざとなったら私の娘を孕ませる大役を用意してある。いいなー、ウッラヤマシー」
エルフ三男「複雑です、騎士様……」
エルフ騎兵「しかし、どうしたものでしょうか……」
エルフ近衛兵「つい先ほど、一番艦へ連合王国近衛軍の名義で電報が入ってきました。内容は……」
エルフ三男「……なるほど、女王を諌める為の仲介、と。有体に、簡潔にまとめれば、その辺りでしょうね」
騎士ほ「確かに、ジョワユーズをちらつかせれば会話の席には着けるでしょう……クーデター発生時から、あちらはそれを把握しているでしょうし」
女騎士「北西の女王……聖剣とエリンを取るか、それとも連合の側に与するか……」
騎士ほ「……魔王軍の制圧も後に控えておりますわ、位置的にプレッシャーを与えやすいのは連合の側です」
女騎士「うーん……つってもなぁ、女王とやらの聖剣も雷帝の聖剣も、エリンもブリューナクも全部全部欲しいしなぁ」
騎士ほ「……ん?」
ポニテ「えっ」
女騎士「あ、いや、うん、何でもない」
女騎士「……雷帝さんも女王さんも、ふたを開けてみたらなぁんだ、どっちもまだまだ闘う気満々なわけじゃないか。なら話は早いなぁ。
どっちも納得するまで殴り合わせてあげようじゃないか、喧嘩ってのはそうでなくっちゃあ……後腐れなくお互いボロボロになるのは良い事だ、青春だ……
女騎士「いっやぁーwwwwwwwwwwwww6年ぶりの東西戦争かぁwwwwwwwwwwwwwww楽しそうだなぁwwwwwwwwwwww
ゴミがゴミを煽り合ってwwwwww愚か者がバカスカ死んでいくwwwwwwwwwナマイキな北西は死に絶えwwww憎き連合は滅び去るwwwwwwww
停戦条約叩き割ってwwwwwwwwww徹底的に滅ぼしあうがいいわwwwwwwwwww最後に勝つのは私なんだよwwwwwwwww
勝った方は私がぶんどってやるからwwww存分に殺し合いたまえwwwwwはははwwwwwはははははははははwwwwwww」
≪幕間≫
敵兵「おはようございます」
女騎士「おはよーうございます!!」
敵兵「えー、我々は今どこにいるかと言うとですね、岩手の遠野でございます」
女騎士「いよーぉ、こら珍しいでしょおー? 横浜でもないしどこの空港でもないのお、東北の山ン中なのよぉ」
敵兵「いやね、これね、実を言うと……ほとんど僕の趣味なのよ。まず第一にここが好きってのもあるし」
騎士ほ「さっきから肌寒い通り越してますしねぇ。現在の気温、2度でございます」
女騎士「まぁね、いい所ですよ。盛岡から更に電車で2時間も揺られた後なんてね、まぁどこでもいい所なんでしょうけどね」
敵兵「それでね、どうしても欲しいものがあるのでね、わざわざこの遠野までショッピングに」
女騎士「欲しいものねぇ……あなたの欲しいもの何よ、都内で良かったじゃないのさ都内で」
敵兵「はいはいはい……この番組もね、ちっちゃいなりに頑張ってると……いう事でですね、買って頂けるというので」
女騎士「……」
騎士ほ「まぁそれはですね、前々からプロデューサーとかとも言ってたんですよ。そしたらですね、何か欲しいものがあると」
敵兵「大変申し訳ないんだけどもね、今日はその……付き合ってくれればと」
女騎士「私の分はないんだ、私の分はなくてカレだけ……」
騎士ほ「いやいやいや(笑)。15万するんですよ?」
女騎士「」
敵兵「wwww」
女騎士「するってーとあれだな、あたしもその、15万するものを買っていいって事だな? 何てったって二人で『女騎士』なんだから」
敵兵「でもね、僕だけってのもやっぱりね……申し訳ないからさ」
女騎士「そうだよ、今日はうちの姉もいるんですからそのお姉ちゃんマネーで」
騎士ほ「あなたねぇ、15万ですよ? 二つってのはちょっとね、あなた大丈夫ですか? 30万ですよ?」
女騎士「さっきから聞いてりゃ何だね君たちは? 何かね、あたしゃ15万円分の仕事してないか?
一晩かけてこんな山間まで連れて来られてもだ、文句ひとつ言わずにカッパだのザシキワラシの真似事をする私に向かってぇ?」
おかっぱ「www」
女騎士「おいおいおいおいずいぶんな言われ方だよなぁ!? 15万くらいなんだよォ」
騎士ほ「……『欲しい』って事ですか?」
女騎士「欲しいよ!! 何であたしには買ってくれないんだよ!!おいガーデルマン君よお」
朱天「よう、元気そうで何より」
敵兵「ぎゃっ」
チバラキ「おざまーす!!」「おざまーす!」「おじゃまーちゅ!」
勇者「……何の用だ」
朱天「なんぞ、つまらん反応じゃの。病み上がりというので見舞いに来てやったというに」
チバラキ「おう童貞ぃー」「おめえもなかなかしぶてぇなー!!」「今は殺さねぇから安心してなー!!」
敵兵「」
朱天「どうだね、体の方は……と、聞くまでもないようじゃな。聖剣で嬲られたにもかかわらず、もう立って歩けるか」
勇者「いつまでも寝てはいられないからな」
朱天「フカカカ……気味の悪いもんじゃの、勇者の血統というのは。雑種であってもここまでの胆力を持つとは、見直したぞお」
敵兵「雑種って……」
朱天「まだアジ=ダハーカと闘る気なんじゃろが……おお、いつぞやよりかはずっと善き顔つきになったのう。美しいぞお」
勇者「何も、僕はなにも変わってはいないぞ」
朱天「いやいやいやいや、変わったさあ。優先順位だなんだと理由づけをしてぐだぐだ杞憂を胸に蓄えていた頃よりかはずっとなあ」
勇者「……」
朱天「己が心の内から発する欲望の波動に抗わず……生の欲求に身を委ねんとする、美しき相貌じゃ。ああ、善き仮面を持ったものじゃ」
勇者「そいつはどうも……」
勇者「僕の理想は何も変わっていない。大陸に理性ある秩序を、発展と安寧を万人に享受させる事だ」
朱天「あー、そういうのはどうでもいい。つまらん。くだらん」
勇者「……」
朱天「して、虎の子の貴様の聖剣はどうしたね? ほうれ、抜いてみい抜いてみい」
敵兵「……デュランダル盗ってった事わかってるくせに……」
勇者「ふん……」
朱天「聞こえとるぞお童貞。おーう、そうじゃったのう、かすめ取られたんじゃったのー。ざぁんねんじゃのー、つらーいのー」
勇者「あれがあろうとなかろうと、諦めるわけにはいかないんだ。今の僕は……」
朱天「えくすきゃりばー、とかいう間に合わせがあるからか。ま、ないよりかはマシといったところかの」
敵兵「(こいつ……何でそこまで知ってんだよ……!)」
朱天「どこから流れたか……ま、だいたい想像はつくがな。試しに儂と斬り合ってみるか?」
勇者「……」
朱天「フカカ……動じぬか。憎い憎い、遠い遠い親戚と繋がっているやもしれぬ儂を前にしても」
勇者「お前を相手にしていても仕方がないからだ。敵意のないお前一匹斬り倒したところでメリットはない」
朱天「なるほど、斃すべき仇以外からのお誘いには乗らんか……そうつんけんするでない、別嬪が台無しじゃぞお?
まだ年増までの猶予は冬四巡ぶんもある、見栄を忘るるべからずじゃ。淑やかに澄ましておればよいよい、貰い手がいなくなって……」
勇者「なっ……お、お前ッ!!」
朱天「性の未分化、おのこの成り損ない……正教会の勇者という偶像は、カミの使いだとかいう天使の形質まで継いでしまったという訳か。
これも『蛇』の差し金かのう。クカカカカ、その頑固さは……子も産めん、子種も撒けんみずからの身を呪っての、いわばはけ口という事かぁ?」
敵兵「性の……未分化……?」
勇者「黙れッ!! どこから、誰から聞いたッ!?」
朱天「どこからも何も、のう……何せ、儂は神様じゃからなぁ。そこらの落ちぶれたあやかしと一緒くたにされてしまっても、その、困る」
敵兵「ゆ、勇者……さん?」
勇者「僕は……僕はっ、ガリアの勇者の血を引く……魔王とともに戦う事を決めた男だっ!」
朱天「そう虚勢を張るでない、みっともないぞ。もっとありのままの自分を愛するがよい」
勇者「黙れっ……もう、消えろ、帰れ」
朱天「察するに、正教会の連中に疎まれていた事を知っているとみえる。
悔しかろうなぁ、表じゃ聖人だ大天使だと持ち上げられ、実のところはニンゲンモドキと蔑まれたか」
敵兵「おっ、おい!! やめろっ、デタラメ並べんじゃあねえ!!」
チバラキ「うそじゃねえよぉ」「ほんとだよぉ」「鬼はウソつけねぇもん!!」
朱天「童貞よお、デタラメって言ったな? そこのガキの身体の事、真であって欲しくないからこそ発したのだろ?
貴様らのいう、尊い倫理に基づいて……異物を排除すべきだと、貴様らのオリコーな理性が、完璧な勇者を求めたのだろ?」
チバラキ「むりすんなってー」「おまえはひどいやつだなー「ふたなりはキモイってかー」
敵兵「オ、オレは……オレはそんな事……」
勇者「……」
朱天「己を愛せぬままを強制され、己を不当に侵す世界は辛いものなあ……だから、大陸世界における同じ異物である魔王軍に取り入ったか」
勇者「ちっ、違……」
朱天「幼いながらも頭が回る事で感心じゃ。生けるものみな、生き心地のよい場所を求めておる。誰も貴様を責めはせんだろうよ。貴様以外はなあ」
敵兵「……」
朱天「そうして育まれた、れいしずむへの憎悪……半分以上は魔王軍のお仕着せだろうが、立派に育てたものじゃのう。
そうやって、どこまでもどこまでも希望と理想を追い求めてゆくがよい。儂らはそれを真意から賛美するぞぉ?」
勇者「もう……もういい……」
朱天「全世界の万人が共通の利益を享受し……個人に権利を分配し……すべての民に自由という名の枷を負わせ……
また貴様らの支持する平等を否定するものを排斥し、蔑み、虐げ、踏みつけ、殺し、焼き尽くし、根絶やし……ああ、よだれが出る」
敵兵「ん……ん?」
朱天「自身の運命を俯瞰できぬ哀れなる虫けらに、そいつ本人が把握できぬほどの責と自由を与えてやるという残酷さ。
儂らにはマネできんよ……貴様らの啓蒙とやら、何度か耳にはしたがのう。奴隷である事を抗え、すべては人魔の統一の為に」
チバラキ「く」「か」「か」「か」
朱天「ぜひとも貴様らにはこうした活動を続けていて頂きたいものじゃ、それこそ何十年も何百年も何千年も何万年も何十万年も。
世界を支えるは勇者の血筋と天魔のみ、直下のカスは再分配された富を互いに狙って延々と争い続ける。
素晴らしい。実に素敵な世界じゃ。自助を奨励し、公の再起を認めぬ究極の実力主義社会。期待しておるぞ、勇者様よぉ?」
敵兵「この野郎っ……」
勇者「……」
朱天「儂からのほんの激励の気持ちじゃ。とっておけ」
敵兵「何様のつもり……って、神様だとか言ってたけどな……だったら、神様だったら人間相手にゃ優しくするもんだろうが……!」
朱天「優しくぅ? このクソたわけが。儂を貴様らの御守り神なんかと一緒にするでないわ、ぬぁにが唯一神じゃ。
忌々しいしらじらしいバカバカしいの三拍子、よくもまあ、あんな体系化されたカミに縋っていられるものじゃ」
敵兵「……ど、どうせ……お前だって、本体を叩かれればおしまいだ……あの女に与するなら、異教の神だって」
朱天「どこまで行ってもたわけはたわけじゃのう。何度言えば貴様の脳は理解するのかの? 儂らを同じにするでないぞ。
退魔の聖剣で儂を祓えなかった事から……そこの勇者サマは、何となく把握はしているじゃろがな」
敵兵「(退魔の……デュランダルでもダメだったのか……!?)」
朱天「貴様らの倫理を形成する正教会の一神教、それに準ずる神格……片や、唯一神に反目する存在は全て魔物、もしくは魔族、魔神。
それを祓うのがデュランダルであり、すなわち唯一神の加護。儂らはそもそも……依存する根からして異なっているという事じゃ」
敵兵「根……!?」
朱天「儂らは貴様らの天使のような……布教を前提にした、確定された姿や性質は持たぬ。根とは万人の、いわば本能の底にひもづいておるのよ」
敵兵「どういう……事なんだよっ……?」
女騎士「つまりはこういう事よ」
魔王「極東の人間は、古来より特定の神格にのみ依存する信仰形態は持っていなかったのだ」
姪「古今東西、森羅万象、有象無象、三千世界のあらゆる事物に高次の意思が介在していると考えた」
中佐「天災にも、人災にも、概念にも」
姉「そして人の行いにも」
将軍乙「けして、原罪などという形で否定したりはせぬ」
皇女「原罪とは、それすなわち個人を形成する本質」
おかっぱ「貴様ら大陸人に比べれば、肥沃な想像が許された極東人が産んだカミの形態」
敵兵「この儂を殺すとな。奇特な事を言い出すものじゃ、やれるものならやってみろ」
騎士ほ「我を討つとは、いわば万人の無意識にある畏怖を滅ぼす事と同義である」
女騎士「今生の我が名は伊吹朱天。嘗ては禍星神天津甕星と呼ばれたる災厄の魔神なり。人の子よ、我を誅殺せしむる術あらば示してみせよ」
敵兵「どうだね。やれるものならやってみろ、勇者と魔王が愛した人間よ?」
敵兵「あたまがおかしくなりそうだー」
女王「……」
「ようよう、なあようお姫ちぃん。ようってばさおい」
女王「なに……?」
「久しぶりに結構な数がおっ死ぬような事してるみてーだが、どったのセンセイ? ご機嫌ナナメェ?」
女王「別に……人間、掘った穴を埋めなおす作業というのがいちばん堪えるのよ」
「ネガティブな奴だなぁーまったくよぉー、俺ちゃんがついてンだから時間は気にしないでいいってのによぉー」
女王「……」
「それによぉー、時間っつう定義は不可逆だ、同じ埋めなおしの作業なんてもんはねぇーんだぜぇー」
女王「やる事は同じよ。もう一度、大陸の時計の進みを遅らせる……ジャバウォッキーの、未来の為に」
「ジャバウォッキーねぇー。周りのボンクラにゃあわかりゃしねぇーだろうが。
おほっ、おやおやぁ? 観てるか? 観てんのかなぁ? それとも見てるか? それとも読んでるのかぁ?」
女王「また……?」
「またも何もよぉー、俺ちゃん達の聖剣としての形態はあくまでこのくっさい世を忍ぶ仮の姿なのよん。
前にお姫ちんが言ってたッショーよ、どこにでもいてどこにもいねぇーとかいうさァー」
女王「偏在の事……?」
「そぉーよそれッ。だからこそ見たくも聴きたくもねえもんも、勝手にアタマン中に滑り込んでくるのよぉ。
聞きたい? 聞きたい? たとえばよぉー、そこ。そこのあのヤローが下半身マッパでナニを握りしめながら俺ちゃん達の事をよぉー
女王「やめて、ダグザ。やめなさい。頭がどうにかなりそうよ、その問答……」
ダグザ「最近になってだぁいぶ、仕組みってのがワカるようになってきたんだぜ? 羨ましいだろぃ」
女王「……」
ダグザ「お姫ちんと会ってからどんくれぇかな? 300? 400? 覚えてねーが、あん時に比べりゃ雲泥だな雲泥」
女王「……聖剣に憑くモノの囁きがそんな妄言じゃ、聖剣信仰もたかが知れたものね」
ダグザ「シンラツー、ヒッドォイなお姫ちん。お姫ちんの……
イーヤ、他のジャバ公の元いた場所とも繋がってるかもしれねーってのにかあ?」
女王「なに……?」
ダグザ「つい先日だなァ。俺ちゃんのビンカンネットワークにビビッっとキたのよぉ。
ロンギヌス……んぁ、ブリューナクに五柱の勇者が接触したんだ。ンで、めでたく新規のアガスティア経路が拓いた」
女王「シャドウ……ジョワユーズを有したアジ=ダハーカがエリンに上陸した事は把握しています。
この時点で計画の継続は不可能……だからこそ、ハバククに少々暴れてもらったのです」
ダグザ「うーん、頑張るねぇお姫ちん……その根性こそマジハンパネーんだけどサァー。
ブリューナク……『経路』の元締めに勇者が干渉した事でよぉー、俺ちゃんの方に回ってくる情報がクククーッと増えたわけよ」
女王「……」
ダグザ「まぁなぁー、太く長く生きよってのがモットーの俺ちゃん、こういう事言うのはヒッジョーに憚られるんだけどォ。
お姫ちんさぁ、こんなトコでジャバウォッキーなんつうクズども擁護しててもしょーがねぇってばよ? ばよ?」
女王「……何をバカな」
ダグザ「おりょ? ありゃ、ネタバレしちゃってもいーの? 今の俺ちゃんなんでもわかっちゃってるんだけど。
これってイイの尺的に? 放送時間大丈夫? スポンサーさんオッケー出てる? ホン書いた奴も納得してる?」
女王「私が、何のためにエリンと連合王国を作り上げたと思っていて?
なぜ、ここまで力を尽くしたのかが分かっているでしょう!?」
ダグザ「そりゃー重々ワカってまさぁー。幼馴染のオトコノコのムスコをしゃぶりたいがために尽くしてきたんでしょーが」
女王「……ええ。ええ、そう。そうよ。何の非もない彼、人の為に戦った彼……
平穏を愛する転生者である彼……! 彼のようにあたたかな心を持つ転生者の血は、この世界では清すぎた……!」
ダグザ「持ち上げるなぁー、恋する女はキレイなんだかキッタネーんだかこれもうわかんねぇな」
女王「……この当てのない、いびつな世界でジャバウォッキーが生きるには……他に方法はないわ」
ダグザ「あーそりゃご苦労なこって。ま、結論から言うとだ。
お姫ちんがそーやって転生者同士でズコバコやらせてるとな。多分……大陸はおろかエリンまで枯れちまうぜ」
女王「どういう事……?」
ダグザ「ニーちゃんネーちゃん親父もお袋もジーさんもバーさんもひとまとめに乱交しまくって交配するとなぁー。
あら不思議。どういうわけか、体色素が薄めな、金髪碧眼の麗人が稀に出生するらしい」
女王「……」
ダグザ「俺ちゃんの眷属によぉー……今はクソオヤジにカミナリ落とされて勘当されてんだが、
ウロヴォロスってのがいてナァ。コイツがまた見境がねぇんだ、他人の子種を弄繰り回すのが本能みてえな奴だからな」
女王「まさ……か……」
ダグザ「ヤツのお気に入りだったユーシャ様の血は、既に大陸だけじゃあねえ、エリンにも少なからず混じってる。
このままお姫ちんがまた何百年もかけて暴れるのは構わねえが……いつか、際限なくアジ=ダハーカが生まれ始める事になるぜえ?」
ダグザ「ジャバ公どもが利用されねえようにと囲ったはいいが……繁殖する過程でアジ=ダハーカが増えるんだぜぇ?
いやーこりゃ、さすがに手を焼くんじゃねぇかぁ? どっちが利用してんだかわかんねぇなぁー」
女王「うる……さいッ……!! 黙ってたのか!? なぜ、なぜ言わなかった!?」
ダグザ「俺ちゃんだって知ったのはつい最近よー? 無茶言わんでくださいよマミー」
女王「ふざ、ふざ……ふざけるな……ふざけるな……何年……何百年……こんな……こんな事を……」
ダグザ「ふぅーん、転生してもダダこねるなんてゼータクなんだなぁーお姫ちんはぁー」
女王「もう……もういいわ、黙って」
ダグザ「日がな一日働きもせず、おばあさん魔法の馬車とガラスのくつとイケメンの王子様をくださいってボヤいてる無職女が……」
女王「……」
ダグザ「日がな一日他人をねたむだけねたんでるだけの自意識過剰野郎が、自分を肯定してくれる都合のイイ妄想をプカプカ浮かべて……」
女王「何を……言ってるの……」
ダグザ「元いた世界と折り合いが付けられない主体性のないクズは、転生したところで何やらしてもダメって事なのかねぇー?
ねーえお姫ちん? お姫ちんもそろそろさぁー、他人にすがって生きるのヤメたら?
そう思うでしょ、あんたもあんたも、そこのあんたも。あんただよ、ぼけっと口開けてるあんた。
俺ちゃん達の事を、観てんのか読んでんのか知らねェが、とにかく俺ちゃんの言う事わかるだろぉ?
わかった人、はぁぁーい!! 手ェ挙げて腋毛毟って食べてみましょうー!!」
女王「……」
ダグザ「人間ってのは基本、自分ひとりの為に生きるもんでしょーが? 自分自身ってのは捨てられないんだからよぉー。
それを、あんたら向こう側のクズは何を思ったのか勝手にカンシャク起こして……自分をヤメたいと願った。
カワイソーだけどぉ、お目当てのウマレカワリってやつはできたんだから結果オーライってやつかねぇ、お姫ちん」
敵兵「うわ、そんな……そんな汗だくで。病み上がりでトレーニングでもしてきたっていうんですか」
おかっぱ「……まあな」
鴉「御大のバイタリティには感服しますな、このくそ寒い中でああまで暴れられるとは」
木の葉「隻腕というハンディを物ともせず……いや、ただの人間にしておくには勿体のうございます」
おかっぱ「半分……半分以上は人間やめてるけどな」
敵兵「(色んなところでかいし若干怖い)」
おかっぱ「ぼつぼつ身体を慣らさんといかんだろ、皇国の顔のひとつである私がいつまでも怠けていてはいられまい」
ブラウニー「それで、劣情を押さえる為に寝る暇を惜しんでトレーニングと……」
ピクシー「だめですよー、ここ壁薄いんですからー……一人で何シてるのか丸わかりですよー」
おかっぱ「」
敵兵「何でそういう事を本人に言うァ!!」
ブラウニー「だって私ら妖精ちゃんですし」
ピクシー「いたずらするのが本業みたいなところありますし」
鴉「水臭いですな、一人で手淫に耽るくらいならば誘ってくださればよろしいのに」
木の葉「我ら二人がかりであらば、その熟れた肉を満たす事もできましょうや」
ブラウニー「ほらほらぁ、線の細いイケメン二人もこう仰ってますし」
おかっぱ「ダマレッ、この淫魔どもめ。貴様らなどに屈するか!!」
ブラウニー「どっちが淫魔なんですかねぇ……」
おかっぱ「……そんなに煩わしかったか?」
敵兵「ま、まあ……気にする事ァないですよ、誰でもする事ですから」
おかっぱ「ふん……」
敵兵「(正直部屋の前からでも少し聞こえてくるくらいだけどなぁ……)」
ピクシー「あれー、コレなにー?」
ブラウニー「お菓子ー? これお菓子ー? もらっていいのー?」
ピクシー「部署のデスクに置いてあるって事は公共物ですよねー、いっただいちゃいまーす」
おかっぱ「好きなだけ持っていけ、関係を円滑にするための、どうせ義理だ」
敵兵「これってチョコレート……うわ、包装からして高そうだな、共和国の老舗でしょう?」
おかっぱ「ある程度状況が安定したとて、年末年始からこちらずっと休みらしい休みなど無かっただろう。我々からの労いだ、ありがたく受け取れ」
敵兵「あ、ありがとうございます」
木っ葉「……あまりピンとは来ないようですな」
鴉「世の男は、本日の聖ウァレンティヌスの日に一喜一憂するものだと聞いておりましたが」
敵兵「聖ウァレンティヌスは知ってるが……何かチョコと関係があるのか?」
おかっぱ「関係があるも何もだな、その……あれだ、極東の風習だ。貿易特区の一部で企業が主導で行っていた販売計画から火が点いたものであって……」
敵兵「(あらためて違う国の人なんだと思うな……)」
おかっぱ「まあ、そのなんだ、とっておけ。ぼつぼつ、ゲスどもとのケリを着ける時期も近くなってきたからな。お餞別だ」
敵兵「異動……ですか?」
将軍丙「ええ、ちょっと……ね。ある部隊の新規編成に際して」
敵兵「新規の部隊……新しい災害派遣チームだとか、そういったグループですか」
ティタニア「似て非なるものねぇ。ある意味、そっちの方がまだゆっくりできるかもねぇ」
敵兵「」
ブラウニー「うわーカウァイソー」
ピクシー「ブラックからブラックへ渡り歩く不幸の権化ー」
敵兵「い、いったい……どんな部隊……なんすか……」
将軍丙「……以前、勇者くんがアジ=ダハーカ巣食う共和国のワイナリーを急襲した事があったわね?」
敵兵「は、はい。ものすごく大きな鳥に乗って……」
ティタニア「……あれ、元を正せば勇者サマが貯蓄を使って乗り出した独断だったってのがどうにもわかってきたのよぉ。
勇者の血脈を信奉するシンパや、魔王……エレシュキガル陛下に仕える武家内における抗争を優位に進めるために、
あえて勇者本人に媚を売り、保守派を押さえつけようとした武門の一派が参加した降下作戦……」
将軍丙「勇者くん本人は、あくまで判明した際にクランを最低限納得させられる口実が欲しかっただけ。
デュランダルを有していた彼にかかれば、いちマフィアの壊滅など容易い、むしろ戦力過多にも思えた。しかし……」
敵兵「極東の鬼か……!」
ティタニア「そうよぉ……あのデタラメ魔神ども……! あいつらさえいなければ……」
将軍丙「それに加え、武装や個々の練度といった最低限度の統一すらできていなかった。
そもそもが、ガルーダと勇者くんのパーティのみで行う暗殺のような体だったわけだからね」
ティタニア「……今回の部隊は、完全にアジ=ダハーカ討伐に向けた専門のエキスパートを固めた集団。
勇者を頭取とする独立機動部隊の編成が、今回の目的ぃ。アテクシ達から人材を出したいのは山々だけれど、
さすがに、これ以上連合を苛立たせるのもまずいしねぇ……モルダヴィアや幻獣族も、装備や資本の提供くらいしかできないだろうしぃ」
将軍丙「しかし、現にあのハデス閣下からの墨付きは得られている。本国の知識人からも」
敵兵「そ、それじゃあ……」
ティタニア「確証はともかくぅ……あの女を仕留める可能性は、皆無ってわけじゃないみたいよぉ」
将軍甲「オウッ、アンタか。うちの大将首を救った東方人ってのは!」
敵兵「(筋肉革命や)」
将軍甲「直接話をするのは初めてだな。よろしく頼むぜ。そっちの……極東のお客人もな」
鴉「宜しくお願い申し上げまする」
おかっぱ「宜しく。貴公が独立部隊の殿……と言ったところですかな」
将軍甲「司令塔はあの勇者、オレはさしずめ鉄砲玉。相手取る勢力によりけりだが、
あの勇者サマをこれ以上キズモノにするのもはばかられるしな。現場での指示はオレが行う」
おかっぱ「戦力の大部分は、魔王を慕う拝火神族やリネージに属さない魔族、そして身寄りのない敗残兵と聞く。
士気や練度に関しては、どれだけのものを持っているので?」
将軍甲「士気、なあ……ほとんどは、オレや勇者のヘッドハンティング。
もしくは、こんなクラン未承認の幽霊部隊への転属を希望した命を大事にしないバカくらいだ」
おかっぱ「……現状の不満に業を煮やした烈士の集団か」
敵兵「それじゃあ、本当に……あの女を倒す為に、本格的に動き出すって事ですか」
将軍甲「知っての通り……現状、アジ=ダハーカを内包するアルヴライヒ政府は、
表向きにはシロだ。先のテロ事件やデモ襲撃は、すべて偶発的に発生した事件や事故として共和国当局は処理している」
おかっぱ「加えて、貴公ら魔王軍には以前より強く教皇領と連合から圧力がかけられた。
暗にアジ=ダハーカの存在を容認しているというわけだ。あからさまな反魔王軍包囲網が、徐々に形成されつつある」
将軍甲「さらに、北部神族の評議会出席拒否問題も尾を引いている。
あれから何度かこちらから東帝共同体大使館へ働きかけているが、なしのつぶてだ」
鴉「6年前に起こった共同体の政変が絡んでいると考えていいでしょうな。
あの一件で共同体の右翼勢力は弱体化し、以降は連合を受け入れる体制をとるようになった」
敵兵「(父親を線路にダイブさせた件か……)」
おかっぱ「ナショナリズムそのものである北部神族は、当然のごとくそれに反発……
当時のクランの意向にも乗り気ではなかったのでしょうな。今になって魔王を猛烈に嫌悪していると見える」
敵兵「……最悪だな」
将軍甲「とまあ、正直言ってあの陛下の平和主義博愛主義を貫いていったら、このままじゃ四面楚歌だ。
だからこその幽霊独立部隊。人呼んで『ネルガル』の発足ってこった」
敵兵「ネルガル……」
おかっぱ「災厄をもたらす太陽神の名か。こじゃれたまねをする」
将軍甲「……当隊ネルガルに向け、勇者から伝言がある」
敵兵「伝言……?」
将軍甲「同胞を見捨てる勇気を持て、同胞を討つ勇気を持て、己を滅する勇気を持て……
ネルガルがバックボーンを持たない人材で構成された理由が、あの女のそばにいたあんたならわかるだろ?」
敵兵「……」
将軍甲「あのクソアマの基本戦術に対する、オレ達なりの策だ。奴の首を狩る為には、半端な道徳は毒だ。
奴がどんな人質を取っても……ひるまず人質ごと奴の頭を撃ちぬくだけの気概が必要なのだ」
おかっぱ「義だけでは不義には競り勝てんか。確かに、あれは人間の枠を遥かに越えた不義ですからな」
敵兵「オレ達……テロリストみたいっすね……ははは」
おかっぱ「何がテロルで何が革命か、決めるのは後の世の大衆だ。勝てば官軍、負けねばあのクソ女の所業を引きずり出せるのだぞ」
将軍甲「ネルガルの思想は、存在が明るみになれば道義的に許されるものではない。すぐさま国際倫理の敵と断じられよう。
だがな、その倫理を弄び、道義を踏みにじる悪鬼を討伐する為に、オレ達はここに集ったんだ」
おかっぱ「私とて、親から貰った身体をこうまでされては収まりがつきませぬ。
謀反を起こした松山の鬼ともども、討ち滅ぼしてやりましょうぞ」
敵兵「……」
将軍甲「あらためて、ようこそネルガルへ。それとも、尻尾まいてティタニア閣下の元に戻るかな?」
敵兵「……」
将軍甲「……」
敵兵「あ、あの……あのクソ野郎を殺せるんなら……な、な、何だってやってやる……畜生め……畜生……!!」
女騎士「ふわわわわ」
『ふうむ……』
女騎士「眠い……暇……」
娘「お……かあさま……んふー」
『しかし返答が遅いのう、貴公らのクライアントは。余も早く暴れたいところじゃが』
女騎士「……」
『……む、どうかされたかの。我が主よ』
女騎士「てめえ……そんなしなびたヘナチンで夜這いしに来たってぇのか? この老いぼれがよぉ」
『なるほど。なかなかに剛毅な性格を持っておる。それでこそアガスティアに紐づく勇者よ、あっぱれ』
女騎士「うるせえっ、この変態が!!」パーンッ
『ファッ!?』
娘「きゃ……母様っ!! 伏せて!」
女騎士「……」
娘「銃声……今のは恐らく単なる9㎜……北西アルヴアームズ社製、外務省内でも所有者が多数いる官給拳銃……」
『ああ、娘っ子を起こしてしまったではないか……』
女騎士「そもそもてめー何モンだぁー、出てけボケェー!!」
娘「だめっ、お母様! きっと裏切り者です、ここにいれば安全だから動かないで! ブッ殺さなきゃ!!」
『母子ともに血気盛んなものだ……』
『よいよい、苦しゅうない。それでこそデュランダル、このバッカスの加護を受けるに相応しい豪傑よ』
女騎士「……」
娘「お母……様……?」
女騎士「あー、あー、何でもない。ほら、私の銃を見なさいな。動作不良で暴発しただけ、現に弾が減っているでしょう?」
娘「暴発……怪我はない!? ほんとうに平気なの!? 跳弾にでも当たったら……」
女騎士「だーいじょうぶ、いーから……そろそろ起きるから、食堂でお菓子でも食べに行ってなさいな」
娘「お母様……」
バッカス『なんぞ、申し訳ない気分になるのう。久々にマスターと干渉ができるというのに』
女騎士「うるせーぞ、そう思うんなら引っ込んでろオバケ野郎」
バッカス『口は非常に悪いのう』
女騎士「ふん。どうせてめえもあれだろ、あの……ウロ公と同じお仲間なんだろ?」
バッカス『ほう、あやつとは既に会っておるか』
女騎士「ツラだけはいっちょまえだが、頭がユルすぎてどーにもならんね、ありゃ」
バッカス『淫慾の蛇……そうかそうか、するとそなた。蛇と混ざった上に、相当に鋭く勇者の血に目覚めておるわけか』
女騎士「私が真の意味で勇者なのは百も承知だ、私程の英雄はそうそうおるまいに。ははは」
バッカス『はははは。そいつは結構、余も気分がよいぞ。熱狂の神霊である余の威を扱うに足る女傑よ』
女騎士「うさんくせーオカルト野郎のくせに殊勝じゃねぇか。もっと褒めろ」
バッカス『いや、そなたほどの気概と生への執着を持つ者は嫌いではないぞ。良いかな、その調子で……』
女騎士「ははは、もっと褒めろもっと褒めろ」
バッカス『その調子で、神に仇名す悪しき魔物どもを根絶せしめるがよい。
以前のマスターは、余と経路が拓かなかっただけあってな。少々物足りなかったと言うべきか』
女騎士「あのクソッタレのイカレたラリポン勇者の持ってた剣の割には、話がわかるじゃねーか」
バッカス『余はカミを信仰する人の為に振るわれ、人の為に在る神霊よ。人の生に満つる気に惹かれる存在ゆえな。
人の世は生気より生じ、熱狂を以て力への意志を有する。ヒトの世とはヒトの躍進によって築かれる』
女騎士「そうさ。人間の世界は人間のもの、人間のものはすなわち人間で一番貴い私のものだ。
私の生は他の何よりも尊く美しいのよ、であるからして……人間の世界を蝕む病原菌に、生きる価値なぞ微塵もない。そして……」
バッカス『ん……ん?』
女騎士「私以外に勇者なんぞ必要はなかろ? 邪魔なんだよ」
バッカス『これはまた過激な……』
女騎士「まあ百億歩譲歩して、てめぇらのようなインチキ神やマユツバ聖剣、勇者の血(笑)その他もろもろの、
ハイパーオカルト大戦じみたスチャラカ要素があるとしてだ。私以外にそんな勇者なんかいらんやろ?」
バッカス『ふむ……?』
女騎士「てめぇが敬虔な正教の信者だったら申し訳ねーんだがなー、私以外の自称勇者には何の価値もねーの。
昔のエラーイ勇者サマの血が流れていようが関係ねーの。私にはどーせ敵わねーんだから」
バッカス『先にも言ったようにだ、そなたには確かに濃く勇者としての因子が発現しているようだが』
女騎士「濃いも薄いも知ったこっちゃねーよバカ、聖剣振るえるのが勇者だとしたら私以外にロクなのがいねーだろ。
1人は魔王にケツ振ったゲスの極みのチンカス勇者野郎……1人は血縁とも考えたくないほど愚かな私の妹……
で、1人は四六時中食い物と男性器と昼寝の事を考えてるメス牛……極めつけは頭のネジ穴から下痢便吹き出してるあの女王陛下だぜ」
バッカス『濃いのう濃いのう』
女騎士「確かにこいつらゴミどもは死んで然るべき汚物でありクズであり犬のクソだが……
命を大事に思うこの私は常々こう考える。命はそもそも無駄に散らしてはならんわけだ、そうだな?」
バッカス『あいや全くその通り』
女騎士「……命を何とも思わぬ魔物ども相手にも、慈悲を持って接しなければならんとは思っているさ、私もな」
バッカス『……』
女騎士「帝国の復興を阻む人類の敵どもでも、無駄に命を散らすのは駄目だ……
せっかくだから、散る時ぐれえは盛大に燃え広がってくれねぇと勿体ねえじゃねぇか……
大陸に伝わる五柱の勇者ってんだ、少なくとも歴史に残るレベルのおもしれえ事はできるはずだよなぁ……」
バッカス『何たる生気。何たる傲慢さ。それこそ、それでこそ人間よ……』
女騎士「チカラを貸すみてえな事言ってたよなぁー? 代わりにおもしれえモン見せてやんよぉー?」
バッカス『はて……何かな?』
女騎士「始めさせてやろうじゃねぇか!! 勇者同士による、最高の世界大戦ってやつをよぉ!!
バカ同士争うのは観てて楽しいもんだが、それがとんでもねぇ能力を持つ勇者同士のドンパチだ。
バカなんてもんは魔物とおんなじだ、私以外の勇者は魔物なんだよ。魔物は滅ぶべきだ、そうだな?」
バッカス『』
女騎士「手始めに……まずはあの北西にふんぞりかえってる女王だ。
何してやろうか今から楽しみだ……大事な大事なエルダーもエリンも、ジョワユーズ一本で私のモンだからなあ……
デュラ公よぉ、期待して待ってな。きたねえ魔物を排除した、キレーな世界を見せてやっからよぉ。ははは!」
女騎士「本丸の女王陛下の粗相に手が付けられなくなってしまったと。おお、これはこれは」
ガレス「……」
女騎士「ウフフ、つくづく島のお山の大将は素朴というか何と言うか……あれですわね、恥というものを知りませんのね」
ラーンスロット「弁解の余地もない。今や、我々は国家の存亡の危機に立たされている」
女騎士「そうらしいですわね、なんでも古の魔神を喚起し、己が力を民衆相手に誇示しているだとか」
ガウェイン「……被害状況は先に提示した通り、どれほどの損害になるか見当もつかねえ。
このまま火の粉が共和国や、大陸側の海運に降りかかるのはそちらとて不本意だろ?」
女騎士「ま、確かに。懇意にさせていただいている企業の方に被害が出るとなれば、黙って見てはいられませんわ」
ガウェイン「……」
ラーンスロット「ぜひとも……その聖剣の威を以て、陛下との仲介に入って頂きたい。
同胞の不始末が手に負えぬなど、円卓始まって以来の失態……しかし、もはやこれは只人の範疇を越えている……」
女騎士「お腰につけたその御大層な剣があるではありませんか? 主君や民を傷つけるものを祓うのが騎士の役目でしょう?
何を迷う事がありましょう、逆らってこそ果たせる大義もございます。今こそ自ら主君に刃向うべきではないのですか?」
ガレス「エクスキャリバーじゃあ……陛下をテーブルには着かせられねえ」
ラーンスロット「我々の保有するこのエクスキャリバーの事を言っておられるのであれば、陛下がお相手であれば荷が勝ちすぎる……
元来、エクスキャリバーとは陛下の有する聖剣の模造品。神の奇跡の一端を操る事ができるとはいえ……」
女騎士「なるほど、飼い犬も同然……と。それで、この私のジョワユーズの出番という事でございますね。
たまたま通りがかった私がたまたま聖剣を保有していて、こいつはラッキーと思ったわけですわね?」
ガレス「(オレ達すら知らねえ島を制圧しておいて偶然な訳があるかッ、トンチキが!)」
女騎士「で、何が出せる?」
ラーンスロット「……」
女騎士「二束三文ではお話になりません、最低でも誠意を見せて頂かないと」
ガウェイン「国庫から謝礼を出す、タダとは言わん……おい、ガレス」
ガレス「……これが、引き渡せる報酬のリストだ。円卓、そして儀典局の有する財産の5分の1を……」
騎士ほ「あ? 5分の1?」
女騎士「5分の1ねえ……ねえどう思うぅ?」
騎士ほ「かねてより円卓というのは北西の精神に巣食うウジムシだとは感じておりましたが……
まさか、こんなハシタ金と痩せ細った土地で仲裁の依頼を出すつもりでしてぇ?」
ガレス「てめえ、たかが一介のドラグーンの分際でッ!! モル公の愛人だか何だが知らねえが何様の……」
騎士ほ「国家存亡を目の前にして依頼を出し渋る貴様らの体質には吐気がすると言ってるんだよ、『円卓の分際』でよぉー!!
貴様ら豚どもの衣食住を陛下のついでに支えてやってんのは私ら正規軍だ、我々にとってはノミも同然なのだぞ!?
ノミはノミらしく、この際軒先だけじゃなく母屋も引き渡せってんだよ、ゴミが!!」
女騎士「(最悪の女だなこいつ……ここまで北西ヅラぶっこけるなんて……)」
ガレス「ごっ、5分の1だぞ!? どれだけの資産かわかってねェーだろ!?」
騎士ほ「報酬を額面でしかとらえる事のできん愚か者め。彼女は誠意と言ったのだぞ?
はるばる西欧からお越しいただいて、そんなしけた見返りでどうする?
彼女とのパイプを構築した私……ひいては近衛空軍の顔に糞便を塗りたくる気か?」
ラーンスロット「では……君が相応しいと思う見返りとは、何だね」
騎士ほ「それは……」
女騎士「北西諸島政府が有する統帥権」
ガレス「……は?」
女騎士「国家緊急権の一部譲渡。加え、諸島領土の割譲」
ガウェイン「何をバカな」
女騎士「にぶちんどもだなぁー、潰れる前に母屋をよこせっつってんのがわかんねぇのかタコ」
【バルフォア級空母一番艦】
騎士ほ「フクク……見せて差し上げたかったですわね、あの円卓どもの顔ったら……」
エルフ三男「順調なようで何より」
騎士ほ「して、連合側に何か動きはございまして?」
エルフ三男「今のところ、特には。先日の接触は、雷帝による顔見せだけだったのかと」
騎士ほ「……ふん、凍土の蛮族が。どさくさにまぎれて甘い汁にありつこうという魂胆ですわね」
エルフ三男「あなたは、連合ともう一度歩調を合わせる気はないので?」
騎士ほ「御免こうむりたいところですわね。6年前は、飽くまでお姉様の意向に沿っただけ。ただそれだけの事」
エルフ三男「……」
騎士ほ「今の情勢で正面からいがみ合う事はありませんが……いずれは魔王軍ともども西欧の地から叩き出さねばならないでしょう」
エルフ三男「では、北西から濾し取った権能を連合と折半……などと言ったら」
騎士ほ「その口、縫い合わせますわよ。たとえパトロンと言えど」
エルフ三男「しかし、選択としてはあり得ない事ではない」
騎士ほ「……」
エルフ三男「帝国に籍を置いていたあなたや騎士様が連合を嫌悪する感情は分かります。
しかし、少なくとも現在の連合は僕たちにとって敵ではありません。
雷帝……あちらの情報庁には協調のポーズを見せておいて、恐らく損はないように思えますが」
騎士ほ「先代のお兄様がたが構築した流通ルートが大事とお見受けいたしますわ。さすが、エルフは金勘定がお好きな事で」
エルフ三男「そう、その通り。これまでのコネがあるからこそ、権能を独占されるという可能性も減ってくる。
連合本国政府でなく、いち出先機関である情報庁相手のやり取りだからこそ、柔軟に活用、利用ができると思いますが」
騎士ほ「……そんなに、あのホルスタインに肩入れしていたとは。いやはや何とまあ」
エルフ三男「」
騎士ほ「高嶺のお姉様の純潔でなく、手の届く牝牛の肉孔を取る。これだから男という生き物は度し難く愚かですわね」
エルフ三男「」
騎士ほ「快楽中毒が遺伝子に刻まれた色欲種族のエルフと言えど、あなたはいくらか頭がマトモかと思えば、期待はずれですわね」
エルフ三男「ばかな、僕は……僕は、そんな」
騎士ほ「指針を提案する前に、手近な女でも抱いてくればよいものを。連合に迎合するなどという世迷言、お姉様の前で言って御覧なさい」
エルフ三男「そ、そこまでは言っていない! ただ、商売相手を必要以上に邪険にする事もないと」
騎士ほ「贅肉の塊がお好きなら、メリフェラへ骨休めにでも行ってはいかがです? フクク……」
エルフ三男「彼女は……彼女もバルムンクのマスターです、あちらがそれを要求しているという事は、すなわち聖剣の何たるかの知識も有している。
五柱の勇者に関する情報共有は、本物の勇者の存在が確認されるようになった今の世において有益な事ではないですか」
騎士ほ「それで、かの雷帝が北西の母屋に興味を示さないとお思いなのですか?
ある程度の分け前を連合に引き渡すのは仕方がないとして、後に控える西欧会議における発言力をいたずらに与えるわけにはいきますまい。
どうするおつもりです? 会議の結果、西帝の焦土に魔王軍のカスどもが居座る結果になれば……」
エルフ三男「……」
騎士ほ「数世紀にわたり、武装中立などという日和見を続けて他者から富を吸い上げていたあなた方には分からないでしょう。
命の灯を全力で燃やしてきた先代から受け継いできた土地を魔物にかすめとられる屈辱を」
エルフ三男「飛躍しすぎです、そこまで連合が魔王軍と癒着しているとは……」
騎士ほ「可能性はゼロではない。仮にそうした状況になれば、あなたはどう責任をとるおつもりです?
帝国の地を再び蹂躙され、真に悲しまれるのは誰か? よもや、そこまで視界が曇っていたとは思いませんでしたわ……」
エルフ三男「……」
騎士ほ「その時、ジョワユーズの錆になるのはあなたですわよ? フククク、フククククwwwwwwwwwwwww」
第10部 最終Ⅱ
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