4 : みかんW - 2010/06/29(火) 12:55:21.13 U1DubzhT0 1/26

佐天「初春―! 私もついに能力に目覚めたよー!」
佐天「名づけて、『死体を作り出す能力』!!」

初春「唐突になんなんですか! っていうかこわっ! 死体ってなんですか!」

佐天「だから、死体を作り出す能力だよ? 見てみたい?」

初春「いや、佐天さん、そういう問題ではないですよっっ」

佐天「なに、初春、私が能力者になったこと、疑ってるの?」

初春「疑う、という意味では、なにを疑えばいいか悩んでるところですっ」
初春「(主に佐天さんの頭とか・・・)」


元スレ
佐天「死体を作り出す能力、かぁ…」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1277783655/

5 : みかんW - 2010/06/29(火) 12:56:08.99 U1DubzhT0 2/26


佐天「仕方ないなぁ。じゃあ、特別に初春には私の能力見せちゃうよ!」

そういって、佐天は偶然通りがかったOL風の女性へと無造作に近づいた。
その手には、きらりと光る一本の果物ナイフ。

佐天「能力発動!!」(ぐさっ)

初春「って、なにやってんですかっ、佐天さん!!」
初春「めちゃめちゃ、ナイフ、OLさんに刺さっちゃってますよ! OLさん、くったりと力抜けちゃってますよっ! 心臓一突きですか! 出血少ないのに、即死ですよっ!」

佐天「そりゃぁ、『死体を作る能力』だもの。発動すれば、死体もできるよ」

初春「ダメですよ! 色々とダメですよ! なにがダメなのか説明することすらはばかられるくらいダメですよ! むしろ、バカですよ!」

えーっ?と不満げな佐天をつれて急いで現場から逃げ出す初春。



6 : みかんW - 2010/06/29(火) 12:57:01.58 U1DubzhT0 3/26



初春「思わず、逃げちゃいました」

佐天「逃げちゃったね」

初春「人事みたいにいわないでください! どーするんですかこれから!!」
初春「ひ、ひ、人殺しですよ! 捕まっちゃいますよ!?」

佐天「人殺し? 能力を使っただけなのに? ここ、学園都市だよ?」
佐天「中世の魔女狩りの夜でもあるまいし」
佐天「能力のひとつやふたつ使ったくらいで捕まるなんてことないよー」

初春「うわっ、まだ能力って言い張るんですか!」
初春「明らかに単なる刺殺じゃないですか! 普通に犯罪ですよっ」



8 : みかんW - 2010/06/29(火) 12:58:10.70 U1DubzhT0 4/26



佐天「えー、でも、御坂さんだって、結構犯罪してるじゃない。自動販売機の破損とか」

佐天「あ、だから逃げたのか。御坂さんも能力発動した後、現場から逃げてるしね」


初春「そういう問題じゃありません! そもそも、そのナイフはなんですか!」

初春「って、持ってきちゃったんですかっっ!! 血が付いてますよ!」


佐天「え、このナイフ? 御坂さんのコインとか、結標さんの懐中電灯みたいなもの?」(ふきふき)


初春「冷静に血のりをふき取らないでくださいっ」


佐天「でも、お気に入りだし。よく切れるよく刺さるがモットーの一品だよ?」


初春「そういう問題じゃ・・・・って、電話です」

携帯電話の着信は白井黒子からだった。




9 : みかんW - 2010/06/29(火) 12:59:19.21 U1DubzhT0 5/26



黒子『初春、どこで道草くってるんですの? 最近、物騒な事件も起こってるのですし、心配かけさせないでくださいな』


初春「あ、ごめんなさい。今ちょっと、佐天さんと取り込んでまして・・・」


黒子『佐天さんも一緒でかまいませんから、はやく本部に来てくださいな』

黒子『至急やってもらいたいことがありますの』


初春「は、はい、分かりました」


黒子の剣幕に押され、思わず返事をしてしまう初春。
電話を切ると、目前には笑顔の佐天。


佐天「じゃ、いそいでジャッジメントいかないとねっ!」


初春「え、でも、さっきの人はーー」


佐天「ほらほら、白井さんも待ってるって言ってたしっ、急げ、初春っ!」



10 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:00:10.20 U1DubzhT0 6/26


<ジャッジメント事務所>


黒子「初春。あなたに頼みたいことっていうのは、最近起こってる殺人事件のプロファイリングですの」


初春「殺人事件?」


固法「昨日も話したでしょ? 学園都市を騒がしてる、通り魔の話」


初春「あっ、そういえば。なんでも、無差別に人を殺しまくってるとか」


黒子「殺しまくるってほどじゃないですけどね。○月×日から現在まで、被害者は6人」

黒子「それぞれの被害者は、お年寄りからスキルアウトの荒くれ者まで多種多様」

黒子「互いの共通性も発見できていませんわ」


11 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:00:41.33 U1DubzhT0 7/26



佐天「あの、共通性がないのに、どうしてひとりの犯行って、分かるんですか?」


固法「被害者間の交友関係の共通点はないのだけど、殺され方が共通してるのよ」

固法「どの被害者も心臓を一突き。2撃のない完璧な殺し方よ」


初春「心臓を一突きですか!!」


黒子「突然どうしたんですの、初春? なにか心当たりでも?」


初春「え、いや、そのすごいな、と思いまして」(あせあせ)


黒子「? まあ、いいですわ。それよりも、このデータをみてくださいな」


12 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:01:21.88 U1DubzhT0 8/26


初春「これは・・・学園都市のマップですか?」


固法「殺人現場の詳細なデータがアンチスキルから送られてきたのよ」

固法「能力者の犯行じゃないから管轄外だけど、私たちも協力することになったの」


初春「え、犯人、能力者じゃないんですか?」


固法「当たり前でしょ? ナイフを使った殺人は、能力による犯行とはいえないわ」

固法「やってることは単なる刺殺だから、管轄上はアンチスキルよ」


初春「そ、そうですよね。刺殺ですもんね。それ自体は能力じゃないですものねー」


あははーっと笑う初春。
佐天が笑っていたかどうかはわからない。



13 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:02:07.14 U1DubzhT0 9/26


そして数時間後。

佐天「初春。それじゃ、私そろそろ帰るね」


初春「あ、帰られるんですか。すみません、あまりお相手もできなくて」


佐天「ううん、私こそ、勝手にデータとかみさせてもらって、邪魔してごめんね」


そういって、佐天は事務所から出て行った。


初春「・・・佐天さん、いつも通りでしたね」


黒子「? 佐天さんになにかあったんですの?」


初春「え、いいえっ、なんでもないです、なんにもないです!」(あせあせ)


思わずごまかしてしまう初春。

14 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:02:50.25 U1DubzhT0 10/26


初春「(やっぱり、佐天さんの能力のこと、白井さんや固法先輩に知らせるべきなのかな?)」

初春「(なんか、プロファイリングしてみたけど、これって、うまく偽装してるせいで誰も気付いてないみたいだけど、この周辺に詳しい人物による犯行だよね)」

初春「(それだけじゃない。刺し傷の形状から、凶器はナイフ、とくに身近にもありふれてる果物ナイフじゃないかと思われるし・・・)」

初春「(刺し傷の深さと角度から、力が強くて背が高い人物ってことはない・・・つまり女性の可能性が高い・・・)」



16 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:03:35.72 U1DubzhT0 11/26


初春「ってこれって!!」


固法「どうしたの、初春さん?」


初春「ご、ごめんなさい! なんでもないです!」


固法「? 今日の初春さんはなんか変よ? なんか視線が定まらない感じ」


初春「そ、そんなに挙動不審ですか、私!?」


固法「・・・まあ、自分で自覚があるなら、特に否定しないけど。本当にどうかしたの?」


初春「な、なんでもないですっ(本当は、なんでもあるんですけど!!)」


17 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:04:08.69 U1DubzhT0 12/26


固法「・・・疲れてるなら、初春さんもそろそろ帰りなさい」


黒子「こっちの作業も大して残っていませんし。初春、固法先輩の言うとおりになさいな」


初春「え、じゃ、じゃあ、そうします。すみません、固法先輩、白井さん」


固法「私が送っていってあげようか?」


初春「いえ、大丈夫ですっ!」(あせあせ)

初春「(佐天さんについては、ひとりで落ち着いて考えたいですし・・・)」


初春はひとりで事務所を後にした。




19 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:04:58.36 U1DubzhT0 13/26


初春「・・・やっぱり固法先輩や白井さんに相談するべきだったかな?」

初春「固法先輩、かなり不審に思ってたみたいだし」(ずーん)


とぼとぼと歩く初春。
ちょうど人通りが少なくなる時間帯だったのか。
人通りの途絶えた細道に入ったときだった。


??「初春さん」


初春「え・・・って、固法先輩、どうしたんですか?」


固法「もちろん、初春さんを追いかけて来たに決まってるじゃない」

固法「どうしたの? 今日はずいぶん元気ないみたいだけど」


20 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:05:47.20 U1DubzhT0 14/26


初春「へ、あ、す、すみません、ご心配おかけしまして・・・」


固法「なにか、悩みがあるなら、話してごらんなさいな。私でよければ話に乗るわよ?」

固法「ひとりであれこれ考えるよりも、ぶっちゃけちゃった方がいいこともあるし」


初春「あ、ありがとうございます。でも、すみません・・・」

初春「(っていうか、相談できませんよー、佐天さんが連続殺人犯かもしれないなんてっ!!)」


固法「そう? せっかく相談に乗ってあげようと思ったのに」



21 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:06:38.50 U1DubzhT0 15/26


固法「私に言いたいことがあるんでしょ?」

固法「ここ最近の連続通り魔事件について、とか」(にっこり)


初春「(――え?)」(ぞくりっ)

初春「(なんで、なんで固法先輩から恐怖を感じるの? 佐天さんのことがばれた? ううん違う、そういうんじゃなくって――)」


ゆらりゆらりと近づいてくる固法。
その表面には、張り付いたような笑顔。


初春「(心臓を一突き。2撃のない完璧な殺し方が犯行の特徴・・・)」


初春は、固法の言葉を思い出した。


22 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:07:23.46 U1DubzhT0 16/26



初春「(人の心臓を一突きにするコト。その何がすごいの?)」

初春「(普通の人には、どうして通り魔と同じことができないの?)」

初春「(それは、普通の人には、百発百中で、他人の心臓を刺すことが難しいから)」

初春「(肋骨が邪魔したり、心臓の位置からずれちゃったり)」

初春「(普通のヒトには、人体の内部に隠れた部分が見えないから)」

初春「(じゃぁ、それが見える人は? それをみることのできる能力は?)」



23 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:08:19.06 U1DubzhT0 17/26


初春「透視能力・・・・・・」


くすくすと固法が嗤った。


固法「やっぱり、気付いてたんだ」


初春「――――!!!」


固法の手には、一本の果物ナイフが握られていた。



24 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:09:04.32 U1DubzhT0 18/26


固法「さすがは初春さんね。一生懸命、『におい』は消したつもりだったけど」

固法「プロファイリングして分かったの?」

固法「それとも、私の能力から逆算して、通り魔の犯行をイメージしたのかしら?」

固法「初春さんって、案外ヒドイのね。先輩である私をこんなに速く、疑うなんて」



初春「―――そうですよね。佐天さんでは、あんなに見事に偽装はできない」

初春「あれはプロ、もしくは、そういったことに日ごろから接してる人物の犯行―――」

初春「例えば、ジャッジメントの一員とか!」


固法「佐天さん? なんでそこで佐天さんが出てくるの?」



25 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:10:01.26 U1DubzhT0 19/26



佐天「それはですねー、私がここにいるからですよ、固法先輩っ」


初春固法「「え―――?」」


ぎょっとして声に振り返る初春と固法。
初春を追いかけてきた固法のさらに後方からひょっこりと現れたのは佐天涙子。


初春「さ、佐天さん、どうしてっ」


佐天「だって、初春のプロファイリングで、固法先輩がやばそうだって分かってたじゃん」

佐天「だから、帰る振りして、固法先輩をはってたの」



26 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:10:41.40 U1DubzhT0 20/26



佐天「初春はホント、演技ができないよねー」

佐天「あんなに視線送ったら、私だけじゃなく、固法先輩本人だって不審に思うに決まってるって」


初春「え、いや、あの、固法先輩への視線はそういうつもりでは・・・っていうか、私のプロファイリング覗いてたんですか?」


佐天「うん、初春、なんかひとりでうんうんうなってるから、気になって」


初春「誰のせいで悩んでたと思ってるんですか!!」


佐天「そりゃぁ・・・ねえ、固法先輩?」



27 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:11:20.41 U1DubzhT0 21/26


佐天の登場に呆然としていた固法が、ハッと正気に戻る。


固法「・・・最初から罠にはめられてたってわけ?」


佐天「まあ、そんなところです。どうします? 自首しますか?」


固法「今更、自首するわけないでしょ。何人殺しちゃったと思ってるのよ?」


初春「どうして、どうして、そんなに人、殺しちゃったんですか?」


固法「本当に殺したい奴はひとりだったんだけどね」

固法「そいつだけ殺しちゃうと、後々、容疑者にされそうだったから。木を隠すなら森の中ってね」



28 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:11:50.83 U1DubzhT0 22/26


固法「私をレイプしたスキルアウトのバカひとりと同列に扱われた残りの被害者には申し訳ないと思うけど」


初春「ひどい・・・」


佐天「・・・自首はしないって、どうするつもりですか?」


固法「決まってるわ。こうするのよっ!!」


そう叫んで、固法はナイフを振り上げる。
標的は佐天だった。



29 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:12:22.26 U1DubzhT0 23/26


固法「みえるっ! 見えるわ、あなたの心臓! 一突きで楽にしてあげる!!」


初春「佐天さんっ!!」


オニの形相で襲い掛かる固法。
しかし、佐天は慌てなかった。


佐天「能力発動・・・」


ぼそりとつぶやいた佐天。
すっと半身に構えると、ナイフを握る固法の手を合気道のように捕まえる。
そして手首を極めたまま、ナイフの切っ先を固法自身の胸元へとむけた。



30 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:13:44.90 U1DubzhT0 24/26



固法「あ―――」


さっくりと、固法の胸の中へとナイフの刃先が吸い込まれていく。

『死体を作り出す能力』

佐天涙子の能力は絶対だった。
崩れ落ちる固法。
佐天は、返り血ひとつ、浴びてはいなかった。



31 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:14:21.66 U1DubzhT0 25/26


初春「固法先輩・・・死んじゃったんですか?」


佐天「うん、死んじゃったね。私の能力は『死体を作り出す能力』だし」


初春「・・・どうするんですか?」


佐天「んー、固法先輩も、通り魔にやられちゃったってことでいいんじゃない?」

佐天「たったひとりの人を殺すために、無関係な人たちを殺しちゃうなんて、ヒドイことだと思うけど」

佐天「それでも、固法先輩の気持ちも少しだけ分かる気がするんだよ」

佐天「だって、私も普通の女の子だから・・・」



32 : みかんW - 2010/06/29(火) 13:15:01.60 U1DubzhT0 26/26



そういう問題じゃない。

初春はそう思ったけれど、あえて言葉にはしなかった。

だって、怖いじゃないですか、『死体を作り出す能力』。


おしまい。


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