楽「俺、小野寺と付き合うことになったから」千棘「!?」
千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
『おかえりなさい』
元スレ
楽「俺、小咲と結婚することになったから」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1392788070/
『――』
『――?』
『――』
『あなた――』
『頑張ったから――』
『――』
『――大丈夫?』
『――』
『久しぶり――』
――――――――
――――――
――――
――
楽(……)
楽(……っ!)
ガバッ
楽「……」ボーッ
楽(……夢?)
楽(夢、か……。そうか……。うーん)
楽(思いだせん……。だけど、なんだか――)
楽(――なんだかすごく、幸せな夢だった……。そんな気がする……)
楽(今日は、何日だっけ……? えっと……、あ、そうだそうだ)
楽(今日は大事な日だったな。とっとと準備しねえと)
「「坊っちゃん、おはようございやすっ!!」」
楽「おはようお前ら。さぁ、モタモタしてる時間はねえ。早速準備に取り掛かるぞっ!」
「「へいっ!!」」
楽「今日は小咲の……退院祝いだっ! 思い出に残るような、盛大なパーティに、するぞっ!」
「「うおおおおおっ!!」」
――
ワイワイ ガヤガヤ
楽「では、長かった入院生活を終え、小咲がこうして無事に退院できたことを、祝しまして――乾杯っ!!」
「「かんぱーいっ!!」」
「おらーっ! 飲め飲めーっ!」「酒をもってこーいっ! ありったけの酒だぁ!」
「おうビーハイブのぉ。意外とイケるじゃねえか」「集英組のぉ。まだまだこんなもんじゃねえぜ?」
ガヤガヤ
楽「ははっ……。あいつら結局、仲良く酒飲んでんじゃん」
千棘「うおぉーっ! 酒をもってこーいっ!」
楽「未成年だろうが」パシン
千棘「いたいっ」
クロード「貴様ぁ、一条 楽ぅ! お嬢を叩くとは、なにごとかぁ!」
千棘「ちょ、クロードっ! そんな怒るようなことじゃ……」
楽「ていうかお前、なんでここにいるんだよ……。大人の責任とやらは、どうした」
クロード「うるさぁいっ! お嬢がボスに、頼み込んでくれたのだっ! くぅーっ、お嬢、面目ない……」
千棘「も、もう、それはいいから……」
クロード「ありがとうございますお嬢っ! いつまでもあなたにお仕え致しますっ! ッオイ! 一条 楽ぅ!」
楽「な、なんだよ」
クロード「私はお嬢のそばにできる限りいるつもりだが、しかし例えば学校などでは、それができない。つまりどういうことか、分かるよなぁ?」
楽「……分かってるよ。お前なんかいなくたって、俺が千棘を守る。それが『親友』である俺の、役目だからな」
千棘「楽くん……」
クロード「分かってんならよぉし! 貴様も飲むかっ!?」
楽「飲まねえよ……。ていうか、肩を組むんじゃない」
楽(……こいつとはもう、関わりたくなかったんだが……。まあ、いいか。今のこいつはもう、ただの執事みたいなもんだし)
楽(ていうかこいつ酔っぱらうと、こんな風になんのか……。知らなかったな――)
千棘「もーっ! こっちいくよ、クロード! 楽くん、またあとでね」
クロード「お嬢、お待ちくださいっ! こやつとはこれから、お嬢の魅力を語り合いながら、飲み明かすのですからっ!」
千棘「そ、そんなことしなくていいからっ! もうっ!」グイッ
クロード「お嬢ー……」ズルズル
楽「はは……」
「あの、一条様……」
楽「……ん?」
「その……。お久しぶりで、ございます」
楽「えっと……」
「……鶫、でございます」
楽「つぐみ……? お、お前、その格好……」
鶫「はい……。その、どうでしょう、か……」
楽「……しばらく見ないうちに随分、女の子らしくなったじゃないか」
楽「スカートなんか履いて……。髪も、伸びたか……? それに、そのリボン……」
鶫「はい……。お嬢から、頂きました……」
楽「……」
鶫「……あの」
楽「二度と俺たちの前に現れるなって、言ったよな?」
鶫「……っ! は、はい。申し訳ありません。本来私のような者がパーティに出席することすら、おこがましいことだというのに……」
鶫「……ですがどうしてももう一度、あなたにお会いしたくて……。本当に、申し訳ありません。……ごめんなさい」
楽「……いいよもう、今日は。流石に今から帰れだなんて、言わねえよ」
鶫「ありがとうございます……」
楽「だけど、俺に会いたかったってのは、聞き捨てならねえな」
鶫「……」
楽「お前、俺のこと気持ち悪いって言ってたじゃないか。もう二度と関わりたくないって、言ったじゃないか」
鶫「……はい、あの時は、気が動転してしまってて……。一条様に、失礼なことを……。大変申し訳ありませんでした」
鶫「ですが私はどうしても、この姿をあなたに、見せたかったんです。あなたに見て、もらいたかったんです……」
楽「……どういうことだ? お前は俺の妄想話を聞いて、侮辱だとか、女を捨てたとか、そんなこと言ってたじゃないか」
楽「それなのに、なんだその格好は。俺の妄想が具現化したみたいな、姿しやがって……」
鶫「それは……」
鶫「……確かにあの時、あの話を聞いた時は、あなたに怒りを覚えました」
鶫「ありもしない話をまるで事実であるかのように語って……。私を使って、勝手に妄想して」
鶫「だけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、その話を聞いて……。『いいなぁ』って、思ったりもしたんです」
楽「……『いいなぁ』?」
鶫「私があなた方の学校に転入して、みなさんの仲間になって、笑い合って、ヒットマンのくせに、楽しい学校生活を送って……」
鶫「次第に普通の女の子みたいになっていって……。可愛い服を着たり、リボンをつけたりして……。ヒットマンのくせに、ただの女の子になって」
鶫「そして、ヒットマンのくせに……。いつか誰かに、こ、『恋』を、してみたりだとか……。そ、そんな、世界も――」
鶫「そんな世界も、そんな私も、『いいなぁ』って、思ってしまったんですっ!」
楽「……」
鶫「……転入は、なかったことに、なっちゃいましたけど……」
鶫「だけど私、頑張りました。お嬢にも手伝ってもらって、必死に女の子らしくなろうって、努力しました」
鶫「……途中で、私は何をやってるんだろうって、思ったりもしましたけどね……。こんな姿、かつての『黒虎』が聞いて呆れますよ」
鶫「でもお嬢は、言ってくれました……。『あなたはもう、戦う必要はないんだから、これでいい』って……。そう言ってこのリボンを、くださいました」
楽「……」
鶫「……こうして私は、変わることができたんです。そして、変わった私を、どうしてもあなたに見せたかった。だって――」
鶫「私が変わろうと思えたのは……」
鶫「あんな『漫画』みたいな気持ち悪い妄想を、恥ずかしげもなく私に話してくれた、あなたのおかげなんですから」
楽「やっぱり気持ち悪いとは、思ってたのかよ」
鶫「……ど、どうですか?」
楽「……あ?」
鶫「私、どうですかっ!? 今の私は……。変わった私は、どうでしょうかっ!?」
楽「超可愛い」
鶫「ひゃいっ!? あっ、えっと、うえぇ!?」
楽「いや、めちゃくちゃ可愛いと思うよ。今のお前がもし転入してきたら、多分うちのクラスの男子はお祭り騒ぎだな」
鶫「そ、そんなっ。あ、え、あの、うわぁ……」カァァァ
楽「照れてる姿はより一層、女の子だな。すげーよお前、そんな一面もあったのか」
鶫「み、見ないで、くださっ……」
楽「俺に見てほしくて、ここに来たんだろ?」
鶫「そっ、ですが……っ」
楽「……変わったな、鶫。もう立派な、可愛い『女の子』じゃん。ビックリしたよ、俺」
鶫「い、いちじょう、さまぁ……」
鶫「わたし、うれしいですっ……! まさかいちじょうさまに、ほめていただけるなんて……っ!」
楽「……そうか。頑張ったな。鶫」
鶫「えへへ……っ」
集「よーっ、楽ぅ! 盛り上がってるぅー? ……って、うおっ!? なんだこの美少女っ!?」
鶫「っ!?」ビクッ
楽「ああ、こいつは舞子 集ってんだ。悪いヤツじゃねえよ」
鶫「あっ。一条様の、ご友人ですか……」
楽「そんで集。こいつが前話した、『鶫 誠士郎』だよ」
集「えっ。この子が……? おいおい、なーんか話とちがくなーい?」
楽「はぁ?」
集「もっと怖いヤツかと思ってたら、全然普通の可愛らしい女の子じゃーん!」
集「こんな娘がウチに転入してくる予定だったのかぁ……。くーっ! ちくしょう、神様のバカぁ!」
楽「……ほらな?」
鶫「はいっ……!」
集「えっと、鶫ちゃん? よかったらこっちで俺と二人で、お喋りしない?」
鶫「えぇ!? え、えっと、あの……」
楽「あっちにクロードと千棘がいるから、そっちにいくといいよ」
鶫「は、はい。では、私はそちらの方に……」
集「えー。つれないなぁ」
楽「前の鶫だったらお前、死んでたからな」
鶫「あ、あの、一条様、今日はこうしてまたお会いできて、嬉しかったです。ありがとうございました」
鶫「……私はもう、満足です。これからは約束通り、二度とあなたの前には――」
楽「鶫」
鶫「は、はい?」
楽「……『また』な」
鶫「……は、はいっ!」
楽(『鶫 誠士朗 矯正計画』、完了っと……)
楽(――なんて、もちろんそんな計画は、なかったけども。あいつは自分で頑張って、変わったんだ。自分から普通の女の子に、なろうとしたんだ)
楽(俺は鶫を許さない……。許すわけにはいかない……。だけどその努力ぐらいは、認めてやらなきゃな――)
るり「一条くん。こんにちは」
楽「おう、宮本じゃん」
集「あれー。るりちゃん。俺に会いにきてくれたのー? いじらしいなぁ」
るり「私は一条くんに挨拶したのだけれど」
集「ちぇっ。るりちゃんもつれないなぁ」
るり「……ねぇ一条くん。小咲とはもう、話した?」
楽「いや、あいつはこのパーティの主役だし、ヤクザの間でもすっかり人気者だからな。まだそんなに、話せてないんだ」
るり「そう。じゃあその分後でたっぷりと、二人の時間を楽しみなさい」
楽「おう……。ていうかお前にも、礼を言わないとな」
るり「……? なにがよ」
楽「俺らの恋を応援してくれて、ありがとうな。俺の知らないところで、お前もいろいろとサポートしてくれてたんだろ?」
るり「……別に。小咲がモタモタしてるのが見てらんなかっただけよ。ようやくくっついてくれて、私も安心だわ」
集「うん。これでようやく自分の恋に専念できるねぇ、るりちゃん」
るり「あの二人に言われるのはいいけど、あんたに言われると本気で、腹立つわ……」
楽「えっ!? 宮本、お前にも好きな人がっ……!?」
るり「いないっての。ったく、私はこのバカと同じで、裏方に徹するのが性に合ってるの。自分の恋なんて、考えたこともないわ」
集「んー? 一緒にしないでよ、るりちゃん。俺にだって好きな人は、いるよー?」
るり「……へぇ。意外ね。誰よ」
集「……教えなーい」
るり「はぁ?」
集「楽にだって言ってないんだから。るりちゃんなんかに、教えるわけないじゃーん?」
るり「……ムカつく」
集「へ?」
るり「ムカつくわ……。ちょっと、こっちに来なさい」グイッ
集「おっ。一緒に飲んでくれるの?」
るり「今日中に、吐かせてやるわ。私の尋問に、耐えられるかしらね」
集「あっはは。怖いなぁー、るりちゃんは」
楽(……集、宮本。本当に、ありがとうな。俺が夢を叶えられたのは、お前らのおかげだ)
楽(だけど、いつまでも裏方にいる必要はないんだぜ。お前らだっていつかは、表舞台に立つ時が来るだろう)
楽(その時は、俺も小咲も、お前らを応援するから……。これまでお前たちが、そうしてきてくれたように――)
千棘「楽くん。おっす!」
楽「おっす。……って、あなたはっ……」
千棘パパ「……やあ、楽くん。久しぶりだね」
楽「……千棘の、お父さんじゃないですか」
千棘パパ「千棘がいつも、お世話になってるね……」
楽「いえ、そんな……。千棘には俺も、いろいろと助けられてるんで……」
千棘パパ「……娘はね。家に帰るといつも私に、君の話をしてくれるんだ」
楽「えっ……」
千棘「ちょ、ちょっと、パパっ!」
千棘パパ「キラキラと目を輝かせてね……。すごく楽しそうに、君のことを、話すんだよ」
楽「……そう、なのか」チラッ
千棘「うぅ……」カァァァ
千棘パパ「前の千棘はいつも、君のことを話すときは、怖い顔をしてたんだけどね……」
千棘「ぱ、パパ……」
千棘パパ「……でもそんな千棘を変えてくれたのはやっぱり、他でもない、君なんだろうね」
楽「そんな……。俺は、別に何も」
千棘パパ「千棘をよろしく頼むよ。『親友』として……。これからも娘に笑顔を、与えてやってくれ」
千棘パパ「私も父として……。二度と娘の笑顔を絶やさせないと、誓う」
楽「……はいっ!」
千棘「も、もう、パパ……。あ、あっち行っててよ……っ!」
千棘パパ「ははっ。そうだ楽くん。君にはこれを、渡しておくよ」
楽「……?」
千棘パパ「私の連絡先が、書いてある。なにかあれば、ここに連絡してくれ」
楽「は、はぁ……」
千棘パパ「……ふふ、次に電話する時は……。声色を変える必要は、ないぞ」
楽「っ!!」
千棘パパ「では、娘を頼んだよ……」
楽(千棘の親父さん、か……。抗争が止まったのも結局、この人の決断があったからだ)
楽(……もしかして俺の『計画』にも気づいていたなんてことは……。まあ、ないよな)
楽(千棘は俺に任せてください。あなたの娘を変えた責任は、俺にあるのだから……。必ず、この笑顔を守り抜きます――)
千棘「ご、ごめんね。パパが、変なことを……」
楽「いや、別に。ていうか単純に嬉しいよ。千棘が俺のこと、家で話してくれてたなんて」
千棘「うっ……。な、何でそういう恥ずかしいこと、平気な顔で言うかなぁ……」
楽「さあ。お前ってなんか、話しやすいし」
千棘「……そう?」
楽「ああ。なんでだろうな……。初めて出会った日から、そんなに経ってないはずなのに……」
千棘「私たち……。親友なんだから、過ごした時間の長さなんて、関係ないんじゃないかな」
楽「……お前も結構平気で恥ずかしい台詞、言うよな」
千棘「へ、平気じゃないよぉ……」
千棘「……私と親友になってくれて、ありがとう。楽くん」
千棘「私今が、とっても楽しいよ。楽くんのおかげで、みんなのおかげで、毎日が、楽しい」
楽「そうか……。そりゃよかった」
千棘「……うん。でもね、私、ときどき思い出すの」
楽「……?」
千棘「楽くんに無視されてた日々のこと、ときどきだけど、思い出すの」
楽「……っ!」
千棘「……毎日が楽し過ぎて……。忘れちゃうときもあるけど……。本当はそうやって、完全に忘れちゃえればいいんだけど――」
楽「……忘れちゃダメだよ」
千棘「えっ?」
楽「なかったことにしちゃ、いけない。俺がお前にしてきたことは……。決してなかったことには、できないんだから」
千棘「……そう、だよね」
『俺、小野寺と付き合うことになったから』
千棘「あの時は、ビックリしたなぁ……。私全然、気づかなかったもん。楽くんが小咲ちゃんのこと、好きだったなんて……」
千棘「……でも私とのニセコイ関係はなんだかんだで、続いてくんだと思ってた……。だってそうしないと、抗争がまた、始まっちゃうから……」
千棘「……だけど」
『ひ、久しぶりね、もやし。あの事件の後しばらく、学校お休みになっちゃったものね』
『……』
『……む、無視してんじゃ、ないわよ』
千棘「あの日から、私への無視が始まって……」
『ちょっと、聞いてる!?』
『……』
千棘「ニセコイ関係はおろか、まともに話すことすら、できなくなって……」
『ね、ねえ……。本当に、さぁ。もう、やめましょうよ、こういうの』
『……』
千棘「……私、本当に、傷ついたんだよ? 楽くんに、無視されて」
楽「……ごめん」
千棘「……でも――」
『お前が襲われそうになってたら、助けるに決まってるだろ。誰が見てようが、なかろうが』
千棘「……あの時は、嬉しかったなぁ」
千棘「かっこよかったよ。楽くん」
楽「……」
千棘「……そして――」
『今までずっと無視してきて、ごめん。俺が、悪かった』
千棘「私だって悪いのに……。楽くんが先に、謝ってくれて――」
『なぁ桐崎。俺たちさ……』
『友達に、なれないかな……?』
千棘「……こんな私と、友達に、なってくれて――」
『お前は俺の、一番の、親友だ』
千棘「親友に、なってくれて――」
楽「……ごめんな。本当に。お前のことを、無視し続けて……」
千棘「ううん。言ったでしょ? 私だって、悪いんだから……」
千棘「……それに、今の私があるのはやっぱり、あの日々が、あったからで……」
千棘「……私が『変われた』のは、やっぱり楽くんの……、おかげだったからで……」
楽「……っ!!」
千棘「私、今がすごく幸せなんだよ。 一条くんと親友になれて、みんなとももっと、仲良くなれて……。本当に――」
千棘「変わってよかったなって! そう、思うのっ!」
楽「そう、か……。ありがとう、千棘。変わってくれて……」
千棘「あはは、楽くんがお礼を言うのは、おかしいよ?」
千棘「……私を変えてくれてありがとうっ! 楽くんっ!」
楽(……ああ)
楽(俺の『計画』は……。俺の『戦い』は……。今――)
楽(――報われた……)
「楽くーんっ!」
楽「……小咲が呼んでる。ちょっと行ってくるわ」
千棘「うん。ばいばい、楽くん」
楽「……そうだ。千棘、お前はさ」
千棘「?」
楽(……俺は自分を、『漫画の主人公』なんじゃないかって、そう考えていた)
楽(じゃあ……『漫画のヒロイン』のようだった、こいつは――)
楽「お前はこの世界が実は、『現実』なんかじゃなくて――」
楽「――『漫画』の中の世界なんじゃないかって……。考えたこと、ないか?」
千棘「えっ……?」
楽「……どうだ? 例えばお前が転入してきた、あの日とかさ――」
千棘「ないよ?」
楽「……」
楽「……だよな。アホなこと聞いて、すまなかった」
千棘「ううん……。でもちょっと面白かったかな。やっぱり楽くんは、冗談が上手いなぁ」
楽「ははっ……。またあとで、話そうな」
千棘「うんっ……」
ワイワイ ガヤガヤ
千棘「……そっかぁ」
千棘「楽くん『も』、そんなこと、考えてたんだね……」
千棘「……だって少なくとも、ニセコイ関係を築いていた頃の、私と楽くんは……」
千棘「『漫画』の『主人公』と『ヒロイン』、そのものだったもんね……」
千棘「……だけどきっとこの世界は、『現実』だ」
千棘「だから楽くんはちゃんと、私なんかじゃなくて……。本当に好きな小咲ちゃんと、結ばれることができた」
千棘「でももしこの世界が、本当に、『漫画』だったら……」
千棘「私と楽くんが結ばれる……。『ホンモノの恋人同士』になる……。そんな結末も、あったのかなぁ」
千棘「……なんてね」
千棘「……だけどそうじゃないから。ここはちゃんと『現実』で、『漫画』なんかじゃないから」
千棘「だから……」
チャリン
千棘「日記の間に挟まってた、この『鍵』も……」
千棘「……あはは。今更こんなもの、見つけてもなぁ……」
千棘「でも、この『鍵』もきっと……。なんでもない、ただの倉庫とかの、『鍵』なんだろうね……」
千棘「……楽くん。私最近ね、思い出しことがあるの」
千棘「私も、『約束』をね……。昔、してたの。男の子と……」
千棘「……もちろん、その男の子が楽くんだなんて、私、思ってないよ。そんな偶然、あるわけないもんね」
千棘「……だけど、いいよね?」
千棘「それが本当に楽くんだったらいいなぁ、なんて……。そんな奇跡があったらいいなぁって……。そんな夢を、見るぐらいは……」
千棘「……あはっ。楽くんがペンダント捨てちゃったから、もう確かめることはできないけどね」
千棘「……」
千棘「……でももしかしたら、この『言葉』を伝えたら、楽くんは何か、反応してくれるのかな?」
千棘「もし、楽くんがこの『言葉』を知っていたら……。私が『約束の女の子』だっていう証明に、なるのかな?」
千棘「……なんてそんなこと、しないけどね。あなたは小咲ちゃんを『恋人』に選んだんだから……。そして――」
千棘「私を『親友』に、選んでくれたんだから……。その選択を否定する気なんて、私にはないんだから」
千棘「だって私は本当に、楽くんがくれた今が……。すごく、幸せだから」
千棘「だからこんな『鍵』はもういらないし……。この『言葉』ももう、捨てちゃうね」
千棘「……ううん。捨てるのは、もったいないか。どうせなら二人に、あげちゃおっかな」
千棘「……『ザクシャ イン ラブ』」
千棘「愛を、永遠に――。楽くん、小咲ちゃん。お幸せにね……」
――
楽「よう、小咲」
小咲「楽くん。ごめんね、後回しみたいになっちゃって……。みんなとも、話したくて」
楽「いいよ別に。今日はお前が主役なんだから。脇役の俺は――って」
「……」ビクッ
楽「あれ……。もしかして、その子」
小咲「うん。ほら、挨拶して?」
「あ、あの……えと……」
楽「……春ちゃん、か?」
「っ! は、はい……。妹の、春です……」
楽「おぉーっ! そうか、君が……」
春「お、お姉ちゃんがいつも、お世話になってます……」
楽「そうか、話には聞いてたけどさ。いやぁ、小咲そっくりだなぁ!」
春「う、え、えっと……」
小咲「……ごめんね。春はあまり、男の人と話したことがなくて……」
楽「そ、そっか。俺、一条 楽。お姉ちゃんの……。その、彼氏、です」
春「は、はい……。聞いてます……」
楽「……怖く、ないよ?」
春「でも……。ヤクザの息子さん、なんですよね……?」
楽「そ、それを言われると……」
小咲「こら、春。楽くんは優しい人だよ? いつも言ってるでしょ?」
春「うん……。それはもう、聞き飽きたよ……」
小咲「はるー……」
小咲「だ、だから、会って確かめたかったんでしょ? どう、楽くん。優しいでしょ」
春「いや、まだよく分からない、っていうか……」
楽「あはは……。そういや春ちゃんって、もう中三なんだよな?」
春「そうですけど……。よく、知ってますね」
楽「小咲から聞いてるからな。ってことは来年は、俺たちの学校に来るのか?」
春「は、はい。そのつもりですが」
楽「そうか、楽しみだなぁ。あっ、分からないことがあったら、聞いてくれていいからな」
春「はぁ……。あの」
楽「いやぁ。ということは俺、とうとう先輩になるのかぁ。もう二年生だもんなぁ。『一条先輩』かぁ。ふふ、なかなか――」
春「あのっ!」
楽「ん?」
春「……一条、さん」
楽「……」
春「一条、さん……は、お姉ちゃんのどこを、好きになったんですか?」
楽「はいっ!?」
小咲「は、はるっ!?」
春「……どうなんですか? 答えて、ください」
楽「いや、そんなもん、全部だよ……。多すぎて、答えられねえよ」
春「そんなの、『逃げ』の常套句じゃないですか。どれか一つを選んで、挙げてください」
楽「……じゃあ、俺がケガした時に、絆創膏を貼ってくれる、思いやりのあるところ」
小咲「っ! ら、楽くんっ!」カァァァ
春「ほう……。では、もう一つ」
春「ほう……。では、もう一つ」
楽「俺のために料理を練習して、毎朝弁当を作ってきてくれる、頑張り屋なところ」
春「いいですね。それ以外で、もう一つ」
楽「えっとじゃあ、いつもはおしとやかな感じだけど、焦ると結構あたふたして、可愛いところ」
春「あー、分かります。お姉ちゃんこれでも結構、抜けてることあるからなぁ……」
小咲「ちょっ、二人とも……っ。その辺に」
春「じゃあもう一つ」
――
楽「清潔感があるところ。なんというか、白のワンピースが似合いそうというか」
春「あーっ。あります、あります。お姉ちゃん、着てくれないかなぁ」
楽「良い匂いがするところ。未だに慣れなくて、その香りが鼻をつく度にドキドキしちまうよ」
春「ですねぇ。なんかいっつも良い香り漂わせてますよねぇ」
楽「えーと、あとは……。そう、笑顔がめっちゃ可愛い。特にクスっと微笑んだ時なんか、やばいよな」
春「やばすぎですっ! ていうかお姉ちゃんってそもそも、めちゃくちゃ美人ですよね?」
楽「そうなんだよ。まさに美少女っていうか……。目は大きくて、顔は小さくて……。それに肌も白いし」
春「そうそう。いやぁ。妹として誇らしいというか……。あとお姉ちゃん、意外とスタイルも――」
小咲「も、もういいですっ!」
楽「……え?」
春「お姉ちゃん?」
小咲「も、もういいですから……」シュー
春「ご、ごめんお姉ちゃんっ! お姉ちゃんの話してるのに、お姉ちゃんを置いてけぼりにして……」
小咲「ち、ちがっ……。私の話は、もう、いいから……。楽くんの、ことを……」
春「えっ? あ、あー……」
小咲「ど、どう? 良い人、でしょ?」
春「……まあ、お姉ちゃんのことが好きなのは、本当みたいですね」
楽「そこを疑ってたのかよ……」
春「ええ、まあ……。仕方がないですよ。だって」
春「あなたはもともとは桐崎さんと……。恋人関係、だったんでしょ?」
楽「……ニセモノの、な」
春「……私、最初は、一条さんのこと、怖い人なんだろうなって、思ってたんです」
春「だって、ヤクザの息子さんだなんて……。普通の男の人でさえ、私、苦手なのに……」
楽「……」
春「だけど、お姉ちゃんはそんな人のことを、好きだなんて……」
小咲「……」
春「しかもその人には、他に付き合ってる人がいるって……。それも金髪で、外国人みたいで、美人さんの……」
春「……怖かったんです。あなたのイメージが、どんどん私の中で、出来上がって……。そして、思ったんです」
春「お姉ちゃんはその男に、騙されてるって」
春「お姉ちゃんはそんな人を、好きになってはいけないって……。ごめんなさい。私、思いこみが、激しくて……」
楽「……そりゃ、一度も君と会ったことはなかったからな。仕方ないよ」
春「……だから、ビックリしましたよ。お姉ちゃんから、『今日、一条くんから告白された』って話を、聞かされた時は……」
春「それに、桐崎さんとの関係は全部、ニセモノだったって……。本当に好きだったのは、お姉ちゃんのことだったって……」
春「『夢が叶った』って……。お姉ちゃんが喜んでる姿を見て……。そんなイメージ、吹き飛んじゃいましたよ」
春「そんなにお姉ちゃんは、その『一条くん』のことが、好きだったんだなって……」
春「お姉ちゃんがそんなに好きになった人なら、悪い人な筈がないって……」
春「……だけど、本当にお姉ちゃんのことが好きなのかどうかは……。好きなんだとしたら、どれくらい好きなのか……」
春「それだけは、直接会って、確かめたかったんです」
楽「……で、どうだった?」
春「さっき言ったでしょ。全く、私のお姉ちゃんトークについてこれるなんて……。どんだけ好きなんですか……」
春「……あなたになら、お姉ちゃんを任せても、いいかもしれないです。合格です。あなたを、認めてあげます」
楽「……妹さんに認めてもらえて、よかったよ」
春「それで、後は私たちの両親だけですね?」
小咲「は、春……」
楽「そうだな。いつかは、挨拶に行かねえと……」
春「いつでもどうぞ……。では、後はお二人で、ごゆっくり」
小咲「えっ? 春、どこに行くの?」
春「さっき、その桐崎さんに呼ばれちゃって……。あの人も実際に会ってみると、意外と接しやすい人だね」
春「やっぱり人をイメージだけで判断しちゃ……、ダメだね」
小咲「……」
春「では、一条さん……。来年から、よろしくお願いしますね。いろいろと、迷惑をかけちゃうかもしれませんが……」
楽「ああ。……そうだ、春ちゃん。その前にさ」
春「はい?」
楽「もうすぐウチの学校で、文化祭が、あるんだけど。良かったら、見にこないか?」
春「本当ですか? それは是非、行きたいですね」
楽「ああ……。案内、してやるよ。迷子になったら、大変だしな」
春「あはは。子供じゃないんですからそんな、迷子になんて」
小咲「でも春、私の中学の文化祭に来た時、迷子になったところを、着ぐるみの人に助けてもらったって……」
春「い、いいからその話はっ!」
楽「着ぐるみ……? じゃあ俺も、手を引いて案内してやろうか」
春「いらないですっ!」
小咲「あ、じゃあ私が逆側の手を……」
春「なんで恋人同士の二人に挟まれて、歩かなきゃならないんですか!」
春「そ、それでは……。あっ。お姉ちゃん」
小咲「……?」
春「素敵な人だね。一条さんって」ボソッ
小咲「は、春っ?」
春「お姉ちゃんが好きになったのも、分かる気がするなぁー」
小咲「も、もぉ……」
楽「ん? 二人して何話してるんだ?」
春「秘密ですよ。一条『先輩』っ!」
楽「えっ」
春「私、今から楽しみにしてますっ! 一条先輩やお姉ちゃんがいる学校に、通う日が来るのをっ!」
楽(……春ちゃんか。小咲と違って結構、活発な感じな子だけど……。まさか彼女の入学がきっかけで、俺の日常が崩れることも、ないだろう)
楽(それどころか、結構仲良くやっていけそうだな……。気が合いそうというか……。特に小咲の話なんか、すごい盛り上がったし)
楽(もしかしたら俺と春ちゃんは、意外と趣味や好みが似てたりとか……。だとしたら良い友達に、なれそうだ――)
ガヤガヤ ガヤガヤ
小咲「……二人に、なっちゃったね」
楽「……ちょっと、外でないか?」
小咲「えっ?」
楽「いや、えっと、よ、酔っちまってさ。風に当たりたいなぁって」
小咲「ら、楽くん、お酒飲んでたの?」
楽「の、飲んでないけど……」
小咲「……」
小咲「ふふっ。いいよ、いこっ?」
楽「お、おうっ」
――
小咲「わぁ……。星が、きれい……」
楽「だなぁ……。雲一つ、ねえじゃん」
小咲「……」
楽「……」
小咲「……今日は、ありがとう。私のために、こんな大きなパーティを、開いてくれて……」
楽「いや、えっと……。ど、どうだった? 楽しめたか?」
小咲「うんっ……。すっごく、楽しかったよ。ヤクザの人たちも、怖い人たちばかりかと思ったら、みんな優しい人たちばかりだったし」
楽「そうなのか……。なら、よかったよ」
小咲「一生の思い出だよ。私、こんなにたくさんの人とパーティなんて、したことなかったし……」
楽「……『初めて』、か?」
小咲「うん。『初めて』をありがとう、楽くん」
楽「喜んでもらえて、嬉しいよ」
小咲「……」
楽「……て、てを、にぎっても……?」
小咲「……ふふっ。どうぞ?」
ギュッ……
楽「……あったかい」
小咲「うん……」
楽「……」
小咲「……」
楽「……」
楽(幸せ、だなぁ……)
楽(俺、本当に、叶えたんだなぁ……夢を)
楽(……つってももう一方の夢は、まだだけどな)
楽(『一流大学を卒業して、公務員』かぁ……。今まで後回しにしてたけど、こっちも頑張らないとなぁ)
楽(はぁ……。明日からまた勉強かぁ……。今この時間が、永遠に、続けばいいのに……)
楽(でもやらなきゃしょうがないよなぁ……。ていうか今の俺の学力って、どうなんだろ? ちゃんと良い大学に、行けるんだろうか)
楽(千棘に勉強教えてもらうか。あいつあれで結構、頭いいしな――)
小咲「楽くん?」
楽「うおっ!?」
小咲「どうしたの? ぼーっとして」
楽「い、いや、なんでも……」
小咲「へんな楽くん」クスッ
楽「あ、あはは……」
楽(か、かわいい……)
楽(なんだよこれ……。幸せすぎんだろ……)
小咲「楽くん。何考えてたの?」
楽「い、いやぁ? えっと……」
楽(こんな可愛い娘が……。俺の、彼女なんだよな? ゆ、夢じゃ、ないんだよな……?)
小咲「うーん。あっ、分かった。挨拶のこと、考えてたんでしょ? 私のお父さん、お母さんへの、挨拶」
楽「え、あっ。えーと」
楽(い、今の、顎に指を当てて、考えてる時の仕種……。『分かった』って、閃いた時の表情……)
楽(ぜ、全部かわいいっ! いちいちかわいいっ! こ、このペースで来られたら、俺の身体がもたねぇ……っ!)
小咲「ふふっ。別に急がなくても、いいんだよ? 私たちまだ、付き合いたてだし……」
楽(そうっ! その『ふふっ』ってヤツ……っ! それが、かわいいんだよなぁ……っ!)
小咲「……ううん。もう付き合いたてでも、ないかな。私たち、もうそろそろ……」
小咲「立派な恋人同士に、なれたのかな? なんて……」
楽「……た」
小咲「た?」
楽(たまんねえ……っ!!)
楽「たっ! たぶん、まだ、その、立派ってほどでは、ないかも?」
小咲「そ、そうかな?」
楽「お、おうっ! だけど、それでいいじゃん! まだまだこれからだよっ! 俺たちはこれから、立派になっていくんだからっ!」
小咲「……そうだよねっ! あの、これからもよろしくね、楽くんっ!」
楽「おうっ! よろしくな、小咲っ!」
楽(死んでまうわ……。ドキドキしすぎて、死んでしまう……)
楽(毎回毎回……。小咲の言うとおり、もう付き合いたてでもないんだから……。いい加減慣れろよ、俺)
小咲「……それで、当たり?」
楽「え? あ、ああ……。俺が、何を考えてたか、だっけ……。ううん、外れ」
小咲「あれ。じゃあ、正解は?」
楽「小咲は可愛いなぁって、ずっと考えてた」
小咲「……」
小咲「もぉ……」カァァァ
楽(うがぁっ! 可愛い過ぎるっ! 慣れるかこんなもんっ!)
小咲「な、なに言ってるの、楽くん……」
楽「悪い悪い、でも、ホントだから……」
小咲「……うぅ」
楽(かわいいなぁ……。小咲は、ほんとに)
楽(そうだ……。小咲は、どうなんだろう)
楽「……小咲」
小咲「は、はいっ!?」
楽「あ、あのさ、えっと……」
小咲「ど、どうしたの?」
楽「小咲は、さ……。その……」
楽「……小咲には『夢』とかって、ある?」
小咲「夢……?」
楽「そう……。夢……」
小咲「……夢ならもう、叶っちゃった」
楽「……そっか」
小咲「……だけど私、今日……。新しい夢を、見ちゃったの」
楽「っ! えっ!?」
小咲「すっごく、幸せな夢だったなぁ……。起きるのが、もったいないくらいに」
楽「起きる……? ああ、そっちの夢か……。ちなみに、どんな夢?」
小咲「……知りたい?」
楽「そりゃあ、まあ」
小咲「じゃ、じゃあちょっと、恥ずかしいけど……。教えて、あげるね」
楽「恥ずかしい……?」
小咲「楽くんと結婚して、夫婦になって、一緒に暮らしてる……。そんな夢を、見たの」
『おかえりなさい。あなた』
楽「……」
小咲「あはは……。す、すごく、幸せな夢だったよ……。なんで、起きちゃったのかなぁ」
『お食事の準備、出来てますよ。お風呂もわいてるけど……どっちがいい?』
小咲「なんか、け、結婚記念日だったみたいで……。料理、作って……。あんな豪華な料理、私作れないよ……」
『えへへ……あなたの為に、頑張ったから』
楽「……」
小咲「ワンちゃんも、飼ってたの。楽くんには懐いてなかったみたいだけど……。そういえばあの子、誰かに似てたような」
『あらあら大丈夫? やっぱりあなたにはなつかないわね、この子……』
小咲「そ、それで、えっと、そ、その後は……」
『ねぇ、あなた。良かったら、ご飯の後……』
『久しぶりに……一緒にお風呂に入らない……?』
小咲「ご、ごめんっ! これ以上は……っ!」
楽「一緒に風呂に、入った……?」
小咲「えっ……?」
ドクン
楽「……俺も、見た。その夢」
小咲「えっ!? う、うそ……」
楽「そうだ。思いだした。そうだよ、すっげぇ幸せな夢だった、ってことは、うっすら覚えてたんだが……」
楽「小咲と俺、夫婦になってたっ! そんで、幸せそうに、一緒に暮らしてたんだっ!」
小咲「う、うん……。あの……」カァァァ
楽「それでっ! その後小咲が、一緒に風呂に入ろうって、言い出して……」
小咲「わ、わぁーっ!」ボンッ!
楽「それで、それで……。えっと……」
楽「……あれ? 思いだせない……。あ、そうか」
楽「ここで俺、起きちまったんだ……。そうか。ちくしょう……。俺のバカ……」
小咲「そ、そっか……。楽くんはそこで、目が覚めちゃったんだね」
楽「……楽くん『は』?」ピクッ
小咲「え」
楽「こ、小咲は続きを見たのかっ!? 教えてくれっ! 一体どんな――」
小咲「わーっ! ひみつ、ひみつですっ!」
楽「……でも、そうか。俺ら二人して、同じ夢を……」
楽「同じ……夢を……」
楽(……見ていた……?)
小咲「そうだね。これって、すごいことだよね。こんなの、まるで――」
小咲「――えっと、なんだろ……?」
楽「……」
楽(……まさか)
小咲「あ、そうだっ!」
楽(まさか……そんな――)
小咲「まるで……、『漫画』みたい、だよねっ!」
ドクンッ
楽「……」
小咲「すごいなぁ。あはは、もしかして『なにか』、『不思議な力』が、働いたのかな?」
小咲「なんて――楽くん?」
楽「こ、さき……」
小咲「ど、どうしたの? 楽くん。あっ。汗が……。ちょっと待って、今ハンカチを」
楽「……どうし、よう」
小咲「えっ?」
楽「この世界は、やっぱり本当に……『漫画』の中なのかも、しれない……」
楽「は……はは……」
楽「……なんだ、よ、ちくしょう……っ!」
楽「あんまりだろ、そんなの……。じゃあ俺が今までやってきたことは、なんだったんだよっ!」
楽「やっと全部、終わったと思ったのに……。なんだよ、まだなにか、あるってのか……?」
小咲「楽くん……? どうしたの? この世界が、『漫画』の中……?」
楽「小咲、聞いてくれ……。これからまたなにか、おかしなことが、起きるかも……」
小咲「えっ。な、なんで……?」
楽「この世界が、『漫画』だからだっ! 『なにか』の……いや――」
楽「『作者』の都合で、異常なことも、不自然なことも、平気で起きる、狂った世界だからだ……っ!」
小咲「……そ、そんなこと」
楽「だって、おかしいだろっ!? だって、だって――」
楽「二人して、全く同じ夢を見るなんて……っ! そんなの現実的に考えて、おかしいじゃないか……っ!」
小咲「……」
楽「くそっ……! で、でも、安心してくれ。お前は俺が、守るからっ!」
楽「今度は、絶対に……っ! お前を危険な目に遭わせたり、しないからっ! 何があっても、お前は俺が――」
ダキッ
楽「……えっ?」
ギュッ……
小咲「……楽くんは」
楽「……」
小咲「多分、きっと、私の知らないところで……。ずっと『なにか』と、戦ってきたんだね……」
楽「こさき……」
小咲「でも、もういいんだよ……。ごめんね。私が変なこと、言ったせいで……」
小咲「この世界は『漫画』なんかじゃないよ。私たちは、『漫画』の登場人物なんかじゃない……」
小咲「だって、聞こえるでしょう……?」
ドクン
ドクン
小咲「私たちは、生きてる」
楽「……うっ、うぅ……」
楽「じゃ、じゃあ……」
小咲「二人して同じ夢を見るなんて……。そんな『珍しいこと』も、あるんだね」
楽「えっ……」
小咲「私はただ……。『漫画みたい』、って、言っただけだよ? 『漫画そのもの』だなんて、言ってない」
小咲「今回は……。ただ『漫画みたい』に珍しいことが、起きただけなんだよ」
楽「……」
小咲「それに……『事実は小説よりも奇なり』って言葉も、あるでしょ?」
小咲「じゃあ、『現実は漫画よりも』……。どうなのかな」
楽「っ!!」
小咲「ふふっ。『漫画みたい』なことだって、そりゃ平気で起こるよ……。だってここは――」
小咲「『現実』、なんだから」
楽(……そうか。なんで俺は、気付かなかったんだ)
楽(こんな簡単なことに……。なんで今まで、気付かなかった……?)
楽(『現実』ってのは、俺が思ってたほど……。退屈でつまらない世界なんかじゃなかったって……。それだけのこと、だったんだ)
ギュッ
小咲「『現実』だから、『漫画』みたいなことも、『夢』みたいなことも、起きるんだよ……。こんな風に」
楽「うん……。確かに、夢みたいだ」
小咲「ふふっ……。あったかいね」
楽「ああ……。それになんだか、良い香りだ……」
小咲「ら、楽くん、恥ずかしいよ……」
楽「はは……。でももう少しだけこうしてても、いいかな」
小咲「あはは……。でも誰か、来ないかな」
楽「……来ない」
楽「――とは、言い切れないか。『現実』はそう、甘くないもんな」
小咲「うん……。来ちゃったら……。その時に、考えよっか」
楽「そうだな……」
ギュ……
ワイワイ…… ガヤガヤ……
楽(遠くで声が聞こえる……。あいつら、まだまだ元気だなぁ……。これなら誰もこっちになんか、来ねえだろうな)
小咲「……」
楽「……」
小咲「えっとね、楽くん。つまりね、そういうことなの」
楽「ん?」
小咲「私の、新しい夢。今朝見た夢が、そのまま……。私の叶えたい、新しい夢だよ」
楽「……なるほど。実は最近俺にも、新しく叶えたい夢ができたところなんだよ」
『なら、教えてやるよ。たった今できた、俺の新しい夢を』
『小咲と一緒に幸せになることだっ!』
小咲「そうなの? どんな夢?」
楽「小咲と、同じだよ」
小咲「……そっか。じゃあまた私たち、同じ夢を、見てたんだ」
楽「はは……」
小咲「あはは……」
楽「……」
小咲「……」
ドクン
ドクン
ドクン……
……
……
楽「……結婚しよう、小咲」
小咲「……っ」
楽「……」
小咲「……」ポロッ
楽「……」
小咲「……グスッ」ポロッポロッ……
小咲「はい……っ!」
一条 楽と桐崎 千棘の『偽恋物語』は、幕を閉じ――
一条 楽と小野寺 小咲の『恋物語』は、続いていく
そして……
一条 楽と愉快な仲間たちの、『物語』と言うほどでもない、平凡で、平穏な、ただの日常は――
まだ、始まったばかりだ――
――――――――――――
そして――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
楽「――でもそこが逆にすごいよな。あんなもん、どうやったら思いつくんだよ」
千棘「でもね、あの作者さんって結構、そういう展開が好きみたいなの」
楽「いやぁ、それにしても。あの展開はマジで予想つかなかったなぁ。ここでそうくるかっ! っていう」
千棘「そうそうっ! でも結構伏線とかは、3巻ぐらいからあったりするんだよ?」
楽「そうなのかっ!? 帰ったら読み返してみるか……」
小咲「あれ、二人とも。何の話?」
楽「漫画だよ。千棘から、借りてな」
集「へぇー、楽。お前、漫画読んでんのか」
楽「最近また読むようになったんだ。しっかし面白いもんだな。あー。続きが気になるー」
るり「あんた、勉強は……?」
千棘「小咲ちゃんにも今度、貸してあげるねっ!」
小咲「ほんと? 私も漫画あまり読まないんだけど、楽しめるかな?」
千棘「大丈夫大丈夫っ! ちょっとグロいけど、大丈夫だよっ!」
小咲「グロいのっ!?」
楽「やめろ。小咲はああいうのは読まねえよ。お前とは違うんだ」
千棘「えーっ。私がゲテモノ好きみたいに言うの、やめてよぉー」
集「ふーん。楽が、漫画をねぇ……。こりゃ進歩かもね、るりちゃん」
るり「そんな分かったような顔で言われても、なにが進歩なのか私にはさっぱりなんだけど……」
ガラッ
先生「よーしみんな、席につけー」
先生「はい、注目ー。今日はお前らに、特に男子に、嬉しい知らせがあるぞーっ」
「なにー? せんせー」
「もしかして、転入生とかー?」
楽(転入生ねぇ……)
先生「お、当たりだ。しかもすっげぇ美人だぞ」
「マジ? やったーっ! また転入生だーっ!」
「俺このクラスでよかったぁー!」
千棘「ね、ねぇ! 転入生だって! 同じ転入生同士だし、仲良くなれるといいな……」
楽「……」
楽「……は?」
ザワザワ
楽(てん、にゅう、せい……?)
千棘「……? どうしたの、楽くん」
楽(なんで……。鶫……? いや、そんなはずは……。あいつは、だって……)
楽(鶫じゃない……。だとしたらじゃあ、一体、誰――)
先生「それじゃ入って、『橘』さん」
「はい」
シャラン……
楽「……っ!?」
「……皆さん初めまして」
万里花「橘 万里花と申します。何卒よろしくお願いします」
ザワッ
「うおおおおおおお! かわいいーっ!!」「モデル!? モデルなの!?」
ワーワー パチパチ
楽「……」
楽(なんだ、こいつは……? 誰、だ……?)
楽(分からない……。いやでも、この娘……)
楽(昔、どこかで、会ったことがあるような……?)
万里花「……」
万里花「……っ!!」
万里花「楽様~~~~~~~~!!」
楽「……はっ?」
万里花「ずっとお会いしたかったですわ~~~~~!!」
ダキッ
ギュウッ
楽「……」
楽「はぁ……!?」
「うおおおおなんだぁあ!?」「転入生が一条に抱きついた~~!!」
キャー キャー
小咲「へ……?」
千棘「……え、えっと」
るり「……」
集「……おいおい」
ギュッ……
万里花「楽様……! 私ずっとこの瞬間を、夢見て来ました……!」
楽「な……」
ワーワー ギャーギャー
楽(なんだこれは……?)
万里花「楽様……っ! 楽様ぁっ!」
楽「……離せ」
万里花「えっ……?」
楽「早く、離してくれ……! 小咲が、見てる……っ!」
万里花「こさき……?」
楽「お前、なんなんだ……? 俺のこと、知ってんのか……?」
万里花「……」
万里花「知ってるもなにも……」
万里花「私は楽様の、許嫁でございますよ」
楽「いっ……!?」
「許嫁ぇ!?」「どぉ~~いうことだ一条!!」
「これ、小野寺さんにライバル登場ってこと!?」「修羅場!? 修羅場なの!?」
小咲「……らく、くん……?」
千棘「い、許嫁、って……」
るり「なにこれ……。うっそでしょ……?」
集「……は、ははっ。くくっ……!」
万里花「楽様ぁ……。大好きですわ……っ!」スリスリ
楽「……」
楽「……勘弁してくれよ、もう」
そして一条 楽と愉快な仲間たちの、平凡で、平穏な、ただの日常は――
――今この瞬間に、終わりを迎えた
新たにまた、愉快な仲間が加わり……
今日ここから始まるのは、果たして――
楽「俺、小野寺と付き合うことになったから」千棘「!?」
千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」
楽「俺、小咲と結婚することになったから」
~fin~
231 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2014/02/19(水) 20:52:37.08 wJ/fiPqb0 79/79全く削ることなく、書きたいこと全部書けました。
マミーはどうしてもオチで使いたかったので、ここまで出せませんでした。ファンの方すいません。
感想くださった方も、ありがとうございます。これを見て原作の印象が変わった、っていうのが特に嬉しかったです。
長くなってしまいましたが、最後までお付き合いただいて、ありがとうございました。
またいつか他のスレでお会いできれば、幸いです。あと千棘ファンの方々には土下座して謝罪します。
なんかこういう展開はもっと合ってる題材でやって欲しいな
読みやすい書き方だったから次期待