1 : ◆.2t9RlrHa2[sag... - 2011/08/16 21:52:11.79 9gIdisr90 1/1179・1周目っぽいけど、ちょっと違うifモノです。ほむループが無い世界とだけ思っていただければ
・スレタイの通り、まどさやを前面に出していくつもりです。ただし友情
・>>1の独自解釈、稚拙な文章、キャラの違和感に耐えられない人はそっとブラウザを閉じてください
まどマギ再構成SSはレベルが高いの多いから、何度も投下するかやめるか考えました。よってクオリティには期待しないで…
・投下速度はたぶん遅め。投下量もそう多くなさそうです
・小説版の前バレから作り始めたSSですが、未読です
読めって? オクタ関連で魔女化しそう…。書いてる時は良いんだけど…。おまけに高いし…
・>>1はさやかスキーですが、SSの為なら容赦はしない。かもしれない
・台詞用括弧一覧。「」=台詞 『』=回想台詞 ≪≫=念話 ()=非念話の思考
元スレ
さやか「よろしくね、相棒」 まどか「うん!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313499131/
さやか「よろしくね、相棒」 まどか「うん!」 2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327422355/
『鹿目のち~び!』
『や~い、や~い』
『ほ~ら、すぐ泣く! 泣き虫まどか~!』
いつも泣いているばかりのわたし。
弱虫で、臆病で、大嫌いだった惨めなわたし。
魔法少女になって、やっと変わったと思ったのに…。
――まどかをいじめるなぁッ!!!!!――
あぁ…。
わたしはまた、この人に守られてる…。
【第一話】よろしくね、相棒
わたしを取り囲んだ使い魔を、駆け巡る疾風が切り刻む。
やがて孤立した魔女をも両断したあの人は、振り返って微笑み、いつもの台詞を言う…。
さやか「大丈夫? まどか」
非日常の世界に放り込まれても、この人の笑顔は変わらない…。
優しくて…。
力強くて…。
でも、その笑顔はわたしの無力感を刺激して、かえって苛立たせた…。
まどか「QB! いるんでしょ!?」
QB「どうしたんだい? いつも穏やかな君がそんなに苛立ちを見せるなんて…」
まどか「これはどう言う事なの!?」
QB「さやかの契約の事かい?」
まどか「そうだよ! わたし、なにも聞かされてない!
そもそも、さやかちゃんに資質があった事自体知らなかった!」
さやか「お、落ち着いてよ、まどか」
まどか「落ち着けないよ! なんで、さやかちゃんはいつもいつも…!
一言くらい相談してくれたって良かったのに…!」
さやか「あ、あたしもそうしたかったんだけどさ…」
まどか「もう知らない!」
さやか「………久々に見た。怒ったまどか」
QB「やれやれ。ほとぼりが冷めるまで、僕は彼女には近寄らない方がよさそうだね」
美樹さやかちゃん。
私の大切な親友。
凄く優しくて、凄く面倒見のいい人なんだ。
でも…。
意地っ張りで無鉄砲な所があるから怖いんだ…。
正義感が強くて、誰かの為だとすぐに無茶するから心配なんだ…。
だから、なって欲しくなかった…。
魔法少女になんて…。
命懸けの魔法少女の世界で無茶なんかしたら、下手したら死んじゃうかもしれない…。
自分の事より、人の事を先にする悪い癖があるから…。
だから、これだけは絶対に止めたかったんだ…。
違う…。
この気持ちはそれだけじゃない…。
翌日になっても憤りに近い、わたしの感情は収まらなかった。
そして、何事も無かったかのように何時も通りに能天気に挨拶するさやかちゃんの姿が見える。
さやか「おっはよぉ。まどか! 仁美!」
仁美「おはようございます」
まどか「…………」
さやか「きょ、今日のあたしの嫁は機嫌が悪いなぁ…」
仁美「……………」
仁美ちゃんがいなければ、たぶん昨日の口論の続きを始めてたと思う。
でも、仁美ちゃんにそれを知られる訳には行かないし、かと言って念話を使う気分でも無いし…。
まどか「……………」
仁美「何かあったんですの?」
まどか「知らないっ。そっちの人に聞いて」
さやか「が~ん…。そ、そっちの人…」
仁美「まどかさんがここまで怒るなんて、初めて見ましたわ…。
本当に何をしたんですの? さやかさん…」
さやか「ん…。ちょっと内緒で突っ走ったのがバレちゃってさ…」
仁美「あぁ…、何か納得が行きましたわ」
仁美「細かい事情は知らないので口出ししづらいですけど、きちんと謝った方が…」
さやか「だよね…。だから謝ろうとは思ってるんだけど、昨日からずっとあの調子でさ…」
あ~あ…。
わたし、駄目だなぁ…。
わかってるんだ。
八つ当りだって…。
わたしだって魔法少女の事、さやかちゃんに話さなかった。
だったら、さやかちゃんが魔法少女の事をわたしに話してくれなくたって仕方ないよね…。
でも…。
悔しいんだ。
わたしはやっぱり、さやかちゃんの力にはなれないんだって…。
さやかちゃんは、わたしの事なんて頼ってくれないんだって…。
そう思ったら、わたし…。
本当は言わなきゃいけないのに…。
助けてくれてありがとうって…。
でも、自分の無力感が、悔しさが…。
そして、さやかちゃんが魔法少女になってしまった心配が…。
それの邪魔をする…。
仁美ちゃんと話すさやかちゃんをちらちらと見ながら、ぼんやりと歩き続ける。
そんな時に聞き覚えのある声が頭の中に響いた。
QB≪大変だよ。まどか! さやか! この近くで魔女の反応だ≫
さやか≪マジ…? まずいじゃん!≫
まどか≪マミさんは…?≫
QB≪連絡はしてるけど、ここからだと位置が大分遠いね…≫
さやか≪この辺は人通り多いから、さっさと片付けないとまずいか…≫
さやか≪おっけー! すぐ行く!≫
まどか≪わかった。すぐ向かうね!≫
さやか「仁美、あたし急用思い出したから、今日学校サボるわ!」
まどか「仁美ちゃん、わたしも用事思い出したから家帰るね! ごめん!」
仁美「ちょ…! ちょっと二人とも…?」
仁美「行ってしまいましたわ…」
仁美「くすっ。でも、仲直りできそうだから、これも良いのかもしれませんわね」
仁美「……ん? でも、これってひょっとして逢引きでしょうか…?」
仁美「禁断の恋…!?///」
────────
────
──
さやか「悪いけど、先行くね! まどか!」
まどか「は、はやっ!」
QB≪仕方ないよ。さやかはより身体能力を必要とする近接特化タイプの魔法少女だ≫
QB≪さらに言えば、もともとまどかとの身体能力の差もあったんじゃないかな…?≫
まどか「うぅ…。さやかちゃんは運動神経、結構良かったもんなぁ…」
まどか「また、さやかちゃんに守られるだけなのかな…?」
まどか「なんて、考えてる場合じゃないよね。急がないと!」
―魔女の結界内 最深部―
さやか「まどかが来る前に終わらせる!」
自慢のスピードで敵の攻撃を掻い潜り、魔女に斬撃を浴びせ続けるさやか。
傍から見れば、完全に優勢。
そのまま敵に止めを刺そうとしたのだが…。
さやか「えぇいッ!」
さやか「…………あれ?」
乱雑に振るい、弱り切った刀剣。
それは力任せに繰り出したさやかの止めの一撃に耐えきれず、
その刀身はぼっきりと折れて地面に転がった。
さやか「これ…、やばっ!?」
手持ちの武器を失い、敵の目の前で丸腰同然になるさやか。
止めを刺したつもりであった為、回避行動も出遅れてしまっている。
隙だらけのさやかを魔女が攻撃しようとした時…。
三発のピンクの矢が、魔女に次々と刺さり、
そのまま弾けて、魔女をよろめかせた。
まどか「大丈夫? さやかちゃん」
さやか「まどか…」
言う間にもまどかは、次々に矢を射る。
見た目はボロボロなのに、それでも魔女は倒れる気配はない。
恐らくは最後の力を振り絞り、魔女はまどかの方へと向かって行く…。
QB「しぶとい…。まどか、回避を…!」
まどか「大丈夫だよ、QB…!」
まどか「わたしには…」
まどか「さやかちゃんがいるから!」
次々と矢を受けながら、わたしへと迫った魔女はその直前で足を止めた。
宣言通り。
ダメージを受け続け、限界を迎えた魔女の丁度ど真ん中に、鋭く輝く刃。
さやかちゃんの作り直した刀剣の刃が貫いた。
致命傷を負った魔女は結界もろとも消えさり、戦利品のグリーフシードだけを残した。
グリーフシードを拾ったさやかちゃんと向き合う。
そして昨日言えなかった事、昨日から言いたかった事をようやく口にした。
まどか「さやかちゃん、昨日はありがとう。それと、ごめんね」
まどか「危ない世界だから、ホントはさやかちゃんには来て欲しくなかったの…。
だからってあんな言い方ないよね…。ごめんね…」
さやか「良いよ。まどかは心配して言ってくれたんだから。
それより、こっちこそありがとう」
まどか「うん! これで仲直りだね」
さやか「じゃあ二人で倒した事だし、これも二人で使おっか」
まどか「そうだね。グリーフシードも半分こ。なんか良いね」
グリーフシードでソウルジェムの穢れを取りながら、さやかちゃんはわたしにいつもの笑顔を向ける。
飾り気のない、大好きな笑顔を。
さやか「やっぱりまどかは優しいね。それに…」
さやか「頼もしくなった」
まどか「そ、そうかな…?」
さやか「うん。間違いないよ」
まどか「え、えへへ…///」
さやか「だからさ…、あたしの背中はまどかに預ける」
まどか「それって…」
さやかちゃんは、わたしにグリーフシードを手渡す。
そして、その笑顔をもう一度わたしに向けつつ、その一言を言ってくれた。
多分、わたしが欲しかった一番の言葉。
さやかちゃんから、わたしへの信頼の言葉を。
さやか「よろしくね、相棒」
まどか「うん!」
さやか「さ~て、魔法少女コンビ結成記念だ!
サボりついでに、今日はあたしん家でパーっとやりますか!」
魔法少女になると言う事は、さやかちゃんが決めた事。
なってしまった以上、どうしてあげる事も出来ない。
だったら、これからの事を考えよう。
わたしは、さやかちゃんと同じ魔法少女だから。
肩を並べて歩けるから…。
今度は…。
今までさやかちゃんが守ってくれた分まで、わたしがさやかちゃんを守るんだ。
わたしは駄目だから、またさやかちゃんに守られたり、甘えちゃったりするかもしれないけど…。
でも、その分、わたしもさやかちゃんを守って、甘えさせてあげるんだ。
わたしとさやかちゃんは…。
今日から相棒<パートナー>同士だから。
だからね…。
まどか「ねぇ、さやかちゃん」
さやか「何、まどか…?」
まどか「これからはさ、何かあったらすぐにわたしに相談してね。
何があっても。どんなことでも」
まどか「そりゃ、わたしじゃあんまり頼りにならないかもしれないけど…」
さやか「急にどしたの…?」
まどか「魔法少女の事、相談してくれなかったから…」
さやか「ほ~ぅ? まどかの昨日今日の態度は心配の裏返しですかぁ~?」
まどか「茶化さないで聞いて。
今回の件もそうだけど、さやかちゃんはいつも一人で決めて、一人で突っ走って行っちゃうから…」
さやか「……わかった」
まどか「うんっ。約束だよっ」
さやか「おっけ~! 約束っ!」
交わした約束。
それは…。
―next episode―
「この人が巴マミさん。わたしの魔法少女の先生だよっ」
―【第二話】マミ先生の魔法少女教室―
さやか「それ、本当なの…?」
QB「あぁ、まどかの事を考えるなら一刻の猶予も無いね」
さやか「わかった。じゃあ、契約しよう」
QB「本当に良いんだね?」
さやか「うん。やって…!」
目の前に現れた白い謎の生物。
あたしはそいつに急かされるまま、魔法少女とやらになった。
本当はゆっくり考えたかったけど、急ぐ代わりにあたしは二つの願いを叶えた。
大切な人の手を契約の願いで治して、大切な親友を魔法少女の力で救えた。
そのままのあたしだったら、叶えられない筈の奇跡を二つも叶えたんだ。
後悔なんて、あるわけない…。
―【第二話】マミ先生の魔法少女教室―
魔法少女コンビ結成記念の翌日。
サボリついでにと遊び通した先日と違い、今日はさすがに真面目に登校。
朝から仁美のテンションがおかしかったが、まぁその辺は面倒なので以下省略…。
で、あたしも魔法少女としては新人だし、まどかがいつもお世話になっている魔法少女の先輩を紹介して貰い、
あたしも師事させて貰えるよう、話を聞いてもらう手筈になっていた。
で、今日一日はその魔法少女の先輩と言うのがどんな人かずっと考えていた。
一応、まどかにも聞いてみたんだけど…。
まどか『えへへ~。凄い人だよっ』
とか…。
まどか『会ってみてのお楽しみ』
とか…。
まどか『さやかちゃんにも良くしてくれると思うよ』
とか…。
なんかそれっぽい事しか言わない。
まどかが良い人だっていうんだから、そりゃ天使みたいな人なのかも…とも思うけど、
『魔法少女』の先輩ってのがどうにも引っ掛かる。
そう言うのの先輩って、やたらクールだったり、なんかスケバンっぽいイメージが何故かあって…。
たぶん、魔法少女がなんだかんだで、肉体労働だったってのも関係してるんだろうけど…。
まぁそれは行き過ぎにしても、まどかママみたいな豪快だけど面倒見の良い人ってイメージの方が先行していた。
ともかく、そんな先入観はものの見事にぶち壊されることになった。
まどか「この人が巴マミさん。わたしの魔法少女の先生だよっ」
マミ「こんにちは。あなたが美樹さんね? 鹿目さんから話は聞いているわ。
これから、よろしくね」
放課後。
まどかが紹介してくれたのは、あたしの先入観とは真逆。
本当に天使みたいな美人さんだった。
ツインテールの金髪。
全身から何故か漂う優雅で、物腰柔らかそうな雰囲気。
少し垂れ目気味の同じく金色の瞳は、さらに優しそうな印象を植え付ける。
おまけに中学生には見えないスタイルの良さ…。
不公平だ~!
と叫びたくなるほどのスーパー美人が、そこに立っていた。
さやか「は、はいっ。美樹…、さやかですっ! よろしくお願いします!」
見惚れてしまった分、どもってしまい、さらに空元気が炸裂した挨拶を返す。
初対面の人に返す挨拶としては恥ずかしい部類だけど、目の前の美人さんはそんなあたしにも笑顔で返す。
マミ「ふふ。話には聞いていたけど、元気いっぱいなのね」
さやか「あ、あはは…/// それだけが取り柄なんで…」
照れくさくなって頭を掻く。
同時にテンションの上がったあたしは、まどかに対して念話を送る。
さやか≪すげーよ! まどかっ! 天使じゃん! 天使がいるよ!≫
まどか≪さ、さやかちゃん…!?≫
さやか≪いや~、どっちかと言うと体育会系のノリのイメージしてたから、意外だったよ~≫
まどか≪あ、あのね…。さやかちゃん…≫
さやか≪逆に魔法少女として戦ってる姿が想像できないと言うか…≫
さやか≪でも、まどかも可愛らしく戦ってるくらいだから…≫
まどか≪あのね…。マミさんも魔法少女だから、念話も全部聞こえてるんだよ…≫
さやか「あ…………」
マミ「ふふ…。面白いのね。美樹さんは」
テンションの上がったあたしは、こうして色々な醜態を晒す。
苦笑する二人に連れられ、あたしはマミさん宅へと向かう…。
マミ「独り暮らしだから遠慮しないで」
マミさんの自宅だと言う高級マンションの一室。
綺麗に整理されているのは勿論、趣味の良い家具の数々。
そして、食べるのが勿体無いくらい可愛らしいケーキと良い香りのする紅茶。
さやか「ん~♪ めちゃウマっすよ!」
マミ「今日は美樹さんが来るって言うから作っておいたの。
張り切っちゃった」
まどか「マミさんは料理も上手なんだよっ」
さやか「すげー…。どこまでキャラ立てすりゃ気が済むんだ…」
和やかに始まったお茶会。
あたしがマミさんを質問攻めにしたり、まどかをからかったり、
そのまどかに反撃されたりと、楽しい時間が過ぎていく。
マミ「本当に二人は仲がいいのね」
さやか「はいっ。なんたってあたしの嫁ですから!」
まどか「よ、嫁じゃなくて相棒でしょ。
もう、さやかちゃんったら…」
マミ「相棒…か」
その一言を聞いたマミさんの表情が真剣なものに変わる。
重たい空気を感じ取ったあたしとまどかは、ふざけあうのをやめてマミさんの方を見つめる…。
マミさんの視線は、あたしの方を向いている…。
マミ「美樹さん。あなたに一つだけ確認したい事があるの」
さやか「はい…。なんでしょう…」
マミ「魔法少女は一つの願いと引き換えに、魔女と戦う使命を背負う。
そして、その戦いは命懸けよ」
マミ「あなたは魔法少女になったばかりだと聞いたけど、その覚悟は持っていると見て良いのかしら」
まどか「マミさん…」
マミ「ごめんね。鹿目さん。
でも、これはとても大事な事だから…」
さやか「QBから聞きました」
さやか「影に潜んで人を襲う魔女。それと戦っているのが魔法少女だって…。
でも、それがどんなものかは想像しないまま、あたしは魔法少女になりました」
さやか「はっきり言います。あたしは勢い任せで契約しました。
だから、契約した時はマミさんの言う覚悟は無かったかもわかりません」
さやか「でも…」
さやか「あたしは守りたいです」
さやか「あたしの育ったこの街も、その街を人知れず守ろうとした親友の事も…」
さやか「だから、今は後悔してません」
さやか「覚悟だってあります」
まどか「さやかちゃん…」
マミ「ごめんなさい。聞くだけ野暮だったみたいね」
さやか「いえ…。あたしもマミさんが、ただ優しいだけの人じゃないってわかって良かったです」
マミ「…………」
さやか「必要な時には厳しくしてくれる。
あたしの先生はそんな頼りになる人だって、わかりましたから」
マミ「私も、あなたに認めてもらえたみたいね」
さやか「ごめんなさい…。偉そうなこと言っちゃって…」
マミ「良いのよ。私としても、そのくらいはっきり言ってくれた方が助かるわ」
さやか「まぁ何はともあれ…」
マミ「よろしくね、美樹さん」
さやか「こちらこそ、よろしくお願いします! マミ先生っ!」
マミ「ま、マミ先生は照れるからちょっと…」
まどか「わたしも…。改めてよろしくお願いしますね、マミ先生♪」
マミ「もう…/// 鹿目さんまで…」
照れるマミさんをからかう形で、お茶会は和やかな形に戻る。
これからは、マミさんの指導の元で…。
まどかと二人でコンビを組んで頑張っていくんだ。
三人でこの街を守っていくんだ。
そんな最初の時間は緩やかに過ぎていく…。
────────
────
──
マミ「さて、それじゃ魔法少女教室一時間目、張り切っていってみましょうか」
と張りきった甲斐の無い地味な結界探しが始まる。
ただ、さすがはベテランのマミさん。
そこら辺もお手の物みたいで、割とすぐに結界を見つけ出した。
さて、ここからが本番なんだけど…。
マミ「ここから二時間目になるんだけど、今回は二人とも見学してもらってもいいかしら」
まどか「どうしてですか…?」
マミ「美樹さんは勿論、鹿目さんも戦いをゆっくり見学する機会なんて無かったでしょう?
人の戦い方を見てるのも結構勉強になるものよ」
と言う事で、あたしとまどかは完全に見学者扱い。
あちこちにある薔薇を、髭の使い魔が管理する結界の最深部。
先日に戦った魔女の結界に負けず劣らず、異様な光景が広がっている。
そこに舞い降りたマミさんは、使い魔共々、薔薇の混じったぐちゃぐちゃ頭と蝶の羽根の魔女を完全に圧倒した。
さやか「無数の銃を作り出して、舞うように撃ちまくる…」
まどか「と思えば、空中に銃を大量に召喚しての一斉掃射…」
さやか「んでもって…」
まどか「敵を拘束魔法で縛り上げての…」
マミ「ティロ・フィナーレ!!!」
さやか「すげー…。これが本物の魔法少女かぁ…」
まどか「ね? 凄いでしょ? マミさん」
さやか「うん。あれぞ魔法少女って感じだねぇ。
あたしなんかただ斬りつけてるだけだから、剣闘少女とか戦士少女とかの方が違和感ないし…」
まどか「さやかちゃんは近接タイプだから尚更顕著だよね…。
あたしは魔力で出来た矢を使うから、さやかちゃんよりは魔法っぽいけど、地味な物は地味だし…」
マミ「最初は誰だってそんなものよ」
まどか「そうなんですか?」
マミ「そうよ。私だって何度も戦ってる内に色々工夫して、今の戦い方になったの」
さやか「じゃあ、あたし達もやってる内にうまくなる…、そう言う事ですか?」
マミ「そうね…。今日は早く片付いたし、そう言う練習もやってみましょうか」
まどか「…?」
マミ「今日手に入れたグリーフシードは二人にあげるから、少し練習してみると良いわ」
────────
────
──
さやか「って、突然言われても…」
まどか「難しいよね…」
マミ「そうね。でも、今の内に練習してコツを掴んでおけばいざという時、役に立つかもしれないから…」
まどか「む~~~~ん」
さやか「ぐぬぬ………」
マミ「イ、イメージするだけじゃ駄目よ?
ちゃんと、それに合わせて魔力を使うようにしないと…」
さやか「そっか…! それなら…!」
さやか「む~~~~!」
さやか「マミさんの~~~~!」
さやか「技っ!!!!」
マミ「!」
まどか「すごいよ、さやかちゃん!
剣がいっぱい! マミさんの銃をいっぱい出したあれにそっくりだよ!」
さやか「へへへ~! 来ちゃったかな~? あたしの時代!」
マミ(良いセンスね…。僅か二日で、もうそれができるようになるなんて…)
まどか「よし、じゃあわたしも…!」
さやか「おっ。なんかまどかの矢が…」
マミ(魔力の収束…?)
まどか「………」
さやか「どんどん光が大きくなってく…」
マミ
「…………」
まどか「……………」
さやか「まぶしー! やるじゃん、まどか!」
マミ「………まずいわ」
まどか「いきますっ! ティロ・フィナー………」
マミ「いけない! 鹿目さんっ!!!!!」
ドン!と爆発音が響く。
溜まりに溜まったピンクの光。
その許容量はとうとう限界を超え、暴発した。
そして…。
まどか「し、失敗しちゃった…」
さやか「ま、まどか、その頭…!
ぶっ! あははあははははははははは!!!!!!」
マミ「ア、アフロ……」
まどか「ひ、酷いよ! さやかちゃん!
そんなに笑わないでよ!」
さやか「だって…、だってさ…、ほら鏡…!
あははははははははははは!!!」
まどか「ひ、酷い…。こんなのってないよ…。
あんまりだよ…」
マミ(あれだけの魔力を集めて暴発させて、まだ平然としてるの…?)
マミ(やっぱり鹿目さんは、魔力の大きさが武器みたいね…)
失礼と思いながらも、ツボにはまって笑ってしまったあたしを他所に、
マミさんはまどかの指導をしつつ、魔力でちりちりになった髪の毛を直していく…。
確かにあの状態のまま帰ったら、色々な意味で大惨事になるだろうし…。
マミ「はい。これで、どうかしら?」
さやか「おぉ…。髪の毛が直った」
まどか「魔法ってそんな事も出来るんですね…」
マミ「気を取り直して、もう一度やってみましょう。
さっき言った通りにしつつ、今度は溜めすぎないようにね」
まどか「はい…!」
先ほどと同様にまどかの矢にピンク色の光が集う。
ただ、その光は途中で止まり、それと同時にまどかは矢を放った。
大きめのピンクの矢は壁に着弾。
先ほどよりも激しい爆発を持って、廃ビルの壁を吹き飛ばした。
まどか「やった! できましたっ! マミさんっ!」
マミ「よかったわね。鹿目さん」
まどか「はいっ。ありがとうございます!」
さやか「炸裂弾かぁ…。でも、よくそんなアイデアが出てきましたね」
マミ「炸裂弾は私も時々使ってるから、もしかしたらと思って。
鹿目さんの矢は魔力を直接放ってるみたいだから、やっぱり形状や性質の応用はしやすいみたいね」
────────
────
──
マミ「じゃあ、二人ともお疲れ様」
さやか「はいっ! 今日はありがとうございました!」
まどか「また、よろしくお願いします」
とまぁ、魔法少女教室の一日目が終わる。
まどかと二人歩く帰路での話題は、当然さっき別れた先輩もとい先生の話となる。
さやか「かっこいいなぁ、マミさん」
まどか「そうだね~。やっぱり憧れちゃうよね」
さやか「なんかさ、実力とかそう言うのだけじゃなくてさ…。
考え方とかも大人でさ、やっぱり尊敬しちゃうよ」
まどか「そうだね。でも…」
まどか「…………かっこよさだけなら、さやかちゃんも負けてないと思うな」
さやか「ん~? なんか言った?」
まどか「何でも無いよっ」
さやか「なんか、かっこよさがどうとか聞こえた気がしたんだけど~?」
まどか「マ、マミさんってかっこいいね~って」
さやか「そうだね。なれると良いよね。
二人でマミさんみたいな魔法少女にさ…!」
目標となる憧れの人。
未熟だけど、前に進めると信じた今日。
部活動の延長みたいなノリだった。
まだ、この時は…。
命懸けの戦い。
そして、あの人の強さと弱さ。
それを知る事になる…。
―to be continued―
―next episode―
「嫌な予感がする…。今回は私一人でやるわ。二人はおとなしく見ている事」
―【第三話】対決。お菓子の魔女―
まどか「今日と言う今日は、成功させるよ!」
さやか「ま、まどか…。その魔力の溜め方は…!?」
まどか「てぃひひっ! 今度こそやるよっ…!」
マミ「か、鹿目さん…!?」
まどか「いくよ! ティロ・フィナー…………あれ?」
マミ「鹿目さん…………」
さやか「ぶっ…! あははははははははははは!!!!」
例の如く矢に魔力を溜めたわたし。
が、その魔力は何故か別の方に向かってしまったみたいで…。
衣服が風船のように膨れ上がってしまいました。
まどか「なにコレ! 服が…、膨らんで…!?」
マミ「ちょ…、鹿目さん動かないで!」
まどか「あ、あれ…? と、飛ばされる~!」
さやか「ははは…………ってオイ! 本気でヤバイんじゃないの! あれ!」
マミ「と、とりあえず拘束魔法で…!?」
まどか「助けて~! さやかちゃん!! マミさ~ん!!」
────────
────
──
マミ「ティロ・フィナーレ禁止!」
まどか「はい………」
さやか「ま、まぁ元気出しなって、まどか…」
マミ「美樹さんは美樹さんで、敵陣に突っ込み過ぎてピンチになったばかりなのを忘れたのかしら?」
さやか「ぐっ…」
マミ「ふぅ…」
マミ「二人とも頑張るのは良いし、真っ直ぐなのもとても良い所だと思う」
マミ「だけど、頑張り過ぎて空回りするのは二人の悪い癖。
もう少し落ち着いて、周りを見るようにしてね」
まどか「はい…!」
さやか「了解です! マミさん!」
とまぁ、わたしもさやかちゃんも失敗ばっかりですが、どうにか魔法少女やってます。
マミさんには迷惑かけっぱなしだから、その内お礼しないといけないなぁ…。
―【第三話】対決。お菓子の魔女―
マミ「上条恭介君…?」
まどか「はい。さやかちゃんの幼馴染で、すごくバイオリンが上手だったのに事故にあっちゃって…」
今、わたしとマミさんはとある喫茶店でお茶をしている。
いつもならマミさんの自宅で行われるお茶会をこんな所でしているのは、さやかちゃんを待っているから。
そのさやかちゃんは、今名前の挙がった上条君のお見舞いに行ってて、
自ずと話題もその事になったんだけど…。
マミ「その子の手を契約の願いで治したの…?」
まどか「そうだって、さやかちゃんは言ってました」
マミ「一応確認するけど、その子と美樹さんは幼馴染以上の関係ではないのよね?」
まどか「え? はい…」
マミ「でも、美樹さんはその子に好意以上の感情を抱いてる、違う?」
まどか「………はい」
マミ「………」
まどか「マミさん………?」
マミさんの表情が曇る。
眉を潜め、ティーカップを見つめる瞳は、戦いの時に近くて少しだけ怖くなる。
マミ「真っ直ぐなのは良い事だけど、彼女は思っている以上に危なっかしいわね…」
まどか「え…?」
マミ「美樹さんは、自分の本当の願いに気付いているのかしら、と言う事よ」
まどか「はい…?」
マミ「他人の夢を叶えてあげるのと、他人の夢を叶えた恩人になるのとでは、似ているようで全く違う…。
その差が、後々悪い影響を及ぼさなければいいんだけど…」
まどか「さやかちゃんは…」
マミ「わかってる…。美樹さんはそんな子じゃないって…」
マミ「でも、だからこそ不安なの…」
マミ「その違いに気付かずに苦しんだ…、
いいえ、苦しみ続けている子を私は知っているから…」
寂しそうな目をしたマミさんはわたしを見ずに下を向く…。
そんなマミさんにその話を開こうとした時だった。
さやか≪まどか、マミさん。聞こえます…?≫
まどか≪さやかちゃん、どうしたの?≫
さやか≪病院で、孵化しかけのグリーフシードを見つけました≫
マミ≪本当…?≫
さやか≪はい。様子がおかしいから、恐らく結構まずい状態なんじゃないかな、と≫
まどか≪大丈夫なの…?≫
さやか≪平気平気。それより、どうしましょう? 力任せに壊していいなら、あたしが…≫
マミ≪ちょっと待って…。今対処の方法を…≫
さやか≪!?≫
さやか≪な、なんか光って…!≫
さやか≪う、うわ…!? ちょ…≫
マミ≪美樹さん…!?≫
まどか≪さやかちゃん!?≫
まどか≪さやかちゃん!≫
まどか≪さやかちゃん!!!!≫
まどか≪…………≫
まどか「何も聞こえなくなっちゃった…!
どうしよう、マミさん…!」」
マミ「落ち着いて。恐らくは結界が出来て、それに巻き込まれたのよ」
まどか「じゃあ、さやかちゃんはまだ…」
マミ「えぇ。病院の近くでお茶にしたのは正解だったみたい。
私達も急ぎましょう」
────────
────
──
マミさんの言う通り、病院の外周に魔女の結界の反応があった。
さやかちゃんも、やはりこれに巻き込まれたようで、中で使い魔と戦っていた。
さやか「おっ、来ましたか!」
まどか「よかった~。急に連絡が無くなったから心配したんだよ~」
さやか「まどかは心配し過ぎ。そんなに簡単にやられないって」
マミ「私は一人で魔女に突っ込んで行ってないか心配だったけど、そう言う無茶はしないみたいね」
さやか「あはは…。まどかにも、マミさんにもさんざん釘刺されてますし…」
マミ「わかってくれたのなら一歩前進ね。
まぁ、とりあえず使い魔を倒しつつ進みましょうか」
お菓子と薬品だらけの結界内。
可愛らしいお菓子とその匂いに、薬品の独特の匂いが混じり合う中を進む。
さすがに三人も魔法少女が揃えば、道中の使い魔は全く相手にならず、あっと言う間に最深部へ辿り着いた。
定例の大部屋にあるのは、やけに長いテーブルと椅子。
そこには可愛らしいぬいぐるみのような存在が、椅子にだらりと腰かけている。
他にそれらしきモノが見当たらない以上、あれが孵ったばかりのこの結界の魔女なんだろう。
まどか「可愛い…」
さやか「しかもちっちゃい…」
マミ「油断しないで…!」
さやか「マミさん…?」
マミ「嫌な予感がする…。今回は私一人でやるわ。二人はおとなしく見ている事」
まどか「でも…」
さやか「強力な魔女なら尚更あたし達も…」
マミ「今のあなた達が戦ったら、命を落とすような危険な相手かもしれない。
とりあえず下がっていて」
まどか「マミさん…」
さやか「本当に大丈夫なんですか…?」
マミ「大丈夫よ。可愛い後輩にかっこ悪い所見せられないものね」
あの魔女はまずい。
私の中の何かがそれを告げる。
だから、私は二人を魔女から遠ざけた。
だって、あの二人は…。
魔法少女は使命に生きる孤独な存在。
それは理解していた。
私達が魔女や使い魔を倒さなければ、多くの人達が犠牲になる…。
そんな事をさせない為に、私達魔法少女はいる…。
それは理解してた…。
でも、いくら凄い力を手に入れても心は人間のままで…。
魔女と戦う恐怖…。
一人で戦い続ける孤独…。
それは何時でも私に纏わりついて…。
私はそれに押し潰されそうで…。
けれど、そんな私にも救いの手は差し伸べれらた。
??『アタシをマミさんの弟子にしてくれないかな…?』
ようやく出来た初めての理解者。
自分を慕ってくれる笑顔。
一緒に戦う仲間。
可愛い後輩。
私はずっと欲しかったものをようやく手に入れた…。
だから、浮かれていた…。
??『みんなアタシが壊したんだ…! アタシの願いが…! みんなみんなッ!』
あの子は大切なモノを全部失った。
そして、そんなあの子は私を頼りにしてきた。
だけど、私の言葉は上っ面の慰めにしかならなかった。
正義だの使命だの誰かの為だの謡っても、一番身近にいた人さえ救えない…。
魔法少女としての私の言葉はその程度のものだった。
あろうことか、そんな状況でも私はあの子に魔法少女としての在り方を説こうとした。
少し考えれば、それが彼女にとっての苦痛になってるか、わかったかもしれないのに…。
??『さよなら、巴マミ…』
やがて、あの子は自暴自棄になり、私を見限った…。
同時に、誰かの為に祈り、その現実に敗れた彼女は誰かの為に戦う事を放棄した。
私は、あの子の事を支えられなかった…。
私は、あの子を守ってあげる事が出来なかった…。
それでも私は魔法少女だから…。
あの子が使命を破棄して生きると言うなら、その分まで戦う責務がある…。
だから、また一人で戦い始めた…。
再び訪れた孤独と戦いながら…。
あの子はもっと苦しいんだと言い聞かせて…。
そうやって戦って…。
疲れ切って…。
また孤独に潰されそうな弱い心に呆れていた時、あの子達は現れた。
まどか『もし、良かったらで良いんです…。
戦い方を教えて貰えたらって…』
さやか『こちらこそ、よろしくお願いします! マミ先生っ!』
世の中は不公平だ。
こんな私に再び仲間を……。
欲しかったものを与えてくれるのだから…。
何故、あの子ではなく私なんだろう…?
そう思いながらも、私は彼女達の望む先生として、先輩としてあろうと思った。
今度こそ…。
立派な先輩として後輩を守りたい…。
違う。
守らなければならない…。
私はもう…。
私の仲間を失いたくない…。
だから…。
あの二人はわたしが守る…。
私はもう…。
一人ぼっちじゃないもの。
マスケット銃を両手に作り、ぬいぐるみのような魔女を撃ち抜く。
椅子から落ちてくる魔女が地上に転がるまでに、さらにもう数発弾丸を撃ち込む。
それでもこの魔女は何も動きを起こさず、転がっているだけ。
まるで本物のぬいぐるみのよう。
勿論。そんな筈はない。
その動きの無さは却って私に危機感を抱かせた。
マミ「…………」
被っていたベレー帽を手に持って二振り。
その後に首元のリボンを解いて、それから今までのモノとは比較にならない巨大な銃を作り出す。
マミ「ティロ・フィナーレ!!!」
大砲のような大口径の銃が、魔女を撃ち抜く。
そのダメージを以て、いよいよ魔女が動き出す。
にゅるり、と気味の悪い音を立てて……。
ぬいぐるみの口から、明らかにその中に収まりきらない大蛇のような生物が飛び出す。
物凄い勢いで飛び出したそれは、巨体からは信じられない速度で私に迫った。
マミ「………」
さやか「あぁっ!!!!」
まどか「マミさん!!!!!」
高速で迫る魔女。
が、それを遮るように、さらに速い速度で無数のリボンが伸びる。
遥か右の地面、そして遥か左から斜め上へ向かって伸びたそれは、魔女の前で交差し、
網状の防壁となって、突進してくる魔女を受け止めた。
マミ「………用心と言うのは、やはりしておくものね」
反撃を想定して、敵が近接してきた時に発動する妨害用の魔法を先に用意しておいた訳だけど…。
これが正解だったようね。
もしも用意を忘れていたなら、私はあの魔女に頭から食い殺されていたかもしれない。
魔女はその巨体を活かした馬力で、強引に網状の防壁をぶち破る。
用途を違う魔法を応用しただけに過ぎないから、
長時間の足止めは期待していないものの、あまりの突破の早さにさすがに肝を冷やす。
もっとも、その僅かな時間があれば、十分だった訳だけど…。
マミ「今度こそ終わりよ!」
大きなバックステップと共に、出せるだけのマスケット銃を空中へ召還。
向かってくる魔女に向かって一斉に掃射。
魔女の巨体は、弾丸の雨で蜂の巣となった。
穴だらけになった魔女。
だけど、それは次の瞬間にただの抜けがらに変わった。
深手を負った古い体を脱ぎ捨てるように、その口から無傷の大蛇が飛び出す。
マミ「思ってたよりも遥かに厄介ね…」
飛び出した魔女の体は、先ほどのダメージが嘘のように動き回る。
その様子から、脱皮の目的は予想の通りと言った所でしょう。
赤い水玉のある黒い大蛇のような魔女に追われ続ける。
先ほどまでとは打って変わってコロコロ変わる無邪気な敵の表情は、却って恐怖を煽っていく…。
マミ「これで静かにして貰えると助かるんだけど…!」
私が得意とする拘束魔法が魔女を縛る。
が、縛り付けた位置から押し出されるように新しい中身が飛び出した。
馬鹿にしたように笑う魔女の顔に僅かに苛立ちつつも、その攻撃を走って避ける。
マミ「これも駄目か…」
近接タイプの魔女の相手をこれで対処してきた私には、大きな痛手だった。
先制攻撃を乗り切られ…。
得意としている拘束魔法は無効化。
高火力の攻撃の使用を許さない、高速の突進。
また、ちょっとやそっとのダメージなら脱皮で回復されてしまう…。
まさに私の天敵と呼べるほど相性の悪い魔女と言えた。
マミ「参ったなぁ……」
マミ「私が守らないといけないのに……」
マミ「私が………」
位置取りには気を付けていたつもりだった。
でも、相手の魔女の攻撃は激しく、それすらもままならない…。
何時しか私は逃げ場を失い、壁際に追い込まれていた。
マミ「しまった…」
魔女はにやりと笑う。
不気味な青い舌を舐めずる敵の無邪気な表情に、冷や汗が流れる。
次の瞬間…。
ピンク色の爆発が上がる。
それを食らった魔女はたまらず吹き飛ぶ。
例の如く、その途中で口から吐き出される形で魔女の新しい体が飛び出す。
それが意味する事は一つしかない…。
まどか「マミさん! 大丈夫ですか…!」
マミ「鹿目さん…?」
あの矢は私が先日に教えた炸裂弾。
たまらなくなった鹿目さんが私を援護したんだ。
でも、そんな事をすれば今度は鹿目さんが魔女の標的になってしまう。
マミ「逃げて! 鹿目さん!」
まどか「逃げません!」
マミ「あの魔女は今度はあなたを…!」
???「このあたしを忘れてもらっちゃ困ります!」
底抜けに元気な声と共に青い魔法少女は、魔女の顔面を切り裂く。
その一撃は脱皮を行わせるには及ばないまでも、魔女の怒りを買うには十分だった。
さやか「よっし。狙い通りこっちに来たね!」
まどか「気を付けてね。さやかちゃん!」
さやか「オーライ! まどか!」
私は助けられていた。
自分が守るべき二人の後輩に…。
マミ「あなたたち、何をやって…!」
まどか「ごめんなさい…。見てられなくて…」
まどか「お説教は後で受けます。だから…」
マミ「わかったわ…」
もう手を出してしまったんだから仕方がない。
情けないとは思いながらも、私は鹿目さんと美樹さんを戦力に数えた上での分析を始める。
魔女の動き自体は単純そのもの。
見えた標的ないし、攻撃を行った対象を追いまわすだけ。
問題はそのスペックの高さ。
あの巨体から繰り出す攻撃は、一撃でも受ければ即死確定。
それにも関わらず、あの動きの速さ。
さらには、受けたダメージを即座に修復する脱皮能力。
特に脱皮能力をどうにかしない限り、私達にはまったく勝機がない…。
あれを破るには…。
マミ≪美樹さん、ほんの少しで良いの…。そのままその魔女の足止めをお願いできる?≫
さやか≪了解っす。お任せあれ!≫
まどか「マミさん…?」
マミ「試したい事があるの。協力して貰える…?」
まどか「はい…!」
魔女の相手を美樹さんに任せ、私は鹿目さんの元へと走る。
少し心配ではあるけど、美樹さんとあの魔女の相性は悪くないと思う。
だから、多少の時間なら…。
そして、その間に鹿目さんに念話で作戦を説明する…。
まどか「わ、わかりましたけど、大丈夫なんですか…?」
マミ「大丈夫よ。細かい事は全部私がやるから…。
鹿目さんは、指示通りに」
まどか「わかりましたっ! やってみます!」
マミ「えぇ! それじゃ始めるわよ!」
私は鹿目さんに抱きつく形でその後ろに立ち、彼女の右手を握る。
そして、左手で魔法を使う。
美樹さんを追いまわしている大蛇のような魔女を引き付ける為に…。
マミ≪美樹さん。もう良いわ! すぐに引いて≫
さやか≪了解です、マミさん!≫
マミ≪できるだけ離れてね≫
さやか≪…?≫
美樹さんへ合図を送りつつ、私は拘束魔法を魔女へ放つ。
リボンに絞め付けられた魔女は、口から新しい体を吐き出す。
それだけではまだ美樹さんを追うのをやめないので、
もう一つ、さらにもう一つとそれを伸ばして執拗に脱皮をさせる。
マミ≪来るわよ、鹿目さん!≫
まどか≪は、はい…!≫
美樹さんを見失い、こちらを見つけた魔女が迫る。
嫌がらせにむっとした魔女の表情が即座に大きくなる。
まどか「あぁッ…!」
鹿目さんの目の前に迫った魔女が、その口を開く。
後ろにいる私ごと飲み込めそうな大口には、どんな物でも噛み砕けそうな牙が並ぶ…。
眼前に迫った魔女。
攻撃をしようと開いたその大口。
死と隣り合わせの絶好の機会。
私はその瞬間を逃さずに魔法を放つ…!
マミ「今よ…!」
魔女の口の中、そして鹿目さんの前に黄色いリボンが溢れる。
それはあっと言う間に形を作り、やがてあるモノを成して消える。
私の放った武器生成用のリボン。
それは私の切り札にあたる、大砲のように巨大なマスケット銃を作り出す。
そして、その巨銃は魔女の口内に砲口をねじ込み、鹿目さんの目の前にトリガ―を向けていた。
マミ「鹿目さん!!!」
まどか「…! はいっ!!!!」
恐怖で固まった鹿目さんに合図を送る。
その小さな体に秘めた大きな魔力を乗せつつ、目の前の巨大なトリガーを力いっぱい引く…。
禁止した筈のその技の名前を叫びながら…!
まどか「いって!!!!!」
まどか「ティロ・フィナーレ!!!!!!!!!」
暴発しないよう、鹿目さんの魔力を私が後ろから制御する。
それでも溢れんばかりの魔力の供給を受けた巨大な銃が魔女の口内で火を噴く。
放たれたその弾丸は鹿目さんの魔力を存分に纏い、圧倒的な出力の魔力光と共に放たれた。
まどか「っく………!」
マミ「大丈夫…! 反動で吹き飛ぶなんて間抜けな事絶対にさせないから…!」
強烈な反動と共に放たれたビーム砲のようなピンクの光。
それは魔女を貫くどころか、その顔の部分だけを残し、跡形もなく消し飛ばした。
勿論、脱皮など出来る筈もなく、魔女の顔面だけが無残にもそこに残った。
まどか「へぇぇ……」
マミ「ふぅ………」
強烈な反動が消え、魔女の残骸が消えるのを見て、ようやく私達は安堵する。
へなへなと腰を落とした所に、元気いっぱいのもう一人の後輩が駆け寄って来る。
さやか「やった! やりました!」
さやか「さっすが、まどか! マミさん!」
手を伸ばした彼女に起こされながら、私達は消えていく結界を眺めた。
マミ「…………私は、大人しくしてなさいと伝えた筈よ?」
まどか「ごめんなさい…」
さやか「すいません…」
変身も解け、病院の外周に戻って来た私達は、人目に付かない物陰でお説教タイム。
助けられた以上、心苦しいけど言わない訳にもいかない。
彼女達は指示を無視した事実は変わらないのだから…。
さやか「ち、違うんです! まどかは全然悪くなくて…!
あたしが何時もみたいに飛び出そうとしたのを、フォローしてくれただけで…!」
まどか「そんな…! さやかちゃんが一人で怒られる事ないよ!
そもそも最初にわたしが…!」
マミ「ふぅ……、もういいわ」
溜息を吐いた私は、肩を落とす二人の間に入ると…。
その両腕で彼女達を抱きしめた。
まどか「マ、マミさん…?」
さやか「ちょ…、どうしたんですか…?」
マミ「あなた達が思っている程、強くも立派でもないのよ…」
マミ「震えてるでしょ…?」
マミ「本当はね…。二人が助けに入ってくれなかったら、どうなってたかわからないと思うと少し怖かった…」
マミ「それに、私一人だったらあなた達を守れたかもわからない…。
おまけにね、一人寂しさで泣いてた事だってあるの…」
マミ「私はね、あなた達の思うような立派な人間じゃ…」
さやか「それ、誰だってそうだと思います」
マミ「美樹さん…」
さやか「誰だって一人は寂しいし、死ぬのは怖いと思います。
そんなの当たり前だと思います…」
さやか「それでも『誰かの為に』って頑張って来たマミさんを、あたし達は尊敬してるんです」
まどか「わたしはマミさんの優しさに助けられてきました」
まどか「イヤなら捨て置く事だってできたのに、親切に色々教えてくれて…。
魔女との戦いではいつもサポートしてくれて…。今日だって私達を守ろうとしてくれた…」
まどか「だから、今日の事はわたし達の気持ちなんです。
マミさんを絶対に失いたくなかったから…」
マミ「二人とも……」
マミ「参ったなぁ…。まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになぁ…。
やっぱり私ダメな子だ…」
さやか「十分、先輩らしいですよ、マミさん」
まどか「あたし達、未熟だからまだまだ迷惑かけちゃうかもしれないけど…。
これからも、よろしくお願いします。マミさん」
鹿目さんに、美樹さん。
今日は二人に情けない所、見せちゃったな…。
でも、凄く良い子だ…。
今度こそ私が守って、支えてあげたい…。
もう、あんな悲しい別れはしないように…。
────────
────
──
マミ「~♪」
??「随分とご機嫌だね。マミ」
マミ「QB…。あなた、今までどこ行ってたの?
新人の美樹さんを放ったらかしにして」
QB「その点に関しては反論のしようがない。ただ、色々と急用があってね。
さやかには最低限の事は教えたし、この街にはマミもまどかもいたからね」
マミ「あなたが急用…? 珍しいわね…。
何かあったの…?」
QB「まだ、何とも言えない。ただ用心してくれ、とだけ言っておくよ。
君はともかく、まどかやさやかは魔法少女になったばかりだからね…」
マミ「わかったわ」
QB「じゃあ、僕はこれで」
マミ「待って…」
QB「まだ何かあるのかい?」
マミ「あの子は…?」
QB「これから行く所だよ。
最も彼女の実力も確かだから、君同様に余計なお世話だとは思うけどね」
マミ「…………」
わかってる。
今の彼女はもう、私の知ってる彼女じゃない。
実力も確かだし、何よりあの子を支えられなかった私にそんな資格がない事くらい…。
でも…。
あなたは今どうしてるの…?
佐倉さん…。
―to be continued―
next episode―
「私は、鹿目さんみたいに強くないですから」
―【第四話】何の役にも…―
猫「にゃあ~」
???「こんなに小さいのに一人ぼっちなの…?」
猫「にゃあ…?」
???「私と、同じだね…」
そう…。
私はいつも一人ぼっち。
でも、それは仕方のない事なんだ…。
潰れた空き缶や、穴の空いたビニール袋を好んで持ち帰る人がいないように…。
何の価値も無くて…。
何の役にも立たない人間に、手を差し伸べる人なんていない…。
だから、私はきっと…。
ずっと一人ぼっちなんだ…。
―【第四話】何の役にも…―
さやか「おっはよぉ! まっ!どっ!か~~~!!!」
まどか「ひゃあぅ! もう! さやかちゃんのエッチ!
さすがに人通りが多い所では勘弁してよっ///」
さやか「あ………。そっか、ごめんごめん」
まどか「………何かあったでしょ?」
さやか「いや~、ないよ? 何も」
まどか「………嘘吐き」
さやか「…………」
まどか「…………」
さやか「…………」
まどか「…………」
さやか「………あ~、はいはい。わかった、わかったって」
さやか「昨日さ……、まどかやマミさんと別れた後、もう一回恭介のお見舞い行ったんだ」
さやか「そしたらさ、もう退院してた。
それにちょっと頭に来てた」
まどか「それは酷いね…」
さやか「でしょ~? 失礼しちゃうわよねぇ」
まどか「そうだねぇ。だったら直接聞いてみれば良いんだよっ!」
まどか「お~い、上条く~ん!」
さやか「またまた~。そんな手に引っかかる訳が……って本当にいるし!」
恭介「やぁ。さやか、鹿目さん」
まどか「おはよう。今日から登校なんだね」
恭介「まぁ、どうにかね。寝てるばかりなのも、もうウンザリだし…」
まどか「ところでさ、なんでさやかちゃんに退院したの教えてあげなかったの?
昨日もお見舞い行っちゃったんだよ?」
さやか「ちょっと、まどか!」
恭介「そうなのかい…? ごめん、さやか……」
さやか「いや、良いんだけどさ…。やっぱり一言くらい知らせて欲しかったな…。
な、なんてね……」
恭介「いや、実は一度は君の家にも行ったんだけど、留守でね…。
その後、電話でおばさんには話しておいたから、てっきり伝わってるものだとばかり…」
さやか「って言う事は何ですか…。ウチのいい加減な親が、聞くだけ聞いて忘れた、と……」
恭介「ははは…。おばさん、忙しいからね」
まどか≪よかったね、さやかちゃん≫
さやか≪ん……。まぁ、ありがと。まどか≫
まどか「うんうん。じゃ、お邪魔虫は退散するんで、後は二人でゆっくり登校すると良いよっ」
さやか「な、何言ってんの、まどか///」
まどか≪うまくやるんだヨ!≫
さやか「もう…。まどかってば…」
恭介「ふふ…。相変わらず仲良いんだね、二人とも」
と言う訳で、今日は久々に相棒と別れて登校する事となりました。
突撃ムードメーカーなさやかちゃんだけど、中身はわたしより女の子だったりする。
いつもはぐいぐい引っ張ってってくれるのに、こう言う事には奥手だから…。
それなら、相棒のわたしがサポートしてあげないとね。
とか、考えて歩いている内に、見かけない女の子を追い越す。
何か気になって振り向いてみると、顔色があまり良くなくて、足取りもどこか重くて…。
大丈夫なのかな?とも思ったけど、具合が悪そうにしている訳でも無い。
結局、心のどこかに引っかかりながらもわたしはそのまま歩いた。
最も、この子とはすぐに再会する事になる…。
――教室――
ほむら「暁美ほむらです。どうか、よろしくお願いします…」
早乙女「暁美さんは心臓の病気でずっと入院してたの。
久しぶりの学校だから、みんな助けてあげてね」
心臓の病。
その病気のせいで行く事が出来なかった学校。
ずっと、ずっと来たかったはずの場所なのに、私の心には不安以外の感情がない…。
私は人の目が怖い。
自分自身がどうしようもない人間だって知っているから。
それでも、心のどこかで期待してしまう。
今度こそ、友達を作って、普通に勉強して、普通に運動して…。
そんな毎日を…。
女子A「暁美さんって前はどこの学校だったの?」
女子B「前は部活とかやってたの?」
女子C「すっごい長い髪だよね~」
ほむら「えと……、あの………、その……」
休み時間になると、私の周りには人だかりができていた。
次々に飛び出す質問。
それを綺麗に捌いていけたら、一人くらいは友達になってくれるのかな…?
でも、それは私にはできない。
質問の答えを悩んでいる間に、次の質問を聞き、頭の中で混ざっていく。
結局、何時も通りしどろもどろになるだけ。
何も喋れずに、虚しい時間だけが過ぎて行く…。
私を中心に話が進んでいるのに、その私が取り残されている…。
恥ずかしくて、情けなくて、逃げ出したい…。
そんな時だった。
まどか「みんな、ごめんね。
暁美さんって休み時間には、保健室でお薬飲まないといけないの」
ピンク色の髪を赤いリボンで纏め、ツインテールにした小さくて可愛らしい女の子が助け舟を出してくれる。
確かに薬は飲まなければならないけど、それは何もこの休み時間である必要はない。
ようするに、彼女は保健委員と言う立場を利用したそれらしい建前を用意してくれたのだった。
まどか「わたし、鹿目まどか。まどかって呼んで」
彼女は満面の笑顔と共にそう言った。
そして…。
まどか「だから、わたしもほむらちゃんって呼んでいいかな?」
親しげに私を下の名前で呼ぼうとする…。
コンプレックスのある自分の名前。
私は、この名前が大嫌いだから、そう呼ばれる事を拒んだ…。
まどか「そんな事ないよ~。なんかさ、燃え上がれ~!って感じでカッコいいと思うな」
彼女は私の嫌いな自分の名前をカッコいいと言った。
見方によってはそうなのかもしれない。
だけど、こんな私がそんな名前を持ったって、名前負けするだけで…。
まどか「そんなの勿体無いよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ」
カッコよく…。
そうなれたら…。
でも、私がなれるわけがない…。
カッコよくどころか…。
ほむら「…………」
教師「君は休学していたんだったな。じゃあノートを借りておく様に。
じゃあ、美樹。代わりに答えてみろ」
さやか「えぇ!? そこであたし!?」
教師「はぁ……。お前は暁美と違って、毎日授業に出ているだろう…」
クラスに笑いが溢れ、雰囲気が明るく変わる。
同じわからないにしても、あの子のように明るく振舞えれば…。
情けないのは何も勉強に限った話じゃなくて…。
やってきた体育の時間でも準備運動の段階で体が音をあげる。
ほむら「はぁ……はぁ……」
女教師「暁美さん、大丈夫?
随分と顔色が悪いわね…。貧血かしら…?」
ほむら「はぁ…あ…、先生…、私…、大丈夫です…」
女教師「本当に顔色が悪いわよ~?」
ほむら「でも……、あ…」
まどか「ほむらちゃん!」
女教師「やる気はわかったから、今日はもう見学してなさい」
強がりすら見破られるほどにふらふらで…。
付き添ってくれる鹿目さんに連れられて、みんなが走り回る姿を見学する事になって…。
ほむら「私、最低ですね…。
転校初日から勉強は付いていけない。体育もまともに参加できない…」
まどか「初日なんだから仕方ないよ…」
ほむら「明日からだって一緒です。
何の取り柄もないし、誰かの為になる事も、何の役に立つ事もないまま、ただ生きて行くだけなんです。
今日も、明日も、ずっと…」
まどか「ほむらちゃん、そんな事ないよ。自分を信じてあげようよ。
頑張ってたら、きっと変われるから…」
鹿目さんの優しい言葉。
だけど、それは私の胸に突き刺さる。
きっと変われる?
そんな筈はない。
だって、私は…。
ほむら「無理ですよ…」
ほむら「私は鹿目さんみたいに強くないですから」
私は弱くて駄目な子なんだ…。
鹿目さんみたいにはなれない…。
でも、何もそこまでを望んでる訳じゃない…。
ほむら「強くなんてなれなくていいです…。ただ、普通になりたい…」
ほむら「普通に授業を受けて、普通に体育がしたい」
ほむら「あぁやって笑ってみたいだけなのに…」
体も弱い、頭も悪い…。
おまけに気弱で要領が悪くて…。
こんな私には過ぎた願いなのかもしれないけど、それでも…。
そんな私のささやかで出過ぎた願い…。
彼女は真剣な瞳で見つめ返して言った。
まどか「できるよ。ほむらちゃんは出来る子だよ…!」
力強く言う彼女。
普通だったら、建前とか慰めとかそういう言葉に過ぎないんだろう。
だけど、彼女の言葉はやけに力強くて、その瞳はやけに真っ直ぐで…。
そんな彼女を見ていたら、不思議と本当に私にも何かできるような気がした…。
そして、驚くべき事が起きた…。
ほむら「はぁ……、はぁ…」
私の体調は急によくなり、体育に参加している。
それどころか…。
女子A「え? 暁美さんもクリアー?」
女子B「ひょっとして、暁美さんって凄く運動できる?」
女子C「ねぇねぇ、もう一度やって見せてよ」
なんと、走り高跳びで驚くべき結果を出してしまったらしい。
おかげで、何かすごい注目をされて、もう一回やってくれとせがまれている…。
夢みたい…。
普通に運動ができる…。
それどころか、あんなに高く飛んで…。
本当に夢みたいだ…!
ほむら「暁美ほむら、再び行きますっ」
まどか「ほむらちゃん、ふぁいとっ!」
良かった…。
ほむらちゃん、すごく楽しそう。
これで、少しでも自信を付けてくれたら…。
そう思いながら、再び走りだすほむらちゃんを見送る。
ほむらちゃんを見ていると、何か放っておけなかったんだ。
昔の何もできなかった時のわたしみたいで…。
だから、何とかしてあげたかったんだ。
どうにかして元気づけてあげたかったんだ。
でも、わたしはそのやり方を間違えてしまった…。
ほむら「あ、あああ、ああ、足が…! 足がっ、止まらないっ!
た、助けて! 鹿目さん!!!!!」
走りだしたほむらちゃんは、物凄い勢いで足を動かして校庭を駆け巡り始めた。
明らかな異常事態。
そして、これを引き起こしたのはわたし…。
そう。
わたしは、あろうことか身体強化の『魔法』をほむらちゃんに使ってしまったんだ…。
まどか「ほ、ほむらちゃんっ!」
魔法が暴走して、凄まじい砂煙を巻き上げながら校庭を爆走するほむらちゃんを追いかける…。
魔法が完全に暴走状態になって、今のわたしでは追い付けない…。
そうこうしてる内に、目の前には体育館の壁が見えてくる…。
あれにぶつかる前に止めないと…。
ほむらちゃんが大怪我しちゃう…。
追い付けない…。
追い付かない…。
どうしよう…。
どうしよう…!
わたしのせいだ…。
わたしが余計な事をしたから…。
ほむら「ひぃっ! ぶ、ぶつかるっ!!!!!!!」
まどか「ほむらちゃん!!!!!!!」
ほむらちゃんが壁にぶつかる…。
思わず目を背けようとした時だった…。
私の横を何かが凄い速度で通り抜ける。
その誰かは、ほむらちゃんを抱えつつ、自分自身もブレーキをかける…。
???「ふ~っ…。間一髪セーフってとこかな?」
目の前に立っていたのは、脇にほむらちゃんを抱えたさやかちゃんだった。
まどか「さやかちゃん…? ほむらちゃんは…」
さやか「ん? 気絶してるだけ。急いでマミさん呼んで。
無理やり抱き抱えただけだから、足の動き自体は止まって無いんだ」
まどか「うん…、ありがとう……。さやかちゃん……」
さやか「今朝のお礼。あんま気にすんなっ!」
まどか「うん…!」
────────
────
──
まどか「…………」
さやか「どうだった…?」
まどか「ほむらちゃんは落ち込んで帰っちゃったし、マミさんには怒られちゃった…」
さやか「そっか…」
まどか「さやかちゃんは何も言わないの?」
さやか「魔法についてはマミさんからお叱り受けたんでしょ?
なら、さやかちゃんが言う事は何もないですな~」
まどか「…………」
落ち込んだわたしに何時もの笑顔を向けると、さやかちゃんは語りだした。
少しだけ気恥ずかしそうに…。
さやか「あたしもそうだったよ」
さやか「まどかの為だって言って…。やり過ぎて無茶やって…。
却って困らせたりもしたじゃない…」
さやか「ほら、川に飛び込んでみたりとか、上級生と喧嘩になりそうになったりとかさ…」
まどか「あぁ…。あったよねぇ…。そんな事も…」
さやか「だからさ。今回のまどかの事言えないんだ、これが」
まどか「あはは…」
さやか「でもさ、それで良いんじゃない?」
さやか「そりゃ今回は失敗しちゃったし、方法も間違ったかもしれないけどさ…。
そうやって相手の事を思って、一生懸命に頑張ってる内に友情とかって深まるもんなんじゃない?」
まどか「そうだよね…」
まどか「ありがとう、さやかちゃん」
さやか「どう致しまして」
さやかちゃんがしてくれた事がわたしに伝わったように…。
わたしの気持ちも、ほむらちゃんに届く日が来ると良いな…。
そんな事を考えている最中、ソウルジェムに反応が発生する…。
勿論、それは魔女の反応…。
わたしとさやかちゃんはマミさんと連絡を取りつつ、反応の元へ向かった。
私、何にもできない。
人に迷惑ばっかり掛けて、恥かいて…。
どうしてなの…?
私、これからも、ずっとこのままなの…。
死んだ方が良いかな…。
死んでしまえば……。
ほむら「はっ…!? 」
ほむら「ど…どこなの、ここ…?」
いつの間にか私は不気味な世界に迷い込んでいた。
そのどこか違う風景の聳え立つ凱旋門。
やがて、自分の周囲に抽象画で描かれた人のようなモノが私を取り囲んでいた…。
ほむら「何? 何なの!?」
ほむら「え…? 嫌ぁぁぁぁぁっ!」
私を取り囲んだ人のようなモノがピンク色の矢に撃ち抜かれて消えていく…。
そして、後ろに立っていたのは…。
まどか「もう大丈夫だよ、ほむらちゃん」
ピンクと白の可愛らしいコスプレ衣装に身を包んだあの子…。
鹿目さんだった…。
まどか「いきなり秘密がバレちゃったね」
まどか「クラスのみんなには、内緒だよっ」
笑顔と共にそう言った彼女は、私の元へ駆け寄りつつもピンク色の光の矢を放つ。
他に、白いマントと青を基調とした騎士のような衣装を着た見覚えのある子が剣を振るい、
金髪でスタイルは良い物のやはり他の二人同様コスプレ風の女子も居て、この人も何やらやっているようで…。
やがて三人は周囲にいた人のような何かを蹴散らす。
そして、鹿目さんの放ったピンク色の光の矢が事の元凶だったらしい凱旋門を破壊した。
私は突然、放り出された非日常に目を丸くするばかりだった。
────────
────
──
非日常には秘密が付き物。
それを知った私は他の二人と共に、先輩の巴さんの家に招かれた。
その説明を受ける為に…。
ほむら「魔法少女…?」
巴さんの口から語られる非日常の世界。
どんな願いでも一つだけ叶えてもらえる…。
その代わり、人を襲う魔女と戦う宿命を背負った魔法少女の事。
そして、鹿目さんとクラスメイトの美樹さん、巴さんがその魔法少女である事を聞かされた…。
ほむら「鹿目さん、何時もあんなのと戦ってるんですか…?
平気、なんですか…? 怖くないんですか…?」
まどか「平気って事はないし、怖かったりもするけれど…。
魔女を倒せばそれだけ大勢の人が救われる訳だし、やりがいはあるよね…」
さやか「そうだね~。まさに正義の味方!って感じだしねぇ」
マミ「ふふっ。二人にはワルプルギスの夜が来る前に頑張って、一人前になって貰わないとね」
ほむら「ワルプルギスのよる…?」
マミ「ちょっとね…。魔法の世界のお祭のようなものよ。
それより、鹿目さんは暁美さんに伝える事があるんじゃないかしら…?」
まどか「ごめん、ほむらちゃん…。
今日の体育の事なんだけど、わたしがほむらちゃんに魔法を使ったせいなの」
まどか「すごく落ち込んでたから元気づけてあげようと思ったんだけど、うまく行かなかったの…」
申し訳なさそうに言う鹿目さん。
この人はすごく優しい人だと言うのが伝わってきて…。
その言葉は私の口から自然に出ていた。
ほむら「ありがとう、鹿目さん…」
まどか「ほむらちゃん…」
ほむら「足が止まらなかった時はどうしようかと思ったけど、高跳びが出来た時は凄く嬉しかった…」
ずっと憧れていたから…。
普通に運動して、普通に笑って…。
そんな時間に…。
それが僅かな時間でも叶って嬉しかった。
そして、そんな時間をくれた鹿目さんの優しさもとても嬉しかった…。
ほむら「だから、ありがとうなんです」
さやか「………良かったね。まどか」
まどか「うん…!」
たぶん、失敗した事の方をずっと気にしてたんだろう。
私の言葉で、少し目が潤んだ鹿目さんをあやすように美樹さんが言う。
ほむら「魔法少女になれば、色々な場面で誰かを幸せにしてあげる事が出来るんですね…」
まどか「ほむらちゃん…?」
私は魔法少女に興味を抱いていた。
何も勉強も、運動もできなくて、その上弱気で臆病でどうしようもない自分…。
そんな私も魔法少女になれれば変われるかもしれない。
何より、私も鹿目さん達の友達になれるかもしれない…。
そう思った私は、実に私らしく小さくそれとない声で三人に訊ねていた。
ほむら「私も…、魔法少女になってみたい、です……」
三人が沈黙する…。
こう言うのには慣れているからすぐにわかる。
これは反対の空気を出している雰囲気だ…。
さやか「ねぇ暁美さん……。
暁美さんには命を懸けるような戦いをしてでも、どうしても叶えたい願いってある?」
ほむら「私は……」
さやか「願いの代価だからって、頑張れる所も大きいんだよ…」
マミ「それに、あなたが思っているほど簡単なものでもないの…」
マミ「魔法少女になると言う事は、普段の生活とは別に魔女と戦う宿命を背負うと言う事よ。
その戦いは何時終わるかもわからない…。危険な事だってたくさんある…。
生半可な覚悟で魔法少女になれば後悔する事になるわ…」
ほむら「…………」
まどか「ちょっと前だったら、わたしも勧誘しちゃってたかもなぁ…」
まどか「でも、ここ最近何度も危ない目にあったから、今はお勧めは出来ないかなぁ…」
ほむら「鹿目さん…」
まどか「実際…。つい昨日戦ったばかりの魔女が凄く手強くてね…。
三人とも死ぬかと思ったんだ…」
ほむら「そんな……、だってあんなに凄かった鹿目さん達が……」
まどか「うん……。だから、なるなとは言えないんだけど良く考えて決めて欲しいな…」
ほむら「………」
マミ「そろそろお開きにしましょうか。随分夜も更けてしまったし」
まどか「わたし、ほむらちゃんを送ってきますね」
────────
────
──
まどか「わたしね…。本当はほむらちゃんの気持ちもよくわかるんだ…」
ほむら「え…?」
まどか「何の取り柄もないし、誰かの為になる事も、何の役に立つ事もないまま、ただなんとなく生きていくだけだって…。
そんなわたしが魔法少女になって、魔女を倒す事で誰かの役に立ててるんだって…」
まどか「でもね……、わかったんだ………」
まどか「魔法少女の戦いは死と隣り合わせだって…。
今日、明日にもどうなるかわからない世界だって……」
ほむら「鹿目さん…」
悟った様な目をした鹿目さん…。
どこか痛々しい彼女の表情が突然、明るいものに変わる。
猫「にゃ~」
まどか「あっ、エイミー!」
ほむら「この子、今朝の…」
まどか「お~、よしよし」
ほむら「凄く懐いてるんですね…」
まどか「実はね……、この子わたしの目の前で車に撥ねられちゃったの。
それでね、それ以来の友達なんだ…」
ほむら「もしかして……」
まどか「うん。この子を助けてもらう為にわたしは魔法少女になったんだよ…。
猫を助ける為に魔法少女になったなんて聞いたら、マミさんに叱られちゃうかもしれないけど…」
ほむら「そんな事ないと思います。鹿目さんのそう言う所、凄く素敵でカッコいいと思います…」
まどか「ありがとう。ほむらちゃん。
わたしはね、このお願いで後悔してないの……」
まどか「だからね…。もしも、ほむらちゃんが魔法少女になる時は、後悔しないお願いを見つけて欲しいなって…」
ほむら「願い、ですか……」
まどか「うん。さやかちゃんも言った通り、魔法少女になって魔女と戦っていけるのは、
その願いと引き換えだからって所が大きいと思うんだ…。
そして、それを見つけられないで魔法少女になれば、きっと後悔すると思うから…」
まどか「だから、ほむらちゃんが魔法少女になりたいって思っても、
その時はその事も含めてよく考えて、自分で自分の未来を決めて欲しいなって…」
ほむら「………約束します。けして軽々しい気持ちで魔法少女になったりしません」
まどか「うん……。ありがとう」
これが、私と鹿目さん…。
魔法少女との出会いだった。
そして鹿目さんとの約束…。
何の取り柄も、何の役にも立たない私…。
そんな私が、軽々しい気持ちではなく抱く心から叶えたい願い…。
それが何を齎すのか、この時の私にはわからなかった…。
でも…。
この時から私は…。
確かに、その願いに至る一歩を踏み出していた…。
―next episode―
「なっさけねぇ奴。後衛を守れない前衛なんて連携する意味ねぇじゃんかよ」
―【第五話】紅の影―
まどか「やっと授業終わったねぇ…」
ほむら「疲れました…」
結局、私はあれから魔法少女になる事をあまり考えなくなった。
願い事はたくさんあるけれど、あの恐ろしい魔女と戦うと言う事を考えるとやっぱりそこで思考が止まる。
それに…。
さやか「二人ともだらしないぞ~!
元気いっぱいのこのさやかちゃんを見習いなさい!」
まどか「さやかちゃん、五時間目の授業寝てたじゃない…」
ほむら「ご、午後の授業って眠くなりますよね…」
仁美「人間の体って、食後は多少眠くなるように出来てるって聞いた事がありますわ」
私にも鹿目さんを始めとする友達ができた。
相変わらず何をやっても駄目な自分には呆れるけれど、友達と過ごす時間はそれを忘れさせてくれた。
まどか「そうだとしても、さやかちゃんは寝過ぎだよ~。
ほどほどにしないと先生に怒られちゃうよ?」
さやか「あ~、早乙女先生機嫌悪いしなぁ…。気を付けないと…」
ほむら「『バニラ味でもココア味でも、どっちでも良いと思います』と答えただけで、中沢さんは罵られてましたね…」
魔法少女の秘密を知っていると言う事で、相変わらず巴さんの家にお呼ばれしたりもしている。
魔女との戦いには連れて行って貰えないけど、その作戦会議でお話を聞く事が出来る。
皆が知らない秘密を共有できているのって何か嬉しかった。
まどか「じゃあね。ほむらちゃん、仁美ちゃん」
さやか「ばいば~い!」
仁美「はい。また明日」
目配せでサインを送る鹿目さん達。
今日は、魔女を探して街外れまで足を伸ばしてみると言っていた。
魔法少女の中には、縄張り意識の強い人や好戦的な人も多いらしい。
うっかり他の街に足を踏み入れて、トラブルにならなければ良いんだけど…。
―【第五話】紅の影―
さやか「あぁ!? また逃げた!」
まどか「すばしっこいなぁ…」
普段あまり来ない街外れには、案の定魔女の結界があった。
で、魔女を倒したは良いものの…。
その使い魔に逃げられたあたし達はそれを追う羽目になる。
より対処の面倒な人通りに逃げた奴をマミさんに任せ、あたしとまどかは裏路地に逃げたのを追っていた。
逃げ足の早過ぎる使い魔を追って、追って、追って…。
ようやく追い詰めた、と言う訳でして…。
さやか「そっち行ったよ!」
まどか「よし! 今度こそ!」
あたしが追い込んだ使い魔に矢を放つまどか。
タイミングは完璧だったんだけど…。
??「ちょっと、ちょっと! 何やってんのさ!」
響いた声と共に伸びた何かに弾かれて、まどかの矢は掻き消される。
そして、声の主が逃げる使い魔を庇う形で舞い降りて、手持ちの槍をこちらへと向けた。
??「ありゃ魔女じゃ無くて使い魔だよ。
グリーフシードを持ってる訳ないじゃん」
赤い髪をポニーテールにし、赤い装束を纏い、背丈よりも長い槍を持った魔法少女。
使い魔を庇いだてし、あたし達に槍先を向けて威嚇の姿勢を取ったばかりか…。
人に話をしているにも関わらず、同時に物を食っている、そのふざけた態度。
目の前の魔法少女の主張や行動に、あたしは不信感を募らせていく…。
さやか「だって、アレ放って…!」
まどか「…………」
苛立ち始めたあたしの様子に勘付いたんだろう。
まどかが遮るようにあたしの前に立つ。
昔からこう言う時は必ず後ろにいたまどかが、あたしの前に立った。
恐らくは喧嘩っ早いあたしが、相手の魔法少女と衝突するのを避けようとしてくれたんだろう。
あたしは驚くと同時にまどかの成長に感心して、事態を静観することにしたんだけど…。
まどか「すいません、わたしたちアレを追わないといけないんです。
そこを通してもらえませんか?」
??「だから、見てわかんないの? アレは魔女じゃなくて使い魔なんだって」
まどか「わかってます。でも、魔女になる前の使い魔でも人を襲うから、その前に倒しておきたくて…」
??「だからさぁ…、4、5人食って魔女になるまで待てっての」
まどか「え…?」
まどか「その言い方って…。魔女に襲われる人達を見殺しにするの…!?」
??「な~に、アンタ?
まさかとは思うけど、やれ人助けだの正義だの、その手のおチャらけた冗談かます為に契約した訳じゃないよね~?」
まどか「はい。そうです…」
??「…………」
まどか「あなたには冗談みたいに聞こえるかもしれないけど…。
守りたい人や守りたい物がたくさんあるから…」
まどか「だから、わたしはなりたいんです。
大切な人達を守れる魔法少女に」
何時になく強い口調のまどか…。
だけど、相手はそんなまどかの話を相変わらず物を食いながら聞いている。
そして、食べていた鯛焼きを平らげつつ、そのまどかの思いを笑い始めた。
??「アッハハハハハハ…!!!」
??「くっそ真面目な顔して何言うのかと思ったら、本気で頭がお花畑だった訳…?」
まどか「…………」
??「アンタさ…、馬鹿じゃないの?」
??「弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食う。ただの食物連鎖と変わらないんだ。
魔法少女なんて、ただそれだけなんだよ」
??「そこにくだらねぇ幻想持ち込んで、漫画とか映画の主人公にでもなったつもり?」
まどか「わたしは…」
??「やめときなよ。アンタみたいなのには、この世界向いてないよ」
??「さっさと帰って、そう言うモノでも見ながら妄想に耽ってた方が良いんじゃない?
夢見がちの幸せバカに、相応の場……」
我慢の限界だった。
相手を見つめたまま黙るまどかを見てて、居た堪れなくなった。
このふざけた女は、魔法少女として最低の発言をした上に、まどかの気持ちまで踏みにじったんだ。
気付いたら、目の前の女に殴りかかっていた。
まどか「さやかちゃん!?」
??「何…? やる気?」
さやか「何時までも、ふざけた口聞いてんじゃないわよ…!」
それなりに力を入れて繰り出した拳は、さっきまで鯛焼きを持っていた手になんなく受け止められてしまった。
拳を止めた相手の手を力づくで払いつつ後ろへ飛び、あたしと赤い奴は絶妙な間合いで睨み合う形となる。
まどか「やめて! わたしの事は良いから!」
さやか「良くないでしょ…!
なんで、まどかがこんな最低な奴に馬鹿にされなきゃいけないのよ…!」
まどか「だからって、駄目だよ…。魔法少女同士争うなんて…!」
さやか「まどかの事だけじゃない! 使い魔の味方をするような奴、見過ごせる訳ない…!」
心配そうに見つめるまどかから目線を赤い奴へ移す。
さっきまでの飄々として人をナメた態度と違い、あたしに対する苛立ちが見え隠れし始めている。
その様子は魔法少女と言うよりは、まるで不良だ。
??「はぁ…? アンタもコイツと同類…?」
さやか「だったら…、何だってのよ!」
??「ウゼェ! カッコつけてんじゃねぇよ!」
赤い魔法少女があたしを睨みつつ、その槍を構える。
それを見て、あたしも左手に持っていた刀剣を両手で握って構えなおす。
相手も獲物を構えた以上、遠慮はいらない。
あたしも本気で打ち込んだ。
つもりが、あたしの体は大きく弾き飛ばされ、壁に激突した。
さやか「っぐ…」
まどか「さやかちゃん!」
今のぶつかり方は明らかにまずい…。
実際に意識が飛びそうな激痛が背中に走った。
が、あたしのダメージは思っているよりも軽かったらしい。
背中の痛みも引いてきたので、どうにか立ちあがる。
??「……おっかしいなぁ」
??「全治三ヶ月ってくらいには、かましてやった筈なんだけど」
その様子を見ていた赤い奴が不思議そうに言う。
が、あたしが剣を構えたのを見ると、その槍を構えなおしつつ、八重歯を見せつつ不敵に笑った。
まどか「さやかちゃん、もうやめて!」
さやか「あたしは退く気はないよ…!」
まどか「そっちの人も…、やめてください!」
杏子「冗談きついね。人の縄張りに入ってデケェ面してんのはそいつだろ…?
痛い目会いたくないんだったら、アンタはさっさと退くんだね」
まどか「二人とも!」
さやか「まどかは下がってて…。
これはあたしの問題だから…!」
まどか「…………」
まどか「………そうは、いかないよ」
沈黙の後、呟くようにまどかが言う。
そして、右手に光り輝く矢を作り出すと、その矢を赤い魔法少女に向けて構える…。
さやか「まどか! アンタは関係ないから下がってなさいって…」
まどか「さやかちゃんがやめるなら、何時でも下がるよ…?」
さやか「これはあたしの問題だから、まどかは下がっててよ…!」
まどか「さやかちゃんがあの人に突っかかってったのは、わたしの為だし…。
それに、さやかちゃんが危ない目に会うのは見過ごせないから…」
??「あぁぁぁぁッ!!! ウゼェ! 超ウゼェ!!!!!」
??「結局、今度は仲良く二人がかりってか…」
??「そもそも…。人の縄張り入っただけでなく、糞生意気な口まで聞いてくれちゃってさ…!」
??「アンタらさぁ…! ちょっと痛い目見ないと、わかんないみたいだね!!」
言っても聞かないまどかを説得する時間も無く…。
弓を構えたまどかに反応してか、赤い魔法少女は敵意をむき出しにし、臨戦態勢となる。
やむを得ず、あたしも剣を構えて敵に向き直る…。
あたしが飛びこんで引っ掻き回し、まどかが仕留める。
何時ものあたし達の連携パターン。
でも…。
??「二人がかりなら勝てるとでも思ってんのか…?」
??「どこまでベタでおめでたいんだよ…」
??「アタシにとっては一人も二人も変わらないってのにさ!!!」
突如、強烈な衝撃に襲われたあたしとまどかの体は宙を浮き…。
数回の連撃を受けた後、そのまま落下して地面に転がった。
??「正義の力とか友情パワーなんてありはしない。
弱肉強食。これだけが現実なんだよ!」
さやか「っぐ……」
目の前の魔法少女は、あたしが奴の間合いに届くか届かないかの時点で槍を振るった。
振るわれた槍の柄はバラけ、中から鈍色の鎖が現れてしなる…。
多節槍へと姿を変えた敵の獲物は、同時にあり得ない速度で伸びると…。
まるで生き物のように暴れまわり、あたしと後方に居たまどかをまとめて叩きのめしたのだ。
まどか「…………」
さやか「まど、か……………」
ボロボロになったまどかの姿が見える…。
頭から血を流すまどかを見て、あたしは事態の重さにようやく気付いた…。
あたしのせいだ…。
あたしが何時もみたいに、考えなしに相手に突っかかったから…。
まどかはそれを止めようとしてくれたのに…。
無鉄砲はやめろって、あれほどまどかやマミさんに言われてたのに…。
そうやって、まどかに迷惑をかけてきたのに…。
あたしはバカだ…。
結局、何も学べてないんだ…。
それでも、無理やりに体を持ち上げて立ちあがる。
そのまどかを侮辱したアイツだけは許せないから…!
さやか「…許さない」
??「へぇ…、アンタはまだ立ち上がるんだ…。しっかし…」
??「なっさけねぇ奴。後衛を守れない前衛なんて連携する意味ねぇじゃんかよ」
さやか「お前だけは…! お前だけは絶対に許さない!!!」
怒りに任せ、あたしは三度敵に斬り込んだ。
本気で打ち込んだ筈の斬撃は届かず、またも金属音が響く…。
??「つまんねぇ善意は身を滅ぼすって、よくわかっただろ!?」
さやか「何ッ!」
??「魔法ってのはな、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるモンなんだよッ!」
??「それを馬鹿みたいな理屈こねて、正義の味方ごっこなんてしてるからこうなるのさ!!!」
さやか「黙れぇぇぇぇッ!!!」
??「あっそ…」
??「言って聞かせてわからねぇ…、殴ってもわからねぇ馬鹿とあっちゃ…」
??「もう殺しちゃうしかないよねぇッ!!!!」
そこから明らかに攻撃の質が変わった。
こちらの剣を平然と受け流しつつ、コイツは石突側の柄を伸ばしながらバラす。
分銅状に変化した石突を伴った多節槍は、鍔迫り合いに負けて弾き飛ばされたあたしに巻きつく。
巻きついたそれを今度は急速に解くように力が加えられ、あたしは回転しながら地面に叩きつけられた。
さやか「痛っ…!」
仰向けに倒されたあたしは、咄嗟に上体だけを持ち上げるも敵は既に視界に無い…。
ひゅんひゅん、と音のする上を見上げれば紅の影が舞い踊る…。
あたしを地面に叩きつけた多節槍の柄をまとめつつ、槍を連結させると…。
その槍先をあたしに向け、空中から突進する姿勢を取った。
??「終わりだよッ!」
あたしを終わらせる為の凶刃が迫る。
地面に倒れ込んだあたしは、無駄のない動きで行われる追撃を避ける事はできそうにない…。
空を裂き、突き進む槍とそれを持つ魔法少女。
だけど、その突進は現れた妨害によって阻まれた。
空から黄色い残骸がハラハラと落ちてくる…。
赤い魔法少女を捉えるべく襲いかかった無数の黄色いリボンは、反応した敵の槍先に悉く切り払われた。
が、赤い魔法少女もあたしへの攻撃を中断された形になり、そのまま地上へと着地した。
??「久しぶりね。佐倉さん…。
それとも、『佐倉杏子』と他人行儀の方が良いかしら…?」
杏子「巴…、マミ……」
マミ「………」
後ろから聞こえる足音が近くなる。
そして、現れたマミさんはまどかの前でしゃがみ、回復魔法を使う…。
さやか「マミさん……、まどかが……」
マミ「大丈夫。見た目ほど傷は酷くないわ。あなたの方はどう…?」
さやか「あたしは大丈夫です…。
それよりもアイツ…!」
マミ「………………そうね」
マミさんは回復を終えて立ちあがると、事の元凶の方へゆっくりと向かって行く…。
あたしの横を通り過ぎつつ、さりげなく指を振って防壁らしきものを作り出すも、視線はそのままで…。
その目は相手を睨みつけているように見えたのに、その背中はどこか寂しそうに見えて…。
防壁に阻まれたあたしは、離れた位置で対峙した二人の会話を聞く事すらできなかった…。
杏子「ウザったいな、と思ったらアンタの弟子だった訳だ…。
納得がいったよ…」
マミ「あなたがそれを言うのね…」
杏子「もうアタシはアンタとは関係が無いからね…」
佐倉杏子。
かつての私の弟子にして、親友だった魔法少女…。
ずっと会いたくて、だけど絶対に会ってはいけない筈だったのに…。
私と彼女は再び出会ってしまった。
それも仲間を傷つけた敵と言う最悪の形で…。
マミ「一応確認するけど、何をしていたの…?」
杏子「縄張り荒らしの排除」
マミ「こちらの非を認めた上で言うけれど、最後のは明らかに過剰よね……。
反論はある…?」
杏子「ないね。気に入らないから潰そうとした。
そんだけだ…」
マミ「魔女であろうが、魔法少女であろうが、人であろうが関係ない…。
それが今のあなたなのね…?」
杏子「前に言った通りさ…。アタシは自分だけの為に生きてる。
だから、立ちはだかるなら誰だろうと関係ないのさ…」
杏子「悪いけど、これが今の佐倉杏子だ」
杏子「アンタの好きだった良い子ちゃんはもう、この世にはいないよ…」
マミ「………」
聞きたくない言葉を繰り返して、私の心を抉る彼女…。
だけど、それを責める事は出来ない…。
彼女の悲しみを私はよく知っている…。
そして、それを知りながら彼女を一人にしてしまったのは私なのだから…。
だけど…。
杏子「………さぁ来いよ」
杏子「今のアタシを…。
可愛い弟子を痛めつけた悪者を……、見逃す訳には行かないだろ…?」
マミ「佐倉さん………」
杏子「アタシにはアタシの覚悟があるように、アンタにはアンタの覚悟がある筈だ…」
マミ「そうね…。そうよね………」
逃げようと思えば逃げれた筈なのに、そうしないのは彼女なりのけじめのつもりなのか…。
それとも、私の仲間を傷つけた事をきっかけに、私とも完全に決別しようとしているのか…。
どちらにしても…。
彼女の言う通り、己の為に他者を傷つける今の彼女を見過ごす訳にはいかないんだろう…。
まして、その矛先を向けられたのは私の後輩なのだから…。
私は両手にマスケット銃を作り出す。
そして、その銃口を静かに相手へと向ける…。
杏子「それで良い。アンタはそれで……」
マミ「…………」
銃を向けた私に対し、彼女も獲物の槍を構える…。
こうならないようにと、袂を分かった私たちなのに…。
運命の悪戯に弄ばれたのか、結局はこうなってしまった…。
望まぬ再会を、私は心から呪った。
同時にこうなるかもしれない事を考慮せずに、高をくくった魔女探索を行った自分自身にも…。
それでも、私は彼女を見逃す訳には行かない。
魔法少女として。
傷つけられた後輩の仲間として…。
それが、私なりの覚悟だった筈だから…。
杏子「悪ぃけど、行くぞッ!」
一瞬で距離を詰め、槍を繰り出す彼女。
わかってはいたけれど、手加減をしてくれる気は全くないらしい。
速度は完全にあっちの方が上。
敵の攻撃を受ける事を前提にし、マスケットに魔力を回して強度を上げる。
片手で受けて、もう片方で…とも思ったけど、考えが甘いと一蹴して両手のマスケット銃を交差して攻撃を受ける。
杏子「さすがに一撃で決めよう…ってのは甘すぎるか」
マミ「何時かのようには行かないのよ…」
マミ「私にも倒れる事が出来ない理由が…、覚悟があるから!」
佐倉さんの背後から、リボン状の拘束魔法を伸ばして襲わせる。
すぐに勘付いた彼女は、槍に力を込めて鍔迫り合いを脱し、拘束魔法から逃れる。
だけど、接近戦を捨てると言う事は、射撃武装のこちらとしてはやりやすくなると言う事でもある。
私は距離を離した彼女を、両手のマスケット銃で素早く追撃した。
杏子「チッ…!」
私の放った銃は一発はかわされ、もう一発は彼女の左頬を掠めた。
裂けた傷口が深いのか、血がだらだらと流れている…。
それに情をかければ、何時かのように返り討ちにあう…。
私は拘束魔法を再度起動して追わせ、同時に追撃を仕掛けた。
マミ「ティロ・ボレー!!!」
杏子「容赦ねぇな、オイ…」
次々に襲う弾丸を駆けて避けたり、弾いたりしてやり過ごす佐倉さん…。
本当はこれではいけないのだけど、彼女が私の攻撃をやり過ごして安堵している自分が居る…。
そして、その油断は確実に相手に付け入る隙を与える。
杏子「だけどな…! 狙いが甘いんだよッ!」
マミ「ッ…!」
佐倉さん得意の多節槍が伸びる。
周囲に作った追撃用の銃はその攻撃に払われてあちこちに散らばるも、私自身はそれからどうにか逃れる。
先ほどまでとは逆…。
今度はこちらが暴れまわる多節槍に狙われる…。
マミ「厄介な攻撃…」
マミ「でも…!」
地面に手を伏せて陣を作り、そこから無数のリボン状の拘束魔法を放つ。
放たれたリボンは、蛇のように伸びて暴れる槍の柄の各部を捉え、リボンと多節槍は絡み合う形となった。
杏子「ちくしょう…!」
伸びきった状態の槍を戻せない彼女。
獲物を封じた今を逃さぬよう、私は再度周囲にマスケット銃を召喚する。
だけど、そのまま終わる程相手も甘くはなく…。
杏子「それはやらせねぇッ!」
マミ「獲物を捨てて…!?」
杏子「肉弾戦なら負ける気はしねぇからな!」
拘束魔法で絡まった槍を捨て、伸びた多節槍とリボンの合間を縫うように駆けてくる彼女。
私は急ぎ、銃を構えようとするもその時には既に遅く、
身体能力に優れる近接タイプの彼女に接近を許してしまっていた。
マミ「くぅッ…!」
杏子「そらぁぁぁぁぁぁぁッ!」
右手に持った銃を手刀で弾かれ、続けて繰り出された回し蹴りを咄嗟に左腕で受ける…。
防御には成功したものの、その衝撃に耐えきれずに後方へ蹴り飛ばされる形となり…。
左手に僅かな違和感を覚えつつも、両手に迎撃用のマスケット銃を作りつつ、着地した。
対する彼女はゆっくりとこちらを睨みながら歩みつつも、私が仰け反った隙を利用して新しい槍を作り出していた。
マミ「…………」
杏子「…………」
二人の間に冷たい空気が流れる…。
間合いで言えば私に有利だけど、彼女にはそれを一瞬で詰める機動力がある。
私の手持ちは両手の二丁のマスケット銃。
おまけに左手の調子は少々怪しい。
それでも、私はこの二丁で彼女を仕留めなければならない…。
私の後ろには、傷ついた私の後輩たちが居る…。
彼女はこれ以上の危害を加えない、と信じたいけれどそれは甘い憶測に過ぎない…。
実際、さっきの光景を見てしまった今では、彼女がどう動くか本当に予想が出来ない。
それなら、やるしか…。
杏子「いくぞッ……!」
マミ「いくわよ……!」
私も、多分彼女も…。
明確な殺意を持って対峙し、武器を向ける…。
彼女の足が動き、私の手が動き…。
互いがその決着を付けようとした時だった。
ピンク色の閃光が、私達二人の間に割って入り、弾けた。
杏子「くッ…! これは…!?」
マミ「鹿目さんの炸裂弾…? いえ、違う…」
二人の丁度真ん中で眩い光を放つように弾けたピンク色の矢。
それは、私が以前彼女に教えた炸裂弾の着弾時のそれによく似ているも、明らかに破壊力が無い…。
マミ「これは閃光弾…?」
私はその閃光をまともに見てしまい、目が満足に見えない。
そして、彼女も似たような状態なのだろう。
攻めてくる気配はもう感じられない…。
杏子「アイツ、逃げ道を作ってくれたって訳か…………」
マミ「鹿目さん………」
杏子「どっちにしても、こんなん食らったら退くしかねぇな…」
薄らと見える閃光の向こうの人影が動く。
その人影は少しづつではあるも、段々と小さくなっていく…。
杏子「…………」
杏子「……………」
その人影が消える際に小さく呟かれたその言葉。
それでも、私は彼女のその言葉を聞き逃さなかった…。
ゆっくりと視界が元に戻った時、当然彼女はそこには居なかった。
さやか「マミさん、大丈夫ですか…!?」
マミ「えぇ………、大した事ないわ…。
私の事より、二人は大丈夫……?」
さやか「あたしはこの通りなんですが……。
まどかは………」
まどか「いたたたた…………」
さやか「御覧の通りダメージ大きかったのに、無茶しちゃって…」
まどか「いてて…。だって、マミさんとあの子、二人とも悲しそうな顔してたから…」
マミ「…………」
さやか「『二人を止めたいの…! だから手伝って!』とか言い始めて…。
『なら、あたしがどうにかする』って言ったのに防壁壊した瞬間に、勝手に弓矢放ってのた打ち回って…」
まどか「だって、さやかちゃんにまた無理させても悪いし…。
それより……」
まどか「マミさん………」
マミ「なぁに?」
まどか「わたしみたいな部外者が口を出す事じゃないのかもしれないけど…」
まどか「今日あの子と戦ってるマミさんは本当に辛そうで…。
でも、マミさんだけじゃなくて、なんとなくあの子もそうなんじゃないかって気がして…。
それがどうしても気になって…」
さやか「まどか………」
マミ「鹿目さん………」
まどか「よかったら、話してもらえませんか…?
その………、力になれるかはわからないけど………」
マミ「…………わかったわ」
マミ「ただ、鹿目さんのダメージも大きいみたいだし、一度私の家に戻りましょう。
長い話になることだしね…」
まどか「はい。わかりました………」
さやか「…………」
さやか「よし。じゃあ、あたしが肩貸すよ」
まどか「さやかちゃん…。わたし以上にやられてた筈なのになんでこんな元気なの…?」
さやか「え? だって、それだけがあたしの取り柄じゃん」
まどか「元気が取り柄ってレベルじゃないと思う……って、いてて…」
さやか「立てそうにない…? ならいっそお姫様だっこで…」
まどか「ふぇ!? い、いいよぉ!/// 恥ずかしいから…///
って、うわぁ!?」
さやか「よ~し、まどかの為にも急いで帰ろう!
…………気になる事もあるし」
マミ「………………」
『マミさん、よかったね……』
『良い仲間が出来て……』
小さくて聞き取りにくかったけど、あの子は確かにこう言った。
結局、あの子はあの子のまま…。
優しい佐倉さんのままだったんだ…。
だけど…。
仮にそれを知ってても、結果は変わらなかっただろう…。
私はあの子と向きあう事が出来なかったのだから…。
あの子を救う言葉を見つけられずに、あの子を支える方法がわからずに、今日まで来てしまったのだから…。
だから、せめて…。
私は祈ってるわ…。
佐倉さん…。
あなたを救ってくれる『誰か』が、現れますように、と…。
―to be continued―
―next episode―
「アンタの悲しみも、苦しみも、全部あたしにぶつければ良い…!」
―【第六話】帰る場所はここだよ―
パート【2】へ続きます。
しかし予告のタイトルとセリフ、嫌な予感しかしない…