―――現代。
魔法という存在が、昔はあったらしい。
だが、ふと気づくと魔法よりも"錬金科学"が世界を支配していった。
自らの力を使わずに魔法と同等の利便をもたらしたこの技術は、あっという間に世界に広がった。
今日という日、
スイッチ一つで明かりが点く。
スイッチ一つで水が出る。
スイッチ一つで火が吹く。
当たり前のようで、不思議な技術。気づけば、人の歴史から"魔法"は忘れ去れていった。
元スレ
真剣士「英雄の…血…?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1383997828/
That's where the story begins
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【真剣士「英雄の…血…?」】
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Don't miss it!
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――――【現代国・東都】
ガタンガタン…ガタンガタン…
真剣士「…」
…ポチポチ…カチャカチャ…
真剣士「あいつ…、早く連絡くらい寄こせよ…」
ドンッ!!!
真剣士「うわっ!」
???「ほらぁ、きちんと前見ないと危ないよ!」
真剣士「いっつ…、黒髪乙女か…。さっきメール送った所だろうが!返事返せよ!」
黒髪乙女「あのね、あなたがメール打ってる時から、ずーっと私は声かけてたの」
真剣士「うそつけ!」
黒髪乙女「嘘じゃないし!」
真剣士「…まぁいいや。んで、何?」
黒髪乙女「今日の約束、覚えてる?」
真剣士「覚えてるよ。帰りに、ケーキ食うんだろ?」
黒髪乙女「やったー!」
真剣士「今月の小遣い少ないっつーに…」ブツブツ
黒髪乙女「ねっ、それより…昨日のテレビ見た?」
真剣士「特番のやつ?」
黒髪乙女「うん。魔法を使う人ってやつ。"大魔道"とかって自分で名乗ってた」
真剣士「ウソくせーやつな…妹が見るって言って、無理やり見せられたよ」
黒髪乙女「でも、本物っぽかったよ?」
真剣士「あんなの手品だろ。なんだっけ?零とかっていう魔法使いも、テレビ番組と組んでヤラセだったらしいじゃん」
黒髪乙女「…看板からハンバーガー出す手品なんてやってません!」
真剣士「だけど、手から火やら水やら出してただけじゃねーか」
黒髪乙女「種も仕掛けもなかったっていってたし!」
真剣士「あのな…」
黒髪乙女「それに、私たちと同じくらいの年齢でテレビに出れるのは凄いと思うよ?」
真剣士「まあ…そりゃそうだが」
黒髪乙女「あーあ。私も魔法を使えれば、空を飛ぶのになぁ」
真剣士「俺だって飛びてぇよ。夢の中だといつでも飛べるんだが」
黒髪乙女「魔法より現実…か。今は勉強だね」
真剣士「分かってるよ…つーか、学校始まるって!」
黒髪乙女「あ、いけない…走ろ!」
真剣士「あ、おい!待て!」
タッタッタッタ…
コケッ…ドシャッ!!
真剣士「…って…」
黒髪乙女「えーっ!何で転んでるの!」
真剣士(え…?)グスッ…ポロッ…
黒髪乙女「…え、泣いてるの?どこかぶつけたの?」アセッ
真剣士「…さ、さっき殴られたのが痛かったんだよ!」ポロポロ
黒髪乙女「え、ご、ごめん…」
真剣士「…冗談だっつーの!俺はウソ泣きが得意なんだよ」ゴシゴシ
黒髪乙女「…??」
真剣士「いいから学校行くぞ!遅れる!」ダッ
黒髪乙女「あっ、ずるい!」ダッ
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――――【 学校 】
キーンコーンカーンコーン…
黒髪乙女「ふぅ~っ…間に合ったぁ!」ハァハァ
真剣士「くそっ…相変わらず足が速いやつめ…」ゼェゼェ
黒髪乙女「へへーんだ!」
真剣士「でも先生来てないな。慌てて来る事もなかったか?」
黒髪乙女「あー…そういえば今日、転校生が来るって言ってたかも」
真剣士「転校生だ?」
黒髪乙女「うん。帰りに先生の話聞いてなかったの?」
真剣士「いやバイトだったから学校サボったし」
黒髪乙女「そういやそうだったね…」
真剣士「で、どんなやつ?」
黒髪乙女「転校生としか聞いてないかな。男子って話はあるけど」
真剣士「男子?女子がいいなぁ」
黒髪乙女「肉食系だなぁ…」
真剣士「可愛い女子とか、朝の曲がり角でぶつかって、パンを加えた美少女が…」
黒髪乙女「どこのファンタジーですか」
真剣士「夢はでっかく、だろ!?」
黒髪乙女「そんな夢やだよ…」
真剣士「冗談でも、乗れよ」
黒髪乙女「無理…、それに…私のほうも少しは…」ゴニョゴニョ
真剣士「聞こえないぞ」
黒髪乙女「なんでもないですっ!」
…ガラッ!!!
先生「おはようございまーす、皆さん」
真剣士「おっ」
黒髪乙女「きたっ!」
先生「はーい、皆さん注目。今日は、昨日言ってた通り…新しいお友達を紹介します」
ザワザワ…
男子生徒「高校2年の半ばでの転校ってのもキツイもんじゃね?」
男子生徒「俺だったら仲良かった奴もいるだろうし、絶対嫌だわー」
女子生徒「面白い奴だといいな」
女子生徒「かっこいい子で…お願いしますっ!」
先生「はいはい静かに。じゃ、入っていいぞ」
…コツ…コツ…コツ…
真剣士「…!!」
黒髪乙女「えっ!?」
大魔道「…こんにちわ」ニコッ
真剣士「おい、あれって!」
黒髪乙女「き、昨日のテレビの!?」
ザワザワ!!
男子生徒「おい俺テレビで見たよ!!大魔道だろ!?」
女子生徒「きゃーっ!?ど、どうしよう!」
先生「はいはーい落ち着いてください。大魔道くんは、メディアの仕事で少しの間だけ我が校の生徒になります」
大魔道「よろしくお願いします」ペコッ
女子生徒「きゃーっ、かっこいい!」
先生「はいはい。とりあえず…、あそこの真剣士くんの隣の席にお願いね」
大魔道「はい」ニコッ
トコトコ…、ザワザワ…
女子生徒「凄いねー、これからヨロシクね♪」
男子生徒「後で色々話し聞かせろよ、な!」
大魔道「あはは…よろしくお願いします」
黒髪乙女「きゃっ、こっち来たよ真剣士!」
真剣士「っせーな、分かってるよ。どうせインチキマジックだろ」
黒髪乙女「そういう事言わないの!」ビシッ
真剣士「いてっ!」
トコトコ…ストンッ
大魔道「君が隣ですね、これから宜しくお願いします」
真剣士「あぁ…まぁ、よろしく」
大魔道「僕は大魔道です、君の名前は?」
真剣士「…真剣士」
大魔道「へぇ…変わった名前ですね」
真剣士「お前だって変じゃねーか」
大魔道「僕は一応、芸名みたいなもんですから…」
真剣士「本名は?」
大魔道「それは、そのうち…」
黒髪乙女「ねえねえ、大魔道さんっ」ガバッ
真剣士「うっぷ、前が見えねぇ!」
黒髪乙女「アンタは黙ってて。大魔道さん、あなたのテレビ見ました!」
大魔道「あぁ、ありがとうございます」
黒髪乙女「私は黒髪乙女、この真剣士の幼馴染ですっ!」
大魔道「へぇ、そうなんですか」
黒髪乙女「真剣士、変わった名前してますよね」クスクス
真剣士「うっせー!」
黒髪乙女「何でも、昔は有名な剣士の家系だったらしいですよ」
真剣士「お前はペラペラと…」
大魔道「有名な剣士ですかぁ。じゃあ、真剣士さんの実家は武道場か何かを?」
真剣士「…」プイッ
黒髪乙女「答えてあげなさいよ!」
真剣士「あーもう…、別に普通の家庭だよ。アパート暮らしだし」
大魔道「なるほど」
先生「くおら、そこっ!!黒髪乙女、真剣士!ホームルームをしっかり聞かないか!」クワッ
真剣士「見ろ、怒られたじゃねえか!」
大魔道「あっ、すいません」
黒髪乙女「いけない、また後で色々話しましょ!」
大魔道「…はい」ニコッ
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カァ…カァ…
黒髪乙女「はー…びっくりしちゃった!握手もしてもらっちゃった、きゃーっ!」
真剣士「…あっそ、良かったね」
黒髪乙女「なぁに、妬いてるの?」
真剣士「そういうんじゃねーから。ケーキ買ってやらないぞ?」
黒髪乙女「あーウソですぅー!買って下さいー!」
真剣士「…はは」
黒髪乙女「…って、何で私が謝らないといけないの?元はといえば、真剣士が誕生日を忘れて…」
真剣士「あーごめんなさいね!」
黒髪乙女「分かればよろしい♪」
スッ…タッタッタッタ…
黒髪乙女「あれ?今通ってったのって、大魔道さんじゃない?」
真剣士「え?」
黒髪乙女「そっち側に急いで走ってったみたいだけど」
真剣士「そっち側って、何もなくね?」
黒髪乙女「でも確かにこっちに!」ダッ
真剣士「あ、待てよ!」
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――――【 町外れの廃墟 】
真剣士「…ここに入ったって?」
黒髪乙女「う、うん。見間違えじゃないと思う」
真剣士「冗談だろ?こんな場所、もうずっと人なんか住んでねーよ」
黒髪乙女「でも、見たよ!」
真剣士「っても、人の気配ないし。気のせいだろ?」
黒髪乙女「むー…」
真剣士「いいから戻るぞ。ケーキ屋閉まっちまうだろうが」
黒髪乙女「あっ、そっか…急ごう!」ダッ
真剣士「待てって!…俺を振り回すなー!」
黒髪乙女「えへへっ、早く~!」
タッタッタッタ…
…スッ
大魔道「…」
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――――【 次の日 】
キーンコーンカーンコーン…
…ガラッ!!
大魔道「おはようございます」
真剣士「おう、おはよう」
黒髪乙女「おっはよー♪」
大魔道「朝から元気ですね、黒髪乙女さん」
黒髪乙女「元気が取り柄だからね~」
大魔道「そうですか」フフ
黒髪乙女「そ、れ、よ、り!」
大魔道「?」
黒髪乙女「昨日、あの廃墟にいたでしょ。ね?」
大魔道「廃墟…?」
真剣士「お前、やめとけって…気にしないでくれ、大魔道」
大魔道「いえいいんですよ。廃墟とは何です?」
黒髪乙女「えーっ…大魔道さん知らないの?」
大魔道「……、すいません…存じ上げません…」
真剣士「だから言っただろ?」
黒髪乙女「んー…」
真剣士「悪いね、バカな幼馴染で」
大魔道「あはは…気にしないで下さい」
黒髪乙女「バカってゆーな!」
真剣士「ふっ」
大魔道「はは、朝から本当に元気がいいですね」
黒髪乙女「私から元気をとったら、残るのは…何だろう」
真剣士「バ・カ」ボソッ
黒髪乙女「…」
…ゴンッ
真剣士「ぬぐおおう…」ズキズキ
黒髪乙女「純情な女の子に、バカバカいうな!」
真剣士「ってぇ~…たんこぶ出来たじゃねーか!純情な女の子が、暴力振るうな、バカ!」
黒髪乙女「むーっ!」
真剣士「あぁ!?」
大魔道「ふふ…これでも見て落ち着いてくださいよ」パァッ
真剣士「んお…」
黒髪乙女「!」
真剣士「指が…光ってる?」
大魔道「…」パァァ
黒髪乙女「す、凄い!魔法だぁ!」
真剣士「…マジックだろ、ただの」
黒髪乙女「魔法だよ!」
真剣士「タネありのマジック」
黒髪乙女「まほーなの!!」
真剣士「手品だっての!!」
黒髪乙女「大魔道さん!!」
大魔道「何でしょうか」
黒髪乙女「大魔道さんの魔法は、本物だよね?」
大魔道「…」
真剣士「そんなワケあるか。ただの手品、マジックだって」
黒髪乙女「どうなの、大魔道さん!」
大魔道「…」
真剣士「…?」
大魔道「それは…信じるのも、信じないのも、あなた方の自由です」ニコッ
真剣士「…出た!」
黒髪乙女「でた?」
真剣士「信じるのも信じないのも自由!それは、結局ウソだからだろ!」
黒髪乙女「違うよ…、何言っても信じないから、あしらうしかないんだよ」
真剣士「だったら、お得意の魔法で信じさせてくれよ」ハハハ
大魔道「…」
真剣士「な?それはできないだろ?」
黒髪乙女「むぅ…」
大魔道「…すよ」ボソッ
真剣士「え?」
大魔道「あ、いや…何でもないです」ニコッ
真剣士「なー、出来ないんだよ。だから手品だってば」
黒髪乙女「えー…魔法だもん…」
…キーンコーンカーンコーン
真剣士「あ、ホームルーム始まるぞ」
黒髪乙女「魔法談義はまたあとで!絶対信用させてあげるからねっ!」
真剣士「おー、信用させてくれ」
大魔道「…はは」
真剣士(…どうせコイツも似たような二流タレントに落ちぶれるだろ、そのうち)チラッ
大魔道「?」
真剣士(…って、あれ?さっき黒髪乙女に殴られた場所のたんこぶ、治ってる)
大魔道「…」ニコッ
真剣士(…まさかな)
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――――【 放課後・帰路 】
真剣士「…何でお前が一緒に帰ってるの?」
大魔道「まぁまぁ」ニコニコ
黒髪乙女「芸能人と一緒に帰れるなんて、まだ信じられないなぁ」
大魔道「…」
真剣士「そのせいで、裏通りで遠回りで家に帰らないといけなくなったんだろうが!」
黒髪乙女「まぁまぁ、そのうちきっといい思い出になるって♪」
真剣士「だといいんだがな」
黒髪乙女「ね、大魔道さん」
大魔道「はい?」
黒髪乙女「何か、得意な魔法とかみたいなーなんて…」
大魔道「えぇ、いいですよ」アッサリ
黒髪乙女「はやっ!」
真剣士「軽っ!」
大魔道「…」パァッ
…ボワッ
黒髪乙女「…指先から炎が出てるぅ!」
真剣士「ライターを使ったトリックだよ」
大魔道「…」ボォォ
黒髪乙女「でも、手の中に何も持ってないよ?」
真剣士「精巧なトリックは見破れないんだよ」
黒髪乙女「うーん…魔法だよ!」
大魔道「では…これではいかがです?」パァッ
…キィン!!
真剣士「青い…炎?」
大魔道「触ってみます?大丈夫ですよ」
真剣士「危ないだろ、青い炎は温度が高くてー…」
スッ…キィィン…
黒髪乙女「わっ、冷たい!!」
真剣士「…本当に触るなっつーの!って、冷たいだって?」
黒髪乙女「真剣士、触ってみなよ!うん、すっごい冷たい!」
真剣士「冗談だろ?」
黒髪乙女「早く!」グイッ
真剣士「ちょっ、危ないっだろって!」
スッ…ヒヤッ…
真剣士「!」
大魔道「…」ニコッ
真剣士「つ、冷たい…何だこりゃ」
黒髪乙女「ねっ!?これのトリックは何だっていうの?」
真剣士「そ、そりゃあ何だ…、特殊なエフェクトとか…」
黒髪乙女「そんなの出来るわけないでしょ!」
真剣士「…ぐぬ」
大魔道「…」
黒髪乙女「やっぱ魔法なんだよ!」
真剣士「…んむぅ…」
大魔道「…目の前にある物が、全て真実とは限りません」
真剣士「?」
黒髪乙女「?」
大魔道「本物は、どこかで見落としているかもしれない。それに気づけるかどうか」
真剣士「…どういうことだ?」
大魔道「僕の国に伝わる言葉ですよ」
真剣士「だから、意味は…」
大魔道「…それは、貴方自身が知るべきことですよ」
真剣士「いやだから、意味がさっぱりわから――…」
…ブーーーン…キキィ!!
大魔道「!」
黒髪乙女「!」
真剣士「!」
大魔道「大型トラック…?」
黒髪乙女「こ、ここ…歩行専用だよ?」
真剣士「おいおい!このままじゃ轢かれるんじゃねえの!」
ゴォォォ…ブゥゥーン…!!
大魔道「横の塀を乗り越えて避けましょう!」バッ
真剣士「それがよさそうだ!」バッ
黒髪乙女「…待ってよ、私登れない!」
真剣士「塀に手かけろ!下から押し上げる!」
黒髪乙女「う、うん!」バッ
真剣士「大魔道、上から引っ張ってやってくれ!」
大魔道「わかりました、急いで」
真剣士「せーのっ、おらぁっ!」グンッ
黒髪乙女「ちょ、どこ触って!っていうか、パンツ見えてるってば!」
真剣士「死ぬよりマシだろうが、早く登れーーー!」
黒髪乙女「う~っ!」
大魔道「よっ!」グイッ
黒髪乙女「きゃっ!」ドサッ
大魔道「真剣士さん、早く上に!」スッ
真剣士「手はいらん、一人で充分だ」タァンッ
大魔道「…!」
黒髪乙女「お~…さすがだね、真剣士」
真剣士「昔から人より運動能力だけは良かったからな」ハハハ
大魔道「…軽々と塀を飛び越えるとは、凄いですね」
真剣士「まぁな」ハハ
黒髪乙女「あっ、そういえばトラックは…」
ブゥゥン…キイイイ………ブゥゥン…………
真剣士「…」
黒髪乙女「…」
大魔道「…」
ブウン……ゥン………
真剣士「はぁ、行ったみたいだな」
大魔道「寿命縮まりましたね」
真剣士「つーかさ…止まる気なかったよな。警察通報しといたほうがいいんじゃねえの?」
黒髪乙女「私たちが慌てすぎただけかも?」
真剣士「いやそもそもここ、歩行者専用通路だったし」
黒髪乙女「あっ、そっか…」
真剣士「お前さっき自分で言ってたじゃないか」
黒髪乙女「あはは…気が動転しちゃって」
大魔道「僕が通報しときますよ。ああいうドライバーは放置できませんし」
黒髪乙女「いいんですか?」
大魔道「メディアに顔のある僕のほうが、動いてくれるかもしれませんしね」
黒髪乙女「じゃあ…お願いします」
大魔道「はい」ニコッ
真剣士「…」
黒髪乙女「…真剣士?」
真剣士「ん…え?」
黒髪乙女「いや、ボーっとしてて…どうしたのかなって」
真剣士「あ、いや何でもない。それよか、日暮れる前に帰るか」
黒髪乙女「だね」
大魔道「そうですね、日暮れも早くなり始める頃ですし」
真剣士「んじゃ、俺らはこっち側だから」
大魔道「はい、僕はこっちなので」
黒髪乙女「じゃあね、大魔道さん。また明日♪」
大魔道「はい、また明日です」
真剣士「ん…じゃあな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
………ブゥゥゥン…
女子生徒A「でさぁ…」
女子生徒B「うんうん、だよねー」
女子生徒C「あはは!」
ブゥゥゥゥン……
運転手『…』
女子生徒A「ね、ねえ…」
女子生徒B「ん?」
女子生徒C「どうしたの?」
運転手『…』
ゴォォォォ…
女子生徒A「あのトラック…スピード出しすぎじゃない?」
女子生徒B「…うん、危ないよね」
女子生徒C「っていうか…ここカーブなのに…大丈夫なのかな」
ゴォォォォォ!!
運転手『…』
女子生徒A「…え、ねえ、ちょっと!」
女子生徒B「きゃあああ!」
女子生徒C「いやぁぁ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ピーポーピーポー…
黒髪乙女「救急車と消防車、随分行くね?」
真剣士「まさか、さっきのトラックじゃねえだろうな…」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
黒髪乙女「ま、まさかね」アハハ
真剣士「…まさかな」ハハハ
黒髪乙女「はぁー、でも、大魔道さんいい人だよね」
真剣士「のんびりした奴だと思ってたが、意外と行動力はあるんだな」
黒髪乙女「ね。びっくりしちゃった…あっー!」
…ゴツンッ
真剣士「」プシュー
黒髪乙女「…思い出した」
真剣士「いってぇぇ!突然、何しやがる!」
黒髪乙女「思い出したの!真剣士、お尻触って、パンツ見たでしょ!」
真剣士「ケツ触るしかなかったんだから、仕方ねーだろ!それに、パンツは見てねーよ!」
黒髪乙女「本当?」
真剣士「本当!」
黒髪乙女「白かった?」
真剣士「水色だった」
黒髪乙女「…」カァァ
真剣士「…あ」
黒髪乙女「…天罰っ!」ブンブンッ
真剣士「あんな状況だったから、仕方ないだろうが!カバン振り回すな、危ないっつーの!」
黒髪乙女「ま…それもそっか」
真剣士「はぁ~乱暴者め」
黒髪乙女「もー…貸しにしとくからね!」
真剣士「何でだよ」
黒髪乙女「貸しは、ケーキで返してもらえればいいよ♪」
真剣士「お前、最初っからそれが目的だったな」
黒髪乙女「えー?」
真剣士「はいはい…分かったよ、今度な」
黒髪乙女「えへへ~」
トコトコ…
真剣士「っと、家についたし…また明日な」
黒髪乙女「うん、また明日~!」
真剣士「お疲れさーん」
黒髪乙女「ばいばーい」
トコトコトコ…トコトコ…
ガチャッ…バタンッ
真剣士「…ただいまー」
母親「おかえりなさい」
妹「おかえり~♪」
真剣士「ふわぁ…、すげぇ疲れたよ」
妹「もうすぐご飯できるから待っててねー」トントン
真剣士「はいよー。テレビ点けとけよ…リモコンどこ?」
妹「テーブルの上だと思うよ~」
真剣士「はいよ」
カチャカチャ…プチッ
…ヴーッヴーッ!!!
真剣士「ん?」
妹「今の音…何?」ヒョイッ
真剣士「なんか緊急ニュース速報だって」
妹「何~?」
ニュース"「ニュース速報です。本日夕方、東都にて暴走トラックが―…」"
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――――【 次の日・学校 】
ガヤガヤ…ザワザワ…
校長「はい…静かにしてください」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
大魔道「…」
生徒「…」
校長「既に知っていると思う人も思いますが、昨日の夕方、我が生徒が事故に巻き込まれました」
ザワザワ…
校長「暴走したトラックが、我が校の女子生徒3人を跳ね、重症を負わせられました」
大魔道「…」
真剣士「昨日の…か」
黒髪乙女「そんな…」
真剣士「はぁ…嫌でもため息は出るな…」
黒髪乙女「だね…」
大魔道「僕らがどうこう出来る問題ではありませんでした…けど…」
真剣士「あぁ。気持ち的に沈むってな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザワザワ…
先生「以上です。という訳で、メディア関連がきても…あまり余計な事は言わないように」
生徒達「…」
先生「明日から1週間、学校は休校になります。粗相のないように…」
真剣士「1週間の休みか…」
黒髪乙女「素直に喜べないよね」
真剣士「当たり前だろ」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」ハァ
大魔道「僕も、メディアの仕事は少し自粛ですね」
真剣士「学校関連だもんな」
大魔道「…」
真剣士「…」
黒髪乙女「…」
大魔道「そうだ、気分転換に…我が家に遊びに来ませんか?」
真剣士「家に?」
黒髪乙女「大魔道さんの家に?」ピクッ
大魔道「はい」ニコッ
真剣士「…どんな感じなんだ?」
大魔道「家ですが、ちょっとした別荘みたいなものなんですけど、いかがでしょう?」
真剣士「…えー」
黒髪乙女「今日じゃなく、明日ですか?」
大魔道「ですねぇ歓迎したいですし。準備もあるので、出来れば明日がいいかと」
真剣士「んー…でもなぁ」
大魔道「面白いものも用意しますよ」
真剣士「まー…そこまで言うなら…」
大魔道「はは、ありがとうございます」
黒髪乙女「明日、どこへ行けばいいんですか?」
大魔道「ちょっと入り組んだ場所なので、分かりづらいですが…町外れまで来て頂けますか?」
黒髪乙女「はーい♪」
真剣士「あいよ」
…キーンコーンカーンコーン
先生「っと…これで今日は終わりですね。それでは皆さん、お気をつけて帰ってくださいね」
生徒達「わかりましたー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
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・・・
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――――【 次の日・町はずれ 】
大魔道「お待たせいたしました」
真剣士「歓迎するにしても、おせぇ!」
大魔道「ちょっと手間取ってしまいまして…」
黒髪乙女「真剣士落ち着いてよ。今日は招待してもらって、ありがとうございます」ペコッ
大魔道「いえいえ、遅れたのは自分の責任なので…それでは行きましょうか」
黒髪乙女「うんっ」
真剣士「おーう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トコトコ…
大魔道「ここが別荘です。今は一人で住んでますけど」
真剣士「…立派なもんだな」
大魔道「そうでしょうか?」
真剣士「一人住まいで、これで別荘だろ?立派なもんだよ」
黒髪乙女「本当にねー。立派だよ」
大魔道「あはは…とりあえず中に案内します」
ガチャッ…バタンッ
大魔道「居間でくつろいでください。面白いものを持ってきますよ」
黒髪乙女「はーいっ!」
真剣士「あいよ」
タッタッタッタ…
黒髪乙女「ね、凄いねー」
真剣士「んむ…まぁな。随分綺麗だし」
黒髪乙女「ねー。綺麗だよねー…」
真剣士「だけど、だいぶレトロだな。暖炉とか、初めて見たぞ」
黒髪乙女「テレビもないし、ピアノも少し古いタイプだよね」
タッタッタッタ…
大魔道「お待たせしました。僕の魔法道具ですよ」
ドサドサ…ガランガランッ!!
真剣士「魔法道具だぁ?あぁ…手品道具か」
黒髪乙女「わぁ~!すっごーい!」キラキラ
真剣士「この杖みたいのとか、どうせ振ると花が出るんだろ?」スッ
大魔道「あ、それは違いますよ。火が具現するイメージで振るんです」
真剣士「はぁ?」
大魔道「貸して下さい…こうです」スッ…パァッ!!
ボワッ!!…ボォォォッ…
真剣士「…!」
黒髪乙女「すごーい…私もできる!?」
大魔道「イメージさえ上手くすれば、出来ない事はないですよ」ニコッ
黒髪乙女「…やってみても?」
大魔道「どうぞ」
…ヒュンッ…シュン…
黒髪乙女「…?」
真剣士「はっはっは、でてねーぞ!やっぱりタネが分かってないと無理なんだって!」
黒髪乙女「ち、違うよ!魔法だもん!私みたいな一般人は魔法なんか使えないの!」
真剣士「くっくっく…笑わせてくれる」
黒髪乙女「むぅぅ…」
大魔道「大丈夫です。黒髪乙女さん…魔法は、どんな人も使えるんですよ」
黒髪乙女「でも…」
大魔道「大事なのはイメージ。そして具現する力。人には忘れられた…その力が眠っています」
黒髪乙女「…」
大魔道「さぁ落ち着いてもう1度。この空間に浮かぶ魔力を集めるイメージで、火を念じて…振るんです」
黒髪乙女「…は、はい」スッ
…ヒュンッ…
…パァッ…ボワァッ!!
黒髪乙女「わぁっ!」
大魔道「…」ニコッ
黒髪乙女「真剣士、出来たよ!ほらほら!」
真剣士「はぁ!?」
黒髪乙女「やったー!私も魔法が使えた!」
真剣士「て、手品のタネを使っただけだ!お前ら、俺を騙そうと…!」
黒髪乙女「でも、朝から私と一緒だったし…そういう事できる時間ないじゃん…」
真剣士「くっ…」
黒髪乙女「私にも魔法が使えるんだ~♪」
真剣士「だ、大魔道…どうやったんだ?タネを教えてくれ!」
大魔道「…」
黒髪乙女「…?」
真剣士「どうした?」
大魔道「…魔法というのは」
真剣士「お、おう」
大魔道「タネも仕掛けもないです。魔力というのは、人間に元々ある性質の1つですから」
真剣士「だーかーらー…」
大魔道「本当の事です。それに気づいているか、気づいていないか…それだけなんです」
真剣士「どういうことだ?」
大魔道「さて…彼らも焦っているようだ」
真剣士「何?」
大魔道「…直球に言いましょう。貴方は、僕と出会うべくして出会った人間なんです」
真剣士「ちょっと待て、一体何を言ってるんだ?」
黒髪乙女「大魔道さん、どういうこと?」
大魔道「…気づいてください」
真剣士「あん?」
大魔道「あなた方が、どこにいるのかを」
真剣士「どこって…お前の家だろ?」
大魔道「…」
真剣士「?」
大魔道「…ここは、僕の家じゃありません」
黒髪乙女「どういうこと?」
大魔道「ここにあったものは…これです」パチンッ
パァァ…ボロッ…ボロボロ…
真剣士「は…え?お、おいおい…家が…腐ってくぞ!?」
黒髪乙女「わわっ…何これ!」
真剣士「一体なんだよこれ…大魔道!」
大魔道「それに、貴方たちにかけた意識の魔法を解きます…」パチンッ
真剣士「!」ハッ
黒髪乙女「!」ハッ
大魔道「…気づきましたか?」
真剣士「ここって…あの廃墟じゃねえか…?」
黒髪乙女「そ、そうだよ!ここは…あの廃墟じゃない!」
真剣士「で、でも…確かにここにさっきまで立派なソファーに…家が…」
黒髪乙女「暖炉も壊れてる…ど、どういうこと!?」
大魔道「これが、"魔法"です。まるで本物のように、気づかぬうちに幻影を見せる…"魔法"」
真剣士「…タネが」
大魔道「ありません。貴方も見て、感じましたよね。そこにあった、本物を」
真剣士「…っ」
大魔道「本当はもう少しゆっくり教えるつもりでした。ですが…時間がなくなってきたようです」
真剣士「…ど、どういう事だ?」
黒髪乙女「ねぇ…大魔道さん。教えてよ…何がなんなの?」
大魔道「僕は大魔道。世界に忘れられた、最後の魔道師です」
真剣士「魔道…師?」
大魔道「そして僕の使命は…英雄を血を紡ぐ者に、それを…伝えること」
-Eye catch !-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真剣士「英雄の…血…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-proceed to the next !-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大魔道「…」
真剣士「英雄を…紡ぐ?血を伝える?」
大魔道「はい」
真剣士「何を言っているんだ?」
黒髪乙女「うん…、大魔道さん、私もちょっと意味が…」
大魔道「…」
真剣士「もっと、分かりやすいように教えてくれないか?」
大魔道「…この世界の歴史、というものは知っていますか?」
真剣士「歴史?」
大魔道「錬金術による世界の技術が発展する遥か昔のことです」
真剣士「…?」
大魔道「その時代、この世は魔法で支えられていました」
真剣士「魔法で…?」
大魔道「もちろん、人々は今のように笑顔で、魔法と錬金技術が交じり合う世界に住んでいたのです」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
大魔道「何度の戦争もありました。忘れられる事の出来ないことが…沢山と」
真剣士「…」
大魔道「…少し、昔話をしましょう」
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――遥か昔。
人間の世界に、魔族という方達が現れました。
そして、魔族は人間の世界を奪わんと…戦いを挑んできたのです。
当時、その企みを阻止するため…人間たちは立ち上がりました。
一丸となり、魔族の王である"魔王"は一人の人間によって倒されたのです。
それが"英雄"の始まりです。
魔王の討伐により、世界は平和になりました。
ですが、それはほんの僅かな時間でした。
残党である魔物や、その混乱に乗じた人間たちが世界を掌握せんと企みました。
そして…戦争は絶えず起きました。
しかし、その度に…その英雄の血を引くものが、幾度となくこの世界を守ったのです。
やがて長い時が流れ…魔界と人間界は繋がり、本当の平和が訪れました。
そののち…魔族は魔界へと戻りました。
人間たちの争いもやがて落ち着き、錬金術に頼るようになると、魔法は徐々に廃れていきました。
魔法というものは体力を使い、それに頼らない錬金技術はとても楽だったからです。
そこから何年たったでしょうか…。
魔法は姿を消し、戦いの歴史は闇の中へと消えていきました…。
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大魔道「…これが、この世界の本当の歴史です」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
大魔道「そして、その英雄の血を引く者…それが…貴方です」
真剣士「お…俺…?」
大魔道「はい」
真剣士「魔族?英雄?…冗談きっついぜ」ハハハ
大魔道「…」
真剣士「…」
大魔道「冗談ではないですよ。その証拠、お見せいたします」
…ビキッ…ビキビキッ…
黒髪乙女「!」
真剣士「!」
大魔道「この腕を見てください。僕自身が、魔族の血を引く者…なのですよ」
真剣士「…っ」
黒髪乙女「漫画に出てくるのみたい…、本物なのこれ…」
大魔道「…おかしいとは思いませんか?」
黒髪乙女「え?」
大魔道「無から1を作り出すことは出来ません。それなのに、この世には"魔法"の言葉が溢れている」
真剣士「…」
大魔道「人々の想像から生まれる事は、少なからず"記憶"から生まれる事ですから」
真剣士「言われてみれば…そうか…」
黒髪乙女「じゃ、じゃあ…真剣士が英雄の血を引くものって本当なの…?」
大魔道「はい」
真剣士「それが本当だとして、一体何を言いたいんだ?そもそも俺は小さなアパート住みだぞ?」
大魔道「…」
真剣士「本当に英雄の血なら、今頃…大豪邸に住んでいてもいいんじゃないのか?」
大魔道「それはー…貴方が…」ハッ
真剣士「それは…?」
大魔道「い、いえ…。それは、必ずしも成功続きではないという事です」
真剣士「…?」
大魔道「お気になさらず…、それよりも、あなたにも1つの使命がある」
真剣士「…何だよ」
大魔道「この世界が壊れる前に、貴方に救ってもらわねばならない世界がある」
真剣士「はぁ?」
黒髪乙女「救うって?」
大魔道「もうじき、魔王の血を引く者がこの世界へ現れる事になります」
真剣士「…?」
大魔道「その前に、魔界へ乗り込み…その者を討ちます」
真剣士「…はぁ」
黒髪乙女「魔界に乗り込む?」
大魔道「…」
真剣士「…はっはっはっは!」
大魔道「?」
黒髪乙女「どうしたの?」
真剣士「割りと本気で聞いてたけど、魔界に乗り込むとか、魔法とか…やっぱ信じられないって」ククク
大魔道「…」
真剣士「大魔道もどこまで本気なんだか。魔王の血を引くものが現れるって…笑わせないでくれよ」
大魔道「本来なら、僕が討つべきです。ですが…これは貴方にしか出来ないことなんです」
真剣士「ひーっひーっ…お腹痛い。そんな本気で笑わせないでくれ!」
大魔道「…」
黒髪乙女「ちょっ、真剣士…笑いすぎだよ!」
真剣士「だってさぁ…」ハハハ…
大魔道「信じられないのも無理ないですけどね…」
黒髪乙女「わ、私は信じるよ!」
大魔道「…」
黒髪乙女「本当に目の前で見せられたのは、手品って言葉じゃ表せないし…」
大魔道「ありがとうございます」ニコッ
真剣士「くくく…で?いつその魔王とやらは現れるんだ?」
黒髪乙女「真剣士、そんなバカにしないでよ!」
大魔道「いいんですよ。名前は魔王とはいいません」
真剣士「じゃあ何ていうんだよ」
大魔道「"幻王"です」
黒髪乙女「げん…おう…?」
大魔道「もうじき、この世界に次元を破って、魔界から人間界へと侵攻をします」
真剣士「勝手なヤツだな」
大魔道「ですが、殺す事はないでしょうね。彼の得意な魔法は別にあるのですから」
真剣士「得意な魔法?」
大魔道「先ほど見せた、この廃墟を素晴らしい別荘と信じ込んでましたよね」
真剣士「あぁ…」
大魔道「それです。生かさず、殺さず。人間たちを奴隷にし、快楽と堕落を与えるのですよ」
真剣士「…」
大魔道「幻王の名前は伊達ではないです。今も、魔界ではその魔法で次々と落とされている」
真剣士「…」
大魔道「まさか、あの竜族をも飲み込むとは思いませんでしたけどね…」
真剣士「竜族?」
大魔道「それは、向こう側の世界にいって追々説明しますよ」
真剣士「…」
大魔道「お願いします。一緒に、幻王の討伐へと向ってください」
黒髪乙女「…」
真剣士「…ちょっと待ってくれ」
大魔道「…」
真剣士「お前の顔で、本気だなっていうのは少し理解した」
大魔道「はい」
真剣士「だから、万が一それが本当だとして…、普通の高校生の俺に何ができる?」
大魔道「…」
真剣士「今まで戦う事なんかしたことないし、黒髪乙女とずっと平和に過ごしてきた」
黒髪乙女「だね…」
真剣士「いきなり魔界だの、人間界だの言われても、無理にも程がある」
大魔道「確かに、そうですね」
真剣士「魔界に行ったとして、俺は命を自ら捨てる事などしたくない。分かるだろ?」
大魔道「…」
真剣士「どうなんだ?その辺は」
大魔道「その点は…問題ありません」
真剣士「…どうしてだ?」
大魔道「ちょっと失礼します」スッ
真剣士「なな、なんだよ!俺を燃やす気じゃないだろうー…」
大魔道「…」ピカッ…!!
真剣士「…っ!」パァァッ
大魔道「…」
真剣士「…」
大魔道「どう、ですか?」
真剣士「…」
大魔道「…」
真剣士「今の、何だ?温かい…」ボォッ
大魔道「それが、英雄を紡ぐ光。彼らの魔力です」
真剣士「…魔力?」
大魔道「僕は、今まで出会った全ての英雄の魔力を知っています。そして、それを伝えてきた」
真剣士「…」
大魔道「その魔力は、貴方自身を守ってくれる。そして、貴方を守るのは僕の役目でもある」
真剣士「…」
大魔道「まだ…信じてもらえませんか?」
真剣士「…」
黒髪乙女「真剣士…」
真剣士「正直、まだ信じる事はできねえ。だけど、あの温かさは…どこか信頼できる気がする…」
大魔道「貴方に流れる魔法、魔力を引き出すきっかけを与えました。あとは貴方自身です」
真剣士「なぁ、もし俺がここで断ったら…どうなるんだ?」
大魔道「人間は支配されるでしょう。気づかぬうちに、魔物たちの支配下に置かれることになります」
真剣士「どう…なるんだ?」
大魔道「…戦争の敗北者と一緒です。男は知らぬうちに労働させられ、女はー…」
真剣士「もういい…」
大魔道「…」
真剣士「…わかった。仮に信じる。じゃあ、俺が魔界にいったら俺の存在はどうなる?」
大魔道「魔界の時間の進み方が違うのです。あちら側で過ごした1日は、こちら側で1時間にも満たないんです」
真剣士「へぇ…」
大魔道「…」
黒髪乙女「魔界は、危なくないの?」
大魔道「少なからず、まだ魔界には幻王から逃げている隠れ里があります」
真剣士「…お前はどうやってココへ来たんだ?」
大魔道「?」
真剣士「こちら側にくる時、繋ぐ穴が開いてたってことだろ?それで他の魔物が攻め入るという事はー…」
大魔道「言ったでしょう。僕は"魔の血"を引く者。次元を開けるのは…幻王だけではありません」
…バキャァンッ!!!…ゴォォォォォ…
真剣士「!」
黒髪乙女「!」
大魔道「これが、魔界と繋がるゲートです。逃れている味方の魔物へと通じています」
ゴォォォォ…バチバチッ…
大魔道「…いかがですか」
真剣士「…」ゴクッ
黒髪乙女「CGとかじゃないよね…、本物だよこれ…」
真剣士「俺じゃないとダメなのか…?」
大魔道「あなたが、英雄の血を引く人だから。…です」
真剣士「…死ぬかもしれないんだろ?」
大魔道「先ほども言いましたが、その為に僕がいるのです。自分で言うのもなんですが、やりますよ僕は」ニコッ
真剣士「そうか…」
ゴォォォ…
大魔道「急ぎすぎたのもあり、信じる事は難しいと思います。ですが…全て本当のことなのです」
真剣士「…」
黒髪乙女「…」
大魔道「どう、しますか?」
真剣士「わかったよ…、妹が魔物に襲われるのは…想像したくねえ」
大魔道「では…」
真剣士「待ってくれ、黒髪乙女は?」
黒髪乙女「あ…うん、私は?」
大魔道「…一緒に来て貰います」
真剣士「待てよ!こいつを危険な目に合わせる訳にはいかない!」
大魔道「それは…聞けません。それも運命だからですよ…」
真剣士(な…なんて哀しい目をするんだよ…)
黒髪乙女(大魔道さんの…凄い寂しそう…)
大魔道「お願いします。僕が全力で守りきる…約束いたします」
真剣士「…大丈夫なんだな?」
黒髪乙女「…うん。大魔道さんを、信じる。それに、真剣士を一人で行かせるわけないじゃん!」
真剣士「無理にでも着いて来そうだよなお前…」
黒髪乙女「あったりまえ♪」
大魔道「…では、参りましょう。魔界へ」スッ
ゴォォォォ…バチバチッ…オォォォ…
大魔道「手をしっかり握ってください。絶対に離さないように」
真剣士「お、おう…本当に大丈夫なんだな?」
黒髪乙女「信じてるよ…」ブルッ
大魔道「では…行きます」スタッ
ゴォォォォォッ…!!!!
ギュウゥゥゥゥ…ッ!!
大魔道「くっ…」
黒髪乙女「か、体がねじれる…!!」
真剣士「ぬあああ!」
大魔道「絶対に離さないで下さい!」
真剣士「あああああっ…!!」
黒髪乙女「きゃあああっ…!!」
バチバチ…!!!
ゴォォォ…
ォォ…
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
…ガチャンッ!!!
母親「何の音?」
妹「お兄ちゃんのコップが落ちて割れちゃった」
母親「えー?それお気に入りだったやつよねえ…」
妹「どうして…勝手に落ちたんだろ…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 魔界・隠れ里 】
バチバチバチッ…!!
竜少女「…?」
竜母親「空中に亀裂…?危ない、離れなさい!」
竜少女「う、うん!」ダッ
ギュウウウゥゥゥン…ドォォォンッ!!!
モクモク…
大魔道「…」
真剣士「…げほっ、げほげほ!」
黒髪乙女「…うぅ…頭がクラクラする…」
竜少女「…あーっ!大魔道のお兄ちゃんだよ!」
竜母親「大魔道さん!」
大魔道「ふぅ、上手く戻れたようですね」ケホッ
竜少女「大魔道さん、お帰りなさい!」
大魔道「おやおや、竜少女さん、竜母親さん。ただいまです」ニコッ
竜少女「えへへー久しぶり!」
黒髪乙女「…」パクパク
真剣士「く、黒髪乙女…、これ現実だよな…」
黒髪乙女「な、殴ってみる…?」
真剣士「頼む…」
黒髪乙女「それっ!」ブンッ
…バキィッ!!
真剣士「…い、痛い!」
黒髪乙女「殴った手も痛い…やっぱり現実だよ…」ズキズキ
真剣士「竜みたいな尻尾を生えた人間なのか…?」
竜母親「ふふふ、竜族っていうんですよ」
真剣士「うおっ!」ビクッ
竜母親「今は人型ですが、きちんと大竜にも戻れるんですよ」
真剣士「は…はぁ…」
黒髪乙女「信じられない…」
竜母親「私達からすれば、人間の存在が信じられませんよ」クスッ
真剣士「は…はぁ」アハハ…
黒髪乙女「…心のどこかで、大魔道さんは冗談を言ってると思ってた。けど…」
真剣士「やっぱりか。誰だってそうだよ。だけど、これは…」
黒髪乙女「うん…」
真剣士「信じざるをえないな」
黒髪乙女「本当のこと、だったんだね」
真剣士「まだ夢じゃないかって疑ってるよ」ハハ
大魔道「さて…お二人方。ここが竜族の仕切る隠れの里になります」
真剣士「竜族…って、あの竜か?」
大魔道「はい」ニコッ
黒髪乙女「あはは…本当に信じられないって感じだよ…」
大魔道「今、魔界は幻王の手によって堕ちる寸前です。そこで、このような隠れ里に逃げているのです」
真剣士「へ、へぇ…」チラッ
竜少女「?」
真剣士(…何がなんだか)
大魔道「まぁしかし、竜族は魔界でも力を持った種族。そうそうたやすく堕ちることはありません」
真剣士「じゃあ、安全なのか?」
大魔道「と…思われていました。だが、幻王の魔力はあまりにも凶悪だったのです」
真剣士「え?」
大魔道「ここは隠れ里。竜族が逃げてきた、竜族の里。…意味は、分かりますよね?」
真剣士「…力を持った種族が逃げるって、どんな相手なんだよ…」
大魔道「ここは元々、温泉街でした。体を癒しつつ、反撃の時を伺っているのです」
真剣士「おんせ…。え、魔界にも温泉とかあるのかよ」
大魔道「体を癒すのは大事ですからね。人間界より、魔力が満ちていてよっぽど優れていますよ」
真剣士「ほ、ほぉぉ…?」ウキッ
大魔道「…温泉、好きでしたものね」
真剣士「何で知ってる…」
大魔道「…、色々調べたもので」フフ
真剣士「何か気持ち悪いわ!で、これからどうするんだよ」
大魔道「時間があり、温泉街。僕がいます。貴方はまだ力が劣る…これも…分かりますよね」
真剣士「…」
大魔道「特訓、ですよ」ニコッ
真剣士「そんな暇あるのか?体動かすのは嫌いじゃないけどよ…」
大魔道「向こうだって考えはあります。あなたは心配せず、今は僕に従ってください」
真剣士「…そ、そうか…?」
大魔道「はい」
真剣士「わかった…」
竜少女「…」クイクイ
真剣士「ん?」
竜少女「大魔道さんと一緒に来たってことは…お兄ちゃんが、英雄さんさんなの?」
真剣士「あー…、なんかそうみたいだな…、俺にもよく分からん」ハハハ
竜少女「英雄さんなの!?」キラキラ
真剣士「お…おう…!」
竜少女「そっかー…英雄さんなんだ…!」
真剣士「…」
竜少女「えへへ…」
黒髪乙女「…あなたの名前は?」
竜少女「りゅーしょーじょ!」
竜母親「ふふ、ちゃんと言いなさい。竜少女、っていうのよ」クスッ
竜少女「うん!あ、わたし…家のお手伝いの時間だったよね…」
竜母親「…そうね。宿場も忙しいし、行ってあげた方がいいかもしれないわね」
竜少女「うん、行ってきます!英雄さんたち、またねー!」ダッ
タッタッタッタッタ…
竜母親「…」
黒髪乙女「可愛い子ですね」
竜母親「…本当にね。彼女の母親も、可愛らしい人だったからねぇ」
黒髪乙女「…え?」
真剣士「あんたが母親じゃないのか?」
竜母親「私は、ああいう子の面倒を見ている"竜母親"。皆に母さんって呼ばれているのよ」フフ
真剣士「ああいう子?」
竜母親「…幻王の軍に親を奪われた子たちよ」
黒髪乙女「…」
真剣士「奪われた…?」
竜母親「幻王に、必死に抵抗した大人たちは…みんな犠牲になっていったの」
真剣士「だから、親を失った子たちの面倒を見ている…ってか」
竜母親「そういうこと。可愛い子が多いのよ」ニコッ
真剣士「…戦争、か」
大魔道「魔界も人間界も、戦争の悲惨さは一緒です」
真剣士「…」
黒髪乙女「…」
大魔道「色々と話すのは後にしましょう。魔界への扉を通ったことで、体力が削られているはずです」
黒髪乙女「そんなに疲労感はないんだけどなぁ?」
真剣士「まだまだ動けるぜ?」
大魔道「気づかない疲れですから。今日は宿場を紹介するのでそこで休んでください」
真剣士「わかった」
大魔道「黒髪乙女さんと、一緒の部屋がいいですか?別の部屋がいいですか?」
真剣士「別で」
黒髪乙女「一緒でもいいよ」
真剣士「…」
黒髪乙女「?」
大魔道「ど、どっちにしましょうか」
真剣士「別で」
黒髪乙女「一緒でもいいって」
真剣士「…あのね」
黒髪乙女「えー…別にいいと思うんだけどなぁ」
真剣士「いやお前がよくても」
黒髪乙女「…、察してよ」ブルッ
真剣士「…」
黒髪乙女「…」
真剣士「わかったよ…。大魔道、一緒の部屋で」
大魔道「了解しました。では、案内しますので此方にお願いします」
黒髪乙女「うん…」
真剣士「手、握ってやろうか?」ハハ
黒髪乙女「…」ギュッ
真剣士「…お、おい」
黒髪乙女「い、行こっ!どんな宿だか楽しみだなぁ♪」
真剣士「…だな。大魔道、変な場所だったら承知しないからな!」
大魔道「はは、きっとお気に召すと思いますよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 宿 場 】
ザワザワ…ワイワイ…
大魔道「…はい、こちらが部屋の鍵になります」チャリッ
真剣士「ありがとうよ。思ったより、人…っていうのかな。多いんだな」
大魔道「一応逃げている方たちは大勢いますからね」
真剣士「こんなに人数がいて、食料とか賄えるもんなのか?」
大魔道「いい質問ですね」
真剣士「第一、竜とかめっちゃ食べるイメージあるんだけど」
大魔道「それは偏見ですよ」
真剣士「まぁ…確かに、さっきの少女が食べるとは思わないけどさ」
大魔道「中には大食らいもいますけど、普通に人型での維持は少量で問題ありません」
真剣士「そういうもんかね」
大魔道「ですよ」
真剣士「そういや、さっきから通る人らに英雄さんって呼ばれるんだけど」
大魔道「それは僕が反撃側の主要として貴方を連れてくることになっていましたからね」
真剣士「とはいえ、慣れないんだが」
大魔道「はは、気にせずに」
真剣士「うーむ…」
ドタドタドタ…
竜戦士「大魔道さん、戻ってらっしゃいましたか!会議があるので、お願いします!」
大魔道「あ、了解しました。…真剣士さん、部屋はわかりますか?」
真剣士「大体な。見た感じ、こっちと造りは一緒だし、のんびり部屋に行くよ」
大魔道「そうですか。えーと…あと…」
真剣士「なんだ?」
大魔道「この階を東側に抜けると、大浴場と露天風呂があるので、是非行ってみて下さい」
真剣士「…本当か!」
大魔道「えぇ。広いですよ…きっと休めると思います」
真剣士「わかった。部屋を確認したら行ってみる」
大魔道「それでは、ちょっと会議があるので。後で部屋に伺いますね」
真剣士「あいよ。んじゃ、行くか」
黒髪乙女「うん。大魔道さん、また後でねー」
大魔道「はい、失礼します」ペコッ
トコトコトコ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 部 屋 】
ドサッ…
真剣士「ふぅ~…」
黒髪乙女「わっ、広い部屋だね~」
真剣士「…まだ、俺は信じてないぞ」
黒髪乙女「ここまできてっ!?」
真剣士「というか、あっという間すぎて信じられていない、っていうほうが正解か」
黒髪乙女「うん…」
真剣士「だけど、ウソを言ってるとは思えないし…俺は英雄の子孫…なのか?」
黒髪乙女「真剣士が英雄の子孫かぁ…」
真剣士「とてもじゃないけど、そんな力があるとは思わないんだよなぁ」
黒髪乙女「うん、だよね」
真剣士「うっせ!」
黒髪乙女「なんでっ!」
真剣士「…窓開けてみるか」
黒髪乙女「どんな景色なんだろ?」
真剣士「…よいしょっと」
…ガラッ!!
真剣士「…っ!」
黒髪乙女「わぁっ…」
ガヤガヤ…チンチンドンドン…
薬売竜人『いらっしゃいませー、薬はいかがですかー!』
案内竜人『避難所は1番小屋からですー。竜族の方以外は、4番以降へお願いします!』
ザワザワ…ワイワイ…
シルフ『ダマスカスの鎧だよー!別の区から貰ってきた一級品だ!いかがかなー!』
竜傭兵『ほほー、いい品だ。幾らだ?』
巨人傭兵『騙されてるぞ、ヤメトケ!』
…ガヤガヤ…
真剣士「…はは、なんだこりゃ」
黒髪乙女「…凄い。何だろうこれ…、ドキドキする」
真剣士「さっきまで震えてたヤツが何を言う」
黒髪乙女「私だって女の子なんだから、怖くなることだってあるの!」
真剣士「だけど、この風景で少し落ち着けたか?」
黒髪乙女「うん…、皆…楽しそう」
真剣士「本当にここが避難所なのかって思うよな」
黒髪乙女「…うん、さっきの少女みたいな子も…大勢いるんだろうね」
真剣士「…あぁ、そうみたいだな」
…コンコン
真剣士「ん…はーい?」
ガチャッ…
竜少女「え、えっと…、中で動きやすい着替えの服をお持ちいたしましたっ!」
黒髪乙女「…あ!」
竜少女「あーっ!」
真剣士「…んお」
竜少女「英雄さん!」
真剣士「あー…さっきの。竜少女だっけ」
竜少女「うん!」
黒髪乙女「竜少女ちゃん…ここでお手伝いしてたんだ♪」
竜少女「うん…え、えっと…」モジモジ
黒髪乙女「?」
竜少女「名前…」
黒髪乙女「あ、そっか。私は黒髪乙女。改めてよろしくね」ニコッ
竜少女「宜しくお願いしますっ!」
真剣士「あー…んじゃ俺も。英雄さんとか呼ばれるのは苦手だ。真剣士って呼んでくれ」
竜少女「う、うん。じゃあ…真剣士…お兄ちゃん?」
真剣士「兄ちゃんか…はは。それでもいいよ」
竜少女「えへへ…、それでね。大魔道お兄ちゃんが、この部屋にこれを運んでくれって」パサッ
真剣士「これは?」
竜少女「なんか、こっち側でこれを着てれば楽に動けるからって」
真剣士「ふーん…作務衣っぽいな」
黒髪乙女「私のも似たようなのっぽいけど…」
真剣士「わかった。ありがとう竜少女」
竜少女「うん!じゃ、私はお仕事に戻るね♪」
真剣士「あいよ、またな」
黒髪乙女「またね~」
竜少女「ばいばーい!」フリフリ
ガチャッ…バタンッ…
黒髪乙女「竜少女ちゃん…可愛いね」
真剣士「はは、お兄ちゃんか」
黒髪乙女「妹いるし、親近感が沸くんじゃない?」クスッ
真剣士「そりゃな」
黒髪乙女「はぁー…これからどうなるんだろうね」
真剣士「さぁ…っと、温泉があるっていってたよな」ウキッ
黒髪乙女「真剣士…本気で入る気?」
真剣士「…いいだろ!」
黒髪乙女「私はまだパスかな…」
真剣士「タオルとかあるのか?」
黒髪乙女「普通ならこの辺に…」ゴソゴソ
…パサッ
真剣士「おっ」
黒髪乙女「あったね。行くの?」
真剣士「さっと見てくる」
黒髪乙女「私はちょっと休んでるよ。行ってらっしゃい」
真剣士「いってくるー」
カチャカチャ…バタンッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 湯治場 】
モワモワ…ザバァ…
真剣士「…お、温泉だ!」
パサッ…
真剣士「なんかワクワクしてきた、よっしゃ!」ダッ
ガラガラッ…
真剣士「おぉ…かけ湯専用とか情緒あるねぇ。おしっ!」
ザバァ…ジャボジャボ…
真剣士「これでいいな。湯煙が濃いが…おっし!」
ザバザバ…ジャブジャブッ…
真剣士「ほぉぉ…あったけぇ…、温泉だぁ…」ヌクヌク
真剣士「…」
真剣士「…」ホゥッ
真剣士「…」
…ザバザバ
真剣士(…んー、後ろに誰かいる?先客がいたのか…)
ザバッ…ジャバァ…
真剣士(竜族とかっていうやつらかな…?挨拶しといたほうがいいだろうか)クルッ
???「…」
真剣士「…?」
???「…」
真剣士「…えっ?」
???「…っ!」
真剣士「お、女ぁ!?」ザバァッ!!
???「あっー!人間さんですよ、お姉ちゃん!」
真剣士「…に、人間さん?お姉ちゃん?」
???「人間さん…ってことは、もしかして英雄様の…?」
真剣士「…ま、まぁ…そうらしいけど…」
姉剣士「…そうでしたか!私、姉剣士と申します。大魔道さんからお話は伺っております」
妹剣士「私はその妹の、妹剣士だよー!」
真剣士「…はい?」
-Eye catch !-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真剣士「英雄の…血…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-proceed to the next !-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 休憩所 】
姉剣士「改めて…大魔道さんからお話は伺っておりました。冷たいお水、どうぞ」ペコッ
真剣士「は、はぁ…どうも」グビッ
姉剣士「大魔道さんから何か聞いてませんか?」
真剣士「いえ…何も」
姉剣士「そうですか…あの方の事だから既に伝えてると思ったんですが…」
真剣士「え、えーと…どういうことでしょうか」
姉剣士「…幻王のことはお聞きになっておりますか?」
真剣士「あ、はい」
姉剣士「私たち姉妹は、"姉妹堂"という傭兵家業をやっております」
真剣士「傭兵!?」
姉剣士「恥ずかしながら、そういう方面でしか活躍できないもので…」
真剣士「そういうつもりでは…」
姉剣士「いいんですよ。慣れっこですから」クスッ
真剣士「そ、そうですか…」
姉剣士「話を戻しますね。幻王の討伐に、あなたの力が必要なのですが…」
真剣士「…」
姉剣士「剣の腕は未熟という話。そこで私が呼ばれました」
真剣士「はぁ…?」
姉剣士「私がしばらくの間、指南させていただきます」ペコッ
真剣士「指南…」
姉剣士「はいっ」
真剣士「…なんだかなぁ」
姉剣士「どうしました?」
真剣士「いえ、急に連れてこられて、急に指南とか、剣術とかいわれても…」ハハ
姉剣士「…急なことだったんですね」
真剣士「何もかも夢の中みたいですよ。未だに魔法なんか信じられませんし」
姉剣士「あちら側の世界は、魔法がほとんど残っていないそうですね」
真剣士「残っていないというか、存在が架空の世界の話のようなもので…」
姉剣士「まぁ…」
…ガヤガヤ
姉剣士「あっ、会議が終わったようですね。大魔道さんもいらっしゃるかも」
真剣士「ふむ?」
スタスタ…
大魔道「ふぅ、会議が長引きました。真剣士さん、お部屋は見られましたか?」
真剣士「あ…おう。いい部屋だったし、温泉も入ったぞ」
大魔道「そうですか。それはよかった」
姉剣士「大魔道さん、ご無沙汰してます」ペコッ
大魔道「姉剣士さん。もう、真剣士さんとは会ったのですね」
姉剣士「恥ずかしながら、温泉の中で会いました」フフ
大魔道「はは、そういえば混浴でしたね」
真剣士「そういう大事な事はもう少し早くいえ!」
大魔道「申し訳ないです。では…既に剣術のお話は聞いたのですか?」
真剣士「聞いたよ。この人に教わるんだって?」
大魔道「はい。腕は確かですからね」
姉剣士「ふふ、大魔道さんにそう言ってもらえると嬉しいですよ」
大魔道「少なくとも、あなた方の腕は一級品以上ですよ。謙遜なさらずとも」
姉剣士「ふふっ」
真剣士「…今日からやるのか?」
大魔道「先ほども申し上げましたが、今日は休んでください。本格的に動くのは明日以降にしましょう」
真剣士「…わかった」
大魔道「では、色々とお話があるので部屋に参りましょうか」
真剣士「んむ…じゃあ…えーと」
姉剣士「また、明日に会いましょう」
妹剣士「人間さん、またねー♪」
真剣士「あ、あぁ。またねー…」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
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そのあとの大魔道との話は深夜まで続いた。
今、この魔界の避難所が何箇所にもあること。
魔法の概念、もう1つの世界…魔界の歴史。まるで幻想のようだった。
そして、英雄の話。
真剣士に流れる血の歴史……。
ふと…外を見れば、見た事もない景色が広がっている。
あっという間の出来事で、今もまだ信じる事はできなかった。
だけど…、知らない匂いを感じながら静かに眼をつぶる時、
真剣士は"違う世界に来たんだな"と、ちょっとした高揚感、そして不安の中で、
ゆっくり。ゆっくりと、眠りの中へと堕ちていった………
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――――【 次の日 宿場前の広場 】
大魔道「おはようございます」
真剣士「…おはよう」フワァ
大魔道「どうです?よく眠れましたか?」
真剣士「まぁまぁね」
黒髪乙女「私、枕が変わると寝れなくなるんだった…」
大魔道「そうでしたね…あとでご用意しておきますよ」
真剣士(そうでした…?本当によく調べてるんだな…)
大魔道「では、姉剣士さんを呼んで参りますね」
真剣士「あ、あぁ」
タッタッタッタ…
真剣士「…」
黒髪乙女「…」フワァ
真剣士「なーんだか、なぁ」
黒髪乙女「…うん」
真剣士「なんかフワフワするよな」
黒髪乙女「だね」アハハ
真剣士「っつか、本当に通り過ぎるやつら皆に"英雄さん"って呼ばれるの何とかしてくれないかな」
黒髪乙女「よく言われてるよね。変な感じ」
真剣士「俺自身は英雄じゃないし、本当に俺の祖先が英雄だったのかすら分からないっつうに!」
黒髪乙女「だよねー。でも、特別騒ぎ立てるわけでもないし…どういうことなんだろ」
大魔道「静かながらも、心には大きな期待があるからですよ」スッ
真剣士「ぬおうっ!急に現れるな!」ビクッ
大魔道「別に騒いでない訳じゃありません。ただ、こちら側の住民は粗相ですからね」
真剣士「…魔物が粗相って」
大魔道「だから、それは偏見なのですよ」
真剣士「ふむ…」
大魔道「あまり口にはできませんが、見た目によらないってことです」ニコッ
真剣士「本当にそういう事は言っちゃだめだろ…」
大魔道「まぁまぁ」
…スタッ
姉剣士「やれやれ、大魔道さんも胡散臭い見た目ですし…。言葉遣いには気をつけましょうよ」
大魔道「姉剣士さん、ひどいですね…」
姉剣士「ふふ、それじゃあ始めますか?」
大魔道「真剣士さん、それでは…」ゴソゴソ
真剣士「なんだ?」
大魔道「これが、あなたの"剣"です」スッ
真剣士「…本物だろ、これ…」チャキッ
大魔道「えぇ勿論。それは名工の作品と呼ぶべき剣ですよ」
真剣士「名工ねぇ…」ギラッ
黒髪乙女「わぁ~、キレイ」
真剣士「で、どうすればいいのよ。振ればいいの?」ブンッ
大魔道「ここからは姉剣士さんにお任せします。黒髪乙女さんは、こちらに」
黒髪乙女「え?」
大魔道「一応、覚えていて損はない護身の魔法を教えますよ」
黒髪乙女「う、うん」
真剣士「バカだけはやらないようにな」
黒髪乙女「そのまま言葉返しますよ、ッベーだ!」
真剣士「うっせ!」
大魔道「はは…、それではあとは頼みました」
姉剣士「はい、そちらも頑張って下さいね」
黒髪乙女「うん、また後で~」
真剣士「あいよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真剣士「…」ブンブンッ
姉剣士「それじゃあ何から始めようかな…」
真剣士「そういや、今日は妹さんはいないんですか?」
姉剣士「妹は今日から、傭兵で前線に出ていきました。教えるのは私の役目ですよ」
真剣士「ぜ、前線?」
姉剣士「はい。傭兵稼業ですしね。この戦争時代、仕事は沢山あります」
真剣士「…」
姉剣士「まぁお気になさらずに…それじゃあ、まずは武器の理解から♪」
真剣士「は、はぁ…」
姉剣士「剣、槍、斧、弓。武器は沢山あれど、それぞれの長所は違いますよね」
真剣士「大体分かりますよ」
姉剣士「数ある中でも、最もバランスに優れているのがこの"剣"なんです」
真剣士「ふむふむ」
姉剣士「魔法にしろ、加工にしろ、威力、使いやすさ、どれも一級品になります」
真剣士「確かに、戦いといえば剣のイメージですが」
姉剣士「ですが、使いやすいということは…それだけ腕に差が出やすい。ということになります」
真剣士「聞いた事はありますけど…」
姉剣士「まぁ…論もいいですけど、まずは見てもらうのもいいですかね。打ち込んでください」スチャッ
真剣士「えっ」
姉剣士「どこでもいいですよ。力一杯、私に向かって打ち込むんです」
真剣士「え、いやでも…これ本物の剣…」
姉剣士「…」
真剣士「え、え…」
姉剣士「…」
真剣士「わ…わかりました…」スチャッ
姉剣士「腰が引けてますよ」
真剣士「あ、当たり前ですよ…、こんなことしたこともないんですから!」
姉剣士「男は度胸!素人に倒されるくらいなら、今まで生きていませんからね」クスッ
真剣士「わかりました…では!」スチャッ
ダダダダダッ…ブンッ!!!
姉剣士「良い踏み込みですね、ですが!」キィンッ!!
真剣士「ぬわっ!」
姉剣士「刃が立っていない。斬ろうとしていない、その気持ちが丸わかりです」
真剣士「…」
姉剣士「突然のことで、迷いもあるかもしれません。まだ、色々と信じられませんか?」
真剣士「…じゃあ聞きますよ。もしあなたが人間界に来て、戦いのない世界だといわれたら信じられますか?」
姉剣士「…」
真剣士「俺にとってはその逆です。突然、本物の剣を渡されて、戦えなんて…できるわけがないじゃないですか」
姉剣士「それも…そうですね」
真剣士「え?」
姉剣士「確かに、急ぎすぎかもしれません」フゥ
真剣士「あ、いや…うん…そうですけど…」
姉剣士「理解のない人には、分からせることが一番…ですよね」ギラッ
真剣士「…えっ?」
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――――【 3時間後 】
トコトコ…
大魔道「さてさて、黒髪乙女さんの予想以上の覚えのよさにビックリしましたよ」
黒髪乙女「教えがいいんだよ~」
大魔道「真剣士さんたちは、どんな感じになりましたかねぇ」
黒髪乙女「さぁ…、意外と奮闘してたりするかも」
大魔道「どうでしょうかねえ…お」
キキキィンッ!!!…ドシャアッ…
真剣士「うあっ!」
師匠(姉剣士)「遅いですよ、まだ。飲み込みは良いんですから、もっと踏み込んでください」
真剣士「師匠…そんな事言ったって…」
師匠「足腰を軸にできていません。もっと、ねじるようにするんです」
真剣士「…くそっ、もう1度!」ダッ
ダダダダッ…キィンッ!!!
大魔道「おや…姉剣士さんが、完全に"師匠"になってますね」ハハ…
黒髪乙女「うわぁ…真剣士があんなに本気で…なんかシュール…」
大魔道「どうやら、真剣士さんを本気にさせることはできたみたいですね」
黒髪乙女「本気にできた?」
大魔道「真剣士さんは、心のどこかでまだ信用という言葉がありませんでした
黒髪乙女「あいつは頑固なところもあるからなぁ…」
大魔道「ですが、上手くいってるようでよかった」
黒髪乙女「うん…一生懸命さが伝わってくる」
大魔道「…体力面も、予想以上に優れているようですしね」
ダダダダダダッ…ズザザァ…
師匠「脇が甘いですよ!」ビュッ
真剣士「があっ!」バキィッ!!
師匠「今のが峰打ちでなかったら…」
真剣士「ごほっ…もう1本!」
師匠「よく体力が持ちますね…賞賛ですよ」
真剣士「…あんなの見せられたら、やらずにはいられないっての…」ペッ
師匠「そうですね、もう1本!」
黒髪乙女「…あんなの?」
大魔道「ふむ、なるほど…アレを見せてやる気にした、ということですか」
黒髪乙女「どういうこと?」
大魔道「恐らく、幻王が魔界から人間界へ攻め込んだ未来のビジョンを見せたのでしょう」
黒髪乙女「な、なるほど…」
大魔道「見ますか?僕にもできますよ?」
黒髪乙女「いや…私にそんな勇気は…」
師匠「あ、大魔道さんと黒髪乙女さん…」
ダダダダダッ!!!
真剣士「隙ありぃ!!うらぁっ!」ブンッ
ギギキィンッ!!!…キィンッ!!!!クルクルクル…ザシュッ!!
師匠「!」
真剣士「や、やった!剣を吹き飛ばしたぞ!」
師匠「やりますね、完全に虚をつかれましたよ」
真剣士「はっはっは!」
…パンパン
大魔道「お見事です。姉剣士さん、完全にやられましたね」ハハハ
真剣士「大魔道…、黒髪乙女も。そっちは終わったのか?」
大魔道「えぇ。凄い才能でしてね、どんどん吸収しますよ」
黒髪乙女「大魔道さんの教えがいいからだってば!」
真剣士「ふぅ…そうか。で、何か用か?」
大魔道「朝から続けてですし、丁度いい時間です。お昼にしましょう」
真剣士「あいよわかった。腹も減ったところだったしな」
大魔道「ちょっと姉剣士さんとお話があるので、真っ直ぐ進んだ赤い暖簾の店に入っててください」
真剣士「はいよ。んじゃ行くか」
黒髪乙女「うんっ」
タッタッタッタ…
大魔道「…」
師匠「…」
大魔道「どうです、か?」
師匠「思った以上の上達の早さですよ」
大魔道「そうですか、それは良かった」
師匠「ですが…どうするんですか?いくら無造作といえども、これ以上は負担になりかねません」
大魔道「恐らく、これが限度でしょうね。心身ともに予想以上の成果をあげている」
師匠「…恐らく、アレが効いたんでしょうか」
大魔道「…本当に申し訳ない事をしました。もう、過ちは犯しませんよ」
師匠「…」
大魔道「それにしても、姉剣士さんが"師匠"ですか。姉剣士さんが…」フフ
師匠「そ、それは…恥ずかしいんですけどね。真剣士さんが勝手に…」
大魔道「やる気になってくれて、良かったとは思いますが」
師匠「それにしても師匠と呼ばれるとは思いませんでした」
大魔道「…確かにそうですね。彼自身、知らぬうちに気づいているのかもしれませんよ…この、せ…」
師匠「あ、大魔道さんちょっと待って下さい…」ピクッ
大魔道「…」ハッ
…タッタッタッタ
真剣士「おーい!」
大魔道「…どうしましたー?」
真剣士「赤い暖簾の店、しまってるぜ?」
大魔道「…それじゃあ、隣のお店にお願いします!」
真剣士「りょうかーい!」
大魔道「…」
師匠「急ぎましょう、ね」
大魔道「そうですね」
師匠「それじゃ…行きましょうか」
大魔道「行きましょう」
タッタッタッタッタッタ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【黒暖簾の料理店】
ザワザワ…ガヤガヤ…
大魔道「混んでますねぇ」
師匠「昼時ですからねぇ。さて、何か食べたいのはありますか?」
真剣士「メニューはこれか」ペラッ
黒髪乙女「聞いた事ないのばっかり…」
大魔道「そちらと同じメニューもありますよ。うどんとか、そばとか」
真剣士「すっげー和風だな」
大魔道「そちら側の料理はこちら側でも伝わり、有名なのですよ」
真剣士「ふーん」
黒髪乙女「でも、折角だしこっち側でしか食べれないメニューを食べたいな」
師匠「それなら、これがオススメですよ」スッ
黒髪乙女「…カトブレパスのステーキ、ですか?」
師匠「そちら側でいう、牛みたいなものですね」
黒髪乙女「じゃあ、それで♪」
師匠「私もそれにしましょう」
大魔道「真剣士さんはどうしますか?」
真剣士「うーん…、堅実にうどんとかでいいんだけどなぁ」
大魔道「そうですか?」
黒髪乙女「真剣士も珍しいもの食べようよ~」
真剣士「つったってなぁ…」
大魔道「カルキノスの鍋とかどうです?」
真剣士「何だそりゃ?」
大魔道「蟹、ですね。ざっくりいえば」
真剣士「蟹鍋!?」
大魔道「蟹、好きですよね」
真剣士「だから、何で知ってるんだよ…」
大魔道「僕は色々調べてましてー…」
真剣士「わかったわかった!つかさ、俺ら金ねーよ?」
大魔道「そのくらい出しますから」ハハ
真剣士「じゃあ…"カスキノス"の鍋で…」
大魔道「カルキノスです…わかりました、僕もそれで。店員さーんお願いします」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザワザワ…ガヤガヤ…
真剣士「それにしても、師匠」
師匠「はい?」
真剣士「師匠は、人間ですよね?」
師匠「…あぁ」
真剣士「師匠の妹もだったけど…何で、俺らを人間さんって呼ぶんだろ?」
師匠「私たちは、亜人…かな?」
真剣士「亜人?」
大魔道「僕も同じですね」
真剣士「何なんだ?亜人って」
師匠「人間に似て、非なる人。人にあらざる人、ですかね」
真剣士「人にあらざる人…」
師匠「2人とも、よく私の眼の辺りを見てください」
真剣士「おう?」
黒髪乙女「は、はい」
真剣士「…」ジッ
黒髪乙女「…」ジッ
師匠「…」ググッ
ビキッ…ビキビキ……
真剣士「…!?」
黒髪乙女「な、何…?」
師匠「眼の色が変わり、周囲から徐々に硬化しているのわかりますか?」
真剣士「う、うむ…」
師匠「これが、私の一族の魔物との混血の証拠です」スゥッ
黒髪乙女「…どういうことですか?」
師匠「亜人というのは、普通の人や、一般的な魔物よりも特異な性質を持って生まれてくるんです」
真剣士「…?」
師匠「私の場合は、普通の硬化魔法よりも格段に丈夫な硬化を、弱点優先で行う事ができるんです」
真剣士「なるほど…って、大魔道も普通と違う魔法を使えるってことか?」
大魔道「そうなりますね」
真剣士「どんな魔法なんだ?」
大魔道「それは…」
カチャカチャ…
店員「お待たせ致しました、ステーキと蟹鍋です」
大魔道「お、頂きましょうか」
真剣士「それより…気になるじゃないか、教えろよっ!」
大魔道「僕のは更に特異でしてね。真剣士さん、水に注意してください」
真剣士「水?」
…パシャッ!!!
店員「あっ、す、すいません!」
真剣士「冷たっ!あ、いや、いいッスよ」
店員「本当にすいません、今、おしぼり持ってきますね」ダッ
真剣士「あ…じゃあお願いします」
大魔道「と、言うように。少し先の未来が見えるんですよ」
真剣士「便利だな…」
大魔道「だからといって…何ができるわけではないのですが…」フゥ
真剣士「…?」
大魔道「さっ、それより温かいうちに頂きましょう。美味しいですよ」
真剣士「そ、そうだな。頂きます」
大魔道「頂きます」
師匠「頂きます」
黒髪乙女「いただきます~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 午 後 】
大魔道「食べましたし、午後も気合を入れていきましょうか」
師匠「ですね。そちら側も頑張って下さい」
大魔道「もちろんです」
黒髪乙女「それじゃ、真剣士…頑張ってね」
真剣士「当たり前だ。お前も、自分を守る技くらい身につけておけよ?」ハハ
黒髪乙女「真剣士こそっ!」
真剣士「おう」
師匠「それじゃ、午後は基本の動きからやりましょうか」
真剣士「はい」スチャッ
師匠「あなたは動いて覚えるタイプみたいだしね」クスッ
真剣士「昔から、体を動かすのは得意だったからなぁ」
師匠「…」
真剣士「でも…、本当に俺が幻王を倒せるんですかね?」
師匠「…貴方には、自身でも理解できないほどの力があるんですよ」
真剣士「そう…なんですかね」
師匠「えぇ。大魔道さんや、これでも歴戦の私が言うんです。間違いありません」
真剣士「…あの、未来のビジョンも…本当なんですよね」
師匠「はい」
真剣士「わかった…信じます」
師匠「ありがとうございます。今は、目の前の事に集中しましょう」
真剣士「…」スチャッ
師匠「さて…行きますよ」
真剣士「…はい!」
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・・・
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――――【 夜・湯治場 】
カポーン…ザバザバ…
真剣士「ふあ~…しかし良い温泉だ…」ブクブク
師匠「本当に、疲れが癒えますよね」ヌッ
真剣士「し、師匠!?」
師匠「ふふ、よく温泉で会いますね」
真剣士「お、俺そろそろあが…」
師匠「まぁまぁ、今入ったばかりじゃないですか」
グイッ…ザボォンッ!!
真剣士「…ぷはっ!師匠、力強いよ!」
師匠「私に引っ張られるようではまだまだですよ。精進あるのみです」
真剣士「…」
師匠「…」
真剣士「…」チラッ
師匠「?」
真剣士「…っ!」プイッ
師匠「どうしました?」
真剣士「し、師匠は恥ずかしくないんですか!?」
師匠「え?あ、あぁ…」
真剣士「…」
師匠「こっちの世界では、人という存在自体が珍しいですからね…」
真剣士「な、なるほど…」
師匠「女風呂と男風呂…でしたっけ?分かれているほうが珍しいんですよ」
真剣士「で、でも…」
師匠「…おや、早速お客のようですよ」
真剣士「え?」
ガラガラッ!
黒髪乙女「ひゃ~っ!」
竜少女「わーい!」
真剣士「く、黒髪乙女!?」
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
黒髪乙女「…き…」
真剣士「…っ!!」
黒髪乙女「きゃああ~~~っ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真剣士「」プシュー…
黒髪乙女「鉄拳制裁!」
真剣士「…いってえなぁ!」
黒髪乙女「こっち向かないでよ、バカァ!」ゴツッ
真剣士「いて!くそっ!」
竜少女「ダメだよ~ケンカしちゃっ!」
師匠「…」クスッ
真剣士「…お、俺だって混浴だって知らなかったんだよ!」
黒髪乙女「…とにかくあっち向いててよねっ!」
真剣士「へいへい…」
師匠「仲がいいんですね、二人とも」
真剣士「…」
黒髪乙女「まぁ…長い付き合いですからね…」
真剣士「ふんっ」
竜少女「仲良くするのが一番だよっ!」
真剣士「なー。暴力はいけないよなー?」
竜少女「うん、暴力はダメだよ!」
黒髪乙女「…」
師匠「…」
真剣士「はぁ…」
黒髪乙女「ねえ、真剣士」
真剣士「ん?」
黒髪乙女「真剣士は、幻王を倒せると…思う?」
真剣士「知らん」
黒髪乙女「知らんって」
真剣士「…そりゃ、やれる事なら倒したいと思うよ?」
師匠「…」
真剣士「こんな体験滅多にできないし、平和の為に戦うとか誰しも1度は考える事じゃん?」
黒髪乙女「それは…まぁ…」
真剣士「でも、実際そうなったら…何も考えられなくなるんだなって分かったよ」
黒髪乙女「…」
真剣士「だけどまぁ…」
竜少女「~♪」バシャバシャ
真剣士「…、俺の存在で、こういう子が安心できるなら、助けたいとは思う」
師匠「…」ニコッ
黒髪乙女「真剣士…」
真剣士「まぁ…出る。熱い」ザバザバ
黒髪乙女「きゃあっ!前隠してよ、バカ!!」
真剣士「おっと、うっかり。最初に殴られてボーっとしてたよ!」
師匠「…」ジッ
竜少女「?」キョトン
黒髪乙女「いいから早く出て行けーっ!」
真剣士「へいへい!わかったっつーの!」
タッタッタッタ…ガラガラッ…ピシャッ
黒髪乙女「ふぅ…やっと落ち着けた」
師匠「ふふ」
黒髪乙女「いつも落ち着く暇がないんだから…全く」
師匠「…キレイな星空ですね」
黒髪乙女「ですね…今日は温泉にも浸かってよく眠れそうです」
師匠「ゆっくり休んでください。明日からは本格的な修行になるでしょうしね」
黒髪乙女「はい…でも…」
師匠「…」
竜少女「どうしたのー?」
黒髪乙女「ううん。竜少女ちゃんは気にしなくてもいいのよ」ニコッ
師匠「…」
竜少女「むぅ~」
黒髪乙女「…」
師匠「こんな事にまで巻き込んでしまって、本当に申し訳ないです」
黒髪乙女「いえ…そんなことっ」
師匠「お互い、頑張りましょうね」
黒髪乙女「…はいっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドクン…ドクン…
「…あとは、俺がやる…」
「まだ、早すぎました…!」
ドクッドクッドクッ…
「…や、やめてくれぇぇっ!」
『所詮…この程度…ハッハッハッハ!』
「あぁぁぁ…っ…!」
…ドクンッ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 自室 】
チュンチュン…
真剣士「…!!」
…ガバッ!!
真剣士「はぁっ…はぁっ…!ゆ、夢…?朝か…」
黒髪乙女「…うーん」モゾモゾ
真剣士「…」
黒髪乙女「むにゃ…真剣士…?起きてたの…?」
真剣士「…あ、あぁ…」ドクン…ドクン…
黒髪乙女「…凄い汗。どうしたの?」
真剣士「い、いや…、何か悪い夢を見てたみたいなんだ…」
黒髪乙女「大丈夫…?顔色、悪いよ…」
真剣士「…ちょっと汗流してくる」
黒髪乙女「うん…」
真剣士「…」
黒髪乙女「まだ少し早いから、私は休んでるね」
真剣士「…行ってくる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 湯治場 】
ジャボジャボ…カポーン…
真剣士(…)
真剣士(何ともいえない、夢だった。思い出せない…)
真剣士(ただただ、寂しくて、冷たくて…一体あれは…)
ジャバジャバ…
真剣士「…何の音だ?」クルッ
師匠「悩んでいるようですね、真剣士」カポーン
真剣士「姉剣士さ…し、師匠!?」ザバッ!!
師匠「よっぽど温泉好きですね。私もなんですよ」フフ
真剣士「昨日の俺じゃないけど、師匠も前隠して下さいよ!」
師匠「私は別に気にしませんよ」
真剣士「そ、そんなこと言っても…」
師匠「…悪い夢でも、見ましたか?」
真剣士「な、何でそれを」ドキッ
師匠「やっぱりですか。いえ、引っ掛けただけですよ。顔色が悪かったもので」
真剣士「…」
師匠「…どんな夢でした?」
真剣士「…冷たくて、怖くて、寂しくて…。でも、何も覚えてない…そんな…」
師匠「…」
真剣士「温泉に入れば、温まると思ったけど…全然冷たいままで…」
師匠「分かりますよ。その気持ち」
真剣士「…」
師匠「哀しい事があった時、温かいお風呂に入ると、心が逆に冷たく感じてしまうんですよね」
真剣士「…」
師匠「…真剣士」
ジャボジャボ…
真剣士「わわっ、し、師匠…ちょっと…」
師匠「あなたのハートは、誰よりも強いはずです」ポンッ
真剣士「…」
師匠「見知らぬ土地で、どんな事にも全力で、誰よりも信じる力を持っている」
真剣士「…」
師匠「どんな夢かは分かりませんが、その不安からでしょう。ですが、必ず不安もなくなりますよ。大丈夫です」ニコッ
真剣士「…ちょっと、元気が出てきた…かな」ハハ
師匠「まだフワついている所もあるでしょうけど、そのうち慣れていきますよ」
真剣士「はい…。それと、思ったんですが…師匠とか大魔道で、その幻王は倒せないんですか?」
師匠「私や大魔道が、ですか?」
真剣士「少なくとも、魔界でもかなりの腕を持つんですよね」
師匠「確かに、同位に立つ相手は少ないでしょうね」
真剣士「だから…俺じゃなくても、師匠とかが倒せる…のではないかなと」
師匠「…もし倒せるなら、今のように隠れ里などにいませんよ」
真剣士「あ…」
師匠「…」
真剣士「でも、俺に師匠を倒せる姿が浮かばないんですが…」
師匠「…人の成長は、きっかけと、努力。魔力の面においては、その人に流れる"血"も重要です」
真剣士「…血、ですか」
師匠「そう。貴方に流れる…英雄の血が、この戦争を終わらせる鍵なのです」
真剣士「英雄の…血…」
師匠「はい。英雄の血…それは何にも変えられぬ貴方だけ持つ"力"なんですよ」
真剣士「大魔道も似たような事言ってたっけ…」
師匠「本来なら、あちら側で何も知らず…幸せに暮らしていてほしかったといつも言ってますよ」
真剣士「大魔道が…?」
師匠「ですが幻王の力はあまりにも強大で、そちら側にも影響を及ぼし兼ねなくなってしまった」
真剣士「…」
師匠「そこで、強大な魔力…それを保持する一族の"英雄"が再び必要になったんです」
真剣士「…」
師匠「もう戦いと魔法が忘れた世でしたが、貴方に流れる"血"は、必ず覚醒するはずです」
真剣士「…っ」
師匠「実をいえば…私も怖いんです。死ぬことは」
真剣士「…え?」
師匠「…死ぬ事は怖いし、誰かを失うのも嫌です。真剣士さんが目覚めてほしいのも、自分の欲望のせい…」
真剣士「…」
師匠「分かっています。自分が助かりたいから。きっと…良い格好で真剣士さんに話していることも」
真剣士「そ、そんなこと…!」
師匠「ですが、私は誰よりも世界が再び平和であってほしい。真剣士さんの力を信じています」
真剣士「…」
師匠「そして、貴方の幸せも願っている。矛盾していますよね…」
真剣士「い…いえ!!」ザバンッ!!
師匠「…」
真剣士「死にたくないのは普通だし、誰かを失うのが嫌なのも、当たり前ですっ!」
師匠「…真剣士さん」
真剣士「もし、俺を信じて安堵を得られるなら、信じてください」
師匠「ふふ、優しいんですね」
真剣士「女の人が哀しい顔は、どうも苦手なんです。何よりも耐え難いので…」ハハ
師匠「…」
ザバザバ…ギュウッ
真剣士「し、師匠…?」
師匠「有難うございます。貴方がそういう人で、本当に良かった…」
真剣士「恥ずかしいですって、ちょ、こ…これでも俺は男なんですから!」
師匠「ふふ、分かっていますよ」
真剣士「う、うぅ…」ブクブク…
師匠「さて、そろそろ上がりましょうか」ザバァッ…
真剣士「…」ブクブク…
師匠「…真剣士さん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ソヨソヨソヨ…フワァッ…
真剣士(ん…んん…何だ?涼しい…)
師匠「何度も入って、湯あたりしちゃったのかもしれませんね」
黒髪乙女「…わざわざありがとうございました」
真剣士(あぁ…湯あたりしちゃったのか…)
師匠「大魔道さんには少し時間を遅らせるように言っておきますね」
黒髪乙女「迷惑かけて申し訳ないです…」
師匠「いえいえ」
真剣士(…)
黒髪乙女「…真剣士の様子、どうでしたか?」
師匠「大丈夫ですよ」
黒髪乙女「朝…凄い顔で…。見て不安になります。本当に大丈夫、なのか」
師匠「目覚めてもらうためにも、必ず倒して貰わないといけません」
真剣士(…俺の覚醒の話、か?)
黒髪乙女「…はい。私も、できる限りお手伝いしたいと思います」
師匠「ですが、犠牲になることはなかったんですよ…?」
黒髪乙女「いえ。真剣士のためですから…」
師匠「そうですか…覚悟があるなら、何も言いません」
真剣士(…)
…モゾッ
黒髪乙女「!」
師匠「!」
真剣士(あ…やべ、何か起きてるのバレたらいけない雰囲気…)
黒髪乙女「し、真剣士…起きてるの?」
真剣士「う…うーん…」モゾモゾ
黒髪乙女「…真剣士?」
真剣士(…)
黒髪乙女「…」
真剣士「む…むにゃむにゃ…」
黒髪乙女「なんだ寝言か…」
師匠「…それでは、私はこれで失礼しますね」
黒髪乙女「はい。それではまた後で」
トコトコ…ガラッ…バタンッ…
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
黒髪乙女「…そうだ、お茶でも淹れといてあげよっ♪」
真剣士「…」
黒髪乙女「ふんふん~♪」
コポコポ…
真剣士「…ふわぁ…」ムクッ
黒髪乙女「!…真剣士、目覚めたの?」
真剣士「その変な鼻唄のせいでな」
黒髪乙女「し、失礼な!」
真剣士「って、あ、あれ…?風呂場にいたはずなんだけど…」
黒髪乙女「姉剣士さんが、倒れてた貴方を介抱してきてくれたの!」
真剣士「そ、そうなんだ。あとでお礼いっとかないとな」
黒髪乙女「そうだよー。あまり他人に迷惑かけないようにね!」
真剣士「お…おう…」
…カチャカチャ
黒髪乙女「はい、お茶。飲んで落ち着いてね」
真剣士「…ありがと」グビッ
黒髪乙女「…」
真剣士「…」
…ソヨソヨ…
黒髪乙女「窓開けてると気持ち良い風が入ってくるね…、硫黄が少し鼻を突くけど」
真剣士「…硫黄のにおいは、嫌いじゃないよ」グビグビ
黒髪乙女「真剣士は温泉大好きだもんね」
真剣士「ふぅ…ご馳走様」
黒髪乙女「早っ」
真剣士「ん…まぁな」
…コンコン
真剣士「誰だ…はいよーどうぞ」
ガチャッ…
大魔道「失礼します。湯あたりしたと聞いて…大丈夫でしたか?」
真剣士「大魔道か…何でもねーよ。何度も、長く湯につかりすぎただけだ」
大魔道「そうでしたか。一応、治癒魔法をしておきます」パァッ…
真剣士「…」
大魔道「問題はなさそうですけどね。本来、あまり治癒魔法は宜しくないんですけどね」
真剣士「そうなのか?」
大魔道「薬と一緒です。あまり多用すると、魔力による治癒の分解酵素が…」
真剣士「何言ってるかわからん!」
大魔道「はは…」
真剣士「とりあえず、俺はもう大丈夫だ」ヨイショ
大魔道「では、剣術の鍛錬をしますか?」
真剣士「あぁ。師匠に準備しておくって伝えておいてくれ」
大魔道「わかりました」
黒髪乙女「私は?」
大魔道「今日も魔法の練習をしましょう」
黒髪乙女「わかった~♪」
真剣士「…」
大魔道「…どうしました?」
真剣士「ん…いや、何でもないよ」
大魔道「そうですか…気分が優れない時は言って下さいね」
真剣士「わかってる」
大魔道「…では、参りましょうか」
真剣士「うんむ…」
黒髪乙女「じゃあ…修行開始!」
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・・・
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――それからしばらく、隠れの里に篭りながらの修行は続いた。
本当に戦争をしているのかと思えるほどに平和な日常。
体を動かし、温泉に入って疲れを癒す。
真剣士は一日、一日の積み重ねが…その体を少しずつ、
魔界へと順応していくのをひしひしと感じてた。
そして………
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――――【 修行開始から20日目 】
…キィンッ!!!カキィンッ!!
真剣士「あぁぁっ!」
師匠「…良い感じですよ!」
真剣士「まだまだぁ!」ダッ!!
師匠「早い…くっ!」キィンッ!!
真剣士「足元が開いた…ここだ、脚蹴り!」
…ゲシッ!!!
師匠「きゃあっ!」ドサッ
真剣士「っしゃ…うらぁっ!」ブンッ
師匠「…まだです!」
クルッ…ヒュンッ!!
真剣士「うっそ、ダウンしたのに避けるのかよ!」
師匠「今度は、貴方の足元がお留守ですよ!」ゲシッ!!!
真剣士「うわっ!」ドシャアッ!!
師匠「相手を倒したら、すぐに首を抑え、剣を突き立てる!」スチャッ!!
真剣士「…っ!」
師匠「…」
真剣士「…ま、参りました…」
師匠「ふぅ~…さっきは危ないところでしたよ。よく動けましたね」
真剣士「段々と慣れてきましたよ」
師匠(それでもこの成長の早さ…やはり…)
真剣士「だけどやっぱり師匠には勝てる未来が見えないんだよなぁ」ウーン
師匠「…ふふ、そう簡単に負けては師匠の威厳もないですからね」
真剣士「まぁ体動かすのは嫌いじゃないし、剣術とか覚えてて損はないからなぁ」
師匠「そうですね。知識は幾らあってもムダにはなりません」
真剣士「さぁ…もう1度!」スチャッ
師匠「どうぞ、来てください」スチャッ
…タッタッタッタ
大魔道「そこまでです、お二方」
師匠「…大魔道さん?」
真剣士「大魔道?」
大魔道「困った自体が起きました。緊急招集がかけられました」
師匠「どうしたのですか?」
大魔道「わかりません。里長が戻ってきまして、召集だそうです」
師匠「分かりました。真剣士さん、あなたはここで待っていて下さい」
大魔道「あ、いえ。今回は真剣士さんにも会議に出ていただきます」
師匠「え?いや、しかし…」
大魔道「…出る必要がありそうですよ」
師匠「…わかりました。真剣士さん、会議にお願いします」
真剣士「あ…あぁ」
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――――【 会議室 】
里長(さとおさ)『…』
大魔道「…」
師匠「…」
戦士長『…』
守護隊長『…』
真剣士(お、重い!俺がいる場所じゃないだろこれ!!)
里長『…話は聞いてます。こうして顔を合わせるのは初ですな。英雄の血を引く者よ』ペコッ
真剣士「あ…は、はぁ」ペコッ
里長『自分も転々と隠れ里を回っており、顔合わせできなかった事を弁明致します』
真剣士「あ、いえ…」
里長『それと、この度は…こちら側の世界を救う為にわざわざ…御礼を申し上げる次第』
真剣士「…」
竜戦士長『…』
守護隊長『…』
大魔道「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。どうしたのですか?」
里長『直球に申し上げましょう。西側の巨人族の里が落とされました』
ザワッ…!!
竜戦士長『長…、それは本当ですか!?』
里長『本当だ。今朝早く、伝達部隊から連絡が入った』
大魔道「…」
師匠「大魔道さん、これは…」
大魔道「…少々、予想外な事ですね。決する時…とでもいいますか」
真剣士(決する時って、俺まだ全然修行不足が否めないんですけどーっ!)
竜戦士長『仮にも、あそこの守りは巨人族の中でも最強と呼ばれるタイタン族の先鋭部隊ですぞ!?』
守護隊長『実力は我ら竜族に劣らずのはず。よっぽどな相手だったのでしょうか』
里長『相手は…同じタイタン族だそうだ』
竜戦士長『同族討ちか…、おのれ…幻王めが!!』ドンッ
守護隊長『落ち着け。…里長、こちら側への被害は予測されますか?』
里長『ここまでは相当数な距離がある。今すぐどうこうする問題ではないと思うが』
竜戦士長『前の隠れ里を落とされた時も、その安寧が仇となった!今すぐ行動すべきだ!』
真剣士(だだだ、だから…どう考えても、俺は場違いだって!!!)
大魔道「姉剣士さん、どう考えますか?」
師匠「…早すぎます。私には考え付きません…」
大魔道「真剣士さんの覚醒を待つ前に、このままでは潰されかねない」
師匠「そうですね…時間もありません。本当にこれがチャンスと思うべきになってきた…ですかね」
大魔道「やはりここは、行動を起こして前に進むべきでしょうか」
師匠「荒療治というわけですね」
真剣士(一体何の話をしているんだよーっ!)
大魔道「姉剣士さん…もう失敗は繰り返せません。本当のことを伝えるべ…」
師匠「待って下さい!それはまだ早いと思います…!」
大魔道「…そ、そうですね。僕としたことが焦りすぎました」
師匠「…気持ちは分かりますが、落ち着きも大事です」
大魔道「では…真剣士さん」
真剣士「ん…な、何だ?」
大魔道「これから、我々はその巨人族の落とされた西側地区へ足を運びます」
真剣士「…え?え!?」
守護隊長『…大魔道殿!?』
竜戦士長『大魔道殿、それは…あまりに危険すぎます!』
大魔道「生きている者の可能性がある。我々は、その救出へ向うだけです」
竜戦士長『確かに、幻王の幻惑を打ち破れるのは貴方の魔法だけだ。だが…』
里長『大魔道さん。どこから攻めてくるか分からぬ今、貴方達にこの里を抜けてもらっては…』
大魔道「確かに、僕達の影響は大きい。ですが、今すぐ襲ってくるという保障もないでしょう」
里長『…』
竜戦士長『…大魔道殿、どうしても行かねばならない理由があるのか?』
大魔道「道がない。そして、時間がないのですよ」
師匠「余裕があった時とは違うんです。我々には、これ以上の犠牲は無理なんですよ」
守護隊長『我々を、見捨てるということか…!』
竜戦士長『大魔道殿…っ!』
大魔道「とにかく…僕たちは前へ進ませて貰わねばならない。邪魔するなら…」ゴォッ…
…ゴォォォォォッ!!!
竜戦士長『むおっ!』
守護隊長『ぬっ!』
里長『ぐっ!』
ビリビリ…
真剣士(か、体全体が震えるほどの…感覚!…これが、大魔道の魔力なのか…)
師匠「大魔道さん!」
大魔道「!」…ハッ
師匠「落ち着いてください。ここで魔力を放っては、敵を呼び寄せるだけですよ!」
大魔道「も…申し訳ありません。ですが、これで僕の気持ちは感じて頂けたでしょうか」
里長『…分かりました。どうやら、行かねばならない理由があるらしい』
大魔道「…感謝します」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 広 場 】
黒髪乙女「…今日、出発?」
師匠「事情が変わりました。のんびりしている暇もなくなったのです」
黒髪乙女「…」
大魔道「持てる荷物、買える道具は揃えましょう」
師匠「ですね。ここから西側へはしばらく歩くことになりますし」
真剣士「ま、待ってくれよ!いきなり色々わけわかんねーよ!」
大魔道「先ほどの話の通り、西側のタイタン族の里へ向います」
真剣士「危なくないのか?俺、まだ戦える自信なんてないぞ!」
黒髪乙女「…」
師匠「…」
大魔道「…もう、時間がない」
真剣士「…だから、その意味もわからんし!黒髪乙女を危険な場所に連れて行くことは反対だ!」
黒髪乙女「真剣士…」
大魔道「…真剣士さん、聞いてください」
真剣士「あぁ!?」
大魔道「貴方には、まだ話しをしていない事があります」
師匠「大魔道さん!」
大魔道「大丈夫です、姉剣士さん」
師匠「…」
大魔道「真剣士さん…貴方自身が気づくべき事がある、とだけ伝えておきます」
真剣士「…どういうことだよ」
大魔道「…」
師匠「…」
真剣士(また…この眼…。一体何だってんだよ…!)
師匠「…真剣士さん。私たちが貴方の事はお守りします。信じてください」
真剣士「…師匠」
師匠「黒髪乙女さんも、貴方も。守り抜く。信じて…下さい」
大魔道「真剣士さん」
師匠「真剣士さん…」
黒髪乙女「真剣士…」
真剣士「…あーっ!!もう!!」ゴォッ!!!
ゴォォッ…ビリビリッ…!!!
大魔道「…!」
師匠「!」
黒髪乙女「…っ!」
真剣士「分かったよ…分かった!お前らの眼、見てたら断れないじゃねーか!」
大魔道「本当に…ありがとうございます」
真剣士「でもな、大魔道。お前の為じゃねえ、師匠のためだからな」
師匠「私…ですか?」
真剣士「言ったでしょう。俺は、女の人の哀しい顔を見るのはどうしてもダメだって…」
師匠「あ…」
真剣士「大魔道、師匠…守ってくれよ。俺よりも、コイツを」グイッ!
黒髪乙女「きゃっ…真剣士…」
師匠「…もちろんですよ」ニコッ
大魔道「約束します。もちろん、黒髪乙女さんだけでなく…真剣士さんもです」
真剣士「ふん…」
大魔道「それじゃ…タイタンの里へ出発します」スチャッ
黒髪乙女「うんっ」
師匠「武器の準備もよし。道具を揃えて…出発しますか」
真剣士「おう…出発だ」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
-to be continued !-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真剣士「英雄の…血…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-Don't miss it!-
【第二幕】へ続きます
設定が好きだわ