二日遅れのポッキーの日ネタ
鳴ちゃんがいないもの状態
最後の方だけ地の分あり
そんな感じですがよければお付き合い下さい
元スレ
恒一「今日はポッキーの日なんだって」 女子「」ガタッ
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1384354041/
勅使河原「ポッキーの日?」
恒一「うん、今朝のことなんだけど、怜子さんがさ」
望月「三神先生がっ!?」
勅使河原「望月食いつき良過ぎだろ……サカキ、続けてくれ」
恒一「うん、朝食食べようと思ってダイニングに行ったら」
勅使河原「おう」
恒一「怜子さんが今日はポッキーの日だから、とか言って」
望月「続けて」
恒一「ポッキーの片方を口にくわえて『恒一くんはそっちからね』とかって」
勅使河原「へっ?」
恒一「最初意味が分からなかったんだけど、
どうやら同じポッキーを両側から食べるみたいなことらしくて」
勅使河原「お、おう……(どう考えてもポッキーゲームだよな、それは)」
恒一「正直恥ずかしいし断ったんだけど、そしたら」
勅使河原「そしたら?」
恒一「『恒一くん、これは現象の対策としてとても重要なことなの』とか真剣に説明されて」
望月「そ、それで、したの?」
恒一「そりゃ現象絡みじゃするしかないよ」
望月「そっか、したんだ……」ジーッ
望月(つまり榊原くんとキスしたら三神先生と間接キス……ゴクリ)
勅使河原(望月のやつ、サカキの唇見過ぎだろ……)
勅使河原「それにしても、ははは、対策って。
三神先生も理由付けるならもっとうまく――」
恒一「うん、危なかったよ。危うく知らない間に現象に巻き込まれるところだったし。
でも今日までずっと教えてくれなかった皆も悪いと思うんだよね」
勅使河原「えっ?」
恒一「えっ?」
勅使河原「……サカキ?」
恒一「なに?」
勅使河原「それ本気で言ってんのか?」
恒一「そりゃ本気だよ。だって、皆は僕が転校生で夜見北のことには詳しくないって、
ちゃんと知ってるはずなのにさ」
勅使河原「いやいや、そうじゃなくて」
恒一「?」
勅使河原「だからさ、それどう考えても三神先生に騙さr――」
赤沢「勅使河原は何を訳の分からないことを言ってるの(キリッ」
勅使河原「あ、赤沢!? いきなり何を」
赤沢「三神先生が言うことに間違いなんてある訳ないでしょ。
それにこの対策が有効なのは既に証明されているわ。対策係の私が言うのだから間違いない。
そんなことより恒一くん」
恒一「う、うん、なにかな」
赤沢「この対策について、三神先生からはどれくらい説明を受けてる?」
恒一「えっと、確か……『11月11日中に行わないと翌日以降に現象に巻き込まれる』
『夜見北関係者が同じ夜見山関係者と行うことで成立』『誘われた側は断っては駄目』
あとはこの対策が出来るに至った経緯とか」
勅使河原(三神先生必死過ぎだろ……)
赤沢「そう、そこまで聞いてるなら話は早いわね……じゃあ、私もお願いできるかしら」
勅使河原(oh……)
恒一「えっ? 赤沢さんと?」
赤沢「ええ」
恒一「流石にそれはちょっと……怜子さんは家族だからそこまで抵抗なかったけど、赤沢さんは……」
赤沢「恒一くん、この対策は三神先生が言った通り、言われた側に拒否権はないのよ」
恒一「それは知ってるけど、ほら、僕なんかより仲の良い杉浦さんとかと……」
赤沢「どうもおかしいと思ったけれど、どうやら三神先生が大切なことを伝え忘れていたようね。
これは異性同士じゃないと成立しない対策なのよ。ほら、恒一くんと三神先生もちゃんと異性同士でしょう?」
恒一「い、言われてみれば。なるほど、そうだったのか……」
勅使河原(おいおい、信じちゃうのかよ!?)
赤沢「ええ、そうなの。じゃあ改めて、恒一くん、お願いできる?」
恒一「まあ、そういうことなら……それで、いつすればいいのかな?」
赤沢「放課後にイノヤでお願いできるかしら」
恒一「分かった。放課後にイノヤだね」
赤沢「ありがとう、恒一くん。これで私も対策係として自分が現象に巻き込まれるなんて失態を演じずに済むわ」
勅使河原(なんだこれ……)
望月(僕も上手くすれば榊原くんとキス……じゃなかった、三神先生との間接キスが出来るのか)
キーンコーンカーンコーン♪
恒一「あっ、予鈴だ。一時間目は……体育だね」
勅使河原「うわっ、マジかよ!? いつの間にか他の男子みんな居なくなってるし」
望月「本当だ。急いで着替えに行かないとっ」
恒一「まあ僕は見学だから、急がなくても間に合うけど」
ドア「ガラガラガラ」タッタッタッ
赤沢「……ふふっ、自分の有能さが本当に怖くなるわ」
桜木「はい、正直さっきの赤沢さんは普段からは考えられないくらい有能でした」
赤沢「そんなに褒められると照れるわね」
杉浦(泉美、多分それは褒められてないわ)
綾野「そ、そんな対策あったんだ……。どうしよう由美、私まだ済ませてないよ」
小椋「いや、あれは三神先生の嘘だから」
綾野「そうだったんだ……うぅ……良かったよぉ……」
杉浦「それにしても、三神先生を見る目が悪い意味で変わっちゃいそう……(あと泉美のことも)」
赤沢「多佳子、それは聞き捨てならないわね。三神先生は素晴らしい先生だわ。なにしろ――」
桜木「……三神先生のお陰で、今なら榊原くんと簡単にキス出来る」
赤沢「流石ね、ゆかり」
桜木「ありがとうございます、赤沢さん」
綾野「えっ? どういうこと? 何でこういっちゃんと……」
小椋「榊原くんは三神先生の嘘を信じてるままだから、そこに付け込めば、ってこと」
綾野「なるほど……そっか、こういっちゃんとキスかぁ……///」
小椋「……」
松井「杏子ちゃん、せっかくだし私達もしよっか」イチャイチャ
金木「まあ私達はそんな建前いちいち必要ないけどね」チュッ
松井「杏子ちゃん、もっと……」イチャイチャ
金木「しょうがないわね、亜紀は」チュッ
杉浦(この二人は本当に場所を選ばないわね……)
藤巻「赤沢達はあんなこと言ってるけど、恵はどうするの?」
多々良「わ、私は……」
有田「恵ちゃん、私はやるよ」ガタッ
中島「松子ちゃん? 急に立ったりして一体……」
有田「今からポッキー買ってくる。一番近いコンビニならすぐ行って帰ってこれるし。
体育の先生には保健室で休んでるって言っておいて」タッタッタッ
藤巻「すごい行動力だ……」
中島「本当に教室出て行っちゃった」
藤巻「松子もやるみたいだけど、恵は?」
多々良「うぅ……」
<ミズノドリブルスゲー サッカーモウマイノカヨ
恒一「楽しそうだなぁ……」
和久井「今日は榊原くんも見学?」
<ココデナカオニパス! ナカオ、アトハゴールニキメルダケ! マカセロー! アッ…
恒一「うん、ちょっとね」
和久井「そっか、でも見てるのも楽しいよ」
<オイ、ドコケッテンダヨ! キュウニボールガキタノデ…
恒一「あはは、そうかもしれないね」
有田「……榊原くん」コソコソ
恒一「えっ? あれ、有田さん? 保健室で休んでるんじゃ……」
有田「そんなことより、ちょっと私に付いてきてくれないかな」
恒一「? 分かった……。和久井くん、行ってくるね」
和久井「うん、いってらっしゃい」
有田「ここまで来れば大丈夫かな」
恒一「有田さん、一体どうしたの?」
有田「これのことでね」つ一━━━
恒一「ポッキー? ああ、対策の」
有田「そうそう。お願いしてもいいかな?」
恒一「……うん、いいけど」
有田「じゃあ早速――」
カリカリカリカリ チュッ
有田「ふふふ、これで私の現象対策はばっちしだね、うんうん良かった」
恒一「お役に立てたなら何よりだよ」
有田「それから、もう一つだけ榊原くんにお願いしてもいい?」
恒一「いいけど、なに?」
有田「恵ちゃんのことなんだけど」
恒一「恵ちゃんって……ああ、多々良さんか」
有田「うん。その恵ちゃんだけど、榊原くんに対策頼むかも知れないから、
もしそうなったら、その時は優しくしてあげてね」
恒一「対策に優しくも何もない気がするけど……うん、分かったよ」
有田「ありがと。じゃあ私は保健室に戻るから」タッタッタ
恒一「ていうか有田さん、普通に元気だな……さて、僕も戻ろう」
・
・
・
キーンコーンカーンコーン♪
有田「ただいま」
藤巻「おかえり、っていうか。結局一時間目ずっと授業に出てこなかったけど」
有田「うん。ポッキー買って学校戻った後、すぐ榊原くんに頼んでやってもらった」
藤巻「本当にやったんだ……」
中島「流石だね」
有田「榊原くんの唇すごい柔らかかった。その後は保健室で感触を思い出しながら……ふふっ」
藤巻「そこまでは聞いてない」
有田「……恵ちゃん」
多々良「な、なに?」
有田「はい、これ。一袋開けないまま余ったから、恵ちゃんにあげる」
多々良「えっ、でも……」
有田「大丈夫、その代わりお昼に恵ちゃんのお弁当のおかず少し貰うから」
多々良「そ、そうじゃなくて」
有田「別に、もししないのなら普通に自分で食べてくれたらいいし……だから、はいっ」
多々良「うん……その、ありがとう、松子」
有田「うんうん、どういたしまして」
ザワザワザワザワ
中島「あっ、そろそろ男子も着替え終わって教室に戻ってくるみたいだね」
桜木(授業を途中で抜けて買いに行った私が一番だと思ってましたが……)
桜木(上には上がいますね、やっぱり)
桜木(まあそれはさておき、休み時間も残り少ないし、早く『対策』をしちゃいましょう)
桜木「榊原くんっ」
恒一「桜木さん? どうしたの?」
桜木「『対策』のことでお話が……一緒に来て貰えますか?」
風見「そういうことなら僕も」
桜木「風見くんはいいです」
風見「いや、でも」
桜木「風見くんはいいです」
風見「」
桜木「では行きましょう、榊原くん」スタスタスタ
風見「」
カリカリカリカリ チュッ
桜木「ふふっ、『対策』しちゃいましたね」
恒一「うん」
桜木「ちなみに、私はこれがファーストキスなんですよ?」
恒一「そ、そうなんだ。というか、やっぱりこれも対策とはいえキスとしてカウントされるのかな」
桜木「榊原くんはどっちがいいですか?」
恒一「そうだね、僕は……カウントされない方がいいのかな。
そうじゃないと今朝の怜子さんがファーストキスということになるし。
いや、別に怜子さんが相手だと嫌とかって訳じゃなくて。その……」
桜木「ふふっ、分かってます。やっぱり好きな人としてこそのファーストキスですしね。
では今回のはあくまで対策としてで、キスとはカウントしないということで」
恒一「うん」
桜木「そうなると、榊原くんのファーストキスはまだってことになりますね」
恒一「そう、だね。そういうことになるのかな。って、こんなこと言うのは桜木さんに失礼だよね、ごめん」
桜木「いえいえ、気にしないでください。……でも」
恒一「?」
桜木「その理屈でいくと、やっぱり私にとってはこれがファーストキスになるんですよ?」
恒一「えっ? それって……」
桜木「今日の私との『対策』が榊原くんにとってもファーストキスになる日がいつか来ればいいんですけど……なんて、ふふっ」
有田「桜木さん意外と行動早いね……」
藤巻「松子ほどではないけどね」
有田「恵ちゃんも頑張らないと」
多々良「や、やっぱり私は……」
藤巻「まあ実際、せっかくのチャンスなんだし恵も勇気出してみてもいいかもな」
中島「そうだね、松子ちゃんみたいに自分に素直に――」
有田「そもそもこの対策って別に一回きりである必要はないよね?
たくさんやった方がより安全になるという考え方も出来るし。よし、もう一回榊原くんに頼んでみようかな」
中島「ううん、流石に松子ちゃんみたいにまではいかなくていいけど」
藤巻「ああ、松子の10分の……いや、100分の1くらいなら自分に素直になるってことも大切だぞ」
多々良「……うん」
綾野「ポッキー買ってきちゃった」
小椋「昼休みになった途端に急いでお弁当食べてどこに行くのかと思ったら……」
綾野「これで私もこういっちゃんとキスが出来るんだよね……うう、緊張してきた」
小椋「キスじゃなくて対策だけどね、少なくとも建前は」
綾野「そうだけど、うぅ……」
小椋「綾、あくまで建前は現象に巻き込まれない為の対策なんだからさ。
そんなにバレバレに意識してたら榊原くんに怪しまれるよ」
綾野「だって……こういっちゃんとキスするんだよ? 緊張しないなんて無理だよ」
小椋「そうかもしれないけど」
綾野「じゃあ由美は緊張せずに出来る?」
小椋「あ、あたしは別に関係ないし」
綾野「えっ、何で? こういっちゃんとキスしたくないの?」
小椋「したいとかしたくないとかじゃなくて」
綾野「したくないの?」
小椋「……ま、まあ興味がないと言ったら、ちょっと嘘になるかも……じゃなくて」
綾野「じゃあ由美が先にやって」
小椋「は、はい?」
綾野「緊張せずにこれは対策だからーって感じでこういっちゃんと自然なキス」
小椋「ちょ、ちょっと待ってよ」
綾野「私は由美が本当に緊張してないか横で見てるから」
小椋「いやいや、他人に見られながら榊原くんとキスするとか恥ずかしすぎでしょ」
綾野「これはキスじゃなくて対策なのに恥ずかしがるとか変だよ……って私の親友が」
小椋「うっ……」
小椋「……す、すればいいんでしょ」
綾野「えっ?」
小椋「あたしもするって言ったの!」
綾野「そっか、えへへ……よかった。由美がいてくれたら心強いよ」
小椋「全く、もう……」
綾野「じゃあ、早速二人で頼みに行こっか」
小椋「……うん」
カリカリカリカリ チュッ
綾野(いざやってみると、案外どうにかなっちゃうもんだね、うん。
それにしても、こういっちゃんの唇柔らかいなぁ……)
チュッ チュッ チュッ
恒一「……あ、綾野さん? もういいんじゃないかな」
綾野「あっ、えへへ……ごめんね、こういっちゃん。じゃ、じゃあ次は由美に対策してあげて」
恒一「うん。それじゃあ小椋さん」
小椋「も、もうあたしの番か……」プルプル
恒一「……なんか、大丈夫?」
小椋「な、何が? べ、別にあたしは大丈夫だけど!?」
綾野(由美……すごく緊張してるよ!? 私なんかより全然っ!!)
恒一「じゃあ行くよ」
小椋「う、うん……」
カリッ……
小椋(えっ? な、なにこれ……想像以上に滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……)
カリッ……
小椋(何で綾も他の子もこんなの普通に出来るの!? もう少しで本当にキスしちゃうよ……)
カリッ……
小椋(このまま榊原くんとキス……キス……って、やっぱり恥ずかしすぎるっ!!)パキッ
小椋「あっ……」
恒一「あ、折れちゃった。正直初めてのパターンだ。
これは対策的に何か問題が起きたりしないのかな……小椋さんは知ってる?」
小椋「(これでよかったんだ、うん……)」
恒一「小椋さん? ……って顔真っ赤だけど、大丈夫?」
小椋「(べ、別に榊原くんとキスなんてしたい訳じゃなかったし……)」
恒一「反応がない……顔の赤みといい何か対策失敗の影響が出ちゃったのか?
こんなことならもっと怜子さんから詳しく聞いておくんだった」
小椋「(はぁ……何だかんだ言いながら綾も普通に出来たのに、
偉そうなこと言ってたあたしは緊張で失敗しちゃうなんて……)」
綾野「こういっちゃん、すぐやり直せば大丈夫だよ」
恒一「そうなの?」
綾野「うん、失敗してもすぐやり直して成功すれば大丈夫だから」
恒一「分かった」
小椋(って、いつまでも考え込んでても仕方ないか。榊原くんに変に思われちゃうし)
小椋「榊原くん、その……」
恒一「あっ、ようやく反応が……小椋さん、もう一回しよう」
小椋「うん、もう一回……って、えっ?」
恒一「やり直して成功すれば失敗は帳消しになるらしいんだ」
小椋「えっ? え、えっ?」
恒一「じゃあ行くよ」
カリッカリッ……
小椋(う、うう……も、もうどうにでもなれ……)
カリッカリッ チュッ
小椋(っっ!?///)
恒一「今度は成功した、これで……って小椋さんの顔がさらに真っ赤になってるんだけど」
小椋「こ、これはっ!! そ、その、違うからっ……そういうのじゃないから」
恒一「う、うん、それならいいんだけど」
小椋(うぅ……恥ずかしすぎて死にそう……)
カランカラン♪
知香「あら、恒一くんいらっしゃい」
恒一「どうも、お久しぶりです」
知香「ふふっ、泉美ちゃんがあの席でお待ちかねよ」
恒一「あっ、はい、ありがとうございます」スタスタスタ
赤沢「こんにちは、恒一くん」
恒一「ごめん、待たせたかな」
赤沢「いいえ、今来たところよ……ふふ、なんてね」
知香「ご注文は何にしますか?」
赤沢「いつもので。あと、恒一くんにも同じものを」
恒一「あっ、また赤沢さんが決めちゃうんだ」
赤沢「でも、嫌いじゃないでしょ?」
恒一「確かに僕でも美味しく飲めるコーヒーだとは思うけど、えっと、何て名前だったっけ」
赤沢「ハワイコナ・エクストラファンシーよ(ドヤァ」
恒一「あ、そうそう。そうだったね」
赤沢「さて、恒一くん?」
恒一「うん?」
赤沢「その、コーヒーも飲んだところで、そろそろ対策に移りたいんだけど」
恒一「ああ、うん。でもいいの? 飲食店でお菓子持ち込みとか」
赤沢「知香さんに許可は取ってあるから大丈夫よ」
恒一「そっか」
赤沢「こほん。じゃあ早速」パクッ
赤沢「来て、恒一くん」
恒一「……うん」
赤沢「……?」
恒一「……ふふっ」
赤沢「……恒一くん? どうかした?」
恒一「普段しっかりしたイメージの赤沢さんが、そうやってポッキーくわえたまま
じっと待ってるのが、餌を待つ雛鳥みたいでちょっと面白くて」
赤沢「なっ……///」
恒一「って、ごめん。真面目な対策なのに不謹慎なこと言っちゃって」
赤沢「それは……別にいいけど」
赤沢(……指摘されたら、ずっとこうしてるのがなんか恥ずかしくなってきたじゃない)
赤沢「……は、早くしてくれない?」
恒一「うん、分かった、じゃあするよ」パクッ
赤沢「え、ええ……」
カリカリカリカリ チュッ
赤沢(ふふっ、ファーストキスはレモンの味ならぬコーヒーの味ね)
「はぁ……」
吹奏楽部の練習を終えた後、音楽室に残って一人溜息。
昔から、どちらかと言えば消極的な自分の性格が余り好きではなかった。
それでも、今日ほど嫌になってしまう日はなかったと思う。
散々皆から背中を押して貰ったのに、結局は榊原くんに声を掛けられず仕舞いで。
その癖して、いつまでもそのことが心残りで仕方なくて。
部活中にも『今日は集中力が足りてない』なんて先生から何度も注意されてしまった。
挙句には体調不良を疑われて帰宅を促される始末だ。
「……本当、自分が嫌になりそう」
また、溜息。
少し俯いて、その拍子に胸に抱えた通学鞄が視界に入って来る。
それを見て、私はまた少し憂鬱になる。
鞄の中には、松子から貰ったポッキーの袋が入っている。
――当然、未開封のままだ。
『今日は遅くまで学校に残ってるから、恵ちゃんの部活が終わったら一緒に帰ろう?』
部活に所属していなくて、普段は放課後すぐに帰宅する松子にそう誘われたのは、
放課後を迎える直前のことだった。
『部活が終わったら音楽室で待ってて、迎えに行くから』
松子の言葉を思い出し、壁掛け時計を見る。
部活が終わってから、もうそろそろ10分が経つという頃だった。
「松子、まだかな……」
一人呟き、ふと考える。
松子は、私のことをどう思うだろうか。
結局、松子から貰ったポッキーは無駄になってしまった。
そう考えた途端、何か無性に松子に合わせる顔がないような気がして、
気が付けば私はポッキーの袋を開けていた。
「……何してるんだろう、私」
松子が私にくれた時、しないなら自分で食べてくれればいい、と言っていたのは事実だ。
けれども、きっと松子だって本当に私にそうして欲しくて言った訳ではないだろう。
それなのに、幾ら無駄にしたら悪いからと、せめて自分で食べてしまおうなんて、
完全にただの自己満足に過ぎなかった。
「……あっ、チョコレートが」
袋を開封して一本取り出してみると、コーティングされているチョコ部分は少し溶けかかっていた。
一口食べてみる。
本来の食感からは遠く離れた何とも言えない口触りに、私の気持ちはますます落ち込んだ。
――ガラガラガラ。
少しずつ食べながら、半分くらいまで減った頃だろうか。扉の開く音が私一人の音楽室の中に響く。
やっと来てくれた、という気持ちと、合わせる顔がない、という気持ち。
そんな二つの想いを抱えながら、私は松子を迎えようと開いた扉の方へと視線を向けて、そのまま思考が停止してしまった。
「さ、榊原くん?」
そこにいたのは、榊原くんだった。
「……えっ、どうして?」
思わず一人呟く。
思考回路はまだ乱れたままだった。
「よかった、多々良さん、まだ帰ってなくて」
少し息を切らせた榊原くんが、そう言ってほっとした表情を見せる。
私は相変わらず、状況が理解できないままで。
「多々良さん、まだ対策が済んでないんだよね?」
まさか榊原くんの口からそのことを言われるとは思わなくて、私は完全に混乱してしまう。
「あはは、ごめん。いきなりこんなこと言われても反応に困るよね」
そんな私の様子を察してだろうか。
榊原くんは少し気まずげに頭を掻いた後、私にまるで説明するかのように再び口を開いた。
「学校が終わった後はイノヤに行ったんだけど、それで帰ろうと思ったら店の外に有田さんが居て。
多々良さんがまだ対策が済んでなくて、それで音楽室に残ってるはずだから行って欲しいって……」
榊原くんが語るここに至るまでの経緯を聞いて、頭の中で考える。
そうして辿り着いた答えは、つまり――松子が私に最後のチャンスを与えてくれたということだった。
きっと始めからこうするつもりで、松子は私に部活が終わったら音楽室で待っていて欲しいと言ったのだろう。
「途中のコンビニでポッキーも買ってきたし、その、僕と――」
榊原くんがそう言ってポッキーの箱を取り出す。
このまま黙っていれば、きっと榊原くんの方から対策を持ちかけてくれるだろう。
そして、三神先生が決めた対策のルールには『相手は拒否できない』というものがある。
だから、消極的な私はただそれを受け入れるだけで……。
――本当に、それでいいのだろうか?
それは、流石に違うと思った。
きっと、この瞬間は、好きになれない自分を少しでも変えられるチャンス。
だから―――。
「……榊原くん、少し待ってください」
言葉を途中で遮られて、不思議そうな顔をする榊原くん。
私はそんな榊原くんを傍目に小さく深呼吸をして。
「私と、対策してくれませんか?」
自分から言った。
あれだけ言えずにいた台詞を、ようやく。
「あ、うん。分かった」
榊原くんは承諾してくれながらも、どこか不思議そうだった。
それもそうだろう。私がしたことは、榊原くんが言おうとした言葉をわざわざ自分が先に言っただけに過ぎない。
榊原くんからすれば、その先の結果が同じである以上、私の行動に意味など見出せないはずだ。
でも、別にそれでよかった。
それでも、私にとってそれは、自分を変える小さな一歩なのだから。
「じゃあ、開けるよ」
そう言って榊原くんが自身の持つポッキーの箱を開けようとする。
私はそれを見て、考えるより先に言葉を発していた。
「その、こっちでお願いしますっ」
私の手の中には、チョコ部分の溶けかかったポッキーが半分だけ入った袋。
松子が、私にくれたもの。
「その、こっちのポッキーでお願いします。
時間が経ってて、チョコも溶けてて、あの、申し訳ないんですけど」
「うん、分かったよ」
榊原くんは私の言葉を、嫌な顔一つせず受け入れてくれた。
「……それでは、その、お願いします」
そう言って、私は溶けたチョコの方を口にくわえて、榊原くんの方に先を向ける。
榊原くんはゆっくりと、反対側を口にした。
ふと目が合う。
こんな風に榊原くんと真っすぐ視線が合ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。
そう思うと、今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。
榊原くんが一口分、前に進む。
榊原くんとの距離が、少し近付く。
少し逡巡した後、私も一口分、前に進んだ。
榊原くんとの距離が、また近付く。
それを繰り返して、お互いの顔が、文字通り目と鼻の先まで近付いた。
きっと私の顔は真っ赤になっているだろう。
窓から差し込む夕日が、私の頬の赤みを少しでも隠してくれていることを祈るばかりで。
そして―――。
触れるか触れないか分からないくらいの、軽い口付け。
ほんの一瞬だったような、すごく長い時間だったような。
ふわふわした、とても不思議な気持ち。
「これで、一安心だね」
そう言って離れた榊原くんは、どこか気恥ずかしそうで。
恥ずかしいのが私だけじゃなくて、少しだけ安心する。
そんな風に榊原くんを見つめていると、その視線に気づいたのだろう。
榊原くんが頬を掻きながら口を開く。
「なんか、多々良さんと対策するのはちょっと緊張した。
他の人とは、対策だって割り切っちゃってからは別に意識したりとかはなかったんだけど」
「……えっ?」
それは、どういう意味だろうか。
暫く考えて思い至ったのは、私にとって凄く嬉しい、そんな可能性。
――けれど、流石にそんなことはあるはずなくて。
「ほら、他の人とはよく喋ったりしてたけど、多々良さんとは殆ど話したことなかったから」
「そう、ですね……」
改めてお互いの距離を感じてしまう。
そう、今の私は、榊原くんにとっては友達ですらないのかもしれない。
余り話したことのないクラスメイトの一人。それが、榊原くんにとっての私という存在。
そんな関係は、もう嫌だった。
だから――。
「あの、榊原くんっ。私と……友達になってくださいっ」
勇気を振り絞って発した言葉、それは、とても今更な申し出。
榊原くんが転校してきてから、既に半年近くが経っているのだから。
流石に榊原くんも、少し驚いた表情を見せる。
でも、それも一瞬で。
「じゃあ、改めて。榊原恒一です。よろしく」
そう言って笑った榊原くんに、私も自分が出来る最高の笑顔を作ってから。
「多々良恵です。改めて、よろしくお願いしますね」
大半の部活が活動時間を終えて、人気も少ない学校の音楽室。
そこに二人残って、そんなやり取りをしていることが少しおかしくて。
私と榊原くんは、思わず笑い合った。
音楽室に鍵を掛けて、新しく出来た“友達”と並んで歩く。
友達であり、好きな人でもある彼から見えないように、私はそっと人差し指で唇をなぞった。
明日、松子に会ったら何て言おう。
言いたいことはたくさんある。
ちゃんと対策を出来たこと、自分から言えたこと。榊原くんと友達になれたこと。
そして―――ありがとうをいっぱい。
きっと松子は「どうだった?」と楽しげな笑顔で聞いてくるだろう。
だから、私はこう答えようと思う。
――うん、松子の言う通り。榊原くんの唇は柔らかかったよ。
以上です。ありがとうございました。