勇者「魔王捕まえた」 【前編】 【後編】 の続きです

471 : 後日談1[saga] - 2011/06/07 23:19:19.70 OaS0/vZfo 348/461

<勇者と剣士>


剣士「処女よ」

勇者「えっ」


472 : 後日談1[saga] - 2011/06/07 23:20:42.65 OaS0/vZfo 349/461


剣士「何よその顔……うれしくないの?」

勇者「うれしいかどうかはわからないけれど、びっくりした」

剣士「まあ、そうよね」

勇者「いやだって普通……」

剣士「普通、何?」

勇者「いや」

剣士「……」

勇者「……」


473 : 後日談1[saga] - 2011/06/07 23:21:43.42 OaS0/vZfo 350/461


剣士「……わたしは身体の隅々まで、パ……あの男に汚されてるの」

勇者「……」

剣士「顔も、首も、方も、背中も、もちろん乳房やお尻も」

勇者「……」

剣士「でも最後まで汚されなかった場所があるの」

勇者「……」

剣士「一番最後に残しておこうとでもしたのかしら。それともわたしがそれだけは本気で拒んだからかしら。
   わからないけれどとにかく事実として残ってる」

勇者「……」

剣士「ねえ、勇者」

勇者「……ああ」

剣士「その……あの……今なら、ね……? なんとかなる気がするの」

勇者「……うん」

剣士「……行こう」

勇者「君となら、どこへでも」


486 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/07 23:44:12.36 OaS0/vZfo 351/461


<師匠と魔王>


魔王「とりあえず休戦協定が結ばれて一時の平和が――」

師匠「飯くれ」

魔王「来なかった!」


488 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/07 23:47:16.59 OaS0/vZfo 352/461


魔王「ていうかあなた生きてたんですね」

師匠「ずいぶんな言い草じゃねえか」パクパク

魔王「だってあのシーンは弟子を守って死ぬ感じじゃないですか」

師匠「それに乗っからないカッコよさ?」

魔王「邪道です」


489 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/07 23:50:19.43 OaS0/vZfo 353/461


師匠「だってよー」

魔王「だってもクソもありませんよ」

師匠「そんなこと言うとお前鍛えてやんないぞ」

魔王「勇者さんに学ぶからいいでーす」

師匠「あいつかー。立派になったもんだよな」

魔王「元帥補佐ですもんね」

師匠「実質最高権力者」

魔王「ですよねー」


490 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/07 23:53:13.32 OaS0/vZfo 354/461


魔王「ところで、勇者さんとの馴れ初めってどんなんだったんですか?」

師匠「ああ、あれはいつだったか……」


     ・
     ・
     ・


師匠「腹減った……」

勇者「奢りましょうか?」

     ・
     ・
     ・


魔王「……だけ?」

師匠「いやー、運命だな」シミジミ

魔王「どこが……」

師匠「お前空腹の恐ろしさを知らんのだな!」

魔王「まあ、知りませんが」

師匠「これだからボンボンは……」


492 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/07 23:58:35.87 OaS0/vZfo 355/461


師匠「もっと食い物の大事さをだなー」

魔王「あ、ごめんなさい、メイドさんが呼んでます」

師匠「そういえば最近嬢ちゃんとはどうなんだ?」

魔王「聞きます?」ニヘラ

師匠「やっぱりいい」

魔王「そんなこと言わずにー」

師匠「さっさと行った行った」

魔王「メイドさーん、今行きますよー」

師匠「やれやれ……人の気も知らずによ」


502 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:25:42.78 N6YWZ/2jo 356/461


<剣士とメイド>


剣士「……」

メイド「……」

剣士「あれ以来話す機会、なかったわよね」

メイド「そう、ですわね」

剣士「その、最近どうなのよ」

メイド「まずまず、ですわね」

剣士「……」

メイド「……」

剣士・メイド(なんとなく気まずい……)


503 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:30:32.48 N6YWZ/2jo 357/461


剣士「あー……」

メイド(ええと……)

剣士「そう、そうよ、あれあれ」ゴソゴソ

メイド「?」

剣士「将棋よ」ドン

メイド「あ……」

剣士「久しぶりにどう?」

メイド「……わたくしに勝てますの?」

剣士「わたしもあれから勉強したのよ?」

メイド「だったら相手になりますわ」フフン

剣士「そうこなくちゃね」


504 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:33:51.41 N6YWZ/2jo 358/461


メイド「……」パチン

剣士「……」パチン

メイド「なるほどそうますか……」パチン

剣士「少しは成長してるでしょ」パチン

メイド「そこそこ、ですわね」パチン

剣士「見てなさいよー」パチン


505 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:36:24.47 N6YWZ/2jo 359/461


メイド「win!」エッヘン!

剣士「相変わらずでたらめに強いわね……」

メイド「ああ、頑張ったらお腹が好きましたわ」

剣士「お茶にしましょうか」


506 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:37:58.93 N6YWZ/2jo 360/461


メイド「……」ズズ……

剣士「……」ズズ……

メイド「……」

剣士「……」


 チュンチュン……


メイド「平和、ですわね」

剣士「平和ねー」

メイド「……」

剣士「……」ズズ

507 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:42:25.70 N6YWZ/2jo 361/461


メイド「さて」スッ……

剣士「……?」

メイド「剣士」

剣士「なによ改まって」

メイド「わたくし、あなたに申し上げなければならないことがありますわ」

剣士「……何?」

メイド「ありがとうございます」ペコリ

剣士「え?」

メイド「剣士には感謝してますの」

剣士「やめてよすぎたこと」

メイド「いえ、あの頃の関連ではなく。
    わたくしと友達でいてくれることに関してですわ」

剣士「友達?」

508 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:45:49.49 N6YWZ/2jo 362/461


剣士「友達、友達……」

メイド「違いますの……?」シュン……

剣士「あ、いや、そうじゃなくて、どちらかというと仲間って方が近いんじゃないかしら」

メイド「なるほど、そうかもしれませんわね。
    ともかくわたくし、同性の知り合いがいませんでしたから」

剣士「え? メイド仲間は?」

メイド「その、わたくしは人間の血が入ってますから、その……」

剣士「あーなるほど……」


509 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:50:43.00 N6YWZ/2jo 363/461


メイド「そういうわけであなたには感謝してますの」

剣士「そういうことね……分かったわ」

メイド「はい……」

剣士「でも、それをいうならあなたにもお礼言わなきゃね。わたしだって同じだったから」

メイド「あ……」

剣士「だからおあいこ。これからもよろしく」スッ

メイド「握手ですわね」ギュッ

剣士「……勇者の事は任せて」

メイド「えっ」

剣士「えっ」


510 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:53:18.43 N6YWZ/2jo 364/461


剣士「……」

メイド「……」

剣士「まさかと思うけど……」

メイド「はい」

剣士「まだ勇者の事諦めてないの?」

メイド「一応は」

剣士「何でよ! 最近魔王といい感じじゃない!」

メイド「それとこれとは話が別ですわ!」

剣士「呆れた……あなたってそんなに軽い女だったの?」

メイド「違います、純情なんですわ!」

剣士・メイド「むー!」


511 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 00:58:34.58 N6YWZ/2jo 365/461


メイド「実は今度勇者さまとデートですの!」

剣士「ええ!? 聞いてないわよそれ!」

メイド「べー、ですわっ」

剣士「魔王にいいつけるわよ」

メイド「そ、それは……」

剣士「……」

メイド「ああ、板ばさみになるわたくし……」

剣士「ハァ……わたし、ちょっとこれからの付き合い方について勇者と相談してくるわ」

メイド「それならわたくしもいきますわ」

剣士「なんでよ!」

メイド「なんですか!」


 ギャイギャイ ギャイギャイ……



523 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:30:23.79 N6YWZ/2jo 366/461


<勇者と魔王>


勇者「よっ」

魔王「あ、どうも」


524 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:30:54.84 N6YWZ/2jo 367/461


魔王「お茶どうぞ」コト

勇者「どうも」ズズ……

魔王「どうですか最近は?」

勇者「まあ、ぼちぼちかな」

魔王「そうですか」


525 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:31:23.77 N6YWZ/2jo 368/461


勇者「……」ジー

魔王「……なんですか? ぼく男と見つめ合う趣味はありませんよ?」

勇者「俺もないけど」

魔王「じゃあ、なんですか」

勇者「思い出してはくれないのかな、って」

魔王「ああ、そのことですか……」


526 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:32:09.17 N6YWZ/2jo 369/461


魔王「ぼくたちはもともと勇者候補生同士だった……でしたよね?」

勇者「ああ。別々のクラスで鍛えられてた」

魔王「勇者さんを信用しないわけじゃないですが、魔王の息子を勇者候補生にしますかね?」

勇者「……」

魔王「?」

勇者「あの頃のお前は、俺のことをお兄ちゃんと呼んだよ」

魔王「それが?」

勇者「いや……」


527 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:33:13.54 N6YWZ/2jo 370/461


勇者「魔王の息子を勇者候補生とするか、という質問には、イエスとしか答えられない」

魔王「……」

勇者「魔王にも人間並みの情の厚さを求められるかといえば、疑問に思わざるを得ない。
   しかし我が息子を簡単に殺す親はいないと判断された」

魔王「子供に親殺しさせようとしたわけですか……」

勇者「酷い話だよ」


528 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:33:43.89 N6YWZ/2jo 371/461


魔王「じゃあぼく誘拐された子なわけですか?」

勇者「そうだ。そしてまた騎士軍の方から逆に魔界に誘拐された」

魔王「……」

勇者「そして魔術的処理によって記憶を改竄・消去されてしまった」

魔王「……」

勇者「……」


529 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:34:22.23 N6YWZ/2jo 372/461


魔王「酷い、話です」

勇者「全くだ」

魔王「あの」

勇者「ん?」

魔王「ぼくの話をしてもらえませんか? ぼくはどんな子だったんでしょうか?」

勇者「……元気な子だったよ。いたずらが好きでね。一緒に騎士軍の監視をすり抜けては夜遊びに出かけた」

魔王「へえ……」

勇者「といっても、夜の森で星を見たり、蛍を追いかけたり、花の蜜を吸ってみたりだけどな」

魔王「……」


530 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:34:55.73 N6YWZ/2jo 373/461


魔王「そうですか。ありがとうございます、勇者さん」

勇者「……」ジー

魔王「だから男と見つめ合う趣味はありませんって」

勇者「……」ジー

魔王「……あーはいはい、お兄ちゃん! これでいいですか!?」

勇者「もっと優しく」

魔王「……お兄ちゃん?」

勇者「もっと情熱的に」

魔王「お兄ちゃーん!」

勇者「もっと――」

魔王「遊ばないでくださいよ」


531 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:36:01.93 N6YWZ/2jo 374/461


勇者「でも、結局完全には思い出してはもらえなかったな……」

魔王「なんかすみませんね」

勇者「いや……」

魔王「いや、でも……ほんの少しだけ」

勇者「?」

魔王「友達に――」



子供『ぼくと友達になってください!』



勇者「……ああ。お前の殺し文句だ」

魔王「え? ぼくそれいろんな人に言ってたんですか?」

勇者「『お兄ちゃん』と合わせて男女関係なく効く最終兵器だった」

魔王「は、はあ……」

勇者「今度メイドに『お姉ちゃん』って言ってみるといい」

魔王「やってみます」コクコク


532 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 05:36:37.52 N6YWZ/2jo 375/461


勇者「よし、じゃあ行くかな」

魔王「もうですか?」

勇者「ああ、仕事が残ってる」

魔王「ええ、分かりました」

勇者「行ってくるよ」

魔王「行ってらっしゃい、……お兄ちゃん」

勇者「……効くな」

魔王「そうですか」


545 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:27:10.21 N6YWZ/2jo 376/461


<剣聖と剣士>


 ――わたしの朝は、口腔粘膜の、ぬめり絡み合う感触から始まる


剣士「んん……」ヌチャァ……

剣聖「ん……」ピチャ……

剣士「んはっ……」ビクン!

剣聖「起きたか?」

剣士「ハァ……ハァ……」コクリ……

剣聖「なら鍛錬の用意をするんだ」


 ――そう言って男は去っていく。気絶から覚めた頭は重い


546 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:28:12.98 N6YWZ/2jo 377/461


 ――朝の走り込み。ここに汚濁は潜まない。わたしの生活の中で唯一清らかな時間


剣士「ハッ、ハッ……」タッタッタッタ……


 ――透明な日の光の中、身体を引き延ばし拡張していく感覚


剣士「フッ、フッ……」タッタッタッタ……


 ――このまま帰りたくないとも思う。その意思とは反対に、奥底で疼く躰を見下ろしながら


547 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:29:46.80 N6YWZ/2jo 378/461


 ――走り込みの後は剣をふるう。気の遠くなるような数を、這うような速度で踏んでいく


剣士「フッ、フッ……」ビュッ ビュッ……


 ――一振りごとに空間に切り傷が刻まれるのを感じる。それを一点にまとめる意識


剣士「フッ、フッ……」ビッ ビッ……


 ――鋭敏になる意識。だがそこに一筋の違和が差し込まれる


剣士「!」ビク!

剣聖「続けろ」


 ――躰を蛇が這う。そのように錯覚する。実際に這っているのは人間の腕だ


剣士「ヒュッ、ヒュッ……」ビシ ビシ……


 ――かざ切り音とともに躰に腕が食い込む。撫でられ、つままれ、痺れが走る。


剣士「くっ、うっ……」ビュン ビュン……


 ――次第に息が上がる。躰が震える。立っていられない


剣聖「続けろ」

剣士「……はい」


 ――それでも進まねばならない


548 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:30:39.17 N6YWZ/2jo 379/461


 ――目の前の男を打ち倒すことができたらどんなにいいか。いつもいつも夢想する


剣士「……」ジリ

剣聖「……」


 ――だがその思いと裏腹に知っている、確信している。わたしは負ける


剣士「やああぁぁッッ!」バッ!

剣聖「……」シュッ!


 ――出た足を斬りつけられひるむ。その隙を、男は見逃さない


剣聖「……」シュッ ビッ バシュッ!


 ――一刀ごとに血が散るがごとくに服が裂ける


剣士「やっ……」


 ――閃きはやまない。服はすぐに原形をとどめなくなり、素肌が外気にさらされる


549 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:31:37.91 N6YWZ/2jo 380/461


剣士「やだっ!」ダッ!


 ――思わず身をひるがえすその背中に、最後の一刀が浴びせられる


剣士「ひぐっ!」ドサァ


 ――背の真ん中を打たれ、痺れて立てない


剣士「あ……あ……」


 ――それでも這って逃げようとする背に、覆いかぶさる暗い影


剣聖「お前わざと負けているんだろう」


 ――するりと肌を何かが滑る


剣聖「俺に嬲ってほしいんだろう」


 ――違う! 叫ぼうにも声は出ない。背筋にぬめる何かが触れる。


剣聖「いいだろう、我が娘。愛してやるぞ」


 ――嫌悪感はすぐにかすれて消えていった


550 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:32:23.24 N6YWZ/2jo 381/461


剣士「あっ……はっ……」

剣聖「……」ピチャ……ピチャ……

剣士「うあ、あ……」

剣聖「……」ヌロ……

剣士「ひぅ……!」


 ――躰に打たれた無数の痣。舌と指は、それを丁寧に撫でていく


剣士「いや……いやぁ……」

剣聖「……」ピチャリ……

剣士「パパぁ……」

剣聖「……」ギュッ

剣士「あぅ!」ビクンビクン!


551 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:32:54.96 N6YWZ/2jo 382/461


     ・
     ・
     ・


 ――走っていた走っていた。朝の光の中どこまでも走っていた


剣士「……」タッタッタッタ……


 ――逃げようと決めたあの朝


剣士「……」タッタッタッタ……


 ――続く道をどこまでも走っていた


剣士「う……」タッタッタッタ……


552 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:33:43.71 N6YWZ/2jo 383/461


 ――泣こうとして、泣けないことに気付いた


剣士「うう……」


 ――だから代わりに足を必死に動かした


剣士「ううう……っ」


 ――どこまでも走っていけそうな気がした


剣士「うぐ……ひぐ……」


 ――……どこにも行けないのに気付くのに、そう長くはかからなかった


553 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:34:25.05 N6YWZ/2jo 384/461


剣士「ああっ! ああっ――!」


 ――嬲られていた。


剣士「うあ! ああっ!」


 ――どうしようもない程嬲られていた。


剣士「もうやめて! お願い!」


 ――夕方になって帰ったあの日。わたしはパパに汚された


剣士「お願い……!」


 ――もう大抵のことは響かない。信じていたそれはたやすく崩れ落ちる


剣士「きゃああああ!」


 ――圧倒的な快楽。飛ぶようでいて、なによりも速く落下するような。そんな感覚


555 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:35:22.41 N6YWZ/2jo 385/461


 ――悲鳴は口でふさがれた


剣士「――ッ! ――ッ!」


 ――くぐもって消える悲鳴。もしくは歓喜の声


剣士「……っ」


 ――ああ認めよう。あの時わたしは堕ちていた


剣士「……」


 ――唾液にぬめり、そして白濁にまみれ。熱を帯びて波打っていた


556 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:36:08.99 N6YWZ/2jo 386/461


 ――認めよう。あの時わたしは堕ちていた


剣士「……」


 ――どこまでも底がなく落下していく何か


剣士「……」


 ――取り返しのつかない何か


剣士「……」


 ――あの時わたしは堕ちていた。最後まで行かなかったのは奇跡に違いなかった


剣士「……」


 ――どうしようもなくくだらない奇跡だった


557 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:37:26.12 N6YWZ/2jo 387/461


――……


 心の底に、みえない小さな器を用意した。
 汚濁した何かによって満たされていくそれ。
 泥のような中身はどんどんたまっていき、いつかは器からあふれるだろう。

 その時は。
 わたしはきっと今度こそここを出ていく。
 出て行って二度と戻りはしないだろう。


――……


558 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 17:38:11.94 N6YWZ/2jo 388/461


剣士「ねえ勇者」

勇者「何か?」

剣士「ごめんね」

勇者「……」

剣士「ありがとう」

勇者「……」ギュッ

剣士「……」


 ――あれはそれほど経たないうちに実現し、わたしは新たな世界に足を踏み出したのだが、それはまた別の話


剣士「……」


 ――身体の痣は消えたが、まだどこかに鈍い痛みは残っている


574 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:26:17.73 N6YWZ/2jo 389/461


<メイドと剣士と後一人>


メイド「キャッキャ」

剣士「ウフフ」


575 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:28:38.19 N6YWZ/2jo 390/461


<帝都>


メイド「楽しいですわねー」

剣士「そうね、楽しいわ」

メイド・剣士(今この場においてあなたさえいなければ!)


576 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:30:07.62 N6YWZ/2jo 391/461


メイド「あれはなんですの? 露店? なんですかそれ」

剣士「あなたそんなことも知らないの?」

メイド「わたくしは勇者さまと話してるんですわっ
    ……ふむふむ、野外に出したお店ですか」

剣士「……」

メイド「え!? 何か買ってやる? ホントですの!?」

剣士「!」

メイド「ありがとうございます!」


577 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:30:36.48 N6YWZ/2jo 392/461


剣士「……」ブス

メイド「~♪」ルンルン!

剣士「ねえ、勇者……いえ何でもないわ」

剣士(ここで欲しがっては、女がすたるわよ剣士……!)

メイド「ブレスレット~♪ 勇者さまから買ってもらったブレスレット~♪」

剣士「やめなさいよみっともないわ」

メイド「……」ジー

メイド「フッ……」ヤレヤレ

剣士(『悔しいんですのね』。そう言いたげでムカツク……)


579 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:38:18.19 N6YWZ/2jo 393/461


メイド「あっちの広場が賑やかですわ! 行ってみましょう!」グイグイ

剣士「あ、ちょっと……」

剣士「……」ポツン……


580 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:39:23.33 N6YWZ/2jo 394/461


剣士「――フッ……」カタスクメ

剣士「あんな娘に何ムキになってるの剣士。冷静に行きなさい、冷静に」

剣士「決して悲しくなんかないわ。だって冷静だもの」

剣士「だからこれは涙じゃないし、顔も歪んでなんか……」グス

剣士「……あーあ。本当に魔王に言いつけちゃおうかしら」


581 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:40:37.69 N6YWZ/2jo 395/461


 ポンポン


剣士「はい……って勇者」

剣士「!」ササ! ゴシゴシ

剣士「何かしら?」キリ!

剣士「……え。これ指輪」

剣士「高いものじゃないけどって?」

剣士「……そんなのどうでもいいわよ」

剣士「いい? あなたがくれる物は、例え生ごみだろうと宝物になるの」

剣士「だから」スッ

剣士「……」

剣士「……ちょっとくらいサイズが違おうとわたしの宝物になるの」

剣士(……ダイエットって指も痩せるかしら?)


582 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/08 20:44:19.98 N6YWZ/2jo 396/461


剣士「メイドは?」

剣士「あっちで人形劇に夢中になってる?」

剣士「……子供ね」

剣士「……」ウズ

剣士「別にわたしも見たいなんてそんなことないわよ?」

剣士「……そこまで言うなら仕方ないわね。見てあげないこともないわ」

剣士「あ、ちょっと,待って」

剣士「……」グイ


 ――チュッ


剣士「……さあ、行くわよ」

剣士「別に赤くなってなんかないわ。ホントよ?」

剣士「ホント! 行くわよ!」グイグイ!


604 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 06:59:29.89 kujgr3tlo 397/461


<魔族トリオ>


コボルト族長「おう」

ゴブリン族長「うむ」

妖精族長「~♪」


605 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:03:17.46 kujgr3tlo 398/461


コボルト族長「生き残ったな」

ゴブリン族長「儂もお主も運が良かったとしか言いようがない」

コボルト族長「ああ、あの時の人間の火力は異常だった。あれは魔族並みだったのではないか?」

ゴブリン族長「仮面人、いや勇者が行っていたことが今ならわかる。実力が同じなら、人間の方が戦いは巧い」

コボルト族長「認めたくはないがな」

妖精族長「~♪」


606 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:04:21.23 kujgr3tlo 399/461


ゴブリン族長「人間が撤退していなかったら儂もお主もここにはおらん」

コボルト族長「あれは一体どういうことだったのだ? なぜ人間たちは退いたのだ?
         あのまま攻められていれば魔王城は陥落していたに違いないのに」

ゴブリン族長「儂も後から聞いた話にすぎんが。人間たちの使う魔術は血を使うことは知っておろう」

コボルト族長「ああ」

ゴブリン族長「単純に血液が足りなくなったのが一つらしい」

コボルト族長「何?」

妖精族長「~♪」


607 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:05:06.03 kujgr3tlo 400/461


コボルト族長「なぜそんな間抜けな事態になったのだ」

ゴブリン族長「魔術士といってな、魔方陣を体内に持つ人間が騎士軍の主力だったそうだ。
         魔術を使うごとに体内から血液を失う。それは表からは見えない」

コボルト族長「見誤ったのか」

ゴブリン族長「それともう一つ」

コボルト族長「何だ?」

ゴブリン族長「竜族だ」

コボルト族長「あいつらが?」

妖精族長「~♪」


608 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:05:32.30 kujgr3tlo 401/461


ゴブリン族長「今回、魔界の危機ということで腰の重いあやつらがようやく動いた」

コボルト族長「本当にようやくだな。プライドばかり高いものぐさどもが」

ゴブリン族長「しかし実力は本物だ。その脅威によって人間は退いていった」

コボルト族長「なるほどな」

妖精族長「~♪」

609 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:06:01.43 kujgr3tlo 402/461


コボルト族長「さて、一応休戦協定は結ばれたわけだが。これからどうなるのであろうな」

ゴブリン族長「そのうち両者の軍縮が始まるとは思うが、儂らの仕事はなくならんだろうな」

コボルト族長「なぜだ?」

ゴブリン族長「最低限の武力は残しておく必要があるからだ」

コボルト族長「ん?」

妖精族長「怪我のない喧嘩をするにも力が必要ということです」


610 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:06:33.19 kujgr3tlo 403/461


コボルト族長「……?」

妖精族長「魔族であるあなたも知っているでしょう。本当に力のある者は大きな怪我を負う戦闘は原則しない。
       力の弱い者ほど血みどろな戦いをするものです」

ゴブリン族長「そういうことだ」

コボルト族長「なるほどな」

妖精族長「今後わたしたちは抑止力としての働きを持つことでしょうね」

ゴブリン族長「うむ」


611 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:07:11.48 kujgr3tlo 404/461


コボルト族長「我々は勝てなかったが、負けもしなかったな」

妖精族長「ですが旅立った者も多い……」

ゴブリン族長「儂らがまだ生きているのは、その散っていった者たちのおかげとも言える。
         儂らで祈りを捧げよう」

コボルト族長「……そうだな」


 ――……ヒュルルルルルル


ゴブリン族長「! なんだ!?」


 ――ドォォォォンッ!


コボルト族長「敵襲か!?」

妖精族長「……ふふ」


612 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:07:38.93 kujgr3tlo 405/461


     ・
     ・
     ・


 ――ヒュルルルルルル……ドォォォン!


コボルト族長「……」ポカン

ゴブリン族長「花火……?」

妖精族長「妖精族お手製ですよ」


613 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:08:05.41 kujgr3tlo 406/461


コボルト族長「妖精族が?」

ゴブリン族長「なぜ?」

妖精族長「旅立った者を祝福するために」

コボルト族長「……」

ゴブリン族長「……」

妖精族長「妖精族はいたずら好きなんですよ」

614 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 07:08:37.08 kujgr3tlo 407/461


 ――ヒュルルルルルル……ドォォォン……パチパチ……


コボルト族長「……」

ゴブリン族長「きれいで、あるな」

妖精族長「……祈りましょう。明日もまた、いい日であるように」

コボルト族長「……ああ」

ゴブリン族長「うむ」


635 : じゃあ、失礼ながら投下するよ[s... - 2011/06/09 19:33:26.90 kujgr3tlo 408/461


<剣士とメイドと後一人>


剣士「キャッキャ」

メイド「ウフフ」


636 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:33:54.26 kujgr3tlo 409/461


剣士「楽しいわねー」

メイド「楽しいですわー」

剣士・メイド(今この場においてあなたさえいなければパート2!)


637 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:34:21.28 kujgr3tlo 410/461


<帝都>


剣士「これはどういうことなのかしら」

メイド「どう、とは?」

剣士「わたしは勇者とデートしていたと思ったら何か余計なものがついてきていた。
   非常に恐ろしいものの片鱗を味わってるわ」

メイド「別に超スピードでも催眠術でもありませんけどね」

剣士「ええそうね、あなたが軟派な女ってだけよね」

メイド「純情なだけですわ!」

剣士「純情の使いどころ多分間違ってる」


638 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:34:50.14 kujgr3tlo 411/461


<店>


メイド「勇者さま! これはいかがですか!?」シャ!

剣士「……」

メイド「じゃあ、こちらは!?」シャ!

剣士「……」プル……

メイド「ふむぅ、ではこれでどうでしょう!?」シャ!

剣士「……」プルプル……

メイド「あら剣士、どうしましたの? あなたも試着しませんの?」

剣士「あなたって痴女だったのね」

メイド「え?」

剣士「勇者も勇者よ! 下着のお店に一緒に入ってどういうつもり!?」


639 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:35:17.53 kujgr3tlo 412/461


メイド「ほらほら、剣士も試着しませんと!」グイグイ

剣士「ちょ、ちょっと!」

メイド「えい!」シュババババ!

剣士「きゃ!」

メイド「完成ですわ!」シャ!

剣士「……」

メイド「勇者さま、いかがですの!?」

剣士「……っ」

剣士「~~~~ッ!」シャ!

メイド「ああ! なんで隠れるんですの剣士!?」

剣士「見ないで勇者ぁぁぁッ!」


640 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:35:46.74 kujgr3tlo 413/461


店員「どうしました殿方、やや前かがみでは立ちにくくありませんこと?」

店員「お気になさらず? はぁ……?」

店員(二人もきれいな女性をお連れして……一体この殿方は何者でしょう?)


641 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:36:15.05 kujgr3tlo 414/461


<夜>


剣士「ああ、もう、今日は散々だったわ」

剣士「勇者、あなたもそう思うでしょう?」

剣士「……どうしたのよ、そんなにそわそわして」

剣士「ちょっとどこ触ってるのどこ見てるのどこおっ立ててるの」

剣士「まったく」

剣士「いえ安心したわ。あなたもちゃんと男なのよね」

剣士「いいわよ……来て」

剣士「んっ……」

剣士「あ、そうそう、今あの下着つけてるの。だから――キャッ!」

剣士「……もう、がっつかないの! わたしは逃げはしないわ」

剣士「うん、そう。ずっと一緒よ。ね?」

剣士「……一緒に――」


647 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:57:58.85 kujgr3tlo 415/461


<哀愁二人組>


元帥「最後に見せ場がやってくる。そんな風に考えていた時期が私にもありました……」

皇帝「最後に見せ場はあったが、何か釈然とない扱いであった……」


648 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 19:58:28.36 kujgr3tlo 416/461


元帥「皇帝は今何をなさっているのですか?」

皇帝「今は密かに魔王城で暮らしておる」

元帥「敵地の真ん中で捕虜ですか。心中お察しします」

皇帝「……」

元帥「……?」

皇帝「……メイドとは良いものだ」

元帥「おいこら」


655 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:51:11.34 kujgr3tlo 417/461

<お姫様編>



 『この物語において、奇跡あるいはそれと同じ何かは起きなかったことを報告する』


656 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:51:47.30 kujgr3tlo 418/461


 ――彼女は泣き虫だった俺にいつも言っていた


 『泣いちゃだめよ。あなたが悪いんだから
  手の届かない範囲に手を伸ばそうとしたのが駄目なの』


 ――最後においても彼女は言っていた


 『泣いちゃだめよ。わたしが悪いんだから』


 ――彼女の言葉を忘れた日は、ない


657 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:52:13.99 kujgr3tlo 419/461


<十年前>


「やっふー!」ガバ!

「うわあ!」ヨロ……

「ふふ、元気?」

「いきなり飛びつかないでよ……」

「スキンシップスキンシップ♪」

「全くもう……」


658 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:53:09.63 kujgr3tlo 420/461


「大学の講義、どう? タルくない?」

「いや別に?」

「そう? あたしはタルいわー」

「それは姉さんがあまりに頭がいいからだよ」

「褒めてもキスくらいしかできないわよ?」

「ちょっ……そんな軽々しくキスとか……!」

「ん? 何? 期待した?」

「べ、別にそういうわけじゃないよ」

「……後であたしの部屋に来なさい」

「え、え!?」

「バーカ、期待するんじゃないわよ。
  あんたも大概頭いいから、見てもらいたいのがあるだけ」

「な、なんだ」

「そんなにがっかりしないの。あんたには期待してるんだから」


 ――それが最後に見た彼女の姿だった


659 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:54:14.12 kujgr3tlo 421/461


「あ……あ……」


 ――彼女はゆっくりと人間をやめていった


「うあ! ああ!」


 ――それは悲鳴にも歓声にも聞こえた。人間をやめることを彼女が望んでいたならば、それも間違っていなかっただろう


「がああああああ!」


 ――肉が裂け、崩れ、また膨らみ、はじけ、散り


「……見ないで」


 ――しわがれた声で最後にそう告げると、彼女はすっかり変わってしまった姿を引きずって、空に消えた


660 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:54:52.11 kujgr3tlo 422/461


 「まさか、あの彼女が……」


 ――酷く耳障りだった


 「実験に失敗……」


 ――耳障りだった


 「魔術士計画の……」


 ――耳障り、耳障り、耳障り、耳障り……


 「魔族の体組織の組み込み……」


 ――叫んでいた。一人一人殴りとばしていた。取り押さえられるまで暴れ続けた。


 「――大学の汚点……」


 ――それでもどうしてか、涙は止まらなかった


661 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:55:29.02 kujgr3tlo 423/461


教官「討伐隊を組むことになった」

「……」

教官「彼女は既に人間をやめている。すぐに排除しなければ帝国が危うい。わかるだろう?」

(大学の立場が危ういの間違いだろう……!)

教官「君も協力してくれるね?」

「……お断りします」

教官「君には期待してるんだ」


 『あんたには期待してるんだから』


「期待……期待ってなんですか。彼女を殺すことを期待されても困ります。
  彼女は、ぼくの姉なんだ」

教官「だった」

「……?」

教官「過去形だ。今は違う」

「違わない!」


 ――彼女の討伐隊は、その夜出発した


662 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:56:02.31 kujgr3tlo 424/461


「……」


 ――俺は、何もせずに部屋でうずくまっていた


「……」


 ――場所は分かっている。彼女には会いに行くことができる


「……」


 ――あそこにいるだろう。昔彼女と一緒に暮らしていた場所。そんな気がした


「……」


 ――だが動けなかった


「っ……」


 ――怖かった。彼女を直視するのが。変わってしまった彼女に会うのが


「っ……っ……」


 ――泣いていた。しばらく泣いて、気付かぬうちに眠っていた


663 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:56:31.17 kujgr3tlo 425/461


◆◇◆◇◆


少年「うわぁぁん……」

「こら、泣かないの」

少年「だって……だってっ……」

「手の届かないことに文句を言っても始まらないわ」

少年「死……母さんがっ……ヒック」

「泣いちゃだめ」

少年「うわぁぁぁぁぁん!」

「……」

少年「グス……グス……」

「……あたしはずっとそばにいてあげるわよ」

少年「……」

「だから泣きやんで。お願いだから。ね?」

少年「……うん」ヒック


◆◇◆◇◆


664 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:56:57.72 kujgr3tlo 426/461


 ――部屋を飛び出した


「……っ」


 ――暗い夜の道を、どこまでも走った


(まにあえ……まにあえ!)


 ――母の生家。そこに向かって脇目もふらずにどんどん走った


「っ……っ……」


 ――視界がにじんだ。よく見えなかった


「姉さん!」


 ――それでも、走った


665 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:57:25.99 kujgr3tlo 427/461


男子「おい、やっぱりやめようよ……」

子供「お兄ちゃんは怖がりですね」

「君たち! ……このあたりで、そうだな、大きな音がしたりしなかったかい?」

子供「ええ、あっちからしましたよ」

「ありがとう!」


666 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:58:22.13 kujgr3tlo 428/461


 ――終わっていた


「ッ……」


 ――着いたときには、全てが終結していた


「……」


 ――そこには討伐隊と、躯しかなかった


「姉さん!」


 ――まだ焼かれた熱が残っている死骸。火傷するのにもかまわずすがりついた


「姉さん……」


 ――その時気付いた。彼女は見る影もなく変わってしまったが、ほぼ躯となってしまった彼女の細い吐息は、昔のままだと


667 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 21:59:10.72 kujgr3tlo 429/461


『……』


 ――姉の目が開いた。薄く、弱く


「姉さん……!」


『――泣かないで』


「……姉、さん」


668 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 22:00:00.39 kujgr3tlo 430/461


     ・
     ・
     ・


師匠「ううん……」

魔王「おはようございます」

師匠「……よう」


669 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 22:00:27.10 kujgr3tlo 431/461


魔王「姉の夢、ですか?」

師匠「憧れだった」

魔王「……」

師匠「愛していたよ。本当に」

魔王「……」

師匠「気付くのが遅かったんだ。たとえ姿が変わっていようが、彼女は彼女のままだって」

魔王「師匠さん……」

師匠「気付ければ、奇跡かそれと同じ何かは起きていたかな」

魔王「……」

師匠「……いや、不毛か」


670 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/09 22:00:55.28 kujgr3tlo 432/461


師匠「さて、腹も膨れたし俺は行くよ」

魔王「師匠さん」

師匠「ん?」

魔王「……いえ、なんでもありません」

師匠「そうか」

魔王「でも、これだけは」

師匠「なんだ」


 『泣かないで』


師匠「……」

魔王「……」

師匠「……分かった。それじゃあな」


 ガチャ……バタン


 ――彼女のことは、忘れない


682 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:12:48.41 lsBUaxylo 433/461


<魔王とメイド>


魔王「お姉ちゃん」

メイド「ブフォッ!」


683 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:13:28.35 lsBUaxylo 434/461


メイド「な、なんですのそれは」ボタボタ……

魔王「メイドさん、鼻血はないでしょう鼻血は」

メイド「だ、だって」

魔王「お姉ちゃん」

メイド「~~~ッ!」ブシャ!


684 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:13:54.97 lsBUaxylo 435/461


魔王「まったくもう……」フキフキ

メイド「ずびばぜん……」

魔王「いや、ぼくもごめんなさい、遊びすぎました」

メイド「吸血鬼が逆に血を噴き出すなんて屈辱ですわ……」

魔王「その考え方は吸血鬼らしいんでしょうかどうなんでしょうか?」


685 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:14:22.77 lsBUaxylo 436/461


メイド「もしかして勇者さまですか、入れ知恵したのは……」

魔王「良く分かりましたね」

メイド「いえ、あの方常々魔王さまに『お兄ちゃん』って呼ばれたがってる節がありましたから……」

魔王「そ、そうですか」

メイド「それにしても……」

魔王「……?」

メイド「……」フルフルフルフル……

魔王「???」

メイド「あーん、魔王さまかーわーいーいー!」ガバ!

魔王「わわ!」


686 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:14:49.89 lsBUaxylo 437/461




本文「濃厚な吸血タイムだよ! しばらく待ってね!」




687 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:15:16.76 lsBUaxylo 438/461


魔王「……っ」ピクピク

メイド「ごちそうさまでした」

魔王「お……お粗末さまでした」

メイド「魔王さまがかわいすぎるのが良くないんです」

魔王「褒め言葉として受け取っておきましょう……」


688 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:15:48.05 lsBUaxylo 439/461


魔王「でもぼくだって格好いいところはあるですけれど」

メイド「そうでしょうか?」

魔王「ありますよ!」

メイド「ちょっとよくわからないので実演してもらえますか?」

魔王「分かりました。ぼくの本気、受け取ってください」


689 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 05:16:28.51 lsBUaxylo 440/461


魔王「あー、こほん……」

メイド「♪」ワクワク

魔王「メイド……」

メイド「!」

魔王「君が欲しい……」

メイド「……」

魔王「……ど、どうですかね?」

メイド「……」

魔王「メイドさん?」

メイド「――ッ!」ブバ!

魔王「ああ!? 出血過多!?
   メイドさん! メイドさーん!」


     ・
     ・
     ・


692 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:10:27.79 lsBUaxylo 441/461


<魔王と剣士>


魔王「お姉ちゃん」

剣士「……」

魔王「あれ?」


693 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:10:55.51 lsBUaxylo 442/461


剣士「何それ?」

魔王「え? いや、別になんとなく……」

剣士「そう……」

魔王(さすがに効かないかー)

剣士「――」

魔王「……?」

剣士「……わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる……」ブツブツ

魔王「……」

剣士「……浮気は駄目よ剣士、いいわね……」ブツブツ

魔王(思いのほか効いてた)

剣士「……よし」


694 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:11:25.04 lsBUaxylo 443/461


剣士「ところで、最近あの娘とはどうなの? 進んだ?」

魔王「聞きます?」ニヘラ

剣士「聞かなくても分かった」

魔王「そんなこと言わずに聞いてくださいよー!」

剣士「いいけど……あまりにムカツクこと言ったら帰るわよ?」

魔王「話せるならなんでもいいです!」ニヨニヨ

剣士「今からしてもうムカツキはじめてるわけよ」


695 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:11:59.72 lsBUaxylo 444/461


魔王「じゃあ、話しますよ。最近一緒に出かけたんですが……」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「それでメイドさんにお姉ちゃんって……」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「それからそれから」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「――というわけです!」

剣士「え? あ、終わったの?」

魔王「さては聞いてませんでしたね!」

剣士「聞いてたわ、一緒に出かけたあたりまでは」

魔王「それ一番最初じゃないですか!」


696 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:12:41.62 lsBUaxylo 445/461


剣士「でも安心したわ。あの娘と仲悪いわけじゃないのね」

魔王「そんなわけないじゃないですか」

剣士「最近ちょっと心配だったのよ。
   あの娘あまりに勇者にべたべたするもんだから、あなたと上手くいってないんじゃないかって」

魔王「え!?」

剣士「一応友達だから心配なの」

魔王「勇者とべたべた……?」

剣士「あ、聞かなかったことにして」

魔王「勇者と、べたべた……」

剣士(しまったわね)


697 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:13:09.35 lsBUaxylo 446/461


剣士「あー……うん、でも安心なさい」

魔王「何がですか……」

剣士「あの娘、あれでも勇者のこと諦め始めてる節があるから」

魔王「根拠は?」

剣士「女の勘?」

魔王「剣士さんってそんなの持ってたんですね」

剣士「どーいう意味よ」ツネリ

魔王「あいたたた……」


698 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 06:13:37.55 lsBUaxylo 447/461


剣士「ま、あんたも頑張んなさい。
   その方がわたしも助かるから」

魔王「頑張ります」

剣士「じゃあね」

魔王「はーい、さようならお姉ちゃん」

剣士「……」ツー

魔王「剣士さん、鼻血です」


705 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 10:48:47.08 lsBUaxylo 448/461


<皇帝陛下と主人公四人組>


メイド「こーてーへーか、朝ですわ」

皇帝(妻に欲しい)


     ・
     ・
     ・


魔王「おはようございます、おじいちゃん♪」

皇帝(息子に欲しい)


     ・
     ・
     ・


剣士「突然だけど皇帝と童貞って響きが同じよね」

皇帝(妾に欲しい)


     ・
     ・
     ・


勇者「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」

皇帝「死せよイケメン」

勇者「えっ」


707 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 10:52:15.32 lsBUaxylo 449/461


 『何かを諦めたことはあるかい?』

 『そうかないか。……ぼくは、ある』


 ――休戦協定締結から半年後


勇者「独立運動?」

元帥「そうだ」


 ――再び事件は勃発する


 「独立運動を行っているのは帝国南部諸地域。
  保有軍事力はそれほどでもないものの、有力者が暗躍している模様……」


勇者「一仕事だ、行ってくる。待っててくれ」


 ――すぐに収まると思えたそれは、意外な展開を見せ始める


勇者「なぜ、このような……」


 ――苦悩の中、だがしかし一筋の光


剣士「わたしは――わたしたちはあなたの何? 言ってみなさい」

勇者「それは――」


 ――手の届くところに、答えはあるか


 『君にも味わってもらおう』

 『絶望の味を』




"title:勇者「魔王捕まえたその後に」"




 ――かみんぐすーん(嘘)


718 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:46:49.80 lsBUaxylo 450/461


<世界は――>


勇者「……」

剣士「こんなとこにいたのね勇者」


719 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:47:16.90 lsBUaxylo 451/461


勇者「剣士か」

剣士「ええ、邪魔しちゃ悪かったかしら?」

勇者「いや……」

剣士「何か考え事?」

勇者「ああ」

剣士「聞いてもいい?」

勇者「うん、いいよ」


720 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:47:44.57 lsBUaxylo 452/461


勇者「……俺はね」

剣士「うん」

勇者「親がいないんだ」

剣士「……」

勇者「家族のことも、覚えてない」

剣士「……」


721 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:48:11.25 lsBUaxylo 453/461


勇者「いや、だからどうってわけじゃないんだけど」

剣士「……」

勇者「でも何かが欠けてる気がして、ここまでずっとあがいてきた」

剣士「……」

勇者「手の届く範囲でしか物事は動かせない。それを知っていてもつらかったな」

剣士「……そう」


722 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:48:45.71 lsBUaxylo 454/461


勇者「でも」

剣士「?」

勇者「今は、違うかな」

剣士「……」

勇者「……」

剣士「……」

勇者「結婚しよう」

剣士「うん……え?」


723 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:49:33.22 lsBUaxylo 455/461


勇者「結婚しよう。大事なことだから二回だ」

剣士「え? え?」

勇者「……もしかして嫌だったか?」

剣士「そんなわけないじゃない! でも……」

勇者「俺は君以外目に入らない」

剣士「……!」

勇者「……それじゃ、駄目かな?」

剣士「いいえ、十分よ」


724 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:49:59.84 lsBUaxylo 456/461


勇者「……」

剣士「……」

勇者「夕日がきれいだな」

剣士「ええ」

勇者「……」

剣士「……」


 ……オーイ!


勇者「ん?」

魔王「何してるんですかー、こんなところで」

メイド「わ、きれいな夕日ですわねー!」

剣士「ここは特等席なの」

魔王「ご一緒してよろしいですか」

勇者「かまわないよ」


725 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:50:26.63 lsBUaxylo 457/461


勇者「……」

剣士「……」

魔王「……今日が終わりますね」

メイド「……はい、魔王さま」

勇者「でもまた日は昇る」

剣士「そうね」

魔王「明日はどんな日になりますかね?」

メイド「わたくし、勇者さまとなら――いいえ、みんなとならどんな日でもかまいませんわ!」

勇者「俺もだ」

剣士「わたしも」

魔王「もちろん、ぼくもです!」


726 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:51:03.88 lsBUaxylo 458/461


 ――世界は


コボルト族長「きれいな夕日だ」

ゴブリン族長「うむ」

妖精族長「~♪」


 ――時に酷く残酷で


元帥「陛下、ご覧ください」

皇帝「うむ、美麗である」


 ――だがそれでもどこか美しく


鬼人族長「……」

鬼人従者「……」


 ――手の届くところに答えを置いていく


師匠「ああ、腹減った……」


 ――きっとそれは何かの奇跡だろう


子供『……』

男子『……』


727 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:51:36.40 lsBUaxylo 459/461


 ――生きようと思えるなら


勇者「……」

剣士「……」

魔王「……」

メイド「……」


 ――必ずまた、日は昇る


728 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:52:23.43 lsBUaxylo 460/461




 title:勇者「魔王捕まえた」



      ~了~


729 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/10 21:53:18.96 lsBUaxylo 461/461


本文「――以上、厨二病棟からお送りいたしました! それじゃあばいばい!」


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