<勇者と剣士>
剣士「処女よ」
勇者「えっ」
剣士「何よその顔……うれしくないの?」
勇者「うれしいかどうかはわからないけれど、びっくりした」
剣士「まあ、そうよね」
勇者「いやだって普通……」
剣士「普通、何?」
勇者「いや」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「……わたしは身体の隅々まで、パ……あの男に汚されてるの」
勇者「……」
剣士「顔も、首も、方も、背中も、もちろん乳房やお尻も」
勇者「……」
剣士「でも最後まで汚されなかった場所があるの」
勇者「……」
剣士「一番最後に残しておこうとでもしたのかしら。それともわたしがそれだけは本気で拒んだからかしら。
わからないけれどとにかく事実として残ってる」
勇者「……」
剣士「ねえ、勇者」
勇者「……ああ」
剣士「その……あの……今なら、ね……? なんとかなる気がするの」
勇者「……うん」
剣士「……行こう」
勇者「君となら、どこへでも」
<師匠と魔王>
魔王「とりあえず休戦協定が結ばれて一時の平和が――」
師匠「飯くれ」
魔王「来なかった!」
魔王「ていうかあなた生きてたんですね」
師匠「ずいぶんな言い草じゃねえか」パクパク
魔王「だってあのシーンは弟子を守って死ぬ感じじゃないですか」
師匠「それに乗っからないカッコよさ?」
魔王「邪道です」
師匠「だってよー」
魔王「だってもクソもありませんよ」
師匠「そんなこと言うとお前鍛えてやんないぞ」
魔王「勇者さんに学ぶからいいでーす」
師匠「あいつかー。立派になったもんだよな」
魔王「元帥補佐ですもんね」
師匠「実質最高権力者」
魔王「ですよねー」
魔王「ところで、勇者さんとの馴れ初めってどんなんだったんですか?」
師匠「ああ、あれはいつだったか……」
・
・
・
師匠「腹減った……」
勇者「奢りましょうか?」
・
・
・
魔王「……だけ?」
師匠「いやー、運命だな」シミジミ
魔王「どこが……」
師匠「お前空腹の恐ろしさを知らんのだな!」
魔王「まあ、知りませんが」
師匠「これだからボンボンは……」
師匠「もっと食い物の大事さをだなー」
魔王「あ、ごめんなさい、メイドさんが呼んでます」
師匠「そういえば最近嬢ちゃんとはどうなんだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
師匠「やっぱりいい」
魔王「そんなこと言わずにー」
師匠「さっさと行った行った」
魔王「メイドさーん、今行きますよー」
師匠「やれやれ……人の気も知らずによ」
<剣士とメイド>
剣士「……」
メイド「……」
剣士「あれ以来話す機会、なかったわよね」
メイド「そう、ですわね」
剣士「その、最近どうなのよ」
メイド「まずまず、ですわね」
剣士「……」
メイド「……」
剣士・メイド(なんとなく気まずい……)
剣士「あー……」
メイド(ええと……)
剣士「そう、そうよ、あれあれ」ゴソゴソ
メイド「?」
剣士「将棋よ」ドン
メイド「あ……」
剣士「久しぶりにどう?」
メイド「……わたくしに勝てますの?」
剣士「わたしもあれから勉強したのよ?」
メイド「だったら相手になりますわ」フフン
剣士「そうこなくちゃね」
メイド「……」パチン
剣士「……」パチン
メイド「なるほどそうますか……」パチン
剣士「少しは成長してるでしょ」パチン
メイド「そこそこ、ですわね」パチン
剣士「見てなさいよー」パチン
メイド「win!」エッヘン!
剣士「相変わらずでたらめに強いわね……」
メイド「ああ、頑張ったらお腹が好きましたわ」
剣士「お茶にしましょうか」
メイド「……」ズズ……
剣士「……」ズズ……
メイド「……」
剣士「……」
チュンチュン……
メイド「平和、ですわね」
剣士「平和ねー」
メイド「……」
剣士「……」ズズ
メイド「さて」スッ……
剣士「……?」
メイド「剣士」
剣士「なによ改まって」
メイド「わたくし、あなたに申し上げなければならないことがありますわ」
剣士「……何?」
メイド「ありがとうございます」ペコリ
剣士「え?」
メイド「剣士には感謝してますの」
剣士「やめてよすぎたこと」
メイド「いえ、あの頃の関連ではなく。
わたくしと友達でいてくれることに関してですわ」
剣士「友達?」
剣士「友達、友達……」
メイド「違いますの……?」シュン……
剣士「あ、いや、そうじゃなくて、どちらかというと仲間って方が近いんじゃないかしら」
メイド「なるほど、そうかもしれませんわね。
ともかくわたくし、同性の知り合いがいませんでしたから」
剣士「え? メイド仲間は?」
メイド「その、わたくしは人間の血が入ってますから、その……」
剣士「あーなるほど……」
メイド「そういうわけであなたには感謝してますの」
剣士「そういうことね……分かったわ」
メイド「はい……」
剣士「でも、それをいうならあなたにもお礼言わなきゃね。わたしだって同じだったから」
メイド「あ……」
剣士「だからおあいこ。これからもよろしく」スッ
メイド「握手ですわね」ギュッ
剣士「……勇者の事は任せて」
メイド「えっ」
剣士「えっ」
剣士「……」
メイド「……」
剣士「まさかと思うけど……」
メイド「はい」
剣士「まだ勇者の事諦めてないの?」
メイド「一応は」
剣士「何でよ! 最近魔王といい感じじゃない!」
メイド「それとこれとは話が別ですわ!」
剣士「呆れた……あなたってそんなに軽い女だったの?」
メイド「違います、純情なんですわ!」
剣士・メイド「むー!」
メイド「実は今度勇者さまとデートですの!」
剣士「ええ!? 聞いてないわよそれ!」
メイド「べー、ですわっ」
剣士「魔王にいいつけるわよ」
メイド「そ、それは……」
剣士「……」
メイド「ああ、板ばさみになるわたくし……」
剣士「ハァ……わたし、ちょっとこれからの付き合い方について勇者と相談してくるわ」
メイド「それならわたくしもいきますわ」
剣士「なんでよ!」
メイド「なんですか!」
ギャイギャイ ギャイギャイ……
<勇者と魔王>
勇者「よっ」
魔王「あ、どうも」
魔王「お茶どうぞ」コト
勇者「どうも」ズズ……
魔王「どうですか最近は?」
勇者「まあ、ぼちぼちかな」
魔王「そうですか」
勇者「……」ジー
魔王「……なんですか? ぼく男と見つめ合う趣味はありませんよ?」
勇者「俺もないけど」
魔王「じゃあ、なんですか」
勇者「思い出してはくれないのかな、って」
魔王「ああ、そのことですか……」
魔王「ぼくたちはもともと勇者候補生同士だった……でしたよね?」
勇者「ああ。別々のクラスで鍛えられてた」
魔王「勇者さんを信用しないわけじゃないですが、魔王の息子を勇者候補生にしますかね?」
勇者「……」
魔王「?」
勇者「あの頃のお前は、俺のことをお兄ちゃんと呼んだよ」
魔王「それが?」
勇者「いや……」
勇者「魔王の息子を勇者候補生とするか、という質問には、イエスとしか答えられない」
魔王「……」
勇者「魔王にも人間並みの情の厚さを求められるかといえば、疑問に思わざるを得ない。
しかし我が息子を簡単に殺す親はいないと判断された」
魔王「子供に親殺しさせようとしたわけですか……」
勇者「酷い話だよ」
魔王「じゃあぼく誘拐された子なわけですか?」
勇者「そうだ。そしてまた騎士軍の方から逆に魔界に誘拐された」
魔王「……」
勇者「そして魔術的処理によって記憶を改竄・消去されてしまった」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「酷い、話です」
勇者「全くだ」
魔王「あの」
勇者「ん?」
魔王「ぼくの話をしてもらえませんか? ぼくはどんな子だったんでしょうか?」
勇者「……元気な子だったよ。いたずらが好きでね。一緒に騎士軍の監視をすり抜けては夜遊びに出かけた」
魔王「へえ……」
勇者「といっても、夜の森で星を見たり、蛍を追いかけたり、花の蜜を吸ってみたりだけどな」
魔王「……」
魔王「そうですか。ありがとうございます、勇者さん」
勇者「……」ジー
魔王「だから男と見つめ合う趣味はありませんって」
勇者「……」ジー
魔王「……あーはいはい、お兄ちゃん! これでいいですか!?」
勇者「もっと優しく」
魔王「……お兄ちゃん?」
勇者「もっと情熱的に」
魔王「お兄ちゃーん!」
勇者「もっと――」
魔王「遊ばないでくださいよ」
勇者「でも、結局完全には思い出してはもらえなかったな……」
魔王「なんかすみませんね」
勇者「いや……」
魔王「いや、でも……ほんの少しだけ」
勇者「?」
魔王「友達に――」
子供『ぼくと友達になってください!』
勇者「……ああ。お前の殺し文句だ」
魔王「え? ぼくそれいろんな人に言ってたんですか?」
勇者「『お兄ちゃん』と合わせて男女関係なく効く最終兵器だった」
魔王「は、はあ……」
勇者「今度メイドに『お姉ちゃん』って言ってみるといい」
魔王「やってみます」コクコク
勇者「よし、じゃあ行くかな」
魔王「もうですか?」
勇者「ああ、仕事が残ってる」
魔王「ええ、分かりました」
勇者「行ってくるよ」
魔王「行ってらっしゃい、……お兄ちゃん」
勇者「……効くな」
魔王「そうですか」
<剣聖と剣士>
――わたしの朝は、口腔粘膜の、ぬめり絡み合う感触から始まる
剣士「んん……」ヌチャァ……
剣聖「ん……」ピチャ……
剣士「んはっ……」ビクン!
剣聖「起きたか?」
剣士「ハァ……ハァ……」コクリ……
剣聖「なら鍛錬の用意をするんだ」
――そう言って男は去っていく。気絶から覚めた頭は重い
――朝の走り込み。ここに汚濁は潜まない。わたしの生活の中で唯一清らかな時間
剣士「ハッ、ハッ……」タッタッタッタ……
――透明な日の光の中、身体を引き延ばし拡張していく感覚
剣士「フッ、フッ……」タッタッタッタ……
――このまま帰りたくないとも思う。その意思とは反対に、奥底で疼く躰を見下ろしながら
――走り込みの後は剣をふるう。気の遠くなるような数を、這うような速度で踏んでいく
剣士「フッ、フッ……」ビュッ ビュッ……
――一振りごとに空間に切り傷が刻まれるのを感じる。それを一点にまとめる意識
剣士「フッ、フッ……」ビッ ビッ……
――鋭敏になる意識。だがそこに一筋の違和が差し込まれる
剣士「!」ビク!
剣聖「続けろ」
――躰を蛇が這う。そのように錯覚する。実際に這っているのは人間の腕だ
剣士「ヒュッ、ヒュッ……」ビシ ビシ……
――かざ切り音とともに躰に腕が食い込む。撫でられ、つままれ、痺れが走る。
剣士「くっ、うっ……」ビュン ビュン……
――次第に息が上がる。躰が震える。立っていられない
剣聖「続けろ」
剣士「……はい」
――それでも進まねばならない
――目の前の男を打ち倒すことができたらどんなにいいか。いつもいつも夢想する
剣士「……」ジリ
剣聖「……」
――だがその思いと裏腹に知っている、確信している。わたしは負ける
剣士「やああぁぁッッ!」バッ!
剣聖「……」シュッ!
――出た足を斬りつけられひるむ。その隙を、男は見逃さない
剣聖「……」シュッ ビッ バシュッ!
――一刀ごとに血が散るがごとくに服が裂ける
剣士「やっ……」
――閃きはやまない。服はすぐに原形をとどめなくなり、素肌が外気にさらされる
剣士「やだっ!」ダッ!
――思わず身をひるがえすその背中に、最後の一刀が浴びせられる
剣士「ひぐっ!」ドサァ
――背の真ん中を打たれ、痺れて立てない
剣士「あ……あ……」
――それでも這って逃げようとする背に、覆いかぶさる暗い影
剣聖「お前わざと負けているんだろう」
――するりと肌を何かが滑る
剣聖「俺に嬲ってほしいんだろう」
――違う! 叫ぼうにも声は出ない。背筋にぬめる何かが触れる。
剣聖「いいだろう、我が娘。愛してやるぞ」
――嫌悪感はすぐにかすれて消えていった
剣士「あっ……はっ……」
剣聖「……」ピチャ……ピチャ……
剣士「うあ、あ……」
剣聖「……」ヌロ……
剣士「ひぅ……!」
――躰に打たれた無数の痣。舌と指は、それを丁寧に撫でていく
剣士「いや……いやぁ……」
剣聖「……」ピチャリ……
剣士「パパぁ……」
剣聖「……」ギュッ
剣士「あぅ!」ビクンビクン!
・
・
・
――走っていた走っていた。朝の光の中どこまでも走っていた
剣士「……」タッタッタッタ……
――逃げようと決めたあの朝
剣士「……」タッタッタッタ……
――続く道をどこまでも走っていた
剣士「う……」タッタッタッタ……
――泣こうとして、泣けないことに気付いた
剣士「うう……」
――だから代わりに足を必死に動かした
剣士「ううう……っ」
――どこまでも走っていけそうな気がした
剣士「うぐ……ひぐ……」
――……どこにも行けないのに気付くのに、そう長くはかからなかった
剣士「ああっ! ああっ――!」
――嬲られていた。
剣士「うあ! ああっ!」
――どうしようもない程嬲られていた。
剣士「もうやめて! お願い!」
――夕方になって帰ったあの日。わたしはパパに汚された
剣士「お願い……!」
――もう大抵のことは響かない。信じていたそれはたやすく崩れ落ちる
剣士「きゃああああ!」
――圧倒的な快楽。飛ぶようでいて、なによりも速く落下するような。そんな感覚
――悲鳴は口でふさがれた
剣士「――ッ! ――ッ!」
――くぐもって消える悲鳴。もしくは歓喜の声
剣士「……っ」
――ああ認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――唾液にぬめり、そして白濁にまみれ。熱を帯びて波打っていた
――認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――どこまでも底がなく落下していく何か
剣士「……」
――取り返しのつかない何か
剣士「……」
――あの時わたしは堕ちていた。最後まで行かなかったのは奇跡に違いなかった
剣士「……」
――どうしようもなくくだらない奇跡だった
――……
心の底に、みえない小さな器を用意した。
汚濁した何かによって満たされていくそれ。
泥のような中身はどんどんたまっていき、いつかは器からあふれるだろう。
その時は。
わたしはきっと今度こそここを出ていく。
出て行って二度と戻りはしないだろう。
――……
剣士「ねえ勇者」
勇者「何か?」
剣士「ごめんね」
勇者「……」
剣士「ありがとう」
勇者「……」ギュッ
剣士「……」
――あれはそれほど経たないうちに実現し、わたしは新たな世界に足を踏み出したのだが、それはまた別の話
剣士「……」
――身体の痣は消えたが、まだどこかに鈍い痛みは残っている
<メイドと剣士と後一人>
メイド「キャッキャ」
剣士「ウフフ」
<帝都>
メイド「楽しいですわねー」
剣士「そうね、楽しいわ」
メイド・剣士(今この場においてあなたさえいなければ!)
メイド「あれはなんですの? 露店? なんですかそれ」
剣士「あなたそんなことも知らないの?」
メイド「わたくしは勇者さまと話してるんですわっ
……ふむふむ、野外に出したお店ですか」
剣士「……」
メイド「え!? 何か買ってやる? ホントですの!?」
剣士「!」
メイド「ありがとうございます!」
剣士「……」ブス
メイド「~♪」ルンルン!
剣士「ねえ、勇者……いえ何でもないわ」
剣士(ここで欲しがっては、女がすたるわよ剣士……!)
メイド「ブレスレット~♪ 勇者さまから買ってもらったブレスレット~♪」
剣士「やめなさいよみっともないわ」
メイド「……」ジー
メイド「フッ……」ヤレヤレ
剣士(『悔しいんですのね』。そう言いたげでムカツク……)
メイド「あっちの広場が賑やかですわ! 行ってみましょう!」グイグイ
剣士「あ、ちょっと……」
剣士「……」ポツン……
剣士「――フッ……」カタスクメ
剣士「あんな娘に何ムキになってるの剣士。冷静に行きなさい、冷静に」
剣士「決して悲しくなんかないわ。だって冷静だもの」
剣士「だからこれは涙じゃないし、顔も歪んでなんか……」グス
剣士「……あーあ。本当に魔王に言いつけちゃおうかしら」
ポンポン
剣士「はい……って勇者」
剣士「!」ササ! ゴシゴシ
剣士「何かしら?」キリ!
剣士「……え。これ指輪」
剣士「高いものじゃないけどって?」
剣士「……そんなのどうでもいいわよ」
剣士「いい? あなたがくれる物は、例え生ごみだろうと宝物になるの」
剣士「だから」スッ
剣士「……」
剣士「……ちょっとくらいサイズが違おうとわたしの宝物になるの」
剣士(……ダイエットって指も痩せるかしら?)
剣士「メイドは?」
剣士「あっちで人形劇に夢中になってる?」
剣士「……子供ね」
剣士「……」ウズ
剣士「別にわたしも見たいなんてそんなことないわよ?」
剣士「……そこまで言うなら仕方ないわね。見てあげないこともないわ」
剣士「あ、ちょっと,待って」
剣士「……」グイ
――チュッ
剣士「……さあ、行くわよ」
剣士「別に赤くなってなんかないわ。ホントよ?」
剣士「ホント! 行くわよ!」グイグイ!
<魔族トリオ>
コボルト族長「おう」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「生き残ったな」
ゴブリン族長「儂もお主も運が良かったとしか言いようがない」
コボルト族長「ああ、あの時の人間の火力は異常だった。あれは魔族並みだったのではないか?」
ゴブリン族長「仮面人、いや勇者が行っていたことが今ならわかる。実力が同じなら、人間の方が戦いは巧い」
コボルト族長「認めたくはないがな」
妖精族長「~♪」
ゴブリン族長「人間が撤退していなかったら儂もお主もここにはおらん」
コボルト族長「あれは一体どういうことだったのだ? なぜ人間たちは退いたのだ?
あのまま攻められていれば魔王城は陥落していたに違いないのに」
ゴブリン族長「儂も後から聞いた話にすぎんが。人間たちの使う魔術は血を使うことは知っておろう」
コボルト族長「ああ」
ゴブリン族長「単純に血液が足りなくなったのが一つらしい」
コボルト族長「何?」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「なぜそんな間抜けな事態になったのだ」
ゴブリン族長「魔術士といってな、魔方陣を体内に持つ人間が騎士軍の主力だったそうだ。
魔術を使うごとに体内から血液を失う。それは表からは見えない」
コボルト族長「見誤ったのか」
ゴブリン族長「それともう一つ」
コボルト族長「何だ?」
ゴブリン族長「竜族だ」
コボルト族長「あいつらが?」
妖精族長「~♪」
ゴブリン族長「今回、魔界の危機ということで腰の重いあやつらがようやく動いた」
コボルト族長「本当にようやくだな。プライドばかり高いものぐさどもが」
ゴブリン族長「しかし実力は本物だ。その脅威によって人間は退いていった」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「さて、一応休戦協定は結ばれたわけだが。これからどうなるのであろうな」
ゴブリン族長「そのうち両者の軍縮が始まるとは思うが、儂らの仕事はなくならんだろうな」
コボルト族長「なぜだ?」
ゴブリン族長「最低限の武力は残しておく必要があるからだ」
コボルト族長「ん?」
妖精族長「怪我のない喧嘩をするにも力が必要ということです」
コボルト族長「……?」
妖精族長「魔族であるあなたも知っているでしょう。本当に力のある者は大きな怪我を負う戦闘は原則しない。
力の弱い者ほど血みどろな戦いをするものです」
ゴブリン族長「そういうことだ」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「今後わたしたちは抑止力としての働きを持つことでしょうね」
ゴブリン族長「うむ」
コボルト族長「我々は勝てなかったが、負けもしなかったな」
妖精族長「ですが旅立った者も多い……」
ゴブリン族長「儂らがまだ生きているのは、その散っていった者たちのおかげとも言える。
儂らで祈りを捧げよう」
コボルト族長「……そうだな」
――……ヒュルルルルルル
ゴブリン族長「! なんだ!?」
――ドォォォォンッ!
コボルト族長「敵襲か!?」
妖精族長「……ふふ」
・
・
・
――ヒュルルルルルル……ドォォォン!
コボルト族長「……」ポカン
ゴブリン族長「花火……?」
妖精族長「妖精族お手製ですよ」
コボルト族長「妖精族が?」
ゴブリン族長「なぜ?」
妖精族長「旅立った者を祝福するために」
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
妖精族長「妖精族はいたずら好きなんですよ」
――ヒュルルルルルル……ドォォォン……パチパチ……
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「きれいで、あるな」
妖精族長「……祈りましょう。明日もまた、いい日であるように」
コボルト族長「……ああ」
ゴブリン族長「うむ」
<剣士とメイドと後一人>
剣士「キャッキャ」
メイド「ウフフ」
剣士「楽しいわねー」
メイド「楽しいですわー」
剣士・メイド(今この場においてあなたさえいなければパート2!)
<帝都>
剣士「これはどういうことなのかしら」
メイド「どう、とは?」
剣士「わたしは勇者とデートしていたと思ったら何か余計なものがついてきていた。
非常に恐ろしいものの片鱗を味わってるわ」
メイド「別に超スピードでも催眠術でもありませんけどね」
剣士「ええそうね、あなたが軟派な女ってだけよね」
メイド「純情なだけですわ!」
剣士「純情の使いどころ多分間違ってる」
<店>
メイド「勇者さま! これはいかがですか!?」シャ!
剣士「……」
メイド「じゃあ、こちらは!?」シャ!
剣士「……」プル……
メイド「ふむぅ、ではこれでどうでしょう!?」シャ!
剣士「……」プルプル……
メイド「あら剣士、どうしましたの? あなたも試着しませんの?」
剣士「あなたって痴女だったのね」
メイド「え?」
剣士「勇者も勇者よ! 下着のお店に一緒に入ってどういうつもり!?」
メイド「ほらほら、剣士も試着しませんと!」グイグイ
剣士「ちょ、ちょっと!」
メイド「えい!」シュババババ!
剣士「きゃ!」
メイド「完成ですわ!」シャ!
剣士「……」
メイド「勇者さま、いかがですの!?」
剣士「……っ」
剣士「~~~~ッ!」シャ!
メイド「ああ! なんで隠れるんですの剣士!?」
剣士「見ないで勇者ぁぁぁッ!」
店員「どうしました殿方、やや前かがみでは立ちにくくありませんこと?」
店員「お気になさらず? はぁ……?」
店員(二人もきれいな女性をお連れして……一体この殿方は何者でしょう?)
<夜>
剣士「ああ、もう、今日は散々だったわ」
剣士「勇者、あなたもそう思うでしょう?」
剣士「……どうしたのよ、そんなにそわそわして」
剣士「ちょっとどこ触ってるのどこ見てるのどこおっ立ててるの」
剣士「まったく」
剣士「いえ安心したわ。あなたもちゃんと男なのよね」
剣士「いいわよ……来て」
剣士「んっ……」
剣士「あ、そうそう、今あの下着つけてるの。だから――キャッ!」
剣士「……もう、がっつかないの! わたしは逃げはしないわ」
剣士「うん、そう。ずっと一緒よ。ね?」
剣士「……一緒に――」
<哀愁二人組>
元帥「最後に見せ場がやってくる。そんな風に考えていた時期が私にもありました……」
皇帝「最後に見せ場はあったが、何か釈然とない扱いであった……」
元帥「皇帝は今何をなさっているのですか?」
皇帝「今は密かに魔王城で暮らしておる」
元帥「敵地の真ん中で捕虜ですか。心中お察しします」
皇帝「……」
元帥「……?」
皇帝「……メイドとは良いものだ」
元帥「おいこら」
<お姫様編>
『この物語において、奇跡あるいはそれと同じ何かは起きなかったことを報告する』
――彼女は泣き虫だった俺にいつも言っていた
『泣いちゃだめよ。あなたが悪いんだから
手の届かない範囲に手を伸ばそうとしたのが駄目なの』
――最後においても彼女は言っていた
『泣いちゃだめよ。わたしが悪いんだから』
――彼女の言葉を忘れた日は、ない
<十年前>
女「やっふー!」ガバ!
男「うわあ!」ヨロ……
女「ふふ、元気?」
男「いきなり飛びつかないでよ……」
女「スキンシップスキンシップ♪」
男「全くもう……」
女「大学の講義、どう? タルくない?」
男「いや別に?」
女「そう? あたしはタルいわー」
男「それは姉さんがあまりに頭がいいからだよ」
女「褒めてもキスくらいしかできないわよ?」
男「ちょっ……そんな軽々しくキスとか……!」
女「ん? 何? 期待した?」
男「べ、別にそういうわけじゃないよ」
女「……後であたしの部屋に来なさい」
男「え、え!?」
女「バーカ、期待するんじゃないわよ。
あんたも大概頭いいから、見てもらいたいのがあるだけ」
男「な、なんだ」
女「そんなにがっかりしないの。あんたには期待してるんだから」
――それが最後に見た彼女の姿だった
「あ……あ……」
――彼女はゆっくりと人間をやめていった
「うあ! ああ!」
――それは悲鳴にも歓声にも聞こえた。人間をやめることを彼女が望んでいたならば、それも間違っていなかっただろう
「がああああああ!」
――肉が裂け、崩れ、また膨らみ、はじけ、散り
「……見ないで」
――しわがれた声で最後にそう告げると、彼女はすっかり変わってしまった姿を引きずって、空に消えた
「まさか、あの彼女が……」
――酷く耳障りだった
「実験に失敗……」
――耳障りだった
「魔術士計画の……」
――耳障り、耳障り、耳障り、耳障り……
「魔族の体組織の組み込み……」
――叫んでいた。一人一人殴りとばしていた。取り押さえられるまで暴れ続けた。
「――大学の汚点……」
――それでもどうしてか、涙は止まらなかった
教官「討伐隊を組むことになった」
男「……」
教官「彼女は既に人間をやめている。すぐに排除しなければ帝国が危うい。わかるだろう?」
男(大学の立場が危ういの間違いだろう……!)
教官「君も協力してくれるね?」
男「……お断りします」
教官「君には期待してるんだ」
『あんたには期待してるんだから』
男「期待……期待ってなんですか。彼女を殺すことを期待されても困ります。
彼女は、ぼくの姉なんだ」
教官「だった」
男「……?」
教官「過去形だ。今は違う」
男「違わない!」
――彼女の討伐隊は、その夜出発した
男「……」
――俺は、何もせずに部屋でうずくまっていた
男「……」
――場所は分かっている。彼女には会いに行くことができる
男「……」
――あそこにいるだろう。昔彼女と一緒に暮らしていた場所。そんな気がした
男「……」
――だが動けなかった
男「っ……」
――怖かった。彼女を直視するのが。変わってしまった彼女に会うのが
男「っ……っ……」
――泣いていた。しばらく泣いて、気付かぬうちに眠っていた
◆◇◆◇◆
少年「うわぁぁん……」
「こら、泣かないの」
少年「だって……だってっ……」
「手の届かないことに文句を言っても始まらないわ」
少年「死……母さんがっ……ヒック」
「泣いちゃだめ」
少年「うわぁぁぁぁぁん!」
「……」
少年「グス……グス……」
「……あたしはずっとそばにいてあげるわよ」
少年「……」
「だから泣きやんで。お願いだから。ね?」
少年「……うん」ヒック
◆◇◆◇◆
――部屋を飛び出した
男「……っ」
――暗い夜の道を、どこまでも走った
男(まにあえ……まにあえ!)
――母の生家。そこに向かって脇目もふらずにどんどん走った
男「っ……っ……」
――視界がにじんだ。よく見えなかった
男「姉さん!」
――それでも、走った
男子「おい、やっぱりやめようよ……」
子供「お兄ちゃんは怖がりですね」
男「君たち! ……このあたりで、そうだな、大きな音がしたりしなかったかい?」
子供「ええ、あっちからしましたよ」
男「ありがとう!」
――終わっていた
男「ッ……」
――着いたときには、全てが終結していた
男「……」
――そこには討伐隊と、躯しかなかった
男「姉さん!」
――まだ焼かれた熱が残っている死骸。火傷するのにもかまわずすがりついた
男「姉さん……」
――その時気付いた。彼女は見る影もなく変わってしまったが、ほぼ躯となってしまった彼女の細い吐息は、昔のままだと
『……』
――姉の目が開いた。薄く、弱く
男「姉さん……!」
『――泣かないで』
男「……姉、さん」
・
・
・
師匠「ううん……」
魔王「おはようございます」
師匠「……よう」
魔王「姉の夢、ですか?」
師匠「憧れだった」
魔王「……」
師匠「愛していたよ。本当に」
魔王「……」
師匠「気付くのが遅かったんだ。たとえ姿が変わっていようが、彼女は彼女のままだって」
魔王「師匠さん……」
師匠「気付ければ、奇跡かそれと同じ何かは起きていたかな」
魔王「……」
師匠「……いや、不毛か」
師匠「さて、腹も膨れたし俺は行くよ」
魔王「師匠さん」
師匠「ん?」
魔王「……いえ、なんでもありません」
師匠「そうか」
魔王「でも、これだけは」
師匠「なんだ」
『泣かないで』
師匠「……」
魔王「……」
師匠「……分かった。それじゃあな」
ガチャ……バタン
――彼女のことは、忘れない
<魔王とメイド>
魔王「お姉ちゃん」
メイド「ブフォッ!」
メイド「な、なんですのそれは」ボタボタ……
魔王「メイドさん、鼻血はないでしょう鼻血は」
メイド「だ、だって」
魔王「お姉ちゃん」
メイド「~~~ッ!」ブシャ!
魔王「まったくもう……」フキフキ
メイド「ずびばぜん……」
魔王「いや、ぼくもごめんなさい、遊びすぎました」
メイド「吸血鬼が逆に血を噴き出すなんて屈辱ですわ……」
魔王「その考え方は吸血鬼らしいんでしょうかどうなんでしょうか?」
メイド「もしかして勇者さまですか、入れ知恵したのは……」
魔王「良く分かりましたね」
メイド「いえ、あの方常々魔王さまに『お兄ちゃん』って呼ばれたがってる節がありましたから……」
魔王「そ、そうですか」
メイド「それにしても……」
魔王「……?」
メイド「……」フルフルフルフル……
魔王「???」
メイド「あーん、魔王さまかーわーいーいー!」ガバ!
魔王「わわ!」
本文「濃厚な吸血タイムだよ! しばらく待ってね!」
魔王「……っ」ピクピク
メイド「ごちそうさまでした」
魔王「お……お粗末さまでした」
メイド「魔王さまがかわいすぎるのが良くないんです」
魔王「褒め言葉として受け取っておきましょう……」
魔王「でもぼくだって格好いいところはあるですけれど」
メイド「そうでしょうか?」
魔王「ありますよ!」
メイド「ちょっとよくわからないので実演してもらえますか?」
魔王「分かりました。ぼくの本気、受け取ってください」
魔王「あー、こほん……」
メイド「♪」ワクワク
魔王「メイド……」
メイド「!」
魔王「君が欲しい……」
メイド「……」
魔王「……ど、どうですかね?」
メイド「……」
魔王「メイドさん?」
メイド「――ッ!」ブバ!
魔王「ああ!? 出血過多!?
メイドさん! メイドさーん!」
・
・
・
<魔王と剣士>
魔王「お姉ちゃん」
剣士「……」
魔王「あれ?」
剣士「何それ?」
魔王「え? いや、別になんとなく……」
剣士「そう……」
魔王(さすがに効かないかー)
剣士「――」
魔王「……?」
剣士「……わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる……」ブツブツ
魔王「……」
剣士「……浮気は駄目よ剣士、いいわね……」ブツブツ
魔王(思いのほか効いてた)
剣士「……よし」
剣士「ところで、最近あの娘とはどうなの? 進んだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
剣士「聞かなくても分かった」
魔王「そんなこと言わずに聞いてくださいよー!」
剣士「いいけど……あまりにムカツクこと言ったら帰るわよ?」
魔王「話せるならなんでもいいです!」ニヨニヨ
剣士「今からしてもうムカツキはじめてるわけよ」
魔王「じゃあ、話しますよ。最近一緒に出かけたんですが……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それでメイドさんにお姉ちゃんって……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それからそれから」
剣士「……」
・
・
・
魔王「――というわけです!」
剣士「え? あ、終わったの?」
魔王「さては聞いてませんでしたね!」
剣士「聞いてたわ、一緒に出かけたあたりまでは」
魔王「それ一番最初じゃないですか!」
剣士「でも安心したわ。あの娘と仲悪いわけじゃないのね」
魔王「そんなわけないじゃないですか」
剣士「最近ちょっと心配だったのよ。
あの娘あまりに勇者にべたべたするもんだから、あなたと上手くいってないんじゃないかって」
魔王「え!?」
剣士「一応友達だから心配なの」
魔王「勇者とべたべた……?」
剣士「あ、聞かなかったことにして」
魔王「勇者と、べたべた……」
剣士(しまったわね)
剣士「あー……うん、でも安心なさい」
魔王「何がですか……」
剣士「あの娘、あれでも勇者のこと諦め始めてる節があるから」
魔王「根拠は?」
剣士「女の勘?」
魔王「剣士さんってそんなの持ってたんですね」
剣士「どーいう意味よ」ツネリ
魔王「あいたたた……」
剣士「ま、あんたも頑張んなさい。
その方がわたしも助かるから」
魔王「頑張ります」
剣士「じゃあね」
魔王「はーい、さようならお姉ちゃん」
剣士「……」ツー
魔王「剣士さん、鼻血です」
<皇帝陛下と主人公四人組>
メイド「こーてーへーか、朝ですわ」
皇帝(妻に欲しい)
・
・
・
魔王「おはようございます、おじいちゃん♪」
皇帝(息子に欲しい)
・
・
・
剣士「突然だけど皇帝と童貞って響きが同じよね」
皇帝(妾に欲しい)
・
・
・
勇者「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
皇帝「死せよイケメン」
勇者「えっ」
『何かを諦めたことはあるかい?』
『そうかないか。……ぼくは、ある』
――休戦協定締結から半年後
勇者「独立運動?」
元帥「そうだ」
――再び事件は勃発する
「独立運動を行っているのは帝国南部諸地域。
保有軍事力はそれほどでもないものの、有力者が暗躍している模様……」
勇者「一仕事だ、行ってくる。待っててくれ」
――すぐに収まると思えたそれは、意外な展開を見せ始める
勇者「なぜ、このような……」
――苦悩の中、だがしかし一筋の光
剣士「わたしは――わたしたちはあなたの何? 言ってみなさい」
勇者「それは――」
――手の届くところに、答えはあるか
『君にも味わってもらおう』
『絶望の味を』
"title:勇者「魔王捕まえたその後に」"
――かみんぐすーん(嘘)
<世界は――>
勇者「……」
剣士「こんなとこにいたのね勇者」
勇者「剣士か」
剣士「ええ、邪魔しちゃ悪かったかしら?」
勇者「いや……」
剣士「何か考え事?」
勇者「ああ」
剣士「聞いてもいい?」
勇者「うん、いいよ」
勇者「……俺はね」
剣士「うん」
勇者「親がいないんだ」
剣士「……」
勇者「家族のことも、覚えてない」
剣士「……」
勇者「いや、だからどうってわけじゃないんだけど」
剣士「……」
勇者「でも何かが欠けてる気がして、ここまでずっとあがいてきた」
剣士「……」
勇者「手の届く範囲でしか物事は動かせない。それを知っていてもつらかったな」
剣士「……そう」
勇者「でも」
剣士「?」
勇者「今は、違うかな」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「結婚しよう」
剣士「うん……え?」
勇者「結婚しよう。大事なことだから二回だ」
剣士「え? え?」
勇者「……もしかして嫌だったか?」
剣士「そんなわけないじゃない! でも……」
勇者「俺は君以外目に入らない」
剣士「……!」
勇者「……それじゃ、駄目かな?」
剣士「いいえ、十分よ」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「夕日がきれいだな」
剣士「ええ」
勇者「……」
剣士「……」
……オーイ!
勇者「ん?」
魔王「何してるんですかー、こんなところで」
メイド「わ、きれいな夕日ですわねー!」
剣士「ここは特等席なの」
魔王「ご一緒してよろしいですか」
勇者「かまわないよ」
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……今日が終わりますね」
メイド「……はい、魔王さま」
勇者「でもまた日は昇る」
剣士「そうね」
魔王「明日はどんな日になりますかね?」
メイド「わたくし、勇者さまとなら――いいえ、みんなとならどんな日でもかまいませんわ!」
勇者「俺もだ」
剣士「わたしも」
魔王「もちろん、ぼくもです!」
――世界は
コボルト族長「きれいな夕日だ」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
――時に酷く残酷で
元帥「陛下、ご覧ください」
皇帝「うむ、美麗である」
――だがそれでもどこか美しく
鬼人族長「……」
鬼人従者「……」
――手の届くところに答えを置いていく
師匠「ああ、腹減った……」
――きっとそれは何かの奇跡だろう
子供『……』
男子『……』
――生きようと思えるなら
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……」
メイド「……」
――必ずまた、日は昇る
title:勇者「魔王捕まえた」
~了~
本文「――以上、厨二病棟からお送りいたしました! それじゃあばいばい!」