part1 【前編】 【後編】 part2 【前編】 【後編】 part3 【前編】 【後編】 part4 【前編】 【後編】 part5 【前編】 の続きです
食蜂「ふわぁあああ!!!」ガバッ
一方通行が香焼くんと一緒にベッドの下に隠れ、麦野が絹旗を粉砕していたのと同じ頃、
帝凍庫クンの群れに襲われ気を失っていた食蜂は素っ頓狂な叫び声を上げながら覚醒した。
その額には汗が滲み、呼吸は苦しげに乱れている。どうやら気を失っている間、相当な悪夢を見ていたらしい。
食蜂「はぁ、はぁ……こ、ここは……」
意識を取り戻した食蜂は呼吸を整えるのも忘れ、目を丸くしながらきょろきょろと周囲を見回す。
人影は無い。帝凍庫クンもいない。誘導灯から放たれる緑色の光だけが辺りを覆っている。
彼女の目を覚ました場所は、気を失った時と同じ廊下のど真ん中であった。
食蜂「ハッ、そ、そうだ!」
次いで、慌てて自分の状態を確認する。五体満足、着衣の乱れはなし、身体の変調もない。
よかった、何もされていない……食蜂はそこでようやくほっと一息をついた。
状況から察するに、大勢の帝凍庫クン達に取り囲まれて恐怖で失神した後、そのまま放置されていたようだ。
食蜂「……気を失った美少女を放ったらかしにするだなんて、ベッドまで優しく運ぶくらいの気遣いは出来ないのかしらぁ?」プンプン
落ち着きを取り戻した食蜂は、全くもう、と頬を膨らませながらゆっくりと立ち上がり、もう一度周囲を見回した。
何も無い。誰もいない。当然である。一方通行も垣根も御坂も麦野も、
ぶっ倒れた彼女の事などガン無視してさっさと逃げてしまったのだ。
食蜂「何よ皆して私を置いて逃げてぇ……
ふん、そんなに臆病でレベル5が務まるわけ?同じレベル5として恥ずかしいわぁ」
置いて行かれたことに対し腹を立て、ブツブツと文句を垂れる食蜂だったが、
逃げる途中恐怖で足が縺れて勝手にすっ転んだ挙句、何もされてないのに気を失ったのは彼女である。
どう考えても彼女の存在がレベル5で一番恥ずかしい。張子の虎、空威張り、大言壮語、そんな言葉が良く似合う。
食蜂「いいわよいいわよ、こうなったら私一人でぇ……」
身勝手な怒りの覚め止まぬまま一歩踏み出そうとした瞬間、不意に食蜂は寒気を覚えた。
一人。たった一人。一人きり。一人ぼっち。みさぼっち。
今彼女は得体の知れないものが徘徊する夜の病院の廊下で、仲間とはぐれて一人ぽつんと佇んでいるのだ。
その事実が今更ながら重く圧し掛かってくる。頼りになるのは自分だけ。話し相手すらいない。
能力を封じられている今、彼女はただの非力な絶世の美少女中学生(本人談)でしかないのだ。
食蜂「う……べ、別に寂しくなんか無いし怖くも無いわよぉ?本当なんだからぁ!」
誰に聞かせるわけでもなく一人で勝手に大声で言い訳し、気持ちを奮わせる為に一度大きく深呼吸をする。
誰がどう見てもびびっているようにしか見えないが、食蜂自身はそんな事無いと否定しているので
ここは一つ本人の意思を尊重してあげたい。
食蜂「あ、足手纏いがいなくなってむしろ清々してるところよぉ。そう、私は一人でも大丈b」
<ガタンガタン!!
食蜂「うひゃぃ!!?」
突如、すぐ近くの病室から鳴り響いてきた物音に驚き、食蜂は声を上げて身を竦める。
臆病者にレベル5は務まらない、怖くなんかない、などとのたまった舌の根も乾かぬ内にこの様である。
もう下手に喋らない方がこの子の為なんじゃないだろうか。
食蜂「な、何よ今の音ぉ……」
<ギャアアァァァァァ!ヤメテエェェェェ!!
食蜂「ひゅい!?」
物音に怯えていた食蜂に追い討ちをかけるようにして、今度は病室から子供の叫び声まで聞こえてくる。
一体そこで何が起きているのか。気にはなるがそれを確かめる度胸など当然持ち合わせていない。
臆病な彼女に出来る事と言ったら震えながら病室のドアを睨みつける事くらいだ。
<ラメェェェェェェ!!
食蜂「う、うぅ……違う、違うわよぉ、別に部屋の中を確認するのが怖いわけじゃなくて、
それをする事に何のメリットもないからわざわざ藪を突付いて蛇を出すような真似をしたくないだけなのよぉ?
好奇心に負けて部屋を覗こうとしない私は言わば非常に合理的かつ理性的な人間であり……」
<ガチャ
食蜂「ひぃ!?」
食蜂がぐだぐだと聞き苦しい言い訳(独り言)を並べ立てていると、
『ならこっちから仕掛けてやるよ』とでも言わんばかりに病室のドアが中から開かれる。
食蜂「あ、あぁぁ……」
そしてそこから、病的なまでに白く、幽鬼のように痩せ細った精気の欠片も感じられない男が姿を現し――
食蜂「いやああああああ!!!お化けぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一方通行「……あン?」
それを一方通行だと認識する間もなく、食蜂は悲鳴を上げながら脱兎の如くその場から逃げ出してしまった。
当の一方通行は状況の把握が出来ず、わけがわからないと言った表情をしながらそれを見送った。
自覚は無いだろうが、夜の病院で誘導灯の薄明かりにライトアップされた彼の姿は結構おっかない。
テンパッていた食蜂がお化けと見間違えるのも仕方の無い事だろう。
どんだけビビリだよ!とお思いの方もいるだろうが、所詮は中学二年生なのだから大目に見てあげて頂きたい。
一方通行「今の、第五位だよな……帝凍庫からは逃れたのか?いやそれより、お化け?」
きょろきょろと辺りを見回し、周囲に何もいない事を確認した後、一方通行はハテと首を傾げる。
さしもの彼もまさか自分がお化けと間違われたとは思うまい。
一方通行「っと、こうしちゃいられねェ、香焼くンがショタコンを引きつけてくれてる間にさっさと逃げねェと……」
背後から聞こえるショタコンの嬌声と香焼くんの悲鳴を意図的に脳内から排除し、
一方通行もまた足早にその場から、食蜂の逃げた方向とは逆方向に離れて行く。
何か香焼くんが自発的に囮になったような言い方をしているが、
香焼くんをベッドの下から蹴り出しショタコンに捧げたのは他ならぬ一方通行である。
平常時の彼はこれほどまでに人の道を外れた行いはむしろ嫌う傾向にあるのだが、
危機に陥った際にはあらゆる物をかなぐり捨ててとにかく自分の身の安全を最優先に行動してしまうのだ。
もしかしたら何処かで『生きろ』というギアスでもかけられたのかも知れない。
食蜂「はぁ、はぁ、はぁ…………はぁ……」
一息に廊下を走りぬけた食蜂は肩で息をしながらも、窮地を脱した事で少しずつ冷静な思考を取り戻し始めていた。
そして思い至る。さっき部屋から出てきたあの白いの、第一位さんじゃね?と。
もしそうだとしたら己の取った行動はとても恥ずかしいものだったのではないか、
仲間をお化けと見間違えて逃げ出すなど、傍から見たらどれ程滑稽だっただろう。思い返すだけで顔が熱くなるようだ。
食蜂「……違うから。私はあれが第一位さんだって最初から気付いてた、気付いてましたぁ。
それでも逃げたのはあんな人と二人っきりでいたら何されるかわかったものじゃないからですぅ。
お化けと見間違えるだなんてそんな馬鹿な事あるわけないでしょぉ?」
自分の行動を正当化する為、食蜂は周囲に自分以外誰もいないのに目一杯大声で言い訳を垂れ流す。
むしろこの行為こそが最も滑稽で恥ずかしいと思うのだが、それでも彼女は口を噤まない。
既に彼女はこうして自分に言い聞かせないと自己を保てない程に追い詰められているのだ。
小心な小物の癖にプライドが無駄に高いというのは大変である。
食蜂「で、でも一人でいる事のデメリットも結構大きいしぃ、
戻って第一位さんと合流してあげるのも悪くないかも知れないわねぇ、うん」
めんどくさい。本当にめんどくさいよこの子。とにかく、どうあっても自分の弱さを認めたくないらしい。
一方通行をダシに何とか一人でいる状況から抜け出そうと必死である。
食蜂「それに私は平気だけど第一位さんが一人で寂しくて泣いてるかも知れないしぃ?
第一位さんを励ます為にも戻ってあげようかしらぁ。私は一人でも平気だけどぉ!」
そう、戻るのはあくまでも一方通行の為に、である。断じて自分が寂しいとか怖いとか思っているわけではない。
本当だよ、嘘じゃないよ、合流しようとしているのは二人でいた方がメリットが大きいからだよ。
既に半ば支離滅裂となっているが、必死に自分を騙し、食蜂は逃げて来た道を振り返る。と、そこに――
食蜂「……!?」
何かいた。
廊下の隅で自分の様子をじっと伺っている何かがいた。
帝凍庫「……」ジー
食蜂「ひ……ひっ……」
ついさっき似たようなのに囲まれて失神までした食蜂は、その姿を視認しただけで冷静さを失い、
掠れた声を上げながら涙目で後ずさる。帝凍庫クンが完全にトラウマになっているようだ。
当然、この時点で来た道を戻って一方通行と合流するという選択肢は消え失せた。
あんなものに近付くくらいなら一人でいた方がずっとマシだ!と言うわけである。
食蜂「ひぐ、う……ま、まぁ良く考えたらわざわざ第一位さんの為に戻ってあげる必要なんてこれっぽっちもないしぃ?
むしろ第一位さんと合流するのは私にとってデメリットでしかないって言うかぁ……
いやいや別に廊下に置いてあるアレ(帝凍庫クン)が怖いとかじゃなくてぇ……
あぁもうとにかく戻らないから私は!別のルートから行くのぉ!!」
誰も聞いてないし誰もつっこんでないのにひたすら言い訳をしつつ、
食蜂は帝凍庫クンに背を向け、己の震える肩を抱きながら早歩きで離れていく。
しかし言い訳もだいぶ投げ遣りになってきた。彼女の限界も近いのだろう。
まぁ最初からいっぱいいっぱいだった気もするが。
食蜂「うぅぅ、だ、誰もいないわぁ……あ、べ、別にいなくてもいいんだけどぉ!」
帝凍庫クンから逃走した食蜂は廊下の突き当たりにあった階段を下り、
相変わらず強がりを言いながら一つ下の階の廊下を歩いていた。
偶然にもそれは垣根達三人が辿ったのと同じ道順だったが、彼らはかなり先行している為、
おっかなびっくり進んでいる食蜂では追いつくのは難しいだろう。
食蜂「て言うか良く考えたら暗いだけだしぃ、さっき変なのに囲まれた時も何かされたわけじゃないんだから
怖がる要素なんてどこにもないわよねぇ。うんそうよ、怖くない、大丈夫大丈夫……あいた!!」
不意に何かに躓いた食蜂は受身も取れず無様にすっ転ぶ。
どうも自己暗示をかける事に必死になるあまり周りが見えなくなっていたようだ。
食蜂「いたたたた……何なのよもぉ……」
両手を投げ出しながら顔面から床につっこんだ食蜂は鼻面を擦りながら身体を起こすと、
自分を転ばせた憎い物体を確認すべく、涙目で振り返る。
フレンダ「」
食蜂「ふぁ!?」
そこには、金髪の少女が血塗れでぶっ倒れていた。
言うまでもなく先程麦野が蹴り潰した後そのまま放置されていたフレンダである。
夜の病院で血溜りに沈む金髪少女。事情を知らなければホラー映画のワンシーンのようだが、
事実は度が過ぎたセクハラをやらかした変態が制裁を喰らっただけなので、どちらかと言うとギャグシーンだろう。
とは言え何があったのか知らない食蜂からすれば、目の前の光景はひたすら異常な物であり、
極限状態に近かった彼女の精神を容赦なく蝕んでいく。
食蜂「な、何よこれぇ!?何なのよぉ!!?」
声を張り上げ、顔面蒼白になりながら食蜂は後ずさる。
先程まで、彼女は精神的に追い詰められながらも、心のどこかで
『所詮はお遊びの一環だし、そんなに危険な事は起こらないだろう。気を失った自分が何もされていないのがその証拠だ』
と安心感を持っていた。しかし――
食蜂「あ、あぁぁ……」
今自分が躓いたこの少女の血はどう見ても本物で、
そして少女にはとても人間業とは思えない惨たらしい外傷が刻まれてる。
もしかしてこの病院は、冗談抜きで恐ろしい何かが徘徊しているのではないだろうか。
そう言えば上の階で聞いた悲鳴、あれは演技で出せるようなものじゃなかった気がする。
もしかしたらあの時、本気で誰かが襲われていたのではないだろうか。
ひょっとするとこの病院、洒落にならないほど危険なのでは……
フレンダが麦野にやられたのだという事を知らない食蜂はそんな結論に行き着いてしまう。
まぁ上の階では本当に香焼くんとステイルが襲われていたのだからあながち間違ってもいないが……
食蜂「も、もし本当にこの病院に人に危害を加えるような何かがいて、
この人がその何かに襲われてこんな状態になってるんだとしたら……」
ここに長く止まるのは危ない。少女を襲った何かがまだ近くに潜んでいるかも知れないのだ。
食蜂はわたわたと周囲を見回しながら、音を立てないようゆっくりと後ずさる。
食蜂「な、何もいないわよ、ねぇ……?うん、大丈bひゃぁ!?」
後ずさっていた足が、ぐにゃりと何かやわらかい物を踏みつける感触があり、
食蜂は短く悲鳴を上げながら慌ててその場から飛び退く。
食蜂「い、今の感触、まさか……」
既に彼女は気付いていた。今踏みつけた物の感触が、先程自分が躓いた物、つまり人間の感触とそっくりだった事に。
それを否定したい一心で、食蜂は自分が何を踏みつけたのかを確認すべく、恐る恐る振り向いた。
フレメア「」
食蜂「ひょぅ!!?」
残念ながら、そこには彼女が想像した通りのものが転がっていた。
これまた説明するまでもなく、先程麦野のチョップを喰らって気絶した後、
結局介抱される事なくそのままにされていたフレメアである。
と言ってもこちらはフレンダとは違い外傷はなく、苦悶の表情を浮かべてはいるが、
よく観察すればしっかり寝息を立てている事もわかる。
しかし、今の食蜂にそんな確認をしている余裕など微塵もなかった。
二人目の犠牲者を発見した事により、彼女の中の『何か恐ろしいものが近くに潜んでいるのでは』
という疑惑はほぼ確信に至ってしまったのだ。想像力豊かなのも困り者である。
食蜂「ひ、ひぃやああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして食蜂は逃げ出した。恐怖に駆られた彼女は倒れているフレンダ達を助け起こすこともせず、
叫びながら走って逃げた。まぁ中学二年生だし……にしてもちょっとテンパり過ぎではなかろうか。
脅かし役としてあちこちに配置されていた妹達も
『あんだけ勝手に怖がってたらミサカ達の出る幕なくね?』
『もうあれみさきちじゃなくてみさチキン、略してみさちきじゃね?』と呆れる始末だ。
『下手に手を出してまた失神されてもめんどくさい』
『ここは見守るだけにしとこうぜ』
『おk』
そんな会話をMNWで交わしながら彼女達は黙ってビデオカメラを回す。
食蜂「ぁぁぁぁぁあああぶごぉあ!!!!」ビターン
暗い廊下を全力疾走していた食蜂は、やはりと言うかなんというか、再度何かに躓いて転んでしまう。
イヤな予感に襲われた彼女は転んだままの姿勢から起き上がるのも忘れ、
ガチガチと歯を鳴らしながら自分が躓いた物を確認するべく背後に首を向ける。
既に読者の皆様は想像が付いているだろうが、彼女が躓いた物、それは――
絹旗「」
食蜂「うあ……」
ボロ雑巾のように打ち捨てられた絹旗であった。これもまぁ麦野がやったのだが、
事情を知らない食蜂からすれば、これで得体の知れない何かに襲われた被害者は三人目となり、
それも若い女性のみを狙った犯行という風に見えてしまう。
つまり、自分も襲われる可能性が高いのではないか。いや、既に獲物として狙われている可能性も……
そんな不吉な予感が頭を過ぎり、同時に血塗れで倒れていたフレンダの惨状が脳内でフラッシュバックする。
食蜂「あ、あぁ……」
血の海に沈む己の姿を幻視し、顔面蒼白でガクガクと全身を振るわせる食蜂。
能力が使えないという不安感、本能的な恐怖を揺さぶる暗闇の病院という場、
何処に何が潜んでいるかわからないという恐怖、それらで既にぎりぎりいっぱいいっぱいだった彼女の恐怖心は
命を狙われているかも知れないという錯覚が加わることでついに限界点を超えてしまい、
何とか冷静でいようと意地で繋ぎ止めていた彼女の感情の糸はブツリと音を立てて切れる。
その結果――
食蜂「う……うわ、うわあああああああああん!!!!ああああああああああ!!!!うええええええええ!!!!!」
恥も外聞も捨て、食蜂は声を上げてマジ泣きした。
演技でも何でもなく、学園都市のナンバーファイブ、常盤台最大派閥を統べる女王がマジモンの大号泣である。
更に『もうどうにでもなれ』と半ば捨て鉢にすらなっており、起き上がろうともしない。
食蜂がいくら大人びた容姿をしており、普段どれだけ傍若無人な女王の仮面を被っていると言っても、
彼女も所詮は現役の中学二年生なのだ。これほどのストレスに耐えられるほど精神が成熟していなかったのだろう。
一度火がつき燃え上がった激情はそう簡単に収まるはずもなく、
命の危険も顧みず、彼女はしばらく床に倒れ伏したまま幼児のように泣きじゃくった。
女王の威厳も何もあったもんじゃない。
食蜂「う……ひっく、うぅ、く……ぐす……」
数分の時間が経ち、流石に泣き声こそ小さくなったものの、食蜂は未だに泣き止まない。
足元に転がっている絹旗はそろそろ冷たくなりはじめているが、それはまぁどうでもいいだろう。死にはしないから。
そしてそんな彼女の元にそろそろと近づく人影があった。
「どうしたのかな、そんな所で泣いて?」
食蜂「うく、えぐ……ふぇ?」
突然振ってきた優しげな声に反応した食蜂は泣くのを中断し、涙を拭いながら声のした方へ顔を向ける。
そこには、伏したままの食蜂の目線に合わせるようにしゃがみ込み、
見るものの安堵を誘う柔和な微笑を浮かべたカエル顔の医者―冥土帰しの姿があった。
先に断っておくが、彼は脅かし役として配置されていたわけではない。
普通に病院の一室で仕事をしていた冥土帰しは食蜂の泣き声を聞きつけ、
『もしかしたら怪我人が出たのかもしれない』と心配してわざわざ駆け付けて来てくれたのだ。
冥土帰し「転んだのかな?怪我をしていたら大変だ、見せてごらん?」
食蜂「あ、う……」
食蜂は口をぱくぱくさせながら、優しげな口調で語りかけてくる冥土帰しをじっと見つめる。
彼女の胸中にあるのは、人前で醜態を晒してしまった気恥ずかしさか、ようやくマトモな人間に巡り合えた事の歓喜か……
……どちらも否である。食蜂の心は未だに恐怖に支配されたままであった。
冥土帰しの柔らかな笑顔も、優しい声も、彼女には一つも届いていない。
彼女にあるのは『ふと気付いたら何かカエルみたいな顔した変なのがいきなり目の前にいた』という事実だけであり、
そんな状況に面した食蜂が取る行動は決まっている。
食蜂「ふあああああああああ!!!!カエルのミュータントに襲われるうううぅぅぅぅう!!!!!」
食蜂は恐怖の叫び声を上げながら大慌てで起き上がると、一目散にその場から逃げ去って行った。
カエルのミュータント呼ばわりされた冥土帰しは屈んだ姿勢のまま硬直し、若干笑顔を引き攣らせながらそれを見送る。
これまでの人生、酸いも甘いも噛み分けてきた彼だったが、やはり現役JCに容姿の事で怯えられ
挙句ダッシュで逃げられるというのはなかなかに堪えるようだ。
お化け屋敷に入ったら泣いてる女の子がいたので声をかけてみたら余計に怯えて逃げて行った、みたいなもんである。
想像しただけで傷つくわー……
冥土帰し「……この顔、小さい子には結構受けがいいんだがね?愛嬌があるって……」
暗闇に取り残された冥土帰しは独りそう呟きながらしょんぼりとした表情で項垂れた。
今更だが、この世界は善意の行動を取った人間はほぼ例外なく報われずに傷つけられている気がする。
自分本位な人間ほど甘い汁を啜れるのはどこの世界も同じですな。
食蜂「うわあああああああん!!!!」
食蜂は泣き声を上げながら薄暗い病院の廊下を猛スピードで駆け抜ける。
このペースで行けば先行している垣根達に追いつけるかもしれない。やったね!
余談だが、一部始終を観察していた妹達の多くがこの時の食蜂を見てSに目覚めてしまったらしい。
こうして妹達の性格はどんどん悪化していくのだ。
―休憩室前
一方通行「あァやれやれ、よォやく目的地に到着っと……ン?」
垣根「おぉ?」テクテク
麦野「うん、第一位?」
御坂「無事だったんだ」
一方通行「なンだオマエら生きてたのかよ、つまンねェな」チッ
垣根「こっちのセリフだボケ。てっきり帝凍庫の群れにとっ捕まってくたばったのかと思ってたのによ」ケッ
御坂「あんたの体力でよく逃げれたわね」
一方通行「ハン、体力はなくてもオマエらボンクラどもとは頭の出来が違ェンだよ」
麦野「へぇ?じゃぁその自慢の頭はこんな時はどうするのかにゃーん?」ガシ
一方通行「おいいきなり人様の頭掴ンできてンじゃねェよ、なンで若干キレ気味なンだオマエ」
垣根「アイテムの連中が脅かし役で出てきてからちょっと不機嫌なんだよこいつ」
御坂「何か麦野さん狙われてる感じだったもんね」
一方通行「はァ、アイテムの連中がねェ……人望ねェなァ第四位。
人を従えるには厳しく接するだけじゃダメなンだぜ?適度に飴をやらねェと……」
麦野「何が悲しくてテメェにそんな説教されなきゃならねぇんだ!?テメェの方が遥かに人望ねぇだろうが!!」
一方通行「あァ?何寝ぼけた事ほざいてやがる、俺がその気になりゃァ学園都市の人口の一割二割は余裕で動かせンぞ」
垣根「そりゃオマエが大勢の人間の弱みを握ってるからってのと力で脅すからであって人望とはまた違うだろ……」
一方通行「まァ一番人望無いのは間違いなくスクールのメンバー全員に裏切られてた垣根くンですけどね?」
垣根「テメェ!!」
一方通行「心理定規に二股かけられた上にオマエ以外のスクールの全構成員がオマエが二股かけられてる事知ってたンだっけ?
マジでどンだけ人望ねェの?そこまで行くと逆にすげェわ」
垣根「うるせえええええええ!!!!思い出させんなボケがあああああ!!!!」
麦野(改めて聞きなおすとかなりヘヴィな状況だったわね)
御坂「……あのさ、もういいから行かない?折角全員揃ったんだし、早く書類取って帰りましょうよ」
麦野「……それもそうね、第一位に構っても体力の無駄……ん?」
一方通行「全員……」
垣根「揃った……?」
御坂「何?私達三人に一方通行が合流したんだから全員でしょ?」ン?
一方通行「……え、マジで言ってンのコイツ?それともイジメか?」
垣根「引くわぁ……」
御坂「え?え?私何か変な事言った?」ワタワタ
麦野「……美琴、第五位」
御坂「あ?…………あー食蜂!!やっば、素で忘れてた……」アー
一方通行「白々しいなァおい、どォせわかってて第五位の存在ハブろうとしてたンだろ?」
御坂「ち、ちが……本気で忘れてたんだって!」
垣根「そっちの方がひでぇと思うんだが……」
麦野「結局第五位はどうしたんだっけ?帝凍庫に襲われてそんまま?」
一方通行「いや、あの後一回見たぜ?なンかお化けが云々言いながら逃げてったけどよ」
御坂「お、お化け……?まさかこの病院、本当に出るんじゃ……」ビクビク
麦野「出るわきゃないでしょそんなもん」
垣根「一方通行を見間違えたんじゃねぇか?白ぇし細ぇし目ぇ死んでっし、暗がりで見かけたらかなり不気味だろ」
一方通行「うるせェよ」
麦野「んで、逃げた後は?」
一方通行「そこまでは知らねェよ、一々追い掛けるのもめンどくせェし放置したわ」
御坂「じゃあアイツまだその辺をうろついてるのかな?」
垣根「また帝凍庫クンとかに捕まってなけりゃその内ここまで来るかもな」
食蜂「み、見つけた!!皆見つけたああああああ!!!」バタバタ
垣根「おぉ?」クル
御坂「あ、食蜂」
一方通行「噂をすりゃァなンとやらか」
麦野「……?何か半泣きになってない?」
食蜂「よかった、よかったぁ……私もうダメかと思tたぶほぁ!!!」ズデン
御坂「あ、こけた」
一方通行「顔面から行ったな」
麦野「何で何もない場所でこけてんだ?」
食蜂「……えぅ……うぅ、ひっく……」プルプル
垣根「転んだまま泣き始めたぞ……」
御坂「よっぽど痛かったんじゃない?」
一方通行「受身も取れてなかったしなァ」
麦野「……何かこう、見てると嗜虐心を煽られるわね」ゴクリ
食蜂「………ちょっと誰か早く助け起こしなさいよぉ!!目の前に転んで泣いてる美少女がいるのよぉ!?」キッ
垣根「何ほざいてんだこのガキ」イラッ
麦野「踏み潰してやろうか」
御坂「……じゃあジャンケンで負けた人が起こすって事で」
食蜂「勝った人!!ジャンケンで勝った人が私を助け起こす権利を得るの!!」ムキー
御坂「どっちでもいいでしょ……」
一方通行「うぜェ……」
麦野「もうこのまま置いてかない?」
垣根「コイツいても邪魔なだけだしな」
食蜂「ま、待って!!あぁそうだ!こんなことしてる場合じゃないのよぉ!!」スク
垣根「んだよ、やっぱり助け起こすまでもなく普通に起きれるんじゃねぇか」
一方通行「こンな事してる場合じゃねェってのはどォいう意味だ?何かあったのか?」
食蜂「そう!そうなの!あったのよぉ!!」
御坂「そういえばあんた必死の形相で走ってきてたわね」
垣根「つか現在進行形で必死だしな」
食蜂「は、はぁ?適当言わないでもらえるぅ?この私が必死になんてなるわけないしぃ?
常に余裕を持って優雅たれが私の信条なのよぉ?」
御坂「ほんっとにめんどくさいわねアンタ……」ハァ
麦野「今の今までピーピー泣いてた癖して何言ってんだ?そもそも最初から余裕なんてなかったろ」
食蜂「余裕だもん!優雅だもん!!」
一方通行「うるせェもォいいからさっさと何があったのか説明しろアホ」
垣根「どうせ大したことじゃねぇんだろ?一方通行をお化けと見間違えたとか……」
食蜂「そそそ、そんな馬鹿な事があるわけないでしょぉ!?あの時のあれは違うのよぉ!!」
御坂「あの時?」
麦野「あれって何よ?」
食蜂「な、なんでもないの!!それよりこの病院何かおかしいわよぉ!!」
垣根「……はぁ?今更何言ってんのオマエ?」
麦野「この病院がおかしいのなんて企画開始5分で理解出来てたわよ」
食蜂「そういう事じゃなくてぇ!!危険なのよこの病院!!急いで逃げた方がいいわぁ!!」
一方通行「そらまァショタコンやら第七位の馬鹿やらが病院内に潜ンでンだから危ねェよな」
御坂「逃げれるんならとっくに逃げてるって……」
食蜂「だから違うのよ!!そういう危なさじゃなくてもっと真剣な命の危機なんだってばぁ!!
変な叫び声がしたり女の子が血塗れだったりバタバタ倒れてたりカエルのミュータントがドアップだったりぃ!!
きっとこの病院には人を襲う何かが潜んでるのよぉ!!」
一方通行「ちょっと何言ってるかわかンないです」
食蜂「何でわからないの!?まず廊下にいたら近くの部屋から突然子供の叫び声が聞こえたの!
それでその後血塗れの女の子が廊下に倒れてて、更にその先に女の子がもう二人倒れててぇ、
気付いたら目の前にカエルのミュータントがいたのよぉ!だからこの病院は危ないのぉ!わかったかしらぁ?」
垣根「……いやまぁ何となくどんな事があったかはわかるが、オマエ説明下手すぎだろ」
御坂「どんだけテンパってんのよ……」ハァ
食蜂「大人数でぬくぬくここまで来たあなた達には私の気持ちはわからないわよぉ!!」
一方通行「つか別にそれ程危険な事起こってねェじゃねェか、ビビリ過ぎだオマエ」
食蜂「き、危険じゃないですってぇ?どういう意味よぉ?」
一方通行「まずオマエが聞いた叫び声は多分ショタコンに襲われる香焼くンの声だ」
食蜂「……えぇー」
垣根「また襲われたのかよ香焼くん……」
一方通行「あァ、俺を助ける為に囮になってな」
御坂「どうせアンタが生贄に差し出したんでしょうが……」
食蜂「じゃ、じゃぁ廊下に倒れてた女の子達は!?あれこそこの病院に危険な何かが潜んでいるって証拠じゃない!?」
一方通行「俺はそいつは実際に見ちゃいねェが、何となく見当は付くな」
麦野「多分私が返り討ちにしたアイテムの連中ね。血塗れになってたのはフレンダで、
その先に倒れてた二人ってのはフレンダに似たチビと絹旗の事かしら」
食蜂「あれ第四位さんの仕業!?嘘……血塗れの子の傷なんてどう見ても人間業じゃなかったのに……」
麦野「あ?誰が人間じゃねぇって?」ピキ
垣根「落ち着け麦野、誰もそこまでは言ってねぇ。
確かにフレンダは顔面をピンポイントで象に踏まれたような状況になってたが……」
麦野「あ゛ぁ!?」ビキィ
食蜂「で、でもそれじゃ最後のカエルのミュータントは!?
気付いたら突然目の前にいたのよ!?私の事襲おうとしてたのよぉ!?」
一方通行「カエルのミュータントなァ……俺は見てねェが、オマエらはどうだ?」
麦野「私らもそれに相当するものは見てないわね」ググググ
垣根「麦野さん離してください、しんでしまいます」ギリギリ
御坂「んー……」
食蜂「ほら見なさぁい!やっぱりこの病院には危険な怪物が潜んで……」
御坂「あのさ、そのカエルのミュータントって、ここの先生じゃない?」
食蜂「は?」
垣根「あー、そうか冥土帰しか」イテテテテ
麦野「言われてみれば確かにあの医者はカエルの化け物みたいな面してたわね」
御坂「化け物って……そんな恐ろしい顔付きはしてないでしょ、
リアルになったゲコ太みたいで愛嬌のある顔じゃない」
一方通行「カエルのマスコットをリアルにしたら気持ち悪ィと思うンだが」
食蜂「え?え?先生?病院の?カエルが?」
垣根「オマエ見た事ねぇのか?この病院にはカエルそっくりの面した名物医がいんだよ」
食蜂「で、でも突然目の前に現れて……」
御坂「どうせテンパってて近付かれたのに気付かなかっただけでしょ」
食蜂「私の事襲おうとして……」
一方通行「自意識過剰だ、死ね」
垣根「オマエみてぇな女が痴漢冤罪でっちあげて真面目で気弱なサラリーマンの人生潰すんだよ」
御坂「何で唐突にキレてるのよ二人して……」
食蜂「うぅ……」
麦野「要するに全部あんたが勝手にびびってただけって事」
一方通行「ヘタレが」
垣根「まぁ一応擁護しといてやると、事情知らなきゃ突然叫び声が聞こえてきたり
人がバタバタ倒れてたりすりゃ驚くのも仕方ねぇだろ、まだ中二のお子様なんだからよ。
最後のカエルのミュータントについては何ともフォロー出来ねぇがな」
御坂「しっかしアンタ普段散々威張り散らしてる癖に独りになった途端にこれ?情けないわね全く」
麦野「そういう発言はブーメランになるかも知れないから控えときなさい。あんたも怖いもの苦手でしょうが」
御坂「そうだけど……ここまで酷くはないんじゃないかなー……」
食蜂「………ふぅー、怯えた振りして皆の恐怖を煽るつもりだったんだけど上手くいかなかったかぁ」ヤレヤレ
麦野「あ?」
食蜂「でも私の演技力は捨てたものじゃないわねぇ、本当に怖がってるみたいだったでしょぉ」ファサ
垣根「いやそれは無理がある」
一方通行「つーかまだ声震えてンぞ」
食蜂「震えてなんかないわよ!本当に全部演技だったんだから!怯えた振りしてただけだったんだからぁ!!」
麦野「あぁはいはい、わかった、わかったから」
御坂「すごいわーあんたの演技力。騙されちゃったー」
食蜂「ふん、それじゃ早く書類取って帰るわよ?こんな所でぐずぐずしてるなんて時間が勿体無いわぁ」
垣根「途端に強気になった上に仕切り始めたぞ」
麦野「何かもう哀れにすら感じるわねコイツ」
一方通行「好きにさせとけめンどくせェ」
御坂「でもそうね、随分長い事立ち話してたしそろそろ部屋の中に入ろっか」
食蜂「ほら、私の後に続きなさぁい。ぼやぼやしてると置いて行っちゃうわよぉ?」
一方通行「……」
垣根「……」
御坂「……」
麦野「……」
全員と合流し今までの仕掛けの実情を知った食蜂は先程までの怯えた様子から一転、途端に強気になり
集団の先頭に踊り出ると、休憩室のドアノブに手をかけながら他のメンバーに挑発じみた言葉を投げかける。
そんな食蜂のあまりにあれな態度に、一方通行までもが挑発に対して憤るでもなく、
ただ呆れと哀れみの視線を向けていた。一の挑発に千の報復で応えるあの一方通行がである。
自分に向けられている冷ややかな視線にも気付かず、食蜂は『何とか怖がっていた事は上手く誤魔化せた』
『これで女王の威厳は安泰だ』と心の中で安堵の溜息を吐きつつドアを押し開く。
どう見ても誤魔化せていない上にこれまでの一部始終を録画されていると言うことをこの時の彼女はまだ知らない。
食蜂「んー、部屋の中は真っ暗ねぇ」キョロキョロ
一方通行「……」
無警戒に休憩室に入って行った食蜂に続いて一方通行も無言のまま入室すると、
きょろきょろと室内を見回す食蜂の背後でそっとドアノブを掴む。そして――
バタン!
食蜂「へっ!?」ビクッ
食蜂一人を休憩室内に残し、そのままドアを閉じてしまった。
食蜂「な……ちょ、ちょっと何で閉めるのよぉ!?」ガチャガチャ
慌ててドアに縋り付く食蜂だがもう遅い。閉じられたドアは引けども押せどもビクともしない。
恐らく外にいる連中が外からドアを引っ張って開かないようにしているのだろう。
調子に乗った相手は速攻でシメる。それが一方通行のやり方である。
食蜂に対して哀れみの視線を向けたりしていた癖にやる事はしっかりやるのだ。流石外道。
食蜂「開けなさいよぉ!!ちょっと聞いてるのぉ!?」ドンドン
「……」
深夜の休憩室という未知の領域に一人閉じ込められる形となった食蜂は必死にドアを叩き抗議の声を上げるが、
部屋の外からは一切の返事はなく、それどころか物音一つ聞こえない。
一方通行は理解しているのだ。こういう時は下手に恐怖を煽るような返答をするよりも
全く反応せずに完全無視を貫いた方が精神的ダメージが大きいということを。
仲間と合流する事で僅かに回復していた食蜂の余裕は一瞬で消し飛んでいた。
食蜂「もおおおお!!!開けてなさいってばぁぁぁぁ!!て言うか皆早く入って来なさいよぉ!?
あ、別に私が怖いから早く入って来て欲しいって言うわけじゃないから!!
ただちょっと部屋の中が暗くて書類捜すのが一人だと大変そうだから
皆で手分けして探すと楽なんじゃないかなぁって思っただけだから!!!」
「………」
返事は返ってこない。
食蜂「な、何とか言いなさいよぉ!!そこにいるのはわかってるのよぉ!?
こんな風に閉じ込められたって怖くないから!!全然怖くないんだからぁ!!」
「………」
いくら閉じ込められたとは言え、現状休憩室で何らかの仕掛けが動作したような形跡はなく、
ただ電気が消えていて暗いだけである。消灯後の病院の一室というだけで十分怖い気もするが、
いくら食蜂が小心だとは言え平常時ならばこれほど取り乱す事はなかっただろう。
だが残念な事にこれまで散々脅されてきた彼女の精神状態はとてもではないが平常とは言い難く、
暗い部屋に閉じ込められるだけという幼児への折檻レベルの仕打ちにすら過剰に反応してしまう。
心という器はひとたびヒビが入れば二度とは、二度とは……
まぁ簡単に言うと暗闇とか独りぼっちの状態がトラウマになってしまったわけだ。
食蜂「だからもうこんなことしても無駄だから早く開けなさいよぉ!わ、私を怒らせると後で酷いわよぉ?」
「………」
食蜂「い、今すぐ開けてくれればまだ怒らないから!ちょっと頭にきてるけどまだギリギリセーフだから!!
だからほら開けて?これから先ギスギスするのはイヤでしょぉ?今ならまだ仲直りしてあげるから、ね?」
「………」
食蜂「あ、あーそう!それがあなた達の答えなのねぇ!?なら私怒るから!本当に怒っちゃうから!
今から10秒以内に開けないと本気で怒るんだからぁ!!」ドンドンドン
「………」
食蜂「はい怒る10秒前ぇ!9ー!8ー!7ー!開けるなら今の内よぉ!?」
「………」
食蜂「6ー、5ー、4ー……ほ、ほら開けなくていいの?怒っちゃうわよぉ?」
「………」
食蜂「に、2ー……1ー……」
「………」
食蜂「……グス、うぐっ……ひぐっ……」プルプル
泣いた。
食蜂「えぅ……うっく、ぐす……うぅ……」スンスン
ガチャ
食蜂「!!」
一方通行「ハッ、無様だなァ第五位。ちったァ自分の立場が理解出来たか?
これに懲りたら二度と生意気な口叩くンじゃ……」
食蜂「ふ、ふん!また騙されたわね!!こんなのドアを開けさせる為の演技に決まってるじゃない!
泣き真似程度であっさり開けちゃうなんて第一位さんもまだまだねぇ!
ま、それだけ私の演技力が優れて……」
一方通行「……」バタン
食蜂「あぁ嘘!嘘だから!!ごめんなさい泣いてました!!開けて!独りにしないでぇぇぇぇ!!!」ドンドンドン!
この後、食蜂が泣きながら許しを請う→一方通行がドアを開ける
→食蜂が挑発交じりの強がりを言う→一方通行がドアを閉める
というやり取りが三度ほど繰り返され、見兼ねた垣根と御坂が二人を宥めることで
ようやく場は収まり、なんとか一行は休憩室内の探索を始める事が出来た。
別に時間制限などはないが、かなりのタイムロスをしてしまった事に間違いはない。
早くミッションを終わらせないと寝る時間がどんどん減って行く。
食蜂さん少し大人しくしといてください、話が進みません。
―休憩室内
一方通行「この部屋マジで暗ェな」
垣根「廊下と違って誘導灯もねぇし窓も小せぇからな。月明かりもほとんど入ってきやしねぇ」
御坂「とりあえず灯りでもないと探し物どころじゃないわね」
麦野「フレンダからぶんどった懐中電灯ならあるけど、これだけじゃ心許ないか」
食蜂「ほらほら暗いでしょ?危ないでしょ?一人じゃ探し物なんて出来ないでしょぉ?
だから私は早くドアを開けて皆で探そうって……」
一方通行「あァもォいいから黙れオマエ」
垣根「つーか普通に電気付ければいいんじゃねぇか?」
御坂「付くかな?」
麦野「消灯後だからってブレーカー落としたりはしないだろうし大丈夫でしょ」
食蜂「なら早く誰かスイッチ押しなさいよ。まったく使えないわねぇ」フン
麦野「は?」ピク
垣根「何オマエ、ホント何なの?何でそんな態度デカいの?オマエの辞書に学習能力って言葉は載ってねぇの?」
食蜂「うるさい!私は怒ってるんだからぁ!!」プン
御坂「あ、怒ってたんだ」
食蜂「あれだけ酷い事されれば怒って当然でしょぉ!?それに『怒る』って宣言もしたじゃない!
特に第一位さんは絶対に絶対に許さないんだからぁ!この鬼畜モヤシ!外道モヤシ!」キッ
一方通行「おい第四位、このガキうぜェし役に立ちそうもねェから外に放りだすぞ。手伝え」
麦野「オーライ、協力してあげるわ」
食蜂「ひ!?」ビク
垣根「マジでもう大人しくしててくれねぇかなぁ第五位、いい加減フォローすんのもめんどくせぇ……」
御坂「ま、日頃能力の上に胡坐かいてる食蜂にはいい薬なんじゃない?
これに懲りて少しはマトモな性格になってくれればいいんだけどね」
垣根「冷てぇなぁオマエも……一応同期生だろうが」
食蜂「あ、ほ、ほらスイッチ見つけたわよぉ?これで部屋の探索が出来るわねぇ?」アセアセ
一方通行「あァそォだな、でもまァ今から閉め出されるオマエには関係ねェだろ」
食蜂「ちょ、ちょっとぉ!!私がスイッチ見つけたのよ!?役に立ってるじゃない私!!
今ここで私を追放するのはデメリットでしかないわよぉ!!」
麦野「いや、出入り口のすぐそばに照明のスイッチがあるのなんて当たり前でしょ?大した手柄でもないわよ」
食蜂「うぐ……」
一方通行「じゃァ俺らはスイッチ押して明るい室内でのンびり時間かけて書類探すから
オマエは暗ァい廊下で独り寂しく俺らが探し終わるの待ってろ」グイグイ
食蜂「ひっ、やめ!押さないで!!頑張るから!ちゃんと書類探すしもう生意気言わないからぁ!!」
御坂「どうせあっさり折れるんなら最初から虚勢張らなきゃいいのに……」
垣根「やっぱぶっちぎりで頭悪いよなこいつ……」
麦野「それじゃ第五位、とりあえずスイッチ押しなさい」
食蜂「はぁい……」
食蜂が散々な扱いに肩を落としながらスイッチを押すと、天井に設置されている蛍光灯が何度か瞬き、
その後僅かな時間を置いて部屋全体を照らし出した。意外にもすんなりと灯りが点ってしまった為、
スイッチに何か細工をしてあるだろうと踏んでいた食蜂を除く一行は軽く拍子抜けし、
明るくなった室内で肩を竦めながら顔を見合わせる。ネタ切れとか言うな。
麦野「ふぅん、てっきりスイッチ押した瞬間爆発でもするかと思って身構えてたのに何もなしか、拍子抜けね」
垣根「こんなあっさり灯りが点くとはな。俺はまたスイッチに直接電流でも流してあんのかと思ったが……」
食蜂「ちょっとそんな危険そうなもの私に押させたの!?私の事なんだと思ってるのよぉ!!」
一方通行「スケープゴートだろ?」
食蜂「ひどぉい……」
御坂「まぁまぁ、とにかくこれで書類を探せるわね。さっさと見つけて戻りましょうよ」
麦野「探すまでもなさそうよ?ほらそこ、見るからに怪しいものがあるわ」ス
御坂「え?」
一行が麦野の指差すほうを見ると、いかにも怪しげな金庫が机の上に置かれていた。
無論、消灯前に彼らが休憩室で休んでいた時はあんなもの置いていなかったはずだ。
となればあれは消灯後、このイベントの為にわざわざ設置されたものだと考えて間違いあるまい。
だとすると、あの中に目当てのブツが入っていると考えるのが自然だが……
一方通行「……」
垣根「……」
御坂「……」
麦野「……」
食蜂「……?」
食蜂を除く四人は無言で顔を顰め、机の上を睨み付ける。
それもそのはず、そこに置かれていたのは金庫だけではなく、金庫のを包囲するようにして
どこかで見た覚えのある、押しボタンの玩具のようなものが六つも配置されていたのだ。
その姿を見紛う筈もない。ご存知、最終鬼畜兵器『押すだけで誰かがアウトになるスイッチ』である。
一方通行「……まァた出やがったよこのスイッチ……」
御坂「これってやっぱり書類は金庫の中に入ってるって事なのかな……」
麦野「そうね……んでもって金庫を開けるには六つのスイッチの中から
正解のスイッチを見つけなきゃいけない、とかそんな感じなんでしょうよ」ハァ
垣根「何で書類を忘れてきたって設定なのに金庫に入ってんだ、とか
そもそもあのクローンが書類持ってるところなんて見た事ねぇよ、とか
つっこみてぇところは山ほどあるけどな」
食蜂「まずは第一位さんの穴につっこみを入れたらどうかしらぁ?」
一方通行「オマエやっぱり外出とけ」
ぴっちりと扉の閉じられた見るからに頑強そうな金庫。
そしてその周囲に意味ありげに配置された六つのスイッチ。つまりはそういう事なのだろう。
垣根「……まぁ普通に考えると六つのスイッチの中に正解のスイッチは一つ、
当たれば金庫が開いて外れればいつもの通り、ってとこだろうな」アー
食蜂「いつもの通りってぇ?」
御坂「あーそっか、あんたはこのスイッチ経験してないんだっけ……えっと、これはね、」
麦野「説明するより実演した方が早いでしょ、とりあえず適当に一つ押しちゃえば?
好きなの選んでいいわよ第五位」
食蜂「え、いいのぉ?でも危ないんじゃ……」
垣根「まぁ待て、落ち着け。そういう迂闊な行動は悲劇しか生まねぇぞ。
ノーヒントでスイッチ押すのは間違ってる。ここは一つ慎重にだな……」
一方通行「なンか必死だなオマエ」
垣根「そりゃ統計上俺が被害受ける確率が一番高ぇからな……」
麦野「ま、今度こそあんたでしょうね」
御坂「わ、私はもう大丈夫よね……?」
食蜂「んー、よくわかんないけどぉ、外れのスイッチを押しても被害を受けるのは第二位さんなのね?
ならいっか、適当に押しちゃえ☆」ポチ
垣根「貴様あああああああああ!!!!!」
垣根が被害を受ける確率が高いと聞いた食蜂は躊躇う事無くあっさりとスイッチを押してしまう。
垣根はこれまでかなり食蜂のフォローをしてきたはずなのだが、その結果がこの仕打ちである。酷ぇ。
報われない男・垣根が悲痛な叫び声を上げる横で、いつもの愉快な効果音がスピーカーから鳴り響いてきた。
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「ほあァ!!?」ビクッ
垣根「プッ」
御坂「ウク」
麦野「ケフ」
食蜂「オッフ」
意外な事に告げられたのは垣根の名ではなく、余裕ぶっこいて腕組しながら垣根を眺めていた一方通行の名であった。
予想だにしていなかった事態に一方通行が素っ頓狂な声を上げ大きく目を見開くと、
そんな彼の姿を見て他のメンバーは一斉に吹き出した。
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、食蜂、アウトー』
一方通行「違うだろ!?そこは調子ぶっこいてた第五位がアウトコール喰らって涙目になるとこだろォ!?」
垣根「調子のこき具合ならオマエが一番だろ、ざまぁみろ」ハッハァ
食蜂「な、なるほど、こういうスイッチなのねぇ」クククク
一方通行「おい第五位、オマエ覚えてろよ……」ギリギリ
食蜂「私のせいじゃないわよねぇ!?いやスイッチ押したのは私だけど」
麦野「あー、私も垣根か第五位が犠牲になると思ってたんだけどねぇ、油断してたわ……」
御坂「て言うか結局笑っちゃったせいで皆アウトじゃないのよ……」
バチーン!!
一方通行「ごふああァァァァ!!!」
垣根「ぬっふぁぁ!!!」
御坂「やあああああッッ!!!」
麦野「ぶぎゃ!!」
食蜂「ぽぷらッ!!」
一方通行「クソ、痛ェ……なンか久々にケツぶっ叩かれた気がするな……」
食蜂「でもこれは凄い武器ねぇ、このスイッチさえあれ……」ゴクリ
御坂「一応言っとくけど毎回一方通行がアウトになるとは限らないからね?多分誰がアウトになるかはランダムよ」
食蜂「えーそうなの?つまんなぁい……でも何度も押せばそのうちまた第一位さんをアウトに……」
一方通行「……あ?」ギロ
食蜂「じょ、冗談!冗談だからそんなに睨まないでよぉ!」
垣根「つーかおい第五位、テメェ俺が被害受ける可能性高ぇつってんのに何の躊躇もなくスイッチ押しやがったな?」
麦野「てかむしろそれが決定打だったわね」
食蜂「な、何の事かしらぁ?そ、それより早く正解のスイッチを見つけて金庫を開けましょうよ、ねぇ?」
垣根「もう二度とオマエのフォローはしてやらねぇからな……」ギリ
一方通行「その程度で歯軋りする程怒ンなよ、心狭ェなァ垣根くン」
垣根「オマエにだけは言われたくねぇよ!!オマエさっき思いっきり第五位睨んでたじゃねぇか!!」
麦野「んで次どうすんの?残りのスイッチは五つだけどまた適当に行っちゃう?」
垣根「だからやめろつってんだろ、何でそんな強気なんだオマエは」
御坂「うん、ここはちゃんと考察していった方がいいと思う……誰がアウトになるかわからないしね」
一方通行「考察ねェ……正直、理不尽の塊みてェな企画だから考えるだけ無駄な気もすっけどなァ」
垣根「まぁ考えるだけ考えてみるか、時間制限があるわけでもねぇしな」
食蜂「んー……あ、私閃いちゃったぁ!」ピコーン
麦野「まずは数から注目してみましょうか。スイッチの数は六つだけど、それに意味はあると思う?」
垣根「あぁ、それについては一つ考えてた事がある。正解のスイッチが一つだとすると外れのスイッチは五つ、
丁度企画の参加者と同数だ。外れのスイッチを選び続けると全員が一回ずつアウトになるようになってるんじゃねぇか?」
食蜂「あの、ちょっとぉ?私閃いたんだけどぉ?」
御坂「だとすると、スイッチを押したときに誰がアウトになるかはランダムじゃなくてスイッチ毎に固定なのかな?」
一方通行「さっき第五位のクソボケに押されたスイッチは俺が必ずアウトになるスイッチで、
残りの五つの中にオマエら四人それぞれがアウトになるスイッチが含まれてる、と。
それが正しけりゃ俺はもォ安全圏って事になっから楽でいいンだがな」
食蜂「聞いてる?ねぇ聞いてる?」
麦野「じゃあ検証の為にもう一回さっき第一位がアウトになったスイッチを押してみる?
何度か連続で押して全部第一位がアウトになればランダムじゃなくて固定だと思って間違いないでしょ」
一方通行「やらせねェよ!つーかスイッチが固定かランダムかなンざ検証する意味ねェだろ!?
正解のスイッチ探し当てる方法考えろよ!!」
食蜂「ねぇってばぁー……」
垣根「つってもなぁ……ぶっちゃけ判断材料が少なすぎて正解のスイッチ見つけるなんざ無理だろ」
御坂「考察しようって私から言い出しといて何だけどさ、何も考察する事がないのよね……」
一方通行「多分完全に運任せだろォしなこれ……」
麦野「とりあえずもう一つくらい適当に押してみる?」
食蜂「あのぉ……」
垣根「このままじゃ埒が開きそうもねぇしな。当たりが引ければ万事オッケー、
外れたらアウトになった奴はご愁傷様って事で」
御坂「当たりのスイッチを引く確率は五分の一。五分の四の確率で誰かが犠牲になる……
うぅ、私じゃありませんように……」
一方通行「ご愁傷様垣根くン、或いは第五位」
食蜂「……」
垣根「これでまた一方通行がアウトになったら笑えるんだがな」
麦野「んじゃ押すわよ、いい?」
垣根「おう」
御坂「うん」
一方通行「さっきと同じスイッチ押すンじゃねェぞ?」
麦野「わかってるっての」ポチ
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「へあァ!!?」ビクッ
垣根「プゲラ」
御坂「コプッ」
麦野「ハッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、アウトー』
一方通行「おいィィィ!!!二連続とかふざけンなよボケがァ!!!」
食蜂「ほら私の話聞かないから!私を無視するからそういう目に遭うのよぉ!」プンスカ
御坂「ま、まぁこんな事もあるわよ、残念だったわね一方通行」プククク
一方通行「嬉しそうなツラしやがって……マジで11111号とダブって来たぞオマエ……」ギリギリ
垣根「まさか本当に一方通行になるとはな」ケケケケ
麦野「スイッチはやっぱりランダムなのかしらね?それとも……」ククククク
バチーン!!
一方通行「ぐあァァァァ!!!」
垣根「ぎぃあああああ!!!」
御坂「ひぎゅ!!」
麦野「ッかああぁぁ!!!」
御坂「いたたた……とりあえず垣根さんの『全員が一回ずつアウトになる』って仮説は外れね……」
垣根「まぁ適当に言っただけだしな」
麦野「もしかするとこのスイッチ、正解以外は全部第一位固定だったりしてねー」
一方通行「ンな事あって堪るか!!なンのイジメだ!?」
食蜂「はい注目!こっち注目!!」
垣根「あーもう、うっせぇなオマエ、何ださっきから」チッ
麦野「『二度とフォローしない』何て言いながら結局耳を傾けちゃう辺りが垣根の限界ね」
一方通行「無視しときゃいいのになァ、どォせ下らねェ事しか言わねェンだからよォ」
御坂「その言い方は酷いんじゃない?食蜂だって一応私達と同じく酸素吸って生きてるのよ?」
食蜂「御坂さんの言葉は心にぐっさりくるわぁ……能力戻ったら覚えてなさいよぉ……」
御坂「私にあんたの能力は通用しないけどね」ハッ
食蜂「むきー!!交友関係ぶっ壊そうにも御坂さんは元々ぼっちだし本当にやり辛いわもう!!」
御坂「だ、誰がぼっちですって!?私は友達いるって何度言わせんのよ!?あんたと一緒にしないで!!」
食蜂「はぁ!?私ぼっちじゃないし!超カリスマだし!!普通に道歩いてるだけで人が平伏すレベルだし!?」
一方通行「争いは同じレベルの者同士でしか発生しねェ」
麦野「至言よね」
垣根「つか第五位の言はぼっちである事の否定にはなってねぇよな」
御坂「はん、カリスマだの何だの言ってるけどあんた能力で無理矢理人を従わせてるだけじゃない!
て言うかカリスマがあろうが無かろうかあんたがぼっちな事に変わりはないでしょ!?
悔しかったら一人でもいいから友達の名前挙げてみなさいよ!!」ハッ
食蜂「だったらまず御坂さんからお友達の名前挙げてみてもらえるかしらぁ!?
人に物を尋ねる時はまず自分から答えるのが礼儀でしょぉ!?」
御坂「いいわよ、私友達多いしぃ?まず黒子でしょ、それから佐天さんに初春さんに……
あ、勿論麦野さんと垣根さんも友達よ?それから……」
食蜂「ハッ!語るに落ちたわねぇ御坂さぁん!
今御坂さんが挙げた人達は先輩、後輩の間柄であって友達とは違うんじゃないかしらぁ!?」
御坂「な……と、友達に年齢なんて関係ないでしょ!?」
一方通行「実際の所どォなンだ?オマエら友達なのか?」
麦野「んー、美琴は友達ってか手のかかる妹って感じかしらね」
垣根「僕はそろそろこの人達とは他人に戻りたいです」
御坂「それに、仮に友達である前に先輩後輩の関係だとしても親しいことには変わりないわよ!!
だから私はぼっちじゃない!はい証明終了!!」
食蜂「話を逸らさないで貰えるぅ?今話してるのは友達がいるかどうかであって親しい先輩後輩は関係ないでしょぉ?
御坂さんは『友達の名前を挙げる』って言ったんだから同年代の友達を挙げるのが筋なんじゃないかしらぁ!?」
御坂「うっざいわねあんた……まぁいいわ、同年代の友達ね……えっと……」
食蜂「あらあらどうしたのぉ?すんなり出てこない?もしかしていないのかしらぁ?
『友達多い』だなんて大口叩いたばっかりなのにぃ?
所詮御坂さんなんてそんなものよねぇ、まったく見栄張っちゃってぇ」
御坂「……」イラッ
食蜂「……ま、まぁ御坂さんがどうしても友達が欲しい、欲しくて欲しくて仕方が無いって言うんなら?
この私が上辺だけでも、と、友達になってあげてm」
御坂「婚后さん」
食蜂「……は?」
御坂「は?じゃなくて、婚后さんよ。婚后光子。あんたも知ってるでしょ?」
食蜂「え?知ってるけど、婚后さんが何?どうしたの?
何でこの流れで出てきたの?何の関係があるの?操祈わかんない」
御坂「何の関係がって……友達よ友達。私と婚后さんは友達なの。携帯番号だって知ってるし」
食蜂「………」
御坂「ほら、お望み通り同い年の友達挙げたわよ?次はあんたの番ね?」
食蜂「ぶぅー!!認めませぇん!!」ダメダメ
御坂「はぁ!?何言ってんのよあんた!?」
食蜂「だぁって御坂さん詰まったじゃない?即答出来なかったじゃない?それってつまりその程度の仲って事よねぇ!?
そんなの本当に友達と言えるのかしらぁ!?いいえ言えません!!」カッ
御坂「あんたねぇ……」イラッ
食蜂「やぁいぼっちぼっちぃ、御坂さんのぼっちぃ」ヤーイヤーイ
御坂「いい加減に……」ガシ
食蜂「え?」
一方通行「あ」
垣根「おい待て御坂、スイッチ掴んでどうする気だ」
御坂「いい加減にしろゴラァァァァァ!!!!」ブン
余りにも理不尽な食蜂の言い掛かりに、ついにぷっつんきた御坂は
怒りに顔を歪めながら机の上のスイッチを手に取ると、垣根の制止もお構い無しに
躊躇無くそれを食蜂に向かってぶん投げた。
食蜂「ぶげぇっ!!」ゴツーン
お世辞にも運動神経が良いとは言えない食蜂が至近距離での投擲攻撃に反応出来るはずも無く、
御坂の投げたスイッチが顔面に直撃した食蜂は爬虫類の断末魔のような悲鳴を上げながらもんどり打って倒れた。
またそれだけではない。どうも食蜂にぶち当たった反動でスイッチが押されてしまったらしく、
スピーカーから愉快な効果音が鳴り響いて来た。
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「ここで俺ェ!!?」ビクッ
垣根「オッフォ」
麦野「ホップ」
デデーン♪
『垣根、麦野、アウトー』
一方通行「違ェだろ!?今俺がアウトになるタイミングじゃねェだろ!!?
第五位に追い討ちかけるかスイッチ投げた超電磁砲が喰らうべき場面だろォ!!?」
御坂「知らないわよそんなの。ざまぁみなさい」フン
食蜂「フ、これが私と御坂さんのコンビネーションよぉ……」イタタタタ
御坂「いやそれは違うけど」
垣根「これで三つ目……やっぱこのスイッチ、なぁ?」クックック
麦野「そうね、多分これ全部第一位の……」ケケケケ
バチーン!!
一方通行「ほごァ!!!」
垣根「かはッ!!」
麦野「っつあァッ!!!」
垣根「いっつうぅ……これで外れが三つか、そろそろ当たり引いてもいい頃だよな」
御坂「ごめんね、考えなしで適当にスイッチ投げちゃって……でも悪いのは全部食蜂だから」
食蜂「そうやって何でもかんでも私のせいにしてぇ……」
御坂「事実でしょうが」
麦野「謝らなくてもいいわ美琴、むしろお手柄よ。お陰でこのスイッチ群がどういうものか大体見当がついたから。
ねぇ第一位?」チラッ
垣根「どんまい一方通行、こんな事もあるさ」ポン
一方通行「……」
垣根「まぁまだ確定じゃねぇしそう気を落とすなよ。仮に予想通りここにあるスイッチが
全部オマエ固定だとして、更に運悪く最後まで正解のスイッチを引けなかったとしても
5回連続でアウトになるだけじゃねぇか。すごパに比べりゃ屁でもねぇだろ?ん?」ポンポン
一方通行「……」ギリ
麦野「よし、それじゃ当たりが出るまでスイッチ押しまくる方向でいきましょうか。むしろ当たりが出た後も押しましょう」
一方通行「おいやめろふざけンな馬鹿が!!!調子乗ってるっとぶっ潰すぞこのババア!!!」
麦野「あ?」ガシ
一方通行「すいませン今度最高の鮭プレゼントするンでちょっと待っていただけませンか」
麦野「……仕方ないわね」ス
一方通行(ちょれェ)
御坂「でも正解のスイッチ探そうと思ったら結局適当に押すしかないんじゃない?
考察しようにもヒントもないし判断材料も全然増えないし……」
垣根「一方通行、オマエもわかってんだろ?正解を引けるかどうかは完全に運任せだって」
一方通行「……おい第五位」
食蜂「な、何かしらぁ?」ビクッ
一方通行「オマエさっき閃いたとか言ってたよなァ?ちょっと何閃いたのか言ってみろ」
麦野「うわついに第五位に頼り始めたわよこいつ」
御坂「藁をも掴む思いなんでしょうね……」
垣根「無様だな一方通行……そんなオマエは見たくなかったぜ」
食蜂「あなた達どれだけ私の事過小評価してるわけぇ!?いい加減にしなさいよホント!!」
麦野「正直まだ過大評価だと思うわ」
垣根「喋る度に評価が落ちていくからな」
御坂「底が知れない存在よね、悪い意味で」
一方通行「まァ俺もコイツの意見が参考になるとは思っちゃいねェけどな、万が一って事もある」
食蜂「言わせて置けばぁ……ならよぉく聞きなさい!
あなた達が誰一人気付かなかったこのスイッチの真実を私が説明してあげるわぁ!!」
垣根「あー、まぁたそうやって自分からハードル上げて……」
御坂「期待はしてないから私達が耳傾けてる内にさっさと喋っちゃいなさいよ」
食蜂「あぁ御坂さんは耳塞いでて貰える?聞いてもどうせ理解出来ないだろうしぃ」フ
御坂「あぁ?」イラッ
食蜂「いい?あなた達がスイッチの数について考察していた時、
私は数と同時にスイッチの配置にも着目していたのよぉ」
垣根「スイッチの配置?」
麦野「最初は金庫を取り囲むようにして置かれてたわね」
食蜂「そう、でもただ適当に囲んでたわけじゃないわぁ。スイッチは等間隔で並べられていたの」
一方通行「ほォ?」
食蜂「金庫を囲むスイッチを線で結ぶと正六角形が出来る、ここまではいいわねぇ?」
御坂「うんうん、それで?」
食蜂「この六角形の各辺を延長すると、なんと六芒星が出来るのよぉ!!」バァーン
一方通行「……ふゥン、で?」
食蜂「で?じゃなくてぇ、金庫を中心に据えた六芒星が出来ちゃうのよぉ?
六芒星って言ったらあれよ?近代西洋魔術何かで使われちゃってるの。
何だかオカルトな儀式めいてると思わないかしらぁ?」
垣根「……はぁ」
食蜂「つまり意味ありげに配置されてる六つのスイッチは六芒星を作るためのフェイクでぇ、
この金庫を開けるのにはオカルト的な何かが必要なのよきっとぉ!」ババーン!
一方通行(何言ってンだこいつ)
垣根(何言ってんだこいつ)
御坂(何言ってんのこいつ)
麦野(何言ってんだこいつ)
食蜂「ふっふーん、私の完璧な推察にぐうの音も出ないみたいねぇ?」ドヤァァァ
御坂「……一応聞いといてあげるけど、オカルト的な何かって何?」
食蜂「え、さぁ?そんなの知らないわよぉ。私に頼ってばかりじゃなくて少しは自分の頭も使ったらぁ?」
御坂「……」ペシ
食蜂「あいた! ちょっと何するのよ御坂さん!いきなり人の頭叩くなんt」
一方通行「……」スパン
食蜂「ひぐ! 何!?何なの第一位さんまd」
垣根「……」パシン
食蜂「でゅあ! な、何なのよもう!一体私が何をしt」
麦野「……」ズビシ
食蜂「もげ! く、ほ、本当に何なのよぉ!?どうして皆無言で私の頭を叩くわけぇ!?」
一方通行「……」ス
食蜂「ひ!?ふ、振りかぶらないでよぉ!なんだかわからないけどごめんなさぁい!!」ヒィッ
一方通行「……チッ、まァいい。しかし時間を無駄にしちまったな」ペッ
垣根「まったくだ。なぁにが『オカルト的な何か』だよ、常識で考えろってんだ」
御坂「食蜂の取るに足らない考察は置いといて、結局勘でスイッチ押すしかないのかな?」
麦野「そうね、そろそろ寝たいしサクッと終わらせましょう」ポチ
一方通行「おま、勝手に押してンじゃねェよ!?」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「ほらァァァ!!!もォちくしょうがァァァァ!!!!」
垣根「うん、もう確定だな。これ全部一方通行の固定スイッチだ」
麦野「多分第一位がアウトになるだろうと思って身構えてたお陰でこっちは笑わずに済んだわ」ウン
御坂「四つ目も外れかぁ、運がないわね」
食蜂「へへぇん!いい気味よ第一位さぁん」プークスクス
デデーン♪
『食蜂、アウトー』
食蜂「ふわぁ!!?」ビクゥ
御坂「何度も言うけど、あんたもう本当に喋らない方が身の為なんじゃない?」
バチーン!!
一方通行「げええェェェ!!!」
食蜂「ぽまとっ!!」
垣根「※ポマト……細胞融合により作られたポテトとトマトのハイブリッド」
麦野「いきなり何言ってんだ?」
食蜂「痛い……もうやだ帰りたい……」
一方通行「クソが……オマエらもォスイッチに触るンじゃねェ!!俺が正解を見つける!!」
御坂「どうやってよ?」
麦野「もういいじゃない後二つしか残ってないんだし。多分次は当たりを引けるわよ。
よしんば外れてももう一回ケツシバかれるだけじゃない」
一方通行「いいから下がってろ!!」
垣根「今のオマエの姿、必死すぎて笑えるぜ?」
一方通行「うるせェよ!!大体こォいうのは本来オマエの役回りだろォが!!
なンで俺がこンな目に遭わなきゃならねェンだ!!」
垣根「ふん、普段の俺がどれだけ辛い目に遭ってるかが理解出来ただろ?」
麦野「垣根が被害を受けてる姿は安心して見てられるんだけどねぇ、
第一位が酷い目に遭ってると『こいつ死ぬんじゃないか』って言う不安が付き纏うのよね。
まぁ別に死んでもいいんだけど」
御坂「目の前で人が死ぬのは流石にちょっとイヤかな……」
食蜂「要約すると『私の見てないところで勝手に死ね』って事かしらぁ?うんうん、流石は御坂さんねぇ」
御坂「ちが!?」
一方通行(考えろ……この馬鹿どもがスイッチを押しちまわねェ内にこの場を切り抜ける方法を……)
一方通行(この仕掛けを考えたのは多分11111号のクソッタレだろォな。
スイッチが全部俺固定なのはアイツの趣味か、クソ……)
一方通行(だがアイツの思考なら読めるはずだ。標的を苦しめたい場合、俺ならどォする?)
一方通行(勿論、外れのスイッチを一度でも多く押させようとするはずだ。
だがスイッチの数はたったの六つ、確率的に一発目で正解を引き当てても不思議はねェ。
もしそンな事になったら盛り下がるってレベルじゃねェぞ)
一方通行(アイツが、あの性悪がそンな可能性を俺達に与えるハズがねェ。
今更だが、この六つのスイッチは恐らくフェイク!この中に当たりはない!!
つーか考えてみりゃ当たり前だ、アイツがこンな素直な仕掛けをやるモンかい)
一方通行(となると本物の正解スイッチはどこか別の場所に隠されて……
いや、そもそもこの金庫の存在がミスディレクションの可能性もあるか?
書類と金庫は無関係なのかもな……クソ、まずは部屋の中を隅々まで探すべきだったか!)
一方通行(……待て待て、アイツの性格を考えろ。だらだらと部屋の中を探索する、
そンて退屈な光景をアイツは見たがるか?答えは否だ。
探すのに苦労するようなわかり辛い場所に書類や正解のスイッチが隠されてる、
なンて事はアイツの性質上考え辛い……)
一方通行(かと言ってわかりやすい場所に配置するのは本末転倒……なら書類はやっぱり金庫の中だろォな。
こンだけ目立つ場所に置かれた金庫の中身が空っぽってのも企画として間違ってンだろ。
……だが、恐らく金庫とスイッチに因果関係はない!!
金庫を開けるための正解のスイッチなンざ最初から存在しねェンだ!!)
一方通行(ならどうやって金庫を開ける?金庫の開け方がわからねェ以上、
結局部屋の中を探索せざるを得ない状況になっちまうぞ?そンな退屈な光景は……)
一方通行(……そうか、そうだったな。他人を小馬鹿にするのが大好きなンだったなオマエは。
他人が必死に足掻き、それが徒労に終わるのを眺めるのが大好きなンだったよなァ!)
一方通行(つまり、部屋の探索も含めたあらゆる行為が全て徒労、無駄な足掻きに終わる……
そンな開け方なンだろォ?この金庫は!!)
一方通行(オマエは本当に俺に似てンな……だが、それ故に読み易い。今この仕掛けの全てが理解出来た。
俺の勝ちだ……ッ!!)
※四回もスイッチ押して尻をシバかれてる時点で完敗です。
一方通行「よっしゃァ!!わかったぜェェェ!!!」グッ
御坂「嘘、わかったの!?ヒントも何もなしで!?」
一方通行「ハッ!何度も言わすなよ、オマエら三下どもとは頭の出来が違ェンだよ!」
麦野「あ?」
垣根「……聞かせて貰おうじゃねぇか、オマエの出した答えってやつを」
食蜂「わかった!ダビデの星ね!?」ピコーン
御坂「それ六芒星と同じじゃない……」
一方通行「いいかオマエら、まずその六つのスイッチの中に正解のスイッチなンてモンはねェ!!」ズビシ
垣根「な……」
麦野「なんですって!?」
御坂「嘘、本当……?ちょっと試しに」ポチ
一方通行「何やってンのォォォォォォ!!!!!」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「うおおォォォォォい!!!!」
御坂「五つ目のスイッチも外れ……まさか本当に……?食蜂、そっちのスイッチも押してみて!」
一方通行「ちょ」
食蜂「あ、うん、これよねぇ?」ポチ
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「オマエらァァァァァァァ!!!!」
垣根「おぉマジだ、六つとも外れか」
麦野「待ちなさい、まだそう判断するのは尚早よ。試しに今押した二つ以外をもう一回押してみましょう」
一方通行「!!!?」
麦野「いくわよー。ほいっと」ポチ
垣根「はいよ」ポチ
御坂「ん」ポチ
食蜂「えい☆」ポチ
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
『一方通行、アウトー』
『一方通行、アウトー』
『一方通行、アウトー』
一方通行「ほああァァァァァァァァ!!!!!!?」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
一方通行「いいか……これでわかったろ、このスイッチは全部外れだって……」ボロ
御坂「うん……ごめん、調子に乗りすぎた」
麦野「反省はしていないわ」フ
一方通行「ちくしょう、死ね」
垣根「悪ぃ悪ぃ、攻めに回るの初めてでテンション上がっちまった」
食蜂「第二位さんは普段受け、とぉ」メモメモ
垣根「……」ゲシ
食蜂「あふぅ!!け、蹴ることないじゃない!?」
一方通行「とにかく!いかにも金庫と因果関係がありそうに配置されちゃいるがこのスイッチは全部フェイクだ!!
『金庫を開ける為のスイッチ』なンてモンは端から存在しねェンだよ!!」
垣根「なるほどな。頑強そうな金庫とその周りに置かれたスイッチ、
一見誰もが両者に因果関係があると考えちまうが……」
麦野「裏をかかれたってワケね、やってくれるわ」
御坂「むぅ、この仕掛け考えた人性格悪いわね……」
一方通行「オマエが言うか」
食蜂「……ねぇ、私言ったわよねぇ?」
垣根「あん?」
御坂「どうしたのよ?」
食蜂「スイッチはフェイクだって、私も言ったわよねぇ!?」バン!
一方通行「はァ?オマエ六芒星がどォのつってただけだろォが。スイッチがフェイク云々はただのオマケ感覚だったろ」
食蜂「それでも!私が最初にスイッチはフェイクだっていう可能性を示唆したんじゃないのぉ!!
なのに、なのにあなた達は私の事馬鹿にして……暴力まで振るって……」
垣根「ここぞとばかりにこのガキは……」
麦野「うるさいわねこいつ」チッ
御坂「こういう奴なのよ」ハァ
食蜂「謝れ!謝りなさいよ!!あなた達より私の方が遥かに答えに近い位置にいたのよぉ!?」
一方通行「……」イラッ
食蜂「ほら早く!頭を地に擦り付けて謝りなさい!!ついでに三回回って『ワン』と鳴いt」
一方通行「ごめン」スパァーン!!
食蜂「へぼん!!」ベシャ
一方通行「ごめンな?マジで」ブンブン
食蜂「ひっ……わ、わかればいいのよぉ。わ、私もちょっと言い過ぎたから……
だから、ね?スあの、スリッパで素振りするのはやめて欲しいなぁ、なんて……」ビクビク
一方通行「ふゥ、話戻すぞ?当たりのスイッチなンざ最初から存在しない、ここまではいいな?」
垣根「おう」
食蜂「はい」
御坂「うん、それはわかったけど……でもそれじゃどうやって金庫開けるの?」
麦野「結局地道に部屋の中探すしかないんじゃない?金庫そのものもフェイクなのかもしれないわね」
一方通行「いや、俺の推理では金庫の中に書類が入ってるって事は間違いねェ。
だが金庫を開ける方法を見つける為に部屋中を探索するってのは間違ってる」
食蜂「それってどういう……?」
垣根「金庫を開ける方法に見当が付いてんのか?」
一方通行「あァ。アイツは……これを仕掛けたクソッタレのド腐れは、
俺達をどこまでも馬鹿にした金庫の開け方を用意してやがったンだ。つまり……」ス
御坂「……ま、まさか!」
麦野「そうか、そういう事……ッ」
一方通行「そォだ、金庫は……」
一方通行「最初から開いてやがったンだよ!!鍵なンざかかっちゃいなかったンだ!!!」バァーン!
垣根「なん……だと……」
一方通行「つーわけで開けるわ」ガチャ
食蜂「ほ、本当に開いちゃった……凄くすんなりと……」エー
御坂「うっわー腹立つ……私達何やってたのよ……」
麦野「チッ、手の平で転がされた気分だよ。ムカつくわ」ギリ
垣根「まぁ被害受けたのはほとんど一方通行だけどな」
一方通行「感謝しろよ?俺がいなけりゃオマエら部屋中血眼になって無駄な探索をする羽目になってたンだからよォ」
食蜂「むぅ……」
麦野「それで、金庫の中に書類はあった?」
一方通行「おォ、多分この封筒だろ」ヒョイ
垣根「はぁ、何はともあれこれで後は戻るだけか」ヤレヤレ
御坂「ねぇちょっと中身見せてよ、どんな書類なのか気になるし」
一方通行「あァ?仕方ねェな……」パサ
『よくぞ金庫の開け方に気付きましたね、流石です。
あなた方ならきっとこの困難を乗り越える事が出来ると信じていました!
さぁ、この封筒を持ってミサカの元に戻って来てください!!
……と言いたい所ですが残念!この封筒はハズレです>w<
あなた方(恐らく一方通行でしょうね)はこのミサカの思考を読んだ気になっているのでしょうが、
思考を読まれる事くらいは予測の上だったので逆に利用させて頂きました。
本物の書類はこの部屋の何処かに隠してあるので頑張って探してくださいね。
下手にこのミサカの性質など考慮せずに大人しく部屋の探索してりゃよかったんですよ。
ねぇねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?とミサカは煽りながら書き置きを締めてみます』
垣根「……」
御坂「……」
麦野「……」
食蜂「……」
一方通行「……は、はああァァァァァァァァァァ!!!!!!?」
一方通行、完全敗北!!
この後五人は手分けして部屋の中を地道に捜索し、十分ほどかけてようやく書類を回収したとか。
―仮眠室
一方通行「……おら、取ってきたぞ書類」パサ
11111号「うむ、ご苦労、とミサカは書類を受け取りながら労ってみます」
一方通行「えらっそうに……」チッ
御坂「こ、これで終わり、よね……?」
11111号「えぇ、本日のお勤めはこれにて終了です。ゆっくり休んでください、とミサカは笑顔で親指を立てます」グッ
垣根「ようやく休めるのか……最後の最後がマジで長かったぜ……」フゥ
11111号「しかし皆さん本当に疲れ切ってますね、何かあったのですか?とミサカは素知らぬ顔で首を傾げます」
食蜂「疲れもするわぁ!!冷蔵庫みたいな変な物体には襲われるし皆私の事苛めるしもう最低よぉ!」プンプン
麦野「それはまぁどうでもいいから置いといて」
食蜂「置かないでよぉ……」
一方通行「なァにが『何かあったの』だ、白々しいンだよボケが。仕掛けの配置と内容考えたのオマエだろ」チッ
11111号「まぁまぁそんなに怒らないでくださいよ。
いくら、ドヤ顔で金庫の開け方解説した挙句
このミサカの思考を読み取った気になって勝利宣言までかましたのに
その実思考を読まれ裏をかかれていたのは自分だった、のが恥ずかしいからって……
とミサカは恨めしげにこちらを睨み付けている一方通行を嘲笑ってみます」プギャー
一方通行「あァァァァうるせェ!!!一々解説すンじゃねェよ!!!」
麦野「そういう風に説明されると確かに最後の第一位の態度は恥ずかしかったわね」
御坂「『俺に感謝しろ』とか言っちゃってたしね……」
垣根「金庫から封筒取り出す瞬間『どうよ?俺どうよ?すげぇだろ?』みてぇなツラしてやがったからな」
食蜂「封筒から書置きが出てきた瞬間の第一位さんの顔ったらもう、最高の見世物だったわぁ」
一方通行「……」ギリギリギリ
御坂「そんな目一杯歯軋りしなくても……血が出てるわよ?」
11111号「しかしこうも思い通りに動いてくれるとは……フフ、やはりこのミサカの方が一枚上手なようですね?
あなたが思っている以上にミサカはあなたの事をよく知っているのですよ、
とミサカはちょっぴり乙女ちっくな事を言いながら渾身のドヤ顔で勝ち誇ってみます」ドヤァ
一方通行「こっちは疲れてンだよクソ……万全の状態なら頭脳勝負で俺が負けるハズねェ……」ギリギリ
麦野「その言い訳はちょっとみっともな過ぎるわ……」
御坂「恥の上塗りになってるわよ……」
食蜂「第一位さんも案外子供ねぇ」ハッ
垣根「一方通行、下手に言い訳重ねると第五位みたくなるぞ?」
一方通行「ぐ……ちくしょォがァ……」ギリッ
11111号「いやぁいい顔してますね、一方通行のその顔だけでも今回の企画をやった甲斐があったというものです、
とミサカはマジ悔しそうな一方通行を恍惚の表情で眺めます」ホォ
一方通行「オマエ、マジで覚えとけよ………」ビキビキビキィ
麦野「うわすっごい血管浮いてる、キモ」
垣根「狂経脈みたくなってんな」
11111号「フ、企画終了後を楽しみにしていますよ。それではミサカはこの辺で、
とミサカは一方通行を小馬鹿にした笑みを浮かべながら颯爽と休憩室から離脱します。
後はのんびり休んでください、今日一日お疲れ様でした」ガチャ
一方通行「二度とツラ見せンじゃねェクソが!!おい誰か塩撒け塩!!」
御坂「ないわよ塩なんて……」
垣根「つーか『覚えとけ』つったり『二度とツラ見せんな』つったり、どっちだよ」
麦野「怒りのあまり混乱してんのかねぇ?」
食蜂「情けなぁい、実は第一位さんってば結構打たれ弱かったりしてぇ?」
一方通行「あ゛ァ!?」ギョロ
食蜂「な、なんでもないですごめんなさい」ブルブル
垣根「即座に謝るようになったか、少しは学習したみたいだなこいつも」
麦野「学習したってか調教されたって感じ?」
食蜂「はぁ?私が調教されたですって?馬鹿言わないでもらえるぅ?私は常盤台の女王なのよぉ?
誰がどう見ても私はむしろ調教する側の人間でしょぉ?」ハッ
垣根「あぁはいはい、そうですか……」
麦野「ま、あながち間違ってないかもね。こんだけ嗜虐心を刺激する存在もそういないだろうし、
第五位のせいでSに目覚める奴も少なくないんじゃないかしら?」
食蜂「な、何よそれどういう意味よぉ!?」
※事実、多くの妹達がS方向に調教されました。
御坂「あのさ、とりあえずベッドに入らない?私もうくたくた……」ハァ
休憩室の入り口付近に立ったまま雑談を始めそうな空気を察し、御坂はぐったりと肩を落としながら牽制をかける。
朝から晩までコキ使われ、引っ叩かれ、心身ともにボロボロの状態なのだ。
立ち話など真っ平御免、何にしろ早くベッドに寝転がりたい、ということなのだろう。
垣根「それもそうだな、雑談するにしてもベッドに入ってからにすっか」
麦野「んー、夜更かしは肌に悪いし、私は雑談よりもそろそろ寝たいかな」
一方通行「手遅れだろ」
麦野「何か言ったかクソモヤシ」
一方通行「鮭ってうめェよな」
食蜂(枕投げ……)
だがそれは他のメンバーにしても同じだったらしく、御坂が声をかけると一行はあっさりと会話を切り上げ、
それぞれ思い思いに伸びをしたり欠伸をしたりしながらベッドの方へと向き直った。
と、その瞬間、全員がその身を硬直させ、息を呑む。
一方通行「……」
垣根「おぉ……」
人数分、五つ並べられたベッドの内の一つに、明らかに人間一人分くらいの膨らみが出来ているのだ。
書類を取りに行く前は当然そんなものはなかったはずで、
ならばこれは一行が仮眠室を出ていた間に施された本日最後の仕掛けに違いない。
御坂「……あの膨らんでるベッド、書類取りに行く前に私が寝転がってたやつよね?」
麦野「何かデジャヴ感じるわね」
食蜂「……?」
デジャヴ。そうデジャヴだ。前回の就寝前に起きた一連の出来事が食蜂を除く四人の脳裏を過ぎる。
前回の笑ってはいけない学園都市・高校編でも、こんな風に御坂の布団だけが不自然に膨らんでいたのだ。
御坂「く、何でまた私なのよ……」
恨めしげに膨らんだベッドを睨みながら、御坂はギリギリと歯軋りをする。
前回似たような状況に陥った際、彼女は先の一方通行がそうだったように、完全に思考の裏をかかれ、
友(ゲコ太のぬいぐるみ)との決別という最悪の結末を己の手で演出してしまったのだ。
ベッドの中に一体何が仕込まれているのか。
現時点でわかっているのは人間大の膨らみを持った何かがベッドに潜り込んでいるという事だけだ。
とにかく慎重にいかなくては……前回の悲劇を繰り返すわけにはいかない。
垣根「何が仕込まれてると思う?」
麦野「やっぱりあの変態ツインテか、前回と同じくカエルのぬいぐるみか、そのどっちかじゃない?」
御坂「どっちが入ってるかで取るべき対応が180度違うじゃない……」
一方通行「ツインテの方に一票だな、今回まだアイツの出番がほとンどねェし」
垣根「と思わせといて実はまたゲコ太が入ってて前回の二の舞になったりな」
麦野「或いは全く別の物が出てきたりしてね。ちょっと他の物が入ってるのは想像出来ないけど」
御坂「うぅぅ、どうすれば……」
食蜂「んっとぉ、よくわかんないけどとりあえず布団めくってみればいいんじゃないのぉ?」
御坂「もしあそこに隠れてるのが黒子だったらと思うとそんな危険な事出来ないわよ!
ベッドの中に引きずり込まれたり空間移動で攫われたりしたらどうしてくれんの!?」キッ
食蜂「えぇー?だったらもう布団の上から袋叩きにしちゃったらぁ?」
御坂「布団の中に入ってるのがゲコ太だったらと思うとそんなかわいそうな事出来ないわ……
それに仮に布団の中に入ってるのが黒子だったとしても袋叩きにして布団が血塗れになったらイヤだし……」
食蜂「御坂さん本当に白井さんの事友達だと思ってる?」
御坂「誰のせいで黒子をこんなに警戒しなきゃいけなくなったと思ってるのよ……」
食蜂「あ、いい事思いついちゃったぁ!第一位さんと第二位さんが同じベッドで寝れば一つベッドに空きが出来るから
あの膨らんだベッドには誰も触れなくても済むんじゃないかしらぁ?」
一方通行「きめェ事ほざいてンじゃねェ、ぶっ殺すぞ」
垣根「つーか死ね、自殺しろ」
食蜂「ほらほらぁ、何だかんだで罵倒するのも息ぴったりじゃなぁい?やっぱり二人は心で繋がって……」
一方通行「おらァ!!」ブン
垣根「くたばりやがれぇ!!」ヒュッ
スパパァーン!!
食蜂「たらばッ!!」バターン
御坂(この二人の息が合ってるって言うか、食蜂をシメる時だけ皆の心が一致する感じよね)
垣根「ふぅ……とりあえずこうして遠巻きに見てても仕方ねぇし、ちょっと近付いて観察してみるか?
中に潜んでるのが生き物なら呼吸やらで少しは布団が動くだろ」
麦野「そうね、外からでもじっくり見れば中に入ってんのが生き物か否かくらいは判別出来るでしょ」
御坂「うん、前回の失敗は黒子が潜んでるって先入観のせいでろくに観察せずに行動を起こしちゃった事だもんね」
一方通行「じゃァ俺は寝るからオマエら適当に頑張れよ」フアァ
麦野「お前も頑張るんだよ」ガッシ
一方通行「おい肩掴むな、もげる」イテェ
食蜂「全く、第一位さんには協調性っていうものが欠如してるわねぇ」ヤレヤレ
御坂「あんたが言うか……」
垣根「シッ、ほら行くぞ。さっさと終わらせて今度こそ休もうぜ」ソロソロ
御坂「ん、そ、そうね」コソコソ
声を潜め足音を殺し、一行はそろりそろりと膨らみのあるベッドへ近寄っていく。
御坂は『今回こそは乗り切ってみせる』と闘志に燃えていた。そして同時に『今回はいけるだろう』という自信もあった。
御坂の寝具に何かが潜んでいる、という状況こそ前回と一致しているが、明確に違う点が二つある。
一つは彼らが前回を経験している事。そしてもう一つ――
御坂「……」ジッ
食蜂「……?どうしたの御坂さん、こっち見て」
食蜂という、スケープゴートが存在する事。
『いざとなったらこいつを布団につっこませよう』
そんな事を心の中で思う腹黒中二であった。
食蜂「ははぁん、さては私に見惚れちゃってたのかしらぁ?
全く女の子まで誘惑しちゃうだなんて、やっぱり私の美しさは罪よねぇ」ファサ
御坂「……」チッ
食蜂「無言で舌打ち!?」
垣根「おいうるせぇよ、少し静かに……」
言いかけて、垣根の声が止まる。今確かに、もぞり、と目の前の布団が、彼らの声に呼応するかのように動いたのだ。
と言う事は恐らく前回と違い、今回ベッドの中に潜んでいるのは生き物なのだろう。
麦野「今動いたわね……」
一方通行「あァ、膨らみ方が微妙に変わったしな」
御坂「食蜂、ちょっと布団の中見て来てくれない?」
食蜂「い、いやに決まってるでしょぉ?」
垣根「さてどうする?動いたって事は中に潜んでんのは生き物……つーか多分あのツインテだぞ」
麦野「前回みたく布団を引っぺがしたらその瞬間煙幕に包まれる可能性もあるわけだし、
今回はいっそ布団ごと取り押さえてみる?」
御坂「そ、そうね……よし、それで行きましょう!布団越しなら中に何が入ってても大丈夫よね!」
一方通行「じゃァ腕力無い俺は戦力外なンで安全な位置まで下がってますね」
垣根「……まぁ五人全員で飛びかかれるほどベッドもでかくないしな」
麦野「いいわ、下がってなさい役立たず」ペッ
食蜂「あ、じゃぁ私も非力なお嬢様だし下がってても……」
御坂「あんたはダメ」
役立たず一人を下がらせた後、四人はいつでも飛び掛れるよう中腰になりながら、ジリとベッドににじり寄る。
垣根「……よし、それじゃ『せーの』で一気に取り押さえるぞ」
御坂「うん」
麦野「はいよ」
食蜂「はぁい」
垣根「行くぞ……せーnぐあぁ!!?」ボフ
御坂「垣根さん!?」
垣根の掛け声は不意に中断され、変わりに彼の喉からは驚愕の声が絞り出された。
その筈である。目配せし、今まさに飛び掛ろうとしたその瞬間、
ベッドを覆っていた布団は内側から跳ね除けられ、跳ね上がった布団が垣根を直撃したのだから。
まさかベッドに潜んでいる何かが自分から飛び出してくるとは夢にも思っておらず、
一行は完全に先手を取られてしまったのだ。
「白井さんだと思いましたか!?残念!」
布団の中から飛び出したそれはベッドに立ち上がり両手を大きく広げると、
機先を制され呆然とする一行の前で声高に叫ぶ。
海原「海原光貴でしたー!!」バァーン
御坂「いやあああああああああ!!!!」
満面の笑みで名乗りを上げる海原(偽)を前に、御坂はかつてない程目を剥き、絶望の叫び声を上げた。
そりゃそうだろう。自分が使っていたベッドの中からストーカー疑惑のある男が飛び出してきたのだから。それもパンツ一丁で。
思春期の少女にはなかなかにクリティカルなダメージであろう事は想像に難くない。
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、食蜂、アウトー』
垣根「俺らよりアウトな奴が今目の前にいるだろうがああああ!!!」
一方通行「なンでまた脱いでンだよこいつはァァァァァ!!!!」
御坂「何よもう!!何なのよおおおお!!!!」
食蜂「り、理事長のお孫さんがこんな所で一体何やってるのよぉ……」ククク
麦野「そういやこんなのもいたわね……すっかり忘れてたわ……」クッ
バチーン!!
一方通行「ッふァァァ!!!」
垣根「おほぉ!!!」
麦野「が……ッッ!!」
食蜂「そぬ!!」
海原「さぁ御坂さんこちらへどうぞ!こちらへ!!こちらが御坂さんのベッドです!!」
御坂「誰が行くかあああああ!!!!て言うかまず服を着ろおおおおおお!!!!」
海原「自分の事はいいんです!!それよりも御坂さん、早く布団の中へ!!温もりが失われる前に!!」
御坂「行かないつってんでしょ!?何が悲しくてあんたが裸で包まってた布団に入らなきゃいけないのよ!!?」
海原「裸だったら何が悪い!?」
御坂「何もかもが悪いわあああああ!!!!」
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、食蜂、アウトー』
御坂「笑ってんじゃないわよあんたらああああああ!!!!」
麦野「無理だって、堪えらんないわこれは」プクククク
垣根「オマエは本当に変なのに好かれるな」ケラケラ
食蜂「モテモテねぇ御坂さん。本当に羨ましいわぁ」プークスクス
一方通行「疲れ切ってるところにこのテンションのゴリ押しは辛ェな……」グフ
バチーン!!
一方通行「ごぽァ!!!」
垣根「ぎゅあァッ!!!」
麦野「あがっ!!!」
食蜂「ばるす!!」
海原「急いでください御坂さん!!冬の布団は冷たくて辛いでしょう!?折角御坂さんの為に温めていたんですよ!?」
御坂「知らないわよもおおおおお!!!余計なお世話にも程があるでしょうがあああああ!!!」
海原「ベッドが暖かいうちに眠らないと風邪を引いてしまいますよ!?いいんですか!?
御坂さんが体調を崩してしまったら自分はとても悲しいんです!!だからさぁ、早く!!!」
御坂「うるさあああい!!!いいからあんたはさっさと身体を隠せ!!!布団の中に入ってろおおおお!!!」
海原「ふ、布団の中に入ってろですって?それはつまり……御坂さんは自分と添い寝がしたいと……?」ドキ
御坂「んなわけあるかアホがぁ!!!姿が見えないようにしろつってんのよ!!!!」
海原「いけません……いけません御坂さん!自分は遠くから見守ると決めたんです!!
今の自分に出来るのは精々こうして布団を暖め御坂さんを迎え入れる準備をする事くらい……
それ以上の事はやる資格は自分にはないんです!!」クッ
御坂「なら今すぐ遠くに消えなさいよ!!見守らなくてもいいから!!」
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、食蜂、アウトー』
御坂「だからあああああああ!!!笑ってないで誰か何とかしtげほ!!ケホ、ケホ……ゴホ……」
垣根「どうした?突然咳き込んで」
麦野「叫びすぎて喉にきたみたいね」
食蜂「御坂さんったら興奮しすぎよぉ、男の人の裸くらいでぇ」フフフ
一方通行「流石、BL本読み慣れてる奴は格が違ェな」
御坂「ゲホゲホ、コホ……うぅ、もういや……ケホッ」
海原「大丈夫ですか御坂さん、無理なさらずに布団でゆっくり休んで……」ス
御坂「うるさぁい!!触んなぁ!!!!」パシン
海原「御坂さん……」
蹲り咳き込む御坂にそっと手を差し伸べる海原だったが、その手は彼女に届く前に叩き落されてしまう。
純粋に御坂の身体を心配しての行動だったのだが、如何せんパンツ一丁という出で立ちではその気遣いも逆効果なようだ。
邪険に手を払われた海原はしばし寂しげな瞳で御坂を見つめた後、ギュッと拳を握り締め
悔しそうに顔を歪めながら『おのれテクパトル……』と怒りに震える声を喉から搾り出した。
なんでや!テクパトル関係ないやろ!!
海原「御坂さん……そのままでは本当に体調を崩し兼ねません。
どうか、どうか自分に構わず布団に入ってお休みになってください。
御坂さんの幸せと健康こそが自分にとっての第一なんです!」
御坂「今この瞬間私の幸せと健康を阻害してるのはあんたでしょうがぁ!!!」
海原「く、こうなったら力ずくでも……ッ!!」
御坂「え、いや!ちょっと!?」ビクッ
海原「例え御坂さんに蛇蝎の如く嫌われようと、自分には御坂さんの健康を守る責任があります!!
無理矢理にでも布団でゆっくり休んでもらいますよ!!」ガシ
御坂「いや!放して!!誰か!誰かぁぁぁ!!!」
暴走した善意を押し付けようとする海原に恐怖し、御坂は必死で助けを求める声をあげる。
が、他のメンバーは笑ったり引いたりに自分の寝床を整えたりするのに忙しいらしく
誰一人として御坂に救いの手を差し伸べようとはしない。
そりゃいくら仲間の窮地とは言え誰も好き好んでパンツ一丁の男と関わりたくなんかないさ。
海原「さぁ、御坂さん……」グ
御坂「あ……」
掴まれた腕をグイと引かれる。助けを期待出来ない以上、もはや風前の灯、風の前の塵ではないか。
だが、本当にそうなのか?本当に絶体絶命の状況なのか?現状を打開する術は本当にないか?
否!否!!否!!!
第三者からの助けが期待出来ないから何だと言うのか。
自分なら出来るはずだ。誰の手も借りず、たった一人でこの窮地を抜け出すことが。
退くな。相手の気勢に呑まれるな。死地にこそ活路を見出せ。
指は?
掴める!
脚は?
走れる!
眼は?
見える!
問題ない。何も、問題はない。
一体、何の不満があるだろう。
自分には、こんなに立派な肉体があるではないか。
一人でも戦い抜くだけの、立派な肉体が、あるではないか。
闘え、闘え。
そう言ってくれる肉体が、あるではないか。
もう目は逸らさない。
男の裸体が何だというのか。
本当に目にしてはならない部分はしっかり隠されているではないか。
御坂はこの瞬間、初めて正面から海原を見据えた。
見据えた海原の身体は、もはやただの肌色のサンドバッグでしかなかった。
海原「御坂、さん……?」
只ならぬ雰囲気の御坂に、海原は僅かにたじろぐ。
それはほんの一瞬の間でしかなかった。
だが、まがうことなき隙であった。
その隙を見逃す御坂ではない。
拳。
拳。
肘。
足。
肘。
踵。
指。
拳。
人中への正拳に始まる怒涛の連撃が、海原の肉体を抉ってゆく。
最後の突きが胴を貫いた時、海原は「ひゅ」と肺から空気が漏れたかのごとき呻き声を発し、地に伏した。
御坂「……」
眼前の敵が昏倒したからと言って、残心を忘れる御坂では無い。
たまらぬ女であった。
海原「」チーン
御坂「ハァ、ハァ、ハァ……」ゼェゼェ
食蜂「み、御坂さん、流石にやり過ぎじゃ……」ガクガク
一方通行「血達磨になってンじゃねェか」
麦野「もう私が教える事は何も無いわね」フ
垣根「だからオマエは御坂に暴力教え込むのやめろって!!」
遊び半分とは言え麦野に暴力の手解きを受けた御坂の拳は、無能力であろうと容易に人体を破壊しうる。
海原「」ドクドクドク
御坂「……ど、どうしよう」
戦いの熱が冷めたのだろうか。御坂はハッと我に返ると、目の前で血の海に沈んでいる海原を青ざめた顔で見つめる。
いくら半裸の変態が相手だったとは言え、流石にやり過ぎたという自覚はあるようだ。
御坂「これじゃ布団が血だらけで使えないじゃない……ッ!!」クッ
違った。海原の心配なぞ一切していなかった。
彼女が悔いていたのはただ自分の寝床を薄汚い豚の血で汚してしまった事だけであった。
この子はいつからこうなってしまったのだろう。
御坂「ね、ねぇどうしよう?私どうやって寝れば……」
食蜂「え、えぇ?心配するのはそっちなの?知らないわよそんな事ぉ……」
垣根「少しくらいその血達磨にも気を使ってやれよ」
海原「」シーン
麦野「出血の勢いが止まったわね」
一方通行「つまり心臓が血液を運ぶのをやめたって事だな」
食蜂「え、それってつまり死……」
御坂「それよりも布団どうしよう……流石にこの季節に布団無しは風邪引いちゃいそうなんだけど……」
一方通行「目の前の自分が作り出した死体よりも自分の体調が心配か。いい性格になりやがったなコイツも」
垣根「信じられないだろ?前回は似たような状況で始終脅えっ放しだったんだぜ……?」
麦野「逞しくなったわね」
垣根「御坂、しばらく麦野と距離を取れ。悪影響受けすぎだ、このままだと取り返しのつかない事になるぞ」
食蜂「もうなってるんじゃないかしらぁ?まぁ御坂さんは最初から割と取り返しのつかない性格だと思うけどぉ」
御坂「……ねぇ食蜂、布団交換しない?この赤い斑模様なんてあんたにぴったりだと思うんだけど」
食蜂「断固拒否させてもらうわぁ!!て言うか赤い斑模様がぴったりってどういう意味!?
私そんなグロテスクなイメージないでしょぉ!?」
御坂「そんな事言わないで、ね?私達友達じゃない。私、友達って困ったときは助け合うものだと思うな」
食蜂「え、友達……ってそんな都合のいい言葉に騙されるわけないでしょぉ!?
第二位さんか第四位さんに頼みなさいよもぉ!!」
御坂「その二人は本当の友達だからあんまり酷い迷惑はかけたくないかなって。
親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ?」
食蜂「え、何、ちょっと、御坂さん本当に酷くない?真剣に傷つくんですけどぉ」
御坂「あ、ごめんね?でも私、これを切欠にあんたとは新しい関係を築けるかなと思って……」
食蜂「どんな関係よ!?御坂さんなんてもう知らないんだからぁ!!」プン
御坂「……チッ」
食蜂「本当に泣くわよ私……」
一方通行「既に散々泣いてンだろ」
垣根「今更オマエが泣いてもなぁ……」
麦野「いいからとりあえずこの血達磨をどうにかするわよ。流石に死体と同じ部屋で寝たくはないし」
海原「」
一方通行「つってもどォするよ?外に放り出すにしてもまず触りたくねェンだけど」
垣根「ベッドごと……ってのは流石に無理があるか。布団に包んで放り出すか?」
麦野「正直布団にもあんまり触りたくないとこね、だいぶ血ぃ吸ってるし」
11111号「フフ、お困りのようですね、とミサカはタイミングを見計らって颯爽と現れます」ガチャ
垣根「うわ戻って来やがった」
一方通行「おいやめろ、こっちは本当にそろそろ寝てェンだ、これ以上場を荒らすンじゃねェ」
11111号「失敬な、ミサカはむしろ場を収めに来たのですよ、とミサカは一方通行の言い分に憤慨してみます」プンスカプン
麦野「あぁ、て事はこの死体を片付けに来たわけね」
11111号「えぇ、ミサカが来たからにはもう心配ありませんよ……ってうわ、予想以上に酷い事になってる、お姉様パねぇ、
とミサカは海原光貴の惨状に唖然とします」
海原「」チーン
11111号「一体いつからこんな暴力的になったんですかお姉様、むぎのんのキャラを喰っちまう気ですかい?
とミサカは中盤以降影の薄くなっているむぎのんに哀れみの視線を向けてみます」ジー
麦野「叩き殺すぞ。てか別にこんな企画で目立ちたくないわ」
御坂「ぼ、暴力的なんかじゃないわよ!正当防衛よ正当防衛!!」
食蜂「うぅん、どう見ても過剰じゃないかしらぁ……」
垣根「いや、パン一の男にベッドに連れ込まれそうになったらこのくらいやっても仕方ねぇだろ」
海原「」
11111号「まぁとりあえずこれは片付けますか、目障りですし、
とミサカは海原光貴を片付けるよう裏方の妹達に指示を送ります」ヤレー
御坂「あーよかった、これで一安心ね」ホッ
麦野「これで残る問題は美琴の寝床をどうするかね」
食蜂「やっぱり第一位さんと第二位さんが同じベッドで……」
一方通行「オマエいい加減黙らねェと本気で潰すぞ?」ギロ
垣根「一回マジで物理的に黙らせとくか?」コキコキ
食蜂「ふん、どれだけ脅されようとここだけは譲らないわよぉ!?引き下がるもんですかぁ!!」カッ
垣根「何なのこいつ?何でこの情熱をもっと他の方向に活かせねぇの?」
一方通行「本当にろくなモンじゃねェなこの腐女子は……」
御坂「あ、あのさ、病室のベッドとかは使えないの?患者さんが入ってない空きの病室くらいあるわよね?」
11111号「ありますけどダメです、とミサカは神速で却下します」
御坂「な、なんでよ!?私が体調崩してもいいって言うの!?」
11111号「まぁ落ち着いてくださいお姉様。言い方が悪かったですね、
代わりの寝具を用意してあるのでわざわざ病室のベッドを使う必要はないと言っているのですよ、
とミサカは笑顔でお姉様を宥めてみます」ドウドウ
御坂「あ、あぁ、なんだそういう事?よかった……わざわざ代えの布団用意してくれてるなんて気が利くじゃない」
11111号「そうでしょうそうでしょう、このミサカほど皆さんの事を考えているミサカは他にいませんから、
とミサカはドヤ顔でここぞとばかりにヒロイン力をアピールしてみます。
みさきちのような腐れ脳味噌がヒロインなどとは片腹痛いわ」
食蜂「え、何で私今喧嘩売られたの?」
一方通行「……まァ確かにこいつ程俺らの事を考えてる妹達は他にいねェだろォよ」
麦野「悪い意味でね」
垣根「常に俺達がどうすれば嫌がるかを考えてるんだろ?わかってるぜ」
11111号「む、随分な言い分ですね。このミサカはちょっぴり不器用なだけで本当に皆さんの事がダイスキデスヨ?
とミサカは明後日の方向を見つめながら本当の気持ちをぶっちゃけてみます」
一方通行「最後の部分聞き取れねェレベルのカタコトだったぞオイ」
垣根「こっち見ろ、目ぇ見て話せ……いややっぱいいわ、あっち向け」
麦野「むしろあっち行け、私の視界に入るな」
11111号「あぁ蔑む様な視線が心地よい、とミサカは満足気に頷いてみます」クックック
一方通行「邪気の塊が……」チッ
御坂「ねぇ、それより早く布団の代えを持ってきて欲しいんだけど……」
11111号「おぉっとそうでしたね。ではお姉様、失われた布団の代わりにこれを……」ゴソゴソ
11111号「どうぞ、新聞紙です、とミサカは新聞紙の束をお姉様の足元に放り投げます」パサ
御坂「うおおぉぉぉぉぉい!!!!」
デデーン♪
『一方通行、垣根、食蜂、アウトー』
御坂「だから笑うなあああああああ!!!!」
垣根「良かったなぁ御坂、これで暖かく眠れるぞ?良かったなぁ……」プルプル
御坂「よかないわよ!!て言うか新聞紙って本当に暖かいの!?」
一方通行「新聞紙の保温力は馬鹿に出来ねェぞ、密閉するとサウナみてェになるらしいからな」ククク
御坂「そんなに!?」
麦野「保温・保冷効果込みの緩衝材として梱包の際にはかなり役立つわね」
食蜂「敷布団の下やコタツ布団の下に敷くと保温効果と吸湿効果が期待出来るわよぉ?」
御坂「何であんたらそんな新聞紙に詳しいの!?」
バチーン!!
一方通行「ぶはァァ!!!」
垣根「ぐげぁッ!!」
食蜂「ひぎぃ!!」
御坂「ねぇちょっとどういう事よ!?何で代えの布団って言って新聞紙が出てくるの!?」
11111号「はて、ミサカは最初から代えの寝具としか言っておりませんが?とミサカはシラを切ってみます」
御坂「あぁもう!!だとしてもまず新聞紙は寝具じゃないでしょ!?」
11111号「あまり滅多な事を言うものではありませんよお姉様、
全国にいる新聞紙を寝具として愛用せざるを得ない状況の家なき子達に謝ってください、
とミサカは新聞紙を馬鹿にしたお姉様を嗜めます」メッ
御坂「知らないわよ!!何よ家なき子って!?」
食蜂「ホームレスさんの事じゃないかしらぁ?」
御坂「わかってるわよそのくらい!ちょっと黙ってて!!」
食蜂「何この理不尽」
11111号「ちなみに先程こちらで回収した海原光貴も新聞紙愛好家です。
常盤台の寮の近くで新聞紙に包まって眠っている姿をよく見かけます、
とミサカは丸秘情報を惜しげもなく披露してみます。お姉様も罪なお方ですね」
御坂「怖!!朝早くに遭遇する事が多いと思ったらそんな事してたの!?」
垣根「それでいいのか理事長の孫……」
11111号「まぁそんなわけですからお姉様、頑張って下さい、とミサカは笑顔で親指を立てながら退室します。グッナイ」ガチャ
御坂「ちょ、ちょっと!!えぇぇぇぇ……」
食蜂「どんまぁい御坂さぁん」ポン
御坂「……食蜂、やっぱり友達同士布団の交換を」
食蜂「するわけないでしょ」ハッ
御坂「ね、ねぇ誰か!敷布団か掛け布団どっちかだけでいいから貸し……」
一方通行「さァてそろそろ寝るか」フアァ
垣根「あぁ、流石に体力の限界だ。もう一歩も動きたくねぇ」ゴロン
麦野「ふあぁ……あら、仮眠室の癖に結構いい布団ねこれ、よく眠れそう……」
御坂「ちょ、ちょっと、ねぇ、聞いてよ!別に丸ごと引き渡せって言ってるんじゃないのよ!?
毛布!毛布だけでもいいから!!」
一方通行「だが断る」
垣根「悪いな御坂、この布団はセットで一人用なんだ」
食蜂「大丈夫よぉ御坂さん、しっかり新聞紙に包まってれば風邪引いたりしないわよきっとぉ」
麦野「ごめーん、思った以上に布団が心地良いから渡したくないわ」
御坂「む、麦野さぁん!!私前回似たような状況で麦野さんの事助けたわよねぇ!?」
麦野「そういえばそうだったわね。でも私の知ってる美琴は善意の見返りを求めたりする子じゃないわ」
御坂「えぇー……」
麦野「そんなわけでおやすみー」
垣根「おう」
食蜂「おやすみなさぁい」
一方通行「ふァ……」
御坂「ま、待って!まだ寝ちゃダメ!!起きて!!皆で打開策を……」
一方通行「……」スースー
垣根「……」クー
麦野「……」zzz
食蜂「……」ムニャムニャ
御坂「ちょっとおおおおおおおお!!!!」
一日目、終了
人物名鑑
海原光貴(偽)(うなばら みつき(にせ))
常盤台中学理事長の孫でレベル4の念動力能力者。何をやってもサマになるサワヤカイケメン。
に変装しているアステカの魔術師。本名エツァリ。
御坂に恋心を抱いており、常に遠くから彼女の事を見守っている紳士。もしかしなくてもストーカー。
困難に直面すると何かにつけてかつての上司であるテクパトルのせいにするという困った癖があったりする。
現在は御坂の事を守る為に彼女の住んでいる常盤台の寮付近でホームレス生活を営んでいるのだが、
お陰様で本物の海原光貴の評判は駄々下がりになっている。海原(真)が何をしたというのか。
また、今回御坂の布団を温めていたのは変な意味ではなく、心から御坂の為を思っての行動であり、
彼は御坂に冬の冷たい布団を味わって欲しくないという一心であった。
残念ながらその真心は現役の中学二年生には伝わらなかったようだが。
前回に引き続き何故か服を着ていない。アステカ(メキシコ方面)出身の魔術師なので
学園都市で作られた化学繊維の服を着用する事に抵抗があるのかも知れない。仕方が無いね。
761 : >>1[sage] - 2012/05/20 21:53:07.93 VYDWS/cpo 316/411
あぁ、何かやってないと思ったらお風呂イベントか……やべぇ完全に忘れてたぜ
今更やるのも何かあれだし、お風呂編は尺の都合でカットされたという事で……すまぬ、すまぬ……
まぁあれだ、ディレクターズカット版にでも期待して待ってくれ、やる予定はないけどな!
789 : >>1[sage saga] - 2012/05/23 00:14:16.40 D8r57wcSo 317/411
まぁ流石にね、お風呂イベントを「忘れてました(テヘペロ」の一言でカットするのはあんまりかなと
ってなわけでちょっとお風呂イベントをダイジェンストで
>>246と>>275の間くらいにお風呂イベントがあったという事にしといてくだしあ><
>>245くらいから派生
11111号「はい皆さんお待ちかね、次はいよいよ『ドキ☆レベル5だらけのお風呂タイム~ポロリもあるよ~』のお時間ですよ、
とミサカはDVDを片付けながら視聴者の期待を煽ってみます。
あ、ちなみにポロリ要員は主にていとくんなので悪しからず」
垣根「しねぇよ!!」
一方通行「前回しやがっただろ」
食蜂「しちゃったんだぁ……第一位さんの前でぇ……」
一方通行「……いや、俺の前でだけじゃねェからな?」
食蜂「第一位さんの前で!!」
一方通行「一々俺を強調すンな!!全員の前でやりやがったンだよ!!」
麦野「そういや粗末なもん出してたわね、思い出したくもないけど」
垣根「あぁ!?俺の数珠丸恒次が粗末だとテメェ!?長さ太さ切れ味どれをとっても一級品の名刀だぞ!?」
一方通行「天下五剣の一振りを騙るたァ大きくでやがったな……それもちゃっかり一番長ェ奴を……」
御坂「何の話?刀?剣?」
垣根「あぁ、ちょっと俺の愛刀の話をな……反り具合も芸術的だぜ?」フ
麦野「おいそのなまくらへし折られたく無けりゃちょっと黙ってろ」
垣根「ハッ、折れず曲がらずが信条の俺の愛刀を嘗めるなよ?」
麦野「……」ブゥンブゥン
垣根「あっすいません調子乗ってました。無言で椅子を振り回しながら近付いて来るのはやめてください、怖すぎるんで」
御坂「……ねぇ、本当に何の話してるのよ?」
11111号「あぁもう出たよ出たよこのカマトトちゃんが、
とミサカは話について来れない振りをしているお姉様を冷めた目で見つめます」ジッ
御坂「ちょ、だ、誰がカマトトよ!?本当に何の話してるかわからないんだって!!」
一方通行「嘘つけ、むっつりのオマエにわからねェ筈ねェだろ」
御坂「だからむっつりでもないってば!!」
麦野「いい美琴、今話題になってたのは垣根の」
垣根「教えようとすんな!!!」
食蜂「それで第一位さんと第二位さんのチャンバラはまだなのかしらぁ?」
一方通行「オマエもォただの変態じゃねェか」
11111号「下ネタトークはこの辺にしてぼちぼち移動しましょうか、とミサカはドアを開けながら手招きします」カムカム
御坂「元を辿れば下ネタ話になったのはあんたが原因でしょうに……」
一方通行「……ふゥン、何の話してるのかわからないって言ってた割りに、
今までの会話が下ネタだったって事はしっかり理解出来てるンですねェ?」
御坂「!?」
11111号「おやおや」
麦野「墓穴を掘ったわね美琴……」
垣根「俺御坂は何だかんだで純真な子だって信じてたんだけどなー」
食蜂「夢見ちゃダメよぉ第二位さん、今日日の中学生なんて結構エグい事平気でやるんだからぁ」
一方通行「ネジの外れた腐女子が言うと説得力がすげェな」
御坂「いや、あの、違……その、会話の雰囲気で何となく察したって言うか、ね?あの……」
11111号「はいはい、時間も押してますからサクサク移動しますよー、
とミサカはしどろもどろになっているお姉様をガン無視しつつレベル5勢を先導します」カモン
一方通行「今回はちゃンとした風呂なンだろォなオイ」
垣根「前回は風呂とは名ばかりの温水プールだったからな……」
麦野「しかもやったら深かったしね。あれは逆に疲れたわ」
食蜂「へぇー、前はそんな感じだったのねぇ?」
御坂「聞いて!私の話聞いてー!!本当にわからなかったんだってばああああ!!!」
―男湯
垣根「あ゛ぁー……湯船は普通でよかったな」チャプチャプ
一方通行「あァ、全くだ」フゥ
垣根「熱湯風呂とか水風呂じゃなくて本当によかったわ」ホゥ
一方通行「俺は虚弱だからなァ……熱湯風呂だったら今頃大火傷、水風呂だったら凍傷になってたとこだぜ」ヤレヤレ
垣根「そりゃ流石に大袈裟だろ、日常生活送れないレベルの虚弱っぷりじゃねぇか……」
一方通行「まァな」フ
垣根「何で誇らしげな顔してんだオマエ……はぁ、しかし疲れた時の風呂はいいな」フー
一方通行「そォだな」
垣根「普段はシャワーだけで済ませちまう事も多いが、
やっぱりこうやって足の伸ばせる風呂に入るのは日本人の醍醐味だと思うんだよ」
一方通行「わからなくもねェ」
垣根「なんつーか、染み渡るよな」
一方通行「あァ、染みるな……」
垣根「……主に尻にな」
一方通行「あァ……」
垣根「俺さぁ、叩かれすぎて皮剥けてたわ、尻の……」
一方通行「その報告はいらねェよ」
垣根「前の方の皮は常に剥けてるけどな?」
一方通行「いらねェって!何でオマエそンな下ネタ好きなンだよ!?」
垣根「男の嗜みだろ」
一方通行「酷ェ嗜みもあったモンだなオイ」
垣根「俺は男のレベルってのはどれだけオープンに明るく爽やかに下ネタトークが出来るかで決まると思ってる」
一方通行「俺スライムレベルでいいわ」
垣根「……あ、そういや一つ気になってる事があんだが」
一方通行「また下ネタじゃねェだろォな?もォ腹いっぱいだからな?」
垣根「腹ン中がパンパンだぜってか?」
一方通行「だからなンでそンなテンション高ェンだオマエはァァァ!!!
俺がつっこみに回らざるを得ない状況を作るンじゃねェよ!!!」
垣根「いやだってほら、何だかんだでオマエは俺がボケたら普通につっこんでくれるじゃん?
麦野は暴力で黙らそうとしてくるし御坂にはボケが通じない事が多々あるし第五位は腐ってっし、
こんな時でもねぇとなかなか安心してボケられねぇんだよ」
一方通行「つまり俺もつっこむのやめりゃいいわけか」
垣根「んな寂しい事言うなよ……俺だって偶にはボケ倒したい時があるんだって……」
一方通行「安心しろ、オマエ十分過ぎるくれェボケだから。もォ治らないレベルで頭ボケてっから」
垣根「しかし自分で言っといて何だがさっきの『腹ン中~』は第五位が聞いてたらもうどっかんどっかんキてたろうな」
一方通行「わかってンなら第五位の前では絶対そっち系のネタ飛ばすンじゃねェぞ?拾わねェからな?」
垣根「オマエアレだよな、童貞だけあって下ネタはあんまり得意じゃねぇよな。
唯一の弱点、アキレスの踵ってとこか」ハッ
一方通行「得意になりてェと思った事もねェよ。あと童貞っつーな殺すぞ」チッ
垣根「あぁそんで気になった事なんだが」
一方通行「おォ」
垣根「前回と違って俺ら全裸にタオルだけじゃん?今笑ったらどうなんのかね?」
一方通行「あァー……」
垣根「普通にアウト取られるのか?そんで普通にクローンどもが尻引っ叩きに来んのか?男湯に堂々と?」
一方通行「さァなァ……いや、流石に来ねェンじゃねェか?」
垣根「だよなぁ、全裸でケツシバかれるのは流石にねぇよなぁ……」
一方通行「シバく方もイヤだろォしな……」
垣根「……」
一方通行「……」
垣根「……試して、みるか」
一方通行「正気か」
垣根「やっぱ気になるところだしな。多分大丈夫だとは思うが、
今この瞬間は笑っても大丈夫だって確実な安心が欲しい。それに……」
一方通行「それに?」
垣根「よしんばアウト取られてクローンどもがシバきに来たとしてもだ、
合法で現役JCのクローンに全裸を見せ付ける事が出来るなんてむしろ御褒美だろう?」
一方通行「どォした、何があった垣根?何でそンないきなり頭のネジ吹っ飛ンでンだ?
ここに来てついに疲労が限界突破しやがったか?普通に心配になってきたンだが」
垣根「心配するな。至って正常だ。割と普段から『女の子に肉体美披露する機会があったらなー』とか思ってるぜ?」
一方通行「そっかァー……」ドンビキ
垣根「モヤシ体型のオマエにゃわかるまい。洗練された肉体を持つと誰か(主に異性)に見せたくなるんだよ」
一方通行「わかりたくもねェ。つか別にそこまで洗練されてねェだろオマエ」
垣根「これだから童貞は。このくらいがいいんだよ。女受けする細マッチョ体型って奴だ。
あんまガッチガチに鍛えると脱いだとき引かれっからな、覚えとけ……いや、骨っ子のオマエは覚える必要ねぇか」フ
一方通行「あァハイよかったっスね。流石、二股かけられた上ゴミクズみてェに捨てられた垣根さンは言う事が違ェわ。
マジ説得力半端ねェわ。普通の神経してたらあンな過去があンのにそこまで自信持てねェわ」ハッ
垣根「テメェこの野郎……」ピキ
一方通行「あァ?俺なンか間違った事言いましたかねェ?」ア?
垣根「……まぁいい、とにかくちょっと笑ってみようぜ?」
一方通行「みようぜってオマエ、何で俺を誘ってンの?乗ると思ってンの?死ねよ」
垣根「チッ、このチキン野郎が。どうせアウトなんて取られやしねぇよ」
一方通行「いやもォ流れ的に酷ェ事になンのは明白だろ?何でわざわざ見えてる地雷を踏みたがるンだよオマエ。
そりゃさっきは俺も来ねェつったけどよォ、やっぱ来るわこれ。
普通にアウト取られて普通に淡々と無表情でケツシバかれる未来が透けて見えるわ」
垣根「無表情か、それはそれで……」
一方通行「オマエは何処に向かおうとしてンだよ……とにかく笑うンなら勝手に笑え、俺を巻き込もうとすンじゃねェ」
垣根「つまんねーの。そんじゃまぁ笑ってみるか」フゥ
一方通行「本気なンだな。まァ好きにしろ、俺は止めたからな」
垣根「よっしゃ行くぜ……ッ!」ニコッ
一方通行「ムカつく笑顔だな相変わらず」
デデーン♪
『垣根、アウトー』
一方通行「ほら見ろ、やっぱ普通に取られたじゃねェか」
垣根「あ、ちくしょう!……いや、よっしゃ!か?どっちだ?」
一方通行「知らねェよアホ」
垣根「ふん、まぁいい。こうなった以上は俺の数珠丸を卍解して……」
<ガチャ
垣根「お、来た来t」
アックア「さぁ、お仕置きの時間なのである」┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……
垣根「うおおおぉぉ!!!?」ビクッ
一方通行「クッ……」プルプル
アックア「速やかに刑を執行する。こっちに来るのである」ブンブン
垣根「ちょ待、え、何で!?何でクローンが来ねぇの!?何でこのおっさんが出てきたん!?」
アックア「何で?そんなもの決まっているであろう。婦女子が男湯に入るのは大問題なのである。
だから私が罰の代理執行者としてやって来たのである」ウム
垣根「おいふざけんな聞いてねぇし!!!責任者出せちくしょおおおおおお!!!!」
アックア「院長という意味では一応私が責任者なのである」
垣根「その設定まだ生きてんのかよ!?」
アックア「言いたい事があるのなら今の内にハッキリ言っておいた方がいいのである。
それが遺言になるかも知れないのでな」ブゥン!ブゥン!
垣根「怖い事言いながら素振りするのやめろよおおおお!!!
竹刀の素振りだけで空間が切れてるのが見えるんだけどおおおお!!!」ヒィィィ
一方通行「ク、グフッ」
デデーン♪
『一方通行、アウトー』
一方通行「あ゛ァァァァちくしょォがァァァァァァ!!!」
アックア「ほう、もう一人罪人が増えたようであるな?」ギロ
一方通行「笑っただけで罪人呼ばわりかよ!?こっち見ンなクソがァ!!!」
垣根「仲間が増えるよ!やったね俺!!」
一方通行「全部オマエのせいなンだぞ!?わかってンのかバ垣根がァァァァ!!!!」
垣根「うるせぇうるせぇ!!!俺だってクローンどもに一矢報いてやろうとしただけだったんだよ!!!
こんなん出てくるとか普通思わねぇだろうが!!!」
一方通行「だから自分から地雷踏むような真似はやめろつったンだよォォォ!!!」
アックア「ふむ、来ないようならこちらから行かせてもらうのである」ズン、ズン、ズン
垣根「ぎゃああああああ!!!!!」
一方通行「こっち来ンなァァァァァァ!!!!」
バチーン!!!!
バチーン!!!!
「「ぐああああああああああ!!!!!」」
――朝
垣根「どういう事だおい……」
一方通行「……」
御坂「……」
麦野「……」
食蜂「……」
垣根「……ありのまま、今起こったことを話すぜ。
俺はフカフカの柔らかい布団を被って寝たはずなのに何故か朝起きたらカサカサの新聞紙に包まっていた。
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
もっと恐ろしい腹黒の片鱗を味わったぜ……」カサカサカサ
御坂「……私じゃないわよ?」フカフカ
垣根「いや、オマエしかいないだろ……」
御坂「違うって……」
垣根「何故嘘を吐く……」
御坂「だって、違うものは違うんだもん……」
垣根「……あのね、俺は別にオマエを責めてようとしてるわけじゃないよ?昨日の夜毛布すら貸してやらなかった俺も悪いしね?
でもこれはちょっとあんまりなんじゃないかな?朝起きた時の俺の驚きがわかるか?
すっごいインクの匂いが身体に染み付いてるんだよ?マジでなんなのこれ?
正直ここまでやるとは思ってなかったよ?越えちゃ行けない一線越えちゃったよ?
しかも反省の色が全く無いっていうね?敷布団残してやっただけありがたく思えとでも思ってるのか?あぁ?」
御坂「せ、責めまくってるじゃない!?て言うか本当に違うんだって!!私じゃない!私じゃないの!!」
垣根「うるせぇしらばっくれてんじゃねぇぞガキが!!!
俺にかかってる新聞紙とオマエが包まってる布団が何よりの証拠だろうがぁ!!!!」
御坂「垣根さん信じて!私は……私は絶対に垣根さんから掛け布団を剥ぎ取ったりしてない!!」
垣根「まだ言うかよ……じゃあオマエが今抱きしめてるその布団は何だ!?
説明してみやがれ!!俺から奪い取った掛け布団だろうが!!」
御坂「違う!違うの!!これは……この布団は、食蜂が使ってた布団なの!!」
垣根「えっ」
食蜂「あああ!!!やっぱり私の布団と新聞紙を摩り替えたのは御坂さんだったのねぇ!?
最っ低!!何考えてるのよぉ!!お陰で夜中すっごく寒かったんだからぁ!!」
御坂「う、うるさいわね!敷布団まで奪わなかっただけありがたく思いなさいよ!」
食蜂「開き直ってるしぃ!!何なのもう!?御坂さんがこんな人だとは思ってなかったわぁ!!」
垣根「待て、ちょい待て……じゃあアレか?御坂が第五位にかけた新聞紙が今俺にかかってるって事はだ、
つまり俺の布団を奪い取ったのは……テメェか第五位!!!」クワッ
食蜂「え?あ、ちょ、ちが!!違う!!私じゃないわよぉ!!」
垣根「ほぉぉ?じゃあどうしてオマエは御坂に奪われたはずの布団に包まってるんだ?
そしてオマエが御坂に押し付けられたはずの新聞紙はどうして俺にかぶさってる?
論理的に説明してもらおうじゃねぇか……」ピキピキ
食蜂「あ、あの、ねぇ?まず私、夜中に寒くて目が覚めたのよぉ?
そしたら何故か私に新聞紙がかかってて、御坂さんが布団に包まってて……」
垣根「……で?」
食蜂「最初はその、御坂さんから布団を取り返して新聞紙を返品しようと思ったんだけどぉ、
御坂さんったら布団をがっしり掴んでてねぇ?ちょっと、引き剥がせそうになくて……」
垣根「仕方なく俺の布団を奪った、と?」ギロ
食蜂「ち、違うってばぁ!私が奪ったのは第二位さんからじゃなくて……第四位さんからなのよぉ!!」
垣根「えっ」
麦野「あぁ……美琴が私から布団取るわけないとは思ってたけど……なるほど、犯人はテメェか」ピシィ
食蜂「ひぃ!ご、ごめんなさぁい!!で、でもでも、やっぱり男の人が使ってる布団を取るのには抵抗があってぇ……」
垣根「妙な所で生娘みてぇな思考してんな……って事は麦野、オマエか?俺の布団を奪ったのは……」
麦野「んや、違うけど?私は第一位の布団を奪ったもの」
垣根「えー……」
一方通行「チッ、テメェだったか俺の布団をぶんどりやがったのは……
てっきり垣根の仕業かと思って垣根から布団奪っちまったじゃねェか」
垣根「犯人オマエかよ!!何だよこのたらい回し!?てか何で俺の仕業だと思っちゃったの!?
おかしくねぇ!?俺だと思う要素が欠片もないぞ!!」
一方通行「ぶっちゃけ一番布団奪いやすいのがオマエだったってだけだ」
垣根「本当にぶっちゃけやがったなこの野郎……」
麦野「ま、チェリーボーイの第一位が女の子の布団を剥ぎ取るなんて大胆な真似出来るわけないしね」ハッ
一方通行「生皮剥ぎ取ってやろうかこのババア……」ビキィ
麦野「んだコラやってみろモヤシが。寸刻みにして鮭の餌にしてやるよ」ギロ
垣根「……で、結局俺は誰に怒りをぶつければいいんだ?直接俺から布団を奪った一方通行か?
それともたらい回しを止めなかった麦野か第五位か?やっぱり全ての元凶の御坂か?
いや、その前に御坂に布団を貸さず新聞紙で寝ることを強いた俺自身か?」
御坂「……垣根さん、どこにも怒りをぶつける必要なんてないんじゃない?」
垣根「あ?」
御坂「新聞紙が五人全員の間でたらい回しになった……これって皆で少しずつ痛みを分け合ったって事だと思うの。
皆が同じ痛みを経験した今、私達は本当の仲間になれたのよ……そう、新聞紙のお陰で!」
食蜂「何言ってるの御坂さん……」
麦野「美琴、大丈夫?疲れ取れてない?むしろ更に疲れてる?」
一方通行「痛みを分かち合ったってオマエ……オマエは痛みを他人に押し付けただけだろォが。
元凶のくせして何綺麗に纏めようとしてやがる」
御坂「う……と、とにかく私は皆が少しずつ悪いんだと思うな!」
一方通行「いやオマエが一番悪いのは確定的に明らかだろ」
食蜂「そうよねぇ、て言うか悪いのは御坂さんだけじゃないかしらぁ?」
垣根「……何かもういいわ、怒るタイミングも逃しちまったし」ハァ
御坂「え、えっと……ごめんね垣根さん。垣根さんに被害が及ぶなんて全然思ってなくて……」
垣根「もういいって、別に体調崩したわけでもねぇし寝心地も案外悪くなかったし……
それに再三言うが、オマエに布団貸してやらなかった俺らも悪いしな」
御坂「垣根さん……」ウルウル
一方通行「『ハッ、この甘ちゃンがァ!これからもその甘さにつけこンで甘い汁吸わせてもらうぜ!ひゃっはァ!!』
とか思ってる顔だなこりゃァ」
垣根「……」
御坂「思ってない思ってない思ってない!!普通に垣根さんの優しさに感動してただけよ!?
ひゃっはぁとか言わないわよ私!?」
麦野「今の美琴なら泣き顔の裏でそんな事考えてても不思議じゃないなーってちょっと思っちゃったわ」
御坂「酷い!酷い!!私そんな子じゃないのに!!」
食蜂(ん……何か大事な事を聞き流してしまった気が……)
一方通行「しっかし全然疲れ取れてねェな……寝足りねェ……」フアァ
垣根「就寝時間がそもそもかなり遅かったしな」
食蜂(ハ、そうだ!第一位さんが第二位さんの布団を剥ぎ取って使ってるんだった!!
これはスルーしちゃいけないシチュエーションよねぇ!?)ハッ
一方通行「まだ11111号も来ねェし、もう一眠りすっかなァ」ボフ
垣根「そうしてぇのは山々だがなぁ……寝てる間に何されるかわかんねぇし……」ハァ
食蜂(ほあぁ!!第一位さんがぁ!第一位さんが第二位さんの使っていた布団を抱きしめてる!抱きしめているぅ!!
そして第二位さんは第一位さんから布団の代わりに押し付けられた新聞紙に包まれて……
これはつまりあれよね!?もうお互い抱き締め合ってるようなものよねぇ!?)ハァハァ
御坂「……何か食蜂がすっごい息荒げてて気持ち悪いんだけど」ヒキ
麦野「何考えてるのかは大体想像つくけど……まぁ放っておきなさい、アレはもう病気だから」
垣根「つーかおい一方通行、布団返せよ」
一方通行「はァ?ふざけンな死ね。冗談はメルヘンな能力だけにしとけよ」チッ
垣根「何でそこまで罵倒されなきゃならねぇの?俺は一方的な被害者の筈なんだけど?」
一方通行「知ったこっちゃねェよ馬鹿」
食蜂「そうよぉ第二位さん!あの布団は折角だからそのまま第一位さんに使わせておくのが……
いや待って、ここで第一位さんが布団を返すと布団は第二位さん→第一位さん→第二位さんと二人の間を往復した事になり、
それはあたかも秘密を共有する為の交換日記のようで……」ブツブツブツ
一方通行「そろそろ起きるか、俺はもォ二度とこの布団に触らねェ」バサ
垣根「もう外に投げ捨てとこうぜその布団……」
麦野「朝っぱらから飛ばしてるわね第五位は」ハァ
御坂「気持ち悪い……」
垣根「ネタにされてる当事者の俺らはもっと気持ち悪ぃよ」
食蜂「……よし、どっちに転んでもおいしい!第一位さん、第二位さん、
布団をどうするかは二人で存分に話し合って決めていいわよぉ!」パァァ
御坂「すっごい幸せそうな顔してる……」
デデーン♪
『食蜂、アウトー』
食蜂「な!?」
一方通行「な!?じゃねェよどォ見ても笑ってンじゃねェか」
麦野「言い逃れようがないくらい満面の笑みだったわね」
垣根「守りたい、この笑顔」
一方通行「何言ってンだオマエ」
御坂「笑顔に至るまでの過程がもっとマトモなら守りたくなるかもしれないけどさぁ……」
垣根「言ってみたかっただけだから気にすんな」
バチーン!!
食蜂「へぶら!!」
11111号「はーい皆さん起きてますかー、とミサカは颯爽と仮眠室に参上します」ガチャ
一方通行「チッ、来やがったか」
垣根「あー起きてんよクソッタレが」
11111号「何だ起きてましたか……とミサカは持参した油性マジックが無駄になった事に怒りを覚えつつも
上手いことそれを隠しながら朗らかに朝の挨拶をしてみます。おはようございます皆さん」ギリギリ
御坂「隠せてない隠せてない。声に出てる上に思いっきり歯軋りしてるじゃないの……」
食蜂「クローンさん達って何だかんだで正直って言うかわかりやすいわよねぇ。それに比べて本家は……」チラッ
御坂「な、何よ?」
一方通行「外面取り繕おうとする分、下手したらそこの性悪より性質悪ィかもな」ハッ
御坂「いやいやいや!それは流石にないでしょ!?」
麦野「そうね、美琴は確かに腹黒いけど鬼畜具合ではまだそっちのクソクローンには及ばないと思うわ。辛うじて」
御坂「辛うじて!?何か私の評価物凄く下がってない!?」
垣根「下がるような事散々やったからなオマエ。逞しくなったけど優しさがなくなったよ……」ハァ
食蜂「これでまた御坂さんは友達が減っちゃうんじゃないかしらぁ?あーあ、かわいそぉー」クスクス
デデーン♪
『食蜂、アウトー』
食蜂「は!?」
垣根「オマエ本当に馬鹿だろう?」
御坂「ばーか」
食蜂「だ、誰が馬鹿ですってぇ!?馬鹿って言った方が馬鹿なのよ馬鹿ぁ!!」
御坂「勝手に言ってなさいよ、ぶわぁぁぁか」ハッ
食蜂「むきぃぃぃぃ!!!」
11111号「いやはや、いい顔してますねお姉様、
とミサカは心底見下した表情でみさきちを罵倒するお姉様にちょっと素で引いてみます」
垣根「なんつーか、御坂は第五位が絡むと性格変わるな」
一方通行「活き活きしてンな」
麦野「美琴はM寄りだと思ってたんだけど、これはSの素質もあるかもしれないわね」
バチーン!!
食蜂「ばわっ!!!」
11111号「さてさて場が落ち着いた所で今日のスケジュールを発表させていただきます、
とミサカは居住まいを正しつつ咳払いをしてみます」コホン
垣根「落ち着いたのか?」
一方通行「とりあえず第五位が黙ったからまァ落ち着いたろ」
11111号「まず、目覚めたばかりの所を恐縮ですが、早速朝から一仕事していただきます。
それも若干力仕事です、とミサカは申し訳なさそうに今日最初の予定を発表してみます」
御坂「全っ然申し訳なさそうに見えないんだけど」
食蜂「力仕事かぁ……私無理よぉ?箸より重たいもの持てないものぉ」
垣根「BL本は箸より重てぇだろ。例え薄い本だとしても」
食蜂「あれは夢の重さだからいいの!」
垣根「なるほど、意味がわからん」
一方通行「力仕事なら第四位の出番だな。任せたぞ」
麦野「簀巻きにして海に捨てるぞこのモヤシ。何で私みたいなか弱い女の子に力仕事押し付けようとすんだよ」
垣根「オマエはか弱いって文字を百回辞書で引き直して来い」
御坂「むしろ辞書に載ってないんじゃ……」ボソ
麦野「へぇぇ、随分言うようになったわねぇ美琴ちゃぁん?」ギロリ
御坂「じょ、冗談!冗談だから!!」ヒィ
11111号「でもって朝一の仕事が終わったらいよいよ研修課程修了式です。
そこで院長先生に修了証書を頂けば皆さんは晴れて自由の身となります、
とミサカはこの企画もいよいよ終わりが近い事を仄めかしてみます」
食蜂「よ、ようやく終わりが見えてきた……長かったわぁ……」ハァ
一方通行「……なァ、第五位は加入が遅かったしコイツだけ時間延長するべきなンじゃねェのか?」
食蜂「何て事言い出すのよぉ!?」ビクッ
11111号「そういえばみさきちは午後からの参加でしたね。ふむ、四時間くらいみさきちは居残り研修を……
とミサカは腕組しつつ検討してみます」ンー
食蜂「らめぇぇぇぇ!!!!やめて!ほんとやめてぇぇぇぇぇ!!!
もう十分でしょぉ!?私だって十分苦しんだじゃない!!これ以上私に何を望むって言うのよぉ!!?」イヤァァァァ
垣根「フッ」
御坂「クス」
麦野「ケホッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、アウトー』
食蜂「何よ何よ皆してぇぇぇぇ!!!そんなに私をいじめるのが楽しいわけぇ!?」
一方通行「別にいじめちゃいねェだろ」
食蜂「これがいじめじゃなくて何なのよぉ!?」
垣根「まぁその、なんだ、頑張れよ第五位」クククク
御坂「頑張ってね、応援してあげるわ」ニヤニヤニヤ
食蜂「ぬがぁぁぁぁ!!!何なのよその嬉しそうな顔ぉ!!!」
麦野「ほんといい顔するようになったわね美琴は」クス
11111号「むぅ、ミサカのアイデンティティが……」
バチーン!!
垣根「こぽぁ!!!」
御坂「ひゃふぅ!!!」
麦野「っだあああぁぁ!!!」
11111号「まぁみさきちの延長戦については保留と言う事で、とりあえずお仕事に向かいましょう、
とミサカはドアを開けつつ手招きしてみます」カムカム
食蜂「保留じゃなくて今すぐ否定しなさいよぉ!!」
御坂「そんな焦らなくても……楽しみは後まで取って置いた方がいいって、ね?」
食蜂「何一つ楽しみじゃないんですけどぉ!?御坂さんちょっと私に辛辣過ぎるんじゃないかしらぁ!?」
御坂「私さ、正直言うとずっと前からあんたとどういう風に接すればいいのか悩んでたのよ。
でも今回の事でちょっとだけあんたの事が理解出来た気がする。
だから、きっとこれからはあんたとも新しい関係を築いていけるんじゃないかなって……」
食蜂「どんな関係!?御坂さん私とどんな関係を築こうとしてるわけ!?」
垣根「あーこれ、この子企画が終わった後も第五位を弄る気満々ですねぇ」
麦野「完全に格下だと認識したみたいね、わからなくもないけど」
一方通行「第五位の馬鹿さ加減が露呈しちまったからなァ……まァ友達出来てよかったな第五位」
食蜂「友達じゃない!これは私が思い描いた友達像とは違う!!」
11111号「ほれ、話してないで行きますよ、とミサカは駄弁っているレベル5勢を急かします」ハリーハリー
―外科診察室
11111号「失礼します、研修生をお連れしました、とミサカはドアを開けながら先生に声をかけてみます」ガチャ
冥土帰し「やぁおはよう、よく来てくれたね?」
垣根「おぉぉ、数少ないマトモな医者が出てきたか」
一方通行「いやコイツもマトモとは言い辛ェだろ」
御坂「叫びながら心臓マッサージしたり、頭ぺちぺち叩かれたりしてたもんね……」
麦野「ま、でも比較的マシっちゃマシなんじゃない?」
食蜂(昨日のカエルのミュータント……本当に医者だったんだ……)ウワァ
冥土帰し「さて、早速だが君達にやってもらいたい仕事があるんだけどいいかな?」
一方通行「拒否権は?」
11111号「あるとでも思っているのですか?とミサカは許されざる角度を取りつつ笑顔で首を捻ってみます」
垣根「ですよねー」
冥土帰し「心配しなくてもそんなに難しい仕事ではないからね?」
麦野「あぁはいはい。で、どんな仕事をさせられるわけ?」
冥土帰し「うん、実は死体を霊安室まで運んで貰いたいんだ」
食蜂「ふぇぁ!?」
御坂「さらっととんでもない仕事押し付けられた!?」
垣根「朝からイヤな仕事だなおい!?」
一方通行「……ンで、その死体ってのはそこのベッドに寝てるやつか?」
麦野「あー何か顔面に白い布被った奴が横たわってる思ったら死体だったのね」
冥土帰し「あぁ、さっき息を引き取ったばかりだ。僕の力が及ばなかったばかりに……」ク
食蜂「え、ほ、本当に死んでるの?冗談とかじゃなくてぇ?」
垣根「あんたでも患者を助けられない事があるんだな」
冥土帰し「僕も所詮はただの人間だからね。全ての命を救うなんてことは不可能だ。
そんな事わかっていたつもりだったんだが……やはり悔しいものだね」ギリ
11111号「先生、そう気を落とさないでください。あなたが無理だったのなら他の誰でも無理だったはずです、
とミサカは唇を噛み締めているカエル先生に精一杯の慰めの言葉をかけてみます」
冥土帰し「……ありがとう。そうだ、彼の顔を覆っている布を取って貰えるかな?
最後にもう一度、しっかりお別れと謝罪を言いたいんだ」
11111号「わかりました、そのくらいお安い御用です、とミサカはベッドに横たわっている死体から布を取り去ります」ス
アレイスター「」チーン
御坂「ちょ……」
食蜂「えー……」
一方通行「ゴフ」
垣根「ガァッ」
麦野「ゴホッ」
デデーン♪
『一方通行、垣根、麦野、アウトー』
一方通行「アレイスターじゃねェかァァァァァ!!!!」
垣根「よりによって死んだのオマエかいいいい!!!」
麦野「絶対昨日の朝やってた心臓マッサージが死因だろ……」プルプル
御坂「え、いや待って、本当に死んでるの!?」
食蜂「統括理事長死んじゃったらこの街どうなっちゃうのかしらぁ……」
11111号「こいつ元々ろくな事してませんでしたし死んでも大丈夫ですって、
とミサカは白い布をひらひら振りながら平然と死者をディスってみます」
バチーン!!
一方通行「うおおァァァァ!!!」
垣根「おああああああ!!!」
麦野「ふぎゃッ!!」
一方通行「いってェなクソが……いい加減俺らが死ぬンじゃねェか……」サスサス
垣根「ケツが壊死しそうだぜ……」
麦野「次来たら竹刀奪い取ってやろうか……」
冥土帰し「さて、それじゃ皆、彼を霊安室まで連れて行ってあげてくれるかい?そこのストレッチャーを使ってもいいから」
アレイスター「」シーン
垣根「これ本当に死んでんのか?」
一方通行「別にどっちでもいいだろ」
御坂「そ、それより霊安室まで運ぶって事は死体に触らなきゃいけないって事よね?
うぅ、イヤだなぁ……」
麦野「そうね。死体は見慣れてるし作り慣れてるけど後片付けは基本下部組織にやらせてるし、
素手で直接死体を触るってのはちょっと抵抗があるわね。気持ち悪いし」
垣根「あー確かにな。ストレッチャーに移すだけでも抵抗があるわ」
冥土帰し「死んだばかりだからまだ温かいし柔らかいんだがね?生きている人間とそんなに変わらないはずだよ?」
御坂「そ、そういう問題じゃ……」
11111号「全く情けない、それでも医療を志す者ですか!?
とミサカはおっかなびっくり死体を眺めているレベル5勢を叱咤します」
食蜂「そんなもの志した覚えはないんですけどぉ……」
一方通行「……おい11111号」
11111号「む、どうしました?まさかあなたまで死体に触るのに抵抗があるなんて日和った事を言うつもりじゃないでしょうね?
とミサカはアレイスター=クロウリーの死体をガン見している一方通行に尋ねてみます」
一方通行「いや、オマエ確か油性マジック持ってたよな?ちょっと貸してもらえねェか?」
11111号「油性マジックですか?えぇ構いませんが、一体何に使うつもりです?
とミサカはマッキーを差し出しながらわかりきっている事を敢えて尋ねてみます」ス
一方通行「なァに、ちょっとばかし死化粧を施してやるだけだ」キュポ
アレイスター「!?」
麦野「……今一瞬死体がビクッとしなかった?」
冥土帰し「あぁ、死後硬直じゃないかな?」
垣根「なんだ死後硬直か」
御坂「ちょ、ちょっと一方通行!あんた死体に落書きする気!?それは流石にちょっと酷いんじゃない!?」
食蜂「そ、そうよぉ、仏様にそんな事したらバチが当たるわよぉ?」
一方通行「何暢気な事言ってやがる馬鹿どもが。
このクソッタレな企画の首謀者が、全ての元凶が目の前で無防備にマグロになってンだぞ?
復讐の時は今を置いて他にねェだろォが!このまま安らかに眠らせて堪るかってンだ!!」
麦野「一理あるわね。第一位、終わったら私にもマジック貸しなさい」
垣根「あぁ、俺が落書きするスペースも余らせといてくれ」
御坂「ふ、二人とも本気……?」
アレイスター「」ダラダラ
食蜂「ん?この死体、汗流してなぁい?」
冥土帰し「結露じゃないかな?」
垣根「何だ結露か……いや、結露か?」
冥土帰し「結露だよ。死体はすぐに冷たくなってしまうからね」
垣根「そっかー……あー……つっこむのもめんどくせぇしもう結露でいいか」
一方通行「さァてどォすっかな。とりあえず最初は基本に忠実に額に『肉』から……」スス
アレイスター「」サッ
一方通行「……あァ?」
麦野「露骨にマジック避けたわね、死体の癖に」
御坂「あれ、やっぱり生きてるの?」
冥土帰し「いいや死んでるよ?偶然死後硬直で避けたように見えただけじゃないかな?」
一方通行「……」ス
アレイスター「」サッ
一方通行「……」スッスッス
アレイスター「」サッサッサッ
一方通行「おいィィィ!!!これもォ死後硬直ってレベルじゃねェだろォがァァァァ!!」
食蜂「完全に第一位さんの手の動きを見てから避けてるわねぇ」
垣根「流石にこれを死体と言い張るのは無理があるな」
アレイスター「」ゼェゼェ
冥土帰し「……アレイスター」
アレイスター「」ハテ?
冥土帰し「死体が動くんじゃない!!!」ドス!
アレイスター「がはぁ!!?」ブシャァァ
食蜂「ぎゃぁぁぁぁ!!!血がかかったぁぁぁぁぁ!!!!」イヤァァァァ
御坂「ちょ!?先生何やってんの!?」
麦野「随分激しい心臓マッサージね」
一方通行「ハートブレイク・ショットか」
垣根「ありゃ肋骨何本か逝ったんじゃねぇか?思いっきり吐血してやがるし」
アレイスター「」ビクンビクン
冥土帰し「ふぅ……これでもう死後硬直はしないよ?」
垣根「本当の意味で死後硬直が始まるんじゃねぇか?」
麦野「まぁ別に死んでも構わないけど」
冥土帰し「あぁそうだ、死体の顔に落書きをするのは流石にやめてもらえるかな?
生前どんな人間だったとしても、最後は哀悼の意を持って送ってあげるべきだと僕は考えているんだ」
御坂「どの口がそれを……」
一方通行「あァうン、どォせもォ顔面血だらけで落書きする場所残ってねェし……」
食蜂「そんな事より私返り血がもろにかかっちゃったんですけどぉ……
換えの服とかないわけぇ?て言うかシャワー浴びたいわぁ……」
11111号「もうすぐ終わりですから我慢してください、
とミサカはスプラッタな服装になっているみさきちにお預けを喰らわせます」ウェイト!
食蜂「えぇー……」
アレイスター「」シーン
冥土帰し「それよりそろそろ彼を運んで行ってもらえないかな?
もうすぐ次の患者さんが来ることになっているんだ」
垣根「……そうだな、さっさと霊安室まで運んじまうか。これが最後の仕事だ」
一方通行「よし、任せたぞ」
食蜂「第一位さんもここは男として働くべきなんじゃないかしらぁ?
こう、第二位さんと息の合った共同作業的な感じで……」
一方通行「あァ?俺に力仕事が出来ると思ってンのか?ちったァ考えてから喋れよ」
御坂「凄く情けない開き直り方してるわね……」
麦野「第一位、あんたそういう事自分で言ってて悲しくならないわけ?」
一方通行「既にそンな領域は超えたわ」
11111号「精神面がタフになってきてますねぇこのモヤシ、
とミサカは誤った方向へ成長するモヤシを生暖かい目で見つめてみます」
垣根「おいストレッチャーに移すのくらい誰か手伝えよ……」
―霊安室
一方通行「……まァ霊安室って時点で予想はしてたけどなァ」
垣根「あぁ……」
御坂「うん……」
麦野「そうね……」
食蜂「……」
浜面「」チーン
上条「」シーン
海原「」グッタリ
一方通行「やっぱここに並べられてンのかこいつら」
麦野「浜面……出番無いと思ったらこんな所で死体やってたのね」
垣根「フレンダ達は並んでないって事はあいつらは生きてんのな。よかったよかった」
御坂「あいつはまた死体役なんてやって……もうちょっといい役貰えばいいのに」
垣根「いや、あのウニ頭に限っては役じゃなくてガチで死んでるんじゃねぇか?」
食蜂「それより御坂さぁん、海原さんも死んじゃってるわよぉ?」
御坂「え、それは私のせいじゃなくない?」キョトン
食蜂「いや、御坂さんが撲殺したんじゃない……」
一方通行「まァこの三匹が本当に死ンでよォがただの死体役だろォが別にどっちでもいいだろ」
垣根「だな。ところで結局ここまで俺一人でストレッチャー押してきたわけだけどオマエら何か言う事ないの?」カラカラ
麦野「ご苦労、偶には役に立つじゃない」
一方通行「俺ら来る必要なかったな、先戻っていいか?」チッ
垣根「シバくぞテメェら!?」
食蜂「ご褒美に一日デートする権利を上げるわぁ、第一位さんと」
垣根「オマエまで上から目線か、ぶっ殺すぞ?つーかその権利は死んでもいらねぇよ!!」
一方通行「なァ第五位、わかってると思うがこの企画終わった瞬間俺はオマエを叩き潰すからな?社会的に」
食蜂「やってみなさいよぉ!私も全改竄力を使って第一位さんが男色趣味だって学園都市中に広めてやるんだからぁ!!」キッ
一方通行「面白ェ、俺に勝てると思ってンのか!?」
垣根「共倒れしろアホどもが」
御坂「あ、あの垣根さん、ありがとね?それとごめん、仕事押し付けちゃって」
垣根「マトモに礼を言ってくれるのは御坂だけか……」ハァ
11111号「表面上は一応感謝してるように見えますが内心どうかはわかりませんよ?
とミサカは不安を煽るような事を言ってみます」
食蜂「御坂さん腹黒いものねぇ」
御坂「あんたらいい加減にしなさいよ!?」
垣根「御坂が腹黒いのは今更否定しねぇがそれでもこん中じゃマシな部類だろうが」
御坂「否定してよそこ!?」
一方通行「おい、もォいいからさっさとアレイスターの馬鹿適当に並べて戻ンぞ、それで最後の仕事も終わりだ」
麦野「並べるまでもないわ、床に転がしてていいわよこんなの」ポイ
アレイスター「」ベチャ
御坂「うわぁ顔面から……」
11111号「思いっきりコンクリートとキスしましたね、
とミサカはストレッチャーから無造作に投げ捨てられたアレイスター=クロウリーを哀れみを込めた目で見つめます」
食蜂「とてもじゃないけど学園都市で一番偉い人には見えないわぁ……」
垣根「せめて仰向けに落としてやれよ」
麦野「それはそれで後頭部でもぶつけたら危ないじゃない?仰向けに投げ捨てたのは私なりの気遣いよ」
御坂「気遣いの方向性が間違ってる気がする……」
食蜂「投げ捨ててる時点で気遣いも何もないわよねぇ……」
一方通行「そもそも気遣う必要なンざねェだろ、このクソ野郎は俺らをこンな目に遭わせてる元凶だぞ?」
垣根「そりゃまぁそうなんだが……」
麦野「じゃ、アレイスターも運び終わったし仕事はこれで終わりね?」
一方通行「次は修了式つってたがそれはどこでやるンだ?」
11111号「あぁ、玄関前の広場でやる事になっています、そろそろ時間ですし急ぎましょう、とミサカは……」
「とうまー!!」
ついに最後の仕事を終え、残すイベントは修了式だけとなり安堵したのもつかの間、
舌足らずな叫び声が一行の会話に割り込むようにして霊安室に響き渡る。
垣根「……今の声は」
御坂「このパターンって……」
イヤな予感をひしひしと感じつつ彼らが声の聞こえてきた方へと向き直ると、
純白のシスター服に身を包んだ少女が『とうま!とうま!』と泣き出しそうな声で叫びつつ
霊安室の入り口からこちらへ向かって駆けて来ている姿が見えた。二度目の登場、インさんである。
イン「とうま!ねぇ起きてよとうまー!!」ユサユサ
上条「」シーン
インさんはレベル5勢には目もくれず、真っ直ぐに上条の元へ駆け寄ると、
ぐったりと横たわっている彼にすがり付き、泣き叫びながら必死に彼を揺り起こそうとする。
しかし既に事切れている上条がインさんの声に応じる事はなく、
霊安室にはただただ、上条の名を呼ぶインさんの悲痛な叫びだけが響き続けた。
それはあまりにも切なく悲しいヒーローとヒロインの邂逅の瞬間であった。
イン「とうま……とうまぁー……」ス
垣根「あ、やべぇ」
一方通行「あの構えは……」
いつまで経っても上条が何の反応も見せない事に、インさんはついに頭を抱えてしまう。
本来頭を抱えるという行動は打つ手に窮し思案に暮れた末に取るものであり、つまりこの瞬間、
インさんはそれだけ追い詰められているという事になるのだが、しかしその姿を見たレベル5勢は顔を青くする。
そう、両手で頭を抱え肘を広げたその構えこそ、インさんの必勝形なのだ。
そしてその形から繰り出されるのは、当然――
一方通行「ク……」
垣根「グ……ケホ、ゲホ」
御坂「ウグ……」
麦野「チッ……」
食蜂「ホフン」ブハッ
両手で頭を抱えた姿勢のまま、インさんは高速で左右に反復移動を始める。
これこそ前回散々に一行を苦しめたインさんの華麗なる舞いである。
だがここまでほぼ完全に前回と同じ流れであり、当然、前回を経験していない食蜂以外のレベル5勢にとっては予想通りの物であった。
故に、彼らは歯を食いしばり額に青筋を浮かべながらも、何とかこれに耐える事が出来ていた。
学園都市最高の頭脳を持つレベル5勢は学習能力の高さも一級品なのだ。
そう何度も同じ手で笑わされる彼らではない。
レベル5勢が耐えている間、しばらくインさんの華麗なる舞いをご堪能ください。
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「ふざけンなよ……なンだこれ……」フルフルフル
垣根「ちくしょう……最後まで前回と同じなら耐えれたはずなのに……」
麦野「あーもう!!何で最後HIPHOPみたいになってんだクソが!!」
御坂「途中のDJみたいな動きは何なのよ……」
食蜂「どういう事なのこれはぁ……何か途中から残像出てたしぃ……」
バチーン!!
一方通行「あがあァァァァァ!!!」
垣根「かぁッ!!!!」
御坂「んああぁぁ!!!」
麦野「にゃあ゛あぁぁぁぁ!!」
食蜂「もけっ!!!」
イン「HEYとうま!yeah!とうま!TO・U・MA!!」
上条「ん……」ドクン
インさんの熱いシャウトに呼応するかのように、完全に停止していたはずの上条の心臓が再び脈打ち始めた。
インさんの見返りを求めない無償の愛が奇跡を起こした瞬間である。
或いは必死に踊り狂うインさんの姿に神も心を打たれたのかもしれない。
イン「TOUMA!!」ガバ
上条「……インデックス?どうしてここに……ってうわ!いきなり飛び掛ってくるなって!」
イン「TOUMA!TOUMAAAAA!!」ガシ
上条「何でカタコト?」ヨシヨシ
11111号「なんということでしょう。どうやらインさんの必死の踊りで奇跡が起き、上条当麻が蘇ったようです、
とミサカは目の前で繰り広げられる光景に感動を禁じ得る事が出来ません」
垣根「あんな踊りで奇跡起きちゃった!?」
一方通行「むしろMP吸ったりダメージ与えたりする類だろあの踊りは……」
11111号「この際踊りは然程重要ではありません。
恐らくインさんのひたむきな愛の力が奇跡を呼び起こしたのでしょう、とミサカは推察してみます」
食蜂「あ、重要じゃないんだ踊り……」
御坂「……負けたわ、私にはあんな事出来ないもん」ハァ
麦野「美琴?何に納得して何を諦めたの?あんなの出来なくていいと思うけど」
11111号「それではそろそろ修了式に向かうとしましょう。
ここに留まっていてはあの二人の折角の感動の一コマに水を差してしまいますから、
とミサカは抱き合っているインさんと上条当麻を慈しむかのような瞳で見つめながらレベル5勢を霊安室の外に誘導します」カムカム
一方通行「どの辺が感動の一コマなンだよ……」
垣根「少女の必死の行動で死んだはずの少年が息を吹き返した、って風に見れば感動と言えなくもないんじゃねぇか?」
麦野「その必死の行動の内容がワケわからない狂った踊りって時点で感動は一切ないわ」
垣根「……まぁそもそもあのウニ頭、放っといても蘇るしな」
御坂「二人とも、幸せにね……」
食蜂「御坂さんは何で一人でちょっと少女漫画みたいな事になってるの?」
上条「インデックス……」
イン「とうま……?」
レベル5の一行が霊安室から退室した後、縋り付くインデックスの頭を撫でていた上条は
不意にその手を止めると、じっと正面から彼女の目を見つめた。
上条「インデックス……ごめんな?いつもいつも、お前には心配かけちまって」
イン「とうま……私、私ね……」
イン「オナカガヘッタンダヨ?」
上条「……ハッ!?」
「イタダキマァス」
「ぎゃああああああ!!!!不幸だあああああああ!!!!」
―玄関前広場
11111号「それではただいまより、看護師課程修了式を執り行います、とミサカは壇上でマイク片手に宣言してみます」
上条さんがもぐもぐされているちょうどその頃、一行は玄関前広場で整列していた。
彼らが病院の外に出るのは実に24時間ぶりの事である。いよいよもって長かった今回の企画も終わろうとしているのだ。
一方通行「よォやくラスト……あと少しで開放されるのか……」ハァ
麦野「たった一日しか経ってないのにすっごい久しぶりに外に出た気がするわ……」
御坂「つい昨日この玄関潜ったはずなのに、何だか遠い昔の出来事みたいに感じるわね……」
垣根「濃密な24時間だったからな……相も変らぬ理不尽さだったぜクソが」
食蜂「一番理不尽な目に遭ってるのは間違いなく私だと思うんですけどぉ……
昨日ここに着いた時はまさかこんな事になるだなんて想像もしてなかったわぁ……」
一方通行「オマエは自業自得だろ」
食蜂「第一位さんのせいでしょぉ!?」
修了式を前にして感慨深げに雑談をしている一行だが、彼らは決して気を抜いているわけではない。
その証拠に、誰も彼もが目を血走らせており、これ以上一度だって笑ってやるものかという気迫に満ち満ちている。
11111号「えーまずは、当医院の院長であるアックア先生から挨拶を賜りたいと思います。
それではアックア先生、お願いします、とミサカは端に寄りながら声をかけます」
アックア「うむ」
11111号の紹介に合わせ、マタニティドレスを着用したアックアが重々しい返事と共に壇上に躍り出る。
目利きの際に着用していた物とは違い、今彼が着ているマタニティドレスは白を基調とした物で、
なおかつ肩を露出したセクシーなワンピース風のドレスであった。それはさながらウェディングドレスのようでもあり、
壇上に現れたアックアはまるで式場で挨拶をしようとする花嫁のようにも見えてたまるかボケが!死ね!!
デデーン♪
『一方通行、垣根、御坂、麦野、アウトー』
一方通行「こいつマジで……ふざけンなクソがァ!!」
垣根「オマエ風呂ん時普通の格好で殴りに来てただろ!!何でまたマタニティドレス着てんだよ!!」
麦野「はち切れそうな胸筋とごっつい肩幅が洒落にならないほど悪目立ちして……」
御坂「な、何度見てもインパクトが酷いわね……女装だけでも重いのに……」
食蜂「うぅ、こんなのあんまりよぉ……やっぱり私の世界に筋肉ダルマはいらないわぁ……」オェェ
バチーン!!
一方通行「ごォッ!!!」
垣根「ぐげああああ!!!」
御坂「ひああぁ!!!」
麦野「いぎっ!!!」
アックア「コホン、大変な研修期間であったにも関わらず、皆良く頑張ってくれたのである。まずはおめでとう。
しかし、わかっていると思うが本当に大変なのは医療の最前線に立つ事になるこれからなのである。
研修が終わったからと言って気を抜くことなく、より一層の精進をするように。以上」
一方通行「マタニティドレス着たおっさんが真顔で真面目な事語ってンぞ」
垣根「シュールってレベルじゃねぇな」
御坂「医療の最前線に立つつもりなんてないけどね……」
麦野「結局研修期間中に私ら何か為になる事学んだっけ?」
食蜂「んっとぉ………思いつかないわぁ……」
アックア「それと、私は明日から産休を取ることになっているので
何か用向きがあるのなら今日中にお願いしたいのである」
デデーン♪
『垣根、麦野、アウトー』
垣根「オマエ産休とかいらねぇだろ!?いらねぇ!!」
麦野「どの面下げて産休とか取ってんのよこのおっさん……」
11111号「産休は全ての妊婦さんが享受すべき当然の権利です。おっさんだからって差別はいけませんよ、
とミサカはアックア先生が産休を取ることに異議を唱える皆さんを嗜めます」メッ
一方通行「おっさンと妊婦って言葉が既に矛盾してンだろォが!」
食蜂「あのね第一位さん、世の中には妊娠の妊に夫と書く『妊夫』って言葉があってねぇ?」
御坂「なくていいわよそんな言葉……」
バチーン!!
垣根「おげぁ!!」
麦野「ってえええぇぇぇ!!!」
11111号「続きまして、修了証書の授にょに……えー、授与に、移りたいと思います、とミサカは……」
垣根「授にょて」フ
麦野「噛んだわね」
御坂「うん、噛んだ」
食蜂「何だかちょっとあざとい噛み方したわねぇ」
一方通行「垣根、オマエ今笑ったろ?」
垣根「は?」
一方通行「アイツがセリフ噛んだの見てちょっと笑ったろ?クスッて感じで」
垣根「いやいや待って、何その言い掛かり?俺今完璧無表情貫いてた感じじゃねぇ?
マジで一切笑ってねぇんだけど?ホントそう言うのやめてくれる?」
デデーン♪
『垣根、アウトー』
垣根「笑ってねぇつってんだろがあああああ!!!!」
麦野「いやぁ笑ってたわ、間違いなく笑ってた」
食蜂「うんうん、軽くだけど吹き出してたわよぉ第二位さん」
垣根「ただの呼吸だよ!?息くらい吹き出すよ人間だもの!!
おい御坂、難癖つけてくるこの外道どもに何とか言ってやってくれ!!」
御坂「ごめん、見てなかったから擁護も出来ない……」
一方通行「オマエなンか眼中にねェってよ」
垣根「ちくしょう……」
御坂「だからそんな事思ってないって!!私のイメージ悪くするのやめてよ!?」
バチーン!!
垣根「はっがああぁぁ!!!」
11111号「このミサカとした事がセリフを噛んでしまうだなんて……いやん恥ずかしい、
とミサカは照れ隠しにていとくんをアウトにした事を隠しつつ頬を赤らめてみます」イヤン
垣根「隠してねぇよぶっちゃけてるよ!!何だ照れ隠って!?このクソクローンマジでふざけんなよ!?」
一方通行「でもよォ、実際問題オマエ軽く笑ってたろ?言い掛かりとかじゃなくて」
垣根「………いやうん、まぁ……正直、ちょっとな?自分でも笑ったかなーって思ったり思わなかったりな?」
麦野「結局笑ってたんじゃないの」
食蜂「逆ギレまでして、見苦しいったらないわぁ」
御坂「そんなんで良く私に腹黒とか言えたわね」
垣根「うるせぇよ!!笑ったか笑ってないか微妙なところだったつってんだろ!?アウト取られる程じゃねぇって!!」
一方通行「いや無意識だったのかも知れねェけど普通に笑ってたからなオマエ?『フッ』ってなってたから」
垣根「マジで?俺そんなに『フッ』ってなってた?」
一方通行「あァ、完全に『フッ』ってなってやがった。そらアウトにもなるわ」
垣根「そうか……『フッ』ってなってたんなら仕方ねぇか……」
一方通行「あァ、仕方ねェよ」
垣根「そうだな、仕方ねぇな。『フッ』ってなってたかー……」
一方通行「……」
垣根「……」
一方通行「……」
垣根「……フッ」
一方通行「クッ」
デデーン♪
『一方通行、垣根、御坂、アウトー』
一方通行「何なンだよオマエ!?妙な間空けて吹き出すのやめろよクソが!!!」
垣根「何なんだはこっちのセリフだよボケ!!何でオマエそんなジッと俺の事見つめてんの!?
喋る事なくなったんならさっさと目ぇ逸らせよ!!」
御坂「馬鹿な雑談するのやめてよもう!!何が『フッ』よ!?私完全にとばっちりじゃない!!」
食蜂「第一位さんと第二位さんってやっぱり仲いいわよね?ね!?見つめ合って笑い合っちゃうくらいだものねぇ!?」
麦野「私に同意を求めんな」
バチーン!!
一方通行「ひゅおォォォォ!!!」
垣根「ぴゃああぁぁ!!!」
11111号「えーそれでは改めまして、修了証ちょにょ……ッ」
デデーン♪
『全員、アウトー』
一方通行「噛み噛みじゃねェか!!最後なンだからしっかりしろよマジで!!」
11111号「こ、これは噛んだんじゃなくて皆さんを笑わせる為の策略です!引っ掛かりやがってバーカバーカ!
とミサカは強がりつつも恥ずかしさの余り両手で顔を覆いながら悶えてみます」カァァ…
垣根「カァァ…じゃねぇよ!死ね!!」
御坂「ホントやめてよもう……こっちは疲れてて些細な事でも笑っちゃうんだから……」
麦野「ぐだぐだにも程があるわ、最後の最後で……」
食蜂「今まであんまりなかったけど、こういう地味な不意打ち系って結構きついわねぇ……」
バチーン!!
一方通行「っはあァァァァ!!!」
垣根「どぁッッ!!!」
御坂「うひぁ!!!」
麦野「いったああぁぁ!!!」
食蜂「めかぶっ!!」
11111号「とにかく次は修了証書の授与です!研修生の皆さんは壇上へ上がってください、
とミサカは舌が回らないことを誤魔化すかのように早口で捲くし立ちぇます」
一方通行「……結局噛ンでねェか?」
垣根「そうか?早口だから良くわからなかったが……」
食蜂「後半がちょっと怪しかったわねぇ」
麦野「いるのよねぇ、一度噛むと何度も同じところで繰り返し噛んで中々話が進められない奴って」
御坂「スルーしてスルー、つっこんでも薮蛇になるだけよ……」
11111号「噛んでなどいない!いいから早く壇上に上がれや貴様ら、
とミサカは頬を膨らませながら再度指示を出します」
一方通行「ン、まァ行くか」テクテク
垣根「そうだな、さっさとおっさんから修了証書貰って終わりにしようぜ」
麦野「あんまりあのおっさんには近寄りたくないけどね」
アックア「うむ、皆よく来てくれたのである。最初に院長室で会った時とは別人のような面構えであるな。
まさかこの短期間でここまで成長するとは思ってもみなかったのである」
御坂「あぁうん……確かに一日ですっごくやつれた気がするわ……」ハァ
垣根「別人のようになってんのはアンタだよアンタ。何なんだその格好は……」
アックア「妊婦の正装とも言うべきマタニティドレスであるが、何か変であるか?」
麦野「変でない部分の方が少ないわ」
食蜂「間近で見ると本当に気持ち悪い……マタニティドレスにしてももっと普通なのがあるでしょぉ……?」
垣根「何故あえてそんな露出が高くて生地の薄そうなワンピース型を選んだ……」
アックア「趣味である」
御坂「趣味なの!?」
一方通行「第四位、第四位、ちょっといいか」コソコソ
麦野「あぁ何よ?」
一方通行「このおっさン乳首透けてる」ボソ
麦野「ゴフッッ!!」
デデーン♪
『麦野、アウトー』
麦野「テメェコラ第一位!!余計な事耳打ちしてんじゃねぇよぶっ殺すぞ!!!そういうのは垣根にでも言っとけよ!!!」
一方通行「いやァ毎度毎度垣根にささやき戦法やるのも芸がねェかと思ってよォ」
食蜂(ゲイ……?)ピク
御坂「何、どうしたの麦野さん」
垣根「また一方通行が何かやらかしたのか?」
麦野「……大した事じゃないんだけどね、突然このおっさんの乳首が透けてるとか言い出しやがって」
垣根「ゲフォッ」
御坂「ホフッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、アウトー』
垣根「いらん事言うなよオマエェェェェ!!!!」
麦野「何があったのかって聞いたのそっちだろうが!!!」
御坂「巻き込む気満々だったでしょ今のは……」
バチーン!!
垣根「ッッハ!!!」
御坂「ひゃああああ!!!」
麦野「っでえぇあ!!!」
11111号「ではアックア先生、彼らに、修、了、証、書、を、
とミサカは噛まないように一語一語しっかり発音しつつ先を促します」
アックア「うむ……えー、一方通行殿、垣根、御坂美琴殿、麦野沈利殿、食蜂操祈殿。あなた方は看護師研修において……」
垣根「ちょっと待って、何で俺だけ呼び捨てなの?」
一方通行「うるせェどォでもいいだろ……」チッ
麦野「余計なつっこみすんなボケ」
御坂「気になる事があっても今はスルーして垣根さん」
食蜂「喋り過ぎは命に関わるわよぉ?」
垣根「最後までこんな扱いかちくしょう」
アックア「ゴホン、あなた方は看護師研修において所定の課程を修了した事をここに証明するのである」
食蜂「はぁい」
御坂「どうも」
アックア「では代表してアクシェラレータ、修了証書を受け取るのである」
麦野「……アクシェラレータ」ボソ
一方通行「……」イラッ
アックア「どうしたのであるか?早く修了証書を受け取るのである」
垣根「おいおっさん、あんた今噛んだだろ」
アックア「は?私は噛んでなどいないのである」
垣根「いや噛んでた。絶対アクシェラレータって言った」
アックア「言い掛かりは止すのである。院長たる私が研修生の名前を噛むなどあり得ないのである」
垣根「そのあり得ないことをやっちゃっただろ。素直に認めて名前呼び直しとけよ」
アックア「くどいのである!!噛んでないと言っているであろう!!!」ブゥン!
バチャーン!!!
垣根「おぼぉあぁ!!!?」ビターン
デデーン♪
『一方通行、御坂、麦野、食蜂、アウトー』
一方通行「垣根ェ……」プルプルプル
麦野「何がしたいのよ垣根……」クククク
食蜂「ビンタ喰らった反動で一回転するなんて、初めて見たわぁ……」クスクス
御坂「だ、大丈夫垣根さん……?」プククク
垣根「……何今の?ホント何今の!?何が起きたの!?何で俺殴られたの!?意味わからないんですけど!!」ヒリヒリヒリ
アックア「貴様がある事ない事しつこく糾弾しようとするのが悪いのである!!反省するのである!!」
垣根「何この理不尽!?」
バチーン!!
一方通行「どォあァ!!!」
御坂「あぁい!!!」
麦野「ぐげッ!!!」
食蜂「ほも!!」
アックア「ほら、早く修了証書を受け取るのである一方通行!」
一方通行「あァはいはい、どォも」
垣根「……今度は噛まなかったか」
アックア「だから最初から噛んでいないと……」ギギギ
垣根「はいはいすいませんでしたぁ!!俺が悪かったんでもうこっち向かないでください!!」
麦野「垣根、あんたも第五位と同じで喋らない方がいいと思うわ」
御坂「垣根さんは自爆するとき私達まで巻き込むから食蜂より性質悪いのよね」ハァ
食蜂「ふふん、私の優しさが身に染みたかしらぁ?」
御坂「いや誇るところじゃないでしょ……」
11111号「それでは無事修了証書も渡ったところで、これにて修了式を終わります、
とミサカは最後のイベントの終了を宣言してみます」
麦野「案外あっさり終わったわね」
垣根「どこがあっさりだ、ビンタまで貰ってんだぞ俺は……」
食蜂「それは第二位さんの自業自得じゃないかしらぁ?」
アックア「皆本当によく頑張ったのである」ニコッ
一方通行「グ……その格好で微笑むのやめろ気持ち悪ィ……」
御坂「しばらく夢に出そうねこれ……」ウエェ
11111号「さて行きましょうか皆さん。あと少しで企画も終了、病院の門を出れば皆さんは晴れて自由の身です、
本当にお疲れ様でした、とミサカは笑顔でレベル5勢を労ってみます」オッツー
垣根「よし門まで競争しようぜ」
一方通行「しねェよ馬鹿、大人しくしとけ」
麦野「これ以上無駄な体力は使いたくないわ……」
御坂「て言うか走る体力が残ってないわよもう……」
食蜂「ねぇ誰か運んでくれない?私もう動きたくなぁい」
麦野「もみじおろしになってもいいんなら運んであげてもいいけど?」
食蜂「ごめんなさい歩きます……」
―正門前
11111号「はい皆さんいいですか?この門から出れば皆さんの能力は復活します。
ですがその前に……まだやるべき事が残っていますね?覚えてますか?
とミサカは含み笑いをしながらレベル5勢を見渡します」
一方通行「ンな勿体振らなくてもちゃンと覚えてンよクソッタレ」
御坂「罰ゲームね……」
食蜂「う……折角忘れてたのにぃ……」
11111号「一応もう一回説明しますよ?この24時間で最もアウトになった回数の多い方が罰ゲームを受けることになっています、
とミサカはルールを再確認してみます。ちなみに今回はこのミサカではありませんので悪しからず」
垣根「チッ、何だかんだで今回もテメェがやり過ぎでしっぺ返し喰らうってのを期待してたんだがな」
11111号「そんな事にならないように今回は比較的大人しくしていましたから、
とミサカは内心暴れ足りないことに不満を持ちつつも不敵に笑ってみます」フフン
麦野「大人しく、してた?」
一方通行「比較的、な……」
11111号「で、今ここに罰ゲームを受ける者の名が書かれた紙があるわけですが……
さて皆さん、誰だと思います?誰だと思います?とミサカは全力でレベル5勢を煽ってみます。
ちなみにこのミサカは既に誰が罰ゲームを受けるのか知っています。お陰で笑いを堪える事が出来ません」ニヤニヤニヤニヤニヤ
一方通行「うわうっぜェ、今まで見た事ねェって程笑ってンなオマエ……」
垣根「本当に心の底から楽しそうでムカつくわ……」
食蜂「わ、私じゃないわよね?違うわよねぇ!?」
11111号「え?」ニヤニヤニヤ
食蜂「ひぃ!?」ビクッ
御坂「落ち着いて食蜂、こっちの不安を煽るのが目的なんだからそんな反応したら思う壺よ?」
麦野「あーうざったい!もうさっさと誰が罰ゲームなのか発表しろ!!」
11111号「フフ、そう死に急ぐこともあるまいに……まぁいいでしょう。
刮目なさい!これが罰ゲームを受ける人間の名です!とミサカは勢いよく紙を広げてみせます」バッ
一方通行「な……なァァァァァァァ!!!!?」
垣根「プクッ」
御坂「クス」
麦野「ゲホッ」
食蜂「ヒョッ」
デデーン♪
『垣根、御坂、麦野、食蜂、アウトー』
垣根「ちょ、まだアウト取られるのかよ!?」
11111号「そりゃまだ門の外に出てませんし、とミサカは笑顔で回答します」ニッコリ
御坂「くぅ、油断した……」
一方通行「ちょい待てちょい待て!!そンなンどォでもいいわ!!それより俺が罰ゲームってどォいうこった!?」
麦野「どういう事も何も、そんままでしょ?あんたが一番良く笑ったって事」クスクス
食蜂「プー!ククククク!!あは!あはははははぁ!!!」ケラケラケラ
一方通行「爆笑してンじゃねェェェェェェ!!!!」
バチーン!!
垣根「うぐ!!」
御坂「ひぃん!!!」
麦野「あにゃぁぁぁ!!」
食蜂「ふぉぉい!!!」
11111号「一方通行、残念ながらあなたが一番アウトになった回数が多いというのは紛れもない事実です。
やはり序盤ていとくんを笑いまくってた事やスイッチでアウトになった事が響いたのでしょう、
とミサカは状況を飲み込みきれていない一方通行を哀れみの視線で見つめてみます」ククククク
一方通行「やっぱりあのスイッチかァァァァァ……ちくしょォォォォ……」
垣根「ざまぁ」
麦野「ざまぁ」
御坂「ご愁傷様」ナムナム
食蜂「ねぇそれより罰ゲームの内容は?第一位さんはどんな罰ゲームを受けるの?早く発表しちゃいましょうよぉ」ワクワク
一方通行「心底嬉しそうツラしてやがンなクソが……」ギロ
食蜂「へっへーん、そんなに睨んだってもう怖くないわよぉだ!大人しく罰ゲーム受けてなさぁい!」ハッ
一方通行「オマエ罰ゲーム終わったらマジ覚えとけよ!?」
11111号「ふむ、それではご要望にお答えして、そろそろ罰ゲームの発表と行きましょうか、
とミサカは笑顔で一方通行へと向き直ります」ニパー
一方通行「あァ……どォせ逃げも隠れも出来ねェンだ、さっさと言え」チッ
11111号「では行きますよ……一方通行!」
一方通行「ン」
11111号「あなたには罰ゲームとしてこれから三日間、能力を封印された状態で生活していただきます、
とミサカは衝撃の罰ゲーム内容をつきつけます」ビシッ
一方通行「……ン?そンだけ?」
11111号「え?」
一方通行「えっと……そンだけなのか?三日間能力が使えねェだけ?」
11111号「えぇまぁ、それだけと言えばそれだけですが……とミサカはイマイチ反応の薄い一方通行に首を傾げます」
一方通行「あァそォ……いや、俺はまたてっきりあのショタコンと同じ部屋に閉じ込められるとか、
そのくらいの罰ゲームを喰らわされると思ってたンだが……
能力が三日間使えねェのも不便って言やァ不便だけどよォ」
11111号「あー……一方通行、あなた……」
一方通行「あン?」
11111号「……どれだけ多くの人間が、どれほど大きな恨みをあなたに抱いてるのか、わかってないんですか?
あなたは三日間能力無しでそういう方々から身を守らなければならないんですよ?
とミサカは能天気な一方通行に呆れ果てます」ヤレヤレ
一方通行「あァ……でもまァ三日くらいなら隠れてれば大丈夫だろ?手足として動かせる駒もいくつか持ってるしなァ」
11111号「隠れる暇があればいいですけどね?それと、その駒と言うのはレベル5に対抗できるだけの戦力なのですか?
とミサカは苦笑いしながら一方通行を背後を指差してみます」ス
一方通行「あ?」クル
垣根「そうかそうか、なるほどなー……能力封印が罰ゲームかー……」
御坂「ふんふん、なるほど。一方通行は三日間能力使えないわけね?」
麦野「つ・ま・り、これから三日間何でもやりたい放題って事よねー?」
食蜂「今や第一位さんはただのもやしっ子ってわけねぇ?」
一方通行「……え?ちょ、は?何でオマエらそンな俺の方見てンの?」ビクッ
垣根「いやいや一方通行さん、ここにきて今更『何で』とか言いっこ無しだろ?」ジリ
御坂「あんたが今まで私達に何をしてきたか、忘れたわけじゃないわよね?」
麦野「さぁてどう料理しちゃおうかにゃーん?」
食蜂「三日間かぁ……夢が膨らむわねぇ」ワクワク
11111号「あ、みさきちは今日の昼まで延長戦なんでそこんとこよろしく、
とミサカはにこやかにみさきちの肩を叩きます」ポン
食蜂「ほわっつ!!?」ビクッ
11111号「さ、みさきちを病院の中に案内してあげてください、とミサカは裏方の妹達に指示を出してみます」
食蜂「いやぁぁぁぁ!!!私も第一位さんに仕返しするのぉぉぉ!!!やーめーてーーー!!!」ズルズルズル
11111号「頑張れみさきち、とミサカは敬礼しながらみさきちを見送ります」
一方通行「お、おい待て、落ち着けオマエら!俺よりも先にまずこンな企画を立てたクソ野郎どもに報復すンのが先だろ!?な!?」
麦野「そんないつでもやれる事後回しに決まってんだろ!!」
一方通行「俺への仕返しだっていつでもやれるだろォが!!」
御坂「あんたは普段反則的な能力があるでしょうが!!ノーリスクで仕返し出来るなんて今以外にないわよ!!」
垣根「腹括れよ一方通行!!二度と俺らにイヤガラセ出来なくなるくらい、
本能の奥までキッチリ恐怖を刷り込んでやるからよぉ!!!」
一方通行「ふざけンなコラ!!地獄の24時間を共に過ごした仲間をオマエらは……ッッ!!」
麦野「はいはい聞こえなーい、つーかまーえたー」ガシ
一方通行「おォォ!!?は、離せ!!離せちくしょうがァァァァァ!!!!」ジタバタ
御坂「精々今の内に暴れてなさいよ一方通行、後々指一本動かせなくなるまでたっっぷりお返ししてあげるから」
垣根「とりあえず誰かの家に連れ込んでこれからどうするかじっくり考えようぜ。時間は三日間もあるんだしよぉ」
麦野「そうね、そうしましょうか」ズリズリズリ
一方通行「やめろォォォォォ!!!離せェェェェェ!!!!うわァァァァァ!!!!」ズズズズ
11111号「頑張ってください一方通行。また三日後にお会いしましょう、とミサカは神妙な顔で手を振ってみます」バイバイ
一方通行「イヤだァァァァァァ!!!!!」
11111号「……フ、フフ、フハハハハハハ!!!」
11111号は一方通行達の姿が見えなくなったのを確認すると、身体を反り返らせ、大きな声で高笑いを始める。
11111号「一方通行という餌を目の前に投げ込まれたお姉様達は当然それに食い付き、この企画に対する恨みは薄れてしまう!
そして三日後能力が開放された一方通行もまた、お姉様達への報復で頭が一杯になり
ミサカ達への意趣返しなど思いつきもしないでしょう!
全てはこのミサカのシナリオ通りです!とミサカは高らかに勝利宣言してみます」ハッハッハ
誰に聞かせるでもなく、11111号は独り声高に勝利を宣言する。
そう、一方通行が罰ゲームを受けるところまで、全て最初から計画通りだったのだ。
と言っても八百長が行われたわけではなく、一方通行が一番アウトになった回数が多いのは事実である。
ただ少し、一方通行がアウトになるような仕掛けを最初から多めに用意していただけの事だ。
11111号「いやぁ実にうまくいきました。これで学園都市の被害は最小限に抑えることが出来ますね、
とミサカは腕組みしながら満足気に頷いてみます」ウンウン
前回の企画終了後、レベル5勢の逆襲で学園都市は一度ズタズタに破壊されている。
今回、11111号は企画の立案者であるアレイスターから、企画終了後のレベル5勢の怒りの矛先が
再び学園都市に向かう事がないよう何とかしろ、と無茶振りに近い命令を受けていたのだ。
そして11111号はそれをアレイスターが想像していたよりもずっと見事にやってのけた。
11111号「フフ、そろそろ一方通行は誰かの家に連れ込まれた頃でしょうか?
一体何をされるのやら……とミサカは一方通行の受ける辱めを想像してニヤケてみます」クククク
能力を封印された一方通行は三日間蹂躙され続けるだろう。
そして三日後、能力が開放された一方通行はひたすらその報復を行うだろう。
学園都市は一切被害を被る事はない。全ては11111号の計画通りである。
だが――
11111号「……何か面白くありませんね、とミサカは眉を顰めます」
ぴたりと笑うのを止め、11111号は少々苛立たしげに顔を顰める。
レベル5勢を完全に手玉に取り、一から十まで自分の想定していた通りに事が運んでいるというのに、
この時彼女は言い様のない漠然とした不満を抱えていた。
11111号(一方通行は今頃様々な仕返しを受けている事でしょう。ミサカの想定通りです。いい気味です。
ですがミサカはそんな一方通行の様子を間近で眺める事は出来ません。
こんな苦労して計画立てたのに結局お預け、それが不満なのでしょうか?
とミサカは何となく釈然としない内心を分析してみます)ンー
一方通行は今頃きっと、言葉では言い表せないほど酷い仕打ちを受けている事だろう。
かと言って今更それに対して罪悪感を感じているわけではない。
では一方通行が憂き目に遭っているのを間近で見れないのが不満なのか?
いや、それも……少し、違う気がする。
勿論、一方通行の苦悶に歪む表情を間近で見たいという気持ちは多分にあるのだが。
11111号(一方通行は今きっと、とてつもなく酷い目に遭っている……
ミサカの手も、目も届かないところで、ミサカ以外の誰かの手によって……)ムゥ
今まで、一方通行をそういう目に遭わせる事が出来るのは己だけだという自負が11111号にはあった。
この企画の間も、基本的に一方通行がシバかれる要因を作っていたのは彼女であり、
彼女は一方通行が己の手の平の上で踊るのを心底楽しく眺めていた。
しかし今は違う。一方通行は手の届かないところに連れて行かれてしまった。
無論それも彼女の計画の通りなのだが、一方通行が受ける仕打ちに関して自分が一切干渉出来ないというのはどうにも気に入らない。
一方通行が何処かで酷い目に遭っているという事実さえあればそれでいいと思っていたが、どうもそれは違ったらしい。
どうあっても自分主導で一方通行を弄りたいという想いが心のどこかに潜んでいたようだ。
11111号「……えぇぇい!!!」
11111号はガリガリと髪を掻き乱すと、懐から携帯電話を取り出し猛スピードでボタンをプッシュする。
コール音が十数回も続いた後、目当ての男はようやく電話口に現れた。
11111号「もしもし、ミサカです。はい。そちらでも確認していたでしょう?目的は果たせました。
これで学園都市は安泰ですね、とミサカは一先ず計画の成功を伝達します」
11111号「えぇ、それでですね、恐らくもう一方通行の能力制限を解除しても大丈夫だと思います。
はい。むしろ追い詰めすぎると三日後能力復活した瞬間大暴走するかも知れませんよあのもやし、
とミサカは能力を制限し続けることの危険性を訴えてみます」
11111号「はい……まぁ最初に三日間って言ったのはミサカですけども……
いえ、少しばかりヤツの精神の脆弱性を忘れてまして、とミサカはもやしの打たれ弱さを思い出して辟易します」
11111号「……そうですね。いえ、大丈夫だと思いますよ?基本的に目の前の事しか考えられませんから。
もうこのミサカや学園都市の事は眼中にないと思います。
あのもやしはきっとすぐにでもお姉様達への報復に走るでしょう、
とミサカは一方通行の短絡性を解説してみます」
11111号「ですから……はい、そうですね。えぇ、お願いします。解除……あ、もう終わりました?早いですね。
……ではまた何か面白い企画を思いついたらこのミサカにご一報ください、いい働きしますぜ、
とミサカは最後にしっかり自分を売り込んでからアレイスター=クロウリーとの通話を終了します」
11111号「ふぅ……」
11111号「……いえ、別に一方通行の為ではありませんよ?あくまでもこのミサカの快楽の為です、
とミサカはちょっとツンデレっぽく締めてみます」
―垣根ハウス
一方通行「ひゃァァァァっはァァァァ!!!!どォしたどォした三下どもォ!!!
さっきまでの勢いはどこ行っちまったンだァ!!!?」ゴゴゴゴゴゴ
垣根「ふざけんなよオイ!!何で能力復活してんだよおおおおお!!!」
麦野「垣根、後は任せたわ」ダッ
垣根「ちょ!?」
御坂「垣根さん、ごめん!!」バッ
垣根「おま!?二人とも逃げんなよ!!!能力復活しても三人ならなんとかなるって!!!!」
一方通行「安心しろよ垣根ェ……あいつらもすぐ後を追わせてやるからよォォォォォ!!!!」
垣根「ちっくしょおおおおおおおお!!!!!!」
一方通行「まずはそこの冷蔵庫からだ!!最高の一品に仕上げてやるぜェェェェ!!!」
垣根「あ、でもやっぱりやる事小っせぇ!!」
一方通行「イヤだ」
―完全終了―
936 : >>1[saga] - 2012/05/29 23:58:01.96 7IjFnlHxo 404/411
これにて本当に終了だよ!!
ぶっちゃけ>>929で終わったほうがよかったかも知れないけどまぁ気にすんな
しばらく休憩したらまた何かSS書くからもしそれっぽいの見かけたらよろしく
じゃああばよ!
11111号「さて、ちょっと早いですが長編SS後恒例、裏話のコーナーといきましょう、
とミサカは残り少ないレス数に焦りながらこっそり現れてみます。
本当はちゃんとレスが途絶えてからにしたかったのですが……」ク
一方通行「このまま待ってたら普通にスレが埋まりそうだしなァ……まァ仕方ねェか。
こっから先はメタ発言とイタタタな掛け合いの一方通行なンでそういうのが苦手な方はお引取りくださァい」
11111号「息を、とミサカは補足してみます」
一方通行「おま!?読ンでくれてる皆さンにいきなりケンカ売ってンじゃねェよ!?」
11111号「ふふ、まぁ良いではありませんか。今更このミサカに媚びを売るような行動を期待してる人はいませんよ。
それよりも今はこのSSが無事完走したという喜びを分かち……合いたくはないのでミサカ一人で喜ぶ事にします。
やったーついに終わったー、とミサカは両手を振り上げて体中で喜びを表現してみます」バンザーイ
一方通行「あァうン、終わったなァ……」
11111号「part4の釣りスレが立ったのが2月の半ばですから、何だかんだで3ヵ月半もやってた事になるんですよね、
とミサカは感慨深げに振り返ってみます。いやぁ長かった」
一方通行「part3まで一気に行った『そンな実験で~』のスレでも2ヶ月弱で終わったからな。
投下が遅くなったってのもあるが、こンだけ休みなくSS書いたのは初めてだぜ」フゥ
11111号「調子に乗って釣りスレの乗っ取りなんてやるもんじゃないですね、とミサカは軽はずみな行動を省みます」
一方通行「長編書くのやめて短編と中編専門になるか、とか思ってた矢先にこれだ。
こンだけネタ出しに苦労したのは初めてかもしれねェ……」
11111号「苦労した割りにはあんまりネタが練れてなかったりゴニョゴニョ、とミサカは苦笑いしつつ曖昧に語尾を濁します」
一方通行「それは言わねェお約束だ」
11111号「と言いつつもまぁそれなりに楽しみながら書けたので良しとしましょう。
それでは前置きはこんなもんにして、そろそろ裏話と没ネタ公開に移りましょうか、
とミサカは本題を切り出してみます」
一方通行「ンー、とりあえずアレだな。全体を通して第五位がえらく暴れやがったな」
11111号「みさきちは今が旬ですからね。にしてもちょっと属性を付与し過ぎた感もありますが、
とミサカはみさきちのキャラ付けが過剰すぎた点を反省してみます」
一方通行「メインキャラとして扱うのは初めてだったからなァ。
にしても、腐女子でぼっちで高圧的でプライド高い癖にヘタレでオマケに変な叫び声で、ってのは流石にな……
とにかく嗜虐心を煽るキャラにしたかったみてェだが」
11111号「スパロボZやってたせいでだいぶシオニーちゃんの影響受けちゃったんですよね。
と言うか元々みさきちは登場させる気はあんまりなかったんですよ。
初期プロットでは精神科医はみさきちではなく上条当麻が務める事になっておりました、
とミサカは早速没になったネタを公開してみます」
一方通行「精神病んだ患者を説教と拳で矯正するそげぶ治療、てのが最初に思いついたネタだったな」
11111号「妄想や幻想、空想、果ては夢や希望までもをぶち壊すそげぶ治療!とかそんな感じでしたね、
とミサカは使われる事のなかったネタを手を合わせて供養します。
ちなみに説教と暴力は精神病患者に対しては絶対にやってはいけません」
一方通行「ンで、何だかンだでそげぶ治療を実践する事になって、
やっぱり垣根が殴られるのかと思いきや殴られるのはまさかの俺」
11111号「そしてそげぶを喰らった一方通行は心の闇を浄化され、まさかの綺麗な一方通行に……
とミサカはあまりにもアレな初期案に軽く頭を抱えてみます」
一方通行「俺が綺麗になったらそこでこのSS終わっちまうからな」
11111号「治療と称して殴られるというのもアックア先生のネタと被ってますしね。
それと感想レスの中にちょくちょく『みさきち出して』みたいな声があったんで
結局そげぶ治療はお蔵入りになり、入れ替わりにみさきちが出ることになりました、
とミサカはみさきち登場の経緯を説明してみます」
一方通行「この作者は基本的にライブ感満載で書いてるンで感想レスとか予想レスとかで結構ほいほい方向性が変わっちまうンだよな」
11111号「意志が弱くてネタに自信がないとも言えますね、とミサカは苦笑いしながら肩を竦めてみます」
一方通行「そこはオマエ嘘でもいいから、読者の要望を取り込ンでる、とかいい方向に言っとけよ」
11111号「残りレス数がマジで切羽詰ってるのでサクサク行きましょう。
今回白井黒子の出番がやけに少なかったですね?静かさが逆に不気味でした、
とミサカは前回大暴れした変態ジャッジメントの出番が少なかったことに首を傾げます。
いやまぁミサカ的には出ないほうが安心出来るからいいんですけども」
一方通行「白黒が出ねェ分、代わりに結標がハッスルしてただろォが。
対象が違うだけで基本的にやる事同じなンだから二人とも同時に出したらネタ被るしカオスになるわ」
11111号「なるほど、とすると香焼くんはミサカ達の身代わりとして被害を被ったとも言えるわけですか。
彼には足を向けて眠れませんね、とミサカは両手を合わせて犠牲になった香焼くんを弔ってみます」ナムナム
一方通行「十字教徒だから手ェ合わせて祈られても困るンじゃねェか?」
11111号「まぁそもそも死んでませんしね、性的には死んだかもしれませんけど、とミサカは含み笑いをしてみます」ケヒヒ
一方通行「足を向けて眠れねェとか言った直後にそれかよ」
11111号「あなたも上手く立ち回ればショタコン相手で童貞捨てれたんじゃないですか?
とミサカは童貞こじらせてるモヤシに哀れみの視線を向けてみます」
一方通行「……初期案では罰ゲーム内容が『能力封じられた状態で結標から三日間逃げ切れ』みたいな感じだったンだよな」
11111号「あーはい、そう言えばそうでしたねぇ。ぶっちゃけあなたが罰ゲームなのは最初から確定事項でしたし、
とミサカはSS書くにあたって一番最初に決定した事実をぶっちゃけてみます」
一方通行「流石にちょっと残酷すぎンだろ、て事でとりあえずお蔵入りになってェ、」
11111号「次に浮かんだのは『しばらく能力を封じられる』という罰ゲームの方向性はそのままで、
他のレベル5勢に復讐の為追い掛け回される、というものでしたね。
とミサカは本編と似てるようでちょっとだけ違う事をアピールしてみます」
一方通行「能力を封じられながらも持ち前の頭脳と予め用意していたトラップでなンとかレベル5勢の追撃をかわす俺、
みたいな感じだったからな。即効でとっ捕まって連行された本編とはワケが違ェ」
11111号「ワザと無様で醜く不恰好に逃げ惑う事により『いつでも捕まえる事が出来る』と刷り込み、
追う者の嗜虐心を煽る事で『捕まえる前にもっといたぶってやろう』という心理を呼び起こす。
そうして追い詰められている振りをしながらトラップを満載した路地裏に誘い込む、
ってな流れでしたね、とミサカは初期プロットでの一方通行の無双っぷりを思い起こしてみます」
一方通行「ンでもって、追跡者を無事振り切った俺が高笑いしつつ
『能力が復活したら楯突いてきた馬鹿どもにどンなお仕置きをしてやろうか』とか考えながら
雑踏に消えていくシーンでラストだったンだよな」
11111号「まぁその直後に結標淡希に肩を叩かれて悲鳴を上げるのが本当のラストシーン、と言うかオチなんですけどね、
とミサカは第二案でも結局ショタコンが出張ってくる事に辟易します」
一方通行「尺の都合とか他のレベル5勢弱すぎンだろとか色々思うところが結局第二案も没。
そンなわけで本編ラストの流れに落ち着くことになったわけだ」
11111号「そんな本編ラストもこのミサカの渾身のデレが全て持っていってしまいましたけどね、
とミサカはドヤ顔で胸を張ってみます。これがメインヒロインの貫禄というものです」フフン
一方通行「本当は>>929で終わらせようと思ってた所を投下直前で気紛れに付け足しただけだけどなァ。
つーかこれはデレになンのか?正直微妙じゃねェ?」
11111号「何をおっしゃいますか、立派なデレですよ?一連のデレをベジータ風に表現すると
『カカロットを倒すのは、このオレの役だ…てめえらガラクタ人形の出る幕じゃねえ』
って感じになるくらいのデレです、とミサカはわかりやすいようにドラゴンボールで例えてみます」
一方通行「あァそォですか……」
11111号「んじゃまぁ残りも少ないですしこの辺にしときます?とミサカは残りレスの少なさに怯えてみます」
一方通行「今回は唐突に始まったせいか後から見直して『もっとこうしときゃよかった』
『こっちのネタの方がよかったンじゃね?』って部分がまだまだ腐るほどあるンだがなァ」
11111号「一々挙げてたらキリがありませんて。今回は本当に省みる点が多すぎるのでもう見ない振りしちゃいましょう、
とミサカは目を閉じ耳を塞ぎます。何も見えない聞こえなーい」アーアー
一方通行「次はちゃンとネタ溜め込ンで自分でスレ立ててのンびりやりてェモンだな」フゥ
11111号「次回作の宣伝でもしときましょうか?とミサカは心のネタ帳を捲りながら提案してみます」
一方通行「やめとけやめとけ、しばらく休みてェし、下手に予告とか宣伝とかやってもこっちが辛ェだけだ」
11111号「それもそうですね。ではでは終わりにしましょうか、
とミサカは少々名残惜しさを感じながらも締めに入ります」
一方通行「えェー、長い事お付き合いありがとうございましたァ。
これにて一連の「イヤだ」シリーズは本格的に終了となりまァす」
11111号「このSSは、あなたのおはようからおやすみまでを背後からそっと監視する、
ミサカネットワークの提供でお送りしました、とミサカはスレの終了を宣言します。
万一機会があればまたお会いしましょう」
一方通行「監視するにしてもせめて正面からにしとけよ」
本当に終わり。
あらヤダ結局最後まで読んじゃったわwwwwwww
それでも面白いとは思えなかったケド…
何処かで見た事ある様なギャグと一方マンセー上条叩きだけしかないSSだったな…
まァ暇潰しにはなったケド…
皆はどう感じた?