元スレ
一方通行「そンな実験で絶対能力者になれるわけねェだろ」part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304763529/
今回は真面目に主要登場人物紹介
・一方通行
夢見る童貞第一号。童貞を捨てれば絶対能力者になれると割りと本気で考えている。
学園都市第一位という立場であり顔だけは良いので結構モテるが、ストライクゾーンがやたら狭い。
その上運命的な出会い(笑)に拘っている為今後も童貞を捨てられる可能性は極めて低いだろう。
あまり羨ましくないフラグだけは立つが、好みでない相手には基本的に鬼畜。
基本的にアホの子。童貞特有の都合のいい解釈で暴走状態に陥りやすい。
・垣根帝督
夢見る童貞第二号。童貞を捨てれば以下略。サブ主人公。一方通行曰く「ギャルゲーの親友ポジ」
一方通行と同じく運命的な出会いを求めているが、一方通行ほどストライクゾーンが狭いわけではない。
が、立ちかけたフラグが運悪く、或いは神の手の介入により叩き潰される悲劇のイケメルヘン。
二枚目キャラが三枚目を演じるから良いんだよ、うん。
「常識は通用しねぇ」がキャッチコピーだったはずが周りがぶっ壊れすぎて一番常識人に。趣味はギャルゲー。
・御坂美琴
自覚の無いストーカー。「絶対能力進化を開始させない為」と称して四六時中一方通行を監視する困ったちゃん。
一方通行と垣根の会話にいつの間にか自然に混ざっているその手腕は一種のホラー。
どうやって彼らの居場所を特定しているかは企業秘密。
言動が意味不明で全く噛み合わない事が多々あるため「残念な子」の烙印を押されている。
こんなんでも一方通行が絡んでいない時はマトモなんです。後輩にも慕われてるんです。
童貞の歩んだ軌跡
・初日
一方通行、絶対能力進化の説明を受けるもこれを拒否。
理由は「童貞のまま絶対能力者になるのは恥ずかしいから」
・同日
布束砥信に土下座で告白するも玉砕。妹達への告白二万本ノックスタート。
同時に運命的な出会いを探して街中を彷徨ったりする。
・一週間後
絶対能力進化を開始しない一方通行に痺れを切らした垣根帝督が接触。
あわや戦闘になろうかという事態に陥るが、説得により垣根を懐柔する事に成功。
これ以後垣根も脱童貞を目指して一方通行と共闘する事に。
ちなみにこの時点で一方通行は二千を超える妹達に振られている。
・約二ヵ月後
一方通行が研究所の一室に引き篭もり始める。理由は万を越す妹達に辛辣に振られたから。
トドメを刺したのは11111号さんでした。
・その二週間後
一方通行を部屋から引きずり出す計画が妹達に丸投げされる。
部屋ごと重火器でふっ飛ばすという力業で解決。この時一方通行が垣根から借りていたクラナドがお亡くなりになる。
11111号さんのアフターケアにより一方通行無事復活。マッチポンプすなぁ
・時期不明
一方通行、妹達と間違えてクローン元である御坂美琴に声をかける。
色々あって絶対能力進化や絶対能力者になるために脱童貞する事が不可欠である事を説明。
これ以後、一方通行が脱童貞して絶対能力進化を開始しないよう御坂が彼の監視を始める。
・七月二十日
一方通行が他人の家のベランダに引っ掛かっていたインデックスと接触。
食事を奢り、色々話を聞こうとするも御坂に邪魔される。
・同日夕方
垣根と合流。インデックスとも再会し、彼女を追い掛け回していた魔術師二人を
色々勘違いしたまま撃破。が、当のインデックスは出番が少ない事に不満を持ち
ヒロインポジション目指して何処かへ消えてしまう。
・八月八日
一方通行と垣根、ファーストフード店で食い倒れている姫神秋沙と遭遇。
食い倒れの対処法を考えているところに御坂が唐突に現れ、彼女の言動に対し垣根が「残念な子」と評する。
・同日
紆余曲折あって姫神を住まいである三沢塾まで送り届けることになる。
届けた先でアウレオルス=イザードと遭遇、何か勝手に自爆した。
・八月二十日
一方通行、自販機にお金を呑まれた可哀相なウニ頭の少年を助け「通りすがりの童貞」と名乗る。
その言葉に心打たれた少年が立派な童貞になる事を決意。
・同日
自販機からお金を盗んだ容疑で風紀委員の白井黒子が一方通行に絡むも返り討ちに。
一方通行、様々な思惑を抱いてジャッジメント支部に連行される。
連行された先で佐天涙子と運命的な出会いを果たしそうになるが反射してしまう。
・八月二十八日
『御使堕し』発動。一方通行以外の人間の姿が入れ替わり、そのギャップで彼のメンタルは容赦なく痛めつけられる。
垣根が白井を強引に口説こうとするが、寸での所で白井が一方通行に吹っ飛ばされる。
一方通行、外の世界が怖くなって再び研究所の一室に閉じこもる。
・八月三十日
天井亜雄の手により妹達の上位個体である打ち止めにウイルスが仕掛けられ、更に誘拐される。
引き篭もっていた一方通行の部屋が再び吹き飛ばされ、この時垣根に借りていたリトバスが犠牲になる。
・同日
一方通行、天井亜雄を確保。
ウイルスの中身が「妹達が一方通行に好意を持つようになる」ものだと判明。
が、一方通行はそんなものには頼らないと表明。打ち止めは無事救助される。
天井亜雄が行方不明になる。
・八月三十一日
海原光貴のストーカー行為に堪えかねた御坂が一方通行と垣根に相談を持ちかける。
色々あって海原がボコられる事になったが解決したかどうかは不明。
・九月一日
打ち止めが好奇心に任せ研究所から脱走。一方通行に確保の依頼が来る。
一方通行、シェリー=クロムウェルと戦闘中だった白井を捕獲、強制的に打ち止め捜索の手伝いをさせようとする。
打ち止めの写真を見た白井が暴走。
白井と海原に絡まれていた打ち止めを無事救助。
・同日
垣根、一人で地下街をうろついている最中に騒動に巻き込まれる。
シェリーに襲われていた風斬氷華に運命を感じ、これを救助。ウニ頭のフラグを強奪する。
風斬、消失する。
・九月十四日
一方通行、残骸を巡って結標淡希と交戦。
運命を感じた一方通行が彼女を口説こうとするも、好みから外れたのでノーカウント。
結標、一方通行(と、将来彼との間に出来るであろう子供)にショタの可能性を見出し覚醒。
残骸を盾にし、一方通行を相手に優位な立場に立つが、キレた一方通行にブン殴られる。
・後日
怪我が治った結標、一方通行のストーキングを開始。
―とある喫茶店
御坂「ねぇ、あんた達明日はどうすんの?」
一方通行「あァ?」
垣根「明日?……いや、特に予定はねぇが、多分こうやってダラダラしてるんじゃねぇかな」
御坂「え、大覇星祭出ないの?」
結標「大覇星祭って……あら、もうそんな時期?」
垣根「あー……早ぇもんだな、すっかり忘れてたぜ」
御坂「何で忘れてんのよ……」
垣根「だって学校行ってねぇし」
一方通行「おい、大覇星祭ってなンだ?」
御坂「あんたはそこからか……」
結標「あっくん知らないの?大覇星祭って言うのはね……」
一方通行「つーかちょっと待て」
御坂「ん?」
結標「どうかしたの?」
一方通行「オマエら二人なンでここにいるンだ?そしてなンでナチュラルに俺の隣に座ってンだ?」
御坂「今更?あんたの監視だって何度言わせるのよ」ハァ
結標「私の居場所はあっくんの隣だもの」
一方通行「意味がわかンねェ、死ね」
垣根「良かったな一方通行、モテモテじゃねぇか」
一方通行「テメエ他人事だと思って……」
垣根「事実他人事だしな、ストーキングされるのも運命を邪魔されるのも俺じゃなくてオマエだろ」
一方通行「あれェ、なンかちょっと不機嫌じゃないですか垣根くゥン?」
垣根「……いいか一方通行、オマエは今両隣に女を侍らせてるんだぞ?
そんな状態で目の前の一人で座ってる俺に『ムカつくな』って方が無理だろ」
一方通行「いやいや、何言ってンだ!?コイツらの中身がどンだけ残念かは知ってるだろォが!」
垣根「あぁわかってる。わかってるが、男として色々やり切れないモノを感じるんだよ……
見てくれはいいからな、そいつら二人とも……」ハァ
一方通行「見た目に騙されンな!!コイツら二人揃ってストーカーだぞ!?
能力悪用して不法侵入かます最低のクズだぞ!?」
御坂「ちょっと誰が最低のクズよ!?あんたに言われたくないわ!!」
結標「もうあっくんったら口が悪いんだから、反抗期かしら?」
「そうです!御坂さんをクズ呼ばわりするなど許せません!」
御坂「げぇ、あんたは……海原光貴……」
海原「どうも御坂さん、奇遇ですね」ニコッ
一方通行「どっから湧いて出た……」
垣根「どんな奇遇だよ」
海原「あ、そちら少し詰めていただけませんか?御坂さんの隣に座りたいので……」
結標「ん、仕方ないわね……ほら、あっくんももっとこっちに詰めて」
一方通行「ふざけンな!三人掛けのソファに四人目が入ろうとすンじゃねェよ!!
誰か垣根の側に行け!!つーかオマエら全員纏めて帰れクソが!!!」
垣根「あ、すいません店員さん、コーヒーのおかわり頂けますか?」
一方通行「平和そうにしてンじゃねェぞ垣根ェェェェ!!!」
海原「あの、早く詰めていただかないと座れないんですが……」
結標「ほらあっくん、お姉ちゃんの膝の上に……」
一方通行「死ね、誰が詰めるかボケが」
御坂「そうよ、詰めなくていいわ。あんたに隣に座られるなんてごめんよ」
海原「これは手厳しい、では仕方がありませんね」
一方通行「おォ、帰れ」
海原「自分は御坂さんの膝の上に……」
御坂「ふざけんなゴラアアァァァ!!!!」
白井「そうですの!!そんな事許しませんの!!」
一方通行「また増えやがった……」
垣根「オマエのお陰で大繁盛だなこの喫茶店」
一方通行「……つーかこのままじゃ話が進まねェし、ちょっと間引くかァ」ハァ
垣根「間引く?」
一方通行「圧縮圧縮ゥ」
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白井「」シーン
海原「」グッタリ
結標「」ビクンビクン
一方通行「こンだけ間引けば話も進むだろ」パンパン
垣根「オマエは相変わらず好みじゃない相手には容赦ねぇな」
一方通行「気絶させただけで済ませてンだ、十分容赦してるだろォが」
御坂「で、あんたら大覇星祭には出ないんだ?」
垣根「オマエも目の前で後輩がやられたのに平然と話を進めるのかよ」
一方通行「で、大覇星祭って何なンだァ?」
御坂「あ、そういえば結局説明してなかったわね」
垣根「簡単に言うと超大規模な体育祭だな」
一方通行「体育祭ねェ……」
垣根「外部から一般客招いて学園都市の全学校が合同で行う一大イベントだ、ちなみに能力の使用も許可されてる」
一方通行「能力使っていいのかよ、大惨事の気配しかしねェぞ」
御坂「外部にアピールする為と、能力者同士の大規模干渉のデータを収集するっていう名目があってね、
むしろ能力使用は学園側から推奨されてるのよ」
一方通行「ふゥン」
御坂「何かあんまり興味なさそうね?」
一方通行「正直ねェな、そォいう現場で暴れるガラでもねェし、見世物になるつもりもねェ
そもそも俺は自分が何処の学校に籍を置いてるのかも知らねェ」
御坂「あんたは………でも意外ね、あんた達の事だからてっきり
『大覇星祭で女の子に良い所見せてやるー』って燃えてると思ったんだけど」
垣根「多分俺らが出たらリアル三国無双みたいになっちまうからな
一方的に相手を蹂躙してる姿見せても普通の女は引くだけだろ」
御坂「そういうもんなの?」
一方通行「それにオマエと違って弱い者イジメは趣味じゃねェンだよ」
御坂「ちょ、人聞きの悪い事言わないでよ!私だってそんな趣味ないわよ!!」
一方通行「でもオマエ初めて会った時スキルアウト狩りしてたじゃねェか」
垣根「え、マジで?引くわぁ……」
御坂「してないから!!私が一方的に絡まれてただけだから!!
しかも最終的にスキルアウトボコったのあんたじゃない!!」
垣根「ま、仮にやる気があったとしても今更遅ぇけどな」
一方通行「そォなのか?」
御坂「誰がどの競技に出るか、事前に学校で話し合って決めるからね
対戦相手の能力見てメンバー変更とか出来ちゃったらマズイでしょ?
あんた達みたいに学校に行ってないんじゃ当然出場枠は無しよ」
一方通行「まァ、さっきも言ったが興味ねェしな
それより外部から来た客との運命的な出会いを期待するわ」
垣根「外部の女と出会ってもなぁ……大覇星祭の期間終わったらお別れじゃねぇか」
一方通行「短い期間に濃厚な愛を育むってシチュエーションも悪くねェだろ」
御坂「相変わらず幸せな頭してるわね……
でもまぁ、あんたらが出ないんだったら私の敵はいないわね、優勝はいただきよ」
一方通行「なンかオマエの勝ち誇った顔ムカつくな」
垣根「当日電撃が出せないようにオマエの周囲だけ空間作り変えてやろうか」
御坂「ちょ、ちょっとあんた達私に何の恨みがあんのよ!?」
一方通行「山ほどありますけどォ?」
垣根「ノリだ」
御坂「とにかく、明日の為に常盤台の皆と頑張って練習してきたんだから邪魔しないでよ!」
一方通行「そォいうの聞くとむしろ邪魔したくなるよな」
御坂「……妹達にあんたの悪行を言いつけるわよ?」
一方通行「すいませンでした、応援してるンで頑張ってきてください」
垣根「一方通行……」
一方通行「哀れむよォな目で見るンじゃねェ」
御坂「じゃ、憂慮する事も無くなったし、明日に備えて私は先に帰るわね。応援よろしくぅ~」バイバイ
一方通行「ちくしょォ……」
垣根「弱みがあるってのは悲しいなぁ」
一方通行「……俺らも帰るか」
垣根「そっちに転がってる奴らどうすんだ?」
白井「」
海原「」
結標「」
一方通行「あァ忘れてた……すいませェン、会計こいつらにツケといてくださァい」
垣根「酷いなオマエ」
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―翌日、街中
「何処も彼処も人、人、人……なァンなンですかァこれェ……」
「大覇星祭の時期に表側に顔出すのは初めてだが……予想以上だなこいつは」
大覇星祭初日、運命の出会いを求めて街中に繰り出した学園都市のトップ2だったが、
その人の多さに辟易し、元々人の多い場所が苦手な一方通行は早くも出てきた事を後悔し始めていた。
まだ開会式も始まっていないというのに街は既に外部からの見学者で溢れかえっている。
「つか、運命の出会いとかねェだろこれ……」
「よく考えりゃ当然だよな……」
そう、外部からの見学者の大多数は学園都市内の生徒の保護者であり、当然年齢的に彼らよりもかなり上の人間ばかりで、
端的に言うとおじさんおばさんがほとんどなのだ。一方通行に比べて守備範囲の広い垣根も流石に食指が動かない。
おまけにほとんどの学生が大覇星祭に参加している為、街中を歩いている生徒はほとんどいない。
その事実に今更気付いた二人は、何もしていないのにも関わらず、疲れた表情で人ごみの中立ち尽くしていた。
て言うか年頃の女の子が一人で来るわけないよね、そりゃ。
「なァ、もォ帰らねェか?」
「んー……いや、折角出てきたんだし俺らも見学くらいしていかねぇ?」
「あァ?格下同士が群れて争ってるのなンざ見て何が楽しいンだよ」
「そう言うなって、『ドキ☆女だらけの体育祭!』みたいなノリで見れば楽しいんじゃねぇか?」
「野郎も大量にいンだろォが、元気だなァオマエは……まァ仕方ねェ、付き合ってやンよ」
くだらない会話をしつつ、何とか人ごみから距離を取り、二人は街頭の巨大モニターを見上げる。
丁度開会式が始まったタイミングだったようで、偉そうな年配の男性が何やら喋っている様子がアップで映されていた。
「アレイスターの野郎も挨拶とかしてたら面白ぇんだがな」
「面白くねェよ、学園都市の未来が不安になるわ」
「メイド弁当~、学園都市名物、メイド弁当はいらんかね~」
「おぉ見ろ一方通行、メイドさんが弁当売ってるぞ」
「いつからそンなけったいなモンが学園都市の名物になったンだよ」
「ちょっと今の内に買ってくるわ、どうせ飯時は何処も混むだろうしな」
「ハイハイ好きにしろよォ」
掃除ロボに乗って回転しながら弁当を売りさばいている怪しさ満点のメイドの下へ向かう垣根を見送ると、
一方通行は再び巨大モニターに視線を移す。開会式はまだまだ続いているようで、
先程とはまた別の年配の男性が挨拶している姿が映っていた。
(おいおい、まさか参加学校の全校長が挨拶するとか言うンじゃねェだろォな……)
不吉な予感に顔を曇らせ、やっぱり帰ってしまおうか、と思案していた一方通行だが、
その思考は不意に中断される事になる。
「きゃっ!」
「おォ?」
前方不注意で走っていた一人の女性が一方通行に激突し、反射の膜によりすっ転んでしまったのだ。
幸い大した怪我はしていないようだが、流石にこのまま無視をするというわけにもいかない。
一方通行はめんどくさそうな表情を隠しつつ、転んでしまった女性に手を差し伸べた。
「すいませェン、大丈夫ですかァ?」
「いたた……こっちこそ、ごめんねー」
(あ?なァンか誰かに似てンなァ……)
自分よりもいくらか年上に見える女性を助け起こした一方通行は、その顔をマジマジと見つめ首を傾げる。
何処かで見た顔だ、何度か見た顔だ、頻繁に見る誰かにそっくりな顔だ。
しかし答えを導き出す前に、当の女性が一方通行に話しかけてきた為その思考は中断される事となる。
「君、学園都市の生徒?ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「ン?あァはいはい、どォぞ」
「常盤台中学ってどの辺にあるかわかる?」
「常盤台?あー、何処だったかなァ……」
「おーい一方通行ー、弁当買ってきたぞー」
常盤台中学の場所を思い出そうと頭を捻っていたところで、
弁当を買いに行っていた垣根が大声で一方通行の名を呼びながら戻ってきた。
彼の両手には一つや二つでは収まらない、大量の弁当箱が包まれた袋が握り締められている。
売り子のメイドさんの気を引く為に大量購入でもしたのだろうか。
「お、丁度良い所に戻ってきやがったなァ……買い過ぎだろオマエ」
「いやぁ顔がいいってのは特だな、オマケしてもらった上に『お兄ちゃん』なんて呼ばれちまったぜ
で、丁度良いって何がだ?そっちのお姉さん誰よ?つーか第三位そっくりだなおい」
「……あァ、誰かに似てると思ったら超電磁砲に似てたのか」
垣根に指摘され、一方通行も目の前の女性が御坂美琴にそっくりだと今更ながら気付く。
そう言えば目的地の常盤台も彼女の通っている学校だ。とくれば、無関係の他人の空似と言う事も無いだろう。
「お姉さン、もしかして超電磁砲……御坂美琴の関係者ですかァ?」
「あらあら、ひょっとして美琴ちゃんの知り合い?世間って狭いのね」
一方通行の問いをサックリと肯定し、目の前の女性はクスクスと笑う。
口ぶりから察するに姉と言った所だろうか、しかしよくよくこの遺伝子に縁があるものだ
と、一方通行は数奇な巡り合せに軽く頭を抱える。
普段の彼ならテンションが上がりそうなものだが、何故かこの出会いを運命だと言う気にはならない。
美琴の印象が悪すぎる為だろうか。
「あ、私御坂美鈴って言いまーす、よろしくねー」
「これはどうも、垣根帝督と申します。美琴さんにはいつもお世話になって……
いやしかし、彼女にこんな美しいお姉さんがいらっしゃったとは」
「あらぼうや、上手ね」
にこやかに自己紹介をする美鈴を前に、垣根は早速彼女を口説き始める。
知り合いの血縁関係者口説くってどうなんだ、と冷めた目でそれを見つめる一方通行だったが、
彼も似たような真似をしていた過去がある事を忘れてはならない。血縁ではなくクローンに対してだが。
「でも美琴ちゃんが羨ましいな、こんなかっこいいボーイフレンドが二人もいるなんて……
これからも仲良くしてあげてね?」
「あァ……」
「まぁ……」
「?」
仲良くしてあげて、と言われ正直微妙な気分になる二人であった。
「……えっとォ、お姉さンは常盤台中学に行きたいンでしたっけェ?」
「あ、うんそうだったんだけど、もういいわ」
「あぁ?」
「ほらあそこ、美琴ちゃん見つけたから」
「え?」
美鈴が指差す方に目を向けると、そこには凄まじい形相でこちらを睨みつけながら歩いてくる美琴の姿があった。
恐らく、何かを勘違いしているのだろう。一方通行は再び今日外に出てきた事を後悔する。
隣を見てみると、垣根もうんざりした表情で彼女の方を見つめていた。
ただ一人、背後関係を知らない美鈴だけがにこやかに手を振っている。
「あんた達ねぇ……」
額に青筋を浮かべ、パチパチと周囲に放電しながら、美琴が一方通行と垣根の二人に詰め寄る。
「人の母親に何してんのよ!!!!」
「何もしてねェ、俺達は道訊かれただけで……ン、ちょっと待て今何つった?」
「……え、母親?これ母親ぁ!?姉とか親戚じゃなくて!?」
衝撃の事実に、二人は顔を見合わせ驚愕する。
美琴の言い間違いでないとするなら、彼らが今まで話していた女性は、
現役女子大生くらいにしか見えないこの女性は、彼女の母親ということになる。
一体いくつの時に子供を生んだのか、それとも滅茶苦茶若作りなのか……
どちらにしろ手を出す前でよかった、と密かに胸を撫で下ろす垣根であった。
「あららバレちった」
唖然としている二人の前で美鈴は、てへ、と大して悪びれる様子も無く舌を出す。
容姿、言動、表情、どれをとっても、とてもではないが中学生の娘がいるようには見えない。
「美琴ちゃん聞いて聞いてー、私そっちのイケメン君に『美しいお姉さん』って言われちゃったー
私もまだまだ捨てたもんじゃないわね!」
「え……ちょ、あんたマジで手ぇ出そうとしたの!?」
「うるせぇぇ!!人妻なんて知らなかったんだよぉぉ!!!」
更に、美鈴は嬉々として垣根の口説き文句を娘に報告する。
手を出そうとした事を思いっきり暴露された垣根は「一生の不覚」と言わんばかりの顔で頭を抱えると、
その場に蹲り悲しげな呻き声を上げた。流石の彼も中学生の娘がいる人妻は射程圏外だったようだ。
「はぁ……ったく、あんたらは本当にもう……」
「俺まで一緒にすンじゃねェ」
「ほら行こ、こいつらの側にいたら危ないから」
「あら美琴ちゃん、ひょっとして妬いてるの?」
「いやそれはないわ」
一方通行と垣根から美鈴を引き離す為、美琴は彼女の手を引いてさっさと行ってしまう。
とはいえ、一方通行の方もこれ以上彼女達と付き合うのは正直ごめんだったので
この対応は願ったりといったところだ。
「にしても、御坂の血縁ってのはどォしてあァなンだァ?……妹達はあンなに可愛いのによォ」
やっぱり育った環境なのかね、と溜息交じりに呟きながら、隣で未だ蹲っている垣根に視線を落とす。
ん?妹達可愛いか?
「おい垣根、いつまでそうしてやがる、そろそろ立ち直りやがれ」
「ふ……ククク、く、はははは」
「あァ?」
「『自分だけの現実』の再構築をした……人妻ってのもアリだと思わねぇか?」
「ちょっとオマエの友達やめたくなってきたわ」
「俺の未元物質に常識は通用しねぇ(キリッ」
『第一種目、棒倒し 各校の入場です』
「棒倒しってどンなンだ?」
「自軍の棒を守りながら相手側の棒を倒すんだとよ」
街頭のモニターを見上げながら首を傾げる一方通行に、垣根がパンフレットを眺めながら答える。
彼ら二人は今、街中に設置されている適当なベンチを陣取り、のんびりと大覇星祭の鑑賞会を行おうとしていた。
さてこの棒倒しだが、先述の通りルールだけならごく普通のものである。
しかしそこは学園都市、能力使用が許可されているのでかなり派手な競技になる事が予想される。
と言っても、学園都市のトップ2であり、ド派手な能力を所持している彼ら二人にとっては、
レベル4以下の能力者達のぶつかり合いなど、退屈な見世物に過ぎないのだが。
「はァン、高位の能力者がいたら一瞬で終わりそォだなァ」
「ま、実際俺らがいたら瞬きしてる間に終わっちまうだろうな」
自分達があの場にいたらどうやって棒を倒すか、を想像しながら、ケラケラと笑い声を上げる。
一方通行であれば軽く足踏みするだけで棒どころか周囲の建造物までまとめて崩せるだろうし、
垣根ならば翼の一薙ぎでそこらの人間ごと薙ぎ倒す事が出来るだろう。
こいつら二人が参加して手加減無しに能力を行使したら大惨事にしかならない。
と言うかどれだけ手加減しても相対した者は無事では済まないと思われる。
この二人にはそれだけズバ抜けて圧倒的な力があるのだ。
「ショタッ子とイケメンお兄さんの棒倒しと聞いてやってきたわ」
と、グダグダ会話を続けていた二人の間にストーカー第二号、結標が割ってはいる。
確かに『棒倒し』って何だかアレな響きだよね、
自分の棒を守りつつ相手の棒を責める、とかもうアレだよね。
「呼吸ごとお引き取りくださァい」
「ストーカー連中は一体どうやって俺らの居場所を特定してるんだ?」
盛大に溜息を吐きつつ、一方通行は極力結標の方を見ないようにしつつ暴言を吐く。
垣根もストーカー達の探索能力に呆れ顔だ。
「私とあっくんは運命の赤い糸で結ばれてるもの、ねー?」
「ハイハイこっから先は一方通行でェす」
「あふぅ!!」
同意を求めつつ、一方通行に擦り寄ろうとした結標だったがあっさりとかわされ、
カウンターで投げやりな決め台詞と共に思いっきりブン殴られる。
殴られた彼女はちょっと幸せそうな表情を浮かべながら吹っ飛び、再び星になってしまった。
「おー、よく飛んだなぁ」
「あンだけふっ飛ばしても気付いたら戻ってきてやがる、正直手に負えねェよ」
「愛されてるじゃねぇか、もうそのまま行っちまったらどうだ?」
「他人事だと思って適当言ってンじゃねェぞ、たった一度しかねェ童貞をあンなのに使えるか」
「第三位に比べりゃマシだろ」
「比較する対象が最悪じゃねェか……っと、いつの間にか棒倒し終わってやがる」
「あ、マジだ、全然見てなかったな」
どうやら下らないトークをしている内に最初の種目は終わってしまったようだ。
モニターには満足気な表情で運動場を後にする満身創痍の学生たちの姿が映っている。
よくやるものだ、と冷めた目でそれを眺める一方通行だったが、その反面、
自分があんな風に全力で暴れる事はきっとないのだろうな、と少しばかりセンチメンタルな気分にもなる。
過ぎた力を持つ者の悩みというわけだ。
若干ブルーな気分のまま、ちらりと垣根の方に視線を移すと、
彼は「誰か俺の棒も優しく倒してくれねぇかな」などとアンニュイな表情で呟いていた。
どうも今日の彼はテンションが変な方向に高くなっているようだ。
出場しないとはいえ、何だかんだで大覇星祭が楽しいのかもしれない。
「つかよォ、やっぱ帰らねェか?面白ェ事なンざねェぞ多分」
「まぁそう言うなよ、弁当も買っちまったし、せめて昼までは……」
「見つけたわよ!!!」
「あァ?」
競技内容に退屈し、帰る算段をしていた一方通行とそれを引きとめていた垣根の前に
今度はストーカー第一号、御坂が現れる。肩で息をしている所を見ると、何かの競技中だろうか。
「一方通行!ちょっと一緒に来て!!」
「はァ?なンでだよめンどくせェ」
「借り物競争!!私のお題が「女より色白な男」なんだけど、あんたくらいしかいないでしょそんなの!!」
「なンだその限定的過ぎるお題……」
「とにかくそういうわけだから一緒に来て!あと能力使用が制限されてる種目だから反射も切って!!」
「あァ?なンで俺がそこまで……」
「妹達に……」
「チッ、切ればいいンだろ切れば……」
「よっしゃあ行くわよおおお!!!!」
「ちょ待!オマ、手ェ離せ!!引き摺るなァァァァァ!!!!」
「……うわぁ」
凄まじいスピードで一方通行を引き摺っていく御坂を、一人その場に残った垣根は半笑いで見つめる。
果たして、反射を切った生身の状態の一方通行が、あの市中引き回しの刑のような扱いに耐えられるのだろうか。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
『借り物競争、一位は常盤台中学、御坂美琴選手です』
「ようお帰り、一位オメデトウ」
「ちっともめでたくねェよクソが……」
しばらくして、全身擦り傷だらけになった一方通行が足を引き摺りながら垣根の元に戻ってきた。
元来我慢弱い彼がこれほど理不尽な扱いに耐えているのも、ひとえに妹達と仲良くしたいという一途な想いからである。
そろそろ彼の気持ちに応えてあげる個体がいても良いのではないだろうか。
まぁ、妹達はこのように御坂に振り回されている彼の陰の努力を一切知らないのだが。
「次は大玉転がしだとよ」
「あァそォ……どォでも良すぎて涙が出るわ」
ベンチに腰を下ろした一方通行は、そのままぐったりと項垂れ、深い溜息を吐く。
一件疲れているか落ち込んでいるだけにしか見えないが、付き合いの長くなってきた垣根にはわかる。
一方通行は今、腹の中に猛烈な怒りを溜め込んでいるという事が。
(こりゃしばらくそっとしといた方がいいな……余計な刺激を与えると爆発しそうだ)
「ちょいと第一位様!!先程のは一体どういうことですの!?」
「……あァ?」
「あーあ……」
そっとしておこう、と決意した矢先にこれである。
唐突に彼らの前に現れた白井は何故か、憤懣やるかたなしと言った様子で一方通行に詰め寄っていく。
一方通行の瞳の色が変わる様子を敏感に察知した垣根は、心の中でそっと彼女に合掌した。
「……先程ってのはなンの事だァ?」
「借り物競争でお姉様と仲睦まじく走っていた事ですの!!」
「どこが仲睦まじかったんだよ、コイツ引き摺られてただけじゃねぇか」
「お姉様に引き摺られるなんてご褒美ではありませんの!!
わたくしの許可も無しにそのような事……これはもうジャッジメントですの!!」
「意味がわかんねぇ……」
「とにかく許せませんの!せめてお姉様の手の感触がどうだったか、
文章にしてわたくしに提出してくださいまし!原稿用紙40枚分くらいで!!」
「………ひゃはっ」
「おい一方通行………やりすぎるなよ?」
御坂にボロ雑巾のように扱われ、その上白井に意味不明に問い詰められた一方通行がついに動く。
彼は一瞬狂人のように歪な笑みを浮かべ、引き攣った笑い声を零すと、ゆらりとベンチから立ち上がった。
流石の白井もその様子に只ならぬ物を察知し、咄嗟に空間移動で逃げようとしたが、もう遅い。
彼女があらゆる動作を取るより先に、学園都市最強の能力者は牙を剥いた。
そして――
「うわっぷ、だ、第一位様!もう……うあっ」
「ひゃはははは!ジャッジメントですのォ!」
数分後、先程のベンチから少々離れた人気の無い公園に、首から下を地面に埋められ
更にホースで水攻めをされている白井の姿があった。
一方通行は心底嬉しそうに笑いながらホースを操り、白井の嫌がりそうな位置を的確に責めている。
以前も言ったがこの男、基本的にはドSであり、また好みでない相手には鬼畜に徹するのだ。
もうちょっと外堀を固める事を覚えるべきである。
「も、申し訳ございませんの!わたくしに非がありましたの!ですのでそろそrぷあっ!」
「聞こえませェーン」
放っておけば一方通行の気が済むまでこの水責めは続くのだろう。
多少は白井にも非はあるものの、要はこれ、ほとんど八つ当たりなのだ、
なので彼女がどれだけ謝ろうが無駄である。
「おい一方通行、そんなもんにしとけ……周りの目が痛ぇ」
いい加減周囲から向けられる白い目、好奇の目が気になってきた垣根が一方通行を制止する。
いくら人気の少ない公園まで移動したからと言っても、そこにもやはり外部からのお客さんが多少はいるわけで、
彼らの姿は当然目立つ。凄まじく目立つ。学園都市の評判だだ下がりである。
それどころか下手をしたら通報されている可能性すらある。
「ン……あァ、ちっとテンション上がりすぎたか……悪ィなパンダ、やりすぎた」
「パンダではありませんの、というか悪いと言いつつホースを手放さないのはどうしtおぶぅ!」
「く、くくくく……ひゃひゃひゃ……」
「一方通行、そろそろマジで……」
やめると見せかけ、不意打ち気味に白井に水をぶっかけると、一方通行はくぐもった笑い声を上げる。
なんとも微笑ましい光景ではあるが、ギャラリーが増えてきたこともあり、
このままでは本当に通報されかねないと判断した垣根は、能力を使って強制的に一方通行を白井から引き離した。
もう十分だろう。と言うかとっくにやり過ぎである。
「もういいだろ、ほら行くぞ」
「チッ、まァこンなモンにしといてやるかァ」
「え、ちょ、わたくしこのまま放置!?せめて掘り出してから行ってくださいまし!!」
去っていく二人に埋まったまま必死に声をかける白井だったが、その声が彼らに届く事は無かった。
その後数時間、彼女はジャッジメントの同僚に発見されるまでこの公園で無様な姿を晒し続ける事になる。
白井が一体何をしたというのだ。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―街中
「ったく、やり過ぎだオマエ」
「反省も後悔もしてねェ」
公園から離れる途中、やりすぎた一方通行を窘めるも当の彼に反省の色は全く見えない。
全く仕方の無いやつだ、と溜息を吐く垣根だったが、白井をそのまま放置してきた彼も相当なもんである。
「で、どうする?今から女子対抗綱引きと男子対抗トライアスロンやるらしいが」
「見るンなら女子の方に決まってンだろ」
「だよな、よっしゃ折角だしモニター越しじゃなくて競技場まで行って直接見ようぜ!
飛び散る女の子の汗を身近に感じようぜ!」
「何でオマエそンなにテンション高ェンだよ」
二者択一と言うには余りにも決まりきった選択肢から一方を選ぶと、
何故だかやたらテンション高く移動し始めた垣根に半ば呆れながら、一方通行もその後に続く。
文句を言いながらもしっかりついて行くのだから彼も付き合いのいい男である。
その不器用ながらも自然な優しさを少しでも女の子に対して発揮できていれば今頃は……
「おい走ってンじゃねェよ、ガキかオマエは」
「ハッ、こういう祭事は楽しんだもの勝ちだろうが」
「あァおい前!危ねェぞ!」
「あぁ?…うおっふ!」
「あぁんっ!」
一方通行の方を振り向きつつ足早に駆けていた垣根だったが、
人でごった返している街中でそんな事をしていればどうなるかは火を見るより明らかというものだ。
一方通行の声に反応して正面に向き直った垣根は、丁度そのタイミングで
前方から歩いてきた妙齢の女性と正面衝突してしまう。
おまけにただ衝突しただけでなく、直前で何とか踏みとどまろうとした為体勢を崩してしまい、
若干前のめりになりながら突っ込む形となってしまった。
結果、垣根はそのモデル体型と言っても差し支えないほどナイスバディの女性の
はち切れんばかりの豊満なバストに顔面から突っ込む事になる。おい代われ。
ぶつかられた女性はバランスを崩すことも無く垣根を胸で受け止めると、やたらと艶っぽい声を上げた。
微動だにしなかったのはやはり巨大な胸が衝撃を吸収したからなのだろうか。
「うおぉ!?」
流石の垣根もこれは予想外である。いくらギャルゲーをやりこんでいるとは言え、
このような状況に実際に陥るなど誰が予想しようか。
女馴れしている風を装っても所詮は童貞、彼は顔を真っ赤にしながら声を上げ、
慌ててその女性から距離を取った。
「ごめんねー、こんな人ごみはあんまり馴れてなくて」
女性は胸に顔を埋められた事など全く意に介していないようで、申し訳無さそうに微笑みつつ
右手を縦にして謝罪の言葉を口にする。
「あ、あぁ、こちらこそすいません」
「大丈夫?痛いとこない?」
「だ、大丈夫です。むしろありがとうございます」
気遣いの声をかけてくる彼女に、垣根はデレデレとしながら意味不明な感謝を述べる。
それにしても、基本的に女性に対しては強引にでも主導権を握ろうとする彼が
あっさりと流れに身を任せるのは珍しい。
(……ンだコイツ、痴女か?)
垣根が顔を赤面させている一方、一方通行は冷めた目で冷静に女性の値踏みをしていた。
彼が痴女だと考えてしまうのも無理はない。
長い金色の髪と、日本人には決して到達出来ないダイナマイトバディを持ったその女性は、
上半身はインナーもつけずに着崩した作業着風の上着だけ、
下半身はズボンのベルトとファスナーをギリギリ限界まで緩める、
という何とも露出度高めの扇情的な服装をしていた。
何度も言ってきたが、一方通行のストライクゾーンと運命の範疇は恐ろしく歪な為、
目の前の女性も敢え無く選考から漏れてしまったようだ。
知っての通り、彼はどちらかというと大人しめの女性が、ついでにショートカットの女性が好みなのである。
運命を感じた場合はよっぽど好みから外れていない限り口説こうとするが、
今回彼女にぶつかったのは垣根であり一方通行はほとんど無関係なのだ。
よって、彼は今、目の前の女性に全く運命的なモノを感じておらず、
それ故顔色一つ変えずに垣根と女性のやり取りを眺めていた。
「うふふ、かわいい坊やね。ぶつかったお詫びに……」
「!?」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら、女性は不意に垣根の方に顔を近づけ、
一瞬ペロリと舌を出すと、軽くその頬に口付けをした。
お詫びのキスとかどこの世界の住人だよコラ
頬っぺたにとは言え、不意打ちでキスをされた垣根は声にならない声を上げ、
顔を赤くしたり青くしたりしながら目を見開いて硬直してしまった。
なんとも乙女な反応である。まぁ童貞が美人のお姉さんに突然キスされたらこうなるわ。
「あら、すっかり固くなっちゃって……下の方も硬くなってるのかしら?」
(あァ、やっぱ痴女かコイツ)
クスクス笑いながらセクハラ発言をする女性にドン引きする純情派童貞の一方通行であった。
「そっちの白い坊やもどう?お友達を取っちゃったお詫びに」
「お断りだ、正直好みじゃないンでェ」
「酷いわ、お姉さん傷ついちゃう」
「自分の事『お姉さん』とか『お姉ちゃん』とか呼ぶ輩は間に合ってンだよ……」
彼女の一人称で厄介なストーカーの事を連想してしまい、一方通行は俄かに怒りの炎を灯す。
それまで飄々としていた女性も、突然不機嫌になった少年を警戒し、少しばかりその笑みを引き攣らせた。
「あ、お姉さんそろそろお仕事に戻らなくちゃ……じゃあね、縁が在ったらまた会いましょう」
「あァ?いや俺はいいわ」
「あん、もうつれない坊やね、そんな風に邪険にされるとお姉さん濡れてきちゃう」
「なンで邪険にされて濡れるンだよ?ドMちゃンですかァ?」
「涙に濡れるという事よ、何を想像しちゃったのかしら?エッチな坊やね、疼いてきちゃう」
「あァ、俺も殺意でウズいて来たぜ」
「……」
「……」
「あ、今の疼くは性的な意味で……」
「いいからさっさと行けよ!!」
この手の積極的過ぎる女性が苦手な一方通行はしっしと手を振り、彼女を邪険に追い払う。
なんて勿体無い……これだから童貞は。
女性の方は何故か一方通行のことが気に入ったようで、しばらく不機嫌そうな彼の表情をニヤニヤと見つめていたが、
やがて時間を確認しながら街の雑踏に消えて行った。仕事とやらに向かったのだろう。
「チッ、何なンだあのセクハラババアは……おい垣根、いつまで固まってやがる!」
「ぬふぁっ!」
不機嫌そうに舌打ちした一方通行は、気晴らしとばかりに未だ硬直していた垣根の尻を蹴り上げる。
軽く蹴飛ばすだけのつもりだったのだが、運悪く爪先が予想外に深いところまで抉ってしまい、
垣根は奇声を上げながらしばらく街のド真ん中で尻を押さえて悶絶するハメになってしまった。
「テッメェこの野郎、あやうく処女喪失する所だクソが!!」
「悪ィ、正直あそこまで綺麗に入るとは思ってなかったわ」
「つーかあれ、さっきのお姉さんは!?」
「オマエが固まってる内に行っちまったよ」
「引きとめろよバカ!!折角の運命的な出会いを何だと思ってやがる!?」
「ぶつかっただけで運命かよ、めでてェ頭してやがンな」
だからベランダに引っ掛かってた女に運命感じてたお前が言うなと……
憤慨する垣根を何とか言い包め、二人は競技場を目指して再び歩き始める。
お目当ての女子綱引きがとっくに始まっており、彼らが到着する頃には既に終わっているとも知らずに。
さて、時間はほんの少し巻き戻り、一方通行がセクハラお姉さんに絡まれていた丁度その頃。
「何なのよ、あの女……」
彼らから少し離れた物陰で、一人の少女が歯噛みしながらその光景を見ていた。
「ちょっと私が小学部の競技を見学してた隙にあっくんを誘惑するだなんて……」
ご存知、あらゆるSSでブレない事に定評のあるショタコン、結標淡希である。
「許さないわ……二度とあっくんに手出し出来ないようにしてやる……」
一方通行達と別れた女性の後を、彼女はそっとつけはじめる。
『追跡封じ』の異名を持つ女性魔術師、オリアナ=トムソン、
学園都市の生んだ最悪の追跡装置、結標淡希、
二人の戦いの火蓋は、静かに切って落とされた。
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―――――――――
――――
『次の種目は、中等部による玉入れ合戦です』
間延びした口調のアナウンスが響く中、御坂美琴は競技場の中心近くでスタンバイしていた。
彼女の周囲には同じく、玉入れに参加する常盤台中学の生徒が複数名。
その誰もが選りすぐりの能力者であり、彼女達常盤台のメンバーは、この玉入れに本気で勝ちに来ていた。
対するは何処にでもあるような凡庸な中学であり、常盤台のように高位能力者を有しているわけではない。
ただし、高位能力者を保持している学校が有利になり過ぎないよう、
取り柄の無い平凡な学校はその分、人員を多く導入できるようになっており、
今回の玉入れでは、常盤台中学の選抜二十人に対し、対戦相手である中学は選抜二百人、
実に10倍もの人員を動員する事が可能となっている。
しかし、高位能力者にとって、無能力者や低位能力者の十人程度を相手にする事はそれほど苦ではなく、
その上常盤台中学は一騎当千とも言うべき存在、レベル5の第三位、御坂美琴を有している。
それがわかっている為、無名の相手チームには全体的にやる気なさげな、厭戦ムードが漂っており、
逆に常盤台中学のメンバーは自分達の勝利を疑いもせず、不敵な、或いは見下すような笑みを浮かべつつ
会戦の時を今か今かと待ち焦がれている。
ただ一人、当の御坂を除いて。
(な、なんでよ……)
自軍の余裕ムードと敵軍のお通夜ムードの中、御坂は一人困惑していた。
自軍の中には既に勝利を確信し、相手を嘲笑している者すらいる。
しかし彼女だけは知っていた。この試合、自分達は決して勝てないと。
敵軍に紛れている見覚えのあるたった二人の男に、自分を含めた二十人全員が、
否、常盤台の全生徒が束になってかかっても傷一つ負わせることが出来ないと。
(何であいつらがあそこにいるのよおおお!!?)
敵軍二百人の中に紛れ、学園都市の第一位、一方通行と、第二位、垣根帝督はそこにいた。
敵軍の体操服を身に着けて。
(おいおい垣根ェ、超電磁砲がすげェ目でこっち見てやがるぞ、バレたンじゃねェか?)
(気のせいだって、完璧な変装だし)
先程から御坂の視線が気になる一方通行であったが、垣根は気のせいだ、とそれを切り捨てる。
彼曰く「完璧な変装」との事だが、実際はただ中学の体操服に着替えただけであり、どう見てもバレバレである。
確かに、半袖にハーフパンツという出で立ちは普段の彼らからは考えられない服装だが、
それでもやっぱりバレバレである。一方通行は異様に肌が白いし、垣根は中学生を騙るにはデカ過ぎるのだ。
(イヤイヤ絶対バレてるって!あァちくしょう、帰りてェ……)
(今更だろ、ここまで来たら最後まで付き合えよ)
彼ら二人がここにいる理由、それは「女子中学生とにゃんにゃんしたい」という垣根たっての希望からであった。
先程、女子綱引きの見学に来た彼らだったが、競技場についた時には既に綱引きは終わっており、
欲求不満となった垣根が提案したのが、この『次の競技にこっそり侵入して女学生と戯れる計画』である。
見るだけではなく、次の競技にこっそり飛び込んで直に女の子と触れ合おうというこの計画、
当初こそ一方通行もそこそこノリ気だったのだが、参加校が常盤台と判明し、彼は猛然と反対した。
それも当然、もしこっそり参加している事が御坂にバレ、彼女の競技の邪魔でもしてしまったら、
後で妹達に何を吹き込まれるかわかったものではない。
イヤがる一方通行を「変装するから」と何とか説き伏せこの場に連れてきたのだが、
案の定バレてしまった。というかバレない方がおかしい。
(にしても、常盤台のお嬢様どもはムカつくな、既に勝った気でいやがんのか?)
(なァにマジになってやがンだ、触れ合うのが目的だろォが……)
(あぁその通りだ。だがムカついた、生意気な女は鼻っ柱を圧し折って屈服させるに限る)
(エロゲのやり過ぎだバカ)
当初の目的を忘れかけ、何だかちょっとマジになっている垣根と、
その彼を眺めつつ「いざとなったら俺が止めるしかないのか」と溜息を吐く一方通行、
そして頭を抱えながらそんな二人のやり取りを睨みつけている御坂。
『それでは玉入れ合戦、スタートです!』
三者三様、様々な思惑の中、ついに会戦の合図が告げられた。
「うふふふふ、体操服姿のあっくん……」
競技場の観客席、一人の淑女が双眼鏡片手に血を流しながら玉入れを観戦していた。
その視線の先、一方通行は悪寒でも感じているのか、己の肩を抱きながらキョロキョロと辺りを見回している。
ちなみに流しているのは鼻血ではない。いや鼻血も流しているが、それだけではない。
彼女はつい先程まで、人気の無い路地裏で死闘を演じていたのだ。
「あっくん……あっくんを困らせた悪い女は、お姉ちゃんがお灸を据えてきたから……」
だから安心してね、と結標は微笑みながら、誰に聞かせるわけでもなく、消え入りそうな声で一人呟く。
力無く壁に寄りかかっている彼女の口から、ツッと一筋の血が流れた。
―――――――――――――――
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――――
吹き荒ぶ暴風、捲れ上がる大地、響き渡る阿鼻と叫喚の交響曲。
この世の地獄を凝縮したような混沌の坩堝の中心で、垣根帝督はひたすら笑い声を上げていた。
つい数分前まで余裕の笑みを浮かべ、見下すような視線を向けてきていたお嬢様達が、
彼の起こす嵐を前に、今では為す術も無く小動物の様に震え、歯を鳴らしながら立ち尽くしている。
堪らない快感だった。衆人観衆の中でなければ何回イッていたか分からない。
今朝からテンションが妙に高かった垣根だが、ここに来て完全にタガが外れてしまっていた。
(やっべぇ強気なお嬢様が怯えてる姿とか可愛すぎだろおい)
垣根は更にその圧倒的な能力を振るう。対峙した相手に傷をつけない様に注意を払いながら。
彼の目的は、目の前にいる女性たちを怖がらせ、その怯える姿を堪能するという、ただそれだけなのだ。
ゲーム脳と童貞脳が合わさって暴走した取り返しのつかない結果である。
(うひょうテンション上がってきた!この調子でもっと……あぁ?)
暴風を切り裂き、雷の槍が垣根に向かって飛来する。
それは普通の人間なら即死、高位能力者であっても相当のダメージを被るであろう恐るべき出力のものだったが、
生憎、彼に届く前にあっさりと雲散してしまう。
身体的には何の被害も無かったとは言え、最高潮に達しようとしていたところを邪魔された垣根は
不機嫌そうな表情で雷の発信源、御坂美琴を睨みつけた。
「何のつもりだ、第三位……」
「いやいやいや!こっちのセリフだから!!何やってんのあんた!?」
「見てわからねぇか?」
「え?」
「女子中学生との触れ合いだ!!」
「どこが触れ合いなのよ!?」
この期に及んでまだ『触れ合い』などと抜かす垣根に、御坂が全霊の雷を放ちながらつっこみを入れる。
しかしその渾身の一撃すら、垣根の髪の毛一本焦がすことなく、
彼の背から現れた一枚の翼によりあっさりと防がれてしまう。
「邪魔すんなよ第三位!!テメエもちったぁ怯えやがれ!!」
「ッ!!」
唸り声を上げ、垣根の翼が御坂に襲い掛かる。
同じレベル5、序列の差は僅かに一つ、にも関わらず、垣根と御坂の間には、
未元物質と超電磁砲の間には、埋めようのない圧倒的な差があった。
一度垣根が本気で牙を剥けば、いかな御坂といえど、為す術も無く紙屑の様に散らされるのみである。
「いい加減にしろこのメルヘン野郎がァァァァ!!!」
「ごはぁ!?」
しかしその翼が御坂に届く寸前、割って入った白い男が翼を裂き、
垣根の顔面を思い切り殴りつける。見兼ねた一方通行がようやく介入してきたのだ。
遅いよ!垣根が能力使い始めた時点で止めとけよ!と言いたい所だが、
開始からしばらく妙な寒気を感じて満足に動けなかったのだから仕方が無い。
「ふざけてンのかオマエ!?周りの皆さンドン引きしてるじゃねェかァァァ!!!」
「あぁ!?テメエにゃわからねぇのか!?あの怯えた目付き最高だろうが!!」
周囲を指差し、垣根を諭そうとする一方通行だが、垣根の方も譲る気はないらしく、
翼をはためかせ宙に浮かぶと、最低な反論をぶちまける。
「あンなに怯えさせちまったらレイプと変わらねェだろォが……
オマエには一回、童貞の美学ってヤツを叩き込む必要があるみてェだなァ」
「……ハッ、いいぜ、そろそろ白黒付けとこうじゃねぇか、
俺の好みとテメエの好み、どっちが正しいかをなぁ!!」
「おい超電磁砲、下がってろ」
「へ?」
「オマエにだけは怪我させたくねェンだよ、下がっててくれ」
「あう……」
誤解を招くような言い方をしているが全ては妹達との約束の為である。
「覚悟はいいなァ?垣根ェェェェ!!!!」
「来いよ一方通行ァァァァ!!!!」
学園都市にたった七人しかいないレベル5、その頂点である第一位と第二位が、ついに拳を交える時が来た。
天は裂け、地は割れ、暴風が大蛇のように荒れ狂う。
その圧倒的な力のぶつかり合いは、まるで神話の世界の出来事の様で、神々しくすらあったという。
―――――――――――――――
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―後日、とある喫茶店
垣根「いやぁ、まさかだな」
一方通行「あァ、まさかなァ……」
垣根「……まさか、」
一方通行「……大覇星祭中止になっちまうとはなァ」
御坂「あんだけ暴れたら当たり前でしょうがあああああ!!!!」
一方通行「まァ、競技場どころか周囲一帯吹っ飛んだからなァ」
結標「死傷者でなくて本当によかったわね、下手したら学園都市存続の危機だったわよ?」
垣根「いやすいません、悪気とかなかったんです、ちょっとテンション上がりすぎちゃったんです」
一方通行「ったく全部オマエが悪ィンだぞ、わかってンのか?」
御坂「いやあんたの暴れっぷりも相当だったから、どう考えても無駄に周囲の物壊してたでしょ……」
結標「でもハーフパンツで大暴れするあっくんもかっこよかったわ!」
一方通行「死ね」
御坂「もうどうしてくれんのよ、皆落ち込んでるし、何人かはトラウマ抱えるし……」
垣根「マジですまんかった、当分ゲームは断つから許してくれ」
一方通行「どンな条件だそりゃ」
垣根「あ?俺がゲーム断つって相当だぞコラ」
御坂「知らないわよそんな事……」
一方通行「とにかく垣根、オマエはしばらく外に出ンな」
垣根「あぁ?」
一方通行「しばらく室内に篭って童貞の何たるかを考え直して来やがれ」
垣根「童貞のなんたるか、か……わかった、俺はしばらく部屋で瞑想する。仕事もしねぇ」
御坂「ただのニート宣言じゃない、それ」
一方通行「違ェよ、考えるってのは高尚な行為なンだよ、人間ってのはか弱い存在だ、間違いを犯す存在だ、
だがなァ、思考する事を通してそれを乗り越える事が出来るンだよ」
結標「良い事言うじゃない、流石は私のあっくんね」
御坂「いやいや、一見良い事言ってるようで全く意味わかんないから」
垣根「わかんねぇのか、やっぱり残念だなオマエは」
御坂「えっ」
一方通行「中学生には難しかったかァ?」
御坂「え?え?」
結標「第三位って言うくらいだし、もう少し賢い子だと思ってたんだけど」
御坂「私がおかしいの!?」
垣根「それじゃ今日は引き上げるわ、次ぎ会う時の俺は一皮も二皮も剥けてビッグになってるぜ」
一方通行「おォ、期待してるぜ」
結標「あっくんは皮なんて剥けなくていいんだからね?お姉ちゃんはそっちの方が好みだから」
一方通行「マジで死ね」
御坂「?」
一方通行「ハァ……俺も帰るか、オマエら二人といてもしょうがねェし」
結標「そうね、それじゃ帰ろうか、あっくん」
御坂「あ、カフェオレの買い置きってまだあったっけ?」
一方通行「なンでオマエらナチュラルについて来る気なの?」
「くあァ……あァ……」
ある日の昼間、一方通行は大きな欠伸をしながら、のんびりと覚醒した。
彼が目覚めた場所は、簡素なベッド以外何も無い、仮眠室と言った様相の殺風景な部屋で、
当然そこは彼が普段生活しているマンションではない。
夏休みの終了に伴い、真面目に学生をしている御坂の監視が緩んだ為、
一度は自宅に戻る事が出来た一方通行だったが、
9月の半ばから、時期を問わず常に目を光らせる新しいストーカーが出来てしまったので、
結局は監視の目の届かない研究所の一室に寝泊りする生活に逆戻りしてしまったのだ。
「コーヒー……あァクソ」
本来仮眠室でしかないその部屋には冷蔵庫も無く、それ故寝起きに缶コーヒーを飲むことすら叶わない。
仕方なく、一方通行はコーヒーを飲むべく部屋から外に出ることにする。
ちなみに以前はPCやテレビ、冷蔵庫などが完備された部屋を使わせてもらえていたのだが、
過去に引き篭もり化してしまった事がある為、今の彼にはこの仮眠室しか使用許可が出ていないのだ。
「ン?」
「ッ!」
ドアを開き部屋から出たところで、ばったりとギョロ目の女性に出くわす。
彼の運命の人その一、布束砥信である。
起き抜けに出会える何てやっぱり運命だろ、と身勝手な事を考え顔を綻ばせる一方通行だったが、
それとは対照的に、布束は顔を引き攣らせ、後ずさりをして彼から距離を取っている。
これまで一方通行が彼女にやってきた事を考えれば当然の反応である。
むしろ出会った途端悲鳴を上げなかっただけでも十分優しすぎる対応だと言えよう。
「よォ、おは……」
「寿命中断(クリティカル)」
「……」
挨拶の言葉を口にしつつ、片手を軽く上げようとした一方通行だったが、
彼の一連の動作は、今やお決まりとなった布束の一言により寸断される事となる。
全面的に一方通行に非があるとは言え、好意を持っている相手に
マトモに口を利いてもらえないというのは非常に精神的なダメージが大きい。
そろそろ彼の寿命は本当に中断されてしまうかもしれない。
まぁでもこれは完全に一方通行が悪い。誰が何と言おうと悪い。
とにもかくにも、そんな風な扱いに彼がちょっとショックを受けている内に、布束はさっさと歩いて行ってしまう。
それを見届けた一方通行は、ハァ、と軽く溜息を吐くと、コーヒーを目指して移動を再開した。
「あら一方通行、ここにいたのね」
「ン?あァ……」
研究所内に設置された自販機で目当ての缶コーヒーを買い、ぼーっとしながらそれを飲んでいた一方通行に、
何やら少しばかり急いだ様子の芳川が声をかける。
その手には研究所のマスターキーが握られており、どうやらここで会えていなければ
一方通行の部屋まで押しかけるつもりだったようだ。
「丁度良かったわ、君にお客さんが来てるのよ」
「客だァ?」
はて、と一方通行は首を傾げる。
正面から彼を尋ねてくる知り合いと言えば垣根くらいしか思いつかないが、
その垣根は今現在引き篭もって瞑想しているはずだ。
とすると、御坂や結標がついに研究所にまで乗り込んできたのか、と一瞬寒気を覚えるが
彼女達はいつの間にか背後にいるタイプなのでそれも違うだろう、とすぐに思いなおす。
「心当たりが全くねェンだが」
「とにかく応接室まで来てもらえる?そこで待ってもらってるから」
「ン」
残っていたコーヒーを一息に飲み干し、その空缶を自販機に備え付けられているゴミ箱に放り込むと、
一方通行は芳川に先導され応接室へと向かった。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「さ、ここよ。入って」
「おォ」
芳川に促され、一方通行は応接室のドアをガチャリと開けると、
そこにはソファに身を沈め、組んだ足をテーブルの上に投げ出している一人の男の姿があった。
彼は一方通行の姿を確認すると、目を細め、片頬を吊り上げるようにしてニタリと笑いながら口を開いた。
「よう、久しぶりじゃねぇか一方通行」
男が纏っている白衣は研究者である事を示すものだろう。
しかしその大人しい服装とは対照的に、彼の容貌は獲物を狙う猛禽類のそれのように獰猛で、
更に左顔面には刺青が施されており、両手には奇妙な機械仕掛けのグローブが装着されていた。
どう見ても真っ当な研究者には見えない。
男は己の逆立った金髪を撫で上げるとソファから立ち上がり、
他者を小馬鹿にするような笑みを浮かべたまま両手を軽く広げ、一方通行を歓迎するかのような動作を取った。
彼の名は木原数多。彼こそ、かつて一方通行の能力開発を行い、その悪魔のような能力を発現させた張本人である。
が、
(おい芳川)
(何?どうしたの小声で?)
(誰?)
(え?)
(あのおっさン、誰だ?)
ここしばらく絶対能力者になる事しか(ようするに脱童貞の事しか)考えていなかった一方通行は
すっかりその存在を忘れていた。冗談抜きに、完全に。
芳川(君の知り合いじゃなかったの?)コソコソ
一方通行(俺の事知ってるみてェだし、多分俺の能力開発に関わってたヤツだと思うンだが……
……思い出せねェ、オマエ知らねェのか?)コソコソ
芳川(知らないわ。覚えてないんなら聞いてみたらいいんじゃない?)
一方通行(あァー、そォしてェのは山々なンだが……)
木原「どうしたんだぁ固まっちまって、感動の再会に声も出ねぇってか?」
一方通行(ほらァ、なンかテンション高く『感動の再会』とか言っちゃってるしよォ、
このタイミングで『スイマセン誰ですか?』なンて言えねェだろォが……)
芳川(確かに、ここで『誰?』何て言っちゃ哀れすぎるわね……)
木原「なぁにコソコソ喋ってやがる……まさかオマエ、この俺の事を忘れちまった何て言うんじゃねぇだろうな?」
芳川(チャンスよ一方通行、向こうから『もしかして忘れてない?』と言ってくれたわ)
一方通行(おォ、これに乗じて冗談っぽく忘れたって言えば……)
芳川(えぇ、向こうもきっと冗談に乗って自己紹介をしてくれるはず)
一方通行(よし……)
木原「あぁ?」
一方通行「ハッ、俺の身体弄くった研究者の数なンざ、両手の指じゃ足ンねェンだよ
一々オマエの思い出なンぞ留めておくと思ってンのかァ?」
木原「相変わらずムカつくガキだよなぁテメエは……やっぱあん時きちんと殺しとくべきだったか」ピキピキ
一方通行(あれェー……失敗?なンか拳パキパキやり始めたンですけどこのおっさン)
芳川(そりゃ失敗するわよ、君がやったのは冗談ではなく、世間一般で言うところただの挑発だもの……)
木原「おいそっちの女、俺と一方通行はこれから大事な話し合いがあるんだ
悪ぃが出てってもらえねぇか?」
芳川(だ、そうだから私は行くわ。がんばってね)ガチャ
一方通行(おい待て!二人きりにするンじゃねェ!気まずいだろォが!!……クソッ)
木原「さて一方通行、俺がここに来た理由はわかってるよなぁ?」
一方通行(正直サッパリわかンねェ、つーか誰だよオマエ……
でも『わかんね』ってハッキリ言うのは何かなァ……
なンとか上手い事言って情報引き出さねェと)
一方通行「あァ?知らねェなァ……
人の面ァ見ンのにビビッて目ェ反らしてたインテリちゃンが今更なンの用だァ?」
木原「……俺としてもテメエと会うのはお断りだったんだけどなぁ、上の命令だから仕方ねぇんだよ」ピキピキ
一方通行(まァた怒ってるよこのおっさン、カルシウム足りてねェンじゃねェか?)
木原「そろそろプランの立て直しをしねぇとやべえらしくてよぉ、手段は選ぶなって言われてんだ」
一方通行「プラン?ンだそりゃ」
木原「俺もよくわかんねぇんだけどな、要はテメエが大人しく絶対能力進化開始すりゃそれでいいんだよ」
一方通行「するわけねェだろ、馬鹿かオマエ」
木原「だよなぁ、そう言うと思ってたぜ、願ったりだ」
一方通行「あァ?」
木原「上からはこうも言われてんだよ、『いい加減邪魔だから、実験を開始しないんなら殺しても構わない』ってなぁ」
一方通行「でェ、オマエが俺を殺すってのかァ?ぎゃは!笑える冗談だなァおい!
何処の誰だか知らねェが、たかが一研究者が最強の俺をどォやって殺すってンだァ!?」
木原「……ん、『誰だかしらねぇ』?」
一方通行「あ、やべ」
木原「……」
一方通行「……」
木原「……一方通行オマエ、本気で俺の事忘れてんのか?」
一方通行「ば、そンなわけねェだろ!感動の再会だよな!」
木原「………俺の名前、言ってみ?」
一方通行「あァ?あー…………ごめン」
木原「……」
一方通行「……ごめン、な?」
木原「……」
一方通行「そンな落ち込むなって!ほら、これから思い出作りゃァいいだろ、な!」
木原「……もう殺すわ、オマエ」
一方通行「あ?」
木原「本当は二、三発殴って実験開始させるだけのつもりだったんだけどよぉ、
ムカつき過ぎだオマエ、もうダメだ、決めた、ぶっ殺す」
一方通行「ハイハイ、わかったからとりあえず自己紹介からしてくれねェ?」
木原「死んどけクソガキィィィ!!!!」バコーン!
一方通行「ごほぁ!!?」バチーン!
どれだけ口で殺すと騒いでも所詮はただの無能力者、そう高を括って余裕をかましていた一方通行だったが、
その彼の頬に木原の放った右拳が深々と突き刺さる。
ただの無能力者の拳が、一方通行の『反射』を越えて。
(反射が、効いてねェ!?)
「考え事してる暇なんざねぇぞオラァ!!」
「がっ……こふ」
二発、三発、次々と木原の拳が一方通行の身体を打ち抜く。
反射の張り忘れなどという間抜けなオチは無い。演算ミスも有り得ない。
一方通行の反射は全く持って正常に作用している。
それにも関わらず、木原の拳は、脚は、反射など意に介さず易々と一方通行の身体を蹂躙していく。
「ほらよぉ!!」
「かはっ……」
地に膝をついた一方通行の側頭部に木原の回し蹴りが炸裂する。
一方通行は己の頭の内側からメキメキと嫌な音が響いてくるのを聞きながら、無様に地面に転がった
「クソ、がァ……」
滴る血もそのままに、一方通行はなんとか顔を上げる。
木原はそんな学園都市最強の能力者の姿を心底愉快そうに眺めていた。
「何が起きてるのかわからねえって面だなぁ
考えて見ろよクソガキ、そのつまらねぇ能力は何処の誰が与えてやったもんだと思ってんだ?」
「……いやだから、何処の誰だよオマエ」
「いい加減思い出しやがれ!!!」
「ごばっ!!」
地面に転がったままの一方通行の頭を、木原はまるでサッカーボールのように蹴飛ばす。
どうも完全に忘れられている事がかなり頭に来ているようだ。
蹴り飛ばされた一方通行は壁に激突し、呻き声を上げながらその場にへたり込む。
(ク、ソ……)
息も絶え絶えになりながら、一方通行は必死に考える。
どうやって反射を越えている?タネは何だ?何をされている?
彼の頭の中は混乱の極みにあった。
反射を破られたのは何も初めてと言うわけではない。
過去に垣根に破られた事がある為、反射を絶対の防御だとは考えていなかった。
それでも無能力者の、たかが一研究者に破られるというのは完全に予想外の事態である。
加えてその研究者が何者かサッパリ思い出せず、そちらを思い出す作業にも労力を割いており、
ついでに先日視聴したガンダムのせいで、先程から「殴ったね!」
「二度もぶった!親父にもぶたれた事ないのに!」という言葉が頭の中でリフレインしている。
それらの要素全てが合わさった結果、一方通行の思考は半分停止状態になってしまい、
そのような状態で反射を破られた理由を探ろうとしても、それは無理と言うものだ。
「ハッ、そろそろタネ明かししてやろうか?
いいぜ、わかったところでどうせテメエにゃどうしようもねぇしな」
「……あァ?」
「テメエの反射は絶対の壁じゃねぇ、ただ向かってきたベクトルを反対に変えてるだけだ
なら話は簡単でよ、直撃の瞬間に拳を引き戻せばいいのよ、寸止めみたいな要領でなぁ」
「は……ァ?」
「わかんねぇか?つまりテメエは、戻っていくベクトルを反射してわざわざ自分に攻撃叩き込んでんだよ」
「ン……だとォ……?」
一方通行は絶句する。
確かに、木原の言った通りの事を実行できれば、理論上はただの無能力者でも反射を突破する事が出来るだろう。
ただし、それはコンマ1秒、コンマ1ミリのズレも許されない、恐るべき精密作業だ。
僅かでもミスをすれば反射の餌食となり、それは即己の肉体の破壊に繋がる。
普通の人間は到底実行しようなどと思うまいし、まずそんな事を思いつきすらしないだろう。
にも関わらず、木原はまるでごく普通に殴るかのようにいとも容易くそれをやってのけている。
余りにも常識外れだ、狂っている。
一方通行は今更ながら、その常軌を逸した攻撃に寒気を覚えた。
「まぁ安心しろや、これはオマエを知り尽くしてる俺だからこそ出来る芸当で、他の誰にも出来やしねぇからよ」
(俺を知り尽くしてる……あァ、それじゃそのうちあのストーカーどもは出来るようになっちまうのか?おっかねェ……)
木原の言葉を聞き流しながら、一方通行はぼんやりと全く無関係な事に思考を巡らす。
タネを知って余裕を持った、というわけではない。
重点的に頭を狙い撃ちされた上、こんな馬鹿げた話を聞かされた彼は
もはやマトモな思考が出来ない状態にまで追い込まれており、つまるところ、これは一種の現実逃避である。
「おらおらちったぁ抵抗してみろよ、これじゃつまんねぇだろ!?」
「ぐゥ…ッ」
タネ明かしが終わっても何の反応も無い一方通行に、痺れを切らした木原は更に追撃を加える。
横腹を蹴り飛ばされた一方通行は再び地面に転がり、ゴホゴホと血を吐きながら咳き込む。
「つかよぉ、童貞のままじゃ絶対能力者になりたくねぇ、とか馬鹿じゃねぇのかテメエ!!」
「ッ!?」
誰もが思っていた事をついに木原が代弁した。
「大体、十代の内に童貞捨てようなんてのが生意気なんだよクソガキィィ!!!」
「ご、おァ……」
私怨を交えながら、木原の攻撃は延々と続く。
それは十代という青春真っ盛りの時期を血生臭い研究や
後ろ暗い日常で潰してしまった哀れな男の魂の叫びでもあった。
「さぁて、そろそろフィニッシュだぜ一方通行……童貞のまま死にやがれ!!」
「ッ!!!」
今までの甚振る目的とは違う、明確な殺意を持った拳が一方通行に迫る。
今は辛うじて立っているが、あれを受ければ、もはや立ち上がることは不可能だろう。
しかし避ける事も防ぐ事も、残りの一方通行の体力ではもう、無理だった。
彼はもはや立っているだけで限界なのだ。
―死ぬ、俺は死ぬのか
―こンな所で、恋人も出来ないまま
―童貞で生まれて、童貞で死ぬのか
―イヤだ、イヤだ……ッ!
―考えろ、今この場で童貞を捨てる方法を、あの拳が当たる前に……
―あァ、なンだ……
―目の前の野郎にも、穴はあるンじゃねェか
「!?」
木原の拳が一方通行に炸裂する刹那、その腕を一方通行が掴み上げる。
予想外の事態に木原はその顔を歪め、咄嗟に腕を引こうとしたがビクともしない。
非力なはずの一方通行は木原の腕を掴んだまま微動だにせず、ニタリと薄笑いを浮かべた。
「あァァァ……!!!」
「な、あぁ!?」
バシュゥ!!と言う空気を割く音と共に、一方通行の背中から、定型を持たぬ漆黒の何かが噴き出す。
「な、何なんだ、テメエのその、真っ黒な翼はぁ!?」
凄まじい勢いで噴出されたソレは、呆気に取られている木原の前で、やがて翼の形へと収束して行く。
「……」
「ッッ!!!」
一方通行は無言のまま、今度は木原の顔面を右手で鷲掴みにし、軽々と彼を持ち上げる。
驚愕の表情で声にならない悲鳴を上げる木原を尻目に、一方通行は空いている左手で
カチャカチャと己のベルトを緩め始めた。いや、ちょっと待て。
(この野郎、一体、何の能力で……『自分だけの現実』に何を入力しやがった!?)
「ihbf犯wq」
(つか、俺を犯す気かこのガキィィィィ!?)
命の危機に瀕し、ただひたすら童貞を捨てる……というか穴に入れる事だけを考えた一方通行は
完全に暴走状態へと陥っていた。
そこにはもはや『運命』も『好み』も『性別』も関係なく、漆黒の衝動だけが渦巻いていた。
「おい一方通行!男同士だぞ、わかってんのか!?」
「sqhn穴efjy入vd」
(ダメだコイツ、もう言葉が通じねぇ!!……ヤられる!?)
悲壮な覚悟を決める木原だったが、よく見ると一方通行は何やら焦った表情をしており、
中々手を出してこない。どうやらファスナーが何かに引っ掛かって下ろすのに苦戦しているようだ。
童貞が初体験前に勃ちすぎてやらかすアレである。そして焦れば焦るほどファスナーは降りなくなる。
ドツボに嵌ってしまえば片手で下ろす事など不可能と言って良いだろう。
童貞諸君、初体験前は脱ぎやすいズボンをお勧めするぞ。
それか勃ちすぎ無いように何発か出してから臨め。
(土壇場で焦りやがって、所詮は童貞だなぁ!……だが、この状況どうやって切り抜ける?)
確かに時間稼ぎにはなる。しかし事態が好転したわけではなく、
結局決定的瞬間が先延ばしにされただけに過ぎないのだ。
このままでは遠からず、一方通行の一方通行が木原の穴と言う穴を貫くだろう。
とはいえ、木原一人の力ではもはやこの状況はどうしようもない。
圧倒的な力場により、彼の身体は完全に抑えられているのだ。
(そう、第三者の介入が必要だ……誰か、誰か来てくれ!誰か……)
「ここにいるのよね一方通行、ちょっとあなたに用事があるのだけど」
「「!?」」
木原の祈りに呼応するように部屋のドアが開き、ギョロ目の女性が顔を覗かせる。
ご存知、布束さんである。
「え?」
場の空気が凍り付く。
一方通行の焦点の合っていなかった目が俄かに理性の光を取り戻し、布束の姿を捉える。
しかしそんな彼女の目に映っているのは、一方通行が金髪のおっさんを片手で持ち上げながら
もう片方の手でズボンを脱ごうとしている、というどう見てもいい訳不可能な光景であった。
「……indeed」
「うおォォォい布束さァァァン!!!待って!違うンだって!!待ってェェェ!!!」
「なるほど」と一言言い残してドアを閉じた布束を、
一瞬で冷静に戻った一方通行が己の傷だらけの身体も省みず慌てて追いかけて行く。
荒れ果てた部屋に、木原ただ一人がポツンと取り残される事となった。
「た、助かったのか……」
目を見開き、肩で息をしながら、木原は己の生を噛み締める。
危なかった、本当に危なかった。いやマジで危なかった。
「アレイスターのクソが、まさかこうなる事がわかってて、俺をカマセにしようとしたんじゃねぇだろうな……」
流石に考えすぎだと思います。誰が想像するよあんな事態……
「何にせよ、あのガキの新しい能力は危険だ、調べなおす必要がある」
一人呟き、結局、最後まで一方通行に思い出して貰う事は出来なかった上に
犯されかけるというトラウマ級の出来事を手土産に、木原はこっそりと研究所を後にした。
「布束ァァァ!!!誤解だ、誤解なンだ!!!」
「同性同士というのは非生産的ね、but そこに愛があるというのなら私は止めないわ」
「話聞けェェェ!!!」
その後、布束の説得に二時間、更に何処かから話を聞きつけた妹達の説得に丸一日を有した一方通行は
全てが片付いた頃には心身ともにズタボロになり、三度引き篭もり始めたと言う。
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―――――――――
――――
―番外編2
フィアンマ「ヴェント、貴様どうやら学園都市に行くらしいな」
ヴェント「えぇそうよ、アレイスターも幻想殺しも禁書目録も、全部一日で潰してくるわ」
フィアンマ「フン、果たして貴様に出来るかな?」
ヴェント「あぁ?」
フィアンマ「科学の街、甘く見るなと言う事だ。ナメてかかれば足元を掬われるぞ?」
ヴェント「はぁ?馬鹿にしてんの?私に負ける要素なんてあるわけないでしょ」
フィアンマ「俺様は科学の力を思い知った。魔術では到達出来ん極みが、かの地には存在している」
ヴェント「へぇ、右方のフィアンマ様ともあろうお方が、随分弱気じゃない?」
フィアンマ「……凄かったぞ、科学の力」
ヴェント「?」
フィアンマ「具体的に言うとだな、この前通販で買った学園都市製のオナホーr」
ヴェント「あああああああああ!!!!」
フィアンマ「何だ?突然大声を出して」
ヴェント「テメエが変な事口にしようとするからだろうがあああ!!!」
フィアンマ「ん?……あぁ、言い換えるか、学園都市製の、女性器を模した大人の玩具がだな……」
ヴェント「あああああああ!!!」
フィアンマ「うるさいぞ」
ヴェント「誰のせいよ!?」
フィアンマ「……そもそもだな、何故貴様がそれらを知っている?」
ヴェント「え」
フィアンマ「さっき俺様の言葉を遮ったのは、つまり知っていたからなのだろう?オナホーr」
ヴェント「ああああああああ!!!」
フィアンマ「……」
ヴェント「……」ハァハァハァ
フィアンマ「……むっつりめ」
ヴェント「違うわよ!!」
フィアンマ「何が違う?何故違う!?現に貴様は大人の玩具の名称を知っているではないか!!」
ヴェント「うぐ」
フィアンマ「興味があるのだろう?白状しろヴェント、今なら俺様も寛大な心で許してやるぞ」
ヴェント「ねぇよ!てか何でテメエに許しを請わなきゃなんねぇんだ!!」
フィアンマ「では何故貴様は大人の玩具の事を知っているのだ?」
ヴェント「そ、それは……」
フィアンマ「ん?ん?ん?」
ヴェント「うっぜぇ……テメエのせいだよクソったれ!!」
フィアンマ「ほう?」
ヴェント「テメエがこの前会議室に妙な雑誌置きっぱなしにしてやがったからだ!!」
フィアンマ「あ、会議室に忘れてたのか」
ヴェント「つーか会議室に持ち込むなよあんな物」
フィアンマ「……で、会議室にあったあの如何わしい雑誌を、貴様は見たのだな?」
ヴェント「ぐ……」
フィアンマ「何故だ?やはり興味が……」
ヴェント「あるか!!表紙だけは普通のアクセとか宝石の雑誌っぽかったからつい見ちゃったのよ!」
フィアンマ「あー、そういえばそういうカモフラージュがされた雑誌だったな、あれは」
ヴェント「お陰で妙なモン見る羽目に……」
フィアンマ「で、ついつい穴が開くほどじっくりと眺めてしまったというわけか」
ヴェント「んなに見るか!!流し見しただけよ!!」
フィアンマ「ほう、流し見……という事は、色々なページをパラパラと捲ってみたわけだ」
ヴェント「あ……」
フィアンマ「……」
ヴェント「……」
フィアンマ「……むっつりめ」
ヴェント「うるさいうるさいうるさい!!!!」
フィアンマ「まぁ貴様の気持ちも良く分かる、何せローマ正教は性に関しては特に禁欲的だからな」
ヴェント「テメエ見てると一切そういう気がしねぇ……ってか違う!私はそういうのには興味ねぇ!!」
フィアンマ「そういうのに興味があろうが無かろうがどっちでもいい
ただ、間違いなくそういう方面に耐性はないだろう?」
ヴェント「そりゃ、まぁ……」
フィアンマ「だから科学の街をナメるなと言っているのだ」
ヴェント「は、はぁ?」
フィアンマ「もしも、オナホールでシゴいてる最中の男が目の前に現れたら貴様はどうする?
戦えるか?平常心を持って魔術を行使できるのか?」
ヴェント「そんなヤツいるかあああああ!!!!」
フィアンマ「勿論ローマにも英国にもロシアにもそんな変態はいない!
だが科学の街なら、学園都市なら或いは……」
ヴェント「テメエは科学を何だと思ってやがる!?」
フィアンマ「ほう、まさか貴様が科学を擁護するとは……俺様のお陰で科学嫌いが少しは直ったようだな」
ヴェント「ブチ殺すぞ」
フィアンマ「とにかくエロ方面に耐性の無い貴様を学園都市にほいほい行かせるわけにはいかんよ」
ヴェント「意味がわからねぇ……」
フィアンマ「これでも心配してやっているんだ、わかれよ」
ヴェント「はっきり言って全くいらねぇ心配だ、ボケ」
フィアンマ「ならばこちらもはっきりと用件を伝えようか」
ヴェント「あ?」
フィアンマ「ヤらせてくれるまで学園都市には行かせん」
ヴェント「」
フィアンマ「貴様にはエロ方面の耐性が付く、俺様は童貞を卒業出来る
双方にデメリットがない、win-winの関係というわけだな」
ヴェント「馬鹿かテメエ!?バッカかテメェ!!いや、馬鹿だったなテメエは……」
フィアンマ「さぁどうするヴェントよ!学園都市に向かいたければ俺様を倒すか俺様と寝るか、二つに一つだ!!」
ヴェント「……学園都市行くのやめるわ」
フィアンマ「えっ」
ヴェント「つーか帰る、私もう帰る」
フィアンマ「待て、どこに帰るつもりだ」
ヴェント「帰るったら帰る、もうイヤだ」
フィアンマ「しっかりしろヴェント、何かちょっと退行してないか?」
ヴェント「うるっせえクソ野郎がああああ!!!!」ブン
フィアンマ「おっふ!!」キーン!
番外編2 終了
「あぁ?何だまた引き篭もってんのかオマエ」
「俺か?俺は昨日部屋から出たんだよ」
「いや、まだ真理を掴めたわけじゃねぇが……篭って考えてるだけじゃ埒が明かねぇと思ってな」
「そうそう、うん、で、今仕事中」
「おう、サクっと終わらせるからよ、久しぶりに会おうぜ」
「あぁ?オマエの都合なんか知るかよ、さっさと出て来い……怖くねぇから」
「大丈夫だって、あ?うるせぇ、迎えに行って無理矢理部屋から引きずり出すぞコラ」
「とにかくそういう事だから、また仕事終わったら電話するわ。じゃあな」
「ふぅ……ったく、あの野郎は……」
「……」
「おぉ、悪い悪い待たせたな。えーっと……駒場利徳、だったか?」
携帯を閉じた垣根は薄笑いを浮かべながら目の前の大男―駒場利徳の方へと向き直る。
二人の周囲には既に無数の人間が倒れ伏しており、その全ては垣根が一人でやったことである。
にも関わらず、彼は全くの無傷で、返り血一つ浴びず、汗の一筋すら流さずにその場に立っていた。
「垣根、帝督……」
「そう怖ぇ顔すんなよ、心配しなくても全員まだ生きてるぜ?
……もっとも、これからどうなるかはテメエ次第だがな」
「貴様……」
「精々楽しませろよ、ボス猿」
苦虫を噛み潰したような顔をする駒場とは対照的に、垣根は残忍な表情を作りながら、クククと喉を鳴らす。
此度、垣根の所属している暗部組織―『スクール』が学園都市の上層部から受けた仕事は
『第七学区の武装無能力集団(スキルアウト)のリーダーである駒場利徳を排除しろ』というものだった。
スキルアウトの掃除は本来は表の治安維持組織であるアンチスキルやジャッジメントの仕事であり、
『リーダーの排除』という特殊な条件が付いているにしろ、本来は暗部組織に回ってくるような類のものではない。
とすれば何か表に回せない事情か、或いは早急に裏から片付けなければならない必要性あるのだろう。
が、垣根はそんな裏事情は敢えて考えず、上辺の仕事内容だけを見て、あっさりとこの仕事を請け負う事にした。
と言うのも、彼が「引き篭もって鈍った身体をちょっと動かしたいな」と考えていたところに
丁度この仕事が舞い込んできたからであり、彼は本当に軽い気晴らし程度のノリでこの仕事を請けているのだ。
それ故、学園都市の思惑も、スキルアウトが裏で何をやっているのかも端から無視し、
本来はわざわざ彼が出るまでもない難度の仕事であるにも関わらず、
こうして一人この場で暴れていたというわけである。
「まぁ所詮は無能力者の集まりだしな、大して期待はしてなかったが……
それでももうちょっと頑張ってくれなきゃよ、これじゃただの散歩と大して変わらねぇぞ」
「鈍った身体のウォームアップにもなりゃしねぇ」と垣根は周囲に転がっている無能力者達に、
次いで目の前で冷や汗を垂らしている大男に視線をやると、
やれやれ、と肩を竦め、大袈裟なジェスチャーを取りながら頭を振った。
「……油断したな、能力者」
「あ?」
その隙をつき、駒場はただの無能力者では有り得ない程の速度で間合いを詰める。
彼の身体は発条包帯(ハードテーピング)と呼ばれる軍用の特殊テーピングで補強されており、
反動による肉体への多大な負荷と引換えに、高位の能力者とも渡り合えるほどの身体能力を有しているのだ。
垣根が駒場の動きに気付き声を発した時、既に彼の拳は垣根の眼前にまで迫っていた。
「ぐうぅ!」
が、次の瞬間苦痛に顔を歪めているのは駒場の方だった。
ガキン、と金属でも殴りつけた様な音が響き、駒場は慌てて拳を引く。
彼の拳が垣根の顔面に届く刹那、垣根は己の能力を発現させ、
硬質化させた未元物質の翼を間に滑り込ませたのだ。
常識外れの硬度を持つ未元物質を生身の拳で思い切り殴れば、当然砕けるのは拳の方である。
駒場は呻き声を漏らしながら、血の滴る拳を庇うようにして後退った。
「肉体の補強でもしてんのか?大した馬鹿力だなおい
……だが、所詮は常識の範囲内のモンだ」
「く……」
バサリと六枚の翼を威圧するように広げながら、垣根は駒場が後退した分だけ距離を詰める。
「おいボス猿、いい事教えといてやる」
「俺の未元物質に常識は通用しねぇ」
轟!!と唸り声を上げ、一枚の翼が周囲を薙ぎ払う。
咄嗟に身を固める駒場だったが、もはやそんな事で防げるレベルではない。
運が良かったのか、わざと外したのか、垣根の振るった翼が駒場に直撃する事は無かった。
にも関わらず、その衝撃破と風圧だけで、彼の巨体はまるで紙屑のように宙を舞った。
「ごふ!!」
巨体を地面に叩きつけられた駒場は、夥しい量の血を吐き散らす。
もし彼が常日頃から身体を鍛えていなければ、体躯に恵まれていなければ、
今の、垣根にとってはほんのじゃれあいの様な一撃で命を落としていただろう。
これが超能力者、これが第二位、発条包帯などでは決して埋める事の出来ない圧倒的な差。
「チッ、弱者を甚振る趣味はねぇんだがな、もうサックリと……ん?」
手早く終わらせようと吹き飛んだ駒場に歩み寄っていく垣根だったが、
不意に足元にある物を発見し、動きを止める。
「携帯?……アイツのか?」
シンプルな銀色の携帯を拾い上げ、蹲り血を吐いている駒場と携帯を交互に見比べる。
恐らく、今吹き飛ばした時に彼の懐から転がり落ちたのだろう。
多少のスリ傷はあるものの壊れている様子は無い。流石は学園都市製と言ったところか。
「ふーん………よっと」
特に理由は無い。ただ何となく、垣根は手にした携帯をパカリと開いた。
(これは……!)
携帯のトップに表示された待ち受け画面を見た垣根は、目を見開き驚愕する。
駒場の携帯の待ち受け画面、それは一枚の写真であった。
写真の中で、駒場は穏やかな笑みを浮かべており、
その彼の腕には十歳くらいに見える愛らしい少女が弾ける様な笑顔で絡みついている。
血生臭い世界など全く感じさせない、幸せな光景がそこにはあった。
(そうか、コイツ………)
第二位の頭脳が、間違った方向に神速で回転を始める。
(このガキの笑顔、これは強制されたものなんかじゃなく、本気で駒場の事を慕っている顔だ)
(そして駒場のこの穏やかな、慈愛すら感じさせる笑み……)
(間違いねぇ、コイツはロリコンだな!)
(それもただのロリコンじゃねぇ、決して手を出さず、成長を温かく見守るタイプの、清く正しいロリコンだ!!)
ご存知の通り、垣根にはロリコンの気がある。
それは過去現役中一の白井を速攻で口説こうとした事や、
一方通行が「垣根は打ち止めに手を出す可能性がある」と危惧した事からも明らかである。
それ故、ロリコンの同志である(と勝手に判断した)駒場に対し、彼はこの時親近感を、
そして決して手を出さないであろうその姿勢には尊敬の念すら覚えていた。
と言っても、垣根の守備範囲は広く、ロリ嗜好も彼の数多く持つ性癖の一つでしかないのだが。
まぁどこぞの青い髪の人ほど広くは無いですけどね流石に。
(……ここでコイツを殺したら、この写真のお嬢ちゃんは二度とこんな風に笑えなくなるかもしれねぇな)
加えて彼はフェミニストでもある。年齢問わず、老いも若きも女性は丁寧に扱うべしと心得ている。童貞だけど。
え?御坂への態度が辛辣?大覇星祭の時一方通行に弄られている白井を放置した?……聞こえんな。
(それだけじゃねぇ、コイツは見るからに愚直で不器用だ、
恐らく少女への欲求を他の女にぶつけて解消するなんて事は出来やしねぇだろう)
(ロリには手を出さず、かと言って他の女を代わりにすることも出来ない……)
(つまり、コイツはロリコンで、童貞ってことだ)
(……同じ童貞を大した理由も無く殺すわけにはいかねぇよな)
フッと軽い笑みを浮かべた垣根の背中から、未元物質の翼が消失した。
さて命拾いした駒場だが、まさか勝手にロリコン童貞の烙印を押されているとは思うまい。
それもたった一枚の待ち受け画像から。
「何のつもりだ、垣根帝督……」
当然垣根の捻じ曲がった思考など理解出来るわけも無く、
駒場は口元の血を拭い、突如能力を解除した垣根を警戒しながら疑問をぶつける。
「これ以上戦う意思はねぇってことだ」
「な、に……?」
垣根の予想外の発現に、駒場は困惑する。
始終圧倒的な力を振るい、後ほんの一押しで全てを終わらせる事が出来ると言うこの段階で、
目の前の男はまさかの戦闘の放棄を口にしている。一体どのような心境の変化があったのか、
或いは何かを企んでいるのか……
「何を考えている?……何を企んでいる?」
「別に、何も企んでやしねぇよ……ただ、」
「ただ?」
「俺とオマエの求めているモノが同じ、同志だって気付いただけだ」
「求めて、いるもの……」
無論、垣根が指しているのは童貞、またはロリコンの事なのだが、駒場がそれに気付く事は無い。
突如『求めているモノが同じ』『同志』などと言われても、彼は全く理解出来なかった。
ここまでほとんど言葉も交わさず、一方的にボコられただけなのだから当然である。
(冗談を言っているようには見えん。だが、一体どういう……ん、あれは……!)
ここでようやく、駒場は己の携帯が垣根の手に握り締めている事に気付いた。
「携帯の中を見たのか……」
「ん?あぁ悪ぃな、見せてもらったぜ」
駒場は確信する。垣根は携帯を、携帯の中に隠していた情報を見たのだろう。
そうでなければこの唐突な心境の変化は説明でいない。
(そうか、この男……)
駒場の携帯に隠されていた情報、それは一部の能力者による『無能力者狩り』の詳細、
そしてそれを止めさせる為の能力者への反抗計画。
恐らくそれらの情報を目にした垣根は現状を憂えて反抗計画へ理解を持った為、戦闘を中断したのだろう。
『求めているモノが同じ』と語っていたところを見ると、見かけによらず、
目の前の男は以前から能力者と無能力者の間にある溝に頭を痛めていたのかもしれない。
と、駒場は垣根が『同志』と言った意味をそう判断する。
まさか垣根が待ち受け画像一枚しか見ていないとは思わないだろう。
「……もしもの話をしようか」
「あぁ?」
携帯から既に情報は得ているだろう。しかしそれでも、
駒場は敢えて同じ情報をもう一度口にしようとする。
まるで垣根の真意を確かめるかのように。
駒場「能力者としての優劣に人格の問題は考慮されない……」
垣根「……そうだな(第三位とかな)」
駒場「中には強大な力を振りかざすだけの醜い人間もいる」
垣根「よくわかる(第三位とかな)」
駒場「そういう奴らが組織されたスキルアウト以外の無能力者だけを、
競って襲うゲームが流行っているとしたら……
罪も無い無能力者達が理由も無く襲われているとしたら……」
垣根「何?」
駒場「……お前は、どうする?」
垣根「え……」
垣根(いや、どうするっつわれても……突然何だ?つーかこの世界は弱肉強食が基本だろ)
垣根(……待てよ、スキルアウト以外の無能力者……つまりは落ちこぼれ、学園都市の底辺どもだ)
垣根(学園都市において無能力者ってのは致命的だ、レベル制限のあるエリート校には入れねぇし、
将来性も何もあったもんじゃねぇ)
垣根(そしてそんな底辺どもは当然女にもモテねぇ、つまりほとんどが童貞だ)
垣根(とすると、だ。『無能力者狩り』、それは言い換えれば童貞が迫害されてるって事になる!
何の罪も無い童貞達が、童貞という理由だけで!)
垣根(許せねぇ……そんな事が許されるわけがねぇ……ッ!!)ギリッ
駒場(いい顔をしている……この男になら、無能力者の未来を託してもいいかも知れんな)フッ
垣根「おい、テメエはその狩りをやってる能力者どもを特定してんのか?」
駒場「……ある程度は、その携帯に入っている」
垣根「そうかよ、じゃぁ後は俺に任せてオマエはもう帰ってもいいぞ」
駒場「……俺を殺さなくていいのか?お前は学園都市の命令で俺を消しに来たんだろう?」
垣根「オマエを殺したらこれに写ってるお嬢ちゃんが悲しむだろ」
駒場「……!」
垣根「それに、俺を誰だと思ってやがる?学園都市の第二位様だぞ
上層部からの依頼の一つや二つ途中放棄したところで俺の立場は揺るがねぇよ」
駒場「……」
垣根「あ、でもこのまま放っとくと他のところに仕事が回される可能性があるな……
仕方ねぇ、しばらくオマエには死んだ振りでもしてもらうか」
駒場「死んだ振り……しかし」
垣根「隠れ場所なら心配すんな、俺の隠れ家の一つをしばらく貸してやるからそこで死んでろ
スキルアウトのメンバーとも連絡は取れねぇし外も歩けねぇが、構わねぇな?」
駒場「……すまん」
垣根「ハッ、気にすんな。……オマエが生き返る頃には全部終わらせといてやる」
「一方通行か?悪ぃな、ちょっと残業が入っちまった」
「……あぁ、サービス残業だ」
「終わったらまた連絡する。だからオマエはそれまでに部屋から出とけ」
「……さて、行くか」
垣根は走り始める。童貞の仲間を、童貞の尊厳を守る為に。
無能力者狩りを行っていた皆さんにはご愁傷様と言わざるを得ない。自業自得ではあるが。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―夜、街中
垣根「あー、残業のせいで結構遅くなっちまった。悪ぃな一方通行」
一方通行「悪ィと思ってンならこンな時間に呼び出すンじゃねェ」
垣根「そう言うなよ引き篭もり、夜の方が人少なくて出てきやすかっただろ?」
一方通行「うっせェ!……まァ、偶には夜の散歩ってのも悪くはねェか」
垣根「そうそう、真昼間の雑踏よりも運命的な出会いがあるかもしれねぇぞ」
一方通行「だァといいンですけどねェ」
<交わした約束忘れないよ 眼を閉じ確かめる♪
垣根「ん、悪ぃ電話だ」
一方通行「深夜アニメにまで手ェ出しやがったかオマエ」
垣根「わかるオマエもどうなんだ?……もしもし、俺だ」
垣根「心理定規か、どうした……って聞くまでもねぇな、駒場の事だろ?」
垣根「あぁ、考えがあっての事だ、気にすんな……ってのも無理か」
垣根「悪ぃとは思ってる、一人で勝手に判断したからな」
垣根「理由は言えねぇし説明する気もねぇ、だがちゃんと意味はある、信じろ」
垣根「………」
垣根「……おい、俺がいつオマエに意見を求めた?俺の判断が間違ってた事があったか?」
垣根「『スクール』がどういう組織か、忘れたわけじゃねぇだろうな?」
垣根「俺を信じろ、俺に任せてればそれでいい」
垣根「あぁ、そうだ。……チッ、独断で動いた詫びは今度入れてやる」
垣根「こっちも今忙しいんだ、もう切るぞ。じゃあな」プチッ
垣根「ったく……悪ぃ、待たせたな」
一方通行「オマエなンかキャラ違わねェ?」
垣根「ん?あぁ、組織の連中の前ではキャラ作ってんだよ、童貞とも伝えてねぇしな」
一方通行「なンでだよ、組織の奴らにも手伝わせりゃ効率いいンじゃねェか?」
垣根「バッカオマエ、俺は組織のリーダーだぞ?リーダーが童貞なんてバレたらカリスマ性ガタ落ちじゃねぇか
最悪それだけで組織解体するハメになっちまうだろ」
一方通行「ふゥン、そンなモンなのかねェ……っと、おいあのポストの所、なンかいねェか?」
垣根「おぉっと早速出会いか!?急ぐぞ一方通行!」ダッ
一方通行「チッ、しょうがねェな」ダッ
―ポストの前
垣根「……」
一方通行「……」
垣根「……おいこれ」
一方通行「あァ……」
美鈴「むにゃむにゃ……zzz」クークー
垣根「第三位の母親だったよな……?」
一方通行「ポストに抱きついて寝てやがる……」
垣根「自分の母親がこんなんなってたら泣くぞ俺」
一方通行「写メ撮って超電磁砲に見せてやるか」
垣根「やめてやれよ……」
美鈴「むにゃ……んー……?」パチ
垣根「お、目ぇ覚ましt」
美鈴「はいはぁーい、御坂美鈴しゃんですよー」ガバッ
垣根「うおぉ!?」
一方通行「おォおォ、羨ましィですねェ垣根くゥン、こンな所で押し倒されちゃってェ」パシャパシャ
垣根「おいこら写メ撮ってんじゃねぇ!!つーか酒くさ!この人すっげぇ酒くせぇぞ!!」
美鈴「ぬふふー、よっしゃぁ!年下の坊やゲットー……ゲプッ」
垣根「酒くせぇつってんだろ!!離せええええ!!!」
一方通行「酔っ払いの介抱するってのも運命なンじゃねェか?」ケケケ
垣根「テメエ楽しんでやがるな!?くっそ、離せ!離しやがれ!!」
美鈴「あ゛ー、あんまり揺らさないで、吐きそう……」
垣根「勘弁してくださいマジで」
一方通行「つーか何でこンな所にいるンだァ?」
美鈴「んー……?あ、よく見たら美琴ちゃんのボーイフレンドの二人じゃない、奇遇ねー」ケラケラ
垣根「今更気付いたのかよ……つか、いいからそろそろ離れて……」
一方通行「酔っ払いって無駄に良く笑うよなァ……」
美鈴「二人とも美琴ちゃんはどうしたのぉ?
あの子寂しがり屋なのに意地っ張りだから構って上げなきゃダメよぉ」クスクス
垣根「あ、はい……」
一方通行「ン、あァ……」
美鈴「んー?」
垣根「で、アンタ何で学園都市にいるんだ?」
美鈴「あーそうそう、二人とも断崖大学のデータベースセンターって何処だかわかる?」
一方通行「はァ?」
美鈴「大学のレポート書くための資料が学園都市にしかねーっつー話だから、
わざわざここにやって来るしかなかったのです」
垣根「大学のレポートって……大学生だったのかよ」
一方通行「マジで何歳なンだ……?」
美鈴「レディに年齢聞くのは御法度よ、そっちの白いのー」
一方通行「白い言うな」
垣根「つーか場所わかんねぇなら大人しくタクシーでも捕まえろよ」
美鈴「あーそっか、タクシーなんてものもあったわねー、あんた天才じゃない?」ケラケラケラ
垣根「酔っ払いうぜぇ……てかホント離れて貰えません?」
美鈴「あ、そうだー!二人とも電話番号とアドレス交換しよ?」
垣根「まぁた唐突だなオイ」
美鈴「交換してくれるまで離さないんだからねー」ククク
垣根「ハイハイどうぞ……ったく、酔っ払ってなけりゃなぁ……」
美鈴「あんがとー! ほら、そっちの白いのも携帯出して!」
一方通行「あァちょっと待って下さい、今サブアド取得してるンでェ」カチカチ
美鈴「……ちょっと傷ついたわぁ」
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―――――――――
――――
「君達の番号は『友達』のカテゴリーに登録しとくからねー
美琴ちゃんをよろしくー、バイバーイ!」
「よォやく行ったか……」
「疲れた……服が酒くせぇ……」
酔っ払いグダをまく美鈴を何とかタクシーに押し込んだ一方通行と垣根は、
疲労によりぐったりと肩を落とす。
御坂の血筋とは本当に厄介なモノだ、と改めて考える二人であった。
「で、オマエ口説かなくてよかったのか?前『人妻ってのもアリ』とか言ってただろ」
「あぁ?流石にあの酔っ払いっぷりはNGだろ……
つかやっぱダメだ、第三位の印象が強すぎてあんまり反応しねぇ」
「少しでも反応するオマエがすげェよ」
いつもの通り中身の無い会話をしつつ、二人はダラダラと夜の街を歩き続ける。
既に学生が外を出歩いて良い時間帯ではなく、警備員に見つかれば厄介な事になりかねないが、
今更そんな事を気にする二人ではないし、そもそも警備員などに止められる存在でもない。
「っと、ちょっとそこのコンビニでコーヒー買ってくるわ。 オマエどォする?」
「俺は夜風浴びてるからさっさと行って来い」
前方にコンビニを発見した一方通行がコーヒーを買うために小走りで駆け出す。
特にコンビニに用事が無かった垣根は誘いを辞退すると、欠伸を噛み殺しながら一方通行の背中を見送った。
(朝から働いてたからな、眠ぃ……あ、アイツに俺の分のコーヒーも頼めばよかった)
(クソ、今から俺も行くか?……いや、めんどくせぇな……)
<交わした約束忘れないよ 眼を閉じ確かめる♪
(ん、電話……美鈴さんから?)
少し前に別れたばかりの相手からの着信に、垣根は首を傾げる。
何か忘れ物でもしたのか、それともタクシー代でも足りなかったのか……
そそっかしそうだから有り得るな、と苦笑しながら、彼は携帯を耳に当てた。
「もしもし、何ですかぁ?」
「は、何?……『助けて』?おい、何があった!?」
携帯から聞こえてくる緊張した声に、垣根は眼を見開き声を荒げる。
神経を集中し、美鈴の声とその背後から聞こえてくる物音を聞き取ると、
どうやら酔っ払いの戯言などではなく、美鈴は正真正銘、何者かの襲撃を受けているようだ。
「落ち着いてくれ、警備員には?……つながらない?」
「襲ってくる奴らの特徴はわかるか?」
「……『学生くらいの歳で銃を持ってる』、ね……多分スキルアウトだな、そいつは」
「あぁ、武装した無能力者の集団だ。不良の亜種だとでも思ってくれればいい」
「だが俺に電話したのは運が良かったな」
「すぐに助けに行く。もうしばらく隠れててくれ」
通話を終え、垣根は懐に携帯をしまいながら腑に落ちない点について考える。
一体何故、スキルアウトが美鈴が狙っているのか。
学園都市の外の人間である美鈴を襲って何のメリットがあるのだろうか。
(……そうか!スキルアウトは無能力者の集団、つまりは童貞の集団だ!!)
(つまりヤツら、美鈴さんを襲ってあんな事やこんな事を……)
今朝の事もあり、今や垣根の中ではすっかり無能力者=童貞という歪んだ等式が出来上がっていた。
「そんな事させるかよ!!」
「おいどォした垣根、大声出して」
今にも飛び立とうとしていた垣根の背後に、丁度戻ってきた一方通行が声をかける。
「一方通行、大変だ!」
「あァ?」
「美鈴さんの艶かしい肢体が童貞の集団に狙われてる!!」
「なンかきめェなオマエの表現……つか、マジか」
「大マジだ!行くぞ一方通行、断崖大学だ!!」
「おォ!……レイプなンざ、童貞の風上にも置けねェ!!」
二人の馬鹿が大空に舞い上がり、音速を超えて飛んでいく。
この後何が起こるかは敢えて書かないが、皆さんにはどうか、駒場が死んだと思い込み、
後に残ったスキルアウト達の指導をしていた浜面仕上氏に花の一輪でも供えて上げて欲しい。
うんまぁ、死んではないけど、多分。
―とある喫茶店
イラッシャイマセー
垣根「おーい一方通行、こっちだこっち」
一方通行「おォ、やっぱりそこか」
垣根「遅かったな、何かあったのか?」
一方通行「悪ィ、ストーカー撒いてたわ。 あ、すいませンホットコーヒー一つ」
カシコマリマシター
垣根「しかし、すっかりこの店の常連だな俺ら」
一方通行「あァ、座席までいつも同じ場所だしな」
垣根「指定席ってヤツだな。店員さんも覚えてくれてるんだろうよ」
一方通行「……指定席っつーか、隔離席な気もするけどな」
垣根「一番端の角席だもんな……どんだけ空いててもここに案内されるし、やっぱ隔離されてんのかこれ」
一方通行「まァ超電磁砲とか結標が騒ぐからなァ……」
垣根「今日もこの後来るんじゃねぇだろうな、おい」
一方通行「心配すンな、超電磁砲は今から学校だし結標は埋めた」
垣根「そうか、それならしばらくは大丈夫だな」
オマタセシマシター
一方通行「あ、ども。 で、今日はどォする?」ズズ
垣根「おう、今日はいい話があるんだよ」
一方通行「ほォ?聞かせてみろ」
垣根「一方通行、『アイテム』って知ってるか?」
一方通行「あいてむゥ?」
垣根「そう、『アイテム』だ」
一方通行「……大人の玩具的な?」ゴクリ
垣根「そういうアイテムじゃねぇよ!!」
一方通行「ンだよ違ェのか……じゃァ何なンだァ?」
垣根「暗部組織の名前だ、俺の所属してる『スクール』と似たような感じの」
一方通行「ふゥン」
垣根「今度そのアイテムとやりあう事になってな、オマエも来ねぇか?」
一方通行「えェーめンどくせェ、オマエ一人で十分だろォが」
垣根「クク、そんな事言っていいのか?」
一方通行「あァ?」
垣根「アイテムの構成員は四人なんだが……ここだけの話な、その四人全員女なんだよ」
一方通行「何……?」
垣根「しかもそいつら全員がタイプの違う上玉と来てる。……どうだ、興味出てきただろ?」
一方通行「……写真とかねェのか?」
垣根「フン、ちゃんと用意してある。 ほらこれだ、名前と簡単なデータもついてるぞ」パサ
一方通行「おォ、サンキュ」ペラ
垣根「……どうよ?」
一方通行「……なるほど、悪くねェ」ニタァ
垣根「だろだろ? で、オマエどの娘が気に入った?」
一方通行「ンー、直接会ってみねェと何とも言えねェが……見た目的にはこの滝壺ってのかなァ」
垣根「あーやっぱりか、ショートカットで大人しそうだもんな
何となくちょっと電波入ってそうな気がするけど」
一方通行「ところで一人やけに歳喰ったのが入ってるンだが……美人は美人だけどよ」
垣根「あぁ、そいつがアイテムのリーダーだ……ちなみに歳は俺らとそんなに変わらねぇぞ」
一方通行「マジかよ」
垣根「マジマジ、そう思って見るとアリだと思わねぇか?
若い内に老けて見えると歳喰っても外見変わらなくて逆に若く見えるようになるって言うしな」
一方通行「名前は麦野沈利……ン?麦野っつーと」
垣根「レベル5の第四位だな」
一方通行「なるほどなァ、そォいう立場とかも含めると悪くねェ気がしてきたわ
……で、オマエはどいつが気に入ってンだ?」
垣根「全部」
一方通行「おい」
垣根「全部だ!」
一方通行「どォしようもねェなオマエは」
垣根「器が大きいと言ってもらおうか」
一方通行「節操がねェだけだろ」
垣根「オマエも大して変わらねぇだろ……で、どうする、行くか?」
一方通行「是非連れて行ってください」
垣根「よし、そう来なくちゃな」
一方通行「だが、なンで俺を誘ったンだ?全部気に入ってるンならオマエ一人で行けばハーレムだったンじゃねェか?」
垣根「ハッ、そんなモン……仲間だろうが、俺とオマエは」
一方通行「垣根ェ……」
垣根(まぁコミュ障気味の一方通行をダシにして俺のかっこよさをアピールするっていう目的もあるんだがな)
一方通行「ところでスクールの他の構成員はどォすンだ?俺が飛び入り参加したら不審に思うだろォし
オマエ、そいつらの前じゃキャラ作ってるンだろ?堂々と女口説くのはマズインじゃねェか?」
垣根「大丈夫大丈夫、足手纏いだから俺一人で行くって事にしてあっから、心置きなく女の子と遊べるぞ」
一方通行「本気だなオマエ」
垣根「俺はいつでも全力投球だぜ?で、日時と場所なんだが……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―そんでもって
「到着っと」
「ふゥン、この研究所か」
夜、垣根と一方通行の二人は第十八学区にある『素粒子工学研究所』と呼ばれる施設の前まで来ていた。
『スクール』のリーダーと、その仲間として、『アイテム』と戦う為に。
二人はやや強張った面持ちで研究所の外観を見回しているが、
これから始まるであろう戦闘に対して緊張しているわけではない。
彼らが抱いているそれは、合コン前の学生のような極めて軽いノリの緊張感である。
「アイテムの連中は先に来てンのか?」
「おう、アイツらが防衛してる『ある物』を奪うのが俺らの目的だからな、多分もう中でスタンバイしてるぜ」
「『ある物』ってなンだ?」
「『ピンセット』って呼ばれてるブツだ」
「100均で買えよ」
「ただのピンセットじゃねぇよ!
いいか、正式名称は『超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター』つってだな……」
難しい顔をしながら『ピンセット』についての詳細を語り始める垣根だったが、
一方通行は全く興味が無いので神妙な顔をしながらそれを聞き流す。
辛うじて耳に残っていた情報を合わせると、どうやら『ピンセット』とやらは
『素粒子』を掴む事が出来るというとんでもない代物らしい。
が、やっぱり一方通行は興味が無いので折角教えられた情報をあっさりと忘れる事にする。
「『ピンセット』はもういいからよ、そろそろ行こうぜ」
「そうだな。……おい一方通行、気をつけろよ
向こうは殺す気だろうから、いきなり攻撃が来る可能性もあるぞ」
「ハッ、誰の心配してやがンだボケが」
「いやオマエじゃなくて、そのまま反射して相手に怪我させんなよって事な」
「ン……おォ、そういう事か。まァ気をつけるわ」
本気で殺しにかかってくるであろう相手の身体を気遣う余裕、
これこそが第一位と第二位、学園都市最強のツートップの自信の表れである。
軽いノリの会話をしつつ、二人はほとんど無警戒に研究所へと脚を踏み入れた。
堂々と、玄関から。
―素粒子工学研究所内部
「来た来た!来たわけよ麦野!」
「大声出すなフレンダ!……予想通り、第二位の垣根帝督に間違いなさそうね」
「もう一人いるよむぎの、真っ白なウサギさんみたいな人が」
「資料には超載っていませんが……スクールの超下っ端でしょうか?」
研究所の一室、一方通行達が研究所内部へと侵入するその様子を監視カメラ越しに眺める四人の女性の姿があった。
レベル5、第四位の麦野沈利を筆頭とする暗部組織、『アイテム』の構成員達である。
「それにしても、玄関から入ってくるなんて舐められたもんね」
カメラの向こうで侵入者にあるまじき堂々とした振る舞いをする二人に対し、
麦野は己の長い髪を掻きあげながら舌打ちをする。プライドの高い彼女は彼らの舐めきった態度が我慢出来なかった。
こちらがスクールが襲撃してくると言う情報を持っていたように、
あちらもアイテムが防衛をしていると言う情報を持っているはずだ。
にも関わらず全く警戒していない彼らの態度、格下など意に介さないという傲慢な自信がありありと見て取れた。
「お、抑えてください麦野!あのスカした面を超ぎったんぎったんにしてやればいいじゃないですか!」
ビキビキと青筋を立てる麦野を、隣にいたショートカットの少女―絹旗最愛が慌てて宥めようとする。
麦野は気性が荒く、一度キレると手がつけられない。仲間であっても安全とは言い難いのだ。
こんな所でブチギレられたら堪った物ではない。敵と向き合うまでは我慢して貰わねば。
「そうそう麦野、落ち着いて!そうだ、結局服を脱げば涼しくなってクールダウン出来rぐえぇ!!」
余計な事を口走りながら麦野の服に手をかけた金髪の少女―フレンダだったが、
麦野に思い切り殴り飛ばされ、ゴロゴロと部屋の中を転げまわる。
先程侵入者の振る舞いに腹を立てていた麦野だが、こちらの緊張感の無さも大概だろう。
「むぎの、侵入者が二手に別れたみたい」
一人真面目に監視カメラの映像を眺めていたジャージを着た少女―滝壺理后が、
侵入者達の変化をすかさず全員に伝える。
「二手に別れたってよりは、結局白いほうが勝手に独走しはじめた感じね」
先程殴られた頬を擦りながら、フレンダがカメラの先の状況を分析する。
音声は伝わってこない為はっきりとした事はわからないが、確かに映像を見る限り、
白いほうが先走って垣根がそれに呆れて肩を竦めている風に見える。
「ふぅん、それじゃこちらも二手に別れましょうか
滝壺と私で第二位の相手をするから、フレンダと絹旗はあの白いのをさっさと始末してきて」
「了解ってわけよ!」
「超了解です!」
「わかった」
簡単な計画を立て、アイテムの四人は出撃する。
まさかその白いのが垣根以上の厄ネタだという事も知らずに。
―――――――――――――――
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―垣根サイド
「ったくあのバカ先走りやがって……男ってのはもっとドンと構えとくモンだろうが」
「………なぁ、オマエらもそう思うだろ?」
一人独走していった一方通行に頭を抱えつつ、垣根は暗がりに向かって声をかける。
しかしそんな彼に返ってきたのは目も眩むばかりの、殺意に満ちた光の束であった。
「っとぉ、いきなりかよ!」
咄嗟に未元物質の翼を用いて飛んできた光線を防ぎ、抗議の声を上げる垣根だったが、
その声はむしろ逆効果だったようで、畳み掛けるように二発、三発と続け様に光線が飛来した。
やれやれ、と溜息を吐きながらその全てを防ぎきり、お返しだ、と言わんばかりに、垣根は無造作に翼を振るう。
その攻防により周囲の壁や天井が崩れ落ち、月明かりが暗がりを照らし出した。
「不意打ちとは随分汚ぇ真似してくれるじゃねぇか、そんなに俺が怖かったか?」
「チッ、テメエみてぇな野郎の為にあんまり時間使いたくなかったんだけどねぇ」
ようやく対面した二人の視線が絡み合い、互いに挑発しあう。
「第四位、麦野沈利だな?……と、そっちの方に隠れてるのは『能力追跡』の滝壺理后か
なるほど、テメエら二人が俺のダンスパートナーってわけだ」
「冗談、血溜まりの中で踊るのはテメエ一人だホスト野郎
精々無様にケツ振ってこの私を楽しませろよ?」
「いいなその態度、そういう気の強い女は好きだぜ?叩き潰したくなる」
「言ってろクソが。次はちょっと強めに仕掛けるけど、簡単にイかないように気をつけてね?
テメエは見るからに早漏っぽいから心配だわ」
「安心しろ、持続力には自信がある」
「……あっそ」
垣根の返しに呆れたような顔をしながら、麦野は己の能力『原子崩し』の照準を合わせ始める。
他方、垣根は薄笑いを浮かべながら未元物質の翼をはためかせ、麦野の動きを待つ。
今ここに、学園都市にたった七人しかいないレベル5同士の戦闘が開始されようとしていた。
(どうしよう、私一言も喋ってない……)
そんな二人を陰から見守りながら、自分の影の薄さを嘆く滝壺さんであった。
―一方通行サイド
「やべェ、テンション上がりすぎて垣根とはぐれた……」
「……まァ別にいいか、垣根よりも運命の相手を……ン、なンだありゃ?」
垣根とはぐれた事をさして気にも留めず、アイテムの構成員との運命的な出会いを期待しながら
研究所内を適当にうろついていた一方通行だったが、不意に妙な物が視界に入り、その足を止めた。
「……ぬいぐるみ?」
薄暗い夜の研究所に似つかわしくないその白くてモコモコした物を前に、彼は首を傾げる。
「なンでこンなモンが……おォ?」
彼の見ている前でぬいぐるみは一瞬激しい光を放ち、次いで激しい衝撃と爆音が辺りを覆う。
そのぬいぐるみ、少し考えればわかる事だったのだが、アイテムの仕掛けた罠だったのである。
中に爆弾が仕込まれているとも知らずにほいほい近付いた一方通行は、至近距離でモロに爆風を受ける事となった。
「フフン、一丁上がりってわけよ」
「超あっけないですね、私来た意味あったんでしょうか……」
爆発の直撃を受け、更に瓦礫に埋もれた白い男を少しばかり離れた位置から眺める二人の少女がいる。
麦野の指示で一方通行の討伐に来たフレンダと絹旗である。
先の爆弾はフレンダが仕掛けたモノであり、その一発であっさりとケリがついたとあって、
絹旗は少々不満そうに頬を膨らませた。
「結局下っ端なんてそんなもんでしょ、それより麦野達の加勢に……」
「いえフレンダ、超ちょっと待ってください!」
さっさと麦野と滝壺の下へ助太刀に行こうとするフレンダを絹旗が慌てて引きとめる。
「結局どうしたのよ?麦野は第二位を相手にしてるんだから早く行ってあげないと」
「それが、こっちもまだ超終わってないようです。見てください、瓦礫が超動いてますよ」
「えぇ!?」
二人の見ている前で瓦礫が跳ね飛ばされ、中から真っ白な男が現れる。
至近距離で爆発を受け、大量の瓦礫に埋もれたにも関わらず全くの無傷で、服すら破れずに。
その光景にフレンダと絹旗は愕然とする。
「け、結局どういう事!?服も破れてないなんて……」
「わかりません。ですが予想以上に超手強い相手のようですね……
ッ!?超来ますよ!!」
二人の姿を見つけたのだろう、一方通行はニタリと笑いながら大股歩きで、極めて無警戒に彼女達に迫る。
その姿に異様な気配を覚えた二人は気圧され、ジリジリと後退する事を余儀なくされた。
勿論ただ後退するだけではなく、絹旗は己の能力『窒素装甲』を展開し、
辺りにある物を手当たり次第投げつけているのだが、一方通行の前には全てが無駄である。
投げつけられた物は全てあらぬ方向に弾かれ、彼は速度を緩めるどころか加速し、
一気に二人の眼前まで迫った。
「超はや……!!」
「やられる……ッ!」
一瞬で間合いを詰められた二人は、来るべき攻撃に備え身構える。
が、彼女達の予想に反し、目の前まで迫ってきた白い男はキョロキョロと周囲を見回し
首を傾げるばかりで、一向に何もしてこない。
その様子に、フレンダと絹旗は顔を見合わせ、同じように首を傾げた。
絹旗(超何なんでしょうこの白いの……)
フレンダ(結局何か探してるみたいだけど……)
一方通行「なァオマエら」
フレンダ「な、なによ?」
一方通行「こっち来てるのオマエら二人だけなのか?」
絹旗「……だったら超どうしたって言うんです?
あなたのような超白くて細い野郎の相手なんて私達二人で超十分なんですよ」
一方通行「そっかァ……オマエら二人だけかァ……」
フレンダ(何か目に見えて落ち込んでるわけよ)
絹旗(これは超チャンスでは?今の内に攻撃を……)
一方通行「あァちくしょォ!!」ガターン
フレンダ「!!」ビクッ
一方通行「俺は滝壺ってのが好みだったってのに!!」バリーン
絹旗「超何が!?」ビクッ
一方通行「何が悲しくてこンなガキと馬鹿っぽい金髪を相手にしなきゃならねェンだよ!!」ダン
フレンダ「馬鹿っぽい!?」
絹旗「ガキ!?」
一方通行「俺はロリコンじゃねェからガキは除外だしよォ……
そっちの金髪は写真で見るより何か馬鹿っぽいし……」ハァ
フレンダ「また馬鹿っぽいって言われた!?」
絹旗「だ、誰が超ガキですか!?」
一方通行「オマエ以外に誰がいるってンだ!どォ見ても小学校高学年くらいだろォが!!」
絹旗「失礼な!私はこれでも超中学生……」
フレンダ「そんな事より、結局私が馬鹿っぽいってどういうことよ!?」
一方通行「アメリカンジョークだとブロンドの女ってのは馬鹿の代名詞なンだぞ?
つーかオマエ、パツキンのクセになンだその残念な体型は……」
フレンダ「ぬあああ!結局人が気にしている事を!!」
一方通行「いやホント、絶壁にも程があンだろ……まだそっちのガキの方が膨らンでンぞ……
ご愁傷様です、としか言いようがねェ……」
絹旗(本当に心から超同情した顔をしていますね……)
フレンダ「胸なんか!胸なんか!!見なさいこの脚線美を!お子様には出せない色気が……」
絹旗「超何やってんですかフレンダ!!ていうかお子様って超誰のことですか!?」
一方通行「言われなきゃわかンねェか?ガキ」
絹旗「何で超あなたが答えるんですか!?」
一方通行「はァ、さっさと垣根の方に合流するかァ……」
フレンダ「ハッ、そうだ!結局行かせるわけにはいかないわけよ!」
絹旗「あなたを超ぶっ倒してあちらと合流するのは私達です!」
一方通行「えェめンどくせェ、見逃してやるから大人しくしてろよ」
絹旗「……超甘く見られたものですね」
フレンダ「フフン、どんな能力を持ってるか知らないけど、結局その自信が命取りってわけよ!」
一方通行「むしろオマエらの自信はどっから来てンだよ?
……まァいいか、少しばかり遊ンでやる。ありがたく思えガキども」
フレンダ「私までガキに含まれた!?」
一方通行「ほら、死なねェ程度に加減してやっからさっさとかかって来やがれ」
絹旗「超調子に乗ってンじゃねェぞ白いのがァ!!」
一方通行「あァ?」
フレンダ(絹旗がキレた!?)
絹旗「おおおォォォォ!!!!」ダッ
―数分後
フレンダ「すいませんでした……」ボロ
絹旗「超ごめんなさい……」ボロ
一方通行「格の違いってヤツが理解出来たかァ?喧嘩売る相手は選ばねェと長生き出来ねェぞ」
絹旗「うぅぅ……せっかく超ブチギレたのに戦闘描写無しで超ボコられるなんて……」
フレンダ「結局何者なのよ、この白いの……」
一方通行「ン?あァそォか、最初に自己紹介してた方がよかったな」
絹旗「はい?」
フレンダ「どういう事?」
一方通行「第一位、一方通行だ」バァーン
絹旗「!!?」
フレンダ「第一位!?結局、第二位よりも更に格上!?」
一方通行「おォ、学園都市の頂点だ」
フレンダ「結局何で第一位と第二位が組んでるのよ!?そんなの勝てるわけないじゃん!!」
一方通行「俺は別に『ピンセット』とかいうブツ狙ってるわけでも殺し合いにきたわけでもねェけどな」
フレンダ「……結局何しに来たわけよ」
一方通行「あァー……嫁探し?」
フレンダ「意味がわからない」
一方通行「残念ながらオマエらは選考から漏れましたァ」
フレンダ「何かムカつく!!ちょっと絹旗も何とか言って……絹旗?」
絹旗「……本当に、あなたが超第一位なんですね?」
一方通行「おォ、サインでもくれてやろォか?」
絹旗「超ふざけないでください!!!」
フレンダ「!?」ビクッ
一方通行「あァ?」
絹旗「あなたが、あなたさえいなければ……」プルプル
一方通行「ン?どっかで会った事あったか?」
フレンダ「結局どうしたのよ絹旗?」
絹旗「……『暗闇の五月計画』」
一方通行「!!……オマエ、まさか」
フレンダ「?」
絹旗「そう、私はあの超クソったれな計画の被験者ですよ……」
一方通行「………」
一方通行(どォしよう、計画内容大まかにしか覚えてねェ)
―垣根サイド
「風が出てきたな……戦いで火照った体にゃいい塩梅だ
……おい第四位、オマエもこっちに来ねぇか?そんな隅にいねぇでよ」
「ハァ、ハァ、……クソ!」
夜空を見上げながら語りかけてくる垣根に対し、麦野は悪態を吐きながら原子崩しの光を放つ。
が、これまで何十回何百回と繰り返されたように、その光もまた、垣根に届く前に彼の翼に遮られた。
『原子崩し』、それは電子を『粒子』でも『波形』でもない『曖昧』な状態に固定し、強制的に操る力である。
それにより放出された光線は、物理特性を無視し、あらゆる物を打ち貫く事が可能なのだが、
それだけの破壊力を持っていても尚、垣根の翼には焦げ跡一つつける事が出来なかった。
「なぁ第四位、そろそろ諦めろ、もうわかってるはずだろ?
『原子崩し』じゃ『未元物質』には勝てねぇ、そういう仕組みなんだ」
「黙れよクソ野郎が!」
諭すような口調の垣根に対し、憎しみを込め再び光線を放つ。結果は同じ。
所詮この世に存在する物しか貫けない『原子崩し』で、
この世に存在しない物を生み出す『未元物質』を凌駕することは出来ないのだ。
「『原子崩し』だけじゃ『未元物質』は越えられねぇ
頼みの綱の『能力追跡』もおねんねだ。詰んでるんだよ、オマエらは」
「く……」
チラリ、と背後に倒れている滝壺に目をやるが、戦闘開始と同時に叩き伏せられた彼女はまだ目を覚ましそうに無い。
チッ、と舌打ちしつつ、麦野は再度垣根を睨みつけ、更に能力を使う。それはもはや時間稼ぎ以外の何者でもない。
滝壺の持つ『能力追跡』は能力者の『自分だけの現実』に干渉し乱す事で、
対象の能力を妨害する事が可能であり、それは強大な力を持ったレベル5に対してすら有効である。
今の状況を打破する為には彼女の能力が不可欠であり、それ故麦野は必死に時間を稼ぐ。
当然垣根もそんな狙いなど把握しているが、彼は一切焦ることなく、薄笑いを浮かべたまま
ただ麦野の攻撃を受け流している。麦野の身体がもはや限界に近いという事を彼は把握しているのだ。
それこそ、当の麦野本人以上に。
「何でそんなに頑張ってるんだ?もう時間稼ぎすら出来ねぇってわかってんだろ?」
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「あぁあれか、もしかしてそろそろ他の奴らが駆けつけてくれるとでも思ってやがんのか」
「……」
「なるほどなぁ、それがオマエの希望か。確かに三人がかりなら時間稼ぎくらい出来るかもな」
「……やけにペラペラ喋るわね、ひょっとして焦ってきちゃったのかしら?」
「焦ってんのはテメエだろ?いい事教えといてやる、あっちにいった二人な、絶対に来ねぇぞ」
「何?」
「俺と一緒にいたヤツが何者か気付かなかったのか?監視カメラの不鮮明な映像じゃわからなかったか?」
「何を、言って……ッ!!」
監視カメラの映像を思い出した麦野の顔が強張る。
そうだ、何故失念していたのか、あの幽霊のように白い痩せぎすの男の事を。
あんな特徴的な男、学園都市にそういるものではない。まして暗部に関わりがあるとなると、更に数は絞られる。
麦野は一組織の長として、あの白い男の正体に気付かなければならなかったのだ。
だが、その男が第二位と行動を共にしているなど有り得ない、
そんな先入観があの時彼女から冷静な判断能力を奪っていた。
「あの白いの……第一位か……」
「ご名答。ま、気付いたところでどうしようもねぇけどな」
気付いたところでどうしようもない、まさにその通りだ、と麦野は歯軋りする。
あの白い男が第一位という化物だった以上、フレンダと絹旗がこちらに救援に来る事はあるまい。
それどころか二人とも既にやられており、第一位がこの場に現れる可能性すらある。
そして自分にはもはや、垣根一人を相手に時間を稼ぐ体力すら残っていない。
どう足掻いても絶望。完全な手詰まり。もはや出来ることなど何も無い。
「く、くくく……あっははははは!!」
「あぁ?」
「第一位と第二位が揃って第四位を襲いに来るとはねぇ!!
そんなに私が怖かったかよホモ野郎どもが!!」
打開策などない。希望など一欠けらも見えない。
それでも彼女は大声で笑い、目の前の男を挑発する。
決して折れず、屈さず、どこまでも傲慢な態度を崩さない。それが麦野沈利という女だった。
「この期に及んでまだそんな態度が取れるのかよ、いいなオマエ、最高だ」
圧倒的不利な状況で嘲笑する麦野にしばし呆気に取られていた垣根だったが、
その口が徐々に歪み、やがて彼も声を上げて笑い始めた。
深夜の研究所に、しばし二人の狂ったような笑い声だけが響き渡る。
「なぁ麦野」
笑うのを止め、垣根は静かに切り出す。
「俺の女にならねぇか?」
自信に満ちた表情で、彼は窮地の麦野に唯一の救いの道を示した。
他の逃げ道を全て叩き潰した上で、これ以上無いというタイミングで。
これを蹴ってしまえば麦野の、アイテムの命脈は切れてしまうだろう。
助かりたければ尻尾を振ってすがりつく以外に道は無いのだ。
「……お断りだ、童貞野郎」
だが、麦野はその申し出を口汚く叩き伏せる。
誰かに従って、尻尾を振ってまで生き永らえるという道など、彼女には考えられなかった。
「そうかよ、残念だ。……本気で気に入ってるんだがな
力ずくじゃモノになってくれそうにねぇし、どうしたもんか」
「ハッ、そんなに私が欲しけりゃ、この場でテメエの小汚ぇブツでも必死こいてシコってみろ!
その姿が面白かったら考えてやってもいいわよ!?」
垣根「……マジで?」
麦野「えっ」
垣根「え、マジ?目の前でシコッたら考えてくれんの?」
麦野「いや、え?ちょ……え?」
垣根「よし良く見とけよ?ちゃんと見といてくれねぇと勃たねぇからな」カチャカチャ
麦野「ちょ、待て待て待て!!何やってんだテメエ!?」
垣根「何だ?テメエがやれつったんだろうが」カチャカチャ
麦野「ベルトから手ぇ離せ!!プライド無ぇのかテメエは!?」
垣根「……俺達が住んでるはプライドだけで生き延びられるような甘っちょろい世界じゃねぇだろ?
最大限の成果を得る為ならプライドの一つや二つ、喜んで捨ててやるさ」カチャ、ジジー
麦野「意味がわかんねぇんだよォォォォ!!!」
垣根「さぁ刮目しろ、男・垣根帝督の一世一代の大勝負だ」ズル
麦野「ズボン脱ぐな!!パンツに手ぇかけんなああああ!!!!」
垣根「……おい麦野、テメエ何赤くなってやがる?」
麦野「あ、あぁ?」
垣根「何でこっちを見ねぇ?テメエが望んだ事だろうが」
麦野「望んでないわよ!!あれはただの挑発!!」
垣根「……もしかしてオマエ、散々卑猥な言葉使っときながら実物は見たことねぇのか?経験無しとか?」
麦野「な、な……そんなわけねぇだろ!!て、テメエみてぇな童貞と一緒に……」
垣根「じゃあさっきまでと同じように堂々としろよ、ガン見しろよ、口汚く罵れよ!
そっちの方が燃えるから!!」ザッザッ
麦野「あああああ近寄ってくんなあああ!!!ズボン履いてよおお!!!」
垣根(やだ、可愛い……この子乙女……)ムク
麦野「うあああ!!テメエ、もしパンツ脱ぎやがったらその瞬間ブツを消し飛ばすからなぁ!!」
垣根「ほう、出来るのか?」
麦野「あ……?」
垣根「戦ってる内に把握した事だが、オマエの原子崩しは扱いが極めて難しいみてぇだな
正確に照準を合わせるためには対象をしっかり『見る』必要がある……違うか?」
麦野「……だったらどうしt……あっ」
垣根「気付いたようだな。そうだ、見れるか?」
麦野「あ、あう……」
垣根「見れるのかオマエに!?俺の股間の未元物質を!!凝視する事が出来るのか!?
パンツを履いている今の状況でも既に目を背けているオマエに!!」
麦野「う、ううぅ……」
垣根「いいぜ麦野、股間だけは未元物質でガードしねぇ」
麦野「は、はぁ?」
垣根「オマエが正確に俺の股間を撃つ事が出来れば、何の障害も無く俺の股間は消し飛ぶ」
麦野「つまり、私がアンタのを見る事が出来れば……」
垣根「そう、オマエの勝ちだ……さぁ、オマエは見る事が出来るかな?」ザッザッ
麦野「近寄らないでえええ!!!!」バシュンバシュン
垣根「股間以外に撃っても無駄だ!よく狙え!!てかまだパンツ履いてるから撃つな!!」バサァ
麦野「知らないわよもおおおお!!!」
垣根「さぁ、もう手を伸ばせば届く距離だぜ……それじゃ脱ぐぞ」ズッ
麦野「うわあああああ!!!」
垣根「ほら目ぇ開けろよ、勝利は目の前だぞ?」ズル
麦野「にゃああああああ!!!」ブン!
垣根「はおぉ!?」キーン!!
麦野(目ぇ瞑ったまま適当に蹴ったら何かグニっとした!?)
垣根「お、おぉぉぉ……て、テメエェ……蹴りは反則だろうがぁぁ……」ビクンビクン
麦野(股間押さえて悶えてる……じゃ、じゃあさっきの感触はこいつの……)
麦野「いやああああああ!!!!」ゲシゲシゲシ
垣根「ちょ、待!蹴るな!蹴るな!!痛みで演算できないから!防御出来ないから!!」
麦野「うにゃあああああああ!!!!」ガンガンガン
垣根「可愛い悲鳴上げてるけどやってる事滅茶苦茶だから!俺もう血だらけだよ!?死ぬ!死ぬ!!」
麦野「あああああああ!!!!」ダンダンダン
垣根「ぎゃああああああ!!」
麦野「ハァ、ハァ、ハァ……」
垣根「」ズタボロ
滝壺「……むぎの」
麦野「あ?あ、あぁ滝壺、気付いたのね?第二位ならご覧の通り、私一人でも十分だったわよ」
滝壺「……」
麦野「……ねぇ、もしかしてアンタ途中から……」
滝壺「大丈夫だよ、むぎの」
麦野「え?」
滝壺「私はそんな年甲斐も無く乙女なむぎのを応援してる」
麦野「………」
滝壺「強がりなむぎのを応援してる」ニコッ
麦野「……もう帰る……フレンダ達にも撤退信号出しといて……生きてるか知らないけど……」
滝壺「猫さんみたいな悲鳴を上げるむぎのを応援してる」ニコニコ
麦野「あああああもおおおお!!!!」ダッ
滝壺「待ってむぎの!恥ずかしさのあまり逃げ出すむぎのを応援してる!」タッタッタ
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垣根「」
一方通行「……おい垣根、生きてっか?」
垣根「う、あぁ……気ぃ失ってたのか……あれ、麦野は?」
一方通行「いや俺が来たときはもう誰もいなかったが……何があったンだ?
それとなンでオマエズボン脱げてンの?」
垣根「あぁ、色々あってな……つーか、オマエこそ何抱えてんだよ?」
一方通行「あぁ、これか……戦利品みてェなモンだ」
絹旗「離してください!超離してください!!」
垣根「……オマエもロリコンの道に足を踏み入れたのか」
一方通行「違ェよ!!」
垣根「welcome to this crazy time このイカれた時代へようこそ♪」
一方通行「ぶっ殺すぞテメエ」ギロッ
絹旗「いいからさっさと離してください、この超白もやし!!」
垣根「で、実際何なのよコイツ……絹旗だっけか?」
一方通行「あァ、暗闇の五月計画って知ってっか?」
垣根「おう、オマエの精神性やら演算パターンを被験者に植えつけて能力アップさせようぜ、
みたいな計画だよな?確か計画自体はかなり前に潰れたはずだが」
一方通行「おォ、コイツその被験者だったらしいンだわ」
垣根「ほう、それで?」
一方通行「なンか俺のせいで人生狂ったとか言うから責任取って養う事にした」
垣根「ふぅん………は?」
一方通行「暗部から引っこ抜いて真っ当に育てる」ウン
絹旗「私の意見を無視しないでください!!超話を聞いてください!!」
垣根「それはあれか?嫁にするとか、そういう……?」
一方通行「いや、妹として引き取る」
絹旗「超勝手に決めないでください!!誰があなたの施しなど超受けるものですか!!」
一方通行「……おい」ギロリ
絹旗「は、はい……?」
一方通行「『お兄ちゃン』って呼べ、妹」
絹旗「誰が呼ぶかバーカ!超バーカ!!妹って言うなバーカ!!」
一方通行「聞き分けのねェガキにはお仕置きすンぞ?もみじおろしになりたくなけりゃ静かにしてろ」
絹旗「それもはや超お仕置きってレベルじゃないですから!」
垣根「妹なぁ……」ジロジロ
絹旗「う、な、なんですか」
垣根「一方通行!!」
一方通行「断る」
垣根「はえぇよ!!まだ何も言ってねぇだろ!!」
一方通行「仕方ねェな、一応言ってみろ」
垣根「妹さんを俺にください!!」
一方通行「死ね」
垣根「酷くねぇ!?ちゃんと妹さんの意見も聞けよ!!」
一方通行「……どォする?絹旗」
絹旗「超死ねや」
垣根「何でだ!?」
絹旗「何が悲しくて超ズボン脱いでる人のモノにならなきゃいけないんですか」
垣根「……わかった、パンツも脱ごう」
一方通行「よし殺す」ゴゴゴゴゴ
垣根「ちょ、待て!軽い冗談………アッー!!!」メキョメキョ
垣根「」チーン
一方通行「よォし、馬鹿は放っといて帰るかァ」
絹旗「あの、私は……」
一方通行「俺ン家で養う」
絹旗「……超拒否権は?」
一方通行「ねェ」
絹旗「……はい」
一方通行「安心しろ、手ェ出したりしねェから」
絹旗「超不安要素しかありません……」
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―一方通行宅
一方通行「着いたぞォ」
絹旗「と言うか、超いい加減降ろして貰えませんか?」
一方通行「逃げねェか?」
絹旗「超無駄な足掻きはしませんよ、もう……」
一方通行「そンじゃ中入るか、今日はもォ遅ェから、明日必要なモン買いに行こうな?」ガチャ
絹旗「ハイハイもう超ご自由にしやがってください……」
結標「お帰りなさいあっくん!御飯にする?お風呂にする?それとも……」
絹旗「えっ」
結標「……あっくん、誰よこの女!?」
一方通行「妹だよ、うるせェな……つーかこンなガキ女扱いすンな」
結標「え、妹さん……?ほんとに?」
絹旗「はぁ、超不本意ですが……」
結標「なんだ、それじゃ私にとっても妹ね!」
絹旗(……超どちら様です?彼女さんですか?)ヒソヒソ
一方通行(いや、ストーカーだ)ヒソヒソ
絹旗(ストーカー!?何でそんなのが超堂々と家の中にいるんですか!?)ヒソヒソ
一方通行(こいつレベル5級の空間移動能力者なンだよ……追い出しても追い出してもキリがねェンだ)ヒソヒソ
絹旗(だからといって……)ヒソヒソ
一方通行(まァ、放っといたら勝手に家事とかしてくれるし案外悪くねェぞ?)ヒソヒソ
絹旗(……器が広いっていうか超アホですね、あなた)ヒソヒソ
一方通行(強いて問題点を挙げるとすりゃァ、偶に下着がなくなったり風呂に乱入されるくらいか)
絹旗「超大問題!?」
結標「どうしたの?そうだ、御飯の準備が出来てるから食べましょう?」
絹旗「あ、はい」
一方通行「おォ」
御坂「あら一方通行、帰ったの?って、誰よそのちっこいの?……まさかあんた、そんな小さな子にまで……」
絹旗「超また何か出た!?」
一方通行「ンなわけねェだろ、妹だ妹」
御坂「はぁ、妹?……似てないわね」
絹旗(今度こそ彼女さんですか?)ヒソヒソ
一方通行(いや……ストーカーだ)ヒソヒソ
絹旗「超どうなってんですか!?」
一方通行「ちなみにそいつ第三位だ」
絹旗「もう超やだこの学園都市!!!」
一方通行の童貞脱出計画、ただ今の成果
・恋人 なし
・仲間 一人
・ストーカー 二人
・妹 一人 ←New
【後編】に続きます
姫神さん並みに影の薄い上条さんにも光をば