まどか☆マギカ × ハリー・ポッター クロスSS

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856 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:11:40.84 s4cEiWrY0 457/755

 


『佐倉杏子は生きている』



『会いたいのなら、夏休み初日に行動すべし』



『まず、見滝原の駅から○○時にでる一番線の電車に乗ること』





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857 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:12:12.65 s4cEiWrY0 458/755


7月 夏休み初日 見滝原市 駅


マミ「……」

QB「……マミ、本当に行くのかい? 考え直した方がいい。
   彼女が亡くなったっていうのは、もう一年前に新聞やインターネットで散々確認しただろう?」

マミ「……でも、私の目で見たわけじゃないわ。それに、佐倉さんは魔法使いだもの。
   もしかしたら……」

QB「誰かもわからない"送り主"のことを信じ過ぎていやしないかい?
   もしかしたら、闇の魔法使いかもしれないよ? マミを罠に嵌めようとしているのかも――」

マミ「私に対して敵意を持っていないようだ、っていったのはキュゥべえじゃない」

QB「……それは、でも……あくまでも推測にすぎないんだよ。こうして油断させるのが目的だったのかもしれない。
   とにかく、一度家に帰って考え直してみないかい?」

マミ「碌に魔法が使えない私を油断させるためだけにあんなメッセージを送る? そんなわけないでしょう。
   ねえ、キュゥべえ。あなたちょっと変じゃない? まるで、私と佐倉さんを会わせたくないみたいな……」

QB「そ――そんなことは、ない、けど。ただ、僕は、君が心配で……」


『一番線、電車が参ります。白線の内側までお下がりください――』


マミ「……来たわ。この電車ね。乗るわよ、キュゥべえ」

QB「……」

858 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:12:41.42 s4cEiWrY0 459/755


電車内


マミ「さて、電車には乗れたけど……あの紙には、電車に乗るところまでしか書いてなかったわね。
   佐倉さんは、この電車に乗ってるのかしら……? 先頭車両から順番に見ていきましょう」

QB「……せめて、ハーマイオニー達に連絡すべきじゃないかな? メッセージが来たら話し合おうって言ってただろ?」

マミ「佐倉さんに関しては私の問題。それに、どのみち指定された時間が急すぎて間に合わないわよ」

QB「それは……そうだけど……」

マミ「……それにしても"送り主"は私に何をさせたいのかしら? そもそも、何で私なの?
   事件を解決させたいなら、もっと適任者がいるじゃない。魔法の腕だったらハーマイオニーさんが一番だし……
   それに佐倉さんを助けるのは、ホグワーツに関係ないわよね?」

QB「……考えられるのは、ホグワーツで起こる事件の解決よりも、君自身の方に重要度を置いているってことだ」

マミ「私、自身?」

QB「つまり"送り主"の目的は事件の解決じゃなくて、君の保護――いや違うな。
   大雑把に言ってしまえば、君の役に立つことを目的にしているんだ。もちろん、ただの推測だけどね」

マミ「……確かに佐倉さんの場所を教えてくれたり、ハーマイオニーさん達の喧嘩を止める方法を伝えてくれているけど……
   でも、それこそ何で? "送り主"さんは、どうして私を助けようとしてくれてるの?」

QB「分からないよ。それに、あくまで可能性の話だ。
   今のところそう見えるってだけで、本当はもっと別の理由や法則で動いてるのかもしれない」

マミ「……とにかく、今は佐倉さんを探しましょう」

QB「……」

859 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:13:07.54 s4cEiWrY0 460/755


十数分後 電車内


マミ「一番後ろの車両まで見たけど……どこにもいないわね。混んでるわけでもないから、見逃すとも思えないし……」

QB「……もしかしたら、僕らが車両を移動している間に、すでに探した車両に乗り込んで、もう降りてしまったのかもしれないよ。
  一度、電車を降りてみたらどうだい?」

マミ「……でも……もしかしたらこれから乗ってくるのかも……」


『次はー、○○駅、○○駅に――』


QB「ほら、ちょうど駅に着くみたいだし。何か飲み物でも買って、頭を休めたほうがいい。
   外は夏の日差しで暑いし、駅まで来るのに汗もかいただろう?」

マミ「……でも、あの紙には途中で降りろなんてて書いてなかったし――」


『○○駅――ザザッ、子に会い、――ザザッ』


マミ「あら、電車のアナウンスが……故障かしら? ね、キュゥべえ」

QB「? 何を言っているんだい?」

マミ「え、だから、ほら。アナウンスに雑音が混じって……」

QB「……そうかな? 僕には正常に聞こえるけど……」

マミ「そんな、だってこんなはっきり――え?」


他の乗客「……」


マミ(他の人も、反応してない……? ざわめきもしないなんて……)

QB「マミ? いったいどうしたって言うんだい?」


『――佐倉杏子に会いたければ、次の駅で降りて、西口の改札からでること、ザッ』

『――○○駅に止まります。お出口は左側。降りる際は足元に気を付けて――』


マミ「……キュゥべえ、次の駅で降りるわよ」

QB「え、あ、うん! それがいいよ。やっぱり休憩は大事だし、その方がいい考えも浮かぶって……
   ……マミ? どうかしたのかい?」


860 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:13:52.47 s4cEiWrY0 461/755


○○駅 西口改札


QB「君にしか聞こえないアナウンス? 確かに、僕には全く聞こえなかったけど……
   でも、それはちょっと変だね」

マミ「変かしら? キュゥべえだってテレパシー使えるじゃない」

QB「僕が変だと思うのは、なんでわざわざ電車のアナウンスって形で君に知らせたかってところだよ。
   テレパシーが使えるならテレパシーでいいし、いつもみたいに紙の媒体で伝えてもいいじゃないか」

マミ「それは……伝わればなんでもよかったんじゃないの?」

QB「手間が多すぎるんだよ。わざわざ君以外の対象には聞こえないように細工までするなんて…… 
   いったい、何の目的で……?」

マミ「……考えてても仕方ないわ。それより、指示通りに改札を出たけど……佐倉さん、いないわね」

QB「なかなか栄えてる街みたいだ。人通りが多い。見滝原よりは劣るけど、大きな建物も多いし」

マミ「この街に佐倉さんがいるとして、どうやって探せばいいのかしら……?」

QB「君たちはこういう時、交番という施設を利用するんだろう? ちょうどそこにあるし、聞いてみたら?」

マミ「あのねぇキュゥべえ。いくら警察でも、なんでもやってくれるってわけじゃ……」

QB「そうなの? でもさっきからあそこにいる人がすっごいこっち見てるから……」

マミ「え?」

警官「あー、君。学生だろう? 学校はどうしたのかな?」

マミ「え、あの。いまは夏休みで――」

警官「今は七月の頭だよ? ずいぶん早い夏休みだねぇ?」

マミ(あ……そうか、こっちの夏休みはまだ半月も先で……)

警官「どこの学校かな? とりあえず、話はそこの交番で聞こうか?」




861 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:14:30.27 s4cEiWrY0 462/755


交番


警官「……あー、はい。確かにそちらに在籍していると。わかりました、それでは……」ガチャン

マミ(……昔、普通の人の世界で通学の証明とかが必要な時はここに掛けなさい、って教えてもらった電話番号だけど……
   どこに繋がったのかしら、あれ)

警官「いや、手間をかけて悪かったね。その歳で留学とは偉いもんだ。うちのバカ娘にも見習わせたいくらいだよ」

マミ「いえ、そんな……あの、もう行っても?」

警官「ん? ああ、悪かったね。しかし、ここらも最近は治安が悪くてね。暗くなる前に家に戻りなさい」

マミ「は、はい。それじゃあ……」

QB『マミ、終わったのかい?』

マミ『ええ、予想以上に長引いちゃった……職務質問って初めて受けたけど、面倒くさいのね。
   クーラーも効き過ぎて冷えちゃったし――』

マミ「は、は……くしゅんっ」ブルッ

警官「大丈夫かい? ……ポケットティッシュで良かったら使うといい、ほら」

マミ「ありがとうございます……」

警官「さっきそこで配ってたやつだけどね。まだ封は開けてないから、汚くはないよ」

マミ「はあ。それは――……! すみません! このティッシュを配ってたそこって、そこの駅前のことですか!?」

警官「あ、ああ。そうだが……なんだね、急に?」

マミ(このティッシュの裏に挟んである広告……)



『交番を出て、最初に目に入った路地を直感で進め』

『その先に、佐倉杏子は居る』

862 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:14:58.35 s4cEiWrY0 463/755


路地裏


マミ「……結局、駅前で配ってたティッシュの方は普通の広告しか入ってなかったわね。
   私がくしゃみをすることまで見越して、あの警察の人にだけメッセージ入りのティッシュを……?」

QB「ハーマイオニーの予想通り、未来の情報を入手できる力があるのなら、それも不可能じゃないだろう。
  ただ、やっぱり電車のアナウンスみたいにまどろっこしい手段だけど……」

マミ「それに、なんだかメッセージも曖昧じゃない? 私の直感って……この路地、分岐がいっぱいあるし。
   未来のことがわかるって言っても、私がどう思うかまではわからないでしょう?」

QB「? どういうことだい?」

マミ「……例えば"送り主"が未来に行ける魔法を使えて、私の行動を全部知ってるとするわよね?
   でも、送り主が見た未来の私は右の道を選んでいたとしても、もしかしたら今の私は左の道を選ぶかもしれないじゃない」

QB「ああ、そういう……でも、それはどうかな。そもそも"送り主"がメッセージを送ってきたから、君はここにいるんじゃないか」

マミ「え? それこそどういうこと?」

QB「今日この時間、君がこうしてこの路地を歩いているのは、送り主からのメッセージに従っているせいだろう?
   そのメッセージを作成するには、未来を覗く力で予めこういう行動をしている君を観測することが必要だよね?」

マミ「……そうね。私がこういう行動をしていない限り、メッセージは作ることも送ることもできないし……」

QB「でも、君が佐倉杏子を探してこの街に来たのはそもそもメッセージのせいだ。
   つまり送り主が"佐倉杏子を探して路地裏を歩く巴マミ"を事前に観測するためには、さらにその事前の君にメッセージを送る必要がある。
   でもそのメッセージを送るためには君がメッセージに従って行動したという事実が必要で、その為には更に前にメッセージを……」

マミ「え、えーと……」

QB「つまり、この時点でタイムパラドックスが生じているわけだ。最初に君にメッセージを送れる"送り主"というのがいないわけだから。
   このパラドックスを解消するためには、時間という概念の認識を変える必要がある。
   例えば、時間は線ではなく立体であり、上面を通って過去を改変できるものとするという考え方だ。
   これならタイムパラドックスは存在しなくなる。道筋が変化するだけで、辿り着く結果は変わらなくなるからね」

マミ「あ、あの、キュゥべえ、ちょっと待っ……」

QB「未来というのが過去を積み重ねた結果なのではなく、過去と未来は同時に存在するものだと考えればいい。
   その中で僕らの主観意識は常に現在を進んでいくわけだけど、仮にタイムトラベラーがいるとすれば、
   彼ないし彼女は、主観意識の時間軸を自由に選択できる、つまり都合のいい過去未来を選択できるというわけだ。
   ただこの考え方にも欠点はあって、トラベラー同士の主観意識が交差した場合に問題が起きる。
   つまりタイムトラベラーが同時に複数いた場合、主観未来の混合や制限、予期しない変化が発生して――」

マミ「……」プシュー

QB「――って、ああ、ごめんよ。つまり、考えてもあんまり意味はないってことさ。
   僕らは未来を見られないんだし、時間がどういう構造になっているかなんていうのは机上の空論でしかない。
   確実に言えることは、今のところそのメッセージの信頼度は低くない、ということだけかな」

マミ「……それって結局、"送り主"が私の思考までは読み取れないっていう疑問の答えになってないんじゃないかしら?」

QB「なってるよ。君のこの行動はある主観未来において、既に確定したものだっていうことになるから」

マミ「つまり?」

QB「簡単にいうなら――どう足掻こうがメッセージには逆らえない。メッセージの内容を覆すことは出来ない。そういうことになる」

マミ「……なんだか、その、凄い怖い方向に話が進んでない?」

QB「別に心配することじゃないさ。言っただろう? 机上の空論だって。そういう風に考えることもできるって話だよ」

マミ(……でも、もしかしたら、メッセージを受け取った時、私が覚える奇妙な信頼感と確信は……)

QB「……それにしても、ずいぶん歩いたね。駅からも離れて、段々寂れた感じになってきたし……」

マミ「あんまり、綺麗な道じゃないわね……あちこちにゴミが落ちてるし、人もほとんど通らないし……」


「……」タタッ


マミ「……! いま、路地の先に誰か……待って!」ダッ

QB「マミ? ちょっと、置いて行かないで――」



863 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:15:51.99 s4cEiWrY0 464/755


『おいおい。あんたも魔法少女なら、そこで諦めちゃ駄目でしょ――と!』


マミ(佐倉さん――)


『へー。それじゃあさ、良かったらまた会おうぜ。今度はうちに来てくれよ。晩御飯、御馳走するからさ』

『え……いいの?』

『ああ。ひとりで食べるより、たくさんで食べた方がいいだろ?』


マミ(佐倉さん)


『ああ、楽しみにしてるよ。それじゃあまた――来年な』


マミ(佐倉さん……!)


 過去の思い出が、次々と脳裏をよぎる。

 佐倉杏子。あの事故に遭ってから、見滝原で出来た最初のお友達。

 その彼女に、また会えるかもしれない。そんな期待を胸にして、私は走り、


???「……っらぁ!」ブンッ

マミ「――え?」


 ――そして次の瞬間、後頭部に走った衝撃によって視界が歪んだ。



864 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:16:36.67 s4cEiWrY0 465/755


マミ(あ、れ……変、ね。佐倉さんを、追いかけてた筈なのに……)


不良1「っひょー! えらく可愛い子じゃん!」

不良2「なぁんでまたこんなところに来てんだろうな……俺ら的には大歓迎だけどサ」

不良3「おい、もたもたしてんな! さっさと詰めちまえ!」ガバッ


マミ(体、動かない……どこに連れてくの……? 誰……?)


警官『ん? ああ、悪かったね。しかし、ここらも最近は治安が悪くてね。暗くなる前に見滝原に戻りなさい』


マミ(あ……そっか、あの警察の人の言ってた……)


不良1「お、すっげー体してんのな! たっのしみー!」

不良3「運べっつってんだろ! おい、車は回してあんだろな!?」

不良2「ん。この路地の出口にぴったし」


マミ(杖……魔法……声、出さなきゃ。でも……)


マミ「ぁ、ぁ、ぅ……」

不良1「んっだよ騒ぐなよ。まあ俺らのホームで好きなだけ騒がしてやっからさ――」


???「……だったら、さっさとアンタらのいう家とやらに帰んなよ」


865 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:17:12.34 s4cEiWrY0 466/755


不良2「……なんだ? 女の子? この子の友達かなんか?」

不良3「……ちっ。ひとりでうろちょろしてる鴨だと思ったんだけどな」

不良1「かまやしねえよ。ついでにぼこって、一緒に詰め込んじまえばよ――おらっ!」ブンッ


???「遅っせえ」ヒョイッ


 ゴリッ


不良1「んなっ――あ、あががぁ!?」

不良3「お、おい!? 急にうずくまって……な、何しやがった!」


???「顎を外しただけだよ。ほら、さっさと病院にでもなんでも連れってってやんな」


不良3「……く、糞が!」

不良2「ほら、立てよ……」

不良1「がぁっ! ぁ、あおあ……」


 タッタッタ……


マミ(……行った。助かった? 誰? 誰が……視界が、だんだん定まって……)


???「ったく、無駄なことに力使っちまった……もうあんま余裕ないってのに。
     ああああ! それもこんなところに一人で来るこの馬鹿の――」

マミ「……佐倉、さん?」

杏子「ああ? アンタ、なんであたしの……っ、もしかして、マミ、か?」



866 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:17:43.15 s4cEiWrY0 467/755



マミ「佐倉さん!」ガバッ

杏子「……寄んな!」

マミ「――え?」

杏子「あ、いや――その、ほら、あたし、服とかちょっと汚れちゃってるしさ……」

マミ(佐倉さん……そういえば、髪もぼさぼさで、服もあちこちほつれてる……それに、痩せた?
   ううん、やつれてるって言った方が……)

杏子「……にしても、こんなところで会うなんてね。もう会うこともないと思ってたのに。
    まあ、もう分かっただろ? ここは危ないよ。ほら、さっさと行った行った!」

マミ「――佐倉さん。私、あなたを探してたの」

杏子「……」

マミ「良かった……生きてたのね、佐倉さん……私、本当に心配して……」

杏子「っ、知って、るんだな……あたしの家族のこと」

マミ「……その、新聞に書いてあったことくらいだけど……私、その時はまだ向こうにいたから……
   ごめんなさい、何の助けにもなれなくて」

杏子「……別に、マミが謝ることじゃないだろ。それにどうせ、アンタがいても変わらなかったさ」

マミ「……」

杏子「だからそんな顔すんなって……悪いのはあたしなんだ。あたしが、もっと強ければ……」

マミ「そんな、それこそ佐倉さんのせいなんかじゃ――」

杏子「いいや、あたしのせいさ……親父はね、魔女にやられたんだ」





マミ「魔女? それって、闇の魔法使いってこと?」

杏子「……は?」


867 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:18:37.98 s4cEiWrY0 468/755


杏子「いや、魔女は魔女だよ。マミも向こうで狩ってるだろ?」

マミ「か、狩る? なんで狩るのよ。私、ただの学生だし……先生に魔女はいるけど、でも狩るなんて」

杏子「魔女の先生だぁ!? おい、どういうことだよ? さっきから話が全然――っ」フラッ

マミ「! 佐倉さんっ」ダキッ

杏子「……っ、は、だから行けって言ったんだ。情けない姿見せちまった……
    ここんとこ、まともな生活してねえし……はは、人って結構生きてられんのな」

マミ「笑い事じゃないわ。すぐに病院に――」

QB「……いや、病院に連れて行っても無駄だろう」

マミ「キュゥべえ!? ようやく追いついて――無駄って、どういうこと?」

杏子「よぉ、ここんとこご無沙汰だったじゃんかよ……ま、最近はまともに魔女も狩れないしな。
    グリーフシードもねえし、用無しってわけか」

マミ「ご無沙汰、って……? 佐倉さん、キュゥべえと会うのは初めての筈じゃ……」

杏子「ほんとに話が噛み合わないのな。最初に契約した時、会ってるに決まってるだろ?」

マミ「契約?」

杏子「……おい、マミ。あんた魔法少女、なんだよな?」

マミ「そうよ。魔女の卵。佐倉さんもでしょう?」

杏子「ああ!? あんなもんの卵になった覚えは――」

QB「言い争ってる場合かい? 佐倉杏子、ソウルジェムを見せてくれ」

杏子「……ほらよ。もう魔法は使えそうにねえけどな」ポイッ

マミ(ソウルジェム……? 魔法が使えなくなる? いえ、それよりも、キュゥべえ、佐倉さんと話が通じて……)

QB(……不味いな。濁りきってる。グリーフシードに変化するまでの猶予は、長く見積もっても一日かそこら……
   肉体の衰弱を魔力で補っていたのか。これじゃあ魔法を使わなくても濁りが早い。
   それにもう出会ってしまったのなら、マミと佐倉杏子を引き離すことも出来ない……)

マミ「ね、ねえ、キュゥべえ。なにがどうなってるの? そのソウルジェムって一体――」

QB「話は後だ。マミ、彼女を助けたいのなら、僕の言う通りに行動してくれ」

マミ「……あとで、話してくれるのね?」

QB「――ああ、必ず、ね」

マミ「……キュゥべえを信じるわ。どうすればいいの?」

QB「とりあえずは見滝原に戻ろう。あそこは魔女が生まれやすい」

マミ「分かったわ。ほら、佐倉さん。肩につかまって……」

杏子「いや、あたしは行くなんて一言も――」

マミ「いいから! ほら!」グイッ

杏子「……っ! 好きにしろよ、もう……」

杏子(……見滝原、か。もう、風見野の方へ帰ることはないと思ってたんだけどな……)


868 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:19:04.60 s4cEiWrY0 469/755


電車内


杏子「ふぅ……ああ、久しぶりに空調の効いてるところに入ったな……」

マミ「ほら、座って――平日の昼間だから、空いてて良かった……」

杏子「……ああ。じゃあ、ほら。あたしは大丈夫だから、マミはちょっとあっち行ってろよ」

マミ「そんな、いいじゃない。久しぶりに会ったんだから。つれなくしないでよ、もう」

杏子「いや、そういうんじゃなくてさ。あたしと一緒にいると、マミまで……」


「やだ、なにあれ。きたなーいwwww」

「ジョーシキないよねーwwwwあんなカッコで電車に乗るとかさーwwww」


マミ「あ……」

杏子「……ほら、な? 見滝原に着いたらちゃんと降りるから、別の車両にでも……」ジワ....

QB(不味い。ソウルジェムの濁りが加速してる。このままじゃ最悪、この電車の中で……)

QB『マミ、別の車両に移るなら、彼女も一緒に――』


マミ「ちょっと! なんなんですか、さっきからこっち見てひそひそひそひそ!」キッ

杏子「!?」


「え、あ、なんなの、こいつ?」

「べつにあたしら、悪いことなんてなんにも」


マミ「聞こえてないとでも思ったの!? 彼女は私の友達なの! なにか文句があるなら言ってみなさいよ!」


「……ちっ。なんだってのよ。いこ」スタスタ

「最悪ー。マジきもいよねー」スタスタ


マミ「……ふぅっ。さ、佐倉さん。疲れてるみたいだし、なんだったら寝ちゃってもいいわよ。
   ずっと隣に座って、見滝原に着いたら起こしてあげるから」

杏子「あ、うん……あの、ありがと……」

マミ「いいのよ、別に。あんな人達、気にすることないわ」

杏子(……しばらく見ない間に、マミの奴ずいぶん強くなったんだな……)




869 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:19:45.14 s4cEiWrY0 470/755


マミ「さて……キュゥべえ、見滝原に着いたら、私はどうすればいいの?」

QB「……まず、魔女の結界を探す必要がある」

マミ「魔女の……?」

QB「君が言うところの、なんたらかんたらゾウムシのことだよ。そいつを倒して、グリーフシードを手に入れないと」

マミ「……それがあれば、佐倉さんは助かるのね?」

杏子「助かるっちゃあ、まあ助かるかな。元手が無けりゃ魔女も狩れないしね。
    ……それにしても、何にも知らないんだな、マミ。あんた一体……?」

QB「話は後だ。とにかく、一刻も早く魔女の結界を見つけないと……
   ……でも、困ったな。僕の持ってるデータは数年前のものだ。とすると結界の位置は変わってるだろうし……」

マミ「その結界って、普通の方法じゃ探せないの?」

QB「難しいな。仮にマミがそういう魔法を使えたとしても、結界の位置を探るのは無理だろう。
   佐倉杏子の魔法もいまは当てにできないし、かといって、なにか良い方法があるかっていうと……」

杏子「……魔女の結界だったら、ひとつだけ心当たりがあるよ」

QB「本当かい? できれば、長い期間存在している魔女が好ましいんだ。
   統計上、その方がグリーフシードを孕んでいる確率が高いからね」

杏子「……十分だろうよ。一年以上も生きてるし、あたしが知ってるだけで三人も食いやがった奴だ」

マミ「それって……?」

杏子「さっきもちょっと言ったけどさ。世間では無理心中ってことになってるあれ、本当は違うんだよ。
    父さんも、母さんも、モモも――あの魔女に殺されたんだ」

870 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:20:24.92 s4cEiWrY0 471/755


杏子「あたしの願いは、父さんの話をみんなに聞いて欲しいってことだった。
   上手く行ってると、そう思ってたよ。でも、今考えると実際はどうだったんだか……」

杏子「魔女の口づけを受けやすいのは、心にストレスやなんかを溜め込んでる奴だ。
    そういう意味じゃ、父さんも不自然に感じてたのかもな……急にみんなが話を聞きに来るようになったんだ。
    あたしの願いは、所詮子供の浅知恵だった」

杏子「気づいた時には、父さんは魔女に口づけを受けて、結界の中に母さんとモモを連れ込んでた。
    あたしは何とかその魔女を倒そうとしたんだけど……駄目だった。ずたぼろの返り討ちさ。
    それで――あたしの家族は"手遅れ"になった」

杏子「あたしは逃げた。その場にいることができなかった。だって、そうだろう? 全部あたしのせいだ。
   親父が魔女に魅入られたのも、魔女を倒してみんなを守れなかったのも!
   全部全部、あたしが馬鹿で弱くて何にもできなかったせいだ!」

杏子「……あとは言わなくてもわかるか。こんなナリになるような生活をして、魔女を我武者羅に狩って……
    でも、どうしてもあの魔女だけは倒すことができなかった……」



風見野 教会前


マミ「ここは……佐倉さんの」

杏子「笑える話だよね。神の家が、今や魔女の巣ってわけさ」

マミ「……なら、それも今日までよ」

杏子「……あの魔女は強いよ。デカくて馬鹿力、そのくせスピードもある。おまけに刺そうが斬ろうがすぐさま回復しやがる。
    グリーフシード一個じゃ、正直割に合わない相手さ。それでも手を貸してくれる?」

マミ「……その怪物が、モモちゃんや佐倉さんの御両親の仇なら、私にも怒る権利はあるわ」

杏子「……ありがとな、マミ」

QB「佐倉杏子、さっきも言ったけど、もう一度確認しておくよ。魔法少女の力を使っていいのは一度だけ。
   武器を生成して振るうにしても魔法を使うにしても、絶対にワンアクション以上はしないでくれ」

杏子「分かったよ。ったく、魔法が使えなくなるまでぶっ放してやろうと思ったのに……
    理由はあとでちゃんと説明してくれるんだろうね?」

QB「……ああ。絶対にね」


871 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:21:35.18 s4cEiWrY0 472/755


魔女の結界


魔女「キャハハハハ!」


マミ「っ、確かに凄い大きさね……牛の頭に、大きな斧。さしずめミノタウロスといったところかしら?」

杏子「悪いな、マミ。アンタにほとんど任せっきりになっちゃうけど……」

マミ「大丈夫。これでも私、二年前より成長してるんだから!」

QB「マミ、遠慮することはない。結界の中の出来事は魔法省も観測できない筈だ。
   思いっきり魔法を使って大丈夫だよ」

マミ「もとより、そのつもり――さあ、いくわよ! インセンディオ!(燃えよ)」


 ゴォッ!


魔女「キャハ? キャハハハハ!」ダンッ

杏子「っ、効いてないぞ……突っ込んでくる!」

マミ「大丈夫、予想通りよ。あの怪物、遠くからは攻撃できないんでしょう?」

マミ「だったらまずは近づけて――避けられない距離で! ロコモーター・モルティス!(足縛り)」バシュッ

魔女「キャ!?」ズザザッ

杏子「っ、お……転んだ。もがいて……足がぴったりくっついて、動けなくなったのか?」

魔女「キャハッ、キャハッ!」グググ....

QB「でも、無理やり力尽くで拘束を解こうとしてる……長くは持たないよ、マミ!」


872 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:22:58.36 s4cEiWrY0 473/755


マミ「カーコス・スペル!(針に変われ)」バシュッ

杏子「瓦礫が……小さいミサイルに!? なんでもありかよマミの魔法!」

マミ「使える呪文の中だと、これが一番威力があるんだけど……どこまで通じるかしら、ね!」


 バシュッ バシュッ バシュッ ガガガガガ!


魔女「キャアアアアァァァ……」

マミ「……見て! 体が、半分以上砕けてる!」

杏子「まだだ! あいつはあれくらいじゃくたばらないよ! もっとひどい状態から再生したこともある!」


魔女「……ァァァァアアアアアアア! キャハッ!」シュウウウウ


マミ「っ、確かに、だんだん砕けた部分が元に……なら、何度でも」

QB「――!? マミ、後ろだ!」

マミ「え――?」クルッ


魔女2「キャッハア!」ブンッ


マミ(な――同じ魔女がもう一体!? 駄目、呪文が間に合わな……)

杏子「通さないよ! 縛鎖結界!」ジャララララ!


 ガキィン!


魔女2「キャハッ!」

マミ「……エヴァーテ・スタティム!(宙を舞え)」バシュッ

魔女2「ァキャキャーーー!?」ヒューン

マミ「……相手が大きすぎて、あんまり飛ばなかったわね……! 助かったわ、佐倉さん!」

杏子「ああ、だけどあいつのあれは何なんだ? あたしも初めて見る……」

QB「分裂……? それとも複数いるタイプの魔女か?」


873 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:24:14.94 s4cEiWrY0 474/755


杏子「……悪いけど、次は防げそうにない。魔力を使い切るつもりでやってもね」

QB「絶対にそんなことはしないでくれ、佐倉杏子」

杏子「魔力を使い切ると何が起きるか知らないけど、どの道このままじゃ潰されて終わりだよ?」


魔女1「キャハハハ!」シュウウウ.....

魔女2「……キャハ!」ムクッ


杏子「再生も終わりかけて、2体ともそろそろ攻撃準備完了って感じだ。マミの魔法じゃ、一度に2体は相手に出来ないだろ?」

マミ「……悔しいけど、ね。盾の呪文は、まだ練習中だし……そもそもあんな一撃を防げるかどうか」

杏子「この数秒で何とか仕留めなきゃこっちがやられる――くそっ、せめて魔力がありゃ幻惑魔法で逃げられるのに……」

マミ「……幻惑魔法? それって、確か昔佐倉さんが使った……」

杏子「ああ。そういえば、あの時もあれが決め手だったっけ。それがどうかした?」

マミ「……あの怪物、変だと思わない? 体が半分に欠けても平気で、分裂もして……それってまるで」

杏子「……幻惑? あいつも幻惑の魔法を使う魔女だっていうのか?」

QB「可能性はあるね。確かにあの強さは異常だ。でも、だとしたらどうする気だい?」

マミ「あれが、もしも本体じゃないのなら――」


魔女1・2「――きゃははは!」ダッ


杏子「……やばい! 両側から同時に飛びかかってきた!」

マミ(両方とも本体じゃなくて……ただの自衛の手段、武器に過ぎないとしたら……)



マミ「――エクスペリアームス!(武器よ去れ)」


874 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:25:04.41 s4cEiWrY0 475/755


魔女1「きゃh」シュンッ


 ガランッ!


杏子「魔女の身体が消えて、斧だけが……? でも、反対側からはもう一匹が……いない?
    片方だけにしか魔法を当ててないのに……?」

マミ「……やっぱり! あの魔女、体は全部最初から偽物なんだわ!
   本体は残ったあれ――あのおっきな斧なのよ!」


斧の魔女「キャハハ!」


杏子「……そっか。あたしとおんなじ……だからここに来たのか?
    全く、幻惑使いが騙されちゃあ笑い話にもなりゃしない――でも、それも終わりだ」


斧の魔女「キャハハハハハ……」


杏子「マミ、頼むよ。やってくれ。その内、また幻惑を造って襲ってくるだろうしさ」

マミ「え、ええ……でも、いいの? あれは、佐倉さんの……」

杏子「……自分の手で仇を討ちたいって気持ちは、そりゃあるさ。でも……」チラッ

マミ「?」

杏子「……アンタ、怒ってくれただろ? あたしの家族の為にさ。なら、一緒だ。家族みたいなもんさ。
   "全てを分かち合えなければ、家族とは言えず"……父さんの説法の一節だよ。これくらいしか覚えてやしないけどさ」

マミ「佐倉さん……」

杏子「……やっちまえ、マミ!」

マミ「……ええ! レダクト!(砕け散れ)」


斧の魔女「キャ? キャアアアアアア!?」ピキッ パキッ


 パキィィィィイイン……


杏子(……終わったよ。父さん、母さん、モモ……)


875 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:25:31.70 s4cEiWrY0 476/755


 シュウウウウウウウ


マミ「ソウルジェムの濁りが、どんどん吸い取られて……これで魔法が使えるようになるの?」

杏子「ああ。もうこの穢れを吸い取ったグリーフシードは使えないけどね。で、こうなったら……ほらよ、キュゥべえ」

QB「きゅっぷい」パクン

マミ「せ、背中から食べた……? キュゥべえ、そんなもの食べて平気なの? あの怪物の卵なんでしょう?」

杏子「平気だよ。こいつらの仕事みたいなもんなんだしな」

マミ「……」

杏子「……さて、教えて貰おうか。アンタだけがあたしとマミ、両方の事情に通じてるみたいだしね」

QB「……ああ、分かった。でも、とりあえず場所を移して――」


???「おや、魔女が消えたと思ったら……杏子、君か。どうやら持ち直したらしいね。おめでとう」


マミ「え……? この、声……」

QB「……」


QB2「うん? おかしいな、この地区は僕の担当の筈……おや、廃棄個体じゃないか。
    驚いたよ。まだ稼働していたんだね。そう長くはもたないと思ったけど……」


マミ「キュゥべえが、もう一匹……!?」

杏子「……あたしも並んでるのを見るのは初めてだね。でも、そっか。
    世界中に魔法少女がいるなら、確かに複数いる方が自然か」


QB2「まあ、そうだね。といっても、そこの廃棄個体は既にその役目から外されているけれど」


マミ「廃棄、個体……? 私のキュゥべえのこと?」


QB2「君は……ああ、報告にあった突然変異体のひとつか」

マミ「突然変異、って――」

QB2「ふぅん……とはいえ、魔法少女の素質もかなり持ってるみたいだね。どうだろう。僕と契約して――」

QB「――やめろ」

マミ「キュゥべえ?」


QB2「おや、邪魔するのかい? やれやれ、これだから精神疾患患者は……
    いくら廃棄された個体とはいえ、僕らの持つ使命の重大さは分かっている筈だけどね」

QB「そんなもの、どうだっていい。ただ、マミを魔法少女にするのは認められない」

QB2「……まあいいさ。変異体との接触は危険だし。どの道、この辺りの魔女はまた杏子が狩ってくれるだろうしね。
   それじゃあ杏子、使用済みのグリーフシードがあればいつでも呼んでくれ」




マミ「行っちゃった……キュゥべえ、どういうことなの?
   あのキュゥべえは、あなたと同じ種類の猫……ってわけでもなさそうだけど」

QB「……僕は猫じゃない。正式な名称は、インキュベーター。
   契約によって魔法少女を生み出し、そこから発生するエネルギーを回収するためにこの星へきたんだ」


876 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:27:48.95 s4cEiWrY0 477/755


見滝原 自宅


マミ「感情エネルギーに、魔法少女システム……?」

杏子「そんなもんの為に、アタシらをゾンビもどきに――いや、化け物に変えたってのか!?」

QB「……否定はしないよ。宇宙の熱的死を防ぐために、僕らの種族は君たち人類に目をつけた。
   その過程で生まれたのが魔法少女システムだ。エネルギーを集める方法は三つ」

QB「一つ目は、魔法少女の契約を交わすこと。魂を抽出してソウルジェムに変換する際にもエネルギーが発生する。
   このエネルギーを利用して、僕らは君たちの願いを叶え、ソウルジェム変換の際に僕らから失われたエネルギーも補填する」

QB「二つ目は、使用済みのグリーフシードを吸収すること。魔法少女が魔法を使う際に使用してるのは正の感情エネルギーだ。
   その反作用として相転移した負のエネルギーも収集している。あまり効率が良いとはいえないけどね」

QB「そして三つ目。本命は……ソウルジェムが濁りきり、魔法少女が魔女へと成長する際に生まれる、莫大なエネルギーだ」

マミ「人が、あの怪物に……?」

QB「……そうさ。それが魔法少女システムの核だ。僕らはそうして、有史以前から君たちの歴史に干渉してきた。
   より効率よく感情の相転移が発生するよう、文明の発展を助長すらして――」

杏子「テメエ、よくもぬけぬけと……!」グイッ

QB「ぐっ……」

マミ「佐倉さん!? キュゥべえを……!」

杏子「こいつのせいだろうが! 全部こいつらの都合じゃねえか!
    魔女が生まれたのも、そのせいで人が死ぬのも! こいつらのマッチポンプの結果じゃねえかよ!
    テメエら、あたしたちのことを家畜とでも思ってんのか!?」

QB「い、以前の僕なら……つまり、普通のインキュベーターなら……そうだ。
   言葉尻はどう繕おうと、それと似た認識であったことは否めない」

杏子「なら教えてやるよ、家畜だって時には飼い主を絞め殺す時があるってこと――」

マミ「やめて! 佐倉さん、キュゥべえを放して!」

杏子「マミ……」

マミ「……キュゥべえ、答えて。あなた、確かに最初の頃は契約して欲しいって言っていた……
   けれど、最近では全然言わなくなったわよね? それはどうして?」


877 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:30:45.14 s4cEiWrY0 478/755


QB「……さっきのインキュベーターが言っていただろう? 僕は廃棄された個体なんだ」

マミ「それって、具体的にはどういうことなの?」

QB「僕らが、なぜ君たち人類に目を付けたか――それは、インキュベーターが感情を持たないからだ。
   僕らの星では、感情というのは極稀に見られる精神疾患でしかなかった。これでは感情エネルギーを回収できない。
   それに、僕らとしても感情というのは集団の統率を乱す厄介なものだという認識しかなかった」

マミ「……」

QB「でもある時を境に、僕という個体に感情が生まれてしまった。
   マミ、君と出会ったのはダイアゴン横丁のペットショップでだったね?」

マミ「え、ええ……あの店主さん、キュゥべえが新種の猫だって言って……」

QB「僕は本来、イギリスのロンドン地区を担当している個体だった。
   だがある時偶然、奇妙なエネルギーの反応を見つけたんだ」

杏子「それって、マミ達の言う"魔法使い"って奴か?」

QB「その通りさ。多分、未熟な魔法使いが何かをやらかしたんだろう。
   それまで、僕らインキュベーターは魔法界の存在にまったく気づかなかったし、おそらく向こうもこっちに気づいていない」

マミ「だけど、キュゥべえは気づいた」

QB「そうだ。そこでインキュベーターの出した結論は"調査"であり、最寄りの僕がその役目に抜擢された。
   結果的に失敗したんだけどね。遮蔽フィールドが上手く働かなかったんだ。今考えると、それも当然なんだけど。
   結局、僕は魔法で捕まって、未知のエネルギーを浴びたということで、インキュベーターのネットワークからも隔離された」

マミ「それが原因で感情が……?」

QB「おそらく、切っ掛けはそれだろう。彼らの魔法には、対象に感情を形成させる効果があるのかもしれない。
   それから一年間、僕はホグワーツで魔法界の文化や技術を学んだけど、結局、次の夏には"廃棄"――
   記憶共有ネットワークからの永久追放が決定された」

杏子「……それでか? 魔法少女の契約を仄めかさなくなったって言うのは、
   アンタがインキュベーターでなくなったからってだけ? はん! それまで散々人を化け物に変えておいて、
   いざ自分が群れから弾き出されたら何にもできないってわけ?」

QB「……」

マミ「……それは、多分違うんじゃないかしら」

878 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:31:42.35 s4cEiWrY0 479/755


杏子「違う? なにが違うって言うのさ」

マミ「さっきのキュゥべえ……その、インキュベーター? が言ってたけど、
   彼らにとって、エネルギーの回収は大切なことなんでしょう?
   なら、仲間外れにされたってその目的は変わらない筈よね? それとも、もう契約は出来ないの?」

QB「……契約のシステムは、個体そのものに搭載されている。当然、僕にもだ。
   通常のインキュベーターが効率を重視して素質のある二次性徴期の少女としか契約しないことを考えると、
  それを無視できる僕の方が、契約できる対象に関しては幅広いともいえる」

杏子「なら、なんでだよ。なんでアンタは契約しようとしない?」

QB「……僕にも、よく分からないんだ。でも、マミとは絶対に契約をしたくない。
   マミだけじゃない。僕らに関わりのある人間なら、誰だってそうなんだ……魔法少女にはしたくない」

杏子「……」

マミ「……佐倉さん、キュゥべえを放してあげて」

杏子「マミはこいつらを許すっていうのか? こいつらがしてきたことは聞いただろう?」

マミ「確かに"インキュベーター"がしてきたことは悪いことだと思う……
   私は当事者じゃないけれど、佐倉さんが"魔女"になるのは嫌だもの」

QB「……」

マミ「でも、"キュゥべえ"は……少なくとも、いまはもう違う。
   佐倉さんを魔女にしない為に頑張ってくれたし、なによりずっと私と一緒に居て、支え続けてくれている……」

杏子「……」

QB「マミ……」

マミ「佐倉さん。キュゥべえは私の"家族"よ。そして、全てを分かち合えなければ、家族とは言えないんでしょう?」

杏子「……」

マミ「もしも佐倉さんがキュゥべえを許せないって言うのなら、私もあなたの怒りを受け止めるわ。
   私はキュゥべえを守りたい。だから――」

杏子「えい」


 ドスッ

879 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:35:19.08 s4cEiWrY0 480/755


マミ「さ、佐倉……ひゃんっ!?」ビクッ

杏子「なんだよ、大げさだな。ちょっと腹を突いただけだろ。
    ……にしても、だらしないねえ。もうちょっと腹筋つけたら?」ムニムニ

マミ「ちょっ、や、めっ――なにするの、もう!」バッ

杏子「……ふん。まあ、これくらいで許してやるさ。マミの頼みだしな。
    安心しな。もう誰とも契約しないってんなら、別にやっちまおうなんて思わないよ」

QB「……佐倉杏子、君はそれでいいのかい?」

杏子「……まあ、あたしが助かったのもアンタのお陰だしね。
    マミは魔法少女のこと、な~んにも知らなかったみたいだし……」

マミ「う……思いっきりすれ違いしちゃってたもんね……
   佐倉さんの家に遊びに行く時は、魔法関連の話題はだせなかったし……」

杏子「ああ……そういや、キュゥべえ。さっきの奴、マミのことを変な風に呼んでなかった?
    えーと、なんだったっけ……」

マミ「突然変異、だったかしら? それって、たぶん魔法使いのことよね? どういうことなの?」

QB「……これは僕の推測だけど、魔法使いって言うのは魔法少女の亜種なんだと思う」

マミ「魔法少女の……?」

QB「ああ。僕らが有史以前から君たちの歴史に干渉してきたっていうのは覚えてるかい?
   そうして見てきた人類の進化の過程で、あんな超自然的な力をもつような存在が発生するとはとても思えない」

QB「おそらく、魔法少女の突然変異なんだろう。基本的に魔法少女の平均寿命は短いけれど、
   中には成人して、子を成すものがいなかったわけでもない。
   魔力を帯びた体で妊娠すれば、胎児にその影響が出る可能性はある」

マミ「それで生まれたのが、魔法使い……?」

QB「多分ね。魔法少女と魔法使い、両者の魔法を使うプロセスは似すぎているんだ。
   どっちも同じ、感情や精神のエネルギーを変換して超常現象を起こしている」

杏子「それじゃ、あたしもマミみたいな魔法が使えるの?」

QB「いや。突然変異の過程で、必要な素質は別のものになったんだろう。
   君みたいに魔法少女としての素質だけしか持っていない子の方が圧倒的に多い。
   もっとも、変異体――魔法使いの方は、同時に魔法少女の素質を持ってる子も多いみたいだけど」

マミ「どうして?」

QB「基本的に、魔法使いの素質は遺伝で継承されていくものだから、かな。
   分化したとはいえ、魔法使いは魔法少女に近しい。だから両方の素質を持つこともよくあるんだろう。
   反対に、魔法少女の素質は血筋に影響されない。するのかもしれないけど、魔法少女が出産することはほぼないからね。
   だから魔法少女自体は世代を重ねることがほとんどなく、突然変異のしようがない」

杏子「しゅ、出産って……おい。おい!」バシバシ

マミ「い、痛い痛い! やめて佐倉さん! ……えーと、つまり優性遺伝子とか劣性遺伝子とか、そんな感じってこと?」

QB「正確には違うけど、ニュアンスとしてはそう受け止めてもらって構わないよ」

杏子「……にしても、聞いた話だと魔法界ってのはずいぶんでっかい組織みたいだけど、
    アンタらはずっとそれに気づいてなかったわけ?」

QB「もしかしたら、魔法少女と混同していた可能性もある。
   初期の頃は、それこそ二次性徴期の少女に限らず片っ端から契約していたからね」

マミ「魔法史の授業では、昔は魔法使いもこっち側に混じって生活してたって……
   それを誤認してたってこと?」

QB「魔法少女の祈りや願いは、時として人類を次のステージへと導いてきたと今まで僕らは認識していた。
   だけど、もしかしたらその内のいくらかは魔法使いの手によるものなのかもしれないね」


880 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:37:48.80 s4cEiWrY0 481/755


杏子「……まあ、話は分かったよ。んじゃ、そろそろあたしは行くね」スクッ

マミ「そう? それじゃあ一緒に買い物に行きましょう。帰ってきたばっかりで、冷蔵庫の中身が空っぽなのよね」

杏子「は……? なんであたしが買い物に付き合わなきゃならないのさ」

マミ「あ、それもそうね。まずはお風呂に入って、ついでに着替えないと。
   私の服、貸してあげるわね。サイズは、まあ……とりあえず入ればいっか。
   どうせ新しくいくつか買わなきゃだし、その時ついでに――」

杏子「待て待て待て待て! だから、どうしてあたしがそこまで世話に――」


マミ「どうしてもなにも、佐倉さんは今日からここで暮らすんだから」


杏子「……はぁ!? なんで! き、聞いてないよそんなの!」

マミ「言ってないわね、そういえば。でも、別にいいでしょう? もう私達、家族なんだし」

杏子「いや、あれは物の弾みで……お、おい、キュゥべえ!」

QB「うん、なんだい?」

杏子『テレパシーで話すぞ……どうしたんだよ、マミ。ここまで強引な奴だったか?』

QB『……あのね、杏子。マミは君の家族の不幸を知ってから、物凄く君に執着してたんだ。
   事件のことが載った古新聞やら古雑誌やらをそこら中から掻き集めてくるし、毎晩泣き通しだったし……』

杏子『……そ、そうなのか? だってあたしら、一ヶ月ちょいくらいの付き合いだったんだぞ?』

QB『マミにとっては、それ以上の関係だったんだろう。その君がこうして無事でいると分かったら……ね?
   もともと、彼女は世話焼きな面が強いし……』

杏子『……や、そりゃ、あたしだってマミとまた会えたのは嬉しいし、ほとんど唯一の友達だけどさ……
    でも、だからってそこまで世話になるわけには……』

QB『……ちなみに、杏子』

杏子『あん?』

QB『たぶん君は知らなかったんだろうけど、マミもテレパシーは使えるよ』シラッ

杏子「……え? え!?」

マミ「――佐倉さん!」ダキッ

杏子「わぷっ!? むー! むー!」ジタバタ

マミ「そんな、一番の友達だなんて……でも嬉しい! 私も佐倉さんは大切なお友達よ!
   とにかく落ち着く先が見つかるまででも――ううん!
   ずっと一緒だって構わないわ! だって私達、もう家族なんですもの!」

杏子『放せ! 放せ! おい、この……キュゥべえ! なんでそれを先に言わないのさ!』

QB「聞かれなかったし……諦めなよ、杏子。無理に逃げ出しでもしたら、ミザリーみたいな展開になると思うよ。
   それもアニーが勝利して終わる結末で」

マミ「えへへ、佐倉さん♪ 佐倉さん♪」ギュウウウ

杏子『ミザリー!? なんだよそれ――あああああ! 分かった! 分かったからとにかく放せー!』

881 : ◆jiLJfMMcjk[sag... - 2013/06/10 23:40:41.41 s4cEiWrY0 482/755



 ガチャッ


さやか「ちぃーっす! さやかちゃんでーす! 学校終わったから遊びに来ましたー!
     いやーマミさんの帰る日を私達、心待ちにしてたんですよ!
     鍵開いてたし、何か中から声がしたからつい必殺"サプライズ・お邪魔します"しちゃいました……け、ど……」

杏子「むー! むー!」

杏子(だ、誰だ!? い、いやこの際誰でもいい! こいつ何とかしてくれ!)

マミ「――♪」ギュウウウ


さやか「……」

さやか(な、なんだこいつ? なんでマミさんとあんな情熱的な熱いホットな抱擁を……)


 ドタドタドタ


まどか「も、もう! 駄目だよ、さやかちゃん! 勝手に入ったら! めっ!
     うちのタツヤだって、最近はきちんとノックができるように――
     って、なんでさやかちゃん、手のひらで目隠しするの? これじゃ何にも見えないよ?」

さやか「見るな! まどかにはまだ早い! それよりイギリスって、そういうのOKな国だったっけ!?」

まどか「え? そういうのってどういうの? もー! 見せてくれないと何にも分からないよ!」

さやか「いいの! そのままのまどかでいて! そ、それじゃあ後は、アダルティーな二人に任せて……」

杏子「……ぷはっ! 待てこら! マミの知り合いなんだろ!? 行くんならこいつを引きはがしてから行け!」

さやか「りゃ、略奪愛!? そういう特殊な性癖はちょっと……!」

杏子「見滝原には馬鹿しかいないのかよ、おい!?」

まどか「え、誰? 誰、この声? 今、さやかちゃんが罵倒された気がする……!」

さやか「んー? なんであたし限定なのかなー? おかしーなー?
     背後を取ってるあたしの方が有利だって、お馬鹿なまどかちゃんには分からないのかなー?」ギュウウウウウ

まどか「いたたたた!? や、やめてよ、さやかちゃん! 目をぎゅってしちゃダメ!
     こんなの、さやかちゃんだってしたくない筈だよ……!」

杏子「ああああああああああああ! 馬鹿が増えた! 畜生やってらんねー!」

マミ「佐倉さぁん……♪」

【 炎のゴブレット編 】に続きます。

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