まどか☆マギカ × ハリー・ポッター クロスSS

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483 : >>1[saga] - 2013/03/18 22:45:32.05 Z6/BDJIP0 285/755

夏休み 見滝原 自宅


 見滝原市の夏は、暑い――

 これは、ヒートアイランド現象により首都で発生した熱風が吹きこむことが原因である。

 その為、首都のある南の方角に向けて一心不乱に呪いの電波を飛ばすのは、夏の見滝原でよく見られる風物詩だ。

 ここ、とあるマンションの一室でも、それに近い光景が見られた。

 一見、そこは何の変哲もないマンションの一室に見える。部屋の中央で、轟々と火が燃え盛ってさえいなければ。

マミ「……」

 そんな炎の前に立ち尽くす、十代前半の女の子。

 彼女の名は巴マミ。ホグワーツに通う、魔法使いの卵である。

 魔法使い――

 箒で空を飛び、大鍋で怪しげな薬を製造し、杖を振るって異常な現象を起こす。そんな胡散臭い存在。

 いまも彼女は部屋のど真ん中で燃え盛る炎を見つめながら、まるで未開部族のシャーマンがそうするように、
 そわそわと一定のリズムで体を揺らしていた。

 その腕の中には、白い猫のような生き物が丸くなって抱えられている。

 生き物の名前はキュゥべえ。これから捧げられる生贄のようにも見えるが、一応はマミの大切なペットである。

マミ「遅いわね……キュゥべえ、ちょっと炎の中に放り込むから、向こう見てきてくれる?」

QB「いや、絶対焼け死ぬよ。まだ繋がってないし」

マミ「馬鹿! やる前から諦めないで!」

QB「やっちゃったら後悔もできなくなるから言ってるんだよ……ちょっとねえ、何で僕をゆっくり振り上げてるの?
   マミ! やめるんだ! 背中を逸らすのを今すぐやめて! ど、動物愛護団体が黙ってないぞ……!」

 と、そんな風に騒いでいると。

 それまでも激しく燃えていた炎が、さらに激しく燃え上がった。さらにその色も、赤からエメラルド・グリーンに変じる。

マミ「繋がったわ!」ポイッ

QB「ぷぎゅっ」

 歓声。そして潰れたような悲鳴。

 そんな声に導かれたように、緑色の炎の中から人影が飛び出してくる。

 ふわりと部屋の中に着地したその人物に、マミはにっこりと笑って、

マミ「いらっしゃい、ハーマイオニーさん!」

ハーマイオニー「ええ、一日お世話になるわね、マミ」

484 : >>1[saga] - 2013/03/18 22:49:39.66 Z6/BDJIP0 286/755


見滝原市 和風喫茶



ハーマイオニー「……ふぅ、涼しい! 日本の夏……噂には聞いてたけど、本当に蒸し暑いのね……」

QB「マミの部屋の中が死ぬほどむわっとしてたのは、マミがカーテンを閉め切ってたからだけどね」

マミ「だ、だってご近所さんに見られたら言い訳できないから……」

ハーマイオニー「あのね、マミ。煙突飛行する時火をつけるのは、入る側の暖炉だけでいいのよ?」

マミ「し、知らなかったんだもの! まだ煙突飛行をした経験もないし……」

ハーマイオニー「まあ私も今回が初めてだし、"漏れ鍋"の暖炉から飛ぶ時、近くの人から聞いただけなんだけど……
          マミも飛ぶときには気を付けた方がいいわ、煤を吸い込まないようにするのがコツですって。
          大体のことは、持ってきた煙突飛行粉(フルー・パウダー)についてる説明書に書いてあると思うけど」

マミ「ごめんなさい、わざわざ持ってきて貰っちゃって……」

ハーマイオニー「いいのよ。おかげでこうやって日本にもこれたし……
          そういえば知ってる? ロンも宝くじが当たって、エジプトに行くんですって」

マミ「初耳ね。そう、エジプト……いいなぁ、ピラミッドとか見てみたいわ。
   ハーマイオニーさんって、ロンくんとお手紙のやり取りとかよくするの?」

ハーマイオニー「そこそこね。ハリーは夏休みの間、ご家族にふくろうを使うの禁止されてるみたいだから……
          そういえばマミは夏休み、どこかへ行ったりしないの?」

マミ「夏休みはここで過ごすつもり。そもそも、一年のほとんどをイギリスで過ごしてるしね」

QB「それにしても、ロックハートも抜けてるよねぇ。暖炉だけ送って、肝心のフルー・パウダーを忘れるなんて」

マミ「こら、駄目でしょ、キュゥべえ? ロックハート先生にはただでさえお世話になってるのに!
   そんな、ご好意に甘えるような……好意……好意……えへへ」

ハーマイオニー「……マミやハリー、ましてやロンにまでプレゼントが送られてきてるのに、なんで私には……!」ギリッ

マミ「え、や、だからほら、怪物退治の時、危ない目に遭わせちゃったお詫びじゃないかしらっ。
   お詫びって言っても、ハリーくんはともかく、私とロンくんは勝手についていっちゃっただけらしいけど」

ハーマイオニー「あなた達、ショックで何も覚えてないのよね……うう、でも羨ましい……
          ロックハート先生、芸能活動もやめちゃうし、本は絶版になっちゃうし……」

マミ「ま、まあまあ! ほら、冷たいものでも注文しましょう? あ、メニュー読めないわよね。
   私の翻訳指輪貸してあげるわ!」

ハーマイオニー「え、これをはめるの? ……わあ! 日本語が読めるようになった!
          凄いわ! これならいろんな国の本が読める!」

マミ「ふふふ、ハーマイオニーさんらしいわね」

QB「道具の使い方ひとつとっても品性が表れるなぁ。
  何だっけ? 前に誰かさんは『これがあれば英検もTOEICも楽勝じゃない……!』とか言ってたけど」

マミ「すみませーん。煮えたぎった飴湯くださーい」

485 : >>1[saga] - 2013/03/18 22:54:50.00 Z6/BDJIP0 287/755


ハーマイオニー「……んっ、このアンミツっていうの凄く美味しいわ! マッチャも紅茶にない苦みが新鮮だし……
          これが"ワビサビ"というやつね!」

マミ「気に入ってもらえて良かったわ。紅茶やケーキは本場に敵わないだろうから、
   思い切って純和風で攻めてみたのだけど……」

QB「ここ数日、良いお店を探すって言って食べ歩き三昧だったもんねえ……
   店員が変な目で見てたよ。一見ひとりなのに二人分注文するから、"あらあら、見た目によらず大食漢ねえ"って」

マミ「な、な、な! キュゥべえが食べたいって言うから注文したんじゃない!」

QB「それは素直にありがたいけど、そういう風に見られてたものは仕方ないじゃないか。
   僕が悪いわけじゃないし……あー、クーラーの効いた場所で食べるお汁粉はまた格別だ」

マミ「きー! 飲み食いしたお菓子吐きなさい!」

ハーマイオニー「ふふ……相変わらず仲がいいのね。私もペットを買う時は猫にしようかしら?
          それに、ありがと。お店を探してくれたみたいで」

マミ「……どういたしまして」

QB「マミ、風邪かい? 顔が真っ赤だけ――きゅっ!?」



486 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:01:21.49 Z6/BDJIP0 288/755

マミ「さて、お腹も膨れたことだし、これからどうしましょうか? ハーマイオニーさんはどこか行きたいとことかある?」

ハーマイオニー「うーん、そうね……来る前に、この辺のことは本で読んできたのだけど――」

QB「さすがだね、ハーマイオニー」

ハーマイオニー「ありがとう、キュゥべえ……でも、この辺りには魔法生物の群生地とかってないのよね。
          だから今までふくろう便とか煙突飛行ネットが通ってなかったんだし。
          河童とかは、もっと西の方に行かないといないみたい」

マミ「カッパ!? カッパって本当にいるの!?」

ハーマイオニー「いるわ。というか、日本が原産よ。来年度の授業で習うと思うわ……
          だから今回は魔法抜きで、マグル――普通の日本文化が見学できれば、って思うんだけど」

QB「うーん、でもそれだと見滝原は向かないかもね。ここって、かなり急速に発展してる街だから。
   寺とか神社とか、そういう"和風"な部分ってあんまりないと思うよ。もちろん、皆無じゃないだろうけど」

マミ「流石に、京都とか程じゃないわよね……ごめんね、ハーマイオニーさん」

ハーマイオニー「あら、どんな場所にだって、見るべきところはあるわ。
          むしろ有名なキョウトにない部分を見れるんだから、得ってものじゃない?」

マミ「ハーマイオニーさん……」

QB「彼女がそういうんだ。じゃあ、見滝原の中心部を見て周ろうか?
   かなり前衛的な都市構造だから、一日くらいなら見飽きるってこともないだろう」

487 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:07:08.68 Z6/BDJIP0 289/755


ハーマイオニー「ミタキハラって、凄く未来的な建物が多いのに、緑も負けないくらい多いのね。
          ふふっ、ここの通りなんか、散歩コースに最適じゃない」

マミ「でしょう? 自慢の通りなのよ。この辺は夏でも涼しいし……」

QB「でも、無計画な緑化は後々の憂いに繋がるんだけどね」

マミ「え?」

ハーマイオニー「どういうこと?」

QB「例えばこの街路樹。今は植えられたばかりだからいいけど、このまま成長すると通行の妨げになる程大きくなるんだ。
   とりあえず植えればいい、って考えで、種類の選定が杜撰だったんだね。
   他にも災害時の救助活動とかには支障をきたすだろうし……そもそも枝が折れて落ちたりすると、それ自体危ない」

マミ「そ、そんなの枝を切っちゃえばいいのよ!」

QB「それをするのにもお金がかかる。最初から想定しておけば、税金を無駄にせず済んだのにね」

ハーマイオニー「なるほど……そこまで考えなきゃいけないのね」


◇◇◇


マミ「ここが、見滝原のちょうど中心。モール街なんかが立ち並んでて、ショッピングには不自由しないの」

ハーマイオニー「ほんと凄いわ! イギリスの本場モール街に勝るとも劣らないくらい!
          ショーウィンドゥを眺めてるだけで目移りしちゃいそう」

マミ「本場? モール街ってイギリス発祥の言葉なの?」

ハーマイオニー「発祥ってことはないでしょうけど、イギリスでモール街っていったら
          ロンドンにあるセントジェームズ公園の傍の通りを指すの。
          お店がたくさん並んでて、観光客もいっぱいいるわ。マミもロンドンにくることがあったら、ぜひ寄ってみて!」

マミ「ええ! もちろん――」

QB「まあ、イギリスのThe Mallはともかくとして、この見滝原は無計画な開発で歪が大きくなってるんだけどね。
   中心部から少し離れるとゴーストタウンみたいになってる場所もあるし。
   商圏がころころ変わるから、それで投資をしくじったって人もかなりいるはずだ」

マミ「え、あう……」

ハーマイオニー「……そうね。新しいものを取り入れるのはいいけど、古いものも大事にしないといけないわよね」


◇◇◇


ハーマイオニー「あの辺り、凄くいっぱい風車があるのね……なんの為かしら?」

マミ「えーっと……」

QB「風力発電の実験場さ。あくまで実験場だから、これだけで電力を賄えているわけじゃないけどね。
   そもそも風力発電自体が需要と供給の原則を満たしにくい発電方法ではあるんだけど」

ハーマイオニー「でも、こういう実験は大切だと思うわ。技術が発展して問題が解決されるかもしれないし、
          仮に失敗でもそこから得られるデータは無駄じゃないもの」

QB「その考え方も一理ある。僕からしてみると、酷く原始的で無駄が多いんだけどね」

マミ「……」

489 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:11:05.39 Z6/BDJIP0 290/755


QB「あそこのビル群は強度不足だ。もしも凄い嵐なんかが来たら、真ん中から――」

マミ「わ、わああああああーっ!」ガバッ

QB「きゃあ、マミがバグった! こ、これだから感情は精神疾患だっていうんだ!」

ハーマイオニー「違うのキュゥべえ! マミは去年の事件で心に傷を! ああ、どうしようマダム・ポンフリーがいらっしゃらないわ!
          そ、そうだ! 何かで読んだことがあるけど、日本ではこういう時黄色い救急車を呼ぶって!
          でも救急車って普通は黄色よね? まあとにかく、はやく999に電話を――」

マミ「違うわ! べ、別に錯乱したわけじゃないったら!」

ハーマイオニー「え、違うの? じゃあ、一体なんで……」

マミ「ぐすっ、だ、だって、キュゥべえとハーマイオニーさんが凄い難しい話してて……
   わ、私、全然ハーマイオニーさんの役に立ててないから――」

ハーマイオニー「マミ……」

ハーマイオニー(ほんとのこと言うと、これはこれで凄く勉強になるから、全然気にしなくていいのだけど……
          でもあれよね? それを言うのは野暮ってものよね?)

QB「マミ……」ポンポン

マミ「キュゥべえ……なぐさめてくれるの……?」

QB「君、凄く面倒くさい」

マミ「……え」

ハーマイオニー「ちょ、キュゥべえ!?」

QB「典型的な"面倒くさい女"じゃないか。OL50人にアンケートとったら嫌われてそうな感じの――」

マミ「う、うわああああああん!」ビシィッ

ハーマイオニー「ま、マミ! ちょっとこら、何で杖なんか持ち歩いて――しまいなさい! すぐにしまいなさい!
          こんなとこで魔法なんか使ったら大変なことになるわよ!」

マミ「は、放して! 刺し違えてでも、キュゥべえと決着つけてやるんだから……!」

QB「きゅぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」

ハーマイオニー「もう、マミったら抑えて――キュゥべえが聞いたこともないような邪悪な笑いを!?」


490 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:15:44.97 Z6/BDJIP0 291/755



マミ「――というわけで、これからは私がお勧めスポットを紹介するわ」

QB「わー。どんどんぱふぱふー」

マミ「なんか心底腹が立つリアクションだけど……いいわ。私だって、高尚な案内くらいできるんだから!
   吠え面かかせてあげる! キュゥべえなんて、にゃんにゃん鳴いてればいいのよ!」

ハーマイオニー(どうしよう、何か一年生の頃を思い出す不安さ加減なのだけど……)



◇◇◇



マミ「ここのお総菜屋さんはメンチカツがお勧めよ! 揚げたてを買おうとすると、こうして並ばなきゃいけないの!
   あ、おばさん! 三つ下さい! メンチカツ三つ! ソースも!」

ハーマイオニー「……美味しい! 揚げてあるのに全然油っこくないわ! それでいてジューシーだなんて!」

QB「なるほど、確かにこれは並ぶだけの価値があるね」



◇◇◇



マミ「このスーパーの駐車場敷地内にある焼き鳥屋さん、つくねが凄く美味しいのよ!
   つくねって言うのは、ええと、鶏肉のハンバーグってとこね。おじさん、2本下さい!」

ハーマイオニー「んー……確かに、この独特の香ばしいソースは食欲をそそるわね」

QB「素材の味を活かすには塩一択だね」



◇◇◇



マミ「ここのタイ焼き屋さんは、縁日でもないのにじゃんけんに勝つと一個おまけしてくれるのよ。
   じゃんけんぽん! 勝った! はい、ハーマイオニーさんの分。クリームでいいかしら?」

ハーマイオニー「……」モグモグ

QB「……」モグモグ


491 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:18:31.39 Z6/BDJIP0 292/755


マミ「次。ここのケーキ屋さんはお店の中で食べることも――」

ハーマイオニー「……けぷっ。失礼。ストップ。ストップよ、マミ。落ち着いて」

マミ「? ケーキの気分じゃなかった? じゃあラーメンでも」

ハーマイオニー「あのね、そういうことじゃくて」

QB「マミ、君がさっきから案内してるの全部食べ物屋さんじゃないか。高尚(笑)な案内はどこに行っちゃったんだい?」

マミ「……あら? へ、変ね?」

QB「いいけどね。所詮はマミだし……でも女の子として恥ずかしくないのかな?
   ああ、これが色気より食い気って奴か。我が身を賭してことわざを教えてくれるなんて、ある意味高尚かも――」

マミ「こ、これはほんの小手調べよ! 腹が減っては戦は出来ぬっていうでしょ!?
   次こそ、凄いとこに案内してあげるから……!」

ハーマイオニー「マミ、無理しなくても……」

マミ「は、ハーマイオニーさんまで……うう、見てなさい! 本当に凄いところに連れて行くわよ!」


492 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:22:01.03 Z6/BDJIP0 293/755


県庁前 県民広場


マミ「――そんなわけで、見なさい! あれが県庁よ!」

ハーマイオニー「……うん」

QB「……そうだね。県庁だね。大きいね」

マミ「……あ、あら? 何か期待してた反応と違う……
   ほら、政治の機能が集中してて、凄く難しい話し合いをしてる、高尚な場所で……」

QB「いいよ、マミ。僕が悪かった。人類が誕生してからの英知全てを詰め込んだ僕と、
   ただの女子中学生じゃあ勝負にならないことは自明の理だったのに」

マミ「な、何よ。それじゃあ私がキュゥべえに負けたみたいじゃない!」

QB「よく考えたら君、地元についての勉強って小学校でやってそれっきりだもんね……
   ほんと、僕が大人げなかったよ。ほら、帰ろう? ね? ケーキ食べるくらいなら付き合うから――」

マミ「……うぃ、うぃんがーでぃあむ……!」

ハーマイオニー「ああああ! ほ、ほら、マミ! なんかあっちの建物でイベントやってるみたいよ!
          私、あれが見てみたいわ! でも入り方とかよく分からないし、どうすればいいのかしら!?」

マミ「……! 本当!? それじゃ、入れるかどうかちょっと見てくるわ!」ダッ

ハーマイオニー「……ふぅ。なんとか凌げたけど……もう、キュゥべえ。なんであんな煽るようなこと言うのよ?」

QB「真面目に謝ったつもりなんだけどなぁ」



494 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:25:46.28 Z6/BDJIP0 294/755

会館内


ハーマイオニー「へえ……外はシックなレンガ造りだったけど、中はそうでもないのね?」

QB「改修工事が行われたんだろう。外の様式を見る限り、昭和初期に造られたようだし」

マミ「お待たせ! 2階のホールで演奏会やってるみたい。入場料もいらないし、勝手に入れるみたいよ?」

ハーマイオニー「それじゃ行きましょうか。空調の効いてる場所で涼めるだけでもありがたいし」

QB「そうだね、早速――……」

マミ「? キュゥべえ、どうしたの?」

QB「あー……悪いけど、僕は少し外を歩いてくるよ。食べ過ぎたみたいだ」

マミ「え……ちょっと、大丈夫?」

QB「大したことないよ。ただクーラーでお腹が冷えると大変そうだから、外の木陰で休んでる。
   マミとハーマイオニーだけで行っておいで」

マミ「キュゥべえがそう言うなら……でも、駄目そうだったらテレパシーで伝えてね?」




495 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:26:39.40 Z6/BDJIP0 295/755



2F ホール内


マミ「キュゥべえ、大丈夫かしら……でも、いつもあれくらい食べてるわよね……」ブツブツ

ハーマイオニー「……ふふっ」

マミ「あら、どうしたのハーマイオニーさん?」

ハーマイオニー「ごめんなさい。でも、さっきまで売り言葉に買い言葉で喧嘩してたのに、
          こうして別れた途端に心配しだすものだから、つい」

マミ「な! そ、それは、か、飼い主としての責任がね!?
   そ、そうよ! だってマクゴナガル先生からプレゼントしていただいたものだし――」

ハーマイオニー「ほら、ホールではお静かに? 次の演奏が始まるわよ?」

マミ「ううー……」


『続きまして、ヴァイオリン独奏。上条恭介さん。曲目は――』


496 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:29:13.63 Z6/BDJIP0 296/755


演奏会終了後 2F ホール前



ガヤガヤガヤ ザワザワザワ


マミ「……うーん! 背筋が固まっちゃったわ。ずっとぴしっとした姿勢でいたから……」グイッ

ハーマイオニー「どの演奏者も真剣だったものね。音楽ってあまり聞かないけど、今日のは良かったわ。
          それに、私たちと同い年くらいの男の子がいてびっくりしちゃった」

マミ「あれは驚いたわねぇ……あの歳で、周りの大人とタメを張れるくらいの演奏をするんですもの」

ハーマイオニー「……そういえば、私達も浮いてたわね。周りの観客、みーんな大人ばっかりで」

マミ「ま、まあ土曜日とはいえ、日本の学校はまだ夏休みじゃないし……そもそも、休みの日に演奏会にくる子供って中々いないわよ。
   いるとしたら、それこそ関係者くらいじゃ――」



さやか「うわー、げぇじんさんだ。げぇじんさんだよ、まどか! 舶来ものだ!」

まどか「さ、さやかちゃんやめて! 恥ずかしいよ! さやかちゃんという存在そのものが!」

さやか「なんだよぅ、ちょっとした冗談じゃんか――あれ。まどか、今なんつった? 黙ってはいなかったよね?」

まどか「さーてーろーやーりー♪」

さやか「それで誤魔化せると思っているのか! うりゃー!」ガバッ

まどか「きゃ、ちょ、あははは! さやっ、やめっ! きゃははは!」

497 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:33:18.71 Z6/BDJIP0 297/755


ハーマイオニー「あれも、関係者?」

マミ「あ、あはは……たぶん、そうじゃないかしら」

ハーマイオニー「それにしては、随分と落ち着きがないようだけど……というか、危ないわよ。
          あんな風に、人が大勢いるホールではしゃいだりしてたら――」


ドン!


聴客3「っと、悪いね」スタスタスタ

さやか「わっ、とっと! 危ねー。やー、悪い悪い。まどか、平気?」

まどか「さ、さやかちゃん! 足元――」

さやか「へっ?」


ぐらっ


さやか「わ、わ、わ!」

まどか「さやかちゃん!」

マミ(いけない。あのままだと階段に頭から――この高さから落ちたら……!)

ハーマイオニー「危な――」

マミ「っ」バッ


マミ「――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!(浮遊せよ)」


499 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:33:58.64 Z6/BDJIP0 298/755


ふわっ


さやか「く、ぬううううう! 落ちてたまるかぁ!」ジタバタ

ハーマイオニー「マミ!? あ、あなた何てことを……!」

マミ「い、いいから早く引き上げてきて!」

ハーマイオニー「……っ」ダッ


さやか「あ、何かいける! いけるぞ! 全く落ちる気配がない! 流石さやかちゃんトゥー!
     さあ頑張れさやかちゃんレッグ! お前の力を見せてみろ……!」


ぐいっ


さやか「あ、助かった。ありがとう、まどか――」

ハーマイオニー「これでよし。マミ!」ダッ

さやか「あれ、さっきの外人さん? ていうか無視? いやでも助けてくれたから無視じゃなくて……」ブツブツ

まどか「さやかちゃん! 良かった、落ちなくて……!」


500 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:34:46.11 Z6/BDJIP0 299/755


ハーマイオニー「マミ! あなた、いま魔法を!」ヒソヒソ

マミ「と、咄嗟に動いちゃって……」

ハーマイオニー「咄嗟に動いちゃって――って、あなただって規則のことは知ってるでしょう!?
          幸い、あの子が自力で何とか耐えた形に見えたけど……ああ、どうしましょう。たぶん、すぐに――」


ひらっ


マミ「手紙……?」ガサガサ



『トモエ殿。

今日16:37分、貴女の住まい近郊にて『浮遊術』の使用が確認されました。

知っての通り、卒業前の未成年魔法使いは、学校の外での魔法使用を禁じられております。

今回は警告のみとなりますが、貴女が再び魔法を行使すれば、退校処分となる可能性があります。

規則を守り、正しく休暇を楽しまれますよう。

魔法省 魔法不適正使用取締局――』



501 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:36:49.66 Z6/BDJIP0 300/755



マミ「あ、あはは。やっちゃったわ……」

ハーマイオニー「笑い事じゃないわ! あなた退学になるところだったのよ!
          そうしたら杖を折られちゃって、もう二度と魔法が使えなくなるんだから!」

マミ「で、でも今回は警告で済んだわけだし――」

ハーマイオニー「何甘いこと言ってるの! ハリーとロンに毒されたのかしら!? 
          きっとこれからはさらにチェックが厳しくなるわ! ああもう、ほら杖を持ち歩くの禁止よ! 貸しなさい私が持ってるから!」

マミ「うう、ハーマイオニーさん、怖い……」

ハーマイオニー「怒りもするわよ! そりゃ、マミのしたことは立派ですけどね、退学になったら元も子もないじゃない!
          まったく! 本当にマミはまったく!」


さやか「あ、あのぅ……ちょっといいですかね?」

ハーマイオニー「なに!? ……って、あら。さっきの」

さやか「いやー、あはは。助けて貰っちゃったみたいで。っていうか日本語上手っすね」

まどか「あ、あの! ありがとうございました! さやかちゃんを助けてくれて……」

ハーマイオニー「お礼なら、こっちのマミに言いなさい」

マミ「は、ハーマイオニーさん?」

さやか「へ? いやだって、助けてくれたのは……」

ハーマイオニー「……あなたが危なそうだって、マミが教えてくれたの。でなければきっと間に合わなかったわ」

さやか「あ、そういうことですか。じゃあえーと、マミさん? どうもありがとうございました!」

マミ「……ううん、どういたしまして。でも、気を付けてね? 階段の近くでふざけちゃ駄目よ」

さやか「はい、気を付けます……ところで、珍しいですね。そっちの外人さんもそうですけど、
     こんな小さな演奏会にわざわざくるなんて。出演者の知り合いとかですか?」

502 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:37:54.49 Z6/BDJIP0 301/755

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さやか「へえー、外国の友達に観光案内を……」

まどか「凄いですね、マミさん。私たちの一個上なのに、留学だなんて……」

マミ「そんな、大したことないわ……お陰で、こっちにはあんまり知り合いもいないし」

さやか「でも明日はこっちの友達に会うんですよね。くぅー、羨ましいなぁ! まさに青春、って感じで!」

まどか「さやかちゃん、また変なこと言う……」

ハーマイオニー「驚いたといえば、さっきヴァイオリンを演奏してた男の子、サヤカの幼馴染って本当?
          結構タイプが違う気がするのだけど」

さやか「あれ、もしかしてさやかちゃんには高尚な音楽なんて似合いませんよー、って暗に言われてる?
     くっ、さすが外人。思ったことずばずば切り込んでくるね。まどか、こういうのなんていうんだっけ!?」

まどか「慧眼、っていうんだよ」

さやか「なるほど! お姉さん、あたしにクラシックが似合わないと思うとか、超慧眼っすね!
     ……まどか、本当にこれ合ってる?」

まどか「あははは……冗談はともかくとして、さやかちゃんは上条君と仲いいから、意外にクラシック詳しいんですよ」

さやか「冗談? いやその前に"意外に"とか言ったよねまどか?」

ハーマイオニー「なるほど、確かに意外だわ」

さやか「外人さんまで!? お前ら本当に慧眼ですね!?」

マミ「くすっ。いいコンビみたいね?」

さやか「まあ、まどかとも長いですからね……しかしあたしを癒してくれるのはマミさんのみだー!」ダキッ

マミ「きゃあ! ちょっと、また落ちそうになっちゃうわよ?」

503 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:38:35.78 Z6/BDJIP0 302/755


仁美「さやかさーん! まどかさーん!」

さやか「お、仁美だ」

マミ「彼女も、お友達?」

さやか「ええまあ。恭介つながりで……今回の演奏会の開催元、仁美の家が関係してるみたいで、
     仁美のやつ、無理やり関係者席に座らされてたんですよ」

まどか「仁美ちゃんとも一緒に座りたかったなぁ……さやかちゃん、上条君以外の人の演奏の時寝ようとするんだもん」

ハーマイオニー「ふふ……それじゃあお友達も来たみたいだし、私達もお暇しましょうか?」

マミ「ええ、そうね……っていうか、もうこんな時間! 夕飯の買い物に行かないと!」

さやか「あー、恭介にも紹介しようと思ってたんすけど、でも手伝いがあるなら仕方ないっすよね。
     んじゃあ、またどっかで会うことがあれば!」

マミ「ええ、その時はよろしくね?」



504 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:41:19.60 Z6/BDJIP0 303/755

仁美「はあ、全くお父様ったら、座る席くらい選ばせてくれても……
    お待たせして申し訳ありません、さやかさん、まどかさん」

さやか「いいっていいって! 仁美にも事情があるんだしさ! それに待ってる間も退屈じゃなかったし」

仁美「そうですか? それなら良かったですけど……そういえば、さっき別の方々とお話してましたわね?
    外国の方みたいでしたが、お知り合いですか?」

さやか「いや、さっき知り合いになったばっか」

まどか「マミさんとハーマイオニーさんっていうんだよ。イギリスの学校に通ってるんだって」

仁美「マミ……? それってもしかして、巴マミさんですか?」

さやか「うん、そうだけど――あれ、もしかして仁美の知り合い?」

仁美「いえ、ちょっとした事情があって、こちらが一方的に知っているだけです」

さやか「えー、気になるなぁ。教えてよ」

仁美「……あまり、気分のいい話ではありませんので」

さやか「え? それってどういう――」

まどか「ま、まあまあ! それよりほら、みんなで上条君に会いに行くんでしょ?」

仁美「あ、ごめんなさい。そのことなのですけど、批評のようなものがあって少し時間がかかると。
    終わったら、私の携帯に連絡がくるそうです」

さやか「マジですかー……それじゃあ、明日何して遊ぶか考えよう!」

まどか「もう! さやかちゃんったら遊ぶことばっかり! もうすぐ夏休みなんだから、いくらでも遊べるよ」

さやか「夏休みは宿題があるじゃんか! さっきのマミさんも宿題大変って言ってたし!
     まどかはあたしがイギリスに留学したらどうするつもり!?」

まどか「そんなの、とっても寂しいよ……」

さやか「まどかー!」ダキッ

まどか「もう、さやかちゃんったら……ちなみに、ねえ仁美ちゃん。
     さやかちゃんがイギリスに留学するような事態を心配する気持ち、なんていうんだっけ?」

仁美「杞憂、と申しますわ。昔の中国の国名である杞という字に、憂いと書きますの」

さやか「おお、字的に凄く心配されてる感が! そうだよね、あたしがイギリスに留学とか、凄い杞憂だよね!」

まどか(かわいい)

仁美(ぞくぞくしますわ)


505 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:42:52.51 Z6/BDJIP0 304/755

さやか「いやー、でもさ。やっぱり留学はいいや。こっちの友達に会えなくなるもん。
     マミさんも、こっちに帰ってこれるのはこの二ヶ月だけって言ってたし」

まどか「そうだね……でも、向こうで友達を作れたら楽しそうだけど」

さやか「確かにねー。っていうか、マミさんって凄いグローバルな人だな。
     今日はイギリス人、明日は教会のシスターと遊ぶんでしょ? すっげえよほんと」

まどか「別にシスターとは言ってなかったけど……」

仁美「あの、シスターって……?」

さやか「あー、ごめんごめん。さっきマミさんと話してた中で出たんだよ。
     明日、知り合いの教会に遊びに行くって言って――」

仁美「……」

まどか「ひ、仁美ちゃん……?」

さやか「どしたのさ。そんな怖い顔しちゃって」

仁美「……さやかさん。覚えていらっしゃいませんか? 今年の初め、ニュースになった――」

さやか「へ? いや、お正月は特番ばっかみてたし……」

仁美「かなり大きく報道されたので、知らないということはないかと……」

まどか「……あ! も、もしかして……え、でも、そんな」

さやか「え、なんだよー。まどかと仁美ばっかりずるいぞ!」

まどか「ご、ごめんね……で、でもそんなのって……ねえ、仁美ちゃん。そうとは限らないんじゃ……」

仁美「見滝原近辺に、教会は一か所しかありませんわ」

まどか「そんな……」

さやか「あーもー! あたしにも教えろってばー!」

仁美「……さやかさん。とある教会を運営する一家が、無理心中したというニュースを聞いたことは?」

さやか「ああ、あのニュースか。それなら早く――え、待ってよ。ってことは、マミさんが遊びに行こうとしてる家って……」

仁美「……おそらくは」

506 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:44:59.12 Z6/BDJIP0 305/755

さやか「で、でもさ! それなら家族が止めるでしょ! だってすっごいニュースだったじゃん!
     いやあたしは忘れてたけどさ、でも馬鹿さ加減においてあたしの右に出る者はいないよ!?」

まどか「そ、そうだよね……やっぱり、別の教会なんじゃ」

仁美「……先ほど、私は巴マミさんを一方的に知ってると言いましたが、それには事情がありますの」

さやか「……なにさ」

仁美「……数年前、見滝原で車の玉突き事故が起きました。
    ガソリンに連鎖的に引火したという酷い事故で……ですが一人だけ、その状況から無傷で助かった女の子が」

まどか「もしかして、その女の子が……」

仁美「……ええ。その後、小さいながらに外国の学校へ留学したと聞きいたので覚えていたのです。間違いはないでしょう」

さやか「で、でもさ、それとこれとなんの関係が――」

仁美「さやかさん。私は車の事故で、"一人だけ"助かったと言ったのですわ」

さやか「あ――も、もしかして、その時に家族が?」

まどか「そういえばマミさん、買い物に行くって……お手伝いじゃなかったんだ……」

さやか「う……わ、悪いこと言っちゃったかな」

まどか「知らなかったんだし、仕方ないよ……」

さやか「……」


507 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:46:01.30 Z6/BDJIP0 306/755


夜 自宅 寝室


ハーマイオニー「ふう! お腹一杯……日本の料理は美味しいのね。それとも、マミの腕がいいのかしら?
          キュゥべえも喜んで食べてたし……」

マミ「ふふ、これでも帰ってる間は毎日自炊してるから、ちょっと自信あるのよ?
   さ、お風呂にも入って歯磨きもしたし、もう寝ましょうか?」

ハーマイオニー「……今更だけど、本当に泊まって良かったの? 迷惑じゃない?」

マミ「全然よ! わざわざイギリスから来てくれたんだし、おもてなしするのは当然だもの。
   ……それに、キュゥべえがいるけど、それでもひとりは寂しいの」

ハーマイオニー「こっちにお友達とかはいないの?」

マミ「ひとりだけ……でも、お手紙書いても返事がないのよねぇ……お土産の賞味期限も気になるし、明日伺うつもりだけど。
   日曜なら、ミサで教会の手伝いをしてる筈だから」

ハーマイオニー「ああ、昼間、サヤカ達との話で話題に出した……サクラだっけ?
          マグルの友達なら電話すればいいし、わざわざ手紙を書くってことは魔法使いなの?」

マミ「ええ、そうよ。そういえば美樹さん達と同じ歳だったかしら? だけど凄く強い魔法使いで、もう働いてるのよ。」

ハーマイオニー「へえ、それは凄いわね……あら? でも未成年の魔法使用は禁じられてる筈……」

マミ「……そういえば、そうね? でもお仕事してるんだし、特別に許可か何かがおりてるんじゃないかしら?」

ハーマイオニー「まあ、違法なことだったら魔法省が対処してる筈だものね……ちなみに、何の仕事をしてるの?」

マミ「佐倉さんは、ゲルゲルムントゾウムシハンターなの」

ハーマイオニー「……え?」

マミ「ゲルゲルムントゾウムシハンター」

ハーマイオニー「……寝ましょうか。マミ、疲れてるみたいだし」

マミ「そう? 確かに、今日はいっぱい歩いたけど……それじゃ、電気消すわね」
















数十分後



マミ「Zzzzz....」

ハーマイオニー「……眠れない。時差ボケね。ちょっと風にでも辺りに行きましょう」ムクリ

508 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:47:40.19 Z6/BDJIP0 307/755

ベランダ


カラカラ

ハーマイオニー「ふう。流石に夜の風はまだ涼しいわね……マンションの上の階っていうのもあるんでしょうけど」

QB「やあ、ハーマイオニー。君も涼みに来たのかい?」

ハーマイオニー「あら、先客がいたのね。私はちょっと時差ボケでまだ眠くないだけ……」

QB「ああ、そうか。そうすると、明日は何時に向こうに戻るの?」

ハーマイオニー「こっちの時間で朝の6時に戻れば向こうは夜の9時よ。そこで寝なおすつもり。
          キュゥべえはいいの? 明日、遊びに行くんでしょう?」

QB「僕はついて行かないよ。今までも、そのマミの友達と会ったことはないからね」

ハーマイオニー「そうなの? 魔法使いだっていうから、てっきりキュゥべえのことも知ってるかと思ったわ」

QB「……僕としては、あんまりあの子と仲良くなってほしくはないんだけどね」

ハーマイオニー「……珍しいわね。キュゥべえがそういうこと言うなんて。
          なにか理由でもあるの?」

QB「いや……ただマミの友達には君やハリー達の方がいいだろうと思っただけさ」

ハーマイオニー「……そう言ってくれるのは嬉しいけど。
          私もこうして友達の家に泊まるのは初めての経験だし、マミとは友達でいたいと思うわ」


QB「……その言葉を信用していいのなら、ねえ、ハーマイオニー。
  できれば、ずっとマミの友達でいてやってくれないかな」

509 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:50:06.76 Z6/BDJIP0 308/755


ハーマイオニー「それは、そのつもりだけど……どうしたの、急に?」

QB「……マミの両親のことは知ってるよね?」

ハーマイオニー「ええ、前に聞いたわ……」

QB「あの事故でマミは心に傷を負った。そりゃそうさ。当時、マミはたった11歳の女の子だったんだ。
   僕がペットとしてこの家に来たばかりの頃は酷いものだった。
   昼はまだしも、夜はね。もうどうしようもなかった。僕が傍にいて何か話してないと、ベッドの中にいることもできなかったくらいさ」

ハーマイオニー(そういえば一年生の頃、一人で寝るのが苦手って言ってたっけ……)

QB「これは僕の想像なんだけど、当時、マミの周りには頼れる大人が誰もいなかったんじゃないかな。
   マミがホグワーツに入学するにあたって、戸籍や学校関連の情報を魔法で改竄した。
   これはマミが知らない話だけど、その魔法はマミの戸籍を"マミがそう望むように"改竄したんだ」

ハーマイオニー「マミが、望むように?」

QB「そうだ。おかしいだろう? 普通なら、親族の誰かが親代わりになる筈なのに。
   なにがあったのかは知らないけど、マミにとって信頼できる親族というのは存在しなかったんだ。
   マクゴナガルやフィルチに懐いているのは、そんな時期に優しくしてくれた親族以外の大人だからだろう」

ハーマイオニー「……そういう言い方は、失礼だと思うわ」

QB「ああ、ごめんよ。とにかく、そういうわけでさ。マミには信頼できる人が極端に少ないんだ。
   特に、夏休み中はね。こっちには知り合いもいないから……」

ハーマイオニー「あなたがいるじゃない」

QB「僕はほら、いずれ猫の王国を拓き築くという野望があるからさ。
   きっと、ずっとは友達でいられない」

ハーマイオニー「……」

QB「頼むよ。あの通りの性格だから、傍に誰かがいないと不安なんだ。
   僕がこういうことを思うなんて、それこそ僕自身思ってもみなかったことだけど」

ハーマイオニー「……中に、戻るわ」

QB「……」

ハーマイオニー「あのね、キュゥべえ。そういう話はしないものよ。とくに友達になってくれ、なんて話はね」

QB「……悪かったよ。こういうことに関しては、まだ不得手なんだ」

ハーマイオニー「分かってくれたんならいいわ。だって失礼じゃない?
          それじゃあまるで、私がキュゥべえに言われてマミの友達をやるみたいだもの」

QB「……! じゃ、じゃあ」

ハーマイオニー「だから、言わないの。さ、戻りましょう、キュゥべえ。蚊に刺されちゃうわよ?」

QB「……」ペコリ

511 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:51:28.22 Z6/BDJIP0 309/755


翌日 早朝



マミ「忘れ物はない? お土産もった? ご両親によろしく伝えてね?」

ハーマイオニー「大丈夫よ。もう、マミったら心配性なんだから……
          そういえば来年度のホグズミード、マミはこれるの?」

マミ「許可証の話よね。大丈夫よ。年度末にマクゴナガル先生に相談したんだけど、特別に許可をくれるって。
   楽しみよね! ラベンダーさんに聞いたんだけど、ハニー・デュークスって凄いお菓子屋さんがあるんですって!」

ハーマイオニー「ふふ、それじゃあ来年度は一緒に行きましょう? ハリー達も――友達みんなでね」

マミ「ええ! 絶対にね!」

QB「……」

ハーマイオニー「それじゃあ、またね、マミ。新学期には、フランスのお土産話を期待しててね!」


ゴウッ!


マミ「行っちゃった……ハーマイオニーさん、これからまたフランスに行くんですって。素敵ね……」

QB「マミのことだから、フランス料理にばっかり注目してるんだろうけど……
   たぶんハーマイオニーは、フランスの魔法史に興味があるんだと思うよ」

マミ「わ、私だって、ナポレオンとかは知ってるもの!」

QB「はいはい。それで、ゆっくりしてていいのかい?
   ここから隣町までは距離があるし、ミサって朝早くやるんだろう? その寝癖頭で行く気かい?」

マミ「ふぇ!? ね、寝癖!? なんで教えてくれないのよ!」

QB「いま教えたじゃないか。ハーマイオニーのことを気にしてるんなら、どの道君より早く起きてたんだから無駄だよ」

マミ「うぅー……いいわ。それより早く支度しないと! キュゥべえ、クシ! クシはどこ!?」ドタバタ

QB「昨日、お風呂から出た後ハーマイオニーと一緒に居間で使っただろう?
   テーブルの下にでも落ちてるんじゃないの?」

マミ「あ、あった! あ、そうだお土産……蛙チョコの詰め合わせ! あ、あれ? どこにしまったかしら?
   キュゥべえー! キュゥべえー!」

QB(これだものなぁ……)


512 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:52:38.88 Z6/BDJIP0 310/755


風見野 教会前


ガチャガチャ

マミ「……おかしいわね。扉が閉まってる……日曜はミサをしてる筈なのに……
   というか、敷地内の草も伸びてるし……引っ越し、とか?」

通行人A「あれー? そこの人、その教会に何か用事?」

通行人B「え、どうしたっすか兄貴」

通行人A「いや、なんかアイツがあの教会に入ろうとしてたから」

通行人B「え、マジっすかー……やめた方がいいっすよ、嬢ちゃん。
      肝試しかなんかの下見っすか?」

マミ「え、あの……え、肝試し?」

通行人B「あれ? 知らないっすか? じゃあなんで入ろうとしてたっすか」

マミ「あの、ここの教会の子と知り合いで」

通行人A「ここの教会の子……? あーするとあれかな、年齢的に杏子ちゃん?」

通行人B「え、兄貴何でそんなん知ってるっすか。ロリコンっすか?」

通行人A「いや、ほら、前に話したろ。なんかつい聞いちまう説法してる神父さんの話」

マミ「あ、あの」

通行人A「あー、ごめんごめん。で、知り合いは杏子ちゃんの方? ……あ、どっちでもいいか。
      なんせ一家四人、全員だもんなぁ」

マミ「あの、一体なんの話で」

通行人A「無理心中したんだよ、そこの一家」


513 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:54:17.72 Z6/BDJIP0 311/755


通行人B「兄貴、いいんすか? あの子、絶対泣いてましたよ?」

通行人A「別に俺が心配してやる道理もねえだろ。女は甘やかすの禁物だよ。馬鹿ばっかりだし」

通行人B「はあ、まあいいっすけどね、別に……それよりも、兄貴。さっきの兄貴の話、間違ってますよ。
      無理心中したのは三人っす。四人じゃないっすよ」

通行人A「お前こそ情報がおせえんだよ。確かに死体は三人分だったが、血液は四種類あったって話だ」

通行人B「え、なんすかそれ。普通にホラーじゃないっすか」

通行人A「だからお前も肝試し云々言ってたと思ったんだが……まあいいや。ほれ、帰るぞ。講義あるし」

通行人B「卒業したら何になるっすかねえ。兄貴はホストとか向いてるかもしれませんけど」

通行人A「なんで大学出てまでホストに……」


サアアアアアア……


通行人A「あ? なんだ、これ? 景色が……」

通行人B「兄貴、なんか変っすよ! ほら、あっちに変な人形みたいな奴が!」

使い魔「Sie sind sehr dumm!」




514 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:55:13.47 Z6/BDJIP0 312/755


マミ(嘘だ)


『また、一年後に会いましょう? 今度はお土産も買ってくるわ!』


マミ(だって、約束したじゃない)


『ああ、楽しみにしてるよ。それじゃあまた――来年な』


マミ(見滝原でできた、初めてのお友達だったのに――)



マミ「う……うぅ……ううううううう」

 気づいた時には、地面に座り込んで泣いていた。

 早朝ということもあって、人通りはない。だから、人目を憚らず泣いてしまえた。

マミ(佐倉さん……なんで)

 おじさんとおばさんはとても優しくて、モモちゃんは素直で可愛くて、そして佐倉さんは明るくいつも元気いっぱいで。

 教会の手伝いで遊ぶ暇はさほどなかったが、それでも、あの時間は私にとってかけがえのないものだったのに。

 ――そんな時間は、もう二度と戻ってこない。あの時と、同じように。

マミ「嫌だ……嫌よ……もう、そんなの……」

 こんな時、隣に誰もいないのが、酷く悲しくなる――

まどか「あー! いた! いたよ、さやかちゃん!」

さやか「本当だ! てかあれ泣いてない!? おーいマミさーん!」

マミ「……え? あ、れ、美樹さんに、鹿目さん? なんで、ここに……」

さやか「後でいくらでも説明しますから、ほら、立って! こんなとこで座り込んでちゃ不味いですって!」

まどか「マミさん、大丈夫ですか? ハンカチ使います?」

マミ「う、うん……ぐすっ、ありが、とう」

515 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:56:44.53 Z6/BDJIP0 313/755


数時間後


マミ「……落ち着いたわ。恥ずかしいなぁ……一応、先輩なのに……駄目な子ね、私。
   それで、その……なんで、二人がここに?」

さやか「あーそのー……まあ、なんて言いますか。偶然、通りかかっただけというか……って通りませんよね」

マミ「さすがに、無理があるわよ」クスッ

まどか「あの、その様子だと、もうあの教会のことは……」

マミ「……ええ。知ってるわ。そうか、ニュースにもなったんだろうし、あなた達も知ってるわよね」

まどか「ごめんなさい! 私達、思い出したのマミさんと別れた後で……
     連絡先も知らなかったから、その、伝えることもできなくて……」

マミ「いえ、いいのよ。というか、昨日会ったばかりだもの……ここまで心配してくれるなんて、思ってなかったわ」

さやか「いやー発案者はまどかなんですけどね? マミさんとどうしても会いたいっていうもんだから」

まどか「さ、さやかちゃんだって反対しなかったじゃない」

さやか「"私……せめて近くに居てあげたい! 私にだって、それくらいできるもん!"」

まどか「わあああああああっー! さやかちゃんのアンパンマン! なんですぐそういうこと言っちゃうの!」

マミ「……ふ、ふふっ」

まどか「あ、ごめんなさいっ! うるさかったですか?」

さやか「うるさかったのはまどかだけどね」

まどか「も、もう! さやかちゃんは黙ってて!」

マミ「ううん、違うの。ただ、あなた達を見てたらおかしくって」

さやか「ほら、まどか。言われてるぞ」

まどか「マミさんはさやかちゃんの顔を見ていったんだよ?」

マミ「そういうところがね……ふふっ、ありがとう、二人とも」

516 : >>1[saga] - 2013/03/18 23:57:13.00 Z6/BDJIP0 314/755


まどか「あ、あのっ。今日は午後から、仁美ちゃんと一緒に遊ぶんです。
     その、よければマミさんも――」

マミ「……ごめんなさい。さすがに、今日はね」

まどか「あ、そ、そうですよね……すみません」

マミ「ううん。本当に、ありがとう。こんな、わざわざ探してくれまでして……とっても、嬉しかった。
   ……そうだ。はい、これ」

まどか「え、これ……?」

さやか「電話番号ですか? マミさん家の」

マミ「せっかく、こうして会えたんですもの……その、もうすぐそっちも夏休みでしょう?
   だからその、もしよければ、一緒に遊んだりできればなんて……」

まどか「……マミさん」

さやか「……」

マミ「あ、あの……ごめんなさい。図々しかったわよね。こんな、心配までして貰ったのに……」

さやか「……くっはー! なんだこれ! 妖精かなんかか!」ガバッ

マミ「きゃあ! ちょ、ちょっと、美樹さん!?」

さやか「いいっすよぉ! 全然ウェルカム! 夏休みは宿題とか忘れて遊びまくりましょうね!」

まどか「さ、さやかちゃん恥ずかしい。ほら離れて、離れてってば……!」


529 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:30:43.91 sFGo1elk0 315/755


 それから、鹿目さん達の学校も夏休みに入って。


さやか「ほら、まどか、マミさーん。こっち、こっちですよー!」ダーッ

まどか「さ、さやかちゃん! プールサイドは走っちゃ駄目だってばぁ!
     ま、マミさん、さやかちゃんを止めないと……」

マミ「ふふ、全く。美樹さんったらはしゃいじゃって……そうね、行きましょう鹿目さん」


 彼女たちは、本当に良い子でした。


まどか「――美味しいです! これ、本当に手作りなんですか!?」

さやか「めちゃウマっすよー! スポンジがしっとりしていて、その、あれです……ダイヤモンド!」

マミ「だ、ダイヤモンド? その、無理にグルメリポーターみたいなこと言おうとしなくてもいいのよ、美樹さん」


 美樹さんは、落ち込む私を家から引っ張り出してくれて。

 鹿目さんは、そんな暴走気味の美樹さんを嗜めながら、私の手を優しく引いてくれて。

 知り合って間もない私を、彼女たちは心の底から気遣ってくれました。

 彼女たちと一緒に過ごす内、私は、段々と屈託なく笑えるようになっていき――



530 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:31:23.43 sFGo1elk0 316/755


 だけど。


マミ「……」

QB「……マミ、またかい? もう一ヶ月も前のことだろうに」

マミ「まだ、たった一ヶ月よ……」ガサッ

QB「古新聞をいくつも掻き集めたところで、どうしようもないだろう。事実が変わることはないよ。
   君の知り合いだった一家の末路は、それに書いてある筈だ」

マミ「……だって、信じられない……また、来年、会おうね、って、ひっく、約束、してたのにぃ……」

QB「……」

QB(だから嫌だったんだ。遅かれ早かれ、こういう結果になることは分かっていた。
   魔法少女の"寿命"は短い。ずっと友達でいることなんて、できやしない)

マミ「……佐倉、さん……」

QB(……でも、僕も同罪かな。楽しそうに友達の家へ遊びに行くマミを、止めることができなかった。
   ――止めるべきだったんだ。なんで僕は止めなかった?)

QB「……マミ。何にしても、もう寝ないと。明日から新学期だろう?
   酷い顔でいったら、ハーマイオニーが心配するよ」

マミ「……分かった。おやすみなさい、キュゥべえ」

QB「……お休み、マミ」

QB(……虚勢を張れる程度には、回復したかな。新しくできたっていう友達のおかげだね。
   学校に行きさえすれば、過去のことを考えている暇もそうないだろう)

QB(……そのまま、忘れてくれればいいのだけど)


531 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:32:07.51 sFGo1elk0 317/755


◇◇◇


 例えば、ある世界において。

 新米の魔法少女が、あるベテランの魔法少女に弟子入りを志願した。

 その新米には才能があり、また努力を怠らないひたむきさもあり、やがては師を超えるほどに成長した。


 IF。もしも。或いは。可能性として。


 その新米が、ベテランに弟子入りをしなかったらどうなるのだろうか。

 もしかしたら、あっけなく死んでいたかもしれない。

 或いは意外と長生きをして、やはり強力な魔法少女になるのかもしれない。

 師に従事しない方が彼女にとってプラスとなり、理不尽なシステムを破戒するほどの力を持つ可能性もあるだろう。

 ――いまとなっては全く意味のない、蛇足のような話ではあるが。 


◇◇◇


532 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:33:10.38 sFGo1elk0 318/755


9/1 ホグワーツ特急 最後尾車両


マミ「一番乗り、っと」

QB「相変わらず、物凄い速さで乗り込むね君は。おまけに並ぶ人の少ないホーム端の最後尾車両って……
   ねえ、マミはその労力の対価に何を得ているの?」

マミ「何よ、別にいいでしょ。誰に迷惑を掛けるわけでもないし――」


ガラッ


???「Zzzzzzz....」

マミ「あ、ら? 変ね、ドアが開いた瞬間乗り込んだのに――もう先に人がいるわ。しかも大人の人よ、キュゥべえ」

QB「へえ。この列車に大人が乗ってるのは初めて見るね。新しく来る先生とかかな?」

マミ「ああ、防衛術の……でも大丈夫かしら? なんだか、酷く顔色が悪いようだけど……」

QB「歳の割に白髪混じりだし栄養状態も悪そうだね。でも正式に採用されたんだとしたら問題ないんじゃないかな。
   相応の力が無ければ教師になんて――そう簡単に――なれるものじゃ――……」

マミ「……なんでそこで言いよどむの?」

QB「いや、君に言っても無駄だし、やめておこう。それよりほら、早く座りなよ」

マミ「ううん。別のコンパートメントに移るわ。折角寝ているのを邪魔しちゃ悪いし――」

QB「本音は?」

マミ「……さすがに、その。知らない先生と二人きりっていうのは気まずいわよ」

QB「まあいいけどさ。でも、それなら早くした方がいいと思うよ。
   ホグワーツ特急って、あんまり席に余裕が――」


ざわざわざわ

「いえーいこのコンパートメント俺らが取ったー!」

「じゃあ私達はここ! ほらおいでよチョウ!」

「ああくそっ、もう一杯か……仕方ない先頭車両だ! ついてこい花火の中へ突っ込むぞ!」

                ざわざわざわ


マミ「……」

QB「……いまからどこかの席に入れて貰うかい?」

マミ「り、理不尽よ……理不尽だわ……」グスグス


533 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:33:55.67 sFGo1elk0 319/755


ガラガラ


ハリー「あー駄目だ。どこもかしこもいっぱいだよ……もう最後尾じゃないか」

ロン「ここが駄目だったら分かれて座るしかないね。
   よかったなぁ、スキャバーズ。そしたらお前を付け狙うあの凶悪な猫とおさらば出来るぞ」

ハーマイオニー「なによ、クルックシャンクスはきっとスキャバーズと仲良くなりたいと思ってるわ。
          ねぇ、クルックシャンクス? 一緒に遊びたいのよねぇ?」

「フシャー! フシャー!」ガタガタ

ハーマイオニー「ほら"ボク、仲良くしたい! 早く出して!"って言ってるわ!」

ロン「どうかな。僕には"俺様は腹が減った。早く食わせろ!"って言ってるように聞こえるけど」

ハリー「まあまあ、二人ともその辺で――あれ、あそこで突っ立ってるのマミじゃないか」

ハーマイオニー「あら、本当だわ。どうしたのかしら、コンパートメントの前で……」

ロン「ちょうどいいや。あそこに入れて貰おう。おーい、マミ」

マミ「ああ、みんな! 良かったわ! 一緒にここに座らない?」

ハリー「いいの? ありがとう――って、あれ? 先客がいる。誰だろう、この人」

ハーマイオニー「ルーピン先生でしょ」

ロン「……ハーマイオニー、君って奴はとうとう本を読みつくしちまって、戸籍謄本とかにまで手を伸ばしたのかい?」

ハーマイオニー「違うわよ! 鞄に名前が書いてあるの。ほら、R・J・ルーピンって」

マミ「きっと新しい防衛術の先生よね、ってキュゥべえと話してたとこなの」

ロン「ふぅん……防衛術の先生ねえ。一昨年といい去年といい、呪われてるみたいに長くもたないけど。
   まあいいや。空いてるのここだけだし、さっさと荷物入れちゃおうか」


534 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:35:24.70 sFGo1elk0 320/755


コンパートメント内


マミ「……シリウス・ブラック? 例のあの人の右腕だった闇の魔法使い? ひとつの呪文で十三人も殺した!?
   そんな危ない人が、ハリーくんを狙ってるの?」

ハリー「そうらしい。おじさん――ロンのパパに忠告されたんだ。気をつけろ、あと絶対に探したりするなって」

マミ「そんな人が脱獄したってことも知らなかったわ……」

ハーマイオニー「イギリスでは、マグルのニュースにも流れたのだけどね。マミ、日刊預言者新聞を定期購読したどうかしら?
          私は読んでるんだけど、すっごく為になるわよ」

ロン「そんな悪魔みたいな誘いはあとにしろよ。にしても、ブラックを探す? 有り得ないね。
   だってそんなの、自殺しに行くようなもんじゃないか。あのアズカバンから脱獄したんだぜ?」

ハリー「そうだよね。なんでおじさんはわざわざそんなことを……」

ハーマイオニー「きっと、心配なのよ。なんだかんだ言って、ハリーの周りはトラブル塗れだもの。
          さあクルックシャンクス、いまお外に出してあげますからねー?」シュルシュル

ロン「おいなに脈絡なく猫の入った籠のヒモ解こうとしてるんだ。やめろ!」ガシッ

ハーマイオニー「あ、ちょっと何するのよ!」

ロン「僕のネズミを助けようとしてるんだよ!」

マミ「あの、この二人どうかしたの?」

ハリー「うーん。ハーマイオニーが新しくペットを買ったんだけどさ……」

ハーマイオニー「そうだわ! マミにも見せようと思ってたの。私、猫を買ったのよ!
          待っててね、いま見せてあげるから……!」グググ

ロン「絶対に、出させるもんかぁ……!」グググ!

ハリー「ハーマイオニーの猫が、ロンのネズミを襲ってさ。で、それ以来こんな感じ」

ハーマイオニー「襲ったんじゃないったら! ちょっとはしゃいじゃっただけよ!」

ロン「ああ大はしゃぎだったさ。僕の頭の上で爪を立てながらタップダンスを踊ってくれたしね。
   見てよマミ、ここカサブタになってるだろ?」

マミ「うぇ? えーと……ああそうだ! 私、蛙チョコレート持ってるの。みんなで食べない?」ガサゴソ

ハリー(誤魔化した)


535 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:36:13.67 sFGo1elk0 321/755


ロン「わーお。詰め合わせじゃないか。どうしたの、これ?」

マミ「……ん。ちょっとね。友達へのお土産だったんだけど、渡し損ねちゃって」

ハーマイオニー「貰っちゃっていいの?」

マミ「いいのよ。さすがに、来年まではとっておけないし……そういえばこれ、賞味期限とか大丈夫かしら?
   どこにも書いてないけど」

ロン「貸して……あー、平気平気。まだ元気にぴょんぴょん跳ねてるから」

マミ「そういう判別の仕方なの? ……じゃ、どうぞ召し上がれ」

ロン「あ、中に入ってるカード集めてる人いる? いなかったら僕に頂戴」

ハリー「懐かしいなぁ、最初のホグワーツ特急でもこれ買ったっけ……」

QB「僕にもひとつおくれよ」

ハーマイオニー「あら。駄目よ、キュゥべえ。猫がチョコレート食べたら死んじゃうわ」

QB「平気だよ。僕はただの猫じゃないから」

ロン「まあ喋るしな。別にチョコくらい平気だろ。ほら、キュゥべえ。
   ついでにスキャバーズにもやってみよう。おい、スキャバーズ。チョコ食うか?」

スキャバーズ「チチッ」カリカリ

マミ「ふうん。これがロンくんのネズミね……」

ロン「あれ? 見せたことなかったっけ? スキャバーズさ。
   ほんとはもっとぷくぷくしてたんだけど、エジプトに行ってから弱っちゃってて」

マミ「本当、可哀想に……ああ、指も一本欠けちゃってる。どうしたの、これ?」

ロン「分かんない。パーシーから貰った時にはもう無かった……っと、うぇー。カサンドラだ。僕この人のカードは山ほど持ってるんだけど」

ハーマイオニー「あら、それって占い学の教科書を著した人じゃない。とっても強力な予見者だったって――」

ロン「はいはい御高説どうも。で、教科書といえば怪物本、ありゃなんだろうね?」

ハーマイオニー「それに関しては、珍しくあなたと同意見ね」

マミ「怪物本? なにそれ?」

ハリー「ああ、マミは魔法生物飼育学を取ってないんだ」

マミ「ええ、私がとったのはマグル学と数占いだから……私、あんまり実技が得意じゃないし」

ハリー「まあ確かに、教材の魔法生物をいつぞやのトロールみたいにしちゃったら大惨事だしね」

ハーマイオニー「トロール!? どこ!?」ビクゥッ

QB「あ、まだあの時のトラウマが癒えてなかったんだ……」

ロン「っていうか、マミはマグルの出だろ? ハーマイオニーといい君といい、なんでマグル学をとるのさ」

ハーマイオニー「あら、魔法使い側からの視点でマグルの文化を見るのってとっても楽しいと思うわ。ねえ、マミ?」

マミ「え、ええ、そうね」

QB「え? マミは確か、"マグル学なら大して勉強しなくても点が取れるんじゃないかしら"って――」

マミ「えいやっ」ギュッ

QB「きゅっ!?」

マミ「も、もうキュゥべえったら、どうしたのかしらね――それで、怪物本って?」

536 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:37:46.62 sFGo1elk0 322/755


ハリー「ああ、これだよ。教科書なんだ。はい」

マミ「"怪物的な怪物の本"? ベルトでぐるぐる巻きになってる以外は、普通の本に見えるけど」

QB「どの辺が怪物的なんだろう?」

ハリー「気を付けて。あと絶対ベルトは外しちゃ――」

マミ「ふぇっ?」シュルッ

怪物本「がー!」ピョン!


ガブッ


QB「きゅぴゅ!?」ジタバタ

マミ「きゅ、キュゥべえ! ちょ、こら、離しなさい! キュゥべえの頭を噛まないで!」グイッ

怪物本「がー! がー!」モグモグ

QB「いやぁあああ! 飲まれてる! 飲み込まれてる! え、なにこれ! どこに飲み込まれてるの僕!?」

ハリー「言わんこっちゃない! ロン、引きはがすから手を貸してくれ!」



537 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:39:06.39 sFGo1elk0 323/755


QB「い、嫌だ。もう嫌だ。トレバーといい、魔法界のものは僕を捕食しようとしてくる」ガタガタ

マミ「ああ、キュゥべえにトラウマが……」

ロン「でも収穫もあったな。この怪物本、みんなで袋叩きにして上下関係を叩き込むと大人しくなるんだ」

ハリー「あとでみんなにも教えてあげよう。っと、ダンブルドアのカードだ。ロン、いる?」

ロン「貰っておく。誰かと交換できるかもしれない……」

ハーマイオニー「吟遊詩人ビードルですって。なんかキラキラ光ってて綺麗……これ、私が貰ってもいい?」

ロン「ビードル? 見せて……これ旧版じゃないか! 七枚しか刷られなかったっていう超レアカード……
    ぐっ、でも、カードは、開けた人のもの、だから……いいよ、もってけよ」

ハーマイオニー「あの、そんな噛みしめた唇から血が出るほど悔しそうにしなくても……いい、あげるわ。
          別にコレクションしてるわけじゃないし」

ロン「ほんと!? うわぁ、一生大切にするよ!」

マミ「私も開けてみましょう……って、あら? これもレアカード?」

ロン「見せて! ……ん、なんだこりゃ。印刷ミスかな?」

ハリー「真っ白な背景に、字だけ書いてある……"逃げる時に自分で切り落とした"? どういうこと?」

ハーマイオニー「カードの説明文だけ載っちゃったんじゃないかしら? 珍しいカードじゃなくて残念ね、ロン」

ロン「いや、これはこれで珍しいし――お菓子屋さんに行けば交換してもらえるかも。ハニーデュークスとか」

マミ「ハニーデュークス! 昔ラベンダーさんから聞いたわ。ホグズミードのお菓子屋さんよね?」

ロン「そうとも。ホグズミードの価値の半分はあそこに集約されてると思うね。ああ、楽しみだなぁ」

ハーマイオニー「お菓子のほかにもあるでしょ? イギリスで一番怖い"叫びの屋敷"とか――」

マミ「いろいろ見る場所がありそうね……ね、ハリーくん」

ハリー「ああ、うん。そうだね……できればお土産を買ってきてよ」

ロン「は? なに言ってんだ、ハリーも行くだろう?」

ハリー「バーノンおじさんがね、許可証にサインをくれなかったんだ。ほら、マージおばさんを膨らませちゃったから……」

ロン「うぇー。本当かい? そりゃ酷いな――もちろん、サインをくれなかったことがだけどね」

ハーマイオニー「そう、残念だわ……」


538 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:41:16.45 sFGo1elk0 324/755


マミ「……あ! そうだ、ハリーくん! マクゴナガル先生に頼んだらどうかしら?」

ハリー「マクゴナガル先生に?」

ロン「おいおい、正気かい? あの厳しいマクゴナガル先生が特別扱いなんてしてくれるもんか。
   まだフレッド達に抜け道を聞く方が可能性はあるよ」

マミ「大丈夫よ。あのね、前年度の最後にマクゴナガル先生とお話ししたの。
   私、いま一人暮らしだから、誰にサインを貰えばいいでしょうか、って。
   そしたらね、サインをしてくれるって。きっと、一緒に行けばハリーくんの分も貰えるわ!」

ロン「マジかよ! 良かったな、ハリー! これで一緒にホグズミードに行けるぞ!」

ハリー「本当? ありがとう、マミ!」

ハーマイオニー「マクゴナガル先生がサインをくれるのなら、無事解決ね。良かったわ。
          ……ね、クルックシャンクス? ほら、ばんざーいして? ばんざーいって」

クルシャン「にゃー」ノビーン

ロン「……ああああ! そいつを出すなって言っただろ!? しまえ!」

クルシャン「ふぎゃーお!」バッ

ロン「わっ! こいつ、またスキャバーズを! 離れろ!」ブンブン

ハーマイオニー「やめて、ロン! いまのはあなたが悪いわ! 大声出すからびっくりしちゃったのよ!」


どったんばったん


マミ「あれがハーマイオニーさんの猫……え、えーと。オレンジ色の毛がふわふわしてて素敵ね?」

ハリー(そこしか褒めるとこが無かったんだね)

QB(潰れた饅頭みたいな顔に、ガニマタだもんねぇ)

クルシャン「ふぎゃ?」ジーッ

QB「ん? なんだい、僕の方をじっとみて……」

クルシャン「……ふしゃあああああ!」バッ

QB「わ、わあああああああ! こっちきたああああ! 食べられる!」ダッ

マミ「ちょっと、キュゥべえ! ……ああ、コンパートメントの外に行っちゃった」

ハーマイオニー「ふふ、同じ猫の友達ができて、嬉しくなっちゃのね」

ロン「なんだい、あの猫は共食いまでするのかい? まあとにかく、キュゥべえには悪いけど助かった……」

539 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:42:05.97 sFGo1elk0 325/755


ガラッ


ドラコ「おいこら誰だ! この躾の悪い猫を放し飼いにしてる馬鹿は!? こいつ、僕の顔を引っ掻きやがったんだぞ!」

クルシャン「にゃー」ダラーン

ハリー「えらいぞ、よくやったクルックシャンクス」

ロン「お、なんだ。どんな奴にもひとつくらいは取り得があるもんだな」

QB「マミぃ! 怖かった! 怖かったよぅ! あいつ、僕の尻尾の付け根を執拗に狙ってきたんだ!」ダキッ

マミ「ああ、こんなに怯えちゃって……良かったわね、マルフォイくんが助けてくれて」

ドラコ「はっ、なんだ。誰かと思えばポッターと、その腰巾着ズじゃないか。
    お前らの猫か? はん、ぶっさいくな猫だねぇ。ウィーズリー、君のかい? 安物そうだし――」

ハーマイオニー「それ、私の猫だけど」

ドラコ「ひぃっ、グレンジャー!? い、いたのか……く、くそ。ビビるな僕……マルフォイ家に後退は許されない。
    こういう時は、手のひらに純血、純血、純血……ごくん。ふう、落ち着いた」

ロン「なんだそのおまじない。どう見ても魔法使いが頼るものじゃないけど」

ドラコ「ふんっ、魔法使いの面汚しのウィーズリーには分からないだろうな。
    これは父上から教えて頂いた、由緒ある精神統一法なのだ。参ったか!」

ロン「参ったよ。心の底から」

ドラコ「なんだ、馬鹿に物わかりがいいな。さあ、今日こそ決着をつけてやるぞグレンジャー。
    なんでか知らないけど、去年の後半くらいからお前を見ると動悸・息切れ・眩暈がするんだ。それを払拭して――」


バチン!


ドラコ「わ、わあああああ! 急に真っ暗に! ひ、卑怯だぞグレンジャー! まずはお辞儀をしろよ!
    畜生、ここは引いてやる! 行くぞ、ゴイル、クラッブ――あれ、ゴイル、クラッブ!? ぼ、僕を置いていくな!」

ハリー「あーあ。マルフォイ避け呪文も流石に一年経つと効果切れかぁ……」

ロン「まあ、人生そんなにいいことばっかりじゃないさ。
   それよりハーマイオニー。何も僕たちの視界まで真っ暗にするこたないだろ?」

ハーマイオニー「私、何もしてないわ。というか、私の視界も真っ暗だもの。ただ明かりが消えただけでしょ」

マミ「……ねえ、汽車が止まってるわ。音が聞こえない……」

QB「故障かな? ――あれ? ねえ、窓から外を見てご覧よ。前の方の車両に誰かが乗り込んでる」

ハリー「遅刻した子が乗ってきたとか?」

ロン「おいおい、そいつ一人のために特急を止めるかふつー?」

ハーマイオニー「私、一番前まで行って理由を聞いてくるわ――」

???「……いや、動かない方がいいな。ルーモス(光よ)」


540 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:42:41.90 sFGo1elk0 326/755


ぱあぁぁぁぁ……


ルーピン「やれやれ、気持ちよく寝てたというのに」

ハリー「あの、えーと、ルーピン先生? これは一体――?」

ルーピン「おや、なぜ私の名前を? まさか顔を覚えて――いや、ああ。鞄を見たのかな?」

ハーマイオニー「はい、そうです――すみません。起こしてしまいましたか?」

ルーピン「いやでも起きるさ。奴らが同じ乗り物の中にいれば……」

ハリー「奴ら? 奴らっていったい――?」

 
 そして、その時。暗闇の中で、コンパートメントの扉がゆっくりと開いた。

 そこには人影があった。少なくとも、人に似た形をした影が。

 魔法の明かりに照らされてなお、それは影であり、陰であった。たとえ陽の光の下でさえ消えることはないだろう。

 黒い頭巾に覆われた頭部と思わしき器官からは、名状しがたい呼吸音のようなものが響いている。


マミ「な、んですか、これ……っ」

ルーピン「吸魂鬼(ディメンター)。アズカバンの看守だ」

吸魂鬼「こぉおおおおおおおおお……」

ロン「なんだこれ、寒い……」

ハーマイオニー「気持ちが、変に……ああ、なにこれ……」

ハリー「……」

マミ「――……」

マミ(あれ――なんだろう。意識、が……)


541 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:43:17.71 sFGo1elk0 327/755

◇◇◇



 ――夢を見た。酷く、昔の夢だった。

 今よりもだいぶ小さな体躯の自分が、アスファルトの上に座り込んでいる。

 周囲には鉄くずが散乱していた。周囲は炎に撒かれていた。

 紅の照り返しが視界を染める中、それでも、視界にはっきりとした白色の物体が浮かんでいた。

 これは――猫、だろうか?

 鉄くずの上に腰を下ろしたその白い猫は、しきりにこちらに向かって話しかけているようだった。

白猫「――、――」

マミ(なに? 何を言ってるの――聞こえないわ)

 とても、声が遠い。あまりにも掠れていて、聞き取れない。

 仕方なく、じっと白猫の顔を見つめた。白い体毛に、紅玉のような目玉。

 ――その姿に見覚えがあるという事実を思い出す前に、意識は戻った。



◇◇◇

542 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:43:50.57 sFGo1elk0 328/755


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マミ「う、ううん? あれ、猫は……?」

ハーマイオニー「マミ! 良かった、気づいたのね……猫? キュゥべえのこと? 聞こえてたの?」

マミ「え、と。分からない、私、どうしちゃったの……?」

ハーマイオニー「気を失っちゃってたのよ……あなたと、それにハリーも」

マミ「ハリーくんも?」

ハーマイオニー「ええ。いまそっちでロンが介抱してるわ……ああ、起きたみたい」

ハリー「……っ、何が起きたの? 叫んだだろう、誰か」

ロン「ああ……たぶんそりゃ、キュゥべえだよ。大丈夫かい、ハリー?」

マミ「キュゥべえ? キュゥべえが、どうしたの?」

ロン「君の猫は酷くうなされてたんだ。"取らないでくれ! 取らないでくれ!"って。うん、凄かった。物凄い鬼気迫る感じで」

マミ「そんな……キュゥべえ、大丈夫なの!? ――ぅ、ぁ」フラッ

ハーマイオニー「ああ、無理して起きちゃ駄目よ! ……キュゥべえなら、ほら。ここにいるわ。立てる、キュゥべえ?」

QB「……安静にしてなきゃ駄目だよ、マミ」ピョイッ

マミ「ああ、キュゥべえ……良かった、無事みたいね……」

QB「……取らないでくれ。僕はそう言ったのかい、ロン?」

ロン「うん? ああ、確かにそう聞こえたけど」

QB「そうか……そうなのか……」ブツブツ

ハリー「なんなんだ――結局、あれはなんだったんだ」

ルーピン「さっき言った通り、吸魂鬼さ。そこに居るだけで人に害を及ぼす生き物。友達には選びたくない連中だよ……」パキッ

ハリー「! 先生、あれは――僕、一体……」

ルーピン「話はあとだ。ほら、チョコレートをお食べ。吸魂鬼の後遺症には、これが一番の特効薬だ。
      私は少しここを離れるから、その間に食べておくんだよ」


ガラッ ピシャッ


ハリー「ねえ、あの後、何があったの? 気絶したのは僕とマミだけ?」

ハーマイオニー「ええ……二人とも、急に倒れて、痙攣し始めて……」

ロン「あれは――吸魂鬼はルーピン先生が追い払った。なんかの呪文を使ったみたい」

ハリー「そうか……ねえ、マミ。気絶してる時、何か叫び声を聞いた?」

マミ「……ううん。私、夢を見ていたみたい。変な夢だったわ……」

ハリー「そうか……なんで僕とマミだけ……?」

ロン「君らだけじゃないかもしれないぜ。他のコンパートメントでは、意外とみんな伸びちまってるかも……
   あんまり気にするなよ、ハリー」



543 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:45:10.40 sFGo1elk0 329/755


ホグワーツ 大広間


ドラコ「……もう嫌だ。グレンジャーめグレンジャーめ……」ブツブツ

ロン「あれ、マルフォイの奴どうしたんだ? いつも以上に真っ青な顔で震えてら」

フレッド「ああ、あいつか。なんか知らないけど、真っ暗なホグワーツ特急の中を走り回っててさ」

ジョージ「で、笑えることにあの吸魂鬼と正面衝突。怒った吸魂鬼に先頭車両まで追っかけまわされたらしい」

ロン「うわー、そりゃご愁傷様。自業自得とはいえ、さすがに同情するよ」

フレッド「まあ、通りすがりの新しい先生に助けて貰ったみたいだけどな。……あれ、そういやロン。ハリーはどうした?
     一緒に乗っただろう、確か」

ロン「あー、ハリー達はさっき、マクゴナガル先生に呼ばれていったよ。僕だけ除け者さ」

ジョージ「へえ。ってことは、悪いことじゃなさそうだな。表彰でもされるのか?」

ロン「おい、僕だけ呼ばれなかったってことと何の関係があるんだよそれ」


544 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:45:48.10 sFGo1elk0 330/755


マクゴナガルの部屋


マクゴナガル「さて、あなた達を呼んだのは、ルーピン先生からふくろう便を貰ったからです。
         ポッターとトモエは汽車の中で倒れたと連絡を受けています。ここでマダム・ポンフリーから診察を受けること」

ハリー「あの、倒れたのは僕たちだけですか?」

マクゴナガル「? ええ。少なくとも、ルーピン先生が見て周った限りではそうらしいですが」

ハリー「そうですか……」

マミ「……」

ハーマイオニー「ハリー、マミ……」

マクゴナガル「……心配することはありません。マダム・ポンフリーに見て貰えばすぐ良くなります。
         と、これは私が言うよりも、散々医務室のお世話になっているポッターのほうが詳しいでしょうが」

ハリー「先生、僕、大丈夫です。もうどこも悪くは――」


ガチャッ


ポンフリー「はいはい、患者はどちら――あら、またこの子? 新学期早々、今日はどうしたの」

マクゴナガル「ポッピー、吸魂鬼です。ポッターとトモエは、奴らの影響を受けて倒れました――」

ハリー「大丈夫です! もう、すっかり良くなりました! ねえ、マミ?」

マミ「え? え、ええ、そうね。確かに、ルーピン先生から貰ったチョコを食べたら、寒気はすっかり消えたけど――」

ポンフリー「おや、ほんとうに? ……なるほど、校長が強く推薦しただけのことはありますね。
       少なくとも、闇の魔術に対する防衛術の先生としての知識はあるみたい。
       確かに二人とも顔色もいいし、これなら宴会に出ても大丈夫でしょう」

マクゴナガル「ふむ……分かりました。では、ポッターとトモエは外で待っていなさい。
         グレンジャーは、少し私と話がありますので――」

545 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:46:28.07 sFGo1elk0 331/755


大広間


ダンブルドア「さて、諸君。新学期おめでとう! だがまあ、最初に少しだけ面白くない話をせねばならん。
        ホグワーツは現在、吸魂鬼の警備を受け入れておる。魔法省たっての要望でのう……」

マミ「……あれと、ずっと一緒に過ごさなきゃいけないのかしら」

QB「まさか。外周の要所を固めてるだけだろう」

ダンブルドア「吸魂鬼は学校への入り口を全て封じておる。勝手に敷地内から出る生徒などおらんとは思うが、"一応"注意しておこう。
        奴らにはいかなる誤魔化しも通じん。錯乱呪文や透明マントを使っても無駄じゃ。
        話が通じる相手でもない。極力関わらんようにするのが一番良いというわけじゃ」

ハリー「……」

ロン「明らかに透明マントのくだりは僕たちに言ってるよなぁ。
   だーからさすがに出ないってば。ブラックが野放しなのに……」

ダンブルドア「さて、では次の明るいニュースに移ろうかの。今学期から、新しい先生を本校に迎えることとなった。
        それも、二人もじゃ」

ハーマイオニー「二人? ひとりはルーピン先生としても、もうひとりは……?」

ダンブルドア「まずはリーマス・ルーピン先生。闇の魔術に対する防衛術の、新しい担当を引き受けてくださった。
        そして、もう一人――前年度退職されたケトルバーン先生の後任として、
        森番のルビウス・ハグリッドが魔法生物飼育学の先生となってくださるそうじゃ」

ハリー「そうか! どうりであんな狂暴な本が教科書なわけだよ。ハグリッドが先生かぁ。どんな授業になるんだろう」

ロン「ああ、嬉しいけど、そこはちょっと不安だよな。まさかでっかい蜘蛛とか連れてこないだろうね……?」

ダンブルドア「さあ、これで話は終わりじゃ。お待ちかねの宴といこう――明日からの英気を養うためにも思う存分掻っ込むが良い!」

546 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:46:54.22 sFGo1elk0 332/755


夜 グリフィンドール女子寮


ラベンダー「ねえ、新しい防衛術の、ルーピン先生だっけ。どう思う?」

パーバティ「うーん。言っちゃ悪いけど、ちょっと不安よね。ローブも継ぎはぎだらけだし、頼りなさそう」

ラベンダー「そうよねえ……まあ去年より悪いっていうんなら、それはそれで見てみたい気もするけど」

マミ「あら、ルーピン先生は結構凄い先生よ? マダム・ポンフリーが褒めてたし……
   それに、あの吸魂鬼を追い払ったんだもの」

ラベンダー「へえ、本当? 人は見かけによらないのかしら? まあ、授業を受けてみれば分かるけど」

パーバティ「あ、そうだ。授業で思い出しけど、マミ、約束よ。私たちは"占い学"で勉強した占いを教えるから、"数占い"はお願いね」

マミ「ええ、分かったわ。それじゃ、もう寝ましょうか。えーと、パジャマパジャマ……」

ラベンダー「……」

パーバティ「……」

マミ「? どうしたの、二人とも。まだ寝ないの?」

ラベンダー「……マミ。最後に会ってから、二ヶ月しかたってないわよね? 私、一年間遅刻した訳じゃないわよね?」

パーバティ「……その、成長したわよね。マミ」

マミ「そう? ああ、そういえば背は少し伸びたかも。ローブを新しく仕立て直さなきゃいけなかったし」

ラベンダー「ああ、背も伸びたの……視点が下がってたから、分からなかったわ」

パーバティ「日本人って、幼く見えるって聞いてたんだけど……いや、顔は童顔だけどね……」

マミ「?」


547 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:47:48.25 sFGo1elk0 333/755


翌日 授業前 廊下


ハーマイオニー「さあ、今日から新しい授業が始まるわ! ああ、とっても楽しみ……」

ハリー「うん、まあいいけどさ。ちょっと落ち着こうか、ハーマイオニー」

ハーマイオニー「あら、どうしたのハリー? 忘れ物?」

ロン「忘れ物してるのは君だと思うなあ。時計は持ってる? 君の時間割、おかしいぜ。
   九時、つまりこれから"占い学"、同じ時間に"マグル学"、さらに同じ時間に"数占い学"!」

マミ「……ハーマイオニーさん。時間割を見直しましょう? ほら、とりあえずマグル学は私と同じ、別の曜日に――
   ああ、駄目ね。この時間にも三教科入ってる……」

QB「どうする気だい? もしかして、教室の後ろにビデオカメラでも設置しておくとか?」

ハーマイオニー「授業は直接受けなきゃ意味ないわ。それに、ホグワーツではそういう電化製品は使えないの。
          魔法力が強いとこでは、回路がしっちゃかめっちゃかになっちゃうんだから」

マミ「ああ、それで去年MDウォークマンが使えなかったのね……そういえばあれどこにやったのかしら……?」

ハリー「結局どうするのさ、ハーマイオニー。もしかして、分身の魔法を……?」

ハーマイオニー「さすがにそんな魔法は知らないし、使えないわ。まあ何とかなるわよ。
          さ、占い学に行きましょ。ああ、マミ。数占いに行くんだったら席を取っておいてくれる?」

マミ「え? う、うん。それは構わないけど――」

ロン「ほら、もう混乱してるじゃないか。占い学に行くんだったら、数占いの席なんて――」

ハーマイオニー「いいでしょ、別に! マクゴナガル先生とも相談済みなの。さ、ほら行くわよ!」


548 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:48:19.39 sFGo1elk0 334/755


数占い 教室


マミ「うーん。一応、席は取っておいたけど……どうする気なのかしら、ハーマイオニーさん」

QB「まあマクゴナガル先生と相談したっていうなら何かしら手は考えてあるんだろう。
   たとえば、毎週違う授業を取って、残りは補習を受けるとか――」

ハーマイオニー「おまたせ。席を取っておいてくれたのね。ありがとう、マミ」

マミ「あ、あれ? ハーマイオニーさん、占い学にいったんじゃ――」

ハーマイオニー「あんな授業、クズよ。まったく時間を無駄にしたわ!
          取らなきゃよかった――いや、駄目ね。ちゃんと受けれる授業は受けなきゃ……」ブツブツ

マミ「え? え? だってまだ、占い学は始まってもないでしょう?」

ハーマイオニー「え? あ、ああ。そうね。でも、教科書を読んだら想像はつくもの。
          はー、お腹減ったわ。お昼ご飯はまだかしら?」

QB「なに言ってるんだい? ほんの数十分前に朝食を食べ終えたばかりじゃないか」

ハーマイオニー「あ。あー、その。私、朝はあんまり食べなかったから……。
          そ、それより、数占い学ね。楽しみだわ。最初はカバラ数秘術辺りから始まるのかしら?」

マミ「……どうなってるの?」

QB「さあ……?」

549 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:49:21.03 sFGo1elk0 335/755


変身術 教室


ラベンダー「マミ、数占いはどうだった?」

マミ「ええ、とっても分かりやすかったし、今日は最初の授業だからって、簡単にできる占いを教えて貰えたの。
   よければあとで占わせてもらってもいい?」

ラベンダー「大歓迎よ! 私達の方はちょっと難しくて、まだ占えそうにないけど……」

パーバティ「そうね……でも、先生がとっても神秘的で、何でも的中させちゃうのよ! 
       ネビルがカップを割ることまで予言したんだから!」

ラベンダー「私達も、いつかあのくらい占いができたらなぁ……」

マミ「へえ、それは凄いわねぇ……でも、占い学に出てた人はみんな、とても暗い顔してるけど……」

ラベンダー「あー、それは、ね……」



ポンッ


マクゴナガル「今日はみなさん、集中力に欠けますね。動物もどき(アニメ―ガス)は、非常に習得の難しい魔法です。
         いま私が変身したように、特定の動物に自在に変身できるのは、世界広しといえども僅か七人だけですよ。
         無論、別に拍手喝采を強要しているわけではありませんが……」

ハーマイオニー「あのー、先生。確かに先生の変身は素晴らしかったですけど、でも、私たち、前の時間に占い学を受けて、
          それで……」

マクゴナガル「……ああ、納得しました。で、今年も誰かに死の予言を?」

ロン「へ? 今年もって……それじゃ、あのクラスの生徒は毎年誰か死んでるのか!?」

マクゴナガル「いいえ、ウィーズリー。占い学のシビル・トレローニー先生は毎年死の予言をして、それを全部外してきました。
         恒例行事のようなものです。悪趣味な――いや、失礼。とにかく、誰も死んだりはしません」

ハーマイオニー「ああ、ほらやっぱり。ね、あんなの適当言ってるだけよ」

ハリー「う、うん……」


マミ「そういうことなの。ハリーくんに死の予言が……」

パーバティ「ええ、死神犬(グリム)が憑りついてるって……」

マミ「死神犬?」

パーバティ「死の前兆よ。魔法使いの間では、ほんとにタブー視されてるくらい恐ろしいものなの」

マミ「そうなの……でも良かった。その予言は外れそうで」

ラベンダー「でも、ネビルのカップはどうなの? 全部の占いが外れてるってわけじゃないでしょう?」


550 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:50:04.07 sFGo1elk0 336/755


昼食 大広間


ハーマイオニー「いいえ、全部でっちあげだわ。それらしいこと言ってるだけよ。
          だからロン、あなたも元気出しなさい。どーせインチキなんだから」

ロン「でも、死神犬だぜ? ハリー、まさか君、でっかくて黒い犬とか見てないよな?」

ハリー「……実は見たんだ。ダーズリーの家から飛び出した夜に」

ロン「」ガチャーン

パーシー「ロン! コップを落とすな! 中身が入ってたら大惨事だったぞ!」

ロン「それどころじゃないんだよパーシー! ああマジかよ。ハリー、本当に見たの!?」

ハーマイオニー「野良犬かなんかでしょ」

ロン「おいおい、どうやら君は事態の深刻さが分かってないみたいだな。死神犬といえば、最大の不吉の象徴なんだぜ?
   密室でスネイプがにこにこ笑いながら紅茶を勧めてきたりなんかしても、死神犬と比べりゃ可愛いと思えるくらいだ」

ハーマイオニー「どっちも現実には有り得ない、ってところは共通してるわね」

ロン「ここまで言ってもわからないのか! 死神犬は本当にやばいんだって!」

ハーマイオニー「大体死神犬がハリーに憑いてるってところからして、あの適当極まりない占いの産物でしょ?」

ロン「適当なもんか! 君には見えなかったんだろうけどね! トレローニー先生は、君に占い学の才能がないっていってたしさ!」

ハーマイオニー「……! 言ったわね! いいわ、それならもうずっと見えもしない未来を探してなさい!
          私はその間に、数占いできちんとした占いの方法を学ぶから!」スタスタスタ


551 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:51:03.18 sFGo1elk0 337/755


ロン「ふん、意地っ張りめ。大体、まだあいつ数占いの授業なんて受けてないだろうに」

マミ「……ねえ、ハリーくん。ハーマイオニーさんは占い学を受けてたの?」

ハリー「うん? ああ、一緒に受けたよ。それでまあ、先生とちょっといざこざもあってさ……」

マミ「そうなの……変ね。その時間は、確かに私と数占いの授業を受けていたはずなんだけど……」

ハリー「え? 嘘だろ? だって確かにハーマイオニーは僕らと……」

QB「いや、でも僕も見たよ。そもそもマミはハーマイオニーと組で授業を受けたからね。間違いようがない。
   でも様子がおかしかったなぁ。急にお昼ご飯はまだ? とか言い出したりして」

ロン「どういうことだ? ……推論1、実はハーマイオニーは双子だった」

ハリー「有り得ないだろう、それは。というか、なんで二人で一人分の時間割を受けてるのさ」

ロン「ハーマイオニーの時間割は、軽く三人分くらいの量があるけどね……
   じゃあ、推論2、ハーマイオニーは夏休み、マミの家に遊びに行ったんだろう?」

マミ「ええ。お泊りなんかして、とっても楽しかったわ」

ロン「きっとそこで、ニンジャに弟子入りしたんだよ。知ってるよ、僕。パパの持ってた本に書いてあった。
   ニンジャって増殖するんだろう? それを利用したトリックさ」

マミ「分身の術のこと? 知らないけど、多分フィクションよ、それ」

ロン「じゃあもうこれしかないね。推論3。本の読み過ぎで、脳みそがもう一生分勉強したって勘違いしちゃったんじゃないかな。
   で、頭の中だけおばあちゃんになってボケちゃったとか」

ハーマイオニー「……」


552 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:51:33.16 sFGo1elk0 338/755


ハリー「あー、ロン? もうその辺で……」

ロン「これならキュゥべえの言ってたお昼ご飯云々にも説明がつくぞ。
   マミさんや、ご飯はまだですかのう? って具合にさ! あははは」

ハーマイオニー「……ふーん」

ロン「あははは、は……あれ、なんでここに? 先に行ったはずじゃ……」

ハーマイオニー「鞄。忘れたから戻ってきたの」

ロン「あ、そ、そうなんだ……ぼ、僕が持って行ってあげようと思ってたんだ! うん、そうなんだよ!
   ああ、そうだ。次のクラスまで君の鞄持とうか? うん、そうしよう」

ハーマイオニー「あら、そう? お年寄りは大事にしてくれるってわけ?」

ロン「いやそんなことは――お、女の子には親切にしろって、ビルが言ってたんだ。
   さ、ほら。ハリー、一緒に――」

ハリー「僕、先に行って席を取ってるね」ダッ

ロン「ハリー!? 魔法生物学は屋外だから、席なんて――じゃ、じゃあマミ。
   ほら、ハーマイオニーとの夏の思い出とか、聞きたいかな」

マミ「ご、ごめんなさい。私、次の授業、別だから……行きましょう、キュゥべえ」ダッ

QB「ロン、いい言葉を教えてあげるよ。インガオウホウ。それじゃあね、きゅっぷい」

ロン「な、なんだよ、それ。はは、キュゥべえは難しいこというよね、ハーマイオニー」

ハーマイオニー「因果応報。原因は結果として相応に返ってくるって意味よ」

ロン「さ、さすがハーマイオニーだ! やっぱりさ、君みたいな頭の良い人って尊敬するよ――」

ハーマイオニー「そうよねぇ……おばあちゃんになるくらい勉強してるものねぇ……
          ところで、鞄はいいわ。私が持つから。あなたの分もね」

ロン「え、そりゃ悪いよ――というか、なんで?」

ハーマイオニー「あら、だって怪我人に荷物を持たせるのって、お年寄りに持たせるよりも可哀想じゃない?」



553 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:52:18.91 sFGo1elk0 339/755


透明の部屋


マミ「……キュゥべえ、捕まえてきてくれたカエルはまだある?」

QB「うん。昨日が雨だったからね。湖の周りにいっぱい居たよ」

「げこげこ」

マミ「よし、それじゃあ今度こそ……チーリング・チャーム!(元気呪文)」パシュッ

「げこっ!?」バチッ

マミ「どうかしら? 成功したら、元気になって3メートルくらい飛び上がるはず……」

「……これはこれはドン・ゲーロ様。まだ山は冬では?」

マミ「ああもう、また失敗……全然元気にならないわ。
   マグル学のお陰で空いた時間を、全部練習に費やしてるのに……」

QB「上達はしてるんじゃないかな。最初のほうのカエルは爆裂四散しちゃってたし」

マミ「三年生になってから、急に呪文が難しくなったわね……今年はハーマイオニーさんには頼れそうにないのに」

QB「それでも、去年まではこうやって個人練習で何とかなったんだ。今年もきっと大丈夫だよ」

マミ(そうかしら……去年は、もっとスムーズに上達していった気がするのだけど。
   ……ううん。きっと、私の努力が足りないだけよね。こうして練習用の部屋もあるんだし、頑張らないと……)



554 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:53:42.58 sFGo1elk0 340/755


夕食 大広間


ガチャッ


マミ「はー、お腹減った。結局、呪文はひとつも上手くいかなかったけど……」

QB「なに、今日練習した呪文は、まだ授業で習ってないのを予習しただけだ。
   授業で先生にコツを教えて貰えば、きっと上手くいくよ」

マミ「……ありがとう、キュゥべえ。さ、ご飯にしましょうか。
   えーと、空いてる席は……ロングボトムくんの隣ね。ロングボトムくん、隣いいかしら?」

ネビル「ああ、マミ。どうぞ、今日はキドニーパイだよ」

マミ「ありがとう。確か、ミートパイの親戚みたいな奴だったかしら? 割と好きよ、これ。
   ……ネビルくん、食べないの? なんか、野菜ばっかり食べてる気もするけど」

QB「ダイエットかい? 食事制限は効果的ではあるけど、素人がやると危ないよ」

ネビル「違うよ。そのね、僕、さっき魔法生物飼育学の授業だったんだけど……」

マミ「ああ、ハグリッドさんが先生になったっていう……どうだった? 最初はどんな生き物を勉強したの?」

ネビル「やったのはヒッポグリフ。あの羽が生えてる馬と鷲の合いの子みたいな奴。
     本物を使ってね。僕はなかなか上手くいかなかったんだけど、ハリーは乗って空を飛んでたよ」

マミ「空を! 凄いじゃない。いいなぁ、私も乗ってみたいわ」

ネビル「お勧めはできないけどね。目とかめっちゃ怖いし……それに、マルフォイの奴が爪で切られて大怪我しちゃったんだよ。
     血がいっぱい出てさ……うう、思い出しちゃった。しばらく肉料理は食べられないや」

マミ「マルフォイくんが?」チラッ


ドラコ「ああ、痛むなぁ。本当に、酷い怪我なんだよ。食事にも不便だしね。
    まったく本当にあの森番はどうしようもない」


マミ「なんだ。わりと平気そうじゃない。包帯してる以外は、いつもと変わらないわよ。
   流石はマダム・ポンフリーね」

ネビル「怪我自体はね……でも、たぶんマルフォイのことだから大げさな騒ぎにすると思うよ。
     それに、一番心配なのはハグリッドかな。授業初日であんな事故があると……」

マミ「確かに、落ち込んでそうね……そういえば、ハグリッドさんとハリーくん達の姿が見えないわ。
   ハリーくん達、ハグリッドさんと仲良かったものね……お見舞いかしら?」


555 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:54:49.45 sFGo1elk0 341/755


翌日 魔法薬学 教室


ドラコ「ほら、ウィーズリー。早く僕の材料を刻めよ。ああ、スネイプ先生。
    僕、この無花果の皮も剥けません――怪我のせいで」

スネイプ「確かに。ではポッター、君が手伝ってあげたまえ」

ハリー「……覚えてろ、マルフォイ」

ドラコ「ん? 何がだい? 僕はあのウスノロのせいで怪我をしたから、手伝ってもらわなきゃいけないんだよ。
    ほら、早く剥け。それが終わったらイモムシもな」

ロン「この野郎、大した怪我でもないくせに――」

ドラコ「大した怪我だよ。ハグリッドが先生をやめさせられるには十分だと思うねぇ……」

ハリー「やっぱりそれが目的か。ハグリッドはやめさせないぞ。この、どうしようもない、根性悪――」

スネイプ「ポッター、授業中だ。私語は慎め。グリフィンドールから5点減点」

ロン「マルフォイの奴は無視かよ! スリザリン贔屓め」



マミ「ああ、本当ね。全く、ハグリッドさんに何の恨みがあるのかしら?」

ネビル「だってマルフォイだもん。しょうがないよ……ねえ、マミ。ネズミの脾臓っていくつ入れればいいの?」

マミ「一個だけよ。そしたらよくかき混ぜて……そう。それでいいわ」

ネビル「ありがとう。マミと一緒の机で助かったよ。僕一人だったらどうなってたか……」

マミ「魔法薬は得意な方だから……それでもハーマイオニーさんには敵わないんだけどね。
   実技に関してはボロボロだし……次の授業が不安だわ」

ネビル「次は防衛術か……これも新しい先生だけど、何をやるのかな?」



556 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:55:41.93 sFGo1elk0 342/755


闇の魔術に対する防衛術 


ルーピン「さて、今日は実地練習と行こうか。場所を移そう。杖だけ持って、私についてきてくれるかな」

ロン「実地練習? なんだろう。禁じられた森に行くっていうんだったら、僕は梃子でも動かないぞ」

ハーマイオニー「そんな危険なことはしないと思うわ、多分……」

マミ「うう、呪文で吹っ飛ばすだけなら何とかなるけど……」

ハリー「マミ、やめてくれよ。トロールの時、洗濯大変だったんだから」

ルーピン「さて、到着。目的地はここさ」

ハリー「職員室、ですか?」

ロン「スネイプを退治してくれるっていうんなら大歓迎だけど」

ルーピン「なるほど、そのアイディアは参考にしよう。さて、鍵を……ふむ。これは駄目だな。ピーブズ、いるんだろう?」

ピーブス「ようルーニ、ルーピン。相変わらず酷い面だ!」

ルーピン「その綽名で呼ばれるのは久しぶりだ。君も相変わらずのようだね。
      鍵穴に詰めたチューインガムは、授業の前に剥がしておいて欲しかったが」

ピーブズ「べー! だ」

ルーピン「そうかい。まあ君とは彼らほど相性が良くなかったし、期待はしていなかったさ――ワディワジ(逆詰め)」


パン!

ピーブズ「へびゃっ!」

シェーマス「うわ、チューインガムが飛び出してピーブズに直撃した!」

ディーン「先生、クール!」

ルーピン「どうも。さあ、中に入って授業を始めようか」




557 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:56:53.61 sFGo1elk0 343/755


職員室


ルーピン「さて、職員室なんかで授業をするのは他でもない。この洋服ダンスの中に、ボガートが入りこんでね」

ハリー「ボガート? なにそれ、危ないものなの?」

洋服ダンス「ガタガタ!」

マミ「きゃあ、う、動いた……!」

ハーマイオニー「平気よ。ボガート、つまり形態模写妖怪は相手が一番怖いと思ってるものに変身するの。
          直接的に攻撃してくるわけじゃないから、そんなに危なくはないわ」

ルーピン「素晴らしい。パーフェクトな説明だ。その通り、ボガートは相手の怖いものに変身する。
      だがこうして、暗い所に入ってる時はまだ何にも変身していない。ボガートの真の姿は誰も知らないのさ」

ルーピン「さて、ここで問題だ。我々はこの時点で、ボガートに対して非常に有利な立場にいるわけだが、なぜか分かるかい?」

ハリー「……人がいっぱいいるから、なにに変身すべきかわからない?」

ルーピン「その通り。ボガートを相手にする時には、誰かと一緒にいるのが一番いい。ひとりで退治できるようになったら一人前だ。
      さて、退治の方法について話そう。呪文は簡単。"リディクラス(ばかばかしい)"。
      だが、ただこの呪文を唱えるだけじゃあ駄目だ。必要なのは、精神力と想像力でね……まずはそうだな、ネビル、おいで」

ネビル「ぼ、僕ですか?」

ルーピン「ああ、君に一番にやってもらおう。君が一番怖いと思うものは何かな?」

ネビル「……スネイプ先生」

ルーピン「ふむ。なるほどね。ロン、君の要望は早速叶えられそうだぞ。そうだな、じゃあネビル、こんなイメージはどうだろう……」





558 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:57:20.61 sFGo1elk0 344/755


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ネビル「リディクラス!(ばかばかしい)」


パチン!

スネイプ in フリフリドレス「……」

ロン「ぷっ、あははは! 見ろよ、ハリー! あのスネイプがひっどい姿だ!」

ハリー「ああ、ここにコリンがいないのが悔やまれるね。写真を撮って日刊預言者新聞に投稿したい位だ」

ルーピン「よし、次! マミ! やってみて!」

マミ「は、はい――り、リディクラス!」


バギュッ メキッ ごごごご…


スネイプの残骸「……」

マミ「……あ、あら、変ね? ゲルゲルムントゾウムシになる筈だったんだけど……」

ルーピン「失敗か。単純に吹っ飛ばしただけだね。でもまあ、ボガートはまだ動けそうだな。パーバティ、次!
      マミ、君は最後にもう一度やるから、リラックスして、イメージをしっかり固めるんだ」

マミ「は、はい! イメージ、イメージ……」






559 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:57:54.65 sFGo1elk0 345/755


パーバティ「リディクラス! ミイラ男なんて、自分の包帯で首を絞めちゃいなさい!」

パチン!

シェーマス「リディクラス! バンシーなんて、年がら年中叫んでれば喉を潰すよ!」

パチン!

ラベンダー「リディクラス! ネズミなんて、自分の尻尾を追い回してればいいのよ!」

パチン!

ディーン「リディクラス! じゃあハンドは、ネズミ捕りに捕まっちゃえ!」

パチン!

ロン「リディクラス! 去年はよくもやってくれたなアラゴグめ! ころころ転がってろよ!」

パチン!


ゴロゴロ

ロン「ハリー! そっちいったぞ!」

ハリー「分かった! リディ――」

ルーピン「おっと、こっちだ!」サッ

ハリー「え? ルーピン先生――?」


パチン!


ハーマイオニー「あら、何かしら、これ。銀色のボールがふわふわ浮かんで……?」

ルーピン「さあ、マミ! 最後だ! やっつけろ!」

マミ(落ち着いて。できる、出来るわ。全力で、やれば――)


マミ「――リディクラス!(ばかばかしい)」


バーン!


560 : >>1[saga] - 2013/03/24 00:58:55.66 sFGo1elk0 346/755


マミ「……」

ロン「……まね妖怪、跡形もなく消し飛んじゃったんだけど、これは成功なの?」

ルーピン「……うーん。まあ、ボガートはやっつけられたんだし、よしとしよう。
      よし、ボガートの相手をした生徒には5点。マミもね。ネビルは10点だ。最初によくやってくれた……」

マミ「結局、私だけ成功しなかったのね……」

QB「気を落とさないで、マミ。また練習すればいいさ」

ルーピン「それと、ハリーとハーマイオニーにも五点ずつ。質問に答えてくれたからね。
      さ、今日はこれでお終いだ。宿題はボガートについてのレポートだよ、忘れずにね」


わいわい    がやがや 

「おい、見たか僕のバンシー」「それを言うなら、私のミイラだって」「良い先生だな、本当に」

                                    わいわい がやがや


ハーマイオニー「確かに、良い授業だったわ。でも、私もボガートに当たりたかったんだけど……」

マミ「ご、ごめんなさい。私が消し飛ばしちゃったから……ハリーくんも、ごめんね」

ハリー「いや、いいんだ……というか、先生は僕にボガートを当たらせたくないみたいだった」

ロン「あの時、先生が君の前に割り込んだこと? 気のせいだろ、時間もなかったし、マミにやり直しさせる為じゃないのか?」

マミ「うう……本当にごめんなさい」

ハーマイオニー「マミも気にすることないわ。練習すれば、その内成功するわよ……」

577 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:00:18.21 8ngIvV6O0 347/755


十月 グリフィンドール談話室 掲示板前


ざわざわざわざわ……


マミ「……よし、と。これで天文学の宿題は終わりね」

ロン「お、マジかい? じゃあちょっとだけ見せて――」

ハーマイオニー「ごほん!」

ロン「はいはい、分かったよ。自力でやらなけりゃ駄目だって言うんだろ。まったくお堅いよな」

マミ「ごめんね。でも、ハーマイオニーさんなんか私たちの三倍近い量の宿題をやってるんだから、頑張らなきゃ駄目よ?」

ロン「僕とハーマイオニーの頭の出来を一緒にしないでくれよ。彼女くらい頭が良かったら、僕だって喜んで宿題をやるさ」

ハーマイオニー「逆でしょ。宿題をきちんとやらなきゃ、成績は良くならないわよ」


ガタン


ハリー「はぁー、疲れた。外は寒いよ。凍えそうだ……」

ロン「お疲れさま。こっちきて座れよ。暖炉の傍取っといたからさ。クィデッチの練習はどう?」

ハリー「ウッドは今年が最後のチャンスだからね。凄い張り切ってる。もちろん僕らもさ。今年こそ優勝杯を掴むってね」

QB「去年はトーナメント自体が中止になっちゃったんだっけ? 一昨年は……」

ハリー「最後の試合が、ちょっとね。ほら、つまりなんというか、連携がさ……」

マミ(150点減点のせいで、ハリーくん達がずっと無視されてた時期だったものね……)

578 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:01:19.54 8ngIvV6O0 348/755


ハリー「それよりみんなざわついてるけど、何かあったの?」

ロン「ああ、ほら。そこの掲示板。第一回目のホグズミード週末だってさ」

ハリー「へえ……ちょうどハロウィンの日か」

マミ「それじゃあ明日の変身術の授業が終わったら、マクゴナガル先生に許可を貰いに行きましょうか?」

ハリー「うん。一緒に行こう」

ハーマイオニー「許可がでるといいわね。一緒に行けるのを楽しみにしてるわ……あら、クルックシャンクス」

クルシャン「なーご」ピョン

ロン「うわ! 出た! しかも何か、でっかい蜘蛛を咥えてやがる!」

ハーマイオニー「ひとりで捕まえたの? 偉いわねぇ、クルックシャンクス」

ロン「そうだね。もうひとりで狩りができるんだから、野生に返してやったらどうかな?」

ハーマイオニー「なに馬鹿なこといってるの。クルックシャンクスは、頑張ったから褒めて貰いに来たのよ」

マミ「蜘蛛ね……魔法薬の材料で散々使ったから、すっかり平気になっちゃった自分が何だか嫌だわ」

QB「この前のカエルも平気だったしねぇ……ん、なんだい? クルックシャンクス」

クルシャン「……なー」ブチッ ズイッ

QB「蜘蛛を半分くれるの? でもなぁ……」

マミ「言っておくけど、それを食べたらもう同じベッドには入れないわよ」

ロン「キュゥべえ。それを咥えたりしたら、僕は二度と君を相手にチェスしないからな」

ハーマイオニー「まあ、クルックシャンクスはお友達想いなのね……いいじゃない、マミ、ロン。
          猫は虫を食べるものよ。ねえ、ハリー?」

ハリー「でもキュゥべえって、僕たちと同じもの食べてるし……」

QB「僕も蜘蛛はちょっと……気持ちだけ貰っておくよ」

クルシャン「……ふー」ジリッ

QB「え、なんで近寄ってくるの……な、なんか怖い! 目が怖い! なんでそんな舌なめずりとかして……マミ! マミ!」

クルシャン「ふぎゃーーーー!」

QB「わ、わああああっ!」ダッ

マミ「あ、キュゥべえ……まあいっか。このところ運動不足だったし、丁度いいでしょ」

ハーマイオニー「クルックシャンクスったらはしゃいじゃって……友達と遊べるのが、本当に嬉しいんだわ。
          随分長いことペットショップにいたんですもの。不思議よね、あんなに可愛いのに」

ロン「ほんと、どうしてだろうね? まあキュゥべえには悪いけど、スキャバーズが狙われなくて良かったよ。
   ま、今は僕の鞄の中で寝てるから安心だけどね……さて、そろそろ僕も寝るかな」

579 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:01:51.01 8ngIvV6O0 349/755


ハリー「僕ももう寝たい……けど、天文学の宿題をやらなきゃ……」

ロン「僕のを写していいよ。ほら、それまで待ってるから」

ハーマイオニー「丸写し? 感心できないわね」

ロン「仕方ないだろ、ハリーはクィディッチの選手なんだ。君はグリフィンドールが優勝できなくてもいいのか?」

ハーマイオニー「それとこれとは別よ。何のために宿題をやるの?」

ロン「そりゃあ、宿題を忘れて罰当番とかを食らわないようにするためさ。ほら、ハリー写しちまえよ」

ハリー「うん……あ、キュゥべえとクルックシャンクスが戻ってきた」

QB「マミィィィイ! あの猫が! あの猫が僕の尻尾を!」ピョイッ

マミ「わ、ちょっと頭の上に飛び乗らないで! わぷっ、尻尾が、尻尾が顔に掛かってなにも見えないから!」フラフラ

ハリー「うわっ、マミ! そんな状態で立ち上がろうとしないで! 危なっ……!」


どんがらがっしゃーん


ロン「うーわ。大惨事だ。インク瓶だけは寸前に避難したけど……ハリー、マミ、平気かい?」

マミ「いたたた……へ、平気よ。ごめんね、誰か怪我とかしてない?」

ハリー「みんな無事だよ……キュゥべえがマミの下で潰れてる以外は」

マミ「あ、そうなの? なら良かったわ」

QB「よくなぃぃぃぃいいいいい……」

ハーマイオニー「キュゥべえ、平気? でも急に飛び乗ったりしたら危ないわよ?」

ロン「いや、元はといえば君の猫が原因だろ。そういやどこいった、あのオレンジ色の危険生物は?」

スキャバーズ「チチッ、チ――っ!」

クルシャン「シャアアアアアア!」

ロン「ああ! こいつ、またスキャバーズを追っかけて!」

ハリー「鞄が開いてる……クルックシャンクスが開けたのか?」

ハーマイオニー「まさか。ロンが閉め忘れてただけでしょ――クルックシャンクス! めっ!
          ほら、こっちにきなさい。カリカリがあるから。ね?」

ロン「そんな悠長なことやってる場合か! おい、誰かその猫公を捕まえろ! なんなら呪っちまってもいいから!」ダッ

ハーマイオニー「あっ! ちょっとロンなんてことを! させないわよ!」ダッ

580 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:02:40.59 8ngIvV6O0 350/755


五分後


ロン「ぜぇ……ぜぇ……ふぅ、やっと捕まえた。スキャバーズ、ほら、もう安心だ……」

スキャバーズ「チチッ! チチチッ!」ブルブル

ハーマイオニー「はぁ……はぁ……クルックシャンクス、ほら、暴れないで、ったら!」

クルシャン「フシャー! フシャー!」ジタバタ

ロン「そいつを絶対離すなよ! 見ろ、スキャバーズはこんなに震えちまって!
    最近、全然餌も食べないんだぞ! そのケダモノのせいだ!」

ハーマイオニー「クルックシャンクスをそんな風に言わないで! なによ、猫はネズミを追いかけるものだわ!」

ロン「キュゥべえは一度もスキャバーズを追い回したことなんかないけどね! 飼い主ならちゃんと躾をしろよ!」

ハーマイオニー「それは、クルックシャンクスは最近買われたばっかりだから!」

ロン「それに、なんか変だぜそいつ! 騒ぎを起こして、その隙に僕の鞄を開けた!
   鞄の中にスキャバーズがいるって聞いてたんだ!」

ハーマイオニー「そんなことあるわけないでしょう? ロン、あなたむきになって――」

ロン「むきになってるのはどっちだよ! いいか、とにかくその猫畜生を二度とスキャバーズに近づけるなよ!」スタスタ

ハーマイオニー「ロン! 話を――ああ、もう! 男子寮に上がっちゃった……」

マミ「ああ、どうしよう……二人が喧嘩を……」オロオロ

ハリー「放っておいたら? 前からこんな感じだし、その内仲直りするよ」

マミ「そ、そうかしら……? でも、ロンくん本気で怒ってるみたい……」

ハリー「うーん。まあ、確かにちょっといつもより怒ってるかも……」

581 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:03:22.14 8ngIvV6O0 351/755


翌日 薬草学


スプラウト「いいですか、この"花咲豆"は地面に触れた瞬間に発芽します。
       ですから、摘み取り作業をするときは絶対に下に落とさないように――」


ロン「……」ブチッ

ハーマイオニー「……」ブチッ

ハリー(まだ怒ってる……二人とも頑なに口を利こうとしない。ならなんで同じ班に……)



マミ(やっぱり向こうは険悪なムードね……ハリーくん、可哀想に……)

ラベンダー「……うう、ひっく、ぐすっ」

マミ「ふぇ!? ら、ラベンダーさん、どうしたの!? 指切っちゃったりした?」

ラベンダー「ちがっ、ひっく。ちが、うの。ただ、今朝の手紙、うぅ、思い出しちゃって……」

マミ「手紙?」

パーバティ「今朝、お家から届いたの。ビンキーが狐に殺されちゃったんですって……ラベンダー、平気?
       無理しなくていいわ。作業なら、私とマミでやっておくから」

マミ「ビンキーって、ラベンダーさんが可愛がってた兎よね……うん、ラベンダーさんは休んでて。
   ペットが死んじゃうのは辛いものね……ほら、ハンカチ使って」

ラベンダー「ぐすっ、ありがとう、二人とも……うう、でも、私のせいで。ビンキー……」

マミ「そんな、悪いのは狐でしょ? ラベンダーさんのせいじゃないわよ……」

ラベンダー「違う。違うの。私、防げたのよ。今日は十月十六日。前の授業の時、トレローニー先生が予言してたの!
       今日、私の恐れてることが起きるって!」

マミ「トレローニー先生って、占い学の……そんな、本当に……?」

ハーマイオニー「――話を聞いてたけど、ラベンダー。あなた、兎が殺されてしまうかもって思ってた?」

582 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:03:56.34 8ngIvV6O0 352/755


ラベンダー「それは、そうよ。ぐすっ、だって、ビンキーは私の大切な家族だったんだもの」

ハーマイオニー「家族だからって、死ぬのを怖がることには繋がらないでしょう?
          たとえば兎がもうだいぶ歳を取っていたら別だけど、そうだった?」

ラベンダー「それは……ビンキーはまだ、子供だったけど……」

マミ「あ、あの、ハーマイオニーさん? いったい、何を――?」

ハーマイオニー「じゃあ、どうしてずっと死ぬ心配なんてするの?」

パーバティ「……」キッ

ハーマイオニー「論理的に考えて、あの占いが当たってる保証なんてないわ。
          手紙が今日来たってことは、兎はもっと前に死んだんでしょう?
          だいたい、恐れてることが起こるなんて大雑把すぎるのよ。毎日何かしら悪いことは起きるものだし――」

ラベンダー「うう、ぐすっ、わああああああん――!」

ハーマイオニー「え、ちょっと、なんでそんな泣くのよ――」アセアセ

パーバティ「ねえハーマイオニー、言い過ぎじゃない? そりゃあ、あなたがトレローニー先生を嫌いなのは知ってるけど。
       でも、ラベンダーは関係ないでしょう? なんでそんな責める風に言うの?」

ハーマイオニー「そんな! 私、別に責めてなんか……ねえ、マミ? 私、そんな酷い言い方だった?」

マミ「え、と……その、少し、言葉が直接的だったかしら?
   だってラベンダーさんは大切なペットが死んじゃって、泣いてたわけだし――」

ロン「ほっとけよ! そいつ、人のペットのことなんか、なーんとも思ってないんだから!」

ハーマイオニー「な……! ロン、あなた――」

スプラウト「はいはい! おしゃべりが過ぎますよ! 授業に集中して!」

ハーマイオニー「……」

ロン「……」

ラベンダー「ぐすっ、ぐすっ……」

パーバティ「ほら、ラベンダー、元気出して……」


583 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:05:52.35 8ngIvV6O0 353/755


変身術 教室


マクゴナガル「――以上で今日の授業はおしまいです。宿題を忘れないこと。
        ああそれと皆さん、寮に戻る前にホグズミード行きの許可証を提出してください」

ロン「……」ガタッ

ハーマイオニー「……」ガタッ

ハリー(行ったか……だから、なんで喧嘩してるのに僕を挟んで隣に座るんだろう……」

マミ「きっと、お互い喧嘩してて不安なんでしょ。だから友達の傍に居たいのよ」

ハリー「うえ? もしかして僕、声に出してた?」

QB「ばっちりね。気をつけなよ、まあ、疲れるのもわかるけどさ」

ハリー「あの二人の喧嘩癖は本気でどうにかならないかなって、たまに思うよ……」

マミ「喧嘩するほど仲がいい、っていうけれど……毎回それの仲裁役じゃ大変かもね。
   ふふっ。でも二人もきっと、そんなハリーくんがいるから毎回喧嘩できるんでしょうけど」

ハリー「勘弁してほしいなぁ……それより、そろそろ行こうか? もうみんな渡し終ったみたいだし」

マミ「ええ、許可証は持ってる?」

ハリー「ああ、無記名のね。さて、僕のにもサインをくれればいいけど……」

マミ「私のにくれるんだから、きっと大丈夫よ――マクゴナガル先生!」

マクゴナガル「……ああ、マミ、ですか。そうですね、話さねばならないとは思っていましたが……」

マミ「? 何をです? あ、それより許可証のことなんですが、できれば私のと一緒に、ハリーくんのにも――」

マクゴナガル「すみませんが、サインはあげられません」

マミ「え……で、でも、私のにサインしてくださるなら、ハリーくんのにも――」

ハリー「あー……まあ、そういう可能性もあるって思ってたけどさ。
     残念だけど仕方ないよ。マミ、お土産をよろしく――」

マクゴナガル「……トモエの分も、サインはできないのです」

マミ「……え?」

ハリー「先生、どうしてですか? 僕はともかく、マミは去年、先生に許可をとったって……」

マクゴナガル「……その、大変申し訳なく思うのですが、状況が変わったのです。
         去年の時点では、確かに私が保護者代理としてサインを行うこともできたのですが……」

マミ「そんな……」

QB「もしかして、シリウス・ブラックのせいかな?」

マクゴナガル「その通りです。あれが野放しになっているということで、サインの徹底を図るようにということになりまして。
         トモエ、約束を破る形になって、本当に心苦しいのですが……」

マミ「……仕方、ないですよね。先生のせいじゃ、ないですし。分かりました。寮に戻ります……」

ハリー「マミ……」

マクゴナガル「……」

マクゴナガル(……ポッターと、一緒でなければ……いえ、彼女一人を特別扱いするわけにはいきませんね……)

584 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:06:39.94 8ngIvV6O0 354/755


グリフィンドール寮 談話室


マミ「……」ズーン

ハリー「……」ズーン

ロン「あー、その……元気出せよ。来年は、きっと行けるし……同じ日には、ハロウィーンのパーティもあるじゃないか。
   去年は絶命日パーティで潰れちゃったし、きっと楽しいよ――」

ハーマイオニー「そうよ。それに、これで良かったのかも。ほら、ブラックはハリーを狙ってるわけだし。
          マクゴナガル先生が許可を出すなら、って思ってたけど、許可がでないんじゃやっぱり危ないってことだし……」

マミ「……ぬか喜びさせちゃってごめんね、ハリーくん」ズーン

ハリー「……いいよ。悪いのは、ブラックだし……」ズーン

ハーマイオニー「駄目ね、私たちの声が届いてないわ」

ロン「二人とも、楽しみにしてたもんなぁ――おい、パーシー!
    いつも自慢してる監督生の権限でどうにかなったりしないの、これ?」

パーシー「先生の許可が出ないんなら、いくら監督生だってどうしようも――ああ、いや、待てよ。
      待っててくれ。いいことを思いついた」

ロン「お、マジかよ!? 一ミリも期待してなかったけど――なんだろう、偽造許可証でも造ってくれるのかな?」

ハーマイオニー「あのパーシーが? フレッドとジョージが悪戯グッズを全部捨てることくらい有り得ないわ」


数十分後


パーシー「待たせたね。ほら、二人ともこれを読みたまえ」

ロン「なんだこの紙束、パーシーが書いたの?」

マミ「……ハニーデュークスのお勧めセレクト?」

ハリー「"叫びの屋敷"のベストスポット5?」

ハーマイオニー「あの、パーシー? なにかしら、これ」

パーシー「僕なりにホグズミードのことをまとめてみた。
      行けないなら、せめて雰囲気だけでも味わえればと思って――ああ、お礼はいいよ。
      下級生のことを慮るのも、監督生の義務だ。それじゃ」スタスタ

マミ「はにー、でゅーくす……おかし……」

ハリー「ゾンコの悪戯専門店……ああ……」

ロン「生殺しもいいとこじゃないか! 最低だ、パーシーの奴!」

ハーマイオニー「無駄に文章力高いのがまた……ハニーデュークスのお菓子のくだりなんか、
          読んでるだけでよだれが出てきそうよ、これ」


585 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:07:25.83 8ngIvV6O0 355/755


翌日 ハロウィーン/ホグズミード週末 廊下


ハリー「……はぁ。みんな行っちゃったね。
    ロンとハーマイオニーは、お土産を持ってきてくれるって言ってたけど……」

マミ「これからどうしましょうか……ハロウィーンパーティが始まるまで、談話室でゲームでもしてる?」

ハリー「いや、さっきコリンがいた。多分、談話室に居る限りずっと付きまとってくると思う」

QB「じゃあ、図書館で勉強すれば?」

ハリー「本気で言ってるの? みんながホグズミードで遊んでる間に勉強なんてしたいと思う?」

マミ「流石に、ちょっとね……昨日の今日だし。魔法を練習する気にもなれないわ……」

QB「じゃあどうするのさ? このままずっと学校中歩き回ってるつもり?」

フィルチ「――何をしている、貴様ら?」

ハリー「あ」

マミ「……フィルチさん」

フィルチ「ホグズミードに行かず、こんなところで何を企んでる? 新しい悪戯の計画か?
      それとももう実行した後か?」

マミ「違いますよ。私達、許可がおりなかったんです」

フィルチ「なに、本当か? 私を謀ろうとしてるわけじゃあるまいな?
      ……なら、勉強でもしていたらどうだ。図書館にでもいけばよかろう」

マミ「だって、皆が遊んでるのに……」

フィルチ「学生の本分は勉強だろうが。それなのにお前らときたら悪戯だのなんだのと!
      ほら、さっさと行け! 私はこれからまた仕事なんだ。手間を掛けさせるんじゃない」

マミ「分かりました……それじゃ、フィルチさん。お仕事頑張ってくださいね」

フィルチ「ふん、お前に言われずとも分かっとるわ!」スタスタ

ハリー「……行ったか。マミはさ、よくフィルチとまともに話せるね」

マミ「言われてるほど酷い人じゃないわよ。まあ、確かに意地悪なとこもあるけど……さて、どうしましょうか?」

ルーピン「……おや? ハリーとマミじゃないか。どうしたね、デートにしては相応しくない場所だが……」

マミ「で、デートって……違います! わ、私たちはホグズミードの許可がおりなくて!」

QB「マミ、声が大きい。フィルチが戻ってくるよ」

ルーピン「ああ、なるほど……ふむ、それなら、どうだろう。私の部屋でお茶でも飲むかい?
      ついでに次の授業の話でもしていれば、フィルチさんもうるさくは言わないだろう」



586 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:08:19.11 8ngIvV6O0 356/755


ルーピンの部屋


水魔「グゲゲゲゲ!」チャポン

ハリー「これ、次にやる生き物ですか?」

マミ「うう、気色悪い……細長い指が、虫の足みたいにうねうね動いて……」

ルーピン「水魔(グリンデロー)さ。まあ、その指に気を付ければ大したことはない……脆いしね。
      マミならいつも通り一撃で粉々にできるだろう」

マミ「ご、ごめんなさい……いつもいつも、教材の生き物を吹っ飛ばしちゃって……」

ルーピン「いいさ。どうせ経費で落ちるし……ハグリッドが残念がるくらいかな。
      それに、結果として防衛にはなってるわけだしね。まあ、変身術や呪文学もその調子だと困るだろうが……」

マミ「あうううう……」

ルーピン「……あの調子なのかい?」

ハリー「前から失敗することは結構あったけど、今年度になってからはさらにあれだよね」

QB「まあでも、みんな慣れてきたし、人的な被害はさほどでもないよね」

マミ「一応、練習はしているんですけど……」

ルーピン「ふむ、気にすることはない――と手放しに言うことはできないが、気にしすぎないようにね。
      ホグワーツに入学できたということは、それだけで何らかの才能がある証拠だ」

マミ「はい、ありがとうございます……」

ハリー「……」

ルーピン「さて、紅茶がはいったが――ハリー、どうにも浮かない顔をしているね。
      そんなにホグズミードに行けないのが残念かい?」

ハリー「いいえ――いや、もちろん残念ですけど、それとは別に、聞きたいことがあって……」

ルーピン「遠慮することはない。なんでも話してごらん」

ハリー「はい。あの、ボガートの授業の時のことなんですが……
     先生が、その、僕に順番を当てないないようにしたような気がして……」

マミ「そういえば、そんなこと言ってたわね……でもハリーくんの考えすぎよ、って」

ルーピン「いや、ハリーの言う通りだ。私はハリーがボガートと当たらないようにした……
      が、なるほど。ふむ。それで私が君のことを低く見ているのではないか、と悩んでいたのか。
      それは悪いことをしたね。だが、言わずとも分かるだろうと思っていて……」

ハリー「どうしてですか?」

587 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:08:57.86 8ngIvV6O0 357/755


ルーピン「君と相対したボガートは、ヴォルデモート卿の姿になる。そう思ったのさ」

ハリー「……先生は、ヴォルデモートの名前をそのまま呼ぶんですね」

ルーピン「うん? ああ、例のあの人って呼び方かい。まあね、魔法使いの誰もが、奴の名前を口にできないわけじゃない。
      でも大多数の者は怖がっている。だからあの日、私は君にボガートを当てなかったんだ」

ハリー「……確かに、僕も最初はヴォルデモートのことを思い浮かべました。
     でも、すぐに別の――吸魂鬼のことが浮かんできて……」

マミ「吸魂鬼……あの、電車で私たちを襲った……」

ハリー「先生、そのことも聞きたかったんです。あの時、僕とマミだけが気絶してしまったのは――?」

ルーピン「……そもそも吸魂鬼、というのはだ。人から幸福を吸い取って生きている、この世で最も忌避すべき生き物だ。
      だから奴らと一緒に居続けると、幸せな感情をすっかり抜き取られてしまう」

QB「……」

ルーピン「そうやって全ての感情を抜き取られた後に残るのは絶望だけだ。
      吸魂鬼の影響が君たちに強く表れたのは、過去の経験に起因するものだろう。
      つまりそれだけ、君たちの過去に辛い経験があったということだ」

ハリー「それって、つまり……」

ルーピン「ハリーは言うまでもないね。君の最悪の経験は、
      それこそほとんど全ての魔法使いが、心の底から恐れている存在がもたらしたものだ……」

ハリー「ヴォルデモート……じゃああの時聞こえた叫び声は、僕の……」

マミ(……その論で行くと、あの時見た夢が、私の最悪の……?
   ほとんど覚えてないけれど、あの事故の夢だったような……)

ルーピン「……暗い話になってしまったかな。紅茶、おかわりは――」


ガチャッ


スネイプ「ルーピン、薬だ――ポッターが何故ここに?」

ルーピン「ああ、ちょっと授業の話をね。ありがとう。そこに置いといてくれ」

スネイプ「すぐに飲め。苦いから飲みたくないなどという泣き言は聞かん。飲み損ねて泣きを見るのは勝手だが」

ルーピン「分かった、分かりました……御心配どうも」

スネイプ「我が輩が心配しているのは別に貴様のことではなく――あー、ダンブルドアからの頼みであればこそ、だ。
      貴様が飲まず、我が輩の腕が疑われるのは不本意であるからして。では、確かに渡したぞ」


バタン


マミ「薬って――先生、御病気なんですか?」

ルーピン「ちょっとね。スネイプ先生にはいつも薬を調合して貰っていて――でも酷い味なんだよ、これ。ほら」

マミ「うわぁ……においも色も凄まじいですね」

QB「正直言うと、ドブみたい」

ルーピン「これから私が飲むっていうのに、嫌なたとえを――ん、ハリー? どうしたね。一口飲んでみるかい?」



588 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:10:36.93 8ngIvV6O0 358/755


夕食後 グリフィンドール寮への廊下


ロン「で、ルーピン先生はそれ飲んじまったのかい? え、マジで?
   ハリー、なんで止めなかったんだよ。スネイプが防衛術の先生の座を狙ってるのは有名じゃないか」

ハリー「いやだって、止める間もなく飲み干しちゃったし……」

マミ「凄い勢いで一気飲みしてたもの……よっぽど酷い味だったに違いないわ」

ハーマイオニー「ルーピン先生、御病気だったのね。顔色が悪かったのもそういうわけだったのかしら」

ロン「スネイプに毒を盛られてるからじゃないの? じわじわ効くやつを少しずつ……」

マミ「さすがにスネイプ先生もそんなことしないわよ、きっと」

ハーマイオニー「やるにしても、マミ達の前ではやらないと思うわ」

ロン「どうかな、あの陰険野郎、いつかやりかねないと――」


ドン!


ロン「痛っ! おい、シェーマスなんでそんなとこで止まってるんだよ。
   これから僕たちは談話室でホグズミード土産を囲むんだから――って、この行列はどういうわけ?」

シェーマス「ああ、ロン。僕も分からない。さっきからずっと進まないんだけど」

ハリー「前の方、寮の入り口でつっかえてるみたい」

ロン「何だよ、みんな合言葉を忘れちまったのかい? ネビルでもあるまいし」

マミ「こんな時こそ、キュゥべえ。あなたの出番よ。前の様子を見てきて頂戴。さあ、ごー!」

QB「人使いが荒いなぁ……」ピョイッ

パーシー「何をしてるんだ? さあ、通して! 僕は首席で監督生だ!」ズカズカズカ キュップイ!

ロン「首席は関係ないだろ――あ、キュゥべえ踏まれた」

マミ「きゅ、キュゥべえーーーーーっ!」

ピーブズ「おやおやおや、なんだいなんだい。悲鳴が聞こえたから、また誰か切り刻まれたと思ったけれど。
      生徒諸君、こんなところでゆっくりしてていいのかな?」ヒョイッ

ハリー「うわ、ピーブズ! この面倒くさい時に……もしかしてこの行列も君の仕業?」

ピーブズ「いーやー? さすがにあんな真似はしないねえ。ひっどく残酷! ひっどく短気!
      あいつだって、昔は世話になっただろうに!」

ハーマイオニー「あいつ? 世話になったって――あなた、一体誰のことを言ってるの?」

ピーブズ「時の人さ! 時の人、時の人……時がたちすぎて、昔ほど洒落は通じなくなっちまったかもなぁ。
      いや、それとも昔からあんなもんだったか――」


パーシー「大変だ! "太った婦人"の肖像画が滅多切りに! 一体誰がこんな……」


ピーブズ「――あの、シリウス・ブラックは!」

589 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:12:01.62 8ngIvV6O0 359/755


大広間


ダンブルドア「さて、申し訳ないがそういうわけじゃ。
         これから我々職員は全員でシリウス・ブラックの捜索に当たらねばならん。
         見張りには監督生が立ってくれる。安心して、ゆっくりおやすみ」


ざわざわ

「ブラックはどうやってホグワーツの中に――?」「姿現しじゃないかな?」「箒で飛んできたとか」

                                                  ざわざわ


ハーマイオニー「ああもう! ホグワーツでは姿現しは無理!
          空を飛んできたりなんかしたら吸魂鬼に見つかるわよ! 
          どうしても誰もこんな簡単なことが分からないわけ?」

ロン「君じゃないからだろ。それは何の本のどのページに書いてあったわけ?」

ハーマイオニー「ホグワーツの歴史、231ページ四行目の――」

ロン「おーけー聞いた僕が馬鹿だった。さ、寝ちまおうかハリー?」

マミ「ハーマイオニーさん、私達も寝ましょう……寝れないなら、枕を貸してあげるから」

QB「それって僕のことじゃないよね? 勘弁してよ、ただでさえ朝はマミのよだれまみれなのに――きゅっ!?」ギュッ

ハリー「……そういえばさ、ハロゥイーンって絶対になんかトラブルあるよね。
     去年はミセス・ノリスが怪物に襲われたし、一昨年はトロールが入りこんだし」

ロン「ああ、そういやそうだな……そういや、結局あのトロールはクィレルの奴がいれたんだっけ?
   待てよ? じゃあブラックも誰かが手引きして……」

ハーマイオニー「馬鹿なこと言わないでよ、ロン。誰がブラックなんかと内通するっていうの?」

ロン「マルフォイとかスネイプなら、ブラックとも仲良くやってけそうな気もするけど――」


パーシー「ほら、そこ! いつまでも話してないで寝ろ!」



590 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:13:06.16 8ngIvV6O0 360/755


数日後 夕方 グリフィンドール寮 入り口前


カドガン卿「さあ名乗れ! この悪辣なる二連星め!
       邪悪なものはこのカドガン卿が一切の侵入を拒むであろう!」

ジョージ「うるっさいなあ、こいつ。阿呆みたいな合言葉ばっか考えるし……
      おい、パーシー。もっとまともな扉番はいなかったのかよ?」

パーシー「どの絵もこの仕事を嫌がったんだよ。太った婦人があまりにも惨い状態で……」

フレッド「驚いたな。監督生のパーシー様はまだ肖像画になってなかったのかい?」

パーシー「ああ、まだだ」

フレッド「……そうまではっきり断言されっちまうと、もう言葉もないね」

パーシー「そんなことより早く着替えを取ってこい。クィデッチの練習に行くんだろう?」

ジョージ「おっと、そうだった――"スカービー・カー、下賎な犬め"。ほら、さっさと開けろ」

カドガン卿「開けん!」

ジョージ「はぁ? なんでさ、合言葉は合ってるだろ?」

カドガン卿「今、変えたのだ! さあ我が輩が今朝朗読した4番目の――」


パカッ


マミ「よっこらしょ、っと――ああ、ごめんなさい。入るところだったかしら?」スタッ

フレッド「おお、ナイスタイミング――なあパーシー、もうこれ内側に屋敷しもべ妖精でも待機させといた方が早いぜ、絶対」

ジョージ「全くだ。ああ、マミ。悪いけど通してくれ。練習が始まっちまう――」ヒョイッ

QB「それなら急いだほうがいい。さっきウッドが『双子は何処だ!』って大声で叫びながら談話室を出てったから」

ジョージ「うわ、マジか。急ぐぞフレッド!」ダッ

フレッド「ああ。ウッドがカンカンになって頭の血管切る前にな」ダッ

パーシー「やれやれ。あいつらも、もっと時間に余裕をみて行動して欲しいものだ――で、マミ。君は何処へ?
      最近物騒だし、用もないのに出歩くのは……」

マミ「あの、私は……」


パカッ


ハーマイオニー「クルックシャンクスがいないの!」

パーシー「クル――なに?」

マミ「ハーマイオニーさんの猫が外に遊びに行ったきり、帰ってこないんです」

ハーマイオニー「心配だわ。頭の良い子だから、迷子になんかはなってないと思うけど……」

パーシー「ふむ――そういうことなら、まあいいだろう。あとさっき、合言葉が変わったよ。
      カドガン卿曰く、四番目の奴、だそうだ」

マミ「え……えーと……四番目……?」

QB「"イーブルナッツ、悪意の実"だよ。マミもネビルみたいに、合言葉をメモに書いて持ち歩いたら?」

マミ「いいわよ。キュゥべえが代わりに覚えてくれてるし……じゃ、ハーマイオニーさん。
   とりあえず、手分けして探しましょ?」

ハーマイオニー「ええ、ありがとう、マミ……ハリーはクィディッチの練習だし、ロンは手伝ってくれないしで困ってたの。
          それじゃ、お願いね」


591 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:13:43.70 8ngIvV6O0 361/755


ホグワーツ 校庭端


マミ「……とはいっても、ホグワーツって凄い広いし……どうやって探しましょうか?」

QB「何にしても、急いだ方がいいかもね。ほら、天気も悪いし……雨が降りそうだよ」

マミ「最近、ずっとよね……もうすぐハリーくん達が試合するのに。
   あとキュゥべえ、重いから頭から降りていますぐに。ほら、抱っこしててあげるから」

QB「い、嫌だ! 毎回毎回あの猫、僕の尻尾を食い千切ろうとして! ひたすら尻尾の付け根を狙ってくるんだ!」

マミ「じゃあ、寮で待ってればよかったじゃない」

QB「そんなの、君がいない内にあの猫だけ戻ってきたらもっと怖いじゃないか!」

マミ「意気地なし……」

QB「あんなケダモノに追いかけられたら怖いに決まってる。
   正直、スキャバーズの気持ちも分かるよ。彼、人間みたいな魂してるし」

マミ「適当言わない。なんでそんなことキュゥべえに分かるのよ?」

QB「……マミには黙ってたけど、僕には隠された24の特殊能力があるんだ」

マミ「え、え、そうなの? ちょ、ちょっと気になるわね。違うのよ、別に、かっこいいとは思ってないけど。
   でも、ペットの特徴の把握は飼い主の義務だから――」

QB「……あ」

マミ「――そうね、それで契約を交わすと真の姿になって、封印の獣ケルベロスになるのよ。
   地獄の炎を吐いたり、空を飛んだりして――」

QB「マミ。ストップ。歩きも妄言もいったん止めて。僕にそんな機能ないし」

マミ「えぇ、期待させておいてそんな……なによ、もう」

QB「いや、この距離まで気づかなかったのもあれだけど、目の前」

マミ「目の前?」


黒犬「……」ジッ


592 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:15:46.97 8ngIvV6O0 362/755


マミ「……あ、あわあわ……お、大きな犬が、じっとこっち見てる……!」

QB「うん、すっごい大きいね。アイリッシュ・ウルフハウンドみたい」

マミ「な、何よ、その怖そうな単語……」

QB「犬の種類だよ。名前通り、真正面からオオカミを食い殺せる犬なんだけど――」

マミ「っ!」クルッ

QB「おわっと! マミ、急に方向転換しないで! それに、基本的に犬は逃げるものを追うよ。
   こういう猟犬って時速60km以上で走れるんだけど、マミはそれより速いの?」

マミ「う、うう……私、ここで食べられちゃうんだ……短い人生だったわ……」

QB「やーい。さっきは人のこと意気地なし呼ばわりしてたくせにー」

マミ「……キュゥべえ。あなたさっきから、ずいぶん落ち着いてるわね。同じ猫にはビビりまくってるくせに。
   言っておくけど、いざとなったらあなたを生贄に捧げるわよ?」

QB「あのケダモノと僕を一緒にしないで欲しいなぁ。
   それに、平気だよ。目の前の彼の魂も人に近いから、きっと理性的だと思うな」

黒犬「……ハッハッハ」

マミ「……そういえばこの犬、さっきから行儀よく"お座り"の姿勢で動かないわね。
   それに、よく見たらずいぶん痩せてるし……毛並も悪いわ。栄養不足かしら。お腹減ってるの?」

黒犬「バウッ!!!!!」

マミ「きゃっ。な、鳴き声もダイナミックね……でも、そうなの。お腹減ってるの……
   えーと、何か持ってたかしら……」ゴソゴソ

黒犬「! ハッハッハ、チキワン!」

マミ「? 変な鳴き声ね? ……あ、チョコバーがあったわ。ロンくん達から貰ったお土産の残り……
   でも犬にチョコは駄目だから……」

黒犬「……クゥーンクゥーン」

マミ「……欲しいの? そ、そんなつぶらな瞳でこっちを見ないで……キュゥべえ、どうしましょう?」

QB「このくらいの大きさの犬なら、チョコバー1本くらいは平気だよ。
   本人が尻尾振ってまで食べたいって言ってるんだし、あげちゃえば?」

マミ「そう……それじゃ、あげるわ。きちんと包み紙を解いて……はい、どうぞ」

黒犬「むしゃむしゃむしゃ!」

マミ「わわ、凄い食べっぷり……よっぽどお腹減ってたのね。ふふ、一生懸命食べちゃって……
   こういうおっきい動物も、こうなると可愛いわね」

QB「……さっきは怖がって癖に、現金だなぁ」

マミ「あら、嫉妬?」

QB「……そんな感情は知らないね」プイッ


593 : >>1[saga] - 2013/03/30 02:16:38.79 8ngIvV6O0 363/755


黒犬「バウ!」

マミ「もう食べ終わったの? そうよね、あんな小さなチョコバーだものね……じゃあこれも半分あげるわ。
   ハーマイオニーさんがくれたクルックシャンクス捕獲用のジャーキーなんだけど、食べるかしら?」スッ

黒犬「ムシャムシャ! バウ! ぺろぺろぺろ!」

マミ「あははは! くすぐったいっ。な、舐めないでってば! 私の指はジャーキーじゃないったら! あはは!」

QB「よっぽどお腹減ってたんだろうなぁ……それはともかく、マミ、犬の口の中は雑菌だらけだからね。
   帰ったら手を洗うんだよ」

マミ「……ってそうだったわ。クルックシャンクスを探さないと……それじゃあバイバイ、犬さん。
   あんまりうろちょろしてちゃ駄目よ?」

黒犬「バウッ! バウッ!」グイッ

マミ「え、ちょ、わ! や、やめて! スカート引っ張らないで! もう餌はないったら!」

黒犬「ウゥゥウウウ! バウ!」クイッ

マミ「な、なに? ついて来いってこと? も、もしかして、やっぱり私を食べる気じゃ――わ、ひ、引っ張られる……!」


木の上

クルシャン「……シャーーーーーー!」バッ

マミ「きゃ!? う、上から何か落ちてきて……クルックシャンクス!? 木の上に居たの!?」

QB「わ、わあああああ! 猫だああああああ!」ダッ

マミ「あ、キュゥべえが地面に……そうか、クルックシャンクスに叩き落とされたのね……」

QB「こ、このっ! この犬! 猫とグルだったんだ! 初めからマミを木の下に誘導するつもりで!
   畜生、魂は人間に似てても、所詮はケダモノだよ! 信じた僕が馬鹿だった!」

マミ「もう、そんなわけないでしょう? 偶然よ、偶然」

QB「いーや違うね! その犬は、猫と何らかの悪魔的な取引をしたに違いない――」

クルシャン「ふぎゃーお!」ダッ

QB「わ、わ! こっちに来るんじゃない!」ダッ

マミ「あ、キュゥべえ、ナイスよ! そのままグリフィンドール寮まで誘導して!」ダッ

QB「そんな余裕あるもんかぁぁああああ……」


だだだだだ……


黒犬「……」


613 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:40:26.19 CiavE3VX0 364/755


翌日 闇の魔術に対する防衛術 授業


ハーマイオニー「昨日はありがとうね、マミ。クルックシャンクスを見つけてくれて……」

マミ「ううん。いいのよ、そんな。大したことはしてないもの」

ハーマイオニー「でも、キュゥべえが……」チラッ

QB「きゅぷっ?」

マミ「……大丈夫よ。たぶんその内治るから」

ロン「キュゥべえの奴、可哀想に。言葉が喋れなくなっちまって……
   おいハーマイオニー。猫の躾くらいちゃんとやれよ。猫のキュゥべえでさえこれなら、僕のネズミはどうなる?」

ハーマイオニー「なによ。あれ以来、追いかけてないでしょ?」

ロン「追いかけられないようにしてるんだよ! ずっと寝室で休ませてるんだ!」

マミ「あ、あの、二人とも、喧嘩は……もうすぐ授業も始まるし……」

ハーマイオニー「……そういや、ルーピン先生遅いわね。いつもはベルが鳴る前に準備してるのに……」

ロン「ハリーがクィディッチの練習で遅れてるから、ありがたいっちゃありがたいけどね。
   でも心配だな。とうとうスネイプに毒殺されたちゃってたり――」

スネイプ「――我が輩が、なんだと? ウィーズリー」


614 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:41:51.21 CiavE3VX0 365/755


スネイプ「ポッター、遅刻だ。グリフィンドール5点減点。座って教科書を出せ」

ハリー「……なんでスネイプが?」ガタッ

ロン「ルーピン先生、体調不良だってさ。でもよりによってスネイプに後釜を頼むことないよなぁ」

スネイプ「私語を慎めウィーズリー。さらに5点減点」

ロン「……これだもん」

スネイプ「さてさて……授業の記録もつけていないとは、ルーピン教授殿のだらしないことよ。
      まあ、いい。本日、諸君らに学んで頂くのは――人狼だ。教科書の394ページを開きたまえ」

ハーマイオニー「でも、先生。まだ人狼はやる予定じゃなくて……」

スネイプ「黙りたまえ、グレンジャー。我が輩がいつ君に意見を求めた。
      この授業を預かったのは我が輩であり、君ではない。
      さて、人狼の授業に移るが、人狼と狼の見分け方が分かる者は?」


しーん



スネイプ「ふむ、誰も分からない、と。やれやれ、ルーピン先生は何を教えていたのか……」

ハリー(仮に分かってても手を挙げたくないね)

ロン(同感。まああそこに一人、例外がいる見たいだけど)

ハーマイオニー「……」スッ

スネイプ「全く、呆れたものだ。三年生にもなって、人狼の見分け方も知らんとは」

ハーマイオニー「……っ! っ!」ブンブン

マミ「あのぅ、スネイプ先生。ハーマイオニーさんが手を挙げてますけど……」

スネイプ「黙れ、トモエ。他人のことをとやかく言えるのなら、君は見分け方がわかるのだろうな?」

マミ「え、あの、いいえ……」

スネイプ「ふむ、他人任せ、か。まったく、根性が悪いことよ」

マミ「……っ」


615 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:42:24.63 CiavE3VX0 366/755


パーバティ「……先生。さっきもハーマイオニーが言いましたけど、私達、まだ狼人間までいっていません」

ラベンダー「そうです。そもそも今日やる予定だったのはヒンキーパンクで――」

スネイプ「自らの不勉強を棚に上げての発言に、グリフィンドールから10点減点。
      我が輩は"これから人狼をやる"と申し上げたはずだが?」

ラベンダー「……」

パーバティ「……」

スネイプ「さてさて、酷いものだ……我が輩の予想より、ルーピン先生の教え方は遥かに程度が低い。
      このクラスの学習の遅れに関しては、我が輩からしっかりと校長にお伝えして――」

ハーマイオニー「先生、狼人間は普通の狼と違って鼻面が――」

スネイプ「勝手にしゃしゃり出てきたのはこれで二度目だな。
      その鼻持ちならない知ったかぶりな態度で、さらに五点減点する」

ハーマイオニー「……っ」ジワッ

ロン「糞野郎」ボソッ

ハリー(ロン!)

スネイプ「……何か言ったか、ウィーズリー?」

ロン「いえ――ただ、答えて欲しくないのに質問するのって先生としてどうかな、って思っただけです」

ハーマイオニー「ロン……」

ネビル(凄い、ロン。とても僕には真似できない……)

シェーマス(ああ。凄いけど、言い過ぎだよなぁ。見ろよ、スネイプの顔……)

スネイプ「――処罰だ、ウィーズリー。その無礼な口のきき方を直さねば、今に後悔することになるだろうな」

616 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:43:00.73 CiavE3VX0 367/755


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スネイプ「さて、授業は終了だ。各自、今日の授業内容のレポートを書いてくること。
      月曜までに羊皮紙二巻。忘れた者の数だけ5点減点する。以上」


バタン


ラベンダー「……最っ低! なによあの態度! なんであんなのが先生やってられるわけ?」

パーバティ「本当よね。ブラックにやられちゃえばいいのよ」

ロン「ああ。あいつの部屋に隠れてたらいいのに。こんどフレッド達に頼んで
   スネイプの部屋に"シリウス・ブラック様歓迎"ってプレートくっつけて貰おうか……」

ハリー「でも、何だか今日はいつも以上に荒れてたよね、スネイプの奴。
     ことあるごとにルーピン先生の悪口言ってたし……」

ハーマイオニー「何か恨みでもあるのかしら……」

マミ「さあ、それは分からないけど……でも、ロンくん凄かったわね。
   スネイプ先生に、あんなにはっきりと文句を言えるなんて」

ロン「お陰で僕はおまるの掃除だけどね……」

ハーマイオニー「……がとう」

ロン「うん? なんか言ったかい、ハーマイオニー?」

ハーマイオニー「……別に? 空耳じゃないかしら?」

QB「きゅっぷいぷい!」

マミ「え、照れてる? 誰が?」

ハーマイオニー「クルックシャーンクス!」

QB「ぴぃっ!?」

ロン「それにしてもケチがついたよなぁ。明日はクィディッチの試合だって言うのに。
   ハリー、気にせずに飛べよ。まあ、ハッフルパフなんて一捻りだろうけど」

ハリー「そうでもないらしいんだ。ディゴリーって新しいキャプテンがチームを編成し直して……」

617 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:43:56.57 CiavE3VX0 368/755


翌日 クィディッチ競技場



ざああああああああああ!


マミ「ねえ――なんで――観客席に――屋根がついてないの――!?」

ロン「そんなの――ついてたら――試合が――見えないだろ――!」

マミ「こんな大嵐じゃ――どっちみち――なんにも――みえないわよ――!」

ロン「グリフィンドールが――50点くらい勝ってる――で、いまタイムアウト――
   ハーマイオニーが――ハリーの眼鏡を――」

マミ「なーにー!? ――聞こえない――!」


ざあああああああああああああああ!


ロン「――、――」

マミ「だから聞こえないって――っ、ごほ、ごほっ! あ、雨粒が喉に……!」

QB『無理に喋らないほうがいいよ、マミ。大人しくしていよう?』

マミ『ああ、キュゥべえ……テレパシーね。はあ、全く。こんな大嵐の日でも試合は中止にならないって……
   ハリーくん達、こんな中でよく飛べるわね……私は普通の時でも上手く飛べないのに……』


618 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:44:30.29 CiavE3VX0 369/755



ざあああああああああ!


QB『箒に逃げられる方が多いもんね、君』

マミ『言わないで……それにしても、本当に酷い雨……びしょ濡れよ、もう。
   帰ったらマダム・ポンフリーの元気爆発薬飲まないと……』


ざあああああ……


QB『……確かに、寒い……というより、寒ぎないかい、これ?』ブルッ

マミ『……ねえ、キュゥべえ。変よ。雨の音が、急に、遠く……』

ロン「ハリーが――落ち――吸魂鬼――!」

マミ「……え? ロンくん、いま、なんて……あ、れは……」


吸魂鬼「………」


マミ「なんっ、で、学校の中、に……」フラッ

ロン「――ミ!? ――誰か――ダム・ポンフ――倒れ――!」


ざあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!



619 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:45:07.87 CiavE3VX0 370/755


◇◇◇



 今よりもだいぶ小さな体躯の自分/アスファルトの上/周囲には鉄くず/炎に撒かれ/

 視界にはっきりとした白色の猫/紅玉の双眸/×ュゥ×え/話しかけてくる/

「×と×約して××少×にな×て――」

 遠い声/掠れた×/聞き取×ない声/

 背後には/両×の/死×が/散乱/


QB「――君が望めば、この運命だって変えられる」


 暗転。



◇◇◇

620 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:46:09.07 CiavE3VX0 371/755


医務室


マミ「ここ、は……?」

ハーマイオニー「ああ、マミ! 起きたのね、良かった……私、私、あなたが倒れたって気づかなくて――」

ロン「しょうがないだろ。僕は隣だったから気づいただけ。誰だってハリーのほうに目が行ったさ。
   数十メートルも落ちたんだから……」

マミ「何が、起きたの……?」

QB「……吸魂鬼だよ。あいつらが来たんだ。それでハリーが箒から落ちて……」

マミ「……私も気絶しちゃったのね。ハリーくんは、平気なの……?」

ロン「あっちで寝てる……落ちたせいか、まだ起きないんだ。
   今はフレッドとかジョージとか、チームメイトが様子を見てるけど……」

ハーマイオニー「ハリー、大丈夫かしら……試合に負けたこと、気にしなければいいけど」

ロン「無理だろうな、それは……ほら、ハリーの箒も粉々だ。暴れ柳にぶつかって……」

QB「酷いね、柄まで真っ二つだ……もう直らないのかい?」

ロン「ああ。こうまで粉々だとな……仮に直ってもまっすぐ飛ばないよ。
   箒はクィディッチ選手の魂だぜ? ハリーは絶対落ち込むと思うな……」

マミ「……ありがとう、二人とも。私はもう大丈夫だから、ハリーくんについていてあげて」

ハーマイオニー「……分かったわ。でも、なにか必要なものとかあったら、遠慮なく声を掛けてね」

ロン「ああ、そうだ。マダム・ポンフリーが君が起きたら枕元のチョコを食べさせるようにって……
   はい、これ。じゃあ、ちゃんと食べとくんだよ……」

マミ「……」

QB「災難だったね、マミ。まさか吸魂鬼が入りこんでくるなんて……ダンブルドアが凄い怒ってたよ。
   それで、吸魂鬼はぜーんぶ吹っ飛んじゃった。あの時の迫力といったら、もう――」

マミ「ねえ、キュゥべえ」

QB「……うん、なんだい?」

マミ「……私とあなたが会ったのって、ペットショップの時が最初よね?」

QB「その筈だけど、急にどうしたの?」

マミ「……ううん。別に、なんでも……」

マミ(……夢の中で、キュゥべえに会ったような……それに、きっとあの夢は……)



621 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:46:50.86 CiavE3VX0 372/755


翌日 夜 医務室


QB「Zzzzz....」

マミ(ふふっ。病人よりもよく寝ちゃって……ずっと、私に付き添ってくれてたものね。
   ありがとう、キュゥべえ……さて、私も寝ないと。明日には退院して、また授業だし……)

ハリー「……マミ、まだ起きてる?」

マミ「ハリーくん? ええ、起きてるけど……どうしたの? どこか痛む?」

ハリー「いや、そうじゃなくて……少し、話をしてもいいかな」

マミ「? ええ、いいけど……それじゃ仕切りのカーテンを開けるわね。えーと、杖は……」

ハリー「いや、僕がやるよ。マミがやるといつかみたいに燃えるかもしれないし……」


シャッ


マミ「もうっ、ハリーくんの意地悪……でも、まあそうね。私はあんまり魔法が得意じゃないし……
   それで? 勉強の相談なら、こんな私じゃなくてハーマイオニーさんに頼んだら?」

ハリー「はは、悪かったよ。でも、これはマミにしか聞けないことだから……
     マミなら、皆よりは分かってくれるかもしれない」

マミ「……冗談交じりで聴いていい話じゃないみたいね。分かったわ、話して。
   上手く答えられるかは分からないけど……それでも、私にできることがあるなら」


622 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:47:35.42 CiavE3VX0 373/755


ハリー「ありがとう……その、聞きたいのは吸魂鬼のことなんだけど……」

マミ「……気絶するのが、私とハリーくんだけっていうことについて?」

ハリー「うん。前にルーピン先生が言ってたよね。僕とマミが気絶するのは、昔最悪の経験をしたからだって」

マミ「ええ。ハリーくんは、例のあの人に、その……」

ハリー「うん。父さんと母さんを……殺された。それも、僕の目の前で」

マミ「目の前で? 確かその時、ハリーくんは一歳だったって……覚えてるの?」

ハリー「いいや。でも、思い出したんだ。吸魂鬼は、最悪の経験だけを残すから……
     気絶するとき、僕を守ろうとする、母さんの声が聞こえるんだ――」

マミ「……」

ハリー「……その、辛かったから答えなくてもいいんだけど、マミも両親が……」

マミ「……ええ。亡くなってるわ。自動車事故でだけど。話したことあったかしら?」

ハリー「トロール事件の時……マクゴナガル先生が言ったのを覚えてたんだ。僕と一緒だ、と思って……」

マミ「……そう。あの時……」

ハリー「……マミは吸魂鬼が近くに来た時、何か聞こえる?」

マミ「私は――夢みたいなものを見るわ。たぶん、事故の時の。
   周りが自動車の残骸と炎に包まれていて……でも、あんまり思い出せなくて……」

ハリー「そっか……思い出さない方がいいと思う?」

623 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:48:37.77 CiavE3VX0 374/755


マミ「……私は……きっと、思い出しくない。何か、とても嫌な予感がするの……
   あの夢をはっきりと最後まで見たら、私、とっても酷いことになるって……」

ハリー「……僕は、父さんと母さんの声を聞いたことがない。
     それで、吸魂鬼が近づいて来た時、嫌な気持ちになるけど……声を聞きたいって気持ちも、確かにあるんだ」

マミ「そう……ハリーくん、小っちゃい頃に御両親と死に別れてしまったんだものね。
   そういう点では、私の方が恵まれているのかも……」

ハリー「……」

マミ「……私は、ハリーくんと違って両親のことを覚えてるし、思い出もある……
   だから、完全にあなたの気持ちを理解できるわけじゃないけれど――」

ハリー「……けれど?」

マミ「……覚えているからこそ、思い出があるからこそ、辛くなる時もあるわ。
   だって、もう二人とも死んじゃっているんですもの……」

マミ「――二度と手に入らない幸福を知らされるのって、とても残酷じゃない?」

ハリー「……そうだね。きっと、そうだ。声を聞いたって、父さんも母さんも帰ってくるわけじゃない。
     ありがとう、マミ。少し楽になった」

マミ「ううん。私、偉そうなこと言っちゃって……もう寝ましょうか? 明日は授業だし」

ハリー「うん……お休み、マミ……」

624 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:49:10.22 CiavE3VX0 375/755


数日後 闇の魔術に対する防衛術



ルーピン「さて、これで今日の授業はお終いだ! みんな、休んでしまってすまなかったね。
      スネイプ先生の出した宿題は、私のほうから話をつけておこう――」

ラベンダー「マミ、早く戻りましょう! 私達、紅茶占いはもう完璧なの!」

パーバティ「そうよ! マミの数占いと比べてみましょう!」

マミ「分かったわ。それじゃ、寮に戻って準備しないと――」


ロン「やれやれ。相変わらずあの二人はトレローニー先生の虜ーにーなってるな……
   紅茶占いなんて、茶色いふやけたものしか見えたことないよ」

ハーマイオニー「ほら、やっぱり占い学なんてそんなものでしょ?」

ロン「……いや、でも、僕がまだ未熟なだけかも……」

ハーマイオニー「それならきっと、ずっと未熟のままよ。さ、戻って宿題をすませないと。
          ハリー、私達も戻りましょう?」

ハリー「ごめん、僕ちょっと、ルーピン先生に用事があるから――」


625 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:49:40.12 CiavE3VX0 376/755


ルーピンの部屋


ルーピン「吸魂鬼の追い払い方、か」

ハリー「ええ……先生が前に、汽車の中であいつを追い払ったって聞いて……」

ルーピン「ああ、確かにね。吸魂鬼に対する防衛法が無いわけじゃない……だが、非常に高度な魔法だ。
      習得も難しいし、仮に習得できたとしても、敵の数が増えれば防衛自体が難しい――」

ハリー「……」

ルーピン「――が、なるほど。もう覚悟をしてる、って顔だね」

ハリー「あいつらに近寄られるのはもう二度と御免です。だから、戦い方を知りたいんです」

ルーピン「……いいだろう。ただ、次の学期になってからになってしまうが。
      やれやれ、私も病気がなければな……」

626 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:50:12.41 CiavE3VX0 377/755


学期末 ホグズミード週末


ロン「ハリー、またお土産いっぱい持ってくるからさ! 期待しててくれよ」

ハーマイオニー「ええ。あなたが好きだって言ってたムースチョコ、買えるだけ買ってくるわ!」

ハリー「うん、楽しみにしてるよ……はぁ、行っちゃった。今回はどうしようかなぁ……
     そういえば、マミはどこだろう? 朝から姿が見えないし」

フレッド「よう、ハリー! きょろきょろしちまって、何か探し物か?」

ジョージ「そんでもって、探してるのはホグズミード行きのチケットを持ったサンタクロースだったりしないか?」

ハリー「ああ、フレッドにジョージ……そんなサンタクロースがいるんなら、僕、頑張って仕留めるけど……」

フレッド「穏やかじゃないねえ。まあ、一人だけ置いてけぼりにされたら腐りたくなるのも分かるけどさ」

ジョージ「ハリー、そのサンタクロースは君の目の前にいるんだぜ? おっと、仕留めないでくれよ」

ハリー「? どういうこと?」

フレッド「ちょいと早いが、クリスマスプレゼントさ。それもとびっきりのな」

ジョージ「ああ。人にやっちまうのは惜しいが、"これ"を一番必要としてるのは君だろうからな」ガサッ


羊皮紙「」


ハリー「……なにこれ。古い羊皮紙? これがチケットなの?」

フレッド「ああ、どこへでもフリーパスさ!」

ジョージ「見てろよハリー――"我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり"」トン


羊皮紙「」ムズムズ



『ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ。
 我ら悪戯坊主の味方が送る最高の品、"忍びの地図"』



ハリー「地図? 文字が浮かびあって……わーお、これ、ホグワーツの地図かい?
     知らない隠し通路がいくつも……しかも、この地図の上を動いてる名前って」

フレッド「その通り。誰がどこに居るかぜーんぶ表示されるってわけさ」

ジョージ「な? これを使えばホグズミードまでひとっ跳びでございってね。まあ、実際は少し歩くけどな。
     ほら、ここ。この通路を使え。他はフィルチが知ってたり、暴れ柳の真下だったりして駄目だ」

ハリー「凄い地図だね……」

フレッド「全くだ。ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ。彼らは天才だよ」

ジョージ「是非ともお会いしたいものだな。それじゃ、ハリー。楽しい週末を過ごしてくれたまえ」

フレッド「ああ、それと使ったら消しとけよ。杖で叩いて"いたずら完了"って言えば消えるからな。
     それではホグズミードで会おう」

ハリー「……よし、それじゃあ透明マントを取ってきて……マミも呼ぼうかな。行きたがってたし。
     マミは……へえ、こんなところに隠し部屋があったんだ……ん? 一緒にいるインキュベーターって誰だ?
     まあいいや、とりあえずいってみよう。"いたずら完了"っと」

627 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:50:48.59 CiavE3VX0 378/755


透明の部屋


マミ「はぁ……はぁ……」

QB「マミ、少し休んだらどうだい? もう朝からずっとじゃないか。根を詰め過ぎると毒だよ」

マミ「分かってるけど……でも、一回も成功してないし……大丈夫。まだ、出来るわよ……」

QB「……」

QB(確かに体力はそれほど消耗してない……それよりも精神的な疲労が大きいのか。
   やっぱり、この魔法のシステムって……)

マミ「ほら、キュゥべえ。カエル。次の。早く並べて……」

QB「……分かったよ。でも、本当に無理はしないでおくれよ?」ヒョイッ

マミ「大丈夫……さあ、行くわよ……集中して……」


「ゲコッ」


マミ「すぅー……はぁー……エンゴージオ!(肥大せよ)」ピカッ


「……ゲコッ」ムクムク


マミ「……っ、やった! やったわ! 蛙がどんどん大きくなってる! 成功よ、キュゥべえ!」

QB「おめでとう、マミ! ほら、やっぱり練習すればできるようになるんだよ!」

マミ「ええ、そうね……本当に、良かった……」


「ゲコ」ムクムクムクムクムクムク


QB「……あー、マミ? ちょっと力が入りすぎたかな? どこまで大きくしようとしたの?」

マミ「え? そんな、一回りくらい大きくなればと思って……」


「ゲ コ ゲ コ」ムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムク



628 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:51:28.97 CiavE3VX0 379/755


透明の部屋前 廊下


ハリー「えーと、地図だとこの辺だったんだけど……ドアが見えないのか。参ったな……」


バタン!


ハリー「うわ、急に壁が消えて……あ、マミ! ちょうど良かった。あのさ、ホグズミードに――」

マミ「し、閉めて! キュゥべえ、閉めて! ドア閉めて!」

QB「無茶言わないでくれよ! こんなの、もう――」

ハリー「え、どうしたの……うわ、なんだこれ! 部屋の入り口から、でっかい緑色の風船みたいなのが――」


「ゲ コ ゲ コ ゲ コ ! 」


パァーーーーーーーーン! びちゃっ、びちゃびちゃびちゃっ



ハリー「あーあ、廊下が内臓塗れ……マミ、何をしてたの?」

マミ「魔法の練習……肥らせ呪文をカエルにかけたんだけど……はぁ、結局失敗ね。掃除しないと……」

ハリー「あー、いや。マミ。その前にちょっと聞いてよ。フレッドとジョージからさ、良いものを貰って――」

フィルチ「ああ! 貴様ら、何をやっている!」

ハリー「うわ、フィルチ……なんてタイミングで……」

マミ「ああ、フィルチさん。ごめんなさい……部屋の中で魔法の練習してたら、こんな風に……」

フィルチ「どんな失敗をしたらこうなるというんだ! まったく貴様は! 私を過労死させるつもりか!?」

マミ「ごめんなさい。ちゃんと掃除はしますから――スコージファイ!(清めよ)」


パァン!


QB「わぷっ! ぺっ、ぺっ、口の中に入った……」ショボン

フィルチ「やめろやめろ! 貴様がやっても肉片が飛び散るだけだ! モップを持ってきてやるから大人しく待ってろ!」

マミ「すみません……それで、ハリーくん、なにか用事だった?」

ハリー「あーいや、その……何でもないんだ。掃除、頑張ってね」

マミ「? うん、それじゃ、またね」

ハリー(……マミは来れそうにないな。悪いけど、誘うのは次の機会にしよう……)



629 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:53:09.21 CiavE3VX0 380/755


ホグズミード パブ "三本の箒"


ハーマイオニー「呆れた! それでマミをほったらかしにして来ちゃったの?」

ロン「おいハーマイオニー、仕方ないだろ。マミは掃除で来れなかったんだから」

ハリー「フィルチの前で、地図のことを言うわけにもいかなかったし……」

ハーマイオニー「大体、許可証がないのに……ブラックがここに現れたらどうするつもり?」

ロン「毎晩吸魂鬼がパトロールしてるホグズミードに? 考えすぎさ。
   それに、せっかくのクリスマスなんだ。ハリーにも楽しむ権利はある筈だろ」

ハーマイオニー「それは……そうだけど、でも……」

ロン「マミにはハニーデュークスのお菓子をありったけ買ったしさ。それでいいじゃないか。
   ほら、バタービールで乾杯だ。メリークリスマス!」

ハリー「メリークリスマス!」

ハーマイオニー「もう……メリークリスマス」


チン!


ロン「ぷはっ! やっぱり美味いなぁ、これ。なあハリー、そう思うだろ?」

ハリー「うん、美味しい。それに、凄く温まる……いいなあ、これ。ホグワーツでも出ればいいのに……」

ロン「分かってないな、ハリー。ここで飲むから美味いんじゃないか」

ハーマイオニー「そんなこといって、ロンはマダム・ロスメルタが気になってるだけでしょ?」

ロン「ぶはっ、げほっげほっ! 違う! 確かにマダム・ロスメルタは綺麗だけど――」

ハリー「はは、ロン。顔が赤くなってるよ――」グビッ


ガチャッ


ハリー「ぶーーーーーーっ!」

ロン「……よーし、ハリー。僕の顔を冷ます為にやったんだっていうなら、表に出ろよ。
   口の中にいっぱい雪を詰めてやるから」ポタポタ

ハリー「げほっ、ち、違うってば。あれ、あれ!」


630 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:53:50.59 CiavE3VX0 381/755


マクゴナガル「ギリーウォーター。シングルで」

ハグリッド「蜂蜜酒を暖めてくれ。そうさな、とりあえず4杯分くれや」

フリットウィック「私はいつもの奴を――大臣は何にしますか?」

ファッジ「ラム酒を貰おうかな……ホットバタードで」



ロン「げー! 先生たちがなんで……ああそうか、最後の週末だもんな、クソッ!」

ハーマイオニー「不味いわね。ハリー、透明マントをしっかり被って……」

ハリー「うん……持ってきて良かったよ、これ……」バサッ

ロン「机の下に入っとけ。ジョッキも、ほら……三人分あると不味い」

ハーマイオニー「一応、私達も隠れておきましょう……モビリアーブス(木よ動け)」


ガサッ


ハーマイオニー「これでクリスマスツリーの陰になったから、先生方からはこっちが見えない筈……
          でも、どれくらい居るつもりかしら? 夜になったら吸魂鬼が……」

ロン「いざとなったら透明マントで強行突破するしかないだろ。まあ、多分ばれないさ。
   にしても、魔法省大臣がわざわざ何の用だ?」


631 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:54:31.61 CiavE3VX0 382/755


ロスメルタ「はい、ご注文の品ですわ」

ファッジ「やあ、ママさん。久しぶりだね、こっちにきて一緒に飲まないか?」

ロスメルタ「よろしいんですの? 光栄ですわ」

ファッジ「さ、ここにどうぞ――やれやれ、それにしてもようやく一息着けるな。
     あの吸魂鬼どもの相手は、酷く億劫になる……」

ロスメルタ「そんなものを私のパブに寄越したんですの? それも二回も」

マクゴナガル「この前は学校にまで入りこんで――」

フリットウィック「ハリー・ポッターは危うく墜落死するところでした!」

ファッジ「そう皆して私を責めんでくれ……仕方がない、用心のためだよ。シリウス・ブラックを捕まえる為にはね」

ロスメルタ「シリウス・ブラック……いまでも信じられませんわ。あのシリウスが、まさか闇の陣営になんて……」

ファッジ「ではこの話も知らんのだろうな。奴の犯した最悪の所業は」

ロスメルタ「最悪の……? 捕まった時の、あの事件よりも?」

マクゴナガル「ええ、その通りです……ホグワーツ時代、ブラックの一番の親友が誰だったか、覚えていますか?」

ロスメルタ「ええ、もちろんですわ! あの二人ときたら、いつも一緒で……愉快なことをたくさんしでかしましたわ。
       あのシリウス・ブラックと――ジェームズ・ポッターは!」



ハリー「……!」ガタッ

ロン「わ、馬鹿! 座ってろって!」

ハーマイオニー「ハリー、ばれちゃう、駄目!」



ハグリッド「ああ、あんの二人には手を焼かされたなぁ……禁じられた森に近づけないことに、俺ぁ半生を費やしたよ」

ファッジ「ブラックの最悪の所業とはね、ロスメルタ。そのジェームズ絡みなんだ。
     ブラックはジェームズが結婚するとき付添人を務めて、さらにはハリーの名付け親にまでなった!
     だというのに、ブラックはそのジェームズを裏切ったのさ……」


ハリー「……ブラックが、父さんを……」

632 : 1[saga sage] - 2013/04/05 22:57:58.81 CiavE3VX0 383/755


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ロスメルタ「"忠誠の術"? その魔法をブラックが破ったから、ポッター夫妻はヴォルデモートに?」

ファッジ「ああ。それが一番助かる確率が高いとダンブルドアが判断したんだ。複雑な魔法なんだがね」

フリットウィック「情報を人間の中に封じ込める魔法です。その人間が自ら情報を漏らさない限り、
          どうやっても封じられた情報は――リリーとジェームズの居場所は見つからない」

ファッジ「だがブラックは"秘密の守人"――情報を自分の中に封じ込める役になってすぐ、
     ヴォルデモートに密告をした。一週間と経たないうちにね」

ハグリッド「それをあのくそったれの裏切り者が! ああ、俺が"秘密の守人"だったら!」

マクゴナガル「ハグリッド、声を落として!」

ロスメルタ「そうですわ、ハグリッド。それに、次の日には魔法省が追いつめて……」

ファッジ「……だったら良かったのだが、最初に奴を見つけたのはピーター・ペティグリューだった」

ロスメルタ「ペティグリュー……ジェームズとシリウスの後にくっついていたあの子が……?」

マクゴナガル「ええ、そうです……優等生とは言えませんでしたが、ジェームズ達と仲が良くて……」

ファッジ「その彼がブラックを追い、見つけ、そして……あの事件だ。返り討ちにあったんだよ。
     彼の死体は残らなかった。指一本以外はね」

ファッジ「ジェームズを裏切り、その親友までもを殺した。それがブラックの最悪の所業、という訳さ」


ハリー「……」

ロン「……」

ハーマイオニー「……」

【 後編 】に続きます。

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