まどか☆マギカ × ハリー・ポッター クロスSS

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190 : 1[saga] - 2013/01/07 19:36:25.99 tu5V5NtP0 119/755


 それから新学期が始まるまで、佐倉さんとの付き合いは続きました。


杏母「あら、巴さん。いらっしゃい」

マミ「お邪魔します。あの、これ、つまらないものですが……」

杏母「あらあら、いつも気を使わせちゃって悪いわねぇ。さ、上がって?
    いまお茶を淹れるから」

マミ「いえ、こちらこそ連日お邪魔してしまって……」

杏母「ふふ、いいのよ。杏子が誘ってるんでしょう? あの子、あんまり友達いなくて……
    モモも貴女に懐いてるし、これからも仲良くしてあげてね?」

杏子「母さん! いまなんかマミに余計なこと言ってなかった!?」ドタバタ

モモ「マミさん来たの!? お菓子も!?」ドタバタ

杏子「こらモモ! お前はまたそういう――」

マミ「ふふっ。モモちゃん? 今日はねぇ、杏ジャムのパウンドケーキを焼いてきたのよ?」

モモ「ケーキ!? ありがとうマミさん!」

杏子「ああもうこいつったら……とにかく上がってよ。父さんももうすぐ帰ってくるから――」


191 : 1[saga] - 2013/01/07 19:37:08.47 tu5V5NtP0 120/755


 それは、とてもとても楽しい日々でした。

 家族の暖かさ――それは、ホグワーツで得た友達とはまた違う、とても尊いもの。



杏子「そういやマミは、もうすぐイギリスに行っちゃうんだっけ?」

マミ「ええ、帰ってくるのはまた一年後になるから……それまでは会えなくなっちゃうわね」

杏子「そっか。手紙とかは届くのかな。あんまり頻繁にやりとりはできないだろうけど……」

マミ「うーん。この辺ってふくろう便がまだ整備されてないでしょ? 愛知県とかは整備されてるけど……」

杏子(ふくろう便? なんだろう、外国のクロネコヤマトみたいなもんかな?)

マミ「また、一年後に会いましょう? 今度はお土産も買ってくるわ!」

杏子「ああ、楽しみにしてるよ。それじゃあまた――来年な」




 きっと、来年も――こんな幸せな空気が続くのだろうと、そう、私は思っていたのです。




.

192 : 1[saga] - 2013/01/07 19:37:50.33 tu5V5NtP0 121/755


 ホグワーツ特急


マミ「さて、今年は誰もいないコンパートメントに一番乗りね」

QB「そんなことしなくても、ハーマイオニーとか、ラベンダーとかと一緒の席に座ればいいんじゃ……」

マミ「ホーム凄い混んでたし……探してる間に席が埋まって、結局見つからないとか嫌だし……」

QB「……まあ、いいけどさ。それにしても着くまで暇だね。しりとりでもする?」

マミ「それに関して抜かりはないわ。えーと……ほら、MDウォークマン!」

QB「おおっ」

マミ「ふふーん。これで退屈な時間とは無縁だわ。さて、それじゃあ再生っと」ポチッ

QB「僕にもイヤホン片方貸してよ、マミ」

マミ「……?」

QB「マミ? 音が出ないよ?」

マミ「変ね? 電池は入れてきたと思ったけど……壊れちゃったかしら?」ブンブン

QB「そんな粒入りの缶ジュースみたいに振っても直らないと思うよ」

193 : 1[saga] - 2013/01/07 19:39:17.65 tu5V5NtP0 122/755


マミ「えー……どうしよう、これ高かったのに……」

QB「なら僕と契や――……」

マミ「? キュゥべえ?」

QB「いや、なんでもないよ。それよりどうする? しりとりする?」

マミ「何でしりとりにこだわるのよ。したいの? そうねぇ、それじゃあ読書でもして待ってるわ」ゴソゴソ

QB「? それって教科書だろう? 勉強熱心なのは感心だけど……」

マミ「これ、ただの教科書じゃないのよ? はい、キュゥべえにも貸してあげる。」

QB「……"泣き妖怪バンシーとのナウな休日"?」

マミ「ふふっ、あー素敵だわ。やっぱりロックハートは最高ね……」ペラッ

QB「マミ、これ教科書なのかい? どう見ても自伝にしか見えないんだけど」

マミ「ええ。これはね、ギルデロイ・ロックハートっていう最高にかっこいい魔法使いの体験記なのよ!」フンス

QB「ふぅん。でもこれ、教科書になるのかなぁ……?」

マミ「大丈夫よ! ああ、きっと今年の"闇の魔術に対する防衛術"の先生とは話が合うわ……!」

194 : 1[saga] - 2013/01/07 19:40:01.85 tu5V5NtP0 123/755


売り子「車内販売ですよー」

マミ「ああロックハート……って、もう車内販売が回ってくる時間なのね。
   それじゃ、かぼちゃジュースとチョコレートを……」

QB「僕は、百味ビーンズが欲しい」

マミ「え? 嘘、キュゥべえあれが好きなの?」

QB「色んな味が楽しめていいじゃないか。味覚情報がぐんぐん貯まるよ?」

マミ「うぅー……全部食べるのよ? じゃあそれと、ついでに日刊預言者新聞を」

売り子「はい、毎度どうもー」ガラガラ

QB「おや、新聞を買うのかい?」

マミ「ええ。まあ、電話でハーマイオニーさんから魔法界の事情とかは聞いてるけど……
   やっぱり実際に見なきゃ分からないこともあるだろうし」バサッ

QB「ふぅん。じゃあ何か面白い記事があったら僕にも――」

マミ「!? きゅ、キュゥべえキュゥべえ! ちょっと、こ、これみて!」

QB「え、なんだいその剣幕。正直引く……えーと、これかな? "秘密の部屋、開かれる"――」

マミ「どこ読んでるの! ここ! ここよ!」

QB「何々、"ギルデロイ・ロックハート、ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術教授職に就任"か……
   なるほど、教科書が彼の自伝だらけだったのはこれが原因か」

マミ「ああ、どうしましょう! 生のロックハートに会えるなんて! キュゥべえ、私、ヘアスタイルとか大丈夫?」グシャッ

QB「あ、新聞が……最高にキまってるよ、脳内麻薬で」


195 : 1[saga] - 2013/01/07 19:41:35.68 tu5V5NtP0 124/755

ガラッ

ハーマイオニー「はぁい、ちょっと失礼……って、マミ! ここに乗ってたのね!」

マミ「ああ、ハーマイオニーさん! 久しぶり!」

ハーマイオニー「ええ、久しぶり。ところでハリーとロンを見なかった? 一緒の席に座ろうと思ってたんだけど……」

マミ「うーん。ごめんなさい、分からないわ……」

ハーマイオニー「そう……変ね? あとは監督生の車両だし……」

マミ「それよりハーマイオニーさん! サプライズなニュースがあるの! 今年の"防衛術"の先生って誰になったと思う!?」

ハーマイオニー「……ふふふ。当てて見せましょう。ロックハートよ! でしょ!?」

マミ「きゃあ! さすが師匠! 情報が早い!」

QB「師匠って?」

マミ「ロックハートのこと、ハーマイオニーさんから教えて貰ったから」

QB「マミに変なもの刷り込んだのはこの子か……毎日電話で何かを熱く語ってるから変だとは思ったんだ」

ハーマイオニー「ふふ、しかもそれだけじゃあないわよ……ほら、見て! じゃーん!
          ロックハートの直筆サインよ!」

マミ「う、嘘でしょ……!? 本当に直筆サイン!? どうやって……!?」

ハーマイオニー「この前、ダイアゴン横丁でサイン会やってたの!
          まあでも私のにサインした直後、ちょっと色々あったから素直には喜べないんだけど……」

マミ「う、うう。羨ましい……ね、ねえ、触ってもいいかしら?」

ハーマイオニー「ふふっ。少しだけよ?」

マミ「ああ、ああ……! サインの筆跡からすら彼の高貴な雰囲気が伝わってくるわ……!」

QB「……ああ、これはコンクリート味かぁ。百味ビーンズは美味しいなぁ……」モグモグ


196 : 1[saga] - 2013/01/07 19:43:03.12 tu5V5NtP0 125/755


大広間 組み分け


マクゴナガル「……ジネブラ・モリー・ウィーズリー!」

組み分け帽子「グリフィンドール!」


マミ「あれがロンくんの妹さん? 赤毛がとってもチャーミングね」

ハーマイオニー「ええ。夏休み中に一回会ったけど、とっても良い子よ?
          ハリーの前だとちょっと引っ込み思案なとこはあるけど――はぁい、ジニー。おめでとう」

ジニー「ありがとうハーマイオニー。ねえ、ところでハリーを知らない? あとついでにロンも」

ハーマイオニー「私たちも探してるの。一緒に来たはずのジョージやフレッド達も知らないっていうし……」

ジニー「そうなの……そういえば、そっちの人は?」

マミ「こんにちは、ジニーさん。同じ寮の巴マミよ。これからよろしくね? で、こっちはペットのキュゥべえ」

QB「やあ、ジニー! 早速だけど、君には素質が――……いや、なんでもない。これからよろしくね!」

ジニー「わあ! 喋る猫なんて初めて見た! ねえマミ、撫でてもいい?」

マミ「ええ、いいわよ……それにしても本当にどこいっちゃったのかしら?」



リー「おい聞いたか!? ハリーとロンが空飛ぶ車で登校したらしいぞ!?」

フレッド「うお、それきっとパパの車だぜ!」

ジョージ「あんにゃろ、僕たちの先を越しやがった!」


マミ「!?」

ハーマイオニー「あの二人ったらまた馬鹿を……!」

197 : 1[saga] - 2013/01/07 19:43:46.81 tu5V5NtP0 126/755



翌日 大広間 朝食


ハリー「やあ、ええと……おはよう」

ハーマイオニー「ふんっ。お・は・よ・う」ツーン

ロン「まだヘソ曲げてるのかい? だから別にわざとじゃないんだってば」

マミ「あら、ハリーくんにロンくん。おはよう。聞いたわよ?
   何でもホグワーツ特急に乗らないで、空飛ぶ車で校庭に突っ込んだって……」

ハーマイオニー「それで人気者になって喜んでるのよね?」

ロン「だから、別に喜んじゃいないさ。あれは事故だよ。なんでか駅に入れなくて、なあハリー?」

ハリー「うん。おまけに校庭の"暴れ柳"に殺されかけたし。マミからもハーマイオニーに口を添えてくれると――」

 バサバサバサッ

マミ「きゃっ! そ、そうか、朝食はふくろう便の時間でもあるのよね……すっかり忘れてたわ」

ロン「……おい、嘘だろ」ガタガタッ

ハリー「ロン? どうしたの?」

ロン「ママが、ママったら、僕に、僕に……」

ネビル「うわ、ロン。それって……"吼えメール"じゃないか」

マミ「吼えメール? ロングボトム君、それって何なの?」

ネビル「やあ、マミ。とりあえず耳を塞いでた方がいいよ……ロン、開けなよ」

ロン「ああ、神様……ええい、ままよ!」


 ビリッ






『ロナルドウィイイイイイイイイズリィイイイイイイイイイイイ!!!!!』







.

198 : 1[saga] - 2013/01/07 19:45:12.19 tu5V5NtP0 127/755

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薬草学


マミ『……凄まじかったわね。絶対衝撃波とか出てたと思うわ、アレ』

QB『ああ、僕なんか椅子から転げ落ちちゃったよ……
   しかもあれ、開けずに放置しておくともっとやばいらしいよ?』

マミ『どんな風になるのかしら……それはそれで興味があるわねっ、と』ズボッ

マンドレイク「~~~~~~!」

マミ『わっ、と、暴れないでってば……! キュゥべえ、教科書に植え替えのコツとか書いてない!?』

QB『えーとねー……ああ、撫ぜりゃーいいみたいだよ?』ペラッ

マミ『なるほど……にしても耳当てしてる時って、テレパシーが便利ね』ゴソゴソ

QB『このマンドレイク、今の状態でも鳴き声聞いたら気絶するんだっけ?
   ほんと、こっちの世界の植物は興味深いなぁ』

スプラウト「おや、手際がいいですね。グリフィンドールに3点あげましょう」


199 : 1[saga] - 2013/01/07 19:45:53.68 tu5V5NtP0 128/755


昼食後


マミ「イギリス料理も、慣れてくるとさほど気にならなくなってくるわね」

QB「うん、慣れるのはいいことだ。変身術の授業もなかなか好調だったし」

マミ「好調って? 本当はコガネムシをボタンに変える筈だったんだけど、あれは……」

QB「いいじゃないか。去年はミサイルだったんだし、まだ火を噴くコガネムシの方が――
   ん? あそこの人だかりって……」



コリン「ハリー写真とらせて! ハリー写真とらせて!」

ハリー「いや、だからね……」



マミ「……新入生の子かしら。ハリーくんって本当に有名人なのねぇ」

QB「ヴォルデモートを倒したっていうのは、それだけ――」

ネビル「う、うわあああああああ」バターン

QB「あ、ごめんネビル。つまり、例のあの人がどれだけ恐ろしい存在だったか、ってことだね。
   倒した彼は、かなり英雄的な扱いをされてるんだよ」

マミ「ふぅーん……で、でも! 英雄的と言えば次の授業のロックハート先生だって凄いのよ?」

QB「……ま、それは次の授業で分かるだろうけどさ」

200 : 1[saga] - 2013/01/07 19:46:44.79 tu5V5NtP0 129/755


闇の魔術に対する防衛術 授業


ロックハート「はろう☆ 自己紹介の必要は"まさか"あるとは思いませんが、一応形式ですのでね?
        ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、防衛術連盟名誉会員、
        そして週魔女のチャーミングスマイル賞五回連続受賞! そして君たちの先生です!」キラッ



マミ「ああ、ロックハート先生……」

ハーマイオニー「素敵……」

ロン「聖マンゴに入院した方がいいんじゃないのか? 君たち」



ロックハート「まあこんな肩書きに意味はありませんよ、ええこれっぽっちも!
        なにせ、君たちはこれからの授業で私がどんな魔法使いか知るわけですし――」



ハリー「心底、知りたくないなぁ。っていうか既に透けて見えるっていうか……」

ハーマイオニー「ええ、そうね。ロックハート先生の授業、きっと最高のものになるに違いないわ……」

マミ「サイン、私もサイン貰おう……」

QB「駄目だこりゃ。完全に狂ってる」



ロックハート「それでは最初に、ちょっとしたペーパーテストをしましょうか。
        なーに! そう怯えることはありませんよ! 簡単な記憶力テストですから――」

201 : 1[saga] - 2013/01/07 19:47:21.39 tu5V5NtP0 130/755


三十分後 採点中


ロックハート(ふんふん……やれやれ、酷い出来ですね。ホグワーツのレベルもたかが知れるというものです。
        私のひそかな大望とかはともかく、基本的な問題までできてないなんて……)

ロックハート(……ん? この二人は結構書き込んでありますね、どれどれ――)ペラッ



1 ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

ハーマイオニー『ライラック色。ただし"バンパイアとバッチリ船旅"の67項4行目において、マリンブルーについての言及がある。
          さらには147項14行目、血色の描写から考察するに、深層心理では朱色を好む傾向も――』

マミ『ライラック色です。でも"雪男とゆっくり一年"の情景描写から見るに、先生は白も好きなのではないでしょうか。
   これは"鬼婆とオツな休暇"に書いてある、目玉焼きの白身の食べ方にも表れて――』



ロックハート(……)

ロックハート(え、なんですか、これ)


202 : 1[saga] - 2013/01/07 19:48:16.08 tu5V5NtP0 131/755


ロックハート(ウワ、残りの解答も全部びっちり書いてある……これはあれですね。いえ、私も売れっ子。分かってます。
        ファンの中には時たまこういう過激な子のもいるってことを)

ロックハート(ええ、送られてきたファンレターが奇妙に湿っていた挙句異臭を放っていたりなんて日常茶飯事。
        食べ物系の差し入れなんて怖くて食べたことはありません……)

ロックハート(握手会だって手のひらに"融解結合の呪い"を仕込んできた魔女は数知れず……)

ロックハート(ですが! それを乗り越えて! 私はスター街道を歩んでいる!)

ロックハート("スター"とは! 暗雲垂れ込める暗い空を、箒ひとつで進むことだ……
        そうして進んだ先で掴み取れる、ほんの一筋の光のことだ!)ドギャーン!

ロックハート(そんなこのギルデロイに、精神的動揺は決してない! と思っていただこうッ!)






ロックハート「ええええええ、えーとですねぇ、満点はふ、二人りりりり、で……」ガタガタ



ハリー「……なに書いたんだ、あの二人……」

ロン「見たくないような、見たいような……」

QB「お互いを高めあう。それが友情……」


マミ「やるわね、師匠……いえ、ハーマイオニーさん……」

ハーマイオニー「ふふ、貴女もとうとう一人前のロックハートフリークね、マミ……」

213 : 1[saga] - 2013/01/24 19:30:35.97 xkFMgk9u0 132/755


数十分後


ロックハート「――きょ、今日の授業はここまで! 宿題として私の本の感想を書いてくること!」イソイソ

ハリー「これで終わりか……ただひたすらロックハートの本を読むだけの授業だった……」

ロン「これだったら図書室にでもいたほうがましさ。少なくとも、読みたい本を読めるからね」

ハリー「……読みたい本、あるの?」

ロン「……オーケイ。訂正する。少なくとも図書室は静かだからさ。あいつの声が聞こえなきゃ、なんでもいいよ」

ハーマイオニー「ああそんな、もう終わりなの……? このまま時が止まってしまえばいいのに……」

ロン「なんだよその拷問! まだトロールとフォークダンス踊る方がましさ! ――って、そういえばマミは?」

ハリー「あれ? 変だな、さっきまでハーマイオニーの隣に座ってたよね? ハーマイオニー、マミは……」

ハーマイオニー「ロックハート先生……Cool……」

ハリー「駄目だこりゃ。まあ、今日はこれで授業終わりだから」

ロン「ああ、夕飯には来るだろうし。じゃ、僕たちも寮に戻ろうか」


214 : 1[saga] - 2013/01/24 19:31:03.50 xkFMgk9u0 133/755


ロックハートの部屋



ガチャッ


ロックハート「ふう……取り乱してしまいました。さすがはホグワーツ。一筋縄ではいきませんね」

マミ「ふふっ、そうですね。確かに私も初めて見たときは驚きました」


バタン


ロックハート「ですが、次からはこうはいきませんよ! このロックハートに二度目の失態はありません!」

マミ「ええ! というか先生、別に今日の授業も全然失敗とかじゃなくて、す、素敵でした、よ……?」

ロックハート「HAHAHA! そうですかそうでしょうとも! 私がやればバナナの皮を踏んで転んでも絵になりますよ!
        でもね、私の実力はあんなものじゃ――……」

マミ「……?」ニコニコ

ロックハート(う……うわあああああああああああ)ガタガタ

215 : 1[saga] - 2013/01/24 19:31:33.58 xkFMgk9u0 134/755


ロックハート(なんかいる! 私の部屋に、なんか、いる! あの子ですよ名前は確かマミ・トモエ!)

ロックハート(何で! どうして!? ここに就職が決まってから、もう熱狂的ストーカーの類とは縁切りだと思ってたのに!)

ロックハート(だってホグワーツには外からの侵入を防ぐ魔法が張り巡らせてあるって――ああそういえばこの子生徒でした☆
        "外"からのじゃないですもんねそうですねインセクツ・イン・ザ・ライオンッ!)

ロックハート(い、いえ……落ち着け。落ち着きなさいギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章。
        今の私は"先生"! そう先生です! 何を怯えることがありますか! 威風堂々と対応すればいいんです!)キリッ

マミ「? どうしたんです、先生? 杖を握りしめて、壁に掛けてあった絵画を盾みたいに構えつつ、
   衣装掛けにあったマントを体中に巻きつけて……ああ、でもそんな姿もどことなく高貴さが――」

ロックハート「き、気にしないでください! ところで、マミ! 何の用かな!?」

マミ「あ……わ、私の名前、覚えてくれた、なんて……」テレテレ

ロックハート「HAHA、そりゃあ先生ですから!」

ロックハート(要・注意な生徒の名前くらいは覚えますとも!)

ロックハート「それで? もうディナーの時間ですよ。いくら私に会いたいからって、いけない子ですねマミは!」

マミ「あ、あぅ。ごめんなさい……でも私、先生に質問がしたくて」

ロックハート「質問、ですか? 今日の授業のところで? どこか分からないところがありましたか?」


216 : 1[saga] - 2013/01/24 19:32:01.82 xkFMgk9u0 135/755


マミ「いえ、ロックハート先生の授業はとっても素敵でした! 質問したいのは個人的なことで……」

ロックハート「んん? なんですか、なんでも聞いてごらんなさい! バン!と解決してみせましょう!」

マミ「ありがとうございます……それじゃあ」テクテク

 カチャンッ! シャッ!

ロックハート「……あー、マ、ミ? どうしてドアのカギを閉めて、カーテンを引くんでしょう?」

マミ「ふふ、だって、こうでもしないと……」


マミ「誰かに聞かれたら、困りますから」ニコッ


ロックハート「」


217 : 1[saga] - 2013/01/24 19:33:05.19 xkFMgk9u0 136/755


ロックハート「いやあの待って。待ってください。よく考えましょう? 私とあなたは教師と生徒。でしょう?」

マミ「ええ。ですから、教えて貰おうと思って……色々と」ツカツカ

ロックハート「マミ! マミ! なんでそんなに近づいてくるんです!? お話しするだけならそこでいいでしょう!?」

マミ「いえ、誰にも聞かれたくない話なので、出来るだけ小声で……触れ合うほど近くで」

ロックハート「オブリビエ……ああっ、汗で滑って杖が落ちた!」ポロッ

マミ「あら、大丈夫ですか? ……はい、拾いましたよ」ヒョイ

ロックハート(ひぃ、杖を奪われた! も、もう駄目だ……マントが足に絡み付いて動けないし……)ガクガク

マミ「あの、先生……?」

ロックハート「ごめんなさいごめんなさい私はまだスターでいたいんですスキャンダルとかほんと勘弁して――」








マミ「あの、先生ならきっとご存知だと思うんですけど、普通の、えーと、マグルの街中に出てくるような、
   危険な魔法生物に心当たりは有りませんか?」

ロックハート「……はい?」


218 : 1[saga] - 2013/01/24 19:34:01.42 xkFMgk9u0 137/755


マミ(私はあれから、見滝原で遭遇したあの怪物――
   佐倉さんと一緒に戦ったあの正体不明の怪物のことを、誰かに聞くことはしなかった)

マミ(一応、ホグワーツに戻ってから図書室で調べはしたのだけど、結局それらしいものは見つからなかった)

マミ(一番確実なのは佐倉さんに聞くことなのだろうけど……ホグワーツに戻ってしまった今では、帰るまで聞くことはできない)

マミ(だから私は考えたのだ。この学校で、一番危険な魔法生物に詳しいであろう――)

マミ(ロックハート先生に話を聞くことを! 魔法生物学は三年生からの科目で先生と面識ないし!)

マミ(決して、ロックハート先生のお部屋にお邪魔する口実ってわけじゃないんだから!)




ロックハート「ふむ。得物を奇妙な空間に隔離して、おまけに手下の怪物をたくさん連れてる魔法生物ですか……」

マミ「ええ、友達が襲われたらしくて……図鑑で調べたんですけど、分からないし」

マミ(私が襲われた、っていうと心配かけちゃうものね)

ロックハート「――なるほど! それはきっとゲルゲルムントゾウムシでしょう!」

マミ「む、むし? 虫なんですか、あれ? とても大きかったんですけど――いえ大きかったそうですけど」

ロックハート「ははん? いいですか、マミ。虫だっておっきい奴はおっきいんです。
        あれはだいぶ前ですが、私がアフリカの密林で――」



十五分経過



ロックハート「――そして、そこで私の呪文が炸裂し、みごと巨大女王蟻を倒した、というわけですよ!」

マミ「ああ素敵です。素敵ですロックハート先生!」ウットリ

ロックハート「当然です! ロックハートが素敵なのではなく、素敵なのがロックハートなのですから!
        まあそういうわけなので、そのお友達にはあんまり暗くてジメジメしたところには近づかないように、と伝えてくださいね」

マミ「はい! どうもありがとうございました! やっぱり先生は凄い魔法使いなんですね……!」

ロックハート「いやあ、はっは。それほどでも……ありますがねっ☆」キラッ

219 : 1[saga] - 2013/01/24 19:35:11.80 xkFMgk9u0 138/755


ロックハート(これですよ これ!これこそ、このギルデロイ・ロックハートのイメージ!
        こういう役こそわたしのキャラクターです! ハハハハハハ !)

ロックハート(いかに狂的かつ強敵なファンであろうとも所詮は小娘。
        海千山千のこの私なら軽くあしらえるというものです!)

ロックハート「さて、マミ。このくらいでいいでしょう? そろそろ夕食の時間ですし、戻ったほうが――」

マミ「はい。あ、でも最後にもうひとつだけ」

ロックハート「おやおや、なんとも欲張りな子猫さんですね☆ さて、何がお望みですか?」

マミ「あの……サ、サインを頂けませんか? この教科書に……」

ロックハート「なるほど。でも今は一応、私は教師なのですがね? まあでも、仕方ありません!
        勉強熱心な生徒に、ご褒美としてあげるなら文句も出ないでしょう!」サラサラッ

マミ「わ、わあ! あ、ありがとうございます! 一生の宝物にしますね!」

ロックハート「ええ是非に。あなたのようにチャーミングな子に持ってもらえていれば私のサインも幸せでしょう!」

マミ「え、あ、そんな、チャーミングだなんて……」プシュー

ロックハート(ふふっ。容易い容易い! これでもう恐れるものは何も――)




ハーマイオニー『アーローホーモーラァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!(開錠せよ)』ピシャーン!

    メキメキッ バギッ!


マミ「きゃあ! ドアが吹き飛んで……は、ハーマイオニーひゃんっ!?」ムニッ

ハーマイオニー「マーミー? 抜け駆けとはいーい度胸じゃなーい?」ギュゥゥッ

マミ「いひゃいいひゃい! ほ、ほっへを摘まないで! にゃんでここが……」

ハーマイオニー「あなたの猫に聞いたのよ!」

マミ(きゅ、キュゥべえ! 裏切り者ぉ……!)


220 : 1[saga] - 2013/01/24 19:36:25.12 xkFMgk9u0 139/755


◇◇◇


QB「だって聞かれたんだもの……あ、ハリー。それ動かしたらチェックメイトされるよ」

ハリー「あ、本当だ。危ない危ない。じゃ、こっちのビショップを……キュゥべえと組むとロンともいい勝負になるね」

ロン「僕のスキャバーズよりよっぽど役に立つなキュゥべえ……あっ、ハリー。どう動かしてもあと五手以内に詰むよ、これ」


◇◇◇




ハーマイオニー「ほら! もう夕飯の時間なんだから行くわよマミ! 
          ロ、ロックハート先生、また今度、ゆっくり効く毒薬のことでお尋ねしたいことが――」

マミ「や、ごめん! ごめんなさいハーマイオニーさん! 今度は誘うから! だから耳を引っ張らないでぇ……!」


バタン!


ロックハート「……」


 その時、ロックハートは吹き飛んできたドアの下敷きになりながら思った。


ロックハート(やっぱり、あの二人怖い……!)ガクガク

221 : 1[saga] - 2013/01/24 19:37:06.70 xkFMgk9u0 140/755


数日後 土曜日 グリフィンドール談話室



マミ「はー。お休みの日って素敵よね。
   こうして談話室でお茶を飲みながら、外の素晴らしい景色を眺めてるだけで癒されるわ……」

QB「ついでに朝寝坊もできるしね。マミったら涎たらしながら昼近くまで寝て――」

マミ「えいっ」ムギュッ

QB「きゅっ!?」


 ぱたん


ハリー「やあマミ……あれ、どうしたの? キュゥべえが潰れたシフォンケーキみたいになってるけど」

マミ「ちょっと天罰が下って……って、どうしたの? ハリーくんもロンくんも、何か暗い顔してるわね?
   クィデッチの練習に行ったんじゃなかったの?」

ロン「スリザリンの連中のせいで練習はできなかったんだ。最悪だよ……まあ多分、僕はナメクジの呪いのせいもあるんだけど……」

マミ「ナメクジの呪い? それって何――」

ロン「おえーっ」ボタボタ

マミ「あ、もういいわ。分かったから」

QB「凄いや、ロンの口から生命が誕生した! エントロピーを凌駕してる!」


222 : 1[saga] - 2013/01/24 19:37:38.34 xkFMgk9u0 141/755


ハリー「クィデッチの練習ができなかったのもそうだけど……僕とロンは今夜、罰を受けることになったんだ。
     まったく、ついてないよ……」

マミ「罰?」

ハーマイオニー「ほら、この二人。空飛ぶ車で校庭に突っ込んだでしょ? その処罰よ」

ハリー「まあ、退学になるよりはましだけどさ。はぁー、でもロックハートのファンレターに宛名を書くなんて……」

マミ「ろ、ロックハート先生の!? ……ねえハリーくん、手伝ってあげましょうか?
   あ、もちろん、これは善意からの申し出で、決してやましいことはないのよ? ……ひゃぅ!?」ムイッ

ハーマイオニー「マーミー? 抜け駆けは無し、って言ったそばからこれかしら? いけないのはこの口かしら?」ギュッ

マミ「ひがう、ひがうのよ! これは条件反射的にゃあれで――」

ハーマイオニー「嘘おっしゃい! ……そういうわけで、ハリー? 手伝いには私が行くわ。
          ロックハート先生にはあなたから伝えて? あと透明マントも貸してくれると――むぅっ!?」グイッ

マミ「ひゃーまいおにーひゃんこそ、抜け駆けじゃないひょれは!」ギュゥッ

ハーマイオニー「離しなひゃいマミ! あにゃたはこの前行ったでひょう!?」ギュゥゥッ


         じたばた じたばた


ハリー「お昼ご飯食べにいこうか? キュゥべえ、おいで」

QB「ありがとう、ハリー。ああ、ロン? ナメクジが止まらないならほら、ビニール袋使うかい?」

ロン「ああ、これマグルの道具かい? どうも、使わせてもらうよ」


223 : 1[saga] - 2013/01/24 19:38:47.83 xkFMgk9u0 142/755


夜 ロックハートの部屋


ロックハート「おお! これはアデラ・エインズワース! 最近よくファンレターをくれる子です!」サラサラ

ハリー「はぁ、そうですか」カリカリ

ロックハート「はっはっは、ハリー? 気のない返事をしても、君が有名人に憧れているのは分かりますよ? 
        確かに君も、ほんの少しばかり有名なようですが――」

ハリー「あ、マミだ」

ロックハート「!?」ビクッ

ハリー「――っと思ったら、違う宛名でした。マリーか……」

ロックハート「……ほっ」サラサラ

ハリー「……」カリカリ

ロックハート「……ハリー! そうだ、そういえば君がサイン入りの写真を配ってるとかいう噂を耳にしたのですがね?
        有名人の私が思うに、まだ君はその時期では――」

ハリー「ハーマイオニー?」

ロックハート「!?」キョロキョロ

ハリー「……がここにいれば、きっと宛名書きも早く終わるんだろうなぁ」

ロックハート「……呼んじゃだめですよ? あくまで、君の仕事なのですから」

ハリー「はい、分かってます」カリカリ

ロックハート「……」サラサラ

ハリー「……」カリカリ

ロックハート「……ハリー、そういえば――」

ハリー「マミ・グレンジャー!」

ロックハート「ひぃ!?」ガタッ

ハリー(便利だな、あの二人。ロックハート避け呪文と名付けよう)


??『――腹が減った。食い殺してやる――!』


ハリー「……! 先生、何か聞こえませんか!?」

ロックハート「え、何も聞こえませんよ? ははん、さては寝ぼけてますねハリー?
        もうこんな時間ですか。では、このくらいで終わりにしましょう」

ハリー(……ロックハートには聞こえてない? でも空耳にしてははっきりと……)


224 : 1[saga] - 2013/01/24 19:41:07.27 xkFMgk9u0 143/755

10月半ば



マミ「キュゥべえキュゥべえ! 保健室のポンフリー先生が"元気爆発薬"をくれたわ!
   風邪の予防にとってもいいんですって!」

QB「へえ。そりゃよかったね。で、君はなんでそれを片手ににじり寄ってくるんだい?」

マミ「飲ませてあげるわ! 風邪ひいたら大変だし!」

QB「君が先にお飲みよ。僕は後でいいからさ」

マミ「そんな、遠慮しなくていいわよ――そして飲んだら私に味を教えてね?」グイグイ

QB「いやいや、そんな。マミに先に飲んでほしいな。飼い主の健康を、僕は一ペットとして祈っているよ」グイグイ

マミ「い・い・か・ら、飲みなさいよぉぉぉぉ……!」グググ!

QB「き・み・が、先に飲めよぉぉぉぉおおおお……!」グググ!


ジニー「はぁ……」テクテク


マミ「あっ、ジニーさん……どうしたのかしら。何か元気が無さそうね?」

QB「……マミ? 先輩として、ここはケアをしたほうがいいんじゃないかな?」

マミ「あら、そう? キュゥべえがそういうんじゃ、仕方ないわね……こんにちは、ジニーさん!」

QB「やあジニー! 調子はどうだい?」

ジニー「あ、マミに……キュゥべえ」

QB「おやおや? 声になんだか元気がないよ?」

マミ「あら、大変! もしかしたら風邪かもしれないわね?」

ジニー「いやあの、これは別に風邪とかじゃ――」

QB「そんな時はこれ! マダム・ポンフリー印の"元気爆発薬"!」

マミ「一口で元気百倍! さ、ジニーさん? 口を開けて?」


225 : 1[saga] - 2013/01/24 19:42:03.47 xkFMgk9u0 144/755


ジニー「あの、本当に大丈夫だから……」

QB「……飲んでくれないのかい? ジニーの為に僕が用意したんだけど……」キュップーイ

ジニー「……えっ?」キュンッ

QB「ここのところ、元気が無かったみたいだからさ。せめて、薬でもと思って……」キラリン

QB「僕の薬を飲んで、健康になっておくれよ! そう思ってたんだけどな……」チラッ

ジニー「……飲む! 飲むわ! せっかくキュゥべえが用意してくれたんだもの!」

マミ(ジニーさんの猫好きを利用して……! キュゥべえ、恐ろしい子……!)

ジニー「じゃ、いただきます」ゴクッ


  ぼふん!


ジニー「……」シュゥゥウウウウ

マミ「……耳から煙が……」

QB「……味はどうだった、ジニー?」

ジニー「……先輩? 私が飲んだんだから、先輩とキュゥべえも飲むべきですよね?」ニッコリ

マミ「あ、ま、待って! 離せばわかるわ。ていうかなんで急に敬語に……ちょ、やめっ……!」

QB「ぼ、僕をいじめるのかいジニー? しないよね、猫好きだもんね、君……え、予防注射みたいなもんだって?
   いや待って、そこは口じゃ……」


  ぼふん! ぼふん!


.

ハリー「やあマミにキュゥべえ。どうしたの? 耳から煙を噴きだして……」

マミ「……気にしないで」モクモク

QB「なんだかこそばゆいね、これ」モクモク

ハリー「あー、まあいいけどさ。ところでちょっとお願いがあるんだけど――」



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226 : 1[saga] - 2013/01/24 19:42:57.42 xkFMgk9u0 145/755



マミ「"絶命日パーティ"? ゴーストが自分の死んだ日を祝うの? それに、私を?」

ハリー「うん。ほとんど首なしニックが是非に、って。
     僕、この前彼に助けてもらったから断りきれなくて……」

マミ「それはいいけど……なんで私を?」

ハリー「ほら、僕たちが入学した時さ。君、ニックのことをすごく怖がってたろう?
     あの反応が良かったらしくて……なんかね? パーティでも怖がって欲しいんだって」

QB「ゴーストにとっては、怖がられることがひとつのステータスなのかな」

ハリー「そうみたい……で、どうかな。ハーマイオニーとロンも来るんだけど」

マミ「ハーマイオニーさんも……そうね、それじゃあ私も参加していい?
   絶命日パーティなんて、参加する機会もなかなか無さそうだし……」

ハリー「いいの? 同じ日にやるハロウィンパーティの方は、骸骨舞踏団とかが来るらしいけど……後悔しない?」

マミ「そっちも楽しそうだけど……でも、どんなパーティでもお友達と一緒ならきっと楽しいわよ。
   後悔なんて、あるわけないわ」

227 : 1[saga] - 2013/01/24 19:43:24.45 xkFMgk9u0 146/755


10月31日 絶命日パーティ 帰り道


マミ「失敗した……」

ロン「いいよ、わざわざ言わなくて……みんな思ってるんだから」

QB「ゴーストってあんなにいっぱいいるんだねぇ。あれはあれで貴重な体験だと思うよ。
   まあ、マミはほとんど気絶してたから体験してないけど……」

マミ「非常識よ……目があった瞬間、みんな一斉に首を投げつけてくるんだもの……」ガタガタ

ロン「多分、あれじゃないかな? ニックが君に目を付けたみたいに、首狩りクラブの面々も雰囲気を察したんだと思うよ」

QB「狩りクラブの代表ゴースト、"彼女には才能がある。死ぬ時はぜひ斬首で"ってマミのこと絶賛してたけど、どうするマミ?」

マミ「ぜっっったいに嫌! ……へくちゅっ」

ハーマイオニー「大丈夫、マミ? 寒かったもの……ゴーストが集まると気温が下がるのね」ガチガチ

ハリー「それよりおなかが減ったよ……ゴースト用の料理って全部腐ってたりカビが生えてたりしたし……」

ロン「急げば、まだ大広間にデザートが残ってるかも……」



??『引き裂いてやる!』



ハリー「!? 今の声……あの時のだ。ロックハートの部屋で聞いた……」

ロン「ハリー? どうしたんだよ、一体」

ハーマイオニー「声……? 前に、あなたが聞いたっていう? 私たちには聞こえないけど……」

ハリー「しっ! 静かに……移動してる……こっちだ!」ダッ

マミ「あ、ちょ! 待ってってばハリーくん!」

QB「追いかけよう。何か様子が変だ」

228 : 1[saga] - 2013/01/24 19:44:10.59 xkFMgk9u0 147/755


三階 廊下


ハリー「ここだ……声はここで途切れた……」

ハーマイオニー「……! 見て、あそこの壁!」


<秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ>


ロン「文字……? "秘密の部屋"って……」

QB「……それだけじゃないみたいだ」


ノリス「」


ロン「ミセス・ノリスだ! フィルチの飼い猫の――死んでるのか?」

マミ「そんな……酷い。なんで……」

ハーマイオニー「……とにかく、ここを離れましょう。あんまり他の人に見られるのは……」

ドラコ「――次はお前らの番だぞ、穢れた血め!」

229 : 1[saga] - 2013/01/24 19:44:39.10 xkFMgk9u0 148/755


ハリー「マルフォイ!? どうして――そうか、パーティが終わったのか!」

ロン「……ってことは、当然こいつだけじゃなくて――」


     ガヤガヤ ガヤガヤ


「おい、どうした?」「ポッターだ」「ミセス・ノリスが死んでるぞ――?」

          
                      ざわざわ ざわざわ


フィルチ「なんだ――ミセス・ノリスがどうしたと?」

マミ「ふぃ、フィルチさん……」

フィルチ「なんだ、トモエか。一体これはなんの騒ぎ……」


ノリス「」


フィルチ「あ……ああ……! ミセス・ノリス! 誰だ! 誰がこんなことを!」

マミ「あの、これは――」

フィルチ「お前たちか! お前たちがミセス・ノリスを! 殺してやる! 私がお前たちを殺して――!」

マミ「……っ」ビクッ

ハリー「違います! 僕たちはただここに居合わせただけで――」

ダンブルドア「――静まれ! 生徒たちは各寮へ」

ハリー「ダンブルドア先生! 違うんです。これはあの――」

フィルチ「猫が! こいつらが私の猫を!」

ダンブルドア「アーガス、とにかく場を移そうぞ。居合わせた君らも、一緒においで。
       ああ、ドラコ。すまんがミネルバとセブルスを呼んできてくれんかね?」

230 : 1[saga] - 2013/01/24 19:45:08.67 xkFMgk9u0 149/755


ロックハートの部屋


ダンブルドア「お邪魔してすまんのう、ギルデロイ。君の部屋が一番近かったでな」

ロックハート「いやそんな――校長を私の部屋にお招きするなど真に光栄……」チラッ

マミ・ハーマイオニー「?」

ロックハート「こ、光栄ですからね……! それよりも猫でしたか! 私が拝見しましょう!
       むむ、これは異形変身拷問の呪いですね……とても苦しんで死んだに違いありません」

フィルチ「ああ、ミセス・ノリス!」

ダンブルドア「ギルデロイ、ちょいと外れのようじゃのう。これは異形変身拷問ではないよ」

ロックハート「はっはっ、やはり校長は見抜かれていましたか! そう、これはアバダケダブラ――」

ダンブルドア「――でもないのう。そもそも死んでおらんのだし」

ロックハート「やはりそうでしたか! ええ、これは固まってるだけでしょう」


ハーマイオニー「凄いわ! ダンブルドア先生と互角に話しているなんて!」

マミ「さすがロックハート先生……」

ロン「おい、誰か耳かき持って来いよ。絶対この二人の耳の穴塞がってるから」



231 : 1[saga] - 2013/01/24 19:46:02.54 xkFMgk9u0 150/755


フィルチ「じゃあミセス・ノリスは治るんですか!?」

ダンブルドア「ああ、スプラウト先生がマンドレイクを育てておられる。
        成長したら、すぐにでも解呪薬を作ってくれるじゃろう。のうセブルス?」

スネイプ「御命令とあらば――しかし校長? その前に犯人をみつけなくては……
      猫では証言ができないからして」

フィルチ「あいつらだ! ポッター達がやったんだ!」

マミ「そんな! フィルチさん、私たちは――」

フィルチ「うるさい! お前だって、魔法使いなんだろう! スクイブの私を馬鹿にしてるんだろう!
      同情などするべきではなかった! 貴様に、私の気持ちなど――!」

マミ「……っ」

マクゴナガル「アーガス、おやめなさい。この子たちにそんな真似はできませんよ。技術的にも、性根的にもね」

マミ「マクゴナガル先生……」

フィルチ「……」

スネイプ「ですが副校長。彼らが正直にすべてを話してるとは思えないのですが?
      ポッター、なぜあの時間にあの場所に? 他の生徒はハロウィンパーティに出ていたが?」

ハリー「僕たち、ニックに絶命日パーティに招待されて――」

スネイプ「では、その後にハロウィンパーティに来なかったのは?」

ハリー「それは……」

スネイプ「ふむ、話せない、と。……ご覧の通りです。ここは彼らが正直に話してくれるよう、処罰を与えては?
      たとえば、そう……クィデッチ・チームから外すなど」

マクゴナガル「それとこれとなんの関係が? 猫はブラッジャーに押しつぶされでもしてましたか?」ギロッ

ダンブルドア「よい、疑わしきは罰せずじゃ……今宵はこれで解散としよう」



232 : 1[saga] - 2013/01/24 19:46:32.73 xkFMgk9u0 151/755


グリフィンドール談話室


ハリー「あの声のこと、話した方が良かったのかな……」

QB「どうだろう? 君以外には聞こえない声なんて証明しようがないし、あの場を混乱させるだけだと思うけど」

ロン「ああ。狂気の沙汰だよ。気味が悪いって、ハリーも思うだろう?」

ハリー「うん。それに、あの言葉――秘密の部屋って一体なんなんだろう……?」

ロン「うーん。昔聞いた覚えがあるような……」

ハーマイオニー「私も、何かで読んだ覚えがあるのよね……」

マミ「……」

ハリー「秘密の部屋に関しては、これ以上考えてても仕方ないか……。
     ……そういえば、ロン。フィルチのいってたスクイブってなに?」

ロン「ぷっ、くくっ……ああいや、別におかしいことじゃないんだけどさ。
   スクイブっていうのは、魔法使いの家の生まれなのに、魔力をもってない人のことなんだ」

マミ(……)


     『なあ、トモエ――本当に才能が無いということが、どういうことか分かるか?』


マミ(そうか、だからフィルチさんは、失敗ばかりの私に――)


ロン「でもこれでフィルチが僕たちに強く当たる理由が分かったよ。妬ましいんだろうね、ははは!」

マミ「――別に、笑うことじゃないでしょ」

ロン「うん? なんだって?」

マミ「……別に、なんでもないわ。おやすみ!」スタスタ

ロン「……なんであんなに怒ってるんだ、あいつ? そりゃ、ちょっとブラックな笑いだったけどさ」

ハリー「……ロン、君ってたまに地雷を思いっきり踏み抜くよね」

ハーマイオニー「……マミ」

233 : 1[saga] - 2013/01/24 19:47:22.29 xkFMgk9u0 152/755


翌日


マミ「……」

QB(昨日からマミはずっとだんまりだ。あの三人組とも距離をおいて、ずっとひとりきりだし……
   ……ん、あれは?)

ジニー「……」スタスタ

QB(ジニーだ。相変わらず元気がないな。寒いし、こりゃ本格的に風邪かな?)ピョイッ

QB「やあジニー。元気してるかい?」

ジニー「ああ、キュゥべえ。今日は薬を持ってないみたいね?」

QB「もう懲りたよ。あの酷い味は猫栄養ドリンク以来だ……で、君の方はどうだい?
   調子が戻ってないみたいだけど」

ジニー「ええちょっと……ほら、ミセス・ノリスが……」

QB「ああ……」

ジニー「ロンは"あんなのいなくなった方がせいせいする"なんて言ってたけど、私……」

マミ「……そうよね。そんなの、許されるはずないわ」

ジニー「! マ、マミ! いたのね……」

マミ「ええ。ジニー。そうよ、フィルチさんの猫を石にするなんて……許せないわ」

QB「君、昨晩はだいぶ酷いこと言われてたじゃないか。それでもかい?」

マミ「誰だって、大切なものが奪われれば取り乱すに決まってるわよ……ええ、キュゥべえ、私は決めたわ」

QB「決めたって、一体何を?」

マミ「決まってるでしょう?」


マミ「この私が、フィルチさんの猫を石にした犯人を絶対に捕まえて見せるわ!」


ジニー「……」

250 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:09:35.91 ktpGB5m+0 153/755


魔法史の授業


ビンズ「……であるからして、千年以上も昔にこのホグワーツを創立した四名、
    その中のひとりであるサラザール・スリザリンが他の創設者も知らぬ隠された部屋を作ったという話があるのです」

ビンズ「それが秘密の部屋、と呼ばれておるものの正体なわけですな。
     純血主義だったスリザリンが純血でない魔法使いを排除するための怪物を封じ込め、
     スリザリンの継承者だけがその怪物を解き放ち、操ることができるという」

ビンズ「無論、戯言であるわけですが。部屋などない。よって怪物もいない。
     歴代の校長や著名な魔法使いが調べても、その痕跡すら発見できなかったのですから」

ビンズ「さて、よろしければ歴史に戻ることにしましょう。馬鹿馬鹿しい作り話などではない、確固とした事実にね」


◇◇◇


QB『……なるほど。ビンズ先生の話で大体は分かったかな。つまりその秘密の部屋の怪物とやらが犯人というわけか。
   確かに、事件のあった廊下にも"秘密の部屋"という文字が書かれていたね』

マミ『……でも本当にそんな怪物が? 他の可能性もあるんじゃないかしら。
   例えば、そうね――スリザリンの生徒が呪いを掛けたとか』

QB『それは有り得ないんじゃないかな。生徒が掛けた呪いくらい、先生なら解けるだろう。
   マンドレイクを使った解呪薬でしか解けないっていうのは……』

マミ『……ヴォルデモートみたいに本当に強力な闇の魔法使いか、危険な魔法生物かってこと?』

QB『ああ……でも闇の魔法使いって線はないと思うな』

マミ『え、どうして? 実際、ヴォルデモートは去年ここに忍び込んだじゃない』

QB『ヴォルデモートは賢者の石を手に入れるって言う目的があっただろう?
   わざわざホグワーツに忍び込んで、やることが猫を石にするだけっていうのはいくらなんでも間抜けだ』

マミ『でも、これから生徒を襲うつもりかも……』

QB『なら最初から生徒を標的にすべきだよ。これからは警備も強化されるだろうし、生徒自身だって警戒するだろう。
   つまり猫が襲われたのは偶然だったんだ。その魔法生物は多分、生きてるものを全部標的にしちゃうんじゃないかな』


251 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:10:39.38 ktpGB5m+0 154/755


マミ『……でも、ビンズ先生の話だと"怪物"は"継承者"に操られるんでしょう? 
   壁に文字が書いてあったから、人間が関わってるのは確かよね?』

QB『そこが分からないんだよなぁ。もちろん伝説を鵜呑みにする気はないけれど。
   いったんまとめてみようか。マミ、羊皮紙と羽ペンを借りるよ。現状、確実に分かってるのはこの二点だね』サラサラ


1.猫を石にしたのは何らかの魔法生物。

2.壁に文字が書いてあった→人間が関わっている。


QB『暫定的に、壁に文字を書いた人物を継承者。魔法生物を怪物と呼称しようか。で、こっちが推測』サラサラ


a.継承者は怪物と関わりがある?

b.怪物は継承者に操られている?


マミ『キュゥべえ、これaとbの違いってあるの? どっちも同じように見えるんだけど』

QB『ミセス・ノリスを襲ったっていう点がどうにも理解できないんだ。
   もしかすると継承者は怪物を解き放っただけで、操ることはできないのかもしれない』

マミ『そっか……でも怪物を操ってる人がいるかはともかく、危険な魔法生物がいるのは確かよね。
   その正体とか住処を突き止めて、先生方に報告すれば……』

QB『……マミ、本当に君ひとりでやる気かい? 怪物と遭遇してしまったらどうする?
   君はまだ二年生で、大した呪文も使えないんだよ?
   魔法生物の中には、一流の魔法使いが使うような魔法でさえ跳ね返してしまうようなのもいるのに』

マミ『……それでも、やらなきゃ。ここ最近のフィルチさんを見た?』

QB『明らかに憔悴してるね。通常の業務に加えて、猫の犯人捜しだ。このままだと倒れるんじゃないかな?』

マミ『そうよ……早く、犯人を、怪物を見つけなきゃ……』

QB『……でも、一人でやる必要はないと思うけどな。ハーマイオニーを誘ってみたらどうだい?
   彼女の知識量は、きっと役に立つと思うけど』

マミ『……嫌。だってきっと、ハーマイオニーさんはロン君たちと一緒に探そうとするもの』

QB『この前のロンの発言を気にしているのかい? 君もわかってると思うけど、フィルチは決して優しい職員ではないよ。
   多くの生徒に煙たがられるのも頷ける話だ』

マミ『分かってるわよ。ロンくんだって悪気があったわけじゃないって……でもそれなら、私がフィルチさんのことをどう思おうとも勝手でしょ?』

QB『まあ、君があくまでそういうなら僕も強くは言わないけどさ……それで、具体的にはどうするんだい?』


252 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:12:20.99 ktpGB5m+0 155/755


夕食後 三階 廊下


マミ「というわけで、犯行現場にやってきたわけだけど」

QB「誰もいないね。まあ、あんな事件があった後だし……なんでここに来たんだい?」

マミ「犯人は犯行現場に戻るって、本に書いてあったもの!」ドヤッ

QB「その犯人に出会ったら、君も石像の仲間入りなわけだけど……」

マミ「虎穴に入らねば虎児を得ず、よ!」

QB「……まあ、犯行現場を調べなおすって言うのは悪くないと考えだけどね。
   とはいえ、何の変哲もない廊下だけど」

マミ「そう言われるとそうなのだけど……キュゥべえ、あなたは何か気づいたことってある?」

QB「そうだね……そういえばあの時は、床がびしょ濡れだった」

マミ「床が? そうだったかしら?」

QB「君はミセス・ノリスに注目していたから……でも確かに、結構な量の水が廊下にぶち撒かれていたよ。
   バケツ一杯じゃ足りないくらいだった。あれはどこから……?」

マミ「それって、あそこからじゃない?」


 "女子トイレ"


QB「ああなるほど、排水溝がつまりでもしたのかな? そういえば"故障中"って張り紙もされてるね」

マミ「あら、そういえばこのトイレって……」

QB「どうしたの、マミ?」

マミ「何だったかかしら……確か噂があって……三階のここのトイレは入っちゃ駄目とかいう……」

QB「故障中だからじゃないかい?」

マミ「そうだったかしら……まあいいわ。とにかく何か手がかりがあるかもしれないし、入ってみましょう」


253 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:14:22.10 ktpGB5m+0 156/755


 女子トイレ


QB「うわ、ボロボロじゃないか……いつから故障中なんだろう、これ」

マミ「本当。これじゃ使えないわ……そういえばキュゥべえ。あなたってオスなの、メスなの?」

QB「えっ、いまさらそこ気にするのかい?」

マートル「……なによぅ。また誰か来たの? わたしを馬鹿にしに……」ヌゥッ

マミ「きゃっ!?」

QB「ゴーストだ。女の子の……ん? どこかでみたような……」

マートル「あんた達、わたしのこと知らないの? ……って、そういえばこのくるくる頭は見たことあるわね」

QB「ああ、思い出した。絶命日パーティの」

マートル「そうだ、首を投げつけられて気絶してた奴だ。なぁに、あんた怖がりなのぅ? にひひひっ」

マミ「こ、怖くなんてないわ! ちょっとびっくりしただけだもの!」

マートル「……へぇ。そう」スゥッ

QB「あ、床に潜っていっちゃった……」

マミ「き、気を悪くさせちゃったのかしら……?」

マートル「――ばぁぁあああああああ!」ブラーン

マミ「いやあああああああ!? 首が、天井から首が!?」

マートル「あははは! いーい怖がりっぷりじゃない? わたしより弱っちそうな奴は初めて見たわ」

QB「あんまりいじめないでやっておくれよ。マミはメンタル弱いんだから。ここ一年でだいぶ良くなったけど」


254 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:16:16.22 ktpGB5m+0 157/755


マミ「はぁはぁ……も、もう。ほんとに驚いたわ……」

マートル「きしし」

QB「ニックがマミを絶命日に呼んだの、分かる気がするなぁ」

マートル「そぉねぇ。こんなビビり虫そうそういないわ」

マミ「べっ、別にビビり虫なんかじゃ!」

マートル「毎晩、あんたの部屋に出没してやってもいいのよ?」

マミ「ビビリ虫です……」グスッ

マートル「あー久しぶりに気分がいいわっ。死んでから初めてね……んで、あんたらわたしのトイレに何の用なの?
      悪いけどお腹がピンチっていうんなら別のところで……」

マミ「違うの。あのね、ハロウィンの日にここの前の廊下で猫が石にされて……」

マートル「ああ、あんたらもそれの犯人捜ししてるんだ?」

QB「ってことは、僕たちの他にも誰か来たのかい?」

マートル「えーえおいでなすったわよ。赤毛ののっぽと箒頭の出っ歯、あとクシャ髪の眼鏡が」

QB「……ハリー達かな。彼らはなんて?」

マートル「おかしなものを見なかったかって……
      その時も言ったけど、わたしはあの日、排水溝の中でずっと泣いてたからなーんも見てないわ」

マミ「そうなの……何か手がかりがあればと思ったんだけど」キョロキョロ

マートル「んー。手がかりは知らないけど、今は機嫌がいいから面白いこと教えてあげようか?」

マミ「面白いこと?」

255 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:17:08.74 ktpGB5m+0 158/755


マートル「ゴーストが壁をすり抜けられるのは知ってるでしょ? 
      でもまあ、なんでもかんでもすり抜けられちゃあ困るから、魔法ですり抜けられないようにすることもできるわけよ」

QB「確かに。じゃないとゴーストが諜報役として跋扈することになりかねないしね」

マートル「そう。でもそんな魔法をいちいち掛けるのも面倒ってことで、重要な箇所にしか"ゴースト避け"はないの。
     だけどね、このトイレってなんでかゴースト避けの魔法がかかってるのよ」

QB「だけどさっき、君は床や天井をすり抜けたじゃないか」

マートル「トイレの一部に、ってこと。ほら、そこの手洗い台がそうよ。そこはわたしでもすり抜けられないの」

マミ(良く考えたら、トイレにゴースト避けが掛かってないのってプライバシー観点で致命的な気がするのだけど……)


 手洗い台


マミ「普通の洗面台みたいね……ん、この蛇口壊れてる」

マートル「そこ、ずっと壊れっぱなしよ。わたしがまだ生きてた頃から。修理もできないみたい」

マミ「うーん……特に変わったところはなさそうだけど……あっ、蛇の落書きがあるわ。
   ふふっ、何かこういうの見ると和むわね」

QB「……確かにこの手洗い台は気になるな。ゴースト避けなんて、洗面所に掛けても意味ないし。
   マミ、何種類か魔法を掛けてみよう。まずは開錠呪文から……」

マートル「ところで、あんたら平気なの? 
      最近このトイレの前、あの嫌われ者の用務員がずっとうろうろしてるんだけど」

マミ「……! フィルチさんが……」

QB「彼も僕らと同じ思考をしたんだろう。現状、ここくらいしか手がかりはないからね。
   僕らが入るときはいなかったけど、また戻ってくるかもしれない。もう就寝時間も近いし……」

マミ「……そうね、いったん離れましょうキュゥべえ。調べるのはまた今度よ。
   あの、またここに来てもいいかしら? ええと……」

マートル「マートルよ。あんたらはマミとキュゥべえっていったっけ?
      ま、わたしのこと馬鹿にしない奴なら別にいいわ。あんたらは、まあ……及第点ってとこね」

256 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:18:58.44 ktpGB5m+0 159/755


グリフィンドール 女子寮


マミ「なんとか就寝時間に間に合ったわね……」

QB「明日からは、フィルチの隙を見てあのトイレのことを調べよう。少なくとも、他の手がかりがみつかるまでは――」


ガチャッ


パーバティ「Zzzzz.....」

ラベンダー「むにゃ……ビンキー……こっちおいで……」

マミ『……みんな寝てるみたい。キュゥべえ、しー、よ?』

QB『うん……だけどマミ、ひとつだけ間違ってる。寝てるのはみんなじゃないよ』

マミ『へ? それってどういう……』

ハーマイオニー「……お帰りなさい、マミ」

マミ「ハーマイオニーさん……」


257 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:21:19.49 ktpGB5m+0 160/755


QB「僕は席を外すよ。終わったら呼んでね」タタッ

マミ「あっ、ちょ、キュゥべえ! ああ、行っちゃった……」

ハーマイオニー「……マミ、遅かったわね。どこに行ってたの?」

マミ「……別に。ちょっと図書室で調べものを……」

ハーマイオニー「そう……ねえ、マミ。この前ロンが言ってたこと。あれはね、別に――」

マミ「分かってる。分かってるわよ。気にしないで」

ハーマイオニー「……だったら、また明日から仲良くできるのかしら、私たち」

マミ「……それは」

ハーマイオニー「……あなた、秘密の部屋を――ううん、ミセス・ノリスのことを調べてるんじゃないの?」

マミ「……!」

ハーマイオニー「あなた、他の誰がフィルチの悪口を言っても、いつも曖昧に笑って流すだけだったから。
          もちろん私だって陰口には賛成できないけれど……
          ねえ、マミ。犯人捜しをしてるんだったら、私たちと――」

マミ「し、知らないわ! お休み!」ガバッ

ハーマイオニー「あっ、マミ! 話はまだ終わって――」

マミ「ぐー! ぐー!」

ハーマイオニー「……そう。ええ、そうですか分かったわ分かりましたとも!
          マミがそういうつもりならこっちだって考えがあるんですからね! ふんっ、お・や・す・み!」

マミ「……」

ハーマイオニー「……」




マミ(……怒らせちゃった)グスッ

ハーマイオニー(……やっちゃった)ハァ

258 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/02/05 22:22:45.44 ktpGB5m+0 161/755


数日後 闇の魔術に対する防衛術 授業


ロックハート「はい、それじゃ教科書のここからここまでノートに書き写して!
        おっと、読みふけって時間を忘れないように注意してくださいよ!」


ハーマイオニー「……」ガリガリガリ

ハリー「あー、ハーマイ、オニー? そんな力入れて書いたら、羽ペンが痛むと……」

ハーマイオニー「……っ!」キッ

ハリー「あーいや、なんでもないんだ。なんでもね……ロン、どうしよう。この後のあれ……」ヒソヒソ

ロン「なにがあったか知らないけど、この頃機嫌悪いもんなぁ……いざとなったら君が頼みに行けよ、ハリー」

ハリー「勘弁してよ、ただでさえロックハートは……」


ロックハート「さて、そろそろ皆さん写し終ったみたいですね! それじゃあこの部分の再現をしましょうか!
        栄えある相手役を務めるラッキーボーイは――ハリー! さあ、前においで!」


ハリー「ほら御指名だ。なんでかあいつ、僕を目の敵にしてるんだもの。
     今日やるのは……うわ、狼男だ。しかも地面に叩きつけられるとか書いてある……」

ロン「お気の毒様。あとで蛙チョコレートをあげるよ」

ハリー「割に合わないなぁ……でもやってくるよ。あいつをご機嫌にしとかないと、計画が上手くいかないし……」

259 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:24:32.63 ktpGB5m+0 162/755


ロックハート「さあハリー! まずはこれを被ってください! じゃ、じゃーん! 狼男の毛皮!」

ハリー(……裏側にMade in Chinaのタグがあるのは黙っておこうか……)



マミ「……」

QB『……マミ、ごめんよ。二人きりで話せば、上手くいくかと思ったんだけど……』

マミ『何のことかしら。知らないわ』

QB『そんなこと言って、ハーマイオニーとあれから一言も口きいてないじゃ』

マミ『知らないわ』

QB『……話を変えようか。マートルのトイレのことだけど……結局、あれから一度も調べられてないね』

マミ『そうね。フィルチさん、ずっとあのトイレの周りにいるものね……』

QB『やっぱり、ここは同時多発テロしかないと思うんだ。僕が遠くで騒ぎを起こすから、その間にマミが……』

マミ『やったらしばらく餌抜きにするわよ、キュゥべえ。フィルチさん、本当に倒れちゃうわ』

QB『……じゃあどうするのさ。このままだと年が明けちゃうよ』

マミ『……ひとつだけ、方法があると思うの。次の土曜の……』


ジリリリリリ!


ロックハート「おっと、もう終わりですか。では皆さん、宿題を忘れないように!」


QB『……なるほど。確かにそれはいいアイディアだ。じゃ、それでいこう』

マミ「ええ、行くわよ、キュゥべえ。寮に戻って細かいところを煮詰めましょう」スタスタ


ロン「お、最後の奴も出て行った……マミか。そういえばあれから口きいてないなぁ。
   はぁ、まだ怒ってるのか……大丈夫かい、ハリー?」

ハリー「いたた。ロックハートの奴、本気で掴みかかるんだものなぁ……おっと、急がないとロックハートの奴までいっちゃう。
     ハーマイオニー、ほら、君がサインを貰ってくるんだろう?」

ハーマイオニー「……分かってるわよ。
          ロックハート先生! 私、図書館からこの本を借りたいんですけど、先生のサインが必要で――」

260 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:28:36.47 ktpGB5m+0 163/755


土曜日 グリフィンドール寮談話室


ディーン「急げよネビル! もうすぐクィディッチの試合が始まっちまうぞ!」

シェーマス「っていうか先行ってるからな! 席くらいはとっておいてやるよ!」

ネビル「ああ、待って! 何で今日みたいな日に寝坊を……って、あれ? 暖炉の前に座ってるのは……」


マミ「……」カチャカチャ

ネビル「マミ、何やってるんだい、こんなところで……それなあに? なんかえらく複雑そうな装置だけど……」

マミ「あら、ロングボトムくん。これね、マグルの道具でMDプレイヤーっていうの。
   音を録音できる機能があって、今日の試合の実況を録音しようと思ったんだけど……
   壊れちゃってるみたいで、いま修理してるとこなの」

ネビル「ふぅん? でも急いだ方がいいよ、もうすぐホイッスルだし……」

マミ「ええ、時間ぎりぎりまで粘るけど、間に合わなかったら諦めて行くわ。
   ……ところで、ロングボトムくんはいいの? ゆっくりしてて」

ネビル「え。あ、そうだった! さ、先にいくね! マミ、君も急ぎなよ!」


QB「……よし、行ったね。マミ、ネビルで最後だ。もう僕らのほかは誰もいないよ」

マミ「そうね。それじゃあ早速……」ゴソゴソ

261 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:29:17.71 ktpGB5m+0 164/755


クィデッチ競技場


ネビル「はぁはぁ、着いた! ああ、もう始まってる! ロン、試合はどうなってるの?」

ロン「いま始まったところ。ネビルか、遅かったね。トイレかい?」

ネビル「いや、寝坊して……あとマミと談話室で話してたら遅くなった」

ロン「マミ? マミもまだ来てないのか……」

ハーマイオニー「……ネビル、マミはどうしてまだ寮にいたの?」

ネビル「いや、なんかマグルの道具の、なんていったかな、えむでーふらいやー? が壊れたって……
     それでクィデッチの実況を録音したいんだって」

ハーマイオニー「え、えむでーふらいやー? なにそれ、未確認飛行物体?」

ネビル「飛んではなかったよ。えーと、四角くて、黒いヒモが伸びてて、これくらいのサイズで」

ハーマイオニー「ああ、MDウォークマンね。……じゃあそれ、修理しても無駄よ」

ネビル「え、なんでだい?」

ハーマイオニー「だってね、マグルの道具、特に機械製品は魔法力の強い場所だと――」

ロン「おい、見てくれ! あのブラッジャー様子が変だぞ!」

ハーマイオニー「え?」


262 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:30:43.76 ktpGB5m+0 165/755


マートルのトイレ 手洗い台


マミ「うん、やっぱり誰もいない。クィデッチの時って、先生方もみんなそっちに行くものね」

QB「この日を調査に充てるのはいい考えだと思う……けど、君が延々とウォークマン弄ってたのには何の意味が?」

マミ「ほら、アリバイ工作って奴よ。何で来なかったの? って聞かれたら、ずっと修理してました、って言うの。
   ……にしてもこれ、本当に壊れちゃったのかしら? このっ、このっ」ポチッ ポチッ

QB「アリバイ工作って……そんなことしなくても、あの熱狂具合じゃ誰がいなかろうが気づかないと思うけど」

マミ「……こ、細かいことはいいでしょ、もうっ。さあ、調査開始よ!
   マートルさんもどっか行っちゃってるし、この隙にぱぱっとやちゃいましょ」

QB「うん、そうだね。じゃあまずは開錠呪文から……」



 数十分後



マミ「……開錠呪文も変身呪文も呪いもダメ、ね。私に使える呪文は、あらかた試したと思うんだけど……」

QB「ミサイルでも傷一つ付かないっていうのはおかしいね。なんでトイレにここまで過剰な防御を……」

マミ「……もうどうしようもないわね、これ。どうしましょうか、キュゥべえ?」

QB「そうだね。これ以上の調査は難しいし、この場所は保留にしようか。
  …… ただ、ひとつだけ分かったことがある」

マミ「えっと、何かしら?」

QB「このトイレの手洗い台は壊れてるってマートルが言ってたけど、それは間違いだ。
   ここまで頑丈に作られたものが壊れるなんてことありえない」

マミ「この洗面所は、最初から壊れてる風に造られたってこと?」

QB「いや、洗面所ですらない。その機能を最初から度外視されているのだから――」


QB「――これは、洗面台の形をした"何か"だろう」



.

263 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:32:15.80 ktpGB5m+0 166/755


QB「……まあ、だからと言ってこれが"秘密の部屋"に関連してるか、っていったら別問題だけどね」

マミ「ええ、そうね……もう行きましょうか? クィデッチの試合もいつまで続くか分からないし」

QB「あのスポーツ、競技時間が決まってないんだっけ? 確か最短4秒弱で終わったとか……」

マミ「急ぎましょうか。さすがに4秒ってことはないだろうけど……」


???『……シューッ!』


マミ「? キュゥべえ、いま何か言った?」

QB「? いや? でも、僕にも聞こえたよ。空気が漏れるみたいな音だろう?
   扉の外――廊下から聞こえたように思うけど」

マミ「……って、大変じゃないそれ! もう試合が終わってたりしたら……」

QB「フィルチがまたこの辺に居座りだす可能性もあるね。マミ、声を潜めて、外の様子を窺おう」

マミ「ええ、分かったわ……」


???『シューッ! シューッ!』


マミ『……扉のすぐ傍にいるみたいね。近くから音が聞こえる。……いや、これは声、かしら。
   歯の隙間から、思いっきり空気を出してるみたいな……』

QB『フィルチじゃないのかな? なんだろう、ピーブズが悪戯でもして……ん?』ピチャ

QB(トイレの床が水浸しだ。浸水してる? でもマートルが帰ってきた訳でもないみたいだし……)

マミ「……」

QB(マミはまだ気づいてないな。靴を履いてるし、扉に耳をくっつけて聞き耳立ててるからか。
   まあ、その内気づくだろうけど。どんどん水位が上がって……待て)


QB(この水はどこから来てる? いや、それよりも……あの日も、ミセス・ノリスが石にされた日も!
   水が、このトイレから溢れてた!)


QB『マミ、危険だ! 今すぐこのトイレから……!』


???「シュッー!」

267 : 1[sage saga] - 2013/02/05 22:46:25.40 ktpGB5m+0 167/755


 ばちゃん!


QB(背後から水音――まるで何かが水たまりの中に落ちてきたような。不味い!)

マミ『ちょっ、どうしたのキュゥべえ。そんな大声出しちゃ――きゃんっ!』ビチャッ

QB『逃げるんだ、マミ! 怪物だ! 多分、僕たちの背後にいる!』

マミ『えっ、嘘。怪物って……!』

QB『振り向いちゃ駄目だ! 刺激しないように、早くドアを開けて!』

マミ『わ、分かったわ……あ、あれ? なんで、これ』ガチャッ ガチャガチャッ

QB『マミ! どうしたの!?』

マミ「あ、開かない! 開かないの! ねえ、誰かいるんでしょう! 開けて! 開けてってば!」


???「……」


 ズルッ ズルッ 


マミ「ひっ!?」

QB(すぐ後ろから、何か重いものを引きずるような音が……もう、これは……)


268 : 1[sage saga] - 2013/02/05 23:31:37.96 ktpGB5m+0 168/755


夜 医務室


ハリー「……よーし、大体事情は分かったよ、屋敷しもべ妖精のドビー。
     君がなんで夏休みに僕の家に来てデザートをひっくり返して、
     さらに汽車に乗れないように駅の柵を封鎖した挙句、
     今日のクィディッチの試合ではブラッジャーを狂わせて僕の右腕をへし折ったのか、っていう事情がね」

ドビー「ああ、ハリー・ポッターにこんな説明台詞を喋らせてしまうなんて! ドビーは悪い子! ドビーは悪い子!」ガンガン

ハリー「やめて! それで、ドビー。君はさっき言ったよね? 秘密の部屋が前にも開かれたって。
     それって秘密の部屋は本当にあって、今もまた開かれてるってことだよね?」

ドビー「ああ、お聞きにならないでください! ハリー・ポッター、ただ、貴方様に危険が迫っているのでございます。
    どうかお家に帰ってくださいませ! どうか!」

ハリー「君が何をしようと、僕は帰らないぞ、ドビー! 僕の親友にマグル生まれがいる。
     それを放っておいて帰るなんて――」

ドビー「ああ、なんという勇敢さ! さすがは例のあの人を打ち破ったハリー・ポッター……
    ですが、ですが、だからこそ貴方様は自分の身を……」


 カツン カツン……


ドビー「! ああ、ハリー・ポッター。どうか、お願いいたします。お家に帰ってくださいませ――」パチン!

ハリー(消えた……ああ、そうか。足音が……誰かが医務室に来る?)


 ガチャッ


マクゴナガル「ええ、そうです。試合中に下級生の女子何名かが、不思議な声が聞こえたと訴えて……」

ポンフリー「ここに運ぶのがこの時間になった理由は?」

マクゴナガル「生徒たちに無用な混乱をさせない為にと……それまでは、私の部屋に」


ハリー(……マクゴナガル先生と、ダンブルドア先生? なにを抱えて……?)


ダンブルドア「……症状は、ミセス・ノリスと同じようじゃのう」

マクゴナガル「ええ。アルバス、これは……」

ダンブルドア「秘密の部屋が、再び開かれたということじゃな」


ハリー(……! 誰だ? 誰が犠牲に――あれ、あの、髪型は……)


マクゴナガル「……ですが、一体誰が? 誰が、こんな惨いことを……」

ダンブルドア「問題は誰が、ではなく……どうやって、じゃよ」





ハリー「……マミ?」



.

293 : 1[sage saga] - 2013/02/20 22:34:29.85 WnbcDPm60 169/755


数日後 グリフィンドール談話室



 ボソボソ ボソボソ


「やっぱり秘密の部屋が――」

「怪物――マグル生まれが狙われる――」

「マミ――彼女もやっぱりマグル出身だ――」

「フィルチの猫は――?」

「奴はスクイブだろう――」


                    ヒソヒソ ヒソヒソ


ハリー「……噂、広まってるね」

ロン「ああ。可哀想に、一年生なんかすっかり怯えちまってる。
   ひとりじゃトイレにもいけないって有様さ」

ハリー「そういえば、ジニーも一年生だったね。最近ただでさえ元気なかったし、様子どう?」

ロン「最悪だよ。君にまとわりついてたカメラ小僧がいたろ?」

ハリー「ああ、コリンね。彼がどうかしたの?」

ロン「そいつとジニー、妖精の呪文で班が一緒だったらしくてさ。
    事件のあった日、コリンも君のお見舞いに行こうと寮を抜け出そうとして――まあ、フィルチに捕まって戻されたんだけど。
    下手すりゃ怪物に襲われてたって喧伝してくれたみたいで、ジニーはすっかり怯えちまってる」

ハリー「今度会ったら言っておくよ。いたずらに不安を煽るなって」

ネビル「ハリー! ロン! 見てよこれ! この腐った玉葱には怪物を退ける効果があるんだって!
     怪物って怖いよねー! 他にも色々お守りを買い込んだんだけど――」

ハリー「よーしネビル。ダドリー直伝のチョークスリーパーをかけるからそこを動かないでくれよ」



294 : 1[sage saga] - 2013/02/20 22:42:17.06 WnbcDPm60 170/755


 ガチャッ


ハーマイオニー「……おはよう、みんな」

ロン「あー、おはよう。ハーマイオニー、よく眠れたかい?」

ハーマイオニー「ええ、お陰様でね。どうにか調子は取り戻せたみたい」

ロン「無理はするなよ。事件の噂を聞いた時の君ったら、そりゃもう酷い……」

ハーマイオニー「……マミとは、その、ちょっと喧嘩しちゃってたから。
          最後に交わしたのがあんな言葉になっちゃうかもっていうのが嫌で……」

ロン「それに関しちゃ、僕だってそうだけどね……そういえば朗報だよ。マミに会いに行っていいってさ。
   なあ、これからお見舞いに行かないかい?
   おっと、君に拒否権はないぜ。僕としちゃ授業をさぼれる機会を逃したくはないからね」

ハーマイオニー「……あなたにしてはいい考えね、ロン。でも、授業には間に合わせるわよ。
          それとハリー、ええと、さっきから気になっていたのだけど、あなたは何故ネビルの頭を砕こうとしてるの?」



296 : 1[sage saga] - 2013/02/20 22:49:18.54 WnbcDPm60 171/755


医務室


ポンフリー「面会、ですか。ええ、マクゴナガル先生から許可が出てますよ。
       ぜひ会ってあげなさい。きっと彼女も喜ぶでしょう」



ハリー「あのカーテンで仕切られた一角に、怪物の被害者がいるわけか……
    ってことはミセス・ノリスもベッドに寝かされてるのかな?」

ロン「流石に籠か何か用意してあるんじゃないか? 石になった猫一匹がベッド占拠してるってシュールだろ。
   あとネビル、その玉ねぎは捨ててこいよ。酷い匂いだぜ、それ」

ネビル「マミの枕元に置いてあげようと思って――」

ロン「彼女が起きときにはすっかり玉ねぎの臭いが染み込んじまってるだろうよ。それでもいいならやれば?」

ネビル「ならきっと、二度と怪物も近づかないね! 僕の分も置いていくよ」

ロン「おい馬鹿やめろ。ハリー、君のさっきの技でネビルの頭が大変なことになってるぞ何とかしてくれ」

ハリー「もう一回やれば治るかな?」

ハーマイオニー「あなた達、うるさいわよ。医務室ではお静かに。
          っと、このベッドね。カーテンを開けるから、男子はいったん後ろに下がってもらえる?
          ……マミ、開けるわよ」


 シャッ


ハーマイオニー「……はあい、マミ。その……久しぶりね」

マミ「……おはよう、ハーマイオニーさん」ナデナデ

297 : 1[sage saga] - 2013/02/20 22:52:37.56 WnbcDPm60 172/755


マミ「……いま……何日かしら? 薬で眠っていたから、曜日が分からなくて」ナデナデ

ハーマイオニー「そんなに経ってないわ。あれから四日。今は水曜日。……調子はどう?」

マミ「ええ、もう大丈夫。眠ったら良くなったわ」ナデナデ

ハーマイオニー「……その、キュゥべえのことは、残念だったわ」

マミ「……残念? どうして? キュゥべえはここにきちんといるじゃない」ニッコリ

QB「――」

マミ「ふふ。キュゥべえったら、毛並がこんなに乱れちゃって……
   ……手ぐしだとあんまり直らないわね。ねえ、ハーマイオニーさん。櫛持ってる?」

ネビル「……」

ハーマイオニー「……っ、持って、ないの。ごめんなさいね」

マミ「あ……いいのよ、謝らなくても……そうだ、私もハーマイオニーさんに謝らなきゃいけなかったわね。
   この前はごめんなさい。私、意地になってて……フィルチさんには、色々と助けて貰ったから」

ハーマイオニー「……そう」

ロン「……あー、その件に関しちゃ僕も謝らないとだね。知らなかったとはいえ、ごめんよ」

マミ「……あら、ロンくん達も来てくれたの? ううん。いいのよ。
   フィルチさんが厳しいのも、好かれやすい人柄でないのも事実だものね。
   ふふっ、そういえばキュゥべえも同じこと言ってたっけ。ね、キュゥべえ?」ナデナデ

QB「――」

ネビル「……っ、悪い、けど。僕は、戻るね」ダッ

ハリー「……ネビル」

マミ「あら、用事でもあったのかしら? ……ああ、そういえば、もうすぐ授業じゃない。
   私も出たいのだけど、まだ駄目なんですって。もう、勉強が遅れちゃうわ」

ハーマイオニー「……私が、教えてあげる、から」

マミ「そう? ハーマイオニーさんが教えてくれるなら……ちょっとくらい遅れても大丈夫かしら。
   でも早く授業には出ないとね。じゃないと、折角、キュゥべえが守って、くれた、のに……あ」

ハーマイオニー「……マミ? どうしたの?」



マミ「ああ、あ、ああああああああああああああああ!」ガタガタ

298 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:01:55.27 WnbcDPm60 173/755


ハーマイオニー「マミ!? マミ、しっかりして!」

ハリー「マダム・ポンフリーを呼んでくる!」ダッ


マミ「嫌! 嫌嫌嫌嫌! こないでぇっ! 怖い怖い怖い怖い! 助けてよぉっ! 誰か、誰か助けて!」ブルブル


ロン「落ち着いてってば! ここには怪物なんかいやしないよ!」

ハーマイオニー「マミ! 大丈夫よ! 私たちがついてるから!」ギュッ


マミ「キュゥべえ! キュゥべえはどこ!? いや! キュゥべえを連れて行かないで!」


ポンフリー「っ、これは……みなさん下がって! ドルミーテ!(眠れ)」バシュッ

マミ「ぁ……」パタッ

ハリー「……眠ったみたい」

ハーマイオニー「マミ……」

ポンフリー「……落ち着いたと思っていたのですが……
       皆さんショックでしょうが、ここは私に任せて。授業に出られますか?」



299 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:09:14.11 WnbcDPm60 174/755


廊下


ハーマイオニー「……」

ロン「とてもじゃないけど、怪物のことなんて聞けなかったね。
   半笑いで、固まったキュゥべえをずっと撫でててさ。さすがに僕だって触れちゃいけないって分かったさ」

ハリー「うん……でも、最初に比べたらだいぶ落ち着いたと思うよ。
     あの夜、僕が見たときはもっと酷い取り乱しようだった」


◇◇◇

事件当日 医務室


ハリー(……マミ? それに、キュゥべえも。どっちも動かないけど……二人とも怪物に……?)

マミ「……ん、ぅ。わた、し……」

マクゴナガル「……! マミ、目を覚ましましたか」

マミ「マクゴナガル、先生……? あの、ここは……? 暗くて、よく……」

マクゴナガル「医務室です。貴女は女子トイレで倒れているのを発見されて……」

マミ「トイ、レ……ああ、そうだ、私、怪物に……! キュゥべえ!? 先生、キュゥべえは!?」

マクゴナガル「……マミ、落ち着いて聞いてください。キュゥべえは、ミセス・ノリスと同じく……」

マミ「あ……となりの、ベッド……」

QB「……」

マミ「い……や、そんな、キュゥべえ、私を庇って……」

マクゴナガル「落ち着きなさい、マミ。大丈夫です、マンドレイクさえ収穫できれば――」

マミ「キュゥべえ、キュゥべえ! そんな、嘘よ! だって、大丈夫だって! 大丈夫だっていってたじゃない!
   嘘つき! ねえ、目を覚まして! 起きてったら――!」

マクゴナガル「……っ」

ダンブルドア「……マダム・ポンフリーや。眠り薬を」

ポンフリー「はい……さあ、これを嗅いで。大丈夫、落ち着きますよ……」

マクゴナガル「ああ、アルバス。こんなことってあるでしょうか……この子は両親を失って、この猫だけが家族だったのに……
         いつだって一緒にいて、それがこんな……この子のために、私に何ができるのでしょう?」

ダンブルドア「大切な者を失った傷は、いかなる魔法でも癒せはせん。共にいてやることじゃ、ミネルバ。
        そして、さらなる犠牲者を出さぬためにもわしら教師が尽力せねばのう」

ハリー(……)

◇◇◇


300 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:11:26.60 WnbcDPm60 175/755


ロン「……それにしても、これで襲われたのが三、石になったのは二人、いや二匹か。
   マミだけ助かったのはなんでだろう? キュゥべえが庇った? でも猫に威嚇されたくらいで怪物が怯むかな?」

ハリー「猫の鳴き声が嫌いな魔法生物なんじゃないかな。
     ほら、去年のフラッフィーもあんな成りして音楽が弱点だったし……」

ロン「でもそのキュゥべえはともかく、その前にミセス・ノリスも石にされてるわけだし……」

ハリー「ああ、そうか……」

ロン「まあ、ポリジュース薬が完成すればマルフォイの奴から聞き出せるけどさ。
   どうせあいつが犯人に違いないんだ。もちのロンで。だってあいつの家系を見てみろよ、親父からしてろくでもない……」

ハーマイオニー「……やめましょう」

ロン「? 今なんか言ったかい、ハーマイオニー?」

ハーマイオニー「ポリジュース薬を作るの、やっぱりやめましょう」

ロン「へぁ!? なんでさ! そもそもそれを提案したのは君だろ?」

ハリー「ロン……ちょっとちょっと」コソコソ

ロン「ん? なんだよハリー。だってさ、あの大釜を僕がどれだけ苦労してトイレに運んだか――」

ハリー(考えてもみなよ、ハーマイオニーだって一応女の子なわけだしさ。
     マミがあんな状態になってるのを見ちゃったら……)ヒソヒソ

ロン(ああ……確かに怖くなってもしかたないか。でもどうするのさ。マルフォイを放っておくのかい?)ヒソヒソ

ハリー(それは……)ヒソヒソ

ハーマイオニー「……あなた達、何を勘違いしてるのかしら?」

ハリー・ロン「……へ?」


301 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:15:22.25 WnbcDPm60 176/755


放課後


ドラコ「はー、今日もようやく授業が終わったな」

 いま授業を終えて寮に帰ろうと速足している僕はホグワーツに通う純血な男の子。

 強いて違うところをあげるとすればその中でもかなりの名家の出であるってことかな。名前はドラコ・マルフォイ。

ドラコ「全く、無駄な時間だったと思わないか? あのギルデロイ・ロックハートとかいう屑はクビにするべきだよ。
    あの幼稚な授業内容を父上が見たらなんと仰られるか! お前らもそう思うだろ?」

ゴイル「ああ」

クラッブ「うん」

 こいつらはゴイルとクラッブ。僕の子分だ。馬鹿でトロくて顔も見れたもんじゃないけど、まあその分扱いやすくていい。

ドラコ「ふん! その癖、女子どもにはきゃーきゃー言われちゃって!
    全く、あの教師も教師だけど、女子も女子さ。見る目ってもんが全く養われてない。お前らもそう思うよな?」

ゴイル「ああ」

クラッブ「うん」

ドラコ「まあいいさ。どうせもうすぐ、秘密の部屋の怪物が――うん?」

女の子「あの、すいません……」

 ふと感じた気配に前を見やると、ひとりの女の子が佇んでいた。一年生だろうか? 見覚えはないが、結構可愛い顔立ちをしている。

 なにやら顔を赤らめてモジモジしているな――ははん? これはもしや……

302 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:20:57.10 WnbcDPm60 177/755


女の子「あの、私、先輩のこと、一目見た時から……」

 ああやっぱり! 僕はなんて罪な男なんだろう。見覚えのない女の子さえ、僕の美貌の前にいちころだなんて。

ドラコ「はっはっは、全く急すぎて困るな。まあ、こんなところで立ち話もなんだ。そこらの空き教室ででも――」

女の子「あ、ドラコ先輩じゃなくて」

ドラコ「へ?」

 我ながら間の抜けた声を上げ、改めて女の子の熱っぽい視線を辿ると――おい、待て。

女の子「グレゴリー先輩……ちょっと二人きりでお話しできませんか? お菓子も用意してあるんです」

ゴイル「……!」

 おい! 嘘だろ!

 この女の子、目が悪いんじゃないのか! それとも悪いのは趣味か?

 なんてことを胸中で絶叫している内に、我が子分たるグレゴリー・ゴイルは、

ゴイル「……ふっ」

 と、何やら腹の立つ勝ち誇った笑みを浮かべながら、女の子と一緒に歩いて行きやがった。

303 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:23:25.17 WnbcDPm60 178/755


ドラコ「……おい、クラッブ。ほっぺ」

クラッブ「うん」ガスッ

ドラコ「痛い! 違う! 僕のを叩くんじゃなくて、お前のを叩かせろって言ったんだ!」

 畜生、思いっきり叩きやがって。前から思ってたが、こいつ、実は僕のこと嫌いなんじゃなかろーか。

 しかしどうやら夢ではなさそうだ。

ドラコ「……驚いたね。あのゴイルを。あのゴイルをだぜ?
    あいつと一対一でお茶を飲みながらお話ししたいなんて奇特な奴がいるなんてな」

クラッブ「うん」

ドラコ「まあ、僕くらい寛容で人の上に立つ素養がある者からしてみれば、別に嫉妬なんかしないけどね。
    心から祝福するさ。なんせあいつの人生、ここが幸せの絶頂に違いない。あとは下り坂だ。だろう?」

クラッブ「うん」

ドラコ「よし! 寮に帰っておやつでも食べるか! 
     マルフォイ家御用達の、さっきの女が用意したとかいうお菓子よりも百倍は美味い菓子があるぞ。
     ゴイルはどうせ食ってくるんだろうし、残さなくていいぞ。ふたりで全部食っちまおう」

 そういうと、クラッブはニヤリとこちらに笑いかけてきた。

 うん。やはり部下には鞭ばかりではなく飴もやらなくては。決して、ご機嫌取りなんかじゃないぞ!

ドラコ「あーあ。ゴイルの奴は可哀想になぁ。あんなに美味い菓子が食えないなんてなぁ――ん?」

304 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:27:18.82 WnbcDPm60 179/755


 そんなことを言いながら歩いてると、再び目の前に人影が。

女の子B「あの、私、先輩のこと、一目見た時から……」

 デジャヴ!

 僕は咄嗟に壁に肘を突き立て体をささえ、斜め45度の姿勢で女の子に流し目を送る。

ドラコ「はは、やれやれ。全く、参ったな。これから僕はティータイムと洒落こもうとしてたんだが。
    まあなんだ、よければ君も――」

女の子B「あ、マルフォイの馬鹿倅じゃなくて」

ドラコ「おい待て、いまこいつなんつった」

 僕が抗議しようとするも、新たに表れた女の子はクラッブの方に熱い視線を送り――って、ちょ、待ておい。

女の子「ヴィンセント先輩……ちょっと二人きりでお話しできませんか? お菓子も用意してあるんです」

 吐きやがった! なにやら聞き覚えのある台詞を!

クラッブ「……」

 そしてクラッブの方を見れば、迷うような視線を僕の方に送っている。

 いや許すわけないだろう! その女は、この僕を馬鹿呼ばわりしたんだぞ!

ドラコ「クラッブ、ぶん殴れ!」

クラッブ「うん」ドゴォッ

ドラコ「ぐほぉっ!?」

 ち、違う、殴るのは僕じゃない。僕じゃないのに……

 なんて、床に転がって悶絶している僕を尻目に、我が部下たるヴィンセント・クラッブは、

ゴイル「……はっ」

 と、何やら腹の立つ勝ち誇った笑みを浮かべながら、女の子と一緒に歩いて行きやがった。

305 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:28:26.46 WnbcDPm60 180/755


ドラコ「……畜生! なんだってんだ! 二人とも、どこの馬の骨とも分からん女にフォイフォイついていきやがって!
    それでも純血か! もうお菓子わけてやらんぞ!」プンプン

 ようやく立ち上がれる程度に回復して、僕を裏切った二人に対する悪罵の言葉を思いつく限り吐き出す。

 ああ、お腹がしくしくと痛む。これはクラッブの馬鹿力のせいだ。
 
 決して、僕を差し置いて、あの二人が女の子に声を掛けられてる状況が悲しいわけじゃない。悲しくないったらない。

ドラコ「ああくそ、目の前が霞んできた……泣いてるわけじゃない。泣いてなんかいないぞ……くそ……」

 そうして、ずりずりとみっともなく進む僕。その眼前に、今度はなんと、

ハリー「マルフォイ! ここにいたのか!」ボロッ

ロン「人の気も知らないで、のんきにたらたら歩きやがって!」ボロッ

ドラコ「ってなんだ、ポッターにウィーズリーか。くそ、とっと失せろ」

 泣きっ面に噛み付き妖精とはこのことだ。なんでこんな時に……

ドラコ「……って、なんでお前らそんなにボロボロなんだ?」

ハリー「僕たちは止めようとしたんだ。だってまだ前の計画の方が穏便だし――」

ロン「いや、説明はいいから早く逃げろ! 寮の中に入っちまえば何とか有耶無耶に――」

 なんだ? 何を言ってるんだこいつらは?

 でもなんだか様子が必死だし、冗談を言ってるようにも見えない。

ドラコ「な……なんだよ。ふん、お前らに言われなくたって、これから帰るところだったさ」

 なんにせよ気味が悪いので、僕は歩調を早めさっさとこの場を後に――











ハーマイオニー「アクシオ! マルフォイのマントよ、来い!」

ドラコ「ぐえっ!?」

ハリー「ああ、遅かった……」

 何やらポッターの奴が言ってた気がするが、気にする余裕なんかなかった。

 突如、マントが物凄い勢いで引っ張られ、抵抗もできずに僕を運び去っていく。

 っていうか、苦しい! 首にマントが絡まって、息が、意識が……



306 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:29:24.14 WnbcDPm60 181/755


 そして、次に目を覚ました時にはどこかの空き教室の中だった。

 どこなんだ、ここは――そう思い、辺りを見回そうとしたところで、首が全く動かないことに気付く。

ハーマイオニー「あら、ようやくお目覚めかしら?」

ドラコ「っ、グレンジャー! お前の仕業か!?」

 見ると、そこにはあの糞生意気な、頭でっかちの穢れた血、ハーマイオニー・グレンジャーが僕を見下ろすように佇んでいた。

 どうやらこいつが、僕に"全身金縛りの呪い"か何かを掛けたらしい。

ドラコ「何の真似だ!」

ハーマイオニー「それは自分の胸に聞いてみたらどうかしら?」

ドラコ「何を言って……お、おい。なんだよ、えらく目がマジじゃないか」

 そう言えば……全身金縛りは、本来なら首から上も動かなくなる、つまり喋ることもできなくする呪文の筈だ。

 腹正しいが、グレンジャーの魔法の腕は学年でもトップクラスだ。

 こいつが呪文を間違えるとは思えない……とすると、わざわざ僕の首から上だけ動くようにしたということだ。

ドラコ「な、何だよ。なんか用があるなら言えよ!」

ハーマイオニー「最初はね? 私も穏便に済まそうと思ってたのよ?」

 僕を無視して、グレンジャーが喋りだす。微妙に焦点を結んでない瞳が異様に怖い。

ハーマイオニー「でも、ねえ? 薬ができるまで一ヶ月? は! ロンじゃないけど、あの時の私は何を悠長なことを言ってたのやら。
          手っ取り早く、マミが襲われる前に、こうしておくべきだったのよ」

ドラコ「と、トモエ? トモエがなんだよ?」

ハーマイオニー「あーあー。いいのよ、無理に話そうとしなくて。だって悪いじゃない?
          こんな、放課後の時間を提供してもらってるのに、タダで話してもらおうなんて」

ドラコ「僕は拉致されたんだぁ! お前に付き合うなんて一言も――」

 そんな僕の喚き声を無視して――グレンジャーの奴は何やら机の下からごそごそと荷物を取り出し始めた。


307 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:34:28.69 WnbcDPm60 182/755


ハーマイオニー「色々、サービスしてあげるわ。ねえ、目は疲れてないかしら? 目薬は要らない?」

 そう言ってグレンジャーが取り出したのは、どう見てもレモンだ。半分にカットされていて、切り口から果汁が零れ落ちている。

ハーマイオニー「それとも、マッサージかしら? わたし、パパに上手だってよく褒められるのよ?」

 そんなセリフを吐きながら、しかしグレンジャーの手にあるのはどう見ても竹でできたノコギリだ。

 よし、なんかろくでもないことを考えているってことは分かった!

ドラコ「お、お前ぇ! お前、この僕にこんなことしてタダで済むと……
    そ、そうだ! すぐにゴイルやクラッブが気づいて……!」

ハーマイオニー「エレクト(立て)」

 またもやグレンジャーが僕の声を遮り、呪文を唱える。

 僕の体が浮き上がり、見えない十字架に貼り付けにされたように立たされると、そこには――

ドラコ「ゴイル! クラッブ!」

 先ほどまでの僕と同じように、床に突っ伏して死んだように動かない二人の姿が。

ハーマイオニー「簡単な眠り薬よ。ちょっと下級生の子に"お願い"して、あなたから引き離してくれるように頼んだの」

 嘘だ。ぼっちのこいつにお願いを聞いてくれるような下級生の友達なんかいるわけない。

 絶対、なんか陰険かつ魔法的な手段を使ったに違いないのだ。

ハーマイオニー「さ、頼みのお友達はみーんなお寝んねしてるわ。これでゆっくり"お話し"できそうね?」

ドラコ「お、お前ぇ……こんなことが許されると……あとでスネイプ先生に言って、退学に……」

ハーマイオニー「大丈夫よ。ばれなければ規則違反にはならないもの」

ドラコ「ど、どういう意味だ――」

 震える僕に対し、グレンジャーはにっこりと満面の笑みを浮かべ。

ハーマイオニー「――だってここから出る時、あなたが何か覚えてられるとは思えないもの」




廊下

ハリー「……」

ロン「……なあ、ハリー」

ハリー「なんだい、ロン」

ロン「頭がいい奴は、怒らせちゃ駄目だな」

ハリー「……そうだね。僕たちも気を付けないと」

308 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:36:13.49 WnbcDPm60 183/755



医務室


マミ「……さて、と。あれだけやれば、ハーマイオニーさん達も怪物に関わろうとは思わない筈。
   医務室生活は何日か伸びちゃったけど、それだけの価値はあるわ」

マミ(キュゥべえ……これでいいのよね?)



◇◇◇

回想




 ズルッ ズルッ 


マミ「いやぁ……開けて、開けてよぅ……」ガチャガチャ

QB『……マミ、時間がない。落ち着いて聞いて』

マミ「キュゥべえ?」

QB『扉の外に居るのが"継承者"だろう……事件を嗅ぎまわってる僕らを始末しに来たんだ。
   ということは、継承者の正体は今日僕らがクィディッチの観戦に行かず、ここに来たことを知っている人物ということになる』

マミ『それって……』

QB『そう。おそらく、グリフィンドールの生徒だ。
   僕らが試合直前まで暖炉の前にいたことは、グリフィンドールの生徒なら誰もが知っている。外への通り道だからね』

マミ『そんな……私たちの寮に継承者が?』

QB『絶対じゃないけど、可能性は高い。少なくとも、次の捜査の指針にはなる』

マミ『……で、でも。私たちの後ろに、怪物が……っ』

QB『……大丈夫。マミ、安心して』

マミ『キュゥべえ? いったい何を……』

QB(怪物は、もう僕たちの数メートル後ろに迫っている……ただその動きは非常に緩慢だ)

QB(事情は知らないけど、継承者は迷っているんじゃないか? だとしたら――)



QB『誰か、助けてくれ! 三階のマートルのトイレだ! 怪物が現れた!』




???「――っ! シューッ シューッ」タッタッタッ




309 : 1[sage saga] - 2013/02/20 23:37:09.24 WnbcDPm60 184/755


QB『……出力を絞らず、無差別、最大範囲のテレパシーで呼びかけを行った。
   この学校には素質のある子が多い。受け取った子が騒げば、さすがに教師陣も気づくだろう』

  ズルッ ズルッ……

マミ『おとが、遠のいて……た、助かった、の?』

QB『たぶんね』

マミ『……そ、う。よかっ……』パタッ ビチャン

QB『マミ!? ……ふぅ、気絶してるだけか。緊張が解けたせいかな』

QB(しかし、継承者が僕のテレパシーを感知して逃げ出したってことは、継承者は女生徒か。
   これで範囲はかなり絞り込めたな)

 ズルッ ズルッ……

QB(……あとは、怪物の方の正体か。どうも巣穴に戻るみたいだけど……
   やっぱりあの手洗い台が巣に通じる入り口だったんだな)

QB(確認しておこう。刺激しないように、ゆっくりと……床の水に映る影を、確認して……)



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◇◇◇

マミ(犯人はグリフィンドールの生徒……ハーマイオニーさん達が犯人探しに関わっちゃうと、
   私みたいに、彼女たちもきっと狙われることになる)

マミ(だから――やっぱり、わたしひとりでやらないと)

マミ(怖くないと言ったら嘘になる。怪物がほんの数メートル後ろに来た時には、それこそパニックを起こしそうだった)

マミ(だけど……今は恐怖よりも、別の感情の方が強い)


QB「」






マミ「継承者さん――言っておくけど、私、とっても怒ってるのよ」


329 : >>1[] - 2013/03/09 14:19:59.49 UZrS1Tgo0 185/755


数日後


ポンフリー「――脈拍、血圧、全て異常なし。これなら明日からは授業へ出るのも許可しましょう」

マミ「ありがとうございます」

ポンフリー「ですが! あくまでも一応、ということです。一日の最後には医務室によって、私の診察を受けること。
       しばらくはそうやって経過を見ましょう。大丈夫、すぐに元気になれますよ」

マミ「はい。分かりました」

ポンフリー「……辛かったら、いつでも相談しにきなさい。キュゥべえは、ミセス・ノリスの隣に寝かせておきますから。
       ああ、それと。マクゴナガル先生があなたを呼んでいましたよ。今日の放課後にでも行っておきなさい」

マミ「マクゴナガル先生が? 分かりました」


330 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:21:14.73 UZrS1Tgo0 186/755


マクゴナガルの部屋


 カチャン

マクゴナガル「紅茶です。温まりますよ。さ、お飲みなさい」

マミ「は、はい。あの、いただきます――ん、美味しいです」

マクゴナガル「そうですか、それはよかった。やはり国が違えば、味覚も異なるでしょうから。
         マミは――あー、自宅でも紅茶を飲みますか?」

マミ「はい、母が好きだったので――あ、いえ。兎に角、よく飲みます」

マクゴナガル「……そうですか。何にせよ、折角英国にいるのですから、やはり本場のものを味わっておいて損はないでしょう」

マミ「ええ……」

マミ(……てっきり、怪物について聞かれるものだと思ってたけど……私、なんで呼ばれたのかしら?)

マクゴナガル「……なぜ、呼ばれたのか? という顔ですね」

マミ「あ、いえそのっ。べ、別にこうしてお話しするのが嫌ってわけじゃ――」

マクゴナガル「いえ、いいのです……そういえば、こうして貴女と一対一で話すのは初めてですね。
         もっとも、教師がひとりの生徒につきっきりになるという事態が珍しいものではあるのですが」

マミ「そうですね……前に一度、両親の葬儀の時にお話はしましたけど」

マクゴナガル「あの時は、ほとんどこちらの要求を一方的に伝えただけでしたから……。
         そうですね。本来なら、去年の内にこうした場を設けるべきだったのでしょう」

マミ「……?」

マクゴナガル「一年間、貴女のことを見てきました。頑張って勉強しているようですね。
         ……実技に関しては、好成績とは言いがたいですが」

マミ「あううぅ……」


331 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:22:19.10 UZrS1Tgo0 187/755

マクゴナガル「まあ、それはこの際不問にしましょう。
         それよりも大事なのは、貴女がこの学校で上手くやれている、ということです」

マミ「上手く……やれていますか?」

マクゴナガル「ええ。友人にも恵まれ、傍から見ていても十分に学校生活を楽しんでいるように見えました。
         だから……いえ、言い訳になってしまいますね」

マミ「あの、意味が良く」

マクゴナガル「貴女は上手くやれていた。ならば、私が下手に干渉することはないと思っていました。
         貴女を、この世界に招き入れた責任を忘れて」

マミ「責任って、そんなことは……」

マクゴナガル「いえ、私にはそれがありました。貴女に対して、私はもっと責任を持っていなければならなかった。
         もっと貴女のことを気にかけて、相談にのってあげるべきでした」

マミ「相談、って……?」

マクゴナガル「何故、クィディッチの試合中に貴女があのトイレにいたのか――」

マミ「……!」

マクゴナガル「何か、理由があるのでしょう。もちろん話したくないのなら、無理をして話す必要はありません。
         ですが、もしも何か話したいことがあるのなら、遠慮せずに話してみなさい」

マミ「……」

マミ(私とキュゥべえが、怪物の犯人捜しをしていたこと――)

マミ(マートルのトイレに怪物の巣につながる入り口があるかもしれないこと――)

マミ(犯人はグリフィンドールの生徒かもしれないこと――)

マミ(話せば、きっと、マクゴナガル先生なら悪いようにはしない。絶対、私の力になってくれる――)

マミ(でも)

マミ「……ごめんなさい」

マクゴナガル「……そうですか。分かりました」

332 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:22:52.74 UZrS1Tgo0 188/755

マミ「あ、あの! でも!」

マクゴナガル「? 何か?」

マミ「あの、私、ホグワーツに来れて良かったです。だから、連れてきてくれた先生には、その、感謝しています。
   覚えてないかもしれませんけど、去年のトロール事件の時、
   先生が私のことを自慢の生徒だって言ってくれてとても嬉しかったんです!」

マクゴガナル「……マミ」

マミ「だから、あの。全然、先生が責任とか感じることはなくて! その、私、先生のこと――」

マクゴナガル「……ふぅ。生徒に心配されるとは、私もまだまだ、アルバスには及ばないということですか」

マミ「そ、そんなことは!」

マクゴナガル「……私は、貴女に謝らなければいけないと思っていました。ですが、違うようですね。
         掛けるべき言葉は、こちらでした――ありがとう、マミ」

マミ「あ、いえ、そんな! こちら、こそ……ありがとう、ございます」

マクゴナガル「ですが、いつでも頼ってください。私は貴女の教師で、貴女は私の生徒なのですから。
         ……紅茶をもう一杯、いかがです?」

マミ「はい……いただきます」

333 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:23:21.07 UZrS1Tgo0 189/755


グリフィンドール 女子寮 自室


ラベンダー「あ、マミ! もう大丈夫なの!?」

パーバティ「心配したんだから! 怪物に襲われたって聞いて――」

マミ「……ありがとう。でも、もう大丈夫。明日からは授業にも出られるわ」

ラベンダー「そうなんだ、良かった……ねえ、その、怪物のことについて聞いても平気?」

パーバティ「ちょっと、ラベンダー!」

ラベンダー「いいじゃない、ちょっと聞くくらい……パーバティだって気になるって言ってたじゃない」

パーバティ「それは、そうだけど……」

マミ「……ごめんなさい。気絶しちゃって、何も覚えてないの……私のこと、噂になってる?」

ラベンダー「ぶっちゃけ、あなたが襲われてすぐの頃はその話でもちきりだったわ」

パーバティ「今は落ち着いてるけど、授業に出始めたらまた再燃するかも……っていうか、絶対するわ」

マミ「……そう」

ラベンダー「大丈夫よ! もしも無神経に聞いてくるような奴がいたら、私達が守ってあげるわ!」

パーバティ「うん、ラベンダーは十秒前の自分の行動を思い出してみましょうか」

マミ「……くすっ。ありがとう、二人とも」

334 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:24:03.34 UZrS1Tgo0 190/755


翌日 廊下


ハッフルパフ生「君、怪物に襲われたって本当――?」

グリフィンドール生「どんな奴だったの? 牙はあった? 爪は?」

レイブンクロー生「ねえあんた、しわしわ角スノーカック信じる?」

マミ「あのぅ、えーっと」

ラベンダー「はいどいてー。取材はマネージャー通してくださいねー」

パーバティ「全部お断りだけど。ほら、授業に遅れちゃう。ただでさえマミは実技があれだから成績もあれなのに……」

マミ「あれって何? ねえ、あれって何?」


ハッフルパフ生「ああ、行っちゃった……」

グリフィンドール生「いつも一緒にいた猫、いないね。やっぱり猫は助からなかったんだ」

レイブンクロー生「スノーカックはいるよ」


フィルチ「貴様ら! そこで集まって何をしている! もう授業が始まるぞ! 全員処罰してやろうか!」

ハッフルパフ生「うわあフィルチだ! 逃げろ!」ダッ

グリフィンドール生「おっと用事を思い出したー!」ダッ

レイブンクロー生「ふーんふーんんーふー」ダッ

フィルチ「全く……」


グリフィンドール生『いつも一緒にいた猫、いないね。やっぱり猫は助からなかったんだ』


フィルチ「……」

335 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:24:33.85 UZrS1Tgo0 191/755


12月 玄関ホール


ハリー「はー、これからどうしようか。結局、マルフォイは白だったもんなぁ……」

ロン「ハーマイオニー曰く、ね。一体、どんな方法で吐かせたか知らないけど。
   ところで、そのハーマイオニーはまた例のあれかい?」

ハリー「ああ、教室に残って、マミに勉強を教えてるよ」

ロン「ここ最近ずっとだもんなぁ。まあ、仲直りできたのはいいことだけどさ。
   マミも授業にでるようになってからは前みたいに元気だし――」

ドラコ「やあ、ポッターとその腰巾着じゃないか」

ロン「うわ、湧いた」

ドラコ「人をボウフラみたいに言うのはやめて貰おうかウィーズリー。この礼儀知らずめ」

ハリー「礼儀は知ってるさ。それを払うべき人物と、そうでない奴もね」

ドラコ「黙れよポッター。いいか、我がマルフォイ家は純血の中でもそれはもう高潔な――」

ハーマイオニー「――高潔な、なに?」

ドラコ「ピィッ!?」ビクン

ハリー「あ、ハーマイオニーとマミ。もう勉強はいいのかい?」

マミ「ええ、お待たせしちゃってごめんね」

ハリー「気にしないで――ところでマルフォイ、何の話だったっけ?」

ドラコ「きょ、今日はこのくらいにしといてやる! じゃあな腐れグリフィンドールども!」ダッ

ロン「行っちゃった。あれ以来、ハーマイオニーの傍には絶対近寄らないもんなぁ、あいつ」

ハリー「楽でいいけど、張り合いがないよね。っていうか、マルフォイの奴、君に何されたか覚えてるんじゃないの?」

ハーマイオニー「あら、そんな筈ないわ……でももしかしたら無意識下でトラウマにはなってるかも。
          よく考えたら濡れ衣だったわけだし、か、可哀想なことしちゃったかしら?」

ハリー「いいと思うよ、マルフォイだし」

ロン「ああ、マルフォイだし」

マミ「あの、なんの話?」

ハリー「いや、別に何でも……ん? なんだろう? 掲示板の前に人だかりが……」

336 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:25:51.74 UZrS1Tgo0 192/755


玄関ホール 掲示板前


シェーマス「やあハリー、今夜から『決闘クラブ』が始まるんだって」

マミ「決闘って、あの決闘?」

ロン「マグルの決闘がどんなものか知らないけど、まあ一対一で魔法を掛け合って勝負する奴さ」

ディーン「決闘の練習か……最近物騒だし、役に立つかな」

ロン「え? ディーン、きみ、怪物がきちんと決闘の作法を守るとでも思ってるの? ……いや、面白そうだけどさ」

ハリー「ロン、僕らも行ってみない? 僕、決闘ってみたことないし」

ハーマイオニー「私も。本でどんなものか読んだことはあるけど……」

マミ(決闘……怪物を相手にするのは別として、"継承者"と戦うには有効かしら?)

ロン「まあ確かに、学んでおいて損にはならないよな……でも誰が教えるんだろう?」

ハリー「誰でもいいさ、まともに教えられる先生なら……」



337 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:26:21.04 UZrS1Tgo0 193/755


夜 大広間



ロックハート「やあ皆さんこんばんわ! 今夜から始まる決闘クラブ、顧問はこのギルデロイ・ロックハート!
        助手には魔法薬学のスネイプ先生をお呼びしました!」

スネイプ「……」


ロン「嘘だろおい。考え得る限り最悪の組み合わせだ!」

ハリー「僕もう帰りたくなってきた。少なくとも二度と来ない」

ハーマイオニー「ああ、嘘でしょ? まさかロックハート先生に直接手ほどきしてもらえるなんて!」

マミ「そうね! ロックハート先生なら最適だわ!」

ハリー「もう突っ込む気も起きないけど、君らのロックハートに対するその信頼はどこから来るの?」




ロックハート「さて、私たちがこれから模範演技を行います! ああ、大丈夫! 命に関わるような呪文は使いません!
        ですから皆さん、明日も魔法薬の授業はありますよ? 宿題はきちんとやるように!」

ロン「その論で行くと、防衛術は休講かな」

ハリー「命に関わるような呪文は使わないって……スネイプの奴、控えめに言っても"今すぐ殺してやる"って顔してるけど」

ロックハート「はいそれでは行きますよ、よーくご覧ください――3、2、1!」

スネイプ「クルーシ――エクスペリアームス!(武器よ去れ)」ガオン!

     グシャッ

ロックハート「」

ハリー「ウワ、ロックハートが潰れたカエルみたいに壁に張り付いてる……」

ロン「いまスネイプ、なんか別の呪文唱えようとしてなかった? ロックハートの奴、どんだけ遅いんだ……」

ハーマイオニー「そ、そんなわけないわ! ほら、ロックハート先生は直前にカウントしてたから!
          だからちょっと遅れちゃっただけよ! ねえマミ? ……マミ? 何してるの?」

マミ「え? べ、別に何でもないわ? 本当よ?」ビクッ

338 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:27:00.18 UZrS1Tgo0 194/755


ロックハート「は、はい――げほっ、大丈夫。大丈夫です。毛ほども効いてません。
        今のが"武装解除"の呪文です。ご覧の通り、私は杖を失ったわけですね。あー、ところで私の杖はどこに……?」


ハーマイオニー「マミ! あなたはまた抜け駆けしようと! ほらよこしなさい!
          その杖は私が! ロックハート先生に! 届けに行ってあげるから!」

マミ「さ、先に拾ったのは私だもの! いくらハーマイオニーさんでも、こればっかりは……!」

ハーマイオニー「いーからよこしなさい! すぐさまよこしなさい! ほら、あれよ? 私たち友達じゃない?
          病み上がりの友達を心配する友達想いの私。ね? だからほら、杖から手を離して……!」グググ!

マミ「ご心配なく、もう健康ですから! でもそうね、リハビリは必要かも。だからほら、壇上まで歩いて行かなくちゃ……!」グググ!


            メキッメキッ、ミシッ


ロックハート(ノォオオオオオオウ!)ダッ


ハリー「凄いしなってる。そして不吉な音が」

ロン「折れちまえ。どうせ役に立たないんだから」

339 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:27:53.14 UZrS1Tgo0 195/755


マミ「まさかわざわざ、ロックハート先生が取りに来てくれるなんて……」ポー

ハーマイオニー「触っちゃった触っちゃった! ロックハート先生の手に触っちゃった!
          もうこの手、洗わないわ!」

ロックハート「はー、はー……よし、私の杖は無事みたいですね……
        えー、話を戻しますが、武装解除呪文。確かに有効な術です、スネイプ先生。
        ですがそれ故に、見え透いた呪文でもあります。無論、私が使えば別ですが」

スネイプ「……ほう? つまり何を仰りたいのですかな?」

ロックハート「生徒に見せた方が教育的だと思ってあえて受けましたが、
        実際に決闘を行う機会があれば、別の呪文を選択するのがいいと思いますよ?
        いや、はっは! これは失礼。つい老婆心が!」

スネイプ「なるほど、なるほど。聞いたかね、諸君。ロックハート教授は中々決闘にお詳しいようだ」

ロックハート「いやいや、それほどでも。ははは、単に難事件を解決しまくって、それを本にしたのが全てベストセラーというだけで――」

スネイプ「では、もう二、三手、御教授願いましょうか? ……今度はもう少し非友好的な呪文にて」ギロッ

ロックハート「あ、は、ははは。いやですね、スネイプ先生。そんな怖い顔しちゃ、生徒が怯えてしまいます、よ?
        そ、それに今夜は生徒に教えるのが目的ですからね!」

スネイプ「ああ、それもそうですな。いや、まことに残念。では、凶悪な呪いは次の機会と致しましょう」

ロックハート「ええ、そうしま――え? 次? 次の機会ってなんです?」

スネイプ「ロックハート教授? 生徒に教えるのではないのか? もう夜も遅い。時間は限られているが?」

ロックハート「え、あ、はい。そうですね……では二人組を作って! 今の武装解除の術を練習しますからね!」



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340 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:28:27.87 UZrS1Tgo0 196/755




スネイプ「――で、こうなったわけだが」





ハリー「うわ、足が勝手にクイック・ステップを……!」タタン タタン!

ドラコ「あははは! ぽ、ポッター! あはっ、お前、げほっ、げほっ、ひゃは!
    この僕に、く、くすぐり呪文を! うふふふ、やめっ。苦しい! はあははは!」

ハリー「なんだろう。僕の踊りを笑われてるみたいで甚だ不快だ」タンタン!


シェーマス「うう……光がぁ……人参の、クラゲ帝国……」

ロン「ごめん! ごめんよシェーマス! このボロ杖がいうことを聞かなくて……!」


ネビル「ははは、やるじゃないか、ジャスティン――」バタッ

ジャスティン「君も、ね。ネビル――」ドタッ


ミリセント「死ねぇ!」ギリギリ

ハーマイオニー「」ブクブクブク

マミ「も、もういいでしょ! 放して、ハーマイオニーさんを放してよぅ……!」ポカポカ

ラベンダー「マミ、それよりもあなたが吹っ飛ばしたクラッブが、その、息してないみたいなんだけど――」



スネイプ「フィニート・インカンターテム!(呪文よ終われ) ――さて、これはどうしたものですかな、ロックハート教授?」

ロックハート「杖を取り上げるだけだと言ったのに……
        ふむ、むしろ掛けられた呪文から身を守る方法を教えた方がいいようですね」


341 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:29:30.41 UZrS1Tgo0 197/755


スネイプ「では模範演技をしましょうか? 我輩が呪いを掛けるからして、教授はそれを――」

ロックハート「は、ハリーとドラコ! 前に来て! 来てください! 二人にやってもらいましょうね!」

ハリー「そのままスネイプにぺちゃんこにされれば良かったのに……」

ドラコ「なんだ、怖いのか、ポッター?」

ハリー「ハーマイオニー、マルフォイがどうしても君と模範演技がしたいって――」

ドラコ「ひぃっ! は、早く壇上に行くぞ!」

ハリー「ちょ、引っ張るなよマルフォイ!」



ロックハート「いいですか、ハリー。これからドラコが呪文を唱えますから、君はそれを防ぐんです。
        防御の呪文は"ブロテコ・トラタム(方金の守り)"ですからね」

ハリー「その呪文、本当に合ってます?」

ロックハート「はは、不安ですか? 大丈夫、いざとなったら私がついてますから!」

ハリー(不安が一ミリもぬぐえない……)

ロックハート「ではいきましょう。3、2、1。はい!」

ドラコ「サーペンソーティア!(蛇出でよ)」バシュッ


「にょろ――ん!」


マミ「お、大きな蛇ね……」ビクッ

ロン「蜘蛛じゃなくて良かったけど、ハリー大丈夫かな?」

ハーマイオニー「大丈夫よ、ロックハート先生がついてるもの!」

ロン「ハリーの奴、本当に大丈夫かな」

342 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:31:02.68 UZrS1Tgo0 198/755

ハリー「う、わ。ブロテコ・トラタム! ――あ、やっぱり駄目だ。何も起こらない」

「にょろにょろ」

ロックハート「おやおや、はっは! ちょっと難しい呪文でしたかね! でもご安心を、私が追い払ってあげましょう!
        えいやっ!」バシュッ

「にょろー!?」ビュゥン!

ジャスティン「うわ、こっちにきた!」

「……シャーーーーーッ!」

ジャスティン「しかも怒ってるぅぅぅうううう! 杖っ、杖っ (ポロッ) ああ落とした!?」

ロン「本当にロックハートは余計なことしかしないな!」

ハーマイオニー「で、でもほら、あれよ。緊急事態だったから!」

マミ「そ、そうよ。ほら、一応追い払うことには成功したわけだし」

ロン「言ってる場合か! 助けないと、でも僕がやるとシェーマスの二の舞になりそうだし――」

ハリー「……シューッ! シューッ!(手を出すな!)」

「! ……にょろーん」

マミ「――!? 今のって……」

343 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:31:34.47 UZrS1Tgo0 199/755



ざわざわ

「ポッターが、いま……?」

「ああ、聞いた。確かに聞いたぞ……」

「でも、ポッターが……?」

                   ざわざわ


ハリー「え? なに、この空気。ジャスティン、怪我は……」

ジャスティン「う、わ。く、来るな!」ダッ

ハリー「は? 助けてやったのに、なんだあの態度……ねえ、ロン」

ロン「ハリー。こっち来て……」グイッ

ハリー「わ、ちょ、引っ張らないで。何だよ、なんだっていうのさ?」

ハーマイオニー「いいから、ね? 場所を移しましょう」

ハリー「分かった。分かったけど……」スタスタ




マミ「……」

ラベンダー「驚いたわ。まさかハリーがパーセルマウスだなんて……」

マミ「パーセル、マウス? それって何なの?」

ラベンダー「あら、マミは知らないの? あのね、パーセルマウスっていうのは……」

344 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:32:03.98 UZrS1Tgo0 200/755


夜 グリフィンドール女子寮


ラベンダー「Zzzzz...」

ハーマイオニー「Zzzzzz...」

マミ「……」



◇◇◇


ラベンダー「……それで、パーセルマウス、つまり、さっきみたいな蛇語を話せるのは、大抵が闇の魔法使いなの。
       あのサラザール・スリザリンもそうで、だからスリザリンは蛇が寮のマークでしょ?」


◇◇◇



マミ(……蛇語……闇の魔法使いの証?)


マミ(あの、独特の、息を歯の隙間から思いっきり吹くような音……)


◇◇◇

???『……シューッ!』


マミ「? キュゥべえ、いま何か言った?」

QB「? いや? でも、僕にも聞こえたよ。空気が漏れるみたいな音だろう?
   扉の外――廊下から聞こえたように思うけど」

◇◇◇



マミ(でも、そんな……まさか、ハリーくんが継承者なんて。大体、ハリーくんはあの時、クィディッチの試合に……)



◇◇◇

QB『そう。おそらく、グリフィンドールの生徒だ。
   僕らが試合直前まで暖炉の前にいたことは、グリフィンドールの生徒なら誰もが知っている。外への通り道だからね』

マミ『そんな……私たちの寮に継承者が?』

◇◇◇

ラベンダー「蛇語を話せる人って、滅多にいないのよ。凄く珍しいの。多分、ホグワーツにも彼以外はいないんじゃないかしら?」

◇◇◇


マミ(……駄目よ! 考えちゃダメ! ハリーくんのわけないんだから!)

マミ(……継承者が蛇語を話せるって話は、先生にすべきかしら。でも、そうしたらハリーくんはますます疑われる……)

マミ(……誰かに、相談したい。ハーマイオニーさんは……駄目。ハリーくんを疑わせるようなこと、させたくないし……
   頼れる、人……ハリーくんを犯人だって決めつけない人……そうだ、マクゴナガル先生なら!)

345 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:32:35.35 UZrS1Tgo0 201/755


翌日 グリフィンドール談話室


びゅうううううう――


マミ「大吹雪ね……薬草学、中止になっちゃった」

マミ(時間だけあってもね……変身術は次の時間だし……マクゴナガル先生に早く相談したいのに)

マミ(……そうだ! 変身術の授業が終わってから相談しようと思ってたけど、早めに行って、授業の前に相談しよう!)

マミ「よーし、そうと決まったら善は急げ、よ!」

ハーマイオニー「あら、マミ、どこかに行くの? ……変身術の教科書? まだ時間があるけど」

マミ「ええと、ちょっとマクゴナガル先生に聞きたいことがあって」

ロン「あー、だったら、ちょっとお願いがあるんだけど。
   ハリーもいま外に出てるんだけど、教科書を置いて行っちゃって……
   会ったら、早めに戻るよう言っといてくれないかい? ちょっとほら、あいつ今参ってるからさ……」

マミ「ハリー、くん?」

ロン「君はあんな噂信じてやしないだろ? ま、会ったらでいいからさ」

マミ「う、うん。分かったわ」



346 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:33:03.50 UZrS1Tgo0 202/755



廊下


マミ「……」スタスタ

マミ(私自身は……ハリーくんのこと、疑ってる?)

マミ(ハリーくんは、クィディッチの試合でアリバイがある……だから、絶対に犯人じゃない)

マミ(……それなら、さっきロンくんに言伝を頼まれたとき、躊躇っちゃったのは……)

 ドンッ

マミ「きゃんっ! あたた……お尻打っちゃった」

ハグリッド「大丈夫か? ちゃーんと前を見とらんと、あぶねーぞ」

マミ「あ、えーっとハグリッドさん。ごめんなさい、ぶつかっちゃって……」

ハグリッド「はっはっは! 別にお前さんみたいなちびすけがぶつかっても、痛くも痒くもねーさ。
       ん? ああ、お前さん、えーと。確かマミだったか? 去年は助かったぞ、ありがとうな」

マミ「去年? えーと、私、なにかしたかしら?」

ハグリッド「ほれ、あのノーバートの」

マミ「ノーバート」

ハグリッド「いや、だからドラゴンの赤ちゃんを――」

ハグリッド(って、そうだやっちまった! この娘っこはあのことを知らんのだった!
       最近よくハリー達と一緒にいるもんだからつい……!)

マミ「どら、ごん?」

ハグリッド「いやーあははは! 間違えた! 勘違いだった!
       ああほれ、いつまで尻もちついとんじゃ。立ち上がらんと尻が冷えるぞ。ほれ、掴まれ」スッ

マミ「ありがとう……ってきゃあ! に、ニワトリの死体!」ピョンッ

ハグリッド「おっとっと。そういやこれ持っとったなぁ。ま、そんだけ跳ねられるんだったら怪我はしてねーか」

マミ「ああうん、平気ですけど……そのニワトリ、どうするんですか?」

ハグリッド「狐か何かにやられたみたいでなぁ。もう二匹目だし、ダンブルドアに見て貰って、小屋の周りに魔法をかけにゃならん。
       そういや、さっきハリーにも同じ話をしたな。お前さんと言い奴さんといい、考え事しながら歩くのが流行ってるんかい?」

マミ「ハリーくん? 会ったんですか?」

ハグリッド「おう。さっき、あっちの方でな。なあ、お前さん、ハリー達と仲が良いみてえだし、ちいと気にかけてやってくれんか。
       どうもなんかあったみたいでな」

マミ「……分かりました」

347 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:33:44.79 UZrS1Tgo0 203/755



マミ(……私、ハリーくんのこと――)

マミ(でも、そんな――ハリーくんのわけ)スタスタ

マミ「あら、あそこに立ってるのは……ねえ、ハリーくん! ロンくんが、教科書忘れてるって――」

ハリー「マ、ミ」

マミ「? どうしたの、酷い顔色だけど……っ!」


ニック「」

ジャスティン「」


マミ「あ、ああ、あ……キュゥべえと、同じ……ゴーストの、ニックまで……」

ハリー「違う。違うんだ、マミ。僕がやったんじゃ――」

マミ「……キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


348 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:34:11.51 UZrS1Tgo0 204/755




ピーブズ「おー ポッター やな奴だー♪ 生徒を殺して楽しいのかー♪」



     ざわざわざわ


「ポッターが!?」「やっぱりポッターか!」「またトモエを襲おうとしたんだ!」


                               ざわざわざわ


アーニー「現行犯だぞ! もう言い逃れはできないなポッター!」

マクゴナガル「おやめなさいマクラミン! ピーブズも! ……ポッター、おいでなさい」

ハリー「違います。先生、僕じゃない。僕、やってません――」

マクゴナガル「残念ですが、私の手には負えません……フリットウィック先生、シニストラ先生、ジャスティン達を医務室へ。
         トモエ、立てますか? 彼らと一緒に医務室へ……」

マミ「だ、大丈夫、です。授業には、出れます」

マクゴナガル「……そうですか。どのみち変身術は自習になるでしょうが、無理はしないことです。
         さあ、ポッター。校長室へ――」

マミ「あ、あの! マクゴナガル先生!」

マクゴナガル「何ですか、トモエ。やはりどこか――」

マミ「は、ハリーくんじゃ、ないと思います」

349 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:34:37.80 UZrS1Tgo0 205/755


マミ(あ、あれ――? なんで私、こんなこと言って……?
   ハリーくんのこと、ちょっと疑ってた筈なのに……口が、勝手に)

マミ「だ、だって。私の時は、ハリーくんクィディッチの試合に出てたし――
   大声を上げちゃったけど、それだってびっくりしたからで、襲われたとかじゃありません」

マクゴナガル「……」

ハリー「マミ……」


     ざわざわざわ


「そういやそうだ」「アリバイはあるな」「誰だポッターが犯人だって言い出したの」


                               ざわざわざわ


アーニー「騙されるなみんな! きっと事前に、怪物に指示を出しておいたんだ!」

マミ「違うわ! だって――」

アーニー「だって、なに?」

マミ「あ……」

マミ(あの時、継承者がトレイのドアの前にいたことを私が知ってるのは、そいつの話す蛇語を聞いてたから)

マミ(蛇語のことをここで言ったら、ハリーくんはますます疑われちゃう――?)

アーニー「きっと君は混乱してるんだ――それに、ほら。ポッターが怖くてそんなこと言うのかもしれないけど、
      ここには先生もいるし、本当のことを言っても――」

マクゴナガル「お黙りなさいマクラミン!」

アーニー「ひっ!」ビクッ

マミ「ま、マクゴナガル先生――」

マクゴナガル「貴女の言い分は分かりました、トモエ。
         ですが、先ほども言った通り、もう私の裁量で扱える範囲を超えています」

マミ「そんな……」

マクゴナガル「……ですから、校長に伝えておきます。被害者からの意見は、一考すべきですから」

マミ「! あ、ありがとうございます!」

マクゴナガル「お礼をされる道理は有りません。当然のことだからやるまでです。
         さあ、行きますよポッター」


350 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:35:04.31 UZrS1Tgo0 206/755


翌日 廊下


フレッド「さあさあどいたどいた! ハリー様のお通りだ! 目を合わせるな! みぃんな食われっちまうぞ!」

ジョージ「ひ、ひええええ~。お助けくだせえ! 後生ですだ! 娘は! 娘だけは!」

パーシー「こら! また馬鹿やってるのかお前らは! 笑い事じゃないんだぞ!」

フレッド「でたなパーシー! グリフィンドールの怪物め!」

ジョージ「みんな、逃げろ! 奴の吐息を浴びた生けとし生けるものは全て、監督生にされちまう!」

フレッド「そいつはおっかない! 完全にスリザリンの怪物より格上だ!」

パーシー「これを見てもまだふざけてられるのか?」グイッ

ジニー「は、ハリーをいじめるの、やめて……」ジワッ

双子「「すいませんでした!」」ペコッ




ロン「やれやれ、パーシーは頭が固いなぁ。フレッド達が冗談でやってるって分からないかね」

ハーマイオニー「でも不謹慎には違いないでしょ。ハリー、平気?」

ハリー「まあ、あの二人は僕がスリザリンの継承者だなんて欠片も思ってないってことは伝わったよ」

ハーマイオニー「あの二人のほかにも、ハリーのこと信じてるって人、結構聞くわよ。
          そういえば、確かにマミの事件の時はクィディッチに出てたものね」

ロン「ダンブルドアもね。昨日君が校長室に呼ばれたって聞いた時はびっくりしたけど」

ハリー「ああ、ダンブルドアも僕じゃないって信じてくれてた……
     でも怪物が人を襲いまくってるって事実には変わりないんだよなぁ」
 
ロン「みーんなこぞってホグワーツ特急の予約入れてたよ。マルフォイは残るみたいだけど」

ハリー「純血だから襲われないって信じてるんだろうね」

ハーマイオニー「呑気なものよね。50年前、前回扉が開かれたときには、人がひとり死んでるって。
          その時の犯人は捕まって追放されたそうだけど。そう言ってたのは自分なのに」

ロン「吐かせた、の間違いだろ。しかもマルフォイは言ったこと覚えてないんだろうし」

ハーマイオニー「う、うるさいわね!」

ハリー「あいつとしちゃ、マグル生まれがどうなろうが知ったこっちゃないってとこだろうさ……
     そういえば、マミは? 昨日、僕が帰ってきてから姿が見えないけど」

ハーマイオニー「マダム・ポンフリーに連行されていったわ。一応、精神面のチェックとケアをするから、って」

ロン「本人は必要ないって抵抗してたけどね。でもまあ、よく考えたらマミって全部の事件現場に遭遇してるわけだし」

ハリー「そっか……昨日のお礼をしたかったんだけどな」

351 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:36:07.69 UZrS1Tgo0 207/755


医務室



ポンフリー「今日は絶対安静です。絶対にベッドの上から出しませんからね!」

マミ「うう……大丈夫なのに……」

ポンフリー「聞く耳持ちません。患者本人が、病気に気付いていないというのはよくある話ですから。
       さて、私は所要があるので少し外しますが、外に出たらだめですよ?」

   バタン

マミ「……はぁ。暇になっちゃった。本でも持って来ればよかったわ……」

マミ(こうして時間があると、色々考えちゃうわね……そういえば、佐倉さんは元気かしら?)

マミ(もうすぐクリスマスだし、クリスマスカードの交換とかできたらいいのに……ふくろう便が見滝原に通ってたらなぁ)

マミ(煙突飛行ネットワークも圏外だから、キングズ・クロス駅に行くのにも、未だにポート・キーを使わなきゃだし……
   ポート・キーはマクゴナガル先生が送ってくれるけど、やっぱりご迷惑よね……魔法省にいちいち許可を取らないといけないし)

マミ(うー。パスポート取ろうにも、未成年は親の許可が必要なのよね……
   ていうか、さすがに子供一人で海外に行くとなると、さすがに何か問題になっちゃうわよね、きっと)

マミ(あーそういえばクリスマス、居残り組に丸つけなきゃ……あれっていつまでだったかしら?)

 パサッ

マミ「? 何かしら? ベッドから何か落ちて……これは紙切れ? なにかしら、文字が書いてある……?」


『今すぐ見滝原に帰れ。友達を失いたくなければ』


マミ「……っ!」ポイッ

マミ(いまのって……脅迫、状? いったい、誰が?)

マミ(いや……それより、いま、この医務室の中に、犯人がいる?)

マミ(……杖は、ある。出てきてみなさい。ロックハート先生直伝の武装解除呪文を叩き込んでやるんだから!)スッ

マミ「……」

マミ「……で、出てこないならこっちから行くわよ!」スタッ

352 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:36:33.74 UZrS1Tgo0 208/755



  さっ

マミ「ベッドの下……いない」

 シャッ

マミ「怪物の犠牲になった人がいる区画……いない。キュゥべえ、見ててね。仇は取るわよ……」

 ガラガラッ

マミ「書類棚の中……いない」

 ぱかっ ぱかっ ぱかっ

マミ「薬瓶の中……いない」

 ひょいっ

マミ「スリッパの下……いない」

マミ「いない、いない、いない……うう、頭にきた!」ダン!

マミ「卑怯者! 出てきなさい! 言っておくけど、こ、怖くなんてないんだから! 私、強いんだから!」

マミ「出てきた瞬間! コテンパンにしてやるわ! そこ!? (サッ) そこね!? (サッ) それとも……そこか!?」バッ


ハリー「……」

ハーマイオニー「……マミィ」ジワッ


マミ「そこ……か……」

353 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:37:02.62 UZrS1Tgo0 209/755

マミ「待って。違うの。そうじゃないの。みんな誤解してるわ。まずは話し合いましょう」

ハリー「いや、いいんだ。分かってるよ。ね? だからベッドに戻ろう?」

マミ「嘘よ。全然分かってない。そんな目してるもの」

ハリー「いいんだよ。もう休んでいいんだ……昨日はありがとう。本当、こんな状態で、僕のことを庇ってくれるなんて……」

マミ「こんな状態ってなに!? 私は正常よ! お願いだから話を聞いて――いや、気を付けて!
   医務室に継承者がいるの! 隙を見せたら攻撃してくるわ! 私達は、何者からかの魔法攻撃を受けている!」

ハーマイオニー「こんな、こんな風になるまで、辛い思いをしてるなんて……マミ!」ダキッ

ハリー「やめろ、ハーマイオニー! 刺激しちゃ駄目だ!」

マミ「ほらもう勘違いしてるぅぅぅううううううう!」

ハーマイオニー「私たち、友達でしょ! 辛いことがあったら相談してよ……!」

マミ「違うの! だってさっき、私の枕元に脅迫状が! ほら、そこに……あれ? ない!」

ハリー「いいんだ、君は疲れてるんだよ、マミ……ハーマイオニー、放して。ほら、彼女をベッドに」

ハーマイオニー「う、ん……ぐすっ。マミ。ほら、休みましょう?
          そして、見えちゃいけないものが見えなくなったら、また一緒に遊びましょうね――?」

マミ「幻覚扱いしないで! あったのよ、確かに! 見たんだもの!」

ハリー「ああ、あった。脅迫状はあった。ねえ、ハーマイオニー?」

ハーマイオニー「ええ、ぐすっ、私も、確かにっ、見た、わ。ぐすっ」

マミ「絶対信じてないでしょ! 物凄い優しい目でこっちを見てても騙されないわよ!」

354 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:37:39.02 UZrS1Tgo0 210/755


ロン「おまたせ! マダム・ポンフリーを連れてきたよ!」ダッ

ハリー「! でかした、ロン! 先生、またマミが錯乱して!」

ポンフリー「ありがとうございます。ああ、こんな姿のお友達を見て……さぞ辛かったでしょう」

ハーマイオニー「私たちのことはいいですから、マミを! マミを助けてあげてください!」

マミ「違うの! 脅迫状が! 継承者がこの部屋の中に! 信じてったら!」

ロン「でもさ、マミ。スリッパの下を真面目に捜索するような人、君は信じられる?」

マミ「あ、う、それは、あの……だって、だってそんなノリだったんだもの! うがー!」

ロン「うわあ! 理性が!」

ハーマイオニー「マミ! あの頃の、私たちの知ってるマミに戻って……!」

ハリー「駄目だ、ハーマイオニー! いまのマミは正気じゃないんだから!」

ロン「抑えるぞ、ハリー! 君も手を貸せ!」

ハーマイオニー「マミー! マミー!」ジタバタ

ポンフリー「彼女を連れてさがってください! あとは私が!」

マミ「話を聞いてくれないなら、暴れるしかないじゃない――!」


 この後、クリスマス休暇が始まるまで、マミはベッドの住人だった。



355 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:38:21.13 UZrS1Tgo0 211/755


新学期 放課後 グリフィンドール談話室


マミ「……複雑な気分だわ。今年はハリーくんとロンくんもクリスマスカードくれたけど、
   絶対お見舞い的な意味も含まれてるもの……」

マミ「でも、ロックハート先生がお見舞いカード送ってくれたのは素直に嬉しいわ!」


<ミス・トモエへ。ゆっくり、どうかゆっくり、静養してください。
 ほんともう、授業とかの心配はしないでいいですから! 宿題とかも、マミの分は量を少なくしたり、特別にしますから!
 ギルデロイ・ロックハートより>


マミ「そんな、私のこと、特別だなんて……きゃー!」ジタバタジタバタ

ハーマイオニー「う、羨ましくなんてないわ! 私も直筆サイン持ってるもの!」

マミ「でも、このカードにロックハート先生の使ってる香水が染み込ませてあるとしたらどうかしら……?」

ハーマイオニー「なん……ですって……?」



ロン「はい、チェック。あー、チェスも飽きたな」

ハリー「全勝してる側の君が言っていいセリフじゃないよね、それ。ああ、キュゥべえがいればなぁ。
    十回に一回は勝てる寸前までいくのに」

ロン「マンドレイクの成長は順調だっていうし、来年度にはまた会えるさ」

ハーマイオニー「ふぅ! 堪能したわ。一週間、サイン入り教科書のカバー交換は痛手だったけど……」

ハリー「ああ、お帰り。マミとの会話はもういいの?」

ハーマイオニー「終わったわ。マミ、ちょっと図書室に行くって言うから。
          っていうか、気づかなかったの? さっきマミ、肖像画から出て行ったじゃない」

ロン「うーん、なんでだろうね。
   もしかした最近、君らの会話の中に"ロックハート"って単語が出てきたら、
   外界からの情報を遮断するように努めてるからかもしれないね?」

ハーマイオニー「そんなんじゃ、防衛術の授業受けれないじゃない」

ハリー「有用な情報を聞けるんだったら、僕たちも考えを改めるさ」

356 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:38:58.03 UZrS1Tgo0 212/755


三階 廊下 マートルのトイレ前


マミ「ふぅ……どうにか抜け出せたわ。これでまた調査ができる。
   クリスマス休暇中は、ハーマイオニーさんたちがずっと私のこと監視してたから何も調べられなかったもの」

マミ(と言っても、なにを調べたものかしら?
   怪物の巣はきっと、マートルさんのトイレにあるのでしょうけど……)

マミ(……あの手洗い台を、どうにかして壊せれば……)

マミ(そういえば、犯人が蛇語を喋ってたんだから、怪物の正体は蛇なのかしら?)

マミ(うう、考えがまとまらないわ。キュゥべえがいてくれたらなぁ……)

マミ「うーん……」スタスタ

 ツルッ! びちゃっ!

マミ「きゃあ! いたたた……もう、なにこれ! 廊下が水浸しじゃない!
   うう、下着までびしょ濡れ……着替えないと……」

マミ「……って、あれ? そういえば、ミセス・ノリスと私が襲われたあの時も水が……!
   水の出元は……やっぱり、マートルさんのトイレね」スッ


357 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:39:24.42 UZrS1Tgo0 213/755



マートルのトイレ


 ガチャッ


マミ(慎重に……慎重に……怪物がいても、すぐに逃げるのよ……)

マミ(トイレの中には……うん、いないわね。手洗い台にも、異常なし)

マミ(あとは、個室の中……)

マミ「そこか! (がちゃっ) ……いないわね。次、そこぉっ! (がちゃっ) ……ここも、いない。なら、次っ!
   ローリング・ドア・オープン! (びちゃっ) 冷たい! 水が背中に!」ジタバタ!

マートル「……あんた、何やってんの?」

マミ「ま、マートルさん! 違うの、これは、違うの。そう、怖さを誤魔化すため、自分を鼓舞するためというか。
   あの、だからマダム・ポンフリーに通報とかは、ほんと勘弁してください……」

マートル「まあいいけどさ、別に……はあ、あんたの変な行動見てたら、泣いてるのが馬鹿馬鹿しくなったわ」

マミ「泣いてたの? ああ、だから床が水浸しなのね? でも、どうして?」

マートル「誰かが私に本を投げつけたのよ……ほら、その黒い革表紙の」

マミ「日記みたいね。ずいぶん古そうだけど……えーと、奥付けに出版された年が……今から50年前!?
   ほんと、年代ものね。中には何も書かれてないみたいだけど……あ、でも最初のページに名前だけ……T.M.リドル?」

マートル「その日記、できたらどっかに捨ててきてくれない? 私、これ以上見たくも、触りたくもないから」

マミ「持っていくのはいいけど、勝手に捨てるのは……でも、誰が投げたのかしら? 
   まさかこのリドルって人がまだ学校にいるわけもないし……うーん。まあ、元の持ち主に返せばいいわよね?
   図書室に生徒年鑑とかってあったかしら? 住所が分かれば、ふくろうで送れるし……」


358 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:39:51.04 UZrS1Tgo0 214/755


図書室


マミ「T.M.リドル……T.M.リドル……うー、探すのも疲れてきた。
   これ、卒業生しか載ってないんだもの……リドルがいつ卒業したか分からないから、
   最低でも50年前の前後7年を探さなきゃいけないし……買ったのが在学中じゃないんなら、もっと範囲は広がるし……」

マミ「はぁ。本当なら、落とし物ってことでフィルチさんに届ければいいんでしょうけど……
   うう、でもあれ以来話しかけづらいし……」

ハリー「あ、マミだ。まだ図書室にいたんだ……」

ロン「理解できないなぁ。どうやったら本にそこまで熱中できるんだろ?」

マミ「あら、みんな。どうしたの?」

ハーマイオニー「どうしたのって、あのね、心配になって見に来たのよ。もう消灯時間も近いのに、全然帰ってこないんだもの。
          ただでさえ、最近は物騒なんだから」

マミ「え、嘘! もうそんな時間なの……うう、一日の最後を無駄にした気分だわ」

ハーマイオニー「無駄にした、って、何を読んでたの? ……卒業生の年鑑? なんでこんなものを?」

ロン「驚いたなぁ。君が読んでない本が存在したのかい、ハーマイオニー?」

ハーマイオニー「私だって、読む本くらい選ぶわ」

ハリー「選んであれなんだ……でも、本当にどうしてそんな本を?」

マミ「名前だけしか書いてない日記を拾ったんだけど……日付が50年前なの。住所が分かれば返せると思って」

ロン「おったまげー、凄いボランティア精神だな。僕だったらとっくに捨ててるね」

ハーマイオニー「マミの国ではそういうのが美徳だって、何かで読んだことがあるわ」

マミ「そういうのじゃないんだけど……あ、そうだ。ハリーくん達、これをフィルチさんに渡してきてくれる?」

ロン「本気で言ってるの? 僕、フィルチに会わない為だったら遠回りするのも辞さない……
   あー、その、別にフィルチのことをどうこう言ってるわけじゃなくてね? 相性が悪いって言うかさ」

マミ「別に気にしないから大丈夫よ……でもほんと、どうしましょう。捨てるのは論外だし……」

ハーマイオニー「ちなみに、なんて人の日記なの? 有名な人なら知ってるかも……」

マミ「T.M.リドルっていうんだけど」

ハーマイオニー「うーん、ごめんなさい。知らないわ」

ハリー「僕も。いやまあ、ハーマイオニーが知らないなら誰も知らないだろうけどさ」

マミ「ふふっ、そうね」

ロン「僕、知ってるけど」

マミ「!? ロンくんが!?」

ハーマイオニー「うそ、でしょ……ロンに負けた……?」

ハリー「あー、ロン? 別に見栄を張らなくても……」

ロン「よーし。全員そこに並べ。僕に対する認識を拳で入れ替えてやる」


359 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:40:23.46 UZrS1Tgo0 215/755


ロン「って言っても、自慢できることでもないんだけどさ。前に罰当番で盾磨きさせられた時、
   そいつの名前の入った盾を一時間も磨く羽目になったんだよ。そりゃ覚えるってもんだろう?」

ハリー「あ、なんだ。納得した」

ハーマイオニー「良かった……一瞬、勉強する時間を三倍にしようかと思ったけど……寝る時間が無くなるもの」

マミ「世界の理の崩壊は防げたのね」

ロン「君ら、そんなに小突かれたいのかい? 泣きながらパンチするぞ、僕は。
   とにかく、そいつは50年前、5年生の時に特別功労賞を貰ってるんだ。なんでだかは書いてなかったけど」

マミ「50年前の5年生ってことは、卒業はそれから2年後……あった。トム・マールヴォロ・リドル。
   でも住所は書いてないわね……うー、ここまで来て手詰まりなんて……」

ハリー(ねえ、ハーマイオニー。もしかして……)ヒソヒソ

ハーマイオニー(ええ、私もそう思ってたとこ)ヒソヒソ

ロン(何の話だい? 僕にも教えてくれよ。何せ頭が悪いもんでね)ヒソヒソ

ハーマイオニー(リドルは50年前に功労賞を貰った。秘密の部屋は50年前に開かれた)

ハリー(そして秘密の部屋を開けた人物は、ホグワーツから追放された)

ロン(だから?)

ハーマイオニー(こう考えることはできない? リドルが秘密の部屋を開いた犯人を捕まえて、功労賞を貰った)

ハリー(そしてそれに関わることが、日記に書いてあるかもしれない)

ロン(あれ? もしかして、僕の方が記憶力いいのか? 名前しか書いてないって、さっきマミが言ってたけど)

ハーマイオニー(透明インクとかかもしれないじゃない!
          マミは50年前の情報を何も知らないから、あれをただの日記としか思ってない。
          多分、詳しく調べてはいない筈よ)

ロン(じゃ、ちょっと借りようか? ああでも、正直に話すのは不味いかな?)

ハリー(彼女の精神に負担を掛けるのは良くないね、確かに)

ロン(よし、ちょっと作り話でもするとしよう。なに、善意の嘘だもの。構うもんか)

ロン「あー? マミ、やっぱり僕がフィルチに渡してくるよ。やっぱりさ、こういう時は助け合いが大事だよね」

マミ「何を企んでいるの?」

ロン(おい! シンキングタイムゼロで見破られたぞ!?)

ハリー(馬鹿! ロンの馬鹿! いくらなんでもそれはないよ!)

ハーマイオニー(嘘をつくにしても、もっと分かりにくい嘘をつきなさい!)

マミ「……なーんてね。ありがとう、ロンくん。それじゃあお願いするわ」ヒョイッ

ハリー(最高だ、ロン。さすが僕の親友!)

ハーマイオニー(あなたを信じてたわ。愛してる!)

ロン(寮に戻ったら、こいつら絶対に殴ってやろう)



360 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:40:50.17 UZrS1Tgo0 216/755


2月14日 朝 大広間前廊下


ハリー「はあ、眠い……昨日も遅くまでクィディッチの練習だったしなぁ。
     今年こそ優勝できそうだし、ウッドの意気込みも分かるんだけど」 

ハリー「それにしても、最近は平和だなぁ。あれ以降、怪物は誰も襲ってないし。
     結局、リドルの日記はハーマイオニーがいくら調べても二重の意味で白だったけど、平和なら別にいいや」

ハリー「さて、寝坊してちょっと遅れちゃったけど、まだ朝食には十分間に合うよな……」


  ガチャッ


ハリー「……部屋を間違えたみたいだ。それか、僕もマミみたいに幻覚がみえるようになったか」

ロン「どっちも外れだよ、ハリー。ここは大広間で、目の前のこれも現実さ」

ハリー「そこらじゅう有毒植物みたいなけばけばしい色の花で覆われて、天井からハートの紙ふぶきが降ってくるこれが?
     嘘だといってくれ。最初、ここがホグワーツかどうかさえ迷ったんだから。誰だ、こんな馬鹿なことやった奴は」

ロックハート「諸君! バレンタインおめでとう! 私のピンクのローブ、おしゃれでしょう?」

ロン「説明が必要かい?」

ハリー「いや、やっぱりいいや」

ハーマイオニー「ロックハート先生が! 納得の素敵な内装ね!」

マミ「凄い! 凄いわ! これがイギリス流のバレンタインなのね!」

ネビル「いや、ちょっとマミ? 違うよ? これはイギリスの名誉を掛けて言うけど、違うからね?
     ハリー、ロン。君たちからも何か言ってやってよ」

ハリー「今日の朝食、紙ふぶきで凄く食べにくいなぁ……」モグモグ

ロン「せめて食えるものを降らしてくれたらいいのにな。ミントの葉っぱとかさ」

ネビル「あ、駄目だ。聞いてない」


361 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:41:44.18 UZrS1Tgo0 217/755


ロックハート「現時点で47人の方が私にバレンタインカードをくださいました! おっと、出遅れったって嘆く必要はありません!
        大切なのは、込められたハートですからねっ☆」パチッ

マミ「流石ロックハート先生。名台詞ね……」

ハーマイオニー「メモしておかないと……」

ネビル「ハリー、塩取ってもらっていい?」

ハリー「はい、ネビル。それ、ポリッジ? だったら熱いうちに刻みチーズ掛けると美味しいよ」

ロン「冷めたら蜂蜜垂らしてもいけるよな。ドライフルーツも悪かないけど」

ロックハート「さらに! 配達キューピットを用意しました! 彼らが今日一日、皆さんにカードを配達してくれます!
        配達してほしい人は、私の部屋の前にポストを設けたので――」

配達妖精「……」

ジョージ「うわ、なんだあれ。ぶっさいくな小人が仮装してやがる。どういうセンスしてやがんだ」

フレッド「多分、ロックハートが頭の中で飼ってる生き物だろ」

ジョージ「ああ、納得。頭の中に何が入ってるのか前から疑問だったけど、あれか。
      きっと餌は奴さんの脳みそだな」

フレッド「おいおい、それじゃあっという間に餓死しちまうだろ?」

ジョージ「それもそうか。HAHAHA――あれにカードを届けられるくらいなら自殺した方がましだな」




362 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:42:40.96 UZrS1Tgo0 218/755


昼食後 廊下



配達妖精「ハリーポッター! あなたに愛のお届けデース☆」

ハリー「よりにもよって、人が大勢いるここで、来たか――ロン、杖を貸してくれ。一か八か投げつけてみよう」

ロン「それよりも逃げなよ。食い止めてあげるからさ」

配達妖精「OH、ノ~ゥ! 逃げられたら、ワターシ、仕事まっとうできませ~ん! 家族が飢え死にしマ~ス!」

ハリー「キューピットのくせに、なんでそんな重たい設定抱え込んでるんだ君は」

ロン「いいからいけって!」

ハリー「ああ、ありがとう。それじゃあ――」クルッ

配達妖精「残像だ」ヒュイッ

ハリー「」

配達妖精「遅いな。あくびがあくびで殺せるほどスロゥリィだ――んーふーんー?
      まあドッチにしても、お届けするのは歌ですかーら、音速以上で逃げないと無駄デスけどネー?」

ハリー「じゃあ気絶してろ、このっ」ブンッ

配達妖精「けえっ!」カッ

 ビリビリッ 

ハリー「ふ、振り下ろした鞄が真っ二つに裂けた……」

配達妖精「これでよし……さ、歌いマース。よく、お聞きくだサーイ。
       ふーんふーんふふふーん……♪」

ハリー「ぜ、前奏から……!?」




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363 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:43:39.81 UZrS1Tgo0 219/755


パーシー「さ、ほらほら! もう五分も前にベルは鳴ったぞ。散った散った!」

ハリー「パーシー……」

パーシー「お礼を言われるほどのことじゃないさ。僕は監督生だからね」

ハリー「いや、なんでその五分前に止めてくれなかったんだい?」

パーシー「さーて僕も授業だ。急がなきゃ――」スタスタ

ハリー「うう、見世物にされた……」

ロン「あれでいて、パーシーも恋に憧れる年頃なのかもな。
   にしても、独特の歌だったね。あのセンスはきっとジニーだな。奴さん、君のことじっと見てたし。
    鞄が破れるのを見たら、急に青ざめて逃げちまったけど」

ハリー「なんで?」

ロン「さあ? 自分の歌のせいで、君の鞄を破っちまったって思ったんじゃないか?
   それより、授業に行こうぜ。ほら、落ちた教科書拾うの手伝うから」

ハリー「ありがとう……うわ、インク壺が割れて教科書が全滅だ……」

ロン「ハーマイオニーなら、しみ抜き呪文とか使えるだろ。さ、行くぞ」

ハリー「うん……あれ、リドルの日記……」

ロン「君、まだそんなもの持ってたのか。とっくに捨てちまったと思ってたけど……それがどうかしたの?」

ハリー「ほら、これだけインクの被害が無い。綺麗なまんまだ」

ロン「偶然だろ? ほら、急ごうよ」

ハリー「うーん。本当に偶然かな、これ……?」

364 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:44:22.78 UZrS1Tgo0 220/755

夜 グリフィンドール談話室



マミ「三年生からの選択科目ね……どうしようかしら?」

ハリー「さっきパーシーにアドバイス貰ったけど、まだ迷うなぁ。将来なりたい職業って言われても……」

マミ「そうよねぇ……私たちってまだ魔法界のこと、詳しいわけじゃないし」

ロン「まあ、そんなに気負わなくてもいいんじゃない? そういや、ハーマイオニーは?」

マミ「用紙が配られた瞬間、全部の科目に丸つけてたけど……」

ロン「……」

ハリー「……彼女、来年からロボットにでもなる気かな?
     宿題をこなそうとするだけで睡眠時間が消えると思うんだけど」

マミ「流石に、マクゴナガル先生が止めると思うわ……絶対履修できないもの」

ロン「どうかな。彼女、勉強に向ける情熱は人何倍? ってレベルだし。
   分身する魔法くらい使いだしかねないよ……よし。僕は決めた。
   占い学は何か名前からしてふにゃふにゃしてそうだし、魔法生物のケトルバーン先生はジョークが分かるって噂だ。これにしよう」

ハリー「凄い論理的な決め方だね。じゃ、僕も同じでいいや」

マミ「もう。二人とも、真面目にやらなきゃ駄目よ?」

ロン「君もハーマイオニーに毒されてきたかい?」

ハリー「……それじゃ、僕は部屋に戻るね」

ロン「もうかい? 早いね、どうしたの?」

ハリー「いや、ちょっとね……それじゃ」スタスタ

マミ「……うーん、将来か……そりゃ、魔法界の仕事に就くんだろうけど……」








グリフィンドール男子寮


ハリー「さて、誰もいない内にリドルの日記で実験だ。昼間、インクで汚れなかったのは偶然かな?」

ハリー「ページを開いて……僕はハリー・ポッターです、と」サラサラ

 シュゥゥ…

ハリー「……わーお。日記にインクが吸い込まれた。おまけに文字も浮かんできたぞ」

日記『こんにちは、ハリー・ポッター! 僕はトム・リドルです。この日記には僕の記憶が封じられており――』


365 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:45:28.71 UZrS1Tgo0 221/755


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 ガチャ

ロン「あれ、ハリー。まだ寝てなかったのかい?」

ハリー「ハグリッドだ」

ロン「違うよ、僕はロナルド・ビリウス・ウィーズリー。確かに背は高いけど、ハグリッドほどじゃない
   ひょっとして寝ぼけてる?」

ハリー「秘密の部屋だよ! 50年前に秘密の部屋を開けたのは、ハグリッドだったんだ!」


366 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:45:59.50 UZrS1Tgo0 222/755


翌日 グリフィンドール談話室


ロン「ハグリッドかぁ。確かになぁ。条件にあてはまるっちゃあそうだ。
   ホグワーツを追放されてるし、怪物がいるって聞いたら絶対探しにいくもの」

ハリー「で、その情熱で"部屋"を見つけたらこう思うだろうね。こんな狭いところに閉じ込められてるのは可哀想だ。
     ちょっくら散歩をさせてやろう――って。……でも、人に危害を加えるつもりはなかったんだろうなぁ」

ハーマイオニー「……ハグリッドに、全部聞いてみる?」

ロン「マジで言ってるのかい? やあハグリッド、今日もいい天気だね。
   ところであの毛むくじゃらで足がいっぱいある秘密の部屋の怪物って肉食? そう聞くつもりかい?」

ハーマイオニー「……次の事件が起きない限り、ハグリッドには何も聞かないことにしましょう」

ハリー「……こんなことになるんだったら、リドルの日記なんて捨てちゃえば良かったなぁ」ボソッ






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ハリー「で、そう言った日の放課後に日記が盗まれたわけだけど」

ネビル「部屋がぐちゃぐちゃだ! うわーん! 僕の羊皮紙セットどこ!?」

ロン「ネビル、羊皮紙だったら後で分けてあげるから、ちょっとここ頼むね」

ネビル「え? どこ行くの?」

ロン「先生に報告しに。ほら、行こうハリー……ハーマイオニーに相談だ」



367 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:46:45.35 UZrS1Tgo0 223/755


図書室


ハーマイオニー「リドルの日記が盗まれたですって!?」

ハリー「しーっ! 声が大きいよ!」

ハーマイオニー「あ、ごめんなさい――で、でも、グリフィンドール生しか盗めない筈でしょ?」

ロン「そうだよなぁ……っていうか、誰がなんであんなボロイ日記を?」

ハーマイオニー「それは……リドルの日記が他人の手にあっちゃ不味い人が、ばれるのを防ぐためにでしょ?」

ロン「じゃあハグリッドが犯人ってわけ?」

ハーマイオニー「ハグリッドはグリフィンドールの寮に入れないから――
          やっぱり、犯人はハグリッドとは別人ってことにならない?」

ハリー「でも、リドルの日記はハグリッドが50年前の犯人だって――今回のとはまた別なのかな」


マミ「――リドルの日記、ってどういうことかしら?」


ハリー「あ、れ? マミ!? いつからそこに?」

マミ「ハーマイオニーさんの声が聞こえたから……で、リドルの日記ってどういうこと?
   あれ、フィルチさんに渡してくれたのよね?」

ロン「いや、つまりあれだよ。リドル――なぞなぞ(リドル)の本をだね」

マミ「……」

ロン「信じてくれよ。僕が嘘をつく男に見えるかい? フィルチにしっかり渡したさ!
    ああ、僕は助け合いが趣味だからね!」

マミ「おとなしく白状しないと、マッチをミサイルに変身させてぶっ放すわよ」

ロン「あれ?」

ハリー「ローン……」

ハーマイオニー「……どの道、確認されたらばれる話だもの。正直に話しましょう」

368 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:47:15.30 UZrS1Tgo0 224/755


ハリー「……ってわけなんだ」

マミ「……ハグリッドさんが? そんな……」

ハーマイオニー「黙っててごめんなさい……」

ロン「いや、僕が提案したんだ。作り話して誤魔化そうって」

マミ「……ううん。だって、私の為を思って嘘をついたんでしょう? ありがとう」

ロン「そう言ってくれるとありがたいね」

マミ「……あと、私も謝らなきゃいけないことがあるの」

ハリー「え?」

マミ「ハリーくん達が話してくれたのに、私だけ話さないのはフェアじゃないから――
   あのね、私が襲われた時、実は――」


369 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:47:56.68 UZrS1Tgo0 225/755



ハリー「犯人は僕と同じ蛇舌で、おまけに同じグリフィンドール寮か……」

ロン「逆に話さないでくれてて助かったよ。そんなの絶対ハリーが疑われるもの」

マミ「本当はマクゴナガル先生に相談しようと思ったんだけど……その直後に、ごたごたがあったから」

ハーマイオニー「マミ、犯人がパーセルマウスっていうのは確かなのね?」

マミ「ええ……あの独特の音だもの。間違える筈ないわ」

ロン「ってことは、やっぱり犯人はグリフィンドール生かな? 盗まれた日記のこともあるし」

ハリー「でも、蛇語を話せる人って滅多にいないんだろう?」

ロン「そこなんだよなぁ……でも可能性はゼロってわけじゃないし……」

マミ「結局、考えても手詰まりなのよね……」

ハーマイオニー「……」


370 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:48:31.01 UZrS1Tgo0 226/755


クィデッチ試合日 大広間前 廊下


ハリー「絶好のクィディッチ日和だ……」ドンヨリ

ロン「言葉と顔が一致してないぞ」

ハーマイオニー「朝食、あまり食べてなかったものね」

マミ「具合でも悪いの?」

ハリー「いや、あの中に日記を盗んだ奴がいるかと思うと……」

ロン「おいおい頼むぜ。それも気になるけど、今は試合に集中しろ。もう骨なし腕はいやだろう?」

マミ「お腹が減ってたら力がでないわよ? いまから戻って、トーストでも齧ってくる?」

ハリー「いいよ……食欲ないし、無理に食べても吐きそうだ」


『今度は殺すぞ! ぐちゃぐちゃにして――』


ハリー「そんな風に脅されても食欲は――え?」

ハーマイオニー「え? どうしたの、ハリー?」

ハリー「あの声だ……また聞こえる……」

ロン「あの声って……君が前に言ってたやつか。相変わらず僕らには聞こえないけど」

ハーマイオニー「……待って」

ハリー「! ハーマイオニー! 聞こえたの!?」

ハーマイオニー「ううん。違うの。でも、図書室でマミの話を聞いてからちょっと考えてたことがあって――」

マミ「私の?」

ハーマイオニー「……ごめんなさい。ちょっと図書室にいかなくちゃ!」ダッ

ロン「おいちょっと待て試合はもう……行っちゃった」

ハリー「彼女、なにを調べに?」

ロン「さあね? 全く、図書室じゃクィディッチの試合はみられないんだぞ!」

ハリー「……もう声も聞こえない。行かなきゃ。時間だ」




371 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:49:03.81 UZrS1Tgo0 227/755


クィデッチ競技場


リー『さあ始まります! グリフィンドールVSハッフルパフ! 司会はお馴染みのリー・ジョーダンでお送りします!』

リー『グリフィンドール勢は気合十分! キャプテンを務めるオリバー・ウッドは既にゴールの周りを飛び回りウォームアップに努めています!』

リー『一方、ハッフルパフはスクラムを組んで作戦会議中の模様。これは見ものです! 試合はどう転ぶのでしょうか!』

リー『さあ、いよいよ審判のマダム・フーチがボールを取り出しました! なお、今日はお目付け役のマクゴナガル女史が未だ現れません!
   このままいけば好き勝手に実況出来るぜ! さあさっさとホイッスルだ!』

マクゴナガル「ジョーダン。貴方とはいつか話し合う必要があるようですね」キーン

リー『あれ? マクゴナガル先生、いらっしゃったんですか? ていうか、なんでグラウンドに? そんなでっかいメガホンもって……』

マクゴナガル「こほん――この試合は中止です!!」

リー『え、そんな、なんで――ああ! ウッドがショックのあまり落ちた!』


ウッド「先生! どういうことですか! 試合中止って!」ボロッ

アリシア「なんであれで怪我してないのかしら」

マクゴナガル「全ての生徒は引率の先生の指示に従って寮に戻ること! ――それと、ポッター。私と一緒にいらっしゃい」

ハリー「僕だけ、ですか?」

マクゴナガル「できれば貴方の友達のウィーズリーも一緒の方が……」

ロン「先生! 試合中止ってどういう!? あとハリーをなんで連れて行くんです!?」

マミ「ぜぇ、はぁ……ロンくん、待って……」

マクゴナガル「……ウィーズリーも来ましたか。ですが、トモエ。貴女は来ない方がいいでしょう。さあ、寮に戻りなさい」

マミ「え……」

ハリー「ロンが良くてマミが駄目? なんでだろう?」

ロン「さあ? まさかいまさら空飛ぶ車の話でもないだろうし――」

マミ「……もしかして、また怪物が誰かを? それで、この二人ってことは――」

マクゴナガル「……」

ロン「え?」

ハリー「……それって」

マミ「私を心配してくれてるんですよね。ありがとうございます。
   でも……大丈夫です。絶対に、大丈夫ですから……」

マクゴナガル「……分かりました。良いでしょう、トモエもついてきなさい」

372 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:49:49.22 UZrS1Tgo0 228/755


医務室


ハーマイオニー「」

レイブンクロー生「」


ロン「ハーマイオニー!」

ハリー「嘘だろ……数十分前まで、話してたのに……」

マミ「……っ」

マクゴナガル「二人は図書室の近くで発見されました。あなた達、これが何を意味するかわかりますか?
         二人が持っていたものです」スッ

ロン「……手鏡?」

ハリー「すみません、なんだか……」

マミ「……私、も」

マクゴナガル「……そうですか。三人とも、私が寮まで送りましょう」

マミ(……わたしの、せいだ)


『今すぐ見滝原に帰れ。友達を失いたくなければ』


マミ(あの脅迫状は、こういうことだったんだ)

マミ(全部、私が悪いんだ。私が、あれからも犯人を捜したから、ハーマイオニーさんが)

マミ(私が、私が、私が。私が、いなければ――)

373 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:50:16.33 UZrS1Tgo0 229/755



マミ(――なんて、言うと思ったかしら?)




マミ(キュゥべえに加えて、グレンジャーさんまでも――彼女たちが何をしたって言うの!)

マミ(だからって私が悪いなんて思って尻込みしたら、それこそ犯人の思うつぼじゃない!)

マミ(もう、何も怖くない。だって、これ以上怒り様がないくらい怒ってるもの……!)

マミ(もう形振りなんか構っていられない)


マミ(継承者を捕まえてやる――どんなことをしても絶対に、捕まえてやるわ……!)



374 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:50:45.29 UZrS1Tgo0 230/755


グリフィンドール寮


マクゴナガル「――以上が注意事項になります。非常に残念なことですが、犯人が捕まらなければ、学校は閉鎖されるかもしれません。
         犯人について何か心当たりがある生徒は、すぐに申し出てください」


 ざわざわざわ


マミ「……」


ハリー(マミ、やっぱりショックだったんだろうな。あれから、一言も口を利かないよ)ヒソヒソ

ロン(むしろ騒ぎ出さない分だけ気丈だと思うね、僕は。……ハグリッドに会いに行くかい?)ヒソヒソ

ハリー(ああ、今回の犯人がだれであれ、50年前にハグリッドは秘密の部屋を開いてるんだ。
     その方法さえ分かれば……僕の透明マントを使えば外に出られる)

ロン(ってことは、あとは結構のタイミングと――マミを誘うかどうか)

ハリー(……やめておこう。もう彼女はいっぱいいっぱいの筈だ)


◇◇◇


マミ(継承者が注目してるのは、私。だからこそ、あの脅迫状)

マミ(ハリーくん達は巻きこめない。一緒にいるだけで、標的にされるかもしれない)

マミ(マクゴナガル先生に相談を――でも、相談したらハリーくん達も巻き込む)

マミ(私ひとりでやるしか、ないんだ)

375 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:51:51.02 UZrS1Tgo0 231/755


数日後 夜 ハグリッドの小屋


ガシャーン! バリーン! ドシャー!


ハグリッド「あ、ああ。わりいな、ちょいと手元が震えて……」

ハリー「ハグリッド。お茶はもういいから」

ロン「うん。っていうか、もうティーカップないし」

ハグリッド「すまんな」

ハリー「それでさ、ハグリッド。聞きにくい話なんだけど――」

 コンコン

ロン「やばっ――僕たちここにいちゃまずい!」

ハリー「透明マントを!」バサッ

ハグリッド「よし、隠れたな――誰だ!」

 ガチャッ

ダンブルドア「こんばんは、ハグリッド――良い夜とは、残念ながら言えんがのぅ」

ファッジ「やあハグリッド」

ロン(ファッジだ! 魔法省大臣! パパのボスだ!)

ハリー(静かに、ばれる!)



◇◇◇


グリフィンドール 女子寮


マミ「……」

ラベンダー「マミ……平気? 一緒に寝ない?」

マミ「……ありがとう。でも私、寝相悪いから」

ラベンダー「そんなの! マミが寝相悪いんだったら、パーバティなんかカタストロフィよ!」

パーバティ「意味わからないから……放っておいて欲しい時もあるわよ。ほら、寝ましょう?」

ラベンダー「マミ……その、いつでも言ってね?」

マミ「ええ。ありがとう、ラベンダーさん」ニコッ

マミ(まず、考えなきゃいけないのは……秘密の部屋、つまりあのトイレをどうやってこじ開けるかよね……)

マミ("ホグワーツの歴史"を図書室で借りて……いや、確かハーマイオニーさんが借りてたはず。
   ごめんね、ハーマイオニーさん。ちょっと借りるわね)ゴソゴソ


376 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:52:29.51 UZrS1Tgo0 232/755


ハグリッドの小屋


ファッジ「分かってくれ、ハグリッド。魔法省も何かしたというポーズを見せないと――
     無論、君でないと分かればすぐに釈放する。十分な謝罪も」

ハグリッド「釈放って、お、俺をアズカバンにいれるってことか!?」

ダンブルドア「コーネリウス、ハグリッドではない。重ねて言うが」

ファッジ「しかしな、アルバス。かなりプレッシャーをかけられて……」

ハグリッド「どこのどいつにだ!」

ルシウス「――どいつ、とはご挨拶ですな、ハグリッド」

ロン(ルシウス・マルフォイ! パパの敵でマルフォイの親父だ!)

ハリー(知ってるよ。夏休みに会ったもの)

ハグリッド「俺の家に何しに来た!」

ルシウス「私が君の――あー、家、かね? この小屋が? 
      まあ、ここに来たのは非常に残念なお知らせを届けるためでね」

パサッ

ダンブルドア「……」

ルシウス「12名、つまりは全ての理事が署名している。
      "停職命令"だよ、アルバス・ダンブルドア校長殿?」


◇◇◇

グリフィンドール 女子寮


マミ(……さすがに、"秘密の部屋への入り方"なんて載ってないか。でも学校の構造はなんとなくわかった)

マミ(マートルのトイレに、太いパイプが繋がってる……怪物はきっとこれを伝って移動してるんじゃないかしら?)

マミ(怪物の正体は蛇――うん、確かにパイプを移動してても違和感はないわね)


377 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:53:33.14 UZrS1Tgo0 233/755


ハグリッドの小屋 前


ルシウス「さて。では参りましょうか。校長?」

ファッジ「ルシウス。考え直してくれ――ダンブルドアが退任したら、ほかに誰が? 困る、絶対困る――」

ダンブルドア「よい。退けと言われれば退こう……じゃがな、ルシウス?」

ダンブルドア「わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実なものが一人もいなくなった時じゃ。
         ホグワーツは、助けを求めるものを決して見捨てはせん」

ルシウス「なるほど。ではその信念が、次の犠牲者の発生を防ぐことを祈りましょう……
      ほら、森番。貴様もさっさっと歩け、アズカバンまでの道をな」

ハグリッド「……真実がしりたきゃ、蜘蛛を追え」

ルシウス「?」

ハグリッド「俺の田舎に伝わる格言だ。よし、今いく……それと誰かファングに餌を。これも格言だ」

バタン

ロン「ダンブルドアが停職!? もう明日から怪物の天下じゃないか!」

ハリー「ハグリッド……蜘蛛を追え、か」


◇◇◇

グリフィンドール 女子寮


マミ(じゃあ、怪物の正体は?)

マミ(分かってるのは、蛇であること。被害者がみんな、石にされてること――)

マミ(これだけ分かれば、図書室で調べられるかも。明日、行ってみましょう)


378 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:54:01.36 UZrS1Tgo0 234/755



翌日 夜 禁じられた森 奥地


シャキンシャキン! アラゴグ! アラゴグ!

ロン「いーち、にーぃ、さーん――あはは、数えきれないや」ガクガク

ハリー「いっぱい、でいいだろう。もう見渡す限り、馬みたいな大きさの蜘蛛だらけなんだから……」

ロン「ああもうハグリッドの奴! 何が蜘蛛を追え、だ! 追ってみたらとんでもないことに――」

アラゴグ「――ハグリッド、と言ったのか?」

ハリー「一番でっかい蜘蛛が……」

ロン「喋った……!」


◇◇◇


図書室 


マミ「さーて、何から調べようかしら……門限は事件のせいで短いから、厳選して調べないとすぐに時間がくるわ」

マミ「といっても、魔法生物の棚だけでいくつあるのかしら……気が遠くなってくるわね」


 コトン


マミ「……? 本が、落ちた? でも……誰も、いないわよね?」

マミ「……変なの。一応、元の場所に戻して――え? これって……」

379 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:55:31.26 UZrS1Tgo0 235/755



禁じられた森


アラゴグ「わしはハグリッドの友人だ。ハグリッドの名誉を守る為、人を襲ったことはない。
      50年前の被害者はトイレで発見されたが、わしは自分が生まれた物置以外の光景を知らん」

ハリー「じゃ、じゃああなたは"部屋"の怪物じゃないんですか――」

アラゴグ「わしではない! その生き物の話を、わしらはしない!
      それは太古から存在する生き物だ! わしら蜘蛛の天敵だ! その生物の名を、口にすることはない!」


◇◇◇



図書室 


マミ「"バジリスク"! 毒蛇の王! "その視線に捉われたものは即死する"!」

マミ(これよ――これだわ。これが秘密の部屋の怪物の正体!)

マミ「でも、誰も死んでは……いえ、この理由はいいわ」

マミ「何か弱点……弱点は……"雄鶏が時をつくる音"。そういえば、ハグリッドのニワトリが殺されて……
   ああ、でもそれじゃ、ホグワーツの周りに雄鶏はいないってこと?」

マミ「他にめぼしい記述は……ない、みたいね。兎に角、一歩前進だわ。次は、どうにかして継承者の正体を……」

ピンス「まだ残っていた生徒が! 門限ですよ! 早く寮にお帰りなさい!」

マミ「っ……また、明日来てみましょう」


380 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:56:00.27 UZrS1Tgo0 236/755



禁じられた森 外


ロン「はーはー……死ぬかと思った! 死ぬかと思ったよ!ハグリッドめ! なにが蜘蛛を追え、だ!
   野生化したパパの車が助けに来てくれなかったら、僕ら今頃蜘蛛の餌だったぞ!」

ハリー「アラゴグは自分の友達なら傷つけないと思ったんだよ」

ロン「無茶だろ! だってもうあからさまに『僕、人が主食でーす!』って怪物じゃないか!
    ああもう、踏んだり蹴ったりだよ! わざわざ退学になる危険まで冒して、分かったことってなに!?
    "禁じられた森には二度と入っちゃいけない"ってことだけだ!」

ハリー「もうひとつあるよ――ハグリッドは無実だった。リドルは間違っていたんだ」

ロン「でもそれって、リドルの日記から得た情報が当てにならなくなったってことだろ?
   じゃあ結局、一歩進んで一歩後退しただけじゃないか」

ハリー「……」

ロン「……いや、待てよ? アラゴグは死んだ女の子がどこで発見されたって言ってた?」

ハリー「……! もし、その女の子がゴーストになってたら……その場に、ずっと留まり続けたら……」

ロン・ハリー「「50年前の被害者って……嘆きのマートル!?」」


381 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:56:26.73 UZrS1Tgo0 237/755



数日後 朝 大広間


マクゴナガル「皆さんに、良い知らせがあります」


「ダンブルドアが戻って!?」「スリザリンの継承者がついに!?」「期末テストが中止に!?」


マクゴナガル「スプラウト先生曰く、とうとうマンドレイクが収穫できるそうです!
         今夜にも石にされた人を蘇生できるでしょう!」


「ほ、本当ですか!?」「それじゃあ犯人逮捕もすぐ!」「しかし彼らが可哀想だ。テストは延期にすべきでは?」


マミ(……あれから全然手がかりは見つけられてないけど。キュゥべえに手伝ってもらえば、きっと)

ロン「やったなハリー! あれからずっとマートルのとこにいくチャンスがなかったけど、もうどうでもいいや!
   ハーマイオニーがぜーんぶ教えてくれるよきっと! ああでも待てよ、テスト三日前って知ったら精神崩壊が先かな?」

ハリー「声が大きいよ、ロン。まあでも、誰も歓声上げるのに忙しくて聞いてないけどさ」

ジニー「あのぅ、ハリー……」

ハリー「あれ、ジニー。どうしたの?」

ロン「ん? おお、どうした我が妹! 食えよ、ほら。お兄ちゃんがとってやろう!」

ジニー「……あの、ね。あたし、言わなきゃいけないことがあって……」

ロン「……飯を食いながら、って話でもなさそうだな。言えよ」

ジニー「……」

ハリー「もしかして……秘密の部屋に関すること? なにか、見たの? 教えて。絶対悪いようにはしないから」コソッ


ジニー「……! あの! あたし、秘密の!」


パーシー「秘密が――なんだって?」

382 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:57:29.52 UZrS1Tgo0 238/755



ジニー「あ、あ、な、なんでもない! ごちそうさま!」

パーシー「ん? 走ると危ないよ、ジニー。はあ、やれやれ。腹ペコだ……」

ロン「おい! いまジニーが大切なことを話す途中だったんだぞ!」

パーシー「へえ、じゃあ後で僕が相談に乗ろうかな。どんなこと?」

ハリー「確か、秘密の何かを見たとか、どうとか――」

パーシー「ブーッ!」

ロン「うわ! 汚いな! おい監督生!」

パーシー「ごほっごほっ! ごめん……あー、でも、だね。いや、分かった。ジニーの相談には僕が乗ろう。
      ハリー、そこの皿を取ってくれ」

ハリー「ああ、うん……?」


383 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:57:56.82 UZrS1Tgo0 239/755



廊下 ロックハート引率中


ロックハート「つまりですね、私は全て御見通しでした。ええ、もう犠牲者は出ません。それが重要です。
        正直、副校長がなぜこのような警戒態勢を続けるのか理解できませんね」

ハリー「その通りです先生!」

ロン「!? おいどうした。気でも狂ったか! だ、誰かマダム・ポンフリーを呼んでくれ――痛い! 足を踏むなよハリー!」

ロックハート「ありがとう、ハリー。この様な引率、無駄ですよ。もっと教育のために有意義に時間を使いたいものです」

ハリー「いや、実に全くその通り。じゃあ先生、引率はここまででどうでしょう。もう廊下をひとつ渡るだけですし」

ロックハート「ナイスアイデーア! いや、実は私もそう思っていたのです。ではこれにて失礼。
        大丈夫! 不安がることはありません! 危機は去ったのですから!」スタスタ

ロン「ははーん。なるほど、これが狙いか。てっきり君にハーマイオニーが乗り移ったのかと。
    で、どこに行くんだい?」

ハリー「マートルのところ。明日になれば全部分かるっていうけど、機会を逃す手はないだろ?」


マミ「……」スッ

384 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:58:28.63 UZrS1Tgo0 240/755


廊下


マクゴナガル「なるほど……つまり貴方がたはこういうのですね?
         授業をさぼり、医務室に忍び込み、グレンジャーのお見舞いに行こうとした、と」

ロン(うわー……まさかマクゴナガル先生に捕まるなんて。最悪だ。退学も有り得るレベルだよこれ)

ハリー「そうなんです! 僕たち、ハーマイオニーに長いことあってないし、
     マンドレイクが取れるから、もう心配しないでって言いに行こうと……!」

ロン(しかもなんだい、その三文芝居。そんなんで、あのマクゴナガル先生が……)

マクゴナガル「そうでしょうとも……! 襲われた人たちの友達が、一番つらい思いをしてきたでしょう!
         私が許可します! 授業欠席とお見舞いの許可を!」

ロン(マジかよ)

ハリー(やっておいて何だけど、成功するなんて思ってなかった)

ハリー「じゃあ、先生。僕たちは、これで――」

マクゴナガル「無論、医務室までは私が同行します。よろしいですね」

ハリー・ロン「「え゛」」


◇◇◇


女子トイレ


 ジャーッ


マミ(助かったわ……まさかロックハート先生にトイレなんて言えないし……)

マミ(ちょっと遅刻しちゃったけど、トイレ行ってましたって言えば許してもらえるわよね……?)

マミ「急ぎましょう、えーと、魔法史の教室はここを曲がればすぐ……」


『ジネブラ・モリー・ウィーズリー。彼女の白骨は、永遠に秘密の部屋の一部となるだろう』


マミ「……え?」


385 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:58:55.44 UZrS1Tgo0 241/755


医務室


ポンフリー「はあ、マクゴナガル先生が許可を? ならいいですが……石になった人に話しかけてもどうにもならないでしょうに」



ハーマイオニー「」

ロン「まさしくその通りだ。やあハーマイオニー! 心配するな、もうすぐ動けるようになるよ――おっと、これは枕か。
   喋らないし動かないからから区別がつかなかった……はぁ。ハーマイオニー、早く起きないかなぁ」

ハリー「……そういえば、ハーマイオニーは鏡を持ってたって言ってたよね。あれってどういう……?」

ロン「知るもんか。まあ明日になったら教えて貰えるけど……ん? ハリー。彼女、まだなんか持ってる」

ハリー「紙切れかな? よっ……と、取れた。えーと、何々……」


◇◇◇


マミ(これは、どういうこと……?)

マミ(壁一面に、文字が……ジニーさんが、秘密の部屋に誘拐された? なんで!? 彼女は純血でしょ!?)

マミ(……いえ、理由はともかく、一刻を争うわ――マンドレイク薬を待ってなんていられない)

カツカツカツ

マミ(! 誰か来た。先生よね、この時間だもの……逃げましょう。
   図書室に――早く、すぐに秘密の部屋の入り方を見つけないと――)タタタタッ


マクゴナガル「ぐすっ、私の寮は本当に友達想いの生徒でいっぱいです――……ん、壁に文字が……っ!
         ああ、なんてことでしょう……!」



386 : >>1[saga] - 2013/03/09 14:59:39.28 UZrS1Tgo0 242/755



職員室


ハリー「怪物の正体はバジリスク! 巨大な毒蛇だ! それで僕にしか声が聞こえなかったんだ!」

ロン「みんなが死ななかったのは、目を直接見てないから。ミセス・ノリスとキュゥべえは水に映った目を。
   ジャスティンはニック越しに。ニックはゴーストだから、二度は死ねない……
   答えに気付いたハーマイオニー達は、廊下の先を手鏡で確認しながら進んだに違いない!」

ハリー・ロン「「そういうわけなんです、先生!」」


シ~ン


ロン「で、僕らが真相を伝えに来たのに、誰もいないってのはどういうわけ?
   もうとっくにベルが鳴る筈だろ?」

ハリー「さあ……」


マクゴナガル『生徒は全員、速やかに寮に戻りなさい! 教師は職員室へ、大至急お集まりください!』


ロン「うわ、びっくりした! なんだ、何か起こったのか?」

ハリー「……よし、隠れて話を聞こう。話すのはそれからだ。ほら、そこのロッカーに入って」


◇◇◇



図書室


マクゴナガル『生徒は全員、速やかに寮に戻りなさい! 教師は職員室へ、大至急お集まりください!』


ピンス「!? なにかあったんですかね……?」スタスタスタ

マミ「……行ったわね。よ~し、片っ端から本を開いていくわよ……!」

387 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:00:16.47 UZrS1Tgo0 243/755


職員室


マクゴナガル「……連れ去られた生徒の名は、ジニー・ウィーズリーです」


ハリー「……ロン」

ロン「やあハリー。どうやら僕の耳がおかしくなったらしいぞ! これもロックハートのせいだね。
   あいつの授業、前々から耳に有害だと思ってたんだ。君もそう思うだろ?」

ハリー「ロン」

ロン「なあ、僕の聞き間違いだろ? そうなんだろ? 頼むから、そうといってくれよ……」

マクゴナガル「全校生徒は、明日にでも全員帰宅させます。ホグワーツは、これで……」


 ばたん!


ロン「! ダンブルドアが帰ってきたのかな!?」

ロックハート「やあやあすいません。ついウトウトと――いや怪物捜索に必死で!」


「……アバダ」「待て。ここは磔呪文が正しい」「いや、服従の呪文で人に言えないような恥ずかしい恰好で……」


スネイプ「おやおや――怪物の捜索とは。まったく、情報が早いことですな?」

ロックハート「いやあははは。それほどでも――え、早い? 何がです?」

388 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:00:43.73 UZrS1Tgo0 244/755


◇◇◇


図書室


マミ「……これも! これも! これも! もう! なんでないのよ! ここは図書室でしょ!?」

マミ「ジニーさんが死んじゃうかもしれないのよ!? なのに、何で……!」

マミ「……こ、こうなったらもう、使えない図書館に用はないわ!
   確かこの辺の壁にもマートルのトイレに続くパイプがあった筈!
   片っ端から爆破して、秘密の部屋に続いてないか確かめてやるんだから!」スッ


ことん ことん ことん


マミ「っ!? また、前みたいに本が落ちて……? 誰かいるの!?」


し~ん


マミ「……いない、わよね。じゃあ、この本はいったい……?」スッ


『黒幕は、トム・マールヴォロ・リドル。その記憶が封じられた日記』


マミ「……なに、これ。こっちの、本は……」スッ


『秘密の部屋の入り口は、マートル・ヘンダーソンが死んだ三階の女子トイレの手洗い台。』



マミ「……こっち」


『開くために必要なのは合言葉。蛇の言葉で"開け"と唱えよ』


マミ(……これは、どういうこと? 誰がこんなことを?)

マミ(継承者の罠? ……ううん。疑ってる時間も惜しい!)

マミ「……パーセルマウス。ハリーくんなら、秘密の部屋に行けるわ」ダッ

389 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:01:10.48 UZrS1Tgo0 245/755


職員室


スネイプ「さあ、あなたの出番ですよロックハート教授?」

スプラウト「我々教師一同、心から応援していますわ」

フリットウィック「無論、我々は足手まといでしょうから、ついてはいけませんが――」

スネイプ「なに、完全無敵のギルデロイ・ロックハートだ。単身で怪物退治くらいこなすだろう」

フリットウィック「いやはやまったく! そういえば昨晩もそんなことをいっていました!」

ロックハート「いや、あのですね。は、は。でも、だって」

マクゴナガル「なるほど……貴方の気持ちはよくわかりました」

ロックハート「わかっていただけます?」

マクゴナガル「ええ――オーキデウス!(花よ)」

ポンッ

マクゴナガル「はい、どうぞ。リコリスとフローリス・デイジーです。こんなものしか出立する英雄に手向けられませんが……」

ロックハート「え、は、どうも。え、本気で?」

マクゴナガル「どうぞ、行ってらっしゃいギルデロイ。絶対に、私達はあなたの邪魔はしませんから」

ロックハート「あ、ははは、は。みなさん、目がマジでいらっしゃる……へ、部屋に戻って準備をしてきます」

バタン

マクゴナガル「これで厄介者は消えました。さて、これからのことを詰めましょう」



◇◇◇


グリフィンドール 談話室


バタン!


マミ「……!」キョロキョロ

ネビル「マミ! どこに行ってたの、心配したんだよ――」

マミ「ハリーくんは?」

ネビル「え?」

マミ「ハリーくんはどこかって聞いたの! どこ!」

ネビル「え、あ、し、知らない。知らないよ! ハリーとロンも、魔法史の授業をさぼったんだ……」

マミ「っ、肝心な時に――って、私も人のこと言えないわね……部屋に戻るわ。
   ごめんね、ネビル。頭に血が上っちゃって」

ネビル「あ、ううん。別にいいけど……マミも、色々あって大変だろうし」

390 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:01:52.15 UZrS1Tgo0 246/755


グリフィンドール女子寮


マミ「……時間が、時間がないのに! ハリーくん、早く戻ってきて……」

マミ「……いえ、待って。別にハリーくんじゃなくても、蛇語を話せる人がいれば……」

マミ「スリザリンにひとりくらいいないかしら――ああでも駄目ね。どっちにしても他の寮には入れないし」

マミ「もう! なんでこの指輪、あのゲルゲルムントゾウムシの言葉は分かったのに、蛇語は分からないのよ!」


ことん


マミ「……私のカバンから、本が落ちた? また? もしかして――!」バッ


『合言葉は、MDの中』


マミ「MD? 私の、MDプレイヤー? でもこれ、壊れて――」カチッ


ザッ、ザザザ――ブツッ


『……にしてもこれ、本当に壊れちゃったのかしら? このっ、このっ』

『アリバイ工作って……そんなことしなくても、あの熱狂具合じゃ誰がいなかろうが気づかないと思うけど』

『……こ、細かいことはいいでしょ、もうっ。さあ、調査開始よ!
 マートルさんもどっか行っちゃってるし、この隙にぱぱっとやちゃいましょ』

『うん、そうだね。じゃあまずは開錠呪文から……』




マミ「私と、キュゥべえの声? ……これ、あの日。私が襲われた時の!
   でも、壊れてたはずなのに、なんで――?」





『急ぎましょうか。さすがに4秒ってことはないだろうけど……』


『……シューッ!』


『? キュゥべえ、いま何か言った?』

『? いや? でも、僕にも聞こえたよ。空気が漏れるみたいな音だろう?
 扉の外――廊下から聞こえたように思うけど』




マミ「これ! この蛇語が、最初に聞こえた蛇語よ! じゃあきっとこれが秘密の部屋の入り口のカギ……」

マミ「……すぐに行きましょう! ジニーさん! 絶対に助けてあげるから!」ガチャッ


ことん


マミ「……また? でも、もう何も知りたいことは……」




『貴女が頼るべき人物と、その人物に掛けるべき言葉は――』




マミ「……え?」

391 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:02:35.21 UZrS1Tgo0 247/755


グリフィンドール談話室


ネビル「あ、ハリー。さっきマミが探してたよ」

ハリー「……ふうん。で、そのマミは?」

ネビル「あれ? おかしいな、さっきまでいたんだけど……トイレかな?」

ハリー「じゃあ悪いけど、少し僕らを放っておいてくれ――きっと大した用じゃないさ」

ロン「……」

ネビル「ああ、うん……今、大変だもんね」チラッ



ジョージ「くそっ、見つからない――せめて、連れ込まれる前だったら――」

フレッド「……たられば言ってても仕方ないだろ……いたずら完了……くそ、何が完了だ」

パーシー「……父さん達には手紙を送った……すまない、僕は部屋にもどる……」



ロン「……ジニーは何か知ってたんだ。くそ、あの時ちゃんと話を聞いてたら!
   ハリー、なあ、僕はどうすればいい? 今からでも何かできることってあるか?」

ハリー「……ロックハートに会いに行こうか。あいつも、秘密の部屋を探さなきゃいけないだろうし」


◇◇◇


廊下


マミ「ロックハート先生」

ロックハート「ああ、マミか。どうしたんだい? ファンは大事にしたいんだが、いまはちょっと忙しくてね」

マミ「荷造りのですか?」

ロックハート「へ?」

マミ「隙あり。ステューピファイ!(麻痺せよ)」バシュッ

ロックハート「へぶっ!?」バタン

マミ「初めて使ったにしては上出来ね……こういう呪文ばっかり得意っていうのはアレだけど。
   さて、と。頼りにしてますからね、ロックハート先生……」


ずりずりずりずり.....

392 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:03:27.15 UZrS1Tgo0 248/755


ロックハートの部屋



ハリー「あれ、いない? 何処にいったんだロックハート」

ロン「逃げた……訳じゃなさそうだな。荷物もそのまま残ってるし。案外真面目に探してるのか?」

ハリー「見つけたところで何ができるのか疑問だけど……ロックハートを探そう。
     どっちにしても、入り口は蛇語を使わなきゃ開けられないんだ……」


◇◇◇


マートルのトイレ


『……シューッ!(開け)』


ガコン ギギギギ…


マミ「流し台が沈んで、太いパイプが剥き出しに……これが秘密の部屋の入口ってわけね」

マートル「へえ、これこんな風になってたんだ。あたしを殺した奴もこの下にいるの?」

マミ「ええ、多分ね。心配してくれるの?」

マートル「あんたが死んでゴーストになったら、私の隣りのトイレに住まわせやってもいいわ。
      同じトイレは、もう予約があるから駄目だけど」

マミ「ふふ、大丈夫よ。ロックハート先生がいるもの」

マートル「頼りになるの、これ?」

ロックハート「」

マミ「さて、ロックハート先生をパイプに押し込まないと……うぃん・が~でぃあむ――」

ロックハート「」

マミ「……失敗して燃えたりしたら嫌ね。別のにしましょう。リクタスセンプラ!(宙を舞え)」バシュッ


  ぴゅうぅうううん……がしゃこん! ずざざざざざ――……


マートル「ナイスシュート」

マミ「どうも。じゃあ、私もちょっと行ってくるわね!」ピョイッ


393 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:04:19.38 UZrS1Tgo0 249/755


秘密の部屋



『……シューッ!(開け)』


ギィィイイイイイイ……


マミ「細長い部屋が、向こうに伸びてる……そして、突き当りに大きい像。何メートルあるのかしら?」

ロックハート「あのう、本当に大丈夫なんですかね?
        途中にあった抜け殻、あれ、一目じゃ大きさが分からいくらい大きかったんですが……」

マミ「大丈夫かって? そんなの、私が知るわけないじゃないですか」

ロックハート「そんな無責任な! マミ! 貴女が私をここに連れてきたんじゃありませんか!」

マミ「本当、私は何をしてるんだろう……こんな、伝説の秘密の部屋にまで来ちゃって……。
   ……でも、不思議とあの本のことは信用できるのよね。理屈じゃないけど……」

マミ(なんていうのかしら。凄い馴染みのある気配、とでもいうのかしら。
   知らない筈なのに、長い間ずっと一緒にいたような……)

ロックハート「あー! おしまいだー! 私の人生ここでエンドだ!
        いやだー! もっとやりたいことあったのに! うわあああああ!」

???「やれやれ、全く騒がしいことだ」

ロックハート「ひっ、お化け!?」

マミ「……っ、現れたわねトム・リドル!」

394 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:05:04.28 UZrS1Tgo0 250/755


トム「おや、無様に喚いているにしては、僕が何者かを知っている……
   ふむ。まるで何も知らずにここに来たというわけでもないらしい」

マミ「あなたのやってることは、全部お見通しよ! さあ、その足元にいるジニーさんを返しなさい!
   その後で、キュゥべえとハーマイオニーさん、ミセス・ノリス。そしてその他諸々の仇を取らせてもらうわ!」

ジニー「……」

トム「キュゥべえ……なるほど、君はマミ・トモエというわけか」

マミ「ジニーさんから聞いたのね……」

トム「その通り。なるほど、日記のシステムも理解しているのか。
   そうだ、この小さな女の子は僕の日記に心を打ち明け、僕に魂を注ぎ込んだ。
   大半はハリー・ポッターのことだったがね。まあでも、君を襲った日には流石に君のことを書いていたけど」

マミ「襲った? 襲わせたの間違いでしょ?」

トム「半々、といったところかな。ジニーの心に、打倒継承者に燃える君を恐れる気持ちがあったのは確かだ。
   『トム、マミが犯人を捕まえるって言ってるの。ねえ、もしもやっぱり私が犯人だったらどうしよう?』
   だから僕は教えてあげた。消せばいいんだ、ってね」

マミ「残念ね。この通りぴんぴんしてるわ」

トム「確かに。僕からも質問しよう。あの君の傍にいたあの猫は何だ?
   ただの猫かとおもったが、強く、そして異質な魔法の力を秘めている……おかげで君どころか、猫まで殺し損ねた」

マミ「キュゥべえにそんな力が……?」


395 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:05:50.79 UZrS1Tgo0 251/755


トム「知らないのか。まあ、いい。どの道、君らは前座に過ぎない。主賓が来るまでの暇つぶしだ」

マミ「主賓?」

トム「ハリー・ポッターさ。ここ数ヶ月、つまり彼が初めて僕に書き込んだ日から、僕は彼を狙っていた。
   穢れた血以上に殺しがいのある獲物だ。なにせ、この偉大なるヴォルデモート卿を打ち破ったのだから!」

マミ「この? ヴォルデモートとあなたに何の関係が……」

トム「まだ分からないのかい? 頭の血の巡りがいいのか悪いのか……」スイッ


Tom Marvolo Riddle


トム「汚らわしいマグルの名前など、僕は使わない」スッ


I am Lord Vordemort



マミ「! そういうこと、ね。いい趣味してるわ。未来のヴォルデモート卿」

トム「素直に褒め言葉と受け取っておくよ。さて、前菜の君をそろそろいただくとしようか。
   蛇はハリーに取っておく。穢れた血である君は、僕が直々に杖でお相手しよう。
   未だ本調子ではないが、君相手ならそれで十分だろう」スッ

マミ「ジニーさんの魂に、ジニーさんの杖。借り物だらけの存在で、よくも偉そうに。
   そりゃあ脅迫状なんていう卑怯な手段にでるのもわかるわ」

トム「? 何を言って――いや、いい。さあ、杖を構え、おじぎをしたまえ。
   決闘の作法は学んだのだろう?」

マミ「ふん――残念ね。あなたの相手は、私じゃないわ」

トム「なに?」

マミ「さあ、出番です! ロックハート先生!」バッ


ロックハート「開かない! 開かないぃぃいいいい! 来た時は開いたのに! 開けてぇええええええ!」ガンガンガン


トム「……あの、無様に逃げようとしている男か?」

マミ「せ、先生!? なにを逃げようとしてるんですか!」

ロックハート「だって死んじゃいますよ! あの闇の帝王ですよ!? 例のあの人になんか勝てるわけないぃ!」

マミ「先生なら勝てます! ほら、相手は16歳の若造ですよ!」

ロックハート「さっき私はそれより年下の君に気絶させられたんですが!? いやぁ、死ぬのいやあああああ!」

マミ「それはほら、不意打ちだったからですよ! きちんと真正面からやれば勝てます!」

トム「……茶番もここまでくると笑えないな」

396 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:07:16.74 UZrS1Tgo0 252/755


マミ「どの道、ここまで来ちゃったら逃がしてくれませんよ、きっと。ほら、腹を括って」

ロックハート「ひぐっ、うぐっ」

マミ「はい、先生の杖です。ほら、しっかり握って……」

ロックハート「う、ううううううう! な、何でもするので、み、見逃してくれたりは……」

トム「君のような、魔法使いの面汚しのスクイブを僕が見逃すと思うのかい?」

マミ「スク、イブ?」

トム「そうだ。ジニーも書き込んでたさ。その男の授業の酷さについて。
   君は気づいてなかったのか? まさか、本の内容が本当だとでも?
   確かにリアリティはあったが、それだけだよ。どうみても内容と、その男の実力が釣り合っていない」

マミ「……」

ロックハート「……あ、あの? ひとつだけ、いいでございましょうか?」

トム「なんだ?」

ロックハート「いや、は、は。あの本の内容は、嘘なんかじゃないんですよ。
        ただ、その、ちょっとばかり、その功績を私がいただいているというわけでして……」

トム「……く、ははは! 聞いたかい? 君の頼りにしていた男は、ただの詐欺師だったというわけだ!」

ロックハート「……」

マミ「……そんな」

トム「さあ、お遊びはここまでだ。まずはそこのスクイブを殺し、そしてその次は君だ」

マミ「そんな、そんな――そんなこと、もう知ってるわよ」

397 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:07:47.54 UZrS1Tgo0 253/755



トム「なんだと?」

ロックハート「詐欺行為をばらすぞ、って脅されてここまで連れてこられたんですよ、私は!
        こうして抜き差しならぬ状況になるまで杖まで取り上げられて、なんて可哀想な私!」

マミ「まあ、正確にはここにくる直前に知ったんですけどね。
   ちなみに掛けた言葉は"バンドンの泣き妖怪を追い払った魔女は兎口だったらしいですね?"です」

トム「……意図が、分からないな。なぜ、わざわざこのスクイブを連れてきた」

マミ「あら、まだ分からないんですか? もう私達、ヒントは十分あげたのに」

トム「……もはや問答をする気も失せた。その体に聞くまでだ――」

マミ「先生!」

ロックハート「ぅ……」

398 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:08:35.74 UZrS1Tgo0 254/755



 ――忘却術、という呪文がある。

 それは人の記憶を自在に消す呪文。練達者が用いれば、記憶を操作するような真似も可能となる。

 マグルに自身の存在を秘匿している魔法使いにとって有用な呪文。だが、同時にそれは非常に高度な呪文でもあった。

 一度掛けた忘却術も、ふとした拍子に解けてしまうことがある。

 修正された記憶に違和感を覚える場所に被術者を置き続ければ、
 例えそれが魔法に対する抵抗の低いマグルだとしても、専門の部署の魔法使いが日に十数回は掛け直さねばならない。


 ――あるところに、ギルデロイ・ロックハートという詐欺師がいる。

 彼はほとんどスクイブだった。魔法の才能に恵まれず、ただ、スターになりたいという分不相応な夢を抱いていた。

 顔が良いだけの魔法使いなど、さほど売れるものでもない。だから彼は詐欺に手を出した。

 手法は単純。

 あまり世間に知られていない、偉業を成し遂げた魔法使い達を探し出し、仕事の手順を聞き出し、最後に忘却術を掛けて、手柄を自分のものにする。

 手法は単純――だが、簡単ではない。

 本にするには、つまらない仕事では売れない。誰もが感心する、一流の仕事でなければ。

 だから彼は探し出した。一流の魔法戦士を。一流の魔女を。

 そして――その一流の彼らに忘却術を、しかも二度と思い出せないレベルで掛けた。

 ギルデロイ・ロックハートは詐欺師である。魔法の腕は三流以下だろう。

 だがスターに固執する執念と、その執念を支える忘却術に関してだけは、彼は超一流だった。


399 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:10:18.73 UZrS1Tgo0 255/755


トム「クルー――」

 トムが呪文を唱えだす。それを見てから、ロックハートは杖を抜いた。

 その動きはあまりにも滑らか。あの決闘クラブの夜の無様さが嘘のよう。

 ロックハートの心に焦りはない。何故なら、先に動きだしたトム・リドルよりも自分の方が速いと分かったからだ。

 それは、いつもこなす"仕事"のように。

 杖が複雑な軌道を一瞬で描き切り、呪文を生み出す舌は刹那より短い時間で回りきる。

ロックハート「オブリビエイト(忘れよ)」

 鋭い閃光が、トムの胸を射抜く。途端、トムの顔が驚愕に歪み、

トム「――!? 馬鹿、な――!」

 その体が、急速に薄れ始めた。

マミ「知ってるわよ。あなたはトムの"記憶"でしかない。忘却術は、記憶を消す魔法。あなたにはよく効くでしょう?」

トム「あ――消える――消えてしまう――この僕が、スクイブなんかに――?」

マミ「ああ、そうそう。言い忘れてたわ。さっき、あなたがその言葉を言った時、私、言い返そうと思ってたことがあるの」


マミ「――馬鹿にしないでちょうだい。私みたいな劣等生だって一生懸命なんだし、ひとつくらいいいところがあるんだから」


400 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:10:55.12 UZrS1Tgo0 256/755


ロックハート「あ、ははは、勝った? 僕が、闇の帝王に? 例のあの人に勝った?」

マミ「そうですよ、ロックハート先生! 先生の勝ちです!」

ロックハート「え、や、はは! 当然です。あの……当然の、これ、当然です!」

マミ「先生?」

ロックハート「……ごほん! はははは、やりました! 私がスターです! あのハリー・ポッターを超えた!
        御覧なさい、傷一つ負わずに完全勝利です!
        マミ、いまなら特別に、新生・ギルデロイ・ロックハートのサインをあげましょう!」

ぺしっ

マミ「触らないでください、詐欺師さん」

ロックハート「……え?」

マミ「え、じゃないです! 詐欺師――詐欺師って! 酷いじゃない! 騙してたんですね!?」

ロックハート「え、あー、それは、まあ。でも、ほら。私みたいな劣等生も、一生懸命ですし?」

マミ「それとこれとは話が別です! 外に出たら、きちんと騙した人に謝らなきゃ駄目ですよ!?」

ロックハート「む、むむむ――ええい! 新生・ロックハートの門出を邪魔されると困ります!
        ちょっと記憶を失ってください! オブリビエイ――あれ、私の杖は?」

マミ「さっき、ぺしってやった時に奪っておきました」クルクル

ロックハート「そんな! じゃあ私のスター街道爆走譚は!?」

マミ「ないです」

ロックハート「うわああああああ! なんで私はこんなとこまでえええええええええ!」


ザザッ!


マミ「? あれ、ちょっと静かにしてくれませんか?」

ロックハート「はあ! 何でですか静かにしたら杖を返してくれますか!?」

マミ「いえ、いま、ラジオのノイズみたいな音が――」






トム「僕を――コケに――したな――!」ザッザッ、ザ―


401 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:11:36.89 UZrS1Tgo0 257/755


マミ「! トム・リドル!? まだ生きてたの!?」

ロックハート「あわわわわ」

トム「消えゆく――途中さ――だけどね――」


トム「――闇の帝王がてめえらスクイブに一方的に良いようにされるなんて、有り得ちゃいけないんだよぉ!」


マミ「……っ、せ、先生、もう一度忘却術を!」

ロックハート「は、はい――って、マミ! 私の杖は貴女が!」


トム「させるワキャ、ねエダロォオオオオォォオオオオ!」

トム『スリザリンよ! ホグワーツ四強で最強の者よ! 我と話せ!』シューシュー!


 ガコン。シュルシュルシュル……


マミ「像の口から、何か出てきて……」

ロックハート「ひいいいい! なんですかあれ! 聞いてない、私は聞いてないですよ!?」

マミ「バジリスクです。目を見たら死にます!」

ロックハート「聞かなきゃよかったぁああああああああああああああああああ!」

トム「ひゃあああはっはっは! 僕も死ぬが、お前たちも死ね!
   この僕の敗北を知る者がいなくなれば、この屈辱はなかったことになる!」

トム『さあ――バジリスクよ、奴らを殺せ! その後は、ホグワーツの穢れた血どもを皆殺しにしろ!』シュー!

トム「は、は、は。お前らを殺すように命令した。お前らに命令は取り消せない――……」シュゥゥゥゥ

マミ「消えた……可哀想な、人……」

ロックハート「マミぃぃいいい! 来てます! これ絶対来てます! 目ぇつぶってるから分かりませんけど!」

バジリスク『シャアアアアアアアアア!』

マミ「……逃げましょう!」ダッ

402 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:12:34.07 UZrS1Tgo0 258/755



ロックハート「マミ! 私の杖! 杖! 杖プリーズ! 緊急事態でしょうさすがに!」

マミ「あれに忘却術が通用すると思いますか!? 私達の使える呪文なんて絶対弾き返されますよ!
   それよりも、いまは少しでも距離を稼いで……あいたっ!? 何かにぶつかった!?」

ロックハート「そうです! そういえばこの部屋と外を繋ぐ扉は閉まってるんでした!」

マミ「目を瞑ってたからわからなかったわ……!」

ロックハート「マミ! 早く! あの"えむでーふらいやー"とかいうマグルの道具で扉を!」

マミ「えっと、蛇語――蛇語――これだっけ!?」カチッ


『ふーんふーんふふふーん……♪』


マミ「おっさんの鼻歌が入ってる!? こんなの入れた覚えないんだけど――」

ロックハート「マミ!? 遊んでいる場合じゃないでしょう!?」

マミ「だって目を瞑ってるから……!」

ロックハート「じゃあもう杖を返してくださいよ! せめてこの蛇がいるってことを忘れて安らかにへぶらっ!」

マミ「ロックハート先生!? いったい何」

 ヒュン! ベシ!

マミ(尻尾――!?)
  「きゃぁああああああああ――……!」


403 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:13:15.35 UZrS1Tgo0 259/755


マミ「う、うう……良かった、生きてる……体も、あちこち痛いけど、動く……MDウォークマンは……?」

 カチャッ、ポロッ

マミ「あ、ははは。見事に粉々……」

シャアアアアア……!

マミ「見えないけど、かんっぺき目の前にいるわね、これ……
   どうしよう、目が合わなかったら、毒の牙で噛み付くとか本に書いてあったような……」

シャアアアアアアア! ズルッ ズルッ

マミ「近づいて、きてる……痛いのは、やだな……」

シャァァアアアアアーーーーーーー!

マミ「お父さん、お母さん、マクゴナガル先生。キュゥべえ、グレンジャーさん……ごめんなさい……」






ハリー『……手を出すな、去れ!』シューッ シュッー!

404 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:13:42.91 UZrS1Tgo0 260/755



マミ(う……ううん? ここは……? なんだか、温かい……)

ロン「ん? あ、ハリー。起きたみたいだよ」

ハリー「マミ、大丈夫? いったんおろすね」

マミ「あ……私、ハリーくんに背負われて……? 他の人、ジニーさんとロックハート先生は……?」

ロン「ロックハートはローブを裂いて作った紐を使って、僕とハリーで引っ張ってる。
   で、ジニーは僕の背中さ」

ロックハート「」

ジニー「Zzzzz...」

ロン「ジニーは泣き疲れて眠っちゃった。大体の事情は聴いたよ。僕の妹を助けてくれて、ありがとう」

ハリー「体の具合はどう? どこか痛いとこない? 見た感じ、骨は折れてないみたいだけど」

マミ「平気。もう歩けるわ……私、なんで生きてるの? だって、バジリスクに襲われた筈――」

ロン「間一髪だったよ。なあ、ハリー?」

ハリー「うん。ぎりぎりだった。あと一秒遅ければ、制止も間に合わなかっただろうし。
     ああ、バジリスクには『もう誰が何しようが目を開くな攻撃するな動くな抵抗するな』って命令してきたよ」

ロン「ありゃあ、餓死するまで動かないね。何百年後かしらないけどさ」

マミ「命令……そうか、ハリーくんも蛇語使えるんだもんね。トムが消えたから、新しく命令できるように……」

ハリー「トムか……そういえば、一応拾ってきたんだけどこの日記帳はもう大丈夫なの?」

マミ「ええ……でも、詳しく話すと長くなるわ……私自身も、まだよくわからないところがあるし……」

ロン「僕らもロックハートを探して学校中走り回ったからくたくたさ。話はあとで聞こうか?」

マミ「ロックハート先生を? なんで? ……でも、そうね。後ででいいわよね」

ハリー「いや、ちょっとここで座って話そうか?」

ロン・マミ「「なんで?」」

ハリー「……あれを見てよ」


パイプ


ロン「……あー。なんかマートル曰く、マミが先に降りたっていうもんだから、後先考えず滑り降りちゃったけど……」

マミ「何百メートル――下手したら何キロってレベルだものね。私も、帰る時のことはなにも考えてなかったし……」

ハリー「休憩しよう……くたくただ」

405 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:14:11.53 UZrS1Tgo0 261/755



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ハリー「そっか……マミはそういう風に行動してたのか」

マミ「なんだか、すれ違ってばっかりだったみたいね、私達」

ロン「お互い、気を遣い過ぎたんだよなぁ。
   じゃなきゃ、もっと早く、スマートに解決できたはずさ」

ハリー「来学期は、もう隠し事はなしでいようね?」

マミ「ふふ。そうね、変に遠慮しないのが、友達っていうものかもね」

ロン「あははは。じゃあ、遠慮せずいうけど……」


パイプ


ロン「誰か何とかしてくれ。もう腹ペコで喉乾いて死ぬ……」

ハリー「あれからどのくらい経った……?」

マミ「まだ、そんなに何時間も経ってない筈よ……ジニーさんも目を覚まさないし」

ジニー「Zzzzz....」

ロン「彼らは学校を守りました。そして事件を解決した英雄たちは、お礼も受け取らず何処かへと去って行ったのです――」

ハリー「やめてくれ! 縁起でもない!」

マミ「そんなの絶対おかしいわ!」

ロン「真面目にこのエンディングが近づいてきている気がする……もう僕、そこら辺の苔とかむしゃむしゃ食べそうだよ?」



406 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:14:37.80 UZrS1Tgo0 262/755


不死鳥「――♪」

ロン「ん? なんだあれ? 音楽みたいな鳴き声に、真っ赤な翼、金色の尾羽……」

ハリー「不死鳥だ。フォークス! ダンブルドアのペットだよ!」

ロン「ってことは、助けか! さすがダンブルドア!」

マミ「よかった、助かったわ……」


ロックハート「うん? ううん? ここは……?」


ロン「あ、ロックハートも目を覚ましやがった。こいつ、タイミングいいなぁ」

ハリー「ここはどこ? ときたもんだ。僕たちが引きずってきてやったのに。
     私は誰? とか言い出さないよね? 頭とか打ってなきゃいいけど」

マミ「うふふ……でも、ロックハート先生も頑張ったんだもの」

ロン「確かにね。記憶に過ぎない、しかも完全じゃないとはいえ例のあの人をやっつけたんだもの」

ハリー「うん。その点だけは、ほんと凄いよね」

マミ「本当に。詐欺師なんかやめて、きちんと特技を活かして働けばいいのに」

ロン「確かに詐欺師みたいな奴だけど、実力はあるんだもんなぁ。なんだろ、マミとは逆で実技以外はダメなタイプとか?」


407 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:15:26.47 UZrS1Tgo0 263/755


マミ「え? あれ? 話してなかった、かしら?」

ロン「聞いたよ? ロックハートがトムを忘却術でやっつけたんだろ?」

ハリー「あとは、マミと一緒にトムのとこまで行ったってことくらいしか……」

マミ「あー……疲れてて、重大な部分を話し損ねてたわね。まあいいわ、杖は取り上げてあるし――あれ、杖は?」

ロン「君の杖はそこにあるだろ?」

ハリー「ロックハートの杖は転がってたから、あいつのローブの中に入れといた」

マミ「え……?」チラッ

ロックハート「……」ニコッ

マミ「――! エクスペリ……!」バッ


ロックハート「オブリビエイト! 忘れよ!」ババッ


ハリー「え?」

ロン「は?」

マミ「ちょ」

ジニー「Zzzz.....ぅうん?」

不死鳥「♪?♪」


カッ!!!!!

408 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:16:19.26 UZrS1Tgo0 264/755


マクゴナガルの部屋


ロックハート「――確かにトム・リドルは強敵でした。私の人生において2番目に強かった敵といえるでしょう。 
        まだ年若いとはいえ、ジニーの魂を吸い、さらに強大になった例のあの人はね……」
    

モリー「ああ、ジニー!」ワッ

アーサー「大丈夫だよ、モリーや。ほら、ジニーは無事だろう?」

ジニー「Zzzzz.....」


ロックハート「……そう! しかし、私の慧眼は見抜いた!
        奴はただの記憶に過ぎない! 真に有効な呪文はさきほど私が使ったパトロナース・チャームではなく、
        忘却術! それが正解なのだと!」


マクゴナガル「……」

スネイプ「……」ギリッ


ロックハート「悲鳴を上げて消えるトム! 『嫌だ――死にたくない――何故選ばれし純血の僕が!』 そこで私は言ったのです!」


ロックハート『純血だとか、マグル生まれだとか、どうでもいいことだ。誰だって努力をしているし、長所はある!
        それを忘れ、私の生徒たちを恐怖のどん底に落としいれた貴様に、掛ける情けなどない!』キラーン


マミ「かっこいい! さすがロックハート先生! ああ、ハーマイオニーさんもここに呼びたいわ……!」ピョンピョン

ロン「ほんっとーに僕ら、こいつに助けられたの?」

ハリー「なーんか納得できないよね」


ロックハート「すると奴は哀れっぽい懇願をやめて本性を現しました!」


トム『ぐっげっげっげっげ! ならば貴様も道連れよ! 今世紀最高の魔法使いを殺せるなら、闇の魔法使いとして本望だわ!
   出でよ、我が下僕! 奴を八つ裂きにするのだ!』


ロックハート「そうして姿を現したのは――なんと、毒蛇の王! 怪物の中の怪物、バジリスク!
        そう、それが秘密の部屋の怪物の正体だったのです!」


409 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:18:43.96 UZrS1Tgo0 265/755


ロックハート「信じられないかもしれませんが、私は"目を瞑って"戦いました――
        敵の攻撃を地面の振動と風の動きで読み、牙の一撃をかろうじてよけ、そして――」


マミ「……」ゴクリ

モリー「……そして? そして、どうなったんですか?」


ロックハート「ふっ……今頃、奴は秘密の部屋の底で、永遠に御寝んねしてますよ……」フゥー…



マミ「……きゃーーーーー! 決まった! 凄い! 生ロックハート決め! 見ましたか、いまの見ましたか!?」

モリー「ええ見たわ! ああ、なんでここにカメラが無いの!?」

マミ「全くね! 世界の損失だわ!」

モリー「ああ、こんな素敵な子がいるなんて! いえ、名前だけは聞いてたけど、でももっと早く仲良くなりたかったわ!」

マミ「私もです、おばさま! ロックハートのファンに悪い人はいませんもの!」


アーサー「ロン、母さんを見ないでやってくれ。数年後、きっと自分で思い出してじたばたするだろうから……」

ロン「もうあの手合いには慣れたよ。この一年で……」


ロックハート「はっはっは――おーやおや、マクゴナガル先生にスネイプ先生! 
        どうしましたか生徒が助かったというのにしかめっ面しちゃって! 私の活躍に息を飲みましたか?
        私を快く送り出してくれたお二人には、ぜひ一番最初に聞かせてあげたいと思っていました!」

マクゴナガル「それは――あー――非常に――ありがたい――」ギリッ

スネイプ「……」ギリッ メキメキッ バキッ

ロックハート「んんんぅ? すねーいぷ先生! どうしました? 怖かったですか? いささかドラマチックに語りすぎましたかね?
        そういえばスネイプ先生は、探索を開始する直前の私になにか言葉を掛けてくれましたよね!
        えーと、確か……『なに、完全無敵のギルデロイ・ロックハートだ。単身で怪物退治くらいこなすだろう』でしったけ?」


マクゴナガル「よくもまあ、一語一語覚えている……」ボソッ


ロックハート「はっはっは――まったくもってその通り! 私が本気で動けば、怪物なんてちょちょいのちょい!
        いや流石、私が決闘クラブの助手に推薦しただけのことはある!
        見事な洞察力、というやつで・す・ね☆」バチコーン


スネイプ「……っっ!」ブシュー! バタン!


ハリー「スネイプが全身から血を吹いて倒れた!」

ロン「ひぇー……この世のものとは思えない表情をしてる。
   今のスネイプの真向かいに座るくらいなら、バジリスクとにらっめこした方がましだね僕は」


410 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:20:12.92 UZrS1Tgo0 266/755



ダンブルドア「セブルスを医務室に。ミス・ウィーズリーも一緒にのう。処罰などせんよ。
         ヴォルデモート卿には、君よりも年上の魔法使いが幾人もたぶらかされてきた……」

アーサー「ああジニー! 良かったなぁ! さあ医務室に行って、ホットチョコでも飲もう!」

モリー「アーサー! ジニーはまだ寝てるんですよ! 静かに! ああ、それとロックハート先生」

ロックハート「はい? なんですか?」

モリー「この度は、本当に娘がお世話になりました――本当に、先生には感謝してもしきれませんわ!」

ロックハート「……」

モリー「あの、先生?」

ロックハート「え、あ――はは! 当然のことをしたまでですよ! なんせ私は、ロックハートですからね!」


ダンブルドア「……ふむ。さて、ミネルバ。厨房に連絡を頼む。祝宴じゃ、豪勢に、とな」

マクゴナガル「ええ、分かりました……」

ロックハート「私の席にはオグデンのオールド・ファイアを忘れずに、とも伝えておいてください!」

マクゴナガル「……ええ、分かりましたとも……!」


バタン


411 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:20:50.82 UZrS1Tgo0 267/755


ダンブルドア「さて、ハリー、ロン、マミ。君たちの処罰についてじゃが」

ハリー「処罰、ですか?」

ロン「え? なんで?」

マミ「校則、100個くらい粉々にぶち破ってるものね……」

ロン「おい待て。君はいいけど、僕らはこれ以上校則違反したら……」

ダンブルドア「そうじゃのう。次に校則違反をした場合、君らは退学処分という話じゃったのう」

ハリー「」

ロン「」

マミ「ハリー……ロン……私、忘れないから――」

ダンブルドア「まあ、100個も校則を破ったら同じじゃがの」

マミ「」


412 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:21:18.04 UZrS1Tgo0 268/755


ダンブルドア「……じゃが、誰にだって間違いはあ」

ロックハート「おっとお待ちください校長!」

ダンブルドア「ん? なんじゃ、ギルデロイ」

ロックハート「先ほどの話の通り、ハリーには部屋の入り口を開けるために手伝ってもらい、
        そしてロンとマミは、その友達が心配になってつい後をつけてしまっただけです!
        彼らの処罰は、この私にお任せ願えませんか?」

ハリー「え?」

ロン「ロックハートが?」

マミ「ロックハート先生……」

ダンブルドア「内容次第じゃな。言うてみい」

ロックハート「それでは……おっほん!」

ハリー「……」

ロン「……」

マミ「……」

ロックハート「……その友情と、私の手伝いという難しい仕事をこなしたので、グリフィンドールに一億点!
        どうですか!?」

ダンブルドア「無理じゃのう。得点計に砂が入りきらん」

ロックハート「では、入るだけ!」

ダンブルドア「それならまあ、いいかの」

マミ「きゃー! ロックハート先生、優しい!」

ロン「なんだかなぁ。まあこれでグリフィンドールは優勝だろうけど」

ハリー「素直に喜べないなぁ……」

413 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:21:43.64 UZrS1Tgo0 269/755



ばたん!


ルシウス「何故! 理事が停職処分にしたのに! お戻りになったのか!?
      納得の行く説明をしていただけるのでしょうな!?」

ドビー「……」

ハリー「ドビー!?」

ダンブルドア「おお、ルシウス。説明か、よかろう。
        アーサーの娘が襲われたと聞いた君以外の理事全員が、わしにすぐ戻って欲しいと"何故か"頼んできてのう。
        おまけにその中の何人かは、君に脅されたと"何故か"考えているようでの」

ルシウス「なるほど! それで、犯人をもう捕まえたと!?」

ダンブルドア「捕まえたとも。ほれ、ここにいるギルデロイがな」

ロックハート「はっはっは。いやどうもどうも!」

ルシウス「誰が捕まえたとかはどうでもいい! で、犯人は誰なのかね?」

ダンブルドア「これも説明が必要かの?」

ルシウス「当然でしょう! 貴方は私に説明する義務がある!」

ダンブルドア「分かった。そこまで言うなら是非もない――最初から説明してやりなさい、ギルデロイ」

ロックハート「はい! 私にお任せあれ! そう、初めに事件の臭いを感じたのは、去年の夏。
        ダイアゴン横丁の書店でサイン会を開いた時でした……」

ルシウス「なんだこいつは!? ええい、うるさい! 私はダンブルドアに聞いて――」

ロックハート「まままま、まー! まあ待ってくださいここからがいいところ!
        そう、私はそこで彼と出会いました。それがそこにいるハリー・ポッター!
        そして、私とハリー。二つの伝説が相対するとき、物語は動き出したのです……」




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414 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:22:13.65 UZrS1Tgo0 270/755


数十分後


ルシウス「……」ゲッソリ

ロックハート「その日、私の朝食はターンオーバーでした。一見、何の変哲もないその卵。
        ですが、その黄身のつぶれ具合から私は、その日の吉兆を見出したのです!」

マミ「占いまで出来るなんて――あ、そうだ! 私も来年からは数占いとってるんだった!
   お揃いだわ! ペアルックね!」

ロン「ハリー、今日の晩御飯は何だろうねえ」

ハリー「肉がいいなぁ……ああでも、もうなんでもいいや。今なら何でも美味しく食べられるよ」

ロックハート「――ここで重要なのは塩と胡椒の配分です! どちらが多すぎてもいけません!
        塩を入れすぎては味を殺し、胡椒が多くては風味を殺します! だから私は――」

ルシウス「もういい! もうたくさんだ!」

ロックハート「おや、では続きはまた今度ということで」

ルシウス「やめろ!」

マミ「あ、終わっちゃった……」シュン

ハリー「え、終わったの? あー長かった。新記録かな?」

ロン「授業以外ではそうかも」

ルシウス「お前ら、なんでそんな平気な顔ができる!?」

ハリー・ロン「「慣れです」」

マミ「愛です! あ、別に愛って言ってもどちらかというとLike寄りっていうか!」テレテレ


415 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:23:17.85 UZrS1Tgo0 271/755


ダンブルドア「まあ、何じゃな。これに懲りたら、ヴォルデモート卿の学用品をばら撒くのはやめることじゃ。
        アーサーは怒っておるじゃろう。さよう、君の家の応接間の床下を調べるに違いない――」

ルシウス「な――! ちっ! 帰るぞ、ドビー!」ゲシッ

ドビー「は、はいご主人様――あうっ!」


ばたん!


ハリー「……ダンブルドア先生、その日記をマルフォイさんにお返ししても?」

ダンブルドア「ふむ。良いとも。ただし、要らないようだったらまた持ってきておくれ」

ハリー「はい!」

ロン「待って、ハリー! 僕も行くよ――」


バタン!


「マルフォイさん。僕、あなたにこれを渡しに来ました」

「……なんだ、この汚いのは! 靴下!? くそ、中は日記か。いらん! こんな汚いもの、持って帰れるか」

「おっと、じゃあ僕がこれはあとでダンブルドアに届けて、っと――ああ、そっちはいらないから、君が自由にしたら?」

「は、何を言って――?」

「……ご主人様がソックスを下さった。だから――だから――ドビーは自由だ死ね!」バチーン

「ぐあああああああああ!?」

「うわー、廊下の端まで飛んだ。鬱憤が溜まってたんだろうなぁ」

「屋敷しもべ妖精の魔法って凄いんだね。うちのグールお化けも何かできないかなぁ」

「そーれそれそれ! ドビーめが元ご主人様を玄関まで運びます!」パチーン パチーン

416 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:23:44.76 UZrS1Tgo0 272/755



マミ「あわわわ。なんだか外が大変なことに!」

ダンブルドア「マミ、そろそろ止めてきて貰っていいかの?」

マミ「は、はい!」ダッ


ロックハート「では私は、パーティに出る準備を……」

ダンブルドア「おおう。ギルデロイ、すまんのう。疲れているだろうが、君にも一つだけ頼みがあるのじゃよ」

ロックハート「おや、そうですか? かのダンブルドアにそうまで頼られると、悪い気はしませんね。
        なんなりとお申し付けください!」

ダンブルドア「うむ、医務室に行ってきて欲しいのじゃ」

ロックハート「ふむふむ、医務室に行ってきて、何を?」

ダンブルドア「それを決めるのは、わしではない」

ロックハート「はい?」

ダンブルドア「自分で決めるのじゃ、ギルデロイ」


417 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:24:48.84 UZrS1Tgo0 273/755



医務室


パーシー「ありがとうございます。僕の妹を助けてくれて、本当にありがとうございます!」

ロックハート「はっは! 朝飯前、というところです。私に掛かればね!」

ジョージ「ようロックハート先生! 聞いたぜ、ジニーを助けた際の活躍ぶりを!」

フレッド「ぶっちゃけスキャバーズレベルで無能だと思ってたけど、考えを改めたぜ!
     いやあスネイプもこんな顔で入院させちまうし、大したもんだ!」

ロックハート「ふふ、そうでしょうとも! サインは御入り用じゃないですか?」

ジャスティン「あの、事件をほとんど一人で解決したって聞いて……本当に、素敵だ!
        いま分かりました! ロックハート先生は魔法界のマジックなんですね……!」

ロックハート「いやー、はっはっは。それほどでも!」

ニック「いえいえ、謙遜も過ぎるとかえって嫌味ですぞ!
    バジリスクを単身で打倒した魔法使いなど、この私も見たことがありません!」

ロックハート「いや、まあ、はっは!」

ハーマイオニー「さすが、ロックハート先生ね! 私、信じてました!」

ロックハート「あー、本当ですか? それは嬉しいですね」

ハーマイオニー「ええ! ああ、それじゃあハリー達が待ってるので、これで!」

ロックハート「ははは、楽しんでおいでー」


ロックハート「……」

418 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:26:39.40 UZrS1Tgo0 274/755


大広間



ジャスティン「ハリー、君を疑ってしまったことを許してほしい!」

アーニー「僕もだ、ハリー! すまなかった。この通りだ!」

ハリー「いいよ、分かってくれれば……さあ、一緒に御馳走を食べよう?」

ロン「君って奴は人が好いね。まあ、そこがハリーのいいところか」


マミ「キュゥべえ! 治ったのね。良かった……!」

QB「マミ! やったね! 事件を無事解決したんだ!」

マミ「いえ、解決したのはロックハート先生よ」

ハーマイオニー「そう、ロックハート先生だわ!」

マミ「ああ、ハーマイオニーさん! 元気になったのね、あのね、さっきマクゴナガル先生の部屋で、生ロックハート決めが……」



QB「ハリー! ロン! 久しぶり!」

ハリー「やあキュゥべえ! こっちにおいで。君にはまだそこまで耐性がない筈だ」

ロン「今日は夜通し騒ぐぞ! ロックハートの奴を忘れるくらいな!」

QB「苦労したんだね、二人とも……」

419 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:27:06.75 UZrS1Tgo0 275/755


ハグリッド「ハリー、ロン! お前らが俺の無罪を証明してくれたと聞いて、俺ぁ、俺ぁ……!」

ロン「ハグリッド! 君には言いたいことが山ほどあるんだ! まあ座れよ!」

キュゥべえ「初めまして、ハグリッド! 僕はキュゥべえ!」

ハグリッド「お、おお。なんじゃこら、初めて見る猫だな――毒針とかもってるんか?」ワクワク

ロン「それだよ、それ! 今日こそは一言物申すぞ!」

ハリー「ロン、そりゃ無理ってもんだよ。ハグリッドがハグリッドである限りは」



「おいグリフィンドールの点数計が!」「うわあ見たことないくらいいっぱいいっぱいだ!」



ダンブルドア「あー、食べながらでいいので二言三言聞いてくれるかの。
        まずは嬉しいニュースから。予定されていた期末試験は、キャンセルとなった!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ハーマイオニー「そんなぁ……私、もう勉強しちゃったのに!」

ロン「なあ、嘘だといってくれよハーマイオニー」



ダンブルドア「あーそれでじゃのう、あまり嬉しくないニュースなんじゃが……
        ギルデロイ・ロックハート先生が、先ほど付で退職なされた」



420 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:27:42.24 UZrS1Tgo0 276/755

マミ「えええええええ!?」

ハーマイオニー「嘘よ! 嘘でしょ!?」

ロン「は? なんでだ? あいつ、いつ調子こきながら大広間に入ってくるかと思ってたのに」

ハリー「ロックハートが、目立つチャンスをふいにするなんて……」


バターン!


スネイプ「それは本当ですか校長!」

ダンブルドア「おや、セブルス、入院してたと思ったがのう――さよう、ロックハート先生はお辞めになられた。
         なんでも、新しくやることができと言ってな。これでまた闇の魔術に対する防衛術の先生を探さねばならん、のう?」

スネイプ「ふ、ふはははは! そうですか、それは至極残念無念! ふーはっはっはっは!」キラッ

ロン「よっぽど嬉しいんだろうな……」

ハリー「スネイプ……泣いてる……?」

マミ「えー、そんなぁ……もう一回、お話が聞きたかったのに」

ハーマイオニー「マミはいいじゃない。一回聞けたんだもの」


ダンブルドア「……」










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421 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:28:13.59 UZrS1Tgo0 277/755


校長室


ダンブルドア「やあギルデロイ、それで、決まったかの?」

ロックハート「……辞めます」

ダンブルドア「ほい、退職届。そこにサインだけすればいいようになっとるから」

ロックハート「どうも」サラサラ

ダンブルドア「……」

ロックハート「……校長は、全部見抜いておられたのですか?」

ダンブルドア「さて、のう。わしだって何でも知っとるわけじゃなし、全部は見抜けんさ。必要なことだけ、というとこかの」

ロックハート「……失礼します」

がちゃ ばたん

ダンブルドア「……」




ダブルドア「ホグワーツでは、助けを求めるものにはそれが与えられる――君も例外ではないのじゃ、ギルデロイ」


422 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:28:40.66 UZrS1Tgo0 278/755


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夏休み 見滝原市 自宅


マミ「帰ってきたけど……やっぱり日本は熱いわね。溶ける……」

QB「冷房、冷房つけようよ、マミぃ……」

マミ「駄目よ……これからまだ暑くなるんだから……このくらいの気温、慣れないと……」

QB「なんで日本の夏はこんなに湿度が高いのさ……」

マミ「私に言われても……はあ、でも確かにイギリスの方が過ごしやすいわね。
   まあ、窓を開ければ少しは……」


 がらっ バサバサバサ!


マミ「きゃ、わ、っぷ! キュゥべえ鳥! 鳥が入ってきちゃった! 猫の出番よ!」

QB「仮に君が僕に望む役割を果たした場合、この場で鳥をバリボリ貪り食うわけだけど、それはいいの?」

マミ「けだもの! あっち行って!」

QB「君が言い出したんじゃないか……ん? マミ、その鳥……」

マミ「鳥が、何!? この、離れなさい!」ブンブン!

QB「いや、その鳥、フクロウだよ。しかも、手紙をくわえてる」

マミ「へ?」



423 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:29:29.41 UZrS1Tgo0 279/755


フクロウ「ホゥー」ヒョイ

マミ「あ、ありがとう……え、何で? ふくろう便って、見滝原は範囲外でしょ?」

QB「その手紙、見てみれば? きちんと君宛になってるかい?」

マミ「マミ・トモエ様へ……私宛ね。差出人は……ギルデロイ・ロックハート!?
   ロックハート先生からだわ!」

QB「え? 彼は教職を辞任したはずだろう?」

マミ「でも、筆跡もロックハート先生のだし……とりあえず、読んでみるわね」ガサガサ

QB「ナチュラルに筆跡鑑定したね、君」

マミ「えーと、拝啓、親愛なるマミ・トモエ様へ……」




『突然のお手紙に貴女は驚いているかもしれませんね!

まあ、突然と言ったら私がホグワーツの先生を辞めるのも突然でしたが!

皆さん驚いているとは思います。あいさつも何も無しでしたからね。

こんな風に勝手に辞めた私ですが、マミだけには理由を知っておいて貰いたいという勝手な理由がありまして、こうして筆をとりました!』




マミ「きゅ、キュゥべえ! 私だけに、ですって! きゃー!きゃー!」バシバシ

QB「痛い痛い! やめて、僕をお餅にでもする気かい!?」

424 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:29:58.25 UZrS1Tgo0 280/755


『えー……まあ一言でいうと、私はもっと上を目指せる人間だ! ということに気づいてしまったのです!

ギルデロイ・ロックハートは、ここで終わる器ではない! そう、私は思いました!』





QB「凄い天上天下唯我独尊な手紙だ……」

マミ「なるほど……確かにロックハート先生は、魔法界を束ねるに足る人材よね……」

QB(マミみたいのがいっぱいいるから、こういうのが出来上がるんだろうな……ん?)







『そう――偽りのスターなどではなく! 本当のスターになれる!

私は、そう思ったのです!』





マミ「え?」

QB「うん?」


425 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:30:51.27 UZrS1Tgo0 281/755


『私の少年時代から青年時代に掛けては悲惨の一言です。

魔法の腕が致命的だったせいで、みんなにいじめられていました。

ちょうど、貴女と同じ寮のネビル・ロングボトムをスリザリン寮に放り込んだポジション、といえば分かりやすいでしょうか。

そんな過去の経験が、スター――すなわち、人々の中心に立ちたいという願望を形成したのでしょう

ですが、最近とある人に教えて貰ったのです。

自分の力で本当のスターになる、という行為の快感を!(まあ、その直後に詐欺師呼ばわりされましたが)』




マミ「酷いわ! ロックハート先生を詐欺師呼ばわりなんて!
   誰だか知らないけど、もしも会ったら私がやっつけってやるんだから!」

QB「いいから続き」



『それを知ってからというもの、それまでのちやほやされっぷりが、急につまらなく思えてきました。

味を占めた、というのでしょうか。

私は、もっと本当のスターとして輝きたい! そう思うようになったのです』

426 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:31:20.15 UZrS1Tgo0 282/755


『教員をやめたのは、あそこにいたギルデロイ・ロックハートが偽りのスターだったから。

だから、もうあのホグワーツには戻りません。芸能活動もやめました。

これからは本当のスターを目指して努力しつつ、それを教えてくれた人の言う通り、

いままで迷惑を掛けた人達に、補償をして回ろうと思います』





マミ「キュゥべええええええええ! ロックハート先生がああああああ、芸能活動やめちゃうってええええええええ!」

QB「うわ、マジ泣きだよ……ぶっさ」ボソッ

マミ「えい!」ギュッ

QB「きゅっ!?」






『とりあえず手始めとして、マミの家をふくろう便の範囲内にしました。

今回の事件で魔法省にいくらか伝手ができたので、その恩恵です。

まあ、あるものは利用してなんぼですよねHAHAHA!

あと煙突飛行ネットワークも数日中には繋がります。そうしたら登録済みのトランクに入る携帯暖炉を送りますね。

では、またどこかで!

                                     ギルデロイ・ロックハートより

PS.次に会う時は、おそらく本物のスターになってるでしょう。

目が潰れないように、サングラスは必須ですよ☆』



427 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:31:58.32 UZrS1Tgo0 283/755


マミ「よくわからないけど……ロックハート先生も、頑張ってるってことよね!」

QB「まあ、おおむねその通りでいいんじゃないかな」

マミ「よーし、なら私も頑張るわよ! ……えーと、とりあえず、ハーマイオニーさんとロンくんとハリーくん、
   ラベンダーさんとパーバティさん、あと佐倉さんにも手紙を書くわ!」

QB(何をすべきか思いつかなかったんだな)

マミ「よぉし、見てなさいよキュゥべえ。今日中に全部書いて見せるんだから!」


ばさばさばさ!


マミ「きゃあ! またフクロウが!」

QB「窓の外に郵便受けか何か作ったほうがいいかもね。で、今度は?」

マミ「小包ね、結構重い――あれ? 宛名が書いてないわ」ガサガサ

QB「怪しいね。爆弾とかじゃない?」

マミ「……」

QB「……」

マミ「キュゥべえ、私買い物に行くから、開けておいていいわよ――」

QB「一緒に死のうマミ!」ピョン!

マミ「きゃあ、ちょ、ちょっと。やめなさい。足にしがみついちゃダメ!」

QB「放さない! 放さないぞ、マミ! 死ぬときは一緒だ!」

マミ「そうじゃなくて、バランスが――あ」グラッ

QB「きゅ?」

バタン!


428 : >>1[saga] - 2013/03/09 15:32:59.25 UZrS1Tgo0 284/755



マミ「いたたた……もう! だから言ったじゃない! やめてって!」

QB「だって君が最初に僕を置いて逃げようと!」

マミ「~♪」

QB「そんな口笛鳴らして"私、知りません"みたいな真似したって通じるもんか!」

マミ「……やるわね、キュゥべえ。」

QB「ほら、諦めて小包開けよう? っていうか、さっきの騒ぎで、ちょっと破れてるし……」

マミ「え、毒ガスとかだったらどうしよう……キュゥべえ、炭鉱のカナリアって知ってる?」

QB「やめろ」

マミ「ちょっとしたジョークなのに…… (ガサガサ) あら、これは……」

QB「見たことのあるパッケージだね」

マミ「猫用栄養ドリンク……手紙付きね」


『快気祝いだ。私の猫の分が余ったからやる』


QB「余り、というには何処もパッケージが破れてないよ? もとから6本入りだろう、これ?
   やれやれ、君たち人間はいつもそうだ。もっと正確な表現を心掛けてほしいよ」

マミ「……ふふっ、いいのよ、これはこれで」

QB「理解できないねぇ……」

マミ「手紙って素敵、ってことよ! さあ、私も書かなきゃ! あ、ついでにお菓子か何かプレゼントした方がいいかも!
   とりあえずは便箋とか材料とかの買いだしね。行くわよ、キュゥべえ!」



                                                          秘密の部屋編・了


【 アズカバンの囚人編 】へ続きます。

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