【スクライド】と【魔法少女まどか☆マギカ】のクロスssです。
基本台本形式ですが、それだけだとキツイ時には地の文入ります
・まどマギは世界改変後、スクライドは美形が裏切られた後からのスタートです
・設定改変多少あり
元スレ
ほむら「その馬鹿を極める」【スクライド×まどか☆マギカ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367903073/
その少女、愚か者
その男、大馬鹿者―――
ロストグラウンド ホーリー本部、頂上
ギャラン=ドゥ「ムカツク野郎どもだァ。タイムマシンで全員過去に送ってやるッ。
そして俺は未来を支配するッ!!!照準セ―――ットォ!!!」ウイイィィン
君島「クッ!!!」
ギャラン=ドゥ「皆逝っちまいなァ!ははははははは...」
カズマ「逆転のォ...」ドドドド
ギャラン=ドゥ「は...?」
カズマ「ハイブリットォォォ!!」ドガン
ギャラン=ドゥ「しまった!!タイムビームの射線が...」
カズマ「ツレションしようぜアルターさんよォ!!」
ギャラン=ドゥ「貴様ァァァッッッ!!!」
カズマ「じゃあな、かなみ......」ニッ
かなみ「カ.........カズく―――――ん!!!」
*************************
タイム空間
ギャラン=ドゥ「クソッ...なんてことをしやがるっ!」
カズマ「ケッ!人を見下してやがるからこうなるんだよ!」
ギャラン=ドゥ「いいかげん離せ、このバカ男がァ!」ギュルルル
カズマ「させっかよ、撃滅のハイブリットォォォ!!」ガキィン!
ギャラン=ドゥ「クッ、弾かれた...!?」
カズマ「貰ったぁ!くらいやがれええぇぇぇ!!」
*************************
まどかの契約により、私の長いループは終わりを告げた
この世から『魔女』という存在は消え、魔法少女たちの願いは絶望で終わることは無くなった
―――その代償として、『鹿目まどか』が存在していた証は消えてしまった
私を残して、彼女は行ってしまった
彼女が存在しないこの世界で、私はもう、戦う意味を見失い始めていた
ほむら「ハァ...ハァ...」
魔獣「キシャア!」ブゥン
ほむら「ぐっ...!」
ほむら(...どうやらここまでのようね)
結局、私はなにも掴めなかった。自分の願いも、大切な人も、なにも...
ここで死んで、彼女に会えるなら...それもいいかもしれない
魔獣「グググ...」
今ある魔力を全てあの魔獣にぶつければ、もう楽になれるのだろう
ほむら「もういいよね、まどか...私、頑張らなくても...」
私が諦めかけたその時だった
「反逆のハイブリットォォォ!!!」
あの男は現れ...否、降ってきた
そして、この男の登場から、運命の歯車は再び動き始めたのだった―――
――――――――――――――――――
カズマ「...あぁ?どこだよ、ここ」
俺は確かにあのアルター野郎をぶん殴ろうとしてた筈だ
けど、実際に殴ってたのはなんか変なアルターで、あの野郎じゃなかった
カズマ「逃げやがったなあの野郎!どこ行きやがった!?」
辺りを見まわしてみるが、アルター野郎はどこにもいやがらねえ
だが、その代わりに目についたのが、倒れている一つの人影
そいつは女だった。長い黒髪で、制服をきた女だ。
女は気絶していた。見れば、全身傷だらけでボロボロだった
だが、俺にはそんなこと関係ねえ
カズマ「オイ、起きろあんた!あのアルター野郎を見なかったか!?」
軽くゆすったり、頬を軽く叩いてみたが、そいつは一向に目を覚まさなかった
カズマ「...ちっ、起きねーか。仕方ねえ、他をあたるか...!?」ザワッ
女を地面に寝かせた瞬間、全身の毛が逆立つ感覚がした
この感覚は...いつも味わっているあの感覚だ!
つい、顔がにやけちまう
そうだ...これは...
「ほむらに何しやがった...!」
俺に向けられた殺気だ!
今度現れたのは、槍を持った赤毛の女だった。心地いい殺気をとばしてきやがる
カズマ「なんだ、てめえは。こいつの仲間か?」
「だったら、なんだってんだよ!」
俺の返答も待たずに女は槍を突き出してきた
カズマ「おっと!へへっ、いきなりやってくれるじゃねーか。嫌いじゃないぜそういうの!」
「うるせえ、ほむらをあんな目に遭わせやがって...!ぶっ殺してやる!」
ガキィィィン!
小気味いい金属音が鳴り響いた
俺のアルターと女の槍がぶつかり合った音だが...
カズマ「なっ...!?」
「腕が...変わった...!?」
カズマ(ハイブリットじゃねえ...!?どうなってんだ!?)
一旦距離をおいて、体制を立て直す俺と女
カズマ(なんでハイブリットが使えねえんだ?ワケがわからねえ...)
―――だが、そんなこと関係ねえな
「あんたのそれ...なんなんだよ...?」
カズマ「さあな。今はどうでもいいだろ、そんなこと」
そうだ、今はケンカをするだけだ。
アイツが売った、俺が買った。だからアイツをボコる。ただそれだけだ
カズマ「いいから、続きをやろうぜ。アレの続きをよぉ...!」ギリリ
「......」ジャキッ
***********************
タイム空間
ギャラン=ドゥ「なんとか成功してよかったぜ『人間ワープ』...しかし危なかった...さすがの俺様も、あれは焦ったぜえ...」
ギャラン=ドゥ「しっかし、いつになっても過去に着かねえなぁ...未完成だったのかァ、あのタイムマシン?」
ギャラン=ドゥ「まあ、どっかの時代には着くだろうからよォ、のんび~りと待つとするかァ...ん?」
ギャラン=ドゥ「なんだ...ありゃあ?」
***********************
杏子「おりゃあああっ!」
カズマ「オラアァァッ!」
ガキイイィィン
杏子(くそっ...押し負ける...!こいつ、なんてパワーだ!)
杏子の槍の穂先に、ピシリとヒビがはいる
カズマ「まだ終わっちゃいねえぞ、双撃のシェルブリットォォォ!」ガシュン
杏子(もう一発!?やべえ、槍が―――)
ヒビのはいった槍の穂先は、カズマの拳に耐え切れず
―――バキイイィィン
砕かれてしまった
杏子「ぐあっ...!」
その衝撃に耐え切れず、吹き飛ばされる杏子
カズマ「もういっちょう!追撃のシェルブリッ...!?」
追撃を試みたカズマだったが、ふと、足元に違和感をおぼえる
なんだこりゃ?そう思う間もなく、それはカズマの身体を縛り上げた
「そこまでにしてもらえるかしら」
杏子「邪魔するなマミ!こいつはほむらを...」
マミ「落ち着きなさい、佐倉さん。あなたらしくないわ」
見れば、杏子もカズマと同じように、黄色のリボンで縛られていた
カズマ「あんたもそいつのお仲間か?」
マミ「ええ、そうよ。でも、勘違いしないで。私はあなたと争うつもりはないわ」
カズマ「なら、コイツを解きな」
マミ「...もう、佐倉さんと戦わない?」
カズマ「あぁ?...まあ、いいさ。あんたのせいで萎えちまった。それに、俺の本当に殴りてえ奴はあいつじゃねえ」
マミ「......」
シュルリ
杏子「おい、マミ!なんであいつのを解いたんだよ!」
カズマ「...随分とアッサリ信用するんだな」
マミ「別に、信用したワケじゃないわ。ただ、無駄に争う必要がないだけよ」
杏子「なに言ってんだよ、そいつは――」
マミ「彼女を傷付けたのは彼じゃないわ」
杏子「はぁ!?あたしは見たんだぞ、あいつがほむらを...」
マミ「傷つけていたのを見た?私には、彼女を起こそうとしてただけのようにも見えたけど」
杏子「そ、それは...」
マミ「美樹さんの件から、あなた、自分で思ってるより冷静じゃなくなってるわよ」
杏子「......」
マミ「まあ、私も最初は彼が暁美さんを倒したと思ったけれど...治療してみてわかったわ。
あの怪我は魔獣につけられたものよ。そうよね、キュゥべぇ」
QB「そうだね。ほむらの怪我からは、微量だが魔力が残っていた。
確かに、その男は不思議な力を持っているようだけど、魔力は感じられない。
わかったかい、杏子?」
カズマ「ネコが喋った?...あぁ、そいつとさっきのがアンタの能力か」
マミ「えっ、キュゥべぇが見えるの?」
QB「...へえ。まさか、第二次成長期の少女以外で僕を知覚できるとはね。
君は一体何者なんだい?」
カズマ「何者もクソもねえ。俺はただのネイティブアルターよ」
マミ「ネイティブ...アルター...?」
QB「なんなんだい、それは?」
カズマ「何言ってんだ?てめえらもアルター使いだろ」
マミ「アルター使い?」
QB「興味深いね。詳しく聞かせてくれるかな、君のこと」
マミ「暁美さんもつれて帰りたいから...私の家でどうかしら」
カズマ「...そういや、なんか腹減ってきたな。なんか食わせてくれねえか?」
マミ「いいわよ。暁美さんを助けてくれたみたいだし」
杏子「あたしを無視して話を進めてんじゃねえ!てか、解け!」ジタバタ
――――――――――――――――――
マミホーム
マミ「ロストグラウンドに、アルター使い、それにタイムマシン、ねえ...」
カズマ「んだよ、その信用できませんってツラは。おっ、コレもうめえな」モグモグ
杏子「食いすぎだ、てめーは」
マミ「現実味がないというか、なんというか...」
QB「けれど、有り得ない話じゃないよ。事実、カズマの能力はこの世界にはないものだ。
カズマの話も、一つの仮説として成り立つよ」
マミ「そう言われても...」
ほむら「うっ...」
杏子「おっ、マミ!ほむらが起きたぞ!」
マミ「...!暁美さん!」ダキッ
ほむら「と、巴マミ...?それに杏子...?」
マミ「よかった、無事で...本当によかった...」ギュウウ
ほむら「ちょ、くるし...っ!」
ほむら(私、魔獣と戦ってて...そうだ!)
ほむら「確か、変な男が魔獣を殴り飛ばして、それに巻き込まれて...」
カズマ「誰が変な男だ」
ほむら「!?」ビクゥ
杏子「まあ、起きたらこんなガラ悪いのがいたらビビるよなぁ」
マミ「安心して、彼は敵じゃないわ」
ほむら「えっと、この人は一体...」
マミ「そのことなんだけど...混乱せずに聞いてね?」
ほむら「?」
マミ「アルター能力って...知ってる?」
ほむら「あ、アルター能力?」
―――――――――――――
ロストグラウンド ホーリー本部、頂上
かなみ「カズくん...」グスッ
君島「カズマの野郎...無茶しやがって...」
箕条「大丈夫ですよ。彼は死んでなどいない」
かなみ「本当に...?」
箕条「カズマの信念は、あの程度では砕けたりしない。それはずっと傍にいたあなた達の方がわかっている筈です。そうでしょう?」
君島「そうだ...そうだよな。なんせあいつは反逆者で...俺の相棒だもんな。信じようぜ、かなみちゃん。あいつの反逆をさ!」
かなみ「うん...私、信じる。カズくんが生きてるって。絶対に帰ってくるって!」
劉鳳「......」
水守「劉鳳?どうしたの、そんな難しい顔をして?」
劉鳳「い、いや、なんでもない」
シェリス「...実はね、カズマがタイムマシンを殴った時、劉鳳は咄嗟にアルターを送りこんだの。
でも、それからなんの音沙汰もないらしくて...」
劉鳳(どういうことだ...?絶影が破壊されたわけでもなく、過去へ飛ばされたというわけでもない...。
だが、絶影からはなにも感じとれない...存在すら...まるで、俺と絶影のリンクを絶ち切られたかのように...)
劉鳳「...シェリス、水守。悪いが、少し静かにしていてくれ」
水守「え、ええ」
劉鳳「......」
目蓋を閉じ、劉鳳は感覚を研ぎ澄ます
―――余計なことを考えるな。
アルターとは己自身
―――今はただ、集中だけをしろ
何者であろうが、他者がアルター使いとアルターを完全に分離させるなど不可能なことだ
―――もっとだ、もっともっと...もっと!
滝の様に流れる汗を拭うこともせず、劉鳳はひたすら集中だけをする
―――捉えた!
絶影の存在を認識し、感覚を移すことができた劉鳳。
絶影【劉鳳】(なんだ...ここは...現実のものとは思えない程、心地いいような、息苦しいような...ッ!)
彼が感じとったものは―――
絶影【劉鳳】(あれは...桃色の光...?違う...あれは...)
劉鳳「少...女...?」
―――――――――――――
マミホーム
マミ「...以上が彼の話よ」
ほむら「」ポカーン
杏子「その様子だと、あんたも知らなかったみてえだな」
ほむら「ええ...初めて聞くことばかりよ。正直...信じられないわ」
カズマ「信じる信じねーはあんたらの好きにすりゃあいい。どっちだろうが俺には関係ねーことだ」
QB「カズマが不思議な力を持っている以上、それを信用するしかないんじゃないかな」
カズマ「......」
マミ「う~ん、いまいち釈然としないけど...」
ほむら「それで、あなたはこれからどうするの?」
カズマ「とりあえず、あのアルター野郎をぶっ飛ばす。その先のことなんざ知らねえ」
マミ「ご飯とか家は...」
カズマ「テキトーにやるさ」
マミ「そう...あの、どうせだったら、ここに泊まっていかない?」
杏子「はぁ!?正気かよ、マミ!」
マミ「なにかおかしなことを言ったかしら?」
杏子「当たり前だろ。こんな奴置いといたら、おまえが(色んな意味で)食われちまうぞ。なによりあたしが嫌だ」
カズマ「てめえと一緒なんざこっちから願い下げだ!」
杏子「そりゃこっちの台詞だっつってんだろ!」
ギャー ギャー ドカッ バキッ
マミ「うふふ。二人とも、もうあんなに仲良くなっちゃって」
ほむら「どうしたらあれが仲良く見えるのよ」
杏子「とっとと出て行きやがれ!」ボロッ
カズマ「ケッ、てめえに言われるまでもねえ!こんなとこ、さっさとおさらばしてやるよ!」ボロッ
バタン
マミ「あ、ちょ、ちょっと!...行っちゃった」
杏子「ほっとけ、あんなやつ。それに、ほむらのことはあたし達だけの方が話しやすい」
マミ「...そう...ね」
QB「......」
マミ「さて...暁美さん、ちょっといいかしら」
ほむら「...なにかしら?」
杏子「なにかしら、じゃねえよ。お前、最近どうしたんだよ」
ほむら「最近...?」
マミ「自覚していないみたいね。あなた、最近いろいろとおかしいわよ。
今回もそう...一人で無茶したり、戦ってる最中になにか考え込んだり...」
ほむら「......」
杏子「やっぱり...前にアンタが言ってた『まどか』のことなのか?」
ほむら「ッ!」
杏子「...あたしはその『まどか』ってのを知らねえけどさ、それのせいで戦えないってんなら、忘れちまった方が」
ほむら「うるさい!」
マミ「暁美さん...?」
ほむら「あなた達は、何も知らないから...だから、私にあの子を忘れろなんて言えるのよ!」
ほむら「あなたたちにわかる!?守りたいものを何一つ、一時も守れなかった私の気持ちが!
誰にも知られることなく独りで戦い続けているあの子の気持ちが!」
ほむら「わかるわけないわよね、だってあなた達は忘れてるんだもの。あの子の想いも、存在も、なにもかも...」
杏子「...おい、ほむら。あんたなに言って...」
ほむら「...ごめんなさい。あなた達が悪くないことくらいわかってるわ。これはあの子が望んだことだもの...」
マミ「ねえ、暁美さん。悩んでるんだったら、私たちに話してくれないかしら。一人で抱えこむよりは、大分楽になると思うから」
ほむら「結構よ。相談したところでどうにかできるわけじゃないし、それに...どうせ、信じるわけがない」
杏子「なんだと、てめえ。なんでそんなことが言えるんだよ」
ほむら「今までの統計よ...もう、放っておいてくれないかしら。ちょっと疲れたわ」
杏子「てめえ...!いい加減にしろy「待って、佐倉さん」
マミ「...そうね、暁美さん。今日はここで解散にしましょうか。今日は色々あったし、私も疲れたわ」
ほむら「......」ペコリ
バタン
杏子「いいのかよ、あいつを放っておいて」
マミ「下手に刺激をするより、落ち着いてから話し合った方がいいと判断したまでよ」
杏子「けど、もし魔獣に襲われたら...!」
マミ「...ほんとうにあなたらしくないわよ、佐倉さん。暁美さんよりも、まずは自分を落ち着かせなさい」
杏子「~~ああもうっ!わかってるよ!」
マミ(...せめて、彼女の言っていた『まどか』について何かわかれば...)
マミ「ねえ、キュゥべぇ。あなた、『まどか』についてなにか...あら、キュゥべぇ?」
――――――――――――――――――――――
ムカツクな、ああムカツクぜ。
ここにきてムカツクことばっかりだ。
なんか知らねえが、ハイブリットは使えねえ。アルター野郎は居やがらねえ。
あの杏子とかいうのもなんかわかんねえけどムカツクし、あいつと八つ当たりみてえなケンカをした俺自身にもムカツク。
だが、それ以上にムカツクのは―――
QB「やあ、カズマ。ちょっといいかい?」
カズマ「...誰かがつけてくる気配はしてたが、よりによっててめえかよ」
コイツの、見下したような目だ
QB「君に頼みたいことがあって来たのだけれど」
カズマ「知ったこっちゃねえな。てめえの用件叶えたところで俺に何の得がある?」
QB「ヒドい言い様だね。僕は君の能力をもう一度見たかっただけなんだけど。
さっきも言った通り、君の能力はこの世界に存在しないものだからね」
カズマ「俺からしたら、魔法少女だの、魔獣だの...てめえらの方が胡散くせえんだけどな。
特にてめえだ、耳毛野郎」
QB「僕のことかい?」
カズマ「ああ。てめえはあのアルター野郎と同じ匂いがするんだよ」
QB「君の話していた『ムカツク敵』のことかい?僕は人類に敵意はないし、支配しようとも思っていない。
それに、本体がソウルジェムになることも事前に話した上での合意によって契約してるんだ。
むしろ、君たち人間にかなり譲歩しているつもりなんだけれど」
カズマ「ケッ、どうだかな...」
やっぱ、コイツと話しているとイラつくだけだ。
何かねえか、俺を楽しませてくれるモンは。満足させてくれるモンは―――
魔獣「ゴアアァァ...!」
カズマ「...あぁ?」
―――――――――――――――――――
今夜の件でハッキリとした。やはり、私はマミと杏子を仲間と思うことができない。
確かに、彼女達は私と仲間だったのだろう。けれど、それは私ではなく、『まどか』を知らない私だ。
彼女達からすれば、今の私は、『まどか』というわけのわからないものを信奉する異常者に映っているに違いない。
それでも、私がこの世界に甘んじればマミ達ともきっと仲間になれる。
まどかもそれを望んだ筈だ。
なのに、何故?
彼女の望みを叶える気になれないのは...なんで?
ほむら「わけがわからないわ...」
どこぞの白い契約者のような台詞を口にだしてみても、答えなんてわからなかった
―――――――――――――
魔獣「ガアアアァァ!」
カズマ「クッ、ハハハハハッ!」
これよ、こういうのを待ってたんだよ!
憎しみだとか悲しみだとか、余計なモンが何もねえ。
あいつらは理由もなく俺を殺そうとする、俺はあいつらに抗う。
悪党はこいつら、そんでもって俺はただのチンピラだっ!
魔獣「ブルアアアァァァ!!」
カズマ「精々楽しませてくれよ。衝撃の...シェルブリットォォォ!!」
魔獣「グ...ググッ...」シュウウウ
カズマ「足りねえなぁ...」
退屈はしねえ。数もそれなりにいたし、つまらなくはなかった。
だが、足りない。こんなものでは満足できない
カズマ「...どこだ。どこにいやがる、あのアルター野郎...!」
QB(なるほどね...これで、アルター能力がどのようなものなのか知ることができた。
おそらく、この能力を応用すれば...)
39 : ◆do4ng07cO.[sag... - 2013/05/07 15:51:06.10 poqM/D/Y0 39/367今回はここまでで。
とりあえず、軽い状況整理と簡単なキャラ紹介
いらない人はスルーしといてください
『カズマ』
甲斐性無しのロクデナシのアルター使い。
タイムマシンにより、ほむら達のいる時間軸へ。ハイブリットが使えないのは、この世界にアルター粒子(仮称)が少ないから。
杏子には喧嘩腰で、QBが嫌い。右腕のシェルブリットは、感情によって能力が変わる
『暁美ほむら』
鹿目まどかを救うために頑張ってきた魔法少女。
まどかと会うことができないので、傷心&精神的疲労がヤバイことに。
使える武器は爆弾と、いくつかの拳銃のみ
『巴マミ』
お姉さん的立ち位置の魔法少女。
現在は、病みぎみのほむらと冷静じゃない杏子の二人に気を配るため、お疲れ気味。
主な必殺技は『ティロ・フィナーレ』
『佐倉杏子』
利己的な魔法少女だったが、美樹さやかに影響されて、若干正義に目覚める。
現在は巴マミと一緒に暮らしており、盗みなどもやっていない。
なぜかカズマに突っかかってしまう。
『キュゥべぇ』
通称QB。少女と契約して、魔法少女を作りだすのが仕事。
あの手この手で契約を迫ることはなく、事前に軽い説明はしておく。
感情がなく、契約した少女がどうなろうと、基本的に干渉はしない
『劉鳳』
己の正義を信じるアルター使い。カズマとの仲は、アニメ版よりはだいぶいい。
現在、アルター絶影が、謎の空間にて漂流中...?
『ギャラン=ドゥ』
マーティン・ジグマール(美形)のアルターが最終進化し、自立したもの。
自我を持ち、全アルターの中でも最強の実力者。現在はタイム空間にて...?
『鹿目まどか』
QBとの契約により、『円環の理』になった。
彼女を知覚することは誰にもできないし、彼女が誰かに干渉することもできない、魔法少女だけの救世主。
『美樹さやか』
逝ってしまったわ、円環の理に導かれて。
50 : ◆do4ng07cO.[sag... - 2013/05/09 00:12:01.38 zAeu1t6q0 40/367スクライド側の基本設定は漫画版ですが、時々アニメ版の設定も反逆してくる...かも。農家のおばちゃんとか。
まどマギ側は外伝組が出る予定はありません。出るにしても名前だけとかちょい役くらいだと思います。
続き投下します
――――――――――――――――――
翌日 教室
教室に入り、席に着き、いつも『まどか』が座っていた席をみつめる
でも、やっぱり彼女はそこにはいなくて、そこには知らない人が座って、皆とお喋りしている。
『鹿目まどか』はどこにも存在しない。だから、こんな世界に私が居る必要もないのに...
どうして私は生きているのだろう。
まだ私には家族やマミ達がいるから?それとも、まどかが守ろうとしたこの世界を守るため?
わからない...どうして私は...
仁美「ほむらさん、お昼ご一緒しましょう」
ほむら「...ええ」
まどかもさやかもいないこの教室では、友達といえる人間は志筑仁美と上条恭介だけとなっていた
仁美とさやか、そして前の『私』。この三人で仲良くしていたそうだ
別にこのことは大した問題じゃない。仁美やさやかと仲良くできた時間軸もあったし、まどかの代わりに私が入ったと思えば、今までとなんら変わりない
ただ一つ、大きく違うことといえば...
仁美「最近、マミさんたちの調子はどうですか?」
ほむら「大丈夫よ。グリーフシードもまだあるし、美樹さやかの件からも大分立ち直ったようだし」
仁美「それはよかったですわ。もう、私の知らないところで大切な人がいなくなるのは嫌ですから」
そう、仁美も上条恭介も、私達が魔法少女であることを知っているのだ
今までこの二人は魔法少女と関わったことは少なかったし、関わったとしても決して良い方向には進まなかった
もちろん、いざこざはあったらしいが、それでもこの世界では『魔法少女』と『人間』の境界線を越えて二人は友達になっていた
...あの娘が求め続けてきた絆、それが今ここにある
それはとても素晴らしいことの筈なのに、心から喜べない。
―――まどかの望んだものが全てあるこの世界を、どうして喜べないのだろう
ほむら「ほんとうに...わけがわからないことばかりだわ」ボソッ
仁美「?なにがですか?」
ほむら「...いいえ、なんでもない」
ねえ、教えて、まどか
――――――――――――――
公園
カズマ「...チクショウ」
俺は、疲れた身体を休めるために、ドカッとベンチに腰を下ろす
一晩中探し回ったが、どこにもあのアルター野郎の手がかりは無かった
なんで出てきやがらねえ。ビビッて腰が引けちまったか?
なんだっていい。早く出てきやがれ。
早く早く早く早く早く―――――――――!
杏子「なにやってんのさあんた?」
カズマ「...何しにきやがった。ケンカの続きか?」
杏子「ちげーよ、バカ。んな魔力の無駄使い、やってられるかっての」
カズマ「じゃあ何しにきたんだよ。なんの用も無しにわざわざ来たってのか?」
杏子「そんなわけねーだろ...ちょっと聞きたいことがあってさ。得体のしれないあんたなら知ってるかも、って思ったんだよ」
カズマ「俺に聞きたいことだぁ?」
杏子「その前に...」ガサゴソ ヒュッ
パシッ
カズマ「...リンゴ?」
杏子「食うかい?」
――――――――――――
ロストグラウンド 某所
君島「やっほー、桐生さん」
水守「いらっしゃい、君島さん。それにかなみちゃん」
かなみ「あの...劉鳳さんの調子は...?」
水守「イマイチ進展がないみたい...本人はあと一歩と言ってるけど...」
かなみ「そう...ですか...」シュン
君島「そんな落ち込むなって。あの馬鹿は殺したって死なない奴なんだからさ」
かなみ「でも...カズくんの手がかりが掴めるのなら、私だって何か...!」
君島「それは俺だって同じだ。だからここに来たんだろ?」
劉鳳「クッ...何故だ...何故絶影とのリンクを繋ぎ直せない!?」ハァ ハァッ
シェリス「ねえ劉鳳、少し休んだ方が...」
劉鳳「いや...もう少しで掴めそうなんだ...もう少しで...」
劉鳳(一度は繋ぎ直せたのだから、できる筈...。何が足りない...!?俺には、何が―――)
コンコン
水守「お邪魔していいかしら?」
シェリス「いいわよ――」
かなみ「お、お邪魔します...」
君島「よっ、差し入れ持ってきたぜ」
劉鳳「ああ。すまないな」
君島「いいってことよ。...それより、何か収穫はあったか?」
劉鳳「いや...あれ以降何も掴めん」
君島「...なあ、俺達に協力できることって何かねえかな」
劉鳳「...現状、俺のアルターしかあの空間にアクセスできん。タイムマシンのコントローラーは、
ギャラン=ドゥごと過去へ送られてしまったからな...」
君島「そうか...チクショウ...!」
君島(...なあ、カズマ。お前、無事なんだろうな?無事だったらよ...早く帰ってきやがれ。
俺もかなみちゃんも、信じて待ってるからよ...)
―――――――――――――
公園
カズマ「『まどか』か...聞いたことねえな」シャリシャリ
杏子「少しもか?なんだっていい。人間じゃなくてもいいから、何か心当たりはねえか?」
カズマ「ねえな。そもそもロスト・グラウンドじゃ、他人の名前なんざいちいち覚えてられねえよ」
杏子「そうかい...邪魔したね。何か手がかり見つけたら教えてくれよ。あたしもアルター野郎っての見かけたら教えてやるからさ」
カズマ「おい、リンゴ忘れてっぞ」
杏子「そいつはくれてやるよ。あんた、金なんざ持ってないんだろ?」
カズマ「...他人の施しは受けねえ。と、言いてえが、残すのも勿体ないしな。貰っといてやるよ」
杏子「...フンッ」
――――キィン
杏子「...!おい、カズマ。今すぐここを離れろ。急いでだ」
カズマ「はぁ?なんでだよ」
杏子「昨日話した魔獣だ。それも、いつもの倍は迫って来てる」
カズマ「魔獣...ああ、あの変な坊主頭達か。へっ、おもしれえ」バァン バァン バァン
杏子「戦うつもりかよ、あんた」
カズマ「あいつらとのケンカは退屈しないですむ」
杏子「...どうせ、引っ込んでろって言っても聞かねえんだろ?」
カズマ「当然のパーペキだ!」
杏子「ハッ、精々足引っ張んじゃねえぞ!」
カズマ「そいつは俺の台詞だ!」
カズマ「来やがったな...!」
魔獣「ゴアアアッ!」
カズマ「まずは一撃!先制のシェルブリットォ!」ガァン
魔獣「ギイイィィ...!」シュウウ
カズマ「へっ、まず一匹...」
魔獣2「」ブンッ
カズマ「おっと!数が多いだけあって、簡単にはいかね...」
杏子「余所見してんじゃねえ!」シュィン
杏子が結界をはり、カズマの背後まで迫ってきていた光線を遮った
魔獣3「ギッ!」キュイイイン
カズマ「そういや、てめーらには飛び道具があったっけなあ」
杏子「いいか、バカみてえに突っ込むんじゃねえ。相手の動きをよく見極めたうえでだな...」
カズマ「嫌だね!てめえにはてめえの戦い方があるように、俺には俺の戦い方がある。
目の前に壁があるんなら俺は...」
魔獣3「ギィエッ!」ピシュン
魔獣の光線がカズマ目掛けて発射されるが、カズマはお構いなしに突き進む。
それがカズマの戦い方であり信念であり誇りであるから
カズマ「この拳で突き崩してやるだけよぉっ!信念のシェルブリットォォォ!!」
―――それ故に、弾丸は曲がらない!
杏子「ったく、少しは人の言う事きけっての...」
文字通り、バカの一つ覚えみたいに突っ込むあの男の姿を見てポツリと愚痴を零す
―――そういえば、あいつもあたしの言う事なんざちっとも聞きやしなかったな
あの馬鹿でお節介でお人よしなあいつも...
杏子(って、なんでカズマを見てさやかのこと思い出してんのさ)
重ね合わせてんのかね、あいつとさやかを
魔獣4「」ピシュン
カズマ「ぐあっ!...へへっ、どうした、そんなもんじゃ俺は倒せねえぞ。もっと楽しませろよ、なあおい!」
光線を避けようともせず、ただただ突っ込んでいく。まるで戦い自体を楽しむように。
その姿を見てあたしは確信したよ、あいつはさやか以上の馬鹿だって
杏子「...ま、そういうのも嫌いじゃないけどね」
魔獣5「グオオオォォォ!」
杏子「さてと...そろそろあたしも動くとするかな」
カズマと杏子に群がる魔獣達だが、相手は歴戦のアルター使いに大ベテランの魔法少女。
そんな二人の相手になど、なる筈がなかった
魔獣「」シュウウゥ
杏子「これで終わり、っと」
カズマ「...やっぱ物足りねえな」
杏子「はぁ?あたしの獲物も何体かくれてやったじゃねえか」
カズマ「ありゃ、てめーが手こずってただけだろーが」
杏子「て、手こずってなんかないっての。それを言うならあんただって、あたしが何度あの光線を防いでやったと思ってんのさ」
カズマ「ケッ、あんなもん、喰らったろところで痛くも痒くもねーよ」
杏子「だからってわざわざ受ける必要もねーだろ、バカ」
カズマ「誰がバカだ、てめえ」
杏子「あんた以外に誰がいるよ」
カズマ「喧嘩売ってんのか!?」
杏子「はぁ?あんたが最初に売ってきたんだろうが!」
カズマ「てめえだ!」
杏子「あんただ!」
「「......」」グヌヌヌ
カズ杏「「上等だコノヤロー!!」」ダッ
―――――――――――――――
放課後
仁美と別れ、私は一人帰路についた
思えば、この時間軸では欲しかったものが次々と手に入っている
例えば、さやかと仁美
確かにこの二人とは敵対か無関係の両極端がほとんどだったが、私が魔法少女になる前、まどかと一緒に助けてくれたのは事実だし、
なにより、まどかを含む四人で行動できた時は純粋に嬉しくて楽しかった
それに、カズマという謎のイレギュラー。
アルター能力だかなんだか知らないが、少なくとも相当の能力であることは間違いない
もし、まどかが契約する前に彼が現れていたら、もしかしたら―――
ほむら「...随分と歩いたものね」
今更無駄な考察をしながら歩いていたせいか、家とは程遠い河原まできてしまった
気付かないうちにここまできてしまうのだから、マミ達に心配されるのも無理はない
自嘲気味にため息をつき、家に向かおうとするが、視界の端に見覚えのある背中を捉えたため、足を止めた
ほむら「あれは...カズマに、タッくん...?」
―――――――――――――――
数刻前
俺は苛立っていた
杏子とのケンカは、マミの乱入により再びうやむやになり、さらにそこからマミの家で小一時間はするお説教。
温厚な俺でも、そこまでされては腹が立つのは仕方ないこと
しかし、反論しようにも、圧迫感にも似た謎の感覚に襲われて、言葉を詰まらせてしまった。
その感覚は、強いていうなら、かなみが世話になっている農家のおばちゃんが放つオーラにも似たような...
カズマ「だぁぁ~、クソッ!」
どこともしれぬ河原に腰を下ろし、気持ちを落ち着けるために寝そべった
―――最も、それだけで気が晴れるなんざ思っていないが
「ウエエェェン!」
カズマ「......?」
「パパぁ~、パパぁ~!」
カズマ(ガキ...迷子か)
「ふえええぇぇ~ん!」
カズマ「......」スクッ
カズマ「よう、坊主。どうした、そんなに泣いて」
「ふぇ...?」
カズマ「父ちゃんはどうしたんだ?」
「パパ...僕、置いて、ろこか行っちゃった...」グスッ
カズマ「そうか。...なあ、父ちゃんは好きか?」
「?」
カズマ「父ちゃん、嫌いか?」
「...ううん、らい好き。らい好き!」
カズマ「そりゃ良かった。だったら、父ちゃんを信じてやりな。お前を置いてくような奴じゃないってな」
「うん!パパ、信じる!」
カズマ「へっ。ま、こいつでも食って待ってな。そうすりゃ、父ちゃんが迎えに来るだろうからよ」
「わぁい、リンゴ、リンゴ!」
現在
カズマ「......ふわぁ~」アクビ
タツヤ「~♪」カキカキ
ほむら「...意外ね、あなたが子ども好きだなんて」
カズマ「あぁ!?誰だ...って、えっと...ほむら、だったか?なんか用か?」
ほむら「......」
ほむら「ねえ、カz「まろか!」
ほむら「えっ...?」
タツヤ「まろか!まろか!」
カズマ「まろか?」
タッくんが地面に描いていたのは、紛れもなく、あの娘だった。
魔法少女の恰好をした、私のヒーローで恩人で、そして、私が生きている限り、もう会うことのできない...大切な友達。
ほむら「うん...そうだね。そっくりだよ」ジワァ
カズマ「......?」
タツヤ「あう?」キョトン
タッくんは涙ぐむ私をまじまじと見つめ、私のリボンにそっと手を伸ばした
だが、それは彼の父に妨げられ、タッくんがまどかのリボンに触れることはなかった
知久「こら、タツヤ。女の人の髪を引っ張っちゃだめだぞ」ヒョイ
タツヤ「パパぁ、まろか、まろかまろかぁ!」キャッ キャッ
詢子「すみません、うちの子が迷惑かけたみたいで...」
ほむら「い、いえ、そんなことありません」ゴシゴシ
詢子「タツヤ、お兄さんとお姉さんにお礼は?」
タツヤ「にーちゃ、ねーちゃ、ありがと!」
カズマ「もう迷子になるんじゃねーぞ、坊主」ガシガシ
タツヤ「あい!」
知久「本当にありがとうございました。お礼といってはなんですが...これを」
カズマ「おっ、ドーナツ!いいのか、おっさん?」
知久「ええ。お礼ですから」
カズマ「へへっ、サンキュー!うん、めちゃうめえ!」モグモグ
手を振り去っていく親子に、手を振り返しながらその姿を見届ける
ああやって、三人で仲良くこの時期まで生きていることさえ、まどかが契約しなければ有り得ないことだった
―――だからこそ、あそこにまどかがいないことがもどかしい
本来はいる筈の...いなければならない彼女がいない
でも、まどかも消え去ったわけではなく、私達が感じ取れないだけで、私達のことを見守ってくれている。傍にいてくれている。
だから、私はまどかの守りたかったこの世界を守るために生きる。希望に満ち溢れたこの世界を。
―――だって、私達には見えなくてもしっかりと繋がっている絆があるから!
違う。そんなものは戯言だ。私はまどかの生きる未来を掴めなかっただけ。
結局、私は何も変えることができなかったの...?
カズマ「そういやあんた、さっき俺に何か聞こうとしてたよな?」モグモグ
ほむら「......」
カズマ「何か用事があったんじゃねえのか?無いなら無いでいいけどよ」モグモグ
カズマ...私達とは全く違う時間軸から来た男...この男なら、私の求めている答えを知っているの...?
藁にもすがるような気持ちで、私は口を開く
ほむら「...ねえ、カズマ。私は...この世界で、どうすればいいの?」
カズマ「...はぁ?」
――――――――――――――
マミホーム
杏子「なあ、マミ...そろそろ降ろしてくれてもいいんじゃねーか?」
マミのリボンにより、逆さづりにされた杏子が呻く
マミ「あと30分くらいしたらね」ズズッ
杏子「そんなこれ見よがしに紅茶すするなよ...」グウウゥゥ
マミ「私はね、喧嘩すること自体は悪くないと思うわ。喧嘩するほど仲がいいっていうし」
杏子「仲良くねーよ!」
マミ「はいはい。でもね、喧嘩する場所くらいは考えてほしいのよ。そもそも...」クドクド
杏子(また始まっちまった...さっきも小一時間カズマとあたしに説教したのに...)
―――キィン
マミ「!ソウルジェムが...」
杏子「魔獣の反応だな!?よし、急いで向かおう!」
杏子(やっと降ろして貰えるぜ...今回ばかりはナイスタイミングだな、魔獣さんよ)
マミ「どうやら、凄い数のようね...行くわよ、佐倉さん!」ダッ
杏子「おうッ!...っておい、マミ!?まだあたし縛られたままなんだけど!?」
――――――――――――
私はカズマに語った。まどかに救われたこと、まどかを救うために幾つもの時間軸を旅してきたこと。
そしてその結果、まどかは契約し『円環の理』になってしまったこと。
自分でも愚かだと思う。何故、身近なマミや杏子には話せず、イレギュラーとはいえ、赤の他人のこの男には話しているのだろうか
カズマ「下らねーな」
今まで黙っていたカズマが、そう言って溜め息を吐いた
下らない?何がだ?
あの娘の祈りが?それとも私の今までの闘いが?
一体何が下らないと...
カズマ「要は、あんたはそのまどかって奴に頼りきってるから進めねえってだけだろ?」
ほむら「え...?」
カズマ「さっきから聞いてりゃ、何かと理由をつけてまどかまどかまどか...結局、あんたはまどかによっかかってるだけなんだよ」
ほむら「......」
カズマ「約束のためだけに動いて、そいつが果たせなかったら、自分では何も決めようとしねえ。
まどかに嫌われたくないからまどかの意志に付き従って、何もかも我慢し続け愚痴ばっか零して、与えられたもんを受け取るだけ...
確かにあんたは責任をまどかに押し付けられるから楽かもしれねえな。でも」
カズマ「一生与えられるだけの人生はきっと―――辛いぜ?」
ほむら「...ッ!」
カズマ「あんたがやりてえことがあるんなら、好きにすればいい。んなこと俺に相談してんじゃねーよ」
ほむら「...ゎよ」ボソッ
カズマ「あぁ?」
ほむら「私だって諦めたくないわよ!でも...駄目なの。
私の願いは、闘いは彼女自身に否定された。だから―――」
カズマ「他人がどうこうじゃねえ。あんたがやるかやらねえか、ただそれだけだ!」
ほむら「......!」
ほむら「なら...あなたが私と同じ状況なら、どうするの...?」
カズマ「考えるまでもねえ。俺には俺の道があるように、まどかにゃまどかの道がある。
もしその二つの道がぶつかったんなら...」
カズマは、その力強く握りしめた拳を私に向けて突き出し、強く言い放った
カズマ「ダチだろうが肉親だろうが関係ねえ―――戦うだけだ!」
なんて身勝手な考え方だろう。
別に相手を否定しているわけじゃない。約束を放棄しろと言っているわけでもない。
ただ、己の信念を貫き通すために突き進む。それを邪魔するなら例え誰が相手だろうと容赦しない。
前しか見ていない、愚かな考えだ。
ほむら「バカね...あなた」
カズマ「なんだと!?」
ほむら「でも...」
でも、何故だろう。この男の信念に、心のどこかで突き動かされている自分がいるのは
ほむら「ちょっと、羨ましいわ」
―――どこか、感銘すらしているのは
―――キィン
ほむら(!魔獣の反応...!)
カズマ「また、あの坊主頭達か?」
ほむら「わかるの?」
カズマ「あの赤毛と同じような表情浮かべやがったからな。なんとなくわかった」
ほむら「赤毛...杏子ね」
カズマ「俺はあいつらとケンカしに行くが...あんたはどうする?」
ほむら「......」
――――――――――――
美滝原 病院付近
魔獣「ギギギ!」
杏子「だぁ~~っ!うっとうしいなもうっ!」
マミ「数が多すぎる...佐倉さん、お昼の魔獣も数がこれくらいだった?」
杏子「もう少しマシだったと思う、ぜっ!」ドシュッ
マミ(何か元凶があるのかしら...でも、何故いきなり...)
魔獣「ガァウ!」ブンッ
QB「マミ!危ない!」
マミ「えっ?きゃあっ!」
杏子「マミ!大丈夫か!?」
マミ「え、ええ。たいしたことはないわ...でも...」
ゾロゾロ
杏子「チッ、囲まれたか...!」
マミ「こ、これはちょっとマズいんじゃないかしら...」
魔獣達「」キュイイィィン
杏子「お、おいおい...まさか、このまま一斉掃射ってわけじゃねえよな...」
マミ「...ッ!佐倉さん、とにかくソウルジェムだけでも守るのよ!」
杏子「あ、ああ!」
マミ(せめて、修復可能な程度には身体がもってくれれば―――)
「不様ね、巴マミ。それに杏子」
どこからか投げられた爆弾により、数体の魔獣が轟音と共に爆発し、それに周りの魔獣が巻き込まれ、倒れ伏す
そして、一つの人影がマミと杏子のもとへと降り立った
マミ「あ...!」
杏子「へっ...ようやく来やがったか」
ほむら「昨日、あれだけ私に言ったくせしてこの有り様なんてね」
マミ「暁美さん!」
ほむら「随分と素敵な恰好じゃない、杏子。何か考えごとでもしてたの?」
杏子「うるせえ。こちとら逆さ吊りとお説教喰らって疲れてんだ。少しはいたわれっての」
ほむら「それはご愁傷様。けれど、そんな程度で疲労するようでは、貴女もまだまだね」
杏子「だったら、体験してみるか?マミの特別お説教コース」
ほむら「遠慮しておくわ。私は叱られるようなことはしていないし」
マミ「なんにせよ、助かったわ暁美さん。ありがとう」
ほむら「...礼なんていらないわ」プイッ
マミ「なんだか久しぶりね、照れた時にちょっとだけそっぽ向くの」
杏子「...ははっ。何かすっかり調子戻したみてえだな、h「ほむらあああああぁぁぁ!!」
カズマは、凄まじい速さでほむら達の頭上を飛び越え、今まさに光線を放とうとしていた魔獣に向かっていき――
「オラアアアァァ――ッ!」
全力で殴りつけ、そしてその反動により、ほむら達のもとへ降り立った
ほむら「遅かったわね、カズマ」
カズマ「てめえ...誰のせいだと思ってやがる。俺を足蹴にして行きやがって!」
ほむら「あら、運んでくれたお礼はちゃんと言った筈よ」
カズマ「あれはてめーが勝手に背中に乗ってきただけだろうが!」
ほむら「そっちの方が早いって、あなたも認めたじゃない。でも...そうね。
いくらマミ達が危なかったとはいえ、足蹴にしたのは謝るわ。次からは気を付けるから」
カズマ「次はねえからな。つーか乗せねえ」
杏子「...またあんたかよ」
カズマ「あぁ?...またてめーか。俺の行く先々にツラ見せやがって」
杏子「バカかてめえは。どう見てもあたしの方が先に居ただろ」
カズマ「...会う度にバカバカ言いやがって。やっぱてめえとは白黒つけとかねえとなぁ...」ギリリ
杏子「ハッ、上等じゃねーか。こちとら、あんたには色々とムカついてんだ。その喧嘩、買ってやるよ」ジャキッ
魔獣達「ゴアアアァァァ!!」
カズ杏「「こいつらブッ飛ばしたあとでなあぁッ!!」」
マミ「もう...二人共先走っちゃって。まあ、なんだかんだいって連携して戦ってくれてるからそこまで困らないんだけどね」
ほむら「お互い、何があんなに気に入らないのかしら」
マミ「そう?むしろ私には、お互いに気に入ってる部分があるからこそ反発しちゃうんだと思うけど」
ほむら「同族嫌悪ってこと?」
マミ「そんなところかしら。まあ、本人達は自覚してないでしょうけれど。
それより私は暁美さんの方が気になるわ」
ほむら「私?」
マミ「ええ。昨日まではあんなに疲れた顔をしてたのに、今は随分とイキイキしているわ。なにか良いことあった?」
ほむら「別に...大したことじゃないわ。ただ...」
マミ「?」
ほむら「ちょっと、目標を思い出しただけ」
マミ「?...何にせよ、暁美さんが戻って来たみたいで嬉しいわ。そうね...これが終わったら、四人でお茶会でもしましょうか」
QB「僕は入っていないのかい?」
マミ「ご、ごめんねキュゥべぇ。五人の間違いだったわね」
ほむら「別にいいわよ、私にそんな気を遣わなくて」
マミ「いいの!私がやりたいだけだから」
QB「君は本当にお茶会が好きだね」
ほむら(別に、カズマの言葉で全てを吹っ切れたわけじゃない。それだけで吹っ切れるなら、始めから悩んでなんていない。
まだ私がやるべきことも、生きる意味もはっきりとは分かっていない。
でも、これだけは言える
―――私は、まどかに与えられるだけの世界に満足なんかしない。絶対に)
マミ「さて、そうと決まったら、早く済ませましょう」
マミ『佐倉さん!カズマさんを連れて離れて!』
杏子『なんで...まさかマミ、あれをやるつもりか!?』
マミ『ええ。幸い、グリーフシードは有り余ってるから。一気に蹴散らすわよ!』
杏子「カズマ、一旦退くぞ!」
カズマ「はぁ?なんで、逃げる必要がある。このまま叩き潰しゃあ...」
杏子「ごちゃごちゃ言ってねえで早く行くぞ!」ジャララ
カズマ「うおっ!?てめえ、引っ張るんじゃねえ!そして解け!」ズザザッ
リボンで足場を作り、マミは魔獣達の手が届かない程の高さまで走っていった。
ほむら(マミ...何をするつもり?)
そして、マスケット銃を次々に生成していく。
十、二十、三十...
ほむら「ちょ、ちょっと...どれだけ創るつもりよ...!?」
たちまち、空は数えきれない程のマスケット銃で埋め尽くされた
杏子『マミ、カズマは押さえつけた!思いっきりやってやれ!』
マミ「OK、わかったわ!速攻で決めるわよ!」
無数の銃口が、全て魔獣に向けられる。そして―――
マミ「パロットラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!」
ほむら「なんて無茶苦茶な...」
杏子「マミの奴、さやかが逝ってからずっと銃を増やす練習してたからな。今じゃ五百はいけるって言ってたぜ」
ほむら「なら、早くあれ使えばよかったじゃない」
杏子「あれは銃とリボンの準備で結構時間かかるんだよ。だから、あたし一人しか魔獣の囮役がいない時には使えないんだ」
カズマ「...納得いかねえ。元々俺は、あいつらとケンカしにきたってのによ」
杏子「まぁ、いいじゃねえか。おかげで、魔獣と戦ったせいで疲れました、なんて言い訳できねえんだからさ」ニヤッ
カズマ「ハッ、それもそうだな。残念だったな、杏子さんよぉ」ギラッ
マミ「ふうっ、これで終わりっと...あら、あの二人、結局戦うわけ?」
ほむら「止めなくていいの?」
マミ「ここでやるなら止めるけどね。でも、美樹さんのときみたいに、一度ぶつかり合った方がいいんじゃないかと思って」
杏子「さて、ここじゃあ場所が悪い。どこか人気のないとこで...あれっ?」
カズマ「んだぁ?今更ビビッたのか?」
杏子「ちげーよ。なぁ、マミ。あんた何体か取りこぼしてねーか?」
マミ「いえ、全部倒した筈...あら、私のソウルジェムも反応しているわ」
ほむら「私のもよ。でも、瘴気は消え去ったから、取りこぼした筈はないのだけれど」
マミ「妙ね...」
杏子「ああ。ソウルジェムは反応してるのに、魔獣の姿が見当たらねえ。どうなってんだ...?」
マミ「キュゥべぇ、あなたはどう思う?」
QB「分からない...今までこんなことは無かったからね」
マミ「魔獣の新しい能力かしら...?」
QB「それは考えにくいね。何千年経っても、魔獣の能力はあまり変化しなかった。今更彼らが進化するのは不自然だ」
杏子「...!おい、マミ、ほむら!こいつを見てみろ!」
ほむら(嘘...なんでこれが...!?)
杏子が見つけたそれは、壁に突き刺さっていた
マミ「なにかしら、これ...グリーフシード?」
杏子「いや...あれは四角いやつしかねえんだろ、キュゥべぇ?」
QB「うん。大きさの違いはあれど、形状は変わらない筈だよ」
それは、どす黒い輝きを発していた
マミ(この形、どこかでみたような...いや、違う。見慣れているような...)
QB(これは...まさか)
ほむら(どうして、ありえない!だってあれはまどかが――)
マミ「?暁美さん...顔色が悪いわよ、大丈夫?」
杏子「なあ、ほむら、マミ、キュゥべぇ。なんかさ、これ...」
それを中心に、壁が黒に染められていく。そして―――
杏子「―――ソウルジェムに似てねーか?」
闇は、四人と一匹を飲み込んだ
「...来やがったなァ、『反逆者』...それに『魔法少女』...」
ヤマネエエエエェェェンンン!!
――――――――――――
ロストグラウンド 某所
劉鳳「クソッ...」ダンッ
シェリス「お、落ち着いて劉鳳!」
君島「気持ちはわかるけどよ、カリカリしてもどうにもならないぜ」
劉鳳「...すまない、二人とも」
かなみ「少し休憩しましょう、劉鳳さん。無茶して倒れたりしたら、嫌ですから」
劉鳳「...ああ」
シェリス「かなみちゃん、大分無理してるわね」コソコソ
君島「ああ。ホントは、カズマの手がかりを早く掴みたいと一番思ってるのはあの子だからな...
劉鳳もそれを分かってるから、あんなに無茶しちまうんだろうな...」
水守(あれから何一つ進展しない...何か、いい方法はないのかしら)
ガチャリ
箕条「どうやらお困りのようですね」フフフ
ハーニッシュ「......」
君島「箕条!ハーニッシュ!」
水守「ロウレスの復興はまだ終わっていない筈では!?」
箕条「はい...ですが、カズマの手がかりを見つけたいのは私達も同じ」
劉鳳「その自身に溢れた表情...何か策があるのか?」
箕条「ええ、あります。先程思いつきました」
かなみ「えっ!?」
箕条「フフフ...」ニヤリ
カズマ「ちっ、どうなってやがる...」
ほむら「......」
QB「どうやら、マミと杏子とは逸れてしまったようだね」
ほんの一瞬だけ意識を奪われ、目を覚ました時には全てが変わっていた
眼前に広がる大量のお菓子に薬のビン詰め、お菓子に彩られた幾つもの別れ道や階段、お菓子の影から様子を窺っている一つ目の生き物...
どれもが現実のものとは思えない光景だった
カズマ「おい、耳毛。こいつはどういうことなんだ!?」
QB「僕にもわからない。今までにないケースだからね」
カズマ「ほむら!てめえはなんか...」
ほむら「...よ」
カズマ「あぁ?」
ほむら「これは、魔女の結界よ...でも、なんで...?」
杏子『おい、キュゥべぇ!どうなってんだよ、コレは!?』
QB『僕にもわからない。こっちにはカズマとほむらがいるけれど、そっちはどうなっているんだい?』
杏子『こっちはマミと一緒だが、クソッ!変なヒゲ達が鬱陶しくて仕方ねえ!』
マミ『暁美さん、あれを見た時顔色が変わったけれど、何か知っているの?』
ほむら『...今は話している暇がないわ。一先ずここから脱出しましょう』
マミ『脱出って...どうやって?』
ほむら『ソウルジェムの反応を追って、そこにいるものを倒して。遠慮も容赦もいらないわ...絶対に油断しては駄目よ』
マミ『わか――ザザッ―わ。あk――ガガッも――つけて――』
ほむら『巴マミ?どうかしたの?』
マミ『――――――』
ほむら(...?何か言っているのに、聞き取れない...)
QB「どうやら、テレパシーが繋がらない状況に陥ったみたいだ。これでは連絡もとれそうにないね」
ほむら「どういうこと?」
QB「わからない。でも、自然現象ではなく、人為的な妨害だと考えていいと思うよ」
ほむら(どうして、魔女が...?それに、魔獣の大量発生に、テレパシーの妨害...何かがおかしい。まさか...まどかの力が弱まっているの?
...いえ、今は考えている暇はないわね)
ほむら「カズマ、キュゥべぇ。詳しい説明は後でするから、早くここから...」
カズマ「......」
ほむら「カズマ?」
カズマ「...いや、なんでもねえ。とにかく、突き進めばいいんだな?」
ほむら「ええ。私から決して離れてはダメよ」
カズマ(何かの気配がしたが...俺の気のせいか...?)
「......」
スウッ
アンソニー「」ワラワラ
杏子「本ッ当にうっとうしい奴らだな!なんなんだよこいつら!?」
マミ「魔獣の一種かしら、ね!」バンッ
杏子「それにしてはグリーフシードも落とさねえけどな。あと、ソウルジェムの反応を追えって...多すぎねえかコレ!?」
マミ「ヒゲの子達は弱い魔力しか感じとれないから...暁美さんはこのいくつかある、強い反応を追えって言いたかったんじゃないかしら」
杏子「やっぱ、最初に合流した方がいいんじゃないのか?」
マミ「そうしたいんだけど...」
――――――――――――――――
QB「マミ達の魔力の波動を感じとりづらい?」
ほむら「ええ。テレパシーもだけれど、何故だか途切れ途切れになってしまうのよ。あなたは?」
QB「僕もそうだね。マミ達がどこにいるのか把握することができない。
さっき、君が言っていた『魔女の結界』ではいつもそうなのかい?」
ほむら「いいえ、そんなことはなかったけど...」
カズマ「んなことはどうでもいい。それより、まだ着かねえのか?」
ほむら「もうすぐよ。そして、この先に居るのはおそらく...!」
最深部
杏子「なんだ...ありゃあ?あれがほむらが倒せって言ってた奴か?」
ゲルトルート「......」
マミ「ちょっとグロイわね...」
杏子「早いとこ終わらせちまおうぜ、マミ」ジャキ
マミ「ええ!」
――――――――――
カズマ「あれは...ヌイグルミ?」
シャルロッテ「......」
ほむら(やっぱり...巴マミがあれと鉢合わせなくて良かったけど...時間停止が使えない今、どう倒そうかしら...)
カズマ「あいつをブッ倒せばいいんだな」
ほむら「ええ。...でも、一秒たりとも気を抜いては駄目。中から黒い恵方巻きのようなのが出てくるから、消え去るまで決して目を離さないで」
シャルロッテ「」ブルブル
カズマ「恵方巻き...なんだそりゃ」
ほむら「とにかく、グワッと出てくるから気を付け...」
シャルロッテ(恵方巻き)「」ニュルン
ほむら「なっ!?」
ほむら(今までは攻撃を受けてからだった筈...マズい、早く回避を――)
カズマ「しゃらくせえっ!!!」
ガッバァン!
ほむら「早ッ!!!」
カズマ「もう終わり...ッ!?」
ほむら「まだよ。こいつには何度か再生する能力がある」
シャルロッテ「」ニュイン
カズマ「ワンパターンなん...!?」ガンッ
拳を地面にうちつけ、噛みつきを空へ回避したカズマ。しかしシャルロッテは、その浮いたカズマの隙を突き、強力な頭突きをおみまいした。
カズマ「ぐっ...」
ほむら「油断するなと言ったでしょう」
カズマ「こんなの、大したことねえ」
ほむら「そう。なら、動けるわね。行くわよ、カズマ」
カズマ「おう!...って、てめえが仕切るんじゃねえ!」
――――――――――
タタタタッ
杏子「なんなんだよ、あいつは...!」ハアッ ハアッ
杏子「早く、ほむら達に知らねーと...ッ!?」
ドシュッ
杏子「カハッ...!」
杏子(こんなところで終わりかよ...すまねえ、マミ...あんたが命張ってくれたってのに...
逃げろ...ほむら...カズマ...こい...つに...は...かなわ...ね...)
シャルロッテ「」シュウウ
カズマ「これで終わりか?」
ほむら「ええ...」
ほむら(気のせいかしら...カズマのアルター、魔獣と戦っていた時よりも威力が上がっていたような...)
カズマ「...おい、あいつ倒せば脱出できるんじゃなかったのかよ。何も変わんねえぞ」
ほむら「少し待っていなさい。直に結界が崩れて...」
ゴッバァァァン
カズほむ「「!?」」
突如、カズマ達の後方で、轟音が鳴り響いた
もうもうと立ち昇る土煙。壁にできたクレーターには、人影も見てとれる
カズマ「なんだ!?」ケホッ
ほむら「一体何が...!?」
土煙が次第に晴れていき、視界を遮るものも消えていく
QB「あれは...」
そして、その人影は―――
紛れもなく、傷つき倒れた佐倉杏子のものであった
ほむら「きょ、杏子!」
すぐに杏子に駆け寄る三人
杏子の身体は、結界にのまれる前のそれとはかけ離れていた
全身は血で赤く染められ、腕はあらぬ方向に曲がっており、腹部には巨大な穴が空いている。
そして、彼女の胸元にある筈のソウルジェムは、どこにもなかった
ほむら「目を覚まして、杏子!」
魔法少女は、この程度では死なない
もしかしたら、杏子はソウルジェムをどこかに隠しているのかもしれない
そんな淡い期待をかけて、意識を取り戻すよう呼びかけるが、杏子が目を覚ますことはなかった
―――どういうこった?なんでこいつがこんな様になってやがる
確かにこいつは、どこかスカしたツラして、何かと突っかかってくるムカツク奴だった。
だが、こいつは強かった。ムナクソ悪いが、それだけは認めていた。
それがこの有り様だ。
...誰だ、俺とコイツのケンカを奪ったのは。
誰だ、一体誰が...
カズマ「聞くまでもねえよなぁ」
こいつをここまでやれるのは、あの野郎しかいねえ。
カズマ「こそこそ隠れてねえで出てこいよ!てめえなんだろ!?アルター野郎ォォォォォ!!」
「そうで――――――――――――すゥ!!」
シャキィィィィィ
ほむら「な、なに!?まぶしっ...!」
「改めて自己紹介させて貰うが...俺は元・マーティン=ジグマールのアルター...」
「ギャラン=ドゥ!!」
ヤマネエエエエェェェン!!
ほむら(あれが、カズマの言っていた、『アルター野郎』...)
ギャラン=ドゥ「いよ~うゥ。久しぶりじゃあねーか、反逆者」
カズマ「昨日ぶりだけどな。だがよ、随分長いこと会ってねえ気分だぜ。てめえの所為でロクに寝てねえからな...!」
ギャラン=ドゥ「昨日...?ああ、こっちじゃそういうことになってんのかァ。まあ、どうでもいいかァ、そんなことは」
ほむら「あなたが杏子を!?」
ギャラン=ドゥ「そうですがァ」
ほむら「なら、巴マミは...!」
ギャラン=ドゥ「ちょちょいとやりましたが...なにかァ?」
ほむら「ふざけないで!」
ギャラン=ドゥ「真剣ですけどォ」
カズマ「なおさら悪い!」
ギャラン=ドゥ「オイオイ、そんなに睨まないでくれよォウ!!」
シュン
ギュン
ギャラン=ドゥ「悔しいけれどォ~~~♪俺に夢中かァ?」
カズほむ「「!」」
ほむら(い、一瞬で背後に...!?)
ギャラン=ドゥ「ギャラン=ドゥ~~~♪」
ド ガ ガ ガ ガ ガ
ギャラン=ドゥの猛攻により、吹きとばされるほむらとカズマ。
ほむら「がはぁっ!」
カズマ「グッ...同じ手段はくわねーよ!」
しかし、一瞬早く攻撃を察知したカズマは受け身をとり、すぐさま体勢を立て直し、反撃の弾丸をその腕に込める
ギャラン=ドゥ「ほおぉ~~う、ヤルじゃあねぇか」
カズマ「喰らいやがれ!反撃の...シェルブリットォォォォォ!!!」
ギャラン=ドゥ「だが甘えェ!!」バシイッ
カズマ「なっ...!」
ギャラン=ドゥは、あっさりとカズマの拳を左手で止めた
そして、右腕をドリル状に変化させ―――
カズマの右肩を貫き、アルターごと右腕を切り落とした
カズマ「ぐあああああああぁぁぁぁ!!!」
あまりの激痛に、カズマは叫び声をあげ、両膝を地につけてしまう
ほむら(つ...強い...)
ほむらは今まで、ワルプルギスの夜を倒すために、何度も命を賭けてきた
そして、賭ける度にワルプルギスへの恐怖に耐えれるようになった
だが、そんな彼女さえ動けなくなる程の、ギャラン=ドゥのその圧倒的なパワーに、ほむらは戦慄した
ギャラン=ドゥ「い~い様だなァ、反逆者ァ...」ニヤニヤ
カズマ「ぐぐっ...」
ほむら(勝てっこない...巴マミと杏子は死に、カズマはアルターを破壊された。なら、私達に出来ることなんて...)
ギャラン=ドゥ「ま、俺も無慈悲じゃあねえ。てめえらが負けを認めて俺の配下に加われば、許してやらんことも...」
カズマ「...調子こいてんじゃ...ねえぞ...」
ギャラン=ドゥ「あァ?」
フラつく足どりで、しかし、それでも折れることなく、カズマは立ち上がった
ギャラン=ドゥ「ほ、お~う。まだ抗うってか」
ほむら「逃げなさい、カズマ!勝てるわけがない!」
カズマ「やってみなきゃわからねえだろうが!」
ほむら「無理よ!だってあなた、右腕が...」
カズマ「アホ言ってんな!俺は...」バァン
カズマの叫びと共に、切り落とされた腕が粒子状に消失。
ギャラン=ドゥ「なっ!?こいつ...」
カズマ「『道理』を『無理』で押し通す!!『反逆者』だ!!」ドシュウッ
そして、粒子は再びカズマの右腕となり、たちまちシェルブリットを形作った
ギャラン=ドゥ「俺が切り落とした腕をアルター化...再々構成しやがった!」
カズマ「怒涛のシェルブリットォォォ!!」
――――――――――――
「......」
そいつは、横たわる少女を見つめていた。
横たわる彼女は、巴マミ。彼女の身体は、五体満足とはとても言えない悲惨な状態だった。
よほど怖かったのか、目を見開き、顔には涙の跡も見てとれた
そいつは、何を思ったのか、マミの顔に手をかけ
「......」
そっと、彼女の目蓋を閉じさせた
――ドズン
そう遠くない場所で、盛大な音が響き渡る
「...あっちか」
――――――――――――――――
ほむらは、その現状に、声を発することすら出来なかった。
ギャラン=ドゥに踏みつけられるも、全く抵抗できないカズマ。
果敢に立ち向かうカズマだったが、結果は―――惨敗。ただの一度も自慢の拳を当てることもなく、地に伏せてしまったのだ。
ギャラン=ドゥ「まぁだ息があるのかァ。しぶとい野郎だなァ、オイ」
足をカズマの身体からどけ、右腕をドリル状に変えるギャラン=ドゥ
ギャラン=ドゥ「じゃあな、反逆者!」
今度こそ止めだと、ドリルをカズマの頭にむけて放つその瞬間
カッ
閃光が、ギャラン=ドゥを包み込んだ
タタタッ
ほむら「はぁっ...はぁっ...」
ほむらは走る。ただひたすらに、わき目もふらずに走る
その背に、気を失っているカズマを背負いながら、ほむらは走る
切り札の閃光弾を使い、元来少ない魔力を出し惜しみすることなくほむらは逃走した
その速さは、並みの人間では追いすがることすらできないものだ
「おいお~い、俺を置いていくなんてつれねえじゃねえかよぉうゥ」
だが、いくら速かろうが隙をつこうが、『ワープ』の能力を持つ彼の前では全くの無意味である
ほむら「くっ...!」
ほむら(閃光弾は使ってしまった。カズマは戦闘不能。手持ちは手榴弾数発と拳銃を数丁だけ。どうする?どうする!?どうす―――)
ギャラン=ドゥ「チェック・メイトだ」
『そこまでだっ!!!』
ほむらとギャラン=ドゥの間に割り込み、ギャラン=ドゥのドリルを防ぐ影が一つ。
ほむら「あなたは!?」
上半身は人間を模し、下半身は蛇のようであるその構造。
ギャラン=ドゥ「なぜ貴様がここに!!?」
正義を連想させる青と白を基調としたその姿。その名は...
ギャラン=ドゥ「アルター、真・絶影―――!!」
――――――――――――――
ギャラン=ドゥ「まんまとやられちまったなァ...」
真・絶影の、空間をも切り裂く能力『断罪断』により、絶影及び、カズマとほむらは結界から脱出した。
したがって、この結界内に、生身の人間は誰一人としていない
ギャラン=ドゥ「あ~?殺すな、だって?分かってるって。けどよ、魔法少女は腹貫かれたくらいじゃあ死なねえんだろ」
しかし、ギャラン=ドゥは、まるで誰かと会話をしているかのように言葉を紡ぐ。
ギャラン=ドゥ「仕方ねえだろ、あっちが抵抗してくるんだからよ。それに...あんたの言いつけは守ったんだ。
これくらいは大目に見てくれていいだろォ」
そうブツクサ文句を垂れながら、ギャラン=ドゥは結界の奥深くへと姿を消した
その手に、赤と黄の二つのソウルジェムを持ちながら
QB「......」
スウッ
137 : ◆do4ng07cO.[sag... - 2013/05/26 23:03:00.47 LXmNTbrc0 115/367今回はここまでで。今更ですが、知久の漢字間違ってました。すみません。
とりあえず前の残りのキャラ紹介。いらない人はスルーしといてください
『志筑仁美』
一般人で魔法少女のことを知っている数少ない人間。魔法少女達とは友達
『上条恭介』
上に同じ。仁美とは付き合っていない
『鹿目詢子』『鹿目知久』『鹿目タツヤ』
まどかの家族。まどかのことは覚えていない。
『由詑かなみ』
カズマにゾッコンの同居人。八歳
『君島邦彦』
カズマの相棒。アルター能力は無い
『シェリス・アジャーニ』
劉鳳ガールズその一。アルター能力は、相手のアルターの力を吸収・増幅できる『エターナル・デボーテ』
『桐生水守』
龍鳳ガールズその二。
『箕条晶』
音を操るアルター使い。能力名は『サウンド・スタッフ』
『ハーニッシュ・ライトニング』
箕条の愛人。無口。アルター能力は『殲滅艦隊』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
過去に、誰かが言っていた。希望と絶望は差し引きゼロだと。
円環の理となって、まどかは全てを知った。
ほむらのことも、過去も未来も何もかも...全てを知った。
しかし、視える未来はいつも変わらなかった。
ほむらは、マミは、杏子は、魔法少女達は、どの時間軸においても蹂躙されていた
魔女でも魔獣でもインキュベーターでもなく―――他ならぬ、護ってきた人間たちの手によって。
時には争いの道具として、時には実験体として、時には畏怖すべき対象として。
形は違えど、魔法少女達が蹂躙される未来は変わらなかった
だが、まどかには何もできない。希望を信じたところで、祈ったところで何も変えれない。
そんな未来を視ているうちに、まどかの心は徐々に、しかし確実に壊れていった
そして、まどかに追い打ちをかけるように現れたのが...侵略者、ギャラン=ドゥ!
彼は全てを支配するために、まどかは魔法少女達を守るために、闘いの火蓋は切って落とされた。
概念空間
まどかは、ギャラン=ドゥに防戦一方だった。
確かに、まどかの魔力は無限に近い。しかし、その力はあくまでも魔法少女のためのもの。
魔女ではないギャラン=ドゥに対しては、効果が薄かった。
まどか(このままじゃ...こうなったら...!)
ギャラン=ドゥ「いい加減に...くたばりやがれッ!」
右手をドリル状に変化させ、まどかの腹部に向けて突き出す。
それに対してまどかは―――
―――ドズッ
避けることなく、正面から受け止めた。
ギャラン=ドゥ「勝った!まどか☆マギカ、完...!?」
まどかの腹部に刺さったドリルは引き抜けず、それどころか、次第に奥へと押し込まれていく。
いや、まどかの身体の中に取り込まれているのだ
まどか「これで...終わりだよっ!」
これは、概念の世界だからこそできる荒業。まどかの全身全霊を持ってして、全てを浄化するのだ
ギャラン=ドゥは、抗うことを許されず、その全身を吸収されてしまった
まどかに取り込まれてもなお、ギャラン=ドゥの意識は消え去っていなかった
ギャラン=ドゥ(クソッタレ、このままじゃあ完全に消えちまう!なんとかしてここから逃げねーと...
だが、どうやって...!)
ギャラン=ドゥの身体が消えていくと共に、様々な記憶が流れ込んでくる
願いを間違え、家族を失った少女、自らの祈りに裏切られた少女、自らの祈りのために絶望した少女、たった一人を救うために何もかもを捨てた少女。
そして、全ての魔法少女の絶望を引き受け、希望になろうとした少女...
ギャラン=ドゥに記憶を読み取る能力などない。しかし、取り込むということは、ギャラン=ドゥがまどかの一部になることを示す。
それ故に、ギャラン=ドゥはまどかの記憶を共有することができたのだ
ギャラン=ドゥ(こいつは...使えるかもしれねえなァ)
まどか「あと少し...」
もう少しでギャラン=ドゥを消し去れることに、まどかは胸を撫で下ろした。
常日頃から神経をすり減らしているまどかにとって、これほど強大で異質なパワーを相手にするのは苦でしかない。
しかし、ようやくそんな強敵からも解放される。そう、まどかは思っていた。
ギャラン=ドゥ『―――皆を幸せにしたくねえのかァ!?俺にてめえの力を譲れば、皆を幸せにすることができる!』
ギャラン=ドゥのその声を聞くまでは
まどか「な、何を...」
ギャラン=ドゥ『魔法少女の記憶...読ませてもらったぜェ。随分とえげつねえ目にあってきたみてえだなァ』
まどか「!」
迂闊だった。勝負を急ぐあまり、記憶を共有してしまうことを失念してしまっていた。
しかし、もうじき決着は着く。
ギャラン=ドゥの戯言だと、聞き流そうとしたが―――
ギャラン=ドゥ『役立たずのままで終わっていいのかァ?』
役立たず。
どの時間軸においても、まどかを悩ませ続けたその単語を無視することなどできなかった。
ギャラン=ドゥ『確かに、魔法少女は魔女にならなくなった。だが、それだけじゃねえか』
まどか「ち、違う!私は、魔法少女の祈りを絶望で終わらせたくなくて、頑張ってきたことを無意味にしたくなくて」
ギャラン=ドゥ『巴マミと佐倉杏子は、家族と共に生きたかったんじゃねえのか?暁美ほむらはてめえを救いたかったんじゃねえのか?
希望なんざもう終わっちまってる。そうじゃねーのかァ?』
ギャラン=ドゥ『てめえで結末を変えることが出来ないからって、目を背けてんじゃねえよ』
まどか「違う...私は...」
ギャラン=ドゥ『それに...てめえもわかってんだろ?お前の存在を必要としていない奴らなんざ、腐る程いるって』
ギャラン=ドゥ『必要とされてない存在は、役立たずと何が違うんだァ?』
まどか「......」
ギャラン=ドゥ『なんなら、お前の最高の友達に聞いてみろよ』
まどか「......」
まどか(ねえ、ほむらちゃん。私、間違ってないよね?ほむらちゃんの闘いを無駄にしてないよね?)
―――『鹿目まどか』はどこにも存在しない。だから、こんな世界に居る必要なんてない
まどか(私はいつでも皆を見守っているから。眼にみえなくても、絆はしっかりと―――)
―――違う。そんなものは戯言だ。結局、私はまどかの未来を変えることができなかっただけ
まどか(...私は、ほむらちゃんの役に立ってるの?)
―――私は、まどかに与えられるだけの幸せに満足なんかしない。絶対に
まどか「ほむら...ちゃん...」
本来のまどかなら、この程度で折れたりしないだろう。
しかし、今の彼女の精神はもはや限界寸前。何かにすがらずにはいられなかった。
だが、必要とされていないという思い込みは絶望に変わり、彼女のソウルジェムは、一気に黒に染まっていく
ギャラン=ドゥ(堕ちた――――!!!)ビバッ
マーティン・ジグマールという男は、劉鳳やストレイト・クーガー、蒼乃大気といった曲者揃いのHOLY部隊を何故纏めることができていたのだろうか。
本来は美形ある素顔を変えてまで得ていた威厳、奥底に眠るカリスマ性も要因の一つだろう。
しかし、それ以上に、彼は人の心理を突くのが得意だった。
相手の悩み・苦悩を即座に見抜き、そこを甘い誘惑によって誘いこむ。
そういった手法によって、彼はHOLY部隊の隊長という地位にまで昇りつめた。
そんな彼のアルターであるギャラン=ドゥに、一瞬でも心の隙間を見せれば、堕とすことはたやすい。
しかし、ここで二つの誤算が生じた。
一つは、彼女の魔力があまりにも強力だったため、ギャラン=ドゥには支配しきれなかったこと。
もう一つは、記憶を共有するということは、まどかもまた、ギャラン=ドゥの記憶を読み取れるということ
まどか(やっぱり...私、誰の役にも立てないんだ...)
いくらまどかが強力な魔力を持ち、概念と成り果てても、干渉できるのは魔法少女を導くことだけ。
さやかの結末、マミの家族の温もり、杏子の家庭崩壊、ほむらの闘い、この先に起きる悲劇...何一つ変えることができなかった。
まどか(やっぱり...私には無理だったのかなぁ...)
あんなにも愛してくれた両親と弟、友人達を捨ててまで選んだ道。
しかし、それは苦痛ばかりの道だった。
何度も泣きたくなった。心の中では後悔ばかりだった。
それでも、まどかは諦めなかった。自分は魔法少女達の希望だから。未来を切り開く希望はある筈だと信じていた。
だが、現状を変えることすらできない者に何ができようか。
結局、彼女の願いは、誰からも必要とされない、唯の自己満足で終わってしまうのだろうか
まどか(悔しいなぁ...)
故に、まどかは無意識に欲した。嘘も矛盾も飲み干す程の力を欲した。
その力で全てを変えるために。
まどかのその想いに応えてか、それとも唯の偶然か...それは、誰にもわからない。
だが、まどかは確かにそれを掴みとった。
掴みとったものは、たった六文字のアルファベット。
ソウルジェムが濁り、自分が消えていく中で、彼女は掴んだ六文字を呟いた。
「―――s.CRY.ed」
―――――――――――――――
概念空間
さやか「まどか、しっかりして!」
ギャラン=ドゥを取り込んでから、まどかは身体――概念に対して言うのもおかしなことではあるが――を震わせるだけで、
いくらさやかや魔法少女達が呼びかけても、ピクリとも反応しなかった
だが、状況は突然に、そして急速に変化する
まどか「――――――」
聞き取れない程のか細い声で、まどかが何かを呟いた。
しかし、さやか達がそれが何なのか理解する暇もなく
―――ゴウッ
さやかを含む魔法少女達は、皆吹き飛ばされた
さやか(...ちくしょう...)
さやかは己の無力さを呪った。
さやかが苦しんでいる時、まどかはいつも傍にいてくれた。助けてくれた。見捨てないでいてくれた。
だが、自分はどうだ。
まどかが苦しんでいる時、傍にいることすらしてやれなかった。
今もそうだ。
まどかに全て背負わせたくせして、傍にいるのに何もしてやれない。
こんな自分が、まどかの親友などと...胸を張って言える筈がない。
さやか「ちくしょおおおォォォォォ――――!!」
吹き飛ばされるさやかの視界の端に入るのは、青色と白色の装甲。
それが何なのかはわからない。
だが、考えるよりも先に、さやかはそれに向かって手を伸ばしていた。
かつて、自分が憧れた『正義』の象徴のようなそれに向かって
かくして、円環の理は消滅した。
いや、進化したといった方が適切だろう。
魔法少女だけでなく、生命体全ての救世主にも、かつてジグマールが夢みた、時系列を超えて全宇宙を支配する者にも、全てを壊すことが出来る者にも成り得るものに。
彼女は、神か悪魔か魔法少女か魔女かアルターか、それとも...
『―――ウェヒヒ!』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
**********************************
『―――ガ、―――ノキボウニナル』
誰だ...?
『ワタシガミンナヲスクウンダ』
どこのどいつだ...?
『マミサントモ、ホムラチャントモヤクソクシタカラ』
俺に何かを回想させる...お前は誰だ?
何も分からねえ。けど、なんでだろうな...
『ワタシガ、ミンナヲシアワセニスルンダ』
こいつの考えは...気に入らねえ
とある廃屋
絶影『これで良し、と...』
重傷のカズマの手当を終え、絶影は一息ついた。
絶影『ごめんね、ほむら。もうちょっと早く着けてれば、カズマもこんな目には遭わなかったかもしれなかったのに』
ほむら「構わないわ。どうせ、この男は何を言っても止まらなかっただろうし」
絶影『でも、せめて杏子達と合流できていれば...』
絶影は、傍らに眠るマミと杏子の遺体を見て、申し訳なさそうに俯く
ほむら「死体が一つ増えただけよ。あなたごときにどうにかできる相手じゃない」
絶影『うっ、確かにそうかもしれないけどさ...もうちょっと言い方ってものが...』
ほむら「でも...あなたのおかげで助かったわ。ありがとう」
絶影『な、何か改まってお礼を言われると恥ずいな...』
ほむら「それより...あなた、本当に美樹さやかなの?」
絶影【さやか】(以後さやか)『だからそうだって言ってるじゃん。回復の魔法も使ったし、ソウルジェムも青色でしょ?』
ほむら「魔女化した...ワケではないのよね。なら、その姿は?」
さやか『話すと長くなるんだけどね。それに、詳しいことはあたしにもわかってないし」
――――――――――――――――――――――
結界内
QB「ふむ...やっぱりね」
マミと杏子が倒した魔女のグリーフシードに触れながら、キュゥべぇは考える
QB(これは、間違いなく魔法少女のソウルジェムだったものだ。それも、負の感情の溜まったね)
QB(でも、何故だろう?濁りきったソウルジェムは、その器ごと消えてなくなる筈...それに、魔女といったかな。
魔法少女を魔女にする理由も...)
ギャラン=ドゥ「やっぱてめえは残りやがったか、インキュベーター。俺は残ると思ってたぜェ」
QB「...君は、一体何が目的なんだい?」
ギャラン=ドゥ「別にテメーらには迷惑かけてねえだろ」
QB「いいや、困るんだ。君がもしこのまま魔法少女を狩り続けていれば、宇宙のエネルギー源が減ってしまう」
ギャラン=ドゥ「エネルギー源か...カハハッ!安心しな、俺の計画が進めば、エネルギーなんざ腐る程提供してやらァ」
QB「...それは本当かい?にわかには信じがたいけれど」
ギャラン=ドゥ「おうよ。お前さんにとっても悪い話じゃあねえ」
QB「それは興味深い。聞かせてくれるかな、君の計画というのを」
―――――――――――――――――――
さやか『あたしは、まどかに導かれてから全てを知った。
魔法少女の真実、あんたが何度も世界を繰り返してきたこと、まどかのこと...』
ほむら「......」
さやか『正直ね、やりきれなかったよ。確かにあたしは本当の願いを思い出せたし、自分の結果にも後悔はしなかった。
でも、その代償に、まどかには重すぎるもの背負わせて、頑張ってきたあんたは報われない...そんなのおかしいじゃん』
さやか『けど、あたしにはどうすることもできなかった。まどかが誰かを導く度に、傷ついていく様を見ていることしかできなかった』
ほむら「傷つく...?」
さやか『...魔女にならないことが、必ずしも希望になるわけじゃないってこと』
さやか『例えば、快楽殺人鬼や通り魔に、まどかがこの世で一番苦しむ上、残酷な殺され方をしたら、あんたはその犯人をどうする?』
ほむら「殺すわね。最も苦しむ残酷な殺し方で」
さやか『...そしたらさ、その犯人を殺すためにQBと契約したいんだけど...願いはどうする?』
ほむら「...どこにいても居場所を突き止めることができるようにするかしら。復讐は、自分の手でないと意味がない」
さやか『うん、大体の人は自分の手でって思うよね。じゃあさ、ソウルジェムは真っ黒、犯人も五体満足な状態の大ピンチだったら、どうしたい?』
ほむら「魔女になってでも殺し...!」ハッ
さやか『そういうこと。あたし達はたまたま、他人のためや生きるために願った人ばかりだったけど、世の中には復讐が希望になる魔法少女もいる。
そうなるとさ、その子を魔女になる前に導くことはその子にとってマイナスにしかならない時もある。身体ごと消えちゃうから証拠を残すことも出来ないし、次の魔法少女に繋げることもできない』
さやか『そういった子を導く時...あいつはいつも泣きながら謝ってたよ。どうして、魔女にならないことが希望にならない人もいることに気付けなかったんだって、後悔ばかりしていた。
でも、まどかの願いは、あいつ自身にもどうすることも出来なかった』
さやか『そうしている内に、まどかの目的は【皆を幸せにする】ことに変わっていった』
ほむら「まどか...」
さやか『そして、そんなまどかに追い打ちをかけるように、あいつが現れた...』
ほむら「...ギャラン=ドゥね」
――――――――――
結界内
QB「...なるほど。確かに、君の考えは素晴らしいね。効率もいいし、僕らにとって利益にしかならない」
ギャラン=ドゥ「そうだろゥ?イカしてんだろ、俺様」
QB「でも、そんなことは僕らにも不可能だ。君にそんな力があるとは思えないのだけれど」
ギャラン=ドゥ「俺じゃあねえさ。やってくれんのは...」
ズズズ
ギャラン=ドゥの背後の空間に歪みが生じる
ギャラン=ドゥ「噂をすればなんとやら、ってかァ?」
『おまたせ、ギャラン=ドゥ』
ギャラン=ドゥ「その様子だと...あいつらにはフラれたみてえだなァ」ケケッ
『...うん。でも、いいの。これでふっ切れたから』
ギャラン=ドゥ「?」
『...私は、まだどこか迷ってたみたい。でも、もう迷わない』
『私が死ぬ時は、私の信念が曲がる時だよ、ギャラン=ドゥ!』
ギャラン=ドゥ「...上出来だ」
――――――――――――――――――
さやか『あたしが話せるのはこれくらいかな。正直、あたしもよく分かってないんだ。わかってるのは、ギャラン=ドゥがまどかに何かしたってことだけ』
ほむら「あなたがその姿になった原因は?」
「そのことについては僕が説明してあげるよ、暁美ほむら、美樹さやか」
ほむら「キュゥべぇ...?」
さやか『おっ、久しぶりだね、キュゥべぇ。ていうか、あんた何か知ってるの?』
QB「君たちの魂はソウルジェムにあるだろう?だから、自分の肉体が無くても、魂のない肉体に魔法少女の波長が合えばそれを操ることができるんだ」
さやか『え~っと、つまりどういうこと?』
ほむら「...要は、ソウルジェムがあれば、死体を操れるってこと」
さやか『あー、そういうことね。え、じゃあ、これって誰かの死体なの?』
QB「僕の見る限りでは、それはアルターだろう。誰のものかは知らないけれどね」
QB「それより、こんなところにいていいのかい?彼女にかかれば、こんな廃屋なんてひとたまりもないだろう」
ほむら「それはどういう―――」
ピシャアアアァァン
さやか『あ、雷...』
落雷。そして、窓をガタガタと揺らす強風。空を覆いつくすドス黒い暗雲。
どれもが、自然ではありえない程唐突だった。
さやか『おっかしいなぁ、さっきまで晴れてたの...に...』
ほむら「どうしたの?美樹さやか」
窓に映る光景を見たほむらは固まった
それは、繰り返してきた時間の中で、一度もほむらが勝てなかったもの。
繰り返してきた時間の中で、見慣れてしまったその姿。
「ウフフ...アーハッハッハッハッハ!!!」
ワルプルギスの笑い声は、暗雲に立ち込められた街に響き渡った
ほむら「......!」
さやか『なんで...なんであいつが出てくるのさ!?』
QB「今まで君が闘ってきた魔女が出てきて、彼女は出てこないと本気で思っていたのかい?」
ほむら「ッ...!」
ほむら(第一に考慮すべきだった...いや、無意識の内に考えることを拒否していたんだ...ある筈がないって思い込みたかっただけだった!)
ほむら(時間停止も使えないうえ、まともな準備すらない...こんなの、勝てるわけ...)
QB「どうするんだい?彼女と戦うのはオススメしない。それに、君達もわかっているだろうが、魔女の復活には、ギャラン=ドゥが関わっている。
戦ったところで、いぬじn」グシャッ
「...ゴチャゴチャうるせえよ」
さやか『あんた、もう意識が!?』
カズマ「あんなウルセー笑い声聞かされて寝てられるか。出かけるぜ」
さやか『どこへ?』
カズマ「ヘッ、決まってんだろ!!アルター野郎がいるんなら、尚更だ!」
ほむら「...戦うつもり?」
カズマ「当然のパーペキだ!やられっぱなしじゃ気がすまねェ...借りは返す!」
ほむら「どうやって!?...あなただけでなく、マミと杏子でさえ勝てなかったのよ!?」
カズマ「ああ、確かに負けた。それも、完膚なきまでにな。だから俺は...」
右腕に覚悟と信念を込め、カズマは叫ぶ。
カズマ「あの野郎に勝てないという現実に反逆する!ただそれだけだ!」
ほむら(この男の一途な想い―――)
恐らく、カズマにとってはワルプルギスの夜などどうでもいいのだろう。
彼は、ケリをつけたいだけなのだ。それを邪魔するものはなんであろうと、蹴散らすだけ。
それがカズマの生き方であり覚悟であり、誰にも譲れない信念。それを止めることなど、誰にもできやしない!
ほむら(たぎる程に熱く―――!!)
さやか『...なら、あたしも行こうかね』
ほむら「な、何を言って...」
さやか『勝ち目が薄いなんてのは分かってるさ。でも、ゼロじゃあない』
さやか『それに、もしまどかがいるなら...きっとワルプルギスの所に現れる。少なくとも、手がかりくらいは掴めるかもしれない。
そうでしょ?』
ほむら「!」
さやか『あんたはどうする?あいつの怖さはあんたが一番知ってるから...無理強いはしないよ』
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
カズマ「あんたらも行く気かよ?」
さやか『逃げたところで何かあるわけでもないしね』
ほむら「何か問題でもあるのかしら?」
カズマ「ハッ、勝手にしな...」
さやか『ん!』スッ
カズマ「...なんだよ」
さやか『握手だよ、握手。一応、一緒に戦うことになるんだから、さ』
カズマ「...なんかキャラ違わねえか、劉鳳」
さやか『劉鳳?もしかしてこれの持ち主のことかな...ま、いいや。あたしは美樹さやか!よろしくね、カズマ!』
カズマ「...お、おう...?」
とある廃屋
誰もいなくなった廃屋。あるのは、佐倉杏子と巴マミの遺体。
そして、カズマに潰されたインキュベーターだけ。
QB「まさか、いきなり潰されるなんてね。彼はとことん僕が嫌いらしい」
新たに現れたインキュベーターは、カズマに潰された個体を処理していた
QB「暁美ほむら、君には本当に感謝しているよ。君の祈りが、ほんのちっぽけな少女を最強の魔法少女に成長させた」
QB「そして、概念として魔法少女達の希望になろうとしていた彼女を引きずりおろしたのも君だ。
もし、君がまどかのいないこの世界を受け入れ、まどかを肯定していれば、彼女がギャラン=ドゥに唆されることもなかった」
ワルプルギスの夜に動揺していた所為か、ほむら達は気づいていなかった。キュゥべぇの口ぶりが、未だほむらが話していない彼女の過去を、知っているかのようなものだったことに
QB「気付いているのかい?もうこの町は...いや、世界中が彼女にのまれつつあることに。君たちが立ち向かおうとしているのは、まさに運命そのものだということに」
QB「...暁美ほむら。真実を知った時、君がどのような選択をするのか見届けさせてもらうよ。それもまた僕の役目だからね」
174 : ◆do4ng07cO.[sag... - 2013/06/10 18:42:43.24 gm+tS7Hu0 145/367今回はここまでで。
ほむらの武器は、君島のように袖に隠してたり、腰辺りに巻きつけてあったりします。
『マドカ』
円環の理となった鹿目まどかが進化し、現実世界へ干渉可能となったもの。その正体は不明。
彼女の性質は救済。彼女を倒したければ という弱点をうまく使うしかない。
設定年齢14歳。天秤座のA型。
『絶影』【さやか】
劉鳳のアルター「絶影」をさやかがソウルジェムで操っている。
魔法と絶影の能力を両方使えるが、制御しきれていないため、第二形態の姿から戻れなくなっている。
ワルプルギス「キャハハハハハ!!」
カズマ「バカみてえに笑いやがって...」
カズマは、ワルプルギスなどに興味はない。
だが、カズマは確信していた。この先にアルター野郎がいると。
相も変わらず、自分を見下して薄ら笑いを浮かべているであろうことを。
カズマ(許せねえなぁ。ああ、許せねえ)
奴が俺をナメてるってんなら、刻んでやる。この拳を、俺の強さを!
アルターを纏った右腕で地面を殴りつけ、その反動で空高く跳躍。
高さが最高点まで達したところで、背にある三枚の真紅の羽を展開。
その羽を原動力に放つのは―――
カズマ「三枚羽発動!!攻速の...シェルブリットォォォ―――!!!」
ギャラン=ドゥ「行かせねえ!!ギャラン=ドゥ~♪」
カズマ「ぐはぁっ!」
どこからともなく現れたギャラン=ドゥに拳を防がれ、強烈な一撃を受けたカズマは落下していく。
ギャラン=ドゥ「性懲りもなくと言いてえが...」
ギャラン=ドゥの右手のドリルに、ピシリと亀裂が入った
ギャラン=ドゥ(以前より力が増している...?)
カズマ【アルター野郎の相手は俺がする。あんたらはあのデカブツをブッ飛ばせ】
さやか『って言ってたけど、大丈夫かな、カズマ...』
ほむら「言い出したら聞きやしない...あなたといい勝負だわ」
さやか『...返す言葉もございません』
ほむら「カズマがギャラン=ドゥを抑えている内に行くわよ」
さやか『OK!しっかり掴まってなよ!』
ほむら(まどか...あなたは、どこにいるの?もし、いるのなら、姿を見せて...!)
さやかは、ほむらを背にのせ、ワルプルギスのもとへ飛びたった
ワルプルギスは、炎を吐き、迫りくる絶影を撃ち落とそうとした
本来の絶影の機動力ならば、避けるのは容易いことなのだが...
ほむら「避けなさい!」
さやか『わかって...のわっ!?』
今現在、絶影を操っているのは創造主の劉鳳ではなく、アルターとは縁も所縁もなかった美樹さやか。
ほんの少しだけ高度を下げて躱すつもりが、一気に急降下してしまった。
さやか『ご、ごめんほむら!まだ上手くこの身体が使えなくて...ッ!』
さやかが詫びている間にも、ワルプルギスは、さやか達目掛けて幾度も炎を放ってきた
それを大雑把ながら、さやかは右へ左へ躱し続けた
だが、動きは大きい程隙を作り、制御できていない分、まわりへの注意力も散漫になってしまう
だから、さやかは気付けなかった。
己を狙う凶弾が、目前にまで迫っていたことに
さやか『なっ!?』
さやかは、とっさに両腕でそれを受け止めた。
だが、受け止めたそれは、その威力を殺すことなく、さやかに向かって突き進んでいく
さやか(こ、これは...!)
そして、それはさやかの腕を押しのけ―――
ほむら諸共、さやかの身体を吹き飛ばした
ほむら「さやか!」
衝撃によって、さやかの背中から離れたほむらは、落下していくさやかに手をのばすが、しかしそれはワルプルギスの使い魔に遮られてしまった。
使い魔「キャハハハハハ!」
ほむら「くっ...!」
先程、さやかが急降下してしまったことが幸いし、ほむらはなんとか着地に成功した。
だが、使い魔達の攻撃が終わるわけではない。
使い魔たちは、一人になったほむらに、容赦なく襲いかかった
某諸国
ザワザワ
「お、おい、何だよあの光!?」
「空に浮いてる...」
「あれは...女の子...か?」
「おほほぉ~めちゃくちゃ可愛い娘じゃねえか。俺のマグナムがカッとびそうだぜ!」
「確かに可愛らしいが...ま、僕の理想の女の子達と比べたら、まだまだだね」
「あ、あれはまさか神様...!?こここここれは、スーパーピンチな予感でででです!助けて僕のピンチクラッシャー!!」
「彼女を題材とした脚本が、湯水のように湧き上がってくるのであ~る!」
「アハハハハハ!素晴らしい!なんというパワー!彼女なら、私の渇きを癒してくれそうです!」
『...ゴメンね、ギャラン=ドゥ。私の我儘に突き合わせちゃって』
手袋で覆われた彼女の左腕が、白の装甲で覆われる
『すぐに終わらせるから...それまでの辛抱だよ』
同じく手袋で覆われた彼女の右腕が、黒の装甲で覆われる
これで準備は整った。後は進むだけだ。
―――後悔しかできずとも、迷わずに進むだけ。
『始めるよ、ワールド・オルタレイションを!』
全ては、皆を幸せにするために
群がる使い魔。笑い声をあげ続けるワルプルギスの夜。
これらを相手にしながら、ほむらは思う。
―――弱すぎる。
一番弱かった筈の一週目でさえ、使い魔ですら、まどかやマミに近い強さを持っていた。
だが、今はどうだ。身体能力が最弱のほむらですら、肉弾戦で使い魔と十分に渡り合え、ワルプルギスもビルを投げつけたり、町を破壊することもしない。近づく者に炎を吐く程度だ。
今のあれは、魔法少女の集合体というより、ただの巨大な魔女としか、ほむらには思えなかった
ほむら「とはいえ...数が多いっていうのは、厄介ね」
絶え間なく襲いかかってくるため、拳銃は勿論、爆弾を使う暇さえ与えられない
襲いかかってくる使い魔を、最小限の魔力を込め、殴り、蹴り飛ばし、次々に倒していく。
だが、元来肉弾戦を得意とせず、魔力も体力も少ない彼女では、そうそう長続きしないことは明白であった。
使い魔「キャハハハッ!」
ほむら「ぐっ...!」
使い魔の蹴りがほむらの顎を捉え、ほむらの上体が崩れた。
そして、それを皮切りに、使い魔たちが、四方八方からほむらへと攻撃を浴びせる。
いくら一撃が弱くとも、積み重なればそれは多大なダメージとなる。
ほむら「がはっ!」
壁に叩き付けられる頃には、ほむらは息も絶え絶えになっていた。
そして、トドメだといわんばかりに、使い魔は一斉にほむらに向かい―――
―――――シュンッ
一筋の閃光が、使い魔たちを消し去った。
ほむら「...!?」
ほむらは己の目を疑った。
始めは、カズマかさやかだと思った。
だが、カズマは飛び道具など使わないし、さやかにしても、結界から脱出した時の技とは似ても似つかなかった。
なにより、ほむらがあの閃光を忘れることなど、ある筈が無かった。
あの閃光は、桃色の閃光は、間違いなく―――
「おまたせ、ほむらちゃん」
瞬間、ほむらの脳裏では、ある光景が重なった。
それは、まだほむらが魔法少女を知らなかったあの日の記憶。
自分に自信がなくて、自棄になりかけていたほむらを救ってくれたあの光。
ほむら「......か」
ほむらは震える声を絞り出す。その光の名前を呼ぶために
ほむら「...ど...か」
今にも溢れそうな涙を堪えながら、それでも堪えきれずに涙を流し、その名前を叫ぶ
ほむら「まどかぁぁぁ―――!!!」
さやか『うぅ...』
さやか(あたし...気絶してたのかな...)
目を覚ましたさやかは、状況を把握するため、あたりを見回す
さやか(ワルプルギスは見えるけど...カズマとほむら...ほむらは!?)
背負っていた筈のほむらがいないことに気付き、慌てて探し始める。
さやか【ほむら!返事してほむら!】
テレパシーをとばすが、返事はない。
さやか『くそっ...!』
さやかは上空に飛び立った。
―――ズドン
大きな衝撃音と共に、爆風がさやかの後方から生じた。
振り返ると、少し離れた所で、カズマがギャラン=ドゥと闘っているのが見える。
さやか『カズマッ!』
さやかは感情的に、すぐさまカズマのもとへ向かおうとする。
カズマ【アルター野郎の相手は俺がする。あんたらはあのデカブツをブッ飛ばせ】
だが、カズマの言葉がよぎり、さやかは動きを止めた。
―――ここで、カズマの手助けに行くことが正しいのだろうか?
迷いは迷いを生み、それが他者に伝染し、誰一人動けなくなる。
しかし、迷うことによって見つかる道というのもある。
そのわずかな迷い。そのおかげで、さやかは一瞬だけ走った閃光を見逃さなかった。
閃光が走った方向を見れば、そこにいるのは、暁美ほむら。そして―――
さやか「まど...か...?」
ほむら「まどかぁ...まどかぁ...!」
その端整な顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、ほむらはまどかに縋り付く
まどか「ごめんね、ほむらちゃん。寂しい思い、させちゃって」
まどかは、そんなほむらを抱きしめ、優しく包み込む
ほむらは上手く言葉を発することもできずに、嗚咽まじりにただただ泣き続けた。
彼女の周りで、何が起きているのかにも気付かずに。
二人の周りに、大小様々なシャボン玉が湧き上がっていた。
まどか「大丈夫だよ、ほむらちゃん」
一つには、新米魔法少女のほむらと共に戦うまどかとマミの姿が。
一つには、まどかとほむらと共にワルプルギスの夜と戦う美樹さやかの姿が。
一つには、ゲームセンターのダンスゲームに興じ、お菓子をほむらに差し出す杏子の姿が。
シャボン玉には、それぞれに、かつてほむらが見た光景が映っていた。
まどか「もう、私はどこにも行かないから」
泣きじゃくるほむらは、それに気付かない。
やがて、シャボン玉は集まっていき、一つの巨大なシャボン玉となった。
まどか「もう、ほむらちゃんを置いていったりはしないから。だから―――」
まどかは、ほむらの頭を優しく撫でながら、優しく囁く。
そして―――
まどか「ずっと一緒だよ、ほむらちゃん!」
シャボン玉は、二人を呑み込んだ
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「―――らちゃん」
「ほむらちゃん!」
メガほむ「ふぇっ!?」ビクッ
まどか「やっと起きたね。もう、お昼の時間だよ」
さやか「まったく、自習とはいえ、一時間丸ごとお昼ねタイムなんざ、このさやかちゃんは許さんぞ―!」
仁美「さやかさんはほとんどの授業で寝てますけどね」
さやか「あ、あれ~、そうだったっけ?」
まどか「さやかちゃんが起きてるのって、体育と音楽くらいだよね」
さやか「ぬぐっ...まどかにまで...!」
まどか「事実だもん」
仁美「事実ですわ」
さやか「...すんません」
メガほむ「え、えっと...」
まどか「?どうかしたの、ほむらちゃん?」
メガほむ「すみません...私、寝てたんですか?」
さやか「そうだよ。あんた、さっきの体育で頑張ってたから、疲れたんじゃない?それに、あんなに気持ちよさそうに寝てたら、起こし辛くてさ」
メガほむ「そう...ですか...」
メガほむ(なにか...大切なことを忘れているような...)
まどか「早くお昼食べに行こっ、マミさんと杏子ちゃんも待ってるよ!」ニコッ
メガほむ「は、はいっ!」ニコッ
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さやか『なっ...!?』
さやかには、状況が理解できなかった。
泣きじゃくるほむらを、まどかが抱きしめたと思えば、いきなり大量のシャボン玉が地面から浮かび上がり、それが一つになった途端、そのまま二人を呑み込んだ。
まるでわけがわからない。わかることといえば、ただ一つ。
さやか『あのシャボン玉は...何かヤバイ!』
ほむら達を包むシャボン玉を破壊しようと、さやかは、結界から脱出する際に使った技―――さやか本人は名前を知らないが―――
『断罪断』を放つ。
しかし、シャボン玉に到達する前に、横合いからの思わぬ邪魔により、断罪断は破壊された。
それは、先程さやかが受けた弾丸そのものだった。
さやか『ッ、また...!』
だが、邪魔が入っただけではさやかは諦めなかった。
今度は自らシャボン玉を割りに行くが、しかし、さやかの身体は何かで縛り上げられ、彼女の動きは止められた。
さやか『ぐぐっ...!』
それでも、さやかは止まろうとはしなかった。
本来の自分の武器である剣を精製し、それを投げつけようとする。
しかし、シャボンの中のほむらの顔を見た時、さやかの動きは止まった。止まってしまった。
―――ほむらは、あまりにも幸せそうな顔をしていたから。
そして、さやかが何かを言う前に、ほむらを呑み込んだまま、シャボン玉は消えてしまった。
その場に残されたのは、絶影と、もう一人だけ。
カズマ「おおおりゃあああぁぁ!!」
ギャラン=ドゥ「しゃらくせえッ!!」
殴りかかるカズマを、両腕のドリルであしらうギャラン=ドゥ
だが、カズマの意志は、信念は、その程度では挫けない。
体制をすぐに立て直し、反撃の弾丸をその右腕に込める
カズマ「反撃の―――」
ギャラン=ドゥ「そいつは前にやっただろうが!」
カズマ「シェルブリットォォォォォ―――!!」
ギャラン=ドゥのドリルとカズマのシェルブリットがぶつかり合う。
二人の衝突により、道路が隆起し、爆風が巻き起こる。
ギャラン=ドゥ「こ...こいつ!?」
カズマ「ぐっ...押しきれねえ...!」
その衝撃により、二人の身体は弾かれ、再び距離が空く
カズマは体勢こそ崩されはしたが、シェルブリットを砕かれるまでには至らなかった。
ギャラン=ドゥ(こいつ、次第に力が上がっていやがる...!?)
吹き飛ばされたカズマは、背後に迫る壁を殴り、体勢を整えると、間髪いれずにギャラン=ドゥに拳を放った。
カズマ「余所見してんじゃねえ!抹殺のシェルブリットォォォ―――!!」
もう何度目になるかの衝突。だが、徐々に、しかし確実に、カズマとギャラン=ドゥの力の差は縮まっていた。
ギャラン=ドゥのドリルにヒビが生じる。
ギャラン=ドゥ「こ、この野郎...!」
それと同時に、カズマのシェルブリットには、今にも砕け散ってしまいそうな亀裂が走る。
優勢なのは、ギャラン=ドゥ。
だが、カズマは決して退かなかった
カズマ「―――輝け」
足りない。奴にこの拳を当てるには、まだ足りない。
カズマ「もっとだ...もっと...もっと!」
奴をブン殴れれば、それでいい。後のことなんざ知ったことか。
限界なんてもんがあるのなら、その限界に反逆してやる!
カズマ「もっと輝けぇぇぇぇぇ!!!」
それは一瞬の反逆だった。
カズマのシェルブリットが、光を帯び、その形が変貌し、巨大化していく。
金色の装甲を帯び、肩には、三枚の羽が一つに収束した、渦巻き状のプロペラが再構成される。
そして、プロペラが回転し、更なる推進力をつけられた拳が、ギャラン=ドゥのドリルを押し返す!
その結果、ギャラン=ドゥの右腕のドリルは
―――バキイィィィン
粉々に砕け散った。
そして、その拳は、勢いを殺すことなく、ギャラン=ドゥの胴体に叩き込まれた!
ギャラン=ドゥ「なにいいいぃぃぃ!?」
やっとの思いで叩き込んだ拳を受け、ギャラン=ドゥは吹き飛ばされる。だが、カズマは不満げに舌打ちをした。
カズマ「浅かったか...!」
カズマのシェルブリットは、既に元の形に戻っていた。
何故あの力が引き出せたのか、何故戻ってしまったのか。カズマはそんなことを考えはしなかった。
浅いなら、もう一発叩き込むだけだ!
カズマ「追撃の...シェルブリットォォォ!!」
タイミングは完璧。杏子との喧嘩とは違い、邪魔者は無し。
今度こそ、カズマの拳は、ギャラン=ドゥを捉えた
―――筈だった。
カズマ「!?」
カズマの拳は、確かにギャラン=ドゥを捉えていた。それこそ、当たる直前まで。
だが、拳がギャラン=ドゥに触れた瞬間、彼の身体が掻き消えたのだ。
―――まるで、幻覚でも見せられていたかのように。
結果、カズマの拳は、ギャラン=ドゥの胴体を僅かに外れていた。
ギャラン=ドゥ「助かったぜ...!」
ギャラン=ドゥは、体制を立て直すと、すぐさまカズマとは逆方向へ跳んでいってしまった。
カズマ「待ちやが...!?」
追おうとするカズマだが、しかしそれは、突如地面から生えた大量の槍に遮られた。
204 : ◆do4ng07cO.[sag... - 2013/06/16 14:39:25.01 2OPfiwpy0 171/367今回はここまでで。
今の持ち物
カズマ:無し
ほむら:爆弾数個。拳銃数丁。杏子とマミが倒した魔獣のグリーフシードを大量に。
さやか:魔獣のグリーフシードを大量に。
―――――――――――――
さやか『なんで...』
違和感はすでにあった。あの時受けた一撃は、何度も間近で見たあの人の技にソックリだったから。
でも、考えないようにしていた。そんなわけある筈がないって。
あの人が、敵になる筈はないって。
さやか『なんで...あなたが...』
でも、現実はそうじゃない。
さっきの弾丸も、私の身体を縛っているこのリボンも、紛れもなくあの人のものだった。
かつて憧れた、あの人は
さやか『答えてよ...マミさん!』
魔女に姿を変え、私に銃口を突き付けていた。
――――――――――――――――――
カズマ「...なんで邪魔しやがった」
俺は、一応聞いておいてやったが、あいつは何も答えない。
カズマ「なんとか言ってみろよ。ごめんなさいとか、もうしませんとか!」
あいつは、冷めた目でこっちを見てるだけだ。
カズマ「...気に入らねえ」
俺のことなんざ眼中に無いってか?
上等だ。ぶん殴りたい奴が、一人増えただけだ。
こいつとぶつかり合うのは、これで四回目。
今までは、それとなく邪魔が入っていたが、今度は違う。
姿が変わってようが関係ねえ、トコトンやってやらあ。
カズマ「てめえに刻んでやるよ!二度とそんな目で俺を見れなくなるくらいになぁ!」
――――――――――――――
某諸国
『...ごめんなさい、マミさん。杏子ちゃん。今は、それで我慢してください』
『すぐに終わらせるから...そうしたら、皆幸せになれるから...』
彼女は、眩い光に包まれて、街の上空から姿を消した。
街には、誰もいなくなっていた。
建物も草木も、何一つ壊すことなく、人々はいなくなっていた。
あるのは、幾つも浮かんでいる巨大なシャボン玉だけ。
―――――――――――――
避難所
知久「...凄い嵐だね」
詢子「...そうだな」
タツヤ「キャンプするの?」
知久「そうだよ。今日は皆でキャンプだー」
詢子「...ねえ、あなた」
知久「なんだい?」
詢子「私たちってさ...今まで、ここに避難してきたことってあったっけ...?」
知久「いや、なかった筈だよ」
詢子「だよねえ...でも、何度も経験したことがあるような、ないような...」
知久「...詢子さん?」
詢子「―――ああ、ごめんごめん。多分、初めての避難だから、混乱してるんだろうね。ちょっとトイレ行ってくるわ」
知久「わかった。道に迷わないようにね」
知久「...詢子さんの言いたいことはわかるさ。僕もなにか引っかかってる気がするんだ」ヒョイ
タツヤ「?」
知久「ねえ、タツヤ。君は...どうなんだい?」
詢子(...なんだろう、この違和感。なにかが...違う...いや...)
ドンッ
「きゃっ」
詢子「ご、ごめんなさい、ぼーっとしてて...大丈夫ですか?」
「いえ、私も考えごとをしながら歩いていましたから。では...」ペコリ
詢子(あの緑色の髪の子...どこかで見たような...?)
仁美(先程のご婦人...どこかで会った気が...)
恭介「暁美さんたちは、居たかい?」
仁美「いいえ...どこにもいませんでしたわ」
恭介「そっか...こんな嵐の中でも魔女退治をしてるのかな...皆、無事だといいけど...」
仁美「嵐...」
仁美(なんだろう...以前...いえ、何度も、嵐の日に、なにか大切なものを失くしたような...?)
―――――――――――――――――
カズマ「先制のシェルブリットォォォ!!」
カズマの拳が、魔女...杏子に向かって放たれる。
しかし、その拳が当たる寸前、ギャラン=ドゥの時と同じように、杏子の身体が掻き消えた
カズマ「またかよ...!」
放った拳の勢いを殺している隙に、後頭部に衝撃がはしる。
小さく声を漏らすが、すぐに、カズマは背後に向かって拳を力任せに振り抜く。
が、これもまたハズレ。カズマの拳は、空を切る結果に終わった。
カズマは、すぐさま体勢を立て直し、次なる弾丸を込めるが...
カズマ「どういうことだ、おい...」
周りを見れば、杏子の姿は7つに増え、カズマの周りを取り囲んでいた。
だが、ここで考えこむのはカズマの戦闘スタイルではない。
数が増えたなら、全部ぶん殴ればいい。カズマの思考は、それだけだった。
カズマ「衝撃の...シェルブリットォォォ―――!」
さやか『マミさん、目を覚ましてください!』
どうにか拘束を解いたさやかは、必死にマミに呼びかけていた。
だが、その返答は、マスケット銃から放たれる黒い球体だけ。
さやか『ぐっ...!』
何発か被弾し、絶影の身体の一部が欠ける。
体力と魔力を節約するため、飛行を止め、さやかは地に尾を下ろす。
しかし、それこそが罠。尾の下に光の紋章が浮かび上がり、あっという間にさやかの身体をリボンが縛り上げた。
さやかは、リボンを引き千切ろうとするが、しかし、先程のものとは違い、千切れる気配が全くない
さやか(くそっ...やっぱりマミさんは強いし...なにより、上手い!)
マミの本来の魔法は、マスケット銃ではなく、それを構成するリボン。
かつてほむらを一瞬で縛り上げた時のように、相手に気付かせる間もなくリボンを精製・設置できる、魔力のコントロールこそが、彼女の真骨頂といえるだろう。
「チッ、ウザってえったらありゃしねえ!」
そう言いながら、さやかの右方に落下してきたのは、カズマ。
どちらが移動してきたのかは分からないが、いつの間にか近くにまで来ていたらしい。
さやか『カズマ!?』
カズマ「劉ほ...じゃねえ。さやか...だったか?てめえ、あのデカブツはどうした」
さやか『今はそれどころじゃないのよ...あんたこそ、ギャラン=ドゥは!?』
カズマ「逃げられた。そんでもってこっちもそれどころじゃねえ」
カズマの視線の先を見た瞬間、さやかは理解した。してしまった。
さやか『そんな...杏子...あんたまで...』
カズマ「あのやろう、さっきから消えたり増えたりしやがる。お前、何か知らね...」
『無駄だよ、カズマ。それに美樹さやか』
さやか『きゅ、キュゥべぇ...』
カズマ「ああ!?耳毛野郎、てめえどこにいやがる!?」
QB『これはテレパシーさ。僕は、そこにはいない。君に個体を減らされるのは勘弁したいからね』
カズマ「チッ...まあ、今はてめえなんざどうだっていい。それより無駄ってどういうことだ」
QB『今の杏子とマミに、君たちの声は届かない。それは、今まで幾度も魔女になり、絶望を振りまいてきた...さやか、君ならわかるだろう?』
さやか『......』
QB『それに、さやかは知っているだろうが、事実上、ほむらは脱落した』
さやか『くっ...!』
カズマ「なんだと!?」
QB『現状、君たちの味方は誰もいないというわけさ。君たち二人だけで、マミと杏子、それに、ワルプルギスとギャラン=ドゥを倒すことが出来ると思うかい?』
さやか『......』
QB『まあ、早く選ぶことだね。少しでも生きながらえるために、この場でマミと杏子を葬るか。それとも...』
キュゥべぇが言葉を切ると同時に、マミの弾丸がさやかに放たれ、杏子の槍が上空からカズマに襲いかかる。
QB『早く倒されて楽になるか』
マミの弾丸の衝撃と、杏子の槍が地面を抉った衝突により、轟音と共に、凄まじい土煙があがった
静けさに包まれる空間。その静寂を破るかのように、響く声が二つ。
『どっちを選ぶかって?』
土煙が晴れると共に、人影が浮かび上がる。
「そんなもん、決まってんだろ」
弾丸を、断罪する弾で防ぐ影が一つ。
槍の穂先を、己の自慢の拳で握り潰す影が一つ。
「「どっちもノウだ!!」」
彼らの目には、まだ諦めは見えない。
QB『...君たちは正気かい?あの時の杏子には、魔法少女ならば何を起こしても不思議じゃないとは言ったけれど...今回だけは言わせて貰うよ。
絶対に無理だ。魔女から戻せる可能性は0%だ。なんせ...』
カズマ「んなことはどうでもいいんだよ」
QB『どうでもいいって...』
カズマ「魔女だかなんだか、小難しいことはわからねえ。けどな、俺との決着もつけずに、あのやろうがなんもかんも忘れてやがるのだけはわかった。
だから、俺はそれが気に入らねえ!」
QB『...合理的じゃない。まったくもって理解できないよ』
カズマ「馬鹿げてるかい?ああ、そうかもなあ。けどな、気に入らねえことに目を背けていられる程、利口じゃないんでね。
俺にとっちゃ、反逆する理由はそいつで十分なんだよ!」
QB『やれやれ、君たち人間は理解しかねると言ったことがあるかもしれないけれど...彼ほど理解に苦しむ人間は初めてだよ』
さやか『ま...あんたたちからしてみればそうだろうね』
QB『...君が闘う理由もそれなのかい?』
さやか『...似たようなもん...なのかな』
さやかは、残ったもう一発の『断罪断』で、身体を縛るリボンを切り裂いた。
さやか『あたしは諦めないよ。例え今までに前例が無くても関係ない。あたしは、マミさんも杏子もほむらもまどかも...全部取り戻してみせる。それが、今のあたしが生きる理由だ!』
カズマ「さあて、仕切り直しといこうか」
「......」
カズマは、握り潰した槍の穂先をアルター能力で分解し、傷ついたシェルブリットの装甲を補った。
カズマ「俺がてめえに思い出させるのが先か、俺がくたばるのが先か...根比べといこうじゃねえか!」
カズマの拳をゴングに、闘いは再開した。
だが、カズマはまだ気づいていなかった。杏子の槍で補ったシェルブリットの一部が変色しかけていることに。
【後編】に続きます