冒剣士「…冒険酒場で働くことになった」【前編】 の続きです。
…ドサドサッ!!!
冒剣士「いってて…」
女メイジ「あんたがクッションになってくれて助かった…」
冒剣士「重いって!早くどいてって!」ググッ
女メイジ「なっ…重いって何よ!って、どこ触ってんの!!」
冒剣士「脚が圧迫されて痛いんだって!」
女メイジ「ちょっ…そこはダメだってば!」
冒剣士「わかんないから!」
…ヒュウウウウ!!
女メイジ「!」ハッ
…スッ
冒剣士「やっとどいてくれた…」
…ドスン!!!
冒剣士「…」ピクピク
孤高騎士「ん?おお…冒剣士、下敷きにしてしまったか…大丈夫か!」
冒剣士「お…重いんで早くどいてください…」
女メイジ「せ…セーフ!危なかった…」
冒剣士「僕は…アウトだけどね…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ヒュウウ……
冒剣士「…それで、だいぶ落ちましたねー…」
孤高騎士「登れない距離ではないが…しっかし広い場所だな。向こう側までドーム状になってるな」
女メイジ「ここは氷がちゃんと張ってるけど…風も吹いてる?」
孤高騎士「どこか出口があるのかもしれないな」
女メイジ「う~ん…」
冒剣士「…ん?」
女メイジ「どうしたの?」
冒剣士「あのさ…僕らが落ちたところ…見て」
孤高騎士「?」チラッ
女メイジ「…」チラッ
…ボロッ……
孤高騎士「…っ!」
女メイジ「ちょ、これって原石!?ボロボロ…」
孤高騎士「…そんなバカな!」
…ガリガリ……
孤高騎士「…この辺の原石も全て魔力が失われてやがる!」
女メイジ「え、じゃあ…この寒さは…?氷は?」
孤高騎士「この辺一帯が氷に覆われてるのに、原石がない…?単純な山の温度の問題か…?」
女メイジ「それだったらさっきの原石がなかった場所も凍ってないと…」
孤高騎士「それより何より、ここでも"魔力がない原石"があることが問題だ」
冒剣士「じゃあ、この辺を凍らせている原因は一体…」
……ガアアアアアッ!!!!
孤高騎士「!」
冒剣士「!」
女メイジ「!」
孤高騎士「っち…今の叫び声は…」
冒剣士「な、なんですか!?」
女メイジ「…!?」
孤高騎士「……アイスタイガーの叫び声だ」
冒剣士「アイスタイガー…!」
アイスタイガー『ガアアアッ!!!』
女メイジ「こ、声が近い!」
冒剣士「ど、どこにいるんだ!」
孤高騎士「あわてるんじゃない!落ち着いて、まずは周囲の状況を把握するんだ!」
冒剣士「は、はい!」
女メイジ「…」ハァハァ
冒剣士「…」
孤高騎士「…」キョロキョロ
アイスタイガー『グウウ…』
冒剣士「…」
女メイジ「…アイスタイガーの息遣いが聞こえる…」
孤高騎士「…」ハッ
冒剣士「い、いた!正面…あそこです!」
孤高騎士「武器を用意しろ!」スチャッ
冒剣士「はい!」チャキッ
女メイジ「わかりました!」スッ
冒剣士「…」ゴクッ
アイスタイガー『…ガアアッ!!』ギロッ
孤高騎士「こっちに気づいた!くるぞ!」
アイスタイガー『グウウアアア!』
……ダダダダダッ!!!
…ミシッ
冒剣士「…ん?」
ミシミシッ…グラ…グラグラグラグラ!!!
孤高騎士「こ、ここで地震!?」
女メイジ「きゃああああっ!」
冒剣士「くっ!」
アイスタイガー『…グウアアアア!!』
孤高騎士「地震にアイスタイガー…!こりゃちょっとマズいんじゃないの…ん!?」
…ドゴォォン!!!
アイスタイガー『ガアアッ…!!』
…ズザザザッ……
冒剣士「あ…アイスタイガーが吹き飛んだ!?」
孤高騎士「一体何が起きた!?」
女メイジ「ゆ、揺れがひどくて…」グラグラ
アイスタイガー『ガッ…』ギロッ
孤高騎士「あいつ、どこを見てる!?」
冒剣士「僕たちじゃないです!右側を見てま…す…」
ドォン…グラグラ…ドォン……グラグラ…ピタッ…
???『…』
アイスタイガー『グルル…』ギロッ
冒剣士「な…んだあれ…」
孤高騎士「笑うしかねーな…、そうか…全部わかったよ…」
女メイジ「揺れが…収まった…?」
孤高騎士「あれ、見てみな…」
女メイジ「…?」チラッ
???『…』
女メイジ「ひっ…!」
冒剣士「あれ…なんですか…?」
孤高騎士「"巨人族"…、氷の巨人のフィルボルグだ…。俺も初めて見る…」
フィルボルグ『…』
女メイジ「…っ」
孤高騎士「地震の原因はあいつが暴れてる影響だ。暴れる度に魔力が暴走してたんだ…」
冒剣士「…」
孤高騎士「それと…あいつは氷の魔力を吸収し、自らの体内から放出する。原石が砕け、融解したのはその影響だろう…」
女メイジ「この辺の原石が全滅してたのに、氷が張付いてるのは放出の影響ってことか…」
冒剣士「それで…どうすればいいんですか僕らは…」ガクガク
孤高騎士「とりあえずあの2匹の様子を見よう…」
女メイジ「…」ゴクッ
フィルボルグ『…アァァァッ!!!』ビリビリ
アイスタイガー『グウオオオオオッ!!!』ビリビリ
女メイジ「み、耳があああ!」
孤高騎士「くっ…」
冒剣士「…っっ!」
フィルボルグ『…』ビュッ
…ドゴォォ!!!
アイスタイガー『グアアッ!!』
フィルボルグ『…アアアアッ!!!』ブゥン!!
…ドシュッ…
アイスタイガー『ガッ…』
孤高騎士「手刀でアイスタイガーの体突き刺しやがった…」
冒剣士「魔物同士の打ち合いってことですよね…一体これは…」
孤高騎士「さあな…」
フィルボルグ『…アアッ!!』
…ズブッ……ジュプッ…ドロッ…
アイスタイガー『…』
孤高騎士「な、何やってやがる…」
冒剣士「アイスタイガーの体から何かを探してる…?」
女メイジ「気持ち悪い…」
フィルボルグ『……』ジュポッ…
…ドクン……ドクン…
冒剣士「し…心臓を取り出し…」オエッ
女メイジ「一体何を…」ブルブル
孤高騎士「アイスタイガーの心臓…氷のようだな…」
フィルボルグ『…』バクッ…
孤高騎士「く、食いやがった…」
冒剣士「うぇ…おええぇっ…」
女メイジ「もうだめ…」オエッ…
フィルボルグ『…』ジュルッ…
孤高騎士「…」
フィルボルグ『…』ギロッ
孤高騎士「俺らも…殺されるのか…」
冒剣士「はっ…はっ……」
女メイジ「…」
フィルボルグ『…』
ドォン…ドォン…グラグラ……ドォン…
孤高騎士「こっちに来る!…お前ら、早く立て!逃げるぞ!」
冒剣士「足が…動きません…」
女メイジ「…」
孤高騎士「ちっ…何してる!死ぬぞ!!」
冒剣士「…」ブルブル
女メイジ「…」グスッ…ヒクッ…
…ドォン…グラグラ…
フィルボルグ『……』
孤高騎士「もう…ダメか…」
…スチャッ
孤高騎士「だがな…、俺だって冒険者の端くれ…抵抗くらい…してやるぜ!」
冒剣士「…」ガクガク
女メイジ「もう…だ…め…」ドサッ
フィルボルグ『…』
冒剣士(僕…初冒険で…終わりか…)
フィルボルグ『…』
女メイジ「…」
孤高騎士「…」
冒剣士(…もっと、冒険したかったなぁ………)
フィルボルグ『……怯えるな、人間よ』
冒剣士「…っ!?」
フィルボルグ『私はフィルボルグ。巨人族の1人である』
冒剣士「しゃべっ…た…?」
フィルボルグ『…』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…こちらでは60年前か。私は、魔術師らに封印され、この山で長い眠りについていた』
冒剣士「60年前…って、魔王が攻めてきたっていう…」
フィルボルグ『結界の力が弱まり、やがて解ける時間が訪れた。だが、力を失いつつあった私は、ここで雪の魔物達を食したのだ』
冒剣士「…」
フィルボルグ『今、世界はどうなっている?』
冒剣士「…」
フィルボルグ『あれから数十年、私が山から降りることは問題ないのか。共存はされているのか…、魔界はどうなっているのか』
冒剣士「え…えと…」
フィルボルグ『まぁ…お前たちが私に刃を向けた。それだけでどういう事かは察しがつくがな…』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…』
冒剣士「あの…僕たちは殺される…んですか…?」
フィルボルグ『…殺してほしいのか?』
冒剣士「そ、そんなわけ…!」
フィルボルグ『…』チラッ
孤高騎士「…」
フィルボルグ『……殺しはせぬ…』
冒剣士「!」
フィルボルグ『…信じられぬかもしれぬが、無闇な殺戮は好まぬ』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…』
冒剣士「ううん…信じます」
フィルボルグ『ほう…』
冒剣士「アイスタイガーを吹き飛ばす威力で孤高さんを叩いたら、きっともう…だめだったと思う。けど、加減してくれたんですよね…信じる理由は充分です」
フィルボルグ『…なるほどな』
冒剣士「はいっ。それと…フィルボルグさん…ですよね」
フィルボルグ『…なんだ?』
冒剣士「この場所のことは誰にも言いません。ですが、地震を起こしたり、できるだけ原石を壊すのはやめてくれません…か?」
フィルボルグ『…それを守れば、私の存在を言わないと?』
冒剣士「はい。あなたは僕たちに危害を加えようとはしなかった。ただ暮らしているだけ…、それを侵害する理由がないです」
フィルボルグ『ふふ…はははは!』ビリビリ
冒剣士「…!」キーン
フィルボルグ『今度は私がそれを、信じろと?』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…』
冒剣士「僕は殺戮を好まないと言ったあなたを心から信じました。いえ、信じています」
フィルボルグ『…』
冒剣士「話してみて、あなたがきっと良い方なんだろうなって…思いました」
フィルボルグ『…」
冒剣士「上手く言えないですけど…だから、僕があなたを信じるように、あなたも僕を信じてください」
フィルボルグ『ふむ…』
冒剣士「ただ、地震や融解を起こすと、やがて他の冒険者や調査隊が入ることになります。だから、それは出来るだけ抑えてください…」
フィルボルグ『…』
冒剣士「だめ…ですか…?」
フィルボルグ『…』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…』
冒剣士「…」
フィルボルグ『…面白い子供だ。私も信じてやろう」
冒剣士「ありがとうございます!」
フィルボルグ『しかしなぜ、お前は私の居場所を知らせないようにしようと思ったのだ?』
冒剣士「僕たちを逃がす事もですが、あなたはアイスタイガーを倒し、結果的に助けてくれました」
フィルボルグ『…まあ、そうなるな』
冒剣士「それに応えるのは当然だと思います」ニコッ
フィルボルグ『はは、そうか』
冒剣士「さてと…そろそろ戻らないと、夜道になったら危ないですし…」
フィルボルグ『…そういえば、お前たちはどこから来たのだ?』
冒剣士「ここから南側のふもとの雪降町です」
フィルボルグ『そこの2人を担ぎ、出口まで案内をしよう。私の魔力で出入り口は吹雪で見えないようになっている』
冒剣士「…そうなんですか」
フィルボルグ『そこからは面倒は見れぬ。その2人は自分で何とかすることだ」
冒剣士「大丈夫です、ありがとうございます」
フィルボルグ『あぁ…、では、着いて来い」
冒剣士「…はい!」
…トコトコ……
冒剣士(そういえば、猛雪山側の入り口は…吹雪が少なくなったのは何でなんだろう…な)
フィルボルグ『…』
冒剣士(まさかフィルボルグさんが入り口側をわかるように…?いや、そんな危険なマネはするわけがない…ん?)
…コソッ
冒剣士(誰かいる…?)
フィルボルグ『どうした?』
冒剣士「…」キョロキョロ
…シーン
冒剣士「これは…?」
フィルボルグ『ここで見つけた。何に使えるかはわからぬ。だが、私が持っているよりはマシだろう』
冒剣士「…はい」
…キラッ
冒剣士「綺麗な玉だな…、ピカピカに光ってるや…」
フィルボルグ『…それではな。機会があれば、また会おう』
冒剣士「…はいっ!」ペコッ
…ズシン……ズシン……ズシン………
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・・・
・・
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――――【8日後・中央国冒険酒場】
オーナー「…なるほどね。そりゃ報告できないね」
孤高騎士「命を助けられたのは本当だし、今回の調査は失敗扱いになっちまうよなあ?」
冒剣士「…申し訳ないです、僕のせいで…」
孤高騎士「いやいや、あのフィルボルグも俺ら気絶してて話聞けなかったが…、俺らが生きてる事が、お前の話が真実だって伝えてるだろう」
オーナー「しかし参ったな、どう報告するべきか…」
女メイジ「失敗したと報告すれば…」
オーナー「ダメだ。そうすると、そのフィルボルグさんに改めて別の冒険者が向かってしまう」
女メイジ「謎の解明はしたけど、そういう理由じゃあね…」
冒剣士「うん…」
孤高騎士「どうしたもんかね…」
冒剣士「アイスタイガー…」ボソッ
オーナー「ん?」
冒剣士「アイスタイガーの巣にして、アイスタイガーが原石を食べていたとか…そういう話じゃ…ダメですかね…?」
オーナー「…ふむ!」
冒剣士「そうすれば、一般冒険者も近づかないし、原石のなくなった鉱脈は掘られなそうだし…」
オーナー「なるほど!異種がいたってことにすればいいか!」
冒剣士「い…異種?」
オーナー「魔獣、魔物には必ず異種がいてね。普通と違う特性を持つ相手なんだ。原石を吸収する力を持つアイスタイガーがいたってことにしよう!」
冒剣士「…!」
孤高騎士「はっは、お前も考えるときは考えるじゃねーか!」
女メイジ「ちょっとだけ見直したかも?」アハハ
オーナー「そういえばさ、さっきの話で出た…玉っての見せてくれる?」
孤高騎士「おお、そうだ。俺らもまだ見てなかったんだ。見せてくれ」
冒剣士「あ、はい…」ゴソゴソ
…コロンッ
オーナー「…っ」
女メイジ「宝石みたい…」
孤高騎士「…すげえな……引き込まれそうだ…」
冒剣士「一体何をするものなんですかねぇ」
オーナー「…うーん、ちょっと調べたいから少し貸しててくれるかな?」
冒剣士「別に、いいですが…」
オーナー「よし、ありがとう。それじゃ、冒剣士はプレートの手続きがあるから俺の部屋まで来てくれる?」
冒剣士「あ、はい。じゃ皆、ちょっといってくるよ!」
女メイジ「はーいっ」
孤高騎士「おう!」
……トコトコトコ…
…ガチャッ
冒剣士「失礼します」
オーナー「…まあ座って」
冒剣士「…はい」
オーナー「さて…ここなら誰もいないな。この玉なんだけど…」
冒剣士(え?プレートの話じゃない…?)
オーナー「本当にその巨人族から貰ったんだね?その洞窟の奥で…」
冒剣士「そ、そうですけど…」
オーナー「フィルボルグにあった場所からそこから出口は近かったのかな?」
冒剣士「いえ、少しだけ歩きました」
オーナー「と、すると裏山のほうか…。裏山の調査はそれなりだし…巨人族やアイスタイガーの住む穴ならすぐ分かるはずだ…」ブツブツ
冒剣士「…?」
オーナー「おかしいとは思わないかな?」
冒剣士「何がですか?」
オーナー「俺らが任されたクエストは"未踏、未開発の洞窟の調査"だったはず」
冒剣士「そうですね…」
オーナー「なら、なぜ……人工物のような"コレ"がそこにあったんだ?」
冒剣士「あ…!」
オーナー「吹雪で隠していた…という話もおかしい。それはフィルボルグがおこした嵐だろう?」
冒剣士「はい」
オーナー「なら、目覚める以前にそんな巨大な洞窟は見つかってもいいはずだ」
冒剣士「…!」
オーナー「つまり、吹雪はその前から吹き続けていた…ということになる。わからないな…」
冒剣士「…」
オーナー「…いや、宛がないという訳じゃない。この玉の存在も…」
冒剣士「その玉、何か知ってるんですか?」
オーナー「知ってるというか、聞いたことがある。今はないが、魔力を肥大化させる"宝玉"という存在があると」
…コロコロ…キラッ…
冒剣士「宝玉…」
オーナー「もちろん、魔力が増大する技術は今日という日に存在していない」
冒剣士「昔はあったんですか?」
オーナー「古代にはあったらしい。使い方も分からないけどね…」
冒剣士「…じゃあ、その宝玉が"ソレ"だと?」
オーナー「確証はないけど、昔読んだ本にそれに近いことが書いてあった。自然に隠された秘宝だってね」
冒剣士「…でも、まさかそんな簡単に秘宝が見つかるはずが…」
オーナー「宝物や、歴史の残るものは…ひょっこり出てくるものさ」
冒剣士「…」
オーナー「未来で……見たことが…あ、いや。何でもない。つまり、もしかしたらコレは歴史に名を馳せるモノかもしれないってことさ」
冒剣士「…歴史に名を馳せるモノ…」
オーナー「ま、使い方が分からないんじゃ意味がないけどね!…返すよ」スッ
冒剣士「これ…僕が持ってていいんでしょうか…?」
オーナー「君が貰ったものだからね…大事にするんだよ」ニコッ
冒剣士「わかりました…」
オーナー「彼らは本来戦いを好まない優しい素晴らしい種族なんだ。だから、そのプレゼントにもきっと意味があるはずだよ」
冒剣士「オーナーは巨人族のことを知ってるんですか?」
オーナー「あーいや、直接的にかかわったことはないけど、同位の他の神獣らとは交流があった時もあったよ」
冒剣士「神獣…!」
オーナー「ああ。ま、色々やってきたからね~」アハハ
冒剣士「凄いんですねオーナー…もしかして、ものすごい冒険者だったんですか…?」
オーナー「あっはっは、いやいや、俺はただの冒険酒場の親父だよ」
冒剣士「…」
オーナー「しかしこの部屋暑いな…、ちょっと窓あけようか」
…ガラッ
……ビュウウウッ!!!
オーナー「うわっ!風が!」
…カランッ……カランカラン…
バサバサッ!!
冒剣士「オーナー、書類と何か落ちましたよ…」
オーナー「あらら…、よいしょ…」
冒剣士(…何だこれ、プレート…?)
…キラッ
冒剣士(銀…じゃない。白でもない…、金色でもない、何だこの色…)
オーナー「よいしょっと…、ごめんごめん、そこらへんに散らばってる書類も拾ってくれる?」
冒剣士「あ、は、はい」
…パサッ…ペラッ…
冒剣士(クエスト受諾書…、予約証明書…、納税報告書…、色々大変なんだなオーナーも…)
…ペラッ…
冒剣士(ん?なんだこの真っ赤な封筒…)
オーナー「あ、それは国家クエストの受諾書だね。最重要書類だから…」
冒剣士「わかりました」
…チラッ
冒剣士(内容…人物の調査、探偵…、密偵…?これが国家クエスト…?)
オーナー「おーい、まとまったらこっちに持ってきて!開いて読んじゃだめだよ!」
冒剣士(ま、いっか)
…トコトコ…パサッ
オーナー「ありがとありがと!それじゃ一旦戻ってて、今日は休んでもらうからね」
冒剣士「仕事はしなくていいんですか?」
オーナー「さすがにクエスト帰りじゃ休ませるよ」アハハ
冒剣士「そうですね…さすがに疲れました」アハハ
オーナー「聖剣士がきたら、初クエストのお祝いに盛大なパーティを開かせよう!」
冒剣士「…そうやって、騒ぎたいだけじゃ……」ジー
オーナー「…ばれた?」
冒剣士「ばれますよ!あははっ!」
オーナー「はははっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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――――【数日後】
…ガヤガヤ……
お客A「こっちに酒と、今日のオススメメニュー!」
お客B「こっちは鴨肉と、スモークサーモンくれー!」
冒剣士「はーい、ただいまー!」
女メイジ「豚肉のソテーを注文されていた方、お待たせしましたー!」
オーナー「…で、彼はまた倒れちゃって」アハハ
お客C「そりゃ面白い!」アハハ
女メイジ「オーナーも忙しいんだから働いてくださいよっ!」
オーナー「お、おおすまん!」
お客C「部下に叱られてちゃ世話ないな!」
オーナー「まったくですね!」アハハ
冒剣士「こちら、オススメメニューです!」
お客A「おお、来た来た!」
…ガヤガヤ…
女メイジ「もーっ!猫の手も借りたいくらい!」
冒剣士「今日は吟遊詩人さんが留守だから余計ね…忙しい」
…ガチャッ
孤高騎士「いやー!今日は大繁盛じゃねーか!」
冒剣士「孤高さん!」
女メイジ「いらっしゃいませ!」
孤高騎士「よいしょ…オーナー、今回の報告書だ」パサッ
オーナー「お、ありがとう」
冒剣士「今回は短期で砂漠の調査に行ってきたんですよね?」
孤高騎士「そうだな、暑かったぜ。軍との合同だったから、冒険の扉で楽できたし…まあチョロイ調査だった」
女メイジ「冒剣士!話すのは後で…今は働いて!」
冒剣士「わわ、じゃあ孤高騎士さんまた後で!」
孤高騎士「怒られないようにしっかりやれよ~」ハハハ
お客A「そういや聞いたか…?」
お客B「何をだ?」
お客A「西の港の地殻変動。海の様子がおかしいんだってよ」
孤高騎士「…」
お客B「海の様子って、何がおかしいんだ?」
お客A「魚が獲れないんだってよ」
お客B「へええ…西の港って、世界で有数の漁港なのにな。調査されないのか?」
お客A「どうだろうな、どこかしらにクエストは来てそうだが…」
孤高騎士(へぇ…お?)
オーナー「えーと…、大剣傭兵さんどこだろ…」キョロキョロ
大剣傭兵「どうした?」
オーナー「いたいた、確かこの間、銅プレートに昇格しましたよね?」
大剣傭兵「ああ、したが…」
オーナー「軍事クエストで遺跡調査のクエストがあるんですが、いかがですか?」
大剣傭兵「遺跡調査?」
オーナー「西の漁港の遺跡です」パサッ
大剣傭兵「ほう、新しい遺跡が見つかったのか」
オーナー「海の異変に関連する可能性がゼロじゃないですから、危険は伴いますよ」
大剣傭兵「出発はいつだ?」
オーナー「調査隊の入り口周辺の調査が完了次第ですから、公開は2週間先ですね」
孤高騎士「俺、やるぜ!」ガタッ
大剣傭兵「…ん?」
オーナー「ん?」
孤高騎士「遺跡調査だろ?それ、俺にやらせてくれねーか?」
オーナー「いやしかし…この調査は大剣傭兵さんに…」
大剣傭兵「あー…まあいいよ、そいつに譲ってやってくれ。その代わり割のいい仕事、俺に紹介してくれよ!」
オーナー「そうですか…孤高さん、それじゃ2週間後に出発ですので準備はしといて下さい」
孤高騎士「おうよ!それと、今回もあいつら…」チラッ
冒剣士「っ!」
女メイジ「!」
孤高騎士「お願いするかな!」ハハ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【2週間後】
孤高騎士「それじゃ、再確認してくれ」
冒剣士「西の漁港から離れた場所にある遺跡の調査。敵はマーマン等が考えられる…ですね」
女メイジ「雪山の次は海…、中央国はこんなに暑いのに涼しい場所ばっかりで温度感覚が…」
冒剣士「雪山は最早"寒い"だったけどね…」ハハ…
オーナー「今回は既に調査済みだった部分もあるけど、再調査のお願いも来てるからしっかりよろしく!」
冒剣士「はい!」
女メイジ「わかりました!」
孤高騎士「それじゃ、行ってくる。しっかり預からせてもらうぜ」
オーナー「はい、よろしくお願いします」
…ガチャッ…バタン
孤高騎士「漁港までは全然時間はかからないし、今回はリゾート気分でのんびり行こうぜ」
冒剣士「はい」
女メイジ「それにしても、また誘ってくれるなんて…冒険の機会が増えて本当に嬉しいです」
孤高騎士「…まあな、お前ら見てると…ちょっとな」
女メイジ「?」
冒剣士「僕らを見てると…ですか?」
孤高騎士「ああ、なんつうか…思い出すっていうか…生きてたらっていうか…な」
女メイジ「…?」
冒剣士「どういうことですか?」
孤高騎士「ははっ、まぁ気にするなよ。ただお前らのことを気に入ってるだけだ!」
冒剣士「そうですか…楽しいです、ありがとうございます!」
孤高騎士「おうよ!」
女メイジ「しかし最近暑いですね…もうすぐ10月だというのに…」
孤高騎士「異常気象っぽいな」
冒剣士「まあ海に行くってことだけでも、ちょっとしたリゾート気分に…」
女メイジ「遊びに行くんじゃないの!」ゴツッ
冒剣士「あいたっ!」
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――――【3日後・西の漁港】
…ミャア…ミャア…
…サァァッ…
ボッボー……
女メイジ「海だーーーーっ!」
冒剣士「潮風のいい匂い…、船の汽笛が心地いい感じ…」
孤高騎士「んー…と、こっちだ」
冒剣士「は、はい!」
…タッタッタッタ……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…ここは?」
女メイジ「海水浴場…?」
孤高騎士「はっはっは!今日はもう時計の針が午後になる。今日は楽しんで、明日の朝から出発しようじゃないか!」
冒剣士「あ、遊んでいいんですか?」
孤高騎士「いいも何も、冒険家のたしなみじゃないか!」
女メイジ「って言っても…、水着なんて持ってきてないし…」
孤高騎士「2人とも、手を出せ」
2人「?」スッ
孤高騎士「…」
…チャリンッ
孤高騎士「オッサンからのおこづかいだ!そこの販売所で水着を買ってくるんだ」
冒剣士「いいんですか?」
女メイジ「って言っても、水着買うには多すぎるような…」
孤高騎士「屋台もあるからな、その分もだ。のんびりしようぜ、な?」ニカッ
女メイジ「…♪」
冒剣士「海で泳ぐなんて久々だなあ…買ってきます!」
孤高騎士「おう!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【最寄のショップ】
冒剣士「僕はこのシンプルなのでいいかな~…」
女メイジ「私もシンプルなのがいいなぁ…これとか」
冒剣士「ええ、それはちょっと…きわどいような…」
女メイジ「きわどいって…、冒剣士…エッチ」
冒剣士「そ、そういう意味じゃないよ!」
女メイジ「ま、いいや…じゃあ、こっちの普通の水着にしよ~っと♪」
冒剣士「はいはい…それじゃ、着てくるよ」
女メイジ「またあとで~!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「…遅いな」
…シャッ
女メイジ「お待たせ~っ」
冒剣士「…っ!」ドキッ
女メイジ「うりうりっ!どう?その辺の女子よりはスタイルいいと思うんだけどな~?」
冒剣士「べ、別に!」プイッ
女メイジ「…」ムッ
冒剣士「そ、それより早く行こうっ!」
女メイジ「ちょっ、引っ張らないで…、危ないから!」
…タッ…タッタッタ…
……ザッザッザッザッザ…
冒剣士「ひゃ~、砂が熱いや!」
女メイジ「人もまだまだいるし、今日も暑いし~…」
冒剣士「ところで孤高さんはどこにいるんだろう?」
女メイジ「…」キョロキョロ
冒剣士「いないなあ」
女メイジ「海の家とかで飲んでそうだけど…」
冒剣士「ちょっと探してくるよ!」ダッ
女メイジ「あっ、ちょっと!」
……ザッザッザッザ………
女メイジ「もう、ビーチに女子一人を残すなんて……なーんて」
チンピラA「…おやおや、どうしたのかな?」
チンピラB「どうやら彼氏に捨てられちゃったみたいじゃなーいの?」
女メイジ「っ!」
チンピラA「結構可愛いじゃん。この位の子でも、俺は好きだぜ」クイッ
女メイジ「ちょっ!」
チンピラA「ん~?」
女メイジ「この…」ブンッ
…バキッ!!
チンピラA「いって…」
チンピラB「何すんだコラァ!」
女メイジ「こっちのセリフよ!いきなり何するのよ!」
チンピラA「てめ…、このやろ…」
チンピラB「こっち来いや!」グイッ
女メイジ「やだってば!」
チンピラA「うへへ、嫌がる姿も可愛いねぇ」
チンピラB「とと、怖い怖い。ほーら…掴まえたっと!おお、なんだこの感触はぁ?」
女メイジ「は、離して!やっ…どこ触って…!」
チンピラA「腕さえ抑えりゃ何とでもなるぜ…、殴った分のお礼はさせてもらうぞ…つれて来い!」
チンピラB「そういうこと…へへ、楽しく遊ぼうぜ」
女メイジ(調子に乗って…魔法で吹き飛ばしてやる!)バッ
チンピラB「暴れるなっつーの!なんつう力だ…」
女メイジ「やっと離れた…調子に…乗るな!小火炎まほ…」
ズルッ…
女メイジ(砂に足をとられ…!)
…ゴツッ!!!
……ドサッ…
チンピラA「あっ…」
チンピラB「うわぁ…岩場の階段に頭から落ちたぞ…」
チンピラA「…お?」
女メイジ「…」
チンピラA「へっへっへ…おい、見ろよ。気失ってやがる」
チンピラB「好都合だな…」
チンピラA「裏の岩場なら人も来ねえだろうし、連れて行こうぜ」
チンピラB「へへ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ザッザッザ……
冒剣士「う~ん…、どこにもいないなぁ」
…ガヤガヤ
冒剣士「海の家…屋台にいるのかな?」
…イラッシャイマセー!
ヤキソバイカガッスカー!!!
冒剣士「いなーい…、全く、どこにいったんだろう…」
…キョロキョロ
冒剣士「とりあえず、遊んでたらひょっこり現れるかな。遊んでこよ…」
ダッダッダッダ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「あれーーーー!?」
…シーン
冒剣士「今度は女メイジが消えちゃったよ!みんな迷子…?」
お姉さん「ね、ねえちょっと君…」
冒剣士「あ、はい?」
お姉さん「女メイジって、ここにいた黒色の髪の女の子?」
冒剣士「あ、はい…そうですが…」
お姉さん「さっき、2人の男がその子を抱えてどっか行ったけど…」
冒剣士「えっ!?」
お姉さん「結構地元でも有名な不良だから、一応声をかけたら"友達"が暑さで倒れたから介抱するだけだって言ってたけど…」
冒剣士「…倒れた!?」
お姉さん「海の家にいなかったら、多分…あそこかな…」
冒剣士「どこですか!?」
お姉さん「ここから向こう側にある岩場。あそこは人が来ないし、不良のたまり場になって…」
冒剣士「っ…!」ダッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
チンピラA「早く脱がせろ!」
チンピラB「待ってろって…おらっ!」
…パサッ
チンピラA「うひょー!たまんねーなおい!」
チンピラB「見た目はガキだと思ったけど、女は女だなやっぱ」
チンピラA「…お?」
女メイジ「…」パチッ
チンピラA「気づきやがったな」
チンピラB「よー、おはよう!」
女メイジ「…あれ…私…」
…ユラユラ
チンピラA「…」
チンピラB「…」
女メイジ「…!」ハッ
チンピラA「おーい、生きてるか~?」
チンピラB「恥ずかしくないんですか~?」ハハハ
女メイジ「…っ!!」カァァッ
…バッ
チンピラA「おっと隠すなよ!」ガバッ
女メイジ「や…嫌ぁ!」
チンピラA「はっはっは、こうやって両手を塞がれれば何もできねーだろ?」
女メイジ「やだ…やだ!!!」
チンピラA「どうせ誰もこねーよ。ここは地元しか知らない場所だからな」
チンピラB「そうそう。大人しくしてろって」サワッ
女メイジ「触らないでっ!やめてよ…お願いだから…」グスッ
チンピラA「…面倒だからさっさとやっちまうぜ」
女メイジ「なんでこんな…助けてよ…冒剣士ぃ!!」
ヒュッ…
冒剣士「…ああああっ!」
…ドゴォン!!!
チンピラA「がっ…!」
女メイジ「ぼ、冒剣士…?」グスッ
冒剣士「お前ら…、僕の仲間に何やってんだよ!」
チンピラA「ってぇなコラァ…」
チンピラB「おい、大丈夫かよ…」
冒剣士「…」
チンピラA「…」ドロッ
チンピラB「お前、頭から血出てるぞ…?」
チンピラA「あん…?」
冒剣士「…」
チンピラA「クソガキが…」
冒剣士「それ以上はやめろ!じゃないと…」
チンピラA「なんだ…?ガキ…」イラッ
冒剣士「…斬る」スッ
チンピラA「…ぷっ」
チンピラB「ぶはっははっははははは!」
冒剣士「…」
チンピラA「そんな木の棒でどうするつもりだよ!」
チンピラB「笑わせんなよ!」
女メイジ「冒剣士ぃ…」
冒剣士「すぐ助けるから待っててね」ニコッ
チンピラA「なめんんじゃねーぞ…ガキが!」ビュッ
冒剣士「遅い!」ヒュッ
チンピラA「…!どこいきやがった!」
冒剣士「…僕らは冒険者…戦士だ。たかが木の棒…?あなたたちを倒すのはそれで充分なんだよ…」
チンピラB「…」ゾクッ
チンピラA「後ろだ!ちょこまかと!」ブン!
冒剣士「…」ゴツッ!!
女メイジ「あぁっ!」
…ドロッ……
チンピラA「…石で殴られると痛ぇだろ…?お返しだぜ…いきがるからだよ……ん!?」
チンピラB「…な…」
冒剣士「…その程度?…女メイジをいじめた分……、痛い目を見てもらうぞ…」ギロッ
チンピラA「何…お、おい…こりゃやべえ…逃げるぞ!」
チンピラB「お、おう!」
…タタタタッ
冒剣士「…逃がすか!」
女メイジ「だめ…待って…」ギュッ
冒剣士「女メイジ…」
女メイジ「…」ギュッ
冒剣士「…」
女メイジ「さっきから…震えが止まらないの…、お願い。一人にしないで…」
冒剣士「…わかった」
女メイジ「…」
冒剣士「その…」
女メイジ「何…?」
冒剣士「ごめん…一人にしたせいで…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「私が…弱いのがいけないのかな…」
冒剣士「そ、そんなこと!」
女メイジ「私がもっと強かったら、冒剣士にも迷惑かけなかったんだよね…ケガしなかったんだよね…」
冒剣士「…違う!」
女メイジ「…」
冒剣士「悪いのはあいつらだ。女メイジが強いとか、弱いとか…そういう問題なんかじゃない!」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「…そうなのかな」
冒剣士「そうさ…そうだよ。当たり前だ。悪いやつが悪いだけで、君は何も悪くない…だから大丈夫…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
冒剣士「…僕は全然平気だし、今回のことは君の責任なんかじゃない。それだけは分かってほしい」
女メイジ「…でも、冒剣士にも迷惑を……」
冒剣士「そんなことない!迷惑だとか思わないよ。そんなことより…、君は…大丈夫なの?ケガは?何もされてない?」
女メイジ「冒剣士も…キズが痛いはずなのに…、そうやって人の心配ばっかり…」グスッ
…ギュッ
冒剣士「…お、女メイジ……?」
女メイジ「うわああっ…怖かったよ…冒剣士……」グスッ…
冒剣士「…うん、遅れて…ごめん…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孤高騎士「ああっ!?お前、そのキズどうしたんだ!?」
冒剣士「やー…いや…、岩場にぶつけてしまって…」
女メイジ「…」
孤高騎士「…大丈夫か?」
冒剣士「なんとか。それより、孤高さんどこに行ってたんですか…」
孤高騎士「ビールを買いながら、遺跡の話を聞いてきたんだ」
冒剣士「そ、そうですか…」
女メイジ「…」ギュッ
孤高騎士「ん?なんだなんだ、お前ら手をつないで。海の雰囲気に酔ってしまったか!?」
冒剣士「いやまあ色々ありまして…、孤高さんが思うような事じゃないとは思いますが…」
孤高騎士「うーん…?んで、結構遊んでるのか?」
冒剣士「あ…えーっと…」
女メイジ「…いこっ、冒剣士」
冒剣士「え?う、うん…?」
孤高騎士「気をつけて遊んでこいよー!俺はここにいるからな…、はぁ~若いって…いいなぁ」ノホホン
…タッタッタ……
冒剣士「わわっ、危ない危ない!」
女メイジ「…全部忘れる……」
冒剣士「えっ?」
女メイジ「全部忘れる!忘れたい!今はとにかく遊びたい!!!」
冒剣士「…そうだね」
女メイジ「でも…今は…一緒にいてね…」
冒剣士「もちろん…!女メイジが楽しめるように…いっぱい遊ぼう!」ニコッ
女メイジ「…」ドキッ…
…タタタタタッ……ザバァン…
冒剣士「わわわっ!いきなりは冷たい…って!」
女メイジ「それっ!」
…ジャバッ!!
冒剣士「うぷっ…!やったなー!」ザバァッ
女メイジ「きゃーっ!冷たい!」バシャッ!!
…アハハハ…
……………………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【夜・漁港の冒険酒場】
…ホー…ホー…
女メイジ「…」クゥクゥ
冒剣士(ん…)モゾッ
…ムクッ
冒剣士(…トイレ……)
…トコトコ……ガチャッ…バタン…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ……
孤高騎士「…」
冒剣士「あれ、孤高さん…。廊下で何してるんですか?」
孤高騎士「…お?お前こそどうした?俺は海の夜風が好きでな…、涼んできたところだ」
冒剣士「ちょっとトイレに…」
孤高騎士「おぉそうか…、今、何時だった?」
冒剣士「たぶん、0時過ぎるくらいだと思いますが…」
孤高騎士「いい時間だな…、丁度いい。お前、トイレ終わったら俺の部屋に来い。一杯やろうぜ」ニカッ
冒剣士「…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…コンコン…ガチャッ
冒剣士「失礼します」
孤高騎士「おー来たか!まぁ座れ、酒飲むか?飲めないか」アハハ
冒剣士「まだ飲めませんよ」ハハ
孤高騎士「それじゃお前はこのジュースでいいな…よし、乾杯だ!」スッ
冒剣士「…乾杯です」
…チンッ
孤高騎士「…」ングッ…ングッ…
冒剣士「…」ゴクゴク
…プハァッ!!
孤高騎士「旨いなぁ…」
冒剣士「美味しいですね…」
孤高騎士「…なあ冒剣士、ちょっとだけ話を聞いてくれるか?」
冒剣士「…はい」
孤高騎士「俺が冒険者になったのは…、今からもう20年も前のことなんだ」
冒剣士「20年前…」
孤高騎士「まだ10台の若造でな、軍に所属してそりゃあ無茶ばっかりやったよ」グビッ
冒剣士「…孤高さんらしいですね」
孤高騎士「その頃、俺は早い結婚をして、早く子供が生まれた」
冒剣士「既婚者だったんですか!?」
孤高騎士「なんだよ、その意外だなっていうのは!一応妻子がいたんだよ!」
冒剣士「…"いた"?」
孤高騎士「…あぁ。死んじまったよ、13年前にな」
冒剣士「…」
孤高騎士「…住んでいた所は小さな田舎だった。いい町だったよ…」グビッ
冒剣士「なんで…ですか?」
孤高騎士「…捨てられたんだ。軍にな」ブルブル
冒剣士「捨てられた…?」
孤高騎士「あぁ…、元々俺らの町は資金力もなく、観光施設もなければ何もない、ただの無駄な土地が広い町だった」
冒剣士「…」
孤高騎士「軍の支部長は、そこを管轄におく中で"金はないが土地はある"といつも言っていたのを覚えている」
冒剣士「…」
孤高騎士「土地があれば、巨大な軍の施設を作れる。だが、住民たちはそれに反対をしていた。それは当然の話だ」
冒剣士「そうですね…」
孤高騎士「だがな…ある夜、俺らの町に大型魔獣が侵入しやがった。だが、俺らは遠征に出ていて…その連絡を受け取ることができなかった」
冒剣士「…!」
孤高騎士「冒険の扉を使えばすぐにでも帰れた。だが、支部長のやつは……その侵攻を…ただただ見ていやがった!」
冒剣士「…っ!!」
孤高騎士「理由は簡単だ。住民が消えれば、施設を作り、地位があがる。それだけの…理由のために!」
冒剣士「…そんな……」
孤高騎士「その数日後、俺らが戻って見た光景は…凄惨すぎるものだった…」
冒剣士「…」
孤高騎士「この話は、その時の支部長の近くにいた同僚がバラしたんだ。それからほどなくして、支部長は謎の死をとげた」
冒剣士「それは…殺された…んですかね」
孤高騎士「…さぁな。俺らとしては、ざまぁみろって感じだったけどな」
冒剣士「…」
孤高騎士「…それと当時、俺は特級の称号を受け特級騎士と名乗っていたんだ。だが、その事件があって軍をやめた」グビッ
冒剣士「そりゃ…そうですよね」
孤高騎士「それからは人との付き合いも億劫になった。そりゃ態度も変わるさ…、友人らと距離を置いて、俺はひっそりと暮らした」
冒剣士「…」
孤高騎士「やがて、人々は俺の事を"孤高"の騎士と呼び始めたんだ」
冒剣士「それが、孤高さんの由来…ってことですか」
孤高騎士「俺もそれに慣れちまった。やがて、俺自身がそう名乗るようになっていった」ゴクゴク
冒剣士「…、でも、今は皆に囲まれて……、"孤高"なんて似合いませんね」アハハ
孤高騎士「はは…そうかもな」
冒剣士「…でも…なんでその話を急に僕に…?それが前、まだ話せないって言ったやつですよね…」
孤高騎士「……息子と娘、もし生きていたら…息子と娘は今日…、13歳の誕生日を迎えていた…」
冒剣士「…そう、なんですか。あ!だから0時を過ぎて丁度いいって…」
孤高騎士「一人で…あいつらにおめでとうというのは…寂しかったんだ…って言うのは、情けないか?」
冒剣士「…いえ、全然そんなこと!」
孤高騎士「…」
冒剣士「おめでとうございます、13歳の…誕生日」
孤高騎士「…おめでとう」
…チンッ
孤高騎士「ありがとよ…」
冒剣士「こちらこそ、誕生日に孤高さんとお祝い出来て…よかったていうのも変で…何ていえばいいか分かりませんが…」
孤高騎士「言いたいことは分かるさ。歳をとると、色々と…感慨深くなるもんだな」
冒剣士「そうかもしれませんね」
孤高騎士「いつの間にか、お前らを俺の息子と娘に重ねていたのかもしれない」
冒剣士「僕も孤高さんは、身内のようで…優しくて、頼りにしています」ニコッ
孤高騎士「そういわれると…もっとお前らと旅に行きたくなっちまうな」
冒剣士「どんどん誘ってください!僕らも楽しいんですから!」
孤高騎士「…そうか。ありがとうな」
冒剣士「いえ…そんなこと…」
…ボーン…ボーン…
孤高騎士「おっと、もうこんな時間か…そろそろ寝ようか。こんな時間まで、話付き合ってもらって悪かったな」
冒剣士「いえ、お話ありがとうございました」
孤高騎士「明日も朝早くおきて、一番に調査に向かう。お互い、がんばろうな!」
冒剣士「はい!」
孤高騎士「それじゃ…おやすみ」
冒剣士「おやすみなさい」ペコッ
…ガチャッ……バタン…
孤高騎士「俺が優しい人…か」
…グビッ………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【次の日・遺跡前】
冒剣士「…ここが遺跡ですね」
女メイジ「うっわ…、そこら中…小さな…貝…?でビッシリ…」
孤高騎士「元々海に沈んでいたのが地殻変動で現れたらしいからなぁ…、ヌルヌルしてやがるし…」ヌルッ
女メイジ「転んだら潮まみれ…」
冒剣士「あはは…、気をつけよう…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ……
冒剣士「…とはいえ、一般的な遺跡みたいで中もあまり変わりませんね?」
孤高騎士「そうだなぁ、貝やら海のものが多いくらいで…そんなに他とは変わらないな」
女メイジ「マーマンとかも出てきませんね」
孤高騎士「あいつらは意外と知識があるからな。意外と、スキを狙ってるのかもしれん」スチャッ
…ビュンッ!!キィン!!
孤高騎士「っと…こんな風にな…」
冒剣士「矢!?」
孤高騎士「おいでなすったぜ…ほら」
マーマン達『…』
女メイジ「うわ…いっぱいでてきた…」
冒剣士「な、なんか武装してますが…」
孤高騎士「半漁人だからな。知性は高いのもいる」
マーマン『…サレ。オマエラガアラシテイイバショデハナイ』
孤高騎士「…嫌だといったら?」
マーマン『コロスマデ』
孤高騎士「…上等!」
…ダダダダッ!!
冒剣士「このぬかるんだ床を何ともなく走るなんて…!」
孤高騎士「おらああっ!大突連弾っ!」ビュビュビュビュッ
女メイジ「…続きます!中火炎魔法っ!」ボワッ!!
…ドシュッ・・・ドシュドシュ…
カッ…ドゴォォン!!
マーマン『グ…!』
孤高騎士「おらあどうした!数で勝負できる相手だと思うな!!」
マーマン『…イッタンヒケ!アノオカタノモトニハトオスナ!』
冒剣士「…あのお方…?」
孤高騎士「面白いことを聞いた、冒剣士!」
冒剣士「は、はい!」
孤高騎士「気絶だけ狙ってあの剣を持ってるリーダー格のマーマンを捕まえろ!」
冒剣士「…やってみます!」
女メイジ「気をつけて!」
…タタタタッ…ズルッ
冒剣士「う、うわ滑る!」
マーマン『フハハ!ナメルナ!ワガ"ケン"ノ、エジキトナレ!』ビュッ
女メイジ「危ない!」
冒剣士「くっ…居合いっ!」ビュンッ!!
マーマン『アタルカ!』ヒュッ
孤高騎士「外した…いかん!居合いの後のスキが大きすぎる!」
マーマン『シネ!』ビュッ!!
冒剣士「ぬあああっ!…虎切っ!!」ユラッ…ビュンッ!!
女メイジ「えっ!?」
孤高騎士「外した居合いからの切り替えしだと!?」
…キィン!!ドスッ……!!
マーマン『…っ!』
冒剣士「…っ!」
…ドサッ
マーマン『』
冒剣士「…ふう、うまく峰打ちできました」シャキン
女メイジ「い、今のは…?」
孤高騎士「おいおい、居合いからの切り替えし術があるなんて聞いてないぜ…?」
冒剣士「これは体を大きく捻って、無理やり戻すんで負担が大きいんですよ…」イタタ
女メイジ「凄い速度で斬り直しをしてたけど…」
冒剣士「全身をバネにして戻すからね…、腰とわき腹の筋肉が痛い…からあんま使わないんだよ…」ズキズキ
孤高騎士「まったく…大したやつだ。それより…このマーマン…」
マーマン『…』
孤高騎士「縛り上げるぞ、手伝え」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マーマン『…』ハッ
孤高騎士「よーおめざめか」
マーマン『クッ…ホドケ!』
孤高騎士「そういう訳にはいかないねぇ」
マーマン『ナニガモクテキダ!』
孤高騎士「あのお方って、誰のことだ?」
マーマン『…』
孤高騎士「…いわないつもり?」
マーマン『ニンゲンフゼイガ…』
孤高騎士「……く……が…」
マーマン『ナニ?キコエヌゾ?』
…バキッ!!
マーマン『ガッ…!』
孤高騎士「もう1度聞く。あのお方は誰だ。この遺跡は何の意味がある」
マーマン『イワヌ…」
孤高騎士「…」ブンッ
…バキッ!!!ドゴッ……
マーマン『…ウッ!……ウグッ…』
孤高騎士「言え」
冒剣士「…」
女メイジ「…」
マーマン『フン…コロセ…』
孤高騎士「殺すのは簡単だ。だが、俺らには情報がほしい。別にいいんだぜ?いわなくてもよ」
マーマン『…』
孤高騎士「その眼を1個ずつくりぬいて、指を1本ずつそり落とす。ただ落とすんじゃねえ、千切りのように薄く…薄く…」
マーマン『…っ』
冒剣士「…」ブルッ
女メイジ「痛い…痛い…」
孤高騎士「俺らも遊びでやってるんじゃねえんだ。命かけてんだ。冗談じゃすまねえぞ」
マーマン『…ダ』
孤高騎士「あん?」
マーマン『コノオクニ…ヒュドラサマガ…イラッシャル…』
孤高騎士「…おい、それ本気でいってるのか」
マーマン『…コノジョウキョウデ、ウソハイワヌ』
孤高騎士「…」
冒剣士「ヒュドラ…?」
孤高騎士「一体何が起きてるんだ…?フィルボルグにヒュドラ?神獣のオンパレードだなこりゃ…」
冒剣士「神獣って…」
孤高騎士「あぁ。あのフィルボルグ…ほどじゃあないが、魔王軍の時代の封印された強力な敵だ…」
女メイジ「…」
マーマン『ヒュドラサマハ、フタタビワレラノマエニコウリンサレタ!』
孤高騎士「封印はどうしたんだ」
マーマン『ショセン、ニンゲンノ"フウイン"ナド…ソンナモノヨ!』
孤高騎士「…お前ら、何を企んでやがる」
マーマン『ヒュドラサマノカンガエ?サアナ…、シラヌナ』ハハハ
孤高騎士「そうか、じゃあ死んでおけ…」ビュッ
…ドシュッ……ドサッ
冒剣士「…」
女メイジ「…」
孤高騎士「まずいな、あいつらの言い草だと…確実に人間界への侵攻を考えている…としか思えん」
冒剣士「…どうするんですか」
孤高騎士「…うーん……」
冒剣士「ヒュドラって、結構手ごわい…ですよね」ハハ…
女メイジ「手ごわいも何も…」
冒剣士「どういうやつなんですか?巨人のような感じです?」
孤高騎士「いや…蛇だ」
冒剣士「へび…?」
孤高騎士「あぁ。頭を9個もつ、強力な神獣だ」
冒剣士「頭が9つの蛇ですか…ヤマタノオロチみたいだ」
女メイジ「何それ?」
孤高騎士「聞いたことあるな。東方に住む魔物だろ?」
冒剣士「そうですね、古来から伝わる魔物です」
孤高騎士「まあ…戦える相手じゃないし、ここは一旦引退くかないな」
冒剣士「そうですか…」
孤高騎士「残念だが、さすがに危険が分かっていては進めない。一旦退くぞ」
女メイジ「またこの間みたいな思いするのは沢山…」ハァ
…ミシッ
孤高騎士「…ん」
…ミシミシッ…
冒剣士「なんか、そこ盛り上がってません?」
孤高騎士「ああ…地面が…盛り上がってきてるようだな…」
女メイジ「…このパターンって、何かいやーな…予感が…」
ミシミシミシッ…!!
ドゴォン!!!………ウネウネ…
女メイジ「何…あれ…イカの触手…?」
孤高騎士「…あぁ、触手だな」
冒剣士「ボケーっと見てて大丈夫なんですか…アレ」
…ウネウネ
孤高騎士「…」
冒剣士「僕たちが戻る方角ですが…」
女メイジ「…」
…ミシミシッ
…ドゴォン!!
……ドゴォン!!……ウネウネ…ウネウネ…
冒剣士「いっぱい…出てきましたが…」
孤高騎士「…道ぃ、塞がったな……」
女メイジ「…」
…ザッ…ザッ…ザッ…
孤高騎士「…お?」
マーマン達『イタゾ!』
セイレーン達『クスクス…あれがヒュドラ様に逆らう輩…なのね』
孤高騎士「…奥からは敵の大群、出口は触手で封鎖か…」
冒剣士「あはは…なんか、妙に落ち着いちゃってる自分がいるんですが」
女メイジ「奇遇ね、私もよ…」
孤高騎士「ピンチに次ぐピンチで、慣れちまったんじゃないか?俺みたいにな」ククク
冒剣士「さて、どうします?」
孤高騎士「武器の準備だ。さすがに奥には進めん。逃げるが勝ち…触手を切り開いていくぞ」
女メイジ「了解です!」スッ
冒剣士「いつでも…」スチャッ
マーマン達『イクゾ!!』ダッ
セイレーン達「クスクス…」~♪
…ブワッ!!
……キーン!!
女メイジ「な、何この音!…歌!?耳がっ!」
冒剣士「頭が…痛いっ!」
孤高騎士「セイレーンの歌だ!波動による直接攻撃だ、歌を聴くな!」
冒剣士「って言っても…聞こえますよ!」
セイレーン『ア~♪』
孤高騎士「それか意識をするな!」
女メイジ「そんなのも…無理…頭が割れる…」
孤高騎士「仕方ねえ…!」ダダダッ
冒剣士「そ、そっちは敵の大群が…!」
…ダダダッ!!
キィン!!ズシャッ……ドスッ!!
…キキィン!!…ダダダダッ…
孤高騎士「おりゃあああっ!」
マーマン『ヒルムナ!』
セイレーン『…っく!』
……シーン
冒剣士「歌が途切れた!」
女メイジ「戦える!」
孤高騎士「はっは…、世話のかかる仲間だぜ!お前らで出口側の触手をなんとかするんだ!」
冒剣士「はい!」
女メイジ「わかりました!」
冒剣士「…居合いっ!」
…ビュンッ!!……ザシュッ…グニュッ…
冒剣士「き、切れない!?」
女メイジ「何やってるの!どいて…中火炎魔法っ!」
カッ…ドゴォン!!!
…ウネウネ……
冒剣士「そんな、攻撃が効かない!?」
女メイジ「…小雷撃魔法!」
バリバリッ!!!……ウネウネ…
孤高騎士「くっ…まだか!?」
キィン…キン!!!…ズバッ…
冒剣士「待ってください!触手が硬すぎて…っ」
女メイジ「どうすればいいの!?」
冒剣士「…大きな相手か、アレならいけるか…?」
女メイジ「"アレ"?」
冒剣士「…」スチャッ
女メイジ「居合いは効かないんじゃ…」
冒剣士「…おりゃあああっ!」
…ダダダダッ…タァン!!
女メイジ「飛んだ!?」
冒剣士「おりゃああああっ!」
シュバッ……ザシュッ!!!
冒剣士「や、やった!触手が裂けた!」
女メイジ「た、縦の…居合い…?」
冒剣士「わったったた…うわっ!」
…コケッ…ドサッ!!
冒剣士「あいたた…、なんか最近よく転んでる気がするよ…」
女メイジ「す、すごいじゃない!今のは!?」
冒剣士「兜割りっていう縦の居合い斬りだよ。威力が高いけど、使いづらくて…」
女メイジ「残りは2本…いける?」
冒剣士「やってみる!女メイジは孤高さんの支援をお願い!」
女メイジ「わかった!」
孤高騎士「こいっつら…、斬っても斬っても…出てきやがる…」
マーマン『グフフ…ドウホウノウラミ…ハラサセテモラウゾ』
セイレーン『うふふ…、人間の悲鳴って大好き…、聴かせて頂戴…」
孤高騎士「俺は嫌いだよ!くっそがぁ…」
…キィン!!ズバ…!!
…タタタタッ
女メイジ「加勢します!」
孤高騎士「お、触手は?」
女メイジ「冒剣士が兜割りとかっていう技で1本1本落としてます、大丈夫だと思います」
孤高騎士「ほう、さすがだな。女メイジも、しっかりついてこいよ!」
女メイジ「わかってます!」
冒剣士(向こうは大丈夫みたいか…問題はこっちだな…)
…ウネウネ…
冒剣士(何とか2本は仕留めたけど、あと1本が…)チラッ
…ドロッ…ズキズキ…
冒剣士(参ったな…親指に負担をかけすぎて血だらけで力が出ない…)
…ウネウネ
冒剣士(だけど…やるしかないって事だよな…!)ギロッ
…タタタタッ……タァン!!
冒剣士「おりゃああっ!兜わ…」
…ズキッ!!
冒剣士(しまっ…構えがズレ…)
…ウネウネ……ビュンッ!!
クルクルッ…………、ギュッ…
冒剣士(絡まれた!?く…)
女メイジ「…はぁはぁ、敵が一向に減らない!」
孤高騎士「冒剣士はまだか…って、触手に締め付けられてるぞ!?」
女メイジ「…あの馬鹿!何してんのよ!」
冒剣士(動けない…くそっ!何とかしないと…何とか…)キョロキョロ
孤高騎士「その触手は動くものに反応し、締め付ける!あまり動くんじゃない!」
冒剣士「で、ですが!」
孤高騎士「今行く!」
…ウネウネウネ…ユルッ…
冒剣士「緩まった!う…うおおお…!」ギリギリ
女メイジ「…孤高さん、助ける必要はないみたいですよ」
孤高騎士「どうした?」
女メイジ「…」クスッ
冒剣士「おりゃああああっ!」スポンッ!!
…スタッ
冒剣士「…今度はこっちの番だ!…居合いっ!」
…ビュンッ!!!
ウネウネ……ドシュッ………スパァッ!!
…ドサッ……
冒剣士「ふぅ…やった!」
孤高騎士「へえ…頼れる仲間になってきたじゃねーか」
女メイジ「私もあんなふうに、頼れる仲間になりたいな…」
孤高騎士「ふ…、お前らはもう、俺は頼りにしてるけどな」
…キィン!!!
……ズバッ…
マーマン『コ…コンナバカナ…、ワガドウホウヲスベテ…』
孤高騎士「俺らを倒したきゃ…小粒だろうが、数でも揃えてから来るんだったな…」
…ビュッ……ブシュッ…ドサッ
マーマン『…』
女メイジ「はぁ…はぁ…」
孤高騎士「さすがに俺もちょっと疲れたぜ…」
冒剣士「…ふぅ…、ふぅ…」
孤高騎士「お疲れサン、冒剣士」ポン
冒剣士「はは…、なんとかですよ…」
女メイジ「ほとんどこっちは孤高さんが倒しちゃったけどね…」
孤高騎士「女メイジの支援があってこそ、楽に立ち回れたんだ。ありがとよ」ニカッ
女メイジ「いえ、そんな…」
冒剣士「それじゃ、一回戻りますか?」
孤高騎士「お前、まだ進む気でいたのか?」ハッハッハ
冒剣士「い、いえいえ!そういう意味じゃなくて…」
孤高騎士「そうだな、それじゃ一回戻って再度報告だ」
冒剣士「そうですね!」
…ミシッ…
冒剣士「…ん?」
……ミシミシッ…
女メイジ「この感じ…また何か来る…?」
孤高騎士「いや…これは…」
ゴゴゴゴッ!!!
孤高騎士「地震だ!!」
冒剣士「ど、どうします!?」
孤高騎士「どうするったって…、とりあえず出口に…」
ズズ…ズズズズ…
冒剣士「な、なんか…遺跡…沈んでませんか…?」
孤高騎士「…俺もそう思う」
女メイジ「ちょっ、早く出口に!」
…パリンッ!!
バシャッ!!……
孤高騎士「海水が入ってくる!だめだ!奥に逃げるぞ!」
冒剣士「ひええっ!」
…ドォォォッ!!バシャアアンッ!!
孤高騎士「走れぇぇ!」
女メイジ「きゃああっ!」
冒剣士「くっそおおっ!」
ダダダダッ……!!
……ガチャッ…
孤高騎士「そこを閉めるんだ!」
冒剣士「はいっ!」
…バタン!!
…バシャアンッ!!…ミシミシッ…
孤高騎士「水…止まったか…?」
冒剣士「止まりました…ね」
女メイジ「一体なんなの…」
孤高騎士「とりあえず、戻れないなら…進むしかないな」
冒剣士「そうですねー…」
女メイジ「結局、ヒュドラに出会う事になりそう…ね」
孤高騎士「でもほら、巨人族みたく優しいヤツかもしれんじゃないか?」
冒剣士「僕には、閉じ込められたのはヒュドラのせいにしか思えないんですけどね…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…トコトコ…ピタッ
孤高騎士「お前、あれどう思う?」
冒剣士「どう見ても、ですよね」
女メイジ「はぁ~…」
…キラキラ
孤高騎士「あんな立派な建前のドア、俺には"そこにいます"としか思えないんだが」
冒剣士「…行きますか」
…グッ…
冒剣士「開けますよ」
女メイジ「慎重にね」
…ギィィィ………
冒剣士「…」
孤高騎士「…へェ」
女メイジ「…」
ヒュドラ『…ようこそ』
孤高騎士「あんたが…ヒュドラってやつかい?」
ヒュドラ『いかにも』
冒剣士「フィルボルグさんも大きかったけど…、ヒュドラも…」
女メイジ「どうなるの…?」
冒剣士「わからない…」
孤高騎士「ヒュドラさんよ、話では頭が9つあるって事だったが…今は1つしかない、ただの大蛇に見えるが?」
ヒュドラ『力が完全には戻っておらぬのだ』
孤高騎士「そうかよ…、で、俺らをここに呼んだ理由はなんだ」
ヒュドラ『…寄越せ』
孤高騎士「…あん?」
冒剣士「寄越せ?」
女メイジ「何を…?」
ヒュドラ『"宝玉"だ』
冒剣士「…宝玉!?」
孤高騎士「なんの…ことだ?」
ヒュドラ『トボけても無駄だ。そこの小僧、お前が持っていることは匂いで分かる』
女メイジ「そんなの…持ってるの?」
孤高騎士「なんだ、宝玉って…」
冒剣士「これの…ことですか」
スッ…キラッ
女メイジ「それってこの間、巨人にもらったっていう…」
孤高騎士「それが…宝玉なのか?」
ヒュドラ『おぉソレだ…早く、それを寄越すのだ…』
冒剣士「…なぜ欲しいんですか?」
ヒュドラ『我が力を復活するためだ!それがあれば…、我は再び力を手にすることが出来る!」
孤高騎士「一体…その玉は何なんだ?」
冒剣士「魔力を増大させる秘宝、と聞きました」
孤高騎士「魔力の…増大だと」ピクッ
冒剣士「ですが、使い方が分からないと意味がないと…」
女メイジ「そんなものが…」
ヒュドラ『ふ、ふはは!それは貴様ら人間が、であろう』
冒剣士「人間が…?」
ヒュドラ『そもそもそれは我が魔族が生みしモノ…、貴様らが使えるような代物ではない…!』
冒剣士「…」
ヒュドラ『さあ…早くそれをこっちに…!』
冒剣士「ひとつ聞く。これを使って力が戻ったら…何をするつもりだ…?」
ヒュドラ『ニンゲンの…殲滅…」ニタァ
冒剣士「なっ…」
ヒュドラ『我を閉じ込めた恨み…晴らす為に…』
冒剣士「フィルボルグさんや、知り合いが…神獣は本当は優しい生き物だって…言ってました…」
ヒュドラ『残念だったな…、我は"戦争が大好き"なのだ…、さあ…寄越せ…」
冒剣士「っ…!」
孤高騎士「…」
女メイジ「ダメ!」
冒剣士「そうです、これは渡せません!」
ヒュドラ『ふっ…そういうと思っていた。ならば死んで奪おう…!"極水流魔法"…』
…ドドドドッ…バシャアアアッ!!!!
冒剣士「!?」
孤高騎士「極流クラスの魔法だと!?」
女メイジ「つ、津波!?」
…バシャアアアッ!!!
冒剣士「う、うわああああっ!」
孤高騎士「ぬああああっ!」
女メイジ「いやあああっ!」
…ザバア……
ヒュドラ『…ふはははっ!』
冒剣士「…」
孤高騎士「…」
女メイジ「…」
ヒュドラ『さぁ…宝玉を…』
…キラッ
ヒュドラ『見つけた……』
冒剣士「う…そ、それは渡さない…」ググッ
孤高騎士「…くっ…」
女メイジ「……だ…め…」
ヒュドラ『己の弱さを悔いるがいい…!さあ…今こそ我が元に…!』
…キラッ!!!…ゴクンッ…
ヒュドラ『つ…ついに手に入れたぞ……!』
冒剣士「宝玉を…飲み込んだ…」
女メイジ「ああ…」
孤高騎士「…ちっ……」
ヒュドラ『…おぉ、全身から……湧き上がる…力が…!』
…グググッ
ヒュドラ『我が兄弟、その首よ、今こそ再びこの世に…!』
冒剣士「くっ…」
ヒュドラ『うははははっ!』
ググググッ……
ヒュドラ『…む?』
グググググググッ…
ヒュドラ『いささか…力の増大が…強すぎる…』
…ビキッ…ビキビキ…
冒剣士「…?」
ヒュドラ『か、身体が…熱い…何だこれは…!』
…ビキビキビキッ!!
ヒュドラ『か、身体が崩れる…!?ぬうあああっ!!』
………バァン!!!!
ヒュドラ『がはぁっ!』
…ベチャベチャッ……ボトボトッ…
冒剣士「一体どうしたん…だ…?」
ヒュドラ『…我が…身体が…』
冒剣士「ヒュドラが…吹き飛んだ…?」
孤高騎士「ごほごほっ…ヒュドラが自爆したのか…?」ググッ
女メイジ「…?」
…コロコロ…キラッ
ヒュドラ『宝玉……そ、そうか…フィルボルグのやつ…』
冒剣士「…?」
ヒュドラ『許さぬぞ…許さぬ…く…』
孤高騎士「そ、それにしてもコレの"宝玉"は凄いモンなんだな…」
ヒョイッ…バチッ!!
孤高騎士「うおっ!?」
冒剣士「孤高さん!?」
ヒュドラ『…っ!』
孤高騎士「一体なんだ…?拾っただけで電撃が…」
冒剣士「さ、さぁ…僕は拾えますよ」
…ヒョイッ
ヒュドラ『…ほう』
孤高騎士「…ん?」
ヒュドラ『…く、クハハハ!!』
孤高騎士「何笑ってんだよ!」
冒剣士「?」
ヒュドラ『なるほどな、なるほど。なるほど…面白い。これは面白い!」
孤高騎士「突然…気味の悪い声で笑いやがって…」
ヒュドラ『憎しみか?孤高とやら…」
孤高騎士「…」
ヒュドラ『…ふっ』
孤高騎士「…首だけでいつまでも粋がってんじゃねーぞ!」ビュッ…
…ドシュッ!!!
ヒュドラ『…がっ…』
孤高騎士「死んでおけ…お前は危険すぎる…」
ヒュドラ『…』ドシャッ…
孤高騎士「…」
冒剣士「孤高さん…?」
女メイジ「…終わったの?」
……ガチャガチャッ!!
孤高騎士「…なんだ?」
冒剣士「入り口が騒がしいですね…?」
…ガヤガヤ
軍人A「大丈夫ですか!?」
軍人B「こちら、先発部隊!冒険者を発見しました…3名とも無事です!」
軍人C「もう大丈夫ですよ!」
冒剣士「わわっ、軍人さん…?」
孤高騎士「あー…そりゃあな…そうなるわな…」
女メイジ「そうなる?」
孤高騎士「あんな大規模な地震と、遺跡自体が沈んだんだ。軍に報告も行くだろう?」
冒剣士「あー…」
孤高騎士「多分、冒険酒場に連絡をとって冒険者がいないか調べたんだろう」
女メイジ「それで私たちが入ったのが分かった、ってことですね」
孤高騎士「ま、そうなだわな」
軍人A「うわっ、なんだこれ!」
軍人B「気持ち悪い…これ…あなたたちが…?」
孤高騎士「おいおい、軍人がビビってるんじゃねーぞ!」
軍人A「…」
孤高騎士「ま、やったのは俺じゃねーけどな」
軍人A「…では、誰が」
孤高騎士「そこの剣士だ」
冒剣士「ぼ、僕でもないですよ…これは宝玉の…」
孤高騎士「ば、バカ!」ゴツッ
冒剣士「あいたっ!」
孤高騎士「いいか、宝玉が表に出てみろ。あっという間に広まっちまうぞ…」ボソボソ
冒剣士「あ、そうですね」ボソボソ
孤高騎士「ここはお前がやったことにしろ。女メイジと一緒にな」
冒剣士「わ、わかりました…」
冒剣士「えーと…ごほん!結果的に、3人で討伐しました」
女メイジ「え!?」
孤高騎士「おいおい…」
軍人A「そうですか…それでは報告しておきます。冒険酒場のほうにも連絡はいれておきますね」
軍人B「では、脱出しましょう」
孤高騎士「はぁ…戻ったらとりあえず…いろいろやることはありそうだ」
冒剣士「…とにかく、無事に帰れるようでよかったです」
女メイジ「…だね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【3日後・冒険酒場】
冒剣士「…というわけで、今回も色々ありました…」
オーナー「今回もお疲れ様。遺跡と一緒に沈んだって聞いたときは肝が冷えたよ…」
女メイジ「本当ですよ…、死ぬかと思いました…」
オーナー「今回の報酬は弾んでおかないとね…」
孤高騎士「色つけて頼むよ、オーナー」ニカッ
オーナー「ああ、もちろん……ん?」
冒剣士「…」
オーナー「…どうした?冒剣士」
冒剣士「あ、いえ…一度…、実家に戻ろうかなって…」
オーナー「実家に?」
冒剣士「今回のこともですが、前も…死にかけました。こんなことしてたら、いつ倒れるか分からないので…」
女メイジ「…」
冒剣士「出来るだけ、元気なうちに顔を見せておこうかなって…」
孤高騎士「本当はこんな国家級のクエストが連続することなんてないんだけどな…、運がいいんだか悪いんだか…」
冒剣士「だから、次に連休が入ったら戻ってみようかなって…」
オーナー「なるほどね…うん、いいよ」ニコッ
冒剣士「本当ですか!?」
オーナー「確か、3週間後からしばらくは軍から遠征要請が入るから、酒場のほうも少し暇になる。休みを長くあげるよ」
冒剣士「ありがとうございます!」
オーナー「うんうん、親にはきちんと顔を出すほうがいいさ」
孤高騎士「東方か…」
冒剣士「僕の故郷…そうですね」
孤高騎士「東方は錬金術にも長けていて、技術水準が高いんだよな?」
冒剣士「そう…ですね」
孤高騎士「もしかしたら、"宝玉"の秘密も分かるんじゃないか?」
冒剣士「…なるほど」
オーナー「…」
孤高騎士「ヒュドラが吹き飛んだ原因とか、な」
オーナー「うーん…それは多分、強力な封印魔法…いや、放出魔法…?が掛かっていたんじゃないかな」
冒剣士「?」
オーナー「例えば、冒剣士以外が使えないとか、色々と憶測は出来る」
冒剣士「僕だけ…?」
オーナー「昔から、高貴な魔族は少しの未来を読む力があると言われているんだ」
孤高騎士「…」
オーナー「だから、もしかしたら冒剣士がフィルボルグの前に現れることも、すべて知っていたのかも…ってこと」
冒剣士「…なるほど」
オーナー「…とりあえず、東方にいったら羽を伸ばしてきなよ!」
冒剣士「はい、休ませていただきます!」
孤高騎士「あのよ、俺も行っていいか?」
冒剣士「え?」
女メイジ「!」
孤高騎士「ほら、サクラとか色々見たいって言ってただろ?一回いってみようと思ってたんだよ」
冒剣士「い、一緒にですか?ぜひ!」
孤高騎士「お、いいのか?」
冒剣士「お世話になってるって、お母さんにも紹介したいです!」
孤高騎士「はは、ありがとうよ!」
女メイジ「あの…オーナー」
オーナー「ん?」
女メイジ「私も…東方に行っていいいですか?」
冒剣士「え?」
女メイジ「そ、その…、最近はずっと3人一緒だったし…、私も…だめかなって…」
冒剣士「僕はいいよ!もちろん、女メイジと一緒にいけたら楽しいし」ニコッ
女メイジ「…むぅ」テレッ
オーナー「2人も穴が開くのは…うーん…むむむ…」
女メイジ「…」
オーナー「ま、いいか。いっておいで!」
女メイジ「…ありがとうございます!」
冒剣士「やった!色々町も案内するね!」
女メイジ「…楽しみにしてる!」
孤高騎士「はっはっは、楽しくなってきたな!そうと決まれば準備だ!」
冒剣士「え、ええ!?3週間後ですよ!?」
孤高騎士「善は急げってね!オーナー、とりあえずこの2人と買い物いってくるぜ!」
女メイジ「準備しに行きましょうっー!ほら、冒剣士も急いで!」
…ヒッパラナイデー!!
…ドタドタ…ガチャッ………バタン…
…シーン
オーナー「…」
…コンコン……ガチャッ
オーナー「お…」
僧侶戦士「よっ…みんないるんだろ?」
オーナー「僧侶戦士…」
トコトコ…スタッ
聖剣士「…ここに」
魔法使い「…もちろんいるわよ」
吟遊詩人「…隠れるのって、案外疲れますよね」
僧侶戦士「よしよし…で、どうなんだ?」
オーナー「…話を聞く限りでは、恐らく…」
聖剣士「…」
吟遊詩人「どうにも…ならないんですか?」
魔法使い「…」
オーナー「まだ何か始まったわけじゃないけど、充分すぎる役者は揃いすぎている…」
聖剣士「分かってます。心に変化が起きてるということでしょう…」
オーナー「…」
僧侶戦士「…どうするんだ?俺らは」
オーナー「今は…どうしようもないよ」
魔法使い「…何にしろ…、もしアナタの考えが合っているとしたら…」
オーナー「……話を聞いた限りでは、繋がるという話で…」
僧侶戦士「お前の気持ちも分かるが、哀しい思いをするのは…あいつなんだぞ?」
オーナー「…」
僧侶戦士「…」
オーナー「…」
僧侶戦士「…」
聖剣士「…」
僧侶戦士「これからどうするべきか、お前がどう考えているかも分かる。だが…」
オーナー「…かといって、今から動くのは…」
僧侶戦士「元々は別のクエストだったのが、お前がダダこねて招いたのがこの結果でもあるんだぞ!?」
オーナー「…くっ」
僧侶戦士「今からでも遅くないだろ!?」
オーナー「だめだ…今は、もう…」
僧侶戦士「…あいつらが…そこまで気にかかるか、お前らしいがな」
オーナー「…」
僧侶戦士「…分かってるよ。俺だって。じゃあどうする!?宝玉の反応が、全てを物語っているじゃないか!」
オーナー「…もし、何かが起きたら俺も出る。それに…軍も弱い訳じゃない。よっぽどじゃない限りは大丈夫だろう」
吟遊詩人「でも…どっちの選択も、どっちの結果も…、辛い結果になりますね…」
オーナー「…今は、願うしかないだろう…」
僧侶戦士「頼むぜ…"英雄剣士"」
オーナー「…あぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「えー、これはハデすぎますよ!」
孤高騎士「ははは、いいと思うんだけどな!?」
女メイジ「孤高さん…センス悪いですね…」
孤高騎士「何だと!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーナー「…悲しませることだけは、したくないんだけどな」
僧侶戦士「考えが、改まればいいんだが…」
聖剣士「このタイミングで、こうなるのは運命だったんでしょうか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒剣士「次は女メイジの選んでくださいよ!」
女メイジ「やだー!こんなハデなの着たくないー!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーナー「…偶然という名の、運命…か」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【オーナーの部屋】
…ビュウウウウッ!!!
…バサバサバサッ…!!…
ヒラヒラ…
…パサッ…
"国家クエスト"
英雄剣士及び、その経営する専属冒険者たちへ
本クエストは、人物の調査を行ってもらう
元、国際指名手配者であり
"軍人殺し"を行った者の身辺調査、及び観察である
当該する酒場に通い"冒険者"として活躍する現在の情報を定期的に送って欲しい
反逆を行う意思がないか、これは非常に重要なことである
彼は一人でも十二分に国軍への影響を与える可能性があるからだ
"「孤高騎士」"の調査を宜しく頼む
【TO BE CONTINUED】
434 : ◆qqtckwRIh.[sag... - 2013/08/19 08:04:16 iPx.iGbg 373/376
読んでくださった方々、ありがとうございました。
次回作は別スレで、第二幕としてスタートいたします。
修正分、ファンタジー辞典を張って、今回は終了です。
【ファンタジー辞典】
■ヒュドラ
ギリシア神話に登場する怪物で、古代ギリシア語で"水蛇"という意味です。
しかし、もう1つ意味があり、それはヘラクレスに退治されたヒュドラーという意味もあるようです。
星座の中にある"うみへび座"は、ヒュドラのことです。
■フィルボルグ
ケルト神話、アイルランドに伝わる神族の巨人"フィルボルグ族"が元ネタです。
元々はエリンという世界で、5つの種族が繁栄、滅んだという神話のストーリーの種族の1つです。
★カタナ
ご存知のとおり、日本に伝わる武器の1つです。
実は刀の歴史は平安時代まで遡り、そこで生まれた"太刀"が今日の刀の原型の1つとも言われています。
その時代から、武人の一般的な武器と認知され、今は平安時代以降の太刀などを"日本刀"と呼びます。
●居合い
鞘を滑らせて、摩擦を使って加速させて切り込む"居合い"という剣術です。
"抜刀術"の中にある1つ、居合いとして認識されることも多いですが、実際は"抜刀術"の別称が"居合い"なのです。
本作では、認識の多くである"抜刀術の1つ"として扱っています。
●燕返し
佐々木小次郎が得意とした"虎切"を燕返しと認知されています。
作中ではカウンター技でしたが、実際は"二回の攻撃による切り替えし術"が基本です。
分かりやすくいえば、居合いや刀の切り込みは必ず1度目のあとに"スキ"が生じます。
それを利用し、大きく1度目の攻撃を外し、そこを狙った相手に更に早い速度で斬りを入れるという技と伝えられています。
●居合い刀
本作では何度も使っていますが、"居合い専用の刀"というのが日本にはあります。
なぜなら、鞘を通して加速する技なので、その度に刀身が削れ、やがて刃先がボロボロになってしまうのです。
その為、居合い刀は"消耗品"として扱われており、現在の刀も居合い刀は一般的な日本刀よりも値段が落ちます。
(ただし歴史的な価値品を除く)
445 : ◆qqtckwRIh.[sag... - 2013/08/21 11:18:13 LsCcfpcw 376/376冒剣士「僕は最高の冒険者になる」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1377051292/l50
開始しました。
つっづっきっ♪つっづっきっ♪
待ち遠しいです