【前編】の続きです。
・黄泉川のマンション
ピンポーン
佐天「こんにちは~」
打ち止め「いらっしゃーいってミサカはミサカは小走りにお出迎え!」
佐天「こんにちは、打ち止めちゃん」
打ち止め「おお、結構一杯買ってきたねって両手の袋を見ながらミサカはミサカは感想を述べてみる」
佐天「5人分だし、初めての料理の練習だから食材は多めの方がいいかなって」
打ち止め「う~、失敗前程っていうのはちょっとショックかもってミサカはミサカは不満を漏らしてみたり」
佐天「そういえば……」キョロキョロ
打ち止め「どうかしたの? ってミサカはミサカは訪ねてみる」
佐天「うん。一方通行さんの姿が見えないなぁって」
打ち止め「うーん、今日は帰ってくるかどうかも怪しいかもってミサカはミサカは端的に事実を伝えてみる」
佐天「あ、そうなんだ……」
打ち止め「さっきあの人の携帯に電話が掛かってきてねー、そのまま『ちょいと仕事だァ』って出かけちゃったのってミサカはミサカはあの人のモノマネをしつつ答えてみる」
佐天「仕事?」
打ち止め「あっ……。えーと、詳しいことは聞かないで貰えるとありがたいかも?」
佐天「ん、了解」
佐天「さて、それじゃさっそく料理の練習いってみようか」
佐天「料理の基本はやっぱり包丁! というわけで材料を切らないと作れない、けれどそんなに難しくない料理を!」
打ち止め「そんな都合の良い料理があるの? ってミサカはミサカは疑問をぶつけてみる」
佐天「ぬふふー、世の中には鍋という素敵料理があるのだよ、打ち止めちゃん!」
打ち止め「おおー!」
佐天「材料を食べやすい大きさに切って、火の通りにくいものから煮ていくだけ! しかも今回は市販の鍋の素を使うのでスープの心配も無用!」
打ち止め「でもそれってあんまり手料理って感じがしないかも?」
佐天「千里の道も一歩から、まずは包丁を使えるようになってから他の料理かな」
打ち止め「物事には順番があるってことだね」
佐天「そういうこと。今日は材料を切る練習だけして、後でお鍋でわいわい食べようってわけ」
芳川「ちょっと待って、それじゃ途中で味見するという私の仕事は!?」
佐天&打ち止め「「……はぁ」」
・とあるキャンピングカー
一方通行「ったく、何だってンですかァ?」
海原「お、いらっしゃいましたね。これで皆さん揃ったわけですが……」
結標「どうでもいいけど、私達って休業中じゃなかったの?」
海原「まあまあ」
土御門「アレイスターが隠居して、事実上暗部の組織は解散、ないしはそれが必要になった時のために開店休業状態……にもかかわらず俺たちが招集された。言ってる意味は分かるな?」
一方通行「チッ、ツマンねェ話だ……」
結標「ほんと、つまらない話ね」
結標「はぁ……まったく、どこぞの誰かさんじゃないけれど、不幸だーっとでも言えばいいのかしらね」
一方通行「あン?」
海原「おや?」
土御門「ほう?」
結標「……? 何よ、どうかしたの?」
土御門「結標、そのフレーズ……一体どこで聞いたんだ?」
結標「別にどこでもいいでしょ? ……何よ、そんなに気になるわけ?」
海原「いえ、少し聞き覚えのあるフレーズでしたので」
土御門「そうそう、他意はないんだにゃー?」
結標「……私の同居人からよ、不運な少年が居るって話をよく聞くだけ。ただそれだけよ」
一方通行&海原&土御門「「「……あー」」」
結標「何、何なの? 全く気持ち悪いわね貴方達は……これだからロリコンは」
一方通行「ハン、黙れショタコン」
海原&土御門 ウンウン
結標「な!? ……そう、死にたいのね貴方達」
土御門「悪いが舞夏のためにもそう簡単には死ねないんだぜい」キリッ
海原「自分もまだまだやらなければならないことがありますので」キリリッ
一方通行「つかてめェ、もうこンな仕事する理由無くなったンじゃなかったのかよ」
結標「あら、心配してくれるわけ?」
一方通行「あァ? 頭沸いてンじゃねェのか?」
結標「確かにあの子達の安全は確保されたのだけれどね。だからと言ってそれが私が自分の役目を放り出していいってことにはならないのよ」
土御門「分かるぜい、その気持ち。俺も舞夏が卒業するまではこの都市(まち)には平和であってもらわないと困るんでな」
海原「まあ要するに、僕達が守りたい人達のところに間違っても汚れ仕事が回らないように、暗闇の中を先回りするのが今の僕達のお仕事というわけですよ」
結標(海原のやつ、誰に向かって喋ってるのかしら……?)
一方通行「……ハン、それで今回の仕事ってェのは?」
土御門「とある研究施設から紛失した備品の回収……ってことになってる」
結標「備品の回収?」
土御門「体積2立方メートル程度の白い直方体……口で言うよりも見たほうが早いだろう」
土御門 スッ ←写真を数枚机に出す
海原「これは……」
一方通行「…………あァ?」
結標「……………………冷蔵庫?」
一方通行「……」ガタッ
結標「……」ガタッ
海原「……」ガタッ
土御門「あぁ! 待って、待つんだぜい!? いきなり帰ろうとしないで欲しいんだにゃー!?」
一方通行「土御門、次にこンなくだらねェ用事で呼び出したらコロス」
結標「壁の中がいいかしら? それとも何かを体の中に撃ち込まれる方がいい?」
海原「いっそプラネタリウムの如くバラバラにというのも」
土御門「ちくしょう、俺も言っちまうぜい、不幸だぁーー!」
一方通行「垣根提督だァ?」
結標「それって確か第二位の超能力者(レベル5)よね」
海原「それがどうして冷蔵庫に?」
土御門「俺も詳しい経緯は知らないんだがな、いつだか俺たちみたいな小組織と小競り合いしたことがあっただろ」
結標「あぁ、なんだかそこの白い人が派手に暴れたのだったわね」
海原「その時の戦闘で垣根提督は大きなダメージを負って学園都市に回収されたはずでしたね」
一方通行「……で、これか」
土御門「そういうことらしい」
一方通行(あン時殺しておいたやった方が良かったンじゃねェかこれ?)
海原「しかし、これほど見事に冷蔵庫の外観をしているのなら我々が出張らなくても簡単に見つかりそうなものですが……」
土御門「ところがそうでもないんだ」
結標「どういうこと?」
土御門「実はこれが紛失してから第二位を名乗るナンパが数件発生している」
一方通行「どっかで聞いたよォな話だな」
海原「……冷蔵庫がナンパというのもシュールな光景ですね」
土御門「ナンパされた人間の話だとナンパしてきたのは本人っぽいという話だ」
結標「それって冷蔵庫ではなく、ってこと?」
土御門「ああ。ちゃんと人間の垣根提督のようだった、ってことらしい」
海原「……つまり、もし本当に垣根提督が復活していた場合、取り押さえられるのは一方通行さんぐらいということですか」
土御門「まあそういうことだ」
結標「それにしても不可解ね……復讐とかなら分かるけど、何故ナンパ?」
一方通行「あのメルヘン、能力だけじゃなく頭ン中までメルヘンだったか……」
土御門(シャバに戻ってナンパに精を出す気持ち、少し分からなくはないぜい)
海原(自分も同意見ですが、このお二方には理解しがたいのかもしれませんね)
土御門(声を掛ける方じゃなく掛けられる方ってことか……ちっ、これだからモテ系は!)
海原(まったく、僕なんか声を掛けることすら出来ないというのに)
結標「ということは今回はまずは対象の捜索、その後一方通行が対象を制圧という流れになるわね」
土御門「まあそうなるな」
海原「しかし、どうやって捜しましょうか……ナンパしているくらいでしょうから監視カメラを一通りチェックしていればそのうち引っかかるんでしょうけれど」
一方通行「見つかるまで缶詰なンざ冗談じゃねェぞ?」
結標「あら、この後用事でもあったのかしら?」
海原「初めての手料理、保護者としては見過ごせませんものね」
一方通行「…………なんでてめェがそれを知ってンだ」カチ
土御門「のわ!? 待て待て落ち着け! こんなところで能力を使うんじゃない!」
結標「手料理……貴方とうとうそこまで……」
一方通行「そっちはそっちで何か勘違いしてねェか、オイ」
海原「小さいミサカさんが料理が作れるようになりたいとご自分で言い出したんですよ」
結標「あぁ、そういうことね」
一方通行「だから何で知ってンですかァ!?」
結標「貴方……相変わらずなのね」
土御門「その歪みなさはもはや尊敬に値するぜい」
海原「あの、何やら皆さん誤解してらっしゃいませんか?」
一方通行「誤解も何も」
一方通行&結標&土御門「「「ストーキングで知ったん(ン)じゃねェ(ない)の?」」」
海原「えぇー、ないわー。3人揃ってきょとん顔でそれはないわー……」ガックリ
海原「ごほん、小さいミサカさんの自慢話としてミサカネットワークにここ数日のことが流れているんですよ」
土御門「ミサカネットワーク……確かクローン達の間でリアルタイムの脳波ネットワークが繋がっているんだったか」
一方通行「あンのガキャァ……」
海原「それで数いる妹さん達のお一人と都市(まち)で偶然お会いしましてね」
結標「偶然、ねぇ?」
土御門「筋が通っているのが逆に信憑性薄くしてるんだにゃー」
海原「細かい経緯は省きますがその時にお聞きしたというわけです」
一方通行「まァ、嘘かどォかは後で打ち止めか妹達の誰かに聞けば一発だから後回しだ」
結標「そうね、とりあえずは第二位をどうやって捜すかよね」
海原(大丈夫、嘘は言っていないはず……あの個体も口裏を合わせてくれるはずです)ダラダラ
海原「しかし、冷蔵庫にしろ垣根提督にしろ外見はハッキリしているのですし、風紀委員なり警備員なりに監視カメラや見回りで捜索をさせればすぐ見つかるのでは?」
土御門「理事会からのオーダーでなるべく穏便、かつ秘密裏にという要請が来てる」
一方通行「チッ、面倒くせェ……」
結標「せめて私達の中にクラッキングに長けた人間が居れば違ったのでしょうけど」
土御門「俺の技術じゃ守護神(ゴールキーパー)のディフェンスをかいくぐって監視カメラの映像をすっぱ抜くのはちと難しいぜい」
結標「浮遊回線(アンダーライン)を始めとして、もう使わない使う予定が無いからって秘匿回線の設備が大幅に縮減された弊害ね」
一方通行「光の当たる部分が増えたってだけでこの都市の闇が消えたわけじゃねェってのにな」
土御門「……逆に守護神に手を貸してもらうって手はどうだ?」
海原「おや、何か守護神にコネでも?」
土御門「いや、さすがに守護神の情報は半分都市伝説だからな。ましてや個人情報なんてとてもじゃないが無理だ。分かっているのは風紀委員に所属しているはずだってことぐらいだ」
結標「じゃあどうしようっていうわけ?」
海原「……なるほど、風紀委員の符丁に合わせて垣根提督を捜していることを伝える暗号文を流すわけですね」
土御門「そういうことだ。むやみに無関係の人間に見せるわけにはいかないからもう少し強度の強い暗号でだがな。守護神が清濁併せ呑む性格なら見逃してもらえる可能性がある」
一方通行「それじゃ細けェことは任せた。方針が決まったら連絡よこせ」ガタッ
海原「どちらへ?」
一方通行「キーパーの反応待ちになンだろ? なら今日は動きはねェだろ」
結標「……今からでは完全下校時刻を回るものね。守護神が風紀委員だと言うのなら夜は警備員に引き継いで詰めては居ないはずね」
一方通行「そォいうこった」
結標「私の方も一旦引き揚げるわね。チップは直接私のところへ」
海原「了解です」
土御門「よし、それじゃ各自連絡はいつでも取れるようにな」
・黄泉川のマンション
佐天「ざく切り、輪切り、いちょう切りぐらいだったけど、少しは包丁に慣れたかな?」
打ち止め「同じお野菜でも向きによって切り難かったりとか、実際にやってみないと分からないことは多いんだねってミサカはミサカは素直な感想を述べてみる」
佐天「うんうん。それに一応は刃物だしね、ちゃんとした使い方を最初に覚えないとね」
打ち止め「包丁をマスターすればいよいよ本格的な料理の練習だねってミサカはミサカは期待を膨らませてみる!」
佐天「ちっちっちっ、包丁の次は目玉焼きを始めとする火加減を覚えるためのメニューが待ってるのだ!」
打ち止め「なんと!?」
黄泉川「おーおー、なかなか楽しそうじゃーん?」
佐天「あ、お邪魔してまーす」
黄泉川「おう、いらっしゃい」
打ち止め「おかえりなさーい」
黄泉川「ん、ただいまじゃん打ち止め」
黄泉川「お、今日は鍋じゃん?」
佐天「はい。最初は包丁に慣れるための練習にしようと思って、細かい調理を気にしなくていいメニューはないかなぁって」
黄泉川「うんうん。手間のかからない料理ってのはレパートリーを増やすのにも大切じゃんよ」
黄泉川「そうやって便利や手間がかからないことを追求していくと、『これ』に行き着くはずなんだけどなぁ」
打ち止め「そこで炊飯器マスターになっちゃうのはヨミカワくらいだと思うの、ってミサカはミサカはもう何度目かも分からないため息とともにぼやいてみたり」ハァ
黄泉川「えぇー?」
佐天「それには私も打ち止めちゃんと同意見です」
黄泉川「おっかしーなー……」
黄泉川「それで? ソファーでへばってる桔梗は一体どうしたんじゃん?」
佐天「あー……それがですねぇ」
打ち止め「料理の練習だからいろいろ味見役が出来ると思ってたらしいのってミサカはミサカはハッキリと言っちゃってみる」
芳川「うぅ……お腹空いた」
黄泉川「あー……なんというか、ごめん」
佐天「いえ……」
黄泉川「そ、そういえば一方通行はどうしたじゃん? またコンビニに缶コーヒーでも買いに行ってるじゃん?」
打ち止め「それがね……」
ガチャ
黄泉川「お? 調度帰ってきたじゃん?」
一方通行「オゥ、今戻った」
打ち止め「あっ! おかえりーってミサカはミサカは勢い良くダイブしてみたり!」
一方通行「……ヤメロっつの」ベクトルチョップ
打ち止め「った! うぅ、おかえりのハグくらいいいじゃんってミサカはミサカはヨミカワ風に愚痴ってみる……」
佐天「ふふ。おかえりなさい、一方通行さん」
一方通行「オゥ。……ふーン、しっかり料理教室してたみてェじゃねェか」
打ち止め「たくさんたくさん具材を切ったんだーってミサカはミサカはいろいろ端折って報告してみたり!」
一方通行「ン、頑張ったな」ナデナデ
打ち止め「えへへ~」
佐天(あ、いいなぁー、あれ)
一方通行「ン? どォかしたか?」
佐天「えぇ!? いえいえいえ、何でもないです、はい!」
芳川「青春ね」
佐天「あぅ……///」
一方通行「?」
芳川「さぁ、一方通行も帰ってきたことだし、夕食にしましょう」
一方通行「だから何でてめェが仕切ってンだよ」
芳川「さぁ、佐天さん、貴方の料理スキルを今こそ発揮する時よ!」
佐天「ふぇ、あっ、はい!(うん、ここでいい所を見せないとね)」
打ち止め「そんなにお腹が空いてたんだね……ってミサカはミサカはつっこんでみる」
黄泉川「桔梗……」
打ち止め「野菜を切ってばかりだったけど、サテンお姉ちゃんは他にも用意してたよね。今日のお鍋は結局何のお鍋なのかな? ってミサカはミサカは待ちきれないこの心境を吐露してみる」
佐天「ふふふ、よくぞ聞いてくれました打ち止めちゃん。今日は市販の和風スープを使って野菜たっぷりの鳥団子鍋なのです!」ジャーン
黄泉川&芳川&打ち止め「「「おおー!」」」パチパチパチ
一方通行「……」シーン
佐天「うぅ……リアクションが薄い」orz
黄泉川「一方通行、もう少しなんかこう感想はないんじゃん?」
一方通行「あァ? 食う前からどうやって感想いえっつンだよ」
芳川「なるほど……一方通行も説明はいいから早く食わせろという心きょ『黙れ』」
佐天「っと、そういうことならもうちょいで鳥団子に火が通るんで、あと少し待っててくださいね」
カタコト
佐天「お、いい感じに炊けたかな……お手軽だけどヘルシーでたっぷり、鳥団子鍋のかんせーい!」
芳川&打ち止め「「いったっだっきまーす!」」シュバッ
佐天「反応が早い!?」ビクッ
黄泉川「それじゃ、頂くじゃんよ」
一方通行「……」
佐天(あ、やっぱり一方通行さんはいただきますとか言わないんだ)
打ち止め「おいしー! ってミサカはミサカは自画自賛してみたり!」
芳川「この鳥団子もなかなか……この風味はごま油ね!?」
黄泉川「お、この不恰好なのは打ち止めが切ったやつじゃん?」
打ち止め「み、見た目よりも味が大事なんだよってミサカはミサカは弁解してみる」
一方通行「野菜なンだから切り方でそんな味変わンねェだろ」
佐天「あ、あの、味……どうですか?」
一方通行「ン? ……まあ、美味いンじゃねェの」
佐天「ほ、ほんとですか?」
一方通行「嘘吐いてどォすンだ」
佐天「良かった~。辛くないとだめとか塩気が足りないとか、好みに合わなかったら申し訳ないなって」ホッ
一方通行「別にそンな気ィ使わなくてもイイだろ。口に合わなかったらその次までに修正すりゃイイ」
佐天「も~、分かってないなぁ一方通行さんは。せっかく作るんだから美味しく食べて欲しいってのが人情じゃないですか」
打ち止め「そうそう、ってミサカはミサカは追い討ちをかけてみる」
芳川「まったく、一方通行はこういうことには鈍いわよね」
一方通行「ハッ、知ったことかよ」
黄泉川「……でも、そういう憎まれ口叩きながらもこういう団欒の時間そのものを否定しないところとか可愛げがあるじゃんよ?」
佐天「あ、それなんか分かるかも」
一方通行「オマエら……脳味噌腐ってンじゃねェのか?」
佐天「あ、次よそりましょうか」
一方通行「スルーかよ」
佐天「何よそります?」
一方通行「……肉」
芳川「あまりにも予想通りの答えね」
佐天「もう、ちゃんとバランスよく食べないとダメですよ? というわけではい、どうぞ」
一方通行「……オイ」
打ち止め「おお、お肉も入ってるけど7割野菜の絶妙なよそり方!」
佐天「ちゃんとお肉もよそってますから安心して食べてください」ニコッ
一方通行「……チッ」モグモグ
芳川「佐天さん、私にもよそってもらえる?」
佐天「あ、はい。器貸してもらえますか?」
黄泉川「うんうん、佐天はいいお嫁さんになれるじゃんな」
打ち止め「有無を言わさず野菜もちゃんと食べさせるとか、お母さんオーラが出ている気がするってミサカはミサカはサテンお姉ちゃんの新たな一面に驚いてみたり」
佐天「えへへー、お世辞を言っても何も出ませんよーだ」テレテレ
一方通行「……ン」スッ
佐天「へ? あ、今おかわりよそりますね」イソイソ
一方通行「……ン」モグモグ
芳川(なんというかもの凄く時代錯誤な亭主関白の構図が見えた気が……)
黄泉川(その割りにここぞという場面で頭は上がらないヘタレ亭主か……)
打ち止め「あ、ミサカもミサカもーって器を差し出してみる!」
佐天「はーい、ちょっと待っててね」ヨソリヨソリ
打ち止め「あっ最後の鳥団子だー! ってミサカはミサカは喜びを爆発させてみたり!」
佐天「んふふー、今日はとっても頑張った打ち止めちゃんにご褒美だよーん」
打ち止め「わーい!」
・夕食後
黄泉川「それじゃ、佐天を寮まで送ってくるじゃんよ」
佐天「あ、お世話になります」
打ち止め「えー、明日はお休みだし泊まっていけばいいのに、ってミサカはミサカはあえて引き留めてみる」
佐天「いやー、それも悪くないんだけどねー、明日は御坂さんや初春達と一緒に出かける約束しちゃってるから」
打ち止め「うぅ、残念……」
佐天「また今度遊びに来るからね」
打ち止め「うん、約束だよってミサカはミサカは指きりげんまん!」
佐天「うん!」
黄泉川「じゃあ今度こそ」
一方通行「オイ」
黄泉川「んん? 今度は一方通行じゃん?」
一方通行「オマエが送ってくのか?」
芳川「さっきからそういう流れの会話だったでしょうに」
一方通行「なら代われ、俺が送ってく」
佐天「ふぇぇ!?」
黄泉川「? 何、何かあったんじゃん?」
一方通行「馬鹿、何かあったら困るから俺が行くっつってンだ」
打ち止め(あのねあのね、昼間、仕事だァってこの人がお出掛けしてたのと何か関係があるのかも)ヒソヒソ
黄泉川(何だって? ……そうか)ヒソヒソ
黄泉川「なんだかよく分からないけど代わるっていうなら任せるじゃん」
一方通行「オゥ。……行くぞ」
佐天「あ、はい。それじゃお邪魔しました」アセアセ
打ち止め「またねーってミサカはミサカはサテンお姉ちゃんをお見送り~」
佐天「はーい、またねー」
ガチャン タタタタ
黄泉川「……一方通行の奴、また危ないことに関わってるじゃん?」
打ち止め「あの人はあの人なりに思う所もあるんだと思うってミサカはミサカはフォローしてみたり」
黄泉川「分かってるじゃんよ、それくらい。それを止めさせられない、それをしなくてもいい都市に出来ない大人の不甲斐無さが情けないんじゃんよ……」
打ち止め「あの人はヨミカワのことも守らないといけない人に含めてるから」
黄泉川「それがまたむかつくじゃんよー? 子供は子供らしく大人に面倒押しつけりゃいいんだ」
打ち止め「まあまあ、ってミサカはミサカはヨミカワのそういう所大好きだよって言いながらなだめてみたり」
黄泉川「あーもう、打ち止めはほんといい子じゃんなー」ワシャワシャ
打ち止め「ぶわぁ!? ミサカはミサカは犬じゃないよって、うわーん、ストップストップー!」
芳川「それにしても、一方通行が自分から送って行くだなんて、ほんと何事も無ければいいのだけど……」
芳川(こうしてさり気なくシリアスに締める私……今日もいい仕事したわ)
一方通行「よし、オマエの寮ってどこだ?」
佐天「えっと、ちょっとPDAを見せてもらっていいですか」
一方通行「ン」
佐天「あ、ここです、ここの学生寮です」
一方通行「何だ、結構近いじゃねェか。これならすぐだな」
佐天「まあバスを使うってほどの距離じゃないですね」
一方通行「よし、暴れンじゃねェぞ」カチ ヒョイッ
佐天「へ? あの、ちょ、ちょっと待って」
佐天(えぇぇ!? 何でいきなりお姫様だっこ!? え、何これ、何これ!?///)
一方通行「舌噛まねェよォに口は閉じてろよ。……っし」
ダンッ!
佐天「え、えぇえぇぇぇぇーーー!?」
佐天(ありえない、軽く1kmは有ったのにひとっ跳びとか……)
佐天(え、何これ、何が起きたわけ……?)ポカーン
一方通行「オイ、着いたぞ」
佐天(いやー、お姫様だっこのままビルを軽々飛び越えるスーパージャンプとか予想外ってやつですよ。や、ほんとこんなの一体誰が予想できると)
一方通行「オイ、聞いてンのか?」
佐天「うひゃぁ!? は、はい、何でしょう!?(顔近い、顔近いってば!///)」
一方通行「だから、着いたっつってンだろォが」
佐天「はい?」
一方通行「……降りろって言ってンだよ」ハァ
佐天「……うわわ!?」
・翌朝、月詠小萌のアパート
カタッ
結標「……ん、ポスト……?」
結標(あ、チップが届いたのね。新聞より早い時間だなんて海原達は真面目にお仕事したようね)
小萌「…………」スースー
結標(小萌はまだ寝てる……これなら後で新聞と一緒に回収すれば気づかないでしょうね)
結標(さて、それじゃ小萌が寝ている間にこの辺りの風紀委員の支部を調べておきましょうか)
・AM07:00
結標(守護神が居るとしたら第7学区の風紀委員、これがこの都市のハッカー達の間での定説)
結標(とはいえ、普段自分達の居る学区にそんな人物が居るなんて俄かには信じ難いわね)
シュン
結標(まあいいわ、この辺にある風紀委員の支部は一通り確認できた。後は複製したチップを座標移動(ムーブポイント)で各支部に送り届ければ第1段階は終了ね)
結標(守護神さん、もし本当に存在しているのなら、せめて私達の邪魔はしないで欲しいものね)
シュン
結標(後は……風紀委員第一七七支部、あの子憎たらしい空間移動能力者が居る支部か……)
結標(ふん、いつまでも過去を引き摺ると思ったら大間違いなんだから)
シュン
結標(……これで良し。後は守護神が反応するかどうか次第ね)
・AM07:20 とあるキャンピングカー
土御門「都市(まち)に出ていた結標から連絡があった。チップを周辺の風紀委員の支部に届け終わったそうだ」
海原「後は守護神がチップの中身を読むのを待つばかりですね」
一方通行「どの道、相手があのメルヘンだってンならあまり長引かせたくはねェ」
土御門「そうだな。守護神の出方の如何にしろ13:00にはクラッキングと直接の捜索とを開始する」
海原「守護神がクラッキングを見逃してくれれば発見は時間の問題」
一方通行「そォじゃなけりゃしらみ潰しってかァ? ハッ、面倒な話だ」
・AM09:00 とある学生寮
佐天「よし、支度はこんなもんかな」
佐天(今日はセブンスミスト集合で御坂さんや初春達と合流して、そのまま午前はショッピング。セブンスミストの中でお昼も食べちゃって午後は今週封切りの映画)
佐天(ビバリー=シースルー監督の新作……いつもならとっくにチェック済みなんだけど、ここのところイベントてんこ盛りだったから全然予習してないなー)
佐天(っていうか既に昨日の帰りが下手な映画よりよっぽどファンタジーな帰り方だったし)
佐天(お姫様だっことか初めて見たっていうかされたというか……///)
佐天(あ、そういえば帰り際……)
一方通行『明日は超電磁砲と出かけるっつってたよなァ。なるべく一緒に行動して、超電磁砲から離れねェ方がイイぞ』
佐天(あれってどういう意味だったんだろ? 一緒にお出掛けするんだから一緒に行動するのは当然だと思うんだけど……?)
佐天(っといけない、そろそろ出掛けないと)
・AM9:40 セブンスミスト前
佐天「あ、御坂さーん、白井さーん」
美琴「おはよう、佐天さん、初春さん」
黒子「おはようございますですの、お二人とも」
初春「御坂さんも白井さんもおはようございます」
佐天「これで皆揃いましたね」
美琴「よーし、それじゃ早速ショッピングとしゃれ込みますか」
黒子「今日こそはお姉様に脱お子様趣味のお洋服を」
佐天「じゃあ私は初春にエロスなパンツを!」
初春「何言ってるんですか!?」
ブブブブブ ブブブブブ
美琴「? 黒子、あんた携帯震えてない?」
黒子「あら、本当ですの。ちょっと失礼しますわね」
初春「私のにもメールが来てますね……」
黒子「あら、これは固法先輩……? 休日の朝から先輩からのコール……嫌な予感しかしませんの」ダラダラ
黒子『はい、もしもし……え? はぁ……えぇと、手が空いているかと問われますと空いていないとも空いているとも……』
佐天「電話、固法先輩からみたいですね」
美琴「今日は黒子抜きかしらねー、あはは」ポリポリ
佐天「初春のメールは何だったの? もしかしてそっちも呼び出しだったりして」
初春「……うぐっ」
美琴「不審なメモリーチップ?」
黒子「えぇ、177支部を始めとして第7学区の風紀委員の支部に暗号化されて中身の読み込めないメモリーチップが届けられていたそうですの」
佐天「暗号……そっか、パソコンに強い初春の出番なわけだ」
黒子「そういうわけですので、私は初春を177支部まで送り届けて参りますわね」
初春「ちょっと待って下さい白井さん、その言い方だとまるで私だけ仕事させてご自分は御坂さん達に合流するみたいじゃないですか」
黒子「そうに決まってるじゃありませんの。暗号化されたメモリーチップだなんて私の出番はありませんわよ」
美琴「こら、黒子。初春さんだけに押し付けるなんて駄目よ」
黒子「お姉様までそんな!」
美琴「それに、メモリーチップの中身次第じゃあんたの出番だってあるかもしれないわけでしょうが」
黒子「うぐっ……なんて的確な指摘を……」
初春「そういうわけですから、白井さんも暗号が解けるまで付き合ってもらいますからね」
黒子「あんまりですの~~!」
美琴「……と、いうわけで2人きりになっちゃったわね」
佐天「ですねぇ……」
美琴「まあ、こうなったらショッピングだけにして、映画はまた今度皆でっていうのもありよね」
佐天「……そうですね。せっかくここまで来たんだし、お店見て回るくらいはしましょうか」
美琴「でも、午後どうしよっか。映画見に行っちゃっても私は別にいいんだけど」
佐天「うーん、とりあえずお店見ながら考えません? 最悪お昼食べながら決めてもいいですし」
美琴「ま、それもそうね。それじゃ行きましょうか」
佐天「はい、御坂さん」
美琴(そういえば……なかなか佐天さんと2人だけなんて状況にならなかったから結局詳しい話を聞けてなかったのよね……これはこれでいい機会かも)
・AM10:00 177支部
黒子「これが例のメモリーチップですの?」
固法「えぇ。今朝この辺りの支部に手当たり次第に届けられたみたい」
初春「監視カメラには届けた人物は映っていなかったんですか?」
固法「それがね……うーん、口で言うより見てもらった方が早いわね」
黒子「これは……この支部の防犯カメラの映像ですのね」
初春「あ!?」
固法「そう、どうやら空間移動系の能力で直に届けられているのよ」
初春「しかもチップだけが突然転送されてますから、これってテレポートじゃなくてアポートですよね」
黒子「いつぞやの能力者を思い出しますわね……」
初春「あー、白井さんが大怪我して病院送りになったやつですね」
固法「と、とにかく、透視した限りだとただのチップみたいだし、解析をかけてみましょう」
・AM10:10 セブンスミスト
美琴「あ、このワンピースとか可愛くない?」
佐天「花の刺繍がアクセントになってていいですねー」
佐天「御坂さんだとこういうシックなのも似合うんじゃないですか?」
美琴「モノトーンか……もう少し背があればかっこよく決まりそうだけどなぁ」
佐天「……確かに。高校生くらいの御坂さんが決まれば完璧な感じかも」
美琴「でしょ?」
美琴「でも佐天さんもそういうシック系でコーディネイトすると結構印象変わりそうね」
佐天「そ、そうですかね?」
美琴(……佐天さんって羽目をはずさないとこういう落ち着いた柄のが好みだったのかな? なんかさっきからいつもと選ぶセンスが違う感じが……)
佐天(うぅ、駄目だ……さっきから気が付けば白黒のとかばっかり見ちゃってる……。挙句に同じレベル5同士御坂さんを並べたらどんな感じかなとか、どこまで妄想する気だあたしは!?)
・AM10:50 177支部
初春「ふーむ……」
固法「どう? 初春さん」
初春「結構強度の強めの暗号でしたけど、多分これで解けるんじゃないかと。……ただちょっと気になることが」
黒子「何が気になるんですの?」
初春「この暗号、どうも風紀委員(ジャッジメント)で使ってる符丁をベースにしてあるみたいなんです」
固法「どういうこと?」
初春「う~ん、なんというか、まるで最初から中身を読んで貰うために送ってきたような、そんな感じといいますか」
黒子「はぁ……早くもきな臭くなってきましたの」
・同AM10:50
???「さて、今日はどこでナンパしてみるか……」
???(やっぱり第6学区や第8学区なんて日和ったのは駄目だったな)
???(単純な生徒数の多さに加え、下は中学生から上は高校生までの絶妙な守備範囲)
???(この第7学区なら釣れる女も居るだろう)
???(前に手痛い目にあったなんて理由で、この俺様が敬遠するなんてありえないよな。よし、やっぱり今日はこの第7学区で決まりだ)
・AM11:00
一方通行「で? 守護神のリアクションはあったのかよ」
土御門「いや、まだ何も」
海原「まあ、不審なメモリーチップをいくつか送りつけただけですからね。最初から守護神が対応してくるとも限りませんし」
土御門「仮に守護神以外の人間が解読したとしても、中身はクラッキングの予告同然だからな。どの道守護神が担ぎ出される展開にはなるはずだ」
一方通行「ハッ、堪ンねェな」
結標「まあ、177支部の空間移動能力者(テレポーター)なら下手に手は抜かないでしょうから、守護神のとこまで話が行くところまでは大丈夫じゃないかしら」
土御門「なるほど、ツインテの大能力者(レベル4)とは知り合いだったな」
結標「……」ギロッ
土御門「おお怖い怖い」
・AM11:20 セブンスミスト
美琴「少し早いけどここらで切り上げてお昼にしない?」
佐天「それもそうですね。もう少しするとお昼の混雑真っ只中って感じですもんね」
美琴「ここって上のフロアに食べ物系の店舗も在ったわよね?」
佐天「何食べます?」
美琴「そうだなぁ……せっかく黒子も居ないことだし、少しゆっくりできそうなお店にしましょうか」
佐天「う……そういうとこだとちょっと予算が厳しめかも」
美琴「たまにはゆっくり話をするのもいいでしょ。この美琴さんにまっかせなさいって」
佐天「いいんですか? それじゃゴチになりまーす!」
佐天(おお、よく考えるとこれって前に聞きそびれた一方通行さんのこととか、御坂さんの妹さんのこととか聞くチャンスかも?)
美琴(……ここでハッキリさせるわ。一方通行のことも、この間佐天さんが口走った『妹』のことも)
・AM11:30 177支部
固法「これ……一体どういうことなのかしら?」
黒子「額面通りに受け取れば単なる犯罪予告ですわね」
初春「でも、そんなことする意味が分かりませんよ。クラッキングをするなら相手に気づかれないうちにどこまで防壁を突破できるかが勝負なのに、事前にそれを予告するなんて防壁を強化しろって言ってるようなものです」
黒子「そうですわよねぇ……となるとこれには別の意味があることになりますわね」
固法「うーん……この予告によってどういう影響があるかを考えてみると……」
初春「まずは防壁の強化ですね。まともなネットワーク管理者ならクラッキングの可能性があると分かっているなら防壁の強度を上げたり、普段とは違うルートの回線を構築したり、後は重要なデータのバックアップを取ったりとかですかね」
黒子「単純に考えるならそういった行動がこのチップを送りつけてきた人物ないし組織にとって都合が良い展開ということですわよね」
固法「でも、警備員や書庫のデータならまだしも、風紀委員のサーバーにはそれほど重要なデータなんて入ってはいないわよね」
黒子「でしたらバックアップ狙いという線は置いておけますわね」
固法「となると、防壁を強化して欲しいってことかしら」
黒子「ふむ……他にクラッキングをしようとしている輩が居て、それの妨害とかですの?」
初春「でも、それなら匿名で通報してしまえばいいような気もしますし……」
初春「それに、今回の予告は学園全体の監視システムへのクラッキングです。しかもご丁寧に『探し物がある』とまで添えられてます」
黒子「その探し物の内容が更に強度の高い暗号で予告と一緒に収められている辺り、きな臭いなんてもんじゃないですの」
初春「このファイルが解凍出来れば早いんですが……パスワードの入力欄もちょっと変ですしねぇ」
黒子「『to:__________』ですか……一体どこへ行けというのやら」
固法「もしかして、宛名とか? わざわざ風紀委員の符丁をベースにした暗号、更にその中に探し物の内容の入ったファイル……これは明らかに見て欲しいってことよね」
黒子「なるほど……風紀委員の誰かしらにこの中身を知らせることが目的ですか」
初春「でも、それならますますおかしくありませんか? だって、相手が分かっているのなら特定の支部にだけでいいはずです。メモリーチップが届けられているのはこの支部だけじゃないんですよ?」
黒子「そうですわよねぇ……もしこれが宛名なら、第7学区の風紀委員ってことしか分かってない相手への届け物ってことになってしまいますもね」
初春「第7学区の風紀委員……メモリーチップの暗号を解読できるだけのパソコン知識がある……なんかそんな話どっかで聞いた……や、見たような??」
固法「あら、初春さんも? 私もなんかそんな話を聞いたことがあるような気がしてるんだけど……」
黒子「2人とも、何をおっしゃってるんですのよ。この第7学区で私達の知らない風紀委員なんて居ませんでしょうに。それに私の知る限り第7学区の風紀委員で一番こういったことに詳しいのは初春、貴方じゃありませんの」
初春「それはそうなんですけど……」
初春&固法&黒子「「「う~ん……」」」
・PM00:00
佐天「あ、このパスタ美味しー」
美琴「喫茶店風なのに意外と本格的よね、これ」
佐天「後でニンニクが気になりそうな感じですけどね」
美琴「香辛料ってどうしてこう匂いの強いものばっかりなのかしらねー」
美琴「でもあっちの人が食べてるふわとろのオムレツとか、あれもすごい美味しそうだし、意外と穴場を見つけちゃったかもね」
佐天「あ、本当だ、あれも美味しそー……うぅ、ダイエットしたい人にはなんて厳しいお店」
美琴「ああいうふわとろ感を出すのって火加減が難しいのよねぇ」
佐天「うんうん、分かります分かります。あのふわとろ加減はほんと難しいですよね」
佐天(火加減といえば、打ち止めちゃんのことどうやって切り出せば……)
美琴(なかなか話題を変える切欠が掴めないわね……当たり障りの無いトークじゃ埒が明かないわね)
佐天(えぇーい、女は度胸! 当たって砕けろ!)
美琴(ここはやっぱり多少不自然でも会話をこっちから会話を切り出さないと!)
佐天&美琴「「あの!」」
佐天「あっ、え、えーと、その御坂さんお先にどうぞ」
美琴「ふぇ!? ああ、いいって別に佐天さんこそ先にどうぞ?」
佐天&美琴「「……」」
佐天(え、何、何なのこの流れ……)
美琴(うぅ、た、タイミングが取れない……何このあの馬鹿と話してる時のような間の悪さは)
・PM00:10 177支部
黒子「もう予告まで1時間を切りましたわね……初春、とりあえず防壁の構築だけでもしてしまってはいかが?」
初春「そうですね……無理矢理復号するとしても後30分はかかっちゃいそうですし……」
固法「……あっ!」
黒子「どうかされまして? 固法先輩」
固法「思い出したのよ、さっきの話!」
初春「第7学区のパソコンに強い風紀委員の話ですか?」
固法「そうそう、それよそれ! 都市伝説の特集か何かで見たんだわ!」
初春「あー! そうか、それですよ!」
黒子「……はぁ?」
初春「ほら、白井さんこのサイトのここを見てください」
黒子「都市伝説ねぇ……えー、何々……学園都市に凄腕のハッカーが居る……?」
固法「しかもそのハッカーは風紀委員で、けれども上層部はその力を当てにしていないのでそのハッカーの居る学区だけ不自然にセキュリティが高いという奇妙な状況を生み出している」
黒子「それがこの第7学区だというのですの?」
固法「そういうこと。これならさっきまでの疑問に対して合理的な答えになるんじゃないかしら」
黒子「しかし……都市伝説だなんて……えぇ~?」
初春「えぇっと、このサイトの投稿文によると……その凄腕ハッカーは通称『守護神(ゴールキーパー)』、だそうです」
固法「goalkeeper、ね……試すだけ試してみましょうか」
『to:goalkeeper』
初春「……行きますよ?」
黒子「ま、ダメ元ですの、やっておしまいなさいな」
初春「ラジャー」タンッ
固法「あっ!」
初春「どうやらパスワードは正しかったようですね……」
黒子「鬼が出るか蛇が出るか……」
初春「これは……!?」
黒子「垣根帝督? この人物が探し物……というか、探し人ですの?」
固法「垣根って……第二位のレベル5!?」
黒子「えぇ!? はー……きな臭いどころかヤバイ事件確定ってところですわね」ハァ
初春「……あ、あぁ……なんで……?」
黒子「初春?」
黒子「初春! 一体どうしましたの?」
初春「……っ、白井さん、固法先輩、すぐに監視衛星とこの辺り一帯の監視カメラの使用の申請を!」
固法「それはいいけど、理由は?」
初春「……2人とも、10月上旬頃に高レベルの能力者同士の戦闘に巻き込まれて、私が負傷したことがあったの覚えてますか?」
黒子「ええ。……まさか!?」
初春「はい。すぐに情報管制が敷かれて事件の詳細については閲覧不可になってますけど、その時の高レベル同士の片方がこの垣根って人物です。間違いありません」
固法「そんな前科のある人物を胡散臭い連中が探してるわけよね……」
黒子「よりにもよって超能力者(レベル5)ときましたか……最悪ですの」
初春「ええ、場合によっては大規模な戦闘が起こる可能性があります」
・PM00:30 セブンスミスト
???「失礼、お嬢さん方」
佐天「……はい?」
美琴「はぁ? 誰よあんた」
???「相席してもいいかな?」
佐天「……え、ナニこれ、ナンパ?」
美琴「席ならまだ他にも空いてるわ。それと、どちら様だっつってんでしょ?」
垣根「垣根帝督。第二位って言った方が分かるかな?」
美琴「……はぁぁ!?」
垣根「いやなに、可愛いお嬢さん達がまるでラブコメのワンシーンのような会話をしていたものだからつい気になってね」
美琴「そんな程度の理由でわざわざ第二位が声を掛けてくるわけ?」
垣根「可愛い子を口説くのに理由は要らないさ」
美琴(うげぇ、海原っぽいこの空気……苦手なタイプだわ)
佐天「え、第二位って本当に?」
垣根「もちろん」
佐天「うわー……御坂さんに続いて第一位と知り合っただけでも奇跡だと思ってたけど、更に第二位に遭遇かぁ……え、ナニこれ私今確変来てる?」
美琴(第一位……やっぱり普通にその単語が出てくるのね……)
垣根「…………何?」
その瞬間垣根の纏う空気が変わったことに気が付いていたのは、彼と同じ超能力者(レベル5)たる第三位、御坂美琴くらいだった。
ドゴンッ!! という轟音と共に喫茶店の一角が崩壊した。
まるで竜巻でも発生したかのような強烈な衝撃波と風圧で、テーブルから椅子から垣根帝督の周囲にあったものは全て吹き飛ばされ薙ぎ払われた。『その席に着いていた人物達』も当然無事ではすまない。
「俺は一般人には基本手は出さないんだけどよ、テメェが第一位の知り合いだってんなら話は別だ」
店の端まで吹き飛ばした少女に向かいゆっくりと歩を進める。別に彼の能力なら一瞬で間合いを詰めることも出来なくは無いが、それでは面白くない。
自分の身に何が起こったのか佐天には理解できなかった。分かるのは吹き飛ばされた時に壁に打ちつけた全身が痛みに悲鳴を上げていることくらいだ。吹き飛ばされた時に耳をやられたのか音はろくに聞こえない。横倒しに倒れたまま霞む視界で捉えたものは彼女に向かって近づいてくる垣根帝督の姿。……そして、更にその後方で立ち上がる頼れる友人の姿だった。
咄嗟に磁力を放出し不可視のクッションを作ることで美琴は吹き飛ばされた衝撃から身を守ることが出来た。が、それだけだ。垣根帝督の攻撃に気づくことは出来なかった。不運なことに彼の意識が向けられていたのは同席していた佐天涙子の方であり、彼女の方ではなかった。
だから反応が遅れた。
もし垣根帝督の『敵意』が美琴本人に向けられていれば、また違っていたかもしれない。しかし結果としてそれが致命的な力量の差を美琴に伝えていた。感覚的に理解できた。自分では垣根帝督には及ばないと。
けれどここで引くことは出来ない。
垣根帝督は悠然と佐天の方に向かって歩を進めている。このまま放置すればどうなるかなど考えるまでもない。
「待ちなさいよ……。この私を、御坂美琴を無視すんじゃないわよ!」
敵わないと知りつつも声を荒げる。超電磁砲(レールガン)、御坂美琴に大切な友人を見捨てるという選択肢は、無い。
「ぁぁぁああああアアアッ!」
放たれる光の強さがそのまま電撃の槍の威力を如実に示していた。過去、この出力の電撃が通じなかったのは第一位とあの少年だけだ。眩い光と共に激烈な破壊力を秘めた光速の一撃が放たれる。
―-直撃。巻き上がる粉塵で店内の視界が一時的に遮られる。けれど磁力線や電子線を感知できる彼女にこの程度の視界不良は関係ない。そのまま美琴は次なる手を模索する。彼女には視えているからだ。電撃の槍が直撃したはずの第二位が微動だにせずその場に佇んでいるのが。
「さすがは第三位、たいした威力じゃねぇか」
ブォ! という強風が視界を晴らした。その風を起こしたのであろう白い翼を背に生やした垣根帝督の姿が顕わになる。如何なる理屈か分からないが、その翼が電撃を弾き彼を守ったことは明白だった。
「ずいぶんとファンシーね。……似合ってないわよ」
「安心しろ。自覚してる」
言葉と共に美琴が動く。そして垣根も動いた。
時折雷撃を放ちながら円を描くように距離を保って移動しようとする美琴に対し、垣根は翼をはためかせると一直線に飛んだ。自然、垣根の起動も曲線を描くが美琴との距離は一気に縮まっていく。美琴はわざとばらつきを大きくして制圧面積を広げた雷撃を放ち垣根を牽制する。彼の前面に大きく広がった白い翼が雷撃を打ち消したところで、
ミシッという音を彼は聞いた。
見れば周囲に大小様々な物体が漂っている。テーブル、椅子、食器類、果てはレジスターまで、金属部品のあるものが無理矢理に引き寄せられ押し合い圧し合い軋みを立てている。
「電撃が効かないなら押し潰せってか? 底が知れるぞ、第三位」
「……黙りなさいっ!」
次の瞬間、美琴は一気に磁力を強め、垣根を包囲していた『バリケード』を押し潰した。無論この程度で仕留められるとは思っていない。僅かな時間でいいから『溜め』を作るためにわざわざこんな大仰な攻撃を仕掛けたのだから。美琴の最大出力、10億V超の破壊の電光を撃ち出すために。
一瞬の静寂後、吹き荒れる紫電の本流がバリケードごと垣根提督を飲み込んだ。かつてあの少年に向かって放ったものとは違う、本気の攻撃。たっぷり10秒は放電してようやく店内は本来の明るさに戻っていた。
「やれやれ、だから底が知れるって言っただろ」
放電の熱量で完全に炭化していたバリケードの成れの果ての中から、そんな声が聞こえてきた。
「テメェは電撃使い(エレクトロマスター)、自由に電気を操る能力者だ。正確には電子なのか磁力に干渉してんのかは俺の知ったこっちゃねぇがな」
「……嘘でしょ」
無傷。
白い繭のように変形した白い翼は完全に電撃を防いでいた。
「何も難しいことはねぇ。要は電撃を通さない、そういう物質で囲んじまえばいい」
「電気抵抗で熱量だって馬鹿にならないはずなのにっ……!」
「それがこの世界にある普通の物理現象ならな」
垣根は再び翼の形に戻った白い凶器を弓を引き絞るようにそらせていく。
ズァ!! と6枚の翼が勢い良く羽ばたき、猛烈な暴風を生み出していく。巻き起こる嵐によって美琴はいとも簡単に吹き払われた。
轟! という暴風とともにノーバウンドで壁に打ちつけられる。衝撃で肺から無理矢理空気が押し出されて息が詰まった。意識を刈り取られそうになりながらも必死に歯を食いしばる。痛みと悔しさで涙に滲む視界に垣根帝督の平然と佇む姿が映った。
「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねぇ」
学園都市に7人しか居ない超能力者(レベル5)。けれどその第二位と第三位には絶望的な程に差があった。
「お姉様っ!!」
もはや悲鳴というよりも絶叫。第177支部に白井黒子の慟哭が響く。
支部に届けられた不審なクラッキング予告に第二位という大物が関わっていることが分かり、白井達は監視衛星を含めた学園都市全体の監視システムを使って、メモリーチップの差出人達よりも先に垣根帝督を捜索しようとしていた。事態がどう動くにしろ、事態の起こる場所そのものが分からなければどうにもならないと判断したからだ。
友人の身を案じた初春が捜索のついでにと監視カメラで2人の友人の姿を追ったところ、垣根提督が2人に話しかけているのを捕捉した。万が一に備えて警備員(アンチスキル)への出動を要請しようとしていた矢先、画面には彼女達の想像を超える展開が映し出されたのである。
『あの御坂美琴』が一方的にうちのめされている。
白井を含めた177支部の面々にとって超電磁砲は少なからず特別な人物であった。いくつかの事件で共に手を携えた戦友として、敬愛する友人として、尊崇に値する能力者として。超能力者(レベル5)という肩書きも併せて、ある種超越的な存在であったとも言えるだろう。
その彼女ですらまるで歯が立たない、そんなものが存在するということ自体、彼女達にとって完全に想像の埒外だったのだ。
「こんな、こんなことって……」
3人の中の一番の年長者である固法ですら困惑と混乱の中から抜け出せずに居た、その時。
カタタタッ! とキーボードに指を走らせる音だけが室内に響き渡った。
「固法先輩、警備員への出動要請お願いします。白井さんは現場へ」
「う、初春さん……?」
「早く!」
有無を言わさぬその迫力は、決して絶望や自棄から来るものではなく、けれど間違いなくこの状況にあって希望を掴まんとする執念からのものだった。その強い言葉に、思考の停まっていた白井の意識は急速に現実に引き戻された。
「っ初春、何か手がありますの!?」
「……今12:45、クラッキング予告の15分前です。もしチップの送り主達が垣根帝督を捕縛するために動いているのだとしたら、彼を見つけるだけでなく取り押さえられるよう、準備をしているはずです」
「そうか、垣根帝督とやり合うことまで想定していたなら彼に対抗できるだけの用意がされているはずよね」
「第二位の位置情報と、時限つきですが第7学区全体の監視カメラへのアクセス権限を得るキーコード、この2つを収めたファイルをチップに使われていた暗号コードを使って暗号化。これをばら撒きます」
時限つきとはいえアクセス権限を開放すると言っているに等しい。暴挙と呼んで差し支えないほどの発言に、友を助けるためなら何でもするという覚悟が込められているのは確かめるまでもなかった。
「……! なら私に時間を稼げというわけですのね?」
「5分か10分か。垣根帝督のところにこのファイルを見た人達が駆けつけるまで、1分でも1秒でも長く時間を稼ぐ。悔しいけどそれが2人を助けられる唯一の可能性です!」
伊達に長いことコンビを組んでいるわけではない。これ以上の言葉は不要と、互いに頷き合うと次の瞬間には白井の姿は虚空へと消えていた。同時、初春の指がファイルを送信するためのエンターキーを叩く。
「この際どこの誰だろうが構いやしません。ここまでお膳立てしたんですから、間に合わなかったら絶対に身柄を拘束してやります」
もはや事態は彼女の手を離れた。これ以上初春に出来ることは何もない。
ただ一つ、祈ることを除いて。
最初に異変に気づいたのは土御門だった。
「ふむ、どうやら守護神からのリアクションがあったようだぜい」
「ハッ、15分前とは大分待たせてくれンじゃねェの」
実際、グループの面々はこのまま反応が無ければ強行策行くことも視野に準備を始めていたところだった。どうやら少しは楽が出来るようだと、土御門達のやり取りに残る2人も安堵のため息を吐く。
「ふぅ、学園都市全体を飛び回るなんてことにならないで済みそうね。まったく、あの女分かってて焦らしたりしてないでしょうね?」
「それで、どのようなリアクションだったのでしょう?」
「ちょっと待て、今解凍する。ご丁寧にこっちが使った暗号コードだ、罠の可能性も低いだろう」
何せ自分と海原とで用意した暗号コードだ。復号も十数秒あれば済む。しかし問題はその中身だった。当初予定していた計画ならこんなものが送られてくるはずが無い。
「……ちっ、どうにもマズイ事になってそうだ」
「何が入ってたわけ?」
「垣根帝督の数分前の時点での位置情報、それと監視システムへアクセスするキーコードだ」
「アクセスコードまで? どういうことでしょうか?」
「……ハッ、清濁どころのタマじゃなかったみてェだな」
「俺達の動きを見逃してくれるどころじゃない。これは『垣根帝督をどうにかしろ』っていう守護神からのメッセージだ」
自爆テロのあった現場です、とでも言えばいいか。もはや廃墟と呼ぶ他に表現のなくなった店内に残っているのは3人だけ。倒れている人間が2人。佐天涙子と御坂美琴の2人は建物全体から見れば内側の方の壁際に吹き飛ばされていた。そして、ただ1人悠然と廃墟の中央に存在する垣根帝督。
「俺は自分の敵とムカツク奴にゃ容赦しない。まあ運が悪かったと第一位でも呪っとけ」
先ほどよりは耳の調子は復活していた。そして今しがた聞こえてきた第二位の言葉。堪えようと思った時には佐天涙子の目からは涙が溢れた後だった。何故こうなったのか分からない理不尽さ。圧倒的な暴力によってうちのめされる恐怖。あの第三位ですら敵わないという絶望。もはやあらゆる負の感情が彼女の精神を圧迫していく。けれど、次に彼女の耳に入ってきたのは聞き慣れた力強い声だった。
「ご自分のしたことを棚に上げて、挙句第一位に責任転嫁とは……とんだ大馬鹿野郎でしたのね、第二位は」
ヒュン、という風切り音と共に虚空から一人の少女が現れた。続けざまに太ももに装備したホルダーから金属矢を手元に引き寄せる。
「……空間移動能力者(テレポーター)か。珍しいっちゃ珍しいがそれだけだな。力の差ってもんを教えてやる、仕掛けてきな」
対して垣根帝督は余裕の表情を崩さない。自身の能力への絶対の自信。それこそが超能力者(レベル5)たる能力者だと言わんばかりに。
攻防は一瞬。そもそも白井のような空間移動能力者の戦闘には距離も威力も関係ない。相手の体内に直接金属矢を転移させればそれで片がつく。基本的に先手必勝なのである。わざわざ仕掛けて来いなどと余裕を晒した垣根帝督の行動は白井にとって好機でしかなかった。
「その余裕、後悔させて差し上げますわ!」
手の中に引き寄せた左右合わせて6本の金属矢を垣根の手足目掛けて転移させる。ヒュンという風切り音。しかし次に聞こえてきたのは垣根の絶叫でも、ましてや白井の声でもなかった。
チャリリン、と金属矢が床に転がる無機質な音が響く。空間移動での攻撃は点から点への攻撃だ。故に転移した瞬間に相手の位置がずれてしまえば攻撃は意味を為さない。けれど今のはおかしい。
何故なら垣根帝督は文字通り微動だにしていなかったのだから。
「なっ、外れた!?」
「話にならねぇな。そっちの第三位のが全然ましだったぞ」
咄嗟に白井は空間移動を繰り返し、すかさず次の金属矢を引き寄せ続けて攻撃を行う。だが結果は変わらない。確かに垣根帝督の位置目掛けて転移させているはずなのに、その尽くが狙い通りに跳ばないのだ。
「空間移動ってのは3次元の座標を11次元で計算し直して、11次元での座標をずらしてるわけだ。俺の未元物質は現実世界を侵食する。代入元の3次元の物理法則が捻じ曲がってんだ、11次元のベクトルに影響が出ないわけないだろう?」
「!」
「ここはもうテメェの知ってる空間じゃねぇんだよ」
ダンッ! という床を蹴る音と共に翼を広げた垣根帝督が迫る。対し、白井は自分自身を空間移動させることで攻撃をかわす。上手く跳ばせないといってもまったく空間移動できないわけではない。間違っても『壁の中に居る』などということにならぬよう、広く開けた空間に転移先は限定されてしまうが、美琴の時と違い軌道の先読みが不可能なその回避で辛うじて白井は垣根の攻撃を避けることができた。
「ちっ、ちょこまかと……」
言葉の割りにさほど焦った様子でもないのは自身の優位を確信しているからだろう。事実、もはや白井には垣根を止める術など無い。こうして逃げ回るだけで精一杯で、それすらもいつ追いつかれるかという状態だ。ほんの僅かでも気を抜けば転移に失敗して垣根に捉まってしまうに違いない。それが分かっているから垣根はただ追い続けるだけでいい。空間移動などという集中力の必要な能力をいつまでも発動させることなど不可能だからだ。
こんな不安定な転移しか出来ない状態では佐天や美琴を連れて脱出するという選択肢も消えた。元々は垣根帝督に攻撃を加え、注意を逸らしたところで2人を連れて転移する腹積もりだった。ところがこの空間では思うように転移できない。自分1人、それも多少転移先がずれるのを承知で跳ぶのでやっとだ。
けれど白井黒子はその場から逃げ出すという選択肢を選ばない。停まった瞬間にゲームオーバーとなるサドンデスに挑み続ける。何故ならそれこそが彼女がここへ来た目的。垣根の見せる余裕に彼女は内心でほくそ笑む。1分でも1秒でも長く、彼女の全身全霊を込めて能力を発動させ続ける。
いつ来るとも知れぬ、垣根帝督に対抗できる『本命』が来るまでの時間を稼ぐために。
もう5分は同じことを繰り返しただろうか。垣根が距離を詰める、白井が転移してそれを避ける。薄氷を踏むようなその舞踏(ロンド)にけれど当人達は全く納得していない。片や少しでも長く。片や少しでも短くと。決着を望む者と引き伸ばそうとする者との駆け引きが続く。
「何を待ってるか知らねぇがな。警備員(アンチスキル)をどれだけ呼ぼうが、AIMジャマーをどれだけ並べようが、この俺様をどうにかできると本気で思ってるのか?」
「……っ、関係ありませんの!」
それは白井の精神力を繋ぎとめている希望そのものへの否定だ。だが、今更それぐらいでは白井は揺るがない。今自分が諦めたら誰も助からない。美琴も、佐天も、そして白井自身も。潔く諦めるなどという考えは白井には無い。風紀委員として過去それなりの修羅場も、死線も潜ってきた彼女は知っているのだ。どれだけ無様であろうと最後に生き残った方が勝ちであることを。
「月並ですけれど……諦めたらそこで試合終了ですのよ?」
「はっ、そりゃまた随分と安っぽい台詞だな」
「けれど、真実ですの!」
「じゃあいい加減諦めろ、コラ」
6枚の羽の1対が突如バラバラに解けていく。
(……何を……? ――ッ!?)
跳べなかった。今まで辛うじて転移そのものは出来ていたのに、計算式もさきほどまで遜色ない組み立てが出来ているのに、けれど白井は唐突に能力を発動出来なくなっていた。
(しまっ――!?)
「遅ぇ」
「ごふっ、ぁぁあアアアッ!?」
高速で飛来した垣根の回し蹴りが白井の脇腹を捉える。更に、回転の勢いを殺さずにその場で回転した垣根の白い翼が白井を薙ぎ払う。
「ったく、最初からこうしてれば良かったぜ。言っただろ、ここはテメェの知ってる場所じゃねぇってな」
白井が跳べなかったのは垣根の未元物質による影響だった。美琴との戦闘で撒き散らした分だけで白井の空間転移の精度を著しく下げていたのだ。周囲の未元物質の量を増やせば空間転移そのものを阻害できたというわけだ。
「やれやれ……面倒掛けやがって、俺の邪魔してんじゃねぇよ。ったくなんでわざわざ突っ掛かってきやがんだ」
それは超能力者(レベル5)が超能力者(レベル5)たることを示す、いや第二位の実力を示す『絶望の戦い(デモンストレーション)』でしかなかった。同じ超能力者(レベル5)たる第三位すら軽くあしらい、空間移動すらも無力化してみせる。そしてそれは最初に吹き飛ばしたこの目の前の少女からすれば次々と援軍を撃破して見せられたことに他ならない。
だと言うのに、目の前の少女――佐天涙子は命乞いをするでもなく、その視線は真っ直ぐにこちらを射抜いている。まるでまだ何か希望を持っているかのような、強い眼光だった。
(何だ……? 何でこの状況でまだそんな目ができる?)
そして気づいた。その少女の周囲だけ不自然に粉塵が流されていることに。
「風……だと? ははっ、こりゃ傑作だ! 確かに未元物質をどうにかすりゃ空間移動(テレポート)で逃げられるもんなぁ!」
よく見れば確かに風を吹かせていた痕跡が見て取れた。建物の中から外へ、理屈は分からなくとも本能的に未元物質を少しでも遠ざけようとしていたのだろう。人は未知なる恐怖を遠ざけようとするものだ。
「でも残念だったなぁ。こんな微風じゃ俺の未元物質は押し流せねぇ。まあそもそも風ぐらいでどうにかなるもんでもないけどな。この風力じゃレベル1かそこらか? ま、頑張ったんじゃねーの? はは、ははははッ!!」
今度こそ、この気に入らない少女の希望を打ち砕いた、そう思うと笑い声を抑えることは出来なかった。これだけ痛め付ければもういいか。止めを刺そうと白い翼に力を込めたその時だった。
「そォだな。よく頑張った」
見れば目の前に第一位が居た。一体どうやって現れたのか、そんな疑問を抱くことすら出来ぬまま、一方通行の右拳が垣根の顔面を捉えた。渾身の一撃に秘められた破壊力は軽くビルを一つ叩き潰せるだけのベクトルが集約されている。
「ごっ、がぁぁァァァアアアああああッッ!?」
高速で撃ち出された垣根の体は壁を破り、車道を挟んだ反対側のビルに叩き込まれていた。
時間は少し戻る。
守護神(ゴールキーパー)から送られてきたファイルを元に、第二位の位置を確認したグループの面々は直ちに垣根帝督を拿捕すべく動いていた。とはいえ直接やり合えるのは一方通行ぐらいだ。土御門と海原が監視システムを用いたバックアップ、結標が一方通行を現場に送り届ける、といった具合に分担がなされた。
「こちら結標、問題のビルまで転送できる距離まで近づいたわ」
『よし、それじゃ見取り図を見ながら転送位置を……くそっ、監視カメラが全部壊れた。これじゃ店内の様子が分からない』
「チッ、なら高さだけ揃えて店の外でいいぜ」
「待って、せっかく奇襲のチャンスなのよ?」
「様子が分からないんじゃ奇襲も何も無ェだろォが」
『ですが下手に突っ込んでも3人を巻き込む恐れがあります。せめて彼女達の位置だけでも掴めればいいのですが……』
結標の能力、座標移動(ムーブポイント)は本人が跳ぶ必要が無いため離れた場所でも平気で能力を振るうことが出来る。以前にも壁を隔てたところから一方通行を送り込むという奇襲をしたことがあり、今回もその手を使おうとしていた矢先だった。戦闘の余波で店内の様子を伺える位置にあった最後の監視カメラ――もっとも最初に電撃の槍が放たれた時点でほとんどの監視カメラは死んでいたのだが――からの映像が途絶えたのである。
跳ばす先の様子が分からないまま迂闊に転送すれば、最悪助けるべきはずの人間を巻き込んでしまう恐れがある。それに直接店内に転送しないにしても、突入するに当たって3人の少女達の位置は掴んでおきたい。
「とはいえ困ったわね……透視能力(クレヤボンス)でも近くに居ないかしら?」
「ハッ、馬鹿言って無ェで用意しろ。こうしてても埒があか……マテ」
電極のスイッチを入れたところで一方通行の言葉が途切れる。
『どうした? 一方通行』
「風が吹いてやがる」
「は? 風なんていくらでも吹いてるでしょうに」
「オイ、見取り図出せ。……ここと、ここ……後ここだ」
結標の言葉を無視して一方通行は見取り図の上に印を付けていく。
『一体どういうことです?』
「店内から不自然な風が吹いてる。こりゃ能力で出したもンだ」
「それがどうかしたの?」
「俺が何の能力者だったか忘れたか? 風の乱れを逆算すりゃ風を妨げてる障害物の位置や大きさは大体掴める」
『なるほど、そういうことか』
『なら先ほど指した場所が』
「そォいうこった」
こりゃ後で褒めてやらねェとな。内心でそれが自分のキャラではないと思いつつも、一方通行はそう思わずにはいられなかった。別に自分に位置を知らせるために能力を使っているのでは無いだろうけれど、あの状況で諦めずに何かをしようとしている、それだけで十分賞賛に値する。一方通行は素直にそう思う。
「それじゃ跳ばすわよ。転送先の未元物質は自分でどうにかしてよね」
「オゥ」
結標の能力で一方通行の姿が虚空へと消える。
勝敗は決したも同然だ。
自然と涙が溢れた。先ほどまでのような負の感情から来るものではない。
「あ、アグゼラレーダざぁん……」
鼻を啜りながら出した声は震えていて、佐天はなんとも言えぬ恥ずかしさで頬を染めた。しかしそれ以上に安堵のが上回っていた。第二位を名乗ったあの男とこの目の前に居る第一位とでは格が違うと、佐天にも分かるのだ。もう怯える必要は無い。
「風、使ってたろ。よく諦めなかったな、褒めてやンよ」
ふえぇぇ……と、涙はもう止まらなかった。助かったという安堵、理不尽な暴力から開放されたという喜び、尊敬する人から褒められたという感動、様々な感情がごちゃごちゃに混ざり合い、内側から溢れてくる。
「重症な所は無さそォだな、そのまま寝とけ。直に警備員(アンチスキル)の連中も来ンだろ」
怪我の具合を診ようと血液の流れなどを調べるためにかざしていた手を戻しながら告げると、一方通行はそのまま踵を返した。
「さて、そンじゃきっちり後片付けと行くか」
先ほどブチ抜いた壁穴に足を掛け、垣根を追って外に出ようとした時だった。
バキン! と硬質な物が割れるような音が辺りに鳴り響いた。
「ハァ?」
壁に開けた穴から通りの向かい側を見下ろしてみれば、何かと因縁のあるツンツン頭の少年の姿が見えた。
「ちょ、ちょっとー!? え、これどうなってんのー!?」
なにやらあたふたと慌てふためいている様子である。だがそれ以上に見過ごせないものが視界に入って来た。ツンツン頭の少年の先に、『今まさに光の粒子になって崩れていっている垣根帝督の姿』が見えるのは一体どういうことなのか。
「オイ」
「あ、一方通行!? 何でお前がここに!」
ちょうど頭の方から崩れていった感じなのだろう。一方通行が地上へ降り立った時には既に垣根帝督は足先が僅かに残っているだけで、その足先すらも見ているそばから光の粒子になって空気中に溶けるように消えていくところだった。その垣根帝督が居たはずの場所を指差しながら問い質す。
「何が一体どうなった? 詳しく説明しろ」
「いや、上条さんにも分からないというかむしろこっちが説明して欲しいというか……」
再び少し時間を戻そう。
爆発と稲光を目撃した後、我に返った上条はまず走ることにした。よく見知った少女の安否を確かめるためだ。光の走った方向へと走りながら携帯を掛けてみる。
(繋がらないか……ビリビリのやつ、今度は何やってんだ!?)
程なくして事件が起きているであろう場所が見えてきた。かなり上の方だが窓から黒煙が出ており、入り口と周囲を警備員が固めているのだからほぼ間違いないだろう。とはいえ周囲を警備員達が固めている状況では中の様子は分からない。
(どうにかして中に入れないか? いや、でもまだ何が起きてるのかも俺分かってないし……)
思案しながら野次馬達の輪から少し離れ、警備員や更にその周囲に群がる野次馬の中に見知った顔が無いか探してみることにした。何が起きたか聞ければ最高で、そうでなくとも何かしらの情報は聞けるかもしれない。見渡し易い場所を探して車道を挟んでビルの向かい側へと移動していく。
ゾワリと、鳥肌が立った。何かもの凄く不運なことが起きる気がした。事件現場の窓を見上げようとして、僅かだが何か光った気がした。
(……え? うぉぉおおお!?)
遅れて爆音と、何かが壁を突き破ってが飛来してくるのが見えた。
咄嗟に頭を庇い屈みこむ。
ドゴン! と自分の後ろの壁に何かが突っ込んだ破壊音と、まさにその何かが起こした衝撃波が伝わってきた。
(ビリビリの超電磁砲か? あ、危なかった……)
振り返ると見事な大穴が開いた壁面と、崩壊した瓦礫で滅茶苦茶になった惨状が見て取れた。そして、もやの中に明らかに人ならざるシルエットが浮かび上がっていた。ほぼ人間の形の人影であることは間違いないのだが、まるで『天使の翼』のようなものが付いているのはどういうことか。まさかまた魔術絡みだとでも言うのか。戦慄する上条の耳に目の前の人影の発する声が飛び込んできた。
「痛ってぇな……そしてムカついた。やっぱあの野郎はブチ殺さねぇとな。それとあの小娘も、生意気な第三位も、全部まとめて叩き潰す!」
(ッ!? こいつ、今何て!?)
詳しい事情は相変わらずさっぱりだったが、今の台詞から美琴が戦っていて、その相手が目の前のこいつであろうことだけは分かった。そしてこの何者かがまだ戦う気であることも。
「待てよ」
「はぁ? 誰だよテメェ……俺様の邪魔をするってんなら容赦はしねぇ」
「いいぜ、テメェがまだ戦うって言うんなら、そうやって御坂美琴とその周りの人間を傷つけようって言うんなら……」
「まずはその幻想をぶち殺す!!」
白い翼による防御は少年の右拳に触れるそばから溶けて消えた。今しがた第一位から殴られたばかりの箇所へ、今度は幻想殺し(イマジンブレイカー)の宿った右拳が叩き込まれる。
バキン! と少年にとっては聞き慣れた音が響くのは同時だった。
「で、これか」
「その、右手で殴ったらそこからどんどん崩れ始めたっていうか」
まさかその何者かが完全に異能の塊だったとは予想外だったと言うしかない。突然現れた一方通行に問い質され、更なる混乱に陥る上条。
「なあ、一体何が起こってんだ? 俺の右手で打ち消せたってことはあれって能力か何かで作られたものだったんだよな?」
「黙ってろ。今考えてる」
そしてそれは一方通行にとっても予想外のことだった。まさかあれだけ暴れていた第二位が本物ではありませんでした、などと誰が予測できるだろう。
(……いや、今思えば確かに手応えが妙だった。前に戦った時と比べンと何かが違った。ありゃどっちかってェとあの天使モドキに近ェ感じ……)
「ハッ、なるほどな……そォいうことか」
「勝手に1人でご納得されてる!? なんだかもの凄く説明スルーで置き去りにされる展開が予測できますのことよ!?」
一方通行の予測通りならこの事件はこれで一段落だ。当面の危機は去ったと見ていい。何やら横で喚いているこの少年にはいろいろと言いたいこともあるが、というか非常にウサ晴らしがしたいところではあるのだが、とりあえずやることが出来た。最後の最後で横から掻っ攫って行ったのだ、この少年に雑用を押し付けてもバチは当たるまい。
「オイ、もう中は安全だ。警備員連れてケガ人どうにかしてこい」
「やっぱりスルーですか! っていうか何だと、ケガ人だって!?」
「超電磁砲と後2人、とっとと病院に運んでやれ」
「っておい、お前は手伝わないのかよ!?」
「俺ァまだやることがある。っつゥわけだから任せた」
言うだけ言うと一方通行は高く飛び上がり、そのまま空中で突如として虚空へ消えた。
「だ、誰か上条さんに説明をー!」
とりあえず、どうやって警備員にこの事を伝えればいいのだろう。っていうかむしろさっきから警備員に包囲されている気がする。明らかに騒ぎの関係者としてロックオンされた空気満点だ。このままもみくちゃにされると、せっかく無傷だった左手の買い物袋は確実に駄目になるなぁと、上条はぼんやり思うのだった。
1台のキャンピングカーが裏通りを選んで走っていた。
「良かったの? 怪我した子の中に知り合い居たんでしょう?」
「命に別状はねェよ。それにまだ後片付けが残ってやがる」
一方通行は戻ってくるなり第二位を保管していた研究施設に連絡を取るよう言い放った。目下、僅かに残っている秘匿回線を使うためにアジトの1つへと向かっているというわけだ。
「その件なのですが、研究施設に連絡をといっても何をお聞きになるので?」
「それ以前に垣根帝督、あれは一体どういうことだ?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「ありゃァAIM拡散力場の集合体、言ってみりゃ立体映像みたいなもンだ。多分だけどな」
はぁ!? と残る3人の声が揃う。
「待て待て待て待て、それじゃあれは何か、偽者だったってことか?」
「能力は間違いなく本物だったがな」
「あれが本人ではなかったというのでしたら、では本物はどこに?」
「それを今から確かめンだろォが」
「っていうか何? 未元物質ってそんな器用なことができるわけ?」
「良くも悪くもありゃ常識外れなンだよ」
3人が言葉を失う。超能力者(レベル5)がどれだけ規格外か改めて思い知らされた気分だ。
「連絡が取れたら、ありったけのAIM拡散力場の観測機と、AIMジャマーを用意して保管してた場所を調べ直すよォ伝えとけ。次の連絡が来るまで俺ァ寝る」
いや、もっと詳しく説明を。この瞬間、グループのメンバーの心は間違いなく一つになった。一方通行以外の3人の心が、だが。
・とあるアジト
一方通行「で? 結局どォなった」
海原「先ほど研究施設の方から連絡が届きましたよ。無事見つかった、とね」
結標「結局どういうことだったわけ?」
土御門「例の白い直方体を保管していた部屋から不自然に高いAIM拡散力場の数値を検出。その後大量のAIMジャマーでそれを中和したところ部屋の風景に同化していた白い直方体の擬態が解けて発見……ということらしい」
結標「白い直ほ……ああもう、面倒だから冷蔵庫でいいわよね。そっちの冷蔵庫が見つかったって方は私も報告聞いたわよ」
結標「そうじゃなくて、冷蔵庫じゃない方の垣根帝督はなんだったのかって聞いてるのよ」
一方通行「幻想御手(レベルアッパー)事件、知ってるか?」
土御門「まあ、聞いたことくらいはあるな。例の超電磁砲も関わってたとか」
一方通行「そのレベルじゃ駄目だな。機密レベルの資料に目ェ通せ」
海原「ええと、もう少し分かりやすく説明していただけるとありがたいのですが……生憎と僕の力は貴方達とは少し仕組みが違うもので、AIMについても通り一遍等の知識がありませんので」
一方通行「チッ、資料は後で自分で目ェ通せよ? あの事件でな、AIMバーストっつう現象が確認されてる」
結標「あ、何か聞いたことある気がするわね」
一方通行「平たく言っちまえばAIM拡散力場は上手く方向性を与えてまとめてやれば実体化できンだわ」
土御門「……なるほどなるほど、分かってきたぜい」
一方通行「例えるなら濃度の高い水溶液に種になる結晶を入れるとデカイ結晶が取り出せるようなもンだな」
海原「つまり、今回はその種結晶の部分に未元物質が関わっていたと?」
一方通行「っつか核そのもの、だったみてェだがな」
土御門「何にせよこれで今回はこれでお役御免というわけだな。研究施設の方も、これからはAIMジャマーを複数個設置して保管体制の見直しをするそうだ」
結標「……なんだか哀れな話よね、第二位も」
海原「まぁ、僕らが言っても詮無きことってやつですよ」
一方通行「ハッ、違ェねェ」
・とある病院
美琴「つかなんでアンタまでそんなんなってるわけ?」
上条「うぅ、不幸だ……」
黒子「というかまた貴方ですの? 助けに来ておいて警備員に取り押さえれそうになってボロボロという辺り、なんとも締まらないですのね」
佐天「あの~」
美琴「どうかした? 佐天さん」
佐天「いや、何か御坂さんと白井さんは普通に話してるんでお二人の知り合いだろうってことは分かるんですが……」
美琴「あ、佐天さんはこいつと面識無かったっけ?」
黒子「知らない方が幸せということもありますのよ」
上条「うわ、何かもの凄い失礼なこと言われてないか俺」
黒子「お姉様だけで飽き足らず、行く先々でフラグを立てているような野蛮人と知り合いになる時点で十分不幸でしょうに」
上条「異議あり!」
美琴「却下に決まってんでしょこの馬鹿」
上条「えぇぇ!?」
美琴「というわけでもしこの馬鹿とまた会うことがあれば、仕方が無いからその時には名前を聞けばいいわ」
黒子「まったくですの。出来得ることなら佐天さんや初春にはこの殿方とは一生縁遠いままで居て欲しいものですの」
上条「ちょ、助けに来た人にその言い草は酷いんじゃない!?」
美琴「どうせアンタは最後にオイシイとこ持ってっただけでしょうが。まあ、助けに来てくれたことは褒めたげるけど」
黒子「それにしても、またしても貴方に借りを作ってしまうなんて……このまま油断していると返済できないくらいに負債が膨らみそうで嫌ですわね」
美琴「大丈夫よ、黒子。アンタで返せないなら私なんて一生かかっても返せないぐらい負債膨らんでるんだから」
佐天「は、はぁ……なんか良く分かりませんけど、聞き様によっては一生かけて恩返しみたいな風にも聞こえなくは」
美琴「なななな、何を言ってるのよ佐天さん!?」
黒子「お姉様っまさかそこまで考えた未来設計を!?」
美琴「と、とにかく! 今日はもう遅いから各自自分の病室へ戻った戻った!」
上条「っと、もうこんな時間か。確かにそろそろ消灯時間だな」
黒子「話を逸らそうなんてそうはいきませんわよ!」
美琴「ケガ人はおとなしく寝てなさいよ!」
上条「仕方ない、白井は俺が連れてくよ」グイッ
黒子「あ、ちょっと! キーッ! ほんと何なんですのその右手! ああ、お姉様~!」ズルズル
佐天「さ、さすが白井さん……あちこち包帯巻かれてるこの状態でよくもまあ」
美琴「ほらほら、佐天さんも自分の病室に」
佐天「あの、ちょっとだけ……いいですか?」
美琴「佐天さん?」
佐天「御坂さん、さっき『最後にオイシイとこ持ってっただけでしょうが』って」
美琴「ああ、アイツのこと? 別に大した意味じゃないわよ」
佐天「いえ、あの、そうじゃなくて」フルフル
美琴「どういうこと?」
佐天「あれって、一方通行さんが来た時に気が付いてたってことですよね?」
美琴「…………なんのことかしらね」
佐天「……そうですか」
美琴「私はあの時気を失ってた。……そういうことにしておいてくれないかな」
佐天「あの! 私が……私が聞いちゃダメなことですか?」
美琴「……うん」
佐天「……分かりました。これ以上は聞きません」
美琴「さっき黒子が言ってたでしょう? 知らない方が幸せなことってやっぱりあるんだよね」
佐天「御坂さん……」
美琴「だからさ、ごめん」
佐天「いえ、私の方こそなんか……すみません変なこと聞いちゃって。それじゃお休みなさい」
美琴「うん、お休み」
美琴「はぁー、何やってんだろ、私……」
美琴(けど、まさか一方通行にこの私が助けられるとか、一体何の冗談よ)
一方通行『そォだな。良く頑張った』
一方通行『重症な所は無さそォだな……そのまま寝とけ』
美琴(あの時、確かに私はもう気が付いてた。第二位が吹き飛ばされる瞬間もこの目で見た。佐天さんの手当てをしてるのも……)
美琴(少なくとも……私の知ってる一方通行じゃなかった。あいつがあんな風な普通の顔も出来るなんてこと、私は知らない)
美琴(あいつのしたことを、あいつのやってきたことを許すつもりは無いし、今も思い出すだけでどうにかなりそうだけど……けど、)
美琴(私は本当に何も知らない。一方通行があの実験の後何をしていたのか、そもそも一方通行がどんな人間なのか、何も……)
・病院内、通路
佐天(うぅ~ん……御坂さんと一方通行さんって昔何があったんだろう?)
佐天(一方通行さんや打ち止めちゃんは訳ありって言ってたけど……)
佐天(どうにもこう、ヘビーな雰囲気というかなんというか……)
佐天「知らない方が幸せなこと……か」
御坂妹「何やらお悩みのようですね、とミサカは思わず声を掛けてしまったけどどうしようと独白します」
佐天「あれ? 御坂さん? え、どうしたんですか?」
御坂妹「いえ、私はお姉様ではありません。検体番号10032、通称御坂妹と呼ばれているミサカです、と懇切丁寧に説明してみます」
佐天「えぇ!? 妹さん!? あ、でも確かにさっきまで巻いてた包帯とかが無い……」
御坂妹「厳密には妹というわけではないのですが、面倒くさいのでもうそれでいいやとミサカはこれ以上の説明を放棄します」
佐天「瓜二つってこういうことを言うんですね……御坂さんと全然見分けつかないや」
佐天「あれ、てことは3人姉妹だったんですか? その患者衣を見るに妹さんも入院中?」
御坂妹「私が入院しているのは今回の事件とは別件ですから、ご安心ください、とミサカはとりあえず片方の質問に答えます」
御坂妹「3人姉妹なのかという質問にはそうではない、とだけお答えしておきます。この件に関しては直接お姉様か上位個体にお聞き下さい、とミサカは自分の裁量の範囲で答えます」
佐天「ふ、複雑な家庭の事情があるのかな……」
御坂妹「どうやらここまでの会話からみるに、受け答えもしっかりしていますし怪我の方は大したことは無いようですね、とミサカは確認を取ります」
御坂妹「実は上位個体がお姉様と貴方のことを酷く心配していて、誰か様子を見てきてーとしつこかったもので……」
佐天「上位個体……? あ、打ち止めちゃんが何かそんなこと言ってたような?」
御坂妹「はい、その打ち止めと呼ばれる個体で間違いありません、とミサカは貴方の疑問を肯定します」
御坂妹「この時間ですので交通手段や連絡手段が限られていることと、一方通行から本日外出禁止を言い渡されたようで、直接訪ねることも出来ずと、それでこのミサカにお鉢が回ってきたのです、とミサカは事情を説明します」
佐天「外出禁止?」
御坂妹「一方通行のことです、恐らく今日の事件に関して事前に何らかの情報を得ていたのでしょう。危険な目に合わせない様に外出自体を禁止していたのではないかと……」
佐天「……あ、そういえば今日はなるべく御坂さんと一緒に居ろ、はぐれるなって昨日言われたような」
御坂妹「一方通行も最近妙にフラグを立てるようになりましたね……」
佐天「は? え、フラグ?」
御坂妹「ああいえ、こちらの話です、とミサカははぐらかします」
御坂妹(今の話を報告すると、ミサカネットワークの『一方通行上やん病感染疑惑スレ』がまた伸びそうですねと、ミサカはあのネタにも手を出すかどうか迷っていることを暗に示してみます)
御坂妹「それではこれからお姉様の方にも顔を出してきますので、とミサカはこの場を離れることを伝えます」
佐天「あ、はい、お休みなさい」
御坂妹「そうそう、その一方通行なのですが、事件をある程度予期していて、にも関わらず貴方やお姉様を危険に晒したというのなら結構気に病んでる可能性があります」
御坂妹「深夜にでも様子をこっそり様子を見に来るかもしれませんよと、ミサカは先の展開を予告してみます」
佐天「えぇ!? あ、ちょっと!?」
御坂妹「では」スタスタ
佐天(行っちゃった……。え、この後一方通行さんが様子を見に!? え、マジですか!?)
・美琴の病室
御坂妹「というわけでお加減はいかがですかと単刀直入にミサカは尋ねます」
美琴「あんたねぇ……何堂々と私のところに顔出してんのよ」ハァ
美琴「さっきまで黒子とか佐天さんとかあんたのことを知らない子も居たのよ?」
御坂妹「あ……すみません、そこまで気が回っていませんでした、とミサカは己の落ち度を謝罪します」
美琴「あ、ごめん。その、あんた達のことを黒子達に知られると面倒とかそういうのじゃなくて、どうやって説明すればいいのか分からなくってさ……ってこれじゃ結局言い訳か、ごめん」
御坂妹「いえ、謝らないで下さいお姉様。その件に関してはお姉様は悪くないのですし、とミサカは慌ててフォローに回ります」
美琴「ほんと、駄目なオリジナルでごめんね……」
御坂妹「……」スッ
ポンポンナデナデ
美琴「……へ? あの、何……を?」
御坂妹「ミサカネットワークに泣きそうな相手を宥める時の行動としてアンケートを取ったところ、この行動が抱きしめる、甘い言葉をささやくなどと共に上位にランクインしました。と、ミサカはこの行動の意味を説明します」
美琴「……馬鹿、普通そういうのは妹じゃなくて姉の役回りでしょ」グス
御坂妹「お姉様は何も悪くありません。責められるべきは『実験』を計画立案した研究者やそれを推し進めた学園都市そのものであり、ミサカ全体としての総意としてお姉様を悪く思っている者など居ないとミサカは断言します」
美琴「うー……何なのよこれぇ、もう、お姉さんの立場台無しじゃないのよ」
御坂妹「泣き止むまで優しく傍に居てあげるのが高ポイントだと、上位個体からの受け売りですがミサカは暗に好きなだけ泣いていいですよと伝えます」
美琴「……馬鹿ぁ」
美琴「…………うし、落ち着いた」
御坂妹「少しはお役に立ちましたか? とミサカは短慮な行動ではなかったかと心配しつつ伺います」
美琴「うん、ありがとね。かっこ悪いとこ見せちゃったけど、おかげで少し吹っ切れた」
御坂妹「それは良かったです、とミサカはお姉様にお礼を言われたことを素直に喜びます」
美琴「それでさ、悪いけど少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
御坂妹「もちろん構いません、とミサカは――」
美琴「一方通行のことでも?」
御坂妹「もちろん構いません、とあえてもう一度言うことでミサカはどんな質問でもどんとこいということをアピールします」
美琴「じゃあ一つ目。佐天さんの話から推測するとさ、一方通行の傍に妹達(シスターズ)の1人が居るってことになるんだけど、これは合ってる?」
御坂妹「はい。厳密には妹達(シスターズ)の管制用上位個体ですが、彼女が一方通行の傍に居るのは事実です、とミサカは事実をそのままにお伝えします」
美琴「ちょっと待って。いきなり聞きなれないニューワードが出てきたわよ。管制用上位個体ってそんな子が居たわけ?」
御坂妹「お姉様にはなかなかお伝えする機会が無かったものですから、とミサカはしれっと答えます。ですが一度地下街でお目に掛かっては居るはずですよ、とミサカは更なる爆弾を投下します」
美琴「なんですと? 地下街っていつのことよ」
御坂妹「素直になれないお姉様が罰ゲームと称してあの人を連れ回していた時のことです、とミサカはその時のことを思い出しながら告げます」
美琴「だ、だからあの時のは本当に只の罰ゲームで……ってあの時!?」
御坂妹「はい、あの時です。とミサカは念を押します」
美琴「えー……あの時……あ、待って、何かあんたの他にもう1人確かに見たような気がしてきたわ」
御坂妹「記憶にありましたか、とミサカはやや複雑な表情で答えます」
美琴「ん? あれ?? ってことは上位個体ってあのちっこい子!?」
御坂妹「はい、そのちっこいミサカで間違いありません」
美琴「はぁ!?」
御坂妹「上位個体は全ミサカの管制用という位置付けのため、何かあった場合に上位個体自身を御しやすいよう成長段階を意図的に幼いままにしてあったためです、とミサカは理由を伝えます」
御坂妹「とりあえず、上位個体本人の詳細なプロフィールはお姉様が聞こうとしていたことではないでしょうから、それについてはまたの機会にしては如何でしょうかとミサカは提案してみます」
美琴「そ、それもそうか……じゃあ2つ目の質問ね。何でその子は一方通行の傍に居るの?」
御坂妹「あー、その質問できましたか……なら結局上位個体のことを詳しく説明しないといけないようですと、正直そろそろ説明に飽きてきたことを吐露しながらミサカはため息を吐きます」
カクカクシカジカ ~説明中~ コレコレウマウマ
美琴「……」ズーン
御坂妹「あの、お姉様……?」
美琴「知らなかった……あの実験が終わって、あんた達はもう危ない事にはほとんど無関係になってたとばっかり思ってた」
美琴「あんた達のことを利用しようとする奴らが居て、ウイルスやらなんやらで何回も危ないことになってたなんて全然知らなかったのよ!?」
御坂妹「今までは特に話す機会も無かったことと、これ以上お姉様の心労を増やすようなことにはしたくないというミサカ全体の総意からあの実験の後のことや、ミサカ達に関わることでも火急のものではないことは意図的に伏せていましたので」
美琴「何でよ!? 今の話じゃ明らかにいくつも火急の話があったじゃない!」
御坂妹「最初のウイルスコードの件のように、火急すぎてそもそも連絡の取り様が無かったものもありますし――」
美琴「だからって……! 何より一番納得行かないのはそのウイルスコードの話!」
美琴「何で……何でよりによってそこで一方通行なのよ……!?」
美琴「だってアイツは、1万人以上も妹達を殺してて、9982号だってアイツに殺されて……それで、それで……!」
御坂妹「9982号……お姉様と最初に接触したミサカですね。彼女だってお姉様が気に病むのは望んではいなかったでしょう、とログに残る記憶を頼りにミサカは今は亡き9982号の意志を代弁します」
御坂妹「今まで、お姉様にミサカ達のことをあまり知らせずにおいた理由の一つはそれです」
美琴「……どういう、こと?」
御坂妹「一方通行が憎むべき仇であるままの方が、お姉様に取って楽なのではないか。そう考えて今までお姉様に真実を伝えずにいたことをミサカは告白します」
美琴「な、によ……それ……」
御坂妹「本当はお姉様も分かっているのではないですか? お姉様は聡明な方ですから、真実から目を逸らしているだけではないのですか、とミサカはこの際なのでぶっちゃけてしまおうかと思います」
美琴「……ぁ、……まっ――」
御坂妹「お姉様がそうであるように。一方通行もまた、あの実験の被害者であるということを」
美琴「……ッ!」
美琴「それ、でも……それでも! 私はアイツを許せない!」
御坂妹「無論、ミサカ達も彼のしたことを許すつもりはありません」
美琴「えぇっ?」
御坂妹「実際、ミサカ達の中には一方通行に対して今でも恨み、怒りといった負の感情を抱いている個体は多数います。けれど、彼を恨みきるには難しいだけの恩も受けてしまっているのです、とミサカは現状をざっくり説明します」
御坂妹「一方通行もまた実験は不本意であった。それゆえに償いとしてそれこそ命を懸けてミサカ達を助けてくれている。ならばミサカ達も受けた恩に報いなければ不公平というものです、とミサカ達の総意を述べます」
美琴「あんた達はそれで……それでいいの?」
御坂妹「本来ならミサカ達は全員が死んでいたはずです。お姉様やあの人のおかげで実験が途中で中止され、ミサカ達は生きていく可能性を得ました。その上、あの一方通行が今やミサカ達にとって『絶対裏切らない味方』となっているのです、これ以上多くを望んでは贅沢というものでしょう。もっともこれはこのミサカ単体としての私見ですが……」
美琴「一方通行のこと、あんた達は信用してるのね……」
御坂妹「まあ、信用、信頼という表現はいろいろと語弊を招く気もしますが、ミサカ達がそれに類する感情を持っていることは事実ですねと、ミサカは見解を述べます」
御坂妹「月並みな表現であれですが、あれで結構イイ人だったりする部分がある、というのがミサカ達の彼に対する見解です」
美琴「あいつがイイ人、ねぇ……そう簡単には信じられないわね」
一方通行「ハッ、まったくだな。この俺がイイ人だァ? 脳味噌腐ってンじゃねェのか?」
美琴「なっ!? あ、一方通行!?」
一方通行「一体どこをどォ見りゃそんな結論出てくンだよ。超電磁砲もそォ思うだろ? 何そいつらの寝言真に受けちゃってンですかァ?」
美琴「一方通行ッ! あんたやっぱり……!」
御坂妹「盗み聞きとは趣味が悪いですね、この白モヤシ」
一方通行&美琴「「」」ブッ
美琴「ちょ、あんたいきなり何を!?」
御坂妹「お姉様、あれが俗に言う本音と裏腹な言葉が口をつくツンデレというやつですよ、とミサカは白モヤシを指差しながら指摘します」
一方通行&美琴「「……」」パクパク
御坂妹「一方通行、貴方の言語機能は現在ミサカネットワークで代理演算をしていることをお忘れですか? ぶっちゃけて言えば貴方が嘘を吐いてもミサカ達にはバレバレです」
御坂妹「というか思いやり100%で先ほどの言葉が出てくるとかどんだけ甘やかすつもりですかと、ミサカは上位個体に代わってヤレヤレというリアクションを披露します」
一方通行「……ゥ、ァ……」プルプル
御坂妹「大体、先ほどの登場のタイミングにしたって、明らかに結構前から様子を伺っていたでしょう。というかミサカネットワークの受信先で貴方の位置は大体分かるので気づいていてあえて放置していたわけですが」
一方通行「……」パクパクパクパク
美琴「……え、えーと……ど、どんまい?」
一方通行「――ッ!」バッ
美琴(なんだろう、凄い居た堪れない……っていうかこいつがこんなに顔赤くしてるのとか初めて見た気がするわね)
美琴(え、つかこのリアクションってことは10032号の話はマジってこと!?)
御坂妹「と、このように今ではミサカ達とこのモヤシは結構良好な関係を築いているのでお姉様が心配するようなことは無いのです。とミサカは胸を張ります」
美琴「……なんか、その……ごめん。姉として、ごめん」
一方通行「……謝ンなこのボケ」
美琴「あー、なんだろ、その、今日のところはお互いに引いてまた今度ってことでどう?」
一方通行「……オゥ」
御坂妹「ふふふ、多少荒療治でしたがこれでお姉様も一方通行への見方が少し変わったのではないですかと、ミサカはいい仕事したなぁという気分に浸りながら尋ねます」フンス
美琴「なんかほんとごめん」
一方通行「だから謝ンなっつの」
美琴「行ったわね……」
御坂妹「どうせ残りの面子の様子をこれから見に行くところでしょう、とミサカは予想を述べます」
美琴「なんていうかもう突っ込みの言葉も無いわよ……」ハァ
美琴「まあ、なんとなく分かった。一方通行も一方通行なりの事情があるんだってことは」
御坂妹「お姉様に理解できて貰えてミサカとしても言うことはありません」
美琴「後、あんた達が予想外に悪い意味で個性を獲得しつつあるってことも」
御坂妹「それは心外です、とミサカはお姉様の評価に異議を唱えます」
美琴「あの一方通行をいびり倒すメンタリティーのどこをどう褒めればいいわけ?」
御坂妹「その件については責任は主に番外個体に帰属するものであり、このミサカのせいではありませんと弁解します」
美琴「ちょい待ち、またさり気なくニューワードが出てきてない?」
御坂妹「……気のせいでしょう、とミサカはこれ以上の説明が正直もう面倒なので逃げの姿勢をアピールします」
・病院内、移動中
一方通行「チッ……俺もヤキが回っちまったかァ?」
一方通行(超電磁砲をフォローしようとして逆にフォローされるとかよォ、マジありえねェ……)
一方通行(つか仮に和解できたとしてもまともに会話できるとは思えねェンだがなァ)
一方通行「まァいい、残りの3人の様子を……って1人はあの三下か。見に行く必要ねェな」
一方通行「後は……ン?」
黒子(うっふっふっふ、ひぇっへっへっへ……あの殿方さえ居なければ空間移動し放題!)
黒子(お姉様が寝静まった頃を見計らって病室へ跳べばあんなことやこんなことが……!)
一方通行(なんつゥおぞましい気配出してやがる……あんまり関わりたくねェが……)
一方通行(仕方ねェ……この手でいくか)カチ
キィーン
黒子「あ、あら……? 何やら、息苦しく……」フラッ
一方通行(空気の流れを操作して酸素濃度を下げて気絶させる……上手く行ったみてェだな。あれなら朝までぐっすり寝てンだろ)
・更に病院内、佐天の病室前
一方通行「……つゥわけで後はここか……」
一方通行「……迷っててもしょォがねェ、顔だけ出してくか」
コンコン
佐天「はーい」
一方通行「……よォ」ガラ
佐天「一方通行さん!? ほんとに来た!?」
一方通行「……悪ィ、驚かすつもりじゃなかったンだが」
佐天「ああいえ、こっちこそなんか失礼な反応しちゃってすみません!」
一方通行「……ン? 今ほんとに来た、とか言ってたか?」
佐天「えぇっと、さっき廊下で御坂さんの妹さんに会いまして……その時に一方通行さんが後で様子見に来るかもーって」
一方通行「あんのやろォ……何普通に一般人に接触してンだ……」
佐天「あの、打ち止めちゃんも含めてなんで妹さんが御坂さんそっくりなのかっていうのはその、『知らない方が幸せな話』だったります?」
一方通行「ああ、そォだな」
佐天「ならオッケーです。その件はこれ以上聞きません」
一方通行「意外だな……。そォいうの、聞きたがるタイプだと思ってたンだが」
佐天「誰にだって話したくないことの1つや2つ、あるもんじゃありません?」
一方通行「ハッ、違ェねェ」
一方通行「悪かったな」
佐天「ふぇ? え、な、何急に謝っちゃってるんですか!?」
一方通行「出かけンなって言っとくべきだった。事態を甘く見てた」
佐天「あ……(そういえば気に病んでるかもって妹さんが……)」
一方通行「これで分かっただろ。俺みたいのに――」
佐天「もう関わるなとかは無しですからね?」
一方通行「ッ! お前……」
佐天「前にも話したじゃないですか、こう見えても結構修羅場潜ってますから」フンス
佐天「それに、打ち止めちゃんの料理教室はまだ始まったばっかりですしね」ニコッ
一方通行「……好きにしろ」
佐天「今の言葉、きちんと聞きましたからね?」ニヤニヤ
一方通行「チッ……なんで俺ァこう気の強い女ばっかり知り合うンだか」
佐天「あ、そうだ! せっかくだから今度は一方通行さんも一緒に料理してみません?」
一方通行「はァ? 一体どうしてそンな展開になりやがるンですかァ?」
佐天「だって、炊飯器スキルだけってのはさすがに……」
一方通行「うぐ……れ、レシピさえありゃァ教わる必要はねェンだ」
佐天「へーえ? なかなかの自信がお有りのようじゃないですか」
一方通行「この俺を誰だと思ってやがる」
佐天「んー、強面だけど実は結構イイ人で、案外面倒見が良かったりする超能力者、ってとこですかね」
一方通行「……ったく、どいつもこいつも」プイ
佐天「おお、照れてる一方通行さんとか新鮮かも!」
一方通行「……ぐぎ、ぐぐ……か、帰る!」スタスタ
佐天「えー、もうですかあ?」
一方通行「……また来りゃイインだろ、また来りゃ」
佐天「えへへー、またのご来店お待ちしておりまーす」
一方通行「……フン」スタスタスタ
・とある病院、入院4日目
黒子「おかしいですの……」
美琴「別に何もおかしくないでしょ」
佐天「そうそう、別に何もおかしいところはありませんって」
美琴「あんたの場合、初日に廊下で寝てたりとかするから退院が長引いてんのよ」
初春「御坂さんのところに夜這いでも掛けようとしてて、そのまま寝ちゃったわけですね」
黒子「げふんげふん、それはそれ、これはこれですのよ!」
黒子「大体それを差し引いても、私を含めて全治10日の見込みだったお2人が、どうしてたったの4日で退院準備をなさってますのよ~」サメザメ
初春「そう言われてみると確かに佐天さんも御坂さんも怪我の治りが早かったですね」
美琴&佐天「「……」」ギクッ
黒子「お、お姉様……? それに佐天さんも……その反応はどういう意味ですの……?」
佐天「い、いやぁ~」
美琴「い、いろいろと事情がね?」
・とある病院、入院2日目
佐天「うぅ……アイタタ、全身打撲って結構地味に痛いのね……」
佐天「背中からいっちゃったから仰向けが違和感あるのが辛い……」
佐天「ん、とりあえず着替えるかな」
コンコン
佐天(へ? こんな朝早くから誰だろう? あ、先生の見回りとか?)
佐天「はーい。 ……ってちょちょちょ、ちょっと待ったー!?(今あたし着替え中じゃん!?)」
一方通行「調子はどォ……」ガラッ
佐天「……ぁぅぁぅ……」パクパク
一方通行「……よし、そのまま背中こっち向けて座れ」
佐天「えぇぇー!?」
佐天「いや、あのですね、えっとその、ま、まままだ心の準備というものが」
一方通行「何寝言ほざいてやがる。怪我の具合診てやるっつってンだよ」
佐天「あ、あ~……そ、そういうことですか///」カァーッ
佐天「え、えと、じゃあ……」
一方通行「変に痛むところとかあれば言えよ」カチ
佐天(うぅ……朝っぱらから何この展開、というか異性として見られてなくない?)
佐天「ん……な、なんかむずむずというかぴりぴりというか……」
一方通行「血の巡りを良くしてるからな、少しゃ我慢しろ」
佐天「……ん……ぅうん……(うぅ、こ、声が……)」
コンコン
佐天「はひゃい!?」ビクッ
美琴「佐天さーん、後で黒子も誘って……」ガラッ
佐天「……」アウアウ ←上半身半裸
一方通行「……あァ?」 ←その背中に手を当ててる
美琴「……な、なな、何してるのよー!?」
美琴「…………なるほど、怪我の具合を診てたと」
一方通行「ったく、さっきのをどう勘違いしてンだよテメェは……」
美琴「べべ、別に何も勘違いなんてしてないわよ!」
一方通行「ハイハイ」
美琴「きー、ほんとむかつくわねアンタ!」
佐天「(なんだろ、微妙にデジャビュ感が……)……んっ……ふんん……」
美琴「てかさっきから何してるのこれ?」
一方通行「生体電流を操作して血液の流れを良くしたり、細胞の再生を促してンだよ」
美琴「ふーん、なるほどねぇ、細胞の再生を……ってはあぁぁ!?」
一方通行「いちいち煩ェやつだ……」
美琴「あんたってそんなことも出来るわけ?」
一方通行「出来るからやってンじゃねェか」
美琴「くっ……これが第一位の実力か……」
一方通行「いや、これぐらいテメェも出来ンじゃねェのか?」
美琴「……なんですと?」
一方通行「俺が今何を操作してるっつったか思い出せ」
美琴「生体電流……あ、電流? え、これそういう系統でいいわけ?」
一方通行「テメェ……今までそういう発想が無かったってことは、どんだけバトる方向でしか能力使ってなかったンだよ?」
美琴「うぐっ」
佐天「み、御坂さん……」
美琴「と、とりあえずコツ。私にもコツ教えなさい! これぐらいすぐマスターしてやるんだから!」
一方通行「……ハイハイ」
美琴「……お、おお? あー……これ肩こりとかにも効果あり?」ピリピリ
一方通行「そりゃ血行を良くしてンだから効果あるンじゃねェか?」
佐天「御坂さんは自分でいつでも出来ていいなぁ」
一方通行「まあ、テメェの能力じゃこういうのには向かねェなァ」
佐天「うぅ~」
一方通行「ちなみにこれを更に応用すりゃァ部分痩せとかも自由自在に……」
美琴&佐天「「!?」」ガバッ
美琴「その話、もっと詳しく!!」
佐天「あ、ずるい! だ、駄目ですからね!? そんなチートを御坂さんに教えたりとか絶対駄目ですからね!?」
一方通行(うォっ、なんだこのプレッシャー……。この俺が気圧されてるだとォ!?)
美琴「そもそもやせる必要無かったし、迂闊に弄って余計な脂肪まで燃やしちゃったらって手を出してなかったけど、あんたの演算式を利用すれば私の生体電流コントロールは完璧になる……そう、逆に発育を促進させることすら可能になるわ! さぁ、今すぐ制御の秘訣を教えなさい!!」
佐天「なっ、そんな使い方まで!? 駄目ですよ、絶対に教えちゃ駄目ですからね!?」
19090号「そうです。そんな卑怯な真似は是非このミサカにだけリークして下さい! とミサカは唐突に乱入します」シュバッ
一方通行「どっから湧いてきやがったテメェ!?」
御坂妹「なるほど、そうやってあちこちで『汚い真似(ダイエット)』をしていたわけですね……とお姉様と不埒なミサカの抜け駆けを阻止すべく参上しましたとミサカは説明します」
佐天「ミサカさんの妹さんが2人も!?」
美琴「あんた達、私と同じ電撃使いならここは一つ協力しなさい!」
佐天「あ、ずるい!」
美琴「さぁ、一方通行、観念して演算式を教えなさい!」
御坂妹「右に同じく!」&19090号「左に同じく!」
佐天「しまった、1:3じゃ多数決じゃ勝負にならない!?」
一方通行「お、オゥ……いや、まァ別に教えるのは構わねェが……」
美琴&妹s「「「やったー!」」」
佐天「そんなー!?」
一方通行「ただ、完璧に制御するにはレベル3は必要なンだが……」
美琴「なんだ、それくらい別に……」
御坂妹「えっ?」
19090号「えっ?」
美琴「……あ」
シーン
佐天「…………へ?」
御坂妹「大変悲しいことですがお姉様を敵に回さねばならないようです、とミサカは前言を翻します」シュバッ
19090号「誠に申し訳ないのですが、今この瞬間から1:9969……いえ、そこの佐天さんも加えて1:9970でお姉様は少数派に転落しました、とミサカも反旗を翻します」シュババッ
美琴「な、あんた達は私の味方じゃないわけ!?」
佐天(1:9970……?)
美琴「くっ……ひ、卑怯よ!? ミサカネットワーク全体を数えたら絶対多数決じゃ勝てないじゃない!」
妹s「「例えお姉様が相手でも女には引けない時があるのです、とミサカ達は息のあった反抗を見せ付けます」」
美琴「ステレオで反論ですって……!?」
ワーワーギャーギャー
佐天(同じ顔が喧嘩してるって凄いシュールな……)
一方通行(なンだこのカオス……)
・再び入院4日目、白井黒子の病室
美琴(で、結局自分の怪我は治したけど、黒子のことを忘れてたとは言い出せないわね……)
佐天(あの騒ぎですっかり白井さんのこと忘れてたとは言い出せないよね……)
佐天&美琴「「あ、あははは……」」
黒子「お姉様と佐天さんがやけに親密に……ハッ!? まさか私の知らない間にとんでもない進展が!?」
初春「はいはい、寝言は寝てから言ってくださいね」
初春「大方、御坂さんの能力で怪我の治りを早めたってところなんじゃないですか?」
美琴&佐天((す、鋭い!))
黒子「なッ……それでどうして黒子だけ仲間外れですのー!?」
美琴「いやまぁ、それはほら、あんたが先に治るといろいろ面倒そうだし……?」
黒子「お姉様!? 黒子はこんなにもお姉様のことを思っておりますのに!」ヨヨヨ
・とある病院、廊下
一方通行「この俺が毎日見舞いとか、勘弁して欲しいンですがねェ」
打ち止め「アナタが外出禁止を解除するの忘れてたのがいけないんだよって、ミサカはミサカは言ってみる」
一方通行「だからこォして連れてきてやってンじゃねェか」
打ち止め「うん、でもなんかお姉様やサテンお姉ちゃん達にはあの様子じゃ今すぐには会えそうに無いね、ってミサカはミサカはがっかりしてみたり」
一方通行「先に病室行って待ってンのも暇だし、どォすっか」
打ち止め「あ、あの人はこっちがこの様子ならちょうど今は1人なんじゃない? ってミサカはミサカは名案を思いついたかも?」
一方通行「あァ? 三下の見舞いなンざ冗談だろ? 行くなら俺ァ佐天の病室先行って待ってから1人で行って来い」
打ち止め「えぇー? 一緒に行こうよーってミサカはミサカは斜め45度からの上目遣いを披露してみたり」
一方通行「…………ハッ」
打ち止め「鼻で笑われたよ!? ってミサカはミサカは……」
・黄泉川のマンション
芳川「あら? 今日はあの子達は2人ともお出掛け?」フワァ
黄泉川「今頃起きてきたじゃん? そうだよ、2人とも今日はお出掛け」
芳川「ふーん……で、どこへ?」
黄泉川「佐天のお見舞いじゃんよ。あの子、この間の騒ぎで怪我して入院してるじゃん?」
芳川「そうだったの?」
黄泉川「むしろこの3日間あれだけ打ち止めが騒いでたのに気づいてなかったのか」
芳川「それで、怪我の具合はどうなの?」
黄泉川「大したことはないみたいじゃん? 一方通行の話じゃそろそろ退院ってことだし」
芳川「ということは、退院祝いのパーティの日も近いということね」
黄泉川「……どこからその発想が出てくるじゃん?」
芳川「あら、やらないの?」
黄泉川「……いや、悪くは無いと思うけど、思ったけどさ……なんかこう桔梗に言われると納得行かないというか……」
芳川「退院のお祝いで一方通行に料理を作らせるとか面白いんじゃない?」
芳川(そしてさり気なくフラグを投下する私……一方通行を退院のお祝いにって炊きつければ豪華ディナー間違いなし!)
・とある病院前のロータリー
美琴「と、言うわけで無事に退院手続きも済ませたわけだけど……」
佐天「たったの5日で退院ってのはいいんですが、白井さんだけ置いてけぼりなのはちょっと可哀想だったかも?」
美琴「ま、まあその話はもう今更言ってもしょうがないし、私が明日からお見舞いに行った時にでもちょちょいと治癒を促進してあげれば後2~3日で退院できるでしょ」
佐天「それもそうですね」
打ち止め「あ、サテンお姉ちゃーん」ガバッ
佐天「うおう!? いきなり背中に人の気配!?」
打ち止め「お迎えに来たよーってミサカはミサカはあっちにヨミカワの車が停まってることを伝えてみる」
美琴「ふーん、本当に他の妹達(シスターズ)よりちっちゃいのね、打ち止めって」
打ち止め「お姉様も退院おめでとうって、ミサカはミサカはご挨拶してみたり!」
美琴「うん、ちゃんと挨拶できて偉い偉い」ナデナデ
打ち止め「えへへー、お姉様に褒められた~ってミサカはミサカは素直に嬉しいことを伝えてみたり」
美琴「あれ? そう言えば今お迎えって言ってたわね?」
打ち止め「これからヨミカワの家で退院お祝いのパーティなの、ってミサカはミサカはお姉様も一緒にどうかなって誘いながら伝えてみる」
佐天「あ、いいですねそれ!」
美琴「私も一緒でいいの?」
打ち止め「もっちろん! ってミサカはミサカは力強く答えてみたり」
美琴「それじゃあ私もご相伴に与りますか」
打ち止め「今日はあの人が料理作ってるんだーってミサカはミサカは2人にご報告!」
美琴「あの人……? ってまさか!?」
佐天「あ、今日は一方通行さんの当番なんだ?」
美琴(当番!? え、てかあいつって料理できたわけ!?)
打ち止め「実はヨシカワがあの人に『美味しい料理でもてなすことで少しでも借りを返したらどう?』って炊きつけたの、ってミサカはミサカは事実を暴露してみる」
佐天「芳川さん……相変わらずだなぁ」
美琴「ねぇ……なんか普通にあいつが料理できる前提っぽい会話なんだけど……?」
打ち止め「あれを料理と呼んでいいかはちょっとミサカには判断できないかも、ってミサカはミサカは自分の語彙力の無さにしょんぼりしながら伝えてみる」
佐天「んー、一般的料理スキルとは食い違ってるのは確かですね」
美琴「……それ、大丈夫なわけ?」ゲンナリ
黄泉川「おーい」ブンブン
打ち止め「あ、ヨミカワが呼んでるみたい、早く行こってミサカはミサカはお姉様達を急かしてみる」
佐天「もー、人におぶさったまま何を言っちゃってるかなこの子はー」
打ち止め「えへへー」
美琴「……今更断るのもあれだし、覚悟決めるか……」トホホ
・黄泉川のマンション
黄泉川「ただいまじゃーん」
打ち止め「たっだいまー!」
芳川「あら、おかえり」
佐天&美琴「「お邪魔しまーす」」
芳川「いらっしゃい」
佐天「あ、なんかもういい匂いしてますね」
美琴「ほんと、これなら少しは期待できるかな?」
芳川「ふふふ、今回の事件で少しでも負い目があるなら全力で美味しいものを振舞うことねって煽っておいたから、かなり期待できるわよ」
黄泉川&打ち止め&佐天「「「……はぁ」」」
美琴「へ? え?」
芳川「ちょうど最後の料理をこれから作るところみたいだし、見物していくといいわ」
佐天「見物って……いやまああれは確かに料理というよりエンターテイメントですけど」
美琴「一体どんな料理するのよあいつは――」
美琴「……は?」ポカーン
佐天「あー、やっぱり初見は驚きますよねー、この――」
炊飯器A プシュー
炊飯器B プシュー
炊飯器C プシュー
炊飯器D プシュー
佐天「……炊飯器には」
美琴「いやいやいやいや、確かにこの炊飯器も謎よ? 十分驚きよ?」
美琴「でもね? なんで包丁すら使ってないのにただの長ネギが見る見る白髪ネギに変化していくのよー!?」
一方通行「ン? オゥ、来てたのか」
佐天「どーもー」
美琴「え、何、私の驚きはスルーなの? ねぇ、ねぇ!?」
芳川「ふふふ、なら私が解説してあげましょう。あれは細胞の繋ぎ目に力を掛けることで食材を思いのままに切り分けているのよ」
美琴「な、それじゃ包丁なんて必要ですらないってこと!?」
芳川「次も凄いわよ、今からあの魚のウロコを落とすわけだけど……」
美琴「こ、これは! 表面を撫でるだけで根こそぎウロコがボロボロと落ちていくですって!?」
芳川「そして極めつけ、浸透圧や熱の伝播を操作することで30分はかかる蒸し魚がたったの3分でホクホクの蒸し上がり!」
美琴「なんて便利なの!?」
芳川「今ならこの万能ベクトルクッキングの解説本もついてこのお値段!」
佐天「……御坂さんと芳川さん、楽しそうだなぁ」
打ち止め「でも確かにあれは初見の人にはなかなかのエンターテイメントかも、ってミサカはミサカはお姉様の反応をフォローしてみたり」
一方通行(何か外野が煩ェなぁ……)
黄泉川「よーし、それじゃお皿並べるの手伝うじゃん」
佐天「あ、はーい」
美琴「あ、私も手伝いますー」
打ち止め「ミサカもお手伝いする、ってミサカはミサカは良い子アピールしてみる」
芳川「真ん中の炊飯器はもう中身が出来ているはずよ」
黄泉川「口だけじゃなくて桔梗も手を動かすじゃんよ」
芳川「あら、もう3人もお嬢さん達が動き回っているのよ? 私までキッチンとダイニングを行き来したら今度は邪魔になってしまうわ?」
打ち止め「ヨシカワってば相変わらずかもってミサカはミサカはつっこんでみる」
一方通行「オラ、最後のが出来たぞ」
佐天「わぁ、こんなおっきい魚私初めて見ましたよ!」
一方通行「ハタの一種だったはずだ。買出しに行った先でちょうど見つけたンでな」
美琴「これ……広東料理よね? アンタってばそんなレパートリーも持ってるわけ?」
打ち止め「この人ってば詳しいレシピさえあれば大概の料理は作れちゃうんだよって、ミサカはミサカは補足説明してみる」
黄泉川「その代わり調理時間、特に煮込んだりする時間とかは能力使って数十分の1、それをレシピ通りと呼んでいいかは甚だ疑問じゃん」
一方通行「ハッ、成分の変化が同じなら結果は同じだろォが」
美琴「つくづく一方通行って反則よね……」
芳川(ふふふ、今日の料理を一方通行に任せた私の判断は確かだったようね)
打ち止め&佐天「「おいしー!!」」
美琴「悔しいけどこれは認めざるを得ないわね……けど何か間違ってる! 第一位は料理上手いキャラじゃないでしょう!?」
一方通行「ハン、出来るもンは出来るンだからイイだろォが」
芳川「まあ、実際問題ベクトル操作ってやろうと思えば大概のことに応用が利くわね」
黄泉川「応用範囲広すぎてチートだって専らの評判じゃん」
美琴「そうだそうだー、横暴だー」
一方通行「っつかテメェこそそんなキャラだったかンかよ超電磁砲」
美琴「ふん、アンタに振りまく愛想を持ち合わせてないだけよ」
一方通行「コイツ……間違いなく番外個体と同じDNAの持ち主だわ」
打ち止め「そういえばあの子も前に料理が上手いなんて第一位のキャラじゃないって叫んでたね、ってミサカはミサカは昔を振り返ってみたり」
佐天「なんかこの間からちらほら名前出てますけど、そのみさかわーすとって子も打ち止めちゃんや病院に居た妹さん達の関係者って認識でいいのかな?」
美琴「そうだ、この間あの子にはぐらかされちゃってその子のこと聞いてないのよねぇ……?」ジトー
一方通行「……何だよ」
美琴「詳しく話せ、話を聞かせろ、っていうかとっとと喋りなさいこの白モヤシ」
一方通行「あー……もしかしなくてもこの口の悪さもDNAレベルなンですかねェ?」
佐天「御坂さん……仮にもこの間の恩人にそれはどうかと」
美琴「いーのいーの、どうせコイツは私に手挙げられないし」
佐天「えぇ!? それは一体どういう……ま、まさかお2人はそういう!///」
一方通行「テメェはテメェで何勘違いしてやがンだ」ベクトルチョップ
佐天「あいたっ!?」
美琴「入院してる間に聞いたわよー? アンタ、今はあの子達のネットワークで演算補助してもらってるんだって? 電磁波の固まりみたいな私とじゃ相性が悪すぎるものねぇ」
一方通行「……フン。こっちは端からテメエと同じ顔してる奴に手ェ出すつもりは無ェよ」
美琴「……ふーん? ……まあいいわ、殊勝な言葉に免じて今日は引いておいてあげる」
打ち止め「これであの子までこっちに来たらあなたってば針のむしろ? ってミサカはミサカは状況確認」
一方通行「今更それぐれェじゃどうとも思わねェよ」
一方通行「そもそも超能力者(レベル5)っつう肩書きだけで十分浮いてンだからよォ」
美琴「……それには同感かもね」
佐天(御坂さん……それに一方通行さんも……)
佐天「そんなことないですよ!」
一方通行「……オマエ」
美琴「佐天さん……?」
佐天「確かにそりゃ最初は2人とも雲の上の人みたいな感じありましたけど……」
佐天「御坂さんは実は結構お子様趣味だったりとか、1人で突っ走っちゃう癖があったりとか」
美琴「なっ」
佐天「一方通行さんはキザでかっこつけだし、打ち止めちゃんに甘いし、基本過保護だし、私のこととか子ども扱いだし」
一方通行「途中から愚痴ンなってンぞオイ」
佐天「でも、それでも2人とも大好きなんです! 初春や白井さんだって御坂さんのことは大好きだし、打ち止めちゃんや黄泉川先生や芳川さんも一方通行さんのことが大好きです!」
佐天「だから……だから、そんな寂しいこと言わないで下さい……」
美琴「佐天さん……」
一方通行「……クカカッ、おいおいこりゃ何の冗談だァ?」
美琴「ッ! あんたねぇ!」
一方通行「そォだろ? 天下の第一位と第三位がただの能力者(レベル1)に説教されるたァ、ヤキが回った以外になんて言やァイイんだ?」
一方通行「認めてやる。テメェは大したタマだよ、この俺が保証してやる」ポンポン
打ち止め「最初からこうなる気がしてたよって、ミサカはミサカは呆れてため息を吐いてみる」
美琴「……確かに、佐天さんの言う通りよね。ごめん。それと……ありがと」
佐天「一方通行さん……御坂さんも……」
黄泉川「やれやれ、雨降って地固まるってやつじゃん?」
芳川「青春してるわねぇ……」
美琴「それにしても、天下の第一位も女の子には随分と甘いじゃない?」
一方通行「ハン、あの三下には負ける」
美琴「あははっ! 違いないわね!」
佐天「もー、2人だけ盛り上がってずるいですよぉ~、三下って一体どこの誰です?」
一方通行&美琴「「それは知らない(ねェ)方がいい(わ)」」
佐天「えぇ!? 何ですかそのシンクロ!?」
打ち止め「皆仲良しっていいことだよね、ってミサカはミサカはこの和やかなムードは大歓迎って言ってみる」ニコニコ
佐天「うんうん、毎日が楽しいのが一番だよね」
佐天「というわけなので、これからはさっきみたいな後ろ向きな方向性はダメですからね?」
美琴「はいはい、分かってるって」
一方通行「ハッ、そっから先は進入禁止ってかァ?」
黄泉川「この流れはあれじゃんな」
打ち止め「うん、ここはあの台詞で決まりだよねってミサカもミサカも準備してみたり」
芳川「ふふふ……この流れなら言える」
美琴「えぇー? さすがに私はちょっと……」
佐天「もう、こういうのはノリとその場の勢いが大事なんですって」
一方通行「ハッ、覚悟を決めンだな、超電磁砲(レールガン)よォ」
佐天「それじゃ、せーの……」
全員「「「「「「こっから先は一方通行だァー!」」」」」
学園都市は、今日もそれなりに平和です
お・わ・り
・いつものもとい最後の後書きレス
第1話の後でやったようなまとめを後日まったり書き込んだり、
1000行くまでに小ネタや後日談を書き込んだりとかはするかもしれないけれど、
今日でこのSSは一旦一区切りにさせてもらおうと思います
なるべく多くの人にまったり読んでもらえることを目標に、
カップリング要素薄め・ギャグ色強めで仕上げれたかなと思います
上琴派だろうが通行止め派だろうが一方天派だろうが電磁通行派だろうが大丈夫、がさり気に目標でしたw
佐天さんマジ涙子は個人的ストライクだったぜ>>781よ
せっかく無事にEDまでたどり着けたんで、禁書系を書いてる時の酉を最後に付けて、
次回作へのフラグを地味に立ててみたりとか小生意気なことをしつつ、
ここまで読んでくれた人、応援してくれた人、ケチつけてくれた人全てに改めてありがとォ!
・177支部
初春「あれ? 白井さんもう上がりですか?」
黒子「ええ。まだ一応病み上がりですし、入院中に溜まった書類も寮でこなせますしね」
初春「溜まった書類と言えば、先日のメモリーチップを送りつけてきた能力者が誰だったのかもまだ特定できてないですし、結局あれは何だったんでしょうねぇ」
黒子(目星はついてるのですけれどね……あの女だという証拠はありませんのよねぇ)
初春「まあ、例の事件に関する情報は機密扱いになるそうですから、今週末には捜査は打ち切りになりそうですけど」
黒子「まったく、なんともやるせない話ですわね」
初春「建物にはそこそこ被害が出てますけどねー、人的被害は白井さんや佐天さん達3人の怪我くらいでしたし。無理に追求するなと言われれば従うまでなんですけど」
黒子「どうなるか決まりましたら連絡を入れてくださいな。どちらにせよ今日はもう上がらせてもらいますわよ」
初春「早く現場復帰して下さいよー? 白井さんが入院してる間に、どうも変な人が湧いてるみたいなんで、早く見回りの体制を元に戻したいんですよねぇ」
黒子「変な人?」
初春「『不良に襲われそうになっていたと思ったら、次の瞬間には不良が全員倒れ伏していた。何を言ってるか分からねーと思うが……』みたいな話が白井さんが入院してから連日のように通報されてまして」
黒子「はい? 何ですのそれ?」
初春「さぁ? 私に言われても困りますよ」
黒子「さて……これで今日は寮の門限まで自由に動けますの」
黒子(先日の事件の前後、佐天さんが聞き捨てならないことを言っていたことを、この黒子が聞き逃すわけがありませんの)
佐天『御坂さんの妹さんまで白井さんの毒牙にかけさせるわけにはいきません!』
黒子(そう、あの時確かにお姉様の妹と……うふふ……これは見逃せませんわね)
黒子(残念なことにお姉様はあの事件に関連する話題は不自然なほどにはぐらかされていますし、ここは一つ足で稼ぐというやつですのよ)
ヒュン
黒子(話を聞く限りだとまずは黄泉川先生のお宅を調べるのが吉ですわね)
黒子(確かこの辺りのマンションのはずですけれど……)
ヒュン
結標「この辺まで送ればいいでしょ? 後は自分でどうにかして頂戴ね」
???「あいよー。まったく、お出迎え無しなんてあの野郎も当てにならないよねー」
結標「それにしても……あなた本当にあの妹達の1人? なんというか、個性的よね」
???「ま、良くも悪くもミサカは例外なんでね」
黒子(あれは!?)
・数時間前
ブブブブブ
結標「あら? 土御門からね……まったく、また呼び出しかしら」
結標『もしもし?』
土御門『仕事の依頼だ』
結標『迎えは?』
土御門『いや、今回は集合の必要はない。座標移動(ムーブポイント)へご氏名の依頼だ』
結標『……どういうこと?』
土御門『PDAの方に資料を転送する。とりあえず北エリアの外部接続ターミナルへと向かっていてくれ』
結標『まあいいわ、了解よ』
・外部接続ターミナル物資搬入路
ヒュン
結標「っと、時間通りならここに来るはずだけど……」
???「貴女が運び屋さん?」
結標「……へぇ、本当にオリジナルより肉体年齢が引き上げられてるのね」
???「ふーん? オリジナルと顔見知りなんだ?」
結標「番外個体(ミサカワースト)……だったわね」
番外個体「他のミサカと同じに見えるなら眼科に行くべきだね」
結標「あまり舐めた口を利かない方がいいわよ? そのオリジナルとはどちらかというと因縁がある方だから」
番外個体「あっひゃっひゃっひゃ、出来もしないことは言うもんじゃないよ~? 迂闊に手を出したら報復に来るのは一方通行だっつうの」
結標「私がその程度の脅しで怯むとでも?」
番外個体「何ならこの場で黒コゲでもいいんだけど?」
結標「…………まったくもって不毛ね」ハァ
番外個体「ほんとにね」ニヤニヤ
結標「とんだ仕事になったものだわ」
・黄泉川のマンション周辺
ヒュン
黒子「結標淡希! ここで会ったが百年目というやつですわよ!」
結標「ッ! あなたは!」
黒子「風紀委員(ジャッジメント)ですの! そちらの方も一緒にお話を……お、おお、お姉様!?」
結標「ちょうどいいわ、彼女に道は聞いて頂戴。それじゃあね」ヒュン
黒子「あ!? お待ちなさい!」
黒子「くっ、いつの間にあんなほいほい自分を転移できるように……」
番外個体「ねぇ」
黒子「っと、そこの貴女! 見るからにお姉様にそっくりの貴女は一体……」
番外個体「風紀委員って言ってたよね。こっちはフォーサイドってマンション探してるんだけどさぁ」
黒子「ちょ、ちょっとお待ち下さいですの!」
番外個体「ん? 何、何か文句あるのかにゃーん?」
黒子(お、お姉様と同じお顔でにゃーん、にゃーんって!? お、落ち着け落ち着くのよ白井黒子! 目の前の人物は結標淡希と一緒に転移してきた不審者! そう、不審者ですのよ!)
番外個体「ちょっと、聞いてんの?」ギロ
黒子「アァン、その蔑むような眼差し! 黒子は、黒子は何かに目覚めてしまいそうですの!」
番外個体「うげぇ、ドMかよこいつ。ミサカってば学園都市に来て早々にこんなのに捉まるなんてかなり不幸なんじゃね?」
黒子「御坂……? やはり貴女、お姉様の関係者ですの?」
番外個体「はぁ? 誰よお姉様って。っていうかやっぱりそういう趣味なの?」
黒子「超電磁砲(レールガン)、御坂美琴お姉様のことですわ。先ほどご自分のことを御坂とおっしゃってましたし、ご家族か何かですの?」
番外個体「やだ、こんなのが超電磁砲の関係者なわけ? 即行で面倒臭い展開なんですけどー」
番外個体(うーん、どうしたもんかなぁ……)
黒子(可能性としてはお姉様のお姉様……。お姉様の妹さんを探して逆にお姉様のお姉さんを見つけるなんて、ある意味奇跡ですの)
番外個体(下手に一般人に手ぇ出しても後であいつが煩いし、適当にはぐらかしておくか)
番外個体「ま、超電磁砲とは姉妹みたいなもんだから、関係者には違いないね」
黒子「まぁ! ということはやはりお姉様のお姉様ですのね!?」
番外個体「はぁ? なんだそりゃ」
黒子「おほん、失礼しましたの大きいお姉様」
番外個体「大きいお姉様……ま、何でもいいやもう。で、場所分かるのあんた?」
黒子「ファミリーサイド……もしかして黄泉川先生のお宅へ御用なのでは?」
番外個体「……なんで分かるわけ?」
黒子「いえ、そちらにお姉様の妹さんがいらっしゃるとお聞きしましたもので」
番外個体「ふーん?(ミサカ達のことを知ってるのか……なら一応は大丈夫か)」
番外個体「ま、ミサカが用があるのはそのちびっこいのの保護者の方なんだけど細かい話はいいや。とっとと案内してよ」
黒子「承りましてよ大きいお姉様」
黒子(はぁはぁ……この圧倒的に上から目線の口調! しかも大人びたお姉様フェイスで! 更に極めてだるそうなお姉様ヴォイス付き! これはイイ、イイですわぁ~!)
黒子「では少し失礼して……」
番外個体「は?」
ヒュン
黒子「地図によるとこちらですの」
番外個体「……空間移動能力者(テレポーター)って結構レアなんじゃなかったっけ?」
黒子「レアもレア、学園都市でも60人を下回る数しか確認されておりませんわね」
番外個体「ま、着いたんならいいや。もう帰っていいよあんた」
黒子「そんなご無体な!? 黒子もお姉様の妹さんにご挨拶をさせて下さいませ!」
番外個体「えー」
黒子「なんてやる気の無いお返事!?」
番外個体「……まあいいや、どうなっても知らないからね」ピンポーン
打ち止め「いらっしゃーい、ってミサカはミサカは久々に会う貴女をお出迎えしてみたり……あれ、番外個体以外にもう1人? というかそっちの人とは初めてましてだね、ってミサカはミサカは咄嗟に軌道修正」
番外個体「あれー? こいつそっちの知り合いじゃなかったの?」
黒子「こ、ここここ、ここここ」
打ち止め「ここ?」
番外個体「ニワトリ?」
黒子「ここは天国ですのー!? なんて愛らしい! 大きいお姉様だけでなく小さいお姉様だなんて! 黒子は、黒子はどうにかなってしまいそうですの!」ガバッ
一方通行「……うぜェ」ベクトルチョップ
黒子「ビブルチ!?」グシャ
打ち止め「ちょ、ちょっとー!? ミサカの目の前で殺人事件が!?」
番外個体「うわー、これはフォローできないわ」
一方通行「……馬鹿、ちゃんと加減してるっつの」
打ち止め「だ、だってさっきからこの人ピクリともしてないよ!? ってミサカはミサカはどうすればいいのって慌ててみたり」
一方通行「ただの脳震盪だから心配すンな」
一方通行「っつかテメェ、何いきなり学園都市来てやがンだ。急にこっち来るとか一方的に連絡しやがって、IDとかいろいろ用意するもンあンだぞ?」
番外個体「っと、そうだった。あまりのインパクトにそのことすっかり忘れてた」
打ち止め「番外個体って何か御用でこっちに来たの?」
番外個体「あの魚料理、もっかい作って。あとボルシチも」
一方通行「………………ハァ?」
打ち止め「もしかして、番外個体って食いしんぼキャラでいくつもりなの? ってミサカはミサカは意外すぎる展開に驚きを露にしてみる」
番外個体「だってミサカネットワークにあんたのログ残ってるんだよ!? あのメチャクチャ美味そうなホクホクの蒸し上がりの魚料理! ログ閲覧する度にお腹空いてお腹空いてしょうがないわけよ!?」
打ち止め「そういえば美味しさのあまりネットワークで自慢したかもってミサカはミサカは過去を振り返ってみたり」
一方通行「……」
番外個体「というわけだからミサカにも食・べ・さ・せ・て☆」
一方通行「よし、そこの変態連れてとっとと出てけ」
番外個体「いやん、冗談だってば☆ 何、本気でこのミサカが食いしんぼキャラなんて誰かと被ってそうなキャラで立ててくつもりだと思ったわけ? 馬鹿なの? 阿呆なの?」
打ち止め「あなたってば本当に口が悪いよね……ってミサカはミサカは呆れてみる」
番外個体「お褒めの言葉として受け取っておくよ」
一方通行「……で? それじゃ一体どんな理由何だ?」
番外個体「えぇー、まずはおもてなしじゃないの? せっかちな男は嫌われるよ?」
一方通行「いいから話せ。もう一度だけ言う、とっとと話せ」
番外個体「へーいへい、全くつまんないなぁ。じゃあ掻い摘んで。実は少し前からネットワークに接続しにくくなってさぁ」
一方通行「何だと?」
打ち止め「ネットワーク障害? でも別にミサカのところには何も問題がある報告は来てないけど、ってミサカはミサカは現状報告」
番外個体「いや、接続自体は問題なく出来るの。問題は接続した後」
打ち止め「どういうこと?」
番外個体「数日前からネットワーク上に一方通行への怨嗟の声が溢れててさぁ、とてもじゃないけど繋いでられないのよ。ほら、ミサカってばネットワークから負の感情を拾いやすいから今のネットワークに繋いでるともう所構わず当り散らしちゃいそうでさぁ」
番外個体「で、この馬鹿が一体何やらかしたのか、ネットワーク経由で確認することも出来ないから直接聞きに来たってわけ」
打ち止め「そうなの!? え、でもどんな内容? ミサカのところにはそんな話全然来てないんだけどってミサカはミサカは小首をかしげてみたり」
番外個体「んー、例えば、『ぬか喜びさせやがってあのセロリ!』とか、『パーフェクトボディの夢がー!? おのれ白モヤシ!』とか、『奴は所詮ロリコン、発育促進なんて最初から教える気は無かったんだよ! な、なんだってー!?』とか、『今は争ってる場合ではありません、お姉様にチート能力が渡らないよう一致団結しなければ』とか、こんな感じ」
一方通行「…………ォォゥ」
番外個体「あ、心当たりはあるんだ?」
番外個体「まあそういうわけで、どうにかしてくれないとミサカがネットワークに接続できないんだよねって文句を言いに来たわけ」
一方通行「だがなァ……ンなもン俺にどォしろと……」
打ち止め「んー、良く分からないけど皆が怒ってる内容を忘れるようなインパクトのあるものをネットワーク上に流せばいいんじゃないかな? ってミサカはミサカはネットワークの管理者らしく多分有効であろうアイデアを出してみる」
黒子「ふふふ……話は聞かせて頂きましたわ」
一方通行「うォ!?」
黒子「詳しい話はさっぱりでしたがとにかく怒らせてしまった相手のご機嫌を取りたい、そういうお話なのでしょう?」
打ち止め「おお、さっきまで気絶してたのになんという飲み込みの良さってミサカはミサカはこの謎のお姉ちゃんに戦慄してみる」
黒子(ああ、小さいお姉様に大きいお姉様、ここはまさに私のためにあるようなプァラダ~イス。このエデンに少しでも長く居座るためにも、黒子が役に立つ女であることをアピールしなくては!)
番外個体「でも、実際問題どうするわけ?」
黒子「ズバリ、スイーツですわ!」
一方通行「……あァ?」
黒子「この世にスイーツの嫌いな婦女子が居りましょうか? いえ、居るはずがないですの!(反語)」
打ち止め「要するに美味しいお菓子でご機嫌を取れってこと?」
番外個体「ぶっひゃ」
黒子「え?」
番外個体「ぎゃははは☆ この仏頂面がスイーツ作り! それも妹達のご機嫌取り! あっひゃっひゃっひゃ、マジウケる! 作ってるとこ想像するだけで腹筋が千切れそう、くけけ、ぶひゃひゃひゃひゃ!」
黒子「なっ……想像を絶する下品な笑い方……いえ、ですがこれはこれで!」
打ち止め「でも美味しいお菓子で皆のご機嫌取りってのは意外と悪くないかも?」
番外個体「無理無理、だってこの人コーヒーはブラック、砂糖なんて誰のためにあンだよを地で行くような人だよ? スイーツ作りとかまるで期待できねぇっつうの。でもって妹達のご機嫌取ろうと思ったら相当極上のスイーツ作らないと」
一方通行「全くだな、この俺が菓子作りたァ何の冗談だ」
黒子「おやおや、そんな簡単に諦めてしまわれるんですのね」
一方通行「……何だと?」ギロ
黒子「その程度の覚悟しかないのならスイーツ作りなど最初から不可能でしたわね、と言ってるのですけれど?」ニタァ
番外個体「そうそう、恥かくだけだから止めときなっての」ニヤニヤ
打ち止め(なんて的確な連携プレー! ってミサカはミサカはこっそり解説のようなことをしてみたり)
一方通行「上等だァ……妹達(シスターズ)を唸らせる至高の逸品、作ってやろォじゃねェか!」
黒子(ふっ、ちょろいですわ)フンス
番外個体(うわー、マジで乗っかったよ、ぶふっ、笑い堪えるのがキツイ……)プルプル
こうして、妹達のご機嫌取りのためのスイーツ作りに一方通行は挑むことになる
初春の案内するパフェ巡りツアー、学び舎の園高級スイーツ巡りツアー
芳川を味見役にしたスイーツ作りの基本の特訓などを経て、
2週間後には見事に満足のいく一品を完成させることになるのだが、それはまた別のお話
そして、彼はまだ知らない
……2週間後にはとっくにミサカネットワーク上の混乱は沈静化していることを
見回りと称して打ち止めや番外個体の周囲をうろつくようになった変態の駆除という日課が追加されることを……
お・わ・り☆
佐天「はぁ、はぁ……」
佐天「このお店にも無かった……」
佐天(どうしよう……私、あれが無いと……)
佐天「ええい、まだたったの3軒回っただけ、次のコンビニまでダーッシュ!」ダダッ
……
佐天「ば、馬鹿な……4軒目でも売り切れだなんて」ガックリ
固法「あら? こんなところでどうしたの?」
佐天「……固法、先輩?」
固法「ふーん、新発売のパンが軒並み売り切れねぇ……」
佐天「先輩はどうしてここに?」
固法「私はほら、ちょっと買出しにね」
佐天「ああ、ムサシノ牛乳のミニパックをまとめ買いですか……」
固法「でも軒並み売り切れだなんて、そんなに人気のパンなの?」
佐天「個人的にはかなり重要度高いですが、店員さんとかの話じゃいつも売れ残る部類だったはずなんですけど」
固法「いまいち要領を得ない話ねぇ……美味しいから人気ってわけじゃないの?」
佐天「いや、味は至って普通のパンなんですよ」
固法「何てパンなの?」
佐天「えーとですねぇ……」
固法「脳を活性化させる十二の栄養素が入った能力上昇パン……」
佐天「はい。それが今日からリニューアルで十三の栄養素+胚芽入りにバージョンアップしたんですよぉ!」
固法「もの凄く方向性を見失ってるバージョンアップな気がしてならないけど……」
固法「まあとにかく、その新商品を買おうとしたらこの辺のコンビニで軒並み売り切れだったと」
佐天「……はい」ショボーン
固法(というかあのパンって効果あったのかしら……?)
固法「今日からリニューアルってことなら、他にもそれで買ってみたって人が偶々沢山居ただけじゃないのかしら?」
佐天「うーん、そうなのかなぁ……」
吹寄「ふぅ……さすがにちょっと買い過ぎたかな……まあパンだから大して重くもないわね」スタスタ ←大量のコンビニのレジ袋
佐天&固法「「……」」
佐天「先輩、今の見ました聞きました?」
固法「ま、まさか、偶然でしょ、偶然」
佐天「今の人が歩いてった方向って、まだ私が行ってないコンビニがある方角なんですよね」
固法「あのね、緊急時でも犯罪者でもないのに勝手に相手の荷物を透視するなんて……」
佐天「先輩~」ウルウル
固法「そ、そんな上目遣いで頼んだって……う、うぅ……一瞬、一瞬だけよ!?」
佐天「やったー!」
固法「もう、しょうがないわねぇ……」キィーン
固法「嘘でしょ……本当にあの袋の中全部、『脳を活性化させる十三の栄養素+胚芽入り能力上昇パン』だわ……」
佐天「マジですか!? おのれ……あの女の人が行く先々で買占めを……」
佐天「ハッ、ということはこの先の5軒目に向かってる!? 今度こそ先回りして私が買うんだから!」ダダッ
固法「あ、行っちゃった……それにしても、あのパンそんなに効果あったんだ……?」※ありません
佐天「ふふふ……今こそ私の能力、エアロハンドを活かす時っ……!」フワッ
佐天「自分の正面の風を左右に操作することで空気抵抗を減らし、走りやすくすることが出来るのだー!」ダダダダ
吹寄「さすがにかさばるわね……まあいい、ようやく5軒目が見えて――」
ダダダダ
吹寄「……ん?」
佐天「お先っ!」チャルルラ ララーン イラッシャイマセー
吹寄「一体何だったのかしら……?」チャルルラ ララーン イラッシャイマセー
吹寄(あ、レジにさっきの子……ってあれは!?)
佐天「ぜー、はー、ぜー、はー……ふふん」ニヤリ
吹寄(ッ! まさか!?)バッ
吹寄(売り切れ! あの子がこの店の入荷分を全部……!?)
吹寄「いい度胸してるじゃない……」
こうしてこの日、第7学区のコンビニで繰り広げられた能力上昇パン争奪戦
この事件によって俄かに注目を浴びたことで、売れ行きが急増
脳を活性化させる十三の栄養素+胚芽入り能力上昇パンは一躍ブームを巻き起こす
その後学園都市全体で品薄・品切れが続出するのだが……それはまた別のお話
佐天「というわけで最近買いそびれてるんですよぉ……」ガックリ
一方通行「オマエ……まだ信じてやがったのかあのパン」
佐天「……え、」
佐天「えぇぇぇぇえええええ!?」
お・わ・り☆
ふぅ……940まで使えば十分だよな?
実はおまけ編に入ってからいろいろネタ出ししてたんだけど、
「あれ? これって上手く書けばもっと長くできるんじゃね?」とか
「待てよ? これおまけで使うには勿体無いんじゃね?」とか
そんな感じで上手くまとめれなかった☆
つか今>>1から改めて読み返して来たんだが……
>>32と>>33の間で1レス分文章飛ばしてたorz
というわけで以下、飛ばしてた幻の1レス分をば
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佐天(手をかざすだけで脳波が計れるなんてどういう能力なんだろ……)モグモグ
一方通行(さて、これで準備はいいな……)キィーン
佐天(……あ、でもなんか落ち着いてきたかも……このパン、実はすごかったりして)
一方通行「よし、それじゃ幻想御手使ってた時のことをよく思いだせ」
佐天「はい」
佐天「…………むむむ……」
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というのが挟まってるはずだったんだよ、うん
もの凄く今更だけどな!
書いてる本人ですら無くても問題なく意味通じてた文脈だけどな!
というわけで、ここまで読んでくれた読者に改めてありがとうー!