男「俺が魔界に残って、みんなが元の世界に戻るまでの時間稼ぎをする!」
戦士「男……」
男「大丈夫、必ず俺も帰るよ」
神官「約束ですよ?」
男「ああ。無事に帰ったらみんなでまた酒盛りしよう」
男「さあ、行くんだ、みんな!!」
元スレ
お姫様「昔の話じゃない、そんなの……」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1308758764/
全力で走った戦士達は、無事に魔界の門を越えた。
そして魔界の門は男の帰りを待つ事すら許さずに閉ざされた。
神官「そんな……」
戦士「馬鹿野郎……」
戦士「帰ったら正式に姫に求婚するんだって言ってたろ……」
戦士「お前が帰らないでどうするんだよ、男……」
神官「?!」
神官「戦士さん、魔術師さんが居ません!」
戦士「な……、まさかアイツも残ったってのか!?」
―魔界―
男「保てよ、俺の魔力」
男「せめてみんなが門を越えるまで……!」
魔術師「宮仕えの馬飼いの魔力では厳しいでしょうね」
男「魔術師?」
魔術師「あなたの疑問に答えるのは後です」
魔術師「手を貸します」
魔術師「無尽の魔力を持つ魔界の王で、ようやく門を維持できた」
魔術師「あなたの魔力と私の魔力でも、戦士と神官の二人が無事に脱出できる保証はありません」
男「できるさ」
魔術師「楽観的ですね」
男「ああ。俺を信じて走ってくれたんだ」
男「だからできる。やってみせる」
魔術師「……格好付け過ぎですね」
魔術師「ここは失笑で流しましょう。さぁ、魔力を込めますよ」
男「………」
魔術師「立てますか?」
男「つらい」
魔術師「魔力を尽かせ、生命力まで使うからそうなるんです」
男「面目ない」
魔術師「しかし、予想より長く門を維持できました」
魔術師「彼等ならきっと門を越えた事でしょう」
男「そう……、だな……」
魔術師「……一つ良いですか?」
男「ああ」
魔術師「無事に帰れば勇者と称えられ、念願だった姫と結ばれる事もできた筈」
魔術師「それを棒に振ってまで、なぜ仲間を助けたのですか?」
男「……年が近いって理由でさ、お姫様が護衛の目を盗んでは俺の居る馬小屋に遊びに来たんだ」
男「その時に約束したんだ」
男「大きくなったら結婚しよう、って」
魔術師「子供ですね」
男「ああ、子供の約束だ」
男「だから、お姫様は約束を忘れてた」
魔術師「確か、魔王を倒せば結婚すると約束したのでは?」
男「したよ。けどもう子供じゃない」
男「政治を知らない、馬の世話しかできない奴がお姫様と結ばれるなんて、絵本の中だけの話だって分かってたんだ」
魔術師「なるほど」
魔術師「だから生存者が多くなる選択をした、と」
男「魔術師が残ったのは予想外だったけどな」
魔術師「魔術師なんて者は平和になれば異端として忌むべき存在になりますから」
魔術師「さて」
男「………」
魔術師「魔王が倒され混乱してるとはいえ、ここは敵陣の中です」
魔術師「敵に見つかる前に、どこかに身を隠しましょう」
男「……そうだな」
その後、王宮へ向かった戦士と神官によって魔王討伐に成功した事が告げられ、世界は平和になったとさ。
おわり
15 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/06/23 02:50:01.14 GoTVuKiz0 9/69これはひどい
16 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/06/23 02:51:05.40 JMcYcOtzO 10/69期待してたのにぜんぶ飛んでった
>>13から
―酒場―
神官「賑やかですね……」
戦士「そうだな」
神官「主役の居ないパレードかぁ」
戦士「そうだな」
神官「お姫様、泣いてましたね……」
戦士「……そうだな」
神官「もう少し気の利いた言葉は無いんですか?」
戦士「すまん」
神官「それにしても……」
戦士「なんだ?」
神官「あなたが騎士と爵位の授与を蹴るとは思いませんでした」
戦士「その話か」
神官「はぁ、もったいない……」
戦士「奴隷上がりの傭兵がそんな物貰っても、な」
戦士「自由を奪われ、妬みと嫌がらせで死んでしまうだろうよ」
神官「戦士さんらしいですね」
戦士「まぁ褒美に王国金貨200枚も貰ったって言うのもあるがな」
神官「今の金貨の相場なら、家を買っても一生遊んで暮らせますよね」
神官「魔王討伐で流通が正常化すれば貨幣価値も上がるでしょうし」
神官「わたし達大金持ちですね!」
神官「………」
戦士「無理するな」
神官「……はい」
戦士「お前の方は良いのか?」
神官「はい?」
戦士「魔王討伐の功績があれば神官長どころか、もっと上を目指せただろうに」
神官「えっと……」
神官「わたしは教えに背いて命を奪い続けた破戒僧ですから」
戦士「相手は魔族や魔物だろ」
神官「命は命です」
戦士「そういう物か」
神官「そういう物です」
戦士「さて、と」
神官「行くんですか?」
戦士「ああ」
神官「どの辺りを目指します?」
戦士「南だな。暖かい国で静かに暮らす積もりだ」
神官「良いですね、わたし冷え性なんですよ」
戦士「……お前も来る気か」
神官「もちろん」
神官「男さんと魔術師さんが帰って来た時、バラバラだったら困るでしょ?」
戦士「……そうだな」
神官「ふふっ。さ、行きましょう、戦士さん!」
戦士「……ああ」
―王宮―
国王「姫の様子はどうだ」
道化「メイドの話では、まだ寝室に籠もってる様でございます」
道化「寝室からは時おりすすり泣く声が聞える、と」
国王「あれは妻に似て繊細だからな……」
道化「おいたわしや姫様!」
道化「想い人を失い日々枕を涙で濡らす毎日をお送りになるなんて!」
国王「要らぬ気は使うな、道化よ」
国王「……しかし、そこまであの男を気に掛けていたとはな」
道化「魔王討伐の暁には男に爵位を授けて欲しいと、ずっとせがんでおりましたからね」
道化「それだけ本気だったのでしょう」
国王「今は男の仲間の言葉を信じ待つしか無いか……」
国王「どちらにせよ、あれには時間が必要だな」
―王宮・姫の部屋―
お姫様(どうして……)
お姫様(どうして貴方が居ないの……)
お姫様(私が魔王討伐に向かわせなければ、ずっと一緒に居られたのに)
お姫様(立場なんて考えないで、貴方との約束を守れば良かった……!)
お姫様(お願い、帰ってきて、男……)
―魔界―
男「しかしまぁ、見渡す限りの荒野だな」
魔術師「何を今更、と失笑で流しましょう」
魔術師「土地が枯れ、海も川も渇いた世界だからこそ、潤った世界を求めたのでしょうね」
男「必死だったもんな」
魔術師「同情してますか」
男「否定はしない」
魔術師「あなたは中途半端に頭が回る人ですからね」
魔術師「考えなくても良い事を考えたと凡その見当は付きます」
男「今で良かったと思うよ」
魔術師「笑えませんが、笑って流しましょう」
男「それで、これからどうしようか?」
魔術師「あなたの魔力が回復次第、魔王城へ向かいます」
男「ううっそ、まじで」
魔術師「幸い魔王城にはゴーレム等のガーディアンしか居ませんでした」
魔術師「魔王亡き今、それらが起動する事は考え難いでしょう」
男「でも、魔族が俺達を探しに城に来たらどうするんだ?」
魔術師「その点はたぶん大丈夫です」
男「たぶんて」
魔術師「ノープランで魔界に残った人が文句を言わない」
男「申し訳ない……」
魔術師(私の考えが正しければ、魔王城が最も安全でしょうね)
魔術師(ただ、確信は無いので、まだ男には秘密にしておきましょう)
―魔王城―
男「静かだな」
魔術師「ええ」
魔術師(やはり……)
男「どうした?」
魔術師「予想通りだっただけです」
男「?」
魔術師「ただ、あなたには厳しい現実が待ってるかもしれません」
男「今も十分厳しいけどな」
魔術師「一応あなたにとって厳しい現実だと言っておきます」
男「魔術師は何時もよく分からない事を言うな」
魔術師「そうですね。言葉が足りない事は自覚してますよ」
魔術師「それより、私に付いて来て下さい」
―魔王城奥―
魔術師「やはり……」
男「天幕で分からなかったけど、玉座裏に扉か」
魔術師「行きましょう。この奥に、魔王が守りたかった者が居る筈です」
男「あ、ああ……」
男(魔王が守りたかった者?)
―魔王城・隠し扉奥―
男「……立派な部屋だな」
魔術師「それだけ大切にしていたのだろう」
男「豪華なベッドだな」
魔術師「それだけ愛していたのだろう」
男「可愛い寝顔だな」
魔術師「………」
男「俺は、この娘の親を殺したんだな……」
魔術師「言うな。魔王とその配下がどれだけ殺したと思う」
男「そうは言うけど、さ……」
魔王娘「……ん、だれ……?」
魔王娘「お兄さんたち、どなた?」
男「俺は……」
魔王娘「?」
魔術師「私達は魔王を討伐に来た人間です」
男「おい、魔術師!」
魔術師「この城に残る魔族は貴女一人です」
魔王娘「……そう。お兄さんたちはわたしを殺しに来たのね」
男「ちが……」
魔術師「理解が早くて助かります」
男「いい加減にしろよ、魔術師!」
魔王娘「!」
魔術師「退きなさい、男。その娘は殺さないわ」
男「え?」
魔術師「人質を殺す訳無いでしょう?」
男「人……質……?」
魔術師「あなたの短絡さは失笑で流します。それより、魔王の娘」
魔王娘「……はい」
魔術師「私も男と同じく、子供に手荒な事をしたくありません」
魔術師「人質になっていただけますね?」
魔王娘「……わかりました」
―一週間後―
魔王娘「お兄さん、助けてください!」
男「あー、とりあえずベッドに隠れとけ」
魔王娘「はいっ」
男(そろそろ来るかな……)
魔術師「男、魔王娘見なかった?」
男「さぁ。中庭にでも居るんじゃないか?」
魔術師「見つけたら、私の部屋に来る様に言っておいて」
男「分かった」
男「……行ったぞ」
魔王娘「ほんと?」
男「ああ。で、また勉強から逃げ出したのか」
魔王娘「うん、だって魔術師厳しいんだもん」
男「あまり困らせるなよ」
魔王娘「だってぇ……」
魔術師(あれから一週間……)
魔術師(私の予想通り、魔界に残った魔族達は私達を襲う事はなかった)
魔術師(それもそうだろう)
魔術師(力と野心有る魔族は、門が開いている間にほぼ全て魔界を捨てた)
魔術師(枯れた大地に残った力無い魔族が、魔王を倒した者を襲うなんて危険を冒す筈がない)
魔術師「まぁ、誤算もあるのだけど……」
魔術師「まさか、私達にあの娘が懐くなんて、ね……」
男「魔王娘は勉強嫌いか?」
魔王娘「勉強は嫌いじゃないけど、厳しい魔術師は嫌い」
男「じゃあ厳しくない魔術師は?」
魔王娘「大好き!」
男「そうか。じゃあ厳しくさせない様に、真面目に勉強しないとな」
魔王娘「えー」
男「どうしろって言うんだよ……」
魔術師「やはり男の部屋に居たか」
男「あ」
魔術師「行くぞ、魔王娘」
魔王娘「いーやーっ」
魔術師「我が儘酷い様だとシチューのニンジン増やしますよ」
魔王娘「!」
魔王娘「いく……」
魔術師「素直でよろしい。それと男、嘘を吐いて魔王娘を匿った罰としてゴーレムの整備をして来て下さい」
男「何で俺が……」
魔術師「男」
男「は、はい!直ぐ行きます!!」
男(一週間か……)
男(正直俺は魔王娘に殺されると思っていた)
男(いや、願っていた。かな)
男(自分の父を殺した人間を憎くないはずが無いのに、彼女は男を許した)
魔王娘『お父様は、自分の行いを理解してました』
魔王娘『自身が許されざる者である事を』
魔王娘『だからお父様は自分を倒す者が居ても、決して憎んではいけない』
魔王娘『そうわたしに言い聞かせていました』
男(そう言って、俺達を許してくれた……)
男「まぁ、恨み辛みで刺されるよりは良いよな」
ゴーレム「独り言こわーい」
男「うっさいポンコツ」
ゴーレム「ご主人様ひどい……」
男「はいはい」
男「よし、整備終わり。城の掃除宜しくな」
ゴーレム「あいあいさー」
男「何やってるんだろうな、俺……」
―夕食―
男「開門術式?」
魔王娘「うん」
男「なんだそれ」
魔術師「言葉通り、魔界と私達の居た世界を繋ぐ門を開く魔法よ」
男「ああ、前の門は完全に閉じたもんな……」
魔術師「だから新たに門を開く術式を構築する必要があるの」
魔王娘「すごい魔力が必要なんだよね?」
魔術師「ええ。でも魔力も必要だけど、複雑な構成式を覚える事も大事ね」
男「それを魔王娘が勉強中なのか」
魔王娘「すごい?」
男「ああ、凄い」
男(ほら、ニンジン俺の皿に移しな)
魔王娘(ありがとう。男ってだから好き!)
魔術師「なに二人でコソコソしてるのよ」
男「とりあえず勉強は魔術師に任せるよ。俺は土いじりの方が忙しいしな」
魔術師「……土地の改善はできそうなの?」
男「どうかな。堆肥を作ればだいぶ良くなるとは思うけど」
魔術師「気の長い話になりそうね」
男「まぁ懲りずに魔族の連中説得して頑張ってみるよ」
男「それが秩序を壊した、俺のできる数少ない事だからさ」
魔王娘「お兄さん頑張ってね。私も頑張るから!」
男「おう、任せとけ!」
魔術師「………」
魔術師「男、後で私の部屋に来なさい」
男「あ、ああ分かった……?」
―魔術師私室―
魔術師「どういう積もり」
男「何の事だ?」
魔術師「魔王娘よ」
男「ああ、それか」
魔術師「術式を行使するのは彼女よ。あなたもその意味が分からない訳では無いでしょう?」
男「魔王娘が魔界に残り、俺達が元の世界に帰る。だろ」
魔術師「深く付き合えば、お互い別れが辛くなるわ」
男「だからって仲良くしない訳にはいかないよ」
魔術師「お人好しね。まぁ性分だと苦笑して流しましょう」
男「魔術師だって懐かれてるんだから、俺の事言えないんじゃないか?」
魔術師「それは……」
男「魔術師。俺達は魔王娘がしたい様に、望む様に居よう。俺達にはその義務があると思うんだ」
魔術師「……そうね」
―一年後―
魔王娘「お弁当持って来たよ、お兄さん!」
男「おー、助かる」
魔族A「毎度ながら見事な弁当ですな、姫様」
魔族B「いやはや男君が羨ましい」
魔王娘「えへへ……」
男「あんまり茶化すなよ」
魔王娘「じゃあ、わたし勉強があるから、またねお兄さん!」
男「おう、頑張れ」
魔族A・B「姫様、ごきげんよう」
魔王娘「うん、じゃあね!」
男(この一年で随分土地が改善されたな)
男(まだ少ないけど魔族の協力を得る事ができて、成長の早い野菜なら育てられる様になった)
男(この分なら、近く麦も育てられるかもしれない)
男「よし」
男「弁当食ったらもう一頑張りだ!」
―魔王城―
魔王娘「ただいまー」
魔術師「早かったわね」
魔王娘「忙しそうだったんだもん」
魔術師「邪魔しなかった事は褒めましょう。さ、勉強に戻りますよ」
魔王娘「はーい」
魔術師「返事は短く」
魔王娘「はい!」
魔術師「よろしい」
魔術師(魔王娘は順調に術式を修得していった)
魔術師(日に日に魔力も高まり、その魔力を制御する力も身に付けている)
魔術師(彼女が術式を完全に修得するのは時間の問題だろう)
魔術師(時間、か……)
魔術師(私は、男にどう伝えれば良いのだろう)
魔術師(術式の完成に、どの程度時間が掛かるかを……)
魔王娘「お姉さんどうしたの?」
魔術師「え?」
魔王娘「最近ぼおっとしてる」
魔術師「少し、考え事よ」
魔王娘「良かった、病気とかじゃ無いよね?」
魔術師「ええ。さ、勉強を続けるわよ」
魔王娘「はーい」
魔術師「返事は短く」
魔王娘「はい、先生!」
魔術師「よろしい」
魔王娘「えへへ……」
―夕食―
魔術師「畑の方は順調?」
男「ああ。やっぱり魔族は頭が良いな。教えた事を直ぐ吸収するから怖いくらい順調だ」
魔術師「そろそろあなたの俄か知識では厳しそうね」
男「そうだな。正直、もう教えられる事は殆ど無い」
魔術師(これは良い機会と見て良いかしら……)
魔王娘「お姉さん?」
魔術師「………」
魔王娘「お姉さん!」
魔術師「え?……ああ、なんでもないわ。ごちそうさま」
魔王娘「お粗末様でした」
魔術師「少し疲れたから、先に休むわね」
男「ああ、おやすみ」
魔王娘「おやすみなさい」
魔術師「ええ。おやすみなさい」
―魔術師私室―
男「入るぞ、魔術師」
魔術師「どうぞ」
男「調子悪いのか?」
魔術師「違うわ」
魔術師「いや、本質的な部分が原因だから、調子が悪いとも言えるわね」
男「病気とかじゃないよな?」
魔術師「ふふっ……」
男「な、なんだよ」
魔術師「あなたも、あの子と同じ心配の仕方をするのね」
男「そうなのか」
魔術師「まるで親子、いえ、兄妹ね」
男「………」
魔術師「………」
魔術師「ねぇ、男。あなた今幸せ?」
男「どうしたんだよ、急に」
魔術師「私はね、怖いくらい幸せよ」
魔術師「豊かな生活では無いけど、優秀な弟子に、生活を支えてくれる人が居る」
魔術師「元の世界では決して得る事のできない幸せが此処にある」
男「魔術師……」
魔術師「本当は魔王娘を人質に、魔族達を使い門を開くつもりだった」
魔術師「こんな世界、直ぐに出るつもりだったわ」
魔術師「でも駄目ね」
魔術師「魔王娘も、魔族達も、仇敵である筈の私を受け入れた」
魔術師「元の世界で異端とされる私が、受け入れられてしまった……」
男「………」
魔術師「男……、私はこの世界に残るわ」
男「……そっか」
魔術師「以外と淡白な反応。まぁ、あなたらしいけど」
男「魔術師らしいと思ったからな」
魔術師「含みのある言い方ね」
男「他意は無いよ」
魔術師「………」
魔術師「本題に戻りましょう」
魔術師「私がこの世界に残るにしても、術式は完成させるわ」
魔術師「でもね、術式を完成させるには膨大な時間が必要だと分かったの」
男「時間、か。どのくらい掛かるんだ?」
魔術師「あらゆる事象が順風に進んだうえで」
魔術師「103年よ」
男「………」
魔術師「103年」
魔術師「魔術による加護も無いあなたが、通常生きていられる年月では無い」
男「そんな……」
魔術師「けど、あなたを生きて元の世界に戻す方法が二つある」
男「本当か!?」
魔術師「ええ」
魔術師「一つはあなたを封印し時を過ごすという方法。もう一つはあなたが魔族になるという方法よ」
魔術師「どちらも簡単に選べる事じゃ無いわ」
魔術師「だから、気持ちの整理ができたら私に言って」
魔術師「あなたの選択を」
―廊下―
魔王娘「あ、お兄さん」
男「……魔王娘」
魔王娘「!」
魔王娘「どうしたの!?顔真っ青じゃない!」
男「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ。少し横になれば直ぐ良くなるって」
魔王娘「大丈夫じゃなさそうだから心配してるんです!」
男「ごめん……」
魔王娘「お兄さんは直ぐに寝室に行って下さい。わたし、手拭いと水持って来ます!」
男「ああ、ありがとう」
男(こんな子供に心配させるなんて、何やってるんだよ、俺……)
―男私室―
魔王娘「ごめんなさい!」
魔王「わたし、気が動転して風邪の時の準備を……」
男「気にしなくて良いよ。それだけ心配してくれたんだもんな」
魔王娘「お兄さん……」
男「明日はちゃんと元気になるから、安心して」
魔王娘「本当?」
男「ああ、本当だ」
魔王娘「絶対ですよ?」
男「絶対元気になる」
魔王娘「……じゃあ」
魔王娘「本当に元気になるか確かめる為に、今日は添い寝します!」
男「」
男(結局押し切られて一緒に寝る事になってしまった)
男(魔術師には何て言おう……)
男(魔王娘も一体何考えてるんだ)
男(もう安らかな寝息立てて無防備に寝てるし)
男(……心配掛けてごめんな)
男(諦めてた事に希望が見えてたんだけどさ、それが見えなくなったんだ)
男(正直言うと辛いよ)
男(けど、お前が悲しそうにするのも辛い)
男(だから、明日からは元の俺に戻るよ)
男(おやすみ、魔王娘)
―朝―
魔術師「それで」
男「はい」
魔術師「なぜ二人が抱き合って寝ていたのでしょうか」
男「あはは……」
魔術師「笑って誤魔化さない!」
男「うっ……」
魔術師「良いですか、男。魔王娘は姫なのです」
魔術師「婚前に異性と一夜を共にするなど、あってはならないんですよ」
魔術師「それをあなたと言う人は……っ」
男「ま、待て。やましい事は誓って無いぞ」
魔術師「当たり前です」
男「それに魔王娘は俺を心配してくれただけなんだ」
男「昨日の話のあと、俺の顔色ひどく悪かったみたいでさ……」
魔術師「………」
魔術師「分かりました。この件は水に流しましょう」
魔術師「魔王娘には私から自重する様に伝えます」
男「ありがとう、魔術師」
魔術師「礼を言う事ではありません」
魔術師「それに、私も強く言い過ぎました……」
男「魔王娘を心配しての事だろ、仕方ないって」
魔術師「……そういう事にしておきます」
魔術師(らしくないな、私……)
―男私室―
男「なんか魔術師が何時もの調子じゃなかった」
男「やっぱり魔術師も昨日の事気にしてるんだろうな」
男「あーあ」
男「今日はどうしようか……」
男(俺はどうしたいんだろう……)
男(そりゃ帰れるなら帰りたいさ)
男(けど、俺が帰りたいのは戦士や神官、お姫様の居る世界なんだ)
男(みんなの居ない世界に戻っても、孤独だ)
男(でも……それでも自分が育った国で、世界なんだよな)
男(みんな元気にやってるかな……)
男(みんなに、会いたいな……)
男「はぁ……」
?「あ、あの……」
男「あ……」
魔王娘「ノックしても、返事がなかったから……」
男「ごめん、考え事してた」
魔王娘「調子悪いなら無理しないでね?」
男「ああ」
男「………」
男「なぁ?」
魔王娘「はい」
男「魔王娘はなんで、親の仇の俺を心配してくれるんだ?」
魔王娘「……お兄さんが希望だからです」
男「希望……?」
魔王娘「はい」
魔王娘「わたし、本当はあなたと刺し違えるか、自決するつもりでした」
魔王娘「でも、」
魔王娘「お兄さんはお姉さんから私を護ろうとしてくれた」
魔王娘「魔族達を説得して、枯れた大地に潤いを与えてくれた」
魔王娘「わたしを、ずっと護ってくれてた」
魔王娘「だからお兄さんはわたしの希望なんです」
魔王娘「わたしだけじゃない、きっとお兄さんは魔界の希望」
魔王娘「………」
魔王娘「わたしの……」
男「ありがとな」
魔王娘「あ……」
男「ありがとう」
魔王娘「はい……」
男(なんだ)
男(悩む事なんてなかったんだ)
魔王娘「お兄さん」
男「ん?」
魔王娘「ひげ、いたい……」
男「あ、悪い」
魔王娘「もう……」
魔王娘「あとちょっとだけですよ……?」
―数年後―
男「今年は麦が豊作だけど豆がいまいちだなぁ……」
魔族A「ええ、北側の土地は少し痩せてきた様ですね」
男「来年は土地を休ませる必要があるな……」
魔族B「その代わりと言ってはなんですが、湖の水質が大幅に改善されたと報告があります」
男「そりゃ有り難い。来年からは本格的に漁業ができるかもしれないぞ!」
魔族A「そうなれば、雇用の改善にも繋がりますね……、おや?」
魔王娘「男、お弁当持って来たよ!」
男「おお、助かる!ちょうど腹減ってたんだ」
魔族A「では休憩にしましょうか」
魔族B「ですな。では魔王様、後ほど」
男「ああ、分かった」
魔王娘「お仕事いいの?」
男「ああ、一段落付いてたからな。それより弁当、弁当」
魔王娘「うふふ。そんなにがっつかなくても、お弁当は逃げないよ」
男「それだけ空腹なんだよ」
魔王娘「もう。直ぐ用意するから!」
魔王娘「あ、せっかくだからお茶の準備もするね」
男「おう、頼む」
男(……なぁ、みんな)
男(俺はみんなの世界には帰れないけど)
男(魔界が二度と侵略なんてしなくて良い場所になる様頑張ってるよ)
男(力の弱い魔族達ばかりだからこその現状だけどさ、こんな状況が長く続く様に頑張る)
男(みんなの世界に行った強い魔族の事は気になるけど、戦士や神官達が居れば何とかできるって信じてるよ)
男(……戦士と神官、約束守れなくてごめんな)
男(何時か俺達の子孫が杯を交わす時が来ると良いよな……)
男(お姫様……どうか幸せになっていて下さい……)
男「ん……」
魔王娘「あ……ごめん男、起こしちゃった?」
男「いや、大丈夫」
魔王娘「考え事?」
男「まぁな」
男「怖い側近の目をどう掻い潜ってサボるか思案してた」
魔王娘「そんな事言ったら魔術師さん怒るよー?」
男「あいつには言うなよ?」
魔王娘「どうしよっかなー」
魔王娘「男が何処か連れて行ってくれるなら考えてあげる」
男「まじかー」
魔王娘「どうする?」
男「仕方ない、じゃ水が綺麗になったと噂の湖にでも行くか?」
魔王娘「うん!」
男「ところでさ」
魔王娘「なに?」
男「何時から俺を名前で呼ぶ様になったんだっけ」
魔王娘「えへへ、秘密」
男「えー」
男「あ、でもたまには前みたいにお兄さんて呼んでくれよ」
魔王娘「今さら恥ずかしよ……」
男「二人きりの時くらいはさ……」
魔王娘「昔の話じゃない、そんなの……」
おしまい
※ここから別作品(別の人の投下)となります。
民衆「陛下! 女王陛下万歳!」
臣下「……なき先王のご遺志を引き継がれ、非道なる魔王を暗殺、さらには残党軍との決戦を制された……陛下は英雄ですな」
女王「……英雄は私ではない」
臣下「勇者殿……でありますか?」
女王「彼こそが真の……」
臣下「愛国者、でありましたな。 しかし決戦で行方しれずになってからかれこれ10年……」
女王「……生きている、などとは申しておらぬ」
臣下「左様でございますか……ならばこそ、民草は勇者殿を神格化し、陛下を導き手たる英雄と見たのでございましょう」
女王「……」
臣下「しかし、不思議な縁ですな? 外をごらん下され」
女王「モニュメントか?」
臣下「世界大戦記念碑……勇者殿の名前はあそこに最初に刻まれておりますからな」
女王「ふんっ」
臣下「時に陛下……」
女王「また婚儀の話か?」
臣下「これはこれは……」
女王「断る、余は……私はこの国の妻なのだから」
臣下「この国……なるほど、しかし、ご世継の争いで内乱となってはこの若輩……魔王軍との戦いで臥した戦友に顔向けできませぬ」
女王「……」
臣下「どうぞお考えください、これは、勇者殿……いえ、勇者の遺志よ」
女王「っ!!」
臣下「決戦に先立ち、軍主導の暗殺作戦で魔王を廃すこと自体は成功したけど払った犠牲は小さくなかった」
女王「貴様もその一人であったな」
臣下「片足一本ですんだのだからむしろ運がよかったというべきだわ」
女王「そうだな……」
臣下「だけど、決戦には参加できずに……戦勝と勇者行方不明の知らせだけを病室のベッドで聞かされたわ」
女王「私……余も似たようなものだ従軍を希望したが却下された」
臣下「しかし、陛下は私よりよっぽど勇者の最後に詳しいわ」
女王「父王から聞かされたのだ……敵の反攻で中央が突破され、瓦解しかけた軍主力を再編する時間を稼ぐ為に……」
臣下「唯一の渡河地点であったクリン橋を爆破……その際に自らも行方不明となる」
女王「まったく、やつらしくも無い最後じゃ」
臣下「まったくだわ。 小さい頃からおどおどして、陛下と一緒に私の後をついて回っていたのに……」
女王「沿岸警備隊も作戦に参加した陸・空軍の将兵も戦後、遺体を捜索したが結局発見されなんだ」
臣下「必要爆薬量の約5倍。 クリンの大橋が吹き飛ぶほどの爆発には敵もたいそう驚いたでしょう」
女王「……奴は気弱な上に悪戯者であったからな」
臣下「陛下とよく私や同僚に悪戯を仕掛けてきたわね」
女王「……久しいな、この感覚」
臣下「……陛下、勇者といえば……」
女王「約束か……?」
臣下「ええ、『大きくなったら』」
女王「『お嫁さんにしてあげる』 か、結局、どちらを……とは最後までいわなんだ」
臣下「陛下……」
10年前……
魔王軍総司令部
臣下「派手な泣き声が聞こえるわ……恐らく女中」
勇者「なら、巣はここで当たりだろう。その下品なドアごと吹っ飛ばしてやる」
臣下「……全室検査してる時間はなさそうね」
勇者「歴史に名を残す準備は?」
臣下「いつでも」
勇者「突入(ブリーチ)!」
BOM!!
勇者「遂に追い詰めたぞクソ野郎がっ!」TOTOTOTOTOTONK!
臣下「クリア!」SHCOCOCOCOCO
勇者「死体を確認! 奥のベッドだ!」
臣下「ええ……っ、これは……」
勇者「こいつが……魔王?」
臣下「……間違いないわ。 それにしても、子供、それも姫様と同じくらいの年齢? 魔王の正確な正体は掴めていなかったけど、なるほどね」
勇者「デムッ! 冗談じゃないっ! 俺たちはこんな子供を! 女の子を……助けを求めて泣き叫ぶほど追い詰めて殺したってのかよっ!!」
臣下「落ち着きなさいっ! 大丈夫……大丈夫よ? 彼女は人類の天敵で、あなたは正しいことをしたわ……」
勇者「あぁ……デムッ……クソッタレ……」
臣下「部屋の状況を見るに必死に隠れていたんでしょうが、戦闘音が近づいてくるのが怖くて隠れ場所を移そうとして……」
勇者「やめてくれ……あぁ、畜生」
臣下「すぐ前に私たちが居ることに気がついて、踏み込んで来た時に命乞いでもするつもりだったのかもしれないわ、だけど、扉が爆破された」
勇者「……」
臣下「だから何だって言うの? あなたは勇者にしかできない、偉大なことを成し遂げたのよ」
勇者「……」
臣下「死体を置いて立ちなさい! 作戦は今だ継続中なのよ? 滑走路を失えば投入された仲間達全員がここで死ぬことになる!」
勇者「……あぁ、わかったよ……とにかく滑走路の連中に連絡を……」
PAPAPAN
臣下「えっ……あっ、っぅぅぅ!!!」
勇者「臣下っ!?」 TOTOTOTONK
臣下「大丈夫、大丈夫よ……右足が動かないけど……」
勇者「最悪、何もかもが最悪だ……」
女王「……下! 臣下!」
臣下「はっ、失礼、少しボーとしていたわ」
女王「そのようじゃ、今日は夏日よの」
臣下「いや、お恥ずかしいところをお見せいたしました」
女王「城に着くまでは先ほどまでのように……そうな、昔のように喋ればよい。 アタシもその方が楽だし」
臣下「そうね、ではそうさせてもらうわ」
女王「ふふっ、で、どこまで話したかな?」
臣下「……お嫁さんにしてあげるのあたり」
女王「うん、そうだった。 でさでさ、結局、臣下はアイツとどこまでいったわけ?」
臣下「聞きたい?」
女王「あー、パス。 全部聞いたらアンタを磔刑に処しそうだわ」
臣下「どうしてそうなるのよ……」
女王「じょーだん、じょーだんだってば」
臣下「もう、本当に? 信じられないわ」
女王「さっきの話じゃないけどアンタだって英雄の一人で名誉勲章の受勲者なのよ? それをこんな下らない理由で処刑してみなよ?」
臣下「くだらないの?」
女王「アタシから言わせてもらえば百回殺しても足りないくらい?」
臣下「ふふっ、懐かしいわね。 こういう会話」
女王「父上の崩御、戦後処理、戦災復興、各軍の再編にえとせとらえとせとら……アンタと合う時間も取れなかったから、どう、最近変わりない?」
臣下「まったく……ね。 変わったことといえば、下の娘が更に可愛くなったかしら」
女王「はぁっ? 知らないわよ、そんなの……と、言いたいところだけど見に行きたいなぁ……」
臣下「昔みたいに抜け出して会いに来ようとしないでよ? おてんばお姫様じゃすまないんだから」
女王「懐かしいなぁ……ねぇ……アイツ、変わりない?」
臣下「ええ」
女王・臣下「……」
臣下「会いたい?」
女王「やめとく。 あったら多分、我慢できない」
臣下「それが賢明ね。 たぶん何かあったら、あなたを許さない」
女王「こわっ!」
臣下「そろそろ、お城に着くわね」
女王「えー、もう? まぁ、いいや アイツによろしく伝えといてよ」
臣下「ええ、恋するお姫様?」
女王「やめてよ……昔の話じゃない、そんなの……」
臣下「そう……ね」
女王「……むふっ、アンタ感謝してよ? アタシがもう諦めてなかったら確実に寝取ってやってるんだからね?」
臣下「うわっ、ムカつく。 こちとら特殊部隊あがりよ?」
女王「ははっ、今日は楽しかったわ じゃ、またね」
臣下「ええ、また……」
部下「陛下、今何か話し声が?」
女王「気のせいであろう。 ま、余が夢を見ていたのかも知れぬがな」
部下「夢?」
女王「懐かしき……懐かしき友の夢であった」
部下「?」
女王「思えば今日は奴の命日……顔を見せに来てくれたのかも知れぬ」
部下「はぁ?」
女王「もうよい、下がれ」
部下「はっ」
女王「臣下は結局、感染症であっけなく逝ったのであったな……」
女王「あやつめ、あの世で中睦まじくしていると自慢しに出てきたのかも知れぬがそうはさせぬぞ」
女王「まっておれ……まってなさいよ、勇者……」
――――
臣下「離れなさい、二人とも! 離れて!」
勇者「え、あの……その……」
お姫様「やーよ、ふふっ、勇者だってあたしと一緒にいたいわよね?」
臣下「もうっ、しらないんだからっ!」
勇者「あっ……」
お姫様「あーらら、『子供』ほっぽりだしてどこに行くんだか」
勇者「姫様……あのさ……」
お姫様「ん?」
勇者「約束、覚えてる?」
お姫様『ふふっ、なぁに、止めてよね? 昔の話じゃない? そんなの……』
fin
微妙…