1 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 01:51:18.15 PzEGEYLTP 1/126

新年。

元日、である。

紅白やらを観ながら年を越す……。

いや。

俺は寝たい。

だから、新年は寝て越そう。

そう思っていた。

元スレ
女「君と新年を祝えるのはとても嬉しいよ」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1293814278/

3 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 01:54:14.43 PzEGEYLTP 2/126

「そろそろ寝るか」

時間は12月31日11時。

とりあえず、もうそろそろ新年である。

今年はいろいろあったなぁ、と思いつつ。

「妹、寝るわ」

「え? 寝ちゃうの?」

「おう、あけおメールとかめんどくさいから俺は寝る」

「……メール来るの?」

ちょっと怪しい質問である。


4 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 01:58:18.85 PzEGEYLTP 3/126

「く、来るはずだ」

「なら、いいけど」

妹は煎餅を食いながら。

「あ、お年玉くれる?」

「甘ったれるな」

俺はそう言って、居間から出て行った。

5 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:03:37.80 PzEGEYLTP 4/126

可愛い妹に恵みを~という声を聞こえながらも俺は階段を上って行った。

「ふわぁぁ……」

そろそろ今年も終わり。

来年の目標は……むぅ。

『あいつより優位に立つ』

……いや、なんか違うな。

6 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:06:41.74 PzEGEYLTP 5/126

とりあえず俺は。

ベッドに倒れこむ。

「ぎゃっ」

「!?」

なんか、声が聞こえた。

「ふぅ……いきなり大胆だね」

「ええええええええええええええええ!?」

「年末に大声を出さないでくれ」

いやいやいやいや。不法侵入だろう。

9 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:10:51.96 PzEGEYLTP 6/126

「お前、どうやってきた!?」

「ん? 家で普通に着替えてきたけれど」

「着た、じゃねえ!」

どうやって来たんだ、ってことだ。

「普通に玄関から、入ったけれど」

知らないぞ、俺。

10 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:14:10.59 PzEGEYLTP 7/126

……あ。

俺がコンビニに行った時か?

「……何時くらいに?」

「ベッドを触ればわかると思うよ」

触ってみる。

めっちゃ暖かい。

うわあ、マジかよ。

こいつ何時間もここにいたのか。

11 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:17:18.97 PzEGEYLTP 8/126

「君のにおいに包まれていたせいか、ボクは今ドキドキドキドキギトギトだよ」

なんか最後汚いな。

「今にもいじってしまいそうだ」

どこをだ。

「それで、何しに来た」

「君はいつもそう言うね」

意味もなく来ちゃ悪いのかい、と。

少し怒を表している。

12 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:20:52.13 PzEGEYLTP 9/126

「君と新年を迎えようと思って」

「ふぅん」

「反応が薄いね」

別に。

そんなことだろうと思ったから。

「……じゃあ普通に言えばいいじゃないか」

「言っても同じ反応だろう? それに、君は寝て越すだろうと思ったから」

だから待機していた、ってことか。

13 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:25:59.17 PzEGEYLTP 10/126

「でもずっと来ないから、寂しかったなぁ」

なんだその笑顔は。

「悪かったな」

「でも、今こうして会えたから、ボクは嬉しいよ」

「……」

「ボクの予想に狂いはなかった」

15 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:29:29.89 PzEGEYLTP 11/126

「そうだな」

寝て越そうと考えていたのもあるけれど。

俺は眠い。

「すまんが、俺は寝る」

「そうか」

そう言って。

俺のベッドの端に寄る。

「……なんだよ」

「添い寝だよ」

16 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:36:14.33 PzEGEYLTP 12/126

「朝起きてお前の顔は見たくない」

「ひどいことを言うね……」

「悪いけど、帰れ」

「補導されてしまうよ」

「お前は一度された方がいいと思う」

「酷いいいようだね……」

でも、微笑んでやがる。

17 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:40:10.67 PzEGEYLTP 13/126

「わかった」

「え?」

「帰るよ、お休み」

「そ、そうか」

意外だった。

正直、帰らないと思っていたから。

「じゃあね。良いお年を」

「おう」

21 : >>19 今度やります。[] - 2011/01/01 02:44:20.25 PzEGEYLTP 14/126

やつはどうやら本当に帰ったらしい。

トイレに立てこもることもなく。

……いや、そんなことするやつじゃないけど。

それじゃあ寝るかな。

自分、良いお年を。







25 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 02:57:24.72 PzEGEYLTP 15/126

「明けましておめでとうなんだよ!」

「なんだよその不人気になりそうな口調は……」

「ファンに怒られちゃうよ」

ああ、俺もそう思った。

「まぁまぁ今日はテンションあげて行きましょう!」

「年始早々、騒々しい奴だ」

「ふふっ、良いダジャレだね」

意識はしてなかった。

……本当だ。

27 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:03:15.46 PzEGEYLTP 16/126

ここでいきなりのインターホン。

「むむ? 新年早々、インターホンが騒々しい!」

「やめろ、恥ずかしい」

「ごめんねー。ちょっと出てくるよ~」

「頼んだ」

まったく。

兄を慕わない妹だ。

28 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:06:02.46 PzEGEYLTP 17/126

「あ、女さん! 今出ますねー」

妹の声が漏れている。

でかい声だ。

テンションのせいかな。

それにしても、あいつか。

「新年明けましておめでとうございまーす」

声でけえって。

「……うわああ!!!」

どうした!?

30 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:19:36.12 PzEGEYLTP 18/126

「ちょ、ちょっと! ベイビー!」

「なんだその呼び方は」

こいつ、一度もちゃんと俺のことを『兄』と呼んだことがない。

「いいから来て!」

「ったく……一体なんだ……よ?」

「あ、おはよう」

「……お、おう」

そこには。

振袖姿の、やつがいた。

31 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:26:11.54 PzEGEYLTP 19/126

「どうかな?」

ニッコリと、笑う。

「えっと……」

妹、なにニヤニヤしてんだ。

「……明けましておめでとう」

「うん、明けましておめでとう」

妹、なにガクッとしてんだ。

32 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:34:11.10 PzEGEYLTP 20/126

「ふふ……」

ニッコリと笑ってる。

「私も着たいなぁ……フリスク」

なんか違うぞ。

「それは服用するものだよ」

……あれ? 微妙にかかってるのか、これ。

服用するもの……か?



33 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:38:41.06 PzEGEYLTP 21/126

「お前も新年早々……」

「騒々しいかい?」

……。

「まさかこんなところで初ダジャレを言ってしまうとは……ふふ」

なんか一人でウケてる。

「で、何しに来た?」

「もちろん、初詣に決まっているだろう?」

34 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 03:52:01.79 PzEGEYLTP 22/126

まあ。

そうだろうと思ったけど。

「暇かな?」

「暇じゃない日の方が少ないくらいだ」

「そうか」

「いいなぁ!」

「お前もついてくればいいじゃねえか」

別にお前も、用事ないだろ。

俺よりはありそうだけど。

36 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 04:12:59.51 PzEGEYLTP 23/126

「いやいや、私はとてもとても!」

「?」

へんなやつ。

「私はおせち料理作って待ってマックス!」

「そうか」

どうやら、待ってるらしい。

なるほどな。

次回のためのアピールか。

「それじゃあ、早速イかないか?」

どこにだよ。

新年早々下ネタか。

56 : 私です。[] - 2011/01/01 13:24:05.40 PzEGEYLTP 24/126

「初詣に、行く」

「うん」

とりあえず、ちゃんと言っておいた。

「その服でいいのかい?」

「何か悪いのか?」

「うーん……寒くないかい?」

よく見ると。

俺の下はパンツだけだった。

妹め。

注意しろよ。

57 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 13:26:16.19 PzEGEYLTP 25/126

やけにスースーすると思ったら。

「す、すまん」

「ふふ、眼福だよ」

新年明けても、こいつは変わらないな。

「着替えてくる」

「もう少し待ってくれ」

なんでだ。

「目に焼きつけるから」

すぐに俺は部屋に走った。

58 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 13:30:41.20 PzEGEYLTP 26/126

「ったく……」

あいつはやはり変態だ。

「少しはこっちのことくらい考えろ……ん?」

確認すると。

「……わお」

息子は立っていたりして。

59 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 13:32:41.74 PzEGEYLTP 27/126

待て待て待て。

いつから?

When?

おい、これは結構まずいぞ。

「……あ」

思い当たる場面があった。

しかし。

認めたくない。

60 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 13:37:48.15 PzEGEYLTP 28/126

相当張ってやがる。

眼福……か。

畜生。

普通わかるのに。

こんな恥ずかしいことをしてしまうとは。

「……まあ」

気にしなくてもいいだろう。

とりあえず、着替えよう。

61 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 13:50:25.46 PzEGEYLTP 29/126

「待たせたな」

「股競ったな?」

どんな競技だ。

「ふふ、それじゃあ行こうか」

「おう」

よかった。

パンツの話にならなかった。

62 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 14:05:39.94 PzEGEYLTP 30/126

「クリスマスといいお前は服装がころころ変わるな」

「そうかい? 行事だからだよ」

「そうだな」

でも、俺はどっちも何も着てなかったな。

……いや、服は着てたけど。

「ボクは君のサンタさん、見たかったなぁ」

「来年にでも期待しとけ」

……ってあれ?

こいつ、なんで下半身見てるんだ?

64 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 14:13:27.71 PzEGEYLTP 31/126

ああ。

そっちのサンタか。

「ふふ、来年か……遠いね」

ここは。

スルーだな。

「この近くに初詣できる場所あったか?」

「神社があるよ」

「そうか」

「手、握っていい?」

いきなりだな。

67 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 14:19:32.57 PzEGEYLTP 32/126

「なんで?」

「握りたいから」

「……」

恥ずかしい。

「駄目かな?」

「いや、別に」

切実に恥ずかしい!

68 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 15:06:21.30 PzEGEYLTP 33/126

「……どうしたんだい?」

やつは俺を下から覗くように見る。

「ふふっ、恥ずかしい?」

バレているようだ。

「ボクだって、恥ずかしい」

でもね、と。

俺の手を掴んで、無理やり握る。

「恥ずかしさ以上に、嬉しいんだ」

72 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 18:08:33.48 PzEGEYLTP 34/126

俺は。

やつの小さい手を離さないように、強く握る。

「強いね」

嬉しそうである。

まあ。

悪くない。

75 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:23:26.69 PzEGEYLTP 35/126

「おせち料理は、ボクもいただいていいのかな?」

「いいんじゃないか?」

どうせ俺と妹じゃ食えないだろうし。

「そうか、ありがとう」

……帰ればおせちが待ってるのか。

新年、初よだれ。

77 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:27:15.42 PzEGEYLTP 36/126

「ふふ、食欲が口に出てるよ」

「ふんっ」

「想像力豊かだね」

そうなるな。

「さっさと初詣に行って、家に帰りたいぜ」

「ボクはいやだな」

Why?

78 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:29:07.62 PzEGEYLTP 37/126

「お前……嫌いなのか!?」

好き嫌いはよくないぜ!

俺は大好きです!

というか、たいていのものは大好きです!

といいつつ、子供舌です!

「ボクは……君と一緒にいたいから」

79 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:43:11.16 PzEGEYLTP 38/126

「……」

「あ、えっと……こんな理由じゃ、駄目なのかな?」

「いや」

なんだろう。

この……ときめき……か?

うん。

今すぐに抱きしめたくなったというか、なんというか。

80 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:47:17.74 PzEGEYLTP 39/126

「は、早く行こう」

恥ずかしがりながら、少し歩みを早めるやつ。

でも。

「っ……」

俺たちは手を握っている。

「ゆっくり、行こうぜ」

笑って、やつを見る。

「ふふっ、意地悪だね」

82 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:50:46.96 PzEGEYLTP 40/126

「お、おう……」

「?」

なんなんだ。

今日のこいつ。

なんか、綺麗だ。

それに。

歩いてから、全然話が盛り上がらない。

83 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 19:58:02.28 PzEGEYLTP 41/126

「今日は良い天気だね」

「!? あ、ああ……」

「ちょっと前のクリスマスとは大違いだね」

「そ、そうだな」

まずいまずい。

なんか話ができないぞ。

84 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 20:04:55.11 PzEGEYLTP 42/126

「昨日は、勝手に部屋に入って、ごめんね」

「あ!? え、気にしてない気にしてない!」

「そうだったのかい? なら、良かった」

ニッコリと笑うだけで。

ドキドキしてる。

「ん……」

「ど、どうした?」

「ちょっと……手、強すぎるかな」

苦笑いしている。

85 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/01 20:14:25.46 PzEGEYLTP 43/126

なんか、俺汗凄いんだけど。

「? 汗凄いよ?」

「ああ、大丈夫だ」

「ボクが厚着をすすめたからかな?」

「いや、そんなことないよ」

さすがにパンツ一丁は無理だったし。

「……よいしょっと」

「!!」

やつは。

俺の汗を、手持ちのハンカチで拭った。

「大丈夫?」

やばい、死にそう。

101 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:06:25.33 /HMuQpVHP 44/126

「なんか、顔赤いよ?」

なんだ。

なんなんだ!?

頼むから。

下ネタを言え。

下ネタを言って、俺を呆れさせてくれ。

「熱は……」

おでこを当てるなぁぁぁぁぁ!!!

102 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:11:42.03 /HMuQpVHP 45/126

「や、やめろ!」

「あっ……ごめん」

謝り方まで。

やつは可憐だった。

「今日は、酷いことしてばっかりだね。新しい年なのに……」

シュンとなるやつ。

やばい、なんでこんなにドキドキしてるんだ!?

103 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:13:53.59 /HMuQpVHP 46/126

「いや、あの……だな」

このままでは。

思春期真っ盛りボーイなんてあだ名がついちまう。

「?」

「……なんでもない」

可愛い。

一言、今日のこいつは。

可愛い。

105 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:16:44.81 /HMuQpVHP 47/126

「ふふ、おかしい」

「え?」

「なんだか、今日の君は、おかしい」

いや。

お前に言われたくない。

「そうでもねえよ」

「寝起きだからかな? ふふっ」

106 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:20:00.45 /HMuQpVHP 48/126

「……」

ああ、もう。

結局、こいつにはやられっぱなしだ。

「でも、もうすこし話をしてくれないと、悲しいかな」

「……すまん」

「謝ることじゃないよ。全然」

その言葉のやつは。

どこか、寂しげだった。

108 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:26:18.46 /HMuQpVHP 49/126

「……くそ」

調子が狂う。

いつも狂わされてるけど。

今日のは全然違うぞ。

「あ」

「!?」

「人が増えてきたね」

そうか、もう神社の近くなのか。

109 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:30:22.22 /HMuQpVHP 50/126

「離れないように」

やつの手の力が強くなる。

「ギュッと、握っててね」

ダメだ。

今日のこいつは。

俺の中で一番デレデレしてやがる。

なんだろう。

こいつはツンデレではないけど。

あえて言うなら、シモデレって感じ。

110 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:42:10.68 /HMuQpVHP 51/126

「本当に増えてきたな」

「大分混んでるね」

こりゃあ本当に離れちまうかも……?

「おっと……」

「凄いな……」

「うん、困ったね」

とりあえず、参拝はしたい。

111 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 01:54:44.89 /HMuQpVHP 52/126

「振袖は動きづらいなぁ」

「大丈夫か?」

「うん、平気……あっ」

「!」

よろけたやつを、俺が助ける。

「あっ……」

「……」

凄い密着。

「だ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

胸の鼓動が、太鼓の達人の鬼みたいだ。

148 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 18:50:17.41 /HMuQpVHP 53/126

「怪我するなよ」

「君のおかげで大丈夫だったよ、ありがとう」

「お……おう」

「手だけじゃ不安だね」

「そ、そうか?」

「だから……腕……いい?」

俺はどうしたらいい?

149 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 18:53:44.79 /HMuQpVHP 54/126

「い、いいぞ」

「ありがとう」

こんなことが。

俺に起きていいのか!?

リア充という言葉は。

俺にはきっと来ないと思っていたのに。

どうなっていやがる。

150 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 18:57:50.03 /HMuQpVHP 55/126

「ふふっ」

「どうした?」

「初日から、腕を組めるなんて」

幸先がいい、と。

ニッコリと笑う。

三次元に使えるとは思わなかったが。

俺、萌えてる。

悶えてる。

152 : >>151 自分で恥ずかしくなっ... - 2011/01/02 19:26:35.10 /HMuQpVHP 56/126

「お、お前今日おかしい」

聞いてみるしかない。

「え?」

「な、なんか、変だぞ」

「変かな?」

なんでここで。

戸惑った顔をする。

いつものお前なら。

笑ってるはずだ。

154 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 19:34:37.11 /HMuQpVHP 57/126

犯しいかい? とか。

言ってくるはずなんだ。

「ごめん、いやだった?」

うわああああああああああああ。

誰だよこいつ。

こんな可愛いやつ、知らないぞ!?

……あれ?

これでいいのか?

156 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 19:50:12.16 /HMuQpVHP 58/126

「ボクのこと、嫌いになった?」

可愛い。

こんなこと言われたら。

普通うざいんだけど。

凄く、可愛い。

ごめん、今回は。

なんかキモいことばかり言ってる気がする。

157 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 20:00:24.01 /HMuQpVHP 59/126

「あー……全然、そんなことない」

「そっか、良かった」

不安そうな顔から、安心した顔に。

「ボク、君に嫌われたら……」

うう。

守ってあげたいオーラが。

出てやがる。

158 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 20:13:54.98 /HMuQpVHP 60/126

俺はどうすればいい?

この不思議な気持ちを。

大きな海に投げ捨てればいいのか。

高い山の山頂で置き忘れを装えばいいのか。

そんなことは、するだけ無駄だろう。

恥ずかしいのに。

今のやつになら。

普通に、優しい接し方ができそうだ。

159 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 20:26:55.53 /HMuQpVHP 61/126

「やっと辿り着いた……」

「さ、お願いをしよう。」

そして。

願い事を、念じた。

「……」

「……」

このときは、俺もやつも沈黙だった。

163 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 21:53:37.78 /HMuQpVHP 62/126

「……よし」

「うん」

「とりあえず、おみくじもするか」

「そうだね」

これで今年の運勢を占う。

さて、どうかな。

164 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 22:20:28.85 /HMuQpVHP 63/126

「……」

「……」

お、おう……。

大凶、である。

「……お、おい」

「ん? ……あ、大凶のようだね」

「お、おう」

ふふふっと。

笑う。

166 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 22:57:31.37 /HMuQpVHP 64/126

「なんだよ」

何笑ってるんだ?

「いやあ……はははっ」

やつは自分のおみくじを見せる。

「ボクも、大凶だ」

まさかのまさかである。

167 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:01:42.96 /HMuQpVHP 65/126

「ふふっ、一緒だね」

「そうだな」

「嬉しくない?」

「いや」

今の俺なら、言える。

「嬉しいよ」

「ふふっ、そうか」

ああ……気持ち悪い。

自分が自分じゃないみたいだ。

168 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:06:27.86 /HMuQpVHP 66/126

「じゃあ、結ぼうか」

「おう」

「ボクたちの、縁をね」

ああ、そうだな。

「おう」

「利き手と逆の手でね」

もちろん。

169 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:12:08.61 /HMuQpVHP 67/126

「ここ空いてるな……よしっ」

結構高いところだけど、まあいいか。

「……」

「どうした? あそこ空いてるぞ」

「……」

「そこはお前じゃ無理だ」

「君と、一緒の、とこがいい」

背伸びして、頑張ってる。

171 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:18:38.64 /HMuQpVHP 68/126

「……」

「おっと、手助けは無用! ボクがやるんだ」

「あんまり無茶するなよ」

「うん」

背伸びをして、ヨロリヨロリとしている。

危なっかしいなぁ。

172 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:23:05.64 /HMuQpVHP 69/126

振袖姿で。

一生懸命だ。

「……見てられん」

「うう……」

でも。

俺はもう少しだけ待ってみる。

175 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:27:58.57 /HMuQpVHP 70/126

そして。

「……助けて」

「……おい」

やっとか。

2時間経ってるぞ。

「どうすりゃいい?」

「肩車してくれないか?」

……お前。

振袖でそれは……お前……。

176 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:31:52.53 /HMuQpVHP 71/126

俺は即座に、やつのおみくじを奪った。

「!」

そして、結ぼうとする。

「だ、ダメ!」

「ええい、肩車なんてできるか!」

俺が結んだほうが一番楽だ!

「お願い、やめて……」

俺の手は、停止した。

178 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:40:49.24 /HMuQpVHP 72/126

……今日のやつは。

愛しい。

「わかったよ……ただし、おんぶだ!」

「うんっ」

元気にスマイル。

ああ、可愛いっ、可愛いっ!

179 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/02 23:48:25.74 /HMuQpVHP 73/126

落ち着け、落ち着くんだボーイ。

「お、落とさないでね?」

もちろんですとも!

「ほら、どうだ?」

「うん、良い感じ……よいしょ」

人は、結構少なくなっていた。

「うん、できた」

216 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/03 21:13:05.64 P8zCRkKZP 74/126

「よし、降ろすぞ」

「うん、ありがとう」

ふう。

空いたベンチに座る。

「はぁ……」

「ごめんね、長く待たせて」

217 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/03 21:16:51.48 P8zCRkKZP 75/126

「ああ、いいよ」

「本当に?」

「今日のお前……なんか、可愛いから」

「え?」

「いや、普通に」

正直に、気持ちを言えることができるようになってる。

221 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/03 21:23:40.34 P8zCRkKZP 76/126

「可愛い……?」

「お、おう」

「そうか……ふむ」

なぜか、訝しげにしている。

「どうしたんだ?」

「なるほど……ね」

いやな笑み。

222 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/01/03 21:25:39.81 P8zCRkKZP 77/126

「君は、ああいう女の子が好きなんだね」

「ど、どういう……」

「ふふっ」

そう言って。

「ごめんね、ボクは君を騙していた」

「え?」

「ふふっ、可愛いって言ってくれてありがとう」

225 : >>224 そうですね、次のレス... - 2011/01/03 21:36:05.32 P8zCRkKZP 78/126

「……?」

「ふふっ、相当驚いてるね」

「ど、どういうことだ……?」

「だから」

顔を近づける。

「ボクの異変には、気づいていただろう?」

「ま、まあ……」

なんか、可愛いっつーか、なんつーか。

226 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 21:39:14.37 P8zCRkKZP 79/126

「だから、それはボクの演技だ」

「」

そんな。

そんなバカな。

あの赤面も。

あの毒気のない笑顔も。

全部!?

228 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 21:50:18.03 P8zCRkKZP 80/126

「君の好みは優しい女の子なんだね」

「……」

まんまと俺は。

騙されてしまったようだ。

「ふふ、いつもだったら怒るところも、全部許してくれたしね」

死にたい。

自分が憎いぞぉ。

229 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 21:59:23.33 P8zCRkKZP 81/126

「はぁ……」

じゃあ、あのやつは。

嘘だったのか。

「不幸だ……」

「新年早々、幻想をぶち殺されちゃったね」

本当に不幸だ。

231 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 22:03:45.45 P8zCRkKZP 82/126

「ん? どうしたんだい?」

「落ち着け……落ち着け……」

「お、ちつ、け?」

ああああ。

いつものやつだ。

戻ってる。

下ネタが戻ってる。

「ふう、やっとハメを外せるよ」

232 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 22:16:12.77 P8zCRkKZP 83/126

「帰る」

「孵るのかい?」

卵からか!?

「悪いが俺は新年早々嫌な思いをした。帰ります」

「そうか」

そう言って。ベンチを立ち。

トコトコと歩く。

「……」

ついてくる。

233 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 22:21:27.54 P8zCRkKZP 84/126

「ついてくるなよ」

「ボクも同じ方向のところに用があるからね」

「そうかよ」

ちょっと速く走る。

「あっ、待って」

「なんでだよ」

「振袖は走れないから」

俺は走った。

234 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 22:30:23.57 P8zCRkKZP 85/126

「ふぅ……」

結局、置いてきてしまった。

まあ、これくらいしないと。

俺の怒りは収まらん。

……ちょっと、悪いことしたかな。

「ただいま」

「おかえ……り?」

「疑問形はなんだ」

頭にとんでもないハテナが見える。

238 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:08:32.97 P8zCRkKZP 86/126

「女さんは?」

「ああ」

あいつは。

「置いて帰って来た」

「じゃあ、家には入れません、出てって~」

「なんでだよ!?」

押すな!

239 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:12:20.03 P8zCRkKZP 87/126

「おせち料理は三人分用意しました」

「俺が食う」

「突然ですが、問題です」

「あん?」

「私はおせち料理を作り、何時間待っていたでしょうか」

……。

「俺が悪かった!!」

240 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:16:20.27 P8zCRkKZP 88/126

「謝るならまず行動で表しましょう。GO!」

「くぅ!」

俺は走った。

どこだ……どこにいる!?

「あ」

「!」

突然角にあらわれたやつと。

ぶつかる。

242 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:19:40.45 P8zCRkKZP 89/126

「のわっ」

「……んん」

ぶつかった後。

俺は、やつの。

谷間の無い胸に。

顔をうずめていた。

いや、ぶつかったが正しい表現か。

ちょっと痛かったし。

247 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:31:11.35 P8zCRkKZP 90/126

「ふむ……こんなラッキースケベを君が持っているとは」

どういうことだ。

こんな鉄板みたいな胸のどこが……。

あ。

なんか、尻触ってる。

「わ、悪い!」

「ふふ、初めて触られたよ」

俺も初めて触った。

248 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/03 23:36:33.07 P8zCRkKZP 91/126

「大丈夫か?」

「うん。お尻は大丈夫」

尻以外は痛いのかよ。

「胸が痛んだよ、二つの意味で」

「そうかい」

これで、家に入れる。

「おせち料理、よばれてもいいんだよね?」

「おう」

そうしないと中に入れない。

255 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:28:16.67 tdWaLjxDP 92/126

「ふふ、妹くんが作ったものだから、楽しみだ」

「なんだよ、俺が作ったのはダメなのか?」

「君は作る必要が無いから、いいのさ」

「は?」

「ボクが作るからね」

夫婦か。

256 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:31:34.30 tdWaLjxDP 93/126

「ただいま」

「はや!」

「ふふっ、迷惑をかけたね」

「全然いいですよ!」

態度変えやがって。

「む、妹くん、『全然』の使い方がなっていないよ」

「あううっ、女さんに指摘されちゃった!」

「妹くん、指で摘まむとは……」

「ああ、もういいからいいから」

変なことを言うのはやめろ。

257 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:36:18.08 tdWaLjxDP 94/126

関係無いけど。

俺が一番気になるのは。

妹の『あううっ』である。

「とりあえず、妹が腕によりをかけて作ったおせちを頼む」

「あ、わかったー」

スタコラと、台所に行った。

その間に家にあがる。

「ねえ、腕にナニをかけるんだい?」

「縒だ」

ナニじゃねえよ。

260 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:46:12.20 tdWaLjxDP 95/126

「おまたせしました~」

「おまん……」

「う、うまそーーー!!」

あぶねぇ、なんか変なこと言いそうだったぞ。

「感想を言わせてくれよ」

「お前確実に違っただろうが!」

「ちょっと! うるさい!」

俺に言ってるのか!?

261 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:49:41.77 tdWaLjxDP 96/126

「見た目も綺麗……それに、かまぼこのピンクとか」

「これは紅白を表してるんだ」

「知ってるよ。ボクはおま……」

「さっさと食おうぜ!」

お腹空いたけど、そろそろ疲れてきた。

「もう! 女さんがなにか言おうとしてるのにうるさいなぁ!」

「うるさい! あとでお年玉やるから!」

「……じゃあ、食べましょう」

切り替えが早かった。

262 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:52:38.30 tdWaLjxDP 97/126

くそ、現金な妹め。

ん、何笑ってやがる。

「いやぁ……面白いね」

「あ、笑ってくれてる!」

妹よ、俺とやつへの反応の違いはなんだ。

「……いただきます」

「いただきます!」

「いただきます……あっ」

やつが箸をこぼした。

264 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 01:57:34.62 tdWaLjxDP 98/126

俺の、近くに。

「ごめん、ごめん」

そう言って。

俺の股間に手を持っていく。

「あからさま過ぎるだろ!?」

「え?」

すでに手はなく。

やつは箸を持っていた。

265 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 02:03:03.76 tdWaLjxDP 99/126

「?」

キョトンとしつつ。

俺には見える。

やつの禍々しいオーラが。

小悪魔な笑みが。

「ふ、二人とも見つめあって……きゃっ」

うざい妹である。

266 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 02:05:54.55 tdWaLjxDP 100/126

「彼の熱い視線は、ボクの大好物だからね」

「えー、それはないですよー」

ひどいぜ、妹。

「そんなこと、言っちゃダメだよ」

おや。

やつが凄くムッとしてる。

「思ってても、言っちゃダメ」

「ご、ごめんなさい!」

頑固な妹が素直に謝った。

309 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 20:44:47.96 tdWaLjxDP 101/126

「ボクの大事な人なんだから」

うっ。

こんな近くで。

というか、本人のいるところで。

そんな恥ずかしいことを言うんじゃねぇ。

「いいなぁいいなぁ……愛されてますなぁ!」

「めんどくさいぞ、お前」

312 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 20:54:59.36 tdWaLjxDP 102/126

「う、酷い!」

「ったく」

やつは戻ったけど。

妹の掴みづらいテンションは戻らず、か。

そのあとは黙々と箸をつついた。

途中、下ネタを言いそうになるやつを止めていたけど。

……これじゃあ黙々じゃないな。

313 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:10:39.50 tdWaLjxDP 103/126

「ご馳走さま」

「はーい、お粗末さま」

「ボクはイヤミとチビ太が好きだな」

おそ松くんじゃねえよ。

「手伝おうか? 妹くん」

「いいですよ、気にしないでください!」

「そうだぜ、気にするな」

「あんたが言うな」

その通りである。

314 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:18:31.55 tdWaLjxDP 104/126

「さて、と」

「ん? なんだ」

いきなり、やつは。

ポチ袋を出した。

「妹くんにお年玉さ」

「お年玉!?」

「水滴ってるぞ。皿洗いしてからにしろ」

「はーい」

やれやれ。

余計なもん持ってきやがって。

315 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:22:43.15 tdWaLjxDP 105/126

「君もあげるのかい?」

「ああ、そうだな」

やらないと、あとがめんどくさい。

「ボクには?」

「誰がやるかよ」

「ふふっ、そうだね」

エッチな本を購入した財布には痛いかもね、と。

静かにささやく。

……何故、知っている。

317 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:26:49.44 tdWaLjxDP 106/126

「性欲が有り余ってるなら、ボクで発散してもいいのに」

「……」

妹にバレたらどうするんだよ。

「まあ、ボクのでは挟めないけれど」

皮肉そうに言った。

ああ、そうだな。

お前じゃあ、挟めない。

318 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:33:00.84 tdWaLjxDP 107/126

「あのなぁ」

「おっとしっだま!」

がめつい妹がやってきた。

「はい、少しだけど、ね」

「ありがとうございま~す! わおっ! 5000円!?」

なっ……!

「おい、いくらなんでも奮発しすぎじゃないか!?」

「そんなことないよ。大事な人の妹だもの」

逆に少ないくらいだ、と。

ふざけたことを言う。

319 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:38:28.27 tdWaLjxDP 108/126

「……」

「ひゃっほう! ありがたく頂きます!」

「……やれやれ」

俺はそう言って、立ち上がる。

「どうしたんだい?」

「部屋に行く」

「じゃあボクも」

まあ、そうだろうな。

320 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:42:45.80 tdWaLjxDP 109/126

階段をのぼる。

やつも、のぼる(音が聞こえる)。

「ふふっ」

部屋に入る時に、やつは笑った。

そして、後ろでドアを閉める。

嫌な予感。

「ボクは正直、アオカンがしたかった」

いきなり卑猥である。

321 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:44:34.24 tdWaLjxDP 110/126

「なんだよ急に……」

「僕たちはまだ――」

なんだよ。

「――処女と童貞だ」

ストレートだな、おい。

「頬にキス、唇同士でキスまでした。あっ、ハグもした」

「モンハン?」

「剥いでない」

ちょっとしたジョーク。

322 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:47:54.98 tdWaLjxDP 111/126

「さらにボクなんて自慰すらしたことがない」

「俺は経験が無い」

「自慰の経験は豊富だろう?」

……否定はできない。

「だから、ボクは……」

そう言うやつを。

俺は押し倒した。

323 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 21:49:58.66 tdWaLjxDP 112/126

「あっ」

いきなりでビックリしたのか、反応が鈍い。

「つまり、こういうことをしたいって、ことか?」

「そ、そう、そう」

ゆっくり頷く。

「ふーん」

325 : バイさるに驚きを隠せない ◆O/... - 2011/01/04 22:06:51.94 tdWaLjxDP 113/126

「ボクが何故自慰をしないのか、わかるかい?」

「知らん」

知りたくもないけれど。

「それは……自分ではなく、本当に、本当の最初は君がいいからなんだ」

凄いな。

俺、愛されてる。

「……恥ずかしいことを平気で言うんじゃねえ!」

「素直な言葉だ」

328 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:13:58.45 tdWaLjxDP 114/126

「……」

俺の唇がやつのおでこに当たる。

「!」

驚いてる。

「……」

目をつぶっている。

なんだろう。

いいの……か?

330 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:16:55.58 tdWaLjxDP 115/126

顔は赤くて。

体温が高い。

「……」

「か、覚悟は……できてる!」

「やめた」

「ええっ!?」

「……なんか、やだ」

「ど、どうして……?」

うるうるしている。

331 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:20:08.38 tdWaLjxDP 116/126

「もしかして、ボクのことが……」

そういうことじゃない。

なんでだろうか。

こいつは。

誘うのは上手いくせに。

いざとなると弱い。

相当な恥ずかしがり屋だし。

……あの、クリスマスの時も、である。

332 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:24:56.56 tdWaLjxDP 117/126

それがいやだ。

いつも通りでいてくれれば。

俺はやりやすい。

こんなときに。

さっきみたいな性格になるのが、いやだ。

「……やはり、君は……」

ベッドの下をまさぐる。

「胸が大きい方がいいんだね!?」

何故隠し場所を!?

333 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:28:54.10 tdWaLjxDP 118/126

「どうすればこんなにも……」

なに振袖を脱ごうとしてる!?

淫らだ!

「やめろって、落ち着け!」

「胸の大きさはすでに落ち着いている!」

そんなこと言ってない!

334 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:30:54.13 tdWaLjxDP 119/126

「はぁはぁ……」

「はぁはぁ」

振袖を脱ごうとするやつを止め。

また、さっきの押し倒したときと同じ形に。

「……」

「……ふふっ」

「あん?」

「君は、本当に意地悪だね」

337 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:46:06.94 tdWaLjxDP 120/126

顔は赤いが、笑っている。

「今日は」

そう言って。

唇に、キス。

「これで我慢しておくよ」

「……おう」

まあ、これはこれで。

「……お願い事、なに?」

願い事。

338 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:49:50.91 tdWaLjxDP 121/126

「いつもと同じ、平凡な一日が過ごせますように」

「ふふっ、そうか」

「……なんだよ」

「君らしくって、嬉しくてね」

「そうか?」

「うん、とっても君らしい」

「そうかよ……お前は?」

339 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 22:51:28.05 tdWaLjxDP 122/126

「ボクかい?」

俺だけに言わせるなんざ許さん。

「ボクは……」

すこし目を泳がせた後。

いつも以上の笑顔で、

「君と同じさ」

「嘘だろ」

「嘘じゃないよ、ほんとのことさ」

「……けっ」

342 : バイさる!バイさる! ◆O/RL... - 2011/01/04 23:01:08.03 tdWaLjxDP 123/126

信じられないな。

でも。

「今年も、よろしく」

「うん、よろしくだね」

だけど、と。

「さすがに妹くんが見ている時にこの体勢は……恥ずかしいかな」

「!?」

「げっ」

344 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/04 23:25:38.11 tdWaLjxDP 124/126

「妹ぉ……」

「ははは……ご、ごゆっくり♪」

ごゆっくりじゃねええええ!!

「ふふ、大人の階段、のぼってみるかい?」

「変なこと言ってんじゃねえ!!」

「え、遠慮しときますっ!」

猛ダッシュで。

逃げられた。

373 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/05 12:29:26.08 H3NDaEyBP 125/126

「妹に変なイメージを植え付けるな!」

「ボクが悪いのかい?」

……いや。

俺も、悪いけど。

「ふふっ」

笑って。

もう一度、俺にキス。

374 : ◆O/RL35ibIk [] - 2011/01/05 12:31:10.27 H3NDaEyBP 126/126

「今年もこんな感じで」

ニコッと笑顔で。

「いられたらいいね」

「……そうだな」

正月。

今年も、色々ありそうだ。

END

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