新年。
元日、である。
紅白やらを観ながら年を越す……。
いや。
俺は寝たい。
だから、新年は寝て越そう。
そう思っていた。
元スレ
女「君と新年を祝えるのはとても嬉しいよ」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1293814278/
男「そろそろ寝るか」
時間は12月31日11時。
とりあえず、もうそろそろ新年である。
今年はいろいろあったなぁ、と思いつつ。
男「妹、寝るわ」
妹「え? 寝ちゃうの?」
男「おう、あけおメールとかめんどくさいから俺は寝る」
妹「……メール来るの?」
ちょっと怪しい質問である。
男「く、来るはずだ」
妹「なら、いいけど」
妹は煎餅を食いながら。
妹「あ、お年玉くれる?」
男「甘ったれるな」
俺はそう言って、居間から出て行った。
可愛い妹に恵みを~という声を聞こえながらも俺は階段を上って行った。
男「ふわぁぁ……」
そろそろ今年も終わり。
来年の目標は……むぅ。
『あいつより優位に立つ』
……いや、なんか違うな。
とりあえず俺は。
ベッドに倒れこむ。
「ぎゃっ」
男「!?」
なんか、声が聞こえた。
女「ふぅ……いきなり大胆だね」
男「ええええええええええええええええ!?」
女「年末に大声を出さないでくれ」
いやいやいやいや。不法侵入だろう。
男「お前、どうやってきた!?」
女「ん? 家で普通に着替えてきたけれど」
男「着た、じゃねえ!」
どうやって来たんだ、ってことだ。
女「普通に玄関から、入ったけれど」
知らないぞ、俺。
……あ。
俺がコンビニに行った時か?
男「……何時くらいに?」
女「ベッドを触ればわかると思うよ」
触ってみる。
めっちゃ暖かい。
うわあ、マジかよ。
こいつ何時間もここにいたのか。
女「君のにおいに包まれていたせいか、ボクは今ドキドキドキドキギトギトだよ」
なんか最後汚いな。
女「今にもいじってしまいそうだ」
どこをだ。
男「それで、何しに来た」
女「君はいつもそう言うね」
意味もなく来ちゃ悪いのかい、と。
少し怒を表している。
女「君と新年を迎えようと思って」
男「ふぅん」
女「反応が薄いね」
別に。
そんなことだろうと思ったから。
男「……じゃあ普通に言えばいいじゃないか」
女「言っても同じ反応だろう? それに、君は寝て越すだろうと思ったから」
だから待機していた、ってことか。
女「でもずっと来ないから、寂しかったなぁ」
なんだその笑顔は。
男「悪かったな」
女「でも、今こうして会えたから、ボクは嬉しいよ」
男「……」
女「ボクの予想に狂いはなかった」
男「そうだな」
寝て越そうと考えていたのもあるけれど。
俺は眠い。
男「すまんが、俺は寝る」
女「そうか」
そう言って。
俺のベッドの端に寄る。
男「……なんだよ」
女「添い寝だよ」
男「朝起きてお前の顔は見たくない」
女「ひどいことを言うね……」
男「悪いけど、帰れ」
女「補導されてしまうよ」
男「お前は一度された方がいいと思う」
女「酷いいいようだね……」
でも、微笑んでやがる。
女「わかった」
男「え?」
女「帰るよ、お休み」
男「そ、そうか」
意外だった。
正直、帰らないと思っていたから。
女「じゃあね。良いお年を」
男「おう」
やつはどうやら本当に帰ったらしい。
トイレに立てこもることもなく。
……いや、そんなことするやつじゃないけど。
それじゃあ寝るかな。
自分、良いお年を。
・
・
・
妹「明けましておめでとうなんだよ!」
男「なんだよその不人気になりそうな口調は……」
妹「ファンに怒られちゃうよ」
ああ、俺もそう思った。
妹「まぁまぁ今日はテンションあげて行きましょう!」
男「年始早々、騒々しい奴だ」
妹「ふふっ、良いダジャレだね」
意識はしてなかった。
……本当だ。
ここでいきなりのインターホン。
妹「むむ? 新年早々、インターホンが騒々しい!」
男「やめろ、恥ずかしい」
妹「ごめんねー。ちょっと出てくるよ~」
男「頼んだ」
まったく。
兄を慕わない妹だ。
妹「あ、女さん! 今出ますねー」
妹の声が漏れている。
でかい声だ。
テンションのせいかな。
それにしても、あいつか。
妹「新年明けましておめでとうございまーす」
声でけえって。
妹「……うわああ!!!」
どうした!?
妹「ちょ、ちょっと! ベイビー!」
男「なんだその呼び方は」
こいつ、一度もちゃんと俺のことを『兄』と呼んだことがない。
妹「いいから来て!」
男「ったく……一体なんだ……よ?」
女「あ、おはよう」
男「……お、おう」
そこには。
振袖姿の、やつがいた。
女「どうかな?」
ニッコリと、笑う。
男「えっと……」
妹、なにニヤニヤしてんだ。
男「……明けましておめでとう」
女「うん、明けましておめでとう」
妹、なにガクッとしてんだ。
女「ふふ……」
ニッコリと笑ってる。
妹「私も着たいなぁ……フリスク」
なんか違うぞ。
女「それは服用するものだよ」
……あれ? 微妙にかかってるのか、これ。
服用するもの……か?
男「お前も新年早々……」
女「騒々しいかい?」
……。
女「まさかこんなところで初ダジャレを言ってしまうとは……ふふ」
なんか一人でウケてる。
男「で、何しに来た?」
女「もちろん、初詣に決まっているだろう?」
まあ。
そうだろうと思ったけど。
女「暇かな?」
男「暇じゃない日の方が少ないくらいだ」
女「そうか」
妹「いいなぁ!」
男「お前もついてくればいいじゃねえか」
別にお前も、用事ないだろ。
俺よりはありそうだけど。
妹「いやいや、私はとてもとても!」
男「?」
へんなやつ。
妹「私はおせち料理作って待ってマックス!」
男「そうか」
どうやら、待ってるらしい。
なるほどな。
次回のためのアピールか。
女「それじゃあ、早速イかないか?」
どこにだよ。
新年早々下ネタか。
男「初詣に、行く」
女「うん」
とりあえず、ちゃんと言っておいた。
女「その服でいいのかい?」
男「何か悪いのか?」
女「うーん……寒くないかい?」
よく見ると。
俺の下はパンツだけだった。
妹め。
注意しろよ。
やけにスースーすると思ったら。
男「す、すまん」
女「ふふ、眼福だよ」
新年明けても、こいつは変わらないな。
男「着替えてくる」
女「もう少し待ってくれ」
なんでだ。
女「目に焼きつけるから」
すぐに俺は部屋に走った。
男「ったく……」
あいつはやはり変態だ。
男「少しはこっちのことくらい考えろ……ん?」
確認すると。
男「……わお」
息子は立っていたりして。
待て待て待て。
いつから?
When?
おい、これは結構まずいぞ。
男「……あ」
思い当たる場面があった。
しかし。
認めたくない。
相当張ってやがる。
眼福……か。
畜生。
普通わかるのに。
こんな恥ずかしいことをしてしまうとは。
男「……まあ」
気にしなくてもいいだろう。
とりあえず、着替えよう。
男「待たせたな」
女「股競ったな?」
どんな競技だ。
女「ふふ、それじゃあ行こうか」
男「おう」
よかった。
パンツの話にならなかった。
男「クリスマスといいお前は服装がころころ変わるな」
女「そうかい? 行事だからだよ」
男「そうだな」
でも、俺はどっちも何も着てなかったな。
……いや、服は着てたけど。
女「ボクは君のサンタさん、見たかったなぁ」
男「来年にでも期待しとけ」
……ってあれ?
こいつ、なんで下半身見てるんだ?
ああ。
そっちのサンタか。
女「ふふ、来年か……遠いね」
ここは。
スルーだな。
男「この近くに初詣できる場所あったか?」
女「神社があるよ」
男「そうか」
女「手、握っていい?」
いきなりだな。
男「なんで?」
女「握りたいから」
男「……」
恥ずかしい。
女「駄目かな?」
男「いや、別に」
切実に恥ずかしい!
女「……どうしたんだい?」
やつは俺を下から覗くように見る。
女「ふふっ、恥ずかしい?」
バレているようだ。
女「ボクだって、恥ずかしい」
でもね、と。
俺の手を掴んで、無理やり握る。
女「恥ずかしさ以上に、嬉しいんだ」
俺は。
やつの小さい手を離さないように、強く握る。
女「強いね」
嬉しそうである。
まあ。
悪くない。
女「おせち料理は、ボクもいただいていいのかな?」
男「いいんじゃないか?」
どうせ俺と妹じゃ食えないだろうし。
女「そうか、ありがとう」
……帰ればおせちが待ってるのか。
新年、初よだれ。
女「ふふ、食欲が口に出てるよ」
男「ふんっ」
女「想像力豊かだね」
そうなるな。
男「さっさと初詣に行って、家に帰りたいぜ」
女「ボクはいやだな」
Why?
男「お前……嫌いなのか!?」
好き嫌いはよくないぜ!
俺は大好きです!
というか、たいていのものは大好きです!
といいつつ、子供舌です!
女「ボクは……君と一緒にいたいから」
男「……」
女「あ、えっと……こんな理由じゃ、駄目なのかな?」
男「いや」
なんだろう。
この……ときめき……か?
うん。
今すぐに抱きしめたくなったというか、なんというか。
女「は、早く行こう」
恥ずかしがりながら、少し歩みを早めるやつ。
でも。
女「っ……」
俺たちは手を握っている。
男「ゆっくり、行こうぜ」
笑って、やつを見る。
女「ふふっ、意地悪だね」
男「お、おう……」
女「?」
なんなんだ。
今日のこいつ。
なんか、綺麗だ。
それに。
歩いてから、全然話が盛り上がらない。
女「今日は良い天気だね」
男「!? あ、ああ……」
女「ちょっと前のクリスマスとは大違いだね」
男「そ、そうだな」
まずいまずい。
なんか話ができないぞ。
女「昨日は、勝手に部屋に入って、ごめんね」
男「あ!? え、気にしてない気にしてない!」
女「そうだったのかい? なら、良かった」
ニッコリと笑うだけで。
ドキドキしてる。
女「ん……」
男「ど、どうした?」
女「ちょっと……手、強すぎるかな」
苦笑いしている。
なんか、俺汗凄いんだけど。
女「? 汗凄いよ?」
男「ああ、大丈夫だ」
女「ボクが厚着をすすめたからかな?」
男「いや、そんなことないよ」
さすがにパンツ一丁は無理だったし。
女「……よいしょっと」
男「!!」
やつは。
俺の汗を、手持ちのハンカチで拭った。
女「大丈夫?」
やばい、死にそう。
女「なんか、顔赤いよ?」
なんだ。
なんなんだ!?
頼むから。
下ネタを言え。
下ネタを言って、俺を呆れさせてくれ。
女「熱は……」
おでこを当てるなぁぁぁぁぁ!!!
男「や、やめろ!」
女「あっ……ごめん」
謝り方まで。
やつは可憐だった。
女「今日は、酷いことしてばっかりだね。新しい年なのに……」
シュンとなるやつ。
やばい、なんでこんなにドキドキしてるんだ!?
男「いや、あの……だな」
このままでは。
思春期真っ盛りボーイなんてあだ名がついちまう。
女「?」
男「……なんでもない」
可愛い。
一言、今日のこいつは。
可愛い。
女「ふふ、おかしい」
男「え?」
女「なんだか、今日の君は、おかしい」
いや。
お前に言われたくない。
男「そうでもねえよ」
女「寝起きだからかな? ふふっ」
男「……」
ああ、もう。
結局、こいつにはやられっぱなしだ。
女「でも、もうすこし話をしてくれないと、悲しいかな」
男「……すまん」
女「謝ることじゃないよ。全然」
その言葉のやつは。
どこか、寂しげだった。
男「……くそ」
調子が狂う。
いつも狂わされてるけど。
今日のは全然違うぞ。
女「あ」
男「!?」
女「人が増えてきたね」
そうか、もう神社の近くなのか。
女「離れないように」
やつの手の力が強くなる。
女「ギュッと、握っててね」
ダメだ。
今日のこいつは。
俺の中で一番デレデレしてやがる。
なんだろう。
こいつはツンデレではないけど。
あえて言うなら、シモデレって感じ。
男「本当に増えてきたな」
女「大分混んでるね」
こりゃあ本当に離れちまうかも……?
女「おっと……」
男「凄いな……」
女「うん、困ったね」
とりあえず、参拝はしたい。
女「振袖は動きづらいなぁ」
男「大丈夫か?」
女「うん、平気……あっ」
男「!」
よろけたやつを、俺が助ける。
女「あっ……」
男「……」
凄い密着。
男「だ、大丈夫か?」
女「うん、大丈夫」
胸の鼓動が、太鼓の達人の鬼みたいだ。
男「怪我するなよ」
女「君のおかげで大丈夫だったよ、ありがとう」
男「お……おう」
女「手だけじゃ不安だね」
男「そ、そうか?」
女「だから……腕……いい?」
俺はどうしたらいい?
男「い、いいぞ」
女「ありがとう」
こんなことが。
俺に起きていいのか!?
リア充という言葉は。
俺にはきっと来ないと思っていたのに。
どうなっていやがる。
女「ふふっ」
男「どうした?」
女「初日から、腕を組めるなんて」
幸先がいい、と。
ニッコリと笑う。
三次元に使えるとは思わなかったが。
俺、萌えてる。
悶えてる。
男「お、お前今日おかしい」
聞いてみるしかない。
女「え?」
男「な、なんか、変だぞ」
女「変かな?」
なんでここで。
戸惑った顔をする。
いつものお前なら。
笑ってるはずだ。
犯しいかい? とか。
言ってくるはずなんだ。
女「ごめん、いやだった?」
うわああああああああああああ。
誰だよこいつ。
こんな可愛いやつ、知らないぞ!?
……あれ?
これでいいのか?
女「ボクのこと、嫌いになった?」
可愛い。
こんなこと言われたら。
普通うざいんだけど。
凄く、可愛い。
ごめん、今回は。
なんかキモいことばかり言ってる気がする。
男「あー……全然、そんなことない」
女「そっか、良かった」
不安そうな顔から、安心した顔に。
女「ボク、君に嫌われたら……」
うう。
守ってあげたいオーラが。
出てやがる。
俺はどうすればいい?
この不思議な気持ちを。
大きな海に投げ捨てればいいのか。
高い山の山頂で置き忘れを装えばいいのか。
そんなことは、するだけ無駄だろう。
恥ずかしいのに。
今のやつになら。
普通に、優しい接し方ができそうだ。
男「やっと辿り着いた……」
女「さ、お願いをしよう。」
そして。
願い事を、念じた。
男「……」
女「……」
このときは、俺もやつも沈黙だった。
男「……よし」
女「うん」
男「とりあえず、おみくじもするか」
女「そうだね」
これで今年の運勢を占う。
さて、どうかな。
男「……」
女「……」
お、おう……。
大凶、である。
男「……お、おい」
女「ん? ……あ、大凶のようだね」
男「お、おう」
ふふふっと。
笑う。
男「なんだよ」
何笑ってるんだ?
女「いやあ……はははっ」
やつは自分のおみくじを見せる。
女「ボクも、大凶だ」
まさかのまさかである。
女「ふふっ、一緒だね」
男「そうだな」
女「嬉しくない?」
男「いや」
今の俺なら、言える。
男「嬉しいよ」
女「ふふっ、そうか」
ああ……気持ち悪い。
自分が自分じゃないみたいだ。
女「じゃあ、結ぼうか」
男「おう」
女「ボクたちの、縁をね」
ああ、そうだな。
男「おう」
女「利き手と逆の手でね」
もちろん。
男「ここ空いてるな……よしっ」
結構高いところだけど、まあいいか。
女「……」
男「どうした? あそこ空いてるぞ」
女「……」
男「そこはお前じゃ無理だ」
女「君と、一緒の、とこがいい」
背伸びして、頑張ってる。
男「……」
女「おっと、手助けは無用! ボクがやるんだ」
男「あんまり無茶するなよ」
女「うん」
背伸びをして、ヨロリヨロリとしている。
危なっかしいなぁ。
振袖姿で。
一生懸命だ。
男「……見てられん」
女「うう……」
でも。
俺はもう少しだけ待ってみる。
そして。
女「……助けて」
男「……おい」
やっとか。
2時間経ってるぞ。
男「どうすりゃいい?」
女「肩車してくれないか?」
……お前。
振袖でそれは……お前……。
俺は即座に、やつのおみくじを奪った。
女「!」
そして、結ぼうとする。
女「だ、ダメ!」
男「ええい、肩車なんてできるか!」
俺が結んだほうが一番楽だ!
女「お願い、やめて……」
俺の手は、停止した。
……今日のやつは。
愛しい。
男「わかったよ……ただし、おんぶだ!」
女「うんっ」
元気にスマイル。
ああ、可愛いっ、可愛いっ!
落ち着け、落ち着くんだボーイ。
女「お、落とさないでね?」
もちろんですとも!
男「ほら、どうだ?」
女「うん、良い感じ……よいしょ」
人は、結構少なくなっていた。
女「うん、できた」
男「よし、降ろすぞ」
女「うん、ありがとう」
ふう。
空いたベンチに座る。
男「はぁ……」
女「ごめんね、長く待たせて」
男「ああ、いいよ」
女「本当に?」
男「今日のお前……なんか、可愛いから」
女「え?」
男「いや、普通に」
正直に、気持ちを言えることができるようになってる。
女「可愛い……?」
男「お、おう」
女「そうか……ふむ」
なぜか、訝しげにしている。
男「どうしたんだ?」
女「なるほど……ね」
いやな笑み。
女「君は、ああいう女の子が好きなんだね」
男「ど、どういう……」
女「ふふっ」
そう言って。
女「ごめんね、ボクは君を騙していた」
男「え?」
女「ふふっ、可愛いって言ってくれてありがとう」
男「……?」
女「ふふっ、相当驚いてるね」
男「ど、どういうことだ……?」
女「だから」
顔を近づける。
女「ボクの異変には、気づいていただろう?」
男「ま、まあ……」
なんか、可愛いっつーか、なんつーか。
女「だから、それはボクの演技だ」
男「」
そんな。
そんなバカな。
あの赤面も。
あの毒気のない笑顔も。
全部!?
女「君の好みは優しい女の子なんだね」
男「……」
まんまと俺は。
騙されてしまったようだ。
女「ふふ、いつもだったら怒るところも、全部許してくれたしね」
死にたい。
自分が憎いぞぉ。
男「はぁ……」
じゃあ、あのやつは。
嘘だったのか。
男「不幸だ……」
女「新年早々、幻想をぶち殺されちゃったね」
本当に不幸だ。
女「ん? どうしたんだい?」
男「落ち着け……落ち着け……」
女「お、ちつ、け?」
ああああ。
いつものやつだ。
戻ってる。
下ネタが戻ってる。
女「ふう、やっとハメを外せるよ」
男「帰る」
女「孵るのかい?」
卵からか!?
男「悪いが俺は新年早々嫌な思いをした。帰ります」
女「そうか」
そう言って。ベンチを立ち。
トコトコと歩く。
女「……」
ついてくる。
男「ついてくるなよ」
女「ボクも同じ方向のところに用があるからね」
男「そうかよ」
ちょっと速く走る。
女「あっ、待って」
男「なんでだよ」
女「振袖は走れないから」
俺は走った。
男「ふぅ……」
結局、置いてきてしまった。
まあ、これくらいしないと。
俺の怒りは収まらん。
……ちょっと、悪いことしたかな。
男「ただいま」
妹「おかえ……り?」
男「疑問形はなんだ」
頭にとんでもないハテナが見える。
妹「女さんは?」
男「ああ」
あいつは。
男「置いて帰って来た」
妹「じゃあ、家には入れません、出てって~」
男「なんでだよ!?」
押すな!
妹「おせち料理は三人分用意しました」
男「俺が食う」
妹「突然ですが、問題です」
男「あん?」
妹「私はおせち料理を作り、何時間待っていたでしょうか」
……。
男「俺が悪かった!!」
妹「謝るならまず行動で表しましょう。GO!」
男「くぅ!」
俺は走った。
どこだ……どこにいる!?
女「あ」
男「!」
突然角にあらわれたやつと。
ぶつかる。
男「のわっ」
女「……んん」
ぶつかった後。
俺は、やつの。
谷間の無い胸に。
顔をうずめていた。
いや、ぶつかったが正しい表現か。
ちょっと痛かったし。
女「ふむ……こんなラッキースケベを君が持っているとは」
どういうことだ。
こんな鉄板みたいな胸のどこが……。
あ。
なんか、尻触ってる。
男「わ、悪い!」
女「ふふ、初めて触られたよ」
俺も初めて触った。
男「大丈夫か?」
女「うん。お尻は大丈夫」
尻以外は痛いのかよ。
女「胸が痛んだよ、二つの意味で」
男「そうかい」
これで、家に入れる。
女「おせち料理、よばれてもいいんだよね?」
男「おう」
そうしないと中に入れない。
女「ふふ、妹くんが作ったものだから、楽しみだ」
男「なんだよ、俺が作ったのはダメなのか?」
女「君は作る必要が無いから、いいのさ」
男「は?」
女「ボクが作るからね」
夫婦か。
男「ただいま」
妹「はや!」
女「ふふっ、迷惑をかけたね」
妹「全然いいですよ!」
態度変えやがって。
女「む、妹くん、『全然』の使い方がなっていないよ」
妹「あううっ、女さんに指摘されちゃった!」
女「妹くん、指で摘まむとは……」
男「ああ、もういいからいいから」
変なことを言うのはやめろ。
関係無いけど。
俺が一番気になるのは。
妹の『あううっ』である。
男「とりあえず、妹が腕によりをかけて作ったおせちを頼む」
妹「あ、わかったー」
スタコラと、台所に行った。
その間に家にあがる。
女「ねえ、腕にナニをかけるんだい?」
男「縒だ」
ナニじゃねえよ。
妹「おまたせしました~」
女「おまん……」
男「う、うまそーーー!!」
あぶねぇ、なんか変なこと言いそうだったぞ。
女「感想を言わせてくれよ」
男「お前確実に違っただろうが!」
妹「ちょっと! うるさい!」
俺に言ってるのか!?
女「見た目も綺麗……それに、かまぼこのピンクとか」
男「これは紅白を表してるんだ」
女「知ってるよ。ボクはおま……」
男「さっさと食おうぜ!」
お腹空いたけど、そろそろ疲れてきた。
妹「もう! 女さんがなにか言おうとしてるのにうるさいなぁ!」
男「うるさい! あとでお年玉やるから!」
妹「……じゃあ、食べましょう」
切り替えが早かった。
くそ、現金な妹め。
ん、何笑ってやがる。
女「いやぁ……面白いね」
妹「あ、笑ってくれてる!」
妹よ、俺とやつへの反応の違いはなんだ。
男「……いただきます」
妹「いただきます!」
女「いただきます……あっ」
やつが箸をこぼした。
俺の、近くに。
女「ごめん、ごめん」
そう言って。
俺の股間に手を持っていく。
男「あからさま過ぎるだろ!?」
女「え?」
すでに手はなく。
やつは箸を持っていた。
女「?」
キョトンとしつつ。
俺には見える。
やつの禍々しいオーラが。
小悪魔な笑みが。
妹「ふ、二人とも見つめあって……きゃっ」
うざい妹である。
女「彼の熱い視線は、ボクの大好物だからね」
妹「えー、それはないですよー」
ひどいぜ、妹。
女「そんなこと、言っちゃダメだよ」
おや。
やつが凄くムッとしてる。
女「思ってても、言っちゃダメ」
妹「ご、ごめんなさい!」
頑固な妹が素直に謝った。
女「ボクの大事な人なんだから」
うっ。
こんな近くで。
というか、本人のいるところで。
そんな恥ずかしいことを言うんじゃねぇ。
妹「いいなぁいいなぁ……愛されてますなぁ!」
男「めんどくさいぞ、お前」
妹「う、酷い!」
男「ったく」
やつは戻ったけど。
妹の掴みづらいテンションは戻らず、か。
そのあとは黙々と箸をつついた。
途中、下ネタを言いそうになるやつを止めていたけど。
……これじゃあ黙々じゃないな。
男「ご馳走さま」
妹「はーい、お粗末さま」
女「ボクはイヤミとチビ太が好きだな」
おそ松くんじゃねえよ。
女「手伝おうか? 妹くん」
妹「いいですよ、気にしないでください!」
男「そうだぜ、気にするな」
妹「あんたが言うな」
その通りである。
女「さて、と」
男「ん? なんだ」
いきなり、やつは。
ポチ袋を出した。
女「妹くんにお年玉さ」
妹「お年玉!?」
男「水滴ってるぞ。皿洗いしてからにしろ」
妹「はーい」
やれやれ。
余計なもん持ってきやがって。
女「君もあげるのかい?」
男「ああ、そうだな」
やらないと、あとがめんどくさい。
女「ボクには?」
男「誰がやるかよ」
女「ふふっ、そうだね」
エッチな本を購入した財布には痛いかもね、と。
静かにささやく。
……何故、知っている。
女「性欲が有り余ってるなら、ボクで発散してもいいのに」
男「……」
妹にバレたらどうするんだよ。
女「まあ、ボクのでは挟めないけれど」
皮肉そうに言った。
ああ、そうだな。
お前じゃあ、挟めない。
男「あのなぁ」
妹「おっとしっだま!」
がめつい妹がやってきた。
女「はい、少しだけど、ね」
妹「ありがとうございま~す! わおっ! 5000円!?」
なっ……!
男「おい、いくらなんでも奮発しすぎじゃないか!?」
女「そんなことないよ。大事な人の妹だもの」
逆に少ないくらいだ、と。
ふざけたことを言う。
男「……」
妹「ひゃっほう! ありがたく頂きます!」
男「……やれやれ」
俺はそう言って、立ち上がる。
女「どうしたんだい?」
男「部屋に行く」
女「じゃあボクも」
まあ、そうだろうな。
階段をのぼる。
やつも、のぼる(音が聞こえる)。
女「ふふっ」
部屋に入る時に、やつは笑った。
そして、後ろでドアを閉める。
嫌な予感。
女「ボクは正直、アオカンがしたかった」
いきなり卑猥である。
男「なんだよ急に……」
女「僕たちはまだ――」
なんだよ。
女「――処女と童貞だ」
ストレートだな、おい。
女「頬にキス、唇同士でキスまでした。あっ、ハグもした」
男「モンハン?」
女「剥いでない」
ちょっとしたジョーク。
女「さらにボクなんて自慰すらしたことがない」
男「俺は経験が無い」
女「自慰の経験は豊富だろう?」
……否定はできない。
女「だから、ボクは……」
そう言うやつを。
俺は押し倒した。
女「あっ」
いきなりでビックリしたのか、反応が鈍い。
男「つまり、こういうことをしたいって、ことか?」
女「そ、そう、そう」
ゆっくり頷く。
男「ふーん」
女「ボクが何故自慰をしないのか、わかるかい?」
男「知らん」
知りたくもないけれど。
女「それは……自分ではなく、本当に、本当の最初は君がいいからなんだ」
凄いな。
俺、愛されてる。
男「……恥ずかしいことを平気で言うんじゃねえ!」
女「素直な言葉だ」
男「……」
俺の唇がやつのおでこに当たる。
女「!」
驚いてる。
女「……」
目をつぶっている。
なんだろう。
いいの……か?
顔は赤くて。
体温が高い。
男「……」
女「か、覚悟は……できてる!」
男「やめた」
女「ええっ!?」
男「……なんか、やだ」
女「ど、どうして……?」
うるうるしている。
女「もしかして、ボクのことが……」
そういうことじゃない。
なんでだろうか。
こいつは。
誘うのは上手いくせに。
いざとなると弱い。
相当な恥ずかしがり屋だし。
……あの、クリスマスの時も、である。
それがいやだ。
いつも通りでいてくれれば。
俺はやりやすい。
こんなときに。
さっきみたいな性格になるのが、いやだ。
女「……やはり、君は……」
ベッドの下をまさぐる。
女「胸が大きい方がいいんだね!?」
何故隠し場所を!?
女「どうすればこんなにも……」
なに振袖を脱ごうとしてる!?
淫らだ!
男「やめろって、落ち着け!」
女「胸の大きさはすでに落ち着いている!」
そんなこと言ってない!
男「はぁはぁ……」
女「はぁはぁ」
振袖を脱ごうとするやつを止め。
また、さっきの押し倒したときと同じ形に。
男「……」
女「……ふふっ」
男「あん?」
女「君は、本当に意地悪だね」
顔は赤いが、笑っている。
女「今日は」
そう言って。
唇に、キス。
女「これで我慢しておくよ」
男「……おう」
まあ、これはこれで。
女「……お願い事、なに?」
願い事。
男「いつもと同じ、平凡な一日が過ごせますように」
女「ふふっ、そうか」
男「……なんだよ」
女「君らしくって、嬉しくてね」
男「そうか?」
女「うん、とっても君らしい」
男「そうかよ……お前は?」
女「ボクかい?」
俺だけに言わせるなんざ許さん。
女「ボクは……」
すこし目を泳がせた後。
いつも以上の笑顔で、
女「君と同じさ」
男「嘘だろ」
女「嘘じゃないよ、ほんとのことさ」
男「……けっ」
信じられないな。
でも。
男「今年も、よろしく」
女「うん、よろしくだね」
だけど、と。
女「さすがに妹くんが見ている時にこの体勢は……恥ずかしいかな」
男「!?」
妹「げっ」
男「妹ぉ……」
妹「ははは……ご、ごゆっくり♪」
ごゆっくりじゃねええええ!!
女「ふふ、大人の階段、のぼってみるかい?」
男「変なこと言ってんじゃねえ!!」
妹「え、遠慮しときますっ!」
猛ダッシュで。
逃げられた。
男「妹に変なイメージを植え付けるな!」
女「ボクが悪いのかい?」
……いや。
俺も、悪いけど。
女「ふふっ」
笑って。
もう一度、俺にキス。
女「今年もこんな感じで」
ニコッと笑顔で。
女「いられたらいいね」
男「……そうだな」
正月。
今年も、色々ありそうだ。
END