女「…こちらこそ、宜しくお願いします。」
男「ほ、ホントに!?」
女「嘘な訳ないでしょうよ」にぱぁ
男「や、やった…」ヘナヘナ
女「ちょ、ちょっとどうしたのっ?」
男「いや、まさかOKもらえるとは…」
女「ふふっ、良かったね。こんな美乳の彼女が出来て。」
男「揉ませてください」
女「いつかねっ」
男「今がいい…」
女「こらこら、こんな白昼の大学構内で何をするつもりよ。ほらっ、練習行くよっ!!」スタスタ
男「お、おうっ」
女「あ、セクハラした罰にコーヒー代は男君の奢りねっ!!」にぱぁ
元スレ
女「男君の奢りねっ!」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1244474120/
女「だからっ、ここの主題はもっと力強く響かせなきゃダメでしょ!!」
友「おい、また始まったぜ…」
男「弦は大変だなぁ、あんなスパルタ受けてて。可哀想に。」
友「まぁでも女ちゃん実力は図抜けてるからな。ありゃあ将来はプロになるんかね」
男「まぁ志望はするらしいな」
友「男も夜な夜な愛のスパルタ受けてるんだろ?」
男「そうそう、『もっと力強く!!』とかな」
友「ま、まじで…。やべぇ何か勃k…」
女「こら金管!!なに喋くってるのよ!!
お喋りはノーミス吹けるようになってからにしなさいっ!!」
男「すいません…」(二重人格こえぇ)
友「もっと罵ってください」
男「えっ」
女「えっ」
1ヶ月後―― 帰り道
男「なぁ女」
女「ん?」
男「明日…頑張れよ。聴きに行くから。」
女「あはは、大丈夫だよー。もうやる事はやったし。今回は珍しく先生も誉めてくれたし」にこっ
男「凄いなお前は…」
女「それにね」
男「ん?」
女「お、男が…ついてくれてるから。
一緒にいてくれるから、私は頑張れるんだよ?
だから、明日も男が来てくれるなら絶対大丈夫!!審査員のハート鷲掴みにしちゃるわい!!」
男「今ので俺のハートが鷲掴みにされたんだが」
女「ふふん。掴んだまま離さないんだからねっ」にこっ
女「っていうか、何か大切なこと忘れてない?」じいっ
男「大切なこと…?…あっ!」(やべぇ、今日けいおん!じゃん、早く帰ってビデオ撮らないと)
女「ふふん、思い出した?」(今日が付き合って一か月なんだよね!ね!)
男「うん。早く帰ろう!」
女「え?帰る?」
男「え?いや帰らないの?」
女(帰るって…?え?私いま男君の家に誘われてる訳?ど、どうしようっ)
男(なにこいつ顔真っ赤になってるんだ?)
女(あーもう…新しいぱんつ穿いてくればよかった、のかなぁ)
男「あのー?」
女「ふっ、不束者ですが…、よっ、よろしくお願いします!!」かあっ
男「えっ?いや俺今日見たいTVがあって早く帰りたいんだけど」
女「えっ」
――翌日 某ホール
パチパチパチパチ…
男(女…頑張れ)
男(始まった…。
メンデルスゾーン作曲ヴァイオリン協奏曲
――三大ヴァイオリン協奏曲と言われるこの曲
冒頭からヴァイオリンのソロで奏でられる主題…
…凄い。女すげぇ気迫だ…。美しいながらも切ないこの主題を…
気持ちが入ってるのがよく分かる――
一旦メロディを木管に委ねて伴奏に回り、そしてこのカデンツァ…!!
――あぁ。
また、女が遠くに行ってしまう…)
ぱちぱちぱち…
客「ブラボー!」「ブラボー!」
―。
――。
係員「それでは、入賞者を発表いたします。」
係員「第三位…」
女(大丈夫、今回は上手くできた。気持ちも入ってた。大丈夫大丈夫…)
係員「ナンバー14 …さん」
パチパチパチパチ…
男(なにこれ緊張しすぎて勃ちそう)
係員「第二位…
ナンバー74 女さん」
女(えっ…)
男(に、二位…?)
女「はい」(優勝…出来なかったかぁ)
男(ほっ)
パチパチパチ…
男(あ、あれ?)
男(俺、今なんかほっとしなかったか?
なんで…?
女…複雑そうな顔だ)
係員「第一位…」
―。
――。
――数日後 男自室
男(女あれから大学も来ないけど大丈夫かな…。あのコンクールに懸けてたし、ショックなのかなぁ)
男(しかし、二位で落ち込むとかレベル高いよなぁ。俺なら裸踊りするくらい喜ぶわ)
男(うー。連絡するかどうか…迷うなぁ)
――同刻 女自室
女(メール…来ないなぁ)
女(こーゆう時は普通男から連絡するもんでしょうが、ばかたれ…)
女「…あの甲斐性なしめっ」ぐすっ
――数日後 大学
友「女ちゃん、今日も大学来なかったな」
男「…あぁ」
友「あ、あれ同じオケのスイーツさんじゃね?」
スイーツ女A「校内コンクールももうすぐなのに練習来ないとかマジ何なの?あり得ないんだけどぉ」
スイーツ女B「まぁ女さんからしたら校内コンクールなんてお遊びなんじゃなーい?」
スイーツ女A「はぁ?なにそれ超ムカつくんだけどー」
スイーツ女B「コンクール優勝出来なくて休んでるって噂聞いたけどマジざまぁだよねーっ」
スイーツ女A「なにそれホントに!?ははは、ざまぁ!!」
友「なんだよあれ…っておい男!!止めとけって!!」
男「おいお前ら!!」
スイーツ女A「なによぉ男君マジうるさいんだけどぉ。怒鳴るとかマジ何様ぁ?」
スイーツ女B「まじありえなーい。普段空気みたいなくせに何調子乗っちゃってるのぉ?」
男「お前らろくに練習もしてこないくせに何が校内コンクールだよ!!」
友(ぎくっ)
男「女の事言えんのかよ!! 女はなぁ、お前らとは比べ物にならないくらい必死に練習して…頑張って
それでも一位取れなかったんだ!! でも何が悪いんだよ、何でお前らに笑われなきゃいけないんだよ!!」
スイーツ女A「…なによこいつキモーイ。ねぇねぇ早く行こうよ」
スイーツ女B「まじ気分悪いから駅前のケーキ屋でスイーツ食べに行こーよ」
カツカツカツ…
友「男…」
男「――悪い、取り乱して」
友「俺も練習ちゃんとします。ごめんなさい許してください」
男「まぁ俺も人の事言えた腕じゃないから…。」
男「でも頑張ろうと思う。女が帰ってきたときに驚かせてやるんだ。」
男「俺には女が帰る場所を作ってやることくらいしか出来ないから」
友「…。」(女ちゃんがコイツと付き合ってる理由…分かる気がする。俺も彼女ほしいよおおおおぉおうぇ)
――数週間後 大学内練習ホール
男「お願いします!!」
ホルン女「…それ、本気で言ってるのね?」
男「はい、本気です。」
ホルン女「――と、言うわけなんだけれど。どうしますか指揮者男くん。私は構いませんが」
指揮者男「まぁせっかく男君がやる気になっているんだし、ホルン女さんがそう言うならテストしてみようか。」
男「ありがとうございます!!」
指揮者男「1stになるつもりなら二楽章のソロは練習してきてあるよね?」
男「はい、勿論です」
指揮者男「じゃ二人にはソロを吹いてもらって、良かった方が1stということで、いいかな?」
ホルン女「はい。」
男「はい。」
指揮者男「じゃまず挑戦者の男君から行こうか」
男「宜しくお願いします。」
指揮者男「じゃあ、行くよ」
―。
――。
――全体練習終了後
ホルン女「男君」
男「あ、先輩お疲れ様です。…その、」
ホルン女「あぁ、いいのよ。実力がある人が首席になるのは当然の事でしょ」
男「…ありがとうございます。」
ホルン女「しかし驚いたわね。1stの私の目を盗んでいつの間にそんなに上手くなっていたのかしら?」にこっ
男「…まだ、あいつには届きません。背中がいつだって遠くて…」
ホルン女「あいつ?」
男「…あ、いや、なんでもないです」
ホルン女「はぁー。なるほど、技術だけじゃなくて表現力も高まったのはそうゆうことだったかぁ…」
男「へ?」
ホルン女「いや、負けたよ。完敗だった。」
男「そんなこと…!!」
ホルン女「こないだ個人練習室に行ったんだけど。ここ数週間の利用ノート、君の名前でいっぱいだったよ。」
男「あ、いや…」
ホルン女「真面目になってくれて嬉しいなぁ、なんて思っていたんだ。
君は器用だし、良いものを持ってるから、努力すれば伸びるって知ってたから。」
男「…そんなこと、無いですよ」
ホルン女「ねぇ、それで一つ相談があるんだ。」
男「相談ですか?」
ホルン女「個人練習なんだけどさ、その…、一緒にやらせてもらえないかな?
チャイ五は私も大好きな曲だし、成功…させたいんだ。私達四年生は最後の校内コンクールだから。」
男「そ、そんなの俺の方からお願いしたいくらいです!!
やっぱり一人だと解釈も片寄りがちになりますし、女さんの曲の理解力はずば抜けてますから…勉強、させてください。」ぺこり
ホルン女「本当に?ありがとう。気抜いてるとまた私が首席奪い返すからねー」にこっ
男「心しておきます。俺はこれから練習室いきますけど、先輩はどうしますか?」
ホルン女「うん、行こう!!あ、でもその前に…」
男「?」
ホルン女「今日お昼食べられなかったからおなかペコペコなんだ…ご飯食べに行かない?」くぅー
男「先輩お腹鳴ってますよ。行きましょう、腹が減っては戦は出来ませんからねっ」
ホルン女「うんっ!」にぱぁっ
男(…!!)どきっ
ホルン女「なーに食べよっかなぁー」
男(いかんいかん、素数をかz…)
ホルン女「男くんどうしたの?」じぃっ
男「あひゃい!い、いや何でもないですよ!!せ、先輩何食べたいですか!?」
ホルン女「うーん、がっつり重たいものがたべたい気分かなぁー。カツ丼とか」
男「いいですねカツ丼。じゃ裏門前の蕎麦屋行きましょうか」
ホルン女「あ、私あの蕎麦屋さんの辛子カツ丼大好き。玉子がとろっとろっなんだよねー」
男「じゃ、裏門が閉まっちゃう前に行きましょう」
ホルン女「了解ですホルン首席殿」
男「…先輩実は根に持ってませんか?」
ホルン女「はははは。」
男「…。」(いかんいかん、素数を。素数をっ!!)
たったったっ…
――同刻 大学事務所
事務員「――という話なんですが、どうですか?」
女「…少し考える時間を頂けませんか?」
事務員「勿論です。ではこの資料はお渡ししますので、また来週にでも来てください。」
女「…はい。決まりましたら、また来させて頂きます。」
事務員「じゃあ今日はこれで。もう遅いので気を付けて帰って下さいね。」
女「はい、ありがとうございました。失礼します。」
ガチャ パタン
たったったっ
女(うわぁ、もう外は真っ暗だ。)
女(もうすっかり夏の夜、って感じだなぁ。風が気持ちいい。)
女(――今日も校内コンクールの全体練習、行けなかったなぁ…)
女(男…元気かなぁ)
女(なんで連絡くれないんだろう…変に気遣ってるのかなぁ、あの鈍感君は)
女(あれ、今日私自転車どこに置いたっけ)
女(裏門の駐輪場だったかな。いけない、もうすぐ裏門閉まっちゃう。急がないと…)
たったったっ…
女(あれ?あれは…男?)
男「しかし先輩がカツ丼とか好きだったなんて意外です」
ホルン女「一人暮らしだと外食が増えちゃってね。料理も嫌いじゃないんだけど忙しいし、それに…」
男「ふむ、先輩も上京組でしたもんね。それに?」
ホルン女「それに、料理ってさ。食べてくれる人が居ないと作る気が起きないんだよ。」
男「あー、それ凄い分かります。」
ホルン女「え、男君料理するんだ?」
男「まぁ和食が食べたくなった時にたまに、ですかね。上京する時にお袋から肉じゃがとか煮物の作り方だけ教わったんですよ。」
ホルン女「へぇー、以外だなぁ。男君がレトルト以外の料理をするとは」
男「いや先輩、レトルトは料理じゃないですよ。」
ホルン女「うっ」
男「ひょっとして先輩料理苦手ですか?」
ホルン女「なっ、なにを言う!道場六三郎は私の心の師よ!」
男「ではそんな先輩に、質問です。」
ホルン女「はい」
男「得意料理はなんですか?」
ホルン女「えーーーと。に、肉を焼いたり?」
男(あー、これは…)
ホルン女「あ、今蔑みの目で先輩である私を見たでしょ?」じとっ
男「い、いやそんなことないですよ!食ってみたいですよ先輩の肉!」
ホルン女「ふーん…いいもん、男君がそういう人だとは思わなかったよ」ぐすっ
男「あ、いや…ごめんなさい。」
ホルン女「分かればいいのよ、分かれば。じゃ罰としてカツ丼は男君の奢りねっ!」にぱぁ
女(なんで…)
女(なんで私が隠れなきゃいけないのよっ…)
女(あんなに楽しそうにしちゃって…あのエロ将軍めっ)
女(…だから、最近連絡くれないの?)じわっ
女(駄目だ、こんな所で泣いちゃ…)
女(あ、門閉まっちゃう…)
女(なんかもう自転車もどうでもいいや…歩いて帰ろう…)
とぼとぼ…
―。
――。
――蕎麦屋 安兵衛
男「ほんとに俺の奢りですか先輩」
ホルン女「すいませーん!辛子カツ丼二つ下さい!」
店主「あいよ、カツから揚げるから時間かかるけどいいかい?」
ホルン女「はい、お願いします!」
男「ふむ、完全無視ですか」
ホルン女「そういえばさ」
男「はい?」
ホルン女「女ちゃん最近見ないけどどうしたの?」
男「あー、まぁ深い事情がありまして…」
ホルン女「ほうほう?喧嘩でもした?お姉さんに話して御覧なさい?」
男「喧嘩は…してないです。ちょっと前に、コンクールがあったんですよヴァイオリンの。」
ホルン女「うんうん」
男「それで女が出たんですけど、まぁ本人の思う結果じゃなかったみたいで」
ホルン女「ほうほう、それでお家に引き籠ってるんだ?」
男「いや…」
ホルン女「?」
ホルン女「えっ、じゃコンクール終わってから連絡取ってないの!?」
男「はい…」
ホルン女「いや、男君。それは無いよ、それは。なんで放置してるのさ?」
男「はじめは一人にしといた方がいいかなって思って。そしたらだんだんタイミングが…」
ホルン女「はぁ…」
ホルン女「いいからもう今メール送りなさい、今!ジャストナウ!」
男「い、今ですか!?」
ホルン女「はいはい、さっさと携帯を出す!」
男「はい…」
ホルン女「はい、まずは謝る!」
男「はい…」(なんだこれ…)
ホルン女「連絡しなかった理由もしっかり!」
男「…ハイ」
ホルン女「もうあとは適当に愛の言葉でも囁いてなさい、この意気地無しが!」
男「いや、それはいいです。送信…っと。」
店主「あい、辛子カツ丼2つお待ち!」ドンッ
ホルン女「よし、今は燃料を補給して戦いに備えよう!」
男「俺の奢りですからね。よく味わって食べて下さい。いただきます。」
もぐもぐ…
ホルン女「やっぱりいつ来てもおいしいねー。おじさん!おいしいです!」
店主「ありがとうよお譲ちゃん!漬物もサービスしちゃおうかな!」
ホルン女「あ、ありがとうございます!」
ヴィーッ、ヴィーッ…
男 ホルン女「あっ」
ぱかっ
ホルン女「なんて?なんて?」わくわく
男「…。」
ホルン女「もったいぶらないでお姉さんに見せてごらんって!」ひょいっ
男(あぁ…)
ホルン女「え…っ」
男(どこで間違ったんだろう…。いつの間にこんなことに…)
【題名:無題 もう連絡しないでください】
ホルン女「まぁ、あれだ!きっと今日は期限が悪かっただけだよ!」
男「…。」もぐもぐ
ホルン女「それに宛先間違えて送っちゃっただけかも知れないし!」
男「…先輩」
ホルン女「ん?」
男「カツ丼、冷めますよ」もぐもぐ
ホルン女「え?あぁ…ごめん」(き、気まずい…)
――数日後 放課後 大学内個人練習室
男(あいつ今日も大学来なかったな…)
男(…っ)
ガチャ
ホルン女「ややっ、お待たせ。」
男「いや、俺もいま来たところですよ。」
ホルン女「はい、差し入れに男君の好きなアセロラドリンク買って来たよ。奢りだから有り難く飲みなさい。
私はスプライト…っと。」ぷしゅっ
男「…先輩。」
ホルン女「ん?男君スプライトの方がいい?」
男「…いや、俺も先輩と全く同じ二つを買って来ちゃったんですけど…」がさっ
ホルン女「本当だ。あははは。いやぁ…さすがにスプライトを1リットルは飲めないよ私も。」
男「ははははっ。俺もアセロラドリンク1リットルは厳しいですよ。」
ホルン女「あっ、じゃ練習室の受付の人にあげてくるね。いつもお世話になってるお礼にアセロラドリンクとスプライトを。」(男君すこし元気になったかな、よかったぁ…。)
男「スプライトは迷惑じゃないですかね」
ホルン女「貴様私の趣味を冒涜するのかっ」
男「まぁとりあえず練習始めましょうよ。係りの人にスプライトあげるなら早く行ってきてください」
ホルン女「はーい」
男(先輩ってクールな人だと思ってたけど、打ち解けてみると普通に冗談とか言う人だったんだなぁ。普通の女の子って言うか…って、いかんいかん俺には女という天使兼悪魔がっ)
ホルン女(男君黙り込んで何考え込んでるんだろ…やっぱスプライトの方がいいのかな?)
―。
――。
男(いや、でももう俺は女には振られたのかな…)
男「…っ。」(だめだ。今は練習に集中、しなきゃ…。)
――同刻 大学事務所内面談室
女「…はい。是非お受けしたいです。」
事務員「解りました。先方には受諾のお返事をしておきますので。」
女「はい。宜しくお願いします。」
事務員「では今日はこれで。先方からお返事が来ましたら連絡しますね。」
女「はい、宜しくお願いします。ありがとうございました。失礼します。」ぺこり
――キィ パタン
女(ふぅ)
女(これで…よかったんだよね?)
女(――あ、あれは…)
友「ホントにお願いしますよ!!このレポート受け取ってくれないと俺卒業危ないんですって!!」
女事務員「そう言われましても期限はとっくに過ぎていますので」
友「そこを何とかっ…」ぐすっ
女事務員「…っ。仕方ないですね、まぁ一応先生に伺ってはみます。とりあえずお預かりします。」
友「うほーい!!女事務員さん大好き!!これ俺の電話番g…」
女事務員「うっ、後ろに長蛇の列が出来てますので用が済んだなら早く帰ってください」
友「ですよねー」
女「友くんっ」
友「お、おおお女ちゃん!!」
女「お久しぶりっ」にこっ
友「良かったぁ生きてて!!」
女「そんな大袈裟なぁ~」(寂しくて死にそうだったけどね)
友「男と連絡は?」
女「…あ、あんな浮気エロ将軍なんて知らないよ」むすっ
友「男が浮気…? 女ちゃん、ちょっと時間ある?付き合って欲しい場所があるんだ」
女「え、うん…」
――個人練習室フロア 受付
受付係「えーと、…B室ですね」
友「ありがとうございます」
友「お待たせっ!よし行こうかっ」
女「え、いや私今楽器持ってないよ?」
友「いいからいいから!!」
女「…?」
友「ん、ここだね。ちょっと中を覗いて見てよ」
女「ん、うん…?」(ホルンの音…。――あ、この人上手いな)チラッ
女「…!」
友「男はね、毎日ここに籠って遅くまで練習してるんだ」
女「いつも…ホルン女先輩と二人で仲良く?」(チャイコフスキー交響曲第五番…。校内コンクールの曲だ…)
友「男、努力して上手くなって女ちゃんの気持ちを少しでも分かりたい、少しでも近付きたいって言ってたよ。
ホルン女先輩には曲や楽器のことを色々質問したりしてるだけじゃないかなぁ。」
女「…。」(第二楽章…冒頭のホルンソロか…。――えっ、技術だけじゃない…男ってこんなに…)
友「ホルン女先輩から1stを奪い取ったんだよ、男。それからはこのソロばっかり練習してる。」
女「…。」(こんなにも――心を打つ音を…っ。)
友「じゃ、俺も別の部屋で練習してくるからごゆっくり。」にこっ
たったったっ…
女「…ぐすっ」(友くん…ありがとう。でも…今の私には男に合わせる顔が無いんだよ。)
女「…ぅ、ひっく…ぐすっ」(――あぁ、あんな真剣な顔しちゃって。
…やっぱり、
やっぱり、私はこの人が本当に大好きだなぁ。)
女(家に帰って練習、しなきゃ。校内コンクールの。今度は私が男に追い付く番だから…)
女「――ありがとうね、男。」ぼそっ
たったったっ…
―― 一週間後 大学内大練習室
女「本当にすいませんでした!!もう一度一緒にやらせてくださいっ!!」
指揮男「という訳なんだけど、皆の意見を聞きたい。どう思う?」
スイーツ女A「やっぱりぃ、今さら無理なんじゃないですかぁ?」
スイーツ女B「せっかくオケもまとまってきたのにぃ」
指揮男「…。」(お前ら以外は確かにまとまって来たよなぁオイ)
友「いやでもっ!!やっぱり女ちゃんが居た方がもっと上を目指せるんじゃないかな!!」
ティンパニ男「でも女さんがいない方が伸び伸び出来たっていうか…」
チェロ女「まぁ…それはあるかもね」
男「…っ」
コンマス男「あのっ」
指揮者男「コンマス君、何かな?」
コンマス男「女さんが居なくなって実際コンマスをやってみて、改めて女さんがどれだけ凄いかが解りました。全体を聴いて指揮者とコミュニケーションを取り、一緒にまとめ上げるのが、こんなにも大変な役割とは思いませんでした。そして…」
コンマス男「女さんがどれだけ真剣に、真摯に曲に向かい合って努力しているかは、2ndだった僕が一番よく分かっているつもりです。女さんには戻って来て欲しいです。」
指揮者男「ふむ。」(コンマス君は確かに真面目に頑張ってくれているんだけど、やっぱり女さんには及ばないんだよなぁ)
指揮者男「実は俺、女さんが出たコンクールを聴きに行ったんだ。気持ちの入った、いい演奏だった。」
指揮者男「あれだけの出来なら、結果にショックを受ける気持ちもよく分かる。そこで、彼女には一度チャンスをあげたいと思っているんだ。」
指揮者男「女さんを加えて、一度通してやってみないか?それから皆で結論を出そう。」
友「さんせいーっ!!」
一同「まぁ指揮者男さんがそう言うなら…」
指揮者男「よし決まりだ。じゃあ皆準備をしよう。女さん、いいね?」
女「はいっ、ありがとうございます。」ぺこり
―。
――。
指揮者男「さて、改めて意見を…、聞くまでもないかな?」にこっ
男(やっぱ凄いな女は…コンマスが代わっただけで、まるで違うオケみたいだった)
一同「ざわ…ざわ…」
指揮者男「念のために聞こうか。女さんの復帰に反対の人いますか?」
スイーツ女A(くっ…)
すっ
男(えっ…?)
指揮者男「ん、ホルン女さん何か?」
ホルン女「反対ではありませんが、一つ女さんに聞きたいことがあります。いいですか?」
女「…はい。」
ホルン女「確かに今の演奏は素晴らしいものでした。しかし、オケは皆で協力して一つの曲を作り上げるものだと私は思っています。」
指揮者男「ふむ。」
ホルン女「女さんのスパルタによって、オケを辞めたいと弦の子から相談を受けたことが少なからず、ありました。」
ホルン女「より良い演奏の為に技術や理解の優れた人が教える、というのは良いことだと思います。それに、女さんがより皆のために厳しくしてしまっているのも分かっています。」
ホルン女「しかし個人にはそれぞれの技術や、感性や、考えがある。」
ホルン女「それぞれの曲への解釈や、音楽の楽しみ方がある。それを忘れて欲しくは無いんです。」
ホルン女「私は決して女さんが悪いと言っているわけではありません。復帰したら以前のようなスパルタを続けるのか。それだけは確認しておきたいと、思うのですが。」
指揮者男「ふむ…。女さん、どうかな?」
女「…学校を休んでいる間、あるクラシックのコンサートに行きました。」
女「有名なヴァイオリニストの方が出演されるので聴きにいったのですが、」
女「プログラムは有名な曲の有名な楽章だけ、という内容で初めはヴァイオリンコンチェルトだけ聴いて帰ろうかと思っていました。」
女「だけど…お客さんが。お客さんの顔が凄く楽しそうで。」
女「私がステージから見たお客さんの顔とは、全然違って…」
女「気付いたら終演まで席に座っていました。その時…」
女「まさにいまホルン女先輩に言われたことを感じたんです。」
女「――音楽には一人一人の楽しみ方があるんだ、って」
女「私は今まで自分で自分の演奏に酔っていただけなんだ、って今さら気付きました。すごく恥ずかしかった。」
女「だから…今度は、今度こそは。皆で曲を作り上げたいな、って思います。」
女「お願いします。もう一度一緒に、本当に『一緒に』音楽をやらせてくださいっ!!」
友「うううっ…ぐすっ」
男(なんでお前が泣くんだよ…)
指揮者男「…ホルン女さん、どうですか?」
ホルン女「オケの一員として、女さんと一緒に音楽をやりたいと思います。宜しくお願いします。愛のあるスパルタなら、大歓迎ですので。」にこっ
コンマス男「今度は実力で、コンマスの座を奪い取ってみせますよ女さん!」
指揮者男「じゃあ、他に何かある人はいないようなら、女さんにはまたコンミスとして頑張ってもらうということでいいかな?」
一同「賛成です。」「女さん、私も鍛えてください!」「俺もお願いします!」…
女「皆…ありがとうございます。よろしくお願い済ます!」ぺこり
男(よかった…けどあれから連絡取ってないんだよな、まだ嫌われてるのかな…)
―― 一週間後 大学内個人練習室
がちゃ
男「あれ、先輩今日は早いですね。」
ホルン女「うん?あぁ、たまには先輩の威厳ってやつをねっ!」
男(もうこの人最初のクールキャラ完全に崩壊したな…)
ホルン女「そ、それでさ。もうお昼ごはん食べた?」
男「いや、まだですけど先輩またお腹減ってるんですか?」
ホルン女「いや、そうじゃなくてね?」
男「…?」
ホルン女「先輩の威厳ついでに…お弁当、作ってきてみたんだ。」
男「へ?」
ホルン女「い、いや!ほら!前に男君が、私が料理できない女だって言ったじゃない!あれが悔しくて作っただけだから!」
男「あははははは。」
ホルン女「笑われたっ!?」
男「あ、いや。ありがたく頂きます。練習終わったら食べましょう。」
ホルン女「最初から素直にそういえばいいのに…」ぶつぶつ
男「よし、じゃ今日もやりますか!」
ホルン女「おう!」
―― 同刻 大学に向かう電車内
ガタンゴトン
女(オケにも復帰させてもらったし、チャイ5もいい感じに仕上がって来たし)
女(あとは…)
女(どうしようかなぁ…)
女(ん? ――よく会うなぁ)くすっ
女「友君っ!」
友「zzz…」
女(あら、楽譜もったまま寝てる…)
女(楽譜、マークでいっぱいだなぁ…)
女(皆がんばってるんだよね。ん、なんか元気出たなぁ)
友「zzz…」
女(あーあぁ、涎たれそう…。ふふっ、学校着くまで寝かせといてあげよう)
ガタンゴトン ガタンゴトン…
がちゃ
事務員「時間です、悪いけれど次の予約があるから急いで出て下さい」
男「あ、はい!」
ホルン女「もう2時間かぁ、早いね」
男「あ、なんか気抜いた瞬間に疲労がどっと…」
ホルン女「はい!シャキッとする!コンクールまであと2週間しかないんだからね!さっさと出るよ!」
男「はーい」(まったくこの人は…)
がちゃっ… ぱたん
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
次はー○○学園前、○○学園前です。
友「ん…」ごしごし
女「zzz…」
友(あれ、これは女ちゃんで…)
友(ここは電車かぁ…)
友(あと5分…)
プシューッ
――○○学園前、○○学園前です。どなた様もお忘れ物のございまs…
友「zzz…」
――同刻 大学屋上
男「先輩っ、俺に楽器持たせて一人でスタスタ行かないでくださいよっ」ぜーはー
ホルン女「ん、ご苦労!これが褒美の昼食じゃ!」
男「お、噂の【肉を炒めたやつ】ですか?」
ホルン女「ふふふ…活目せよっ!これが道場六三郎の魂じゃ!」
ぱかっ
――。
男「おおっ」
ホルン女「ふふんっ、今日のメニューは茄子とひき肉のごま油炒めと、ゆかりごはんと、筑前煮です!」
男「え、すごいじゃないですか先輩!なんか見直しました」
ホルン女「ふふふんっ。」(深夜にお母さんに電話して作り方聞いたなんて言えない…)
男「え、食べていいんですか?」
ホルン女「私をよく崇めてから食しなさいっ。」
男「あとでスプライト奢ってあげます。じゃぁ…」
男 ホルン女「いただきます!」
―。
――。
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
女(…ん?)
女(危ない危ない、眠っちゃったか。)
女(って、あれ?)
女(え、ひょっとして…私とこの隣で口開けて幸せそうに寝てる友くんは)
友「すぴー すぴー」
女(とてつもなく寝過ごしちゃった、ってこと…?)
女「友くん!起きて!」
友「んぅ…、あと5分だけ…」すぴー
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
―。
――。
かたん ことん…
ホルン女「――あ、電車の音だ。」
ホルン女「やっぱり、夏はいいね。空気がすかーっとしててさ、日差しも強くて」のびーっ
ホルン女「生きてるなぁ、って思うよ。しかも今は大好きな音楽漬けな毎日だしねっ」
男「先輩は感性が豊なんですね」もぐもぐ
ホルン女「んーん、男君だって作曲者の気持ちとか感じようとしてホルン吹いてるでしょ?多分それと同じだよ。同じっ。」
男「俺はそんな大層なことしてないですよ。」
ホルン女「いやねぇ、最近の若い子は。そんな謙遜しちゃってー」
男「…ねぇ、先輩ー?」
ホルン女「んー?」
男「俺、女がコンクールで二位だって発表されたとき、安心しちゃったんですよ。」
ホルン女「…安心?」
男「ほっとしてしまったんです。優勝してしまえば女はもっと遠い存在になる、いつか手の届かないところまで行ってしまうから。」
ホルン女「…。」
男「そんな風に思った自分が嫌で、嫌で仕方なかったです。女に連絡出来なかったのはその罪悪感のせいかもしれません。」
男「まぁいま思えば、なんですけどね。」
男「自分が嫌で、自分に嫌気が差すのにも疲れて。女が遠ざかるなら俺がそれ以上のスピードで追いかければ、いつか追い付けるんだって思って。」
男「それでホルンを頑張ろうって思ったんですよ。全く我ながら不純な動機です。」
男「せっかく主席譲って貰ったのに、ごめんなさい。しかもこうして教えてまで貰って。」
ホルン女「ねぇ男君。」
男「はい?」
ホルン女「これ以上自分のことを悪く言うのは止めなさい。私、怒るよ?」
男「え…」
ホルン女「私はね、そうやって自分の素直な気持ちと向き合って葛藤してる君が…」
ホルン女「――そんな君が…っ。…好き、なんだ。先輩としてとかじゃない。友達としてでもない。一人の女として貴方が好き。大好き。」
ホルン女「確かに動機は音楽への気持ちだけじゃなかったかもしれない。でも男君がどれだけ真剣に考えて、音楽に向き合って練習したかは私が一番よく知ってる。」
ホルン女「はは…話がぐちゃぐちゃだね。」
ホルン女「私、馬鹿だからさ。分かりづらいのは苦手だから、直球で、行きます。」
ホルン女「…」すぅ
ホルン女「男君、好きです。私とっ、付き合って下さいっ!!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
女「よかった、全体練習には何とか間に合いそうだね。」
友「うん、女ちゃんと一緒の電車でよかった!俺一人だったら終点まで行った自信がある!」
女「はははっ。どんな自信よっ、それっ」にこっ
友「しかし誰もいない電車ってのもなんかオツですねコンミス殿!」
女「うん、風景もだいぶ田舎のほうまで来ちゃったしね」
友「コンミス殿っ」
女「なんだね友君?」
友「――いつまでそうしているおつもりですか?」
女「へっ?」
友「んー。見ていて、何かむず痒いんだよ。何で仲直りしないの?」
女「…あぁ、そのことかぁー。」
友「女ちゃんに文句は他に何もないよっ」にこっ
女「え、それ文句だったんだ?」
友「まぁこう見えて男とは付き合い長いしねー。お二人には幸せになって欲しいわけですよ。結婚式の友人代表のスピーチは俺がやるんだからねっ?」
女「んー。まぁ一応事情ってのが、あるんだよ。…ごめんね。スピーチはたぶんやってもらえないと、思う。」
友「えっ、…まさかこのまま別れちゃうの?」
女「男ってさ。優柔不断で男らしくないけど優しいし、地味で目立つタイプじゃないけど実はよく見ると二枚目じゃない?」
友「うん、男はよくできた奴だよ。そんなの皆知ってる。」
女「だから、私が二年間も縛り付けておく訳にはいかないでしょ。」
友「へ?」
女「それに今はみんなコンクール頑張ってるじゃない?コンミスの私がこんな乙女の悩みを抱いてるわけにはいかないんだ。集中しなきゃ。もっとみんなと話をして、教えてあげて、教えてもらわなきゃ。」
友「…。」
女「おっ、やっと見たことある駅まで戻ってきたねっ。もう少しかな!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
男「…先輩。」
ホルン女「な、なによ!もう緊張して心臓破裂5秒前なんだから早くしてよ!」
男「ありがとうございます。」
男「――でも、ごめんなさい。」
ホルン女「はは…、そっかぁ。」
男「はい。」
ホルン女「で、でもさ!先輩後輩としては今まで通りでいてくれる…?」
男「…それは俺がお願いしたいくらいです。」ぺこり
ホルン女「はは…やっぱり優しいなぁ、君は。」にこっ
男「そんなこと…」
ホルン女「む、だから謙遜は禁止だってば!」
男「…。」
ホルン女「あ、もうそろそろ全体練習の時間だね。私片付けるから先に行っててよっ」にこっ
男「――はい、ごちそうさまでした。…じゃあまた後で。」にこっ
たったったっ…
ホルン女「男君っ!」
ホルン女「私を振ったからにはっ!絶対女ちゃんと仲直りしなさいよね!これは先輩命令だから!!絶対だよ!!」じわっ
男「…っ。了解です先輩殿!」
ホルン女「よし!行って良し!」
男「はっ!」
たったったっ…
ホルン女「――うっ…」(だめだ、まだ声出して泣いちゃ…)
たったったっ…
ホルン女「うっ…ぐすっ、ひっ」(――男君がドア開けて出て行くまで、泣いちゃ、駄目だ)
たったったっ…
ホルン女「ぐすっ、ひっく…」(…もう!さっさと歩きなさいよっ!こちとら我慢の限界なんだから!)
がちゃっ
ホルン女「ひっく…うぅっ」(あぁ、これで――)
――バタン
ホルン女(――これで終わり、かぁ)
―。
――。
―― 二週間後 校内コンクール前日 ホール 控え室
指揮者男「さて、リハーサルの時間は曲の時間ギリギリしかないからね。今日のゲネプロは止めずにやるよ。みんな本番のつもりで臨んで下さい。」
一同「はいっ!」
がちゃ
事務員「前のオケが終わりましたので、準備の方よろしくお願いします。」
指揮者男「よし、行こうか!」
一同「はいっ!」
―。
――。
――ゲネプロ終了後、帰り道
友「おーとーこくんっ!」
男「ん?お疲れ、どうした?」
友「ちょっとさ、イ・イ・ト・コ・ロ に行きませんか!」
男「は?なんだそれ?」
友「いいからいいから!」ずいっ
男「わ、わかったから腕を引っ張るなって!」
友「はいはいー!レッツゴー!」
男(ったくなんなんだよ…)
たったったっ…
男「おい友!どこ行くんだよ!明日は本番だぞ!」
友「もーちょいもーちょい!」
男「ったく…」
友「んーと…、あ!」
男(え?)
友「ごめんごめん!お待たせっ!」
女「ううん大丈b…、えっ?」
男(お、女…)
友「よし!じゃ明日の本番に向けて決起集会ってことで!夜ごはん食べに行こう!」
女「え!ちょ、ちょっと待ってよ友君!」
男(だけどこれは…チャンス、だろ。間違いなく)
友「レッツゴー!」
――居酒屋 「音の雫」
店員「らっしゃいませー。3名様ですか?」
友「あ、いや2人です!」
男(は!?)
女(えっ!?)
友「じゃ俺は家に帰って最後の譜読みをしなきゃいけないから帰るね!また明日っ!」
男「え、いや…!」
友 (これが最後のチャンスかもよ。しっかりねっ。)ぼそっ
男「友…。」
友「じゃね!バイビー!」
たったったっ…
男「とっ、とりあえず座ろうか。」
女「…うん。」
店員「2名様ご来店でーす!」
たったったっ…
友(――まったく、世話の焼ける親友だなぁ)
友(――俺が女ちゃんのことずっと好きだったなんて知らずに、いい御身分だぜ!けっ!)
友(――ま。でも二人のおかげで音楽に真面目になれたし、特別に許しちゃる!特別だかんな!)
友(あ、でもこれ以上優柔不断でウジウジしたら許さないぞ!飛び蹴りだな、飛び蹴り!)
友(でも明日だな明日!本番!こんなことで落ち込んではいられないのだ!)
友(早く帰って復習しなきゃなっ!ゲネプロよかったなー!やっぱステージでやるって格別!)
たったったっ…
店員「おしぼりどうぞ!お飲み物は何にされますか?」
男「あっ、明日本番だからお酒はやめておこうか?」
女「う、うん。そうだね。」
男「じゃウーロン茶2つお願いします。」
店員「はい、かしこまりました!失礼します!」
たったっ…
男 女「あ、あのっ!」
男 女(!?)
男「あ、いや…先にどうぞ」
女「いえいえっ、男君が先に…」
男「そ、そう? じゃぁ…」
店員「お待たせしました!ウーロン茶2つです!お食事はお決まりですか?」
男「あ、じゃとりあえずこのサラダと軟骨の唐揚げを下さい。」(頼むから店員空気読んでくれ…)
店員「はい!かしこまりました!」さっ
男「あ、あぁそれで…」
女「…あはははっ。」
男「え!何で笑う!?」
女「いや、相変わらず軟弱だなぁ、と思って。」にこっ
男「――あれ?怒ってないの…?」
女「え?怒る?なんで私が怒らなくちゃいけないのよー。あ、なんかやましいことでもあるんだー?」
男「え、いやだって前にメールで…『もう連絡しないで』って…」
女「あー、あれは…。」(どうしようホルン女先輩に嫉妬してたなんて言えない…)
男「…?」
女「た、たまたま機嫌が悪かっただけだよ。あの日はっ!」
男「えぇぇ…。そ、そんな理由で?」
女「うるさいなぁー。んで?なに言おうとしてたの?」
男「いや、まずは女がコンクール終わってから長い間連絡しなかったことを謝ろうと思って。ごめん。」
女「あれね!すっっごい寂しかったんだからね!分かってんの!」きーっ
男「ちょ、女さん。すごく…怖いです。」
女「――それで、なんで連絡くれなかったの…?」
男「あー、うん。それは…」
女「…?」
男「――俺さ。あのとき女の優勝を、心から望めていなかったんだ。」
女「ん…?」
男「優勝したら女は有名になってしまう…。それに引き換え俺は、」
男「俺は、全然努力もしないで。だめだめでっ。」
女「…。」
男「だから女の気持ちも分かってやれないで。だから、」
男「だからホルンを一生懸命やろうって思った。それまで女に顔向け出来ないって思って…」
女「あーもう!!」だんっ
男(!?)
女「そんなのいいんだよ別に!一緒にいてくれればそれでよかったの!!」
女「そんな一人で考え込んで!悪いのはこの頭かっ!」すこんっ
店員(なんかサラダ持って行けない…)
男「痛ぇ…」
女「まぁ、でもね!ホルン頑張ったのは偉い!偉いぞ!特に2楽章のソロ!」
女「でもまだ高音の伸びが足りないところもあるけどね!低音も安定してないし」
男「なんかスパルタモードに入ってませんか女さん」
女「明日は本番だよ?気合入って当たり前でしょ!」
男「まぁそれは当たり前だな。」
女「ふむ!」
男「あ、それで…」
女「ん?」
男「俺たちってその、まだ付き合ってるの…かな?」
女「ん…、そこで私がさっき言おうとしてたことに繋がるんだけどね?」
男「…。」
女「私、留学に行くことになったんだ。この夏から。」
男「へっ!?」
女「この間のコンクールの審査員の先生が、オーストリアの音楽院の人なんだけどね?」
女「こっちでやってみないかって、言ってくれてるみたいなんだ。」
男「留学…。オーストリア…」
男「期間は…?」
女「はっきりとは分からないんだけど、二年くらいらしいんだ。」
男「二年…」
女「やっぱり本場で勉強したいし、お金もなんとかなりそうだから、」
女「行ってきます。私」
女「だから、ねっ」ずきんっ
男「…。」
女「さよならを、したいと思うんだ。」
女「二年って長いよ。男君も二年後には大学を卒業して環境も変わる。私も海外に行って環境が変わる。」
女「上手く、言えないんだけど。んー。なんて言えばいいかなぁ」
女「ほ、ほら。音楽に集中したいのもあるしっ。」
男「…分かった。」
――その日 夜 女自宅
女(はぁ…)
女(なにが「分かった。」よ、物分かりいいふりしちゃってさ。)
女(留学を止めて欲しかった訳じゃない。でも…)
女(あー!だめだ!明日は大切なコンクールなのに!)
女(もう、寝よう。起きてると色々考えちゃってだめだ…)
―。
――。
―― 同刻 友自宅
友「おかーさん!明日は絶対に7時に起こしてね!!」
友母「はいはい。でも人に頼むならお願いだから一回で起きてね。」
友「明日は大丈夫!」
友母「まぁ早く寝なさいね。大事なコンクールなんでしょ?」
友「うん!ありがとう!おやすみ!」
友(よし、っと。楽器の手入れだけはしとかないとなっ)
かちゃっ
友(男と女ちゃんあれからどうなったかなー?上手くいったんだろうか…)
ごしごし
友(なー!!だめだ!気になる!)
ごしごし
友(明日終わったら聞こう!それくらいいいよね?今は集中しなきゃ…!)
ごしごし
友(あー!でも気になるよー!!)
―。
――。
―― 同刻 ホルン女自宅
ガチャ ――キィ
ホルン女「ただいまー。」(学校戻って練習してたら遅くなっちゃったなぁ)
いぬ「わん!わん!」ふりふり
ホルン女「あれ、きなこまだ起きてたの!よしよし!」なでなで
きなこ「わん!」
ホルン女「帰るの待っててくれたのかなー?優しいなぁ、きなこは」にこっ
きなこ「わん!」
ホルン女「私お風呂入るからもう寝ちゃっていいよ、きなこ。おやすみっ」なでなで
きなこ「くーん…」
きぃ ――ぱたんっ
ちゃぽん…
ホルン女(あー、気持ちいいな…)
ホルン女(やっぱりお風呂はいいよね。心の洗濯だぁ)
ホルン女(未練も、希望も、全部洗い流れちゃえばいいんだけどなぁ…)
ホルン女(あ、希望はだめか!コンクールには希望持ってるからね、私!)
ホルン女(ふぅ…)
ホルン女(ゆっくりお風呂入ったらもう、寝ちゃおう。)
ホルン女(明日になれば少し、痛くなくなってるよね)
ホルン女(――いつか治るのかなぁ、これ。)ぶくぶくぶく…
―。
――。
―― 同刻 男自宅
ぱらっ
【中学世界地図帳】
男(オーストリア、オーストリア…。)
男(…遠いなぁ。)
男(大体、日本と同じページにすら載ってないもんな。)
男(この距離が…俺と女の距離になるのか。)
男(ま、まぁもう振られちゃったんだから関係無いか!)ぼふっ
男(…。)
掴んだまま離さないんだからねっ――
男(くそ…っ。)
ふっ、不束者ですが…、よっ、よろしくお願いします!!――
男(あの時に気づいていれば、よかったんだ…)
いや、相変わらず軟弱だなぁ、と思って――
男(こんなにも大切なものだったって…どうして気付けなかったんだよ)
あれね!すっっごい寂しかったんだからね!分かってんの! ――
男(どうして…っ。失くしてから気付いちゃったんだよ…)
そんな一人で考え込んで!悪いのはこの頭かっ!――
男「うぅっ…うっ…」
―。
――。
―― 校内コンクール 当日
――校内コンクール当日 大練習室
指揮者男「さて、集合時間だけど。全員揃っているかな?それぞれ自分のパートの人を確認して下さい。」
指揮者男「ん、大丈夫みたいだね。」
指揮者男「ふむ…皆、いよいよ当日な訳なんだけど。気分はどうかな?」
指揮者男「不安も興奮も期待も、いろんな感情があると思うけど。今までの練習を信じて全力を尽くしましょう。」
一同「はいっ!」
指揮者男「じゃ俺は受付にてくるので。しばらく待っていてもらえるかな?」
ホルン女「男君、がんばろうねっ」にこっ
男「はい!練習の成果を…出し切ります!」(先輩…今まで通り普通に接してくれてありがたいなぁ)
友(「人」と書いて飲み込む、「人」と書いて飲み込む、「人」とk…)
男(…あいつ何やってんだ?)
女「コンマス君、今までありがとうね。君みたいな2ndが支えてくれたから今日までやってこれたよ。それだけじゃない、私がこのオケに戻った日も…」
(元)コンマス男「いや、俺も女さんとやれてよかったです。たぶん弦の皆も今は同じ気持です。厳しく教えてもらって、音楽のこと、ヴァイオリンのことを少しでも分かれた気がします。本当にありがとうございました。」
がちゃ
指揮者男「お待たせ!じゃ控室に移動するよー。」
―。
――。
―― 楽屋近く 男子トイレ
男「ふーっ。」(三番目、かぁ。まぁまぁな順番かな?)
男(集中、集中。余計なことは考えない。)
男(あっ)
指揮者男「ん、やぁ。」
男「どうも。緊張、しますね…」
指揮者男「緊張かぁ。そうだなぁ。」
指揮者男「なんだかね、俺はもう満ちた気持ちに近いものを感じているんだ。」
指揮者男「もちろん本番は一番大事だ。結果だって出したいさ。」
指揮者男「でもね。たまたま有志者が集まったこのオケが、ここ数カ月で見違えるように成長した。バラバラだったものが一つに纏まっていく感覚は、やはり素晴らしいものだった。」
指揮者男「君もずいぶん上手くなった。気持ちを揺さぶられる、というのかな。そんな音を出すようになったね。」
男「あ、いや…指揮者先輩や、ホルン先輩のおかげです」
指揮者男「なに、謙遜しなくたっていいさ。とにかく。個人も、オケも見違えるまでに成長した。」
指揮者男「辛いのや、苦しいのはもう充分経験しただろ?」
男「…はい。」
指揮者男「ならあとは楽しむだけだ!楽しむのに緊張する必要はないさ!」
男「指揮者先輩って…凄いですね。男として憧れます」
指揮者男「なに寝ぼけたこと言ってるんだ。ほら、控室に戻ろう!」
―。
――。
―。
――。
――ホール 舞台袖
係員「はい!皆さん入場してください!」
女「よし、皆いこう!リラックスして。皆上手くなったよ!いつも通りやれば大丈夫だから!私が保証するっ!」
一同「はい!」(女さんに初めて…褒められたかも)
指揮者男「はい、行ってらっしゃい。俺もすぐ行くから。笑顔でやろう!」
一同「はい!」
ぱちぱちぱち…
係員「指揮者、入場してください!」
指揮者男「はいっ」
たったったっ…
ぱちぱちぱちぱち…
指揮者男(満員のホール…やってやろうじゃないか)ぺこり
男(鳥肌が…っ)
ホルン女(隣に男君がいる。いつもの個人練習室と同じだ。いつも通りに…)
友(うおおおっ!)
女(いままで皆でやってきたこと…全部、ぶつける…!)
指揮者男「…」すっ
ピョートル・チャイコフスキー作曲 交響曲第5番 ホ短調
第一楽章 andante allegro con anima
スイーツ女A(序章のクラリネット…。これが最初の音。運命の動機…)
スイーツ女A(私だって頑張ったんだから…!)
男(あ、凄い。スイーツさんこんなに上手かったっけ…)
女(ここから主部…コンマス君、いくよっ!)
―。
――。
第二楽章 andante cantabile con alcuna licenza
男(冒頭のソロ…)
男(落ち着いて…走るな…)
ホルン女(何かこっちが緊張しちゃうなぁ…)
ホルン女(でも…上手い。ふふ、固い顔しちゃって。)
女(男…っ)
―。
――。
第三楽章 valse allegro moderato
男(ワルツの軽快なテンポで…)
男(あっ)
男(なんか今凄い全体が聴こえる。)
男(なんとなく、指揮者男さんの言ってたこと、分かる気がする。)
女(もう三楽章も終盤…早いな)
女(もっと、やりたいな。)
女(これが終わったら私は…)
―。
――。
第四楽章 andante maestoso allegro vivace
女(すごい、曲だなぁ)
女(この勇ましい行進曲みたいな感じがかっこいいよなぁ…)
女(第二主題…。木管…がんばれ…!)
友(ここからは金管だよね…!)
友(うん、いい感じっ!)
男(こっから再現部…!)
女(ここから皆苦手だったよね…がんばれ!)
指揮者男(全休止まで来たか…)
指揮者男(ここからコーダ…)
女(あぁ、もうここまで来ちゃったか…)
女(この曲で、さよならなんだよね…)
女(…っ)
―。
――。
観客「ブラボー!」「ブラボー!」
ぱちぱちぱちぱち… ぱちぱちぱちぱち…
男(…終わった。)
女(あーあ、終わっちゃった…)
ぱちぱちぱちぱち…
女(あ、拍手の音が…)
ぱちぱちぱちぱち…
女(凄い、雨音を聞いてるみたいだ。)
女(こんなに気持ちいい拍手を貰ったのは、初めてだな…)
男(女…凄い嬉しそうだ)
男(うわぁ、汗でびっしょりになってる)
男(でも、気持ちいいな…)
ぱちぱちぱち… ぱちぱちぱち…
―。
――。
――一週間後 成田空港ロビー
女「見送りなんていいって言ったのにっ」
男「まぁ、な。あ、オケの皆が宜しくってさ。」
女「もう校内コンクールから一週間経つんだねぇ」
男「…そうだな。でもまだあの緊張感が手に残ってるよ。」
女「あー、あのホルンソロさ。ちょっとミスしたでしょ?」にやり
男「ははっ、やっぱりバレてたのかぁ。敵わんなぁ」
女「だから銀賞だったんじゃないの?あーあ、皆がんばったのになぁー」
男「や…。ごめんなさい。」
女「冗談だよ、冗談っ!…よかったよ、ソロ。」にこっ
男「なぁ、女…」
女「んー?」
男「俺は…っ、
アナウンス「――お客様にお知らせ致します。オーストリア航空14時28分、ウィーン国際空港行きの便に搭乗されるお客様は、搭乗口までお越しくださいませ。」
女「行かなきゃ、だね。」
男「…女。俺、二年間日本で待つよ。」
女「えっ…」
男「環境が変わっても――気持ちは。…気持ちは変わらないから。だからっ!」
女「――か、勝手に待ってればいいじゃない…」じわっ
男「あぁ、そうする。」にこっ
女「――ううっ、ひっく…。わ、私っ。ウィーンでイケメンの外人さんと付き合っちゃうかもよ?」ぽろぽろ
男「それでも、待ってる。」
男「何処へ行っても女が帰ってくる場所は日本だろ?」
男「俺が帰る家を用意しとく。――だめか?」
女「…だ、ダメな訳無いじゃない!この馬鹿!鈍感っ!」ぼろぼろ
男「悪かったな、鈍感で。」にこっ
女「――ううっ…。鈍感君、だっ…」
男「ん?」
女「――だ、抱き締めて…?」
男「ごめん、気が利かないで…」にこっ
ぎゅっ
男「女、日本に帰ってきたらまず旨い飯を食いに行こう。何が食べたい?」
女「ひっく…。そ、そんなのその時になんなきゃ分からないじゃない…」ぽろぽろ
男「それもそうだな…。まぁ帰る日に、決めて帰ってきてくれ。」ぎゅっ
女「うん…分かった…」ぼろぼろ
女「その時は…」
男「ん?」
女「男君の奢りねっ!」にぱぁ
女「男君の奢りねっ!」fin