梓(93)「何ですか唯さんや」
唯(94)「皆死んでしまったねぇ…」
元スレ
唯「あずにゃんや…」
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唯(94)「まぁ煎餅でもどうだい」
梓(93)「こんな固いの食べられませんよ」
唯(94)「饅頭はどうだい」
梓(93)「甘すぎて食べられませんよ」
唯(94)「この年で好き嫌いなんて……悪い子だねぇ」
梓(93)「唯さんじゃあるまいし」
唯(94)「散歩に行くかい?」
梓(93)「こんな雨の中?」
唯(94)「じゃあげえむでも」
梓(93)「できるわけないでしょ」
唯(94)「じゃあもう寝ちゃおうか」
梓(93)「今起きたばかりでしょう」
唯(94)「じゃあ何をするんだい」
梓(93)「ギター弾きましょう」
唯(94)「えぇ~」
梓(93)「演芸大会は一週間後ですよ。練習しなきゃ」
唯(94)「そんなのは適当でいいんだよ。誰も年寄りにゃ期待してませんよ」
梓(93)「……出ようと誘ったのは唯さんじゃありませんか」
唯(94)「いや~ゆいあずはライフワークだからねぇ」
梓(93)「78年連続出場がかかってますからねぇ」
唯(94)「切りがいい80年連続までは続けたいねぇ」
梓(93)「そろそろ限界ですよ」
唯(94)「諦めちゃだめだよ。わたしゃ舞台上で死ねりゃあ本望だよ」
梓(93)「唯さんはまだやんちゃ盛りですねぇ」
唯(94)「じゃぁ始めよっかぁ」
梓(93)「はい。私ギター取って来ますね」
唯(94)「いやいやあずにゃん」
梓(93)「はい?」
唯(94)「その前にやることがあるでしょう」
梓(93)「お手洗いですか?」
唯(94)「のんのん。わかってないなあ、あずにゃん」
梓(93)「わかってますけどね。何十年の付き合いだと思ってるんです?」
唯(94)「そだよねぇ」
梓(93)「練習してからです」
唯(94)「えぇ~力が出ないよぉ。おねがぁ~い」
梓(93)「全く。しょうがないですね」
唯(94)「おうおう悪いねぇあずにゃん」
梓(93)「ふぅ。こんな安いお茶でもおいしいもんですね」
唯(94)「値段は関係ないよ。大事なのは気持ちを込めて入れることだよ」
梓(93)「……そうですね」
唯(94)「……あずにゃんのお茶も、おいしいよ」
梓(93)「……そう言って頂けて嬉しいです」
唯(94)「んー。なんだか眠くなってきちゃった」
梓(93)「これから練習ですよ」
唯(94)「まあまあ。放課後は長いよ、あずにゃん」
梓(93)「私がそのセリフに何度裏切られたと思ってるんです?」
唯(94)「そろそろさわちゃんも来る頃合いだしぃ」
梓(93)「さわ子さんは町内のカラオケ大会に行ってます」
唯(94)「う~む」
梓(93)「どうしたんですか?」
唯(94)「ねぇあずにゃん。急須貸して」
梓(93)「まだ飲むんですか」
唯(94)「いや茶柱がね」
梓(93)「茶柱?」
唯(94)「生まれてこのかた94年、茶柱が立ったことがないんだよ」
梓(93)「それ逆に凄いです」
唯(94)「だからここで頑張ろうかと」
梓(93)「もっと他に頑張ることがあるでしょ」
唯(94)「梓は相変わらず堅苦しいなあ」
梓(93)「似てませんよ」
唯(94)「ってあれ?もう急須空っぽだねぇ」
梓(93)「こんなこともあろうかと最低限のお茶しか入れてこなかったんだ。
唯の考えそうなことだからな」
唯(94)「似てないよ」
梓(93)「すみません」
唯(94)「う~ん、じゃあどうしよっかぁ」
梓(93)「練習回避することに頭使わないでください」
唯(94)「よし、でばんだよ~ギー太~」
梓(93)「いまいちやる気が感じられませんが、はい、どうぞ」
唯(94)「おやまぁ久しぶりだねぇギー太ぁ。大きくなったねぇ」
梓(93)「ホラーですか」
唯(94)「あらあらむったんもしばらく見ない内にまた大人っぽく」
梓(93)「私達はババっぽく、ですね」
唯(94)「う。しばらく会わない内に太ったね、ギー太」
梓(93)「無理しないでください」
唯(94)「いやいや。ギー太の愛を受け止めぬわけには」
梓(93)「……しょうがないないですねぇ」
唯(94)「? どうしたのあずにゃん。むったん置いちゃって」
梓(93)「今日はむったんはお休みです。代わりにギー太に頑張ってもらいます」
唯(94)「へへっ。お姉さん達が可愛がってあげるよギー太……」
梓(93)「年甲斐もないこと言わないでください」
唯(94)「あずにゃん、やきもちぃ?」
梓(93)「あはははははは」
唯(94)「あずにゃん…昔は可愛かったのに……」
梓(93)「この歳で可愛いなんて言われたくありません」
唯(94)「お隣のおばあちゃんは可愛いおばあちゃんとして有名だったよ」
梓(93)「確かに亡くなったのが最近のことのように思えるくらい元気な方でしたね」
唯(94)「不思議なものだね」
梓(93)「何がです?」
唯(94)「私がおばあちゃんになってもおばあちゃんはおばあちゃんなんだなぁって」
梓(93)「唯先輩らしいですね」
唯(94)「そかな?」
梓(93)「唯先輩はいつまでも唯先輩ですよ。私にとってはね」
唯(94)「喜んでいいのかな?」
梓(93)「いいですよ。唯先輩は15の春に出会って以来そのままです」
唯(94)「……人生を悔い改めるべきだね」
梓(93)「いいんですよ」
唯(94)「よかったのかな? 支えられてばかりの私がこんなに生きて?」
梓(93)「誰かを支えてないと生きられない人もいるんです。だからいいんです」
唯(94)「私も誰かを支えたかったよ」
梓(93)「わかってないですね」
唯(94)「え?」
梓(93)「いえ、それが唯先輩のいいところですから」
唯(94)「あずにゃんもね」
梓(93)「はい?」
唯(94)「あずにゃんも、ずっと私の可愛い後輩だったよ」
梓(93)「……私の可愛い後輩に先立たれるとは思いませんでした」
唯(94)「……亀は万年、じゃなかったね」
梓(93)「しょうがないですよ」
唯(94)「トンちゃんは幸せだったよ。最期まであずにゃんと一緒で」
梓(93)「唯先輩も一緒でしたね」
唯(94)「まぁね。……やっぱり死に目にあわないと後悔しそうだったから」
梓(93)「和さんは気にしてませんよ」
唯(94)「私が気にしてるんだよ」
梓(93)「心配かけたくなかったんですよ、唯先輩には」
唯(94)「どうして?病気のことくらい教えてくれてもよかったじゃない」
梓(93)「和さんは唯先輩の泣き顔を見たくなかったんですよ」
唯(94)「……純ちゃんみたいだね」
梓(93)「……あの馬鹿は私のことなんか忘れてたんですよ」
唯(94)「憂にも伝えてなかったみたいだよ」
梓(93)「……しょうがない奴です」
唯(94)「でもみんなずるいよね。かっこつけちゃってさ」
梓(93)「責めて言いたいこと言って死ねって感じですよ」
唯(94)「私だって伝えたいことはまだあったのに」
梓(93)「……大丈夫ですよ。ちゃんと伝わりましたから」
唯(94)「……本当?」
梓(93)「憂のあの笑顔、見たでしょ」
唯(94)「うん、そうだよね」
梓(93)「どんなになっても根性で唯先輩の最期を看取るまで粘りそうだった憂があんな笑みを浮かべていたんですから」
唯(94)「憂、幸せだったのかな」
梓(93)「当たり前です」
唯(94)「よかった」
梓(93)「唯先輩はどうですか?」
唯(94)「私?」
梓(93)「幸せ、でしたか?」
唯(94)「えへへ……」
梓(93)「子どもみたいに笑わないでください」
唯(94)「こんな風に笑えるのが答え、じゃ駄目かな」
梓(93)「まぁいいでしょう」
唯(94)「おやもうこんな時間だ」
梓(93)「ほんとだ。もう。唯先輩がペチャクチャおしゃべりしてるからですよ」
唯(94)「そう言うあずにゃんだってぇ」
梓(93)「う……とにかく練習です。私がコードを押さえますから唯先輩はピッキングをお願いします」
唯(94)「曲は何にする?」
梓(93)「そうですね……ふでペン~ボールペン~でどうです?」
唯(94)「原点回帰、だね」
梓(93)「そうなりますね」
唯(94)「でもあの頃とすごく違うところがあるよ」
梓(93)「何が違うんですか」
唯(94)「あずにゃんの方から私に抱きついてるってこと」
梓(93)「……抱きついてるんじゃありません。弾きやすい位置にいるだけです」
唯(94)「もうあずにゃんったらぁ。私だって最近は自重してたのに」
梓(93)「もうどいてください。私が一人で弾きますから唯先輩は歌ってください」
唯(94)「いやぁ~ごめんよ~真面目に練習しますから~」
梓(93)「全く。ギー太も泣いてますよ」
唯(94)「ごめん、ギー太。ギターは泣かせるものじゃなくて鳴かせるものだよね」
梓(93)「もういいから始めましょう」
唯(94)「……いち、に、さん……ふっふー…」
梓(93)「……」
唯(94)「……あくしょーん……かーもーね……」
梓(93)「……あいを……くるくーると……」
唯(94)「……がんばーれ……」
梓(93)「……本気よー……」
唯(94)「……」
梓(93)「……唯先輩?」
唯(94)「……」
梓(93)「まだ一番までしか終わってませんよ」
唯(94)「あの時はあずにゃんは歌えずじまいだったね」
梓(93)「そうでしたね」
唯(94)「77回目の去年はフルで歌わせてもらえたね」
梓(93)「名物ですからね私達」
唯(94)「77回連続って縁起がいいよね」
梓(93)「やめてください」
唯(94)「あずにゃん。放課後ティータイムのラストライブっていつだったっけ」
梓(93)「……律先輩が亡くなる前日です」
唯(94)「りっちゃんは元気すぎたね」
梓(93)「もう少し落ち着いていてもらいたかったです」
唯(94)「ムギちゃんは優しすぎたね」
梓(93)「もっと自分のことを大事にしてもらいたかったです」
唯(94)「澪ちゃんはりっちゃんの分まで頑張ったよ」
梓(93)「最後は律先輩分が切れたのかもしれませんね」
唯(94)「そしてわたしは」
梓(93)「やめてください」
唯(94)「あずにゃん」
梓(93)「言わないで…終わらせないで……」
唯(94)「あずにゃん。わたしのひとりごと、きいてくれる?」
梓(93)「……」
唯(94)「だきしめてばかりだったのはことばたらずだったから」
唯(94)「いつでもどこでもだきついたのはきもちがおさえられなかったから」
唯(94)「すこしはえんりょしたほうがよかったかな?」
唯(94)「きたいをこめてだきついてたんだよ。でもいまのままでもここちよかったんだよ」
唯(94)「だれにもうばわれることのない『あずにゃん』だったからね」
唯(94)「よかったよ。ずっときみといられて」
唯(94)「あずにゃん……」
梓(93)「……」
唯(94)「……」
梓(93)「……」
梓(93)「……唯先輩」
梓(93)「だめすぎです」
梓(93)「いまさらになって……」
梓(93)「すべてですよ」
梓(93)「きょうまであなたがやってきたことすべてがだめです」
梓(93)「でも、それはりゆうでもありました。……わたしがあなたといっしょにいられる」
梓(93)「すくわれたんですよ。わたしはあなたに」
終