関連記事:とある星座の偽善使い(フォックスワード) 前編/後編
とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
「クリスマス」「初雪」「前夜祭」をテーマに、その後の三人のほのぼのした様子を少しばかり投下させて下さい。
お品書きは
1:とある四位の詩菜崩し(ファーストストライク)
2:とある雪夜の座標殺し(姫神×結標)
3:とある月夜の空中散歩(麦野×禁書)
4:とある無能力者の災厄匣(パンドラボックス)
5:とある聖夜の偽善崩し(上条×麦野)
です。
元スレ
麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1291819165/
~第七学区・上条当麻の部屋~
麦野「当麻、インデックス、雪よ」
上条「ん?ああ。ついさっき降って来たみたいなんだ。沈利がシャワー浴びに行ってからすぐくらいだったっけか?」
禁書「うん!でもスゴいんだよ!日本で雪を見るなんて思ってなかったかも!」
麦野「ああ…アンタの国じゃ雪より雨の方が多いんだっけ?」
深々と降り積もる粉雪が一陣の夜風に舞い上がるのを、麦野沈利は濡れた髪をタオルで乾かしつつ僅かに開け放たれた窓辺より見上げていた。
それまでコタツでテレビを見ていたインデックスやスフィンクス、入院中より麦野が愛飲しているマリアージュフレールを淹れていた上条が共に視線を向けた。
麦野「初雪ね…」
上条「そうだな…つか、湯冷めするぞ?ほら座れよ。乾かしてやるから」
禁書「なんだか雪見てたら豚まん食べたくなってきたかも…おこたで食べる豚まんは最高なんだよ」
麦野「ムードないわねーアンタ達…ん、お願い」
チラと窓辺より自分の後ろに立つ上条の顔を肩越しに振り返る。
同時に壁に掛けられた時計の、緩やかに時を刻む長針と淀む事なく時を追う短針が交わるのが見えた。
上条「はーいお客様かゆいところはございませんかー?…なんてな」
麦野「ある訳ないでしょ今上がったばっかりなんだから…」
上条のベッドに腰掛ける麦野と、その背面に回ってタオルで水気を拭き取る上条。
麦野はその間日向ぼっこする猫のように瞳を細めてされるがままになっている。
それをインデックスは僅かに頬を膨らませ、両手で持ったティーカップを置いて抗議した。
禁書「しずりばっかりズルいんだよ!とうまはわたしにそんな事してくれないかも!」
麦野「彼女の特権よ。って言うか私以外の女にそんな事したらブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね・かーみじょう」
紆余曲折を経てインデックスが上条当麻の部屋に転がり込んで来てからそろそろ年が明けようとしていた。
当初、麦野に猛烈な反対を受け大喧嘩にまで発展したが最終的には麦野が折れた。
ただしそれは条件付きの限定解除。以下はその三箇条である
1『私以外の女に色目使っても使われてもブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い』
2『土曜日の夜には必ず一日お泊まりに来る事。すっぽかしたらオ・シ・オ・キ・か・く・て・い』
3『インデックスに手出したら×××をジュージュー真っ黒焦げ焼きごての刑』
上条「(…いつもの真っ黒な笑顔と、笑ってない目が母さんの怒った時と同じでしたよ…)」
麦野沈利が独占欲と執着心が人一倍強い女である。
インデックスは言わば例外中の例外であり、しょっちゅうフラグを立てる上条は時折、麦野の怒った顔が母・詩菜と重なる時がある。
父・刀夜と図らずも男二人で肩身の狭い思いをし、母と麦野が談笑するといった光景は大覇星祭で経験済みである。
刀夜『息子よ…血は争えんな』
遠い目をしてくたびれ果てた父の背中は、小さかった。
上条「(母さんも昔は沈利みたいだったのかなあ…喧嘩すると物投げる所とかそっくりだし)」
初対面の際、麦野は完璧な所作と立ち振る舞いで非の打ちどころのない名家の令嬢をやってのけた。
上条は何度も突っ込みたくなったがその都度テーブルの下で足を踏まれた。
インデックスも突っ込もうとしたが無言のまま笑殺と相成った。
詩菜『あらあら。当麻さん的にはお姉さんキャラが直球なのかしら?』
かつて麦野は語った。
麦野『いい?相手方の母親に気に入られて味方についてもらえば八割方勝ったも同然なの。落とすなら母親。地獄についても忘れるんじゃないわよ』
そしてこの言葉が数年後、現実のものになるとこの時上条は知る由もなかったのである。
~第七学区・とある学生寮~
禁書「じゃあ行ってくるんだよ!」
麦野「待ちなさい。マフラー忘れてる。ほら」
禁書「わぷっ。しずり、あったか~いんだよ!」
上条「足滑らせないように気をつけろよ!」
麦野「大丈夫。じゃあ行こうかインデックス」
禁書「ごーあへっどなんだよ!」
バタン。と玄関の扉が閉まる。二人して雪見がてらコンビニに夜食を買いに行ったようである。
この寒い中、風呂上がりとは言え物好きだと上条は思った。
上条「それにしても…服増えたなー…」
インデックスにマフラーを巻いてやるべく麦野が開けたクローゼットはいつしか麦野とインデックスの服がそれなりに揃っていた。
半同棲の通い妻と押し掛け女房ね、と麦野がカラカラと笑っていたのはいつの頃か。
上条「どれどれ…次は上条さんが命の洗濯ですよ…っと。寝間着はー…ん?なんだコレ?」
鬼の居ぬ間に洗濯に赴かんと寝間着と下着を取り出そうとすると…
そこに昨日までは見かけなかった段ボール箱が鎮座していた。
麦野の口紅で走り書きされた小さなメモが貼られ、封をされている。
『This is mine!! Don't touch - Don't open it! Throw it out and I'll kill you!!!"』
上条「…爆弾、とかじゃないよな…つかこういうのどっかで見たような」
何となく中身を調べるのは危なそうだと判断した上条はすごすごと浴室へと向かって行く。
それが災厄の匣(パンドラのはこ)とも知らずに…
~第七学区・とあるコンビニ付近~
結標「もうちょっと中入らせてよ。左肩ビショビショになっちゃったじゃない」
姫神「ダメ。私の右肩が濡れる。傘を持ってるのは。私」
結標「何のために迎えに来たのよ…やっぱり小萌に来てもらえば良かったわ」
姫神「あなたの力で。飛んで帰ってくれば良かったじゃない」
結標「雪の日は演算がしにくいのよ。あなたにはわからないでしょうけどね」
初雪が降り注ぐ中、赤い蛇の目傘の中肩を寄せ合いながら道行くは巫女服姿の姫神秋沙と冬の制服姿の結標淡希である。
二人共に月詠小萌の家に居候していたという共通点もあり、縁を持った。
今夜は仕事帰りに雪に見舞われた結標を姫神が傘を持って迎えに来たのである。
姫神「私も雪の日は苦手。顔の筋肉が固まって動かなくなる」
結標「いつもと変わらないじゃない」
姫神「そう。短い付き合いだったね。淡希」スッ
結標「あうっ」
蛇の目傘を結標から離し雪道をさくさくと行く姫神。その先にはコンビニがあり、さながら誘蛾灯に惹かれるようにして入って行く。
結標「ちょっと!あなた――」
姫神「お茶。このままじゃ家まで持たない。淡希も来る?」
結標「もうっ…私はコーヒーね」
誘われるままコンビニの自動ドアをくぐる二人。すぐさま暖かな空気に包まれ冷え切った肌に鳥肌が立つ。
店内はそれなりに賑わっていたが、ホットドリンクのコーナーに辿り着いた途端に結標の表情が歪む
結標「コーヒー1本もないじゃない!」
店員「申し訳ございません…さきほど他のお客様が全てお買い上げに…」
結標「…それって、髪の白いヤツ?」
店員「は、はあ…」
姫神「淡希。知り合い?」
結標「…まあね」
結標の知る限りこんな真似が出来る心当たりは一人しかいない。
しかし、ガックリと濡れた肩を落とす結標の前に――
禁書「あいさ!」
姫神「こんばんは。久しぶり」
麦野「あ~らお久しぶりねぇぇ?」
結標「(げっ…最悪じゃない!)」
姿を現すはホットスナックコーナーを買い占めてホクホク顔のインデックスと、シャケ弁を手にした麦野沈利であった。
禁書「あいさもお買い物?」
姫神「そう。あなた達も?」
麦野「そ。このガキが豚まん豚まんうるさいから仕方なくねー」チラッ
結標「(なに見てんのよ)」
インデックスと姫神が話し込む間、麦野は結標を、結標は麦野を見ていた。
麦野「あの窓のないビル以来ね?」
結標「そうなるかしら?丸くなったって噂は嘘じゃなかったのね。子供連れで買い物なんて」
麦野「角が取れたなって自分でも思う事はあるけど?」
結標「らしいわね。引退したんですって?元暗部さん」
麦野「“気楽な身分でハッピーリタイア”って思ってる?現暗部さん」
かたや『窓のないビルの案内人』かたや『元アイテムのリーダー』
レベル5の4位と最もレベル5に近いレベル4。
外の冷気すら及びもつかない冷たい空気が走るも――
結標「…腹の探り合いはやめましょ。お互い何の利益もないわ」
麦野「そうね。彼女さんとデート中みたいだし邪魔しちゃ悪いわね」
結標「ち、ちっ、違っ、違――」
姫神「淡希。これ」ピトッ
結標「ひゃうっ!?」
ニヤニヤ笑う麦野に虚を突かれた結標の頬になにかが押し当てられる…それは
結標「…缶コーヒー?」
禁書「あいさのお友達だから!あげるんだよ!」
姫神「だって」
ホワイトヘアーの客が来る前に買い物カゴに入れていたらしい缶コーヒー。
それをインデックスが姫神に手渡したのだ。先程のやり取りを見ての事らしい。
結標「あっ…ありが…とう」
禁書「いいんだよ!」
姫神「私からも。ありがとう」
麦野「インデックスー帰るよー」
禁書「うん!じゃあ帰るんだよ!バイバイ!」
紙袋いっぱいのホットスナックを抱えてインデックスと麦野は店内を出て行った。
手持ち無沙汰な結標と、相変わらず表情に乏しい姫神を残して
姫神「淡希」
結標「っ!」
姫神「どうして。嘘ついたの。それも。2つも」
結標「わっ、私は嘘なんかついてない」
ジリッと結標に迫る姫神。ザザッと後退る結標。店員はあくびをしながらやる気なくレジに立っていて…
姫神「1つめ。雪の日だからテレポート出来ない。これは嘘。淡希は雨の日だって飛べる」
結標「あ、あなただって傘一本しか持ってこなかったじゃない!」
姫神「2つめ。言わなくても。わかるでしょう」
結標「くっ…」
姫神「罰として。缶コーヒー半分こ」
~第七学区・雪の夜道~
禁書「うう~寒いんだよ…豚まん冷めちゃうんだよ…雪がフカフカして歩きにくいかも」
麦野「思ったより雪の勢いが強くなってきたものね…明日は車出せないわ」
禁書「ん~…そうだしずり!羽!あの羽出して欲しいんだよ!あれならひとっ飛びかも!」
麦野「ダーメー」
禁書「どうしてー!」
いや増すばかりの雪の勢いにしょんぼりするインデックスと、雪の上をヒールの高いブーツでさくさく歩く麦野。
これで階段を駆けられるくらい出来ない女はブーツなんて履くなと麦野は思っている。
麦野「ダメったらダメ。しょーがないわね…ちょっと掴まんなさい」
禁書「どうするの?しずり」
麦野「こうするの」
ドンッ!とインデックスを抱え込んだまま足場に原子崩しを連続して放ち一気に高速移動を繰り返す。
禁書「や、やめるんだよしずり!やめてやめて怖いかもぉぉぉー!」
麦野「あっはっはっはー!泣いても叫んでも誰も助けに来ねぇんだよォォォー!チビったら自分でパンツ洗うんだねェェインデックスぅぅぅー!」
禁書「やー!!!」
降り積もる雪が横殴りのそれに感じられるまでに駆ける麦野、叫ぶインデックス。
それでもしっかり豚まんとホットスナックの入った紙袋だけは落とさない。
禁書「冷べたいんだよぉっ!もっとゆっぷぷぺっ!」
麦野「ほらほら囀ってると舌噛むわよぉ?オラオラオラぁぁぁー!」
ガードレールから街路灯、電柱からビルの壁面へ、飛び石伝いに風車から飛ぶ、風車へと跳ぶ、風車より翔ぶ。
空気抵抗を突っ切り、自由落下を無視し、真新しい処女雪に刻む足跡。
皓々と雪降る夜の月に浮かぶ、二匹のウサギのシルエット。
?「なンだァ?ありゃあ…」
?「サンタだよ!サンタさんだよってミサカはミサカは指差してみたり!」
?「トナカイさンがいねェだろうがァ…」
それを見上げる、袋一杯の缶コーヒーを引っさげたホワイトヘアーの少年とアホ毛の少女。
十二月二十三日…クリスマス前夜の事である。
~第七学区・とある学生寮屋上~
麦野「ふうっ…ちょっと飛びすぎた」
禁書「危ないんだよ!お星さまになっちゃうところだったかも!」
僅か一分足らずで上条の住まう寮の屋上へと舞い戻る二人。
しかし雪を散々被らされたインデックスはひどくご立腹である。
だが麦野は悪びれた風もなく
麦野「お星さまねえ?…インデックス、下見てみなさい」
禁書「下…?…わあ…!」
そこでインデックスははたと気づく。眼下に広がる綺羅星を散りばめたような街並みを。
煌びやかなイルミネーションに彩られたビルとツリーとがまるで地上の星のように夜の街を飾り立てているのを。
禁書「スゴいんだよ…」
麦野「食い気もいいけどたまにはこういうのも悪くないでしょ」
天からは処女雪、地よりは綺羅星。遥か英国より、かなた学園都市へと。
世界各地を転戦に次ぐ転戦。皆、戦い通しの一年だった。
こうして夜景の街並みを臨むゆとりも余裕もなかった。
禁書「うん…とっても綺麗なんだよ!」
麦野「(こういうのは男の役回りでしょうに)」
夜風に翻る栗色の髪を手で押さえながら白い吐息を見送る麦野。
ケーキのロウソクを見つめるような眼差しのインデックス。
御坂御琴が「科学の太陽」ならインデックスは「魔術の月」、さしずめ麦野沈利は「暗部の星」といったようなタイプの異なる美貌が光に照らされる。
禁書「絶対…忘れないんだよ」
記憶を奪われ続けた少女が歩み出した年…三人で見た世界を、もう二度と忘れまいと、一瞬も目をそらさず輝く夜の街を見つめるインデックス。
麦野「…バーカ…早く戻るわよ…豚まん冷めちゃうんじゃなかったのー?」
そんなインデックスをスッポリと背中からコートで覆うように抱き締める麦野。
馴れ合いは大嫌いだ。子供は苦手だ。母性なんて男の身勝手な幻想だ。なのに
麦野「(まっ…いいか…コイツなら)」
厚かましく転がり込んだ野良猫と思おうにも、湧いてしまった情が拭えない。
ちょうど、手負いの獣のようだった自分が当麻に出会ってしまったように。
麦野「そうだ…インデックス。ちょっと早いんだけど、あのダンボールの中身――」
禁書「!?あれ、あれホントに着るの!?しずり」
麦野「そうね。でなきゃ二人分揃えたのが無駄になるじゃない」
似て非なる地獄を、同じ一人の男に救われた女同士の親近感…という事にしておこう。麦野沈利はそう思う事にした。
~第七学区・上条当麻の部屋~
上条「ふー…あったまったあったまった…っていけね、最後の風呂掃除オレだった」
入浴後、寝間着に着替えてから上条当麻ははたと気づいた。牛乳風呂の栓を抜いていなかったのである。
上条「夏の時忘れてエラい目にあったんだよなあ…すっかり忘れてた」
以前、うっかり掃除を忘れ地獄絵図と化したバスルームを思い出し上条は苦笑いした。
こうして見れば浴室にも随分と彼女達の物が増えた。
『とうまの』『わたしの』『しずりの』とふにゃふにゃの文字で書かれたシャンプーやボディーソープ。
日本製の石鹸が合わなくて肌のかぶれたインデックスに、麦野が愛用するアブドゥール・ヴァティーアという石鹸を与えていた事もある。
上条「なんだか…家族みたいだよなあこういうの」
インデックスは家族の記憶がない。麦野は家族の事を話さない。
まともに家庭を持っているのは三人の中で上条ただ一人だ。
麦野『私の両親に挨拶?いらないわよそんなもん。顔も見たくないし向こうだってそうでしょ…それより、アンタのお母さんってスッゴく肌綺麗ねー?』
上条が大覇星祭の時、両親と麦野を引き合わせた後…二人っきりになった時吐き捨てるように麦野は言った。
憎々しく語るのを通り越して、まるで見知らぬ誰かが死んだのを語るように。
上条「よしっ…こんなもんだな?」
「しずりー!胸のところブカブカなんだよ!」
「残りの豚まんでも詰めりゃいいじゃないひと口点心娘」
「しずりこそ食い込んでるんだよ!お肉が余ってるかも!」
「脚の事は言うんじゃねよォォォ!テメェの顔を豚まんにしてやろうかぁぁぁ!?」
上条「ん?アイツらいつの間に…」
。
それに気づいた上条はリビングの喧騒に誘われるがままにバスルームを出…そこで絶句した。
上条「なんだそのカッコ!!??」
麦野「はぁい。一足お先のサンタガールよ~ん」
禁書「と、とーま!」
なんと…そこには世に言うミニスカ・ヘソ出し・ガーターベルトのサンタガール姿の麦野とインデックスが居た。
麦野「おいおい黙んないでよ。優しくさすってやれば感覚戻るかにゃーん?」
先程の物騒な警告文が書かれた段ボール箱の中身はこれであり、不意打ちを食らった上条は口をあんぐりとさせていた。
麦野「ん~効果は抜群だったみたいね~…残念ねクソガキ。私の土俵で勝負した時点でアンタの敗北は決まってたのよ」
迫り出した胸の谷間、少しガーターベルトが食い込みながらも伸びやかな脚線美。
勝ち誇ったように人差し指をインデックスに突き付けながら細腰に手を当てる麦野と
禁書「ちっ、違うもん!しずりがとしよりのひやみずでそんなの着るからとーまがドン引きしてるんだよ!」ブンッ!
麦野「痛っ…私はまだ××歳だクソガキィィィィ!上等だその歳で生きるのに飽きたんなら愉快なオブジェになるよう手伝ってやるよォォォー!」
見慣れた『歩く教会』の修道服ではない、ミスマッチなミニスカサンタ姿のインデックスが麦野の顔目掛けて豚まんをぶつける。
それを大岡裁きのような位置から茫然自失となる上条を置き去りにして。
禁書「そんな格好した悪い子にサンタさんは来ないんだよ!罰が当たるかも!!だいたいクリスマスは24日じゃなくて25日なんだよ!!」
麦野「関係ねえよ!24日とか25日とかカァァンケイねェェんだよォォッ!当麻とイチャイチャ出来ればなんだって良いんだよぉぉ!」
上条「(…どうしてこうなった…)」
神裂の堕天使エロメイドコスプレ以来の衝撃に、上条の頭の中が初雪状態である。
一方通行並みの演算能力を持ってしても追いつかない、違った意味の『自分だけの現実』の崩壊である。
麦野「かーみじょう!」
禁書「とーま!」
麦野・禁書「「どっちが似合う!?」」
上条「(…不幸だ…)」
その様子を能力でウォッチングしていた第六位(ロストナンバー)は、泣きながら売れ残りのパンにかじりつき人生の味を噛み締めたらしい。
『カミやんもげろ』『リア充爆発しろ』『今年のクリスマスは中止や』と泣き叫びながら
~上条当麻の部屋・リビング~
禁書「ん~…もう食べられないかも…むにゃむにゃ」
麦野「あーあーせっかく取り寄せたサロンが半分も開けられちゃった…当麻、グラス取って」
上条「麦野さん、オレ達未成ね(ry」
麦野「気持ち良く酔ってる時シラケるような事言うんじゃないの」
ミニスカサンタ騒動の後、前夜祭と称してしっちゃかめっちゃか飲み食いした挙げ句インデックスはシャンパンを呷って眠りこけてしまった。
そんなインデックスをベッドに寝かしつけた上条は、言われるがままにグラスを手渡した。
麦野「ほら、アンタも付き合いなさい」
上条「…ったく。一杯だけな!」
手慣れた様子で注ぎ、二人でチンと音を立ててグラスを合わせる。
麦野はクイッと一息に飲み干し、上条は戸惑いながらゆっくり飲んだ。
麦野「今年の出来は今一つだけど…去年のよりずっと美味しく感じられる気がする」
上条「そうなのか?オレ酒の事なんて全然わかんねえから――」
麦野「鈍いわね。アンタがいるからよ」
音を立てずにグラスをコタツの上に戻し、麦野が小さく笑んだ。ベッドで幸せそうに眠るインデックスへ一瞥を送りながら。
麦野「インデックスもはしゃいじゃったんじゃない?何回目かの“初めてのクリスマス”だから」
上条「あっ…そうか、そうだよな…」
インデックスには一年前から記憶がない。恐らく、今回が何度目かの『初めてのクリスマス』である可能性は高い。
七月で一年の記憶のサイクルを鑑みれば一度くらいはあるかも知れないが…
上条「…ああ。初めてなのかも知れないんだよな。だからこんなに…」
麦野「食い散らかし方はいつも通りだけどね」
上条「――なら、これからは二回目、三回目のクリスマス…作っていこうぜ…みんなでさ」
麦野「――私達のも、忘れないように」
上条「当たり前だろ?」
間もなく、日付が23日より24日に変わろうとしている事を指し示す壁掛け時計を共に見上げて。
インデックスは25日と言っていたが日本人の上条の感覚では24日であるし、麦野に至っては23日から騒ごうが一向に構わないのである。
問題は誰と、どう過ごすか。
上条「――なあ、沈利」
麦野「ん?」
二人並んでコタツに入りながら、上条は麦野が持ち込んだゴロセットトリュフのクラッカーを摘みながら、麦野は飲み直しと称してジョージ・T・スタッグスをショットグラスに注いでいた。
上条「オレさ…お前より年下だし、レベルなんてもっと下だし、家だってごく普通だ…不幸に巻き込まれるなんてのもしょっちゅうある」
麦野「………………」
上条「けど…なんつうかさ」
上条の横顔を見やる麦野の頬に朱が差して行く。度数70度のバーボンではあるが飲み慣れた麦野を酔い潰すほどではない。しかし
上条「お前と一緒に…こんな幸せなクリスマスを…この先もずっと一緒に過ごしたいって…思ってんだ、オレ」
上条「だから…何年か後の沈利に…謝らせてくれ。“遅れてごめん、待ったか?”って…その代わり、それを最後の遅刻にするからさ」
上条「オレのお願い…聞いてくれるか?サンタさん」
クイッと一息に喉を焼き胸を灼く液体を飲み干す麦野。頭脳は明晰だ。
この女心もロクにわからない朴念仁が放った気の利かない告白の意味するところが…わからないほど、酔ってなどいない。
麦野「――仕方ないわね――」
しょっちゅう不幸に苛まれ、誰彼構わずフラグを立て、後先考えず危ない場所へ突っ込んで行く…こんな男に、自分以外のどんな女がついていけると言うのだ。
麦野「謝りなさいよ。何年か後の私に…きっと待ちくたびれて拗ねてるでしょうからね」
上条「ああ」
麦野「待ち合わせに男を待たせるのがイイ女の嗜みだったハズなんだけどねー…」
沸点は低く口は悪く、愛情だって歪んでるし根性だって曲がってる。脚もちょっと太い…こんな女を、この男以外の誰が引っ張り回せるというのだ。
麦野「――靴下ないけど、良い子じゃないけど、聞いてあげる。アンタのお願い。だって…私にしか叶えてあげられないんでしょ?」
上条「そうだ」
上条沈利なんて響きは美しくないけど、麦野当麻よりはずっと綺麗。そう思えるから
上条「…雪、ちょっと見てみないか?どんくらい積もったか」
麦野「んっ…」
連れ立ってベランダに出る。ミニスカサンタコスプレでも寒くはない。
70度のアルコールと、36度の体温が自分をしっかりと抱いていてくれるから。
麦野「はあっ…明日はホワイトクリスマスね」
上条「だな…学園都市に来て初めてだ。クリスマスに雪降ったのって」
麦野「うん…なんか雪見てるとロシア思い出すわね…夢みたい」
上条「幻想(ゆめ)じゃないさ」
深々と降り注ぐ雪の音、他愛もない会話、取り留めのない言葉。
何にも代え難い体温、何よりも得難い腕、何よりも愛しい――存在。
遠くに光るイルミネーションが日付変更を告げて輝く。
痩せっぽちの神様が生まれた日。インデックスが初めて迎える日。自分達が初めて過ごす――クリスマス。
麦野「メリークリスマス…当麻」
上条「メリークリスマス…沈利」
少し冷えて来た。
お酒はもういらない。
後はこの男にあたためてもらえばいい。
見せつけてやる。神様に。
――私は今、世界で一番幸せだって――
322 : 以下、三日目金曜東Rブロック59... - 2010/12/23 18:32:08.64 9IdGp2AO 17/17とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。本編はすでに終了しておりますが、ほのぼのしたクリスマス前夜祭をテーマにその後を書いてみたくなり投下させていただきました。
Janne Da Arcの「I'm so Happy」という曲を聞いていて浮かんだものですが、これにて投下は終了となります。
蛇足ですが、今回のSSで登場した嗜好品リスト解説
1:マリアージュフレール…フランス式紅茶のブランドです。日本にも支店があります。第2章上条入院から登場し、麦野のお気に入りはベリーフレンチという設定です
2:アブドゥール・ヴァティーア…オリーブ石鹸のブランドです。フランスでは超一流、最高級の逸品と言われています。麦野からインデックスへ
3:サロン…言わずもがなフランスが誇る最高峰のシャンパン。インデックスがラッパ飲みしたモノです。
4:ゴロセットトリュフ…トリュフ入りチーズです。上条はこれをクラッカーに乗せて食べています。
5:ジョージ・T・スタッグス…日本ではあまり見かけない希少なバーボン。度数はバラつきがありますがだいたい70度台です。上条家なのでアイスは無しに
よく聞く麦野お嬢様説を取り入れ、イギリス出身のインデックスと嗜好が対になるようフランス系統のモノを好むなんて設定にしてしまいました。
作中で歌った「IRRESISTIBLEMENT」などもフレンチポップスの代表的ナンバーです。
それでは皆様、良いクリスマスを…失礼いたします。