1 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/03/09 23:46:55.46 jT3sWCsl0 1/44

「つまらない」

「え?」

「毎日がつまらない」

「……」

「……つまらない」

「お前がそういう時は決まってなんか辛いことがあった時だよな。どうした?」

「……ゲーセン行こ」

「今から? いいよ」


モブ「おーい、今日の総合で先生が言ってた、女への寄せ書きの紙、
みんな書いとけよー。明日の放課後には委員長が集めるからなー」




元スレ
男「マイナスとマイナスをかけたらプラスになるんだよ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1362840415/

2 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/09 23:50:49.77 jT3sWCslo 2/44

ビッチ「はあ?」

DQN「メンドクセーなー」

ヲタ「書いたってどうせ学校来ないでござるwwwww」

モブ2「俺たちもうすぐクラス替えだしいいじゃーん、ほっといたら」

「そういやあれ、俺たちまだ書いてないな。書いていく?」

「明日でいいだろ、行くぞ」

「お、おう……」


3 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/09 23:52:39.67 jT3sWCslo 3/44

ゲームセンター

「何する? 格ゲーでもするか?」

「UFOキャッチャー……」

「お前これ苦手だろ」

「金渡すから取ってくれ」

「俺はお前の彼女かwww お前ホント女々しいな。まあそれ知ってて友達やってんだけどな」

「ずっと欲しかったのがあるんだ」

「ん? どれ?」

「あのアザラシのぬいぐるみ」

「OK,とってやる」

ピコピコ ウィーン ガタッ ピロリロピロピロ……

「やった、かかったぞ! ってありゃ、これとなりのクマのぬいぐるみだ」

「アザラシ取って」

「しゃあねえな」


4 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/09 23:55:08.27 jT3sWCslo 4/44


ピコピコ ウィーン ガタッ ピロリロピロピロ……

「ほれ」

「! あ、ありがとう! お前のUFOキャッチャーのうでは天才的だな」

「俺はあのひよこのやつが欲しいな、やるか」

「クマのやついらねえからやるぞ」

「俺はひよこがいいの! 自分で持っとけよ、それ」

「誰かにあげるかな……」

「んで? 俺に愚痴りたいことがあんだろ? どこで聞こうか、男の家は?」

「アル中の親が暴れてる家でいいならいいけど」

「そういやそうだったな……。お前の悩みってのもそれ関係?」

「うん」

「俺んち来る?」

「悪いな、邪魔させてもらう」


5 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/09 23:58:04.86 jT3sWCslo 5/44

友の家

「で、親がどうしたって?」

「親に殴られた」

「ええっ、いつ? 目立った傷は見当たらないけど……」

「一ヶ月前」

「だいぶ前だな、冬休み中じゃん。それ誰にも相談できなかったのか」

「うん」

「なんで殴られたの?」

「小テストの結果が悪くて、それ見せたら殴られた」

「お母さん酔ってたのか」

「うん、昼間から飲んでやがった」

「何か言われた?」

「次はないって。次は[ピーーー]って」

「……それヤバくね? 先生に相談したほうがいいんじゃないか? つーかしなきゃダメだろ、このままだと殺されちまう」




6 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/10 00:01:28.64 G0y2+vWJo 6/44

「……き」

「き?」

「九点だったんだ! 十点満点のテストで!」ガタッ

「お、おい……」

「そんなにおかしいかよ! 一点ぐらい誰にでもミスあるだろ! 自分は昼から飲んどいて、息子には完璧主義の押し付けってか!
  ふざけんなよおおおおおおお!!!!」


「わかった、わかったから落ち着け! とにかく座れ」

「はあ、はあ……ごめん」

「……」


7 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/10 00:03:19.16 G0y2+vWJo 7/44


(男。十六歳、高2。 母親と二人暮らし。父は、男が十二歳の時に離婚。今は別の家庭を持っているらしい)

(離婚の原因は母の不倫。父は親権を取ろうとしたが失敗。離婚後、母は酒をよく飲むようになり、その一年後から虐待が始まった)

(その頃から男は人間不信に。自分の殻に閉じこもってしまった。同時に、女々しくもなった)

(ついには死の危険、か……)


8 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/10 00:06:15.10 G0y2+vWJo 8/44


「大丈夫、俺がお前を守ってやる」

「と、友……」ウルッ

「何かあったら我慢せずに俺に言え。あんまりやばそうだったら
俺が警察呼ぶぐらいまではしてやる」

「ありがどおおおぉぉぉぉぉぉ」ダキッ

「くっつくな!」ガバッ


9 : ◆J9zKsVx1xs[sag... - 2013/03/10 00:09:30.92 G0y2+vWJo 9/44


女の家

「……」

女母「ねえ、女ちゃん、私、女ちゃんと話がしたいの。
部屋に入れてくれない?」

「……今更なんなの」

女母「え?」

「どーせ、あれでしょ? 『もうそろそろ二年も終わる頃だから、学校に行ったらどう?
  出席日数も危ういんじゃない?』」

「とか言いに来たんでしょ」

女母「そ、それは……」

「でも残念でした。出席日数を気にする以前に、勉強が追いつかないの。
もうみんなと二年近く離れてる。授業も、全然わかんない」

女母「でも、女ちゃんは頭いいじゃない! 中学の時はほら、よく満点なんかとってきて……」

「うるっせーよ!」バンッ!

女母「!」ビクッ


10 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:16:07.78 G0y2+vWJo 10/44


友の家

「だが、まあ身を守るためには、満点を取る必要があるんだ」

「お、おう……」

「でも、最近授業に集中できない」

「死の恐怖から?」

「いや……」

「なんだよ、優等生のお前が勉強に集中できないなんて珍しい」

「好きな人が……できたんだ」

「え? ええっ!? 恋愛に疎いお前が、好きな人だって?」

「ああ」

「それって、女子だよな……?」

「当たり前だ!」

「……で? 誰だよ」

「女さん……だ……」

「えっ……?」


11 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:21:19.63 G0y2+vWJo 11/44


女の家

「二年も離れてるっつったろ! どーやって満点なんか取るんだ!?
  え?」バキッドカッ

女母「お、女ちゃん……」

「なあ!? どーやったら満点取れるんだよ!なあ!教えろよ……」ジワ

女母「わ、私が悪かったのよね!! そうよね!女ちゃん、ごめん! お母さん謝るから! 
   だからこれ以上暴れないで……」

「なあ! なあ! 誰か……教えてよ……」ポロポロ


「どうやったら満点取れるんだよ……」


12 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:23:54.02 G0y2+vWJo 12/44


友の家

「ちょ、ちょっと待てよ! 女って二年間不登校してるあの女だろ!?
  学校に来てない人を、どうやって好きになったんだ?」

「見たんだ……ゲーセンでカーゲームしてたの」

「ゲーセンって今日いったあそこ? 女も外に出てたんだな。
  ていうかよく女の顔覚えてたな、入学式の後数回会っただけだろ?」

「綺麗だったから……」

「まさかお前……一目惚れ?」

「……」コクッ

「なるほどな……」

「俺、女の家知ってんだ」

「へ?」

「ゲーセンから出てきた女の、あとをつけた」

「お前それ……ストーカーじゃん……」

「だから……」

「だから?」

「……寄せ書きは、俺が届ける」


14 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:26:45.25 G0y2+vWJo 13/44


(なるほど)

(放課後、寄せ書きを書かなかったのはただの照れ隠しか)

(面白い展開だな)

「あ」

「どうした?」

「ゲーセンで財布落とした」

「ええ!? やべえじゃん、急いで取りに行かなきゃ」

「もう暗いし、友はいいよ」

「そ、そうか? 気をつけてな」

「ああ。今日はありがとう」




15 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:28:18.91 G0y2+vWJo 14/44


「……ゲーセン行ってくる」

女母「へ」

「ゲーセン行くっつってんだろ! どけ!」ガチャ トタタ

女母「女ちゃん……いつからこんなに口が悪くなったの……? 私、どうすればいいの……」


16 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:30:35.67 G0y2+vWJo 15/44


「ゲーセン行くって言って飛び出してきたけど、特にやろうと思ってるゲームないしなあ……。
  帰ろうかな」

担任「~♪」

「げ! あれ担任じゃん!」

担任「おう! 女じゃないか! どうした、こんなとこで」

「先生には関係ないじゃん!」

担任「そういうわけでもないんだぞ? みんなお前のこと心配してるよ」

「どうだか……。行ったところで勉強おっつかないし」

担任「それは困ったなあ……」

「先生ってなんの教科だったっけ?」

担任「え? おまえ、忘れたのか? 担任の教科を」

「しょーがないじゃん、毎学期の始めにしか来ないんだから」

担任「それでも先生は、女の顔ちゃんと覚えてたぞ」

「!」


17 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:32:50.26 G0y2+vWJo 16/44


担任「先生の教科は数学だ。そして、これが成績にお困りの女様に用意したプリントだ!」ジャーン

「これ……本当に私のために……?」

担任「嘘だ」

「なっ!?」

担任「そもそも女とここであったのも偶然だ。これは一年生の補習組のプリントの余りだ。かなり簡単にしてある。
    文字と計算の所からだ。一度、やってみるのもいいんじゃないか?」

「うん、ありがとう……」ギュ

担任「何だ、やけに素直だな。ま、俺が言いたかったのはそれだけだ。じゃな! 寄り道するなよ!」

「ふん! 先生の言うことなんか聞いてやらないもんね! ゲーセン行ってやる!」

担任「ハハッ、体に気をつけろよ」テクテク

「先生、本当にありがとう……」


担任(女……お前なら、大丈夫だ)


18 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:34:30.52 G0y2+vWJo 17/44


「最初の問題やってみようかな。」

   
   『次の方程式を解け

(1) -4x=-16』

「xを求めるんだよね? どっちもマイナスだから、答えもマイナス! x=-4!」

「……あれ?」


19 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:36:11.13 G0y2+vWJo 18/44


ゲームセンター

(先生に対する反抗心でゲーセンまできたけど)

(特にやりたいゲームがない。……あれ? 財布が落ちてる)スッ

(男物だ、どうしよう。ここの店員に言ったら保管してもらえるの? それとも直接交番?)

(いや、見なかったことにしてそのへんに……)

「そっ、その財布俺のなんですぅ~!!!!」

「!」

「よ、良かったぁ盗られてなくて……どうもホントにありがっ……!」

「男くん……」

「お、女……?」


20 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:39:30.37 G0y2+vWJo 19/44


「女、どうしたのこんな時間に」

「男くんも、私のこと覚えててくれたんだ……」

「へ?」

「何でもない。よかったね、財布」

「女も、ここよく来るの?」

「まあね」

「そ、そうなんだ……」

(会話が続かない……。そうだ!)


21 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:41:25.20 G0y2+vWJo 20/44


「さっきそこで担任と会ってさ~」

「へ? 先生と会ったの?」

「なんかプリントとか渡されて、ホント迷惑。しかも超簡単なとこで間違うし」

「どれどれ……ああ、本当だ、符号の問題だね」

「カッコ悪い」

「はは、まあ逆に考えればややこしくないね、マイナスとマイナスをかけたら、」ピリリリリリリ

「おっとごめん、メールだ」


From:母
message:早く帰って飯作れゴミが


「……ごめん、もう行かなきゃ」

「う、うん」

「じゃあ、また学校で」

「……じゃあ、また学校で……」


22 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:44:25.42 G0y2+vWJo 21/44


男の家

「ただいま」

男母「おせーぞ! ゴミ野郎!」

「はいはい」

男母「何がはいはいだ! てめえのせいで私がどれだけ
   大変な目にあってきたかわかってんのカァ!」スッ

「ちょっ……ビール瓶危ないって!」

男母「ゴチャゴチャゴチャゴチャうるせええぇんだよおおおぉぉぉぉ!!!」バリーン

「うわっ」

男母「はあ、はあ、男、大丈夫~? ごめんね、痛かったぁ~? 
   お母さんもう二度としないから、許してぇ~」

「……飯作る」


(女……俺の家庭はこんななんだぜ……)


23 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:45:47.47 G0y2+vWJo 22/44


女の家

(眠れない)ゴソゴソ


女父「ただいま」

女母「あなた! 遅かったわね」

女父「また負けた」

女母「負けたって、まさか……」

女父「パチンコだよ!」

女母「そんな! もう賭け事はしないって約束したじゃあありませんか!」

女父「うるさい! 会社の借金を返すには博打しかないんだよ! こうなったら……」


女父「女に稼いでもらう……」


「!」

(男くん……私の家庭はこんななの……)


24 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:47:51.13 G0y2+vWJo 23/44


男の家・自室

ピリリリリリリ
「はい、もしもし」

男父「おう! 男か! 久しぶりだなあ、元気してたか?」

「いいや」

男父「……母さんとは……どうだ? 仲良くやってるか?」

「……っ」

男父「どうした、男?」


25 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:49:36.80 G0y2+vWJo 24/44


「……ああ、仲良くやってるよ。だから父さんは……心配すんな。今は別の奥さんと子供がいるんだろ?」

男父「おお! そうか! それは良かった。そうなんだよ、実はもうあんまり男に連絡できないんだ。すまん」

「わかってるよ。じゃあ」

男父「ま、お前ももう一人前の男だ。大人の世界では……ドロドロとした……
   そのぉ、まぁ、そういうのがあるんだ。わかってくれ」

「ああ、じゃあ」プツッ ツーツーツーツー

(大人の世界……ねぇ……)


「くだらねぇ」

「あれ? 熱っぽい……?」ポー


26 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/03/10 00:53:32.31 G0y2+vWJo 25/44


女の家・自室

「ストリップショー?」

女父「そう。歌って踊りながら服を脱げばいいだけだ。簡単だろう?
    それにお金を払ってくれるオトコの人たちがいるんだ。うちの生活も少しは楽になるぞ、
    お前が頑張ってくれれば、な」

「ふざけないで! 私が、汚いカネなんかで動くような安っぽい女に見える!? 
  そんなのするくらいなら、死んだほうがまだましよ!」

女父「お前に決定権はない。全て俺が決める、俺のために」スクッ スタタ

「……っ」

女父「あ」ピタッ

女父「一つ言っといてやろう」クルッ

女父「お前、安っぽい女だぞ?」

「い、」

「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


27 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:55:37.47 G0y2+vWJo 26/44


翌日 男の家・自室


(38.0℃)

(高熱だ)

(普通なら学校を休む)

(だが)

(俺は今日、女の家に寄せ書きを届けなくちゃいけない)

(それに)

(俺は大事なメッセージを書いてない!)


前の投下、トリップ忘れてました

28 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 00:58:08.11 G0y2+vWJo 27/44


同日 放課後 学校

委員長「もうこの寄せ書きにメッセージを書く人はいませんね? 持っていくよ」

「くそ、なんで来ねえんだよ、男……」

委員長「さて、全員書いたかなっと……んなわけないよね、半分は真っ白だ!」

「ぐっ……」

委員長「僕も含め、ほとんどの人が『学校に来てください』などの月並みなメッセージ」

委員長「友だけが少し違うメッセージを書いているが、所詮みんなと同じメッセージ
     になるのを計算して避けたに過ぎない」

「……」

委員長「おや? 何か言いたげですね、友」

「……ちげーよ」


29 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:00:37.80 G0y2+vWJo 28/44


「俺は計算とかじゃなくて、書きたいことを書いただけだ!」

委員長「どうだか……」

「お前は、この寄せ書きを、その程度にしか考えてなかったのか?」

委員長「ハッ!『その程度』だって? こんな紙一枚に、『どの程度』の力があると言うんですかぁ?」

委員長「まさか君は、こんなもので本当に彼女が学校に来ると思っているのかね?」

「来る!(男が書けば、だが……)」

委員長「まぁ~ったく、そんなにお友達ごっこが楽しいですか? 彼女が来たところで、

     なんになるというんです? 我々も、彼女も、お互いに関係を持とうとはしない。

     全く、面倒なもんですよ。こんな無意味なものを、届けなくてはならないとはね」


30 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:03:24.90 G0y2+vWJo 29/44


「無意味なんかじゃない……」

委員長「え?」

「俺たちの、女に来てほしいっていう想いは、無意味なんかじゃないっ」

委員長「……」

「それを届けるのはお前じゃないし、そんな資格もない」

委員長「……」

「おまえがとどけねえんなら、俺がもらっていく」パシッ

委員長「……お好きになさい……」


31 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:04:50.76 G0y2+vWJo 30/44


校門前

「男が来ない……まさか本当に殺されたのか!? だとしたら……警察、いや、まずは学校の先生に……」

「……男に、電話しよう」
プルルルル

(病欠なら、あいつの口から女の家の場所を聞いて届けることができる……)プルルルル

(寝てるなら、たたき起こせばいい。あいつにメッセージを書かせることも、届けさせることもできる)
プルルルル

(でも、もしもうあいつがこの世にいなかったら……俺はあいつの声を聞くことも――)


32 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:06:45.87 G0y2+vWJo 31/44


『おかけになった電話番号は、現在、電源が入っていないか、電波の届かない所に――』



「ま、まさか……そ、そんな……」ガクッ















「よ、よう、友……」ゼエゼエ


33 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:08:11.62 G0y2+vWJo 32/44


「お、男! 良かった! 生きてた!」

「ごめん、風邪ひいた」ズピー

「そんな体で大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、いける、届ける」

「……女が、この寄せ書きを待ってる」

「友、ペン貸して」

「なんて書くんだ?」

「だいぶ余ってんな」

「その分、お前がたっぶり書ける」

「たっぷり書かない」

「え?」

「俺が書きたいのは、簡単なことだ」


34 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:09:50.41 G0y2+vWJo 33/44


女の家

「……」ピンポーン

女母「もう少し! もう少しだけ待ってください!」

「?」

女母「お金のあてができました! もう少し……もう少しだけ待ってください!」

「……なんのことですか?」

女母「え?」

「私は、女さんと同じクラスの男です。女さんに会いたくて来ました」

女母「もしかして……女ちゃんのお友達……?」

「ええ。まあ」

女母「ごめんなさい、今おうちにあげられないの。女を呼んでくるから、そこで待っててもらえる?」

「はい、わかりました」

女母(ふん、無駄よ。外に出ないわ、あの子は)


35 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:11:33.91 G0y2+vWJo 34/44


女母「女ちゃん、男って子が会いたいって」

「男くんが?」

女母「入ってもいい?」

「いいよ」

女母「!……おじゃまします」ガチャ

「顔をちゃんと見るのは、久しぶり」

女母「……何してたの?」

「勉強。数学の」

女母「まあ! 女ちゃん……」

「お母さん、私男くんに会ってくる」

女母「行ってらっしゃい」

「……ありがとう」


36 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:12:49.69 G0y2+vWJo 35/44


ガチャ
「……」

「お、女!」アセアセ

「何の用?」

「あ、あの……渡したいものがあって……」



「……」ガサッ


37 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:13:57.24 G0y2+vWJo 36/44


「これ……」スッ

「なに、これ……」

「クラスのみんなが、女へ書いたんだ」

(と、言っても数人……やっぱりね、こんなものよ)

委員長『学校に来てください、みんな待っています』

ヲタ『学校に来るでござるwwww』

モブ『学校来いよ!』

モブ2『元気出せよ!』

女子『学校おいでよ、楽しいよ!』

(メッセージも、月並みなものばっか)

ビッチ『学校来ないでなにやってんの? ひきこもりって楽しい?wwww』

「……っ」


38 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:16:53.99 G0y2+vWJo 37/44


「私の父はさ」

「うん?」

「ABCコーポレーションの社長なの」

「ええっ、ABCコーポレーションってあの!? 大ヒット商品を数々生み出したっていう……
  
  でも最近、名前聞かないな」

「事業に失敗して、倒産したの」

「えっ」

「それから毎日、借金取りに追われる日々」

「女母さんが言ってたのは、そういう……でも、あてが出来たって」

「私が体を売るの」

「体を売るって……まさか」

「ストリップショーだって。おさわり禁止らしいけど、なんせ非合法のとこだからね、
  どうなるかはわからない」

「そ、そんな……」

「襲われるかもね」ハハッ

「そんなこと……させない」

「ねえ、もう少し聞いてもらっていい?」


39 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:19:28.26 G0y2+vWJo 38/44


「私の持ち物は、当時まだ『お嬢様時代』のものだった」

 「カバン、筆箱、身につけるもの……とっくに私は『お嬢様』なんかじゃなかったのに」

 「ビッチたちはそれを欲しがった」

 「私の持ち物は全て、ビッチたちに取られた」

 「それだけじゃない」

 「暴言と暴力を浴びせてくるようになった」

 「私はすぐに不登校になった」

 「……私って安っぽい女」

 「そして、この寄せ書きも」



 「私、こんなんじゃ学校に行かないよ?」


40 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:20:43.17 G0y2+vWJo 39/44


「最後まで読んでよ」

「……」

『焦らなくていい。学校来れるようになるまで俺たちは待ってる。
  学校来たら男と俺と三人で飯でも食おうぜ!』

「友くん……」

「……」グッ


41 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:22:19.04 G0y2+vWJo 40/44


「最後は俺のメッセージ」

『好きだ』

「へっ!?」

「女……俺、お前のことが好きだ」

「え? ほ、ホントに……?」

「本気だ。付き合ってくれ」

「こんな、安っぽい女でいいの?」

「女は、安っぽくなんかない」

「……」ウルッ


42 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:23:29.81 G0y2+vWJo 41/44


「これあげる」

「なに、これ?」

「クマのぬいぐるみ」

「いいの?」

「うん」

「ありがとう……ホントにありがとう……」ポロポロ


43 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:24:40.78 G0y2+vWJo 42/44


「なあ、女」

「なに?」

「マイナスとマイナスをかけたらプラスになるんだよ」

「うん」

「それって俺たちも一緒じゃないか?」


44 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:25:57.29 G0y2+vWJo 43/44


「虐待」

「不登校」

「家庭崩壊」

「いじめ」

「殺されるかもしれない」

「身体を、傷つけられるかもしれない」

「もし、幸せを数値で計れるなら」

「私たちは、間違いなくマイナス」

「でも、マイナスどうしをかければ」

「プラスになる」

「俺たちの未来も」

「きっと、輝く――」

「そんな夢を見ても、いいじゃないか」


45 : ◆J9zKsVx1xs[] - 2013/03/10 01:27:13.37 G0y2+vWJo 44/44


「手、つなごう」

「ん」ギュ

「……大好き」


                  完


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