男「…止めても無駄だぞ」
女「別に止めないわよ。見てるだけ」
男「それは人としてどうなんだ」
女「あら、自殺志願者にだけは言われたくないわね」
男「……いいからどっか行ってくれないか。気が散る」
女「まずはその高いフェンスを越えないとね」
男「うるせぇ!」
女「……」
元スレ
女「あなた、そこから飛び降りるつもり?」男「……」
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女「…まだ落ちないの?」
男「なんなんだよお前…」
女「あなたを救いにきた天使」
男「は?」
女「とでも言うと思ったかしら」
男「…何が目的だ」
女「別に。ただ怯えてる子犬ちゃんが気になって」
男「チッ……」
男「…わかった。なら勝手に見てろ」ガシャン
女「ねぇ」
男「なんだよ!」
女「そこから飛んだら、貴方の身体はどうなると思う?」
男「そりゃ…ぐちゃぐちゃに???
女「ならない」
男「…は…何を根拠に…」
女「運が良ければ…いえ、悪ければだけど」
女「落下防止用ネット…って知ってるかしら」
女「こういうマンションだと大抵あるのだけど」
男「えっ……」ガシャッ
女「そんなに覗いても見えないわ。そういうものだもの」
男「…なんで…そんな事知ってんだよ…」
女「……そうね」
女「経験者は語る…、って答えじゃ不満?」
男「え…………」
女「何よその顔。幽霊でも見たみたいに」
男「いや……だって」
女「ところで、貴方はこれから同るの?飛び降りは失敗したわけだけど」
男「っ…そりゃ首吊りでも投身でも──────
女「首吊りってね、一説では最も楽な自殺の手段と言われているの」
男「…ならもうそれでいいよ」
女「…頸動脈が絞まるとね、頭に血が集まってくるのを感じるの。顔の皮膚が血液に押し出されて裂けちゃいそうに」
女「鼓動が一つ、また一つ鳴る度にそれが強くなってくる。眼球も舌も、外に投げ出してしまいたい…そんな気分になるの」
「」
「」
男「お前…頭おかしいんじゃねぇの」
女「そうかもしれないわね」
男「くそっ…くそ!」
女「そうそう。さっきのネットの話だけど、半分は嘘」
男「はっ!?」
女「そっち。そう、その角の辺りから力の限り飛んでみなさい。ネットの隙間を落ちていけるかもしれないわ」
男「…嘘じゃないだろうな」
女「えぇ、もちろん」ニコッ
男「そうかよ」ガシャンガシャン
女「今度は簡単にネットを越えるのね。後は手を離せばさよなら、って訳か」
男「馬鹿な話聞いたらどうでもよくなったんだよ」
女「…そう」
男「じゃあな…っく!」ガシャッ
女「……」
男「……タイミングを間違えたんだよ…」
女「ねぇ」
男「っ…な、なんだよ?」
女「貴方は何故死にたいの?」
男「……」
女「ほら、遺言と思って。貴方みたいな人間の失敗作でも、それなりの理由はあるんでしょう?」
男「お前…っ!」
女「あら、なぜ怒るの?そこに立っているのがその証明でしょうに」
男「…はぁ…。わかった…聞けよ」
女「えぇ、是非」ニコッ
男「最愛の人に裏切られたんだ」
女「…へぇ……それで?」
男「今思えば散々貢がされただけなんだなって…無駄な借金まで作っちまってな」
女「ふんふん…で?」
男「え……いや、終わりだけど」
女「……」
男「……」
女「……ぷ」
男「…お前、今笑っただろ…」
女「っく…ふふ、ごめんなさい。想像以上にくだらない話だったから」
男「お前に……」ボソッ
女「?」
男「お前に何がわかるんだよ!?」
男「顔は下の下!たいした取り柄もない、周りからはゴミ扱い!!口でカバーしようとすりゃ臭いだのキモイだの──────
女「貴方の事なんて知らないし、微塵もわからない」
男「っ…!」
女「質問を質問で返すようだけど、貴方は私の何がわかるの?周りの人達の何がわかるの?」
男「ぐ……そ、んなの…」
女「でしょう?他人を理解しようともせずに自分を理解してもらおうだなんて…とんだ甘えん坊ね」クスッ
男「っ…それは、お前にも同じ事が言えるんじゃないのか」
女「私は理解して欲しくもないし、理解する気もない」
女「これで満足かしら」
男「…う………もう訳がわからん…」
女「…奇遇ね。私もよ」ニコッ
男「……はぁ」ガシャ
女「そうだ」
男「今度はなんだよ…」
女「くだらない話を聞かせてもらったお返しに、面白い小話をしてあげる」
男「いらん」
女「あら、ずいぶん冷たいのね」
男「それで結構」
女「なら別に聞かなくてもいいわ。これから独り言始めるから。貴方はいつ飛んでもいいのよ?」
男「……」
女「ある所にね、小学生の女の子が幸せに暮らしていたの」
女「庭付きの一戸建てに父と母とで、それはもう周囲が羨む程に仲良のいい家庭」
男「……」
女「そんな中、突然それは起きた。不慮の事故だった。不幸な事に、両親はその子を残して他界したわ」
男「お前……」
女「?まだいたんだ」
男「……」
女「…行き場を失い、彼女はやがて叔母夫婦に引き取られる事になった。幸運な事に、数ヶ月後には再び、微笑ましい家庭ができあがっていた」
女「表向きは、だけれど」
女「叔父にはね、少し変わった性癖があったの」
女「ペドフィリア──────小児性愛とでも言うのかしら」
男「っ…お前まさか、その…叔父に…?」
女「…貴方が何を言っているかわからないわ」
男「だって…!!」
女「言ったでしょう?これは『ある女の子』の話だって。優しく可憐で、慈愛に溢れる…『ある女の子』」ニコッ
女「祖父母の家に移って間もない、皆が寝静まった夜に叔父は動いた」
女「泣き疲れて眠る彼女の服を剥ぎ取り、幼い身体を嬲り始めた」
女「もちろん、違和感を感じた彼女は飛び起きたわ。抵抗もしたし、声もあげようとした」
女「でもね、叔父はそんな彼女に暴力を加えた。元々体格が違いすぎるもの。すぐに取り押さえられた」
男「………」
女「…何よその顔。面白い話よ?笑いなさい」
男「……無理言うな」
女「…そ。なら続けるわ」
女「行為が始まってどれくらい経ったかしら。下腹部に違和感を感じたの」
女「反射的に逃げようとした。何か大切なものが壊れてしまう、そんな気がした」
女「それが彼女の最後の抵抗」
女「叔父の歪んだ欲望は、彼女の小さい身体を貫いた。何度も…何度も何度も何度も何度も」
男「…うっ……」
女「目の前が眩しいくらいフラッシュしてね、気付けば朝だった」
女「悪い夢を見てたんだ、って……思ったわ。でも焼け付くような痛みと、気持ちの悪い感触は消えてはくれなかった」
女「これが…始まり」
男「…始ま、り……?」
女「…元々明るい性格でクラスの人気者だった彼女も、毎晩のようにやってくる叔父に変えられてしまった」
女「口数は減って、笑う事さえ苦痛になっていったの」
男「…誰かに相談とか…できなかったのか?」
女「…そうね。心に余裕があれば、そういう選択肢もあったのかもしれないわね」
女「愛する両親を亡くし、傷も癒えないまま叔父に暴行を受けた…どうかしら?」
男「……」
女「ふふ…。そう、例えるなら人形のよう。彼女は毎日決まった動きをするだけの人形になり果てたの」
男「…友達はいたんだろ?」
女「いい質問ね。…あ、独り言って事を忘れてたわ」
男「いいから」
女「…"いた"。その通りよ。最初は皆心配して甲斐甲斐しく話しかけていたわ」
女「でもね、人形は喋らない、反応しない。…となると人が離れていくのは必然でしょう?」
男「…そうだな」
女「…やがて彼女は中学生になった。精神はそのままにね」
女「入学してすぐの事だった。授業中、突然吐き気がしたの。それも尋常じゃない程のね」
女「目の前が真っ暗になって…起きた時には病院でね、医者がすごく困った顔で言ったの」
男「…え…と……はっ?」
女「子種を散々注ぎ込まれたんだもの。彼女の身体には叔父との子が宿っていた」
男「っ…」
女「でもね、ここで奇跡が起こったの」
男「奇跡…?」
女「そう。彼女の中に生まれた命。自分の半身。この子だけは裏切らない、守らなきゃいけない…って」
女「人形だった彼女に心が戻ったのよ」
女「しばらくして迎えに来た叔父に彼女は伝えたわ。産みたい、ってね」
女「叔父は堕ろせ、ってそればっかりでね」
男「…ちょっと待て。叔母はそれまで何をしてたんだよ」
女「…人ってね、少しの欲望で簡単に変わると思うの」
男「…は?」
女「叔父は性欲に溺れた。…そして叔母の場合は愛に飢えた」
女「叔母はね、彼女にばかり構う叔父に対して嫉妬した。矛先はもちろん彼女」
女「嫌味や嫌がらせを経て…最終的には無関心になったから特に害はなかったけれど」
男「…その後は?」
女「もちろんどちらも退かなかった。結局、結論は出ないまま彼女はそのまま入院する事になったの」
男「つまり…産んだのか?」
女「いいえ、産んでない…産めなかったのよ」
男「?どういう事だよ…」
女「妊娠が発覚してから数日、彼女が飲み物を買う為に階段を下っていたの」
男「………え」
女「そこでね、階段から落ちたの。事故?いいえ、突き落とされたのよ。誰かに」
女「身体中に走る痛みに耐えながら、彼女は見てしまった。叔父に似た背格好の男が走り去るのを、ね」
女「そして運が悪かったのか…彼女は自分の分身を失ってしまった。同時に、二度と子供を産めない身体のオマケつきで」
男「…なんだよそれ……」
女「同情する? 彼女に」
男「同情……そうだな。可哀想、だとも思う」
女「…そう。優しいのね」
男「そんな事初めて言われたよ…はは」
女「やっと笑ってくれた」
男「えっ…」
女「貴方のその笑顔、好きよ」ニコッ
男「は…っ!? えっ……」
女「あら、落ちるわよ」
男「うおっ……」ガシャ
女「……」
男「……なぁ」
女「…何かしら」
男「俺みたいなクズでも…『その女の子』を支え……いや、ごめん。忘れてくれ」
女「……大丈夫よ」
男「…え、と…」
女「貴方みたいなゴミでも、役に立てるわ」
男「…そっかー……」
男「…もう一回頑張ってみるよ、俺」
女「そう…」
女「なら、戻ってくるのかしら。こっちに」
男「…あぁ」ガシャンガシャン
女「……」ギュッ
男「っ…は!?」
女「…抱きしめて」
男「…あ、あぁ…」ギュッ
女「おかえりなさい」
男「…うん。ただい────────
ズドッ
男「…ま……?あれ…、…なん…だこれ……包、丁……?」フラ…フラ
女「…ねぇ、今どんな気持ち?」ズシャ
男「あ、が……っ…ぐ」バタッ
女「貴方、これから死ぬと思うけど…どんな気持ちなのかしら」
女「すごく痛い?死ぬのが怖い?どんな気分なの?ねぇ、お願い教えて?」
男「あ゙…っ、し…しんじゃ…!」
女「…そう、その顔よ。死を覚悟した後の死に顔程つまらないものはないもの」
女「希望があるから絶望が活きるの」ニコッ
女「ちょっと失礼するわ」ドサッ
男「!っ…ぐぁ…ぎ、…!?」
女「ねぇ、見て。貴方に馬乗りになる私と、下で喘ぐ貴方。誰かが見たら、発情したカップルに見えるのかしら?」
男「ひっ…っ、…ぎっ!!」ジタバタ
女「……実はね、さっきの話には続きがあってね」
男「ゔっ…っ!…、は…っ」
女「知りたい?…そうよね。気になるわよね」
男「…っぐ、…ふぅ゙、ぁ゙…!」
女「愛する我が子を失った彼女は思ったの。この世の仕組みは弱肉強食だって」
女「腹の子が邪魔なら殺せばいい。欲しい女がいれば犯せばいい。気に食わないなら壊せばいい」
女「ふふ…、簡単でしょう?」
男「あ……っ…ぎ…ち、が……ゔ」
女「だからね、彼女もそう生きる事にした訳」
女「そうそう、最初に言ったけど…転落防止のネット」
女「数年前までは無かったの。でもある事故が起こってから、設置された」
女『経験者は語る…、って答えじゃ不満?』
女「初老の男性がね、ふふ…、足を滑らせて落ちちゃったらしいわよ? っふふ、あはははは」
男「」ポタ…ポタ
女「……」
女「私ね、貴方の事好きよ」
女「不格好で…惨めで醜悪で、すごく弱い。異常なまでに人間らしい貴方が、好き」
女「…そんな貴方でも人の役に立てたの。ほら、こうして私を満たしてくれた」
女「見て、空がすごく綺麗」
女「…すごく…眩しいの…」
女「…まるで………」ボソッ
女「……」ガシャン
女「……ふふ」
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『先日、○○県○○市の高層マンションの屋上で男性の刺殺死体が見つかりました』
『凶器は持ち去られており、警察は容疑者の特定を急ぐとともに、被害者の人間関係に問題がなかったかを調べているとの事です』
『また、近隣住民に聞き込みを行った所、不審な若い女性を連日、頻繁に目撃していた事から』
『この女性が事件に関係していると見て捜査を進めています』
『それでは続いてのニュースを────────
END