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35 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:02:37.22 O8aL4rAP

――冬の国、王宮、予算執務室

商人子弟「どうだ?」

従僕「あったかいですー!」

商人子弟「指は?」

従僕「にぎにぎしてもひっぱられませーん!
 良いなぁ、この手袋もっふもふですよ?
 すごいなぁ。お水も弾くのですか?」

商人子弟「きちんと手入れすればね」

従僕「もっふもふー」ぺたぺた

商人子弟「こらこら、ところ構わず撫でるのはやめなさい」

従僕「えへへ」なでなで

がちゃん

将官「着ましたよ」

商人子弟「そっちはどうです?」

将官「保温性は、まだちょっと判りませんが
 従来の外套よりも暖かいですね。それに、随分軽い。これは?」

商人子弟「毛皮を薄くして、
 二重ばりの内側に羽毛を入れたものです。
 多少値段が張るんですがね、よいでしょう?」

将官「ええ、素晴らしいですよ」

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」Part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1254659054/
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」Part11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1255018858/

38 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:04:13.40 O8aL4rAP

商人子弟「この種の防寒装備は、我ら冬の国の得意と
 するところですからね」

従僕「温かいのです」 なでなで

将官「急に防寒具の改良に着手されたのは何故です?」

商人子弟「急にではありませんよ。
 そのうちに、とは思っていたんですけれどね。
 魔族は毎年攻めてくる相手ではありませんけれど、
 冬は毎年やってくるでしょう?
 で、あれば防寒具の改良をするのは
 国民全体の利益になり得ますしね。以前からの計画です」

従僕「そうですよねー」にこにこ

商人子弟「必要になる気もしますしね」

従僕「?」
将官「……?」

商人子弟「それに、我が国はやはりいま少し兵士が欲しいでしょう?
 軍人になれば上等な外套や手袋が支給されるとなれば
 応募も増えるでしょうし、現場の士気もあがるでしょう?
 冬になったからと云って、領内の巡視は続くんですからね」

将官「そうですね、はい」

商人子弟「銀行も出来ましたし、
 この種の仕事は随分やりやすくなりましたよ」

40 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:06:16.65 O8aL4rAP

将官「銀行? お金を借りることが出来ると、
 何か良いことがあるんですか?」


商人子弟「試作品さえ出来てしまえば、
 あとは銀行からお金を借りて
 “企業”を一つ立ち上げれば良いわけです。
 “企業”には、今回の場合興味のある皮商人や、
 縫製ギルドの職人に参加して貰うわけですね。
 そして品物を生産する。仕事は沢山あります。
 
 まずはこの手袋と外套を、軍に行き渡るだけ納品して貰う。
 その後は同じアイデアで品物をつくってみんなに売れば
 良いわけですものね。
 
 良いアイデアや商品があるにもかかわらず、お金がなかったり
 ギルドの中で若手であると云うだけで、チャンスがつぶれていた
 様々な人たちの仕事が新しく始まりやすくなるわけですよ」

従僕「新しいケーキ屋さんとかっ♪」

将官「しかし、でも、そうすると、銀行からお金を借りて
 それでもし仕事が失敗したらどうするんですか?
 銀行だってお金を損してしまうでしょう?」

商人子弟「だから試作品が大事なんですよ。
 計画書でも良いですけれどね。
 そう言った資料と、仕事をしたいという人の人柄をよく見て
 銀行は貸すお金を判断するんですよ。
 金貸しは役人であってはならないし、銀行は役所ではないんです。
 どちらかというと、仕事を一緒にする仲間であるべきです。
 
 ……師匠の受け売りですけれどね。
 この立場に成ってみると、いちいち身に染みます」

従僕「チーズの保管所も出来ましたもの♪」
将官「難しいのですねぇ」

商人子弟「この国は恵まれています。人々はみんな素朴だし、
 働き者で、笑顔が力強いですから。なにごともなければ
 ずーっと発展が続くはずですよ」

45 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:35:46.18 O8aL4rAP

――鉄の国、兵舎、執務室

軍人師弟「次の書類が欲しいでござる」

鉄国少尉「はっ」しゅたっ

軍人師弟「ふむふむ……。これはよしっと」 ぺたん
鉄国少尉「確認済みですね」

軍人師弟「うむ。みんな真面目に警備を続けているでござるね」
鉄国少尉「ですね。前回の戦いで国境警備の重要性も判りましたし」

軍人師弟「連絡手段も重要でござるね」

鉄国少尉「通信塔の建築、早く済むと良いですね」

軍人師弟「あれはやはり来年まではかかるでござろう。
 秋の間に大まかな測量が終わって、着工は来年でござるよ」

鉄国少尉「はい」

かりかりかり
 かりかりかり

軍人師弟「ん……」
鉄国少尉「どうされました」

軍人師弟「旧白夜王国に放った密偵からでござる」
鉄国少尉「ふむ」

軍人師弟「……やはり治安に問題が生じているようでござるね。
 それからしきりに練兵を繰り返しているようでござる」

鉄国少尉「練兵ですか……」

軍人師弟「他にやることもないのでござろう」

46 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:37:05.71 O8aL4rAP

軍人師弟「次を」
鉄国少尉「こちらです」 しゅたっ

軍人師弟「これは、護岸卿に回して欲しいでござる」
鉄国少尉「了解しました」

軍人師弟「閲兵および、行軍訓練の指揮指導は第一大隊長に
 任せるでござるよ。そろそろ出来るでござろう?」

鉄国少尉「はい、通達いたします」

軍人師弟「それから、開拓村の収支の報告書は」がさがさ
鉄国少尉「こちらです」すっ

軍人師弟「司書を呼んで、これの複製を二つ作って
 欲しいでござる、かたほうは冬の国の商人子弟宛に。
 拙者が手紙をそえるでござる。
 一つは王へと報告書と共に出すでござる」

鉄国少尉「すでに複製もありますよ」
軍人師弟「助かるでござるよー」 かきかき

鉄国少尉「……」じー

軍人師弟「それから、少尉には近衛の訓練と」
鉄国少尉「お断りします」

軍人師弟「へ?」
鉄国少尉「そんなに仕事を振りまくって何を考えているんですか?」

軍人師弟「あ、いや。そろそろ皆、自分の仕事を……」
鉄国少尉「違いますよね」

軍人師弟「……」
鉄国少尉「わたしは一緒に行きますからね」

軍人師弟「……そう、でござるか」
鉄国少尉「はいっ」

54 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:45:52.01 O8aL4rAP

――魔界(地下世界)の荒野、傭兵騎士団の旅

器用な少年「うっわ、すげぇな」
生き残り傭兵「見渡すばかり赤い土、あっちに見えるのは、森か?」

ちび助傭兵「視界が良すぎるな」
若造傭兵 こくり

傭兵弓士「さぁって、あの大空洞を抜けたは良いが」

貴族子弟「しばらくは北西だねー」
器用な少年「なんだよ。あんちゃんはこっちも詳しいのか?」

貴族子弟「あんちゃんって呼ばないでくれないか?
 いい加減温厚な僕でも盗癖のある子供の調理法を
 考え始めてしまうよ?」

器用な少年「な、なんだよっ。やんのかよっ」

生き残り傭兵「暴れるなよ。馬が驚く」

ちび助傭兵「このあたりもまだ寒いな」
若造傭兵「ああ」

貴族子弟「来ました」

器用な少年「え?」

ふっ
冬国諜報部員 ぺこり

貴族子弟「しばらく世話になりますよ」

冬国諜報部員「いえ、上から指示を受けております。
 如何様にでもお使い下さい」

55 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:48:44.87 O8aL4rAP

生き残り傭兵「隠密かっ?」

貴族子弟「ええ。流石にこのあたりの様子がわからないのも
 心配ですしね。わたしも腕っ節には自信がないですし」

メイド姉「手紙でお願いしたものは、揃いそうですか?」

冬国諜報部員「はい、しかし、宜しいのでしょうか?
 情報だけでよいという話でしたが」

メイド姉「ありがとうございます」ぺこり

冬国諜報部員 すっ

メイド姉「……。ん……。距離よりも、山道のほうが
 やっかいですね。ここからだと、一月はかかるでしょうか?」

冬国諜報部員「20日ほどでしょうか」

生き残り傭兵「ずいぶんな距離だな」

貴族子弟「開門都市の状況は?」

冬国諜報部員「現在は、防壁などが作られたり、
 物資が運び込まれたりしています。
 相変わらず人の出入りはルーズですが、
 聖王国側の人間が入った様子は今のところありません」

貴族子弟「そっちの警戒心はゆるそうですからね。
 そのへんは冬国さんのほうで見てあげて下さいますよね?」

冬国諜報部員「はい、局長の指示ですから。
 暗殺にだけはくれぐれも用心しろと……」

貴族子弟「食えない爺さんだなぁー」

57 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 00:50:30.12 O8aL4rAP

メイド姉 ぺらっ、ぺらっ
冬国諜報部員「いかがです?」

メイド姉「把握しました、ありがとうございます」
冬国諜報部員「いえいえ。あ、宜しいですよ、それは」

メイド姉「いえ。トラブルの元ですし、全て覚えました」

冬国諜報部員「了解」

生き残り傭兵「で? 代行。これからどっちに行くので?」
ちび助傭兵「こうなれば、ヤケクソだな。どこまでもいくさ」
若造傭兵 こくり

傭兵弓士「どちらにしろ、移動しよう」

貴族子弟「メイド姉くん。僕は、しばらく別れて良いかな?」
メイド姉「はい。お願いします」

生き残り傭兵「おろ、旦那は?」

貴族子弟「僕は根っからの都会ものだしね。
 そろそろ都会の空気が恋しいよ。それに仕事にも好都合だ。
 開門都市へ向かう」

傭兵弓士「じゃぁ、俺たちは代行と? どこへ向かうんだ?」

メイド姉「竜の領域へ。この魔界でももっとも古くから栄える
 大氏族、竜の一族の本拠地のある、火焔山脈です」

生き残り傭兵「火焔山脈……?」

メイド姉「ええ。竜一族、一万年の宝を借り受けないといけません」

102 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:21:29.44 O8aL4rAP

――新生・白夜直轄領、王宮、執務室

王弟元帥「ここが限界点だな」
参謀軍師「……」

聖王国将官「そのようですね」
灰青王「意見の一致を見たわけだ。結構」

聖王国将官「食料の残量、砲弾の備蓄、装備の普及。
 これ以上時間をかけても、おそらく人数が増えてはゆくが
 補給の関係でよりアンバランスな、
 非戦力の増加を招くだけでしょうね」

灰青王「逆に言えば、この数字が、現在の中央国家群の
 基盤的な限界点ということになる」

従軍司祭長「と、なれば躊躇うことなく一刻も早い出発を」

王弟元帥「軍の規模を報告せよ」

参謀軍師「総勢は約24万と3千。
 農奴による新規編制歩兵部隊は20万強となります。
 うち、マスケット部隊は10万。新型銃フリントロック部隊は250。
 残りの14万は槍兵、および大盾部隊。
 貴族軍3万と5千、騎馬戦力1万となっています。
 またこれ以外にも非軍事参加者8万」

聖王国将官「非軍事参加者と云うのが気に食いませんな」

王弟元帥「そういうな。彼らは職人や飯炊き女、娼婦、
 それに商人なのだ。彼ら無しでは、いくら輜重隊を整備しようが、
 軍そのものが機能しなくなる」

103 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:24:13.01 O8aL4rAP

参謀軍師「最終的には、マスケットと槍兵の比率は
 ほぼ同数の混成部隊となりました」

灰青王「それは運用でどうとでもなるだろう」

王弟元帥「中核歩兵部隊20万、か」

参謀軍師「これ以上この地に留まりましても、
 食糧備蓄の低下を招くだけ。また、これ以上時をおきますと
 本格的な氷雪の季節の到来となります」

王弟元帥「よかろう。……出陣だっ」

参謀軍師「はっ!」
聖王国将官「はっ!」
灰青王「腕が鳴るな、ふふふっ」

従軍司祭長「精霊様もことのほかお喜びでしょう」

王弟元帥「残存部隊5000を残す。この港および都市は重要な
 補給中継点だ。残存部隊は落葉の国の管理に一任し、
 ただし槍兵4000を与えよ」

参謀軍師「承りました」

王弟元帥「大主教猊下は?」

従軍司祭長「もちろん同道いたします。猊下は王弟閣下に
 全幅の信頼を置いておいでになる。
 道中であっても、その安全はいささかも損じられることはない。
 そう考えて宜しいですね」

王弟元帥「もちろんだ」
参謀軍師「早速部隊への通達に取りかかります」

灰青王「搬入および連絡も急がせるとしよう」

104 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:26:45.75 O8aL4rAP

――冬の王宮、謁見室

タッタッタッタッ

将官「王! 王! 冬寂王っ!」

冬寂王「何事だ」

将官「白夜の国に駐留していた聖鍵遠征軍が
 とうとう動き始めました!
 船団を活発化させて極大陸の前哨地に、
 次々と兵を送り込んでいます」

執事「始まりましたな」

冬寂王「やはり魔界への侵攻を優先させたか」

執事「まぁ、こちらに攻めて来るとなると、
 相当の消耗を覚悟しなければなりませんし。
 そもそも南部連合となった現在、南部の我ら三ヶ国をつぶす間に
 湖の国が聖王国中枢部を破壊するなどと云うことも
 考えられますからな」

冬寂王「うむ。……誰ぞ伝令はおらぬか!」

伝令「は、ここに!」

冬寂王「至急、氏族会議の領事館にお知らせせよ!」

将官「随分と情勢が変わりますね」
執事「無関係というわけには行きますまい……」

冬寂王「われらも南部連合会議を開催し、対応策を協議するのだ」

105 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:28:06.27 O8aL4rAP

――氷の国、紫の応接間

氷雪の女王「目の回るような忙しさですね。これだけの書状とは!」

参事官「ええ、しかしなんとか目を通してしまわないと」

氷雪の女王「この手紙は……

 “我が領内には天然痘の患者があふれかえり、
 その有様はまさに煉獄の門が開いたかのようです。
 氷の国におかれましては、同じ人間としての公徳心を持って、
 どうか我が領土に薬を寄付して頂けることを願います”」

参事官「はぁ……。寄付ですか」

氷雪の女王「銅の国なのよ。腹立たしいわねぇ。
 この間まで人の国の人間をマスケットで
 ばんばん撃ち殺しておいたくせに、
 公徳心なんてどんな顔をしていたら、云えるのでしょう?」

参事官「肖像画が確かありましたよ。
 吟遊詩人に命じて各国首脳の肖像画は
 なるべくそろえさせておりますからね」

氷雪の女王「いいわ、見ないでも。
 思い出したわ。
 カエルに似てるけれど、カエルの側も
 縁を切りたいような顔だったわね」

参事官「さようで」

氷雪の女王「はぁ、これ全部そうなのかしらねぇ」

参事官「さようですなぁ」

107 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:29:14.30 O8aL4rAP

氷雪の女王「出来れば助けてあげたいのだけれど」
参事官「だからこそ、書状も検討しておきませんと」

氷雪の女王「これの山は?」
参事官「そちらの山も似たようなものですが、
 比較的小さな村からの嘆願の手紙ですよ」

氷雪の女王「何故封筒が二重なのかしら」

参事官「湖の国や梢の国に送られたものも、
 全てこちらに回して貰っているからですな」

氷雪の女王「え?」
参事官「こういった仕事は、女王の得意とされることですので
 ぜひ情報を一元化するように貴族子弟様が手配されまして」

氷雪の女王「この仕事全部をあの昼行灯に押しつけてやりたいわ」

参事官「さようですか」

氷雪の女王「ええっと……。
 “じょおうさまこんにちは ぼくたちのむらは
 おとなのひとが、てんねんとーで みんなたおれて
 くろくなって、たべるものも ないです
 たすけてください。
 おねがいします”」

参事官「ふぅむ。これは潮の王国の辺境の村からですね」

氷雪の女王「すぐにでも接種の薬と修道士を送らなければ」

参事官「いや、少し待って下さい」

109 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:32:37.47 O8aL4rAP

氷雪の女王「どうして?」

参事官「これと同様の手紙も数多くきております」

氷雪の女王「でも、小さな村であれば種痘の量も
 それほどには必要ないだろうし、
 第一、この幼い子供達自身はなんの罪も咎もないはず。
 出来るのであれば力を貸してあげたいって、
 修道院の教えにもそうでしょう?」

参事官「いえ、同様の手紙24通は、全て同じ書式で、
 潮の国鱒の港の商館を経由して郵送されてきたわけです」

氷雪の女王「え……?」

参事官「鱒の港の商館といえば、潮の国の王の伯母が、
 王族の免税特権を用いて巨額の利益を稼ぎ出している裕福な
 貴族商人ですからね」

氷雪の女王「……」
参事官「いかがいたしましょう?」

氷雪の女王「至急人をやって真偽を確かめさせて!」
参事官「はぁ。……かなり真っ黒だとは思いますが」

氷雪の女王「もうっ。こっちは?」
参事官「ふむふむ、これは猪首の国からですな」

氷雪の女王「えーっと

 “精霊の恵みたる治療薬を貴公ら南部連合なる
 蛮夷の国にて独占するとは言語道断。
 我が勇猛なる教会僧兵百万の狼牙棒の餌食になりたくなくば
 速やかなる慈悲を請い、全ての医の秘密を
 つまびらかに明かし、我が国に服従を誓え”」

参事官「……空気が読めていませんな。
 100万の兵ってどこのお花畑で遊んでいるんでしょうか」
氷雪の女王「これは捨てちゃいましょう」

110 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 17:34:54.20 O8aL4rAP

氷雪の女王「はぁ、それにしてもねぇ。殆どゴミね」
参事官「ええ」

氷雪の女王「検討する気になるのは、わずか5通とは」
参事官「どうにも外交する気がないとしか思えませんな」

氷雪の女王「どうした物かしらねぇ」

参事官「鵲の魔術ギルド、これはどういたします?」

氷雪の女王「候補に残しては見たけれど、パスね」
参事官「で、ございますか」

氷雪の女王「ええ。研究目的で売ってくれという話でしょう?
 この種痘でお金儲けをするつもりはないし、
 金儲けの意図が透けて見えすぎるわ」

参事官「と、なりますと……。稲穂の国の支援と、
 自由貿易都市でございますか」

氷雪の女王「自由貿易都市の件は、『同盟』の商館に依頼をして
 行路に組み込めるかどうか、黒い噂がないかどうかを
 見て貰いましょう」

参事官「さようでございますね」さらさら

氷雪の女王「稲穂の国の支援については、
 わたしの一存では決めがたいわね。
 これは連合の会議ではかってみます。保留にしましょう」

参事官「承知いたしました」

氷雪の女王「天然痘の対処方法の情報は、ずいぶんな衝撃を
 各国に与えたようね……。取り扱いに注意しなくては」

116 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 18:17:22.88 O8aL4rAP

――聖鍵遠征軍、旗艦『勇壮』の貴賓室

王弟元帥「はっはっはっ! 随分すさまじい経験をしてきたのだな」

勇者「やー。まぁ、でも、美味いんだってば!
 魔界の猪はさー。尻のところなんかぷりっとした感じなんだよ」

王弟元帥「そうなのか?」

勇者「ああ。捕まえるのはちょっと大変だけどね。
 あいつら、特にゲートに近い場所では、気が荒くなるんだよ。
 いまはゲートが無くて大空洞だけどね」

王弟元帥「そうだと聞いたな。勇者は何か知ってるのか?」

勇者「なにかって? もっぎゅ、もっぎゅ」

王弟元帥「ゲートが消失した顛末についてだよ」

勇者「ああ。1回蒼魔族が攻めてきた事件があってね」

王弟元帥「ああ。白夜王国の時か?」

勇者「いや、それよりずっと前にさ。
 その時、ちょっとした必要があって広域殲滅呪文で
 穴を掘ったんだ。穴掘るのは魔法でも大変だな。
 ゲートが壊れちゃったのはもったいなかったけれど
 結果として魔界へと通じる穴が空いたから、
 同じと云えば同じだよね」

王弟元帥「そうだな。すごい景色だと聞いている」

勇者「うん、見物だよ。……むしゃむしゃ。
 あ、これも食べて良い?」

王弟元帥「おお。たっぷりと食べてくれ」
勇者「ありがとうなっ」

   参謀軍師「……何が起きているんだ」
   聖王国将官「……判らない」

119 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 18:19:08.18 O8aL4rAP

勇者「んでまぁ。機怪族ってのはさ、全体的に板金鎧を着た騎士に
 似ているんだけど、中身もぎっしりだから相当重いわけだな。
 重さで云うと、同じ大きさの騎士の1.5倍くらいはあると思うぞ。
 でも、防御力は二倍あると思った方がいい」

王弟元帥「ほほう、そうか。さすが勇者だ。
 魔界のありとあらゆる事に精通しているのだな」

勇者「旅暮らしが長いからね」

参謀軍師「あの……閣下?」
聖王国将官「こちらは……?」

王弟元帥「おお、紹介しよう。一時行方不明と噂されていた勇者だ」
勇者「おじゃましています。勇者です」

参謀軍師「いえ、その……。お姿は見たことがありますが」
聖王国将官「生きていらっしゃったのですね!」

王弟元帥「うむ、やはり魔王と戦ったそうだ」

勇者「そうそう。痛み分けだ。
 やぁ、ぶっちゃけ前評判はあてにならないよ。
 弱い弱いなんて云っても魔王だね。
 あの圧倒的な(胸の)オーラ。決着をつけることは出来なかった」

参謀軍師「そうだったのですか……。魔王は?」
聖王国将官「では噂どおり」

王弟元帥「うむ、一命を取り留めたそうだ」

勇者「実は俺も深手を負って、仮死状態だったんだ。
 目覚めたのはつい最近でね」

王弟元帥「聖鍵遠征軍の噂を聞き、やってきてくれたのだ」

120 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 18:20:30.68 O8aL4rAP

勇者「うん、しばらくやっかいになろうかと
 思うんだが、良いかい?」

参謀軍師「それは……」
聖王国将官 ちらっ

王弟元帥「もちろんだとも勇者。
 覚えていてくれるだろうか?
 そなたが魔王征伐を決意し、
 教会の祝福を一身に受けて旅立ったあの日、
 わたしも他の王族に入り交じりバルコニーから
 熱い思いで見つめていたのだ。
 
 勇者の鎧を光に輝かせ旅立つそなたは、この歳になったとはいえ
 男子の胸の中にある高潔な騎士道と冒険の心を刺激せずには
 置かないまさに一幅の英雄の肖像だったよ」

勇者「そう言われると照れるな。でへへぇ」

参謀軍師(勇者の戦闘能力は一人で重武装の騎士数千に
 匹敵すると云われていた。
 その戦闘能力は、マスケットであっても大隊規模。
 さらに勇者には長い魔界での冒険により地形や文化、
 魔族の知識がある。懐柔するメリットは十分にある、
 と云うことか……)

聖王国将官「ではしばらくご一緒ですね」

王弟元帥「おお、そうなるな。
 どこかに快適な部屋を用意してくれ」

勇者「ああ、気を遣わなくて良いよ。おれはさ。
 水浸しでなけりゃ船底でも相部屋でもなんでも良いから。
 メシさえ美味ければそれでさ」

参謀軍師「至急、整えさせましょう」

王弟元帥「そして食料をたっぷりとな! 勇者は病み上がりだ。
 身体を癒すためには美味い食事と酒がなければ始まらぬだろう」

勇者「いや、ごっつぁんです!」

122 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 18:22:45.71 O8aL4rAP

――聖鍵遠征軍、旗艦『勇壮』の執務室

がちゃり

参謀軍師「勇者の部屋は整え、ご案内してきました」

王弟元帥「ふむ……」

参謀軍師「どのような目論見でしょう、勇者は」

聖王国将官「目論見があるのでしょうか?」

王弟元帥「どういうことだ?」

聖王国将官「いえ、旅に出る以前。
 つまりもう4、5年は前になりますが
 勇者についてわたしが聞いた話ですと、
 豪放磊落と云えば聞こえは良いですが、
 強大な戦闘力にまかせた行動をする
 多少子供じみた正義感を持つ冒険者だったと。
 そう聞いています」

王弟元帥「わたしもそう聞いたな。
 しかし、今日の印象はかなり違う。
 確かに損得抜きで動きそうな熱みたいな物は感じたが、
 それとは別に、世界に損得勘定があること自体は
 理解していると思わされた。
 なんの考えも無しに来たわけでも無かろう」

参謀軍師「とりあえずの口上はどのようなものだったのですか」

王弟元帥「魔界の魔物は強い。人間界の猛獣に比べてもさらに
 凶暴な種類も少なくはないし、独特の生態や毒を持つものも多い。
 これだけ大人数で魔界へと渡ると、その犠牲者も多くなる。
 勇者として、一般人の犠牲はなかなか見過ごしがたい。
 ちょっとしたガイドを務めるためにやってきたが、
 勇者である自分を雇わないか、と」

参謀軍師「ふむ」

聖王国将官「話をそのまま信じるならば、
 雇わない手はありませんね」

124 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 18:25:21.70 O8aL4rAP

王弟元帥「それはそうだ。勇者の戦闘能力は脅威だしな」

参謀軍師「それに話を信じるのならば、
 魔王もまた健在と云うことでしょう。
 勇者の傷が癒えて魔王の傷だけが癒えぬと考えるのは
 都合の良い考えですから」

聖王国将官「そうですね」

王弟元帥「対魔王のためにも、勇者は飼っておく必要がある」

参謀軍師 こくり

聖王国将官「しかし、あれだけの脅威は危険ではありませんか」

王弟元帥「居所のわからぬ脅威よりは判る脅威のほうが
 まだ対処のしようがあるというものだ。
 そのためにも手元に置いておいた方が良いだろう。
 しばらくはわたしが勇者の相手をしよう。
 ふふっ。わたしと同じく、あれもまだ若い男に過ぎない。
 人はそこまでおのれ自身から自由になることは出来ぬ。
 いずれ何らかの尻尾を出すだろうさ」

参謀軍師「そう仰られるのであれば、私からは何も」
聖王国将官「ええ、王弟閣下の御心のままに」

王弟元帥「あと数日もあれば極大陸に到着する。
 そのあとは雪中行軍になるだろう。
 船の座礁などがないように十分な警戒を呼びかけろ」

参謀軍師「はっ、承知いたしました」

王弟元帥(勇者、か。……確かに得体が知れないが
 強力なカードが手に入ったものだ。
 このカード、使い方によっては民衆の信仰を一手に引き受ける
 教会に匹敵するほどの影響力さえ持つやも知れぬ。
 大主教、それがお解りか? ふふふふっ)

135 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:41:08.48 O8aL4rAP

――開門都市、九つの丘、防壁建築現場

土木師弟「じゃぁ、説明したとおりだ。
 今日から北側の防壁にかかる。
 チーム制でかかるので頑張ってくれ」

蒼魔族中年作業員「判りました。配置につけ」
蒼魔族作業員「「「「はい」」」」 ざっざっざっ

ざわざわ

中年商人「どうだい調子は?」

土木師弟「商人さん。随分進んでましたよ。作業は加速しています」

中年商人「やっぱり予算かい?」

土木師弟「予算が付いたのは有り難いですね。
 作業員に給料が払えます。日当で払えると進みますね」

ざっざっ

火竜公女「そうかそうか。弁舌を振るった甲斐があった」
副官「そうですね、これはいずれ必要になる物ですから」

土木師弟「お姫さま」
中年商人「姫さんも来てたのか」

火竜公女「姫はよして欲しいと云っておりましょう」
副官「ははははっ」


土木師弟「それにしても、こんなに予算を
 つけて貰っても良いんですか?」

副官「ええ、かまいませんよ。
 この防壁作成で人が集まっていますからね。
 彼らが食料を買ったり、生活すれば物資もどんどんと
 運び込まれて、それだけ税収も上がる計算です」

136 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:42:29.76 O8aL4rAP

土木師弟「そういうものなのか?」

中年商人「まぁ、自治委員会と俺たちでは立場が違う」
副官「自治委員は商人ではないですからね。
 儲けなくても良いんですよ。逆に大もうけするとまずいです」

土木師弟「ふむ……」
火竜公女「それよりも、あれに見えるは蒼魔族かや?」

土木師弟「ええ。今週から参加しているんですよ。
 300人ほどです。氏族会議の紹介状でやってきましてね」

副官「どうですか?」

土木師弟「働き者ですね。規律正しいかなぁ。
 集団で何かをすると云うことに非常に馴れているし、
 簡単な指示でも勝手に手順を決めてこなしますよね」

中年商人「ふーむ」
副官「ああ、やっぱりねぇ」

土木師弟「でも、その反面、やはりプライドは高いですよ。
 昔から云いますからね。蒼魔族の誇りの高さは雪豹山脈を
 越えるほど、って。他の種族の人には負けたくないって
 思ってるみたいですね。ま、来週からはその辺も加味して
 ばらして混ぜて作業かな、なんて思うんですが」

中年商人「現場監督ってのも難しいんだな」
土木師弟「まったくですよ。
 一介の設計士には荷が重いって云うのに」

火竜公女「それも修行ゆえ、頑張ってください」ころころっ
副官「早いところ大将が帰ってきてくれれば良いんですけどねぇ」

137 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:44:06.02 O8aL4rAP

――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

がやがや

同盟職員「速報が入りました。遠征軍、白夜王国を進発!
 目標極大陸、魔界侵攻。最終兵員数、24万。総数33万。
 大型船1000隻以上の大船団です」

本部部長「動きましたな」

青年商人「こちらは?」

同盟職員娘「大陸中央部に流通する木炭の価格は前年比320%
 流通量の70%に何らかの影響を行使できています。
 鉄鉱石が多少ふえています」

本部部長「情報が入っています。
 どうやら秘密工房の会計は、木炭を購入する資金を目当てに
 手元に置いていた鉄鉱石の一部を売りに出したようですな」

青年商人「買いたたいてしまって下さい」

本部部長「同じくこれは娼館経由の情報ですが、
 秘密工房および、銅の国の鉄工ギルドは王弟閣下の名前を使って
 付近の国から木炭を供出させるように、嘆願書を送ったようです」

青年商人「嘆願書、ですか」

本部部長「体裁は嘆願書ですが、内容はかなり威圧的で
 実際問題としては要求書に近いものと思われます」

青年商人「手紙を書きましょう。……そうですね、これは。
 湖の国へ直接で構わないでしょう。
 同じく冬の国の商人子弟殿にも出します。
 片棒を担いで貰いますよ」

138 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:45:36.28 O8aL4rAP

同盟職員「どうするんですか?」

青年商人「梢の国も湖の国も、もはや南部連合の一員でしょう。
 銅の国ごときの命令を受ける立場にはないはず。
 銅の国の工房に物資を送り込むためには、
 湖の国の湖上輸送を利用せざるを得ません。
 
 湖を渡る木炭輸送船に関税をかけてもらいます。
 冬の国では防御に用いられた策ですが、
 それが攻撃に用いられるとどうなるか、
 まだ中央の国々は知らなすぎる。
 
 関税をとりあえず、木炭馬車一台あたり金貨60枚あたりから
 始めましょうか」

同盟職員「60枚!? 木炭そのものよりも高額ですよ!」

青年商人「まだ買わないという選択があります。
 欲しくないのなら買わなければなんの問題もありません。
 輸送連絡路を押さえていないという意味がそれなんですからね」

同盟職員「了解っ」

本部部長「この後の動きですが、どうしますか」

青年商人「……」
本部部長「……」

青年商人「『同盟』で銀行が現在設置されている都市の数は?」

同盟職員娘「64です」

青年商人「南部連合を中心に増やしたとして、100前後ですか」

本部部長「何をお考えですか?」

青年商人「聖光教会の力の根源は数です」

139 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:47:50.33 O8aL4rAP

同盟職員「信者のですか?」

青年商人「それもありますが、支部の数も大きい。
 支部というのはただの出先機関ではありますが、
 一定の数を越えることで、単体として以上の機能を持ち始める。
 あれは、網状機構です」

同盟職員「よく判りません」

青年商人「つまり、4つの教会寺院は、
 4つの建築物という以上の存在になるわけですね。
 実際のところ、1つの教会寺院よりも
 5倍か6倍の意味合いを持っている」

同盟職員「……ふむ」

青年商人「そのもっとも顕著な例が『為替』です」
本部部長「まさか、為替に手を出すおつもりですか!?」

青年商人「はい」

本部部長「それはリスクが大きすぎるのでは……」
青年商人「承知の上です」

同盟職員「リスクって?」

本部部長「……知っての通り、為替というのは、遠隔地に
 金を送るための機構の一種だ。
 現金を直接送る場合、気候の変動や、盗賊、事故などの
 リスクが存在する。金貨を積んだ馬車ほど野盗のよだれが垂れる
 得物は有りはしない。わが『同盟』でもどれだけの金が
 輸送商団の護衛費に払われているか考えてみれば良い。
 多量の金貨は馬車数台分になることすらある」

同盟職員娘「はい」

本部部長「為替の応用は様々にあるが、たとえばある都市で
 金貨100枚を証書に変える。別の街でその証書を金貨100枚に
 戻すことが出来る。……実際には税がひかれるが、
 これが為替だ。これを実行するためには、別の都市の間に
 同じ組織の支部があり、それなりの資金力を持っていて
 信用がないと成立しない。
 ――そして現在それが可能なのは、小さな領土内以外では
 聖光教会だけだと云える」

140 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 19:49:49.79 O8aL4rAP

青年商人「聖光教会はこの為替機構を用いて
 莫大な利益を上げています。
 それが教会の力の源泉の一つとなっている」

同盟職員「1/10税ですね?」

青年商人「そうです。為替を売買する場合、
 税として1/10が教会の懐に入る。
 確かに遠距離を護送するに当たって多量の
 傭兵を雇うよりは安くつきますが、
 それでも決して小さな金額ではない」

同盟職員娘「わたし達『同盟』はそれを嫌って
 独自の銀行組織を立ち上げるに至ったのだと理解していました」

本部部長「確かにその側面はある」

青年商人「為替業務は本来銀行の職分だとわたしは考えています。
 教会が主張するように税収の代行業務のオマケではないと
 思っていますからね」

本部部長「しかし、聖光教会の支部の数は莫大で
 これと正面からぶつかれば、いままで様々な商人や
 社会動静を隠れ蓑に使ってきたわたし達の存在が
 注目を集めることにもなりかねません」

青年商人「最大限配慮しましょう。
 しかし、考えても見て下さい。
 いま、この大陸は政治的にも軍事的にも文化的にも
 動乱のまっただ中にあり、
 様々な勢力が虎視眈々とおのれの領域を
 拡張するチャンスをうかがっている。
 そのなかで、聖光教会は指導者たる大主教がゲーム盤を
 離れているのですよ?
 礼節の問題としてすら、この勝負には激突の価値があります」

本部部長「勝機は?」

青年商人「もちろん」にやり「ありますよ」

195 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 22:44:50.20 O8aL4rAP


――魔界(地下世界)辺境部、赤の荒野

勇者「でやっ!」

ボンッ!!

光の兵士「す、すげぇ!!」
光の銃兵「鉄みたいな皮膚の犀の魔物を、一撃で!」

荷運びの作業員「ありがとうございました!」

勇者「なんのなんの。ここいらでは、あの種の魔物が多いのだ。
 歌いながら歩いた方がいいぞ。変に静かに進むより、むこうが
 さけてくれるし」

光の兵士「そうなのか?」
光の銃兵「勇者様、ありがとうございます」

勇者「はっはっは。しばらく一緒に行くぜ」

娼婦のお姉さん「勇者様ぁん♪ かわいい」

勇者「そっ、そういうことは、夜になってからですっ。
 えっちなのはいけないことだと思いますっ」

娼婦のお姉さん「ふふふっ。助けてもらったもの、
 サービスするわよん♪」

    従軍司祭「……」じぃっ

光の兵士「流石勇者様! おもてになる!」

勇者「はっはっは。ボクはそんな欲望のために戦っている
 わけじゃナいのだヨ。世界の平和のためサ」

荷運びの作業員「はっはっはっは!
 勇者様、無駄にハンサム顔になってるぞ、まったく!」

198 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 22:46:30.01 O8aL4rAP

王弟元帥「どうやら随分馴染んでいるようだな」
聖王国将官「ええ」

  光の銃兵「勇者様は銃は撃てないのか?」
  勇者「いーんだよ。おれは雷だせっから」
  光の銃兵「そうなんかぁ? 銃は強いぞ」

参謀軍師「聖百合騎士団から、勇者の身柄引き渡し
 要請があったというのは?」
王弟元帥「事実だ」

聖王国将官「え?」

王弟元帥「勇者は、光の精霊の使徒。
 そうである以上、その存在は精霊の恵みであり、
 教会が世話をするに相応しい、とな」

聖王国将官「何を考えているんでしょう」

参謀軍師「勇者の象徴としての力ですか?」
王弟元帥「教会も気が付いてはいると見える」

  荷運びの作業員「それにしても、重いな」
  勇者「馬どうしたのよ?」
  荷運びの作業員「あの雪の中連れてくるのは大変なんだ。
   可愛い馬っ子は沢山倒れちまった」
  蹄鉄職人「無事な馬は、みんな貴族様の騎馬に持ってかれたしな」
  勇者「そうなのかぁ」

聖王国将官「どうご返答されたんですか?」
王弟元帥「勇者本人の意志による、と答えておいたよ」

聖王国将官「では……」
王弟元帥「どこかで下らぬ夕食会、だろうな。戦場なのに」

参謀軍師「そこで、勇者自身の言葉を聞くと?」

王弟元帥「大主教殿も見極めたいのであろうよ、勇者を」


201 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:29:20.29 O8aL4rAP

――開門都市、庁舎、自治委員会

副官「出来ればそうでなければ良いとは思っていましたが
 人間の軍が近づいてきています」

人間職人長「そうなのか……」

人魔商人「人間? 軍?」

獣人軍人「状況は俺から報告しよう。人間の軍は総勢約三十万」

人間長老「さんじゅうまんっ!?」
魔族娘「ご、ごめんなさいっ」

火竜公女「これこれ。何でも謝ればいいと云うものではありませぬ」
魔族娘「大きい声で、びくっとしちゃって……ご、ごめんなさい」

人間長老「いや、すまぬ」

火竜公女「つづきを」

獣人軍人「約三十万の軍勢だ。これはこの都市の人口の
 おおよそ5倍から6倍に達する」

人間長老「なんと」

副官「彼らは聖鍵遠征軍です。
 つまり、1回はこの街を征服したあの人間の軍ですね」

人魔商人「また人間か! 何回この街を滅ぼせば気が済むっ!」

魔族娘「うううっ」

204 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:30:34.75 O8aL4rAP

火竜公女「我らはここで意見を一つにせねばならぬかと思う」
副官「はい」

人間職人長「意見、とは」
人魔商人「市中の人間族の動向だろう」

獣人軍人「そうだな」
魔族娘「……?」

人間長老「この自治委員会にも何人かの人間が参加している。
 街の人口も、約1/3が人間だ。
 この情報が広まれば、戦火を避けて聖鍵遠征軍に
 投降を考える人間も出てこよう」

火竜公女「そうですね」

人魔商人「つまりは、裏切り者と云うことだな」
獣人軍人「……」

火竜公女「この街は魔王殿の直轄領。
 そもそもこの都市の人間たちは魔族の奴隷として
 この街にいるのではなく自由意志で
 この都市にいるのではありませぬかや?」

副官「……」
人魔商人「……」

火竜公女「で、あれば投降が裏切りとは云えぬのでは?」

獣人軍人「しかし結果としてこちらの情報が
 筒抜けになるやも知れぬ」

副官「話が先走りすぎです、一度戻りましょう。
 そもそも聖鍵遠征軍の現在位置は?」

205 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:32:57.32 O8aL4rAP

獣人軍人「大空洞とこの都市の間に広がる赤き荒れ地。
 奇岩荒野をゆっくりと前進中だ」

副官「速度は?」

獣人軍人「一日に3里がせいぜいだろう」

人間長老「そのままの速度で12、3日ですか」

火竜公女「都市を目の前にすれば、速度も上がりましょうが」

副官「しかし、その位置では、まだこの都市に目標が
 定まったとは言いきれないでしょう。
 進路変更もあり得る場所だ。
 まずは、紋様族、鬼呼族、および旧蒼魔族領地の機怪族に
 警告を発するべきです。異存のある方は?」

人間職人長「……ありませんな」
人魔商人「即座に発するべきだろう」

副官「では、これを決定とします。書き取ってくれ」
魔族娘「は、はい」かきかき

火竜公女「しかし、やはり最大の目的地はこの都市でありましょう」

副官「ええ。現実的に考えればそれ以外にはないでしょうね。
 この都市は近郊最大の物資集積所にして
 交通の要にもなっています。
 いまや、第二次聖鍵遠征の時よりもさらに栄えている」

人間職人長「……」
人魔商人「たわわに実った果物と云うことか」

獣人軍人「この都市の兵力は少ない。
 同規模の都市に比べても少ないのだ。
 ましてやいまは治安維持のための警備軍1500を残すのみ。
 とてもではないが、抵抗はままならない」

魔族娘「うぅ……」


206 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:35:27.25 O8aL4rAP

副官「……いまは、主力騎士はうちの大将が
 連れていってしまってますしね」

人間職人長「……」

火竜公女「まずは、人間の長老どの。
 市民の気持ちのほうを聞かせて頂きたく思いまする。
 都市に住む人間族の住民の声はどうなのかや?」

人間長老「そうですな。……ふぅむ。
 旅商人などを除き、我ら人間の多くは、
 もはや故郷に帰れるなどとは思ってはいませんでした。
 魔族になりきった、などと云うつもりはありませんが、
 少なくともこの都市の住民でいる自覚はあったのです。
 
 正直に申せば、今さら……という気持ちが強いですな。
 聖鍵遠征軍が“人間の捕虜を救いに来た”というのであれば
 それはまさに今さらでもあるし、そもそものところ
 そこまで非道な扱いを受けているわけでもない。
 救うくらいなら捨てなければ良いではないか、と」

火竜公女「……」

人間長老「逆に一方、人間族の裏切り者として告発を
 受けるのであれば、それこそ噴飯もの。
 こう言っては何ですが、この都市に取り残された人間は
 あの司令官に対する恨みがことのほか強いのです。
 
 我ら街の住民には一言も告げずに出て行った司令官にね。
 司令官の一存で取り残され、
 この街で暮らしていくしか生きるすべとてなくなった我らを
 今さら裏切り者として告発するのであれば、
 もはや人間界に対する情も枯れ果てる。
 
 そう考える人間が多数でしょう」

副官「……」

207 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:38:03.43 O8aL4rAP

人間職人長「だがその一方で、
 やっと人間界との連絡が取れ初めてもいた。
 通商といっては云いすぎですが、わずかなやりとりが
 復活しつつあったのも事実です。
 徐々にですが、月に一つ、二つの隊商が行き交うようになり
 これからという時だったのですよ。
 
 それこそ、この都市を気に入り、
 これならばと家族や子供達に手紙を出そう
 そして、もし良ければ招き寄せてこの都市に骨を
 埋めようではないか。
 そう決意した職人や商店主も数多くいました。
 このわたしにしてからがそうなのですからね。
 
 魔族と人間が共同して暮らし、活気溢れ、学問が新興しつつある
 この都市でならば、骨を埋めて商売を行なうのも良い。
 そう考える市民も数多くいたのです。
 我らの本音を言えば、戦争なんてまっぴらだ。
 そちらから捨てたのだからほうって置いてくれれば良いというのが
 もっとも本音になってしまうのではないでしょうか」

人魔商人「それはこちらとしても同じ事。
 前回であっても同じであっただろう。
 この都市は別に人間界に攻め込もうと考えたことも
 何かを奪おうと考えたこともなかったのだ。
 かつて栄えた神殿の都は、交易都市として再生を
 遂げようとしている。
 ほうって置いてくれればこれに勝る親切はない」

獣人軍人「しかし」

火竜公女「“しかし”なのでしょうね。
 そのようにして興った貿易の富に引きつけられてくる者は多い。
 かつて魔族の間に血で血を洗う戦乱があったように。
 今度は人間が引き寄せられたのでありましょう」

208 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:39:54.36 O8aL4rAP

魔族娘「あのぉ」
人間長老「なんじゃ?」

魔族娘「ご、ごめんなさいっ」
火竜公女「はっきりと伝えねばなりませぬよ」

魔族娘「……やはり、負けてしまいます…よね?」

獣人軍人「常識的に考えてみて、1500対30万では話にならない」

魔族娘「そ、そうですよね……」しょんぼり

人魔商人「……お前は、抗戦を主張したいのか?」

魔族娘「いっ。いえ、そんな。意見なんて滅相もないですっ。
 ……で、でも」

火竜公女「……」ぽむぽむ

魔族娘「その、……わたくしごとなのですが。
 ……わたし、ほら。何族だかも判らないではないですか。
 蒼魔族っぽい肌ですけれど、竜族みたいに角もあるし
 でも猫目族みたいな瞳でもあるし……雑種って云うんですか。
 血混じりっていうんでしょうか……。
 その」

人魔商人「何を言いたいのだ?」

魔族娘「いえ、すいません。ごめんなさいっ。
 ただ、衛門の一族って、なんかすごく嬉しかったので……」

人間長老「……」

魔族娘「故郷というか、自分の家みたいに思えてきて。
 この街が……、なんだかすごく大切で」

人間長老「ふぅむ」

210 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/05 23:42:15.72 O8aL4rAP

獣人軍人「われら衛門の一族は自由を尊ぶ一族であるか」
副官「そうですね」

人間職人長「それはそれで仕方ないでしょう」

火竜公女「出来れば今すこし余裕を持った
 やり方を選択したくはありましたが、詮方ありませぬ」

副官 ぐるり 「各々がた、よろしいな」

人間職人長「……」 人魔商人「……」
獣人軍人「……」 人間長老「……」

副官「では、我々自治委員会はこの事実をつつみ隠さず
 全ての市民に公表したく思います。
 その上で、抗戦か、降伏か、交渉か、その意見を募りたい。
 
 議論の期限は三日としましょう。
 その議論の中で逃げ出すものも、人間の軍に降るものも
 いるかも知れませんが、それはそれで、仕方がない」

獣人軍人「とうてい賢いとは云えませんが、仕方ないでしょうね」

人魔商人「魔族には、それぞれ氏族ごとに流儀という物がある。
 流儀を失って賢くあるよりは、衛門の流儀に従おう」

人間長老「異存はありません」
火竜公女 こくり

副官「各々がたも近しい方と十分の論議をして頂くことを
 望みます。どのような結果になってもそれは自分たちが
 選んだと思えるように」

人間職人長「今度は口が裂けても“選択の余地が無く
 捨てられた”などとは言いたくないものだ。
 捨てるにせよ、護るにせよ、それは我らが決めることなのだから」

火竜公女「願わくば、我らが行く手に、碧の光のあらんことを」

227 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:10:46.78 bGZgmCoP

――遠征軍、奇岩荒野、野営地中央、豪奢な天幕

王弟元帥「では、勇者の無事の帰還と、その武勇を称えて!
 またこたびの遠征の輝かしい勝利と我らが凱旋を願い、乾杯」

参謀軍師「乾杯!」 聖王国将官「乾杯!」
灰青王「乾杯!」 百合騎士団隊長「乾杯!」
大主教「……精霊の恵みを」 従軍司祭長「我らに光を」

勇者「これ美味いな!」もぐもぐ

王弟元帥「勇者は本当に健啖だな」
灰青王「うむ、一人前の英雄とはかくあるべしだ」

勇者「いや。すまないな。こんなに大食いで。
 思うに魔力の上限が高いと、その補充のために
 食うようになる気がする」

王弟元帥「ふむ、興味深いな」

参謀軍師「勇者殿。これは霧の国産の葡萄酒ですぞ」

勇者「いただきまっすっ!」

聖王国将官「勇者が見てくれている大隊は、他の大隊と比べて
 底なし沼にはまり込んだり、魔物に襲われたりして出る被害が
 二桁も少ないのですよ。本当にありがとうございます」

勇者「いやいや。みんなを護るのも勇者の役目」

大主教「……」
従軍司祭長「……猊下、あの青年はもしや……」
大主教「……」

勇者「あったりまえのことですから」えへん

王弟元帥 ちらっ
大主教「――」

228 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:12:41.34 bGZgmCoP

灰青王「それに、感心したのはあれだ」

参謀軍師「おお!」

聖王国将官「あれですな」

灰青王「うむ。あれだけの野生馬の大群、
 どのように呼び寄せたのだ? まるで魔法のようだったが
 あのような技は知られてはおらぬだろう」

勇者「あー。あれは、夢魔鶫がね」

参謀軍師「つぐみ?」

勇者「いや。あー。たまたまあのあたりに
 野生馬の群がいたのを知っていたのと、あとは勇者魔法だよ。
 あそこの馬は野生で小型だから軍馬には向かないけれど
 荷馬にするには十分だろう?」

王弟元帥「うむ、早速感謝の言葉が諸侯から届いている」
参謀軍師「ええ、これで荷運びが随分と楽になりますからね」

聖王国将官「傷病者の運送もだ」

勇者「はっはっはっ。大したことはないのだぜ」

王弟元帥「大主教猊下。ぜひ猊下からも、この光の子に
 暖かきお言葉を賜れないでしょうか」

大主教「……百合の」

百合騎士団隊長「はっ、猊下」

大主教「勇者に杯を取らせよ」

百合騎士団隊長「畏まりましたっ」

229 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:14:01.95 bGZgmCoP

百合騎士団隊長「勇者殿、猊下からの杯です」すっ

勇者「えーっと」どぎまぎ

百合騎士団隊長「さぁ」

王弟元帥「照れているのか、勇者?」

聖王国将官「百合騎士団の団長は、大陸でも有名な美姫ですからね」

勇者「いや、そういうわけではないですよ?」
百合騎士団隊長「さぁ」にこり

王弟元帥「ふっ。隅に置けぬな」

勇者「いえいえ、では頂きます。ははっ」
百合騎士団隊長「お注ぎしましょう」

大主教「……」

王弟元帥(なんだ、この重苦しさ……)

勇者「いや、綺麗な色ですね! これはどこのお酒ですか?」

従軍司祭長「教会直轄領において、乙女が一粒づつ手詰みを
 して作る最高級の琥珀葡萄酒ですな」

勇者「貴重な物なんですねっ!」

百合騎士団隊長「猊下のおこころざしです、さぁ」

王弟元帥(……何か、あるのか?)

勇者「いっただっきまーす!         “消毒呪”」

大主教「……」じぃっ

勇者 ごっきゅんごっきゅん 「美味いっす!」

230 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:15:56.66 bGZgmCoP

ばさり

料理人「閣下、お持ちしても宜しいでしょうか?」
参謀軍師「うむ、持ってきてくれ」

勇者「お!」

がたり!

料理人「さぁ、どうぞ! 勇者様! こいつはとびきりですよ」

勇者「ありがとうな、料理人! それから牛追いの皆にも礼を」

料理人「いえいえ、とんでもない。光栄なことです!
 こんがり焼き上げた仔牛の丸焼きですよ、
 こいつを作るのにはたっぷり丸一日かかるんでさぁ。
 腕によりをかけたんで、美味しく食って下さい!」

王弟元帥「ん? 料理人と知り合いなのか?」

勇者「いや、数日前に」もぐもぐ 「河のところで、
 香辛料が濡れちまうって云ってたから、少し助けただけ」

参謀軍師「そうでしたか。ああ! 湖面が凍り付いて
 渡河が非常に早く終わったことがあったというのは」

聖王国将官「勇者殿の器の大きさを感じさせますな」

灰青王「ふぅん」にやり

大主教「……勇者」

勇者「はいな?」 もぎゅもぎゅ

233 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:17:28.99 bGZgmCoP

大主教「そなたの武勇と献身を光の精霊はご寵愛下さる」

勇者「……そうかなぁ。
 いつも泣きそうな顔してない? あのひと」

百合騎士団隊長「……っ!?」
従軍司祭長「……っ!!」

勇者「いえ、すいません。で?」

大主教「どうだろう、そなたに聖別を施したいのだが」

  勇者(小声)「すまん。聖別って何?」
  参謀軍師(小声)「この場合は聖職者として
   迎えたいという意味ですね」

勇者「あー。無理」ぱたぱた

従軍司祭長「……っ!」

百合騎士団隊長「勇者殿、猊下のお誘いをっ」

勇者「いや、それは、その。すごく有り難いのですが。
 猊下ともいらっしゃいますとね、ほら。
 恐れ多いというか、なんというか。
 神々しくて近寄りがたいというか、なんというか
        ……実際はもう売約済みだしね、うん」

従軍司祭長「では、こうされてはいかがでしょう?
 聖別を受けるかどうかはともかく、勇者殿はしばらく
 聖百合騎士団の、天幕で暮らして頂いては。
 身も心も清らかな乙女との暮らしは
 俗界の汚れが落ちると申しますよ」

勇者「うわー」

王弟元帥(どこまで押すつもりなのだ。教会は)

237 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:20:34.42 bGZgmCoP

勇者「それはその。めくるめく誘惑ですね。えー」

百合騎士団隊長「歓迎いたしますよ?」にこり

勇者「でも遠慮します」

従軍司祭長「なにゆえに?」

勇者「いや、ほら。ね。……勇者なんてやっていると、
 肘までどっぷり血にまみれているでしょう?
 これが俗界の汚れなら、今までの俺の為した所行
 これ全て汚れですしね」

従軍司祭長「それゆえ、清らかな光で贖罪を……」

勇者「それに、なんだかんだ理屈こねたところで、
 これからここにいるみんなで“汚れ”を
 大量生産しに行くのでしょ?
 今から清めたところで、また血を浴びるなら、
 それこそ二度手間じゃないですか。
 
 口清く“罪は洗い清められた”などと云ったところで
 胸の重しが取れるわけで無し。
 それならいっそ、あの生暖かい、ぬるぬると滑る、
 鉄の香りの後悔と痛みを自覚していたほうが
 まだ両足で立てるかと」ひょい、ぱくっ

百合騎士団隊長「……」

王弟元帥(ふふんっ。小気味の良いことを)

勇者「まぁ、それ以外にも。ほら、自分、今回は
 王弟元帥のところの食客ですからね。
 ずいぶん飯を食わせて貰った義理があるわけで」

王弟元帥「いやいや」

244 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 00:23:13.29 bGZgmCoP

勇者「そんなわけで、聖別は遠慮しますが、
 王弟元帥がしばらく教会の生活も味わってみろと
 いうのならばおじゃましますよ。
 
 俺個人は、職人さんやら料理人のおっちゃんと一緒に
 馬車でゴロ寝旅が良いんですけれどね。
 
 ですので、俺の寝床については、王弟元帥と相談して
 決めて下されば、それで結構ですよ」

王弟元帥「いやいや、義理堅いな。流石民の規範」

参謀軍師(義理堅い? ……ちがう。狡猾なのだ。
 大主教と王弟元帥閣下の間に自分をぶら下げて
 “欲しいほうが力尽くで取れ”と宣言したに等しいぞ。
 ……閣下は判っているだろうが)

灰青王「ははは。騎士隊長。ふられてしまいましたね」にやっ
百合騎士団隊長「これも、全て精霊の御心。しかたありません」

聖王国将官「勇者ともなりますと、貫禄ですな」

勇者「いやー。旨い飯さえあればどこででも働く男ですよ、俺は。
 世界の平和のために戦っている聖鍵遠征軍の中枢なんて
 こちらが申し訳ないくらいですよ」

王弟元帥「では、この話は我らと猊下で詰めておくとしよう。
 まぁ、そのようなことは些末時。
 勇者、子牛肉が冷めてしまうぞ?」

勇者「お。そうだった。やっぱり王弟元帥は物がわかっているな!」

灰青王「ではわたしもご相伴させて貰おうかな」
勇者「うん、食べよう食べよう。皮のところが美味しいと思うぞ!」

従軍司祭長「……ちっ」


278 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:44:18.30 bGZgmCoP

――冬の国、首都冬の都、商人街

のっしのっしのっし

大きな衛兵「ここか?」

ちび羽妖精「ココー」

大きな衛兵「すまん。はいるぞ?」

ガラス職人「いらっしゃいませー」

ちび羽妖精 きょろきょろ

大きな衛兵「主人はいるか?」
ガラス職人「私がそうでございますよ」

ちび羽妖精「ココ、がらすノ瓶ハアリマスカ?」

ガラス職人「わぁっ!?」がたんっ

ちび羽妖精「ワァッ」びくっ

大きな衛兵「驚かせて済まない。しかし、話は聞いているだろう。
 この小さき者は、街の南の領事館に住む、職員。
 妖精族のちび羽妖精だ」

ガラス職人「はっ、はいっ。は、初めておめ、おめ、おめに」

ちび羽妖精「初メマシテ」ふわふわぺこり
ガラス職人「初めまして」ぺこり

ちび羽妖精「がらす瓶アリマスカ?」
ガラス職人「ご、ございますよ」

280 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:46:01.06 bGZgmCoP

ちび羽妖精「コレ?」
ガラス職人「こちらは全てでございます。どのような用途に
 おつかいでしょうか?」

ちび羽妖精「ヨウト?」
大きな衛兵「使い道だな」

ガラス職人「はい」

ちび羽妖精「がらす瓶ヲ作レル人ヲ買イタイデス」
大きな衛兵「ああ……」
ガラス職人「は?」

ちび羽妖精「ソウイウ人ヲ欲シイ氏族ガイマス」
大きな衛兵「うーむ」

ガラス職人「ふぅむ、職人の募集ですか」

ちび羽妖精「ダメデスカ?」
ガラス職人「そう言うわけではありません。
 新しい街へ職人を募集するなどと云うことは開拓村では
 良くあることですから。ただし、行く先はそのぅ、
 魔界なんですよね?」

ちび羽妖精「ハイ」

ガラス職人「では、ギルド会館にご案内しましょう」

ちび羽妖精「ぎるど?」

ガラス職人「ええ。職人はみなそこに登録をしているのですよ。
 若くてチャンスを待っている僕の後輩や、まだ徒弟の年季が
 開けたばかりの者もいます。何が出来るか見てみましょう」

282 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:50:20.33 bGZgmCoP

――遠征軍、奇岩荒野、野営地、開門都市まで12里

従軍司祭長「残すところあと12里まで迫りましたな」
百合騎士団隊長「はっ」

王弟元帥「もはや一息。開門都市へは斥候をだしています」

灰青王「そうですな」

大主教「……精霊の御心のままに。
 このまま速度を上げ、到着と同時に一斉攻撃を仕掛けよ
 光の教徒の全力をもって陶片のような魔族の抵抗を打ち破り
 あの都市に教会の旗を立てるのだ」

王弟元帥「それについては」

従軍司祭長「我ら、最強の聖鍵遠征軍は、
 三日後の夜を待つことなくあの都市を平らげるでしょう。
 各々がたも、よろしいな?」

王弟元帥「お待ち下さい」

従軍司祭長「何か異論でも?」

百合騎士団隊長「これは託宣ですぞっ!」

王弟元帥「しばしおまちを。報告を」

参謀軍師「はっ。我らは魔界へと侵攻を果たしてから
 約10日の行程を踏破して参りました。
 ここまでの行軍にて兵の疲労は頂点に達しています。
 また思ったよりも時間がかかりましたゆえに、
 糧食の控えは後一月分もございません。
 また今回の戦、敵地へ限りなく
 奥深く入り込んでいることを片時も忘れるわけには行きません」


285 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:52:49.90 bGZgmCoP

参謀軍師「ここまでの行軍路の途中には幾つか陣営地を残し
 糧食の保管および警備にあたらせて、
 輜重隊の動きを助けさせていますが、
 補給線は限りなく伸びきりとっさの動きには
 対応しづらいのが現実です。
 
 もちろん最初の一撃で戦を決めることが出来れば……
 いいえ、一撃とは言いません。
 二週間で決めることが出来れば問題はないかと存じます。
 あの都市には大量の食料もあるでしょうから。
 しかし、それ以上かかりますと、
 追い詰められるのはこちらかと」

従軍司祭長「遠征軍は最強ではなかったのかっ?」

王弟元帥「それは適切な準備を行ない、
 油断も慢心もなく戦った場合のこと。
 九分九厘勝てるであろう、などという甘えは戦場では禁物です」

聖王国将官「この件では、戦場の意見にも耳を
 傾けて欲しく思います」

灰青王「ふぅむ……」 ちらっ

大主教「申してみよ」

王弟元帥「本隊をもう10里進めて、本格的な宿営地を作ります。
 出来れば、木材を切り出して見張り塔程度は作り上げたいところ。
 付近の地形を測量し、カノーネの威力を最大限に生かせる
 布陣を作りつつ、兵には十分な休息を取らせますな。
 断続的な砲撃にて、防壁は数日で崩れ始めるでしょう。
 
 またその一方、マスケット兵および騎馬部隊を中心に編制した
 遊撃部隊15万にて西進。旧蒼魔族領地を強襲します」

従軍司祭長「……旧蒼魔族領地?」

百合騎士団隊長「なにゆえに?」

287 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:56:25.55 bGZgmCoP

王弟元帥「魔族どもは一族ごとに暮らしているというのは
 すでにお聞き及びかと思います。
 旧蒼魔族領地はここから往復で20日程度の距離ですが
 その領地に侵攻、全土制圧を行ないます。
 蒼魔族の軍勢は地上にて討ちやぶり
 我々が独自に入手した情報によれば、
 かの領地は今は少数の混成軍で護られているとのこと。
 
 開門都市に砲撃を加えつつであればそれが牽制となり、
 魔族は連携を取ることすら出来ず、
 旧蒼魔族領地を見捨てる決断となってそれは現われましょう。
 
 軍は失いましたが、蒼魔族の農奴たちは
 自らの領地に残り耕作しているはず。そこで食料を入手します。
 また、蒼魔族は多くの鉱山を持ち、その中には硝石を
 算出するものもあります」

百合騎士団隊長「硝石……?」

参謀軍師「聖鍵遠征軍の主力、銃兵がもちいる火薬の原料です」

灰青王「それは是が非でも入手の必要があるね」

大主教「火薬は少ないのか?」

参謀軍師「聖鍵遠征軍30万が全力で戦った場合、
 8日分が現在確保している量です」

大主教「なんの問題もない。それだけあれば開門都市を
 落とすことは可能だ」

従軍司祭長「8日あれば魔族を一網打尽に出来ましょう」

百合騎士団隊長「確かに」

王弟元帥「しかし、完全に、ではない」

従軍司祭長「くどい。これは猊下のご意向。
 ひいては精霊のご意志ですぞっ!」

288 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 01:59:26.22 bGZgmCoP

王弟元帥「しかしお考え下さい。
 開門都市を落としてもまだ終わりではないのです。
 ここはまだ魔界の玄関口に過ぎません。
 この後魔界の全土を転戦するためには、
 旧蒼魔属領の豊富な鉱物資源、とりわけ硝石が必須です」

灰青王「ふむ」ぽりぽり

百合騎士団隊長「そこまで硝石とやらが重要でしょうか?
 われらは猊下のご意志に従う光の戦士です。
 兵の疲労? そのような甘えは純然たる信仰と
 陛下の祝福に吹き飛びましょう」

大主教「ふふふ。……判っていないのはそなただ。
 ――目の前には開門都市。“門”たる祭壇と“鍵”たる勇者は
 我らが手の内にある。魔界全土で戦う必要などどこにある」

王弟元帥「は?」

参謀軍師「斥候の報告によれば、開門都市は長大な防壁を築き
 近隣諸氏族の軍をも引き入れ、我が軍との激突姿勢」

従軍司祭長「それこそ好都合。会戦にてけりをつければ
 遙かに簡単に魔族の心根を砕くことができましょうぞ」

参謀軍師「っ」

聖王国将官「――それです」

従軍司祭長「は?」

聖王国将官「我ら聖鍵遠征軍は、
 確かに強大な戦力と兵力を有しますが
 それだけに兵の末端にまで指令を行き渡らせるのは至難の業。
 一斉攻撃は確実に巨大な攻撃力を有しましょうが
 いまだかつて10万を超えるような兵力を投入した戦場は
 歴史上存在しません。
 その混乱ぶりは想像を絶するでしょう。
 もとは農奴の兵士がどのような行動を取るかどうかも判りません。
 最悪、遠征軍は瓦解する可能性もあるのです」

292 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 02:02:57.07 bGZgmCoP

従軍司祭長「……っく」

百合騎士団隊長「灰青王さま?」
灰青王「はい」

百合騎士団隊長「兵については、掌握が出来るのでしょう?」
灰青王「それは、そのための前線司令官ですからね」

聖王国将官「灰青王陛下っ!」

百合騎士団隊長「昨日ゆっくりと話してくださいましたよね?
 マスケット銃の運用の仕方について……。
 期待させてくださっても構いませんわよね?」くすり

灰青王「まぁ。お任せ下さい。としか云えんでしょうね」

参謀軍師(取り込まれたかっ)

大主教「これでもまだ不安か、王弟元帥」

王弟元帥「ええ。不安ですね」

大主教「ふっ。ふははははっ。臆病ではないか? 王弟元帥」

王弟元帥「我が身の使命は猊下および中央大陸の権益と
 その体制を保ち永遠を護ることだと考えております。
 そのためには、臆病で丁度良いかとも思いますが?」

参謀軍師「……閣下」

灰青王「いやいや。硝石が必要というのも判ります。
 そもそも魔族の軍の陣容や人数だって判ってはいない。
 しかしね、あの都市の駐留軍を併せても5万を大きく
 越えると云うことはないでしょう。
 それにたしかに20万は多すぎです」

294 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 02:06:32.82 bGZgmCoP

大主教「……」

灰青王「ここは軍を二分しましょう。
 二正面作戦は定石から云えば悪手ですが、
 幸い聖鍵遠征軍にはそれを可能にするだけの兵力がある。
 いままでの駐屯地や補給線の防衛に回した分を
 差し引いても未だ18万の兵力は温存している訳ですよ。
 
 王弟元帥には5万の兵力を率いて、蒼魔族の領地を落として頂く。
 王弟元帥の仰るとおり手薄な領地であれば、
 5万の兵力であっても十分でしょう?
 
 そして開門都市攻略戦には15万の軍を率いて当たる。
 カノーネをこちらに残して頂ければなお結構。
 それであってもおそらく魔族の4倍。悪くて3倍。
 蹂躙するには不足がない。……いかがです?」

大主教「よかろう。開門都市を落とせば光は見えるのだ」

従軍司祭長「……宜しいでしょう」

百合騎士団隊長「期待していますわ。灰青王さま」

王弟元帥「……」

従軍司祭長「宜しいですな、王弟元帥閣下」

王弟元帥「承知した」
参謀軍師「……」

灰青王「明朝には?」
大主教「明朝には出発だ。兵には行進速度を速めさせるよう」

従軍司祭長「精霊は欲したもう」

百合騎士団隊長「全ては精霊の御心のままに」




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #35


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