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前回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #26

424 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:47:08.54 L1AOl7sP

――鉄の国、王宮、大広間

勇者「よっしゃ。いくか」

妖精女王「ええ、いつでも」ごくり

羽妖精侍女「チョット怖イ」

勇者「任せとけ。いざとなっても逃げるところまでは保証する。
 それにさ、人間だっていつでも剣を振り回している
 奴らばかりじゃないよ」

妖精女王「しっかりなさい。わたし達は魔王様に任されて
 ここにいるんですよ。期待に応えないと」

羽妖精侍女「ハイ……」

勇者「おっし。行くぜ」

ガチャリ

勇者「冬寂王。それにお二方。お待たせ」

鉄腕王「おお。勇者どの。どうした、こんな早朝に」
冬寂王「何か変事でも?」
氷雪の女王「まだ明け方は冷えるでしょう?
 さぁ、暖炉のそばにいらっしゃいませ」

勇者「えー。コホン。本日は遠来からの客人を同道しててな。
 それで紹介しなきゃならないと思って。――うん、来たんだ」

妖精女王「初めまして」
羽妖精侍女「初メマシテ」ペコリ

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1253950332/

425 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:49:25.10 L1AOl7sP

鉄腕王 ゴシゴシ
冬寂王「……」
氷雪の女王「え?」

勇者「えーっと。あっちは右から、鉄腕王。鉄の国の王様だ。
 いまお邪魔しているこの宮殿と国の主。
 蒼魔族と戦争の真っ最中の当事者だ。
 
 中央にいるのが冬寂王。冬の国の王だ。
 一応このあたりをとりまとめる
 三ヶ国通商の盟主と云うことになっている。
 
 左にいる女性は氷の国の女王だ。
 氷の国は吟遊詩人のふるさととも云われている。
 鉄の国と冬の国にはさまれた小国だが外交や文化は進んでいるな」

妖精女王「はい」
鉄腕王「え?」

勇者「で、こちらは。こほん。
 魔界において、魔族大会議、忽鄰塔を構成する
 九つの氏族のうちひとつ、
 森に住む者、
 夜明けと黄昏のはかなき者たち、
 妖精族の長、妖精女王だ。おつきの侍女は羽妖精」

妖精女王「ご紹介預かりました、妖精女王と申します」
羽妖精侍女 ぺこり

冬寂王「……」

勇者「と、まぁ、魔界の中でも有力者なんだが、
 今回はそういう意味で尋ねて来た訳じゃない。
 彼女は忽鄰塔、つまり魔界の最高会議だな。
 そこの代表者、特使としてきている。
 会議だけではなく、この使者は魔王の意志でもある」

427 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:49:58.38 L1AOl7sP

鉄腕王「勇者殿、これはいったいどういう冗談」
冬寂王「冗談では、無かろう」

勇者「うん、さっぱり本気」

妖精女王「……」ぎゅっ

鉄腕王「魔族……」
氷雪の女王 がくがく

冬寂王「妖精女王よ。
 よくぞ遠いところはるばるいらっしゃった。
 まずは暖炉の側へどうぞ。
 我らの間には深い溝があるが
 炎を分かち合えないほどではないだろう」

鉄腕王「何を言うのだっ」

冬寂王「彼女は魔界での身分からすれば王族に当たる。
 たとえ、敵対する国家であっても王族には王族の扱いがある。
 そして、彼女は物見遊山に来たわけではない。
 見ろ。あのひ弱そうな侍女以外誰一人として連れていない。
 彼女は我らの信を得るために、わざわざ丸腰で来たのだ」

氷雪の女王「しかし……」

冬寂王「それに勇者が連れてきたのだ。彼を信ぜよ」

鉄腕王「それは確かに、そうだな。
 ふんっ。鉄腕王ともあろう者が
 女に怯えて話も聞けないとあっては末代までの笑いものだ」

勇者「何とか聞いてもらえるみたいでほっとしたよ」

妖精女王「ありがとうございます」

429 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:52:43.55 L1AOl7sP

メラメラ、パチパチッ

冬寂王「聞こう」

妖精女王「沢山のお話があります。
 まず、わたし達九氏族、いて……。
 いまやまたもや八氏族となってしまいましたが、
 わたし達は、人間世界の通行許可を求めています。
 ……現実にはこのようなギリギリになってしまいましたが、
 人間世界を旅するに当たって承諾を求めています」

鉄腕王「また人間の領土に攻め込もうってのか?」
冬寂王「……」

勇者「いや、まぁ。最初っから話さなきゃ判らないだろう」

冬寂王「それをいうならば、何故勇者が魔族を伴って
 現われたのだ? 勇者は魔族と通じているのか?」

勇者「そのほうが正しいと思えば誰とでも話すさ」

氷雪の女王「それは異端ですよっ」
冬寂王「氷雪の女王。それを言うならば、
 我らは皆すでに全員が異端なのだ」

氷雪の女王「……そうでした。しかし」

勇者「事の始まりは……そうだな。
 どこまでも過去にはさかのぼれるけれど、
 今回のことの始まりは魔王の長きにわたる怪我の療養。
 そして忽鄰塔だった」

鉄腕王「くりるたい?」

妖精女王「ええ。忽鄰塔は魔族の大会議。
 魔王様によって招集された、魔族の大きな氏族八つが出席し、
 そのほかにも無数の氏族が集う最高の意志決定の場です」

431 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:57:14.10 L1AOl7sP

妖精女王「魔界は基本的には魔王の名と統治の元に動いていますが、
 実際には多くの領民を抱える氏族の発言力が強く、
 各氏族が覇を競って相争うような状態が
 100年以上続いてきました。
 
 しかし、魔界は未曾有の緊張、
 つまり人間界からの侵攻を受けていたために
 魔族同士の戦乱はこの15年の間は沈静化していたのです」

鉄腕王「侵攻? そちらから戦争を仕掛けてきたのに」

妖精女王「いいえ、ゲートの封印を解除し戦闘を
 仕掛けてきたのはそちらです」

冬寂王「やはり……」
氷雪の女王「ええ」

鉄腕王「なんだ? どういうことだ?」

冬寂王「いや。以前から疑問には思っていたのだ。
 なぜ、教会が派遣したただの調査隊があれほどの
 武装をしていたのか?
 その調査隊が『聖鍵遠征軍』と呼ばれていたのか」

氷雪の女王「……」

妖精女王「今回は、その件について
 話をしに来たわけではありません。
 魔界は人間界との交戦状態に入った。
 魔族は結束して……とは云えませんが、
 各々が力を尽くして戦いました。
 結果はご存じの通りでしょうが、我ら魔界は人間界の版図から
 極光島を奪うことに成功しました。
 しかし、その代わりに、我らが聖地である開門都市を
 失うことになったのです」

433 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 17:58:49.31 L1AOl7sP

メラメラ、パチパチッ

妖精女王「戦線は膠着したかに見えましたが、
 その実は違いました。人間は戦略を変えたようでした。
 勇者と名乗る少数の戦士集団の名前が魔界のあちこちで
 囁かれるようになりました。
 勇者達は魔界の様々な軍事拠点や古代の神殿を巡り
 強力な魔法の武具を集めては、
 我ら魔族の軍を撃破してゆきました。
 
 彼らはあまりにも少人数で、それゆえに捕捉が難しく
 魔族はいつも後手後手に回らざるを得ませんでした。
 
 本来個体の能力では人間に勝っていると自負していた魔族は
 次第に勇者という名前に畏怖と戦慄を覚えるようになって
 ゆきました……。
 そしてある時とうとう、勇者は魔王様と一騎打ちとなり
 両者は負傷、姿を消した。
 ……その噂が魔界へと広まりました」

鉄腕王 ごくり

勇者「――」

妖精女王「魔王様は死んではいない。それはすぐに判りました。
 なぜならば、人間の方々には説明しても
 判ってもらえないかとも思うのですが、
 魔界にとって魔王様は不滅の存在なのです。
 もし魔王様が倒れればすぐにでも次期魔王選出が始まるはずです。
 それが始まらない以上、魔王様は死んでいるはずがない。
 
 しかし、現在の魔王様には一つの憶測というが
 良くない評判がありました。それは戦闘が不得手で虚弱だ、
 と云うことです。
 もちろん魔王様は溢れる知謀で我らを導いてくれています。
 わたし個人はいまの魔王様を歴代のどなたよりも
 深く尊敬いたしていますが、当時はそのような評判もあり
 氏族の長からは軽んじられていたと云うことは否定できません。
 
 ですから“魔王は深い傷手を負って治療をしている”
 噂は事実だったわけですがその期間は思いのほか長く続きました」

444 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:33:59.66 L1AOl7sP

氷雪の女王「そして一時の静寂が訪れたのですね?」

妖精女王「ええ、そうです。それから3年がたちました。
 その間に人間界は、その版図である極光島を取り戻し
 わたしたち魔族は開門都市を回復しましたが、
 それ以外の部分ではおおむね静寂が続きました。
 勇者による各地の魔族被害も途絶えました。
 
 もちろん人間界との戦争が終結したわけではありませんが
 魔王様の指示を欠いたわたし達は決定的な団結を得られず
 人間界への反抗作戦を立ち上げることが出来ませんでした。
 
 誤解して欲しくないのは、魔界の全てがこの戦争に
 賛成というわけでもないと云うことです」

冬寂王「と、おっしゃると?」

妖精女王「魔界は、人間界のように一人の神を崇めると
 云うことがありません。
 様々な氏族に、様々な教えもあり、様々な文化があります。
 
 わたしを見てどう思われますか? この羽を。
 蒼魔族とは似ていないでしょう?
 
 これだけ姿形が違うと共通の文化や意識は持ちにくいのです。
 魔界は氏族という集団に分かれて暮らす、
 無数の魔族によって構成された世界です。
 
 当然、氏族ごとに様々な意見があり、
 戦争に対してもそれは同様でした」


445 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:35:16.96 L1AOl7sP

妖精女王「もっとも、三年前のあの時期は、
 魔族の中でもいくつもの神々の聖地とされた開門都市が
 人間に奪われたことに不満を持たない魔族は少なかったでしょう。
 それはいまも残っています。
 多くの魔族は人間に反感を持っています。
 
 そんな三年が過ぎ、魔王様は復活を宣言されました。
 そして忽鄰塔を招集なさったのです」

冬寂王(……爺の報告とも符合するか)

鉄腕王「そうだったのか」

妖精女王「会議の話題は当然、人間との戦争をどのように
 展開するか、になるはずでした。
 少なくとも多くの魔族はそう考えていました。
 
 しかし、中にはわたし達妖精族のように、戦争をしたくない。
 そう考える者たちも少なくはありませんでした。
 なぜならば、わたし達のような弱い氏族にとって
 戦争とは常に巨大な災厄でしかなかったからです。
 
 我ら八大氏族の長と魔王様は長い話し合いを行いました。
 魔王様の意志は、どうやら停戦のようでした」

鉄腕王「停戦っ!? それは本当なのかっ!?」

冬寂王「……」

妖精女王「しかし、魔族の中でも有力な幾つかの氏族の意志は、
 徹底抗戦でした。人間に対する反感もあったでしょうし、
 人間界に溢れる領土や、魔界では取れぬ財宝を目当てにする
 欲望もあったでしょう。十分に力のある魔族の目にとって
 人間界は熟れた果実のように写っていたのです」

446 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:38:11.42 L1AOl7sP

妖精女王「会議は長い間続きました。
 長い長い間、おおよそ一月にもわたって続きました。
 魔王様の説得が功を奏し、忽鄰塔全体が停戦で合意を
 しようとした時に事件は起こりました。
 
 蒼魔族が陰謀を巡らし、魔王様を攻撃したのです。
 その陰謀のせいで、八大氏族は真っ二つに割れ、
 人間との戦争は疎か魔族同士でも戦う戦乱の世が
 再来しようかとも思われました。

 しかし、幾人かの勇気と知恵溢れる長の活躍により
 最悪の事態は回避されました。ですが結果として
 蒼魔族は忽鄰塔、ひいては全魔界氏族の輪を離れ、
 たった1氏族のみで独自の道を行く選択をしたのです。
 
 蒼魔族は確かに戦闘に長けていて、
 魔界でも有数の有力氏族ですが、獣人、竜族、鬼呼族などの
 他の有力部族の連合軍を打破するほどの力はありません。
 
 わたし達は蒼魔族に降伏と、忽鄰塔復帰を求めました。
 蒼魔族はもはや自領土内に籠もって、自らの過ちを認めるか
 全滅を覚悟しての戦を行なうかしかないのではないかと
 魔界の氏族達は思っていました。
 
 ですが」

冬寂王「蒼魔族は活路を人間界に求めた?」

妖精女王「その通りです。
 蒼魔族は突如電撃の早さで人間の世界に侵攻し、
 白夜と呼ばれる国を征服したと聞きます」

447 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:40:12.51 L1AOl7sP

鉄腕王「結局は、とばっちりってことか。気に食わんっ」

妖精女王「鉄腕王、銅の腕を持つ戦士殿のいうとおりです。
 眼前の事態は我ら魔族の内輪もめの迷惑を人間界にかけた
 形です、この件において、我ら魔界の者はその責を
 負っていることを認めます」

鉄腕王「まったくだ」

氷雪の女王「いいえ、それはちがうでしょう。
 逆に言えばそのような展開になったのは、
 勇者が魔王を負傷させて長い間魔界の統治を不十分な
 ままにさせたせいとも云えるでしょう」

鉄腕王「だがそれは魔族が人間界を攻めたせいで」

冬寂王「後先の話をするのならば、我らが先の可能性もあるのだ」

氷雪の女王 こくり

妖精女王「我ら忽鄰塔の八大氏族は」

氷雪の女王「おまちください。
 蒼魔族は忽鄰塔を脱退したのでしょう? では七氏族では?」

勇者「あー」

妖精女王「はい。話の本筋には関係ないかと思い省きましたが。
 魔王様を蒼魔族の陰謀から救うに当たり重要な役割を
 果たしたもう一つの新しい氏族が、
 忽鄰塔大会議に加わったのです。
 
 その名も衛門族。人間が率いる魔界唯一の氏族です」

鉄腕王「人間が率いるっ!?」

448 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:42:38.68 L1AOl7sP

勇者「それについては、俺が説明すべきなんだろうな。
 冬寂王。開門都市にはさ、ほら2万からの
 遠征軍駐留部隊がいただろう?」

冬寂王「そうだな」

勇者「それが、極光島の時にぴぃぴぃ逃げてきたじゃん?」

冬寂王「ああ。裏切りだとか、魔族の大反抗が開始されたとか。
 それで部下の多くを失い、民間人も全滅し、
 戦略価値が無くなったとかで極光島へと救援に
 駆けつけたのだろう? 何の意味もなかったが」

勇者「やっぱり、どうも情報がずたずたになってるんだよなぁ」

冬寂王「しかし、その後の諜報で、開門都市が人間の住む
 都市となっているのは知っている」

勇者「正確には、自治政府の治める自由都市だ」

氷雪の女王「それは人間世界で云うところの自由都市と
 似たようなものですか?」

勇者「うん、同じだ。領主じゃなく、自治委員会が
 治めているところだけが違うけれどな。
 まぁ、開門都市が開放された事件で、駐留軍団は人間界に
 撤退したわけだけど、その時民間人は全て置き去りにされたんだ。
 そういった殆どの民間人は死んでないよ。
 それは事故なんかで数人は死んだかも知れないけれど、
 1万人以上の人間商人や、個人商店の持ち主が残っている。
 開門都市は、人間と魔族が入り交じって暮らす街となって
 生まれ変わったんだ。
 
 そして、その都市の自治委員会は、
 自分たちを魔界の氏族であると宣言した」

452 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:52:30.89 L1AOl7sP

鉄腕王「氏族? 氏族ってのは生まれが一緒の
 一族じゃなかったのか?」

勇者「多くの場合そうだが、
 そうじゃなきゃならないと云う法律はないらしいんだ。
 だから連中は強引に宣言して、忽鄰塔に殴り込んだ。
 俺たちは戦争には反対だ、ってね。
 
 ――それが一つの切っ掛けになって、
 会議全体はいまで停戦の意志に傾いている。
 もちろん人間に対する疑いや反感は根強い。
 停戦なんて実現できるのかどうか疑問視しているのも事実だ。
 
 だが、戦争は失うものが大きく、もし開始したら
 どちらかの世界が、もしくは両方の世界が破壊寸前まで
 疲弊するだろうという認識は、一致した」

鉄腕王「破壊か……」
冬寂王「うむ」

妖精女王「わたしは忽鄰塔、
 新生八氏族および魔王の意志の代弁者としてこちらに伺いました。
 もちろん人間世界が一枚岩で無いことは判っております。
 魔界にしてからが、蒼魔族の暴走を
 食い止められなかったわけですから……。
 
 まず、第一に我らは蒼魔族を討ち取るべきだと考えます。
 蒼魔族の暴走を許したのはわたし達の責任。
 魔界の軍を蒼魔族の元へと向ける許可を頂きたい。
 
 さらには、わたし達は、三ヶ国通商との停戦を求めます。
 本当は人間世界全てとの停戦を求めているのですが
 一部であっても、一つづつ解決するのが大事だと考えています」

羽妖精侍女 ぱたぱた

454 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:54:05.40 L1AOl7sP

鉄腕王「……」
冬寂王「どう考える?」
氷雪の女王「そう、ですね……」

妖精女王「……」
羽妖精侍女「……ウー」

鉄腕王「魔族の軍を侵入させるとして数は?」

妖精女王「約一万です」

鉄腕王「いまの話が全て嘘で、蒼魔族に増援を送り、
 人間の世界侵略を進める謀略ではないという証拠は?」

氷雪の女王「その可能性は否定できませんね」

妖精女王「大空洞から進み、この国の国境付近に
 我が妖精族の乙女、千人をまたせております」

羽妖精侍女「ハイ……」

鉄腕王「乙女?」

妖精女王「魔界の軍が撤収するまで、
 それら乙女と共にわたしがこの城で人質になると云うことで
 信じてはいただけないでしょうか?」

鉄腕王「……」

冬寂王「謀略の有無は判らないが、この三年間の経緯や
 魔界での勢力関係などは、冬の国の調査隊が送ってきた報告と
 どれも符合する。その部分までは信じても良かろう」

457 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 18:56:14.27 L1AOl7sP

鉄腕王「勇者殿」

勇者「ん?」

鉄腕王「勇者殿はどういうおつもりで、お引き合わせなのか?」

勇者「こっちにはつもりも思惑もあるけれど、
 いまはそれよりも、損得の話をすべきかと思うが?」

鉄腕王「……むぅ」
冬寂王「そうですな。勇者殿は何も南部諸王国の臣下ではない」
氷雪の女王 こくり

勇者「あー。誤解してそうだから言っておく」

冬寂王「は?」

勇者「俺は人間世界の守護者でもない。
 俺は勇者――“救いを求める世界全てを救う者”だ」

羽妖精侍女「……」ぎゅぅっ

鉄腕王「我らの味方ではない、と」
勇者「敵味方なんて話しはしていない」

冬寂王「我らが望めば、我らも救ってくださると?」
勇者「この力の及ぶ限り」

氷雪の女王「では、この報せが……」

勇者「そう。この邂逅がいま現在、南部諸王国の救いだと信じる」

481 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:31:54.65 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地

女騎士「ひるむな! 目をそらすなっ! 撃てぇっ!」
冬国仕官「ぅ、撃てぇ!!」

冬国槍兵士「し、しかしっ!」
冬国弓兵士「相手は白夜国のっ!」

女騎士「躊躇うなっ! 全ての責はわたしが負うっ!
 彼らを見よっ! まっすぐに見よっ!
 彼らは武器を持って立ち向かって来る兵士なのだっ。
 彼らは兵士だっ。奴隷などではないっ。
 彼らを背中からの矢傷で死なせるなっ。
 
 もし諸君らが傷つき、後悔と痛苦に苛まれるならば
 その夜はわたしが諸君らに責められよう。
 虐殺の汚名があるのならばわたしが受けようっ。
 ――いまは考えるなっ。持ちこたえよっ!」

冬国仕官「我らが後方には20万人の三ヶ国開拓民が
 いるのだっ! 一歩退けば崩れるぞっ!」

冬国槍兵士「おお……。おおっ!!」
冬国弓兵士「う、撃てぇ!!」

びゅんびゅん! びゅんびゅん!
   びゅんびゅんびゅん! びゅんびゅんびゅんっ!

女騎士「右翼騎兵騎乗っ!」
冬国仕官「はっ!」

騎兵団隊長「準備よしっ!」

女騎士「一撃離脱! 三連攻撃準備っ。行けっ!!」

483 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:34:08.97 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、蒼魔軍

蒼魔上級将軍「ふむ。崩れないな」

蒼魔近衛兵「敵も良く持たせておりますようで」

蒼魔上級将軍「だがこちらの犠牲者はほぼ全て奴隷。
 どこまでその意志が続くか見物だと云えような。
 ……歩兵大隊!!」

蒼魔軍歩兵団長「はっ!」

蒼魔上級将軍「督戦隊に代わって奴隷どものケツを炙れ。
 侵攻ラインを後方から押し上げよ。
 人間族の奴隷を盾として、中央丘陵地帯に橋頭堡を築くのだ!」

蒼魔軍歩兵団長「はっ! 重装歩兵団っ!」

 うぉぉーっ!
ザガチャ!!
  ザガチャ!!

蒼魔軍歩兵団長「進軍開始! 頸鎧をあげよ!
 五列縦隊三条をもって中央部に突撃っ!

 ザジャ、ザジャ、ザジャッ!

蒼魔上級将軍「軽騎兵!」

蒼魔軍軽騎兵隊長「はっ!」

蒼魔上級将軍「歩兵団の突撃を右翼より側面支援せよ!
 被害を増やすな。戦列の押し上げは歩兵に任せて、
 後方攪乱を狙え!」

蒼魔軍軽騎兵隊長「御命、了解っ!!」バッ

484 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:35:57.72 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地

女騎士「くっ! 第三弓隊、100歩後退っ! 槍中隊後退支援!」

冬国仕官「矢の補充を急げっ!」

 わぁぁ! ガキン! ガシャン!
 「蒼魔の力を見せよっ!」 「刻印王のためにっ!」

冬国槍兵士「なんて圧力だっ!」
冬国槍兵士「姫将軍のためにっ!!」

女騎士「この程度でひるむ南の勇士ではないぞっ!」
冬国仕官「奮い立て!!」

冬国槍兵士「おおーっ!!」

兵士達「我らが姫将軍のためにっ!!」
  兵士達「我が故郷たる大地のためにっ!!」

冬国槍兵士「早く下がれっ! 補給をして戦列に戻るんだ」
冬国弓兵士「判った、任せたぞっ」

 わぁぁ! ガキン! ガシャン!
 「押せぇ! 押せぇ!」 「奴隷は下がっていろ! 長剣兵!」

女騎士「いまだっ!! 騎兵突撃っ!!」

冬国騎士「「「「オオオオーッ!!」」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
  ガキィィーンッ!!

女騎士「敵の重装歩兵の脇腹を突け! 混乱させよっ!!」

487 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:44:54.80 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、森林部、待機場所

鉄国少尉「何が起きたっ!?」
鉄国歩兵「相手は、相手は人間ですっ! おそらく……」

軍人子弟「騎馬隊騎乗っ!」

 ザザッ!!

軍人子弟「少尉っ!!」

鉄国少尉「はっ」

軍人子弟「当部隊歩兵全ての指揮権を委譲する。
 この場所を死守せよっ! 砲声からして敵は少数っ。
 拙者が後背を守るでござるよ」

鉄国少尉「はっ。……ほ、砲声?」

軍人子弟「いまは良い。おのれの任務を果たすでござるっ!」

鉄国少尉「しかしっ! この待機場所には騎兵は
 100しかは位置されていませんっ!
 それでは護民卿の守りがっ!」

軍人子弟「数の問題ではござらぬ」にこっ

  ドゥゥゥーーン!!!

軍人子弟「騎馬隊、我に続けっ! 後方の敵を討つっ!!」

鉄国少尉「護民卿っ! 護民卿っ!!」

軍人子弟(マスケットが何故っ!?
 あれは紅の師が鉄の国の工房に試作を依頼し、
 その後の異端騒動でとうとう実用化へとは
 至らなかったはずでござる……。
 まさか、まさかっ、鉄の国の者がっ!?)

488 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:45:52.49 L1AOl7sP

ダカダッ、ダカダッ、

軍人子弟「騎馬隊隊長っ! こちらの数はっ!? 続いているかっ」
騎馬隊隊長「全騎続いておりますっ。数100っ!」

鉄国騎馬隊「はいやっ!」「せやっ!」

ダカダッ、ダカダッ、

軍人子弟「聞けっ! 敵はおそらくマスケット部隊っ!
 石弓に似た鉄製の武器でござる。当たれば鎧は意味を持たぬ。
 防御を考えていては後れを取るっ! しかし射程は短く
 1回発射を行なえば数分は再発射が出来ぬと思って良い」

騎馬隊隊長「はっ!!」

ダカダッ、ダカダッ、

軍人子弟「我らはその部隊の側面より奇襲、
 中央部で乱戦することにより友軍を救うでござるっ!
 敵方に槍兵の準備があった場合は、
 高速でスレ違いざまに攻撃を加えよっ! 事は一刻を争うっ」

騎馬隊隊長「はっ!」
鉄国騎馬隊「了解っ」「承知っ!!」

軍人子弟「現在森林部では鉄の国の工兵達が作業中でござる。
 彼らは兵とは云っても名ばかりの開拓民のあつまり。
 わずかばかりの土地と自由を求め、
 長い旅に耐え抜いた我らが同胞っ。
 決して見捨てるわけにはいかないでござるっ。

 また、湿地帯中央で戦っている我が軍の総指揮官
 女騎士殿も我らが工作を当てにしておられるっ。
 
 身命を賭して、強行突撃を行なうでござるっ!!」

鉄国騎馬隊「「「我ら鉄国の衛士っ。この命大地のためにっ」」」

493 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:56:34.26 L1AOl7sP

――鉄の国、王宮、大広間

勇者「なぁ」

鉄腕王「……」
氷雪の女王「……」

勇者「おれは、魔界の中心に突っ込んでいった暗殺者だったよ。
 魔王を殺せば、その側近を殺せば、魔界の強いやつを殺せば。
 それで平和になるってな。そんな事を考えていたよ。
 戦うことの意味も考えず
 平和の意味さえ考えずに、ただがむしゃらに
 その実無責任に、ただ暴力を振るっていたよ。
 
 でもな、もう、そういうのはやめた。
 そういうので新しい世界へいけるだなんて夢はもう見ない」

妖精女王「黒騎士殿……」
羽妖精侍女「黒騎士……来タ……ッ!!」

勇者「ああ。判っている。
 ――どうやら俺の出番みたいだなっ」

ズズズズズ!

妖精女王「どうかご武運を」
鉄腕王「な、なんだ!?」

ゴゴゴゴゴ!

冬寂王「何だ、この振動はっ!?」

勇者「俺は俺の役目を果たしに行く。
 冬寂王、鉄腕王、冬の国の女王っ。あなた方に頼むっ。
 そしてあなた方に続く幾多の王と、その民草に
 間違った道を指し示さないでくれっ。
 ……俺は、俺だって丘の向こうが見たいんだ」

しゅわんっ!!

496 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 19:59:57.69 L1AOl7sP

――鉄の国、王宮、上空40里

ヒュバァァーッ!

勇者「来たなっ」
蒼魔の刻印王「それはこちらの台詞だ」

勇者「……」ぎりっ
蒼魔の刻印王「この間のわたしだとは思わぬ事だ。
 瞑想により我が魔力は格段の鍛錬を経ている」

勇者「だろうな」
蒼魔の刻印王「ふっ」

勇者「何がおかしい?」

蒼魔の刻印王「哀れなものだ。以前の“勇者”で
 あれば今よりも遙かに強かったであろうに」

勇者「……」
蒼魔の刻印王「――“落葉火炎術”」

ヒュバンッ!!

勇者「なっ! おい、つっけぇっ!! “氷結天蓋呪っ!”」
蒼魔の刻印王「はっ。防御が隙だらけだっ!」

ドゴォーンッ!!

勇者「ぐはぁぁっ!!」

蒼魔の刻印王「これで判っただろう?」

498 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:03:30.10 L1AOl7sP

勇者「ぜぇっ……ぜぇっ……」

蒼魔の刻印王「能力が同じであらば攻撃側が有利なのだ。
 攻撃側は自分の好きなタイミングで好きな場所に攻撃が出来る。
 防御とはその本質からして、事後処理にならざるを得ない。
 つまり、手遅れ。
 手遅れであると云うことが救済の真実。
 そう、それはこの世界の真理。
 摂理なのだっ!
 そうだろう? 勇者っ! “天始爆炎術”っ!!」

勇者「お前っ!? わざと街をっ。
 うわぁぁああああ! “氷結天蓋呪っ!”」

蒼魔の刻印王「だから遅いと云って! いるのだっ!!」

ズバシャァッ!!

勇者「ぐはぁっ!!」

蒼魔の刻印王「お前の体も心も弱点だらけだっ。
 お前はこうして街の被害を見過ごすことすら出来ない。
 確かに勇者。流石に勇者だけのことはある。
 我が刻印が教える最大の宿敵よっ。
 ……その戦闘能力は我を超えることもいまや素直に認めよう。
 だが、だからといって勝敗は、それとはっ」

勇者「くそおっ!」
蒼魔の刻印王「別だっ!!」

ガギィィン!!!

勇者「はっ。そうかよっ!」
蒼魔の刻印王「減らず口をっ」

勇者「吹っ切れたぜ。どんなに人間離れしてようとな
 それでみんなに嫌われようと、ひとりぼっちになっちまおうと
 それでも“お前なんか”に負けるより、よっぽどましだっ!」

501 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:07:01.39 L1AOl7sP

蒼魔の刻印王「っ!?」

勇者「おおおっ!! “招嵐颶風呪”っ!」
蒼魔の刻印王「こ、れはっ!?」

びゅごぉぉぉっ!

勇者「はっ。お前程度の飛行魔法で制御できるかっ。
 こいつはごきげん直伝の気象制御呪文の強化版だっ。
 俺とお前ごとふっとばす嵐の結界っ。
 まずはもっとましな場所へいこうやっ」


蒼魔の刻印王「“飛脚術”っ! “火炎鳴動術”っ!
 “天眼察知術”っ! “剛力使役術”っ!」

勇者「“神速呪”っ! “雷剣呪”っ! “鏡像呪”っ!」

   ゴオオオオッ!!!
ガギィィン!!

勇者「いい加減に諦めろっ!」
蒼魔の刻印王「諦めたともっ! 無傷で勝つことはなっ!」

ギィン! ガギィン!! ビギィン!!

勇者「応えろ!! 黒の鎧っ! そなたは何ぞっ!!」
“我は鎧っ。汝を守り、汝が敵の刃を悉く弾く物なり”

蒼魔の刻印王「何故それを使いこなせるっ」

勇者「知ったことかぁっ!!
 誰かが誰かを助けようとするのが全部手遅れだとっ!?
 それが摂理だとっ!?
 したり顔で語ってんじゃねぇっ!!」

   ギィーーーーンッ!!!

513 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:22:46.62 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、蒼魔軍

蒼魔上級将軍「どうだ?」

蒼魔近衛兵「我が軍が押していますな。
 波状攻撃が功を奏しています。時間の問題です」

蒼魔軍軽騎兵「攪乱に成功しましたっ」

 びゅんびゅんびゅん!! びゅんびゅん!!

蒼魔上級将軍「状況を報告せよっ!」

蒼魔軍歩兵団長「丘陵地帯の高さ15歩まで前進。
 現在約1500の歩兵大隊が激しく戦闘中っ!!」

わぁぁ! ガキン! ガシャン!
「蒼魔の力を見せよっ!」 「刻印王のためにっ!」

蒼魔上級将軍「敵ながらあっぱれなものよ。
 ふっ。女騎士だと? あの研いだ刃のように美麗な娘か。
 若の好みに照らせば未成熟だろうが、清冽な蕾も美というもだ。
 ここで一気に押しつぶし、司令官を生け捕りにするぞっ!
 
 敵司令官を捉えた兵には、二階級特進を約束する。
 温存兵力5000を投入せよっ! 重装騎兵準備っ!!」

ザガシュ! ザシュ!

蒼魔軍重騎兵「御身が前にっ!!」

蒼魔上級将軍「敵の戦線はぎりぎりで持っている
 張り詰めすぎた糸ににすぎぬっ!
 汝らが突進力と突破力で一気に片をつけよ!!
 我らが数的有利は、これで敵の二倍に達する!
 こざかしい抵抗はここまでだ! 一気に片をつけよっ!」


515 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:23:30.56 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地

女騎士「右翼槍兵は50歩前進っ! 陣形を維持せよっ!
 最右翼より弓兵で援護っ!
 連携により間断を与えずに攻撃せよっ!!」

冬国仕官「中央に槍兵中隊を追加っ! 押せっ! 押せっ!!」

女騎士「傷病兵の後方搬送にかかれっ!
 軽傷の弓兵は搬送班へと動けっ!! 頭を下げろっ」

冬国仕官「左翼騎兵隊、戻りましたっ!!」

女騎士「ご苦労! 諸君らのお陰で一五の中隊が退却に成功した。
 感謝と共にゆっくりと休憩を与えたいのだが」

混成騎馬部隊「なにをおっしゃるか! 姫将軍!!
 我ら敵中突破から戻りましたが未だに意気軒昂っ!
 次なる下命をお待ちいたしますっ」びしっ!

女騎士「……すまぬ」

 わぁぁ! ガキン! ガシャン!
 「押せぇ! 押せぇ!」 「蒼魔の刻印王のために!!」
 「押しつぶせ! この丘を奪い取れ! 進めぇ! 進めぇ!!」

混成騎馬部隊「将軍っ!」

女騎士「よぉし!! その意気だ、騎馬の勇士よっ!
 わたしはお前達を誇らしく思うぞっ!
 今槍兵を整理して、戦線を一瞬あける。
 陣形の中央やや左翼から飛び出して、蒼魔軍後方を攪乱せよ!」

混成騎馬部隊「ものどもっ! 姫将軍のご命令だっ!
 蒼魔とか云う奴らに一泡吹かせてやるぞっ!」

「「「おおおおっ!!」」」


527 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:35:49.34 L1AOl7sP

――鉄の国と白夜の国国境地帯、森林、大破砕

ズガンッ!!
 ガンガンガンガンッ! ドゴォォン!!

勇者「“雷撃呪”っ!!」
蒼魔の刻印王「“黒焔術”っ!!」

ビリビビビリボウッ!!

勇者「――ッ!!」
蒼魔の刻印王「はぁぁぁっ! せやッ!」

ギンッ! ギギンッ!

勇者「……はぁっ! はぁっ! どうした?」
蒼魔の刻印王「くっ」

勇者「人質取れなきゃ、まぁそんなもんだよな」
蒼魔の刻印王「化け物めっ」

ギン! キンギン、キガッ!!

勇者「お前には言われたくない。“候補止まり”くん」
蒼魔の刻印王「その名でわたしを呼ぶなぁっ!!」

ギガンッ! バシャァァン!

勇者「っ!? あれはっ」
蒼魔の刻印王「人間の部隊!? しめたっ」

勇者「行くなっ!! “雷光捕縛呪っ”!!」
蒼魔の刻印王「ははっ! 遅いっ!! これで逆転だっ!!」

528 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 20:38:09.57 L1AOl7sP

――鉄の国、蔓穂ヶ原、南部

魔王「状況は判った」
メイド長「魔王様。未だに妖精女王からの連絡は……」

魔王「判っている。しかし、これ以上は待てぬ」
メイド長「……」

魔王「東の砦長、もう一度地勢の確認を」

東の砦長「ここから中央部にかけては、殆どが浅い湿地帯だ。
 騎馬による行動は速度が落ち、著しく制限される。
 蒼魔族は西方から中央の丘陵地帯へ激しい突撃を繰り返している。
 中央の丘陵地帯に陣取った女騎士将軍の軍は、
 俺から見てもほれぼれするような用兵だが
 兵の疲労度は限界だ。落ちるのも、遠くはない」

魔王「銀虎公、ゆけるか?」

銀虎公「あたりまえだ。我らは野山をその住まいとする
 獣牙の勇士、その精鋭8000! この程度の湿地帯に足を
 取られるような弱兵は一人たりとも連れてきてはいないっ!」

魔王「全ての兵に、深紅の布をつけさせ、確認させよ」

銀虎公「準備万端整っている」

魔王「では、この蔓穂ヶ原外周部を高速で進軍っ!
 銀虎公麾下の全軍をもって蒼魔族の側面から、
 本陣へと食らいつけっ!! 遠慮は無用、逆賊を討つのだっ!」

銀虎公「心得たっ!」くるりっ

銀虎公「誇り高き獣牙の勇士よっ! 魔王の命が下されたっ!
 これより我ら、一陣の風となり、一振りの剣となり
 蒼魔族本陣を切り裂くっ! 我に続けっ!」

533 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:04:07.98 L1AOl7sP

――白夜王国首都、荒れ果てた街路

 ビュンビュンビュン!!
   ビュンビュンビュン!!

  蒼魔警備隊「てっ! 敵襲っ!」
  蒼魔防御隊「敵だ、てっくふっ!? ぎゃぁ」

  傭兵弓士「鐘楼制圧っ!!」
  傭兵剣士「続いて兵舎に向かう。この鐘楼から援護頼む」
  傭兵弓士「任せておけっ」

傭兵隊長「野郎どもっ! 行くぜっ!」
傭兵槍騎兵「はいやっ!! せいや!」

ダカダッダカダッダカダッ!

傭兵隊長「防備柵をぶっ壊せ!!」
傭兵槍騎兵「おおおおっ!」

 がっしゃーん!!

飢えた市民「ああっ!!」
飢えた難民「あ、あんたがたはっ!」

傭兵隊長「おい! あんたらこの国の人間かっ!?」

飢えた市民「そうです、奴らが! あの蒼い魔族が」

傭兵隊長「わぁってるって! あんたらの長はどこだィ!?
 他に捕まっている連中はどこだ?」

飢えた難民「わ、わかりません。おそらくあちこちの
 屋敷に閉じ込められて、大きな建物に沢山押し込められて
 無理矢理鞭で働かされて……」

傭兵槍騎兵「大きな屋敷……」

534 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:05:29.37 L1AOl7sP

蒼魔駐留仕官「貴様らっ!! と、突撃ぃ!!」
蒼魔警備隊「うわぁぁ!!」

傭兵隊長「しゃらくせぇ!!」

ガギィン!!

傭兵槍騎兵「隊長のお話中だっ! 行儀良く死にやがれ!!」

ザッシュ!!

傭兵剣士「隊長っ!! 兵舎を制圧! 兵士は殆ど
 いやがりませんでしたっ。奴らはいったい……」

傭兵隊長「わかったぞ! 魔族の兵は殆ど城だ。
 って事はそこらの貴族の館や豪邸を調べろ!
 
 難民や市民が閉じ込められていたら即座に解放して、
 食料と衣服だけもって逃げ出せって云え!!
 方角は北西の森だ。
 いいか、財産や荷物を持っていこうとしたらやめさせろ。
 
 動きが遅くちゃ話しにならねぇ!!
 とにかく逃げさせるんだっ!」

傭兵槍騎兵「判りやした。おい、五、六人ついてこいっ。
 他の隊長にも連絡だっ!」

傭兵隊長「本隊は城へと派遣しろっ!」

傭兵剣士「はっ!」

536 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:06:55.82 L1AOl7sP

傭兵隊長「弓兵部隊を編制。全ての鐘楼を制圧するんだ。
 その後城壁に取りかかれ。相手の人数は少ない。
 揺動して兵を偏らせて、弱点を突け!」

傭兵弓士「了解っ!」

痩せこけた娘「隊長さん、これ……」

傭兵隊長「は?」

痩せこけた娘「おみず……」

傭兵隊長「おう、あんがとよっ。嬢ちゃん。
 だがよ、おめえさんも顔を拭くこった。真っ黒だぜ?」

痩せこけた娘「おかさんが、襲われないように。
 きたなくしなさいて……」

傭兵隊長「そっか。……賢いな。
 じゃぁ、賢いついでだ。母ちゃんと一緒に西北を目指せ!
 他のみんなにも触れて回るんだ。
 この辺にはもう魔族の連中はいねぇ。
 わかるな?」

痩せこけた娘「できる」こくり

傭兵隊長「よっしゃ、急げ! どうやら俺の鼻が
 まだむずむずしやがる」

痩せこけた娘「ありがと、ね?」

傭兵隊長「うるせぇや。……急ぎなっ!」

551 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:24:22.04 L1AOl7sP

――白夜王国首都、荒れ果てた市街

ギン! キィンっ!!

蒼魔駐留仕官「退くな! ここで退けば刻印王に罰せられるぞ!」
蒼魔警備隊「人間めぇ! 下等な生物のくせに、死ねぇっ!!」

傭兵剣士「下等も上等もあるか、このボケがぁっ!!」

    傭兵弓士「斉射っ!!」
      ビュンビュンビュン!!
       ビュンビュンビュン!!

蒼魔駐留仕官「なっ!」
蒼魔警備隊「後ろっ!?」

蒼魔防御隊「ぎゃぁぁぁあ!!」

傭兵隊長「どうだっ?」

傭兵槍騎兵「市街地の制圧、ほぼ完了。
 南東を除いて市民への通達も終了。ただいま小隊に編制した
 200人で個別に家々を当たらせています」

傭兵隊長「急がせろっ」
傭兵槍騎兵「城ですか?」

傭兵隊長「この感じは、違うな。もっときな臭ぇ」
傭兵槍騎兵「?」

傭兵弓士「隊長っ!! 隊長っ!!」

傭兵隊長「どうしたっ?」

552 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:25:18.08 L1AOl7sP

傭兵弓士「北部街道に、軍勢ありっ。
 この白夜国首都に向かっていますっ!!」

傭兵隊長「規模、軍装、速度報告っ!」

傭兵弓士「速度は徒歩更新、距離はおそらく5時間っ!
 夕暮れには到着っ! 軍装は歩兵装備と思われる物が
 中心なれど、遠距離のために未確認っ。規模はっ」

傭兵隊長「規模はっ?」

傭兵弓士「見渡す限りっ。最低で数万っ!!」

傭兵隊長「っ!」
傭兵槍騎兵「ど、どうします、隊長っ!?」

傭兵剣士「城門前広場に、残留部隊の結集終了っ!」

傭兵隊長「市民の避難にどれくらい掛かる?」

傭兵槍騎兵「おそらく半日弱は」

傭兵隊長「急がせろ。片刃団の旦那に話しをつけるんだ。
 至急馬車部隊をでっち上げて難民の中でも傷病者や
 老人どもは有無を云わさず乗っけちまえ。避難を急がせろ!」

傭兵槍騎兵「人間ですよね、その軍勢は。援軍ですか?」

傭兵隊長「敵だ」

傭兵槍騎兵「そんなっ!?」

傭兵隊長「このタイミングで援軍なんてあるもんかっ。
 そんなぬるい話世の中にありゃしねぇ。
 おい、命しらずの馬鹿野郎どもッ!!」

傭兵たち「おうっ」 「はっ!」 「何だよ大将っ!」

傭兵隊長「騎馬で20騎ほど着いてこいっ! 斥候に行くぞ。
 残った連中は市民の避難を最優先させろ!
 城の中の魔族は威嚇射撃で固めておけば問題はねぇっ!!」

559 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:44:33.93 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、蒼魔軍

蒼魔近衛兵「なっ!」

  ガァァァ! グワッシャ! ザシュゥ!
  「なっ! な……なんでっ!」「敵襲っ!」「敵襲っ!!」

蒼魔軍軽騎兵「後方、後方だっ!」
蒼魔軍歩兵団長「いや、左翼だっ!!

蒼魔上級将軍「何が起きたっ!? 報告せよっ!!」
蒼魔近衛兵「敵襲ですっ」

  ザシュゥ! ドシュ! ザシュ! ヒュバッ!
  「敵襲っ!」 「獣人だ、すごい数の獣人がっ」

獣牙双剣兵「獣牙の一族、森狼族見参ッ!!」
獣牙斧兵「同じく、黒猪族っ、蒼魔族に天誅を加える!」
獣牙短槍兵「雪豹が一族の戦士、参戦いたすっ!」

蒼魔上級将軍「何故獣人どもがっ!?」
蒼魔近衛兵「反転っ! 重装歩兵団を反転させよっ!」

蒼魔上級将軍「無能者がっ!」

 どかっ!

蒼魔上級将軍「前方丘陵地帯に脇腹を見せるつもりかっ!?
 軽騎兵団、重騎兵団っ。歩兵の展開余地を確保するのだ!!
 迂回して獣人の一軍を突けっ!!」

蒼魔軍軽騎兵「ははーっ!」

560 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:47:15.11 L1AOl7sP

獣牙双剣兵「はははっ! そのような物かっ」

ひゅばっ!

獣牙斧兵「騎馬がなにをするものぞっ!!」

ドガァン!

蒼魔上級将軍「何をしているっ!?」
蒼魔近衛兵「敵の数は予想よりも多く、その数五千以上っ」

蒼魔上級将軍「予備兵力を投入せよっ」

蒼魔近衛兵「展開できるだけのスペースがありませんっ。
 そのうえ、獣人の一族はわざわざ湿地帯を選び戦い、
 こちらの騎馬部隊の機動力がいかせませぬっ」

蒼魔軍歩兵団長「獣臭い、土着の民めがっ!」

  ザシュゥ! ドシュ! ザシュ! ヒュバッ!
 「蒼魔族を討てっ!!」 「我ら獣牙の勇士っ!」
 「魔族の正義を天に知らしめよっ!」 「我らが勇気をっ!」

蒼魔上級将軍「歩兵団長っ!!」

蒼魔軍歩兵団長「はっ!!」

蒼魔上級将軍「歩兵団から精鋭を抽出し、橋頭堡を500歩分
 おしあげよっ!! 決死の覚悟で行なうのだ。
 それだけの余裕があれば、現在遊兵となっている
 歩兵部隊を獣人に向けることが出来るっ」

蒼魔軍歩兵団長「承りましたっ!!」

561 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:48:16.80 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地

 わぁぁ! ガキン! ガシャン!
  うわぁぁ!! 進めぇ! 進めぇ! 人間を皆殺しにせよっ!

冬国槍兵士「圧力が上がったっ!?」
冬国弓兵士「なにを、一歩も、退くなっ!!」

 ビュンビュンビュン!!
   ビュンビュンビュン!!

女騎士「違うっ!! これは好機だっ!! 後衛槍兵部隊っ!!」

混成槍兵士「はっ!」

女騎士「今こそ出番だ。前線へと移動!
 中央槍兵は入れ違いに後退っ! 騎馬部隊の退却を助けると共に
 敵の圧力を押し戻せっ! わたしも出るっ」

冬国仕官「そんなっ」

女騎士「南の凍土の勇士達よっ!! 聞けっ!!
 この一戦の持つ意味をっ。その魂にきざめっ。
 故郷を守るために一歩も退くな!
 敵が魔族だからではないっ。
 ここは諸君と諸君の父祖が開拓した故郷だからだっ!
 
 思い出せっ!! 背丈を超えるほどの大岩を動かし
 ひび割れた手で苗を植えっ、凍り付いた大地に鍬を撃ち込み
 そしてこの大地は実りを約束する諸君らが故郷となったのだ!
 
 眼前を見据えろっ! 敵は魔族ではないっ!!
 やつらは侵略者なのだっ。敵は、侵略をしてくる存在だっ!
 戦えっ!! 故郷を守るためにっ。後1時間だけ持たせろっ!」

566 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:55:10.09 L1AOl7sP

――白夜の国近郊、原生林上空からの落下

ヒュゴォォォー!!

勇者「やめろぉ」
蒼魔の刻印王「未だかつてその言葉で
 手をゆるめるような相手がいたのかね?」

ヒュゴォォォー!!

勇者「そいつらは、関係がないって」

蒼魔の刻印王「関係がないだと!? この世界全ては
 やがて我、魔王の物となるのだ。関係のない物など、
 存在しないわっ!」

勇者「逃げろっ! どこの軍勢だか判らないけどっ。
 逃げろおおおおお!!!」

蒼魔の刻印王「構う物か、灼熱の海に沈めっ!
 集えよ焔っ! 煉獄を焼き付くした七つの剣の名にかけて」

キイイイーン!!

勇者「っ!?」
蒼魔の刻印王「なっ! こ、これはっ!!」

キイイイーン!!

勇者「大規模集団法術……っ」
蒼魔の刻印王「身体がっ、じゅ、ばくされるっ」

キイイイーン!!

勇者「……こんな場所で、何でこんな大人数儀式をっ」
蒼魔の刻印王「なぜだっ。何故これほどっ」


568 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:56:36.51 L1AOl7sP

――白夜の国近郊、勇者を見上げる街道

宝石飾りの馬車の影「……光を……強めよ」

百合騎士団隊長「はっ! 司祭長! 呪縛するのだっ」

従軍司祭長「司祭よ! 声を合わせて祈りなさい!
 あれなるは魔族の将軍っ、敵の首魁のうち二人。
 構うことはありません、祈りの心を合わせて、
 光の縛鎖を構成するのですっ!」

従軍司祭「「「「はいっ!」」」」

宝石飾りの馬車の影「……」

百合騎士団隊長「250人の高位司祭の祈り、
 どのような魔族とはいえ逃れられるものではないだろう」

従軍司祭長「祈りなさい! 精霊の光を求めて。
 締め付け、絞り上げ、砕け散るほどにっ!!
 あれは敵! 我らが人間族の敵っ!!
 敵の破滅を祈るのです。あの存在は、精霊の敵だっ!!」

宝石飾りの馬車の影「……ふふふっ……好機とは……」
百合騎士団隊長「いかがなさいます?」

従軍司祭長「聖別された月桂樹をふるのです」

従軍司祭「「はいっ!」」

 しゃらん…… しゃらん…… しゃらん……

宝石飾りの馬車の影「……銃に、祈りを、集めよ」
百合騎士団隊長「はっ! マスケット隊っ!!」

569 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 21:58:35.07 L1AOl7sP

――白夜の国近郊、原生林上空

キイイイーン!!

勇者「鎧に、ひびがっ……っ」
蒼魔の刻印王「身が、千切れそうだっ……」

勇者「はんっ。ざまぁ、ないっ」
蒼魔の刻印王「下らぬ事をっ。動けぬとは言え、
 貴様を消し炭にすること位できぬと思うているのかっ」

勇者「……っ!」
蒼魔の刻印王「“広域殲滅”……」

勇者「こんなところで広域殲滅呪文使うなっ! 糞野郎っ!」
蒼魔の刻印王「下らぬ静止を。自分が誰の攻撃を受けているのか
 考えても見るのだな。……人間族からも見捨てられたか」

勇者「違うっ! おれは、違うっ!!」

蒼魔の刻印王「違わぬっ! 所詮この世界はっ」

   ゴォォォーン!!

勇者「ガハッ」
蒼魔の刻印王「グフッ」

勇者「なん……だ、これ……」
蒼魔の刻印王「……傷口が、灼ける。……鉄の、玉?」

   ゴォォォーン!!

   ゴォォォーン!!

   ゴォォォーン!!

578 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 22:03:04.96 L1AOl7sP

――鉄の国、蔓穂ヶ原、南部

魔王「気にくわないな」
メイド長「どうしたんですか?」

魔王「いや……。女騎士は、何をするつもりだったんだ」
メイド長「?」

衛門騎士「あの中央丘陵の徹底死守では?」

魔王「なぜ?」
メイド長「……」

東の砦長「ふぅむ。あの姉ちゃんは、あんだけの用兵家だ。
 じり貧なのは見えていただろう。
 こっちの援軍を当てにしていたのか?」

魔王「で、あればいいのだが」

メイド長「まおー様、そんな風に考え事をしていると、
 泥が跳ねて汚れてしまいますよ」
東の砦長「戦場だ。仕方ねぇよ、目くじら立てるなって」

魔王「泥――」

メイド長「?」

魔王「砦長、銀虎公に至急伝令っ!
 西方に向けて退却っ。全速だっ!!」

衛門騎士「我が軍は優勢ですぞっ」

東の砦長「いいや判った。伝令だなっ!!
 急げっ!! 最重要だっ!! 退却を始めるぞっ!!」

580 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 22:04:26.07 L1AOl7sP

――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、蒼魔軍

蒼魔近衛兵「将軍っ!! 上級将軍っ!!」

蒼魔上級将軍「どうしたっ!」

蒼魔近衛兵「獣人が撤退してゆきますっ!」

蒼魔上級将軍「なんだとっ? ……奴らは優勢に戦を
 展開していたはず。我が軍の回頭はっ!?」

蒼魔近衛兵「未だ半ばです。騎馬隊の追撃をさせますか?」

蒼魔上級将軍「馬鹿を云うな。この湿地帯でどのような
 事になるかも判らんのかっ。だが好都合だ。
 今のうちの獣人の一族方面に重装騎兵部隊を配置せよ。
 日が落ちる前に前方の人間の部隊を一網打尽にするぞ!!」

蒼魔近衛兵「はっ!」

蒼魔軍歩兵団長「全軍前進っ!!」

ダカダッダカダッダカダッ

斥候「報告っ! 報告でございますっ!
 将軍、上級将軍っ!! 後方に敵部隊出現っ!」

蒼魔上級将軍「何を慌てているっ」

斥候「後方に聖王国の軍が出現しましたっ。辺境国境地帯を
 通ってきたらしく監視から漏れて、その……」

蒼魔上級将軍「聖王国だと? それは援軍だ。
 ふっ。どうやら待ちきれなかったと見える。
 あの硝石とやらが喉から手が出るほど欲しかったのだな。
 くっくっくっく」

582 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 22:05:29.55 L1AOl7sP

蒼魔近衛兵「距離は? 数と装備は?」

斥候「最後尾はほんの30分ほどで接近します。
 数は、無数。最低でも三万」

              ……ウン

蒼魔上級将軍「三万とはなっ。はんっ!
 参謀殿も気が早い。この際、三ヶ国を一気に平らげるおつもりか。
 まぁいい。今は目前の敵に集中せよ!
 どうした!
 獣人の一族の脅威は去った、まだ押しやれぬのかっ!!
 
 これ以上の時間をかけるようならば、歩兵隊を処罰するぞっ」

              ……ォゥン

斥候騎兵「将軍っ!! 将軍っ! 報告でありますっ!!」

 ズル、グシャ

蒼魔上級将軍「落ち着けっ」

斥候騎兵「後方に聖王国なる軍数万がっ」

蒼魔上級将軍「愚か者っ。そのような報告、すでに聞いたわっ!」

              ……ドォゥン

斥候騎兵「その軍が、未知の武装により我が軍を攻撃っ!!
 我が軍後衛部隊、および輜重防衛部隊は、すでに全滅っ!!」

蒼魔上級将軍「なっ。なん……だと……ッ!!」

666 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 23:50:40.46 L1AOl7sP

――白夜の国近郊、街道

宝石飾りの馬車の影「……かの二人、蒼魔の王と、堕ちし者」

百合騎士団隊長「はっ」

宝石飾りの馬車の影「……なんとしても、仕留めよ。
 ……あれは、あのものは……人間を攻撃……できぬ……
 呪い、悪罵を持て、包囲せよ……あざけり、拒絶するのだ
 それだけで……あれは……ちからを、うしなう……
 祈りを込めた……鉛で……
 かの者の……命は……断てる……」

百合騎士団隊長「承りましたっ」

従軍司祭長「大主教さまっ」
従軍司祭「奴らは落ちました! あの高さ、助かるはずもなくっ」

百合騎士団隊長「油断するな! 必ずや死骸を見つけ出せ
 いいや、必ず生きているぞっ! マスケット隊と
 従軍司祭の部隊をもって方位探索の上、殲滅するのだ!」

従軍司祭長「はっ!」

マスケット兵「探索部隊、用意っ!」

宝石飾りの馬車の影「……機会は多くない。かならずや……」

百合騎士団隊長「必ずや見つけ出し、草の根分けても殺すのだ!」


671 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 23:54:23.70 L1AOl7sP

――鉄の国、蔓穂ヶ原、中央部付近

ゴウゥゥン!!

魔王「はぁっ! はぁっ!」
メイド長「まおー様っ! まおー様っ!」

ガウゥゥン!!

衛門騎士「何だ、この音はっ」

魔王 ガクガクっ
メイド長「まおー様。しっかりしてくださいっ」

東の砦将「大丈夫かよ。真っ青だぜ」

魔王「――な、なぜだ。
 何故ここにあれがあるっ。な、なんでっ」

ゴウゥゥン!!
   ガウゥゥン!!

メイド長「まおー様っ」
魔王「誰が、何故っ。――こ、これほどの量をっ」

東の砦将「何か知っているのか、魔王様ようっ!」

魔王「だ、だめだっ! 女騎士が死ぬっ。
 あ、あれは蒼魔族などよりもずっと恐ろしいものだっ。
 女騎士がっ!! このままでは、それはいやだっ!」

メイド長「まおー様っ」

パシンッ!!

673 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 23:55:11.58 L1AOl7sP

ゴウゥゥン!!
   ガウゥゥン!!

メイド長「しゃんとしてくださいっ!」

魔王「あ……」

メイド長「こんなところで足をすくませて死ぬおつもりですかっ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

衛門騎士「近いっ! 東、尾根っ!」

東の砦将「来やがった、逃げるぞ!!」
魔王「……くっ」
メイド長「こちらへっ」

衛門騎士「切り開きます。続いてくださいっ!!」

東の砦将「どこにこれだけの歩兵がっ。なんだあの杖はっ!?」
魔王「銃……。マスケットだ」

衛門騎士「ぐっ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

  「ぎゃぁっ!」 「手がぁっ!」 「見えない、真っ暗だっ」
  「何だ、何が起きたんだっ!!」 「うわぁぁっ!」

東の砦将「ちきしょうっ。なんて数だ!
 こいつらなんだってんだ!!」

メイド長「っ!」

675 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/28 23:57:31.04 L1AOl7sP

衛門騎士「こっちにも歩兵がっ」

東の砦将「騎兵はいないのか、こいつらっ」

魔王「東はダメだっ」

東の砦将「そんな事言ったって、その西がっ」

ガサガサッ! ジャブジャブッ

光のマスケット兵「ひっ! い、いたぞっ!!」
光のマスケット兵「死ねっ!! 異端めぇ!」
光のマスケット兵「我ら信徒以外の南部の民は皆異端だっ!!」
光のマスケット兵「ば、化け物と一緒にっ。っ! 死ね魔女!!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!
   ゴウゥゥン!! ゴォォン!

魔王「~っ!」
メイド長 ぎゅぅっ!

 ザシュ! ザパァッ!!

光のマスケット兵「ガハァァッ!!」

銀虎公「遅くなったな、魔王殿っ!」

魔王「銀虎公っ!!」
東の砦将「無事だったか!!」

メイド長「こんなに血を流しているではありませんかっ」

銀虎公「なんのこの銀虎公っ。三度魔王殿の命を
 守るまでは死なぬと約束したっ!
 いま、わが獣牙の者が西への活路を切り開いている。
 蒼魔はまだしも、あの奇妙な筒は得体が知れぬ。
 我が手の者もかなりの数やられた」

魔王「っ!」ぎゅぅっ

東の砦将「一刻も早く退却すべきだ。行こうっ!!」

704 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:37:51.23 1eGbtUQP

――白夜の国近郊、原生林

ドグワシャーン!!

執事「っ!!」
勇者「な、んで爺さんっ」

蒼魔の刻印王「ゴボワッ!! グブゥッ」

執事「ふふふっ」
勇者「爺さんっ! 爺さんっ!! 何やってんだよっ」

執事「なかなか格好良い登場だったでしょ。にょほ……ほ」
勇者「穴だらけじゃねぇかよっ!!
 何で俺かばってんだよ!
 あんた年寄りじゃねぇか!
 最近風邪の治り遅いとか愚痴言ってたじゃねぇかっ!!」

執事「風通しがよい紳士でございます」
勇者「馬鹿云ってんじゃねぇよっ!! “治癒呪”っ」

執事「向こう側が見えるシースルー。なんちゃって。
 げぶっ、ごぼっ。……かはっ!!」

勇者「な、なんで。なんでこんなとこ……っ」ぼたぼた

執事「蒼魔族を探っていまして。……けふっ。
 昔取った杵柄、無音潜入術でございます……。
 戦の気配で、勇者の元へと……」

勇者「なんでだよぅ、なんで呪文が発動しないんだよっ」

執事「……勇者こそ、血を流しすぎです。けふっ。
 こんなにぼろぼろではないですか」
 大丈夫、これしきでは死にません。
 それより、早く、トドメを。そやつは、大きな障害」

蒼魔の刻印王「げぶうっ。ごはっ。げふっ……に、んげん、めぇ」

勇者「そんなこたぁどうでも良いんだよっ!!」


705 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:39:13.15 1eGbtUQP

執事「にょほ……。そやつを暗殺する……機会を
 狙っていましたが……とうとう、得られず……」

蒼魔の刻印王「このようなところで……、
 終わってたま……る……か……っ」

ガサッガサガサ

勇者「っ!」
執事「このような……時にっ……」

ガサッガサガサ

傭兵隊長「睨むなよ。あんたの戦いは地面から見てた。
 おい、とりあえず、酒ぶっかけて、包帯を巻け」

傭兵槍騎兵「はっ」

執事「……すみませぬ」
勇者「ぐっ。誰だ、お前っ」

傭兵隊長「爺さんももちろんだが
 あんたも限界みたいだな。こっちの魔族も虫の息だ。
 仲間割れなのか、魔族も?」

執事「こちらの方は魔族ではありません」
勇者「大差はねぇよ」

傭兵隊長「……」

執事「……」じぃっ

傭兵隊長「おい爺さん、助けて欲しいか?」
執事「ぜひっ。この方だけでもっ」

707 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:40:28.95 1eGbtUQP

ガサッガサガサ

傭兵弓兵「隊長。さっきの変な筒を持った奴らと重武装兵士が
 散開して森の探索に入っています。
 どうも連中、中央の教会と貴族らしいですね」

傭兵隊長「はん。おい、勇者さんとやら」

勇者「くっ! こんな傷ぐらいでっ。げふっ」
執事「勇者、いけませんっ。私が参ります」

勇者「何だよ、爺さん。俺より重傷のくせにっ!!」

執事「そう言うことを言ってるのではありません。
 勇者。あなたは……あの弾丸を受けてはいけませんっ。
 あの悪意も、祈りも、受けてはいけません」

勇者「何云ってるんだか判らねぇよっ」

執事「人間を敵に回してはいけませんよ。
 わたしが行きますから、勇者は逃げてください。
 ……にょほ、ほほっ」

勇者「ぜんぜんっ判らないぞ、爺っ!」

傭兵隊長「おい、兄ちゃん」
勇者「黙ってろっ!」

傭兵隊長「うるせぇっ! こっちだって命がけなんだ、
 すぐ答えろっ! おめぇよ、誰かを助けて“ありがとう”って
 云って貰ったこと、あんのかよっ!」

709 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:41:44.96 1eGbtUQP

勇者「あるよ。どうだって良いだろ、そんなのっ」

傭兵隊長「何回だよっ」
勇者「んなの覚えちゃいねぇよ。いっぱいだよ」

傭兵隊長「そっか。ちっ。羨ましく……は、ねぇか。
 1回こっきりだって、俺は負けちゃ、いねぇ」

傭兵槍騎兵「隊長……」

傭兵隊長「爺さん、こっちは良いんだな?」
執事「もちろん」

傭兵隊長「ふんっ。悪いな、こっちも余裕はねぇんだ」

蒼魔の刻印王「に、んげん、めぇ。許さぬ、許さぬぞぉ
 このわたしに手を挙げるとは……身の程をっ」

傭兵隊長「戦場のことだ。許しておけ」

ザシュ

傭兵隊長「おい、若造、ちっけーの。
 この爺さんと兄ちゃんを馬に乗せろっ」

傭兵槍騎兵「急げっ」

執事「ぐっ。げぶっ!」
勇者「何するんだよっ」

傭兵隊長「黙ってろっ! お前らみてぇに
 身体中から噴水みたいに血をビュービューだしてる
 連中見るとしらけるんだよっ!」

傭兵達「あはははは」「ちげぇねぇ」「まったくだ!」

714 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:43:14.85 1eGbtUQP

傭兵隊長「おい、若造。ちびすけ。お前らはここで帰宅組だ。
 二人を無事に届けろっ。
 この指輪を持っていけ! コイツラは多分必要な人間だ。
 氷の宮殿の貴族子弟の旦那に届けるんだっ。
 こいつは重要な任務だぜ。ただのヒヨッコには任せねぇ」

若造・ちび助「はい、隊長っ!」

執事「……くふっ」くたっ

勇者「馬鹿云うな、俺はまだいけるっ!
 勝手なこと云うなよっ! おれは、まだまだっ。ぎぃっ!!」

傭兵隊長「わかんねぇ兄ちゃんだな。
 おめぇが頑張りすぎると
 そこの爺さんが道連れで死んじまうんだよ。
 そこの爺さんがかばったのは、おめぇの身体じゃなくて
 魂なんだよっ! 分かれよ、この馬鹿ちんがっ!!」

勇者「っ!」

傭兵隊長「よーし、おまえら! 騎乗だ!
 これからあの貴族連中に突っ込んでかき回すぞ!
 陽気な歌を歌え!
 野郎どもっ! おれたちゃ、未来の騎士様だぜっ!」

傭兵達「よっしゃぁ」 「ばっか野郎! 大将は白夜の王だ!」

傭兵隊長「あーっはっはっは!
 ちげぇねぇや! お前らが騎士なら
 俺は王様にしてもらわなきゃな!
 さぁ、いくぞ! 馬鹿野郎ども!!」

715 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:44:32.64 1eGbtUQP

勇者「ちょっとまてよっ!!」

ダカダッ

勇者「おい、馬を止めろっ。死ぬぞっ、あいつ死んじまうぞっ」
若造「生意気を云ってはダメだ」

勇者「ぐふっ……。っくぅ」

若造「ぼろぼろだ。生きているだけでおかしい」
ちび助「それに」

ダカダッ

ちび助「隊長の命令は絶対だ。じゃなきゃ、みんなが死ぬ」

勇者「俺が助ける役なんだぞっ。なんでだよっ。
 なんでだよっ。なんでなんだよっ!!」

若造「……」

ちび助「隊長は、勇者だ。ヒーローなんだぞ?
 俺を助けてくれた。沢山の孤児もだ。
 あの街で、小さな女の子に“ありがとう”って云われたんだ。
 お前みたいな得体の知れないちんぴらに
 心配されるほどおちぶれちゃいない」

若造「そうだ。一人前の男は。立派な男は。
 自分の死に場所は自分で選べる。
 一人前の男は、自分一人の勇者なんだぞ」

勇者「なんでこんなに……っ。ごふっ、ごふっ……」

721 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:47:30.30 1eGbtUQP

――青い光がくるぶしを洗う砂浜

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

ぎゃぁっ!
手がぁっ!
異端だ! 異端は死ねっ!
ちきしょうっ! ちきしょうっ!
消してくれぇ! 焼けるぅ、俺の足がぁ!
誰か、手を貸してくれっ! 大木にはさまれてっ

ゴォォン! ザシュゥッ!

見えない、真っ暗だっ。助けて……
お前達はみんな精霊の敵だっ!
人間の分際でっ! ここから消えろっ!!
光の精霊よっ! お慈悲をっ!!
何だ、何が起きたんだっ!!
うわぁぁっ!

ドゴォォン!! ゴォォン!!

女魔法使い「……」

メイド姉「……判りました」

女魔法使い「……」

メイド姉「判りましたっ」ぼたぼたっ

723 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:49:11.65 1eGbtUQP

女魔法使い「……」
メイド姉「なんで、こうなるんですか?」

女魔法使い「……成り行き」

メイド姉「成り行きっ!? 成り行きでこんなにっ、
 こんなに人が死ぬんですかっ。そんな事許されるんですかっ!」

女魔法使い「では、成り行き以外の何なら赦せるの?」
メイド姉「……っ」

女魔法使い「……」
メイド姉「……それは。そんなのは」

女魔法使い「異なる二つの存在があり、
 複層化されたレイヤにおけるベクトル量が違う場合
 概念的なレベルにおいて速度差が生じる。
 もしその二つが接近しており、影響を与える場合、
 その相対的な速度差によって、
 より高速な側が外側となって巻き込むことになる。
 これを散文的に表現すると、時代の回転という」

メイド姉「……」きっ

女魔法使い「時代が回転する時、その軋轢は血を要求する。
 血塗られた曲がり角を経て、時代は回転する」

メイド姉「そうでなきゃならないんですかっ!?
 嘘ですっ! 平和に曲がることだってあるはずですっ」

女魔法使い「例外はない。
 仮に血が流れていないように見えても
 それは知覚できないだけ。
 肉体の血ではなく、精神の、魂の血が流れただけ」

メイド姉「……嘘、です。そんなのっ」

724 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:52:31.32 1eGbtUQP

女魔法使い「嘘ではない」
メイド姉「……っ」

女魔法使い「ときに、人より多くの血を流せる個人が現われる。
 何によってかそうなった彼らは、
 数千人分。時によっては数万、数十万人分の血を流して
 回転の要求する血量を一人で肩代わりする。
 
 彼ら個人によっても、時代の要求した血量は隠蔽される。
 まるで犠牲など、無かったかのように」

メイド姉「……」

女魔法使い「嘘ではない。なぜならその証拠に
 ――貴方は、それを知っている。ううん、感じている」

メイド姉「……」

女魔法使い「今ならば判る。学んだ今ならば、
 ……魔界を征服するのは。それはそれで、回転だった。
 しかし、その回転の必要とした血量は
 (魔王+勇者)と多少の+αでまかなえたはずだった」

メイド姉「何を言っているか判りません」

女魔法使い「……判る必要はない。貴方は知っているのだから」
メイド姉「っ」

女魔法使い「だから道を探していた。ちがう?」
メイド姉「だからって。だからって」

女魔法使い「“勇者は報われない仕事だ。
 特にこの世界ではそうなのだろう。
 救うまでは神のごとく崇められるかもしれないが、
 去れば記憶に残らない。
 魔物を倒せば目的に近づくが、
 魔物をすべて倒せば存在意義が無くなる。
 勇者とはまるで自分を消滅させるために
 輝いている星のようだ”」

725 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/29 00:54:40.87 1eGbtUQP

メイド姉「あなたは……まさか……」

女魔法使い「それも真実だ」
メイド姉「だとすれば、貴方は悪魔ですっ」

女魔法使い「自覚のある罪と自覚のない罪では罪科が代わると?」
メイド姉「そうですっ!」

女魔法使い「……だとすれば、無知は得だ。
 知らなければ知らないほど、罪が減るのだろう?」

メイド姉「だって、あなたはっ」

女魔法使い「……」

メイド姉「血を、血の量をっ。誰かを生かすために、
 こんなにも沢山の血をっ、見殺しにしているんですかっ」

女魔法使い「……それも一面の事実といえる」
メイド姉「……っ」

女魔法使い「気に入らないのか?」
メイド姉「当たり前ですっ」

女魔法使い「ならば、貴方は貴方の道で救えばいい」
メイド姉「……っ!」

女魔法使い「忘れるべきではない。貴方も同じ船に乗っている。
 貴方もあの血の流れに救われている。血のながれる河の船の上で」

メイド姉「それでもっ! それでもっ!」

女魔法使い「……送ろう」
メイド姉「……っ」

女魔法使い「……貴方には、やはりこの図書館は、似合わない」




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #28


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