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前回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #13

474 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:16:41.00 498vELIP

――大陸草原、雪の集合地、三ヶ国軍天幕

冬国兵士「将軍っ! 姫騎士将軍っ!」
女騎士「何事だっ!?」

冬国兵士「敵軍に動き有りっ!」

将官「なんだって? 会戦日の指定はまだ決着していないぞっ!」

冬国兵士「そ、それがっ。一部の傭兵団のみが移動しています。
 独断で兵を進めている模様っ。望遠鏡と伝令により確認。
 彼らは味方にも隠密で行動している模様っ」

将官「馬鹿なっ! きゃつら戦のルールも判らんのかっ」

女騎士「ルールなどあってないようなものだ。
 彼らの判断は、なにも間違っては居ない」

冬国兵士「いかがいたしましょう」

将官「我が軍も早急に陣ぞなえを変更、三重連隊で
 防御の陣をひき――」

女騎士「不要っ!」

将官「しかし、この戦では防御に徹せよと」

女騎士「大局を見ろっ」

将官「っ!?」

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1252830787/
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1253172466/

475 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:17:58.34 498vELIP

女騎士「たしかに傭兵どもは中央の考える教会と騎士道の
 規律を破り戦を仕掛けてきた。
 あとでなんらかの処罰があるかも知れないが、
 彼らにも理由が――おそらく食料の不安があるのだろう。
 しかし、その傭兵団との戦いが長引けば、
 救援という名目を中央の軍二万に与える事になる」

将官「……それはそうですが」

女騎士「冬国騎士に通達、直ちに第一種軍装にて会戦用意っ。
 無駄なものはいらぬ、速度を取れっ」

冬国兵士「はっ!」

将官「しかし、それではこちらは200も居ないではありませんかっ」

女騎士「敵だって傭兵団のみだろう?
 で、あるなら騎馬戦力は1000が良いところだ」

将官「無茶ですっ」

女騎士「おい、済まぬが具足と籠手を。盾はいらない」
女修道士「はいっ」

将官「姫騎士将軍っ!」

女騎士「戦ではない。この程度なら、な」

将官「そうではなく、鎖帷子は!? 胸甲はっ!?」
女騎士「重いだろう。つけるのに時間も掛かる」

476 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:19:41.27 498vELIP

――大陸草原、荒れ地の中央部

傭兵隊長「いいか! お前らっ! 良く聞けっ!」

 ざわざわ ざわざわ

傭兵隊長「上の連中は頼りにならねぇ。
 いつまでたっても戦も始められねぇ、とんだ玉なし野郎どもだっ!
 だが俺たちは違うっ! ちゃんと玉のついた男だからよ!
 あんな女子供の率いるへろっちぃ奴らと戦うには
 何のためらいもねぇってもんよ!」

 あはははははっ!

傭兵隊長「だがな、連中の数は数で、
 ド田舎の三流国とはいえちょっとしたもんだ。
 とくに対魔族の常備軍って事で、
 槍兵、石弓兵あたりは随分鍛えられていると聞いている。
 そこでだ、俺たちは風のように襲いかかり、
 奴らの天幕をメチャクチャにして、さっと逃げる。
 先方は、おい、槍騎兵。おめえだ!」

傭兵槍騎兵「はいっ! お任せくださいよ、叔父貴っ!」

傭兵隊長「よーし、よしよし。
 切り裂いて、めちゃくちゃにしろ!
 何でも構わねぇから踏み荒らしてやるんだ。弓騎兵!」

傭兵弓騎兵「はっ!」

傭兵隊長「火矢も使え。天幕を燃やしてやれっ!」

傭兵弓騎兵「わっかりましたぁ!」

477 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:22:08.57 498vELIP

傭兵隊長「だがしかし、おめえら!
 俺はこの激突で長居をするつもりはねぇ。
 さっと攻めて、さっと引き上げる。角笛が鳴ったら退却だ。
 あいつらの数を俺たちだけで引き受けるのはちと辛い。
 奴らの陣地をメチャクチャにして
 体面に泥を塗ってやれっ!
 そうしたら引き上げてこちらの陣地まで引き寄せるんだ。
 
 やつらはきっとケツにつっこまれたアナグマみてぇに
 怒り狂って追いかけてくるだろう。
 中央の貴族どもも巻き込んでやれ! そうすりゃ乱戦だ。
 これだけの人数差、俺たちが負けるわけはねぇ!!」

  あはははっ! 冴えてるな叔父貴っ!
  お前が大将だっ! 戦の開始だ! わかったぜ叔父貴っ!

傭兵隊長「なぁに。騎士道が何たらだと抜かす連中だって
 本当はこのままじゃ埒なんて開かねぇってことは
 判ってるんだ。
 この件は何人かの貴族様にも司教様にも話は通してある。
 悪いようにはしねぇってなっ!」

  おう、それでこそ俺たちの叔父貴だっ!
  悪知恵が働くことにかけちゃ叔父貴に叶うやつはいめぇ!

傭兵隊長「この腐れ豚野郎どもっ。こいつは悪知恵じゃねぇよ。
 がはははっ。なんつったかな、そうだ。チリャクってんだよ!
 戦の駆け引きだ。経験をつんでねぇ領主のぼんぼんどもに
 遅れは取るなっ! 行くぞ、お前らっ!」

  おうっ! おうっ! はいやっ! 行けっ!

傭兵騎兵「俺たちも行くぞっ! ――ん? あれは、なんだ?」
傭兵槍騎兵「~っ! 敵だっ! 敵襲~っ!!!」

479 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:23:47.81 498vELIP

――大陸草原、荒れ地の中央部

女騎士「では、打ち合わせどおり一撃離脱で行くぞ。
 諸君!! 南部諸王国の勇士の力を期待する! 突撃っ!!」

冬国騎士「「「「オオオオーッ!!」」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
  ガキィィーンッ!!

傭兵騎兵「なんだっ!? こ、こいつら、どこから現われたっ」
傭兵弓騎兵「ぎゃぁぁぁっ!」

女騎士「戦果にこだわるなっ! 退けっ、右回転。槍交換っ!」
冬国騎士「はぁっ!!」

傭兵騎兵「なっ。なんて速度だ、反転っ! 後ろに居るぞっ!」
傭兵槍騎兵「いや、右だっ!」
傭兵弓騎兵「何処だ、見えないっ!」

女騎士「第二突撃、つっこめぇっ!!」
冬国騎士「「「姫将軍に勝利をっ!!」」」

傭兵騎兵「ギャァァッ!!」
傭兵槍騎兵「なんて突破力だっ。ば、化け物めっ!」

傭兵隊長「馬鹿野郎っ! 相手は少数だっ!
 取り囲め!  広がって押さえちまえっ!」

女騎士「離脱っ! 陣形直せ! 16番集合っ!
 直ちに第3陣形開始っ!」

冬国騎士「退けっ! 姫将軍の退却命令だっ!」
冬国騎士「イィィーヤッホゥ! お前らに捕まるかよっ!」



480 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:25:12.61 498vELIP

傭兵隊長「追えっ! 見たところ相手は300がいいとこだっ!
 追いつけば一ひねりに出来るぞっ!」

傭兵槍騎兵「はっ! 追え追えっ!」
傭兵弓騎兵「つけあがりやがって、あの女っ!」

  将官「第3陣形っ!」

傭兵騎兵「っ!?」
傭兵槍騎兵「ど、どうしたっ」

傭兵隊長「どうした、追えっ!」
傭兵騎兵「そ、それが、敵が二手に分かれました。
 ど、どちらを追えばっ」

傭兵隊長「ただでさえ少ない兵を二つに? 狂ったか。
 どうせ女のやることはそんなもんだっ。お前は右を追え!
 俺は左を追うっ!」
傭兵騎兵「はっ!」

  女騎士「ふむ、追ってくるか。可愛らしいものだ」
  冬国騎士「ははははっ! 馬が本調子でもないでしょうにっ」
  女騎士「そろそろ、行くぞっ!」
  冬国騎士「了解っ!!」

傭兵騎兵「なっ! また二手にっ!?」
傭兵剣騎兵「どっ、どうするっ。どっちを追うっ」

傭兵騎兵「っ~! 舐めるな、もう数えるほどではないかっ!
 再分割だっ! おまえは左の森の方へ追えっ!
 俺は右を追うッ!」
傭兵剣騎兵「判った! 遅れは取るなよっ!」
傭兵騎兵「女子供に馬鹿にされてたまるかぁっ!」

482 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:27:17.70 498vELIP

――大陸草原、荒れ地、16番集合地点

ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

将官「何番隊だ?」

冬国騎士「8番隊です。ただいま集合しました」
 伝令騎士「集合した隊は隊員を把握! 報告せよっ」

女騎士「どうだ?」

将官「はい。全ての隊が集合完了。
 ただいま報告させていますが、軽傷者や骨折者が多少出た以外
 大怪我を負ったものも脱落したものも居ない模様」

女騎士「二回撃ち込んだだけだからな。
 敵の被害もさほどでもないだろう。……その敵は、どうだ?」

冬国騎士「はっ。迷走させましたので、
 随分広い範囲に広がってしまっているかと思います」

女騎士「諸君っ! どうだ、疲れたかっ!?」

  おおおお! 我らまだ意気軒昂! 姫将軍、ご采配を!

女騎士「よしっ。呼吸も整っているようだな。
 では、再侵攻を開始する。今度は一丸となって行くぞ。
 先頭はわたしが受けもとう」

冬国騎士「そんなっ」 「そのような軽装で万が一があれば……」
冬国騎士「姫騎士将軍は、シスターの服ではないですか」
冬国騎士「せめて騎士団中央部にっ」「我らが戦いますっ」

483 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:29:10.09 498vELIP

女騎士「そう思うなら戦果を挙げよっ!」びしっ

冬国騎士 びくっ

女騎士「ただし、今度は倒す必要はない。
 出来るだけ落馬させよっ! 敵を殺すのは本意ではない!
 彼らもまた精霊の教え子。
 いまひと時は対峙しているが我らが同胞だっ。
 やむを得ない時をのぞいて、なるべく殺さぬよう。
 落馬させて戦意を奪えばそれで十分。
 あまり倒してしまうとわたしが勇者に……いや、とにかく落とせ!」

冬国騎士「「「はっ!」」」

女騎士「敵の数は多いが、いまや散開につぐ散開を繰り返し
 一つ一つの部隊の数は我ら以下、
 おそらく半分にも満たないだろう。
 一気に襲いかかり突進力で落馬させ、
 残った相手は小刻みに移動しながらたたき落とせっ!」

冬国騎士「「「了解いたしましたっ!」」」

将官「行きますか」
女騎士「ああ、移動開始だ」

ザッカッ ザッカッ ザッカッ

冬国騎士「あ」  冬国騎士「おお」

将官「ん……?」
女騎士「来てくれたか」

将官「援軍ですか?」

女騎士「ああ。……雪だよ」

488 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 12:47:35.56 498vELIP

――初雪

 ちらちら……
  ちらちら……

「雪だ……」
「ああ、雪だっ」

「このままで戦闘が……」
「うむ、司令部で動きがあるかも知れん」

 ちらちら……
  ちらちら……

「なんだって? ……そうか」
「招集! 招集! 梢の国の騎士よ! 士官用テントへ集まれ!」

 ちらちら……
  ちらちら……

「王弟元帥がご決断為されたっ!
 慈悲深きかの陛下は雪深きこの戦場で
 騎士や従士などがひもじい思いをしているかと思い、
 哀れみをおかけになられたのだっ!
 一部の中流兵をのぞき、今回の征伐軍は春まで延期となるっ!」

「帰れる!」 「俺たちは故郷へと帰れるぞっ!」

493 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:00:19.88 498vELIP

――冬の国、官庁街、高級宿屋

タッタッタッタ。ガチャン!!

辣腕会計「委員っ!」

青年商人「どうしました?」
火竜公女「何か起きましたかや?」

辣腕会計「まったく。……昼からお酒を召し上がるなどと」

火竜公女「寒くて他にすることもありませぬゆえ」
青年商人「ご相伴していただけですよ」

辣腕会計「それより、委員。雪ですっ」

火竜公女「雪……」

青年商人「雪はご存じですか?」
火竜公女「ええ、ゲート付近では目にします」

青年商人「中央は退きましたか?」

辣腕会計「ええ。中央の征伐軍は、短期決戦を諦めた模様。
 ある程度の兵を、現在の平原から少し進めて残し、
 そこに簡易的な砦を作り、南部諸王国を睨みながらも、
 大部分の兵は春になるまで、一旦国元へ戻る様子です」

火竜公女「戦争は回避されたのかや?」
青年商人「当面だけ、です」

495 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:02:27.34 498vELIP

辣腕会計「どうされます?」

火竜公女「……」

青年商人「どうやら天の機嫌も南部諸王国に
 味方している様子ですね。
 巨大市場を形成するなら、ここが好機でしょう」

辣腕会計 こくり

青年商人「すでに中央大陸中心部の貨幣の流れは
 自壊のプロセスに入っています。
 貨幣の再鋳造を始めたら一層の加速をするでしょう。
 再鋳造の応急処置としての意味はあったかも知れない。
 でも、応急処置は応急処置です。

 根本的な農民の貧しさ。
 通貨のぶれに対する信頼性の低下。
 戦争と略奪に依存した未熟な生産性を
 転換するだけの体質改善が本当は必要だったのに。

 ここで貨幣に手を加えるには……」

辣腕会計「“信用”が低下しすぎていた、と」

青年商人「光の精霊を奉じる中央聖教会は
 無限の信用と尊敬を受けている。受ける事が出来る。
 無条件で全員が従うのだと、己の権威を過信していましたね」

火竜公女「では、ここまでですね」

辣腕会計「は?」

496 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:05:08.36 498vELIP

火竜公女「これは戦であったのでしょう?
 で、あるならば収めるべき矛というものがありましょう」
辣腕会計「しかし、この状況下ではまだ搾り取れるっ」

火竜公女「――天が下のすべての事には季節があり
 すべてのわざには時がある

 生まるるに時があり 死ぬるに時があり
 植えるに時があり 植えたものを抜くに時があり
 殺すに時があり いやすに時があり
 こわすに時があり 建てるに時があり
 泣くに時があり 笑うに時があり
 悲しむに時があり 踊るに時があり
 石を投げるに時があり 石を集めるに時があり
 抱くに時があり 抱くことをやめるに時があり
 捜すに時があり 失うに時があり
 保つに時があり 捨てるに時があり
 裂くに時があり 縫うに時があり
 黙るに時があり 語るに時があり
 愛するに時があり 憎むに時があり
 戦うに時があり 和らぐに時がある」

青年商人「あなたは……そう思うのですね」

火竜公女「思うに、商人殿は商人としては純粋だが
 時に危うくも見える。純粋なる鋼の脆さのように。
 時にその非情を悔いておるようにも。
 だからこの国へ来たのではないのかや?
 最後の決断をするために。妾にはそう見えてならぬ」

青年商人「商いの道には情は禁物です」

火竜公女「流される情であるのならばそうでもありましょうが
 情を武器に出来るだけの器量を持ちながら
 怯えるなどとはらしくもない」

497 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:07:11.53 498vELIP

青年商人「……」
火竜公女「どちらに転んでも良いように準備していたのであろう?」

青年商人「……」
火竜公女「強情な殿方だの」

青年商人「強情ではなく慎重なのです」
火竜公女「妾は助けぬぞ。我が君、勇者のようには」

青年商人「……」
火竜公女「塩は欲しいが、それとこれとは別ゆえな」

青年商人「なかなか、心やすくは行きませんね」

火竜公女「当たり前であろう。
 火の粉が飛んでくる距離が良いと云ったゆえ
 ここも戦場なのだ。心して戦わねば」

青年商人「判りました。聖教会の救援に向かうとしますか」
辣腕会計「……助ける、のですか?」

青年商人「商人なりのやり方でね。
 そのそも二大通貨体制、拮抗体制は視野に入っていました。
 対立二つがあるからこそ、
 その間に入って“利”を得ることが出来る。
 いま一気に搾取するよりも、持続的な商売を採用する。
 そういう判断ですよ」

辣腕会計「はぁ……」

火竜公女「我が君を裏返したような殿方よな」

青年商人「商人子弟殿に冬寂王への面会を依頼してください」
辣腕会計「はっ」

青年商人「南部の英雄と話を固めるとしましょう」

501 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:31:44.21 498vELIP

――聖王都、八角宮殿、西の対の宮、奥深い一室

軍閥貴族「口ほどにもないではないか」

蒼魔上級将軍「ふんっ」

軍閥貴族「何が魔族一の軍勢だ。凍土を越えることも
 叶わず引き返すとはっ」

蒼魔上級将軍「そうは言うが、ご自慢の中央の精鋭兵とやらは
 そもそも戦もせずに、食糧難でとって返したと云うではないか。
 われらが南部諸王国の後背をついたとしても、
 それでは軍略にならぬ。我らを陥れるおつもりだったのか?」

軍閥貴族「貴様、云わせておけばっ」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」

蒼魔上級将軍「騎士侯爵だなどと勇ましいことだ」

軍閥貴族「貴様ッ。そのような侮辱捨て置けぬ。
 ここで銀剣の錆にしてくれても良いのだぞっ」

カーテンの影「……」

王室つき司教「おのおの方、その辺で一旦矛を
 収めてはいかがですか?」

502 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:33:31.91 498vELIP

蒼魔上級将軍「……ちっ」
軍閥貴族「はっ」

王弟元帥「良い。初めから一筋縄でいくとは思っていない」

王室つき司教「さようで」

軍閥貴族「しかし、この冬の飢餓を考えれば
 再軍備の目処もなかなかに厳しく、
 また冬の間にきゃつらの巻き返しがあるやもしれぬのですぞ?
 王侯や貴族の中には、南部に尻尾を
 振る事を考える連中も出る始末」

蒼魔上級将軍「裏切り者か? 粛正すれば良いではないか。
 戦うまえから投降を考えるような敗北主義者を
 生かすような柔弱な姿勢が信念の所在を総括させぬのだ」

暗殺者「ふぅーっしゅっしゅっしゅ。
 流石魔族の若君。云うことが血なまぐさい。歓喜の音色」

王弟元帥「いい加減にせぬか。
 ――確かにあの雪の草原で南部三ヶ国同盟を打破できれば
 それに勝る事はなかったが、
 かといってこの敗北で我らが失った物は多くない。
 我らにはまだ大量の臣下、領土、物資、兵士が温存されておる。
 考えてみれば、あの戦で失ったものなど、
 たかが数百人の傭兵のみ」

王室つき司教「さようですぞ」

軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「ふぅむ」

503 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:35:05.85 498vELIP

王弟元帥「通貨の高騰は『同盟』の仕業と判明しておる。
 所詮奴らは時流になびくだけの商人よ。
 甘い蜜、勅書、教会の権威を振れば尻尾を振ろう。
 すでに新貨幣鋳造の準備は整っておる。
 ――そうであるな?」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる……。御意に。
 魔界より開門都市を通して……砂金の調達も続けております」

王弟元帥「軍資金はこの新貨幣でまかなえばよい」

軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「我らには無縁のこと」

王弟元帥「蒼魔族との約定は先の通り。
 我らの悲願が達成された暁には、南部三ヶ国の領土を与えよう。
 人間界に領土を持つ唯一の魔族として、
 汝らは覇業へとのりだすのであろう?」

蒼魔上級将軍「いかにも。
 そしてその後もずっと『教会の敵』をも演じましょう。
 あなたたちが君臨し、君臨しつづけるためにもね」

軍閥貴族「……腰抜けが」

蒼魔上級将軍「口を控えて貰おう」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」

王室つき司教「考えてみれば、南部諸王国などと云う
 無力な防衛のためにずいぶんな金を支出したものです。
 制御できる脅威であれば十分でした物を」

504 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:37:05.66 498vELIP

軍閥貴族「しかし、それもこれも、
 南部の跳ね返りものどもを始末しなければならぬ前提」

蒼魔上級将軍「その通りだ。珍しくもな」

カーテンの影「……教会は常に……一つ」

王室つき司教「さようで。我が教会は常に一つの教え、
 一つの聖書、一つの頂点により構成されねばなりませぬ。
 人を導くとはそう言ったもの。
 我らが教会は堅固にして盤石。
 その信仰心は金剛石よりも確か」

軍閥貴族「では……」

暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅ」

王弟元帥「第三回聖鍵遠征軍を招集する」

軍閥貴族「おおっ!」

王室つき司教「聖鍵遠征軍は貴族だけではなく、
 聖なる教会の信徒全てに直接呼びかける人界最強の軍。
 その軍を持って、三ヶ国同盟を打ち砕き、そのまま開門都市、
 さらには魔王を目指す」

軍閥貴族「希有壮大な……」

暗殺者「ふしゅーるしゅるしゅっしゅ」

505 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:40:10.47 498vELIP

蒼魔上級将軍「ふふふ。その方が我らにとっても好都合。
 魔王さえ死ねば次の魔王を選ぶための儀式が
 早々に始まりますからな」

王室つき司教「その時の魔王は……。ふふふふ」

蒼魔上級将軍「われら蒼魔族のもの」

軍閥貴族「しかしあの広大な魔界の版図を如何に渡るか」

王弟元帥「今回は魔族の側にも協力者が居る。
 詳細な地図の用意も出来た。そのうえ。ふふっ。
 我が手には切り札がある。
 ……あれを持て」

小姓「こちらにご用意してございます」 すちゃ

軍閥貴族「これは?」

蒼魔上級将軍「見慣れぬ鉄杖ですな」

王弟元帥「――マスケット。ふふふ。
 魔力のないものでも中級炎弾を生み出す機械よ」

蒼魔上級将軍「――機械?」

王弟元帥「ブラックパウダーを推進力に変えて敵を討つ。
 その最大の特徴は訓練だ。
 弓兵を育てるには一年以上の教練が必要。
 ましてや、中級炎弾を使う魔道士となれば5年以上が掛かる。
 しかし、このマスケットは違うのだ。これさえあれば、
 奴隷であっても二週間の訓練で軍を編制できる」

軍閥貴族「なんとっ!?」

506 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:42:12.28 498vELIP

王弟元帥「ふふふっ。これも異端の技。
 鉄の国に住むとある腕の良い鉄職人がな……ふふふっ。
 あの異端の魔女、紅の学士の依頼と指示を受け
 昨年よりずっと開発していたものよ」

軍閥貴族「そのようなものが……」

王弟元帥「これの生産に成功すれば戦が変わる。
 戦に用いることの出来る兵が十倍にもなるのだ!!
 我らにもはや不可能などはない」

蒼魔上級将軍「……寝返りか」

王室つき司教「寝返りではありませぬ。
 彼は光の精霊への正しい侵攻に目覚め、
 新たなる帰依の念を深くしたまで。
 いまは精霊の愛に包まれて至福の境地にありましょう」

王弟元帥「この冬は我らにとっても恵みとなろう。
 マスケットを量産するのだ。
 職人を集め、宮殿に巨大な高炉をつくりだせ!
 一切を秘密のうちに数千の武器を作りだし、
 魔界をも駆け抜けようぞっ! 聖鍵遠征軍こそ我らが剣!」

王室つき司教「全ては精霊の御心のままにっ」

軍閥貴族「御心のままにっ」

暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅるしゅる」

507 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 13:43:33.16 498vELIP

カーテンの影「声が……。聞こえる……」

王弟元帥「……っ」ざざっ

王室つき司教「御お言葉を、お言葉を……」ざざっ
軍閥貴族「猊下っ」ざざっ

カーテンの影「呼ぶ声が……」

王弟元帥「……」

カーテンの影「鍵を……手に入れよ。魔王の……身命を……」

カーテンの影「そして、開門都市にて……我が悲願を……」

蒼魔上級将軍「……」じぃっ

カーテンの影「我らが、教会の……悲願を……」

王室つき司教「必ずや! 必ずやっ!!」

カーテンの影「我らが千年の万年の……」

暗殺者「ふしゅーっしゅっしゅっしゅ! ふしゅーっしゅっしゅ!」

カーテンの影「……光の……精霊の……聖骸を……
 必ずや、必ずや……手に入れるのだ……」

530 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 18:48:46.50 498vELIP

――冬の王宮、広間、対策会議

青年商人「お初にお目に掛かります。
 南部諸王国の王侯の方々。
 わたしは『同盟』所属の商人。
 あらかじめ商人子弟殿を通して
 ご紹介して頂いたとおりのものであります」

辣腕会計「補佐を務める会計と申します」

鉄腕王「ご挨拶痛み入る」
氷雪の女王「雪の国の女王です。以後お見知りおきを」

冬寂王「畏まることはない。我らは王族とは言え、
 もはやこの三ヶ国同盟において農奴は解放されたのだ。
 もちろん我ら自身の誇りと名誉によって民のために
 身命賭ける覚悟はあるが、我らはもはや王という
 支配者ではない。同名の管理人にすぎぬ」

商人子弟(それこそが王の資質なんだと、
 僕なんかにゃ見えてるんですがねぇ……)

青年商人「かたじけなきお言葉を賜り有り難く存じます。
 では、時間も差し迫っていることかと思いますので、
 手早く交渉に移りたいと思いますが……」

冬寂王「……」ちらっ

商人子弟 こくり

冬寂王「よろしくお願いする、青年商人殿」

532 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 18:49:56.19 498vELIP

青年商人「まずは第1の話題です。
 わたしども『同盟』は三ヶ国同盟が国家備蓄として
 保持している馬鈴薯の全て。また春までに生産される
 追加分全てを引き取りたい、と云う意向を持っています」

鉄腕王「全て……!?」
氷雪の女王「とてつもない量になりますよ?
 船で運ぶのなら何十隻を必要とすることかっ」

冬寂王「何に使うつもりなのだ?」

青年商人「中央の諸国家に売ります」

鉄腕王「馬鈴薯は聖教会によって異端食物の指定を
 受けているんだぞ?」

青年商人「中央は現在深刻な穀物不足です。
 もっともわたしが『不足』などと表現すると、
 色々問題もあるような気がしませんでもありませんけれど。
 
 だがしかし、飢餓が目の前に迫っているのは現実。
 この状況を打破するためには多少劇薬が必要でして」

冬寂王「それが馬鈴薯か?」

青年商人「飢えた腹で食べる馬鈴薯はさぞや旨かろうと思います」

氷雪の女王「……っ」

青年商人「飢えて死ぬよりは、馬鈴薯を食べますよ。
 人間そこまで割り切れて生きれる物じゃぁ、無い。
 意地っ張りも居ますが、この件では多数派ではないでしょう」

534 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 18:53:25.81 498vELIP

冬寂王「しかし、中央諸国を全て救うほどの馬鈴薯は……」

青年商人「その辺はご心配なく。
 高価格を維持する程度にコントロールして麦を放出します。
 飢餓を起こすことが『同盟』の目的ではない」

冬寂王「我ら三ヶ国通商同盟に肩入れをしてくださると?」

鉄腕王「ふむ? 肩入れとはどういう事だ?」

青年商人「いえ、馬鈴薯を食べた国民が、
 その味を理解しそれが悪魔の果実などではないと云うことを
 自らを持って体験してしまう。
 その結果、いくつかの国々が三ヶ国通商同盟の方へ傾く。
 そんなことが仮にあったとしても、別にそれは
 『同盟』が三ヶ国通商に好意を持っているという話では
 ありません」

氷雪の女王「……」

商人子弟「だがしかし、そうであってもわたし達には追い風です」

青年商人「それはもちろん。で、あればこそ交渉の余地がある」

冬寂王「『同盟』の意図はこの場合何処にあるのかね?」

青年商人「……」

冬寂王「もちろんそれが『同盟』の機密であるなら
 聞くわけにも行かないだろうが……」

商人子弟「いえ、おそらくそれが今日の交渉の一つの本題」

535 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 18:55:46.73 498vELIP

青年商人「そうですね。冬寂王陛下。
 陛下達はいま、意識してか否か、歴史の岐路に立っておられる」

冬寂王「……」じぃっ

青年商人「三ヶ国通商同盟は拡大するチャンスがあります。
 今回の戦を無血に近い状況で回避できたこと。
 中央諸国の飢餓の兆候、長きにわたる不況、経済の停滞。
 そして聖教会の横暴と、農奴の解放運動」

氷雪の女王「それらが追い風になる、と?」

商人子弟「ええ」

青年商人「……すでにいくつかの打診があるのではないですか?
 自国だけは関税を緩和して欲しいであるとか、
 秘密軍事同盟を結びたいであるとか、と云った件です」

冬寂王「それはお答えしかねる」

青年商人「いままでのこの大陸では“聖王国-聖なる光教会”の
 一極支配がまかり通ってきた。
 もちろん様々な国や領主が存在していましたが、
 それらは結局はこの『中央』の自治地方として
 認められていたに近い。
 民を治めてはいましたが、教会には頭が上がらないというのが
 現状でした。また聖教会は聖王国と癒着して、
 氾濫しそうな分子を武力粛正することが出来た。
 三ヶ国通商は、そう言った状況に発生した、
 武力と、教会以外の教会――すなわち修道院の結合。
 これは歴史上類を見ないことです。
 規模は小さいけれど、そこにまったく新しいチャンスがある」


536 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 18:56:52.47 498vELIP

青年商人「……そのチャンスとは、勢力圏であり、経済圏。
 わたし達商人の言葉で言えば、市場です。
 新しい政策を打ち出し、
 新しい農業を営み、人口も増えている三ヶ国。
 そこに中央からいくつかの国家が加われば、
 聖王国や教会でもおいそれとは手出しの出来ない勢力が誕生する」

鉄腕王「お前達は共倒れを狙っているのか!?」

商人子弟「いえ、そうではありません。鉄腕王よ。
 彼らは商人です。もしわたし達が共倒れをしてしまえば
 商売をする相手が居なくなってしまう。
 彼らが望んでいるのはあくまで利益なのですから」

青年商人「そうです、鉄腕王よ。
 たった一つしか国がない状態では商売の幅が狭くなってしまう。
 もしまったく二つの異なった勢力があれば、
 どれほどに商売の幅が広がるでしょう?」

鉄腕王「それが本題なのか」

冬寂王(中央諸国のいくつかを、寝返らせ、それが無理でも
 中立状態に持ってゆき、停戦の道を探るというのが
 わたし達の当初立てたプランだった。
 彼のこの発言はそれを後押ししてくれるに等しい。
 だが……)

冬寂王「商人殿。……そこまでの部分のお話は判った。
 それに対する対価はどのように支払えばよいのだ?」

537 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:01:00.83 498vELIP

青年商人「まず、第1に馬鈴薯についてですが、
 これは0.8倍の重さの轢いた小麦、
 もしくは1.55倍の重さの大麦との交換でいかがでしょう?」

冬寂王 ちらっ

商人子弟 かちゃかちゃ「妥当……ですね」

青年商人「次に経済圏設立提案ですが、こちらはただの
 アドバイス。無料です」

鉄腕王「ただより高い物はない、と云うな」

青年商人「……ええ、至言ですね。
 この商売のやり方は、ある方より教わった物でして。
 ははは。
 私どもは、この場合“概念”といいますか“考え”を
 売っているのです。儲けは度外視してもですね。

 私ども『同盟』は新しく設立したその勢力内でも商売をします。
 勢力に活気があればあるほど利益が大きくなります。
 ですからこそ、無料と云うことでも利益は上がる。
 もちろん、そうですね。
 とりあえず、手始めに商館と銀行業開始の許可を
 頂きたいですね。商館は地区支部です。
 それは私ども『同盟』の活動拠点ですから」

冬寂王「ふむ。銀行施設、か」

538 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:06:23.61 498vELIP

商人子弟「王……」

青年商人「……なにかございますか?」

冬寂王「いや、わたしも国がこのような状況でな。
 すっかり貧乏なのだよ。内帑金を用いて一つ新しい事業を
 興してみたいのだが、その銀行とやらは相談に乗ってくれるかね?
 いや、商人どの。そなたは共同経営に興味はないかな?」

青年商人「ほう、どのような事業で?」

冬寂王「三ヶ国内部、また賛意を示してくれる国全てに
 湖畔修道会の修道院を作ってゆく計画だ」

青年商人「重要な考えかと思います。中央聖教会に対応する
 ためには修道院の密度も連携もいまより格段に必要となる
 でしょう」

冬寂王「それらの修道院では天然痘の予防治療を行う」

青年商人「……事実ですか?」
冬寂王「そうだ」

青年商人「あの人ですか?」
冬寂王「……あの方の一族、だな」

青年商人「判りました。わが『同盟』は初年度において
 金貨5000万枚相当の援助を行う用意があります」

辣腕会計「それは本当なのか。……奇跡だ」

539 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:10:17.34 498vELIP

青年商人「このようなニュースを耳にするとは……」
商人子弟「黙っていたのは、騙していたわけじゃないんですよ」

青年商人「いえ、それはもちろん判ります。
 むしろこのような機密をわたしのような得体の知れない商人に
 打ち明けて頂いたことの方が大きな驚きです」

冬寂王「紅の学士殿にあったのだろう?」

青年商人「はい。機会は多くはありませんが。
 あの美しい方は、外面だけではなく
 この世界まれに見る気高く聡明な魂を持っていますね」

冬寂王「ああ。二人共に……」

青年商人「――」
辣腕会計 ?

青年商人「ですがどうして?」

冬寂王「あの方は出会った者に刻印を……。
 いや、種を撒かれているような気がする。
 さっき話した商人殿の中に
 あの方の残した種の芽生えを感じたのだ」

商人子弟(……判る人には、やはり判るのだ)

青年商人「判るような気がします。
 だがわたしも商人です。商売のことでは退きませんよ?」

冬寂王「結構だ」にやり

543 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:17:11.74 498vELIP

青年商人「それでは、今日の本題の二点目にして、
 最後の交渉です」

冬寂王「伺おう」

青年商人「我が『同盟』は、三ヶ国通商同盟と魔族との
 少なくとも魔族のいくつかの部族との早期停戦合意を
 希望しています」

鉄腕王「なんだとっ」ガタッ

青年商人「落ち着いてください」

冬寂王「……」

氷雪の女王「まずは話を聞こうではありませんか」

青年商人「わたし達『同盟』は魔族との交易を望んでいます。
 小競り合い程度ならともかく、全面戦争は交易にも
 深刻な不都合をもたらします」

鉄腕王「相手は魔族なんだぞ!? 取引など出来るものかっ」

青年商人「出来ます」
鉄腕王「何を根拠に大口を叩くっ!」

青年商人「誤解しないで頂きたい。あなた方だけが命を
 掛けているのではない。本日わたしが持ってきた交渉の
 材料――物資、資金、情報、信用。これらすべては
 『同盟』所属の商人たちが命がけでそろえたもの
 わたしは彼らを代表して。いわば一勢力の司令官として
 この席に望んでいるのです」

546 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:42:43.51 498vELIP

青年商人「そのわたしが、出来る。と云っている。
 それはわたしのみならず『同盟』所属商人全ての
 声だと思って頂きたい。
 何を根拠に? そうお尋ねですが、
 根拠はそれです。わたしがわたしであるから。
 商人であるから、出来ると云っているのです。
 命を賭して、やる。と」

鉄腕王 がたん

氷雪の女王「ほぅ」

商人子弟「……お歴々方。この件に関しては、
 僕は心情的には青年商人さんの味方です」
従僕「へっ?」

商人子弟「いや、僕はしがない役人にすぎないのですが。
 商人の家の倅ですからね。商人ってのは、特に旅回り
 なんて云うのは辛いものです。嫌われようと疎まれようと
 村から村へ、国から国へと回って物を売り買いするんですよ。
 そこには敵も味方もないんです。必要なことをやってるだけ。
 自分で決めた道を自分で歩んでいるだけですからね。
 
 この青年商人さんにとって、この話は
 “戦争中の隣の国だけど、実はすごい特産品があるんだ。
 そうか。そんな所へ行って交易がしてみたいな”って
 それだけのことなんですよ。
 まぁ、そのために中央大陸の農民の命を盾にとって
 戦争を止めようとするほど強情っ張りの御仁ですけどね。
 
 なんだかその気持ちはわかるような気がするんですよ」

547 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:43:43.38 498vELIP

青年商人「……」
辣腕会計「子弟殿……」

商人子弟「ま、それに。おい、試算」すちゃ
従僕「はいっ!」ぴょこっ

商人子弟「現実問題、中央とのもめ事に軋轢を抱えたまま
 対魔族戦線や警戒網を維持するのは無理な話じゃないですか?
 聖王国からは宣戦布告まで出されちゃってるんだから、
 魔族あいてには多少なりとも懐柔工作なり、すくなくとも
 中立工作なり行って、いまの事実上のこの戦争休止状態を
 何とか延長することに何の問題もないと考えます。
 
 この試算によると、魔族との交易が推定規模に達した場合
 三ヶ国同盟の税収額の実に36%が、関連税、または港の使用料から
 まかなうことが可能であり、対魔族交易の中心地となる。
 また現在のかさんだ防衛予算を圧縮することも可能です」

辣腕会計「……やりますね、彼」

鉄腕王「……」

氷雪の女王「国民の納得はどうなるのだ」

商人子弟「実際の魔族と戦っていたこの国として
 そこをじっくりと考えて欲しいとは思います。
 本当に魔族って人間を堕落させるための破壊の化身なんですか?
 僕には……。
 こう言うと魔族との戦で死んでしまった人に
 申し訳が立たないのかも知れませんが、
 戦場で出会った魔族の方が、教会の説教に出てくる魔族より
 ずっと人間らしかった気がするんですよ」

548 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 19:45:04.34 498vELIP

冬寂王「やはりこの件については、重大すぎるために
 すぐさまお返事するわけには行かない。
 申し訳ないが商人殿」

青年商人「そうですか……」

冬寂王「しかし、早急に魔界に対する調査団を派遣しようかと思う」
氷雪の女王「調査団?」

冬寂王「わたしも指摘されて思い知ったのだ。
 我らは魔界のことを知らなさすぎると、ね。
 なぜだろう?
 二回も聖鍵遠征団を送り、
 合計で10万人に迫る人間が魔界へと入り込んだのだ。
 その風物や産業、あるいは風景くらいは
 聞こえてきても良いのではないか?
 
 それなのに、なぜか我らの知っているのは、
 悪夢じみたおとぎ話にも思える戦闘の様子ばかり。
 
 何かがおかしいような気がしてならぬ」

氷雪の女王「云われてみれば……」

冬寂王「いまはこのくらいしかお答えできぬ。すまない」

青年商人「いえ、十分でしょう」
辣腕会計「委員……」

冬寂王「もしかしたら、二つの世界は意外に近いのではないか。
 そのような予感もわたしにはするのだ……」

554 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 20:24:07.38 498vELIP

――開門都市、神像の無き神殿、最深部

女魔法使い「……」

女魔法使い「……すぅ、すぅ」

女魔法使い びくっ

女魔法使い「……」きょろきょろ

女魔法使い「……発見」

カツン

女魔法使い「……不可視化解除。……ここ」

女魔法使い「……」

女魔法使い「……」

女魔法使い「……」

女魔法使い「……冗長系としてのマージンがわたしを
 誕生させたけれど、その意味について設計者が
 関知しているかは疑問」

女魔法使い「……存在するなら進む。結果を見るのが、
 勇者なら、わたしはそれでも悪くない。
 ……ん。……正しく、冗長系だね」

560 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 20:45:25.57 498vELIP

――魔王城、前庭、“忘れえぬ炎”の広場

魔王「我が同胞(はらから)よっ! 我が臣民よっ!」

おおおおお! 魔王! 魔王!

  勇者「なんだよ、魔王。人気ないって云ってなかったか?」

  メイド長「歴代の中では不人気なんですよ。
   魔界では戦闘能力があるほど尊敬されますしね。
   先代魔王が広場に集まった民にこんな呼びかけをしたら
   もう、4、5人鼻血だしてたおれてます」

魔王「長きにわたる不在! みなのものには心配をかけたであろう。
 様々な憶測、流言飛語があったかと思うが、
 わたしはこの通り壮健であるっ」

おおおお! 魔王! 魔王! 魔界に栄光あれっ!

魔王(小声)「メイド長っ」
  メイド長「何でございますか? まおー様」

魔王(小声)「この服、もうちょっと何とかならなかったのか?」
  メイド長「何とかなったからそうなのでございます」

魔王(小声)「胸があふれそうだっ」

  勇者「あー。やばいな。眼がちかちかするわ」
  メイド長「女性魔王たるもの、色気を無駄に
   垂れ流さなくてどうします」

  勇者「お約束?」
  メイド長「お約束でございます」

561 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 20:49:02.77 498vELIP

魔王「諸君! 長きにわたる憂悶の日々に堪えてくれたことを
 嬉しく思う。……わたしは帰ってきた。この魔界にっ」

  勇者「なんか、そうぽよぽよされると、ほら、なんての。
   相方として、泣きたくなるじゃんね? 普通に」

魔王(小声)「殴る」

  メイド長「勇者様にもアピールできるチャンスですのに」

おおおおお! 魔王! 魔王!

魔王「わたしが雌伏している二年の間に何があったかは
 知っている。まずは人間の征服していた我らが聖地の一つ
 開門都市を取り戻せたことは喜ばしいっ。
 かの都市は以降、我が直轄領としての庇護を与えるっ」

  メイド長「えー。次の原稿は……」

魔王「わたしが姿を見せぬ間、魔王に反旗を翻し、
 またわたしがさだめた法を逸脱したものに関しては
 我が忠実な剣にして将、黒騎士がその斬魔の剣にて
 粛正を与えたっ!」

  メイド長「勇者様、ここで前に出て、ガオーって」

勇者「え?」 ざざっ。じゃきんっ 「こうか?」

  メイド長「もっとすごい感じで、ガオーって!」

勇者「うう。なんだよそれ……こ、“広域殲滅光炎陣”っ!」

 ヒュカッ!!  ……ビリビリ゙ビリ……チュドオオオオオオン!!!

569 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/15 20:52:22.99 498vELIP

  シーン ……と、塔が一瞬で
  ヒソヒソヒソ…………な、なにごとだ

魔王「こっ……。これが我が将の実力だっ!」
  メイド長「まおー様、ナイスアドリブフォロー」

おおお! すげー! 黒騎士すげー! すごすぎる!
魔王! 魔王~! 魔王ーっ!! 魔王!!

勇者(やっべなんか出過ぎた)

魔王「本日は我からみなに通達がある。
 忠実なる同胞よ、我が臣民達よ! 人間と接触しはや20年。
 
 彼らの持つ姿も力もその性格も、すでに我らの
 よく知るところとなった。
 我らはいま正にっ! 歴史の岐路に立っておるっ」

魔王! 魔王~! 魔王ーっ!! 魔王!!

魔王「わたしはっ!」 ばばっ
  メイド長「おお。黒マントひるがえり演出っ」

魔王「ここに、大部族会議っ、忽鄰塔の招集を告げるものである!」

魔王! 魔王~! うぉぉ! とうとうこの日が来たっ!
人間との全面戦争だぁ! 今度こそ我らの大勝利だぁ!!

魔王「え? ちがっ。そうでなく」

魔王! 魔王~! 魔王万歳っ!! 魔界万歳っ!!

魔王「……ええーいっ。
 すべては忽鄰塔において族長による決定があるっ!
 魔界の隅々にまで伝えよっ! 魔王が招集をしているとっ」




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #15


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