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383 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 00:46:53 vGBiMEoLP

――大陸街道、関所

義勇軍兵「ああ、そうだ。俺も南氷海での戦いへ参加する」
若い傭兵「俺もだ、もし南氷海へ行くのなら一緒に行かせてくれ」
遊歴騎士「わがはいもそうだ。是非頼む」

関所の兵士「おおいな、今日だけで15人は通ったぞ」
関所の兵士「ああ、何時にない勢いだな」

義勇軍兵「今回の遠征は、とうとう若い英雄、
 冬寂王が立たれると聞いたんだ」

若い傭兵「ああ、槍武王の末裔、代々勇猛をもってなる
 冬の国の若い王が軍を挙げるときいたぞ」

遊歴騎士「しかも、将軍は若く美しい、あの伝説の
 女騎士だというじゃないか」

義勇軍兵「おお! 勇者の右の翼と呼ばれた!!」
若い傭兵「聞いたことがあるぞ!」

遊歴騎士「『黒点の射手』と呼ばれた左の翼、弓兵と並んで
 魔王軍の並み居る将軍をたった四人で次々と打ち破った
 勇者の仲間。伝説の英雄の一人だ!」

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1252187837/

386 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 00:52:08 vGBiMEoLP

義勇軍兵「実は俺の家族も後から来るんだ」
若い傭兵「そうなのか? 奇遇だな。俺もだ」

遊歴騎士「お前たち何を。戦場に家族づれだと?」

義勇軍兵「いや、そういう訳じゃないんだが」

若い傭兵「うむ。実を言えば、最近冬の国は豊かになったと
 聞いてな。商業も盛んになってきたとか」

遊歴騎士「そんな噂があるのか?」

義勇軍兵「ああ。農奴の税も、賦役や作物ではなく
 銀貨で治めても良いと云うことらしいんだ」

若い傭兵「俺もそう聞いた。銀貨で払って良いのならば
 傭兵の給金で払えるじゃないか? 俺たちの家族は
 やっと解放された農奴なんだ。冬の国へ行けば
 小さな畑でも手に入れるかもしれない」

遊歴騎士「そんなうまい話があるものか」

義勇軍兵「ダメで元々だ。どうせ戦って死んでいくしか
 俺たちみたいな半端者には残されていないんだ」

393 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 00:56:24 vGBiMEoLP

遊歴騎士「まぁ、そうともいえるが」
若い傭兵「湖畔修道院の修道士が、紹介状を書いてくれたしな」
義勇軍兵「紹介状?」

若い傭兵「ああ、これをもってゆけば、
 馬鈴薯の種芋をくれるというんだ」

義勇軍兵「種芋? なんだそれは」
遊歴騎士「わがはいもしらんな」

若い傭兵「小麦の種のような物らしい」

義勇軍兵「ふむ、すぐにくれればいいのに。道中食べれたろうに」

若い傭兵「いや、それをつかって、
 馬鈴薯を増やして欲しいと云うことなんだろう。
 俺たちの家族は、もうずっと長い間、
 自分たちの畑というものに憧れてきたんだよ」

遊歴騎士「その気持ちはわからんでも無いな」

義勇軍兵「なぁ、俺にもその紹介状はもらえるだろうか?」

若い傭兵「ああ。この紹介状をくれた修道士は、
 人数は向こうで相談してくれと云っていたんだ。
 家族が来たら俺と一緒に行ってみようじゃないか」


395 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:01:48 vGBiMEoLP

――冬越しの村、夜の修道院

ばすん、どすん! ばたん!

女騎士「よし、こうだっ! この荷物めっ!」

女騎士「えいっ! えやっ!
 何で素直に荷造りされないんだっ! えやっ!」

こんこん

女騎士「開いている、済まないが今手を離せないんだ」

魔王「夜半、すまない。良いだろうか」

女騎士「あ? ああっと。す、すまない。学士様だったのか
 わたしはてっきり修道士かと」

魔王「いや、修道士殿に頼んでお邪魔させて貰ったのだ」

女騎士「そうだったのか」

魔王「……」きょろきょろ
女騎士「すごい有様だろう?」

魔王「もう、荷造りはされたのだな」

女騎士「もともと女らしさに欠ける性格でな。
 その気になれば旅支度など簡単に整ってしまう」

397 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:06:51 vGBiMEoLP

魔王「そうなのか。……よいかな?」

女騎士「ああ。すまないな散らかっていて。
 その寝台に腰を掛けてくれ」

魔王「……」
女騎士「……えいっ! とやっ!」

魔王「……」
女騎士「どうしたんだ? 学士様」

魔王「いや、なんだか慌ただしくてな」

女騎士「ああ。わたしの出発か?」
魔王「うん」

女騎士「指名頂いたことだし。せいぜい暴れ回ってくるよ。
 心配はしなくて良い。修道会の仕事はわたしなんか居なくても
 全て滞りなく回るようになっている。
 そもそも最初からわたし抜きでも回っていたんだ。
 わたしは運営にはとんと不向きだからな」

魔王「そうではない」
女騎士「……」

魔王「そうではないんだが」

399 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:10:36 vGBiMEoLP

女騎士「なんだ、随分歯切れが悪いな」
魔王「……」

女騎士「わたしのことなら心配はいらない。
 確かに勇者に及ばないかもしれないが、
 そこらの魔族にやられるような鍛え方はしていないよ。
 あははははっ。
 たとえ船が沈んだって泳いで帰ってこれる。うん」

魔王「……」
女騎士「どうした?」

魔王「その……。この一年間、わたしの我が儘に
 さんざん付き合わせて」

女騎士「馬鈴薯のことか? 四輪作かな? 最初に云ったけれど
 それらはぜんぶ我が修道会の理念に照らして正しいから
 協力したんだ……。
 だから遠慮することなど無い。
 むしろ修道会一同、深く感謝している」

魔王「そうではなく、学院の指導だとか」

女騎士「ああ。剣と軍事教練か~」
魔王「そうだ」

408 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:17:43 vGBiMEoLP

女騎士「あれは良い運動になる。ストレス解消にも。
 それにね。適度な燃焼をさせないと脂肪が肉についてしまう。
 肥えてしまうからなぁ~」ちらっ

魔王「ううっ……。うう」
女騎士「言い返してこないのか。
 貧乳だの何だの。つまらないな。
 その点ではあの眼鏡メイドの方が手強いか」

魔王「その、女騎士殿は」
女騎士「うん?」

魔王「わたしは……その、幼いときから、ずっと……
 部屋の中で育ってな。狭い家ではなかったのだが。
 一人で……育ってな」

女騎士「貴族の出だったのね」
魔王「うん、そんなものなのだ……」

女騎士「それで?」

魔王「だから、同性の親しい人は一人しかいなくて。
 それはメイド長な訳だが」
女騎士「ふむ」

魔王「その、女騎士殿は。わたしにとって、いってみれば」
女騎士「……」

魔王「友達に一番近い存在だというように、
 わたしの推測では、先日、そう結論したのだ」

410 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:22:07 vGBiMEoLP

女騎士「……」

魔王「もちろん、女騎士殿がどう思ってるかと
 わたしの推論は何の関係もなくてだな、
 これはいわばわたしの側の勝手な定義付けというか、
 境界条件の曖昧な主観的な分類に過ぎないのだとは
 判っているんだがな」

女騎士「……」

魔王「その女騎士殿が、将軍として戦場に出向く。
 この戦は何もわたしと無関係なわけではない。
 状況に照らせば、わたしの意志がバタフライ効果的に
 影響を及ぼしたことは想像に難くないのだ。
 しかし、それなのにわたしは……」

女騎士「……」

魔王「わたしは、まだ躊躇ってしまい、
 手を下せない事がいくつもあるのだ。
 わたしは、こんなにも愚かで弱い。
 毎日のように愚かになっていくような気さえする。
 ――例えば、硝石と黒色火薬がそうだ」


414 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:26:28 vGBiMEoLP

魔王「それがあれば戦局は有利に展開できるのは判っている。
 死者の数を2桁オーダーで減らせる可能性もある。
 密かに冶金師への依頼も行い、研究も進めていた。
 でも、それでもどうしても踏ん切りがつかないのだ。
 それを手渡せば、戦には勝てるかもしれない。
 でも、それを手渡してしまったら、
 もう二度と戻れないのではないか。
 そう思うと、笑ってくれるが良い。
 手が震えそうになる」

女騎士「……」

魔王「あの日わたしは誓ったはずだった。
 勇者の手を取って。……どんなことでもすると。
 願いを叶えるためだったならば、
 たとえこの身体がこの命が
 どこともしれぬ道ばたで腐れ果てようと気にはしないと。
 幼いときから学んできた書物と情報海以外の
 何かを見るためにだったら
 どんな物だろうが生け贄に差し出しても良いと。
 ……でも。
 なぜだか判らないが、わたしはどんどんと
 弱くなってゆく。どのような技術でも渡してしまい
 その結果世界がどう変わるか見てみればいいのに。
 ……その勇気がでないんだ」


418 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:31:38 vGBiMEoLP

魔王「これから、戦場へ赴く……友に。
 それは酷い仕打ちだと思う。酷い裏切りだと思う。
 わたしは女騎士殿と何の契約も交わしていない。
 修道会と技術頒布の契約を交わしただけだ。
 だから、わたしが女騎士殿に感じる
 この罪悪感は無意味な物なのだ。
 そのはずだ。
 しかし、それでも胸からぬぐえない」

女騎士「まぁ、要するに」

魔王「……」

女騎士「そのブラックパウダーとかいうのは
 特製の広域殺傷用魔法のような物でしょう?」

魔王「ああ」

女騎士「すごく強力で、すごく便利で、素人でも
 使えちゃうかもしれないけれど、いってみれば
 そういうものでしょう?」

魔王「そうだ」

女騎士「わたしはそんな物が無くても負けないから」

420 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:34:55 vGBiMEoLP

魔王「それだけじゃない。……わたしは」
女騎士「……?」

魔王「女騎士殿に嘘をついているんだ」
女騎士「……」

魔王「ずっとみんなにも嘘をついている」
女騎士「……」

魔王「だから、今夜はここへ来たんだ。
 これもまたわたしが望んだことだから。
 かつて見たことのない『丘の向こう』のひとつだから。
 女騎士殿。
 わたしは……。
 わたしは魔王なんだ」

女騎士「……」

魔王「……」

女騎士「わたしが、湖畔修道会の修道院長だってしってるよね?」
魔王「ああ」

女騎士「光の精霊に仕えていることも」
魔王「もちろん知っている」


427 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:40:09 vGBiMEoLP

女騎士「では、私、女騎士が
 聖なる光の精霊の信徒の一人として
 湖畔修道会の修道院長として
 魔王、あなたの告悔を受け入れましょう」

魔王「え?」

女騎士「あなたは友に嘘をついた。
 それを友と精霊に告白をした。
 あなたの罪は洗い清められた。
 何の問題も有りはしない」

魔王「魔王なのに……?」

女騎士「懺悔の内容は嘘をついたことでしょう?
 それとも、なに? 魔王であることに罪の意識があるの?」

魔王 ぶるぶる

女騎士「勇者を横取りしようとしたこと反省してるの?」

魔王 ぶるぶる

女騎士「じゃ、この件はそれで終了で良いでしょう。
 湖畔修道会はごちゃごちゃした儀礼苦手なのよ」


439 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:46:30 vGBiMEoLP

魔王「し、しかし!」
女騎士「いいじゃない。手早くて」

魔王「それじゃ……女騎士殿はっ」

(やー。わるいなぁ。女騎士よっ。
 俺ちょっとさ、また魔界へいってこなきゃならねんだわ!)

(そんでさ、申し訳ないけど、俺の代わりに
 剣の先生やっといてくれねぇ? ひよっこどもだから
 面倒くさきゃ毎日走らせておけばいいよ。
 逃げ足ってのはいつまでたっても重要だからさ)

(そんでさ)

(やー。いいづらいな、ほれ。あれだよ、察しろよ)

(うん、そうそう。あいつ魔王でさ~。
 痛っ!? ま、ま、まじ。や、やめて!? 両手剣は止めて!)

女騎士「何の問題もない」

(な、頼むよ。ほんと。土下座するから。
 あれは魔王だけど……。その、悪いやつじゃないんだ。
 頭はぶっ飛んでるし、常識ずれてるけどさ。
 義理堅い、約束を破るヤツじゃないんだよ)

女騎士「何の問題もないんだ」


447 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 01:51:44 vGBiMEoLP

女騎士「おい、魔王!」
魔王「お、女騎士殿……」

女騎士「こうなったら『殿』なんてつけるのは
 やめにして欲しいな」

魔王「……それは」

女騎士「たしかに、勇者はあなたと契約をした。
 あなたと勇者の間には特別な絆があるかもしれない。
 それはまぁ……。
 悔しいけれど、仕方ない。認める」

魔王「……」

女騎士「でもね、絆は一つじゃない。
 わたしは勇者に信頼されたんだ。それはわたしの宝だ。
 わたしは……わたしだって勇者を裏切らないっ」

魔王「女騎士殿……」

女騎士「だから心配なんてしないで。こんな戦で
 わたしが毛筋ほども傷つくなんてあり得ない。
 まだまだ降りるつもりはないんだからねっ」


456 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 02:04:09 vGBiMEoLP

――冬の国、海岸資材集積地

開拓民「ほーぅい! ほーぅい!」
開拓民「よーそー。ようそー」
開拓民「あげろー! もっとあげろー!!」

冬寂王「どうだ?」

士官「はっ! これは冬寂王! 云って頂ければ報告を
 お持ちしましたのに」

冬寂王「足が不自由な年寄りじゃねぇよ」

士官「作業は順調であります」

開拓民「ほーぅい! ほーぅい!」

冬寂王「よー!! 精が出るな!!」

開拓民「あんれ! 王様だよー!」
開拓民「王様だー!」
開拓民「冬寂王だー!」

冬寂王「すまねぇががんばってくれ! 夕暮れになったら
 宿舎に熱い酒でも届けさせるからな!」

開拓民「任せてくだせぇ、王様!」
開拓民「ほーぅい! ほーぅい! 王様のために木を切るよ!」


459 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 02:07:21 vGBiMEoLP

冬寂王「みんな表情に力があるな」
士官「王が回ってるお陰ですよ」

冬寂王「何ほどのことも出来てやしないさ。
 おお、丁度良いところに」
漁師「おお、王様。戻ってきました」
冬寂王「アレはどうなってる?」

漁師「近いですだ。今年も必ず」

冬寂王「どれくらいになるかね」
漁師「年越しをしてから、2週間ほどかと」

冬寂王「ふむ」
士官「野営地の拡充を検討すべきですね」

冬寂王「足りないか?」
士官「志願兵が……これは大陸中央部からですが
 思ったよりずっとやってきています。このままでいくと
 今の2倍の野営地があっても足りないかもしれません」

冬寂王「ふむ、そっちの手を先に打ってくれ。
 開拓民が必要なら、ふれを回せ」

冬寂王「で、あるならば外套と手袋が必要だ。
 指が氷っちまったら作業も何もないからな」

青年商人「その件はわたしが対応しましょう。
 『同盟』の名にかけて」

462 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 02:12:27 vGBiMEoLP

――第二次極光島攻略作戦、臨時作戦本部

執事「はっはっは。お久しぶりでございます。
 女騎士殿、お変わりないようで欣快に堪えません」

女騎士「爺さんもまったく変わらないな」

執事「ほっほっほ。女騎士殿もお胸のサイズが変わらないようで」

女騎士「斬るっ!」

執事「にょっほっほっほ。にょっほっほっほっほ」

女騎士「その妖怪じみた動きっ! いい加減にしろっ!」

執事「にょっほっほっほ。これは森の中で密かに動くための
 弓兵独特の隠形術ですよ、にょっほっほっほ」

女騎士「ええーい、だから爺さんは昔から苦手なんだっ!
 じっとしろっ! そのヒゲをさっぱりつるつるにしてやるっ」

執事「おや、まさかまだつるつるなのですか!?」

女騎士「~~っ!!!」

467 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 02:17:58 vGBiMEoLP

執事「にょっほっほ! まだまだこんな物ではありませんよ」
女騎士「ええーい! 器用に腰だけ分身するなっ!!」

執事「まだまだ増えますぞっ!」

冬寂王「あー。なんだ。本当に仲が悪いのか?」

女騎士「こ、これは冬寂王っ!」
執事「若っ。のぞき見とはちとはしたないですぞ」きりっ

冬寂王「……」じー

執事「こほん。女騎士殿、こちら冬の国の冬寂王でございます」

冬寂王「……」じー

女騎士「……なんだその変わり身」
執事「何のことでございますかな?」

冬寂王「爺はこうだったのか?」
女騎士「最初から最後までこうでした」

執事「な、なんのことですかなっ!?」

冬寂王「我が国の者がご迷惑をおかけして申し訳ない」
女騎士「いえ、仕方有りません。しつけをしてください」

執事「若っ!」


472 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 02:25:01 vGBiMEoLP

冬寂王「ともあれ呼集に快く応じてくださって
 感謝してもしきれません、女騎士殿」

女騎士「顔を上げください。一国の王ではありませんか」

冬寂王「いえ、我ら一同あなた方には返しきれないほどの
 借りがあります。そのせいで、爺など連絡を渋る始末で」

女騎士「そうなのか?」
執事「胸が育つ時間を猶予で差し上げたかったのです」
女騎士「斬るっ」
執事「にょっほ……こほん、こほんっ」

冬寂王「早速で悪いのですが、こちらへ」
女騎士「は、その方が助かります」

冬寂王「これはこの近辺の地図になります」
女騎士「かなり正確ですね」
執事「わたしが直々に指図して作りましたからな」

冬寂王「だ、そうです」
女騎士「加齢臭がしますね」
執事「なっ!?」

冬寂王「では、戦略の概要を検討するとしましょう」
女騎士「お聞きしましょう。新しき英雄との噂
 我が友の二人の代わりに見届けさせて貰う所存です」


529 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:17:18 vGBiMEoLP

――冬越しの村、降り込める雪

小さな村人「ほーぅい! ほぅい!」
中年の村人「寒いねぇ」
鋳掛け職人「まったくだぁよ」

小さな村人「今年の雪は大粒だなや」

中年の村人「ぽってりした感じだでなぁ。年が明けてから
 急に寒くなるかもしんねだなぁ」

鋳掛け職人「冬籠もりの準備は終わったけぇ」
小さな村人「ああ、今年はよくがんばっただぁよ」

中年の村人「うちでも、今年は倍もベーコンを作っただ。
 それなのに、豚は去年の3倍も居るだぁよ」

鋳掛け職人「ああ、カブなのかい?」

小さな村人「そうだねぇ。今年はイノシシも捕れたし」
中年の村人「何年ぶりだろう、こんなに豊作な冬は」

鋳掛け職人「良かったねぇ。うちもこの冬に、
 注文して貰った農具の直しを全部やっちまわねぇと」

小さな村人「豚っ子の小屋を少し手直ししてやんねぇと」
中年の村人「雪の中でか? そりゃいそがねぇと!」


533 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:21:58 vGBiMEoLP

鋳掛け職人「そういえば、学士様が来てもう1年以上だなや」

小さな村人「ああ、そうだなや」
中年の村人「学士様には世話になっとるだなぁ」

鋳掛け職人「ああ、そうだそうだ。修道院が出来てから
 オラの所にもお客がたくさん増えただぁよ」

小さな村人「考えてみたら、村の人も増えただなや」
中年の村人「ああ、そうだ。今年のお祭りはきっと賑やかだぞ!」

鋳掛け職人「年越祭か?」
小さな村人「年越祭だ!」

中年の村人「ああ、楽しみだなやぁ!」
鋳掛け職人「一年で一番良い日だなや」

小さな村人「今年は戦に行ってる人もいるんだけども」

中年の村人「ああ、そうだ。修道院で、戦に行ってる人に
 年越祭の届け物を集めるっていってたなや」

鋳掛け職人「そうかぁ。ジョッキを送ったら使って
 もらえるだろか-?」
小さな村人「鋳掛けさんのジョッキなら大歓迎だでよ!」

中年の村人「おら、ベーコンおくるべぇか。今年は沢山出来たし」
小さな村人「じゃぁ、おらも何か贈り物用意せんとなぁ」


535 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:26:00 vGBiMEoLP

――冬越しの村、村はずれの館……年越祭の夕べ

メイド妹「~♪ ふふぅん~♪」
メイド長「料理の準備は?」

メイド妹「でーきました~♪」
メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」
メイド妹「はぁい」うきうき

メイド長「まったく……。そんなに楽しみですか」
メイド妹「それは楽しみだよう!」

メイド長「よく判りませんね」
メイド妹「眼鏡のおねーちゃんは引っ越してきたから。
 年越祭はこの国では一番大きなお祭りだよ~」

メイド長「ふむ」

メイド姉「そうなんですよ?」

メイド長「ああ、メイド姉。書類整理はどうでした?」

メイド姉「はい。帳簿整理も、出納管理も一段落しました
 荷物にはタグを全てつけましたので、明日にでも、
 人手を借りられれば修道院の倉庫へ移せます」


537 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:34:02 vGBiMEoLP

メイド長「ありがとう。それで……」
メイド姉「はい?」

メイド長「そんなに賑やかな祭りなのですか?」

メイド姉「賑やか、と云うのとは違いますが……。
 この地方の冬は厳しくて、ほぼ四ヶ月は
 ろくに屋外には出られません。
 長い冬の間は家畜の世話をするくらいしかないんですよ。
 もちろん、細工物をしたり、繕い物をしたり、
 夏の間に出来ないことはしますけれどね。
 長い冬の間、大人たちは、そういった細かい仕事をしながら
 退屈を紛らわせます。
 子供は新しいお話を覚えたり、羊の世話を覚えます。
 年頃になった女の子は絨毯を編むことを覚えたりしますね。
 それもこれも開拓民の話ですが……」

メイド長「……」

メイド姉「農奴はもっと惨めですが、それでも冬の寒さだけは
 平等です。長い間表にも出られず、じっと火を守って
 春を待つんですよ? そんな長い冬の間の最大の楽しみが……」

メイド妹「年越祭りなんだよ♪」

539 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:45:10 vGBiMEoLP

メイド姉「新年を迎える日を挟んで四日間が年越祭です。
 ご馳走を作って、プレゼントを交換するんです。
 農奴はプレゼントを用意することは難しいですが、
 それでも精一杯のご馳走を作ります。
 このときばかりは、地主の方も振る舞いをして
 農奴にベーコンやエールなどを訳惜しみなく与えることも
 よく見られます。みんなで歌を歌ったり、運が良ければ
 吟遊詩人や旅人の珍しい話を聞いたりします。
 年越祭は、長い冬をすごすこの国の人の
 一番楽しみにしている日なんですよ」

メイド妹「眼鏡のおねーちゃん、眼鏡のおねーちゃん」
メイド姉「妹、メイド長様と仰い」

メイド長「お姉さんでかまいませんよ?」

メイド妹「おばさんって云うと怒る……」

メイド長「吊されたいんですか?」ちらっ

メイド妹「……え、えっと。眼鏡のおねーちゃん。
 踊りに行っても良いんだよね?」

メイド長「ええ、かまいませんよ。
 そう言うことならば、是非いってらっしゃい」

魔王「うむ、そうだぞ。行ってくるべきだな」

メイド長「あら、当主様。いらしてたんですか?」


540 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:51:56 vGBiMEoLP

魔王「そうか、そのような素晴らしい祭りであったのか」
メイド姉「はい」
メイド長「どうされました?」

魔王「いや、さきほど村長と修道士が招待に来たのだが、
 生返事をしてしまったのだ」

メイド妹「えー。よくないよぅ」
メイド姉「こらっ」

魔王「もっともだ。良くない事だ。反省しよう」

メイド妹「当主のおねーちゃんも一緒に行こう?
 あのねー。男の子もいっぱい居るんだよ。
 おねーちゃんはおっぱい格好良いから、誘われるよ?」

メイド姉「こ、こ、こ、こらっ」

魔王「うーん。それはありがたい申し出だが
 遠慮しておくとしよう」 なで

メイド妹「えー」

魔王「メイド長」
メイド長「はい?」

魔王「後で村長の家に林檎酒を1樽とどけてくれないか?
 ほら、味見とか云って商人が送ってきたのがあっただろう」

542 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 11:59:19 vGBiMEoLP

メイド長「よろしいのですか?」
魔王「いいだろう? わたしたちでは飲みきるものでもないし」

メイド妹「わたしあとで馬車頼んでくるよー!」

メイド姉「そうね。樽を運ぶのは私たちには無理ね。
 馬丁さんによろしくね」

メイド長「賄賂は空振りですよ、商人様。
 まぁ、商人様には泣いて貰いましょう」

魔王「?」

メイド妹・姉 こそこそ

メイド長「どうしたんです?」

メイド妹「ドジャーン!!!」
メイド姉「えっと」

メイド長「?」

メイド妹「年越し祭りのプレゼントで~っす!!」
メイド姉「大きな物は用意できなかったのですが……」

544 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:04:12 vGBiMEoLP

メイド妹「当主のおねーちゃんには、これですー!」
魔王「これは……?」

メイド妹「ぶらぶら勇者様人形でーっす!」ぶんぶんっ
メイド姉「お恥ずかしい」
魔王「あはははは。すごいではないかっ! くれるのか?」

メイド妹「プレゼントですっ」
メイド姉「わたしからは、スズランの香水です。
 秋口から集めて作ったんです。修道院の資料にありまして……」

魔王「ああ。嬉しいぞ。ありがとうっ」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」にっこり

メイド妹「眼鏡のおねーちゃんにはこれでーっす!
 二人で作りました~!!」
メイド長「え? わたしにもいただけるのですか?」

メイド姉「はい。新しい飾りエプロンなのですが」
メイド長「こんな……」
メイド妹「刺繍はスズラン、お姉ちゃん作っ! でぇす!」

魔王「わたしとおそろいだな?」

メイド姉「はいっ」


546 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:10:25 vGBiMEoLP

メイド長「でも、こんな」
メイド姉「あっ。や、やっぱり。縫い目が不揃いですか?」
メイド長「とんでもない! でも……」

魔王「私たちはプレゼントなぞ、用意していないのだ。
 すまんな。祭りのことなど、すっかり失念していた」

メイド妹「そんなのいいよー♪」
メイド姉「ええ、お気遣いなく」

メイド長「……」きゅっ
魔王「しかし」

メイド姉「こんなに優しくて暖かいお屋敷で
 働かせて頂いてるんです。
 毎日プレゼントをいただいているような気持ちです」

メイド妹「わたしたち、すっごく幸せだよ~♪」

魔王「……お前たち」

メイド妹「それにねー。今年はね」じゅる
メイド姉「もぅっ」

メイド妹「えへへ~」
メイド姉「この子、もうお祭りのご馳走で頭が
 いっぱいなんです。これ以上幸せになったら、
 子豚さんになっちゃいますよ」

549 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:16:22 vGBiMEoLP

――冬越しの村、村はずれの館……年越祭の夜

(勇者に膝枕してみたいっ!)
(よしきた)

――勇者

(勇者の頭、もふもふしてるぞ)
(魔王も良い匂いだぞ?)

――勇者に

(そうか? 太くないか?)
(寝心地良いぞ)

~♪ ~~♪

魔王「……んぅ」

魔王「ん……。どうやら、うたた寝してしまったようだな」

魔王「今何時だろう、日は暮れているようだが……。
 だれかー……。だれか……。いないのか。
 村長の所へ行くとか言っていたものな」


553 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:20:54 vGBiMEoLP

魔王「……」もそもそ

魔王「資料だらけだな」

魔王「んぅ……。背中が痛い。こんなところで
 寝てしまったからだ」

~♪ ~~♪

魔王「……勇者か」

魔王「……」

魔王「もう一年も、だ」

魔王「……」

魔王「もう一年も、触れてない」

魔王「声が聞きたいんだ」

魔王「わたしは勇者の物なのに……」

魔王「勇者のものなのに」



557 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:26:53 vGBiMEoLP

魔王「勇者、わたしは弱虫になってしまったよ。
 世界を変えることが恐ろしい。
 戦争とはこんなに恐ろしい物だったんだな。
 それではわたしもやはり、血に抗争の遺伝を
 流れさせる魔族の一人であったのだ。
 あんなに躊躇いなく流せていた血なのに……」

魔王「わたしは……。がんばっているぞ?
 勇者。
 勇者も頑張っているのか?
 褒めて欲しいぞ」

勇者「おう。――偉いぞっ。魔王」
魔王「勇者ッ!?」 がたんっ

勇者「おっす」にこっ
魔王「勇者、勇者っ! 勇者っ」
勇者「お、なんだよっ」

魔王「このうつけ者っ。一年もの間どこをほっつき
 回っていたんだっ。糸の切れた凧とはお前のことだっ」

勇者「痛っ、痛いぞ、魔王。ぼこぼこ殴るなっ」

魔王「えい。この程度では飽き足らない!」

勇者「わぁった。ごめん。すみませんっ。
 わたくしが悪ぅございましたぁ~」

魔王「謝罪に誠意が足りないっ!!」

562 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:31:15 vGBiMEoLP

勇者「だ、だ、だいたいなっ!」
魔王「ふんっ」

勇者「ちゃんと報告書は届けていたじゃないかっ」
魔王「あんなものは報告書とは言わん。絵日記というのだ!」
勇者「え、え、絵日記!?」

魔王「その。か、顔を見せに来ても良いではないかっ」

勇者「仕方ないだろうっ。こっちはこっちで忙しかったんだよ。
 いまだって『開門都市』の件でてんやわんやなんだ。
 北の砦に物資を運ぶ方法で頭を痛めているしっ」

魔王「何故そんなことをしてるんだ」

勇者「魔王が言ったんだろうっ。強硬過激派の芽を
 そいでおけって! 忘れたのかよっ」

魔王「勇者のでたらめな超絶破壊魔法で
 やってしまえば良いではないか」

勇者「出来るわけ無いだろっ」
魔王「……?」

勇者「みんな生きてるんだ。がんばってるんだぞ。
 毎日毎日少ない手持ちと、なけなしの希望でさ。
 そんなのいっしょくたに壊すなんて、出来るわけ無い」

565 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:35:17 vGBiMEoLP

魔王「勇者……」
勇者「妖精の女王だって、森歌族だって」

魔王 ぴくっ

勇者「竜の公女だって、鎧族の娘だって、酒場の子だって」

魔王 びきびきっ

勇者「みんな、一生懸命なんだもんよ。勇者だからって
 壊して良いなんて事、あるわけない」

魔王「そんなことを云って、本当はもてもてで
 娘たちに囲まれて鼻の下を伸ばしておったのではないか!?」

勇者「そっ。そんなことはナナナ無いぞ! 断じてないっ」

魔王「そうなのか? 本当にそうなのか!?」
勇者「えー。その件につきましては誤解があるのでしたら
 前向きな調査の上説明して差し上げたく」

魔王「その調査には是非串刺しを取り入れるべきだな」ぎらっ

勇者「そ、そ、そんなこと云ったって……あっちから……」
魔王「なにか?」ぎろっ

勇者「そ、そうじゃなくてだなっ!」

571 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:38:19 vGBiMEoLP

勇者「魔王だってなんだよ。若い公子とか、都の貴族とか
 エリート商人かなんかかららぶらぶ光線出されてたん
 じゃないのかよっ」

魔王「あっんの、メイド長めっ。口止めしておいたのに」

勇者「え? マジなの?」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「あ、あれはだなっ! 決してやましいものではなく
 いわば決闘にも似た交渉の場での出来事でだなっ!!
 そもそも高度な交渉というのは妥協と駆け引き、
 決意と損益が火花を散らす戦場と言っても良い場所でっ」

勇者「……」 ずぅぅぅん

魔王「勇者っ。なんだそのざまはっ
 沼地にはまった石巨人のような顔をしおって!」

勇者「いや、だって」 ずぅぅぅん

魔王「ええい、この軟弱者っ」

575 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:43:02 vGBiMEoLP

勇者「軟弱とは何だよっ。俺頑張ってたのにっ!
 ぷにぷに魔王めっ!!」

魔王「ぷっ!? ぷにぷにっ!? ぷにぷにと云ったか!
 この口かっ! この口かっ!」ぽかぽかっ

勇者「痛いっ、やめれっ!」

魔王「わたしはこれでも毎日すとれっちとか体操してたのだ!
 逆立ちだって頭をつけば出来るようになったのだ!」

勇者「お前魔王のくせに何でそう、みみっちい努力が得意なんだよ」
魔王「みみっちい云うな!
 全ての野望は一歩目の努力から始まるのだ!」

勇者「このバカ魔王っ!」
魔王「アホ勇者っ!」
勇者「ひきこもりめっ」
魔王「放浪うつけ者っ!」

~♪ ~~♪

勇者「……はぁ、はぁ」
魔王「……むぅー」

~♪ ~~♪

勇者「やめよう」
魔王「うむ」

577 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:50:40 vGBiMEoLP

勇者「……これ、なんだ?」
魔王「これか、これは村長の家から流れてくるらしい」
勇者「年越祭の、音楽か?」
魔王「そうだろう」

~♪ ~~♪

勇者「明かりつけて良いか?」
魔王「いや、ダメだ。白衣はしわしわだし、寝癖があるのだ」
勇者「自分でばらしてたら意味ないじゃないか」
魔王「そんなことはない。予告編と本編では衝撃が違う」

勇者「あー。もうっ!」
魔王「?」

勇者「ま、魔王はいつでも美人で、その……素敵だよっ」
魔王「え、ええっ!? な、な、なにをっ」

勇者「べつにっ」ぷいっ
魔王「ううううう」

勇者「――ご馳走食べに行かなくて良いのか?
 年越祭なら、子豚の丸焼きやら、酒やら、マスのはいった
 香ばしいパイやら、香草包みやら、キノコのオムレツも
 出るだろう?」

魔王「いい。ここにいる」
勇者「じゃぁ……あー。えー……。一曲、どうだ?」


578 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:54:36 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪
 ――right step foward. right step foward.

魔王「こ、こ、これでいいのか?」
勇者「もうちょい胸を張って」

魔王「こうか?」
勇者「上等」

~♪ ~~♪
 ――1/4 turn left step left.

魔王「あ、足を踏んでも赦すんだぞ? 真っ暗だから」
勇者「いや、雪明かりで見えるよ」
魔王「それはそうだけど」

勇者「白くて、キラキラして、きれいだ」

~♪ ~~♪
 ――1/2turn right step left back.

魔王「……優しい曲だ」
勇者「古王国の輪舞曲だって聞いたことがある」


581 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 12:56:38 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪
 ――Touch left next to right & Clap.

勇者「そこで右へ半歩」
魔王「こうか? こうか?」
勇者「上手いじゃないか」

魔王「もっとましな服を着ておくんだった」
勇者「誰も見てないよ」

~♪ ~~♪
 ――right step foward. right step foward.

魔王「だ、だって。あっ」
勇者「大丈夫か?」
魔王「すまん」
勇者「魔王は良い匂いだな」

~♪ ~~♪
 ――left step foward. 2turn left step right back.

魔王「目が回りそうだ」
勇者「輪舞曲は苦手か? ターンが多いからなぁ」

魔王「そうじゃない……けど」

584 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 13:00:42 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪
 ――right step foward. right step foward.

勇者「これ」

魔王「これは……私が使っていた櫛だ」
勇者「魔王城へも行ったんだ」

~♪ ~~♪
 ――1/4 turn left step left.

魔王「この櫛は小さな頃から使っていたんだ。
 無くしたかと思っていた……」
勇者「大事に使っていたっぽい感じだったからさ。
 もしかしたらと思ってな」
魔王「うん……」

~♪ ~~♪
 ――1/2turn right step left back.

勇者「安上がりで悪いけど、それが年越祭のプレゼント」
魔王「……勇者」
勇者「ん?」

魔王「プレゼント、無い。……わたし用意してないんだ」

587 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 13:04:02 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪
 ――Touch left next to right & Clap.

勇者「気にするなよ。礼を期待してやってるわけじゃない」
魔王「それはそうだろうが……」
勇者「魔王は俺のものなんだよな?」

魔王「もちろん」
勇者「それを聞きに帰ってきたんだよ」

~♪ ~~♪
 ――right step foward. right step foward.

魔王「どうしたんだ? なにか辛いことでもあったのか?」
勇者「いや、頭が悪くてさ。俺。回り道して」
魔王「……」
勇者「勇者の頃は、出てきた敵を順番に倒していれば
 みんなに褒めてもらえたんだ。勇者なんて簡単なものだよな」

~♪ ~~♪
 ――left step foward. 2turn left step right back.

魔王「勇者」
勇者「ん?」

魔王「わたしも、やっぱり勇者に、その……」


589 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 13:07:48 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪
 ――right step foward. right step foward.

魔王「あの、そのぅ、だな。
 勇者にあげられる価値あるものなんてだな」
勇者「……え、あ?」

魔王「何でこのような時に限って、
 手のひらが汗でペとぺとするのだっ」

~♪ ~~♪
 ――1/4 turn left step left.

魔王「うううう。……静まれ我が魔心臓よ。
 そは決戦の時ぞ、ゆ、ゆ、勇者っ」

勇者「ま、ま、魔王? すごい気迫だぞ?」

~♪ ~~♪
 ――1/2turn right step left back.

魔王「ゆ、勇者。えっと……」ぎゅっ

勇者「それじゃステップ踏めないって魔王。
 ……魔王?」


591 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 13:11:32 vGBiMEoLP

~♪ ~~♪

魔王「勇者とくっつくのも、一年ぶりだ」
勇者「こっちだって」

~♪ ~~♪

魔王「その……勇者が良ければだな。持ち主として
 褒美を取らせてもだな、もちろんまだまだ駄肉で
 ぷにってる訳で褒美というか罰ゲームかもしれないという
 疑いはなきにしもあらずなのだがいやそれは
 横に置いて報償というものは信賞必罰と云ってだな」

勇者「えっとその」
魔王「勇者……?」

勇者「……」
魔王「……」

~♪ ~~♪ ……♪ ……

魔王「お、音楽終わってしまったな!!」 ばっ
勇者「そ、そうだなっ!! 離れないとっ」 ばばっ

魔王「……うううー」
勇者「……」 わたわた

魔王「――も、もうちょっとだったのにっ」

594 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 13:18:53 vGBiMEoLP

――冬越しの村、雪明かりに照らされる一室

魔王「行くのか?」
勇者「ああ。魔王と会えたから、勇気百倍さ」

 かちゃ、がちゃ。

魔王「みんなとは、良いのか?」
勇者「魔王は随分人間くさくなったな」
魔王「弱くなったのだ」
勇者「それはこっちも同じだ」
魔王「今度は程なく会えような」
勇者「ああ。一月もかけず、『開門都市』を攻略する」
魔王「出来るのか?」
勇者「魔王と話したからな。糸口は見えたよ」
魔王「こちらも見えてきた」

勇者「次に会うのは」
魔王「戦火の交わるところになるだろうな」
勇者「おっし、準備できた!」
魔王「勇者」
勇者「おうっ」
魔王「構えて遅れは取るまいぞ?」

勇者「心配無用。……俺は魔王の剣にして道だ」

しゅわんっ!!

魔王「君は……わたしの光だよ」

625 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:26:30 vGBiMEoLP

――第二次極光島攻略作戦、冬の国野営地

義勇軍兵「ほーうい!」
兵士「交代だ! 差し入れをもってきたぞ」
志願兵「ありがたい、なんだ?」

義勇軍兵「ナッツとベーコン入りの黒パンだよ」
志願兵「豪勢だなぁ!」
兵士「年越祭の残り物だそうだよ」

志願兵「そうなのか? 祭りのご馳走もたっぷりだったのに」
義勇軍兵「自分はあんな祭りは初めてでした」
兵士「ああ、今年はひときわ豪勢だったよ」

義勇軍兵「そうなのか?」
兵士「うん。我が国は、少しずつ暮らし向きが
 良くなってきているようだ。
 ねぇ、そうでありますよね! 士官殿」
士官「うむ、そうだなぁ。……ええい、ちゃんと
 見張りをせんかっ!」

義勇軍兵「はっ!」 がしゃ
兵士「はぁっ!」 がしゃん!

士官「まぁ、今のところ敵軍も見えないが」
義勇軍兵「こちら側の陸地へは攻めてこないのでしょうか」

士官「過去の大規模進行の記録はないが、
 人間軍がここに野営地を築いていることは
 向こうも承知だろう。油断は禁物だ」

627 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:32:03 vGBiMEoLP

義勇軍兵「それにしても……」
志願兵「ん?」
義勇軍兵「いいのかな。俺たち、ここでもう二週間だぞ」
志願兵「ああ、そうだな」

義勇軍兵「確かに寒い中、厳しい訓練をさせられているけれど
 それだけで戦に勝てる訳じゃないだろう?
 こうやって、ただ飯を食っていて良いのかなぁ」
志願兵「お偉方には、お偉方の考えがあるんだろうさ」

兵士「船が足りないんじゃないか?」
義勇軍兵「ふむ」
志願兵「そうなのか?」
兵士「ここにある船じゃ、半分も乗せられない。
 おそらく船が到着するのを待っているんだろう」

女騎士「見張り、ご苦労!」
士官「敬礼っ!」

 ザザザッ

女騎士「ここが耐えどころだ。気を抜くな」
義勇軍兵「はっ!」

女騎士「訓練はどうだ?
志願兵「剣の使い方を教えて貰いましたっ!」

女騎士「戦場で己を生き延びさせるのは、常に己だからな。
 わたしも守ってやることは出来ない。腕を磨けよっ!」

628 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:36:42 vGBiMEoLP

――第二次極光島攻略作戦、臨時作戦本部

冬寂王「……補給物資は? ふむ」
執事「斥候が戻りました。まだ動きはないそうで」

女騎士「なかなかに、焦れるな」
冬寂王「将軍でもそうか?」
女騎士「将軍と呼ばないで欲しい。臨時の肩書きだ」

執事「にょほほ。誰に恥じることない胸ですのに」
女騎士「斬られたいか」ぎろり

士官「よろしいでしょうかっ!」
執事「む、入れ」

士官「お客様がお見えですっ」

冬寂王「客?」

士官「紅の学士、と名乗っております。荷馬車隊と一緒でして」
女騎士「学士殿か。来て頂けたんだなっ」

執事「おお」
冬寂王「噂の天才的学者殿か? かねてから一度お会いしたいと
 は思っていたのだが、なぜ戦場へ?」

女騎士「王よ、学者だとは思わない方が良いぞ」ぼそり

631 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:43:04 vGBiMEoLP

魔王「わたしは紅の学士を名乗るもの。お初にお目にかかる」

執事「こ、これはっ」
女騎士(まさか、魔の気配に気付かれるのかっ!?

執事「にょほー。たいそうな胸でございます」
女騎士 がっ
執事「~っ!」

冬寂王「挨拶痛み入る。わたしが冬の国の冬寂王だ。
 もっとも即位したての若造だがな」

魔王「いいや、王の器量は冬越し村にまで響いてきている」
冬寂王「実績がないゆえ、期待感だけがあるのだ」

執事「お茶でも入れますかな」
魔王「ありがたい」

冬寂王「ところで、どのようなご用件で?
 我が国の農業を支えてくれている方だと伺っている。
 是非一度お目にかからねばと思っては居たのだが
 無理難題を積み上げられてしまってな。
 ご挨拶も出来ぬままだった。申し訳ない」

魔王「ご丁寧に。すまないことだ。
 ところで、王よ」
冬寂王「なんだろう?」

魔王「勝つつもりなのだろうな?」

634 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:47:32 vGBiMEoLP

冬寂王「無論」

魔王「是が非でも?」

冬寂王「あの島を取り戻すことは、
 今の南部諸王国には必要なのだ」

魔王「どのような意味合いで?」
冬寂王「南部諸王国の、誇りを取り戻す」

魔王「ふむ」

冬寂王「現在の南部諸王国は、
 云われるままに戦をする使い走りのような
 国とも言えないような国でしかない。
 あの島を取り返せば、わずかとは言えいくつかの交易路が
 安定をするはずだ」

魔王「……」にやり

冬寂王「金のために将兵の命を掛けるとそしられようが」

魔王「いや、良い。理解は浅いが十分だ」

女騎士「まったく……」


635 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:51:34 vGBiMEoLP

執事「若に対して無礼な!」
女騎士「弓兵。私たちの出る幕じゃない」

魔王「無礼はわびよう」

女騎士「もしかしてブラックパウダーですか?
 そんなものが無くても、わたしは負けたりはしないと
 云ったじゃないですか」

魔王「いや、ちがう。もってきたのは、塩だ」

冬寂王「……っ!」
女騎士「塩……」
執事「どこでそれを……」

魔王「馬車に6台分ほど用意してある。何かの役に立つかとな」
冬寂王「あなたは……」

魔王「……」

冬寂王「50里の彼方にいて、我が手の内を読むか」
女騎士「そうゆうことがある人だから」

執事「学士とは……そこまで……」

魔王「勝つつもりでいるのなら、あるいはと思っただけだ」

640 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 15:57:15 vGBiMEoLP

冬寂王「この戦に何を望まれる? その塩の代価は?」
執事「報償ですか? それとも宮殿の地位?」

魔王「地位は、とりあえず……そうだな。
 登城が出来る程度の肩書きがあれば面倒がないな」

冬寂王「よし、許そう。だがそれだけだとも思えない」
魔王「時間が所望だ」

冬寂王「時間……?」
魔王「あるいはそれは戦場において黄金よりも
 価値があるやもしれないが」

冬寂王「……」

魔王「わたしは勝利を求めたことはない。
 だから勝利では足りない部分を司ろうと思う。
 そのためには時間が入り用だ。
 長くて一昼夜」

冬寂王「ありえんっ。奇襲が成立せんではないかっ」

魔王「それでも方策はある。女騎士殿ならばな」

執事 ちらっ
女騎士「まぁ、学士様が言うんなら有るんでしょう」


642 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:03:35 vGBiMEoLP

――魔界、開門都市、中央砦

遠征軍士官「……ま、まただっ!?」
遠征軍士官「こ、ここもだぁ」
遠征軍士官「呪いだ、呪われたんだっ!」

遠征軍士官「呪いなどであるものか、これは暗殺者だ!」
遠征軍士官「それにしたって、ほんの五分だぞ?
 ったた五分目を離しただけで、小隊一つが……」

遠征軍士官「こ、これは……」
遠征軍士官「ひからびて死んでる」
遠征軍士官「こっちは、炭化してるぞ」

遠征軍士官「ゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタ」
遠征軍士官「気が狂ってる!?」

遠征軍士官「ゲタゲタゲタゲタ! 夜、夜が来る!
 月、月がふくれて、蒼く笑う。来る、やつが来る!
 ゲタゲタゲタゲタ! ゲタゲタゲタゲタ!」

遠征軍士官「な、なんだっていうんだ!?」

 ギャァァァアアア!!!

遠征軍士官「こんどは第三見張り鐘楼だ! 急げッ!」


645 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:08:30 vGBiMEoLP

ダダダダッ!

遠征軍士官「な、なんだこれは」
遠征軍士官「何でこんな泥とぬかるみが……ヒッ! ひぃっ!」
遠征軍士官「こっこんなっ」
遠征軍士官「呪いだ。人間業じゃないっ」

勇者「……フフフ。フフフハハ」

遠征軍士官「だっ、誰だ!?」
遠征軍士官「で、出てこいっ! 我らは地上最強の
 聖鍵遠征軍だぞ! で、出てこいっ!!」

勇者「……腕が無くても、しゃべれるだろう?」

 ギンッ! ズザンっ! ザガッ!!

遠征軍士官「ギャ、ギャァ!」
遠征軍士官「黒い、黒い悪霊だっ! 亡霊騎士だぁぁ!!!」

遠征軍士官「退けッ!」
遠征軍士官「退却だ、相手は悪霊だ!! 呪いが現れた!」

遠征軍士官「ゲタゲタゲタゲタ!!」
遠征軍士官「ああああ! 無数の死者が!? 悪魔だぁ!!」


647 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:13:51 vGBiMEoLP

勇者「ふんっ。腰抜けばかりだな」
羽妖精「黒騎士サマッ! カッコイー!」

勇者「あいつらがよわっちーだけだ。
 それにしてもこれ、すごい顔な」

羽妖精「アハハハッ! 妖精ハ幻術、得意! エヘン!」

勇者「ああ、上手いぞ! この調子で、手分けして
 あちこちに幻を掛けるんだ」

羽妖精たち「「「「ハーイ!」」」

勇者「とびっきりの怖い幻で行くんだぞ?」

羽妖精「怖イ?」 羽妖精「怖イ!」 羽妖精「怖ーイ♪」

勇者「それから、夢魔鶫はいるか?」
夢魔鶫「御身の側に」

勇者「司令室一帯に夢の回廊を作り上げろ。
 思い上がった貴族どもに毎晩の悪夢を送り込んでやれ」

夢魔鶫「仰せのままに」

650 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:19:45 vGBiMEoLP

――魔界、開門都市、貴族たちの豪華な寝室

司令官「ぎゃぁぁぁぁ!!??」

司令官「はぁ……。はぁ……はぁ……
 ゆ……夢? 夢、なのか……?」

司令官「なんて……なんて夢だ。
 あんなに無数の手が……死者が……
 た、たかが魔族じゃないか。光の精霊の正義は
 我らにあるのだ。あんな家畜、いくら殺そうが……。
 さ、酒だっ! 酒をもてっ!」

魔族奴隷「御、御酒でござい……ます……」

司令官「獣臭い手で触れるな下郎っ!!」

 どがぁ!

魔族奴隷「きゃぁんっ!」


651 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:25:57 vGBiMEoLP

司令官「だ、だから俺はいやだったんだっ!」

 ガチャン!

司令官「こんな辺境! 地獄の都市! なにが占領地だ!
 何が栄光だ! こんな所、流刑地ではないかっ!」

司令官「おれは聖王家につらなる、霧の王国の血を
 引いているのだぞ。何でこんな獣臭い魔族の都市に
 ひきこもっておらねばならぬのだ!
 そ、そうだっ。俺の功績は世に並ぶものとてない。
 聖王国へ帰れば栄耀栄華も思いのままだというのにっ」

魔族奴隷「やめてっ! ら、乱暴はっ」

司令官「黙れ! この二等魔族っ、動物もどきめっ!
 貴様らがっ! 貴様らが居るから俺は帰れんのだっ!」

司令官「瀟洒な夜会もない、美しく着飾った淑女も居ない。
 こんな田舎の砂埃にまみれた陰鬱な都市で、一生を
 おえるなどゆるされるものかっ!!」

 がちゃん!!

遠征軍士官「指令っ!」

654 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:31:23 vGBiMEoLP

司令官「何事だっ!」
遠征軍士官「またです! また死霊騎士が現れました!」

司令官「なにっ」

遠征軍士官「こんどは街中に繰り出していた休暇中の
 将官数名がその……」

司令官「報告せんかっ!」

遠征軍士官「水たまりで、溺死したと……」

司令官「……っ!!」

遠征軍士官「そ、それでその……士官たちが」
司令官「なんだというのだ」

遠征軍士官「これは魔族の呪いだと。中には帰国申請を
 出す者すらいる始末で」

司令官「ええい! 何を抜かす! 今までさんざん
 飽食の限りを尽くしてきたではないか!!
 帰りたいと抜かすヤツには、魔族の娘でもあてがえ!
 酒と金を掴ませろっ」

遠征軍士官「その、それは、どこから……」
司令官「街から奪えば良かろうっ!」

656 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:38:58 vGBiMEoLP

――第二次極光島攻略作戦、海岸線、深夜

漁師「来ました、王様!」
冬寂王「有無、見えておる」
執事「本当に来ましたな!」

冬寂王「時期の読みもぴたり、だ。でかしたぞ」

漁師「いやぁ、こんなこと、ここらの漁師だったら
 あったりまえだでよぉ」

冬寂王「年越祭が終わってしばらくすると、
 一週間ほどだけ、だったな」

開拓民「うわぁ、でっけぇ!」
開拓民「でっけぇなぁ!」

漁師「そうですだ。おれたちゃ、
 あれをこう呼んでます、王様。
 ――流氷 と」

冬寂王「よし、うかつに船で近づくな。つぶされるぞ!
 アンカーを打て! ロープを掛けろ!
 岸に引き寄せるのだ!
 氷の固まり同士をつなげたら、ロープを張り、
 結合部に海水を掛けろ!! 流氷をつなげるのだ!」


657 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2009/09/07 16:45:03 vGBiMEoLP

開拓民「判りました、王様っ!」
開拓民「ほーぅい! ほーぅい!!」
漁師「おでは小型船で、他の流氷城もみてくるだぁよ」

冬寂王「たのんだぞ」
執事「わたしも斥候を飛ばしましょう」

開拓民「ほーぅい! よーそろー! ロープを引けぇ」
若い傭兵「ほーぅい! ほーぅい!」
兵士「おーせぃ! おーせぃ!」

女騎士「結合部に海水を掛ける! 班を組織しろ!
 周辺には十分注意を払い、石弓兵は空中を監視!!」

冬寂王「海水を掛けたら塩をまくのだ!
 1時間もすれば凍り付く! 
 手袋を忘れるな! 二時間ごとに休憩を取るのだっ」

開拓民「おらたちは大丈夫だよ、王様!」
開拓民「王様こそ天幕で温かくしていてくだせぇ」

冬寂王「わたしの方が若いではないか! あははは」

開拓民「まったくだなぁ! あはは!
 王様には負けてらんねーべや!」
開拓民「ほーぅい! よーそろー! ロープを引けぇ」

冬寂王「橋を架けるぞ。流氷の橋を。いや、橋とはいわない。
 この海峡を……騎馬の駆ける戦場としよう」




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #07


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